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JUNK!(B℃)

1 :esk :2009/04/13(月) 22:30

・どうでもいい小ネタ集
・ベリキュー中心

言い訳は、計算が合えば >>18 合わなければその前後
 
752 :名無飼育さん :2012/01/01(日) 21:59
自然体のももちがなんかステキ(^∇^ )
753 :名無飼育さん :2012/03/09(金) 21:52
桃子頑張ってますよね。こんな風にメンバーに支えられてることでしょう。
754 :esk :2012/03/09(金) 23:10
読んで下さった方、ありがとうございます。

>>752さま
ももちステキちーちゃんもステキ

>>753さま
優しくしてもらえてたらいいなーと思います


ももあいり

『 逃亡者と安定剤 』
755 :逃亡者と安定剤 :2012/03/09(金) 23:11

慌ただしいリハーサルの真っ最中、手をつないだ桃子と愛理が狭い廊下をすり抜ける。
ライブスタッフは誰も忙しそうで、無言で廊下を進む二人の緊迫感に気づかない。
途中すれ違った雅とさえもまとまった会話を交わすような余裕はなかった。

追い立てられる何かから逃げるような桃子の背中を愛理は必死になってついていく。
手が繋がれていて桃子が前を歩いているから
人目には桃子が愛理を引き連れているように見えるかもしれないが、
実際のところ桃子の手をぎゅっと握っているのは愛理の方だった。
繋いだ手が離れないように、でも桃子の歩みの邪魔にならないように。
愛理はただひたすらに桃子の後を追う。

屋上まで続く階段の一番てっぺんまで上がってやっと足を止め、
桃子は愛理に背を向けたまま一つ大きく息を吐いた。

「もも」

振り返らない背中に声をかけると、
桃子はうつむいたままくるりと体を反し愛理の胸に顔を押し付けた。
愛理はその体に腕を回すとそっと抱き寄せる。

リハーサルでたくさんダメ出しを受けた桃子。
もちろん愛理も雅も受けた。
偶然今回は桃子が多かっただけで、それが愛理の時もあれば雅の時もある。
でも、気にすることではないと言われても気にならずにはいられないことは
愛理も体験的に知っている。痛いほどに知っている。

だから愛理は何も言わずに桃子を抱き留める。
腕の中の桃子は小さく呼吸する以外微動だにしない。
愛理はその体を撫でることもあやすように叩くようなこともしないで
ただゆったりと腕を回す。
撫でたりすれば気遣われていることを気にした桃子がすぐに離れてしまう。
そう学習するくらいにはたびたびこんなことがあった。
いつからか、極度の緊張に陥った桃子はなぜか愛理の胸を求めるようになった。

どれくらいそうしていただろう。
突然、強張っていた桃子の体から力が抜けてへなりと愛理に体を預ける。
困ったようにくすくすと笑う声まで聞こえてきて桃子の気が済んだことを悟ったが、
それでも愛理は腕を解くことが出来ないでいた。

自分は桃子にとってただの精神安定剤でしかない。

わかっているのに、信頼しきったように体を預ける桃子に胸が騒ぐ。
この胸のざわめきのままにもっと強く掻き抱くことができたら。
それに、それに。
その肌にもっと深く触れることが出来たら――。

突然頭をよぎった衝動に愛理は慌てて桃子の体を離した。
かっと火がついたように体が熱くなる。
このままくっついていたら桃子の信頼を裏切ってしまうかもしれない。
愛理は逃げるように桃子から顔をそらした。
しかし桃子はそんな愛理を覗き込むように見上げると触れるほど間近に笑みを浮かべた。

「あいりんいつもごめんね」
「ううん全然! だってももが元気ないと……困るから!」

不審なほどに大きな声でぶんぶんと首を振る愛理に、桃子はこてんと首を傾げる。

「なんであいりんが困るの?」
「えっ。あ、あたしがじゃなくて……ほら、みやも、スタッフさんも、
 あの、ライブ、元気ないと困るし!」

見慣れた不審な動きで慌てふためく愛理に桃子はぷっと噴き出した。
もう行こう!
くすくすと笑い続ける桃子の手をぐっと握りしめると、
まだ微妙にくねくねしながら愛理は足早に階段を降りはじめた。

