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時にはそれは風のように

1 :ES(Easestone) :2012/05/19(土) 13:11
CPは「りしゃあいり」です。
視点は梨沙子視点と桃子視点の二つから書きたいと思います。

長くなると思いますがよろしくお願いします。
2 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:13
夏焼雅がその細く伸びやかな白い手をいっぱいに掲げた。
息を呑むような美しさにはっとなる。
会場にゆるやかに流れていた風さえ止まったような気がした。

続いてけたたましい大音響が会場全体を包みこんだ。
あまりの音に雅の姿さえ見えなくなる、
その一瞬の隙をつくように雅が歌い始めた。

その歌声が波状になってファンの歓声とともに駆け抜けていく。
心をかき乱すような音楽が雅の体から次々に放たれて
舞台袖で聞いている嗣永桃子の体をまっすぐに一気に突き抜けていった。
3 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:15
これこそみやの真骨頂だなあと桃子は思う。
雅の歌はまるで人の心を遥かかなたにまで引きずりあげていくみたいだ。
そして魔法でもかけられたようにみんな雅の歌の虜になってしまう。

桃子自身も歌唱力には自信がないわけではない。
でも今の雅の力と比べるとまるで別次元だ。
雅は、神様から与えられた特別な力を持っていると桃子は思った。
 

ふと舞台の対角線上に目を移すと、℃-uteの鈴木愛理が雅の姿を
じっと見ているのが見ているのが桃子の視界に入った。
4 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:16
今日はBerryz工房と℃-uteの対決企画が行われるイベントの日だった。 

桃子が属しているBerryz工房も℃-uteも元々ハロープロジェクトに同時に加入して
ハロプロキッズとして活動を始めたため全員が同期だった。
そのためかBerryz工房と℃-uteはグループとして比較されることも多く、
一緒にライブをやったりゲームで対戦したりということも頻繁にあった。

周囲からもベリーズと℃-uteはライバル関係とよく言われた。
しかし今のところ、夏焼雅という絶対的なエースのいるBerryz工房は
人気という面では℃-uteに先行していた。
5 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:17
ただ桃子にとって℃-uteとの対決ははそれほど興味はないことだった。
Berryz工房が先にブレイクできたのは℃-uteに勝ったからじゃない。
年齢も個性もばらばらなBerryz工房がここぞというときに団結して、
みんなで努力してきた成果だと桃子は思う。

そして℃-uteも一緒にブレイクするときがきたら、
きっとBerryz工房はもっと注目されると桃子は思う。

大きく考えたら同じハロープロジェクトに所属する℃-uteもBerryz工房も
運命は同じなのだ。
6 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:19
それに桃子がリーダーを務めるBuono!は℃-uteの鈴木愛理とBerryz工房の夏焼雅と桃子の
三名のベリキュー混成ユニットだった。

桃子にとってBerryz工房もBuono!もどちらかなんて選べないくらい好きだ。

そのせいで桃子には℃-uteをライバルだという意識はほとんどなかった。
7 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:20
「今回もうちらの圧勝だね」
 
桃子のすぐ傍にいた菅谷梨沙子が目を輝かせて言った。
Berryz工房には夏焼雅以外にもう1枚エース級の歌手がいる。

梨沙子は年齢こそ最年少だが、歌唱力や表情の作り方などのパフォーマンスでは
ハロープロジェクトでもトップクラスの実力を誇った。
 
「これで勝ったら3連勝だし、もう℃-uteには負ける気しない」
 
梨沙子は勝ち誇ったように言う。

梨沙子は桃子とは正反対に℃-uteへのライバル意識は相当なものだ。
8 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:21
「まだ分かんないんじゃない?舞美も結構すごかったと思うけど」
 
桃子はわざと言ってみた。
 
「はあ?みやが℃-uteに負けるわけないじゃん」
 
梨沙子はあからさまに不機嫌そうな顔をする。

予想通りの回答が返ってきて桃子は苦笑した。
梨沙子の℃-uteへの対抗意識はものすごく強い。
とりわけ、雅がステージに立っていたからなおさらみたいだ。
9 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:24
梨沙子が雅に対して強い憧れの気持ちを抱いているのは遥か前の
Berryz工房の結成以前、自分達が最初に出会ったときからずっと変わらない。

Berryz工房はメンバー同士でこんなに一緒にいる時間が長くて、
もう隠し事も何もない家族みたいになっている。

それなのに梨沙子の雅に対する思いはものすごく新鮮でピュアで、
それは雅と一緒にいるときの梨沙子の微妙な表情や仕草の一つ一つから伝わってくる。
10 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:25
「審査員投票と会場投票合わせて3対0、℃-ute矢島舞美対Berryz工房夏焼雅の歌唱力対決は
 雅ちゃんの勝利です」
 
観客席から一斉に歓声が上がった。
 
「やったあ!」
 
梨沙子が雅の元へ一目散に駆け寄っていった。
11 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:26
これでBerryz工房はこのイベント3連勝だった。
Berryz工房の勢いは最近になってさらに増している。

その中心はセンターの夏焼雅だ。

少し前はテレビの出演回数が一番多い桃子がBerryz工房の中では一番知られている存在だった。
しかし今では雅のほうが有名かもしれない。

そろそろ自分もキャラクターだけでなく、さらに目立つ方法も考えようかと桃子は思った。
12 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:27
ふと喜んでいるベリーズのメンバーを横目に℃-uteを見ていると、
また愛理の姿に目が止まった。

愛理がステージ横から物憂げに誰かをじっと見つめている。

愛理の視線の先には雅と抱き合って喜ぶ梨沙子がいた。

それを見て桃子は梨沙子の身に何かが起こるような胸騒ぎを感じた。
13 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:29

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14 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:31
桃子がBuono!の控え室のドアをノックして開けるとまだ愛理も雅も来ていなかった。
今日はテレビ局でBuono!の取材の仕事だった。

桃子はさっきスタッフからもらった紙包みをテーブルの上に置いて丁寧に開け始めた。
ちょうどテレビ局の廊下でベリーズのスタッフさんがいて
Berryz工房のファン感謝特典のメンバーの生写真をもらったのだ。
15 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:32
桃子もファンの人がもらう写真がどんなのか見ておきたかった。
とりあえず自分の写真を取り出したが、それは横に置いておいて、
楽しそうにメンバーの写真を年齢順に並べていく。

まず最初に梨沙子、熊井ちょー、みや、すーちゃん、千奈美、自分にキャプテン。

桃子はみんなの写真を満足そうに眺めた。
そして、みんなで映っている集合写真やペアで映っている写真なども
テーブルいっぱいに並べていく。

そのとき、コンコンと素早く音が鳴ったかと思うとさっとドアが開いた。

ドアの風で写真が少し浮き上がる。
16 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:34
「愛理?びっくりした!」
 
先に愛理の姿を認めて桃子が言った。
 
「あ、桃早いね」
 
そういうと愛理はテーブルいっぱいに広がったベリーズメンバーの写真に目を落とす。
 
「あ、これは、ファンの特典の写真で」
 
桃子はしどろもどろになりながら言った。
そして写真をを封筒の中に収め始めた。
自分ひとりの写真を見つめているときならよかったが、
自分が他のメンバーの写真を見ているのは逆にらしくなくて恥ずかしい。
17 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:35
「いいじゃん。見せてよ」
 
愛理はそう言ってメンバーの写真を一枚抜き取った。
 
「あ、ちょっと勝手にとらないで」
 
桃子はそう言ったが、愛理は取った写真以外の他のメンバーの写真を素早くごちゃごちゃに混ぜて分からなくしてしまった。
 
「さあ、クイズです。誰の写真を取ったでしょう?」
 
愛理がいたずらっぽい目をして言った。
18 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:36
桃子はベリーズで愛理が写真を取りそうなメンバーを思い浮かべた。
最初は何となく愛理と仲がいい熊井ちょーかみやの写真だと思った。

そしてBuono!でいつもじゃれあっている雅と愛理を思い出して雅だと確信した。
 
「みやでしょ?」
 
桃子がそう言うと愛理は笑って言った。
 
「残念。りーちゃんでした」
19 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:38
梨沙子の写真を見て桃子は思わず意表を突かれた気がした。
改めて愛理が見せた梨沙子の写真はほっぺのところにピンクのチークが白い肌に溶け込むように合わさって
人間離れしたような可愛さを放っていた。
 
「めちゃくちゃ可愛いね。この写真」
 
愛理はうらやましそうな顔をして言った。

桃子は愛理からそんな言葉を聞くのは初めてだったので何か意外だった。
梨沙子が可愛いという話題はベリキューのメンバー間でもよくあるけど
そのときの愛理は決まって聞いているだけだ。

それに愛理こそメンバーからもファンからも特に可愛いと大絶賛される存在でもある。
20 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:38
「まあ私には負けるけどね」
桃子は肯定の意味でそう返した。

愛理は梨沙子の写真をじっと見入っている。

桃子はふいにベリキュー対決のときでも愛理が梨沙子を見つめていたのを思い出した。
桃子の中であのときの胸騒ぎは再び蘇ってくる。
 
「確かにりーちゃんて可愛い。けど可愛いすぎるって罪だよね」
 
愛理が言った。
21 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:39
「まさか愛理、この前のイベントでりーちゃんに負けたのまだ根にもってんの?」
 
前のときは大一番の歌唱力対決でBerryz工房の雅が勝ったが、
その前に行われたどっちが可愛い対決では愛理は梨沙子に負けて、
結果Berryz工房の圧勝に終わっている。
 
「さあねー」
 
愛理は人事のように言う。
22 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:41
「でも罪があるってことは何かで償ってもらわないとねー」

わざと軽く言っているような愛理の言い方が、
あまり冗談にも思えない雰囲気があった。
 
「ちょっと愛理、まさか梨沙子に何か仕返しするつもりじゃないよね?」
 
桃子はだんだん不安になってきた。

梨沙子と愛理はハロプロキッズとして活動を始めた時代からの親友同士だ。

梨沙子と雅がその頃からそれこそ姉妹みたいな強い絆で結ばれているとしたら
梨沙子と愛理も絶対に揺るがない固い友情で結ばれてきた。

梨沙子と愛理の仲が今どうなっているのか全く分からないけど、
とにかく愛理にはずっと梨沙子の親友でいてほしいと桃子は思う。
23 :時風 桃子 :2012/05/19(土) 13:42
「いやいや、℃-uteの誰かがそう言ってただけだって」
 
愛理は肯定も否定もせず、そう言って梨沙子の写真を見つめた。

それでも梨沙子を見つめて爛々と輝く愛理の瞳が
きっと何かを企んでいるに違いないということをはっきりと物語っていた。


24 :ES :2012/05/19(土) 13:43


今回の更新を終わります。
久しぶりすぎて慣れませんが、週1更新していきたいと思います。
25 :名無飼育さん :2012/05/20(日) 21:53
これを読んで、ああ夏焼さんがメジャーになる日がきてほしい、と切に感じました。
愛理は色々思うところがあるんでしょうね。穏やかでない雰囲気が似合う子だと
思います。
続きを楽しみにしています。
26 :名無飼育さん :2012/05/21(月) 08:14
お久しぶりすぎる名前を見かけたと思ったら、ベリキューメインの話。
面白そうです。次回更新されるのが楽しみです。
27 :ES :2012/05/26(土) 08:38
>>25
レスありがとうございます。まさに私も同感です。
そんな日がくることを切に願いつつ・・

>>26
レスありがとうございます。覚えていてくださったみたいで
ありがとうございます!いろいろと思うことがありまして
戻ってまいりました。これからもどうぞよろしくお願いします。
28 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 08:40
雅みたいに℃-uteを寄せ付けない圧倒的な力をもった歌手になりたい。
ベリキュー対決が終わって梨沙子の雅への憧れの気持ちは強くなる一方だった。

雅はめちゃくちゃカッコいいのに全然それを自慢することもないし、
むしろ普段は優しくて女の子っぽいオシャレをしていることばかりが目立つ。

梨沙子はそんな雅を見ていると雅のことが好きすぎていっそ雅になりたいと思ってしまうこともある。
そんなことを考えながら梨沙子はテレビ局の廊下を歩いていた。
29 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 08:41
そのとき、ふと梨沙子の目の前をどこから入ってきたのか外の風が流れてきた。
雅のことをずっと考えていた梨沙子の意識がさえぎられた。

愛理?

同時に梨沙子は真正面の廊下の角に愛理の後姿を残像のように見かけた気がした。
一瞬追いかけてみようかと思ったが違う可能性だってある。
梨沙子はライバルとして愛理を意識しすぎなのだと思い直した。

でも梨沙子にはまだ愛理に勝って雅のようになれる自信はない。
そんな梨沙子の後ろから桃子がやってきた。
30 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 08:43
「もも、遅いよ」
 
梨沙子は、口調だけ尖がらせて言った。
それでも梨沙子は桃が相手だと緊張しなくていいので自然と顔が緩む。
 
「今、愛理見たような気がしたんだけど、気のせいかな」
 
梨沙子が周囲をきょろきょろと見渡して言った。
 
「愛理?ああ、今までBuono!の取材の仕事だったからまだその辺にいるのかも。
 で話しって?」
 
「みやのことなんだけど」
 
梨沙子は少し聞きづらそうに言った。
31 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 08:44
「みやがどうかした?」
 
桃子が少し早口で淡白な調子で言った。
 
「みやってどんな髪形が好きなのかな?」
 
梨沙子は少し恥ずかしそうに言った。
桃子は梨沙子の顔を見てすぐにぴんときたみたいだった。
 
「梨沙子、髪形変えるの?」
 
「うん。ついでに色ももう少し軽くしようかなと思って」
 
梨沙子は素直に言った。
 
「そっか。それでみやの好みにしたいんだ」
 
梨沙子は黙ってうなずいた。
32 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 08:46
「うーん。みやの好きな髪形かあ・・・。
 てかさあ。みやに直接聞いたほうが早くない?」」
 
桃子が少しすまなそうに言った。
桃子が雅の髪型の好みを特に注目してるはずもないから桃子の答えも当たり前かもしれないとは思った。

それでも梨沙子は納得できなかった。
 
「やだ。直接聞いたら意味ないもん」
 
梨沙子は言った。
 
桃子は頭を抱えて考え始めるた。
梨沙子はその様子を期待しながら見ている。
33 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 08:49
桃子は梨沙子と二人で話すときだけ普段とは全然違う。
どちらが普段なのかはよく分からない。
けど桃子はみんなでいるときや楽屋では完璧なぶりっ子キャラを通している。

アイドルとして桃子なりの考えはあるんだろうと梨沙子も分かっているつもりだ。
でもそんなときの桃子はそれにしてもうざいと思うこともたびたびだった。
しかし梨沙子と二人きりのときの桃子は全然違う。
34 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 08:50
梨沙子に接するときの桃子は、冷静で自分なりの考え方をきちんともっていて、
会話のときこそそっけなく聞こえるけど梨沙子に対してかぎりなく優しい。

桃子は梨沙子が相談すると、どんなときでも嫌な顔一つせず相談に乗ってくれた。

それに年上だからと威張って自分の意見を押し付けたりすることも全くない。

だから梨沙子は二人きりのときに桃子に個人的な相談を持ちかけるようになった。
35 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 08:51
「よくキャプテンの髪形、可愛いって言ってたけど」
 
桃子は困りながらも言った。
 
「キャプテンねえ」
梨沙子は、最近髪を伸ばし始めた佐紀の髪形を思い浮かべた。
でも個性が命のベリーズでキャプテンと同じ髪形はあまりにもおもしろくない。
 
「でもみやって梨沙子がしてる髪形だったら何でも好きって言いそうだけど」
 
桃子は言った。確かに桃子の言うことは一理あった。
36 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 08:52
「でもそんなんじゃやなの」
 
雅は梨沙子にとって一番近くにいる憧れの存在だった。

オシャレ番長と言われてファッションセンス抜群の雅を見て
梨沙子はメイクをしたり髪形とかいろいろ考えるようになった。

だから自分が一大決心をして髪形を変えたときには一番最初に雅に見せたかったし、
雅に一番可愛いと言って欲しかった。
37 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 08:54
「そうだなあ」
 
桃子は再び考え出した。
梨沙子の前ではにゃんにゃん言葉を使う嗣永桃子はもうどこにも存在しない。
桃と話すたびにまさに嗣永桃子は二重人格の人工アイドルだと梨沙子は思う。
でも梨沙子はそのことを否定的に考えているわけではなく、
桃なりに自分の個性を出しているのだと思っていた。

しかし梨沙子には何故桃子が自分にだけこんなに普通の態度で接してくるのかは分からなかった。
 
「梨沙子、桃もお昼もう食べるって」
 
雅が顔を覗かせて言った。
 
「二人とも楽屋戻って」
 
雅の明るい声に梨沙子の気持ちが切り替わった。
38 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 08:55
「ちょっと、まあ、勝手にあたしのケータイにいたずらしないでよね」
 
千奈美の威勢のいい声が聞こえてくる。
今日もBerryz工房の楽屋はずいぶんと騒がしかった。
 
「いいじゃん。こうしたらおもしろいよ」
 
茉麻が千奈美の携帯電話の待ちうけ画面を勝手にいじっている。
 
「てかこれ、あたしのおじいちゃんの眉毛の写真じゃん」
 
メンバーが眉毛がドアップになった千奈美の携帯を回し見して大笑いしている。
 
「おい、須藤」 
 
千奈美が茉麻の頭に軽くチョップした。
39 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 08:56
それでも昔に比べて随分と静かになったと梨沙子は思う。

昔の梨沙子は楽屋でもメンバーとしょっちゅう喧嘩したり、
キャプテンやみやに怒られたり、反省したり、
また時間がたつと腹が立ったりの繰り返しだった。

そして何より小さいときはみんなにテンションがおかしいって言われるぐらい
自分が一番騒いでいたような気がする。

千奈美の携帯を取り合っていた雅とふいに目が合う。

そんな梨沙子が雅から梨沙子って落ち着いてて大人っぽいと言われた。
梨沙子に最も影響を与える人の言葉で梨沙子はもう自分が昔とは違うんだなと感じた。
40 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 08:57
「そういえば、梨沙子髪型変えることにしたんだっけ?」
 
雅は誰かから聞いてきたように言った。
梨沙子が雅がそのことを知っていたことに驚いた。
マネージャーさんにはすでに伝えていたが、
まだみんなには言わないように頼んでおいたはずだった。

そして桃子は絶対に雅に漏らさないはずだ。
 
「愛理から聞いたよ」
 
雅は何でもないことみたいに言った。
41 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 08:59
梨沙子は一瞬にして愛理に髪形を変える事をメールしたことを思い出した。
そして愛理に話すんじゃなかったと後悔した。
とりあえず髪形を変えるぐらい大事なことは、
親友の愛理には話さなきゃいけないという梨沙子の律儀すぎる性格が完全に災いした。

そして愛理にこのことはみやにはまだ話さないでほしいなんて
自分の心の中を愛理に見られるようでとても言えなかった。
42 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 09:00
「最近、愛理とどんな髪形が可愛いとか結構メールしてて」
 
雅が話す言葉を聞いて梨沙子は気が遠くなりそうだった。
 
「ボーノだとファッションとか髪形とかまともに話せる相手って愛理しかいないじゃん」
 
雅は梨沙子相手にしゃべり続けた。 
 
「愛理も最近ね。オシャレに目覚めてきたみたいで」
 
聞きながら梨沙子は、愛理にせっかく髪形を変えることにしたとメールをしても
返事が返ってこなかったことを思い出した。

そのせいで愛理に報告したこと自体忘れてしまっていたのだ。

親友のはずの愛理が自分からのメールは無視して雅としょっちゅうメールのやり取りをしていたかと思うと、
梨沙子は寂しいような腹が立つような両方の気持ちが入り混じった。
43 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 09:02
「愛理も結構、私と趣味がかぶっててセンスも合うんだ」

雅が楽しそうに言う。

自分も雅と同じ趣味のファッションとか髪形とか知りたい。
梨沙子は唇をかみ締めて思った。でもそれを素直に言えない。
 
「なになに?ももが可愛いって話?」
 
そこに桃子が突然二人の会話に割り込んできた。
 
「違う。ボーノで誰かさんのおかげですっごい疲れきってるときに、
 愛理の笑顔を見るとほんっとに癒されるって話」
 
雅が思いっきり抑揚をこめて言った。
44 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 09:08
雅は桃子へのあてつけのつもりでそう言ったに違いない。
なのに雅が言った「愛理」という名前だけが梨沙子の脳裏に妙に残る。

今まで感じたことのない愛理への嫉妬の気持ちだった。

 
「そっかあ。みや、やっぱももの笑顔で癒されてんだ」
 
桃子があごに両手をもっていって甲高く甘い声で言った。
 
「違う。愛理の笑顔ね。天使みたいな愛理の笑顔」
 
雅が何度も「愛理」を強調して言った。
 
「まあ、ももの笑顔は気持ち悪いけどね」
 
梨沙子がいつもどおり感情をこめずにストレートに言った。
それを聞いて雅があははと笑う。
 
「ちょっと梨沙子までそんなこと言わない」
 
言われた言葉に反して桃子の顔は笑顔だった。
桃子が会話には入ると梨沙子はもう愛理への感情とか何だかどうでもよくなってきて少しだけ気持ちが楽になる。
45 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 09:09
「ももー、ディレクターさんがももだけ念入りな打ち合わせがあるって」
 
茉麻が桃子を呼びに来た。

今日は久しぶりのテレビ収録だった。
桃子はバラエティにも多数出演がある。
他のメンバーが曲紹介するだけの番組でも桃子だけ結構手の込んだ役回りをやることが多い。
そのせいで桃子だけ特別な打ち合わせがあったり司会者との難しい掛け合いなんかも番組中にやっている。
 
「これだから売れっ子は困るなあ。人気ありすぎてももち困る〜」
 
桃子がわざと手足をばたつかせて言った。
 
「単におもしろいからだけじゃないの?」
 
雅が言った。
46 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 09:10
「やっぱももはベリーズの可愛い担当だからなあ」
 
桃子が雅の言葉を無視して言う。
そしてこれみよがしに「可愛い」を強調してみせた。
 
「はあ?桃はお笑い担当だからだよ」
 
雅がいつもと同じ調子で返した。
 
「桃は芸人さんじゃありませーん」
 
桃子はそう言いながら先に打ち合わせに向かった。
桃がいなくなると、ふと空気の間に隙間ができたように静かで落ち着かなくなる。
47 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 09:12
梨沙子はまたさっきの雅と愛理がいろんなファッションの話をしているということが気になり始めた。
でもそれを確かめるには愛理に聞くほかない。
愛理に聞くと雅への憧れの気持ちみたいなのが、愛理に分かってしまって恥ずかしいし、
愛理へのアドバイスを雅にきくのもおかしい。

愛理は気づくといつも自分と雅の間に割り込むように入ってくる。
 
「ああ、そういえば」
 
雅が思い出したように梨沙子の顔を見た。
 
「愛理が最近、梨沙子と会えてないから寂しいって言ってたよ」
 
雅が言った。
48 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 09:13
「そう」
 
梨沙子は短く反応した。

確かに最近、愛理に会えてない。

イベントの会場などでは一緒にはなっても、℃-uteとは楽屋が別だし
会場でベリキュー対決のときはチームは別だし結局ほとんど話せなかった。

会えないのでメールを梨沙子から送っても愛理は返信するのを忘れていたりする。

もっともそれは今に始まったことではなく、昔から愛理はメールのやり取りなどは
あまり几帳面ではないことは梨沙子もよく分かっていた。
49 :時風 梨沙子 :2012/05/26(土) 09:14
「最近、愛理と会ってないの?」
 
雅が急に真面目な顔になって聞く。
 
「そうでもないけど。なかなか予定合わないし」
 
「そっか」
 
雅が梨沙子をまじまじと見つめてきたので梨沙子は少し恥ずかしくなって視線をずらした。
 
「梨沙子!これ元々梨沙子が送ってきた画像でしょ?」「梨沙子、うまいね。これ」
 
そのとき、千奈美の携帯の画像の話題が一気に梨沙子のところまで波及してきた。
50 :ES :2012/05/26(土) 09:15


今回の更新を終わります。
51 :名無飼育さん :2012/05/27(日) 07:45
復活おめでとうございます!
石さんみたいな実力派が帰ってくるといち住人としても嬉しいです
次回更新も楽しみにしてます
52 :名無飼育さん :2012/06/01(金) 08:43
ライバル関係が強調された世界。
面白くなりそう。期待してます。
53 :ES :2012/06/02(土) 07:44
>>51
ありがとうございます!でもワンフレーズ書くのにも四苦八苦する
私に実力があるとはとても思えませんが、、更新頑張ります!

>>52
レスありがとうございます。ライバル意識もありつつな世界を
しばらく書いていけたらと思います。
54 :時風 梨沙子 :2012/06/02(土) 07:45
桃子の事前打ち合わせが終わると梨沙子達ベリーズメンバーも会場に入った。
Berryz工房の会場入りが一番だったため誰も座っていないひな壇が何個も見えた。
今日の収録はアイドル祭りなだけに相当な人数のゲストが来るんだろうなと梨沙子は思った。
55 :時風 梨沙子 :2012/06/02(土) 07:46
いくら自分達がアイドルでもこれだけいるとグループの名前を覚えてもらうだけでも大変だ。
キャプテンとみやと茉麻が前列で、できるだけ印象に残るベリーズの紹介を懸命に考えていた。

梨沙子自身の席は最後列で、実際テレビの前で話す機会はないだろうなと何となく思った。
ただでさえ梨沙子はテレビに限らずトーク番組が苦手で、いつも話すタイミングを逃してしまうのだ。

これだけ人数が多いと話をふられることもないだろうし、
それはそれで気楽かもしれないと梨沙子は思った。
56 :時風 梨沙子 :2012/06/02(土) 07:47
ひな壇の上から舞台セットを見ながらさっきの雅との会話を思い出した。
愛理に髪形を変えることを伝えたのは本当に失敗だったと思う。

愛理は℃-uteだからベリーズのみやとはとはあまり接点がないというのは
完全に梨沙子の思い込みで、ボーノの存在が何故か梨沙子の中ですっぽりと抜け落ちていた。

心のどこかでボーノのことについてはあまり考えたくないと梨沙子は思っているのかもしれない。
57 :時風 梨沙子 :2012/06/02(土) 07:49
梨沙子はボーノをずっと応援してきたし、今でもファンの一人だ。
だけど桃、みや、愛理という構成メンバーが個別に梨沙子との距離があまりにも近かった。

距離が近いというのは単に仲がいいというだけじゃなく抱いている感情が全く別物なのだ。

桃は一番の相談相手でもあり一番の自分の味方だと思う。
みやは梨沙子が憧れ以上の気持ちを抱いている人だ。
そして愛理は親友でもありライバルでもある。

三人が三人とも梨沙子にとって特別な存在だった。
だからその3人が一同に集まるボーノに対する気持ちは複雑だった。

三人のことはとても好きだけどボーノというベリキューの混成グループがあるせいで、
みやと桃は℃-uteへのライバル意識が全然なくなっていると梨沙子は思う。
58 :時風 梨沙子 :2012/06/02(土) 07:50
℃-uteがBerryz工房の最大のライバルだとしたら、
梨沙子個人にとって一番気になる存在なのはやっぱり愛理だった。

愛理とは何と言っても℃-uteのセンターだし梨沙子もベリーズで何度もセンターで歌ったことがある。

そう考えたら愛理は梨沙子にとって宿命のライバルだ。

この前はたまたま歌唱力対決みたいな形で雅と舞美が勝負したけどいつか、
ダンスや歌で本格的に愛理と本気で勝負するようなときがくるのかもしれないと梨沙子は思った。

梨沙子の中でめらめらと闘志が湧き上がる。

梨沙子個人としてもBerryzのメンバーとしても愛理には絶対に負けたくない。
そのとき、番組の舞台セットに他のゲストが続々と入り始めた。
59 :時風 梨沙子 :2012/06/02(土) 07:52
アイドルグループが何組もゲストとして来ていた。
テレビではよく見かけるけどほとんど話したことがない人たちばかりだったから
梨沙子はだんだん緊張してきた。

ハロープロジェクトから出演するのはBerryz工房とスマイレージだけだったので、
イベントやライブとは全然雰囲気が違った。

何よりもどんなことをしても必ずリアクションを取ってくれるファンの人がここにはいない。
60 :時風 梨沙子 :2012/06/02(土) 07:56
ゲストが全員席についてリハーサルも終わり、いよいよ番組の収録が始まろうとしていた。
前列のキャプテンと雅と茉麻は、司会者からいろんな質問を受けたりするのでその打ち合わせをしている。
ライブではあれだけトークを回せる茉麻でも肩に力が入りすぎているみたいだった。
 
お笑い番組なのにどのグループも緊張感が張り詰めた状態で番組の収録は始まった。
 
「それでは各グループの紹介をしていきたいと思います」
 
司会者が番組を進める。
とにかく最初のグループの紹介だけはみんなでカメラに写るから元気よく合わせようとキャプテンが言った。
61 :時風 梨沙子 :2012/06/02(土) 07:58
「みなさん、こんにちは。ベリーズ工房でーす」
 
梨沙子もここだけはと必死に言った。
続いてキャプテンがベリーズの紹介をしようといい始めようとしたときだった。
 
「はいはーい。みなさーん。私がベリーズ工房で一番可愛いももちこと、嗣永桃子でーす」
 
いきなり桃子がカメラを抜いた。
 
「はい。あなた前に出てこないでください」
 
司会者が止めるのも桃子は振り切る。
 
「ちょっと今、キャプテンがうちらの紹介をしようとしてたところでしょ?」
 
千奈美も出てきて桃子を引き止めた。
62 :時風 梨沙子 :2012/06/02(土) 07:59
「でも、ももちのことが見たいっていうお茶の間の声を」
 
千奈美が止めるのも無視して桃子がぶりっとした声でそこまで言った瞬間、
いきなり出演者に横からとび蹴りされた。
小柄な桃子は一気にはじきとばされていった。

梨沙子も驚いたが、女の子の多い会場の空気は凍りついたようになった。
 
桃子は起き上がると全くひるまずあたしがアイドルなの分かってます?と司会者に食いついた。

ああ、その流れか。
梨沙子もようやく理解した。
もちろんベリーズのメンバーはいつものことだと誰も助けには行かない。
63 :時風 梨沙子 :2012/06/02(土) 08:00
それから桃子が余計なことから人をイライラさせることまでとにかくよくしゃべった。
出演者には他のアイドルグループもたくさんいたが、
しゃべっているのが桃だったから他のアイドルが思わずドン引きするくらい
ベリーズみんなで桃を容赦なく突っ込みまくった。

他のアイドルはみんなあっけに取られていた。
日本にはアイドルグループはたくさんあるけどここまで徹底的に仲間をこき下ろすのは
Berryz工房だけかもしれないと梨沙子は思った。
64 :時風 梨沙子 :2012/06/02(土) 08:01
桃子は、相撲対決のときにカメラの前に出て許してニャンと言ったところで、
ついに張り倒されて、白い粉がついているクッションに叩き落された。

おかげでアイドル桃子の顔面は真っ白になっていた。
さらに会場から引きずられて強制退場させられた。

ハロプロ以外のアイドルグループが何組も来ていたが、
当然そんなめちゃくちゃな扱いを受けるアイドルは一人もいない。

桃子が番組で一番笑いをとったおかげで結果的に7、8組いたアイドルグループの中でBerryz工房が一番目立った。
65 :時風 梨沙子 :2012/06/02(土) 08:02
桃子としてはいつもどおりのキャラクターを出しただけなのかもしれない。

でも他のアイドル達が必死にアピールしようとしたりいつもとは違った一面を出そうとがんばっているなか、
桃子ほど意識して笑いをとっているような人はどこのグループにもいない。

梨沙子は桃子の本当の力を思い知ったような気がした。
66 :時風 桃子 :2012/06/02(土) 08:03


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67 :時風 桃子 :2012/06/02(土) 08:04
桃子はメイク室で化粧をし直してもらっていた。
元来薄いメイクだし桃子にはこれといって外せない化粧のこだわりもない。

桃子は顔についた粉さえ全部落としてもらったら後はすっぴんでいいかとも思った。
それに早く終わらせないとそろそろ桃子を訪ねて人がいる。
 
ノックの音がして桃子の予測したとおりの人がそこに立っていた。
68 :時風 桃子 :2012/06/02(土) 08:05
「もも、大丈夫だった?」
 
梨沙子は桃の様子を伺うように言った。
いくら演出だと分かっていても梨沙子はこうやって心配して真っ先に駆けつけてくる。
桃子は咄嗟に両手で目を覆ってうつむいた。
 
「ももちずっと泣いてた。だって今までお姫様みたいな扱いしか受けたことなかったから」
 
桃子はわざと甲高い声で言った。
 
「はいはい。どや顔見えてますけど」
 
梨沙子が急に低い声になって言った。
桃子はとりあえずうつむいて目を隠したままでいた。
69 :時風 桃子 :2012/06/02(土) 08:06
「それはそうと相談があるの」
 
梨沙子は桃子の様子は気にせずに言った。
 
「みやのことでしょ」
 
桃子はそのままの体勢で言った。
 
「何で分かったの?」
 
梨沙子は本当に驚いた顔をして言った。
 
「分かるよ。それは」
 
桃子は顔を上げて梨沙子の少し驚いた表情を見て言った。
というか梨沙子の相談はほとんど雅に関することだ。
分からないほうが逆におかしい。
70 :時風 桃子 :2012/06/02(土) 08:07
「ねえ、みやって愛理にどんなことアドバイスしてるの?髪形とか」
 
「うーん」
 
それを聞かれると桃子も唸るしかない。
確かにBuono!で雅と愛理は仲良く話しているがいちいち会話の内容までは覚えてはいない。

その中に確かに髪形とかファッションの話もあったとは思う。
でも桃子が会話の中に入ると自然と話題がそれていくし、
雅はきっと桃子をその話題から一番かけ離れた存在だと思っている。
71 :時風 桃子 :2012/06/02(土) 08:08
「ごめん。覚えてない・・・」
 
さすがの桃子も断念して言った。
 
「そっか」
 
梨沙子はため息をつくように言った。
愛理に聞いたらとはあえて桃子は言わなかった。
梨沙子が愛理に聞けるなら最初から聞いているだろうと桃子は思った。

きっと梨沙子にも愛理に対するライバル意識とか対抗心も生まれてきているんだろうし、
こと雅に関してのことならなおさらかもしれない。
72 :時風 桃子 :2012/06/02(土) 08:09
ただ、最近の梨沙子は以前よりももっと雅一辺倒になってきているのが桃子は心配だった。
近頃の梨沙子を見ていると雅の放つ力に引きずられて、
自分の見せ方とか歌い方が何だか不安定になってきているのだ。

でもそれは仕方のないことかもしれない。

ずっと梨沙子に一番近い存在だった雅が今スターとしての魅力を思う存分に伸ばしてBerryz工房の中心にいる。
梨沙子が雅に何も影響されないはずはなかった。
73 :時風 桃子 :2012/06/02(土) 08:10
個性がばらばらなことが一番の特徴のBerryz工房で今の梨沙子がメンバーの中で一番窮屈そうにしている。
梨沙子の姿を見ていると何とか梨沙子の力になりたいと桃子はずっと思っている。
それでも同じグループにいながら何も出来ることが思い浮かばない。
そんな自分に桃子は歯がゆさを感じた。
74 :ES :2012/06/02(土) 08:11


今回の更新を終わります。
75 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:01
空は低く覆いかぶさるように鉛色に曇り、そのせいで窓から流れる車や道路がみんな灰色に同じに見えた。
車の中には梨沙子とマネージャーさんしかいない。
梨沙子は流れる光景をずっとほおづえをついて見ていた。
これからする仕事は℃-uteとモーニング娘。のメンバーとのロケだった。
76 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:04
久しぶりのベリーズメンバーとは一緒じゃない仕事だ。
以前の梨沙子だったらメンバーと一緒じゃないと不安からか
変に緊張して苦手だったが、今ではそんなことはなくなった。

かえって冷静に落ち着いて自分のことを振り返れることができるように思う。

近頃の自分は雅のことで無駄にヒートアップして周りが全然見えていない。
その一番の被害者は間違いなく桃子だ。
桃子は口に出しては何も言わないけど、みやについての無理な相談を繰り返す梨沙子に
相当困ってる違いない。

それでも梨沙子にしてみれば、歌やダンスのことだったら他のメンバーでも相談するけど、
こういう個人的なこと、しかも雅に関することを相談できるのは桃子以外にはいない。

桃子はどんなことでも梨沙子を突き放すことは絶対言わない。
だからいつからか桃に頼りすぎるようになってしまったと梨沙子は反省した。
77 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:05
梨沙子はふと昔のことを思い返した。
以前は、雅に関することでも愛理によく話していたなと思う。
最近の梨沙子は愛理には雅のことを相談しなくなった。

でも愛理と喧嘩したわけでも愛理のことが嫌いになったわけでもない。
そもそも愛理には梨沙子が嫌いになるような要素は何一つもなかった。
きっと今、目の前に愛理が現れたら何のわだかまりもなく仲良くはしゃぐと思う。

でも、たった一つ昔と決定的に変わったのはもう二人とも子供じゃなくなったということだった。
78 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:07
梨沙子にとって愛理はいつもひょうきんで、目を合わせるごとに変顔をしたり
ダジャレを言ったりいつも一緒にふざけあっていた。

今の愛理も基本は同じだけど、時々はっとするくらいきれいだなと思うことがある。
そして昔と同じように愛理にふざけて話しかけるのを躊躇してしまうような時があった。

梨沙子は愛理に対して単に対抗心をもっているというよりは愛理にどう接したらいいのかわからないという気持ちもある。
そして昔に比べて大人っぽくなった愛理の姿を見ていると自分も変わらなきゃいけないと何か焦りを感じてしまうのだ。

愛理がどんどん成長して雅や他のメンバーと交流を深めて先に走っていく中で自分ばかりが昔のままのような気がしていた。
79 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:08
バスは大きくハンドルをきって緑に囲まれた広大な駐車場に入った。

今日はハロー!チャンネルという雑誌の企画で横浜にある公園のコンビニで、
一日店員を体験することになっていた。

人見知りする梨沙子はその企画の中身より、一緒にやるメンバーのことのほうが気になった。
今日は梨沙子のほかにあと二人来ることになっている。
一人は℃-uteの萩原舞、もう一人はモーニング娘。の道重さゆみだった。
80 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:13
舞はハロプロキッズのときから同期で仲はいいけど、
一対一で長い時間話したことはほとんどない。
道重さゆみはモーニング娘。の6期メンバーで、
Berryz工房より1年早く2003年にデビューした。

ただ活動歴としては2002年からキッズとして活動している梨沙子達の方が長く、
少し微妙な関係だった。

モーニング娘。はグループ自体がBerryz工房の先輩にあたるし伝統もある。
さゆみからは先輩じゃないからさゆって呼んでと言われたけど、
ベリーズメンバー誰一人そんな呼び方はしない。
梨沙子は、さゆみのことは年も上だし完全に先輩だと思っていた。
81 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:15
梨沙子は愛理を例外にして ベリーズ以外でそこまで仲がよいメンバーはいなかった。
というよりベリーズメンバーとの絆があまりにも深くて、
ハローの他のメンバーとは仲良くはなれてもそのレベルまで追いつけるような人がいなかったのだ。

だから梨沙子はベリーズ以外のメンバーとはどうしても距離を感じてしまい、
いつも慣れるまでは緊張してしまう。

特に今回は道重さんは年齢も上だし先輩だから気を使わないといけないと思う。
そしてモーニング娘。は何といってもハローの看板グループでもあり、
リーダーの道重さゆみはその中でも一番有名なエース的な存在だった。
82 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:16
バスを降りると二人が横に並んで立っていてこっちに手を振っている。
梨沙子が急いで二人のところに駆け寄る。
舞はベリキュー対決で見慣れていたが久しぶりに見る道重さゆみは、
あまりにきれいすぎてまるで人形みたいだなと梨沙子は思った。
でも二人は気持ち悪いくらいにたにたした顔をして梨沙子を迎えた。
 
「やっぱ本物半端なく可愛いね」
 
さゆみが笑いながら舞を向いて言う。
 
「ですよね。ほんっとに私も可愛いと思います」
 
舞が言った。
 
梨沙子は二人が何を言っているのか分からなくて舞の顔を見た。
83 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:18
「いや、道重さんが梨沙子のことむちゃくちゃ好きで、
 今日も一緒に来る途中、本物に会えるってずっと騒いでて」
 
舞が笑顔で説明する。
二人は同じバスで現場に入ったみたいだ。
 
「梨沙子ちゃんて本当に見れば見るほど可愛い」
 
さゆみが目を細めて梨沙子に言う。
 
「そんなことないですよ」
 
梨沙子は自分のことを褒めてくれていると分かって慌てて否定した。

道重さんはBerryz工房のことをすごく好きで、
なかでも梨沙子を一番押してくれているという話はよく聞いてはいた。

ただ道重さんはバラエティ番組の毒舌キャラのイメージが強くて、
本当にそう思ってくれているのかずっと疑問だった。
84 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:24
「本当ハローの中ではね。梨沙子ちゃんが一番好き。
 今日も朝、梨沙子ちゃんに会えると思ってさゆみ、
 めちゃくちゃテンション上がっちゃって」
 
さゆみは、カメラも回っていないのに声を裏返して話し続けた。
 
「さゆみね、梨沙子ちゃんの小学校時代の画像を携帯の待ちうけにしてたことがあったの。
 まあ今は二十歳を過ぎた女が小学生の女の子の画像待ち受けにしてるのもどうかと思って、
 変えてるんだけど」
 
さゆみは携帯からさっと梨沙子の画像を取り出して見せた。
梨沙子は携帯の画面に自分の写真をが間違いなくそこにあるのを見てまず驚いた。

まだ顔も本当に幼くて本当に小学生のときの自分の写真だった。

そしてさゆみの写真のフォルダの中には梨沙子の画像が、
ものすごい数並んでいるのを見て思わず息を飲んだ。

自分の写真なのに何か見てはいけないものを見てしまったような気がした。
85 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:26
「検索でね。菅谷梨沙子って打ち込んで画像を探すの。
 で気に入った画像があったら落としてくるの。たまにやってる」
 
さゆみが携帯の画面をスクロールさせながら言った。
 
「まじですか?」
 
さゆみの行動は梨沙子の想像以上だった。
さゆみが梨沙子が一番を好きだっていってくれてるのはキャラとかじゃなくて、
全部本当なんだとはっきり分かった。

でも道重さゆみは人気も実力もあってハロープロジェクト全体を引っ張っている人だ。

そんな人が、自分の写真を集めたり自分に会うというだけで朝からテンションが上がるなんて梨沙子には信じられない。
86 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:29
梨沙子はみやに憧れてる。だけどみやの画像を携帯の待ちうけにするなんて、恥ずかしくて絶対にできない。
道重さんはテレビでは毒舌キャラだったり腹黒い人と言われていたけど、案外正直なひとなのかもしれないと思った。
 
梨沙子が道重さんのほうが可愛いですと言うとさゆみはすごく照れて笑った。
裏表のない笑顔を見てさゆみは思っていたよりもずっと話しやすい人だと思った。
87 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:30
三人はコンビニの青いユニフォームに着替えると、一番似合っていたのは舞だった。
 
「本当にバイトの女子高生とかでいそう」
 
「私、舞ちゃん目当てで通うかも」
 
道重さんがにこにこして言って三人は一気に打ち解けていった。

午前中は掃除から商品を並べたりから揚げを作ったり盛りだくさんだった。
元々こういう仕事は梨沙子は得意ではない。
でも三人でやるので梨沙子も何とかこなした。
さすがに一番年上のさゆみがみんなをしきっていろんな仕事をこなしてくれた。
88 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:32
そうこうしている間にお昼の休憩になった。
その頃には梨沙子もすっかり溶け込んで三人での仕事を楽しみながらできるようになっていた。
そして三人はコンビニの休憩室でお弁当を食べることになった。
 
お弁当を食べながら一息つくと話はだんだん歌とかお芝居などの仕事の話になる。
三人ともグループが違うのでお互いどんな感じなのか興味津々だった。
 
「梨沙子ちゃんはベリーズで最年少でしょ。それでほとんどの歌でメイン歌ってるっててすごいよね」
 
さゆみが感心したように言う。
 
「うん。ほんとすごい。舞も梨沙子はすごいと思う」
 
舞も強く同調して言った。
89 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:37
「そんなことないですよ。メンバーにはいつも助けてもらってるんで。
 それより道重さんのほうがテレビとかたくさん出ててすごいんじゃないですか」
 
梨沙子はバラエティ番組で活躍しているさゆみのことを思い出して言った。
 
「テレビは出てるかもしれないけど・・・ね、聞いてくれる?
 私、正直ね。歌割が少ないの」
 
さゆみが深刻そうに言った。
歌割りはグループで一つの歌を歌う時の歌詞の割り当てで、歌割りが少ないとは
自分がメインで歌える場所が少ないということだ。
 「え?そうなんですか?」
 舞が驚いた様子で言った。梨沙子も道重さんはモーニングではあくまでメインの人だと思っていたから意外だった。
90 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:39
「とにかくつんくさんがね。あたしに歌割くれないの 。
 まあ私の歌が下手なのか、まあぶっちゃけ下手だけど」
 
今度は妙にさばさばした感じでさゆみが言う。
 
「ま、私がたくさん歌うことがモーニング娘。全体にとってよくないという大人の判断なんだけどね」
 
さゆみがあまりにはっきり言うから梨沙子は笑ってしまった。
 
「でも道重さん、歌割少ないとはいえあるんですよね?」
 
今度は逆に舞が颯爽と話し始めた。
 
「だって歌割りはあるでしょ?普通に」
 
「いやないですよ。普通に」
 
舞が毅然とそう言って梨沙子とさゆみはびっくりした。
91 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:40
 「道重さん、歌割あるだけいいですって。舞なんてステージのはじで踊ってるだけですから」
 
舞があまりにもはっきり言うからさゆみと梨沙子は思わず噴出した。
 
「うそでしょ。舞ちゃんこれだけ可愛いから人気もあるし、メインで歌ったりするんじゃないの?」
 
さゆみが言った。
 
「だからそれは違うんですって。℃-uteもちゃんと大人の事情ってもんがあるんです」
 
舞がいかにも自信ありげに言った。
92 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:41
「まずとにかく℃-uteで圧倒的に人気があるのは断然に愛理です。
 ライブでも愛理のパフォーマンスのときのファンの人の声の量が全然違うんですよ。
 舞のときと」
 
舞の言い方が悔しいというよりも、自分をわざわざ落として言っているみたいでおもしろかった。
道重さんも楽しそうにくすくす笑っていた。
 
「確かに愛理ちゃん、めちゃくちゃ可愛いもんね。人気あるのは分かる。
 でも、モーニングでもすごいれいなとかは人気があったりするけど。
 あんまり意識はしなくない?
 それに舞ちゃんのファンもいるでしょ?」
93 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:43
「舞のファンの人もいますけどそれがちゃんと数字で出るんですよ。
 ブログで舞がどれだけおもしろいこと考えて書いてもコメント数は
 絶対300はいかないんですよ。
 でも愛理は、全然おもしろくないダジャレを連発したとしても500はいきます。
 え、そのダジャレでこのコメント数?とか正直思いますもん」
 
「すごいね。そういうところまでちゃんと見てるんだ」
 
道重さんはそう言いつつ舞の自虐トークが相当ツボにはまったようで笑い続けていた。
梨沙子も舞がこんなにおもしろいとは思わなかったので、
舞の新しい一面を発見できたと思った。

ただ愛理の人気がすごいということを改めて聞かされたようで少し焦りも感じた。
いくら人気をとられてると言っても舞にとって愛理は同じグループの仲間だ。

だけど梨沙子にとっては℃-uteはライバルグループで愛理はそのセンターにいるのだ。
94 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:45
「愛理ちゃんて、歌めちゃくちゃうまいし、迫力あるけどしゃべると話すとほんわかしてて天然でさあ。
 ギャップがあるのが可愛いよね」
 
さゆみが梨沙子を見て言った。
 
「そうなんですよ。だからうちは天然が多くて本当に困るんです」
 
舞が言った。
 
「あ、そっか。リーダーの矢島ちゃんも結構天然だもんね」
 
「でうちは、愛理と舞美ちゃんが天然で、なっきぃはヘタレだし、千聖はバカじゃないですか。
 だから舞がしっかりしないといけないんです」
 
「そうだね。℃-uteそう考えるとやばいね。だけど楽しそう。℃-ute最近きてるね」
 
道重さんは他のグループの話でも本当に興味津々でハロープロジェクトが本当に好きなんだなと梨沙子は思う。
95 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:48
「梨沙子ちゃんは愛理ちゃんとずっと仲良しだよね?」
 
さゆみが当然のことのように聞いてきた。
 
「はい。キッズのときからの仲なんで」
 
梨沙子は答えた。
 
「でも愛理ちゃんて天然だけど頭もいいでしょ。スマイレージにいた前田憂佳ちゃんとちょっとイメージ似てるよね」
 
「あ、そう言われればそうかもですね」
 
梨沙子は咄嗟に答えたが、考えてみれば梨沙子は憂佳とは直接話したことはあまりなかった。
96 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:50
ただ梨沙子の中では憂佳と愛理のイメージはだいぶ違う。

確かにファンから見れば天然でダジャレ好きで、でも他のメンバーにはちゃんと気を使ったりする部分は似ている。
でも中身が根本的に違うと思う。
ただ何が違うのかと言われるとそれを言葉で表現することはできなかった。
 


コンビニでの1日体験も無事終了し、現地解散となった。
舞とさゆみは東京方面なので、そのまま会社のバスに乗って帰っていった。
 朝、どんよりと曇っていた空はすっかり晴れ渡り、すがすがしい秋の気配がそこらじゅうに立ち込めていた。
97 :時風 梨沙子 :2012/06/09(土) 22:52
梨沙子は舞とさゆみと仲良くなることができて、充実した一日を過ごすことができたと思う。
今日一緒にいて舞とさゆみのイメージはかなり変わった。
特に自虐ネタの舞の話は今思い出しても笑えた。

ただ舞は自虐するほど愛理のことを本当にすごいと思っているんだなと改めて思った。
愛理とは最近連絡をとりあえていないのに、何故か愛理の存在がどんどん大きくなっている。

まるで梨沙子の行く手を邪魔するみたいに、鈴木愛理と言うライバルの存在が大きく立ちふさがっているように思えた。
98 :ES :2012/06/09(土) 22:53



今回の更新を終わります。
かなり読みにくい部分もあり、すいません。。
99 :時風 梨沙子 :2012/06/16(土) 15:30
「すっごい可愛いと思うよ。梨沙子に会うのがどきどきしてすごい楽しみだった!」
 
雅が梨沙子の顔をまじまじと見つめて言った。
 
「愛理から梨沙子が髪の色変えたって聞いてたから」
 
そして次に雅から聞いたのはこの言葉だった。

梨沙子の頭の中で、「愛理」という単語が反芻される。

雅に褒められて単純に嬉しい気持ちもあった。
でも愛理の名前が出てきたのが、どうしてもひっかかって素直に喜べない。

というのも梨沙子が髪の色を変えてから雅に会う前に、愛理とは一度も会っていないのだ。
100 :時風 梨沙子 :2012/06/16(土) 15:32
「えー?愛理とは会ってないんだけど」
「スタジオかどっかで見かけたんじゃないの?」
 
雅は全くそんなことは気にしないみたいに言った。
 
移動中のバスではベリーズメンバーはセクシーとか可愛いとか、
ひとしきり梨沙子の髪の色の話題で盛り上がった。
梨沙子はあんまり人から褒められることが得意ではない。
だから照れてしまって、胸が浮いたような落ち着かない気分でいっぱいだった。

だから梨沙子はさっきから下を向いてずっと携帯をいじっている。
ただベリーズのメンバーに言われることは他の人とは違う温かさがあった。
101 :時風 梨沙子 :2012/06/16(土) 15:33
そのうちマネージャーさんが立ち上がって、今日のイベントについて説明をし始めた。
今日はファンクラブイベントで、トークショーや握手会を予定していた。
トークショーではベリキューの対決企画について話す予定になっていた。
 
「みんな℃-uteメンバーのこと話さないとねー。℃-uteとの合同イベントの宣伝もあるし」
 
キャプテンが言った。
 
「じゃあお題も℃-uteについてだろうね。一緒にユニット組むんだったら誰とか」
 
「えー、誰だろ」
102 :時風 梨沙子 :2012/06/16(土) 15:35
みんなが話している間、梨沙子は愛理に最後にメールを送ったのはいつだったか
i-phoneの過去の履歴をずっとめくっている。

でもそんな内容のメールはどこにもなかった。

だったらどこで愛理は梨沙子が髪の色を変えたことを知ったんだろう。

確か桃子には美容院に行く予定を伝えていた。
でも桃子はそんな余計なことを愛理に話す人ではない。
梨沙子はふと斜め後ろに座っている桃子を見た。
桃子と目が合って不思議そうに梨沙子を見返してくる。

まるで何かあった?とでも言いたそうな表情だ。

梨沙子は再び前を向いた。
隣の雅は、前の席の千奈美としりとりみたいなことを始めた。

梨沙子はまたi-phoneで愛理から最後に来たメールを開いて愛理へ返信を押す。
押したものの何とうったらいいか分からない。

どこかで自分を見かけたかと聞くのもおかしいし、
何でみやよりも先に愛理が知ってるの?と聞くのも何か変だ。

そうこうしている間にバスがイベント会場に到着してしまった。
103 :時風 梨沙子 :2012/06/16(土) 15:37
「梨沙子、どうかした?」
 
バスを降りて会場に向かっている途中で桃子が話しかけてきた。
 
「ううん。なんでもない」
 
梨沙子が答えると桃子はそうとだけ言って、それ以上何も聞かずに梨沙子の横を歩いた。
何を相談したわけでもないのに桃子がそばにいると何故か安心した気持ちになる。

桃子は人が言いたくなさそうなことを深く聞いてくることはない。
優しいくせにそういうところだけクールだった。
104 :時風 梨沙子 :2012/06/16(土) 15:40
イベントが始まって茉麻が勢いよくファンに向けて今日きてくれたお礼の挨拶を言った。
続いて他のメンバーに話をふろうとした瞬間後ろから
「はい、ちょっと待ってください」
と会場マイクから別の声がした。

台本にはそんなことは書かれてなかったから梨沙子もみんなも一瞬驚いた。
 
「今日はBerryz工房のメンバーとファンの皆さんへお知らせがあります」
 
つんくさんの声だった。

舞台の真ん中に白い幕がするすると降りてきた。

「皆様、今日のイベントにご来場くださいましてありがとうございます。
 今日はベリーズのメンバーとファンの皆様へお知らせがあります」
 
つんくさんの姿がスクリーンに映し出された。
会場からため息のような不安な声が聞こえてくるようだった。

ベリーズメンバーは全員、凍りついたように同じ表情でスクリーンを見つめた。
105 :時風 梨沙子 :2012/06/16(土) 15:41
「次回のBerryz工房と℃-uteの対決イベントでは、
 結果によってはメンバーに驚愕の出来事が起こります。
 何が起こるかは次回のイベントを楽しみにしてください。
 以上つんくからでした」
 
そこで映像はすぐに消えた。
会場には動揺した声が広がっている。
 
「驚愕の出来事ってなんだろ。怖いよね」
 
茉麻が会場のファンとメンバーと両方見ながら言った。
 
「えー。何だろ」
 
雅が想像もつかないという感じで言った。
 
「まさか負けた方は解散してくださいとか?」
 
千奈美が平然と言ってのけて会場からはえーという声が上がった。
106 :時風 梨沙子 :2012/06/16(土) 15:43
「それはないでしょ」
 
「ないない。それは」
 
「じゃあ名前だけなくなるとか」
 
千奈美がまた思いついたように言った。
 
「どゆこと?」
 
「だからもし、ベリーズがまけたら
 名前がBerryz工房じゃなくなって℃-uteになるとか」
 
「いや、それもありえないでしょ?」
 
雅がすかさず突っ込む。
 
「ねえ、私達も℃-uteになったら℃-uteも℃-uteだからややこしくない?」
 
茉麻が続けて言った。
107 :時風 梨沙子 :2012/06/16(土) 15:49
「そうだよ。どっちか分かんなくなるじゃん」
 
佐紀もそう言って千奈美のせいで台本にない話はどんどん脱線していった。
 
「じゃあつんくさんのメッセージでだいぶ予定が狂いましたけど、
 最初はこの曲を聞いてください」
 
茉麻が気を取り直すように言って梨沙子達もいつものとおりに気合を入れなおした。
曲が終わると全員いったん楽屋に戻った。
108 :時風 梨沙子 :2012/06/16(土) 15:51
楽屋に戻ってもやっぱり気になるのはつんくさんが言っていた驚愕の出来事だ。
みんなでとにかく怖いよねと言い合う。
梨沙子も正直自分がBerryzから離れさせられることになったら、もうそれは想像するだけでいやだった。
 
