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我ら最強キュン期です

1 :誉ヲタ ◆K1GCRkrc :2011/07/30(土) 20:16
短編でーす。

登場人物は、いつもの愉快な仲間たちです。
辛口なネタも混ざっていますが、ネタと割り切って楽しんで頂けると嬉しいです。
一部、読者の皆様が不愉快に感じると予想される文字は「●●●」で伏字としました。
ご理解の程をよろしくお願いいたします。
305 :名無飼育さん :2011/08/21(日) 20:10
「さゆちゃん! 昨日のテレビ見た!?」
「見た見た。まさか稀勢の里があの体勢から把瑠都に勝つとはねー」
「は?」
「ここんところずっと伸び悩んでたけどやっぱり素材的には」
「ごめんさゆちゃん。なに言ってるかわかんないんだけど」

それはデーモン小暮閣下でなければわからないかもしれません。
作者的にはそんなマニアックな会話だとは思わないのですが。
軍艦ランチ5氏にならわかってもらえるはずですが、きっと今の飼育は見てないだろうなあ。

「とにかく! 10期の最終合宿の放送よ!」
「そっちか。えりぽんも見てたんだ」
「見るわよ! 見逃すわけないじゃん。もう最終局面よ!」
「えりぽん、すっごい興奮してるね」

また話の流れと関係ないことを語らせてもらって恐縮ですが、
キーボードで「eripon」と打とうとしたときに、
しきりに「eropon」と打ってしまうのは私だけでしょうか。

これがフロイトの言うところの「無意識的な願望を秘めた失錯行為」というやつでしょうか。
306 :名無飼育さん :2011/08/21(日) 20:10
「さゆちゃんはどの候補者がくると思う?」
「うーん。6期のときのように全員合格とかはやめてほしい」
「最終候補、●人もいるもんね」

ちなみに2002年のキッズオーディションの時も最終候補者全員合格でしたね。
不合格にするのは忍びないという気持ちもわかるのですが、なんかぬるいですよね。
落ちる人もいるのがオーディションですから、そこは冷酷に徹して欲しかった。
どうでもいいですけど、もうキッズオーディションから10年近く経つんですね。
そりゃマイマイさんも茶髪にするわ。熊井さんの背も伸びるわ。夏焼さんの顎も伸びるわ。

「顎が伸びるのは時間の流れとは関係ないと思う」
「何の話?」
「一人、めちゃくちゃ歌の上手い子がいたね」
「いたいた! あれ絶対受かるよ」
「やばいよえりぽん。歌パート取られるとしたら、真っ先にえりぽんのパートがやばい」
「なんでよ。さゆちゃんの方が歌下手じゃん」
「えりぽん。アイドルの勝ち負けはね、歌の上手い下手なんかじゃ決まらないのよ」
「それ、どこかで聞いたことがある台詞なんだけど」

第九話であなたが言った台詞です。
307 :名無飼育さん :2011/08/21(日) 20:10
テレビで放送されていたのは最終オーディションとなる合宿の様子でした。
当然録画放送ですから、実際の最終オーディションはもう終わっているのでしょう。
そしてこの次のお正月のハロコンで新メンバーのお披露目が行われるのです。
一年前の9期メンバーがそうであったように。

「一年経つのって早いね」
「あっという間だったね」

道重さんと生田さんは柄にもなくしんみりと沈黙。
一年前の自分がもう、昔のことに思えて少し寂しかったのです。

「もう後輩が入るんだよ・・・・」
「何人後輩が入っても、さゆのポジションは変わらないの」
「ちんちくりんポジション?」
「それは香音ちゃんのポジション」
「じゃあ、みそっかすポジション?」
「それはえりぽんでしょ!」
308 :名無飼育さん :2011/08/21(日) 20:10
いつの間にやらしんみりも消えて、いつものようにわいわいと騒いでいる二人。
その横をすっと鞘師さんが通り過ぎていこうとします。
もうすぐレッスンが始まるので、さゆちゃんとえりぽんは既に
レッスン着に着替えていましたが、鞘師さんはまだ私服のままでした。

