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バイク乗りの彼女と旅に出た

1 :名無し三号さん :2013/07/14(日) 21:27

ぽんぽんコンビ書きます。エセ福岡弁でごめんなさい。
えりぽんがバイク免許とれる年齢になったんでつい。

他の9期や10期も出て来ます。
えー…ファンタジー、なのかな…。
ゆったりとお付き合いください。
251 :名無し三号さん :2015/04/20(月) 02:52
続きです。む、むっつりじゃないんだからねっ。
252 :第二十二輪 :2015/04/20(月) 02:54
ぱっ、と唐突に目が覚めた。
たっぷり寝たせいか、眠りの余韻はほとんど残らない目覚めだ。
夢も見なかったので、時間が経過したという実感が浅い。
おまけに寝る直前は意識が曖昧だったため、さらに現状把握ができない。
目の前に広がっているのは、とてつもなく久しぶりに拝む蛍光灯の光。
そして見知らぬ白い天井。
眠りすぎてみずきの脳が腐敗していない限り、初めて見る天井
であることは間違いない。

 「ここ、どこ?」

と、えりぽんに問おうとしたが、彼女の姿がない。
いつもどおり、今日も傍らにえりぽんが居ると考えたのだが
生憎と隣のベッドにはダンボールの山があるのみだ。
小さくため息を吐いて、みずきが寝返りをうつ。

そして、えりぽんと顔が合った。

眼前いっぱいに広がるえりぽんの寝顔に、思わず何秒も見入ってしまう。
まつげは長く、普段から少し抜けた顔してるがこうして寝顔を
正面から見ると子供のように唇が綺麗だ。
美容の秘訣を聞きたいが、彼女に聞くというのは何か面倒になりそうで。
………ん?
253 :第二十二輪 :2015/04/20(月) 02:55
一瞬我を忘れて和みかけた。
夢の世界へまっしぐらだった理性を呼び戻し、状況を冷静に分析する。
ここは、どうやらどこぞの建物の中。
多分えりぽんが連れてきてくれたのであろう。
場所はおそらく例の『海辺の町』だ。
そしてみずきは意識のないままここに寝かせてもらった。それは解る。

だが、何故えりぽんが添い寝しているのだ。
頭の中で言葉にすると、思わず顔が熱くなった。
いや、何故同性相手に恥ずかしさを感じなければならない。
その大きな原因としては、自分が上下の下着のみを装着した
極限まであられもない姿で寝ていたからである。
いくら相手がえりぽんだとは言え、だ。

今現在みずきに課せられた最大の選択肢は二つ。
この状況を是として添い寝を続行するか、否として無理やり起こすか。
迷いに迷って再び熱を出しかけたその時、えりぽんがもぞりと動く。

 「ぅん……あれ……みずき?」
 「あの、おは、よ?」
 「おはよ。良かった、顔色良さそうやね。でもまだ顔が赤いとよ」
 「そう、かな」
 「また薬飲まんといけんね。……あれ、なんでえり一緒に寝とると?」
 「ちょ、毛布引っ張らないでっ」
 「んー」
254 :第二十二輪 :2015/04/20(月) 02:55
えりぽんがベッドから降りる。
彼女はばっちりと服を着込んでいたため、ますます外に出たくなくなり
口元まで毛布を被り、再び枕に頭を預けた。
その時、保健室の扉が開いた。

 「あ、起きてたんだ。おはよう」
 「おはようございます」

道重は洗面台にタライを置き、微笑んだ。
みずきは顔を上げ、道重の姿を確認する。
とても綺麗な人だった。

 「あの、ここはどこですか?」
 「名前のない町の、名前のない高校にある保健室だよ。
 その子、えりぽんだっけ、みずきちゃんを背負って延々と走ってきたんだ」
 「道重さん、あんまりペラペラ喋んないでください」
 「へえそうなんだ、へえ」
 「なんその顔。大変やったとよホントに」
 「うん、ごめんね。迷惑かけた」
 「別に、元気になってくれたけん、それでチャラにしとく」
 「さてと、じゃあ対価を払ってもらおうかな」

まるで思い出したかのように道重が呟くと、二人は「はい?」と声を漏らす。
255 :第二十二輪 :2015/04/20(月) 02:56
 「言ったでしょ、対価の話。朝ごはんを食べたらキミが眠れるように
 ダンボールを片付けるの手伝ってよ、それが宿泊費」
 「はあ、まあ、いいですけど」
 「決まり。あ、みずきちゃんは寝てなさい。こっちの方が筋力ありそうだし」
 「あの、その前に着替えがほしいんですけど…」
 「ああっ、大丈夫っ、好きなパジャマ選んでね」

ばさ、と女物のパジャマがベッドに置かれる。
カーテンが閉められ、道重がえりぽんへと顔を向けた。

 「覗いちゃダメだからね」
 「何でえりに言うんですか」
 「いや、そういう顔してる気がしたから」
 「そんな趣味ないですよ!?」
 「冗談だよ、マジにならないの。でもまあさっきまであの子と
 寝転んでたんだから、今更だと思うけどね」
 「…どういう事ですか?」
 「あの子の服、今乾かしてる所だから。気付かなかった?」

道重の言葉に、えりぽんの表情が明らかに固まった。

遅めの朝食を摂った後、えりぽんと道重は作業に入った。
とはいえ、ダンボールの量を考えると脚立が必要なほど積み上がっている。
どうやってこんな風に仕上げたのかは分からないが、中身のことまで
構ってはいられない。ぶすり。
256 :第二十二輪 :2015/04/20(月) 02:57
 「ぶすり?」

