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空の色

1 :作者 :2009/02/04(水) 00:33

りしゃみやです。シリアスめです。
稚拙な文章ですがよろしければ読んでいってください。
2 :作者 :2009/02/04(水) 00:35




半分錆びた階段をカンカン言わせながら上る。
大分前から蛍光灯は切れていて、四階からは薄暗い道を探りながら歩いていく。
しかしもう慣れたもので足元に少し注意しながらもさっさと進むとほどなく
行き止まりが見えてきた。
錆び付いたドアの真ん中には同じく錆びているドアノブ。
手を掛けて回しながら思いっきり体重を掛けて押す。
ギィイと音を立てながらゆっくりと開いていく。
徐々に真っ白な世界が広がる。
実は鍵が掛かっていないことを殆どの生徒が知らないらしく、
校内では暗黙の立ち入り禁止場所のようになっている。
だからここで誰かに鉢合わせしたこともない。
サボるときや息抜きしたいときには格好の穴場になっていた。

重いドアを閉めながらふぅと息を吐き、屋上に上り立った。
中央で一回転しながら、いつものように空を見渡す。白一色。一面の曇り空。
いつから空を見上げるのが癖になったかなんて分からないほど、
今では無意識にしてしまう行動。
いつから、じゃなく誰のせい、なら完璧に分かるのだけれど。
3 :作者 :2009/02/04(水) 00:36

強い風が吹き抜けて髪を巻き上げる。マフラーをきつく締め直した。
今度は端まで行き鉄柵に肘をついて下を眺めると、どこかのクラスが
ハンドボールをしているのが見える。
寒いのによく動くもんだ、と見下ろしながら左手をカーディガンの
ポケットに突っ込んで手に触れた箱を掴んで取り出した。
白いタバコの先にオレンジを灯す。
一口吸うとそこから白い煙がぷかりと現れた。

『タバコはダメだって。学校じゃ特にだめ!』
4 :作者 :2009/02/04(水) 00:36
いつか聞いた声が脳に響く。隣を見てもその声の主は居ない。
そんなことは分かりきっていたのについ、首を左に向けた。
もちろんそこには、真っ白な世界。頭と心が一瞬で冷えていく。
ため息が出た。

断ち切ろうとしたのは自分からなのに、なぜこんなに辛いのだろう。
こんなに忘れられないんだろう。
胸が痛くなって堪えようときつく目を閉じた。

5 :作者 :2009/02/04(水) 00:39


―――



その日の掃除の分担場所は玄関だった。
そのまま帰れるようにと鞄を下駄箱の上に置き、
ロッカーからホウキを取り出して、適当に砂を掃いていた。
昇降口に溜まっていたのは雨が降っていたから砂と言うか
泥のようなもので、それを校舎から追い出す作業をした。
大体綺麗にしてじゃあお疲れ、と同じ当番のクラスメイトと別れ、
ローファーに履き替え校舎を出る。

傘をさしていたし、水溜まりに気を付けながら
少しうつ向いて歩いていたから、周りをほとんど意識していなかった。


「夏焼さん。」

正門を通り過ぎようとすると突然前から声をかけられ顔を上げる。
6 :作者 :2009/02/04(水) 00:39

目の前には自分と同じくらいの身長に、
栗色の髪をした妖精みたいな可愛い顔。
他のなにかと比較しないでも顔が小さいのがわかった。
二三秒見つめて、とりあえず見覚えはない顔だと認識した。
同じ制服を着ている。
同学年ではないから先輩か後輩だろう。

「夏焼雅さんですよね?二年の。」
「そうですけど……えっと?」

語尾を上げて何か用ですか、と問う。

「あたしは菅谷梨沙子。一年生です。よろしくね。」
右手を掴まれて握手される。自己紹介をしてほしかったわけじゃないけど。

スガヤリサコ。
7 :作者 :2009/02/04(水) 00:39

その名前は聞いたことがあった。
四月くらいに男子が騒いでた中心にあった名前だ。
今年の一年生で一番可愛いとか、どうとか。
つーか後輩の癖にタメ語かよ。思ったけれども愛想笑いをして
彼女の次の言葉を待った。

「付き合おうよ、あたしと。」

こんな突拍子もない告白を受けてしまったのは何でだったのか。
時が経って客観的に考察できる今でも謎は解けない。
一番近いと思うのは、彼女が魔女であるから、
という冗談にしかできない回答。
初対面で告白をされたことがないわけでもないし、女の子にも
告白をされたこともあった。
そしてもちろん両方即答で断った。
だからきっと魔法にかけられていたんだ。
8 :作者 :2009/02/04(水) 00:40

そういうわけでなぜか梨沙子の自信がありそうな笑顔を見ていたら
こくりと頷いていた。
瞬間、梨沙子は顔を真っ赤にして眉毛を情けなく下ろし、

「よかったぁ………。」

泣きそうな声で呟いた。

うなずいた理由は分からなくても恋に落ちたのはこの時だと、
はっきり言える。
9 :作者 :2009/02/04(水) 00:40

じゃあ今週の土曜日開けておいてね、とまだ繋がれていた右手を
ぎゅうと握りながら約束を取り付けると、
梨沙子はふらふらとした足取りで去っていった。
その後姿を見ながら、サアアという優しい雨の音のなかで、
しばらく立ちすくんでいた。

10 :名無飼育さん :2009/02/04(水) 03:25
お、なんか面白そう
期待期待
11 :名無し飼育 :2009/02/04(水) 18:51
りしゃみや期待
12 :名無飼育さん :2009/02/04(水) 19:31
続き楽しみいいい!!
13 :名無飼育 :2009/02/05(木) 00:17
お〜!りしゃみやああああああハ━━━(;´Д`)━━━ン!!!!
14 : :2009/02/05(木) 21:16



2時に学校の最寄り駅で。
お互いに住んでる場所も知らないので分かりやすくそう決まった。
名前と顔しか知らない相手と付き合うだなんて考えてみると
順番がめちゃくちゃだ。
だけど服を選びながら、電車に乗りながらひたすら、
わくわくしていた。
何かが始まるような期待と、少しの不安。新学期のような気分。

待ち合わせ場所に着くと、襟にファーの付いた膝までのコートに黒のタイツ、
同じく黒の細めのブーツを履いた女の子が立っていた。
全身黒に白い肌が良く映える。
遠目でも顔の小ささから梨沙子だと分かった。

「菅谷さん!」

名前を呼んで小走りに近付く。彼女はこっちを振り返って微笑んだ。

「みや!おはよう。」
15 : 2 :2009/02/05(木) 21:16

呼び捨てだったけど既に初対面でタメ口だったから
気にしないことにした。
普通の声で会話ができる程度まで近付くと、
梨沙子はうちの全身を目線で辿った。

「やっぱりみや、おしゃれだ。」

今日の服装はフードにファーがついたダウンにショートパンツ、
それにニーハイブーツで足を隠して防寒対策、といったところだ。
特に気を使ったつもりもなく、休日に遊ぶときの格好。

「そうかな?菅谷さんこそ大人っぽいね。黒好きなの?」
「うん!魔女にあこがれてるから、黒、好き。」

外見に似合わずその言葉と無邪気な笑顔は子供っぽくて、可愛かった。
しかし魔女って。つい小声で呟いてしまう。

「ん?ばかにしてるー?」
「違う違う。えっと可愛いなと思ったの!」

「可愛い」に反応したようで曲がりかかったご機嫌はすぐ元通り。、
一緒に行きたいところがあると彼女はうちの手をとって歩き出した。
16 : 2 :2009/02/05(木) 21:17

向かい合って会話をするより並んだほうが
顔を見なくて済む分、緊張しない。
人見知りなはずの自分を忘れるくらい自然に話せて笑えた。
電車に揺られながら友達のこと、学食の好きなメニュー、
先生の愚痴、昨日見た夢の話、最近出たおいしいお菓子の話、
とりとめも無い会話は途切れること無く続いた。
数十分の間に梨沙子と下の名前で呼べるくらいには打ち解けることができた。
その中で伏目がちに話すこととか、テンションがあがるとおかしな
笑い方をするとかいう、小さな発見もいくつかしたり。

不意に梨沙子が電光掲示板を見上げて、次の駅が目的地であることを告げた。
うちはあまり土地勘が無い場所だ。

「どこいくの?」
「んー、ここで降りるので分かんないってことは、
みや行った事無いかもね。」
17 : 2 :2009/02/05(木) 21:17

はっきりとした答えを聞くことはできずに電車を降りて、
さらに歩くこと十分。
見覚えのあるような無いような風景が過ぎてゆく。
梨沙子はご機嫌なようで、軽い足取りで楽しそうに歩いている。
その足取りに合わせてふあふあとファーが上下して生き物のように動く。
何回か道を曲がって小高い丘を登っていくと、白い建物が見えてきた。

「とうちゃーく!」
「プラネタリウム・・・?」

小さな市民博物館の中にあるそのプラネタリウムは、
子供の頃一度だけ家族で来た記憶があった。
なんだか一回り小さくなったように感じるけども。
18 : 2 :2009/02/05(木) 21:18

自動ドアを抜けるとこじんまりとした空間に入場券の販売機と
その横に受付、奥には黒いカーテンのかかった入り口が見えた。
販売機にお金を入れて『中高生』のボタンを押して
二枚チケットを買うと、一枚を梨沙子に渡す。

「え……あ、ありがとう!」
なぜだか大きな声でお礼をされる。
受け取ると、大げさな位大事そうに財布の中にしまった。

「ってまだ入ってないのにしまっちゃダメでしょ。」
苦笑交じりに突っ込む。
少しぼけたところがあるらしい。
頭を軽くぽんとたたいて、慌ててもう一度取り出している
梨沙子の横を抜けて、自分のチケットを受付に渡す。
振り返ると梨沙子は戻ってきた半券を、また丁寧に財布に戻していた。
ただチケットを買ってあげたくらいでそこまでの扱いを受けるとは
思ってもいなくて、嬉しくもありなんだか少し照れくさかった。
19 : 2 :2009/02/05(木) 21:18

天井が高い暗幕で覆われた球状のその空間には、真ん中に
この部屋に満天の星空を輝かせるであろう大きな機械と、
それを半円で囲うように配置された映画館にあるような座席。
人はほとんど居ない、というか片手で数えられるほどで
親子連れが二組、席を埋めているのみだった。

「みや、後ろのほういこ。後ろの真ん中。」

梨沙子が先導して席に着く。室内は暖房がよく効いていて、
ダウンを脱いで膝にかけることにした。

「プラネタリウムなんて十年ぶりくらいかも。」
「そうなの?あんまり、星とか見ない?」
「うーん、見ないかなあ。この辺りじゃあんまり見えなくない?」
「意外と晴れてる日は見えたりするよ。特に冬は空気も澄んでるし、
月とかすっごい綺麗。昨日も綺麗に見えたよ。」
「梨沙子は月とか良く見るの?」
「うん!空を見るのがすきでね、昼間も見るし、夜も。」
20 : 2 :2009/02/05(木) 21:18

ブーーというブザーの音が会話を遮り、
プラネタリウムの開演を告げた。
ゆっくりと照明が絞られていき、真っ暗に近付く。

「今日は当館にお越し頂きまことにありがとうございます。
ただ今からプラネタリウムの上映を始めます。
今の季節は、冬の天体の上映となります。」

アナウンスが聞こえて、完全に空間が闇に包まれる。
そして満天の星が広がる。夜空に宝石がちりばめられたような輝き。
思わず気持ちが高まる。
冬の空に見られる星座の解説と、それに纏わる物語。
「オリオン座」とか「シリウス」など耳にしたことがある
名前も入ってくる。
ちらりと隣を見ると薄暗い中で真上を見上げる梨沙子の横顔が見える。
その表情までは見えないが、きっと真剣な目をしているだろうなと思った。
同じように空に向き直ると、アナウンスに耳を傾けて星座を見つける。
21 : 2 :2009/02/05(木) 21:19


夢中でそうしているうちに、数十分が経っていた。
徐々に空は明るくなっていき、星たちは光を弱めていき、終了の挨拶が入る。
首をゴキゴキ鳴らす。ずっと上を見上げていたせいで少し凝ったようだ。

「終わっちゃったね。行こうか。」

ダウンを着ながら声をかける。梨沙子は満足そうな顔で頷いて、
席を立った。
22 : 2 :2009/02/05(木) 21:20

外に出ると既に少し日は地平線に顔を沈めていて、
世界はオレンジ色に彩られていた。
そういえば今日もいい天気だ。顔を上げると雲ひとつも無い快晴。

「空見てると落ち着くんだ、なんか。」
後ろから声が聞こえて、振り向く。
おんなじように空を見上げる梨沙子が居た。

「空の広さみたいに気持ちがひろがってく気がするの。
天気いいとそれだけで嬉しくなるし、綺麗な月とか星見るのも嬉しくなる。」

そう続けて真上をみたままにっこり笑う。
それに倣ってもう一度空に向き直った。
空なんてまともに見ているのは、どれくらいぶりだろう。
丘の上だからだろうか、特に高いビルや建物が無い場所で
何にも遮られず空を見渡すことができた。
広い空。
なにも動くことが無い場所。時が止まっているように感じる。
23 : 2 :2009/02/05(木) 21:20

「確かに癒されるね。」
「でしょう?」

梨沙子の言うとおり、心が広がりをもって、すっと晴れていく気がした。
顔を合わせると、二人とも穏やかな笑顔になる。
なにかが通じている確かな気持ちを感じた。
少し風は冷たいけど、背中からは暖かい夕日。
街並みも横顔もオレンジに染まる。
のんびりとした雰囲気が二人を包んでいた。
24 :作者 :2009/02/05(木) 21:21

今日はここまでです。短くてすいません。
りしゃみや人気あるんですね。がんばります。
25 :名無飼育さん :2009/02/07(土) 01:18
これまでのこととか、これからのこととか、いろいろ気になります。
続きを楽しみにしてます。
26 : 3 :2009/02/08(日) 23:54


ダンス部と美術部では活動日程が違うし帰る時間も違う。
それなら昼休みくらいは一緒に過ごそうと決まり、週明けの月曜を迎えた。
一年生のクラスは4階で、学年が上がるごとに地上が近くなる。
昼休み開始のチャイムが鳴って教室を足早に出ると、
梨沙子の降りてくるのを3階の階段の踊り場で待った。
程なく合流して二人で学食のある地下まで降りていく。

広い螺旋階段を二人で下りているとなぜか階下からは好奇の視線。
なにか最近目立つことやったっけな、と記憶を辿ってみても特に思い当たる
節は無い。不思議に思っていると同じクラスの千奈美が駆け寄ってきた。
27 : 3 :2009/02/08(日) 23:55


「みや!菅谷さんと知り合いなの?」
「なんで梨沙子知ってんの。」
「いや、フツーに有名だし。可愛いじゃん。」
いいなああたしも友達になりたい!と梨沙子に握手を求める千奈美。
戸惑いながらそれに答える梨沙子。

有名。


学年を隔てても名前と顔が知れるほどの’有名人’なんて
サッカー部のキャプテン、とか野球部の4番、くらいのもんだろう。
こいつやるじゃん。ちょっと尊敬の眼差しを送る。
28 : 3 :2009/02/08(日) 23:55

「っていうかみやも有名だし。二人揃ってるからみんな見てるよー
特に男子。」
ぐへへ、みたいな笑い方をして千奈美が突付いてきた。
ああ、この視線を感じる理由はそういうことだったのか。
なんだか少しめんどくさいな。髪をいじりながら思った。

