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サイボーグJJ

1 :名無飼育さん :2008/06/29(日) 22:18
じゅん【純】

まじりけや偽りのないさま。
人柄や気持ちがすなおで、けがれたところがないさま。
2 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:19
UFA女子高等学校は三つの校舎からなっていた。

二年生と三年生、そして教職員のための部屋からなる本校舎。略してホンコウ。
そしてそこから渡り廊下でつながっている、専門教室校舎。略してセンキョウ。
そこからさらに渡り廊下でつながっている、新校舎。略してシンコウ。

つまりこの学校は、
本校舎と新校舎の間に専門教室校舎が挟まっている構図となっていた。

1年生の久住小春と光井愛佳は、
渡り廊下を歩いて、新校舎から専門教室校舎へと向かっていた。

新校舎は1年生の教室で占められており、上級生はまず立ち寄らない。
本校舎は敷地の北側にあり、正門のすぐ前に立っている。
だが新校舎は敷地の東側にあり、その校舎のすぐ裏には東門があった。
2、3年生は当然、正門から出入りし、1年生は東門から出入りする。

つまりこの高校は、普通に生活している限り、
上級生と一年生が接触することが極めて少ない学校だった。
音楽や美術、家庭科といった専門学科が行なわれる教室や、
文化部の部室が軒を連ねている、専門教室校舎の中を除いては。
3 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:19
久住小春はペラペラのカバンを持ちながら、専門教室校舎へと入っていく。

入り口の扉は錆び付いていて、開けるとギギギと嫌な音を立てる。
小春たち一年生が暮らす新校舎はかなり真新しい建物だったが、
この「センキョウ」の方は、数十年前に立てられたきりということもあって、かなり古い。

本校舎の方は数年前に改築されて、新校舎並に綺麗になったらしいが、
専門教室校舎の方は、改築される予定は今のところないらしい。
あちこちにシミのついたコンクリートの階段を目にして、小春はため息をつく。

「ねえ、みっつぃー。エレベーターとかないのかなあ・・・・・・」
専門教室校舎は、8階建てという、高校の校舎にしては破格の高さがあった。
ちなみに本校舎は4階建て。新校舎は2階建てである。

「ホンマやねえ。消防法とか大丈夫なんやろか? この建物は」
センキョウにはエレベーターはおろか、クーラーすらろくについていなかった。
光井の視線の先には、夏服のシャツにべったりと汗をつけている小春の背中があった。
二人ははぁはぁと息を荒げながら、目的の8階を目指す。
4 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:19
「もーう! どうせ幽霊部員やるなら物理部じゃなくて化学部にすればよかったよ!!」
「ああ。騙されたわ。もっときちんと下調べするべきやったな」

この春に入部してから、何千回と繰り返してきた言葉を二人は吐く。
ちなみに物理学教室は2階。化学教室は3階にあり、授業はその部屋で行なわれる。
入部の勧誘や、仮入部期間中の活動も主にそこで行なわれていた。
物理部の本来の部室が8階にあるということは秘密にされたままだった。
ちなみに化学部の部室は5階にある。

専門教室校舎は、1階から3階が普段の授業が行われる教室で、
4階から8階までが主な文化部の部室代わりとなる部屋となっていた。
ちなみに専門教室校舎の裏手にプールがあり、
その横には運動部の部室が入っている運動会館があった。

ワンフロアに3つの部屋しかない、細長い建物の中を二人は上がっていく。
「ある意味運動部やで」
という光井お決まりの台詞が決まったところで二人は8階についた。
「ちゅぃーす」とけだろうそうに言いながら、
小春は『物理部』と書かれた札の下がっている扉を開けた。
5 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:20
「ちゅ!ちゅいーす!」
「ちゅちゅいーーーすっ!!」
部屋の中にいた二人が小春の倍くらいのテンションで応える。

暑い。暑苦しい。
光井はこの瞬間に8階から駆け下りて家に帰りたい衝動に駆られた。
海に行きたい。
日差しの飛び切り強い海。沖縄がええかな。東シナ海がええわ。

そんなことを思いながら、光井はまぶしそうに二人を見つめる。
なんでこいつらこんなに元気やねん。
元気というなら、小春だって常人の8倍くらい元気だ。
だがこの二人の元気さは、小春ともまだどこか違う。なんかきつい。

「うおおおおおおおお! 全員そろったあ! いやぁぁぁっほう!」
部長である三年生の田中れいなが叫ぶ。
まるでロイヤルストレートフラッシュが揃ったかの喜びようだ。
この人とポーカーやったら簡単に勝てるやろな。
裏表のない性格の田中を見つめながら光井はそう思った。
6 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:20
「オー。そういえば4人揃うの久しぶりデスネ!!」
副部長であるリンリンが、小春と光井を見ながらそう言った。
確かに小春と光井が部活に顔を出すのは久しぶりだった。
だがその言葉には棘らしいものは感じられない。
棘もないが、ありがたみもない。

呼んだのは先輩の方やろーが。
だからわざわざ8階まで上がってきたっちゅーねん。
光井は心の中で突っ込んだ。

「あつーい! 暑いよここ! 田中先輩!アイスないの?」
「お金あるけん、小春買って来て」
「いやです」
「お釣りあげるから」
「いやです」
「ほら、千円あるけん」
「いやです」
「ほーら、伊藤博文やで?」
「いやです」
7 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:20
小春とやりとりしている田中は、
パッと見は小春と同学年のようにも見える。
見た目が非常に幼い。

とても三年生には見えないが、田中は一応三年生だ。
しかも一年留年している。つまりは小春や光井よりも三つ年上だ。
だが小春や光井は、普段からあまり年の差を気にせずに田中と接していた。

田中が留年した理由はわからない。
「れいなアホやけん」というのが田中の答えだったが、
光井には田中が留年するほど頭が悪いようには思えなかった。
何か別に理由があったのではないか。
光井はそう考えていた。
8 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:20
「しかしホンマに暑いなあ。クーラーは? きいてないの?」
光井は机の塊の向こう側でしゃがんでいるリンリンに尋ねた。

「うん? ついてるネー。バッチリ問題ないネー」
リンリンは光井に背を向けながら片言の日本語で応えた。
昨年、中国から留学生としてやってきたリンリンは、
たった一年勉強しただけだとは思えないほど、日本語が上手い。

光井の質問の意味が理解できていないとは思えなかった。
だがしかしリンリンは都合が悪くなると、
日本語が理解できない振りをするというクセがあった。

まあ、とはいっても、都合が悪くなると
「おお!なんということだ!おお!」とか言って両耳を押さえながら
耳が聞こえなくなった振りをする小春に比べれば、随分可愛いものだったが。
9 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:21
ホントにクーラーついてんのかいな?
と思った光井は壁のスイッチを見るが、クーラーは「最強」になっていた。
そういえば教室の中はウォンウォンと結構大きな音が鳴っている。
だが暑い。それもただならぬ暑さだ。
物凄い熱気が教室中を循環しているように感じられた。

そして教室の中にはあまり見たことがない機器がいくつもあった。
ウォンウォンという音はその機器の作動音のようにも聞こえる。
暑いのはその機械が放っている熱気のせいなのか?
リンリン先輩は何をしているんだろう?

