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サイボーグJJ

1 :名無飼育さん :2008/06/29(日) 22:18
じゅん【純】

まじりけや偽りのないさま。
人柄や気持ちがすなおで、けがれたところがないさま。
2 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:19
UFA女子高等学校は三つの校舎からなっていた。

二年生と三年生、そして教職員のための部屋からなる本校舎。略してホンコウ。
そしてそこから渡り廊下でつながっている、専門教室校舎。略してセンキョウ。
そこからさらに渡り廊下でつながっている、新校舎。略してシンコウ。

つまりこの学校は、
本校舎と新校舎の間に専門教室校舎が挟まっている構図となっていた。

1年生の久住小春と光井愛佳は、
渡り廊下を歩いて、新校舎から専門教室校舎へと向かっていた。

新校舎は1年生の教室で占められており、上級生はまず立ち寄らない。
本校舎は敷地の北側にあり、正門のすぐ前に立っている。
だが新校舎は敷地の東側にあり、その校舎のすぐ裏には東門があった。
2、3年生は当然、正門から出入りし、1年生は東門から出入りする。

つまりこの高校は、普通に生活している限り、
上級生と一年生が接触することが極めて少ない学校だった。
音楽や美術、家庭科といった専門学科が行なわれる教室や、
文化部の部室が軒を連ねている、専門教室校舎の中を除いては。
3 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:19
久住小春はペラペラのカバンを持ちながら、専門教室校舎へと入っていく。

入り口の扉は錆び付いていて、開けるとギギギと嫌な音を立てる。
小春たち一年生が暮らす新校舎はかなり真新しい建物だったが、
この「センキョウ」の方は、数十年前に立てられたきりということもあって、かなり古い。

本校舎の方は数年前に改築されて、新校舎並に綺麗になったらしいが、
専門教室校舎の方は、改築される予定は今のところないらしい。
あちこちにシミのついたコンクリートの階段を目にして、小春はため息をつく。

「ねえ、みっつぃー。エレベーターとかないのかなあ・・・・・・」
専門教室校舎は、8階建てという、高校の校舎にしては破格の高さがあった。
ちなみに本校舎は4階建て。新校舎は2階建てである。

「ホンマやねえ。消防法とか大丈夫なんやろか? この建物は」
センキョウにはエレベーターはおろか、クーラーすらろくについていなかった。
光井の視線の先には、夏服のシャツにべったりと汗をつけている小春の背中があった。
二人ははぁはぁと息を荒げながら、目的の8階を目指す。
4 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:19
「もーう! どうせ幽霊部員やるなら物理部じゃなくて化学部にすればよかったよ!!」
「ああ。騙されたわ。もっときちんと下調べするべきやったな」

この春に入部してから、何千回と繰り返してきた言葉を二人は吐く。
ちなみに物理学教室は2階。化学教室は3階にあり、授業はその部屋で行なわれる。
入部の勧誘や、仮入部期間中の活動も主にそこで行なわれていた。
物理部の本来の部室が8階にあるということは秘密にされたままだった。
ちなみに化学部の部室は5階にある。

専門教室校舎は、1階から3階が普段の授業が行われる教室で、
4階から8階までが主な文化部の部室代わりとなる部屋となっていた。
ちなみに専門教室校舎の裏手にプールがあり、
その横には運動部の部室が入っている運動会館があった。

ワンフロアに3つの部屋しかない、細長い建物の中を二人は上がっていく。
「ある意味運動部やで」
という光井お決まりの台詞が決まったところで二人は8階についた。
「ちゅぃーす」とけだろうそうに言いながら、
小春は『物理部』と書かれた札の下がっている扉を開けた。
5 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:20
「ちゅ!ちゅいーす!」
「ちゅちゅいーーーすっ!!」
部屋の中にいた二人が小春の倍くらいのテンションで応える。

暑い。暑苦しい。
光井はこの瞬間に8階から駆け下りて家に帰りたい衝動に駆られた。
海に行きたい。
日差しの飛び切り強い海。沖縄がええかな。東シナ海がええわ。

そんなことを思いながら、光井はまぶしそうに二人を見つめる。
なんでこいつらこんなに元気やねん。
元気というなら、小春だって常人の8倍くらい元気だ。
だがこの二人の元気さは、小春ともまだどこか違う。なんかきつい。

「うおおおおおおおお! 全員そろったあ! いやぁぁぁっほう!」
部長である三年生の田中れいなが叫ぶ。
まるでロイヤルストレートフラッシュが揃ったかの喜びようだ。
この人とポーカーやったら簡単に勝てるやろな。
裏表のない性格の田中を見つめながら光井はそう思った。
6 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:20
「オー。そういえば4人揃うの久しぶりデスネ!!」
副部長であるリンリンが、小春と光井を見ながらそう言った。
確かに小春と光井が部活に顔を出すのは久しぶりだった。
だがその言葉には棘らしいものは感じられない。
棘もないが、ありがたみもない。

呼んだのは先輩の方やろーが。
だからわざわざ8階まで上がってきたっちゅーねん。
光井は心の中で突っ込んだ。

「あつーい! 暑いよここ! 田中先輩!アイスないの?」
「お金あるけん、小春買って来て」
「いやです」
「お釣りあげるから」
「いやです」
「ほら、千円あるけん」
「いやです」
「ほーら、伊藤博文やで?」
「いやです」
7 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:20
小春とやりとりしている田中は、
パッと見は小春と同学年のようにも見える。
見た目が非常に幼い。

とても三年生には見えないが、田中は一応三年生だ。
しかも一年留年している。つまりは小春や光井よりも三つ年上だ。
だが小春や光井は、普段からあまり年の差を気にせずに田中と接していた。

田中が留年した理由はわからない。
「れいなアホやけん」というのが田中の答えだったが、
光井には田中が留年するほど頭が悪いようには思えなかった。
何か別に理由があったのではないか。
光井はそう考えていた。
8 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:20
「しかしホンマに暑いなあ。クーラーは? きいてないの?」
光井は机の塊の向こう側でしゃがんでいるリンリンに尋ねた。

「うん? ついてるネー。バッチリ問題ないネー」
リンリンは光井に背を向けながら片言の日本語で応えた。
昨年、中国から留学生としてやってきたリンリンは、
たった一年勉強しただけだとは思えないほど、日本語が上手い。

光井の質問の意味が理解できていないとは思えなかった。
だがしかしリンリンは都合が悪くなると、
日本語が理解できない振りをするというクセがあった。

まあ、とはいっても、都合が悪くなると
「おお!なんということだ!おお!」とか言って両耳を押さえながら
耳が聞こえなくなった振りをする小春に比べれば、随分可愛いものだったが。
9 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:21
ホントにクーラーついてんのかいな?
と思った光井は壁のスイッチを見るが、クーラーは「最強」になっていた。
そういえば教室の中はウォンウォンと結構大きな音が鳴っている。
だが暑い。それもただならぬ暑さだ。
物凄い熱気が教室中を循環しているように感じられた。

そして教室の中にはあまり見たことがない機器がいくつもあった。
ウォンウォンという音はその機器の作動音のようにも聞こえる。
暑いのはその機械が放っている熱気のせいなのか?
リンリン先輩は何をしているんだろう?

光井は背を向けてしゃがみこんでいるリンリンの向こう側へと目を向ける。
机がどけられた床の上には、分厚いマットが一枚敷かれていた。

真っ白なマットの上には、濃紺のワンピースを着た一人の少女が横たわっていた。
10 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:21
(綺麗な人や・・・・・・・・)

その少女の目は閉じている。
だが長い睫毛の下にある瞳は、
きっとこぼれんばかりに大きいのだろうと感じられた。
そして透き通るような美しい肌に、丸く赤い頬。
丸く小さい鼻。
がっしりとした体躯から、すらりと伸びる長い手足は、
人間が想像しうる最良のバランスで配置されているように見えた。

その少女の姿を見た瞬間、光井の首筋にヒンヤリとした感触が流れた。
「アイス買ってきたけん!」
「うわああ!」
「にひひ」

お前かよ。
ていうか結局お前が買いに行かされたのかよ。
ていうかもう買ってきたのかよ。ここ8階やろ。はええええよ。速過ぎるやろ。

光井は、思わず心の中で田中に突っ込みを入れた。
アイスを三人に配っている田中れいなは、汗一つかいていなかった。
11 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:21
「ねー、リンリン、これ誰? 寝てるの?」
アイスを舐めながら小春がリンリンに尋ねた。
小春だけではなく、光井もリンリンに対しては敬語は使わない。

最初のうちはそれなりに気を遣っていたのだが、
「敬語難しー、わかりにくいデース」とリンリン本人から言われてしまったので、
それ以後は普通にタメ口で話すようになっていた。
慣れすぎてしまって、時々田中に対してもタメ口をきいてしまいそうになる。

「じゃーん!! よくぞきいた小春! これはね!!」

お前に聞いてねえよ。
光井は心の中で田中に突っ込みを入れた。
突っ込みを入れるのも段々しんどくなってきた。

「おお! これは!? これはなんなんですかあ!」
そうやって聞き返す小春の顔は近い。すごく近い。
どこに近いかというと田中の顔に近い。
口づけせんばかりに近い。
そして欧米人のようなオーバーな手の動き。

ここ、演劇部やったっけ?
光井はそんなことを思った。
12 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:22
「これは、我が物理部が叡智を結集して製作した、サイボーグです」

光井は驚いた。
まさか留年生の田中先輩が『叡智』なんていう言葉を知っていたなんて!

小春も同じように驚いているようだ。
ポカンと口を開けたまま完全に動きを止めている。
動かず騒がず、ただじっと静止していること。
それがすなわち、久住小春が最大限に驚愕していることの証だった。

そんな小春に向かって、田中は得意げに喋り続ける。
「へっへーん! サイボーグだよ小春! ハンバーグとかじゃないよ」
田中が得意満々で言ったつまらないダジャレに、光井は顔をしかめたが、
その隣では小春が一瞬悔しそうな表情を見せた。
13 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:22
おいおい。その程度の冗談で「負けた」とか思ってるんかいな・・・・・・。
光井はそれ以上、二人に関わりたくないと思った。
一生関わらなくても、特に困らないかもしれない。

というかそれよりも、リンリンに聞きたいことがあった。山ほどあった。

このサイボーグ?が「物理部の叡智を結集して製作した」のではなく、
リンリンの一人の力で作ったということは、ほぼ間違いないと思われた。

というか、これって本当に「サイボーグ」なの?
14 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:23
「ねえリンリン・・・・・これ、どう見ても普通の人間なんやけど・・・・」
光井は若干遠慮しながらリンリンに言った。

だが光井のその言葉は、
リンリンにとって十分に予想できたものだったようだ。
ニヤリと意地悪そうな顔をしながら言った。
「オー。この子ね。イバラギケンから誘拐してきました」

『イバラギケン』という言葉に特に意味はない。
これはリンリンがいつも好んで言う冗談の一つだった。
なぜ『イバラギケン』なのか。なぜそれが冗談なのか。
光井には理解できない。

だがその横では田中と小春が抱き合いながら
「ひーひっひっひ! イバラギって!」とか言いながら爆笑していた。
15 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:23
これはさすがに怒ってもいいんじゃないか?
そういった光井の気持ちが顔に表れていたのかもしれない。
リンリンは、光井をなだめるような、穏やかな表情で、
マットに寝そべっている少女の胸に手を伸ばした。

パカリ。と音がして少女の胸が開く。
その中には見たこともないような精密な機械回路がびっしりと詰まっていた。

光井の息が止まる。
田中と小春の笑いも止まった。
「赤の女王とアリスのワルツ」の更新もピタリと止まった。だがそれはまた、別のお話。
16 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:23
リンリンに手招きされて、光井は少女の横に座った。
手をそっと少女の胸元へ伸ばす。
柔らかい。少女の肌は、光井自身の肌と同じような柔らかさがあった。
だがその胸元の奥底には、
分解したパソコンの内部のような、複雑な回路が交差していた。

「こ、これ・・・・・う、動くの・・・・・?」
そう言いながら光井がリンリンの方を向くと、
今まさにリンリンが田中の腹部に胴回し蹴りを決める瞬間だった。
どうやら田中はワンピースのすそを持ち上げて、
スカートの中を見ようとしていたらしい。

田中の下品な好奇心に対して、光井は侮蔑よりも喝采を送りたくなった。
そのガッツと行動力があれば、
この世知辛い世の中だってきっと軽やかに渡っていけるだろう。

悟られまい。
悟られてはなるまい。
光井自身も「その部分」に若干の好奇心があったことを。
17 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:23
鳩尾を押さえて悶絶している田中をよそに、
リンリンは教卓の横に立っている大きな電源装置をオンにした。

少女の体のあちこちに付けられた電極がピリリと震える。
深く閉じられていた睫毛がゆっくりと持ち上がる。
光井が想像していた通り、いやそれ以上に大きな瞳だった。
少女は二、三度まばたきをした。
だがそれ以上はピクリとも動こうとはしなかった。

「あれー、リンリン、これ動かないねえ」
光井が少女のほっぺたをつんつんつついても、少女は動かなかった。
「オカシイですねー。モニターに異常はないんデスガ」
「きっとショックが足りないんよ! ショックを与えればよか!」

またお前かよ。鳩尾はもういいのかよ。回復速いな。
光井は内心では田中に突っ込みを入れつつも、
「ショックを与える」というのは一つのアイデアかもしれないと思った。

そういえば、地球上に生命が誕生したときも、
生物としての全ての要素が揃った「命のスープ」に
なんらかのショック(雷?)が加わって、生命が誕生したと聞いたことがある。
18 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:24
「ねえ、リンリン。電気ショックを当ててみるとか・・・・・・」
「うーん。それはちょっとマズイです。チョー精密な回路ですから・・・・・」
「れいながやってみると! 軽ーくやってみるけん! すっごく軽く!」
「やめてくだサイ」
「はい」

「ねえ」
さっきからずっと一人で黙っていた小春が突然つぶやいた。
「この子、なんていう名前?」
その瞬間、少女の頬がピクリとわずかに動いたように見えた。
「名無しのゴンベさんじゃ可哀想だよ」
「オー、確かにまだつけていませんでシタ」

名前かあ。
その考えには光井も意表を突かれた。
だが確かに名前は重要かもしれない。
名前があって、初めてその概念が具現化するということは、十分ありえる。
もしかしたらこの少女は自分で自分の存在が、
把握できていないのではないだろうか。
19 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:24
だがこの美しい少女にぴったりの名前は思い浮かばない。

田中れいな。
久住小春。
光井愛佳。

みなそれぞれに綺麗な名前だと思うけれど、
この少女にはそういった名前は似合わないような気がする。

リンリン。

こういったタイプの名前の方が合っているような気がするなあ。
光井はそういった意味のことをみんなに語った。
20 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:25
「じゃあ中国人っぽい名前にしよう!リンリンだからランランとか」
小春はいつの時も思いっきりが良い。決断が早い。
それが良いときもあるが、今はそのときではないかもしれない。

「なー、リンリン。この子は日本語喋るん?それとも中国語?」
おお。田中さんもたまには良い事言うやんけ。
確かにそれは重要かもしれん。
ていうか中国語しか喋れなかったらきついなあ。
などと光井は思っていたが、それは杞憂だった。

「中国語は普通に話せます。日本語も私と同じくらい話せマス」
それなら中国人っぽい名前がいいよねと言い合っているうちに、
リンリンの方から一つ、案が出された。

「純」
リンリンはそう言った。

「ジュン・・・・・」 小春が言った。
「ジュン・・・・・・・」 光井が言った。
「ジュンジュン!?」 田中が言った。

田中がそう言った瞬間、床に寝ていた少女がゆっくりと上半身を起こした。
21 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:25
「ニーハオ。こんにちは」
少女は焦点の合わない目でそう言った。
表情は硬い。硬いというよりも、全く表情というものがなかった。

笑ったらきっととびきりの美少女になるのに。
光井はその子を見てそう思った。
表情の全くない顔は、いくら綺麗に整っていても、
全く魅力のない、マネキンのようなものでしかなかった。

「ジュンジュン! ジュンジュンが起きた!」
いや、リンリンは『ジュン』って言ったやんけ。
光井は心の中で田中に突っ込みを入れた。

「こんにちは! あたし久住小春!」
「こんにちは。私はジュンジュンです」

おいおい。ホンマに『ジュンジュン』になってるやんけ。ええんかいな。
そう思って光井はリンリンの方を見たが、
リンリンは喋っているジュンジュンの方を嬉しそうに見ていた。
これでいいのかもしれない。
22 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:25
ジュンジュンは、三人と代わる代わる会話を交わした。

「手、動く?」というリンリンの問いかけには、両手を器用に動かしながら答えた。
「アイス食べる?」という田中の言葉は軽く無視された。
「ジュンジュン何歳?」という小春の問いには「今日生まれまシタ」と答えた。
「地理とか歴史は知ってる?」という光井の問いには「簡単なものナラ」と答えた。

光井は他にも一般常識的なことをいくつか質問した。
あるものにはきちんと答えたが、あるものは小学生以下の知識しかなかった。
リンリンが言うには、日本の常識に関しては、
プログラミングを組んだ、リンリンと同程度の知識しかないということだった。

リンリンはふと気づいて、パカリと開いていたジュンジュンの胸の蓋を閉めた。
それを見て「これって本当にサイボーグなんだな」と、光井は感動を新たにした。

上半身は、指先に至るまで繊細な動きを披露したジュンジュンだったが、
下半身の方がまだ上手く動かないみたいだった。
さらに顔の表情の方も、まだ能面のように冷たいままだった。
23 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:26
「下半身を動かすには、まだもう少し時間がかかりマス。ゆっくりと・・・・」
リンリンは冷静な判断を下していたが、
何をどう思ったのか、田中はそんなリンリンの判断を、
気持ちいいくらい完全に無視して断言した。

「なに言っとう! 甘い甘い! そんなもん、ショック与えたらよか!」

そう言うやいなや、田中は三人が制止する暇もないほどの俊敏な動きで、
ジュンジュンの着ていた濃紺のワンピースの裾をひらりとまくった。
光井の目にも、ジュンジュンのはいていた下着がはっきりと見えた。

その瞬間、リンリンのそれと全く同じ軌道で、
ジュンジュンの右足から放たれた鋭い胴回し蹴りが、田中の脇腹にヒットした。
田中はもの凄い勢いで窓の方へと吹っ飛ばされる。
窓をパリーンと軽々と打ち破って、れいなは外へと放り出されていった。
24 :1. う ご け J J :2008/06/29(日) 22:27
8階から真っ逆さまに落ちていった田中の安否を気遣うことも忘れて、
光井はジュンジュンの横顔をじっと見ていた。

すくっと立ち上がっている、ジュンジュンの姿に見とれていた。

頬を真っ赤に染めて、「怒り」の表情をあらわにしているジュンジュンは、
光井が見たことのある、どんな人間の横顔よりも―――

妖艶で、美しかった。
25 :名無飼育さん :2008/06/29(日) 22:27
26 :名無飼育さん :2008/06/29(日) 22:27
27 :名無飼育さん :2008/06/29(日) 22:27
28 :名無飼育さん :2008/06/30(月) 05:53
ジュンジュンの小説って珍しいですね!
登場人物が個性的で面白いです。
今後どういう展開になっていくのか楽しみにしてます。
29 :初代〜w :2008/06/30(月) 16:36
サイボーグJJって事は作者はあの人か?w
兎にも角にもこれは衝撃的だww
30 :名無飼育さん :2008/07/01(火) 00:37
田中って何者だ。
すげー気になる。
31 :名無飼育さん :2008/07/05(土) 21:46
32 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:47
田中れいなが8階から真っ逆さまに落ちていった時、
その場にいた4人は誰一人として常識的なリアクションをしなかった。
いや、ある意味とても常識的に振舞った。冷静だった。
まるで美勇伝解散が決まったときのハロヲタのように、
冷静で、諦観に満ち、そして無関心だった。

光井がジュンジュンのワンピースを「綺麗な色やね」と誉めると、
ジュンジュンはうつむき、スカートの裾を指先でつまみながら軽くはにかんだ。
ワンピースはとても不思議な光沢を放ちながら輝いていた。
小春が「すっごい高そう?どこの?フランス製とか?」と尋ねると、
リンリンはニヤリと笑って「イバラギケン製です」と答えた。

物理部の部室内には穏やかな笑いが満ちる。
小春は二つ目のアイスに手を伸ばし、
リンリンは難しそうな学術書をパラパラとめくる。
光井は椅子に座り、教科書を広げて今日の宿題にとりかかる。

一対のガラス窓が大破していることを除けば、
いつもの放課後となんら変わらぬ、まったりとした空間がそこにあった。
33 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:47
だが一人、ジュンジュンだけが所在なさげに立ち尽くしていた。
まるでavexに移籍した直後の後藤真希のように、
どの場所に立って、何をしたらいいのかわからない状態だった。
あんなえげつないメイクはされたくない。私は私。
ジュンジュンは産みの親であるリンリンに助けを求めた。

「リンリン、わたし何をしたらいいノ?」

おお。すごいね。
ジュンジュンの言葉に、リンリンは軽い驚きを覚えた。

早くもジュンジュンの中には『自我』が目覚めようとしている。
人間と機械とを隔てる大きな壁。その一つが自我だと言っていいだろう。
ジュンジュンは命令を待っているように見えるが、
待っているだけではなく、自ら命令を引き出そうとしているようにも見える。
34 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:47
自分で考え、自分の思うように行動する。
ルーティンではなく、ランダムでもなく、あくまでも自分の意思で決定する。
そういったことができる機械などそうそうない。

この大きく分厚い壁を乗り越えることができたとき、
つまり、自分は自分であるという『自我』を持つことができたとき、
サイボーグは機械ではなく、人間の方へと限りなく近づくはずだ!

リンリンの頭脳がそんな知的興奮に満ちているとき、
8階からダイブしていた田中れいなさんは
センキョウの裏にあるプールに隕石のように豪快に着水し、
部活をしていた水泳部の部員たちを一大パニックに陥れていた。

この事件は後に「六月の人間彗星」と呼ばるようになり、
UFA女子高等学校の七不思議の一つとして末永く語り継がれていくのだが、
それはまた別のお話。
35 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:47
「じゃあ色々やってみまショウカ」とリンリンが言うのとほぼ同時に、
小春が「なにやるの?!」と言いながらリンリンに擦り寄ってきた。
小春の目はまぶしいくらいの好奇心で爛々と輝いている。

「好奇心は猫をも殺す」という言葉が本当だとしたら、
小春は一日に三度くらいは殺されているだろう。
そのうち二度は光井の手だ、きっと。
そんなことを思いながら、リンリンはくっくっくと鳩の鳴き声のように笑った。

光井は椅子に座ったままじっとこちらを見ている。
そんな冷静で達観視している光井のことも嫌いではないが、
時には思いっ切り熱いところも見せて欲しい。
リンリンはそんなことを思い、ふと一つのアイデアを思い付いた。

「よーし。みんなで鬼ごっこをしまショウ!」

「えー!」
「えー!」

二人のリアクションはリンリンが予測したものと寸分たがわなかった。
36 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:48
「おー! やろうやろう! それでこそ物理部だ! そういうの待ってた!!」

バッと両手を挙げて椅子の上に立ち上がる小春。
高校生とは思えない無邪気なリアクションだ。これぞ久住小春。
物理部の本分が何であるかということは、とりあえず今は問わないことにしよう。
ちょっとむかつくケド。ちょっとだけネ。

一方光井はというと「えええ・・・マジで・・・・」と憂鬱そうな反応を見せた。
だがその瞳の奥には、かすかな喜色が浮かんだのをリンリンは見逃さなかった。
光井だってこういうことは嫌いではないのだ。
無邪気になりきれないのは隣にいる小春の影響もあるのだろう。
どうも光井は小春とのバランスを気にしすぎる傾向がある。
37 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:48
リンリンはそんな二人の心の動きなど全部お見通しだった。
物理学の法則を極限まで突き詰めて、極めていけば、
人間の自由意志ですら、その法則に準じて予測できるはずだ!!

物理法則至上主義者のリンリンはそんな風に考えていた。

もっとも、いきなりガラガラガラっと扉を開けて、
「やるやる! れいな絶対負けんから! 特にジュンジュンには!」
と言いながら、ずぶ濡れの少女が入ってくることまでは予測できなかったが。
38 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:49
伝説の彗星少女の登場を前にしても、光井は冷静だった。
「ねえ、リンリン。なんのために鬼ごっこするん?
 それがジュンジュンのためになるん? 何の実験?」

相手の思考をトレースし、その根幹にある意図を理解しようとする。
人間らしい知性を感じさせる、光井のものの考え方がリンリンは好きだった。
だが時には議論ではなく実践が必要なときがある。
それは物理学においても、だ。
議論が実践を誘発し、実践が議論を形成する。
鶏が先か卵が先か知らないが、セックスしなければ何も始まらないのだ!

リンリンがそんなことを光井にとうとうと説いていると、
横から小春が「リンリンってセックスしたことあるの?」と言った。

あまりに突き抜けた発言に、リンリンは怒るよりも先に爆笑してしまった。
この子は日本一デリカシーのない子ですねえと思ったが、
次の瞬間、田中が「ジュンジュンってセックスできるの?」と言ったので、
小春の日本ランキングは自動的に2位となった。
39 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:49
とにかくそんな質問に答えるわけにはいかない。
リンリンが笑いながら「アチョー」と言って軽く蹴るマネをしたら、
小春は笑って大人しくなった。
田中は「蹴らないで!」と言いながらうずくまってガクガクと震えた。

光井はそんな三人を見てケラケラと笑いながら言った。
「よーし! ほな、やってみようよ! 鬼ごっこ!」
頭の切り替えが早い。
頭が良いように見えて、結構ハチャメチャチなところがある。
光井は物理学者として成功する素養があると、リンリンは思った。

「じゃ、まずジャンケンしまショウ」
「ジュンジュン、ジャンケンってわかるぅー?」
「わかります。グー、チョキ、パー」

ジュンジュンは白い指を器用に曲げて三人に示して見せた。
中指を薬指側に軽く傾けて作る彼女のチョキは、なかなか美しかった。
40 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:49
「じゃ、いくよ! 最初はグー!」
仕切りたがり屋の田中が唇を尖らせて叫ぶと、
パーを出したジュンジュンを除いて四人全員がグーを出した。

「いえーぃ!! ジュンジュンの負けー! 負けやもんねー!」
田中は会心の笑みを浮かべてジュンジュンを指差した。
指差すどころか、実際にジュンジュンの丸い鼻に指を触れてつんつんと突いた。

田中がまたジュンジュンに蹴っ飛ばされるんじゃないかと、
光井はハラハラドキドキした。
本当はワクワクドキドキした。
今度こそは、田中が8階から描く放物線を見逃さないようにしようと思った。

だがジュンジュンはきょとんとした表情を浮かべているだけだった。
無表情のように見えるが、無表情ではない。
いつの間にか彼女は、
普通の人間のように微妙で繊細な表情を浮かべるようになっていた。
41 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:50
「ワタシはパーです。グーよりパーの方が強い。そういうルールですよネ?」
「うひゃひゃひゃひゃ! ジュンジュンパー! 頭もパー!」
「田中さん」
「なんねリンリン」
「ちょっと黙っててくだサイ」
「はい」

リンリンは「最初はグー」の概念を丁寧に説明した。
光井はその説明の中で、このルールが日本独自のものであることを知った。
ジュンジュンはなかなか納得できないようで、
何度も「必然性がナイ」と言った。

小春は面倒臭そうに「じゃあ『最初はグー』はなしでやろうよ」と言ったが、
リンリンはそれじゃダメだと言って譲らなかった。
リンリンはジュンジュンに対して「無駄でも必要がある」という
矛盾した概念を教え込もうとしていた。
ジュンジュンは頑固だったが、リンリンはそれ以上に執拗だった。
42 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:50
やがて夜が明けようとする頃には、ジュンジュンも理解したようだった。
遠くから鶏の鳴く声が聞こえる。
窓のそとはうっすらと暗い。まだ太陽の光は差してこない。

田中の号令の下、再びジャンケンが行なわれる。

「最初はグー!」

「ジャンケン」

「ポン!!!」
43 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:50
パーを出した田中以外の四人はチョキを出した。
ジュンジュンは嬉しそうに言った。
「うひゃひゃひゃひゃ。田中パー。頭もパー」

田中のような高いテンションではなく、
低く、無機質に近い声で言ったのだが、
それがまた絶妙な嫌味となって田中の心にグサリと突き刺さった。

田中の目がギラリと光る。
負けねえ。ジュンジュンにだけは絶対負けねえ。
田中の目が雄弁にそう語っていた。

もはやこれは1対4の鬼ごっこではなくなっていた。
完全に「田中れいなVSジュンジュン」の一騎打ちの様相を呈していた。
44 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:50
「じゃあルール決めまショウ。逃げられる範囲とか」
「範囲を学校全部にしたらきついよねー」
「センキョウの周りだけにしたらええんとちゃう?」

鬼ごっこの範囲はセンキョウの敷地内だけとなった。
ホンコウとシンコウにつながる渡り廊下に
一歩でも足を踏み出したら、ルール違反でアウトとなることになった。
ジュンジュンはなぜか何度もそこを細かく確認した。

「だから! センキョウから出たらダメなんやって」
「『出る』というのはどういう意味でですカ?」
「敷地外に一歩でも踏み出したらアウトってことや」
「足を踏み出さなければいいんですネ?」

ああ、そういうことか。
光井はジュンジュンのやろうとしていることがぼんやりと予想できた。
45 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:50
「手でも足でも、体のどこでも一部が地面についたらアウトや」

さすがサイボーグだなと光井は思った。
おそらくジュンジュンは逆立ちして「手で」歩こうとしているのではないか。
一旦、センキョウの敷地外に出れば、まず間違いなく鬼には捕まらない。
ジュンジュンだけのセーフティゾーンだ。

なるほど。サイボーグというものは面白い考え方をする。
逆立ちの状態で脱兎のごとく駆け出していくジュンジュンの姿を想像して、
光井はふははと口を開けて笑った。
まさか鬼ごっこのルールにおいてそういう盲点を突いてくるとは。
確かにこういうことは実践してみないとわからない。

でも逆立ちダッシュしているジュンジュンの姿も見てみたい。
ルールを厳密にしなければよかったかな。
田中を蹴ったときにチラリと見えたジュンジュンの下着を思い出しながら、
光井はそんなことを考えていた。
46 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:51
「じゃあ、もうええね! 始めるよ! ジュンジュン覚悟!」
田中はバッと教卓の横に移動するとそう叫んだ。
同時に教卓に乗っていたデジタルタイマーのスタートボタンを押す。

制限時間は5分。
鬼は子にタッチして捕まえる。
タッチされた子はそこで終了し、もう二度と復活することはできない。
5分以内に4人全員にタッチして捕まえれば鬼の勝ち。
一人でも逃げ切れば子の勝ち。
そういうルールになっていた。

うわあ、ずるい。
田中の位置している場所を見て光井はそう思った。
田中は教室の前にある扉の前に仁王立ちしていた。
教室には後ろにも扉があるのだが、そこは固く施錠されている。
窓の外は8階だったし、
窓から隣の教室へ移動できるような足場もなかった。

