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ぺんぎんの行進

1 :名無飼育さん :2011/07/18(月) 23:56

高橋さんと新垣さんが好きなので二人中心の話になると思います。
高橋さんの方言は適当なのでご勘弁を。
310 :わたしのあなた :2012/02/22(水) 13:48

絡まっていない方の手を膝小僧に乗せて、指先でそうっと痣をなぞる。
彼女の表情が痛みに歪まない事を見て取って、私は痣を“治す”べく、赤い痕にゆっくりと唇を近づけていった。

痣に唇をそっと押し当てる。
愛ちゃんは痛くないと言ったけれど、細心の注意を払ってゆっくりと唇で痣を撫ぜた。
唇をつけたまま愛ちゃんの顔をちらりと見て、相変わらず締まりなく微笑んでる事を確認し、今度は赤くなった肌を軽く吸い上げた。
前歯で軽く引っかくようにしてやると、絡んだ彼女の指先に少しだけ力が入ったのが分かって、知らず甘く弾む胸の奥。
311 :わたしのあなた :2012/02/22(水) 13:48

一度数センチ顔を離してから、今度は唇の代わりに舌先を落とす。
舌先にぴりっと感じた入浴剤の苦さは、だけどすぐに唾液と混ざって分からなくなった。
歪な楕円系の赤の淵をなぞるように舌を這わせると、愛ちゃんの自由な方の指先が髪の毛の中に潜り込んできた。
まるで私の行為を褒めるように地肌を優しく撫でた彼女の指先は、濡れた私の髪の毛を耳に引っ掛けるように動く。
指先の感触が気持ち良い。
彼女のそれはどちらかと言えば労わるような動きなのに、腰辺りがぞくりと震えて、その指先の感触に急かされるように、私は舌の真ん中で痣全体を覆って舐め上げた。

引っかかりのないすべやかな肌の感触。髪をくしゃりとかき混ぜる指先の感触。
そうして、さっきよりも明らかに上がっている彼女の息遣い。
そのどれもが、私の胸の奥を甘く激しく、刺激する。
312 :わたしのあなた :2012/02/22(水) 13:48

また唇を押し付けて吸い上げて、引っ込めた舌先を伸ばして舐めて撫ぜて。
唾液が唇から零れ落ちるのも構わずに、私は夢中で彼女の膝小僧の少し下辺りを“治す”。

湯気が立ち上がる浴室に唾液の絡む音と荒い息遣いだけが響く。

好きな人に肌を舐められる気持ち良さを私は知っている。
愛ちゃんの舌が私の上で滑る度に、鼓動が早まって胸の奥がきゅっと縮まって、そうして下腹部に溜まったやらしい熱を直接引きずり出されるような、そんな感覚に陥るのだ。
それは、指先であろうが、頬であろうが、お臍の周りであろうが変わらない。
どこを撫ぜられたって私は―――。

愛ちゃんの舌の感触がいやにリアルに蘇ってくる。
私の上にいるくせに余裕なさげに潤んだ瞳も優しく優しく身体を包む手の平の感触も、それに付随するように溢れ出して、私が愛ちゃんの膝を舐めているのに、私のそれも愛ちゃんに可愛がられてるような感覚になって、腰辺りで蟠っていた熱が温度を上げた。
313 :わたしのあなた :2012/02/22(水) 13:49

高ぶる感情のままに、一度舌先を離して再び膝への行為を続けようと顔を近づけたら、繋がった手を引っ張られた。
同時に、「りさちゃん」と余裕の無い時によく聞く彼女の声が耳に届く。
その声に促されるように顔を上げれば、声以上に余裕の無い顔で私を見つめる愛ちゃんの姿。
赤く染まった頬と熱に浮かされたような瞳の色は、お湯でのぼせたからではないとすぐに分かる。
余裕の無い顔で拗ねたみたいに唇を尖らせて、愛ちゃんはもう一度私の手を引っ張った。

「そこばっかやだ。……こっちもしてや」

言葉と同時に軽く持ち上がった顎にその意図を察して、知らず笑みが零れた。
笑われたと思ったのだろう彼女がますます拗ねたようにむくれる姿に胸の奥がきゅんとして、今すぐにでも彼女の頭を撫でてぎゅっと抱きしめたい衝動に駆られる。
―――同時に、背筋がぞくぞくとして、可愛らしく拗ねる彼女をめちゃくちゃにしてしまいたい欲求が頭を擡げた。
314 :わたしのあなた :2012/02/22(水) 13:49

バスタブの底に膝を突き湯船からざばりと上半身を持ち上げて、彼女の肩に自由な方の手を置きながら、上から覆い被さるようにして顔を近づけた。
驚いたように顎を引いた彼女が逃げないように繋がった手に力を入れる。

「愛ちゃんが治してって言ったんじゃん」

あと数十センチで鼻先が触れそうな距離で指摘してやると、拗ねた色を更に深めた彼女の潤んだ瞳が非難するように私を見上げた。
私は何も間違った事は言っていないのだから、非難がましく見つめられる謂れはないのだけれど、その視線が私に膝先を舐められていろんな事が我慢できなくなった末のわがままから来るモノだと分かっているから、私は彼女のそんな行動も全て可愛く見えて仕方ない。

自然と緩んでいく頬をそのままに、濡れた前髪を払ってやると、むくれた愛ちゃんの唇がゆっくりと動き出した。

「……怪我人なんやから優しくしてよ」
「じゅーぶん優しくしたげたでしょ」
「なん、……えーやんかあ」
315 :わたしのあなた :2012/02/22(水) 13:49

