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天然キャンディッド

1 :みおん :2011/09/17(土) 18:41
大学青春

保田・道重・中澤
2 :みおん :2011/09/17(土) 18:41


六回目の春をこの大学で迎えた。うちのサークルに新入生入ってくれるかなぁ。
裕ちゃんとなっちは院生としては在籍してるけど、石川吉澤は今年度卒業見込みだし二人とも真面目だし。
矢口藤本が中退したの痛かった。過去のことだからどうしようもないけど。
来年のこと考えると新垣道重リンリンから会長選出って、ないよねぇ。出席率高いの重ちゃんしかいないし。
悶々と考え事をしていると、いつのまにか重ちゃんがいた。
3 :みおん :2011/09/17(土) 18:42
「おはようございます、保田さん。今年もまた会いましたね」

かわいい顔して、いつもの毒舌!

「おはよう。重ちゃん、今日もツインテールにして可愛いのにキツイこというわねー」
「さゆみは甘いコトばっかり考えてないんで」

くっ。ムカつく! 話題を変えたほうがいいわね。

「新入生どれくらい入ってくれるかなぁ、楽しみよねぇ」

じっ、と見つめられ、嫌な予感のあと

「可愛い女の子鑑賞したいだけですよね、少しはご自分の未来を考えてはいかがです?
 学食混むんでお先に失礼します」

そういうと二つの毛束を揺らしながら、部室を出て行った。
うるさいなぁ、わかってるよそんなこと。……わかってるけど。
4 :みおん :2011/09/17(土) 18:43
ドアが動く音がした。重ちゃん忘れ物でもしたのかな。
隙間から見えたのは金髪ショートカット。な〜んだ。

「裕ちゃん、おはよー!」
「おはようさん。……下に重ちゃんおったけどなんやプリプリしてたでぇ。怖くて声かけられへんかったわ」
「あー……」

やっぱりイラついてたのか。

「どないしたん?」
「んー、たいした話じゃないよ」

さっきの会話を軽く教えた。あと、前年度の冬頃からなんだかイラついてることも。

「おかげで毒舌絶好調。こわいこわい」
「圭坊ですら怖いのん? いややわぁ〜。ウチなんて無理やない? なぁ」
5 :みおん :2011/09/17(土) 18:43
優しい目。柔和な表情。
初めて会ったときの裕ちゃんはこんなんじゃなかった。
社会人から大学入学、同級生はいくつも年の離れた未成年ばかり。
私となっちとかおりんと、そして矢口とサークル作ってしょっちゅうつるむようになった。
それでも金髪とカラコンは変わらなかったしキツイ関西弁に相手が慣れずふてくされてたし。
まさか院に進むなんて思いもせずに。

「なっちのあの笑顔ほど怖くはないよ、重ちゃんの毒舌は」
「うるさいわ、ボケぇ」

二人とも笑いをこらえている。

「私さ、わかってるんだ。裕ちゃんにもなっちにも甘えてること。
 だから重ちゃんの言いたいこともわかるし、それに……」
「ウチのこと心配してくれてるんやろ、なぁ。そろそろ学食空く時間やわ。まだやろ」
6 :みおん :2011/09/17(土) 18:44
名前欄を第一話とかにすればわかりやすかったんだorz
7 :第二話 :2011/09/17(土) 21:10


本日も部室でサボり。なーんて。
週に数コマしか講義はとってない。卒業論文という名の作品集は提出済みだけど。
実習がある講義めんどくさいのよねぇ。

……卒業はしたかった。でも矢口となっちに甘えてた、あの時までは。
ふと棚から一昨年のアルバムを引き抜いた。
まだ三限講義中だし、誰も来ないよね。そう思い、パイプ椅子に腰かける。
イベント毎の写真。ほとんどは私が撮影したものだ。
講義や仕事を離れての撮影は楽しかった。去年からは撮影してない。
撮影は同じ学科の重ちゃん。
何考えてるかよくわからない顔で撮影されるのは今と違う意味で怖かったけど。
去年のアルバムも、持ってこようか。
8 :第二話 :2011/09/17(土) 21:11

「失礼します」
「あ」

重ちゃん。

「なんだ、いるの保田さんでしたか」
「それ、どーゆー意味よ」

不思議そうな顔で手に持っているアルバムを見つめている。

「これ? 一昨年のアルバム。重ちゃん入学前の」
「……見たいです」
「いいけど」

重ちゃんは、パイプ椅子と荷物を適当に置き、私からアルバムを受け取ると真剣なまなざしで一枚一枚の写真を穴があくかと思うほど見つめ始めた。
私は去年のアルバムを棚から引き抜き、パラパラとめくっていた。
9 :第二話 :2011/09/17(土) 21:11
「これ、誰ですか」

ふと顔を上げると、ひときわ小さい女性を指していた。
ああ。

「矢口、って子。二年前の冬に退学したの」
「そう、ですか。今も誰か連絡取ってるんですか?」
「んー、たまに電話するけどすぐ切られちゃうしメール送っても返信はないよ」

ああ。聞きたくはない、けど。
10 :第二話 :2011/09/17(土) 21:12
「そんなに聞いてどうするのよ」
「……あの、言っていいかどうかわからないんですけど、でも」

まくしたてるような早口で

「明らかに中澤さんの表情違いますよね?」

言い切った。

「えー、そうかなぁ……」
「だって。中澤さん、去年は既にこんな表情して、なかった、です」

撮ってたからわかるもん、……かすかに聞こえた。

「重ちゃん、裕ちゃんのこと慕ってるもんねぇ」
「用事思い出したんで……重ちゃんって呼び方、嫌なんでさゆって呼んでください」
11 :みおん :2011/09/17(土) 21:12
第二話 了
12 :名無飼育さん :2011/09/17(土) 21:33
なんだか懐かしい面々が揃っていて嬉しいです
13 :名無飼育さん :2011/09/17(土) 22:12
お、新作発見
次回楽しみに待ってます
14 :名無飼育さん :2011/09/18(日) 13:31
わくわく
15 :第三話 :2011/09/19(月) 00:14

構内を歩いているなっちを捕獲し、この間のアルバムのことを手短に話す。
すると、まくしたてるように思ってることをぶつけてきた。

……シゲさんさぁ、去年の冬頃からイライラしてるよねぇ。
なんでなのかなぁ、家のこととか仕事のこととか、大学以外の理由も考えられるけどさぁ。
それにしたって怖いべ〜! なんでか毒舌もすごいし!
わたしカワイイ☆ て思ってる感じが!
裕ちゃんの表情? そりゃ変わるべさ。だってさぁ、ねぇ……

聞かなくても本当はわかってたんだ。でも否定したかった。
矢口いなくなって裕ちゃんの表情があんなに変わるなんて。
16 :第三話 :2011/09/19(月) 00:15

ゴールデンウィーク前、新入生たちが活発に動いてる。
東京に出てきて初めて帰省する子も多い。
裕ちゃんは帰る気なかったから、講義休みになるとよく宅呑みしてたなぁ。
今日もいつものように部室に入り浸っ……てるわけじゃないのよ! 信じて!

「こんにちは」
「重ちゃん、帰省しないの?」
「なんですか、藪からどじょうに」

荷物をゆっくりと下ろす彼女を見ると、変な感じがする。なんだか、いつもと違う。

「髪切った?」
「切ってませんけど。伸びたからかな」
17 :第三話 :2011/09/19(月) 00:16
うーん、なんだろうこの違和感。パイプ椅子に腰かけた重ちゃんは、ゆっくり頭を抱えた。

「どーした? 頭痛?」
「……ある意味。考えすぎて頭痛いんですよ、誰かさんと違って」

けだるそうに頭を上げて、首をかしげた。
いつものツインテールなのに可愛いだけじゃない気が。
18 :第三話 :2011/09/19(月) 00:16
「保田さんは、誰かのこと、気になって仕方なくなることはありますか」
「……そりゃあ、あるわよ」
「失礼ですけど安倍さんですか」
「否定はしない」
「あ、やっぱり。……でも、構内で見かけたらずっと追いかけて撮影したくなりますか?」
「しないけど」
「もうめんどくさいんですよね、ブログ用でーす! て掛け声ならいいのかな……」
19 :第三話 :2011/09/19(月) 00:16
会話がかみ合ってないし。
重ちゃんは高校生の時から自分で撮りためた写真をブログに掲載している。
業界から注目されて何冊か写真集を出していた。

「仕事用のブログに?」
「そうですね、載せたいです。でも載せたくないんです」

微妙な乙女心、か。誰かに恋してる。あの人じゃなきゃいいな、と思いつつ。
なんで大学入学したんだろ。こんなに注目されて。仕事だってすごいらしいし。

「……なんでわざわざ大学きたのか知りたいって顔してますよね」
20 :みおん :2011/09/19(月) 00:18
ここまで第三話です。

>>12
時代錯誤なんです、たぶん

>>13
楽しんでいただけるように頑張ります

>>14
てかてか
21 :名無飼育さん :2011/09/19(月) 16:16
珍しい組み合わせなのですごい楽しみ
22 :名無飼育さん :2011/09/19(月) 22:15
俺もこの組み合わせはかなりツボ
23 :第四話 :2011/09/23(金) 20:15
「さゆみの写真は感性だけって言われるんです。技術がないって」
「専門学校じゃダメなの?」
「学生時代って青春だってよく言うじゃないですか。専門だと課題に追われそうだし」
「色々楽しんでみたかったんだ。それでサークルに」
「ビラ配ってた安倍さんに引き止められて、そのとき中澤さんも来て怖くて……」
「仕方なく入った、て感じだったんだ。その割には楽しそうだけど」

言葉をじっくりと探しているようだった。
うーんと小さくうなりながら首をかしげると、白いうなじがみえそうで。
ああ、そうか。色っぽくなったんだこの子。そう思うと、声すら悩ましい。

「人見知りなんで、積極的に誘ってくれるのありがたいです」
24 :第四話 :2011/09/23(金) 20:15
安倍さんは自分が一番かわいい☆ て思ってるの気に食わないです、笑顔も怖いです。
飯田さんは目が怖いです。卒業されたのでよかったです。保田さんみたいに残らなくて。
吉澤さんと石川さんの痴話喧嘩には巻き込まれたくないです。
他にもたくさんの仲間ができて、さゆみ、すっごく嬉しいんですよ。こう見えて。
保田さんだってこうやって気にかけてくれてるし。
まぁさゆみが保田さんの単位を心配してるんですけど。
中澤さんは、思ったより怖くなくて優しくて。……でも、どこかさびしそうなんです。
25 :第四話 :2011/09/23(金) 20:15
「裕ちゃん、前は怖かったよ、前はね。さびしがりやなのは前からだけど」
「……そ、ですか。でもやっぱり、矢口さん、て人がいるときと今では……」
「ん、それは……なんとなく気づいてても、ね」
「鈍感すぎるんです。誰かを想ってるからあんな表情するんだ、って気づけなくて」

泣きだしそうな。でも唇を噛んでじっと我慢してるように見えた。

「かわいいじゃないですか、酔ってくると甘えるし。ずるいです」
「重ちゃんは前を知らないからね」
「過去に興味がないわけないじゃないですか。
さゆみがイライラしてる原因、保田さんだって知りたいでしょ」
「まぁ、ね」
26 :第四話 :2011/09/23(金) 20:16
部室内が暗くなっていく。まだ日が落ちる時間ではない。
遠くで雷鳴が聞こえた。雨が屋根にあたる音も。
まだ本降りではないようだ。降る予報じゃなかったのに。

「通り雨だといいんですけどね」

二人で窓の外を見つめる。そう簡単にはやまないかも。
雷の音がだんだん近づいてくる。

「誰かいるん?」

はっと、目を向けると裕ちゃんがドアから覗いていた。
大きな雨粒が屋根に落ちてぶつかっていく。
27 :第五話 :2011/09/23(金) 20:17
不協和音が聞こえる。めんどくさい。逃げたい。
二人して沈黙。休符はいくつも並ばないわけで。
裕ちゃんはニヤリと笑顔になり、適当な椅子に座った。
紫色の傘をたたみながら。傘の先からは大きなしずくが落ちていく。

「雨宿り?」
「そんなわけないやん。暇なのいるんやろ、圭坊より若い子で」
「重ちゃんしかいないけど」
「ええなぁ。講義サボってもええんやったら、な」
「……さゆみは別に」

嫌そうな言い方をしながらも、照れているようにみえる。
回りくどい言い方だけど、指名されたようなもんだし。あなたがいい、と。
28 :第五話 :2011/09/23(金) 20:18

……そういや、あの頃はいつも矢口が話し相手になってたな。
今よりもみんな部室にたまってた。くだらない話しかしてなかったのに。
講義が終わったら誰かの家に押しかけてさ。
そのまま夕飯作って食べたり、お酒買ってきて飲んだり。
居酒屋に行かなくても楽しくやってた。毎日のように。
いつも矢口が裕ちゃんの隣。でもみんなといるのが楽しくて仕方ない感じで。
どんどん移動しちゃうから裕ちゃんの隣はすぐに空く。寂しそうな顔で帰りを待ってた。
何もしない裕ちゃんの隣に私が移動することもあった。
そんなときでも、笑顔で矢口への愚痴。矢口が気にしてたからつい、
『そんなことばっかり言ってると逃げちゃうんじゃない?』
言ってしまった。本当にそのとおりになるなんて思わずに。
まだ裕ちゃんは覚えているのかな。あのときの私の言葉を。
29 :第五話 :2011/09/23(金) 20:18
そのときの裕ちゃんの表情がまぶたの奥に浮かんできた。
悲しい、というより怖い、と思った。
なんだか空っぽになってしまいそうで。何もない、という恐怖。

――ウチには守るものがなにもないんよ――

ハッと我に返る。楽しかったけれど、悲しい思い出。
今の裕ちゃんは、笑顔で重ちゃんと話してた。あのころと同じかもしれない。
……キャッキャッウフフ、か。私がいてもなっちでもかおりんでも埋められなかった。
その隣に重ちゃんがいる。裕ちゃんを想ってる重ちゃんがいる。
30 :第五話 :2011/09/23(金) 20:19
いつの間にか窓の外に青い空が広がっていた。
白い雲も綿菓子のようで美味しそう。

「雨、あがったなぁ」
「さゆみ、久しぶりにサボっちゃいました」
「……あはは、またサボっちゃった……」
「圭坊、次の講義は出よう、な」
「自分から単位を切ってるんですか。自殺行為?」
「単位は最後まであきらめたらあかんで」

憐みの視線を先輩と後輩から……ううう。
素早く荷物をまとめると、今度こそ逃げ出すように部室をあとにした。
31 :みおん :2011/09/23(金) 20:22
第四話&五話の更新完了です。
ドリムス秋の舞前に! だからこそ?

