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鏡に映るひとひら

1 :雪ぐま :2005/11/03(木) 00:03
雪板で『続・愛するトメっち』、紫板で『Jewel of love』を連載している雪ぐまと申します。
複数のスレを立てて恐縮なのですが、こちらでは連載とは関係のない短編をいくつか書かせていただきたいと思っています。
更新は不定期、CPもいろいろです。
どうぞよろしくお願いします。
2 :?雪ぐま :2005/11/03(木) 00:03


最初は、さゆえりれいなのお話。

 『鏡に映るひとひら』

3 :鏡に映るひとひら :2005/11/03(木) 00:04


ピクニックに行こう。
そんなふうに誘われて、
そんなのつまんないって思わないなんて、
そうとうイカレてると思うの。

「明日、絵里も誘って3人で行こ?」

そんなふうに続けたヒトコトにむかついちゃうなんて、
さゆは、そうとうれいなに、どうにかなっちゃってると思うの。
4 :鏡に映るひとひら :2005/11/03(木) 00:05

「んー、どーしよっかなぁ〜」
「なんね、忙しか?」

遊園地でもなく、海でもない。
ショッピングでもないし、おいしいケーキもなさそうで。
それでも、れいなと二人ならいいよピクニックでも。
そう思ってるのに、あーあ。

「遊園地とかなら、まだいいけど」

金曜の放課後。週末の期待にざわめく教室。
いまいち気乗りしない返事をしたさゆに、
れいなは腰に手をあてて、まるっきり勘違い中。

「3人で遊園地やと、いろいろ乗る時、一人余るやろっ」
「そうかも」
「イヤや。絶対れーなが一人で乗るはめになる」

だって、そうしないと絵里とさゆが喧嘩になっちゃう。
なんてねぇ、れいなに言うわけにもいかないし。
5 :鏡に映るひとひら :2005/11/03(木) 00:06

絵里とさゆが、先に仲良くなったんだもん。
後かられいながトコトコ近づいてきて、
ちっちゃな花火みたいにパチパチと光を散らしながら笑う。
一つしかないから、ひとりじめできないでしょ?

なんてね。
机の中から手鏡を取り出して、自分の顔を見つめた。

「うん、今日もかわいい」
「あーかわいいかわいい。で、明日!ピクニック!」
「絵里に聞いてよ」

絵里が行くなら行くよ。
唇がそう動いたあと、鏡の中の自分が、さゆだけにそっと呟いた。
だって、二人で行かせたくないんだもの。

「さゆはいっつも、絵里絵里って」

れいなはいつでも勘違い中。
さゆのココロは鏡の中なの。
ひっくり返して映してみてよ、言葉を。

ニコッと微笑んでみる。泣きそうに見えるかも。
だって現実に、さゆにはまず絵里がいて、それかられいながいる。
絵里もきっとそうなの。まずさゆがいて、それかられいなが。
6 :鏡に映るひとひら :2005/11/03(木) 00:07

お行儀悪く机の上に座ってたれいなが、
ふいにニヤッと笑って、さゆの顔をのぞきこんできた。

「さゆって、絵里のこと好いとったりして?」

鏡を見つめたまま、答えてみる。

「だったら、どうする?」

案の定、れいなは動揺したみたいにウッと顎をひいた。

「や、どーもせんけど……」
「なんでそんなこと聞くの?」
「や、別に深い意味は……」

ゆすゆすゆす。
困ったみたいにれいなの足が揺れる。
れいなは知りたいのね? さゆが絵里に恋してるかどうか。

「教えない」
「そんなマジにとらんかって」
「マジになんてとってないよ」

とってないから、教えてあげない。
さゆも知りたいことあるけど、訊かない。
れいながそんなふうに無邪気に、
いろんなこと、ごまかそうとするうちはね。
7 :鏡に映るひとひら :2005/11/03(木) 00:08

「お待たせー。ごめんね、もーハナシ長くってさぁ」


センパイに呼ばれてた絵里が、バタバタと教室に駆け戻ってきた。
れいながホッとしたように、絵里を見て笑った。

「おー、おかえりー。なんやったの?」
「ナイショナイショー」
「なんね、さゆも絵里も内緒内緒って!」
「なになに? さゆもなんかあったの?」

ううん、なんにもないよ。
鏡から顔をあげて、さゆはいつものさゆに。

「で、絵里、なんて言って断ったの?」
「うわ、やっぱバレバレ?」

絵里が赤くなって、あははっと笑う。
れいなが一人、キョロキョロッとした。
8 :鏡に映るひとひら :2005/11/03(木) 00:09

「なんね?なんのハナシ?」
「れいなって鈍感。言われたに決まってるじゃん、好きですとか」
「ちょっ、さゆ、いーよわざわざ言わなくたって!」
「うそ、マジ? すっげー! え、マジで???」

れいなが大興奮して、机をガタガタ揺らす。
絵里がますます真っ赤になって、鞄にむやみに教科書を詰め込みはじめる。
でも、まんざらでもないってふうに緩んでる口元。
それは勇気を出したセンパイのせいじゃないの。
誰かに恋されたことを、れいなに知られたからなの。
あーあ、さゆってなんて気が利いちゃうんだろ……

「やっぱなー。さゆにはバレてると思ったんだぁ」
「だってあの人、いっつも絵里のこと見てたじゃん」
「マジ?マジで? で、なに? フッたの?」
「……ウン」
「えー、なんでなんで?」

絵里は答えなかったけど、チラッと目を上げてれいなを見た。
れいなはまだガタガタと机を揺すってて、
からかうみたいに口元は笑ってたけど、
でも、なんとなく、ぎこちないふうにも見えて。
9 :鏡に映るひとひら :2005/11/03(木) 00:10

「ね、なんで?」
「……れーなに関係ないでしょ?」
「えっ、トモダチじゃん」

さゆはガタンと立ち上がって、「帰ろ」って言った。
帰ろう、3人で一緒にね。
だってトモダチだから。
10 :鏡に映るひとひら :2005/11/03(木) 00:11

秋晴れの空はとてもとても高くて、
夕暮れが落ちてくるのがもったいないくらい。
ねぇ、あの空の色、なんていう色なのかな?
そう呟きかけて、唇を閉じる。
かすかにピリピリと音をたててる、両隣の気配に。

さりげなく無口な絵里、無口なれいな。
心地よく秋風に吹かれてるふりで、てくてくと歩いてるけど、
気にしてる。気にしすぎてる、さっきのことを。

さゆは小さくため息をついて、
現実的な言葉を口にすることにした。

「れいな、明日どうするの?」
「あ、そーやった。絵里、明日みんなでピクニック」
「ぇ、ピクニックぅ〜〜???」

ほらね。
絵里は、さゆと同じ反応なの。
すごく、気が合うの。嫌になっちゃうくらい。
11 :鏡に映るひとひら :2005/11/03(木) 00:12

「つまんなくない? 遊園地とかなら、まだいいけど」
「なんでっ?! 明日も晴れやっちゅーし、外でおべんと食べたら気持ちよかよ〜」
「ワーイ、れーながつくってきてくれるの?」
「アホ! みんなで手分けするっちゃ!」

何色かわからない秋晴れの空に、鏡みたいな白い月が浮かんでる。
だからさゆは、こっそり呟いたの。
ねぇ、消えてあげてもいいよ。

「さゆ、行く?」

絵里が、甘えたように腕をからめてきて。
さゆは、その腕をしっかりとつかんだ。
そして笑う。そう、こんな感じ、かわいく。

「絵里が行くなら行こっかなっ♪」
「だよねー。さゆが行くなら絵里も行こっかなっ♪」

ほんとうの言葉は、いつも鏡の中に。
消えてなんてあげない。絶対に消えてなんてあげない。
二人の気持ち、なんとなくわかってるけど。
さゆ、邪魔かもしれないけれど。
12 :鏡に映るひとひら :2005/11/03(木) 00:13

「なんね、二人して!」

れいなが膨れっ面で、ポコンと石を蹴った。
さゆと絵里は、そんなれいなを見て笑う。
笑う。笑う。れーな、れいな、いつものことでしょ?
絵里とさゆは腕をからめたままで。
そのあたたかさを、二人ともが意識したままで。


「さゆ〜、じゃあスーパーに寄ってこっか?」
「そだね。なにつくる〜?」
「………れーなも行く」
「えー、れーなはママにつくってもらえばぁ? あたったらヤじゃん」
「なんばゆーと! もー絵里には食わせん!」
「じゃ、絵里もれーなにはあげなーい」
「む、むかつくー!!!」

消えてほしい? ねぇ、消えてあげようか?
ひらひら揺れて落ちる、鏡の中のひとひら。
舞い落ちる言の葉。降り積もる。どんどん降り積もる。
こんなに笑いながら閉じ込めてるのに、胸が痛いの。
涙さえマスカラに遠慮して落ちてこないのに、どうしても胸だけが痛いの。
13 :鏡に映るひとひら :2005/11/03(木) 00:13

微笑むために、さゆはいつでも鏡を探すんだ。
路地の角に立ってる鏡、ショーウインドー、水たまり。
さゆの顔はすこし歪んで映っちゃうけど、
いいの、泣きそうな顔も、笑って見えるから。


「じゃあ、明日ね。11時、バス停ね」
「おー、バトミントン、持ってくけん」
「じゃあ、れーなが点数つける役ー」
「アホ! 交代じゃ!」

れいな。絵里。さゆはね、いつもいつも鏡を探すんだ。
三人はトモダチ。いつか壊れてしまう。
だからさゆは、いつでも鏡を探してるんだ……


☆終☆
14 :名無飼育さん :2005/11/03(木) 00:46
レスしてもよろしいでしょうか?
幸運にもリアルタイムで読ませて頂きました。
最高です!
良いお話をありがとうございました。
15 :シュン :2005/11/03(木) 01:25
新スレおめでとうございます。
なんかこの3人は妙に教室の風景が合うなぁと思いました。
これからも雪ぐまさんの世界が作るCPを楽しみにしながら毎日チェック
させていただきますよ。頑張ってください!
16 :いちファン :2005/11/03(木) 11:25
歌うような文体がさゆにピッタリ♪
空気感を切りとった感じが素敵で
しばらく浸ってしまいましたよ。
いつもながらうっとりです。
17 :雪ぐま :2005/11/06(日) 17:51
14> 名無飼育さん
新スレなのにリアルタイムで! すごいですね!
さっそくレスをつけていただけて、雪ぐまも嬉しかったです。
初のさゆ視点だったので、けっこうドキドキだったのですw

15> シュンさん
ありがとうございます♪ 三人は教室がよく似合いますね。
女子校というより共学という感じもします。そんななかの
さゆえりれいなの密かな三角関係、妄想が膨らむ感じでした。

16> いちファンさん
物語の雰囲気をいつも敏感に感じ取ってくださって
すごく嬉しいですし、ありがたいなあって思います。
さゆは、いかにも“少女”って感じで、書いてて妙に
不思議な気持ちになりました。なんか入り込んじゃってw

それでは、次のお話にまいります。
18 :?雪ぐま :2005/11/06(日) 17:53


  いしよし、ハッピーライフ♪
 『真夜中のカップヌードル』
19 :真夜中のカップヌードル :2005/11/06(日) 17:55


ずずっ、ずっ、ずずずずーーー。
ずずず、ず、ずーーーー。


うわぁ、なんて色気のない音。
意識の浅いとこで、私は眉を潜める。
だけど、なんだかいい匂いがするんだなぁ……。
なんだか妙に、安心する音なんだなぁ……。
20 :真夜中のカップヌードル :2005/11/06(日) 17:56

ずずずずーーーずずっ、ずーーー。
ず、ずずず、ずーーーー。
ずびー、ず、ずずずずーー。


ウルサイ。てか、匂いがもう。
さすがに無視できなくなって、
重い瞼を片目だけ、ゆっくりと開ける。
ゆるゆると光が差し込んできた視界のなか、
素肌にシャツを羽織っただけのよっちゃんが、
ベッドの上であぐらをかいて、盛大にカップヌードルをすすっていた。
あの定番の、赤色のヤツね。
21 :真夜中のカップヌードル :2005/11/06(日) 17:57

「……いい匂い」
「あ、食う?」
「んー、うー……」

眉をひそめて、うううと唸る。
ああ、なかなか目が覚めない。
お腹はチョー空いてるんだけど、アノ後ってなんか、ね。
深い深い海の底に潜っていって眠るから、だと思うきっと。

だけどそんなのは私だけの現象みたいで、
よっちゃんはちょっと寝たらパッて起きて、
部屋の中をゴソゴソゴソゴソ動き出すの。
なんか腹へっちゃうんだって。わかるけどさ。
22 :真夜中のカップヌードル :2005/11/06(日) 17:58

「食わねーの? 全部食べちゃうよ?」
「うううー」

お腹がぐぅぐぅ騒ぐから、
観念して、のそのそ起きあがった。
起き抜けの目に、やたら眩しく感じるベッドサイドの黄色い明かり。
素っ裸でシーツから抜け出した私を見て、
よっちゃんがわざとらしくニヤッとした。

「丸見え」
「見ないで」
「見えちゃう」
「なんか、とってよぉ」

へいへい。
よっちゃんは長い足を床に伸ばして、
そこに落ちてた銀色のキャミをヒョイと蹴り上げた。
ナイスコントロール。フットサルの成果ね。
23 :真夜中のカップヌードル :2005/11/06(日) 17:59

細いストラップにすとんと腕を通して、カップを受け取る。
それはもうぬるくて、底のほうにちょこっとだけ
伸びきった麺がぐるぐるととぐろを巻いていた。

「もうないじゃん」
「ちょっとあんじゃん」
「むー」

ちぇ。私のなのにな、このカップヌードル。
まったくよっちゃんときたら、
うちのものは勝手に食べていいって思ってるんだから。
ま、いいんだけどね。うん、いいんだけどー。

「私のために、半分残しとくとか」
「だって、むちゃくちゃ寝てんだもん」

だって、それはー。
伸びきった麺をちゅるちゅるすすりながら、
私は赤くなってうつむいた。

それはー、よっちゃんがすごいからじゃん?

なんてね、言ってもいいけど、そんな暴露をしたら
どんだけからかわれるかわかんないからやめとく。
ただでさえ、今日もこんなはずじゃあなかったのに……
24 :?真夜中のカップヌードル :2005/11/06(日) 18:00

「お鍋しよって言ってたのにー」

久しぶりに、ふたり揃って夕方から空いてたんだ。
だから、すっごく張り切って私、お買い物してきたんだよ?
なのにうちに帰ったら、よっちゃんがもう部屋の中で待ってて、
あ、はやかったのね、会うの一週間ぶりくらい?……なんて笑ったら、
まともに靴も脱がないうちに、すっごく強く、腕を引かれて。

『遅っせーよ、石川ぁ……』

キッチンの床にドサリと落ちたスーパーの袋。
オレンジが飛び出して、ごろごろって転がったのが見えた。
ちょっと待って、牡蠣が入ってるの、お豆腐も!
待って待って、せめてアイスだけは冷凍庫にしまわせて〜〜〜〜!
なんてね、焦って抵抗したりもしたんだけど、
だめだな、すぐに私、どうでもよくなってしまう。
25 :真夜中のカップヌードル :2005/11/06(日) 18:01

『ちょっと待って、よ……ねぇ、待って……』

なんて言葉は、ふたりの空気を暖めるだけ。
よっちゃんはあの長い腕で、ますますぎゅうぎゅうってしてきて、
痛いよ苦しいって思いながら私、目を閉じてしまう。
なにもかも、どうでもよくなってくるの。
乾いた土に染み込むみたいに、
ずっと待ってた、キスの雨が降り始めると。
26 :真夜中のカップヌードル :2005/11/06(日) 18:01

「なに鍋にする予定だったの?」
「牡蠣の土手鍋。おいしそうでしょ?」
「マジ? 石川、そんなんつくれんの?」
「うるさいな。つくってみようと思ったんだよ、季節だし」

ふと見ると、床に放りっぱなしのはずのスーパーの袋が見当たらない。
そっか、よっちゃん、冷蔵庫にしまってくれたのね。

「アイスは死んでたな。また固まると思うけど」
「あはは。もうおいしくないよそんなの〜」

まったくどーしよう、あの大量の食材たち。
明日は朝から仕事だし、またしばらく一緒にご飯とか無理だしー。

「もう!」

よっちゃんの肩にゴツンと頭突き。
でもね、なんか「ま、いっか」って思ってる自分がいるんだ。
今夜の夕食は、ぬるくてマズーいカップヌードル。
だけど、「ま、いっかぁ〜」ってね。
27 :真夜中のカップヌードル :2005/11/06(日) 18:03

「足りなーい。もっとなんか食べたーい」
「起きてなんかつくるぅ〜?」
「エエエ、めんどくさくない?」
「死ぬほど、めんどくせぇ」

よっちゃんは笑って、それでも私のために台所へ。
そして、すぐに戻ってきた彼女の手には、
やっぱりカップヌードルがホカホカと湯気をあげていた。

「次は、シーフードにしてみました」
「あはは、最高♪」

もーなんか笑っちゃう。
私はなんか楽しくなってきて、
ギシッとベッドを軋ませて座ったよっちゃんに、
やたら甘えてべたべたと絡みついた。
よっちゃんは、アブネーよ汁こぼれる!って慌てて。
28 :真夜中のカップヌードル :2005/11/06(日) 18:04

「お前、ヤケドするよ? 顔とかに」
「たいへん。顔が命なのに」
「いや、どっちかってと腰じゃねーの?」

なによ、それ。
むぅと睨んだ私によっちゃんはまた笑って、眉間にチュッてキス。
皺になっちゃうよ、だってさ。
シーフードヌードルの匂いが充満する中で、
なんだか妙に幸せな気分がひたひたと押し寄せてきた。
そうね、もうヤケドするほど熱くないかもしれないけれど。

「なんか嬉しそーだね」
「うん、なんか嬉しー」
「笑ってると、かわいーよ」
「ちょっと、笑ってるとって何よ!」

危ねぇ!!!って言われながら私はよっちゃんの腕の中にもぐりこみ、
彼女を背もたれにして、おもいっきし寄りかかった。
29 :真夜中のカップヌードル :2005/11/06(日) 18:05

「はい、食べさせて」
「マジで?」

ハロモニのゲームみてぇって、よっちゃんは笑う。二人羽織みたいって。
違うよ、見えてるんだからちゃんと食べさせてよねって言ってるのに、
いじわるな彼女は、わざと鼻のとこにお箸をもってきたりして。

「もう! また、麺が伸びちゃうでしょ〜〜〜!」
「わーったわーった。ほい、どーぞ」
「もぐもぐ。ハイ、次〜」
「なんだよ、全部こうやって食う気かよー」

この夜は、カップヌードルの匂い。
大好きなあなたにくるまれて、ぽかぽかとお腹が満ちてくる。
ヤケドしそうな舌先と、あたたかな背中と、
時々、カチンと歯にあたるお箸の先っぽ、それからそれから。
甘えまくって、すっかりはしゃいでる自分に笑っちゃうな。
私の頭の中の“よっちゃんアルバム”、
またとても幸せな1ページ。


☆おしまい☆
30 :孤独なカウボーイ :2005/11/06(日) 19:09
更新お疲れさまです!
HPの方もこっそりと覗かせて貰っているのですが、この度書き込みさせて頂きました。

あー、なんといいますか、お腹いっぱいです!
ありがとうございましたw
31 :kouhaku :2005/11/06(日) 23:46
確かに。おなかいっぱいです。
なんでもいいんですよね。
私も今日はせっかく逢えたのにマックでした。
32 :名無飼育さん :2005/11/07(月) 00:23
更新お疲れ様です。
自分はカップヌードル食べれないのに
おなかいっぱいになりました。
ん〜〜なんとなく幸せ。
33 :名無飼育さん :2005/11/07(月) 00:45
あぁ。ほっとする。
いしよしの空気って良い意味でガキっぽくて好きだぁ。
見かけあんなんなのにw
34 :名無飼育さん :2005/11/07(月) 04:21
わぁい、雪ぐまさんの新作だー!
素敵ないしよしありがとうございました。
きっと二人っきりでいたらこんな感じなんだろうなーなんて思いつつ、
無性にカップヌードルが食べたい夜更けです。
35 :シュン :2005/11/08(火) 01:21
庶民的なカップラーメンだけど、二人の雰囲気で
凄いご馳走のように見えちゃいました。
思わずカップラーメンに手が・・・(笑)


36 :優海 :2005/11/12(土) 12:44
新作ですねー。
BBS見てこっそり来ました。
…丁度カップラーメン食べてたんですけどw
なんか無性に嬉しくなるのは何故でしょう??w
37 :優海 :2005/11/12(土) 12:44
↑ageちゃってごめんなさい;;
38 :雪ぐま :2005/11/16(水) 20:15
30> 孤独なカウボーイさん
いえいえ、こちらこそw あっちもこっちも
楽しくお読みいただいて本当にありがたいです。

31> kouhakuさん
あららw 好きな人とはなるべくおいしいものが食べたいって
思いますけど、でもマックでも楽しいって時ありますよね〜♪

32> 名無飼育さん
食べれなくても満腹になっていただけたようで良かったです☆
雪ぐまも書いてて幸せな気分でしたよ〜。

33> 名無飼育さん
それは言えますね〜> 良い意味でガキっぽい。
痴話喧嘩とかしまくりそうw 見かけあんなんなのにねw

34> 名無飼育さん
喜んでいただけて嬉しいです♪ 二人っきりのいしよし、
こっそり覗いてみたい気がしつつ書いていた夜更けでしたw
39 :雪ぐま :2005/11/16(水) 20:16
35> シュンさん
二人の夜には、カップラーメンもご馳走なのかもw
雪ぐまも思わずカップラーメンに手が・・・

36> 優海さん
ちょうど食べてたなんて運命的ですね〜w いいなあ、
雪ぐまは食べたいと思いつつ書いてて、まだ食べてないんですw

それでは、次のお話にまいります。

40 :?雪ぐま :2005/11/16(水) 20:17


紺ちゃんの、戸惑いの恋のカタチ。
『キスの方法』


41 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:17


キスというのは、どうやって学ぶものなのでしょう?
夕暮れに浮かぶ雲を見ながら、私は考えます。
まずい、明日かもしれないのに。

「本屋さんに寄ろうかな……」

わりと真剣に、そんなふうに考えます。
だけど、キスの方法なんて本が売っていたとして、
それをレジに差し出すことを考えると憂鬱になり、
私はまた、ため息をついてしまうのでした。
42 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:19

堤防沿いの風は、懐かしい草の匂い。
ひらりとめくれそうになる制服のスカートを鞄で押さえながら、
私は、鉄橋を走る銀色の電車を眺めました。
明日は、あの電車に乗って、また後藤さんに会いに行けるのです。

後藤さんが在学中だった頃、
私はずっと、ろくにあいさつもできませんでした。
目が合ったら、慌てて頭を下げるだけ。
すれ違う時は、真っ赤になって俯いたまま。
2年間ずっとそんな調子で、憧れはあからさまに気づかれていたけど、
後藤さんはいつも戸惑ったようなぎこちない笑みを浮かべるだけで、
どんなに近くにいても、話しかけてきてくれたりはしませんでした。

つまり私は、カゴに盛られたミカンの山みたいな
名も無きファンの一人。遠いヒト。
43 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:19

それでいいと思っていたのに、
卒業式の日に勇気を振り絞ってカードと花束を渡したのは、
せめて、あのタレ目の変な子が“紺野あさ美”という名だと知ってほしかったから。

そして、宝物が欲しかったんです。
一度でいい、「お花、ありがとう」ってメールがもし来たら、
それを高校生活の思い出に一生大切にするんだって、祈るような思いで。
44 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:20

暮れていく空に、憧れの後藤さんの横顔を思い出します。
騒がれてることを知ってて無視してるみたいな、冷めた横顔。
まさか、何度もメールをやりとりできるとは思いませんでした。
私がなにか送信すれば、律義に返してくれる言葉。
思ってたよりもずっと普通に明るくて、絵文字もガンガン入ってて、
そして毎日、少しずつ少しずつ打ち解けていくようだった。

ある日、観たい映画の話題になって。
同じ映画を観にいこうとしてることがわかって。

その話題はしばらく曖昧に私達の間を漂い、
何事もなかったように、さりげなく通りすぎていきそうでした。
あの時、携帯を握りしめながら、ひどく焦ってる自分を感じたんです。
世の中には、そう、特別になるタイミングとかがあって、
今あっけなく、それを逃してしまうのではないかと。
45 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:21


きっと私から誘わないと、一生、誘ってもらえない。
だけど誘えば、来てくれるんじゃないかな?
今なら一緒に、映画を見てくれるんじゃないかな?

46 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:22

『あたしとでよければ』

待ち合わせの駅に現れた後藤さんは、先に来ていた私の姿を見つけると、
やっぱりぎこちない笑みを、その頬に浮かべました。
でも、ちょっと照れくさそうに。

『そういえば、初めて話すね』

そうですね。
ずっと見ていました。あなたに憧れていました。
もっと知りたいと思って、ここにいます。
こんなの変かな? わからない。
すこしでもかわいく思われたいと必死で微笑んでた、あの日。
前の晩から考えてきてた話題を、トランプみたいにあなたの前に並べてた。
楽しんでもらえてるかどうか、まるで自信がありませんでしたが。
47 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:23

『モンブランがおいしいお店があるんです。あの、今度また、行きませんか?』
『いいね』

後藤さんはいつも、おとなしくついてくるという感じでした。
先輩だからもちろん私は死ぬほど緊張してたけど、
後藤さんもなぜかどことなく緊張してる、そんなふうで、
気を抜くとすぐにシンとなってしまう空気を、
私は必死で、もう必死であたためて。

帰り道、私おしゃべりすぎたかなって、毎回がっくり落ち込むんです。
だけど家に着く頃に嬉しいメールが届いて、心はたちまち舞い上がる。

『楽しかった。また誘ってよ』
48 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:23

先週末、初めて指先が触れました。
原宿の雑踏のなかで、人の波に両脇から押されるように
ふいに手と手が触れあい、そしてどちらからだったでしょう、
とうとう指先がさりげなく絡み合った瞬間の
あの胸の奥が張り裂けそうな鼓動!

『紺野、会いたい』

後藤さん後藤さん後藤さん……
ぎゅうっと痛む左胸を押さえます。熱いため息が漏れる。
おととい届いたメール。あなたからの初めての誘い。
涙が出るほど、叫び出したいほど、嬉しかった言葉。

会いたい。後藤さん、会いたい。
明日会えるとわかっているのに、
この一秒がもどかしいほど会いたくてたまらないのです。
ああ、夕陽をせかして、はやく沈めてしまいたい。
そして朝日を起こして、はやく、はやく、あの人のもとへ!
49 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:24

だけど、迷ったりもする。
暮れてゆく空が赤すぎて、地がぐらぐらと揺れるよう。
吹き抜ける風は、肌寒さを残して去ってゆくだけ。

「……こんなの、変かな?」

胸は確かに痛みます。そう、痛みすぎるから不安になる。
もうただの憧れじゃないことが、私を怯えさせてもいるのです。
このまま進んでどこに辿り着くのか、転がり落ちそうな自分。

「……わからない」

キリキリと痛むばかりの心臓にかたく目を閉じ、
深々と苦しい息をついて目を開けた瞬間でした。
私は思わず、我が目を疑いました。
鉄橋の方から歩いてくる人影が、後藤さんのシルエットに見えて。

「え……?」
50 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:25

うそ……。

とうとう幻覚が見え出したと思いました。
だけど、逆光を背負ったその影が、
私を見つけて戸惑ったように立ち止まったから。

「後藤さん……」

私の唇の動きを読み取り、影はかすかに微笑った気配でした。
そして不自然なほどゆっくりと、ふらりゆらりと近づいてきて。

「偶然〜……なわけないかぁ〜」

ははっ。
他人事みたいに言い放って笑う、目を合わせない瞳。
驚きのあまり、言葉を忘れてしまう。
だって、後藤さんが私に会いに来た、なんて、まさか!
51 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:26

「いつもね、紺野、遠回りして堤防から帰るって言ってたから」
「………………」
「なんかねぇ、急にバイトが、キャンセルで」
「………………」
「会えたらラッキー、みたいな?」

ははっ。
爪先が、ザザ…と堤防の土をこする。
そこにいたのは、どこか拗ねたように目を伏せたままの後藤さん。
絹糸のような長い髪が、風のかたちに流れる。
目には見えない風のかたちが、目には見えない心が、
あなたから伝わってくる。伝わってきている………
52 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:26

呆然とその姿を眺めた私は言葉を失い、
視界だけがこの瞬間を記録しようと開き続ける。
そう、まるでスクリーンのなかみたい。
空想の中の人のような後藤さんは、チラと目を上げて。

「じゃあ、明日」
「え、待っ……」

くるりと背を向けたその腕に、慌ててすがりつきました。
待って待って、ごめんなさい、まだ行かないで。
ボーッとしちゃって私、びっくりしちゃって私!

「あああああのっ……!」

思いっきり声が裏返っちゃって死にたくなりました。
振り返った後藤さんの、見たことのないまっすぐな瞳。
射抜かれて、たちまち鼓動がドクンと跳ね上がる。
だけどそれどころじゃなく次の瞬間、
そのまま心臓が弾け飛びそうなことが起こりました。
53 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:27


………………!!!!!!!!!!