教室からの唯一の脱出経路が封鎖された。
47 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:51
小春とやリンリンはきゃあきゃあ言いながら逃げ惑っているが、
田中の目には二人の姿など映ってはいないだろう。
勿論、光井のことも完全に無視していた。

田中の敵意に満ちた視線は、ただジュンジュンのみを捕らえていた。

蹴られたことをそんなに恨んでいるのだろうか。
たかが8階から蹴り落とされたくらいのことで。
根に持つタイプなのか。
逆恨みするタイプなのか。

ジュンジュンは教室の後ろの方に移動した。
田中は冷酷な笑みを浮かべながらゆっくりとジュンジュンを追い詰める。
サディストだった。
田中れいなはサディストだった。
いじめられっ子のくせにサディストだった。
48 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:51
光井はジュンジュンの動きをじっと観察していた。
どんな些細な動きであれ見逃すわけにはいかない。

ジュンジュンは一体どういう行動をするつもりなのだろうか。
なぜか胸がドキドキする。
ジュンジュンから目が離せない。
光井はリンリンがこの実験を行なった理由がわかってきたような気がした。

あ、もしかしてジュンジュンは。
光井の脳裏に、再びあの破壊力抜群の蹴りの映像がフラッシュバックした。
ジュンジュンはあの蹴りで、鍵のかかった扉を蹴り壊すのではないか。
だが田中もその動きを予測したのか、すっと後ろの扉への通路を封鎖する。

その隙にリンリンと小春は前の扉から教室の外へと逃げ出した。
光井も、いつでも逃げられるように前の扉へと移動した。
ジュンジュンのみをマークしている田中の包囲網から逃れるのは、
簡単なことだった。
49 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:51
教室には田中とジュンジュンの二人が残された。
廊下に出ていたリンリンと小春と光井は、
前の扉から顔だけを出して、二人の姿を覗いていた。

「ジュンジュン! かくごー!!」

田中は絶叫しながらジュンジュンに向かっていく。
一見、興奮しているように見えたが、彼女は冷静だった。
獲物を狙う猫科の肉食獣のように、獰猛で冷静で我慢強かった。

田中は一切の隙を見せなかった。
時間をかけてゆっくりと慎重に進んで行った。
前の扉への通路も、後ろの扉への通路も、
同時に断つような動線を描いてジュンジュンに漸次接近した。

ほう。おお。うわあ。
見ていたリンリンと小春と光井の口からもため息がもれる。
見事な戦略だった。
50 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:51
その慎重さと戦略立案能力を試験勉強にも発揮していれば、
留年しなかったかもしれない。
れいなはチラっとそう思った。悲しくなった。胸がキュンとなった。
いや、れいなは生まれた時代を間違えたんよ。
世が世なられいなは鬼ごっこキングになってたけん。

れいなはそうやって自分を誤魔化した。
鬼ごっこに没頭することで人生から逃避しようとした。
勿論、決して短くはない人類の歴史の中には、
学問よりも鬼ごっこが重要視されていた時代など存在しない。

そして田中は女性なので、正確にはキングではなくクイーンだ。
田中は致命的なまでに英語が苦手だった。
そしてそれは実際に致命傷になり、留年に結びついたのだが。

つまりまとめて言うなら、田中れいなは
鬼ごっこが得意ないじめられっ子のサディストで仕切りたがりの英語が苦手な留年生だった。
加えて言うならジュンジュンの股間に興味がある、
ちょっとエッチな女の子だった。
51 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:52
ジュンジュンは窓際に追い詰められた。
逃げ場はない。

鬼ごっこが開始してから4分30秒が経とうとしていた。
もはや4人全員を捕まえることは不可能だ。
鬼ごっこクイーン田中れいなの敗北は決定的となった。
だが田中にとっては、そんなことはもうどうでもよかった。

れいなはサイボーグではない。機械ではない。
熱い血潮が流れる人間だ。
鳩尾を蹴られたら痛いし、8階から蹴り落とされたら普通は死ぬ。

いやいやいや、今はそれは関係ないけん。
今はそれはとりあえず許してやるけん。れいな優しい子やけん。
れいなはそう思った。

いつの間にか田中れいなの中では、
鳩尾を蹴ったのがリンリンではなくジュンジュンになっていた。
濡れ衣だった。
だがそんなことはジュンジュンは知る由もない。
52 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:52
大事なのは田中が機械ではなく人間だということだった。
勝つために最も効果的な方法を使うだけが人間ではない。
勝利のみを追及するのが人間ではないのだ!
どう勝つかではなく、どう戦ったかが重要なのだ。

あたしはそれをジュンジュンに教えるけん。

田中は思った。
蹴るなら蹴ればいい。
その瞬間、ジュンジュンが田中れいなに触れた瞬間、
田中れいなはジュンジュンに勝利するのだ。
人間として勝利するのだ。
たとえその結果、8階から転落死したとしても。

いまだ!
見よ、田中れいなの生き様を!
53 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:52
田中れいながジュンジュンに向かって飛び掛った瞬間、
ジュンジュンはそれをひらりとかわして―――
窓の外へと飛び出していった。

あ! まさか!

驚愕の表情をあげているリンリンたち3人をよそに、
田中れいなは勝利のガッツポーズをあげた。
勝った! れいな勝ったけん!
ジュンジュンが地面に落ちた瞬間、ルール違反でれいなの勝ち!

8階から飛び降りたジュンジュンの安否を気遣うことは全くなかった。
別に自分が8階から落とされたときに
安否を気遣ってもらえなかった仕返しというわけではない。
サイボーグだから落ちても死なないだろうという判断があったわけでもない。

ただ単に、空気を読まないというのは田中れいなの得意技の一つだった。

「わははははは! ジュンジュンの負けー! ざまあみい!」
54 :2. に げ ろ J J :2008/07/05(土) 21:52
と、その時。
勝利のガッツポーズをあげているれいなの真横で―――
グゴゴゴゴゴと大きな爆音が聞こえてきた。

れいなが驚いて窓の外を見てみると、
両足の裏からジェットエンジンを発射したジュンジュンが、
空高く舞い上がっているところだった。

「わははははは。田中の負けー。ざまあみい」

相変わらず低いテンションでそう叫ぶ
ジュンジュンの言葉が言い終わらないうちに、
教卓の上にあったタイマーがピリリリリと鳴って―――
鬼ごっこの終了を告げた。
55 :名無飼育さん :2008/07/05(土) 21:53
56 :名無飼育さん :2008/07/05(土) 21:53
57 :名無飼育さん :2008/07/05(土) 21:53
58 :名無飼育さん :2008/07/05(土) 21:57
レス返しです

>>28
ありがとうございます
物珍しい小説かもしれませんが辛抱強く読んでもらえると嬉しいです


>>29
衝撃的ですか
出オチで終わらないようにこれからも頑張ります

>>30
田中さんは物理部の部長さんです
人となりは徐々にわかってくると思います
59 :名無飼育さん :2008/07/07(月) 20:11
JJは何のために作られたのかな?
まだいろいろ謎が多いですね!
続きを楽しみにしてます。
60 :名無飼育さん :2008/07/08(火) 00:37
あげんな
61 :名無飼育さん :2008/07/09(水) 00:50
すげーおもろいw
62 :名無飼育さん :2008/07/09(水) 01:46
ぉまえもか>>61
ぁけなぃで
63 :名無飼育さん :2008/07/13(日) 21:36
64 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:37
小春は熟睡していた。
机に突っ伏しながらすぴーすぴーと鼻息を立てていた。
数学教師が神経質そうにカリカリと板書する音が教室内に響く。

まるで死んだように深く眠っている小春だったが、
彼女が昨晩、夜通しサイボーグと鬼ごっこをしていたなどと
想像する人間は誰もいないだろう。
なぜなら小春は授業中はいつも寝ていたから。

数学教師も特に気に留めるでもなく授業を進めている。
クラスの半分は真面目に授業に参加し、
もう半分は授業の邪魔をするでもなく何か他のことをしている。
教師もわかっているので特にうるさいことは言わない。

UFA女子高等学校はそういう雰囲気の学校だった。
65 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:37
「いやぁ!」

いきなり奇声を上げて小春が目を覚ます。
教室中の視線が小春に集まる。
だが小春はそんな視線に気づくこともなく、
あたふたと慌しく教科書のページをめくりながら、
隣の生徒に「今、何ページ?」と問いかける。

教師は、まるでワンダコンの司会に現れた矢口を見た時のような、
苦々しい表情を小春に向ける。
「参加しなくていいから邪魔すんな」
教師の視線はそう語っていた。

小春は悪夢を見ていた。
留年する夢。
隣ではあの副部長が「仲間やね!」と笑顔で小春と肩を組んでいた。

小春の夏服は冷や汗でびっしょりと濡れていた。
肩が小刻みにガタガタと震える。
青白い顔で必死に教科書をめくる小春を、
光井は胡散臭そうな顔で見つめていた。
66 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:37
柔らかな音のチャイムが鳴り渡り、50分間の授業の終了を告げる。

6時間目が終わった後は、一直線に家に帰るだけ。
その後は買い物に行ったり。映画に行ったり。アイス食べたり。
某女性アイドルを尾行して男との写真を隠し撮りしたり。
音楽聴いたり。携帯いじったり。アニメ見たり。

学校に残って部活をしたりなんかしない。
それが小春の日常だった。
一昨日までは。
67 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:38
それは光井も同じことだった。
小春と同じような学校生活を送っていた。

6時間目が終わった後は、一直線に家に帰るだけ。
その後は買い物に行ったり。映画に行ったり。宿題したり。
小春が隠し撮りした画像をネット上にうpしたり。
音楽聴いたり。携帯いじったり。テレビ見たり。

学校に残って部活なんかしたりしない。
それが光井の日常だった。
一昨日までは。
68 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:38
二人とも物理部の活動は熱心ではなかった。
部長に呼び出されたときのみ出席する。
どこに出しても恥ずかしくない、立派な幽霊部員だった。

活動していないのは仕事がないからではない。
ハロプロ復帰後の紺野や小川じゃあるまいし。
活動していないのは自分の意思だ!
こっちは始めようと思えばいつでも活動できるぜ!

二人はそう思っていた。
生意気だった。無礼だった。世間知らずだった。昔の小川麻琴のように。

そして今、二人は自らの意思でセンキョウを上ろうとしていた。
例のサイボーグが待つであろう、8階の物理部部室を目指して。
69 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:38
二人はハァハァ言いながら階段をあがる。
息が荒い。汗が滴り落ちる。

まるでキモヲタだ。夏のデブキモヲタだ。
部室に着いたら「またデブ来たよ」とか言われたらどうしよう。
いや、あれはガセネタだったはずだ。
ワッチ音源とはいえ、矢島舞美があんなことを言うはずがない。

光井はそんなことを思いながら部室の扉に手をかける。
だが扉には小さな南京錠がかかったままだった。

「あれ?」
「リンリンまだ来てないのかな?」

そんなことを言い合う二人の背後に怪しい人影が迫る。
背後からにゅーっと伸びてきた二本の手が二人の首筋をつかむ。
70 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:38
「ちゅちゅいーーーすっ!!」

甲高い大声に、光井と小春の二人は思わず飛び上がる。
後ろではニコリと笑った田中れいなが二人の首筋をなでなでしていた。

すりすり。なでなで。もみもみ。
「ちょっと田中さん、くすぐったいんですけど」
光井がそう言いながら田中の手を振り払う。
小春も同じように田中の手を払うが、田中はそれが気に入らないらしい。

「なんね! ええやん! 二人とも同じ物理部の仲間やろうが!」

田中が『仲間』という言葉を口にした瞬間、
小春の顔から血の気が引いた。
半泣きの表情でいやいやと顔を横に振る。

あれ? 小春ってそんなに田中さんのことが嫌いやったっけ?
とても冗談には見えない、小春の悲壮な表情を見ながら、
光井はのんびりとそんなことを思った。
71 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:38
田中は持っていた鍵で扉を開ける。
リンリンと田中の二人が、共にこの鍵を持って部屋の管理しているそうだ。
副部長という肩書きは伊達ではないようだ。

三人は順になって部屋の中に入っていく。
「24時間ここにいるの?」と言いたくなるくらい
この部屋にいずっぱりなリンリンの姿はそこになかった。

「リンリンはまだ来てへんのですか?」
「今日は三年生は、6限の後に特別進路指導の時間があるけん」

お前は三年生じゃないのかよ。
と、光井と小春は同時に突っ込んだ。
光井は心の中でつぶやいたが、小春の声は結構大きかった。
72 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:38
勿論、田中は三年生だった。進路指導があった。
だがそれを棒に振ってもやるべきことがあった。
今しかできないことだった。

ちなみに田中れいなは、
東京工業大学工学部の制御システム工学科に進学したいという希望があった。
それを進路指導の先生に訴えかけるつもりだった。
「れいな行くもんねー」と得意げに言うつもりだった。
ちなみに田中の物理の成績は2。数学も2。10段階で2だった。
進路指導に行く必要は元々なかったのかもしれない。

とにかく田中は、進路指導を捨ててこの瞬間にかけていた。
73 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:38
「リンリンっていつもこの部屋におるやろ」
田中の言葉に、光井と小春が頷く。
光井と小春はそう頻繁にここに来ていたわけではないが、
どんな時間帯にここに来ても、リンリンはこの部屋にいた。
実際、リンリンがこの部屋の主と化していることは、
センキョウを使っている文化部の関係者には周知の事実だった。

田中は奥にある物理準備室の扉をガラガラと開けた。
そこにはマッサージ器のような、
大きくて柔らかそうな椅子が一つあった。
椅子に座っているジュンジュンはしっとりと目を閉じていた。

「チャンスは今しかないんよ」

田中の目はキラキラと輝いていた。
まるで冬のシャイニーガールのように。
甘い誘惑に負けず、食欲は止まらず、常にマイペースで、
宇宙で一番くらい愛されて安心を感じていたかった。

どういう意味なのか書いている作者にもよくわからない。
知りたい人はつんく氏に直接聞いて頂きたい。
74 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:39
「大体リンリンはねー、この子に対して過保護なんよ!」
れいなはそう言いながら椅子の後ろにあった配電盤のスイッチを
手際よくパチパチと切っていく。
さらにジュンジュンにつながっている配線を
これまた手際よくパチパチと外していく。

「か、勝手に触っていいんですか!?」
小春が驚いて田中を止めようとする。
こんな精密機械を勝手にいじったら壊れてしまうかもしれない。

「何を言うとるんよ」
だが田中は小春の言葉には全く動じず、
無造作に最後のメインスイッチを入れた。
「これを作ったのは、あたしとリンリンやもんねー」

サイボーグ・ジュンジュンがゆっくりと目を開けた。
75 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:39
光井は強い衝撃を受けた。
田中はこのサイボーグに関する知識を、少なからず持っているらしい。
しかもそのごく一部でありながらも、製作に携わったらしい。
物理の成績2のくせに。10段階で2のくせに。
なんでそんなことができるねん!

物理には自信のある光井だったが、
こんなサイボーグを作れる自信はない。全然ない。
光井は田中に対して軽い嫉妬を覚えた。

「れいなはね」
田中はジュンジュンのワンピースをつかみながら高らかに言った。
「このお洋服を作ったんよ!!」

光井の嫉妬心はきれいさっぱりと消えてなくなった。
76 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:39
「わー、やっぱり綺麗ですねー、この色」
小春はキラキラと不思議な光沢を放つワンピースを撫でながら言った。
ふん!と一つ鼻息をついて、れいなは自慢げな表情をした。
「れいな、家庭科は8やもんねー」

じゃあ、服飾デザイナーになれや。マジで。出来婚の言い訳とかやなくて。
光井は心の中で突っ込んだ。そして疲れた。どっと疲れた。
なんだか田中に対するあらゆる突っ込みが、
後に自分に返ってくるような気がした。
もちろんそれは、ただの気のせいだったのだけれど。

ジュンジュンが完璧な表情をゆっくり崩すようにして笑った。
「おはヨウ。また鬼ごっこか? 田中」
柔らかな笑顔に似合わぬ、ツンとした言い方だった。
田中がぷうと頬を膨らませる。
負けたことを根に持っているらしい。
77 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:39
「鬼ごっこはもうよか! 今日は学校の外に出るけん!」

おいおい。そんなことして大丈夫なんかいな。
光井は軽くのけぞった。
昨日完成したばかりのサイボーグを街に出すことに危惧を覚えた。
まだ色々と実験しておかなければならないことがあるのではないか。

だが小春はその意見にノリノリだった。
「行こう行こう! じゃあリンリンが来る前に行かなきゃ!」
「そうなんよ。リンリンがおったら反対すると思うけん」

れいなはジュンジュンの方を見る。
いかにも悪だくみをしているといった表情でニヤリと笑った。
「ジュンジュンも外に行きたいよね?」

「はい」
ジュンジュンも田中と全く同じように、
いかにも悪だくみをしているといった表情でニヤリと笑った。
78 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:39
その次に田中が発した言葉を聞いて、光井は思わず耳を疑った。
「じゃあ、ジュンジュン。そのワンピース脱いで。裸で行くけん」

変態か。田中れいなは変態なのか。
いや、この場合変態という言い方は正しくないかもしれない。
単にスケベだ。れいなはいやらしい子ね。
変態ではない。露出狂ではない。
なぜなられいなが脱ぐわけではないからだ。

いや、脱がせて露出狂に調教しようとしているわけだから変態か。
そういえば田中れいなはサディストだった。
サディストであるということは、調教師であるということと矛盾しない。
むしろそれは、スキャンダルを起こしたメンバーが
演歌歌手になるということのように、自然なことではないだろうか。

カセット限定で発売というのは、正直どうかと思うが。
79 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:40
田中の言葉に応えて発したジュンジュンの言葉は、
田中の予想を大きく裏切るものだった。

「田中が脱ぐなら、ワタシも脱ぐよ」

田中は言葉に詰まった。
田中が予想していたのは「どうしてですか?」という種類の言葉だった。
田中が用意していた言い訳の言葉は、全て田中に跳ね返ってきた。
田中は「この学校ではみんな外に行くときは服を脱ぐんよ」と言うつもりだった。
田中はその理由でジュンジュンを強引にねじ伏せるつもりだった。
田中の本気でジュンジュンを半裸で外に連れ出すつもりだった。

どうでもいいがこのレスの文章の先頭には「田中」という文字が多い。
これを縦読みすると「田田田田田田田田田どこ」になるが、意味などない。
どこ?って言われても困るし。
80 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:40
田中は拳を握り締め、戦闘準備を整えるようにして、
ジュンジュンに対する敵意をあらわにした。
れいな負けないっちゃ。
そう思いながら田中は下着姿になった自分とジュンジュンの肉体を想像した。

涙目になった。
もし田中が脱いだとしても、スタイルの良さでは勝ち目はない。
ファイティングポーズはダテだった。
れいなは潔く白旗を揚げようとした。だが。

「まさか田中は、ワタシをからかったわけじゃないよネ?」

ジュンジュンが畳み掛けてきた。
「まさか。田中さんが言ったことは本当だと思うよ!」
小春が軽い口調でジュンジュンの言葉を後押しする。
田中が脱ぐことを、小春が期待していることは明らかだった。

小春の目はキラリと光っていた。
まるできら☆ぴかのように。
まるさんかくながしかくで、コサインサインタンジェントで、
あなたとわたしはピロロンピーだった。

意味がわからないということに関しては、
シャイニーガールなどの比ではなかった。
81 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:40
小春は務めて冷静な口調で言葉を続けた。
「だからさあ・・・・・田中さんもジュンジュンと一緒に服を脱ぐと思うよ」
なぜかその場の空気は「れいなもジュンジュンも脱ぐ」になっていた。
れいなはその空気を変えたかった。

「あー、じゃあ、小春とみっつぃーも脱ぐんやね?」
「脱ぎません」
「脱ぐかいな」

「なんでよ! れいなが脱ぐならみんなもじゃないとオカシイ!!」
「別におかしくないですよ」
「あたしらが脱ぐ方がおかしいやないですか」

「だからみんなで脱げばいいじゃん!大体なーんでれいなが服を」
「田中さんが自分で言ったんじゃないですか」
「田中さんが脱いだらジュンジュンも脱ぐ言うてますよ」

「わかったよ!じゃあ校門まで!校門までみんな一緒に脱いでいこう!それなら」
「早く脱げよ」
「はよ脱げや」
「はい」
82 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:41
光井と小春は校門のところで待っていることにした。
二人の手には田中とジュンジュンの服があった。

小春はカバンからごそごそと小型カメラを取り出す。
動画も録画できる、最新式のものだった。
勿論、超望遠機能も搭載されている。
こういったものを使って盗撮するのはお手の物だった。

田中とジュンジュンは、今頃センキョウ一階のトイレの個室にいた。
かろうじて裸ではない。
二人ともさすがに下着はつけていた。

そこからホンコウの廊下を走って、ほぼ中央のところで右折する。
そこには服を持っている光井と小春が待っていた。
つまりれいなとジュンジュンは、
ホンコウ一階の廊下のほぼ半分を半裸で疾走することになる。

なんで?
田中は自問したが、答は出なかった。
83 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:41
何の前触れもなく、ジュンジュンがスタートした。
「じゃ、田中。言ってくるカラ」と言い残し、ジュンジュンはダッシュした。

まさに目にも止まらぬ速さだった。
ジュンジュンが駆け抜けた後から、ゴオオオオォ!という音が遅れて響いた。
その瞬間、ジュンジュンを音速を超えていた。
天国からアイルトン・セナが微笑んでいた。
ジュンジュンのことを後継者として認めた瞬間だった。

校門にたどり着く5mくらい手前で、ジュンジュンはジャンプした。
水泳の飛び込みのような姿勢で、光井の持つワンピースの裾にダイブした。
鮮やかに着地したジュンジュンの体には、
不思議な色の光沢を放つ、ワンピースがまとわれていた。

全ての動作が完了するまで、1秒もかからなかった。
あまりの速さに小春は録画するのも忘れていた。
84 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:41
れいなは軽いパニックに陥っていた。
まさか本当にジュンジュンが走り出すとは思わなかった。
きっとギリギリのところで「なーんちゃって」とか言って、
ヘルメットをかぶった光井と小春が、プラカードを持って出てくると信じていた。
ドッキリカメラだと思っていた。
ピコピコハンマーで二人を殴る準備は万全だった。

だがジュンジュンが完走してしまった今、
もはやそういったことは期待できない。

れいなは半裸で走り出した。
ちなみにれいなは50mを8秒台で走る程度の足の速さだった。
そんなれいなのことを、誰かが見ていたのか、れいなは知らない。
れいなの目は涙で霞んでいた。
涙で何も見えなかった。

なんでれいながストーリーキングをやらんといかんのよ。
れいなは心の中で号泣した。
ちなみに正確には「ストーリーキング」ではなく「ストリーキング」だ。
れいなは英語が苦手だった。
この期に及んで英語が苦手だった。
留年は必然だった。
85 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:41
涙で目が霞んでいたれいなは、校門へと曲がる曲がり角を見損じた。
一度ホンコウの突き当たりまで走ってしまい、
そこからまた戻っていって、ようやく校門にたどり着いた。

永遠にも感じられるような長い時間だった。
れいなは制服を身に付け、ようやく人心地がついた。

れいなは何事もなかったかのような冷静さを取り戻して言った。
「じゃあ! みんなで買い物に行こーう!」

「おー!」と無邪気に答える小春の手の中に、
田中れいな半裸で疾走の完全記録が残されていることを、田中は知らない。
86 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:42
「買い物? 何を買うノ?」
「あー、ジュンジュンには店についたら色々と教えてやるけん」
田中は仕切りたがり屋の一面をチラリと見せる。
ジュンジュンはそんな田中の気持ちを無視して言った。

「田中は下着を買った方がいい。あのデザインは子供っポイ」

田中は顔から火を吹き、光井は爆笑した。
小春は手元で再生している動画を見ながら、
これが子供っぽいなら小春も新しいの買おうかなと思っていた。
87 :3.は し れ J J :2008/07/13(日) 21:42
なお、田中が走った後のホンコウは騒然とした雰囲気になっていた。

この事件は後に「ダブリ生霊の徘徊」と呼ばれるようになり、
進路指導のときに高望みをすると、留年生の生霊が半裸で化けて出るという
UFA女子高等学校の七不思議の一つとして末永く語り継がれていくのだが―――

それはまた別のお話。
88 :名無飼育さん :2008/07/13(日) 21:42
89 :名無飼育さん :2008/07/13(日) 21:42
90 :名無飼育さん :2008/07/13(日) 21:42
91 :名無飼育さん :2008/07/13(日) 21:44
レス返しです



>>59
確かに謎が多いです
この先一体どうなるのでしょうか
作者も困っています


>>61
ありがとう
僕は君のその言葉を胸にこれからも書き続けると誓おう
92 :名無飼育さん :2008/07/15(火) 10:39
この不可解なオモシロさはつんく♂氏に聞いてもわからないだろうから
しっかりと読み続ける事にします。

次回更新も楽しみにしてます!
93 :見つけた! :2008/07/18(金) 13:10
すばらしいです、作者さんありがとうございます!
次回も楽しみに待っています!
94 :93 :2008/07/18(金) 13:12
>>93です
すみません、「sage」じゃなく「SAGE」になっちゃいました…
本当にごめんなさい
95 :名無飼育さん :2008/07/18(金) 23:27
この設定がこんなにジュンジュンにはまるなんてw
ネタの使いどころがいいから推しメンがバカにされてもつい笑ってしまうw
96 :名無飼育さん :2008/07/19(土) 22:06
97 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:06
田中と小春と光井とジュンジュンは横一列に並んで歩いていた。
歩道を占めていた。
ものすごい迷惑だった。

縦一列になって歩けよ。
市原悦子のように電柱の影から4人を見守っているリンリンはそう思った。
リンリンの進路指導は既に終わっていた。

ジュンジュンの主電源を入れると、
それに連動してリンリンの携帯電話が振動する。
そういう仕掛けが施されていることを、田中は知らなかった。

勝手にジュンジュンを動かした田中に、リンリンは激怒した。
裏拳で殴りつけてからエルボーで鎖骨を砕いてやろうと思った。
だが、泣きながら下着姿で廊下を走っている田中を目撃した時、
リンリンは攻撃をためらわざるを得なかった。

一寸の虫にも五分の魂。
半裸のれいなは、リンリンにとって一寸の虫以下の存在だった。
98 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:06
「あれ田中さんじゃない?」と騒然とする同級生達には
「田中さん今日は学校早退! 生霊だヨあれは! 生霊ダ!」
下手な言い訳で誤魔化しながら、リンリンはれいなの後をつけた。

勿論、リンリンは生霊の存在など信じてはいない。
そんなものは全てプラズマ理論で論破できる。と大槻教授が言っていたモン。
物事は全て論理的に説明できるものだとリンリンは思っていた。
全て物理学的な法則でもって解析できるものだと確信していた。

さすがに、なぜれいなが半裸で廊下を一往復半したのかはわからなかったが。

だがリンリンはそんなれいなのことが嫌いではなかった。
日本人的な世間一般の常識や習慣を軽々と無視して
勝手気侭に予想外の行動をとる田中れいな。
彼女と一緒にいると、退屈せずに済むし、知的好奇心が刺激された。
若干うっとうしいけどネ。若干ネ。

そういうわけでリンリンはれいなのことが好きだった。
一研究対象として。
99 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:07
4人は連れ添ってダイエーに入っていった。
渋谷でも原宿でも新宿でもなく、ただのダイエーだった。

渋谷じゃなくてもいいじゃないか。原宿じゃなくてもいいじゃないか。
こういった物語の全てが、関東在住者によって
書かれているとは限らないし、読まれているとも限らない。
いい加減、そういった関東至上主義、東京絶対主義はやめにしないか。
物語の本筋とは全く関係ないが、作者は強くそう主張したい。
テレビ東京系列が放映されない地域も、少なからず存在するのだ!
なにがハロモニ@だ。なにがベリキューだ。
放送されない地域を無視すんな! バーカ! バーカ!