>>21
自分でも読んだことがないと思います
知らないだけかもしれませんが

>>22
ありがとうございます!
完結まで折り返し予定です、今のところ…
32 :名無飼育さん :2011/09/25(日) 01:26
更新きてたー
33 :第六話 :2011/09/26(月) 20:18

   ◇

「保田さん、行っちゃいましたね」
「サボらなきゃえーのになぁ」
ここに彼女がいたら、うるさいっ! と叫んでいただろう。
部室に二人きり。その彼女が見たいと思った二人。

道重は中澤の顔をまっすぐに見つめた。
「……中澤さん……あの……」
口がうまく動かないと道重は思った。言葉もうまく出てこない。
「どしたん? 顔真っ赤にして。重ちゃんの肌、白いからうらやましい」
道重の気持ちなど気づいてない。
矢口の気持ちにも気づけずにいるのだろう。
思い切って直球をぶつける。
34 :第六話 :2011/09/26(月) 20:18
「好きな人はいますか」
読唇術はできないが、答えを逃さぬよう唇を見つめる。
「……おるよ。今は離れ離れやけどな。重ちゃんにもいるんか」
頭をかきながら中澤は答えた。
「いました。……でも今はよくわからないです」
金髪をかきあげるとともに、上を向く。
見つめられたら心の中が読まれそうな気がして、中澤は天井を見つめた。
誰かを思い出したのか。
「恋愛は難しいなぁ」
溜息に似た呟き。
「あの、ですね、さゆみは去年の冬まで女の子と付き合ってたんです」
道重が下を向くと、肩にかかっていた黒髪のツインテールが揺れた。
秘密を聞かされても特に驚くことはない。後輩への優しさからか、それとも。
35 :第六話 :2011/09/26(月) 20:18
二人の視線は交わることなく、会話は続く。
「でもフラれたんです。同じ人の話ばかりしてたらしくて。
『……その人に恋してるんでしょ』、って。一方的に」
「気づいてなかったんか」
「はい。わからなくてイライラしてて。
保田さんと話してたら、そうかなって、最近は思うようになりました」
そう話しながら道重は中澤の横顔を見つめた。
視線に気づいたのか耐え切れなくなったのか、中澤はようやく道重の顔を見た。
「イライラの原因なくなりそうなん?」
「いえ……」
道重は口ごもる。
36 :第六話 :2011/09/26(月) 20:19
「なんでや!」
大声になると関西弁はキツく聞こえて、標準語に慣れている人間には恐怖だ。
道重に視線を合わせているので、余計に怖く感じるだろう。
「恋は難しいです。相手が過去をひきずってることもあるから……」
「そうやな、ほんま難しいな」
「どうしたらいいんでしょうね」
「……うーん、待ってみるのがええと思うで」
「はい、そうしてみます」

会話が止まる。
柔らかな仕草の奥に正直さと芯のある考え方を感じた先輩。
ピンとした空気と威圧感が発せられているように感じた後輩。

「なぁ、重ちゃん、なんで今日、こんなこと話してくれたん?」
「空があまりにも青かったので」
(……いいよね。そしてさようなら、えり……)

   ◇
37 :みおん :2011/09/26(月) 20:20
第六話更新終了。
分量の加減がわからないッス

>>32
レスきてたー
書き込みありがとうございます、励みになります
38 :名無飼育さん :2011/09/26(月) 23:43
おつです
先が楽しみです
39 :第七話 :2011/09/29(木) 00:48
中澤は一人、部室にいた。
講義に出席するため、二人して出たのになぜか戻ってきてしまった。
棚からアルバムを一冊取り出す。
それはほんの少し前、保田と道重が見たものだ。
彼女が知らないこと。

立ったまま、ぱらぱらとめくる。
左手でアルバムを支え、右手は写真の上をなぞっていく。

「なんで遠くにいってもうたん?」
問いかけても答えが返ってくることはない。

「裕子姉さん、寂しいんやで」
そう呟くと、涙が零れ落ちないように上を向く。
40 :第七話 :2011/09/29(木) 00:49
指は、道重が指した写真と同じところで止まっていた。
それも彼女は知らないこと。
金髪の小柄な女性。にかっと大きく口を開き笑っている。
その左隣には安倍、飯田、保田も写っている。
矢口の右隣に写っている自分が、最近鏡で見たのとは違う表情をしている。
子供じみていた、と今なら振り返られる。重ちゃんのおかげで。
でも耐え切れない。アルバムを閉じ、そっと棚に戻す。
41 :第七話 :2011/09/29(木) 00:49
遠くに行ってしまいたい、と思う。矢口を知らない人、風景。
誰かを想う自分に恋する道重がいない場所。
「待っててええんかなぁ……?」
来ないかもしれない人を待ち続けるのは辛いものだ。
矢口はいなくなったが、道重はやってきた。
自分を待つ人がいる。心変わりするかもしれない自分を。
42 :第七話 :2011/09/29(木) 00:49
目を閉じると矢口の顔がうっすら見えた気がする。
でも声は、さっきまで一緒に居た道重になっていた。
顔も少しずつ道重の顔になっていく。

「……最近、重ちゃんの笑顔全然見てへんわ」
なにかに衝き動かされるように一歩踏み出す。
一歩、また一歩と。
そうしてるうちに歩幅は広くなり、ドアを開け、部室を出ていく。
廊下を小走りでぬけて、部室棟を出ると大股で駆けていく音が聞こえた。
43 :第七話 :2011/09/29(木) 00:49

   ◇

空気が爽やかで気持ちいい季節。
ゴールデンウィークも新入生歓迎会という名の飲み会も
あわただしく過ぎ去り、少しずつ通常営業の風景に戻っていく。
梅雨前線はいつごろ来るんだろう。
もうすぐ裕ちゃんの誕生日。今年は日曜日だし。
なっちや後輩にメールして場所と時間おさえなきゃ。
44 :みおん :2011/09/29(木) 00:53
変則的ですが第七話の更新です。
なんだか壮大なプロローグな気がしてきたorz
三人称書くの初めてなので読みにくいかもしれません。
精進します。

>>38
ありがとうございます。頑張ります。
45 :第八話 :2011/09/29(木) 22:18
本日は中澤裕子3×才のお誕生日です。
私の家でやるんだけどね。……なんでみんなの家じゃダメなわけー!?
仕方ない。一番広いのは裕ちゃん家なんだけど。
シンポジウムの手伝いに借り出されるから無理と言われちゃ、ね。
石川と吉澤はなにか作って持ってきてくれると言ってた。
なっちと重ちゃんには期待してない。
お酒のおつまみで簡単にできるもの。なんだろう。
サラダ! チーズ! からあげ! お酒! お菓子少々!

なっち、重ちゃん、石川吉澤。二人が持ってきてくれたおかず。
主賓はまだ来ない。
丸テーブルの台所に一番近いところが私、その左隣になっち。
右隣には吉澤そして石川。その隣が重ちゃん。
なっちと重ちゃんの間が空いている。いつの間にかそんな順で座っていた。
チャイムが鳴る。後輩たちの背筋がのびた。緊張しなくても。
46 :第八話 :2011/09/29(木) 22:18
「おそなったな」
「大丈夫。主役がいなかったら始められないでしょ」
裕ちゃんはいわゆるリクルートスーツでやってきた。
普段そういう服装を見ないから不思議な気分だ。
「みんなー、主役の登場だよー」
「ちょっ、恥ずかしいやん」
大きな拍手とともに「イエーイ!」って石川がはしゃいでるのがわかる。
空いてるところに座って、即カンパイして。
『誕生日おめでとー!』「ございまーす!」
「ありがとさん」

「はい、重ちゃん以外みなさん呑むでしょうから。酔う前にプレゼント渡してあげて」
私がそういう前にみんな用意し始めてる。
「なっちからはこれ!」「私からはお酒!」「わたしたちからは……」
「あの、みなさんみたいに高いものとかじゃないんですけど」
重ちゃんはおずおずと小さなアルバムを差し出した。
「見てええの?」
「はい」
47 :第八話 :2011/09/29(木) 22:19
白い表紙に今風に可愛くデコってあって。
重ちゃんの緊張が伝わってきたのか、なぜかソワソワしてきた。
「去年のやー。なー、懐かしいな」
笑いながら重ちゃんに話しかけると嬉しそうな笑顔で。
携帯が震えてる。メールだ。しかも石川から。
<さゆって中澤さんのこと好きなんじゃ?>
急いで<たぶん>と返信。メールを読むと隣の吉澤に見せている。なるほど。
最後のページまで楽しそうに見て。ん? あれ?
文字を追うかのような目の動き。裕ちゃんの顔が真っ赤になっていく。
素早くアルバムを閉じたかと思うと、カバンのそばに置いた。
「裕ちゃーん、なっちが見ていい?」
「ダメや」
「えー、ケチぃ」
真っ赤なまま、お酒に口をつける。何を書いたの重ちゃん……。

宴が終わった。石川と吉澤は早めに帰宅。あの二人は最近どうなの?
なっちは寝てる。重ちゃんと裕ちゃんはまだいる。私は台所でお片付け。
48 :みおん :2011/09/29(木) 22:20
第八話更新終了。
最終話あたりは今夜か明日。
一旦、関係ない短編をはさみます。
49 :最終話 :2011/09/30(金) 00:46

 
   ◇

「重ちゃん」
「はい」
「プレゼント、うれしかったで」
「……あの」
「なぁ、まだ思い続けてる人がおっても、それでも」
「それでもいいです」
「ん」
道重が見つめると、中澤は視線を外した。
だが、そっと中澤は手を道重へ伸ばす。
お互いの手と手が重なって、体温を感じる。
視線を下に落とすと、ぎゅっと道重の手が握られた。
「うん」
もう一度、はっきりと中澤が返事をする。
二人の頬が赤くなった。

「今日の中澤さん、いつもと違うからすごく素敵です」
「……服装のせいやろ」
50 :最終話 :2011/09/30(金) 00:47
     ***

   大好きなあなたへ

 わたしが 変われる日
 あなたに 会える日

 わたしが 変わるとき
 あなたに 笑ってほしいとき

 ずっとトナリにいたいから
 あなたのために強くなります
     
     ***

アルバムの最後のページに添えられた詩。
道重の言葉が嬉しかった。素直にうれしいと思えた。

   ◇
51 :最終話 :2011/09/30(金) 00:47
梅雨前線がやってきて毎日雨降り。でも今日は久しぶりの太陽。
空も綺麗なぐらいに真っ青で。裕ちゃんと二人、構内を歩きながら。

「圭坊、ウチ告白したで」
「へっ?」
「大丈夫やった、意外と」
「誕生日会のとき?」
「そうや。重ちゃんの隣にいてもええかなー、て」

「……なんで教えてくれたの?」
「空が青かったからや。それだけやで」
理由なんてない。気まぐれに。
誰かが人を好きになるのに理由がないのと同じように。
「あー! 私もいい恋したい!」
「なっちと?」
「うん」
「……無理やと思うで」
52 :最終話 :2011/09/30(金) 00:48

   END.
53 :目次 :2011/09/30(金) 00:58
第一話 >>2-5
第二話 >>7-10
第三話 >>15-19
第四話 >>23-26
第五話 >>27-30
第六話 >>33-36
第七話 >>39-43
第八話 >>45-47
最終話 >>49-52

              To be continued...?
54 :あとがき :2011/09/30(金) 01:08
保田さんが空気ですみませんでした
今後は道重さんと中澤さんがメインにしかなりません
道重さんの詩は創作です

一人称(道重視点or中澤視点)か三人称で迷ってます
今回のような感じでも読みやすいのならまた違いますが……
周辺人物の短編もかけたら面白いかもしれません

本日23時50分ごろから全く関係がない短編なんですが、このスレに投下予定です
連載中に短編四作書くとかバカじゃないの
55 :名無飼育さん :2011/09/30(金) 23:49
   
   全く関係ない短編・リアル                   

                      2011年09月28日 初稿
                      2011年09月30日 改稿
56 :未来の扉 :2011/09/30(金) 23:50
  
   未来の扉
57 :1.モーニング娘。である理由 :2011/09/30(金) 23:50
高橋の卒業か。……十年だって。
五期の新垣、それに六期も二人、成人組がいる。

卒業コンサートの場合、最終日はいつも空けさせる。
けど、今年はドリムス。の仕事が入ってしまった。
それでも武道館には行く。行かせてもらう。

高橋の卒業と十期の発表が同時に行われる。
六期あたりからかな、こういうことになり始めたのは。
自分と関わりが少ないことは思い出しづらくなってきた。
……年だなぁ。
58 :1.モーニング娘。である理由 :2011/09/30(金) 23:50
楽屋に行くと現役メンバーがいる。
半分は九期になった。知らない子たち。
あたしがいないモーニング娘。を見て育った子たち。
「おはようございまーす」
九期の四人も慣れてきて。そんなところで、もう後輩ができる。
教育係はできるのだろうか。新垣が卒業したらリーダー誰になるのか。
不安と期待が胸をかけめぐる。
59 :1.モーニング娘。である理由 :2011/09/30(金) 23:51
高橋がかけ寄ってきた。
「来てくれてありがとうございます。
新メンバーのお母さん、モーニング娘。の大ファンなんですよ!」
そんな時代が来るなんて思ってなかった。
もっと早く解散すると思ってたもん。
「中澤さんたちが『愛の種』をまいてくれたおかげですよね!」
眩しいぐらいの笑顔で言う。
初めて娘。を出て行ったあの子の笑顔と重なった。

キラキラした十期の四人。
愛の種をまきちらせますように。
たくさん花が咲きますように。
60 :未来の扉 :2011/09/30(金) 23:51
あの子を思い出させる高橋がもう卒業で。
誰も頭が上がらないリーダーと言われてきたけれど。
――今度は新垣が背負っていく。
61 :2.変わらない関係 :2011/09/30(金) 23:52
「ブラックって苦くないですか?」
「別に。大人やもん。そういう重ちゃんはなに飲んでるの」
「紅茶。……そういえば『モーニングコーヒー飲もうよ』
って実際に言われたことありますか?」
「はぁ? あるわけないやん」
「えー、大人なのに」
「うっるさいわぁ」
「飲んでどうするんですかね」
「『二人で』飲むのが嬉しいんやないの」
「じゃあ、今がそうですね」
「はぁ? 第一、今あなたが飲んでるのは紅茶でしょ!」
「まぁまぁ。さゆが隣にいてあげますから」
「……今の娘。はどうなの?」
「あー大変ですよぉー。でも育てます」
「重ちゃんが?」
「注意とか苦手だけど、先輩がそういうことしてくれてたから
さゆみがお仕事できるようになりました。だから返していくんです」
「かおりんみたいにならへんようにな」
「さゆが目指してるのは中澤さんですから」
62 :未来の扉 :2011/09/30(金) 23:52
この子がずーっと努力してるのは知っていて。
たぶん近い将来、頭が上がらないと言われるのはこの子なんだと思う。
でも忘れちゃいけないあの子がいる。
――あの子がいなくなってから
63 :3.モーニング娘。を好きな理由 :2011/09/30(金) 23:53
「ねえ、裕ちゃん」
「なんや」
「『Never Forget』の歌詞読んで気づいた?」
「ん?」
「あの頃よりも髪がのびた事 あなた知ってた?」
「ええ?」
「っていう歌詞があるの」
「ふん、それで」
「だからー、『愛の種』で裕ちゃん髪切ったでしょ」
ああ、と納得。
64 :3.モーニング娘。を好きな理由 :2011/09/30(金) 23:54