「とにかくうちらは℃-uteに勝てばいいんだよ」
 
雅がさらりと言う。

普段キャプテンの佐紀だったり茉麻だったり桃子だったり、
頼りになるメンバーはたくさんいる。

けどことさら勝負事に対する雅は一番ついていきたくなる人だと梨沙子は思う。
梨沙子はとにかくこのメンバーさえ変わらなければどんなことになってもいい。
だけど℃-uteとの勝負には絶対負けられないなと思った。
109 :時風 梨沙子 :2012/06/16(土) 15:53
その後、℃-uteに関するトークが仕切り直しで始まった。

〜℃-uteメンバーで恋人にするなら誰ですか?〜
 
「はい!私あります!」
 
みんなが考えている中、いきなり勢いよく手をあげたのは友理奈だった。
 
「私は愛理ですね。最近愛理と仲良くなったんですけど」
 
友理奈が話し始めた。
 
「私と同じで抹茶が好きだし。後共通点も結構多いんですよ」
 
「へえ。どんな共通点?」
 
「私と血液型が同じB型だし・・・同じなんです」
 
「え。だってそれだけでしょ?」
 
雅がすかさず突っ込んだ。
 
場内がどよめく。
来るとは思ってたけど梨沙子の周囲では本当に愛理の話題が多いなと思う。
110 :時風 梨沙子 :2012/06/16(土) 15:55
「えーと。でも血液型B型って珍しくないですか?」
 
「そうだね。ベリーズだと熊井ちゃんがB型でしょ。梨沙子がA型でそれ以外は全員O型だしね」
 
佐紀がキャプテンらしく言った。
 
「それにベリキューだとB型って愛理と私しかいないんですよ」
 
「それは確かにすごい共通点かもね」
 
「じゃあ熊井ちゃんは愛理ってことで」
 
「千奈美は?」
 
茉麻が千奈美に話をふった。
 
「千奈美は舞美と一番仲がいいでしょ?」
 
佐紀が言った。
111 :時風 梨沙子 :2012/06/16(土) 15:56
「うーん。仲はいいけど。恋人にしたいっていう感じじゃないんだよね。
 ホントに仲のよい友達っていうか。親友っていうか。
 よく一緒に水族館とか遊びに行ってます」
 
「へえ。二人で遊びに行ってるの?」
 
「はい。二人で行ってます!」
 
千奈美が元気よく答えた。
 
「仲良くないとなかなか二人じゃ遊びにいかないもんね」
 
茉麻が答えたとき、桃子が「はい」と手を上げた。
 
「実は私も舞美と二人で遊びに行ったことがあるんですよ」
 
そう言って桃子はファンにアピールするようにわざわざ会場の前すれすれのところまで歩いていった。
112 :時風 梨沙子 :2012/06/16(土) 15:57
「ただ、舞美は桃と一緒に行ったことをこの前聞いたら忘れてたんです」
 
桃子は両手を人差し指同士で合わせてぶりっ子の格好をして言った。
会場に笑いが起きる。
 
「舞美ははっきり言って記憶力悪いからね」
 
千奈美がはっきりと言ってさらに笑いが起こる。
 
「でも、この前聞いたら何故かあいりんと一緒に行ったことは全部覚えてるんですよ」
 
「あーそれは分かるわー」
 
千奈美が言った。
113 :時風 梨沙子 :2012/06/16(土) 15:59
「だから舞美は、愛理との記憶は残して桃との記憶は消してしまいたいんだよ。
 分かる?」
 
雅が言い終わらないうちに桃が話し始めた。
 
「やっぱ桃といることが楽しすぎて忘れちゃったのかなあって思うんです」
 
会場中がえーという声が鳴り響いた。
 
また、愛理。梨沙子は桃子まで愛理の話題を出したことにショックを受けた。
桃子はそこまで意識して愛理の話題を出したわけじゃないことは、梨沙子にも分かっていた。
けど最近の℃-uteの話題はファンにしてもメンバーにしても、とにかく愛理だと梨沙子は思う。

愛理に自分の何かをとられてしまうようなそんな焦りの気持ちが、
再び梨沙子の中で大きくなっていく。
114 :時風 梨沙子 :2012/06/16(土) 16:01
今の自分達はベリーズと℃-uteの壁がどんどんなくなってしまって、
ベリキュー混在で活動することも多い。
昔のキッズ時代のようにベリキューで一つのグループのようになってしまっている。

今までは愛理とはグループも違うし自分の立場をとられるなんて考えたこともなかったけど、
このままほっておくと現実にそうなる気がする。

梨沙子は何か暗示にかけられたようにまるで愛理に包囲されているようにも感じていた。
梨沙子は何とかしてその包囲網を破りたいと思う。
そのためには歌でもダンスでもいいとにかく何かで愛理と勝負したい。

愛理に勝ちたい。

そうしたら雅も、もう少し愛理じゃなく自分の方を向いてくれるかもしれない。
115 :時風 梨沙子 :2012/06/16(土) 16:03
ただ梨沙子が一番不安なのは愛理と自分が対立したところで、
雅や桃子は本当に自分の味方になって応援してくれるのかということだ。
 
梨沙子にとって唯一の支えは、雅も桃子も自分もBerryz工房のメンバーで
愛理は違うということだった。

だからこそきちんとBerryz工房の菅谷梨沙子として、℃-uteの鈴木愛理には勝っておきたい。

とにかく愛理に負けたくなかった。

116 :ES :2012/06/16(土) 16:04




今回の更新を終わります。

117 :時風 梨沙子 :2012/06/23(土) 14:23
梨沙子と雅と友理奈の三人は自販機の飲み物を買うため、テレビ局の廊下を歩いていた。
 
「ベリキュー対決、何が起こるんだろうね。
 重大なことが起こるって聞かされると結構不安じゃない?」
 
歩きながら雅が言った。
明日はいよいよベリキュー対決の日だった。
 
「ちょっと怖いよね。今回は鬼ごっこみたいなゲームだけって聞いてるけど」
 
友理奈が珍しく誰も知らないようなことを言った。
 
「熊井ちゃん、それ誰から聞いた?」
 
雅が言った。
 
「愛理から」
 
「えー、うちら何も聞いてないのに」
 
梨沙子と雅がうなずく。
118 :時風 梨沙子 :2012/06/23(土) 14:25
愛理はそんな情報どこからとってくるんだろうと梨沙子は不思議になる。
もしかしたら愛理はつんくさんが言った「重大なこと」の中身まで知っているのかもしれない。
でも梨沙子はここで愛理の話題は出したくなかった。
自分があえて話さなくても、誰かがきっと愛理のことを話すのだ。
 
「これ一番オススメ。愛理とこの抹茶ラテが美味しいって言い合ってたの」
 
自販機の前にたどり着いて友理奈が指差して言った。
119 :時風 梨沙子 :2012/06/23(土) 14:26
「へえー。じゃうちも飲んでみよ」
 
雅が最初にボタンを押した。
梨沙子はその熊井ちゃんのオススメのものにするか、
それともあえて別のものにするか迷った。
その間に友理奈もカップの抹茶ラテを注ぎ終わる。
 
「熊井さんと夏焼さん、撮影お願いします。菅谷さんはもう少し後です」
 
その時、ちょうど撮影のスタッフさんが梨沙子たちに言った。
3人はBerryz工房のジャケット撮影の休憩時間だった。
 
「あ、じゃあうちら先戻るね」
 
二人はそう言ってまだ迷っている梨沙子を残して戻っていった。
120 :時風 梨沙子 :2012/06/23(土) 14:28
一人になると急に寂しくなる。
このごろはいつもそうだ。
ベリーズのメンバーと一緒のときが一番楽しい。
 
「仕方がない・・か」
 
梨沙子は自分に言い聞かせるようにそう独り言を言って
今度はしっかり抹茶ラテを選んでカップに注ぎ始めた。

その時、梨沙子の後ろからすうっと風が流れてくるのを感じた。

誰かが来たと咄嗟に梨沙子は思った。

きっとベリーズのメンバーではない。
梨沙子には確かに前にも同じ「風」を経験した記憶があった。
121 :時風 梨沙子 :2012/06/23(土) 14:29
 「りーちゃん」
 
ひどく聞きなれた声がした。
 
振り返ると、愛理が八重歯をちらつかせた柔らかい、
いつもの笑顔で梨沙子の前に立っていた。

しばらくぶりに見る愛理は少し大人びて、愛くるしさの中にも落ち着いた美しさがあった。
 
しかも愛理の周りには時間がゆっくり流れるようなほんわかとした、癒しのような空気が漂っている。
梨沙子は改めて愛理を見て愛理がファンにもベリキューのメンバーの中でも、
大人気なのも分かる気がした。

そしてその魅力は急に増している気配すらある。
122 :時風 梨沙子 :2012/06/23(土) 14:31
「りーちゃん、何か久しぶりだね。髪も明るくなって可愛くなっちゃって」
 
愛理は梨沙子の顔すれすれまで近づいて、まじまじと梨沙子を見て言った。
あまりに距離が近くてどぎまぎした。
愛理は自分に遠慮なんてしない。
そんな当たり前のことは最初から分かってはいたけど、
のっけから梨沙子のライバル意識はかき乱される。
 
「愛理、メール返さなかったでしょ?」
 
とりあえず、梨沙子は愛理に唯一の貸しを抗議した。
ここ最近で愛理に言いたいことは山のようにあったはずなのに、
何一つ出てこない。
123 :時風 梨沙子 :2012/06/23(土) 14:32
「あ、ごめん。今度は絶対返すね」
 
愛理は梨沙子の腕をそっとつかんで謝った。
 
「あ、その抹茶ラテおいしいんだよ。あたしももらおっと」
 
愛理は梨沙子が持っているカップを見て言った。
 
「熊井ちゃんから聞いたよ」
 
「熊井ちゃんも好きだからねー」
 
そして愛理も同じ抹茶ラテのスイッチを押した。
愛理は機嫌よさそうにカップに飲み物が注がれていくのを待っている。
124 :時風 梨沙子 :2012/06/23(土) 14:34
梨沙子は心の中ではライバル意識は燃えたぎってるくせに、
なぜか面と向かうと愛理には強く出れない。

梨沙子は愛理の顔を見ていると今さら髪形について愛理がどこで知ったのか、
追求するのもやめようと思った。
 
「今、Buono!の楽屋。みやともも、二人ともベリーズで撮影中だからいないんだ。
 りーちゃん遊びに来てよ」
 
「でもあたしも、撮影入るかもしれないから」
 
「さっき、スタッフさん、りーちゃんはもう少し後だって言ってたじゃん」
 
どこで聞いていたのか愛理はにっと笑って言った。

愛理と話すとその独特なペースにどうしても巻き込まれてしまう。
それに愛理は人には結構気を使って話すくせに、
自分にはずいぶんとずけずけ言うなあと梨沙子は思う。
125 :時風 梨沙子 :2012/06/23(土) 14:36
梨沙子は愛理とBuono!の楽屋に入った。
3人の楽屋だけあってベリーズの楽屋に比べるとだいぶ狭い部屋だった。
ただ室内は閑散としていて、横に化粧台がある他には中央にテーブルがあるだけだった。
窓は白いビル郡が太陽の光を反射させているのが見える。
 

テーブルの上には愛理のカバンと差し入れのお菓子が少しだけ残っていた。
愛理は勉強していたらしく、大学ノートが開きっぱなしになっている。
梨沙子は何気なく愛理のノートを覗き込んでびっくりした。
 
「うわ、これどこの国の言葉?全然読めないんだけど」
 
「普通に英語だよ」
 
愛理が笑いながら言う。
確かによく見てみれば英語だった。

ただノートにはシャーペンで書かれた英文と赤の添削文字がびっしりと並んでいた。
126 :時風 梨沙子 :2012/06/23(土) 14:37
「やっぱ愛理頭いいんだね」
 
感心したように梨沙子は言う。
 
「そんなことないけど。勉強しないとテストもあるし」
 
「そっか」
 
梨沙子は勉強には全く自信がなかったので、
愛理がちゃんと活動と勉強を両立させている姿を見ると気後れした気持ちになる。
 
「ま、りーちゃん座ってよ」
 
愛理がテーブルの椅子に梨沙子を促した。
127 :時風 梨沙子 :2012/06/23(土) 14:39
二人はテーブルの席に仲良く隣がけで座った。
昔からライブのときなど楽屋が一緒のときは、必ず梨沙子と愛理は隣同士で座った。

梨沙子がこんなに愛理に対抗意識を燃やしているのに、
愛理とはこのままの関係で続いていくのか梨沙子は考えた。

愛理と自分はライバルとしての比重が大きくなって、親友としての関係は徐々に薄くなっていくのかもしれない。

それは悲しいことかもしれないけど仕方ないような気もする。
128 :時風 梨沙子 :2012/06/23(土) 14:40
「そうそう。りーちゃんにお願いがあるの」
 
愛理が梨沙子の前で両手を合わせて言った。
 
「何?」
 
「明日ベリキュー対決あるじゃん。あれ、どうやら鬼ごっこだけみたいなの」
 
「ああ、それ熊井ちゃんから聞いた。やっぱそうだったんだ」
 
梨沙子は熊井ちゃんから同じようなことを聞いたことを思い出した。
確か熊井ちゃんも愛理から聞いたと言っていた。
129 :時風 梨沙子 :2012/06/23(土) 14:42
「うん。そうらしいんだけど。私、人を追いかけたりするのってあまり得意じゃないから。
 とにかくりーちゃん追いかけてもいい?
 その代わりりーちゃんが鬼のときは私追いかけていいよ」
 
愛理は言った。
 
「それって私と勝負ってこと?」
 
「まあそうだね」
 
梨沙子のずいぶんと飛躍したような質問に愛理は意外とあっさり答えた。

本当のことは言えば愛理とは歌とかダンスとかで勝負したい。

梨沙子の中でそんな気持ちがよぎったが、イベントの内容がそれなら仕方がないかもしれない。
130 :時風 梨沙子 :2012/06/23(土) 14:43
「じゃあいいよ。その代わり・・・」
 
梨沙子は少し考える。
とにかく梨沙子は愛理と何かで勝負がしたい。
梨沙子は本気でやるなら愛理も本気でやってほしい。
 
「その代わり?」
 
「ちゃんとあたしと勝負してよ」
 
「いいよ。分かった」
 
愛理は、またにっと笑った。 
 
「にしても明日、楽しみだねー」
 
愛理は急にうきうきしたように立ち上がった。
梨沙子は愛理は追いかけっこは嫌いと言ったくせに、何がそんなにうれしそうなのか理解できなかった。
もっとも愛理の行動が理解不能なのは今までの長い付き合いで何度かはあった。
131 :時風 梨沙子 :2012/06/23(土) 14:45
「あ、そろそろ撮影の時間来るんじゃない。
 りーちゃん、戻ったほうがいいよ」
 
愛理がそう言って梨沙子は撮影のことを思い出した。
そろそろみやと熊井ちゃんの撮影が終わる頃だった。
梨沙子は、廊下を戻りながら明日のベリキュー対決の結果で
重大なことが起こるという話を思い出した。

完全に梨沙子の勘だが、もしかしたら愛理は何か知っているのかもしれないと思った。
132 :ES :2012/06/23(土) 14:46


今回の更新を終わります。
133 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:03
桃子は朝からなんだか落ち着かなかった。
愛理が「梨沙子に罪を償ってもらう」と言ったときから何だか梨沙子の様子がおかしい。

話に愛理の話題が出るたびにイベントとかで不機嫌になっていくし、雅のことも気にしすぎている。
特に愛理と雅が仲良くしているともっとそれが過敏になる。
雅に憧れる気持ちは分かるし、悪いことではないと思う。
でも梨沙子が雅や愛理のことに引っ張られて気持ちが不安定になっているのが、
どうしても気がかりだった。

桃子がさらに心配なのはそういう梨沙子の不安定な気持ちを利用して
愛理が梨沙子に何かするんじゃないかということだ。
134 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:04
それが始めに愛理が桃子に言った「罪を償ってもらう」
という言葉の中に含まれている気がする。

愛理は梨沙子の親友だから梨沙子に何を言おうと何を仕掛けても桃子には口出しできない。

もちろん、愛理も梨沙子も二人とも気持ちが優しくて純粋ないい子だが、
二人が決定的に違うのは愛理の方はめっぽう頭が切れるということだ。

しかも今日は何かが起こると言われているベリキューの対決イベントの日だ。
135 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:05
「桃、あたしのことずっと見てるけどあたしの顔に何かついてる?」
 
梨沙子が桃子を怪しんで言った。
桃子はバスの席が梨沙子と隣同士だった。
 
「いやいやそんなことないけど。もしかして愛理と何かあった?」
 
「おっ。たまには桃の勘もあたるね」
 
桃子の予感は的中したようだが、梨沙子は何故か自信満々に言った。
 
「今日は鬼ごっこで愛理と勝負することにした」
 
「愛理と?鬼ごっこ?」
 
梨沙子から出てきたのは微笑ましいぐらい平和な答えだった。
 
「そう」
 
梨沙子は軽くうなずく。
 
「ああそう。それならよかった」
136 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:07
桃子は深くうなずいた。
愛理と梨沙子の間に亀裂が入るほど事態は深刻でもなかったようだ。
 
「それって愛理が言ってきたの?」
 
「そうだよ」
 
梨沙子は答えた。
例の愛理が「梨沙子に罪を償ってもらう」と言った件以後、
桃子はBuono!で愛理と一緒になるが、まるで愛理は梨沙子の話題を避けるみたいだった。
だから桃子も気が気じゃなかったのだ。
 
「でも驚愕の出来事ってなんだろ。愛理に聞こうと思ってたけど聞けなかった」
 
梨沙子は言った。
137 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:09
「愛理もさすがにそこまでは知らないんじゃない。知ってたらもうみんなにも言ってるっしょ」
 
そう言ったものの桃子はまだ愛理が、ただの鬼ごっこ対決を梨沙子に仕掛けただけだとは思えなかった。

愛理は桃子がメンバー内での立場やキャラクターを計算してるよりはるかに緻密に、人間関係を構築しているように思う。
愛理が誰にでも好かれる性格というのももちろんあったが、愛理の存在というのはベリキューの中でも完璧なぐらいに確立したものになっているのだ。
 
「まあそれもそうか」
 
梨沙子は言った。
梨沙子は愛理とのことは何も気にしていないようだった。
138 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:10
会場は大きなショッピングモールのような場所だった。
メンバーは全員動きやすいジャージに着替え、
さらにプロテクターも装備した。

イベントのルールはテレビでよくやっている「逃走中」に似たようなゲームで、
ハンター役と逃げる役にメンバーが分かれ鬼ごっこようなゲームをするというものだった。

完全に愛理が言っていたのと同じだった。

ただし、捕まったらチームのポイントが相手チームに加算されるだけで、
何度もゲームに復帰できるというのが「逃走中」」とは違うルールで完全なチーム戦だった。

走るのが得意じゃない桃子にとって相当憂鬱なゲームだ。
139 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:12
Berryz工房は最初はハンター役となった。
℃-uteチームは巨大なショッピングモールの好きな場所に散らばっている。
地図を渡されたベリーズチームは建物の位置関係を周囲を見渡しながら確認していた。
 
「よし。とにかく愛理を捕まえる」
 
梨沙子はいきまいていたが、これだけ広い場所で姿さえ見つけられるかどうかという感じだ。
それでも梨沙子は愛理と長いつきあいだから、愛理が好んで隠れそうな場所も分かるのかもしれない。
 
「梨沙子、愛理がいそうな場所分かるの?」
 
桃子が地図を見ながら言った。
 
「へ?そんなの分かんない」
 
梨沙子はでもそんなことは関係ないと言った感じだ。
140 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:13
「じゃあ人数はこっちのほうが多いんだからみんなで分散して追いかけよう」
 
キャプテンが言った。
 
「そうだね。分かれたほうが早く見つけられるし絶対いいよね」
 
雅も賛同して言う。
桃子は見つけられても足の速い℃-uteメンバーは一人じゃ捕まえられないと思った。
 
「これだけ広いと人数集めてあたりつけていったほうがよくない?」
 
桃子は広い屋内を見渡して言った。
 
「えー、自由に追いかけようよ」
 
千奈美が甲高い声で言う。
自由が好きなベリーズのメンバーは桃子の意見にあまり賛同してくれない。
結局ベリーズは一人ひとりに分かれて手当たり次第、無計画に追いかけて捕まえることになった。
141 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:14
℃-uteに一番近いグループのくせにベリーズのメンバーは、意外と℃-uteのことを知らないと桃子は思う。
℃-uteはとにかく走るのが速いのだ。
たとえ遠くで誰かを見つけても走って追いつくのはまず不可能だ。
それでなくてもショッピングセンターは大小の柱や店が入り組んでいる。

距離が離れたらすぐに隠れられそうな場所がいっぱいあった。
ただ、今回のは単なるゲームだし、自由にやってもいいかと桃子も思う。
 

ゲームスタートになりBerryz工房のメンバーは全員散開した。
連絡手段はヘルメットに内蔵されているトランシーバーでとることができる。
142 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:16
「愛理を見つけたら教えてください。どうぞ」
 
梨沙子の声が聞こえてくる。
 
「了解。どうぞ」
 
雅の応答が聞こえた。
 
「千奈美、センター内、建物の中に入りました。どうぞ」
 
「了解。どうぞ」
 
最初はトランシーバーがおもしろいろしく、歩きながらみんな交信していた。

桃子は地図を確認しながら歩いていたがとにかく広すぎてすぐに場所を把握するのが大変だった。

鬼ごっこの鬼の役ではとりあえず自分の見せ場はそんなにない。
適当に入ったブティック屋さんに可愛いピンク色の帽子があったので
それをかぶってカメラにアピールしてみる。
143 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:17
 
「あ、舞美、みつけた」
 
そのとき千奈美の声がして、トランシーバーを通じて荒い息遣いが聞こえ出した。
 
「千奈美、場所どこ?」
 
「分かんない。お店の通路」
 
「通路?」
 
桃子は地図を見てみたがそもそも千奈美がどこにいたのかも分からないので
場所は検討もつかなかった。
 
「残念。逃げられました」
 
しばらくして千奈美の本当に残念そうな声が聞こえた。
144 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:18
「舞美とかさ。足速くて無理そうじゃない。もっとさあ愛理とか足遅そうだからつかまえられそうじゃない?そういう人狙っていこうよ」
 
雅の声が聞こえた。
 
「りょうかーい」
 
みんなの声が聞こえる。
のんびりしてるイメージがあるだけで実は愛理は足速いんだって。
何年一緒にBuono!やってんだよ。
桃子は苦笑いしながら心の中で雅に突っ込みをいれる。

その後、何度か早貴や千聖を見つけたという情報が入ってきたが、
場所がとにかく分からないので全員逃げられていた。

桃子はしばらく愛理を見つけたらすぐに梨沙子に連絡しようと思って
一人で歩き回っていたが誰も見つけられない。
だんだん寂しくなってきたところでちょうど梨沙子を見つけた。
145 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:19
「もも、誰かいた?」
 
梨沙子が駆け寄ってきて言った。
 
「全然」
 
「愛理、何回か見つけたけど足速いの!何か風みたいにとにかく速いの!」
 
まるで驚いたように梨沙子は言う。
 
「そりゃ速いさ。愛理は。あの子運動神経いいもん」
 
梨沙子は愛理の親友のくせに足が速いの知らなかったのだろうか。
梨沙子が大げさに言ったので桃子は笑って言った。
146 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:20
「愛理があんなに足速いって思わなかった」
 
「だから、愛理捕まえようと思ったら待ち伏せするしかないよ」
 
桃子は言った。
見上げるとちょうどらせん状のスロープがあって上に上ればあたりが一望できそうだった。

下の廊下はしばらく進むと一本道に続いている。
℃-uteメンバーが気づかずにこの一本道にさしかかったら一人が上の階から回り込んで道の先で待ち伏せし、
もう一人が後ろから追いかけて挟み撃ちにして捕まえるという作戦だ。
二人はスロープの上に隠れて隙間から下の様子を伺うことにした。
147 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:22
しばらくすると少し離れた通りを舞美がカメラマンもほとんど追いつけないぐらいものすごい勢いで駆け抜けていき、
その後を佐紀が猛スピードで追いかけて言った。
あれだけ懸命に走ればもはやトランシーバーで連絡どころではないだろう。

普段のおしとかやで女の子っぽい佐紀からは想像もつかないぐらいな動物的な走りだった。
 
「すごい。キャプテンてあんなに走るんだね」
 
梨沙子が半笑いで目を丸くして言う。
 
「さすがに私もあんなキャプテン初めてだわ」
 
普段のダンスや動きを見ていれば佐紀の運動神経もきっと悪くはないと思っていたが、
佐紀の猛追ぶりに桃子も驚いた。
148 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:23
「キャプテンて普段あんなにぶりっ子で、か弱い女の子なんですってアピっといてすごいよね」
 
佐紀には何の遠慮もない梨沙子がはしゃぎながら言った。
 
そのとき、℃-uteメンらしき姿がふらりと通りかかった。
二人は思わず息を飲んで声を潜める。

階下で歩いているのは岡井千聖と萩原舞の二人だった。
二人は全くこちらに気づかない様子で普通にきょろきょろしながら歩いていた。

桃子は計画通り、そっと梨沙子に合図すると先に一本道の先に向かった。
梨沙子は後ろからわざと追いかけて一本道に追い込む手はずになっている。
桃子は気づかれないように慎重に待ち伏せポイントに向かう。
149 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:24
桃子がスタンバイするとすぐに前方から騒がしい声が聞こえてきた。
 
「梨沙子だ!やばい!」
 
桃子の方へドタドタという足音が大きくなっていく。
曲がり角に隠れて二人を待ち伏せした桃子はタイミングを見計らった。

梨沙子に追われて二人が至近距離まできたところで桃子は急に二人の前に立ちはだかった。

ぎゃー。

よほど驚いたのか千聖がバランスを崩して逆方向に倒れ掛かった。
桃子は二人を無理やり抱き寄せて「捕まえて許してにゃん」と言った。
150 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:25
「やったあ!一気に二人も捕まえた」
 
梨沙子が大喜びで手を叩いた。
 
「ちょっとさあ。待ち伏せとか。ももちゃんのやりそうなことだよね」
 
千聖がやっと体勢を持ち直して言った。
 
「ていうかさあ。千聖が声が大きいし、ぎゃあぎゃあ騒ぐから捕まったんじゃないの」
 
舞が千聖に言った。
 
「じゃあ言わせてもらいますけど、怖いから一緒にいてって言ったのはどこの誰でしょう」
 
いつものことだが、カメラの前で千聖と舞がもめ始めた。
喧嘩というよりもはやネタのように桃子には映った。
151 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:26
「タイムオーバーです」
 
そのとき、トランシーバーからスタッフさんの声が聞こえた。
  
「もう?終わり?」
 
梨沙子と桃子は顔を合わせた。



二人で集合場所に戻ってみると、キャプテンと雅と千奈美がうずくまっている。
茉麻は一人しょうがないねという感じで立っていた。
 
「あー。久しぶりに走るときついね。もう限界」
 
千奈美がいかにも本当に限界まで頑張ってきたという顔をして言う。
152 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:27
「で、みや達誰か捕まえた?」
 
「もう無理無理。だって愛理とか姿さえ見えなかったし」
 
雅が笑っているだけだったので千奈美が代わりに答えた。
 
「え、ひょっとしてみんな誰も捕まえてないの?」
 
梨沙子が年上チームのあまりのふがいなさに驚いて言う。
 
「その通り!ゼロでーす!」
 
千奈美が手をあげて言った。
153 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:28
 
「まあキャプテンも舞美捕まえられなかったもんね」
 
負けず嫌いの雅が負け惜しみのように言った。
 
「だって舞美足速いんだもん」
 
すねたように佐紀が言ってその場に座り込んだ。
 
「まああれだね。うちら向いてないんだよ。こういうの」
 
友理奈がみんなを慰めるように言った。
結局℃-uteで捕まったのは、桃子と梨沙子の共同作戦で捕まえた千聖と舞だけだった。

そのうちに散らばっていた℃-uteメンバーも集合場所に集まってきた。
その中にも愛理が姿があってゲーム中には全く見なかったから、桃子の目には何か久しぶりに見る気がした。
154 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:30
「ちょっと愛理、どこにいた?ずっと探してたんだけど」
 
雅が愛理に言う。
 
「ニットとかセーターとか売ってるお店の中。
 りーちゃんに追いかけられた後、ずっといたけど誰も見つけてくれなくてずーっと寂しかったよ」
 
愛理はひょうひょうと言う。
 
「あたしもあの後、ずっと探してた」
 
梨沙子も言った。
 
「私りーちゃんが通り過ぎるの何回か見たよ。やばいと思ってすぐ隠れたけど」
 
愛理ははにかんで笑いながら言った。
155 :時風 桃子 :2012/06/30(土) 22:32
今愛理は一体何を考えているんだろうと桃子は思った。


愛理の言葉が何故か白々しく聞こえてしまうのは桃子が愛理を警戒しているからかもしれない。
桃子は梨沙子の気持ちがみやのことなどで不安定になっているのは、
愛理の存在がその原因の一つだと思っている。

こんなことを要求するのはお門違いだとは思うけど、
今の愛理には親友の梨沙子のこともきちんと考えて梨沙子に接して欲しいと思う。

ただ桃子がいくら梨沙子を心配しようとも、
愛理と梨沙子の関係のほうが遥かに深いのは公然とした事実で、
桃子にはどうしようもできなかった。
156 :ES :2012/06/30(土) 22:32



今回の更新を終わります。
157 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:07
梨沙子はトランシーバーで遊んでスタートを待っている愛理をじっと見ていた。
さっきは平常を装っていたものの梨沙子は愛理をみつけられなかったことが、悔しくて仕方なかった。

次は逃げる側と追う側がいれかわり℃-uteがハンター役になる。
そしたら愛理はきっと自分だけを狙って追いかけてくる。
158 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:09
愛理にだけには負けたくない。
絶対逃げ切ってみせる。
 
梨沙子にはゲームを開始してからずっと闘志のようなものが沸いていた。
愛理とは小学生のときからずっと一緒だったから、何となく幼馴染みたいななれあいの関係だった。

Berryz工房と℃-uteはずっとライバルと言われていたのに、自分達だけは関係ないように
仲良く一緒に仕事をしてきたように思う。
でもこれからは違う。
ただの鬼ごっこでも仕事であれば愛理は絶対にライバルということを意識していこうと梨沙子は決意していた。
159 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:10
始まりは緊張の瞬間だった。
ただのゲームなのにまるでライブのときみたいに梨沙子はどきどきした。
 
スタートと同時に梨沙子はとりあえず駆け出した。

白いアーケードやお店が入り組んでいる道を夢中で進んでいく。
ベリーズのメンバーばらけてしまって、すぐに誰も見えなくなった。

アーケードの道がずっと続いている。
自分が狙われていると分かっているだけでどこに進んだらよいのか分からなくなる。
あたりの店は奥まで丸見えだし、隠れるにしても都合のよさそうな場所は見つからない
160 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:12
しばらくすると梨沙子は自分がどこにいるかさえわからなくなくなってしまった。
きょろきょろと周囲をうかがうが、撮影のカメラマン以外は誰もいない。

いざ始まってみると追いかけられるというだけで梨沙子は怖くなって闘争心は一気に半減してしまっていた。
桃子からはあんまり動かないほうがいいと言われたけど、始まってみると常に動いてないと落ち着かない。
 
梨沙子は上の階に上ってお店に入ったり、店内だと逃げ場がないと思って外に出たりしていると、
今度は人を見ただけで℃-uteじゃないかと一瞬思ってしまう。

そして視線を移すとすぐそばの物影に愛理が隠れているような気がしてまたびくっとなる。

こんなに不安になるんだったらみやか桃子に一緒にいてもらえばよかったと梨沙子は思った。
最初の10分はこんな感じであてもなく歩いていたが、
結局誰にも遭遇しなかった。
161 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:13
梨沙子はびくびくしながらショーウインドウが続く明るい廊下を歩いていた。
そのとき梨沙子の後ろからひゅっと風が通る。
振り返っても誰もいなかった。
もはや梨沙子は後ろを見ることさえ怖くなってきた。
162 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:14
こうなってくると愛理に対する恨み言ばかり噴出してきた。
そもそも愛理なんてお互いの写真を交換しようとか調子のいいことばかり言って
梨沙子がメールしても返してくれない。

会おうと思っても学校とかあってなかなか会えないくせに、
こういうときだけ不意にどこからでも出てきそうな気がする。

それなのに愛理ばかりみんなからはちやほやされて、
みんなの注目ばかりあびて何か愛理は卑怯だ。

自分でも言いがかりみたいなことを考えてると分かっていても、
とにかく怖い気持ちをやわらげるためにひたすら愛理の悪口を自分に言い聞かせた。
163 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:15
 「りーちゃん、みっけ」
 
一瞬息が止まったかと梨沙子は思った。
振り返ると愛理がふにゃりとした笑顔でそこにたっていた。
そして梨沙子の右手は愛理にしっかりと握られていた。

梨沙子は思わずその場に崩れ落ちてしまった。
愛理もつられてそこにしゃがみこんで梨沙子を見つめる。

考える余裕もなく梨沙子は捕まってしまい、
梨沙子は悔しいよりも驚きの気持ちでいっぱいになった。
164 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:16
「うそ!誰もいなかったはずなのに」
 
「ここの通路の横がガラスでよく見えるんだよね。
 私、隣の棟にいたんだけどずっと追いかけてきた」
 
愛理が指差す方向を見るとはるかに離れた別棟のショッピングセンターの
外階段のようなものがわずかに見えた。

そこから見るとなると人が見えても、米粒よりも小さいかもしれない。
しかも角度が少し違うだけでこっちの様子はほとんど見えなくなる。
165 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:18
「まさか愛理、あそこから追いかけてきたの?」
 
「うん。りーちゃんだってすぐ分かったよ」
 
愛理は自慢げに笑う。
あんなに遠くから狙われたんじゃ周囲をいくら見てても無駄だということだった。
梨沙子は愛理の執念が少し恐ろしくなる。
 
「まあ今回のゲームはすぐ復活して参加できるからそんなに気を落とさないで」
 
愛理は早口でも明るく言った。
166 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:19
梨沙子は敗者復活の場所から再び再スタートした。
ルールでは捕まった回数はカウントされるが、
何回でもゲームには復活できた。

今回は梨沙子は遠方からでも狙われてないように、
わざと死角になるように気をつけて歩いた。

今度は通りの正面に中島早貴を見つけた。

両方同じタイミングで目が合ったので梨沙子は夢中で駆け出す。
ショッピングセンター内の道は幸い入り組んでいて何回か曲がるうちに
梨沙子は逃げ切れたことが分かった。

ただ全力で走ると息がきれる。
どきどきする心臓を押さえながら体を休ませていると声が聞こえた。
167 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:21
「梨沙子」
 
びっくりしたけど声の主は雅だった。
 
「梨沙子、やばいよ。℃-uteって集団で追いかけてくるの。
 一人に追いかけられたらメンバー全員集まってくるから結局捕まっちゃうし。
 で梨沙子は一番狙われてるから。」
 
「えー!そうなの?」
 
梨沙子は驚いて言う。
 
「さっき千聖とか舞とか梨沙子探そうって言ってるのが聞こえたよ。
 絶対みんなで梨沙子狙ってると思う」
 
「まじか・・・」
 
愛理には狙われていると思ったけど℃-ute全体で梨沙子を狙っているとは思ってなかった。
168 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:22
「あ、いた!逃げろ」
 
そのとき雅が指差して言った。
その方向にはよりにもよって足の速い舞美がいた。
距離的には50メートルくらいは離れている。
向こうもこちらに気づいた。
途端に二人は無我夢中で駆け出す。
走り回っているうちに途中で雅とはぐれてしまった。
梨沙子はもうどこを走っているのか舞美が追いかけてきているのかも分からなかった。

そのとき、人影が目の前に飛び出してきた。
すごくよく見るシルエットのように思えた。
 
「りーちゃん、発見!」
 
愛理だと気づくのと同時に梨沙子は捕まった。
169 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:23
「また!?」
 
梨沙子は不満げに声を出した。
何で愛理がこんなに自分の居場所を把握できるのか梨沙子には分からない。
 
「何であたしが通るって分かったの?」
 
「舞美ちゃんが連絡くれた」
 
愛理はトランシーバーを指差してあっけらかんと言った。
 
「だから近くで張ってたの。でもみやは逃げられちった」
 
愛理は悠々と答えた。
170 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:24
梨沙子としても追いかけてもいいと言った手前、文句は言えない。
それに捕まってしまったものは仕方ない。
梨沙子は大人しく観念して愛理に連行された。

そして憮然とした表情のまま再び敗者復活のスタートポジションに戻っていった。
今度は残り時間がなくなるまでずっと動かずに隠れていようと思った。
このままじゃ愛理にフルボッコにされる。
それにいくらなんでも三度も捕まったら惨めすぎる。

このゲームのルールではで再スタートから3分は捕まらない。
梨沙子はその間に歩き回って隠れ場所を探すことにした。
171 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:25
「くっそー。舞美のやつめ」
 
再スタート場所に行くと千奈美がいた。
 
「ちぃも捕まったの?」
 
「もう舞美、足はっやいんだもん」
 
千奈美がもう勘弁みたいな表情でいった。
 
「それより、梨沙子のほうが気をつけたほうがいいよ。多分℃-uteみんな梨沙子狙ってるから」
 
「それ、みやからも聞いた。何で?」
 
「さあ、梨沙子ならみんな追いかけやすいんじゃないの?
 てことで再スタートしたらあたし、梨沙子からは離れて歩くからね」
 
千奈美が笑顔で残酷なことを言う。
 
「そんな!」
 
梨沙子は絶句した。
172 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:26
そのとき梨沙子は℃-uteのメンバーで梨沙子を集中的に狙おうなんて遠慮もなしに言えるのは、
愛理以外には考えられないと思った。

ようやく梨沙子は℃-uteメンバーの作戦は裏で愛理がからんでいることに気づき始めた。
きっと愛理は梨沙子が思いもつかないような何か大きなことを企んでいるのかもしれない。

それでも今の梨沙子にはとにかく逃げることしか選択肢がなかった。
173 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:28
千奈美はそう言ったものの再スタートしてからはずっと梨沙子と一緒にいた。
二人とも追いかけられたら逃げるのは難しいので隠れ場所を探す。
 
「こうやってる間に誰かに見られてる気がするんだよね」
 
千奈美はあたりを不安げに見渡す。
 
「あたしも。でも怖いと思ってたら動けなくなっちゃうから」
 
梨沙子はすぐそこに愛理が出てきそうだと思いながら、
洋服を売っているお店の中に入ったりして隠れ場所を探す。
174 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:29
 「梨沙子」
 
急に千奈美が小声になって梨沙子を呼んだ。
千奈美が吹き抜けになっている廊下から下の階を指差している。
梨沙子が駆け寄って見て見ると2階下の廊下で早貴が歩いているのが見えた。
 
「ちょっとからかってやろうか」
 
千奈美が突然身を乗り出して言った。
 
「やめてよ。居場所ばれちゃうじゃん」
 
梨沙子は驚いて千奈美を抑えて慌てて言った。
早貴はトランシーバーで誰かと交信しながら歩いていた。
こっちに気づいている様子は全くない。

二人は再び洋服屋の店内に戻った。
175 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:30
「こういうところに隠れてるしかないかあ」
 
梨沙子はたくさんのズボンがかけてあるカートの下にかがんでみる。
 
「どっかに隠れるよりもさあ。こうやってマネキンにまぎれてるっていうほうがわかんなくない?」
 
千奈美がマネキンと同じポーズをとる。
 
「いや普通にばれるでしょ。顔分かるし」
 
梨沙子が笑って言う。

そのときだった。

梨沙子は吹き抜けを挟んでのちょうど対角線上の廊下に愛理の姿を見た。
同時に向こうも気づいたみたいだ。
 
「やばい!愛理にみつかった」
 
梨沙子がそう叫んで二人は走り出した。
176 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:31
 
「愛理ってそんなに足早くないよね?」
 
千奈美が走りながらのんきなことを言う。
 
「愛理は足速いの!めちゃくちゃ!」
 
梨沙子は必死に走りながら愛理の速さは散々味わってきたので言う。
 
「そうなの!?」
 
千奈美は情けない声を出す。
 
「もういいわ。あたしは捕まるから。梨沙子は逃げてて」
 
千奈美は急に立ち止まって言った。
 
「え!?」
 
梨沙子は驚いたが構ってはいられないのでそのまま走った。
177 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:33
しばらくして後ろを振り返ると愛理が数十メートル先から追いかけてくるのが見えた。
梨沙子は必死で走りながら生きた心地がしなくなった。
予想はしていたが、愛理は千奈美は無視して梨沙子だけを狙っているのだ。
 
途中で大きな人工花壇のところで梨沙子と愛理の二人は向かい合っていったん止まった。
愛理がじりじりと右に動くと梨沙子は左に動く。

そのとき残り時間1分の放送が流れた。
 
「何か新鮮だね。こうやってりーちゃんのこと、追いかけるのってめったにないから」
 
愛理はまるで獲物でも捕まえるように、八重歯を少し見せて梨沙子をじっと見ている。
捕まえる気満々のようだ。
178 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:33
「もう2回も捕まったんだからいいでしょ?」
 
梨沙子は泣きつくように言った。
 
「そうはいかないな」
 
愛理は一気に右側から梨沙子を追いかけようとした。
 
「梨沙子!こっち」
 
そのとき、桃子の声が聞こえた。
179 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:34
少し離れた場所に桃子がたっていて、こっちに向かって手をふっている。
愛理がものすごい勢いで追いかけてきているので、
桃子のところへいっても逃げられるのか疑問だった。

でもとにかく梨沙子は桃子のところへ走った。

桃子は梨沙子が来るとすぐ一緒に傍の白い建物に入るように指差した。
梨沙子は、桃子と一緒にそこに走りこむとすぐそれが迷路だということに気づいた。

ここは子供用のアトラクションのフロアで、大きな迷路がおいてあるのだ。
中は入り組んでいていったん入ると簡単にゴールまではたどり着けない。

愛理はすぐ後を追ってきているが、迷路に入ったせいで姿は全く見えなくなった。
180 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:35
「桃、よくこんなのあるって分かったね」
 
梨沙子は愛理の姿が見えなくなって安心して言った。
 
「最初に地図見たとき迷路があって、これ使えるかなってずっと思ってたの」
 
桃子は得意げに言った。
 
「愛理来てるかなあ」
 
梨沙子は後ろを振り返るが愛理の気配すらない。
 
「まあ無理だね」
 
桃子が冷静に言う。
181 :時風 梨沙子 :2012/07/05(木) 21:37
分かれ道が無数になっている迷路だけあって短時間で梨沙子達を見つけることは、ほぼ不可能だった。

やっぱり桃子は頭いいなあと梨沙子はこんなときにつくづく感じる。

雅はこんな頭の切れを見せることはないが、とにかくかっこいい。
愛理はその両方をもっている。
こんな自分が太刀打ちできるのかと梨沙子は気後れしてしまう。

ちょうどその時、時間終了のアナウンスがあった。
 
梨沙子たちは抱き合って喜んだが、ふと梨沙子はそれでも自分が二回も捕まってしまったことにため息をつく。

愛理との勝負は完全に惨敗だった。
182 :時風 桃子 :2012/07/05(木) 21:38




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183 :時風 桃子 :2012/07/05(木) 21:39
ショッピングモールの開店時間が近くなり、あたりは近くを飛行する旅客機の騒音が鳴り響いてきた。
桃子が上を見上げると天窓のところに、まだ朝の日差しが次第に注いできているのが分かった。
桃子は梨沙子と一緒に出口まで迷路を歩いた。
 
「あーあ。結局負けちゃった。愛理に」
 
梨沙子は吹っ切れたように言った。
 
「まあ愛理もやりすぎだけどね」
 
桃子は少しむっとして言った。
184 :時風 桃子 :2012/07/05(木) 21:40
愛理は最近いろんな人の間を駆け巡っているみたいだが、
今日は特に梨沙子に対しての集中攻撃だった。

梨沙子から愛理が梨沙子を追いかけるという話は聞いていたが、
それにしても℃-ute全員で梨沙子のことを探し回っていた。

梨沙子をみんなで集中攻撃するなんていくらなんでもひどい。
ちょっとやりすぎなんじゃないかと桃子は思う。

それでも梨沙子は意外にさばさばしていてそれほど気にはしていないみたいだった。 
185 :時風 桃子 :2012/07/05(木) 21:41
桃子と梨沙子はその後すんなり迷路を抜けてきたが、
愛理はだいぶ時間がたってから出てきた。
 
「これ、一度分かんなくなるととことん分からなくなるね」
 
愛理は笑いながら出口から出てきたが、そのとき桃子はちらりと愛理が梨沙子を見たのが分かった。
桃子は何となくその笑いに不吉な予感を感じた。
186 :時風 桃子 :2012/07/05(木) 21:42
桃子が集合場所に戻ってみるとBerryz工房の惨憺たる結果が待っていた。
桃子とキャプテン以外の全員が捕まり、しかも梨沙子だけ二度も捕まっていた。

℃-uteの獲得ポイント6点に対してベリーズは2点で℃-uteチームの圧勝だった。
 

「ここで罰ゲームの発表があります」


司会者さんが言う。


「罰ゲームはBerryz工房の最下位だった梨沙子ちゃんにしてもらいます」


桃子が不安を感じる隙もないぐらい早口ですらすらと司会者は言った。

そして用意されていた横断幕ををおろした。
187 :時風 桃子 :2012/07/05(木) 21:43
「Berryz工房菅谷梨沙子はBerryz工房をやめてもらいます」
 
と書かれていた。
 
「えー!」
 
桃子だけじゃないベリキューの全メンバーが叫び声をあげた。
 
えーとまだあります。

そう言って司会者がおもむろにもう一個の横断幕をおろした。
 
「Berryz工房の菅谷梨沙子は℃-uteに入ってもらいます」
 
そう書かれていた。
188 :ES :2012/07/05(木) 21:44



今回の更新を終わります。
189 :名無し読者 :2012/07/10(火) 02:18
えぇぇぇぇぇぇ!
190 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:34
「嘘でしょ?」
 
佐紀が唖然とした表情で言った。
顔からは相当ショックを受けているのが分かる。
 
「やだ!絶対やだ!」
 
泣きそうな雅の声も聞こえた。
桃子も相当衝撃を受けていたが司会者からまだ展開がありそうだったので前方に釘付けになっていた。
191 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:36
ここでつんくさんからのメッセージがあります。
司会者がそう言ってスクリーンに映像を写した。

桃子の心臓はばくばくと音をたてて嫌な汗が全身に噴出してきた。
自分達にもいつ何があるかは分からないと聞かされてきたけど、
それがこの瞬間だったなんて夢にも思わなかった。
しかもそれが梨沙子に起こるなんて全然考えてもいなかった。

桃子は激しい後悔と梨沙子がBerryz工房をやめさせられるのは
自分の力が足りなかったからだと悔しい気持ちでいっぱいになった。
192 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:37
つんくさんは少し長い挨拶とベリキューへのメッセージを言った後、
菅谷梨沙子は℃-uteへ移籍しますが、
罰ゲームで移籍はさすがに可愛そうなので今回は期間限定にします。
℃-uteに移籍して℃-uteのメンバーに℃-uteとしてちゃんと認められることが出来たなら
Berryz工房に復帰してもらいますと言った。

その時、ベリーズのメンバー全体が安堵の脱力をしていくのが感じられた。
193 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:38
「はぁ、良かった」
 
茉麻が消え入りそうな声で心からそう言ったのが聞こえた。
 
「期間限定でしょ?梨沙子、全然いいじゃん」
 
千奈美が明るい声を出して梨沙子の肩をたたいた。
みんなも顔を合わせてよかった、よかったと言った。
 
「大丈夫。絶対すぐ戻ってこれるから」
 
雅が梨沙子の両肩に手をおいているのが見えた。
194 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:38
その段階になってやっと桃子は梨沙子の顔を見ることができた。
梨沙子はまだ顔がひきつっていたが、周りのみんなにそう言われて
何とか自分を納得させようとしているみたいだった。

桃子はほっとしたのと同時にふとある疑念が脳裏をよぎった。
195 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:39
桃子はさっと℃-ute側に目をやった。
℃-uteは全員が驚いているみたいでお互いに顔を見合わせていたが、
愛理だけが少し違う。

愛理は唯一笑っているように桃子の目には映った。

桃子の疑念は一気に確信まで到達した。
きっと愛理は罰ゲームの内容を知っていたのだ。
愛理はすべてを知っていた上で日々ライバル心を募らせる梨沙子に
今回の勝負をけしかけたのだ。

今になって考えてみると愛理の行動やメンバー内での発言一つ一つが
全て今回の目的のためだったような気がしてくる。
196 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:40
愛理はこの鬼ごっこのゲーム一つでBerryz工房の最大のライバルを一瞬にして消し去ってしまった。
予想もしなかった愛理の巧妙な作戦に桃子は唇を噛み締めた。
 
ベリーズのメンバーがそれでも動揺を隠せない中、
ゲームの収録は終わった。
197 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:41


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198 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:43
「℃-uteのメンバーに認められるまでってあったけど、
一応時期的にはこの秋の℃-uteのコンサートツアーが終わるまでになるから。
ツアーまでの準備期間は短いけど全くの新人じゃないわけだから
突然だけどよろしくお願いします」
 
収録が終わってすぐ、普段は直接話をすることもない℃-uteのチーフマネージャから
梨沙子に説明があった。

梨沙子はもう気持ちを切り替えたのか、真剣に話を聞いていた。

梨沙子はもちろん、同時に話を聞いていた桃子達にも一気にこの話は現実味を帯びてきた。
ここまでくると梨沙子の一時移籍の話は完全に規定路線だったのような気さえしてくる。
199 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:45
一時的なものだと分かったもののまだ梨沙子の表情は曇ったままだ。
桃子はこんなとき、どんな言葉を梨沙子にかけてよいのやら分からない。
他のベリーズのメンバーは梨沙子を慰めつついったん楽屋に向かっていた。
 
「みんな、一時移籍でよかったと言ってるし、私もそう思うけど。
私的には何か釈然としないんだよね。桃もそう思わない?」
 
さっきから浮かぬ顔をしていた佐紀が桃子の横にきて話しかけてきた。
200 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:45
「何が?」
 
「だって一時移籍だったら、予め私達にも教えてくれてもよかったでしょ?
℃-uteは知ってたのかな?桃何か聞いてない?」
 
桃子が佐紀の顔を見ると、不満げな表情がありありと浮かんでいた。
キャプテンとしては一時的であれ、メンバーが他のグループに取られることは重大なことに違いない。
201 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:47
「そりゃ知らなかったとは思うけど」

 桃子は横目で梨沙子の表情をちらりと見た。
雅達に励まされて梨沙子にもようやく笑顔が戻ってきたみたいだ。
ここで何を言っても梨沙子を取り返せるわけじゃないし、
梨沙子が℃-uteに移籍をすることに変わりはない。
今、佐紀には何も言わないほうが良さそうだと桃子は思う。
 
「まあ良かったね。一時的なことでさ」
 
楽屋に戻ると茉麻が同じことを繰り返すように言った。
茉麻がそう言うと全体が何だかほっとした気分になれる。
202 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:49
「そうそう、こういうのはもうノリでやるしかないよ。梨沙子」
 
千奈美も明るい声で言う。
でも佐紀はさっきから不満な表情のままだった。
 
「でもさあ。こういう罰ゲームだって、あらかじめ分かってら私達ももっと本気でやったのに。
梨沙子を一人にはしておかなかったよね」
 
佐紀が言った
 
「まあそうだよね。もっとちゃんと作戦練ってやったよね。
℃-uteには絶対負けなかったと思う」
 
雅も強く同調して言う。

ムードやノリを作る茉麻や千奈美に比較してこの二人が意見を言うときはずしりと重く突き刺さる。
203 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:50
二人の言葉で楽屋内はしんとなってしまった。
こんなとき、桃子は雰囲気を変えるような何かを言わないといけないと思ったが
言葉が出てこない。
 
「ごめんなさい」
 
そのとき、梨沙子の小さな声が響いた。
 
「あたしが愛理と変な約束しちゃったから。みんなに迷惑かけて本当にごめんなさい」
 
そう言うと梨沙子は暗い顔でうつむいた。
 
「ごめんごめん。梨沙子のせいじゃないよ」
 
佐紀が慌てて言った。
204 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:52
「そうそう。今のは自分達に対する反省の気持ちだから。
梨沙子がどうこういうんじゃないって」
 
雅が梨沙子にかけよって言った。
 
梨沙子は一番年下のくせに責任感とか使命感が強いし、
それだけBerryz工房としての自分の役割を意識してきたと思う。
それが一時的でもBerryz工房を離れることで出来なくなってしまうことは
きっと梨沙子にとってもショックに違いないと桃子は思った。

桃子は梨沙子に何か声をかけたい。
けど本当に愛理に何か仕組まれていたらどうしようとか変な考えばかりが先行して
梨沙子を勇気付けるようなことが何もいえない。
205 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:54
そのとき友理奈が梨沙子の肩に手をおいて言った。
 
「梨沙子もさ。今まで入ったことのないグループに入るのは不安だろうけどさ。
℃-uteなわけじゃん。℃-uteならうちらも一番よく知ってるし。
梨沙子と仲がいい愛理もいるし、きっと楽しいと思うよ」
 
天然で何か一つ抜けてる友理奈が、普段と違う優しいお姉さんのようだった。
 
「そうだよ。逆にさ。チャンスだと思えばいいんだよ。
 だって普通に考えて℃-uteに入りたいと思っても入れないじゃん。
 罰ゲームでチャンスもらえるってなかなかないんじゃない?」
 
千奈美が調子よく明るい声で言った。
 
おかげで泣きそうになっていた梨沙子の表情がやっと緩んだ。
206 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:56
「℃-uteはずっと一緒に活動してたグループだから他のグループとは違うよ」
「みや達みたいにBuono!みたいなもんだって思えばいいんだって」
 
みんなが口々に梨沙子を励ます。
 
「大体、あの桃だってBuono!とベリーズ掛け持ちできてるんだから梨沙子だって楽勝だよ」
 
「あの、一応そのBuono!のリーダーなんですけど」
 
桃子が小さく手をあげると梨沙子がかすかに笑ってくれたような気がした。
そして次第に温かくて気楽なBerryz工房独特の雰囲気が、戻ってきたようだった。
207 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:58
「で、桃はどう思ってんの?」
 
千奈美が聞いてきた。
 
「分かった。可愛い担当の梨沙子がいなくなるから桃、
 もしかしてチャンスだと思ってたんじゃないの?」
 
茉麻が桃子に言った。
 
「失礼な!違いますぅ。私はそこまで腹黒くありません」
 
桃子は心外なというばかりに声をあげた。
まさか茉麻がそんなことを言ってくるとは思ってもみなかった。
208 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 20:59
「ホントに?桃、ハロプロで一番腹黒いって言われてるよ」
 
「はあ?一番可愛いの間違いじゃなくて?」
 
なおも言ってくる茉麻に桃子は応戦する。
確かに自分でも本当はいろんなことを計算したり、
実は妙に冷めていたりするのは確かだ。

でも出来るならせめて腹黒いじゃなくて思慮深いとか思って欲しい。
そんなことを思っているうちに梨沙子の移籍に対して動揺していた桃子も
いつもの調子を取り戻してきた。
209 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 21:01
「りーちゃんがいなくなっちゃうのは桃も悲しいけど、桃がりーちゃんの分まで可愛くなるからね」
 