そういうわけで話を続ける。
ダイエーが存在しない地域は無視する。

建物の中に入ると、そこは食料品売り場だった。
数え切れないほど多くの生鮮食料が所狭しと並べられていた。
ジュンジュンは目を丸くした。
鼻は元々丸かった。
100 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:07
小春が張り切ってカートを押してきた。
慌て者の小春は、カートだけを持ってきてしまっていた。
光井が軽くあきれながら「おいおい。カゴはどうしてん」と言った。

カゴさんは死にました。

れいなは無表情でそう言った。
全員の顔から表情が消えた。
本当は死んでいないことはみんなわかっていたが、
黙って田中の言ったことに頷いた。
死んでいないのかもしれないが、このまま黙って成仏してほしい。
それがそこにいた全員の偽らざる思いだった。

一人ジュンジュンだけが意味を図りかねているようだった。
「おう? カゴが死んダ? カゴならここにあるヨー」
ジュンジュンは嬉しそうにカゴをカートに乗せた。
101 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:07
「ていうか食料を買いに来たんですか?」
カートをゴロゴロと押しながら小春が田中に尋ねた。
田中は一体何をするためにここにジュンジュンを連れて来たのだろう。
小春にはそれが全く想像できなかった。

「なんでもよか。買い物するんよ。いっぱい買うんよ」
れいなの答えは答えになっていなかった。
だが小春にとってはそれで十分だった。
彼女は、他人の言葉を自分の都合の良いように解釈する力に長けていた。
「わかりました! じゃあ『いっぱい』買いまーす!」

流石に小春と付き合いの長い光井は、小春の意図を素早く察した。
チラリとジュンジュンの方に目をやり、小春に釘を刺す。
「これはさー、ジュンジュンのためなんやからなー」
102 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:07
「はあ?」
小春は理解できないといった顔をする。
本当はわかっているくせに。
光井の表情が渋くなる。

「ジュンジュンに買い物を教えるために来たんやろ?」
「だから?」
「小春が買ったらアカンっちゅーことや」
「おお!なんとういことだ!」
「は?」
「耳が!耳が急に聞こえなくなった!!!」

小春はそんなことをわめきながらガーッとカートを押していってしまった。
いつもながら小春の我侭には腹が立つ。
大体お金は誰が払うねん。
光井は田中の方をチラリと見た。

田中は「練ると色が変わる」と書いてあるお菓子を熱心に見つめていた。
103 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:08
練ると色が変わる。
そのフレーズはれいなの心をぎゅっと捕らえて放さなかった。
すごい色だ。しかも美味しそうだ。
これが食べたい。これが欲しい。れいなこれが欲しいっちゃ。

れいなはそのお菓子の値札を見た。
100円だ。税込みなら105円だ。安い。
エルダコンの一階席をヤフオクで転売したら100個買えるかも。
ババアが多いとはいえ腐ってもハロコンだ。きっとアベフあたりが。
そうだ。売ろう。売って買おう。今だ。今しかない。

「これ100個ください!」
れいなは大声で叫んだ。
光井に横から殴られた。
104 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:08
「ちょっと田中さん、なにしてるんですか!」
「ええやん!ちょっとくらいならええやん!」

光井はれいなの耳をぎゅうっとつねった。
れいなは「うひぃ」とか言いながらちょっと大人しくなった。
耳はれいなの弱点だった。

光井はちょっとした性的興奮を覚えた。
光井は明らかにサディストだった。
加えて言うなら小春もサディストだった。
さらに言うならリンリンもサディストだった。
そのリンリンが作ったジュンジュンがサディストなのは言うまでもない。

つまり物理部は全員がサディストだった。
マゾヒストなきサディスト集団だった。
ちなみに化学部の部員は全員マゾヒストで、生物部の部員はレズだった。
ガチでレズだった。ハードレズだった。
だがダイエーでの買い物には、とりあえず関係ないだろう。
105 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:08
「ワタシもこれほしイー。やってみたイー」
ジュンジュンはそう言いながらいきなりお菓子の包みを開けた。
あっけに取られている田中と光井をよそに、
ジュンジュンはお菓子を取り出し、混ぜ合わせて練る練る練る練る練る・・・・・

初めは黄色かったお菓子は、みるみるうちに緑色になっていった。
れいなはポカンと口を開けてただ呆けていた。
光井も怒るのを忘れて、その鮮やかな変色の様に見とれていた。

その背後にすっと一つの人影が近寄ってきた。
低く小さな声で、しかしながらはっきりとした言葉で告げた。
「お客様、レジをお通しでない商品をお持ちではないでしょうか?」
言葉だけ見れば質問だが、その口調は明らかに断定していた。
「お前、盗っただろ」と。
とても「素敵だなと思って」などという言い訳が通じそうな状況ではなかった。
というかそんな言い訳はどんな状況であっても通じない。

三人は覚悟を決めて振り返った。
106 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:09
「まったく・・・・・なにやってるんですカ?」
三人が振り向いた先にはリンリンがいた。
じっと4人のことを物陰から見ていたリンリンだったが、
不慮の事態を前にして、姿を現さざるをえなかった。

れいなは走って逃げ出した。全力疾走だった。
命の危険を感じたれいなの疾走は、
半裸で廊下を走ったときよりも明らかに速かった。音速に近かった。
地獄から鈴木亜久里が微笑んでいた。
スポンサーになってほしかったのかもしれない。

リンリンはれいなを追いかけて、エルボーで鎖骨を砕こうかと本気で思った。
だがここでこれ以上騒ぎを大きくするのは得策ではない。
そう判断したリンリンは、ジュンジュンを連れてレジまで行き、
店の人に謝罪してお菓子の代金を払った。
107 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:09
「ごめんなさい」
何か理不尽な思いもしたが、とりあえず光井はリンリンに謝った。

「ごめんなさい」
小春もリンリンに謝った。カートには肉類が山積みになっていた。

「ごめんなサイ」
ジュンジュンは謝りながらも、お菓子を口から放そうとはしなかった。

「あー、ごめんごめん」
れいなは、殴られないように光井の影に隠れながら謝っていた。
若干開き直っていた。
逆切れ気味だった。
108 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:09
「勝手にジュンジュンを連れ出しては困りマス」
光井は一言も反論できなかった。確かにこっちが悪い。
リンリンの言うことはもっともだと思ったが、れいなは敢然と反論した。
「なんね! ジュンジュンはリンリンだけの奴隷じゃなか!」
さすがにリンリンはぐっと言葉に詰まった。

そういうつもりは全くなかったが、上手く反論することができない。
ジュンジュンは昨日完成したばかりなのだ。
まだまだ調整しなければならないことが山ほどあるのだ。
一緒に作ってきた田中がそのことを知らないわけがない。

大体、田中には「計画性」というものがなさすぎる。
きちんと秩序立てて論理を構成し、先の見通しを立て、
あらゆる問題に対する対策を事前に講じておかなければ、
壮大な計画は、些細なことからあっけなく崩れていってしまうだろう。

だがそんな説明を田中にする気にはなれなかった。
こういった理屈が通じないことは、短くない付き合いでわかっていた。
リンリンは理屈を通すことを諦め、笑ってジュンジュンに話しかけた。

「買い物、楽しいですカ?」
109 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:10
「まだ何も買ってないヨ!」
ジュンジュンは不機嫌そうにそう言った。
彼女は不機嫌というか、とても不満そうだった。
リンリンに対しても、田中に対しても、光井や小春に対しても不満そうだった。
彼女を包み込む、すべての世界に対して不満そうだった。

「じゃあ、買い物を続けまショウ」
リンリンの言葉を聞いて、ジュンジュンの表情がぱあっと明るくなった。
彼女を包み込んでいる不満から、いくばくか解き放たれたようだった。
ジュンジュンは手早く光井と小春を新たな空のカートに乗せた。
光井と小春が驚く暇もあたえず、足の裏のロケットを作動させる。

ジュンジュンはエスカレーターの通る隙間から、
あっという間に飛び立って上の階へと飛び去っていった。

その場にはリンリンと田中と、肉類が山積みになったカートが残された。
「田中さん、これ買います? 誰が払いますカ?」
110 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:10
ジュンジュンたちは婦人服売り場に来ていた。
そこには色とりどりの洋服が並んでいたが、
ジュンジュンが着ているワンピースよりも美しいものはなかった。
光井はそのワンピースを作ったれいなのことを少し見直した。

ジュンジュンは「靴が欲しい」と言った。
彼女が履いていた靴は、足の裏のロケット噴射の直撃を受け、
黒い燃えカスとなってしまっていた。

「ジュンジュン・・・・・どうする?」
「新しいの買いたいデス」
「じゃとりあえず買うけど・・・・もう飛んじゃだめだよ」
「わかりましタ」

小春は「これなんかいいんじゃない?」と言いながら
黒いローヒールをジュンジュンに手渡した。
ジュンジュンはその靴を見るなり「それがいいです!」と言った。
その黒い靴は、濃紺のワンピースにとても似合っているように見えた。
111 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:11
光井がお金を払おうとする段になって、田中とリンリンがやってきた。
小春は「ジュンジュンの新しい靴を買いました!」と報告する。
ほーら、ほーらとまるで自分の靴のように自慢する。
そんなこと言ってるけど、お金を払うのはあたしじゃん。と光井は思った。
だが一応、先輩達にもお伺いを立てておく。

「この靴の代金、とりあえず私が払っておきますけど・・・・・」

光井がおずおずと言った言葉に対する田中の返答は、
光井にとって衝撃的なものだった。

「ブヒ」
「え?」
「ブヒー」
112 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:11
光井は驚愕した。
なんと! 田中は! 豚だったのか!

「物理部の部費で払うけん。毎月貯めてる部費で。部費で払って問題なか」

田中はなおもブヒブヒと言っている。
ま、まさか。
似ているとは思っていたが本当に豚だったなんて。
光井はお金を差し出すれいなの手をまじまじと見つめる。
ひづめだ。豚のひづめだ。これって豚足?
沖縄とかだと食べるんだよね?

光井は小春に向かって意思疎通を図る。
「ブヒ?」
小春も当然のように答える。
「部費」
光井は部長であるリンリンにも確認する。
「ブヒ?」
リンリンも冷静に答える。
「部費」
113 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:11
「もー、みっつぃー何言うとるんよ! ブヒブヒ言って豚みたいじゃん!」

田中れいなの言葉に、光井は冷静さを取り戻す。
田中が本当に豚かどうかという問題は、とりあえず今はおいておこう。
結論を出すには、あまりにも情報が少なすぎる。
それよりも今はジュンジュンだ。

新しい靴を履いたジュンジュンは極めてご機嫌な様子だった。
「小春、アリガトウ。とても良い靴」
いやいやいや。それはみんなの部費で買った靴やで。
光井はそう言おうとしたが、ジュンジュンの笑顔を見て断念した。

小春がジュンジュンのために選んだ靴。
それでいいや。
よし!
じゃあ、あたしはカバンでも選んであげようかな?

光井がそう思ってみんなに次の店に行こうと促すと、
れいなはその手を遮り、決然として言った。

「いや、靴で5000円使ったけん、今日の買い物はこれまで!」
114 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:11
れいながそう言うと、れいな以外の4人が一斉に不満の声を上げた。

「ええええええええええええええ」
「もう終わりいいいいいいいい?」
「なんでええええええええええ?」
「URYYYYYYYYYYY!]

たった5000円くらいで部費がなくなってしまうものなの?
あれって月に1000円も集めているよね?
4人だから月に4000円もあるんでしょ?
それなのに積み立ててる金額が5000円というのは少なすぎない?
それともジュンジュンを作るためにそのお金を使っちゃったの?

光井の頭の中にはそういった思いがグルグルと回っていた。
だが、光井や小春だけではなく、
部長であるリンリンもURYURYと不満そうにしていることから、
「部費がなくなってしまった」という理由ではないのだろうと思った。

じゃ、なんで買い物はこれで終わりなの?
115 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:11
「なんでこれで終わりなんですか!」
みんなの思いを、小春が代表して叫んだ。
れいなは手に持ったレシートをひらひらさせながら言った。
「これが手に入ったけん、これでよか」

小春は光井と顔を見合わせる。
田中の言っている意味がよくわからない。
光井は田中からレシートを奪い取ってじっと見つめる。
小春も。リンリンも。ジュンジュンも。
4人でじっと見つめるが、それはただのレシートにしか見えなかった。

「失くしたり、破ったりしたらアカンよー」
れいなは下りのエスカレーターに乗りながら言った。
靴を買ってもらったジュンジュン以上に、れいなはご機嫌なように見えた。

「福引券と引き換えてくれんようになるけん」
116 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:11
5人は一階の奥にあるスペースに移動した。
そこで1000円分のレシートにつき一枚の福引券と交換してくれるらしい。
さらに1等以上の景品を狙うためには、5000円分以上のレシートを出して、
もうワンランク上の特別福引券と交換しなければならないことになっていた。

れいなはこの「特別福引券」を狙っていたのだ。

「えー! ジュンジュンに買い物を教えるためじゃなかったんですカ?」
「なんでそんなことするんよ?」
「だってジュンジュンに色々なことを教えるタメニ・・・・・」
「あのねー、リンリンはちょっと過保護すぎるんよ!」
「でも・・・・・」
「ジュンジュンは買い物を教わるために作られたんじゃなか!」
「はい」
117 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:12
おおー。

田中とリンリンのやり取りを聞いていた光井は、軽く感心した。
まさかあの田中さんがリンリンに議論で勝つとは。
だがこの場合、田中の言っていることの方が正しいように思われた。

確かに何でもかんで手取り足取り教えるだけが方法ではない。
それは過保護と言われても仕方がない。

それにジュンジュンはあれだけ精巧なサイボーグなのだ。
ジャンケンや鬼ごっこや買い物やあれやこれやといった、
一般常識を教えたり実践させたりするためだけに
作られたわけではないだろう。

あれ?
じゃあジュンジュンってなんのために作られたんだろう?
なんのために?
118 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:12
「にひひひひ」
れいなは特別福引券を手に会心の笑みを浮かべていた。

その特別福引の特賞は「ハワイ旅行5名様」になっていた。
何か問題でも?

こういうとき必ず「4名様」になっていることに
作者は前々から強い疑問を抱いていた。
なぜ4人なのか。なぜ5人ではなくて4人なのか。
家族は4人であるべきなのか。それは価値観の押し付けではないのか。
4人家族が「5名様」を引き当ててもさほど問題にはならないが、
5人家族が「4名様」を引き当てたときの問題は深刻である。
そういったことが一切考慮されていないことに強い憤りを感じる。
これは4人分とか5人分とかいった金銭上の問題ではない。
福引は、運によってのみ結果が問われるというその性質上、
あらゆる形態の家族に対して平等に等価値であるべきだと作者は考える。

ちなみに作者は5人家族である。
福引に当選した経験はない。
何か問題でも?
119 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:12
ニヤニヤ笑っている田中を見て、小春は怪訝な表情を浮かべた。
まだ福引に当選したわけではない。抽選券をもらっただけだ。
小春だってかなり楽天的な性格をしているが、
抽選券をもらっただけでそこまで喜んだりはしない。
特賞に当たるよりも、外れる確率の方が高いことは小春にだってわかる。

だから小春には田中がニヤニヤしている理由がわからなかった。
ああ、田中さんってバカなんだな。
素直に心からそう思った。
小春はガラガラの前に貼られている景品一覧を見た。

特賞はハワイ旅行5名様。 金色
1等は液晶テレビ。      銀色
2等はパソコン        赤色
3等はお米           青色
4等はドライヤー       黄色
5等は歯磨き         黒色
6等がティッシュか飴玉   白色

特別福引券の場合は外れはないらしい。
最悪でも6等は当たることになる。
小春は歯磨きが当たるくらいなら飴玉の方がいいなと思った。
意外と現実的だった。
120 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:12
光井も、田中がニヤニヤしている理由がわからなかった。
まだ福引に当選したわけではない。抽選券をもらっただけなのに。

おそらく田中はガラガラを回せるだけで楽しいのだろう。
まだまだお子様なんやねこの人は。
光井はそう思った。
光井はガラガラの前に貼られている景品一覧を見た。

特賞はハワイ旅行5名様。 金色
1等は液晶テレビ。      銀色
2等はパソコン        赤色
3等はお米           青色
4等はドライヤー       黄色
5等は歯磨き         黒色
6等がティッシュか飴玉   白色

光井は特賞以外のものが当たったときのことを考えていた。
お米だったら簡単に分けられるから楽でいい。
テレビやパソコンが当たった場合は、どこかに売りさばいて、
現金化して山分けするのがいいだろうと考えていた。
121 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:12
リンリンには田中がニヤニヤしている理由がわかった。
というか、なぜ田中がジュンジュンを買い物に連れてきたのか、
その理由もはっきりとわかった。
整然とした論理展開を経由して、田中の思考回路をたどることができた。

ようやくたどりついた正解を前にして、リンリンは少しほっとした。
やはりこの世には物理法則で理解できないものなどないのだ。
リンリンはガラガラの前に貼られている景品一覧を見た。

特賞はハワイ旅行5名様。 金色
1等は液晶テレビ。      銀色
2等はパソコン        赤色
3等はお米           青色
4等はドライヤー       黄色
5等は歯磨き         黒色
6等がティッシュか飴玉   白色

リンリンはパソコンが欲しいと思った。液晶テレビの部品も捨てがたい。
だが田中が狙っているのは、おそらく特賞のハワイ旅行だろう。
そしてそれはほぼ確実に手に入る。
ジュンジュンのためにパスポートを偽造するのは、
ちょっと面倒臭いなあとリンリンは思った。
122 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:13
ジュンジュンは生まれて初めて見る福引の前で興奮していた。
既に何人かがガラガラを回していたので、
福引のシステムについてはおぼろげに理解することができた。
ガラガラガラガラ。ポトリ。カランカランカラン。

ジュンジュンは靴を部費で買ったことも忘れて、
ガラガラを回すのは自分以外にないと確信していた。
ジュンジュンはガラガラの前に貼られている景品一覧を見た。

特賞はハワイ旅行5名様。 金色
1等は液晶テレビ。      銀色
2等はパソコン        赤色
3等はお米           青色
4等はドライヤー       黄色
5等は歯磨き         黒色
6等がティッシュか飴玉   白色

ジュンジュンにはどれも皆、見たことがないものばかりだった。
なんとなくドライヤーが格好良い!
あれがあれば足の裏のロケットの替わりになるかもしれない!
そうジュンジュンは思った。
123 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:13
田中は溢れてくる笑いをこらえることができなかった。
計画は完璧だった。
特別福引券を手に入れた時点で、勝利は決まったも同然だった。
あとはジュンジュンにガラガラを回させればいい。

サイボーグなら狙った玉が計算して出せるはず。
田中はガラガラの前に貼られている景品一覧を見た。

特賞はハワイ旅行5名様。 金色
1等は液晶テレビ。      銀色
2等はパソコン        赤色
3等はお米           青色
4等はドライヤー       黄色
5等は歯磨き         黒色
6等がティッシュか飴玉   白色

勿論、狙うのは特賞のハワイ旅行だ。
ハワイの海に行くのだ。泳ぐのだ。
向こうでナンパとかされちゃったりして。にひひひ。
124 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:13
「ジュンジュン。ガラガラを回してほしいと」
れいなは特別福引券をぎゅっと握ってジュンジュンに託した。
そして壁にかかっている、福引の景品一覧のポスターを指差す。

「特賞は金色。やけん金色の玉を出して欲しいんよ」

ジュンジュンの目がすうっと透明になる。
表情からは感情が消え、その肌や髪までが色を失ったかのように見えた。
それと同時にジュンジュンの頭からウィーンという起動音が響き始める。
硬く小さな夥しい数の知能の歯車が回り始めていた。
歯車は硬質の物質のものであり、それと同時に電子の波動でもあった。
歯車のリズムと波動のゆらぎが一つの形に収斂したとき、
熱を帯びた知性のオーラは、想像を絶する超高速計算を可能なものとした。

そんなジュンジュンの高速計算に影響されたのだろうか。
リンリンが、れいなが、そして光井が、
福引のガラガラという一点に知性を集約させていた。

知性と無縁な小春は一人取り残された。
125 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:14
ジュンジュンは何か一つの答を出したようだ。

「田中。一度でイイ。ガラガラの中が見たい」
ジュンジュンのリクエストを耳にし、リンリンの視線が鋭さを増す。
リンリンの頭脳もジュンジュンに負けないほど
激しく回転しているように見受けられた。

なるほど。初期値を設定しようということか。
まず最初に目的の玉の位置を把握しておかねば、
どんな計算をしても無駄だ。すべての計算は水泡に帰す。
逆に言えば、初期値さえ把握できれば、
後は全て物理学的な法則の元で玉の動きをコントロールできるはず。

れいなが動いた。
思索よりも行動。
こういうことはれいなが適任だ。
無意識のうちに、彼女達の中では一つのチームワークが生まれていた。
目指すのは5人様ご案内のハワイ旅行ただ一つ。
126 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:15
「ねえ! さっきから見てるけど全然出ないじゃん!」
れいなが激しい口調で福引の係の人に食って掛かる。
勿論演技だ。だが演技とは見えないような迫力があった。
「これ本当に金色の玉、入っとうと? ちょっと開けて見せてよ!」

係の人は常識的な人だった。
リンリンのようにいきなり鳩尾を蹴ったりしなかったし、
ジュンジュンのようにいきなり8階から蹴落としたりもしなかった。
光井のように不細工でもなかったし、
小春のように聞こえない振りをすることもなかった。

れいなはドサクサに紛れて光井に対してかなり失礼なことを思っていたが、
勿論光井はそんなことは知る由もない。
光井可愛いよ光井。

係の人はやや鬱陶しそうにしながらも、
思った以上にすんなりとガラガラの蓋を開けて見せた。
127 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:15
5人はバッとガラガラの上に覆いかぶさる。
中にはたくさんの玉が入っていた。
リンリンが他の三人を制して、後ろに下がらせる。
ジュンジュンが集中して玉を見ることができるようにするためだ。

ジュンジュンはじっとガラガラの内部を凝視する。
右手を差し入れて、玉の集団をざあっとかき混ぜる。
その中央には確かに金色に輝く玉が一つ入っていた。
これだ!
ジュンジュンの脳内スコープは確かにその玉の位置をロックオンした。

もういいですか?と係員がいらただしげに言いながら、
ガラガラの蓋をぱたりと閉じた。

だがジュンジュンの脳内モニターはしっかりと黄金の玉を見据えていた。
128 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:16
ジュンジュンは決然とガラガラのハンドルに手をかけた。
目はあらぬ方向を向いている。
ゆっくりとした手つきでジュンジュンはハンドルを回し始めた。

ガラガラと回る全ての玉の動きをジュンジュンは把握していた。
球体の表面積。カーブの角度。体積。重量。加速度。材質。弾性。気温。空気抵抗。
全てのデータがジュンジュンの中のスーパーコンピューターで
緻密な超高速解析にかけられていた。

ジュンジュンは無意識のうちにぼそぼそとつぶやきながら回していた。

「この角度・・・・この速度・・・・

    v=v0+at   ...................  xm=(v02/g) sin 2θ....... .....

        v^2-v0^2=2ax+x0 ..........................

    sinθ= a/c  .................   VS = VR + V .............................

      ....................   cosθ= b/c
                          tanθ= a/b ・・・・・・・」
129 :4.ま わ せ J J :2008/07/19(土) 22:16
コサインだのサインだのとぼそぼそつぶやくジュンジュンの声を聞くと、
小春はいきなり小躍りしながら、陽気な声で歌い出した。
計算とは無縁のダンスだった。
知性とは無縁の歌声だった。

「コサイン♪サイン♪タンジェント♪」
ジュンジュンも思わず釣られてしまった。
「コサイン、サイン、タンジェント・・・・?」

「あなたとわたしはピロロンピー!」
「アナタとワタシはピロロンピー!・・・って、ア!!」

突如リズムを乱されたジュンジュンの右手がガクッと揺れた。
ガラガラの中からポトリと落ちてきた玉の色は―――

ジュンジュンの靴と同じような黒だった。
130 :名無飼育さん :2008/07/19(土) 22:17
131 :名無飼育さん :2008/07/19(土) 22:17
132 :名無飼育さん :2008/07/19(土) 22:17
133 :名無飼育さん :2008/07/19(土) 22:23
レス返しです



>>92
これからも読み続けてくれるのでしょうか。
飽きないか不安です。
作者が飽きるのが先か、読者が飽きるのが先か、勝負してみましょうか。


>>93
これからも楽しみに待っていてくれるのでしょうか。
こちらこそありがとうございますです。
こんな変な小説を書いていますが、レスをもらえるのは本当に嬉しいです。


>>95
ジュンジュンは素晴らしいです。
小説にしたくてたまらなかったのでこういう話を書いてみました。
あなたの推しメンが誰かはわかりませんが矢口さんではないことを祈っています。
134 :名無し読者 :2008/07/20(日) 11:26
鋭いなwうちも5人家族です
だからいつも外食行ったら4人のテーブルとか嫌でした
なんで世の中の人は4人家族を基準ですべてを考えているのでしょうかね
135 :名無飼育さん :2008/07/20(日) 11:30
各所にちりばめられてる小ネタが面白いです!
ブラックなネタも好きです!
136 :名無飼育さん :2008/07/23(水) 00:54
さすがのジュンジュンも小春には勝てないのか。

小春最強じゃん。
137 :名無飼育さん :2008/07/27(日) 20:11
138 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:11
暑かった。
夏だった。

田中れいながUFA女子高等学校に入学してから、
ココナッツ娘。のいない初めての夏だった。
もっともミカが卒業した2004年の5月からずっと、
既に活動停止していたようなものだったが。

れいなは木村絢香にも長手絢香にも谷原絢香にも興味なかったが、
ハワイには興味津々だった。
青い空に青い海、輝く太陽。
そこで思いっ切り遊ぶのが夢だった。

ちなみにれいなは高校生になるまで、
興味津々のことを「きょうみつつ」と読んでいた。
(決して作者自身の体験談ではない)
れいなは英語だけではなく、国語も苦手だった。
139 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:11
「小春のアホー」
れいなは持っていた消しゴムを小春の頭めがけて投げつけた。
山なりの軌道を描いた消しゴムは、
小春の頭に届く前にジュンジュンの右手に吸い込まれていった。
ジュンジュンは消しゴムをぎゅっと握り締め、叫ぶ。

「JJグレイトファイアーハンド、オン!!」

その瞬間、ジュンジュンの右拳が赤銅色に輝く。
指の隙間からオレンジ色の光線が漏れる。
ジュジュッという音とともに焦げ臭い匂いが物理部の部室に充満する。
消しゴムはあっという間に蒸発していった。

リンリンと光井がパチパチパチと拍手する。
「瞬間最大放出熱量は、約8000メガジュールです」
「うーん。どのくらいすごいんかようわからんけど、すごい熱量やねー」

どのくらいすごいのかは作者にもよくわからない。
140 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:12
こういった派手な実験に対して、
普段ならいの一番に喜びそうな小春は不機嫌そうな表情だった。
「ちょっとジュンジュン! 余計暑くなるじゃん!」
確かに部屋の温度が瞬間的に数度上昇していた。
むっとした空気が部室内に満ちる。

「ふん。小春が邪魔せんかったら、今頃ハワイやったのにねー」

れいなは福引のことをまだ恨んでいた。
小春がジュンジュンの邪魔をしなければ、
確実に特賞のハワイ旅行が当たっていたはずだった。
もう一回福引をしようかと思ったが、
ジュンジュンの次にガラガラを回した女の子が金の玉を出してしまった。

福引でハワイ旅行を当てるという計画は失敗に終わった。
屈辱だった。
狼には「JJ福引失敗に笑いが止まらない矢口」というスレが立てられた。
ジュンジュンは「矢口氏ね」という新しい日本語を覚えた。
スレは300レス超まで伸びて翌日の朝に落ちた。
141 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:12
UFA女子高等学校は前日から夏休みに入っていた。
部長であるれいなは、
夏休みの間の部活動の計画を立てねばならなかったが、
ハワイ旅行が消えた今、何をどうするか考えあぐねていた。

ちなみに>>65>>71で、
あたかもれいなが副部長であるかのような表現があるが、
正しくは田中れいなが部長、リンリンが副部長である。
田中れいなが二人いるとかいうややこしい叙述トリックではないので安心して欲しい。
作者の単なるミスである。ああそうさ。ミスさ。悪かったな。
読者からの厳しい指摘を予想して憂鬱だった作者であるが、
幸か不幸かこのミスに関する指摘は一つもなかった。
誰も読んでいなかったのかもしれないという可能性は無視する。

とにかく物理部の部長はれいなだった。断じてれいなだった。
ハワイでも買い物や海水浴や食事などを全て仕切るつもりだった。
だがその予定は小春の邪魔で水泡と消えた。

そういうわけで、物理部の部室では高校生四人とサイボーグ一体が
青春の日々を無為にダラダラと過ごしていた。
142 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:12
「せんぱーい、どっか行きたいでーす」
「だから小春がハワイ行きをダメにしたんじゃん」
「もうそれはええやないですか」
「どっか行きたい! 行きたい! 行きたい! 行きたい!」
「じゃあ、あそこに行きましょうカ?」
「どこ?」
「イバラギケン」

部屋の温度が3度下がった。

だがリンリンはそれを狙って言ったようには見えない。
彼女のは何かを達成した後のような充実感に溢れた表情をしていた。
なぜ彼女はそんなにも茨城県が好きなのだろうか。
光井は一つ深いため息をついた。

ワンテンポ遅れて小春とれいなが仲良く爆笑した。
「ひーひっひっひ! イバラギって!」
光井はさらにもう一つ、より深いため息をつかなければならなかった。
143 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:12
笑いが収まった後には虚しい空気が教室を支配した。

「なーんもやることないんよ」
田中は、夏休みの予定に関しては、
まるで今のつんくのように良いアイデアが出ない状態だった。
今のつんくというか2002年以降のつんくというか。
とにかくノーアイデアだった。
全く何も出ないだけ、つんくよりはましだったかもしれない。

とにかくれいなはノーアイデアだった。
だが副部長であるリンリンには一つ気になっていることがあった。

「田中さん。アレのことは考えなくていいんデスカ?」
「あれ?」
「アレですよ、アレ」

リンリンは適当な日本語が思い出せないのだろうか。
斜め上を睨みながらうんうん唸っていた。
144 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:12
「アレですよ、アレは大丈夫ですカ?」
「℃-uteの新曲が『江戸の手毬唄U』とかいう変なタイトルだけど大丈夫っていうこと?」
「違いマス」

なにがUやねん。と言いたいところだが、
曲名が変なのはハロプロには珍しいことではなかった。
『アイ〜ン!ダンスの唄』などに比べればまだ可愛い方だろう。

「アレですよ、アレの心配はしなくていいんデスカ?」
「Berryz工房の新曲『行け 行け モンキーダンス』が変なタイトルだっていう心配?」
「それも違いマス」

なにがモンキーダンスやねん。と言いたいところだが、
曲名が変なのはハロプロには珍しいことではなかった。
『幸せきょうりゅう音頭』などに比べればまだ可愛い方だろう。

「アレですよ、あの問題のことデス」
「真野恵里菜のソロ活動が有名無実化しているっている問題?」
「それも違ウー」

なにがソロ活動やねん。と言いたいところだが、
名目上はソロだがソロ活動してるように見えない人間はハロプロには山ほどいた。
中澤とか飯田とか保田とか吉澤とか小川とか三好とか岡田とか・・・・・・・・・
145 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:13
そんな問答が30分くらい続いただろうか。
リンリンは不意にそれが何なのか思い出したようだった。

「あ! アレです! 文化祭のことですヨ!」
「おー、そのことか! れいなてっきりハロモニ@の低視聴率のことかと」

それは今に始まった問題ではない。
146 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:13
UFA女子高等学校の文化祭は、
毎年、夏休み明けの8月第一週に行なわれることになっていた。
文化祭ではそれぞれの部がそれぞれに工夫を凝らしたイベントを行なっていた。
勿論、物理部も毎年なんらかの出し物をしていた。

「そういえば去年は何をやったんですか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

小春の無邪気な問いかけにれいなとリンリンは無言で答えた。
二人の表情は暗い。
まるで小川復帰を聞かされた時の高橋新垣の表情のようだった。
いや、どんな表情だったか作者は知らないけれど。
暗澹たる表情であったことは想像に難くない。

とにかくひどく暗い表情だった。
去年の文化祭では何かトラブルでもあったのだろうか?
光井がさらに突っ込んで聞こうとした瞬間、
部室の扉がガラガラと開けられた。
147 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:13
「れいないるー!!」
扉の向こうには一人の少女が立っていた。
名札の色からすると三年生のようだ。
田中を見つけたその少女は、れいなに向かって親しげな言葉と視線を送った。

光井は驚愕した。
た、た、田中れいなに友達がいたなんて!
そ、そんなバカな・・・・・・
驚愕の度合いは、れいながブヒブヒ言っていたときの比ではなかった。
田中が実は豚だったというのはわかる。それなら納得できる。
だが友達がいるという事実は受け入れがたかった。

小春が光井の肩を叩く。
見つめる光井に対して、小春はゆっくりと首を横に振った。
小春の表情もとてつもなく暗かった。
世界の終わりがゆっくりとやってくる。
そんな感覚だった。
148 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:13
リンリンは朗らかにその少女を迎え入れた。
「おー、カメイさんじゃないですカ。どうしたんですカ?」
「今日はね。れいなと遊びに来たわけじゃないの。化学部の部長として来たの」

カメイという名前。そして化学部の部長という肩書き。
それを聞いた瞬間、光井と小春は思わず顔を見合わせる。
これがあの噂の亀井さんか!

この学校は上級生と一年生が顔を合わせる機会が極端に少ない。
だから光井と小春が亀井と会うのも初めてだった。
だが「化学部の亀井絵里」の名前は全校中に響き渡っていた。
有名だった。あまりにも有名だった。
有名というなら、田中れいな以上に有名な存在だった。

田中れいなは一年留年していたが―――
亀井絵里は二年留年していた。

その事実を知らない者などこの学校にはいなかった。
149 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:14
「ジュンジュン!」
亀井を見るや否やれいなはジュンジュンに向けてサインを送った。

「JJグレイトファイアーハンド!」
れいなはそう言いながら亀井を背後から羽交い絞めにする。

「オン!」
ジュンジュンはれいなのサインに答えてそう叫ぶ。
ちなみにオンというのは「作動」という意味の英語であり、犬の鳴き声ではない。

ジュンジュンの右手が赤銅色に輝く。
幕之内一歩ばりの鋭い右フックが、への字型の軌道を描いて亀井の左頬に向かう。
訳もわからないまま亀井はひょいとしゃがむ。

8000メガジュールの熱量を込めたパンチがれいなの左頬を直撃。
吹っ飛ぶれいな。
割れる廊下の窓ガラス。
8階から地上へと描かれる放物線。

それでもれいなは両手を離していなかった。
れいなに後ろから抱きつかれたまま、亀井も一緒に8階から放物線を描いた。
150 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:14
れいなと亀井の二人は廊下側の窓から飛び出した。

そっち側にはプールはない。トランポリンもないしポワトリンもいない。
なっちの背中には天使の羽があるが、田中と亀井にはない。
というわけで、そこから落ちたら即死することは間違いない。
たとえこの小説がネタ小説であったとしても、だ!