「あ、鞘師ちゃんだ。あれ? まだ着替えてないの?」
「うん。今日はちょっと別の用事が・・・・」
「えー、レッスンには出ないの?」
「そんなことしてたら後輩に抜かれちゃうよ」
「うん・・・・」
「そんな暗い顔をしてたら暗いことを呼ぶよ?」
「じゃあ・・・・またね」

鞘師さんは幽霊のようにふわふわと姿を消しました。

「なにあれ。変なのー」
「えりぽん、そんなこと言っちゃダメだよ」
「え?」
309 :名無飼育さん :2011/08/21(日) 20:11
「きっと鞘師ちゃんはまだスランプなの。苦しんでいるの。だから今は優しく見守るの」
「へー! さゆちゃん変わったねー」

そうです。あの日以来さゆちゃんは変わりました。
これまでのように過剰に鞘師さんと張り合うこともなく、
自分のペースでレッスンを続け、そして陰に陽に鞘師さんをサポートするようになりました。

勿論、高橋さんから言われたからということもあります。
でもそれだけではなく、新しく後輩が入ってくるのだという事実が、
さゆちゃんの意識をさらに高めていたのでした。

もういつでも後輩が入ってきても大丈夫。あたしはきっと大丈夫。
あたしは誰も通っていないあたしの道を行く。この道歩いていくよ。何があろうとも。
何が起こったとしても、この強い思いは揺らがない。そう信じていました。

そしてその日がやってきました。
310 :名無飼育さん :2011/08/21(日) 20:11
ぴこーん
311 :名無飼育さん :2011/08/21(日) 20:11
「以上の●名が、モーニング娘。の10期メンバーに決定いたしましたー」

フクちゃんとえりぽんは舞台の袖から背伸びしてステージを覗きこみます。
さゆちゃんと香音ちゃんは二人の下に潜り込んで、同じくステージを凝視します。
一歩でも近くで見ようと押し合いへし合い状態になっていました。
落ち着けという方が無理でしょう。期待するなと言う方が無理でしょう。
あそこにいる面々が、初めての後輩になるのです。

「うわー、かわいいー」
「すっごい緊張してるー」
「そりゃそうだよ。緊張するって」
「さゆはどの子の教育係になるのかなあ?」
「さゆちゃん気が早いね」

9期の後ろでは、同じように新垣と田中と光井が背伸びして覗きこんでいます。
三人もまた、9期と同じような会話をしているのでしょう。
何年経っても変わらない景色がそこにありました。

そしてハロコンの司会が現メンバーの登場を促します。
さゆちゃん達は観客の大声援を受けながらステージ上に登場しました。
312 :名無飼育さん :2011/08/21(日) 20:11
ぴこーん ぴこーん
313 :名無飼育さん :2011/08/21(日) 20:11
決定した新メンバーと初対面を果たした現メンバー。
9期メンバーが初めてステージに立った時のように、
10期メンバーもまた、自分がどう振舞ったらいいのかわからず、
もじもじとした様子で先輩達からの一方的なスキンシップに耐えていました。

さあ、これからこのメンバーで新生モーニング娘。がスタートするんだ。
会場にいた誰もがそう思っていました。
たった一人、尋常ではない精神の持ち主を除いて、ですが。

そんな精神を持った人間は、今のハロプロには一人しかいません(加護亜衣はハロプロを去った)。
新メンを歓迎する歓声の中、その男は厳かにステージ上に登場しました。
腐れプロデューサーの登場に、会場は水を打ったように静まり返りました。
そして次の瞬間には何とも言えないざわめきが広がります。
314 :名無飼育さん :2011/08/21(日) 20:11
ぴこーん ぴこーん ぴこーん
315 :名無飼育さん :2011/08/21(日) 20:11
歴史は繰り返す。
そう。あの時と同じようにまた。
ステージ上に現れた酔いどれプロデューサーは、
いつものように観客の気持ちを逆なでするようなことをさらっと言うのです。

