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ファーストブレイク 6th period

1 :みや :2010/07/24(土) 16:24
これのつづき

ttp://m-seek.net/kako/sky/1099835648.html
ttp://m-seek.net/kako/water/1136560613.html
ttp://m-seek.net/kako/water/1168701115.html
ttp://m-seek.net/test/read.cgi/water/1199541529/
ttp://m-seek.net/test/read.cgi/water/1238858084/

高校生がバスケする話
吉澤とか石川とか藤本がそれぞれの学校で中心ぽくいて、周りにいろいろな人もいます。
その他の学校も出てくるし、学校の枠組みを超えることもいろいろとあります。

更新は基本週一 土曜日午後(ただし0時過ぎてカレンダー的には日曜日になることもある)

全十部予定で、このスレッドは第九部開始時点、となります。
ご新規さんは、ここを単独で読んでみて、面白いと思ったら初期に遡って読めばいいと思います。

よろしくお願いします。
604 :名無飼育さん :2011/07/03(日) 21:32
>>603
おつかれさまです。
来週を楽しみにしています。
605 :名無飼育さん :2011/07/04(月) 03:39
いつも楽しみにしております。来週ものすごく楽しみです。
久しぶりに第一部から見直しましたが、エネルギーが凄いですね。
紺野ファンですが、この作品では福田さんのファンです。(リアルでほとんど知らないんですけど。。。)

606 :作者 :2011/07/09(土) 23:11
>>604
ありがとうございます
最近、人の気配もしなくなってきてて、いろいろと思うところもあるので、そういっていただけるとうれしいです

>>605
ここではあまり目立たない紺野さんですが、他のどの人よりもテレビで見られる機会が増えそうですね
福田さんはこの世界ではなんか壁にぶち当てられてますが、応援してやってください
607 :第九部 :2011/07/09(土) 23:11
 グループリーグ全試合が終わり、ベスト4が出揃った。
 地元の中国と、それに続いてグループAで二位だった台湾。
 日本を延長の末下しグループBを全勝で通過した韓国、そして日本。
 当初予想された四チームが順当に勝ちあがってきた。

 準決勝は各組一位と二位のたすき掛けで対戦。
 すなわち、韓国vs台湾があり、日本はグループA一位通過の中国と対戦することになった。

 グループリーグは三連戦だったが、その後決勝トーナメントの二日間の前に一日中休みが入る。
 日本代表は、午前中に一時間ほど軽く調整を入れた。
 平家以外の十四人が体を動かす。
 試合に長く出ていたメンバーは三十分ほどで切り上げた。
 ベンチに座っている時間が長いものは、スリーオンスリーなんかをして、多少ギアを上げた動きも入れている。

 平家の怪我は軽くはないが再起不能というようなものでもない、というものであった。
 少なくとも今大会中にコートに立てる状態ではない。
 帰国してしっかり診療を受けたら、という勧めもあったのだが、平家は最終日までチームに帯同すると自分で決めた。
608 :第九部 :2011/07/09(土) 23:12
 午前の軽い練習を終えて宿に戻り昼食。
 その後、午後は完全フリーとした。
 どっか出かけても寝てても好き勝手していいよ。
 そういう指示が信田から出ている。

 何をするかは人様々。
 とはいえ勝手分からぬ異国の地。
 一人でふらっと出かける、なんて選択を取ったものはさすがにいない。
 一人を選ぶなら寝てるか、ホテル内の入りやすい店にでもいるくらいしかない。

 複数まとまればタクシー捕まえて出かけることもできる。
 発展著しい街、とはいっても日本と比べれば物価、交通費はそれほどのものではない。
 ガイコクニイク、と言われれば親が持たせざるを得ない程度の金額で、半日くらいなら自由に動ける。

 試合に対して出ることも無く、体力もてあまし気味の吉澤は当然外出組みだった。
 子分状態の久住も付いてくる。
 後藤に声をかけてみたが、断られた。
 吉澤も一応気は使う。
 表情変わらなくても、一年半共に暮らしてきた先輩から見てなんとなく塞ぎ気味に感じた福田にも声を掛けてみたが、やっぱり答えはノーだった。
 それを無理に連れ出そうとするほど、吉澤は福田から先輩として信頼されている自信はない。
609 :第九部 :2011/07/09(土) 23:12
 逆の意味で気を使って誘い出しにくいのはスタメン組み。
 しかし、反対にアプローチされた。
 どっか行くの?私も行く。連れてって。
 石川梨華である。

 おまけがもう一人。
 三人で出かけようとしたらロビーでぼんやりしていた高橋愛が声をかけてきた。
 石川先輩、拒絶するわけも無く連れて行く。

 出かける、どこへ?
 どこかへ。
 タクシーの交渉、片言英語で吉澤が始めて、なんで英語と久住に突っ込まれ、仕舞いには日本語で押し通した。
 国際試合に出向くのに、ガイドブック持ってくるところがさすがベンチウォーマーである。
 ここ、と吉澤が地図を見せ、日本語で価格交渉をし、通じるわけないだろと久住に突っ込まれ、最後は筆談。
 数字ならアラビア数字でも漢数字でも書ける。
 中国語は一つも使わない。知らないし。
 メーター倒さぬタクシーに乗って、ガイドブック持った吉澤本人もよく分からないところへとりあえず出かけた。
 ちょっと冒険の真似事がしたいだけで、どこだっていいのである。
610 :第九部 :2011/07/09(土) 23:13
 タクシー降りて、適当に歩いて、なんか都会だねと話して、歩き疲れて店に入る。
 世界に広がるハンバーガーショップに入ってしまうところが少々情けないが、そもそも国に関係なく、遊びなれていない吉澤たちが気軽に入れるような店はそうそうないのだから仕方ない。

 「あややとか誘わなくて良かったの?」
 「んー、なんかあいつ疲れてるっぽいから連れ出しちゃ悪いかなって」
 「じゃあなんで石川さんよんだんですかー」
 「自分で来たいって言うから。って、でも確かに、やすまなくていいの?」
 「休んだ方がいいと思う」
 「だめじゃん」
 「体はね。休める時に休んでおいた方がいいと思うんだけど。でも、ちょっと変化が欲しくてさ」

 四人でテーブルを囲むと、まるっきり学校帰りの女子高生私服バージョンの絵柄である。
611 :第九部 :2011/07/09(土) 23:14
 「私たちってさ、なんか、バスケやるために学校行ってるみたいなとこあるし、実際、バスケやるために学校行ってるけど。でも、なんだかんだでいろいろあるじゃない。昼は授業で寝てたりさ。一応テストはちゃんと受けないといけないし。その辺先生も厳しかったりするしさあ。あんまり役割もらえなくても文化祭があったり、合唱コンクールとかイベントがあったり。いろいろあるじゃない、学校行ってると。でもさ、選抜で呼ばれてからそういう変化がないのよね。選抜されて人数減ったりとか、スタメンが組み変わったりとか、試合の相手も変わるんだけど。全部バスケなの。飽きるとかはないんだけど、でも、ちょっとね、気分転換したかったかな」

 三週間の合宿生活。
 途中で日本から上海へと場所は変わったけれど、周りのメンバーが変わるわけではない。
 朝から晩まで一緒。
 バスケをするために学校へ行っていると言ったって、石川は普段は家に帰れば親がいる、という暮らしだ。
 朝から晩まで皆一緒、が通常モードな藤本たちとはその辺は大きく異なっている。
612 :第九部 :2011/07/09(土) 23:14
 「私たちってさ、なんか、バスケやるために学校行ってるみたいなとこあるし、実際、バスケやるために学校行ってるけど。でも、なんだかんだでいろいろあるじゃない。昼は授業で寝てたりさ。一応テストはちゃんと受けないといけないし。その辺先生も厳しかったりするしさあ。あんまり役割もらえなくても文化祭があったり、合唱コンクールとかイベントがあったり。いろいろあるじゃない、学校行ってると。でもさ、選抜で呼ばれてからそういう変化がないのよね。選抜されて人数減ったりとか、スタメンが組み変わったりとか、試合の相手も変わるんだけど。全部バスケなの。飽きるとかはないんだけど、でも、ちょっとね、気分転換したかったかな」

 三週間の合宿生活。
 途中で日本から上海へと場所は変わったけれど、周りのメンバーが変わるわけではない。
 朝から晩まで一緒。
 バスケをするために学校へ行っていると言ったって、石川は普段は家に帰れば親がいる、という暮らしだ。
 朝から晩まで皆一緒、が通常モードな藤本たちとはその辺は大きく異なっている。
613 :第九部 :2011/07/09(土) 23:15
 「そういえば、福田さんとか誘わなくて良かったの?」

 試合にもあんまりでないで、のくだりで思い出したのか、石川が福田の名を上げた。

 「誘ったんだけど断られたんだよ。元々、あんまり出歩くような奴じゃないし、それに吉澤といたって面白くないってのもあるだろうしね。気分転換っていうより、とにかくバスケと向き合うってタイプだからなあ。半日どうするんだって聞いたら、部屋で本でも読んでますだと」
 「福田明日香って、休み時間一人で本読んでるタイプって感じですよね」

 高橋の言葉に、石川も吉澤も、久住でさえも、突っ込みを入れることが出来ず黙り込んでしまった。
 三人は、場を持たせようと、ハンバーガーをかじったり、ストローを口に持って行ったりしている。
 二の句が次げなかったのではなくて、ただ、食事を進めたかっただけだとアピール。
614 :第九部 :2011/07/09(土) 23:16
 「味はあんまり変わんないんですね」
 「変わるとか変わんないとかいうほど味わかんないけど、でも早々変わるもんでもないんじゃないの?」
 「いーえ、小春、パンの味にはうるさいんです。これは日本と同じパンです」

 全然違う話しに飛ばす。
 年齢は二つ若くても、人との関わりは久住の方が経験豊富だ。

 「肉とか犬の肉使ってるとか言うよね」
 「猫とかね」
 「小春、肉の味は分かるの?」
 「わかりません。小春がわかるのはパンだけです」
 「役立たずだなあ」
 「誰が犬の肉の味なんか分かるって言うんですか」

 チェーン店全店で、ほぼ同じような味の肉を出しているとして、それだけの頭数の犬や猫を均質的にそろえるのは無理な話である。
 でも、話を繋ぐ雑談は、根拠やなんかはどうでもよくて、こんなものでよいのだ。
615 :第九部 :2011/07/09(土) 23:17
 「そういえば、後藤さんは?」
 「ホテルにいるって。そういえば福田と同じ部屋なんだよなあ。二人で部屋に居るのかなあ。あの二人が会話してるのって想像付かないんだけど」
 「自然に静かそうですよね」
 「なんか、後藤さんも元気なかったから心配なのよね」
 「うん・・・。ごっちんの場合試合も結構出てるから単純に疲れてるって部分もあるだろうけど」
 「なんかー、小春、後藤さん第一印象と最近違う感じがします」
 「へー、どの辺が?」

 吉澤、石川、久住。
 三人でトークが進んで、高橋が入ってこない。
 そういう構図を作り出している。
 高橋の正面が久住なのだけど、久住が完全に隣の吉澤と斜め前の石川の二人の方へ体を向けていて、石川も隣を見ないので、高橋が入って来れない。
616 :第九部 :2011/07/09(土) 23:17
 「第一印象は、結構怖かったんですよ。すごいクールっていうか周りに興味なしって感じで。石川さんとか普通に話してて、それだけでなんかおーすげー、さすがとか思ってたんですけど。なんか今はすごい臆病な感じで。試合見てるとびくびくしてて」
 「ちょっと、自信なくしちゃってる感じはするよね」
 「韓国戦、結構背負っちゃう負け方だったからねえ。吉澤も自分のせいで試合に負けたって何度かあるけど、やっぱ引きづるもん。普段は負けたらしばらく試合ないのに、昨日の今日ですぐ試合とかじゃん。ごっちんといえども、やっぱ怖いよね」

 昨年の冬の選抜大会の県大会。
 最後に決めれば勝ちのノーマークのシュートを吉澤が外して負けた。
 翌日からキャプテンね、と言われてもすんなり受け入れられず、右往左往して、修学旅行で転校前の学校に行ってみたり、全国大会へ出かける直前の飯田のところへ乗り込んでみたり、いろいろもがいてようやく自分の立ち位置を決めることが出来た。
 後藤の場合は、負けて、じゃあ翌日、スタメンではないにしてもすぐ試合で、その翌日もまた試合である。
617 :第九部 :2011/07/16(土) 23:37
 「でも、平家さん怪我しちゃったから、もう、そんなことも言ってられなくて、後藤さんに頑張ってもらわないと困るのよね。まいちゃんもいるけど四十分全部ってわけには多分行かないんだから。もちろんよっちゃんでもいいんだけど」
 「ははは・・・。そりゃあ出るなら百パーセント二百パーセントやらせてもらうけどさ。現状、ごっちんやまいちんと比べて評価が下の扱いされてるのは自覚してるから。そこでフォロー入れなくていいよ」