それは作者が保障する。
151 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:14
リンリンは咄嗟にそれらのことを判断し、ジュンジュンに命じた。
「JJスーパーリフトアーム!」
ジュンジュンは言われるがままに命令に応えた。
「オーン!」
命令に応えるジュンジュンはなぜかとても嬉しそうだった。

ジュンジュンの左手が銀色に輝く。
手首から先がポンっと取れて、窓に向かって勢いよく飛んでいった。
拳と手首の間は銀色のロープがつながっていた。
ジュンジュンの左拳はロープを従えながら8階から落下していく。

まるでロビンスペシャルのように、物理学的法則を無視しながら、
ジュンジュンの左拳は田中と亀井の二人に追いつき、腰の辺りをつかむ。
そしてバンジージャンプのロープのように、びよよよーんと伸びながら
二人の落下速度を緩め、地面に激突する寸前に二人を引き上げた。
152 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:14

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
153 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:15
二人はゆっくりと引き上げられて教室に戻った。

「ちょっとこれ、いきなりどーゆーこと?」
亀井の疑問も、もっともなことだった。
教室に入ってくるなり、いきなり羽交い絞めにされて殴られそうになったのだ。
あまりの急展開に光井と小春は付いていくことができなかった。
れいなは亀井に対して何か恨みでもあるのだろうか。

そのれいなは、腰の辺りをつかんだまま、無言で亀井を睨んでいた。
ずっと腰の辺りをつかんだままだ。
どうやらJJスーパーリフトアームにつかまれたときに、
パンツのゴムが伸び切ってしまったらしい。

「うっさい! 絵里のアホォ! 物理部は渡さん!」
れいなはすごく喋りにくそうだった。
ジュンジュンに殴られた左頬がソフトボールのように腫れ上がっていた。

ジュンジュンは物珍しそうにじっと見ながら、そのほっぺたをつんつんした。
れいなは堪えきれずに泣いた。
うえーん、うえーん、と子供のように声を上げて泣いた。号泣だった。
まるで吉澤の卒コンの時の高橋のような号泣だった。
周囲にしらっとした空気が流れた。
154 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:15
「亀井さんは何をしに来たんですか?」
泣いているれいなの世話はリンリンに任せ、
光井は気になっていることを尋ねた。

「何って。れいなに会いに」
「だから何の用事で会いに来たんですか?」
「文化祭! 文化祭で!」
「で?」
「だから文化祭よー!」
「だから何なんですか?」
「譲ってもらいに来たわけ」
「譲るって何を?」
「だからー、文化祭、あるじゃん? あれ。去年のこと。うん、そう」

亀井はそう言いながら光井の肩をポンポンと叩く。
光井は苛立ちを抑えるのに苦労した。
亀井はアホだった。田中に輪をかけてアホだった。
話が全く前に進まなかった。
155 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:15
だが田中にはそれで十分通じたようだった。
「ダメ! 絶対譲らん! もう! 帰れバカァ!」
相変わらず手は腰の辺りをつかんだままだった。

ますます話が見えない。
光井の苛立ちは頂点に達しようとしていた。
だが小春の方はというと、そんな話の流れなど全く気にせずに、
自分が知りたいことをさらっと尋ねた。

「亀井さーん! 化学部は文化祭で何をやるんですか!?」
「うん? 化学部はね、面白い実験をいっぱいやるよ!」
「うわー、見に行っていいですかぁ!!」
「勿論! 来て来て! 物理部は文化祭のとき暇だろうし」

亀井の言葉に光井は大きな引っ掛かりを感じた。
暇だろうし? なんやそれ? どういうこと?
156 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:16
「そういうわけで、れいな」
亀井は田中の方を見ながら決然とした口調で言った。
「文化祭のときはこの部屋、化学部が使わせてもらうから」

「ええええええええええええええ」
「なんでええええええええええ?」
「URYYYYYYYYYYY!]

三人は一斉に吠えた。
だが事情を知っているらしい田中とリンリンは黙ったままだった。

「嫌やもん・・・・・渡さないもん・・・・・」
田中の口調は弱々しかった。
まるで何かの弱みを握られているかのように、しおらしい態度だった。
相変わらず手は腰の辺りをつかんだままだった。
157 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:16
「この子たち一年生? 事情を知らないの?」
亀井はそれじゃあ仕方ないなあとか言いながら、
光井と小春とジュンジュンに向かって説明を始めた。

わかりにくかった。

亀井の説明はUFAの方針のように支離滅裂だった。
場当たり的で、自己中心的で、傲岸不遜だった。
代わりにリンリンが事情を説明し始めた。
わかりやすかった。
UFAにも代わりがいればいいのだが、勿論そんなものはない。

簡単に言うなら、
物理部は去年の文化祭で大きなトラブルを起こしていた。
それが原因で、物理部が今年の文化祭に出るのは、
石川梨華がソロで紅白歌合戦に出ることくらい難しいらしい。
亀井に言わせれば、その可能性はゼロだった。

もっとも作者に言わせれば、
今年はモーニング娘。だって出場は怪しいものだが。
158 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:16
物理部は去年の文化祭でマジックショーをやった。
「驚愕! 物理学的ノコギリ切断マジック!」がメインだった。
つまり物理学を駆使して、切断マジックをするというものだった。
れいながベッドに横たわり、リンリンがチェーンソーを持った。

そこでトラブルが起こった。

れいなの体が腹のあたりで真っ二つに割れた。
教室中が血の海と化し、れいなの体からは腸がだらりと垂れ出した。
れいなは絶叫し、痙攣し、失神した。
四肢も切断され、観客の足元まで転がり、ピクピクと動いた。
159 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:16
マジック自体は大成功だった。

血や腸や手足などは全て物理部の手作りだった。
リンリンが作った試作品サイボーグのパーツだった。
本物そっくりだった。リアルだった。リアルすぎた。
見ていた誰もがマジックは失敗だと思い、大パニックになった。

モーニング娘。が7期加入スペシャルで小春の中学に行った時だって、
そこまでのパニックにはならなかったはずだ。
なあ、小川。

ちなみにパニックの引き金となったのは亀井だった。
マジックを最前列で見ていた亀井が真っ先に騒ぎ出したのだ。
大きく動揺した亀井はなぜか消火器をれいなに向けて発射した。
パニックがより大きくなったのは言うまでもない。

とにかくそういった騒ぎがあり、物理部の部員は全員停学処分になった。
ちなみにれいなはその停学のせいで留年したと思い込んでいるが、
れいな以外の三年生部員は全員無事に卒業している。
当時唯一の二年生だったリンリンも無事に三年生に進級している。
160 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:17
「れいな、もう諦めなよ。物理部はダメだよ。今年は」
「嫌やもん! 今年もマジックやるもん! 絶対やるもん!」
「ここはさあ、化学部が使うからさあ、当日はあたしらのお手伝いしてよ」
「嫌や! うちらでマジックやるもん! マジックやるの!」

お前は奇術部か。
光井は心の中で田中に突っ込みを入れた。
だが「化学部を手伝え」という亀井の言葉も随分な言い草だと思った。
物理部がそんな命令に従わなければならない筋合いはないはずだ。
なんとかこの高飛車でアホな二留生の鼻を明かしてやりたい。

光井はもう一度、JJグレイトファイアーハンド!、と叫ぼうかなと思った。
リンリンがそんな光井の態度を見て、
微かに笑みを浮かべながら、首を横に振った。

暴力で解決するのは好きではない。
あくまでもスマートに。論理的に。物理学的な法則に則って。
それがリンリンの、そして物理部のやり方だった。
161 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:17
「田中さん」
「なんね、リンリン」
「今年も文化祭で『物理学的マジック』をやるんですネ?」
「もっちろん!」
「では今年は何をやりますカ?」
「え?」
「去年と同じ切断マジックじゃ、つまらないですよネ?」
「うーん・・・・・」

田中は考え込んでしまった。
目の前にはまだ亀井がいる。あまり軽々しいことは言えない。

このアホが。アホアホアホアホアホが。
自分のことを棚に上げて、田中は亀井のことを罵った。
こいつさえおらんかったら。
こいつさえ騒がんかったら、文化祭に出られるかもしれん。

れいなは消火器をかけられた恨みをまだ忘れてはいなかった。
一年経った今でも、たまに鼻くそをほじっていると
奥から白い消火器の粉が出てくることもあった。
162 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:17
「諦めなよ、れいなー」
亀井はそんなれいなの苦悩を察することなく能天気にそう言った。
「切断とか大脱出とか、そんなマジックは高校生には無理だよー」

その言葉に、れいなは雷に打たれたかのような天啓を受けた。
全身がビリリと痺れた。

こんなに痺れたのは、4ヶ月前にリンリンが製作した、
「楽々足つぼ電撃鍼治療マッサージマシーン」を使ったとき以来だった。
ちなみにそのときは、れいなは2週間学校を休んでいる。

「無理なことなか!」
れいなの心の中では、
既に文化祭で大成功を収めている自分のビジョンができつつあった。

「今年は『驚愕! 物理学的大脱出マジック!』をやる!」
163 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:17

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
164 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:17
「あ、あのー、れいな」
弱々しい声で亀井が尋ねた。
既に亀井と田中の立場は逆転しているように見えた。

「なんであたしが実験台にされるわけ?」

亀井は一人、椅子の上に座らされていた。
その亀井を、物理部の5人がぐるりと取り囲む。
リンリンとジュンジュンは手順に関して入念な打ち合わせをしている。
光井と小春はその場の状況についていくだけで精一杯だった。
田中が自信満々な様子で亀井を説得する。

「だって当日はあたしらがやるわけやん?」
「はあ」
「だから今日は物理部じゃない絵里にやってもらうしかないやん?」
「え? あ、うん・・・・・そういうことか」

亀井はバカだった。
れいなの言っていることは全く論理的ではなかったが、
亀井はあまり深く考えることなく、場の雰囲気に流されていった。
165 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:18
「JJスーパーリフトアーム! オン!」
亀井の正面に立っているジュンジュンがそう叫んだ。
左手から銀色の光を放ちながら、リフトアームを放出する。
飛び出した左拳が真っ直ぐに亀井の方に向かった。
亀井は軽いパニックに陥る。

「ちょ!ちょ?つよつよちゅお!ちゅおえゆってぽっちゅおぺ??!」

軽くなかった。かなりのパニックだった。
亀井は目の前にいる少女がサイボーグだとは知らなかった。
なぜ少女の手からロープが出てくるのか理解できなかった。
席を立って逃げようとしたが、できなかった。

ジュンジュンの左手から放たれたロープが、
ぐるぐると亀井の体の周りを包み込んでいく。
8の字型に器用に動きながら、椅子に座った亀井を縛り上げていく。
166 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:18
「あ、ああん・・・・・」
亀井は縛られながら性的に興奮した。
亀井はマゾだった。化学部は伝統的に全員マゾだった。

縛られていく亀井を見ながら、
田中とリンリンと小春と光井とジュンジュンは性的に興奮した。
5人は全員サドだった。物理部は伝統的に全員サドだった。

いつの間にか亀井の両手は後ろ手になり、腰の辺りで縛られた。
足は胡坐に組まされ、同じように固く縛られた。
スカートがはらりとめくれた。
スカートの中身を見ようと、れいなはバッとかがみ込んだ。
れいなは亀井のスカートの中身に興味津々だった。

両手を離したれいなの腰からはパンツがずり落ちていた。
やはりゴムが伸びきっていたらしい。
167 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:18
れいなは自分の足首にからまったパンツもそのままに、
手を亀井のスカートへと伸ばした。
もはやれいなの頭にはマジックのことなど毛頭なかった。
ただただ亀井に対するえっちな悪戯心のみがあった。
縄に縛られた亀井の呼吸が荒くなる。
固定された亀井の両膝を抑えながら、れいなは指をそっと差し込んだ。
亀井は目を閉じながらいやいやと首を振る。
だが固く縛られた亀井の体には、れいなの指から逃れる術はなかった。



〜〜  中  略  〜〜



「じゃ、そういうことで!」
亀井は笑顔で手を振りながら物理部の部室から出て行った。
168 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:19
「交渉は成功でしたネ」
「成功っていうより、性交っていう感じやったけど」
「もー、みっつぃー! いやらしい!」
「そういう小春が一番熱心に見てたんやなかと?」

部室の中には祭の後のような熱い余韻が漂っていた。
結局、亀井は物理部の部室を使うことを諦めるどころか、
教師に掛け合って、物理部が今年の文化祭に出る許可を得られるよう、
交渉することまで約束してくれた。

「質問がありマス!」
「なんね、ジュンジュン」
「どうして亀井さんはこっちの言うことを聞いてくれたんですカ?」

最初はあんなにも好戦的だった亀井が、
最終的には物理部の言いなりになってしまったことが、
ジュンジュンにはとても不思議なことに感じられた。
こちらは恫喝や脅迫の類は一切使っていないのだ。
なのに亀井は、むしろ喜んでこちらの言い分を聞いてくれたように見えた。

それはジュンジュンの脳内コンピューターの中には入っていない交渉術だった。
169 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:19
「加虐と被虐の倒錯した関係でス」
リンリンが端的な表現で答える。

だがジュンジュンにはそれだけで十分だった。
脳内に組み込まれたスーパーコンピューターが、猛烈な勢いで
「加虐」「被虐」「倒錯した関係」という言葉を調べ上げていく。
一つの理解に至るまで、5秒とかからなかった。

「つまり――― UFAとハロヲタの関係のような?」

「イエス」
リンリンは、ジュンジュンの出した答えに満足した。
打ちのめされれば、打ちのめされるほど言いなりになる関係。
それがまさにサディストとマゾヒストの関係だった。

世間一般は、それを「倒錯した関係」と呼ぶ。
170 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:19
「私もそれを応用すれば、相手に大人買いをさせることだって―――可能?」

「イエス」
またもリンリンはジュンジュンの言葉に満足した。
ジュンジュンはただ一つの言葉を理解するだけではなく、
その言葉を使って、言葉の持つ概念を自分のものとしようとしている。
彼女は電子辞書ではない。
まさにサイボーグだった―――限りなく人間に近い。

ジュンジュンの行動を、創作者であるリンリンが妨げる理由はなかった。
「実際にやってみまショウ」
リンリンは椅子を引き、そこに田中を座らせた。
「あん? なんねリンリン。さっきから何言っとうと?」
「この5人の中では、いじめられっ子の田中さんが一番適任でス」

さりげなく田中の悪口を言いながら、リンリンは厳かに命令を出した。
「JJスーパーリフトアーム! オン!」
171 :05.し ば れ J J :2008/07/27(日) 20:19
するするすると田中れいなに巻き付いていく銀色のロープ。
縄というよりも金属のような、不思議な材質でできているロープだった。

亀井と同じように両手は後ろ手に縛られ、
両足は胡坐を組まされるような格好になった。
れいなは狼狽した。
「なんね! なんね! マジックの練習?!」

「いいえ」
リンリンは加虐者の目をキラキラと輝かせながら、れいなに言った。
「もっと高度な実験でス」

ジュンジュンはそれ以上に目をギラつかせていた。
ネズミをいたぶるネコの目だった。
「田中。あたしはカバンを買って欲しいナ」

ジュンジュンはそう言いながられいなの耳をぎゅっとつねった。
れいなは「うひい」と言って体をのけぞらせ、
パンツを穿いていないままスカートをひらひらとひらめかした。
172 :名無飼育さん :2008/07/27(日) 20:20
173 :名無飼育さん :2008/07/27(日) 20:20
174 :名無飼育さん :2008/07/27(日) 20:20
175 :名無飼育さん :2008/07/27(日) 20:23
レス返しです



>>134
私の意見に共感してもらって本当に嬉しいです。
この小説を書いた甲斐があったっというものでしょう。


>>135
ブラックなネタの方が面白いことが多いですよね。
及び腰のネタになると切れ味が落ちるのでそうならないように頑張ります。


>>136
小春もジュンジュンも作品の中で好き勝手動くので困ります。
全然作者の言うことを聞いてくれません。
176 :名無飼育さん :2008/07/27(日) 22:43
一体何があったんでしょう…中略って…一番重要なのに…メインイベントなのに…
177 :名無飼育さん :2008/07/28(月) 00:49
あげるな
178 :名無し読者 :2008/08/02(土) 13:49
「つまり――― UFAとハロヲタの関係のような?」

すごい!鋭い!この一言でUFAとヲタ関係がすべて理解できました
作者さんすばらしいです、これからの行方も楽しみです
179 :名無飼育さん :2008/08/02(土) 20:35
180 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:35
教壇に作られた簡易ステージの上にある椅子に、光井は深々と腰掛けていた。
木でできた椅子は、まるで中世の王様が座っていたもののように
華美で、重々しく、そして背もたれが高かった。
四本の足の間は、カーテンのような厚いレースで包まれていた。

小春が銀色のロープを取り出す。
材質は何で出来ているのだろうか。
縄のような温かな質感はなく、金属のように無機質に鈍く輝いていた。
「温かくなくて鈍い」という言葉から中澤裕子を連想したあなた。
気のまわしすぎです。

ステージの上には、小春と光井の他に、
観客席から上がってきた生徒が三人立っていた。
マジックの証人として、客席から立候補してきた三人だった。
181 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:35
「しっかりしたロープです」

小春がそう説明し、三人に渡す。
三人は代わる代わるロープを引っ張ったりひねったりするが、
ロープは見た目以上に頑丈だった。
鞭のようにしなやかで、鋼のように硬い。
三人の力をもってしても、引き千切るのは不可能だった。

小春はその銀色のロープを、手際よく光井の体にからめていく。
182 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:36
「では、皆さん。しっかりと縛ってください」

三人の生徒は、小春の指示通りに光井の体を縛っていく。
思わず光井が顔をしかめるほど、厳重に固く締めた。
光井の身体に銀色の縄がぐぐっと食い込み、夏服の白いシャツに皺が寄る。

「十分ですね? しっかり縛りましたね?」

小春は三人の生徒に確認すると、光井の体にマントをかぶせる。
マントから顔だけちょこんと出した光井は、
まるで美容院で髪を切るときのような格好となった。
もしくは三条河原で晒し首にされた石田光成のようだった。

「では、物理学的大脱出マジック! スタートです!」

だだだだだだだだだだだだだだだだ。
部屋の隅ではれいながドラムロールを奏でていた。
真剣だった。目が真剣だった。この一瞬に賭けていた。
だがれいなはどうでもいい端役だった。ジャンケンで負けた。パーだった。
183 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:36
「ジャーン!!」

タイミングを見計らって、リンリンが銅鑼を叩く。
まるでイーアルカンフーの背景にあるような大きな銅鑼だった。

もちろんファミコン版のイーアルカンフーである。
作者は基本的にアーケード版は認めない主義だ。
スペランカーやディグダグだってファミコン版の方がずっと遊びやすい。
アーケード版はコインを消費させるという目的で作られているので、
変なところで無意味に難易度が高く設定されている傾向がある。
魔界村やスパルタンXなどが良い例だろう。
ちなみに作者は今この瞬間まで「レッドアリーマー」のことを
「レッドアーリマー」だと思っていた。なんてこったい。
とにかくそういった非情なまでの難易度の高さはゲーム性を著しく損なう。
唯一の例外はR-TYPEだろうか。あの難易度の高さは不愉快ではなかった。
だが例外はあくまでも例外にすぎない。

銅鑼が鳴ると同時に、光井がマントを跳ね上げて椅子から立ち上がる。
184 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:36
ぶちぶちぶちぃ

まるで辻と加護をつなぐ運命の糸が切れた時のような
残酷で猛々しい音がして、頑丈なロープが引き千切れ四散する。

トリックもクソもない。
光井はまさに「物理的な力で」ロープから脱出した。

光井が自由になった両腕を高々と突き上げる。
観客は唖然として沈黙した。

一瞬の沈黙のあと、盛大な拍手が光井に向かって降り注がれた。
185 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:36
夏休みも明けた9月の第一週。
私立UFA女子高等学校では文化祭が行なわれていた。

ちなみに>>146で、
「夏休み明けの8月第一週に行なわれる」とあるが、
正しくは「9月の第一週」である。
またもや作者のケアレスミスである。ああそうさ。ミスさ。悪かったな。
読者からの厳しい指摘を予想して憂鬱だった作者であるが、
幸か不幸かこのミスに関する指摘は一つもなかった。
誰も読んでいなかったのかもしれないという可能性は無視する。
186 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:36
結局物理部は、去年の失態があったものの、
なんとか今年も無事に文化祭に参加できることになった。
というわけで、センキョウ8階の物理学教室では、
物理部による『驚愕! 物理学的大脱出マジック!』が行なわれていた。

観客の入りは、教室内の椅子の半分くらいだろうか。
8階にあるというハンデを考えれば、まずまずの数字だった。 
紺野あさ美が復帰したというハンデを乗り越えて
まずまずの入りを達成した音楽ガッタスのツアーと、
同じくらい評価されていいだろう。

ちなみに作者は武藤水華という子のことは全く知らない。見たこともない。
187 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:37
マジックショーの午前の部が終わった。
一旦観客が全員教室の外に出る。
教室の中はれいな、リンリン、小春、光井の四人だけになった。

ショーは午前一回、午後二回。同じマジックをやることになっていた。
ハロプロのコンサートも顔負けの一日三回公演だった。

ショーの合間のMCは全て台本だった。
リンリンはなぜか中国語を混ぜてMCを行なった。
れいはな「おつかれいなー」と挨拶した。
コントや寸劇もあった。
歌も歌った。
つまりほぼ全てハロコンと同じ構成同じだった。

唯一ハロコンと違うのは、
興奮のあまり三階席から4.5メートル下の二階席の通路に転落して、
重傷を負ったヤツがいなかった、ということだけだった。
188 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:37
「オッケー、もう大丈夫やね」
「ジュンジュン、出てきていいよー」

小春が呼ぶと、椅子の下から一人の少女が出てきた。
その姿はなかなかにグロテスクなものだった。
なんと少女の姿は上半身しかなかった。

いつもの濃紺のワンピースではなく、
水色のTシャツを着たジュンジュンがそこにいた。
両手を使ってもぞもぞと這い出てくる。
189 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:37
リンリンが教室の後ろにある掃除箱を開けて、
白いホットパンツをつけたジュンジュンの下半身を取り出す。
ジュンジュン目掛けて無造作に放り投げる。
その瞬間、ジュンジュンは腕立て伏せのような状態から、
両手で勢いをつけて空中へと舞い上がった。

「サイボーグJJ合体!!」

グワシッ!!とまことちゃんの決め台詞のような音がして、
ジュンジュンの上半身と下半身が合体した。
誰がどう見ても普通の女の子にしか見えない美少女がそこにいた。
サタデーナイトフィーバーのポーズをして。

漢字で書くと土曜日熱狂。
これが中国語として通じるかどうかは作者は知らない。
190 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:37
光井の座っていた椅子の下には、ごく狭いスペースがあった。
高橋愛の、他メンに対する許容範囲のような狭い狭いスペースが。

この絶対に人が隠れられないような狭いスペースに、
上半身のみのジュンジュンが隠れる。
これが「物理学的大脱出マジック」のトリックだった。

光井がマントに包まれると、
ジュンジュンはこっそり椅子の下から右手を差し出し、
マントの下でJJグレイトファイアーハンドをオンにする。

熱した指を使ってロープに次々と切れ目を入れていくジュンジュン。
後は、ボロボロになって切れそうになっているロープを、
光井が自力で引き千切ればよかった。
191 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:38
「完璧やね!」
「やったぁ! やったぁ!」
「にひひひひひひひひひ!!」
「物理学は絶対です! 無敵です!」

マジックのトリックなんかより、
サイボーグの存在自体が凄いということに、4人は気づいていない。
ジュンジュンはまだサタデーナイトフィーバーのポーズをしていた。

ちなみにエキサイトの中国語翻訳サイトによると、
「土曜日」は中国語で「星期六」。「熱狂」は「狂熱」らしい。
さすがに「星期六」というのは無理だが、「狂熱」くらいなら理解できそうだ。
ちなみに作者は中国で仕事をした経験があるが、全く中国語ができない人間でも、
漢字を用いた筆談を行なえば、書いたことの70%程度は通じるようだった。
嘘ではない。漢字で書けば、驚くほど大部分のところが相手に伝わった。
また、中国人は日本人に対してなかなか友好的であるように思われた。
少なくとも表向きは、反日的な態度や言動を見せることは皆無であった。
知識階級の人間であっても、その日暮らしの労働者階級の人間であっても。
こういうことは実際に行ってみなければわからないものだと実感した。
192 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:38
とりあえず物理部の午前の出し物は終わった。
午後の部が始まるまで、まだかなりの時間があった。

光井は小春と一緒に模擬店を回って、
たこ焼きをや焼きとうもろこしを食べるつもりだった。
あるいはお化け屋敷に入ったり、メイド喫茶に入るのもいいかもしれない。
文化祭のしおりを見ながら二人でどこに行こうか?と相談した。

文化祭には「熱っちぃ地球を冷ますんだ」とかいう大々的なイベントもあったが、
これはつまらなさそうだから止めとこうねということで意見が一致した。
少なくともガラス戸に激突して血まみれになった大の大人が
病院へ行くのを拒否してまで「見たいんです!」と言うほどのものとは思えなかった。

とにかく二人は思いっ切り文化祭を楽しむつもりだったが、
そんな淡い夢は、仕切りたがり屋のれいなの一言に打ち砕かれた。

「うーっし! じゃあみんなで化学教室に行くよ!」
193 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:39
小春は結構楽しそうだった。かなり乗り気だった。
光井も結局流されてみんなと一緒に行くことにした。
「化学部って文化祭で面白い実験やるっていってましたよね!」
「ああ、そういや亀井さんがそんなこと言うてたなあ」

だがれいなは敵意を丸出しにしていた。
気のせいか、リンリンまでもが攻撃的な雰囲気を醸し出していた。
「なんね。どーせしょーもないことやっとるんよ」
「そうそう。しょせん化学ですからネ。物理ほどのことはできませんヨ」

なにやら不穏な空気が流れていた。
光井はクラスで耳にした噂のことを思い出していた。
194 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:39
どうもこの学校の物理部と化学部は仲が悪いらしいという噂だった。
去年のトラブルうんぬん以前に、伝統的に相性が悪いようだ。
安倍と飯田のように。石川と藤本のように。織田信長と明智光秀のように。
オラヲタとドザヲタのように。狼とVIPのように。
ちなみに作者はCP小説と相性が悪いみたいです。

とにかく光井には何か嫌なことが起こる予感がした。
高橋愛がフリートークを始める直前によく感じるような予感だった。
勿論その嫌な予感は、数時間後に的中することとなる。
195 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:40
化学部の部室はセンキョウの5階にあった。
物理部の部室よりは下だが、それでもかなり高い階にある。
それにしては人の入りが盛況のように見えた。
明らかに物理部のイベントよりも客が多かった。
れいなとリンリンの機嫌が一気に悪くなった。

「はい、それじゃー、次の実験にうつりまーす」

司会をしていたのは部長である亀井絵里だった。
場を仕切っていた。二年も留年してるくせに。
ちなみに道重さゆみはストレートに三年で卒業した(それが当たり前だ)。
今は大学で夏さゆ生活を満喫していることだろう。
よってこの物語には登場しない。

ちなみに道重は物理部でも化学部でもなかったが、サドだった。
物語に登場しないのが惜しまれるほどの、本格派のサドだった。
196 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:40
物理部の面々は強引に教室に入り込んで行き、
空いていた椅子に座り、実験に参加する意思を態度で示した。
光井と小春とリンリンの机には小学生がいっぱいいた。
どうやら近所の小学生の団体向けのイベントらしい。
二人はその場にちょっと浮いていた。

れいなとジュンジュンの机にも小学生がいっぱいた。
ちょっかいをかけてきた小学生の頬を、れいなは目一杯つねった。
うりうりうりうり。泣かしてやるけん。

小学生も負けずにれいなの頬を思いっ切りつねってきた。
いてててててて。なんねこいつ。生意気ー!
れいなは小学生の中にいても、全くその場に浮いていなかった。
むしろはしゃぎまくりだった。一人キッザニア4状態だった。
ていうかれいなはキッザニア4ではなかった。非キッザニア1だった。それがれいなだ。

亀井は物理部の面々を見ても、嫌な顔一つせず笑顔で迎えた。
真のキッザニア4の一員の余裕だろうか。多分違う。何も考えていない。それが亀井だ。
197 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:40
「じゃあ、そろそろ次の実験に行きますねー」

亀井がお姉さん口調で小学生を煽ると、
小学生達は素直に「はーい!」と大声で元気よく答えた。
勿論その中には田中れいなの声も含まれる。

いつもなら元気よく答えそうな小春は無言だった。
キラキラと目を輝かしながら、机の上にある材料を見つめていた。

洗濯糊。絵の具。ホウ砂。砂鉄。磁石。

それを使って一体どんな実験を行なうのか。
小春には全く予想できなかった。
胸がドキドキした。
教壇に立つ亀井のことを尊敬の眼差しで見つめる。
198 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:40
一方、光井はというと、材料を一瞥しただけで
これからどういう実験をするのかが予想できてしまった。

(なーんや、スライム作りか・・・・・・)

光井は以前、これらと同じような材料でスライムを作ったことがあった。
洗濯糊とホウ砂を混ぜるとスライムになる。絵の具を混ぜると色が付く。
あれをやったのは確か小学生の頃だったか。
まだ彷徨える市井ヲタが魔女狩りの対象になっていなかった頃だ。
ということは2000年の頃だろうか?
そうだとすれば光井は小学校二年生だったということになる。
鈴木愛理は小学生にすらなっていかったし、萩原舞に至っては4歳だ。
冷静に考えたら恐ろしいことである。
まあ冷静に考えないからこそ、いまだにモーヲタなんてやっているのだが。

(まあ・・・・小学生は喜ぶやろうけどなあ・・・・・)

一度やったことのある実験だ。
光井は何となく乗り切れない気分になった。
だがきっと小春やれいなは大はしゃぎするだろう。
それに合わせるのもしんどいこっちゃなあと思って後ろを振り返った。
199 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:41
「おおおおおおおお! スライムすっごいですネー!」

光井は思わず持っていた洗濯糊をこぼしそうになった。
なんと一番はしゃいでいたのはリンリンだった。
おいおい。なんでやねん。物理学的法則はどうなってん。
光井はリンリンに少し裏切られたような気分になった。

「ジャジャーン! 小春のスライムはピンクー!」
「れいなのは紫やもんね!」
「リンリンのは巨大スライムでーす」

中国人のやることはスケールがでかい。
リンリンのスライムは紺野の頭部(フォトショップ加工前)くらいの大きさがあった。
周りの小学生すらちょっと引いていた。
アホか。
光井は慌てて席を離れて、ジュンジュンの方へと移動した。

