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ファーストブレイク 6th period

1 :みや :2010/07/24(土) 16:24
これのつづき

ttp://m-seek.net/kako/sky/1099835648.html
ttp://m-seek.net/kako/water/1136560613.html
ttp://m-seek.net/kako/water/1168701115.html
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ttp://m-seek.net/test/read.cgi/water/1238858084/

高校生がバスケする話
吉澤とか石川とか藤本がそれぞれの学校で中心ぽくいて、周りにいろいろな人もいます。
その他の学校も出てくるし、学校の枠組みを超えることもいろいろとあります。

更新は基本週一 土曜日午後(ただし0時過ぎてカレンダー的には日曜日になることもある)

全十部予定で、このスレッドは第九部開始時点、となります。
ご新規さんは、ここを単独で読んでみて、面白いと思ったら初期に遡って読めばいいと思います。

よろしくお願いします。
2 :第九部 :2010/07/24(土) 16:25
 「分かるような分からないような人選だね」
 「なにそれ」
 「選ばれるべき人間はちゃんといるような気はするけど、なんでこの子? っていうのや、もっと行くと、この子誰? ってのも混じってるし」

 信田が見せたノートに並ぶ名前を指差して小湊は言った。

 「目的は一つじゃないからさ」
 「一つじゃないって?」
 「勝つだけが目的じゃないでしょ、こういう場合」
 「何が目的なの?」
 「まず、勝つこと。そして、もう一つは育成すること」
 「まあ、一理あると思うけど、でも、そんな悠長なこと言ってられるの?」
 「簡単じゃないのは分かってる。でも、必要なことでしょ。長い目で見て考えれば。それに、この年頃の子は一週間あれば変わるのよ」
 「それに期待してるのがこの中に何人かいるわけだ」
 「まあね。もう一段階選抜するわけだし」
 「私はただのアシスタントだから、メンバーに文句はつけないよ。ただ呼ばれたメンバーを相手にするだけだから」
 「大会期間中に成績不振で私が解任されたりするかもよ」
 「サッカーでもないんだから、無い無い」
 「でも、アシスタントが気づいたら監督になってるってことはあるから」

 信田はそう言ってふーっとため息を大きく一つ吐く。

 「まあ、いいや。信田ヘッドコーチ殿の手腕を得と拝見させていただきましょう」
 「私にとっても新たなスタートだからね」

 信田はノートを閉じて言った。

 「まずは一週間、生き残りをかけて戦ってもらいましょう」
3 :第九部 :2010/07/24(土) 16:26
 宿舎は別にあるが、初日はまず直接体育館に荷物も持ったまま集められた。
 集まったのは高校生を中心とした二十四人。
 19歳以下のメンバーたちだ。
 先にメンバーたちが集まっている中、最後に時間ぴったりに信田と小湊が体育館に現れた。
 世界のトップから、初めてバスケをする小学生まで、開始時間に監督が現れれば、その前に全員集合するのはどこへ行っても変わらない光景である。
 この手の集まりに慣れている者いない者。
 それぞれ、最初の信田の言葉を待った。

 「今日から、長い人は三週間、短い人は一週間で終わりだけど、よろしくお願いします、監督の信田です」

 全体を見渡す。
 やはり自然と、同じチームのメンバーというのは固まってるものだな、と信田は思った。

 「今回のチームとしての目標は一つ。来年のU-20の世界選手権の出場権を取ること。これだけだから。ただ、みんなはそれぞれね、個別に目標を持つことになると思う。メンバーに残ることだったり、試合に出ることだったり、まあ、それぞれかな。長期的には、ここを踏み台にして、年齢別じゃなくて、フル代表にも入って行って欲しいと思う。たぶん、ここに入ってくるメンバーは、大体お互い顔くらいは知ってるだろうけど、ちょっと年離れちゃうと分からない部分もあると思う。大学生、社会人から中学生までいるからね。というわけで、今日は一日かけて全員に自己紹介をしてもらおうと思ってます」

 なんだ? 一日かけて自己紹介って? とメンバーの顔には書いてあって、互いに顔を見合わせている一団もいる。
4 :第九部 :2010/07/24(土) 16:26
 「はい、じゃあ、まず、一列に並んで。背の順」

 スポーツの指導者がよくやるように、指示の直後に信田は二回、手を叩いた。

 戸惑いながら、監督の指示なので集められたメンバーたちは周りを見ながら動いて行く。
 背の順。
 見回したそれぞれの視線を集めたのは飯田。
 飯田はそのまま黙って立っていたので、センターっぽい人間が飯田の近くに集まり始め、自分はガードだ、と言う認識のある人間は遠ざかって行く。

 「身長は自己申告じゃなくて、きわどいところは並んで比べろよ。どうせみんな、登録身長はさば読んでるんだから」

 どういうわけか、登録身長というのは、159cmや169cmや179cmは少なくて、161cmや171cmや182cmみたいな、0をちょっと超えたところの数が多いもの。
 バスケはそういうスポーツだし、人の心理というのもそういうものなのだろう。

 飯田を基点に一つの流れが出来る。
 その反対側、小さい集団からは、矢口を基点にした別の流れが出来た。
 小さいものは小さい同士、大きいものは大きい同士、背中合わせに身長比べて、周りが判定していたりする。
 初対面なこともあるメンバーたちのそんな光景が、小湊からはほほえましく見える。
5 :第九部 :2010/07/24(土) 16:27
 「大体、納得行った? じゃあ、はい、ここ。ここ、ここ。で、ここ、そしてここ。四人づつ分かれてじゃんけんしろ。勝った方から一、二、三、四な」

 二十四人を六つのグループに分けてじゃんけんをさせた。
 え? なに? 最初はグー? 普通? 子供みたいな会話をそこかしこしている。

「一はここ。二はこっち。三はその辺、四はじゃああっちで。集まって」

 背の順に並べられただけのところでは、自己紹介で歌でも歌わされるの? と思ったメンバーもいたが、じゃんけんで四つの組に分けられるあたりで、何をするのかはなんとなく皆理解した。
 背の順四番目グループが、異様に長いあいこを繰り返していたが、それも終わって四つのグループが出来上がる。
6 :第九部 :2010/07/24(土) 16:27
 「各チーム六人いるね。今日の予定を発表します。四チーム総当たりのリーグ戦をします。順番は1-2 3-4 1-3 2-4 1-4 2-3  各チーム三試合で合計六試合になるはず。連荘は不利とかあるけど、細かいことは気にするな。ルールは八分ハーフで個人ファウルは気にしない。フォーファウルは取る。各ハーフでタイムアウト一回づつ可。六人いるけど、各試合で全員出ること。あと、全員一度は休むこと。ハーフタイムは二分間。メンバーチェンジはそのハーフタイムの時だけね。それで、ディフェンスは、それぞれ自分のチームでいろいろあるだろうけど、今日は、ハーフコートはマンツーマンにすること。ガードが前から当たるとかは好きにやればいい。どっちでもいい。あと、後半、前からオールコートなんてもの好きにやればいい。ただ、ゾーンは禁止。マンツーマンでやること。どうせ初日で、連携がどうのとか無理なんだから、一対一多用でもいいです。自分はこういう人です、という自己紹介を、私に、周りのメンバーに見せてください。開始は一時間後。アップは各チームでそれぞれ済ませる。あと、一時間後の開始の時点で、一応、それぞれゲームキャプテンだけ決めといて。じゃあ、あとは任せます。解散」
7 :第九部 :2010/07/24(土) 16:27
 信田はそう言って場を離れる。
 任せるって言われたって、という感じで戸惑った集団が四つ。
 知り合い多い組みもあれば、互いに初対面だらけ組みもある。
 ただ、初対面でも、やはりここは信田が言った様に、なんとなく互いの顔くらいは知っているというレベルである。
 そうすると、この人大学生、この人高三、などのヒエラルキーは見えるので、自然と年長者が仕切る形になった。

 大学生は自分がその輪の中の最年長だ、ということを考えなくても分かっている。

 「ばらばらもいいところね」

 最初に口を開くべきは自分かな、という風に感じた村田が言った。

 「チームも年齢もばらばらっすね」
 「うちが一番若か」
 「中学生三人ですもんね」
 「三人?」
 「私と、みっちーと田中っち」
 「中学生じゃなか!」

 中学生扱いされた田中が軽く切れる。
8 :第九部 :2010/07/24(土) 16:28
 「村田さん、センターでいいんですよね」
 「うん」
 「キミたちポジションは?」
 「小春は点取り屋です」
 「そんなポジションはなか」

 自分を中学生扱いした久住に対して、田中はまだつんつんしている。
 学年は一つ違いの二人。
 去年まで中学生だった田中は、当然、その中学生の枠組みのなかで久住のことは知っている。

 「みっつぃーはガードだよね」

 久住は田中を相手にしていない。

 「点も取れますよ」
 「取れるにしても、基本ガードなんでしょ? なんか、上と下だけで真ん中がいないなあ」
 「大丈夫。小春に全部任せてくれれば、全部点取りますから」
 「ははは。若いっていいね」

 高三以上の世代は、中学三年生の久住や光井のプレイはまったく知らない。
 口だけなのか、本当にそれが可能なのか、判断はまったく付かない。

 「とりあえずアップします?」
 「そうだね。ゲームどうするかはあとで考えよう」

 よくしゃべる中学生を中心にアップを始めた。

 チーム1 村田 吉澤 みうな 田中 久住 光井
9 :第九部 :2010/07/24(土) 16:28
 「もうちょっと公平に分かれるもんだと思ったけどなあ」
 「最初からこっちでチーム分けした方が良かったんじゃないの?」
 「それだと変な意図が伝わりそうだから、自然に任せたつもりなんだけど」

 信田、小湊、首脳陣はコート脇で壁に寄りかかって座っている。
 それぞれの輪を眺めている。

 「やる前からチーム2最強って感じ」
 「穴がないねあそこだけ」
 「六人とも大会メンバーに普通に入りそうだもんね」
 「下手するとそのままスタメンってことにもなりかねない」
 「スタメンも、もう、頭の中にあるの?」
 「チーム作る時間がそんなにないからね。富岡のスタイルをベースにして、ガード、センター、駒は代えるにしても、あとは足し引きでやっていこうとは思ってるよ」
10 :第九部 :2010/07/24(土) 16:29
 「富岡ベースなんだ」
 「あれが一番オーソドックスでベースにするにはいい。滝川のスタイルなんか他のチームには出来ないし、中村学院だと特殊すぎるし。このチームはやっぱり高校生が中心のチームだから、その優勝チームのスタイルをベースにっていうのが一番自然だと思ってる」
 「その足し引きの一つが、石川さんと是永さんってこと?」
 「そうなるかもしれないしならないかもしれない。ただ、そこは足し引きするにしても、四番じゃなくて三番になるけどね」
 「本来あの二人はそっちの方が生きるよね」
 「海外に出たら四番やるには身長足りないでしょ、あの二人だと」
 「いずれにしても、チーム2はベースになる形になるかもしれないってこと?」
 「一つのね。一つの。やってみなきゃわかんないよ。この間言ったでしょ。この年代は一週間あれば伸びちゃうかもしれないって」

 チーム2 飯田 藤本 里田 是永 柴田 高橋
11 :第九部 :2010/07/24(土) 16:29
 「センター多くないっすか?」
 「私、大学入ってからフォワードもやるようになったから大丈夫だよ」
 「あたし、五番以外やだよ。ていうかできないし」
 「そういう、ポジションの適正とか、幅とかも見られてるんじゃないですか?」
 「福田さん、二番三番出来るの?」
 「このメンバーで、私が二番三番やる必要あると思います? 私よりも石川さんが二番やらされる可能性のが高いですよ」

 ヤンキーあり、つんつんあり、キャラ的幅が広めなチーム3である。

 「キミ、名前なんだっけ?」
 「亀井、亀井絵里です」
 「聖督の子ですよ。一年生だよね?」
 「はい」
 「石川は相変わらず、年下見ると仕切りたがるんだな」
 「いいじゃないですか。平家さん分かってないみたいだから解説くらいしたって」
 「つーかさあ、先輩後輩なつかしのご対面やってないで、アップ行かないんすか?」

 チーム3 平家 石川 あやか 木下 福田 亀井
12 :第九部 :2010/07/24(土) 16:30
 「あの一番小さい子は誰なの?」
 「資料で見せたでしょ」
 「いや、所属なし(東京聖督大付属高校コーチ)、って意味わかんないから。現役じゃないってことでしょ?」
 「たぶん」
 「たぶんて。なんで呼んだのよ?」
 「面白いかなと思って」
 「面白いって、意味わかんないんだけど」
 「カンフル剤的な刺激になるかなと思って。力的にはそれほど目立ったわけじゃないし、そのうえ、今はまともにやってないみたいだからちょっと落ちるんじゃないかとは思ってるけど」
 「信田コーチ様の考えてることはよく分かりませんなホントに」
 「あの子に限らないけど、多様性が欲しかったのよ」
 「多様性?」
 「チーム内の競争っていう意味でも多様なタイプがいた方がいいし、それに、海外と試合するんだから、いろんな、日本じゃ見ないタイプの相手も出てくるわけよ。そういうカルチャーショックをいきなり試合で受けるよりも、選抜の練習の中で、まず、ワンクッション、いろんなタイプがいるんだなってのを感じさせた方がいいと思ってさ。プレイヤーのなかにコーチ的視点を持った人間がいるっていうのも一つの多様性だし、あと、あの子口が立つらしいから、そういうところもぜひ発揮してもらえたらいいんじゃないかな。あの子自身のためにも、こういう経験積むのは悪いことじゃないと思うし」
 「でも、大学でやってない人間に将来も何もないんじゃないの?」
 「同業者になる可能性が高いと思うよ」
 「コーチってこと?」
 「うん。まあ、そんなところまで私が責任持つところじゃないけど」
13 :第九部 :2010/07/24(土) 16:30
 呼ばれた矢口自身が、意味わかんないんだけど、と今回の選抜を思っていた。
 選抜メンバーは、紙一枚電話一本で呼ばれたのであって、これこれこういう理由で期待しているのであなたを選抜チームに選びました、というような解説はない。
 この合宿期間中に、一人一人面談の機会を持とうかと信田は思っているが、この段階では矢口に限らず、え? なんで自分が? と感じているメンバーが他にもいる。

 「チーム4は期待枠っていう感じのが集まってるなあ」
 「21世紀枠かよ」
 「いや、そうじゃなくて。伸び代たくさんで、まだまだ無駄が多い連中が多い。ちゃんとした指導者に付けばって思う子や、指導者はちゃんとしてるけど本人がまだガキっていう感じのがかなりあの中に集まってる」
 「育成が云々って言ってたね」
 「一週間で変われるかは分からないけど、少なくともそのきっかけは与えたいんだよね」

 チーム4 矢口 麻美 松浦 後藤 道重 スザンヌ
14 :第九部 :2010/07/24(土) 16:31
 一時間かけてのアップは、各コートに散らばって好き勝手にやらせた。
 好き勝手にやらせることによって、自然とリーダーが決まる。
 リーダーがいないと、ランニングもパスもシュートも、始まらないし終わって次へも移行できない。
 最初に集まったときは、なんとなく大学生が一番最初に仕切るべきかな、という空気だったのが、実際に動き出すと大学生を脇に置き、高三生がチームキャプテン風に振舞うところもある。