「えー、みなさんにご報告することがあります」

会場のざわめきは頂点に達します。
そしてそれに負けないくらい、さゆちゃんの心臓もどきどきし出します。
うわあ。もしかしたら新垣さんが卒業するのかな。
だったら次のリーダーは誰? やっぱり田中さんが。いや田中さんは頼りないからダメ。

ひょっとしたら9期からの大抜擢もある? そうなったら娘。史上初?
史上初って素敵な響き! さゆみによく似合う言葉だわ!
316 :名無飼育さん :2011/08/21(日) 20:12
いやいやいや。落ち着くのよ道重さゆみ。
つんくさんの言うことは、いつも私達の予想の斜め上を行くじゃないの。
いや、斜め上なんていうもんじゃないわ。
突き抜けている。突き抜け過ぎているのがつんくさんの決断なのよ。

もしかしたら新垣さん卒業じゃなくて。新垣田中光井の一挙卒業とか。
あるいはもしかして、また11期メンバーの募集とか? 新加入? もしかしてきっかけはYOU?
いや、まだ甘いわ。一番あり得ないことをするのがつんくさんなんだから。

もしかして! もしかしてつんくさん自身が娘。に加入するとか!
やっと気付いた「モーニング娘。につんくが絡んでる」ではなく「つんくの正体がモーニング娘。」な件?
あり得ないわ。あり得ない。でもつんくさんなら。いやでもそれはあまりにも・・・・

道重さんの常識的な予想はばっさりと裏切られました。
317 :名無飼育さん :2011/08/21(日) 20:12
「今年の秋ツアーをもって、鞘師里保はモーニング娘。から卒業します」
318 :名無飼育さん :2011/08/21(日) 20:12
* * *
319 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 00:06
なんと!そうきましたか〜(゚Д゚)!
320 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:19
最終話 さよならは別れの言葉じゃなくて
321 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:20
鞘師里保の卒業発表は大きな驚きをもって迎えらましたが、
この14年を生き延びてきた百戦錬磨のハロプロヲタ達は、やがてその決定も受け入れました。
「ソロ歌手として芸能活動を続ける」という発表があったことも大きかったかもしれません。

おそらく今の鞘師ならば、幻の7期メンバーのように
芸能界からスローフェードアウトしていくこともないのではないか。
ハロヲタの中にそんな楽観的な予測があったことも否定できないでしょう。
もっとも芸能界の未来なんて、誰にも予測できませんが。

それでも打たれ強いことでは定評のあるハロプロヲタ達は、事務所の決定を受け入れます。
UFAのプロデュース能力を信じているからではありません。
事務所の描く未来図が実現することを信じているからでもありません。
上手に騙されるも賢い方法。ハロプロヲタはそういう意味では非常に賢かったのです。

それでもただ一人、この卒業発表を受け入れることができない、賢くないハロプロヲタが一人いました。

道重さゆみその人です。
322 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:20
卒業コンサートの直前になっても、道重さんの気持ちは割り切れないままでした。
「同期での思い出作りに」と譜久村が企画した全員でのお泊り会の時も、
道重さんは鞘師さんと深い言葉を交わすことはありませんでした。

「道重さんと鞘師さんって、実は仲が悪いんじゃないの?」

加入して間もない新メン達がそんなことを噂するほどでした。
勿論、同期の三人は知っています。道重さんが鞘師さんに対してどんな思いを抱えていたのかを。
だからこそ、ハラハラしたりヤキモキしたりしていたのですが、
「今はそっとしておいた方がいい」という譜久村さんの意見もあって、じっと見守るだけでした。

実際、道重さんは言葉にしたくてもできない思いを山ほど抱えていました。
口にしたい。でもできない。鞘師さんのことを見つめているだけで胸が苦しい。
卒業していなくなるから、その分今日はたっぷりと里保をウォッチング、
などという気分にはとてもなれなかったのです。
だから鞘師さんのことを目で追うことはもうやめました。

それでもなお、口にしたい言葉は道重さんの中に積り続けていくのです。
323 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:20
(ねえ、なんで卒業しちゃうの?)