♪髪を切って 夢をみがく 好きな空を めざすために♪

「で?」
「すごくない? これ裕ちゃんのことだよ、きっと」
笑って、そう言った。
娘。からいなくなったら、芸能活動もやめるって聞いた。
「つんくさんも粋やな」
「私、髪切ってデビューした裕ちゃんのこと忘れない、絶対忘れない」
髪切れへんやんか、そんなん言われたら。
……コンサート前はどうしようかなぁ、思てたのに。
65 :3.モーニング娘。を好きな理由 :2011/09/30(金) 23:55
ずっと笑顔で歌ってた。ウチらが泣いてた。
笑顔で出る人、泣いて残る人。
初めての全国ツアー、八人で最後のステージ。

七人になってから美容院に行った。
もう一度、夢をつかむために。
もう一度、てっぺんを目指すために。

誰かが愛してくれるモーニング娘。のために。
ウチの大好きなモーニング娘。のために。
66 :未来の扉 :2011/09/30(金) 23:56
復帰の噂はたびたび耳にしていたけれど。
本人かどうかなんて関係なくて、歌声が聴ければいいと思う。
――世界中の空 全部つながってる
67 :4.新しいモーニング娘。のこと :2011/09/30(金) 23:57
「ねぇフクちゃん」
「道重さん、どうしました?」

え、と耳を疑った。
なっちがよく「福ちゃん」と呼んでいたのを思い出す。
そういや九、十期メンバーの名字も飯窪、石田……。
それに成人組の三人はあたしがデビューしたころの年齢で。
飯田、石黒、中澤。そしてフクちゃん。
あとの新メンバーは十二才前後。
なっちっぽい名前の子はいなかったような気がする。
けど。けど。
68 :4.新しいモーニング娘。のこと :2011/09/30(金) 23:59
……なんや。
この子らの中から新しいなっちを見つける気ぃかいな。

よっしゃ! あたしもドリームで青春つかんだる!
あの頃の青春の光を忘れんように。

あたし
がんばるーっ!
69 :未来の扉 :2011/10/01(土) 00:00

二〇一一年十月一日、新しい扉が開く。

   未来の扉 1999-2011 END.
70 :∞.小話 :2011/10/01(土) 00:00
从#~∀~#从<重ちゃんはリーダーになれるのかいな

从*・ 。.・)<ヤるんですよ

从#~∀~#从<えっ
71 :みおん :2011/10/01(土) 00:01
次回更新は昔書いたアンリアルこんごまか
本編?です
72 :名無飼育さん :2011/10/02(日) 09:37
こんごまwktkしながら待ってます
73 :熱と棘 :2011/10/03(月) 20:13

 こんごま・アンリアル
74 :熱と棘 :2011/10/03(月) 20:13
「紺野さ、なにしてんの。帰りたいんだけど」
「え、でも先輩の制服のスカーフほつれてますし」
「……校則違反じゃないし」
「ダメですよ、あたし、生徒会の端くれですし」
「こんなことしてるうちによっすぃー部活から戻ってきちゃうよ?」
夕方。オレンジ色に染まった三年生の教室。
部活動に燃える学生達の声が遠くから聞こえる。
「なんでそこで吉澤先輩を出すんですか」
「早く帰りたいから」
むぅと少し怒ってみせる。少しでも気にされたいのに。
75 :熱と棘 :2011/10/03(月) 20:13
出会ったのはいつだっただろうか。
役員の高橋先輩と見回っていた時だったと思う。
全校朝会に遅れてきた学生がいないかと。まだ五月。
めまぐるしい日々を送っていた頃だった。そんな朝の三年生の教室。
お嬢様学校とは言わないけれど、不良学生はいない静かな校風。
全校朝会が始まって十五分は過ぎていた。
とある教室で、パジャマ姿のまま机に座って寝ている学生がいた。
それが後藤先輩だった。……もちろんその後は大変だったけれど。
性格からか、あたしはほっておけなくなり、時間があれば見に行くようになった。
それが始まり。中学時代から親友だった麻琴に言わせると、恋らしい。
女子校にはよくあることだし、と言っていた。
もちろん否定したけど、後藤先輩にべったりな吉澤先輩の存在は気になる。
吉澤先輩からは邪険に扱われているあたしです。
76 :熱と棘 :2011/10/03(月) 20:14
「ごっちん!」
後ろから、不意に明るい声が教室に響く。
その声に怯えた私は、針で自分の指を刺してしまった。
「痛っ」
見ると、指から赤い血が。
「どうした?」
言うが早いか、後藤先輩は指を取って口に含んだ。
後ろからは吉澤先輩の足音が響いてくる。カツン、カツンと。
足音のほうを振り向くと凄い形相で睨まれた。正直、怖い。
後藤先輩は気づかずちゅっちゅっと吸っていた。
……なんでこんなことしてんだろ、あたし。
目をつぶって下を向いた。
温かい口の中からひんやりとした空気に冷やされる指。
「そんなに痛い? だからやんなくていいよって……あ、よっすぃー」
「最近のごっちんは、その後輩に夢中みたいだね」
「そうかな、誰といたって同じだよ」
77 :熱と棘 :2011/10/03(月) 20:14
破壊力のある言葉が心に突き刺さる。
誰といたって……、裁縫道具を早々としまい、退散する事にした。
何も言えなかった。吉澤先輩を怖いと思う自分、後藤先輩の言葉に傷ついた自分。
もう何もかもがわからなかった。教室を出た途端、吉澤先輩の声が聞こえた。
「どう思ってるか知らないけど……あの子がいるのあたしは迷惑」
……迷惑。泣きそうになった。
後藤先輩が言ったわけじゃないけれど。
裁縫道具入れを握り締め、生徒会室に向かった。

「……だから?」
78 :熱と棘 :2011/10/03(月) 20:15
生徒会室には思ったとおり高橋先輩しかいなかった。
きっと目を赤く腫らしていたのだろう。
「……あさ美、どうした?」
「どうもしません」
「どうもしなかったらそんな顔しないし。ちゃんと言ってみ」
どうせ後藤先輩がらみだろうと、困った顔をしている。
「気になっている人に誰といたって同じって言われたらどう思いますか?」

沈黙。原因がわかっているだけに困惑度が増したのだろう。
「あさ美さぁ。多少なりとも好きじゃなきゃそんな言葉でそんな顔しないと思う」
彼女は早足で部屋の扉を閉めた。
そして、ゆっくりと優しくあたしを抱きしめてくれた。
「泣いていいから」
79 :熱と棘 :2011/10/03(月) 20:15
とある日のこと。後藤先輩は保健室にいた。軽い頭痛だという。
その場に級友と見られる人物はいなかった。
グラウンドで怪我人が出たとかで、養護教諭もいない。二人だけの空間。
「先輩、調子はどうですか?」
「あ、紺野〜たいしたことないよ〜、ちょっと目眩がしただけ」
そういう先輩の額には汗が滲んでいた。寝汗だろうか。
ポケットからハンカチを取り出し、軽くふき取った。
「紺野は優しいんだね」
「でもごっちんは優しい人、苦手でしょ」
80 :熱と棘 :2011/10/03(月) 20:16
振り向くと吉澤先輩が立っていた。
「ごっちんはよしざーといたほうが楽しいんだよ」
「後藤先輩はどう思っているんですか」
「誰といたって毎日退屈だけど」
問に間髪入れず答えられた。悔しい。
「……だけど」
あたしは少し首を傾げた。
「ごとーは好きだよ、紺野のこと」
それでいーじゃん、という心の声が聞こえた気がした。
81 :熱と棘 :2011/10/03(月) 20:16
 END.
82 :みおん :2011/10/03(月) 20:16
2008年10月14日に書いたらしいです。
83 :名無飼育さん :2011/10/04(火) 12:23
ごまこんに吉澤で学パロ素晴らしい
84 :みおん :2011/10/07(金) 18:21
レス返しだけです

>>72
こんな感じでよかったでしょうか

>>83
ありがとうございます
学園物は好きですw
85 :みおん :2011/10/09(日) 13:21

 天然キャンディッド続
   中澤視点
86 :1.Storyが始まる :2011/10/09(日) 13:22
あたしにとって七回目の夏がやってきた。
青い空がどこまでも広がってさわやかな季節。
背筋もピンと伸ばしたなるし、どこかに出かけたくもなる。
試験期間中、資料探しに図書館こもったし時間もないし。
こっちもこっちでせわしなったし。そもそも連絡先知らんかったし。
全然会えへんかった。今日はサークルで春期納め!
みんなとも久しぶりに会う。話すで飲むで騒ぐで!

待ち合わせ場所に急ぐ。ほとんど全員おるみたいや。
まとめ役である小川が携帯見つつ、みんなに声をかける。
「保田さん少し遅れるみたいなんで、先に行きましょう」
まーた遅れてるー、なんて声が出て、小川を先頭に歩き始めた。
テンションあがってるからか誰と話しても楽しい。
重ちゃんも梨華ちゃんやよっちゃんと話してて。こっちに気づいてくれへん。
87 :1.Storyが始まる :2011/10/09(日) 13:22
「中澤さぁーん」
「いつまで経っても甘えたやな」
「だぁってぇー。みきたんいないもん」
「藤本おらんようになって半年か。さびしいな」
「そーですよぅ。中澤さんだってさびしいでしょ?」
あの子、おらんようになってどんぐらい経ったんやったろう。
「……忘れたな」
「えー! うそぉ!? ほんとに? どうやって忘れたんですか!?」
忘れたわけではないんやけど。
「秘密」
「えーーー! あ! もしかして恋人でもできましたぁ?」
最近おうてへんし、他の後輩からは落ち込んでるって聞いてたし。
忘れてたけど、この子テンションあがりやすいんやった。うわー、間違えたわ。
88 :1.Storyが始まる :2011/10/09(日) 13:22
飲み会も一時間が経過……。重ちゃんと話したいなぁ。
入れてもらおかな。と、席を立とうとしたら隣に来てくれた。
「こんばんは、久しぶりですね」
「そ、やな」
あかん、うまく喋れへん。……って。重ちゃんが飲んでるの美味しそうやな。
オレンジジュースみたいやけどグラスの底がほんのり赤い
「カシスオレンジやん、それアルコール!」
「裕ちゃん、知らなかったんだー。
シゲさん、この間の誕生日でハタチになったんだよね」
この間、祝ってもろたばっかりやん!
相手のこと知らんくせによう言うたわ。恥ずかしなる。
「あー、おめでとさん」
二人してグラスくっつけてカンパイ。
ビールが渇いた喉を通って、体中うるおしてくれるような気がした。
89 :1.Storyが始まる :2011/10/09(日) 13:23
「あ!」
プレゼント何も考えてへん。これ最大のピンチちゃうの。
落ち着け、目の前にあるビールを飲めばええねん。
「そういえば松浦さんが中澤さんに恋人できたらしいとか言ってたんですけど……」
……あの子はほんとにもう。
「重ちゃんのことはゆうてへんで。心配せんでも」
「はぁ、そうですか」
「そんなことより」
重ちゃんにしか聞こえへんように小声で話しかける。
「プレゼント、何が欲しい?」
「えっ……あ、あの気にしないでください」
「気にするわ!」
「……じゃあデートしてほしいです」
か、かわいい。年下の子にこんなん言わせてええんか、あたし。
「ええよ」
「よかった」
にこっと笑ってグラスに口をつけた。その横顔が妙に色っぽくみえる。
重ちゃんの身体が揺れて、あたしと接触した。
……あ、て思ううちにふわって浮いたかと思った。
すごく気持ちいい。でも、こっちから触るのもなんか変やし。
緊張する。いつの間にこんな重ちゃんのこと、気にしてたっけあたし。
90 :1.Storyが始まる :2011/10/09(日) 13:23
矢口やったらええのに、とは思わへんかった。
思ってる以上に自分のことがわからん。こんな楽しい気持ちいつぶりやろ。
さびしかったんやな、て過去を振り返れた。圭ちゃんとかいてくれたんに。
けど、けどな。隣に誰もおらへんのはやっぱりさびしいで。
さびしかったで矢口。……簡単に忘れて次の恋できればええのになぁ。
91 :1.Storyが始まる :2011/10/09(日) 13:23
一次会終わって、二次会行くのは何人だろ。
松浦は藤本いーひんからか帰った。重ちゃんと小春ちゃんはおってくれて。
カラオケにするか呑み続けるか。それとも二手に分かれるか。
そーいや重ちゃんより下の代の子が残ってくれるって久しぶりやな。
九人、若い子おるしカラオケでええんちゃうかなぁ。
なっちや圭ちゃんも久しぶりに歌いたいみたいやし。
「あの」
重ちゃんが近づいてきた。
「カラオケだったら帰ろうかな、って思ってるんですけど……」
「えー、歌わなくてもええやん。楽しも」
「でもさゆみ音痴みたいなんですよ」
「そうなん? そういうて本当に音痴な人おらんかったで」
「自分ではわからないですけどすごいらしいです」
「聞きたいわぁ」
92 :1.Storyが始まる :2011/10/09(日) 13:24

って無理やり歌わせたら本当にすごかった。
話聞いたら、この間までメロディーがあることすら知らんかったそうな。
はー、こういう人ってほんまにいるんやな。
カラオケ終わって帰ったのは、よっちゃんと梨華ちゃんだけ。小春ちゃんはまだおる。
さすがに居酒屋行くのもどうかという話になり、ウチに全員連れてくことになった。
もしかして……重ちゃんと先にウチに帰ったら、二人っきりになれたんちゃうの。
今日は浮かれすぎて、なんかおかしいわ自分。
93 :みおん :2011/10/09(日) 13:24
今回はここまで
94 :名無飼育さん :2011/10/12(水) 23:45
おおーおつですー
95 :2.この部屋の平和を本気で願ってるんだよ! :2011/10/13(木) 23:00
「裕ちゃん、今夜久しぶりにやらない?」
家に着く前に寄ったコンビニ。各々、お菓子や飲み物を買っている。
圭ちゃんの手には紙パックのワインとやっすいチーズ。
「何を?」
「麻雀」
「えーけど、やる人おんの?」
「なっち重ちゃん小春はやらないとして、他は打てるでしょ」

軽く自室を掃除して、場所を作る。
まこっちゃん、ジュンジュン、圭ちゃん、あたしの四人で麻雀を打ち始める。
重ちゃんと小春ちゃんはなっちと別の部屋でお喋りしてるし。
誰とでもすぐ打ち解けて話せるなっちには感謝や。
お酒もあまり入れずにまったりしてるな。
なっちなら毛布の場所も知ってるし世話好きやし、安心できる。
ガンガン打ったる。徹麻久しぶりやー。
96 :2.この部屋の平和を本気で願ってるんだよ! :2011/10/13(木) 23:00