 チーム1は吉澤が仕切っていた。
 全員チームが違う、というばらばら感があり、また、村田、吉澤という年長者からみると中学三年生の二人は未知の生物だし、みうな、田中にしても、顔は知ってるけどまともに会話をしたことがない、という相手だ。
 いつのまにか村田ではなく吉澤が仕切る形になっていた。

 チーム2は普通に最年長の飯田が引っ張る。
 最年少でも高2という、今回集まったメンバーの中では比較的大人のチーム。
 実力的にも高いレベルが揃っているので、この世界の中の有名人ばかりで全員顔はよく知っている。
 四人の高三生が、自然と飯田を仰ぎ見る形になり、飯田が仕切っていた。

 チーム3も大学生平家がキャプテン役に自然と納まっている。
 石川の力量は周りの誰もが認めるところだ。
 その石川は、無条件に平家先輩を立てる。
 平家が全体を仕切るしかない。

 チーム4は矢口が、おいらじゃないだろ、と渋ったため、リーダー不在でだらだら動く、という感じになった。
 じゃあ、私が、という感覚は後藤にはないし、スザンヌも上に立つタイプではない。
 松浦当たりは上に立ちたがりではあるが、高校二年生でこのわけの分からないメンバーをいきなり仕切り出すということはさすがにしない。
 未知の世界では最初は猫をかぶっておく、というスタイルである。
15 :第九部 :2010/07/24(土) 16:31
 「よーし、一時間経った。チーム1,2集合」

 信田が笛を鳴らして集めた。

 「チーム3,4も話しだけ聞いて。ルール追加。ルールと言うか商品だね。商品つけます。優勝チームは今日の夕食のデザートが追加されます。二位はなにもなし。三位は夕食のデザートを失います。ようは、三位の分を一位がもらうってことね。四位は今後一週間洗濯当番です」

 他愛もないことであるが選手たちも多少盛り上がる。

 「よし、じゃあ、始めよう。ビブスはチーム2がつけて」

 チーム2は飯田以外の五人がコートに入ってきてビブスを受け取る。
 最初の休みは飯田のようだ。
 チーム1の方は、誰を最初に外すか決めていなかったようで、慌ててじゃんけんを始めた。
 負けたのは田中である。

 チーム3と4も、アップの足を止めてコートサイドに集まった。
 あとは、あまり体を冷やさないようにしつつ観戦、という風に決め込んだ。

 信田と小湊はノートを抱えてミニスタンドの上に上がって座り込む。
 プレイ面の指示を出すつもりは今日はない。
 ただ、観察するつもりだ。
 自己紹介は、二人に対しての自己紹介でもある。
16 :第九部 :2010/07/24(土) 16:33
U-19日本代表候補

飯田圭織   C ジョンソン化粧品
村田めぐみ  C 関東女子体育大学1年
平家みちよ  F 常陸ローテク
矢口真里   G なし(東京聖督大付属コーチ)
是永美記   F 中村学院女子高校3年
石川梨華   F 富岡総合学園高校3年
柴田あゆみ  F 富岡総合学園高校3年
藤本美貴   G 滝川山の手高校3年
里田まい   F 滝川山の手高校3年
吉澤ひとみ  C 市立松江高校3年
後藤真希   F 東京聖督大付属高校3年
木下優樹菜  C 熊本友愛女学院 2年
山本スザンヌ C 熊本友愛女学院 2年
高橋愛    G 富岡総合学園高校2年
安倍麻美   F 滝川山の手高校2年
松浦亜弥   F 市立松江高校2年
福田明日香  G 市立松江高校2年
田中れいな  G 富岡総合学園高校1年
道重さゆみ  C 富岡総合学園高校1年
斉藤みうな  C 滝川山の手高校1年
亀井絵里   G 東京聖督学園大付属高校1年
久住小春   F 和島村立南辰中学3年
光井愛佳   G 大津市立比叡山中学3年

木村あやか  C 市立松江高校3年   追加召集
17 :名無飼育さん :2010/07/26(月) 19:49
再開乙です
待ってました
ジョンソン化粧品でちょっと笑いました
18 :作者 :2010/07/31(土) 22:24
>>17
おまたせしました。
そこはちょっと狙ってみました。
19 :第九部 :2010/07/31(土) 22:25
 ゲームは予想通りチーム2優位で展開した。
 元々の力でチーム2の方が上回っている上にチーム1はメンバーのバランスも悪い。

 「じゃんけんでチーム分けするとやっぱり無理が出るね」
 「身長順とポジションが合致してるわけじゃないからね」
 「みうなの三番は無理があるな。あれなら吉澤に三番やらせた方がバランスはまだいい」
 「ガードも、中三が藤本相手に張り合うってのが厳しいんじゃない?」
 「まあ、その辺はしょうがないんだろうね。一転、久住はいいね」
 「自信持ってやってるっていうのもあるけど、あそこは身長差じゃない?」
 「そうね。まあ、ただ、ちょっと勝手すぎるってのはあるけど。みうな、吉澤、村田がいるのに、無視して久住がインサイドで勝負ってどうなんだっていう」
 「それは、自己紹介って言っちゃったから」
 「私のせいか」

 ゲームは前半、チーム2の16-8リードで折り返す。
 後半はチーム1は田中が入って光井がはずれ、チーム2は飯田が入って里田が外れた。
20 :第九部 :2010/07/31(土) 22:25
 「是永はやっぱり強力だな」
 「こういう形態になると、完全に一対一で、周りがフォローしにくいしね」
 「完全に吉澤相手じゃ一枚上かな」
 「でも、腐らず、出来ることはやってるね吉澤も」
 「指導者なしであれだけ出来るんだから、うちらがもう一段あれは引き上げてあげないといけないよね」

 選抜チームのコーチクラスから見ると、中澤というのはベンチに座っている顧問の先生、という扱いでしかない。

 「村田がもうちょっと頑張ってくれると助かるんだけどな」
 「飯田のバックアップ?」
 「うん。候補はいろいろ呼んだんだけど。平家は怪我がちだし身長の問題もあるからもうちょっと外で使いたい。村田あたりがバックアップの一番手で使えるといいんだけど」
 「飯田のが一枚上って感じだね」
 「オフェンスは、パス出す周りが悪いから仕方ないんだけど、ディフェンスがね。飯田を抑えられないんじゃ中国韓国とは戦えない」

 8分ハーフのゲーム、チーム2が40-18で圧勝した。
21 :第九部 :2010/07/31(土) 22:26
 続いてチーム3とチーム4

 「チーム4 ゲームキャプテン誰だ!」

 スタンドから信田が叫ぶ。
 あ、という顔で互いに顔を見合す。
 それからどうする? と見ていると矢口、後藤、松浦、スザンヌでじゃんけんを始めた。
 負けたのは後藤。

 「ゲームキャプテン、後藤です」

 じゃんけんかよ。しかも負けキャプテンかよ、と信田は呆れ顔だ。

 チーム3はあやかがはずれ、チーム4は矢口抜きでゲームが始まった。

 「福田は相変わらずだなあ」
 「お気に入りの福田さんですか」
 「別にお気に入りってわけじゃないよ」

 信田は以前はU-15でアシスタントをしていた。
 いろいろあって、今はU-19のヘッドコーチへと昇格している。
 しっかりとチームを掌握して指揮を取るというのはこれが初めての経験だ。
 メンバーだけでなく、信田にとっても一つの勝負である。

 「指導者のいないチームに入って、いろいろと考えてやってるんだろうけど、なんていうか、頭でっかちさに磨きが掛かっちゃってまったく」
 「不満なの?」
 「不満不満。インターハイとか見てても不満だった。がつんと一言言ってやらないといけないかも」
 「がつんとねえ」

 信田と小湊は、多少考え方が違うので、信田が問題だと思う点を小湊はそれも一つのやり方としてありかな、と思わないでもない、というような食い違いが出る。
 福田に関しては、小湊は、一つのやり方であって、変えないといけないとまで思ってはいない。
22 :第九部 :2010/07/31(土) 22:27
 「チーム4はインサイドぼこぼこだ」
 「同じ学校のAチームBチームみたいな感じだしね」

 木下がスザンヌに、平家が道重にマッチアップしている。
 現チーム内にいる木下-スザンヌはまだいいとして、社会人一年生の平家と高校一年生の道重の差は歴然だ。
 遠慮があってやられている、というようなことは道重に限ってはなく、普通に力の差がある。

 「というか、全体ぼこぼこか」
 「メンバー的に仕方ないんじゃない?」
 「松浦、後藤っていうところはもうちょっと期待してたんだけどね」
 「どっちがどっちだっけ?」
 「名前くらいすぐ覚えてよ。七番つけてるのが松浦、後藤は八番のビブス。松浦は出だし良かったんだけど、全部自分で一対一するもんだから、亀井ははずせても周りのカバーにつぶされる。あそこまで分かりやすいと初対面でもカバーは簡単」
 「後藤って子は、あっ。おー」

 名前を挙げた途端、後藤はステップバックからのスリーポイントシュートを決めた。

 「ああいう意外性を期待してるの?」
 「ううん。意外性でも何でも無く、期待してるよ。弱いチームに埋もれてるけど素材はいいんだ。ただ、圧倒的に経験不足なだけで。経験って、試合経験とか大舞台とかっていう意味だけじゃなくて、練習も不足してる。量の問題じゃなくて質的に」
 「期待の矢口コーチが付いてるんじゃないの?」
 「周りに人がいなさすぎるんだよ、たぶん。近いレベルで練習できる相手が。ここなら嫌でもそれがたくさんいる。まずはそれだけで何か進化してくれたらなって思うよ」

 チーム3 vs チーム4 前半は20-9でチーム3がリードする。
 後半は、チーム3は平家が抜けてあやかが入り、チーム4は松浦が抜けて矢口が入った。
 大勢はかわらず、チーム3が優勢のまま進み、43-22でチーム3が勝った。
23 :第九部 :2010/07/31(土) 22:28
 チーム1 vs チーム3 チーム2 vs チーム4と続く。
 それぞれ、チーム3,チーム2が勝ち、二連勝。
 チーム1と4は二連敗となる。

 最後に、チーム1とチーム4

 「負けた方しばらく洗濯係だぞー」

 信田コーチが檄を飛ばす。
 本来は、洗濯係どころか、選抜チームとして年齢別の日本代表に入れるかどうかというものが掛かっている合宿の初日である。
 コーチ側にそういう雰囲気はない。

 選手の方も、そういうものを争っている、という空気は無かった。
 ただ、二戦二敗の両チーム。
 自分の力はこのレベルでは通じていない、という無力感を少々感じているものもいる。
 何とか最後に一矢、と真剣な部分もある。

 チーム1はみうながはずれ、チーム4は麻美がはずれて8分ハーフのミニゲームが始まった。

 先手を取ったのはチーム4
 松浦がスリーポイントをガツンと決める。
 その後も、松浦、後藤を中心に加点して行った。
 矢口-後藤のラインが、ミニゲーム三本目になって感覚を取り戻したのか機能し始めている。
 この、松浦、後藤というところに中学生二人を当てているチーム1は厳しい。
 田中は元々得点力がない。
 村田はスザンヌと五分。
 唯一の得点源は吉澤になっている。
 道重相手のインサイド勝負は吉澤の方が強いようだ。
24 :第九部 :2010/07/31(土) 22:28
 「田中は適応力があんまりないね」
 「チーム1は元々所属チームばらばらなんだから仕方ないんじゃないの?」
 「関係ないでしょ。他のガードだって、同じチームでやってるのは大体一人しかいないんだし。あれじゃ、ただボール運んでるだけで、セットオフェンスのとき何の役にも立ってない」
 「高一だから遠慮があるんじゃないの?」
 「それこそコートの上じゃ関係ないし、それに、中学生二人にも指示出せてないんだから、上下関係の問題でもないね。司令塔としての機能はまるでなってないよ」
 「短期間の選抜チームには向いてないタイプなのかな」
 「かもしれない。まあ、和田先生のとこにいて一年でスタメン張ってるんだから、長い目で見れば育ってくるとは思うけど、まだいろいろと足りてないよね」

 チーム1はボールを回して相手を崩す、というシーンが無く、インサイド勝負一辺倒になっていた。
 ただ、吉澤が道重に勝っている。
 それを見てスザンヌがフォローに来て一対二になる場面もあるが、村田にパスを捌くなど、中のつなぎが出来ていて、何とか追いかけている。

 前半終了11-8 チーム4リード
25 :第九部 :2010/07/31(土) 22:29
 チーム1は村田が下がりみうなイン。
 チーム4はスザンヌアウト、麻美イン。

 後半はチーム4がリードを広げた。
 後藤の欲しいタイミングでパスが入る。
 マッチアップは吉澤。
 割と互角に抑えているのだが、そのあと、後藤がしっかり捌く先がある。
 松浦であり麻美であり。
 聖督でやっているときよりも選択肢が幅広い。
 外で待つ二人が受ければスリーポイントがあるので、光井、久住はそれぞれフォローしないといけない。
 かといって、ただ外で黙って待つだけではなく、動きを見せて走りこみながらフリーになって受けることもある。
 ミニゲーム三本目の後半、その辺の周りとの呼吸がつかめてきている。
 最初は全部一対一だった松浦も、いつもとは違うんだ、ということを理解し始めていた。
 相手は誰をとっても選抜レベル。
 一人抜いても、選抜レベルがカバーに入るのだ。
 一人で全部出来たもんじゃない。
 生存競争に残って代表のユニホームを取ってやる、という欲望が松浦にはある。
 チームのためには我慢できなくても、自分のためなら我慢も出来る。
 自分内エゴ1と自分内エゴ2の戦いで、エゴ2の代表に残りたい、という方が勝ち、エゴ1の一対一へのこだわりは少し横へ置いておくことが出来た。
26 :第九部 :2010/07/31(土) 22:29
 対するチーム1はここに至ってもばらばらなままだった。
 田中は仕切れない、光井はやや空気になっていて、久住は松浦型の貪欲さはなく好きにやろうとする。
 吉澤も何とか村田までは理解できたがみうなは理解不能なままだった。
 というよりも、みうなの側が吉澤と合わせようという意識が欠如している。
 つながり、というものがない。
 点差も開き始め、またか、という風に中学生あたりからあきらめの感覚が広がり始めている。

 「松浦、後藤は、安倍も含めて、適応力はあるね」
 「なつみがあんなことになっちゃったけど、妹も悪くないね」
 「タイプは大分違うけど。この今の感じでもう一度チーム3とやらせたら面白かったかもね」
 「矢口って子も意外に悪くないね」
 「んー、どうだろう。後藤とはずっとやってたんだからそことぴったり合うのは当たり前なんであって。藤本や福田とマッチアップしてた時にポロポロやってたあの感じだと、個の力としてはちょっとね。まあ、感覚取り戻した上で、さらに上積みがあれば話しは別だけど」
27 :第九部 :2010/07/31(土) 22:30
 残り三分。
 チーム1のオフェンス。
 光井がボールを久住に送ろうとする。
 そのなんでもない何の意図もないボールを松浦に狙われた。
 スティールしてそのままワンマン速攻。
 光井も久住も追うことなく、そのまま簡単なレイアップシュートを松浦に決められた。