桃子が泣くまねをしながら言った瞬間、ベリーズ全体の動きが止まった。
 
「あ、あれ?みんな、どした?」
 
「もういっそさあ。梨沙子の代わりに桃がかわりに℃-uteに入ったらいいんじゃん」
 
千奈美が言った。
 
「うん。それだったら私も納得するよ」
 
佐紀が思い切り辛らつなことを言った。
210 :時風 桃子 :2012/07/12(木) 21:02
「ちょっとキャプテン?」
 
桃子が言うと雅が真顔になってすぐに口をはさんだ。
 
「それはダメだよ。それは℃-uteのために絶対に阻止したい。
 だって℃-uteに桃の暴走を抑える人いる?」
 
「いない」
 
みんなと一緒になって笑っている梨沙子が桃子の視界に入った。
それを見て桃子は心底ほっとした。
そしてこんなとき桃子が梨沙子に言えないことを全部言ってくれるメンバーには、
本当に感謝した。
211 :ES :2012/07/12(木) 21:05


今回の更新を終わります。

>>189
レスありがとうございました。久しぶりのレスに感謝です。
212 :名無し読者。。。 :2012/07/15(日) 16:54
今初めて読みました。
展開がおもしろいです!続きが気になります。
またの更新楽しみにしてます。
213 :ES :2012/07/19(木) 15:49
>>212
レスありがとうございます!
更新頑張りますのでよろしくお願いします。
214 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 15:50
ベリキュー対決の翌日、桃子は偶然梨沙子とハローチャンネルでプロの人にメイクをしてもらうという企画の仕事が入っていた。
梨沙子の℃-uteへの合流直前だった。
だから桃子との仕事が、梨沙子のBerryz工房としての最後の仕事ということになる。
215 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 15:52
梨沙子は昨日、笑顔を見せてくれたものの桃子は、まだ梨沙子のことが心配でしょうがない。
℃-uteのライブの開始まであと三週間ぐらいしか残されていないのだ。

梨沙子は出来るだけ早く℃-uteに合流して、急ピッチで曲を仕上げていかなければならない。
梨沙子が全くの新人じゃないにしてもあまりにも時間がない。
そしてこのハードスケジュールの上にBerryz工房という仲間が、誰一人ついていないのだ。
216 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 15:55
梨沙子に会う前、桃子はスタジオに向かいながらこれから想定されることをいろいろと考えた。

℃-uteにとって一番のライバルはBerryz工房だし、
愛理にとっての最大のライバルは梨沙子だと思う。
しかも梨沙子は愛理と℃-uteにはライバル心むき出しだった。

でも梨沙子がそういう立場でいれたのは、あくまでBerryz工房に所属していたからだ。
ベリーズから外されてライバルグループの℃-uteの中に梨沙子が入ってしまったら、
その全ての前提が崩されてしまう。

℃-uteは団結力がめちゃくちゃ強いグループだし、
梨沙子が何をしようとしょせん愛理の手のひらで転がされるだけかもしれない。
217 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 15:56
℃-uteはちゃんと梨沙子を仲間として受け入れて、梨沙子をきちんと支えてくれるのか。
℃-uteには舞美という人間的にも100%信頼できるリーダーはいるけど、
まだセンターの愛理が何を考えているのかさっぱり分からない。

それにしても桃子が気になるのは最初に聞いた愛理の言葉だった。
 
愛理が何か悪いことを企むような、しかも親友の梨沙子に対して
何かするような性格ではないことは分かりきってはいる。

でも梨沙子の写真をみて罪を償ってもらうと言った愛理の言葉が、
桃子の脳裏から離れないでいる。
218 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 15:58
愛理はまるで梨沙子に見せつけるみたいにして、ハロープロジェクトのメンバー誰とでも仲良くなっていっていった。
最近の愛理はBuono!でもベリキューでも勢いは増すばかりだし、
メンバーの中でもみんなが口々に愛理のことはすごい、可愛いとほめている。

しかも愛理はそういうメンバー内の位置取りがまた絶妙だった。
雅と仲良くしてもBuono!で一緒だからと思われるし、
熊井ちゃんとはお互いに抹茶好きでまっちゃーずはファンの人誰でも知っている。

さらに映画でもダブル主演で公認の仲だ。
そして℃-uteのリーダーの舞美ともよく話題にのぼるけど、
リーダーとセンターの間柄で舞美を技術的にも精神的にも一番支えているのは愛理だ。

そしてあげくのはてには今回ターゲットにした梨沙子にしても、
二人はキッズの時代からの親友同士だ。
219 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 16:00
桃子はイベントなどで愛理の話題だらけになるたびに、
不機嫌そうにしている梨沙子の顔をよく見ていた。
そんなことまで計算に入れて愛理が梨沙子をわざと鬼ごっこでけしかけたのなら、
愛理の計算高さは桃子なんかとは比べ物にならないほど完璧で緻密だ。
 

梨沙子、大丈夫かな。


桃子は小さいころの梨沙子を思い浮かべて思った。
220 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 16:01
梨沙子は小さいころから泣いたり笑ったり本当に感情表現が豊かで、
よく世話の焼ける子だった。
それでも思いやりが合って心根の優しい梨沙子をBerryz工房全体で、
守ってきたような感覚が桃子にはある。

そんな梨沙子が一時的でもBerryz工房を離れるのだ。
桃子としては心配せずにはいられない。
 
そして問題なのは愛理がこれから梨沙子に何をしようとしているかだった。
桃子は万が一愛理が梨沙子を傷つけるような行動をとろうとしたら止めないといけないと思う。

しかし梨沙子はBerryz工房から切り離されてしまった。
いくら桃子でも℃-uteの内部までわって入ることはできない。
悪いほうに考えればいくらでも嫌な予感はしてきた。
221 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 16:03
愛理が梨沙子に対して何かわだかまりをもっているとしたら、
それはBerryz工房がデビューしたときのことかもしれないと思う。

当時のハロプロキッズだった15人のうち、Berryz工房に選ばれた8人だけが、
最初にデビューを果たした。

桃子も小さかったのでよく覚えていないがその8人がダンスや歌で、
特に優れていたわけでもなんでもなかったように思う。

ただ偶然か分からないが、選ばれた8人はBerryz工房としてデビューして、
早くからハロープロジェクトを構成するグループユニットとして一人前の扱いを受けた。
222 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 16:08
特に梨沙子は初期の頃からファンの注目を集めてBerryz工房で最初から中心メンバーだった。
今のBerryz工房に流れてるゆったりした雰囲気や楽観的なムードとか、
他のグループやメンバーを全然気にしないでひたすら個性を磨いてる余裕もそんなところからきてるのかもしれない。
223 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 16:14
でも愛理達 残りのメンバーはそれから非ベリキッズと言われて、
桃子達に比べてチャンスもなくバックステージでダンスをしたり下積みを続けてきた。

それに℃-uteとしてデビューした後もしばらくはインディーズだったのだ。
さらに℃-uteはBerryz工房に比べて卒業したり脱退したメンバーも多い。

ベリーズも喧嘩したりたくさん苦労はしたきた。
今はそんな苦労もいい思い出としてさっぱりと洗い流されてしまっている。

でも℃-uteの苦労の方はもっとずっと奥が深い。今でもメンバーの心の中に
ずっと残っているような苦労だと桃子は感じている。
Berryz工房と℃-uteは元々同じメンバーから枝分かれしたけど、
チームわけみたいに分かれたのとはまったく違う。

今さらなことだとは思うが、梨沙子と愛理がわだかまりが
実はそこにあるのではないかと桃子は思う。
224 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 16:18
桃子が考え事をしてる間に、楽屋のドアが開いて梨沙子がやってきた。
梨沙子の顔を見ると何だか浮かない表情をしている。
顔に桃子と同じ「不安」の二文字が書かれているみたいだった。
 
「昨日、みんなに励まされて覚悟決めたつもりだったんだけど。
 昨日の夜またいろんなこと考えちゃってよく寝れなかった。
 やっぱ複雑だな。自分が今までライバルだと思ってたグループに入るなんて。
どういう気持ちで入ったらいいのか分かんないの」
 
梨沙子はまゆを寄せて困ったように笑った。
225 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 16:19
「愛理と何か連絡取った?」
 
桃子の言葉に梨沙子は首を横にふった。
 
「いざとなるとなんてメールしたらいいのか分からなくて。
 それに愛理からは全然連絡ないしね。まあどうせ今日会うからいいけど」
 
梨沙子は困惑したような表情をしていた。
 
「愛理はきっと罰ゲームの内容知ってたんだと思うよ」
 
桃子は他のメンバーがいた手前、昨日言えなかったことを言った。
226 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 16:20
「多分ね。愛理の表情見てたら何となく分かった」
 
梨沙子は飄々と言った。
桃子は昨日はみんなで℃-uteのツアーが終わったら梨沙子は戻ってこれると楽観的に考えていた。
だけどよく考えると梨沙子がメンバーに℃-uteとして認められたら、
Berryz工房に復帰できるという条件だったことを思い出した。

ということは梨沙子が復帰できるかどうかも愛理が握っていると考えることもできる。
 
「あたし、みやとのことばかり気持ちがいってて自分のことなんて全然頭になかったよ」
 
梨沙子は悔しそうに言った。
227 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 16:22
「愛理はどう思ってるんだろ。梨沙子が加入すること」
 
桃子は梨沙子に聞いてみた。
桃子からは愛理の動きはさっぱり分からないが梨沙子からしたら、
つきあいが長い分通じ合う部分もあるかもしれない。
 
「さあ。どうだろうね。どうせ愛理のことだからあたしのことなんて何も考えてないかも」
 
梨沙子はそう言ったが桃子は愛理が何も考えていないということは絶対ないとは思う。
どういう感情かは分からないにせよ、愛理は梨沙子のことをずっと見ていた。
 
「でも梨沙子は愛理に認められないとベリーズに戻れないかもしれない」
 
桃子は言った。
 
「へ?どゆこと」
 
梨沙子は怪訝そうな表情をする。
228 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 16:24
「昨日、℃-uteのマネージャーさんからツアー終了までが目安だって言ってたけど。
 あれは一応目安でしょ。梨沙子の復帰の条件はあくまで℃-uteメンバーに認められたらだから」
 
桃子は梨沙子の表情を伺いながら言った。
梨沙子の顔からみるみる自信が失われてゆく。
 
「そんな。あたし、℃-uteみたいに踊れないし。℃-uteに認められるなんて自信ないよ。」
 
梨沙子は泣きそうになって言った。
 
確かに℃-uteのダンスのレベルはかなり高い。
ダンスの得意なみやでさえ℃-uteと一緒に踊ったときはついていくのがやっとだと言っていた。

しかも℃-uteのダンスは難易度が高いだけでなく振りが完璧に合っているのだ。
ダンスが苦手な梨沙子がそれをやるのはすごく難しいに違いない。
229 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 16:26
「でもりーちゃん、やるしかないよ。そうしなきゃベリーズに戻ってこれないんだからさ」
 
桃子がそう言うと梨沙子はその場にうずくまってしまった。
 
「ほら。りーちゃん、愛理には負けたくないって言ってたじゃん。
 だから℃-uteで愛理からセンター取っちゃえば?」
 
桃子は梨沙子を励ますように言った。
ただ菅谷梨沙子というアーティストはよくも悪くもBerryz工房でこそ最大限の力を発揮するようにできている。
℃-uteというフィールドでしかも短期間で梨沙子がそれを実現するのは不可能に近かった。
230 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 16:27
「℃-uteで愛理に勝たなきゃいけないってこと?」
 
梨沙子が桃子を見上げて上目遣いで言う。
桃子は静かにうなずいた。
そうなれば愛理だって梨沙子を認めるしかない。

いくらその目標が難しくても梨沙子が戻ってくるためにはそうするしかないように思えた。
 
「結局あたしの前にはいつも愛理がいる」
 
ぽつりと梨沙子が言った。
 
「キッズのときはこんなに強敵だと思ってなかったのにな」
 
梨沙子は一人つぶやくように言った。
231 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 16:31
梨沙子の最大の武器は歌唱力だが、愛理の歌唱力もハロープロジェクトではトップクラスといってもいい。
加えて安定感抜群のダンスはあるし、梨沙子にとっては相手が悪すぎる。
実際愛理に対抗できるのはベリーズだと雅ぐらいしかいないのではないかと桃子は思う。

それでも梨沙子がベリーズにいられない以上桃子にはどうすることもできない。
 

今日のハローチャンネルの企画はプロのメイクアップアーチストさんに、二人をメイクしてもらうという企画だった。
メイクの好きな梨沙子はずっと楽しみにしていた企画だ。
この仕事がきっと梨沙子にとってBerryz工房としての最後の仕事になる。

そう思うと桃子は何かやりきれない気持ちになる。
232 :時風 桃子 :2012/07/19(木) 16:32
Berryz工房にとって梨沙子の存在ははかし知れないほど大きい。

よくBerryz工房は梨沙子にだけ甘いとよく言われるけど、
それはただ年下で可愛いからというわけじゃない。
梨沙子がもってる人に対する優しさとか思いやりとかを
メンバー全員がよく分かっているから自然とそうなるだけだ。

えこひいきでもなんでもない。

そのことを桃子は一番理解していた。
桃子は梨沙子ができるだけ早くベリーズに戻ってきてくれることを願った。
 
梨沙子がしてもらった化粧は天使のように白く輝いていた。
233 :ES :2012/07/19(木) 16:33



今回の更新を終わります。
234 :時風 梨沙子 :2012/07/26(木) 15:46
桃子との仕事を終えた後、梨沙子は℃-uteとの顔合わせのため都
内の撮影スタジオに向かっていた。
撮影も入るというので、スタジオにそれ用のセットが組まれているらしい。
別によく知っているメンバーなんだから普通に仕事から入ればいいのにと
梨沙子は思った。
 

スタジオに着くとそこは学校の教室のような部屋が何個もあって
学園ドラマの撮影をやるようなところだった。

梨沙子は数年前に愛理と学校でDVD撮影をしたことを思い出した。
235 :時風 梨沙子 :2012/07/26(木) 15:47
あの時は愛理と一緒に制服を着て笛を吹いたりいろんなポーズをとったりした。
愛理と真剣な表情で目を合わせるときお互いを見ると、
どうしても笑ってしまって何回も撮りなおした。

そのことがまるで昨日みたいに思い出された。

でも今は愛理に会うのが正直怖い。
236 :時風 梨沙子 :2012/07/26(木) 15:48
愛理のことはメンバーや周囲の人からいくらでも情報は入ったきたけど
直接ほとんと話せてない。

最近まともに口を聞いたのもBuono!の楽屋で鬼ごっこのことを話したことだけだ。
何でも話せていたあのときから自分と愛理との間で何が変わってしまったのか
梨沙子は考えたが何も思い当たらなかった。
237 :時風 梨沙子 :2012/07/26(木) 15:49
スタジオの教室の前をパイプみたいなもので暗い廊下が作ってあって、
まるでお化け屋敷のようになっていた。
℃-uteメンバーに会うためにはその先を進んでいかなければならないらしい。
廊下は狭く足元もおぼつかないぐらい薄暗い。
撮影カメラも入っていたが怖がりの梨沙子は歩きながら
不安な気持ちが一気に体全体に襲ってくるようだった。

罰ゲームでBerryz工房やめさせられるなんて、こんなに惨めなことはない。
今すぐにでもベリーズに帰りたい気持ちでいっぱいになった。
思わず雅やベリーズのメンバーの笑顔が思い浮かぶ。

こんな思いをしてまで℃-uteには入りたくはないと心底思った。
238 :時風 梨沙子 :2012/07/26(木) 15:51
梨沙子が震える足で最後のパイプ道を曲がったときだった。
ぱっと明るい光りが差し込んできた。


 〜大歓迎、りーちゃん!!!〜

 
まず教室の黒板にピンク色の大きな字がチョークで書かれているのが見えた。
そばに梨沙子の似顔絵が可愛らしく描かれていた。
そして教室のほうぼうから鮮やかな色紙で作られた鎖が吊るしてある。
そのほかにも手作りらしい紙で作られた人形がたくさん飾り付けられていた。

そして一斉にクラッカーが鳴り響いて梨沙子はびっくりした。
239 :時風 梨沙子 :2012/07/26(木) 15:52
 「梨沙子、℃-uteへようこそ!」
 
教室の教卓のところに立っていた愛理、舞美、早貴、千聖、舞が声を合わせて言った。
5人は笑いながら手をたたいている。
梨沙子は思わず黒板にところへ駆け寄っていった。
 
「よろしくね。梨沙子」
 
最初に舞美がそう言って梨沙子に笑いかけた。
優しい舞美の表情に梨沙子は何かほっとした気分になる。
240 :時風 梨沙子 :2012/07/26(木) 15:54
舞美は天然でしっかりしてないから人の面倒を見るのは向いてないと
自分ではよく言っていた。

でも舞美はキッズの時代から何か梨沙子が困っていたら
さっとよってきて教えてくれたり、何かと梨沙子に世話を焼いてくれる存在だった。
それも直接話しかけてくるというよりは影でずっと見守ってくれるようなタイプの人だ。

ベリーズは喧嘩して散々言い合ってわかりあえてきたメンバーばかりだったから、
舞美の存在というのは梨沙子にとってまた新鮮だった。
241 :時風 梨沙子 :2012/07/26(木) 15:56
「これ、全部用意してくれたの?」
 
梨沙子が驚いて舞美に尋ねる。
舞美は少し照れながらうなずいた。
 
「みんな、ありがとう」
 
梨沙子は笑顔で言った。
梨沙子はこんな大歓迎が待っているとは思っていなかったので正直面食らっていた。
そして梨沙子の視線は自然と℃-uteで一番気になっていた人物を探した。
 
「りーちゃんが入ってくるんだから。これぐらいはしないとね」
 
梨沙子の隣にはもう当たり前のように愛理がいた。
愛理は梨沙子の顔を見てふにゃりと笑った。
242 :時風 梨沙子 :2012/07/26(木) 15:57
「すーさんが書いてある」
 
梨沙子は黒板の梨沙子の似顔絵の隣に愛理の考えたキャラクターのすーさんを見つけた。
吹き出しにりーちゃんよろしくねと書いてあった。
可愛い。
梨沙子の顔から自然と笑みがこぼれる。

よく見るとメンバー全員からのメッセージが書かれていた。
 
「まあよかったよ。梨沙子だったら慣れてるから新メンバーっていっても気を使わないでもいいじゃん」
 
千聖が勢いよくしゃべった。
243 :時風 梨沙子 :2012/07/26(木) 15:58
岡井千聖と梨沙子は同い年だったからベリキューの同い年トリオということで、
愛理と千聖と梨沙子の三人でラジオをやったこともある。
千聖が話すと全体のムードが明るくなって楽しくなる。
ベリーズで言えば千奈美みたいな存在だと梨沙子は思った。
 
「ベリーズと℃-uteってもうグループとして出来上がってるから
いまさら完全な新メンバーなんて無理でしょ。
でも梨沙子が一時的でも来てくれるのはとってもうれしいよ」
 
舞がそう言った。
舞はグループ最年少で梨沙子よりも年下なのに意外にしっかりしている。
244 :時風 梨沙子 :2012/07/26(木) 15:59
「まあぶっちゃけ梨沙子が入ってきたら真ん中がますます遠くなるってのはあるけどね」
 
千聖が自虐的に言う。
真ん中とはきっと愛理がいるセンターのことだろうなと梨沙子は思った。
 
「いやいや、元々うちらに真ん中はないから」
 
舞が冷静に突っ込んだ。
その言い方はあまりに自虐的でみんな笑ってしまう。
245 :時風 梨沙子 :2012/07/26(木) 16:00
ベリーズでは誰がセンターだとかいう話はあまり意識したことがない。
雅か梨沙子がやることが多かったが、梨沙子は自分がセンターをやるときは
それができるのか不安だらけだった。

ベリーズのメンバーはそんな自分を必死に支えてくれるばかりで、
嫉妬されるとかそんな気持ちは梨沙子は持ったことがない。
最近になって、やっと他のメンバーを心配させずにすむようになったなと思っていたぐらいだ。

どちらかというとベリーズでは自分は自分、人は人だ。
℃-uteは団結力が強いという印象はあるけどメンバー内の競争も
ベリーズと違って激しいのかもしれないと梨沙子は思った。
246 :時風 梨沙子 :2012/07/26(木) 16:01
よろしくお願いします。と梨沙子と℃-uteメンバーは向かい合ってお互いに言い合った。
そして梨沙子と℃-uteがすぐに打ち解けたところでテレビカメラの撮影は終わった。
梨沙子は撮影が終わってからも℃-uteメンバーからのメッセージをずっと見ていた。

みんなよろしくという言葉とかオシャレな梨沙子が入ってきて見習うことがいっぱいあるとかいう内容だったが、
舞美が梨沙子が℃-uteにとって初めての新メンバーでとてもうれしいと書かれていた。
 
「そっか。今までも℃-uteに新メンバーなんていなかったよね」
 
いまさらのように梨沙子は気づく。
当然Berryz工房にも新メンバーが入ってきたことはない。
247 :時風 梨沙子 :2012/07/26(木) 16:03
今Berryz工房と℃-uteにいるのはキッズの時代、
梨沙子が小学2年生のときに同時に入ったメンバーだけだ。
だから年齢はばらばらでも全員同期で先輩も後輩もない。
ベリーズと℃-uteは同じハローでも最初から一緒に活動してきた特別な関係で、
やっぱり℃-uteはモーニング娘。やスマイレージとは違う。
だから梨沙子も℃-uteに対してだけ強いライバル意識をもったのかもしれなかった。
 
「いいのかな。あたしが初めての新メンバーなんて」
 
梨沙子は言った。
梨沙子は新メンバーとしてはあまりにも代わり映えがしない。
まるでベリーズと℃-uteの合同企画の一部分みたいだ。
248 :時風 梨沙子 :2012/07/26(木) 16:05
「そんなことないよ。℃-uteはやめていく子も多かったから。増えるのは大歓迎だね」
 
早貴がさらりと言った。
℃-uteもBerryz工房も最初は同じ8人のメンバーがいたが脱退や卒業で5人に減っていた。
これ以上減ったら℃-uteは解散する覚悟でやっていると梨沙子は誰かから聞いたことがあった。
Berryz工房は最初のころに舞波がやめてしまったが、
それ以降は全く変化がない。

ずっと同じメンバーでやっているからベリーズでは誰かが抜けたらとか
話題になることも不安になることもなかった。

℃-uteのそんな切迫した雰囲気を聞かされたときは、正直ベリーズにいるのが一番気楽でいいと思った。
でも梨沙子は今から℃-uteとしてこれから1公演限定にせよ活動していくのだ。
249 :時風 梨沙子 :2012/07/26(木) 16:06
「まあ過去の℃-uteの話はおいといてさ。今日はおめでたいってことでいいじゃん。
 じゃあ舞美ちゃん、さっそくあれ発表しようよ」
 
千聖がそう言ったので何が発表されるんだろうと梨沙子は少し緊張した。
 
「では発表します。梨沙子の教育係なのですが、なんと・・・愛理を指名します!」
 
舞美が何故かどもりながら言った。
 
「愛理?えーやだー」
 
思わず梨沙子は言ってしまった。
250 :時風 梨沙子 :2012/07/26(木) 16:06
「大丈夫。別に梨沙子は愛理の言うことなんか聞かなくていいから」
 
すかさず舞が落ち着いた声で言う。
 
「えー。私が教育係になって梨沙子に教えることはおそらく何もありません」
 
愛理はそう言ってはにかむように笑った。
℃-uteはやっぱりキッズのときから一緒だった℃-uteメンバーだと梨沙子は思った。
251 :時風 梨沙子 :2012/07/26(木) 16:07
親友の愛理はいるし別のグループに加入ということで最初は緊張したけど、
古くからの仲間に違いはない。

梨沙子は千奈美が言ってくれたようにこれは新しい自分になるチャンスかもしれないと思った。
できるだけ早く℃-uteに慣れていって、教育係の愛理よりも絶対に上を目指していこう。
どんなに℃-uteの愛理がすごくても、Berryz工房から来た自分としては負けられない。
梨沙子はとにかく℃-uteで全力を尽くそうと心に決めた。
252 :ES(Easestone) :2012/07/26(木) 16:08

今回の更新を終わります。
253 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:17
次の日から梨沙子はDVDを見ながら℃-uteの曲を熱心に勉強した。
℃-uteの曲はコラボ企画で歌ったこともあってほとんどが知ってる曲だ。
ただ細かいダンスの振り付けなどは分からないことが多い。
それでも梨沙子としては、何とかダンスレッスンの開始日までには
ある程度のところまで℃-uteの曲を頭の中に入れておきたかった。
254 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:18
℃-uteのミュージックビデオを見ててやっぱり思うのは、
5人の動きが完璧にあっていることだった。
その中でも愛理の存在はすごく大きく感じる。
ダンスの一つ一つの動きにキレがあって、それでも全体とはうまくマッチしている。
ベリーズで言えばキャプテンみたいな正確な動きだ。
255 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:20
今まで愛理の踊っているところはたくさん見てきたけど、
改めて自分のライバルとして意識してビデオを見たことがなかった。
ただ愛理が最近すごいという噂話とか人の高い評価ばかり聞こえてきて
それに嫉妬しているだけだったように思う。

梨沙子は愛理のダンスが気になってボーノのライブ映像も見てみた。
すると愛理はボーノのときはまたちょっと違う。
愛理はボーノのときはベリーズっぽくて個性的で自由な感じなのだ。

それに曲への入り込み方も激しい。
256 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:22
今までの愛理のイメージはのんびりしててふわふわしてるイメージだったけど、
ボーノの愛理はまるでやいばが生えたような激しさだ。
梨沙子も曲に入り込むけどあんな入り込み方はしない。

見れば見るほどその違いが鮮明に梨沙子の目に映る。
まるで同じ人間とは思えないくらいだった。
 

今まで梨沙子の中ではボーノといえば何といってもみやだった。
雅からボーノのライブが始まったという話を聞くたびに雅がどんなふうに歌うのか、
そればかり見てきてあまり愛理には注意がいっていなかった。

しかしまるでロックの神様が乗り移ったみたいに激しく踊るボーノの愛理は、
場面によっては雅よりも目立っているシーンもあるくらいだ。

℃-uteの愛理とBuono!の愛理。

どちらも限界なんてないみたいに見てる人を釘付けにする。
そんな愛理の姿を見ると梨沙子は気持ちばかり焦ってきた。
257 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:23
それでも頑張るしかない。

ベリーズに戻るためには愛理に勝つしかない。

そしてベリーズに戻ったら今度はちゃんとBerryz工房として絶対に℃-uteに勝ってみせる。

梨沙子は自分にそう言い聞かせて毎日自己練習を続けた。
258 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:25

最初のダンスレッスンの日はすぐにやってきた。

初めて℃-uteと一緒に踊って梨沙子が感じたのは今の℃-uteと自分の圧倒的な差だった。
頭がついていっているときは体がついてこない。
体がついていけるときは頭がダンスを覚えきれない。
 
「大体はあっているけど、今の℃-uteとステージで踊るなら大体じゃちょっとまずいんだよね」
 
梨沙子はダンスの先生に言われた。
259 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:27
家でこれだけ頑張ったんだから少しは踊れるようになっているかもという
梨沙子のささやかな期待はあっという間に打ち砕かれた。

言われてる意味は何となく分かった。
梨沙子だけダンスの動きが少しずつずれているのだ。
さらにバラードで楽曲中心の歌は何とかこなせたが、激しいダンスがある歌になると梨沙子は全くついていけなくなった。

なかでも梨沙子は「Midnight Tenptation」でさらに苦戦した。
 
「今の℃-uteのダンスの特徴が合わせる技術だから。
 菅谷さんがいい意味じゃなく目立っている部分が多い」
 
練習の最後に再び先生に言われた。
260 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:29
梨沙子は、℃-uteがダンスシンガーグループなんだという本当の意味が分かったような気がした。
Berryz工房だってダンスして歌ってはいるけど℃-uteとは根本的に違う。

Berryz工房は合わせるよりも一つ一つの動きの中でどう自分を見せるかが勝負だった。
℃-uteのダンスは周りと完全に合っている中で動きにためを作ったり、
より安定感のあるダンスをしたりする中で個性を出していた。

そういう意味でやっぱり愛理はいろんな意味で完璧だと梨沙子は思った。

合わせること一つできない今の梨沙子の現状では、とても愛理を目指すどころじゃなかった。
261 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:31
ダンスレッスンは梨沙子が足を引っ張ったせいで1時間も延長して終了した。
体はへとへとだったが梨沙子の頭の中はこのままじゃまずいということでいっぱいだった。
 
「はぁ。もう全然ダメだね・・・」
 
梨沙子が落ち込んだ表情で愛理に言うと舞がすぐに梨沙子のところへ駆け寄ってきた。
 
「梨沙子、初日でこれぐらい出来たらかなり上出来なほうなんじゃないの」
 
舞がすました顔で言った。
 
「普通にさ。初めて入ってきてここまで出来ないよね」
 
舞がみんなに向かって言う。
℃-uteのみんなは、一様にうなずいてくれた。
262 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:34
「そうだね。うちらはずっとこれでやってきたけど梨沙子は元々難しいことに挑戦してるんだからさ」
 
早貴がさばさばした声で梨沙子の肩に手をおいて言ってくれた。
 
「梨沙子、家でたくさん練習してきたんじゃないの?今日の練習でもそれは出てたと思うよ」
 
リーダーの舞美もそう言ってくれた。
 
梨沙子は緊張感から体中がずっと張り詰めていたのが、
みんなに言われてだいぶ楽になったような気がした。
263 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:37
梨沙子のせいでみんなお昼の休憩時間がとれなくなってしまい、
午後から慌しく千聖、舞、早貴はテレビの収録に向かい、
舞美はラジオの収録、愛理は学校に行く予定になっていた。

唯一スケジュールがあいている梨沙子は、℃-uteのMV見ながら自主練習をすることにした。
 
梨沙子は静まり返った部屋に一人で、画面を見ながら何度も振り付けを確認した。
一人でやってると急にさびしくなって、
どんどん自分が追い込まれているような気分になってきた。
264 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:40
ベリーズにいたころ、キャプテンが練習が終わっても鏡に映る自分を見て、
何度も自主練習を繰り返していたことを思い出した。

雅はそんなキャプテンをライバルだと言って、
みんなの知らないところでたくさん努力して
二人して最高のライブパフォーマンスを見せた。

でも二人ともそんな影の努力のことは、それが当然みたいに一言も言わない。

雅だったら今、梨沙子が味わってるこんな苦労なんて簡単に乗り越えるんだろうなと自嘲的に思った。
265 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:43
「何とか頑張って早くベリーズに戻らないと・・・」
 
早く愛理に認められるだけのダンスに一歩でも近づかなきゃいけない。
それにライブまであまり時間がない。
気持ちは前向きにやろうとするが、やればやるだけ今の自分と℃-uteの違いがくっきりと分かってくるようだった。

気持ちばかりが前に進んで体がついてこない。
梨沙子は苦手なダンスの同じ動作を繰り返したのと間に合わせない焦りとで背中がじっとりと汗ばんできた。

そのとき、背中にさっと風があたったのか一瞬だけ涼しくなったような気がした。
梨沙子は思わず振り返った。

すると愛理がドアのところに立っていた。
266 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:44
「私も一緒に練習していい?」
 
愛理が八重歯を見せて笑うと、とことこと歩いてきて梨沙子の横に並んだ。
 
「あれ、愛理、学校は?」
 
梨沙子がそう言うと愛理は笑ったまま一瞬押し黙った。
そして梨沙子に近づいてきて耳元で言った。
 
「さぼり」
 
「えー?」
 
愛理が学校さぼるなんて考えられなかったから梨沙子は驚いて声をあげた。
愛理は人差し指を口につけてシーっという格好をした。
267 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:46
「何で?何か学校でいやな事とかあったの?」
 
梨沙子は愛理が学校をさぼるなんて、何かあったに違いないと思った。
愛理は学校の勉強と仕事を両立させていてすごいとメンバー内でもよく話題になっている。
愛理自身も学校生活をとても大事にしていた。
 
「別に何もないけど。たださぼりたいときもあるじゃん」
 
そう言って愛理はごまかすように笑った。
 
「じゃあ始める?」
 
愛理に促されて梨沙子は練習を再開した。
268 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:48
愛理と二人で練習するなんてキッズ時代以来のことだった。
MVを流して愛理と動きを確認しながら一緒に踊ってみる。

昔とは全然違って愛理はまるでプロのダンサーみたいなしなやかな動きをした。
愛理のダンスは本当に自然な動きだった。

愛理が踊るとまるで周りの空気もそれにあわせて風をつくるみたいだ。
それでも愛理は何度も途中で止まっては梨沙子の動きに合わせてくれたので、
一人のときよりもずっとやりやすかった。

℃-uteのダンスはメンバー同士で合わせる動きと、連動する動きが細かく重なってきてそこが難しい。
でも愛理のおかげで梨沙子は、何とか℃-uteのダンスがどういうものか体で分かってきた。

二人はライブで使う曲の半分まで合わせたところで、少し休憩をとることにした。
269 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:50
「愛理、すごいね。いつの間にこんなダンスうまくなったの?」
 
梨沙子は悔しいという気持ちを隠しつつも愛理に言った。
 
「んー。でもダンスって歌とあわせて一つみたいなもんだから。
 ライブの曲も実際歌と合わせてみないと出来なんて分かんないよ」
 
愛理が額の汗を拭きながら言った。
 
「そうかな?」
 
梨沙子には愛理のダンスはこれはこれでもう完成しているような気がする。
270 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:51
「私、りーちゃんとかみやみたいにもっと曲に入り込めるようになりたいから」
 
「そう?愛理は結構曲に入り込めるタイプじゃないの?」
 
梨沙子は家で愛理の映像を見たときのことを思い出して言った。
特にボーノの愛理は気持ちごと完全に曲に入り込んでいると思う。
 
「そう言ってくれる人もいるけど、まだまだだよ」
 
愛理は梨沙子を目を見てはっきりと言った。
その視線は普段の愛理があまり見せない強いまなじりで、
梨沙子は何だかどぎまぎした。
271 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:53
しばらく休憩して二人が再び練習を再開しようとしたとき、コンコンとノックの音がした。
ドアが開いて舞美がにこにこしながら部屋に入ってくるのが見えた。
 
「舞美ちゃん!」
 
そう言って愛理の顔がぱっと明るくなった。
 
「ラジオ、もう終わったの?」
 
「うん。でその後二人がまだ練習してるってスタッフさんから聞いて」
 
舞美は優しい笑みを浮かべて言った。
愛理のあまりの表情の変化に、梨沙子は舞美の存在の大きさを知ったような気がした。
272 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:56
舞美はラジオの後スケジュールは何もなかったのにも関わらず、
梨沙子の練習を見に来てくれたみたいだった。
 
愛理は曲目リストを舞美に見せて今、キャンパスライフまで終わったところで・・・
と梨沙子との練習の進み具合を説明した。
愛理が梨沙子の動きまで詳しくごにょごにょと言うから、
舞美はうなずきながらも全く話の内容は入ってないことが梨沙子にもはっきりわかった。

適当に相槌をうっている舞美がおもしろくて梨沙子は思わず笑ってしまう。
273 :時風 梨沙子 :2012/08/02(木) 14:57
「分かった。じゃとりあえず3人で最初から合わせてみよう」
 
舞美がまた大雑把なことを言った。

「いや、舞美ちゃん話聞いてる?りーちゃんの苦手なところが」
 
愛理が不安になって言う。
 
「うん。大体分かったけど。とりあえず3人で合わせてみたらいいんじゃない」
 
「そっか。じゃ、はじめよっか」
 
舞美の勢いに押されて愛理もそう言う。
こういう愛理と舞美のやり取りを間近で見て、梨沙子は本当に自分は℃-uteの中にいるんだなと思った。
274 :ES :2012/08/02(木) 14:58


今回の更新を終わります。
275 :名無飼育さん :2012/08/03(金) 23:15
続きが楽しみです!
276 :ES :2012/08/09(木) 21:03
>>275
レスありがとうございます!
まだまだ続きますので、つきあっていただけると幸いです。
277 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:05
練習が終わったころには外の景色はもうだいぶ暗くなっていた。
梨沙子はまだ不安だらけだったが、一人でやるよりも格段に進んだのは確かだった。
三人は着替えを済ませるとマネージャーさんに報告してスタジオの外に出た。

あたりは流れるような自然の風が吹いていた。
梨沙子はまだ早い時間帯だったから電車で帰ることにした。 
梨沙子と他の二人は帰る方向が別だった。
278 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:06
「じゃあ梨沙子、気をつけて帰るんだよ」
 
舞美が梨沙子の肩に手をのせて言った。
梨沙子は舞美は本当に優しい人なんだなと思う。
 
「りーちゃん、またね」
 
愛理が大げさに手をふった。
 
「今日は忙しいのに二人ともありがとう」
 
二人にお礼を言って梨沙子は一人で自分の電車の駅の方へ歩き出した。
今日は愛理と舞美にたくさん助けられた。
おかげで練習も進んだけど課題ばかりがかえって出てきたような感じだ。
279 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:07
ライブに間に合わせようと思ったら、家に帰っても猛練習しないといけないし体力的にも今のままじゃきつすぎる。
いつまでも人を頼ってばかりいられない。
最終的には自分の力で℃-uteとしてパフォーマンスできるまでにならなきゃいけない。

梨沙子は焦っていた。

季節は少しずつ移り変わり、夕焼けの方角から心地よい風が流れてきた。
梨沙子はそんなことはお構いなしに駅に急いだ。
280 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:08
しばらく歩いていいると急に風向きが変わったのを梨沙子は感じ取った。
ダンスのことで頭がいっぱいになっている梨沙子にとって、周囲に吹く風なんて全く気にならないはずだった。
なのにそれは驚くほど自然な感覚だった。
 
「りーちゃん」
 
振り返ると愛理がいた。
 
「愛理?どうしたの?」
 
梨沙子はびっくりして言う。
 
「やっぱ心配だから送っていく」
281 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:10
「はあ?いいよ。そんなの」
 
梨沙子はすぐにそう言った。
そうでなくても愛理はわざわざ学校をさぼって、梨沙子の練習につきあってくれたのだ。
 
「でもりーちゃん、今日練習しすぎて疲れてるでしょ。後ろから見てて何か危なそうだし」
 
「愛理、つけてきたの?」
 
愛理達と別れてから梨沙子はかなりの距離を歩いたと思う。
もし一緒に歩いていたら結構なおしゃべりができそうな時間だ。
 
「だって心配だったからさ」
 
愛理が不服そうに言ったので、梨沙子も少し言い方がきつかったかなと反省する。
282 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:10
「ありがと。でもあたしは本当に大丈夫だから。愛理こそ家でゆっくり休んでよ」
 
梨沙子は大丈夫を強調して言う。
 
「じゃあさ、りーちゃん家の近くにおすすめの抹茶屋さんがあるんだけど。そこにつきあってよ」
 
今日の愛理はそのままじゃ帰りそうにない。
 
「えー。あー。うん」
 
梨沙子は曖昧な返事をしてしまう。
283 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:12
愛理とはライバルだし、つきあいも長いから梨沙子も言いたいこともずけずけと言ってきたつもりだった。
梨沙子自身自己主張ははっきりしてる方で、ベリーズのメンバーにだってきちんと自分の意見を通すことのほうが多い。
でも愛理が強く言うことに対して言い返せないことがよくある。
それは雅に対しても全く同じだった。
愛理と雅は性格も受ける印象も全然違う。
なのに何で二人に対して同じ態度をとるのか梨沙子は自分でも不思議になる。
 
「でもあそこ、ここからだいぶ遠いよ」
 
愛理が言っている抹茶屋さんは、梨沙子の家の近所のいってもいいところにあった。
 
「いいからいいから。一応、℃-uteでは私のほうが先輩だからね」
 
愛理はそう言ってどんどん先に進んでしまう。
284 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:14
「ちょっと、愛理待って」
 
「りーちゃんの先輩なんて、ふー。カッコイイ」
 
梨沙子が追いつくと愛理は自分で言っておいて自分で笑った。
梨沙子は何がおかしいのか正直分からなったが、愛理の表情を見ていると、
自然と愛理の顔に重なり合うように笑ってしまった。
 
二人で並んで歩く正面に太陽がビルの谷間に落ちていくのが見えた。
あたりにはわずかに感じ取れるぐらいのさわやかな風が流れていた。
 
「もう、秋だね」
 
愛理がしみじみと言った。
285 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:15
でも梨沙子には季節の移り変わりをゆっくり感じる余裕はない。
もうすぐ℃-uteのコンサートツアー秋が始まる。
それまではどうしても曲の振り付けもマスターしておかなきゃいけない。

今隣にいる愛理は梨沙子のはるか前を走っている。
どうしたらライバルの愛理に追いつけるんだろう。
愛理と歩きながら梨沙子はそんなことばかり考えた。
 
「ねえ、一緒に帰るのって何かキッズのとき思い出すね」
 
ふいに愛理が言った。
梨沙子はまだ小学生だったキッズ時代にいつも愛理と一緒に帰っていたことを思い出した。
あのころの梨沙子は周囲が年上ばかりで、自信も経験もなくてみんなについていくことだけで一生懸命だった。

他のメンバーと一緒にいるときはいつも緊張してて、同い年の愛理といるときだけ唯一落ち着くことができた。
286 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:16
「楽しかったなあ。あのころも」
 
愛理はそんな昔を思い出すように言った。
確かに分からないことだらけで夢中だった分、あのころは今に比べて幸せだったのかもしれない。

誰かに負けたくないとか誰かをライバルだと思ったことなんてない。
でも、もうみんな成長してしまって歌もダンスも高いレベルを要求されるようになった。
もう昔には戻れないし戻ってはいけないんだと梨沙子は思う。

それにしても今の愛理はライブやミュージックビデオの映像の中の愛理と全然違う。
なんとなく柔らかくてふにゃりとしている感じだ。
 
「愛理ってさあ。歌ってるとき普段と全然違うよね」
 
梨沙子は愛理の顔をまじまじと見つめながら言った。
287 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:17
「あ、それよく学校の子とかにも言われる。なんか愛理じゃないって。
 怖く見えるのかな。いつもこんな感じだからなあ」
 
愛理はわざとがにまたに歩いて言った。
その動きがコミカルでかわいい。
 
「そんなことないよ」
 
梨沙子はそう言った後何か続けて何か言おうとするが、言葉が続かない。

愛理はすごくカッコイイと思う。
でも愛理とは子供のころからずっと一緒にいたぶん褒めたりすることが何か恥ずかしかった。
それは愛理も同じだと思う。

愛理はそんな梨沙子の様子を軽く見た後少し笑った。
288 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:19
二人の乗った地下鉄は地上に出てきてもまだ外は明るかった。
太陽が水平線ぎりぎりに鮮やかなオレンジ色を放ってきている。

窓から差し込む夕日が愛理の白い頬にあたって、くっきりとした顔の輪郭が映し出される。
大人びた愛理の顔に梨沙子はまるで不意をつかれたようにはっとなった。
愛理の顔は昔の幼い時のころとは、つくり自体はあまり変わらないのにイメージだけが全然違う。
すました顔で黙っているとまるで昔の神話の世界に出てくる美少女のようだった。
 
愛理は本当に梨沙子の家の最寄り駅までついてきた。
駅から出ると地元の人間でもないのに愛理は元気よく梨沙子を先導するように先を歩く。
289 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:21
「ここだよ。ここ」
 
愛理が指差した抹茶スイーツのお店は、梨沙子も帰り道に見かけたことのあるぐらい近所にあるお店だった。
 
「ここかあ」
 
梨沙子も少し感動して店の前に立った。
店のガラスショーウインドウに抹茶のクリームやタルト、抹茶のポテトなどがたくさん飾られていた。
 
「ここ、熊井ちゃんも連れてきたいね」
 
梨沙子はいつも抹茶のことばかり話している熊井ちゃんを思い出した。
 
「でしょ?でしょ?」
 
愛理は目を輝かせてショーウインドウの中のメニューを見ている。
二人は中に入ると抹茶のいい匂いが一気に漂ってきた。
290 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:23
「食べたいの。いっぱいあるね」
 
愛理は席についてもうきうきした表情でメニューを見ている。
 
「わあー。見て。抹茶の種類も選べる」
 
そのうち愛理は店のカウンターにある抹茶のジェラートを指差して言った。
抹茶ジェラートの濃さが選べるようになっていた。

梨沙子は愛理をこんな梨沙子の家の近くまでついてこらせてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
でも愛理の無邪気に喜ぶ姿を見て一緒に来てよかったと思った。
291 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:24
梨沙子は食べすぎとは思ったが、今日の練習がんばったから抹茶のあんみつと抹茶ジェラートを両方頼むことにした。
愛理も抹茶のチーズケーキと抹茶ジェラートを両方頼んでいた。
愛理は梨沙子と同じように食べるのが大好きなのに、どうやってこんなスレンダーな体形を維持してるんだろうと不思議に思う。
 
「いいなあ。愛理は食べても太りにくいからさ」
 
梨沙子は油断しているとすぐに人が見てもすぐ分かるぐらいに体重が増えてしまう。
でも愛理は成長するにつれて細くてスマートな体形になっていて、それが梨沙子はうらやましかった。
292 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:26
「そんなことないよ。私、すぐ太るんだけど」
 
「愛理、ずっとやせてるじゃん。太ってるの見たことないよ」
 
梨沙子がそう言うと愛理は自分の二の腕をつかんだ。
 
「食べたらすぐここに脂肪がつくの。しかも致命的なことにその後顔につくの。
 顔って隠せないじゃん?だから最悪なのさ」
 
それでも愛理はあまり悩んでいないようにのほほんと言った。
 
「でも舞美ちゃんなんて本当にやせてるよ。結構食べるのに全然太らないし」
 
愛理が舞美のことを話すときは何故だかうれしそうだ。
 
「舞美ちゃんてダンスもすごいし、優しいしカッコイイよね」
 
舞美は仕事から戻って、梨沙子のダンス練習にわざわざ戻ってきてくれたことを梨沙子は思い出す。
舞美はベリーズのキャプテンの佐紀とはタイプは全然違う。
だけど二人とも頼れるリーダーだと思った。
293 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:27
「でも舞美ちゃんておっかしいんだよ。この前も仕事終わりの集合場所にみんなの家の人が車で迎えに来てたの。
 そしたら舞美ちゃん、間違えて私の家の車に乗っちゃって、うちのお母さんに、舞美ちゃん車違うよとか言われてんの」
 
「それすごいね」
 
千奈美からは舞美が天然だという話は少し聞いてはいたが、それでも梨沙子は驚いた。

愛理はでしょうとばかりにうなずく。
愛理は舞美のことを話すときは、まるで舞美を思い出すように優しい笑顔になる。

梨沙子は愛理の表情にまだ自分が入っていけない℃-uteの絆のようなものを感じた。
294 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:29
「あたしが言うのもあれなんだけどさ。やっぱみんな成長して大人になったね」
 
梨沙子は言った。
℃-uteとはライブや仕事で一緒になるけど、実際に℃-uteのメンバーになって一日一緒にいるとキッズ時代との違いを感じてしまう。
そして梨沙子は今日の練習で℃-uteのダンスパフォーマンスのすごさを思い知った。
 
「なっきぃなんてさ。すごい大人っぽくなってダンスとか一瞬でカッコよく仕上げててさあ。
 何かなかさきちゃんって呼ばれてたころと全然違うね」
 
「そだね。なっきぃはさばさばしてて。何か男前な感じかなあ」
 
愛理は言った。
295 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:31
「でも千聖は逆に何か女の子っぽくなった。舞ちゃんはしっかりしててめちゃちゃ可愛くなってるし。
 舞美ちゃんは相変わらずきれいだし。なんか負けてらんないなって思うよ」
 
梨沙子がそう言って愛理もうなずいた。
 
「そうだね。いろいろあってみんな成長したなあ」
 
ただ梨沙子は今、目の前にいる愛理が一番実力的に限界がないと思う。
ベリーズでは雅がライブでいつものレベルをはるかに超えて会場と一体化して、
もうどこかにいってしまうんじゃないかってぐらいのものすごいパフォーマンスを見せることがある。

それは雅が普通の人とは違う歌手として特別なオーラみたいなものをもっているからだと梨沙子はずっと思っていた。
そして梨沙子は愛理にも同じ空気を感じていた。

この二人はボーノでも一緒だからきっとお互いに影響を受けあって成長しているんだと思う。
歌手という特別な才能がいる仕事をしながら、そんな天性の力みたいなものをもっている二人を梨沙子はうらやましく感じた。
296 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:35
愛理はお店を出た後も、梨沙子と二人で話しながら結局梨沙子の家の前までついてきてしまった。
 
「ついでにうち寄ってく?」
 
梨沙子はここまで来たら愛理は家に来るつもりできたんだと思って言った。
 
「ああ、今日はいいや。まだ仕事あるから」
 
「え?仕事あったの?」
 
梨沙子は驚いて言う。
てっきり愛理も暇だったから、こんな梨沙子の家の近くまで来たものだと思っていた。
297 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:36
「うん。本当は学校終わってから行く予定だったけど今からでもまだ全然間に合うから」
 
「だったらこんなとこまでつき合わせて悪かったじゃん」
 
梨沙子は申し訳なさそうに言った。
 
「全然。りーちゃんとあのお店行ってみたかったし」
 
愛理はそう言ってにやりと笑った。
愛理は通りに出て手をあげる。

ちょうど近くにいたタクシーが二人の目の前に止まった。
 
「じゃありーちゃん、またダンス頑張ろうね」
 
愛理はそう言うと素早くタクシーに乗り込んで、あっという間に去っていった。
298 :時風 梨沙子 :2012/08/09(木) 21:37
梨沙子はその様子をあっけにとられて見ていた。
あまりに早くて愛理にお礼を言う暇さえなかった。
愛理って行動が早いときと遅いときが極端だと梨沙子は思う。

横断歩道を渡るときは変な動きで異常に早いし、メイクや着替えなど普段の行動はすごく遅い。
会話のテンポはワンテンポ遅れてるし、やっぱ愛理は変わってる。

久しぶりに一日ずっと愛理と一緒だったから改めてそう思った。
299 :ES :2012/08/09(木) 21:38


今回の更新を終わります。
300 :時風 桃子 :2012/08/16(木) 21:27
「梨沙子、℃-uteのこと話さないっていうかさ。あんま教えてくれないんだよね。
 本当に大丈夫なのかなあ・・・」
 
雅が携帯をいじりながら言った。
桃子は梨沙子のことは心配だったがあえて連絡をとろうとはしなかった。

合流初日に℃-uteは梨沙子を大歓迎して迎えてくれたのは聞いていたし、
ベリーズの自分が連絡することで、かえって梨沙子が℃-uteに集中しようとしているのを邪魔するのが嫌だったのだ。
301 :時風 桃子 :2012/08/16(木) 21:28
でも雅の方は桃子とは全く逆で梨沙子がいなくなった瞬間から、
今度は梨沙子のことが気になってしょうがないみたいだった。
 
「梨沙子、本当にベリーズ以外のグループには入りたくないって言ってたから。合わないこととか多いかも」
 
「心配ないでしょ?だって℃-uteだよ。梨沙子と仲が悪いメンバーなんていないじゃん」
 
桃子はあきれて言う。
 
「そうだけどさ」
 
雅は何か言いたいのを抑えるように言った。
302 :時風 桃子 :2012/08/16(木) 21:29
桃子は直感的に感じた。
きっと雅は梨沙子が℃-uteで無理するのも心配だけど、
梨沙子が℃-uteになじんで帰ってこなくなるのがもっと心配なのだ。

今の雅は℃-uteにいく前の梨沙子にそっくりだ。
この二人を見ていると本当に似た者同士だなと桃子はつくづく感心する。
 
「心配しなくても℃-uteのライブツアー終わったらすぐ戻ってくるって」
 
梨沙子が雅のいるベリーズに戻ってこないなんてことはありえないと桃子は思う。
それでも雅はまだ梨沙子のことが気になっているみたいだ。
303 :時風 桃子 :2012/08/16(木) 21:31
「桃さあ、梨沙子がちゃんとやってるか℃-uteの練習こっそり見に行かない?」
 
「えー・・・」
 
桃子ははっきり言って反対だった。
こっそりと言っても見つからない保証はない。

それに梨沙子は今の時期に雅に会わないほうがいいと桃子は思う。
梨沙子は℃-uteとしてメンバーに認められなければならないのだ。
そんな時期に雅に会ったら梨沙子の気持ちが揺らいでしまう気がする。
それでなくとも℃-uteの並外れたダンスパフォーマンスについていくのは相当難しいに違いない。
304 :時風 桃子 :2012/08/16(木) 21:32
「そんなことしなくてもちゃんとやってるでしょ。
ていうかそんな心配だったら愛理にでも様子聞けばいいじゃん」
 
「でも実際見ないと分かんないじゃん。桃は梨沙子のこと心配じゃないの?」
 
そう言われると桃子も返す言葉がない。
 
「そりゃ心配だけど。梨沙子一人でやってるわけじゃないんだしさ」
 
「とにかく行こう。明日練習スタジオ知ってるから」
 
雅は維持でも行くつもりだ。
雅がこのモードに入ったら誰にも止められない。

普段は姉妹みたいに仲いいくせに、全くこの二人の不器用さといったら何なんだろうと桃子は思う。
305 :時風 桃子 :2012/08/16(木) 21:33



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306 :時風 桃子 :2012/08/16(木) 21:34
その日の夜、久しぶりに梨沙子から電話があった。
 
「はいはーい。みんなのアイドルももちでーす」
 
「あのさあ。桃、ダンスや歌で愛理に勝つためにはどうしたらいいと思う?」
 
桃子がいつものように電話に出ると、梨沙子は何の前置きもなくそう言った。
 
「え?愛理に?」
 
梨沙子は、愛理の歌やダンスがすごいことをマシンガンのようにしゃべった。
そして自分も絶対に負けたくないと言った。
307 :時風 桃子 :2012/08/16(木) 21:35
「いきなりそんなの無理と思うけど」
 
これまでも桃子は梨沙子の愛理に対するライバル意識はひしひしと感じてきた。
愛理は梨沙子と同い年で経験年数も全く同じだから、梨沙子がライバル視するのも無理はない。

ただ愛理は歌唱力もダンスも抜群の℃-uteのエースだ。
さらに℃-uteという愛理のフィールドに梨沙子が入っていってすぐに愛理に勝てるはずがない。
多分それは桃子が入ってもベリーズの他のメンバーが入っていても同じことだ。

たった一人、夏焼雅という天才を除いては。
308 :時風 桃子 :2012/08/16(木) 21:36
「梨沙子は梨沙子らしくすればいいんじゃないの?」
 
梨沙子はベリーズみたいな自由な環境があっていると桃子は思う。
だから℃-uteでも同じように自由に梨沙子らしさを出していけばいいと思う。
 
「そうだけどさ。やっぱあたしはベリーズの代表として℃-uteにいるようなもんじゃない?
そんなあたしが情けない姿は見せられないっていうか・・」
 
梨沙子は言った。
 
「ベリーズの代表・・・」
 
桃子もそれだけ言って押し黙る。
309 :時風 桃子 :2012/08/16(木) 21:37
梨沙子は本当に変なところが真面目だ。
今のベリーズメンバーは誰もベリーズの看板背負ってるなんて意識してない。
むしろそんなもの気にせずに勝手気ままにやってる。
なんだか最年少の梨沙子がベリーズの看板なんて背負って、別グループにもがいてるなんて少し可愛そうな気もした。
 
「まあそれは練習しかないと思うけど」
 
桃子は低く答えた。
 
「だよねー」
 
梨沙子はため息をつくみたいに言った。
310 :時風 桃子 :2012/08/16(木) 21:39
「愛理も思ったより協力してくれそうだし。もうちょっと頑張ってみようかな」
 
梨沙子がそう言って桃子は正直ほっとした。
愛理と梨沙子の仲も桃子は気になっていたのだ。
桃子はそこで今日のみやとの会話を思い出した。
 
「それより梨沙子、みやにもちゃんと相談してる?」
 
「うーん。みやにはあんまり℃-uteのことは相談してない」
 
みやの言ったとおりだった。
 
「何で?」
 
「だって℃-uteで頑張ってるみたいなこと、みやに言いたくないし」
 
梨沙子の言葉に桃子は苦笑した。
311 :時風 桃子 :2012/08/16(木) 21:39
この子は本当に素直なんだか意固地なのか分からない。
でも桃子はつくづく梨沙子は本当にみやのことが好きなんだなと思う。
 
「別にそんなこと気にする必要ないじゃん。梨沙子が今頑張ってやってることなんだから」
 
桃子は少し笑って言う。
 
「そうだけどさあ」
 
梨沙子は電話口でくぐもった声を出した。
312 :時風 桃子 :2012/08/16(木) 21:41
よくも悪くも結局梨沙子の頭の中は100%雅なのだ。
その思いが純粋すぎて梨沙子は自分自身を狭い場所に閉じ込めているみたいだった。

