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お誕生日メール

1 :名無飼育さん :2011/05/28(土) 00:03
このお話はフィクションであり、架空の道重さんと鞘師さんを中心としています。
2 :名無飼育さん :2011/05/28(土) 00:06
起き抜けの写真を添付して、ブログをマネージャーに送信し、一息つく。
座席に深くもたれ、小さな画面ばかりを見ていた目を休めようと、さゆみは車窓に視線を向けた。
街路樹が流れ、ビルが流れ、動いているのはこちらなのか、景色なのか、一瞬の錯覚をおぼえる。

タクシーは順調に走っていた。
到着まではまだ時間がかかりそうであったが、この調子でいけば遅刻の心配はない。
一眠りするか、歌の確認をするか。
さゆみはスマートフォンのロックを解除し、差し込んだイヤホンから覚える必要のある曲を聴く。
耳は仕事モードながら、ブラウザを立ち上げ、さあネットの海へ──と、
滑らかに動いていたさゆみの指が止まった。

「……やば」

思わず漏れたつぶやきに、運転手の視線を感じて、愛想笑い。
しかし、その笑いも長くは続かなかった。
スマートフォンを携帯電話に持ちかえて、せわしなく開いたり閉じたり、そして日付を確認しなおす。
3 :名無飼育さん :2011/05/28(土) 00:06
何度見ても何度見ても、今日は5月28日だった。
昨年までは特に意識して過ごすこともなかった日であるけれど、
さゆみにとって、今年からこの日は特別な意味を持つ。

新メンバーの鞘師里保。
彼女は本日、13歳の誕生日を迎える。
4 :名無飼育さん :2011/05/28(土) 00:06


「れーなっ! どうしよどうしよ!」
「は? なん?」

現場に着くやいなや、切羽詰まった様子で泣きついてきた同期にれいなは目を白黒させる。
さゆが寄ってくるなんてめずらしい。
瞬間、そう思ったが、いま集合場所にいるのはれいなと里保をのぞいた9期だけだった。
このメンバーではそうなるのも合点がいく。

「てか、最近れいな朝早いね。おはー」
「なんその切り替え!?」

わりと遅刻が多かったれいなだが、9期加入以降は、その回数も減ったと自負している。
さゆみは小刻みに跳ねながら、どうしようどうしよう、と繰り返す。
言動に一貫性がない上に、れいなには意味がわからない。
わずかに顔をしかめ、すぐに解く。

「さゆ、とりあえずこっち」

理由はわからないが、さゆみはひどく動揺していた。
9期にそんなところを見せるのは教育に良くないだろうとれいなは判断し、
さゆみの腕をつかんで廊下に引っ張る。
5 :名無飼育さん :2011/05/28(土) 00:07
ひとけのないドリンクコーナーで有無を言わせずあたたかい飲み物を与えると、
さゆみはひとまず落ち着いた様子だった。

「で、なんしたと?」

ちらりと壁掛け時計を確認すると集合時間まであまり間がなかった。
せっかく遅刻が減ったのに、ここで6期二人が遅れては威厳の示しようもない。

「……ずっと風邪引いとったし、ロケだったし、眠かったし、
 なに言っても言い訳になっちゃうけど、ほんとうっかりしてたの。
 さゆみ一生の不覚かもしれない」

唇を噛み、心底、悔しそうにさゆみが言う。
イッショーノフカクと言うくらいだから、よほどなにかがあったのだろう。
にわかに、れいなにも緊張が走った。
居住まいを正し、できるだけ柔和に、さゆみに尋ねる。

「それで?」
「……さゆみ、りほりほにお誕生日おめでとうメール、まだしてないの」
「ハァ?」
6 :名無飼育さん :2011/05/28(土) 00:07
ぽかんとするれいなとは対照的に、さゆみの表情は冴えない。
心なしか、目が潤んでいるようにさえ見える。