ジュンジュンは熱心に無言で真っ黒のスライムをこねていた。
200 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:41
物理部の面々は大声ではしゃぎながら大暴れしていたが、
亀井は相変わらず嫌な顔一つせずに、
小学生たちに向かって次の実験を説明していた。

「じゃあみんな、スライムを作る時に砂鉄は混ぜたかな?」
「はーい」
「じゃあ、次はスライムを磁石で動かしてみよう!」

砂鉄を混ぜたスライムは磁石に反応した。
磁石を近づけると、スライムはそれに引き寄せられてずるずると動く。
磁石を左右に振ると、スライムもそれに合わせて左右に揺れた。

小学生たちは大喜びした。れいなも大喜びした。小春も大喜びした。
だがリンリンは大喜びしなかった。泣きそうだった。
リンリンのスライムはピクリとも動かなかった。

あまりにもスライムが大きすぎて、小さな磁石の力では動かせなかった。
201 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:41
「リンリン・・・・・」
そう言いながられいなは、半泣き状態のリンリンの肩に手を置いた。
れいなの目には力があった。
リンリンの落ち込んだ気持ちを引き上げるだけの強い力があった。
その目には意思があった。確信が満ちていた。
次に何をするべきなのか。れいなにはそれがわかっていた。

「そういうときは・・・・・・」
リンリンの目がカッと大きく見開かれた。
もし生まれつきこれぐらい目が大きかったら、
リンリンの両親も娘に「ひとみ」と名づけたかもしれない。

とにかくリンリンは即座にれいなの言わんとするところが理解できた。
リンリンとれいなの付き合いはもう三年近くになる。
もはや無駄な言葉は必要なかった。

「物理の力!!」
二人の声が化学教室にこだました。
その時、初めて亀井が少し嫌な顔をした。
202 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:41
「ちゃららっちゃらー!!」
リンリンがどこかで聞いた事のあるメロディを口ずさみながら、
お腹のあたりにあるポケットから、電話帳ほどの大きさの機械を取り出した。

「マックスパワー超伝導電磁石!!」

お前はドラえもんか。
光井は心の中でリンリンに対して突っ込んだ。
203 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:41
光井は物理部の中では非ドラえもん主義の立場をとっていた。
あれは空想の産物であり、非物理学的な存在であるという認識だった。
あくまでもファンタジーの一環として理解されるべき存在だと思っていた。
「世界の真実を明らかにしたい」という物理学のアプローチと、
「夢を叶えたい」というドラえもんのアプローチは決して同一ではない。
光井は自分の考えに自信があった。一歩も譲る気はなかった。

だが意外にもリンリンは強硬なドラえもん主義者だった。
全ての物理理論は空想世界のファンタジーから生まれるという立場だった。
人類最大の夢、それは世界の真実を明らかにすること。
ゆえに世界の真実を全て明らかにした瞬間、人類の全ての夢が叶う。そう考えていた。
現実主義者の光井に対して、リンリンはロマンチストだった。
物理学とロマンは決して相反する概念ではない。
物理学と宗教が最先端の地点では非常に近い存在であるということと同様に、
物理とロマンはある種、非常に近い概念であるといってよいだろう。

ちなみに作者は星月きららちゃんが好きだ。
204 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:42
「いっきまーす!」
リンリンは勢いよくプラグをコンセントに差した。
スイッチを入れると、ウォィーンと教室中が震えるような重低音が響いた。
電磁石装置に電気が流れ、巨大な磁力が発生する。
もはや小学生は誰も亀井の方を見ていない。
リンリンが動かし始めた怪しげな機械に釘付けになっていた。

ずるずるずる。

「おおおおおおおおおおおおお!」
「すっげええええええええええ!」
教室中から歓声が上がった。
驚くのも当然だろう。
リンリンが作った、小型冷蔵庫ほどの大きさの巨大スライムが動き出したのだ!
どれくらいなのかは作者も想像がつかないが、とにかく凄い磁力だった。

「よーし!」

歓声に気をよくしたリンリンは、さらにつまみをひねって出力を上げる。
それが悲劇を招くことになるとも知らずに。

「マックスパワー!!」
205 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:42
ぎゅるぎゅるぎゅる。
機械からは、まるで飢餓状態の紺野の腹のような音がした。

2008年の今になって紺野の食いしん坊ネタとか正直いかがなものかと思うが、
今のハロプロメンバーには食いしん坊キャラがいないのだから仕方がない。
辻から紺野へと引き継がれてきたこのキャラはもう絶えてしまうのだろうか。
バラエティ番組への露出がめっきり減った昨今、そんなキャラが絶えたとしても
誰も困らないとか反論されそうだが、とりあえず今、作者は困っている。
「ダレデモイイ。タスケテクレ」
フリューゲルスが消失しようとしていた時のエンゲルスのような気持ちだった。

とにかく超伝導電磁石装置は異様な音を発し出した。
明らかに機械の不調を示唆する音だった。
それに伴って焦げ臭い匂いが漂い始める。

そして
「ぎゅるぎゅるぎゅる」という重低音が、
突如「ぎゅいーん」という高い音に変化した。
206 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:42
その瞬間、教室中のスライムが電磁石装置の方へ飛んできた。
慌てて装置を手放すリンリン。さっと教室の隅へと身をかわした。
教室の中央に転がった装置の元へ、スライムが殺到する。
交通事故の瞬間のような轟音が教室に響く。

暴走した電磁石にはありとあらゆる金属がくっついた。
砂鉄を混ぜたスライム。
糊の入っていた缶。
ハサミ。
時計。
椅子。
机。
そしてジュンジュン。

ジュンジュンはスライムまみれになりながら床をジタバタしていた。
その上にはスチール製の椅子と机が山積みになっている。
小学生はキャアキャア言いながら教室から逃げていった。
207 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:42
「ジュンジュン! 電磁石のスイッチを切って!」
光井の叫びに反応してジュンジュンが動く。
だが軽くジタバタしただけだった。
椅子や机に囲まれて、ほとんど身動きできないようだ。

リンリンが机の山に駆け寄っていく。
腕を伸ばして電磁石装置を取ろうとするが、
信じられないくらい巨大なスライムに行く手を阻まれる。
歯軋りしながらスライムに向かって罵るリンリン。

「もう! 誰ですカ! こんなバカみたいに大きいのを作ったのハ!」

お前だ。
208 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:43
そんなことをやっているうちにも、塊の中央部で鳴っている音は、
「きーん」という甲高い音に変化していく。
まだまだ磁力が高まっているようだった。
ジュンジュンを中心として、
スライムやらなにやらが異様な塊を形成していた。

リンリンと光井が二人がかりでこじ開けようとする。
じりじりと広がっていく隙間。
「今だ! スイッチ押して!」リンリンが手を伸ばす。

そこに小春が頭から勢いよくヘッドスライディングで突っ込んだ。
髪にヘアピンでもしていたようだ。
ジュンジュンやらスライムやら小春やらが重なり合って、
もう何が何やらわからない。
どこに装置があるのかすらわからない状態になった。

磁力はますます強くなっていった。
209 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:43
「ジュンジュン! これを身に付けるっちゃ!」

いつの間にかれいなの手には濃紺のワンピースが握られていた。
ジュンジュンがいつも着ているものだった。
ワンピースはジュンジュンの手に渡った瞬間、
するするすると蛇のようにジュンジュンの体に巻き付いていく。
ワンピースは電磁石の磁力を浴びると不思議な色の輝きを放ち始めた。

「JJミラクルワンピースリバース! オン!」

ジュンジュンが叫んだ瞬間、ジュンジュンの周りにあった金属が全て弾けとんだ。
椅子や机は教室のあちこちに飛び散り、
時計や缶や小春はごろごろと床を転がった。
電磁石装置はリンリンの手中に落ち、素早く電源が切られた。

「ふははは! このワンピースね! 実は・・・・・」

説明しようとしたれいなの顔面に巨大スライムが時速20kmで激突した。
210 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:43
亀井絵里は、5階の窓を突き破って地上に落下していくれいなの姿を、
寂しそうに見つめていた。
れいなを追うようにして、無数の小さなスライムも落下していった。
色とりどりのスライムが、驟雨のように地上に降り注いでいく。

普通なら即死してもおかしくない高さだが、
おそらくスライムがクッションになって助かるだろう。
まさかあの巨大スライムがこんなところで役に立つとは・・・・・。
あ! もしかして! いや、まさか。そんな!!
亀井はリンリンの方に振り返る。

リンリンがにこやかに微笑みながら頷く。
「はい。それもこれも全部最初から計算していたのデス」

「うそつけやお前!」
さすがの光井もその言葉を心の中にとどめておくことはできなかった。
211 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:43
だが亀井は光井の突っ込みなど全く聞いていなかった。
リンリンの方をじっと見つめながら満足そうに言った。

「どうやら・・・・・今日のとことは引き分けのようね!」
「ええ。ですが亀井さん。次はこっちが勝ちますからネ」
「ふ。物理部もなかなか手ごわくなったものね・・・・・」
「また来まス。次に会ったときが・・・・」
「物理部の最後の時よ」
「化学部の最後の時デス」

光井には二人が何を言っているのか全く理解できなかった。
何がどう引き分けなのかは全然わからないが、
とにかくこの場はこれで収まったらしい。
これでよかったのかな?
光井は小春と顔を見合わせたが、もちろん答は出なかった。

立ち上がったジュンジュンのワンピースはいまだ怪しく輝いており、
その体には、スライムはおろか、チリ一つついていなかった。
212 :06.は じ け J J :2008/08/02(土) 20:43
なお、その頃丁度センキョウ前の文化祭特設ステージは、
軽音楽部のライブで盛り上がっていたが、突如空から降ってきた、
首から上がスライムという謎の人間の強襲を受けてパニックに陥っていた。

このスライム人間は後に「妖怪・スライム雨降らし」と呼ばれるようになり、
文化祭のステージでサマーナイトタウンを歌うと、
なぜか「スマイルスマイルスマイル」のところでスライムの雨が降るという
UFA女子高等学校の七不思議の一つとして末永く語り継がれていくのだが―――

それはまた別のお話。
213 :名無飼育さん :2008/08/02(土) 20:44
214 :名無飼育さん :2008/08/02(土) 20:44
215 :名無飼育さん :2008/08/02(土) 20:44
216 :名無飼育さん :2008/08/02(土) 20:47
レス返しです



>>176
一体何があったんでしょうか。
きっと私にはとても想像できないような、倒錯した性の宴が繰り広げられたものと思われます。


>>178
私はそこそこのハロヲタでありますが、全くマゾではありません。
UFAとハロヲタの関係に関しては、まだまだ謎が多いです。
217 :名無飼育さん :2008/08/10(日) 21:29
218 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:29
私立UFA女子高等学校の文化祭は後半戦に突入し、
種々のイベントが予定通りに消化されていく。
物理部のイベントも無事に午後の部が終了した。

「トリックを当てたら豪華景品がもらえるよ!」

部室の前には大きなのぼりが立てられていたが、
物理学的マジックのトリックを見破った生徒は一人もいなかった。
一番多かった回答は「物理部が作った特殊ロープを使った」というものだった。
椅子に物理学的なトリックがあるという回答も多かった。

マジックを見た生徒達は、意外と真剣にトリックを考えているようだった。
作者だったら「光井が生まれつき馬鹿力だった」と答えていただろう。
「実はこの文化祭のお話は光井の夢だった」という夢オチも捨てがたいが、
それをやったら数少ない読者から少なくない苦情を頂くであろう。

夢オチは死ぬまでに一度はやってみたいと思っているのだが。
219 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:30
最後のマジックショーが終わった後に、
「実は小型ロボットがイスの下に隠れていました」という解答が
リンリンの方から発表された。

あまりの突飛な解答に、客席からは大きなブーイングが飛んだが、
豪華景品というのが「きらりちゃん等身大パネル」だったことが発表されると、
客席は、逆に正解しなくてよかったという安堵のため息に包まれた。
等身大パネルは等身大のくせに2mくらいの高さがあった。

物理部は非難を回避した。
それも全てリンリンの高度な戦略だった。
正解者が出なかったことを、光井は心の底から喜んだ。

等身大パネルはれいなが自宅に持ち帰ることになった。
誰も反対しなかった。
220 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:30
物理部の面々は教室を片付け始めた。
ジュンジュンは水色のTシャツとホットパンツだったが、
マジックショーが終わっても例のワンピースには着替えなかった。
こちらの方が身軽で、片付けや掃除などの作業に適していたようだ。

片付けるといっても、大掛かりな作業はほとんどなかった。
この日のために新たに用意したのは例の椅子くらいで、
その他は普段から教室にあるものばかりだった。

「意外と早く終わりましたね」

光井に話しかけられたリンリンは時計を見る。
確かに予定していた時間よりも大幅に早く片付けが終わった。
文化祭が終わるまでまだ二時間弱の時間があった。

「じゃあ! まだ何かやってるかも!」

小春が文化祭のしおりを片手に目を輝かせた。
221 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:30
すごい勢いでしおりをめくる小春の周りに四4人が集まってきた。
五人しか部員がいない物理部は、全員で自分の部のイベントを行なっていた。
交代要員がいないので、他のイベントに顔を出す機会がほとんどなかった。

文化祭を参加者の立場で楽しむということが、あまりできていない。
まだやっているイベントがあるのなら、是非とも参加してみたかった。
(化学部のことはみんなの記憶から抹消されていた)

五人の中で一番熱心にしおりを見ていたリンリンに、小春が尋ねる。
「ねえリンリン! 中国でも文化祭とかあるの?」
リンリンが一瞬言葉につまる。昔の記憶をたどっているようだ。
222 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:30
「ああ。文化祭ネ。ありますよ」
「リンリンの学校はどんなの? 高校? 中学は?」
「どんなのって・・・・・」
「どんな学校だったノ? 何してたノ?」
「いや・・・・・・」
「リンリンって中国でも物理部だったの?」
「いや・・・・それは・・・・・」
「そういえばリンリンってなんで日本に来たノ?」
「・・・・・・・」
「なんで?」「なんで?」

小春とジュンジュンが次々と質問を重ねる。
だがリンリンはそれらの質問に一つとして答えることはできなかった。
しばし沈黙して複雑な表情を見せる。
223 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:30
リンリンは質問に答えずに、すっとしおりの一点を指差した。

『クラブ対抗大食い選手権!』 料理部主催 16時30分開始

小春とジュンジュンが、おおおおお!と歓声を上げる。
そういえばマジックの準備でお昼もろくに食べていない!
小春は純粋にお腹が減っていた。なんでもいいから食べたかった。
このイベントに参加すれば無料で食べられるかも!と思った。
もう頭には食べ物のことしかなかった。

ジュンジュンも「大食い」という文字に好奇心をひかれた。
気ままで、気分屋で、自分の感情の赴くまま行動するジュンジュンは、
既に「大食い選手権」の方に興味が移っていた。
リンリンはれいなを突き動かして「これに行きましょうヨ!」と言った。
れいなも一も二もなくこの企画に飛びついた。

光井はそんなリンリンの行動を見て、
「質問に答えたくないから話題を逸らしたんだ」と思ったが、
あえて何も言わなかった。
224 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:31
五人はダッシュでセンキョウから駆け下りた。
渡り廊下を抜けて、ホンコウ入り口前のイベント会場へ向かう。
イベント会場前には黒山の人だかりができていた。

どうやら文化祭の最後に残った一大イベントである、
『クラブ対抗大食い選手権!』はかなりの人気企画のようだ。
先頭を行くれいなは人山を掻き分け、受付のところまで血路を開く。

うりゃうりゃうりゃうりゃあ。

気分は、大阪夏の陣で徳川家康を追い詰めた真田幸村だった。
れいなは心の中では家康の首を討ち取っていた。
れいなが豊臣家を守るけん。
幸村は実際には家康のところまで届かずに無念の死を遂げたが、
れいなは無事にイベント会場の受付までたどり着くことができた。
225 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:31
「物理部です! 参加します! 今すぐに!」
「はい。じゃあ、左手を出して」
「え? 左手?」
「拳を軽くにぎってね」
「え? え?」

間違えた。
れいながたどり着いたのは、学園祭まで出張していた献血車の受付だった。
最初はじたばたと抵抗したれいなだったが、結局400mLの献血をした。
献血後には飴ちゃんをもらったので、少し機嫌がよくなった。
ミルキーはママの味ではなくミルクの味がした。

となりのブースではリンリンが「物理部、五人で参加です」と
大食い選手権の受付をつつがなく済ませていた。
226 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:31
「レディース・アンド・ジェントルメン、おとっつあん・アンド・おっかさん!」

漫才師のような派手な蝶ネクタイをつけた司会が早口で観客を煽る。
イベント会場前には、かなり多くの生徒が集まっていた。
ノリのいい観客が司会の煽りに反応して歓声を上げる。
司会は満足そうに企画の開催を告げた。
「イエース! 料理部主催! 大食い選手権はじまるよー!」

大会には30を超えるクラブの参加があったため、
四つのブロックに分けて予選が行なわれることになっていた。

「なあ、ジュンジュンも参加するん?」
登録人数は五人までになっているので、五人が参加することには問題ない。
ジュンジュンは厳密にはこの学校の生徒ではないが、
他にもちらほらと他校の生徒が混じっているので、これも問題ない。
参加者は「女性に限る」というのが唯一の制限だった。

だが光井の疑問はそんなところではなかった。
227 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:31
「ジュンジュンも参加スル! 絶対スル!」
ジュンジュン本人はやる気満々だった。
その気持ちに水を差したくないと思いながらも、
光井はどうしても一つのことを確認せずにはいられなかった。

「ジュンジュンってさあ、ちゃんと食べられるん?」
「なにがですカ?」

にこやかに笑顔を振りまくジュンジュンだが、質問の答にはなっていない。
ジュンジュンと付き合うようになってから一月あまり経つが、
このサイボーグが何か物を食べているところは一度も見たことがない。

ジュンジュンは何を食べて、何を燃料にして動いているんだろう?
228 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:31
光井は質問の相手をリンリンに変えた。

「ジュンジュンって何をエネルギー源にして動いてるの?」
「バイオエタノールです」

ちょっと意外な答だった。
あれだけ凄まじいエネルギーを持っているジュンジュンのことだから、
もっと不思議なものをエネルギー源にしていると思っていた。
さらに詳しいことを聞こうとした光井だったが、
横からしゃしゃり出てきた一人の女に邪魔された。

「あーら! バイオエタノール? 化学の力じゃない!」
229 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:32
そこには亀井絵里と化学部の面々が揃っていた。
全部で五人いた。化学部も大食い選手権に参加するのだろうか。
ちなみに亀井は、例の物理教室での一件もあって、
ジュンジュンがサイボーグであることを知っている。

「この子は化学の力で動いてるのかー、そうかそうか」

亀井は満足そうな表情だ。
よしよしと言いながらジュンジュンの頭をなでなでする。
一方、れいなとリンリンの方は苦々しげな表情をしていた。

そんなところで化学と物理で争わなくても。
光井はそう思ったが、双方の競争意識は凄まじいものがあった。
230 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:32
「なんね絵里! 邪魔すんな!」
「あーら、れいな。あたし達も大会に参加するんだけど?」

やはり化学部もエントリーしていたようだ。
しかも化学部と物理部は同じ予選ブロックに入っていた。

化学部・物理部・演劇部・古典部・黒魔術研究会。
そして女子サッカー部・空耳アワー同好会・ZYXの8組が同じ予選ブロックに入っていた。
ZYXは村上愛が抜けたので丁度五人だった。
古い話題で恐縮です。
231 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:32
「ふ。まさ物理部と同じブロックとはね・・・・・」
「負けん。絵里のいる化学部にだけは負けん!」

亀井が田中に向かって挑戦的な視線を送る。
れいなも一歩も退かなかった。

れいなとリンリンは、いつの間にか持っていた横断幕をバッと広げた。
五十年前の創部以来、物理部に代々伝わるという古めかしい横断幕には、
コミカルな字体で応援の言葉が書かれていた。


めざせ全国制覇! 勝つぞUFA女子高物理部!


「見たか化学部め! 勝つのは物理部だ!」
れいなが拳を握り締め、亀井に向かって雄たけびをあげる。

おいおいおい。なんの全国制覇なんだよ。
光井は不思議に思った。
232 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:32
亀井は軽く田中を睨み返した後、ジュンジュンの方をじっと見つめる。

このサイボーグが、大食い選手権において
ジョーカー的な役割を果たすことを、亀井は信じて疑っていなかった。
マジックショーの練習や、スライムの一件でJJの怖さはよくわかっている。
下手をすればこの学校そのものを
破壊しかねないほどのポテンシャルがあると思っていた。

「どうやらこれが事実上の決勝戦のようね」

亀井の目には他のチームのことなど眼中になかった。
作者の目にもなかった。
ていうか30何チームも全部書くの無理だし。
手抜き感が漂ってしまうのはいたし方ないところだろう。
勘弁してください。
233 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:32
「それでは予選Aブロック! 食材はこれだ!」

料理部の一人がテーブルの上にかけられていた布をパッとめくる。
余談だがこういうネタ小説を書いていると
「布」という単語が出てくる度に「粗末な布」を連想してしまう。
今更こんなネタを使っても面白くない!と読者に文句を言われそうだが、
被害者はこちらである。頭からこびりついて離れないのだ。
抗議したいくらいだ。責任の所在はどこにあるのだろうか。

困ったものである。
いい加減、記憶から消えてほしいのだが。
234 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:32
テーブルの上には数え切れないくらいの寿司があった。
しかも一つ一つが大きい。
普通の寿司の三倍くらいの大きさがあった。

余談だがこういうネタ小説を書いていると
「三倍」という単語が出てくる度に、
松本人志の「あの頃の三倍ですよね?」発言を連想してしまう。
今更こんなネタを使っても面白くない!と読者に文句を言われそうだが、
被害者はこちらである。頭からこびりついて離れないのだ。
抗議したいくらいだ。責任の所在はどこにあるのだろうか。

困ったものである。
いい加減、記憶から消えてほしいのだが。
235 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:33
「では予選Aブロック! 制限時間は15分! スタート!」

8組×5人の40人が一斉に寿司に群がった。
隣のスペースでは予選Bブロックも同時に進行していた。
Bブロックの方の食材はイチゴショートケーキだった。
甘い匂いに小春は鼻をひくひくさせる。
隣の芝生は青い。
小春はショートケーキが気になって手が進まなかった。

れいなは大トロを手にした。
ゆっくりと味わいながら一皿食べた。
熱い日本茶を一口飲み、ふーと深いため息をつく。
至福の時間だった。

大会の趣旨は忘れていた。
236 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:33
観客席から声が漏れた。
「空耳アワー同好会が意外とすごくない?」
誰が言ったか知らないが、言われてみれば確かにそうだった。
五人の大女が猛烈な勢いで寿司をたいらげていった。

このままでは負ける!
そう判断した光井はふところから焼き鳥を取り出した。
五人の大女の顔色が変わる。

「寿司!」光井が叫ぶ。大女が目を見開く。
「鳥!」光井が投げる。大女が受け取る。
「風呂!」光井が叫ぶ。大女が慌てて服を脱ごうとする。
「寝ろ!」光井が叫ぶ。大女たちは眠りについた。

彼女たちは名作空耳作品に忠実に従って行動した。
空耳アワー同好会はここでリタイアした。
237 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:33
次にスパートしたのは女子サッカー部だった。
さすがに運動部の人間の食欲はすごい。
これならつんくがプロデュースしたあのご飯屋さんの
ご飯ですら残さず平らげてしまいそうだ。

このままでは負ける!
そう判断した光井はふところからサッカーボールを取り出した。
「寿司ボンバー!」光井が叫ぶ。ボールを投げる。
それを受けたサッカー部の人間は、
無失点記録を続けていたオリバー・カーンが守るゴールに、
豪快なヘディングシュートを突き刺した。

このまま第一線で活躍を続けるだろうと、誰もがそう思ったが、
意外にもそのまま浦和へと帰っていき、二度と活躍することはなかった。

女子サッカー部はここでリタイアした。
238 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:33
光井の巧みな戦略と妨害によって、
他のチームは次々とリタイアを余儀なくされた。
いつの間にかその場には物理部と化学部とZYXのみが残っていた。

光井によるありとあらゆる妨害に負けなかったZYXだったが、
リンリンが万札を一枚ひらひらと投げ捨てると、
矢口と嗣永が争うようにしてそれを追いかけていった。
リンリンはコントローラーで万札を遠隔操作する。
万札は、リンリンが作った特殊なラジコンだった。

矢口と嗣永は万札をどこまでも追いかけていった。
リンリンは万札の針路を「ゴビ砂漠」に自動設定した。
239 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:33
万札を追いかけていく二人を見ていたジュンジュンは、
少し前に覚えたものの、これまで一度も使う機会がなかった言葉を使った。

「矢口氏ね」

厳密に言えば正しい使い方ではなかったが、
概ね正しい使い方だと言えるだろう。

なお、矢口と嗣永がゴビ砂漠で救助隊に発見・救助されたのは三ヶ月後のことだった。
240 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:34
「残りあと三分だ!」

司会の絶叫が会場に響き渡る。
ハッと我に返った光井は現在の状況を確認する。

物理部は良い状況にあるとは言えなかった。
小春とれいなは既に満腹となってお茶を飲んでいた。
このイベントにもう飽きたらしい。
こうなってはこの二人は戦力にならない。

光井とリンリンは他のチームの妨害にばかり気を取られていた。
数えてみると、なんと二人が食べた寿司の数はれいなと小春よりも少なかった。

一方、化学部の方は堅調なペースで寿司を食べていた。
決して驚異的なペースではないのだが、
五人が五人ともペースを落とすことなく寿司を平らげていった。
こういうやり方が、結局のところは一番強い。

物理部は追い込まれていた。
241 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:34
会場の注目は、たった二つだけ残った化学部と物理部に集まっていた。
この状況では妨害工作もやりづらい。
光井には、ベリヲタのように原宿竹下通りで
白昼堂々とフラッグを盗むような根性はなかった。
まあ、これは根性というよりも倫理の問題だが。

もはやこれまでか。

だが一人、まだ物理部の勝利を諦めていない人間がいた。
もっともそれは人間ではなく―――サイボーグだったが。
242 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:34
「田中サン、もっと食べて! ほら!」
「いやあ。もうダメ。もうれいなお腹いっぱい」
「あっちに負けちゃうヨ!」
「無理! もうこれ以上はお腹に入らん!」

れいなの言葉に反応して、ジュンジュンの目がキラリと光る。
何かアイデアが思い付いたようだ。
だが田中も小春も光井もリンリンも、もうお腹一杯だった。
これ以上は無理だった。

ジュンジュンがなんとかしない限り、物理部の勝利はなかった。
243 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:34
「審判!」
いきなりジュンジュンが司会に向かって手を挙げた。

「さー、どうした物理部! 残りは一分だぞ! 質問してる余裕はあるのか?」
司会の言葉にも、ジュンジュンは全く焦るそぶりを見せなかった。
物理部が勝利するためにはあと何皿食べればいいか。
ジュンジュンの脳内コンピューターは既に計算を終えていた。

「これ、食べればカウントされるんですよネ?」
「おーっと、今更なんだー? その通りだが逆転への秘策があるのか!?」
「詰め込めばいいんですよネ?」
「ダメダメ! 口の中に押し込むだけじゃダメ! ちゃんと飲み込まないと!」
244 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:34
意外としっかりとしたルールだった。
そんな細かいところまで規定が作られていたなんて。

審判に質問しながら、れいなの口に20個のお寿司を
無理矢理詰め込んでいたジュンジュンは、さすがに落胆の表情を隠せなかった。
だがジュンジュンの頭の切り替えは早かった。

「要するに、お腹に入れればいいんですネ?」

ジュンジュンの言葉を聞いて、れいなの顔色が土気色になった。
まさかジュンジュンは、れいなの口の中のお寿司を、
フルパワーでお腹まで押し込もうとしているのだろうか。

死ぬ。

れいなは死を覚悟した。
理不尽な死だった。
245 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:34
「その通り! 料理とは口に入れて味わうだけではなく、お腹へ入れて・・・・」

司会が料理に関する哲学を披露しようとしたその時、
ジュンジュンはれいなをぽいっと投げ捨てて、椅子の上に立ち上がった。
れいなはコンクリートの床で後頭部をしたたかに打った。
理不尽だった。理不尽だったが生きていたのでまあ文句は言えない。

ジュンジュンは両手を空に向かって突き上げる。
観客の視線がジュンジュンの身体に集中する。
異変を察した司会も言葉を止めてジュンジュンの動作に見入っていた。

ずり上がった水色のTシャツのすそからジュンジュンのおへそが見えた。
たっぷりと間を取った後、ジュンジュンが叫ぶ。

「サイボーグJJ分離!」

グワシッ!!とまことちゃんの決め台詞のような音がして、
ジュンジュンの上半身と下半身が分離した。
分離した上半身と下半身の間に、掃除機のように寿司が吸い込まれていく。
あっという間にテーブルの上の寿司が全てジュンジュンのお腹の中に消えた。
246 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:35
「サイボーグJJ合体!!」

再びそう叫んで元の身体に戻ろうとしたジュンジュンだったが、
グワシッ!!というまことちゃんの決め台詞のような音は
逃げ惑う観客の悲鳴にかき消された。

会場は大パニックに陥った
去年の文化祭における田中れいな切断事件を大きく上回る、
ジュンジュン分離事件発生の瞬間だった。

大食い選手権は開催中止を余儀なくされ、
一時間を残して文化祭は急遽打ち切りとなった。
247 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:35


物理部が翌年の文化祭参加を禁止されたのは言うまでもない。


 
248 :7.た べ ろ J J :2008/08/10(日) 21:35
なお、きらりちゃん等身大パネルを家に持って帰ったれいなだが、
帰宅するなりお母さんに叱られた。メチャクチャ叱られた。
そんなもの捨ててきなさいと言われた。

泣いた。
号泣した。
号泣しながら等身大パネルを持って夜の街を彷徨った。

現在、きらりちゃん等身大パネルは
物理準備室の片隅に、ひっそりと置かれているという。
249 :名無飼育さん :2008/08/10(日) 21:35
250 :名無飼育さん :2008/08/10(日) 21:35
251 :名無飼育さん :2008/08/10(日) 21:35
252 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:10
文化祭が終わった後のUFA女子高等学校には、独特の虚脱感が漂っていた。

この高校は運動部よりも文化部の活動の方が盛んだった。
大多数の文化部の、最大の目標であった文化祭が終わったのだ。
生徒達が抜け殻のようになってしまうのも仕方ないところだろう。

文化祭後には、文化部の三年生のほとんどが、
受験に備えて部活を引退していた。
253 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:10
そんな九月の第二週。
部室でダラダラと漫画を読んでいるときに、光井はふと気づいた。
この物理部は三年生が二人と一年生が二人しかいないことに。

これはもはや幽霊部員だとか言っていられない状況である。
二年生がいないのだから、三年生が引退して抜けたら
自分達がこの部を仕切っていかなければならないのだ。

小春と二人で。あの小春と二人で。うわあ・・・・・。
思わず光井の背中に冷や汗が流れる。
念仏でも唱えたい気分だった。

ちなみに光井が読んでいた漫画は「孔雀王」だった。
みんなに隠れて印の結び方とかを練習していた。
物理部のくせに。
リンリンに見つかっていたら火あぶりの刑になっていたかもしれない。
254 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:11
「なー、小春。先輩達っていつ頃まで部活するんやろーな?」

小春は光井の後ろで同じように漫画を読んでいた。
こちらは「ガラスの仮面」を読んでいた。
この一ヶ月くらいどっぷりとこの漫画にはまっていた。
だがいまだに「おお! おお、うぉーらー!」とか言いながら
二人のヘレン編を読んでいた。

小春は読むのが遅かった。
回し読みとかには付いていけないタイプだった。
255 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:11
「んー? 文化祭が終わったからもう引退じゃん?」
小春は自分達が物理部の中心になることなど全く意識していないようだった。

「やばいで。田中さんとリンリンが抜けたら、あたしら二人だけやで」
「えー!!」
だが驚きはほんの一瞬だった。
小春の思考は素早く次のステージに移っていった。

「このままいったらあたしが部長でみっつぃーが副部長ってこと?」
「マジか」
なんでお前が部長やねんと光井は内心ちらりと思ったが、
案外、実務派の自分が副部長になった方がバランスがいいかもしれない。

小春と同じくらい、光井も気が早かった。
256 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:11
「ジュンジュンは? ジュンジュンは何部長?」
ジュンジュンはカバンから漫画を取り出しながらそう言った。

れいなに買ってもらった紫のカバンだ。
無理矢理買ってもらったものなので、そんなに高価なものではない。
ファスナーがやたらたくさんついている前衛的なカバンだった。
単価は安いし見栄えは派手だが使い勝手が悪いという、
芸能界におけるハロプロメンのようなカバンだった。

ジュンジュンはじーこじーことファスナーをいじりながら、
恨めしそうな表情で、小春と光井の顔を交互に見つめる。

「小春部長。光井副部長。ジュンジュンは? 何部長ですカ?」
257 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:11
「ジュンジュンはここの生徒やないからなー。厳密に言えば物理部でも・・・」
「なによ、みっつぃー、考え方がかたーい!」

心情的には、小春の考えに賛同したい。
いつもここで一緒に遊んでいるジュンジュンは、確かに物理部の仲間だ。
だがジュンジュンはこの学校の生徒ではないので、純粋な部員とは言えなかった。
いつのまにか物理部の部員として、数に入っていたのだが・・・・・

ジュンジュンは不満そうな顔をしながら、
窓際に干してあった座布団に手を当てて、
「ふん! ふん!」とか言いながら拳を突き出していた。
ジュンジュンのファスナーだらけのカバンには「修羅の門」が入っていた。

無空波の練習をしているらしい。
258 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:11
「まあ、ジュンジュンが何部長になるかはさておき・・・・・」
「そうそう。まずは部長と副部長を決めて・・・・」

ご機嫌ななめなジュンジュンをなだめようと、
未来の部長と副部長が話しの流れを変えようとしたとき、
部室の扉を開けて二人の少女がドカドカと入ってきた。
この部室に入ってくるのはあの二人しかいない。

「ちょ! みんな何言ってんの! まだ引退なんかせんよ!」
「そうデス。一番大事なイベントが残っていますヨ!」

過去の・・・・・ではなく現在の部長と副部長だった。
いつもなら部室の主と化している田中とリンリンだったが、
今日は珍しく顧問の先生に会いに職員室まで行っていたらしい。

ちなみにこの高校は、
文化部の部活に関しては放任主義的なところがあるので、
顧問の教師が部活動にしゃしゃり出てくることはほとんどなかった。
259 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:11
「一番大事なイベント?」
「文化祭じゃないんですか?」

これまで光井と小春が入部してから行なった活動といえば、
文化祭の準備くらいのものである。
他には活動らしい活動は一切していない。
二人には物理部が参加するイベントなど想像できなかった。

「あまーい! 物理部の最大の目標といえばこれしかないでしょ!」

れいなはそう言って手にしていたポスターを広げた。
小春と光井はポスターに近づいて覗き込む。
そこには、この国の国営放送が主催する、あるイベントの告知が書かれていた。
幾何学模様のようなイラストの上に、重々しいゴシック体で―――。

『2008 全国女子高ロボットコンテスト』

安物のドーナツのように丸く開いた小春と光井の口は、
たっぷり10秒間は開きっぱなしのままだった。
260 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:12
光井も小春もこのイベントのことはうっすらと知っていた。
確か、毎年TVでも放送されているはずだ。
機械の素人が見てもかなり面白い番組だったことを覚えている。

だけどあれは大学とか高専とかじゃなかったっけ?
女子高の大会もあったんですか?
それが物理部の最大の目標?