光井は背を向けてしゃがみこんでいるリンリンの向こう側へと目を向ける。
机がどけられた床の上には、分厚いマットが一枚敷かれていた。

真っ白なマットの上には、濃紺のワンピースを着た一人の少女が横たわっていた。
10 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:21
(綺麗な人や・・・・・・・・)

その少女の目は閉じている。
だが長い睫毛の下にある瞳は、
きっとこぼれんばかりに大きいのだろうと感じられた。
そして透き通るような美しい肌に、丸く赤い頬。
丸く小さい鼻。
がっしりとした体躯から、すらりと伸びる長い手足は、
人間が想像しうる最良のバランスで配置されているように見えた。

その少女の姿を見た瞬間、光井の首筋にヒンヤリとした感触が流れた。
「アイス買ってきたけん!」
「うわああ!」
「にひひ」

お前かよ。
ていうか結局お前が買いに行かされたのかよ。
ていうかもう買ってきたのかよ。ここ8階やろ。はええええよ。速過ぎるやろ。

光井は、思わず心の中で田中に突っ込みを入れた。
アイスを三人に配っている田中れいなは、汗一つかいていなかった。
11 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:21
「ねー、リンリン、これ誰? 寝てるの?」
アイスを舐めながら小春がリンリンに尋ねた。
小春だけではなく、光井もリンリンに対しては敬語は使わない。

最初のうちはそれなりに気を遣っていたのだが、
「敬語難しー、わかりにくいデース」とリンリン本人から言われてしまったので、
それ以後は普通にタメ口で話すようになっていた。
慣れすぎてしまって、時々田中に対してもタメ口をきいてしまいそうになる。

「じゃーん!! よくぞきいた小春! これはね!!」

お前に聞いてねえよ。
光井は心の中で田中に突っ込みを入れた。
突っ込みを入れるのも段々しんどくなってきた。

「おお! これは!? これはなんなんですかあ!」
そうやって聞き返す小春の顔は近い。すごく近い。
どこに近いかというと田中の顔に近い。
口づけせんばかりに近い。
そして欧米人のようなオーバーな手の動き。

ここ、演劇部やったっけ?
光井はそんなことを思った。
12 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:22
「これは、我が物理部が叡智を結集して製作した、サイボーグです」

光井は驚いた。
まさか留年生の田中先輩が『叡智』なんていう言葉を知っていたなんて!

小春も同じように驚いているようだ。
ポカンと口を開けたまま完全に動きを止めている。
動かず騒がず、ただじっと静止していること。
それがすなわち、久住小春が最大限に驚愕していることの証だった。

そんな小春に向かって、田中は得意げに喋り続ける。
「へっへーん! サイボーグだよ小春! ハンバーグとかじゃないよ」
田中が得意満々で言ったつまらないダジャレに、光井は顔をしかめたが、
その隣では小春が一瞬悔しそうな表情を見せた。
13 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:22
おいおい。その程度の冗談で「負けた」とか思ってるんかいな・・・・・・。
光井はそれ以上、二人に関わりたくないと思った。
一生関わらなくても、特に困らないかもしれない。

というかそれよりも、リンリンに聞きたいことがあった。山ほどあった。

このサイボーグ?が「物理部の叡智を結集して製作した」のではなく、
リンリンの一人の力で作ったということは、ほぼ間違いないと思われた。

というか、これって本当に「サイボーグ」なの?
14 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:23
「ねえリンリン・・・・・これ、どう見ても普通の人間なんやけど・・・・」
光井は若干遠慮しながらリンリンに言った。

だが光井のその言葉は、
リンリンにとって十分に予想できたものだったようだ。
ニヤリと意地悪そうな顔をしながら言った。
「オー。この子ね。イバラギケンから誘拐してきました」

『イバラギケン』という言葉に特に意味はない。
これはリンリンがいつも好んで言う冗談の一つだった。
なぜ『イバラギケン』なのか。なぜそれが冗談なのか。
光井には理解できない。

だがその横では田中と小春が抱き合いながら
「ひーひっひっひ! イバラギって!」とか言いながら爆笑していた。
15 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:23
これはさすがに怒ってもいいんじゃないか?
そういった光井の気持ちが顔に表れていたのかもしれない。
リンリンは、光井をなだめるような、穏やかな表情で、
マットに寝そべっている少女の胸に手を伸ばした。

パカリ。と音がして少女の胸が開く。
その中には見たこともないような精密な機械回路がびっしりと詰まっていた。

光井の息が止まる。
田中と小春の笑いも止まった。
「赤の女王とアリスのワルツ」の更新もピタリと止まった。だがそれはまた、別のお話。
16 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:23
リンリンに手招きされて、光井は少女の横に座った。
手をそっと少女の胸元へ伸ばす。
柔らかい。少女の肌は、光井自身の肌と同じような柔らかさがあった。
だがその胸元の奥底には、
分解したパソコンの内部のような、複雑な回路が交差していた。

「こ、これ・・・・・う、動くの・・・・・?」
そう言いながら光井がリンリンの方を向くと、
今まさにリンリンが田中の腹部に胴回し蹴りを決める瞬間だった。
どうやら田中はワンピースのすそを持ち上げて、
スカートの中を見ようとしていたらしい。

田中の下品な好奇心に対して、光井は侮蔑よりも喝采を送りたくなった。
そのガッツと行動力があれば、
この世知辛い世の中だってきっと軽やかに渡っていけるだろう。

悟られまい。
悟られてはなるまい。
光井自身も「その部分」に若干の好奇心があったことを。
17 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:23
鳩尾を押さえて悶絶している田中をよそに、
リンリンは教卓の横に立っている大きな電源装置をオンにした。

少女の体のあちこちに付けられた電極がピリリと震える。
深く閉じられていた睫毛がゆっくりと持ち上がる。
光井が想像していた通り、いやそれ以上に大きな瞳だった。
少女は二、三度まばたきをした。
だがそれ以上はピクリとも動こうとはしなかった。

「あれー、リンリン、これ動かないねえ」
光井が少女のほっぺたをつんつんつついても、少女は動かなかった。
「オカシイですねー。モニターに異常はないんデスガ」
「きっとショックが足りないんよ! ショックを与えればよか!」

またお前かよ。鳩尾はもういいのかよ。回復速いな。
光井は内心では田中に突っ込みを入れつつも、
「ショックを与える」というのは一つのアイデアかもしれないと思った。

そういえば、地球上に生命が誕生したときも、
生物としての全ての要素が揃った「命のスープ」に
なんらかのショック(雷?)が加わって、生命が誕生したと聞いたことがある。
18 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:24
「ねえ、リンリン。電気ショックを当ててみるとか・・・・・・」
「うーん。それはちょっとマズイです。チョー精密な回路ですから・・・・・」
「れいながやってみると! 軽ーくやってみるけん! すっごく軽く!」
「やめてくだサイ」
「はい」

「ねえ」
さっきからずっと一人で黙っていた小春が突然つぶやいた。
「この子、なんていう名前?」
その瞬間、少女の頬がピクリとわずかに動いたように見えた。
「名無しのゴンベさんじゃ可哀想だよ」
「オー、確かにまだつけていませんでシタ」

名前かあ。
その考えには光井も意表を突かれた。
だが確かに名前は重要かもしれない。
名前があって、初めてその概念が具現化するということは、十分ありえる。
もしかしたらこの少女は自分で自分の存在が、
把握できていないのではないだろうか。
19 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:24
だがこの美しい少女にぴったりの名前は思い浮かばない。

田中れいな。
久住小春。
光井愛佳。

みなそれぞれに綺麗な名前だと思うけれど、
この少女にはそういった名前は似合わないような気がする。

リンリン。

こういったタイプの名前の方が合っているような気がするなあ。
光井はそういった意味のことをみんなに語った。
20 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:25
「じゃあ中国人っぽい名前にしよう!リンリンだからランランとか」
小春はいつの時も思いっきりが良い。決断が早い。
それが良いときもあるが、今はそのときではないかもしれない。

「なー、リンリン。この子は日本語喋るん?それとも中国語?」
おお。田中さんもたまには良い事言うやんけ。
確かにそれは重要かもしれん。
ていうか中国語しか喋れなかったらきついなあ。
などと光井は思っていたが、それは杞憂だった。