 北朝鮮戦でもそうだった、後藤がいて里田がいて、吉澤に回ってきたのは決着がほぼ付いた後のことである。
618 :第九部 :2011/07/16(土) 23:38
 「一回やってみたかったのよ。完全アウェーってやつ。滝川カップの滝川戦もちょっとそうだったけど、でも、国同士だとはるかに超えるでしょあれよりも。なんか人気らしいし。CHN48とか言って。麻友友を下敷きにしてダンクとか決めてやりたい感じ」
 「ダンクって・・・」
 「結構面白いマッチアップですよね。麻友友と石川さんの勘違い対決とか」
 「なによ勘違いって」
 「二人とも鏡見つめてにやけてそうじゃないですか。笑顔の練習とか言って。あとは、敦子に後藤さんで仏頂面対決とか、麻里子様に飯田さんでモデル対決とかも」

 久住小春、言いたい放題である。
 そこに横から高橋が乗っかってきた。
619 :第九部 :2011/07/16(土) 23:38
 「じゃあ、高南に高橋で高高対決!」

 自分で言うからなんとも絡みづらい。
 そもそも、まだスタメンで出て高南とやりあう気でいるのかよ、と久住は思っている。
 今の調子から言えば、高南に対するのはどう考えても美貴様だろう、というのが久住の見立てだ。
 さすがにそれは久住といえども口に出しては言えることではなかった。
 おしゃべりだけど、空気は読めるのである。

 「仏頂面でもモデルでもなんでもいいけどさ、実際、強いよね。CHN」
 「大丈夫。なんとかなるから」
 「石川さん、いつでも何とかなるじゃないですか?」
 「高さじゃなくてスピードで勝負ってところが結構にてるのよね。高南なんてミキティよりもちっちゃいでしょ。矢口さんよりは大きいかもしれないけど。優子だってたぶん、あややちゃんでも柴ちゃんでも身長勝ってるし、高橋でもあんまり変わらなくない? 麻友友は多分私よりちっちゃいし」

 体格で中国相手に負けていない日本、というのはどんな競技で見てもなかなか無いシチュエーションである。
620 :第九部 :2011/07/16(土) 23:38
 「上三人がしっかり走るから速攻がばんばん出るし、敦子はのんびり上がってくるんだけどボールもってからのタイマン勝負は強い。とにかく点の取り合いだよね、たぶん。スリーポイントが多投出来るといいんだけど。そういう意味だと後藤さんが四番でいるとすごくいいんだけどなあ。外から四人打てて。それでディフェンス広がれば、中にも飛び込みやすいし。韓国の時と違って私も普通に麻友友ならインサイド勝負もいけるだろうからそういうスペースも作ってもらえて」

 石川がゲームプランを語る。
 吉澤は、ふんふんとただ聞いていた。
 言葉を挟めるレベルにない、ということはないが、こうやって語ってくれるのを聞くのはなんか心地よかった。
 福田だって同じようなことをしているだけなはずなのに、それよりも心地よく聞いていられるのはなぜだろう。
621 :第九部 :2011/07/16(土) 23:39
 「ディフェンスも問題よね。敦子の一対一をどうやって止めるのかって。その辺はまいちゃんのがいいのかなあ。滝川のあのディフェンスで。滝川って言えば、ミキティは一人ででも前から当たる気あるかなあ。ポイントガード一人なら前から当たっても全体崩れないし。インターハイ決勝でもほとんど一人で四十分持たせられたんだから、休み一日挟むしいけると思うんだけどなあ。ああ、でも、うちのれいなと高南比べるのはちょっときついかぁ」

 語っているのはひたすら石川。
 黙っていられなくなった久住が口を挟んだ。

 「ホント、石川さん、バスケ好きですよねえ」

 久住が口を挟んだので、吉澤が続けた。

 「気分転換したかった、って言いながら話すのは明日の試合のことだもんね」
 「だって、気になるじゃない」
 「そうだけど、あんまりバスケの話しない方がいいのかなと思いきや、自分からどんどんそっちに突っ込んでいくし。うちら、確かに、バスケが共通点で集まったメンバーだからどうしてもそっちにいっちゃう部分はあるけどさあ」
 「この人、韓国に負けた日の晩、寝ないでぶつぶつぶつぶつ言っててうざいんです」
 「もう、言わなくていいでしょそれは」

 石川と同室の久住は、最年少でわがまま言い放題のはずが、時に部屋では保護者しないといけない状況に陥っていたりする。
622 :第九部 :2011/07/16(土) 23:39
 「逆に考えると、後二日なんだよね」
 「試合?」
 「うん。試合っていうかこのチーム。明日と明後日で終わり。勝とうが負けようが。まあ、勝てば来年の世界選手権も付いてくるけど、それはまたきっとメンバー選びなおしだから、石川さんなんかにとっては当たり前に選ばれる場所かもしれないけど、私なんかだと全然どうなるかわかんないから。そう考えると残りは短いなって思う」
 「そういえばそうなんですね。小春も、試合あんまり出てないけど、まともに小春と出来る人たちとバスケしたの初めてだから結構楽しかったかな。試合出られればもっと楽しいんだけど」

 選抜チームとは、長い間活動するチームではない。
 基本、大会限定で集まるものだ。
 次回があるという保証はどのメンバーにもなされていない。

 「何終わったみたいなこと言ってるのよ小春は。いい、明日からが本番なの。後二つ。絶対勝つのよ」

 石川の言葉に、高橋が力強くうなづく。
 吉澤も遅れて。
 久住は、そんな三人を見てニコニコ笑っていた。
623 :名無飼育さん :2011/07/18(月) 02:22
お疲れ様です。ようやく最近「愛ちゃん」の凄さがわかった・受け入れられるようになった紺野ファンです。
しかしこれ読むと相変わらずですね〜
まるでinterfmの発音だけ異様に良いイラッと来る感じが出てますw
先週の小春のパンのくだりといい相変わらずツボです。

作者様、お体には気をつけてこれからも毎週の楽しみとさせてください
624 :作者 :2011/07/23(土) 23:34
>>623
この世界の中はかなり時が止まったままな様相なので、特に現役期間の長い人は現実現在との差異が大きくなりがちです。
高橋愛なんてのはその最たるものかもしれません。
ここ最近は結構苦労して書いてますが、何とかやっていければと思ってはおります。
625 :第九部 :2011/07/23(土) 23:35
 同じ頃、福田は部屋で本を広げていた。
 一人ではない。
 隣のベッドでは後藤真希が横になっている。
 時折飲み物に手を伸ばすくらいで、もう一時間以上二人の間に会話はない。
 福田は、会話がないことが不快ではなかった。
 これが高橋愛あたりだったら、会話の無さも不快だったかもしれない。
 吉澤であっても、会話がない不自然さにとまだっただろう。
 松浦だったら、会話がないがありえないので問題ない。
 後藤は、自然と静かに時を送っていられる。

 開いている本は数ページ読んでは止まり、数ページ読んでは頭に入っていなくて戻り、また数ページ読んでは止まり。
 本を読むことが目的になっていない。
 別の思考が頭を占めるときは、その思考を動かしておく。
626 :第九部 :2011/07/23(土) 23:35
 グループリーグ三試合、試合に出なかったのは自分だけだった。
 高橋と藤本のスタメン争いの間で埋もれた形だ。
 福田は控え。
 ユニホームを渡される時にはっきりそういわれた。

 ただ、信田さん自身の考えも迷走しているように感じている。
 本線は藤本美貴だったんじゃないのか?
 三試合目にして当初のイメージ通りの構成に落ち着いたけれど、一戦目二戦目は高橋愛スタートだった。
 藤本美貴と比べて力が落ちるのははためにそう見えてしまうのは仕方ないと思う。
 だけど、ポイントガードとしての技量で高橋愛に負けている、とは今現在も思っていない。
 点を取る、という面については向こうが上手かもしれないが、そこは松と争ってもらえばいい部分だ。

 グループリーグ三試合、試合に出なかったのは自分だけだった。
 あと二試合。
 準決勝と、多分決勝。
 このままベンチに座っているのだろうか。
627 :第九部 :2011/07/23(土) 23:36
 藤本美貴でさえ、石川梨華との関係では苦労していた。
 北朝鮮戦、二人は最後まで使ってくれ、と言ったのは理にかなっていたと思う。
 チームの今後を考えれば。
 ただ、自分としては、何かを蹴飛ばしてやりたくなった。
 藤本美貴が最後まで出る、イコール、自分は最後までベンチ。
 この方程式は崩すことが出来ない。

 そしてこの先、自分が試合に出たとして、周りのメンバーとのあわせがうまく行くかどうか。
 自信を持ってあわせられると言えるのは、松しかいない。
 吉澤さんとも合わせられないことはないけれど、でも、自分と吉澤さんが同時にコートに立つのは、試合の決着が付いた後だけだろう。
 試合の決着がついていない場面で自分がゲームに入るとしたらどんなときか?
 藤本美貴の怪我、あるいは、ファウルトラブルといったところだろう。
 いずれにしても、チームの危機だ。
 いろいろな条件は悪い方に揃っている。
 時間を掛けて作りこんだチームのスタメン、という状況で力を発揮してきた自分。
 短時間で結成し、スタメンですらなく、ほとんど合わせていないメンバーの中で、国際試合というレベルの高さ。
 そこにぱっと入って力を発揮できるのだろうか?
 いや、力を発揮できたとしても、その発揮した力が通用するのだろうか?
628 :第九部 :2011/07/23(土) 23:37
 どちらにしても不安だった。
 このまま一度もコートに上がることなく日本に帰るのはいやだ。
 でも、チームの危機にコートに上げられ、いきなり結果を求められることも怖かった。
 試合に出ない日が続くことで、怖くなっていた。


 「福ちゃん、飲み物予備ある?」

 唐突に後藤が声をかけてきた。
 後藤は、空になったペットボトルを持っている。

 「予備? いえ別に。これだけです。飲みます?」
 「いや、いいや。買いに行かない?」
 「外にですか?」
 「うん。コンビニあったでしょ。ロートン? ファミマ? なんか青系のやつ。一人で行くの怖いし」

 飲み物が欲しいだけならホテルの中で十分手に入る。
 たぶん、飲み物はただのきっかけで少し出歩きたいんだろう、と福田は思った。

 「いいですよ」

 夜までずっと部屋にいて、本を抱えながら考え事をしている、というのもどうかと思ったので、福田としてもいいきっかけだった。
629 :第九部 :2011/07/23(土) 23:38
 ホテルを出てぶらぶらと歩く。
 行き帰りのバスから見ただけなので、徒歩でどれくらいかかるのかは分からない」
 ただ、一本道なので迷うことはない。
 急ぐということはなく、のんびりぶらぶら歩く。

 「悪かったね、本読んでたとこ」
 「いえ。あんまり読んでもいなかったですし」
 「寝てた? 寝てはなかったよね」
 「ボーっといろいろ考えてました。後藤さん風に言えば、ノートと語り合うってやつですか。ノートは持ってませんでしたけど」

 練習ノートを拡げていたわけではないけれど、やっているのはそれに近いことだ。

 「やっぱ、いろいろ考えちゃう?」
 「一番考える必要ないんでしょうけどね、私が。でも、そういう性格なんで。無駄に考えちゃいます」
 「一番必要ないって?」
 「試合に出ない人間が考えたってチームには関係ないじゃないですか」
 「そんなことないでしょ」
 「そんなことありますよ。私なんか、いてもいなくてもなんだし」

 なぜだろう。
 別に、後藤にあたるつもりなんかなかったのに、きつい言葉になってしまう。
630 :第九部 :2011/07/23(土) 23:38
 「キミのこと見てると、後藤が苦しくなるよ」
 「なんでですか?」
 「うちのチーム、うちの高校ね。結構楽しく部活やってるんだ。勝っても負けても。まあ、なるべく勝てるように頑張るんだけど、でも、その前提は楽しいっていうのがあって、それでやってる。だから、勝てたらいいよね、と思いながらやってるけど、いろんなもの、ベンチの子達の気持ちとか、そういうのを背負ってたりはしないのよ。ミキティたちみたく古くからやってる学校だと、チームの伝統なんてのを背負ったりとか、そういうのもあるだろうし、そういうのと比べて、後藤は背負うものなく学校ではバスケやってた」

 背負うべき伝統がない、というようなところは福田にもわかる。
 創部四年目のチームである。
 伝統も何もあったものじゃない。

 「だからかな、あんまり人を押しのけて試合に出るとか、そういう感覚もなくてさ。それがここに来て初めてそういうのを感じるようになった。特に、キミが同じ部屋にいて、試合に出てなくて。でも、見るからに試合に出たそうでさ。だから、試合に出るのってすごい責任なんだなっていうのを思い始めたよ。でも、負けたじゃん、後藤のせいで」
 「別に、後藤さんのせいってわけじゃ」
 「後藤のせいだよ。五人でやってるからとか十五人でやってるからとか、いろいろ言い方はあるにしてもさ、でも、決めたら勝ちのスリーポイント外して、止めたら勝ちのワンオンワンで止められなくて。後藤の責任でしょ、明らかに」
631 :第九部 :2011/07/23(土) 23:39
 信号に突き当たった。
 歩行者は赤信号、立ち止まる。
 車はひっきりなしに通っている。
 上海の結構中心近い場所、信号待ちの人が増えて行く。
 立ち止まったところで止まった会話は、信号が青になり歩き出したところで、福田が口を開き続けた。