子供のような声で強請る彼女を無視して、前髪を払って丁度良く現れた額に唇を押し付ける。
そうしたら、焦れたように腰に片腕を回されて引き寄せられた。
湯船の中で肌がぶつかる。
湯温よりも低いはずの彼女の体温は、だけどすごく熱く感じて、すべやかな肌の感触とその熱に否応なく早まっていく心音。

「そこ違うって、もっと、」
「てゆかさ」

愛ちゃんの言葉を遮って濡れた額に唇を押し付けたまま声を出す。
くすぐったかったのか首を振った彼女の動きに従ってそっと顔を離した。

拗ねた愛ちゃんの顔を見つめながら髪を払った手の平をゆっくりと頬まで滑らせる。
そのまま耳たぶを優しく撫ぜると、愛ちゃんの長い睫毛が僅かに震えた。

「怪我とか気をつけてよ」
316 :わたしのあなた :2012/02/22(水) 13:50

撫でた耳に親指を引っ掛けて、頬を手の平全体で包み込む。
汗なのかシャワーの水滴なのか分からない雫が彼女の髪の間から私の手へと向かって肌を伝って落ちてくる。
舐めとってやりたい衝動を抑えながら、私は今さっき唇を押し当てていた額へ今度は自分のそれをこつんとくっつけて。


「愛ちゃんは、私のなんだから」


超至近距離で、ただでさえ大きな愛ちゃんの瞳が更に大きく見開かれていくのをじっと見つめた。

珍しい事を言っている自覚はある。
普段、好きの一言も滅多に言わない私だけど、こんな風に可愛いわがままを言われたりぐずられたりすると、どうにも甘やかしてしまいたくなってしまうのだ。
傷なんて作ってこないでよ、と付け足したら、丸くなった瞳を縁取る睫毛がまた震えて、ゆるゆると伏せられて。
317 :わたしのあなた :2012/02/22(水) 13:50

「そか、あたしは里沙ちゃんのか」

ぽつりと落ちた言葉と同時に、繋がった手が柔らかく握り直される感触。
同じだけの力で握り返したら、伏せられていた瞼がゆっくりと持ち上がり、顔を出した潤んだ大きな瞳が私の視線をしっかりと捕らえた。


「じゃあ、はよ里沙ちゃんの好きにしてや」


喉が鳴る。
息が詰まりそうだ。

私を見上げる意思の強い、ただひたすらに真っ直ぐな瞳。
向けられる度に圧倒されて私の心音を跳ね上げるそれは、今はその奥深くに妖しい炎をゆらめかして、私の中のいつもとは別の熱をいとも簡単に引きずり出す。

彼女の吐息が唇を撫でて、彼女の手の平が裸の背中をゆっくりと這い上がる、そんな些細な動き一つに、痛いくらいに胸の奥が刺激されている事をきっと彼女は知らない。

鼻先をそっとすり合わせて、私を真っ直ぐに見つめる彼女の潤んだ瞳の奥でちりちりと燻る妖しい熱に急かされるように、痛いくらいに拍動を続ける心のまま、私は誘うように薄く開いた目の前の唇に自分のそれを押し付けた。





おわり

318 :名無飼育さん :2012/02/22(水) 13:51

お粗末様でした。

>>303
ありがとうございます!
319 :名無飼育さん :2012/02/23(木) 04:33
この雰囲気大好きです!
320 :名無飼育さん :2012/03/29(木) 01:37

ガチな感じのガキ生田。
中学生といちゃいちゃちゅっちゅするリーダーの話です。
今までの愛ガキとは全く別の世界のお話ですのであしからず。

321 :ボーダーライン :2012/03/29(木) 01:38



「あ、生田は残って」

新垣さんが声を上げたのは、事務所のレッスンスタジオでツアーのリハ終わり。
帰り支度を整えて、バッグを肩に掛けようとしたその時だった。

一瞬、楽屋の中をぴりりと走る抜けた緊張感。
えりなはバッグを中途半端に持ったまま、思考をフル回転させた。

自慢じゃないが、新垣さんに限らず、こんな風に先輩や先生に名指しで呼び止められる経験は少なくない。
自分で言うのもアレだけれど、えりなは物覚えが良い方でも要領が良い人間でもないから、リハをすれば先生に注意され、イベントではしゃぎすぎてはマネージャーさんに怒られる、なんて事は悲しいかな日常茶飯事だった。

今日のリハでも何かやらかしてしまっただろうか。
朝から続いたリハーサルを頭の中でぐるぐると反芻してみたけれど、思い当たる節がない。
それどころか、今日は自分でも珍しくスムーズにリハを終える事ができたとちょっとだけ誇らしく思っていたくらいだったのに。
その証拠に楽屋の入り口のあたりでえりなの支度を待っていた9期の3人も、新垣さんの言葉に不思議そうに顔を見合わせていた。
322 :ボーダーライン :2012/03/29(木) 01:39