「中国語は普通に話せます。日本語も私と同じくらい話せマス」
それなら中国人っぽい名前がいいよねと言い合っているうちに、
リンリンの方から一つ、案が出された。

「純」
リンリンはそう言った。

「ジュン・・・・・」 小春が言った。
「ジュン・・・・・・・」 光井が言った。
「ジュンジュン!?」 田中が言った。

田中がそう言った瞬間、床に寝ていた少女がゆっくりと上半身を起こした。
21 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:25
「ニーハオ。こんにちは」
少女は焦点の合わない目でそう言った。
表情は硬い。硬いというよりも、全く表情というものがなかった。

笑ったらきっととびきりの美少女になるのに。
光井はその子を見てそう思った。
表情の全くない顔は、いくら綺麗に整っていても、
全く魅力のない、マネキンのようなものでしかなかった。

「ジュンジュン! ジュンジュンが起きた!」
いや、リンリンは『ジュン』って言ったやんけ。
光井は心の中で田中に突っ込みを入れた。

「こんにちは! あたし久住小春!」
「こんにちは。私はジュンジュンです」

おいおい。ホンマに『ジュンジュン』になってるやんけ。ええんかいな。
そう思って光井はリンリンの方を見たが、
リンリンは喋っているジュンジュンの方を嬉しそうに見ていた。
これでいいのかもしれない。
22 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:25
ジュンジュンは、三人と代わる代わる会話を交わした。

「手、動く?」というリンリンの問いかけには、両手を器用に動かしながら答えた。
「アイス食べる?」という田中の言葉は軽く無視された。
「ジュンジュン何歳?」という小春の問いには「今日生まれまシタ」と答えた。
「地理とか歴史は知ってる?」という光井の問いには「簡単なものナラ」と答えた。

光井は他にも一般常識的なことをいくつか質問した。
あるものにはきちんと答えたが、あるものは小学生以下の知識しかなかった。
リンリンが言うには、日本の常識に関しては、
プログラミングを組んだ、リンリンと同程度の知識しかないということだった。

リンリンはふと気づいて、パカリと開いていたジュンジュンの胸の蓋を閉めた。
それを見て「これって本当にサイボーグなんだな」と、光井は感動を新たにした。

上半身は、指先に至るまで繊細な動きを披露したジュンジュンだったが、
下半身の方がまだ上手く動かないみたいだった。
さらに顔の表情の方も、まだ能面のように冷たいままだった。
23 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:26
「下半身を動かすには、まだもう少し時間がかかりマス。ゆっくりと・・・・」
リンリンは冷静な判断を下していたが、
何をどう思ったのか、田中はそんなリンリンの判断を、
気持ちいいくらい完全に無視して断言した。

「なに言っとう! 甘い甘い! そんなもん、ショック与えたらよか!」

そう言うやいなや、田中は三人が制止する暇もないほどの俊敏な動きで、
ジュンジュンの着ていた濃紺のワンピースの裾をひらりとまくった。
光井の目にも、ジュンジュンのはいていた下着がはっきりと見えた。

その瞬間、リンリンのそれと全く同じ軌道で、
ジュンジュンの右足から放たれた鋭い胴回し蹴りが、田中の脇腹にヒットした。
田中はもの凄い勢いで窓の方へと吹っ飛ばされる。
窓をパリーンと軽々と打ち破って、れいなは外へと放り出されていった。
24 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:27
8階から真っ逆さまに落ちていった田中の安否を気遣うことも忘れて、
光井はジュンジュンの横顔をじっと見ていた。

すくっと立ち上がっている、ジュンジュンの姿に見とれていた。

頬を真っ赤に染めて、「怒り」の表情をあらわにしているジュンジュンは、
光井が見たことのある、どんな人間の横顔よりも―――

妖艶で、美しかった。
25 :名無飼育さん :2008/06/29(日) 22:27
26 :名無飼育さん :2008/06/29(日) 22:27
27 :名無飼育さん :2008/06/29(日) 22:27
28 :名無飼育さん :2008/06/30(月) 05:53
ジュンジュンの小説って珍しいですね!
登場人物が個性的で面白いです。
今後どういう展開になっていくのか楽しみにしてます。
29 :初代〜w :2008/06/30(月) 16:36
サイボーグJJって事は作者はあの人か?w
兎にも角にもこれは衝撃的だww
30 :名無飼育さん :2008/07/01(火) 00:37
田中って何者だ。
すげー気になる。
31 :名無飼育さん :2008/07/05(土) 21:46
32 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:47
田中れいなが8階から真っ逆さまに落ちていった時、
その場にいた4人は誰一人として常識的なリアクションをしなかった。
いや、ある意味とても常識的に振舞った。冷静だった。
まるで美勇伝解散が決まったときのハロヲタのように、
冷静で、諦観に満ち、そして無関心だった。

光井がジュンジュンのワンピースを「綺麗な色やね」と誉めると、
ジュンジュンはうつむき、スカートの裾を指先でつまみながら軽くはにかんだ。
ワンピースはとても不思議な光沢を放ちながら輝いていた。
小春が「すっごい高そう?どこの?フランス製とか?」と尋ねると、
リンリンはニヤリと笑って「イバラギケン製です」と答えた。

物理部の部室内には穏やかな笑いが満ちる。
小春は二つ目のアイスに手を伸ばし、
リンリンは難しそうな学術書をパラパラとめくる。
光井は椅子に座り、教科書を広げて今日の宿題にとりかかる。

一対のガラス窓が大破していることを除けば、
いつもの放課後となんら変わらぬ、まったりとした空間がそこにあった。
33 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:47
だが一人、ジュンジュンだけが所在なさげに立ち尽くしていた。
まるでavexに移籍した直後の後藤真希のように、
どの場所に立って、何をしたらいいのかわからない状態だった。
あんなえげつないメイクはされたくない。私は私。
ジュンジュンは産みの親であるリンリンに助けを求めた。

「リンリン、わたし何をしたらいいノ?」

おお。すごいね。
ジュンジュンの言葉に、リンリンは軽い驚きを覚えた。

早くもジュンジュンの中には『自我』が目覚めようとしている。
人間と機械とを隔てる大きな壁。その一つが自我だと言っていいだろう。
ジュンジュンは命令を待っているように見えるが、
待っているだけではなく、自ら命令を引き出そうとしているようにも見える。
34 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:47
自分で考え、自分の思うように行動する。
ルーティンではなく、ランダムでもなく、あくまでも自分の意思で決定する。
そういったことができる機械などそうそうない。

この大きく分厚い壁を乗り越えることができたとき、
つまり、自分は自分であるという『自我』を持つことができたとき、
サイボーグは機械ではなく、人間の方へと限りなく近づくはずだ!