その窮屈さから桃子は、時々梨沙子は持っている実力の半分も出していないんじゃないかと思うことがある。
梨沙子は雅みたいな舞台にマイク一本もって立てば場を一変させるオーラをもってる天性の歌手ではない。

でも梨沙子は歌うための姿勢が誰よりも整っているのだ。
毎日休むことなく、他の歌手の歌い方や表情を自然と研究していてそれを少しずつ吸収しては自分のものにしている。
313 :時風 桃子 :2012/08/16(木) 21:43
梨沙子を見ているとまるで歌うために生きているような錯覚をおぼえる。
梨沙子が雅をいくら慕ってもいいと思う。

でも梨沙子の中に雅でも入れないような世界が1%でもあったなら、梨沙子の力は雅を超えるかもしれない。
ただその1%を何にしたらいいのか桃子も分からない。

梨沙子も分からないからこそもがいているのだと思った。
 
「気が向いたらでいいからさ。変なこと意識しないでみやにもちゃんと相談しなよ」
 
電話を切る間際桃子は言った。
 
「うん。分かってる」
 
梨沙子はそう言った。
314 :ES :2012/08/16(木) 21:43



今回の更新を終わります。
315 :時風 梨沙子 :2012/08/23(木) 21:46
℃-uteライブの初日となる名古屋公演がいよいよ一週間前に迫ってきていた。
あれから梨沙子は自宅練習とスタジオでの自主練習を繰り返した。
しかし梨沙子は℃-uteの曲の半分さえ自分のものにしきれていない。
℃-uteの曲は全員の動きが完璧にあう瞬間を見せ場にもってきている。
梨沙子はそこが一番苦手だったため、曲全体にいまいち乗り切れないのだ。

ここに来てまた新しい壁にぶつかるなんて、梨沙子は考えてもいなかった。
316 :時風 梨沙子 :2012/08/23(木) 21:47
このままじゃBerryz工房の一員として恥ずかしい。
℃-uteの全体練習で梨沙子はスタジオで、鏡に映る自分の姿を見つめながらため息をついた。
個人練習ではタイミングがずれてくるのを補正できていなかった。
 
「全員で練習する時間を増やしてもらおう」
 
リーダーの舞美がそう言ってくれて全体練習の時間が大幅に増えた。
愛理たちは何も言わなかったが梨沙子は自分のせいで、
いつもの℃-uteの練習パターンを崩してるんだろうなとうすうす感じていた。
317 :時風 梨沙子 :2012/08/23(木) 21:48
「梨沙子、そこかがむ前にワンテンポおいたらいいんじゃないかな」
 
みんなの動きを必死に真似していたら、早貴がそばによってきて言ってくれた。
 
「そっか。ワンテンポを置いて・・1,2、3,4・・・」
 
梨沙子はさっそく早貴の言ったとおりにしてみる。
早貴も梨沙子にあわせて踊ってくれた。
するとなかなかできなかった動きが梨沙子の頭の中にすっと入ってくる。
 
「そう。できるじゃん」
 
早貴の言ったとおりにタイミングをはかったら今度はうまくできた。
 
「OK!梨沙子、いいじゃん」
 
千聖がそう言って駆け寄ってきてくれた。
318 :時風 梨沙子 :2012/08/23(木) 21:49
梨沙子は早貴が教えてくれた部分だけでもみんなにあわせることができてほっとしたが、
これも数ある℃-uteの曲のそのまた一部分にすぎない。
 
「じゃあもう一回みんなで合わせてみようよ」
 
舞美が汗だくの顔で言った。

さっきから全員で梨沙子のために同じところを繰り返しやっている。
全体練習までいけてない曲すらあった。

梨沙子は焦りの気持ちでいっぱいになる。
このままじゃ個人練習ででいくら頑張っても℃-uteのダンスに合わせられるようにはならない。
319 :時風 梨沙子 :2012/08/23(木) 21:50
梨沙子は少しずつ進歩はしていたものの練習の終了時間になってもまだ完成にはほど遠かった。
 
「ライブまで時間ないしさ、今日スケジュールあいてるならみんなで徹底的にやったほうがよくない?
 梨沙子もせっかくあってきてるんだしさ」
 
舞が言った。

梨沙子はベリーズでは全体練習の延長なんて経験したことがなかったから少し驚いた。
確かに梨沙子がライブができるレベルまでもっていくには、みんなと一緒に練習する時間が圧倒的に足りなかった。
320 :時風 梨沙子 :2012/08/23(木) 21:51
「そうだね。マネージャーさんと相談してみるよ」
 
舞美があっさりとそう言ってくれて、できるところまで結局練習を延長することになった。
 
「菅谷さんだけ、そこのタイミングの取り方が違う」
 
途中でダンスの先生も時間をみつけては梨沙子のダンスを見てくれた。
℃-uteのダンスの細かい動きに梨沙子は根をあげそうになったが、
みんなが繰り返し一緒にやってくれたおかげで一曲一曲完成させていく。

ただ梨沙子の仕上がりはもう絶望的なぐらい遅いスピードだった。
321 :時風 梨沙子 :2012/08/23(木) 21:52
練習はさらに延長になり、千聖と早貴が次の仕事の時間になり練習を抜けた。
千聖は撮影の仕事が入っていたし、早貴はラジオ番組の収録があった。 
  
「梨沙子ごめん。そろそろ行かなきゃだわ」
 
申し訳なさそうに言う千聖に梨沙子は首をふって見送る。
322 :時風 梨沙子 :2012/08/23(木) 21:54
梨沙子は残った舞美、愛理、舞とで練習をさらに続けた。
ライバルチームの℃-uteに助けられるなんて梨沙子のプライドが許さない。

これでも活動歴の長いアイドルのはずなのに。
そして何よりBerryz工房の代表としてここにいるはずなのに。
梨沙子はみんなの足を引っ張って情けないという気持ちでいっぱいだった。
 
梨沙子は焦りと緊張だけで無我夢中で踊っているという感じだった。
四人ともくたくただった。
愛理なんかはもう完璧にできているのに黙々と梨沙子と踊り続けている。

それを見て急に梨沙子の手足が止まってしまった。
こんな状態じゃとても愛理に勝つどころじゃない。
一気に疲労感と焦りが胃の中からこみ上げてきた。
323 :時風 梨沙子 :2012/08/23(木) 21:55
「ちょっと休憩しようか」
 
そのとき舞美が言った。
ふっとそれまでの重苦しい空気が途切れた気がして楽になった。
四人は集まって座り込んだ。

梨沙子は上を向いて大きく息をついた。
天井がぐるぐる回っている気がする。
 
「ねえ、梨沙子がいると何かキッズのときのこと思い出して懐かしいね」
 
舞美が疲れなんてまるで関係ないように笑って言った。
あっけらかんとした舞美の言葉に梨沙子は救われたような気分になる。
324 :時風 梨沙子 :2012/08/23(木) 21:56
「そうそう私もそう思った」
 
愛理もうなずく。
舞美からキッズ時代の話題が出るなんて思ってもみなかった。
それでも梨沙子も遠い昔のことを思い出した。
 
「あのころから二人は優等生だったけどさ。うちと梨沙子は大変だったよね」
 
舞が梨沙子を見て言った。
 
「だいたい、キッズでさ。ダンスレッスンで残されてるのはこの二人だったね。
 それでスタッフさんとか先生の文句とか悪口散々言ってたよね」
 
舞が言った。
 
「あった。あった」
 
梨沙子は思わずうなずいた。
325 :時風 梨沙子 :2012/08/23(木) 21:56
梨沙子は舞と二人でよく怒られていたことを思い出した。
あのころはアイドルの卵のくせして人の悪口も言ったりして喧嘩ばかりしていた。
舞は「小学生でこの仕事まじきつくね?」とか愚痴を言ったりして、
年下には思えないはっきりしたことを言う性格でおもしろかった。
 
「覚えてるかなあ。梨沙子。私、梨沙子と初めて会ったときのこと今でも覚えてるんだ」
 
ふいに舞美が言った。
326 :時風 梨沙子 :2012/08/23(木) 21:58
「キッズで集まったときね。すごい可愛らしい子がいるなあと思ってずっと見てたら、
 私の前にとことこ歩いてきて目の前にちょこんと座ったの。それでね私に口紅ぬらせてって言ってきたの」
 
「えー?全然覚えてない」
 
梨沙子は舞美がものすごく昔のことを言うから恥ずかしかった。
梨沙子は舞美と今までそんなに接点はなかったと思っていた。
でも本人が覚えていないぐらい前の梨沙子のことを舞美が知っていることがとても不思議だった。
 
「でもね、私恥ずかしかったから断っちゃったの。そしたら後で親に唇ぐらいぬらせてあげなさいよって言われた」
 
舞美は笑いながら言った。
327 :時風 梨沙子 :2012/08/23(木) 21:59
「でも普通困るよね。突然そんなこと言われたら」
 
梨沙子の言葉に舞美は首をふった。
 
「でも、私あのときなんでぬらせてあげなかったんだろってずっと思ってたよ。
 だって梨沙子はオシャレさんだからさ。きっとあんなちっちゃいころから口紅とか興味あったんだと思う。
 でもまだ小さいし自分じゃぬれないから、せっかく私を頼って言ってきてくれたのに」
 
舞美は本当に悔しそうに言った。
梨沙子はそんな舞美の表情を見て心底優しい人だと思う。

何というか普通の人が優しいというレベルの一つ上をいくような温かい人なんだと思った。
328 :時風 梨沙子 :2012/08/23(木) 22:00
「お待たせー!」
 
「みんな、お疲れ」
 
そのとき、一際大きな声がドアから聞こえた。
千聖と早貴が戻ってきたのだ。
梨沙子は二人はもう仕事に行ったままてっきり戻ってこないと思っていたからびっくりした。

再び、梨沙子、舞美、早貴、愛理、千聖、舞の6人がそろった。
 
「じゃあラストスパートで頑張ろうか!」
 
みんなで掛け声をかけて練習を再開した。
329 :時風 梨沙子 :2012/08/23(木) 22:02
梨沙子はもう夢中でやった。
この6人でやれる練習時間はもうほとんどない。
一分だって無駄にはできなかった。
それでもまた梨沙子の前には細かいダンスの動きという壁が立ちふさがる。

みんなで確認しあいながら何度も動きの確認をした。
そのうち梨沙子は焦る気持ちとは別の感覚が沸いてきていた。
自分は今、一体どんな気持ちでライブの望もうとしているのかというだ。

まだ曲も全然完成してないしやり遂げる自信なんて全然ないのに、
梨沙子はこの6人でとにかくライブがしたくてしょうがなくなった。

ベリーズのメンバーとして恥ずかしいパフォーマンスはできない。
そんなことばかり思い続けてきた今までの自分は何か間違っている。
梨沙子はそんな気持ちを強く抱いた。
330 :時風 梨沙子 :2012/08/23(木) 22:04
夕方になり、日もとっぷりと暮れてスタジオの使用時間が終わった。
 
「ねえ、みんなでご飯食べて帰ろうよ」
 
愛理が明るい声で言った。
 
「いいね。そうしよっか」
 
みんなが口々に言う。
 
「りーちゃん、ブログに載せるから私とツーショットで写真取らせて」
 
そして愛理が梨沙子のところへ駆け寄ってきた。
 
「うん。いいよ」
 
梨沙子は愛理に答えた後、そっとみんなの前に進み出た。
 
「みんな、迷惑かけて本当にごめんなさい」
 
梨沙子は頭を下げて謝った。

梨沙子が言った言葉で一瞬周囲が静かになった。
331 :ES :2012/08/23(木) 22:04



今回の更新を終わります。
332 :sage :2012/08/23(木) 23:46
いつも楽しく読ませていただいてます(*´∇`)

りーちゃんが℃-uteに入るとか現実離れしつつ、リアルなエピソードが描かれていたりして、ベリキュー愛に包まれたお話だなぁって、いつも癒されてます(*´∇`)
333 :名無飼育さん :2012/08/30(木) 16:31
更新を毎週心待ちにしています
334 :ES :2012/08/30(木) 16:47
>>332
そう言っていただけるのが、何よりも励みになります!
ありがとうございます!
>>333
レスありがとうございます!来週より更新曜日変更しますが、
また毎週やってますのでどうぞよろしくお願いします。
335 :時風 桃子 :2012/08/30(木) 17:06
雅は梨沙子が謝った瞬間に突然℃-uteが練習しているスタジオ横の部屋から飛び出していた。
 
「ちょっとみや!」
 
桃子は急いで追いかけた。
桃子も雅も℃-uteのレッスンルームに来たばかりだったから、何で梨沙子が℃-uteメンバー全員に謝ったのか何が何だか分からなかった。
 
「桃、絶対やろうよ」
 
雅が決意したように言った。
336 :時風 桃子 :2012/08/30(木) 17:07
「はあ?何を?」
 
桃子には雅が何をやるのか何であそこを飛び出したかも分からない。
 
「決まってんじゃん。梨沙子を取り返すの!」
 
雅は強い口調で言った。
 
「えー!?だってライブはもう来週だよ」
 
桃子は驚いて言った。
いくらなんでもライブ直前で連れ戻すなんて強引過ぎる。
337 :時風 桃子 :2012/08/30(木) 17:08
「だって梨沙子かわいそうじゃん。あんなに一生懸命練習してるのにさ。
 謝んなきゃいけない理由なんてないと思う。やっぱ梨沙子はベリーズにいなきゃいけないんだよ」
 
雅は前後の成り行きなんて全く見てないくせに言う。
でもこの口調の雅は何を言っても収拾がつかない。
特に梨沙子に関することになるとなおさらだ。
 
「でもどうやって?つんくさんに頼みにいくの?」
 
桃子は言った。

梨沙子の期間限定の℃-ute入りはもう動き出したことで、
今さら自分達が何を言ってもどうしようもない気がする。

でも雅は首をふった。
338 :時風 桃子 :2012/08/30(木) 17:10
「うちらからリベンジ企画をやりたいって提案してみるの。
 それでうちらが勝ったら梨沙子を取り返せるってことにするの。
 時期的には来週の名古屋ライブが終わってからでもいいし」
 
雅の言葉に桃子はうーんとうなずく。
確かに℃-uteライブは来週の名古屋から次のライブまでスケジュール的に少し期間があいている。
雅の言うとおりそれなら実現するかもしれない。
こういうときの雅の頭の回転の速さには本当に感心する。
 
「でもさあ。梨沙子の気持ちもはっきり聞いたわけじゃないし」
 
少なくとも桃子の聞いた範囲では、梨沙子はベリーズの代表として頑張るとは言ってたけど帰りたいとは一言も言ってない。
339 :時風 桃子 :2012/08/30(木) 17:11
「梨沙子だって帰ってきたいに決まってんじゃん。
 梨沙子、ベリーズは第二の家族だって言ってたんだよ。
 それに℃-uteのライブは名古屋で完全燃焼してもらったらそれでいいんじゃない?」
 
雅と梨沙子の絆の深さを知っているだけに雅が梨沙子のことを話すとまるで梨沙子の気持ちを代弁してるような感じる。
それにベリーズのリベンジ企画は、そもそも梨沙子がやってと頼むよりもベリーズの残り6人が、
梨沙子に帰ってきてほしいと立ち上げるほうが自然だと桃子自身も思う。
 
「ね?いい作戦でしょ?」
 
雅はもうやる気満々だ。
340 :時風 桃子 :2012/08/30(木) 17:12
「でも・・・」
 
桃子はそれでもこの雅の提案には躊躇してしまう。
桃子自身も梨沙子にベリーズにいてほしいと思っているし、
他の5人ももちろんそうだろうと思う。

でもどんなに他のメンバーが帰ってきてほしいと思ったとしても、
やっぱり梨沙子の気持ちの方を大事にしたいと桃子は思う。
ベリーズの一員として梨沙子のチームメイトとしてそれは間違っているのかもしれない。
けど、やっぱり梨沙子のやりたいようにやらせてあげたい。
桃子は強くそう思っていた。
341 :時風 桃子 :2012/08/30(木) 17:13



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342 :時風 梨沙子 :2012/08/30(木) 17:14
「梨沙子、そんなこと気にしなくっていいって」
 
千聖が最初にそう言ってくれた。 
一瞬、沈黙した空気が千聖の言葉で軽くなった。
 
「そうだよ。初めて入ってきたんだからしょうがないって。舞だってベリーズにいきなり入ったら全然できないと思うし」
 
舞が千聖の言葉に重ねて言った。
二人の言葉が梨沙子の心の中に染みるように入ってきてうれしい。
 
「ありがと。今のあたし全然ダメだけど。でもね。あたしどうしてもみんなのダンスに合わせて踊りたいの。
みんなとライブがやりたい」
 
梨沙子は正直に今の気持ちを言った。
343 :時風 梨沙子 :2012/08/30(木) 17:15
「だったら何の問題もないんじゃない。梨沙子一緒にライブやろうよ」
 
早貴が言った。
 
「そうだよ。みんなで頑張ろう」
 
舞美がまるで天使みたいに優しく微笑んで言う。
あれこれ悩んでてもしょうがない。
とにかく自分のベストにもっていけばいい。
梨沙子はそのとき、自分のすべきことが分かったような気がした。
344 :時風 梨沙子 :2012/08/30(木) 17:16
翌日、梨沙子は朝から走りこみをしていた。
たとえ踊れるようになっても、体力がついていかなきゃ意味がない。
梨沙子が℃-uteのダンスについていけなくなる理由の一つとしてスタミナ切れの問題があった。
体力がなくなるとどうしても集中力も維持できなくなる。
結果、みんなの動きについていけなくなるのだ。
一週間でどれほど効果があがるのか分からない。
けどとにかくライブでは今の自分の持っている力を出し切って完全燃焼したかった。
 

夏の終わりのさわやかな風が梨沙子の横を通り過ぎていく。
梨沙子は自分なりのベストを尽くすことだけ考えていればいいとすっきりとした気分でいた。

ただ一つ気がかりだったのは愛理のことだった。
345 :時風 梨沙子 :2012/08/30(木) 17:18
昨日一緒に練習してるときは元気だったのに、あの後みんなでご飯を行ったときから何か落ち込んだ様子になっていて、
梨沙子ともあまり目を合わせてくれなかった。

学校の勉強もある愛理はスケジュール的に一番厳しいはずだし、
自分のせいで無理させすぎてしまったかもしれないと梨沙子は反省した。
 
梨沙子は愛理に「ごめんね」とメールしたけど愛理からは返信はなかった。
でも一生懸命ベストを尽くせば愛理だってきっと認めてくれると梨沙子は思う。
346 :時風 梨沙子 :2012/08/30(木) 17:19
愛理はスタジオでずっと練習につきあってくれて自分を心配して家まで送ってくれた。
だから今度は自分のパフォーマンスでそれに応えたい。
梨沙子自身疲労はかなり蓄積していたが、昨日℃-uteのみんなが励ましてくれた。

とにかくやるべきことを最後までやり遂げたいとやる気だけは十分だった。
 

梨沙子がジョギングから戻ると何か家の中の様子が変だった。
リビングからどっかで聞いたことのある声がしている。
その声は早口でもないのに聞き取りづらい。

でもずっと昔から聞いてる口調だ。
慣れてるから梨沙子にだけは何を言っているのか分かる。
347 :時風 梨沙子 :2012/08/30(木) 17:20
「愛理!?」
 
ドアを開けてびっくりした。
愛理がパパとママとまるでうちの子みたいにテーブルに座っていた。
 
「やほ」
 
愛理が梨沙子に向けて軽く手をあげた。
 
「朝から精がでますねぇ」
 
愛理はにっと笑いながら手を交互にふって走る動作をした。
 
「愛理?何してんの?」
 
梨沙子はまだ驚きを隠せない。
348 :時風 梨沙子 :2012/08/30(木) 17:21
確か愛理は今日、学校だったはずだ。
しかも昨日の遅くまで練習して相当疲れがたまっているはずだ。
そして梨沙子の家は都心から離れてるし、愛理がこの時間に梨沙子の家にいるということはどれだけ早い時間に愛理は家をでたんだろうと思う。
 
「愛理ちゃんが抹茶のお菓子もってきてくれたの」
 
何の事情も知らないママは、梨沙子に菓子折りを見せてまるで学校の友達でも来たかのようにのんびりとした口調で言った。
 
「愛理、ちょっといい?」
 
梨沙子は手招きして愛理と一緒に廊下に出る。
349 :時風 梨沙子 :2012/08/30(木) 17:22
「愛理、一体どうしたの?学校は?」
 
追求するように梨沙子は言った。
 
「さぼり」
 
愛理が可愛らしく言う。
 
「まさか、こんな時に遊びに来たとか言わないよね?」
 
梨沙子がわざとすごんで言う。
言いながら愛理がうちに遊びに来るなんて何年ぶりだろうと梨沙子は思う。
キッズの時代はよく親と一緒にお互いの家に行って遊んでいた。
350 :時風 梨沙子 :2012/08/30(木) 17:25
「遊びたいけど、今日はりーちゃんと一緒にダンスの練習しようと思って。
 だって二人でやったほうが振りのタイミングとか合わせられるでしょ」
 
愛理が腰を回してコミカルな動きをしながら言った。
℃-uteのダンスには当然そんな動きはなく、梨沙子はついおもしろくて笑ってしまう。

今じゃ大人になって℃-uteのエースなのに、愛理のそんな姿を見ると小学生のときと何も変わらないなと思う。
 
「でも愛理大丈夫なの?昨日の練習だってあたしが足ひっぱちゃって大変だったし。疲れてるでしょ?」
 
梨沙子は心配そうに言う。
 
「大丈夫。疲れてるのはりーちゃんだって同じじゃん。やろうよ。一緒に」
 
愛理の透明な笑顔を見るとうなずくしかなかった。
351 :ES :2012/08/30(木) 17:28
今回の更新を終わります。
来週から日曜更新(9月9日)に変わります。
352 :名無飼育さん :2012/08/30(木) 17:31
リアルタイムで読めた!来週も読みに来ます!
353 :ES :2012/09/09(日) 20:03
>>352
リアルタイムで読んでいただけるとは嬉しい限りです!
今後ともよろしくです。
354 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:20
梨沙子は一人で練習するはずだった自室に愛理を通した。
梨沙子はいったんシャワーを浴びた後、再び梨沙子が自分の部屋に入ると
愛理はすでにTシャツ姿に着替えていた。
そしてあぐらをかいて手元のライブのセットリストと睨めっこしている。

その強くて真剣な眼を見ると昨日の愛理のあの落ち込みようは何だったんだろうと不思議に思う。
でもこうやって梨沙子の家まで来てくれたんだから、もう何も心配はいらないのかもしれない。
355 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:21
「お待たせ」
 
梨沙子が言うと「じゃやろう」と愛理はすぐに立ち上がって言った。
 
CDから曲が静かに流れ始める。
練習用においてある大きな鏡の前に二人が立った。
愛理と二人で振り付けを合わせるのは、前に合同ライブで「VERY BEAUTY」を一緒に歌って以来だと梨沙子は思った。

鏡に映る二人はあのときとは体格だって全然違う。
愛理の流れるようなダンスは緻密で正確そのものだった。
356 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:23
「そこの動き、もう一回」
 
梨沙子は必死に愛理の動きを目に焼き付けようとした。
 
「OK」
 
梨沙子も愛理も曲に入り込んでいくと二人とも必要なこと以外は何もしゃべらなかった。
梨沙子は愛理の表情を見ながらこの曲はどんな感情で歌ったらいいのか、
どんな動きをしたらいいのか確認していく。

愛理は完璧なプロのダンサーだった。
洗練されて正確そのものだけど動きにキレがあって見ているだけで圧倒されそうになる。
梨沙子も表現力では負けてられないという気持ちで愛理のダンスに合わせていった。
357 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:24
「じゃ、次の曲、行くね」
 
「うん」
 
梨沙子が応えた瞬間、愛理のかすかな歌声が聞こえ始める。
 
「Say YEAH! 風がそよぎ 心がみなぎる」
 
「偉大な力を!」の最初の歌い出しだった。
透き通るように流れる歌だった。
愛理の歌は梨沙子の心の奥底まではっきり届く。

愛理の歌があまりにも透明なせいで梨沙子は、引きずり込まれるように歌の中に入っていった。
358 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:25
二人は淡々と次の曲へむさぼるように進んでいく。
今までの練習の何倍ものペースで進んでいるような気がする。
愛理が曲にどっぷりと入り込んでいるから梨沙子も心置きなく自分の世界の中で踊った。

目印になるのは流れてくる曲と愛理の表情だけだ。
あふれるように構築されている梨沙子の世界の中で、外界と唯一つながっているのは
CDから流れてくる曲と愛理だけだった。

何時間一緒に踊っただろうか。
それでも二人とも自分からは絶対にやめようとは言わない。
359 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:27
お昼もかなり過ぎたところで通しで最後までいってしまった。
終わったとたん梨沙子も愛理もその場に倒れこんだ。
 
「りーちゃん、すごい集中力だね。そんな一面があるなんて知らなかった」
 
愛理は息も絶え絶えに言う。
 
「そっちこそ、全然やめようとしないんだもん」
 
「え?そうなの?」
 
愛理は目を丸くする。
 
「りーちゃんがやめようとしないんだと思ってた」
 
「あたしは愛理が続けるから止めちゃいけないと思ったよ」
 
二人でそう言って二人で笑った。
360 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:28
梨沙子の中で℃-uteにも愛理にも絶対に負けたくないという気持ちが次第に薄れていた。

愛理は何も変わってない。

そして℃-uteのメンバーとの関係だって、キッズのときから何一つ変わってないのに
自分だけが変な対抗意識を持っていたと梨沙子は心底思う。
その感覚はまるで梨沙子の心にずしりと重くのしかかっていたプレッシャーが、徐々に傷口がふさがるように軽くなっていくみたいだった。
361 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:30
「何か懐かしいな。りーちゃんの部屋」
 
愛理が梨沙子の部屋を見渡して言った。

梨沙子の部屋には小学生のときから友達やベリーズのみんなや雅とツーショットの写真などがたくさん並べられている。
愛理と一緒に写っている写真はそれこそ小学校のときから最近とったのまである。
 
「あ、℃-uteの写真もあるね」
 
愛理は梨沙子が初めて℃-uteに入ったときにみんなで撮った写真を見つけて言った。
梨沙子を中心にそのすぐ横に愛理、後ろに舞美と早貴、千聖、舞が並んでいた。
362 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:31
「いっぱいとって入りきらないからアルバムに入ってるのもあるんだ。すっごい昔の写真もあるよ」
 
梨沙子は机の本棚から赤いアルバムを取り出した。
そして梨沙子が一番古いページを開いたときに一枚のはがきが間からこぼれ落ちた。
 
「あ、これ」
 
梨沙子が笑いながら拾う。
宛名にはいかにも子供が書いたというようなへなへな文字で「すがやりさこさま」とある。
 
「何、これ?」
 
愛理も傍によってはがきを見た。

梨沙子がはがきの裏をひっくり返すとひらがなの
「あけましておめでとう。ことしもなかよくしてね」
の横にかわいらしい女の子の絵が描かれていた。

そして最後に差出人の名前だけが漢字で「鈴木愛理」とあった。
363 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:32
「これ、愛理からきた年賀状だよ」
 
梨沙子は言った。
 
「これ、いつの?」
 
愛理が目を丸くして言う。
 
「小学2年ぐらいのときかなあ」
 
はがきのくすんだ色が年代を思わせた。
 
「ここまでくるとほぼ幼馴染だよね」
 
愛理は自分が出した年賀状を見つめて感心したように言う。
 
「仕事で知り合ったのに幼馴染っていうのもある意味すごいよね」
364 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:35
梨沙子は改めて思う。
愛理は学校が同じだったわけでも家が近所だったわけでもない。
ただ同じように歌手を目指して、同じオーディションで出会ったのだ。

そして、考えてみれば梨沙子の人生のほとんどに愛理は存在した。そして今の自分が覚えてないぐらい昔から、
愛理のことを考えたり年賀状のやりとりをしたりして一緒に遊んだりしていたのだ。
 
「大人になったよね。お互い」
 
すらりとした愛理の姿を改めてみると梨沙子は実感する。
 
「そりゃそうさ。だってもう先輩より後輩のほうがずっと多いんだもん」
 
愛理は言った。

ベリーズと℃-uteはほとんど変わらない中で他のグループは卒業と加入がどんどん繰り返されていた。
新しいメンバーが増えるにつれそれだけベリーズも℃-uteも先輩になっていく。
梨沙子もモベキマスのイベントで他のハローのメンバーに会って、敬語で話されたりすると特にそれを感じるようになった。
365 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:37
「先輩と後輩の関係ってどんなのなんだろうね。
 うちらって先輩も後輩も別グループにしかいないからよくわからないじゃん」
 
梨沙子は言った。
ベリーズと℃-uteは年齢もバラバラなくせに全員が同期だから上下関係も先輩も後輩もない。
梨沙子はモーニングのメンバーが年下の先輩にもきちんと敬語を使って話している姿をみると、
自分たちとの違いをものすごく感じていた。
 
「そうだね。後輩っていっても自分のグループの後輩と他のグループの後輩はまた違うしね」
 
愛理も言う。
 
「モーニング娘。って歴史が長いからきっと先輩から後輩に受け継いでいくものがあるんだろうな。
うちらってそういうのないからね」
 
梨沙子は自分たちにはない伝統をもつモーニング娘。を少しうらやましく思うこともある。
366 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:38
「あ、そうだ。でも私ね。愛ちゃんから託されたことがあるんだ」
 
ふいに愛理が梨沙子を見つめて言った。
 
「愛ちゃんから?」
 
入った当初、梨沙子にとってモーニング娘。の先輩はみんな怖いというイメージだった。
でも5期の高橋愛がリーダーになってからはそのイメージがなくなった。

愛ちゃんは歌やダンスは神がかりなぐらいうまいけど、性格的には田舎から出てきた純朴さみたいなのを残していて、
よく梨沙子にも気さくに話しかけてくれた。

愛理は自分を「タカハシスターズ」だとか言って何かつけ愛ちゃんを尊敬している。
梨沙子にもその気持ちはよくわかった。
367 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:40
「歌はファンのみんなとかさ。きっと誰かのために歌うものだから。
 それを伝えていってほしいって愛ちゃんに託されたんだ」
 
愛理は言った。
 
「誰かのために?」
 
梨沙子の言葉に愛理は大きくうなずく。
「歌の世界って言ってもやっぱ競争だからさ。意識してなくても自然と自分が自分がってなっちゃうと思うのよ。
 でも愛ちゃんは違う。モーニング娘。っていうすごい上下関係も厳しいし競争も激しいグループで、いつも自分より他のメンバーを優先してきた人だと思う。
 そして自分のためじゃなくてファンの人とか他のメンバーを勇気づけるために歌ってきたと思うんだ」
 
愛理は真剣な眼差しで梨沙子を見ていた。
368 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:42
「きっと誰かのために」愛理の言葉が梨沙子の心の中で何度も繰り返されるようだった。
 
「本当はがきさんとかさゆやれいなにに託さなきゃいけないんだろうけど。
あの三人は自分がリーダーの間ずっと自分を支えてくれた人だから。
好きなようにやってほしいからって愛ちゃん言ってた。それがすごい愛ちゃんらしかったなあ」
 
愛理はしみじみと言った。

やっぱ愛理はすごいなと梨沙子は素直に思った。
梨沙子はそんなことを意識して歌を歌ったことはなかった。
ただ、他のメンバーやアーティストの歌う姿を見てはどんなふうに見せたいかどんなふうに歌ったらいいのかそればかり考えてきた。
愛理へのライバル意識もそれと同じレベルのものだったと思う。
369 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:44
「愛ちゃんの歌声がすっごくきれいで透明なのはきっとそのせいなんだと思う。
だから私も絶対そんなふうになりたいって思ったんだ」
 
強く言葉を発した愛理の視線は梨沙子を突き抜けて、ずっと先の未来を見ているようだった。
これだけ長いつきあいなのに梨沙子はまだ愛理の一部分しか分かってなかったのかもしれない。

メールの返信が遅いとかみやをとられるとかそんなことで腹が立っていた自分が小さく思えた。
 
「そっか。だからか」
 
梨沙子はぽつりと言った。
 
「何が?」
 
「さっき「偉大な力を」の曲合わせるとき、最初愛理が歌ってくれたでしょ。
すごい透明できれいだった。あんな声、普通出せないと思った」
370 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:46
「また、照れるからそんなこと言わないでよ」
 
愛理が笑いながら言う。
 
「ホントだって。あたし愛理が歌う「偉大な力を」、本気で好きだもん」
 
梨沙子がそう言うと愛理はうれしそうにはにかんだ。
そのとき、梨沙子の中で愛理へのライバル意識がまた別の形に変わっていくようだった。
それは閉め切っていた梨沙子の心の中に、何か新しい風がはいってくるような新鮮な感覚だった。
371 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:47
お昼ご飯を食べた後も二人は日が暮れるまで猛練習を繰り返した。
さっきよりも増して愛理の歌とダンスからものすごいパワーが伝わってくる。
今までの梨沙子は愛理のもつその力に圧倒されてきた。

でも今はちがった。

愛理の力を全身で受け止めたいと思う。
愛理に負けられないという気持ちはいつしか、愛理と歌いたいという気持ちに変わってきていた。
どうしても愛理と同じステージに℃-uteとして立ってみたい。
そのためには℃-uteの曲には絶対的な自信をもって望みたかった。 梨沙子に少し余裕がでてくると愛理のダンスからも気持ちが伝わってくる。それは愛理も全く同じ気持ちみたいだった。二人はまた日が暮れるまで踊り続けた。
372 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:49
「りーちゃん、ライブ一緒に頑張ろうね!」
 
愛理がまるで優等生のように言った。
玄関先で愛理を送り出す梨沙子は素直にうなずいた。
送っていくという梨沙子に愛理は適当にタクシーつかまえるからいいと固辞した。

外はもうかなり暗くなっている。
近くを虫の声がこだましていた。
 
「それじゃあバイバイ」
 
愛理は胸のところで手をふった。
 
「バイバイ」 
 
愛理は梨沙子の顔を一目見ると、安心したように梨沙子に背を向けた。

梨沙子はそのとき愛理にまだ言ってなかったことがある。
そんな気がした。
373 :時風 梨沙子 :2012/09/09(日) 20:51
「愛理」
 
歩き出そうとした愛理の背中に梨沙子は思わず呼びかけた。
 
ん?という表情で振り返る愛理に思わず梨沙子は「じゃあまた明日」とだけ言った。
愛理はもう一度笑って梨沙子と同じ言葉を返した。
 
再び虫の声だけが寂しげに聞こえる。
愛理が行ってしまってから梨沙子は何故だろうと思った。

何で自分は「ありがとう」と一言言えなかったんだろう。
恥ずかしいのか照れくさいのかよくわからない。
けどきっとそうなんだと思う。

愛理以外の人にはもっと気楽にありがとうと言ってる気がする。
梨沙子は自分で自分のことを素直じゃないなと思った。
ただ今の自分がこれまでの自分とははっきりと違うということを梨沙子自身感じていた。

自分は今までとは違う何かになろうとしている。
それは、自分の意思よりももっと強い全体を動かすような大きなうねりのような感覚だった。
374 :ES :2012/09/09(日) 20:51

今回の更新を終わります。
375 :時風 桃子 :2012/09/16(日) 06:33
あの電話以来梨沙子から連絡はない。
そして梨沙子は今℃-uteにいる。
℃-uteのことは℃-uteにまかさなきゃいけない。
頭ではそんなことは分かってはいる。
もちろん桃子の方からおせっかいな電話をかけたりもしない。

それでも桃子は再び℃-uteの練習スタジオに来てしまっていた。
自分の手元にあるうちは特に気にしない。
でも離れてしまうと途端に気になり出す。
雅のことをそう皮肉ってたくせに自分もそう大して変わらない。
桃子はそんな自分に苦笑する。
376 :時風 桃子 :2012/09/16(日) 06:35
桃子は℃-uteメンバーにみつからないようにスタジオの隣にある見学用スペースにそっとはいった。
そこからはスタジオ全体を見渡すことができた。
 
梨沙子と愛理のダブルセンターか。
最前に二人が並んだ℃-uteのフォーメーションを見て桃子はそう思った。

℃-uteは通しの稽古に入ってるようだった。
℃-uteは全体的にも華奢なイメージがあった。
でも今の℃-uteは梨沙子が加わって六人になったというだけで今までとは違う重厚感があった。

静止状態から℃-uteは体をくねらすような動きをしたかと同時にメンバー全員が次々と立ち位置を入れ替えていく。
377 :時風 桃子 :2012/09/16(日) 06:36
℃-uteのダンスはベリーズとは全然違うと桃子は改めて思う。

℃-uteのダンスはそろってる。
でも単にそろってるだけじゃない。
℃-uteはダンスをしている空間に必ず中心点があるみたいだ。
どんな動きをしていても全員の動きがそこに必ず集約されてくる。
見とれてしまうほどまとまりのある動きなのだ。

対してベリーズのダンスはどちらかというと個性を出し合ううちに一緒の動きをしながらそれが拡散していく。
よくも悪くもそれがBerryz工房の特徴ではある。
梨沙子が℃-uteでダンスを踊るならそこが一番ネックのはずだった。
378 :時風 桃子 :2012/09/16(日) 06:37
でも桃子の目に今映っている梨沙子は全然ちがった。
梨沙子はもうそんなことは全部分っているかのように℃-uteの動きに徹底していた。

梨沙子の体は狭い隙間をくぐり抜けるように滑らかな放物線のような動きをした。
 
一体どんな練習をしたんだろう。
短期間でここまで仕上げたということに桃子は驚きを感じた。
前回の練習から数日しかたっていないのに梨沙子の動きが全然違う。
まるで何かが乗り移っているかのように動き自体に自信がみなぎっている。
表情もなんだかたくましい。
前の練習の時は必死でついていっているという感じだったのに、今の梨沙子は貫禄させ感じさせる。
堂々と℃-uteのダンスをしていた。
379 :時風 桃子 :2012/09/16(日) 06:38
すごい。梨沙子。
 
桃子は思わずこぶしを握り締めた。
うれしいような興奮するような不思議な感覚だ。
℃-uteの梨沙子。きっとこれはすごいライブになると桃子は確信した。
 
気がついたら桃子は隣の部屋にいることが我慢できずにスタジオのドアを開けてじかに℃-uteのダンスを見ていた。
 
「なかなかいいね。じゃ一旦休憩取ります」
 
ダンスの先生がそう言うのが聞こえて全員が水分補給にばらける。

桃子は慌ててドアの後ろに隠れた。
 
「桃?」
 
そのとき後ろから声をかけられて桃子はびくっとなった。
380 :時風 桃子 :2012/09/16(日) 06:41
「桃?来てたの?」
 
立っていたのは愛理だった。
 
「ああ、まあちょっと。気になったっていうか」
 
愛理に見つかったことを観念して桃子は、しどろもどろにそう言った。
 
「りーちゃんのこと?」
 
「いやそういうわけじゃなくて。やっぱ℃-uteはライバルだからさ。偵察だよ。偵察」
 
桃子はわざとらしく目の上に手を置いて言った。
 
「りーちゃんならもう大丈夫だよ」
 
まるで桃子の気持ちを見透かしているような愛理の言葉だった。
相変わらずこういうときの愛理の勘はとても鋭い。
桃子は分ってると言わんばかりに大きくうなずいた後、わずかに微笑んでみせた。
381 :時風 桃子 :2012/09/16(日) 06:42
「じゃ、練習の邪魔しちゃ悪いから。戻るね」
 
桃子はさらりとそう言った。
 
「え?ちょっと桃、せっかく来たんだからみんなと話していけば?」
 
スタジオと桃子を交互に見て愛理は言った。
 
「今日はいいや」
 
桃子はにっと笑いながら首を横にふった。

何となく自分はここにいないほうがいいような気がした。
そして愛理に背を向けて歩き始めた。
 
「桃、りーちゃん呼んでくるから。せめて梨沙子には声かけていってよ」
 
もう一度愛理は言った。
振り返ると愛理は促すようにスタジオの中を指さしている。
中から梨沙子と千聖の騒ぐ声が聞こえた。
382 :時風 桃子 :2012/09/16(日) 06:43
「いい。だってここから先は、℃-uteの領域でしょ?」
 
桃子は自分の前に線をひくような仕草をして言った。
 
「そんなこと気にしなくていいのに」
 
「愛理、℃-uteのライブ、楽しみにしてるよ」
 
不満げな表情をする愛理に桃子はそう言った。
梨沙子の充実したあの表情とダンスを思い出して桃子は嬉しさを噛み締めた。
もうそれだけで十分だと思った。
383 :時風 桃子 :2012/09/16(日) 06:44

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384 :時風 桃子 :2012/09/16(日) 06:44
ホワイドボードの置いてある一番奥の席に雅が座っている。
桃子はちょうど雅の対面だ。

横に二人ずつ佐紀と茉麻、友理奈と千奈美が座っている。
今日のBerryzの仕事は会議室での撮影だった。
こんな場所で普通の撮影をやるはずがない。
会議みたいな設定みたいだが、まだ桃子も他のメンバーも何について話し合うのか全く聞かされていなかった。

でも佐紀ではなく雅が学級委員長みたいな席に座っているというだけで、桃子はなんだか嫌な予感がした。
385 :時風 桃子 :2012/09/16(日) 06:46
「ではこれからBerryz会議を開催します」
 
雅が冷静な声で言った。
ああ何か久しぶりだねとか緊張するとかいいうメンバーの声があがる。
雅はエヘンとわざとらしい咳払いをした。
そしてカンペを見ながら何かホワイトボードに書いている。
 
「りさこ奪還大作戦!」
 
えらく大きな字でそう書かれた。
桃子は嫌な予感は完全に的中していた。
 
「ということで次回のベリキュー対決で梨沙子を℃-uteから取り返したいと思います。
 みんなの意見はどうでしょうか?」
 
「え?まず取り返せるの?だってもう℃-uteライブ始まるでしょ?」
 
茉麻が言った。
386 :時風 桃子 :2012/09/16(日) 06:47
「大丈夫。ライブの途中で期間があくからそのときに出来るって。スタッフさんが言ってた」
 
雅は自信ありげに言った。
雅は初日のライブの後に梨沙子を取り戻すつもりらしい。
きっともうマネージャーさんとかの根回しも済んでるんだろうと桃子は察した。

雅は完璧に本気みたいだ。
雅にしても梨沙子にしてもお互いのことになるともう異常なくらい熱くなる。
 
「あ、じゃあできるんだったらやらない手はないんじゃない?この前のときは正直何が何だか分からないうちに終わっちゃったから」
 
茉麻はそう同調して言った。
 
「さすが、茉麻」
 
雅が満足げに言う。
387 :時風 桃子 :2012/09/16(日) 06:48
「はいはーい。ちょっといいでしょうか?」
 
桃子は手をあげて言った。
 
「梨沙子だってほら。ライブの準備頑張ってやっと慣れてきたころなんじゃない?そんな時期に無理に連れ戻すのはどうかと」
 
カメラが回ってる分いつもと言い方が中途半端になる。
ただ桃子はあくまで梨沙子奪還作戦には反対しようと思った。
 
「桃は梨沙子がこのまま℃-uteでいいと思ってるわけ?」
 
雅がまさかという感じで言った。
きっと桃子から反対意見がでるとは思ってなかったみたいだ。
 
「可愛い担当だったらももちが梨沙子の代わりになるしさ」
 
桃子がカメラを意識してポーズをとって言った。
388 :時風 桃子 :2012/09/16(日) 06:49
「みやは、梨沙子の代わりは誰にもできないと思う」
 
雅がはっきりそう言った。

桃も心の中ではそうだとは思う。
でも桃子としてはこの梨沙子奪還作戦は正直やりたくない。
今の℃-uteには梨沙子を含めてライブだけに集中して欲しかった。
  
「まあ、難しいところだよね。梨沙子だって℃-uteに入ってさ。やりたいこととかきっとあると思うし」
 
そのとき友理奈が冷静に自分の意見を言ってくれた。
 
「そうだよね。そうだよね」
 
桃子が友理奈の意見に追いすがるように言う。
389 :時風 桃子 :2012/09/16(日) 06:51
「でもさあ。ベリーズって7人そろって始めてベリーズじゃない?誰が欠けてもやっぱりBerryz工房じゃないよ。
 あたしみやが体調崩してライブにいなかったとき、本当にそう思ったよ」
 
佐紀が言った。

桃子はキャプテンの意見も正論だと思った。
でもここで負けるわけにはいかない。
 
「次のBerryzのライブには梨沙子はどうせ戻ってくるんだよ。そしたらファンの前でまた7人のBerryz見せられるじゃん」
 
桃子がそう言っても佐紀も全く食い下がる様子はなかった。
 
「でもその前にファンクラブのイベントとかもたくさんあるんだよ。そのときに梨沙子がいないままでいいのかな」
 
「よくない」
 
続けて雅がきっぱりと言った。
390 :時風 桃子 :2012/09/16(日) 06:52
「みんな、やろうよ」
 
雅が言うと全体が本当にその気になってしまうから不思議だ。
桃子は周囲を見渡した。
誰もこの二人の意見に反対しようとはしない。
 
「とにかく私は反対」
 
「桃、何でそんなに梨沙子に戻ってきてほしくないの?」
 
「いや、戻ってきてほしくないというか」
 
桃子は℃-uteのダンスレッスンのことを言おうか一瞬考えた。
でも自分がそれを言うことには桃子は抵抗があった。

℃-uteのダンスレッスンは℃-uteが作り上げてきたことだし、
梨沙子のダンスを自分がえらそうに評価したりする立場じゃない。
391 :時風 桃子 :2012/09/16(日) 06:53
「はいはい。桃は可愛い梨沙子が抜けたらその分だけライバルが減ると思ってるんでしょ?」
 
千奈美がすかさず言ってきた。
 
「や、そういうわけじゃないけど」
 
「はい。私に提案があります」
 
桃子が返答に困っていると千奈美がさらに言った。
 
「私は、みやとキャプテンの意見に賛成するけど。ここはやっぱ久しぶりのベリーズ会議ってことでー桃の意見も尊重しようよ」
 
千奈美がいやに笑いながら言う。
桃子はまさか千奈美がそんなことを言ってくれるとは思わなかった。
千奈美が笑うとその場が全然深刻な雰囲気じゃなくなるから不思議だ。
392 :時風 桃子 :2012/09/16(日) 06:55
「てことで多数決をとりたいと思いまーす」
 
千奈美が元気良く言った。
 
「この梨沙子奪還作戦に賛成のひとー」
 
千奈美も含め桃子以外の全員が手をあげた。
 
「反対の人ー?」
 
桃だけが手をあげる。
 
「てことで決定!」
 
大きな拍手が起こる。
桃子は脱力して思わず机に突っ伏した。
393 :ES :2012/09/16(日) 06:56

今回の更新を終わります。
394 :時風 梨沙子 :2012/09/23(日) 21:24
明後日の本番を前にして梨沙子は完璧な仕上がりを見せた。
課題だった後半のスタミナ切れも毎日の走り込みの成果でカバーできるようになっていた。 
 
「すごいね。5人のときより今の方がダンス合ってるんじゃない?」
 
休憩をとる前にダンスの先生がそう言った。
動きを合わせる。
この意識が梨沙子の体の中にしっかりと宿っている。

曲に合わせて梨沙子は指先まで正確にダンスのリズムを刻んだ。
そして愛理のように曲の中に深く入り込んでいくことさえも今の梨沙子には可能になっていた。
395 :時風 梨沙子 :2012/09/23(日) 21:26
「梨沙子、もう完璧に℃-uteの一員だよ」
 
舞美がにこにこ笑いながら梨沙子に言った。
リーダーに言われると℃-uteとして本当に自分が認められたことを実感できて、梨沙子はうれしくなった。
 
「逆に貫禄ありすぎて、ずっと昔から℃-uteにいるみたいだよね」
 
舞もそう言ってくれた。
 
「ホントずっと昔からこの6人でやってるみたい」
 
愛理が言ったとき、早貴がものすごい勢いでレッスン室にかけこんできた。
396 :時風 梨沙子 :2012/09/23(日) 21:27
「ちょっとみんな、大変なの!」
 
普段冷静な早貴がこんなに動揺しているのを見るのは初めて見た。
なっきぃ、一体どうしたのと他のメンバーが言っているなか、
早貴は白い紙を舞美に渡した。
 
「ベリーズから挑戦状がきてるんだけど」
 
早貴が泣きそうな感じで言った。
 
舞美の周りでみんなで集まってみると一番上のところに「挑戦状!」とある。
 
「何?挑戦状って?」
 
舞美が手紙を開けてみると拍子抜けするぐらい平和な文字が並んでいた。
397 :時風 梨沙子 :2012/09/23(日) 21:28
「これ、みやの字だ」
 
愛理が言った。
可愛らしい丸文字に梨沙子も一瞬にしてみやが書いたとわかった。
内容は次回のベリキュー対決で、ベリーズが勝ったら梨沙子は返してもらうという内容が書かれていた。
そういえば梨沙子は雅に℃-uteでのことを何も話せていない。
みやはきっと梨沙子のことを考えてこの挑戦状を書いてくれたに違いない。
そう思うと梨沙子は少し後ろめたい気分になった。
 
「梨沙子を取り返すんだから絶対さ・・・まじでくるよね」
 
千聖が自信なさげに言った。
398 :時風 梨沙子 :2012/09/23(日) 21:29
わざわざこんな挑戦状まで書いてよこすんだからベリーズが本気になってるのは間違いない。
そして本気になったときのベリーズの団結力と強さは梨沙子もよく分っていた。
 
「うちら、まじ大事な時のメンタル課題だからね」
 
舞が頭を抱えてそう言った。
これまでのベリキュー対決でも大一番の勝負はほとんどBerryz工房が勝利している。
梨沙子自身℃-uteに負けた記憶があまりない。
 
「今回はエース対決があるんだってさ。さっきマネージャーさんから聞いた」
 
早貴が言った。
399 :時風 梨沙子 :2012/09/23(日) 21:32
「エース対決?」
 
そう聞いてみんなの視線は自然と愛理の方に集まる。
愛理は一気に全員に見つめられて、その視線に驚いて少し顔をのけぞらせた。
 
「や、私が出るかは分かんないでしょ?」
 
愛理は舞美の方を向いて言った。
 
「私は愛理に出てほしいけど」
 
舞美がそう言った。
舞美の言葉で愛理は少しうつむきかげんにうなずいた。
 
愛理と舞美を見ていると、きっとそこにあるリーダーとエース以上の深い感情を梨沙子は感じた。
400 :時風 梨沙子 :2012/09/23(日) 21:34
「愛理、プレッシャー大だね。梨沙子とのライブかかってるんだからさ」
 
早貴がそう言った。
 
「みんな、そんな人事みたいにさ」
 
愛理がむくれて言う。
 
「大丈夫。愛理なら勝てる。雅ちゃんさえエース対決に出なきゃね」
 
千聖が愛理の肩に手をおく。
 
「いや、みやは普通に出てくるでしょ。Berryzのエースなんだから」
 
舞が梨沙子を見て言った。
 
「じゃ絶対負けるね。雅ちゃんに勝てる人なんていないよ」
 
「千聖は梨沙子とのライブが名古屋までになっていいの?」
 
「そんなことはないけど」
 
舞と千聖は押し問答を始めた。
401 :時風 梨沙子 :2012/09/23(日) 21:35
梨沙子はみやの話題に内心、心がちくりと痛んだ。
みやは絶対本気で勝負してくると思う。
ただみやがどんな気持ちでこの勝負しかけてくるのか、雅ときちんと話せていない梨沙子には分からない。
でも分からないままでいいはずはなかった。
 
「とにかく、名古屋は全員で行けるんだから。まずは初日に向かって頑張っていこう!」
 
舞美が明るく言った。
 
「そうだね。とにかく名古屋に向けてみんなで頑張ろう」
 
愛理も言った。
402 :時風 梨沙子 :2012/09/23(日) 21:37
とにかくベリーズとの勝負があるにせよ目の前の名古屋公演だけは変わらずにある。
初めての℃-uteとしてのライブとか、Berryz工房との勝負とか自分の立ち位置が180℃変わって
梨沙子にとってもプレッシャーのかかることばかりだった。

でも梨沙子は、とにかく初日の名古屋ライブだけに集中していこうと思った。
そしたら雅にも何かが変わった自分を伝えられる気がしていた。
403 :時風 梨沙子 :2012/09/23(日) 21:37


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404 :時風 梨沙子 :2012/09/23(日) 21:38
いよいよ名古屋での初ライブの前日を迎えていた。
本番の日は朝からゲネプロがあるため、℃-uteは前日に名古屋入りすることになっていた。
梨沙子、愛理、舞美の三人はお昼にスタッフと東京駅で待ち合わせた。
残りの三人は別の仕事があるため、夜に名古屋入りすることになっていた。
 
空気がやけに冷たい。
梨沙子は思わず首をすぼめた。
体がぶるっと震えて悪寒さえしてくるようだ。
いつまでも夏だと思っていたら、夏の熱気はもうどこかへいってしまったみたいだ。
 
結局梨沙子は雅に電話しようと思いつつも躊躇してしまっていた。
今の℃-uteでライブがやりたいという気持ちは確かだったけど、それをどう雅に伝えたらいいか分からない。
単純に今の℃-uteと最後までツアーをやり抜きたいと言えばそれでいいんだろうと思う。

でも雅に対しては変にカッコつけたいという気持ちと素直になりたいという気持ちが入り混じってどんなふうに話したらいいのかわからなかった。
405 :時風 梨沙子 :2012/09/23(日) 21:40
Berryzにいるときはいつも一緒にいて、なんでも話せるのになんでこんなふうになってしまったんだろうと思う。
ふと桃の顔が思い浮かんだ。
こんなときはいつも梨沙子は桃子を頼りたいと思ってしまう。
梨沙子が相談したら桃はきっと力になってくれる。
でもこれまで、桃子には雅のことで散々振り回してるからこれ以上桃子を巻き込みたくはなかった。

それにこれは完全に梨沙子自身の問題なのだ。
 
集合場所にはスタッフさんはいたが、まだ愛理も舞美も来ていなかった。
ライブを前に雅に℃-uteとして今の自分の気持ちを伝えるには今しかないかもしれない。
406 :時風 梨沙子 :2012/09/23(日) 21:41
「あの、ちょっと電話してきます」
 
意を決して梨沙子はそう言った。
そして集合場所から少し離れたところで雅に電話した。
 
東京駅の雑踏の中で雅への呼出音が響く。
 
「もしもし、梨沙子」
 
雅はまるで梨沙子からの電話を待っていたみたいにすぐに出た。
 
「あ、みや?今大丈夫かな」
 
「うん。大丈夫だよ」
 
雅の優しい声に梨沙子はほっとひと安心する。
 
「今から名古屋なんだ」
 
「そっか。頑張ってきなよ。名古屋が終わったら戻ってきてもらうからさ」
 
「あ、ベリキュー対決のこと?」
 
「そう。うちら絶対負けないから。梨沙子には絶対ベリーズに戻ってきてもらうよ」
 
雅は「絶対」を強調して言った。
407 :時風 梨沙子 :2012/09/23(日) 21:42
「うん・・・」
 
「だから名古屋は完全燃焼してきなよ」
 
「うん」
 
梨沙子はうなずくだけで他に何も言えない。
 
「やっぱ梨沙子がいないとベリーズじゃないよ。キャプテンもみんな寂しがってる」
 
「うん」
 
「うちもそうだよ」
 
雅は言った。
 
「うん。分かってる」
 
梨沙子はまるで親に諭されてる子供のようだった。
 
雅も今から仕事らしく、結局梨沙子は雅に伝えたいことは何も言えないまま携帯を切った。
408 :時風 梨沙子 :2012/09/23(日) 21:43
ただ雅の声が聞けたというだけだった。
以前の自分ならそれだけで十分うれしかった。
何年一緒にいてもみやの声が聞けるだけでうれしい。
でも今はそれだけじゃ全然ダメだった。
℃-uteに入って変わった自分をみやに伝えないといけないのにそれが出来なかった。