54 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:27

ふいに抱きしめられて、強く強く押しつけられた唇。
声にならない悲鳴が、身体中を駆け抜けたのがわかりました。
呼吸を塞がれる、生まれて初めての感覚。
本能はとっさに逃れようともがく。
だけどあなたを求める心が視界を閉ざし、動くな、と叫んだ。

私が初めてと知らないからか後藤さんのキスはわりと容赦なくて、
私は崩れ落ちないように後藤さんにつかまって自分を差し出してる、
なんだかそんな感じでした。
柔らかな舌で口の中を探られ、脳裏にチカチカと明滅する光。
涼しい味のガムを噛んでおけば良かったと、おかしなことを思う。
だって、あなたがとても熱いから、甘いから……
55 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:28

やっと解放された時、ふわぁぁと情けない息をついて、
ぐたりと後藤さんの肩に寄りかかってしまった私。

「びっくり、した?」

耳元でくぐもって聞こえた後藤さんの囁き。
はい、とても。素直にそう答えても良かった。
だけどあなたの腕の中、私はとっさに背伸びをして、こう答えました。

「明日かと、思ってました」

あはっ。
耳元で彼女が笑う。
子供みたいと知ったあの笑顔が、瞼の裏に見えてドキドキする。

「……こんなつもりで、今日来たんじゃないんだけどさ」

じゃあ、どんなつもりで?
拗ねて顔を上げると、照れくさげに細められた瞳。ふにゃふにゃと笑った唇。
ああ、近くで見るとヒトの瞳って、こんなに複雑なグラデーションなんだ。
そしてヒトの唇って、こんなに透き通るような桜色。
それとも後藤さんだから、特別にきれいなの?
56 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:29

私はどうしてももう一度この人とキスしたくてたまらなくなり、
無理やり首を捻って、今度は私から口づけました。

「……好きです………」

どうしたらいいかわからないのに、
どうしてか私の唇はあなたを求めて動く。
知ってしまえばもう、当たり前みたいに欲しくなる。
大好きなお菓子みたいに止まらなくなる。
どうしよう、もう止まれなくなってる。

いつの間にか私たちは草の上に座り込んで腕を絡め、
陽が暮れてしまってるのにずっと、真っ暗になってもずっと、
ただ黙々と何度も首を傾け、数えきれないほどのキスを交わしていました。
やっと止まれたのは、ふいに血の味がしたから。
57 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:29

「あ……」

後藤さんが困ったように指先で唇を押さえ、
切れちゃった、と小さく笑いました。
そして、紺野ってけっこー激しいんだね、なんてからかって。

「……いちおう、初めてだったんですけど」
「ほんとに?」
「ほんとです」

キスの方法を知らない私は大切な人の唇を傷つけて、
どうしていいかわからずに、また唇を寄せました。
後藤さんは目を閉じて、私が傷口を舐めるのを許してくれた。

「ごめんなさい」
「ううん」

風がまたあなたの美しい髪を揺らし、
信じられない、私の頬をくすぐっていく。
こんなに近くにいる今が、幻みたいに思う。
ずっと夢みてたリアル。そう、こんなに幸せなのに、
これまでに知らなかった不安が喉元までせりあがってきて戸惑いました。
58 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:30


後藤さん、私、
どうしたら寂しくなくなるか、知りたい。

59 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:31

「……私たち、つきあってます、か?」
「紺野が、それでよければ」

言葉は泡立つ心を羽のように撫でて、だけど儚く消えていく。
ああ、もっと強い約束が欲しい。
後藤さん、あなたのすべてが欲しい。
あなたの毎日、あなたの瞳、あなたの心、あなたの未来。
約束して。約束をして。永遠に。永遠にこの腕の中にいて!
60 :キスの方法 :2005/11/16(水) 20:32

それは、キスで目覚めた私の欲望。
私でさえ知らなかった、目には見えない私の恋のカタチ。

完全に溺れ始めた私を知らず、
後藤さんは照れくさそうに私の背に腕をまわし、
それっきり何も言わずに夜空を見上げました。
つられて空を仰げば、何万光年も昔からやっと届いた星の光。

「きれいだね」

忘れられない夜の、あたたかな声。
だけどあなたの唇を知った私は、星にさえ嫉妬する。

私はもう、キスの方法なんて知りたくありませんでした。
今、私が知りたいのは、あの星たちのように後藤さんに見つめられ、
何万光年でも光りまたたく方法でした。


☆終☆
61 :シュン :2005/11/17(木) 01:46
更新お疲れです。
欲望が満たされるとさらに大きな欲望が生まれてくる。
人間はなんて欲張りな生きものなんでしょうw
「世の中には特別になるタイミングがある」ですか・・・
それを逃してしまった数年前のことをちょっと思い出しちゃいました(泣)
62 :名無飼育さん :2005/11/17(木) 01:46
好みすぎてゾクゾク来た……。
先日の娘DOKYUを思い出しましたよ。
63 :名無飼育さん :2005/11/17(木) 01:48
ごまこん最高です!!切なくて、でも嬉しい。
こんな気分にさせられました!
64 :名無飼育さん :2005/12/12(月) 04:33
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
65 :雪ぐま :2005/12/18(日) 01:11
61> シュンさん
あらら。。。でも失敗とか後悔をしたからこそ、次はきっと
勇気を出してタイミングを掴めるんじゃないかと思いますよ〜。

62> 名無飼育さん
おっと、雪ぐま見逃したかも。>娘ドキュ。
好みと言っていただけてとても光栄だし、嬉しかったです♪

63> 名無飼育さん
うちのごまこんは、妙に切ない系になるんですよね〜w
また「最高」と言ってもらえるように頑張りますね〜。

64> 名無飼育さん
お疲れさまです。飼育ではたくさんの人がご厚意で
さまざまな企画をされているんですね。頭が下がります。
66 :?雪ぐま :2005/12/18(日) 01:12
それでは、次のお話にまいります。

いしよし、信頼の絆。
『おやすみ、梨華ちゃん。』

67 :おやすみ、梨華ちゃん。 :2005/12/18(日) 01:13


ココナツの石鹸みたいな甘い香りがした。
いつか旅した南国の、誰にも内緒で紛れ込んだ
あのリゾートホテルのコテージに置いてあったのみたいな。

「首のうしろ」
「また?」

なにもつけてないのになぁ。
梨華ちゃんはくすくす笑ってそう言って、
それからくすぐったそうにキュッと身をすくめた。
あたしが鼻先をうなじに押しつけたから。
68 :おやすみ、梨華ちゃん。 :2005/12/18(日) 01:14

「くすぐったいよ……」
「ジッとして」

おとなしく、ジッとするのがかわいい。
ひとまわり小さなカラダを背中からくるんでるベッドの中。
彼女はこうされるのが好きで、あたしはこうするのが好き。
あたたかな塊。ぴったりと重なった肌から、ココナツの香り。

「いい匂い」

胸の奥まで吸い込んで、あたしはいつも思う。
知ることができた幸福と、知ってしまった不幸について。
梨華ちゃんの首のうしろのココナツの香り。

「香水ならいいのにな」
「んー?」
「したら、部屋中にかけとくんだけど」

それもかなわない、梨華ちゃんだけの香りだ。
はあっとため息をついたあたしの腕を、彼女は優しく撫でた。
69 :おやすみ、梨華ちゃん。 :2005/12/18(日) 01:15

「離れるの、やだ?」

ちぇ、バレてるし。
返事の代わりにあたしは、
ますます梨華ちゃんを腕のなかに閉じ込める。
そうだね、今夜は会えたけど、明日からまたしばらく会えそうもない。
次、いつ会える?と呟きかけてやめてみる。
そんなの、わかんないよね。
むっつり黙り込んだあたしを、梨華ちゃんが嬉しげに笑ってからかった。

「昔と逆だねぇ?」

3日も会えないと騒いでたのは私のほうだったのにね。
そんなふうに言うから不安になるんだ。
もう平気なわけ? なんて、ちょっと女々しいかな。

「だってさ、ぜってぇ二週間とか会えないっぽくね?」
「しょーがないじゃん、お仕事だもん」
「わかってるよ、別に行くなってゆってないじゃん」
「なに拗ねてんの、もぉ」

ポンポンとなだめるように腕を叩かれて。
あたしは口を尖らせて、また黙り込む。
たった1コだけ歳上の恋人のこと、すごく大人みたいに感じて。
70 :おやすみ、梨華ちゃん。 :2005/12/18(日) 01:15

「そうだ、じゃあなんか交換しよっか?」

ふいに梨華ちゃんが、妙に目をきらきらさせて振り返った。

「交換?」
「うん。そしたら寂しくないし、いつも私のこと思い出すでしょ?」

そんなことしたって寂しいし、
そんなことしなくたっていつも思い出してるよ。
って思ったけど、ナイスアイデアにすっかり夢中になった梨華ちゃんは、
もう止まらない感じで、勝手にあれこれ候補を挙げはじめた。

「時計とか指輪とかぁ。あ、でもバレにくいのがいいね、口紅とか?」
「あー、うん」
「ちょっとぉー、よっちゃんも真剣に考えてよ!」

これだよ。
あたしは苦笑して、ゆっくりと頭を巡らせはじめた。
彼女が微笑んでくれる答えについて。
そして、あたし自身が納得する答えについて。
閃きはほどなく舞い降りて、
胸の奥から転がり落ちてきた言葉をあたしは素直に口にした。
71 :おやすみ、梨華ちゃん。 :2005/12/18(日) 01:16

「ネックレス」

あなたの首のうしろのココナツの香り。
大好きだから、いつでも思い出したいよ。
そして一日でもはやく、
またこの香りを胸いっぱいに吸い込めるように願いをこめて。

「いい考えと思うんだけどな」

なのに梨華ちゃんはウーンと唸り、
ネックレスねぇ……と浮かない声をあげた。

「だめ?」
「んー、今日つけてきたの、柴ちゃんとオソロのなんだよね」
「なくさないよ」
「違うよ、そういうことじゃなくて」

 これ渡したら、私がいない間、
 よっちゃんと柴ちゃんがオソロになっちゃうじゃん?
 
いたずらっぽく光る、おしゃべりな梨華ちゃんの瞳。
私じゃない人とオソロなんてヤだな、なんて。
72 :おやすみ、梨華ちゃん。 :2005/12/18(日) 01:17

ヤキモチ妬かれてんだと気づいて、あたしは吹き出した。
何言っちゃってんの、もう。

「んだよ、自分は勝手に柴とオソロにしたくせに」
「親友だもーん」
「じゃ、いいでしょ。親友とあたしがしばらくオソロでも」
「えー、なんかそれはイヤー。あっ、でもいいや!」
「へ?」
「よっちゃんもまいちゃんたちとオソロの指輪、持ってたよね? 私、あれ借りる!」
「うええー?」
「へへへ、おあいこだよ」

決まり決まりー。
シーツの中で梨華ちゃんが脚をバタバタした。
ううう、まいちんたちと梨華ちゃんがオソロって、なんかヤなんだけど……。

「よっちゃんが言い出したんだよ?」
「違うじゃん、あたしはネックレス同士を交換しよーって」
「うふふ、もう肌身離さずつけちゃおーっと。まいちゃんたちとお揃い!」
「ちょっと聞いてんの?」
「妬いちゃう?妬いちゃう?」

まったく、この人ときたら。
いつだって自分勝手に回り始めて止まらない。
でもそんなワガママがたまらなくかわいくて、いつもあたしは。
73 :おやすみ、梨華ちゃん。 :2005/12/18(日) 01:18

「ちぇ」
「やった、私の勝ち☆」

勝ち負けかよ!えーい、黙らせちゃる!
悔しくなってあたしは、得意げな姫の首筋にがぶりと噛みついた。
不意打ちに彼女はびっくりするほど甘い声を漏らして、
シマッタというように慌てて唇を押さえる。

「ちょっ、な、なによ?」
「むかつくから、もっかいすることにした」
「え? なにそれ、ちょ、ちょっと、もぅダメだよぉぉ〜〜〜」

逃げ出そうとする華奢な肩を、軽々と押さえつける。
鼻をくすぐるのはココナツの香り。ココナツの肌。
舌先に、知ることができた幸福と、知ってしまった不幸の味。
だけど梨華ちゃんもきっと感じてる、あたしにしかない柔らかな舌を。
剥き出しのあたしを。求める想いの激しさを。奪い取るわがままを。
あえなく乱れてく鼓動と息づかいの狭間に、きっと。
74 :おやすみ、梨華ちゃん。 :2005/12/18(日) 01:19

「…………もぉぉ」
「やっちゃった♪ やっちゃった♪」
「……次会った時、覚えてろよぉ〜?」

ギク。意外と鬼畜だからなあ、このお姉さん……(汗。
でもちょっとワクドキしてたりもして、変なあたし。
シーツにぐったり沈み込んだまま梨華ちゃんは笑って、
そんなあたしの腕をかじかじと噛んだ。
よっちゃんの腕って噛みたくなるのー、とか言って。

「痛ぇ! 食われるぅー」
「幸せでしょ?」
「ま、ね」

いつだってこれ以上、好きになれないと思うのに、
梨華ちゃん、今日もまた不思議な夜だ。
恋は時間に削り取られて少しずつ疲れてくものだと聞くけれど、
あたしたちはすこし特殊なのかもしれないね。
75 :おやすみ、梨華ちゃん。 :2005/12/18(日) 01:20

「……好きだよ」
「どしたの、急に」
「なんだよ」
「ううん。……私も好きだよ」

横たわったまま、互いの目の中を覗き込む。
あなたの世界いっぱいにあたしを映して、
あたしの世界にいっぱいにあなたを映して、
あたしたちはまばたきも惜しんで見つめあう、そして笑ってキスをする。

こんな夜を何度も繰り返してるから、離れても残像は消えないんだ。
約束がなくても、ココナツの香りがまたあたしを包み込むと信じてる。
だからって、寂しくないわけじゃないけれど。

「すごーく幸せ。寝ちゃうの、もったいないなぁ。。。」

なんて言いながら、もうとろりと眠そうな瞼の梨華ちゃん。
ゴソゴソと子犬のように胸の中にもぐりこんでくる、カフェオレ色の恋人。
あなたの指先が痛いほど強くあたしをつかまえてくれるから、
あたしは安心して今日も夢の中へと旅立てる。
76 :おやすみ、梨華ちゃん。 :2005/12/18(日) 01:20

「も、ダメだ、オヤスミナサイ……」

おやすみ、梨華ちゃん、またここで。
彼女をしっかり腕にくるみこんで、あたしも目を閉じた。
明日からまたダッシュで走り出す、それぞれの道。
迷いなく飛べるのは、羽を休めるこの場所を信じてるからだね。

いま、絡めてる腕が離れても、また繋がるよ。
そう、あたしたちはいつだって、
どっかでちゃんと繋がっているんだ。

☆終☆
77 :名無飼育さん :2005/12/18(日) 02:00
雪ぐまさんの描く恋人達の風景は読んでいてあったかくになります
78 :名無し読者79 :2005/12/18(日) 08:30
初めてレスさせて頂きます。
雪ぐまさんの描かれる世界が大好きです。
素敵でした今回の2人も味があって思わず惹きこまれてしまいます。

79 : :2005/12/18(日) 21:08

すごくステキでした。
『ココナツの香り』の使い方も、
『知ることができた幸福と、知ってしまった不幸』
という表現の甘さと切なさも
とてもお上手だな、と感心しました。
また次の更新も楽しみにしています。

80 :シュン :2005/12/19(月) 01:20
世間は暗いニュースが多いけど、雪ぐまさんの小説を読んで
心が暖かくなりました。
次の更新も期待してますよw
81 :愛虎 :2005/12/21(水) 00:56
はじめまして、雪ぐまさんの作品は色々読ませて頂いてますがやっぱり!
『いしよし』が一番好きです。
今回の作品に出てくるネックレスて「うたばん」でよっすぃ〜がしていたものですよね?
次回も楽しみに待ってます。
82 :愛虎 :2005/12/21(水) 01:00
すいません!!ageてしまいました。
ごめんなさい。
83 :雪ぐま :2006/01/19(木) 13:21
77> 名無飼育さん
ありがとうございます。恋っていいなぁって、
雪ぐまはいつも思ってるんですよw

78> 名無し読者79さん
そう言っていただけて、とても幸せです♪
いしよしは長い春って感じの味わいが萌えw やたら張り切って書いてます。

79> Sさん
Sさんって、Sさんですよね? (謎の問いかけw
お褒めいただいて光栄です。日常のなにげない幸福と甘さと切なさ、
Sさんのようにさりげなく描けたらいいなって思っています。

80> シュンさん
あら、それは嬉しいですね〜♪>心が暖かく
世間に暗いニュースが溢れても、いしよしは永遠ですw

81> 愛虎さん
ご愛読ありがとうございます。そうです、そのネックレスです!
やっぱりリアルネタがあると筆もサクサク進みますねw

それでは、次のお話にまいります。
84 :?真っ白な幸福 :2006/01/19(木) 13:22


梨華ちゃん、ハッピーバースデー♪
『?真っ白な幸福』

85 :真っ白な幸福 :2006/01/19(木) 13:23


朝起きて、お天気がいいと、それだけで幸せ。
誕生日なら、なおのことね。
薄いカーテンから差し込む真っ白な光に目を細めて、
私は寝返りをうった。あたたかなお布団のなかで。

「起きて、よっちゃん」
「……………ん?」

もぉ朝かよぉ……、なんて呻く薄いピンクの唇。
かすかに焦れたように寄せられる眉。
ゆっくりとまばたきを繰り返す長い睫毛。
晴れた朝のよっちゃんは、白い光の中、さらに白く光って溶ける。
砂糖菓子みたいなその肌、世界中に自慢しちゃいたいほどきれいで、
だけど、まだぼんやりとした紅茶色の瞳が
ちょっとドキッとするくらい気怠げな甘さに満ちているから、
うん、やっぱり誰にも見せたくないな。
86 :真っ白な幸福 :2006/01/19(木) 13:24

ひょろりと長い腕が、当たり前みたいに私を抱き寄せる。
やわらかな唇がオデコに押しつけられるのがわかる。
寝ぼけ眼のよっちゃんの、いつもの無意識の動き。
腕の中で、ほのかにミルクっぽいよっちゃんの香りを胸いっぱいに吸い込んで、
私は幸せだなって思う。幸せだなぁって、いつも。

ますますご機嫌になった私は、
ほっぺたを肩のあたりにこすりつけながら、
弾んだ声で、とても簡単なクイズを出した。

「ねぇねぇ、今日は何の日?」

んー? って、よっちゃん。
わざとらしく考えるフリ。首を傾げて考えるフリ。
で、いじわるな彼女は、ニヤリと笑って。
87 :真っ白な幸福 :2006/01/19(木) 13:25

「ガッダスの試合でしょ」
「がーーーーん……」
「ははっ。うそうそ、今日は梨華様の誕生日っすー」

はい、よくできました♪
こんなお決まりのね、小さなやりとりが心をくすぐるから、
私は大笑いして、カメラの前でもないのにきっと最高の笑顔。
わかるんだ、あなたがすごく嬉しそうに私を見つめて笑うから。

「かわいい?」
「あーかわいいかわいい」
「ちょっとぉ、なにそれ」
88 :真っ白い幸福 :2006/01/19(木) 13:26

ふざけあう私たちの目の前いっぱいに、
真っ白な光が眩しく降り注いでる。幸福の朝。
その光の中に高く指をかざして、私は目を細めた。
左手の薬指に、よっちゃんが昨夜0時にくれた贈り物。
ちょっと寄り目になっちゃいながら、これすごいなあって、しみじみ思う。
だって、小っちゃいけどダイヤなんて光っちゃってる。
ゆるやかなカーブを描く華奢なプラチナの台に。

「気に入った?」
「うん、すっごく」

気に入らないわけないよ。
すごく特別な感じ、するもの。

「超特別だよ。つーか、高かった!」
「お給料3ヶ月分?」
「えーと、そこまでじゃないけどぉ……」
「がーーーーん……」
「いや、それはまたいつかね。いつか!」
89 :真っ白い幸福 :2006/01/19(木) 13:27

ふうん、いつかね。いつでしょう?
大切な指輪にキスをして、それから私はゆっくりと外して箱にしまった。
つけておけない指輪だけど、存在が、あるとないでは違う。
ほら、あなたの気持ち、薬指に巻きついて消えない。
目には見えなくても、そう強く信じさせてくれるから。

そうね、“いつか”も、あなたならきっと嘘じゃない。

「さて、起きるか!」
「まったく、フットサルの日は張り切ってるよねぇ」
「おう! 勝つよ、今日はマジで勝つ!圧勝で勝つ!」

梨華様のバースデーだからね、なんてウインク。
また私、笑っちゃう。調子いいなーなんて。
でもね、私を喜ばせる大サービスをありがとう。
よっちゃんは冗談の中にいつも本気が見える人。
もう何年も何年も何年もね。
90 :真っ白い幸福 :2006/01/19(木) 13:28

幸福な一日の予感に満ちた朝の光。真っ白な光。
はやく起きろよって振り返った真っ白なあなた。
差し出された手を、嬉しい気持ちでとった。
胸が震える、大らかで、あたたかな光。
私をいつも包み込んでくれる、穏やかな光。

「ねぇ、今日は、なんでも言うこと聞いてくれる?」
「いつも聞いてんじゃん」
「えー、そんなことないよ!どっちかってゆーと私が……」
「メシ、ベーグルとゆで卵でいい?」
「またぁ? って、ねぇ、よっちゃん、今日はなんでも私の言うこと……」
「はいはい……」


☆おしまい☆
91 :名無飼育さん :2006/01/19(木) 15:23
幸せをありがとう……
素敵なお話で頬が自然と緩みました。
92 :名無飼育さん :2006/01/19(木) 17:52
ウマいっ!思わず、レスせずにいられませんでした!
本当にカンペキとしかいいようのない二人の空気感…
雪ぐまさまの(いしよし)は圧倒的なリアル感がありますね♪
93 :名も無き読者 :2006/01/19(木) 22:40
⊂⌒⊃;。Д。)⊃←K.O.
94 :名無飼育さん :2006/01/23(月) 15:36
「あま〜い!」ネタのハロモニで、2回もあったいしよしカメラワーク…
それと前後してこの作品読んでしまったので、もう本当に幸せです。
それこそ、もたれるほどにw
95 :雪ぐま :2006/02/21(火) 01:00
91> 名無飼育さん
こちらこそ、嬉しいレスをありがとうございます。
梨華ちゃんのお誕生日がこんなだといいなあって思いつつw

92> 名無飼育さん
私のいしよしにリアル感があるというか、
いしよしそのものにリアル感が(ry ……なんてねw
お褒めいただいて、とても嬉しかったです♪

93> 名も無き読者さん
格闘家をノックアウトしてしまったw

94> 名無飼育さん
最近、いしよしカメラワーク、多いですよね〜。
これからも、もたれるほどにあるといいですよねw

それでは、次のお話にまいります。
96 :雪ぐま :2006/02/21(火) 01:08


ちょっぴり気難しい愛ちゃんが、ある日出会ったのは……
『水の中の世界』

97 :水の中の世界 :2006/02/21(火) 01:09


学校の裏にあるお寺さんの池をいつも覗いてるから、
あたし、ナルシストやって言われてるの、知ってる。
水仙の花になってしもた、アホな男の子のハナシやろ?

そやね、ナルシスみたいなとこもあるかもしれん。
ほやけど違う。あたしがいつも、水の中を覗いてる理由。
水面に映る樹々の影。
空に鳥が飛べば、水の中にも鳥が飛ぶ。
あたしは思う。水の中が、本当の世界かもしれんよ?

98 :水の中の世界 :2006/02/21(火) 01:10

「だって」

この世界は、地面がぐらぐら揺れるみたいな気がするんや。
毎日毎日、立ってるのも辛いくらい揺れてる。
胸がザワザワと不安になるくらい。
そう、不安になる。妙に落ち着かないキモチに襲われて。

「……アタマおかしいんかな、あたし」

ううん、違う。
みんなのほうがおかしいんや。
歪んだ笑い。さざめき。嘘の言葉。優劣。興味。視線。束縛。自由。自由?

目の前が、ぐらりと揺れる。
ほら、また揺れはじめる。
なにを根拠に、どれを信じるの?
気持ち悪いよ。全部、気持ち悪い。
なぁ、この世界のほうが間違ってる……かもしれんやろ?
99 :水の中の世界 :2006/02/21(火) 01:11

錆くさい柵から身を乗り出して、指先で水面に触れてみる。
たちまち波紋が広がって、水の中の世界は消える。
ああ、今日も失敗や。どうしても入り込めん。
水の中の世界、そっちがほんとかもしれんのに。

「なんてな」

あたしは今日も諦めて、スッと身を起こす。
すいすい泳ぐアメンボを恨めしく見つめながら、いつものように。
だけどどうしたことか、柵に手をついて顔を上げた瞬間、
ふいに視界がチカチカッと白く光った。

「あ……」

しまった、貧血や。
とっさに柵を掴もうとした指先がつるりと滑って、
前のめりにぐらりとカラダが傾いだ。
うわヤバ、どうしよ……
100 :水の中の世界 :2006/02/21(火) 01:12

「危ないっ!」

遠くで誰かの叫び声が聞こえた。
とたんにあたしは、わかってるよ、ってグッと顔を上げる。
へーきやよって、なんとか体勢を立て直そうとする。
ほっといてって、なんでもないような素振りを。

ほやけどあたしのカラダはココロを裏切って崩れ落ち、
あえなくこの地球の引力に引きずられてく。
景色がますますぐにゃりと歪み、なぜかセピアに潤んでくる。

ああ、あかん。
あかんて、立たな、あたし。
グッと歯を食いしばった、その瞬間。
101 :水の中の世界 :2006/02/21(火) 01:13

 どかーーーん!

ふいに後ろから誰かに突撃されて、あたしは悲鳴をあげた。
ブランコに乗ってるみたいに、目の前の水面がゆらりと近づく。
見知らぬ腕が胸元に見えて、心臓がドキンと脈打った。
後ろからギュウッて、抱きしめられてるって気づいて。

え?え?え?誰?誰?怖い!
反射的に身をよじって逃れようとする。
その腕が、驚いたようにますます力を込めた。

「ちょっ、タカハシさん、落ちる! 落ちるってぇ!!!」

落ちんわ、アホ!って思った時やった。
二人分の体重に古びた柵がメキメキッと音を立てた。
アホ! 放せ! ほんとに落ちるがし!

「わあああっ!」
「どわああああ!」
102 :水の中の世界 :2006/02/21(火) 01:14

 ばっしゃーん!
 ごぼごぼごぼごぼ……

頭から沈んでく、水の中の世界。
ずっと潜ってみたかった幻想の世界。
だけど、あたしは悲しく思った。
しっちゃかめっちゃかに腕を振り回しながら。

ああ、水の中の世界も苦しいな。冷たいな。濁っとる。
結局、そうや、どこも、あたしには息苦しい。
土の上も水の中も、うまく泳げない。
ただみっともなくもがくだけ。溺れるだけ……
103 :水の中の世界 :2006/02/21(火) 01:15

「…………かはし、さ……」

あの腕がまた、あたしを探って捕まえようとした。
無重力に溺れながら、薄目を開けてその顔を確かめる。

 誰やろ、知らん女の子や……
  うちの学校の、制服、着てる……
   なにか、言ってる……、腕を伸ばして……
 あたしなんかに、必死で腕を伸ばして……

「……立てる……から……!こっち……!」

   立てる……? 立て、る……?
104 :水の中の世界 :2006/02/21(火) 01:17

次の瞬間、あたしはぐいっと抱き寄せられ、
すごい力で、ぐうんと持ち上げられた。
ざばっと水面に頭が出る。

「あ……」
「ぷはーーーー!」

とっさにその首にすがりつき、おそるおそる爪先を伸ばす。
あ、ほんまや。足がつくわ……。
やっと腰くらいしかない水深に、きょとんとする。

「……なーんや、こんな浅かったんか」

こんなとこにあたしは入ってみたかったんか。
こんなとこに、あたしはいつも幻想を見ていて。
ここじゃないどこかを夢見ていて。
105 :水の中の世界 :2006/02/21(火) 01:18

ああ、アホみたいやな、あたし。
ほんと、アホみたいやな、あたしって。

クックッと笑い出したあたしに、
見知らぬ彼女が呆れたように、もおおおおお!と吠えた。

「ちょっともぉー、タカハシさんっ!」
「ふぇ?」
「なにやってんのもぉ! あっぶないじゃないデスカー! 」

危ないって、結局あんたが激突したから落ちたよーな?
プリプリ怒ってるその首にびしょぬれですがりついたまま、
まったくヒトのココロは理解不可能って思う。
そして、思いつくままに尋ねた。
あたしを水の中へ突き落とし、そして拾い上げた、
このおせっかいな腕の持ち主について。
106 :水の中の世界 :2006/02/21(火) 01:20

「なんて名前?」
「へ?」

彼女はなぜかパチパチッと目を見開き、
それから、みるみるうちにプクーとふくれた。

「ちょっとぉ。あたし、アナタのクラスメイトですよ?」
「え?」

オガワマコトですよ、オガワマコト。
ふてくされた声で、告げられた名前。
オガワマコト。口の中で呟いてみる。
不思議と、言いやすい名前。

「覚えた」
「……あ、そぅ。ヨロシクね」

ヨロシク。
その首にすがりついたまま、あたしは答えたんや。
まじまじとその大きな瞳を見つめて、世界を探す。
オガワマコトの世界は大きくて、とても澄んでいて、
風に揺れる樹々が映っていた。空に飛ぶ鳥が映っていた。
107 :水の中の世界 :2006/02/21(火) 01:21


「きれい」
「ハァ?!」

気がつくと、地面はなにも揺れてなかった。
あたしは気づく。そっか、この子につかまってるからや。
そうや、なんでこんな簡単なことに、ずっと気づかんかったんやろう?
こうして誰かにつかまってたらいいんや。そうやそうや。

そしたらもう、なにも怖くないよ。
108 :水の中の世界 :2006/02/21(火) 01:22

オガワマコトは大っきな犬みたいにぶるぶるっと髪を振って、
そこいらじゅうに冷たい水滴をまき散らした。
顔にぶあああっと霧がかかって、あたしは声をあげて笑った。

「ちょっとぉー、そろそろ離してくださいよぉ?」
「イヤやー」

だって、くっついてるの気持ちいいんやもん。
ねぇ?知らんかった。気持ちいいんやねぇ?
ヒトとくっつくのって、気持ちいいんやねぇ?