「あのっ」

自分で気づかない所で何かへまをしていたのかもしれないと少し落ち込んでいたら、里保と香音と目配せをし合っていた聖が言葉と共に一歩前へ飛び出した。

「今日えりぽん何かしましたか…?」

控えめだけれど意思の強さを感じさせる声が、新垣さんとえりなたちしかいない楽屋に柔らかく響いた。
困ったように下がった眉尻とは反対に、聖の強い色をした瞳が新垣さんをじっと見つめてた。
いつもはのんびり温厚な一つ年上の同期のえりなを庇うような姿に泣きそうになっていたら、その異様な雰囲気にようやっと気づいたのか、楽屋の長椅子に座りiPhoneを弄っていた新垣さんが顔を上げて、驚いたように目を丸くした。
新垣さんは、すぐに違う違うと胸の前で手を左右に振って、片方の眉をひょいと上げて苦笑い。
323 :ボーダーライン :2012/03/29(木) 01:39

「別に怒ろうとかそういうのじゃないから。個人的にちょっと用があるだけだって」

笑いながら長椅子の背凭れに背中を預けた新垣さんの纏う優しげな雰囲気に、大人の余裕のようなモノを感じて胸の奥が少しだけざわついた。
新垣さんの言葉を聞いて強めた視線を瞬時に解いた聖はわたわたとすみませんと頭を下げた。
こっちこそごめんね、と笑う新垣さんに、聖はもう一度頭を下げて、一瞬だけ心配そうにえりなを見てから、香音と里保を促して楽屋を出て行った。

3人の背中をひらひらと手を振って見送った新垣さんは、楽屋の扉がぱたんと閉まったのと同時に上げていた手を長椅子の背凭れにそっと置いた。

しんと静まり返った楽屋の中には、えりなと新垣さん、二人だけ。
新垣さんは個人的に用があると言った。怒るつもりではない、と。
それでは一体なんの用事なのだろうか、そこまで考えて、一つの憶測にたどり着く。
その憶測に胸の奥がどきどきと高鳴って、さっきとは別の緊張感がえりなの足を床に磔にする。
324 :ボーダーライン :2012/03/29(木) 01:39

中途半端に持ったバッグがずり落ちそうになって慌てて抱え直したら、「生田」と柔らかな声がえりなを呼んだ。
視線を向ければ声と同じくらいに柔らかに微笑んだ新垣さんが、長椅子の自分の隣をぽんぽんと軽く叩いた。

「おいで」

次いで聞こえた言葉に、床に磔になっていた足がまるで魔法にかかったみたいに簡単に動いた。
そろりそろりと近づいて、新垣さんの隣に少しだけ距離を空けて腰を下ろす。
抱えたバッグを更に隣に置くと、見計らったように新垣さんが少しだけ空いた距離をつめてきた。

服越しに二の腕がぶつかる。

鼻先を掠めた新垣さんの香水の香りに、胸の奥の方をぎゅっと掴まれたみたいに苦しくなって、鼓動が早まって、胸が、痛い。
思わず息を詰めると、膝の上に置いていたえりなの手に新垣さんの細いそれが重なって、えりなが声を出すよりも早くするりと指が絡まった。

こてんと肩先に感じる重さに、びくりと体が跳ねる。
確認しなくたってえりなの肩先にちっちゃな新垣さんの頭が乗っかっている事は明らかで、更に強く感じる新垣さんの匂いが、えりなの鼓動を見境なく、煽る。
325 :ボーダーライン :2012/03/29(木) 01:40

「きんちょーしてる」

笑みを含んだ小さな声が耳に届いた。
普段の快活な新垣さんとは違う可愛らしい声音に、こくりと喉が鳴ってしまって、至近距離でそれが聞こえただろう新垣さんが、おかしそうに小さく肩を揺らしたのがくっついた部分から伝わってくる。
そんな余裕な新垣さんの態度にほんの少し、ほんの少しだけ悔しくなって、同時にどこまでも緊張している自分が情けなくって、唇を尖らせた。

「……しない方がおかしいです」

だって。

好きな人と一緒にいるんだもん。

新垣さんが、二人きりになるとこんな風に可愛らしい声を出す事をえりなは最近知った。
その手の温度がえりなよりもずっと低い事も、手を握る時はネイルがえりなの手に当たらないようにいくらか緩く握る事も、あの日、夕日に照らされたオレンジ色の窓の前で新垣さんに好きだと伝えた、その後に知った事だ。
326 :ボーダーライン :2012/03/29(木) 01:40

あの日から少しだけ変化した、えりなと新垣さんの距離。
ふとした瞬間に重なる視線にも、ぶつかる手にも、名前を呼ぶその声にも、その日から全く別の温度が含まれるようになって、こんな風に二人きりの空間で、新垣さんの熱を間近で感じる機会も、あの日から変化して増えたモノの一つだった。

だけれど、えりなは一向にその熱に慣れる事ができない。
それどころか回数を重ねる度に、胸の高鳴りは大きくなる一方で、それがなんだかとても、―――情けない。

「そんなにがちがちになられると、私まで緊張するじゃん」
「う……、だ、だって」
「いーくた」

小さな子供みたいな甘ったるい声が鼓膜を揺さぶる。
それは心も涙腺も同じように揺さぶって、鼻の奥がツンとした。

新垣さんのこんな声が聞けるだなんて思ってなかった。
こんな風に柔らかに名前を呼んでもらえるなんて思ってなかった。
あの告白はただの自己満足で終わるはずだったのに。
327 :ボーダーライン :2012/03/29(木) 01:41

あの日あの場所で、オレンジ色に照らされて擽ったそうに笑った新垣さんをえりなはきっと一生忘れない。
ただの自己満足が、自己満足じゃなくなったあの瞬間。
えりなに「好きだよ」と答えてくれたあの日の新垣さんの姿に、えりなは涙は幸せすぎても溢れてくるモノなのだという事を初めて知った。