(このままあたしの前から消えちゃうの?)

(センターに立ったまま、勝ち逃げする気なの?)

(さゆとの決着はどうするの?)

(鞘師ちゃんは娘。から卒業したいの?)

(一人で歌っている方が楽しいの?)

(同期のみんなを見捨ててソロになっちゃうの?)

(もうモーニング娘。でやり残したことはないの?)

(『リーダーを目指す』っていう言葉は嘘だったの?)

(あたしに負けるのが嫌だから勝ち逃げするの?)

(もう決着はついたと思っているの?)

(鞘師ちゃんは、鞘師ちゃんは、鞘師ちゃんは)

(あたしのことをどう思っているの?)
324 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:20
でも道重さんがそんな言葉を鞘師さんにぶつけることはありません。

「優しくなる」

高橋さんと約束したのです。
それは高橋さんとの約束であり、道重さん自身の決意でもありました。
高橋さんとの約束を破ることには何の抵抗もありませんでしたが、
自分で決めたことを破ることは道重さんのプライドが許しませんでした。

だからテレビの収録などでも、鞘師卒業についてコメントを求められた道重さんは、
引きつった笑顔で「鞘師ちゃんはハロプロからも卒業するけど、私はハロプロに残るんで」などと、
自分の立場も忘れて見当違いなことを言ったりしてしまうのでした。

インタビューでそんな形式ばった発言をすることは仕方ない。
でも鞘師さん本人に向かってそんな嘘の言葉を言うわけにはいきませんでした。
こうして負のサイクルにはまりこんでしまった道重さんの思いは、
鞘師さんへと向かうことなく、道重さんの心の中でグルグルと回り続けるのです。

それでもなぜか譜久村さんはちっとも焦っていないようでした。
325 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:21
「ねえ、フクちゃん。さすがにこのままじゃまずいんじゃないの」
「そうだよそうだよ。もう明日だよ卒コン。今晩中になんとかしないと」
「なんとかってなあに?」
「さゆちゃんと鞘師ちゃんのことに決まってるじゃん」
「卒業しちゃったら、そんなに会えなくなるよ?」

生田さんと香音ちゃんはホテルの譜久村さんの部屋に押し掛けていました。
譜久村さんと同室のはずの道重さんはその場にはいません。

二人は期待を込めて「鞘師ちゃんの部屋に行ったの!?」といきり立ちましたが、
譜久村さんの答は「鞘師ちゃんは別のホテルで取材だよ」という素っ気ないものでした。
道重さんはどうやら、単に一人でぶらぶらと散歩に行っているだけのようでした。

「ていうかさあ、さゆちゃんのテンションが低いとぶっちゃけつまんないんだよね」
「香音ちゃんぶっちゃけすぎ」
「えりぽんもそう思うでしょ」
「まあ、そうだけどさあ・・・・・・」
326 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:21
「フクちゃんは本当にこのままでいいと思ってるの? こんなの不自然じゃん」
「不自然かなあ」
「こんなサヨナラの仕方って不自然だと思う」
「やっぱり二人で語り合って、殴り合って、号泣して、抱き合って、分かり合ってお別れしたいでしょ?」
「そうかなあ」

必死に盛り上がろうとする生田さんと香音ちゃんをよそに、
譜久村さんは一人、なぜかのんびりとした構えを崩さないのでした。

「ていうか意外。フクちゃんってそういうドラマチックなのが好きなのかと思ってた」
「ドラマチックな展開は大好きだよ。えりぽんほどじゃないけど」
「えー。だったらさゆちゃんと鞘師ちゃんも」
「うん。だから今の二人にはあんまり近づかない方がいいんじゃないかな」
「なんでー」
「つまんなーい」