ますますべったりとぶらさがったあたしに、
オガワマコトは「重いぃぃー!」と呻いた。
なんや失礼やな、重くないよ。
あんたよりずっと軽いよ、たぶん。
109 :水の中の世界 :2006/02/21(火) 01:23

「そういうハナシでなく」
「なんやの?」
「とりあえず、池からあがりましょーよ。ね?」

エイエイと押されて引き剥がされ、悲しい気持ちになる。
だけどすぐに手を繋いでくれたから、あたしは機嫌を直した。
オガワマコトは空いてるほうの手で壊れた柵を掴んで
わわわと落っこちそうになりながら地面に這い上がり、
それからあたしのことを、ぐいぐい引っ張ってくれた。

繋いだ手を離したら、もっとカンタンに地面に戻れたやろうけど、
あたしはわざとその手を離さんかった。
本気だせば、ヒラッて飛び上がれたけど、
あたしはわざと、鈍くさいふりをした。
顔を真っ赤にして一生懸命あたしを引っ張り上げようとする
オガワマコトの顔を、見ていたかったから。
110 :水の中の世界 :2006/02/21(火) 01:24

「はー。重かった重かった」
「重くないって」
「ハイハイ。うっしゃ、とりあえず体操服に着替えっかぁー」

濡れネズミ状態で、オガワマコトはニカッと笑った。
まあるいほっぺを、ぴかぴか光らせて。

「着替え、メンドイ」
「だって、びしょ濡れじゃあ帰れないでしょお?」
「ええよ、あたしこのままで」
「えっ、だーめだよぉ」
「いいって。なんじゃあれ?って思われたって」
「いや、そーゆーことじゃなく」
「え?」
「風邪ひくからさ」

あ、そっちの理由……。
あたしはたちまち赤くなる。
ヒトの目をいつも気にしすぎてる自分に気づく。
そう、気にしてるから、いつも無視して、拒否して、シャットアウトして。
111 :水の中の世界 :2006/02/21(火) 01:25

うつむいたあたしの手を、オガワマコトがぐいと引いた。

「シャワー浴びて、あったまって帰ろー」
「シャワー?」
「部室棟にあるじゃあん。知らない?」
「知らない」
「ぶはは。タカハシさんは、なーんも知らないんだねぇ〜」

笑われてるのに、あたしはなんか嬉しかった。
オガワマコト。しっかりとそのあたたかな手を握り返す。
見つけた、揺れない世界。連れてって、このまま。

「オガワマコトぉ〜。何年何組?」
「だっから、あんたのクラスメイトですってば」
「あ、そっか。そういえば、さっき聞いたの」

やれやれって、オガワマコトは肩をすくめた。
あたしは思う。これからもっと困らせるよ?
だって、気に入っちゃったから。
112 :水の中の世界 :2006/02/21(火) 01:26

「オガワマコトー!」
「うえっ? なんでしょ?」
「なんでもなーい」

あたしは鼻んとこ、くしゃってして笑った。
さあ、連れてってオガワマコト。
水の中で見つけた、新しいあなたの世界。
まっすぐで伸びやかな、あなたが笑って生きてる世界。


☆終☆
113 :名無飼育さん :2006/02/21(火) 09:47
うーん、可愛い。
そうそう、周りを拒絶するカンジありますよね、愛ちゃん。
紺野さんなんかとは種類の違うじれったさがあります。
「そこに答えがあるのに、なんで掴まないの!」みたいな。
スッキリわかりやすいまこっちんとは正反対…
二人とも青春ですごく可愛かったです。楽しく読ませていただきました。
114 :名無飼育さん :2006/02/21(火) 11:35
素晴らしいです。理想のまこあい像を見た気がします……
伝える言葉を知らないので簡潔に……すごく良かったです!
115 :名無飼育さん :2006/02/22(水) 00:55
すごいなぁ。
愛ちゃんの心の中を覗いたような気がしました。
独特の感覚を持っていそうなところが興味深いです。
116 :雪ぐま :2006/02/26(日) 01:32

113> 名無飼育さん
そうなんですよ、愛ちゃん見てるとじれったくて〜。
だからこそ愛ちゃんは、まこっちゃんと仲良くしたいのかなあって、
ハロモニとか見ていて、よく思うのです。

114> 名無飼育さん
ありがとうございます。まこあいってかわいいCPですよね♪
こちらこそレスをいただけて、とても励みになります☆

115> 名無飼育さん
愛ちゃん独特のテンポって、不思議なものがありますよね。
何考えてるのかなあ?って、いつも想像してしまうんです。

それでは、次のお話にまいります。
117 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:33


前のお話の続き。
愛ちゃんに気に入られちゃったまこっちゃんのお話。
『いけない放課後』

118 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:34


ごそごそごそ。

ふわふわの羽根布団の中でひとしきりゴロゴロして、
いつもみたく愛ちゃんは、ひょこっと顔を出した。

「マコト」

振り返って、あたしは思う。
ちょっとアナタ、制服がシワになりますよ?……じゃなくて。

「マコトぉ」

うー、ハイハイ。
あたしは今日も観念して、モジモジとベッドに近寄るんだ。
愛ちゃんが嬉しそうに笑って、両手を伸ばしてくる。
腕をつかまれて引っ張られながら、あーあ、紅茶冷めちゃうって思う。
うー、せっかくいれたのになあ。
愛ちゃん紅茶好きかなあ?って思って。
119 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:35

「マコトー」

ぎゅうってされて、思わず咳き込みそうになるのをこらえた。
お布団の中は、あたしの匂い。
だって、あたしのベッドだもん。
なのにどうして愛ちゃんは、ここに潜り込むのが好きなのかなぁ?

「気持ちいいね、マコトぉ」

くっついてると気持ちいいねぇ。
そう言って愛ちゃんは、あたしの背中に腕をまわすんだ。
それから、びっくりするほど細っこい脚が、
腰のあたりにヨイショと乗っかってくるのがわかって、
あたしは内心、うっひゃあああああ!!!と悲鳴をあげた。

「マコぉー」

わわわわわ。ねぇ、ヤバい。
昨日よりもっと絡みつかれてる。
今日のほうが、強くしがみつかれてる。
そう、毎日、ちょっとずつちょっとずつ、
あたしたちはなんかこう、とんでもない形に。
120 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:35

「あのー……、あ、愛ちゃん?」
「んー?」

あたしの動揺なんて、まるでおかまいなし。
腕の中で愛ちゃんは目を閉じて、いつもうっすら微笑んでるんだ。
ごろごろと懐いてくる猫みたいに、ご機嫌に。
冷や汗かきつつ、その顔をチラとうかがってあたしは、
この子、かわいいとこあるんだよなあって思ったりもするんだ。

そうだよ、教室でもこんなふうに笑ってたら、
きっともっと友達だってできるのに、ってさ。
121 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:36

「ねぇ、愛ちゃん、……あの、お母さん来るかもぉ」
「来んよぉ。いつも来んがし−」

そうだけどぉ、うん、なんかあれから毎日アナタ来るからねぇ。
そう、あの日、お寺さんの池にふたりでドボンと落っこちてから、
放課後アナタ、毎日、ついてくるからねぇ。
お母さんだって、もうわざわざお茶とか持って来ないけどぉ。
夕飯の支度とかしてるから、平気だとは思うけどぉ。
でも、ねぇ、すぐそこに、壁の向こうにいるんだよぉ?

「鍵、つけたらいいがし」
「部屋にぃ? ええー……」

そんなの急につけたらヘンじゃん。ナンカ怪しいじゃあん。
あーあ。あたしはまた、赤くなってるほっぺたを感じるんだ。
心臓がバクンバクンて、体中の血をアタマのほうに押し出してるのとか。
なのに愛ちゃんったら、やっぱりまるでおかまいなしで。
122 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:37

「マコぉ、もっとくっつきたいー」

彼女の鼻先が、首のあたりに潜り込んでくる。
とたんに、つやつやの髪からシャンプーの香りがぶわーってしてきて、
あたしは、もう目を開けてられなくなる。
目も開けてられなくなる。
鎖骨にほっぺたをぐりぐり押しつけられて、ゴクンと息をのんだ。
うわぁ、もぉ、どおしよぉ、どおしよぉ、どおしよぉぉぉ……

「ううう……」
「あー、どうしよ。もうすっごいすっごい気持ちいい」

すっごい気持ちいいよぉ。
なあんて首んとこで囁やかれて、
あたしはマジでウギャーッ!ってなるんだ。
腰が抜けそうになるんだ。
くたくたーって、カラダの芯が抜けちゃいそうになるんだ。

ほら、イカとかさぁ、なんか透明な芯があるじゃあん?
ああいうのがさ、あたしのカラダからすうっと。
腰のあたりから、すうっとさ。
123 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:37

あたしはブンブンとアタマを振り、
くたくたになった意識を元に戻そうと必死で努力した。
えーと、なんかなんか、ナンカ話題!
なんてことない話題! フツーの話題!

「あ、あ、あ、愛ちゃんっ」
「んーー?」
「あのー、あのデスネ、今度の土曜なんだけどぉ」
「ウン」
「お祭りあるじゃん? みんなで行こうって言ってるんだけどぉ」
「イヤ」
「うえっ?! 」

ヒョイと顔を上げて、愛ちゃんはギロリとあたしを睨んだ。
一緒に行こうって言う気やろ?って。
そうですよ、あいかわらずカンがいいのはいいんだけど。

「イヤやってばあたし、みんなと出かけたりとか」

ぶんむくれた声、超コワイ。
うーん、なんでかなあ?
なんでそんなにイヤかなあ?
あたしが誰かといると、絶対に近寄ってこないのはどうして?
124 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:39

そう、休み時間は知らん顔の愛ちゃん。
放課後みんなが部活に行って、フットサル部を脱落したあたしが
ひとりで帰り支度をしていると、いつの間にか目の前に立ってるんだ。
で、一緒に帰ろーって腕を引っ張るの。なんで?

「あたしの友達だよぉ? 平気だってー」
「イヤなんやってば。もぉ、しつこい」
「……だってぇー」

仲良くしたらいいじゃん、みんなと。
別に嫌われてるってわけじゃないと思うよぉ、愛ちゃん。
愛ちゃんのほうが、距離をとってるだけで。
うん、愛ちゃんのほうが、変なバリア張ってるだけで。

「…………………………」

むっつりと愛ちゃんは、あたしの胸に顔をうずめた。
気難しげに寄せられた眉は、どことなく苦しげにも見えて。
なにがそんなにイヤなのか、あたしにはわかんない。
わかんないからさ、困っちゃう。
125 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:39

「ダメかぁー」
「マコだけいたらいい」
「へっ?!」
「あたし、マコだけいたらいい。……あかん?」

ええ〜〜〜?
あたしは赤くなって、答えに詰まってしまう。
どうしてかな? なんか気に入られちゃったみたいなんだよね。
一体、あたしの何がでしょう? どこがでしょう?

「あかん?」
「あかんってことは、ないけどぉ」

胸に浮かぶのは戸惑いのキモチ。
謎だなーってキモチ。
だけどその奥に、あたしは確かに感じ始めてる。
……なんかウレシイってキモチ。
そう、なんか嬉しいかもって、じわっと滲むみたいに。

ねぇ、これって一体、なんなんでしょうねぇ?
126 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:40

「ねぇ、マコ、もっと」
「な、なに?」
「抱っこして」

ぎょえぇぇぇーーーーーー!!!!!
抱っこってアナタ、ど、ど、どーゆうつもりですかホント!

「ねぇ、マコぉー、もっとぎゅーってして?」
「ううううううううううう……」

あのね、あのあの、そりゃあね、
仲良しだったらこんなふうに、うん、
じゃれあったりしたっていいとは思うけどー……。

でもね愛ちゃん、なんだかアタシ、ヤバいのよ。
なんかおかしなキモチになるんだよ。
そう、女同士なのに、アタシ意識しすぎと思うけど。

「ねぇ」
「うーー……」

だけどね、だけどさ、こんなふうにその、
ベッドに横になってこんなふうにしてるなんて、
たぶん、オトコとオンナだったらあたしたち、
なんか、なんか、ヘンなこととか起こっちゃうんじゃないのぉ?
とか、とか、とかーーー???
127 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:41

「マコぉー」
「う、ウン……」

お布団の中からはいつの間にか、いつもと違う匂いが溢れ出す。
愛ちゃんのシャンプーの香り。
それからなんか、大人の女のヒトみたいな香りも立ち上ってきて。
ああ、これはたぶん、愛ちゃんがつけてる香水の香り。
教室の中でいつもひとり大人ぶって、
ムズカシー本とか読んでる愛ちゃんの。
128 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:41

Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi………

ふいに愛ちゃんのケータイが鳴って、彼女はハッと顔を上げた。
17時30分。携帯のアラームを愛ちゃんは、
ベッドに潜り込む前に、必ずセットしてるんだ。

「ああ、帰らな」

ため息まじりの声。
うち門限が厳しいんやって、仲良くなった頃、
ものすごくイヤそうに言ってたっけ。

「門限6時って、すごいよねぇ」
「やろ? あり得んよ、高校生やのに」
「そーいや、うちって門限ないかも」
「あはは。マコのお母さん、呑気そうやもん」

マコトに似てるわ。
愛ちゃんは鼻のとこ、くしゃってして笑って。
そして、ヨイショって起き上がった。
129 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:42

ふいに腕の中が空っぽになって、
あたしはナンカ寒くなったみたいに思う。
さっきまで困った困ったって思ってたのに、なんか。
なんかなんか、寂しいな。なんて。

「いいな、マコんちは。うちのお母さん、すぐ怒るんやもん」
「うちのお母さんだって怒るよぉ」
「でも仲いいがし。マコ、なんでも話すんやろ? お母さんに」
「うーん、まあ、そうかもねぇ」
「ええなぁ」

ベッドの縁に腰かけたまま、愛ちゃんはフッと目を伏せた。

「あたしはなんか、お母さん嫌いかも……」

たちまちあたしは、気まずい気持ちになる。
こういう時、あたしはいつもうまく言葉を思いつかなくて。
愛ちゃんのフクザツな心の中が、時々こんなふうに透けて見えても、
ただ困って、なにか言ってあげたいと思うけど、でも、でも。
130 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:42

「……………………」
「まぁ、いいんやけど」

パッと振り返って、愛ちゃんは笑った。
そんであたしの鼻をムニッてつまんで、もっと笑った。

「じゃあ、帰るー」
「あ、ウン」

キュッて引っ張りあげた靴下には、
みんなが欲しがってるブランドもののマークがついてて、
くるりと首に巻きつけたマフラーもやっぱり
みんなが欲しい欲しいって騒いでるチェックのやつで。

ちゃんと大事にされてるっぽいけどなって思う。
欲しいもの、なんでも買ってもらえてるんじゃないの?って。
お小遣いもあたしより全然いっぱいもらってるし、
なんか、そう、愛ちゃんちはただ過保護っぽいだけっていうか。
131 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:43

「愛ちゃん、お母さんは心配してるんだと思うよぉ」
「………………」
「門限とかもぉ、女の子が夜歩くと危ないじゃん? だから」

愛ちゃんは口をつぐんで、しばらく何も答えなかった。
あれ、怒っちゃいましたかねぇ?
気まずい沈黙に、冷や汗がたらりと流れる。
ど、ど、どーしよぉってマジで思い始めた頃、
やっと愛ちゃんは、ぽつんと言葉を落とした。

「ほやけど、籠の中の鳥やもん」

ああ、閉じ込められてる感じで。
ナルホド、うん、イヤだよねぇそういうの。わかるよ、うんうん。
ここぞとばかり、必死こいて頷いたあたし。
なのに、愛ちゃんったら。

「ま、籠の中がイヤってわけじゃないんやけどの」
「へ?」
「選べんのがなぁ」

どぉいうことぉ?
あたしはまた困っちゃって、首をかしげる。
愛ちゃんが言うことはホント、次から次へとワケわかんなくってさ。
132 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:43

「閉じ込められるのはいいんやけど」
「え、いいの?」
「いいよ。閉じ込められたいって時もあるし」
「えっ、閉じ込められたい?」
「ウン。たとえば、こことかぁ?」

ひらりと愛ちゃんが腕の中に飛び込んできて、
あたしはギャーッ!ってなって、またまたベッドにひっくり返った。
とたんに弾けたように愛ちゃんが笑う。
あたしの上に乗っかったまま、喉の奥まで見えそうな笑顔で。

「あはははは! あー、オモロ!」
「ちょっ、なんだよもぉ、重いー!!!」
「重くないって、アホ」

ぴょこんと立ち上がって、愛ちゃんはバイバイって手を振った。
一瞬、眩しさを感じて、あたしは思わず目を細める。

ねぇ、ちょっと首を傾げて笑うの、クセだね。
長い髪が、生きてるみたいに肩からサラサラって流れ落ちて。
133 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:44

「紅茶、ありがと」

テーブルを見ると、いつの間にやらカップはカラッポ。
ありゃりゃ、いつの間に?

「紅茶、好き?」
「うん、好きやよ。ダージリンよっか、アールグレーがいいけど」

じゃね。
ひらっと手を振って愛ちゃんは、てててと帰ってく。
ちょっと唐突に、振り返りもせずに、
また明日とも言わず帰ってく。

彼女の自転車が走り去ってく音を窓の外に聞きながら、
あたしはカップの底に残った紅茶を指ですくって舐めてみた。
これ、ダージリンってゆー紅茶なんだ。
そっかそっか、知らんかった。
134 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:45

カップを台所に持っていって、あたしは尋ねた。

「おかーさん、うち、アールグレーってある?」
「アールグレー? ないわよぉ、お母さん、あの香り苦手だもの」

そっかぁ。
おかーさんが嫌いなら、買ってくれないよね。
あたしはスゴスゴと部屋に戻り、
貯金箱をジャラジャラあけて、銀色のコインを数えた。
ひいふうみぃ……うー、1000円あったら
アールグレーの葉っぱって買えますかねぇ?

「マコトー、出かけるのー?」
「ウン。すぐ帰ってくるー」

アールグレー。アールグレー。
忘れないように呟きながら小走りに外に出ると、
あたしの自転車のサドルに、なにやら白いチョークの落書き発見。

なにこれ、スマイルマークが、ウインクしてる!
135 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:46

「なんじゃこりゃあ!」

愛ちゃんだなっ。まったくもー。
ブツブツ言いながらあたしは、ガチャガチャと自転車の鍵を開けた。
それからちょっと変だけど、立ちこぎでスーパーに向かったんだ。
お尻でスマイルマークを消しちゃったら、
なんだかもったいないような気がしてさ。

「くっそー、漕ぎにくいなぁ、もぉ!」

びゅんびゅんと風の中、あたしは走る。
アールグレー、アールグレーって呟きながら。
136 :いけない放課後 :2006/02/26(日) 01:47

ねぇ、愛ちゃん、びっくりするかなあ、アールグレー。
びっくりしてほしい。そいで笑ってほしいんだ、愛ちゃん。
ドギマギしてるあたしを見てとかじゃなくって、
ありがとうって、嬉しいって、ほんわかした笑顔でさ。

『マコ、ぎゅーってして?』

びゅんびゅんと耳元で風は鳴り続けて、
心臓のドキドキは、なかなか収まりそうもなかった。
風の中、愛ちゃんの声、まだ聞こえてる気がしてた。

ねぇ、おかーさん、これって一体なんなんでしょうねぇ?


☆おしまい☆
137 :孤独な名無し :2006/02/26(日) 03:54
嗚呼…はがゆい感じがマコらしい!
なんだかんだ愛ちゃんのが優位に立ってる小高が大好きです。
更新お疲れさまです。
138 :名無飼育さん :2006/02/27(月) 00:12
ココの愛ちゃんの感覚、なんとなく自分にも分かるような所があって
ちょっと考えさせられました。

こーゆーまこあい大好きです。
シリーズ化希望!
139 :名無 :2006/02/27(月) 02:25
更新お疲れ様です。
2人共めっちゃかわいい!!
140 :名無飼育さん :2006/03/02(木) 20:07
撃沈……w
可愛すぎて泣いてしまいました〜・゚・(ノД`)・゚・ 。
マジで可愛いです、もう読み返して読み返すほどに愛しくなってきます。
ほんとに素晴らしいまこあいをありがとうございます!
141 :名無し花子。。。 :2006/03/08(水) 02:22
ぐはぁーっ。
何だこの素敵過ぎるまこあいはっ(*´д`*)ハァハァ
二人のもどかしいさっぷりに頬肉があがりっぱなしな訳ですが。
愛さんの真直ぐ過ぎるが故の不器用さとかヘタレな小川さんが現実の二人と
重なって良いです!
私もシリーズ化希望です!
142 :雪ぐま :2006/03/15(水) 02:36
137> 孤独な名無しさん
なんだかんだで愛ちゃんに振り回されちゃうマコっちゃんが
雪ぐまも好きですw ウガウガしててかわいいですよね〜♪

138> 名無飼育さん
あの感覚、わかってもらえて嬉しいな。雪ぐまも思春期の頃は
世界をあんなふうに感じてたんです。シリーズ化は……考えてみますw

139> 名無さん
ありがとうございます。
なかなかお似合いの二人ですよねw

140> 名無飼育さん
そこまで愛していただけて、書いたかいがあります〜・゚・(ノД`)・゚・
また、こんなまこあいを描いてみたいと思います。ありがとうございました。

141> 名無花子。。。さん
ぐはぁーっとハァハァ していただけて嬉しいですw 
雪ぐまが思う愛ちゃんとマコっちゃんの魅力、共感していただけてホッとしました〜。

自サイトのほうのメールでも「シリーズ化希望」って何通かいただいたんですよね。まこあいって、けっこう人気があるんだなあ。。。

では、次のお話にまいります。次はこんごまです〜。
143 :あなたは桜 :2006/03/15(水) 02:38


大好きなごとーさんと過ごす、春を待つ一日。
『あなたは桜』


144 :あなたは桜 :2006/03/15(水) 02:39


桜を見ると、妖しい気持ちになる。
そう呟いたら、あなたは不思議そうな顔をして、
ああ、これってそういう気持ちなのと、胸に手をあてました。

その仕草、よく覚えています。
去年の春、ゾッとするほど幻想的な夜桜の下で。

145 :あなたは桜 :2006/03/15(水) 02:40


……………………………
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……………………………
……………………………


146 :あなたは桜 :2006/03/15(水) 02:40

「ごとーさん、あったかいミルクティーでいいですか?」
「いいよ、自分で買ってくる」
「いいんですいいんです。このベンチ、とっておいてください」

久しぶりの休日の午後、昼下がりの公園。
病み上がりのごとーさんの手をひいて、陽だまりのなかへ。
自販機を探して小走りに駆けながら、桜の樹を見ていました。
蕾がふくらみかけてる。
もうすぐまた、春が来ます。

「桜が咲くまでに治って良かった♪」

原因不明の腹痛がごとーさんを襲って、
私は生きた心地がしませんでした。
ストレス性と聞いて、胸が潰れそうになりました。
私ってほんとに、あなたのために何の役にも立ってない。
そんな気がして。煩わせてるだけのような気がして。
147 :あなたは桜 :2006/03/15(水) 02:41

「あったあった。ミルクティー」

なんでもすると。
あなたのためになんでもすると誓っても、
気持ちはいつも空回り。私って、いつもそうです。

「ガシャンガシャーン、ゴトッ」

意味もなくミルクティーが自販機から転がり出てくる音を真似して、
ヨイショなんて、わざとらしくしゃがみこんで取り出す。
はあっと息をついて、熱い缶カンをほっぺに押しあてました。
ああ、ごとーさん………

「ダッシュ!」

パッと立ち上がって、また駆け出します。
蕾の桜の間をぬって、大好きなごとーさんの元へ。
視線の先に、ベンチに座っておとなしく待っててくれる姿。
近づくほどに私はゆっくりと減速して、しばし立ち止まりました。
148 :あなたは桜 :2006/03/15(水) 02:42

だって、陽射しの中のあなた。
その横顔、拗ねたような口元、すらりと長い足。
絹糸のような髪を無造作に風にまかせて、
心地よさげに青い空に目を細めている。

熱いミルクティーを握りしめ、瞼の裏でシャッターを切りました。
絵が描けたらと思う。写真の才能があったらと思う。
どんな芸術家も、きっと恋に忠実だったことでしょう。
こんな一瞬を、なんとか留めておきたくて。
流れてく時間の中からすくいあげて、
天使を、この手の中に閉じ込めておきたいと願って。
149 :あなたは桜 :2006/03/15(水) 02:43

それにしても私の恋人は、
どんな芸術家のミューズよりも美しいに決まっています。
道行く人が、チラリとあなたを振り返ってく。
よちよちや歩きの坊やが、あなたの前で立ち止まってポカンと見上げたから、
若いママが慌てたようにその手を引いて、ペコリと頭を下げました。
ごとーさんは照れたように笑って、坊やに手を振る。
だけど、坊やはママに手を引かれながら、
やっぱりジーッと、ごとーさんを見つめてた。

その気持ち、わかります。
それは美しい桜の樹の下で、誰もが立ち止まってしまうみたいなこと。
きれいな花はたくさんあるけれど、桜は特別。
輪郭が、不思議にうっすら光っているんです。
凛として、そしてどことなく儚く。
150 :あなたは桜 :2006/03/15(水) 02:44

「ごとーさんみたいに」

そう、あなたは桜。
だけど、散っていかないで。

ふいにそう思い、小さく胸が痛みました。
だって矛盾してる私。
光をはらんで咲き誇りながら、風に身をまかす潔さ。
自由気ままな七色の瞳。いつだって羽ばたいてる人。
それこそがあなたの美しさだと知っているのに、
どうしてでしょう、永遠にこの手に留めたいと願っている。
この胸に閉じ込めてしまいたいと思っている。
もう私以外の誰の目にも触れないように、とか。

「おかえりー」

私に気づいたごとーさんが、
顔をあげて、ほにゃんと笑いました。
私も慌てて、ニコッと笑ってみせる。
大丈夫、気づかれていない。
わがままな私の想い。好きで好きでたまらないこと。
151 :あなたは桜 :2006/03/15(水) 02:45

「ごとーさんって、やっぱり目立ちますねぇ」
「んあー?」
「ほら、あっちのほうの人まで、ごとーさんのこと見てる」
「気のせいだよ」
「そんなことない。ごとーさんは鈍感ですねぇ」

私は笑う。なにげない素振りで。
ごとーさんは本気にしてるのかいないのか、
遠い目をして、気のはやい春風に吹かれてるだけ。

「はいどうぞ、ミルクティー」
「あ、午後ティーだー♪」

妙に嬉しげなあなたが苦しくて、一瞬、目を閉じた。
ああ、ほんとヤキモチ妬きですね、私って。
こんな時に、松浦さんのこと思い出すことないのに。
どんなにごとーさんと松浦さんの仲が良くても、
あなたはいま、私といる。私といる。私の恋人なのに。
152 :あなたは桜 :2006/03/15(水) 02:47

「そういや、まっつーからメール来てたな」
「なんて?」
「んあ、たいした用じゃないねー。遊び行こーぜとかそーゆーこと」
「ああ、ごとーさんが元気になったから」
「かな? よくわかんない、あの子のメールいつも」

私の中にはいつも覚悟があります。
ごとーさん、あなたが無邪気すぎるから。
花が自分のことを花だと知らないように、
あなたは自分の魅力に、まるで無頓着ですね。

「もうすぐ桜の季節が来ますね」
「はやいね、一年て」
「去年のお花見、覚えてます?」
「うん、ネックレス壊れた」
「そうでしたね。夜桜は覚えてます?」
「覚えてるよ」

 桜を見ると妖しいキモチになるって言ってたね、紺野。

不覚にも私は、ちょっと涙ぐんでしまいました。
あなたの唇から流れ出したその声の色。
春風みたいなやさしい音だった。
大切に覚えていてくれたとわかる。
あなたの記憶と私の記憶、ちゃんとリンクしてたとわかる。
153 :あなたは桜 :2006/03/15(水) 02:48

「? なんで、泣くの?」

好きだから。好きだからです。
こんなちょっとしたことで、感情が震えてしまうからです。

だけど私は「なんでもないです」って、エヘへと笑いました。
「とうとう花粉かなあ?」なんて、グーでゴシゴシ瞼をぬぐいました。

「変な紺野」

目を細めてあなたは、私の髪を撫でる。
あーあ、かっこ悪いなぁ、もう。
照れ隠しに、私はまたエヘへと笑うしかなくて。

神様、私は幸せですね。怖いほどです。
そう、怖いほどです。
154 :あなたは桜 :2006/03/15(水) 02:48

「今年も一緒に見れそうだね、桜」
「はい」

あなたは桜。
会うたびほのかに美しく、いつも見とれてしまうから、
いつ散り去っていってしまうかとハラハラします。
だから一瞬を切り取って、私は胸にしまうんです。
そして一瞬を、忘れ難くあなたに切り取ってもらえるように。