繋がった手をそっとぎゅっと握り締めると、同じように新垣さんの手に力が入るのが分かる。

「最近さ」

えりなの膝の上で繋がった手をぽんと弾ませて遊ばせながら、新垣さんがぽつりと呟いた。

「生田、大変そうだよね」
「たいへん?」
「いや、ほら、仕事とかさあ」
「はぁ……?」

言葉を選びながら、更にいくらか渋っているような声音。
伝えたい事は真っ直ぐに言葉に乗せる人なのを知っているから、その様子に、どきどきに困惑が重なる。
何か遠回しに伝えようとしているのは分かるのだけれど、ただでさええりなの頭は回転数が早いとは言えないのに、その上新垣さんの隣で緊張しているこの状況で、濁された答えを正しく導き出す事は困難だった。
328 :ボーダーライン :2012/03/29(木) 01:41

間抜けな声を返したえりなに、新垣さんはどこか焦れたように小さく唸ったかと思ったら、繋がった手を持ち上げて。


「……おつかれさま」


えりなの手の甲に唇を押し付けた。

手の甲に感じる生暖かで柔らかな感触と目の前で自分の手に顔を寄せてる新垣さんの姿に、一瞬何が起きたのか分からなかった。
ぼんやりとその姿を眺めて、一拍遅れてその状況を把握。

一気に顔に熱が集まる。痛いくらいに熱くなる耳。
自分の顔がどうなっているのか鏡を見なくたって分かった。
それが更にえりなの温度を上げていく。

新垣さんの唇が触れている所の神経が研ぎ澄まされて、まるで自分の身体が手の甲だけになってしまったような感覚に陥って慌てて手を引っ込めようとしたら、むっとしたように目だけで睨まれた。
329 :ボーダーライン :2012/03/29(木) 01:42

「ひっこめるな、ばか」

手の甲から顔を離しながら拗ねた口調でえりなを批難した新垣さんは、子供みたいに唇を尖らせた。
その姿は、えりなのどきどきと緊張と高揚感を更に加速させていく。

幸せなのか、不安なのか、嬉しいのか、怖いのか。
そのどれもが混在してごちゃごちゃになった感情を、処理をする事を放棄した脳みそが、全てを涙へと変換して鼻の奥をつっついた。

また新垣さんに泣くなと怒られそうで、涙をぐっと堪える。
この感情を言葉でちゃんと伝えたいのだけれど、喉の奥が引き攣って上手に声が言葉にならない。
唇を噛むと、新垣さんの繋がっていない方の手が持ち上がるのが見えた。
その手の平は躊躇することなくえりなへと伸びてきて、そうっと頬を撫で上げて顎を捉えると、唇の辺りの感触を確かめるように親指で唇を優しく押してきた。

親指の辺りを見ていた新垣さんの視線が持ち上がる。
新垣さんの茶色の瞳の中にえりなの目がちらりと写った気がした。
330 :ボーダーライン :2012/03/29(木) 01:42

新垣さんはえりなの目を見て細い顎を上向けて、ゆっくりとえりなとの距離を詰めてきて。

ごちゃごちゃになったえりなの頭でも、次に起こりうる事を予測するのは簡単だった。


「……こういう時は目を閉じなさいよ、ばか」


どこか怒ったような言葉と共に近づいてきた新垣さんの言葉に慌ててぎゅっと目を瞑る。

生暖かな吐息が唇を撫ぜたすぐその後に、予想以上に柔らかな感触がえりなの唇を覆った。

高鳴る鼓動の向こう側からじわりじわりと滲み出る熱くて苦しくて、けれど蕩けそうなほどに甘い感情に、えりなは無意識に新垣さんの服の裾を握ってた。

こうやって新垣さんとキスするのは初めての事じゃない。
それなのに、新垣さんの唇の柔らかさにえりなはいつだってびくりと驚いて感動して、足元からふにゃふにゃと崩れてしまいそうな幸福感で胸がいっぱいになる。
そうして、新垣さんの特別になれた実感と、選ばれた事への喜びと、ただただ単純にその柔らかな唇に触れられるという興奮がえりなの心を躍らせた。
331 :ボーダーライン :2012/03/29(木) 01:42

少しだけ角度を変えた新垣さんに挟むようにして下唇を食べられる。
感触を確かめるような動きが気持良くて、思わず顎を上向けて押し付けるようにしたら、えりなの下唇に小さく吸い付いて新垣さんはあっさりと離れて行ってしまう。

―――いやだ。

えりなの頭の片隅で、誰かが叫んだ。

まだ、離れたくない。

気持良い感触を、新垣さんの唇を、もっともっと深く感じたかった。
唇じゃなくて、もっと。

瞼を押し上げる。
視界に入った熱に浮かされたような大好きな人の瞳の色に、その欲求が強くなる。

掴んだ裾を引っ張った。

「もっと、ちゃんとしたの、してください」

こうやって新垣さんとキスをするのは初めての事じゃない。
恋人同士が軽く触れ合うキスの先にどんな行為をするのか、さすがにえりなだって分かってるに。
だけど、思わず飛び出した言葉に、いつだって新垣さんは少しだけ目を逸らして困ったように笑うだけで、唇を触れ合わせる以上に深いキスを決して許してはくれなかった。
332 :ボーダーライン :2012/03/29(木) 01:43