と、えりぽんの運ぶダンボールの表面を破り、キラリと光る針が突き出す。

 「ちょ、ちょっと!?道重さん!?針が出てきとるっちゃけど!?」
 「ああ、注射針ね。イリョウハイキブツってヤツ」
 「いやいやいや、そんな物をこんな風に放置せんで!えりの腕に
 ブッ刺さってたらどうするつもりと!?」
 「大丈夫大丈夫、消毒液なら山ほどあるから」
 「そういう問題じゃないやろ…」
 「それにしてもキミの突っ込みは懐かしさを感じるなあ。
 もしかしたら知り合いと同じ所に住んでたのかな」
 「もう話題が変わっとる…」

保健室の床にはもはやスペースなどは殆どない。
整理しないとどうにもならない状況になっていた。
仕方なしに廊下に運び出して積み上げているのだが、その様子たるや
まるで強制捜査でも入ったかのような有様だった。

窓からは昨夜の大雨が嘘のような快晴が広がっている。
埃を徹底的に洗い流され、澄み切った空は鮮やかな青。
雲など一片たりとも浮いておらず、実に爽快だ。
自分たちが埃まみれな事を除けば。
257 :第二十二輪 :2015/04/20(月) 02:58
 「あ、そういえばバリケードの所にあったキミのバイク、回収しといたから」
 「えっ?ホントですか?」
 「あのまま野ざらしにしといたら錆びるし、奪われるかもしれないしね。
 今知り合いに頼んで見てもらってるから」
 「ありがとうございま」
 「ただし、その分の負債は体で返して貰うからねー」

えりぽんには、口元の亀裂のような笑が耳まで裂けているように見えた。
むろん、道重の尻から悪魔の尻尾が伸びているイメージで。
 
 「あ、そうだ。ちょっと被服準備室に行って布団持ってこなきゃ。
 キミ、ちょっと取りに行ってもらえる?はい鍵。
 私はこのダンボールを解体して外に出してくるから」
 「ああ、分かりました」
 「いってらっしゃーい」
 「ったくー」 

えりぽんは被服準備室へ、道重は外へ。
みずきは一人、保健室で待機する事となった。

 「くあー……あふ」

欠伸とは哺乳類のほとんどが行う生理的現象である。
基本的に淑女ではないみずきにそれを止められるはずもなかった。
つまり、みずきは退屈であった。
258 :第二十二輪 :2015/04/20(月) 02:59
風邪を引いて学校を休んだ経験のある者なら理解できるだろう。
風邪のような体調不良は、治る寸前ほど退屈になる。
体力は取り戻しつつあるのに、医者が外出を許さない。
そしてその医者まで近くに居ないとなれば、必然的に反抗心が発芽し
脱走を試みたくなるというのが人情というもの。
ベッドの脇に揃えてあるスニーカーを履き、いざ脱走。
別に町から出るような真似をする気はない。
ただ少し外の空気を吸ってくるだけで―― 。

 「へえ、みずきちゃん達は"外"から来たんだ」

だから、誰もいないはずの部屋から、自分以外の声が聞こえた時は
自分の口から心臓が射出されるのが見えたような気がした。
まさか幻聴が聞こえるほど自分は弱っているのだろうか。
保健室の中に人が隠れられるような場所は……一つ。
目の前の、窓に面した三番目のベッド。
みずきは恐る恐る顔を上げた。

 「あ、ごめんなさい。私、今の今までずっと眠ってたから」

そう言って微笑んだのは、みずきよりも年下の少女、もとい女の子だった。
その女の子は、カーテンの掛けられていた三つ目のベッドで眠っていたらしい。
昨夜からずっと眠っていたため、みずきのことはおろか
えりぽん来訪の話も今初めて聞いたのだという。
ベッドに腰掛けて互いを見合わせながら会話を交わす二人。
259 :第二十二輪 :2015/04/20(月) 02:59
 「騒がしくしちゃってごめんなさい」
 「いいの、賑やかで楽しそうだったから」

彼女は、フェイと名乗った女の子は、末期だった。
肩まで伸びた髪の色もそう。
肌の色まで真っ白となり、白人以上に白い肌をしている。
血色が悪くなるのではなく、色そのものが薄くなるので不健康な
様子ではないが、まるで妖精か何かのように白い肌だ。

 「フェイっていうのは偽名なの。名前を思い出せないから
 友達が付けてくれたの、だから私は生まれも育ちも日本よ」

本来が日本人である以上、瞳の色も黒か濃い茶色をしているべきだが
彼女の瞳は白に近いアッシュ。
間違いなく、『色無し』後期症状だ。
まだ淡いものの色彩が残り、モノクロ化や『影無し』とまではいかないが
その段階まであと僅かだろう。
進行には個人差があるし、今まで進んできた速度でこれからも
進むとは限らないが、少なくとも、そう遠くはない。

 「皆からは"姫"なんて呼ばれてるんだけど、恥ずかしいんだ。
 私の家がこの町ではちょっと有名だったから」

だが、性格面に関しては薄幸美人という言葉は似合わず、明るい。
260 :第二十二輪 :2015/04/20(月) 03:00
 「1ヶ月ぐらい前から酷い眠気に襲われるようになって
 気がついたら道端に倒れてることもしょっちゅう。
 昨日も倒れたらしくて、案の定ここに運び込まれたらしいわ。
 多分もう少ししたらあの子が来てくれると思うんだけど
 ああ、でも道重さんにちゃんと許可を取らなきゃいけないよね。
 みずきちゃんは?」
 「私は風邪だから、あ、離れてた方がいいよ、治りかけの時が
 一番人に移りやすいって言うし」
 「……へえ、じゃあ移してもらおうかな」
 「え?」
 「冗談冗談、なんでもないの。でもそんな事言われると
 そっちに行きたくなっちゃうものよね」