「とりあえず、すわろっか。」

じゃあねちい、と手を振って空いている窓側の席に梨沙子を誘導する。

沢山の会話の洪水が周りで起こっていると、それは言葉では届かず
ざわざわとかがやがやと言った音で届くものだ。
それに加えてちらちらと視線が無遠慮に寄せられる二人での学食は、
なかなか居づらい空間だった。
29 : 3 :2009/02/08(日) 23:55

周りをさっと見回すとすごい速度でそっぽを向いてしまう人たち。
これじゃあ見世物だ。
目の前に座る梨沙子を見ると、俯いてしまっていて表情が分からなかった。
さっさと食べてここを出よう。そう思って梨沙子に声をかける。

「梨沙子、何食べ」
「みや!」

弾かれた様に突然顔を上げてしゃべりだした梨沙子に遮られる。
あ、ごめん、なに?いやいいよ先言いな、なんてやりとりをして譲る。

「他んとこ行かない?」
30 : 3 :2009/02/08(日) 23:56



四階を通り過ぎて、更に上っていく。くるりと階段を曲がると途端に
薄暗くなり、トントンという足音がカンカンに変わる。

「入れたんだね、屋上。みんな立ち入り禁止って。」
「実はね。多分知ってる人、ほとんど居ないよ。」

その限られた知っている人も、うちのようにきっと誰にも言ってない。
にだからこそこうやってひっそりと秘密は守られているんだろう。

「このへん色々置いてあるから足元気をつけて。」

後ろに手を向けるとぎゅっと握られる。こちらも握り返す。
引っ張りながら歩いていくと行き止まりが見えてきた。

「この扉、思いっきり押せば開くんだ。」

ドアノブを握り、全身の体重を乗せる。
梨沙子も後ろからそれを押してくれる。
二人分の重みでいつもより勢いをつけて扉が開いた。
31 : 3 :2009/02/08(日) 23:56
まぶしい光が薄暗い空間を一気に照らし、一瞬目を瞑る。

「わあ……。」
後ろから感嘆の声。目を開けると、青空。
梨沙子がうちを追い抜いて屋上に走る。頬を緩ませながらそれに続いた。
そのままはしゃいだように中央で一回転して、
みやすごい!とこちらに向かって叫んでいる。
笑いながら後ろ手で扉を閉めると、ゆっくりと近付いていった。

「穴場でしょ。」
「すごい!すごいよこれ!」

はしゃいだまま端っこまで走っていき下を眺め、続いて逆サイドの
ほうまで走っていった。ぴょこぴょこと白いウサギみたいだ。
少し風は冷たいけど、なんだか一人よりも狭く感じるけど
彼女のとても嬉しそうな笑顔を見ると、ここに連れて来て
よかったと思えた。
32 : 3 :2009/02/08(日) 23:57

まだ走り回っている彼女の後ろで、カーディガンのポケットに
手を突っ込んでタバコを取り出し、口に咥える。
振り返った梨沙子はそれを見つけると少し顔をしかめた。

「みやタバコ吸うんだ。」
「ああ、まあ。」

なんとなく曖昧に返す。手摺から離れて梨沙子が寄ってくる。

「タバコよくないよー。やめたほうがいいよ。」
「んーまあ、そのうち。」

また歯切れ悪く答えて、煙を吸い込む。ゆっくりと脳までニコチンが回って
すこし感覚がぼやける。今日の一本目だからヤニクラだ。

「なんで、吸ってるの?」
「昔友達が吸ってて、なんか流れってやつ?気づいたら癖になってた。」
「口さみしいの?」
「んー、そうかもね。」

煙をゆっくり吐き出しながら横顔で答えた。もうこの子の前では吸えないな。
少しうつむいて指先で軽く灰を落とす。
するとカーディガンの裾を引っ張られたので、梨沙子のほうを向いた。
33 : 3 :2009/02/08(日) 23:57


あれ、こんなに近くに顔がある、と気づいたら、キスをされていた。

「口さみしいなら、こうすれば。」
やめられるんじゃないタバコ。変に倒置法を使い、早口で言うと
くるりと背を向けた。
うわ、びっくりした。
確実に顔の温度が上がっていくのが分かった。それと同時に鼓動が
早まっていく。
っていうか自分でしといて恥ずかしがるって。こっちのが恥ずかしいよ!
心の中で叫んで顔を抑えた。

「……みや?」
不安げな声と同時に肩に手を置かれる。
その手をすばやく掴んで、梨沙子の唇を正確に狙う。

お返ししてやった。
34 : 3 :2009/02/09(月) 00:01

もらったキスみたいに触れるようなものではなく、
感触が残るほどには時間を置いてからゆっくりと唇を離す。


「やめられるかもね。」

タバコ、と付け加えて倒置法までお返し。
梨沙子は真っ赤になって口をおさえていた。
35 : 3 :2009/02/09(月) 00:02


それからこの場所は一人じゃなく二人の場所になった。
ご飯を食べて、くだらない話をして、たまに二人して眠ってしまって
5限目を寝過ごしたりしたこともあった。
まあいっかなんて暢気なうちとは違って梨沙子は頭を抱えていたけど。

この頃を思い出すと、光の粒の舞う中に、ただ無邪気な子猫みたいに
じゃれている二人の姿だけが蘇る。
何を話していたか、どんなご飯だったかとかはなんにも覚えていないけど、
その光景だけは鮮明に頭に焼きついていて、今でも間単に取り出せる。
もしかしたら一番、幸せな時期だったのかもしれない。
何も知らないで笑い合えた。夢のような、時間だった。
36 :作者 :2009/02/09(月) 00:03
ここまでです。

>>25さん
楽しんでもらえていたら、嬉しいです。やる気がおきます!
37 :名無飼育さん :2009/02/09(月) 00:06
リアルタイムで読めた!

なんだか綺麗な映画を見ているような気分になりました。
すーっとお話に引き込まれます。
続きが楽しみです。
38 :名無飼育さん :2009/02/11(水) 23:04
夏焼さんが頭よさそうw
夏焼さん視点いいです!
39 :名無飼育さん :2009/02/12(木) 08:29
続きが気になるうううう!!!
40 : 4 :2009/02/12(木) 12:08


だいぶ暖かくなってるとはいえ、自転車で冷たい風を真正面から受けて
走っているとまだ春は程遠く感じる。ハンドルから片手を離して、
首に巻きついている桜色のストールきつく巻き直した。
川沿いの桜並木の下を、まっすぐに進んでいた。頭上にはまだまだ
咲きそうに無い小さく蕾のついた裸の枝が寒そうに揺れている。


「うそ、二駅先じゃん。そのケーキ屋さん、うちの家族の
バースデーケーキいつも買うとこだよ。」
「ほんと?」
「全然自転車でいける距離。」
41 : 4 :2009/02/12(木) 12:09


夕べ梨沙子から電話がかかってきた。
付き合ってるということにはなっているけど、うちらは休日に
デートしたのもプラネタリウムの一度きりだったし、冬休みなんて
一度も会わなかった。メールや電話もたまにするくらいで、
屋上での逢瀬と、そのときに気まぐれにするキスを除けば、
二人の関係は友達に近いものだった。

久しぶりの電話で、梨沙子の家の近くのケーキ屋さんがおいしい、
という話から地元トークになって判明した、家が近所だったという事実。
それにちょうど明日はなんの予定も無いという話をしていた。それなら、
と梨沙子の家に行くことになったのだ。
42 : 4 :2009/02/12(木) 12:10

待ち合わせはそのケーキ屋さんの前だった。
次の角を右に曲がればすぐに見える、赤い屋根。
ブレーキを利かせてハンドルを曲げて、体を少し横に倒す。
梨沙子はこちらのほうを向いて待っていた。
片手を離して、軽く挙げる。

「おっすー。」
「おうっすー。」

自転車を降りて足でスタンドを下ろす。正面に立って目を
合わせる。
学校があるときは週五で見ていた顔だから、少し会わなかった
だけで久々に感じる。やんちゃな子犬の目の色で梨沙子は笑った。

「だいぶ暖かくなってきたね。」
「ねー!うちの近くの公園、もう桜咲いてるよ。」
「うっそ。」
43 : 4 :2009/02/12(木) 12:10

話しながら前を歩いて誘導してくれた。
薄い色の膝丈のスカートを少しなびかせながら、たまに振り返
ってついてきていることを確認してくれる。

「わりとね、すぐつくから。」

穏やかな昼下がりの陽光が梨沙子の髪を透かしている。
色素の薄い梨沙子は地毛自体も少し茶色いけれど、光を受けると
たまに金髪に見えることもある。
綺麗だなあと見とれながら少し離れて自転車を押しながら歩く。

五分ほど歩いて梨沙子が止まったのは高層マンションの前だった。
特に汚れは見当たらない白い外壁からは、わりと最近に建ったことが
伺えた。
自転車置き場に案内されて、空いているスペースに停めると前籠から
ボストンバックを取り出して肩に掛ける。
44 : 4 :2009/02/12(木) 12:10


エントランスに入るとじゃらりと音を立てて梨沙子はポケットから
鍵を取り出した。小さなマスコットがいくつもついているキーホルダー
がゆれている。
鍵穴に差し込んで回すと自動ドアが開いた。

「うちは15階。」

エレベーターの「15」のボタンを押しながら梨沙子は呟いた。

「眺めよさそうだね。」
「……あたし高所恐怖症なんだよねー。」

拗ねたように唇を尖らせている。

「もったいないねー。うち超好き、高いとこ。」
「なら、よかった。頑張ればね、学校まで見えるんだ。
みやの家も見えるかも。」

振り返って嬉しそうにそう言った。梨沙子はくるくると表情を変える。
あんまり顔に感情が表れないらしいうちはいつもまぶしい気持ちで
それを見る。
45 : 4 :2009/02/12(木) 12:11


「どうぞー。」
「おじゃましまーす。」

軽く頭を下げながら玄関に入る。広い玄関には靴は一足も出ていなかった。
梨沙子はがちゃりと鍵を閉め、中に入っていく。
通された広いリビングは、フローリングの床に白いカーペットが敷かれていて、
奥には大きな薄いテレビとガラスのローテーブル、白い大きなソファー。
無駄なものが無い部屋という印象。
生活臭があまり感じられず、ここでたくさんの時間を過ごしていない雰囲気だった。
大きな窓は確かに見晴らしがよさそうだ。近付いていくと、梨沙子が窓を開け
てくれたので、二人でベランダに出て外を眺める。
がらりと開けた瞬間下から強い風が吹きあがって来た。

「わあ。」

46 : 4 :2009/02/12(木) 12:12


見晴らしの予想外の素晴らしさに思わず声が出た。
この辺りで一番高いのではないだろうか。遠くの街並みがミニチュアに見える。
高いところに居る、と実感するとテンションが上がってくる。バカと煙は
高いところが……なんて言葉が浮かんだけど決してうちはバカじゃない。
高いところが好きなだけだ。
ケーキ屋さんの屋根が見える。さっき通ってきた川も見つかった。辿っていくと、

「あ、あれうち。」
「どれ?」

後ろに居た梨沙子がうちの右腕を掴んで身を乗り出した。

「あの白い屋根。えっと川沿いまっすぐいって、あのおっきいビルの斜め前。」
「あれ?」

指でそちらのほうを指しながら尋ねられたが、正直どこを指してるか分からない。
47 : 4 :2009/02/12(木) 12:13

「うんたぶん。」
「いま適当に言ったでしょ。」

即座に嘘はばれた。梨沙子はもう、と頬を膨らませ、眉を顰めた。

「そんなことないって。あってるあってる。」
「そうかなあ。でも、ホントに近いんだね。」
「近いでしょ、チャリで20分もしなかったよ。」

それから学校を見つけたり、大きな公園を見つけたりとひとしきり楽しむ。
真下見てみなよ、とふざけて腕を引っ張るとあわわわと慌てて部屋に
逃げていってしまった。笑いながら追って部屋に入り、窓を後ろ手で
カラカラ閉める。
48 : 4 :2009/02/12(木) 12:14

「あたしの部屋いこっか。もうここなんもないし。」

いつの間にかお茶のペットボトルを二本抱えていた梨沙子は廊下に歩いていった。
ぺたぺた後に続いていくと、一番奥のドアの前で立ち止まる。

「あんまり綺麗じゃないからね。」

そういう割にはまったく散らかっていなかった。
ピンクと黒でまとめられていて、アンティークの小物や椅子など
家具もうまく調和しているかわいらしい、おしゃれな部屋だ。
魔女が好き、と前に言ってた事を思い出す。なるほど魔女っぽい雰囲気だ。

「ぜんぜん綺麗じゃん。うちの部屋雑誌とかばーって。」

手を広げて様子を表しながらベッドに腰を下ろす。梨沙子はその隣に座った。
ベッドが二人分の重さで沈んで跳ねる。揺れが収まると沈黙になっている
事が分かった。一瞬しんとした空気が降りてくる。
49 : 4 :2009/02/12(木) 12:14

初めて家に来ているんだということを急に意識し始めて、緊張してきた。
恋人の家に二人きり、ベッドの上。このシチュエーション、もしかして
やばい?
背中にじんわりと汗を感じて、体が熱くなる。
どんどん緊張が増して体が硬くなっていく。
梨沙子のほうを向こうとしても向けない。
何か言って空気を変えよう。喉が渇いていてそう思っても声も出ない。


「なんか静かになっちゃったね。音楽かけよっか。」

素っ気無い声。
50 : 4 :2009/02/12(木) 12:14

隣が立ち上がった反動でベッドが揺れて、体制が崩れる。梨沙子は
サイドボードの上のリモコンを取って、壁に貼られた薄いCDプレイヤーに
向けた。すぐに英語に似ているような響きの言葉が軽快な音に乗って
スピーカーから聞こえてくる。

「フランス語、あんまわかんないんだけどなんか響きが好きで。」

振り返った梨沙子の笑顔はリラックスしたものだった。
ああ、この子全然変なこと考えてなかったんだ。
そう分かると、なんだか一人で色々考えたのが恥ずかしくなって、
決まり悪い笑顔が出る。
しかし同時に緊張も解けて、金縛りからも開放される。
51 : 4 :2009/02/12(木) 12:15


「なにしよっかあ。」
「うーん、DVDでも見る?」


立ち上がったまま梨沙子はDVDソフトが沢山並んでいる棚の前に行った。
反動をつけて立ち上がって、梨沙子の後ろに立つ。
背表紙のタイトルを追っていく。洋画が多い。アニメも結構あった。

「パズー海に捨ててー!」

ひとつを人差し指と親指でつまみながら棒読みで梨沙子が言った。

「ああ、懐かしいそれ。」
「好きなんだー。セリフも結構覚えちゃった。」
「うち、バルスくらいしか覚えてない。」
52 : 4 :2009/02/12(木) 12:15

滅びちゃうよラピュタ。
笑いながら振り返った梨沙子の手首を掴むと、至近距離で目が合う。
三日月形の梨沙子の薄い茶色の瞳の中に、笑っている自分が映っていた。
それをじっと見ていると、瞳に映る自分のあがっていた口の端が徐々に
下がって平行になった。ゆっくりと自分が映っている範囲が狭くなっていって、
梨沙子の瞼が下りていっていることに気づく。