 「何やってんだよ! 追いかけろよ!」

 エンドに出たボールを拾いにいこうとゆっくり向かっている光井や久住の背中に、吉澤が怒鳴った。

 「ミスは仕方ないけど、追いかけろよ! 何やってんだよ!」

 その光景を見ていた信田は持っていたノートで開いている椅子をばんばん叩き大きな音を立てた。
 メンバーたちの注目を集めてから立ち上がり、手を二回叩いて信田は言った。

 「タイムアウト。タイムアウト。特別ルールでここでタイムアウト。二分。それぞれミーティングしろ。コートの上でもいい」

 スコアは25-12でチーム4のリード

 十三点というのは大きな差ではあるけれど、実際のゲームで残り三分で遭遇する点差としては、まだ諦めきってしまうほどの差ではない。
 チーム1は、ごく自然と吉澤の周りにメンバーが集まった。
 この場面では下がっていた村田も参加している。
28 :第九部 :2010/07/31(土) 22:31
 「なんか急に機嫌よさそうだね。特別ルールとか言って」
 「いやあ、意外だったから」

 両チームのミーティングの会話は遠く離れている信田、小湊には届いていない。
 逆に、二人の会話もメンバーたちには聞こえない。

 「もっとおとなしいスマートなタイプだと思ってたんだよね」
 「吉澤?」
 「そう」

 信田にとって、吉澤の行動、発言はイメージと違うものに映っている。

 「高校のチームの中じゃ、福田先生に飼いならされたタイプかなあ、って思ってたんだけど、そうでもないんだなって」
 「言っちゃ悪いけど、力量的にこの中入ると別に高いわけでもないし、あの六人だと初対面だらけっていう中で、ああやってちゃんと怒るって、結構難しかったりするよね」
 「意外に熱いハートタイプだったりするのかな、吉澤」

 チーム1の輪は吉澤中心に作られている。
 吉澤の説教を中学生が大人しく聞いている、という図に信田小湊の位置からは見える。

 「相手が中学生だから怒れたってだけかもしれないし、その辺はまだまだ見ていかないと分からないんじゃないかな」
 「そうね。まあ、でも、なんにせよ、いいことだ」
 「あとは実力を身につけてくれれば言うことなし?」
 「そういうこと」
29 :第九部 :2010/07/31(土) 22:31
 レフリーがしっかり時間をはかる、ということはなく、なんとなく雰囲気でこれくらいかな、というところで両チームのミーティングが終わる。
 チーム1のエンドからゲームは再開。
 光井がボールを入れて田中が受ける。

 「とにかく一本! 一本づつ返そう!」

 声を出すのは田中ではなく、上がっている吉澤である。

 前から張ってくるということはないので田中は簡単にボールを運ぶ。
 残り時間や点差を考えて早くシュートまで、というような感じではない。
 とにかく一本しっかり決めること。
 練習ゲーム型のやり方である。

 チーム1のバランスの悪さの一つに、久住が中に入りたがるというのがある。
 みうな、吉澤がすでにいて狭くなっていてもかまわずに久住が中に入ってくる。
 ボールを持ってカットインというようなことではなく、中にいて受けたがるのだ。
 中学生レベルの中では背が高い方に属する久住。
 そういうプレイはいつもよくやっているし、中学チームの中ではお姫様なので好きな場所でプレイできるが、こういう時はそうは行かない。
 各地のお姫様や女王様がやってきても、平気で平民扱いされてしまうのが選抜チームなのだ。

 久住が入ってくると仕方ないと言う感じで自分が捌けて外に出てバランスを取ったりしていた吉澤。
 そういう気がなんとなくうせてきた。
 チーム1は大人のチームではない。
 いつもの松江のチームも大人のチームではないと思っていたが、あれがまるで老成した大人のチームに思えるくらい、今の状況はお子ちゃまチームそのものだ。
 自分がひいてバランスをとれば松浦が決めてくれたり、福田がゲームコントロールしたり、開いたスペースであやかが勝負したり、という一年二年かけて少しづつ築き上げてきた阿吽の呼吸はここには存在しない。
 松浦のワガママ勝手ぶりなんて、かわいいものだとも思えてしまう。
30 :第九部 :2010/07/31(土) 22:31
 後藤を腕で止めながら、半身で構える。
 近い位置にいた田中がボールを送ってきた。
 受けながら外に開いてシュートの構え。
 十分にシュートレンジなので後藤は反応した。
 ドリブル。
 中央側に左手でドリブル。
 逆サイドから松浦、フリースローライン当たりの上からスザンヌが抑えに来る。
 後藤も合わせて前方三人。
 強引にシュート、という姿勢でさらにひきつけておいてスザンヌと松浦の間をパスで通した。
 ボールにミートした久住、フリー。
 近い位置で零度からのシュートをしっかり決めた。

 「それ、それ! あわせ! いいよ!」

 吉澤が左手を差し出し、久住がそれをぱちんと弾く。
 こちらばかり引くと図に乗って好きにやるけれど、状況を見て周りと合わせる、ということもやれば出来るらしい。
31 :第九部 :2010/07/31(土) 22:32
 「久住って、もっと外で勝負できる子だったよね? 中学だと。中勝負の方が自分では得意なつもりなのかな?」
 「相手との兼ね合いで外勝負は難しいって思ったとか」
 「中学じゃ背が高い方でもこのメンバーに入ると普通だし、まして国際試合で通用する高さじゃないわよね。先々はともかく、今は試合で使うこと考えたら、外で勝負してもらわないと困るんだけど」
 「あの子、身長は止まってないのかな?」
 「その辺は聞いてみるか」

 チーム1が一気に追いかけるという展開はならない。
 次のディフェンス、久住が簡単に松浦に抜き去られてまたリードを広げられた。
 オフェンスはまだしも、ディフェンスがさっぱりである。

 「中学生二人は守りの意識が低すぎる」
 「まだまだ子供だね」

 チーム1は吉澤が奮闘し、インサイドでファウルをもらうなどして追いかけたが、大勢に影響はなかった。
 29-16でチーム4の勝ち。
 チーム1は三連敗で洗濯係の刑となった。
32 :tama :2010/08/01(日) 02:56
ついに新章。しかも選抜。面白そうです。

さっそくですみませんがツッコミをw
>>11 でのおそらく平家さんの発言「大学入って」・・・
>>16 常陸ローテク はおそらく実業団だったりしますよね。

吉澤さんはガキに囲まれ残念でしたが、キャプテンシーがほしい
彼女にとっては丁度よかったりするかもですね。

ジョンソン化粧品ww
33 :作者 :2010/08/07(土) 17:14
>tamaさん
ごめん、平家さん社会人です
飯田さんも当然ジョンソン化粧品所属の社会人です
似た名前のチームがホントにあるのです
34 :第九部 :2010/08/07(土) 17:15
 最終ゲームはチーム2vsチーム3
 今晩のデザート追加を賭けた戦いである。

 チーム2は高橋抜き、チーム3は木下抜きの構成で始まった。

 「いきなりバチバチだね」
 「互いにやる気十分って感じ」

 チームとチームとして、もそうだが、二人の目線は一組のマッチアップに注がれている。
 是永美記vs石川梨華。
 今年の夏、インターハイでは実現しなかった対戦である。

 「信田コーチとしてはどっちの評価が上なの?」
 「まだ何も評価してないよ」
 「またまた。あるんでしょ、今の段階での評価」
 「二人ともチームでは四番の役割だから。ここでやってもらうのは基本的には三番。二人を両立させるなら片方は二番になる。いつもと違う役割をやってもらおうと思ってるんだから評価はこれからだよ」
 「でも、四番って言ったって、実際は外目で好き勝手が多いんだから判断は出来てるんじゃないの?」
 「判断はここでするって決めてたから。しかし、あの二人を両方そろえてどっちが上か決めて使うなんて、代表監督っていうのは贅沢な立場だね」

 自己紹介ゲームが始まる前に信田は言っていた。
 どうせ連携がどうのとか無理なんだから、一対一多用でいいです。
 その一対一多用が、露骨に是永、石川のところで出ている。

 優勢なのは是永の方だった。
 ただ、これは、是永と石川の力関係を反映したもの、とは少し言い難い。
 違うところの力関係が反映している。
 石川へ対するパスの供給源がないのだ。
35 :第九部 :2010/08/07(土) 17:15
 「お気に入りの福田さんが苦しんでますよ」
 「二年もぬるま湯浸かってたから。そろそろああいう刺激が必要なんだよ」
 「ぬるま湯ねえ・・・。ああいうチームでベスト8まで上がってくるのって大変なことだと私は思うんだけど」
 「チームとしてはね。でも、福田個人としては競争環境のないああいうチームはある種のぬるま湯になってるんだと思う。プレイヤーとして以外の部分、戦略眼とかそういうのは身に付いていってるかもしれないし、周りのプレイヤーをどう生かすのかっていうのは、自分で考える分伸びてるんだろうと思うよ。でも、私から見たら、頭でっかちに磨きが掛かっただけにも見える。個人としての力量、技術的な部分がまるで代わってないんだよね、中学生のころと。多分、練習含めても藤本クラスのガードとマッチアップするのが二年ぶりとかそういうのになるんじゃないかな。まあ、藤本にしたって福田クラスを相手に出来る場面っていうのはそれほど多くはないんだろうけど、それでも、まだ、福田よりは、自分に近いレベルとマッチアップする試合経験も多いし、練習環境は違うしね。滝川のスタメンと松江のスタメンが試合したらまともな試合になるけど、滝川の六番手以下と松江の六番手以下が試合したら、全然試合にならないでしょ。その辺が結構効いてると思う。あと、指導者ね。福田は周りを鍛えてきたかもしれないけれど、自分自身の技量を鍛えることはほとんど出来てないんだよ、この一年半」
 「中学の時と変わらないって、逆に言うと、久住、光井を見たあとで、福田は中学の時からこうでしたってことだから、すごいけどね」
 「まあね。だからこそ、もったいない」
36 :第九部 :2010/08/07(土) 17:16
 福田が藤本に手を焼いていて石川にいいパスを供給できない。
 亀井も柴田に押さえ込まれている。
 あやかは里田にうまく抑えられ、平家も飯田相手に勝ちきれない。
 石川にパスを供給できる選手がいない。
 石川が是永と勝負するには、大きく外に出てボールを受けて、まともな形で一対一をするしかない状況だ。

 対する是永は動きの中でボールを受けることが出来る。
 藤本はもちろんのこと、柴田もここ、というタイミングでしっかりパスを渡せる。
 里田、飯田も、インサイドで自分が勝負もするし、そうではない選択肢、是永に限らないが、外へ捌くということも出来る。
 全体が全体としてチーム2の方が上回っているという状態である。

 前半は18-8でチーム2のリード。

 後半はチーム2が藤本アウトで高橋イン、チーム3は亀井アウトの木下イン
 是永石川のマッチアップはずれて、石川は柴田とマッチアップする形になった。

 「あの子、体力的にもあれなのかな」
 「あの子?」
 「福田」
 「インターハイの時も終盤きつそうだったし、確かにそうだね」

 多少、遊び感が入るミニゲームとは言え三試合目である。
 相手のレベルもかなり高い。
 丸々一試合闘うのと同じだけの時間コートにいるわけで、体力面では確かにきつくなってきている。
37 :第九部 :2010/08/07(土) 17:16
 「昔は、福田、高橋だと福田が二枚くらい上って感じだったけど、高橋もやるようになったなあ」
 「和田先生のところでしっかり磨かれたんじゃない?」
 「インターハイもそうだったけど、最近調子に乗ってるみたいだから、誰かがつんとやって欲しいんだけど」
 「調子に乗ってるんなら、そのまま乗せたまま試合に出せばいいんじゃないの?」
 「あの身長だと二番では使いにくいんだよね。相手によってはありではあるけど」
 「中国とかにはまあ、無理か」
 「逆に、スピード重視で外は小さいの集めてみるって手もあるけどね。ただ、本人はどうも一番をやりたいけどチーム事情が許さないって感じだから、ここでは藤本福田と争ってもらおうかなって思ってる。もしかしたら、高橋先輩が参戦することで田中に火が点いて何か目覚めたりするかもしれないし」

 目の前には福田と五分以上にやりあっている姿がある。
 また、インターハイなどで、対藤本の相性がなぜかいいのも信田は見て知っていた。
 高橋vs藤本という一対一の勝負ではなくて、対外国で使う場合の能力としてどちらが上か、と考えると話しは違うのだが、高橋にガツンと入れられる対象に藤本はなれていない。
 痛い目見させるには別の何かが必要で、それが国際試合になるケースというのはよくあることだが、和田コーチの立場ならそれでオーケーでも、信田の立場ではそれは遅すぎるのだ。
 出来れば、ここにいるメンバーの中で誰かにそれをやってもらいたい。
38 :第九部 :2010/08/07(土) 17:16
 「センターは飯田の天下なのかなあ」
 「平家は?」 
 「あの子はもう、私の中じゃフォワードなんだよね。社会人になって自分の身長じゃセンターとして通じないっていうのがわかったみたいだし。試合に出る時はフォワードとして使われてるわけで、もう、センターに戻ることはないでしょ」
 「他には、木下、スザンヌ、んーと、道重とか?」
 「木下は荒い、スザンヌは弱い。道重は・・・、あれはなんだ? リバウンドはいいけど、あとはなあ。富岡の中でもあの子だけカラーが違って浮いてるし」
 「あのスピードの無さで富岡でスタメンやってるのが不思議だよね」
 「あとは、村田、吉澤、みうなもあるのか。みうなは見てる限りでは当たりに弱い。あやかもそうかな。吉澤は面白いけど力不足。村田に頑張って欲しいんだけど、これも飯田からは落ちる」
 「飯田が社会人になって伸びたってのもあるけど、でも、飯田も含めてみんな線が細いよね」
 「ガードだらけでセンターがいない。ディスイズ日本人って感じだよまったく。一応後藤や里田も候補になるのか。でも、五番じゃないんだよな明らかに。身長不足だけはどうにも指導の方法がないからなあ」

 背が高い、の基準が国際大会になると代わってくる。
 アジア人は体格があまりよくないというが、中国人は数がいるため大きな人間もごろごろいる。
 日本は背が大きい女子はバレーに周りがちで、バスケにはあまりまわってこない。
 バスケに回ってくる女子は、背はそれほど高くないけれど激しく動けて頑張れる子、というのが多い。

 チーム2vsチーム3は、32-23でチーム2が勝利、優勝商品、夕食デザート一品追加権を得た。
39 :第九部 :2010/08/07(土) 17:17
 直接体育館に集合した代表候補選手たち。
 練習終了後、宿舎に移動してようやく一息つける。
 ただ、学校のチームでの合宿とは違う。
 学校の合宿なら、宿に戻った時点でくつろぎムードに入れるが、ここでは別の緊張感を与えられる。

 宿舎は二人部屋。
 今日初めて会いました、という相手と同室ということがあるのだ。
 それも多人数ではなく、二人部屋である。
 部屋割りは信田が作成して全員に渡した。
 そんなものは代表コーチがするような仕事ではないが、わざわざ信田が自分でした。

 「うげー」

 手書きの部屋割り表のコピーを渡されて、不快な声を上げたのは藤本だった。
 矢口真里と同室である。
 離れた場所にいた矢口も苦笑い。
 声を上げたのが藤本なのはわかったし、自分だって出来れば避けたかった。
 矢口は天然ちゃんではない。
 トラッシュトークは、頭を使って相手が嫌がりそうな言葉をわざわざ狙って選んで使っている。
 自分が嫌われる、ということは自分でしっかりと認識しているのだ。
 二度と会わない、という前提だからやってきたことであって、まさかこんな未来が待ってるなんて思っていなかった。
 世界は矢口が思っていたよりも大分狭いらしい。
40 :第九部 :2010/08/07(土) 17:17
 部屋割りの悲喜こもごも。
 わいわいがやがや、同じチームからやってきた仲間たちと部屋割り表を見せ合いながら、相手の名前を指差して各々話している。
 同じチームからきたものは同じ部屋にはしない。
 これが最低限の基本方針らしい。
 自分と同室に割り当てられた名前を見ても、人柄がイメージできず首をひねるものもいる。
 柴田もそんな一人だ。
 村田さん。
 名前は知っているが、はて、どんな人だろうか?