「頑張ります!」
「なに、急に?」
「あ……」

しまった、また変なこと言っちゃった。
ボボッと赤くなった私を見て、
ごとーさんはあはっと笑いました。

「紺野って、桜みたいだね」
「え?」
「ほっぺた、すごいきれいなピンク」

褒められたのか、からかわれたのか。
とにかく私は、ますます頬を染めました。
桜のように美しくなれたらいいと、それは憧れだけど。
155 :あなたは桜 :2006/03/15(水) 02:49

「でも、私はあんまり桜っぽくないかと」
「そう?」
「だって、あんなふうに散れないし」

いつかあなたの重荷になったら、きっとすがってしまうと思う。
みっともなく泣いて、懇願してしまうと思う。
どうしたらもう一度、愛してもらえますかと。

ふいに黙りこくった私に、ごとーさんは不思議そうに。
そう、あの不思議そうにちょこんと首を傾げる仕草で、
「散ることないじゃん」って言いました。
私は笑って、「そうですね」と答えました。

ごとーさん、きっと私のほうが好きですね。
あなたよりも私のほうが、あなたのこといっぱい好きですね。
怯える自分の気持ちを、震える心を感じて、
私はいつも、あなたよりも私のほうが幸せに違いないって、
すこし申し訳なく思います。

ねぇ、あなたはどのくらい幸せですか?
退屈じゃありませんか?
156 :あなたは桜 :2006/03/15(水) 02:55

「ごとーさん、お腹痛くないですか?」
「うん、もう全然ヘーキ」

ごとーさんが、さりげなく鼻先を寄せてきました。
私はあわてて息をつめ、瞼を閉じる。
桜色の唇が私に舞い落ちて、カラダのなかに突風が吹きました。
この時、ちりぢりに散ってしまうのは理性。

「あ、また赤くなった」
「い、い、いいじゃないですか別に!」
「あはっ、かわいーね」

この瞬間の永遠を願う、恋ってほんとに切ないですね。
怯える気持ちもあるけれど、見とれてしまってもう動けない。
そして怪しい気持ちになるんです。
月に咲き誇る桜を見上げた、あの夜みたいに。


☆おしまい☆
157 :名無飼育さん :2006/03/16(木) 07:44
こんごまの文学的雰囲気が大好き
作者さんのは特にアロマな感じで気持ちいいです
158 :名無飼育さん :2006/03/16(木) 14:33
全部読みました
どのカプも大好きです。
キャラが良いですね
読んでしあわせになりました。
159 :名無飼育さん :2006/03/30(木) 20:05
雪ぐまさんのごまこん超スキ☆
素敵なお話ありがとうございました♪
160 :雪ぐま :2006/07/02(日) 23:55
お返事、遅くなってしまって申し訳ありませんでした。

157> 名無飼育さん
こんごまは、なんとなく文学的な香りがしますよねw
紺ちゃんが文学少女ぽいせいでしょうか。
アロマなムードを感じていただいて、とても嬉しかったです♪

158 >名無飼育さん
CPにかかわらず全部お読みいただいたとのことで、ありがとうございます。
キャラごとに書き分けるのがけっこう楽しかったりしますw
嬉しいレスをいただけて、私もしあわせな気持ちになりました〜。

159 >名無飼育さん
嬉しいお言葉、ありがとうございます☆
私のごまこんは、ちょっと痛々しくなりがちなんですけどw
でも楽しみに読んでいただけていると思うと、すごく励まされます。

さて、次のお話はいしよしです。
いしよしの時代、燃料投下記念ということで、
アホな妄想炸裂ですけれど、どうぞ笑って許してやってくださいm(_ _)m
161 :雪ぐま :2006/07/02(日) 23:56


仲良しインタビューの後のふたり。
『スペシャル・インタビュー』


162 :スペシャル・インタビュー :2006/07/02(日) 23:58


無邪気なんだか、計算なんだか。

真っ白いワンピースが映えるおいしそうに灼けた肩を見ながら、
あたしはやれやれとため息をつきつつスタジオの廊下を歩いていた。
なんだかガランとして感じる、ふたりっきりのメイクルーム。
ぱたんとドアを閉めて、あたしはいつものあたしに戻る。

「知らねーよ、あたし」
「何がぁ?」

何がって。
ドアにもたれたまま呆れた声をあげたあたしを、
くるりと振り返って梨華ちゃんはニッコリ。

「私、何かダメなこと言ったっけ?」

……うわ、超かわいいよチクショー。
163 :スペシャル・インタビュー :2006/07/03(月) 00:00

演劇の専門誌のインタビューっていう、ちょっと珍しい仕事。
珍しいといえば、あたしたち二人の組み合わせってのもヒサブリだけど。

「楽しかったね♪」

撮影も、お話しするのもね。
彼女は三日月の瞳でフフッと笑って、可笑しげに口元をおさえた。

「おっかしい。よっちゃん緊張してるんだもん」
「し、してねーよ」

だっていつもしてんじゃん、こんなこと、さ。
鏡のほうに行きかけた梨華ちゃんの腕をつかんで、
その背を後ろからちょっと強引に抱き寄せる。
梨華ちゃんは一瞬キャッと声をあげて、
それからあたしの腕の中で、どことなく照れたみたいに笑った。

「なんかさっきと逆だね、撮影の時と」
「……つーか、あれマズいでしょ?」
「そぉ? いいじゃんどうせ使われないよ」

まあね、あたしもそう思うけど。
だけど梨華ちゃん、急に背中にぴたっとしてくるんだもん。
そりゃちょっとびっくりしちゃうよやっぱ、ね。
164 :スペシャル・インタビュー :2006/07/03(月) 00:01

「記念にフィルムに残したかっただけだよ」

 だって二人だけの撮影なんてないじゃない?
 この世のどこかにさぁ、あの瞬間が残ってると思うといいじゃん。

そんなかわいいこと言って腕の中にもたれかかってくる梨華ちゃんは、
いつもよりけっこう背が高くて。
だけどこんな踵の高いサンダルを履いてもあたしよりまだ小さいこと、
あたしはなんかちょっと安心するんだ。
なんでだかわかんないけど、さ。
165 :スペシャル・インタビュー :2006/07/03(月) 00:02

「知らないよー? いつもこんな感じなんですぅ〜なんて言っちゃってさ」
「どうせカットされるよ」
「まあね。でもさぁ、ちょっと引いてたじゃん編集の人」
「引いてたのは、よっちゃんでしょっ?」
「そりゃ引くよ、フツーに」

だって、どんな顔したらいいんだよあんな時。ねぇ?
やれやれって大げさにため息をつくと、
梨華ちゃんはプーッとふくれて、後ろアタマを顎にゴツンとしてきた。
イテっ、ちょっとぉ〜〜〜。

「よっちゃんだって、私のこと意地っ張りとか言ったじゃん」
「それはさぁ、事実だから」
「だったら“いつもこんな感じ”だって事実でしょ〜〜?」

まったく口が減らないなあ、このヒトは。
あたしは口を尖らせて、すぐそこにある耳たぶに彼女が好きなキス。
とたんにキャッと高い声をあげて、梨華ちゃんは身をよじった。
166 :スペシャル・インタビュー :2006/07/03(月) 00:03

「ちょっ、だめだよ、よっちゃん」
「誰も来ないよ」
「でも、マズいよ…ちょっ、ダメだって!」
「鍵かけたって。ほら」

後ろ手にガチャガチャとノブを回してみせる。
その手をちらっと確認して彼女は、なんとなくおとなしくなった。
そう、納得すると急に素直になる。

「それも事実」
「なによ」

別に。
あたしはもう一度、腕の中にしっかり梨華ちゃんを抱きしめて
胸いっぱいに彼女の香りを満たしてく。それから。

「髪切って…、便利だね」
「なに…が…?」
「背中にキス、…しやすい」
「え…ちょっと……ねぇ…」
「んーー……?」
「…だめだよ、まだ仕事…残っ…てるのにぃ……」
「そうなの?」
「もういっこ、インタビューあ…るの……私、ねぇ…ちょっと……」
167 :スペシャル・インタビュー :2006/07/03(月) 00:04

逃れようとする肩を両手で押さえたまま、そっと首筋に噛みつくと、
アトつけちゃダメだよぉって、吐息で組み立てられた甘い声。
あたしはなんか、あたしのほうが腰が砕けそうになっちゃって、
ホントに今はダメってあたしの腕から軽やかに逃げてく
白いワンピースをぼんやりと見てた。

「……白が似合う」
「……よっちゃんは黒が似合うよ」

振り返って、はにかんだ梨華ちゃん。
すこし火照ったピンクの頬で笑うあなたは、あたしだけのもの。
フィルムにも残さない、あたししか知らない恋人の笑顔。
168 :スペシャル・インタビュー :2006/07/03(月) 00:05

「やっぱ、ちょっとしたくなっちゃった」
「ダメだってば」

狭いメイクルームで、しばし追いかけっこ。
ひらりひらりとからかうみたいに逃げて梨華ちゃんは、
ほんとに時間ないんだってばって笑った。

「後でね」
「マジ?」
「待っててくれたら」
「げ。先帰ってるから、後でうち来てよ」
「じゃあ、行かない」
「マジでぇ?」

あーあ。モテモテよっすぃ〜を待たせるなんて、あんだだけだよベイベー。
あたしは肩をすくめて、安っぽいソファにどかっと腰かけた。
169 :スペシャルインタビュー :2006/07/03(月) 00:06

「行ってくれば?」
「やったぁ♪ 2時間で戻ってくるねダーリン♪」
「にっ、にじかん〜〜〜???」
「すぐだよぉ。今日の反省でもしてて。ねっ?」

ちぇ。なにを反省するってゆーのさ。
ふてくされてあたしは、取材でもらった差し入れのお菓子をむしゃむしゃ。
あ、ウマいねこれ。さすが小○館さんは気が利いてるねー。

「ちょっとぉ、私にも残しといてよ?」
「知らねーよ」
「残ってなかったらヤんないからね?」
「うわ、すげー脅し方!」

あははと笑って梨華ちゃんは、
カチューシャをちょっと直して出て行った。
あたしはひらひら手を振って、それからごろりと横になって目を閉じる。
170 :スペシャル・インタビュー :2006/07/03(月) 00:07

背中合わせの、あのショット。
あの夏のカレンダー以来だね、ムースポッキーみたいだねって、
眩しいフラッシュとシャッターの中、あなたは嬉しそうに囁いていた。
懐かしいね覚えてる?って、誰にも聞こえないように囁いていた。

「覚えてるよ」

あたしはひとり呟いて、フッと笑う。
心地よい睡魔が瞼の裏に広がって、深い記憶にゆっくりと沈んでゆく。

覚えてるよ梨華ちゃん。
『ピンチランナー』でうちら棒読みすぎたね。
今でも思い出すんだ、ふたりで必死に練習した、たった一行のせりふ。
わーきれーいってカン高いあの声、今でも思い出すんだ。
もう、何年も前のことなのに、今でも時々思い出すんだ。
おかしかったな、あれは。みんなに笑われてしょんぼりしちゃって。

「ああ、かわいかったな……」

あの頃のネガティブな梨華ちゃんも……。
171 :スペシャル・インタビュー :2006/07/03(月) 00:08

…………………………………………
…………………………………………
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…………………………………………
172 :スペシャル・インタビュー :2006/07/03(月) 00:08

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173 :スペシャル・インタビュー :2006/07/03(月) 00:09
    ◇    ◇    ◇    ◇


「どっ、どおしよお、よっちゃああああん……」

梨華ちゃんが子犬のような涙目で、あたしの腕にすがりつく。
あたしはというとまだググッと絶句して、
さっき届いたばかりの分厚い雑誌を凝視してた。

ちょっとこれなに、8ページ?
って、それはいいけど、なにこれいしよし祭りじゃん!!!
ちょっとぉ、演劇に関係ないとこはカットしてよカットカットカットォーーー!!!
174 :スペシャル・インタビュー :2006/07/03(月) 00:10

「うわーん、全部載っちゃってるよこれ〜〜!」
「大丈夫だって! 別に変じゃないって!」
「どうしようどうしよう〜〜〜!」
「大丈夫! だーいじょうぶだって!」

もう出ちゃったものはしょーがないだろっ。
なんて、あたしはちょっと強がってみたりして。
い、いちおう事務所のOKだって出てるんだろうしさぁ、平気平気ィ!

「そ、そうかな? でも…」
「そーだよ。つーか解禁なんだよ解禁!」
「嘘ぉ、そんなのあり得ないよぉ…」
「いいんだYO! とにかく事実なんだから!」

別に嘘はついてないでしょなんて、
梨華ちゃんの手前、あたしはグッと胸を張る。
だってバレちゃったらどうするの?って、
珍しく気弱な上目遣いの髪をくしゃくしゃと撫でた。
175 :スペシャル・インタビュー :2006/07/03(月) 00:11

「い−じゃん別に」
「そ、そう?」
「てか、バレない。平気だって絶対!」

グレーゾーンは白にあらず、黒にあらず。
怪しいなって思われたって、うちらが黙ってれば真実は闇の中。
華奢な肩を抱き寄せてウンウン頷いたあたしを、
梨華ちゃんがちょっと感動の視線で見上げてきた。
およ? ちょっとあたし、今かっこよかった?(てへっ

「よっちゃんって、やっぱたくましいよねぇ」

憧れちゃうな、なーんて梨華ちゃんったら!
いや〜それほどでも〜〜なんてデレデレしたのも束の間、
チョー前のめりポジティブに生まれ変わった梨華ちゃんは、
いつものようにいきなりピコーンと大復活しやがった。
176 :スペシャル・インタビュー :2006/07/03(月) 00:14

「わかった、こうなったら私も覚悟したわ!」
「へ?」
「バレたらバレたでもういいよねっ?」

いやっ、全然違うでしょそれ!
慌てふためくあたしを尻目に梨華ちゃんは
拳を天に突き上げて得意のガッツポーズ。

「事実は事実だもんねっ?」
「いや違くて、だからあたしが言ってるのはぁ〜〜……」

まったく、たくましいのはどっちだよ……。
今度はあたしが梨華ちゃんにすがりつく番。
お願いだからはやまんなよな!頼むよ、なんて。
177 :スペシャル・インタビュー :2006/07/03(月) 00:14

「なによ、そんなにバレたら困るわけ〜〜〜〜?(怒」
「ちちち違っ、そういう意味じゃ(汗」
「なによ、よっちゃんのバカ!へなちょこ!意気地なし!」
「えっ、ちょっ、ちょっと待ってよ〜〜〜」

プイと背中を向けてドスドス歩いていっちゃった梨華ちゃんの背中を
あたしはあたふたと追いかける。速っ! マジ置いてく気かよ!
まったく無邪気なんだか計算なんだか……怖いんだよぉ(泣。

「なによ、ついてこないでよ! バレたら困るんでしょっ!」
「困らない!困らないってば!」

あーあ、こりゃご機嫌とるのに半日コースだぞ……。
でもでも、できたらバレませんように。
だってさぁ、こんなあたしの事実、ちょっとイメージと違うんだって!


☆おしまい☆
178 :オレンヂ :2006/07/03(月) 00:32
更新お疲れ様です!
うーわーいいですねー!やっぱこの2人大好きです!
雪ぐまさんの書かれるいしよしの雰囲気がホント大好きです
そして、このお話を読んだ後にもう一度インタビュー読み直しましたw
179 :名無飼育さん :2006/07/03(月) 20:53
久しぶり?の雪ぐまさんのいしよし
やっぱりいいな〜
180 :名無飼育さん :2006/07/04(火) 00:26
雪ぐまさんのいしよしはホントいい雰囲気で大好きです。
181 :名無飼育さん :2006/07/04(火) 21:07
雪ぐまさんのいしよし最高です
182 :名無飼育さん :2006/07/05(水) 07:35
なんかいしよしの楽屋を覗いてしまったようなw
凄い良かったです。最高!!
183 :雪ぐま :2006/07/21(金) 02:17

178> オレンヂさん
さっそくのレス、ありがとうございます。
いしよしの時代インタビュー、最高でしたねぇw
いつかこんな日がくればと夢見てたことが叶った気持ち(よよよw

179> 名無飼育さん
久しぶり、なのかな? 最近あまり書かなくてすみませんw 
でもさっそく読みにきてくださってありがとうございます。

180> 名無飼育さん
やたらと、いしよし喧嘩萌えの雪ぐまですが、
この雰囲気を気に入っていただいてありがたいです m(_ _)m

181> 名無飼育さん
嬉しいお言葉をありがとうございます。
とっても励みになります☆

182> 名無飼育さん
あのインタビューを読んで、いしよしの楽屋を
やたらリアルに想像してしまいましたw
我ながら呆れた妄想力w お褒めいただき、恐縮です。

さて、次のお話は、それこそ久しぶりのあやみきです。
184 :& ◆K2zUI0Puf6 :2006/07/21(金) 02:19



やさしさって、さりげなく溢れちゃうもの。
『愛の証明』


185 :愛の証明 :2006/07/21(金) 02:20


「遅っせーな…」

みきたんがそう言って、ギロリとキッチンのほうを睨んだ。
ぐうう、とお腹が鳴る。
あたしの分だけまだ来ない、スタジオ近くの古いカフェで。

「そのうち来るんじゃない?」
「えー、うちらの来てから、けっこう経つじゃん」

みきたんの言葉に、
無心にオムライスを頬張ってた紺ちゃんが顔をあげた。

「そういえばそうですねぇ」
「でしょ? 絶対、忘れてるよ」

そうかもねぇ、と思うけど、あたしは「大丈夫だよ」って笑った。
いいから気にしないで食べて、って、当然の振る舞い。
だけどみきたんは、納得しないのであった。
186 :愛の証明 :2006/07/21(金) 02:20

「すいませーん!」

周りの人が振り向くくらい、大きな声を張り上げる。
そう忙しそうでもないくせに、ちょっぴり鈍くさいお店。
苛立ったみきたんが何度か声を張り上げて、
やっと気づいたお店の人が、慌ててすっとんできた。

「すいません、パスタまだ来ないんですけどー」

えっ?
お店の人が、シマッタというふうにオーダーを確認しに戻る。
そして、「いま、おつくりしていますので…」と、苦しい言い訳。

「けっこう待ちます?」
「いえ、すぐに…」
「そーですか」

ドスの利いたみきたんの声に、お店の人はやたら恐縮。
後ずさりする勢いでコソコソ逃げてくその姿を見ながら、あたしは苦笑した。
187 :愛の証明 :2006/07/21(金) 02:21

「みきたん、目つき悪すぎ〜」
「だってさぁ、絶対オーダー通ってないよあれ」

ブツブツ言いながらみきたんは、
「これ食べてな」って自分のプレートを差し出して。
紺ちゃんが慌てて、「私のもどうぞ」ってオムライスの皿を差し出してくる。

「ありがと。みきたんのちょっともらうから大丈夫だよ♪」

もぐもぐ。
ああ、ちょっとお腹が落ち着いた。
あたしは笑って、みきたんにありがとって言う。
だけど、みきたんはまだなんとなくブスーッとしてるの。
私のパスタが運ばれてくるまで、きっとこの調子ね。
キッチンのほうばかり眺めちゃって。
188 :愛の証明 :2006/07/21(金) 02:23

「藤本さんって、頼りになりますねぇ」

紺ちゃんが感心したようにそう言って、みきたんのこと褒めた。
どうかな? あたしは内心そう思う。
お店の人にあんな正面切って文句言うなんて、
雰囲気悪くなっちゃいそうだけど。

「つーか、あり得ないでしょ。オーダーミスとか」

みきたんはぶっきらぼうにそう言って、
あたしにもっと食べろとか強制する。
お腹空いてるんでしょ?って、プレートを押しつけてくる。

「もういいよ。パスタ来るし」
「いや、あと10分は来ないね、あれは」

妙に苛立ってる、みきたん。
あたしは「あーあ」って思うけど、嬉しい気持ちにもなってたり。
だってみきたん、あたしがイヤな目にあったのが許せないのよね?
189 :愛の証明 :2006/07/21(金) 02:23

そんなこと思いもしない紺ちゃんは、
ズバッとオーダーを確かめたみきたんに感心しきり。

「私、言えないんですよね。忘れてるかなー?って思っても」
「待ってるヒマとかないし、うちら」
「でもけっこう待っちゃうんですよ、私」
「言っちゃったほうがはやいよ、マジで」

なんてね、みきたん、紺ちゃんに先輩風を吹かしてる。
でも、知ってる。みきたんはね、自分のオーダーだったらジッと待ってるの。
自分のことなら我慢して、雰囲気重視なの。
あたしだってそう。自分のだから、ジッと待ってた。
だけどもしみきたんのだったら……、やっぱり声を張り上げてたかもね。
190 :愛の証明 :2006/07/21(金) 02:24

やっと運ばれてきたイマイチなパスタを食べ終えて、
あたしたちは外へ出たんだけれど、ツイてないときってあるものね。
グレ−の色した厚い雲から、夕立がアスファルトをざあざあ濡らしてて。

「あーあ、降ってきちゃった」

でも平気。
あたしは空を見てスタジオからビニール傘を持ってきてたし、
みきたんも折り畳み傘を持っていた。
だけど紺ちゃんは情けない顔で、やみそうにない空を見上げてる。

「これ、持っていきなよ」

あたしはビニール傘を紺ちゃんに差し出した。
紺ちゃんは今日はもう帰ってもよくて、
あたしたちはまだちょこっと収録が残ってる。だから。

「でも……」
「いいのいいの。あたし、みきたんに入れてもらうから」
「そうそう。持っていきなよ」

仲良しのみきたんの言葉にやっとホッとしたように紺ちゃんは、
「じゃあ、お言葉に甘えて」なんて、ぺこりと頭を下げた。
何度も振り返って頭を下げる礼儀正しい後ろ姿にバイバイと手を振って、
あたしは、差し出されたみきたんの傘に飛び込む。
191 :愛の証明 :2006/07/21(金) 02:25

「相合い傘だね、みきたん♪」
「だね。ねぇ、もうちょっとこっち」

返事もそうそうに、あたしの腕をグイグイ引っ張ったみきたん。
相合い傘に無邪気にはしゃぐのは、あたしだけだね。
みきたんは、あたしが濡れないようにって必死で。

視界を遮られるほど深く傘の中に包み込まれて、
あたしはまたもや苦笑した。
ねぇ、これじゃあ、みきたんが濡れちゃわない?

「濡れてないよ」
「嘘だぁ」
「いいから、急ご」

スタジオまでは、徒歩3分の雨の道。
あたしのミュールが水たまりにつっこまないように
さりげなく歩く場所を選びながらあなたは、ますます傘を傾ける。

「ねぇ、みきたん濡れてない?」
「…………………」

なにも言わないんだね。
おしゃべりなみきたん、こんなときは無口。
だけど言葉より伝わってくるあなたの想い。やさしい気持ち。
192 :愛の証明 :2006/07/21(金) 02:26

赤信号で立ち止まったとき、
あたしは傾いている傘の柄を、そっと、みきたんのほうに押し戻した。
しばらくまっすぐに立ってた傘は、
やっぱりあたしのほうにじわじわ傾いてきて。

「あはは。あたしって、愛されてるぅ〜☆」
「は?」
「ううん、なんでもない」

あたしはくるりと向き直り、
やっぱり雨粒が降りかかっちゃってたみきたんの左肩をパッパとはらった。
バッグからハンドタオルを出そうとしたあたしを、みきたんは諌める。

「ほら、青になったよ」

あたしは無視してみきたんの肩をせっせとぬぐい、
それからグイッと傘の柄を引き下ろしたんだ。
暗く翳った傘の中、驚いた顔をしたあなたに不意打ちのキスを贈るために。
193 :愛の証明 :2006/07/21(金) 02:27

あたしの唇にみきたんは一瞬目を閉じて、
それからやっぱりちょっと軽く睨んだ。

「……人に見られるよ?」
「見られたら困る?」

誰もいないよ。
あたしは囁いてみきたんをぎゅうっと抱きしめる。
動揺したように傘がますます深く下りてきて、
雨が傘を叩く音がすごく近くに聞こえてた。
キスの音が、消えちゃうくらいに。
194 :愛の証明 :2006/07/21(金) 02:27

「……遅刻しちゃうね」
「……そうだよ。知らないからね?」

しぶしぶ身を離して口を尖らせたあたしに、
赤く染まったみきたんが、照れくさそうに笑って肩を小突いた。
鈍くさいカフェ、どしゃぶりの雨の道。
あなたの宝物だと知ることができた、幸福の時間。

「みきたんって、ホントあたしのこと好きだよねー」
「はぁ?」

なんちゃって、照れちゃって。
でもねぇ、忘れないよみきたん。
あなたがいつもあたしにくれる、ささやかな気持ち。
それは隠しきれない、愛の証明。


☆おしまい☆

195 :名無飼育さん :2006/07/28(金) 13:57
ああ、なんだか凄く。

言葉が続かないです
ありがとう
196 :雪ぐま :2006/09/26(火) 21:51
195> 名無飼育さん
ああ、なんだか凄く。
そう言っていただけて嬉しい気持ちになりました。
ありがとうございます。

さて次は、誕生日を迎えてまたひとつ大人になったごっちん視点のお話です。
197 :ワンルーム :2006/09/26(火) 21:53



あの子はもう、あたしの目の前にはいない。
『ワンルーム』



198 :ワンルーム :2006/09/26(火) 21:54


あたしの暮らすワンルームにはベランダがなく
壁につけたベッドから窓の外を覗き込めば
地上にはアスファルトの白線が見えて
まるでゴールラインみたいに見えるんだ。

飛び込んだら死ねるね。

もうなにをしても満たされないのなら、
生きてる楽しみなんて訪れないんじゃなかろうか。
たったひとつの失恋で
ここまで思ってしまう自分がキライだけれど。
199 :ワンルーム :2006/09/26(火) 21:54

チャイムが鳴った。
あたしはノロノロと立ち上がり、確かめもせずドアを開ける。
さっき駅に着いたと電話をくれた吉子が、
お酒の入ったコンビニの袋を下げて笑っていた。

「また寝てたの?」
「起きてたよ」
「寝グセ、ひどいよ」

ゴメンとあたしは照れて、指先で髪を梳く。
人を迎える格好じゃないね。

紺野が置いていったクリスタルのグラスを避けて、
あたしはわざと、よくあるタイプのデュラレックスの
放り投げても割れないみたいなグラスを選んで氷を入れた。
透明なお酒は40度を越えてて、ひりひりと熱く喉が焼ける。
気持ちよくなってきてぼんやりすると吉子は
さりげなくあたしの肩を抱き寄せた。
200 :ワンルーム :2006/09/26(火) 21:55

「抱いたげよっか? ねぇ」

うん。
あたしは目を閉じる。

もう会えないのかな、紺野。
おとなしいと思ってた恋人が、あっという間に飛び立った。
心の底まであたしを満たす甘やかな空気をつくりだす才能が
いまはもうほかの誰かのために使われている、だなんて。
201 :ワンルーム :2006/09/26(火) 21:55

抱かれながらあたしが泣くから、吉子は同情してるらしかった。
涙でぐちゃぐちゃの目頭に唇がふれて、
息もできないほど強く強く抱きしめられる。

「忘れちゃいなよ」

あたしはその背にしがみつき、頷いた。
忘れちゃうよ。このまま忘れちゃう。
弾け飛べ、意識。真っ赤に染まれ。

そう、こんなに簡単なこと。簡単なこと。
なにも特別じゃない。こんなに夢中になれる。
はやく。もっと。もっともっともっともっともっと……。
202 :ワンルーム :2006/09/26(火) 21:56

さんざん絡まりあって乱れて、汗だくになって止まった。
全速力で走り切った後みたいに倒れて動けなくなったあたしの顎を
まだ、ぐいぐい持ち上げて吉子は乱暴に唇をふさいでくる。
喉を鳴らしてあたしはなんとかそれに応える。そう、応えてる……

「うちらって合うような気がしない?」
「………そ、かな?」
「ごっちん、あたしのこと好きになったらいいじゃん」

ははっ。
あたしは声をあげて笑った。
お気楽なこの人といるのは、いい考えかもしれない。
すくなくともカラダが寂しいことはない。すくなくとも。
203 :ワンルーム :2006/09/26(火) 21:57

「考えとく。でもさ」

重い腰をかばいながらやっとのことで起き上がり、
コーヒーを抽れて、大きなマグカップに注いで渡す。
あちぃ!と騒いで吉子はおどけてるけど。

「梨華ちゃん、どーすんの?」

一瞬、吉子の頬が歪んだ。

「……もうたぶん、ダメと思うよ」

そう。
いろいろたいへんだね。お互いに。
204 :ワンルーム :2006/09/26(火) 21:58

このまま泊まっていくかと思ったら、
明日バイトだからとそっけなく、吉子は服を着始めた。
すこし寂しいような気持ちでその背を見送る。
ドアのところの壁によりかかって、靴をはくのを見ていたら、
ひょいと振り返って彼女がニヤッと笑った。

「合鍵、くんない?」
「やだよ」
「ちぇ」
「なんですぐそーゆーこと言うのよ?」

へらへらと吉子は笑って答えなかった。
合鍵の代わりにあたしは、
実家から送られてきた甘夏をとってきてハイと手渡す。

「元気出しなよ」
「ごっちんもね」

死ぬのはやめにしよう。
あたしはそう思う。
このきれいな女友達にハマれそうにはないけれど、
寂しさを慰めあえる、そこにはほんの少しの愛があるわけだし。
205 :ワンルーム :2006/09/26(火) 21:58