そう思った瞬間、目眩みたいな強い立ちくらみが一瞬梨沙子を襲った。
携帯をもったまま構内の壁によりかかる。

どうしちゃったんだろう。

昨日、走り込みをしてから何となく寒気がしてどうも体調がおかしい。
 
「梨沙子、おはよう。どうかした?」
 
振り返ると舞美がいた。
 
「りーちゃん、大丈夫?何か顔色悪いみたいだけど」
 
愛理もすぐ隣にいて不思議そうに梨沙子を覗き込んでいる。
409 :時風 梨沙子 :2012/09/23(日) 21:44
「んーん。なんでもない」
 
梨沙子はすぐ気を取り直して二人に笑顔を見せた。
全員そろって新幹線のホームに向かった。
今から℃-uteとしてステージにたてる。
そんなうれしさと雅に何も言えなかった心残りを抱えながら梨沙子は歩いた。

雅のことは自分で解決すべきことで、℃-uteのみんなにはそんなことで迷惑はかけられない。
とにかくライブは、自分のベストが尽くせるようにみんなと頑張ろう。
梨沙子はそう思った。

でもさっきに目眩のようなものが、歩きながらだんだんひどくなっていく。
一瞬、まずいと思ったときには梨沙子の意識は遠のいていった。
410 :ES :2012/09/23(日) 21:45


今回の更新を終わります。
411 :名無飼育さん :2012/09/24(月) 21:25
梨沙子がどうなっちゃうのか…次回が待ち遠しいです。
412 :ES :2012/09/30(日) 07:54
>>411
レスありがとうございます。更新頑張りますのでよろしくです。
413 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:13
「りーちゃん!」
 
「梨沙子!」
 
愛理と舞美の声があたりに響く。
梨沙子はホームの床に倒れてしまっていた。
 
梨沙子はすぐに気づいて立ち上がろうとしたけど、目の前がぐるぐる回っている。
うまく立ち上がれずに二人に支えられて何とか向き直る。
何か呼吸も苦しい。
梨沙子は荒い息を吐いた。
 
「ごめん。大丈夫だから」
 
何とかそう言ったもののまだ目の前がまだぐらぐらしている。
今度は簡単には治らなかった。
梨沙子は二人に支えられてホームのベンチに座った。
梨沙子の目の前を心配そうな二人が陣取る。
 
梨沙子の額に愛理の手をがあてられた。
414 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:14
「すごい熱じゃん」
 
愛理が梨沙子の手を握る。
梨沙子に熱があるせいか愛理の手はだいぶ冷たく感じた。
 
「舞美ちゃん、梨沙子熱があるみたい」
 
「え!」
 
今度は舞美が梨沙子の額に手をあてる。
 
「ホントだ。梨沙子、大丈夫?苦しくない?」
 
舞美が心配そうに梨沙子を見た。
梨沙子は自分の心配をするどころじゃなかった。
こんな大事なときに体調崩すなんて、ライブに出られなくなったらどうしようという気持ちでいっぱいだ。
℃-uteのみんなにはダンスレッスンで心配をかけたぶん、これ以上の迷惑は絶対にかけたくない。

そして何より初日の名古屋のライブは梨沙子が一番の目標にしてきたことだった。
415 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:16
「私、薬もらってくる」
 
愛理は急いでスタッフさんにところへ走っていった。
 
「梨沙子、今日ずっと体調悪かったんじゃないの?早く言ってよ」
 
心配そうな舞美の声が梨沙子の胸に響いた。
 
「ごめんなさい」
 
思わず梨沙子は目をつむって頭を下げた。
すると舞美は梨沙子の頭を撫でて首を振って、そんなこと全然いいよとでも言うように笑ってくれた。
 
「でも大丈夫だから。一時的なものだと思うし」
 
梨沙子は必死に訴えるように言った。
 
「そだね。すぐに良くなるよ」
 
舞美の大らかな笑顔を見ると安心する。
416 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:17
「りーちゃん、りーちゃん、これ飲んで」
 
愛理がスタッフさんを呼んで薬をもらうと全速力で戻ってきた。
 
新幹線の車内で梨沙子の額には濡れタオルが置かれた。
頭がずっしりと重く、自分の荒い息まで聞こえてきた。
梨沙子はさっきに比べるといくぶん気分は落ち着いてきたものの、
名古屋についたらすぐに病院へ向かうことになった。
 
隣に座っている愛理は梨沙子の気持ちをしってかライブのことについては何も言わなかった。
そして時おりズリ落ちてくる濡れタオルをもとの位置に戻してくれた。
 
愛理にうつさないようにしないと。
梨沙子はわざと体を窓のほうに向けて流れる風景ばかり見ていた。

熱があるせいいか車窓を流れる田んぼや家がにじんで見えた。
417 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:20
名古屋につくと梨沙子と付き添いのスタッフは病院に向かうように、
愛理と舞美は先にホテルに入っているようにに言われた。
梨沙子がタクシーに乗り込もうとしていると愛理と舞美がスタッフさんと何かもめている。
そして突然、二人が梨沙子と同じタクシーに乗り込んできた。
 
「え?二人ともホテルに行くんじゃないの?」
 
「私たちもりーちゃんに付き添うことにした」
 
愛理が真顔で言った。
 
「梨沙子を一人にしておけないから」
 
こんな状況でも舞美が優しい笑顔を見せて言う。
 
「そんな。あたし一人で大丈夫だよ。スタッフさんもいるし」
 
梨沙子がびっくりして言う。
418 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:21
あとからしょうがないなという感じで付き添いのマネージャーさんがタクシーに乗り込んできた。
 
「でもそういうわけにはいかないから。じゃお願いします」
 
舞美がそう言って強引にタクシーを発信させてしまった。
 
「二人とも無茶だよ。舞美ちゃんだって、これから仕事でしょ?」
 
舞美は確か名古屋のテレビ局ででラジオの仕事が入っている。
 
「そうだけど。まだ時間があるから」
 
舞美は飄々と言った。
愛理は思いつめたように窓から外を眺めていた。
419 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:23
「激しい運動は無理だと思います。特に軽装でコンサートはやめておいたほうがいいでしょうね」
 
病院の先生が冷静にそう言った。
 
「あの、明日は大事なライブなんです。一回しかチャンスがないかもしれないんです」
 
普段何も言わない梨沙子は食い下がって言った。
 
「そうは言ってもやっぱり医者としては許可できないなあ」
 
苦笑して先生は言う。
 
「またいくらでもチャンスはあるんでしょ?若いんだし」
 
先生は気を使ってかスタッフに目をやって言った。
 
「熱が高いのでとにかく点滴をしておきましょう。夜には帰れると思います。ただの風邪でしょうね」
420 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:24
先生としてはただの風邪だと思っているのかもしれない。
でも梨沙子にとっては待ちに待った明日が失われるということだった。
明日がなければもう℃-uteとしてステージに立てるチャンスはないかもしれない。

梨沙子は悔しくて泣きそうになるのを必死でこらえた。
こうなったのも全て体調管理が悪かった自分のせいなのだ。
 
梨沙子は診察を終えてベッドに横になった。
動くと高熱で頭がぐらぐらと揺れる。
スタッフは梨沙子が出れないことが決まって慌ただしく廊下をかけて行った。
 
℃-uteのファンの人達も怒るだろうな。
そしてメンバーにもすごい迷惑をかけてしまう。
梨沙子は点滴が一滴一滴落ちるのを放心状態で見ていた。
421 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:25
「りーちゃん、入っていい?」
 
そのとき、カーテンを開けて愛理と舞美がベッドの横にやってきた。
二人の暗い表情を見ただけでスタッフから明日のライブのことは聞いたことはすぐにわかった。
 
「ごめん。出れなくなっちゃった・・・明日」
 
こんな状況で二人に会わせる顔がない。
梨沙子は本当は何も言いたくなかった。
二人ともじっと梨沙子の顔を見ている。
そんな表情を見ているだけで梨沙子はつらくなった。
 
「なっきぃや千聖や舞ちゃんにもごめんなさいって伝えといて」
 
そう言って梨沙子は二人に背を向けた。
そうしていないと泣き出してしまいそうだった。
422 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:27
「梨沙子・・・」
 
二人の困惑したような声が聞こえた。
 
「じゃあ二人ともありがとね。もう一人で大丈夫だから」
 
二人とも梨沙子がどんなに初日の名古屋を楽しみにしてるか知ってる。
それだけにきっとベリキューの対決に勝てば次もチャンスがあるとか、そんな気休めみたいなことを言えないのだと思った。
 
「矢島さん、テレビ局に行く時間みたいですけど」
 
そのときタイミングよくスタッフの一人が舞美を呼びにきた。
 
「梨沙子、ごめん。もう行かなきゃ」
 
「うん。頑張って」
 
梨沙子はなんとか笑顔をつくろうとして言った。
自分がいなくても℃-uteのライブはなくならない。
明日の絶対に成功してもらわなきゃいけない。

梨沙子はもうこれ以上メンバーに迷惑をかけたくなかった。
423 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:29
「愛理、梨沙子をお願い」
 
舞美が愛理に向かって言う。
 
「分かった」
 
「梨沙子、こんなことで負けちゃだめだよ」
 
舞美は梨沙子に近づいて優しく言った。
 
舞美がいなくなって、カーテンで仕切られた空間には愛理と梨沙子だけが残される。
 
「愛理。もう大丈夫だから。ホテルに戻ってていいよ。明日の準備、いろいろあるでしょ」
 
梨沙子は言った。
 
「でも」
 
愛理は困った表情をする。
424 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:31
愛理はベッド横にある椅子に腰掛けて梨沙子の顔をじっと見ている。
親友だから当たり前みたいに梨沙子の傍にいる。
愛理を見ていると本当にそんな感じだ。
でも今はそんな関係より明日の℃-uteライブのことを大事にしなきゃいけない。
愛理は℃-uteにはなくてはならない存在なのだ。
 
「あたしなら大丈夫だから。少し寝るよ」
 
愛理が帰ってから梨沙子は思い切り一人で泣こうと思った。
 
「分かった。じゃありーちゃんが寝たら帰るよ」
 
愛理は簡単には帰ってくれそうにない。
梨沙子は仕方ないのでそのまま目を閉じた。
425 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:33
今まで℃-uteのダンスレッスンで苦労してきたことが梨沙子の脳裏で思い出された。
梨沙子も大変だったけどそれ以上に大変だったのは支えてくれた℃-uteのメンバーなんじゃないかと思う。

それが自分のせいで出られなくなるなんて。

ここまで助けられてベリキュー対決でみんなでBerryzに勝とうなんてとても梨沙子からは言えない。
これが梨沙子に与えられた一回だけのチャンスだったんだと思う。
ライブが終わったら愛理にもたくさん謝らなきゃいけない。
 
今はひとりになりたい。
 
点滴をしても、梨沙子の頭の重さは全く変わらず、いろんなネガティブなことを考えてしまい、
梨沙子は疲れて寝てしまった。
426 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:34


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427 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:34
遠くで人の足音が木霊している。
くぐもった病院独特のインターフォンのような音がかすかに聞こえてくる。
どれくらい時間がたったのだろう。
薄暗い室内でぼやけた人の輪郭が見えた。
 
「愛理!?」
 
「あ、りーちゃん起きた?」
 
愛理がわざと両手をあげて驚いたという動きをした。
 
「愛理?まだいたの?」
 
外はもうすっかり暗くなっている。
梨沙子はいつの間にか個室に移されていた。
 
「あ、うん。りーちゃんの寝顔が可愛いから癒されてた」
 
愛理は笑って言った。
 
「もう、こんなとこにずっといたらあたしの風邪うつっちゃうじゃん」
 
「平気。今、うつっても明日はまだ大丈夫でしょ」
 
そう言って愛理はわざと梨沙子の顔に近づく。
428 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:36
「あたしみたいな部外者のせいで、センターの愛理までライブに出られなくなったら℃-uteのファンの人に申し訳なさすぎるよ」
 
梨沙子は小さい声で言った。
 
「りーちゃん。私怒るよ」
 
愛理が初めて厳しい表情になった。
 
「りーちゃんはもう℃-uteのメンバーなんだよ。明日だってりーちゃんは会場にはいないかもしれないけど、
6人いるつもりで絶対頑張るよ。ファンのみんなだって絶対そう思ってるよ」
 
愛理にそう言われるともう何も言えない。
梨沙子は黙って薄暗い病院の天井を見つめた。
梨沙子の中にじわじわと感情の嵐のようなものがこみ上げてきた。

自分はそんなかけがえのないチャンスを無駄にしてしまったのかもしれない。
429 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:37
ずっと我慢してきた涙が目に溜まった。
 
「悔しいな。あたし℃-uteのステージ立ちたかった」
 
梨沙子は愛理を見て言った。
涙のせいで愛理の顔がぼやけて映る。
 
「でもみやはベリーズに帰ってこいって言うし。きっとね。そうするのが正しいんだと思う」
 
愛理を困らせてしまうなと思いながらも梨沙子は泣きながら言った。
愛理にごめんねと言いたい。
でも嗚咽で呼吸するのさえ苦しかった。
 
そのとき梨沙子の体は急に愛理に抱き起こされた。
430 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:40
「愛理?」
 
反応する余裕もなく梨沙子は愛理に抱きしめられた。
 
「大丈夫だよ」
 
くぐもったように低い愛理の声が聞こえた。
 
愛理の吐息が何かを呼び覚ますようにゆっくりと梨沙子の頬から耳の後ろに流れていく。
それは心地よい自然の風のようだった。
梨沙子の中で激しく波打っていた感情が包み込まれるように静まっていく。
さらさらとした愛理の黒い髪が梨沙子の頬に優しく触れた。
愛理に抱きしめられたまま梨沙子はしばらく時が止まっているように感じた。
 
「りーちゃんのライブはまだ終わらないよ。絶対このまま終わらせない」
 
愛理は梨沙子を抱きしめたまま言った。
431 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:42
梨沙子が泣き止んだのが分かると愛理はようやく背中に回していた手を離した。
きっと情けない顔を愛理に見せてるんだろうなと梨沙子は思う。
 
「せっかくここまで来たんだからさ。ライブ、最後までやろうよ」
 
愛理の言葉に梨沙子は口を閉じたまま大きくうなずいた。
 
「あ、そろそろ舞ちゃん達病院に着くよ。舞美ちゃんとも合流したって。さっきスタッフさんが言ってた」
 
愛理が言った。
432 :時風 梨沙子 :2012/09/30(日) 08:46
「何かおいしい差し入れあるかもよ」
 
愛理は立ち上がってうきうきしたような表情で言う。
それは梨沙子を安心させるためにしている笑顔なのか、
本当に愛理があっけらかんとして性格なのか梨沙子にもわからなかった。
 
℃-uteには親友の愛理がいる。
それは当然で当たり前すぎることなのに、そんな現実に梨沙子は勇気づけられている気がした。
433 :ES :2012/09/30(日) 08:46

今回の更新を終わります。
434 :時風 梨沙子 :2012/10/07(日) 07:11
病室をノックする音がした。
愛理が来たかなあと言いながらはいと返事をした。
 
「梨沙子!?大丈夫?」
 
集団の先頭にいる舞が大きな声を出しながら入ってきた。
 
「舞ちゃん、ちょっと声大きすぎるよ」
 
千聖が舞をたしなめて言う。
舞に続いて千聖、早貴、舞美が一気に病室に入ってくる。
二人しかいなかった病室に℃-uteのメンバーが出揃って途端に騒がしくなった。
435 :時風 梨沙子 :2012/10/07(日) 07:12
「具合はどうなの」
 
みんながベッドサイドに集まって改めて心配そうに聞いた。
 
「あ、うん。先生はただの風邪だろうって言うけどまだ熱が高くて」
 
愛理が梨沙子の代わりに答えた。
そして口をへの字にまげて心配そうに梨沙子を見下ろす。
 
「梨沙子、岡井家特製の風邪用のお茶、もってきたんだけど」
 
千聖が水筒をもってそう言った。
 
「これ本当にうんまいから飲んでみて」
 
「ありがとう」
 
梨沙子は愛理に助けてもらって何とか起き上がった。
そして千聖のお茶を紙コップに注いでもらった。

一口飲むとお茶はまだ温かく予想に反してすごく甘かった。
436 :時風 梨沙子 :2012/10/07(日) 07:13
「おいしい。はちみつレモンみたい」
 
梨沙子は少し笑顔になって言う。
 
「でしょ。生姜とハチミツが入ってるんだ」
 
体の中に温かさがじわりとしみる。
動揺していた感情が少し静まった。
みんなには早く謝らなきゃいけない。
 
「みんな、ごめん。明日出れなくなっちゃった。もう℃-uteとしてステージには立てないかも・・・だからみんな本当にごめんね」
 
梨沙子はうつむいて何度も謝った。
自分でさえ勝つ自信のないベリキュー対決については触れたくなかった。
それでもみんなが慰めてくれるのを聞いていると梨沙子はまた泣き出してしまいそうだった。
437 :時風 梨沙子 :2012/10/07(日) 07:15
「ちょっと待ってよ。みんな。こんなのおかしくない?」
 
舞が突然強い口調で言い始めた。
 
「梨沙子がこのライブのために一番努力して、一番頑張ってきたんだよ。
 うちらの中で誰よりもライブに出る権利があると思う。みんなもそう思うでしょ?」
 
舞の言葉が強く響いた。
 
「梨沙子がもう出れないなんて絶対おかしいよ」
 
梨沙子にとって舞の言葉は涙が出るくらいうれしかった。
でも今の梨沙子にはそんな気持ちに答えることができない。
自分が歯がゆくて情けなくて仕方ない。
438 :時風 梨沙子 :2012/10/07(日) 07:16
「みんなでつんくさんに頼んでみようよ。それでベリキュー対決なくしてもらおうよ」
 
舞が思いついたように言った。
 
「なくすって?ってイベント自体なくしちゃうってこと?」
 
千聖が驚いて言う。
 
「そう。なくして梨沙子はツアーの最後まで℃-uteにいてもらうの」
 
舞ははっきりとそう言った。
 
「そうだよね。つんくさんにお願いしてみたらもしかしたらできるかも」
 
早貴が同調して言った。
439 :時風 梨沙子 :2012/10/07(日) 07:18
「でもベリーズのみんな、それで納得してくれるかな?」
 
千聖が心配そうに言った。
 
「梨沙子がすごい努力してきたこととかさ。話せばベリーズのみんなだってきっと分かってくれる。
 ねえ舞美ちゃんそうしようよ。梨沙子もそれならいいでしょ?」
 
舞がみんなの顔を順番に見ながら最後に梨沙子を見た。
ベリキュー対決さえなくなれば次のライブまで期間が十分に空いている。
梨沙子も体調を整えて今度は絶対に出られるだろう。
 
「うん・・・」
 
℃-uteのみんなとだったら梨沙子も正直な気持ちを雅に言えるかもしれない。
そしたらみやもきっと分かってくれてベリキュー対決をなくしてくれると思う。
でもそんなことで済ませてしまっていいのかという気持ちもあった。
440 :時風 梨沙子 :2012/10/07(日) 07:19
「みんな、ちょっと待ってよ」
 
舞美が深刻な顔をして言った。
 
「私も梨沙子と最後までライブやりたい。けどそんなこと私たちで勝手に決めちゃいけないと思う」
 
舞美の厳しい表情は初めて見たような気がした。
愛理も無言のまま舞美の顔を見ていた。
 
「ベリキューの企画のおかげでうちらも梨沙子も一緒に活動できたんだよ。今さら自分たちの都合が悪い時だけなしにしてくださいなんて言えない」
 
舞美はそう言い切った。
 
「だってこのままじゃさあ・・・」
 
舞が口を真一文字に結んで悔しそうに言った。
441 :時風 梨沙子 :2012/10/07(日) 07:21
「私もやじの言うとおりだと思う」
 
すました顔で愛理が言った。
 
「じゃあ愛理はみやに勝てるの?」
 
責めるように舞が言った。
愛理と雅のセンター対決はきっと一番メインになる勝負だった。
 
「勝てるよ。だって勝たなきゃいけないんだもん。絶対」
 
愛理は梨沙子を見て言った。
梨沙子のために自分自身にプレッシャーをかけ続けている愛理の目を見るのがつらい。
 
そのまま重苦しい空気が病室全体を覆った。
みんなうつむいたまま一言も話さない。
梨沙子は℃-uteをこんな空気にしてしまった自分を責めた。

でも自分が謝るだけじゃ何も変わらないと思った
442 :時風 梨沙子 :2012/10/07(日) 07:22
このままじゃ自分は℃-uteとしてもBerryz工房としても中途半端に終わってしまうような気がした。
そうさせないためには自分が何か変わらなきゃいけない。
 
「ねえ、梨沙子はどうしたい?これから」
 
均衡を破るようにして舞美が梨沙子に言った。
 
「あたしは早く体を治したい。それで絶対最後まで℃-uteのライブに出たい。
 みんなと合わせたダンス、絶対ステージでやってみたい」
 
梨沙子ははっきりと答えた。
 
「じゃあ答えは決まりだね」
 
舞美がみんなを見渡して言った。
443 :時風 梨沙子 :2012/10/07(日) 07:23
「梨沙子は℃-uteになるためにすごく頑張って努力してくれたじゃん。
 だからさ。今度は私達がその気持ちに答える番なんじゃないかな」
 
「気持ちに答える?」
 
「そう。梨沙子がどれだけ頑張ってきたか一番知ってるのは私達でしょ?だからそれをベリキュー対決でぶつけて絶対勝つの」
 
舞美が意気込んで言った。
 
「梨沙子の努力は無駄にはできない。そしたらベリーズに勝つしかない」
 
早貴が言った。
 
「ってことでしょ?」
 
早貴の言葉に全員が一様にうなずいた。
444 :時風 梨沙子 :2012/10/07(日) 07:25
「よっしゃ。打倒ベリーズだね」
 
千聖が力強くそう言った。
 
「打倒ベリーズ」という言葉に梨沙子は不思議な気分になった。
ベリーズと言えば自分のことのはずなのにこの言葉を聞いても不思議と違和感がない。
今、自分もこの言葉を言えそうな感触さえあった。
 
梨沙子の頭の中で一瞬デジャブのような閃きが起こった。
それはキッズ時代の後に℃-uteとしてデビューして今まで℃-uteとして歌ってきたという梨沙子にはあるはずのない記憶だった。
そんな風に思うのはきっと自分がいない℃-uteの中にも、ずっと前から自分の居場所みたいなものがあったんだと梨沙子は思う。
℃-uteは新しい仲間というより、もうBerryz以前のもっと古い仲間と一緒にいるような気がしていた。
445 :時風 梨沙子 :2012/10/07(日) 07:27
「ねえねえ、梨沙子ってまだ℃-uteの掛け声やったことないよね?ここでやってみようよ」
 
舞が言った。
 
「りーちゃん、私の次に自分の名前言って」
 
愛理が梨沙子の枕元に来て笑顔で右手を差し出すように促した。
梨沙子は℃-uteの掛け声は見たことはあるけど当然やったことはない。
6人全員が右手を差し出した。
 
「せーの。℃-ute」
 
早貴が掛け声をかけた。
舞、千聖、愛理、次々メンバーが名前を言っていく。
 
「梨沙子」
 
早貴、舞美。
446 :時風 梨沙子 :2012/10/07(日) 07:28
「七人そろって」
 
最後に舞美が元気よく言う。
 
「ちょっと。待って。舞美ちゃん、6人だから」
 
早貴が慌てて言った。
 
「舞美ちゃん。やってくれるよね」
 
千聖が笑って言った。
舞美は手を顔の前において「ごめん」と言う。
 
「今、舞美ちゃんがミスらなかったら完璧、青春ドラマみたいな雰囲気だったよね」
 
舞が言った。
その例えがおもしろくて梨沙子も思わず吹き出してしまった。
 
「ごめん。もう一回やろ。もう一回」
 
舞美が懇願して、もう一度6人で℃-uteの掛け声をやりなおした。
447 :時風 梨沙子 :2012/10/07(日) 07:28
掛け声の後ベッドに横になる梨沙子も合わせてみんなでハイタッチをしていく。
梨沙子にとっては初めての℃-uteの掛け声だった。

これから何回できるのか、これが最後になるのかは分からない。
でも℃-uteとしての自分はまだ終わってない。
梨沙子はみんなの顔を見てそう思った。
448 :ES :2012/10/07(日) 07:29

今回の更新を終わります。
449 :時風 梨沙子 :2012/10/13(土) 08:35
「そういえば梨沙子のイメージカラーってまだBerryzのときの赤のままじゃん。
 舞美ちゃんとかぶっちゃってるから新しく℃-uteの色決めたほうがいいのかな」
 
早貴が言った。
 
「そうだよね。これから長いツアー始まるんだしさ、梨沙子の新しいイメージカラー作ってもらえるようにみんなでスタッフさんに頼んでみようよ。
 梨沙子は何色がいい?」
 
千聖もそう言ってくれる。
 
「そうだなあ。何色がいいかなあ」
 
梨沙子は℃-uteが使ってない色を思い浮かべた。
450 :時風 梨沙子 :2012/10/13(土) 08:37
「いっそさあ。梨沙子は赤のままでいいんじゃない?私はツアーの間だけ別の色にしようかな」
 
舞美が言った。
梨沙子がリーダーの赤の色を受け継ぐなんてどう考えてもおかしい。
梨沙子がさすがにそれは断ろうとしたら愛理が横から口を出した。
 
「舞美ちゃんは赤のままのほうがいいよ。それよりピンクの方がいいかも。
 りーちゃん絶対似合うよ。私薄緑に戻したいから」
 
愛理もさらりと言った。
エースの愛理の色をもらうのもそれはちょっといやだ。
ていうか誰の色ももらうわけにはいかない。
 
「梨沙子のピンク絶対可愛いね」
 
舞美も調子に乗って言った。
451 :時風 梨沙子 :2012/10/13(土) 08:37
「いや、いいって。二人とも」
 
梨沙子は首を振って言った。
 
「そんな。遠慮しなくていいよ」
 
それでも舞美と愛理はにやにや笑いながら強引に言ってくる。
 
「ちょっと二人とも。そういうわけにはいかないでしょ」
 
舞が梨沙子の代わりに諭すように言ってくれて、ようやく舞美と愛理は引き下がった。
452 :時風 梨沙子 :2012/10/13(土) 08:39
℃-uteでの新しいメンバーカラー。
℃-uteに入ってBerryzのときはわからなかったことをたくさん学べた。
自分の感情とか気持ちよりもよっぽど大事なものがこの世界にはある。

新しい梨沙子に生まれ変わったつもりで新しいメンバーカラーをもらえたら梨沙子はこの上なくうれしい。
そしてそんなものがもらえるかどうかも今は分からなかったが、
℃-uteとしての梨沙子のイメージカラーをファンの人にも認知されたらきっと素敵なんだろうなと思う。

でもその前にベリーズとの対決という自分にも℃-uteにも超えなければならない大きな試練があった。
453 :時風 梨沙子 :2012/10/13(土) 08:39
「梨沙子、もうホテルに戻っていいって。一緒に帰ろうよ」
 
いったん部屋の外に出ていた千聖が戻ってきてそう言った。
マネージャーさんからの説明によると今日はみんなと同じホテルに戻ってもいいけど、
明日の朝にはまた病院で先生に見てもらうということだった。
 
ベッドから降りると梨沙子は体のだるさのせいでよろけそうになる。

「大丈夫?りーちゃん」
 
愛理が差し出してきた手を梨沙子は握った。
454 :時風 梨沙子 :2012/10/13(土) 08:40
久しぶりに愛理と手を握って病院の廊下を歩いた。
そのまま愛理は帰りのタクシーでもずっと梨沙子の隣で寄り添っていてくれた。
愛理の顔をふと見ているとふにゃりとした笑顔は消えて、
真剣で物怖じしないような強い表情がそこにあった。

きっと自分のせいで愛理に余計なプレッシャーをかけてるんだと梨沙子は思った。  
 
少しでも早く愛理の顔に笑顔が戻って欲しい。
そして梨沙子が愛理を支えたいと思った。
梨沙子がこの仕事をするようになってファン以外の誰かを支えたいなんて思ったのはこれが初めてだった
455 :時風 梨沙子 :2012/10/13(土) 08:42
宿泊場所はホテルというより和風の旅館だった。
梨沙子の部屋は愛理と二人部屋だ。
風邪がうつるから一人でいいと梨沙子はそう言ったのに、愛理が梨沙子を一人にはしておけないと強引に決めてしまったのだ。

部屋に入るとすでに布団が敷かれていた。
 
「もうあたしは明日のライブには出れないことは決まっちゃったんだから、愛理は明日のライブだけに集中してよ」
 
梨沙子は布団の中に倒れ込みながら言った。
自分はゆっくり休めば治る。
けど愛理達はフォーメーションを5人に変更し直して初日を迎えなければならない。
456 :時風 梨沙子 :2012/10/13(土) 08:43
「だから言ったでしょ。この6人で℃-uteなんだよ」
 
愛理に強くそう言われると梨沙子も言い返せずに押し黙った。
 
「それに一人なんて寂しいじゃん」
 
愛理はぽつりと言った。
 
梨沙子は布団の中に入った。
千聖がくれた生姜湯のおかげでか体はだいぶ楽になっていた。 
 
ふと見ると愛理は壁のところにもたれて携帯を見ていた。
今日は梨沙子が熱で倒れて寝ていた間もずっと梨沙子の傍にいてくれた。
今日一日ずっと愛理と一緒にいたなと梨沙子は思う。
愛理とこんなに一緒にいる時間が長いのはキッズ時代以来かもしれない。
 
「ごめんね。あたし、愛理に迷惑ばっかかけてる」
 
梨沙子は言った。
457 :時風 梨沙子 :2012/10/13(土) 08:44
本当はこんなはずじゃなかった。
愛理に負けないくらいダンスも歌も頑張って愛理を完璧に打ち負かす予定だった。
でも現実は愛理や℃-uteのメンバーに助けられてばかりいた。
 
「そんなことないよ」
 
愛理はそう言って梨沙子のいる布団の傍にやってきた。
 
「ね、今ブログ更新してんだけど何かコメントちょうだい」
 
愛理は梨沙子に℃-uteのブログの更新画面を見せた。
 
「あー、ブログかあ」
 
梨沙子はあまり乗り気ではなかった。
以前、梨沙子も℃-uteの愛理のブログをよく見ていた時期もあった。
458 :時風 梨沙子 :2012/10/13(土) 08:45
「何?どうしたの?」
 
明らかに反応の薄い梨沙子を見て愛理は訝しげに聞いてきた。
 
「うん。こんなこと言って気を悪くしたらごめんね」
 
「何?」
 
愛理は梨沙子の顔を覗き込むように聞いてきた。
 
「ブログっていろんな人がコメント書くじゃん。ほんとに一部でめったにいないと思うんだけど。愛理のファンじゃない人が嫌がらせみたいな書き込みしてるのを見たことがあってさ。それ、愛理が見なきゃいいなとか愛理のファンの人が見たらきっと傷つくとかいろんなこと考えちゃって。たった一回だけだし。そんなことほとんどないとは思うんだけどさ」
 
梨沙子はおそるおそる言った。
459 :時風 梨沙子 :2012/10/13(土) 08:47
「なんだ。そんなことか」
 
愛理はそう言って梨沙子の隣で大の字で横になった。
 
「びっくりした。愛理のブログおもしろくないとか言うのかと思った」
 
愛理は笑って言った。
 
「言うわけないじゃん。そんなこと」
 
「そういう書き込みたまーにあるけど。宣伝とか書かれてることもあるみたいだし。でもそういうのスタッフさんが消してくれるし。最近はほとんどないよ」
 
「そう。ならいいんだけど」
 
梨沙子がそう言うととなりからふふんという笑い声が低く聞こえてきた。
 
「何?」
 
「やっぱ、りーちゃんて優しいんだね。みやとかからよく聞くけどさ」
 
愛理がまじまじと梨沙子の顔を見て言った。
460 :時風 梨沙子 :2012/10/13(土) 08:48
「別にそういうわけじゃないよ」
 
梨沙子は恥ずかしくなって愛理と逆の方向に体を向けた。
すると後ろでがさごそと愛理が梨沙子の布団の中に入ってきた。
 
「ちょっと愛理。風邪うつるよ」
 
梨沙子の言葉を無視して愛理が体を密着させてくる。
 
「愛理、くっつきすぎだって」
 
それでも愛理は構わない。
梨沙子の体を後ろから抱きしめるように手足をからませた。
 
「ちょっと!」
 
梨沙子が離れようとしても愛理は「ひひ」とふざけてさらに手足をからませてくる。
 
「誰か!千聖、舞ちゃん!助けて」
 
思わず梨沙子は隣にいるメンバーの助けを呼ぶ。
それでやっと愛理もあきらめて布団から出てくれた。

しばらく二人で並んで横になる。
461 :時風 梨沙子 :2012/10/13(土) 08:50
「前にも名古屋で同じようなことがあったよね」
 
愛理がぽつりと言った。
 
「同じようなこと?」
 
「ずっと前だけどベリーズと℃-uteのコラボで一緒にベリビュー歌ったことがあったでしょ?
 私がうまく歌えなくて泣いてたらりーちゃんが助けてくれたよね?」
 
あのときは愛理の方が体調を崩していた。
のどもガラガラで、でもステージに立つときちんと歌ってる愛理を見てどうやって声を出しているのか不思議なくらいだった。
 
「助けたっていうか一緒に泣いちゃっただけだよ」
 
愛理がそんなに悩んでるなんて梨沙子は気づかなかった。
一番近くにいたのに愛理の気持ちが分からなかった自分が情けなくて、
それで梨沙子も泣いてしまったのだ。
462 :時風 梨沙子 :2012/10/13(土) 08:51
「りーちゃんて優しいから人の気持ちが通じすぎるんだよね」
 
「別にそんなわけじゃないよ。でもあの後さ。二人で泣きながら廊下歩いたよね。
 スタッフさんとか何があったんだみたいな顔で見ててさ」
 
梨沙子は昔を思い出して懐かしくなった。
 
「でもあの時私一番最悪だったな」
 
愛理が言った。
 
「なんで?」
 
「だってVery Beautyってさ。りーちゃんがこの曲を歌うようになって初めてベリーズのみんなを引っ張っていけるような気がするって私に言ってくれた曲なんだ」
 
愛理は言った。
463 :時風 梨沙子 :2012/10/13(土) 08:53
梨沙子も確かベリーズのみんなについていくのが精一杯で迷惑をかけないようにしなきゃってばかり考えていた。
でもこの頃から少しずつ一番年下でも、センターをもらってみんなを引っ張っていくことが少しずつできるようになっていった気がする。
 
「それ聞いたとき、私すごいうれしかったんだ。同い年のりーちゃんが先にデビューしたBerryzをリードするなんてすごいじゃん。
 すごい勇気づけられた。だから一番大事にしなきゃいけない曲だってずっと思ってた。
 なのに結局私が一番りーちゃんの足引っ張っちゃってさ」
 
「そんな、引っ張ってなんかなかったよ」
 
あの時の愛理の歌声も普段と変わらないぐらいだったのを梨沙子は今でも覚えている。
464 :時風 梨沙子 :2012/10/13(土) 08:54
「私、あの頃歌は自分でもイケてるって勝手に思ってたのね。
 うぬぼれてたんだと思う。でも一番大事な時に歌えない歌手なんて一体何なんだろうって思った」
 
梨沙子は相変わらずの愛理のプロ意識に感心した。
 
「しかもさ。あの時ってりーちゃんの誕生日のみんなでお祝いした日だったんだよ」
 
「え?そうだったっけ?」
 
「そうだよ。そんな大事な日にさ。りーちゃんを一番笑顔にしなきゃいけない日だったのに。私、りーちゃん泣かすしさ。本当最悪」
 
「そんなこと気にしなくていいのに」
 
梨沙子はくすりと笑って言った。
でも愛理の気持ちがうれしかった。
465 :時風 梨沙子 :2012/10/13(土) 08:56
「ねえ、りーちゃん、今回の℃-uteのコンサートツアーでやりたいこととかってある?」
 
「やりたいこと?」
 
「うん。こんなライブがしたいとか」
 
「あるけど。あたしがそういうのお願い出来る立場じゃないから」
 
梨沙子は言った。
 
「そんなことないよ。でも私ね。もしりーちゃんにそういうのがあったら私も頑張れる気がするんだ」
 
そのときの愛理の目はとても透明でまるで愛理の歌声のようだった。
 
「そうだなあ。ここまで来たら最後にみんな笑顔で終わりたい。それだけかな」
 
梨沙子は言った。
 
「分かった」
 
愛理はそう言ってにっと笑った。
お互いにベリキュー対決のことは何も言わなかった。
でも梨沙子には愛理が何を考えているのか手に取るように分かる。

愛理と通じ合えてる気がした。
今、二人とも同じ目標を見つめている。
梨沙子はそう確信していた。
466 :ES :2012/10/13(土) 08:57

今回の更新を終わります。
467 :名無飼育さん :2012/10/13(土) 21:35
梨沙子がどうなっちゃうのか楽しみ
468 :ES :2012/10/21(日) 12:08
>>467
レスありがとうございます。まだまだ続きますのでよろしくお願いします。
469 :時風 梨沙子 :2012/10/21(日) 12:27
翌朝、梨沙子は再び病院に向かった。
熱はほとんど下がっていたが今度は喉がいがらっぽくて痛い。
そして、何より℃-uteのみんなといっしょにいることができないことがつらかった。

歌うことはできなくても責めて舞台の袖ででもいいからメンバーを応援できたらといいのにと思った。
みんなが頑張ってるのに自分だけ病室にいなきゃいけない。
梨沙子は思い通りにならない自分の体を恨めしく思った。
470 :時風 梨沙子 :2012/10/21(日) 12:28
とにかく早く治そう。
こんなところで負けてなんかいられない。
愛理とみんなの励ましのおかげで、体の調子は悪くても梨沙子の心は爛々と力が湧いてくるようだった。
 
梨沙子は昨日と同じ個室で再び点滴を受けた。
真っ白な天井を見ながら℃-uteで踊ったダンスを思い浮かべる。
とにかく何もすることがないので本でも読もうかとバッグに手を伸ばした時だった。
コンコンとえらく強いノックの音がした。
 
「はい」
 
誰だろう。
そう思っているとドアがあいた。
そして真っ黒い髪の小柄な少女がさっとはいってきた。
一瞬誰か分からないくらいだった。
471 :時風 梨沙子 :2012/10/21(日) 12:29
「もも!?」
 
梨沙子がびっくりして叫ぶように言った。
 
「やっほー。梨沙子」
 
桃子が右手をあげて笑った。
 
「もも、どうしたの?何でここにいるの?」
 
桃子とは最近ほとんど連絡していなかったから、梨沙子は何だかうれしくて笑顔になる。
 
「よかった。梨沙子元気そうで。もう昨日梨沙子が倒れたってスタッフさんに聞いたから心配で来ちゃったよ」
472 :時風 梨沙子 :2012/10/21(日) 12:30
「え?わざわざ名古屋まで来てくれたの?」
 
「ん?まあボーノの仕事も兼ねてだけどね」
 
桃子は一瞬間を置いたあとに言った。
 
「そっか」
 
梨沙子は言った。
Berryzで一番忙しい桃子がいくらなんでも名古屋まで、梨沙子のために用もないのに駆けつけてくるはずはない。
 
「で、梨沙子本当に大丈夫?ライブ出れなくなって相当落ち込んでると思ってたんだけど」
 
「うーん」
 
梨沙子は一瞬視線を自分の目の前に落とす。
473 :時風 梨沙子 :2012/10/21(日) 12:31
「自分がこんなに情けないことになってるのに℃-uteのみんなすごい励ましてくれてさ。こんなことで負けちゃいけないなって思ってる」
 
梨沙子は顔をあげてはっきりと決意するように言った。
 
「そう」
 
桃子はうなずきながら安堵したように笑った。
 
「それにさ」
 
「それに?」
 
「あたし、℃-uteに入って愛理にすごい刺激受けてるんだ」
 
梨沙子は静かに言った。
474 :時風 梨沙子 :2012/10/21(日) 12:33
「愛理はめちゃくちゃ歌がうまいっていうのは分かってた。
 だからすごいライバル意識もってたんだけど。なんだかね。
 ℃-uteに入ってから愛理の歌聞いてると何だか勇気が湧いてくるの。
 自分はまだまだやれるんじゃないかって。
 何か愛理の歌にも自分にも限界がないみたいに思えて」
  
梨沙子は言いながら愛理のことについて自分が思っていることをしゃべるのって、本当に久しぶりだなと思う。
いつも愛理のことは密かに心の中だけでライバル心をもったり、劣等感をもったりしていた。
桃子はうんうんとうなずきながら聞いてくれる。
475 :時風 梨沙子 :2012/10/21(日) 12:34
「Berryzに戻りたくないってわけじゃ全然ないよ。
 でもあたしはまだ℃-uteでやらなきゃいけないことがあるって思う」
 
梨沙子は今の気持ちを素直に言った。
 
「分かってるよ。梨沙子」
 
桃子は優しく言った。
 
「どこにいたって梨沙子は梨沙子でしょ」
 
桃子ははっきりとそう言った。
 
「でもBerryzのみんなどう思ってるかな?あたしのこと」
 
「どうって?」
 
「Berryzのことほっといて℃-uteのことばかりしてるし」
 
桃子はくすくすと笑い始めた。
476 :時風 梨沙子 :2012/10/21(日) 12:36
「℃-uteに入って裏切ったなんて誰が思う?全然心配ないよ。今の梨沙子は℃-uteとして頑張ればいい」
 
桃子は梨沙子が一番気にしてることをいとも簡単に言い切った。
桃子は不思議な存在だ。
Berryzを愛してるくせにBerryzとか℃-uteだからという壁が全然ない。
 
「ありがと。もも。何かもっと元気出てきたよ」
 
「どういたしまして。でもよかった。りーちゃんが全然落ち込んでなくて」
 
「あたしだっていつまでも子供のままじゃいられないからさ」
 
梨沙子がそう言うと桃子はふふと笑った。
477 :時風 梨沙子 :2012/10/21(日) 12:37
「さあ安心したら何か喉渇いてきた。売店行ってくるけど梨沙子何か欲しいものある?」
 
「お菓子とコーヒー。ブラックで」
 
「また体に悪そうなもの飲むね」
 
桃子はあきれたようにそう言うと病室を出て行った。
 
梨沙子は病室で再び一人になった。
改めて昨日から℃-uteのみんなには励まされっぱなしだったことを思い出す。
特に愛理はずっと自分の傍にいてくれた。
桃子にはさっき自然とありがとうと言えたけど、まだ愛理にはお礼らしきものは何にも言えてないなと梨沙子は思う。
愛理とは何でも話せてるようで照れくさくて素直になれないところもたくさんある。
478 :時風 梨沙子 :2012/10/21(日) 12:38
「変わりたいな。自分」
 
梨沙子は自分の手のひらを見つめてそうつぶやいた。
そして変わった自分をファンやみんなに見て欲しい。
梨沙子はそんな自分を見せられるのはやっぱりステージでしかないと思う。
今自分に出来ることはあまりにも少ない。
でも今日はゆっくり休んで℃-uteのライブが終わったら一番先に駆けつけようと思った。
479 :時風 梨沙子 :2012/10/21(日) 12:38

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480 :時風 桃子 :2012/10/21(日) 12:39
桃子はその後梨沙子の病室を後にすると電光石火の勢いで東京へ戻っていた。
イベントのリハーサルには何とか間に合うことができそうだ。
桃子はスタジオの楽屋に向かってひたすら階段を上る。
もう駅から走りっぱなしで脚がつりそうだ。

バタンとドアを開けるとBerryzのメンバーがなんでもないようにそこに立っていた。
 
「珍しいね。桃が遅刻するなんて」
 
雅が不思議そうに桃子を見て言った。
481 :時風 桃子 :2012/10/21(日) 12:40
「ごめん。みやにちょっと話があるんだけど」
 
息つく暇もなく桃子は雅に話しかける。
 
「何?」
 
怪訝そうな表情をする雅を部屋の隅に呼ぶ。
 
「あの・・・次のベリキュー対決のことなんだけどさ」
 桃子は照れ笑いするように言う。
 
「言っとくけどわざと負けてくれって言われても負けないから」
 
雅はつっけんどんにそう言った。
 
「いやいやそんなんじゃないよ」
 
桃子は慌てて否定した。
 
「じゃあ何?」
 
「もし、℃-uteが勝ったらみやに頼みがある」
 
桃子はいつもと違う真剣な顔で言った。
482 :時風 桃子 :2012/10/21(日) 12:41
「悪いけどうちら負ける気ないよ」
 
雅は一歩も引かない調子でそう言った。
桃子はいつものことながら負けず嫌いの雅に苦笑いする。
 
「だから本当にもしものことでいいよ。それに梨沙子のためだよ」
 
桃子は言った。
 
「梨沙子のため?」
 
梨沙子のことになると雅の表情が急に変わる。
 
「今度うちらが負けたら梨沙子をベリーズとして本格的に送り出さなきゃいけないってことじゃん。
もしそうなったら梨沙子を手ぶらで行かせるわけにはいかないでしょ」
 
桃子は微笑して言った。
483 :ES :2012/10/21(日) 12:42

今回の更新を終わります。
484 :名無飼育さん :2012/10/24(水) 21:08
この小説が週末の唯一の楽しみですw
485 :ES :2012/10/28(日) 09:29
<<484
そこまで言っていただけるとは嬉しい限りです!
しかしたまには現場も良いですよw
486 :時風 梨沙子 :2012/10/28(日) 09:57
「わざわざ会場まで来なくてもみんなですぐ病院向かったのに。大丈夫だったの?」
 
隣に座っている愛理が心配そうに言った。
℃-uteのライブが無事終わって梨沙子達は帰りの新幹線の中だった。
 
「うん。やっぱ最後にどうしても現場まで行きたかったから」
 
梨沙子はライブ終了後のメンバーに差し入れをもっていった。
体調はだいぶ回復し、この分ならベリキュー対決の日は完全に回復して望めそうだった。
487 :時風 梨沙子 :2012/10/28(日) 09:59
「それに桃がお見舞いに来てくれてだいぶ元気になった」

梨沙子は言った。
 
「へえ。桃来てたんだ」
 
愛理が驚いた顔をして言う。
 
「うん。ボーノの仕事とか言ってたよ」
 
梨沙子がそう言うと愛理が怪訝そうな顔をする。
 
「ボーノの仕事?名古屋でそんな仕事あったっけ。何も聞いてないけど」
 
「桃だけ入ってたんじゃないの?」
 
「ボーノで桃だけ仕事って。それってわざわざボーノじゃなくてもよくない?」
 
「ああ。それもそうか」
 
愛理に突っ込まれて梨沙子は苦笑いする。
488 :時風 梨沙子 :2012/10/28(日) 10:00
窓から見える外の景色はすっかり暗くなっていた。
わずかに見える山々を背景に点在する民家や街灯の明かりひたすら後ろへ流れていく。
他のメンバーはライブで全力を出し切ったのだろう。
みんな疲れて寝てしまっている。
愛理だけが元気よく梨沙子と話してくれていた。
 
愛理とイヤホンを片方ずつにして、一緒に聞いているi-podはBerryzの「単純すぎなの私」が流れ始める。
 
「君が好きでー君になりたいくーらい君が好きでー」
 
思わず愛理が曲に合わせてサビの部分だけ歌った。
ライブが終わったばかりだというのに愛理は元気だなと梨沙子は感心する。
489 :時風 梨沙子 :2012/10/28(日) 10:02
「そういえば私、昔はりーちゃんに憧れてりーちゃんになりたいってずっと思ってたことあったな」

「え?」
 
思わず梨沙子は吹き出す。
愛理とは昔からじゃれあっていて自分になりたいとか思われてたなんてありえない。
 
「嘘でしょ?」
 
「ホントだよ。だって昔からりーちゃんは可愛くてファンからもすごい人気があってさ。正直うらやましかったよ」
 
愛理は真面目な顔で言う。
 
「よく言うよ。℃-uteのセンターが」
 
梨沙子は嫌味なとばかりに言う。
490 :時風 梨沙子 :2012/10/28(日) 10:04
「でもBerryzがデビューしたてのときは私も不安だったな」
 
愛理は言った。
 
「ああ、愛理達はまだキッズのままだったもんね」
 
「んーん。そうじゃなくて」
 
愛理は首を横にふった。
 
「りーちゃん、しょっちゅうメンバーと喧嘩しててさ。私に愚痴ってやめたいとかいつも言ってて。
 りーちゃんひょっとしたらこのまま本当にやめちゃうんじゃないかって」
 
「え?そんなこと心配してくれたの?」
 
梨沙子はベリーズの悪口はメンバーには言えないものだから、愛理にすべてをぶちまけたことだけは覚えている。
だけどそれはやめようと思うほど悩んでいたのではなく、単に梨沙子が子供で毎日不満だったことを愛理に聞いてもらっていただけだった。
491 :時風 梨沙子 :2012/10/28(日) 10:05
「だってりーちゃんはいつも私の味方だったから。
 私キッズの頃、ちょっと孤立してるみたいなところがあったんだ。
 でもりーちゃんはみんなが私に何か言ってもいつも傍にいて私をかばってくれた。
 だからりーちゃんがいなくなったらどうしようって」
 
「そうだったっけ?」
 
「私昔は、生意気でツンツンしてたから。そのくせ自信過剰だったし」
 
梨沙子にとって愛理は昔から明るくて変顔したりダジャレを言って自分を笑わせてばかりいた。
だから愛理からまさかそんな言葉が出るとは思ってもいなかった。
492 :時風 梨沙子 :2012/10/28(日) 10:07
「愛理が孤立してるなんて何か想像できないけど。昔から孤立してるんだったら桃でしょ?
 桃は場の空気なんて全く読まないし・・・」
 
梨沙子がそう言うと愛理は笑い始めた。
 
「おもしろいな。ボーノのときみやも同じようなこと言ってるよ。桃に対する態度が全く同じ。
 みやとりーちゃんて本当の姉妹みたいだね」
  
「そうかな?」
 
「そうだよ。信頼してるくせにそれを認めようとしないところが」
 
「別にそこまで信頼もしてないけど」
 
梨沙子が不満げに言うと愛理はまだクスクスと笑っていた。
493 :時風 梨沙子 :2012/10/28(日) 10:10
「でも℃-uteってさ。Berryzと違ってみんな温和そうっていうか。
 Berryzと比べてケンカしてなさそうだね」
 
話題を変えようと梨沙子はそう言った。
 
「喧嘩するよ。普通に。でもBerryzみたいに大規模じゃない」
 
「大規模?」
 
「だって昔のBerryzって喧嘩し始めたらまるで大戦争じゃん」
 
「私も舞ちゃんと喧嘩したり、千聖と舞ちゃんなんてしょっちゅう喧嘩してるけど。
 でもBerryzってたしか4対4とかで分かれて喧嘩してなかった?
 あの子はあっち側についたからもうしゃべらないとかやってたじゃん」
 
思い当たるふしがあって、今度は梨沙子も笑い始めた。
494 :時風 梨沙子 :2012/10/28(日) 10:11
「やってたね」
 
Berryzも交換するシールの大きさが小さいとかで本当にくだらないことで喧嘩していた。
 
「桃がぼやいてたことあったな。りーちゃんが絡むと喧嘩が大きくなるって」
 
「桃が?」
 
「そう。りーちゃんが絡むと絶対みんなが大喧嘩し始めるって。桃言ってたよ」
 
愛理がイタズラっぽい笑顔を浮かべて言った。
思い返すと梨沙子にも思い当たることが確かにある。
 
「でもそれさ。桃が悪いんだよ」
 
梨沙子は誤解を解こうと必死に言い始める。
495 :時風 梨沙子 :2012/10/28(日) 10:14
「その四対四でケンカしたときさ。最初はあたしと桃のケンカのはずだったんだ」
 
梨沙子は昔を思い出して言った。その時のことなら梨沙子もよく覚えている。
 
「あたしが桃のバッグの上にどさっと自分の物を置いたとかで桃とちょっと言い争いしてたの。
 そしたらキャプテンがBerryzノートに人の物の上に物を置かないというルールを作ってたからあたしに守れてないって注意してきたの。
 そしたらみやまでね。前に梨沙子が同じことをしてたって言ってきたの。
 あたし二人に言われてかっときちゃって、泣きそうになって言い返したの。
 そしたら桃がね。逆にそんなことまで言わなくていいとか言ってキャプテンとみやに文句言い始めてさ。
 結局berryz全体であたしが悪いとか悪くないとかで他のメンバー巻き込んで大ゲンカ。
 でも何故か桃はあたし側にいるの。元々あたしと桃のケンカのはずなのにね。
 だから桃が悪いんだよ」
 
言っているうちに梨沙子も桃子の行動がおかしくて笑ってしまう。
496 :時風 梨沙子 :2012/10/28(日) 10:16
「面白いよね」
 
愛理も微笑んで言う。
 
「桃って昔から不思議なんだよね。あたし昔から最年少でスタッフさんとかもあたしにだけちょっと甘くしてることがあったんだ。
 そしたら桃、何で梨沙子ばっかりへこひいきするんですかってみんなが聞いてる前で平気で文句言ってたんだよ。
 だから桃は絶対あたしのこと嫌いなんだって思ってた。
 なのに1対1で話すと普通に優しいの。この人二重人格?ってぐらい」
 
梨沙子は言った。
愛理は少しうつむいて梨沙子から視線をそらすとまるで感心するように笑った。
 
「私、桃のそういうとこ好きだな」
 
愛理は前を向いて席にもたれて言った。
497 :時風 梨沙子 :2012/10/28(日) 10:17
「それきっと桃ってさ。Berryzの他の誰にも梨沙子ばかりえこひいきされてるって言わせたくなかったんじゃないかな。
 桃が言えば誰も言わなくてすむから。桃が一人で大人気ないこと言ってるってことにしたかったんだと思う」
 
「そうなのかな」
 
梨沙子はぽつりと言った。
 
「桃って昔からそう。自分のことしか考えてないって言いながら人のことばっかり」
 
愛理は言った。
498 :時風 梨沙子 :2012/10/28(日) 10:20
「今はみやがBerryzで一番注目されてるけどさ。
 きっかけは桃だと思うんだ。
 桃がバラエティ番組とかお笑い番組ですごく活躍してくれたからBerryzやBuono!の歌を聞いてくれる人が増えた。
 そしたら連鎖的に℃-uteのファンの人も増えてきたんだ」
 
「確かにそうかも。ずっと前から桃だけテレビのスケジュールすごかったしね」
 
梨沙子も心の中では桃子を尊敬している。
でもBerryzでは誰もそんなことは言わない。
 
「桃はとにかく自分が注目されてることでBerryzの存在をみんなに知ってほしいと思ってたんだと思う。
 Berryzに興味をもってくれて一度でも歌をきいてくれたらあとは絶対大丈夫って思ってたんだと思うよ。
 だって歌さえ聞いてくれれば絶対信頼できるBerryzのメンバーがいる。みやや梨沙子がいるからね」
499 :時風 梨沙子 :2012/10/28(日) 10:21
「・・・うん」
 
梨沙子はうなずくしかなかった。
本人は絶対に否定するだろうけど確かに愛理が言っていることは桃子が考えそうなことだった。
 
「桃は楽して目立つ位置には絶対行かない。桃がアイドルの中のアイドルって言われるのもそういう理由なんだと思う。
 だって桃は絶対カッコいいもん」
 
愛理は当たり前のようにそう言った。
普段ベリーズにいたら絶対聞けないような言葉だと思った。
 
急に桃子が笑顔でいってくれた「梨沙子は℃-uteで頑張ればいい」といってくれたことが思い出された。
桃子は仕事で名古屋に来たというのは実は嘘で、梨沙子を励ますためにわざわざ来てくれたのかもしれないと梨沙子は思う。
500 :時風 梨沙子 :2012/10/28(日) 10:23
「もう愛理にそんなこと言われるとなんか戦意喪失してきたよ。
 今日の朝までは絶対Berryzになんか負けないって思ってたのにさ」
 
梨沙子がそう言うと愛理はあははと笑った。
 
「それとこれとは関係ないよ。℃-uteだって絶対負けられない。
 うちらは絶対勝つよ。勝って6人でファイナルまで行くんだから」
 
愛理の輝くような目を見た。

今までの梨沙子だったら気後れしてしまったかもしれない。
愛理や桃子や雅がどんどん前に成長しているようで焦りを感じたかもしれない。
でも今の梨沙子は少しだけ違った。
501 :時風 梨沙子 :2012/10/28(日) 10:24
自分が変わりたいと強く思う。
それだけじゃなく絶対変われるという自信があった。
体調を崩して少しだけ遅れてしまっただけだ。
 