 福田と組まされた後藤も同じ感想だ。
 いや、もっとひどい。
 誰だっけ? と周りを見渡して、結局誰だか分からない、状態である。
 福田の側は後藤のことはしっかり知っていた。
 新垣のようなオタクスタイルとは違うが、この世界の情報通ではあるので、後藤真希レベルの存在はきちんと知っている。

 話をしたことはないけれど存在はよく知っている、という相手と組まされるものもいた。
 憧れということはまったくないけれど、チームの中での位置づけがうらやましいと感じていた是永と、松浦は同じ部屋を割り当てられた。
 どうやったら、あの女王様ポジションを確保できるのか少し聞いてみたいと思う。
41 :第九部 :2010/08/07(土) 17:18
 明確に、やりづらいなあ・・・、と思うものもいた。
 例えばあやか。
 同室は道重。
 滝川カップなどで素の姿に接したこともあるので、どんな人間なのかはなんとなく分かっている。
 会話が成り立てばいいけれど、とちょっと心配だ。

 普段のキャラは知らないが、コート上のキャラから、やりづらそうだと思ったのは里田。
 同室木下はちょっと御勘弁願いたかった。
 スザンヌと合わされた麻美も似たような感想である。

 亀井と同室になった田中。
 お友達ゲットのチャンス、と違う方面で頑張ろうとちょっと思っている。
 一対一ならはぶられることはない、はず。

 まわりから、この二人は同じ部屋でどんな会話するんだろう、と興味をもたれた組み合わせもある。
 光井とみうな、飯田と高橋、久住と石川。

 そして、吉澤は平家と同室になった。
 昨年の富岡のキャプテン。
 石川や柴田の先輩に当たる人。
 そう考えると吉澤にとっては雲の上の人のような存在だ。
42 :第九部 :2010/08/07(土) 17:18
 「夕食後、一人五分十分くらいの個人面談するから。今日は六人。田中、吉澤、是永、斉藤、後藤、矢口。呼ばれた順に七時から。終わったら次々呼ぶから。基本、面談ある時は洗濯係免除ね」

 面談? え? 私なんかした? なんて顔をしてると、なんかやったでしょ、と吉澤にあやかが突っ込んでいる。
 それを見て信田は一言付け加えた。

 「なんかやったからだけじゃなくて、順番に全員やるから。まあ、個別の課題を話したりとか、どんなこと考えてるかとか、そういうはなしね。別にお説教じゃないよ。中にはいるかもしれないけどそういうのも」

 中には、とあやかに指差されたので、吉澤が、中にはと矢口を指差した。
 矢口の隣には後藤もいたが、矢口はそちらには振らなかった。
43 :第九部 :2010/08/07(土) 17:19
 荷物を持って鍵を受け取って、それぞれ部屋へ引き上げて行く。
 国立トレーニングセンターに付随の宿泊施設。
 練習場所からの移動の負担もなければ、時間の制限もない。
 合宿チームの都合に合わせてすべてを動かすことが出来る。
 部屋の鍵は一人一つづつ渡された。
 自分で鍵を持っているので身動きは自由である。

 「ベッドどっち使います?」
 「どっちでもいいよ。吉澤はどっちがいい?」
 「自分もどっちでもいいっす」
 「じゃあ、私奥使わせてもらおうかな」
 「自分手前で」

 二人部屋でベッドが二つあり、テレビが置いてあってテーブルも別途ある。
 そのほかにはユニットバス。
 一泊一万円程度の宿の二人部屋に雰囲気としては近い。
44 :第九部 :2010/08/07(土) 17:19
 「いやー、なんかいいわ。その運動部敬語。久しぶりに」
 「なんすかそれ」
 「いや、社会人一年目じゃない私。そうするとさあ、周り全部先輩で。上は五つ六つどころか十以上年上の人とかいて。同期いないからほんとの一番下っ端でさあ。久しぶりなんだよね、こうやって先輩気分出来るの」
 「自分も、なんか、後輩気分になれるの久しぶりですよ。柄にも無くチームでキャプテンになんかされちゃったから、考えること多くて。周りうまい人だらけでそれはたいへんっすけど、でも、久しぶりに一部員でやれるのがなんか気持ちいいです」
 「そんなこといいながら、びしっと中学生叱ってたじゃない」
 「あれは、なんか、ホントに頭来たから。あきらめるの速すぎるだろって。なんなんですかね。ゆとり教育? っていうよりも、あれなのかなあ。勝ちなれてると諦めが早いとかあるんですかね? うちなんかだとあれくらいの点差でリードされるのなんて普通にあるから、まだ全然あきらめるなんて感覚出てこないんですけど」
 「ホントに勝ちなれてるチームってのはあきらめ悪いもんだよ」
 「あー、そっか、平家さん、富岡のキャプテンだったんですもんね。それは失礼しました」

 昨年の国体で対戦があるので、まったく未知ではないし、半径10cm未満で接触したこともあるが、二人が会話をしたのはこれが初めてのこと。
 それでも無理なくスムーズに会話は成り立っている。
45 :第九部 :2010/08/07(土) 17:20
 個人個人の問題か、組み合わせの問題か。
 スムーズに行くところもあれば行かないところもある。

 藤本、矢口あたりがうまくいかないところは意外でもないが、特に過去の因縁もなく、同い年でポジションも重なって、仲良くやりやすそうな要素が揃っているのに微妙な空気の部屋もある。

 ユニットバスのトイレに座った田中は、一人もだえ悩んでいた。
 おなかが痛いわけではない。
 どーやってはなしかけたらいいんだろー・・・。

 すぐそばに後藤-福田部屋がある。
 エレベーターで上がってきて、部屋に入るまでは二人とも一緒に来ていて、亀井は後藤と話していた。
 正確には、ほとんど亀井がしゃべっていて、後藤はふんふんと聞いているだけである。
 田中は後ろをついて歩いていた。
 隣に福田はいたが、これも会話する要素がない。
 あまりいい思い出のある相手でもないし。
 隣り合っていたけれど一つ奥まで行った部屋の鍵を亀井は開けた。
 田中はついて入っただけだ。

 奥がいいと言って奥のベッドを占拠し、荷物の整理を始めたかと思えばこちらには背中向けっぱなし。
 なにかきっかけ、きっかけ、はなしかけるきっかけ、と必死に頭をめぐらす田中をよそに亀井はマイペースだ。
 そんなこんなで、いたたまれなくなって、なぜかトイレに篭る。

 何かきっかけ、テーマ、はなしのテーマ。
 いつの間にか難しいことになっている。
 バタン、と音が聞こえたので出てみると、どうやら亀井が部屋から出て行ってしまったようだった。
 ふーっと大きなため息を吐いてベッドに寝転がる。

 バスケもムズカシイケド、トモダチ作るのもムズカシイネ・・・・。
46 :第九部 :2010/08/07(土) 17:20
 すぐ打ち解けたり、そうでもなかったり、それぞれありつつも、決められた時間には皆夕食に出てくる。
 その後は全体ミーティングも無く自由時間。
 ミーティングは、代表候補から、代表選手を絞り込んでから行うようにしよう、と信田は考えている。
 夜は基本、皆それぞれ暇だ。

 暇でないのは洗濯係と面談待ちの面々。
 何話すんだろう、とこんなことになれていない吉澤は、少々びくびくしながら待っていたが、やがて田中が部屋に呼びに来た。

 「どんな話したの?」
 「あ、あの、プレイ面の課題とか、そういう」
 「そっか。ありがと」
 「んじゃ、行ってきます」

 ベッドで寝転がったまま見送る平家に、吉澤は敬礼して見せた。
47 :名無飼育さん :2010/08/11(水) 00:00
やっと追いついた〜。
バスケは体育でやった程度の知識ですが、それでも感じられる臨場感にドキドキしました。
この章もかなり面白くなりそうですね。楽しみにしています!
そして、がんばれいなw
48 :作者 :2010/08/14(土) 22:53
>>47
長々とお読みいただいたようで。夏休みご新規さんでしょうか。ありがとうございます。
れいなが頑張れるかどうかは・・・、わかりませんです・・・。
49 :第九部 :2010/08/14(土) 22:53
 部屋に通された吉澤は、ああ、二人いるんだ、と思った。
 よくよく思い返して見ると、自分はこうやって、きちんとコーチらしいコーチから指導を受ける、ということはなかったなあ、と思う。
 転校前は生徒主体で運営されいたし、今の松江のチームだってそうだ。
 先輩や後輩にある種指導されていたりはするけれど、先生との遠い縦の関係に従うということはなかった。

 「まあ、座って。飲み物もないけど。全員に別々に一つづつ用意するのは面倒でさ。悪いね」
 「いえ」
 「代表候補に呼ばれてどう思った?」
 「どうって言われても・・・」
 「うれしいとか当然とか、そういう」
 「うれしいとかの前に、何それ? って感じだったかな」
 「なにそれって。なにそれ? 興味なかったってこと?」
 「そういうんじゃなくて、ホントに何それって感じです。アンダーナインティーン。なんですかそれ? って。ホントに意味わかんなくて、福田に、あいつうちの二年なんで、福田に解説してもらっちゃいましたもん。それで、年代別の日本代表なんてものがあるの初めて知りました」
 「そっか。そこからなんだ・・・。そうか、そうだよね。そもそも知らないのか・・・」

 びっくりしましたとか、うれしかったとか、そういう感想を想定していた信田たちの想像を上回る答えを吉澤は返した。
 トップレベルは、最初からこの代表の日程が自分の年間スケジュールの中に入ってくるのを想定しているが、吉澤にとってはこんなものは無関係の世界のはずだったのだ。
 当然呼ばれるものと思っていた福田、福田と話していて知識はあって自分は呼ばれるべきと信じていた松浦と違って、吉澤は本当に何も、存在すらも知らなかった。
50 :第九部 :2010/08/14(土) 22:53
 「一日やってみてどう?」
 「イヤー、全然だめっすね」
 「来なければ良かったと思ってる?」
 「いえ、全然。楽しいですよ。いや、悔しいけど。でも、楽しいです。久しぶりですよこんな、余計なこと考えないでいろいろ出来たの」
 「そう? 中学生叱ったりとか、周りもしっかり見てるじゃない」
 「あれは、叱ったっていうかホントにただ頭に来ただけで。むかついたからそのまま怒鳴ったってだけですよ。叱ったってなんかきちんと理性的に指導してます、みたいな感じに聞こえるけど、そんなんじゃないっすよ」
 「そうかなあ。ゲームの時も自分が自分がってアピールするのが多い中で、全体のバランス考えて動いてたようにみえたけど。まあ、そうね、あの怒鳴ったあとは吉澤も、自分でやったるって感じになってたか」
 「いやあ、最後はもう、そうですね。いつもチームにいる時はそうでもないんですけど。今回はみんな初対面だったから。私が言えるレベルじゃないですけど、もう誰も信用できない、自分でどうにかしようって感じに最後はなっちゃいました」
 「いいよ、それで。これからもしばらく」
 「え? それでいいんですか?」
 「うん。言葉悪いけど、このレベルのメンバーの中で、吉澤はまだ、全体考えて動けとかいうとこにいない。必死にやってようやく何とかついていけるっていうレベルだから」

 自分が、失敗した、と思ったことをそれでいいといわれ、吉澤の顔ははっきり戸惑っている。
51 :第九部 :2010/08/14(土) 22:54
 「石川や是永みたいなの、あるいはインサイドがちがちで飯田みたいなのを、いろんなこと考えながら一対一で自分がとめられるレベルにあると思う?」
 「いやー、あんま認めたくないですけど、簡単じゃないかなあとは・・・」
 「バランス考えるのは大事なことで悪いことじゃないけど、今はそれはいらない。吉澤はまず、自分の力量としてその辺のメンバーに喰らいつくことだけ考えればいいよ。吉澤にもあったでしょ、初めてバスケ始めて、全然何も出来なくて、速く先輩たちに追いつきたいって頑張ってた頃」
 「まあ・・・、はい」
 「その感覚で今は練習してればいい。五対五の中で、きちんとバランス考えて動けるのは今日見てて分かったから。それは、試合に出られる立場になってからもう一回発揮してくれればいいよ。今の吉澤は、まず、メンバーに残ること。その為に自分の力量を上げる。これだけ考えればいいから」

 コーチ様からの指示は、ようは目立たない一部員の立場に戻って、もう一度這い上がることを目指せというもの。
 全体に対する責任は負わなくていいから、ほぼ、自分のことだけ考えろということだ。
52 :第九部 :2010/08/14(土) 22:54
 「ポジション的には、もしかしたら本当は外目のがいいんじゃないかと思うんだけど、ちょっとこれはチーム事情でインサイドやってもらいたいと思う。三番争うにはハードル高いからね」
 「石川さんとか三番やるんですか?」
 「そういうこと。外人でかいから。そうするとインサイドが薄いんだ。その薄くなったメンバーの中だと吉澤もチャンスあるよ」
 「飯田さんにぶつかっていけばいいってことっすか?」
 「そうそうそう。村田、後藤、里田、あと木下とか、そういう面々と生き残りをかけて戦ってもらうことになるかな。まあ、後藤や里田は外に回しちゃうかもしれないけど」
 「外人かあ。アメリカ人とかでかそうっすね」
 「アメリカ人はいないよとりあえず。まずはアジアだから。それともあれか。出場権は当然取るし、来年自分も当然出るとそういうことか」