身長が同じくらいだと顔を少し倒せばキスができるってことはこの子と付き合って
初めて知った。

53 : 4 :2009/02/12(木) 12:15

「DVD、みよっか。」

顔を隠すように梨沙子はテレビのほうに向いた。
少しだけ見える梨沙子の赤く染まった頬を見ながら、相手が照れると
自分は逆にそこまで恥ずかしくならないな、と冷静に思った。

ベッドの足のほうに位置するテレビボードに向き合うように二人で座って、
枕を背もたれにした。お腹から下だけ毛布をかけて、その上にペットボトル
を乗せた。ちゃぷん、とお茶が揺れる。

「このシータのセリフおかしくない?」
「わしには力が強すぎる。」

見慣れているらしい梨沙子は見つけたアラを報告してきたりセリフを被せて
言ったりしていた。すこし自慢げな瞳が可愛らしかった。
最後には二人でテーマ曲を口ずさんだ。
54 : 4 :2009/02/12(木) 12:16

「あー懐かしかった。これはセリフ覚えたくなるね。」
「でしょー?」
「バルス叫びたい学校の屋上で。あでもばれちゃうか。」

窓のほうに目をやると、いつのまにか暗くなっていた。
もう少し目線を上げて時計を見つける。6時半過ぎを指していた。
いつごろ帰ろうかなあ。頭をかくと、隣で梨沙子の瞳が不安げに揺れた。
揺れたように見えただけなのかもしれない。ひとつ瞬きをして目を開くと
梨沙子は笑っていたから。
不自然なほど、綺麗な笑顔だった。
55 : 4 :2009/02/12(木) 12:16

「そろそろ、帰る?」

送ってくよ。声の主は立ち上がって、もうドアの前まで歩を進めていたので
返事もせず続いた。
小さな箱の中で無言になると、沈黙の空気の密度がより高く思える。
梨沙子の顔はドアの前に立っていて見えない。張り詰めたようにまっすぐと
立っている。
15階分下ったことを示すチンという短い音が鳴ると、開いたドアに
吸い込まれるように梨沙子はエレベーターを降りた。
そのまま振り返らず進んでいく。つんのめりそうなほど早足でエントランスの
自動ドアを抜けた。
さっきから背中しか見えない。

「ちょっと梨沙子、早いよ!」
56 : 4 :2009/02/12(木) 12:17
なにか、おかしい。
小走りで追いついて、肩を掴んで振り返らせる。
夕闇の薄暗い中で顔を見ると、きつく結ばれた唇に色の無い瞳。
何の感情も漂わせない無表情。
目が合うと梨沙子は足元に視線を落とした。

「どしたの?」

なるべく優しいトーンを出した。両手で梨沙子の腕をそっと支えるように
触れる。
俯いたまま目線だけこちらに向けた上目遣いをされて、ようやく目が合った。

「……ないで。」
「え?」
「帰らないで……。」
57 : 4 :2009/02/12(木) 12:17


とん、と胸に頭をあずけられて、ぎゅっとしがみつかれる。
帰らないで。
頭の中で言われた言葉を復唱してみた。してみたけど、その真意は
分からない。

「お母さんとか、帰ってくるんじゃないの?」

言ってから思い出す。
玄関に靴が一足も無かったこと。生活感の無いリビングのこと。今まで
家族の話が梨沙子の口から出たことが無いということ。
色々な事実が一気に頭のなかで一本の線に繋がる。
風が強く吹き抜けて、その冷たさに腕の中の肩が震えた。
薄いロンT一枚で耐えられる寒さではない。少しでも暖かくなればいいと
腕に力を込めた。
それからゆっくりと体を離して、濡れた瞳を見つめてそっと微笑む。
58 :作者 :2009/02/12(木) 12:23

「いったん、戻ろうか。それじゃ寒いでしょ。」

59 :作者 :2009/02/12(木) 12:25
ここまでです。
最後ミス。。。orz
あせるとだめですね。

>>37
稚拙な表現ばかりで恥ずかしいです。gdgdです。

>>38
夏焼さんがばかみたいにいっちゃだめですw

>>39
ありがとうございます、続き書いてみました。
60 :名無飼育さん :2009/02/12(木) 23:59
更新お疲れ様です。
積極的で照れない夏焼さんが好きです。
61 :名無飼育さん :2009/02/13(金) 03:42
あー今この小説がいちばん好きです最高すぎる
62 :アイスミント :2009/02/15(日) 00:05

りしゃみやいいですね。
梨沙子かわいいし、みやも優しい
続き楽しみにしています。

63 : 5 :2009/02/16(月) 00:55

肩を揺らして泣き続ける梨沙子の腰の辺りを抱きながら部屋に戻ると、
さっきと同じように並んでベッドに腰を掛けた。
左手で背中をさすっているとしばらくして梨沙子が顔を上げた。

「ありがと、もう大丈夫。」

背中の手を取られて、両手で包まれる。
そして家のことを話すね、と前置きするとうちの手を弄りながら
ぽつりぽつり話し始めた。

「お父さんは仕事でアメリカにいるの。弟はついてってそっちの学校通ってる。
だからお母さんと2人でいまは住んでるんだ。でも、
お母さん仕事忙しいから、帰ってくるのは週末くらい。」

赤い目で一点に視線をやりながら、梨沙子は続ける。
64 :5 :2009/02/16(月) 00:55


「あたしは高校受かったばっかりだったから残ったんだ。お母さんも
仕事したいからついていかないって。
もう一年くらい、こんな感じだからなれたはずだったんだけど。
誰かが家にいるのとか、一緒にDVD見てたりとか久々だったから
寂しくなったみたい。ごめんね、みや。」

自嘲ぎみな笑顔をこちらに向ける。
一年も家で一人だったの?
学校から帰ってきて、眠るまでどんな気持ちで居たの?
泣きながらいくつの夜を越えてきたの?

脆くて小さい肩を見ていたら、胸が痛くてしょうがなくなった。
耐えるために全力で抱き寄せる。
胸が締め付けられるのと同じ強さで、抱き締める。
この子の傍にいたい。

「今日、さ。泊まってっていい?」
65 :5 :2009/02/16(月) 00:55


それはエゴだった。

捨てられて雨に濡れている子犬を家に連れて帰りたいという
小学生と同じ、世話もできない無責任さを省みずに「カワイソウ」
という感情だけで抱き上げるような、エゴだった。
彼女のことを思っての言葉じゃなく、自分の胸の痛みを
止める為の言葉。

うちはなんにも知らなかったんだ。
人を本当に愛することとか、愛されることとか。
愛するのには覚悟が居る。そんなことも知らなかった。
一度触れてしまったら、触れる前には戻れない。
人の体温を覚えてしまったら、それはずっと染み付く。
忘れることなんて、できない。

何にも知らずに、知らないうちに、引き金を引いた。

66 :5 :2009/02/16(月) 00:56



着替えを取りに一度家に帰って、お母さんに今からダンス部の
合宿だという嘘をついた。
梨沙子は遠慮して渋っていたけど、一人じゃなくなるまで
一緒に居るつもりだったから、数日は持つ言い訳にしておいた。
うちは昔から抜けてるところがあってすぐに忘れ物をしていたから、
合宿だったことを今知ったのだ、と言ったらお母さんは頭をぺちんと叩い
てあんたはもうと呆れた声を出しただけで、簡単にだまされてくれた。
充電器と着替えとを適当に詰め込んで、すぐに梨沙子のところに戻った。

67 :5 :2009/02/16(月) 00:56


「おかえり、みや。」

とろけそうな笑顔で出迎えられる。
そのまま手を引かれてリビングに連れて行かれ、
部屋に入ると、おいしそうな匂い。
ガラスのローテーブルにはパスタとサラダが乗っていた。

「あんまり冷蔵庫に物入ってなくて。」
「おいしそー。梨沙子料理できるんだね。」
「結構作るの好きなんだ。」

並んでソファーに腰掛けて、テレビを見ながら食事を取った。
二人で食器を洗い、順番にお風呂に入って、ベッドでだらだらと話し続ける。
普通の友達の家に泊まりにきたような過ごし方。
しかし二人きりな分、よりのびのびと楽しめた。
梨沙子はずっと、テンションが高い時の笑い声ではしゃいでいる。
68 :5 :2009/02/16(月) 00:56

寝転んで漫画を読んでいると、視界の端にあくびをかみ殺す
顔が映る。時計を見上げたらそろそろ日付が変わる時刻だった。
隣に目を向けると照れ笑いする梨沙子。

「そろそろ寝ようか?」
「んー、まだ、寝たくない。」
「あくびしてたじゃん。」
「でもせっかく一緒に居るのにー。」

子供が駄々をこねるときの声だった。
ひとつ頭を撫でて、ベッドから起き上がると
部屋の端まで行きぱちりと電気を落とす。

「みやあー。」
「電気消しただけ。」

ベッドに戻って布団を持ち上げると、寝ないもんと
まだ頬を膨らませている梨沙子と自分に布団を掛ける。

「寝ないからね。」
「分かったって。」
69 :5 :2009/02/16(月) 00:57

向き合って横になる。急に暗くなった視界では、最初梨沙子の輪郭が分かる
程度だったが、だんだん目が慣れてきて、目や口や鼻も捕らえられるようになる。
そして目があっていることに気づき、その目の色が真剣なことが分かる。
前髪が一束、頭を持ち上げた振動で額をさらりと滑り落ちた。
ゆっくりと顔が近付いてきて、吐息がかかり、唇が重なる。
一瞬離れて今度は唇を食べられるように挟まれた。
また離れたと思うと、舌が入ってきた。
いつもの触れるだけのキスとは違う、初めて味わう梨沙子の味。
彼女の舌が口の中で暴れる。
舐められて、くすぐられて、奪われる。
70 :5 :2009/02/16(月) 00:57

心臓の音が頭の中で鳴り響く。全身が痺れる。
意識が飛びそうになるのを誤魔化すために、負けじと
舌を押し返して梨沙子の口の中を弄った。
年下にやられっぱなしではかっこ悪いという変な意地もあった。
そのまま梨沙子に覆いかぶさって、両肩を掴んで磔にする。

この角度から梨沙子を見るのは初めてだった。
暗闇の中、真下に居る彼女の顔は別人のように見える。
少し上気した頬、少し潤んだ瞳。薄く開いた唇。
一つ下とは思えない妖しくて、綺麗な表情。
71 :5 :2009/02/16(月) 00:58

さっきまで駄々をこねていた梨沙子とはまるで違う、性的な魅力。
そんな風に見たこと無かったし、大体女の子に対してそんな気持ちに
なることなんて想像もしてなかった。
それ以前に男の子に対してだって、あんまりよく分からない。
だけど。

この瞬間、はっきりと発情している自分が、いた。
72 :5 :2009/02/16(月) 00:58



引き寄せられるように口付ける。
さっきよりも乱暴に舌を動かす。
口付けの合間に漏れるお互いの呼吸が、徐々に荒くなってきた。
肩に置いていた左手を少しづつずらして、胸の膨らみを捕らえる。

「んっ。」

小さく梨沙子が声を上げる。
Tシャツを捲り上げて、直に触れた。
「ん、あっ。」

さっきよりも高い声が、唇の隙間から出てきた
梨沙子の腕が背中に回される。
優しく膨らみを揉む。それから、中心の突起を
軽くつまんで、人差し指で転がした。
どうしたらいいかとか正直なところよく分からなかったけど、
覚えている限りのことを思い出しながら触れていた。
73 :5 :2009/02/16(月) 00:59

唇を離して、触れていないほうの胸に移動した。
唇で中心を挟んで、舌で舐め上げた。

「ああっ。」

艶めかしい声が上から降る。

この声、もっと聞きたい。
もっと梨沙子が、ほしい。

欲しいと思うままに体を動かした。
手の動きは止めず、優しく噛み付いて、円を描くように舐める。

「みやっ、あん、あっ。」

舌を動かすほどに欲しい声が貰えた。
そして貰える度により欲しくなる。
左手をまた離して、さらに舌にもぐっていく。
脇腹を通過して、腰を撫でて、そこで止まる。
74 :5 :2009/02/16(月) 00:59


「梨沙子、いい?」

焦った様な声の色に自分で少し驚いた。

「んっ。」

言葉と同時に腰が持ち上げられる。
同じように梨沙子も焦れているんだと思った。

一気にジャージとパンツを下ろした。つもりだったけど
膝で止まってしまう。でもそのまま、太ももに手を置いて
ゆっくり上って行く。ちゃんと脱がせる余裕なんて無かった。
75 :5 :2009/02/16(月) 01:00

湿っていて、興奮した。それからごくりと唾を飲み込んだ。
中指で表面をそっと撫で上げる。少し足を開かせて、濡れている部分に
潜って行く。

「やっ。」

耳元から脳に響く。全身に回っていく。
一気に貫いてしまいたい衝動を抑えて、慎重に梨沙子の中に入っていった。
指にぎゅっとしがみつかれて動きにくい。
ゆっくりゆっくり、中指を埋めて行く。
そろりと見上げると、何かに耐えるように梨沙子は眉間にしわを寄せていた。

「痛い?」
「んっ、大丈夫。」
76 :5 :2009/02/16(月) 01:00

続けてと言うように腕を撫でられる。
頷いて、そっと中指を曲げてみる。

「あんっ。」

優しく前後させていると、少しづつ動きやすくなってきた。
くるくる指を回してみる。

「んっ、みや、きもちい。」

きもちいよ、うわ言の様に繰り返した。
嬉しくなって速度を上げる。梨沙子の声が連動してくる。
もう頭の中は真っ白だった。梨沙子が欲しくて仕方ない気持ちだけに
突き動かされていた。

一際大きな声が上がると、ぎゅっと中が締まって、ふやふやと梨沙子の
力が抜けていった。
終わったサインだと判断して、そうっと中指を抜く。
77 :5 :2009/02/16(月) 01:01

すると、背中に回されていた手に急に力が篭って抱きしめられた。
安心しきっていたうちはバランスを崩して、そのまま体ごと梨沙子に
べしゃりと落ちた。

「ぐえっ。」
「あはっ、ちょっと何その声。」

潰された梨沙子からはほんの数分前の色っぽさとは全くかけ離れた
蛙のような声。
反射的に笑って突っ込むと、梨沙子も笑い出す。

「あはは、だってみや重い。」
「はあ?重くないし。」

抱き合ったまま笑いあった。胸がじんわりと温かくなってくる。
心地よくてふやけてしまいそうな感覚。
なにもかも満たされているような気持ち。
きっとこれが、愛しいという感情。
78 :5 :2009/02/16(月) 01:01

「ってゆうか梨沙子のほうが。」
「ん?喧嘩したいの?」

思いっきり脇腹をくすぐられる。

「ちょっやめっあははははは!!」

もちろん笑いながらもお返しする。お互い本気のくすぐりあいが始まった。
さっきまでの二人は別人だと思うようなくだらない戦い。

ひとしきりじゃれて笑い声が止み、抱きしめながら頭を撫でているうちに
梨沙子が寝息を立て始めた。聞いているうちにうちもいつの間にか
眠りに落ちていた。
79 :5 :2009/02/16(月) 01:01



