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特別なんていらない

1 :名無飼育さん :2011/07/23(土) 06:59
OGの保田さんと三好さん(やすみよ)で2010年設定のお話です。
マイナーで自己満足なのですがよろしければお付き合い下さい。
時間ができた際に更新します。
261 :名無飼育さん :2011/10/13(木) 04:21

「ごめん・・・本当に私、どうかしてる。
ただ、絵梨香が急にいなくなったと思ったら、たまらなく不安になって、怖くて・・・」

こんな私、絵梨香は呆れているだろうか。

けれど、私の予想とは反して、絵梨香の表情は切なげで優しかった。
どうして、そんな顔をしているんだろう―

「・・・・そんな、圭さんにお別れの挨拶もせずに一人でどこかへ消えたりしませんよ」
「え、それって―」

私が最後まで口にする前に、絵梨香は私をそっと抱き寄せた。
そして唇で、髪に隠れた耳を探り当て、はっきりとした口調で聞きたくない言葉を告げる。

「圭さん。私、明日の朝、自分の家に戻ります」

「・・・うん」

絵梨香の帰る場所は他にある。
そう、それは当然の事。
先日絵梨香が荷物をまとめていた時から、
これ以上長居する気はないんだって薄々分かっていたはずなのに、つらい―
262 :名無飼育さん :2011/10/13(木) 04:26

「私も明後日から新しい舞台稽古が始まりますし・・・
圭さんはOGの皆さんとまたお仕事されるんですよね?」

そっか・・・絵梨香も知ってるんだ。
娘。のOGでグループを結成するっていうあの話。

「引き続き私は舞台女優として、圭さんはこれから歌手として新たなスタートを切るんです。
だから、少しの間お別れですね」
「っ・・・」

どれだけ望んでも、絵梨香は私のものにはならない。
そして私も、全てを絵梨香に捧げる事はできない。

お互いに、それぞれの役割があるから。

全てを欲しいと願っても、ずっと縛り付ける事なんてできない。
263 :名無飼育さん :2011/10/13(木) 04:27
狂おしいほどに、大切な存在。

それでも、私と絵梨香は恋人同士ではない。

他人から見れば、ただの同じ事務所の先輩と後輩。
私達ですら、この関係に名前を付ける事なんてできないだろう。
そんな曖昧な関係の私達は、お互いを繋ぎ止めておく術を知らなかった。

絵梨香の舞台が終わってしまった今―
私達はそれぞれの道を歩む事が定められている。

私と絵梨香を包んでくれた箱庭はもう既にない。
いつまでも一緒にはいられない。
皆誰でも、自分の力で、自分自身の未来へと突き進んで行かなくてはならないから。

分かっている。だけど。
これから私は、絵梨香がいない世界で歩いていけるのかな―

そんな私の胸中の想いすら、絵梨香には見えているのだろうか。
私をなだめる絵梨香の言葉が、慈雨のように降り注ぐ。
264 :名無飼育さん :2011/10/13(木) 04:33

「今日の圭さん、凄く綺麗でした。
あなたの涙も、何もかも。カーテンコールの時の圭さんが今も目に焼き付いて―
余計離れがたくなったんですけど、そういうわけにもいきませんから」

絵梨香も、別れを惜しんでくれている。
その事が十分過ぎるほどに伝わって来る。
それでも、絵梨香は自分で自分の道を選んだ。
だから、私も覚悟を決めないといけない。
それぞれが自分自身の力で、道を切り開いていくために。

「私、演じている時の圭さんは勿論好きです。
だけど、同じくらいに歌っている圭さんも好きですから。
だから―これから、私のいるところにも響かせて下さい・・・圭さんの歌声。
私は陰ながら圭さん達を応援していますから」

そんな言葉を絵梨香から貰ったら、私は頷くしかないじゃない。
それ以外に、選択肢なんてあるわけがない。
私は溢れそうになる涙を堪えながら、ゆっくりと首を縦に振る。
265 :名無飼育さん :2011/10/13(木) 04:35