フェイはベッドから裸足で降りると、みずきのベッドへと駆け寄ってきた。
みずきが「ダメだって」と女の子を制するが、あっという間にベッドに
腰を下ろしてしまった。

 「へへ、みずきちゃんって柔らかいね。まるでお母さんみたい」
 「お、お母さん…」
 「あ、これ全然嫌味じゃないよ。ただ、うん、安心するから」

パジャマ越しに二の腕に触れて肩に頭を置くフェイに、みずきはされるがまま。
こうして触れてくれるのは悪い気がしない。
むしろ嬉しいとさえ思える。
だがフェイが突然、服の袖を捲くりあげた。
261 :第二十二輪 :2015/04/20(月) 03:00
 「ちょっ!?」

袖から見える腕が白く現れ、それを見たフェイが小さく微笑む。

 「みずきちゃん、『色無し』なんだね」 
 「……うん」
 「じゃあもうすぐなんだ」
 「フェイ、ちゃん」
 「ごめんね。でも、そっか、そうなんだ」

フェイが腕を自分の頬に摺り寄せた。
まるで愛しそうに、先ほどよりも安心したその表情に、みずきは戸惑う。

 「みずきちゃん、外に出よっか。そうするんでしょ?
 道重さんはまだ帰ってこないよ、その間に、ね」

フェイが引っ張り上げると、みずきはされるがままに立ち上がる。
窓から夏の暑さを感じさせる風が全身を駆け抜けていった。
262 :第二十二輪 :2015/04/20(月) 03:01

 ――――

何がしあわせかわからないです。
本当にどんなに辛いことでも、
それが正しい道を進む中の出来事なら
峠の上りも下りもみんな
本当の幸せに近づく一足づつですから

 ――――
263 :名無し三号さん :2015/04/20(月) 03:03
>>252-262『第二十二輪』以上です。

文中の説明通りですが、
某舞台のキャラクターの人格設定に基づいてありますので
リアルな二人と少し格差はありますのでご了承ください。

いつもお付き合いありがとうございます。
264 :名無し三号さん :2015/04/23(木) 17:51
続きです。
265 :第二十三輪 :2015/04/23(木) 17:55
昇降口にはずぶ濡れになった荷物の類が広げられ
オートバイもろとも日干しにされていた。
半日もの間、全力で走り続け、丸一日雨曝しになっていたバイクは
その銀色の塗装を埃と水汚れで曇っている。
修理点検は出来ないが、洗車ぐらいはできるだろう。

ゴムホースを蛇口に取り付け、バケツと雑巾を用意する。
カーワックスを見つけたのでこれで綺麗に仕上がるだろう。
数十分後、あっという間に見違えたバイクを見て「よし」と息を吐いた。

 「おお、バリ復活しとるったい」

心臓が射出されそうになった。
車体にはワックスがかけられ、エンジンの各部も油汚れが落ちている。
タイヤまで磨かれていて、まさに生まれ変わったようだ。

 「ありがとう、ええと、ここの子?」
 「その、荷物を広げとけって言われて、でもバイクが凄い汚れてたから
 せっかくだからと思って。ご、ごめんなさい、勝手に触っちゃって」
 「何言っとるとよ。自分でやろうと思ってたけん、助かった。
 そこの教室から見えとったしね」

被服室を指をさし、笑顔を浮かべるえりぽん。
その表情を見て安心した。
266 :第二十三輪 :2015/04/23(木) 17:56
 「あ、名前言ってなかったね。えりは、あーえりぽんって呼ばれとるとよ」
 「あたしは、リオンって言います」
 「外国の子?」
 「いえ、日本人です」
 「ふうん、偽名とかいな」
 「ちょっと理由があって、あ、友達にもフェイって子が居るんですけど」
 「フェイ?なんで二人で偽名なんか……ああ、理由があるっちゃんね」
 「はは」

リオンと名乗る少女はタオルで顔を吹いた。



 「ようお姫様。今日のツレはリオンじゃねえのかい?」
 「ええ、おじさんも仕事頑張ってね」
 「あいよ。しかしべっぴんさんだなあんた。なんで白衣なんだ?」
 「昨日来たお医者様だもの」
 「ええっ?そうなのかい?そりゃこの町は高齢者が多いからありがたいが
 道重さんからそんな話は聞いておらんぞ?」
 「昨日来たばかりだもの、だから今町を案内するところなの。行きましょ」
 「へえぇそうなのか。じゃあ先生、お姫様の付き添い頑張ってくださいな」
 「あ、はい。お任せください」
267 :第二十三輪 :2015/04/23(木) 17:57
道行く人達との会話。
『多くの人が集まっている』という情報は確からしい。
どうやら住宅街や娯楽施設などは基本的に放棄されているようで
住人のほとんどは学校や大型の公共施設に住んでいる。
その方が消えた人数などの把握が楽で、町の機能が維持しやすいのだそうだ。

フェイは車椅子に乗らなくてはいけないらしいが、本人がそれを拒んでいる為に
みずきと腕をからませて日傘をさして一緒に歩いている。
先天性色素欠乏症。
皮膚の中のメラニンが極端に少ないため、紫外線の害を受けやすいと聞いた。
だが『色無し』による色彩低下は、別にメラニン量が減っている訳ではない。
単にメラニンが無色になるだけなので、紫外線に対する防御力は
純白に近くなってしまった彼女の肌でも並みの人間と大した違いはない。
ただ女性としての嗜みだ。