熱に浮かれたまま、眠ってしまった。
子供のまま大人になって、それにすら気づいていなかった。
何にも知らずに、知らないうちに。
引き金を引いていた。

80 :作者 :2009/02/16(月) 01:04
ちょっと更新しました。

>>60さん
かっこいい雅ちゃんを書いてみたかったです。

>>61さん
嬉しいです、もったいない言葉だー。

>>62さん
ありがとうございます。りしゃみやだいすきです。ぐへへ
81 :作者 :2009/02/16(月) 01:07
アレな場面あるんで一応注意で
82 :作者 :2009/02/16(月) 01:08

流します。
州*‘ -‘リゆー
83 :名無飼育さん :2009/02/16(月) 02:42
更新お疲れ様です。
夏焼さん大人ですね。
これから色々ありそうですが、更新楽しみに待ってます。
一番大好きな話です!
84 :名無飼育さん :2009/02/16(月) 11:39
幸せなのに切ない・・・
これからが気になります
85 :名無飼育さん :2009/02/25(水) 19:40

更新お疲れ様です!
ラブラブだけど、切なくなりそうですね〜
すごい続きが気になります!
応援してるんでがんばってくださーい!
86 :名無飼育さん :2009/03/05(木) 22:43
更新お待ちしております・・・
87 : 6 :2009/03/07(土) 22:49


「……や。みや。」

つんつんと頬に当たる何かの感覚と名前を呼ぶ声で目を覚ます。
重い瞼をゆっくり持ち上げる。

「んん?わ。」

ドアップで映る目の前の困惑したような顔が一気に緩むと同時に、
今の自分のおかれている状況を認識する。

そうだ、昨日は……。

「おはよう。おはようみや!」
「お、おはよ。」
88 :6 :2009/03/07(土) 22:49

大好きな飼い主に名前を呼んでもらえた犬のように元気な梨沙子とは正反対に、
昨日の行為を一気に思い出してしまったうちは恥ずかしくて仕方ない。
抱きしめていた体勢は昨日の夜から変わっていない、つまり
うちの左腕は梨沙子の下にあって身動きが取れない状態。
赤くなっているであろう顔を背けたくても目をそらすのが精一杯だ。
しかし梨沙子は不思議そうに覗き込んできて、どんなに視線を動かしても
視界に入ってくる。やばい。どうしよう照れる。

「みやあ?」
「な、に?」


まじまじと顔を覗かれる。余計顔が熱くなる。

「……赤くなってるよ。」
「なってない!」

反射的に大声が出てきてしまった。
いひぃと嬉しそうに笑う梨沙子は更にからかってくる。

「可愛いなーみやは。」
「うるさいっ!もう!」

こっちが文句を返すたびに梨沙子の笑顔がはじける。
思っていたよりいたずらっこのようだ。
89 :6 :2009/03/07(土) 22:49


ぎゃあぎゃあと騒いでいるうちにすっかり目は覚めて、揃ってベッドを出た。
朝食を作るのも、食べるのも、洗い物をするのもすべて二人でやる。
それどころか、トイレ以外はほぼおんなじことを、並んでした。
ただソファに座ってテレビを見たり、お茶を入れるだけでも
恋人と一緒だというだけで幸せなものだな、と初めて知った。
隣を見るといつでも嬉しそうに笑う彼女がいて、その幸せは倍になる。

セットしていない梨沙子の無造作な髪は綿飴の様にふわふわと動く。
後姿を見ていると柔らかなその動きに思わず手が伸びた。
触れ心地も見た目通りだった。触れたままくしゃりと手のひらを閉じて、
感触を味わう。二三度繰り返すと笑って梨沙子が振り返った。
90 :6 :2009/03/07(土) 22:50


「なあにー?」
「なんか触りたくなった。」

そのまま撫で続ける。梨沙子は目を瞑っておとなしくなった。
そしてゆっくりと目を開き、うちの肩を掴むと、顔を寄せてくる。
静かに唇が重なった。
電気をつけない室内では、カーテンを通して春の優しい光だけが部屋を満たす。
フローリングを滑る陽光。そこにそっと梨沙子を寝かせる。
頭の下から手を抜いて、梨沙子の顔の横につける。
さらりと頬を撫でた。
梨沙子の白い肌が日を浴びて普段より真っ白に見える。
まるで天使みたいだ。なんて、恥ずかしいことが頭に過ぎった
けど、伝えはしなかった。
というか、伝えられるわけが無い。
91 :6 :2009/03/07(土) 22:51


そんな風にして体を重ねた。何度も、朝も昼も夜も関係なく、
二人のタイミングで。
場所も関係なかった。
お風呂で、ソファーで、ベッドで、フローリングで。
時間を、日を追うごとに梨沙子の体の感触が全身に染み付いた。
温度も匂いも全て覚えた。二人の境界線はどんどん薄れて行った。

92 :6 :2009/03/07(土) 22:51

飛ぶように時間は過ぎていき結局、梨沙子のお母さんが一度帰宅するという
始業式の前日まで泊まり続けてしまった。

「じゃあ明日。学校で。」
「ん。ありがとね、みや。」

当然のようにキスをする。ちゅっと音を立てて触れて、離れる。
靴を履いて鞄を肩に掛け、玄関のドアを開ける。
振り返ると寂しそうに梨沙子は笑っていた。
93 :6 :2009/03/07(土) 22:52


「明日すぐに会えるじゃん。」
「そうだけど。」

寂しいもん。もごもごとした声が聞こえた。
そのまま俯いてしまった頭をぐしゃぐしゃに撫でて明日ね!と
できるだけ元気に言う。

「うん、明日!」
ぱっと顔を上げて同じくらい明るい声を出してくれた梨沙子に安心して、
家を出た。
94 :6 :2009/03/07(土) 22:52


自転車で川沿いを走りながら、数日間を振り返った。
いろんな顔の梨沙子が浮かんでくる。顔が綻んでいるのが
自分でも分かったけれど、この夜の闇の中では見えないだろうと
そのままにして風を切ってペダルをこいだ。

愛しくてしょうがない、可愛いうちの恋人。
柔らかくて暖かくて、甘い気持ちで胸がいっぱいになる。
ありがとう神様、梨沙子に会わせてくれて。なんて普段絶対
思いつかないような言葉がどんどん頭に溢れていった。
ああ、うち浮かれてる。そう客観的に自分を見る自分もいた。
でもにやにやするのは止められなかった。
さわさわと揺れる桜並木に見下ろされながら、滑り落ちるように
家へと自転車を走らせた、春の夜だった。


95 :作者 :2009/03/07(土) 22:56
ほんとにちょっとだけど更新。
ちょっと忙しくなりペースが落ちています・・・。

>>83
色々あると思いますがまた詠んでくださるとうれしいです。
ありがとうございます!

>>84
ありがとうございます。

>>85
応援嬉しいです。励みになります。

>>86
ありがとうございます、頑張ります。
96 :名無飼育さん :2009/03/08(日) 11:48
これから先どうなるのか全然想像がつきません・・
次の更新も楽しみにしています
97 :名無飼育さん :2009/03/09(月) 01:14
更新ありがとうございます。
りさこがカワイイです。
98 :名無飼育さん :2009/03/16(月) 22:07
スゴク幸せそうなのに、なんか切ない。
幸あれと祈るばかりです。

稚拙な文章っておっしゃってますが、キレイな雰囲気でよいな〜と思います。続き楽しみにてします。
99 : 7 :2009/03/17(火) 11:42



不安と少しの憂鬱と、期待。
新学期ならではの心境。
いつのまにか最高学年になっていることに、時間の経過の早さを感じる。
クラスを確認してそのまま体育館に向かうと、に全校生徒が集まっていて、
ざわざわぎゃあぎゃあとはしゃいだ声と熱気で満たされていた。
100 : 7 :2009/03/17(火) 11:42

「みや、こっち!」

入り口の辺りを知った顔を捜しながら歩いていると千奈美が大きく
おいでおいでをしながら呼んでくれた。

「3年間同じクラスとか。」
「いや中学からだから6年だよ。」
「もういい加減飽きた、ちなの顔。」
「なんだとおー嬉しいくせにっ。」

腐れ縁というやつだ。過去6回クラス替えがあったにもかかわらず千奈美とは
離れたことが無かった。
人見知りのうちとは反対で人当たりがよくすぐに誰とでも打ち解けられる千奈美。
そんな彼女のそばにいたからこそ友達は沢山できた。告げたことは無いけど
実は感謝している。
憎まれ口をたたいているけど、今回もこの子と一緒でよかった、とひそかに
思っているのだ。
101 : 7 :2009/03/17(火) 11:43

じゃれあっていると、突然何かに気づいたように千奈美がぱっと左を指す。
ん、とそちらを向く。

「あ、梨沙子。」
「みや。」

昨日までいつも見ていた顔とは思えない、大人びた表情で名前を呼ばれる。
よそ行きな感じ。
人ごみをさらりと抜け、目の前に立つ。

「おはよう。」
「おはよ。」


うちの両手を捕まえて、梨沙子は俯いた。しかしすぐ
何か言おうとするように顔を上げた。だけど何度か口をパクパクさせてから、
じゃあねと背中で言ってまた人ごみに消えていった。
102 : 7 :2009/03/17(火) 11:43


「……?」

何かしたっけな。頭をかきながら思い出そうとしている
と、脳天に軽いチョップを食らう。

「みやっ。梨沙子ちゃん可愛い!」
「ああ、うん。」

っつうか痛い。
そのあとも千奈美は興奮気味に梨沙子ちゃん可愛い可愛いと続けた。
はいはいと少し冷めた相槌を打ちながらも、それ、一番知ってるのうちだし。
なんて少し優越感。
またぐだぐだと話し続けているうちに、いつの間にか周囲が静かになっていて、
みんな整列をしていたので慌ててまだうるさい千奈美を引っ張っていって、
クラスの列に紛れ込んだ。
始業式が始まるときにはもう、梨沙子の態度のおかしさは頭から飛んでいて、
忘れてしまっていた。


103 : 7 :2009/03/17(火) 11:43

104 : 7 :2009/03/17(火) 11:43


新学期二日目から授業が始まるなんて憂鬱だ。
三年は受験期だから仕方ないといえばそうだが、
一気に現実に引き戻された感じ。
真新しい教科書がいっぱいに詰まった鞄の重さに
足取りもつられて重くなるようだ。
今日学校行ったら全部ロッカーに置いて帰ろう。だから、重いのは今だけ。
そう自分を励ましながら駅から学校までのゆるい上り坂を歩いていく。
105 : 7 :2009/03/17(火) 11:44

春は風が強い。びゅんびゅんと目の前を吹き荒れて、髪を左右に振り回す。
セットしたのに台無しだ。姿の見えない風を恨む。
そんな風に乗って桜の花びらもひらひらどこからか流れてきたようで、
通学路をピンク色に染めていた。
ひらりひらり舞い落ちて、また風に巻き上げられて、生き物のように
漂っている。
そんな様子を見ていて機嫌も回復してきた頃、正門が見えてきた。
そして、その前に見慣れた立ち姿。

「梨沙子?」

桜の舞う中をふんわり、微笑む。
思わず立ち竦んだ。
まるで一枚の絵のようだ。似合いすぎ。
時を止めてしばらく見つめていたくなる。

たまに、こうやって梨沙子は自分の空気で空間全てを支配する。
話しかけるのを躊躇うほど、近付くのを戸惑うほど。
106 : 7 :2009/03/17(火) 11:44

「おはよ、みや。」
「え、と、誰か待ってるの?」
「みや待ってたんだよー。」

微笑みが砕けた笑顔に変わった。よく知る人懐こい笑顔で、一気に
気軽に話せる雰囲気になる。
不思議な子だ。
隣に並ぶと梨沙子はうちの手を取った。暖かい。
いつも梨沙子はうちより少し体温が高い。安心する温度。
ちょっとお散歩しようよと手を引かれて歩き出す。
107 : 7 :2009/03/17(火) 11:44


「春だねえ。」
「うん。」

ゆるゆるとした会話をしながら、校舎の周りをぐるりと歩いていく。
桜の花びらはどこにいってもちらちらと見つけられた。

校舎の真裏、陰になっているあたりで梨沙子は立ちどまった。
唐突に振り返り、唇を寄せてくる。
重なる五センチ手前で肩を抑えた。

「ちょっと、梨沙子。ここじゃ。」
「大丈夫。誰も見てないよ。」

瞳だけ左右に動かして確認をする。人影は見えない。
まあ朝だし誰もいないよね、と瞼を閉じると同時に唇に触れる感触。

「居たって、いいじゃん……。」
108 : 7 :2009/03/17(火) 11:45



瞼を上げる前にそう聞こえたけど、梨沙子はもう少し先を歩いていた。
追いついて手をつなぐと、嬉しそうにこちらに笑いかける。

五分ほどで一周し、玄関にたどり着いた。
つないでいた手を離して、向き合う。

「じゃあ、またお昼。」
「うん……うん。」
「そんなに離れたくないのかあー。」

おどけてつついて、お昼ねっ!と手を振り、三年の下駄箱のほうに向かう。
上履きに履き替え、ローファーを下駄箱にしまった。
109 : 7 :2009/03/17(火) 11:45


すぐ会えるのに、名残惜しそうな顔してたな。
春休みはずっと一緒に居たから寂しがってるのかな。
階段を上りながら考える。

よし、昼休みはたくさん笑わせよう。
そしたら吹き飛ぶだろう。
なんてお気楽な決意をしつつ、教室の引き戸を開けた。
110 :作者 :2009/03/17(火) 11:50

こうしんしました。

>>96
地味に進ませるのでこれからも宜しくお願いします。

>>97
更新し甲斐がある言葉ありがとうございます。
りさこかわいいです!