「試験どやった?」
「私、単位が取れるかどうかは別にしても頑張ったよ」
「そんなんドヤ顔で言うことじゃあないで」
「保田さん相変わらずっスね」
「シュッセキしてノートとるだけ。なのになんでデキナイ?」
「ちょっ! あなたたち後輩でしょ!」
「心配してくれる後輩おるなんて素敵やんかぁ」
そう言い返すと、圭ちゃんの顔が曇ったような気がする。
「うん、そうだよね」
変なこと言うたかなぁ。
97 :2.この部屋の平和を本気で願ってるんだよ! :2011/10/13(木) 23:00
隣の部屋からは相変わらず明るい声が聞こえてくる。
なっちも小春ちゃんもテンション変わらへんなぁ。
重ちゃんの声があんまり聞こえない気ぃはするな。
二つのサイコロがころがるのを見ながら、つい気持ちが言葉になってしもた。
「……なぁ、さびしいときどうしてる?」
酔いがまわってるからか抑えられへん。ストレートに出てまう。
「裕ちゃん酔ってる?」
「みたいや」
「えー、中澤さん大丈夫ッスかぁ? 無理しないでくださいよぉ」
「ジュンジュンはサビシイとき、ダレかとくっつくよ」
「……それ、ええなー。すぐやるわ」
なんで気づかへんかったんやろ。隣の部屋に重ちゃんおるのに。
98 :2.この部屋の平和を本気で願ってるんだよ! :2011/10/13(木) 23:01
「重ちゃーん」
「はーい……なんですか中澤さん」
「うん、ちょいこっち来」
「え、なんで。なんでですか?」
「えーから!」
麻雀牌がぶつかる音が部屋に響く。懐かしい音が耳をくすぐる。
カンだの聞こえて、ドラが一つ増える。
いーからいきなよ、こっちはこっちで大丈夫。なっち、いいお姉さんやなぁ。
「どーしたんですか?」
横を見ると重ちゃんが体育座りでこっち見てる。
「あんな、後ろに回って欲しいねん」
「はぁ」
「えーから、早よ!」
畳と布が擦れた音がして、背中に柔らかい感触がある。
「腕、まわして」
「こーですか?」
右耳にあたたかい息がかかる。うわぁ、ゾクゾクくる。集中できるんかな自分。
99 :2.この部屋の平和を本気で願ってるんだよ! :2011/10/13(木) 23:01
「なっちー! お酒持ってきてー」
「安倍さーん、私にもコップ欲しいです。……保田さん呑みましょう」
「まこっちゃん、呑もう!」
「はいはーい、コップ二つでいい? ジュンジュンは?」
「お茶飲みたいデス」
「はーい。あ、小春もお茶飲むぅ? 裕ちゃんは補給中みたいだねぇ」
ええけど、これってめっちゃ恥ずかしい気がする。素面じゃ絶対でけへんな。
重ちゃんもええ感じに酔ってて。むふーて言いながら、いい感じに体預けてくれてる。
しあわせや。こんな簡単に手に入ってもええのかなぁ。
コップと飲み物を持ってくると、こぼさないように気をつけてねー、と笑顔で釘をさされた。
100 :2.この部屋の平和を本気で願ってるんだよ! :2011/10/13(木) 23:01
「さ、南場はじめるで!」
むにゃむにゃと耳に熱い息がかかる。
「あのー、さゆみ全然麻雀のルールわからないんですけどぉ」
「えーねん! ここにおればえーねん! わからなくてもかまへん!!」
はぁーい、という返事が息とともに耳全体にかかって、体が反応した。
「裕ちゃん、なんなの!?」
「うっさいわ! あたしだってどうにもならんのや!」
虚勢を張ったそばから、眠そうな声が耳元で聞こえる。
もう何言ってるか全然わからんのに、身体だけが素直に反応する。
芯がじわーっと熱くなっていくのも感じる。やばい。これはやばい。
「……重ちゃん、そんな息吹きかけへんでよ」
「ふふふ、中澤さんが反応するの面白いんで、つい」
この子、女王様タイプやんけ! 今ならまだ引き返せるんちゃうかな。
あ、デートせなあかんのかあ。しあわせなんやけどぉ。
101 :みおん :2011/10/13(木) 23:02
ここまで

>>94
おつありですー
102 :3.眠りの園 〜Touch My Heart!〜 :2011/10/15(土) 21:32
いつの間にか寝てもうてたみたいで、毛布がかかってた。
カーテンの隙間からは、昼間のような光が目に入ってきてまぶしい。
上半身起こしても、誰もいーひん。けど、同じ毛布には重ちゃんも横になってて。
まだ寝てるみたいや。かわいいなぁ。頭にそっと手を乗せ撫でる。
起きひんな。黒髪が青光りして。染めたことないんやな。
かわいい寝息も聞こえて。起こさんとこ、って思ったけど。

きっとこんなことしても起きひん、と思う。
額を撫で上げて、前髪を上げる。
そこに顔を近づけていく。唇が額に触れる。
顔を上げると、ほのかに色づいた唇のあと。
やっば! ……化粧落とさずにそのまま寝たからや。
指でこすると、少しは薄く伸びたような気がする。
気づかへんで欲しいんや、あたしの気持ちになんか。
鈍感なフリするのも大変なんやで。
103 :3.眠りの園 〜Touch My Heart!〜 :2011/10/15(土) 21:32
「……ん」
むにゃむにゃと言いながら、目をこする重ちゃん。起きたんかな。
「おはよ」
「……おはようございます」
起き上がって挨拶して。
「なんで朝から泣きそうな顔してるんですか」
「気のせいやと思うで」
なんで気づくんや、この子。
立ちあがって、カーテン開けて一言。
「胃になんか入れたほうがいいな、嫌いなものあるん?」
「ないですけど」
まぶしそうに目を細めて答える彼女を見ながら、台所に向かう。
104 :3.眠りの園 〜Touch My Heart!〜 :2011/10/15(土) 21:33
すぐ食べれそうなものを探す。目に入ったのはりんご。ま、むけばええか。
これだけじゃあ……あ。シリアルのチョココーティングされたの買っといたんや。
「重ちゃん、牛乳飲めるー?」
「はい」
返事しながら台所まで来てくれて、りんごを見て呟いたのは。
「りんごってうさぎの形に切ると可愛いですよねぇ」
「……重ちゃん、できんの?」
「いいえ、まったく」
キラキラした瞳で見られたらかなわんがな。はいはい。

「できたで」
といっても牛乳入れたのと、切ってすぐ食べれるものだけや。
白い皿に盛りつけたりんごを見ると「可愛いー」と感嘆しながら勝手に持っててくれた。
「わたしみたいにかわいい」
て聞こえたのは気のせいかな。うん、きっと気のせいや。
二人とも無言で食べ続ける。食器がぶつかる音、りんごをかじる音。
一人でいるときはさびしく感じるだけやのに。
105 :3.眠りの園 〜Touch My Heart!〜 :2011/10/15(土) 21:33
「夏休みの予定どうなん?」
「仕事が入ってるんで……家にはあまりいませんけど、帰省はしない予定です」
「ふーん」
「中澤さんは帰省するんですか?」
「入学してから一度も帰ってへんよ。今年もそうするつもりやし。大学に缶詰や」
「じゃあ二人とも基本的にはこっちにいるってことですね」
なんや帰るんなら連絡先知っとかなあかんな、って思っとったのに。
「あ、そういえばさゆみの電話番号とか知ってますか? メルアドとか」
「知らへんけど」
「交換しましょうよ」
あっさりやったな。あたしらの頃と違うんやもんな。

「あの……中澤さん」
「なんや」
「夜、恥ずかしいコトしてませんでした? あのさゆみの勘違いだと思うんですけど」
「……勘違いやと思うで」
「そーですよねぇ。なーんだ夢かぁ」
106 :みおん :2011/10/15(土) 21:35
本日ここまで
107 :4.悔し涙 :2011/10/22(土) 00:01
夏休みに入った。こっち残っとるのはあたし、なっち、重ちゃんの三人だけで。
関東実家組もおるけど、講義やサークルがあるわけやないし。
用事っちゃ用事もないのに呼び出すのも気ぃひけるし。

今日はなっちと勉強しよっちゅー約束で。ウチに二人。
学部は一緒やけど微妙に名前の違う学科やったからな。
まっ、基本似とるとこもあるしお互いの知識をすり合わせる意味でもええかな。
て思っとったけど、やっぱりっちゅーか。雑談してまう。
近くにできたカフェの話やったり後輩の話やったり。
はたまた恋の話やったり。それこそ昔話やったり。
108 :4.悔し涙 :2011/10/22(土) 00:01
「むかしは無茶やったな。重ちゃんたち見てるとこじんまりしとるなーって思うもん」
「そりゃさぁ、一緒にしちゃダメだよー」
結局お茶入れて、休憩や。
「ね、ね、裕ちゃんどうなの? 重ちゃんとさ。圭ちゃんから聞いたよー」
「いつ聞いたん?」
「この間の飲み会のときにさ、二人寝ちゃった時ね」
あー……ま、理解できなくもないなぁ。けど無駄な気の遣い方やん。
「てぇことはみんな知ってるん?」
「裕ちゃんにいちいち聞く人はいないと思うけど?」
いたずらっ子みたく笑いながら、カップに口をつける。天使のような悪魔のような笑みで。
109 :4.悔し涙 :2011/10/22(土) 00:02
「あのさ、圭ちゃんには聞くな、って言われたんだけど」
「なんや」
「矢口のこと、忘れたの?」
なっちの目が怖い。顔は笑っていても、瞳の奥が怖い。
視線を外して話題変えたいけど、こうゆうときに限って話題は思いつかへん。
「別に忘れてはない、ただ待ってもらってるだけや」
「えー! 重ちゃんかわいそうじゃない?」
「ええやろ」
自分が不機嫌になっていくのがわかる。夏のあつさにやられて、火傷しそうなぐらいに。
「まぁた逃げられちゃうよ」
頭殴られたかと思う。まぶたの奥でいくつもの星が砕け散って。
圭ちゃんにも言われたことあった、あのときはそんななるて思わへんかったけど。
110 :4.悔し涙 :2011/10/22(土) 00:02
「重ちゃんと矢口とどっちが好きなの?」
子どもの無邪気な声で質問されるとかなわへん。
頭から皮膚から、火が付いたかのように熱くなっていく。
感情の歯止めが効かへん。こんなん久しぶりや。
「……そんなんやないし。なんで意地悪いうん?」
思ったよりかすれた声になる。なっちは大きく息を吐き出す。
「裕ちゃん、大人になりなよ」
わからへん、なんでそない言われなあかんのか。自分が自分でなくなっていくようで。
畳み掛けるかのように続けてしゃべりだされた。
「みんなさ、言わないけどすっごく心配してるんだよ」
「あ、これも圭ちゃんには言うなって口止めされてるんだった」
「けどさ、矢口のことだって解放してあげないとさ」
「重ちゃんまで逃げたらどーしたらいいかわかんないべ、うちらだって」
「そーならないようにさ、頑張ってこーね。あ、そろそろ休憩終わりにする?」
111 :4.悔し涙 :2011/10/22(土) 00:02
「……帰ってや」
「え? なんて?」
ぼろぼろと大きな涙が目からあふれる。目を閉じても手で拭ってもとめられへん。
「ごめ……ごめんね」
なっちの手がのびてきて触ろうとしたけど、避けた。
「さわら、へん、で……」
泣いて唇も声も震えてるし、口もよう動かん。
「……帰るっ!」
広げていたノート類を片付ける大きな音が聞こえてるけど、どんどん涙があふれるばかりで。
見えるけど見えへんくなる。謝りたくはなかった。自分が悪くても。
ドアが閉まる音だけがむなしく耳に響いた。
112 :みおん :2011/10/22(土) 00:03
本日の更新終了
113 :名無飼育さん :2011/10/24(月) 00:55
更新きてたー乙です
114 :5.心のブスにはならない哲学 :2011/10/27(木) 00:53
どれぐらい経ったんやろう。泣き疲れた。お腹空いた……。作る気力あらへん。
かといって、洗顔して化粧してコンビニ買いに行くのもなんやし。
ええこと思いついた。……けど、恥ずかしい。
自分でどうにかしよ。誰にも頼らへん。
……さみしい、だれかに居てほしい。そう思わへんわけじゃないけど。
「けど」をいくつ並べても事態はなんも変わらへんくて。わかっとる。

直感を信じてええんかな。メール、いや……電話。
ケータイを取り出して、電話帳を開く。
この間入れたばかりの名前とアドレスを確認して。
えいやっとボタンを押して、ゆっくりと耳にあてる。
プルルルルという機械音が聞こえて。早よ出てくれへんかな。
期待と焦りが混じり合う時間。プチッとコール音が切れて。あ!
あー……あかんか。やっぱりメールにしよか。
そない思いながら耳にケータイをあてたままでおってたら。
115 :5.心のブスにはならない哲学 :2011/10/27(木) 00:54
「はい、道重です。……中澤さん? ですよね」
「……あ、うん」
「って、なんで泣き声なんですか!?」
「うぅ、ちゃうわ」
声聞いたら、涙と鼻水が復活してきた。
「夕飯まだですよね、たぶんですけど。なんか買っていくんで一緒に食べましょう」
「……うん。玄関のカギ、空いてるからな」
「わかりました、今、外出中なんで少し待ってもらっていいですか」
「ええで」
「はい、失礼します」

電話切れた後、ケータイで時間を確認する。夕方六時。……何時間泣いたんや。
半分、忘れてた。矢口のこと、大人になれと言われたことをぼんやりと思い出す。
あかん、また泣きそうや。重ちゃんに心配かけたくないなー。
大きく息を吐き出して深呼吸すると、不思議と落ち着いてきた。
窓の外には赤い夕焼け空が広がっている。
116 :5.心のブスにはならない哲学 :2011/10/27(木) 00:54
そぉいや、重ちゃんなんで外出してたんやろ。あ、夕飯の買い物かな。
時間的にそないな気もする。あの子、一人暮らしやろうし。
料理とか作れるんやろな。想像したらにやけてまう。
エプロン姿とか、かわいいんやろなぁ。
来てくれるのは待ち遠しいし、心配させた分いい顔したい。
なんやろこの気持ち……ま、ええか。考えてもしゃーない。
117 :5.心のブスにはならない哲学 :2011/10/27(木) 00:55
そない思てたら、ドアノブまわる音して。心臓ドキドキする。
しめつけられそうで。……あの子にはそんなん思う余裕もなかったけど。
「こんばんはー、お邪魔しまーす」
遠くから明るい声が聞こえてくる。足音が近づいてきて、顔が見えて。
「こんばんは」
下げてる袋見たら、弁当っぽい。まぁしゃーないな。
「あ、これですか。さゆみ、料理作れないんで」
118 :5.心のブスにはならない哲学 :2011/10/27(木) 00:55
「は!? あなた一人暮らしでしょ!」
「なんで、いつもお弁当です」
「……あっ、そう」
なんか期待しただけ無駄やったみたいな子やな。でも、なんか面白い。
こんな可愛い顔して女の子っぽいのに。腹の底から笑えた。
「えー、なんですか」
「ごめん、ごめん。なんか重ちゃんってかわいらしいのにそういうのダメなんやと思ったら」
言葉に出してみると余計笑えてくる。
「……あの、照れます」
「え……褒めてないけど」
「かわいいって言ってくれたじゃないですか」
照れながらも隣に座ってくれる。ちょこんと。でもあたしより身体が大きいけど。
「ほんまに照れてるん?」
こくんと頷くと、ぎゅっと体に腕をまわして密着してくる。あたたかい、いや熱い。
「くっつかへんでよ」
119 :みおん :2011/10/27(木) 00:59
意外と容量食わないもんだな
精進します