リンリンの頭脳がそんな知的興奮に満ちているとき、
8階からダイブしていた田中れいなさんは
センキョウの裏にあるプールに隕石のように豪快に着水し、
部活をしていた水泳部の部員たちを一大パニックに陥れていた。

この事件は後に「六月の人間彗星」と呼ばるようになり、
UFA女子高等学校の七不思議の一つとして末永く語り継がれていくのだが、
それはまた別のお話。
35 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:47
「じゃあ色々やってみまショウカ」とリンリンが言うのとほぼ同時に、
小春が「なにやるの?!」と言いながらリンリンに擦り寄ってきた。
小春の目はまぶしいくらいの好奇心で爛々と輝いている。

「好奇心は猫をも殺す」という言葉が本当だとしたら、
小春は一日に三度くらいは殺されているだろう。
そのうち二度は光井の手だ、きっと。
そんなことを思いながら、リンリンはくっくっくと鳩の鳴き声のように笑った。

光井は椅子に座ったままじっとこちらを見ている。
そんな冷静で達観視している光井のことも嫌いではないが、
時には思いっ切り熱いところも見せて欲しい。
リンリンはそんなことを思い、ふと一つのアイデアを思い付いた。

「よーし。みんなで鬼ごっこをしまショウ!」

「えー!」
「えー!」

二人のリアクションはリンリンが予測したものと寸分たがわなかった。
36 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:48
「おー! やろうやろう! それでこそ物理部だ! そういうの待ってた!!」

バッと両手を挙げて椅子の上に立ち上がる小春。
高校生とは思えない無邪気なリアクションだ。これぞ久住小春。
物理部の本分が何であるかということは、とりあえず今は問わないことにしよう。
ちょっとむかつくケド。ちょっとだけネ。

一方光井はというと「えええ・・・マジで・・・・」と憂鬱そうな反応を見せた。
だがその瞳の奥には、かすかな喜色が浮かんだのをリンリンは見逃さなかった。
光井だってこういうことは嫌いではないのだ。
無邪気になりきれないのは隣にいる小春の影響もあるのだろう。
どうも光井は小春とのバランスを気にしすぎる傾向がある。
37 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:48
リンリンはそんな二人の心の動きなど全部お見通しだった。
物理学の法則を極限まで突き詰めて、極めていけば、
人間の自由意志ですら、その法則に準じて予測できるはずだ!!

物理法則至上主義者のリンリンはそんな風に考えていた。

もっとも、いきなりガラガラガラっと扉を開けて、
「やるやる! れいな絶対負けんから! 特にジュンジュンには!」
と言いながら、ずぶ濡れの少女が入ってくることまでは予測できなかったが。
38 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:49
伝説の彗星少女の登場を前にしても、光井は冷静だった。
「ねえ、リンリン。なんのために鬼ごっこするん?
 それがジュンジュンのためになるん? 何の実験?」

相手の思考をトレースし、その根幹にある意図を理解しようとする。
人間らしい知性を感じさせる、光井のものの考え方がリンリンは好きだった。
だが時には議論ではなく実践が必要なときがある。
それは物理学においても、だ。
議論が実践を誘発し、実践が議論を形成する。
鶏が先か卵が先か知らないが、セックスしなければ何も始まらないのだ!

リンリンがそんなことを光井にとうとうと説いていると、
横から小春が「リンリンってセックスしたことあるの?」と言った。

あまりに突き抜けた発言に、リンリンは怒るよりも先に爆笑してしまった。
この子は日本一デリカシーのない子ですねえと思ったが、
次の瞬間、田中が「ジュンジュンってセックスできるの?」と言ったので、
小春の日本ランキングは自動的に2位となった。
39 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:49
とにかくそんな質問に答えるわけにはいかない。
リンリンが笑いながら「アチョー」と言って軽く蹴るマネをしたら、
小春は笑って大人しくなった。
田中は「蹴らないで!」と言いながらうずくまってガクガクと震えた。

光井はそんな三人を見てケラケラと笑いながら言った。
「よーし! ほな、やってみようよ! 鬼ごっこ!」
頭の切り替えが早い。
頭が良いように見えて、結構ハチャメチャチなところがある。
光井は物理学者として成功する素養があると、リンリンは思った。

「じゃ、まずジャンケンしまショウ」
「ジュンジュン、ジャンケンってわかるぅー?」
「わかります。グー、チョキ、パー」

ジュンジュンは白い指を器用に曲げて三人に示して見せた。
中指を薬指側に軽く傾けて作る彼女のチョキは、なかなか美しかった。
40 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:49
「じゃ、いくよ! 最初はグー!」
仕切りたがり屋の田中が唇を尖らせて叫ぶと、
パーを出したジュンジュンを除いて四人全員がグーを出した。

「いえーぃ!! ジュンジュンの負けー! 負けやもんねー!」
田中は会心の笑みを浮かべてジュンジュンを指差した。
指差すどころか、実際にジュンジュンの丸い鼻に指を触れてつんつんと突いた。

田中がまたジュンジュンに蹴っ飛ばされるんじゃないかと、
光井はハラハラドキドキした。
本当はワクワクドキドキした。
今度こそは、田中が8階から描く放物線を見逃さないようにしようと思った。

だがジュンジュンはきょとんとした表情を浮かべているだけだった。
無表情のように見えるが、無表情ではない。
いつの間にか彼女は、
普通の人間のように微妙で繊細な表情を浮かべるようになっていた。
41 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:50
「ワタシはパーです。グーよりパーの方が強い。そういうルールですよネ?」
「うひゃひゃひゃひゃ! ジュンジュンパー! 頭もパー!」
「田中さん」
「なんねリンリン」
「ちょっと黙っててくだサイ」
「はい」

リンリンは「最初はグー」の概念を丁寧に説明した。
光井はその説明の中で、このルールが日本独自のものであることを知った。
ジュンジュンはなかなか納得できないようで、
何度も「必然性がナイ」と言った。

小春は面倒臭そうに「じゃあ『最初はグー』はなしでやろうよ」と言ったが、
リンリンはそれじゃダメだと言って譲らなかった。
リンリンはジュンジュンに対して「無駄でも必要がある」という
矛盾した概念を教え込もうとしていた。
ジュンジュンは頑固だったが、リンリンはそれ以上に執拗だった。
42 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:50
やがて夜が明けようとする頃には、ジュンジュンも理解したようだった。
遠くから鶏の鳴く声が聞こえる。
窓のそとはうっすらと暗い。まだ太陽の光は差してこない。

田中の号令の下、再びジャンケンが行なわれる。

「最初はグー!」

「ジャンケン」

「ポン!!!」
43 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:50
パーを出した田中以外の四人はチョキを出した。
ジュンジュンは嬉しそうに言った。
「うひゃひゃひゃひゃ。田中パー。頭もパー」

田中のような高いテンションではなく、
低く、無機質に近い声で言ったのだが、
それがまた絶妙な嫌味となって田中の心にグサリと突き刺さった。

田中の目がギラリと光る。
負けねえ。ジュンジュンにだけは絶対負けねえ。
田中の目が雄弁にそう語っていた。

もはやこれは1対4の鬼ごっこではなくなっていた。
完全に「田中れいなVSジュンジュン」の一騎打ちの様相を呈していた。
44 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:50
「じゃあルール決めまショウ。逃げられる範囲とか」
「範囲を学校全部にしたらきついよねー」
「センキョウの周りだけにしたらええんとちゃう?」

鬼ごっこの範囲はセンキョウの敷地内だけとなった。
ホンコウとシンコウにつながる渡り廊下に
一歩でも足を踏み出したら、ルール違反でアウトとなることになった。
ジュンジュンはなぜか何度もそこを細かく確認した。

「だから! センキョウから出たらダメなんやって」
「『出る』というのはどういう意味でですカ?」
「敷地外に一歩でも踏み出したらアウトってことや」
「足を踏み出さなければいいんですネ?」

ああ、そういうことか。
光井はジュンジュンのやろうとしていることがぼんやりと予想できた。
45 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:50
「手でも足でも、体のどこでも一部が地面についたらアウトや」

さすがサイボーグだなと光井は思った。
おそらくジュンジュンは逆立ちして「手で」歩こうとしているのではないか。
一旦、センキョウの敷地外に出れば、まず間違いなく鬼には捕まらない。
ジュンジュンだけのセーフティゾーンだ。

なるほど。サイボーグというものは面白い考え方をする。
逆立ちの状態で脱兎のごとく駆け出していくジュンジュンの姿を想像して、
光井はふははと口を開けて笑った。
まさか鬼ごっこのルールにおいてそういう盲点を突いてくるとは。
確かにこういうことは実践してみないとわからない。