「もうちょっと大人になったらね」

そうしていつも、宥めるようにそう言うのだ。
もう何度となく聞いた言葉にハッとして、寂しさと居た堪れなさに心が攫われる。
しょんぼりと視線を下げたら、新垣さんが繋がった手を慰めるみたいに小さく揺らした。

「約束したでしょ。高校生になるまでは待ちなさいって」

落ち着いた大人の声だった。
えりなとは違う、大人の言葉だった。

中学を卒業したら。
高校生になるまでは。

その約束は、新垣さんと何度目かのキスの後、初めて同じように強請った時に新垣さんが言い出した事で、“高校生”というのが、新垣さんの中のボーダーラインらしかった。

けれど、えりなはそう線引きをされる度に寂しくて苦しくて切なくなる。
まるで子供扱いされているようで納得できない。
だって、たった1、2年の事だ。一体何が違うと言うのだろう。
今だって1、2年後だって、えりなはえりななのに。
333 :ボーダーライン :2012/03/29(木) 01:43

俯いたまま唇を尖らせたら、肩先に擦り寄られる感触がして、心と身体がびくりと跳ねる。
そろりと新垣さんの方を向いたら、えりなの肩に乗っかる前髪と鼻の頭が見えた。

えりなの膝の上で揺れていた繋がった手が、新垣さんの膝へそっと引き寄せられる。

「拗ねないの、……ばか」

至近距離で聞く新垣さんの声に唇をぎゅっと結んで、引かれた手に力をこめた。


「……すきだよ、いくた」


零れ落ちたように呟かれた言葉が心地よく鼓膜を刺激する。

新垣さんは自分の言葉がえりなにとってどれだけ大切で影響を及ぼしているのか分かっているのだろうか。
そのたった一言が、拗ねた原因もくすぶる感情も、えりなの全てを苦しくて泣きたくなるくらいに甘いそれに塗り替えてしまうという事を。
334 :ボーダーライン :2012/03/29(木) 01:43

心臓の奥をきゅっと掴まれたみたいな息苦しさに結んだ唇を解いて、小さく息を吐き出したけれど、鼓動も甘い息苦しさも一向に治まってはくれなかった。

堪らず新垣さんの小さな頭に額をすり寄せて、そういえば一人呼びつけられた理由をまだ聞いていなかった、と思い出したけれど、えりなの肌を溶かしてしまいそうな新垣さんの温度にえりなはすぐに考える事を放棄した。




おわり



335 :名無飼育さん :2012/03/29(木) 01:45

お疲れ気味の生田を見て生田を元気付けるガキさんと、大人のキスは高校生になってからという謎ルール設けるガキさんも書きたかったんですが何だかよく分からないものになりました。
お粗末さまでした。


>>319
ありがとうっす!
336 :名無飼育さん :2012/03/29(木) 13:31
ガキさんといるときの生田がかわいい
337 :名無飼育さん :2012/03/31(土) 22:49
生田さんから見る新垣さんはこんな風に素敵な大人なんでしょうね。
イチャラブな生ガキ最高です。
338 :名無飼育さん :2012/05/26(土) 20:28

武道館行ってきました。
立派にステージに立つガキさんと愛佳を見届けられて良かったです。

卒コンとは全く関係のない愛ガキ早く結婚しろ話です。
339 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:29



久しぶりに太陽が出ている時間帯に帰り着いた我が家。とは言うものの、世間は夕食の時間帯。
お腹は盛んに栄養をくれと急かしてくるけれど、撮影やら稽古やらでへとへとになった身体では食事を作る事はもちろん買ってくる事すら億劫で、あたしは着替えもせずにリビングのソファへダイブした。

うつ伏せで頬をソファに押し付ける。革のひんやりとした感触が気持ちが良い。
最近新調したこのソファは里沙ちゃんと選んだ物だ。
オフが重なる度に家具屋さんを巡って、ああでもないこうでもないと相談しながら決めた。
その時の里沙ちゃんの真剣は表情は今思い出してもなんだか微笑ましくなる。
他人の部屋の家具一つに家主のあたしよりも真剣に悩んでいた彼女。
一度その事をからかったら、これまた真剣な目で「だって私も使うんだし」と言われて、胸の中がじんわりと暖かくなったのを覚えてる。

ソファに頬を擦り付けて細く息を吐き出す。
ソファが届いた時の嬉しそうな彼女の顔を思い出すと胸の奥がぎゅっとした。
340 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:29

会いたい、会えない、会いたい。

もうどれくらいあの笑顔を見ていないんだろう。
最後に会ったのはいつだったか数えるのも嫌になる。両手の指じゃ確実に足りないはずだ。
お互い違う道に進むと決めた時点で、こうなる事は覚悟していたはずなのに、現実は想像以上に厳しかった。

声は電話で頻繁に聞くことができるけれど、もう、そんなのじゃ足りなかった。
ちゃんと会って、触って、抱きしめたい。
匂いと感触を確かめて、あの耳障りの良い甘えた声で名前を呼んでほしかった。

胸の奥がこれ以上ないくらいに切なく鳴って、目を閉じる。
次に会えるのはいつだったか疲れ切った頭で考えたけれど、スケジュールを確認するまでもなく当分先のことだと思い当たって、切なさは増す一方。
更に強くなる疲労感と空腹感に眠気が誘発されて、あたしは意識を手放した。