>>113
ゆっくり読んでいってね!
120 :名無飼育さん :2011/10/29(土) 12:08
おつです
続き楽しみです
121 :6.大きい恋心で :2011/11/03(木) 02:35
仕事が早めに片付いて時間ができたと言って、重ちゃんは帰省した。
親御さんも心配しとるだろうし。お墓参りもあるだろうし。
お盆か……ずーっと帰ってへんな。

さすがにこの時期はみんな帰省しとる。
さみしい。
あの子に対する感情とは違う。誰に対する感情とも違う。
心は動く。季節も変わる。思い出に変わっていく。
楽しいこともつらいことも。
122 :6.大きい恋心で :2011/11/03(木) 02:36
声が聞きたい。
大切なことに気づいても、間が悪いあたし。
どんな気持ちで気づいてくれたん。
泣いてもええかな。
失恋をした今日に。優しい恋に気づいた今日に。
つようなりたい、そのために流す涙は弱さじゃあらへん。

携帯が着信を知らせてくれる。
公衆電話……誰やろ?
「もしもし」
「……道重です」
「は? 今どこや!」
「えーと、もう山口なんですけど」
123 :6.大きい恋心で :2011/11/03(木) 02:36
「どしたん」
「声が聞きたくなって」
「え? なんや」
「……中澤さんの声が聞きたくなって……すみません」
「いや……ええで。あたしも聞きたかった」
「ほんとですか? え、でも……」
なんて言ったらええんかな。
124 :6.大きい恋心で :2011/11/03(木) 02:36
「重ちゃんがいないとさみしいから、早よ戻ってーな」
「え、それって……」
「てゆーか、なんで公衆電話?」
「友達と遊んで帰る途中、中澤さんの声聞きたいなって思って、
でもケータイ実家に忘れてて……番号必死に思い出して、それで」
めっちゃ早口の言い訳、内容もめっちゃ可愛いし。
「そんなに聞きたかったん? ありがとな」
「あの、戻ったらデートしたいです」
「え、あ、うん。そやな……行こうな」
「はい、また。失礼します」
125 :6.大きい恋心で :2011/11/03(木) 02:37
声聞いて話してたら、沈んだ気持ちもどっか行った。
頬も声の調子も上がって。
よっしゃ! デートの計画立てよう。忙しゅうなるで。
126 :みおん :2011/11/03(木) 02:38
ゆうかりんショックとゆゆたんショックが地味にきたけど立ち直りました(たぶん
そして方言難しいorz

>>120
いつも書き込みしてくれる方ですかね、頑張ります!
127 :7.この純愛を信じていこうかい :2011/11/16(水) 01:01
近くの駅で待ち合わせ。あたしの格好おかしゅうないか。
ダイダイ染めのワンピースにボヘミアンサンダル。
つばひろめの麦わら帽子。お盆過ぎても、まだ暑うて。きたきた。
「遅くなりました」
「ええやん、五分前やで」
重ちゃんは、白いパフ袖のブラウスに紺のプリーツスカート。
紺色のニーハイに茶色のぺったん靴。つば狭い麦わら帽子。
若さがまぶしいで。太陽より。
「どこ行きますか?」
128 :7.この純愛を信じていこうかい :2011/11/16(水) 01:01
電車乗って数駅離れた大きな街へ。
ここならなんでもあるやろ、ろくに調べもせえへんかった。
むしろ駅で迷うても重ちゃんがいたから大丈夫やった。
かわいいかわいい言われまくって恥ずかしいわ。
大通りを歩くと、人が多い。夏だからか。カップルが多い。夏だからか。
ふと背の低い女の子が目に入る。
あ、矢口っぽいなぁ。似とるなぁ。ちょい太めやけど。
金髪やし服のセンスとか、似とる。
あ、誰かと手ぇ繋いどる。ちまたでうわさの恋人繋ぎや。
えーなぁ。やたら背ぇ高い男性やん。
笑った横顔がほんまにそっくり。本人ちゃうんか。
……そない思っとったら、足が動かんくなってた。
「中澤さん、どうしました」
優しい声が耳にしみる。
「ちょっと休みます? 今日も暑いですし」
129 :7.この純愛を信じていこうかい :2011/11/16(水) 01:01
近くの喫茶店に入ると、意外ときつい冷房じゃなくて安心した。
「あたたかいもの頼むといいかもしれませんね」
こんなつもりじゃなかったんに。なぁ。
「そういえばお昼どうします?」
ま、おってもおかしくないで。恋人いたってデートに来てたって。
「さゆみは中澤さんといればどこでも楽しいですけど」
……あかん。なに考えとんのや。目の前の子を楽しくさせへんでどうすんのや。
頭の中ではそう思っとっても、体に力が入らへん。どないしよ。
「ココアきましたよ」
「ん」
湯気がけっこうたってるけど飲んでみる。飲もうとカップに口をつける。
「あつっ」
「ふふふ、気をつけてください」
「ん、ありがとな」
「いえいえ、こうやって休憩するのもいいですね」
「んー、したいんか?」
「何をですか?」
あかんあかん。なにを言うとんのや。
「いや、ごめん」
たくさんの?マークが頭に浮かんでる、そんな表情の重ちゃんもかわゆうて。
「落ち着いてきたみたいでよかったです」
「ありがとな」
130 :7.この純愛を信じていこうかい :2011/11/16(水) 01:02
この子とおるのええな。意外と。こんなんデートになってるかわからへんけど。
近づきすぎるのは怖い。怖くてたまらへん。心がざわざわしとる。
ずっとこんな調子やった気がする。矢口のこと忘れへんくて。
でも重ちゃんの声や言葉や行動に救われてた。
うれしゅうなったり落ち込んだり、気持ちが激しく上下してた。
矢口がそばにおったときとおんなじになっとる。だから怖い。
忘れようとしても、過去をなぞるように今を生きとる。

「あの、中澤さん」
「なんや」
「休憩って、もしかしてホテル的な意味ですか」
窓の外にちょうどよく休憩●●●●円の文字が見えた。
131 :みおん :2011/11/16(水) 01:03
更新の仕方を忘れそうになってましたorz
132 :7.5 愛して 愛して あと :2011/11/25(金) 18:30
「ていうか女同士で入れるんですかね」
「へ」
「だからホテルですよ」
「どーやろな」
「同性カップルはどうしてるんでしょうね」
「あ!」
「なんですか」
「ゆうてたやん。女の子とつきあってたんですよー、て」
「ああ、はい」
「そのときはどうしたん」
「……て、こういう話は元気なんですね」
「そりゃ聞きたいやん」
「いいですけど。うちでしてましたよ」
「彼女の家?」
「まさか。さゆみの部屋です」
「へー。じゃあ行こ」
「どこへ?」
「重ちゃん家」
「まったくもう」
「行くだけやで」
「うれしいなぁ」
「ん?」
「ふふふ」
「なんやの」
「あ、行くだけですよ?」
「えー」
「中澤さんのこと大切にしたいんで」
133 :みおん :2011/11/25(金) 18:30
短くてすみません
134 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 08:58
どうなんるだろうdkdk
予想外のところから話が進むのが楽しいです
(あとタイトルの曲名いじりも好きですw)
135 :8.泣いちゃいたい :2011/12/09(金) 20:12
大切にしたい……その言葉を聞いた時、記憶の海に沈めていたなにかが浮上してくる。
いやや、思い出したくない。
「……ダメ、ですか?」
記憶がモノクロからセピアになって、そして鮮やかに矢口の顔を思い出した。
あたしの部屋であの日なにが起きたか。

矢口を呼び出した。部屋に二人っきりになれて嬉しかってん。
あの頃は矢口のことしか見えてへんくて、矢口だけがウチにとっての現実やった。
たまらなく愛おしい矢口。ウチだけのものにしたかった。わがままに束縛したかった。
だから、言ってしまったんや。
「矢口のこと大切にするから、ウチのそばにいて」
「オイラ、いつも裕ちゃんのそばにいんじゃんかー」
矢口は明るく笑ってそう言うた。心の奥底では理解してたつもりや。
「ちゃうねん」
「なにがだよ。最近の裕子、おかしいぞ」
イラついてるのがわかる。ずっとずっとベタベタしてた。それだけやなくてわがままにふるまってた。
それでも矢口が受け入れてくれてるから、甘えてた。
「矢口、つきあって。キスして」
「はぁ? いつもしてんじゃんかーなんだよー」
136 :8.泣いちゃいたい :2011/12/09(金) 20:12
口ふさぐように唇重ねようとした。
「なにやってんだよ!」
小さな腕で力強く体を押された。抵抗。けど、その時のウチにはそれを抑えようとする力もなかった。
そうされるって思ってなかったんや。受け入れてくれる。矢口はなんでも受け入れてくれるって。
何の根拠もなくそう信じ込んでいたんや。矢口はウチと違う人間、って認めとうなくて。
「なんでダメなん?」
ただの小さな女の子やったんや。ふつうの女の子。
かっこいい芸能人に憧れて、握手しただけで感激して泣いちゃうような。
「女同士なんておかしいじゃんか。何言ってんの? ふざけてキスするのとは……」
「……ウチは本気やもん」
「バカじゃないの。女同士は結婚できないんだよ」
「わかっとる! お金なら稼げるし」
「そういう問題じゃないよ。目ぇ覚ませよぉ」
「覚めてるで、なぁウチの目ちゃんと見えてるやろ。こっち見ぃや」
矢口は少しずつ目をそらしていた。
137 :8.泣いちゃいたい :2011/12/09(金) 20:13
「ごめん、甘やかしすぎたんだね。今日でサヨナラだ」
「まっ……矢口、やぐちぃ!」
ウチの手は宙をつかんだだけで。矢口はさっさと立ち上がって、部屋を出ていってしもうた。
喉がかれるほど叫んだ名前を、そのあと呼ぶことはなかった。
大学中退してまで、ウチの前から姿消したから。

――あたしが放った言葉を目の前にいる子から聞いてる。不思議な感覚。
「あの、ほんと具合悪いんじゃ……家まで送りますから」
誰かと離れるのもそばにいすぎるのも怖い。
恐怖があたしのからだをこころを包み込んでいく。
138 :終.ねぇ こう言うのよ「だいすき!」 :2011/12/09(金) 20:13
退学後、一度も電話に出てくれへんかった。メールにも返信せぇへん。
番号もアドレスも変えへんとこが優しく思えて、吹っ切れんかった。
たった二年前の夏の記憶。ずっと心の奥底に鍵かけて、気持ちも想いもないことにした。
矢口と同じことをあたしは今、重ちゃんにしてる。電話も出ぇへんしメールにも返信せぇせんし。
後輩から連絡もらっとる。伝言ゲームのように「喧嘩したの?」って流れてきて。
気分次第で答えとったけど、まぁ……呆れられてるやろな。
今日は秋セメスター開始前のゼミ関連の飲み会で。めんどいけど、煩わしいこと忘れるし。
リクルートスーツのパンツスタイル。これ着ると誕生日思い出すわ。
はー、いつから重ちゃん中心に物事考えるようになったんやろ。
わかってる、けど矢口を忘れたかったのも事実やし。
139 :終.ねぇ こう言うのよ「だいすき!」 :2011/12/09(金) 20:14
九月になっても夜は、まだ暑い。それでも真夏の暑さに比べたら、過ごしやすい。
接待やからか、飲んでも酔った感じがない。
ぼーっとした頭で歩いていると、部屋の前に誰かが座り込んでいる。
ヒールがコンクリートを蹴る音が耳に響く。脳が不快だと告げていた。
長い黒髪の女の子が、うずくまるように座っていた。
「なにしとんの?」
目線合わせるようにしゃがみこむと、顔をあげたので目が合う。
「あ」
お互いの声が聞こえた。重ちゃんやん。
「来るなら電話ぐらい……」
「電話しても出ないから来ちゃいました」
「ん、ここじゃなんやから部屋あけるわ。寒いし」
立ちあがりながら、カバンの中にあるカギを探す。
「え、まだ体調……」
彼女の声は弱々しくて、あたしをずっと心配してくれたんやってわかった。
140 :終.ねぇ こう言うのよ「だいすき!」 :2011/12/09(金) 20:14
「ほら、入りぃ」
そう声かけると、あたしを後ろから抱きしめた。
「さびしかったです、会えなくて」
「……うん、あたしも」
自分が一番びっくりした。え、なんで、って。なんでそんな言葉が口から出たんやろ、って。
彼女の身体は適度にあたたかくて、適度にやわからくて。
「さゆみ、嫌なこと言っちゃいましたか?」
「そんなことないで」
ずっと心がざわついてたのに、柔らかな声がすっと耳に入ってきて穏やかな気持ちになる。
141 :終.ねぇ こう言うのよ「だいすき!」 :2011/12/09(金) 20:14
「なんで何も言ってくれないんですか」
「……ごめんな」
「さゆみは待てます、けど……」
あたし勘違いしとるんやな。矢口とあたしは違う人間やし、重ちゃんとあたしも違う人間。
やけど、矢口と重ちゃんも違う人間、ってなぜか思えへんくて。
「中澤さんが辛い思いをしてるのに待ってるだけなのは嫌です、絶対にイヤ」
頷くことしかできひん。誰かにこんなに強く想ってもらえて求められてて。
あたし、しあわせものやったんや。気づかへんだけなんや。
「でも、さゆみはそういう中澤さんも全部含めて好きになったんで」
「うん」
「それは忘れないでください」
「ありがと」
142 :終.ねぇ こう言うのよ「だいすき!」 :2011/12/09(金) 20:14
いつかあたしの言葉で伝えたい、自然な気持ちを伝えたい。
……二人の将来を考えたい。重ちゃんと「しあわせ!」って言いたい。
叶うといいな、小さな願いだけど。

 END.
143 :みおん :2011/12/09(金) 20:19
かなり駆け足ですが、終わりです。このあとは書くとしたら蛇足になるので。
容量がまだ余っているのでなにか考えます。
やすすとみーよがどうやって出会ったか(草板の飼育支部参照
次回作は長編(予定)。
おつきあいいただきありがとうございました!