二人の意見をさらっと流して、譜久村さんはニコニコ笑いながら自分のハロプロ観を語り出すのです。
そうです。譜久村さんほどハロプロ愛に満ちた人もいません。
彼女は誰に何と言われても揺らぐことのない、自分なりのハロプロ観というものを持っていたのです。
327 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:22
「だって、卒業ってその人の人生最大の大舞台でしょ」
「うん」
「鞘師ちゃんが主役だよね」
「だから、卒業の瞬間に向けて、全てはその人を中心にして回っていくと思うんだ」
「そうだよ。だからこそあたしたちが」
「鞘師ちゃんのために」
「そういうのはいらないと思うの。鞘師ちゃんのための舞台なんだから」
「でも主役だからこそ、鞘師ちゃんにはできないことってあるんじゃないの?」
「そうだよ! だからあたしたちが助けてあげるんじゃん!」
「そういうドラマは舞台の上にしかないんじゃないかなあ」
「舞台って明日の卒コンのこと?」
「卒コンの最後の挨拶のところ? あれを最後の二人の対面にしたいの?」
「そうそう。舞台はもう整っているんだから、あたしたちは変に邪魔しちゃダメだよ」

譜久村さんの中ではもう、卒コンの最後の舞台の上で
言葉を交わし合う鞘師さんと道重さんの姿が想像できていたのかもしれません。
この手の妄想をさせれば譜久村さんほどリアルな妄想が出来る人もいません。

ですが生田さんも香音ちゃんも、今回に限っては、明らかに納得できないようでした。
328 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:22
「そんなのダメだよ。鞘師ちゃんはアイドルである前に一人の人間なんだよ?」
「そうだよ。絶対さゆちゃんとちゃんと話したいって思ってるはずだよ」
「あたしは鞘師ちゃんの運命を信じてる」

譜久村さんの瞳はキラキラと輝いています。一点の曇りもない瞳でした。
もしかしたら彼女がさゆちゃんや鞘師ちゃんに期待しているものは、
香音さんや生田さんが期待しているものよりも、遥かにスケールが大きかったのかもしれません。

「えー、なにそれ」
「運命って?」
「さゆちゃんに出会っていても、出会っていなくても、鞘師ちゃんは鞘師ちゃんだよ」
「そんなあ。さゆちゃんは必要だよ」
「フクちゃんそれちょっと違うくない?」
「さゆちゃんもね。あたしはさゆちゃんの運命も信じてるの」
「どゆこと?」
「そしてあたしにもね、あたしの運命があると思うの」
「じゃあ、あたしにもあたしの運命があるの?」
「うん。えりぽんにはえりぽんの、香音ちゃんには香音ちゃんの運命があるの」
329 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:23
「だから? だから運命って何なの?」
「ただ見つめていることだけが、あたし達の運命なの?」
「私思うの」
「なにを?」
「何かを無理やり始めようとしても無理で、だからもう年を重ねるだけだと」

あるがままに受け入れること。それでもなお、道は開けていくのだということ。
そのために今まで積み上げてきたものがあるのではないか。それを信じようではないか。
それが譜久村さんが信じる人生観だったのです。
でもそんな永遠の片思いにも似た遠大な願いなど理解できない女がここにいました。

「むっきー!!」

奇声をあげて立ち上がったのは香音さんでした。
もともと香音さんは込み入った話をするのが得意ではありません。
人生観など考えもしない。考えるよりも動くのが得意なタイプでした。