>>98
幸あれ・・・女に・・。
きれいとか、すごく嬉しいです。
楽しんでもらえるよう頑張ります。また読んで頂けたら喜びます。
111 :名無飼育さん :2009/03/17(火) 23:29
更新待ってました。
どの場面でもいつも情景が目に浮かんできます。
112 :名無飼育さん :2009/03/26(木) 09:39
続き楽しみ
113 :名無飼育さん :2009/03/28(土) 21:43
更新お疲れ様です。
うおおお
りしゃみや かわいいですね。テンション上がります。
114 :7 :2009/04/02(木) 15:47

一瞬の真っ白。それから、青空。雲ひとつ無い青空が、視界いっぱいに広がる。
重い扉を開けばそこに広がる風景。大好きな瞬間。
叫びたくなる開放感。を抑えて代わりに胸いっぱいに空気を吸い込んだ。
春の匂いがする。

両腕を広げてぐるんと片足を軸にターンする。開放感が増して、笑顔になる。
そのまま空を仰ぐと、太陽光が顔中に降り注ぐ。
ふふ、と小さな笑い声がドアのほうから聞こえた。

「……子供っぽいなーって思ったでしょ。」

「ちがっ、違うよ!」

慌てて梨沙子が否定する。否定って言うか、肯定みたいだけど。

踊り場で落ち合ったときには、すっかり梨沙子の機嫌は直っていた。
うちを見つけると弾けるような笑顔でみやっ、と呼んで駆け寄ってきた。
だから朝の様子を追求するのはやめた。変にこじれても嫌だったから。
115 :7 :2009/04/02(木) 15:47


給水塔の多少日陰になっている部分に寄り添って座る。
お決まりの場所。
休み前となんら変わらない見慣れた風景が目下に広がっている。
少し懐かしく、愛しく感じた。
それから、隣にはすっかり馴染んだ温度。雰囲気。
少し風が吹いて、お揃いのスカートの裾が同じ動きではためいた。

「なんか、学校戻ってきたーって感じ。」
「ちょっと来てないだけなのに懐かしいんだけど。」
「あー確かに。なんかね。」

ぱりぱりとサンドイッチの封を切って、取り出す。まずは卵サンド。
うちの学校の卵サンドはレタスが入っていて、普通の卵サンドのふわふわした
感じにシャリシャリと新鮮な野菜の食感が加わっている。それが大好きで昼は
毎日食べていた。
116 :7 :2009/04/02(木) 15:48


「相変わらず好きだね、それ。」

「うん、好き。」

なんだか嬉しそうに梨沙子が笑っている。

「なんで嬉しそうなの?」
「ん、なんでだろ、みやが嬉しそうだから、かな?」

うちが嬉しそうで嬉しいって。なんだそれ。
……でも、なんか恥ずかしい。
梨沙子もよくわからなそうにしていたけど、恥ずかしいことを言った
気はさらさら無いみたいで首をひねっている。

「うん、いいや、まあいい。」

「うん、よくわかんないもん。」

恥ずかしさを悟られないように誤魔化す。
たまに梨沙子は、鈍い。
117 :7 :2009/04/02(木) 15:49


食べ終わって春の暖かさと風の心地よさにすこしうとうととしながら
話を続けていたら、すぐに予鈴がなった。眠りに入りかけていた梨沙子の
肩を叩いて屋上を後にする。一緒に眠ってしまえばさぞ気持ちよさそう
だけれど、さすがに新学期早々さぼるわけにはいかない。

二年の階につく直前、梨沙子の足が止まった。

「どしたの、授業遅れちゃうよ?」

ざわざわと騒がしく階段を上り下りしている同じ制服の合間を縫うように
大きめの声を出す。
二段分上に少し顔を伏せた梨沙子。朝の様子とかぶった。
優しく手をとって、引く。重そうに足を動かして、従ってくれた。

「なんかあった?」
「……ううん、なんでもない。」
118 :7 :2009/04/02(木) 15:49

何でもなさそうに響く声の色。
だけど、本人がなんでもないと言う以上、掘り下げることは無いだろう、と
先ほどと同じ判断をして、そこで引き下がることにした。

「またね、梨沙子。」
「うん。」

そう言ってもう一階下へ降りる。流されるように足を進めて振り返ると、もう
梨沙子は廊下に行った様で姿は見えなくなってしまっていた。

119 :7 :2009/04/02(木) 15:49


120 : 8 :2009/04/02(木) 15:49


一日過ぎて、一週間過ぎて。どんどん進んでいく月日。
もはや新学期ムードの新鮮さは消え去り、完全に退屈な学校生活は
戻ってきていた。
三日目くらいまでは真面目に受けてしっかりととっていたはずのノートも
もう既にめんどくさくなっていて、腕に顔を伏せてぼんやりしていた。
目だけ動かして右斜め前を見る。
千奈美は顔ごと机に下ろして思いっきり寝ていた。あの寝方でいつも額に
跡がついているのだ。噴出しそうになってさっと手で口元を覆う。
更に目を前方に動かす。教卓のどまん前、センターの後ろの茉麻は真剣そうに
黒板に顔を向けてノートをとっているようだ。
今年もお世話になります……と心の中で呟いた。
小春は、と教室を見渡していると、パコンと頭に軽い衝撃。とともに
やべっていう焦り。
121 :8 :2009/04/02(木) 15:50

「夏焼ー。楽しそうだなあ。」

ばって顔を起こして即座に姿勢を正す。すろとそのまま先生は後ろの方へ
歩いていった。
よかった当てられなくて。安心してほっとため息をつく。くすくすと周りから
嘲笑。
前を見ると千奈美が面白そうにこちらを指差して笑っていた。くそう、
てめえさっきまで寝てたじゃないか。

「ばーかばーか。」

小さい声が左後ろから聞こえて振り返る。特徴あるアニメ声。小春だ。
机を見ると教科書すら広げていない。こいつ……と思ったけど毎度茉麻様に手を
あわせる仲間だから当然かと思い直す。
授業が終わると軽く一言お叱りを置いて先生は去っていった。だからなんで
うちだけなんだ。
122 :8 :2009/04/02(木) 15:50

「気にすんなって。今日は運が悪かったんだよ。」

後ろから千奈美が肩を組んできた。む、むかつく。

「大丈夫大丈夫。つぎがんばろーうっ。」

小春が反対側から現れる。

「あんたたちも同じだろー!」

両腕を振り上げて突き飛ばす。ぎゃあぎゃあ言いながらじゃれあう。
茉麻はそれをお母さんみたいな慈愛に満ちた目で眺めている。
高三になっても全然変わらないこのバランスと三人のバカさ加減。安心する。

ふと気付くと教室がだいぶ空いていた。そういえばお昼の時間だった。
やばい、行かなきゃ。
まだ絡んでくる千奈美と小春を避けて財布を掴むとドアに向かって走り出した。
123 :8 :2009/04/02(木) 15:51

開け放ったドアの向こう、少し唇を尖らせて右を向いている横顔。

「梨沙子ごめん!」

駆け寄りながら声を上げるとこちらを一瞥して階段のほうへ歩き出す。
並んで歩幅をあわせて顔を覗きこみながらごめん、ともう一度謝った。

「いいよ、別に。」

全く言葉と反対の態度。ああ、怒らせた。
軽く頭をかきながら、言葉を捜す。なかなか出てこない。

カンカンと階段を上る二つの靴の音だけが鳴り響く。
錆びたドアノブを回して、思い切り体重を掛けた。

一瞬、真っ白。それから、青空。
124 :8 :2009/04/02(木) 15:51


じゃなかった。
真っ暗。それから、梨沙子のドアップ。その隙間から青空。
背中に衝撃。両手首に重み。
いたっ、と声を出すために開けようとした唇は梨沙子ので塞がれた。
乾いた唇。押し付けるように舌でこじ開けられて、乱暴に荒らされる。
頭の中が色んなことでぐちゃぐちゃになる。
息が苦しくなって顔ごと逸らすと、梨沙子も顔を上げてくれた。
30センチの距離になって、眉を寄せて怒った様な苦しいような表情の顔
を見上げた。漸く状況が把握できた。
押し倒されてるのか。

何かを言おうとしているのか、口を少し開いたまま、瞬きを繰り返している
その頬を、さらりと撫でて、もう一度呟いてみる。

「ごめんね。」

崩れるように体が降ってくる。
きちんと受け止めて、こぼれないように腕の中にしっかりと抱く。
125 :8 :2009/04/02(木) 15:51


ああ、こんなに激しい感情を持った子だったのか。
野生動物みたいな腕の中の生き物の頭を、そうっと触れるように軽く
ぽんぽんと叩く。
ぎゅっと腕にしがみついて梨沙子は顔を鎖骨の辺りに寄せてきた。
梨沙子を落ち着かせるために――同時に自分の動揺を悟られないように
その動作を繰り返す。

「ごめ、んね。やきもち。」

「いいよ、大丈夫。」

呼吸が落ち着くタイミングで梨沙子が口を開いた。
大丈夫。心の中で繰り返す。
まだ落ち着ききれていない自分に対しての言葉だった。
126 :8 :2009/04/02(木) 15:52

「お昼たべよっか、時間なくなっちゃう。」

梨沙子を抱いたまま起き上がる。さっき打ち付けた背中が痛んだ。
顔が歪むのを梨沙子が心配そうに見上げてくる。

「ごめん、痛かったよね。」

「うん、痛かった。あーまじ痛いー。」

ふざけて誤魔化したら、笑ってくれた。
よかった。普通を取り戻した。

本当は取り繕っただけだって分かっていたけど、それからいつものように
過ごした。予鈴で屋上を後にして二年の踊り場で梨沙子を見送った。
階下へ向かう一人になった瞬間、足元がふらついた。壁に手を着いて、こらえる。

127 :8 :2009/04/02(木) 15:52

驚いた。


なんだあれは、なんだあれは。
背中の痛みと心臓がずきずきと音を鳴らすのが体の中で聞こえる。
ゆっくりとした足取りで教室に戻り、静かに席に着いた。
先ほどのように腕に顔を伏せて寝たふりをしながら、頭の中を整理する。

ここ最近の梨沙子の様子が引っかかっていた。そして、さっきの。
知らない人のようだった。正直怖かった。
強い力。まだ手首を掴まれているような感触。
でも、脆くて。
崩れ落ちてきて、腕の中で怯えていた様子は
掴んでいないと居なくなってしまいそうだった。

どうにも不安定な彼女の存在。うちは守れるのだろうか。

今週末は梨沙子の家に行くことになっている。
春休みが明けてから初めてになる。
二人で過ごした数日間を思い出したら、心が和んできた。
やわらかくて甘い時間。
胸がほっこりしてくる。
128 :8 :2009/04/02(木) 15:53


うん、きっと大丈夫だ。

たくさん頭を使ったらなんだか眠くなってきて、
そういう適当に自分を納得させる答えを選んで、目を閉じる。
睡魔に誘われるまま、眠りの世界に思考を預けた。
遠くで本鈴が鳴るのが聞こえた。
129 :8 :2009/04/02(木) 15:53

130 :作者 :2009/04/02(木) 15:56
春休みさいごの更新。
更新頻度が更に落ちそうですが、書き続けたいので
また読んでいただけたら嬉しいです。


>>111
拙い文章なので、そう言って頂けて安心します。

>>112
ありがとうございます。更新頑張ります。

>>113
ありがとうございます。りしゃみやかわいいですよね。
131 :名無飼育さん :2009/04/03(金) 00:38
お疲れ様です。
不安定な彼女が気になります。
132 :名無飼育さん :2009/04/04(土) 01:17
更新お疲れさまです
うわあ、もう、ドキドキする…
どう冒頭に繋がるのか予想が出来ないです

133 :名無飼育さん :2009/04/04(土) 20:39
更新楽しみにしてました。お疲れ様です。
何だか不穏な雰囲気で、こちらも動悸がします。
続きが気になりますが、マイペースに続けてください。
134 :名無飼育さん :2009/05/03(日) 00:18
更新お待ちしております
135 :名無飼育さん :2009/05/27(水) 08:57
更新楽しみに待ってます
136 :名無飼育さん :2009/06/29(月) 20:30
まだかなまだかな(∀)
137 :名無飼育さん :2009/07/08(水) 20:29
続きが気になるー
138 :作者 :2009/08/11(火) 00:25
本編とは関係ない番外編。
139 :夏の思い出 :2009/08/11(火) 00:28
前の夜は宿題を片付けちゃおうとか飽きるまで寝ようとか
色々としたいことは浮かんだけれど、結局あたしは毎年のようにみやの家に向かっていた。
まだ午前中なのに太陽からはじりじりという音が聞こえそうなほど強い光が降りてきている。
一応日焼け止めは塗ってきたけれど、こんなに強い日差しには頼りなく感じた。
避けるようにしてなるべく日陰を選んで歩いていく。
そのまま15分ほど行くとみやのマンションがみえた。もう額には汗が浮かんでいる。
140 :夏の思い出 :2009/08/11(火) 00:29
エントランスホールを抜けエレベーターに乗り9のボタンを押すとスーッと昇っていく。
完全に止まると扉が開いた。真っすぐに目的の場所へ歩く。
表札が無いけれど見慣れた扉の前。見慣れたインターホンに指を置く。ピンポンピンポンピンポン。連打。
三回目でガチャリとドアが開いて正に今起きましたという顔のみやが現れた。

「おはようみや。なんか顔疲れてるよ、大丈夫?」
「あんたがこんなあさはやく来るからでしょ…。」
溜め息マジリに呟くと振り返ってまた中に戻って行った。
それでも決して追い出そうとはしないみやが好き。なんて。
141 :夏の思い出 :2009/08/11(火) 00:29

それでも決して追い出そうとはしないみやが好き。なんて。
寝癖の付いた頭を見ながらあたしはサンダルを脱ぎみやに続く。
みやは突き当たりを右に曲がって自室へ。あたしは正面の扉を開けてリビングへ。
勝手知ったるみやの家。冷蔵庫の上段からプリンを取り出して、食器棚からスプーンをつかみ取る。
テレビの前のソファーにどさり。朝のニュース。へぇ。景気が漸く底入れ。底入れって何かな。
プリンの蓋をぺりぺり開けてカスタード色に銀のスプーンで侵略。ん、おいしい。
142 :夏の思い出 :2009/08/11(火) 00:30


「そのプリン。」
「おいしいね、これ。」

振り向かずに答える。盛大な溜め息。それから右からドスンと音がしてソファーがそちらに沈む。

「一口。」
「はい。」

あーんと開けられた口にプリンを運ぶ。プルプル震えるカスタード色。

「甘い。」
「プリンだもん。」

みやとあたし交互で食べたらすぐ空になったプラスチックの容器。スプーンを入れてテーブルに置く。コツンと冷たい音。
視線をテレビの後ろの窓に。カーテンの隙間から覗く濃い青色。
テレビの音と争うように喧しいセミの声。しゅわしゅわしゅわ。みーんみんみん。
143 :夏の思い出 :2009/08/11(火) 00:31

視線を右に移すとみやはソファーに深く埋もれて目を閉じている。
眠そうだ。でもスエットから着替えていた。寝癖も無くなってた。あたしはなんだか嬉しくなる。

「ねぇ。」
「うん?」
「夏だねえ。」
「夏ですよぉ?」

みやはまだ目を閉じていた。そのまま体が傾いてあたしの肩に降りてきた。
明るい茶色に染まった髪が頬を掠める。

「どっか行こうよ。」
「やだ。暑い。てゆか眠い。」

時計は十時を指していた。夏休みは始まったばかりだから、別に今日急かして
遊びに行かなくても、いつだっていいのだ。みやが乗り気な時で。
144 :夏の思い出 :2009/08/11(火) 00:32

でも。

「夏はみんなねらあってるからー。」
のんびりなんてしてちゃだめだゆー。

「ゆーって何。」
「なんとなく。」

みーんみんみん。しゅわしゅわしゅわ。
セミは会話の間を埋めるように鳴いている。

「どっか行こうよ。」
「やだ。」
「みやぁー。」


夏は、始まったばかりだ。
145 :名無飼育さん :2009/08/11(火) 15:15
キター!
本編の更新も楽しみにしてます…!
146 :名無飼育さん :2009/08/15(土) 11:36
待ってました!
短編も良い感じ。やり取りが、ありそう。
147 :名無し飼育 :2009/08/17(月) 14:05
心が綺麗になる感じ
大好きなりしゃみやキター
148 :作者 :2009/08/18(火) 00:59
>>141、更新ミスりました・・・かぶっている。最初の一行なしで読んでください。


大変滞って申し訳ないです。感想レス、とても嬉しいです。
更新意欲が高まります。ありがとうございます。
これからも読んで頂けるといいな。
149 :作者 :2009/08/18(火) 01:00
では本編、少しだけど更新します。
150 : :2009/08/18(火) 01:00

10メートル先、目的のマンションの前に女の子がしゃがんでいる。
自転車を漕ぐ速度はそのまましばらく見つめていると、うちを見つけたようで勢い良く立ち上がって、
にこにこ笑いながらその子は小さく手を振ってきた。うちも笑って声を掛ける。

「梨沙子。」
「みや。おはよう。」

彼女の手前で自転車のスピードを落として止まった。風を真正面から
受けたせいで乱れた前髪を手で撫で付けて整えながら話す。
151 : :2009/08/18(火) 01:01