 「私も、後藤さんも、三日間変わらないですね」
 「三日間?」
 「韓国戦の夜も似たような話しましたよね。後藤さんはまだそれをひきづってて、私はまだ試合に出られず腐ってる」
 「後藤はともかく、福ちゃんは別に腐ってはいないでしょ」
 「腐ってますよ。完全に。発酵十分って感じです」
 「でも、試合に出られない不満をぐちぐち言ってまわってチームの雰囲気を悪くするなんてこともないじゃん」
 「そこまで堕ちる気はないですけど、でも、ぐちぐち悩んではいますよ」
 「それは感じるけど、だから、それを見てると後藤が苦しくなるんだよね。試合に出てるのにダメダメでごめんなさいって感じで」

 選抜チームでの立場というのはいつもいるチームとはそれぞれ違ってくるもの。
 そして、集まるメンバーが違うのだから、雰囲気も当然違ってくる。
 後藤がチームの足を引っ張って責任感じる、というのは聖督では起こらないことだし、福田が試合に出られない自分と向き合うということも松江ではありえない。
 和気藹々型で楽しい部活生活な聖督と、国まで背負っちゃう代表チームの雰囲気は当然違うし、選手中心運営型の松江と、コーチが万事を決める代表チームの雰囲気もやはり違う。
632 :第九部 :2011/07/23(土) 23:40
 明るい日差しが降り注ぐ異国の街歩き。
 重い話をするには似合わないシチュエーションである。
 通りの空気と会話の内容が合わず、二人の言葉は止まった。
 やがて、後藤の目的地、青系のコンビニ、にたどり着く。

 「これ、ロートンだよね?」
 「色は」

 看板の漢字は読めやしないけれど色合いは日本でもなじみのあるものである。
 だから、行きかえりのバスからでも目に止まっていた。

 「入れるのかなあ?」
 「昼間から閉店ってこともないんじゃないですか?」
 「入場料取られたりとか」
 「ただのコンビニですよ」

 外が明るいせいもあり、店の中は暗く見える。
 後藤が先に立って店に入った。

 中は普通にコンビニである。
 お菓子系食品類の種類が現地化してるという程度で中は普通である。
 雰囲気は日本のそれと変わらない。
 これって結局いくらくらいなの? という後藤の問いを、福田が為替換算掛ける暗算で答えて行くようなやり取りをしながら、当初の目的の飲み物と、意図的に怪しげな方向を選んで菓子類を買った。
633 :第九部 :2011/07/23(土) 23:41
 店を出てそのまま別のどこかへ、ということはしない。
 来た道をそのまま戻る。
 帰りは雑談だった。
 後藤が話して福田が答える。
 いつも何読んでるの?
 上海ってなんでシャンハイって読むの? 中国はチュウゴクで日本語っぽいのに、なんで上海だけ急にシャンハイってどう考えても日本語じゃない読み方になるの?
 福ちゃん彼氏いる?
 よっすぃーたちどこ行ったんだろう? 上海の観光地ってなんかあるの?
 市井ちゃんって卒業したらどうするの?

 合宿初日から同部屋だったけれど、あまり雑談をしない二人だった。
 もうすぐ三週間。
 会話が無くても、それぞれのペースというのは三週間同じ部屋で暮らせば、まともに空気が読めるならば大体分かってくる。
 部屋の外で二人、というシチュエーションは今までなかなかなかった。
 別に、会話で繋がないと場が持たない、というようなことはないのだが、街の雰囲気がなんとなく後藤に口を開かせたようだ。

 福田の答えは、彼氏はいません、興味もありません、のところだけが明快だった。
 後藤は、そんなに力いっぱい興味ありませんを主張しなくていいのに、と笑った。
634 :第九部 :2011/07/23(土) 23:41
 宿まで戻ってロビーに入る。
 エレベータに乗れば部屋まですぐだ。

 「お茶でも飲んでかない?」
 「なんですかその軟派みたいなセリフは」
 「福ちゃんも軟派されたこととかあるんだ」
 「いや、あの、そういうわけじゃないですけど」

 部屋には向かわずに、コンビニの袋持ったままムーンバックスへ向かう。
 大会開幕前日、福田が一人で長時間座ってた店だ。

 店では先に福田が注文して、後藤は同じもの、と身振りで伝えた。
 この前と同じ席は埋まっていたので、店内の明かりの少ない場所へ二人で座る。
 たいした距離ではなかったけれど、少し歩いたのでちょっと一服。
 座ってからの方がしばらく静かだった。
635 :tama :2011/07/24(日) 06:51
松江の高2コンビが選抜チームを経てかなり成長しそうですね。
もちろんキャプテン吉澤の技術的な成長も。

早くも高校に戻ってからの展開が気になります。
636 :作者 :2011/07/30(土) 23:11
>tamaさん
あるいみ二人とも未知との遭遇って感じで異文化体験していろいろ考えさせられてますしね
まあ二人だけではなく、結構みんな新鮮体験してますんで、今後はどうなることやら
637 :第九部 :2011/07/30(土) 23:11
 ぼんやりしだすと本当にぼんやりして何も言わない後藤。
 考え込み出すとじっと考えて口も開かずにいられる福田。
 でも、二人、正面で向かい合っている。
 先に口を開いたのは、考え込んでいたわけではない福田の方だった。

 「明日明後日、後藤さん、自信ないんですか?」
 「ん? 試合?」
 「はい」

 行きの話しの続きだ。
 話がまとまらないまま、街の空気に流されて薄れて行った部分。
 同じ思考の淵に戻りたくないから、後藤は部屋に戻らずにお茶に誘ったんじゃないかと福田は思った。
 だから、話しをそこに戻す。

 「自信はないね。ない」
 「でも、信田さんは後藤さんを選んで使ってるじゃないですか」
 「明日どうかはわからないけどね」
 「わからないですけど、昨日も一昨日も出てたじゃないですか」
 「なのにダメダメで、キミには悪いと思ってるよ」
 「そうじゃなくて」

 福田の声が少し大きくなった。
638 :第九部 :2011/07/30(土) 23:12
 「私みたいな試合に出られないような人間のことを気にする必要はないんですよ後藤さんは。でも、それはそれとして責任を果たそうとするべきだとは思います。代表チームのコートは、弱い気持ちのまま立っていい場所じゃない」

 同情して欲しいわけじゃない。
 試合に出る出られないは自分の問題だ。
 後藤の問題はそこじゃない、と福田は思う。
 ただ、見ていて歯がゆい思いになるのも確かだ。

 「少なくとも信田さんから見て後藤さんは出来ると思ってるから試合に出てるわけじゃないですか」
 「うん、そうかもしれないね」
 「だから出来る、とはもちろん言い切れないですけど、でも、出来るとしたら後藤さんだってことじゃないですか?」
 「キミ、しゃべるときは結構しゃべるんだねえ」
 「いや、なんかすいません」

 後藤の言葉に皮肉のニュアンスを感じた福田は、年下としてわびた。
639 :第九部 :2011/07/30(土) 23:12
 「でも、後藤さん、勝ちたいとか負けたくないとか、そういうのないんですか? 負けて悔しい、何とか見返してやるみたいなの。明日勝てば、反対側は他人事だからいいきれないけど決勝でもう一回韓国来そうじゃないですか。そうしたら今度こそって」
 「後藤、正直言って、そういうのあんまりないんだよね」
 「ないんですか?」
 「うん」

 ない、といわれて福田は繋ぐ言葉を失った。
 福田にとって当たり前の当然過ぎる価値観を、後藤はそんなものは持ち合わせていないと言ったのだ。
 異文化だった。

 「後藤は、本当は勝っても負けても笑っていたいんだ。楽しいことっていろいろあるじゃん。バスケもその中の一つ。でもさ、そうでもない人もいるでしょ。勝ちたい勝ちたいって頑張る人。それが悪いとは思わないけど、後藤はあんまりそうは思わない。だけど、自分がそう思わなくても周りがそう思ってると、自分だけ関係ありませんって顔は出来ないじゃん。出来ないって言うか、後藤、自分が好きな人が悲しい顔するの嫌だもん。だから勝つために頑張ろうかなって思う。なのに、自分のせいで負けたらさあ、自分が周りの人泣かせたのと一緒だもん。それをまたやっちゃうのかな、って思うと怖いよね」

 福田にはない論理だったけれど、言っていることは分かった。
640 :第九部 :2011/07/30(土) 23:12
 「やさしいんですね」
 「そう? 自分がない、みたいなこと言われたりするよ」
 「そこは紙一重かもしれないですけど。自分をしっかり持ってるのとただのわがままも紙一重だし、一緒ですよ。そういう話を聞いちゃうと、自分がただのわがままな気がします」
 「そんなことないよ。自分は自分で多分大変なのに、後藤の話をこうやって聞いてくれちゃったりしてるじゃん」
 「いや、ただ一人試合にも出られない立場の人間が、自分のことなんか考えてるってのがもうダメじゃないですか。戦力になってないんだから、コートの上以外の場所で何かチームに貢献することを考えないと。そういう面で、吉澤さんてすごいんだな、って思いました」
 「よっすぃー?」
 「あの人たぶん、私のこと口うるさい生意気なガキって思ってて、自分は嫌われてると感じてるような気がしますけど、私は結構認めてるんですよね、高校のチームの時から。失礼だけど、吉澤さんもこのチームじゃあんまり戦力として役に立ってないじゃないですか。でも、チームを盛り上げようとして久住とバカやってみたり、今日もなんか適当に声かけて出かけるメンバー募ってたみたいですけど、実際には考えて声掛けるメンバー選んでるんですたぶん。割と親しそうにしてるのに藤本さんとかスタメン組みは多分誘ってなくて、後藤さんはともかく、私みたいな本当はうざいって思ってるだろうに、試合出てなくてつまんないだろうからって気を使ってみたりして」
 「うざいってことはないんじゃないの? 頼れるポイントガードでしょ、チームじゃ」
 「最初はそうだったかもしれないですけど、もう私なんか抜きでも、吉澤さんも松も、みんな十分力ありますから」

 松江のチーム事情まで後藤の知ったことではない。
 戦力としてどうかの分析なんてことは、性格的に福田相手に後藤が発言して説得力を持つ、というのは非常に難しいことだった。
641 :第九部 :2011/07/30(土) 23:13
 「でも、私が吉澤さんみたく出来るかって言われると出来ないし、やったって周りから変な目で見られるだけですし。どうせ藤本さんが最後まで行く、と思ってても、どうしても高南相手に自分だったらどうするかを考えちゃう」
 「それは考えて悪いってことはないでしょ。ていうか、後藤とか他の人も、もっとちゃんと考えなきゃくらいな感じで」
 「そうですけど、考えた挙句結局出られないんじゃ意味ないんですよ。考えるだけで試合にも出ないんじゃ役に立ってませんし。ただの頭でっかちな生き物なんですよ」

 後藤をなじっているようでいて、途中から福田の話しになっていた。
 愚痴というか、悩みというか。
 試合に出られなくても考えてしまう試合での対処方法。
 考えても考えても、結局出られないことが、福田の苦しみを増していく。

 「後藤のことは、試合に出られる分だけ幸せだって風に見える?」

 一呼吸置いてから後藤が問いかけた。

 「そうですね。うらやましいっていう部分はあるかもしれません。だから、失礼なことを言ってしまってるのかもしれません」
 「失礼ってことはないよ。当たってると思うし」
 「もっと自分のことをコントロール出来る人間のつもりでいたんですけど、ダメですね。余計なこと言ってしまって。すいません」

 失礼、とは思わないが、きつい口調になるな、とは後藤は感じていた。
 自分に向けて、というよりもただ福田の中にあるトゲトゲしたものが表に出てきてしまっている、というだけのことだと感じている。
642 :第九部 :2011/07/30(土) 23:14
 「後藤は、たぶん、日本を背負うとかそんな大それたことは言えないけど、明日とか明後日とか、もし試合に出ることがあったら、キミの思いは背負おうと思うよ」
 「だから、試合に出られない人間の気持ちとか考えなくていいんですよ後藤さんは」
 「いいや。考える。もちろん、誰かが替わりに頑張れば満足、なんてタイプじゃ福ちゃんはないんだろうから、いつか来るチャンスに向けてしっかり準備して待てばいいよ。それこそ後藤が何考えてるのかなんて関係なく。でも、後藤はキミの気持ちは背負おうと思う。キミのためには頑張ろうと思う」