「どうしよう、サイアクだよね」
「今からすればよかやん? てか、もう直接言えば?」
「そうなんだけど」

さゆみは視線を伏せて、つぶやく。
「プレゼントも用意してない」
7 :名無飼育さん :2011/05/28(土) 00:07
先輩後輩の垣根を越えて、誕生日プレゼントを贈りあう──そんなしきたりが、
ふるくから娘。には存在している。
れいなもかつて先輩からスケスケの下着をもらった。
というのは置いておくにしても、プレゼント交換はもはや「絶対」のルールなのだ。

「まーガキさんあたりちょっとうるさく言うかもしれんけど、
 今日は忘れたって言えばよかやろ。時間ないけん、戻ろ?」
「ええっ、さゆみどんな顔して鞘師と顔あわせればいいの!?」
「知らんし……」

れいなは深く深く、嘆息した。
8 :名無飼育さん :2011/05/28(土) 00:07


サイダーを冷蔵庫に戻すと同時に、後方でドアが開かれる音がした。

「ちょっとぉ時間ギリだよ?」
「ギリセーフギリセーフ」

里保が振り返ると、愛とれいなが軽口を叩きあっている。すぐそばで愛佳も笑っていた。
朝から集合場所で会ったのに、里保が席を外している間にれいなはどこかへ行っていて、
そしてさゆみとはまだ顔をあわせていなかった。
荷物だけが置かれていて、どこに行ったのだろう、と思っていた。

所在なさげにさゆみは立っていた。
れいなの服の袖を引っ張り、すがるような視線を向けている。
その姿が、身長は大きいのに、なんだか小さく見えた。

頑張ってしげっピンク、とささやく声はこちらまで漏れ聞こえる。
不安げにうなずいたさゆみが真っ直ぐに──里保の前にやってきた。
9 :名無飼育さん :2011/05/28(土) 00:07
「……りほりほ」
「は、はい」

この世の終わりみたいな顔をして目の前に立つさゆみに、里保はどうしたらよいのか困惑した。
口を開こうとした、けれどきっと、そうしていたら舌を噛んでしまっていただろう。

「お誕生日おめでとうっ!」

ぎゅうううとやわらかい身体にかたく抱きしめられ、
とつぜんのことに、里保の身体は硬直する。

「ごめんねごめんねほんとごめん! 忘れてたわけじゃないの、
 さゆみ、里保ちゃんの誕生日を世界で誰より祝ってる!」
「え、あ、はい。ありがとうございます」

なにがなにやら、わからないままに、されるがままでいるしかない。
ぎゅうううの上に、ぶんぶん左右に揺すられて、酔いそうだった。
10 :名無飼育さん :2011/05/28(土) 00:08
「さゆ、鞘師に誕生日メールせんかったってチョー泣きそうやってさー」
「れいな!」

解放されたと思いきや、ニタニタ笑うれいなをさゆみが顔を真っ赤にしてにらんでいる。
その対比に、里保は思わず吹き出した。

「あっ、りほりほヒドい。さゆみのこと笑ってる!」
「だって、道重さん、顔真っ赤ですよ」
「里保も真っ赤やけど」

カシャ、と横方向からシャッター音が聞こえて、
そちらを見ると衣梨奈がにんまりと笑って携帯電話をこちらに向けていた。

「あ、それ私にも送って」
「さゆみにも!」

聖とさゆみが衣梨奈にがっつく。
いいですよーと里保の許可も得ずに衣梨奈はうなずき、ささっと携帯電話を操作する。
11 :名無飼育さん :2011/05/28(土) 00:08
「ちょっとー! 衣梨奈ちゃん! 聖ちゃんに道重さんも!」
「別に減るもんじゃなかし〜」

飄々とする衣梨奈に、顔を真っ赤にしている里保。
それを見て、目と目で合図を送りあっているさゆみと聖。

「どうなんだろうねえ」
「どうなんでしょうねえ」

お煎餅、もう一枚食べていいですか? と尋ねる香音にうなずきながら、
里沙は紙コップからお茶をすすった。
12 :名無飼育さん :2011/05/28(土) 00:08