「家の中で待ってたら良かったのに。」
「んー、なんとなく。」

自転車から降りて、並んで歩き出した。ふふ、と笑い声が聞こえたから、
ちらりと横を見るとプレゼントを貰った子供のような嬉しそうな横顔があった。
ああ、好かれてるなあなんて思う。胸がじわり暖かい。
こっちまで嬉しくなってきて、だらしなく顔がにやけてしまうのを感じた。
すると梨沙子が急に振り返ってこっちに向いたので
慌てて顔をそらすと不満げに梨沙子は声を上げる。

「なんで目ーそらすの!」
「や別に。」

152 : :2009/08/18(火) 01:02



内心どきどきして手も冷たくなるほどに緊張してるのに。
キスをしたり体の関係を持ったりしても、いつも会って最初の一時間くらいは
緊張して顔すらまともに見れないほどだった。
こんなに不器用で、臆病なのに、不思議と傍目からはクールでいつでも余裕そうに見えてるみたい。
いいことなのか悪いことなのかと言えば自分としては、決して得ではないことだと思う。
変に誤解をされたり、伝えたいことがうまく言えなかったりするのはとてももどかしいから。

別にってなに、とまだ不満げにぶつぶつ言う梨沙子を宥めながら自転車置場を抜けて、
マンションの自動ドアを潜った。

153 : :2009/08/18(火) 01:02


154 : :2009/08/18(火) 01:03


梨沙子に先導されて家の中へ入った。
ミュールを脱いで続く。梨沙子の匂いがたくさんする室内に胸が高鳴った。
相変わらずあまり生活感が漂わないリビングを、斜めに歩いて
ひんやりとしたフローリングの感覚を素足で楽しむ。
立ち止まった大きな窓の前。窓一面に曇り空が填まっていた。降水確率は40%だと今朝の天気予報でニュースキャスターが言っていたことが頭に過ぎる。

「お父さんがね。」

静かにうちの横に立つ梨沙子の気配を感じる。
155 : :2009/08/18(火) 01:03


「あたしが空が好きだから、良く見えるようにって。窓が大きいところにしようって。」

その声色は沈んで響いたから、うちは左手を伸ばして彼女の右手を掴んだ。

「晴れの日はいいけどさ、雨とか曇り空だとちょっとなんか、寂しくなる。」

前を向いたままなにか声を掛けるかわりに繋いだ手に力を込めた。その方がいい気がした。
並んで見る空の遠くのほうで、雲に覆われている太陽を見つけた。

156 : :2009/08/18(火) 01:04


正直に言えば、ついさっきまで警戒していた。ここに来ることも少し悩んだ。
この子の不安定さに近づくのが怖かった。
一瞬垣間見た狂気を恐ろしく感じていた。
屋上でのことを思い出すと押し倒されて打った背中がひりひりして、鼓動が早
まった。

でも。

左手を引く。梨沙子の体がつられてこちら側に寄るのを、右腕で抱き留めた。
口を開きかけて、やっぱり言葉は紡げそうにないと悟って諦めて閉じた。
きっと吃ったり、照れて伝えたいことなんて欠片すら言えない。そう思った。ああやっぱり、損な性分だ。
157 : :2009/08/18(火) 01:05


せめて、と髪に触れる。ゆっくり、出来るかぎり優しく撫でる。
“うちが側に居るよ”
“泣かないで”
“大好きだよ”
思いを込めて撫でる。

目の前にしたらうちに採れる選択なんていつもひとつで。
心を揺さぶるものはひとつで。
すべての理由がそのたったひとつに収束してしまうんだ。
だから怖くても、自信がなくても、手を伸ばしてしまう。


ゆっくり梨沙子の腕がうちの背中に回って、抱き合う格好になった。

158 : :2009/08/18(火) 01:06


「……みや。」

胸で響く、梨沙子の声。

「ん?」
「大好き。」


159 : :2009/08/18(火) 01:06


160 :名無飼育さん :2009/08/28(金) 01:49
更新お疲れ様です

丁寧な描写で、二人のやり取りが目に浮かびます
161 :名無し飼育さん :2009/10/31(土) 01:56
ここの二人大好きです
続きが読みたい!
待ってますので、またいつか更新して下さい
162 :9 :2009/11/01(日) 23:54

だいすき。
顔をあげて、目の前で呟かれた。
言葉が胸の中に広がる。
そのたった4文字にはうちが撫でるに乗せた気持ちと同じ、色んな
声が聞こえる。
”ありがとう”
”傍に居てね”
”大好き”
梨沙子は切なそうに目を細めた。

「ずっと傍に居てね……?」

ささやかなその声。守りたいって思うのには
十分な理由になる気がした。
傍に居るよ。
ずっと君の隣に居る。
163 :9 :2009/11/01(日) 23:55


このときの決意は嘘じゃなかった。
何があっても手を離さないで居る。
そう、心に決めた。
決めていた。
純粋な真っ直ぐ過ぎるその気持ち。
それは、今にして思えば、なんて浅はかなものだったんだろう。
自分の弱さにも、梨沙子の弱さにも気がついていなかった。
本当のことが何も、見えていなかった。
164 :9 :2009/11/01(日) 23:55



165 :9 :2009/11/01(日) 23:55




一日中くっついて過ごす。

お笑いの番組を見ては、

「梨沙子笑いすぎ!」
「だぁっておかしいじゃん!」

笑いすぎて目の端に涙を浮かべる彼女に突っ込んだりして。

晩御飯の買出しに行っては

「ねえまだ決まんないの?」
「うーん……どっちがいいかなあ。」

なんて真剣な目でひとつひとつ食材を選んでいる梨沙子の横で
右に左にうろちょろしたり。
166 :9 :2009/11/01(日) 23:56


手を繋いで帰る道。
小粒の雨がぽつりぽつりと降って来ていた。
それでも二人してのんびり歩いていた。
濡れながら帰っても寒いとは感じなかった。
右手から十分に暖かさを感じていたから。
それはきっと梨沙子もおんなじだったんだろう。
分かり易過ぎる、嬉しそうな気配。

ふらふら歩く梨沙子。
危なっかしいからなるべくうちは車の行き交いに気をつけて、
ちらちら振り返りながら歩いていた。
すると、不意に右頬にやわらかい感触があった。

「すきありっ。」

にひひーっ。
口をいの形にして笑って、梨沙子は一歩先に出る。

「ほっぺにちゅーとかそういう可愛いいたずらはー。」
167 :9 :2009/11/01(日) 23:56


そこまで言って、梨沙子に飛び掛る。そしておもいっきり
お返しをした。
梨沙子がくれた、ちゅっていう軽いやつじゃなくぶちゅーっていう感じの。
それから、言い放つ。胸を張って、したり顔。

「大好きだぞっ!」
「きゃははははは!」

そんなくだらない、っていうかどうしようもない
バカップル丸出しのふざけあい。
甘すぎて楽しくて幸せで、すべてが
キラキラ音を立てて輝いてる。そんな気にすらなる。
ずっとずっと続けばいい。ずっとずっと。
168 :9 :2009/11/01(日) 23:58


でもやっぱり時間は止まってくれない。
一方通行。過ぎ去っていくだけ。夜は朝にバトンタッチする。

もうそろそろ帰らなくちゃいけない時間。
なんで楽しい時は普段より早く進んでいくんだろう。
昨日の晩から降り続けたらしい雨はすっかり、アスファルトを
水浸しにしている。さらに雨脚は一層強まっていて。
自転車なんて漕いで出たら、ものの五分でずぶ濡れになること
間違いなしだ。

「どこにも行けないね。」

なんだか少しだけ楽しげに響いた背中からの声に振り返る。
そのまま飛び込んできた梨沙子を抱きとめた。
でも帰らなきゃ。

「傘借りてっていい?」
「どうして?」

いやどうしてって。
169 :9 :2009/11/01(日) 23:58


口の端だけ少し上げる笑み。
余裕のある瞳の色。
誘うような唇。
この場面で妖艶すぎる目の前の彼女。

「居ればいいよ。」

それから、にこっと笑う。

これは天性のものなのだろうか、
計算なのだろうか?
うちは戸惑うばかりで答えはわからなそうだった。
だから、目をそらしたんだ。
その魔性に取り込まれないように。

「−−や、帰らなくちゃ。ママにも言っちゃったし。」

足元の鞄を拾い上げてひょいと肩にかけると、そのまま
玄関に向かう。すると
梨沙子は何も言わずについてきたので、こっそり安心した。
170 :9 :2009/11/01(日) 23:59


「じゃあまた、明日。」
外に出てドアノブに手をかけて、梨沙子を見つめる。
こちらに傘を静かに差し出して、無表情。

「梨沙子?」
掲げられた傘を受け取りながら、玄関口の
少し高いところに立つ梨沙子を、上目遣いで伺うように呟く。
すると彼女はゆっくりと口を開いて、言い放った。

「みやのばか!ばいばい!」


ドアがバン!と音を立てて怒りを表現していた。
ぽかん、と口をあけて暫し閉じたドアを見つめて呆けた。
は?
怒ってる……?
なんで。
171 :9 :2009/11/02(月) 00:00

思い通りにならないからって
……子供じゃないんだから。
はぁ。
自然とため息が漏れた。

くるりと踵を返して歩き出す。
歩調がいつもより速くなって、自分も苛々しているのに気がついた。

胸にこみ上げてくる不快感。
しょうがないじゃん、しかも明日会えるのに。
不機嫌になったって、あんなふうにドア閉めなくてもいいじゃん。

雨を蹴って歩いていく。

なんだかうちばっか振り回されてるなあ。
年上のはずなのに主導権全部握られてる気がする。
それにうち、馬鹿じゃないし!
しかも悪くない。
悪くないよね?
よーし。
仲直り、自分からはしないぞ。
172 :9 :2009/11/02(月) 00:00


でも、結局その日のうちに梨沙子から連絡がくることはなかった。

まだ怒っているのかな、と不安に駆られる気持ちを抑えつつ、
傍においておくと思わず梨沙子の様子を伺いそうになってしまう
携帯を、なるべく視界に入らないようにと
机の奥にしまう。そして
悪くない悪くない。うちはなんも悪くない。
そう呟きながらベッドに入り、無理やり目を閉じた。
173 :作者 :2009/11/02(月) 00:06
漸く更新できました。
少しづつですけれど、完走する気はあるので
よろしくお願いします。
レスはとてもモチベーションがあがります。ありがとうございます。
174 :名無し飼育さん :2009/11/06(金) 01:37
続きキテター!
完走宣言聞けてうれしいです
175 :名無し飼育さん :2009/11/13(金) 05:12
更新お疲れ様です
この作品すごく好きなので待ってます
176 :名無飼育さん :2009/12/02(水) 01:40
乗り遅れた!!
この作品大好きです。
いつまでも待ちます!
177 :10 :2009/12/04(金) 00:20


朝目覚めるとすぐに机の引き出しを開いた。
お目当ての手の平サイズの白い機械を掴んで、電源をいれる。
期待半分不安半分で液晶画面を覗く。

梨沙子からの返信は、入ってなかった。

……怒ってるのかあ。


溜息と沈む気持ちが体に重しを付ける。いつもより朝の支度が進まない。
のろのろ顔を洗ってご飯を食べて、歯磨きをして制服に着替える。
動きたくないと訴える足を引きずりながら学校を目指した。

漸く姿を現した校舎に貼り着いている時計を見上げると、
8時半少し前を示していた。
遅刻ぎりぎりだあ……まあ間に合ったからいっか。

178 :10 :2009/12/04(金) 00:21

あれ?

視線を戻すと校門に梨沙子が立っていた。

いままで下ばかり見て歩いてたから、こんなに近くに来るまで気づかなかった。
その光景は桜の中に佇んでいた日の記憶を蘇らせた。

同じ場所。同じ時間。
だけどあの日とは違う背景、薄桃色ではなく緑の木々。
朝の日差しを弾いて生き生きと力強さを主張して伸びる若葉。

何より違うのは。

梨沙子が、泣きだしそうな顔をしていること。

薄茶の揺れている瞳がうちを捉えて、目が合った。
一先ず笑おうと頬の筋肉に力を入れ、挨拶がわりに軽く手を挙げる。

歩みを進め大声を出さないでも聞こえるまで距離を縮めて、立ち止まった。
じっと見つめられたままで、何を言おうか。言葉が見つからない。


「……おは、」
179 :10 :2009/12/04(金) 00:21


目の前の梨沙子が一瞬消えた、と思ったら抱きしめられている感触。

「梨沙子?」


チャイムが鳴る寸前に登校する怠けた生徒は結構多い。
いくつも同じ色の制服が目の前を通るけど、透明なバリア
があるかのよう。うちと梨沙子から半径一メートルを上手く避けて行く。

みんな急ぎ足。でも、確実にこちらを気にしているのが分かる。
好奇に満ちた無遠慮な視線を投げる子もたまに居た。

それに背を向けている梨沙子は気づいているのか居ないのか、
更にぎゅっと力を入れてきた。
うちは腕を回して抱き返そうか迷って、上げたり下げたり。

絶対変な噂たつよこれ。このままここにいるのはまずいよなあ。
てか授業始まっちゃうし。どうしよ。

もう一度名を呼ぼうと俯く。と。
180 :10 :2009/12/04(金) 00:22

胸のあたりのシャツが、湿ってる。
小さくしゃくりあげる声が聞こえた。


この子を残して、教室なんかに一人で行く?

もちろん。



「屋上、いこっか。」

答えはNOだ。



181 :10 :2009/12/04(金) 00:22


182 :10 :2009/12/04(金) 00:22



そっと梨沙子を胸から離すと、しっかりと手を繋いで校舎に向かった。

チャイムが鳴り響くのを無視して、静かに三年の階を上がって、
ニ年の階もスルーしていく。

四階に差し掛かると、途端に薄暗くなる。
錆び付いた階段。埃っぽい空間。

もう梨沙子も慣れたようで、気をつけるポイントを言わないでも、
置いてあるものを確実に避けながら着いて来ている気配を感じる。

授業が始まっている時間だから、なるべく壁に沿うように歩いて
教室から見えない位置、いつも昼ご飯を食べている給水塔の影まで来る。

ここなら大丈夫だろう。声を掛けようと振り返った。
183 :10 :2009/12/04(金) 00:27


見えたのは空。だけ。
想像していた景色との決定的なズレ。
画面の中央に居る筈だった。
居ない。

梨沙子?