 そんなこと言わなくていい、とまた言おうかと福田は思ったけれど、やめた。
 後藤さんなりの歯止めであり支えなんだろうな、と思ったから。
 今のままじゃいけない、ということを考えての、試合に向けての支え。
 それを否定する権利はないんだろうな、と思った。
 それこそ、試合に出られない立場の人間の役の立ち方、の一つなのかもしれない、と思う。
643 :第九部 :2011/07/30(土) 23:15
 奥に座っていた後藤が福田ではなくてその後ろの遠くを見ている。
 何かを見ている、というのを感じた福田が振り向いた。
 視線の先には飯田がいた。
 二人を見つけた飯田、店に入ってくる。
 後藤が手を振った。

 「珍しい組み合わせだね。何つながり?」
 「何つながりって、部屋一緒だもん。ね」
 「初日から一緒ですよ」
 「そうなの?」

 いまさら驚くことではない。
 飯田は福田の隣に座る。

 「散歩?」
 「うん。外まで出かける気しなかったから適当に」
 「ていうかなんか買ってきなよ」
 「注文できるかな? 言葉自信ないけど」
 「日本でも言葉あんまり出来なくても大丈夫なんだから大丈夫じゃない?」
 「なんだとー。見てなさい。しっかり買ってくるから」

 飯田はバックから財布を取り出しカウンターへ向かう。
644 :第九部 :2011/07/30(土) 23:15
 「後藤さん、年上相手でも敬語とかないんですね」
 「んあ? うーん、あんまりないな。怖い先生とかには使うけど。一応信田さんなんかはなんちゃって敬語くらいは使うくらいかな」

 体育会にあるまじき人間である。
 でも、なんとなくそれで後藤は許されていた。
 面と向かって苦情を言ったのは市井くらいなものである。

 飯田は普通にアイスコーヒーを買ってきた。
 松浦のように凝ったものを無理に買おうとはしなかったようだ。

 「部屋で休んでなくていいんですか?」
 「ずっとごろごろしててもなんかね。リズム狂っちゃうし。二人こそいいの? 休んでなくて」
 「後藤もなんかごろごろしてて飽きちゃった」
 「私は別に。休みが必要なほど疲れてないですし」
 「だったら吉澤とどっか行ってくれば良かったでしょ。あいつ、私のことは一言も誘わずにどっか行ったんだって。オフ日のためにガイドブックなんかも用意してきちゃって」
 「飯田さんは誘われたら出かけたんですか?」
 「うーん、どうだろう。さすがに観光地歩き回る系はちょっとあれだったかな」

 ここ三試合で飯田の出場時間は石川についで長い。
 韓国戦、北朝鮮戦、体を張ったインサイドのプレイは疲労を蓄積させているはずである。
 ずっとごろごろしてても、と言ったものの、ようは寝起きの散歩といったところだろう。
645 :第九部 :2011/07/30(土) 23:16
 「しかし、圭織と違って明日香たちは子供のくせにムーンバックスでお茶してるとか生意気よね」
 「そんなこと言って、一つか二つしか変わらないでしょ」
 「社会人と高校生は違うもん。そういえば、後藤なんかは卒業したらどうするの?」
 「さあ。卒業できるのかな」
 「なによそれ。後藤は大学って感じじゃないから、うちにでも来る? って圭織が決められるわけじゃないけど。明日香は? まだ先だろうけど」
 「私は大学には行こうと思ってますけど」
 「明日香は大学とかむいてそうだもんね。圭ちゃんみたいに受験失敗で浪人とか面白いことしてくれてもいいけど、声かけてくるとこがいっぱいあって選ぶだけか」
 「保田先輩は受けた大学が難しいところばっかりだったってだけで、別にダメなわけじゃないですよ」
 「そうかもしれないけど、素直に推薦もらっとけば良かったのよ。浪人したけど東京出て一人暮らしの予備校通いって、どこの昭和時代って感じで。インターハイ出たんだから拾ってくれるところもあっただろうに。紗耶香はどうするって?」
 「さあ。あの人はよくわかりません」
 「圭織って市井ちゃんのこと知ってるの?」
 「国体で一緒にやったしね。ていうか、後藤が紗耶香のこと知ってる方が圭織には驚きなんだけど。しかも市井ちゃんって。紗耶香がちゃんて。なんか笑える」

 人と人がどこで?がったかなんて、傍からは分からないことが多いものではある。
646 :第九部 :2011/07/30(土) 23:16
 「そっか、圭織と市井ちゃんていうか福ちゃんは一緒のチームでやったことあるんだ」
 「そうよ。ほとんど二人だけで富ヶ岡を振り回してあげたんだから」
 「試合的には惨敗って感じでしたけどね」
 「でも、圭織楽しかったよ。本当に強い相手とぶつかる時に明日香みたいなガードにサポートしてもらえたのって、高校三年間であの一試合だけだったから。

 飯田は高校生活三年間は、自身のワンマンチームで過ごした。
 最後の選抜大会は貧弱なガード陣を弱点と突かれ、滝川に序盤で勝負を決められている。
 そんな中で、福田と組めた三年時の国体は貴重な体験だった。

 「そうよ。久しぶりに明日香と組んで試合できると思ってたのに、なによこれ。全然そんな展開ないじゃない。ミキティもいいんだけどさ、明日香も頑張ってよ。感情丸分かりのミキティと違って、いつもクールな明日香のゲームコントロール結構好きなんだよね」
 「別にクールってわけじゃないと思いますけど」

 そう見えるように振舞っているだけで、頭の中ではいろいろな感情がうごめいているのだ。
647 :第九部 :2011/07/30(土) 23:17
 「しっかり準備して待っててよ。中国は簡単な相手じゃないし。あのリボン女とやり合ったらミキティだって簡単にはいかないんだから、明日香に出番が来る場面もあると思うし」

 これは、認められているのだろうか、それとも慰められているのだろうか、と福田は思った。
 試合に出られない若手の感情をなだめるキャプテン、というようなシチュエーションだ。
 どうしてこうなった?
 まさに一年前、国体の頃は自分と飯田、二人でゲームを組み立てていて、二人だけが通用していて、年の差はあっても対等な力関係だったはずだ。
 それが今や、慰めると慰められるの関係になっている。
 社会人と高校生は違う。
 社会人になって伸びた飯田と、成長のない自分の違いなんだろうか。
 技量面で成長していない、と信田に言われた。
 それも、福田の中で引っ掛かっている。

 「後藤もだよ。なんか変に自信なくてしる気がするけど、明日香と違って細かいこと考えるのに向いてる性格してないんだから。何にも考えずにがんばればいいのよ」
 「圭織に言われたくないよ。こまかいこと考えるのに向いてないって」
 「何を言う。圭織は細かくて細かくて仕方ないんだぞ」
 「意味わかんないし」
 「とにかく、明日はみっちゃんの敵討ちなんだから。絶対勝つの。だから明日香もしっかり準備して待つ。後藤も集中して頑張る。いい?」
 「敵討ちって、中国にやられたわけじゃ・・・」
 「細かいこと気にしない」

 福田と後藤は、そこはもう突っ込まなかった・・・。
648 :tama :2011/07/31(日) 02:01
なんか泣けてきたのは今俺が酔ってるからなのか・・・?

福田の吉澤に対する敬意とか、後藤の自分の大切な人に対する想いとか、
飯田の何も考えてない感じでしっかり見てるキャプテンらしさとか。
それぞれの想いが温かすぎる・・・

それとヤッスーがこっそり浪人してるのに受けたwww
賭けはお父さんの勝ちですね。>第六部より
649 :作者 :2011/08/06(土) 23:51
>tamaさん
みんなそれぞれ想うところがありながら暮らしているようですから
ヤッスーはまあ、そういう運命だったってことで
650 :第九部 :2011/08/06(土) 23:52
 吉澤たちが出かけたり、飯田が散歩していて後藤と福田の間に乗り込んで行ったりしている頃、平家は当然のように部屋にいた。
 この足で用もないのに出かける、というのはない。
 同室の吉澤は出かけてしまった。
 最初は気を使って部屋に居ようかという振る舞いをしていたのだが平家が追い出したという部分がある。
 私は腫れ物じゃないよ、といったところだ。

 無念じゃない、ということはありえない。
 どうして自分は肝心な時にこんなんばっかり・・・、と思う。
 高校三年間の締めくくりの大会、準決勝で怪我をして決勝は途中でベンチに下がらざるを得なかった。
 あの時は最後自分がいなくなって、決勝、石川が逆転して勝ってくれた。
 悪い思い出ではない。
 そうするとこれは吉兆か?
 自分の怪我がチームにとって吉兆になるというのは、なんとも嫌な人生である・・・。
651 :第九部 :2011/08/06(土) 23:52
 インターホンが鳴る。
 部屋に客が来た。
 杖ついてよたよたしながらドアを開けに出る。
 やってきたのは柴田と村田だった。

 「元気そうだね」
 「元気なもんか」

 そう言いながら杖を振り回す。
 暇だったので来客は基本歓迎だ。

 「日本帰らなくて良かったんですか?」
 「帰ったって寝てるだけだし。それならこっちでベンチに居た方がいいよ」
 「でも、ちゃんと日本で診てもらった方が」
 「ちゃんと診てもらったし、チームドクターもその診療で納得したんだから私もそれは信じるし、日本帰っても一緒だよ。リハビリできるくらいまで回復すれば話しは違うけど、それまではただ待ってるしかないんだし。勝ち試合目の前で見る方が薬だね」

 大会が終わったら、WJBLの試合に向かって行くはずだった。
 リーグの中では弱小の部類に入るチーム。
 平家は新人にしてスタメン候補。
 この三週間チームから離脱した分、合わせの面で不安があって、開幕当初はベンチスタートになるかなと思っていたが、それでもシーズン中にレギュラーを掴む自信があった。
 なのに、それも全部御破算だ。
 今シーズンは多分無理。
 だったら、せめて、自分が関わった、グループリーグ突破に貢献した、このチームに最後まで付き合いたい、そう思うのは自然だろう。
652 :第九部 :2011/08/06(土) 23:52
 「痛くはないの?」
 「痛み止め飲んでるから今は問題ない。まるっきり試合出られないからドーピングも気にしなくていいし、はっきり怪我しちゃった方が痛みは消せるって、なんか変なの」
 「そういえば、いまさらだけど謝っとこうかな」
 「なにを?」
 「選抜のとき。怪我させてごめん」
 「ああ・・・。あったね、そんなこと」

 平家がちょっと前に頭に浮かんでいた思い出。
 村田の方も怪我をした平家の姿を見て思い出したようだ。
 選抜準決勝の平家の怪我、原因は村田とのゴール下での競り合いである。
653 :第九部 :2011/08/06(土) 23:53
 「あれは昨日のとは違って、怪我させられたってのとは違うでしょ。私の方がバランス感覚が悪かったというか、運が悪かったというか、ただそれだけで。でも、あれでベンチに下がった後見てて思ったよ」
 「なにを?」
 「この子強いなーって」
 「私のこと?」
 「うん。責任感じる必要のない、私の自損事故みたいなもんだったけど、でも、ぶつかりあってたのは確かで、変に責任感じてその後のプレイが変になるとかあるじゃない結構。なのにそれがなくて、私が抜けた後のゴール下支配してどんどん追い上げてきてさ。強いなって。それと対称的に、この柴田なんかまさにそれで、国体で是永美記を後ろから押しつぶすファウルして、その後のプレイがひどいのなんのって」
 「そんなこともありましたけど・・・」
 「でも勝ったんでしょ?」
 「是永美記が別に怪我も何もしてなかったからね。ファウルのとき痛かったってだけで。あれがなんかあったら、柴田のノミの心臓じゃ再起不能だったかも」
 「怪我させて平気な方がおかしいんですよ」
 「肝に銘じておきます」
 「あ、いや、めぐさんのこと言ってるんじゃなくて」
 「柴田もねえ、もうちょっとしたたかになってもらうといいんだけど。もういい年なのにいつまでたっても素直な良い子やってるんだよね」
 「平家さんからはそう見えるだけで、私だって梨華ちゃんとか後輩相手にはそういうところだってありますよ」
 「意外と、先輩からは素直な良い子に見えるように振舞うしたたかさがあるのかもよ」
 「まあ、私が怪我して、珍しくコートの上で相手を怒鳴りつけたりしてくれたらしいからこの辺で許してあげようか。そのまま感情に溺れて相手にひざ蹴りいれるくらいメンタルは安定しているようだから、素直な良い子は見せかけっぽいし」
 「もう! 平家さん全然元気じゃないですか!」

 許してあげようと言いながら、最後に追い討ちを掛けた平家の腕を柴田は軽く叩いた。
654 :第九部 :2011/08/06(土) 23:53
 「あゆみんもサイボーグじゃないからね。仕方ないよ」
 「体がサイボーグで心は人間のままくらいが丁度いいのかな」
 「もう、知りません!」

 ぷりぷり怒りながらも、柴田は居心地の悪さは感じていなかった。
 本来、こんな風な方が自然なのだ。
 後輩相手に立派に振舞っている方が気が張って疲れる。
 先輩たちに手の平の上で転がされているくらいな方が楽でいい。