 今回の選抜チームは、来年のU-20の世界選手権のアジア予選のために呼ばれた。
 今回戦う相手はアジアのチームである。
53 :第九部 :2010/08/14(土) 22:54
 「へ? あ、そうか。いやいやいや。来年のことなんかわかんないっすよ。バスケやってるかどうかも」
 「こらこらこら。そういや進路はどうなってるの? あのチームだと社会人とのパイプとかなさそうだけど」
 「いやあ、実は何も考えてないんですよね。就職か進学か。進学にしても大学行くのも専門も、なんか、実感湧かなくて」
 「専門て・・・。あのさ、吉澤。自分がどういう人間か分かってる? バスケ始めて二年半でアンダー19の代表候補に呼ばれてるんだよ。高校出たら社会人のチームに入るか、大学行くか、二択なの。社会人から呼ばれるにはチームのパイプもなかったり力的にももしかしたら認めてもらえてないかもしれないけど、もし、そうだとしたら大学でバスケをやる。それがこういうところに選抜される人間の義務よ義務。もちろん、アメリカ行ってWNBAを目指すとか思い切ったことやってもいいけど。それを、勉学に専念とか下手なアイドルの引退理由みたいなこと言わないでよ。資格を取って就職するために専門学校へとか。まあ、人の人生だし、あんまり無責任なこと言えないけど、すくなくともこの先も本格的な形でバスケはやってもらわないと。いくらなんでももったいない」
 「はあ・・・」

 吉澤は、本当にその点については何も考えていないだけだった。
 考えていないわけではないが、まったくイメージが湧かないというところだろうか。
 資格を取るために専門学校へ行きたいというわけでもないし、遊ぶために大学へ行こうかと言うことでもない。
 まして勉学に専念なんてこともない。
 ただ、イメージが浮かばないのだ。

 「まあ、いいや、それは。ここで話すことでもないし。でも、進路はきちんと考えた方がいいよ」

 言っていることはごもっともであるが、吉澤はなんとも返事は出来なかった。
54 :第九部 :2010/08/14(土) 22:54
 「吉澤は、二年半でここに呼ばれるだけの力を身につけてきたんだから、ここで一週間なり三週間なり、そういう短い期間でもいろいろと学べることがあると思うんだ。年上、年下関係なく、周り全部から学ぼうっていう姿勢で、まず、一週間頑張って。そうすれば、メンバー残れるかもしれないし。いいよー、国際試合は。国内の試合とは経験値の積みあがり方が全然違う」
 「何とか頑張ってみます」

 話はその辺で終わった。
 帰る途中、そういえばプレイ面の課題がどうのと富岡の子は言われたと言っていたけど、自分は具体的なことは何も言われなかったな、と思った。
55 :第九部 :2010/08/14(土) 22:55
 「意味わかんないんですけど」
 「なになになに、入ってくるなり」
 「だってそうでしょ。いまや選手ですらないのにこんなとこに呼ばれても意味わかんないんですけど」

 信田コーチに呼ばれて部屋に入るなり矢口は言いだした。

 「意味って、U-19の代表候補として練習して、代表に選ばれたらアジア予選を戦って、三番以内に入れば来年の」
 「そういうことじゃないです!」
 「どういうことよ」
 「もう、選手としてやってないんですって、矢口は。その上、力量だって別にたいしたことなかったんだし。ただの女子大生してるんですってば。それがなんでこんなとこに呼ばれたのか分からないって言ってるんです」
 「そう言いながら来たじゃない、素直に。辞退も出来たのに」
 「呼ばれたから来たんですよ。だから、説明してくださいよ。矢口の選出理由」
 「理由ねえ・・・」

 そういうのを説明するために面談をしようと思ったのだが、こんな剣幕でガキに詰め寄られると、素直に説明したくなくなってしまうのも大人の一つの心理だったりする。
56 :第九部 :2010/08/14(土) 22:55
 「矢口だってバカじゃないんだから、自分が藤本とか福田とか、ああいう子達と比べて力の差があるのなんか分かってますよ。自分がやってたときでさえそうなのに、今になって呼ばれたって勝てるわけないじゃないですか普通に」
 「そう? 福田はともかく、藤本とは試合で結構ちゃんと渡り合ってたでしょ? 去年の選抜だったかな」
 「それ見たなら余計分かりそうなもんじゃないですか。前半は何とかなってたけど一試合終わってみたらぼこぼこにやられたっての」
 「丸々一試合なんて期待してないよ。五分、いや、三分でいいんだよ。三分で流れ変える何かを出してくれれば。四十分なんて期待しない。悪いけど、全部押しのけてスタメン張れるほどの力は確かにないと思うから。今から伸びてくれれば可能性ゼロじゃないけど、そこまで期待したわけじゃない」
 「そういうキャラでもないと思うんですけど・・・」
 「そういうキャラって?」
 「短い時間で流れを変えるような、そんなキャラでもないですよ、たぶん。スリーポイントとか、リバウンドとか、得意な一芸があるわけでもないし」
 「あら、うわさと違って意外に謙虚なのね」

 どうせ、ろくでもないうわさが流れてるんだろうな、と矢口は苦い顔をする。
57 :第九部 :2010/08/14(土) 22:55
 「あなた入るだけで会場の空気は変わると思うよ。だって、バスケでその身長だもの。国際試合に出たらギネス載るんじゃない?」
 「矢口は見世物ですか・・・」
 「いや、それで入って行って二十センチ三十センチ自分より大きい相手をさくっと抜いてジャンプシュートなんて決めたら盛り上がるじゃない」
 「まあ、そんな気がしないでもないですけど」

 映像をイメージしたのか、矢口は悪くないな、という顔をしている。

 「あと、ボール運びかな。プレスで当たられたとして、そこをパスで突破じゃなくてドリブルで突破することを考えた場合、その身長のドリブルを叩いて奪うって結構難しいのよ。相手の身長が大きいと特にね」
 「でも、そんなにキープ力ないっすよ。そういうシチュエーションだと自分でぽろぽろやるし」
 「だから、そこは鍛えろって話しよ。今日も、確かに自分で言ってるように藤本、福田にそう当たられてポロポロやってたのは見て分かってる。でも、そこ一点だけなら短い時間でも克服できるんじゃない? もちろん、四十分全部出て、試合組み立ててシュートも決めてディフェンスも出来るっていうのが望ましいけれど、それを期待して呼んだわけじゃないってこと。特定のワンポイント、ツーポイント。そこで力を発揮してもらう可能性に期待して呼んだ。そういうこと。分かる? 納得した?」
 「・・・、なんかうまく言いくるめられたような気がしますけど」

 また苦い顔をしているが、それでも矢口は矛を収めた。
 信田は薄い笑みを見せている。
 きゃんきゃん騒ぐ小動物がちょっとかわいらしく見えた。
58 :第九部 :2010/08/14(土) 22:56
 「そしたら、あの、一つお願いがあるんですけど」
 「なに?」
 「部屋、変えてもらえないですか?」
 「ダメ」

 信田は即答した。

 「そんな、即答しなくても」
 「即答よ。考える余地ないもの。即答。ダメ」
 「いや、ほら、人間関係っていろいろあるじゃないですか。相性とか。あの子とちょっと難しいんですよ」
 「なに? 負けたこと根に持ってるの? そんなんじゃやっていけないよ」
 「あー、どっちかっていうと、根に持ってるのは多分向こうっていうか、その。とにかくいろいろあるんですよ」
 「そのいろいろを飲み込んでうまくやる。選抜チームなんてそんなものよ」
 「そうかもしれないですけど・・・」

 具体的な理由は言葉に出来ない矢口。
 説得力を欠いている。

 「まあ、頑張ってよ。いろいろと。期待してるから」
 「あんまり期待されてる気がしないんですけど、その言い方」
 「そんなことないよ。私は全員に期待してる。まあ、今日はゆっくり休んで、また明日から」
 「ゆっくり休めないですよ、あの部屋・・・」

 グチグチいいながらも矢口は席を立つ。
 扉に手をかけた矢口に、信田が声を掛けた。

 「中国語と韓国語の勉強しときなさいよ。そういうところも期待してるから」
 「大学行ってるからって、別に語学得意なわけじゃないっすよ」

 信田はいたずらっぽく笑っている。
 矢口は扉をあけて部屋を出た。
 部屋を出てから気がついた。
 あれって、試合中に使えってことか???
59 :第九部 :2010/08/14(土) 22:56
 今日の面談は矢口が最後である。
 小湊が言った。

 「部屋、代えてあげたら」
 「だからダメだって。藤本-矢口部屋は一番最初に決まったんだから」
 「そうなの?」

 信田は適当に選んで部屋割りを決めたわけではない。

 「元々さ、藤本ってメンタルに問題があったでしょ。それが、ここ最近は割と克服出来てきてるって。特に、今年に入ってキャプテンやるようになってからリーダーとしての責任感とともに、メンタル面でも強くなったって聞いてる。インターハイの決勝も最後までよく走ってて、そういう部分では確かにメンタルも強くなったかなって思うんだ。ただ、精神的な不快感に耐えられるかどうかっていうのはちょっとまた別なのよね。ここでの立場はチームでの立場とはまた違ってくるから、リーダーとしての責任感みたいなのは失われると思うし。そういう中で、メンタル的にどうなのかって。それを試すというか鍛えると言うか。そういうのに同じ部屋に矢口を入れてみたんだから」
 「仲悪いの分かっててあえてやったの?」
 「うん。根に持ってるのは向こうだって矢口が言ってたけど、多分そうでしょ。試合の時にあれこれ言ったんでしょ矢口がきっと。多分、他にもいるんじゃないかなあの子とそういう因縁のある子」
60 :第九部 :2010/08/14(土) 22:56
 信田はU-19のコーチだ。
 高校生年代の試合は当然よく見ている。
 矢口はそれほど有名な選手ではないが、選抜の滝川戦で印象に残っていた。
 スタンドからの観戦ではなく、映像をしっかり見ていると試合中に矢口と藤本が会話を交わしているのは分かる。
 その度に、不快そうな顔をしているのはいつも藤本の方だった。

 「そういう子入れて、チームの雰囲気悪くならない?」
 「最初の一週間くらいはいいんじゃない? それでも。大会期間中までそうだと困るけど」
 「結局、一週間で帰ってもらう前提なんじゃない」
 「もちろん、力量的に残すべきだって思ったら残すよ。それは二十四人誰をとっても同じ。今の序列が何番目でも、最終的に誰を選ぶかを決める時に、チームに残すべきだって思えば残す。ダメだと思ったら帰ってもらう。ただ、実際には、悪いけど、ある種かませ犬みたいな位置づけで呼んだっていうのはある」
 「ひどいなあ」
 「かませ犬は言葉悪すぎるとすれば試金石っていうあたりがいいかな。でも、チャンスは与えてあるって。さっき言った期待してる内容は本人に即してて。ホントにそこが役に立つようなら連れて行くし。考え方とか、多様性っていう面でこういうのもいるんだって、藤本は知ってるだろうけど、他に当然知らない面々もいるだろうから、そういうのを感じ取らせたいとも思うし。意味があって呼んでるんだよ、あの子だけじゃなく、全員」

 小湊は納得したようなしてないような、あいまいな顔を見せる。
 完全に納得してるわけではなさそうだな、と信田は思ったけれど、その点についてはここで話しを打ち切った。
61 :第九部 :2010/08/14(土) 22:57
 「さて、一日終わってのみわりんの感想は?」
 「感想?」
 「アップの光景とミニゲーム連続と六人の面談と。その辺見ていろいろと評価もあったでしょ」
 「是永、どうするのかな」
 「ああ・・・」

 是永は今日の面談三人目で長々と話して行った。
 プレイ面の課題をこちらから具体的に提示してどうこうする、という段階ではないと信田は思っている。
 主に、夏のアメリカでの話を聞いた。
 結局、ハイスクールでの練習に混ざるのと代理人候補にあって身分照会をするくらいでそのときは帰ってきた。
 それでも得るものはあったという。

 向こうはとにかく一対一の世界だったと言っていた。
 信田も小湊も、肌感覚としてアメリカのバスケを知っているわけではない。
 信田は一度代表として試合をして子ども扱いされた経験はあるが、アメリカに行ってその中に混じってゲームをしたことはないので、是永の言葉は指導するべき立場の側にいながらも新鮮に聞いていた。
62 :第九部 :2010/08/14(土) 22:57
 「本人が決めることだからねえ」
 「あら、吉澤の時とはずいぶん違うんだ」
 「あれはないでしょだって。まだあっちは芯が出来上がってないからああいうこと言うんだろうと思うけど。是永はその辺の芯は強固に出来上がってるはずだから。迷いがある風なことを言ってたけど最後はきちんと決めるでしょ」

 いざアメリカに行ってみると、それなりにいろいろと迷いも出てくるものらしい。
 結構通用したと自分では言っていた。
 ただ、性格として言葉を選んでいたが、日本の中でなら出来たような無双状態にはさすがになれなかったらしい。
 一つのハイスクールでそれなんだから上行ったらどうなるんでしょうね、と笑顔交じりに言っていた。
 信田にすれば、迷ってるんじゃなくて楽しんでるじゃないか、と思ったが、それはいわなかった。
 いざ決断を迫られたとき、どういう決断をするかは信田には見えている。

 「あと、面談やるなら中学生二人は早めに呼んだ方がいいと思う」
 「ああ、そうだね。確かに」
 「一番変われるとしたらあの二人なんだし」
 「なんか、吉澤と後藤ばっかり早く何とかしようと思って、中学生忘れてた」
 「忘れないでよ」

 面談は六人一ターンで毎晩ではなくて、二日目からは午前練と午後練の間の昼にもやろうと思っている。
63 :第九部 :2010/08/14(土) 22:57
 「プレイ面ではどう?」
 「今日は、ほとんど一対一の強弱しかわかんなかったけど、松浦は良かったね。無名組みの中では」
 「無名組みって。二十四人横一線で見てよ」
 「そうは言っても、やる前からある程度できるのが分かってるメンバーっているでしょ。是永しかり石川しかり。平家や飯田や藤本みたいにこれまでの実績十分っていう有名人たちと、中学まで無名で高校入って今年初めてインターハイベスト8まで来ましたっていうところの二年生じゃこれまでのこっちの知識が違うんだから」
 「それは認めよう」
 「周りとのあわせがしっかり出来るかとか、ディフェンスはどうなんだとか、わかんない点はまだたくさんあるけど、今日見た限りじゃ面白いなって思った」

 小湊は松浦についての情報はあまり持っていなかった。
 インターハイの富岡戦くらいのものだ。
 前半自滅したのと、後半盛り返したのは高橋との身長差があってのこと、という程度の印象で、それほど買っているわけではなかった。
64 :第九部 :2010/08/14(土) 22:57
 「無名組みで言うならあとは後藤かな」
 「うん」
 「やる気あるんだかないんだかって感じで。時々ありえないミスもするけどポテンシャルは高いんだなってのはわかったよ」
 「あの子も経験不足だからなあ。ここで経験積めば一気に伸びそうな気はするんだよね」
 「いい方はそんな感じ」
 「悪い方は?」
 「ああいう学校を選んでここまでの成績を上げてきたっていうのは私は悪い選択ではなかったとは思うんだけど、実際、今日見てみると、美帆の言うとおりなのかなあって思った」
 「福田?」
 「うん」