目を一度強くつぶって、開く。
やっぱり居ない。

四階から上がる途中、足取りに気を取られて、手を離してしまっていた。
それにも気づかなかった。

未だ呆けたままの頭に、カンカンカンと今さっき聞いていた
音が遠ざかるのが入って来た時、まぬけなうちにも状況がやっと把握できた。



逃げられた。
184 :作者 :2009/12/04(金) 00:28
亀更新ですが。がんばります。
気が向いたら読んでください。
185 :名無し飼育 :2009/12/04(金) 07:53
更新お疲れ様です
続きが気になります^^
マイペース更新お待ちしてます
186 :10 :2009/12/08(火) 22:55


本鈴が鳴っている。構わずに走り出す。
階段を飛ばして、躓きかけながらもとにかく走る。

「りっ…。」

呼び掛けて止まった。
駄目だ、授業中だ。大声を出せない。
言葉を飲み込んで、強く歯を食いしばる。


なんで逃げるの?
焦りと困惑と切なさと少し悲しい気持ち。
混ざり合ったそれはぐるぐると渦巻いてなんだか
得体の知れない濁った色になって、ちゃぷんちゃぷん胸の中で揺れている。
正体不明のまま揺れる勢いで口から目から溢れ出しそうだった。

まずは梨沙子を捕まえなくちゃ。
その思いだけが体を動かしていた。

187 :10 :2009/12/08(火) 22:55




なかなか姿が見えて来ない。
唇が乾いてくる。舌を出して舐める。
静まり返っている階段に響く足音だけを頼りに、追う。

三階分下ったところで音が変わった。廊下を走る音。
特別教室のフロアだ。

大きめの教室が並んでいて、長い廊下がそれに沿い
まっすぐに伸びている。一方通行のその廊下の先は曲がると
職員室、更に奥には校長室が続く。きっとそこまでは走っていかないだろう。

追い付くならここしかない。


階段を四段抜かして右を見ると走る背中を視界に捉えた。
漸く梨沙子を確認できて安心感が生まれる。

絶対、捕まえる。強く思う。


188 :10 :2009/12/08(火) 22:55



限界まで足を素早く、交互に前に出す。
背中を汗が一筋伝ったのが分かった。
カーディガン脱ぎたいと頭の片隅で思う。
そんな暇無いから代わりに腕まくりをした。

スライドを大きく取る。
全力疾走。
もっと、もっともっと。速く!

埋まっていく二人の距離。大きくなってくる背中。

後一歩、一歩分で手が届く。
右足を踏み込んで少し飛び気味くらいの勢いが付いた。
そのまま手を伸ばす。
触った――

そう感じた刹那、梨沙子は右手を平行にのばして戸をスライドさせ、教室に入っ
た。
思わず躓きかける。
どうにか体を翻して、同じように教室に飛び込んだ。
189 :10 :2009/12/08(火) 22:56

理科室だ。

黒いカーテンは閉まっていて、端からわずかに朝日が漏れているけど、薄暗い部
屋。

窓際まで走って行った梨沙子はこっちを振り返った。

眉間にシワを寄せて睨みつけられる。
分かりやすく¨警戒してます¨な顔。
周りの空気までも硬く硬く張り詰めている。
フーフーいいながら全身の毛を逆立たせている、野良猫。
野良というには毛並みが良すぎるけど。

目は逸らさずに、後ろ手でそっと戸を閉めた。
ゆっくりひとつ瞬きをする。


「…梨沙子。」

息は上がっているはずなのに、自分でも不思議なくらい落ち着きのある声の色。
190 :10 :2009/12/08(火) 22:56

一歩踏み出す。
続いて二歩、三歩。
見つめたまま近付く。

梨沙子は忙しなくあちこちに視線をやって、カーテンの裾を掴んだり、窓枠に手
を置いたりしていた。だけど、動こうとはしなかった。

うちは歩みを止めない。その様子を見ながら、
ゆっくりと、まっすぐ梨沙子に向かって歩いていく。

真正面。
腕を静かに上げる。
追い詰められた猫は怯えて瞳をきゅっと閉じる。

うちはこれ以上怖がらせないようそっと、
壊れ物を持ち上げる手つきで両手にやわらかく挟みこんだ。


「捕獲、せいこー。」

そう言ってにやっと笑う。
191 :10 :2009/12/08(火) 22:56

瞬間、梨沙子から警戒オーラがパッと消えて、一回り小さくなったように見えた。

力が抜けていき傾いた体を受け止めて、
しっかり抱き留めた。
梨沙子は額をうちの左肩の辺りに置くと、そのまま大人しくなった。



さっきまでの追いかけっこが嘘のよう。一転して、静かな時間が流れる。

この空間には二人の息遣いだけが聞こえている。
梨沙子もうちもちょっとおかしな体勢のまま
固まってじっとしていた。

授業中に、誰も居ない薄暗い理科室の片隅で
置物のように動かない二人。
状況を整理するとひどくおかしいけど、
そんなこと考えてもいなかった。
全力で運動した後で頭がうまく回っていなかったのかもしれない。
ただ梨沙子の少し高めの体温が心地いいなあなんて
思っていた。
192 :10 :2009/12/08(火) 22:57


しばらくして腕を緩める。
弱弱しい瞳がぶつかる。
みるみるうちにその瞳の中には
たくさんの水が湧き上がってきて、とうとう淵を飛び出す。

「ごめ…」

顔が下がる。
涙は頬に受け止められず、梨沙子の上履きにポツリと落ちた。

「おねがっ、きらいに、ならない、でっ。」

泣き声とそんなかんじの言葉のみがひたすらに耳に届く。
何度も何度も繰り返される。

193 :10 :2009/12/08(火) 22:57

ごめんなさい。嫌いにならないで。


途切れ途切れのつぎはぎのそれを、
なぜだかひどく穏やかな気持ちで聞いていた。
わくわくさえしていた。
何かが始まる期待感。

もううちは完全に決めていたんだ。
どこにも退く気も隠れる気も無かったから。
根拠は無かったけど、出来る気がしていた。
この子をすべてを受け止める。
裏づけの無い自信で胸がいっぱいだった。

人を愛するって、そういうことでしょ?
194 :10 :2009/12/08(火) 22:58


でもうちが思っていたそれは――
自分のすべてを捧げるという意味じゃなかった。


始まりは終わりで、終わりは始まりだった。





195 :作者 :2009/12/08(火) 22:59
>>185さん
ありがとうございます。マイペースに付き合っていただき感謝です。

なかなか話が進みませんが・・・更新がんばります。
196 :名無し飼育 :2009/12/09(水) 13:18
更新きてるー!
作品の空気が大好きなのでマイペース更新が良い具合です^^

りしゃみやどっちもは高そうな猫っぽいですね。
りーちゃんがフワフワした毛が長い白猫
みやびちゃんはスラっとした黒猫ってイメージです(勝手にw
197 :名無飼育さん :2009/12/09(水) 15:37
登場人物は少ないのに物足りなさをまったく感じさせない。この小説の世界観すごい好きです。
198 :名無飼育さん :2009/12/10(木) 21:33
更新お疲れさまです。
なんとも言い表し難い鋭さにどきどきしています。
199 :11 :2009/12/12(土) 12:20



窓をゆっくりスライドさせて、静かに開ける。
靴も音がしないよう気をつけつつ窓の外に落とす。
ジーパンのポケットに捩込んである携帯と財布と自転車の鍵を落とさないよう
注意しながら窓の枠に両手をかけて、体を乗せる。

片足づつ柔らかく着地。靴を履くと、窓に手を伸ばしきちんと閉めた。

庭に回る。
自転車に寄って行き鍵を空け、慎重に道路まで引いていって、出発。
ここでやっと、安心できる。

200 :11 :2009/12/12(土) 12:20


ずっと住んできたのに、夜の闇に浸っている街並みは全然知らない土地に
迷い込んだと錯覚するくらい雰囲気が違う。不思議な感覚。
女の子は怖がる子も多いと思うけど、うちは結構大丈夫なほう。
むしろ楽しい。それに街の別の顔を見ることが出来て得した気分。
大きく息を吸い込んで、深夜の空気を味わう。


夜に沈む道は車も人もほとんど通らない。
なんにも気にせず思うままに走れて爽快だ。
いつもならゆるいカーブを描く道に沿いハンドルを曲げるところを、
思いっきりラインをはみ出しながら曲がる。直線に入って漕ぐ
スピードを一気に上げる。意味なく蛇行したりもしてみた。


自転車で走ることを満喫していると、大きなマンション
が視界に入ってきた。
目的地到着。
もう辿り慣れた道だからちょっと思考を飛ばしたり、
遊んでいて集中していなくても、体が勝手に連れていってくれる。

いつもの場所に自転車を止め、小走りに入口を抜ける。
梨沙子の家の階のボタンを入力して呼び出しを押す。
201 :11 :2009/12/12(土) 12:21


「はい。」
「雅。」
「すぐあける。」

機械越しの業務連絡的な淡々とした応酬も慣れていた。
言葉通り早速ガチャンという音と共にエントランスホールへの自動ドアが開かれる。

マンション内に入ると奥にあるエレベーターを目指し、乗り込む。
うちはまだスパイだとか工作員とかゲーム勇者とか、何かの役をして
遊んでいる気分で来ていた。

だから、出迎えてくれた彼女に。


「……こんばんは、お姫様。」

こんなふうにふざけて言ったりして。


すると梨沙子も、ぎこちなくだけど乗ってくれた。

「こんばんは、……王子さ、ま?」


一瞬見詰め合って、もちろん吹きだす。玄関先でなにやってんのうちらーって。

笑い止むと梨沙子はやさしく手をとって、部屋へと招き入れてくれた。
202 :11 :2009/12/12(土) 12:21






203 :11 :2009/12/12(土) 12:21



部屋の電気を消し、家のみんなが完全に寝静まったのを見計らって、そっと抜け出す。
玄関を使ったら扉を開ける音でばれるから、窓から出て行く。
ほとんど毎日梨沙子の家に通っていた。

太陽が昇り始めるころに家に戻る。もちろん窓から。
ベッドに倒れこんで少しだけ眠って学校に行く。

こんな生活をしていたら当たり前に疲れるし学校では眠くてしょうがなかった。
元々真面目に授業を聞いていたわけではないけれど、以前と比べて
断然机に伏せて眠っていることが多くなった。授業の内容も
より分からなくなっていった。

204 :11 :2009/12/12(土) 12:22


部活に顔を出す頻度も減った。
ダンスは好きだったけど、それ以上に好きなものを見つけてしまった。
うちは不器用だから、両立させることが出来なかった。
キャプテン−部長だけどみんなキャプテンと呼んでいる−はもっと来なさいと
たまにうちを咎めたけど、適当に笑ってごまかした。

代わりに梨沙子と過ごす時間は増えて、その分うちの頭の中は梨沙子で
いっぱいになっていった。
何をしていても梨沙子のことを考えている。
そして梨沙子に関わる事以外はどうでもよくなった。

最初は守っているつもりでいたけど、一緒にいると自分のほうが離れられなくなって
しまったみたいだ。



205 :11 :2009/12/12(土) 12:22




「みやー、今日ヒマ?」

「んー、ごめん用事ある。」


LHRの後、帰る支度をしていると千奈美が目の前に立っていた。
視線を徐々に上げていくと不満げな顔を見つける。

「最近全然遊んでなくなーい?」

「そだっけ?」


目をそらすと千奈美は、前の席にこっちを向きながら座ってきた。
逃げられないな。あきらめて座りなおし、千奈美に体を向ける。

頬に痛いほど視線を感じる。仕方なく目を合わせて口の端だけ笑ってみる。


「てかみや、なんか授業とかも最近寝てばっかだし、あんま喋んないし。
なんかあった?」


千奈美はまっすぐな子だ。自分がおかしいと思ったこと、違うと思ったことは
有耶無耶にしないで納得がいくまで解ろうとする。
そんなとこ好きだ。
でも。

206 :11 :2009/12/12(土) 12:22


「なんもないよ。帰るから、また明日ね。」


言えなかった。言いたくなかった。
うちだってなんか違うってぼんやりとだけど気づいていたから。
絶対に梨沙子と会うことを控えろと注意されると思って、かわした。

間違ってるって分かってたけど、やめたくなかった。
今はとにかく梨沙子と居たかった。できるだけ傍に。
なによりもただそれだけ望んでいた。
一緒に笑って歩いて触れていたかった。
二人で居られれば他の事なんてどうでもいい。

何かを言いかけた千奈美を置いて立ち上がる。


ごめん、ちー。それから心配してくれて、ありがとう。
でも、うちどうしようもなく、恋に落ちてる。
梨沙子の隣に居るだけで心地よくて幸せで、満たされてる気分になる。
それだけでいいって、思えるんだ。思っちゃうんだ。


207 :11 :2009/12/12(土) 12:23


鞄を持って後ろの戸を引く。昇降口の方に梨沙子が立っていた。
小さく手を振っているのを見ると、心がじんわり熱を持った。

「かえろ。」
「ん。」


横に並ぶ。揃って階段を下りていく。
梨沙子の存在を隣に感じると頬が緩む。


遠くで千奈美が名前を呼んだ気がしたけど、
気のせいだと自分のなかで片付けた。
208 :作者 :2009/12/12(土) 12:27
ストック無くして自分追い詰めてみよう作戦。
更新速度落ちたらすいません。・・・うん、落ちそうw


>>196さん
二人とも血統証付の高級猫って雰囲気ですよね。


>>197さん
二人を描くことでいっぱいいっぱいですw

>>198
そう感じていただけて嬉しいです。
佳境だー。
209 :名無飼育さん :2009/12/12(土) 17:49
出会えた!!
こんな小説を待っていました、ありがとうございます
210 :名無飼育 :2009/12/13(日) 09:23
更新乙です!
この世界観をまんま実写化してほしい…
211 :名無飼育さん :2009/12/13(日) 23:00
ほおぅぅぅぅぅっ
作者さんのおっしゃるとおり。佳境ですね……
更新、おつかれさまです。
212 :12 :2009/12/16(水) 22:26


雨の日は地面が濡れるから抜け出しが出来ないし、自転車も
使えないので会いに行けない。

代わりにベッドに寝転んで、正面に張り付いているいつもの
出入口である窓を眺めながら電話をした。


「落窪姫みたい。」
「落窪姫?」


梨沙子の声の後ろ側から、降り注ぐ雨の音が携帯を通して聞こえて来る。
この部屋を満たしているのと同じBGM。目を閉じれば、隣にいるって
錯覚するほど重なり合う音。

「そう、落窪姫。この間古典でやったんだ。」
「そうなんだー。」
「えーっ。あたしがやってるならみやも去年やったはずじゃん。」
「あー……あははっ。」

213 :12 :2009/12/16(水) 22:26

笑ってとぼける。記憶にない。なんだっけなんだっけ。落窪姫?やったっけ。
古典てどれも似たようなかんじだからなあ。


「んー、思い出せないや。どんな話?」
「えーっとね。」

不遇な姫が偶然王子に見出だされ、結婚の儀が決まる最後の晩。生憎の大雨で
会いに行けない王子と姫の、手紙を通したやり取りの話だと説明してくれた。


「雨の日に会えないっていうので思い出した。」


現代のように舗装もされておらず、街灯もなかった時代。
雨の外出は月もない真っ暗闇をぬかるみの中歩くことになる。
いけなくてもしょうがないだろう、王子は悪くない。

「でも、お姫様に仕えてた女中さんが上手くとりなすんだよね。」

その女中の手紙をきっかけに王子は姫の元へ行くのだそうだ。
ともすれば迷わないこともない真っ暗な道を、危険を冒して
好きな人の為に行く。

214 :12 :2009/12/16(水) 22:27

「ロマンチックな話じゃん。」

「だよね。この時の古典は楽しかったから覚えてるー。」
「王子様すごいね。」

「ね。……みやも会いにきてよ。
なんて、
うそ。じょーだん。」



じょーだんだけど、会いたいのは嘘じゃないよ。

「なんでどんなに一緒にいても、足りないのかなあ……。」


215 :12 :2009/12/16(水) 22:32

12時を回ったところでおやすみ、と告げあって電話を切った後も、
眠る気になれなくて窓を開け、タバコを机から取り出す。

雨は相変わらず降り続けているけど、火を消さないでいられる
範囲くらいは屋根が遮ってくれるから、
ライターを擦って火を着ける。

吐き出す煙が雨で掻き消えるさまを眺めていた。


¨なんでどんなに一緒にいても、足りないのかなあ……¨


耳に留まっている、何気なく零された言葉が頭の中で繰り返される。
ベッドに入ってはみたものの、眠れる気はしなかった。
寝返りを何度も打って、瞼を開けたり開いたり。

それでも、夏の準備をしているかのように降り止まない雨は、
戸惑いも恐れもどこか優しげに、包み込んでくれる気がした。
216 :12 :2009/12/16(水) 22:32



217 :13 :2009/12/16(水) 22:33


梅雨が明けると待ちに待った夏がやってくる。
大好きな夏休み!