帰り道は愛理が前を進む。
ステージ用にセットされた髪から覗く愛理の耳は真っ赤に染まっていて、
その色に桃子は桃子は気づかれないように頬に小さく笑み浮かべた。


一番不安な時に自分が誰の手を取るのか。
その意味をもう少し考えてくれたらいいのに。


なんて。ちょっと意地悪かな。

少しだけヒントのつもりで桃子が繋がれた手をぎゅっと握り返したことに、
愛理は気付いただろうか。


   終わり
756 :名無飼育さん :2012/03/12(月) 13:39
2人ともとても「らしい」お話をありがとうございます。
この小説好きです
757 :名無飼育さん :2012/03/22(木) 19:19
リアルな感じがいい
758 :esk :2012/04/04(水) 23:29
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>756さま>>757さま
らしい、リアルって言ってもらえるのはすごくうれしいです。
ありがとうございます!

りーたんおたおめりしゃもも

『 生意気で大切な 』
759 :生意気で大切な :2012/04/04(水) 23:30

「乱れた制服を正すってえっちぃよねー」

椅子の背にアゴをのせたままくすくすと笑う桃子。
それを横目にちらりと見て、梨沙子は黙ってシャツのボタンをとめていく。
指先はまだかすかに震えていた。

集合時間より1時間早く桃子に呼び出された梨沙子は制服を着たままで、
それを見た桃子にこの空き部屋に引っ張り込まれた。
誕生日プレゼントだなんて言っていたけれど、
絶対したかっただけに違いないと梨沙子は思っている。

ようやくボタンをとめ終わって次はきょろきょろあたりを見回す梨沙子に
桃子は手にしていたリボンをひらひらと振った。

「これ?」

無言で奪い取ろうとした梨沙子の手をかわして椅子から立ち上がると、
桃子はするりとその胸先に体を寄せる。

「結んであげる」

首元に伸びてきた桃子の指に梨沙子はとっさに目をそらした。
シャツの襟がこそこそと肌に触れる感触にぞくりと首をすくめる。
そんな梨沙子を見ていたのかいないのか、
桃子は丁寧にリボンを結ぶと至近距離に梨沙子を見上げた。

「りーちゃんが18とか変な感じ」
「ももがハタチよりはマシだし」

10cm下を見下ろして急いで言い返した梨沙子に、桃子はまたくすくすと笑った。

生意気なところはいつまでたっても変わらない。
子供の時からずっと。
こんな関係になってからはもっと。

「あ、そだ。今日遅くて電話出来ないと思うから先に寝てね」

こんな関係で思い出した桃子の言葉に梨沙子が眉をしかめた。
付き合いだしてからほぼ毎日のおやすみの電話は
桃子自身がよく続くものだと感心していたが、やっぱりこうやってできない日もある。

「今日だけだから。そんな寂しい顔しないの」
「違うよっ」

頭を撫でようと伸びてきた手を捕まえると、
梨沙子は不思議そうに首をかしげる桃子をじっと見つめる。

「……無理しないでよ」

全く。
ホントに生意気。
だから、大切にしたくなる。

「ありがと」

生意気で大切な、年下の恋人。


   終わり
 
760 :名無飼育さん :2012/04/05(木) 10:52
初っ端のセリフだけでお腹いっぱいw
2人の様子が目に浮かぶようです。
天使のりーちゃんお誕生日おめでとう
761 :名無飼育さん :2012/04/06(金) 23:08
制服を着るのは梨沙子だけになりましたね。
762 :esk :2012/04/13(金) 00:46
読んで下さった方、ありがとうございます。

>>760さま
初っ端のセリフだけのために書いた話ですw

>>761さま
あと1年だけの貴重な制服萌えですね


前々回のあらすじ:時は中世。広大な領地を治めるは由緒正しき石川家。
若くして領主の位を継いだ長女アヤカ。その側を守る衛兵隊長、里田まい。
軍を率いるは次女梨華。忠誠を誓う騎士、吉澤ひとみ。

前回のあらすじ:石川家と古い繋がりがある矢島家。
領地内に発見された希少金属の鉱脈のために激化する利権争いから逃れるため、
長女舞美は幼馴染でもある梅田えりかだけを連れ、石川家に極秘避難した。

で、今回は領地内に残されることとなった矢島家末子愛理さんのお話です。
(18歳のお誕生日ですが作中は16歳ですw)