梨沙子は静かにうなずいた。
 
とにかく前へ進みたい。
はやる梨沙子の気持ちを代弁するように夜の新幹線は剛速球のように東京へ向かっていた。
502 :ES :2012/10/28(日) 10:25

今回の更新を終わります。
503 :時風 梨沙子 :2012/11/04(日) 13:52
移動中のバスの中で、マネージャーから改めて今日のベリキュー対決について、
ベリーズが勝ったら梨沙子はその瞬間からBerryz工房に復帰すること。
もし℃-uteが勝ったら梨沙子はツアーファイナルまで℃-uteのメンバーとして活動するという条件が発表された。

今日は前と同じ「鬼ごっこ」と「体力勝負」と最後の「エース対決」の3つのうち二つ以上勝利したチームが勝ちになる。
ゲームにはカウントされないがBerryzと℃-uteで行うミニライブも予定されていた。
このミニライブは梨沙子にとって℃-uteとしての自分の力が発揮できる唯一のチャンスだった。
504 :時風 梨沙子 :2012/11/04(日) 13:53
「打倒Berryz工房」
 
℃-uteが乗るバスの中は、まるでその言葉一色に包み込まれているように梨沙子は感じた。
メンバーからは緊張感というより闘志のようなものをひしひしと感じる。
その気持ちが梨沙子にとってただうれしかった。
 
「勝つしかない」
 
梨沙子は絶対に後悔しないように、少しでも変わることのできた自分を見せられるように
最後まで全力でBerryz工房と戦う覚悟を決めた。
505 :時風 梨沙子 :2012/11/04(日) 13:54
窓から巨大なショッピングモールが見えてきた。
前にベリキュー対決をしたときと同じ会場だ。

あのとき、梨沙子は℃-uteから集中攻撃を受けて、愛理に何度も捕まってしまった。
でもそのおかげで℃-uteのみんなと一緒にひたむきに努力することができるようになった。

今ではそんなことも懐かしく思い出のようだ。
今回も前回と全く同じ鬼ごっこゲームからベリキュー対決はスタートする。

今回は逃走範囲が少し広くなっているのと一度捕まったら復帰できないところ以外は前回と同じルールだ。
506 :時風 梨沙子 :2012/11/04(日) 13:55
バスから降りるとベリーズのメンバーはすでに到着していた。
千聖が雅の元へ駆け寄って何か話を始め、舞はキャプテンと普通におしゃべりを始めたので、
表面上は和やかな空気が流れた。

それでも℃-uteとBerryzの間で何となくピリピリとした空気があった。
 
「いい?追いかけるときは二人ずつペアで」
 
舞美が残った梨沙子と愛理と早貴に言う。
℃-uteはまた前と同じ集団作戦をとるつもりだった。
 
「でもベリーズはどんな作戦でくるんだろ?前と同じようにはいかないんじゃないかな」
 
早貴が不安そうに言う。
507 :時風 梨沙子 :2012/11/04(日) 13:57
梨沙子はふとBerryzの方を見た。
梨沙子はベリーズを一目見ただけで威圧感を感じてしまっていた。
今まで外からBerryzを見たことがなかったからそう思えるのかもしれない。
Berryz工房は体の大きなメンバーも多く堂々としていて、
雅を始めとしてみんな一様に自信満々という感じだ。

みややキャプテンが梨沙子のために℃-uteに挑戦状を送ってきたことは、梨沙子も十分に分かっていた。
それでも、梨沙子にとって今日の対決だけは負けるわけにはいかない。

これは℃-uteとしての自分からBerryz工房の自分への挑戦でもあるような気がしていた。
508 :時風 梨沙子 :2012/11/04(日) 13:58
℃-uteが追う側から鬼ごっこゲームがスタートした。
このゲームは足の速さで勝る℃-uteが圧倒的に優勢のはずだ。
出来るならこの鬼ごっこと次の体力勝負で2連勝して、
雅が出てくるエース対決までに決着をつけておきたいと℃-uteの誰もがそう思っていた。

ベリキュー対決で雅がダンスや歌で℃-uteメンバーに負けたことは一度だってない。
 
℃-uteは千聖と舞、舞美と愛理、早貴と梨沙子の3組でチームを作ってBerryzを追いかける。
Berryzのメンバーを発見したらすぐに追いかけずに連絡をとりあって全員で周辺を固めてから
一気に捕まえるという作戦だ。

前回のときはその作戦が見事にはまって梨沙子は愛理に何回も捕まえられてしまった。
509 :時風 梨沙子 :2012/11/04(日) 13:59
しかし今回は、梨沙子と早貴とずっと歩き回っていたが、Berryzメンバーを誰も見つけることができない。
トランシーバーで他のペアからも誰も見つからないという情報が入ってくるだけだ。
 
「前のときだったらすぐに見つかったんだけど。もしかしてうちらの作戦読まれてる?」
 
早貴が不安げに言った。
 
「分かんない。何でいないんだろ」
 
梨沙子もあたりを見渡すが誰もいる気配はない。
 
「どうしよう。誰もいないよ」
 
トランシーバーから舞の焦る声が聞こえてきた。
510 :時風 梨沙子 :2012/11/04(日) 14:01
Berryzは手を抜くつもりは全くない。
本気で勝ちに来るつもりだ。
梨沙子は姿を消したBerryzからそう感じ取った。
きっと指揮をとっているのはキャプテンか桃か雅だと思う。
いなくなったBerryz工房がかえって梨沙子にとって不気味に大きな存在のように思えた。
 
誰も捕まえることのできないまま残り時間がどんどん少なくなっていく。
トランシーバーで連絡をとりつつも次第に℃-uteの焦りは大きくなっていった。
 
「ねえ、こうなったら逃走範囲を手分けして全部探してみるしかないと思う。きっとどこかに隠れててあまり動いてないんじゃないかな」
 
愛理がそう言って℃-uteは3組で手分けしてしらみつぶしにあたってみることになった。
梨沙子は早貴と一緒に指定された範囲で植え込みの中や柱の影などを細かく探した。
511 :時風 梨沙子 :2012/11/04(日) 14:03
「何かひっかかるんだよね」
 
早貴がぼやくように言う。
 
「何が?」
 
「いやうちらの動き読まれてるっていうか」
 
「でもどこかから見てるんだったらこっちからも見つかるはずじゃん」
 
「それはそうなんだけど」
 
そのときトランシーバーから声が聞こえた。
 
「桃、発見。捕まえたよ」

舞美の声だった。
やった。
梨沙子達も胸をなでおろした。

でもそれからは結局誰も見つけることができずに時間が終了してしまった。
梨沙子と早貴はため息をつきながらもとの集合場所に戻った。
512 :時風 梨沙子 :2012/11/04(日) 14:04
「超落ち込みーど・・・」
 
舞が口をへの字に曲げて落胆した声をだした。
そこにはベリーズで唯一捕まった桃子が℃-uteと一緒にいた。

敵なのに桃子がそこにいると何故か落ち着いた。
 
「まあまだゲームは続くんだからさ。落ち込まないでやったら」
 
桃子が言った。
 
あれほど探したBerryzのメンバーがどこからともなく現れてくる。
捕まった桃子と℃-uteがBerryzを迎える格好になった。
 
「桃、わざと捕まったでしょ?ていうか真面目にやれ」
 
雅がすぐに駆け寄ってきて桃子の首を絞める仕草をする。
513 :時風 梨沙子 :2012/11/04(日) 14:06
「あれ、捕まったの私だけ?みたいな」
 
桃子がおどけて笑う。
梨沙子は何だか桃子のこの余裕がうらやましかった。

そして次の瞬間、梨沙子は雅と視線がばっと合った。
一瞬何を話していいか分からない。
 
「じゃあ次は梨沙子、集中攻撃するから。覚悟しといてね」
 
雅が言った。
雅のあまりの勢いに思わず梨沙子は舞美の後ろに隠れる。
 
「みんなでさあ。梨沙子だけ狙うことに決めたから」
 
千奈美が笑いながらかぶせて言う。
 
「ていうかそれ、いじめじゃん」
 
梨沙子が言い返す。
 
「大丈夫だよ。梨沙子は私たちが守るから」
 
舞美が梨沙子の前に立ってそう言ってくれた。
514 :時風 梨沙子 :2012/11/04(日) 14:08
「でも梨沙子、舞美には気をつけたほうがいいよ。ホント頼りないから」
 
千奈美が舞美を見て言った。
 
「ちょっと梨沙子の前で言わないでよ」
 
舞美が笑って言った。
最初のBerryzと℃-uteのピリピリした空気が少し緩んだ。
ただ真剣勝負には違いはない。
 

℃-uteが逃げる側に回ってゲームがスタートした。
 
みんなでバラけて見つからないように逃げよう。
℃-uteは当初の予定通りの作戦だった。
前回もこの作戦でほぼ逃げ切ることができた。
ベリーズよりも℃-uteの方が平均して足が速い。
まともにいけば℃-uteのほうが絶対に有利なはずだった。
515 :時風 梨沙子 :2012/11/04(日) 14:08
それでもベリーズはそんなことは全く関係ないように着々と勝利を目指しているように見える。
特に雅は勝負になれば相手が梨沙子だろうとなんだろうと、
容赦なく追いかけて捕まえるだろうなと雅の性格をよく知っている梨沙子は思う。
 
ただ、もう怖がってる場合じゃない。
逃げ切って勝たなきゃいけないんだ。
梨沙子は一人で噴水広場を歩きながら思った。
 
「なっきぃ発見。位置はね。D1A4、植え込みの影」
 
突然トランシーバーから雅の声が聞こえた。

梨沙子は一瞬何が起きたのか分からなかった。
トランシーバーは味方からの音声しか聞こえないはずだ。
516 :時風 梨沙子 :2012/11/04(日) 14:10
「熊井ちゃんは商店街の方角からいって。茉麻はその道そのまままっすぐ」
 
間違いなく、雅の指示する声だ。
梨沙子はトランシーバを見つめてようやく状況を理解する。

きっとスタッフが間違えてBerryz側のトランシーバを梨沙子に渡したのだ。
 
「なっきぃ、確保。やったね」
 
再び雅の声がした。
 
「次はね。その近く舞が歩いてる。位置は・・・」
 
雅の声を聞いてると℃-uteの動きを完璧に把握しているようだ。
それをメンバーに伝えている。
517 :時風 梨沙子 :2012/11/04(日) 14:11
「待って。今、ちょっと木の陰で見えないけど。コーヒー屋さんの横のところ。位置はD2A6」
 
雅の声を聞いた瞬間、梨沙子は思わず上を見上げた。
そこに新しく新築された高い白い塔が見えた。

前に来た時は建設中でここのショッピングモールのシンボルとして、新しく作られたのだ。
 
みやはあそこから下を見てる。
死角になるような場所はほとんどなかった。

このままじゃ全員捕まっちゃう。

梨沙子の心臓はばくばくとなり始めた。
 
「舞確保した?よっしゃ。次」
 
その合間にも次々と℃-uteのメンバーは捕まっていった。
早く℃-uteのメンバーに知らせないと梨沙子は思うが、Berryz用のトランシーバのため℃-uteのメンバーとは連絡はとれない。
518 :時風 梨沙子 :2012/11/04(日) 14:13
梨沙子はとりあえず雅がいる塔から見えない位置を探そうとアーケードの中に入った。
しかしそこは上が完全に透明になっていた。

梨沙子は早めに通過しようと小走りでアーケードを抜けようとする。
 
「ちょっと待って。梨沙子見つけたよ。歩いてるだけですぐ分かるね。透明なアーケードの中」
 
ついに見つかってしまった。

梨沙子は泣きそうになって立ち止まる。
 
「入口と出口固めて」
 
「了解。すぐ向かうね」
 
梨沙子はすでにアーケードの真ん中にいてもう抜け道はない。

梨沙子は透明なアーケードの中から雅がいるはずの塔を眺めた。
519 :時風 梨沙子 :2012/11/04(日) 14:14
「梨沙子がこっち見てる。見えてんのかな。おーい梨沙子」
 
雅の姿は直接は見えなかったが、トランシーバからの雅の声が聞こえた。
梨沙子は雅の声には反応せずそのまあじっと同じ方角を見続けた。
いつも自分の前には雅がいるんだなと梨沙子は思う。
雅が本気になれば自分を取り返すことなんて別にわけないことなんだと思える。

本当に自分がみやの呪縛から解き放たれるときなんて、来るんだろうか。
 
「梨沙子、何見てんの?」
 
キャプテンの声がした。
 
「ごめんね。ルールだから」
 
佐紀の手が梨沙子の肩にふれる。
520 :時風 梨沙子 :2012/11/04(日) 14:15
「梨沙子大丈夫?ぼうっとして」
 
茉麻が佐紀とは反対側からやってきて言った。
 
「うん。二人が両側から来るのがわかってたから。ほぼあきらめてた」
 
梨沙子は苦笑いして言った。
結局梨沙子も為すすべなく捕まってしまった。
 
「じゃあ、梨沙子また後でね」
 
二人はBerryz時代とは全く変わらずに優しく言う。
まるでさっさとベリーズに戻ってきなよと言われているようだった。
521 :ES :2012/11/04(日) 14:16

今回の更新を終わります。
522 :名無飼育さん :2012/11/04(日) 16:17
ついに対決が始まりましたねー。ベリヲタだけど℃-uteがんばれって思っちゃうw
523 :ES :2012/11/11(日) 21:20
>>522
レスありがとうございます。ベリヲタでもチーム℃-uteでも
とにかくベリキューはいいですよね。
524 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:21
梨沙子は動物用の檻みたいなところへいれられた。
中には先に捕まった早貴と舞がいる。
前回と違って一度捕まれば復活がない。
 
「ドンマイ。梨沙子」
 
舞がしょげた梨沙子の姿を見て言った。
もうこの時点で℃-uteの敗北は決定的だ。
 
「はい。みなさん、お待たせしました」
 
続いて千聖まで現れて自嘲気味にそう言った。
どうやら千聖まで捕まったらしい。
 
「ちょっと。千聖何やってんの?」
 
舞が甲高い声を出す。
525 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:23
「今回のベリーズ、もう本気すぎて半端ない。3,4人でさあ。
 待ち伏せしてるんだよ。逃げ切れっこないって。あれは」
 
千聖が檻の中に入ってきて言った。
 
「そんなの最初から分かってたじゃん。もっとダイエットしたほうがいいんじゃないの?」
 
「さいな。私だって舞ちゃんよりはねばったじゃん」
 
「はいはい。二人とも。まだリーダーと愛理は捕まってないんだから応援しようよ」
 
早貴が二人をなだめるように言う。
檻の中にはテレビが設置されていて各カメラからの映像を見ることができる。
526 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:24
「みやがあの塔の上にいるんだ。そこから全部見れるようになってんの。
 だからみんなが捕まったのも偶然じゃなくてみやが上から見てたんだと思う。
 あたし、みんなに言おうと思ったけど結局捕まっちゃって」
 
梨沙子はようやくさっき伝えられなかったことを話した。
 
「そっか。さっきうちらが鬼の時、全然ベリーズメンバー見つけられなかったのも、
 誰かがあの上にいてうちらの動き全部わかってたんじゃない?」
 
早貴が言った。
 
「そっか。やられた」
 
千聖が柵に手をついた。
 
「それであんなに待ち伏せしてたんだ。逃げ切れっこないね」
 
「気づかなかった」
 
四人とも肩を落とした。
527 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:26
カメラには舞美が一人で、数人に追いかけられながらもものすごい勢いで振り切っている姿が映っていた。
普段バラバラのベリーズが同じ目標に向かって団結した時の力は凄まじいものがある。
そして今日のベリーズは完璧に本気だ。
 
「これで舞美ちゃんまで捕まったら℃-ute全滅しちゃうよ」
 
梨沙子が唇を噛み締めて言った。
 
愛理は舞美ほど足が速いわけじゃない。
だから雅に見つけられて捕まるのも時間の問題だと梨沙子は思う。
 
「でもさっきから愛理、全然見つからないんだって。カメラにも全然映ってないもん」
 
舞が言った。
528 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:27
確かに雅が上からいくら望遠鏡で探しても愛理が見つからないと言っている場面が映し出された。
舞美は時々見つかっては追走されるが、その度に何とか振り切っている。
 
「愛理ってカメラマンさんからも隠れてるのかな」
 
舞が感心して言う。
 
「まさかそれはないっしょ。撮影になんないじゃん」
 
「でも全然映ってないよ」
 
梨沙子は食い入るように画面を見つめた。
舞美と愛理は圧倒的なベリーズの力に対する℃-uteの最後の抵抗に思えた。
529 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:28
時間がどんどん経過していく。
最初の頃に4人が簡単に捕まってしまってからは、
舞美と愛理は逃げ続けていた。愛理は姿さえ見えない。

舞美は見つかるごとに全力疾走してベリーズの集団作戦を巧みにかわしつづけた。
ついにタイムアップの合図の音が鳴った。
 

カメラが通路脇に置いてある小さな人工の竹林が映った。
そこに大きな瓶が置いてある。
見ていると木で出来た蓋が内側から押し上げられた。
中からひょっこり現れたのは愛理だった。

愛理は四人が見ているカメラの前でピースしてにっこり微笑んだ。
それは℃-uteが負けてしまったことなんて全く気にしてないようなあっけらかんとした表情で、
梨沙子も他の三人も思わず脱力してしまった。
 
530 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:29
結局鬼ごっこ対決は、ベリーズ側で捕まったのは桃子一人に対して、
℃-uteは早貴、舞、千聖、梨沙子の四人が捕まってしまいBerryzチームの圧勝に終わってしまった。
次の障害物リレーに負けたら、ベリキューエース対決を待たずに℃-uteは負けが確定してしまう。
 
「梨沙子、ごめん。もうマジで緊張してきた」
 
障害物リレーがある隣接した運動場へ向かう途中、早貴が突然話しかけてきた。
 
「あたしも」
 
梨沙子もこれに負けたらもう終わりだと思うと心臓がばくばくと鳴っている。
 
「プレッシャーでなんか吐きそう」
 
早貴が死にそうな顔をして言った。
 
「なっきぃ頼むよ。持久走負けないんでしょ?」
 
千聖が言う。
531 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:30
「持久走得意ってわけじゃないし。逆にあたし本当こういうの苦手なんだよね」
 
早貴が渋い顔をして言う。
 
「なんか今日のベリーズ、気合入りすぎてて勝てる気しないよね」
 
普段明るい千聖までそう言った。
 
「普通にさ。歌とダンスで勝負させてくれたらいいのに」
 
梨沙子がぽつりと言った。
 
「そういうわけにもいかないんじゃない。お互いのファンの人もいるし、
 歌とダンスではっきり勝ち負け決めちゃうってのは。とにかく最後の愛理までつながなきゃだよね」
 
舞が真剣な顔をして言った。
532 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:31
℃-uteの残された道は障害物リレーとエース対決の2連勝しか残されていない。
 
梨沙子も自分自身に言い聞かせるようにうなずく。
高鳴る心臓を抑えて深呼吸する。
自分のために頑張ってくれる℃-uteのためにもどうしてもここで負けるわけにはいかなかった。
 
ふと梨沙子は愛理の方を見てみた。
前を歩いてる愛理は舞美と楽しくおしゃべりしながら運動場へ向かっていた。
まるでプレッシャーなんて全然感じてないみたいだった。
 
不意に梨沙子は、愛理に抱きしめられた夜のことを思い出した。
あのとき愛理に言われた「大丈夫だよ」という言葉は今でも鮮明に残っている。

自分の言った言葉のプレッシャーが今愛理にも重くのしかかっているはずだ。
それなのにほんわかとした愛理の周りの空気は全く変わらないみたいだった。
533 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:32



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534 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:33
空は絶頂に晴れ渡り、心地よい風が流れている。
見上げると点滅する飛行機が、真っ青な空の間をゆっくりと機械音を響かせながら飛んでいくのが見えた。
梨沙子はまるで流れ星でも見るように℃-uteの勝利への願いを込めた。
 
走者順は梨沙子、舞、千聖、早貴、愛理、舞美の順番だ。
 
ベリーズの第一走者は友理奈で、何かしゃべったような記憶があったが、
緊張しすぎて何を話したのか覚えてない。

スタートの笛が鳴った時、梨沙子はとにかく無我夢中で走り続けた。
バットでくるくると何周も回って目が回転しながらも必死に前に進んでハードルをまたいで跳び箱を飛んだ。
友理奈とほぼ同タイムだったが、運動が苦手な梨沙子にしては無難にこなした。

舞にタッチして自分の役割が終わると梨沙子はその場に座り込んでしまった。
535 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:34
「ナイス。梨沙子」
 
次に走る千聖が笑顔でそう言ってくれた。
見ると足の速い舞は相当リードして最終コーナーを回っていた。

よかった。
この調子で行けば勝てるかもしれない。

舞が息をきらしながら帰ってくると、今度は運動が得意な千聖もぐんぐんとベリーズを引き離していった。
ここまでは足の速さで自力に勝る℃-uteが断然に有利な展開になっていた。
 
「後はなっきぃがみやを抑えてくれたら何とかなるんだけど」
 
戻ってきた舞が梨沙子の傍にきて言った。
 
「なっきぃ足速いから大丈夫でしょ?」
 
梨沙子の言葉に舞が曖昧な返事をする。

梨沙子も早貴の運動神経がどんなものかはさっぱり分からない。
ただキレのあるダンスの動きを見ているときっと足も速いと勝手に想像する。
536 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:35
梨沙子はふと愛理を見てみると舞美と談笑しながらマイペースに膝の屈伸運動をやっていた。
梨沙子の目には同じ℃-uteでもこれだけあたふたしている自分達と比べて、
愛理と舞美はのんびりしすぎてあまりにも対照的に見えた。
 
「何で愛理はあんなに余裕なの?」
 
思わず非難めいた口調が梨沙子の口から出る。
 
「いいんだよ。愛理はあんなでも本番になったら全部完璧にできちゃう人だから」
 
舞がさらりと言った。
 
そのとき、早貴がバットで回転した後、目が回りすぎてその場に倒れ込んでしまった。
そのまましばらく起き上がってこない。
537 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:36
「ちょっと、なっきぃ嘘でしょ?」
 
言っている間に凄まじい勢いで雅が追いかけてきた。
雅はあっという間に早貴を抜き去ると華麗に跳び箱を飛び越していく。

早貴は泣きそうな顔になってやっとよろよろと走り始めた。
後半になって早貴は少し遅れを取り戻したが、
雅が猛烈に早かったこともあってすでにベリーズと℃-uteは逆転できないほど引き離されていた。
 
すでに鬼ごっこでベリーズに負けている℃-uteはリレーを落とせばエース対決を待たずに敗北が決定する。
明日から晴れて梨沙子はBerryz工房に復帰することになる。
 
「梨沙子、本当にごめん」
 
戻ってきた早貴が梨沙子に何度も謝った。
目には大粒の涙が見えた。
538 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:37
「なっきぃ、そんなこと全然。あたしはなっきぃにも℃-uteのみんなにも本当に感謝してるから」
 
梨沙子は首をふってわざと笑顔を作って言った。
梨沙子はこんなところで自分が泣くわけにはいかなかった。
 
「ベリーズのみんなもさあ。少しは手を抜いてくれてもいいのに。
もっと梨沙子のこと考えてくれてもいいのに」
 
舞が悔しそうに言った。
リレーでは愛理が必死に佐紀を追いかけているが差は全く縮まらない。
ベリーズは雅が作った大きなリードをそのまま維持してアンカーの茉麻につないだ。
539 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:39
梨沙子の頭の中で今まで℃-uteで頑張ってきたことが蘇る。
ダンスが全然合わなくてダンススタジオの鏡の前でみんなと必死に練習したこと。
愛理が家に来てくれて二人で何時間も練習したこと。
そしてみんなで合わせて初めて先生に褒められたときのこと。

梨沙子が病気でライブに出れなくなったとき、
ベリキュー対決に勝って六人で最終ツアーまでやろうとみんなで誓ったこと。

全てが今の梨沙子につながっていた。
 
リレーのコースをはさんで対角線上に雅がいた。
雅はいつものように優しい笑顔を梨沙子に向けていた。
540 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:41
みやには絶対かなわないな。
梨沙子はそう思う。

それは梨沙子がベリーズの中にいても外にいてもそれは絶対的に変わらない事実のようだった。
今回の対決にしてもそうだ。
梨沙子はいつも雅を追いかけようとしてはその圧倒的な力の前に挫折してしまう。

いくら梨沙子が早く追いつきたいと思っても1ミリたりとも近づけないのだ。
雅はずっと憧れの存在で梨沙子は同期でチームメイトのくせに雅の熱狂的なファンの人と何も変わらない。
違いがあるとしたらそれは雅を少しだけ近くで見れるというだけだ。

梨沙子は唇を噛み締めた。
ただ悔しいとそれだけを思った。
541 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:42
「いっけぇー!舞美ちゃん」
 
その時、急に千聖の大きな声が聞こえた。
途端に梨沙子の耳に歓声が戻ってくる。
舞美がものすごい勢いで茉麻を追走していた。
舞美はハードルも跳び箱も一瞬にして飛び越えながら、
全速力のスピードで駆け抜けていく。
 
舞美の速さは半端じゃなかった。
茉麻との距離はぐんぐん縮まっていく。

その勢いは、まるでさっきの早貴の涙や梨沙子の悔しい思いなんて、
もう完全に全て吹き飛ばしてくれるようなそんな走りだった。
 
「舞美ちゃん、頑張れ!」
 
思わず梨沙子は声を張り上げて言った。
542 :時風 梨沙子 :2012/11/11(日) 21:44
「舞美ちゃん、もう少し」
 
舞の声も後から続く。
舞美の走りには悲壮感も焦りも全くない。
まるでこの上なく美しい動物が寸分の狂いなく獲物を追っていく姿を見るようだった。
 
茉麻と舞美はほぼ同時にゴールしたが、すぐに℃-uteのフラッグが高らかに持ち上げられた。
早貴が力が抜けたように崩れ落ちた。

同時に梨沙子は思わず舞と抱き合った。
 
「やったぁ!」
 
舞美を見るとゴールしたところで、まるで小学生みたいに一人でジャンプしながら喜んでいた。
そこに愛理が駆け寄って行った。

とにかく一勝。

愛理と雅のエース対決を残して℃-uteがようやく五分の戦いに持ち込んだ瞬間だった。
543 :ES :2012/11/11(日) 21:45


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544 :ES :2012/11/11(日) 21:46


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545 :ES :2012/11/11(日) 21:46

今回の更新を終わります。
546 :名無飼育さん :2012/11/15(木) 11:12
毎回おもしろい。
前回の桃もいい味だしてたし、メンバー皆がいきいきしていて、読んでいて
わくわくします。
更新ありがとうございます
547 :ES :2012/11/18(日) 21:34
>>546
レスありがとうございます。
そう言ってもらえると本当にうれしいです!
書く励みになりますです!
548 :時風 桃子 :2012/11/18(日) 21:40
桃子は℃-uteとBerryzのミニライブが行われる会場で一人で歩いていた。
いよいよこのミニライブの後にベリキューのエース対決が行われる。
 
Berryzと℃-uteで一勝一敗になったせいで桃子は少しだけ気持ちが楽になっていた。
鬼ごっこの時は半分わざと捕まったけど雅が本気で怒っていたのでリレーのときは、
さすがにこれはまずいと本気で走った。
だから舞美が逆転勝利してくれたときは桃子は心底はほっとしていた。
549 :時風 桃子 :2012/11/18(日) 21:49
桃子は名古屋でみた梨沙子の輝くような目が忘れられない。
体調を崩してライブが出られなくなったのに、
とにかくもう一度頑張ろうという気持ちがみなぎっていた。

今までの梨沙子だったらあんなふうに前向きになれただろうかと桃子は思う。
あのとき梨沙子を支えていたのはまぎれもなく愛理達℃-uteのメンバーなのだ。

だから梨沙子にはツアー最後まで℃-uteをやり遂げてほしいと桃子は思う。
ただ、℃-uteにとって最大の難関は夏焼雅だ。
雅は負ける気なんてさらさらないし、意地でも梨沙子を取り返そうと意気込んでいる。
550 :時風 桃子 :2012/11/18(日) 21:50
雅は梨沙子がいたらいたで結構そっけない態度をとるくせに、
いなくなったらすぐこれだ。

愛理は梨沙子からのメールとかは返さないくせして、
梨沙子を℃-uteに引きずり込むときの執念は並じゃなかった。

雅にしても愛理にしても梨沙子への愛情表現はどこかねじ曲がってると桃子は思う。
でもエースと呼ばれる人たちというのは案外そういうものなのかもしれない。
551 :時風 桃子 :2012/11/18(日) 21:52
「わ。何このベリーズファンの数!」
 
桃子は思わず息を飲んだ。幕の内側からこっそりと会場にいるファンの様子を見ると、

Berryz工房のファンの人数が半端じゃないのだ。

ほぼ全体の7割ぐらいをBerryz側のファンが占めているように見える。
これも雅が梨沙子を奪還するとファンに呼びかけたせいだ。
雅に呼応してリベンジを誓うBerryz工房の大応援団は、圧倒的な数的優位で℃-ute側を凌駕しつつあった。
 
今回のエース対決は会場票1票とゲスト審査員2名の合計3票で争われる。
このままでいくと会場票は確実に雅に入る。
愛理が勝つためにはゲスト審査員の票を2名分両方を獲得するしか方法がない。

桃子はとにかくゲスト審査員となるモーニング娘。の楽屋に向かっていた。
552 :時風 桃子 :2012/11/18(日) 21:53
「あ、道重さん。お疲れ様です」
 
桃子はちょうど前から歩いてくるモーニング娘。の道重さゆみを見て言った。
 
今日はエース対決のゲスト審査員として道重さゆみ、鞘師里保の2名がくることになっていた。
愛理を慕っている里保はきっと愛理に入れてくれるだろうし、
さゆみも愛理に入れてもおかしくはない。

審査員の人選については決して愛理に不利ではない。
 
「桃子ちゃん、お疲れ様」
 
にこやかに笑ってさゆみは言った。
さゆみと桃子はよくテレビで一緒の番組に出たり共演することがよくあった。
お互いにハローの仕事に限らず、単独でバラエティ番組への出演機会を多数もっている。
そのせいで桃子がベリキューの他のメンバーよりさゆみに会う機会はずっと多い。
553 :時風 桃子 :2012/11/18(日) 21:55
「最近忙しそうだけど大丈夫?」
 
さゆみは言った。
基本、道重さゆみはおっとりしたお嬢様タイプでしかも周囲によく気を遣う人だ。
そんな人がいったんカメラが回ると毒の入ったトークをぽんぽん話せることが、
桃子はいつも不思議だった。
 
「はい。私は全然平気ですよ。里保ちゃんももう来てるんですか?」
 
桃子は言った。
 
「それが仕事の都合でりほりほ来れなくなっちゃったの。でも代わりにふくちゃんが来ることになったから」
 
「え!?そうなんですか?」
 
思わず桃子は絶句した。

譜久村聖は熱狂的なベリーズファンだ。
鞘師里保の代わりに譜久村聖ということになると完全に桃子の計算が狂う。
554 :時風 桃子 :2012/11/18(日) 21:56
「よかったね。ふくちゃんだったら確実にベリーズにいれてくれるよ」
 
さゆみは何も考えてないような天真爛漫な笑顔で言った。
ハロープロジェクトの中でも平均年齢が一番高く、後輩に怖いと思われがちなBerryz工房にとって、
強力にBerryzを押してくれる聖は本当にありがたい存在だ。

ただ今日に限ってはそれが桃子の思惑とは確実に裏目に出そうだった。
 
「まああたしは、どっちに入れるか分かんないけどね」 
 
さゆみは、まだ安心はできないぞと言わんばかりに言う。
たださゆみがどちらにいれようと会場票と聖の票が雅に入る時点で勝負は決まってしまう。
555 :時風 桃子 :2012/11/18(日) 21:57
「そうですね。ははは」
 
桃子は乾いた笑いを返しながら、里保のかわりに愛理のファンの10期の石田亜佑美だったらと思ったりもする。
結局昔と違って、ハローのメンバーもお互いを仲間というよりアイドルとして見ている。
個々に憧れや好みがあるのが当然で、本当に平等に評価するなんて出来っこないと桃子は思う。
 
桃子はさゆみの元を後にすると、すぐにBerryzの楽屋に向かった。
となるともうとるべき作戦は一つだ。
556 :時風 桃子 :2012/11/18(日) 21:58
℃-uteの代表は愛理でほぼ決まりだろうけど、ベリーズ側はまだ正式に雅を代表に決めたわけではなかった。
緊張感をもたせるためか、とりあえず各自練習してきて当日の流れで直前に決めようということになっていた。
桃子は勿論入念に準備してきたが、千奈美や友理奈なんかの話を聞くとエースとして自分が出るとは全く考えていなくて、
練習も全然やってきていない。
 
梨沙子のために必死に戦いを挑んでる℃-uteに比べると、
本当にベリーズはお気楽なグループだと桃子も苦笑いしたくなる。
でもそれがグループの特徴というものなのかもしれない。

だからそのお気楽さを梨沙子のために最大限活用しようというのだ。
557 :時風 桃子 :2012/11/18(日) 22:00
「キャプテン、エース対決私が出ることに決めたから」
 
桃子は楽屋に入って佐紀を見るなりいきなりそう言った。
 
「え?どういうこと」
 
佐紀が怪訝そうに言う。
 
「とにかくそういうことに決めたから」
 
「え?ちょっとそんなこと桃が勝手に決めないでよ」
 
佐紀が半笑いになって言う。
これはきっと本気にしてない。
 
「だってBerryz工房のエースって言ったら私でしょ?私が出るしかないじゃん」
 
桃子はさも当たり前のように言い切った。
 
「え?ベリーズのエースは桃じゃないよ」
 
佐紀は笑いながら恐ろしい程はっきりそう言った。
558 :時風 桃子 :2012/11/18(日) 22:01
「いや、キャプテンはみやに出て欲しいって気持ちは分かるけど。
 こういうのはみんなで話し合って決めようよ」
 
桃子は佐紀の勢いに押されて遠慮しがちにそう言った。
 
「何?みやが出るって決まってんじゃないの?」
 
近くにいた友理奈がそう言ってみんなががやがやと集まってくる。
 
「桃が出たいんだって。エース対決」
 
佐紀がみんなに向かってそう言った。
 
「え?だって桃がでたら普通に負けそうじゃない?」
 
茉麻が言った。
 
「ちょっとすーちゃん!」
 
「ていうか桃、わざと負ける気なんじゃないの?この裏切り者」
 
雅が鋭くそう言って桃子はぎくりとなる。
559 :時風 桃子 :2012/11/18(日) 22:03
「ちょっと桃?みんなで梨沙子、取り戻そうって決めたじゃん。
 ファンクラブのイベント7人でやろうって、みんなでそう決めたじゃん」
 
佐紀が急に真面目な顔になって言った。
突き刺すような視線で桃子を見る。
佐紀は大概のことには冷静なのにメンバーのことになると思い入れが強すぎる。

ことさら梨沙子のことになると感情的になりすぎて、とても説得するどころじゃない。
桃子は佐紀のそういうところがとても好きだったけど、今の状況にいたっては冷静に桃子の意見を聞いてくれるような空気はない。
 
「まあまあまあ。それじゃさ。ここは桃の意見も聞いてさ。みんなで決めようよ」
 
千奈美が珍しく仲裁に入るようにそう言った。
560 :時風 桃子 :2012/11/18(日) 22:06
「お、珍しいね。ちぃがそんなこと言うなんて」
 
「私も大人になったからさ。いくら苦手な人でもちゃんと意見は聞かないといけないと思ったわけよ」
 
千奈美が高らかに宣言するように言った。
 
「さすが、ちぃ」
 
「じゃあ決をとります。桃が代表で出るのがいい人?」
 
千奈美がそう言った。
え?いきなり?そう思ったけど、桃子は急いで手をあげる。
手をあげたのは桃子一人だ。
もうこの展開は読めていた。
 
「みやが代表がいい人?」
 
桃子を除く5人全員が手をあげた。
 
「はい。決定!」
 
声が響くと同時に桃子は机に突っ伏した。
561 :ES :2012/11/18(日) 22:07

今回の更新を終わります。
562 :時風 梨沙子 :2012/11/25(日) 08:48
℃-uteとBerryz工房で行うミニライブが始まろうとしている。
 
梨沙子達℃-uteのすぐ傍にはベリーズのみんなが集まって掛け声をかけている。
梨沙子はいつもくせで自然と雅の姿を探そうとしてしまう。
それでも梨沙子は向き直って、今はベリーズを意識しないようにしようと思った。

このライブが6人でやる最後のステージになるかもしれない。
ベリーズに負けないようにというよりは、今は℃-uteとして努力を重ねてきたことを全力で出し切りたいと梨沙子は思った。
563 :時風 梨沙子 :2012/11/25(日) 08:50
Berryz工房の「世の中薔薇色」が大音響のメロディと凄まじい会場の歓声とともに流れてきた。
とにかく盛り上がり方が半端じゃない。

梨沙子は舞台裏からその様子を見て、ベリーズってこんなにすごかったっけと思わず息を飲んだ。
でも次の瞬間にはもし自分がステージにいたらあんなことしてやろうとか、
次々とイマジネーションが梨沙子の中で浮かび上がってきた。

ここはふりをかっちり合わせて、ここだけ大きく見せて、考えているとどんどん楽しくなってくる。
やっぱり自分は舞台の上が一番好きなんだ。
そう思うと同時に一つだっていい。
舞台の上に出れるチャンスがあれば、まだまだ自分はやれると確信した。
564 :時風 梨沙子 :2012/11/25(日) 08:52
「せーの。℃-ute!」
 
舞、千聖、愛理、梨沙子、早貴、舞美。

メンバーが次々に名前を言っていく。
 
「6人そろってはじける」
 
「ぞーい」
 
みんなで声を合わせた。
 
ステージに飛び出すまでの間、梨沙子は一人になって呼吸を整える。
目を閉じてひたすら舞台に集中しようとした。
軽く息を吐いて目を開けると愛理の姿が目に入った。
愛理も同じように一人、目をつむって集中している。

最後にエース対決を控える愛理に無駄にプレッシャーをかけないように梨沙子はあまり話してない。
でも愛理とはどこかで気持ちが通じ合えている。
だから今更確認しあうこともないように思えた。
全てが終わったあとでいっぱい話ができればいいと梨沙子は思う。
565 :時風 梨沙子 :2012/11/25(日) 08:53
こ気味よいテンポのメロディーが流れ始めた。
梨沙子はステージで最初に歌うのがこの曲で本当によかったと思う。
 
「愛はいつもいつも」は、ダンスボーカルグループである℃-uteにふさわしく℃-uteにしかできない曲だ。
ベリーズの迫力のある曲の次だからなおさらそれが際立つ。
梨沙子が一番苦手だったこの曲こそが、今の梨沙子が一番変わったことを証明できる歌だった。
 間奏の間に梨沙子の手足は正確無比に動いた。

他の五人のメンバーを動きがまるで上から見下ろしているように精密に梨沙子のイマジネーションの中に描かれる。
それに沿ってまるで指先まで動きを合わせるようにメロディーの間を縫うような踊りが重なっていく。
566 :時風 梨沙子 :2012/11/25(日) 08:55
アレンジなんかしなくてもパフォーマンスはできる。
Berryzの頃の自分が追いつこうとしても決して追いつけない場所に梨沙子はいた。

それも愛理が、℃-uteのみんなが梨沙子を仲間として、懸命に支えてくれた結果だ。
梨沙子をそれを聞かせるというより見せつけるように踊った。
 
ミニライブの時間はあっという間に終わってしまった。
一つ一つの曲は完璧に集中はできていたけど、何せイベント程度の時間しかないのだ。
梨沙子としてはまだまだ力の半分も出していないという感触だった。
悔いの残らないようにこのライブは望んだけど、やっぱり℃-uteの単独ライブに出たい。
梨沙子の思いはますます強くなった。
567 :時風 梨沙子 :2012/11/25(日) 08:55


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568 :時風 桃子 :2012/11/25(日) 08:56
桃子は℃-uteが歌い終わった後もしばらくステージを眺めていた。
 
さすが℃-uteだなと桃子は思う。
ベリーズの歌で燃え上がるような会場の空気をあっという間に℃-ute色に染め変えてしまった。
さっきまでのベリキュー対決の℃-uteは悲壮感さえ漂っていたのに、
ステージに上がるともうそんなことは全く感じられない。

よっぽど自分たちの歌とダンスに自信があるんだろうな。
桃子はそんな℃-uteを少し誇らしくも思う。
569 :時風 桃子 :2012/11/25(日) 08:57
そして桃子自身、何より驚いたのは梨沙子のダンスだった。
一体梨沙子に何が起きたんだというぐらいの正確できめ細かいダンス。
ベリーズのときの梨沙子は影も形も残っていない。
だから梨沙子らしさがないかというと全くそんなことはない。
梨沙子のダンスはアレンジさえ全くしてないのに記憶にだけは強烈に残っているのだ。

わずかな視線の動きやダンスとダンスの間のためを使って独特の存在感をだしていた。
まるでデビュー以来菅谷梨沙子はずっと℃-uteにいますよとでも言っているようだった。
 
「ねえ、桃」
 
振り返ると佐紀が咎めるような厳しい表情で立っていた。
570 :時風 桃子 :2012/11/25(日) 08:58
「何?佐紀ちゃん」
 
桃子はそう言いつつも佐紀の顔を見て、背中に冷や汗をじわりと感じる。
佐紀に何か怒られるようなことしたっけ。
桃子は自分が何か悪いことしたかといろいろと考えを巡らせるが、
思い当たることは何もない。
 
「見たでしょ?梨沙子のダンス」
 
「見たよ」
 
「桃の言うとおりだったかもしれない」
 
佐紀はそう言って一瞬うつむいた。
何のことだかさっぱりわからないが、とにかく佐紀が怒ってるわけじゃないことが分かってほっとした。
571 :時風 桃子 :2012/11/25(日) 09:00
「梨沙子のダンス。今までと全然違う。本当にすごかった」
 
「うん。すごかったね」
 
桃子は軽く同調する。
 
「もしかしたらさ。梨沙子は℃-uteで新しいことに挑戦してるのかもしれない。
 そしたらうちらがやってることって梨沙子を邪魔をしてることになるって思って」
 
佐紀が今にも泣きそうな顔になって言った。
 
「いや、あの佐紀ちゃん?」
 
桃子が焦って言う。
 
「どうしよう。なっちゃんは絶対負ける気なんて全然ないし」
 
「あのね。佐紀ちゃん。今さらそんなこと言ったってどうにもならないんだってば」
 
桃子はあっさりとそう言った。
572 :時風 桃子 :2012/11/25(日) 09:01
「だって・・・。あたしそういえば。梨沙子の気持ちとか話し。全然聞いてなかったと思って」
 
憔悴したように佐紀は言う。
これは明らかに佐紀はキャプテンモードから外れてる。
ただの可愛い女子モードだと桃子は感じた。

いつもは冷静で頼れるリーダーなのに、ごくたまに感情的になって収拾がつかなくなる佐紀を何度か桃子は見ていた。
 
「佐紀ちゃん。後はみやと愛理に全部まかせるしかないんだって。うちらがやれることはもう何もないんだから」
 
桃子は宥めるように言った。
 
「うん・・・」
 
「だってあの二人ならきっと何とかしてくれるよ。梨沙子のことは」
573 :時風 桃子 :2012/11/25(日) 09:03
「うん。それはそうだけど」
 
佐紀は納得したようなしてないような浮かない顔になった。
周囲を見るとミニライブの後の小休憩でスタッフさんだけが忙しそうに走り回っている。
メンバーはほとんど昼ごはんを食べているのかあたりには見当たらなかった。
 
「よっぽど頑張ったんだろうね。梨沙子」
 
桃子は微笑して言った。
 
「うん。それは絶対そう思う。じゃなきゃあんなふうに踊れないよ」
 
佐紀が確信したように言った。
574 :時風 桃子 :2012/11/25(日) 09:04
あれだけ℃-uteをライバル視していた梨沙子だ。
℃-uteに入って℃-uteのダンスの踊り方になじんで℃-uteの見せ方を身につけるまで相当自分の中で葛藤があったに違いない。
それでも梨沙子は、そんな壁を全部乗り越えて℃-uteとともにいまの梨沙子を作り上げてきたのだ。
 
「だからさ。梨沙子がBerryz戻ってきたとき、みんなでよくやったねって。よく頑張ったねって。それだけ言えればいいじゃないかな」
 
桃子は言った。
 
佐紀はやっと納得したようにうなずいた。
 
「そうだよね。今さら悩んでもしょうがないし。よし。ケータリングで美味しいもの食べてこよ。
 桃、ありがとね」
 
佐紀は笑顔を見せるとガッツポーズしてそそくさと楽屋の方に走っていった。
今から歌うわけでもないのに気合入れてどうするんだ。
桃子は苦笑いしながら佐紀の後ろ姿を見ていた。
575 :ES :2012/11/25(日) 09:07

短めですが、今回の更新を終わります。

ブログ始めました。Twitterも出来ればやっていきたいと思います。
よろしければのぞいてやってくださいまし。
ttp://blog.livedoor.jp/easestone/
576 :名無飼育さん :2012/11/27(火) 08:29
ついにエース対決が始まるのか……
577 :時風 梨沙子 :2012/12/02(日) 16:46
梨沙子は愛理と一緒にお昼を食べようとずっと愛理を探していた。
しばらく探してみたが、どこにも愛理の姿はなかった。
今日は会場中が梨沙子奪還に燃えるベリーズファンだらけだ。
自分と一緒にいると愛理に余計なプレッシャーかけてしまうという気持ちもある。
だから今日はあえて愛理とはあまり話をしていない。
でも梨沙子が℃-uteでいられるのは今が本当に最後になるのかもしれない。
そう思ったら愛理と話しておきたいことが山ほどあるように思えた。

でも愛理は片思いの相手みたいに会いたいときにいつもいない。
追いかければ追いかけるほど遠くなっていく。
親友なのにそんなことを感じるのはとてもおかしいけど、
今の梨沙子にはそんなふうに思えた。
578 :時風 梨沙子 :2012/12/02(日) 16:47
「あ、梨沙子」
 
ちょうどそのとき前から千聖と舞が歩いてくるのが見えた。
 
「愛理、見なかった?」
 
梨沙子は二人に聞く。二人は同時に首をふった。
 
「舞美ちゃんといるのかな」

梨沙子は首をかしげて言った。
 
「でも舞美ちゃん、さっき千奈美ちゃんと一緒にいたよ」
 
二人は顔を見合わせてそう言った。
 
「そっか」
 
梨沙子はそう言って立ち去ろうとする。
 
「愛理って、そうやってたまにふっといなくなるときあるよね」
 
舞の言葉に梨沙子は足を止める。
579 :時風 梨沙子 :2012/12/02(日) 16:49
「ひょっとして一人になりたいのかな」
 
梨沙子が二人に聞いた。
二人はうーんと言ったものの何も答えない。
エース対決を前にもしかしたら一人になって集中したいのかもしれない。
梨沙子がそれを邪魔するわけにはいかないようにも思えた。
 
「梨沙子でも愛理の気持ち分かんないときあるの?」
 
舞が不思議そうに言う。
まるで梨沙子と愛理は一心同体みたいな言い方だ。
 
「そりゃあるよ。今だにわかんないよ」
 
梨沙子は当たり前のように答えた。
 
愛理は梨沙子が帰るときにつけてきたり、突然家まで押しかけてくるときもあれば、
こんなふうに全然捕まらないこともある。
メールの返信だっていつも気まぐれだ。
580 :時風 梨沙子 :2012/12/02(日) 16:50
「ねえ梨沙子。愛理ってさ。たまに一瞬だけ一匹でいる子犬みたいに思えるときない?
 一人でいたいのか寂しいのか分かんないっていうか」
 
舞が言った。
 
「何かそれ分かる。一人ですぐに自分を追い詰めちゃうっていうか」
 
梨沙子は言った。
愛理は好き嫌いが激しいくせにものすごくピュアなところがある。
だからいつも自分自身と何か葛藤しているような気がする。
そこが雅との大きな違いだ。

雅は悩んだり陰で努力している部分も全部かっこよさに変換できる能力をもっている。
でも愛理は自分自身の扱いがとても不器用に思えた。
 
「℃-uteもいろいろごたごたした時期があったからね。
 それが原因で愛理も自分の中にこもるっていうか。
 みんな消極的になっちゃったってこともあるし」
 
舞が少し意味深なことを言った。
581 :時風 梨沙子 :2012/12/02(日) 16:53
「ごたごたって℃-uteで、何かあったの?」
 
梨沙子が尋ねた。
梨沙子も℃-uteの内部事情は全くわからなかった。
 
「℃-uteってメンバーがどんどん卒業していったことがあったじゃん。
 もうこれ以上減ったら℃-ute解散かもってみんなすごい追い詰められた時期があったんだ」
 
「そんなことがあったんだ」
 
梨沙子も℃-uteのメンバーの卒業は聞いていたが、少しナーバスな問題だからそのことはあえて口にはしていなかった。
 
「みんなで減ったメンバーも分もカバーしなきゃいけなくて。
 それで愛理が一番大変そうだった。
 センターだしエースだから歌割りも振り付けもほとんど愛理ばっかりになってて。
 でも出来なかったら℃-ute解散になっちゃうかもしれないから愛理、必死に頑張ってた。
 それなのに、何で愛理ばっかりって思っちゃって」
 
千聖が重そうに口を開いた。
582 :時風 梨沙子 :2012/12/02(日) 16:54
「今考えたら本当に情けないけど、本当に自分に自信がなかったから。
 愛理がいればあたしのことなんてもういらないでしょみたいなことも言っちゃってたんだ。
 きっとあたし愛理のこと傷つけたなってほんとうに反省してる」
 
舞がそう言った。
 
「でも愛理と話して謝ったらきちんと分かってくれたんだ。愛理にムカついてたんじゃなくて、出来ない自分でムカついてたってこと。
 今じゃ自虐にできるくらいだけどね」
 
舞がそう言って笑った。
 
「そういうことがあったから、本当に愛理とは認め合える仲間になれたって気がするよ。
 それから℃-uteもすごく団結できるようになったよね」
 
千聖が言った。
583 :時風 梨沙子 :2012/12/02(日) 16:56
「そうだったんだ」
 
梨沙子はしばらく何も言えなかった。
梨沙子は何も知らなかったし、愛理からはそんな相談受けたこともない。
仕事が一緒のときもいつもと全然変わらずに屈託のない笑顔を梨沙子に見せていた。
そんなことがあったならせめて少しでもいいから相談してほしかった。

でもあの頃の梨沙子は子供すぎて、自分が愛理だったとしても相談しなかったかもしれないと思う。
 
「あたし、愛理がそんな大変な時もあったのに相談にも乗れなかった。
 今だって愛理に助けられてばっか。あたしってダメだな」
 
梨沙子はそんな自分が情けなくてうつむいて言った。
 
「梨沙子。それは違うよ。だって梨沙子が入ってきてから愛理変わったもん」
 
舞が言った。
584 :時風 梨沙子 :2012/12/02(日) 16:57
「うん。何か積極的になった気がする。特に梨沙子が関わってくることは特に」
 
千聖もそう言う。
 
「そうなの?」
 
梨沙子は少し驚いて言う。
今まで℃-uteの一員になることに必死で自分が愛理に与える影響なんて考えもしなかった。
 
「愛理は梨沙子がいる前では本当にのびのびとやってる。梨沙子がいるのといないのとでは全然違うよ。
 やっぱ梨沙子が℃-uteに入ってきてくれて本当に良かったって思う」
 
「あのね。もう言っちゃうけど。梨沙子が罰ゲーム受けることになったの。実は全部うちらが仕組んだことなの」
 
「舞ちゃん、それ言っていいの?」
 
千聖が慌てて言う。
585 :時風 梨沙子 :2012/12/02(日) 16:59
「もうここまで来たら言うしかないっしょ。他に言う時なんてないし」
 
舞が構わずに言い始めた。
 
「愛理はね。いつも梨沙子が自分のことを親友って言ってくれたり、何でも話せる存在だって言ってくれるのに。
 自分は℃-uteのこととか応援してくれるファンの人のことで頭がいつもいっぱいになって。
 自分は梨沙子に親友らしいこと何もできてないってよく言ってたの」
 
舞が言った。
「親友らしいこと」そんなこと梨沙子は考えもしなかった。

そして愛理がそんなことを思ってくれていたなんてさらに意外だった。 
 
「うちらも愛理のために何か出来ることないかなって思ってて。
 じゃあ梨沙子に℃-uteに入ってもらえばって言ったの。
 そしたら話せる時間も作れるし。
 愛理がベリキュー対決の罰ゲームの内容がわかったって話してくれたとき、思いついたんだ」
 
「梨沙子、ごめん。梨沙子をだしに使っちゃった」
 
二人が口をそろえて謝った。
586 :時風 梨沙子 :2012/12/02(日) 17:01
「うーん。全然。あたしは℃-uteに入れたこと。すっごい感謝してるんだから。
 でもあたしてっきり愛理が全部仕組んだと思ってた。
 桃から愛理がベリキューの可愛い対決であたしが勝った仕返しを企んでるってから聞いてたから」
 
「ううん。愛理はそんなこと全然思ってないよ」
 
舞が言った。
 
「だって愛理が自分は親友らしいこと何も出来てないって言ったの。
 可愛い対決で負けたときだもん。今でもよく覚えてる。
 みやと抱き合ってよろこんでる梨沙子を見て愛理はそう言ったよ」
 
舞がはっきりとそう言った。

梨沙子は、みやと抱き合いながら密かに愛理からの視線を感じ取っていた。
あのときの無表情に近いような愛理の目はそんなこと考えてくれていたんだ。
そう思うと勘違いしていた自分が嫌で泣きそうになる。
587 :時風 梨沙子 :2012/12/02(日) 17:02
「やっぱ梨沙子はさ。愛理にとって特別なんだと思う」
 
千聖が言った。
 
「特別?」
 
「だって梨沙子はキッズのときからさ。どんな時もずっと愛理の味方だったでしょ」
 
「あ、確かにそういうイメージあるな。梨沙子は。梨沙子の前では愛理の悪口をあんまり言えないっていうか」
 
舞がそう言った。
 
梨沙子は二人がそんなことを言ってくれるのがとても不思議だった。
愛理の気持ちを勝手に勘違いしていたし、Berryzにいたときに変に愛理をライバル視して、
愛理のことをよく思ってないときなんてざらにあった。

勝手にみやをとられるとか被害妄想して、愛理の話題が出てくるだけで腹が立つような時期さえあった。
それなのに、みんなそんなことは全然関係ないみたいに梨沙子のことを思ってくれる。
588 :時風 梨沙子 :2012/12/02(日) 17:03
「でも愛理にもみんなにもたくさんプレゼントもらっちゃった気がするな。誕生日でもないのに」
 
梨沙子は晴れやかな気持ちになった。
もう自分のことなんてどうでもいい。
そうはっきり思った。
 
愛理には自分のことなんて考えずに愛理自身ためだけに歌を歌って欲しい。
梨沙子は心からそう思った。
 
「あ、見つけた!みんなで楽屋でお昼食べない?」
 
そのとき、ちょうど舞美が通りかかって言った。
 
589 :時風 梨沙子 :2012/12/02(日) 17:04

-------------------------------------------------------------
590 :時風 梨沙子 :2012/12/02(日) 17:05
「リーダーがさ。全員集合って言ってるっていうからびっくりして飛んで戻ってきたよ」
 
早貴が笑いながら言う。
 
「私もマネージャーさんから急にミーティングがあるって聞いて走って戻ってきた」
 
愛理がごはんをほおばりながら言った。
 
「ごめん。ただみんなでお昼食べようって思っただけで」
 
舞美が申し訳なさそうに言う。
舞美がみんなでお昼を食べようと言ったのが早貴と愛理にはマネージャーさんを通じて
いつのまにか℃-uteで緊急ミーティングということになってしまったらしい。
 