だけど、その前に。



「夏焼ー。これ来週期末に出すから起きてろ。」
「……はい。」

お節介な、、じゃなくて優しい先生たちは最近、頻繁に声をかけてくれて
うちは寝る暇がない。
あくびを抑えながら素早く黒板一面を埋める数字の羅列を
書き写す為にシャーペンを握る。どうやら右上に書かれた式の解答らしい。
なにがどうなっているのか全然わかんない。

やばいなー。もう来週期末かあ。こんなの解けるようになるわけないじゃん!
218 :13 :2009/12/16(水) 22:33

うーーわかんない。
投げ出したい。
投げ出したい投げ出したい。
投げ出したい。
シャーペンをノートに走らせながらそんな言葉が頭を過ぎって、
右手に反映される。数式の途中を割り込む文字。
¨投げ出¨まで書いてしまう。すぐに消す。
過ぎるだけならまだいいけど、その気持ちが時間が進む毎に増していくからタチ
が悪い。

現文、古典、日本史、英語……
うわあどれもみんなさっぱりだ。
ちょーやな予感がする。赤点コースすぎる。
こんなことならちゃんと授業聞いとくんだった……
ってこれいつもテスト前思うんだけどなあ。
終わると完全に忘れてる。
だって覚えること、テスト以外に使うとこないし。
219 :13 :2009/12/16(水) 22:33

ああ、とにかくまず授業終われ。これ以上うち堪えらんない!
おーわれ。おーわれ。
祈りながら先生の頭上、時計を見上げる。
一秒が長い。
なかなか動かない時計の針。じれったい。止まってないよね?動かなすぎだし。

呪えるくらいの目つきをしていたと思う。
時計が四時半を指した瞬間、待ち焦がれたチャイムが鳴った。盛大に息を吐きな
がら机に突っ伏す。
超疲れた……。

目を閉じても白い文字が責めて来る感じだ。
顔を起こせないでいると。
220 :13 :2009/12/16(水) 22:34

ばさり。

頭に落ちる重みのある紙の束の感触。


「今日は珍しくちゃんと起きてたね。」
「茉麻!」

女神様は……現実にいます!
御手に持たれているのは私の命綱であるところの授業ノートだ。
両手を掲げて丁寧に受け取る。

「いちお五教科分ね。」
「ありがとうー。女神さまー。」
「ノートだけじゃ意味ないから、ちゃんと勉強すんだよ?」
「が、がんばります。」


有り難いお言葉を戴く。
赤点を取れば補習対象。夏休みを返上して学校に通うことになる。
それだけは避けたい。
マジで勉強しなきゃだ。
しばらくは梨沙子と会うの控えなきゃやばいかも。
寂しがるかなあ。
てかうちも寂しい。

うーん。
あ!一緒に勉強すればいいか。
221 :13 :2009/12/16(水) 22:34

ぱっと思いついて顔を上げると、
半袖から伸びた真っ白な腕を組んで、茉麻が優しげに笑ってた。

眩しいくらい色が白い。
梨沙子も白いけど茉麻も白いなあ。
どっちのが白いんだろう。


「……なに?」
困ったようなまあさの声。
顎で指された方を見ると、うちは目の前の腕を掴んでいた。
柔らかい。って、違う!


「はは、なんでもない。」
ぱっと離してそのまま手の平をひらひらと振ってごまかす。
危ない危ない。無意識に触ってた。

「ノートありがとまあ。明日返すね。」
222 :13 :2009/12/16(水) 22:34

鞄の中に受け取ったノートを納めるとずっしり重くなった。
何かを言いかけ口を開こうとした茉麻を見なかったことにして
背を向けると、肩を掴まれる。


「みや。」

茉麻の声の調子は逆らえない強さを持っていた。
諦めて振り返る。

「ちゃんと寝てる?」

ぶつかったのは声以上に迫力のある目。


「寝てるよ、授業中だってしょっちゅう寝てるじゃん、うち。」

「じゃなくて、家で、夜ちゃんと寝てるの?」

「寝て、る。」

「隈が出来てるよ。疲れてる。」
223 :13 :2009/12/16(水) 22:35

さすが茉麻、鋭いな。
うちを見据えるまあの瞳は揺らがない。
その色は確実に心配を含んでいて、なんだか申し訳なくなった。
何か言おうとしたけど、中途半端な言い訳しか思いつかない。

沈黙になる。


茉麻の真っ黒の長い髪が、夕方になっても衰えない、夏の始まりの光に透けている。
綺麗だな、と思った。
遠くでふざけていた小春とちーも、いつの間にか静かになっていて、
何となくうちらの会話を聞いているんだろうと思った。
もしかしたら知らないところで沢山心配をかけているのかもしれない。

224 :13 :2009/12/16(水) 22:35

でもうちは


「大丈夫だよ。」


梨沙子の傍にいたい。


「ノート、明日返すから。」

さっきと同じことを呟いて、扉へ向かう。
もう目を合わせていられなかった。



225 :作者 :2009/12/16(水) 22:39
ちみちみ更新。
感想頂くと本当テンションあがりますね。
>>209
もったいないお言葉です。嬉しいです。


>>210
こんなへなちょこ小説なんで実写するならだいぶすばらしい監督さんが必要かとw

>>211
ありがとうございます。
ガーっと終着駅まで飛ばしていきたいです。


226 :名無飼育さん :2009/12/17(木) 05:03
ありがとうございます。とゆいたい
素敵すぎてすごく好きです。
227 :名無し飼育 :2009/12/17(木) 13:57
雰囲気が堪らなく好きです
228 :名無飼育さん :2009/12/18(金) 02:05
今後、どう展開するのか予想が尽きません。
229 :通りすがりM :2010/01/30(土) 07:42
この話、大好きです。
Buono!の『OVER THE RAINBOW』が似合うな〜と。

更新、楽しみにしてます。
230 :14 :2010/02/09(火) 23:08


お城の形をした真っ白な入道雲が夏の空を我が物顔に陣取っているのを見ていると、
背中に汗が一筋流れ落ちるのを感じた。
馬鹿みたいに照り付ける太陽。
足元には鉄板みたいなアスファルト。
髪を揺らすのは全然涼しくない湿った生ぬるい風。

真夏の、正午。



231 :14 :2010/02/09(火) 23:09


期末試験は案の定、散々な結果だった。

一応梨沙子と並んで座って、机に教科書を広げてみたりはしていた。
けどまともに勉強した記憶はない。

放課後はろくに時間ないから、なるべく話をしていたかったし
夜中は梨沙子がすぐ眠たいって言い出して、うちの手を引いて毛布に潜るから
つられるし。一緒に布団に入ったらお話したりとかいろいろするしさ。
勉強なんて出来る訳がない。しょうがないしょうがない。

……はい、言い訳デース。



「ぎりぎり低空飛行してたのが、ついに墜落ってかんじ?」


「そー、そんな感じ。」
232 :14 :2010/02/09(火) 23:09

後ろから掛けられた声に調子よく返すと、英語の石川先生がにっこり笑ってた。
目が合うと真顔になる。

こわっ!!!

反射で逃げようとする背中に追い撃ちがかけられる。

「夏休み楽しみだねえー夏焼ちゃん。
成績上がるいい補習メニュー考えとくから」

「あはは、はは」


渇いた声が出た。
じっくり答案用紙を見たくなかったのですぐに半分に折り曲げて、
こそこそと自分の席に逃げ帰った。

毎回補習にはひっかかりはするけどせいぜい二教科位だったはずなのに。
今回はフルコースだ……。

手元に集まった真っ赤なテスト用紙を見て、裏に透ける補習という
罰を想像しげんなりした。

233 :14 :2010/02/09(火) 23:09


五日間の集中補習期間は、想像を上回る地獄だった。
人数が少ないし、成績にばらつきがないので教え易いのか、
どの先生もしっかりみっちり授業をする。

特に石川先生は贔屓してうちをたくさん指名してくれた。



『なんでそこに動詞が入るの?ねえなんで?』


黒板の前に立って空欄を埋めると、最高にうざ、じゃなくて丁寧に細かーく
間違いを指摘してくれた……。


あー!

思い出したくない。忘れよう。
とにかく今日からうちも夏休み!なんだ!サマーホリデーイズカミング!
ずっと前から梨沙子とどこに行きたいとか何をしたいとか話して、
凄くすっごく二人で楽しみにしていたんだ。
234 :14 :2010/02/09(火) 23:10


海もいいね、山も行きたいし花火もしたい。お祭りには行かなきゃ!
そんな具合で迷いに迷って、初日の今日は買い物に行くことに決まった。

こういうデートらしいデートって、うちらには珍しい。
待ち合わせして、お出かけ。
まぶしいお日様の下で、人混みの街中をぶらぶら歩く。
可愛いカフェに入って好きな人と笑って話す。
普通のことなんだけど、夜に会ってインドアなデートっていうのが基本のうちらには
、新鮮で。なんかちょっと恥ずかしい。っていうか照れる。

ゲームでもしようかと携帯を取り出していると、背中をポンと叩かれた。


「みや、おはよー。」

「はよっ。あ、あついねー。」


振り向くと予想外に近い顔。
驚いて豪快に反らしてしまう。
そのせいでちらとしか姿を捉えることができなかった
けど、ばっちり見た。
235 :14 :2010/02/09(火) 23:10


やば、ものすごい可愛い。

珍しい寒色系の、アイスミント色した薄いワンピース。
緩めに巻かれた髪を下ろして普段より大人っぽい雰囲気。

特別おしゃれをしているわけでもないし見慣れているはずなのに
直視できないほど、可愛く見えた。


目的の駅に着くとまさに夏休みって感じの賑わいを見せる街。
行こうか、と梨沙子を振り返って逸れない様にと手を差し出すと、緩んだ笑顔。


「やっと見てくれたね」

みや、全然こっち見てくれないし、あんま喋らないから、
今日、なんか素っ気ないなあ、ってちょっと、寂しかった。


「だって今日の梨沙子、かわいすぎるし……」

喧騒に呑まれて届かなくてもいい、小さな声で呟く。更に誤魔化すように行こ、
と言い放って繋がっている右手を引くと、後ろから抱き着かれた。
しかし振り返る前に離れていった。
隣には嬉しそうな顔。
ちゃんと聞こえてしまっていたようだ。
それが分かると
ただでさえ暑いのに、うちの体の内側は余計に熱を上げた。
236 :14 :2010/02/09(火) 23:11


キャミソールを見て、バックを見て、ネックレスを見て。
立ち並ぶお店を素早く順番に流していく。
趣味は違うけれど、ああ、こういうのが好きなんだ、とか
意外にこんなのも似合うなあとか、
新しい発見を沢山した。

一通り回り切ると、冷房がガチガチに効いているショッピングビルを出る。
ガラス戸を押し開けるとむわっとした暑さがすぐに体に纏わり付いた。
緩やかな坂を下っていく。
ファッションビルが立ち並ぶ街にはたくさんの人が溢れ返っている。
ただでさえ暑いのに人の熱気のせいで余計に暑い。
夏が大好きなうちでもちょっと不快感を覚える。
人ごみを縫うように歩いてもなんとなく流されている。
このままじゃはぐれそうだ、と隣の白い腕をそっと掴んで、そのまま
視線を上に辿っていった。

237 :14 :2010/02/09(火) 23:11



「梨沙子、大丈夫?」

辛そうに眉をひそめて前を見ている梨沙子に声をかけた。



月が似合う梨沙子は、うちみたいには太陽を好きじゃない気がした。
強過ぎる光よりも優しくてふんわりした光を纏って目を閉じている姿が
梨沙子らしい。

「ん、大丈夫だよ」

弱弱しく微笑む彼女は確実に無理をしていると分かった。
このまま真夏の太陽の下にいると彼女が消費されてしまう、
そんな心配をするほど頼りない姿。
思わず立ち止まって見つめる。

うるさい街を背景にして、不安げな瞳で見つめ返す梨沙子が
一瞬揺らいだ気がした。
その輪郭が強い光にゆっくり溶けて消えてしまう様が頭に浮かんで、
振り払うために繋いだ手に力を籠めて引いた。
238 :14 :2010/02/09(火) 23:11




過保護かな。





「大丈夫って言ったのに」

ソファーに凭れて梨沙子が横顔のままぼそりと呟く。
手に持っている麦茶が入ったグラスの中の氷がカラン、と音を立てた。

迷わず駅に直行してそのまま梨沙子の家に帰ってきた。
自分でも馬鹿な妄想だと思ったけれど、不安でしょうがなかった。

夏の太陽はまだ沈まない。
明かりをつけなくても窓から入る夕陽で部屋の中は一面オレンジ色に染められていた。
不満げな梨沙子の声に顔も向けられずにその様子をぼうっと見ている。
やっぱりまだ買い物したかったかな。
そりゃそうだよねえ、夏休み初日だし遊びたいよね……。

結局2時間も居なかった。
しかも、特に何も買ってない。

罪悪感がこみ上げてきて顔を下に向けようとする。
直前に、視界を白い肌が埋めた。
引き寄せられて、抱きしめられてる感触と梨沙子の匂い。

「ありがとう」
239 :14 :2010/02/09(火) 23:14


「心配してくれて、ありがと」

その一言で曇りそうだった心が晴れた。簡単だな、うち。

引き寄せられたまま塊になってソファに倒れこむ。
咄嗟に体重を乗せないようにと腕をついた。

いつの間にかテーブルにおいてあるグラスから、またカランと氷の溶ける
音。
反応して一度そちらを見てから、目の前に視点を定める。

15センチの距離で見下ろした先で、緩やかに唇がカーブを描いた。
約束みたいに近づいていく。太陽が地平線に沈んでいくのと同じ。

唇が触れる寸前本当は、自分は梨沙子に触れたかっただけなんじゃないか、なんて思った。
240 :作者 :2010/02/09(火) 23:19
毎度お待たせしてごめんなさい。
真冬なのにこの話真夏。なんなの。ふほー。
がんばるます
241 :ELS :2010/02/10(水) 16:02
一気によませていただきました。
とてもおもしろいです。
続き期待してます。
242 :名無飼育さん :2010/02/10(水) 23:10
やばい・・・
続き正座で待ってます。
先が読めない。
243 :名無飼育さん :2010/02/22(月) 15:46
同じく正座して待ってます。
244 :名無飼育さん :2010/03/29(月) 23:41
正座しすぎて足が痺れて....
245 :ELS :2010/05/17(月) 20:50
ずっと待ってます。
246 :名無飼育さん :2010/10/25(月) 15:09
更新お待ちしております。
247 :ひかる :2016/05/09(月) 20:22
こんなすごい小説初めてみました。

更新待ってます。

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