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天然キャンディッド

205 :陸で泳ぐうさぎ・第九話 :2017/08/09(水) 23:59
「ズルいですよ、安倍さん。こんなときだけ」

『元気づける会』を終えた翌々週の月曜日、久しぶりに安倍さんとバッタリ会った。
偶然の出会いだとばかり思っていたが、どうも安倍さんにとっては必然だったようだ。
挨拶代わりに、二人から色々聞いたよ、と声をかけられたら驚いて足も止まる。

「聞きたい?」
「はい」

考える暇もなく頷いて返事をしていた。
安倍さんは、ついてきて、とキャンパスを出て路地裏の小さな喫茶店へと向かう。
午後からはサボタージュになりそうだ。
照明が少く暗い店内にひんやりとした冷房の風が肌を撫でる。
サボりなのか待ち合わせなのか顎の下に手を置いたままぼーっと窓の外を眺めている女性や、読書に熱中する男性。
時代を先取った完全分煙のようで、奥の喫煙室には片手で煙草を吸いながら器用にノートパソコンのキーボードを打ち続けてるおじさんもいる。
平日の昼下がり、喫茶店には意外とたくさんのお客さんが各々の時間を過ごしている。
さゆみの場合は、出席点が減るだけの時間になるかどうか。
注文した飲み物が運ばれてくると、さてと、と手を合わせ演技じみているように感じた。

「シゲさん、ほんと久しぶりだよねー」

それには答えず、視線を落としアイスカフェラテからのびたストローに口をつける。
うん、牛乳の量がさゆみ好みでちょうどいい。
安倍さんの雑談ペースにのっかってしまうと聞きたいことが聞けなくなる。

「それで、シゲさん色々あったんだってね」
「はい」
「裕ちゃん、ずーっと心配してたんだよ。注意散漫でさ、中澤に異変あり! って噂、あ、メールだけどね。まわってきたんだよぉ」

あちこちに話が飛びながら、うふふ、と笑顔で話を進める。

「裕ちゃんのペース乱すなら、付き合うのやめたらいいんじゃない」

そんなつもりはない。
乱されてるのはさゆみだとばかり思い込んでいて違うと気づいたばかりだ。
情報と視線が違うと、こうも見方が異なるのか。

「中澤さんは頑張りやさんなので」
「よぉく知ってるねぇ」

目を丸くして驚いた態度を見せる安倍さんに対し、さゆみは深く呼吸をして、カフェラテを一口すする。

「えぇ、それだけ付き合ってますから」
「そぉ? 振りまわして頑張らせることが付き合うってこと?」
「そういうことはないです」
「シゲさん言うようになったねぇ。嬉しいよ」
「離れていてもお互いを信用して頑張れる環境ならそれでいいと思ってます」
「ふーん、裕ちゃんには伝えたの?」
「まだですけど……」

そう、啖呵を切ったのは良かったのだが、なかなか二人になる機会がなく伝えられてない。
ふぅと息を吐きながらつい俯いてしまう。
大人ってこんなときどういう対応してたっけ。

「裕ちゃん、きっと待ってるよ。シゲさんが伝えにいくの」

安倍さんの言葉にハッとして見上げると、笑顔を向けていた。

「ズルいですよ、安倍さん。こんなときだけ」
「ふふ、なっちはいつもズルいんだよ。シゲさん、知らなかったの?」

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