でも逆立ちダッシュしているジュンジュンの姿も見てみたい。
ルールを厳密にしなければよかったかな。
田中を蹴ったときにチラリと見えたジュンジュンの下着を思い出しながら、
光井はそんなことを考えていた。
46 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:51
「じゃあ、もうええね! 始めるよ! ジュンジュン覚悟!」
田中はバッと教卓の横に移動するとそう叫んだ。
同時に教卓に乗っていたデジタルタイマーのスタートボタンを押す。

制限時間は5分。
鬼は子にタッチして捕まえる。
タッチされた子はそこで終了し、もう二度と復活することはできない。
5分以内に4人全員にタッチして捕まえれば鬼の勝ち。
一人でも逃げ切れば子の勝ち。
そういうルールになっていた。

うわあ、ずるい。
田中の位置している場所を見て光井はそう思った。
田中は教室の前にある扉の前に仁王立ちしていた。
教室には後ろにも扉があるのだが、そこは固く施錠されている。
窓の外は8階だったし、
窓から隣の教室へ移動できるような足場もなかった。

教室からの唯一の脱出経路が封鎖された。
47 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:51
小春とやリンリンはきゃあきゃあ言いながら逃げ惑っているが、
田中の目には二人の姿など映ってはいないだろう。
勿論、光井のことも完全に無視していた。

田中の敵意に満ちた視線は、ただジュンジュンのみを捕らえていた。

蹴られたことをそんなに恨んでいるのだろうか。
たかが8階から蹴り落とされたくらいのことで。
根に持つタイプなのか。
逆恨みするタイプなのか。

ジュンジュンは教室の後ろの方に移動した。
田中は冷酷な笑みを浮かべながらゆっくりとジュンジュンを追い詰める。
サディストだった。
田中れいなはサディストだった。
いじめられっ子のくせにサディストだった。
48 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:51
光井はジュンジュンの動きをじっと観察していた。
どんな些細な動きであれ見逃すわけにはいかない。

ジュンジュンは一体どういう行動をするつもりなのだろうか。
なぜか胸がドキドキする。
ジュンジュンから目が離せない。
光井はリンリンがこの実験を行なった理由がわかってきたような気がした。

あ、もしかしてジュンジュンは。
光井の脳裏に、再びあの破壊力抜群の蹴りの映像がフラッシュバックした。
ジュンジュンはあの蹴りで、鍵のかかった扉を蹴り壊すのではないか。
だが田中もその動きを予測したのか、すっと後ろの扉への通路を封鎖する。

その隙にリンリンと小春は前の扉から教室の外へと逃げ出した。
光井も、いつでも逃げられるように前の扉へと移動した。
ジュンジュンのみをマークしている田中の包囲網から逃れるのは、
簡単なことだった。
49 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:51
教室には田中とジュンジュンの二人が残された。
廊下に出ていたリンリンと小春と光井は、
前の扉から顔だけを出して、二人の姿を覗いていた。

「ジュンジュン! かくごー!!」

田中は絶叫しながらジュンジュンに向かっていく。
一見、興奮しているように見えたが、彼女は冷静だった。
獲物を狙う猫科の肉食獣のように、獰猛で冷静で我慢強かった。

田中は一切の隙を見せなかった。
時間をかけてゆっくりと慎重に進んで行った。
前の扉への通路も、後ろの扉への通路も、
同時に断つような動線を描いてジュンジュンに漸次接近した。

ほう。おお。うわあ。
見ていたリンリンと小春と光井の口からもため息がもれる。
見事な戦略だった。
50 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:51
その慎重さと戦略立案能力を試験勉強にも発揮していれば、
留年しなかったかもしれない。
れいなはチラっとそう思った。悲しくなった。胸がキュンとなった。
いや、れいなは生まれた時代を間違えたんよ。
世が世なられいなは鬼ごっこキングになってたけん。

れいなはそうやって自分を誤魔化した。
鬼ごっこに没頭することで人生から逃避しようとした。
勿論、決して短くはない人類の歴史の中には、
学問よりも鬼ごっこが重要視されていた時代など存在しない。

そして田中は女性なので、正確にはキングではなくクイーンだ。
田中は致命的なまでに英語が苦手だった。
そしてそれは実際に致命傷になり、留年に結びついたのだが。

つまりまとめて言うなら、田中れいなは
鬼ごっこが得意ないじめられっ子のサディストで仕切りたがりの英語が苦手な留年生だった。
加えて言うならジュンジュンの股間に興味がある、
ちょっとエッチな女の子だった。
51 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:52
ジュンジュンは窓際に追い詰められた。
逃げ場はない。

鬼ごっこが開始してから4分30秒が経とうとしていた。
もはや4人全員を捕まえることは不可能だ。
鬼ごっこクイーン田中れいなの敗北は決定的となった。
だが田中にとっては、そんなことはもうどうでもよかった。

れいなはサイボーグではない。機械ではない。
熱い血潮が流れる人間だ。
鳩尾を蹴られたら痛いし、8階から蹴り落とされたら普通は死ぬ。

いやいやいや、今はそれは関係ないけん。
今はそれはとりあえず許してやるけん。れいな優しい子やけん。
れいなはそう思った。

いつの間にか田中れいなの中では、
鳩尾を蹴ったのがリンリンではなくジュンジュンになっていた。
濡れ衣だった。
だがそんなことはジュンジュンは知る由もない。
52 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:52
大事なのは田中が機械ではなく人間だということだった。
勝つために最も効果的な方法を使うだけが人間ではない。
勝利のみを追及するのが人間ではないのだ!
どう勝つかではなく、どう戦ったかが重要なのだ。

あたしはそれをジュンジュンに教えるけん。

田中は思った。
蹴るなら蹴ればいい。
その瞬間、ジュンジュンが田中れいなに触れた瞬間、
田中れいなはジュンジュンに勝利するのだ。
人間として勝利するのだ。
たとえその結果、8階から転落死したとしても。

いまだ!
見よ、田中れいなの生き様を!
53 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:52
田中れいながジュンジュンに向かって飛び掛った瞬間、
ジュンジュンはそれをひらりとかわして―――
窓の外へと飛び出していった。

あ! まさか!

驚愕の表情をあげているリンリンたち3人をよそに、
田中れいなは勝利のガッツポーズをあげた。
勝った! れいな勝ったけん!
ジュンジュンが地面に落ちた瞬間、ルール違反でれいなの勝ち!

8階から飛び降りたジュンジュンの安否を気遣うことは全くなかった。
別に自分が8階から落とされたときに
安否を気遣ってもらえなかった仕返しというわけではない。
サイボーグだから落ちても死なないだろうという判断があったわけでもない。

ただ単に、空気を読まないというのは田中れいなの得意技の一つだった。

「わははははは! ジュンジュンの負けー! ざまあみい!」
54 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:52
と、その時。
勝利のガッツポーズをあげているれいなの真横で―――
グゴゴゴゴゴと大きな爆音が聞こえてきた。

れいなが驚いて窓の外を見てみると、
両足の裏からジェットエンジンを発射したジュンジュンが、
空高く舞い上がっているところだった。

「わははははは。田中の負けー。ざまあみい」

相変わらず低いテンションでそう叫ぶ
ジュンジュンの言葉が言い終わらないうちに、
教卓の上にあったタイマーがピリリリリと鳴って―――
鬼ごっこの終了を告げた。
55 :名無飼育さん :2008/07/05(土) 21:53
56 :名無飼育さん :2008/07/05(土) 21:53
57 :名無飼育さん :2008/07/05(土) 21:53
58 :名無飼育さん :2008/07/05(土) 21:57
レス返しです