『 WILD Kids 』
763 :WILD Kids :2012/04/13(金) 00:47

コンコン

深夜、前触れもなく響いた硬い音に愛理はびくりと体を振るわせた。
普段ならすでに眠りに入っている時間だ。
ここのところはこんな時間に眠れたことなどないけれど。
もう何か月も続いた領地内の緊迫状態。
のんきさが自慢の自分といえども、このままの状態が続くのであれば
いつか神経が参るのではないかとちょうど考え始めた、
ちょうどその時に響いたノックの音に愛理の心臓が早くなる。

「だ、誰」
『夏焼です』
「みやか……。入っていいよ」

不安げに誰何した愛理に、耳馴染んだ声が応える。
ほっとした愛理が腰かけていたベッドから立ち上がるのと同時に、さっと扉が開いた。
後ろ手に扉を閉じると、雅はすっと背をのばし形通りの礼を取った。
雅のかしこまった仕草に愛理にまた緊張が走る。
何か良くない知らせかもしれない。
思い当たることといえば。
愛理の頭に数日前に人目につかないように領地を旅立った姉とその友人の姿がよぎった。
愛理ののどがごくりと音を立てた。

「夜分に恐れ入ります」
「ううん。起きてたし。何かあったの?」
「先ほど命をいただきまして、私と――」
「あーいりーっ。見て見て、大収穫!」

二人の間に走った緊張を横殴りにする、甲高い声。
ばたんと勢い良く扉を開けた小柄な人物は、
愛理の部屋に入ると両手に下げていたかごを高々と掲げた。
確かめるまでもないその姿に雅は背を向けたままでがっくりと肩を落とした。

「……もも」
「あれ? みやもう来てたんだ」

雅のまるまった背を手に持ったかごで突付く桃子。
そのかごを覗き込んで、愛理が目を丸くした。
柔らかそうなサンドイッチに焼きたての甘い香りがする焼き菓子、
みずみずしい果物が山のように盛られていた。
両手に下げた二つのかごをテーブルに置くと、桃子はぐいっと胸をそらせる。

「すっごーい。桃、それどうしたの?」
「今日から泊り込みだって言ったら桃のおかーさんが差し入れしてくれたんだよ」
「泊り込みってどこに?」
「どこって、あれ? みやまだ言ってなかったの」
「言おうとしたときに桃が入ってきたの!」
「ありゃー」

まったく反省の色のない桃子の声に、雅は一睨みするだけで応える。
ここで小言を言ったところで逆に軽くあしらわれることは経験上よーく知っている。
どうしても口では勝てないのだ。
だから桃子は無視して視線を愛理に戻し、雅は小さく咳払いをした。
気を取り直してしゃきりと背筋を伸ばす。

「愛理様。先ほど、大臣に舞美様の不在を悟られたようです」
「……っ」

息を呑んだ愛理が顔色を変える。
目を見開いた愛理に一歩近づくと、雅は安心させるようにその顔を覗き込んだ。

「早馬を走らせたところでもう舞美様に追いつくことは出来ませんから大丈夫です」
「そう、かな」
「ええ。ですが、こちらは私と嗣永で夜間警護に当たらせていただくことになりました。
 お気の休まらないことになるとは思いますが、しばらくのことですのでご辛抱下さい」
「そんなの、私はいいよ。でもごめんね、私のせいで二人が……」
「愛理様のせいではありません。交代で睡眠もとりますのでお気になさらないで下さい」
「ってことで、夜食夜食ぅ」

眉を下げる愛理に、桃子はまだ温かい焼き菓子を手渡してにこりと笑った。
その笑みと甘い香に、愛理の頬も自然と緩む。

「でさ、みやはいつまでお仕事モードなわけ?」
「これは仕事でしょ!」
「いーじゃん。愛理にいらない緊張させる方がいけないと思いまーす」
「確かにそうかも。みや、普通にしてよ」

桃子のおどけた物言いに、愛理もくすりと笑った。
雅は少し考えるように眉をしかめていたが、
やがて諦めたようにため息を息をつくと桃子が片手に持っていた果物を奪い取った。

「……愛理に言われたからだからね」
 
764 :WILD Kids :2012/04/13(金) 00:47

愛理との付き合いなら雅の方が長い。
石川家ほどの家柄ではないものの、一領主である矢島家の末子として生まれた愛理には
数人の付き人が付けられた。
生涯にわたって愛理を守るために、年齢の近い子供たちを。
その中で最も有力視されたのが雅であった。