けれど、それが終わりではなかった。
その、直後。絵梨香は新たな言葉を継いだ。

「でも・・・お願いです。せめて今夜はだけは・・・」

そして一瞬だけすっと目を伏せ、息を吸い―
絵梨香は真正面から私を見据えて来た。

「もう一晩だけ、私を傍に置いてくれますか?
私は今一番圭さんに近しい存在なんだって自惚れさせて下さい。
明日の朝までは、絵梨香だけの、圭さんでいて下さい」

少しだけ情けない掠れた声。
縋るような、行き場のない子供のような―
だけど、その奥に底知れない強さと熱を秘めた瞳。

絵梨香の発した懇願は、私の一番の望みでもあった。

私は、泣き笑いのような表情で頷き、絵梨香の手をゆっくりと取った―
266 :名無飼育さん :2011/10/16(日) 04:42

「ね、絵梨香・・・明かりを―」

微かな抵抗さえ封じ込めるように、絵梨香は柔らかなその唇で、私の唇を塞ぐ。
そしてはだけた服を押さえていた私の手を、すっと退かせていく。

「もっと・・・私によく見せて下さい。
あの夜とはまた違う、今の圭さんを見たいんです。
私には余すところなく全部を見せて」

こんなにも切なげで余裕のない絵梨香、初めて見た。

絵梨香は、あの満月の夜以来、一度たりとも求めて来る事はなかった。
舞台の事もあったし、私の体調を常に気遣ってくれていたから―
それも理由のうちだったのだと思う。

私としても、ただ絵梨香が傍にいてくれるだけで満たされていた。
淫らな欲に飢える事なんてありえなかった。
267 :名無飼育さん :2011/10/16(日) 04:43

たった一度きりの行為でも、十分過ぎるほどだと思っていた―

それくらい、甘い蜜のような優しい時間。

絵梨香は、私をまるでお姫様のように大切に扱ってくれた。

けれど、そんな絵梨香に、微塵も寂しさを感じなかったと言えば嘘になる。

自分ばかりが与えられるのは嫌だった。
これ以上甘やかされたら、自分の中の何かが麻痺してしまいそうだった。

私だって、少しでも多く絵梨香に与えたかった。
必要とされていると実感したかった。

だから―今こうして絵梨香が私に本能に限りなく近い衝動をぶつけて、
縋るように欲しがってくれる事が、たまらなく幸せだった。
268 :名無飼育さん :2011/10/16(日) 04:45
「ごめんなさい、私、優しくできそうにないです。
圭さんが欲しくて欲しくて、きっと自分勝手にしちゃうと思う。
だから・・・嫌なら今のうちに言って下さい」

二人の身体が明かりの下に晒される。
羞恥でおかしくなりそうなのに、その瞳に映されるだけで全てを委ねたくなってしまう。

まるで、炎のように熱い眼差し。
それだけで、溶かされてしまいそうだ。

「嫌なわけないよ・・・お願いだから、やめないで。遠慮なんてしないで」

目の前の肩に額を預けると、絵梨香はそのまま私の身体をきつくかき抱く。
269 :名無飼育さん :2011/10/16(日) 04:46
どんな時も、守ってくれた。私を包んでくれた優しい腕。
だけど、今はこわいほどに熱を帯びて、そして、許しを乞うように小さく震えていて―
その炎も、全てを飲み込んであげたくなる。
守ってあげたくなる。
絵梨香のために何でもしてあげたくなる。

可愛い絵梨香。
この子を離したくない。
誰にも渡したくない。
どうか、今は私だけの絵梨香でいて。

言葉にしなくても、絵梨香はこんな身勝手な願望さえ―すべて叶えてくれた。
だから私も、絵梨香の望みを叶えたい。

最後の夢を、二人で見たい。
270 :名無飼育さん :2011/10/16(日) 04:47
「そんな事あなたに言われたら、本当に理性も、
なにもかも無くなってしまいそうで・・・」

「大丈夫だから。私、どんな絵梨香だって受け入れたい」

あやすように、絵梨香の髪を撫でる。

本当は、ずっと期待していたの。
私だって心から、絵梨香を求めてる。私の全てが、絵梨香が愛おしいって叫んでる。
だから、剥き出しの感情を私にぶつけて。

「圭さんっ・・・」

絵梨香の掠れた囁きとともに、首筋に灼けるような痛みが走った。

「いっ、痛っ・・・」

引き攣った声が、自分の口から発せられる。

気付けば、絵梨香はそこを歯でぎりっと強く挟み込んでいた。
まるで、獲物を仕留めるしなやかな獣のように。

痛い―だけど、嬉しい。
もっと痛くされてもいい。
このまま魂ごと喰らわれても構わない。
強くされるほど、そばにいると思えた。
絵梨香の与えてくれるものなら、それさえも甘いものへと変えられる。
271 :名無飼育さん :2011/10/16(日) 04:49