みずきがパジャマ越しから着込んでいる白衣は、保健室に立て掛けてあったもの。
フェイが「先生」として接するというのなら、みずきはなりきるまでである。

商店街の殆どの店も経営する余裕がないようで、閉められている。
八百屋や魚屋などはそこを中継する必要もないので、同様に閉鎖されるか
設備だけが使われている状態にあるらしい。
文房具屋や本屋などは、店の戸を解放して、必要な奴は好きに持っていけ
と言わんばかりだ。
268 :第二十三輪 :2015/04/23(木) 18:01
 「意外と分かんないものでしょ?良かった、みずきちゃんが道重さんと同じ身長で」
 「中身はパジャマだけどね」
 「肌身から上っていうのは過激すぎるもの。それともみずきちゃんって…」
 「変な含みを入れなくて良いから。ないないそんな趣味ないって」
 「ふふ、ははは」

二人はここまで、長い長い一本道の下り坂を下ってやってきた。
ここは町の市場のようなもので、丘での生産物と海での漁獲物を交換
もしくは分配するような所らしい。
港の倉庫を改築して作った魚市場は、少々時間がずれていることもあって
さほどの人は居ないようだが、みずきとしては数ヶ月ぶりにこれほどの人を見た。

 「みずきちゃん、海まで行ってみない?」
 「海?」
 「ここは港町だもの、海岸線まで行ける様になってるんだ」
 「泳げたりできるの?」
 「うーん、夏もあんまり温度が上がらないし、潮の流れも速いから無理かな。
 でもみずきちゃんがやりたいっていうなら、案内するよ?」
 「聞いてみただけ、聞いてみただけだからっ」
 「みずきちゃん慌て過ぎ。真に受けやすいなあ」

フェイの案内のままに結局二人は紺色の海に辿り着いた。
あまり大きくはない漁港に数隻の漁船が浮いており、その隅には灯台。
潮風が鼻をくすぐり、すっかり伸びた髪を揺らす。

目の前に広がるのは、見渡す限りの海だ。
269 :第二十三輪 :2015/04/23(木) 18:02
 「…広いなあ」
 「そりゃ海だもの、大きいに決まってる」
 「ううん、この島全体が、ね。私は首都生まれの首都育ちだから」
 「みずきちゃんって都会の子なんだっ」
 「そう、何ヶ月もかかっちゃったけど、ついに最北端上陸したんだなって」
 「あの、ちょっとヤンキーみたいな喋りの女の子と一緒に?」
 「あははヤンキーって、えりぽんの事?そう、あの子が連れてきてくれたんだ」
 「どうやって?」
 「譲り受けたバイクで、えりぽんが運転してだよ」

みずきがくつくつと笑う。

 「バイクに荷物を詰め込むのね?」
 「うん。寝るための毛布と、食料。そして大切な水。それに生活雑貨と服も。
 だから普通のオートバイとは違って、配達用のらしいんだ。詳しくは分からないけど
 凄く頑丈だし、重い荷物にもよく耐えてくれる、私達の両足だよ」
 「乗ってみたいなあ、そのバイクに」
 「えりぽんに頼めば乗せてくれるかもね。運転は上手いから」
 「……みずきちゃん、そのえりぽんって子を信用してるのね」
 「あはは、まあそうかも。私は一人で行動するの苦手だから」
 「そうなんだ。でもなんでみずきちゃんだったんだろうね」
 「え?」
 「えりぽんは何でみずきちゃんを連れて行こうと思ったのかなって。
 理由が無かったら、こんな所まで走って来れないんじゃないかな。
 嫌いな人だったら連れて来ないんじゃないかな、ふと思っちゃったの」
270 :第二十三輪 :2015/04/23(木) 18:06
好きな人、嫌いな人。
その比較されるものがこのシンプルな世界になっても尚、生きている。
身を守るために、身を守ってあげるために。

 「…そうだね、ホントに、なんで私だったのかな」
 
みずきの言葉に、フェイは少し目を細める。

 「ごめんなさい。別に嫌味で言ったわけじゃないの。
 少し聞いてみたかっただけなのよ。
 そうね、強いて言うなら興味があったの、二人の事。
 私はこの町から出たことも、それを許されることもなかったから」
 「外のことが気になるのね」
 「ええ、とても。だから聞かせてほしいな、いろんな事」
 「いいよ、じゃあ進みながら話してあげる」

フェイは嬉しそうにみずきの腕を掴んで寄り添う。
下ってきた坂を見上げるとその先に、小さくポツンと学校が見えた。
271 :第二十三輪 :2015/04/23(木) 18:06
リオンは素直な子だ。
綺麗になったバイクに荷造りをすると言ったら、彼女は快く手伝ってくれた。
手順や配置を誤ればそもそも積載することが難しい。
だが医薬品の類、燃料や食料、水に至るまでを補給できるのはありがたい。
特に燃料に至っては、予備のタンクに半分しか残っていなかった。
ただガソリンを精製する能力がこの町にはない為、リオンが漁業組合の
爺様達に頼み込んでくれたのだ。
リオンは素直で、優しい子である。

 「水力発電?」
 「ここから山の方に上がると、上流にダムがあるんです。
 病院や主要ライフライン以外は昼間しか送電されないようになってるので
 夜の九時を回ると完全に送電が止まってしまいます」
 「でもそんな事したら病院の機械とかも止まってしまうし、大丈夫と?」
 「ここの人はけっこう頑丈な人が多いんで、本当の緊急時しか稼働させません。
 でも発電所には町の人たちが派遣されて維持してます。
 素人ばかりだが、一人だけ所員がいたので、その人を筆頭になんとか管理
 できるようにはなってます。ギリギリですけどね」
 「……やっぱりどこも大変っちゃね」
 「えりぽんさん達が見てきた町もこんなもんですか?」
 「うーん、でも本格的な町を見たのはここが初めてやね。
 ここから南の方に小さな村があったり、自分たちで個人営業してたり。
 一生懸命生きとる人達がおるっちゃ」
 「へえ、やっぱりまだ人が居るんですね」
 「リオンは疎開でこっちに来たと?」
 「あ、ええまあ、そんな所です」
272 :第二十三輪 :2015/04/23(木) 18:11
リオンの何処となく曖昧な答えに、えりぽんは引っかかる。
偽名を使うという理由も気になるが、この世界で言えない理由を持つ者は多い。
たとえ親しい相手であっても、正しい事を言える人間は少ない。
「すぐには使わない荷物」を小さくまとめ、「すぐに使う荷物」や
「寝る時に使う荷物」などとまとめ、ファスナーを閉めようとした。