吉子を送り出し、行き場のないワンルームのなか、
あたしはまたベッドに座って窓の下を眺めた。
アスファルトに描かれた白線を、ゴールラインと思うなんて。

「これはチャンスだよ」

だって、あなただけだった世界から飛び立てる。
あなたがもういないのだから。

「ははっ」

馬鹿だな。
たちまち頬に零れ落ちた涙を、あたしは嘲笑った。
崩れ落ちて強く左胸を押さえる。
まだ快楽の汗で湿ってるシーツの上で、
再び襲いかかってきた息苦しさになすすべもなく喘ぐ。

「助けて、紺野」

月影に祈る。あなたの頭上にもかかってるはずの白い光に祈る。
なんでもする。あなたの言う通りにする。ねぇ、聞いて。戻ってきて……
206 :ワンルーム :2006/09/26(火) 21:59

呟きは、ただ胸のなかのリフレイン。
一人芝居の現実に、頭痛がしてきて白い錠剤を飲む。
さあ、はやく眠くなれ。ワープしよう時間を。

もうあなたの香りがしない枕を抱きしめ、かたく目を閉じた。
たぶんいつかこの気持ちも消えていくだろう。


☆ 終 ☆
207 :名無飼育さん :2006/09/26(火) 22:51
作者さんのこういう話、好きです。
208 :雪ぐま :2006/10/19(木) 02:09
207>名無飼育さん
ありがとうございます。シリアスな話ですが自分では好きな感じなので、
そう言っていただけてとても嬉しかったです。

では、次のお話へまいります。
さっきGAMの新曲『メロディーズ』のPVを見て、思わず書いてしまったお話。
209 :幸福な約束 :2006/10/19(木) 02:11



明日、世界が終わる。
『幸福な約束』



210 :幸福な約束 :2006/10/19(木) 02:13


もしも明日、世界が終わるとしたら。
そんな想像が、生きてるうちにリアルになると思わなかった。

「明日、死ぬんだね」
「幸せだね」

腕をからませてあたしと亜弥ちゃんは、
もう何度目かわからない囁きを繰り返してる。
211 :幸福な約束 :2006/10/19(木) 02:14

ベッドの上は、波打つ砂漠だ。
天にも届く城壁に囲まれた幻の楼閣だ。
誰もいない、あたしたちだけの世界。

窓の外の暴動を、そよぐ樹々のごとく遠くに聞きながら
あたしは亜弥ちゃんの肩にもたれかかり、
真っ白な肌にくるまれた鎖骨に唇を寄せた。
亜弥ちゃんは一瞬くすぐったそうに身をよじり、だけど。
212 :幸福な約束 :2006/10/19(木) 02:15

「まだ足りないの?」

いじわるな瞳は、いつだってあたしをただの女の子にしてしまう。
初めてだった。あたしを支配する人に出会ったのは。
見つめられ、恥じらって目を伏せる、そんな自分を感じたことも。

「亜弥ちゃんはもういい…の……?」

首筋を噛まれて、あたしはたちまち息をのむ。
亜弥ちゃんはきっとバンパイアだ。
だって、きれいすぎるし、それに。
213 :幸福な約束 :2006/10/19(木) 02:16

「……あ…っ………」

明日世界が終わるのに、あたしたちはこんなことばかりして。
だけど、亜弥ちゃんは言うんだ。
“こんなことばかりするために生まれてきた”。
ねぇ、あたしもそう思う。今、そう思う。

愛なんて言葉を、あたしたちは使わなかった。
いつの間にか絡まって、ほどけなくなっていた。
恐ろしいほど器用な指先で、蕩けてしまいそうな舌先で、
あなたはあたしを世界で一番、幸福な女の子にする。
声にならない叫びを抱きしめた耳元に浴びせながらあたしは、
いつだって信じられないほど胸を熱くして馬鹿みたいに泣いた。
あなたに抱かれて、馬鹿みたいに泣けた。

そんなあたしに亜弥ちゃんは余裕で笑って、
だけどあたしをとても大切に、とてもとても満足げに、
いつだって爪の先まで好きなように食べ尽くして。
214 :幸福な約束 :2006/10/19(木) 02:16

「……たん、また会おう」

ああ、これが幸せという感情。
迷いなくあなたに捧げる、あたしという存在の意味。
そう、何度でも繰り返す、地球が終わっても銀河があるかぎり。
あなたを追って、あたしは永遠に生まれ変わる。
そう信じたくなる。信じられる。胸に満ちる、幸福な約束……
215 :幸福な約束 :2006/10/19(木) 02:17

窓の外の混乱はますます不幸の色を増し、
あたしたちの幸せをますます際立たせた。
一瞬も離れずにあたしたちは絡まりあい、きっとこのまま朝を迎える。

「怖い?」
「死ぬことはね」
「痛いかな?」
「かもね」
「何時何分何秒だろう?」
「そうね、それだけは知りたいね」

キスをしていたいから。
亜弥ちゃんはそう言って、あたしの顎に指をかける。
明日の朝食はなんにしよう? 二人で食べる最後の朝食。
そんなことを思いながら、あたしはそっと目を伏せる。
幸福の色がいい。目玉焼きの黄色。絞り立てのジュース、みたいな。
216 :幸福な約束 :2006/10/19(木) 02:18

「明日、死ぬんだね」
「幸せだね」

死んでいくけれど、生まれてきてよかったね。
誰もが砂上の楼閣みたいな恋の幻想を見るけど、
あたしたちはその楼閣のなかで死んでいける幸福な、一握りの。

亜弥ちゃんの唇がまたあたしを捕えて、強く掴まれて、
耳がどんどん聞こえなくなっていく。目が見えなくなっていく。
今でもいい。今がいい。はやくきて亜弥ちゃん。
はやくきて、もっとして、今がいい、終わりの時。
今がいい、今すぐがいい、はやくきて、はやく、はやく………

その時、強い雷のようにふいに窓の外が白く光った。
あたしたちは咄嗟に強く抱き合い、
たったひとりの恋人に約束の言葉を叫んだ。

「また、会おう!」



☆終☆
217 :名無し飼育さん :2006/10/19(木) 03:38
いつも素敵な物語をありがとうございます。
218 :名無し飼育さん :2006/10/20(金) 09:46
松浦さん、藤本さんの会話が
実際に聞こえてくるようで、
すごくよかったです。
いつも楽しませていただいて
ありがとうございます。
219 :雪ぐま :2006/10/20(金) 22:30
217> 名無し飼育さん
こちらこそ、レスをありがとうございます。
やっぱり、とても励みになるんですよ☆

218> 名無し飼育さん
そう思っていただけるとホッとします。>会話
みなさんに楽しんでいただけて、
かつ私自身も楽しめるように頑張りま〜す♪

さて、次々でナンですけど、またあやみきで……。
220 :スイートハニー :2006/10/20(金) 22:31



あなたみたいな人は、あなただけ。
『スイートハニー』



221 :スイートハニー :2006/10/20(金) 22:32

『えーっ、マジでぇー?』

素っ頓狂な亜弥ちゃんの呆れ声が、電話口で響いた。
あまりの大音量にあたしはちょっと顔をしかめたけれど、
続けて「いいじゃん、来てよぉ」なんて甘えてみたりして。

『みきたん? いま何時かわかってる?』
「深夜2時」
『あたし、いま仕事終わったばっかなんですけどぉ?』
「いいじゃん、うち寄ってよー」
『みきたーん?』

やれやれと亜弥ちゃんは、軽くため息をついたようだった。
そして耳に流れ込んでくる、思いっきりの呆れ声。
222 :スイートハニー :2006/10/20(金) 22:32

『あのさー、忙しいんだよあたし。わかってる?』

ヒドイ。そういう言い方ってないと思う。
いつものあたしなら、ふざけんなとガチャ切りするとこだ。
実際、そうやって生きてきたわけだし、
似たような誰かなんて次から次へと現れるわけだし。なのに。

「わかってるよぉ。じゃあ、あたしがそっち行こっか……?」

ああ、どうしてかな。慎重に言葉を選んでる自分を感じるんだ。
どうしても会いたいと、今すぐ、そうすごく会いたいと思ってるから。
そのことをあなたに伝えて、それでいてウザくないトーンで、
しかも願いが叶う言葉で。ああ……。

『でも、みきたんもうお風呂とか入っちゃったんでしょ? 面倒じゃない?』
「ううん、だってあとは寝るだけじゃん」
『いや、着替えたりとかさ』
「全然。明日のカッコして、タクって行くし。あ、髪はボサってるけどぉ」
223 :スイートハニー :2006/10/20(金) 22:33

あははっ☆と明るい笑い声が受話器の向こうから聞こえてきて、
あたしは胸のドキドキが、ますます高鳴ってくのを感じた。
もうあたしはパジャマに手をかけて、着替える準備をしかけてる。
大通りに出てタクシーをつかまえて、ぶっ飛ばしてもらって、
そうだな、はやければ30分くらいで亜弥ちゃんに会える…かも…。

なのに亜弥ちゃんは、いじわるなんだ。
わざわざこんなこと言うんだよ。

『たん、そんなにあたしに会いたいー?』

別にーっ!!!!
と言いかけて、あわてて言葉をのみこんだ。
反射的に出てしまう意地っ張りな言葉を、もう何度も後悔してるんだ。
だって、ささいな反抗を亜弥ちゃんは許さないから。
あっそう、じゃあまたね☆って、
軽々と電話を切ってしまうに違いないから。
224 :スイートハニー :2006/10/20(金) 22:33

『ねぇ、会いたい?』
「……まぁ、ね」
『にゃははっ、かわいーなぁみきたんは☆』

その願い、叶えよぉ〜☆だなんて、
それはあたしの台詞だよなぁって思うんだけど。

『じゃあ、一回帰って、着替えてから行くね』
「いいの?」
『だーって、会いたいんでしょぉ?』
「ウン……」
『じゃあ、いい子で待っててね♪』

やさしい。
胸に染み渡るような、その声の色。
亜弥ちゃんのほうがずっとずっと疲れてるはずなのに、
ぜったいに自分のほうが無理をして、あたしに無理をさせない子なんです。

だからあたしは待ってる女になってしまう。
あなたに頼って、あなたに甘えて、
いつもいつも、あなたを待ってる女になってしまうんだ。
225 :スイートハニー :2006/10/20(金) 22:34

ほどなく、予想以上にはやく玄関のチャイムが鳴り、
ドアを開けば一陣の風のようにいつもあなたは
ひらりと滑り込んできて笑う。

「到着ぅ〜☆」

眩しい。世界一と確信できる、まっすぐな笑顔。
あたしはいつも目を細めてしまうんだ。
こんな人はこの世にふたりといないと、あたしにわからせる瞳に。
なんでも叶えてしまいそうな強いオーラに。

そう、似たような誰かはいない。

226 :スイートハニー :2006/10/20(金) 22:35

ごろごろとすり寄ったあたしの髪を、
よしよしって感じに亜弥ちゃんは撫でた。

「みきたんは甘えん坊だなあ〜」

だって甘えたくなる、マイスイートハニー。
あたしの手綱を握ったまんま、このままずっと一緒にいてよ。

明日の朝まであとちょっとだけど、
幸福が約束された夜に、あたしは涙が出そうなほど満足していた。

「たん、あたしともっかいお風呂はいろ?」
「うんっ!」


☆おしまい☆
227 :名無し飼育さん :2006/10/21(土) 05:42
とても甘い。そして特別。

お話の中の言葉、そのまま。
雪ぐまさんみたいな人は雪ぐまさんだけ。
228 :名無飼育さん :2006/10/21(土) 23:26
やばいっ!コレまじ最高w
あやみき好きでよかったってすごい思いました
229 :雪ぐま :2006/11/09(木) 23:59
227>名無し飼育さん
そんなふうに言っていただけて、とても光栄です。
なんだかすごくすごく嬉しかったですm(_ _)m.

228>名無飼育さん
あやみきは燃料が多くていいな〜と呟いてみたりしてw
ビジュアル的にもその関係もすごくいい感じの二人ですよね☆

それでは次のお話にまいります。

230 :恋の味 :2006/11/10(金) 00:04



憧れの人がやって来る、今夜も。
『恋の味』


231 :恋の味 :2006/11/10(金) 00:04


『寝てた?』

どうしてでしょう。
私はいつも「寝てた」って言えません。
すこしそらぞらしい、小さな嘘をついてしまうのはなぜ?

「いえ、本を読んでいました」
『そう』

ごとーさんはそう言って、いつも一瞬、黙り込む。
びゅんびゅんと車の走る音が背後に聞こえる。
声が裏返ってしまわないように、私は深く息を吸いました。
そして受話器に唇を寄せて、注意深く囁くんです。

「……来ます?」

ごとーさんはホッとしたように、「いい?」と呟きます。
低く、深く、静かな雨音のように。
232 :恋の味 :2006/11/10(金) 00:05

「ええ、どうぞ」

言葉少なな私たちの、もう何度目かのやりとり。
ごとーさんはこうして私の部屋にやってきます。
いつだって決まって真夜中。
そう、この時間。

どうして?
そのことを考える時、私の胸はいつも期待に震えます。
私の気持ちは知っているはず。気づいてるはず。
言えない想いは瞳から溢れ出して、
いつもあなたを追いかけていました。

なのにあなたはずっと気づかぬふりで、
もう何年も素知らぬふりで、だけどどうして?
どうして急に、私の部屋で眠っていくようになったの?
233 :恋の味 :2006/11/10(金) 00:06

私が、娘。を卒業してからです。
ごとーさんを待つ間、私は部屋の窓を開けて空気を入れ替え、
アロマポットにオイルを3滴たらします。
今夜は、そうだな、肌寒いからすこし甘い香りにしましょう。
それからすぐにお茶を出せるように鍋に紅茶の葉を入れて、
ロイヤルミルクティを煮出す準備をしなくっちゃ。

チャイムを鳴らしたごとーさんの前髪と肩は、
今夜はほんのすこし濡れていました。

「雨、ですか?」
「うん、降ってきた」

ひょいと差し出された小さな紙袋を受け取ると、
中にはミニチュア煉瓦のような生チョコの粒。
忙しいはずなのに、いつも律儀なあなたの手土産。
おざなりでなく、昼間のうちにわざわざ買っておいたような
そんなお菓子だったりすることが、また私の胸を高鳴らせる。
今日はずっと、うちに来たいと思ってくれてたのかな?
そんなふうに想像して。
234 :恋の味 :2006/11/10(金) 00:07

「おいしいらしいよ」
「じゃあ、さっそくお茶いれますね」

ささやかなソファに腰を沈めてごとーさんは、
部屋の中にゆっくりと首をめぐらせました。

「いい匂いがするよね、いつも。アロマオイル?」
「はい、強すぎますか?」
「ううん、大丈夫。すごく落ち着く」

よかった。
胸の中に、じわじわっと嬉しさが広がってく。
自分のための夜の習慣を、あなたが気に入ってくれたから。

「何の香り?」
「イランイラン」
「へぇ、変わった名前」
「“花のなかの花”って意味だそうですよ」
「ふうん、なんかいいね」

私もそう思います。
あなたみたいな、名前ですよね。
235 :恋の味 :2006/11/10(金) 00:07

「このお茶も、すごくいい匂いだね」
「アッサムの茶葉を買ったので」
「アッサム?」
「ミルクティに合うんだそうです」
「へぇ、アッサムね」

紺野は物知りだなあ。
あたりまえみたいなことばかりなのに、
そんなふうに時々、ごとーさんは言うんです。

「ごとーは、あんまりモノを知らないから」
「そんなことないじゃないですか、お菓子とか詳しい」
「それは紺野が好きかなーって思うから」

ドクンと胸がまた波打って、
私は慌ててカップに鼻先を沈めました。
こんなとき、どんな顔をしたらいいですか?
どんなふうに答えたら、かわいいと思ってもらえるの?
236 :恋の味 :2006/11/10(金) 00:08

実際には、ただ赤くなって俯いただけの冴えない私。
まったりともいえなくはない沈黙の後、
ごとーさんがすらりと立ち上がりました。

「お風呂、借りていい?」
「あ、ど、どうぞ」

パタパタとパジャマを出してきて手渡します。
ごとーさんによく似合うと思う白いパジャマ。
なんとなくもう、ごとーさん専用。
柔軟剤をしっかりきかせたそれをサンキュと受け取ってごとーさんは、
一瞬、フッと微笑みました。

「いつも思うんだけど」
「はい?」
「パジャマね、紺野の匂いがするの」

それは空気に溶けてくような声。
私は呆然と佇んで、長い髪を揺らしながらバスルームに消えてく
思わせぶりな人の背中を見送っていました。
237 :恋の味 :2006/11/10(金) 00:08


ああ、窓の外は霧のような雨。
秋は深まり、もうすぐ冬です。
だけど胸の中には灼熱の、息苦しいほどの想いが育ち。


238 :恋の味 :2006/11/10(金) 00:09

ざあざあとシャワーの音がこの部屋のBGMになる。
その時、私はいつもこの曖昧な距離の行く先が知りたいと、
告白を決意したり、2秒後にすぐくじけたり。

「………好きです」

ガラス窓になら言える。
額を冷たい感触に押しつけて、
私はまた今日も眠れなさそうと、そっとため息をつきました。
あなたがくれたチョコレートみたいな、甘くて苦い恋の味に。


☆おしまい☆
239 :名無し飼育さん :2006/11/10(金) 00:26
好きな人のあびるシャワーの音、聴いていると何とも言えない幸せな気持ちになりますね
今回も素敵なお話をありがとうございました
240 :名無飼育さん :2006/11/10(金) 18:54
うわぁぁー…いいなぁ。ドキドキする。
ごちそうさまでした
241 :名無し飼育さん :2006/11/10(金) 22:43
作者さんのこんごまはなんか特殊な雰囲気で好きです
242 :名無し飼育さん :2006/11/11(土) 03:02
あの名作とリンクしてるんですね
感動が蘇ってきました
243 :雪ぐま :2007/02/23(金) 01:37
239> 名無飼育さん
そうですね。その音を知ってみると雨音も
なんだか特別な音に聴こえてきたりしませんか?

240> 名無飼育さん
こちらこそ、お粗末様でしたw
ドキドキしてもらえると嬉しいですね、なんだか。

241> 名無し飼育さん
ありがとうございます。こんごまは、私にとっては
とても書きやすい組み合わせですね、なぜか。

242> 名無し飼育さん
あっ、気づいていただけました?w
あの話を書いてたときも楽しかったなあ…。

では、次のお話にまいります。
またまた、こんごまでございます。
244 :& ◆Ou0Vgp3xxQ :2007/02/23(金) 01:38


もう卒業した二人の、笑顔YESヌード。
『香水のリング』


245 :香水のリング :2007/02/23(金) 01:39


 ♪あなた、だけの、私、だから
  遠慮、せずに、強く、してよ

「わぁ……」

ずいぶん大人っぽい歌詞だなぁ。
テレビを見ながら、私は思わず赤面してしまいました。
卒業してから、もう何ヶ月になるでしょう。
何台ものカメラに囲まれスポットライトのなかで唄う
このモーニング娘。に自分がいたこと、
時々、嘘みたいだなって思います。
そして。

「ねぇ、ごとーさん」

振り返れば、同じく元・モー娘。の私の恋人は、
ちっともテレビなど見ておらず。

「娘。の新曲ですよ、ほら」
「んあー…」
246 :香水のリング :2007/02/23(金) 01:40

さっきからごとーさんは、空っぽになった香水の瓶と格闘中。
ソファにあぐらをかいて熱中している姿はかわいらしいけれど、
ペンチまで持ち出して、いったい何をしているのやら。

「ねぇ、ごとーさん、曲終わっちゃいま…」
「やった、とれた!」
「え?」

なんだか得意げにごとーさんが掲げたのは、
……なんだろ、シルバーのリング?

「この瓶の首のとこについてたやつ」
「ああ、ここについてた飾り……へぇ、指輪みたいですね」
「でしょ? これってとれるのかなあ?って思ってさ」

おもむろにごとーさんは、そのリングを中指にはめてみて、
それから「ははっ」と笑いました。

「なんだ、スカスカだぁー」
「瓶の飾りですもん。指とはサイズが全然違いますよ」
「ちぇー」
247 :香水のリング :2007/02/23(金) 01:41

むうっと口を尖らせたごとーさん。
アクセサリーのコレクションに加えるつもりだったのでしょうか。
つまらなそうに指先でくるくる回すと、
次の瞬間、それを唐突に私に投げてよこしたんです。ポイッと。

「あげる」
「え?」
「紺野にあげるよ」

ドキッと心臓が脈打ったのがわかりました。
手の中にあるのは、ただの香水の飾り。鉄の輪っか。
だけど指輪によく似てる……。

「え、と、あの…」
「さてと、風呂でも入るかなー」

ウーンと伸びをしてごとーさんは、
長い髪を揺らしながら、さっさとバスルームに消えてしまいました。
私は手の中の輪っかを見つめてボーゼンと、
でも次の瞬間ハッとして、慌ててごとーさんを追いかけます。
いつものように。
248 :香水のリング :2007/02/23(金) 01:41

「い、一緒に入っていいですかっ?」
「どーぞぉー」

あたたかな湯気に響く、のんびりとした声。
脱衣所に飛び込んで私はせっせと服を脱ぎ、
それから、ふと思いついて、
今日つけてきたシルバーのロングネックレスに、
もらったばかりの香水のリングを通して。

素肌にわざとネックレスだけ残して現れた私に、
ごとーさんは、やさしく目を細めてくれました。

「あっ、かわいーじゃん」
「えへへー」

指にはめることができなくても身につけたいと思う。
あなたからもらったものは全部、特別だから。
249 :香水のリング :2007/02/23(金) 01:42

ぱちゃぱちゃとお湯を弾きながら私はご機嫌に、
湯気の中、ますます美しい恋人に話しかけます。

「ごとーさん、娘。の新曲、聞いてなかったでしょう?」
「んあー」
「すごい大人っぽい感じでしたよ」
「フン、ごとーのには負けるでしょ」
「そりゃそうですけど」

SOME BOYS! TOUCH、なんて言われちゃったらね。
色とりどりの光瞬くダンスフロアが見えるような、
なんだかこの人に似合い過ぎの曲でした。
まぁ、実際はごとーさんはワタクシのものでして、
もはや誰にも触らせませんがーっ。
川+・-・)ノ<当然です!

そんな私の胸の内を知ってか知らずか、
長い髪をザッと絞って、先に上がってしまうあなた。
キュッと持ち上がったかっこいいお尻や、すらりと長い脚に、
いまだに見とれてしまう私。
250 :香水のリング :2007/02/23(金) 01:43

お風呂から上がるといつも私は、
ごとーさんが置といてくれたバスローブを身につけて、すこし悩みます。
大好きなあなたの部屋にいるから、
パジャマを貸してくださいと言うべきか、
このままの姿で黙っているべきか、いつも私は躊躇してしまう。

だって、いろいろなんです。
ただ一緒に朝まですやすや眠ったり、
時には朝まで寝かせてくれなかったり(ポ。

今日のあなたはやや気怠げにバスローブを脱ぎ捨てて、
生まれたままの姿で、するりとベッドに入ってしまいました。
あ、パジャマ着ないんだ。てことは……。
ソファのところでぐずぐずと、私は膝を抱えます。

女子の皆さん。こういう時って、
いつのタイミングでどうやって追いかけたらいいのか、
すこし迷ったりしませんか?
こっちおいでって、手を引いてくれると
自然に入っていきやすいんですけど、うーん……。
251 :香水のリング :2007/02/23(金) 01:44

「寝ないの?」
「あっ、ね、寝ます」

慌ててバスローブを脱ぎ、モゾモゾと潜り込むと、
今日もうっとりするほどいい香りのシーツ。
眠る時にも、ほんのすこしのトワレを首筋につけるヒト。
息を吸うほど胸が高鳴る、それはきっと魔術の類いですね。
いまだにドキドキさせられてしまう、あなたとの夜。

 ♪遠い、遠い、夢のはずが
  なぜか、なぜか、あなたの胸で……

聞いたばかりの新曲がぐるぐるして、
きっと今夜は乱れてしまうと思ったけれど残念、
ごとーさん、どうやらお疲れだったみたい?

「ぐーー………」

ちょっと、キスもしないうちに寝ちゃうなんて、もう! 
なーんてね(笑)。
252 :香水のリング :2007/02/23(金) 01:44

「久々のオフですもんね…」

だから仕方ない。
だけど、なんにもなくて残念、だなんて、
私ってもしかしてすごくエッチなのでしょうか。
それとも私のほうがずっとずっとあなたのこと、好きってことなの?

しばらくジッと目を閉じてみたけれど
甘い香りに眠れなくて私はベッドを抜け出し、
冷蔵庫からコップ一杯の桃ジュースをもらいました。
それから、テーブルの上に転がってた空の香水ボトルにお水をいれて、
花瓶から一本のラナンキュラスを抜き取って挿してみて。

「うん、いいかも」

ベッドサイドのわずかな灯を反射して光るレンジの扉に、
首から香水のリングをぶら下げた私が映っていました。
私はすこし、微笑んでみる。
253 :香水のリング :2007/02/23(金) 01:45


あなただけの私だから、どんな夜もついていきます。
やさしくされたみたいな、放っとかれたみたいな、
嬉しくてちょっぴり寂しい、こんな夜も。


254 :香水のリング :2007/02/23(金) 01:46


………………………
………………………
………………………
………………………
………………………

255 :香水のリング :2007/02/23(金) 01:47

「………ん…っ?」

鼻先にくすぐったい感触と花の香りを感じて目が覚めました。
気がつけば、窓からは眩しい朝の光。
それから、鼻先にかざされてるラナンキュラス。

「これ、いいね」
「えっ、あ、ああ……」

ごとーさんが、香水のボトルをもってベッドサイドに座ってました。
昨夜、私がたわむれに花を生けた、あの空の瓶です。

「一輪挿しに、ちょうどいいかと」
「うん、かわいいね、こういうの」

紺野のこういうとこ好きだな。
そう言ってごとーさんは
ゆったりとした仕草で自分も花の香りを楽しんで
それから、やさしくほっぺを撫でてくれました。
256 :香水のリング :2007/02/23(金) 01:48

わぁ、褒められた……。
嬉しくて私はお布団を抱きしめ、寝ぼけ眼でえへへと笑う。
寝起きのすごいブス顔してるんじゃないかなとか思いますが。

「さて」
「え?」
「しよっか」
「えっ、な、何を?」
「何ってそりゃあ」

ごとーさんがにっこり笑ってお布団をはねのけ、
私の肩をぐぐっとシーツに押しつけました。
そりゃもうファンの皆さんが見たら失神しそうな、
ちょっといじわるなあの、小悪魔の笑顔で。

あ、超かわいい……。
不覚にも一瞬見とれてしまった後、
キケンな事態に気づいて私は
慌てて胸を隠して身をよじりました。

ちょっ、朝っぱらからなにするんですか、この人はーーーーっ!!!!

257 :香水のリング :2007/02/23(金) 01:49

「だ、ダメですよ、こんな明るいところではっ……」
「いいじゃん別に」
「いや、 あのっ、そーゆことは、また夜にでも…(汗」
「ごとーは今したいのっ」
「えーーっ?! て、ちょっ、待っ、あっ、ごとーさんダメっ、ダメですったら!!! 」
「あーもー、うるさいなー」

一瞬、身を起こしたごとーさん。
うざったそうに長い髪をかきあげたと思った次の瞬間、
胸に下げた香水のリングをグイと口に押し込まれて、
私はウッと硬直しました。

「ほら、くわえてて」

ああ…。
結局、私は観念して目を閉じ、ギュッとリングを噛んだんです。
私、どうせこの人の好きにされちゃう。
そしていつの間にかまた、
あなたの胸で疲れて眠ってしまうのでしょう。

すごくすごく満たされた、幸せな気持ちで。


☆おしまい☆
258 :雪ぐま :2007/02/23(金) 02:15

蛇足ですが、このお話に出てくる香水とお花のイメージ画像を、
雪ぐまのサイトの、今日の日付のbbsで紹介しています。
ご興味のある方は、どうぞ。
ttp://yukiguma.s45.xrea.com/index.htm

259 :名無し飼育さん :2007/02/23(金) 09:26
とてもかわいいお話ですね。
最近、好きな人にラナンキュラスをプレゼントしたので、登場になんだかドキっとしました。
260 :名無飼育さん :2007/02/27(火) 03:45
作者さんの話はいつも不思議な魅力がありますね
読んだ後、しばしボーッとしてしまうような感覚です
261 :名無飼育さん :2007/02/27(火) 03:47
ボーっとしていてsage忘れ…
262 :名無飼育さん :2007/08/22(水) 03:30
改めて全編を読んでみたらそのクオリティの高さに驚きです。
さすが雪ぐまさんですね。
どんな幸福な話にも底辺に一種心地よい切なさを感じるのは私だけでしょうか?
こちらも更新待ってます。
263 :名無飼育さん :2007/10/03(水) 01:37
更新待ってます。
264 :名無飼育さん :2007/10/03(水) 19:56
わざと?
265 :& ◆MyEk8T/xYo :2007/10/28(日) 02:32
>>259 名無し飼育さん
好きな人とは、その後、うまくいっていますか?
気持ちを伝えるのに、花はとても素敵なプレゼントですね。

>>260 名無飼育さん
ありがとうございます。小説の世界にぼんやりひたっていただけたら
妄想作者としてほんとうに嬉しいなと思います。

>>262 名無飼育さん
改めてお読みいただきありがとうございます。
恋はどんなに幸福な時も切ないものというのが、雪ぐまの持論でございますw

>>263、264 名無飼育さん
いずれにしても、お待たせしすぎて申し訳ありません。。。
266 :雪ぐま :2007/10/28(日) 02:33

さて、久々の更新に参りたいと思います。
先日、ゲスト美勇伝の娘。コンに参戦しまして、
ふいに思いついてしまったお話です。
初の、梨華愛です。あんがい楽しめる気がするんです私w
267 :& ◆l9CSMAkXQ2 :2007/10/28(日) 02:34



『思いがけない今日』



268 :思いがけない今日 :2007/10/28(日) 02:35


強いお酒って、けっこう好きなの。
喉を通ってくときにじんわり熱くって気持ちいいし、
なによりもすぐに、ふわふわっとした雲の上を歩かせてくれる。

うちでこっそり飲んでるだけだから、
ファンの皆さん、許してね。
いつだってとことん突っ走ってるから、
ときにはバリバリに固まってる理性の鍵を外して、
すごくいいかげんになってみたいのよ私。

…………って。

269 :思いがけない今日 :2007/10/28(日) 02:36

「ええええええええっ?!?!?!」

フッと目が覚めてすぐ、
ぼんやりした頭のままゆっくりと顔をめぐらせて、
私はベッドから転げ落ちそうになるほど驚愕した。
ブラインドから細くさしこむ朝日のなか、一人じゃない自分を知って。

あ、愛ちゃんっ?!
どうして私のベッドで寝てるのっ?!
ってか私、なんでパジャマ着てないのよーーー!!!