 今日の福田は、田中や矢口といった自分よりはっきり落ちるというような相手には徹底的に強かったかが、藤本や高橋といったところには手を焼いていいところがなかった。
65 :第九部 :2010/08/14(土) 22:58
 「周りとしっかり合ってればまた違ったのかもしれないけど、今日みたいにとにかく一人の個人としての力だけを純粋に見られちゃうシチュエーションだと、確かに伸びてなかったね」
 「ああ見えてチームの輪を大事にするんだよねあの子。もちろん、日常生活でのなかよしこよしの輪ではなくて、コートの上でのことだけど。一対一を嫌うっていうか」
 「合理的なようでいてその辺不合理になってるのかな」
 「一対一は自分が自分がタイプのが伸びるからねえ。あんまり試合で自分が自分がをやられちゃ困るけど、それだけの力は備えていてもらわないといけないわけで」
 「ただ、それでもレベルは相当高いと思う」
 「いろいろな面でバランスとろうとして逆に偏っちゃった感じなんだよなあ」

 評価は高いけれど今日は悪かった、という見方と、ポテンシャルは高いけれどそれを生かしきれていないという見方と二つできる。
 いずれにしても、今日の福田は二人の期待している水準には届いていないというものだった。
 ただ、期待している水準が、その辺の選手たちとは違う、という事情もある。


 このあと二人は明日の練習メニューなどを打ち合わせてから解散した。
66 :名無飼育さん :2010/08/18(水) 04:54
追いつきましたー素敵な作品に出会えて嬉しいです
登場人物たちの成長を愛情込めて丁寧に描いていらっしゃるように思います
長編お疲れ様ですがぼちぼちと見守らせていただきます
67 :作者 :2010/08/21(土) 23:54
>>66
こちらも、夏休みご新規さんでしょうか。長い話を後追いでありがとうございます。
まだまだ続きますので、今後もよろしくお願いします。
68 :第九部 :2010/08/21(土) 23:54
 「暫定的だけど、このチームのキャプテンは飯田ってことにします。まずは代表メンバーが決まるまでそれで行きます」

 翌朝の練習開始時。
 信田がメンバーに告げた。
 平家か飯田か、という二択が信田の中にあったが、飯田を選んだ。

 どんなレベルでもランニングして、フットワークがありそのあと走る系のメニューに進むというパターンが多い。
 ツーメンだのスリーメンだの、基礎的な練習も、リズムを作るためにこのレベルのメンバーが相手であってもやらせる。
 そういった体を動かす的メニューの後に信田は一度メンバーを集めた。

 「次はポジション別の一対一ね。それぞれチームでやってるポジション、希望のポジションあると思うけど、今日はこちらで分けたのにしたがってもらえます。これは暫定で、明日にはもう違ってるかもしれないし、メンバー選んだ後に変わることもあるかもしれない。その辺は柔軟に受け止めて」

 どう考えてもガード以外の選択肢がない矢口のようなのもいるが、どっちも出来る、あるいは両方の狭間にいる、などで何をさせられるか分からないものもいる。
69 :第九部 :2010/08/21(土) 23:54
 「ガード 矢口 藤本 高橋 福田 亀井 田中 光井」

 信田は持っているメモを読み上げる。

 「フォワード 平家 是永 石川 柴田 後藤 安倍 松浦 久住」

 自分の名前が呼ばれて、後藤が意外そうな顔をした。
 ここで呼ばれるとは思っていなかったようだ。

 「センター 飯田 村田 里田 吉澤 木村 木下 スザンヌ 道重 斉藤」

 センターが一番多い。
 競争が激しいと取るか、どんぐりの背比べと取るか、受け取り方は選手それぞれ様々だ。

 「相手は随時変わるように。同じ相手が何度も続かないようにな。その辺は適宜調整して。ガードはそこ、フォワードはあそこで、センターは向こうね」

 コートは二面、どちらも占有している。
 隣のコートではバレー部が練習、などということはない。
 指示に従って、それぞれ散らばった。
70 :第九部 :2010/08/21(土) 23:55
 所定の場所に向かう前に自分の持ち物を回収する。
 端においてあるタオル。
 松浦はそれを拾い上げる時につぶやいた。

 「そっか、学年順か」

 隣のタオルを取りに来た福田、つぶやきを聞いて、??? という顔をする。
 松浦は、その顔を見て解説した。

 「何順で呼んでるのかなって思って。学年順ならまあいっかな」

 信田の呼んだ順番を気にしていた松浦。
 平家、是永、石川と続いていたので、実力認定順? と一瞬思ったのだ。
 自分が後ろから二番目は納得がいかない。
 それで頭の中で何度か反芻していた。
 実力順で、ガードが矢口一番手はない。
 じゃあ、背の順? とも思ったのだが、それもなんか違う。
 というところで学年順に行き当たった。

 いろいろはしょっているが、松浦の言葉の意味は福田には通じた。
 そんなこと気にしてたのか、とも思ったが、気にする方が正しいのかもしれないとも思う。
71 :第九部 :2010/08/21(土) 23:55
 さて、一対一だ。
 こういう時に、ぎらぎら出来るのが、松にあって自分にないところだなと福田は思った。
 自分は、よし、やるぞ、みたいな雰囲気を表に出すことはしないし出来ない。

 自分が人の足を引っ張る、というのは久しぶりの経験だった。
 昨日のミニゲーム。
 最初の二戦はいいとして、最後の一戦、明らかに自分は足を引っ張っていた。
 藤本美貴。
 こんなに強力な相手だっただろうか。

 スタミナ面の問題は確かにあった。
 それはそれで克服しないといけない問題だ。
 最後の高橋愛はそういう問題で、だから許されるということではないけれど、想定の範囲内ではあった。
 万全の状態で向かい合えばそうそう負けるものではないと思う。

 体感として、藤本は違った。
 負けている、と感じてしまったのだ。
 傍から見れば、藤本を相手にしていたときと、高橋を相手にしていた場面と、大差はなかったかもしれない。
 しかし、福田にとっては大違いだったのだ。
72 :第九部 :2010/08/21(土) 23:55
 ガード陣の一対一。
 やってきたものから適当に並ぶ。
 福田は、誰かと意図的に当たるように、という並び方はしなかった。
 他の誰かがそういう風な何か意図を持っているようにも見えない。
 ただ、それは見えないだけど、それぞれに思うところがある人もいるんだろうな、とは思っている。

 一対一の練習はあまり好きではなかった。
 なぜなら、一人でシュートまで持っていかないといけないからだ。
 また、相手も一人でシュートまで持って行く、という前提でディフェンスをすることになるから。
 フォワードならまあいい。
 だけど、自分たちガードは、そんな選択はなかなかしないもの。
 練習として少々不自然だと思っている。

 ただ、技量を磨く、という点では無意味ではない。
 だから文句は言わずにやる。

 最初は対矢口でオフェンス。
 スピードで抜き去ってゴール下まで入り込んでシュートを決める。
 続いて田中相手のディフェンス。
 厳しいディフェンスに耐え切れなかった田中が遠い位置でそれも逃げるような形でのジャンプシュートを放って、リングにも当たらずに終わった。
73 :第九部 :2010/08/21(土) 23:56
 力関係はなんとなく分かる。
 藤本、高橋、自分の三人と、他の四人の間に少し差を感じる。
 ただ、他の四人の中では、光井という中学生は個人技はあるんだなと感じた。
 自分ディフェンスで、ミドルレンジからのジャンプシュートをきっちり決められてしまった。
 でも、オフェンスは良くてもディフェンスがひどすぎるので自分なら使いたくない。
 ディフェンスだけ見たら七人の中で一番落ちるし、辻をつれてきた方がましなくらいかもしれない。

 全体にぎこちないな、と思った。
 会話がない。
 練習中に私語がないのはいいことなようではあるが、活気がなさすぎる。
 ふと、フォワードの一対一グループに視線を向けると、ワンプレーワンプレーに変な盛り上がりがあるのが見えた。
 一喜一憂見えやすい石川がいて、まわりに柴田に平家、富岡勢の会話が弾んでいる。
 その三人を中心に、感情が表に出る松、名前忘れたけど物怖じしない中学生がいて、外からの声も飛んでいる。

 対称的に自分たちの練習は淡々としたものだ。
 盛り上げ役がいない。
 インターハイのときに突然入り込んできてた時の感想からすると、矢口って人は性格的にはそれに当たるはずなのだけど、このメンバーだと遠慮があるようだ。
 藤本は馴染みのないメンバーの中でリーダーシップを発揮する気はないらしい。
 続く年長者は、自分か高橋だけど、明らかにキャラじゃない。
 同じ富岡でも、石川平家柴田と違い、高橋田中では、場の空気が弾むような会話は起きないらしい。
74 :第九部 :2010/08/21(土) 23:56
 見かねたのか信田がやってくる。
 中央のパサーポジション、そこからオフェンス役がボールを受け取った時が一対一のスタート、というところに自分で入った。

 「盛り上がりに欠けるなあ。せっかくいつもと違う相手と練習できるんだから、もっと楽しまなきゃ」

 田中のジャンプシュートが外れたリバウンドを拾った光井がボールを信田に返す。

 「お、矢口、選抜のリベンジチャンスじゃん。止めてみろ」

 左サイドで矢口ディフェンスの藤本オフェンス。
 信田の言葉に矢口だけで無く藤本も微妙な表情をする。

 ここの一対一は藤本が簡単に切れ込んで、ゴール正面からボードを使ってジャンプシュートを決めた。

 「矢口、簡単にやられすぎ」
 「すいません」

 軽くなじって次へ。
 右サイドで田中ディフェンス亀井オフェンス。
75 :第九部 :2010/08/21(土) 23:57
 外でボールを受けてドリブル突破を計るけれど抜ききれない。
 バックターン一つ入れて距離遠めのジャンプシュート。
 リング手前に当たって跳ね上がる。
 二人で追いかけ、背の高い亀井の方がボールを確保する。

 「もう一本! もう一本!」

 信田が亀井のボールを戻させる。
 もう一度。
 意図的にか無意識にか、亀井はまったく同じ動きをしてボールを受け、まったく同じようにドリブル突破を試みた。
 やはり抜ききれず同じような形でシュート。
 今度はリング奥に当たって小さく跳ねる。
 ボールに近い側にいたのは田中だが、横から入り込んで亀井がボールをさらった。
 ワンドリブルでゴール反対側へ抜けてボードに当ててシュートを決めた。

 「いいよ、いいよ。あきらめないその形。田中は打たれたらボールじゃなくてまずスクリーンアウト。スクリーンアウトはインサイドだけのものじゃないんだから。まずスクリーンアウト。ボール追うのはそれから」

 亀井は照れたように笑っている。
 ただ、それをハイタッチで迎える列、というのもないし、軽く頭を下げた田中を慰めるような声もない。
 それぞれが次の順番を待っている。

 福田も、全体の雰囲気がどう、とか言っている場合じゃないな、と自分のことに集中することにした。
 まわりは、知っている顔ばかりではあるけれど、ほとんど話をしたことのないメンバーだ。
 自分が何かを変えるのには力不足すぎる。
 特に意図したわけではなかったけれど、高橋相手になることが結構多かった。
 勝率は悪くなかったと思う。
 スタミナ十分で対すれば大丈夫な相手だ。
 ただ、藤本を相手にした時は、オフェンス自分でぴったりとブロックショットを喰らった。
76 :第九部 :2010/08/21(土) 23:57
 ポジション別の一対一の練習はやがて終わり、三対三、五対五へと移行していった。
 五対五は、スタメン候補が誰かが見えやすいメニューである。
 選手の側は当然それを意識する。

 「Aチーム 福田 久住 是永 斉藤 村田  Bチーム 光井 松浦 平家 後藤 吉澤」

 一同、なんだそりゃ? という顔をした。
 スタメン候補がどうとか、そんなメンバーには到底見えない。

 「呼んだ順番に上から下ね。適宜変えるから。いつもとポジション違うって思ったのが結構いると思うけど、それで慣れて。ディフェンスはマンツー」

 ハーフコートの五対五で、ディフェンスだけ指定付きである。
 まだ、チームを固める気がないんだな、と福田は思った。
 慣れないポジション、慣れないメンバーを組み合わせて、いろいろと見て見たいことがあるんだろう、と理解する。

 ハーフコートの五対五。
 Aチームがオフェンス、というのがこういう時の相場だ。
 福田からしたら、四人が四人ともまったく同じチームでプレイしたことのないメンバーだ。
 マッチアップの光井がディフェンスザルなところが大きな救いではある。
77 :第九部 :2010/08/21(土) 23:57
 一本目。
 相手との力関係もよく分からないし、とりあえず外で回してスタート。
 適当に動いていると自分の前が空いたりもしたが、安易に勝負はせず、是永や里田がいい状態で受けられるところまで待つ。
 最後はボールを受けた是永に松浦の意識も釣られて、空いた久住がゴール下へ駆け込み、是永からのパスを受けてシュートを決めた。

 「変わらないなあ、福田は」

 にこやかに信田が語りかける。
 今の流れでなんで自分? と福田は思ったが、軽く頭を下げておく。
 信田は中学時代の自分を知っている。
 その頃の姿を前提にしての言葉だろう、とは思う。

 二本目は右0度外に福田で中に里田。
 バウンドパスを入れて、外に出して、またバウンドパスを入れて、外に出してを三本繰り返す。
 光井は行ったり来たりしていたが、やがて遅れた。
 0度でボールを持ってフリーの福田のところに平家がカバーに来る。
 シュートの構えのままゆっくりそれを待って空いた是永に送った。
 ミドルレンジで是永はジャンプシュートを決めた。

 「福田は相変わらずだなあ」
 「ありがとうございます」

 ここで声を掛けられるのは理解できるし、近くにいたのでお礼を言ってみた。
 そうしたら、予想外の言葉が帰ってきた。

 「福田、私、褒めてないよ」

 なんなんだ? と思いながら三本目。
 今度はうまくいかなかった。
 里田の一対一からのシュートが長くなりリング奥に当たって跳ねる。
 リバウンドを吉澤が拾った。
78 :第九部 :2010/08/21(土) 23:58
 「福田交代」
 「え?」
 「高橋、入って」

 適宜交代とは言っていたけれど、三本で交代はないんじゃなかろうか?
 福田としては予想外である。
 人数多いし仕方ないのかな、なんて思っていたらそのまま信田に呼ばれた。
 信田の手元には作戦板が置かれている。
 五対五はそのまま続けられているが、信田はそこから目を話して小湊に任せるようだ。

 「福田、二本目の時の動き覚えてる?」
 「二本目ですか?」
 「そう」
 「目に入った範囲なら」
 「ちょっと動きをこれで示してみて」

 自分に見えてなかったところがあったということだろうか?
 そんなことを思いつつマグネットで全体の動きを再現する。
 二本目はそれほど複雑な動きは無かった。
 自分と里田は動かずに三本ほどパスのやり取りをしていて、全体にも目を配っていたつもりだ。
 だから、はっきりと動きを再現できる。