>>28
ありがとうございます
物珍しい小説かもしれませんが辛抱強く読んでもらえると嬉しいです


>>29
衝撃的ですか
出オチで終わらないようにこれからも頑張ります

>>30
田中さんは物理部の部長さんです
人となりは徐々にわかってくると思います
59 :名無飼育さん :2008/07/07(月) 20:11
JJは何のために作られたのかな?
まだいろいろ謎が多いですね!
続きを楽しみにしてます。
60 :名無飼育さん :2008/07/08(火) 00:37
あげんな
61 :名無飼育さん :2008/07/09(水) 00:50
すげーおもろいw
62 :名無飼育さん :2008/07/09(水) 01:46
ぉまえもか>>61
ぁけなぃで
63 :名無飼育さん :2008/07/13(日) 21:36
64 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:37
小春は熟睡していた。
机に突っ伏しながらすぴーすぴーと鼻息を立てていた。
数学教師が神経質そうにカリカリと板書する音が教室内に響く。

まるで死んだように深く眠っている小春だったが、
彼女が昨晩、夜通しサイボーグと鬼ごっこをしていたなどと
想像する人間は誰もいないだろう。
なぜなら小春は授業中はいつも寝ていたから。

数学教師も特に気に留めるでもなく授業を進めている。
クラスの半分は真面目に授業に参加し、
もう半分は授業の邪魔をするでもなく何か他のことをしている。
教師もわかっているので特にうるさいことは言わない。

UFA女子高等学校はそういう雰囲気の学校だった。
65 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:37
「いやぁ!」

いきなり奇声を上げて小春が目を覚ます。
教室中の視線が小春に集まる。
だが小春はそんな視線に気づくこともなく、
あたふたと慌しく教科書のページをめくりながら、
隣の生徒に「今、何ページ?」と問いかける。

教師は、まるでワンダコンの司会に現れた矢口を見た時のような、
苦々しい表情を小春に向ける。
「参加しなくていいから邪魔すんな」
教師の視線はそう語っていた。

小春は悪夢を見ていた。
留年する夢。
隣ではあの副部長が「仲間やね!」と笑顔で小春と肩を組んでいた。

小春の夏服は冷や汗でびっしょりと濡れていた。
肩が小刻みにガタガタと震える。
青白い顔で必死に教科書をめくる小春を、
光井は胡散臭そうな顔で見つめていた。
66 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:37
柔らかな音のチャイムが鳴り渡り、50分間の授業の終了を告げる。

6時間目が終わった後は、一直線に家に帰るだけ。
その後は買い物に行ったり。映画に行ったり。アイス食べたり。
某女性アイドルを尾行して男との写真を隠し撮りしたり。
音楽聴いたり。携帯いじったり。アニメ見たり。

学校に残って部活をしたりなんかしない。
それが小春の日常だった。
一昨日までは。
67 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:38
それは光井も同じことだった。
小春と同じような学校生活を送っていた。

6時間目が終わった後は、一直線に家に帰るだけ。
その後は買い物に行ったり。映画に行ったり。宿題したり。
小春が隠し撮りした画像をネット上にうpしたり。
音楽聴いたり。携帯いじったり。テレビ見たり。

学校に残って部活なんかしたりしない。
それが光井の日常だった。
一昨日までは。
68 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:38
二人とも物理部の活動は熱心ではなかった。
部長に呼び出されたときのみ出席する。
どこに出しても恥ずかしくない、立派な幽霊部員だった。

活動していないのは仕事がないからではない。
ハロプロ復帰後の紺野や小川じゃあるまいし。
活動していないのは自分の意思だ!
こっちは始めようと思えばいつでも活動できるぜ!

二人はそう思っていた。
生意気だった。無礼だった。世間知らずだった。昔の小川麻琴のように。

そして今、二人は自らの意思でセンキョウを上ろうとしていた。
例のサイボーグが待つであろう、8階の物理部部室を目指して。
69 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:38
二人はハァハァ言いながら階段をあがる。
息が荒い。汗が滴り落ちる。

まるでキモヲタだ。夏のデブキモヲタだ。
部室に着いたら「またデブ来たよ」とか言われたらどうしよう。
いや、あれはガセネタだったはずだ。
ワッチ音源とはいえ、矢島舞美があんなことを言うはずがない。

光井はそんなことを思いながら部室の扉に手をかける。
だが扉には小さな南京錠がかかったままだった。

「あれ?」
「リンリンまだ来てないのかな?」

そんなことを言い合う二人の背後に怪しい人影が迫る。
背後からにゅーっと伸びてきた二本の手が二人の首筋をつかむ。
70 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:38
「ちゅちゅいーーーすっ!!」

甲高い大声に、光井と小春の二人は思わず飛び上がる。
後ろではニコリと笑った田中れいなが二人の首筋をなでなでしていた。

すりすり。なでなで。もみもみ。
「ちょっと田中さん、くすぐったいんですけど」
光井がそう言いながら田中の手を振り払う。
小春も同じように田中の手を払うが、田中はそれが気に入らないらしい。

「なんね! ええやん! 二人とも同じ物理部の仲間やろうが!」

田中が『仲間』という言葉を口にした瞬間、
小春の顔から血の気が引いた。
半泣きの表情でいやいやと顔を横に振る。

あれ? 小春ってそんなに田中さんのことが嫌いやったっけ?
とても冗談には見えない、小春の悲壮な表情を見ながら、
光井はのんびりとそんなことを思った。
71 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:38
田中は持っていた鍵で扉を開ける。
リンリンと田中の二人が、共にこの鍵を持って部屋の管理しているそうだ。
副部長という肩書きは伊達ではないようだ。

三人は順になって部屋の中に入っていく。
「24時間ここにいるの?」と言いたくなるくらい
この部屋にいずっぱりなリンリンの姿はそこになかった。

「リンリンはまだ来てへんのですか?」
「今日は三年生は、6限の後に特別進路指導の時間があるけん」

お前は三年生じゃないのかよ。
と、光井と小春は同時に突っ込んだ。
光井は心の中でつぶやいたが、小春の声は結構大きかった。
72 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:38
勿論、田中は三年生だった。進路指導があった。
だがそれを棒に振ってもやるべきことがあった。
今しかできないことだった。

ちなみに田中れいなは、
東京工業大学工学部の制御システム工学科に進学したいという希望があった。
それを進路指導の先生に訴えかけるつもりだった。
「れいな行くもんねー」と得意げに言うつもりだった。
ちなみに田中の物理の成績は2。数学も2。10段階で2だった。
進路指導に行く必要は元々なかったのかもしれない。

とにかく田中は、進路指導を捨ててこの瞬間にかけていた。
73 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:38
「リンリンっていつもこの部屋におるやろ」
田中の言葉に、光井と小春が頷く。
光井と小春はそう頻繁にここに来ていたわけではないが、
どんな時間帯にここに来ても、リンリンはこの部屋にいた。
実際、リンリンがこの部屋の主と化していることは、
センキョウを使っている文化部の関係者には周知の事実だった。

田中は奥にある物理準備室の扉をガラガラと開けた。
そこにはマッサージ器のような、
大きくて柔らかそうな椅子が一つあった。
椅子に座っているジュンジュンはしっとりと目を閉じていた。

「チャンスは今しかないんよ」

田中の目はキラキラと輝いていた。
まるで冬のシャイニーガールのように。
甘い誘惑に負けず、食欲は止まらず、常にマイペースで、
宇宙で一番くらい愛されて安心を感じていたかった。

どういう意味なのか書いている作者にもよくわからない。
知りたい人はつんく氏に直接聞いて頂きたい。
74 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:39
「大体リンリンはねー、この子に対して過保護なんよ!」
れいなはそう言いながら椅子の後ろにあった配電盤のスイッチを
手際よくパチパチと切っていく。
さらにジュンジュンにつながっている配線を
これまた手際よくパチパチと外していく。

「か、勝手に触っていいんですか!?」
小春が驚いて田中を止めようとする。
こんな精密機械を勝手にいじったら壊れてしまうかもしれない。

「何を言うとるんよ」
だが田中は小春の言葉には全く動じず、
無造作に最後のメインスイッチを入れた。
「これを作ったのは、あたしとリンリンやもんねー」

サイボーグ・ジュンジュンがゆっくりと目を開けた。
75 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:39
光井は強い衝撃を受けた。
田中はこのサイボーグに関する知識を、少なからず持っているらしい。
しかもそのごく一部でありながらも、製作に携わったらしい。
物理の成績2のくせに。10段階で2のくせに。
なんでそんなことができるねん!