慌てて胸元にかき寄せたシーツ。
そしたらシーツは、すやすや寝てる愛ちゃんの肩からスルリと滑り落ちて、
案の定、彼女も生まれたての赤ちゃん状態。
私は「あっちゃー……」と時代遅れな感じに呟き、頭をかかえた。

あ、割れそうにイタい。二日酔いかも。
てなことはどうでもよくー。
270 :思いがけない今日 :2007/10/28(日) 02:36

「……ちょっと待ってよ〜」

どうすんの、これ。
あきらかに私、ヤっちゃってんじゃん。
ああ、どうしてどうして、よりによって愛ちゃん。。。

あのね、ファンの皆さんには絶対にナイショなんだけど、
私ね、時々こういうこと、あるのよ。
そうね、それって2年前に、よっちゃんと別れてから。
きちんと話し合って、納得して別れたはずなのに、
時々私、きっとすごく寂しいのね。
いつもキスしていた唇も、
抱きしめられて眠っていたカラダも、
なによりもすっかり甘えてよりかかってた、ココロが。
271 :思いがけない今日 :2007/10/28(日) 02:37

お酒に酔うと、まずすっごくココロが軽くなって、
それからすっごく寂しくなってくる。
抑えていたココロが夜に流れ出して、
空っぽになったところを満たしてと囁きはじめる。

だから一緒に飲む相手って、わりと考えてたんだ。
絶対にそんなことになりっこない相手か、
それか話のわかるヒト。
そうねぇ、美貴ちゃんとか良かったかな。ごっちんとか。
仲悪いって思われてるかもしれないけれど、案外ね、
お互いワケありで、慰めあうってことができるトモダチ。
あっ、あとねー、中澤さんもけっこうやさしくて上手……って、
そういう暴露はどうでもよくー。
272 :思いがけない今日 :2007/10/28(日) 02:38

まぁ、とにかく愛ちゃんはありえないわけよ!
だって後輩だし、ホラあのとおり、まるっきり冗談の通じない性格でしょう?
あー、いったい、なんで一緒に飲むことになっちゃったんだっけ。
ああ、そうだ。美勇伝ゲストの娘。コンのこと。
いろいろ考えてることがあるから聞いてほしいって、
そうだった、レッスンの後、うちで相談に乗ってたんだった……。

「……ん…」

お人形みたいな顔で、愛ちゃんが無造作に寝返りを打つ。
細く朝日を浴びて、ますます白くきれいな胸元があらわになる。
私はあわてて、シーツをかけた。
薄桃色の唇に負けないくらい、可憐な先端。
うらやましさのなかにドキッとするような高まりを感じて、
私はフルフルと首を降った。あっ、アタマいたーいっ!

「……もー、なんでこんなことになってんのぉ……?」

酔っても“何も起こるはずがない”相手だった。
私ってホント、責任感が強いほうだし、
後輩の前ではちゃんと先輩でありたいみたいなとこもある。
いいかげんなところは見せたくなかった。のに。
273 :思いがけない今日 :2007/10/28(日) 02:39

靄がかかったような記憶を、必死でたぐりよせる。
愛ちゃんがまたウーンと寝返りをうって、今度は細いうなじがあらわれた。
そういえば愛ちゃん、どうして髪を切っちゃったんだろう。
すごくきれいだったのに、もったいないな……。

「あ……」

そうだ。
昨夜のことを思い出して、私はうっすら赤くなった。
そうだ、愛ちゃんに告られたんだ、私……。
274 :思いがけない今日 :2007/10/28(日) 02:40

 『石川さんみたいに、なりたくて』

真似して髪、切っちゃいました。
恥ずかしそうにそう言って、
彼女は強いお酒のグラスを口にした。
愛ちゃんまで飲むことないよって、心配して止める私を振り切って、
彼女はごくごくっと気前よく、小さくはないグラスを空にした。

 『ちょっと、愛ちゃんいいの?』
 『ハタチ超えてるから、平気です』
 『そりゃそうだけど』
 『ほら、石川さんも、飲んでや』
 『えー、一気で?』

試すみたいにジッと見つめてくるから、
かっこつけて、つい飲んじゃった。
むせそうになって、ガマンした。大人のフリをしたかった。
ほんとうは、歌だってダンスだって私よりも秀でてる愛ちゃん。
だけど、すごいと思わせたかった。
存在が、経験が、かなわないと思わせたかった。
275 :思いがけない今日 :2007/10/28(日) 02:40

 『石川さん見てると、吸い込まれそうになるんです』
 『どーゆうことぉ?』
 『わからん。けど、なんか時々』

 胸が、へんなふうに騒ぐ……。

たぶん慣れないお酒に酔って、潤んだ瞳が私を見たの。
ためらいと、戸惑いと、切望とが入り交じる眼差し。
もしかして、私のこと好きなの?
切なげなその瞳、風以外だれもまだ触れたことのない、
山奥の泉の、さざめく水面みたいね。

「ああ、そっか……」

それからどっちがどうしてこうなったのか、
許容以上のお酒を飲んだ脳みそには浮かんでこなかった。
だけど、覚えてる。
私と肌を合わせながら、好きですずっと好きだったんですと
うわごとのように繰り返していた愛ちゃんの声。
口づけを求めて、何度でも私の髪を引いた指先。
276 :思いがけない今日 :2007/10/28(日) 02:42

「どうしよ……」

なにごともなかったみたいな顔で、
朝ご飯を食べてバイバイできる子じゃあない。
ごめんね私、昨日、すっごく酔っててさぁ。
そんなこと、とても言えない。言える相手じゃない。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

そのとき、急に携帯のアラームが鳴って
愛ちゃんがいきなりガバッと起き上がった。
思わず私は「きゃあっ!」と縮こまる。
2、3度、アタマを振って愛ちゃんは、
くるりと部屋を見回し、不思議そうに目をしばたかせた。
それから隣でもはや体育座りになっている私に気づいて、
みるみるうちに頬を真っ赤に赤らめた。

「あ……」

しばし、訪れる沈黙。
状況は明白。
あらわになった胸元に気づいて
愛ちゃんはもぞもぞとシーツをかき寄せる。
277 :思いがけない今日 :2007/10/28(日) 02:42

「おはようございます……、梨華どの」

“どの”って!
ずっこけそうになりながら、
私はかろうじてにっこり微笑んだ。

「お、おはよー、愛どの」

なんちゃって。
ところが、そこから会話が続かないんだ、これが。

「…………………」
「…………………」

うっわー、気まずぅ……。
と、と、とりあえずパンツとかはいちゃおっかなっ。
ごそごそとベッドの下をさぐって薄いシルクを探りあてる。
拾い上げてみたらそれは愛ちゃんので、私はわわわと思いつつ、
冷静をよそおって、「はいっ」と愛ちゃんに手渡した。
278 :思いがけない今日 :2007/10/28(日) 02:43

「あっ、ありがとうございます」
「ど、どーいたしまして」
「あの」
「なに?」
「嬉しかったです」

え? ああ。
私は困って、ますますあいまいな笑顔を浮かべた。
そうね、私のことが好きだったなら、
勢いであれ私と寝たということは嬉しいことかもしれな……

「石川さんも、私のことずっと好きやったなんて」

ちょっ、何言ってんのよ酔ったアタシーーー!!!(汗
ってか愛ちゃん、ベッドでのたわごとなんて信じないでっ……

「あたし、頑張ります。石川さんの妻として恥ずかしくないように」

つ、妻?!
てか何? 私、夫?!
あのちょっとそういうキャラじゃないんですけど……
279 :思いがけない今日 :2007/10/28(日) 02:44

「あ、あ、あのね、愛ちゃん」
「あっ、あかん! リハに遅れるっ!」

石川さん、なんでもいいんでジャージ貸してくださいっ。
急に早口でそう言われて、
私はあわてて片っ端からジャージを引っ張り出した。
ええと、あの、愛ちゃんが好きそうな黒っぽいのって
ごめん、私、全然持ってないんだけど……。

「いいです、このドピンクので」
「そ、そぉ?」
「うん、いかにも石川さんのって感じでいいわ」

うれしそうにさっそく着込んで愛ちゃんは
すこし長めの袖を、ぶんぶんと振り回した。
そっか。かすかに胸にやってきた切なさに、目を細める。

よっちゃんは、私のジャージ、ちっちゃくてつんつるてんだった。
愛ちゃんは、私のジャージ、すこし大きいのね。

280 :思いがけない今日 :2007/10/28(日) 02:45

「じゃ、お借りします。美勇伝さんは午後からですよね。では後ほど!」
「ちょっと待って、シャワー浴びてかないのっ!?」
「いいです、髪とか洗ってたら遅刻してまうし」
「いや、無理無理! バレるっていろいろー!」
「平気やって」

それに、……バレたっていいがし。
そう言ってうれしそうに、愛ちゃんは微笑った。
ふいにドキッとする、見慣れてたはずの笑顔。
だって、泣き虫で、素っ頓狂で、融通の利かない困った後輩が、
こんなにしあわせそうに笑ったのを、初めて見たの。

「…………………」
「じゃあ、行ってきます」
「……うん、いってらっしゃい。ごめんね、朝食も出さなくて」

そんな、気にせんといてください。
あたしがぎりぎりにアラームかけてたんやし。
狭い玄関で苦心してスニーカーを履きながら
愛ちゃんはそう言って私のことを見上げた。そして。
281 :思いがけない今日 :2007/10/28(日) 02:46

次の瞬間、ぶつかってくるみたいに唇が重なり、
私は反射的に目を閉じた。
すぐに離れたくちびるに目を開けると、不安げな瞳。
大丈夫よと髪を撫でると、ホッとしたように頬が緩んだ。
モーニング娘。のリーダーになっちゃった、不器用なウタヒメ。

甘えるみたいに背中に腕をまわされたから、
私も愛ちゃんの背に腕をまわして
私たちはしばらく静かに抱きしめあった。
その華奢なカラダ、なんだか折れちゃいそう。
鼓動が少しずつ音を立てはじめる。
腕の中から、くぐもった声が聞こえてきた。
なんか、信じれん……好きです、石川さん……

「……私もよ」

その言葉には、まだほんのすこし、嘘が混じってる。
だけど、なんだか始まりを感じていたの。
この人のまっすぐな気持ちに、鳴り始めた恋のベルと。
282 :思いがけない今日 :2007/10/28(日) 02:47

もう一度ぎこちないキスをしてギュッと私を抱きしめ、
リーダー愛ちゃんはパッと身を翻してドアの外に駆け出して行った。
部屋に戻って私は、その惨状にやれやれと思う。
床に転がったお酒の瓶と、食べ散らかしたポテトチップと、
ぐちゃぐちゃに乱れちゃってるシーツと。

「今度は、酔ってない時にしなきゃね」

熱い気持ちだけで酔わせて。それが今夜だっていい。
久々に恋人を手にした実感が押し寄せてきて、
私は妙に切なくなり、どさりとベッドに倒れ込んだ。
そうかこれが、愛ちゃんの匂い……。

長くなるといいな。楽しいといいな。
昨日とはまるで違う思いがけない今日に、
朝日のなか、私は少しずつ馴染みはじめていた。


☆おしまい☆
283 :名無飼育さん :2007/10/28(日) 14:49
愛ちゃん切なくて可愛いですね
最近一緒の仕事が重なって娘時代より親密な感じがしていたので楽しかったです
284 :名無飼育さん :2007/10/28(日) 22:50
実は、マイナーな石高好きな者ですw
まさか、雪ぐまさんが書いてくれるなんて…!!
素敵です(*´Д`)


また書いて欲しいな…って言ってみたりw
285 :名無飼育さん :2007/10/28(日) 23:53
遅ればせながら読ませて頂きました。

愛ちゃんのいとおしさがよおっく伝わりました。
286 :名無飼育さん :2007/10/29(月) 01:19
待ってましたーー!!!
雪ぐまさんの梨華愛っっ!!

案外どころではなく、
めっちゃ楽しませて頂きました笑
いつもステキな作品をありがとうございます。
ぜひまた梨華愛読みたいです!!
287 :名無飼育さん :2007/10/29(月) 02:36
いやぁ梨華愛いいですね〜。
とっても萌えてる自分に驚きつつ、
このままお話が続けばいいのにと思ってしまいました。
288 :名無飼育さん :2007/10/29(月) 04:45
雪ぐまさんお久しぶりです
「いしよし派」なんですがこの二人もいいですね
雪ぐまさんの手にかかると、どのカプも違和感なく
読めるような気がします。出来れば続きも読みたいです。
289 :ぽち :2007/10/29(月) 06:52
お久しぶりです。
五期が好きなので、愛ちゃんなら、麻琴ちゃんかガキさん派ですが、
雪ぐまさんの書かれるお話だと、共感するストーリーと繊細な表現で思わず
どの組み合わせでも納得して読んでしまいます。更新が楽しみです。
290 :名無飼育さん :2007/10/29(月) 22:39
梨華愛いいなぁ
慌てる石川さんにニヤニヤしながら読みました
途中、モノローグの中だけで触れられたカップリング3つにも反応してしまったりw
すごく楽しかったです!
291 :名無飼育さん :2007/10/30(火) 00:32
梨華愛萌えました!
愛ちゃんならきっと良い妻になれるハズw
292 :雪ぐま :2007/11/12(月) 23:47
皆さま、お気遣いありがとうございます。
自サイトで「梨華愛は需要が(ry」なんて書いてごめんなさいw

>>283 名無飼育さん
そうですね、娘。時代はいまひとつ接点がない気がしていたのですが
ここのところ親密な感じ、してましたよね〜。で、書いちゃいましたw

>>284 名無飼育さん
ありがとうございます。自分でもまさか書くとは思いませんでしたw
とりあえず、もういくつかは話を思いつきそうな気がしています。

>>285 名無飼育さん
愛ちゃんは凛々しかったり、すっとんきょうだったり、
気難しそうだったり、天然っぽかったり、なかなか不思議なタイプですよねw

>>286 名無飼育さん
はい、書かせていただきましたーー!!!w
CPに関係なくお読みいただいてるようで恐縮です。また書きますね☆
293 :雪ぐま :2007/11/12(月) 23:50
>>287 名無飼育さん
雪ぐまもまさか梨華愛で萌えるとは思わなかったのですが
わりとスムーズに話が浮かんでくる感じなのです。楽しいですね♪

>>288 名無飼育さん
雪ぐまも「いしよし派」なんですが、梨華愛もいいかなとw
そして、CP関係なくお読みいただけるのが一番嬉しいです♪

>>289 ぽちさん
はっ、そういえばガキさんとの話も更新しなくては…w
組み合わせによっていろんな話が浮かんでくるので、
CP関係ないと言っていただけるのが最近は嬉しいです♪

>>290 名無飼育さん
雪ぐまも実はいろんなCPに反応して書いてるんですが
完成しないことが多くて。梨華愛はなぜかすんなりまとまりましたねぇ。

>>291 名無飼育さん
そ、そうかしら、すっとんきょうな妻になりそうな予感がw
でも、かわいらしい彼女になりそうですね♪

さて次は、なにげに続きなんですけど、いしよし?というお話。
294 :“次の恋人” :2007/11/12(月) 23:51



愛した人だから、ずっと大切に思ってる。

『“次の恋人”』



295 :“次の恋人” :2007/11/12(月) 23:52


 ♪きらきらする恋のベル 高鳴る鼓動
  恋に落ちる瞬間に 理由なし
  くらくらする恋のベル 鳴り止まない
  誰かを愛するために 生きてる……


296 :“次の恋人” :2007/11/12(月) 23:53

「うーん、もうちょっとかかるかな。あと3時間くらい?」

まさかあるとは思わなかった、音楽ガッタスのコンサートツアー。
うれしい驚きに、メンバーみんなが張り切ってる。
もちろん、私も。
だけど。

「ね、はやく会いたいね」

レッスンスタジオの片隅で、携帯にこっそり囁きかける本音。
一緒なら、どんなにキツくても、長くかかっても、平気なのにね。
こないだまで一緒にツアーを回ってたから、とくにそう思う。

私の時間が空くのをじりじりしながら待ってる
できたてほやほやの恋人。
終わったらすぐ連絡するねと約束して、電話を切った。
297 :“次の恋人” :2007/11/12(月) 23:54

「電話、高橋でしょ?」

ふいに声をかけられて振り返ると、そこにはよっちゃん。
からかうみたいな瞳で、にやにや笑って。

「あれ、わかっちゃった?」
「わかるよ、アンタわかりやすいもん。超ニヤついちゃってさあ」

えへっ。

「だって、かわいいんだもーん。 待ってるでの、とか言っちゃって!」
「あー、はいはい。ごちそーさん」
「あーあ、愛ちゃんもガッタスだったらよかったのにな」
「無理でしょ、あのへっぴり腰じゃ」
「うーん、ダンスは上手なのにねぇ」

得意なことは人一倍頑張るけど、
苦手となるとすぐ投げ出しちゃうとこがある。
子供っぽいプライド。
そういうとこは、これから直させなくっちゃね。
298 :“次の恋人” :2007/11/12(月) 23:55

「よけーなお世話ですよ、おねーさん?」
「あっ、なによ、ムカツクー」

よっちゃんて、ほんっと失礼なんだから。
ふくれっつらでビシビシと肩を小突くと、
無造作に伸びた金色の髪が可笑しそうに揺れた。

「しかし、高橋とはねぇ」
「え?」
「いや、あんたの“次”がさ」

いきなりそんなことを言うから、ちょっとドキッとした。
あんたの“次の恋人”が高橋とは思わなかったな。
そんなふうに、“元・恋人”に言われて。

「変かな?」
「いや、意外っつーか。どのへんが決め手だったわけ?」
「んー、わかんないなあ」

恋に落ちる瞬間に理由なし〜♪って歌ってるじゃん。あんな感じよ。
目が覚めた朝の、あの子の瞳にくらくらした。それだけよ。
299 :“次の恋人” :2007/11/12(月) 23:56

「ふうん」
「愛ちゃんね、ずっと私のこと好きだったんだって〜。キャッ!」
「へー、趣味わる」
「ちょっとぉ〜!」

あんたがそういうこと言う?
私はわざとニヤリとして、背の高い元・恋人を見上げた。

「わかった。よっちゃん、妬いてるんでしょ?」
「ばっ、なに言ってんだオメー」
「そうねぇ、別れて後悔してるよねぇ〜」

私以上の女というとなかなかねぇ〜、ふっふっふ。
自己満足にウンウンうなずく私によっちゃんは、
馬ッ鹿じゃねーの?と明るい声で笑った。

「よっちゃんもさぁ、チャラチャラしてないで次の人見つけたら?」
「いーよ、あたしは」
「どうしてぇ?」
「んー、なんか向いてないかも」
300 :“次の恋人” :2007/11/12(月) 23:57

女は苦手、だなんて、男の子みたいなこと言っちゃって。
それじゃあなんだか、私でこりごりしちゃったみたいじゃない?

「やだなぁ、なんか」
「別にそーゆーことじゃないよ」
「じゃあなによ?」
「んー、まだなんか面倒つーかね」

先のこととか考えるの重いかな、まだ。
そんなふうに言う、この人ってあいかわらずね。
懐かしい胸の痛みに、一瞬、目を閉じる。
へらへらしてるくせに繊細で、どことなく怖がりで、
悩みを抱えたまま自分の中に閉じこもってしまう。
その鍵をこじ開けようとして、私はいつも苦心していたんだっけ。
301 :“次の恋人” :2007/11/12(月) 23:58

「高橋と、長く続けるつもり?」
「そりゃそうよ」
「へー」
「私はいつだって、ずっと一緒にいたいから付き合うのよ?」

いいところも悪いところも引き受けて、
この人と生きていこうと思うから
“恋人”という名の約束をするの。
確かに心惹かれた、その人の魅力と才能を信じて。

「強いなあ」
「そう? 普通よ」
「そっかぁ」

よっちゃんは、なにかを考え込むみたいな顔をする。
こんなにきれいなのに自信がなくて、ひねくれてて。
私のことすごく困らせた人だけど、とっても好きだった。
そう、今でもふいに、心痛むほどに。
302 :“次の恋人” :2007/11/12(月) 23:59

「しっかし、高橋とはねぇ」
「なによぉ?」
「アイツ、すぐ泣かね?」
「あー、泣くねぇ」
「なんか大変そーじゃん」
「そうねぇ」

よっちゃんは、娘。のリーダー、苦労したみたいね。
だけどあなたを困らせた愛ちゃんも、きっと成長するでしょう。
大きな責任をあの華奢な肩に背負って、
動物園の飼育係みたいに、ものすごーく苦労してね。

「苦労してんのはガキさんって気がするけど」
「あはは、言えるw」
「でもまぁ、しっかりしてきたよな」
「うん、あの子なりにいろいろ考えてるみたいよ」
「ま、あんたもついてるし」
「そう、私もついてるし」
「頼りねーけどな」
「ちょっとなによ!」

そりゃ美勇伝は苦戦してますけどねぇ〜。
って、そんなことはどうでもよく。
303 :“次の恋人” :2007/11/13(火) 00:00

「だからよっちゃんもいつまでもチャラチャラしてないで」
「へいへい」
「いろいろ聞いてんだからね。若い子にちょっかいだしたとか」
「えっ…いやそれは噂ですよ、風のうわさ!」
「なるほど、ポッシボーさんか」
「いやだから違うって!」

焦って逃げ出したあなたを、笑って追いかけた。
いいところも悪いところも引き受けて、
この人と生きていこうと思うから約束するの。
あなたとだってそうだったのよ?
304 :“次の恋人” :2007/11/13(火) 00:01

その想いがすり減って砕けた時に、私はすごく泣いたけど、
だけど今は、あの頃に積み重ねた時間を愛おしく感じる。
気まずい時が過ぎて、今こんなふうにやさしく過ごせるから。

恋人じゃなく、友達でもなく、
そうね、まるで家族みたいにいたわりあえる、きっと。

「もーいいかげん誰かに決めなよ、心配なのよー」
「うるへー」

とか言って、もしもよっちゃんに“次の恋人”ができちゃったら、
私もちょっと妬いちゃうかもね。
あなたがなんとなく愛ちゃんに、妬いちゃってるみたいにね☆


☆おしまい☆
305 :名無飼育さん :2007/11/13(火) 00:11
甘酸っぱい…
素敵な更新ありがとうございます…

読みながら、以前雪ぐまさんがサイトで語っておられた『いしよし』論を思い出しました。
306 :名無飼育さん :2007/11/13(火) 01:13
恋人同士でなくともいしよしの間には触れ合う度に何かしら化学反応が起こって、
雪ぐまさんはそれを綺麗な言葉で綴ってくれている
そんな風に思ってしまいました
307 :名無飼育さん :2007/11/13(火) 05:47
切なくなっちゃった…。
308 :名無飼育さん :2007/11/14(水) 00:36
「いしよし」の少し切なくなるけども互いの優しい関係
「梨華愛」のまっすぐな優しさと甘さ
みたいなものを感じながら読みました
309 :tsukise :2007/11/14(水) 05:09
お疲れ様です。
更新されたという情報を得てひっそり参りましたw
新しい恋人ができて、昔の人と話す時、
あ〜こんなだよなぁ〜と、ちょっぴり大人な
いしよしに共感してしまいましたw
ご馳走様でした〜♪

310 :雪ぐま :2007/11/16(金) 03:29
>>305 名無飼育さん
更新後、すぐにレスをつけてくださってびっくり。嬉しかったです。
あの「いしよし論」も覚えていてくださったんですね。それも感激です!

>>306 名無飼育さん
そうなんですよ、あの人たち、なにかしら化学反応が起こるんですよw
本人たちもどうもそのことに気づいてるふうだから、妄想に拍車がw

>>307 名無飼育さん
あらら。でも、書いてても切なかったから、
そう感じてもらえるのはいいことですね☆

>>308 名無飼育さん
ありがとうございます。まさにその通りかと思います。
CPによっていろんな恋が生まれますねぇ。書いてて楽しいです。

>>309 tsukise さん
ひっそりありがとうございます〜w 昔の恋人ってこんなですよねw
tsukise さんのようにちょっぴり大人の方に読んでいただきたいお話でした。

さて、なんとなく続きものになってますが、次は愛ちゃん視点の梨華愛を…。
311 :& ◆ZQzrcIIiSg :2007/11/16(金) 03:32



みんなそうなんやろうか。恋なんて、してしもたら。
『泡のように恋が消えぬように』



312 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:33


子供の頃は泣き出せば、お母さんが慰めてくれた。
すこし大人になると、やさしい男の子たちが。

だけどいま、あたしは大好きな人の前で
涙をこらえて歯を食いしばってる。
でもやっぱり止まらんくって、
目の縁からどんどん溢れちゃってるんやけど。

313 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:33

「♪泣いてすむなら、ぬゎ〜きやがれ、すべての恋はしゃぼんだむぁ〜」

石川さんはご機嫌な様子で、
手のひらからフッと白い泡を飛ばした。
ローズのバスジェルであわあわになった、映画の中みたいなバスルーム。
なのにあたしは服を着たままで、バーンとドアを開けて仁王立ち。
そしてやっぱり、言葉より先に溢れ出してしまった涙。

「……い、い、石川さんっ」

薔薇の香り、あなたによく似合います。
こんなときまでそう思うあたしはウザイかもしれん。
ほやけど聞いてほしい、あたしの気持ち。
あなたが好きで好きでたまらんくって、
だから今、こんなに苦しいあたしの気持ちを。
314 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:34

石川さんはこっちをチラッと見て、やれやれって顔をした。
ドアのとこに佇んだまま、じとじと泣いているあたしに。

「なぁにぃ?愛ちゃん、急に来てー」
「………………………」
「ねぇ、ドア閉めてくれない? 寒いんだけど」

あたしはストッキングも脱がずにバスルームに踏み込み、
後ろ手にパタンとドアを閉めた。
石川さんが目を丸くする。

「服、ぬげば?」
「………………………」
「ぬいできなよ。ほら、一緒に入ろ?」

石川さんはやさしい声を出す。お姉ちゃんみたいに。
だけど、子供あつかいされてるんやったらイヤや。
時々あたしは、あなたにひどく子供あつかいされてる気がするんや。
315 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:35

「………………………」
「なあにぃ? 泣いてちゃわかんない」

軽い苛立ちが、その声にまざりはじめる。
あかん、なにか言わな。
あわてて奥歯を噛み締めてた口を開くと、
とたんにバタバタッと頬に涙が落ちた。
ああ、あかん、泣きたくないのに……あかん…あかんって……

「う…っぁあぁぁあぁ〜〜〜〜〜!!!」
「………ちょっとぉ〜〜」

結局、床にしゃがみ込んでわんわん泣きだしてしまったあたし。
石川さんは、呆れたように天をあおいだ。
あーあ、もぅ、今度はなによぉ?

「こ、こ、こ、今度はって!」
「だってそーでしょぉ? 高橋すーぐ泣くんだもん、やんなっちゃう」

やんなっちゃう。
冷たい言葉が、胸にザクッと突き刺さる。
316 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:36

子供の頃は泣き出せば、お母さんが慰めてくれた。
すこし大人になると、やさしい男の子たちが。
だけどいま、大好きな人が、やんなっちゃうと言う。
身も心も捧げたヒトが、あたしの涙を冷たく払いのける。

「♪ホンキで好きだって言ったじゃん、悪いところがあったら教えて? ね?ね?」
「い、いじがわざんっ…!」

茶化さんといてやっ。
涙目で睨んだあたしに、石川さんはケラケラと笑った。
だから今度はなによぉ〜? だなんて。

「……い、い、石川さん、ごないだのオフの日」
「うん」
「……で、電話じだら、い、い、忙じいっで…」

ああ、そのことぉ?
なにか思いあたったふうに石川さんはそう言って、
ちょっとバツが悪そうに、水面の泡をいじくった。
317 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:37

「なんだ、そのこと怒ってたのぉ?」
「………………………………」
「もぅ。ちょっとよっちゃんちに遊びに行っただけじゃん」

だけって!!!!
あたしはキッと顔をあげた。

「なっ、なっ、なんであたしに黙ってっ」
「うるさいなあ。私が誰と会おうと勝手でしょ?」

イヤや。
あたし以外の人と、ふたりきりで会ったりせんといて。
それもよりによって吉澤さんやなんてっ!