「んんっ・・・絵梨香・・・」

熱い唇が今度は私の唇を貪る。
噛みつくような―そんな形容を使いたくなるほどの、激しいもの。

もっと、もっと触れ合わせていたい。

「助けて・・・下さい・・・足りないんです。
身体が熱くて、もっと圭さんが欲しくて、壊れそうに、なる」

「いいよ・・・いくらでも欲しがって。何度でも。
絵梨香の欲しいものは全部あげる。私も・・・絵梨香が欲しいから」

それが、キスだと、セックスだと意識さえせずに―
絵梨香のしたいように、私のしたいように、ただお互いの全てを求め、与え合った。

絵梨香の噛んだ箇所はまるで焼印を押されたようで―ひどく熱い。
熱くて、切なくて涙さえ滲む。

それでも、まだ足りない。限りない欲望が掻き立てられる。
わずかな刺激さえ逃がしたくない。

「絵梨香、絵梨香ぁ・・・っ」
「圭さん・・・っ」

指先を、脚を絡ませ合って、肌を擦り付け、何度も口づける。

夜が溶け、朝の気配を運んで来るまで、私達は抱き合い続けた。
272 :名無飼育さん :2011/10/16(日) 04:51


まるで舞台の幕が開けるように、夜の帳が朝の光に引き剥がされる。

これは、ある意味はじまりの朝。

だけど、それは同時に夢の終焉を示す。

蜜月は長くは続かず、いつかは夢も醒めてしまう。

それでも、私達の過ごした最後の一夜が、太陽に溶けてかき消えてしまう幻の月そのものだったとしても。

私は、私はこの記憶と共に生きて行く。
273 :名無飼育さん :2011/10/16(日) 04:56

「・・・忘れ物ない?」
「ちゃんと確認しましたから、大丈夫ですよ」

絵梨香はそう言って、足にまとわりつくぱーるの頭を撫でてあげている。
ぱーるもいつもと違う絵梨香の雰囲気から何かを察しているのか、どこか寂しそうに見えた。

「そろそろ・・・行かないとですね」

絵梨香はしばらくぱーるを撫で回していたけれど。
決心がついたのか、ゆっくりと立ち上がる。

「じゃあね。ぱーるちゃん」

優しい瞳でぱーるを見下ろし―
最後に、私の方へと向き直り、すっと頭を下げる。

私は、その長い髪がさらさらと流れる様を、ただぼんやりと眺めていた。

このまま時が止まってくれるんじゃないかと、まだ心のどこかで信じたがっている自分がいた。

でも、これから私は絵梨香が傍にいない日々を生きていかなければいけない。
受け入れなくてはいけない。この現実を。
274 :名無飼育さん :2011/10/16(日) 04:58

「圭さんも・・・短い間でしたけど、本当にお世話になりました。
もしまた舞台で共演する事があったら、その時はよろしくお願いしますね」

昨夜とは別人のような、毅然とした態度。
まるで、何事もなかったかのような、吹っ切れた笑顔。

そこには、甘えも、執着も感じさせない。

「本当は、まだまだ伝えたい事、たくさんあるんですけど―
決心が鈍りそうですから、もう行きますね」

踵を返し、絵梨香が玄関へと向かおうとしたところになって、
おぼろげだった私の意識がようやく鮮明となった。

私は、考えるよりも先に絵梨香の背中に抱き付いていた。
275 :名無飼育さん :2011/10/16(日) 05:00

「・・・待って」

自分では処理しきれない程の―
どうしようもない程の想いが膨れ上がる。

絵梨香・・・愛してるよ・・・愛してる!

そのままの想いを言葉に乗せられたらどんなに楽だっただろう。
叫びたくなるのを堪えながら、私は絵梨香の背中に顔を埋めた。
鼻先を子犬のように擦り付けると、絵梨香の甘やかな香りが広がる。