二人の疑問に、リンリンがきっぱりと答えた。
「勿論でーす。大会まであと二週間しかないですヨ?
 そのための準備を、今日までずっとしてきたじゃないデスカ!」
261 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:12
一分の揺るぎもないリンリンの言葉に、二人は驚きを覚える。
「えー!! あと二週間しかないのー!」
「今日までずっと? 準備なんてなんもしてへんやん!」
「文化祭以外になんかやってましたっけ?」
「ここんとこずっとジュンジュンと遊んでただけやん・・・・・」

5秒ほどの沈黙の後、小春と光井は同時にそれを察知した。
「ああああああ!!!!」

ジュンジュンはそれに気づかず、ずっと布団を叩いていた。
「フタエノ、キワミー」とか言いながら。
修羅の門の次はるろうになんちゃらを読んでいたらしい。
262 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:12
「どうやら全てを理解したようですネ」
光井と小春は先輩達の意図を完全に理解した。
なぜサイボーグJJが作られたのか。なんのために作られたのか。
その理由をはっきりと認識した。

「エントリーは四人一組なんよ。四人で一チーム」
れいながパンフレットを広げながら言った。
勿論、田中、リンリン、小春、光井の四人で登録する。

「顧問の先生の許可はもらってきましたカラ。あとは申込書を送るだけデス」
田中とリンリンが職員室に行っていたのは、出場の許可をもらうためだった。
リンリンの手には出場申し込み書がある。
既に必要事項は全て記入してあった。

エントリーを申し込むと、まずは地区予選に出場することになる。
関東は全国でも最も出場校が多い激戦区だ。
北と南の2つのブロックに分けて予選が行なわれる。
UFA女子高等学校は、位置的にいって南関東ブロックに属する。

淡々と説明するリンリンの口から新たな情報が出てくるたびに、
小春と光井は興奮を抑えることができなくなった。
263 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:12
「TVにも出られるんですよね!」
小春が声を裏返しながらそう叫んだ。
ロボットよりテレビ。小春はミーハーだった。

だが、いつもなら「ミーハーやなあ」と小春を諭す役割の光井も、
今はそんな余裕はなかった。
小春と同じように、いやそれ以上に興奮していた。
物理部にこんなビッグイベントがあったとは!

「予選で一位にならなければ全国大会には出場できまセン」
「でもねー。全国まで行ったら確実にTVに出られるんよ」

全国大会!
その響きに光井と小春は痺れた。
燃えてきた。心の中にたぎるものがあった。
これまでの高校生活の中では、一度も感じたことのない熱い感情だった。
264 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:12
そしてその瞬間、光井と小春の視界は一気に広がった。
この狭い部室を飛び越えて、遥か彼方の地平線をも越えて、
全国へと広がっていった。

この高校では物理部員など日陰の存在だ。マイノリティだ。
だがもはやそんなことは関係ない。
大会には何百人、何千人という物理部員がやってくるはずだ。
その瞬間、その場では、物理を愛する人間はマイナーな存在ではなくなる。

行こう! 出場しよう!
全国にはきっと私達のライバル達が待っているはずだ!
こいつは漫画とか読んでる場合じゃないよね!
主人公はわたしたちなんだ!
小春と光井は手を握り合って甲高い歓声を上げた。

ジュンジュンは一人部屋の隅でゴルゴ13の15巻を読んでいた。
265 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:12
れいながジュンジュンの手から漫画本を奪い取る。
「いいところなのニィー!」
不満な表情を隠さないジュンジュンに向かって、
リンリンがロボットコンテストのポスターを見せる。

「漫画よりも、もっともっと面白いことがありマス」
ジュンジュンが黒目勝ちの瞳をさらに大きく膨らませる。
彼女はこれまでの経験から知っていた。
リンリンが何かを与えてくれた時、
それは全て無条件で面白かったということを。

「本当に? 本当に面白い?」
「はい。もう漫画本を読む必要はありまセン」

リンリンの言ったことは本当だった。
ジュンジュンがその後、漫画本に目を通すことは一度もなかった。
デューク東郷唯一の狙撃失敗シーンを目にする機会は永遠に失われた。
だがジュンジュンがそのことを後悔することも永遠になかった。
266 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:13

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
267 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:13
「準備オッケー?」
「もうちょい待ってーー!!」

夜も八時を過ぎた体育館には人はまばらだった。
普段はそこで部活をしている生徒達もほとんど帰宅していた。
残っていた数少ない生徒達も主な活動は既に終え、
疲れきった表情で帰宅の準備をしているだけだった。

唯一、物理部の五人のみが生気に溢れた表情をしていた。

ジュンジュンはビニールテープを体育館の床に貼り付ける。
テープで縦15m、横10mの長方形を作った。
バスケットコートの三分の一程度の広さになった。

光井と小春はその長方形のコートの中央部分にバレーボールを20個置いた。
リンリンとれいなはコートの両端に大きなカゴを置いた。
カゴの高さは2mほどだろうか。

「かんせーい!!」
268 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:13
ミニチュアのバスケットコートのようなものが出来上がった。
今回のロボットコンテストの競技は「ミニバスケ」だった。

ロボットを使ってコートの中央に置いてあるボールを投げる。
制限時間内により多くのボールをカゴに入れたチームが勝ちとなる。
ちなみに一度投げたボールは、カゴから外れた場合は再使用できない。
あくまでも、大会スタッフが中央に置いたボールしか投げることはできない。

それが今回のルールだった。
とりあえず一度、ルールに従って練習をしてみようということになった。
勿論、我らがUFA女子高等学校物理部が使用するロボットは、サイボーグJJである。
269 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:13
これだけ高度な人造人間を擁している高校など他にないだろう。
練習さえしっかりしておけば、楽に勝てるはずだ。
彼女達はそんな風に、事を簡単に考えていたのだが、
練習を始めるに当たって一つ大きな問題があることに気づいた。

「ねえ、リンリン。これからどーすんの?」
「ハイ? なんでしょうカ?」
「練習するのはええんやけどー、相手役のロボットはどうすんの?」

まさかもう一台ロボットを作るのだろうか?
だが予選まであと二週間。
とてもそんな時間はないように思われた。
270 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:13
「問題なか!」
突如背後から鋭い声が聞こえてきた。
光井が振り向くと、そこには古い西洋の甲冑のようなものを身に付けた、
あやしげな人影がゆらゆらと歩いていた。

「サイボーグれいな! 見参!」

ちなみに作者のPCでは「けんざん」で変換されない。
そんなに特殊な熟語だろうか。
271 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:14
甲冑を身に付けたれいなが、こちらによちよちと歩いてくる。
かなり重たいようだ。
セクシー8の時の吉澤の体重くらいはありそうだった。

「ジュンジュン! いざ尋常に勝負!」

こんなんで練習になるのかなあと光井は思ったが、
まあ文句ばかりも言っていられない。
とりあえず最初はこれで練習してみるのもいいかもしれない。
まずはジュンジュンがこのゲームに慣れるのが先決だ。
対戦相手の対策はその次でいい。

リンリンがホイッスルを口にくわえる。
コートの両端にはサイボーグJJとサイボーグれいなが立っていた。

「よーい・・・・・・・はじめ!!!」
合図とともに二体のサイボーグはコート中央にあるボールに向かってダッシュする。
「・・・・って言ったらスタートするんですヨ」
二体のサイボーグは勢いよくずっこけた。
272 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:14
「ちょっとリンリン! 一体いつのギャグを・・・・・」
れいなが立ち上がってリンリンの方へと走ろうとしたその瞬間、
「よーいはじめ!」
リンリンは超早口にそう言ってホイッスルを吹いた。
急激に方向転換しようとして、れいなは再びこけた。

その隙をついてジュンジュンが先攻する。
コート中央にあるボールを拾い上げて、コートの端にあるカゴ目掛けて投げる。
ぽい。ぽい。ぽい。
三つ投げて一つだけ入った。
最初ということを考慮すれば、まずまずの確率かもしれない。

ジュンジュンが四つ目のボールを投げたとき、
ようやくれいながボールのところにたどり着いた。
れいなはボールを一つ持って、カゴの真下までとことこと走っていった。
273 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:14
カゴによじ登り、のしかかるようにしてボールを入れるれいな。
当たり前だがボールは簡単にカゴの中に入った。
これは別にルール違反ではない。
コート内であればどこへでも移動してよかった。

つまりボールを持ってカゴの真下まで行って、入れてもいいのである。
ただしそれをやると、カゴに入る確率は高まるが、
ボールを取るために中央まで戻るのに時間がかかる。
この辺りが、ロボットの使い方、つまり戦略の考えどころになるわけである。
ちなみにロボットがコートの外へ出た時は、その時点で失格となる。

がこんがこん。
ボールが入った瞬間、れいなはにへらーと下品な笑みを浮かべた。
「ふ! 勝った! れいなが勝ったもんねー!!」
唐突にれいなが勝利宣言を出した。
274 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:14
え? は? アイ?
勝負を見ていた三人が、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。
れいなのカゴには一つしかボールが入っていない。
だがジュンジュンのカゴには、今、四つ目のボールが入ったところだ。

「ジュンジュン! ロボットコンテストを甘く見てたらいかんよ!」
そう言うやいなや、れいなはジュンジュンのカゴ目掛けてダッシュする。
これも別にルール違反ではない。
繰り返し言うが、コート内はどこへでも移動してよかった。

ジュンジュンのカゴを目指して、猿のようによじ登るれいな。
「わはははははは!」と笑いながら、カゴに入っていたボールをつかむ。
そして灰をまく花咲爺さんのように、
ボールをぽいぽいとカゴの外へと放り投げた。

「はい、ジュンジュンのボールはゼロでーす!」
275 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:14
ジュンジュンの顔色がさっと変わる。
殺す。やられたらやり返す。倍にして返す。
ジュンジュンの目は怖かった。明らかにその筋の人の目だった。

話は逸れるが、TVの世界ではいつから「ヤクザ」という言葉が
放送禁止用語に近い言葉になってしまったのだろうか。
ちょっと前まではTVでも普通に聞かれていた言葉なのだが、
最近では細心の注意を払ってこの言葉を避けているように思われる。
その代わりに「ヤカラ」や「その筋の人」などという言葉が使われているが、
聞いていてなんだかくすぐったい。
結局は同じことを言っているわけだから、ずばり「ヤクザ」と言ってもらいたい。
まさかヤクザから抗議が来るから自粛しているというわけでもあるまい。
一体誰に気を遣っているのだろうか?
276 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:14
とにかく、やられたらやり返す。
ジュンジュンはくるりと振り返り、れいなのカゴを見た。

おっと! いつの間に!
れいなのカゴは、針金でぐるぐると巻かれ、厳重に蓋がされていた。
これも反則ではない。というのがれいなの解釈だった。
針金もロボットの部品の一部であると考えた。
これでジュンジュンがれいなのボールをカゴからかきだすのは難しくなった。
ちなみにジュンジュンは、れいなと彼氏のチュー画像を持っていたが、
今の勝負には全く役に立たなかった。

残り時間は1分を切った。
ジュンジュンのカゴの上にはれいなが座り、
飛んでくるボールを全てブロックする。
「やーい! ジュンジュンのあほー! れいなの勝ちー! 勝ちやもんねー」

ジュンジュン危うし。もはやこれまでか!
277 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:14
だがジュンジュンは全く慌てていなかった。
すっと右手の人差し指を天井に向ける。

「JJマックスパワー超伝導電磁石! オン!」

なんと。
文化祭でスライムの雨を降らしたという、あの曰くつきのあの装置。
あの超伝導電磁石装置は、いつの間にかリンリンによって、
ジュンジュンの体内に設置されていたのだ!
ウォィーンという震えるような重低音が体育館に響く。

凄まじい電力がコイルに蓄積されていく。
だがその電力は、磁力に変換される前に、天井へと放たれた。
バチン!と弾けるような音がして、体育館のライトが全て消える。
あまりの超高圧電流の放出を受けて、ブレーカーが飛んだようだ。

わずかに体育館に残っていた生徒が、暗闇の中で悲鳴を上げる。
278 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:15
真っ暗な体育館にジュンジュンの声がこだまする。

「JJウルトラライトニングボルト! オーン!」

天を切り裂く轟音が体育館を揺らした。
リンリンも光井も小春も耳を押さえて床に這い蹲る。
まともに聞いたら鼓膜が破けそうな大音量だった。

その轟音とともに、まるで雷のような鋭利な閃光が体育館に降り注いだ。
いや。それは雷そのものだった。
数億ボルトの電力を秘めた雷は、カゴの上に乗っていた金属の塊―――
つまりれいなの着ていた甲冑を直撃した。

雷がれいなに当たったその瞬間、光井は見た。
まるで生物教室にある骨格標本のような―――
れいなの骨を。
279 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:15
れいなはレントゲン写真のように全身の骨を晒しながら、
体育館の壁をぶち破ってグラウンドの方へと吹っ飛んでいった。

それとほぼ同時に、時間終了を告げるブザーが鳴った。
れいなのカゴにはボールが一つ入っていた。
ジュンジュンのカゴには一つもボールが入っていなかった。
だが。

「コートの外に出たから、田中の負けー」

ジュンジュンの言う通りだった。
きちんとルールに則って、ジュンジュンは勝利を収めた。
280 :8.な げ ろ J J :2008/08/16(土) 22:15
なお、グラウンドの方へ吹っ飛ばされたれいなだが、
30秒ほどの間、甲冑に電気を帯びたままの状態で、よたよたとふらついていた。
その姿を目撃した生徒達は絶叫しながら一目散に逃げ出した。

この事件は後に「光る甲冑骸骨の呪い」と呼ばれるようになり、
夜遅くまで学校で遊んでいると、骸骨のお化けが追いかけてくるという、
UFA女子高等学校の七不思議の一つとして末永く語り継がれていくのだが―――

それはまた別のお話。
281 :名無飼育さん :2008/08/16(土) 22:15

282 :名無飼育さん :2008/08/16(土) 22:15

283 :名無飼育さん :2008/08/16(土) 22:15

284 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:08
ロボットコンテスト予選に出場する日まで、物理部の猛特訓は続いた。

まるでAngel Heartsの時のチアリーディングの特訓のような厳しさだった。
つまり見た目が厳しかった。
本人達は厳しい特訓だと思っていた。
もっとも美人で傲慢でナルシストのコーチはいなかったが。

そして特訓はあっけなく終わった。
まるで面白くなかったから打ち切られた番組内コーナーのように。
君は「うろおぼえゼミナール」のことを覚えているか。
「小さな恋の記念日」のことを覚えているか。
285 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:09
そして九月も終盤戦に入ろうかという残暑厳しい日。
ついに待ちわびた南関東予選の日がやってきた。

会場となった東京体育館の前では、
物理部の面々が今や遅しと開場の時を待っていた。
勿論、彼女達はまともな人間なので、地面にトレポを広げたりはしない。
ましてや「リンリンと高橋を交換して」などと無理難題を言ったりはしない。

リンリンは入念にジュンジュンのメンテナンスをしていた。
光井はみんなのために手作りのお弁当を作ってきた。
小春は応援用の横断幕を持ってきた。
れいなは寝坊して一人タクシーでやってきた。
286 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:09
「田中さんーん、遅いですよー」
「ふん。主役は一番最後にやってくるんよ」

れいなは松葉杖をつきながらひょこひょこと歩いてきた。
ジュンジュンとの特訓中に折れた大腿骨がまだ完治していなかった。
折れたというか折られたというか。
とにかく親の仇のような物凄いローキックだった。笑えなかった。
それでもれいなは今日の予選会を欠席しようとはしなかった。

「今日はれいながコントローラー操作するもんね!」
れいなはジャンケンに勝った。パーだった。
文化祭の脱出マジックの時のリベンジを果たした。

大会のエントリーは四人までだが、ロボットを操作するのは一人だけだ。
残る三人はサポートとメンテナンスに当たることになる。
れいなが張り切っているのも無理はない。

もっともジュンジュンは一人で勝手に動くことができるので、
れいなが行なうのは操作というよりも、指示という方に近かった。
状況を俯瞰し、客観的な判断をジュンジュンに送るのがれいなの仕事である。
287 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:09
一応、この大会は「ロボットコンテスト」となっている。
当然ながらロボットしか競技には参加できない。
普通の女の子にしか見えないジュンジュンを、そこにどうやって参加させるか。
リンリン達はそこに一番頭を悩ませた。

まず肌の質感を少し変えた。
いつもの人肌のような特殊樹脂ではなく、やや光沢のある金属の材質にした。
さらにジュンジュンにはマスクをかぶらせることにした。
プリンセスYYのような趣味の悪いマスクだった。
パッと見た感じ、怪しげなロボットに見えなくもない。

後は、大会の技術委員によるチェックのときに、
ジュンジュンの背中のパネルを開けて、中の機械を見せれば大丈夫だった。

「よくできてるねえ」

技術委員のおっさんは感心しながら、いくつかの専門的な質問をした。
リンリンはそれらの質問にすらすらと答えた。
おっさんはリンリンをJJの製作者だと判断して、エントリーを認めた。
れいなのようにスカートの中を見ようとはしなかった。
世間体があったのだろう。
288 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:09
予選には五十を超える学校がエントリーしていた。
一対一で対戦していたら、とてもではないが一日では終わらない。
ということで予選はバトルロイヤル方式で行なわれることになっていた。

UFA女子高等学校は、初戦で六つの高校と競うことになった。
全部で七つの学校の七体のロボットが入り乱れて競技を行なう。
コートの両端にある二つのカゴに、
とにかくたくさんボールを入れたチームが勝ち抜けとなることになった。
この予備予選は2位までが次の戦いに進むことができる。

だがジュンジュンは2位など狙っていなかった。
全国大会までの全ての戦いを、圧倒的な強さで勝ち抜く気だった。
そのための準備は万端だった。
伊達や酔狂でれいなの大腿骨を折ったわけではない。

予備予選など眼中になかった。
289 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:10
「それでは予備予選Cブロック! スタート!!」

国営放送のアナウンサーが暑苦しい口調で怒鳴る。
地方局独特の暑苦しさだった。
「テレビ東京のような」という形容詞を付ければ想像しやすいだろうか。

合図と共に七体のロボットがコートの端から動き出す。
驚くべきことに、ジュンジュンのような人型ロボットも何体かあった。
もっともそれらは全て、柴田あゆみのような面白体型だったが。

ジュンジュンはスタートで出遅れた。
晴れの舞台ということもあって、
ジュンジュンは小春に買って貰った例の黒いローヒールを履いていた。
体育館の床板の上ととっとことっとこと不器用に走る。
このままではコート中央にあるボールを軒並み奪われてしまう。
れいながコントローラーを動かした。

「JJスーパーリフトアーム! オン!」

コントローラーを通じて、ジュンジュンの脳内コンピュータに指令が伝わる。
290 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:10
ジュンジュンの両手が銀色に輝く。
この大会のために、スーパーリフトアームは左手だけではなく右手にも装着されていた。
ジュンジュンの両手が発射し、中央のボール置き場まで飛んでいく。
がしっと二つの手で二つのボールをつかんだ後、
アームはロープに引きずられてジュンジュンの元に引き寄せられた。

おおおおおおおおおおおおおおおおお
早くも炸裂したロボットらしさ溢れる大技に、観客席がどよめいた。
ジュンジュンはロボットらしいぎこちない動作で二つのボールをカゴに入れる。
がこん。がこん。2点ゲットしたのだ。

この「ロボットらしいぎこちない動き」をマスターするために、
ジュンジュンは血のにじむような特訓をしていた。
もっとも本当に血を流したのは大腿骨を折ったれいなだったのだが。

あの鬼のようなローキックがこの競技に本当に必要なのか。
光井や小春は理解できなかったが、些細なことなのですぐに忘れた。
291 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:10
その後もジュンジュンは快調に得点を重ねた。
ボールの置き場所から距離をとっていたのが逆に幸いしたようだ。
ボールの置いてある中央部に殺到したロボット達は、
お互いにからまったりぶつかりあったりして、大混乱に陥っていた。

「れいなの作戦通りやね!」

もちろん嘘だった。
結果オーライだった。
だが勝てば官軍、負ければ賊軍。
その理屈で言えば、今のハロプロなど揃いも揃って賊軍だらけなのだが、
まあそれはともかく、UFA女子高等学校はダントツの1位で予備予選を通過した。

ジュンジュンは「この靴のおかげネ」と言って苦笑いしながら、
黒い靴を脱いで小春に渡した。
小春はそれを受け取って「わあ! 綺麗な靴だね!」と言って笑った。

自分が選んだことは忘れていたようだ。
292 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:11
予備予選の次はいきなり準決勝だった。
準決勝は四校の間で争われる。
四体のロボットが同時に競技を行い、上位1位のみが決勝戦に進める。

ここでもジュンジュンは圧倒的な強さを見せた。

一体のロボットが、競技開始と同時に、
ばさっと大きな網を投げて、置かれていたボールを一網打尽にしたが、
サイボーグ・ジュンジュンはそんなことも全く問題にしなかった。
れいなは慌てず騒がずコントローラーを操作する。

「JJグレイトファイアーハンド、オン!!」

れいなは上機嫌だった。
気分はすっかり鉄人28号を操作する正太郎君である。
正太郎君気取りだが、ショタコンではなかった。
れいなはボーイズラブや象徴的擬似性交関係には興味なかった。
そこははっきりさせておきたい。

れいはなあくまでも男と女のベタベタした恋愛が好きだった。
293 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:11
れいなの指令を受けて、ジュンジュンの両手が赤銅色に輝く。
グレイトファイアーハンドも、スーパーリフトアームと同様に、
この大会のために両手に装着されていた。

グレイトファイアーハンドが二つで100万パワー+100万パワーで200万パワー!
いつもの二倍のジャンプが加わって200万X2の400万パワー!
そしていつもの三倍の回転を加えれば400万×3の・・・・・1200万パワーだ!

ジュンジュンの両手は、バッファローマンのロングホーンを
へし折ったウォーズマンのベアクローのごとく、圧倒的なエネルギーを秘めた爪となった。
「100万パワー」とかいう単語がいきなり出てきましたが、超人強度のことです。
そんなの知らないという若い世代の人は軽くスルーしてください。

とにかくジュンジュンの手は圧倒的な熱量を秘めた爪となったんですよ中野さん。
これは女房を質に入れてでも観に行かなければいけませんね。
言葉の意味はよくわからないが、とにかくすごい自信だった。

文化祭の大脱出マジックの時のロープのように、ネットはずたずたに千切れた。
294 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:11
後はジュンジュンの独壇場だった。

転がるボールをスーパーリフトアームで片っ端からカゴに入れていった。
他校の三体のロボットも散発的にボールを入れたが、
その数は三校の数字を合わせても、ジュンジュンの足元にも及ばなかった。
圧倒的じゃないか! 我が軍は!

れいなのロボット操作は的確だった。
高校を一留したれいなは、操作技術も一流だった。

ジュンジュンは十分な余力を残したまま戦いを終えた。
まだまだ戦える感じだった。
その見事なパフォーマンスをもっともっと見ていたかった。
このまま終わらせるてしまうのは惜しい。
今、モーニング娘。が解散したとしても誰も思わないようなことを、
会場でジュンジュンの戦いを見ていた全ての人が感じた。

天晴れジュンジュン。
UFA女子高等学校は決勝戦に進出した。
295 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:12
準決勝が終わってから決勝戦が始まるまで、一時間ほどの休憩時間があった。
もっともそれは、人間が休憩をする時間というよりも、
ロボットのメンテナンスをする時間だった。
ロボット同士の接触も多いこの大会では、このメンテナンス技術の高さも、
大会を勝ち抜くために不可欠な要素となっていた。
296 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:12
「ジュンジュン、大丈夫?」
光井の作った、タコの入っていないたこ焼きを食べながら小春が尋ねた。
今回の大会では、れいながロボット操作で光井が作戦参謀役。
リンリンがメンテナンス担当で、小春がその手伝いというチーム編成だった。

レンチを持ったリンリンが渋い表情をする。
「リフトアームが作動不良ですネ。ちょっと派手に使い過ぎたかモ・・・・・」
ジュンジュンは両手の指を曲げたり伸ばしたりする。
どうも握力が落ちてきているようだ。

機械は基本的に疲れ知らずだが、高度なサイボーグとなるとまた違う。
高度で複雑な情報を超高速で処理しているがゆえに、
長時間稼動させると、機器にかなりの電気的負荷がかかってしまうのだ。
ジュンジュンの体内には知らず知らずのうちに疲労が蓄積していた。
297 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:12
「はい、ジュンジュン。差し入れ! 元気出せ!」
小春はカバンからサトウキビを取り出してジュンジュンに渡す。
ジュンジュンはサトウキビを美味しそうにかじった。
バイオエタノールを燃料とするジュンジュンには何よりの栄養剤だった。

さらに小春は持ってきた横断幕をバッと広げる。
それは先ほどまで会場の隅に張られていたものだった。
ジュンジュンは戦いに必死でそれに気づいていなかったが。
それは物理部に代々伝わる横断幕だった。


川´・_o・)<めざせ全国制覇! 勝つぞUFA女子高物理部!