 「あ、そういえば最近ほとんど書いてなかったと」

えりぽんが見つけたのは、みずきのお絵描きノート兼日記帳だった。
みずきが風邪を引いていた為にここ数日の出来事は書いていない。
それでも数ヶ月分の重みを持った日記の白紙は残りわずかとなっていた。

当時を思い出すと、思わず笑みが漏れる。
その頃はまだ自転車で移動していたと考えると初々しいものを感じた。
彼女の日記帳である為に、えりぽんが代筆したことは一度もない。

 「それは?」
 「ああ、えりの連れの日記帳。
 …そういえばここ、学校ってことは美術室もあるんやろ?」
 「ありますけど、今じゃ倉庫代わりになってますよ」
 「でも用具はそのままやんね。あのさ、ちょっとお願いしたい事があるっちゃけど」
 「おーいそこの二人ー」

二人が声に振り返ると、道重が少し慌てたように駆け寄ってきた。
273 :第二十三輪 :2015/04/23(木) 18:11
 「大変、患者二人が脱走しちゃったみたいなの」
 「はあっ?みずきが?」
 「まさかフェイのヤツが?」
 「多分あの子が引っ張ってったみたいね、多分海沿いに行ってるはずだけど…。
 ……あ、帰ってきたっ」

道重の視線と指の先には、脱走者二名がこちらに歩いてくる姿があった。
みずきが女の子を背負い、白衣姿という不思議な姿をしている。
リオンが「フェイっ」と声をあげて駆け寄っていく。

澄み渡る空の下、人の出会いは極端に早く、そして始まりは唐突だった。
274 :第二十三輪 :2015/04/23(木) 18:11
 ――――

さあ、切符をしっかり持っておいで。
お前はもう夢の鉄道の中でなしに
本当の世界の火やはげしい波の中を
大股にまっすぐあるいて行かなければいけない。
天の川のなかでたった一つの
ほんとうのその切符を、決しておまえはなくしてはいけない

 ――――
275 :名無し三号さん :2015/04/23(木) 18:13
>>265-274『第二十三輪』以上です。

少し短いですがここまで。
276 :名無飼育さん :2015/04/26(日) 02:47
この人たちが登場するとは…!
続きが読めて嬉しいです、期待してます
…作者さん、むっつりですね完全に
277 :名無し三号さん :2015/05/02(土) 00:29
続きです。
278 :第二十四輪 :2015/05/02(土) 00:30
人が眠る時は、二時間の周期で浅い眠りと深い眠りを繰り返すという。
それに関係があるか解らないが、目覚めたのもちょうど四時間が経った頃だった。
目を開けなければ、真っ暗なままの天井。
蝋燭もなかったので、正真正銘真っ暗である。
何故こんな時間に目覚めてしまったのか、疑問は多々あった。
そもそも先日から大して寝ていないし、実際今も眠いのだ。
だがしかし、何故か意識は覚醒していた。

むくりと身体を起こしてみる。
隣のベッドでは、みずきが眠っていた。
あれだけ眠っていたくせに、それでもこんな勢いで眠れるのはむしろ才能だろう。
枕元にあったペットボトルの中身を僅かに飲み、そのままベッドに戻ろうとする。
気が付いた。
みずきが背負ってきたこの街の「姫」であるフェイが眠っているベッド。
その隣にはリオンが眠っているのだが、そのカーテンが開けられている。
リオンの姿は見当たらない。

 「…おらん」

首を傾げつつ、主の居ないベッドに手を置く。
トイレに行くために少し起きたのだと考えるには、そのベッドは冷たすぎた。
脱走、という単語が頭に浮かぶが、それも妙な話だ。
今日、正確にいえば昨日だが、脱走したのはフェイの方なのだ。
それにこんな時間に何処へ行くというのだろう。

 「あれ、なんで…」
279 :第二十四輪 :2015/05/02(土) 00:31
さらにえりぽんの目が、ベッド脇に置かれたテーブルに止まる。
美術室から拝借した色鉛筆のケースはそのままだが
みずきが書き上げて置いておいたはずの日記帳が、ない。
妙な蟠りに、えりぽんは顎に手を置いて唸る。
このままベッドに潜り込んで寝むれる気がしない。
こうなれば。

えりぽんはパジャマの上に上着を羽織り、靴を履いて保健室を後にした。

小皿に載せた蝋燭を供とし、えりぽんが校舎から出る。
夜はさすがに涼しいので、思わずくしゃみを一つ。
さてどこから探したものか、と悩む。
が、その悩みは僅か数秒で解決することとなる。


校庭の真ん中に、謎の光源を発見したのだ。
それも、えりぽんと同じ蝋燭の灯りを。
そのオレンジの光の傍らに、体育座りしている影が見えた。
リオンだ、何故かそんな確信が持てた。

近づくと、蝋燭の灯りに気がついたのか、リオンが振り返った。

 「あ、えりぽんさん…」
 「風邪引くとよ、こんな夜中に」
 「…夜中というよりは、もう早朝に近いですけどね」
280 :第二十四輪 :2015/05/02(土) 00:33
リオンが笑った。
だがその笑は爽やかなものではなく、まるで自嘲めいた響きを混じらせる。
妙に引っ掛かりを感じる。