「圭さん・・・?」

絵梨香は戸惑いつつも、私が言葉を発するのをじっと待ってくれた。

私は、ゆっくりと、今一番自分の心を占めている言葉とは違う言葉を絞り出した。

だけどそれも私の心の声である事には変わりなかった。
まぎれもない、もうひとつの、私の想い。

「最後に・・・お礼言わせて」

あと、少しだけでいい。
絵梨香にどうしても聞いて欲しい事があった。
276 :名無飼育さん :2011/10/16(日) 05:03

「・・・今、こんな事言うのもなんだけど・・・
私は、自分でも恵まれてる人間だと思う。
確かにつらい事だって傷付いた事だってたくさんあったよ。
それでも、今まで幸せじゃないだなんて思った事はなかった。
欲しいものだって与えてもらえて、何不自由なく生きて来た。
だけどね・・・隣に絵梨香がいてくれて―皆の温かい声に包まれて―
こんなにも幸せな事はないって知ったの。
もしかしたら絵梨香に会うまで―
私は本当の喜びも素通りしていた部分もあったのかもしれない。
絵梨香の存在によって、全てが色付いて、変わったの。
絵梨香が私を変えてくれたの。
ありがとう・・・絵梨香」

絵梨香は、身じろぎせず私の声に耳を傾けていた。
ひとつひとつ私の言葉を掬い上げるように。
少しも聞き漏らさまいとするように。
277 :名無飼育さん :2011/10/16(日) 05:07
「・・・私は何もしていませんよ。
圭さんが変わったと思うのならば、それは圭さん自身の強さがあなたを変えたんです」

絵梨香の表情は見えない。
だけどその声音は穏やかで優しかった。
毎日のように耳にした聴き慣れた声。
私がたまらなく好きな絵梨香の声。

「でも―そう言ってもらえるだけで、私は生まれて来て良かったって思えます」

絵梨香はゆっくりと私の腕を解き、そのまま玄関の扉へと手をかける。

本当に、行っちゃうんだ。

これ以上足が動かない。
もう、引き留める言葉も出て来ない。

外の光が隙間から差し込み、一瞬眩しさに目を細める。

「圭さんは、圭さんの傍にいてくれる人達を大切にして下さい。
私は、一番でなくてもいいんです。
それでも、ずっと、ずっとあなたを見守っていますから」

朝日を浴びながら―
どこまでも綺麗な微笑みを、言葉を残して、絵梨香は扉の向こうへと消えていく。
まるで、光にさらわれたように。
278 :名無飼育さん :2011/10/16(日) 05:08

バタン―

重い金属音を響かせて扉が閉まり、無慈悲にも私と絵梨香の間に隔たりが出来る。

「絵梨香・・・」

取り残された私は、扉から視線を外さないまま、一度だけぽつりと名前を口にした。

こんなにも、誰かの名前を愛おしく呼んだ事はない。

だけどその名を持つ絵梨香はもういない。
応えてくれるはずもない。

ただ、閉まった扉の残響音が、いつまでも尾を引くように部屋に木霊していた。
279 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 02:55


どうして人は人を好きになるんだろう。

なんで傷付け合うのだろう。

何のために出逢いと別れを繰り返すのだろう。
280 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 02:56

絵梨香と抱き合ったベッドに一人横になる度―
満ちては欠ける寂しげな月を見上げる度―

そんな事を考えてしまう私がいる。

私は人に愛される事ばかり望んでいた。

絵梨香はそんな私に見返りを求めず、無償の愛を注いでくれた。

私も、そんな風に人を思い遣る事はできるのだろうか。

たとえ孤高の存在でも―
全てを優しく見守る月のような、絵梨香のような人間になれるのだろうか。
281 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 02:57

「―はぁ。アンタ、たったの一ヶ月間でめちゃめちゃ濃い体験したんやなぁ。
正直、そこまでいってたとは思わへんかったわ」

裕ちゃんは驚いたように、同時に、呆れたように溜め息をつく。

決して裕ちゃんは、根掘り葉掘り聞き出すような事はしなかった。

けれど私と絵梨香の関係を危惧していた裕ちゃんには、いつかは話しておく必要があると思った。

だから、この長い空き時間を利用して、包み隠さず全てを伝えた。

裕ちゃんが頷きながら優しく私の目を見ていてくれたから―
私は途中で感情的になる事もなく、自然に言葉を紡ぐ事できた。
282 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 02:59

「ごめんね・・・裕ちゃんの忠告、聞き入れる事ができなかった」

「今さら諌めるつもりなんてこれっぽっちもないって。
そりゃ、三好ちゃんを利用するだけ利用して、舞台が終わった途端ポイしてたら、ウチも叱り飛ばしてたけどな。
それで三好ちゃんがボロボロになったらどうやって責任取るつもりやねんって。
でもそうはならんかったみたいやな。
三好ちゃんは自分の為に、圭ちゃんの為に、最善の道を選んだ。
流される事なく自ら執着を断ち切った―強い子やな」
283 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:00
裕ちゃんの言う通り―
もしもあのまま絵梨香を引き止めていたら。