341 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:29


***


とんとんとん、と小気味の良い音が鼓膜を打つ。
次いで聞こえた、くつくつくつ、と何かを煮込むような音と共に、すきっ腹を刺激するおいしそうな匂いが鼻先を掠めて、あたしはゆっくりと瞼を押し上げた。

視界に入ってきたキッチンの入り口から光が漏れている。
寝ぼけた頭で電気を点けっ放しにしてしまったかとぼんやりと思っていたら、ひょこりと、今一番会いたくて会えない人が姿を表して、あたしは目を丸くした。

「あ、起きた」

違えようない耳に馴染んだその声に、がばりと上半身を起こす。
すっぴんの幼い顔、緩く後ろで結っただけの素っ気ない髪型、何より柔らかく笑んだその表情に一気に思考が覚醒する。
342 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:30

なんで、どうして、ここに彼女がいるの。
だって、今日も彼女は仕事はずだ。
数日前に会えないかと連絡した時には、時間が合わないからと寂しそうに言っていたのに!

突然の出来事に言葉が紡げずにいると、あたしをそうした当の本人はおかしげに片方の眉をひょいと上げて、エプロンを外しながらこちらへ歩いてきた。
そのエプロンを外した姿に、あたしは更に目を見開いた。

ゆったりした部屋着を押し上げるように、ゆるやかな曲線を描く彼女の腹部。
ぽこりと突き出たお腹の形には見覚えがあった。
少し前に事務所で偶然会った美貴ちゃんのお腹と同じだ。
今は可愛い赤ちゃんを産んで、美貴ちゃんのお腹は妊娠する前と変わらないぺったんこになっているけれど。
目の前に立っている里沙ちゃんのお腹は、妊娠した美貴ちゃんのそれと同じ形をしていた。

この間会った時はこんな風にはなってなかった。
里沙ちゃんのお腹はいつも通りちょっと硬くてぺったんこだった。
直接見て触って確かめたのだから間違いない。
でも、それじゃあ、このお腹はいったいどういうことなの。
343 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:30

ぐるんぐるんと頭の中で色んなどうしてが回っていくけれど、答えは一向に出てこない。
里沙ちゃんの大きくなったお腹を凝視して絶句していたら、上から「どーしたのよ」と不思議そうな声が降ってきた。
恐る恐る視線を上げて、こくりと小さく唾を飲み込んだ。

「や、やって、里沙ちゃんお腹が……」
「うん?」
「え、ど、…どーしたん?」

みっともなく震えてしまった声に、里沙ちゃんはまるで今更何を言っているんだと言うような顔をして小首を傾げた。
そうして、彼女は大きくなった自分のお腹を、優しく優しく小さな手のひらで撫でて―――。

事務所で会った美貴ちゃんの顔がフラッシュバックする。
嬉しそうに愛おしそうに自分のお腹を撫でる美貴ちゃんの姿。
その姿を見て、ああ、こんな風に女の子はお母さんになっていくんだ、とあたしは思ってた。
今、里沙ちゃんは、あの時の美貴ちゃんと同じ表情をしていた。
母になる、女性の顔だった。

里沙ちゃんは、妊娠している。

その細い身体に小さな命を宿している。
本能のような部分があたしに直接そう教えていて。
344 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:32

ずくり、と腹の奥底からせり上がってくる感情に一瞬目の前が真っ暗になった。
鼓動が早まって、こめかみのあたりがずきずきと痛み出す。
腹の底でぐつぐつと滾っているのは、それは、間違いなく、怒り。

引き攣る喉を無理やり捻じ伏せて、あたしは掠れた声を張り上げた。

「っ、誰の子なん!」

里沙ちゃんの肩が驚いたようにびくり震える。
訝しげに寄せられた眉に、だけれど、そんな事に気遣っている余裕なんてなかった。

だって、彼女が妊娠している以上、その相手の男性がいるということだ。
あたしが言うのもおかしいけど、里沙ちゃんはすごくガードが固い。
そういう事に対して人見知りな部分もあるし、何より真面目だ。
付き合っている人間がいるのに、遊びで他の誰かとそういう事になるなんて考えられない。
だから、彼女が妊娠していると言う事は、遊びじゃない人がいるということだ。

そう、―――あたし、以外に。
345 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:33

その事実に頭に上った血がすうっと引いて、代わりに吐き気にも似た重苦しい悲しみが胸の中を占めていく。
すきっ腹で吐き出す物なんて何もないのに、嘔吐きそうになって口元を片手で押さえた。
泣きたくなんてないのに勝手に涙が溢れてくる。
揺れ始めた視界。情けない顔を見られたくなくて俯いた。

ぐるぐるとお腹の辺りを這いずり回る黒い感情に、何に悲しんでいるのか、どこに怒りを覚えたのか、分からなくなる。
彼女に裏切られた事?あたしじゃない誰かを愛した事?あたしのモノではなくなってしまった事?
あたしではあげられなかったモノを誰かが彼女に与えた事?彼女が、母になる事?
分からない。
ただ、里沙ちゃんがあたしじゃない誰かとの命を愛しげに育んでいるという事実に、押し潰されそうだった。

本格的に涙が零れそうで両手で顔を覆う。
この状況で彼女に泣き顔なんて死んでも見せたくなかった。
346 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:33

暫く腹の底を這う感情をぐっと抑えるように俯いていたら、頭の上から溜め息が聞こえた。
出会ってからこれまで何度聞いたか分からないその音と共に、頭の天辺を優しく撫でられる感触。
髪の毛を梳いて流すようなその動きは、里沙ちゃんの癖だ。

「愛ちゃんこそどーしたのよ」

なでなで、なでなで。
優しく動く手のひらの感触と苦笑気味な優しい声音に心と一緒に涙腺まで刺激される。
目を閉じてなんとか堪えていた涙が零れそうになって唇をを噛みしめた。

どうしてそんな声であたしの名前を呼ぶの。
あたしじゃない誰かを、愛したくせに。

「誰の子って、愛ちゃん以外いないでしょーが」

そう、あたし以外……あたし?