「ガッタスのことで話があったのよ。お店だと落ち着かないし」
「…………………………」
「あー、もぉ泣かないでよ。心配するよーなことじゃないんだからさぁ」

そんなのわからん。わからんもん。
だってあなたが好きだから、あたしは知ってる。
吉澤さんの前で、妙にはにかむ石川さん。
吉澤さんかって、石川さんにだけなんか変や。
こないだの歌ドキュかって、ラブラブデュエットとか言われてっ。
318 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:38

「 そりゃまぁ、つきあってたんだもん」
「…………………………」
「一緒になんかするって照れくさいのよ。わかるでしょ?」
「…………………………」
「それにいまさら、なにもないわよ」

フッと泡を吹き飛ばし、軽い調子で石川さんはそう言う。
だけど、あたしは不安になる。
不安で不安で、たまらんくなる。

「………い、イヤや」
「なにが?」
「………あ」
「あ?」
「あ、会わんといて、ください」

恥を忍んで、あたしは言葉を絞り出した。
お願い、ひとりで吉澤さんに会わないで。
できたらもう、口もきかんでほしいくらい。
ねぇ、あたしのことをほんとに好きなら。
石川さん、あたしだけを好きなら。
319 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:38

「はー? そんなの無理に決まってるでしょ?」

仕事になんないじゃん。
まるで男の人みたいなことを言って石川さんは、
いかにも女の人らしい爪先で、ピッと泡をはじいた。
それから、もうこの話はおしまい!ってふうに、あたしに微笑みかける。
暗くなってきた部屋のあかりを、パチンとつけるみたいに。

「ねぇ、いいから服ぬいできなよ。一緒に入ろ?」

ごまかされる。
とっさにそう感じて、あたしはブンブンと首を振った。
石川さんは嘘をついてる。
そう、いまさらなにもないと言い切った時に、
ほんの一瞬、瞳が揺れんかったやろうか?
320 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:40

「…………………………」
「ねぇ、愛ちゃん?」
「…………………………」
「ちょっといいかげんにしてよ」
「………い、い、いしかわ、さんはっ」

 まだ吉澤さんのこと、好きなんでしょう?

自分でも、ゾッとするほど低い声が出た。
ドロドロしたお腹の底から吐き出された、唸るような声。
エッ?って感じに、石川さんが一瞬ひるむ。
だけどすぐに、あの勝ち気な瞳で睨み返してきた。

「ハァ? なに言ってんのいきなり?」
「だから石川さんはまだ吉澤さんのことがッ」
「ちょっ待ってよ、勘弁してよもぉー」
「だって、ほやったら、なにもあたしに黙ってッ」
「いやだからそれはさァ〜」
「あ、あ、あたし、あたしもオフやったのにッ! ほやのに、ほやのに、ほ…」
「あー、もーウルサいっ!!!」
321 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:41

ザバッ!
石川さんが突然、音を立てて湯船から立ち上がった。
白い湯気と緋色の怒りが、泡だらけの美しいカラダから立ちのぼる。

「もーいいかげんにしてよ! あんたがそーやってガタガタうるさいから黙ってんでしょっ?」

なんやってか?!
あたしもガッと立ち上がる。
たちまちくらっと目眩がして、
それでもあたしは石川さんをキッと睨みつけた。

「ほんなん石川さんが変やから言うんやろっ!」
「変ってなによ、変って!」
「ほやでゆーてるがし!石川さんぜったいまだ吉澤さんのこと……」
「そうよ好きよ? それがどうしたのっ?」

えっ?
一瞬、言葉に詰まる。
えっ、石川さんは吉澤さんが好き? 好き……?
322 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:41

冷たいドアに、ガタンと寄りかかった。
たちまち唇が震え出す。
嘘や。だって石川さんはあたしのこと。
そう、昨日の電話でかって好きやって言ってくれたし。

自分で言い出したことなのに、
認められてあたしはたちまち否定にかかる。
みるみる蒼白になったあたしを、
石川さんはますますギロリと睨んだ。
そして、静かに口を開く。

「好きよ。好きだったのよ、すごく」
「…………………………」
「だけど終わったのよ。今は大事なトモダチ。それじゃだめなの?」

そう言うとザッとシャワーを浴びて、
あたしの肩を突き飛ばし、バスルームを出て行く。
ドスドスと、怒りを隠さない足音で。
323 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:42

「い、石川さんっ……!」

慌てて追いかけると、乱暴にバスローブを羽織り、
ガチャンと冷蔵庫をあける後ろ姿が見えた。
ミネラルウォーターを取り出し、
ボトルのまま、ごくごくっと喉を鳴らす。

「あの、石川さん、あたし……」

振り返った石川さんは、ひどく不機嫌そうな顔。
キッチンのドアの影からおそるおそる顔をのぞかせ、
あたしはしょんぼり、うつむいた。

「ご、めんなさい、あの」
「なんで今度は謝るの?」
「き、気を悪く、したかと」

はぁ? バッカじゃないの?
キンとした声とともに、ブンと音を立てて空のペットボトルが飛んでくる。
声は鼓膜に、ボトルはあたしの頭にぶち当たり、
まるであたしのココロみたいに廊下をポコポコ転がった。

ひどい、石川さんひどい。
だけどあたしは何も言えなくて。
324 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:43

「謝るくらいなら、最初っから言わなきゃいいじゃん!」

ほやね、ほやけど。
キンキン響く声に打たれて、あたしは強く、唇を噛む。
再び、ぽたりぽたりと滴りはじめた涙。
もう何も言えなくて。
心を言葉に、組み立てられなくて。

重い、重い沈黙。
鼻をすする音だけが響く沈黙。
どうしようもなく黙り込んでしまったあたしに石川さんは、
またちいさくため息をついたみたいだった。
そして静かにあたしに近づいて、
いつものやさしい、お姉さんの声になって。
325 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:44

「……愛ちゃん、信じてよ」

やさしい腕にくるまれる。
子供をあやすみたいに、そっと背中を撫でられる。
あなたの首すじから、湿ったあたたかな匂い。
怒ると怖いけど、何度でも許してくれる人。
だけどあたしの涙はますます溢れた。

だって信じられんのや、石川さん。
いつまでもいつまでも疑ってしまう、あなたの気持ち。
こんなあたしとつきあってくれてる、あなたの気持ち。
それはあたしにとって、すごくすごく大事なことやから。

だから自分でも持てあます、止まらない涙。
石川さんはまた、深々とため息をついた。
326 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:45

「ほんと、手がかかるなぁ」
「………………………」
「過去最高かも」
「…え?」
「困ったカノジョ、ランキング」

ふいに熱い嫉妬が喉元を突き上げ、あたしは石川さんを突き飛ばした。
イヤや! どれほど過去があっても、今と比べないで!
ふいをつかれて床に倒れ込んだ石川さんが、小さな悲鳴をあげて顔をしかめる。
衝動のままにあたしは石川さんにおおいかぶさった。
そして彼女のバスローブの胸元をつかみ、そして。

彼女を床に押しつけたまま、石のように動かなくなったあたしを、
石川さんはおずおずと見上げた。
失敗しちゃった時の、あの困り眉の上目遣いで。

「……ごめん。そんなに、怒んないでよ」

違う、怒ってるんやない。
涙をまき散らしながら、あたしは激しく首を振る。
苦しい。熱い。痛い。切ない。こんなのどうしようもない!
あなたに触れたすべての人に吐き気がするほどの嫉妬、
想像するだけでビリビリに千切れちゃいそうな胸の内を、
どうしてあなたはわかってくれんのやろう。どうして!
327 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:46

「……愛ちゃんは、激しいなぁ」

ゆっくりと伸びてきた腕があたしの髪をつかみ、
そのままそっと、やわらかな胸に抱きしめた。
湿った香りのなかで、あたしはまた声をあげてさんざん泣いた。
なだめるようにやさしくあたしの髪を撫でてくれる、指先。
その心、あたしにはきっと一生見えない。

「誰も、ヒトの心なんて見えないよ」

涙で潤んだ世界のなか、
鉄琴みたいに澄んだ声が鼓膜を揺らす。

「だから信じるしかないし、信じてもらうしかないじゃん」

あなたが導き出した答え。
デビューしてからずっと走り続けてきたあたしの前に、
いつも誰よりも頑張ってるあなたがいた。
前へ、前へ、前へ、前へ。
泣き言は言わずに、言い訳はせずに、
そう、だからこんなに惹かれたけれど。
328 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:47

「ね、信じてよ」
「信じれんもん……」
「私、愛ちゃんが好きよ? 今すごく」
「嘘や……」

石川さんは、黙ってあたしの髪を撫で続ける。
その手が、やさしく、強く、囁いてる。
信じるしかないし、信じてもらうしかないの。

だけど馬鹿なあたしはもっと確かな約束が欲しくて。
今すごくとかでなく、未来永劫ずっとずっとって言ってほしくて。
お願い。だってあたしは、あなたが、過去最高に、欲しいから。

「なんか、どっか、行ってまいそうで……」
「どこも行かないよぉ」
「いつか、誰か、取ってってまいそうで……」
「つかまえとけばいいじゃん」

どうやって?
手に入らないものを、あたしは追いかけるクセがある気がする。
今やってる仕事も、どこに辿り着くかわからんままで走ってる。
石川さんは、こんなあたしが手に入れた憧れ。
だけどつかんでもつかんでも不安な、この感覚。

ねぇ、みんなそうなんやろか。
恋なんて、してしもたら。
329 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:48

「あーあ、愛ちゃんにはかなわないな」

石川さんがふいに、そんなふうに笑った。
ほんとに感情が隠せないのね、こんな仕事をしてるのに。
すごくまっすぐなのね、もうオトナなのに。

「そういうとこ、好きよ」

やわらかく抱きしめられながら、大好きなヒトの髪に残った泡が
ぱちぱちと小さな音を立てて消えてくのを見てた。
この泡のように恋が消えぬように、あたしは祈る。
溢れた気持ちは、まだ止まらない。
喉が震えて、まともに息もできない。
石川さん、あなたのことが好きで好きで好きで好きで………

………ああ、ゴメンナサイ、こんなあたしで。
330 :泡のように恋が消えぬように :2007/11/16(金) 03:49

まだポタポタと涙をこぼしながら唇を寄せると、
石川さんは「泣き虫」と笑ってあたしの鼻をつねり、
それから長い睫毛をふせて、キスしてくれた。
ああ、あたしってほんと馬鹿みたいや。めちゃくちゃや。
ゆっくりと激しくなるキスの中で、意識がギザギザに乱れる。

もう、このまま死んじゃいたいと思った。


☆終☆
331 :名無飼育さん :2007/11/16(金) 08:41
石川さんもこういう役が似合うようになりましたねぇ・・・イイ女!
332 :名無飼育さん :2007/11/16(金) 10:32
愛ちゃんが切なくて泣けるんだけど
でもこんな素敵なお姉さんに翻弄されてみたいとか思ったりw
梨華ちゃん最高!雪ぐまさん最高!
333 :名無飼育さん :2007/11/16(金) 11:14
切ない!切ないけどいいよぉ!
だけど、そんな愛ちゃん可愛いなぁ…。
何だかんだ言って、梨華ちゃんも「しょうがないなー」って思ってるのでしょうか?


P.S.
愛梨華は今のライブで密かにアイコンタクトしてるのが凄い好きですw
334 :名無飼育さん :2007/11/17(土) 11:02
またまた梨華愛!すごく良かったです
愛ちゃん切なくて可愛いくて梨華ちゃんはかっこいいですねそして優しい
見えないものを繋ぐのは難しいですが少しずつ育んでいってほしいなと思いました
335 :名無飼育さん :2007/11/18(日) 06:30
なぜか亭主関白な石川さんに萌え〜
…なんですが、お話の合間に出てくる吉澤さんの存在がだんだんと
薄くなりつつ「いしよし派」の自分は吉澤さんが不憫でかわいそうに
なってしまいました。雪熊さんごめんなさい。やはり少し寂しいです。
336 :名無飼育さん :2007/11/18(日) 13:44
愛ちゃんの中で渦巻いてどうしようもない気持ちに共感・・・。
切ないんだけど、私もお姉さんな梨華ちゃんに翻弄されたいと思っちゃいましたw
337 :名無飼育さん :2007/11/18(日) 17:40
愛ちゃんの溢れて止まない色々な感情は石川さんがホントはよく理解してるんだろうなぁ
だからこそ抱いてあげられるのかな
338 :名無飼育さん :2007/11/19(月) 00:15
や、積み重ねられた文章の最後の一行でカタルシスを得ました。
すげー。
339 :& ◆c0jlZHjaas :2007/11/23(金) 03:13
>>331 名無飼育さん
この石川さんの魅力をわかっていただいてありがとうございます。
10代の梨華ちゃんではありえない設定ですよね。
でも、似合うようになったんじゃないかなと思って書きました。

>>332 名無飼育さん
最近、歳上のお姉さん好きな人って多いみたいですねw 
おフランスでは男性も女性もまずは歳上の方から恋の手ほどきをうけるのが洗練のコツとされるそうですから、
この愛ちゃんは切ないですけれども幸せ者ですね。

>>333 名無飼育さん
そうですね、しょうがないと思いつつも愛しいという
歳上のお姉様ならではの感覚かと思いますw
で、なんと密かにアイコンタクトとは! しまった見逃したーorz

>>334 名無飼育さん
お姉さんぶってる梨華ちゃんだけど、元々は甘えたいほうだと思います。
だからこの関係の場合、愛ちゃんがどこまで成長するかが今後の鍵だったりして。
リーダー業での成長に期待ですね!
340 :雪ぐま :2007/11/23(金) 03:13
>>334 名無飼育さん
( ^▽^)<あたしが奥さんだもん! とか言い出すほうに100万梨華w   
吉澤さんの存在は、石川さんの中では薄まってないんですよ〜。
永遠に大切に思う宝物なのです☆ それも愛情のひとつの形です。

>>336 名無飼育さん
苦しい恋をされてるんですね。でも、とても大切なことを学んでるのじゃないかと思います。
お姉さんな梨華ちゃんみたいな人はわりと希少価値ですから、
翻弄されて、切ない思いをしまくってもきっと幸せですよねw

>>337 名無飼育さん
「抱いてあげられる」って、なんかHでいいですねw ご推察の通り、
この愛ちゃんの感情はこの石川さんがよっちゃんとの恋で通り抜けて来た道で、
渦巻く嫉妬や壊れそうな感情を知ってるからこそ、根気強く許してあげられるのです。

>>338 名無飼育さん
ありがとうございます。
そう言っていただけるととても嬉しいし、張り合いがあります♪


次のお話も「続き」ですね。
恋するリーダーにやれやれって感じの亀ちゃんです。
341 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:15



不器用に歩く人だから、放っとけない。
『ブリキのあなた』


342 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:16


男の子たちのなかには時々、
びゅんと走るフェラーリのラジコンカーよりも、
カタカタと不器用に歩く、
ブリキのオモチャが愛しいって人がいる。

絵里は女の子だけど、
どっちかっていうと、そのタイプだな。
343 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:16

「あかん、あたしもうリーダーやめるわ……」

ファミレスの大きな机に突っ伏して高橋さんは、
世にも哀れな声で、そう呟いた。

またまたぁ。

絵里はとりあえずふたり分のミルクティーを注文して、
もーいいじゃないですか、と声をかけた。

「高橋さんのせいじゃないですよ、今日のことは」

フォーメーションのミスが多かった、今日のレッスン。
何度も何度もあっちこっち間違うから、
とうとう打ち切りになっちゃって。
344 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:17

「先生、怒らしてもた……」
「んー、今日はみんな疲れてると思ったんじゃないですかねぇ?」
「ほやけど、あたしからしてミスばっかで」
「絵里も間違えましたよぉー。さゆだってそうとう」
「絵里らはいいけど、やっぱあたしはあかんよ」
「どーしてですかぁ?」
「リーダーやもん」

突っ伏したまま高橋さんは頭をかかえる。
ミスを繰り返した自分を悔しがって。
リーダーやのにリーダーやのにって、自分を責めて。

「たまには、そういうこともありますよぉ」

ねぇ、めずらしいことじゃないですか。
いつも一番になんでも覚えてくる高橋さんが、
今日に限って、あっちこっちでつっかえるなんて。
345 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:18

「まぁ、そのせいで小春とみっつぃーは混乱しまくってましたけど」
「ああ〜〜〜〜!!!!」
「あの子たち、高橋さん見て動いてますからねぇ」
「うあ〜〜〜!!!!!」
「でもそれって、高橋さんのせいじゃないですよ」

自分のパートは、自分の力で覚えるものだもん。
誰かをあてにしてちゃいけません。
なーんて、絵里もけっこう高橋さん見てますけどね。

「つられて間違えちゃうんだなぁ、これが」
「ひ〜〜〜〜〜!!!!!」

呻き声が、もはや動物じみてくる。
面白いけど、リーダーいじりはこのへんにしとくとして。
346 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:18

「で、なにがあったんですか?」
「え?」

驚いたように高橋さんが顔を上げる。
バレてないと思ってました?
絵里はわざとらしく大きなため息をつき、
運ばれてきたミルクティーに口をつけた。

「バレバレですよ、高橋さん」
「え? え? な、なにが?」
「ずばり、またケンカしたでしょう?」

ぎょっとしたように目を剥き、みるみるうちに赤くなる。
バレバレですよ、高橋さん。
カップをカタンと戻して絵里は、頬杖をついた。

「目、腫れてるし」
「えっ、いや、これは」
「だいたい、相性悪そうだもの」
「なんやってか!」
「あー、うそうそ。冗談デス☆」
「あ、相性やないよ。昨日はたまたま」
「はい、たまたま?」
「……………ちょっと、怒られて」
347 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:19

高橋さんが石川さんと付き合いはじめた日、
絵里はよーく覚えてる。
そう、あの日もものすごくミスしてた。
なんとか集中しようとしてたけど、
魂がどこかに泳ぎ出してっちゃったみたいな目をしてて、
時々、なにかを思い出したみたいに甘い息をついて。

どこかで見覚えのあるピンクのジャージが
石川さんのだって気づいて絵里は、
ああ、そうなんだ、って思ったんだ。

そうか、石川さんだったのかって。
高橋さんの、想い人。
348 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:20

「で、なに怒らせちゃったんです?」
「…………………………」
「なんでも聞きますよ、さあ」

そのために、お茶に誘ったんですから。
呆れ顔の先生がスタジオを出て行くやいなや、
どよどよと崩れ落ちた高橋さんに駆け寄って。

「みんなもね、心配してるんです」
「……みんなにも、バレてるんか?」
「いや、ジュンジュンとリンリンはわけわかってないと思いますけど」
「……小春らは、わかってる?」
「まぁ、たぶん」

とたんにうるうると、
アーモンドみたいなつぶらな瞳に
透明な雫が盛り上がった。

「……や、やっぱあたし、リーダーやめる」
「ちょっ、高橋さーん」
「……あかんよ、こんなの。あたし、…引きずらんつもりやったのに」

また短く切ってしまった髪が、はらりと頬にかかる。
しょんぼりうつむいちゃった姿、なんだかちっちゃな子供みたい。
泣かせてるのに絵里はそんなふうに思い、思わず微笑んだ。
349 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:20

「引きずったっていいと思いますよぉ?」
「……………………………」
「好きな人のこと、一番大事でいいじゃないですか」
「…………ほやけど」
「でも石川さん、ひどいなー。高橋さん、大事な時なのに」

案の定、高橋さんがパッと顔を上げた。
かんたんな誘導尋問。
あっという間に、ひっかかる。

「石川さんは、悪くないよ」
「そうですかぁ? 高橋さんのこと、こんなに落ち込ませて?」
「だってあたしが、……あたしが悪いんやし」
「そうなんですか?」
「うん、あたしがまた、……つまらんことで、嫉妬して」

嫉妬。
なんだか重い言葉。
戸惑って、まじまじと見つめてしまう。
350 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:21

「高橋さん、嫉妬とかするんだ」
「……する。してまうんや」
「へぇ」
「絵里は、せんの?」
「誰に?」
「いやだから、好きな人とかに」

する、だろうか。
絵里はあんまり、そういうこと考えたくない。
困って首をかしげると、高橋さんは切なげに笑った。

「あたしかって、自分がこんなやと思わんかったけど」
「そんなに?」
「……カーッてなって、わけわからんくなって……泣いてまうし」
「あぁ」
「結局、自爆してるんや」
「自爆?」
「だって、イヤやろ、束縛されたら」

そう言ってから高橋さんは、蚊の鳴くような声で、
あたしはあんまりイヤやないけど……と呟いた。

恋してるんだなあ、と思う。
寄せては返す、波のような感情に翻弄されてる高橋さん。
楽屋でいつも、ひとり離れたとこで本を読んでた。
あのマイペースな人が束縛されたいと願う、熱い感情。
351 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:22

「で、石川さん、まだ怒ってるんですか?」
「……わからん」
「電話したら?」

再び高橋さんは、机にパタリと突っ伏した。
ミルクティーがどんどん冷めてくのが気になる。
すすめてみたけど、高橋さんは気が進まないようだった。

「まさか、ご飯も食べてないとかナシですよ?」
「…………………………」
「食べてないんだ?」
「……食べれんのや、なんか」
「うわ、だめですよぉ〜」
「わかってるんやけど」

かたく目を閉じ、きれいな眉を苦しげにひそめる。
そして高橋さんは、長い睫毛をゆっくりと開き、
遠い記憶を見つめるみたいに、
赤いテイルランプが流れる窓の外を眺めた。
352 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:23

「……もー、あかんかも」
「えっ?!」
「昨日からずっと、メールも、来んくて」
「石川さんから? 一通も?」
「うん、たいてい送ったらすぐ、返してくれるんやけど」
「うわ、チョー怒ってるってこと?」
「……わからん。忙しいだけかも、しれんし」

 でももう、怒らすの、何回目かわからんし……

繰り言みたいに、ぼそぼそと呟かれる言葉。
こんなのって、いい恋だろうか?
絵里が思う恋は、もっとハッピーで、ラブリーで、
そう、まさにチャミラブ?
なんて、ふざけてる場合でなく。
353 :ブリキのおもちゃ :2007/11/23(金) 03:23

「……ごめんなさいって、送ったんやけどね、いちおう」

 でも、返事、来んし、なんか……
 もう、どうしたらいいか……

カタカタと不器用に歩く、ブリキのオモチャ。
転んだらもう起き上がれなくて、
ジージー泣きながら、むなしく空を蹴っている。
ねぇ、高橋さん? だから放っとけない。
354 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:24

「じゃあ絵里が、電話してあげますよ」
「えっ、……いいよそんなん」
「だって、電話できないんでしょう?」
「……いいって」
「よくない」

だって、あんなにガタガタになる。
簡単なターンを回り損ねて、
単純なフォーメーションに失敗して、
歌い慣れた歌詞をすっとばして。

ねぇ、高橋さん。
幸せに溺れて、ぼんやりしてるならまだいいけど。

「ほら、携帯貸してください」
「……いいって。もっと怒られる」
「どうして?」
「石川さん、きらいやもん、そういうの」

 後輩に電話かけてもらったりしたら、怒られるもっと。

ああ、それはそうかも。
ああみえて体育会系。ウザイよね。
だけど凛としてきれい。がむしゃらですごい。
華やかな笑顔の、高橋さんが好きになった人。
355 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:25

「うーん、困ったなあ」
「……ごめんの、気ぃつかわしてもて」

も、帰るね、今日は。
そう言って彼女が立ち上がりかけたから、
絵里はあわててその手を引っ張った。

ちょっ、ちょっ、ちょーっと待って!
このままでは帰せない。
だって、ずーっとどよどよしてるんでしょう?
リーダー失格失格失格……って、ひとりで大泣きするんでしょう?

「まあまあ、とりあえずなんか食べましょうよ」
「食べれんのやって」
「見たら食べれますって」
「あ、カメ、気にせんと食べてや」
「じゃあ、絵里が食べたいの頼みますから、それ一緒に……」

その時だった。
机の上に出してあった高橋さんの携帯が、ブーンと震えて。
356 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:25

「あっ!」
「あ!」

電話だ!
ふたり揃って、息をのむ。
震え続ける携帯をパッと手に取って高橋さんは、
ああ…と、切なげな息をもらした。

「……石川さんや」
「やった! 出なきゃ! はやく!」
「お、怒ってたらどうしよ……」
「怒ってたらメールだって!大丈夫だから、はやく!」

せっかくの電話になんでそこまでって深刻な表情で、
高橋さんはピッと通話ボタンを押した。

「……はい、もしもし」

わりと低い地声が、おびえたようにますます低く。

でも。
357 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:26

ふぅ〜と息をついて、絵里はソファにもたれかかった。
これで一件落着? たぶんね。
鈴のように高い声が、絵里のとこまで漏れ聞こえてくる。
ごめんね、なかなか連絡できなくてさぁ。
そんなふうに言ってる。

「あ、はい。……いえ全然、うん……はい、もーしないです…はい…」

ちゃんと反省したの?なんてキャンキャン訊かれて、
ハイごめんなさいなんて、いかにもしおらしい声。
でも絵里には見えちゃってるんだ。
高橋さんの頬がじわじわと桃色に染まり、
口元が、心底安心した感じにほにゃほにゃと緩んでくのが。

あーあ、わかりやすっ!
許してもらえて、一安心。
割れそうな風船みたいにはりつめてた緊張が、
ぷしゅー……と抜けてくのが見える。
うーん、喉元過ぎた頃にまたやるよね、これ。
358 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:27

「え、今? 今ですか? えと、えっと、カメと一緒で、えっと…ここどこ?」

デ○ーズですっ。
もー、スタジオから一緒に歩いてきたじゃないですかぁ〜。

「あ、デ○ーズだそうです。え? あ、そう、あの大通り沿いの、はい」

ほどなく窓の外にタクシーがすべりこみ、姫の待ち人は現れた。
ザ☆芸能人!って感じに、キャップを深くかぶって、
夜なのにサングラスまでして。

うーん、逆に目立つと思うけどな。
ほら、店中の人が、私たちに気づいちゃったw
359 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:27

「絵里〜? 愛ちゃんに変なこと吹き込まなかったでしょうね〜?」
「やだもー、石川さんったら絵里のこと大好きなんだからっ(はぁと)」
「えっ? えっ? なんやってか?」
「あ、違う違う、冗談ですって高橋さん(汗」

いつでもいっぱいいっぱいの我がリーダー。
石川さんのことになるとますます制御不能。
さすがの石川さんも苦笑して、
しょうがない子ねって感じに高橋さんのオデコをつついた。

そして。

「ありがとね、絵里」
「え?」
「つきあってくれてたんでしょ? この子に」
360 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:28

あいまいに笑って絵里は、
もうすっかりぬるくなったカップに鼻先をうずめる。

そういう、わけじゃない。
絵里はただ高橋さんに笑っててほしくて。
そう、あなたみたいにこのかわいい人を好きなようにはできないけれど、
だけど絵里だって、すこしは必要とされてみたくて。
361 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:29

「もー、ケンカとかやめてくださいよーっ?」
「ごめんごめんw」
「レッスンに支障がでるんですよ、ほんと」
「ちょっと愛ちゃん、そうなの?」
「や、や、そんなことないやろ、カメ!(汗」

先輩風を吹かせて石川さんは私たちの会計を支払い、
迷子になった犬を連れて帰るみたいに
高橋さんを持っていってしまった。

見送るタクシーの中に、泣き虫はもういない。
ゲンキンなくらいくしゃくしゃに笑った顔が、
赤いテイルランプに紛れてく。

絵里はなんとなく足元の小石を蹴っ飛ばし、
それからひとつ、息をついて、
ポケットから携帯を取り出した。
362 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:29

「もしもーし。新垣さん? カメでーす」
『おー、カメー。お疲れー。愛ちゃんどう?』
「ただいま石川さんに持ってかれましたー」
『あー…、そぉ』

 まぁ、あれだね、じゃあ良かった。

もごもごと、ガキさんがそう言う。
お人好しだなあ、ガキさん。
絵里と同じくらい、お人好しですよ?