 「何しとると?こんな所で、こんな時間に」

えりぽんがリオンの隣に腰を下ろす。
グラウンドの土がひんやりと冷たい。

 「…特に、何かをしてた訳じゃないんです。ただ、あの保健室に居ると
 時々どうしようもなく気が滅入ることがあって」
 「まあ、見るからに退屈そうではあるっちゃね、リオンも、あの姫様も」
 「昔はフェイと一緒にこうやって空を眺めたりしてたんですけど
 みずきさんよりチビなんで、フェイにもしもの事があったら背負えないから」
 「ああ、なるほど。思えばヒョロっちいよね」
 「正論だけに堪えます」
 「あ、いや、ごめん」

リオンが夜空を見上げた。
雲も見当たらない夜空には、満天の星と大きな月。
それらの明かりで、リオンの顔が僅かに照らされる。

 「……フェイの病気も生まれつきとかじゃないんですよ。
 『色無し』を発症してから急になったもので、でもだからといって
 その所為でってことでもないらしいです、学者様が言ってました」
 「学者?まさかまだこの町には学者がおると?」
 「つい一ヶ月前に、"消えて"しまいました。」
 「そう、なんやね」
281 :第二十四輪 :2015/05/02(土) 00:34
ふと、えりぽんはリオンの手元にある日記帳に気が付いた。

 「あ……ごめんなさいっ。悪いかとも思ったんですけど、読みました。
 とても面白かったです。えりぽんさんとみずきさんの日々が目に浮かんで。
 自分も日記でも書こうかなって…」

不意に、リオンの顔を飾っていた笑みが剥がれ落ちる。
ぎゅっと日記帳を抱きしめ、足元に視線を落とす。

 「でも、駄目ですねきっと。あたしが日記を書いたとしても
 きっとその中身はフェイのことばかりになっちゃうんだ。
 お二人みたいにいろいろな景色を見ることは叶わない。
 でも、勘違いしないでくださいね。悲観してるんじゃないんですよ。
 だって考えてもみてください。
 この名も無き病は、全世界に広がってるんです。
 老若男女の隔てりもなく、国家主義主張立場の変わりなく、消えていくんです。
 死と同じぐらい平等に」

その言葉は、リオンには不釣り合いなほど大きく、軋んで聞こえた。

 「……ある時、思ったんです。あたしは本当に『運良く消えずに済んでる』のか、と」

一瞬理解が追いつかず、えりぽんが怪訝そうな顔をする。

 「どういう、意味?」
 「あたしは、消えなかったんじゃなく『置いて行かれた』のではないか。って」

えりぽんは、思わず息を呑んだ。
282 :第二十四輪 :2015/05/02(土) 00:35
 「フェイはこの夏を越えられるかどうか分かりません。
 でもあの病気になってから、その時間はもっと短くなってしまった。
 話せる時間も、笑う時間も、限りなく少なくなってます。
 昨日だってあたし、時間をつぶしたくてバイクの点検やってました。
 どんな話をすれば良いのか分かんないんです。
 フェイにどんな風に笑いかければいいのか分かんないんです。
 だって、あたしは、あたしは……!」

そこで言葉を切り、少し興奮したのか息を吸い、リオンは喉を鳴らした。

 「すみません。思わず叫んでしまって。
 えりぽんさんなら何となく分かってくれる気がしたんです。
 みずきさんと一緒に居るえりぽんさんなら」

二人の間を、重い静寂が漂っていた。
涼しいはずの夜風はねっとりと湿気をはらむようで、口を開くにも
噤むにも、どちらにせよ強力な意志を必要とした。
どれだけの時が過ぎたかは解らない。
だが先に口を開いたのは、えりぽんの方だった。


 「…………リオン。バイクに乗らん?」
 「はい?」

唐突に繰り出された、静寂をブチ壊す気の抜けたようなえりぽんの声に
リオンが思わず変な声を出してしまう。
283 :第二十四輪 :2015/05/02(土) 00:35
 「ほら、今日綺麗にしてもらったと。だからお礼」
 「お礼って、いやそんな別に対したことしてないですし…」

あまりにも突然な話題転換に、リオンが戸惑う。
今の今まで滅茶苦茶深刻な話をしていたはずなのに。

 「え?今ですか?」
 「そ、今やったら誰もおらんし」

文字どおり目を丸くするリオンに、えりぽんが意地悪な笑みを向ける。
手にはキーホルダー付きの鍵があり、指でブラブラと見せつけた。
284 :第二十四輪 :2015/05/02(土) 00:36
ばるるるる、とエンジン音が夜の街に響く。
人工の音がカサリともしない中でのオートバイの排気音は特別大きく聞こえた。
校内の脇に停めてあったバイクは、昼間の水滴もすっかり乾き
月明かりで新車同様に光っている。

 「あたし、バイクのエンジン音なんて久しぶりに聞いたんです」
 「そうなん?でも確かにこの町には車なんてほとんど見んかった」
 「荷物の移動はリヤカー、人の移動は自転車が主なんです。
 移動電源はバッテリーを使ってるので、燃料を使う乗り物は漁船だけです。
 それも、何とか電気で動かせないかといろいろ話し合ってる最中ですけどね」
 「へえ、じゃ、まあ乗ってみ」

ぽん、とサドルを叩いてえりぽんが言った。
銀色のバイクは洗車された事で増設した荷台を全て取り外していたので
毛布で作ったタンデムシート以外の装備は一切無い。
スタンドはえりぽんが外していたが、リオンはソワソワしていた。

 「あ、言っとくけど、えりはみずき以外は乗せない事にしとるから」
 「はっ?それってつまり、あたしが運転しろと?」
 「そうやろね。普通は前に乗る人が運転するわけやし」
 「じゃああたしがハンドルとかブレーキとか操作しろと!?」
 「それが運転って事やろ」