聞き捨てならない一言に、俯いていた顔を勢いよく上げた。
その拍子にぽろりと一粒涙が転がり落ちたけれど、そんな事には構っていられない。

今、彼女は、なんて言った?
347 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:34

「あ、あんた何言うてんのっ」
「それはこっちの台詞だし。愛ちゃんこそさっきから何言ってんのさ」

拗ねたみたいな声音で、そのくせ優しい顔して、里沙ちゃんはあたしの頬に伝った涙を人差し指の背でそっと拭った。

「や、やって!あたしら女だし!」
「はあ…?ホントどーしたのさ。
 こないだまでは赤ちゃんにも身体にも良くないから、早く仕事休め休めってうるさかったのに」

こっちが恥ずかしくなるような顔してお腹に話しかけてたのはどこの誰よ、続いた言葉に呆然とする。
あたしが彼女の妊娠を知ったのはたった今だ。
仕事を休めなんて、ましてやお腹に話しかけた事なんて一度だってない。

それに、お腹の子はあたしの子だってどういう意味なのだろう。
あたしも彼女も女だ。そんな事、あるわけがないのに。

なのに。
なのに、里沙ちゃんの目や口調は嘘を言っているそれではなくて。
348 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:34

ただ彼女を見つめる事しかできないあたしを、口元に笑みを湛えた彼女は優しく見下ろしてくる。
涙を拭った指先がそっと頬を滑る感触がして、すぐに暖かな手のひらの熱があたしの頬全体を覆った。
そうして、眉の上あたりにそうっと落ちてきた彼女の唇の久しぶりの柔らかな感触が、戸惑いで固まったあたしの心をじんわりと溶かし始める。

あたしの頬に手のひらを添えたまま少しだけ顔を離した里沙ちゃんは、ねえ、と笑みを含んだ声で囁いた。

「今日はしないの?」
「…え?」
「お腹。いつもは帰ったら真っ先に触るじゃん」

楽しげに笑った彼女の顔と手のひらがそっと離れていく。
胸の奥が締め付けられるような顔をして笑う彼女から視線を下げて、大きくなったお腹を見つめた。

恐る恐る手を伸ばす。
逸る鼓動がまるで耳元で脈打っているかのように、どきどきと大きな音を立てた。
349 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:34

指先が、触れる。
壊さないようにそっとそっと手のひら全体を乗せた。
張りのある感触とじわりと染み込むような柔らかな熱。
今まで感じた事のないような感動に包まれて、手が、震えた。
胸の奥底からじわりじわりと全身へ染み込んでいくようなこの感情は何なのだろう。
悲しくもないのに鼻の奥がツンとして、暖かな感情が零れそうなのに胸が締め付けられる。

泣きたくなるくらいの感動に息を潜めてその感触をじっと感じていたら、静かな笑い声と共に頭をまた撫でられた。

「今日は大人しいんだね。いつもは煩いくらいに話しかけるのに」

ふふふ、と優しい笑い声に顔を上げると、声以上に優しい視線とかち合った。

その瞳にまた泣きそうになる。
里沙ちゃんの笑顔なんてそれこそ飽きる程に見てきたけれど、今、目の前に立つ彼女のその笑顔はいつも見ているそれとは少しだけ違っていた。
全てを包み込んでしまいそうな優しくて暖かくて、強い笑みは、いつか会った美貴ちゃんのそれと重なる。
何かを守ろうとする人の、お母さんになる人の笑顔だった。
350 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:34

彼女の手のひらの感触とその瞳の色に視線を外せずにいたら、とん、と手のひらを頼りなく押すような衝撃を感じた。
思わず手のひらを当てた里沙ちゃんのお腹に視線を移すと、また頭の上から笑い声が響く。

「今蹴ったね」
「蹴った?」
「ふふ、愛ちゃんが触るといっつも蹴るよね、この子」

やっぱりさ、と里沙ちゃんの声が続く。
優しい優しい声があたしの鼓膜を震わせる。


「やっぱり、ママが触ってるのは分かるんだね」


寸前のところで堪えていた涙が零れ落ちた。
一度崩壊した涙腺はもう元には戻らない。堰を切ったように後から後から溢れ出る。

苦しいくらいに胸を締め付ける感情を彼女に伝えたいのに、喉の奥が引き攣って言葉が出ない。
喘ぐようにしてやっと出した声は、みっともなく震えて嗚咽になった。
351 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:35

カラリとした笑い声と共に頬を撫でられる。
涙を拭うようなその仕草に、だけど涙は一向に止まってはくれなくて、呆れたような声があたしの名前を呼んで「泣き虫」とからかった。