私は絵梨香以外のものを、知らず知らずのうちに排除しようとしてしまう人間になっていた―
その可能性も否めない。

許されるならば、好きなだけ絵梨香に溺れていたいという思いもあった。

絵梨香は、あえてそんな私の欲望に気付かないふりをした。

私は一人ではない事を知らしめるために。
284 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:01

絵梨香は、傍にいる人達を大切にして下さいと言った。

裕ちゃんを始めとした仲間達と過ごす今、その意味が痛いほどに理解できる。

私には、仲間も歌も手放す事はできない。
全ては私にとって必要不可欠で、どれか一つでも失えば―私は私でなくなる。

今になってそれを実感した。

結局私はどこまでも欲張りな人間。

絵梨香はそれを理解した上で、私の意思を尊重してくれたのだ。

本当は、先輩である私が絵梨香を導くべきだったのに。
絵梨香は、最後まで私を真剣に思い遣ってくれていた。
285 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:02

「うん・・・絵梨香は、強くて、優しい子だった。
私なんかよりもずっと大人だった」

あれから、少しだけ時が経った。

私は今、卒業した仲間達と共に、忙しい毎日を過ごしている。

私の髪もほんの少し伸びて―
このシュシュは、私の一部だと言えるほどに馴染むようになっていた。

絵梨香がくれたシュシュを、私は今も肌身離さず身につけている。
286 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:04

無意識のうちに指先でシュシュを撫でていた私を見遣りながら、
裕ちゃんはぽつりと呟いた。

「圭ちゃん、ええ恋したな」
「そう・・・かな」

恋?

確かにこれは恋に限りなく近い。

だけど、きっと恋とは呼べない。

この想いは、恋よりもずるくて、狂おしいものだから。
287 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:05

「圭ちゃんは今も三好ちゃんが大事やし、後悔してへんのやろ」

「うん・・・本当に、幸せだった」

これ以上幸せになったら、私は壊れてしまうんじゃないかと思うくらい。

「・・・多分、三好ちゃんも幸せやったと思うで」
288 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:06

―絵梨香は、幸せだったのだろうか。

私は、幸せだった。心からそう言える。

優しく抱き締めてくれた腕も。
温かい涙も。

忘れない。忘れられるはずがない。

たった、ひと月だけの夢。

それでも、たくさんの出会いの中から見つけた奇跡。

細胞からまるごと変えられてしまうような、鮮烈な出来事。

思い出すだけで心が震えるほど、愛おしい存在―

本当の私ごとすべて受け止めてくれた。

私を見つけると、真っ直ぐに駆けて来てくれた。

過去の鎖から解き放ってくれたのも、今という現実に色彩を与えてくれたのも―
未来へ歩めるように背中を押してくれたのも―
全部―全部絵梨香だった。
289 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:08

「はー、圭ちゃんと三好ちゃんの話聞いたら、平塚雷鳥の話思い出したわ」

「らいちょう?誰それ?」

「学校で習ったやろ?雷鳥っていうのは昔の婦人運動家。
年下の想い人と仲睦まじくなってたんやけど・・・
それがきっかけで雷鳥は女性解放運動に参加したメンバーと不和が生じてん。
で、その想い人は雷鳥とメンバーの活動を尊重して、
“池を濁し和を乱したツバメは水鳥達の平和のために飛び立つ”
って内容の手紙を残して身を引いた」
290 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:08

そんな―

裕ちゃんの話に、胸が締め付けられる気がした。

たとえ自分の意思を尊重してくれたのだとしても。
頭では理解していても、全てが納得できるわけではない。

正直、絵梨香が私の傍にいない事を今でも嘆きそうになってしまう時もある。

雷鳥という女性も、こういう気持ちだったのだろうか。
291 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:10