「でもちょうどよかった。ここでみんなで決めようよ。センター対決は愛理にまかせて後は結果どうなっても文句なし。
 梨沙子もそれでいいよね?」
 
「もちろん」
 
早貴の言葉に梨沙子は即答した。
591 :時風 梨沙子 :2012/12/02(日) 17:06
「愛理で負けたらしょうがないよね」
 
「みやの代わりにももちゃんが出てくれないかな?」
 
舞と千聖が交互にそう言った。
 
「誰が出てきても絶対負けらんないよ。だってりーちゃんがこんなに頑張ってくれたんだもん」
 
愛理がはしを止めて真面目な顔で言った。
愛理の表情は真剣そのものだ。

愛理にはもうこれ以上プレッシャーをかけたくはないと梨沙子は思う。
そのためにはどんな言葉を愛理にかけたらいいだろう。

梨沙子はお弁当をほおばる愛理を時々心配そうに見ながらずっと考えた。
592 :時風 梨沙子 :2012/12/02(日) 17:08
「ねえ、愛理」
 
「ん?」
 
愛理が梨沙子を見た。
 
「自分のためだけに歌ってよ。愛理の歌」
 
梨沙子は言った。
 
「どういうこと?」
 
愛理は怪訝そうに梨沙子を見る。
 
「もうあたしのことなんてどうでもいいからさ。あたしはもう十分みんなからいろんな贈り物もらったよ。
 自分で言うけど力もついたって思う。
 だからあたしとのライブのことなんて忘れて、愛理は自分のためだけに歌ってよ。
 勝ち負けとかどうでもいいからさ」
 
梨沙子の言葉に愛理の顔から完全に笑みが消えてしまった。
593 :時風 梨沙子 :2012/12/02(日) 17:10
「・・・そんな勝手なこと言わないでよ」
 
愛理が低い声でそう言って場が一気に静まり返る。
 
「この勝負は絶対負けらんない。だってりーちゃんはもう℃-uteの一員なんだよ。
 いくらベリーズでも今さら返せって言われたって絶対返せない」
 
愛理は梨沙子を睨みつけて言う。
梨沙子は愛理の鋭い目を見つめて微動だにできなかった。

こんなに怖い表情の愛理は今まで見たことがなかった。
 
「あのさ・・・愛理」
 
思わず梨沙子の声は力のない上ずった声になった。
 
「℃-uteにだって意地があるよ。℃-uteはね。ここにいるメンバーは絶対守る。
 これは℃-uteにとって絶対負けらんない戦いなの」
 
愛理は変わらず強い語気で言った。
594 :時風 梨沙子 :2012/12/02(日) 17:11
きっといなくなったメンバーのことも考えているかもしれない。
愛理の言葉が梨沙子の心の底にずしりと響くようだった。
 
「ちょっと愛理」
 
早貴が見かねて口を出した。
早貴の言葉で愛理の表情が我に返ったようにぱっと変わる。
梨沙子から目をそらして突然立ち上がった。
 
「ごめん。ちょっと頭冷やしてくる」
 
ぽつりとそう言うと愛理は楽屋を出て行った。
梨沙子は何も言えずに愛理の後ろ姿を見ていた。
595 :ES :2012/12/02(日) 17:15

今回の更新を終わります。

>>576
レスありがとうございます!
そしてすいません。。。エース対決までしばらくお待ちください。
596 :時風 梨沙子 :2012/12/09(日) 20:59
「梨沙子、愛理も本気で怒ってたわけじゃないと思うから」
 
舞美が言った。
 
「うん。分かってる」
 
梨沙子はつぶやくようにそう言った。
立ち上がって愛理の座っていた席の傍に立つ。
愛理のバッグの横にきれいに整頓されてノートや小物道具が置かれていた。
今愛理に伝えなきゃいけないことはたった一つだと梨沙子は分かっていた。
ただそれをどんな形で伝えたらいいだろうと思う。
 
「梨沙子、大丈夫?愛理のことだったら少し気持ちが高ぶってるだけだと思う」
 
舞が心配して言ってくれる。
 
「うん。大丈夫だよ」
 
梨沙子は少し笑みを見せて言った。
597 :時風 桃子 :2012/12/09(日) 20:59


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598 :時風 桃子 :2012/12/09(日) 21:00
突然後ろから風がきたかと思うと何かがどんと何かが体にぶつかった。
桃子はよろけて前のめりに二三歩歩く。
 
「ごめん。桃」
 
背中で愛理の声がする。
愛理は走ってきたらしくそのまま桃子の背中に密着する格好になっている。
 
「愛理?」
 
振り返ると愛理は何となく強張った表情をしている。
泣きそうになっているような目はわずかに充血していた。
599 :時風 桃子 :2012/12/09(日) 21:02
「愛理?どうしたの?」
 
桃子はすぐに愛理の異変に気づいて言った。
 
「ううん。何でもない」
 
愛理はそのまま通り過ぎようとする。
 
「ちょっと」
 
桃子が呼び止めても愛理は背中を見せたまま小走りに走っていく。
 
「何でもないことないでしょ」
 
桃子は追いかけて愛理の腕をつかんだ。
 
「だから何でもないって!」
 
愛理は勢いよく桃子の腕を振りはなした。
600 :時風 桃子 :2012/12/09(日) 21:03
小柄な桃子はその勢いで数歩分吹き飛ばされるように後ずさった。
驚いた桃子の顔を見てか愛理の顔がゆがむ。
 
「ごめん。桃」
 
「ううん。でどうしたのさ?一体」
 
桃子が尋ねる。
 
「りーちゃん、私のために勝敗なんてどっちでもいいって言ってくれたのに。
 ℃-uteにも意地があるって。なんか私、梨沙子にひどいこと言っちゃった」
 
愛理はうつむいて言った。
 
「はは。何だ。そんなことか」
 
桃子は軽く返答した。
601 :時風 桃子 :2012/12/09(日) 21:04
「そんなことじゃないよ。何でいつも私ってこうなんだろ。
 いつも人の気持ちを素直に受け取れないっていうか」
 
愛理が露骨に落ち込んだ表情になる。
 
「いいんじゃない?愛理らしくてさ」
 
桃子は愛理をじっと見て言った。
愛理はいつも純粋だしまっすぐだ。
梨沙子が℃-uteのライブに出るために自分にどれだけ強いプレッシャーをかけてるんだろうと思う。
 
「誰かのために戦うってことはさ。きっとそういうことなんだと思うよ」
 
桃子は微笑して言った。
 
「だってそうでしょ?絶対負けられないんだから素直に受け止められないことだってあるよ」
 
桃子は自信を持って言った。
602 :時風 桃子 :2012/12/09(日) 21:05
「そうかな・・・」
 
愛理は考え込むようにしてその場にたたずむ。
 
「そうだよ。別に素直じゃないとかそういう問題じゃない」
 
桃子ははっきり言った。
 
「愛理はそのままでいいんだよ。きっとね」
 
桃子はそう言って笑った。
 
「分かった。りーちゃんにはちゃんと謝ってくる。ありがとう。桃」
 
愛理はそう言って走って楽屋に戻ろうとした。
 
「ちょっと愛理、梨沙子に謝る必要なんてないよ」
 
「え?」
 
愛理は驚いた顔で振り向く。
603 :時風 桃子 :2012/12/09(日) 21:07
「だって愛理、誰も傷つけてなんかないし。愛理がさ。今梨沙子のためにしなきゃいけないのは、ステージの上で歌うことでしょ?」
 
桃子はステージの方を指差して言う。
 
「今日の主役は本当はももちだったのにみやにとられちゃった。
 だから愛理にはみやのやつをやっつけてほしいの。きっと愛理にはそれが出来ると思うから」
 
「いいの?ベリーズがそんなこと言って」
  
「いいのいいの。仲間割れしようが喧嘩しようがBerryz工房はBerryz工房だから」
 
「そっか。それもそうだね」
 
愛理の顔は次第にいつもの柔和な笑顔に戻っていた。
 
「何かいいなあ桃って。ベリーズとか℃-uteとか何も関係ない。完全に自由って気がする」
 
「そりゃそうさ。桃は桃だもん」
 
桃子は自信満々に言った。
604 :時風 桃子 :2012/12/09(日) 21:09
「ねえ。桃に一つだけお願いがあるんだけど」
 
愛理が珍しく滑舌よく言った。
 
「何?」
 
愛理が桃子の前で横に二三歩歩き出す。
 
「もしもさ。私と梨沙子がもし喧嘩したら、桃には梨沙子の味方になっててほしいの」
 
愛理は桃子の顔を見るとそう言った。
愛理の顔は真剣そのものだ。
 
「ちょっと愛理?それ意味が分かんないんだけど」
 
桃子はあきれて言う。
 
「だからもしもの話だって」
 
それなのに愛理が真面目な顔をして言う。
605 :時風 桃子 :2012/12/09(日) 21:12
「そんなこと言うなら喧嘩しなきゃいいじゃん。
 それに今だって喧嘩なんてしてないでしょ?」
 
「そうだけど。だけど私って結構勝手な人間だから」
 
愛理が言った。
 
「愛理って本当に変わってるね。まあ私も人のことは言えないけどさ」
 
桃子はため息をついて言う。
 
「もっと信じなよ。自分のこと」
 
桃子は愛理の目を見て言った。
 
「私は信じてる。愛理は絶対に負けないよ。だって誰かのために全力で歌えるってことはさ。
 それだけでもう勝ったようなもんだもん。そうでしょ?」
 
桃子の言葉に愛理は何か考えるようにこくりとだけうなずいた。

愛理の目に光が灯る。
それがだんだんと広がっていくのが桃子にもはっきりと分かった。
606 :時風 桃子 :2012/12/09(日) 21:14
「あーあ。本当は愛理の相手は桃になるはずだったんだけどな。
 みやには代表の座はとられちゃうし。出るとこないや。
 ももちは残念ながら今回の主役にはなれないみたい」
 
桃子はまるで場を繕うように自嘲的に言った。
 
「ありがとう。桃。何か勇気出たよ」
 
愛理は一瞬目を閉じたあと、もう一度大きく目を見開いた。
 
「よしっ。みやを絶対驚かせてみせるんだ。それでBerryzのファンの人にも℃-uteのファンの人にも私の歌聞いて欲しい」
 
愛理は爛々と輝く目で拳を握った。
 
「ちょっともう一度集中してくる」
 
愛理はそう言って走り出した。
607 :時風 桃子 :2012/12/09(日) 21:15
力強く走る愛理の後ろ姿を見ながらまたベリーズのみんなには裏切り者だと言われちゃうなと苦笑した。
ベリーズに戻ってきて欲しいという雅の気持ちやBerryz全体の思いも決して分からなくはない。

でも今は、梨沙子がこれから℃-uteのライブでやろうとしていることを大事にしたい。
桃子はそう思っている。
でも桃子の思いとは裏腹に、会場には桃子の予想をはるかに上回るすさまじい勢いで
大人数のBerryz工房のファンが集結しつつあった。
608 :時風 梨沙子 :2012/12/09(日) 21:15



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609 :時風 梨沙子 :2012/12/09(日) 21:16
「これさあ。ほとんどベリーズのファンの人達じゃない?
 梨沙子奪還とか書いてあるのみんなそうだよね」
 
舞が言った。
 
梨沙子は千聖と舞と会場の様子をそっと見に来ていた。
 
「梨沙子奪還。打倒℃-ute。てことはこれ全部雅ちゃんの応援団ってことか」
 
千聖はため息をついて言う。
 
「まあみやの人気考えても仕方ないよね」
 
梨沙子がぽつりと言う。
610 :時風 梨沙子 :2012/12/09(日) 21:18
「会場票は間違いなくベリーズ。
 審査員の譜久ちゃんてベリーズの大ファンだよね。
 道重さんも確かベリーズ好きでしょ?
 これじゃ愛理がどんなに頑張ってもさ。うちら勝目ないじゃん」
 
舞の言葉が悲しく響く。
 
梨沙子はさっきの愛理の表情を思い出した。
愛理にあんなことを言わせてしまった自分が情けなくて泣きそうになる。
 
「ごめん。ちょっとあたし。先に戻るね」
 
梨沙子はそう言って会場を後にした。
℃-uteの楽屋まで戻ってきて、ドアを開けると中には誰もいなかった。

もうすぐ最後のエース対決が始まる。
きっと今愛理は衣装に着替えて集中しているんだろうなと思う。
611 :時風 梨沙子 :2012/12/09(日) 21:20
きっともう愛理には何も話しかけないほうがいい。
そう梨沙子は思う。
愛理の気持ちは痛いほど分かっていたし、梨沙子の気持ちも分かってくれてる。
何を言っても今さらな言葉になってしまうと思う。

それでも梨沙子は愛理のために何か出来ることはないか必死に考えた。
 
梨沙子は楽屋を見回すと、愛理のバッグのすぐ横にノートが置かれているのが見えた。
無造作に置かれているそのノートは、いつも愛理がイラストを試し書きしたりしてるものだ。
梨沙子もよく愛理に見せてもらったことがある。

梨沙子はおもむろに愛理のノートを手にとってパラパラとめくる。
中身はいつものようにすーさんの絵やらスケジュールのメモみたいなものまで丁寧に色マジックで描かれている。
こういうところ愛理は本当にアイドルっぽい。
梨沙子は感心しながらページをめくっていると、梨沙子の視線は最後のページを見たところではっとなって止まった。

一番最後のページにはただ一言だけ「一音入魂」とだけ書かれていた。
612 :時風 梨沙子 :2012/12/09(日) 21:21
黒いマジックで何も飾り気のない文字だった。
 
愛理らしいなと梨沙子は思わず微笑んでしまった。
愛理はどこまでも純粋でまっすぐだ。
 
その文字を見ていると愛理と一緒にたくさん練習したこと。
病院で愛理に抱きしめられて励まされたこと。
ホテルで愛理と同じ部屋に泊まって深い話をたくさんしたこと。
さっき梨沙子が余計なことを言ったせいで愛理を怒らせてしまったこと。
愛理へのいろんな思いが一気にこみ上げてきた。
 
だけど梨沙子にはそんな思いの一つ一つを言葉にすることなんてとても出来ない。
613 :時風 梨沙子 :2012/12/09(日) 21:23
梨沙子はおもむろにペンを握ると、本格的に絵を書き始めた。
それは愛理の似顔絵だった。
愛理はウインクしてる姿がとても可愛いから左目だけ大きく描いた。

髪はストレートにしてることが多いけど三つ編みにしている愛理にする。
二人で伊豆に旅行するという企画のときの愛理の三つ編みがあまりに可愛くて梨沙子もおそろいの髪型にしてもらった。
そして梨沙子は最後に傍に置いてあった愛理のピンクのペンをとると「一音入魂」のすぐ下に
「ARIGATO AIRI」と書いた。
614 :時風 梨沙子 :2012/12/09(日) 21:24
絵が得意な梨沙子が気合をいれて描いただけあって、我ながら出来上がりはうまくいった。
でもウインクしてベロを出してる愛理はとても可愛いけど何とも気楽で緊張感のない絵になったなあと思う。
でもきっとこれぐらいのほうがよいのだ。
頑張りすぎる愛理が、少しでも気持ちよくステージで歌ってくれることを梨沙子は祈るような気持ちで愛理の絵を見た。

自分が描いた絵なのにノートの中の愛理が軽くうなずいてくれた気がした。
615 :ES :2012/12/09(日) 21:25

今回の更新を終わります。
次回エース対決書きます。
616 :名無飼育さん :2012/12/10(月) 12:47
どっちが勝つんだろう。
毎週の更新楽しみにしています。頑張ってください。
617 :時風 桃子 :2012/12/16(日) 09:42
桃子がベリーズに戻るとそこは相変わらずの騒がしい楽屋だった。
雅の姿を見つけて、「緊張してる?」と聞くと「ううん全然」と雅は早口で即答した。
雅の体に闘志が満ちている。
手をぬこうとか手加減しようとかそういった迷いは全く感じられない。
舞台の幕があいた瞬間、雅はどんなに分厚い壁でも突き抜けていきそうな勢いだった。
 
スタッフさんから先行は雅。
そして雅が選んだ歌が「愛の弾丸」だということを初めて聞いた。
みんなからみや頑張れ。絶対勝てると声がかかる。
618 :時風 桃子 :2012/12/16(日) 09:44
「みや、勝つかなあ。でも梨沙子がかかってるんじゃみやも負けらんよね」
 
友理奈がそっと桃子に言ってくる。
 
「まあ、梨沙子がかかってるのは℃-uteも一緒だけど」
 
桃子はさらりと言う。
 
「℃-uteのメンバーの気持ちもすごくよく分かる。
 でも、梨沙子がずっといないってのもさあ。寂しいもんだよ」
 
友理奈の言葉は邪心っていうのが全くないから、それが分かってる分だけ心に突き刺さるようなときがある。
 
「みやには勝って梨沙子を取り戻して欲しいよ」
 
「うーん」
 
そう言われると桃子も何も答えられなかった。
619 :時風 桃子 :2012/12/16(日) 09:45
今日のベリキュー対決で佐紀だけじゃなくみんなうすうすとは感じ取っていた。
自分達が梨沙子のために梨沙子を取り戻すために戦ってるというよりも、
むしろ℃-ute側の方が梨沙子と梨沙子のライブのために一丸となって必死に戦ってる。
誰も口にはしなかったが、そのことはBerryz全体に少なからず動揺を与えている。

だからといってもう後にはひけない。
友理奈はそう言っているような気がした。
 
休憩時間が終わり、Berryz工房全員ステージに移動する。
 
「じゃあみんなでなっちゃん応援して、梨沙子を取り戻そう!」
 
ステージ裏で佐紀がみんなに声をかけた。
 
「Berryz工房。行くべー!」
 
それはみんなで同じ迷いを共有し、同じように決意した不思議な団結だった。
620 :時風 桃子 :2012/12/16(日) 09:47
ステージの幕が開いてBerryz工房が飛び出した瞬間凄まじい歓声があたりをつんざいた。
桃子はあまりの音に驚いてよろけそうになる。
会場全体がベリーズファンで埋め尽くされているかのようだった。

この歓声の中でみやは歌うことができるんだ。
どれだけ多くのファンの前で歌えるかということはアイドルとして生まれてきた人間にとって一種の夢でも憧れでもある。
桃子は雅のことがうらやましくてたまらなくなった。
 
ステージのもう片方から℃-uteが登場した。
一人多くなった℃-uteと一人少なくなっているBerryz工房。
六人対六人がそこで対峙するように立った。
二つのグループの間で一歩たりとも引くことのない巨大な二つの力が絶え間なく拮抗している。

桃子はこのステージの上で、もはや梨沙子のことや℃-uteのことをあれこれ考える隙はもうどこにもないように思えた。
司会者とゲスト審査員の道重さんがまるで評論家のようにいろいろしゃべっているが、頭になんて何も入ってこない。
Berryz工房の一員として雅をしっかり応援することしか今は考えられない。

そして戦いはあっという間に始まった。
621 :時風 桃子 :2012/12/16(日) 09:49
地響きがするような爆音を轟かせて雅が登場した。
一瞬、音響なのかファンの歓声なのか区別がつかなくなる。
あまりの音に桃子は会場が傾いたんじゃないかと思わず目を凝らした。
 
「愛の弾丸」
 
雅が歌い始めると同時に、雷の後の一瞬の静けさのように音が鳴り止む。
まるでさっきの大歓声が自分自身の大きさに驚いているようだった。
しかし雅の声に誘われて、再び会場の上に向かって大きな巨人のような音が立ち昇ってくる。
その竜巻のような歓声の一番てっぺんで雅は歌っていた。

何でそんなことができるんだろう。
桃子はいつも不思議に思う。
雅には歌うことへの迷いとか恐れとかそんなことは全くないのだろうかと思う。
622 :時風 桃子 :2012/12/16(日) 09:51
愛の弾丸

 
雅の歌がまるで桃子が記憶している歌詞を離れていく。

 
雅が歌うと歌詞を歌っているのではなくて周りの音やそのときの声に融合されてしまって、
言葉の意味なんて完全に消し去ってしまうみたいだ。
雅の歌は音楽という言葉が踏み込めない透明領域にまで激しく食い込んで、
人の心をわしづかみにする。

きっと雅は梨沙子がベリーズからいなくなったその日からずっとこの歌を準備していたのだ。
雅は焦りも嫉妬も憧れも挫折もそんなことは全てひた隠しに隠して全部プラスに還元してしまう。
それを感じた時に桃子に震えが来た。
623 :時風 桃子 :2012/12/16(日) 09:53

雅は時に天使のように、軽快に笑顔を見せたかと思うと次の瞬間には妖艶な表情で観客を深い迷路に引きずり込む。

音もファンの歓声も舞台装置も全てが雅のためにお膳立てされているように雅の虜になっていく。
624 :時風 桃子 :2012/12/16(日) 09:54
まるで吸い込まれそうだ。
もうこの勢いはもう誰も止められない。
逆側の舞台袖に座っている梨沙子を始め℃-uteメンバーを割れんばかりの歓声が包み込んでいく。

愛理の姿をちらりと見るが、どんな表情をしているかは分からなかった。
もし、自分がこの雅の次に歌うとしたら。
恐ろしくて歌えないと桃子は思った。

嗣永桃子はどんな大舞台でも怖気付かないプロ意識をもっている。
それがアイドルの宿命だし、一番の自分の仕事だと思っている。
でもこの雅の次に歌うのはとてつもなく怖い。

グループで歌う場でもコンサートでもない。
雅はこのステージを自分ひとりの舞台に見事なまでに作り替えてしまった。
625 :時風 桃子 :2012/12/16(日) 09:55
歌い終えると雅は深々とお辞儀をして煌くような笑顔を見せて戻ってきた。
キャプテンが満面の笑顔で出迎え、雅はメンバーと次々にハイタッチしていった。

緊張感から解放されたのかそのときの雅の顔は子供のようにほろこんでいた。
 
桃子は完全に勝負あったように思えた。
いくら愛理が天才でも完璧に出来上がったこの流れを変えることなんて絶対にできない。
桃子は℃-ute側を見た。
ちょうど愛理が出てくるの桃子の目に映った。
愛理は何事もなかったかのように飄々とした表情をしていた。

そのとき、桃子が見ている正面から一瞬清々しい冷たい空気の塊のようなものが通過するのを感じた。
626 :時風 梨沙子 :2012/12/16(日) 09:57
「愛理、頼んだよ」
 
舞美が言う。
 
「よしっ!行ってくるよ」
 
愛理は梨沙子を見た。
一瞬だけにっと笑ったような気がした。

愛理はすぐさま舞台の中心に向かって走っていく。
その先にはBerryz工房がいる。
 
梨沙子は、雅が歌い終わった後Berryzメンバーがすっと立ち上がってこちらを見つめてくるのを見た。
それは完全な勝利宣言に思えた。
勝負はまだ終わってないのに。
愛理の歌が残っているのに。
そう思って梨沙子は強く唇をかんだ。
 
「愛理、プレッシャーかかりすぎるともろいとこあるから。大丈夫かな」
 
梨沙子の隣にいる舞美が不安そうに言った。
627 :時風 梨沙子 :2012/12/16(日) 09:59
流れはもう完全にBerryz工房に移ってしまっていることは誰ものが分かっていた。
圧倒的な雅の力を見せつけられて抗う力なんて梨沙子にはもう残っていない。
たった一つ。
愛理を信じて祈ることだけが梨沙子にできることだった。
 
舞台の中心に向かう愛理の姿はBerryzメンバーに比べてあまりにも細くて華奢に見える。
愛理には℃-uteも℃-uteのファンもついている。
だけどその姿を見るとまるで愛理が一人で戦おうとしているように見える。
 
愛理頑張れ。愛理負けるな。
 
梨沙子は両手を合わせて目をつむって心の中で何度も何度もこの言葉を繰り返す。
628 :時風 梨沙子 :2012/12/16(日) 10:00
その時、愛理に向かって風が流れていくのを梨沙子は感じた。
この風。梨沙子は自分の体の中で何かが弾けたように感じた。
愛理が現れるときにいつも、流れてる風。

その風はまるで愛理を中心に渦を巻くように周りの空気を引き込んでいくようだった。
 
梨沙子は握り締めた手に力を込めてさらに強く祈る。

聖なる風よ。愛理に力をかして

そのとき、梨沙子が一番好きな曲の愛理の声が、渦巻く風を拡散させるように聞こえてきた。
629 :時風 梨沙子 :2012/12/16(日) 10:02
愛理の声は全体を覆う雅とは違ってまるで透き通る一本の線のようだ。
だけどその光線は、どこまでも強い。どこまでも透明なのに遥か彼方まで貫き通してしまいそうだ。
 
「梨沙子、愛理大丈夫だよ!」
 
舞美が梨沙子の手を握り締めて言った。
 
「うん」
 
梨沙子も泣きそうになって愛理を見る。
 
「偉大な力を!」は、梨沙子が愛理と二人で練習した時に一番愛理の歌い方が好きだと言った曲だ。 
きっと愛理は、会場受けも審査員の点数のことも何も考えずにこの曲を選んだに違いなかった。
630 :時風 梨沙子 :2012/12/16(日) 10:04
歌おう!仲間のために。
ライバルが強ければ強いほど自分はもっともっと強くなる

愛理がそう歌っているように思えた。
梨沙子の心の中に愛理が歌詞に込めた意味がくっきりと入り込んできた。
それはきっと愛理の気持ちをそのまま表している。
音の一つ一つが一つの明瞭な筋のように一本一本精密に響き渡る。
次第に会場の声が愛理の歌に揺り動かされている。

℃-uteの歌がBerryzファンの間に力強く反響し、ファンの歓声がそれに応え始めた。
631 :時風 梨沙子 :2012/12/16(日) 10:08
愛理に向かって流れていた風がいよいよ本格的に勢いを増して会場中にみなぎっていく。
ファンの一人一人の笑顔が集まっていく。
その笑顔の中心にいるのが愛理だ。
それは愛理がもつ偉大な力の証でもある気がした。

梨沙子の脳裏に六人で必死に振り付けや歌を練習した風景が思い浮かんだ。
そのときの℃-uteのみんなの笑顔が、愛理の歌で蘇ってくる。

愛理の歌は雅のような爆発するような勢いはない。
でも愛理が放つ声は不思議な力をもって、輝く点となり光線となって、
まるで雅の歌に風穴を開けようとしているようだった。
梨沙子は歌っている愛理の強さに、愛理のもつ歌の力に涙が出そうになる。
632 :時風 梨沙子 :2012/12/16(日) 10:09
その時、舞が立ち上がって一緒に歌い始めた。
同時に梨沙子達も自然と立ち上がって歌い始める。

愛理に届け。

そう願いながら全身全霊の力を込めて愛理とともに歌った。
愛理がちらりと横を見たとき、愛理がものすごく幸福そうな笑顔で歌っているのが見えた。
633 :時風 梨沙子 :2012/12/16(日) 10:11
私は大人に近づいた。
もうどんな勝負だって仲間のためなら負けない

愛理の歌がひたすら梨沙子の心の中に入り込んでくる。
愛理を見つめる梨沙子の視線が愛理と一瞬だけ重なり合った。

「梨沙子が好きって言ってくれた。そう思いながら歌ってるよ」

愛理がそう言ってるような気がした。
634 :時風 桃子 :2012/12/16(日) 10:12



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635 :時風 桃子 :2012/12/16(日) 10:14
愛理が歌い終わったあと、桃子は固まったように成り行きを見ていた。
Berryzのメンバーも誰も一言も発さない。
 
審査員判定を先に行います。
アナウンスがあってモーニング娘。の二人にスポットライトがあたる。

譜久村聖:鈴木愛理、道重さゆみ:夏焼雅。
それぞれのボードに名前が映し出された。
 
審査員の結果は1票ずつの五分。
しかし桃子は予想とは完全に逆の結果に驚いた。
桃子の頭は完全に混乱してきた。
 
「桃、もしかしたら出番あるかもね」
 
そのとき雅がすました顔で言った。
 
「え?」
 
桃子が振り返ってその言葉の意味を雅に聞きただす間もなく、
会場得票の比率が自動で計算され始める。
636 :時風 桃子 :2012/12/16(日) 10:15
投票は手元に配られたリモコン式のボタンで投票が行われた。
結果はすぐに%表示で会場に映し出されていく。
10%、20%、愛理と雅の数字が全く同じスピードで増えていく。
 
35%・・・40%・・・

桃子は硬直したように数字を凝視し続けた。
会場はまるで全てがリセットされたかのように静かにざわついた。

そのとき、風がぴたりとやんだ。
一瞬の静寂があたりを包む。
 
鈴木愛理の蛍光表示に51%が表示された。
そのまま数字が固定されてように動かない。
雅の表示は49%のままだった。

それは動かしがたい確実な結果を表しているように見えた。
637 :ES :2012/12/16(日) 10:18

今回の更新を終わります。

>>617
レスありがとうございます。
この後もまだまだ続きますので更新頑張ります!
638 :ES :2012/12/16(日) 10:18


レス流し
639 :ES :2012/12/16(日) 10:18


レス流し
640 :名無飼育さん :2012/12/21(金) 15:31
熱い!目が離せません。
いつも更新楽しみにしています。
641 :時風 桃子 :2012/12/23(日) 22:38
桃子は梨沙子の残留が決まって安堵するわけでもなく、
Berryzの敗北を悔しいと思うでもなくただ呆然としていた。
ただあまりに強い力のぶつかり合いに魂が抜けた後みたいに硬直してしまっていた。

そして桃子は、さゆみと聖が言っていた判定理由を思い出す。
「愛理ちゃんも素晴らしかったですけどね。でも雅ちゃんが歌ってるの、
 昔のモーニングの先輩が会場中をわかせてるのをもう一度みた感じっていうか。
 カリスマ性があるっていうのかそういうのを思い出してすごいと思いました」
 
道重さんはそう言って「夏焼雅」の書かれたボードを出した。
642 :時風 桃子 :2012/12/23(日) 22:39
さゆみが愛理にいれたら勝負はわからなくなる。
そう読んでいた桃子はこれでもう勝負あったと思った。
道重さんはそれこそ結成当初からベリーズのことを応援してくれた人だ。
ベリーズに入れるかわからないとか言ってたけどこの結果はもはや鉄板だったような気がした。
勝負というのはそもそも気持ちや気合なんかでどうにもなるもんじゃない。

今回の勝負はベリーズの勝利で決まり。自分の出番はない。

そう思ったときに「私は鈴木さんにします」という譜久村聖の声が聞こえてきた。
耳を疑うような言葉だった。
643 :時風 桃子 :2012/12/23(日) 22:41
「鈴木さんが歌うの聞いてまるで高橋さんが歌っているみたいでした。
 でも高橋さんそのまんまじゃなく、高橋さんの歌い方っていうか気持ちがそのまま乗り移ってるみたいで。
 うまく言えないんですけど」
 
聖はしきりに言い直しながら言っていた。
 
「本当はいつも聞いてる夏焼さんの歌に入れようと決めたたんです。
 でも何かモーニング娘。として鈴木さんにいれたいと思いました」
 
そう言って聖が「鈴木愛理」と書かれたボードを出したのだった。
そこからは桃子の思考回路は完全に止まってしまっていた。
644 :時風 桃子 :2012/12/23(日) 22:43
会場の熱気が再び桃子を現実に引き戻す。

「総点数2対1でエース対決は鈴木愛理さんの勝利です!
 結果今回のベリキュー対決は℃-uteチームの勝利となりました!」

勝負は決まった。
 
「桃」
 
隣にいた雅が桃子の手を握った。
桃子がメンバーの方を振り返る。
お互いに目を合わすとまるで決められていたかのように円陣を組んだ。
 
「結果は結果。仕方ない。じゃあ後はみんなで決めた通りに梨沙子を送ろう」
 
佐紀が潔くそう言った。
 
「OK」
 
誰の顔にも負けた悔しさや慰めみたいなものは感じられなかった。
645 :時風 桃子 :2012/12/23(日) 22:44
雅に言われて桃子は我に帰る。
雅には負けたショックみたいなものは全く感じられない。
まるで演劇の途中のように集中力を持続させているようだった。

どんだけ強いのだ。この人は。
桃子は雅を見て心底そう思う。
 
抱き合って喜んでいる℃-uteの姿が桃子の目に入った。
 
長い時間をかけてずっと桃子が準備してきたことがやっと実行される。
メンバーとスタッフさんとも何度も話してやっと完成した計画なのに、
桃子の頭の中でベリキューの勝負でそのことなんて飛んでしまっていたようだった。
646 :時風 梨沙子 :2012/12/23(日) 22:46
℃-uteみんなで抱き合っている時に愛理が「りーちゃん、ごめんね。りーちゃんごめんね」
としきりに言うものだから梨沙子はまた泣いてしまった。

勝った愛理を一番祝福したいのに、全くこの人は何度自分を泣かしたら気が済むんだろうと思う。
「梨沙子、大丈夫?」心配そうに聞いてくれる舞の横でやったーとまるで子供みたいに一番喜んでいるのは舞美だった。
 
「ここでBerryz工房のみなさんが、菅谷さんに言いたいことがあるそうです」
 
司会者からアナウンスがあった。
梨沙子はそれを聞いてぎくりとなる。
Berryzのメンバーが一斉に前に並んでいた。

ちょうどその後ろに幕がかかっている背の高いボードが立っている。
647 :時風 梨沙子 :2012/12/23(日) 22:49
「ちょっと梨沙子に言いたいことがある」
 
強い調子で雅の声が聞こえてきた。
普段から雅にはいろいろと注意されることが多い。

絶対何か怒られる。
梨沙子はそう思った。

すると桃子はちょこちょこと大きなボードを押してきて梨沙子の目の前にもってきた。
 
「梨沙子」
 
優しい笑顔で呼びかけるようにそう言うと桃子は、ボードにかかっている幕をおろした。
するとボードにはコンサート会場のグッズ売り場みたいにTシャツやマフラータオル、
リストバンドなどが貼り付けてある。

よく見るとRISAKOの文字が紫色の中にくっきりと浮かび出ていた。
その横に℃-uteの文字と今回のコンサートツアーの名前が印字されている。
648 :時風 梨沙子 :2012/12/23(日) 22:50
「これって」
 
梨沙子は思わず雅を見る。
 
「梨沙子のコンサートグッズ、Berryzで考えてみたの。
 ℃-uteのスタッフさんにもちょっと協力してもらったけどね」
 
雅がそう言った。
 
「イメージカラー。紫なんだ」
 
「そう。うちの色、梨沙子にあげる」
 
紫は梨沙子がずっと好きな色の一つでBerryzの時代は雅の紫と梨沙子の赤を交換して書き物を書いたりしていたこともあった。
649 :時風 梨沙子 :2012/12/23(日) 22:52
「ありがとう。みや」
 
近づいてくる雅に向かって梨沙子が言った。
雅は梨沙子の顔のすれすれまで近づいてきてきた。

梨沙子は久しぶりの雅との接近にどぎまぎしする。
 
「言いづらいかもしれないけど。桃にも一応お礼言ってあげて。
 今回の企画したの。一応桃だからさ」
 
梨沙子の耳元でそっとそう言う雅に梨沙子は思わず苦笑した。
 
「分かった。後でちゃんと言うよ」
 
自分はみやほどツンデレじゃない。
そう思ったときに雅に抱きしめられた。
 
「頑張っといで。℃-uteのみんなと」
 
「うん」
 
梨沙子が顔をあげると傍にBerryzのメンバーが取り囲んでいた。
650 :時風 梨沙子 :2012/12/23(日) 22:53
「何か卒業するみたいでやだー」
 
梨沙子がこぼれそうになった涙を指で払う。
 
「ちゃんと待ってるから。だから頑張ってきなよ」
 
佐紀がそう言ってくれた。
 
「みんな、ありがと」
 
そう言ったとき、会場から拍手が聞こえてきた。
梨沙子はここがステージの上だいうことをすっかり忘れていたことに気づいた。

目の前には数え切れないぐらい多くの人がいる。
もう一度Berryz工房としてのステージに立つとき、
もっと成長した違う自分になって、ここにもどってこれたらいい。
梨沙子はそう思った。
651 :時風 梨沙子 :2012/12/23(日) 22:55


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652 :時風 梨沙子 :2012/12/23(日) 22:56
「ていうかさあ。桃あんなふうに言うことないよね」
 
梨沙子は隣に座っている愛理に不満げに言った。
愛理は梨沙子の表情を見てくすりと笑う。
 
「いいんじゃない?桃らしくて」
 
愛理は笑いながら言う。
 
梨沙子がBerryzみんなにありがとうと言って会場から盛大な拍手があったまさに絶頂の雰囲気のときに、
桃子がこれは、全部自分が計画して企画したんだとファンの前でさも自慢げに高らかに語った。
 
そして梨沙子にももちへの愛の言葉言ってごらんと言った。
653 :時風 梨沙子 :2012/12/23(日) 22:57
そのときには完全に梨沙子は涙はひいてしまっていて、
桃子を抜かして「ベリーズのみんな、みや、熊井ちゃん、千奈美、茉麻、キャプテン、本当にありがとう」
と言ってやった。

「梨沙子、何で照れるの?」「照れてないよ」といつもの掛け合いが始まって、
おかげで桃子にちゃんとお礼を言うこともできなくなった。
 
「桃、性格悪。ホントそう思った」
 
「ふふ。性格いいの間違いじゃなくて」
 
愛理は笑って言った。
654 :時風 梨沙子 :2012/12/23(日) 22:59
バスは華やかな夜景を窓に映しながら大阪の宿泊先のホテルに向かっていた。
℃-uteのコンサートツアーの二日目が無事に終わった。
梨沙子にとっては初日だったけど、歌って踊っているうちにあっという間にラストの曲になっていた。

ただアンコール含めて力いっぱいに出せたと思う。
Berryzのメンバーにグッズを作ってもらってせいで
Berryzにも℃-uteにも認められてステージに立っているという充足感で梨沙子はいっぱいだった。

そして何より紫のペンライトも梨沙子のTシャツのファンの人もかなり多かったのがうれしかった。
 
でもだからこそ、本当にあのときに桃子に素直にありがとうと言いたかった。
655 :時風 梨沙子 :2012/12/23(日) 23:01
その後は、梨沙子は一気にライブの準備に入っていったし、
桃子にはステージで何となくはぐらかされた上に今梨沙子がやるべきなのは℃-uteのライブでしょと思っているような気がして
桃子にはまだ連絡さえしていない。

ただ桃子もそれでいいと思っているのかもしれない。
梨沙子は℃-uteでいればいい。
桃子が言った言葉が脳裏に蘇る。
桃子らしいと言われればそうかもしれないと梨沙子は思う。
 
バスはホテルの駐車場に入り、バスから降りるとようやくライブが終わったみたいで緊張感がようやく解けていった。
656 :ES :2012/12/23(日) 23:06
>>640
レスありがとうございます!
今年最後の更新になりましたが、来年も続けますので
どうぞよろしくお願いします!

今回の更新を終わります。
来週は福岡での℃-uteのライブがあったり、年の瀬のあれこれありまして
お休みさせていただきますm(_ _)m

来年からまた更新を再開します。
657 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 18:44
「ちっさーと萩ちゃんが同じ部屋ね。で私となっきー、愛理は梨沙子とね」
 
ホテルのロビーで舞美が部屋割りを伝えている。
この前の名古屋のときも愛理とは同部屋だった。
 
「えー、また愛理と?」
 
梨沙子はわざと不満そうな声を出した。
 
「いいじゃん。二人で℃-uteの未来について語り合おうじゃないか」
 
愛理は梨沙子の肩に手を回して言った。
 
「いいけど。この前みたいにやらしいことしないでよ」
 
梨沙子は至近距離にある愛理を横目に見て言う。
658 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 18:46
「何?愛理、梨沙子に何かしたの?」
 
千聖が面白がって聞いてきた。
 
「前、あたしが寝てたら、同じ布団に無理やり入ってこようとするの。
 風邪うつっちゃうからやめてって言うのに無理やり体くっつけてくるの」
 
梨沙子は前に名古屋で体調を崩した時の話をした。
 
「まじで?」
 
千聖が声をあげる。
 
「えー、愛理最低」
 
聞いていた舞もそう言った。
愛理は梨沙子から離れてその場で笑い転げている。
659 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 18:47
「ちょっとみやに言いつけてやろ」
 
舞がそう言っても愛理はまだお腹を抱えて笑っていた。
 
「何なに?愛理が何かしたって」
 
早貴と舞美が梨沙子達のところに駆け寄ってくる。
 
「愛理が梨沙子にね」
 
「ちょっとやめて。私のイメージが」
 
舞が言おうとするのを愛理が必死に止める。
その様子をみて梨沙子は自分は本当に℃-uteに残れたんだなとしみじみ思った。
660 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 18:51
ベリキュー対決の後も愛理と梨沙子の関係は全く変わることはなかった。
ただあのときの愛理の歌は℃-uteに与えた影響はものすごく大きかった。
愛理のいないところで愛理は天才だとかやっぱり愛理の歌唱力はハロプロナンバー1だとかみんな口々に言っている。

千聖は愛理にまた引き離されてしまったみたいで焦る。
頑張って追いついてみせると息巻いていた。

ただ梨沙子の感じ方は少し違った。
愛理が歌ったとき、きっと愛理の心の中には℃-uteのメンバーやファンに向けての思い、
そして梨沙子に対する気持ちがたくさん入っていた。
梨沙子は愛理の技術的な歌のすごさよりも、その愛理の気持ちの方が直接梨沙子の心に響いてくるようで、
愛理の歌を思い出すたびに何か切なくなった。
661 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 18:52
梨沙子は部屋に入るとすぐにシャワーを浴びた。
ドライヤーで髪を乾かすと一気に疲れがでたのかベッドの上に崩れ落ちてしまった。
ベッドがふかふかで触り心地が何とも気持ちいい。
 
「りーちゃん、私もシャワー浴びてくるね」
 
「うん」
 
愛理の言葉にも何とか反応できるくらいだった。
意識が遠のいていく。
目を瞑るとそのまま寝てしまうのは分かっていた。
 

どれくらい時間がたったのだろう。
部屋の中のわずかな音が聞こえ始める。
そして携帯のカメラのカシャリという音が聞こえたような気がした。
 
「あー、惜しい。起きちゃった」
 
薄暗い部屋に愛理が傍で携帯をもっている。
662 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 18:54
「愛理、何してんの?」
 
梨沙子は目を細めながら言う。
 
「ん?だからりーちゃんのすっぴん寝顔をブログにあーっぷ」
 
それを聞いた瞬間、梨沙子は一気に覚醒した。
 
「ちょっと愛理!?」
 
梨沙子は笑ってる愛理につかみかかる。
その勢いで愛理をベッドに押し倒す格好になった。
 
「まじでアップしたの?」
 
「うそうそ。冗談だって。もうりーちゃんたら私がそんなことするわけないでしょ。もう」
 
愛理がおばあちゃんみたいな真似をして言った。
663 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 18:56
「はあ。よかった」
 
梨沙子はようやく胸をなでおろす。
そして愛理の両肩を押さえていた手を離すと愛理の横に倒れ込んだ。
今度は目をつむってもそれほど睡魔は襲ってはこなかった。
 
「どれぐらい寝てたかな。あたし?」
 
「んー。一時間くらいかな」
 
愛理はそう言った。
 
「そっか」
 
梨沙子は答える。
寝転がったベッドの上にはホテルの白い壁がしずかに映る。
664 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 18:57
「疲れたね。ライブもう完全燃焼って感じだったもんね」
 
愛理が言った。
 
「うん。もう思い残すこと何もないって感じ」
 
梨沙子もそう言った。
 
「でもまだツアー続いてんだから。りーちゃんまた倒れないでよ」
 
愛理が心配そうに言う。
 
「分かってる。せっかく愛理がつないでくれたチャンスだから」
 
「うん。でもそれはもう意識しなくてもいいよ」
 
愛理が照れくさそうに笑った。
665 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 18:59
愛理がいつもこんな風に隣にいる。
℃-uteに入ってからそれがもう当たり前のようになってるけど、
梨沙子はいつも今ここにいることができる自分は奇跡なんだと思う。

梨沙子は雅と対決した時の愛理の歌の記憶が昨日のことのように蘇った。
梨沙子の中で愛理のおかげで今ここにいられるという思いと
自分も雅の前であんな風に歌えたらという憧れに近い気持ちが交錯する。
 
「あたし、愛理に謝らなきゃいけないことがあるんだ」
 
梨沙子がぽつりと言った。
 
「りーちゃんが私に?」
 
「そう。あたしね。℃-uteに入る前、愛理のことずっとライバルだと思ってた。
 絶対負けたくないって思ってた」
 
「りーちゃんがそう思ってくれると逆にうれしいけどね」
 
愛理は朗らかに笑って言う。
666 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 19:01
「でも、愛理は歌もダンスもうまくてファンからの人気だけじゃなくてメンバーからもいつも注目されてたからさ。
 ずっと嫉妬してた。何で愛理ばっかりって。八つ当たりみたいに思ってたこともある」
 
梨沙子は正直に言った。
 
「だから、愛理ごめ」
 
「でもそれってみやのせいでしょ?」
 
梨沙子が言いかけた時に愛理が鋭くそう言った。梨沙子ははっとして押し黙った。
確かに愛理に対して対抗心を燃やしているときはいつも雅のことで頭がいっぱいになってる時だった。

イライラしてたのは、愛理と雅が仲良さそうにしてたり、
お互いに歌やダンスで影響しあってる姿を見ていたときばかりだ。

愛理は何も変わらない。
そして愛理と接している自分も昔と何も変わってない。
667 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 19:04
「りーちゃんてさ。いつも堂々としてるのに、みやの前だとすごく自信なさそうにしてるっていうか。
 自分の実力隠して何か窮屈そうにしてるように見えたよ」
 
愛理は言葉を選ぶようにゆっくりと言った。
 
「そうかもしれない」
 
梨沙子はうなずいた。
 
「あたし、いつもみやのそばにいてみやとは一番仲いいけど。
 みやが自分のことどう思ってるのか気になってしょうがないの。
 みやはあたしのこといつも見てくれるけど時々見捨てられるかもって怖くなることがあって」
 
愛理は梨沙子の言葉をうんうん言いながら聞いていた。
 
「でも怖いけどみやには自分のこと一番よく見て欲しいの。ね、変な人間でしょ?」
 
梨沙子は愛理を見つめて言った。
668 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 19:06
愛理は微笑を浮かべて首を横にふった。
 
「全然変じゃない。分かるよ。りーちゃんの気持ち」
 
「愛理にも分かるの?」
 
「そりゃ分かるよ。だって私もりーちゃんと同じだもん。
 私だってBuono!でずっとみやの背中追いかけてきたんだから。でも全然追いつけなかった。
 みやは天真爛漫で明るくて、なんでもできて。
 でも私はネクラでプライドばっかり高いし。
 そんなネガティブなことしか考えられない時期もあったな」
 
愛理ははっきりとそう言った。
 
「愛理もそんなこと思ってたんだ」
 
梨沙子は意外な気持ちだった。
669 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 19:08
愛理は歌にしてもダンスもレベルが高いだけじゃない。
他人が真似できないような個性もちゃんとあって誰かと自分を比較して落ち込むなんてありえないと思っていた。
 
「私も実はりーちゃんに謝らなきゃいけないことがあるんだ」
 
愛理が深刻そうな顔をして言った。
 
「何?」
 
「りーちゃんが℃-uteに入ることになった最初のベリキュー対決のときね。
 私、罰ゲームの内容知ってたんだ。
 偶然会社にいったとき、ちょうどベリキュー対決の企画書が机の上に置いてあって。
 見るつもりなかったんだけど」
 
愛理が神妙に言う。
670 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 19:09
「私ね。何か悔しかったんだ。りーちゃんて表現力すごいし、パフォーマンスだってすごいんだから。
 みやの前でこそ見せつけてやったらいいのにとか勝手に思っちゃうの。だからね。
 りーちゃんに分かってほしかった。りーちゃんのそばにいるのはみやだけじゃないって」
 
愛理がそう言ったとき梨沙子は何かに突かれたような感じがした。
 
「だからあたしを℃-uteに入れようと思ったの?」
 
梨沙子の言葉に愛理は静かにうなずいた。
 
「あたしのためにそんなことまで考えてくれなくていいのに」
 
梨沙子はぽつりと言った。
梨沙子が雅のことで勝手に愛理にとられるとかそんなことばかり考えていた自分が情けなくなる。
671 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 19:11
「そっか。だからずっとごめんねって言ってたんだ」
 
梨沙子は愛理の勝利の瞬間、みんなで抱き合ったことを思い出した。
あのとき、愛理は何度も「りーちゃんごめんね」と言っていた。
 
「うん。それだけじゃないけど。あの似顔絵のこともあったからさ」

愛理が不意に言った。
梨沙子はそれを聞いてぎくりとする。
 
「ごめん。勝手に描いちゃって」
 
梨沙子は愛理を見て申し訳なさげに言う。
愛理は首を大きく首をふった。
 
「泣きそうになっちゃった。あの似顔絵見てたらりーちゃんともうお別れみたいで。
 もうこれっきりりーちゃんに会えなくなる気がして」
 
「えー?何で」
 
梨沙子は驚いて言う。
672 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 19:15
「だってあたしその前にりーちゃんにひどいこと言ったから。ありがとうなんて言ってもらえるなんて、思ってなかったから」
 
梨沙子は楽屋で勝っても負けてもどっちでもいいと言ったときに愛理が怒って出て行ってしまったことを思い出して、胸がちくりと痛んだ。
どちらかと言えば自分の方が悪い。
 
「でもさ。もうこうなったらもう勝つしかないやって思った。勝ったら謝ろうって。
 だからあの絵のおかげなんだ。みやに勝てたのは」
 
そう言う愛理の表情はとても穏やかだった。
愛理も℃-uteのみんなも元々梨沙子のためにここまで頑張ってくれたようなものだ。
みんなそれが当たり前みたいに思ってくれてるけど、全然当たり前なんかじゃないと梨沙子は思う。
 
「でも良かったよ。勝てて」
 
愛理はそう言って梨沙子のベッドにダイブする。
梨沙子も愛理の横で仰向けになった。
673 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 19:17
「みやと勝負したいんでしょ?りーちゃんだって本当は」
 
愛理の言葉が横から聞こえる。
 
梨沙子は本当の妹みたい。笑いながらそう言ってくれる雅の表情が思い浮かぶ。
雅にそう言われてとてもうれしいんだけど何だか物足りない。
いつもそんな気持ちだった。
そんな不満足を勝手に愛理に置き換えてライバル意識をひたすらもっていただけだということに梨沙子は今さら気づく。
 
「そうだけど。でも無理だよ。あたしには愛理みたいな才能ないし」
 
梨沙子は自信なさげに言った。
 
「そんなことない。りーちゃんはみやと勝負できるし、みやをきっと超える」
 
「まさか」
 
「いや、絶対」
 
「無理無理」
674 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 19:18
梨沙子はそんなことはありえないというふうに首を横にふった。
今だって℃-uteのメンバーに助けられてようやくここまで来れたのだ。
雅と勝負したり超えたりするどころじゃない。
 
「でもね。みやと勝負するときは、今度は℃-uteが絶対支えになるから。
 私もそばで絶対りーちゃんを応援するよ。Berryzだけがりーちゃんの仲間じゃないんだからね」
 
愛理がそう言った瞬間、突然梨沙子は何かに弾かれたように気づいた。

それはまるで自分が二人いるような感覚。
Berryz工房の自分と℃-uteの自分。二人の自分が今、同時にここに存在している。
まるで別世界にいる人間が偶然に何万分の一かの確率でこの場所に居合わせているような不思議な錯覚だった。
675 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 19:20
「私の居場所って℃-uteにもちゃんとあるんだね」
 
不意に言った梨沙子の言葉に愛理は静かにうなずいた。
 
「でもさ。それってあたしだけのことじゃないと思う。きっと愛理もBerryz工房に居場所があるんだよ」
 
梨沙子の中の不思議な錯覚が次第に言葉になっていく。
 
「Berryzに私の居場所?」
 
愛理は不思議そうな表情で梨沙子を見ている。
 
「私思うんだ。℃-uteの菅谷梨沙子ってずっと前からいたんじゃないかって。℃-uteに入ったとき本当にそんな気がした」
 
梨沙子は言った。
 
「りーちゃんておもしろいこと考えるね」
 
愛理が感心したように言う。
676 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 19:23
「だってさ。愛理だってもし自分がBerryzだったらって考えたことあるでしょ?」
 
「キッズだったらどっちかに入ってたわけだから。そりゃああるけど。あくまで仮の話しでしょ」
 
「だからさ。それって仮の話しだけじゃなくて本当にあるんだよ。別の世界では愛理もBerryz工房で歌ってるかもしれない。
 でも今の世界じゃ空いてる席みたいになってるんだけど、それはちゃんと居場所として存在してて」
 
梨沙子は感じたことを必死になって愛理に伝えようとする。
それを愛理は懸命に聞いていた。
 
「じゃあさ。℃-uteにはりーちゃんだけじゃなくベリーズの7人分の居場所があるってこと?」
 
「そう。だからBerryz工房にも℃-uteのメンバーの居場所がちゃんとあるんだよ」
 
梨沙子が言った。
 
「でも素敵だなあ。そういうのって」
 
愛理が優しい笑みを浮かべて言った。
677 :時風 梨沙子 :2013/01/06(日) 19:24
「きっとあたしは空いてる居場所を一番最初に経験しただけなんだ」
 
梨沙子は言った。
 
「りーちゃんって結構ロマンティックなこと考えるよね」
 
愛理が梨沙子を見つめて言う。
 
「そうかなあ。ロマンティックかな。こういうの」
 
「じゃあこういうのはどう?℃-uteとBerryz、それぞれに新曲があって。それぞれ全然違うタイプの曲なんだけど。
 同時に再生すると合体してまた一つの曲になるとか」
 
愛理が急に思いついたように言った。
 
「えー?いいけどそんなの無理でしょ?」
 
今度は梨沙子が茶化すように笑った。
678 :ES :2013/01/06(日) 19:25

今回の更新を終わります。
679 :名無飼育さん :2013/01/14(月) 18:40
いいお話ですね。
愛理と梨沙子の関係性が素敵です。
680 :時風 梨沙子 :2013/01/14(月) 19:29
ベリーズの楽屋に梨沙子がひょっこり顔を出したとき、
全員が驚いてそれぞれの声で「梨沙子!」と叫ぶように言った。
そのときの梨沙子は久しぶりの照れくささと少しの緊張を顔ににじませていた。
その表情が恐ろしく可愛い。

最初に雅が梨沙子に抱きついていき、梨沙子を椅子に座らせるとBerryzのメンバーが梨沙子を取り囲むように座った。
桃子はそれを遠巻きに見ていた。
 
梨沙子はまだ℃-uteに在籍しているが、今日はベリキューでの仕事だった関係で必然的に梨沙子も同じ仕事場になった。
681 :時風 梨沙子 :2013/01/14(月) 19:31
「梨沙子、お菓子食べる?」
 
佐紀が持ってきたお菓子をバッグから取り出した。
 
「うん。じゃあもらっちゃおうかな」
 
梨沙子はにこにこして答えた。
まるで久しぶりに帰ってきた妹をもてなすようだった。
梨沙子がBerryzの戻ってきたのを見ると桃子自身も、
何かずっと心の中で失っていたものが戻ってきたような気がする。

佐紀や雅があれほど梨沙子を取り戻そうと言っていたその気持ちが今にして初めて分かった。
 
「梨沙子、℃-uteはどうなの?」
 
梨沙子の隣に座った雅が至近距離で梨沙子に尋ねる。
 
「うん。大変だけど楽しいよ」
 
梨沙子は笑顔で答えた。
682 :時風 桃子 :2013/01/14(月) 19:33
「そうだ。大阪の夜公演のときさ。ちょうどその日、
 大阪でBuono!のラジオ収録が入ってるからライブ見に行けるかも」
 
雅が言った。
 
「ホント?みやが来てくれたらうれしいなあ」
 
梨沙子は小悪魔のような笑みを浮かべる。
何かその笑顔が前までと違った。

以前までは雅にはっきり聞かれると緊張感と従順そうな表情を雅に返していた。
でも今の梨沙子はすごく自然に雅に接している。
まるで梨沙子には自分たちが入り込めない別の世界を新しく持っているみたいだった。

きっと7人で活動を再開したとき、全く違った梨沙子を見ることができるんだろう。
ベリーズに梨沙子がいないのは確かに寂しい。
でも梨沙子が℃-uteでやりたいこと全部やり遂げて胸を張って帰ってくるまで自分は静かに待とうと桃子は思った。
683 :時風 梨沙子 :2013/01/14(月) 19:33

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684 :時風 梨沙子 :2013/01/14(月) 19:35
気がついたら桃がいない。
見ると桃子が一人楽屋を出ていくのが見えた。
 