13 :名無飼育さん :2011/05/30(月) 00:54


己の体力のなさを呪った、けれど、仕事を優先しないわけにもいかなかった。
テーブルの向かい側では里保がちびちびとジンジャーエールをなめている。

目の前のブラックコーヒーだったものはすっかり色をかえて、甘さも格段に増した。
かっこつけないで最初からカフェオレにしとけば良かった、と思いつつさゆみも
ストローに口をつける。
14 :名無飼育さん :2011/05/30(月) 00:55
メンバー全員での収録終了後、さゆみは次の仕事まで時間が空き、里保は母親の迎えが
くるまでまだ時間があった。一旦会社に戻る、というマネージャーについてきたものの、
さゆみたちが伝票整理をするわけにもいかない。

ここで外に遊びにでも連れ出せればポイントアップなのかもしれなかった。
東京のおもしろいところ教えてあげるよ、とか言って。

しかし、さゆみはそこまで外遊びに熱心な方ではないし、次の仕事が控えている以上、
うろうろして疲れてしまうのは避けたかった。
相手が里保では、ダンスを教えてあげる、というのも選択肢としては消えてしまう。

参ったな──と顔に出したつもりはなかったのだけれど、「お茶でもしとけば?」と
マネージャーから出された助け船にとびのり、いまに至る。
15 :名無飼育さん :2011/05/30(月) 00:56
会社の一階にはカフェのような、対談をしたり、番組収録をしたり、
イベントが催されたりとなんでもありなスペースがある。
ユーストリー娘。もここから配信されていることをさゆみは思い出した。

オンタイムでみることはなかなか叶わないが、いまの世の中、見逃しても
その気にさえなれば、どうとでもなる。
ただし、それをブログに書くわけにもMCで話すわけにもいかないのが困りものだ。
16 :名無飼育さん :2011/05/30(月) 00:57
かわいい後輩のことを気にかけすぎているくらい気かけているさゆみであるが、
里保にとってのさゆみは「お誕生日おめでとうメールもしなかった上にプレゼントを
持参もしない先輩」である。自業自得とはいえ、肩身が狭い。

里保が面と向かってそういうことを言うわけはないけれど、だめな先輩だと
思われているに違いなかった。

「あの」

ぐるぐると考えごとをしていたら、緊張をはらんだ声で呼びかけられ、反応がにぶくなる。

「ん?」
「あの、道重さんは、ユーストリー娘。みてくださってる、んですか?」

一瞬、思考が外にもれでたのかと心配したが、里保もこの場所だから話題に出したのだろう。
この会社に入って9年目のさゆみはもちろん、一度でも配信を見ればここだとわかる。
17 :名無飼育さん :2011/05/30(月) 00:57
「えー、あ、うん。みられるときはみてるよ。でも、
最近あんまあってる時間におうちにいないんだよね」

考えながら、ぼかして返す。
その返答にふにゃんと笑う顔に、ふと、いたずら心がわく。

「そうだ、ブログのコメントで読んだんだけど、りほりほさあ」

配信の中で、好きな先輩をきかれた里保がさゆみの名前を挙げたことがあった。
いままで敢えて触れずにいたことに、さゆみは触れようとしていた。

よほどいじわるい笑みをしているのだろう、里保の表情がかたくなるのが見てとれる。
しかし、これは里保から落とした爆弾だ。

「さゆみのこと好きなんだって?」
18 :名無飼育さん :2011/05/30(月) 00:57
「好きですよ」

にっこりと、上手すぎるくらいにほほえんで里保は言う。

そんなにあっさり返されるとつまんないんだけど。

思ったけれど、さすがにそうは返さない。
タイミングまちがえたかな、と少し悔やんだ。

「さゆみも里保ちゃんのこと好きだよ」

臆面もなく言うと、里保もさすがに照れた様子で首をぶんぶん横にふった。
カワイイ、とつぶやきがもれて、それも聞こえたのか、ごまかすように
ジンジャーエールに口をつけ、「ありがとうございます」と小さく頭を下げる。