お腹へ当てていた手のひらを彼女の腰の裏側へ回して、お腹に頬をくっつけて、力を入れないように注意しながら緩く抱きしめた。
再び頭へ戻ってきた彼女の手のひらが、労わるようにあたしの髪の毛をかき回す感触が胸を焦がす。
大きくなったお腹に頬ずりをして、そっと耳を押し付けると、とくりとくりと小さな鼓動が聞こえたような気がした。

自分の鼓動なのか、里沙ちゃんの鼓動なのか、それとも本当に彼女のお腹の中で眠っている小さな命の音なのか、あたしには判別できなかったけれど、ひっそりと呼吸を繰り返すようなその音に、締め付けられていた胸の痛みが甘く解けて溶けていくような感覚に陥った。
352 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:35


「なんかさ、早く愛ちゃんに会いたいって言ってるみたいじゃない?」


彼女に触れた部分から直接伝わるその声と小さな鼓動に耳を傾けながら、あたしはゆっくりと瞳を閉じて、感じた事のない幸福感に身を委ねた。



***


353 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:35



「愛ちゃん」

ぽんぽんと肩を叩かれて、閉じていた瞳を開けた。なんだか頭がぼんやりする。
さっきまで里沙ちゃんに抱きついていたはずなのに頬に感じるのは革の冷たさで、はて、と思いながら身体を起こすと、ソファの傍らに里沙ちゃんの姿があった。

けれど、その顔は幼いすっぴん顔じゃなくて、今にもお仕事できそうなくらいのばっちりメイクで、髪型も綺麗なお団子になっている。
服装も、さっきまで着ていた部屋着から、つい今しがた仕事から帰ってきたようなそれになっていて。
そうして。

「あれ…?」

そうして、ぽこりと大きくなっていたお腹が、見慣れたぺったんこに戻っていた。

「え、里沙ちゃん、なんで…」
「仕事が思ったより早く終わってさ。来ちゃった」

へへへ、と悪戯っぽく笑った彼女は、メールしたんだけど見てなさそうだね、と少しだけ呆れたように続けた。
あたしの“なんで”は彼女のお腹の変化に対しての事だったのだけれど、どうも上手く伝わらなかったらしい。と言うよりも。
354 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:36

今、目の前で起こった事をぐるりと思い出す。
優しいお母さんの笑顔で大きくなったお腹を撫でていた里沙ちゃんの姿。
あたしの頬を撫でて「泣き虫」と笑った彼女の顔。

両の手のひらを胸の前に広げる。
張りのあるお腹の感触が手のひらには確かに残っていて、その熱も胸の奥を焦がした感情もすぐに思い出せるのに、目の前に立つ彼女は数日前に会った時と何も変わってはいなかった。

不思議そうに小首を傾げる里沙ちゃんのぺったんこなお腹と、手のひらを交互に見やって、ああ、そうか、とさっきまでの出来事が夢である事を悟った。

それにしても、いやにリアルな夢だった。
感触も声も表情も、本当に彼女が妊娠したみたいで。
本当に、……あたしたちの子供をお腹に宿したみたいで。
355 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:36

そうしたら、胸が締め付けられるくらいの幸福感が蘇ってきて、涙が一つ零れ落ちた。
慌てて拭おうとしたら、それよりも早く里沙ちゃんの手のひらが頬を滑る。
夢の中で彼女がそうしてくれたように、そっと人差し指の背で目元を拭われた。

顔を上げるとあたしを見つめる優しい笑顔。
夢の中で見た包み込むような母親のそれとは違うけれど、それは、優しくて子供っぽいあたしが好きな里沙ちゃんの笑顔だった。

「泣き虫め」

夢の中の彼女の声と重なる。

視界が歪んで、里沙ちゃんの笑顔がぐにゃりと崩れた。
広げていた手のひらを彼女の腰の裏へ回して引き寄せた。
腕に馴染んだ華奢な感触を、今度は少しの遠慮もせずに強く強く抱きしめる。
女の子らしからぬ短い叫び声を上げた彼女は、けれど、少しの抵抗もせずにあたしに引き寄せられてくれる。
356 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:36

そんな彼女が愛しくてたまらなかった。

この華奢な身体を守りたいと思った。
この熱を手放したくないと思った。

あの時、あの夢の中で、小さな鼓動を聞いた瞬間、彼女の事も、もしかしたら本当に生まれてくるかもしれない子供の事も。

「…ぅう、ぜったい幸せにしたるからなぁっ」
「……意味分かんないんですけど」

誰よりも幸せにしたいと、あたしは思った。

情けなく震えた決意表明に、返ってきたのは、当たり前だけれど小さな笑い声と呆れたような言葉。
だけど、それでも良かった。
この決意は、あの夢の中で感じた幸福感と責任感は、あたしだけが知っていればいい事だったから。
357 :守りたいモノ :2012/05/26(土) 20:36

もう大きくはない彼女のお腹に頬ずりすると、頭の上にふわりと降ってきた手のひらの感触。
いつものあの撫で方で、するりと髪の毛を梳かれる。


「私は、……もうずっと前から幸せだよ」


ぽつりと落ちてきた言葉に、あたしは腕の力をそっと強めた。








おわり

358 :名無飼育さん :2012/05/26(土) 20:38

愛ガキ早く結婚しろ!

お粗末様でした。



>>336
>>337
生ガキも大好物なのでそう言って頂けるとすごくうれしいっす。
359 :名無飼育さん :2012/06/01(金) 08:46
何度読んでも綺麗な文章で惚れ惚れします。
愛ガキ早く結婚しろ!

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