物理には自信のある光井だったが、
こんなサイボーグを作れる自信はない。全然ない。
光井は田中に対して軽い嫉妬を覚えた。

「れいなはね」
田中はジュンジュンのワンピースをつかみながら高らかに言った。
「このお洋服を作ったんよ!!」

光井の嫉妬心はきれいさっぱりと消えてなくなった。
76 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:39
「わー、やっぱり綺麗ですねー、この色」
小春はキラキラと不思議な光沢を放つワンピースを撫でながら言った。
ふん!と一つ鼻息をついて、れいなは自慢げな表情をした。
「れいな、家庭科は8やもんねー」

じゃあ、服飾デザイナーになれや。マジで。出来婚の言い訳とかやなくて。
光井は心の中で突っ込んだ。そして疲れた。どっと疲れた。
なんだか田中に対するあらゆる突っ込みが、
後に自分に返ってくるような気がした。
もちろんそれは、ただの気のせいだったのだけれど。

ジュンジュンが完璧な表情をゆっくり崩すようにして笑った。
「おはヨウ。また鬼ごっこか? 田中」
柔らかな笑顔に似合わぬ、ツンとした言い方だった。
田中がぷうと頬を膨らませる。
負けたことを根に持っているらしい。
77 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:39
「鬼ごっこはもうよか! 今日は学校の外に出るけん!」

おいおい。そんなことして大丈夫なんかいな。
光井は軽くのけぞった。
昨日完成したばかりのサイボーグを街に出すことに危惧を覚えた。
まだ色々と実験しておかなければならないことがあるのではないか。

だが小春はその意見にノリノリだった。
「行こう行こう! じゃあリンリンが来る前に行かなきゃ!」
「そうなんよ。リンリンがおったら反対すると思うけん」

れいなはジュンジュンの方を見る。
いかにも悪だくみをしているといった表情でニヤリと笑った。
「ジュンジュンも外に行きたいよね?」

「はい」
ジュンジュンも田中と全く同じように、
いかにも悪だくみをしているといった表情でニヤリと笑った。
78 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:39
その次に田中が発した言葉を聞いて、光井は思わず耳を疑った。
「じゃあ、ジュンジュン。そのワンピース脱いで。裸で行くけん」

変態か。田中れいなは変態なのか。
いや、この場合変態という言い方は正しくないかもしれない。
単にスケベだ。れいなはいやらしい子ね。
変態ではない。露出狂ではない。
なぜなられいなが脱ぐわけではないからだ。

いや、脱がせて露出狂に調教しようとしているわけだから変態か。
そういえば田中れいなはサディストだった。
サディストであるということは、調教師であるということと矛盾しない。
むしろそれは、スキャンダルを起こしたメンバーが
演歌歌手になるということのように、自然なことではないだろうか。

カセット限定で発売というのは、正直どうかと思うが。
79 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:40
田中の言葉に応えて発したジュンジュンの言葉は、
田中の予想を大きく裏切るものだった。

「田中が脱ぐなら、ワタシも脱ぐよ」

田中は言葉に詰まった。
田中が予想していたのは「どうしてですか?」という種類の言葉だった。
田中が用意していた言い訳の言葉は、全て田中に跳ね返ってきた。
田中は「この学校ではみんな外に行くときは服を脱ぐんよ」と言うつもりだった。
田中はその理由でジュンジュンを強引にねじ伏せるつもりだった。
田中の本気でジュンジュンを半裸で外に連れ出すつもりだった。

どうでもいいがこのレスの文章の先頭には「田中」という文字が多い。
これを縦読みすると「田田田田田田田田田どこ」になるが、意味などない。
どこ?って言われても困るし。
80 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:40
田中は拳を握り締め、戦闘準備を整えるようにして、
ジュンジュンに対する敵意をあらわにした。
れいな負けないっちゃ。
そう思いながら田中は下着姿になった自分とジュンジュンの肉体を想像した。

涙目になった。
もし田中が脱いだとしても、スタイルの良さでは勝ち目はない。
ファイティングポーズはダテだった。
れいなは潔く白旗を揚げようとした。だが。

「まさか田中は、ワタシをからかったわけじゃないよネ?」

ジュンジュンが畳み掛けてきた。
「まさか。田中さんが言ったことは本当だと思うよ!」
小春が軽い口調でジュンジュンの言葉を後押しする。
田中が脱ぐことを、小春が期待していることは明らかだった。

小春の目はキラリと光っていた。
まるできら☆ぴかのように。
まるさんかくながしかくで、コサインサインタンジェントで、
あなたとわたしはピロロンピーだった。

意味がわからないということに関しては、
シャイニーガールなどの比ではなかった。
81 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:40
小春は務めて冷静な口調で言葉を続けた。
「だからさあ・・・・・田中さんもジュンジュンと一緒に服を脱ぐと思うよ」
なぜかその場の空気は「れいなもジュンジュンも脱ぐ」になっていた。
れいなはその空気を変えたかった。

「あー、じゃあ、小春とみっつぃーも脱ぐんやね?」
「脱ぎません」
「脱ぐかいな」

「なんでよ! れいなが脱ぐならみんなもじゃないとオカシイ!!」
「別におかしくないですよ」
「あたしらが脱ぐ方がおかしいやないですか」

「だからみんなで脱げばいいじゃん!大体なーんでれいなが服を」
「田中さんが自分で言ったんじゃないですか」
「田中さんが脱いだらジュンジュンも脱ぐ言うてますよ」

「わかったよ!じゃあ校門まで!校門までみんな一緒に脱いでいこう!それなら」
「早く脱げよ」
「はよ脱げや」
「はい」
82 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:41
光井と小春は校門のところで待っていることにした。
二人の手には田中とジュンジュンの服があった。

小春はカバンからごそごそと小型カメラを取り出す。
動画も録画できる、最新式のものだった。
勿論、超望遠機能も搭載されている。
こういったものを使って盗撮するのはお手の物だった。

田中とジュンジュンは、今頃センキョウ一階のトイレの個室にいた。
かろうじて裸ではない。
二人ともさすがに下着はつけていた。

そこからホンコウの廊下を走って、ほぼ中央のところで右折する。
そこには服を持っている光井と小春が待っていた。
つまりれいなとジュンジュンは、
ホンコウ一階の廊下のほぼ半分を半裸で疾走することになる。

なんで?
田中は自問したが、答は出なかった。
83 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:41
何の前触れもなく、ジュンジュンがスタートした。
「じゃ、田中。言ってくるカラ」と言い残し、ジュンジュンはダッシュした。

まさに目にも止まらぬ速さだった。
ジュンジュンが駆け抜けた後から、ゴオオオオォ!という音が遅れて響いた。
その瞬間、ジュンジュンを音速を超えていた。
天国からアイルトン・セナが微笑んでいた。
ジュンジュンのことを後継者として認めた瞬間だった。