「じゃあ雷鳥って人、どうなったの?」

まるで私の心を見透かしているように―
裕ちゃんは優しい声で答えをくれる。

「雷鳥とそいつは結局はまた一緒になるんやで。
そいつは自分をツバメに喩えたけど・・・
ツバメって一度は飛び去っても、いずれまた同じ場所へ舞い戻るしな」

裕ちゃんはそう言って、意味深に私に笑いかけた。

「ウチの予想では、また三好ちゃんは圭ちゃんとこに戻って来ると思うで」

「・・・ありがとう・・・裕ちゃん」

私を気遣って、こんな話をしてくれたのだという事は分かっているけれど。
たとえ気休めでも、私は救われた気がした。
292 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:12


「・・・圭ちゃん、ちょっといい?」

絶妙なタイミングで私を呼ぶ声。

私と裕ちゃんは弾かれたように、ほぼ同時に声の発生源へと視線を向ける。

その声の主はよっすぃーで、上半身を隅の壁に預けながらこちらを見ていた。

皆とは離れているから、話の内容までは聞こえていないと思うけれど、
私達の話が一段落したところを見計らって声を掛けて来たようだ。
293 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:14

よっすぃーに手招きされ、歩み寄って行くと、一通の封筒を手渡された。

それは、飾り気のないごくシンプルな白い封筒。

「?何これ?」

「三好ちゃんから。圭ちゃんに渡して欲しいって頼まれちゃって」

今まさに私の心を占めていた人物の名前に、どくんと心臓が大きく跳ねる。
294 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:15

「え・・・」

絵梨香と番組で共演しているよっすぃーの話を聞く分には、元気にしているとの事だけれど。

私はずっと、積極的に絵梨香の近況を尋ねる勇気を持てないでいた。

だからこそ、覚悟もできていない時に―
このような不意打ちに近い形をとられたら、どうしていいのか分からない。
295 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:16

「心配しなくても、中は見てないって。
じゃ、ちゃんと渡したから」

うろたえる私を余所に、それだけ言って、よっすぃーはあっさりと楽屋から立ち去る。

私は封筒を手にしたまま、その後ろ姿を呆然と見送るしかなかった。
296 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:17

絵梨香が・・・私に?

どうしてわざわざ?

よほど言いづらい事を手紙にして伝えたかったのだろうか。

まさか、あの時の事は忘れて欲しい―なんて言わないよね。

嫌な考えが纏わりついて離れない。

怖い―
だけど、私は絵梨香がどんな答えを示しても、受け入れる。
そう決めたから―

呼吸を整え、震える指先でゆっくりと開封する。

「っ・・・!これ・・・」
297 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:18

そこにあったのは―真円を描く大きな月の写真だった。

トイカメラで撮ったのだろうか。
四隅は暗く、少しピンボケしている。

けれどその分、中心に写った月はより神々しい光を放っているように見えた。

それは―まるで、初めて絵梨香と溶け合ったあの夜の月のようだと思った。

私はもうあの頃の私ではない。

時が流れていくにつれ記憶も薄れ、人の心も常に形を変えていく。

だから、私は写真を撮り続けるのかもしれない。

そこに存在したのだという、証を確かめたくて。

どんなものもいつかは風化していくという、普遍の事実にさえ抗いたくて。

少しでも長く、形を残しておきたくて。
298 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:19

絵梨香も、私との繋がりを保ちたいと思ってくれているから―
私にこの写真をプレゼントしてくれたのかな。

どうか、そうであって欲しい。

何度も願いながら、最後に写真の下の右端へと視線を移した瞬間―
“それ”は私にさらなる衝撃をもらたした。

目を凝らさないと分からない程の、控えめな小さな文字の羅列。

滲む視界の中、淡いピンクのペンで書かれているそれをゆっくりと追う―
299 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:21

「絵梨、香・・・」

“I love you”

私が知っている、他のどんな愛の言葉よりも深く、重い―

「うん、私もだよ・・・絵梨香・・・」

伝わるよ、絵梨香の想い―

声が聴けなくても、姿が見えなかったとしても。
たとえ相手にとって自分が“特別”ではなくても。
自分自身が心の中で想い続けていれば寂しい事なんて何もない―
そうだよね、絵梨香。