 「よく覚えてるね」
 「まあ」
 「じゃあ、それが最善手だった? 他に選択肢はなかった?」
79 :第九部 :2010/08/21(土) 23:58
 そう問われると、はいとは言い難い。
 里田が勝負するという選択肢もあったと思うし・・・。
 ただ、自分が聞かれているのはそういうことでは無く、自分の選択が最善だったかどうかということだろうとは思っている。
 そして、これがイエスかノーかの問いかけではなくて、反語であって他に選択肢はあったでしょ、と言われているのだというのも感じた。
 それを無視して、はい、なかったです、とこたえる気にはなれない。

 「全体のことを言ってるんじゃないんだ。福田自身の選択ね。例えばここの場面とか。あと、三本目もそうだし一本目にもあった」

 何を言っているんだ?
 話が広がってきた。

 「ちょっと考えてみてよ。そのうち聞くから、また」

 強い言葉を投げつけられたわけではないが福田は理解した。
 自分は叱られているのだ。
 具体的な理由は分からないけれど。
 懲罰、とまではいかないようだけど、叱るために五対五から外されたのだ。
 自分から離れて五対五の方へ向かって行く信田の背中を見つつ、福田は少し不快感を感じた。
80 :第九部 :2010/08/21(土) 23:58
 五対五は、実際、適宜メンバーを代えて行った。
 ただ代えられるものと、下がった後信田に呼ばれて少し話をするものとそれぞれいる。
 作戦板使ってまであれこれさせられたのは福田くらいだけど、それぞれ身振り手振り交えて、あの場面でどうだったこうだったというやり取りはあるようだ。
 吉澤も言われるし光井も言われたし、是永も言われているのだから、プレイヤーのレベルはきっと関係ないのだろうと思う。
 それでも、福田は自分が不満を感じているのだというのが分かった。
 プレイ面でコーチ陣から何か言われるのは、それだけで不満を感じるようなことではないのだけど、なぜだか納得行かない。
 言われたことが抽象的で、答えを提示されていないからだろうか。
 わからない。

 やがて五対五が終わり、そのまま午前の練習が終了した。
 ダウン、ストレッチは適宜やりなさいということだ。

 「昼の休みにも面談やるから。また六人ね。久住、道重、柴田、平家、村田、木下。呼んだ順に順番。後のメンバーは、まあ、呼ばれたメンバーもそうだけど、しっかり休むこと」
81 :第九部 :2010/08/21(土) 23:59
 練習は午前と午後の二部構成だ。
 学校の合宿のような、ひたすら走れ、我慢だ我慢、というようなメニューはない。
 宿が大部屋じゃないというのも一つの違いだろう。
 食事もどこそこ旅館の名物メニューとかそういう方向性ではなくて、栄養士が考えたスポーツ選手向けのもの、という風になっている。
 年代別ではあるが、その辺は国の代表選手、あるいはその候補選手、に対しての扱いである。
 サッカーほど莫大な予算があるわけではないが、それなりにはメジャーな側に入る競技であるバスケは、それなりには予算があった。
 男子の方は、競技レベルが低く、アジアでもベスト8に残れるかどうかというところで、国内もトップのリーグが二つに割れていたりと問題山済みであるが、女子の方は割と平和にやっていて、アジアの中ではトップレベルを保っている。
 その辺の事情を知ってか知らずか、部屋でのんびり昼寝なんかをして休憩時間を過ごす。

 午後も午前と似たようなメニューが組まれた。
 ポジション別の一対一。
 その後は多少アレンジして、ガード陣はエンドから三対四でボール運びであり、センターはリバウンド練習であり、とポジション別に多く時間を使う。
 最後の五対五は二組に分けた。
 合計二十人がコートにいる計算で、午前と比べて個々人の練習時間が長くなる。
 まだ、どこを見てもスタメン組みなどの区別は感じられなかった。
82 :第九部 :2010/08/21(土) 23:59
 二日目夜。
 福田はここで面談に呼ばれた。

 「答えは出た?」

 信田に問いかけられる。
 午後の練習では一言も掛けられなかった。
 それは多分、たまたまではなくて、意図的にそうだったのだろうと福田は思っている。
 答えは、なんて口に出せば正解と言われるかはなんとなく分かったのだが、それは福田にとっての正解ではなく、まだ、納得いっていなかった。
 福田が答えないでいると信田は続けた。

 「私、変わらないねって言ったよね」
 「褒めてないよとも言いました」
 「そう。よく覚えているじゃない。答えも出てるんじゃないの?」

 福田は口をつぐむ。

 「私ね、どのプレイヤーも局面に応じてすべてのプレイをこなすべきだと思ってるのよね。シチュエーションによってはガードだってリバウンドに入ることもある。それは分かるよね」
 「はい」
 「うん。まあ、福田は一対一の練習の時なんかでもきちんとスクリーンアウトするんだから、その辺は問題ないと思う。逆にセンターだってリバウンドだけ取れればそれでいいってことはない。局面局面でやるべきことがある。ガードもボール運んでパス出せればいいってものじゃない」
 「シュート打てって言いたいんですか?」
 「分かってるじゃない」

 黙っていられなくて針のついたエサに、針が見えているのに喰いついた。
83 :第九部 :2010/08/21(土) 23:59
 「作戦板使って聞いたあの場面は、インサイドの里田とパスのやり取りが何本もあったところだった。ディフェンスが光井だから右往左往して、福田はボールを受けてフリーな時間が結構あったわけだ。それでも勝負はせずに是永がフリーになるのを待ってパスを出した」
 「フリーの是永さんがゴールに向かって走ったあの場面が一番得点の可能性は高かったと思います」
 「最終的にはね。平家が福田の方に寄ったあの時点で是永が空いた。そこでパスを出したのは正解ではある。でも、なんでそこまで待つの? フリーでボール持って時間もあった。あの間合い、あの位置。打てるでしょ」
 「他に選択肢はいろいろとありました。まだ時間は十分あった。その時間を使って十分に崩しきって最良の形でシュートに持っていけました」
 「そうね。でも、打つ選択肢はあったでしょ?」
 「ガードが自分で勝負してシュートというのは最後の選択肢です」
 「なぜ? なぜ最後なの? 最初じゃいけないの?」
 「全体に目を配ってゲームを作るのがガードの役割です。それが自分でシュートを打ち始めたらゲームが壊れます」
 「本当に? 本当に壊れる?」

 はい、と答える空気ではなかった。
 相手が吉澤ならはいと言ったかもしれない。
 でも、信田になると、いかに福田といえどもここではいとは言えなかった。
84 :第九部 :2010/08/22(日) 00:00
 「ボール持ったら全部一対一で自分で全部決めろ、なんてことは私は言わないよ。ただ、打てるときには打つべきだってはなしで。それはガードもセンターも関係なくね。局面によってはガードだってリバウンドを取ることになるのと同じように、局面によってはシュートを打つのは何の不思議もないでしょ。外からのシュートは届きませんっていうなら話は別だけど。困ったら打てるんだったら、困る前から打てばいいのよ」

 福田にはしっかりとシュート力はある。
 インターハイなどを見ていて信田はそう捕らえていた。
 ただ、打つ本数は少ない。

 「全部自分でコントロールして、自分が一人だけ図抜けてるというようなチームだったら、ガードの立場で福田がシュートも打ち始めたら周りもしらけるしゲーム壊れるっていうかチーム壊れると思うよ。でも、はっきり言うけど福田は図抜けた存在じゃない。この中で五人選んで五人のチームを作ったら、少なくとも福田と同等ってレベルの選手は入ってくるし、福田より上ってのもいるでしょ。そんななかで別にシュートの一本や二本打ったって何の問題もないよ」
 「でも、ガードがシュートを打つのはそれほど確率の高い選択肢ではないです」
 「じゃあ、それが問題。シュート力がないっていうのは問題。それは身につけてもらわないと困る」
 「入らないわけじゃないですけど・・・」
 「じゃあ、打つ」

 議論にならなくなってきた。
 いくらしっかり見えても福田は高校二年生。
 吉澤程度が相手だったり、バスケにそれほど自信のない中澤が相手なら何でも言えても、世代別代表チームのコーチという立場の人間に、思っていることをすべてなんでもはっきり言えるほど強くはなかった。
 信田に揺さぶられれば、福田だって揺れてしまう。
 信田が続けた。
85 :第九部 :2010/08/22(日) 00:00
 「私が福田に求めるのは二つ。まずはスタミナ。これは五分出ることが目標って選手なら別に問わないんだけど、福田はそうじゃないでしょ。四十分出たいでしょ?」
 「はい」
 「うん。福田はスタメンとして四十分を考える選手として考えるから。逆に、五分だけを考えるならもっと一芸タイプをメンバーとして入れたい。福田はそういうタイプじゃない。スタメンに入るか、あるいは少なくとも二番手として入るか。そうではなくてワンポイント要員なら他を当たるから。三番手になったら残れないと思っていいよ。福田は二番三番で使うってことはありえないんだから」

 藤本と高橋。
 二人ともに負けるようなら一週間で帰す、と言われているのだ。
 藤本や高橋を他のポジションで使う可能性は信田の頭の中ではゼロではないが、福田を他のポジションで使う可能性はゼロだった。

 「まあ、スタミナ云々は四十分までいかなくても三十分三十五分持てば、周りでつなげるしこのメンバーの中ではそれほどクリティカルな部分ではないんだけど。もう一つはシュートを打つこと。百パーセント決めろなんていわないよ。普通の試合でフィールドゴールの確率がどの程度かなんてことは私だって分かってる。ただ、福田は本数が少なすぎる。昨日今日の話じゃなくて、高校に入ってからの試合を見てるとって話ね。特に前半のシュートが少ないことが多い。最後の選択肢だから、どうにもならないと選択して、ある程度ゲームが進んでくると打つ場面が出て来るんだろうけど、私は、最初からそれを求めます。これはチームとしての方針ね。ボールを持ったら誰でもシュートが打てることが望ましい。私は出来れば飯田や村田にもスリーポイント打って欲しいって思ってるのよ。だから当然、福田にもそれは望む。点を取るのは三番四番っていうような分業体制は敷かない。それは古典的なバスケだと思ってるから」

 福田は答えなかった。
 信田も、この時点で、はい分かりました、と素直に答えが返ってくるとも思っていなかった。
86 :第九部 :2010/08/22(日) 00:00
 「オーケー、終わり。福田から何かある?」
 「信田さんから見て、私はこの三年で、本当に何も変わってないように見えるんですか?」

 一つ下の世代の代表チームに福田が呼ばれたのは三年前のことだ。
 そのときは怪我があり辞退したため、結局、藤本や石川といったその時呼ばれたメンバーとは顔をあわせていない。
 信田は当時その世代のアシスタントで、回復後の福田の試合などにも顔を見せて面識もあった。

 「スタミナはあの頃よりはあるんじゃないかな。まあ、インターハイなんかだと最後まで持たなかったみたいだけど、それでも中二の頃よりはまだスタミナ付いたんじゃない? 技量的にはあんまり代わってないと思う。端的に言えば、昔は高橋と福田を並べて比較する、という発想が持てないくらいのところにいたんだけど、今はそうじゃないよねってところかな」
 「そうですか」

 福田は表情は代えなかった。
87 :第九部 :2010/08/22(日) 00:00
 福田は出て行って次のメンバーを呼びに行く。
 二日目夜の面談一番手が終わっただけだ。

 「なかなか厳しいね」
 「あの子にはねあれくらい言ったほうがいいのよ。身近に言える人がいないんだから。その辺が滝川や富岡の連中とは違う。滝川や富岡の連中には私が厳しいこと言う必要なんかないけど、あの子に言えるのは多分私だけでしょ」
 「吉澤にはもうちょっと優しくなかった?」
 「吉澤には福田が叱ってるからたぶん。他にも、亀井とか後藤とか、叱ってくれそうなのがいないのは他にもいるけど、その辺はあんまり、叩いてもいいことなさそうだから。あの子だけかな、叩いた方が伸びそうな印象あるの」
 「顔色は変わらなかったね」
 「それがあの子のプライドでもあるだろうし」
 「何も変わらないって言ったけど、そういう精神的なところは成長したんじゃない?」
 「うーん、そうかな。そうね。そんな気はする。昨日、今日じゃわからないけど、たぶん、視野も広がってると思うよ。ああ、視野ってコート上での視野って意味ね」
 「さて、明日からシュート打つようになるかな?」
 「素直に明日からシュート打つようだと、それはそれで、どうかな。少し考えた上で消化してから変わって行くようでないと、単なるよくぶれる人になっちゃうから」
 「私は、ガードがシュートを打つのは最後の手段っていう考え方、結構分かるんだけどなあ」

 小湊は福田の考え方にそれほど否定的ではない。
 自分コーチ、信田アシスタントだったら、特に何も言わなかったんじゃないかと思う。
88 :第九部 :2010/08/22(日) 00:01
 「それが通用するのは国内だけだと思うのよね。特に、福田がっていうだけじゃなくて、石川とか是永とか、そういう本当に点を取るのがメインの仕事の人間が点を取れるためには、周りも打たないと」
 「藤本も前はそういうイメージだったんだけど、ちょっと変わったよね」
 「あれは何がきっかけなんだろう? あやっぺに散々言われたからなのか、試合の中で何かそういう方向へ移行する何かがあったのか」
 「高橋の場合はポジション代わったからなんだろうけど、藤本はきっかけよく分からないね」
 「まあ、理由は何でもいいんだけど」

 そうこう話しているうちに、扉がノックされた。
 次のメンバーが来たようである。
89 :第九部 :2010/08/28(土) 15:42
 その頃、吉澤は洗濯場にいた。
 全自動洗濯機に突っ込んでボタン押すだけなので、その場に居続けることはないのだが、また戻ってきて干す、というところが面倒なので居ついている。
 ある程度の予算はあっても、ある程度でしかないので、洗濯みたいなところはセルフになっている。
 洗濯場には吉澤の他に、村田、久住、田中といた。
 みうなと光井は、今日は面談待ち免除である。
 洗濯している、というよりは溜っているというのに雰囲気は近い。

 「村田さんって、どこ出身なんですか?」

 口を開いたのは吉澤。
 田中とは、吉澤は試合をしたことがある。
 滝川カップやインターハイ。
 久住は初対面だが、自分からべらべらと何者かしゃべっているので、周りはそれなりに情報を持っていた。
 村田だけ吉澤にとって情報量が少ない。

 「高校は、宮城の聖和」
 「去年ベスト4残ってましたよね」
 「富ヶ岡に片付けられちゃったけどね」

 とりあえずの話のきっかけ。
 ここに来るような選手なら、どこかしらで必ず何かの実績がある。

 「今、社会人? 大学ですか?」
 「大学。関東までは出たけど、中途半端に東京までは行かずに東京女子じゃなくて関東女子」
 「なんか、大人のおねーさんって感じっすね」