>>134
ありがとうございます。
曲名いじり悩みまくってたので嬉しいです。
144 :目次 :2011/12/09(金) 20:23
やすす点
第一話 >>2-5 第二話 >>7-10 第三話 >>15-19 第四話 >>23-26 
第五話 >>27-30 第六話 >>33-36 第七話 >>39-43 第八話 >>45-47
最終話 >>49-52 
ゆゆたん視点
1.Storyが始まる >>86-92  2.この部屋の平和を本気で願ってるんだよ! >>95-100
3.眠りの園 〜Touch My Heart!〜 >>102-105 4.悔し涙 >>107-111
5.心のブスにはならない哲学 >>114-118 6.大きい恋心で >>121-125
7.この純愛を信じていこうかい >>127-130 7.5 愛して 愛して あと >>132
8.泣いちゃいたい >>135-137 終.ねぇ こう言うのよ「だいすき!」 >>138-142

無関係短編
未来の扉 >>56-70 熱と棘(こんごま) >>74-80
145 :名無飼育さん :2011/12/15(木) 09:39
よかったです。
やすすとみーよの出会い編も楽しみです。
146 :クレナイの予感 :2012/02/01(水) 18:07
九月に入り、秋期が始まった。秋入学の三年次編入生や院生もいる。
春につかまえられなかった新入生を、この時に待ち構えているサークル連中。
勧誘を目的としたビラの多いこと。小さな紙切れは宙を舞い、乾いた地面へと落下する。
学生たちは何の気もなく、ゴミを踏みつけていく。
どんなに品行方正な学生でも、落ち葉拾いならぬビラ拾いをする人はいないだろう。
147 :クレナイの予感 :2012/02/01(水) 18:07
「ちょっと! 君たち、これまだ拾えば使えるじゃない!」
ん? 人だかりになってる。見れば、少し背の高そうな黒髪ショートの女の子が真ん中にいる。
土のついたビラをサークルのみなさんに返しているようだ。
いやいやいやいや。待とうか。うん、冷静になろう保田圭。
秋からの編入生、なんだろうな、きっと。他大学からの編入だったり社会人経験したり。
色んな人がいるからなぁ。ま、それが大学なんだけど。
その子、ちょっとかっこいいかな。って思った。いやいやいや、ナンパじゃないんだよ。
でもね、女の子を助けてみたかったんだ!
「こらー、なにやってんのー」
「え、あ……あの」
その女の子は声をかけられて恥ずかしそうに下をむいた。
やばっ、かわいい。
「ま、使えるかもしれないんだからもらっときなさい」
そういって無理やり彼女の手にあったビラを、サークルと思わしき人に渡しにっこり微笑む。
つられて微笑むのを確認すると、空になった手を掴みダッシュで逃げる。
うん、逃げるに限るわね。
148 :クレナイの予感 :2012/02/01(水) 18:07
「あ、あのっ、すみませんっ! わたしっ」
走ってたら突然立ち止まるから、びっくりして振り向くとおろおろしている。
「あの、秋入学でまだよく覚えてないんです。次の講義……どこであるんだったか」
「何の講義? 先生の名前、覚えてる?」
「えっと、学長の」
「ああ、寺田ねー。あーっと、連れて行こうか?」
「はい?」
「いや、なんかせっかくだからさ。私、保田圭っていうの、あなたは?」
予感がした。彼女の頬がさっと色づいたから。
「三好、絵梨香です」
私たち付き合うんだろうな、という予感。

 END.
149 :みおん :2012/02/01(水) 18:08
やすみよ出会い編>>146-148
150 :陸で泳ぐうさぎ :2012/03/02(金) 19:56
◇◇◇

   陸で泳ぐうさぎ
       天然キャンディッド――道重視点

◇◇◇
151 :陸で泳ぐうさぎ :2012/03/02(金) 19:57
吉澤さんは、初めて見たとき凛々しくて本当にかっこいい人だと思った。
でもころころ表情が変化する人だとも思った。
視線の先にはいつも石川さんがいた。だから惚れちゃいけない。
心がとってもしなやかで、例えるなら頑丈な糸。
ピアノ線ではなくて、白くて細い糸。どんなに強い力がかかってもちぎれることはないんだろう。

そんな吉澤さんの隣にいる石川さんは、例えるなら瓦かなぁ。
瓦は強い力が加わったら、割れてしまうもの。でも弱い力なら大丈夫。
だから小姑みたいに時々発散して、弱い力に変えている。
本当は瓦みたいに頑固だけど、そこも魅力に変わっていく。

小春は初めてできた後輩。強いモンスター。どんな時でも能力が発揮できる。小春しか使えない能力を。
152 :陸で泳ぐうさぎ :2012/03/02(金) 19:57
学部は違うけどサークル同輩のガキさん。小春と対照的だと思う。
天然ボケかと思ったけど違うみたい。彼女にしかない天真爛漫。
周りを笑顔にさせてくれる。本人はまったくそんな気がないのがスゴい。

ガキさんが尊敬している安倍さん。とても不思議な人。
YesかNoか安倍なつみ、という三つの選択肢がこの世にはあると思い知らされる。
第三の選択肢、特別。安倍なつみは安倍なつみであるということ。
物に例えるなんてとんでもない。

中澤さんは、小さな子供みたい。この人の言動や行動に自分が怯えてた。
怯えているのは本人なんだ、と気づいた時すごくかわいいと思った。
他人の評価をとても気にしていて。中澤さんにとって安倍さんは特別。
……さゆみはこの人の特別になれるのかな。

◇◇◇
153 :みおん :2012/03/02(金) 19:57
ここまで
154 :陸で泳ぐうさぎ・第一話 :2012/03/24(土) 16:39

さゆみにとって三回目の春が大学におとずれようとしている。
卒業式の会場は都心のイベントホール。桜並木が満開だ。
風が吹くと花びらがひらひらと舞い落ちる。
細い枝に大きな花は重くて耐え切れないからかもしれない。
咲き誇る薄いピンクの花の間からこぼれる太陽の光。
そして風に揺れると隙間から見える青い空。
晴れ晴れとした一日が送れそうな気がする。

先輩二人を見送ったあと、さゆみは中澤さんと自宅にいる。
湿っぽいのは嫌だから送別会は先に済ませてあった。
それぞれがそれぞれの用事で散ったあと、さゆみと中澤さんだけが直帰で。
二人で電車に乗って同じ駅で降りて、でも車内ではお互い一言も話さなかったから。
何があった、ってわけでもないんだけど。
さゆみ自身は大人になったと思い込んでいただけで、まだまだ幼かったのだと知る。
155 :陸で泳ぐうさぎ・第一話 :2012/03/24(土) 16:39

「なぁ、落ち着いて話したいんやけど」

話し合いたいのか、一方的に話したいことがあるのか、さゆみには判断できない。

「え、あの、何を、ですか?」
「……やから、将来のこととか。色々あるやんか」

声が途中から荒くなって、ボリュームを抑えるように息を吐き出す。

「わかりました」
「なんや、はじめっからそお言えばええんやで。ったく、頼むでぇ。ほんまー」

着慣れないスーツと黒くカッチリとしたショルダーバッグが、気分を余計にどんよりとさせる。
胸にかかったバッグのショルダー部分をぎゅっとつかんだ。
これから起こる何かへの不安を感じないように。

「さゆみの家でいいですか」
「ええよ」
156 :陸で泳ぐうさぎ・第一話 :2012/03/24(土) 16:40

自宅なら、まだ自分のペースで話ができるかもしれないと思った。
中澤さんがきっちりと正座してから、さゆみにも正座を促す。
そして、さゆみの唇がよく動かないうちに中澤さんは話し始めた。

「あんな、重ちゃんが将来のこと、どう思ってるんか知りたい」

話して欲しい、と。
さゆみは中澤さんのことを聞いた。どうしたいのか。
そしたら思いがけない言葉が返ってくる。

「中退しようかと思ってた」

なんでだろうと聞いてみる。金銭面のこと。さゆみが将来の設計図をどう描いてるのか。
聞けずにいて中退するのもやめたこと。悩んでたなんて知らなかった。

「なんでそのときに言ってくれなかったんですか」

あ。

言っちゃいけないことを勢いに任せて言ってしまった。
少しずつ中澤さんの表情が曇っていく。
不安で心が押しつぶされそうな。緊張、してたんだ。
視線が横にそれていく。さゆみのこと見てない。
157 :陸で泳ぐうさぎ・第一話 :2012/03/24(土) 16:40

あ。

前に聞いた保田さんの言葉が頭の中でよみがえる。
『裕ちゃん、前は怖かったよ、前はね』
心にいる暴れる甘えん坊の子供を律してしまう。だから何も言えないんだ。
律しすぎて他人にも厳しくあたってしまうから。自分の中の怯える子供を見せないために。

「あの、すみません」

とっさに口から出た謝罪の言葉。かわいそうな中澤さん。可愛い中澤さん。

「でもさゆみは間違ったことは言ってないと思うんです」

鉄は熱いうちに打てって言うらしい。情熱が冷めないうちにとかなんとかかんとか。
寺田学長が言ってたらしい。さゆみたちの恋愛も冷めないうちにどうにかしよう。
158 :みおん :2012/03/24(土) 16:41
遅くなりましたが更新
159 :陸で泳ぐうさぎ・第二話 :2012/03/30(金) 20:29
新学期が始まろうとしてる。本格的に講義がはじまるまであと一、二週間もある。
高価な教科書と生活費をやりくりして、落選してるかどうかわからない講義にも出席して。
先輩たちから講義の傾向を聞き出したり、友人と同じ講義だったら出欠をどうまわすか相談したりして。
そんなことを繰り返していると、すぐに大型連休だ。


大学院は忙しいらしい。中澤さんも安倍さんも。
保田さんは、秋期から突然講義に出始めたけれど、そんな簡単に卒業できるわけはない。
でも、みーよと一緒にいられる時間ができたの! 
年の割にウキウキ浮かれてて、ちょっと気持ち悪い。
吉澤さんは院に進むかどうか迷ってたけれど

『就職せぇへんとわからんこともあるし、稼いだ金で勉強するのも楽しいで』

と言われて石川さんと一緒に卒業した。
松浦さんは今年度休学。心の整理をつけてるんだと思う。
160 :陸で泳ぐうさぎ・第二話 :2012/03/30(金) 20:29

 
161 :陸で泳ぐうさぎ・第二話 :2012/03/30(金) 20:30

サークルはガキさんがリーダーになった。
二年生だけど入ってくれた子がいたし、もちろん新入生も入ってくれたし。
嬉しいけれど、寂しい気持ちもある。顔を合わせればいつもと変わらない日常。
頼れる人は近くにいるけれど、問題が起きたら自分たちだけで解決するの。
先輩になるってこういうこと。まだ「道重さん」とか「先輩」とか呼ばれるのには慣れない。
去年の後輩は小春一人だけだったし。
162 :陸で泳ぐうさぎ・第二話 :2012/03/30(金) 20:30

あの日以来、中澤さんとまともに話してない。
サークルの仕事で困ったことがあると相談に乗ってくれるし、アドバイスもくれる。
今までみたいに、ふっと柔らかく笑ってくれたりバカ話したりすることもない。
冷静に作業として向き合ってるんだろうと思う。
さゆみは、そういうときどうしたらいいのかよくわからない。
ワガママ言ってもいいのかな。そういうさゆみのことは嫌いなんじゃないかな。
言いたいことがあるなら教えて欲しい、と相手に言えるなら、きっとさゆみが言っても気にしない。

はず。
163 :陸で泳ぐうさぎ・第二話 :2012/03/30(金) 20:31

一歩が踏み出せない。肝心な行動には至らない。
気持ちがぐじゃぐじゃーってしたまま悩んで悩んで悩んで悩んで、顔を見るのもホントは不安。
話しかけるのも緊張する。さゆみのたった一言でこんなに変わるなんて、バカみたい。
ガキさんにもリンリンにも後輩にも、絶対心配かけたくない。

けど。

何もありませんでした、って顔して笑うんだ。
……その時は楽しいから。
もし、嫌なことがあっても笑って耐えられるように、ずっとずっと笑っていたい。
泣いたり怒ったりするさゆみをさらしたくない。
笑ってるところが好き、って言われたい。
164 :みおん :2012/03/30(金) 20:31
第二話更新
165 :陸で泳ぐうさぎ・第三話 :2012/04/18(水) 22:43
桜のはなびらが舞い落ちる、四月はじめ。入学式は終わってガイダンスにきっちり四日間。
おつかれさま、という土曜日に新入生歓迎式典、という名のサークル勧誘日。
小春は来ない。まこっちゃんとガキさんとさゆみの三人で頑張って勧誘しなくちゃいけない。

のに。

頑張ったけど、うまくいかなかった。
まこっちゃんには、人見知りなのに頑張ったね、って言われたけど。
さゆみ的には、中澤さんの前で頑張りたかったなぁ。うまく勧誘したかったなぁ。
ほんの少し、さびしい。だって、今年から院生はOG扱いと言い出して二人とも来なくなったから。
忙しいってわかってるけど。保田さんも若い人に任せるわなんて言って寄りつかなくなっちゃった。
三好さんに会うために学校に来るぐらいなら、ちょっとぐらい顔出せばいいのに。
166 :陸で泳ぐうさぎ・第三話 :2012/04/18(水) 22:43
帰り道を一緒に歩く。薄暗い紺色の空の向こうは、まだ明るいオレンジ色の光。
グラデーションがとてもきれい。冬には見られなかった色だ。
風は弱いけれど、空気が澄んでいるのか肌寒い。
昼間はあたたかいと思って、あまり厚着をしてこなかった。ゆっくりとした足取りが早くなる。

あ。

ガキさんがゆっくりと話し出す。来られなかったリンリンの話。
両親が中国へ帰ってこないかと言ってるらしい。本人は嫌みたいだけど。
でも高校生の頃から遊ばせてもらってたからなぁ、としょうがなさそうに言ってたとのこと。
まだ小春や先輩たちにも秘密にしといたほうがいい、ってガキさんは考えてるみたい。

「だってさー、新入会員の子もいるんだよ、心配事は少ない方がいいじゃん」

って。
167 :陸で泳ぐうさぎ・第三話 :2012/04/18(水) 22:44
それに対応するようにまこっちゃんにも釘を刺される。
「じゃあさ、さゆとなかざーさんの仲も秘密にしといたほうがいいんでない?」
うんうんと頷くガキさんは、一呼吸おいて同意する。
「そうだね、そういうの苦手な子もいるだろうしね」
つい「えー」って口とがらせちゃったら。
「実はそーゆーのよくわかんないんだよねぇ。女同士で恋愛? って思っちゃうから。まこっちゃんはどう?」
「よくわかんないけど、まぁ他人事だから」
「だってさ。さゆ、ちゃんと聞いてた?」