校門にたどり着く5mくらい手前で、ジュンジュンはジャンプした。
水泳の飛び込みのような姿勢で、光井の持つワンピースの裾にダイブした。
鮮やかに着地したジュンジュンの体には、
不思議な色の光沢を放つ、ワンピースがまとわれていた。

全ての動作が完了するまで、1秒もかからなかった。
あまりの速さに小春は録画するのも忘れていた。
84 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:41
れいなは軽いパニックに陥っていた。
まさか本当にジュンジュンが走り出すとは思わなかった。
きっとギリギリのところで「なーんちゃって」とか言って、
ヘルメットをかぶった光井と小春が、プラカードを持って出てくると信じていた。
ドッキリカメラだと思っていた。
ピコピコハンマーで二人を殴る準備は万全だった。

だがジュンジュンが完走してしまった今、
もはやそういったことは期待できない。

れいなは半裸で走り出した。
ちなみにれいなは50mを8秒台で走る程度の足の速さだった。
そんなれいなのことを、誰かが見ていたのか、れいなは知らない。
れいなの目は涙で霞んでいた。
涙で何も見えなかった。

なんでれいながストーリーキングをやらんといかんのよ。
れいなは心の中で号泣した。
ちなみに正確には「ストーリーキング」ではなく「ストリーキング」だ。
れいなは英語が苦手だった。
この期に及んで英語が苦手だった。
留年は必然だった。
85 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:41
涙で目が霞んでいたれいなは、校門へと曲がる曲がり角を見損じた。
一度ホンコウの突き当たりまで走ってしまい、
そこからまた戻っていって、ようやく校門にたどり着いた。

永遠にも感じられるような長い時間だった。
れいなは制服を身に付け、ようやく人心地がついた。

れいなは何事もなかったかのような冷静さを取り戻して言った。
「じゃあ! みんなで買い物に行こーう!」

「おー!」と無邪気に答える小春の手の中に、
田中れいな半裸で疾走の完全記録が残されていることを、田中は知らない。
86 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:42
「買い物? 何を買うノ?」
「あー、ジュンジュンには店についたら色々と教えてやるけん」
田中は仕切りたがり屋の一面をチラリと見せる。
ジュンジュンはそんな田中の気持ちを無視して言った。

「田中は下着を買った方がいい。あのデザインは子供っポイ」

田中は顔から火を吹き、光井は爆笑した。
小春は手元で再生している動画を見ながら、
これが子供っぽいなら小春も新しいの買おうかなと思っていた。
87 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:42
なお、田中が走った後のホンコウは騒然とした雰囲気になっていた。

この事件は後に「ダブリ生霊の徘徊」と呼ばれるようになり、
進路指導のときに高望みをすると、留年生の生霊が半裸で化けて出るという
UFA女子高等学校の七不思議の一つとして末永く語り継がれていくのだが―――

それはまた別のお話。
88 :名無飼育さん :2008/07/13(日) 21:42
89 :名無飼育さん :2008/07/13(日) 21:42
90 :名無飼育さん :2008/07/13(日) 21:42
91 :名無飼育さん :2008/07/13(日) 21:44
レス返しです



>>59
確かに謎が多いです
この先一体どうなるのでしょうか
作者も困っています


>>61
ありがとう
僕は君のその言葉を胸にこれからも書き続けると誓おう
92 :名無飼育さん :2008/07/15(火) 10:39
この不可解なオモシロさはつんく♂氏に聞いてもわからないだろうから
しっかりと読み続ける事にします。

次回更新も楽しみにしてます!
93 :見つけた! :2008/07/18(金) 13:10
すばらしいです、作者さんありがとうございます!
次回も楽しみに待っています!
94 :93 :2008/07/18(金) 13:12
>>93です
すみません、「sage」じゃなく「SAGE」になっちゃいました…
本当にごめんなさい
95 :名無飼育さん :2008/07/18(金) 23:27
この設定がこんなにジュンジュンにはまるなんてw
ネタの使いどころがいいから推しメンがバカにされてもつい笑ってしまうw
96 :名無飼育さん :2008/07/19(土) 22:06
97 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:06
田中と小春と光井とジュンジュンは横一列に並んで歩いていた。
歩道を占めていた。
ものすごい迷惑だった。

縦一列になって歩けよ。
市原悦子のように電柱の影から4人を見守っているリンリンはそう思った。
リンリンの進路指導は既に終わっていた。

ジュンジュンの主電源を入れると、
それに連動してリンリンの携帯電話が振動する。
そういう仕掛けが施されていることを、田中は知らなかった。

勝手にジュンジュンを動かした田中に、リンリンは激怒した。
裏拳で殴りつけてからエルボーで鎖骨を砕いてやろうと思った。
だが、泣きながら下着姿で廊下を走っている田中を目撃した時、
リンリンは攻撃をためらわざるを得なかった。

一寸の虫にも五分の魂。
半裸のれいなは、リンリンにとって一寸の虫以下の存在だった。
98 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:06
「あれ田中さんじゃない?」と騒然とする同級生達には
「田中さん今日は学校早退! 生霊だヨあれは! 生霊ダ!」
下手な言い訳で誤魔化しながら、リンリンはれいなの後をつけた。

勿論、リンリンは生霊の存在など信じてはいない。
そんなものは全てプラズマ理論で論破できる。と大槻教授が言っていたモン。
物事は全て論理的に説明できるものだとリンリンは思っていた。
全て物理学的な法則でもって解析できるものだと確信していた。

さすがに、なぜれいなが半裸で廊下を一往復半したのかはわからなかったが。

だがリンリンはそんなれいなのことが嫌いではなかった。
日本人的な世間一般の常識や習慣を軽々と無視して
勝手気侭に予想外の行動をとる田中れいな。
彼女と一緒にいると、退屈せずに済むし、知的好奇心が刺激された。
若干うっとうしいけどネ。若干ネ。

そういうわけでリンリンはれいなのことが好きだった。
一研究対象として。
99 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:07
4人は連れ添ってダイエーに入っていった。
渋谷でも原宿でも新宿でもなく、ただのダイエーだった。

渋谷じゃなくてもいいじゃないか。原宿じゃなくてもいいじゃないか。
こういった物語の全てが、関東在住者によって
書かれているとは限らないし、読まれているとも限らない。
いい加減、そういった関東至上主義、東京絶対主義はやめにしないか。
物語の本筋とは全く関係ないが、作者は強くそう主張したい。
テレビ東京系列が放映されない地域も、少なからず存在するのだ!
なにがハロモニ@だ。なにがベリキューだ。
放送されない地域を無視すんな! バーカ! バーカ!

そういうわけで話を続ける。
ダイエーが存在しない地域は無視する。

建物の中に入ると、そこは食料品売り場だった。
数え切れないほど多くの生鮮食料が所狭しと並べられていた。
ジュンジュンは目を丸くした。
鼻は元々丸かった。
100 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:07
小春が張り切ってカートを押してきた。
慌て者の小春は、カートだけを持ってきてしまっていた。
光井が軽くあきれながら「おいおい。カゴはどうしてん」と言った。

カゴさんは死にました。

れいなは無表情でそう言った。
全員の顔から表情が消えた。
本当は死んでいないことはみんなわかっていたが、
黙って田中の言ったことに頷いた。
死んでいないのかもしれないが、このまま黙って成仏してほしい。
それがそこにいた全員の偽らざる思いだった。

一人ジュンジュンだけが意味を図りかねているようだった。
「おう? カゴが死んダ? カゴならここにあるヨー」
ジュンジュンは嬉しそうにカゴをカートに乗せた。

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