 「でも、ホント、案外元気そうで良かったよ」
 「泣き腫らした目で、私のために優勝して、とか訴えた方が良かった?」
 「平家さんがやっても似合いません」
 「そういうのこそ、良い子の柴田がやるといいのかな」
 「だから、もう、良い子は置いといてくださいよ」
 「分かった分かった。でもさ、アクシデントがあった時に泣いて絶望するんじゃなくて、その現実に向き合って、さて困ったもんだどうしようか、と割とすばやく考え始められるのは自分の美徳だと思ってるのよ、私」

 泣いても現実は変わらない、とかそういうような類の話だ。
 そこについて、村田も柴田も否定はしない。
655 :第九部 :2011/08/06(土) 23:54
 「ベンチ下がって、というかそのまま医務室直行して、痛い痛い痛い言いながらも、これは今日は無理だな、明後日までに回復するかな、無理だな今大会無理だな、あれ、選手生命やばい? 大学行っとけば良かったかな、うちの会社選手崩れでも働かせてくれるかな、事務? なんか無理っぽいし工場勤務かな、そっちの方が向いてるか、いや、体育会を生かして営業? 中国に売り込みとか別に怖がらずいけるし貴重な戦力じゃない? あ、大学出てないとそっち系はやらしてもらえないか。いやいやまて、選手生命を諦めるな。この後のリーグ戦に間に合うかを考えろよ、とかそんなことが頭の中をぐるぐるとね、めぐってた。意外なほどね、あの誰だっけ、名前知らないけど、まあ、あの暴力女? あれへの怒りとか恨みとかはなかったね。というかそこに発想は行かなかった。いや、腹立つけどさ、あんなむちゃくちゃやられたら。でも、怒ってる場合じゃないって言うか、私の将来どうなる? どうする? みたいな。て言いつつ、頭の半分というか八割くらいは、痛い痛い痛いで占められてたから、怒りへエネルギーが向けられないってだけだったかもしれないけど」
656 :第九部 :2011/08/06(土) 23:55
 二人は神妙に聞いている。
 平家さんは大人だな、と柴田は思った。
 というよりも、まるっきりあの後の自分の行動が子供そのものではないかこれでは。

 「試合の心配とかはしてくれなかったの?」
 「うん。負ける相手じゃないって思ってたし。別に、私がスーパー大エースってチームじゃないから、私一人いなくても大丈夫でしょって感じで。ちょっとね、柴田はこんなだし、石川あたりもメンタルに問題あるから変に爆発したりしないかそっちは心配だったかな。一応、二年ほど先輩やってた仲だから」
 「高橋の心配はしなかったんですか?」
 「あいつにメンタルの問題がないっていうのはありえないけど、でも、私のことで切れる気はしないなあ」

 自分や梨華ちゃんと、高橋では扱いが違うらしい。
 柴田はなんともいえない気分だ。
657 :第九部 :2011/08/06(土) 23:55
 「一応、結果は気にして待ってたよ。勝ったって聞いた時はさすがに、あそこまでやっといてあの暴力女、炭鉱送りかなあ、ざまあみろとは思った」
 「女子でも炭鉱送りなの?」
 「穴掘るんじゃなくて掘られる方だったりしてね」
 「な、なに言ってるんですか平家さん!」
 「なに照れてるの柴田。何を想像したんだ?」
 「し、し、しりません」

 顔赤くしてむくれる柴田を平家と村田は笑って見ている。
 先輩たちの手の平で転がされているだけなら悪い気はしないが、これは居心地が悪い。
658 :第九部 :2011/08/06(土) 23:55
 「次のシーズンは無理そう?」
 「たぶんね。リハビリで終わっちゃうかなほとんど。出来ればシーズン最終戦に間に合うようにっていう目標でリハビリやって行く感じになると思う。変な話、うちは最後は入れ替え戦に回る可能性がかなりあるから、リーグ戦全然出られなくても、そこで仕事できればチームへの貢献って意味じゃ十分あるしね」
 「半年近いリーグ戦ってどんな感じなのかなあ」
 「私もそれを体験したかったんだけどね。まあ、しょうがない」
 「リーグ戦てのがそもそもなんか感覚わかんないんですよねえ」

 大学生の村田、社会人の平家、高校生の柴田。
 三者三様の立場。
 高校生は基本トーナメントだし、大学はリーグ戦がメインだけどせいぜい二ヶ月で終わる。
 それに対して社会人のリーグ戦はプレーオフまで含めると半年に及ぶ長丁場だ。
659 :第九部 :2011/08/06(土) 23:55
 「あー、でも、こうやって冷静になってみると、明日出たかったなあ」
 「中国と一戦交えるなんてあんまりない機会だしねえ」
 「柴田、明日はスリーポイント十本がノルマね」
 「十本て。無茶苦茶ですよ」
 「大丈夫、柴田なら出来る」
 「あゆみんなら出来る」
 「勝手なことばっかり言わないでください」
 「十本決められなかったら炭鉱送りね」
 「だから無茶苦茶ですって」
 「そんな顔真っ赤にして否定しなくても」
 「何考えてるんだ?」
 「知りません」

 先輩たちの手の平で転がされている方が楽で心地よい・・・、のは錯覚だったかもと思う柴田だった。
660 :第九部 :2011/08/13(土) 23:46
 目が覚めたら一人だった。
 一人じゃなかったから寝てた、という部分はあるが、大人しく部屋にいたい、というのは宿に戻って最初に思ったことではあった。
 ただ、部屋に二人で居るのはちょっと・・・。
 明日香ちゃんなんかだったらもちろんいいし、吉澤さんでもまあ許そう。
 他の人たちもたいていそんなに問題はない。
 松浦亜弥は社交性抜群なのだ。
 誰とだって適当には合わせられる。
 この人きらーい、と腹の中でも思っていても、短い付き合いならニコニコ笑って猫被っていられる。
 長くなってくると、猫の皮は破けてしまうが、二三週間なら耐用性はあるはずだ。
661 :第九部 :2011/08/13(土) 23:47
 だけど、こいつだけはそりが合わなかった。
 高橋愛。
 いろいろな点で問題がありすぎる。
 インターハイではマッチアップして、雑魚のくせにてこづらせてくれた。
 あの試合の敗因は四年生がダメ人間だったことだけど、そのハンデを差し引いても、自分がこんな雑魚にてこづらなければ確かに勝てたかもしれないのだ。
 そこがまずむかつく。
 その上、ここに来てからは明日香ちゃんのポジションを奪いやがって。
 下手なくせに。
 黒美貴たんならまだ分からないでもないけれど、なんでこいつが、と思った。
 それに、ポジションがスライドして自分のところを奪っていきかねない存在でもある。

 ついでに、ここに来るまで全然知らなかったけれど、性格的にも難あり、いや、ありすぎる・・・。
 なんなんだあのからみづらさは。
 陸上とか卓球とか、人と関わらないスポーツでもやってろと言いたくなる。
 いや、紺野ちゃんはオッケーだけど、別に陸上部に恨みはないけれど、そういうことじゃないけれど、そういうことなのだ。
662 :第九部 :2011/08/13(土) 23:47
 というような存在となんで同部屋・・・。
 ババ抜きのばば引いてしまったようなものだ。
 美記たんがアメリカ行っちゃうのが悪い。

 部屋でごろごろしながら和やかにおしゃべり。
 とてもじゃないけれど、そんなことしようと思うような相手ではない。
 そういうオーラをこっちは発しているはずなのに、あの絡みづらい女は、なにやらぺちゃくちゃ話を振ってくる。
 全然分かっちゃいない。

 かといってどこかへ出かけるのも億劫だったので、本格的にベッドにもぐりこんで眠ることにしたのだ。
 さすがに寝ているところを引っ張り起こすほどの無茶はしてこない。
 気がついたら眠り込んでいた。
 いや、気がつかなくなっていた、という方が正しいか。
 気がつかないでいる間に高橋愛は出かけていたようだ。
 どこ行ったのかなんか知らない。
 興味もない。
 いない、という事実が大事なのである。
663 :第九部 :2011/08/13(土) 23:47
 寝ていたのは大体二時間くらいだろうか。
 まあ、この辺が限度だろう。
 これ以上長く寝ていたら夜に寝られなくなってくる。
 そろそろ起きるべきだろう。

 窓の外は晴れ渡っていた。
 光あふれる異国の街。
 そう表現すれば素敵な気がするが、松浦からすればここはただの中国である。
 中国なのに意外に都会だな、と思ったがそれだけだ。
 せっかくだから街を歩きたい、とはあまり思わない。

 部屋で大人しく本を読む、というタイプでもない。
 メールでも、と言ったって松浦の携帯は海外に出たらただの時差ずれした時計でしかない。
 テレビをつけてみたが、何言ってるのかさっぱり分からない。

 必然的な展開として、鍵を持って部屋を出ることになる。
664 :第九部 :2011/08/13(土) 23:47
 何の迷いも無く向かった先は福田-後藤部屋だった。
 いない・・・。
 二人とも出歩くタイプでもなさそうなのにどこ行ったんだ? と思うけれど探す術はない。
 さて、どこへ行こうか。
 福田部屋前で考える。
 吉澤さん、というのはなんか違った。
 あと面白そうなのは・・・。
 あのちょっと偉そうな黒美貴たんの顔でも見に行ってやるか、と思った。

 今度はいた。
 扉が開く。

 「亀ちゃん?」
 「あややさんでした」

 中に向かって報告している。
 ここは藤本-光井部屋なはずだ。
 なんだ先客かよ、と思いつつ中に入る。
665 :第九部 :2011/08/13(土) 23:48
 「なに、亜弥ちゃんも美貴に合いたくて来ちゃったの? 美貴、人気者だなあ」
 「なんでそうなるんですか。ていうか、なんです、その偉そうな態度」

 偉そうな態度。
 藤本はベッドに寝そべっていて、足を光井にマッサージさせている。
 隣のベッドには里田が座っていた。
 里田と亀井が同部屋で、二人揃ってこの部屋にやってきていたという構図である。

 「中学生に仕事させて何が悪い」
 「そんなんだから黒美貴たんって言われるんですよ」
 「それ言ってるの亜弥ちゃんだけだし」

 間違いなく体育会の世界に住む人間たちが集まる代表チームの中でも、藤本はその権化のような立場である。
 年下をこきつかうことはなんとも思っていない。
666 :第九部 :2011/08/13(土) 23:48
 「亜弥ちゃん一人? 友達いないの?」
 「なんでそうなる。寝てただけですよ」
 「誰だっけ、部屋」
 「高橋愛。寝てる間にどっか行ったみたい。望むところだけど」
 「梨華ちゃんとかと出かけたみたいよ」
 「石川と? あとはなに、柴田とか?」
 「あゆみんは行かなかったんじゃないかな。よっすぃーが誘ってまわってた。亀ちゃんも誘われてたよね」
 「なんか外暑そうだから行きませんでした」
 「美貴誘われてないよ」
 「あんまり試合出てない子選んで誘ってたみたいだから」
 「じゃあ何で石川」
 「自分で行きたいって割って入ったみたい」
 「体休めろよ。ガキかあいつは」

 里田は午後の早い時間にちょっと買い物に出ていて、出かけていく四人と鉢合わせていた。

 「それで亜弥ちゃん一人で寂しくて美貴の部屋着ちゃったんだ」
 「違いますよ」

 たいして違わないが、そうですよとは言えない。
667 :第九部 :2011/08/13(土) 23:48
 「みっちーにマッサージしてもらおうかと思って」
 「貸さないよ。亀にでもしてもらいな」
 「亀子、マッサージうまい?」
 「いえ、全然。でもやります」
 「無理しなくていいのに」
 「あややさんの体触ってみたいから」
 「怖いこと言うね」

 もう一つのベッドの方に松浦はうつ伏せになる。
 里田は苦笑しつつもどいた。
 亀井が松浦の足の部分に座りまず、右足のふくらはぎから触る。

 「くすぐったい、くすぐったいって」
 「亀、それ全然マッサージになってないよ」
 「人のマッサージなんてやったことないですもん」
 「なにそれ、じゃあ、もういい」
 「ダメです。頑張りますから」
 「いや、いいから」
 「大人しく実験台になってなよ」

 起き上がろうとする松浦の体を里田が抑えた。
 うつ伏せの松浦の背中に里田が座り込み、足を亀井が掴んでいる。
 抵抗出来ない体勢になっている松浦のふくらはぎを亀井がさすっていた。
 同性だから許されるけれど、結構すごい絵柄である。
668 :第九部 :2011/08/13(土) 23:49
 「くすぐったいくすぐったい」
 「亀、もうちょっと力入れてあげないと」
 「こうですか?」
 「痛い! 痛い!」
 「なんか面白いからみっちー、あっちに混ざっていいよ」

 藤本が面白がって光井を自分のマッサージから解放した。
 亀井が右足、光井が左足、里田が背中、押さえ込まれてうつ伏せな松浦。
 松浦は自由になる両手でばんばんベッドを叩いている。