「ありがとうとかいいんだって。むしろ、こんなにかわいく生まれてきてくれてありがとうだよ」
「道重さんの方が、かわいいです」
「だからいいんだってばー」

そりゃそう言うしかないのだろうけれど、優等生な返ししかしてもらえないのは
少し、さみしい。困ったように笑って、里保がぽつりと言う。

「自分カワイイって、全然言わないんですね」
19 :名無飼育さん :2011/05/30(月) 00:57
「やー言わなくてもそれ当然だし?」

ふざけたセリフに里保も笑うかと思ったら、困り顔の色が濃くなった。

「あの、失礼なこと言うかもしれないんですけど」
「え、なになに」

めずらしい切り返しに、思わず身体が前のめりになる。
ちょっと半身を引いた後に定位置に戻ってから、言いにくそうに里保は口を開いた。

「私、加入する前にテレビで道重さんのことをみていて、ほんとにそういう方
 なんだと思ってしまっていて。だから最初の頃のイベントでも怖い先輩はって
 きかれて、名前出しちゃったり。だけど、道重さんほんとはすっごく優しくて、
 よくしてくださって、ずっと、謝らなきゃって思ってて。……13歳になる前に、
 謝るつもりだったんですけど」
「えええ、イベントのことまだ気にしてたの?」
「そうじゃなくて、勘違いしてたことです」

困り顔はすっかりうつむいてしまった。
さらさらの髪が流れて、テーブルに垂れる。
20 :名無飼育さん :2011/05/30(月) 00:58
「……りほりほがテレビみてくれて、さゆみのこと知ってくれてたってだけで嬉しいよ」

さゆみの言葉に、しゅんとしてしていた里保が顔をあげた。

「みんなに好かれるキャラでテレビ出ようと思っても難しいし。
 そりゃ嫌われるより好かれたいけど、まず知ってもらわなきゃ
 いけないから。知られてなかったら、存在しないのと一緒だから」

加入してまだ半年、13歳の子にする話ではない、と気づき、真剣な
トーンに移行していたのを、さゆみはあわてて軽い口調に変える。
21 :名無飼育さん :2011/05/30(月) 00:58
「やー、にしても、さゆみのかわいさは広島の小学生にも
 届いちゃってたかーやっぱテレビはすごいねえ」
「だからあの」

さゆみの転調にはのらず、食い下がるように今度は里保が身を乗り出す。

「私、道重さんはすごいなって思ってて。だから、好きって言ったのも
 全然うそじゃないんです。……あんまりみんな信じてくれないんですけど」
「それはひどい話だねえ」

苦笑まじりにストローをくわえる。
だが、さゆみは周囲の反応に納得できた。
好きな先輩に挙げるということは尊敬の意がふくまれている。
里保はエースの系譜だ。さゆみの名前を挙げると違和感があるのはそのせいだろう。
本意ではないが、さゆみは歌もダンスも特段優れた評価を受けているわけではない。
22 :名無飼育さん :2011/05/30(月) 00:59
「だけど、道重さんだけには誤解してほしくなくって」
「うん、わかった。ありがとう、嬉しいよ」
「好きです」
「もーわかったって。それともなに、愛の告白?」
「そうです」

え、と視線を上げる。
「うそですよ」の言葉もなく、里保は笑っていなかった。
23 :名無飼育さん :2011/05/30(月) 00:59

24 :名無飼育さん :2011/05/31(火) 00:42
期待!!
文章がとても綺麗で引きこまれます
この先どーなっちゃうんだっ
25 :名無飼育さん :2011/05/31(火) 12:41
こーゆーの待ってました
続きが楽しみです
26 :名無飼育さん :2011/07/04(月) 00:41
期待
今後の展開が楽しみです
27 :名無飼育さん :2011/09/10(土) 22:16
実際鞘師さんって道重さんに
なついてますよね。
加入当初のイメージと変わりましたよ。

9期絡みの小説は少ないので嬉しいです。
続きを楽しみにしてます。

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