横断幕には小春が書き足したらしいジュンジュンのイラストがあった。
「ちょwww小春www伝統の旗にwwwww何を書き足してwwwww」
れいなが目を三角して小春の頬をつねる。
小春は涙目になりながらあれこれと言い訳を述べるが、
何を言ってるのかよく聞き取れなかった。

ジュンジュンはじゃれあう二人を見てニコニコしている。
サトウキビの汁がジュンジュンの喉を通って体中に行き渡っていた。
どうやら元気が戻ってきたようだ。
298 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:12
「やばい。みんなこっち見てるで」
サトウキビをかじるジュンジュンをカメラのフラッシュが追う。
光井はあわててサトウキビをジュンジュンから取り上げた。

光井に言われるまでもなく、リンリンは既に気づいていた。
圧倒的な力で決勝まで勝ち上がってきた人型サイボーグのジュンジュンが、
今や会場中の注目を集めるまでになっていたことを。

決勝戦は準決勝と同じく四校の間で争われる。
UFA女子高等学校以外の三校は、間違いなくこちらをマークしていた。
下手をすれば1対3ということになるかもしれない。
2ちゃんの全板トーナメント決勝戦のときの狼のように、
「自分達 VS その他の勢力全て」という図式になる可能性が高かった。

決勝戦は間違いなくこれまでにない厳しい戦いになる。
リンリンはそう確信して、ある覚悟を決めた。
299 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:13
「ジュンジュン、決勝戦では例のアレを使いまショウ」
「アレ?」
リンリンは思いつめた表情で語りかけるが、
ジュンジュンはいつもの飄々とした表情を崩さなかった。

「アレですよ、アレ。キンダンノ技デス」
「え? ナンキンタマスダレ?」
「違いマス」

キンしか合ってねえよ。
ジュンジュンは疲労からか耳が遠くなっていた。

「超伝導電磁石を使って・・・・・・」
「パチンコの玉を操作する?」
「それも違ウ」

それは犯罪だろ。
ジュンジュンは疲労からか倫理観も薄れていた。
300 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:14
「とにかく超伝導電磁石を使って・・・・・・」

リンリンが言いかけたところで休憩時間終了のベルが鳴った。
いよいよ決勝戦。
全国大会への切符は一枚のみ。
泣いても笑ってもこれが最後の戦いである。

「さあ、みんな! 全国大会にー・・・・・行くぞー!!」
れいなが何の予告もなくそう叫んだ後、数秒間の沈黙が流れた。
「おー・・・・」「・・・え?・・・おう・・・・」「・・・オウ?」

掛け声は揃わなかった。
小春などはトイレに行っていて不在だった。
昔のハロモニのように、メンバー全員が揃わない状態だった。
不在のメンバーをパネルにして出していたあの頃が懐かしい。
加護がいて辻がいて後藤がいて保田がいて。普通にいて。
ハロモニが打ち切られる日が来るなんて思いもしなかったよ。

大会役員が決勝戦進出者を呼びに来た。
301 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:14
役員に連れられて、物理部の五人は決勝の舞台にやってきた。

コートの上に立つのはジュンジュン。
いつもの濃紺のワンピースに黒いローヒール。
読者の人は忘れていたかもしれないが、
顔にはプリンセスYYのようなマスクをしている。
ちなみに作者は素で忘れていた。

他の三校のロボットもジュンジュンの横にずらりと並んだ。
偶然なのか、運命の悪戯なのか。
はたまた作者のイマジネーション不足なのか。
決勝に進出したロボットは、JJを含めて四体ともリアルな人型ロボットだった。
302 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:14
最初の一体は熊井高校の「クマイチョー」。
身長が2m近くある巨大なロボットだった。
背が高いこと以外は全く熊井ちゃんに似ていなかった。
眉毛は薄いし性格はいい加減だし、何よりトークがものすごく面白かった。

次の一体は夏焼高校の「ミヤビッチ」
顎が30cm近くある三日月型の顔のロボットだった。
顎が長いこと以外は全く雅ちゃんに似ていなかった。
音痴でグラマーでスキャンダルとは無縁なロボットだった。

最後の一体は徳永高校の「トクナガチナミ」
徳永千奈美には何一つ似ていなかった。
むしろ「セブン」に出演したときのモーガン・フリーマンに似ていた。

そして我らがサイボーグJJ。
両手首にはテーピングをぐるぐる巻きにしていた。
結局、休憩時間内にスーパーリフトアームを修理することはできなかった。
無理に作動させれば、ロープが外れて両手首から先が落ちてしまうのだ。
決勝戦はリフトアーム抜きで戦うしかない。

四体のロボットが出揃い、決勝戦前のセレモニーが始まった。
303 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:15


高鳴る鼓動。
やってくる戦いの時を静かに待つ戦士達よ。
祈れ。願え。勝利を信じて。
ロボット ロボット ロボット (fuwa fuwa fuwa fuwa)
ロボット ロボット ロボット (fuwa fuwa fuwa fuwa)
君達の戦った後に栄光はやってくるのさ。



高まる期待。
僕達の戦いは時に激しく時に切ない。
泣くな。笑えよ。勝利を信じて。
ロボット ロボット ロボット (fuwa fuwa fuwa fuwa)
ロボット ロボット ロボット (fuwa fuwa fuwa fuwa)
君達の戦った後に永遠はやってくるのさ。
304 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:15
大会のテーマソングの独唱が終わった。
歌ったのは有原栞菜だった。
何かの懲罰だったのだろうか。
もしかしたらこの曲もカセットテープで販売されるのかもしれない。

四体のロボットがコートの四隅に散る。
コートの端には二つのカゴ。どちらに入れても良いというルールだ。
コートの中央にはボールが無造作に置かれている。
その数、僅かに五個。
決勝戦は短期決戦になることが予想された。

リフトアームを使えないジュンジュンにとってはスタートダッシュが肝要。
だがジュンジュンの足にはいつもの黒いローヒール。
秘策はあるのか。

審判が競技開始を告げるホイッスルを鳴らす。
305 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:15
まずミヤビとモーガン・フリーマンが勢いよく飛び出す。
両者はともに足の裏の車輪で進むタイプだった。
とっとことっとことローヒールで進むジュンジュンがやや遅れる。

クマイチョーは完全に止まっていた。トラブル発生か。
熊井高校の生徒達は、必死で取り扱い説明書を熟読していた。
それを見ていた夏焼高校の面々は「あはは。帰れ♪ 帰れ♪」と大喜びだった。
別に迷惑行為をしていたわけではないのだが・・・・・・

ミヤビとフリーマンがほぼ同時にコート中央に到着した。
二体のロボットは腕を伸ばしてボールを拾い上げようとする。
その手にボールが触れようとした瞬間、れいなの指令が飛ぶ。

「JJマックスパワー超伝導電磁石! オン!」
306 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:16
超伝導電磁石は改良が加えられていた。
極めて短時間の間に強力な磁力を発することが可能になっていた。
だがその代償として大量の電力を消費してしまう。
使えるのは一日に一度だけだった。

強力な磁力がジュンジュンの体を覆う。
肌を金属製の物に替えていたのは、この時のためでもあった。
磁力はむらなくジュンジュンの全身を駆け巡る。
次の瞬間、ジュンジュンは足の裏のロケットを使うことなく宙を舞っていた。

強力な磁力をまとったジュンジュンは、
コート中央にある金属の塊―――
つまり二体のロボットに向かって猛スピードで引き寄せられた。

激突する三体のロボット。
交通事故のような衝撃音がコートに轟く。

三体のロボットは、セクシーオトナジャンのメンバーのように、
三体全てが甚大なダメージを受けた。
そしてそのうちの一体は、二度と動くことはなかった。
307 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:16
三体のロボットはからまり、もつれあっていた。
強力な磁力でお互いひっついていたので、身動きがとれない。
膠着した状況を打破するために、れいなが再び叫んだ。

「JJミラクルワンピースリバース! オン!」

ジュンジュンの着ていたワンピースが不思議な色の輝きを放つ。
次の瞬間、ジュンジュンにくっついていた二体のロボットが弾け飛んだ。

れいなの作ったこのワンピースには不思議な機能があった。
磁力や電力や熱量といったエネルギーを、
極めて高い保持率で保持し続けることが可能で、
なおかつジュンジュンの意思一つで逆噴射させることが可能だった。

ミヤビとフリーマンは磁力に弾かれてコートの外まで吹っ飛んだ。
もはやバスケットでもなんでもなかったが、ルールはルールだ。
二体のロボットは失格となった。
308 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:16
ジュンジュンはボールを拾ってカゴの方を向いた。
だが、あるはずのところにカゴはなかった。
倒れて破壊されたカゴの残骸だけが横たわっていた。

ジュンジュンは焦って逆側のカゴの方を見る。
そこには熊井高校のクマイチョーが立ちはだかっていた。

れいながコート中央でミヤビとフリーマンの相手をしている間に、
クマイチョーは自分に近いサイドのカゴを破壊し、
コート中央を迂回して移動して、もう一つのカゴの前に陣取っていたのだ。

スタートダッシュに遅れた振りをしたのも戦略だったのだろうか。
それはともかく、熊井高校の作戦は、ボールの方ではなく
先にカゴの方にアプローチする戦略だったのだ!

残るカゴは一つ。
309 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:16
ジュンジュンはボールを持ったまま硬直した。
こうなった以上、安易にボールを投げることはできない。
もし投げたボールがキャッチされてしったら、
逆にクマイチョーの手によってカゴの中に入れられてしまう。

二体のロボットがにらみ合ったまま、時間だけが過ぎていく。
痺れを切らして先に動き出したのは、ジュンジュンの方だった。

ジュンジュンは両脇に二つのボールを抱えて駆け出した。
黒いローヒールは脱ぎ捨てた。

ジュンジュンは左脇に抱えていたボールをカゴに向かって投げる。
投げながら足の裏のジェットを噴出させて飛び上がった。
ボールはクマイチョーに弾かれてカゴから逸れたが、ジュンジュンに落胆はない。
ボールを投げたのは陽動作戦だった。
だがクマイチョーはその動きを完全に読んでいた。
ジャンプするジュンジュンの姿をしっかりとその目にロックオンした。

クマイチョーの胸のカタパルトがゆっくりと開く。
310 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:18
クマイチョーの胸のカタパルトには地対空ミサイルが9発装填されていた。
黄金期のモーニング娘。のメンバーと同じ数だった。
いつの9人のことなのかは読者の判断に委ねる。

9発のミサイルは次々に発射され、ジュンジュンに襲い掛かる。
ジュンジュンはひらりひらりとミサイルを次々にかわしていくが、
ミサイルはその度にブーメランのように戻ってきて再びジュンジュンを襲う。

「ちょ! なんこれ! 一体どうなっとるんよ!」

れいなはパニックに陥った。
何度かわしても、ミサイルは再び襲いかかってきた。
ジュンジュンがどこに逃げても、ミサイルは、
まるで住所調査隊スレに常駐しているストーカーのように
執拗にジュンジュンの後を追い掛け回した。

ジュンジュンが逃げ回っている隙に、クマイチョーはボールを取りに行こうとしていた。
ミサイルに追い掛け回されているジュンジュンに、
それを阻止することはできない。
311 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:18
「もしかして・・・・・・・」

ミサイルの動きを見ていた光井は、あることに気が付いた。
ミサイルはどうもジュンジュンの足の裏のジェットに向かってきている。
もしかして・・・・・温度感知センサー?
それならば!
光井はれいなを押しのけ、コントローラーのマイクに向かって叫ぶ。


「ハードソーン!」


ではなく、「JJグレイトファイアーハンド、オン!!」と。
312 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:19
光井の指令に従って、ジュンジュンの両手が赤銅色に光る。
今度はミサイルはジュンジュンの両手に向かって飛んできた。
8000メガジュールの熱量がミサイルを引きつけていた。
やはりこのミサイルは、
温度感知センサーでターゲットを追尾するシステムだったのだ。

光井が再びコントローラに叫ぶ。
それがこの戦いの最後の指令となった。


「JJスーパーリフトアーム! オン!」
313 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:19
今大会で酷使したリフトアームは、もはや金属疲労の限界に達していた。
ジュンジュンがリフトアームを作動させた瞬間、
ロープをつなぐ金具が壊れ、ジュンジュンの両手首の先からぽろっと落ちた。

両手首は、落ちる寸前にジュンジュンによって絶妙にコントロールされた。
手首は床に落ち、ボールを拾っていたクマイチョーの方へと転がっていった。
9発のミサイルがそこ目掛けて殺到した。
凄まじい炸裂音が体育館に響く。

クマイチョーは東京体育館を駆け抜ける一陣の風となった。

それを見届けたジュンジュンが、
右脇に抱えていたボールをゆっくりとカゴに投げ入れる。
次の瞬間、競技終了を告げるベルが鳴った。
314 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:19


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


  
315 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:19
「2008女子高ロボットコンテスト、南関東予選優勝! UFA女子高等学校物理部!」

差し出された賞状を、れいなは恭しく受け取った。
金色のトロフィーはリンリンが受け取った。
柔らかい波のような拍手が開場から湧き上がる。
彼女達に対する賞賛の気持ちが込められた温かな拍手だった。

やった・・・・・
あたしたちはやったんだ本当に・・・・・・・
光井はぐるりと会場を見渡す。
そこには50校、200人を超える参加者が並んでいた。
自分達がその中の頂点に足ったのだという達成感が光井の心を熱くした。

光井と小春は手を取り合って泣いた。
茶化したり冷やかしたりするような、ひねくれた気持ちは一切なかった。
ただ素直に自分の心が感じるままに泣いた。
今までに流したことのない種類の涙だった。
316 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:20
「こら! あんたたち! なに泣いとるんよ」

れいなの目に涙はなかった。
持っていた松葉杖で二人の頭をこつんこつんと叩いた。
れいなとリンリンの目は既に次の舞台へと向けられていた。

「そうです。本当の戦いはこれからですヨ」

リンリンの手には、大会役員から渡された、
全国大会の概要が書かれた資料が携えられていた。

そうだ。
今回の戦いは予選に過ぎない。
本当の戦いが全国大会であることは間違いないだろう。
光井と小春の涙もあっという間に乾いた。
317 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:20
「全国大会はもっともっとすごいですヨー」
リンリンは資料をパラパラとめくる。
だが光井は資料を一瞥してそっけなく言った。

「なーんや。ルールとかは予選と全部一緒やん」
競技に関する基本的なルールは、予選も全国大会も同じだった。
予選が終わってから全国大会まで一週間しか間がない。
変にルールを変えても、ロボットを対応させる時間がないということだろう。

全国大会の概要についてわいわい言い合っていた五人だったが、
出場予定校を見ていたリンリンの体が、突然ハッと凍りついた。
リンリンは目を大きく見開いたまま、くらりと軽い立ちくらみを起こした。

「リンリン? リンリンどうしたん?」

異変に気づいた光井が声をかけたが、リンリンは何も答えなかった。
リンリンの目には光井の姿など映っていなかった。
何も映っていなかった。だたひたすら資料のみを見ていた。
資料を見つめる険しい視線は、かつて見たことがないほど鋭いものだった。
318 :09.か わ せ J J :2008/08/24(日) 22:20
「い、いやー、なんでもないですヨー」
「え? なんでもないって感じじゃなかったけど?」

リンリンは一瞬にして朗らかな表情に戻っていたが、
光井の心にはさきほどの鋭い視線が焼き付いて離れなかった。

「いやいや光井さん。全国大会が! すごいってことですヨ!」
「え?」
「全国大会の舞台はロボット産業技術研究所なんですヨ! これがすごい!」
「なにそれ。そんなすごい場所なん?」

なんだかまたもリンリンに誤魔化されているような気がしたが、
光井はリンリンに付き合って話を合わせた。
深く追求するのが怖かった。

「日本のロボット工学の中枢、ひいては物理工学の聖地と言っていいでしょウ」
「ふーん。でもそんなんどこでやっても一緒とちゃうん?」
「違いマス。光井さんはこの産技研がどこにあるか知っていますカ?」
「知らん」

リンリンはたっぷりと間を取ってから、謎解きを始める名探偵のような口調で言った。

「イバラギケンです」
319 :名無飼育さん :2008/08/24(日) 22:20
320 :名無飼育さん :2008/08/24(日) 22:20
321 :名無飼育さん :2008/08/24(日) 22:20
322 :名無飼育さん :2008/08/25(月) 10:57
産総研ってw
それにしても茨城県に何が?
323 :名無飼育さん :2008/08/26(火) 07:40
大量更新乙です
面白い!
324 :名無飼育さん :2008/08/30(土) 21:41
325 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:41
つくばエクスプレス。

それはアジア最強の電気街・秋葉原と、
日本最大の研究学園都市・つくば市を僅か45分で結ぶ、
物理工学関係者にとってはまさに夢の超特急(スーパーエクスプレス)だった。
そういうわけでUFA女子高等学校物理部の五人は、やけにテンションが高かった。

「すっごーい! 速い速い速い!」
「あのなあ小春。新幹線の方が速いやろ」
「アホかみっつぃー! 新幹線ごときと一緒にしたらダメー!」
「でも田中さん。実際そうですやん」
「光井さん・・・この列車がどこに行くのかわかってますカ?」
「わかってますがな。この列車が向かっているのは・・・・・」

全員が声を揃えて言った。
「イバラギケンです!」
れいなが爆笑した。小春が爆笑した。リンリンも爆笑した。
ジュンジュンもイバラギイバラギと言いながらゲラゲラ笑っていた。シュールだった。
光井も頬を引きつらせながら笑わざるを得なかった。
326 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:41
ロボットコンテスト全国大会の会場となるロボット産業技術研究所は、
茨城県つくば市のやや南東に位置していた。

光井や小春は知らなかったのだが、ここが全国の物理部員の聖地らしい。
野球部で言えば甲子園のような存在になるわけである。
サッカー部で言えば国立競技場、航空部で言えば琵琶湖である。
まあ鳥人間コンテストは大学と社会人の大会だが。

とにかく彼女達はイバラギケンにやってきた。

リンリンは先ほどからイバラギケンギャグを連発している。
いつもなら眉をひそめる光井だったが、今日は何度となく笑わされてしまった。
というか勝手に笑ってしまうのである。
そこで全国大会が行なわれるのだと思うと、それだけで顔がにやけてしまった。

今日はもう「イバラギケン」と言われただけで笑ってしまいそうだった。
327 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:41
れいなも上機嫌だった。
大会の優勝商品は、なんと『ハワイ旅行四人様』だった。
五人様じゃないのが残念だったが、
まあ大会の参加自体が四人一組だからこれは仕方ない。
作者だってそこで五人家族論を主張するほど石頭ではない。

「絶対優勝するんよ! みんなだってハワイに行きたいでしょ?」
「でも四人様だヨ、これ」
「まあ、ジュンジュンはお留守番やね」
「なんでー! おかしイー! 田中は頭がおかしイー!」
「ロボットじゃなくて、参加者に送られる賞やけん、仕方なか」
「ジュンジュンもハワイ行くもんネー。留守番は・・・・・小春!!」
「なんでですかー!!」
「福引の時、ジュンジュンの邪魔したモン」
「あれは関係ないじゃーん!」
「決定。小春がハワイに行くって言うならジュンジュンは大会に出ないカラ」
「そんな理不尽なあああああ!」
328 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:41
五人は駅からバスで会場に向かう。
会場では開会式の準備が進められていた。
もうまもなく開会式が始まるらしい。五人は慌てて参加者の列に加わる。
大会の組み合わせ抽選は既に終了していた。

全国大会には、北海道、東北、北関東、南関東、東海、
北陸、近畿、中国、四国、九州沖縄の10地域から一校ずつ、
さらに海外から招待された二校の、計12校で行なわれることになっていた。
この12校のうち、8校が一回戦からで、残り4校は二回戦からである。
大会は、一発勝負のトーナメント方式だった。

簡素な開会式が終わると、五人は一旦会場から出てスタンドの方に向かった。
UFA女子高等学校は二回戦から登場することになっている。
一回戦はシードというわけである。

小春は小型のビデオカメラを持参していた。
今回、小春はメンテナンスサポート要員と、撮影要員を兼ねていた。
撮影ならお手の物である。

対戦相手が決まる一回戦を、全員で偵察することにしていた。
短い時間とはいえ、対戦相手の戦いを分析することができれば、
大きなアドバンテージとなるだろう。
329 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:42
トーナメント表を見た小春が素っ頓狂な声を上げた。
「えーっ!? 中国代表 VS 中国代表? なにこれー!?」

誤植とちゃうの?と言う光井の言葉を、リンリンが遮った。
「誤植じゃないデス。その中国は中華人民共和国の中国デス」

海外からは中国と韓国の学校が招待されていた。

UFA女子高等学校の対戦相手は、
中国代表の山口県立道重工業女子高校と、
中国代表のペキン素粒子解析女子高校の勝者ということになる。

まもなくその戦いが始まろうとしていた。
れいなたち五人はスタンドからその試合を観戦することにした。
五人は連番で腰掛けたが、大声で推しメンの名前を叫んだり、
派手に踊って横の人に迷惑をかけるようなことはしなかった。
人として当然のことである。

審判の笛が鳴り、全国大会の一回戦が始まった。
330 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:42
対戦はあっけなく終わった。

制限時間は10分ということだったが、1分もせずに試合は終わった。
ペキン素粒子解析女子高校のロボットが、
目にも留まらぬ速さで全てのボールをカゴに入れてしまった。
試合が終わった後も、スタンドのどよめきは長く続き、なかなか止まなかった。

だがれいな達の驚きはそんなものではなかった。
五人全員が凍りついたまま身じろぎもできなかった。
小春は録画するのも忘れていた。
全員が、目の前で起こったことをどう理解していいかわからなかった。
特にジュンジュンの動揺は激しかった。

ペキン素粒子解析女子高校のロボットは人型ロボットだった。
美しい少女の姿をしたロボットだった。
スタイルは抜群だった。
鼻が少し丸かった。

プリンセスYYのような下品なメガネはしていなかった。
スタンドからもはっきりと見えたその顔は―――ジュンジュンと瓜二つだった。
331 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:42
「ちょっとリンリン! どういうことよ! なによあれは?
 なんで中国のサイボーグがジュンジュンとそっくりなんよ!?」

光井はリンリンに食って掛かった。
両手でリンリンの肩を持ってぐいぐいと揺さぶる。
あまりの激しさに小春が止めに入るほどだった。

「ちょっとみっつぃー! なんでリンリンに怒るのよ!」

小春の言うことはもっともかもしれない。
だが光井はリンリンが何かを知っていることを確信していた。
全国大会の概要を初めて見たとき。
出場高校の一覧を初めて見たとき。
リンリンの顔には明らかに驚きの表情があった。
332 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:42
間違いない。
リンリンは中国から来たあの学校のことを知っている。
そしてそれは―――きっとジュンジュンにも関係している。
決定的な意味で。

「リンリンは知ってるんやろ? あのジュンジュンにそっくりなサイボーグのこと」

光井は確信している。
リンリンが何か知っていることを。光井の問いに対して答えてくれることを。

そしてリンリンの答が、自分達―――特にジュンジュンにとって
良からぬ事態を引き起こすことを。
光井は確信していた。

だが詰問せずにはいられなかった。
田中も小春もジュンジュンも、黙ってリンリンの顔を見つめている。
リンリンはゆっくりと口を開いた。
333 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:42
「あれは中国では『リーチュン』と呼ばれているサイボーグです」

リンリンは力なく笑いながらそうつぶやいた。
彼女は日本に留学に来る前にはペキン素粒子解析女子高校に在籍していた。
そしてそこでサイボーグ開発プロジェクトに参加していたらしい。
だが開発の方向性の相違からリンリンはそのプロジェクトから去った。

何がどう違うのかは上手く言えない。
だがリンリンが作りたい物ではなかったことは確かだった。
そう。リンリンが作りたいのは「物」ではなかった。
もっと、より「人」に近いサイボーグを作りたかった。
感情を持ち、我侭で、理不尽で、身勝手で、気分屋で、自我を持った存在。
人間的な矛盾や無駄が多いかもしれないが、その分とびきりチャーミングな存在。

だが国家的なプロジェクトの中で、
そんな論理的に破綻した機械を作ることは許されなかった。

リンリンは高校を去り、単身海を越えて日本に活動の場を移した。
334 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:42
リンリンの独白が終わった。
ジュンジュンは瞬き一つせずにリンリンの話を聞いていた。
サイボーグには瞬きなど必要ないはずであったが、
ジュンジュンの目は真っ赤になっていた。

「ジュンジュンは、自分のことが好きカ?」

リンリンの問いかけに、ジュンジュンは答えなかった。
目を閉じ、下を向き、両手の拳を強く握り締めていた。
自分自身の存在を全身で受け止めていた。
感情を持ち、我侭で、理不尽で、身勝手で、気分屋で、自我を持った自分。
人間的な矛盾や無駄が多いかもしれないが、その分とびきりチャーミングな自分。

「ジュンジュンは、自分のことが好きカ?」

普段なら何のためらいもなく言えるはずの答が、その時はなぜか言えなかった。
335 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:42
「ジュンジュンは、リーチュンには勝てナイ。絶対勝てナイ」

リンリンは興奮するわけでもなく、自嘲するでもなく、
いつものリンリンのように冷静にそう言った。

「リーチュンには、ジュンジュンのような武器は一つもないデス。
 グレイトファイアーハンドもスーパーリフトアームもない。
 足の裏にジェットもついてないし、超伝導電磁石も装備していないでショウ。
 でもリーチュンは最強です。ただ動き、働くということだけなら最強なのです。
 リーチュンには無駄なものなど一つもついていない。全く無駄がないのデス。
 きっと誰も勝てない。少なくともジュンジュンでは勝てないデス。絶対に」

もう一度、リンリンは自分に言い聞かせるように言った。

「今のジュンジュンでは、リーチュンに勝てナイ。100%勝てナイ」

リンリンの言う「100%」は重かった。
それは数学的な意味で100%だった。
336 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:43
「ジュンジュンは、自分のことが好きカ?」

リンリンはもう一度尋ねた。
なぜか光井にはそれが死刑宣告のように聞こえた。
「100%勝てない」という言葉よりも、ずっとずっと残酷に聞こえた。

答えないで。答えないでジュンジュン。

光井は心の中でそう叫んだ。
勿論、それを声にすることはできなかった。
「答えないで」という言葉自体が、
今のジュンジュンを否定することになってしまうから。
337 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:43
「ワタシは勝ちたい」

ジュンジュンは目を見開いてはっきりとそう言った。
涙はなかった。涙の気配すら見せなかった。
ただ強い意志の力のみがそこにあった。

「感情的にならナイ。我侭も言わナイ。理不尽なことも、身勝手なこともしナイ。
 気分屋なところは改めるし、自我を捨ててもイイ。チャーミングじゃなくてもイイ。
 無駄なこと、意味のないことは全てやめマス・・・・・・・ダカラ」

これがリンリンの期待した答なのだろうか。
これが日本までやってきて作りたかったものなのだろうか。

「だからワタシは勝ちタイ。勝ってみんなでハワイに行こウ」

ジュンジュンの顔からはゆっくりと表情が消えていく。
表情の全くない、全く魅力のない、マネキンのような顔でジュンジュンは言った。

「ジュンジュンはお留守番でいいカラ」
338 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:43
「ばっかもーん!!」

れいなは激怒した。突然だった。爆発した。
リンリンを裏拳で殴りつけ、エルボーで鎖骨を砕いた。
リンリンは何一つ反応することができず、殴られるまま床に倒れた。

「なーにが『100%勝てナイ』じゃ!! アホかお前は!
 そんなもん、やってみなけりゃわからんやろうが!
 なにが国家的プロジェクトじゃ! なにが方向性の違いじゃ!
 そんなもん知らん! 関係なか! ジュンジュンはジュンジュンじゃ!
 リンリンのおもちゃじゃなか! 道具じゃなか! 仲間やろうがボケェ!」
339 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:43
れいなは返す刀でジュンジュンにも襲い掛かった。

ギブスのついた足でジュンジュンの首を思いっ切り蹴る。
手加減はなかった。サイボーグでなかったら首が折れていただろう。
ジュンジュンはスタンドから派手に転げ落ちた。
パンツが丸見えになったが、れいなは見向きもしなかった。

「お前もお前じゃ! なーにが『チャーミングじゃなくてもイイ』じゃ!
 元々全然チャーミングじゃないわ! うぬぼれんなこの団子っ鼻!
 感情的じゃなくて我侭じゃなくて身勝手じゃなくなったらお前は誰なんじゃ!
 ジュンジュンじゃないんか! そんなんやったら生きてる意味ないわ!
 今まであたしらとしてきたことは何なんじゃ! 全部意味なかったんか!!」
340 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:44
れいなは完全に我を失っていた。
何も考えずにただ思い付いた言葉を片っ端から吐き出していた。
ジュンジュンとリンリンの二人を燃えるような目で睨みつける。

「だいたいホンマに勝つ自信ないんか! やる前から負けてるんか!
 お前ら二人で勝手に諦めんなや!! 
 むかつく! ふざけんな! 小春! 旗!」

突然呼ばれた小春は慌てて持ってきた横断幕を広げた。
そこには綺麗な文字でこう書かれていた。


バリバリ教室 〜小春ちゃんいらっしゃい!〜


「ま、間違えました」
何をどう間違えたのだろうか。
ていうかその横断幕はいつ何に使うんだ。もう二度と使わないだろうが。
ともかく小春は慌ててもう一つの横断幕を広げた。
そこにはコミカルな字体で応援の言葉が書かれていた。


川´・_o・)<めざせ全国制覇! 勝つぞUFA女子高物理部!
341 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:44
「絶対勝てない? 今のジュンジュンのままじゃ勝てない?
 お前らはこの旗を見てもそんなことが言えるんか。
 あたしの前でそんなことが言えるんか。
 小春の前で、光井の前で、そんなことが言えるんか。
 自分で勝手に勝てないと決めて尻尾を巻くんか。諦めるんか。
 そんなやつはいらん! そんなやつはこの物理部にはいらんわ! 
 邪魔じゃ! いらん! 帰れ!!」

れいなに蹴っ飛ばされたジュンジュンは、
床に尻餅をつきながら、れいなの言葉をじっと噛み締めていた。
つぶらな瞳からほうほうと大粒の涙が零れ落ちた。

リンリンは折れた鎖骨を気遣うこともせずに、ただ呆然と床を見つめていた。
反論の言葉は一言も出てこなかった。
342 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:44
「時には議論ではなく実践が必要なときがある」
茫然自失の状態のリンリンに光井が声をかけた。

「そう教えてくれたのはリンリンじゃない」

光井の言葉がリンリンとジュンジュンの心にしみこんでいく。
リンリンは何も答えない。
ジュンジュンも何も答えない。
だが二人の表情にはもう迷いはなかった。

「ふん! お前らが何をどう言おうが結論はもう決まってるんじゃ」
れいなは断固とした口調で言った。
「UFA女子高等学校物理部は勝つ! 絶対にかあああああっつ!!」
物理部部長の一声で五人は一斉に立ち上がり、手に手を重ねた。

「さあ、みんな! 勝利目指してー・・・・・行くぞー!!」
「オー!!」
343 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:44


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

  
344 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:45
UFA女子高等学校は、健闘虚しくペキン素粒子解析女子高校に敗れた。

国家の威信にかけて作られたリーチュンはやはり強かった。
そのまま圧倒的な強さで大会を制した。

「あーあ。せめて決勝戦で当たっていたら準優勝だったのになー」
小春が身も蓋もないことを言った。
だが言葉とは裏腹に小春の表情は明るかった。
他のメンバーも意外とさばさばとした表情だった。
やることはやったんだという充実感だけが五人の心に残っていた。

とにかく丸二日間をかけて2008ロボットコンテストは終了した。
そして全国の物理部員の熱い夏が終わった。
345 :10.な く な J J :2008/08/30(土) 21:45


大会を最後にれいなとリンリンは物理部を引退した。

  
346 :名無飼育さん :2008/08/30(土) 21:45
347 :名無飼育さん :2008/08/30(土) 21:45
348 :名無飼育さん :2008/08/30(土) 21:45
349 :名無飼育さん :2008/08/30(土) 21:48
レス返しです



>>322
まさかそのネーミングに笑ってもらえるとは思いませんでした。
人それぞれ笑いどころというものは違うものですねえ。
ちなみにイバラギケンにあるものは「夢」です。


>>322
大量更新ですか。確かに一回の更新にしては多いかもしれませんね。
読者にとってどの程度が一番読み易い量なのか。
その辺りは難しいところですねえ。
350 :名無飼育さん :2008/08/31(日) 04:41
れいなが部長らしく見えました。
かっこよかったです。
351 :名無飼育さん :2008/09/07(日) 20:41
352 :11.さ ら ば J J :2008/09/07(日) 20:41
暑い九月が終わった。
夏はまだかすかに暑さを残していたが、
それは九月のようなじっとりとしたしつこい暑さではなく、
どこか秋を予感させるような透明な暑さだった。