 「もういい、もういいって」
 「大人しくマッサージされてな亜弥ちゃん」
 「マッサージじゃない。全然マッサージじゃない」

 みうなに教えられて、ちゃんと上手にできるはずの光井も、面白がって松浦の太ももをくすぐっている。
 亀井はまじめなのかそうでないのか、ふくらはぎをつまんでいるのだが、これがまたくすぐったい。
669 :第九部 :2011/08/13(土) 23:49
 「ギブアップ! ギブアップ! ごめんなさい! 許して!」
 「そろそろ解放してあげたら」

 藤本の一声で里田は背中から降り、亀井と光井もくすぐりマッサージを終了する。

 「もう、なんてことするんですか!」
 「友達のいない亜弥ちゃんにスキンシップの楽しさを教えてあげただけじゃん」
 「友達はいますから」

 松浦が一人でぜいぜい言っている。
 それを見て、また四人が笑った。

 ただの夏合宿のような平和な光景。
 実際には、国際大会の中日休養日である。

 決戦は明日。
 CHN48戦。
670 :第九部 :2011/08/20(土) 23:46
 スタメンは朝のミーティング時に告げられた。
 藤本、柴田、石川、里田、飯田。
 特に、意外な顔はあがっていない。
 メンバーの側もごく自然に受け入れた。
 試合は夕方からだった。
 前座が二試合、5-8位決定戦が早い時間にある。
 準決勝第一試合、中国vs日本はその後。
 土曜日のこの日、夕方からの試合、たかが年齢別のアジアの大会にもかかわらず、第二試合が終わる頃には観客席は満員だった。
 国民的アイドルのコンサート並みの人気である。

 第二試合が終わり、日本チームが試合前アップでコートに入っても、CHN48は現れなかった。
 何をもったいぶってるんだ? とぶつぶつ言いながらのアップ。
 会場には熱気が渦巻いているのに、それが自分たちを後押ししているわけではないという空気は、やけに肌触りの悪いものだ。
 気にするべき相手がいれば、まだ、ちらちら見ながらである意味落ち着けるものも、その存在すら現れていないのでは逆に気になってしまって落ち着かない。
671 :第九部 :2011/08/20(土) 23:46
 自分はスタメンではない、というのは朝のミーティングで分かっているし、それ以前にその可能性を感じたこともない。
 それどころか、きちんと戦力として自分がカウントされている可能性すら低いかもしれない。
 そんな立場なことを理解していながらも、吉澤はこの妙な空気の中で落ち着きを無くしていた。
 ボールがまるで手に付かない。
 体を動かす、というのが主目的な、単なるスクエアパスでボールのキャッチミスをする。
 軽い動きでのランニングシュートが入らない。
 三対二のディフェンスで足が動かず簡単に抜かれる。
 落ち着きが無くボールが手に付かず足も地についていない。

 グループリーグの時とは空気がまるで違った。

 日本チームがランダムシューティングに入っているころ、試合開始五分ほど前、突然、会場全体から地鳴りのような完成が起こり、体育館が揺れた。
 CHN48のメンバーが入ってきた。
672 :第九部 :2011/08/20(土) 23:46
 会場のボルテージが上がるのと対称的に、入ってきたCHNのメンバーたちはリラックスしたものだった。
 観客席に手を振っているものもいる。
 ベンチにタオルやら飲み物やらを置いているメンバーを尻目に、一人ボールを突きながらコートに入ってきた。
 流れで六十度くらいの角度からスリーポイントシュートを放つ。
 ストーリー的には、しっかり決めて会場を沸かせたかったのだろうが、ボールはリング手前に当たり、シューターとは全然違うところに跳ね飛んで行った。
 本心かポーズか、ガクッとこけて見せて頭を掻く。
 会場、笑い。
 隅に居たコートキーパーがボールを拾って投げ返す。

 「峯南!」

 ベンチからリボン女が呼んだ。
 呼ばれた当人は、観客席の何箇所かに向かって小刻みに頭を何度か下げてからベンチに戻った。

 「なんだありゃ」
 「目立ちたいだけでしょ」

 吉澤のつぶやきに藤本が答える。

 「いやー、アウェーだね。いいね。悪役。ゾクゾクするね」

 何言ってるの? という顔で吉澤は藤本の方を見る。

 「国際試合ってのも悪くないね。美貴も、世界一ってやつになってみたくなってきたよ」

 試合開始三分前。
 日本ベンチがメンバーを呼び集めた。
673 :第九部 :2011/08/20(土) 23:47
 中国人の係員が一人、日本ベンチについていた。
 スターティングメンバーは場内でコールされてそれに従ってコートに上がって行く。
 コールは中国語。
 分かるわけがない。
 それで、入って行くタイミングを告げる係りが付けられている。

 コーチがスタメンをメンバーに告げるときは、大抵ポジション順に名前を呼ぶが、場内アナウンスの時は背番号順になるものだった。
 なにやら前置きを中国で言ってるらしい、と思っていたら飯田の肩を中国人がたたいている。
 ああ、行けってことね、と飯田はベンチメンバーたちとハイタッチを一人一人して、最後に信田とタッチを交わしてセンターサークル付近に入って行く。
 日本チームのキャプテンとして、ゲームキャプテンとして、コートに先に入っている主審副審と握手する。
674 :第九部 :2011/08/20(土) 23:47
 四番飯田の次は六番の藤本。
 会場からいくらかの拍手が出てから肩をたたかれつぶやいた。

 「アウェーの割りに、美貴も人気あるんじゃん」

 アイドルオタクは国境を越える。
 ただし、次に七番石川の名前の時にそれよりも大きめな拍手があったものだから、藤本は多少機嫌が悪くなった。
 向かって前と後ろ、向き直って観客席に手なんか振っている石川の頭を軽く小突いてやった。
 十一番柴田、十三番里田、全員コートに入っていき、最後に監督として信田が呼ばれて軽く手を上げてから頭を下げる。

 CHN48のメンバー紹介。
 日本チームとは比較にならないほどの歓声、と思われたが、それとは違う種類の声に会場が包まれた。
 歓声と言うよりはどよめき。
 中にはブーイングまである。
 おいおい、人気のチームなんじゃないのか? と思ったが、入ってきた顔を見て藤本は思った。
 誰だこいつ?
675 :第九部 :2011/08/20(土) 23:47
 顔はただ覚えていないだけという可能性もあるのだが、背番号が明らかに想定していた人間たちと違う。
 ベンチでは信田がメンバー表をめくっている。
 その間にもコートにはメンバーが入ってきている。
 戦前に想定していた顔とは随分違った。
 敦子も高南も麻友友もいない。

 ようやく一度、はっきりと会場が沸いた。
 こっちが来たのか、と日本側メンバーで反応したのは里田。
 里田は戦前の想定ではおそらく敦子がマッチアップと考えていたが、高さを生かしたメンバー構成にした場合、麻友友を外して、敦子を三番に上げて、四番には小陽が入ってきて麻里子様と並べる、という選択もありえる、と伝えられてはいた。
 その小陽がスタメンに顔を連ねている。

 他の四人は結局、誰だおまえ? というメンバーだった。
 グループリーグにはCHNは全員出ていたので、今日のスタメンも一度はコートに立ってはいるのだが、日本チームのアンテナにはひっかかっていない。
 スタンドのファンたちからしても想定外だったようであるが、それでもこの想定外を喜ぶ一部のコアなオタもといファンの姿は見える。
676 :第九部 :2011/08/20(土) 23:48
 「身長順にマッチアップしろ」

 ベンチからは半ば投げやりな指示が飛んだ。
 それ以外対応しようが無い。

 「なんでこのメンバーなんだ?」

 コート中央に向かって大きな声で指示を出した後、今度は小さな声で信田はつぶやいた。
 小陽は分かるとして、他のメンバーがスタメンで入ってくる意味が分からない。
 まったく試合に出てきていないなら秘密兵器という可能性があるのだが、グループリーグで試合には出ていて、特に目を引く部分がなかったメンバーなのだ。
 怖さは感じないが気持ち悪かった。

 コート上、ゲームキャプテンの飯田は、試合前の儀礼として相手のリーダーと握手を交わそうと思ったが、誰に手を伸ばせばいいのか分からなかった。
 小陽かなあ、と思うのだがメンバーの真ん中に入っていてなんか違う。
 順当に行けば自分の正面にいる人間なのだけど・・・、と迷っていると向こうから出てきて手を伸ばしてきた。
 やっぱりこの子なのか・・・、と思うが、やっぱりというよりなんでという想いが強い。
 こんな小デブがゲームキャプテンとか舐められてるんじゃなかろうか。
677 :第九部 :2011/08/20(土) 23:48
 ゲームの始まり。
 ジャンプボール。
 飯田がジャンパーで、後の四人は身長に合わせてマッチアップを捕まえる。
 今度こそ小陽、と思ったけれどジャンプボールに入ってきたのは同じくらい身長のある別の人間だった。
 だれなの? このまゆげ、と口に出さずに思う。

 小デブに藤本、小陽に里田、などなど。
 それぞれしっかり捕まえて、飯田は構えて、レフリーが入ってくる。
 ボールを投げた。

 ジャンプボールは飯田が勝った。
 藤本に落とす。
 石川はさっと走ったが、藤本はそこにパスを送るということはせず、ボールを持って待った。
 オフェンスは上がり、ディフェンスは付いていって。目の前には小デブ。

 奇襲なのかなんなのか、よく分からないメンバー構成なので、藤本はとりあえず様子を見た。
 ゾーンを組む様子はない。
 普通にマンツーマンで付いて来るようだ。
678 :第九部 :2011/08/20(土) 23:49
 バックコートにいたのでドリブル付いてフロンとコートに入る。
 自分のディフェンスは低く構えてやる気は見えるが、そんなに怖さは感じない。
 石川にフェイスでつくというようなこともなさそうだし、全体的にタイトということもなさそうだし普通だ。
 とりあえず、崩そうというような意思も無く柴田へボールを送る。

 柴田も戸惑っていた。
 ディフェンスに怖さがない。
 いつでも抜きされそうな。
 まあ、とてつもなく下手というようなことはないけれど、自分が問題にするレベルではないような印象だ。
 ただ、なにかあってもいやなので、いきなり勝負はしない。
 インサイド、小陽を背負った里田へ入れる。

 里田は他のメンバーとは感覚が違った。
 敦子じゃなかったけど小陽だった。
 どっちにしても十分怖い相手だ。
 様子見、なんてしていられる相手ではない。
 ローポストで小陽を背負って、自分のポイントを確保した。
 いきなり勝負をしようとしたが、背中からの圧力が強い。
 ボールを持った里田の方が押し出されずに堪えることしか出来ないような状態だ。
 外、柴田と入れ替わって降りてきた石川へボールを戻して自分はゴール裏を抜けて逆サイドへ切れて行く。
679 :第九部 :2011/08/20(土) 23:49
 受けた石川。
 麻友友じゃない。
 敦子でもない。
 だれだこいつは? の極みみたいな相手だが、余計なことは考えなかった。
 インサイドからボールが戻ってきて、前にはディフェンスが一人いて、中にいた里田はディフェンスをつれて逆サイドへ切れて行った。
 ためらい無く勝負。

 シュートフェイクを入れて右へドリブルを突く。
 エンドライン側、ディフェンスはあっさり抜きされた。
 ゴール下には小陽が里田を捨てて抑えに入ってきている。
 その脇を抜いて逆サイドの里田へという選択もあったが、石川は自分で勝負した。
 小陽が迫ってこれない位置でジャンプシュート。
 今日の一本目、しっかり決めた。

 立ち上がり、あっさりと点が取れてしまった。
 予想外のスタメンは、特に強力なディフェンス、ということではないらしい。
 じゃあ、やたらと得点力があるとか、運動量が多くて日本のスタメンクラスのスタミナを消耗させるとか、なにかあるんだろうか?
 なんなのだろう?
 そんな疑念をまだ持ちながらのディフェンス。
680 :第九部 :2011/08/20(土) 23:50
 CHNガード陣はゆっくりと持ち上がってきた。
 藤本、柴田、石川、アウトサイドはシュートを警戒しておく。
 なんだか分からない相手、というのは得てしてシューターなことが多い。
 タイトについてみる。
 そうすると力のあるプレイヤーならディフェンスが近いのを生かして鮮やかに一対一で抜き去って行ったりするものだが、それもなかった。

 外はボールが回るだけ。
 日本のガード陣は崩れない。
 CHNは単純な勝負をしてきた。
 インサイドで小陽。
 二十四秒がぎりぎりで、戻すという選択肢がなかった小陽は、ゴール下を抜けてきて振り向きながら受けたボールをそのままジャンプしてシュートを放つ。
 これは里田にも見え見え。
 そのブロックの上を越そうとしたシュートはリングにも当たらず向こう側に落ちて行くところで二十四秒オーバータイムのブザーがなる。
 落ちたボールは飯田がキャッチして、そのままゲーム続行。