 見たままの村田に対する吉澤の感想である。
90 :第九部 :2010/08/28(土) 15:42
 「ガード陣、ポジション別の時くらーい雰囲気じゃなかった?」

 今度は田中の方へ吉澤が話題を振った。
 最年長の村田が、自分から積極的にしゃべって話題を振る、というタイプではないので、なんとなく吉澤が口を開いている。

 「ああ、そうかもしれないですね」
 「フォワード楽しいですよ」
 「小春ちゃんフォワードにいたんだっけ?」
 「はいー。小春、フォワードです」
 「石川さんとか是永さんとか、すごい人多くて大変じゃない?」
 「大丈夫です。小春もすごい人ですから」
 「ああ、そう・・・」
 「たまーに、ほんとにたまーに、石川さんとかにきれいに抜かれたりしますけど、たまにはいいかなって。ちゃんと、小春と練習できる人がいて楽しいです。それに、みんな明るいし。ガードはなんか田中っちとか暗いじゃないですかー」
 「別に、暗くなか」

 久住は完全に田中のことを舐め切っている。
 吉澤は、自分のチーム、ガードは福田、フォワードに松浦を頭に浮かべて、意味合いは少し違うけれど久住の言葉に苦笑いを浮かべつつも同意してしまう部分がある。

 「ガードはやっぱみきてぃが仕切ってるの?」
 「みきてぃ?」
 「藤本。藤本美貴」
 「そんな感じでもないですけど」
 「じゃあ、矢口さんとか?」
 「あの人おとなしいですよ。話しに聞いてたのと大分違って」
 「遠慮してるのかなあ」
 「フォワードは石川さんと平家さんって感じです」

 聞いてなくても久住からは答えが次々と出てくる。
91 :第九部 :2010/08/28(土) 15:42
 「ポジション別でどうってのもあるけど、まだ、全体が馴染んでない感じがするよね」

 しばらく黙っていたけれど、村田が最年長っぽく少し高めの視点からの発言をした。

 「選抜チームってやっぱ最初はこんな感じなんですかね」
 「最初だけならいいけどね。馴染めないと最後まで馴染めないことってあるから」
 「人生経験抱負な村田さん、そういうことあったんですか?」
 「去年、県選抜の国体のチームがそんなだったかな。半分が私のチームで、残りの半分が県内のそれぞれのチームから来た人たちで。なんか、派閥争いみたいな感じになっちゃってさ。ぎすぎすしたまま試合もしてたんだよね」
 「それつらいですねー」

 それまで面識が余りなかったメンバーが集まって、チームを作って試合をするのだ。
 いろいろなことがある。
 自分のところもそうなりかけたな、なんてことを思い出した。

 「これだけいろいろなところから来ると派閥も簡単には出来ないかもしれないけど、でも、人数多いところなんかはやっぱり中心になっていったりするし、一人で来て、性格的に周りと簡単に馴染めないタイプ、人見知りっていうの? そういうのもあるしね。田中さんとか?」
 「べ、べ、べつに、そんなことなかです」

 村田がからかうように言うと、田中はことばとしては否定の意味の言葉をいった。
 態度は、全然否定出来ていなかった。
92 :第九部 :2010/08/28(土) 15:43
 「小春ちゃんとか、周り年上ばかりでやりにくいとかないの?」
 「んーー、別に、小春はそんなことないんですけどー、なんか、みんな必死で顔真っ赤なのはちょっと感じるかも。田中っちとか」
 「いちいち、れーなを引き合いにださんでよか」

 顔真っ赤にして怒ってみる。

 「メンバーに残るのに必死ってのはちょっとありますよね。その辺、石川さんや平家さんだとそういう心配がないから余裕もって練習出来ててフォワードは雰囲気いいのかもしれないなあ」
 「そうでもないと思うよ。あの二人だってスタメン取るには奪い合わなきゃいけない相手がいるんだし。その辺は性格なんじゃないかなあ。藤本さんなんかだってメンバーに残るのは目に見えてる人だけど、それでもガード陣の練習を仕切るって感じでもないんでしょ?」
 「無口に淡々とやってる感じです」
 「石川さんは練習中は明るいタイプ。藤本さんは練習中はそうでもないタイプ。田中さんはいつでもくらいタイプ」
 「なんでみんなそうやってれいなのことばっかりいじめるんですかー」

 笑ってる三人にすねて見せる。
 一つの洗濯機のブザーが鳴った。
 吉澤がふたをあけて洗濯物を取り出す。
 ちょっと全体の雰囲気を変えた方がいいのかなあ、と吉澤は思った。

 田中は、はぶられるよりもいじられる方がありがたい、ということにまだ気づいていなかった。
 それがたとえ年下からであったとしても。
93 :第九部 :2010/08/28(土) 15:44
 深く考えたわけではないけれど、洗濯物を干し終えて部屋に戻ってから吉澤はメールを送った。
 二人からは返事がすぐ返ってくる。
 一人は反応なしだ。
 空いているレクレーションルームに集合をかけた。
 やってきたのは石川と後藤である。

 「ミキティ応答してくれないんだよなあ」

 吉澤は携帯をいじっている。

 「メール送ったの?」
 「うん」
 「ミキティ携帯もってないよ」
 「へ?」
 「滝川の寮は電波来ないから持ってないって」

 そういえばそんなことを言っていたような気がする。
 どんだけ田舎なんだよ、と思って滝川カップで行ってみたら、いろいろと納得したことを覚えている。

 「よっすぃー、どこにメール送ったの?」
 「滝川カップの時に連絡用にって聞いたアドレス」
 「それたぶん、学校のかなにかだよ。ミキティ見てないってもう。ていうか見れないし」

 なんで藤本美貴と自分の携帯には登録されていたんだか。
 とにかく待っていても藤本から連絡が来ることはない。
94 :第九部 :2010/08/28(土) 15:44
 「探しに行きますか」
 「ところで何の用で呼んだの?」
 「んー、なんとなく」
 「滝川カップ2をやろうとかじゃなくて?」
 「なくて」

 三人はとりあえず藤本の部屋へ向かう。
 ブザー鳴らしてみたけれど中からは反応がなかった。
 矢口も藤本も居ないらしい。

 「どこ行きそうかな?」
 「やっぱり同じ学校の子のところにいるんじゃない?」

 里田部屋へ行く。
 いない。
 なんか中にいっぱい居ない? と雰囲気で聞いてみると、スザンヌと麻美もここにいると言う。
 二部屋合併してるようだ。
 和気藹々四人で過ごしているらしい。

 というわけで麻美部屋にも藤本がいないこと確定。
 二学年下の子の部屋行くかなあ? なんていいながらみうなの部屋へ行くといた。

 「何やってるの?」
 「何って見れば分かるでしょ」
 「なに中学生こき使ってるのよ」
 「こき使ってるわけじゃないよ。ただ教えてるだけだって、マッサージはこうやるって。先生はみうなだけど」

 石川になじられてちょっとむきになって藤本は否定した。

 「みうながマッサージうまいんだよ。だからマッサージさせようと思って来たら愛華が教えてって言うから。ああ、でも、みうなはかさないからな」
 「別に貸してなんて言ってないよ」

 この四人が顔を合わせると、目的のない雑談の場合は藤本-石川間で会話が広がるらしい。
95 :第九部 :2010/08/28(土) 15:45
 「それで、そっちこそ何しに来たの?」
 「ちょっと集合ってよっちゃんが言うの」
 「どうしたの? よっちゃんさん」
 「んー、ちょっとね」

 一年生と中学生の前で話すのもどうかと思ったので場所移動した。
 吉澤が場所移動と言えば藤本も文句を言わずに従った。

 二十四人全員入りそうなレクレーションルームへ戻る。
 レクレーションルームと言っても、家庭用ゲーム機などが置かれているわけではなく、広いスペースとトランプなど原始的なゲームが備えられているだけだ。

 「なんかさあ、結構ばらばらな感じない?」
 「ばらばらって?」
 「ばらばらっていうか、自分たちのチームだけで集まってるって言うか。まだ全体が馴染んでないなって」
 「まだ二日なんだしこんなもんじゃない?」
 「まだ二日って言うけどさ、あと五日で帰ったりするんだよ。ミキティや石川さんはそんな発想ないかもしれないけど、私は結構そっち側になる可能性があるし。もう少し早めに一体感を持ちたいなって。ポジション別の練習なんかでガードは暗いとか、そんなん言われてたりするし」
 「なにそれー。美貴が悪いって言うの?」
 「ミキティって意外と人見知りするよね」
 「石川に言われたくないんだけど」

 この二人無駄にぶつかるんだよなあ、と吉澤と後藤は思う。
 ぶつかる、というより藤本がうざがる、という方が正確に近い。
96 :第九部 :2010/08/28(土) 15:45
 「別に、自然に任せておけばいいんじゃないかなあ」

 後藤が口を開いた。

 「話せば話すんだし。さっきだって部屋二つくっついたみたいなところもあったし、ミキティが意外に中学生ともなじんでたりとか」
 「意外って・・・、いや、意外かもしれないけど・・・」

 石川にははっきり言えても後藤には少々言い難いようだ。

 「ガードが暗いってれいなが言ってたの?」
 「そういうわけでもないんだけど。見ててなんかそんな感じだなあって」
 「れいなって、あの猫娘だっけ?」
 「うん。あの子もあんまりね、知らない人たちといきなり混じったりする感じの子じゃないし。あれ、でもよっちゃんとはおはなししたんでしょ?」
 「洗濯の時にね」
 「ああ、よっちゃんさんチーム罰ゲームだったよね」

 最初のミニゲーム大会の時は四人とも別々のチームだった。

 「でもさあ、よっすぃー。全体が馴染んでないって、馴染ませるのにどうしたいの?」
 「それ言われると困っちゃうんだけど」
 「まあ、でも、確かに、合わないと二人部屋で居づらくて、かといって全体も馴染んでなくて、居場所がなくてやりにくいってのは出てくるかもしれないな」
 「ミキティ、二人部屋がいづらいんでしょー」
 「んなことないって」
 「えー、部屋割の時すごいいやそうな声出してたじゃん」
 「気のせいだよ」

 気のせいじゃないよ、と後藤も吉澤も思った。
 特に後藤は、矢口と藤本の間に試合の時に何があったのかは大体知っている。
97 :第九部 :2010/08/28(土) 15:45
 「はい」

 突然石川が手を上げた。

 「で、よっちゃんさん、どうしたいの?」
 「なんで無視なのよー」
 「石川がそういう態度の時ってろくなことがない」
 「もうー。聞いて。聞いて。よっちゃん聞いて」
 「後藤は聞かなくていい?」
 「後藤さんまで私のこといじめるのー?」
 「梨華ちゃんいじめるのちょっと面白いかも。ミキティもたぶん、楽しいんだよ、梨華ちゃんいじめるの」
 「それって、ミキティ、私のこと好きってこと?」
 「今すぐ神奈川帰れ」
 「なによー、携帯も持ってない田舎者のくせにー」
 「はいはいはい、ストップストップ。聞きます聞きます。石川さん、なに? なんですか?」

 わけの分からないおかしなところへ話しが行きそうになっているが、何とか吉澤が元に戻そうとする。

 「仲良くなれるゲーム知ってるよ」
 「却下します」
 「なによー。なんでミキティは私の言うこといつもそうやって」

 この二人テンポよく会話進んで、仲悪いふりしてるけど結構いいコンビだよなあ、と吉澤は思っている。
98 :第九部 :2010/08/28(土) 15:46
 「だからミキティ梨華ちゃんのこと」
 「ないないないないない」
 「まだ好きまで言ってないよ」
 「ミキティ、私のこと意識しすぎなんだよ」
 「あー、もう、うざい。なんでそうなる」

 後藤まで二人に絡みだしておかしなことになっている。
 こういうリズムに後藤が入って行くのは珍しいなあ、と吉澤は感じた。

 「わかった。わかった。聞けばいいんでしょ。なんなの、そのゲームとやらは」
 「ひみつー」
 「お前、バカにしてるだろ」
 「うん」
 「夫婦漫才いい加減にしなさい」

 いい加減我慢できなくて、吉澤も突っ込んだ。

 「梨華ちゃん、そこで秘密はないんじゃないの?」
 「えー、だってー、なんか、その場のお楽しみにしておきたいじゃん」
 「まあ、ゲームの中身なんかどうでもいいけどさ、実際、どうする? よっちゃんさん。美貴は別に、余計なことしなくてもいいんじゃないかと思うんだけど」
 「でも、馴染んでないのは確かだと思うよ。実際、ガードとか暗そうだもん横で見てると。馴染める子はいいよ。私たちとか、平家さんとか、年上メンバーも別にいいと思うけど、中三高一あたりの若い子とか、性格的に自分から入っていけないことかいるじゃん。そういう子が入ってきやすいシチュエーションにはゲームが一番」
 「お前、自分が言いだしたゲームやりたいだけだろ」
 「ごっちんはどう思うの?」

 二人の間で閉じがちな夫婦漫才を横に、吉澤が後藤へ振った。
99 :第九部 :2010/08/28(土) 15:46
 「んー、別にどっちでもいいんだけど、実際夜はひまかなってのがあるから、なんかゲーム? やってもいいんじゃない?」
 「なげやりだなあ」
 「そうでもないよ。どっちでもいいんだから特に反対なわけじゃないし。やって悪いこと特に思いつかないし、やればいいんじゃない? ゲームでも何でも」
 「まあ、プロならぱっと集まってぱっと試合して解散、ってのもあるんだろうけど、まだそういうレベルじゃないしね。よっちゃんさんが言うみたいに、全体がチームとして馴染むようにとか、そういうのはあってもいいと美貴も思うよ。もうちょっと偉そうになると選手だけでミーティングとかになるんだろうけど、まだそういう感じじゃないし、遊びでみんな集まろうでいいんじゃない?」

 反対意見、と言うものはとくに出てこないらしい。
 なんとなく石川の言いだした「ゲーム」なるものをみんなでやろう、というような形でまとまりつつある。
100 :第九部 :2010/08/28(土) 15:47
 「明日夕食後にここみんな集まってわいわい、って感じでいいかな」
 「いいんじゃない? それで」
 「飯田さんだっけ? キャプテン。そこに話し通してからのがいいと思うけど」
 「そうだね。後で話してみる」
 「しっかしさあ、よっちゃんさん、やっぱキャプテンキャラだよね」
 「うん。私も思った」
 「なに? なんで?」
 「いきなり集められて二日目でしょ。それで全体見て馴染んでないから何とかしよう、なんてキャプテンキャラじゃなきゃ考えないって。別にキャプテン指名されたわけでもないんだし。美貴なんかせっかくキャプテンから解放されたからって自分のことしか考えてないもん。よっちゃんさんには悪いけど、福田明日香ぶっつぶす、みたいな感じで。ぶっ潰すは言いすぎだけど、あの子に勝つのがスタメンの条件だから、頭の中そればっかりだもん」
 「私も、是ちゃんに勝ってやるー! ってほとんどそれだけかな」
 「その辺がうまい人との違いなのかな。信田さんにもいわれたんだけどさ、周り気にせず自分のことだけ考えていいって。でも、れいなちゃんだっけ? あの子と話したりしてると、やっぱ気になっちゃうんだよね」
 「れいなが周りと馴染めないのは、あんまり気にしない方がいいよ」

 石川は、田中のことについてそれ以上は解説しなかった。

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