ぼーっとしてたわけじゃない。だけどこういう話、久しぶりだなって思ったから、返事ができなかった。
「あ……うん」
中澤さんと、こういう話もしたことない。ホントのところはどうなんだろう。どう思ってるんだろう。
きっと入学前は異性と付き合ったこともある、と思う。これから異性が近づいてきたらどうするんだろう。
年齢が年齢だから……さゆみが一人で考え込んでも仕方ないんだけど。でも考えちゃう。
168 :陸で泳ぐうさぎ・第三話 :2012/04/18(水) 22:44
「その返事、なーに?」
ガキさんが明るい口調で言ってくれたのが救い。
「なんか改まってこういう話すると……変だね」
まこっちゃんの言葉にうん、と頷くしかない。

「まぁさ、さゆすけのことなんだかんだで心配してんだよ。安倍さんとかさ」
「……えー、ほんとにー?」
「コラー! なんでそこで疑問形になるの。ダメだよ、先輩の好意はありがたく受け取らなきゃ」
「うんうん、そうだぞ」
「……ごめん、ありがと」
「駅着いたね」
話ながら歩いてるうちに商店街を抜け、駅に着く。
ガキさんはここから片道一時間の実家に住んでいる。
「まったねー」
ふふん、と笑いながら大きく手を振るガキさん。
ガキさんの姿が駅舎に消えて見えなくなる。
169 :陸で泳ぐうさぎ・第三話 :2012/04/18(水) 22:45
「新入生で話した子、覚えてる? なんか珍しい苗字の子いたじゃない?」
「あー、譜久村さんと飯窪さん」
「入ってくれると良いね。今日はさ、頑張ったんだからゆっくり休みな」
「はい」
「そんでさ、それでも気分が晴れなかったらメールしていいから。ね」
バレてる。
しかも先輩にこんな気を遣わせて情けない。
しっかりしなきゃいけないのに。先輩になったのに。
170 :陸で泳ぐうさぎ・第三話 :2012/04/18(水) 22:45
まこっちゃんと別れた後、ごはんもそこそこにゆっくり湯船につかろうと思った。
けれど、お湯のあたたかさと人肌のあたたかさは別物で。
去年の夏を思い出す。ぎゅっと濃厚な熱い夏だった。今年の春はどうなるんだろう。どうなっていくんだろう。
絵里と付きあってた気持ちでいた去年の今ごろ。今年は、中澤さんと付きあってる気持ちでいる? 
気持ちだけなのかな。さゆみはあのときほど真面目に行動してない。
だって中澤さんの気持ちに向き合うことも寄り添うこともできないから。
さゆみのこの気持ち、ぶつけていいの?

ただ そばにいてほしいの

……そのことすら叶わなかったら、叶わなくなったら。

◇◇◇
171 :みおん :2012/04/18(水) 22:45
本日の更新です
172 :みおん :2012/04/18(水) 23:51
>>165の最初に
◇◇◇
が入ってるとわかりやすいかもしれないです。
申し訳ない
173 :陸で泳ぐうさぎ・第四話 :2012/04/19(木) 21:54
◇◇◇

初回講義は登録カードを提出しないと出席扱いにならない。
三回目に登録した講義はまだ当落が出てない。
全出席しなきゃいけないわけだけど、そうするとひどく疲れた気分になる。
そういう日ほど曇りで、午後から雨の予報、なーんてことも。小さな折りたたみ傘一つが重く感じる。
カバンにつめたノートや教科書と比べたら、ううんカメラと比べたら軽いのに。
太陽もさゆみにいじわるしている。校舎から出ても、どんよりとした雲が広がっている。

暗いなぁ。

さゆみの気分まで暗くなってくるから、曇りは嫌い。雨降りも嫌い。
生暖かい空気で気持ち悪くなることだってあるんだから。オンナノコは大変なんです。
溜息つきたくなるのは天気のせいで、気分の問題じゃない。うん、そうだよ。
こんなに体が重く感じるのは、気持ちの問題じゃないもん。
174 :陸で泳ぐうさぎ・第四話 :2012/04/19(木) 21:55

そういえば。

藤本さんと松浦さんがまだ元気だったころ。
天気の悪い日は一緒にサボろうよ、なんてちょっかい出されてたな。

――散歩行こうよ、散歩。大学近くのカフェのランチ安いんだけど行く? 
安いだけじゃなくて美味しいしさぁ。もしマズかったらみきたちがおごるよ。
ねぇ。開始三十分以内に行けば出席扱いなんだからさ、五分ぐらいここでおしゃべりしない?――

あの頃は、絵里と付き合ってたんだっけ。絵里と約束していたから、誘いに乗ったことはない。
けれど今は。どうだろう、もし誰かに誘われたら。ついていっちゃうかも。
中澤さんと約束してないから、とかそんなことじゃなくって。ただたださびしいから。
本当はさびしい。大切にしたい人がさゆみから離れていくかもしれない。
中澤さんがさゆみを誘ってくれればいいのに。そしたら万事解決。
……そんなことになるわけないじゃん。ひどいこと言った、ていう自覚はあるけど。
想像するのは自由だから。どう行動するかもさゆみの自由だけど。
動きたくない、なんもしたくない。けど、サークル活動も始まる時期。
175 :陸で泳ぐうさぎ・第四話 :2012/04/19(木) 21:56

今年の新入会員は三人。小春と同学年の子も入ってくれたから、気持ちは楽だ。
講義終わりを待って三号館のロビーに集まったところで、活動に使えそうな教室を抑える。
いくつかの教室は既に他のサークルや文系部活が
あ、保田さんだ。今年度初めての活動だから、さすがに顔は出すよね。
あれ、なんだか化粧がさらに濃くなったような気がする。流行のつけまつげ、盛りすぎ……。

「なにさ、人の顔ばっかり見て。ちょっと聞いてよー」
視線が合ってしまった保田さんが話しかけてくる。
「みーよの話はお断りです。まつげ盛りすぎで気持ち悪いですよ」
視界の端に、ガキさんが人数を確認してるようだ。まこっちゃんと話しながら、頷いてるのも見える。
「言ってくれるじゃない。そんなことより、裕ちゃんがさ」
ガキさんが一声かけて新入会員たちが歩を進める。保田さんも歩みはじめる。
「ああ、はい」
一歩遅れてさゆみも集団についていく。私たちが後ろからついていけば大丈夫だろう。
「食事ちゃんと摂ってるか、って心配してたよ」
176 :陸で泳ぐうさぎ・第四話 :2012/04/19(木) 21:57
階段をのぼる。荷物は重くないはずなのに、体がふらふらと横に揺れる感じがする。
「最近自分で作ってるんですよ。卵焼きとか、簡単なものですけど」
さゆみ、こんなに体力なかったかな。階段のぼりながらの会話ですら、息が浅くなってる。
「あー、そうかなるほど。や、裕ちゃんがさ、しげちゃんをコンビニで見かけないって心配してたからさ」
のぼりおえて廊下に出たら、息を整えるように深く深呼吸した。
「伝えとくね。まぁ痩せたんじゃないの。ほんとにちゃんと食べてんの?」
「はい。食べて、ますよ」
笑いながら、言えたかな。
だって。
あんまりお腹空かないし、食べてもおいしくないし。
177 :陸で泳ぐうさぎ・第四話 :2012/04/19(木) 21:57
「おーい、二人とも早く教室入ってー」
教室から顔を出したガキさんが私たち二人を手招きしている。
「はーい! 行きましょう、保田さん」
口が動いたはずなのに声が出てなかった。
目の前が何度か横に揺れると、ひざから下に力がうまく入らなくなっていた。
代わりに保田さんの慌てた声が聞こえた。

大丈夫です、大丈夫ですから。
唇は動くけれど、さゆみの声もさゆみの耳には聞こえなかった。
さゆみの耳には誰の声も届かない。
178 :みおん :2012/04/19(木) 21:57
連続更新ですよっと
179 :陸で泳ぐうさぎ・第五話 :2012/04/20(金) 22:32
青空のした、みんなが笑顔でさゆみのことを迎えてくれる。
けれど、いっせいに唇が動いているのに何を言っているのか聞こえない。
今までのさゆみはみんなの声が聞こえたのに。どうしたんだろう、具合悪いのかな。
いや、でもシャッターの音も聞こえないってことなんだ。
みんなが一生懸命唇を動かしてるのは歌ってるからなのかな。
こんなに楽しそうなのに、どこで撮ったらいいのかわからない。
さゆみが知ることのできない世界になってしまったんだ。さゆみが変わったから?
まこっちゃんの赤い唇。ガキさんの細い唇。どんな声をしてるんだろう。
保田さんが三好さんの唇と重ねあわせてる。どんな音がするんだろう。

あ。

唇を動かしてない人がいる。輪から一歩離れたところにぽつんと立ってる人……。

「……なかざわさん?」
180 :陸で泳ぐうさぎ・第五話 :2012/04/20(金) 22:33


ぼんやりと真っ白な天井が見える。……ここ、どこだろう。
そのうち視界の端までくっきりしてくる。体の隅々がぼおっとあたたかい。
頭の下にやわらかい枕、体があたたかいのは白い布団がのってるから。
首を横に動かすと白いカーテンが見えた。保健室、かな。
あれ、サークル活動は? 保田さんと話してて、それからそれから……どうしたっけ。
なにをしてたのか覚えてない。

「重ちゃん? 起きたんか」

カーテンの向こうでやわらかな響きの関西弁が聞こえる。

「重ちゃん?」

もう一度。今度は少し弱い疑問形だったけど。
返事をせずにカーテンが開くのを待っていた。

「……寝返り打っただけかいな」

小さな溜息一つと、あきらめたような独り言。

『さゆみ、夢を見てたんです』
181 :陸で泳ぐうさぎ・第五話 :2012/04/20(金) 22:34
唇を動かしても声が出にくくて、喉の奥をしぼるように力を入れるとなんとか音になる。

「どしたん? つらいんか」

ああ、さゆみの声はまだ届いてない。届いてないんだ。
今度はすぐにカーテンが動いた。顔が見えて、ほっとする。
いつぶりだろう。こんなにちゃんと声を聴くなんて。

「重ちゃんなぁ、無理したらあかんでぇ」

あきれたような表情だけど、声はずーっとやさしい響きのまま。
あの時とは違う。石川さんと吉澤さんの卒業式のあととは違う。いつもと同じやわらかい響き。
保田さんや安倍さんと話すときとは違う響き。まこっちゃんやガキさんの時ともほんの少しだけ違う響き。
さゆみの肌と中澤さんの肌が優しく触れあう。おでこに手をのせてくれた。
横になってたからか、寝てたからか、中澤さんの手をほんの少し冷たく感じる。気持ちいい。

「もうすぐしたら、サークル終わると思うで」
182 :陸で泳ぐうさぎ・第五話 :2012/04/20(金) 22:34
久しぶりだな。時が穏やかに過ぎていく感覚。
研ぎ澄まされていく神経が、両手がカメラの重さを欲している。
ああ、人ってこんなにも優しい表情ができるんだ。さゆみの両目がカメラだったらいいのに。
まばたきした瞬間に撮れればいいのに。誰にも見せなくていいから、ずっと記憶していたい。
一瞬、一瞬が音もなく通り過ぎていくのに、その一瞬を見逃したくなかった。
仕事してるわけじゃないのにな。
二人だけの時間を邪魔するように控えめなノックの音が聞こえる。

「はぁい。ガキさんかな。あんた、ちゃんと謝りぃや」
「……ぁい」
「声、でぇへんみたいやな。ま、なったもんはしょうがないで」
183 :陸で泳ぐうさぎ・第五話 :2012/04/20(金) 22:34
思い込んでいたのはたぶんさゆみだけ。
中澤さんはさゆみの視界から消え、ドアを開ける音とともにガキさんの心配そうな会話が聞こえる。
言葉の意味、声にのせられた感情、そして内容から察するに。
さゆみは活動に行く途中で倒れたらしく、保健室へ運ばれたと。
保田さんが気をつかって中澤さんを呼んでくれたらしい。
うう、どうしよう。やだ、さゆみ恥ずかしい。そういえば声が出しにくいんだ。伝える手段がないんじゃん。
とりあえず体を起こす。あー、それにしたって恥ずかしい! 
さっきまでの研ぎ澄まされた感覚とは違う、重ったるい感覚が体を支配していく。
それは同時に黒い感情でもあると自覚はあった。ままならない、幼い感情。

ただ 中澤さんと 一緒に いたいだけなのに。

感情と行動が乖離してる。動けないまま、さゆみは想いを伝える手段である声が出ない。
184 :みおん :2012/04/20(金) 22:35
最初に考えていた構成とやらはどこにいったのかわからなくなるぐらい自分でも展開がわかりませんorz
185 :陸で泳ぐうさぎ・第六話 :2012/04/25(水) 23:23
保健室から出たら、新入生の譜久村さんと飯窪さんが心配そうな顔で近づいてきた。
みんなの前で頭を下げる。声が出ないんならそうしたらどうや、って中澤さんに言われたのもあった。
隣に歩み寄ってきたガキさんがさゆみの頭上から優しい声を落とす。

「さゆみんの声が出しにくいみたいなんで、明日以降困ってるとこ見かけたら声かけたげてね」

説明してくれたことに安心を感じる。和やかにさせる笑顔で言ってくれる。
小春のはーいという大きくて甲高い声に、新入生までが唇に人差し指をあててジェスチャー。

「お口にチャックつけたほうがええんやないの」
「もー、中澤さんそーゆーこと言わないでくださいよぉ!」
186 :陸で泳ぐうさぎ・第六話 :2012/04/25(水) 23:24
言ったそばからまた同じことをやっちゃう小春に嫉妬する。かすかに心の奥がざわめく。
何も考えずにそうやって間違いを犯すことが、さゆみにはできないから。たった一つの失敗さえ怖いのに。
中澤さんと保田さんは、ほらまた、と苦笑して肩をすくめる。
じゃ、と右手を挙げてどこかに行こうとする中澤さんが見えた。隣に居るガキさんの袖をつかむ。
小声でどうしたのと聞かれた頃には、背を向けて去っていた。あまりにもさゆみの顔が不安そうだったのか。

「用事あるのに一緒にいてくれたみたいよ」

そっか。さゆみのこと嫌いになったわけじゃないのかな。そっけなく思えたのは忙しかったせいなのかな。
また一人でぐるぐると考える。耳の奥も胸の奥も静かになる。さゆみだけの時間、さゆみだけの世界。
ハッと気づいたときには一人でおうちにいた。翌日の木曜夜にガキさんからメールをもらう。
どうやら『元気づける会』というのを土曜の夜にやってくれるらしい。嬉しい。
だけど。
中澤さんが来てくれるなら二人っきりでいたいな、とも思う。
187 :陸で泳ぐうさぎ・第六話 :2012/04/25(水) 23:24
 