 小陽プラス無名軍団は単なるこけおどし?
 そう思いながらも、まだ疑念が晴れきらない。
681 :第九部 :2011/08/20(土) 23:51
 日本チームはそういうおっかなびっくりさを全体がはらみながらのオフェンスだったが、一人、石川だけが細かいこと考えずに目の前の相手をそのままの姿と捉えてプレイしていた。
 五本あったオフェンスのうち三本、石川の単純な一対一で得点している。
 CHNは外の攻撃力がまるで無く、インサイド頼りだった。
 主に小陽。
 ただ、もう一人のセンターもそれなりに頑張っていた。
 小陽が里田とミドルレンジから勝負し、ゴール下まで入って飯田もカバーにひきつけて一対二にしてから逆サイドに捌いたボールをノーマークでジャンプシュートを決めている。

 そのあたりまで来て、これは怖がるべき相手ではないんだな、と全体が認識し始めた。
 早いパスである程度崩れた状態になってから、藤本がゴール下へパス一本、相手いた飯田が踏み込んで簡単なシュートを決める。
 あるいは里田がハイポストで背中に小陽、さらに外からのディフェンスも引きつけておいて、外の柴田に戻して、きれいなスリーポイント。
 さらには里田のミドルレンジのジャンプシュートが外れたところを飯田がリバウンドで拾って決めたゴールもあった。
 CHNはゴール下二枚でそれぞれ一本づつ決めて追いすがる。
682 :第九部 :2011/08/20(土) 23:51
 第一ピリオド六分過ぎ。
 13-6
 日本オフェンスで柴田のスリーポイントが外れて大きく跳ねたボール、リバウンドを取りに行った石川が、先に落下点に入っていた相手にあたる形になりファウルを取られる。
 時計が止まったこの場面で、藤本が石川と柴田を呼んだ。

 「なんかスタメン、変な奴らが出てきたけど、大したことないって認識で良いか?」
 「いいと思う」
 「全然、韓国のが怖かったよね」

 柴田も石川も、相手に怖さを感じていない。
 今の石川のファウルは無駄なファウルであって、相手がうまくてせざるを得なかったファウルというようなものではない。

 「よし。美貴、向こうのセンター陣は結構やるように見えてるんだけど、ガードはひどいと思うんだよね。だから、ここで一気に行きたい。前から当たろうと思うんだけど、二人は足動く?」
 「プレスであたるってこと?」
 「そう。ベンチからの指示が出てないからプレスとまではあれだけど、マンツーって言われてるからそれを拡大解釈してオールコートマンツーって感じで。でもきつめにやってボールを取りに行く」
 「いいねえ。乗った」
 「体力持つのか? 石川」
 「自分で提案しといて何言ってんのよ」
 「柴田は?」
 「私はばてたらいくらでも代わりがいるし。やるよ」
 「オッケー。一気に行こう」
683 :第九部 :2011/08/20(土) 23:52
 レフリーが戻ってくる。
 CHNエンドからの再開。
 藤本が小デブを捕まえる。
 これは試合開始直後から、割とオールコートでちょっかい出していたから、それがより近づいただけであまり違和感はない。
 そこに石川も加わる。
 さらに柴田はエンドのボールマンについた。

 観客席もざわつく。
 序盤からリードされて、観衆も不機嫌なのだ。
 そこに、こんな早い時間から前から当たられるというようなあまり見ない展開を見せられて、穏やかではない。

 日本ベンチでは信田が少し苦い顔をしていた。
 勝手なことを・・・、という想いがないではない。
 ただ、やめろ、と指示を出すことはしなかった。
 一気に行けるなら一気に行きたい。
 仕掛けてみるのは悪い手ではないとも思っている。
684 :第九部 :2011/08/20(土) 23:53
 エンドからのボール、一本目のパスはディフェンスから逃げながら受けたオフェンスがすっぽりコーナーにはまっていた。
 藤本の目論見通り。
 柴田もすっと寄って来て、二人でコーナーに追い詰める。
 苦し紛れに出そうとしたパスは柴田の手にあたり、こぼれたボールは柴田が自分で救い上げる。
 目の前には、こぼれ玉を拾いに来た相手だがエンドライン側にさっと避けてゴール下、ディフェンスを避けて向こう側まで手を伸ばしてバックシュートを決める。

 二本目も、と行きたいところだったが、そうは小陽が卸さない。
 ガード陣が捕まっているところ、受けに戻った小陽へ長いパスがエンドから通る。
 自分で持ちあがることはせず味方の上がりを待つ。
 これを無理に取りに行くような、追い詰められた状態でのプレスではないので、日本のガード陣は素直に戻る。
 CHNのセットオフェンスになって、最後は小陽がやや長めのジャンプシュートを決めた。

 日本のオフェンスは次は藤本が外から持ち込んでディフェンスに囲まれる寸前に捌いて、受けた里田のジャンプシュート。
 これでまた突き放して、前から当たる。
685 :第九部 :2011/08/20(土) 23:53
 今度はがっちり捕まえた。
 ガード陣の意図を理解した里田や飯田、小陽が戻って受けようとしてもそれが出来ないように対応している。
 CHNの上三人は、藤本、柴田、石川の壁を破る力がなかった。
 二本続けて止められる。
 二本目、奪ってからセットオフェンスの形になり、最終的に藤本がスリーポイントを決めて22-8になったところでCHNベンチがタイムアウトを取った。

 スタンドから野次が飛んでいた。
 日本に対するものというよりは、ふがいないCHNのメンバーたちへ対するものが主なようだ。
 ここまでの展開、力の違い、というようなものがはっきり現れている。
 勝っているときの声援もすごいが、こういう展開の時の罵声もなかなかすごいものだ。
686 :第九部 :2011/08/20(土) 23:54
 「おお、こわいこわい。アウェーだね」
 「ていう感じじゃないけど」
 「藤本、一言ベンチになんかあるだろ」
 「マンツーっていうから普通にオールコートマンツーしただけですよ」
 「下手な言い訳するな」

 柴田と談笑しながら戻ってきた藤本に、信田が小言をいう。

 「一気に勝負してみようっていう判断は悪くなかった。結果も良かった。まあ今回は事後承諾で許すけど、あんまり勝手はつづけるなよな。小陽にパス通った場面なんか、チーム全体で意思統一出来てれば抑えられたかもしれないんだから。思いついたら言え。そんなに否定はしないから」
 「すいません」

 前三人の判断で動いたから、里田はそれに対応した動きが出来なかった、というのがあの場面だ。
 それは言うとおりだったとは藤本も思っている。
687 :第九部 :2011/08/20(土) 23:55
 「メンバー変わらないようなら第一ピリオド終わるまで続けてみろ。結構効いてるから」
 「はい」
 「里田、今日の小陽は外からも勝負してくるみたいだから対応しろよ」
 「はい」
 「外から勝負は抑えに行っていいから。打たせてもいいっていう選択じゃなくて抑えに行く。後ろは飯田がカバー。底通り越してゴール下で逆サイドに繋いでくるようなら、上からローテーションで下りてきてつぶすこと。上三人は雑魚だから、とにかくインサイド二人ケアな」

 信田からの指示はこの辺までだった。
 あまり言うべきこともない。

 タオルを汗で拭きながら柴田が言った。

 「結局、なんであのスタメンなのかな?」

 誰もが首をひねる。
 何か狙いがあったにしては何も見えない。
 タイムアウトの終わりを告げるブザーがなったところで藤本が言った。

 「じゃんけんとかじゃね?」

 そんな理由でもなければ、スタメンには顔を連ねないような力量にしか感じられなかった。

 コートに戻る。
 藤本はもう一言言った。

 「ボーナスステージは終わりらしい」

 頭にリボンをつけた女が、藤本を待ち構えていた。
688 :tama :2011/08/21(日) 14:06
最初、小デブって誰だ?と思ったけど最後まで来てやっと分かった・・・
じゃんけんまでストーリーに盛り込むとは、おみそれしました。
689 :作者 :2011/08/27(土) 23:58
>tama
ちょっと入れてみたかったんです
反省はしていない
690 :第九部 :2011/08/27(土) 23:58
 藤本、柴田、石川。
 一度三人集まる。
 相手の上三人は丸々替わっていた。

 「やっと真打登場ってことか」
 「まだ本当の真打は出てきてないみたいだけど」
 「確認するぞ。美貴がリボンで石川がCG 柴田が」
 「しぶや女?」
 「柴田も言うようになったな」
 「バカ話してる場合じゃないよ。前からあたるのは終わり?」
 「だな」

 高南、麻友友が入ってきた。
 それぞれ藤本と石川がマークに付く。
 もう一人は友朕という選手。
 十分に主力急で事前情報も確認している。
 そこは柴田があたる。

 「ここからが本番だな」
 「関係ないよ。誰が出てきても」

 ガード陣だけでなくセンターも替わっていた。
 麻里子様が入ってきている。
 当然、飯田がマッチアップ。
 CHNは、高南、友朕、麻友友、小陽、麻里子様という布陣になった。
691 :第九部 :2011/08/27(土) 23:58
 第一ピリオドは残り二分弱。
 主力級が入ってきて、一気に試合を決めるというような展開は難しいだろうと考えられる情勢になってきた今、日本代表としては一気に流れをひっくり返される、ということだけは起こさないようにしたい。
 五分と五分、膠着状態にして今の点差のままいければ御の字だ。

 友朕が入れたボールを高南が運ぶ。
 藤本はちょっかいは出さない程度に素直に付かず離れずついている。
 フロントコートまで上がって高南は麻友友へボールを落とす。
 麻友友は右零度で開いた小陽へ。
 小陽は勝負の気配を見せたが動かない。
 トップから友朕が飛び込んでくる。
 柴田がコースに入って抑えている。
 小陽は上へ戻して高南へ。
 高南はすぐに反対サイドの麻友友へ送る。
 受けた麻友友はシュートの構えをしたところを石川が抑えに掛かる。
 シュートは打てなかったが、石川の小脇をバウンドパスで抜いた。
 ゴール下に入り込んできた小陽へ。
 里田は追いすがるが、そのままシュートを決めた。

 全体でしっかり繋いでの得点。
 さっきまでのメンバーとは違い、きちんとパスが?がる。
 繋いで動いて動かしてスペース作ってフリー作ってシュートまで持って行ける。
692 :第九部 :2011/08/27(土) 23:58
 ディフェンスも堅くなっていた。
 さっきまでの調子ではパスも回せない。
 同じペースで動いていると簡単に捕まる。
 開いた、と思って柴田がメンバーチェンジ前の感覚でジャンプシュートを放ったら、あっさりと友朕のブロックにはまった。
 ルーズボール。
 藤本も追ったが、リボンの乱れも気にせずに高南が飛び込んでさらう。
 倒れたまま高南はボールを投げた。
 走っているのは麻友友。
 左のサイドライン際に飛ばされたボールを確保すると、ゴールサイドに石川が入ってくる。
 一対一。
 抜きに掛かって止まってまた抜きに掛かる。
 チェンジオブペースでも石川は振り切れなかったが、もう一度止まって今度はジャンプ。
 やや距離のあるジャンプシュートを石川は見送る。
 シュートは正確に決まった。
 石川がしてやられた形だが、相手の速攻で比較的難しいシュートを選択させた、というのは悪くない。

 相手のレベルが一気に上がり、日本代表にやや戸惑いが見られる。
 さっきまでと同じリズムでプレイしていると対処しきれない。
 ただ、その中で一人だけ相手のレベルがというか相手そのものが替わっていなかった里田が、次のオフェンスでさっきまでと同じように勝負して今度は決めて一本押し返す。
 しかし、CHNは第一ピリオド最後となったオフェンスで高南がスリーポイントを決めて差を縮めてきた。

 第一ピリオドは24-15
 一桁点差に戻されて終わる。
693 :第九部 :2011/08/27(土) 23:59
 第二ピリオド、日本代表はメンバーを代える。
 柴田のところに松浦、飯田には村田。
 CHNはそのままのメンバーで入ってくる。

 メンバーが替わってから、第一ピリオドはすべてのオフェンスでシュートを決めてきたCHN
 第二ピリオドはさすがに日本ディフェンスも対応してきて、そこまで圧倒はされないが、それでもじりじりと詰めてくる。

 日本代表のメンバーが替わって力を発揮したのが麻里子様。
 しっかりとリバウンドを取って、日本代表のオフェンスを切り、CHNのオフェンスはリスタートさせてチャンスを増やしている。
 高南も全体をよく引っ張っていた。
 自分単独で勝負しようとすると、藤本に封じられたり、勝手に滑ったりと今ひとつなところを見せることもあるが、周りの動かし方は極めてうまく、周りから戻ってくるボールの扱いもうまく、そういうときにはスリーポイントをきれいに決めたりも出来る。
694 :第九部 :2011/08/28(日) 00:00
 日本代表は松浦が頑張っていた。
 ここは一対一で打開している。
 友朕と松浦だと、身長差もあり単独で個人を抜き出すと松浦が一枚上なようだ。
 全体の連動で考えるとわからないが、この二人の勝負の相性では松浦が上回っている。
 友朕がムキになって一対一で勝負してきて、松浦がチャージングをもらう、というような場面もあった。