デタラメなキャラでもいい。我が道を突き進め! それが鈴木香音なのです。
330 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:23
「こんなことウダウダと言っててもしょうがなーい!」
「どうしたの香音ちゃん」
「あたし、鞘師ちゃんをさゆちゃんのところまで連れてくる!」
「えー、鞘師ちゃんのホテルすっごい遠いよ。車がないとちょっと」
「関係ないもん! 走っていけばすぐだよ」
「ちょっと香音ちゃん。さすがにそれは。夜が明けちゃうよ」

譜久村さんは必死で香音さんを諭そうとします。
それでも香音さんはそんな説得など軽く蹴飛ばしていくのでした。

「だからね、鞘師ちゃんには鞘師ちゃんの運命が」
「関係ないもんねー。鞘師ちゃんとさゆちゃんを助けるのがあたしの運命!」
「あ、それ格好良い。えりも助ける。それ、えりの運命だから」
「もう話はいいや。行ってくる」
「ダメだよ香音ちゃん、もう晩御飯の時間だし」
「関係ないもんねー。今のあたしには晩御飯なんかより大切なものがあるんだよ!」
「よし! 行くよ香音! ついてこーい!」
「ちょっとえりぽん、それあたしの台詞!」
331 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:23
朝がやってこようとしていました。
まだ完全に夜が明けていない午前5時。
道重さんはホテルの周りをぶらぶらと散歩していました。
ホテルの中をうろついていると、鞘師さんと鉢合わせしてしまうことがあるからです。
だからこのツアーの間、道重さんはずっとホテルの外を散歩するのが日課となっていました。

でもそれも今日で最後です。
この日のコンサートが終われば、もうモーニング娘。の鞘師里保と会うこともありません。
それを思うと道重さんは一睡もできませんでした。
今日の卒コンのラストで鞘師さんに何を言うかも決めていません。
何も考えることができないというのが正直なところでした。

道重さんはホテルの隣にある小さな公園に足を踏み入れました。
そろそろ夜が明けようとしています。
でも今はまだ朝靄がかかっていて視界ははっきりとしません。

その朝靄の向こうから歩いてくる一人の少女がいました。
332 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:23
「さゆちゃん。やっと見つけた」
「鞘師ちゃん!」
「探したよー。どっかに目印をつけて歩いて頂戴よ、もう」
「取材で別行動じゃなかったの!?」
「ふふふ。そうそう。取材があるんだよね。朝ごはん食べたらすぐに戻らなきゃ」
「えー、また戻るの? じゃあ、なんでこっちに?」

道重さんは、鞘師さんに対して全くわだかまりなく話している自分に気付きました。
でも戸惑いはありません。こうして話せることの方が自然なのです。
むしろ今までが不自然だった。どうして普通に話せなかったのだろう?
その一方で鞘師さんも、ホッとした表情を見せます。

「ああ、よかったー」
「なにが?」
「もう足がパンパンで」
「え?」
「話しかけた途端に逃げられたら、どうしようかと思ったー」
「逃げないよ!」

言ってから気付きました。そういえば最近はずっと逃げていたんだなと。
そうです。鞘師里保から逃げるなんて、道重さゆみらしくないではありませんか。
たとえ逃げなくても、戦い続けるとしても、優しく接することはできるはずです。
そう、高橋愛と新垣里沙のように。
333 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:23
「あのね、あたしね」
「うん」
「つんくさんから『卒業が決まった』って言われた時、すっごい悲しかった」
「悲しかった・・・」
「だって先輩達みたいに娘。で何かを成し遂げたわけじゃなかったし」
「うん」
「それになにより・・・・・メンバーのみんなとお別れしたくなかったし」
「・・・・・・・」

先に涙を流したのは道重さんの方でした。
両手で顔を覆い隠しますが、それでも涙は次から次へと溢れてくるのです。

「ごめんね、鞘師ちゃん」
「え?」
「あたしね、あたし、鞘師ちゃんのこと」
「さゆちゃん、泣かないで。さゆちゃんに泣かれたらあたし」
「勝手に卒業していく嫌な子だって思ってた」
「・・・・・・・」
「そんな子じゃないって知ってたのに。誰よりも知ってたのに」
「・・・・・・・」
「自分が負けて悔しいからって、鞘師ちゃんに全部押しつけてた」