「ガキさん、まだこのへんにいるんでしょー?」
『えっ、ま、まあね』
「どこですかぁ?」
『えっ、いやー、スタジオだけど?』
「じゃあ、戻ります」
『あ、そう。あ、さゆとれーなもいるよ?』

あ、そーなんだ。
絵里はちょっと、悪かったなって気分になった。
だってガキさんは高橋さんを、
さゆとれーなはきっと、絵里のことを心配して。
363 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:30

そういうの絵里、わりとわかるほうなんだ。
うん、わかるから、そうねそろそろ。

高橋さんのことは諦めなくっちゃね。
364 :ブリキのあなた :2007/11/23(金) 03:30

「じゃあ、4人でサクッとご飯でも食べいきますか〜」
『あれ、愛ちゃんと食べてないの?』
「食べてないですよぉ。もー、半泣きなんだもん」
『あははw しゃーないよ、愛ちゃんだもん』
「そうですね、まぁとりあえず笑って帰ったし」

 万事、良かったってことで。

携帯を切って、絵里はコンビニに駆け込んだ。
待っててくれた三人にあったかいココアを買って、夜の道を走り出す。
胸が痛いのは、冬の風が冷たすぎるせい。
あたたかなスタジオで仲間たちに会えばきっと
淡い想いは、おしゃべりとともに消えていくでしょう。


☆おしまい☆
365 :名無飼育さん :2007/11/23(金) 06:17
最後が切ない。
この子にも幸せが訪れますように…
娘の絆を感じられました。
366 :いちファン :2007/11/23(金) 06:48
雪ぐまさんの描く現娘。素敵です。
それと雪ぐまさんのカメ、スキです。
367 :名無し読者 :2007/11/23(金) 08:40
作者さん、更新乙です。

>>345の2人のやりとりが実際ありそうで個人的にツボったのは
私だけでしょうか? ポケポケぷぅの亀さんも好きですが、この
中の亀さんも好きです。
368 :名無飼育さん :2007/11/24(土) 08:46
こんな愛ちゃん可愛すぎ!
それにしてもいいところで
お持ち帰りしちゃう梨華ちゃんは相変わらず男前ww
369 :名無飼育さん :2007/11/24(土) 15:29
もうダメかも・・・なんて一喜一憂してても、
笑顔に変えることができるのはやっぱり大好きな人だけなんですよねぇ。
気づいちゃう亀ちゃん、かわいいけど切ないです。
370 :名無飼育さん :2007/11/26(月) 23:54
亀ちゃん(とガキさんも)切ないですけどなんかいいなって思いました。
相変わらずいっぱいいっぱいなリーダー愛ちゃんを娘。メンみんなが支えてる感がありますねw
それにしても石川さんのことで悩む愛ちゃんは可愛いな〜なんて
371 :名無飼育さん :2007/11/27(火) 00:27
いいですねー。
お持ち帰りされる愛ちゃんとする梨華ちゃん…。
何か何気に似合ってる?(笑)
そして、その様子を見守る娘。メンバーと…良い感じですね。

Helloの曲の時とか2人のやり取り面白いですよw<ライブ
372 :名無飼育さん :2007/12/11(火) 23:12
こちらの梨華愛シリーズ読ませていただいて梨華愛にはまってしまいましたw
373 :名無飼育さん :2008/01/13(日) 00:48
雪ぐまさんの中ではいしよしは終わってしまったのでしょうか?
すごーくダイスキ!なんです。雪ぐまさんが書くいしよしがもう、読めないのかな・・・。

いしよしオンリーの私としては寂しいです。
374 :名無飼育さん :2008/01/13(日) 00:51
おいおい(苦笑
愛トメの方にもレスした人だよね?あんまり押し付けはよくないよ
書いてもらってるんだしさ
375 :名無飼育さん :2008/01/15(火) 23:16
373です。
押し付けたつもりは無かったのですが、素直に自分の気持ちを書き過ぎてしまったことで
そういう風に採られてしまったのは自分のミスです。
読まれている方、そしてなにより雪ぐまさん不快感を与えてしまって
すみませんでした。
376 :名無飼育さん :2008/01/16(水) 04:02

大丈夫!
思いは皆同じだから。

377 :名無飼育さん :2008/06/27(金) 00:22
まってます
378 :名無飼育さん :2008/09/13(土) 22:49
梨華愛続編期待
379 :雪ぐま :2011/09/17(土) 01:15
たいへんご無沙汰しております。雪ぐまです。
スレ放置状態で、申し訳ありません。
コメントを残していただき、ありがとうございました>365〜378様

今日は、自ブログで発表した娘。小説を、
こちらにも置かせていただけたらと思い、
ずうずうしくやってまいりました。

古くても、娘。小説ですので、
こちらに置かせていただくのがいいような気がしたのです。

いくつか、ありますので、
しばらくおつきあいいただけると幸いです。

では、いしよしからまいります。
380 :ルームナンバー1444 :2011/09/17(土) 01:18


『ルームナンバー1444』
381 :ルームナンバー1444 :2011/09/17(土) 01:18


花が、歩いてくると思った。

目も眩むような陽射しのなか、

真っ赤に咲いたハイビスカスの花。


382 :ルームナンバー1444 :2011/09/17(土) 01:19


ホテルの朝食バイキングは、騒がしい家族連れや

館内着を来たままの客たちでごった返していた。


その花は、雑然としたフロアにやや戸惑ったようだったけれど、

ホテルステイに慣れているらしく、

すぐにフライパンを振っているあたしの姿を見つけた。


「焼き立て、お願いしていいですか?」


花が、歩いてきたと思った。

目も眩む陽射しのなか、真っ赤に開いたハイビスカスの花が、

あたしに微笑んで、オムレツを、オーダー、した。

383 :ルームナンバー1444 :2011/09/17(土) 01:21


「あの……?」
「あ、失礼しました。もちろん、どうぞ」
「ありがとう。じゃあオムレツ、お願いします」
「具は、どうされますか?」
「えーと、チーズとマッシュルーム。チーズをいっぱい入れてください」
「チーズとマッシュルーム、チーズ多めですね」
「はい。ちょっとゆるめがいいかな」
「かしこまりました」


昨日の朝はいなかったから、
この島に着いたばかりのゲストだと思う。
まるで生まれたときから南国育ちみたいな肌だ。

花のような彼女は、
妙にわくわくした顔であたしの手元を覗き込む。
何百回つくったかわからないオムレツをつくる指先が震えた。
384 :ルームナンバー1444 :2011/09/17(土) 01:22


「お待たせしました」
「ありがとう。やっぱりオムレツは焼き立てですよね」

ニコッと微笑んでプレートを受け取る
その洗練された仕草が、
こんな観光ホテルには不似合いだった。

あたしたちのやりとりを見ていた他の客が、
自分も焼いてもらっていいのかしら?と、
おずおず近寄ってくる。


もちろん、どうぞ。
あたしはなけなしの愛想笑いを浮かべた。
勝手につくって、どんどん皿を並べとくほうが楽だけれども。
385 :ルームナンバー1444 :2011/09/17(土) 01:24
スカしたリゾートホテルの真似をして、
朝食バイキングに卵料理の調理スペースを設けたのは半年前。

支配人があたしを呼んで、吉澤が担当だと命じた。

高校を出てから気楽なバイトを転々としていたあたしは、
いいかげん業を煮やした父親のはからいで
この少々時代遅れの大型観光ホテルに就職したばかりだった。

フロントはイヤだから調理場に入ったのに、
結局、接客させられるのかよとげんなりした。


 もっと笑え。きれいな顔してるんだから。

 もっと愛想良く。ルックスはいいんだから。



そんなふうに言われるたびに、辞めてやろうと思った。
たぶん、人前に出るのが苦手なんだろう。
裏方で黙々と、職人みたいな仕事してるほうが性に合ってるのに。

なのに、なぜだかいつも引っ張り出されてしまう。
386 :ルームナンバー1444 :2011/09/17(土) 01:26
今回もまたこんなはめになってと思ったけれど、父親の手前、
そしてバイトとは違って正社員という立場を与えられたことが
苦手な仕事の中でも、あたしをなんとか踏みとどまらせていた。

それに、注文される前にどんどんオムレツをつくって出しておけば
その皿を黙って取っていってくれる客ばかりだったから、
たいして言葉を交わすこともなかった。

オムレツはもちろん、つくり置きより焼き立てがいいに決まってる。
自分好みにオーダーをするために、この調理ブースはある。

だけど、これまで誰も、あたしを正しく使わなかった。

今日、初めて正しくあたしを使ってみせた彼女せいで、
あたしはにわかに忙しくなった。

我も我もと押し寄せてくる客に焦りながら、
あたしは横目で彼女を盗み見た。


窓際の席でひとり、
トーストにオムレツをのっけて食べている。

連れがいないんだろうか。

まさか、こんな南の島で?
387 :ルームナンバー1444 :2011/09/17(土) 01:27
そうか、朝寝坊なカレシを部屋に残して、
さっさと自分だけ朝食を取りにきたのかもしれない。

時々、眩しげに窓の外を見る、
その穏やかな様子からそんな気がした。


まさか恋人がいないはずはない。

そう思わせる人だった。
388 :ルームナンバー1444 :2011/09/17(土) 01:28
ところが予想は裏切られて、
その日のランチにも、彼女はひとりでレストランに現れた。

ふと見ると外は、スコールのような突然の雨。
どうやら出かけるタイミングを失ったらしい。

オープンキッチンではないけれど、
配膳窓から客席の様子をうかがうことはできる。
いつもは気にしないのに、今日は妙に客席が気になった。

ウエイターが、彼女に駆け寄ってメニューの説明をしている。
そんな熱心に説明するほどのメニューじゃないんじゃない?
あたしは肩をすくめて苦笑した。
389 :ルームナンバー1444 :2011/09/17(土) 01:29
台風が近くを通過しているせいか、
雨は時折、強風をともない、音を立てて窓に弾ける。

上陸しないだけラッキーだけれども、
旅行客には残念な天候だろう。

彼女もテーブルに肘をつき、
ため息まじりに外を見ている。


せめて、おいしい郷土料理を食べさせてあげたい。
そう思ったけど、新米がむずかしい料理を任されるわけもなく、
あたしはただうつむいて、エビの殻を剥くばかり。
390 :ルームナンバー1444 :2011/09/17(土) 01:31
ランチタイムを終えると、
ディナータイムまで休憩時間になる。

いつもは原チャリを飛ばして家に帰って昼寝してるけど、
雨だから仕方なく、従業員の休憩室へ向かった。

「あ……」

ロビー脇を通りかかった時、ソファのところで彼女が、
所在なさげに雑誌を読んでいるのが見えた。

ファミリー客は雨にも負けずレンタカーで観光に出たようだけど、
彼女はきっと、レンタサイクルでの観光でも考えていたに違いない。


 なぜ、一人でこんな南の島へ来たんだろう……


そんなことを考えていたからか、
彼女がフッとこっちを見た。
しまった!と思ったけれど、もう遅い。

彼女がニコッと微笑んできて、
あたしはぎこちなく会釈を返した。
391 :ルームナンバー1444 :2011/09/17(土) 01:32
「あの…」
「は、はい」

甘いソプラノで声をかけられ、
柄にもなく緊張してるのがわかった。

でも、案じることもなかった。
彼女の質問は、ごく観光客らしいものだったから。

「岬までタクシーで行くと、いくらくらいかかりますか?」

やれやれ、あたし、なにを期待してるんだか。
「お茶でも飲みませんか?」だなんて、
言われるはずもないのに。

「岬まではけっこうかかりますよ、片道3000円くらいでしょうか」
「そうですかぁ。うーん…」
「バス、運休ですか?」
「そうみたいなんです。午前中は走ってたんですけど」
「風が出てきましたからねぇ」
「あーあ、ぼやぼやしてないで、朝のうちに行っちゃえば良かったな」

かわいらしく唇を尖らせる。
見かけよりもずっと親しみやすい性格みたいだ。
フッと肩の力が抜けて、あたしは笑った。
392 :ルームナンバー1444 :2011/09/17(土) 01:34
「でも、行ったら行ったで、帰って来られなくなってましたよ?」
「あ、そっか。そうですよね」
「夜には晴れるそうですよ。岬は明日にして、今日は近場にしたら?」
「うーん、でもこの雨ですから……」

今日は、お部屋でのんびりします。
しょんぼりと彼女はそう言って、
雑誌をぽそりと棚に戻した。

「教えてくれてありがとう。じゃあ、お部屋に戻ります」

彼女はそう言ってほほえみ、かすかに頭を下げた。
それがとても、なんていうかきちんとして見えて、
立ち去りかけた背中に、思わずあたしは声をかけた。

「あの!」

驚いたように彼女が振り返る。

「はい?」
「えーと、あの〜……、もしよかったら、そのへん案内しましょっか?」

彼女が、目を丸くした。
393 :ルームナンバー1444 :2011/09/17(土) 01:36
「これから?」
「あ、いや今日は雨なんであれですけど、もしよかったら」

なに言ってんだ、あたし。自分でもわけわかんね。
あわてて、言葉をつけ足す。

「えーと、また晴れた時とか?」

こんなわけのわからない提案、嫌がるか、遠慮するだろう。
そう思ったけど、彼女はとてもうれしそうに笑って、
それからかわいらしく首をかしげた。

「ほんとですか? 私、一人旅なんです。だから、ほんとにおつきあいしてもらえるとうれしいんですけど……」

いいっスよ。
あたしは、とっさに嘘をついた。

「明日とか、休みですから」

激怒するマネージャーの顔が浮かんだけど、もちろん無視した。
すべての都合を無視して、彼女を優先すべき。
そんな直感が、あたしを動かしていた。

「えー、ほんとにほんとにいいんですか!?」
「いいっスよ。どうせあたしヒマ人なんで」

彼女がおかしそうに両手を唇にあて、花のように笑った。

394 :雪ぐま :2011/09/17(土) 01:37


本日はここまでといたします。
また、明日^^

395 :いちファン :2011/09/17(土) 01:54


名前: いちファン
E-mail: sage
内容:
雪ぐまさんのいしよし!
ここで読むのが、やはり趣があります…。

ここのホテル、実在するなら是非行きたい。
396 :いちファン :2011/09/17(土) 01:56
変になってしまった…失礼。
慣れない、スマホで板にコメントは難しかったです;
397 :名無飼育さん :2011/09/17(土) 02:06
更新ありがとうございます
ここで読めるのはやっぱり嬉しいです

オムレツ…この時間にやばいw
398 :名無飼育さん :2011/09/17(土) 04:09
雪ぐまさんのお話がまた飼育で読めるなんて…!

>>381の描写だけで誰のことだかわかりました
いや、そんなこと言ったらタイトルの時点で分かっていたんですけど…w
う〜ん、やはりとても綺麗な文章を書かれますね
雪ぐまさんの描く梨華ちゃんの輝きは健在です
更新楽しみにしております
399 :雪ぐま :2011/09/18(日) 00:43
コメントありがとうございました。
ドキドキというか、ハラハラしていたのでうれしかったです^^

>>395,396 いちファンさん
なるほど趣きですか。そうですね。
私も飼育に投下していて、久々にテカりましたw
この話は、石垣島に旅行に行って台風に巻き込まれた時に思いついたのですが、
ホテルの名前は忘れてしまいました……ごめんなさい。

>>397 名無飼育さん
そうですね、飼育はやっぱり特別です^^
そしてオムレツは正義w

>>398 名無飼育さん
たしかにw>タイトル時点で
うれしいコメントありがとうございます。
梨華ヲタでございますから、梨華ちゃんはつねに花のように見えておりますw


では、本日の更新にまいります。

400 :雪ぐま :2011/09/18(日) 00:44
コメントありがとうございました。
ドキドキというか、ハラハラしていたのでうれしかったです^^

>>395,396 いちファンさん
なるほど趣きですか。そうですね。
私も飼育に投下していて、久々にテカりましたw
この話は、石垣島に旅行に行って台風に巻き込まれた時に思いついたのですが、
ホテルの名前は忘れてしまいました……ごめんなさい。

>>397 名無飼育さん
そうですね、飼育はやっぱり特別です^^
そしてオムレツは正義w

>>398 名無飼育さん
たしかにw>タイトル時点で
うれしいコメントありがとうございます。
梨華ヲタでございますから、梨華ちゃんはつねに花のように見えておりますw


では、本日の更新にまいります。
401 :ルームナンバー1444 :2011/09/18(日) 00:47


「これに、乗るの?」

友達に借りてきたバイクを見て、
彼女、石川梨華さんは戸惑ったような笑顔を見せた。

「私、バイクの後ろって乗ったことないんだけど…」
「へーき、へーき!」
「ちょっと怖いなぁ…」
「へーき、へーき!」

そぉ…?
おそるおそるシートにまたがる彼女を乗せて走り出す、
台風一過の青空の中。

長い髪を風に巻き上げられながら、
彼女はひしとあたしの背中にしがみついてきた。

「ねぇー! なんて呼んだらいいー?」
「えー? なにがー?」
「あなたの名前ー!」
「あー……、よっすぃ〜って言われてるけどー?」
「わかったー! よっすぃ〜ねー!」
402 :ルームナンバー1444 :2011/09/18(日) 00:49

彼女はとても食いしん坊で、
行きたいお店がたくさんあった。
どこにそんなに入るわけ?ってくらい、
たくさん食べた。

「おいしー! ちょっとこれ最高じゃない!?」

そのくだけた様子が、あたしを有頂天にさせた。
生まれ育った土地の味を、
彼女が喜んでくれるのがうれしかった。

もっともっと楽しんでほしい。笑ってほしい。
あたしはもうあっちもこっちも連れて行った。

「ここ、あたしの小学校!」
「名所なの?w」
「え、や、違うけど…」

ごめん、なんか見せたかった。

照れて頭を掻くと、彼女もおかしそうに笑った。
403 :ルームナンバー1444 :2011/09/18(日) 00:51



石川サンは順応性が高いようで、
怖がってたバイクにすぐ慣れた。
むしろ、スピードを上げれば上げるほど
はしゃいで大笑いしてるから、
おいおい落ちんなよ〜!って心配になるくらい。

「よっすぃ〜、楽しいね!」
「そぉ?」
「うん、チョー楽しい! もっと飛ばして!」
「やー、捕まるってマジで(汗」

さんざん観光してまわって、
最後にあたしが連れて行ったのは、
彼女が昨日、行きたがってた岬。

今日も最初に行きたがった彼女に、あたしは言ったんだ。


あそこは、夕暮れ時じゃなきゃ意味がない。


「ほんとだー……」

オレンジに染まる海を見て、彼女はたちまち目を潤ませた。
さっきまではしゃいでたのが嘘のように、
おしゃべりな唇が、凪のように黙り込む。

美しい景色に心が震えてるのがわかった。
見た目よりずっと感激屋で泣き虫なのだと、よくわかった。
404 :ルームナンバー1444 :2011/09/18(日) 00:53
膝を抱えて座り込み、
いつまでも動こうとしない彼女にあたしは訊いた。
ずっと不思議に思ってたことを。

「なんで、ひとりで来たの?」

一日、一緒にいて、あたしはますます不思議に思っていた。
花のように笑うこの人に、一人旅は似合わない。
友達とはしゃぎながらか、それか恋人と。
そのほうがずっと自然な気がした。

彼女は、しばらく答えなかった。
目を潤ませたまま、ただぼんやりと夕陽が沈むのを見ていた。

あれ、まずいこと聞いちゃったかな?
あたしも気まずく黙り込む。

もしかして失恋旅行とか? そうかもね……。
405 :ルームナンバー1444 :2011/09/18(日) 00:55

かなりかなり長い沈黙が続いた後、
フッとため息をついて、彼女が呟いた。

「私ねぇ、結婚するの」

え………?

「親が、決めたの」

肩をすくめる。
どうにもならないことを、もう考えないというように。

あたしは混乱していた。
そんな、いまどき親が決めるなんてあるの……?

「すごく…、すごく好きな人がいたんだけどね、別れさせられちゃった」

悲しげに目を伏せる横顔。
どうして?と尋ねると、
彼女は不思議な感じでフフッと笑った。

「よっすぃ〜には、話しちゃおっかなぁ」

406 :ルームナンバー1444 :2011/09/18(日) 00:57

膝を抱えて、いたずらっぽくこっちを見る。
夕陽を吸い込んだみたいな煌めく瞳で。

「恋人ね、女の子だったの」

ギクッとした。
まさかこの人がそんなことを言い出すなんて。

動揺するあたしに、彼女がほほえむ。

「私ね、女の子が好きなの」


……気づかなかった。

そして、どうしてそれを、あたしに……。


その答えを、彼女はとてもシンプルに語った。


「あなたも、そうでしょ?」

407 :ルームナンバー1444 :2011/09/18(日) 00:58



あたしは息をのむ。

なぜ、この人はあたしの秘密を。


408 :ルームナンバー1444 :2011/09/18(日) 00:59

「……どうして?」
「え、だって、わかるよ」

彼女が、くすくすと笑った。
それから風に舞う髪をおさえて、すいっとあたしを見た。

すこし意地悪な、誘うような瞳で。

「だって、そういう目で、私のこと見てるじゃない?」

409 :雪ぐま :2011/09/18(日) 01:01


本日はここまでといたします。
また明日^^
410 :名無飼育さん :2011/09/18(日) 01:07
更新乙です
いいところでオワタ
バイクに乗ってる二人実際に見てみたいなー
411 :名無飼育さん :2011/09/18(日) 01:10
おおおドキドキ…!
大人な事情が切ないですね…
412 :名無飼育さん :2011/09/18(日) 01:46
うぅ。また雪ぐまさんの小説を飼育で読めるなんて幸せです。
1444のあの一見熱くは見えないけど熱く甘い感覚。 懐かしい気もするし、新鮮な気もします。
413 :名無し :2011/09/18(日) 12:12
うわーーー!雪ぐまさんだ!
すごい嬉しいです!!

どうゆー展開になるか楽しみ。
梨華ちゃん鋭いなあ。
なんか情景が浮かぶ描写が素敵です
414 :雪ぐま :2011/09/19(月) 00:33
コメントありがとうございました^^

>>410 名無飼育さん
バイクに乗ってる二人、私も見てみたい!
なんかすっごいバイクがいいと思うんですよねー。
どうかすると死ぬほどダサそうなアメリカーンな感じのとかw
で、よっちゃんはサングラスをしてるんですよ。
どうかすると死ぬほどソリマチみたいな。痺れるーwww 
梨華ちゃん乗せて、荒野をどこまでも走ってーー!(壊。

>>411 名無飼育さん
大人な事情、個人的にはこの21世紀にそんなのあるか!って思いますが、
案外まだあるみたいですねー。いいとこのお嬢さんとか。
駆け落ちしちゃえよっすぃー!と思いますが、
うちのよしこは愚図ですからどうなることやら……。
415 :雪ぐま :2011/09/19(月) 00:33
>>412 名無飼育さん
身勝手放置作者ですのに、そんなふうに言っていただけて、
私の方こそとても幸せです。ありがとうございます^^
1444は真逆なのに恋に落ちてしまう運命の二人。
熱くぶつかり合って、甘く溶けるのでございますw

>>413 名無しさん
こちらこそ、うれしいコメントありがとうございます^^
私の妄想は、いつも頭の中に映像で浮かんできます。
それを文章であらわすのがいつもすごくむずかしいのですが、
そう言っていただけるとホッとします。
ところで、飼育ではコメントはsage推奨ですので、
次からよろしくお願いします^^
( E-mail欄に「sage」と入れればOK。簡単です♪)


さて、雪ぐまのいまだ健在な腐れいしよしヲタぶりを晒したところで、
本日の更新にまいります。
416 :ルームナンバー1444 :2011/09/19(月) 00:36


ベッドの上の彼女は、まさに乱れ散る花のようだった。
その激しさに、炎のような欲望に、あたしは圧倒される。


髪をつかんでキスを求める手慣れた仕草が、
激しく嫉妬をかき立てた。
だけど、それ以上にあたしは気が狂っていた。
もっともっととせがまれるほどに、
欲望の針がビリビリと振り切れた。

「やだ。帰らないで」

せがまれてあたしは、彼女の部屋で朝を迎えた。
彼女は、当然のようにあたしの腕の中に潜り込んで眠った。
あたしの胸を包み込むように優しくさわって、
時々先っぽにキスしたり、ちょっと噛んでみたりする。

くすぐったくてあたしは身をよじったけど、幸せだった。
腕枕してる腕が軽く痺れたけど、がまんした。
417 :ルームナンバー1444 :2011/09/19(月) 00:38
彼女の髪から、からだ中から、
どうかしてると思うほど甘い女の子の香りがして、
あたしはただうっとりと目を閉じた。

次の日も休みたかったけどそうもいかず、
寝ている彼女を残して、こっそりと部屋を忍び出た。

廊下で同僚に出くわしてヒヤッとする。
そんなこともドキドキした。

仕事をしてる間中、ふわふわと宙に浮いてるようだった。

昼休み、あたしはダッシュで友達にバイクを返しに行き、
家に寄って母親に「今日も帰らないから」と告げて
ホテルに駆け戻った。

約束したわけじゃないけど、
今夜も彼女の部屋に泊まる気だった。
きっと受け入れてくれるという自信があって、
あたしはほんと有頂天だった。
418 :ルームナンバー1444 :2011/09/19(月) 00:40
やっと仕事を終えて、
古びたエレベーターにさりげなく飛び乗る。

彼女の部屋がある最上階まで辿りつくのももどかしく、
表示ランプを見上げてあたしは、そわそわと足踏みしていた。

他の従業員に見つからないよう、慎重に廊下を見まわし、
彼女の部屋にすばやく駆け寄ってドアをノックする。

ややあって、「……よっすぃ〜?」と怯えたような声。
そうだよと言うと、魔法のようにドアが開いた。
419 :ルームナンバー1444 :2011/09/19(月) 00:41
せっかちな妖精があたしの腕を引き入れ、
ガチャンとドアを閉めて、首にすがりついてくる。

「もう、来てくれないかと思った……」
「遅くなってごめん。でも、仕事終わってすぐ来たんだよ?」
「だって、お昼も空いてるって言ってたじゃない」
「えっ…、あ、ごめん、観光とか出かけてると思って」
「バカ、出かけてるわけないじゃない」

待ってたのに……と、
彼女は拗ねたようにあたしの肩を叩いた。

「時間、ないんだよ?」

面食らってあたしは、一瞬よろけて壁にもたれる。
抱きしめた彼女の身体は驚くほど熱くて。

「もしかして、すっごい飲んでる?」
「……飲んでるよォ、朝からずっと」

 よっすぃ〜、行っちゃうし。
 起きたら、いないんだもん。

恨めしげな上目遣い。
潤んだ瞳は酒のせいなのか、それとも……。
420 :ルームナンバー1444 :2011/09/19(月) 00:42
「……いいの? 観光とかしなくて」

彼女が激しくかぶりを振る。
とうとう涙が飛び散るくらい激しく。


「どこにも行きたくないよ。あなたとこうしてたいの」


そのまっすぐな言葉は、あたしに自信を持たせた。

肩をつかんで押し倒すと、
彼女は両手を広げてあたしの背を強く強く抱きしめた。
421 :雪ぐま :2011/09/19(月) 00:43


本日はここまでといたします。
短いですけど、次でラスト。

また明日^^
422 :名無飼育さん :2011/09/19(月) 01:42
読みたかったいしよし小説ここにありです!
次回を楽しみに待ってます!
423 :雪ぐま :2011/09/19(月) 21:33
>>422 名無飼育さん
うれしいコメントありがとうございます。
がっかりのラストかもしれませんが……、
なにか感じていただけると幸いです^^


では、本日の更新にまいります。最終話です。

424 :ルームナンバー1444 :2011/09/19(月) 21:33


「バイバイ」


旅行鞄を下げた彼女が、空港でほほ笑む。

あたしは何も答えられなかった。

ただ、涙がとめどなく流れた。

425 :ルームナンバー1444 :2011/09/19(月) 21:35
「よっすぃ〜」


旅行鞄を床に置いて、
彼女があたしの首に腕をまわす。
華やかな香水の香りが胸の奥に入り込んできて、
あたしをめちゃくちゃに傷つけた。


「大好き。忘れないよ」


0.5秒の最後のキス。
誰かに見られるかもなんて、もうどうでもよかった。
その細い腕をつかんで、帰さないと叫びたかった。

だけど彼女はグズなあたしの衝動よりもすばやく身をひるがえし、
胸元で小さく手を振った。


「バイバイ」


426 :ルームナンバー1444 :2011/09/19(月) 21:35
ゲートに消えてく彼女を、あたしは呆然と見送った。

一度だけ、たった一度だけ彼女は振り返り、
とても切ない瞳をした。

ありがとう、その唇が小さく動いた。

また来ると、最後まで彼女は言わなかった。
だから怖くて、また来てと言えなかった。

427 :ルームナンバー1444 :2011/09/19(月) 21:37
どうやって空港からホテルに帰ったか覚えていない。

あたしは花を見たことがなかったんだと思う。

青い空の下、風景はいつも嘘みたいな気がしてた。

誰にも見つからないようにと祈りながら
古ぼけたエレベーターに乗ってるたった今さえ、

あたしはどこか疑っているんだ、この景色を。
428 :ルームナンバー1444 :2011/09/19(月) 21:38

ルームナンバー1444。
14階の最上階に通されていたゲスト。

こんなホテルでもいいところを見せようと、
フロントは焦ったのかもしれない。
美しい人にせめてすばらしい眺望を、と。

そう、せめて、忘れられない思い出を。
あなたに、あたしの時間と心と体、すべて使って。
429 :ルームナンバー1444 :2011/09/19(月) 21:39

それでいい。それでよかった。


だけど、空っぽになった部屋の中で、
やっぱり涙があふれた。


眩しすぎる真っ赤な花が、瞼の奥から消えなかった。



=終=
430 :雪ぐま :2011/09/19(月) 21:42


お読みいただき、ありがとうございました。
当時は書き込むのをためらってしまったお話です。

コメントいただけると大喜びしますが、
ネタバレにはお気をつけくださいませ。

では、また^^
431 :名無飼育さん :2011/09/19(月) 22:09
美しい花というは、そこに存在するだけで人を惹きつけてしまうものですよね
雪ぐまさんの描く梨華ちゃんほんと好きです
432 :名無飼育さん :2011/09/19(月) 22:36
二人がいる美しい景色をまだまだ見ていたいー
更新お疲れさまそしてありがとうございました
433 :名無飼育さん :2011/09/19(月) 22:59
こういう雰囲気のお話好きですよ

管理人でもない立場で申し訳ないですが
飼育に残していただけて嬉しいです
本当にありがとうございました
434 :名無飼育さん :2011/09/20(火) 00:19
甘美で切ない…
いしよしの醸し出す雰囲気は、なんというか、堪りませんw

「当時」と言われてるということから察するに以前書かれたお話ですよね?
そのせいか今の二人というよりは一時期前の二人ならではの雰囲気だなぁ、と。
素敵な小説をありがとうございました。
435 :名無飼育さん :2011/09/21(水) 00:10
ブログで発表されたときに拝見しておりましたが
やはり飼育で読むとちがう気がします
感慨深いです
436 :xg34OPgdB :2014/03/04(火) 10:55
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