 石川と麻友友のところは、やや石川が押し気味というところか。
 麻友友のプログラムで作られたような精確さを、石川の予想出来ない奔放さで振り回しているというやりとりだ。
 チームのエース格で比較的ボールが集まる石川と、特にそういうわけではない麻友友の差が出ている、という部分もある。

 第二ピリオド、五分過ぎ、34-32 二点差まで迫られたところで日本代表が先にタイムアウトを取った。
695 :第九部 :2011/08/28(日) 00:00
 信田コーチはまずメンバーチェンジを告げた。
 休ませていた飯田を戻す。さらに里田から後藤へ。
 里田も小陽相手に今日の出来は悪くはなさそうだが、信田コーチは休ませるためなのか変化が必要だと考えたのか、後藤を投入する。
 それからリバウンドへの意識を高くすること、オフェンスディフェンスの切り替え早く、ということを求めた。

 「福ちゃん、行ってきます」
 「リバウンドもありますけど、オフェンスだと外から勝負で後藤さんならいけると思います」
 「外からか。わかった、やってみる」

 コートに入って行く前に、後藤は福田に声をかけた。
 福田のために、とはさすがにこの場では言わない。
 ここ二試合のように、怖さが先にたつばかりではない。

 「気合入れていけよ」

 平家が言った。
 平家さんの弔い合戦。
 いや、弔っちゃいけない、敵討ちだ。
 仇じゃないんだけど。
 細かいことはどうでもいいってキャプテンも言ってたし。

 コートに立つ限り、他の人のに替わって欲しい、なんて思っちゃいけないのだ。
 自分が頑張ることで、喜んでくれる人がいるのだから。
696 :第九部 :2011/08/28(日) 00:00
 「九番」

 マークの確認。
 後藤のマッチアップは小陽。
 身長はわずかに向こうの方が高いだろうか。
 外から勝負でいけるはず。
 福田の言葉を頭の中で反芻した。
 後藤は、そういうところは結構人のいうことを素直にそのまま聞く。
 信頼できる人の言葉なら、という条件付であるが。
 後藤にとって福田は、信頼できる人、の範疇に入っている。

 外から勝負、と後藤が思っても、周りの状況がすぐにはそれを許さないことも当然あった。
 次のオフェンス、後藤までボールは回ってこず、早いタイミングで松浦がスリーポイントを放った。
 リング根元に当たって小さく跳ねたボール、麻里子様がリバウンドを拾う。

 ディフェンス。
 後藤は外からの突破なら止められると自信を持っていたとしても、主導権はオフェンス側にある。
 替わって入ってきた後藤の力を試したいのか、CHNは単純に小陽で勝負してきた。
 小陽が選んだのはインサイド勝負。
 ゴール下まで体をねじ込んで簡単なシュートにしたい、という動きであるが後藤はそれにしっかり対処した。
 シュートをブロック、とまでは行かなかったが、無理な体勢からのシュートにさせることが出来た。
 リバウンド、後藤が自分で拾う。
697 :第九部 :2011/08/28(日) 00:01
 「スタート!」

 藤本の声。
 後藤はすばやく反応してパスを送る。
 受けた藤本、中央へ入ってきた松浦へ。
 ボールを受けに動いた松浦のさらに前に、ひたすらゴールにむけて走った石川がいたので素直にボールを送った。
 石川はフリーではなく麻友友がついている。
 しかし、コースを抑えることは出来ず、並走の形。
 振り切ることは出来なかったが抑えられることも無く、ゴール下まで駆け込んで、ブロックしようとする手を避けながらスナップ効かせてシュートを決めた。

 セットオフェンスの中での地味な二点よりも、速攻での二点は流れに影響を与えやすい。
 じりじり迫ってきてもうすぐひっくり返る、という空気になっていたのを押しとどめる。

 CHNは麻里子様がゴールから少しはなれた場所からのジャンプシュートを外す。
 リバウンドを後藤が拾って、日本代表のオフェンス。
 切れ込んで行った松浦が零度に開いた石川にパスを捌こうとして麻友友にカットされる。
 そこからのCHNの速攻、友朕、高南との二対一になったが藤本が友朕のレイアップを叩き飛ばして難なきを得る。
 しかし、エンドからのCHNのオフェンスは、石川が裏を取られて麻友友にゴール下でシュートを決められた。
698 :第九部 :2011/08/28(日) 00:01
 ここまで数分、思い通りに外から勝負という場面はなかったが、後藤はやれるという感覚は持っていた。
 小陽くらいなら、今の自分で十分対処できる。
 相手が下手と感じてるわけではないのだけど、相性の問題なのだろうか。

 ようやくイメージ通りのプレイが出来たのは次のオフェンスだった。
 松浦が変化をつけてインサイドに入って友朕とやりあおうとしている。
 入れ替わるように、後藤が外に出た。
 そこに藤本からボールが降りてくる。
 外に出ながら受けるボールだけど、左足をつっかえ棒に重心はゴールの側に向ける。
 迫ってきた小陽と入れ替わるようにドリブルで切れ込んで行く。
 エンドライン側に小陽を抜き去った。
 ゴール下、松浦は向こう側に捌けたが友朕がカバーに入ってくる。
 気にしなかった。
 小陽は左側にひきづった状態、前に友朕。
 それでもゴール下まで進む。
 後藤が飛べば友朕では届かない。
 ボードに当てて、きっちりとシュートを決めた。

 ディフェンスに戻りながら、後藤はベンチに向けて親指を突き上げてサムアップのポーズをしてみせる。
 福田がそれに同じポーズをして答えた。
699 :第九部 :2011/08/28(日) 00:01
 CHNオフェンス。
 やられたらやり返せなのか、小陽で勝負。
 これを後藤がブロックショットで弾き飛ばした。
 こぼれたボールは高南に拾われそのままジャンプシュートを決められたが、ブロックそのものは完璧だった。

 また二点差。
 少なくともリードして前半を終わりたい日本代表、追いついて終わりたいCHN
 日本代表は時間を掛けたオフェンスになった。
 時間を掛けさせられたのではなく、意図的に時間を掛けた。
 時間を消費して、CHNのオフェンスの回数を減らしたい。
 それでも、ただ消費して終わりではなくて、当然最後はシュートまで持って行って得点を奪うことが理想だった。
 後藤がゴール下を抜けて逆サイドへ出てくる。
 ボールは上にいる藤本が持っている。
 たまたま、さっきと同じシチュエーションになった。
 二十四秒計は残り五秒。
 外に開きながら後藤はボールを受ける。
 同じ展開が小陽の頭には浮かんだようだ。
 ついてこないで少しはなれて構える。
 後藤は、同じ動きにこだわらず、今の状況にしっかり対処した。
 シュートクロックはほとんどなくて、ディフェンスは身構えて待っている。
 頭で考えたわけではないが、瞬間的に判断した。
 ボールを受けてジャンプ。
 虚を突かれた形になったのか、小陽は慌ててブロックに飛んだ。
 遅い、間に合わない。
 外に開いてボールを受けてのジャンプシュート、後藤の得意なプレイ。
 きれいな弧を描いたボールはネットに吸い込まれる。
 ブロックに飛んだ小陽の体は流れていて後藤に接触する形になった。
 笛がなる。
700 :第九部 :2011/08/28(日) 00:02
 バスケットカウントワンスロー。
 ただし、レフリーのジェスチャーは、今のシュートは二点、ということを示していた。
 後藤はわずかにスリーポイントラインを踏んでいたようだ。
 そして、オフィシャルのブザーが鳴った。

 CHNがメンバーチェンジ。
 ここまでスタートから引っ張ってきた小陽を下げる。
 代わりに由麒麟が入ってきた。
 今大会に入って急激に評価を上げてきている要注意人物だ。

 後藤のフリースロー。
 フリースローレーンに後藤が入り、リバウンドポジションにそれぞれのメンバーが入る。
 その中でマークの確認。
 そのままでいいよね、というやり取りがあって日本代表は小陽についていた後藤が由麒麟につくことになる。
 一方、CHNは一悶着。
 リバウンドポジションにいる由麒麟が隣の石川のマッチアップを主張する。
 石川を挟んでもう一つ上にいる麻友友が、身長合わないだろ、とばかりにあっちあっち、と後藤の方を指差す。
 あまりにも当たり前のような顔をして由麒麟が石川のマッチアップを主張するので、指示が出ているのかと麻友友がベンチに確認すると、そんなわけないだろ、という返しがあった。
 不満げな由麒麟。
 なぜか石川に手を差し伸べる。
 戸惑った顔しながらも、県大会くらいではそんな握手サービスをすることもないではない石川はそれに答えた。
 なにやってる、と麻友友がもう一言言うと、由麒麟は分かった分かった、とばかりに、後藤の付ける10番をコールした。
701 :第九部 :2011/08/28(日) 00:02
 なんだかなあ、と思いながらの待ちを入れられてからの後藤のワンショット。
 リング手前に一度当たったが、内側に落ちて行った。
 日本代表五点リード。

 第二ピリオド、残り時間は二十五秒。
 前半最後の攻防。
 持ち上がった高南がなにやら大きな声を上げる。
 中国語なので日本のメンバーには分からないが、ナンバープレイなどのサインではなく、気合系の意味合いなもののようだ。
 時間をぎりぎりまで使ってシュートまで持って行く。
 その意思があることは試合経験を積めば頭では分かりきっている状況であるが、CHNの各選手は常に攻め気を見せてくるので、隙を作ったら打たれる、という怖さから逃れられないままのディフェンスになる。
 そんな中での一瞬だった。
 四十五度の位置から高南がすっと早いパスを出した。
 藤本の顔の横、反応できずに飛んで行く。
 飛んだ先は逆サイドから由麒麟がゴール下へ走りこんでいた。
 マッチアップの後藤、由麒麟の動きは追えていたが、ボールの位置を掴めていなかった。
 あっと思ったところでゴール下、飛んだ由麒麟が空中でボールを受けてそのままシュート。
 後藤は条件反射で止めに行ってしまった。
 状況としては手遅れ。
 どう手を出そうとどうにもならない。
 ゴールが決まって笛が鳴って、バスケットカウントワンスロー。
 はっきりと、無駄なファウルだった。

 代わったばかりの由麒麟の三点プレイ。
 フリースローもしっかり決めて、残り四秒、日本代表はボールを持ちあがる途中で藤本がゴールに向かってボールを投げたところで前半終了のブザーがなる。
 投げたボールがバックボードに当たり、跳ね返ってリングにもあたったので観衆はどよめいたが、どよめかせただけでボールは外に弾かれ、得点にはならなかった。

 前半終了 41-39 日本代表の二点リード
702 :第九部 :2011/09/04(日) 00:24
 「ごめん」

 ハーフタイム、ロッカーまで下がると後藤が言った。
 誰にとも無く。

 「気にすることないって」

 藤本が軽く答える。

 「まだ二点リード。全然問題なし」
 「いや、あれは後藤のミスだった。だから、ごめん」
 「一々凹まなくていいって。次ぎ取り返せば」

 藤本は、ガラにも無く気を使っていた。
 この半年あまり、キャプテンをやっていて少し学んだことだ。
 グループリーグでの後藤の姿も頭にある。
 とにかく落ち込ませてはいけない。

 「大丈夫落ち込んでるわけじゃない。でもあれは後藤のミスだった。相手代わったばっかりで集中してなかった。この子なんなんだ? って気になってそっちばかり見てボール追えてなかった。だから後藤のミス。ごめんなさい。でももうしない」

 後藤は淡々とそう言った。
 さっき起きた出来事の事実認識とそれに対する反省に詫び。
 感情の問題ではなかった。
703 :第九部 :2011/09/04(日) 00:24
 「メンバー替わってからは一気にレベル上がったよね」

 柴田が言った。

 「たいしたことないよ」
 「そう言いながら結構やられてたでしょ梨華ちゃんも」
 「あれくらいはやってくれないと面白くないでしょ。別に驚くほどじゃない」
 「私の相手も大したことなかったですよ」
 「何生意気言ってるんだよ」
 「だって、大したことなかったんですもん。あれくらい日本にだっていくらでもいますよ。それこそ白美記たんのが全然上。あんなのCHNの看板背負ってるからすごく見えるだけの見掛け倒しです。周りとのつなぎとか考えるとちょっとありますけど、でも、ソロの能力取り出したら全然大したことないですよ」

 出場最年少の松浦の感想。
 友朕にまったく怖さは感じなかったようである。
704 :第九部 :2011/09/04(日) 00:25
 「まあ、でも、確かにそんな感じもちょっとあったかも。リボン女も言うほどすごくはなかったかな」
 「一人で生きるタイプじゃないよね。ガードだから当たり前なんだけど」
 「うん。でも、気合はすげーな。美貴、結構ああいうタイプは好きだな」
 「そういいつつ大分パス捌かれてたでしょ」
 「好きってそういう意味じゃなくて。まあ、いいけど。なんか、周りを使うっていうか、動かすっていうのかな。その力は確かにあると思う」

 藤本は一対一で負けているという場面はそれほどなかったはずなのだが、ゲームコントロールはなんとなくされているという第二ピリオドだった。

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