188 :陸で泳ぐうさぎ・第六話 :2012/04/25(水) 23:25
土曜の朝がやってきた。カーテンを開けると、眩しい陽の光。
予想最高気温は二十五度だから、夏日になる。半袖に上着じゃないと暑いかも。
ふと、喉に手をあてて声を出そうとする。出ない。……出てはいるけれど。
ひどい風邪をひいてしまって、喉の腫れがひかないままカラオケで絶叫しちゃった翌日の声。
もどかしい。こんな声じゃ伝えづらいし、なんといってもさゆみが恥ずかしい。
うまく発声できないまま三日は経過している。
喉や胸の奥が熱くて息は吐き出せるのに、言葉にするきっかけも話しかけるタイミングもつかめない。
想いはたくさん溢れてくるのに、言葉にならない。
中澤さんが、ただそばにいてくれたこと。涙が出そうになるぐらい嬉しかったのに、感謝を伝えられない。
189 :陸で泳ぐうさぎ・第六話 :2012/04/25(水) 23:25
なのに。

声が出せない焦燥感なのか、周りが優しくしてくれる安堵感なのか。
感謝を伝えたい気持ちは、確かにある。けれど、相反するドロドロした感情も持っている。
渦を巻いて、巣食っている、未熟で甘美な欲望。
みんなも優しく接してくれる今、この時間を中澤さんとだけ一緒に過ごしたい。
そういう欲も心に存在する。さゆみ、ほんとに幼いなぁ。大人にならなきゃいけないのに。
自分で思うぐらいなんだから、周りにはどう見えてるんだろう。
ハタチ越えたんだから、年相応にふるまえるようになりたい。
一つでも多く、少しでも早く、誰よりも高く、大人になる階段をのぼっていくはずだったのに。

うまくいかない。
 
190 :陸で泳ぐうさぎ・第六話 :2012/04/25(水) 23:26

さゆみが二人いるように感じる。
中澤さんに笑顔で感謝を伝えたい、さゆみ。
みんながいるなかでかわいい中澤さんを独り占めしたい、さゆみ。
191 :陸で泳ぐうさぎ・第六話 :2012/04/25(水) 23:26
あ。

秘密にしておこうって言われたこと、こんなにストレスだったんだ。
そりゃあ、男女じゃないから普通のおつきあいとは言えないのかもしれないけれど。
中澤さんに言われたわけじゃない。まこっちゃんとガキさんに言われただけだ。
ちょっとでも揺れ始めると、振り子のように大きく動き始めてしまう。
卒業式後の中澤さんは、歩み寄って素直に意見を言ってくれた。
さゆみはただわがまま言っただけ。そのことに気づかなかった。やっぱりさゆみは子供だ。
イヤイヤと泣きわめくこともできないけれど、声が出なくても周りは同情してくれる。
状況に甘えたい幼稚さ。相手のことを知ることも考えることも、全然できなくなっていた。
周りが見えなくなるぐらいに信じきっていた。さゆみは中澤さんに寄りかかって甘えていた。
声が出せなくても、さゆみはきっと変われる、はず。……じゃない、変わるんだ。変わろう。
かわいいって思われるファッションで行こう。待ち合わせまであと数時間。間に合うかな?
192 :みおん :2012/04/25(水) 23:26
なんとかなりそうです
193 :陸で泳ぐうさぎ・第七話 :2012/04/26(木) 23:13
姿見に自分の身体を映す。ネイビー地の花柄マキシ丈ワンピースに薄いピンクのカーディガン。
華やかな春がきたのだと、自分に言い聞かせる。
化粧はこれから。かなり大きめの手持ち鏡をテーブルの上に置く。
コスメポーチから春の新色を選んで取り出して、手をなめらかに動かしていく。
ピンクブラウンのアイシャドウにローズピンクのチーク。
つけまつ毛より、ナチュラルなマスカラ。ボルドーの口紅を塗る。
髪の毛は左上に一つに束ね、ネイビー色のレースシュシュをつける。
ネイルは間に合わなかったけれど、塗るの好きじゃないからこれでいいか。
ピンク地に白い水玉のトートバッグ。白いレースがついた短い靴下を履く。
靴箱からキャラメル色の靴を探す。高めのヒールが気分を昂揚させる。
よしっ、今日もかわいい!
194 :陸で泳ぐうさぎ・第七話 :2012/04/26(木) 23:14
ウキウキした気分のまま、家を出て待ち合わせ場所に向かう。
駅前にある西口商店街を通り抜ける。遠くに、まこっちゃんの横顔を発見。
近づいて声をかけようとしてみたけど、やっぱり難しい。
絵里がよく後ろから腕をからませて来たのを思い出す。さゆみにはできないことだ。
嬉しかったけれど、でもタイミングがわからない。

「あっれぇー。さゆ、いたんだ。ごめんね、気づかなかった!」

まこっちゃんの隣にはガキさん。
買い物をしていたようで、二人とも大きなビニール袋を提げている。
持とうといつものように手を伸ばす。

「ダメだよ、今日はさゆが主役なんだから。ね」
 
195 :陸で泳ぐうさぎ・第七話 :2012/04/26(木) 23:14
ガキさんに優しく諭されると恥ずかしい。主役とか、さゆみはそんなんじゃない。恥ずかしい。
輪の中心にいる自分が想像できないし、きっと体が熱くなってお水ばっかり飲んじゃうと思うし。
そういうことを何度も何度も想像すると、端っこにいたいなって気分になっちゃう。
端っこで仲がいい人と二人でいたいな、って思う。みんなが優しくしてくれるのは嬉しいんだけど。

むぅ。

三人で駅の東口へ向かう。
二人の会話に入れないけれど、時々気をつかってイエスかノーだけの質問を投げかけてくれる。
それに説明もしてくれる。
まこっちゃんがガキさんの話を聞きつつさゆみの表情をうかがいすぎて、慌ててガキさんに相槌を打つ。
そんな光景を横から眺めていると、ほほえましい。

「あ! さゆ、笑ったでしょ!」
 
196 :陸で泳ぐうさぎ・第七話 :2012/04/26(木) 23:15
え。まこっちゃん、ガキさんのほう見てたのに。
……なんで。
こちらを向いた顔を穴が開くほど見つめた。

「あれ? さゆの声、聞こえた気がしたのになぁ」
「まーた、気のせいでしょ」

ガキさんの言うとおり。うん、気のせいだと思う。
もし、そうなら自分でも聞こえるからわかるはずだもん。
……でも声が戻ってるなら嬉しい。
 
197 :陸で泳ぐうさぎ・第七話 :2012/04/26(木) 23:15
 
198 :陸で泳ぐうさぎ・第七話 :2012/04/26(木) 23:15
待ち合わせ場所には、中澤さん保田さんがもう着いてるらしい。
二人が買い物をするので、新入生に顔が知られてる先輩二人に待っててもらってる。
安倍さんも来ないらしい。ガキさんが残念そうな表情で、さゆみに教えてくれた。
駅舎にたくさんの人が吸い込まれ、吐き出されていく。
その人波に揉まれるようにさゆみたち三人も改札の前を通り、待ち合わせ場所に急ぐ。
こっちに気づいた保田さんが右手を高く挙げて、振ってくれる。

「新入生はまだ誰も」
「そーですかー、保田さんも中澤さんもありがとうございます」
 
199 :陸で泳ぐうさぎ・第七話 :2012/04/26(木) 23:15
いえいえ、なんて会話を交わしたあと、中澤さんが近寄ってきた。
薄い紫色のカットソーに、流行の白い丸襟。つけるタイプなのかな。
ベージュの七分丈チノパン。黒いミュールにキラキラと飾りがついててかわいい。
シンプルなファッションに、中澤さんのかわいさが自然に出ているように感じる。
そんな中澤さんにじーっと見つめられるとほんとに恥ずかしい。
かわいくしてきたけど、大丈夫かな、って思う。
自信ないのはかわいくない。さゆみは今日もかわいいんだからっ!

「前から言おうと思ってたんやけど……やっぱりしげちゃん胸あるな」

メイクでもファッションでもない。体型を言われることはめったにない。
喜べばいいのか悲しめばいいのか。よくわからない。
ほめられたのかな。それもわからない。
保田さんもまこっちゃんもガキさんもあっけにとられているのがわかる。
まぁ、中澤さんは小さい方だろうけど、胸。
200 :みおん :2012/04/26(木) 23:16
話が進まない…
201 :陸で泳ぐうさぎ・第八話 :2012/05/17(木) 22:30
小春以外の下級生は全員そろった。安倍さんとジュンジュンとリンリンは不参加。
譜久村さんと飯窪さん、それに二年生の吉川さんが並んでおしゃべりしている。
なんだか変な感じ。去年は石川さんと吉澤さんが必ずそばにいてくれて、後輩は小春しかいなくって。
松浦さんはいたりいなかったりして、それでも集まればさゆみが新入生の時と同じような感覚でいられた。
さゆみもガキさんも可愛がられる頻度は変わらなかったし。

ああ。

人間関係が大きく様変わりしたんだ。卒業ってこういうことだ。
一昨年は安倍さんだってそのまま院に進んだし。
仲良くしてもらってた先輩がいなくなったから、どこかさびしいんだ。
来年はどうなっているかわからない。中澤さんとだって……どうなっているかわからない。
今から心配したってなにもはじまらないのに。

「さゆ? どった? 具合悪い?」

ぼーっと考え事をしてたら、まこっちゃんが話しかけてくれる。
202 :陸で泳ぐうさぎ・第八話 :2012/05/17(木) 22:31
中澤さんと保田さんはいつの間にか新入生と談笑してた。
ううん、と左右に軽く頭を振ると、にっこりしてそっかと呟く。
ガキさんは電話の用件が終わると話し始める。

「はい、小春はいつものとおり遅刻です。これから小川先輩の家に行きます」
「しっかりついてきてねー」

ガキさんとまこっちゃんが声をかけると、新入生の黄色くて明るい返事が聞こえた。
直後、中澤さんと保田さんがぶりっこポーズしながら無理に高い声で返事をする。

「あの、先輩。そういうのいらないですから。ていうか、古いですし」

ガキさんにつっこまれ、ええーっ! と不満そうな二人の先輩。その声もわざわざ甲高くしている。
新入生たちはどうしたらいいかわからないぐらい笑いをこらえている。
さゆみもおかしくって息ができないぐらい我慢してしまう。
笑っていいのかどうなのか、や、さゆみの声は出ないんだから気にしなくていいのかも。
203 :陸で泳ぐうさぎ・第八話 :2012/05/17(木) 22:31
「あ、そっすか」

中澤さんのそっけない返事に、ギャハハと大声で笑い出したのは吉川さん。
もともと声が高い飯窪さんは、アニメのキャラクターみたいに大きな口を開けて笑ってる。
そんな二人を見て、両手を口にあてて笑い出す譜久村さん。
なんだかよけいにおかしくなって、さゆみも口を開けて笑った。
声が出てるかどうかなんて気にしなかった。
あーはっはっはっはっは、はっはっはっ。
たぶん、これさゆみの声だ。かわいくはないけど、さゆみの声だ。

「よっしゃ! 今夜はしげちゃんおめでとうパーティーやな!」

中澤さんの力強い声が聞こえて、やっぱりさゆみはこの人が好きなんだなって思った。
たくさん心配してくれたんだろうなってわかるから。また頑張れる。
ううん、もっと頑張らなきゃ。大人になるんだ。
204 :gZDBsONvs :2016/07/07(木) 19:31
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205 :陸で泳ぐうさぎ・第九話 :2017/08/09(水) 23:59
「ズルいですよ、安倍さん。こんなときだけ」

『元気づける会』を終えた翌々週の月曜日、久しぶりに安倍さんとバッタリ会った。
偶然の出会いだとばかり思っていたが、どうも安倍さんにとっては必然だったようだ。
挨拶代わりに、二人から色々聞いたよ、と声をかけられたら驚いて足も止まる。

「聞きたい?」
「はい」

考える暇もなく頷いて返事をしていた。
安倍さんは、ついてきて、とキャンパスを出て路地裏の小さな喫茶店へと向かう。
午後からはサボタージュになりそうだ。
照明が少く暗い店内にひんやりとした冷房の風が肌を撫でる。
サボりなのか待ち合わせなのか顎の下に手を置いたままぼーっと窓の外を眺めている女性や、読書に熱中する男性。
時代を先取った完全分煙のようで、奥の喫煙室には片手で煙草を吸いながら器用にノートパソコンのキーボードを打ち続けてるおじさんもいる。
平日の昼下がり、喫茶店には意外とたくさんのお客さんが各々の時間を過ごしている。
さゆみの場合は、出席点が減るだけの時間になるかどうか。
注文した飲み物が運ばれてくると、さてと、と手を合わせ演技じみているように感じた。

「シゲさん、ほんと久しぶりだよねー」

それには答えず、視線を落としアイスカフェラテからのびたストローに口をつける。
うん、牛乳の量がさゆみ好みでちょうどいい。
安倍さんの雑談ペースにのっかってしまうと聞きたいことが聞けなくなる。

「それで、シゲさん色々あったんだってね」
「はい」
「裕ちゃん、ずーっと心配してたんだよ。注意散漫でさ、中澤に異変あり! って噂、あ、メールだけどね。まわってきたんだよぉ」

あちこちに話が飛びながら、うふふ、と笑顔で話を進める。

「裕ちゃんのペース乱すなら、付き合うのやめたらいいんじゃない」

そんなつもりはない。
乱されてるのはさゆみだとばかり思い込んでいて違うと気づいたばかりだ。
情報と視線が違うと、こうも見方が異なるのか。

「中澤さんは頑張りやさんなので」
「よぉく知ってるねぇ」

目を丸くして驚いた態度を見せる安倍さんに対し、さゆみは深く呼吸をして、カフェラテを一口すする。

「えぇ、それだけ付き合ってますから」
「そぉ? 振りまわして頑張らせることが付き合うってこと?」
「そういうことはないです」
「シゲさん言うようになったねぇ。嬉しいよ」
「離れていてもお互いを信用して頑張れる環境ならそれでいいと思ってます」
「ふーん、裕ちゃんには伝えたの?」
「まだですけど……」

そう、啖呵を切ったのは良かったのだが、なかなか二人になる機会がなく伝えられてない。
ふぅと息を吐きながらつい俯いてしまう。
大人ってこんなときどういう対応してたっけ。

「裕ちゃん、きっと待ってるよ。シゲさんが伝えにいくの」

安倍さんの言葉にハッとして見上げると、笑顔を向けていた。

「ズルいですよ、安倍さん。こんなときだけ」
「ふふ、なっちはいつもズルいんだよ。シゲさん、知らなかったの?」
206 :みおん :2017/08/10(木) 00:00
もう読んでる人も少ないでしょうが。
更新が遅くなってしまい大変申し訳ないです!
207 :名無飼育さん :2017/09/29(金) 20:17
今日初めて読みました。
ゆゆさゆいいですね
更新まってます!

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