「ちょっと桃に話がある」
 
梨沙子はみんなにそう言うと桃子の後を追った。
 
「ちょっと、桃?」
 
桃子の後ろ姿に声をかけた。
 
「ん?」
 
桃子はいつもの優しげな表情を梨沙子に向ける。
 
「ん、じゃないよ。何で勝手に行っちゃうの?」 
 
「あ、ごめん。何か話しあった?」
 
桃子は照れ笑いするようにして言った。
685 :時風 梨沙子 :2013/01/14(月) 19:36
「この前のお礼、言ってなかったと思って」
 
「この前のって?」
 
「あたしの℃-uteのグッズ作ってくれたでしょ?」
 
「ああ、そうだけど。でもあれ。スタッフさんとかみんなで考えて作ったよ。
 まあむしろ、私がその功績を独占しようとしたってのはあるけど」
 
桃子は笑って言った。
 
「ありがとね。桃」
 
梨沙子が改めてそう言うと桃子は笑みを浮かべて首を横にふった。
 
「なんか成長したね。梨沙子も愛理も」
686 :時風 梨沙子 :2013/01/14(月) 19:37
「愛理も?」
 
桃子から愛理という名前が出てきたのが梨沙子にとっては何か意外だった。
 
「そう。だって梨沙子が℃-uteに入った頃は愛理あたふたしてたもん。
 それが最後は親友を守るために戦うってね。私が梨沙子だったら惚れちゃうなあ」
 
桃子がイタズラっぽく笑いながら言う。
 
「そんなに愛理ってあたふたしてたっけ?あたしが入った頃って」
 
梨沙子は思う返すように言う。
 
「梨沙子、一度℃-uteのメンバーの前で謝ったことがあったでしょ?じつはあのとき私とみや、スタジオのすぐ傍にいて見てたの」
 
「そうなの?」
 
梨沙子が驚いて言う。
687 :時風 梨沙子 :2013/01/14(月) 19:39
「あの日、本当に大変だったんだから。愛理から夜電話がかかってきて。
 愛理すごい落ち込んでてさ。梨沙子を騙して無理やり℃-uteに連れてきて今度は、
 みんなの前で謝らせたり自分のせいで梨沙子をすごく傷つけちゃったって。
 電話口でずっと泣いてたんだよ」
 
梨沙子の頭の中であの日のことがフラッシュバックのように蘇る。
愛理はそれまでは一緒に写メとろうとか元気だったのに、
梨沙子が謝ってからは急に元気がなくなってみんなでご飯食べに行ったときはほとんどしゃべらなかった。
 
「知らなかった。愛理をそんなに苦しめてたなんて」
 
梨沙子は愕然として言った。
でも桃子は静かに首を横にふった。
 
「だからちゃんとそれ、勘違いだって。私言ってやったよ。
 梨沙子は全然傷ついてなんかない。梨沙子があんなふうに謝るときってただエンジンかかっただけだよって。
 心配なら梨沙子に明日もう一度会ってきたらいいってね。次の日、愛理、りーちゃんに会いに来たでしょ?」
688 :時風 梨沙子 :2013/01/14(月) 19:41
確かにその次の日、愛理が梨沙子と一緒に練習しようと家を訪ねてきた。
でも全然知らなかった。
桃子と愛理の間でそんなやりとりがあったことも、愛理がそんなことを考えて自分のことを心配してくれてたなんて。
梨沙子の脳裏であのときからの愛理の笑顔や悲しそうな顔、勝負の前の緊張した顔がかけがえのない記憶のように梨沙子の脳裏に蘇った。
 
「でも愛理が悩んでたのなんて一瞬だけだったんじゃない?
 だってりーちゃん、℃-uteのことで一生懸命だったもんね」
 
桃子はにこやかに笑った。
桃子は梨沙子の気持ちなんて℃-uteの入る前からずっと分かっていたのだ。
梨沙子は嗣永桃子って人には絶対かなわないと思った。
689 :時風 梨沙子 :2013/01/14(月) 19:42
「あ、それからこのこと、愛理から梨沙子には言うなって言われてるからお願いね」
 
桃子は軽やかに言う。
 
「分かった」
 
梨沙子は低い声で言った。
 
「梨沙子」
 
桃子が改めて梨沙子の名前を呼ぶ。
 
「ん?」
 
「ライブ、頑張るんだよ。今度はお見舞いなんて行かないから」
 
「分かってる」
 
そう答えた時にはもう梨沙子の体の中で音楽が鳴り始めていた。

体に力がみなぎっていく。
前のライブよりももっともっと成長した姿を桃子にもファンの人にも見せたかった。
今ならそれができると確信していた。
690 :時風 梨沙子 :2013/01/14(月) 19:44
梨沙子はライブで炸裂する光の中で歌った。
合間にファンの掛け声から梨沙子の名前が何度も出てくる。

それが梨沙子にはうれしくてしょうがない。
ハロプロキッズからもし梨沙子が℃-uteに選ばれていたら。
梨沙子の正確無比なダンスの一つ一つが、そのもう一人の自分と今、完全に重なっている。
 
でも梨沙子がこのことを一番強く感じたのは、みんなで歌っている時ではなく、
むしろソロで歌った時だった。

梨沙子は℃-uteライブでソロを歌う曲として愛理の「Yes all my family」を選んだ。
691 :時風 梨沙子 :2013/01/14(月) 19:45
歌詞の中で呼びかけているfamilyはきっとこの歌を歌っている人全員に向けての言葉だろう。

その中で梨沙子は大人であることの意味を歌詞ののせて聞いている人全員に向けて問いかけている。
まだまだ大人になんてなれない自分がこの歌詞を口にすることは少し気後れする気持ちもあった。
でも愛理が実際歌っているように梨沙子は今の気持ちを歌に乗せていった。
692 :時風 梨沙子 :2013/01/14(月) 19:46
梨沙子は愛理の歌を℃-uteとして歌っていた。
一人で歌っているのに梨沙子の℃-uteとしての歌い方とBerryzにいるときの歌い方はまるで違った。
何よりも歌詞に忠実に歌の意味に込められた思いを自分の声に載せていく。
 
この歌は不思議だ。
歌っているとメロディーよりも歌詞のほうが強く浮かび上がってくる。
梨沙子はステージでこの曲を歌っていて初めて気づいた。

この曲は表現するっていうよりも何かを呼びかけてるような歌だ。
愛理はそのことに気づいてるだろうか。
もしそうならこの歌を歌っている梨沙子自身にも何かを愛理が伝えようとしていることのようにも感じた。

℃-uteの自分とBerryzの自分が静かに融合していく。
 
歌い終えたとき、会場中から大きな拍手が梨沙子の胸の中に届いた。
693 :時風 梨沙子 :2013/01/14(月) 19:47
大阪公演は午前と午後の間に少し空き時間があった。
 
「ねえ、せっかく大阪来たんだしお昼ご飯ちょっと出ない?」
 
愛理がそう言って℃-ute6人でラーメン屋さんに行くことになった。
 
「友達に大阪の人多いから。何かここに来るとホームに戻ってきたって感じがする」
 
歩きながら愛理が言った。
 
「え?愛理って大阪のイメージ全然ないけど」
 
舞が言った。
 
「時々大阪弁でるんだよね。癖で」
 
「えー。そうだっけ?」
 
早貴が怪しげに愛理を見た。
694 :時風 梨沙子 :2013/01/14(月) 19:49
「でも大阪の人にもいっぱい℃-uteのこと知ってもらえたらいいね」
 
舞美が明るくそう言った。
それを聞いて何か思いついたように急に愛理の表情がぱっと明るくなった。
愛理が何を言い出すのが梨沙子が注目していると

「大阪に来ても宣伝なんかせんで」
 
愛理が確かにそう言った。
 
何かしゃべろうとした梨沙子を一気に黙らせた。
そして周囲にしらっとした空気が流れる。
 
「はいはい。みんな大阪でしょ?暗くならない」
 
愛理がはっぱをかけるように言う。
 
「いや、別に寒いってだけで暗くなってはいない」
 
千聖が冷静にそう返した。
695 :時風 梨沙子 :2013/01/14(月) 19:51
ラーメン屋さんに入ると、ちょうどカウンターに六人がけで座った。
しばらくはみんなでライブのことや歌のことについてしゃべった。
梨沙子は大好きな味噌ラーメンがきたので、うきうきしながら食べ始めた。
食べ物のことになると愛理も梨沙子と全く同じようにうっとりしたような表情になる。
ライブのときと少し違う愛理の表情に梨沙子は和やかな気分になった。
 
「あ、ちょっと千聖、今舞の服にラーメンのつゆ飛ばしたでしょ?」
 
「え?舞ちゃんそれ自分が飛ばしたんじゃないの?」
 
「千聖さ。基本麺類の食べ方汚いんだよ」
 
「失礼な」
 
いつものことだが、千聖と舞が言い争いを始めた。
周囲もほうっておこうという空気になったときに突然愛理が上を見上げた。
696 :時風 梨沙子 :2013/01/14(月) 19:53
「ねえねえねえ」
 
愛理が左右に座る千聖と梨沙子の肩を叩く。
 
「そう言うときなんていうか知ってる?」
 
一瞬間をおいてにたりと笑って
「ご麺」
と言って右手を前に差し出した。

思わず梨沙子は食べている箸を止めた。
メンバーが全員そうなった。
 
「ね、今のはいいでしょ?」
 
愛理だけが満面の笑顔で梨沙子に訴え掛ける。
 
「すごい。ある意味すごいわ」
 
早貴が吹っ切れたように言った。
 
「梨沙子ごめんね。愛理の隣で」
 
舞が二つ席の向こうから言う。
 
「大丈夫。こういうの分かってるから」
 
梨沙子もそう答える。
697 :時風 梨沙子 :2013/01/14(月) 19:54
ただ舞美だけがそのやり取りを見てにこにこと笑っていた。
梨沙子はその笑顔に救われた気分になる。
 
「愛理、本当よく思いつくね。そういうことずっと考えてんの?」
 
「りーちゃんまでそんな冷めた言い方。ダジャレはね。大事なことなの。
 ほらこういうふうに疲れたまっててもみんな明るくなったでしょ?」
 
愛理がそう主張する。
 
「そうかなあ。まあそういうことにしといてもいいけど」
 
梨沙子はとりあえず曖昧に言って笑ってごまかした。

そのとき梨沙子にも愛理と同じようにひらめいたことがあった。
ただし梨沙子のはダジャレではない。
梨沙子は一人ほくそ笑んで周りを見渡した。
698 :ES :2013/01/14(月) 19:58

今回の更新を終わります。
レス681-682は桃子視点です。間違えました。すいません。

>>680
レスありがとうございます!
これからもりしゃあいりで頑張りまする。
699 :時風 梨沙子 :2013/01/20(日) 20:18
「何か梨沙子ってさ。Berryzにいるときの歌い方と変わってきたね。
さっきの昼公演のソロ聞いてて感じたんだけどさ」
 
楽屋に戻ってきたあと、千聖が不意に言った。
 
「そうかなあ。自分ではそんなに変わったつもりないけど」
 
梨沙子は不思議そうに答える。
その時、舞もちょうど差し入れをもって楽屋に入ってきた。
 
「梨沙子って低音のボリュームがすごいあるじゃん。
だから低音の出し方じゃ梨沙子に負けたくないってライバル意識もってたけど。
さっきの歌ソロで歌ってるの聞いてると梨沙子の歌って高音のほうが伸びがあるっていうかさ」
 
「あ、舞もそれ思った。梨沙子、Berryzのときと何か違うって」
 
舞が千聖の話を聞いて話の中に入ってきた。
700 :時風 梨沙子 :2013/01/20(日) 20:19
「何か違うかなあ」
 
梨沙子は首をかしげる。
確かに6人で歌うときは℃-uteの影響をもろに受けるから℃-uteでの菅谷梨沙子になっているし、
そのために猛練習を重ねてきた。

その分、ソロのときは自然体の梨沙子というか、それこそBerryzのときのままの自分で歌っているつもりだった。
 
「何か言葉にしにくいけどさ。愛理が少し入ってるんだよね。歌ってるときの梨沙子」
 
舞が言った。
 
「あ、そうかも。髪の色も格好も全然違うのに何か似てる時ってあるよね。愛理と梨沙子」
 
千聖もそう言った。
 
「愛理の歌、歌ったからじゃなくて?」
701 :時風 梨沙子 :2013/01/20(日) 20:21
「そうじゃないと思う。でも全然いい意味だよ。
Yes! All my familiyを梨沙子が歌うと原曲をそのまま再現してるって感じなんだと思う。
だから愛理がそこにいるみたいになるんだと思う」
 
舞がそう言った。
 
「やっぱ梨沙子の歌い方って誰とも違うね。なんか比べられないぐらいすごいっていうか。
昼公演のソロ聞いてて何かそう思った」
 
「二人に歌で褒められるとうれしいな」
 
梨沙子は素直にうれしいと思った。
 
「何?私の噂?」
 
ちょうどそのとき、愛理と舞美と早貴の三人も楽屋に戻ってきた。
702 :時風 梨沙子 :2013/01/20(日) 20:22
「うん。愛理の悪口。じゃなくって。梨沙子の話だよ」
 
「でも梨沙子って雰囲気も変わってきたよね。大人っぽくなって。
Berryzじゃ騒がしいイメージあったけど。℃-uteじゃそうでもないじゃん」
 
千聖は言った。
 
梨沙子が落ち着いてあたりを見渡した。
℃-uteのメンバー六人全員そろっている。
 
「そうだ。今日ね。みやからの差し入れがあるんだけど。この差し入れ千聖にだけなの」
 
梨沙子がタイミングを見計らったように言った。
 
「え?雅ちゃんがあたしにだけ?」
 
千聖の顔が一気に輝いた。
703 :時風 梨沙子 :2013/01/20(日) 20:24
「この箱なんだけど。中に開けると緊張しなくなって、自分の実力が100%出せるものが中に入ってるんだって」
 
梨沙子がにやりと笑って言った。
みんなが何の差し入れなのという感じで梨沙子と千聖の周囲に集まってきた。
 
「何で千聖だけ?ずるいな」
 
舞がうらやましそうに千聖を見た。
 
「うん。でもみやが千聖にだけって言うから仕方ないよ」
 
梨沙子は言った。
 
「本当に?」
 
千聖はうれしくて驚きを隠せないみたいだ。 
 
「みやから直接もらったんだからホントだよ。はい。開けてみて」
 
梨沙子が筒型の箱を千聖に手渡した。
704 :時風 梨沙子 :2013/01/20(日) 20:25
「なんだろ。雅ちゃんだから可愛くてオシャレなもんなんだろうな」
 
千聖は、おもむろにビニールのキャップを開けて中をのぞいた。
その瞬間、千聖の額めがけて紙人形のような物体がものすごい勢いで飛び出してきた。
 
「ぎゃああああ!」
 
千聖が凄まじい叫び声をあげて尻餅をついた。
 
中から飛び出したのは空気で膨らむカエルの人形だった。
 
「ひはははは!」
 
千聖がまるでコントのように倒れたせいで梨沙子が大笑いして、つられて℃-uteのほかのメンバーもお腹をかかえて笑い出す。
 
「ちょっと。もう梨沙子!?」
 
千聖が顔を赤くして起き上がる。
705 :時風 梨沙子 :2013/01/20(日) 20:27
「これ、スタッフさんの部屋に置いてあったからもってきた。
それらしく見えるようにプレゼント用に包んだんだよ」
 
梨沙子は自慢げに笑う。
 
「へえ。梨沙子芸が細かいっていうか。すごいね」
 
舞が笑いながら感心して言った。
 
「うん。よく思いついたと思う」
 
愛理もカエルの人形を持って言った。
 
「でしょでしょ。後ほかにもいろいろ思いついたの」
 
はしゃぐ梨沙子の様子はまるで子供みたいだ。
 
「もう!ちょっと愛理。梨沙子何とかしてよ」
 
千聖は教育係であったはずの愛理に言った。
706 :時風 梨沙子 :2013/01/20(日) 20:29
「これ、可愛い。こんなに膨らむんだね。人の顔ぐらいの大きさありそう」
 
一方の愛理はカエルの人形を持って千聖の言うことなんて全然耳にはいってないみたいだ。
 
「人の顔と同じくらいありそうじゃない?」
 
早貴もそう言った。
 
「そうだよね」
 
愛理は言うといやがる千聖の顔にわざわざカエルを近づける。
 
「ほら、やっぱ千聖の顔と同じ大きさじゃん」
 
舞がおもしろがって言った。
 
「ちっさー、顔ちっさー」
 
愛理がそう言って周囲に乾いた笑いが広がった。
ただ舞美だけは最初から最後までずっとにこやかに笑っている。
それはまるで℃-ute全体を包み込んでいるような天使のような朗らかな笑い方だ。
707 :時風 梨沙子 :2013/01/20(日) 20:30
「というわけで、みやからみんなへの差し入れ」
 
梨沙子が今度は本当に雅から渡されたクッキーを出してきた。
 
「やったー」
 
みんなの歓声が広がる。
 
「千聖。ごめんね」
 
梨沙子が申し訳なさそうに言う。
 
「まあ、雅ちゃんがあたしにだけプレゼントなんてありえないと思ったよ。梨沙子、一瞬だけ夢見させてくれてありがとう」
 
千聖は自虐的な笑いをする。
そうこうするうちに夜の部がまた始まろうとしていた。
708 :時風 梨沙子 :2013/01/20(日) 20:30

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709 :時風 桃子 :2013/01/20(日) 20:32
「ぎりぎりだね」
 
桃子と雅がNHK大阪ホールに駆け込んできたのは℃-uteのライブ開始時間直前だった。
℃-uteのライブも今日の大阪と千秋楽の静岡公演を残すのみとなっていた。
 
「今日、東京まで帰れるかな」
 
一応マネージャーさんから許可は出たけど、明日は朝から仕事で、
℃-uteのライブの後二人は今日中に東京までとんぼ返りしなければならなかった。
 
「帰れなかったら二人でお泊りだね」
 
桃子が雅に体をくっつけて言う。
 
「やめてよ。縁起でもない。それより梨沙子は?」
 
雅は正面のステージを見つめたまま言った。
710 :時風 桃子 :2013/01/20(日) 20:33
桃子と雅は二階にある関係者席に座っていたが、階下はものすごい人数の ℃-uteファンでひしめいていた。
℃-uteはファンまで一体化して結束力が強く感じる。
このファンの中にもベリーズも一緒に応援してくれる人も多いはずだ。
だけど桃子には℃-uteとBerryzのファンの雰囲気の違いを感じていた。
 
「大丈夫かなあ。梨沙子」
 
雅が両手を前に組んで言った。
 
「大丈夫に決まってるでしょ」
 
桃子は確信しているようにそう言った。
やがてあたりが暗くなり、歓声が沸き起こった。
711 :時風 桃子 :2013/01/20(日) 20:34
六本の光の筋がおぼろげに白い衣装を着た℃-uteを映し出す。
6人にスポットライトがあてられると同時に突然激しい音楽がなり始めた。
ダンスとともに始まったその曲は、六人全員がにこやかに笑っている。

緊張していると思っていた梨沙子も柔和な笑顔を見せていた。
桃子はその姿を見てほっとした。
ふと横の雅を見るとステージに釘付けになったようにじっと凝視している。
 
「みや!」
 
桃子は思わず紫のペンライトを振りかざして見せた。
はっとした表情で雅は桃子の顔を見た。
 
「梨沙子ー!」
 
そのとき桃子はステージに向かって勢いよく叫んだ。
桃子の声はたくさんのファンの歓声にあっという間にかき消されてしまう。

それでも隣の雅には十分だったみたいだ。
712 :時風 桃子 :2013/01/20(日) 20:36
「梨沙子ー!頑張れー!」
 
雅もペンライトをふって思い切りよく叫んだ。
最初の曲は「超WONDERFUL!」。
激しい伴奏に会場中の声援はそれに呼応するように一際大きく響いた。

その勢いを見て桃子ははっとなった。
Berryzと全然違う。
ファンの雰囲気の違いを桃子は感じた。
ベリーズのファンからもすごいパワーと迫力を感じる。
℃-uteもそれは全く同じなのにその材質がまるで違う。
℃-uteのファンは崖っぷちに立っているというか、必死さや素直さが直に伝わってくるのだ。
 
そのファンの勢いの延長線上に梨沙子はいた。
寸分違わない正確なダンスを梨沙子は重ねる。
ファン同様にというよりファンと完璧にシンクロした梨沙子の完成したパフォーマンスだった。
713 :時風 桃子 :2013/01/20(日) 20:38
そのとき、見えない音の筋のように愛理の声が聞こえて、一瞬だけ会場が静かになった。
  
Buono!で聞きなれてるはずなのに、何故か℃-uteの愛理の声は少し違う。
そのうち梨沙子の声と入り混じり、二人の和声が立ち上ってくるように不思議に木霊してきた。
今の二人はきっとBuono!の愛理ではなく、Berryzの梨沙子でもなく℃-uteの愛理と梨沙子なんだと桃子は思う。
 
「そっか。これだったんだ」
 
曲が終わると同時に雅が言った。
 
「℃-uteが意地でも守ろうとしてたもの。このライブに来て初めてわかったような気がする」
 
雅は自分自身に言い聞かせるように言った。
桃子には雅が思っていることがそのまま感じ取れるような気がした。

だからライブは最高だと思う。
桃子自身もそして会場中を埋め尽くす℃-uteファンの波がうねるように一体化していた。
 
「そりゃ負けらんないよね」
 
桃子も同調して言った。
714 :ES :2013/01/20(日) 20:38

今回の更新を終わります。
715 :時風 桃子 :2013/01/27(日) 08:32
やがてライブも中盤に差し掛かりMCの時間になった。
MCテーマは〜ハロプロでライバルは誰ですか?〜だった。
 
「なっきぃは誰?ライバルと思ってるメンバー?」
 
舞がいきなり早貴にふった。
 
「中島は・・・」
 
最初に早貴がふられて考え込んでいる。
 
「ダンスだけに限定するなら愛理」
 
「何で限定なの?」
 
「だって歌は絶対無理だもん。愛理にはかなわないし」
 
早貴が後ろ向きなことを言う。
 
「なっきぃそんなことないよ」
 
早貴はメンバーが励ますように言われていた。
716 :時風 桃子 :2013/01/27(日) 08:34
「じゃ千聖は?」
 
舞が司会者みたいになってどんどん回していく。
桃子も雅も自分の名前が出てこないかと他のメンバーの発言に注目する。
 
「やっぱ愛理」
 
千聖も考え込みながらそう言う。
 
「愛理の歌聞いてると、自分このままじゃやばいなって思うし」
 
「じゃ、私も愛理で」
 
きっと思いつかなかった舞美が完全にノリで言った。
 
「鈴木さん、みんなライバルって言われてますが受けて立ちますか?」
 
舞が愛理にふった。
 
「もちろん。受けて立ちます」
 
愛理が力強く言って会場から歓声があがった。
717 :時風 桃子 :2013/01/27(日) 08:36
「でも誰かにライバルって言われるとうれしいよね。それって自分を意識してくれてるってことだから」
 
「あたしも雅ちゃんにライバルって言われたらうれしいと思う」
 
愛理と千聖が口々にそう言った。
 
「じゃあ愛理は?」
 
「私は梨沙子」
 
愛理が断言するようにそう言って会場がどよめいた。
梨沙子がびっくりしたようにのけぞっている。
 
「りーちゃんには表情の作り方とか歌い方とかすごい刺激を受けるし、ライバルだなって思います」
 
梨沙子がうれしいようなはにかむような表情をしているのが見えた。
 
「じゃあ愛理、告白しちゃいなよ」
 
千聖がふざけてそう言って会場の歓声が大きくなった。
718 :時風 桃子 :2013/01/27(日) 08:37
流れ的にそうなってしまった愛理が梨沙子の前にそっとあゆみ出る。
 
「梨沙子、私のライバルになってください」
 
愛理が頭を下げて右手を差し出した。
 
「ごめんなさい」
 
一瞬間をあけた後、梨沙子が後ずさりしながら頭をさげた。
一気に会場のボルテージがあがる。
 
「やった。愛理ふられてんの」
 
愛理が梨沙子に断られるのを見て千聖と舞がはしゃぐ。
 
「愛理、梨沙子に嫌われてるんじゃないの?」
 
千聖がそう言って笑う。
 
「私、フラレた!」
 
愛理がわざと顔を抑えて泣いてる真似をしてステージの上に倒れ込んだ。
 
「違うの。違うよ」
 
梨沙子はファンに向かって必死に手をふる。
719 :時風 桃子 :2013/01/27(日) 08:40
「愛理に負けたくないって気持ちはあるけどそんなでもないんで。
 愛理からはすごい刺激は受けてるし。でもライバルって感じじゃなくて」
 
梨沙子が必死に説明していた。
桃子は梨沙子の気持ちが何となく分かるような気がした。
℃-uteとベリーズがライバル関係っていう一言で済まされるような関係じゃないように、
梨沙子と愛理もたった一言で表現できるような結び付きじゃない。

それにきっと梨沙子が勝負しなきゃいけない相手は今、桃子の隣にいるのだ。
720 :時風 桃子 :2013/01/27(日) 08:42
「梨沙子、MCのときはどこにいても変わんないなあ」
あたふたしている梨沙子を見て雅は梨沙子の様子を姉のように見守っていた。
 
「でも℃-uteに負けて正直悔しかったでしょ?」
 
桃子はベリキューのガチンコ勝負を思い出して茶化すように笑って言う。
 
「でも不思議だけど悔しくないんだ。今でも。愛理の歌に負けちゃったけど。
 何かあのときの愛理の歌は宝物みたいに大切に思える。
 だって梨沙子のためでもあるような気がするんだ。愛理の歌って」
 
雅は首を横にふって言った。
 
桃子にはステージを見ている雅の目がきらきらと輝いているように見えた。
721 :時風 桃子 :2013/01/27(日) 08:44
次のお題は「梨沙子が加入してどうですか?」だった。
 
「梨沙子が加入して・・・何か妹が一人増えたみたいな感じだよね」
 
「梨沙子って落ち着いているイメージがあったけど、結局キッズのときと同じだったっていうか」
 
「なんにも変わってないね」
 
「もう、イタズラはするし、テンションおかしいぐらい騒ぐし」
 
「でも女子力は高いよね」
 
梨沙子の話題になると℃-uteのメンバーが楽しそうに話している。
 
「ベリキューのときだと、梨沙子の話聞いてもそうなんだって聞いてるだけだったんですけど」
 
愛理が話し始めた。
 
「梨沙子が℃-uteに入ってからは梨沙子がこう言ってたんだけど愛理どうなの?と聞かれたりとか
 こういうとき梨沙子ってどう思うのとか、梨沙子に関する諸問題?が自分に入ってくるのがうれしいんです」
 
愛理がそう言って会場が湧いた。
梨沙子は何だか嬉しそうにはにかんでいた。

桃子がふと横を見ると雅がまるで自分の役割をとられたような表情をしている。
722 :時風 桃子 :2013/01/27(日) 08:47
梨沙子は一番年下っていうベリーズでの立場が誰から見ても自然でメンバーも本人もそう思ってきたに違いない。
だけどしっくりとおさまっている℃-uteの梨沙子を見ていると自分も℃-uteだったら梨沙子と同じような居場所を見つけられる気がした。
 
Danceでバコーンが流れ始め、ライブは一気に最高潮の盛り上がりに駆け上がっていく。
梨沙子が中にいる℃-uteを見ていると不思議だった。
桃子は全く違うもうひとりの自分を見ているようだった。
 
「℃-uteってさ。ライバルみたいに言われてたけど違うんだって思う。
 ℃-uteはうちらのBerryzのもう一つの姿っていうか可能性みたいなもんなんじゃない」
 
雅がそう言った。
 
「可能性?」
 
「よく分かんないけど二つで一つみたいな」
 
桃子には雅に言おうとしていることが何となく分かるような気がした。
723 :時風 桃子 :2013/01/27(日) 08:48
「分かるよ。何か勇気づけられるよね。今の℃-ute見てると」
 
「そうそう」
 
桃子の言葉に雅が激しく同意してくれる。
 
「何か次のBerryzのライブ、すごいのが出来る気がしてきた」
 
雅がわくわくするような表情を桃子に向けた。
 
「梨沙子も戻ってくるしね」
 
桃子そう言うと雅は嬉しそうにうなずいた。
 
やがてアンコールも終わり、会場が寂しいようなしっとりとした雰囲気に包まれていた。
724 :時風 桃子 :2013/01/27(日) 08:50
「楽屋、よってく?」
 
「いい。今梨沙子には会わないほうがいい気がするから」
 
雅は透き通ったような笑みを浮かべて言った。
 
℃-uteの最終公演が次第に近づいてきていた。
梨沙子の気持ちを考えたら寂しいだろうなと思う。
でも今度こそ桃子も梨沙子には絶対帰ってきてもらわなきゃいけないと強く思う。
それこそ梨沙子のいないBerryzのライブなんて考えられないのだ。
ただ千秋楽まで梨沙子にとって最高の仲間と最高のライブが続くことを桃子はひたすら願った。
725 :時風 桃子 :2013/01/27(日) 08:50


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726 :時風 梨沙子 :2013/01/27(日) 08:52
「いよいよ来週の静岡が最終だね」
 
早貴が言った。
 
今日ついに福岡でのライブが終わって残すところが静岡で千秋楽を迎える。
℃-uteとして過ごした三ヶ月は長いようで本当に短かった。
夏の終わりに始まった℃-uteのライブも、気がついたら年の暮になっていた。

梨沙子は最後の最後までライブを大事にしたいと思う。
全力疾走で走ってるせいで自分が成長したかどうかなんて全く分からなかった。
けど自分がやるべきこととワクワクするようなことはこれから山ほどあるような気がしていた。
 
「最終ライブ終わったらみんなでパーティーがあるみたいよ。さっきスタッフさんが企画してくれてるって教えてくれた。
 ケーキ食べ放題らしいよ」
 
千聖が言った
 
「やった!楽しみ」
 
食べ物の話題になると愛理がウキウキした表情を見せる。
727 :時風 梨沙子 :2013/01/27(日) 08:53
「何種類ぐらいあるんだろ?」
 
「まずミルクレープでしょ。モンブランにショートケーキにチーズケーキもあるでしょ」
 
愛理が次々にケーキの名前をあげていくから梨沙子もお腹がすいてきた。
 
「最終か。でも何かあんまりうれしくないな」
 
そのとき、舞美が一人表情を曇らせて言った。
梨沙子もみんなも何でという感じで怪訝な表情を舞美に向ける。
 
「だって最後のライブ。終わったら梨沙子いなくなっちゃうじゃん」
 
舞美がそう言ってみんなははっとしたように黙ってしまった。
舞美の寂しそうな視線に気づいて梨沙子も何も言えなかった。
728 :時風 梨沙子 :2013/01/27(日) 08:55
「梨沙子は確かに℃-uteからはいなくなるけどさ。別に卒業するわけじゃないんだし」
 
早貴がその場を繕うように言う。
 
「普通にベリーズに戻るだけでしょ?」
 
千聖もそう言う。
 
「そうだけど。やっぱ寂しい」
 
舞美が本当に悲しい顔で梨沙子を見た。
梨沙子は舞美の気持ちにどう答えてよいか分からず助けを求めるように愛理を見た。
 
「確かに梨沙子がいなくなるのは寂しいけど。元々一時移籍だって約束だったし、ファンの人も納得してることだしさ」
 
愛理が冷静にそう言ってくれて梨沙子はほっとした。
729 :時風 梨沙子 :2013/01/27(日) 08:56
「ちょっと舞美ちゃん、まさか最終ライブで一人号泣とかやめてよ」
 
舞が少しからかうように言う。
 
「うちらだけ梨沙子行かないでーって泣いてファンの人キョトンみたいな」
 
「それだけは絶対避けたい」
 
梨沙子も思わず言った。
 
「最後はやっぱり笑顔で終わりたいな」
 
梨沙子は言った。
 
℃-uteのライブは、本当に自分の力以外で他の五人のメンバーと応援してくれたファンの人のおかげなんだと梨沙子は思う。
だったら自分がいなくなる涙じゃなく、最後まで笑顔でありがとうと言いたかった。
 
「ほら。梨沙子だってちゃんと笑顔で終わりたいと思ってるんだからね。これは梨沙子との約束だよ」
 
舞が舞美を諭すように言う。
 
「そりゃ分かってるけどさ」
 
舞美は渋々とそう言ったが寂しげな舞美の顔を見ると、
梨沙子は何か複雑な気持ちになった。
730 :ES :2013/01/27(日) 08:57

今回の更新を終わります。
桃子視点は今回で終わりになります。
731 :時風 梨沙子 :2013/02/03(日) 19:02
ライブを終えた梨沙子たちは、会場の楽屋からホテルまで移動した。
 
梨沙子が泊まる部屋の窓からは煌くような夜景が映り、梨沙子は指先にしんと冷えた空気を感じる。
閉めた窓から少しだけ冷たい空気が漏れ入ってくるように感じた。
季節がどんどん移り変わって行く。
 
同じ部屋にはいつものように愛理がいた。
でもそんな当たり前のことだってもうすぐ終わりが来てしまう。
 
「舞美ちゃんがあんな風にあたしのこと思ってくれてるなんて考えてなかった」
 
梨沙子はさっきの舞美の言葉を思い出して言った。
自分のためにあんなに直接の感情をもろに出してくれるメンバーはきっとBerryzにもいない。
732 :時風 梨沙子 :2013/02/03(日) 19:04
「そうだね。やじって」
 
愛理は隣のベッドの上に寝転がって考え込むみたいにじっと天井を見ていた。
 
「りーちゃんがさ。熱出して倒れちゃったとき、病室で℃-uteとして頑張りたいって必死で言ってくれたじゃん。
あれ、よっぽどうれしかったみたいだよ」
 
愛理が言った。
 
「そうなんだ」
 
あの時の梨沙子はベリキュー対決や愛理がみやと勝負しなきゃいけないことなんて何も考えずにただ思ったことを口に出しただけだった。
 
「そうだよ。だってあの後何回も梨沙子が℃-uteにいたいって言ってくれたってすごくうれしそうに言ってたもん。
だからりーちゃんがいなくなるの。すごく寂しいんだと思う」
 
「うん・・・」
 
愛理にそう言われて、梨沙子の脳裏に舞美の優しそうな笑顔が思い浮かぶ。
733 :時風 梨沙子 :2013/02/03(日) 19:05
ただ梨沙子にはBerryzに帰る以外の選択肢は考えられないし、いつまでも℃-uteの菅谷梨沙子のままではいられない。
舞も千聖も早貴もそんなことはもう前提として、梨沙子と接してくれる一方で舞美だけは何か違っていた。

舞美の梨沙子に対する接し方はBerryzの誰とも違った。
Berryzのメンバーは梨沙子の悪い部分も時々腹を立てながら我慢してくれたり、時には怒って喧嘩してここまできた。
みやにいたっては時々見捨てられたって思うぐらい厳しいことだってある。

でも舞美は年齢的には一番上だけど元々兄弟の末っ子だからかもしれない。
梨沙子に対しては完全肯定で、むしろこっちが何かしてあげたくなるような純粋さで梨沙子を見守ってくれた。
734 :時風 梨沙子 :2013/02/03(日) 19:07
「最終公演はやじ泣いちゃうだろうな」
 
愛理が冷静に言った。
梨沙子にはそんな舞美の気持ちを思うのと同時に、このライブの終わりを単に自分のお別れだけにしたくはないという気持ちが交錯した。
 
「でもやっぱり笑顔で終わりたい」
 
梨沙子はぽつりと言った。
あの時、ベリキュー対決で愛理や℃-uteのメンバーが梨沙子のために必死に戦ってくれて、
ファンの人が力を与えてくれたからこそ自分が℃-uteにステージにたつことができる。

このライブはファンの人と一緒にチーム℃-uteみんなの力で勝ち取ったものだ。
梨沙子は最後のライブでは感謝の気持ちをめいいっぱいに表現したいと思った。
そんなライブにふさわしいのはきっと自分がいなくなることへの涙じゃなくて笑顔だと梨沙子は思う。
735 :時風 梨沙子 :2013/02/03(日) 19:08
「分かってる」
 
愛理は少し微笑むと梨沙子をまっすぐに見つめて言った。
 
「分かってるから。それは」
 
愛理は梨沙子を安心させるようにもう一度言った。
それを聞いて梨沙子はほっとした気持ちになった。
 
「何かよかった。愛理が℃-uteにいて」
 
愛理をものすごく頼もしく感じて梨沙子は言った。
 
「何で?」
 
「だって何か安心だもん。愛理がいてくれるだけで」
 
梨沙子は笑って言った。
 
「そんなことないと思うよ」
 
愛理は少しうつむいて言った。
736 :時風 梨沙子 :2013/02/03(日) 19:10
「愛理とは℃-uteだとかBerryzだとか関係なくつきあってきたから。
あたしが℃-uteからいなくなっても何とも思わないでしょ。その点は気楽かな」
 
梨沙子は安心したように愛理を見つめる。
梨沙子が℃-uteだろうとBerryzだろうと愛理との関係は何も変わらない。

きっと愛理もそう思ってくれているに違いないのだ。
すると愛理が立ち上がって梨沙子が座っているベッドの横に腰かけた。

至近距離で見る愛理の顔は黒髪に白い肌が際立ち頬の部分だけが少し赤らんでいて、人形のように可愛かった。
 
「でもこれだけは、はっきり言っておくけど」
 
愛理が急に真剣な表情になってそう言った。
 
「私だって舞美ちゃんと同じだよ」
 
まるで梨沙子を問い詰めるような顔をして愛理が言った。
737 :時風 梨沙子 :2013/02/03(日) 19:11
「え?」
 
梨沙子は一瞬その意味が分からずに愛理を見つめる。
 
「そりゃりーちゃんがベリーズにとって絶対必要な人だってことは分かってる」
 
愛理が梨沙子を見つめて言った。
 
「でも私だってりーちゃんを絶対にBerryzに返したくないって思ってるんだからね」
 
愛理の顔は少し怒っているようにさえ見えた。
 
何て答えていいか分からない。
 
一瞬、梨沙子が愛理に言葉を返す余裕もなく、そのときドアをノックする音が聞こえた。
738 :時風 梨沙子 :2013/02/03(日) 19:12
「梨沙子、愛理、トランプでもやらない?」
 
千聖の明るい声がドアの外から響いた。
 
「うん。行く!」
 
愛理が大きな声で答えた。
 
「りーちゃん、行こうよ」
 
さっきの愛理の真剣な表情は完全に消えている。
愛理に促されて梨沙子も立ち上がった。
先を行く愛理の後ろをついていきながら梨沙子は、自然とさっきの愛理の顔と言葉を頭の中で何度も反芻していた。
739 :時風 梨沙子 :2013/02/03(日) 19:13
「次、梨沙子の番だよ」
 
舞が言った。
 
「うん」
 
梨沙子がトランプを置く。
部屋には千聖と舞がいて、舞美と早貴は二人で買い物に出かけていないようだった。

愛理に促されて来たわりには、愛理との間に気まずい空気を感じた。
愛理の気持ちはうれしかったが、それにどう答えていいか分からない。
そもそも愛理との長い関係の中で愛理の気持ちに答えようとなんて意識したことはなかった。
 
何となく愛理と目を合わせられない。
それでも梨沙子がじっとトランプカードを見つめているこの瞬間にもじっと梨沙子を見つめる愛理の視線を感じた。
740 :時風 梨沙子 :2013/02/03(日) 19:15
「さっきから思うけどさ。二人喧嘩でもしたの?」
 
感の鋭い舞がすぐにそう言った。
 
「え?何で?」
 
梨沙子が焦って言う。
 
「さっきから二人とも全然目を合わそうとしないじゃん」
 
「そうかな?」
 
梨沙子はやっと愛理の顔を見る。
愛理は作ったようなすました顔をしていた。
 
「ちょっとやめてよ。喧嘩とか。最後のライブ近いんだからさ」
 
千聖が茶化すように言う。
 
「そんな。別に喧嘩してないよね?」
 
梨沙子がやっとの思いで愛理に言った。
741 :時風 梨沙子 :2013/02/03(日) 19:16
「うん。してないよ」
 
でも答える愛理の滑舌も悪くてぎこちない。
周囲に微妙な空気が流れる。
これじゃ本当に喧嘩してるみたいだ。
 
「じゃあさ」
 
愛理がトランプを自分の目の前に置くとすっと立ち上がった。
ベッドの上で梨沙子が座っているところまで回り込んでくる。
 
「喧嘩の件か」
 
愛理は愛理が梨沙子の両肩に手を乗せて言った。
その瞬間に愛理のにやけ顔が見えて梨沙子は思わず脱力して倒れ込んだ。
 
「はあ・・・何か心配して損した」
 
舞が呆れてトランプに戻る。
 
「りーちゃん、気絶しないでよ」
 
愛理が梨沙子を助け起こした。
梨沙子の目の前に屈託のない自然な愛理の笑顔が戻ってきていた。
742 :ES :2013/02/03(日) 19:18

今回の更新を終わります。
次回が最終回になります。
743 :名無飼育さん :2013/02/03(日) 21:45
ついに最終回ですか!楽しみだけど寂しいな
744 :時風 梨沙子 :2013/02/09(土) 22:17
最後のライブまでの一週間、愛理は梨沙子を困らせるようなことは一言も言わなかった。
それでも撮影の合間などに愛理と一瞬だけ目が合うとき、梨沙子は愛理の言葉を思い出した。

Berryzに返したくないと言ってくれた愛理の言葉がずしりと心の奥底に響いていた。

「梨沙子が℃-uteで撮影するの。もうこれが最後になるんだね」
 
舞美が何度も名残惜しそうに言って、それを舞や千聖がなだめてくれた。
もうそれは日常のようになっていたけど、愛理はそんな会話に加わらない。

梨沙子がこのまま℃-uteに残ることなんて絶対に出来ない。

愛理はもう十分にそのことは分かっていたんだと梨沙子は思う。
だとしたらきっと愛理は二度と口にしないように思った。
745 :時風 梨沙子 :2013/02/09(土) 22:19
「愛理、どうしたの?元気ないよ」
 
傍でじっと見ているだけの愛理を見て梨沙子は言った。
 
「そんなことないよ」
 
愛理は変顔をして梨沙子に笑いかけた。
 
もう二度と口にしない言葉。
 
愛理は梨沙子をじっと見つめていることが多くなった。
何か言いたいことがたくさんあるのに無理をして何も言わないようにも見えた。
梨沙子も愛理と目が合うたびに出来るだけ優しく笑いかけるだけで何も核心には触れようとしない。
 
それは、冷たい水の中に隠した熱いマグマのように二人の心の中に隠されているみたいだった。
ベリーズと℃-ute。どちらかを選べとい言われても梨沙子には選べない。
ましてや愛理と誰かを比べることも選ぶこともできない。

ただ、愛理に見つめられていることを幸せに感じた。
746 :時風 梨沙子 :2013/02/09(土) 22:28
一週間という本当にあっという間で最終公演の日がやってきた。
梨沙子はステージに立てるというだけですぐにワクワクした気分になれる。
もう℃-uteとしての最後とか感傷的なことは言ってられない。
 
みんなで円陣を組んだとき、これが最後のライブになるなんて梨沙子は全く意識していなかった。

「℃-ute!」
 
早貴がそう言って掛け声が始まる。
 
舞、千聖、愛理、梨沙子、早貴、舞美。
六人揃ってはじけるぞーい。
 
一斉に6人の声が立ち上って気合十分にハイタッチをしていく。
梨沙子も℃-uteの他のみんなも気持ちは同じだった。
本当にはじけるような前向きな姿勢が℃-ute全体にみなぎってきたようだった。
747 :時風 梨沙子 :2013/02/09(土) 22:30
自分が℃-uteであってもBerryzでもあっても関係なく、このステージの上で歌が歌えることが幸せだ。
そう感じながら今日を終えられたら最高だと梨沙子は思った。
 

梨沙子は誰にも追いつけないスピードで走っているような感覚だった。
全力で今までやってきた歌やダンスを踊ったらそう感じた。
会場も全員で一丸になれるこの瞬間。
だから梨沙子はライブが大好きだ。

きっとこのまま最後の最後まで走れる。
そしたら絶対に最後はみんな笑顔になれるはずだ。
無我夢中で歌って踊って、トークしてそして最後の曲になる。

涙なんて見せない。
すでに梨沙子には自分自身に対して確信に近いものがあった。
748 :時風 梨沙子 :2013/02/09(土) 22:32
最後の曲の「青春ソング」が始まる瞬間、会場が一気に静まり返った。
あれほど勢いよく鳴っていた音響もぴたりと音を止めた。
真っ暗な空間に愛理の姿だけが浮かび上がり、愛理の歌声だけが響き始める。

ライブで一番盛り上がる「青春ソング」の歌い始めは愛理のソロパートだ。
ステージで円陣を組みながらその真ん中でアカペラで歌う愛理の姿を見ると梨沙子は鳥肌が立つほど高揚する。
エースだからこそ与えられた愛理の役割の中に自分がいる。
愛理をエースと認めて傍で支えることは、自分が今℃-uteのメンバーであることの何よりの証だと思った。
 
続いて軽快なギターの音が鳴る。
 
749 :時風 梨沙子 :2013/02/09(土) 22:38
「青春ソング」は梨沙子も何度もライブで歌ったことはあった。
ただしそれはいつもBerryz工房として℃-uteの歌を歌ってきた。
でもこの歌を℃-uteとして歌うのは何か特別な意味を梨沙子は感じていた。

例えばそれはBerryzの「一丁目ロック」のようにファンとメンバーがこの歌を歌う時のはじけたような独特の空気がある。
青春ソングにも他のグループじゃ歌えない純粋でまっすぐな特別な意味が込められているように梨沙子は思った。

激しく踊りながら千聖の歌声を聞いた。
千聖は自分のパートを眩しい輝きをもっていても、内面では孤独なアーティストとしてのイメージを力を込めて歌いきった。
続いてまっすぐにしか進めない自分達の不器用な生き方を八方美人にはならないという表現で全員で歌った。
750 :時風 梨沙子 :2013/02/09(土) 22:39
ファンのボルテージは最高潮に高まっていく。
めまぐるしく回転するタオルが色とりどりの光の渦の模様を作る。
梨沙子は最初この歌は不器用だけどまっすぐな舞美のことを歌っている曲だと思っていた。

でも歌っているうちにイメージが変わってきた。
この曲は自分たち℃-uteやファンのことを歌っている。

Berryzが自信をもった個性集団として勢いそのままに一丁目ロックを歌うように℃-uteは、全員団結してまっすぐな青春ソングを歌う。
その意味が今歌詞にのって、湧き上がっていく。
751 :時風 梨沙子 :2013/02/09(土) 22:42
中途半端な優しさでまた私は誰かを傷つけている
そして流させた涙が自分の心に突き刺さる

愛理が歌った時に一瞬愛理と目があった。
いくら優しさを持っていても結局誰かを傷つけてしまう。
少し後悔を含んだような愛理の目が歌詞をそのまま表しているようだった。
まるで愛理自身のことを歌っているように聞こえた。

私は誰かを傷つけた。
私は「梨沙子」を傷つけて泣かせてしまった。

愛理は歌に乗せて梨沙子に対してそう言っているようだった。
752 :時風 梨沙子 :2013/02/09(土) 22:44
名古屋で愛理が体調崩したときに梨沙子が一緒に泣いてしまったこと。
梨沙子が℃-uteに入ってみんなに謝らせてしまったことを後悔してると言った時の愛理の表情が急に思い返されてくる。

違う。

それは愛理が悪いんじゃない。

梨沙子は思わず唇をかんだ。
 
梨沙子を℃-uteにいれてBerryzだけじゃないと分かってもらうなんて手の込んだことをやる愛理も、
よっぽど不器用な優しさの持ち主だ。
愛理は器用で何をやるにも完璧な天才なんてイメージがついてしまってるから、
そんな不器用さなんて理解されないで随分勘違いもされただろうし、自分自身も傷ついてきたはずだった。
753 :時風 梨沙子 :2013/02/09(土) 22:46
そのとき一瞬、梨沙子の横に軽やかな風が吹いた。
フォーメーションチェンジで、愛理が梨沙子の横を駆け抜けていく。

自分たちに慰めなんていらない。
何があっても絶対に℃-uteは走り続ける

そう願いをこめるようにみんなで歌う。

今度は愛理と視線がしっかりと合った。
愛理は笑っていたが何故か少し泣いているようにも見えた。

最後の曲なのに笑わなきゃいけない。
梨沙子は必死に自分に言い聞かせる。
せっかく6人みんなで頑張ってここまできたのだ。
754 :時風 梨沙子 :2013/02/09(土) 22:47
だけど最後のライブまでの道のりは、自分なんか助けられてばっかりだった。
舞美や愛理、早貴、千聖、舞が梨沙子のために必死に頑張ってくれたことを思い出すと何だか泣けてきた。
もう℃-uteとしての時間がなくなる。
そう思うと何だか胸が熱くなる。
そして切なくなって誰と目を合わせても泣いてしまいそうだった。

それでもめいいっぱいに青春ソングを歌いきって梨沙子達は思い切り笑顔を見せながらステージ裏にはけた。
755 :時風 梨沙子 :2013/02/09(土) 22:51
泣き出すのをこらえて梨沙子は会場のモニターを眺めた。
 
「梨沙子、もう一曲だよ」
 
早貴が梨沙子を落ち着かせるためか横に来て言った。
 
「うん」
 
梨沙子が荒い息をしながら応えると、会場に不思議なことが起こっていた。
 
まばらだった梨沙子の紫の色が徐々に増えていると思ったら会場全体が一気に紫色に染まった。
そして「梨沙子」のコールが鳴り響き始めた。
 
「うわ。きれいだね」
 
千聖も傍に来て言った。
 
「愛理がブログで呼びかけたんだよ」
 
舞がそう言って愛理がはにかむように笑った。
 
「ね、ブログもたまには役に立つこともあるでしょ」
 
愛理が自慢げに笑う。
756 :時風 梨沙子 :2013/02/09(土) 22:53
「りーちゃん、最後まで笑顔だよ」
 
愛理が梨沙子に言い聞かせるように言った。
 
舞美は何故か梨沙子と目を合わさないように別の方向を向いている。
 
「舞美ちゃん、梨沙子と目が合うと絶対泣いちゃうからわざとああしてるんだって」
 
舞がそう言った。
舞美の後ろ姿は少し肩が震えていた。
舞美が静かにお別れを言っているように梨沙子には見えた。

梨沙子はそっと舞美に近づくと肩をぽんと叩く。
舞美は泣きはらしたような顔をゆがめると、梨沙子を思い切り力強く抱きしめた。
 
「梨沙子、本当にありがとう」
 
舞美が梨沙子の耳元で言った。
お礼を言うのはこっちのほうで。
そう思った梨沙子の思わず目からも涙がこぼれた。
 
「ごめん。最後は笑顔で終わりたいもんね」
 
舞美が必死な様子でそう言うから梨沙子はもう何も言えなくなった。
757 :時風 梨沙子 :2013/02/09(土) 22:55
「梨沙子の最後のステージ。みんなで楽しもう」
 
早貴がそう言った。
 
「そうだよ。たのばらないとね」
 
愛理の笑顔は最後まで変わらない。
 
梨沙子コールに包まれた会場のアンコールに応えて℃-uteの六人で飛び出した。
一斉に紫色のペンライトが揺れる。

℃-uteとして受け入れてもらえないんじゃないかとずっと不安に感じてきたこと。
その心配がなくなってから℃-uteとしての自分の時間の短さを思い知った。

そしてそれを最後の最後まで引き伸ばしてくれた愛理や舞美、早貴、千聖、早貴と同じステージにいる。
この5人とはまた歌ったり舞台をやることはこれからもあるだろう。
でも℃-uteとして梨沙子がステージに立つことは、きっともうない。

そう思ったら砂時計が最後の時を刻むようにかけがえのない時間が、静かに消えゆくようにサラサラと流れていた。
758 :時風 梨沙子 :2013/02/09(土) 22:57
「菅谷梨沙子は、℃-uteでステージで踊れて、ファンの皆さんと一緒にこの6人でライブをすることができて本当に幸せでした。本当に本当にありがとうございました」
 
コメントが一番最初でよかったと思った。
誰かのコメントを聞いていたら泣き出して話すどころじゃなかったかもしれない。
今までの℃-uteで経験したこと。
仲間のおかげで何より自分が変わることができたこと。
いろんなものが一気にこみ上げてきて、それが次第に嗚咽に変わる。

泣いたらダメだと必死に自分に言い聞かせる。
 
「梨沙子、本当は笑顔で終わらせなきゃいけないんだけどね。ごめんね。笑顔になれないや。でも本当にありがとう」
 
早貴がぶっきらぼうに、それでも涙を押し隠すように言い切った。
 
メンバーが次々と言ってくれるありがとうの言葉にいつか梨沙子は涙が止まらなくなった。
梨沙子にはもうこのライブをどう終わらせたらいいのか分からなくなっていた。

それでも否応なく時間は流れ本当に最後の曲が始まる。
759 :時風 梨沙子 :2013/02/09(土) 22:59
季節はめぐる
それでも前向きに私たちは歌う

「めぐる恋の季節」

泣いてるせいで歌えなかったなんて絶対に言い訳したくなかった。
アンコールの曲は「めぐる恋の季節」

歌っているこの一コマ。
踊ってるこの瞬間が梨沙子にとって宝物のように大事な時間だった。

それなのに涙が喉からも溢れ出してくるようで声が詰まる。
最後は完璧に全力に、そして笑顔で終わりたいのに。

梨沙子は何度も自分を再起動させようとするけど自分の感情が強くなればなるほど、涙が止めどもなく流れた。
見たら他のメンバーも全く同じだった。

それは結局のところ全く笑えない光景で気がついたら歌い終わってステージの裏でみんな泣いていた。
760 :時風 梨沙子 :2013/02/09(土) 23:03
ライブが終わった後も、外で梨沙子と℃-uteのコールが鳴り響いている。
楽屋に戻ればいいのに、ステージの裏の階段を下りたところで℃-uteは全員、体を寄せ合うように泣いていた。
 
「梨沙子、ごめんね。笑顔で終わる約束守れなかった」
 
舞美が真っ赤な顔で申し訳なさそうに言った。
舞美と抱き合いながら梨沙子は必死で顔を横にふった。
 
「ねえ、もう一回出れないのかな?」
 
舞が小さな声でぽつりと言った。
 
「ダメみたい。スタッフさんが終わりだって言ってる」
 
早貴が残念そうに言う。
 
「くっそ。もう終わりかあ」
 
千聖の声が聞こえた。
周囲でスタッフさんがお疲れ様でしたと言っているのが梨沙子の耳にも入った。
761 :時風 梨沙子 :2013/02/09(土) 23:07
その時隣にいた愛理がすっと立ち上がった。
ゆらりと空気が動いた気がした。
 
「行こうよ。もう一度」
 
最初愛理が何を言っているのか分からなかった。
でも梨沙子の横を風がぴゅっと流れたとき、すでに愛理がステージに向かう階段の途中まで登っていた。
そしてこっちを見下ろしながらまっすぐにステージを指差す。
 
「でもスタッフさん。もう終わりだって言ってるよ」
 
舞が怪訝そうに言った。
 
「無視無視」
 
愛理がそう言ってにっと笑った。
涙なんて吹き飛ばすような爽快な笑顔だ。
とてもさっきまで泣いていた顔には見えなかった。
 
「梨沙子!行こう」
 
愛理がそう言った。
一瞬だけ時間が止まっているような気がした。
 
「梨沙子、みんなも!笑顔で終わろう」
 
そのとき大きな風が、梨沙子の背中を押した。
今まで愛理が起こした風の中で一番温かくて力強い風だった。

梨沙子と同時に全員が立ち上がる。

愛理を先頭に梨沙子も舞美も早貴も千聖も舞もステージへ向かって一気に駆け上がって行った。
762 :ES :2013/02/09(土) 23:16

「時にはそれは風のように」完
763 :ES :2013/02/09(土) 23:19

読んでいただいた皆様、レスをいただいた皆様どうもありがとうございました!
とても励みになりました。

今次作を書いてますのでまた飼育に戻ってこれたらと思ってます。
またCPのネタやら娘。小説のことなど日々のことをブログに書き散らしておりますので
こちらもよろしければのぞいてやってください。

ttp://blog.livedoor.jp/easestone/
764 :名無飼育さん :2013/02/14(木) 10:50
お疲れ様でした!
更新が待ち遠しい素敵なお話をありがとうございます。

次回作も期待しています。
765 :名無飼育さん :2013/03/08(金) 12:59
今全部読みました。あいりしゃこのなんとも言えない絆が堪らなく好きです。また是非あいりしゃこ書いてください。

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