受験を控えた三年生達がいるホンコウは
独特のピリピリとした空気が日に日に高まっていた。

一方、一年生どもがたむろするシンコウの方はというと、
この期に及んでもまだ夏休み気分が抜けずにいるようで、
そこかしこの生徒がダラダラと腑抜けたままの生活を送っていた。

そしてその二つの校舎の間に位置するセンキョウ。
そこには他の二つの校舎にはない新鮮な高揚感が漂っていた。
353 :11.さ ら ば J J :2008/09/07(日) 20:41
センキョウの上から下まで入っている文化部の陣容は、
この十月からすっかり代替わりをしていた。

全ての部で三年生が引退し、二年生が役職についていた。
ちょっと前までは新入生扱いだった一年生も、
しっかりとした中堅メンバーとなることを要求された。

役職には役職としての役割があった。
「最年長だから」というだけの理由でリーダーになる人間などいない。
そんな馬鹿げた理由で決めるのは、
適任者がいないということの良い証左である。

新たに部長に選ばれた人間は、さっそく部の雰囲気を変えようとしていた。
上の人間が変われば、下の人間も変わる。
人間が変われば雰囲気も変わる。
もう、かつての三年生が割り込んでくるような余地はなかった。

それは物理部も例外ではなかった。
354 :11.さ ら ば J J :2008/09/07(日) 20:42
「もうちょい電圧上げて」
「オッケー」

かつてリンリンが座っていた椅子には光井が座っている。
かつてれいなが腰掛けていた机には小春が腰掛けている。
物理教室には何とも言えない緊張感が満ちていた。
これまでの物理部にはない雰囲気だった。

これも部長となった小春の人間性がもたらしたものだろうか。
それとも副部長となった光井の人間性によるものだろうか。
小春も光井も真剣だった。
少なくとも彼女達は「アットホームな物理部にしたい」などという
ぬるい考え方は持っていなかった。
ひりひりと痺れるような危険な実験を繰り返していた。

二人は物理教室の中央で寝ているジュンジュンの体には
無数のクリップがつけられており、それらは蜘蛛の巣のように配線を伸ばし、
光井と小春の横にある怪しげな機器につながれていた。
355 :11.さ ら ば J J :2008/09/07(日) 20:43
「じゃ、この問題が解ける人」
「はいはいはーい!」

物理教師が黒板に書いた問題に向かってれいなは勢いよく手をあげる。
リンリンは授業など聞かずに、
机の上に広げた難関問題集を一心に解いていた。

放課後の補修は理系の人間は必修とされていた。
二人が大学入試を受けるのは四ヶ月ほど先のこととなる。
だが既に受験戦争は終盤戦に入っていると言ってよかった。

遊んでいる暇はない。大好きな2ちゃんねるをやっている暇もない。
彼女達は狼に容量埋め立て荒らしが出没していることも知らなかった。
矢島スレだけではなく無差別に絨毯爆撃を繰り返していることも知らなかった。

今の物理部がどういう状況ということすら知らなかった。
あの大会が終わってから、二人は一度も物理教室に顔を出していなかった。
356 :11.さ ら ば J J :2008/09/07(日) 20:44
ゆっくりと上昇を続けていたメーターのデジタル数値が、
何の前触れもなく一気にオーダーを上げる。
今まで二人が見たこともないような数値だった。

光井が「止めて!」と言うのと小春が「ひょえええ!」と叫ぶのが同時だった。

加えて言うなら―――
ジュンジュンが着ていた不思議な色のワンピースから、
天井に向かって数億ボルトの電流が放出されるのも―――
それと同時だった。

ばりばりばりばりばりばりばり
357 :11.さ ら ば J J :2008/09/07(日) 20:44
れいながまさに問題に答えんとした瞬間。

怪獣が吠えるようなけたたましい咆哮が教室に聞こえてきた。
まるで素になったときの高橋愛の唸り声のようだった。
生徒達は我先にと窓に向かい、センキョウの方へと目をやる。

センキョウの屋上から空に向かって巨大な雷が舞い上がっていった。

それをちらりと見ながらリンリンは、
そろそろ一度物理部の方へと顔を出さなければと思った。
小春と光井に言っておかなければならないことが一つあった。
十月が終わるまでに行かなければならない。
それがギリギリのタイムリミットだ。

リンリンは立ちすくんでるれいなの方を見た。
彼女の方から光井と小春に伝えてもらうような話ではない。
自分の口から言わなければならないことだと、リンリンは思った。
358 :11.さ ら ば J J :2008/09/07(日) 20:44
なお、この事件は後に「十月の逆雷事件」と呼ばるようになり、
留年生が張り切って難問に答えようとすると、逆さ雷が発生するという
UFA女子高等学校の七不思議の一つとして末永く語り継がれていくのだが、
それはまた別のお話。


余談の余談だが、れいなの回答は思いっ切り間違っていた。
359 :11.さ ら ば J J :2008/09/07(日) 20:44


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

  
360 :11.さ ら ば J J :2008/09/07(日) 20:44
十月の最後の週がやってきた。
リンリンは重い腰を上げ、れいなと共に物理学教室に向かった。
れいなは嫌がった。
「もう引退したけん、ええやん」と言って異常に行くのを嫌がった。
れいなはリンリンが何をしようとするのか知っていた。

リンリンはドナドナを歌いながら
そんなれいなをずるずると引きずり、物理学教室の扉を開けた。
もちろんれいなを売りさばくためではなく、小春と光井と話をするために。

扉の向こう側から、小春と光井がびっくりした表情を見せた。
その向こうにはセパレーツの水着を来たジュンジュンの姿があった。
361 :11.さ ら ば J J :2008/09/07(日) 20:45
「ちょwwwww違う違うwwwwこれはああああはははwwwwww」
「じ、実験ですがな! 実験実験! ジュンジュン! はよ服着て!」

なんの実験やねん。
リンリンは心の中で関西弁で突っ込んだ。
光井の影響だろうか。関西弁恐るべし。
半年弱しか一緒にいなかったのに随分な影響力である。

光井と小春の狼狽のしようはかなりのものだった。
本当に一体何をやろうとしていたのだろうか。
ジュンジュンの方もかなり際どい水着姿でノリノリの感じだった。
まあ、実験ではないことだけは確かだろう。

部室に来るのを嫌がっていたれいなの目が急に輝きだす。
れいなはこの手のエッチな匂いのする実験が大好きだった。
エッチの匂いがする実験というか、エッチそのものが好きだった。

「ね、ね、なんの実験? れいなも手伝おっか!? やらせてやらせて!」
362 :11.さ ら ば J J :2008/09/07(日) 20:45
れいなが実験の手伝いを申し出た瞬間、光井と小春は黙り込んだ。
それを見たれいなは頬をぷぅと膨らませる。
なんねなんね。またいつもみたいに仲間外れ?
小春とみっつぃーはいっつもそうやってれいなに意地悪するけん。
そう言って昔のように二人の間に割り込もうとしたれいなを、リンリンが止めた。

「田中さん。田中さんはもう引退したんですカラ」

れいなの体が凍った。その場から一歩も動けなくなった。
光井と小春は何も言わなかったが、目はリンリンの言葉に同意していた。
決して意地悪している目ではなかった。
嫌っている目でもなかった。
むしろ最大限の気遣いが込められていた。

だからこそ、それが一層れいなの心を冷たいものにした。
363 :11.さ ら ば J J :2008/09/07(日) 20:45
「ふん。わかっとるもん。それくらい。
 れいなかって来たくてここに来たんやないもん!
 リンリンが一緒にここに来いって言ったんやろーが!」

リンリンが部室に来ようって言った?
光井と小春は不思議そうな顔をする。
理論と論理を愛するリンリンが意味のない行動をするとは思えない。
ただ昔を懐かしむために部室に来たのではあるまい。

「リンリン、何か用事があったん?」
「事務的な連絡か何かですか?」

二人の質問に答えて、リンリンは用件を告げた。
リンリンとれいな、あくまでも二人の合意事項だと。
物理部としての決定だと言って用件を告げた。

「私は中国の大学を受けます。卒業したら中国に帰ります」

それは確かに―――ある意味事務的な連絡だった。

「ジュンジュンも一緒に連れて帰ります」
364 :11.さ ら ば J J :2008/09/07(日) 20:45


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

  
365 :11.さ ら ば J J :2008/09/07(日) 20:45
十一月になるとリンリンは中国に帰国した。
中国の大学を受けるのに、日本で勉強していても仕方がない。
向こうで受験の準備をするらしい。

「卒業式のときにまた顔を出しマス」

リンリンは、空港まで見送りに来た光井と小春にそう言い残して、
飛行機に乗っていった。
ジュンジュンは一緒ではなかった。
パスポートを持っていないジュンジュンは、
バラバラにしてパーツの状態で航空便で中国に送るらしい。
光井と小春はさよならを言いそびれてしまった。

れいなは見送りに来なかった。

またあの人は遅刻したのかな?と思って、
光井と小春は空港で夜までずっと待っていたが、れいなはとうとう現れなかった。
366 :11.さ ら ば J J :2008/09/07(日) 20:46



リンリンが中国へと帰っていってから数週間後。
物理部にある手紙が一通届けられた。


手紙を読んだ光井と小春は、
その日から連日連夜、ある一つの作業に没頭していった。
367 :11.さ ら ば J J :2008/09/07(日) 20:46


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

  
368 :11.さ ら ば J J :2008/09/07(日) 20:46
―――そして卒業式の日がやってきた。
369 :名無飼育さん :2008/09/07(日) 20:47
370 :名無飼育さん :2008/09/07(日) 20:47
371 :名無飼育さん :2008/09/07(日) 20:47
372 :名無飼育さん :2008/09/07(日) 20:49
レス返しです



>>350
かっこよかったですか。ありがとうございます。
部活における部長の存在はけっこう大きいと思います。
そういう雰囲気が伝わったなら嬉しいです。
373 :名無飼育さん :2008/09/13(土) 20:18
374 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:18
朝から強い雨だった。
UFA女子高等学校の卒業式の日がやってきた。
卒業式の日だったが―――夜はまだ明けていなかった。

小春と光井は、中国から届いたメールで、
リンリンが既に中国随一の名門大学に合格したことを知っていた。
念の為に滑り止めに受けた東大理Tにも軽く受かったらしい。
やはり彼女は並の頭脳ではなかった。

れいなは志望校に落ちた。
かろうじて卒業への単位は足りたので、二留することは避けられてた。
ていうか高校で二年も留年する人なんていないよねえ。
ネタ小説の中でもいないよねえ。普通はねえ。そうだよねえ亀井さん。

れいなは「流しの物理学者になるけん」という捨て台詞を残して学校から去った。
負け犬だった。遠吠えだった。
その日からぷつりと学校に来なくなり、この町からも姿を消した。

誰も探さなかった。
375 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:18
「リンリン!」
「おー! 小春さん!」
「ジュンジュン!」
「光井。ひさしぶり」

四人は式の会場となる体育館前で久しぶりの再開を果たした。
ようやく夜が明けてきた学校には、まだ一人の人影も見られない。
どうやらそこには四人しかいないようだった。

「びっくりしましたヨ」
リンリンはにやにやと笑いながら一通の手紙を取り出す。
そこには古めかしい文字で「果たし状」と書かれていた。

「まさか二人からこんなものが届けられるとはネ」
リンリンがそう言うと光井と小春は目を丸くした。
「え!? 果たし状?」
「そんなの送った覚えないよ!」
376 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:19
「リンリン、何の冗談を言ってるん?」
「果たし状を送ってきたのはそっちじゃない!」

今度は小春がカバンから手紙を取り出した。
そこには全く同じような字体で「果たし状」と書かれていた。
リンリンが中国に帰った後に送られて来た手紙だった。

そこには「卒業式の朝に体育館で待つ」と書かれていた。
もし物理部の心を引き継ぐ気があるのなら―――
その日その時その場所に自作のロボットを持参して来い。
勝負の方法は言わずともわかるであろう。
勝負だ。
逃げるなよ。

果たし状にはそう書かれていた。
377 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:19
今度はリンリンが持っていた手紙を広げた。
そこにはこういう内容のことが書かれていた。

我々は卒業式の日にジュンジュンを超えるロボットを作ってくる。
もしお前たちが物理部の心を忘れずに持っているのなら―――
その日その時その場所にジュンジュンを連れて体育館までやって来い。
勝負の方法は言わずともわかるであろう。
勝負だ。
逃げるなよ。

「この手紙が一ヶ月ほど前に届きまシタ。光井さんと小春さんの名前で」
「えー! なにそれー!」
「そんな手紙は出してなーい!」

だが四人が不思議な顔をしていたのもほんの数秒のことだった。
こんなことをしそうな人間はたった一人しかいない。
あいつだ。

四人は黙って頷きあいながら、体育館に向かった。
378 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:19
体育館は前日から卒業式の準備がされていた。
一面にパイプ椅子が並べられてるはずだった。
だが今はその中央が綺麗に片付けられており、ミニバスケのコートが作られていた。
コートの両端には見覚えのあるカゴが二つ。
コートの中央には5つのバレーボールが丁寧に並べられていた。

「やっぱり」

それを見た四人の顔には、あきれるような、嬉しいような、
そして懐かしいような複雑な笑みが浮かんだ。
あいつが真夜中に一人でこの準備をしたのだろう。

その情景を想像すると、笑みがもれずにはいられなかった。
379 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:19
「じゃ、あたし達も準備するから」
光井がそう言って小春と連れたってセンキョウの方へ消えた。
二人が製作したロボットを持ってくるのだろう。

「あの二人、どんなロボット作ったのかナ? ちょっと楽しみですネー」
「ジュンジュンよりも強かったりして!」
「アハハハハハ。それはナイそれはナイ。アハハハハハ」

リンリンの余裕の笑いは、5分後に雲散霧消することになる。
380 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:19
光井たちが作ったロボットは、体育館に入ってくるのに苦労した。
そのロボットはあまりにも大きかった。
身長は2m以上あった。
そして頭部が異常なまでに大きかった。
その頭部は―――小型の冷蔵庫くらいの大きさの巨大スライムだった。

「オー!」
「そのロボットは!」

ジュンジュンとリンリンが同時に叫んだ。
あの頭部は、間違いなくあの文化祭の時の巨大スライムだ。
頭から下の部分は異様にスレンダーだった。
頭と体のバランスが明らかにおかしい。
肌はマネキンのような奇妙な質感を持った肌だった。
381 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:20
さすがにリンリンも驚いた。
光井のコントローラー操作でスライムロボットは器用に歩いている。
2mを超えるスレンダーボディが闊歩する様はなかなか見ごたえがあった。
それにしても、まさかあのスライムを再利用するとは!

「名づけて!」
「出戻りサイボーグ・コンコン!」

それ以上は何も言うまい。
382 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:20
光井と小春がそう叫んだ瞬間、体育館の照明が落ちた。
カーテンを閉め切った体育館内は暗闇に包まれる。
だが四人は全く慌てなかった。
誰が照明を切ったのかはわかっていた。
四人がコートのところにいる以上、照明のスイッチをいじれるのはあいつしかいない。

「ふん! どうやら役者が揃ったようやね!」

カッ!とフットライトが閃き、体育館の舞台の上を照らす。
舞台の上には、当然のように流しの物理学者が立っていた。
古い西洋の甲冑のようなものを身に付けた小柄な物理学者が叫ぶ。

「サイボーグれいな! 見参!」

れいなは両足でしっかりと立っていた。
ジュンジュンに折られた大腿骨は完治したようだ。
383 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:20
れいなはとおー!と言いながら舞台から飛び降り、
カッシャンカッシャンと軽快なステップでコートに向かってくる。
どうやら甲冑は、卒コンの時の吉澤並の軽量化に成功したようだ。

れいなもただ遊んでいたわけではない。
リンリンとJJが帰国した後、れいなはすぐさま両者に果たし状を送った。
そしてれいなも密かにこの日のために甲冑に特殊な改良を加えていたのだ。
本気だった。リンリン達にも小春達にも勝負を譲る気はなかった。
勝つ。勝つ。絶対勝つ。

「お前ら! ルールはあの大会と同じやけん! 説明は必要ないやろね!」

JJ陣営とコンコン陣営が同時に頷く。
あの大会のルールなら今でもはっきりと覚えている。
多分一生忘れない。
384 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:20
「れいなが負けたら! お前らにはれいなの宝物をやる!」

れいなはそう言って後ろから大きなパネルを取り出した。
きらりちゃん等身大パネルだった。

いらねー

四人は心の中で一斉にそうつぶやいた。
そういえばいつの間にか物理準備室から消えていたが・・・・・
まだ捨てていなかったのかよ・・・・・・
385 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:20
「れいなが勝ったら! お前らにはれいなの言う通りにしてもらう!」
「ええええええー!」
「えええええええええええ!!」
「なにそれー!!」
「めっちゃ不公平な条件やないですか!」

そんな話は聞いていない。果たし状にも書いていない。
四人は大きなブーイングをあげた。
だがれいなはそれを完全に無視して話を続けた。
無視するのも無視されるのも慣れた感じの話し方だった。

「リンリン! ジュンジュン!」
「ハイ」「ハイ」
「お前らには日本に帰ってきてもらう!!」
「えええ!!」
「オー」

これには小春と光井も驚いた。
他人の人生を変えてしまおうというのか。
れいなにそんな権利などあるのだろうか。
だがれいなの目は「そんな権利がある」と信じて疑っていない目だった。
386 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:21
「小春! みっつぃー!」
「はい」「はい」
「お前らには流しの物理学者になってもらう!」
「は?」
「え?」

意味がよくわからないが、くどくどとした説明を聞いてみると、
どうやられいなの友達になって、
卒業後も学校の外で時々れいなと遊んで欲しいということを
遠まわしに言っているようだった。

絶対嫌です!と断固拒否しようとした小春を遮って、光井が言った。
「ええですよ。流しの物理学者でも友達でもなんでもなりましょう!」
売られた喧嘩は買う。光井は一歩も下がらなかった。

「ちょっとみっつぃー勝手に何言ってんのよ!『友達』の意味わかってんの!?」
「わかってるがな。勝ったらええねん」
「だけどさー、友達っていうのはちょっとさー」
「ええやん。今日くらいは堂々と勝負しようや」
387 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:21
「ちょっと待ってください。その条件は不公平デス」
不満を唱えたのは意外にもジュンジュンだった。

「私が負けたら、田中さんの言うこときいてもイイ。
 だから私が勝ったら、田中さんも私の言うことをきいてホシイ」

ジュンジュンの言うことは正論だった。
リンリン譲りの理路整然とした意見だった。
今は流れの物理学者に身をやつしているとはいえ、田中も元は物理部部長。
ジュンジュンの要求を断る理由はなかった。

「ええよ。あたしが負けたら何でも言うこときいたるけん」
「じゃあ、光井さんたちもそれでいいですカ?」
「ええで。あたしが負けたらなんでもジュンジュンの言うこときくわ」

表面上は安請け合いのオンパレードだった。
だが三者が三者とも真剣だった。
お遊びで冗談を言っている気は全くなかった。
この一瞬が人生において重要な瞬間だということを、本能で理解していた。
388 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:21
「あたしが勝ったら、田中さんには中国に来てもらいマス!」
「えー、それは嫌だー。なんか面倒くさいー」

ジュンジュンは田中を本気で蹴ろうかと思った。
また大腿骨を折ってやろうと思った。かろうじて耐えた。
蹴るのは試合が始まってからでもできる。ていうか蹴ろう。蹴る。そう思って耐えた。
ジュンジュンは小春と光井に向かって言った。

「あたしが勝ったら、二人にも中国に来てもらいますヨ」

行けるわけがない。理不尽な要求だった。だが光井は嬉しかった。
ジュンジュンが、田中や小春や光井を必要としていることが嬉しかった。

田中やジュンジュンの要求は、非常に我侭で理不尽で身勝手なものだったが、
それだけにより一層、真剣さや切実さを感じた。
理不尽でも構わない。理屈よりも大切なものがそこにある。
光井はそう感じた。

「ええやろう。行ったるわ。中国でも握手会でもどこでも行ったろうやないか」

ルールは決定した。
光井と小春からは特に要求は出さなかった。
戦いに勝利することで、二人の卒業生とジュンジュンへの餞とするつもりだった。
389 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:21
サイボーグJJとサイボーグれいな。そしてサイボーグコンコン。
三体のロボットがコートの隅に散った。

審判として笛を吹くのはリンリン。
光井はサイボーグコンコンのコントローラーを握る。
小春は持ってきた横断幕を広げた。


川´・_o・)<めざせ全国制覇! 勝つぞUFA女子高物理部!


小春は勿論、光井と二人で作ったサイボーグに勝ってほしいと思った。
だが物理部の一員として、一体誰を本気で応援しているのか、
小春にもよくわからなかった。
とにかく全員がベストを尽くして、本気で戦うことが大事なんだと思った。

あの夏のときのように。
390 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:21
「用意! はじめ!」

一切フェイントをかけることなく、リンリンは開始の笛を吹いた。

ジュンジュンは一切、手加減する気がなかった。
後のことなど考えず、最初からフルエネルギーで勝負をかけてきた。

「JJマックスパワー超伝導電磁石! オン!」

ジュンジュンの体内のコイルに強大な電力が蓄積されていく。
これでエネルギーを増幅してから、JJウルトラライトニングボルトを放つのが、
ジュンジュンの最強の攻撃パターンだった。

勿論、れいなや光井達もそれは知っていた。
391 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:21
サイボーグれいなはボールに向かって走りながら叫ぶ

「ミラクルアーマーリバース! オン!」

れいなの着ていた甲冑が不思議な色の輝きを放ち始める。
元々、ジュンジュンが着ていたミラクルワンピースはれいなが作ったものだった。
ミラクルアーマーはそのアップグレードバージョンとなる。
ワンピースの100倍のエネルギーを吸い込んで弾き返すことが可能だった。
ウルトラライトニングボルトですら吸い込んでしまおうという気らしい。

光井はサイボーグコンコンをカゴの下へと移動させながら叫ぶ。

「ドザペクト比率解除!!」

するとコンコンの輪郭がぐにゃりと溶けた。
スレンダーだったボディはみるみるうちにぼってりとしたスライム状になった。
2mを超えるボディは1mほどの高さになり、
体の周りを完全絶縁体である特殊スライムが覆い尽くした。
これでウルトラライトニングボルトを受け流すつもりだった。
392 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:22
リンリンはそんな二体のロボットの動きを、ニヤリと笑いながら見つめていた。
どうやらそう簡単には勝たせてくれないらしい。
いやいやいや。それでいい。そうこなくては。
それでこそUFA女子高等学校の物理部というものでしょう。

宇宙の真理を追い求める物理の道は、長く苦しい茨の道。
勝利などありはしない。
人が生き続ける限り、いや、宇宙が存在する限り、それは永遠に続く。

そう。
物理学者たるもの、この道を永遠に歩き続けなければならない。

でも一人で歩いていると、辛いし苦しいときもある。
一緒に歩いてくれる人がいればそれに越したことはない。
その場所が、たとえ中国であっても、日本であったとしても。

一緒に歩いてくれる友達がいるのなら。
それに越したことはない。

もしかしたらそれは、宇宙の真理よりも大切なものかもしれない―――
393 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:22
ジュンジュンにもわかっていた。
サイボーグれいなとサイボーグコンコンが、
JJウルトラライトニングボルト対策を立てていたことを。

だがジュンジュンに躊躇いはなかった。
細かい計算もなかった。
ただひたすら、自分の持っているエネルギーの全てをぶつけようと思った。
強く、強くそう思った。
ジュンジュンは自分の思いの全てを、あらん限りの叫びに託して解き放つ。

「JJウルトラライトニングボルト!! オーン!!」

両手から放たれた改良型ウルトラライトニングボルトは、
二匹の巨大な黄金の翼竜となって二体のサイボーグに襲い掛かった。
394 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:22
体育館は轟音を立てて跡形もなく吹き飛んだ。
395 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:22


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

  
396 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:23


やがて新しい春が来て―――


そして新しい夏がやってきた

 
397 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:23
2009女子高ロボットコンテストの南関東予選会場にれいなは来ていた。
前年度優勝高のUFA女子高等学校は他校の厳しいマークにあいながらも、
なんとか予選、そして準決勝を突破し、決勝戦へと駒を進めていた。

光井と小春は決勝戦に向けてロボットのメンテナンスに余念がなかった。
そこにあるのはサイボーグコンコンではなく―――
新型サイボーグのガキさん3号だった。

リンリンの手のかかったスライムを使ったロボットでは、
厳密な意味では自分達の代のロボットとは言えない―――
光井のこだわりが作り出した新型のロボットだった。

「おーい! みっつぃー! 調子どう? どう? どうよ?」
光井は下級生達に入念な指示を送る。

「なんね! みっつぃー! 無視すんな!」
決勝までの時間は残り少ない。

「おいコラ! みっつぃー!」
一分たりとも無駄にはできなかった。

「みっつぃー! れいなだよー!」
一分たりとも・・・・
398 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:23
「もう・・・・田中さん勘弁してくださいよ。忙しいのはわかるでしょ?」
「なんね! 友達になるっていうあの時の約束を忘れたんか!」
「友達じゃないでしょ! 流しの物理学者でしょ!」
「なんね。理屈こねてからに」

作業に没頭する光井に代わってれいなの相手をする小春だったが、
正直言って、この図々しいOGをもてあましていた。
れいなは浪人生なので今年の大会には参加できない。
女子高部門にも。大学生部門にも。
れいなはそれが悔しかった。

れいなの隣には大学生部門で全国大会出場を決めた、
東大物理サークルのメンバーのリンリンが座っていた。
それも少し気に入らなかった。

長い手がすうっと伸びてれいなの耳をつねる。
「うひぃ」
399 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:23
「田中、うるさい。みっつぃーの邪魔しちゃダメ」
耳をつねったのはジュンジュンだった。
バーカ、バーカと文句を言うれいなを無視して、
ジュンジュンはやたらとファスナーの多い前衛的なカバンからカメラを取り出す。
熱心に作業を続ける光井の姿をじっと映していた。

彼女もリンリンの友達として大学のサークルに出入りしていた。
だが高校のときのようにサイボーグとして出場するつもりはないらしい。

「あの時が最初で最後です」

リンリンが出場を打診したときにジュンジュンはそう言った。
もはやジュンジュンはサイボーグではなく普通の人間と変わらなかった。
それでいい。
リンリンもそう思った。
400 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:24
あの時の暑い夏は人生で一度しかない。
もう二度とやってこない。

リンリンはまぶしそうな表情で光井や小春を見つめる。
空調のあまり効いていない会場は、人の熱気ですごい暑さだった。
スパナを握る光井の顔からは滝のような汗がしたたる。
大きなうちわをパタパタと扇ぐ小春の背中も汗でびしょぬれだった。

リンリンはその姿に昔の自分を重ねた。
必死で汗を流す彼女達が心底うらやましかった。
そんなことをぼんやりと考えていたリンリンに、れいなは大きな声をかける。
「さあリンリン! そっちの端を持って!」
れいなは下級生の子から取り上げた横断幕をバッと広げる。


川´・_o・)<めざせ全国制覇! 勝つぞUFA女子高物理部!


小春が書いた落書きは消されずにそのまま残っていた。
ジュンジュンはそれを見て思わず苦笑いを浮かべた。
401 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:24
やがて休憩時間終了のベルが鳴った。

部長の小春を中心に円陣が組まれる。
差し出した小春の手に部員達の手が重ねられる。

「さあ、みんな! 全国大会にー・・・・・行くぞー!!」
「オー!!」
402 :12.さ け べ J J :2008/09/13(土) 20:24

 

そしてまた新たな物理部員たちによって新たな熱い夏が始まる。

 
 
403 :名無飼育さん :2008/09/13(土) 20:24
404 :名無飼育さん :2008/09/13(土) 20:25

 サ イ ボ ー グ J J



       完
405 :名無飼育さん :2008/09/13(土) 20:25
ご愛読ありがとうございました。
406 :誉ヲタ ◆buK1GCRkrc :2008/09/13(土) 20:25
この物語はこれにて完結です。
お付き合いいただいた読者の皆さんありがとうございました。
感想や疑問などがあればこのスレに直接書いてやってください。
407 :名無飼育さん :2008/09/13(土) 20:26
408 :名無飼育さん :2008/09/13(土) 20:26
409 :名無飼育さん :2008/09/13(土) 20:26
410 :名無飼育さん :2008/09/15(月) 04:13
面白かったです!
8期の3人がこんなに活躍している小説は初めてだったので
心躍りました
411 :東工大の回し者 sage :2008/09/15(月) 14:56
茨城県はイバラキケンなんですが、冗談なんだからわざとですよね。w

それより東京工業大学なんて世の中的には思い切りマイナーな
大学の名前を出していただいてありがとうございます。(感涙)
もしかして作者さんも東工大の回し者?
412 :東工大の回し者 :2008/09/15(月) 14:57
ごめんなさい。あげてしまいました。orz
413 :homare :2008/09/15(月) 22:07
レス返しです



>>410
ありがとうございます。
私もジュンリンを描いたのは初めてなので四苦八苦でした。
自信なかったんですが楽しんでいただけたようで嬉しいです。


>>411
最初は架空の街にするつもりだったんですが・・・・・
話のなりゆきでああなってしまいました。
東工大はマイナーじゃないと思いますよ。
私は回し者どころか全く無関係な人間ですけどね。


>>412
別にageても構わないですよ。
スレをageようがsageようが私はそういうことは全然気になりません。
414 :名無飼育さん :2008/10/27(月) 01:59
今更ながら超楽しかったです
作者さんの描く文章、歯切れがよくて大好物です
みんな可愛いよみんな
また何か描いて下さいませ
415 :homare :2008/10/27(月) 23:18
>>414
今更どころか読んでもらえてすっごい嬉しいですよ。

歯切れよく書くというのは、意識して頑張って書いているので、
指摘してもらえると非常に嬉しいです。
ちょっと油断するとすぐにくどい文章になってしまうんですけどね。

さくさくとテンポよく読んでもらえたならとても嬉しいです。
416 :はしゃげJJ :2012/09/09(日) 20:52

面白かった!
417 :はしゃげJJ :2012/09/09(日) 20:53
面白かった!
418 :はしゃげJJ :2012/09/09(日) 20:53

あのな人間はな生まれてから死ぬまで長い長い橋を作るんだよ

一日一日少しずつ・・・

たまには傷つき壊れ泣くときもある

しかしそこを作り直さなければ前には進めないんだよ

だから人間は失敗して失望し泥まみれになっても前だけ向いて走るんだよ

たまには寄り道して橋を適当に作るだろう

絶望し橋づくりを止めるだろう・・・

だが人はそ れをバネにし立ち上がる

そしてまた人は橋を作る

どうせなら自分だけの素晴らしい橋を作ろうと思う

そのためには何度も失敗して・・・

何度もぶつかって

誰かに助けてもらい

自分自身の経験で学んでいくんだよ

設計図なんてどこにもない

ただひたすらに自分の思い描く通りの橋を作る

人に誇れるような・・・

そして橋から落ち最期を迎えたとき・・・

その時見た橋がきれいだと思えれば最高の人生歩んだってことだ
419 : :2013/08/05(月) 16:47
おもろいねェ
420 :若い林 :2013/08/05(月) 16:51
感動

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