そんな言葉を涙とともにぽろぽろとこぼす度に、
道重さんの心の中に澱のようにたまっていたものが、すっと消えていくのです。
334 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:24
それから朝食までの数時間を二人は一緒に過ごしました。
そこで交わしたいくつかの言葉は、永遠に二人の心に刻まれたのです。
やがて完全に日ものぼり、朝食の時間となりました。
朝食の場には勿論、同期のメンバーが当り前のように全員揃っていたのでした。

「お、さゆちゃん元気そうじゃん。もう復活した?」
「ありがと香音ちゃん。もう大丈夫」
「いやーん。さゆちゃんが素直だわ。あり得なーい。猫かぶってるー」
「なによえりぽん。喧嘩売ってる?」
「ちょっとさゆちゃん。あたしと香音ちゃんがどれだけ走って」
「もういいよー。今日くらいは仲良くしようよー」
「ちょっとフクちゃん。今日くらいはって、うちらはいつも仲いいじゃん」
「良くないと思います」

突然の後輩からの突っ込みに、思わず苦笑いの5人です。
「まったく、こんな生意気な子に育てた教育係は誰よ?」という話ですが、
ああ、やっぱり、その教育係は生田衣梨奈だったりするのです。

「やっぱりえりぽんはなってない」

モーニング娘。の5人として食べた最後の朝食の結論は、結局そこに落ち着いたのでした。
335 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:24
コンサート開演数分前。
モーニング娘。のメンバーはリーダーの新垣を中心に円陣を組みます。
開演前にメンバーを一つにまとめるのは、リーダーの最も重要な仕事です。

「そんじゃー、鞘師の卒コン、気合い入れていくよー!」

道重さんは隣で肩を組んでいる鞘師さんを見て、ニヤリと笑います。

「結局鞘師ちゃんって娘。のリーダーになれなかったね」
「えー。なにそれ。今そういうことを言う?」
「あたしが次のリーダーになったら、鞘師ちゃんと差がつくねー」
「差なんてつかないよ」
「やっぱりリーダー経験があるとないとじゃその後の芸能活動にも」
「・・・・・」

卒コンの晴れ舞台の直前とはいえ、道重さんに言われたままではおかないのが鞘師里保です。
無表情になった鞘師さんの左手がすっと道重さんの頭に伸びます。
その指にはおもちゃのダイヤの指輪が。
336 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:24
鞘師さんは握り拳を作ると、グリグリと道重さんの頭に押しつけました。
アホほど大きいおもちゃのダイヤが道重さんの頭にめり込みます。

「いたたたたたたた! いったーい!」
「うりうり」
「ちょっとちょっと、やめてってばぁ!」
「コラ! さゆ! バカなことやってんじゃないの!!」
「・・・・・はーい」

こういう時も、リーダーに叱られるのはいつも鞘師さんではなく道重さんなのです。
そういった扱いの悪さみたいな差も、少しずつ縮めていかないとダメね、と思う道重さんです。
追いかけていくしかありません。鞘師里保は道重さゆみの永遠のライバルなのですから。

「そんじゃ、いくよ! 頑張っていきまっ・・・」
「しょーい!!」
337 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:24
その後、新垣里沙もモーニング娘。を卒業し、第8代のリーダーには●●さんが選ばれました。

モーニング娘。史上最年少OGとして活躍していた鞘師里保は、その決定に関して、

「極めて妥当な人選だと思います。あの人以上にリーダーに相応しい人はいませんから」

とコメントしたとか、しなかったとか。
338 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:24
* * *
339 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:25


 お し ま い

          
340 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:25
* * *
341 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:26
special thanks to





navy
342 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 20:27
ご愛読ありがとうございました。
343 :誉ヲタ ◆buK1GCRkrc :2011/08/22(月) 20:28
はい、というわけでこの物語はこれにて完結です。
なんとか256KB以内に終われてよかったぁ・・・・・