えりぽんの返答に本気だというのがようやく伝わったらしい。
285 :第二十四輪 :2015/05/02(土) 00:39
 「無理、ですよ。あたし自転車ぐらいしか乗れないのに…!」
 「えりも最初はそんなもんやったけど?」
 「そ、それにあたしまだ十四ですよ!?
 免許だって、そう!免許がないと運転できないですから!」
 「そんなん今の世間一般で意味があるとでも?」

暗にリオンの希望を拒否するがごとく、えりぽんがタンデムに跨る。

 「はい、どうぞ」

えりぽんが伸ばした手を、リオンが取る。
その手は小刻みに震えていたが、抵抗も弱く、えりぽんが軽く引いただけで
引き寄せられるように車体に寄り添い、跨った。

 「上着貸したげる、風邪引いてでもしたらアレやけんね」

ばふ、と自分が着ていた上着を被せてやると、もそもそと腕を通す。
日記帳は、前の籠に入れておいた。
しかしハンドルやクラッチなどの装置類を前にした瞬間、動きが止まった。

 「あの、あたしやっぱり…」
 「操作方法が分からんなら、えりが足やるから、ハンドルとスロットル頼むね」

えりが足を伸ばし、ペダル類に足を置く。
手の震えが止まらないリオンの手を掴み、強引にハンドルに置かせた。

 「出発進行ー!」
286 :第二十四輪 :2015/05/02(土) 00:40
ぐい、といきなりアクセルを開ける。
リオンが息を呑む暇もなく、オートバイが急加速した。

 「きゃああああ!?」

ハスキーボイスが急激に乙女に変貌する。

 「ほらほら、えりは手を離すけん、ノーヘルだから事故ったら二人共死ぬよ」
 「ええっ!?ちょ…」

無責任にもハンドル操作を放棄したえりぽんに代わり、リオンがハンドルを握る。
数年ぶりに乗るであろう二輪車の操作だからか、車体がフラフラと蛇行する。

 「む、無理、無理だってッ!」
 「大丈夫大丈夫、ほら、ちゃんと進んどるやん」

二人を乗せた暴走バイクは、あっという間に校門を抜け、民家の塀に
激突しそうになりながらも左へ曲がる。

 「し、死ぬ!死ぬう!」
 「倒れない限り死なないって」
 「倒れそうだから言ってんだよ!」

実を言うとスロットルを握っているのはリオンなのだから
むしろハンドルから手を離してしまえば停まる。
だが、今のえりぽんは意地悪なので、そんな事を教えるつもりは毛頭無い。
287 :第二十四輪 :2015/05/02(土) 00:41
 「ところで、そこを曲がると何があると思う?」
 「え?」

えりぽんの問いに、リオンが半ば無意識にハンドルを右に切る。
二人を乗せたバイクは滑らかにカーブを描き、長い長い下り坂に突っ込んだ。
港まで真っ直ぐと続くその道には、何の障害物もない。

 「わあああああぁぁぁぁ!」

車体が強烈に加速すると同時に、リオンの悲鳴が「恐怖の悲鳴」から
「生命の危機に対する悲鳴」にランクアップする。
顔に当たる風は痛いほどで、それも混乱を助長するのに一役買っている。

 「速度計振り切っとるっ、これでコケたら絶対死ぬっちゃね」
 「停め、停めろぉぉぉッ!」
 「あ、ハンドルのブレーキは使わん方がええよ。それ前輪のブレーキやし。
 後輪のブレーキはペダルにあるけん、このスピードで前輪だけ
 ブレーキかけたらどうなるか、乗った事無くても解るやろ?」
 「鬼!悪魔!」
 「はいはい、えりも付き合ってあげるからさ」
 「道連れ!?」

バイクは物凄いスピードで長い下り坂を疾走する。
上限が時速六十キロメートルまでしかないメーターでは解らないが
実際にはそう大したスピードは出ていない。
だが生まれて初めて乗ったオートバイで、尚且つ停め方を知らないのなら
その恐怖は並大抵ではないだろう。
リオンの頭の中はパニックで塗りつぶされ、まともな思考も叶うまい。
288 :第二十四輪 :2015/05/02(土) 00:42
 「ハンドル切るっ、突っ込んだら海だよっ」

えりぽんの言葉に、リオンの顔が限界まで蒼くなる。
目の前には丁字路。
このまま直進すればその先は海だ。
夏とはいえ、この島の夜の海に突然飛び込んでもすればどうなるか。
死にはしないだろう。
死にはしないが、それでも万が一の場合があった時。

 フェイの横顔が脳裏をかすめる。

瞬間、手が勝手にハンドルを切っていた。
えりぽんが手伝うように大きく身体を傾け、プラスチック製のカウルを
アスファルトに擦りつける。
神の慈悲か悪魔の加護か、銀色のバイクはカーブを潜り抜け
滑らかに姿勢を回復した。
大きく傾いていた視界が水平に戻り、海岸線の真っ直ぐな道路を
速度を落としながら走行する。
そこで緊張が途切れたのか、リオンがハンドルから手を離す。

 「おっとっと」

引き継ぐようにえりぽんがハンドルを握り、スロットルを緩めて
ゆっくりと減速すると、俯いたリオンが肩を震わせていた。
さすがに少し心配になり、えりぽんが肩越しに様子を見る。
289 :第二十四輪 :2015/05/02(土) 00:47
 「大丈夫?」
 「…これで大丈夫だと思ってるんですか?」
 「話せるレベルなら死んではないっちゃろ」