だって、私と絵梨香はこんなにもお互いを信じ合えてる。

永遠が途切れても、きっとまた巡り会える。
何度月が欠けても、いずれまた必ず満ちる日が来るのだから。

だから、待ってるよ。
再び二人の道が重なる、その時まで。
絵梨香と同じ世界を見られる日を夢見て。

300 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:23


********** END **********
301 :***Extra Story月の見る夢*** :2011/10/17(月) 03:25

私は空に浮かぶ青白い月を眺めていた。

こんな夜は、あの人の事を思い出す。

他でもない、圭さんの事を。

おもむろに、圭さんから貰った写真を引出しから取り出して眺める。

今でも、この写真達は私の宝物。
だけど貰ったものは、なにも写真だけじゃない。

多くの、大切なものを与えてくれた。

本当は誰よりも夢見ていた―望んでいたもの。

もう決して、私の手には入らないと諦めていた数々のものを。
302 :***Extra Story月の見る夢*** :2011/10/17(月) 03:27

実の母親以上に、惜しみない温もりを流し込んでくれた。

ずっと昔から共にいた仲間のように、人懐っこい笑顔を向けてくれた。

それだけで、狂いそうなほどに幸せだった。

私のためだけに歌ってくれたあの歌は、今でも耳に残っている。

誰にも奪えはしない、煌めく思い出。

圭さんのいる世界そのものが、大切な宝物だった。
303 :***Extra Story月の見る夢*** :2011/10/17(月) 03:29

圭さんの心に触れて、私は全てに感謝をする事を知った。

たくさんの人達が支えてくれたから、私はここまで来れた。

母が私を生んでくれたから―
夢を叶える事ができた。
圭さんに出会えた。

そして圭さんがいてくれたから、私は自分を信じられた。

あの夢のような一ヶ月間の記憶があれば、前を向いて生きていけると信じられた。

きっと私は、圭さんを守るためにあの舞台に、運命に呼ばれたのだと思っていた。

だけど、助けられていたのはいつも私の方だった。

誰かに必要とされたかった。
この世界にいていいんだと言ってもらいたかった。

本当は、心のどこかに潜んでいた私の願いが、救いを求めて―
圭さんを呼んだのかもしれない。

それでも、出逢いは必然だった。
今でもそう思う。
304 :***Extra Story月の見る夢*** :2011/10/17(月) 03:31

「圭さん・・・」

近頃、頻繁に彼女達をテレビで目にするようになった。

中でも、圭さんは一際輝きを放っているように見えた。

「ねぇ、圭さん。圭さんの物語は、まだ続くんですよ」

圭さんと撮った写真を、指で愛おしげになぞる。

あなたは私のヒロイン。
今も、そしてこれからも。

いつかは、再び巡り合う日を夢見てる。

だけど、もし―二人の道が平行線を辿り、交わる事がなくても。
たとえ私は端役のままだとしても。
もう同じ舞台に立つ事すら許されなくても構わない。

私は、きっと大丈夫―
残酷なほどに優しい、あなたを覚えている限り。

この月の光のように、あなたが柔らかく包み込んでくれた日々の記憶がある限り。

たとえ、私だけを照らしてくれる月ではなくても。

私は、ここからずっとあなたを見ている。
305 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:35

306 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 03:51
あとがき

「特別なんていらない」、完結致しました。
実は、リアルでは二人はこの舞台の後も立て続けに共演してるんですが
容量の関係で、このお話の中では“人生はショータイム”が二人が共演した最後の舞台、
という設定になっています。ご了承下さい。

ハロプロ系小説を書くのも、これだけ長い話を書くのも、
飼育に投稿するのも初めだったのですが、
凄くいい経験になったと思います。
ただ、改行ミスや誤字脱字等もあまりに多く、自分でも書き直したいほどなので、
読者様も相当読みづらいと思います。
大変申し訳ありません。

コメントを下さった方、読んで下さった方、スペースを貸して下さった管理人様
本当にありがとうございました。
307 :名無飼育さん :2011/10/17(月) 22:44
完結おめでとうございます。
よかったです。素晴らしい
308 :名無飼育さん :2011/10/18(火) 10:04
最後のみーよからの贈りもの、いいですねぇ…
ブログでお互いのことをのろけてた2人がほんとかわいいなぁ好きだなあと思っていたので、
その2人がそのまま、というようなこのお話が読めてほんとにうれしかったです。
完結おつかれさまです!
309 :名無飼育さん :2011/10/23(日) 02:35
>>307
ありがとうございます。なんとか10月中に完結できて良かったです。

>>308
ありがとうございます。あの頃は二人のブログ更新が本当に楽しみでした。
全く同じ事を思って下さっていた方がいて嬉しいです。
310 :名無飼育さん :2012/03/10(土) 04:47
小説を読んでウルッと来たのは久々です。
素敵な話をありがとう。

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