最後までお付き合いいただいた読者の皆さん、どうもありがとうございました。
感想や質問などがあればこのスレに直接書いてやってください。
344 :homare :2011/08/22(月) 20:29
>>319
感想ありがとうございます。
読者さんにハラハラドキドキしてもらえたなら、こんなに嬉しいことはないです
345 :名無飼育さん :2011/08/22(月) 22:55
いい物語をありがとうございました
今頭の中で、アホほど大きなおもちゃのダイヤの指輪が光り輝いています(T_T)
346 :名無飼育さん :2011/08/23(火) 00:23
9期とさゆの絡みが好きなのでいつも読むのが楽しみでした。
感動のラストをありがとうございます。
飼育歴短いんですがファンになってしまいました。
347 :homare :2011/08/23(火) 21:38
>>345
ありがとうございます
情景を思い浮かべてもらえたなら嬉しいです
たぶん、すっごい尖ったダイヤだと思います
348 :homare :2011/08/23(火) 21:39
>>346
ありがとうございます
さゆと9期のからみはいいですよね
夢が広がるというか想像が膨らむ組み合わせだと思います
349 :名無飼育さん :2011/08/24(水) 21:34
更新お疲れ様でした。完結おめでとうございます。
変わらぬ筆力でいつも敬服しています。

前半の滑り出しが読みやすく入り込みやすかったです。
誉さんの書かれるみっつぃが好きなので登場してきたときは嬉しかった!

18話から最終話が特にグッときてしまいました。
ガハハと笑っている方とコラーの人がガッチリと重ねられて読見込めました。
しっかり笑わせながらオチにそれをもってくるなんて。ちょっと泣きましたよ。

正直それほど9期に注目していませんでしたが
それぞれのキャラが活き活きとしていて親しくかんじました。
初めて飼育小説を読んだ時のことを思い出すような。

一番気になっている主役の設定について
ブログで詳しく訊かせていただけると嬉しいです。

素晴らしい応援小説、ありがとうございました。
350 :homare :2011/08/25(木) 20:41
>>349
感想ありがとうございます。
ちょっととっつきにくいお話かなと思っていたので
「前半の滑り出しが読みやすく入り込みやすかった」と言ってもらえて嬉しいです。
9期はみんな良いキャラしてますね。書いていてすっごい楽しかったです。
351 :名無飼育さん :2011/09/16(金) 13:51
ただの9期物じゃなく超展開アリで大変楽しく読ませていただきました
メンバー目線物とかも読ませていただきたいかも
352 :名無飼育さん :2012/01/24(火) 03:07
いやあ、まさか把瑠都が優勝するとはね。
稀勢の里戦は変化で勝ったけど、
それ以外は前に出る相撲に徹してたし。

ま、そんなことはいいとして、とにかく面白かったです。
わからない小ネタ(今や仕方なし!)も多かったけど、
モームスやモーヲタの全盛期の勢いみたいなものが詰まってて、
これぞ娘。ネタ!これぞネタ書き!というワクワク感が最高でした。
353 :homare :2012/01/24(火) 23:23
>>352
感想ありがとうございます。ああ、なんという逆予言・・・・・>>305
ま、そんなことはいいとして、お褒めの言葉を頂き本当に嬉しかったです。
この小説は小ネタを詰め込めるだけ詰め込んだお話でした。
ちょっとクセが強いかもしれませんが、勢いを感じてもらえてよかったです。
354 :homare :2012/01/24(火) 23:24
>>351
忘れてた(失礼)
超展開は唐突だったかもしれませんが楽しんでもらえてよかったです
メンバー目線はこの当時は難しかったですね。9期が入ったばっかりでしたし。
また時間が経って色々な出来事が積み重なっていけばそういうお話も書けるかもです

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