リオンはジトッとえりぽんを見ていたが、再びハンドルに手を伸ばす。
そっとハンドルの操作を譲り、えりぽんがゆっくりと口を開く。
先ほどまでの軽い口調ではなく、とても静かな言葉で紡いでいく。

 「……あのさ」
 「え?」
 「……あのさ、多分、勿体ないと思うんよ」
 「何……」
 「人生が。今この瞬間から、あの子がいつか消えてしまうまでの人生が」

リオンが、息を呑む。

 「えりだって別に一人で首都からここまで来たわけやないけん。
 みずきと一緒に助け合ってきたから、今ここにおるわけよ。
 それに歩いてきたわけでもないし。
 この時速六十キロで走るバイクの足があったからっちゃよ」

こん、とえりぽんがカウルを蹴る。

 「それでも、えりらとバイクだけじゃやっていけん。
 いろんな人達に助けてもらって、いろんな人達に迷惑かけてきたとよ。
 それこそテンコ盛りに」
290 :第二十四輪 :2015/05/02(土) 00:48
そして、ぽすん、とリオンの頭を軽く叩いた。

 「ほら、あんたやって乗れてる。
 なんの知識もないけど、下手やけど乗れてる。
 最近あったと?全力で振り絞ったこと」

リオンが、息を呑む。

 「だからさ、勿体ないと思う。全部まとめて諦めるにはまだちょっと早い。
 少なくとも、まだ余力も時間も残ってる分には」

それに、とえりぽんが続ける。

 「この街の人達も良い人ばっかりやもん。道重さんも、漁船の人達も。
 だから頼っちゃえばいいとよ。感謝なんて後からでも出来るんやし」
 「……ちょっと、バチ当たりな言い方じゃないですかね?」
 「えりとしての最大のお礼って、その気持ちを素直に受けることやから。
 次のことっていうんは考えとってもやってくるもんやし。
 "また今度"なんて、けっこー蔑ろな言葉やと思わん?」
 「あたしがフェイにしてあげられることって、何でしょう」
 「さあ、えりはあの子やないから分かんないよ」
 「ですよね」

リオンの表情が少しだけ軽くなった。苦笑する。
それでもまだ晴れやかにとはいかないらしい。
291 :第二十四輪 :2015/05/02(土) 00:50
 「さて、そろそろ帰って二度寝しよ、って言ってももう朝やね。
 今度はえりが運転するけん、後ろ乗り」
 「……えりぽんさん」
 「はい?」
 「その、もしもの話ですけど、その頼る人達が消えたら、どうするんです?
 他に頼れる人を見つけなきゃいけないとして、それでもあたしは
 ちゃんとやっていけるんでしょうか、本当に大丈夫なんでしょうか?」

リオンの不安な言葉が連なる。
不安な世の中だ。不安定な世界だ。
不安になることは新しい不安に重なって、抱えきれずに崩れる。

 「リオン、最初から諦めたとったら何も出来んよ。
 それに少しでもやり始めたら、案外続けられるものだしね。
 それとも…何か引っかかると?」
 「えりぽんさん、この世界の命はあまりにも短いと思いませんか。
 肌の異常や影を失ってからの時間が、とても短い。
 けど、もしも、もしも、その時間が他の人よりも長く感じられるなら。
 自分が朽ち果てるまで生き続けなければいけないとしたら」

えりぽんの表情がピクリと痙攣した。
リオンの口がわなわなと震える。

 「えりぽんさん、信じてくれますか?あたし、覚えてるんです。
 いろんな事、過去とか記憶とか、覚えてるんです。
 親の顔とか、友達の顔とか、匂いとか、温かさとか。
 全部、全部、ぜんぶぜんぶ覚えてる!だからきっと」
292 :第二十四輪 :2015/05/02(土) 00:51


 あたしは 消えないんです
 そう生まれてきてしまったから

リオンの言葉に、えりぽんはただ一言呟いた。







 「それなら、えりと一緒っちゃね」


淡々とした言葉だった。
何の躍動もない、何の動揺もない。
目を見開いたのは、リオンの方だった。
涙を流したのもリオンだけだった。
えりぽんはただそんな彼女と向かい合っている。
293 :第二十四輪 :2015/05/02(土) 00:51
 ――――

向こう岸の暗いどてにも火が七つ八つうごいていました。
そのまん中をもう烏瓜のあかりもない川が
わずかに音をたてて灰いろにしずかに流れていたのでした。
河原のいちばん下流の方へ洲のようになって出たところに
人の集まりがくっきりまっ黒に立っていました。

 ――――
294 :名無し三号さん :2015/05/02(土) 00:54
>>278-293
以上です。突然ですが次の投下が最後だと思います。
最初の予定では別視点での番外編を書こうと
思っていたのですが、その理由は次の更新にてお話します。

お付き合いありがとうございました。
295 :名無し飼育さん :2015/05/03(日) 10:14
更新ありがとうございます。
いつもいつもドキドキしながら読んでます

次でラスト!
もっともっとこの世界に浸っていたかったです…
次回更新楽しみにしています。
296 :名無飼育さん :2015/05/03(日) 19:24
えりぽんが、らしくてすごくいい。
297 :名無飼育さん :2015/05/05(火) 02:50
えぇーーーーーーーーーーーーー…唐突だな…
楽しみにしとります
298 :名無し三号さん :2015/05/13(水) 03:16
【お知らせ】

当作品を拝読頂きありがとうございます。
次の投下が最後としていたんですが、その文章を保存していた
外付けHDが故障してしまいました。
なので投下が予定よりも遅くなってしまいますが
データが復旧次第投下する運びとしますので、今しばらくお待ちください。
299 :名無飼育さん :2015/11/30(月) 02:55
まだこないかな
300 :名無飼育さん :2016/07/27(水) 14:12
待っとる

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