「舞美ちゃんとえりかちゃん、今頃どのへんかなぁ」
「順調なら明日には石川家の領地に入るはずだよ」

不安そうにつぶやく愛理に桃子が答える。
桃子は今は愛理付きだが、幼い頃は舞美付きだった。
えりかがいるから自分は大丈夫だ、と舞美が愛理についてくれるよう桃子に言ったのだ。
だから今でも桃子と舞美は交流があり、
舞美の石川家入りは極秘だったが桃子は本人から直接その計画を聞いていた。

「桃も行ってみたいなー」
「うちもうちも」

石川家にはにぎやかな市も立つと聞いている。
籠の中身をつまみながらそんな話で盛り上がっている二人を見つめ、
愛理はそっと目を伏せた。

舞美は自分をおいて行ってしまった。
最近は兄たちにも会わせてもらえなくなった。
ずっとやさしくしてくれていた大人たちも誰もがよそよそしくて、緊張していて。
だけど舞美のように着実に前に進もうとしている人たちもたくさんいる。
そんな中で自分は何もできず、ここから出ることもできない。
自分は何もできない子供だ。

うつむいて黙った愛理に気付いた桃子が顔を覗き込む。

「愛理、どうしたの?」
「……みやと桃も行っちゃう」
「どこに?」

どこに。
石川家に?
違う。
どこかに。
自分の側ではない、どこかに。
きっと二人がもっと輝ける、どこかに。

「桃もみやもどこにも行かないよ」
「でも……」
「愛理はわかってないなあ」

まだきょとんとしている雅の隣で、桃子がまじめな声で言う。
桃子は仕方ないなという顔を見せて腰かけていたベッドからひらりと降りる。
腰に下げていた愛用の短剣をすらりと抜いた。
ちらりと傍らの雅に視線を送ると雅も合点いったようにうなずき同じように剣を抜いた。
それを並べ、二人は片膝をついて顔をうつむかせる。
その意味に気づいた愛理がばたばたと手を振る。

「ちょ、ちょっと、待って……」
「愛理がわかってないみたいだから、待たない」

古い風習だ。
もう誰もが忘れてしまったような。

「私、嗣永桃子は生涯矢島愛理に忠誠を尽くすことを誓います」

普段の高い声を抑えた、少し低い声。
そのあとを追って、雅も同じように誓いをのべる。
ただの言葉だけの誓いだ。なんの拘束力もない。
それでも顔を上げた桃子と雅は真剣だったし、愛理は顔色を青くした。

「うちらはね、いつだって愛理がいるところにいるから」

そんな愛理に、少し照れたように雅が言うと桃子もうんうんとうなづく。
自分たちが存在する意味。
自分たちにとって愛理という存在の意味。
桃子と雅にしてみればそれはもっとずっと昔から当然のことだった。

毅然とした二人の視線に涙を浮かべた愛理の頭を、
桃子と雅は笑い声を立てながらくしゃくしゃと撫でた。
忠誠という言葉とは程遠いような3人の関係。
その誓いさえも大人たちからすれば子供じみた真似事に見えるかもしれない。

けれど、だからこそそれは純粋で尊い。
 
765 :esk :2012/04/13(金) 00:50

『 WILD Kids 』   終わり

前回と前々回はパムさんの企画内にあります。
もしも興味があれば今回のと似たようなタイトルを探してください。
 
766 :名無飼育さん :2012/04/16(月) 13:47
パムさんの企画というのも見てきました。しっかり見つけられました。
なんともそそられる世界観です。
姉妹設定も、不安を感じるあいりんも、
きちっとモードを切り替える夏焼さんも、
待たないももも、どれもがツボでした。
767 :名無飼育さん :2012/04/23(月) 21:15
愛理とそれに仕える者という関係がいいですね。
768 :esk :2012/05/13(日) 03:51
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>766さま
なんだかすごくほめられているようで照れます///

>>767さま
主従でないようでやっぱり主従の関係ってのが好きです


ももあいり

『 朝まで 』
769 :今夜は朝まで :2012/05/13(日) 03:53

「よし」

桃子の小さな声に、愛理は広げていたノートからちらりと視線を上げる。
横目で盗み見る桃子はノートパソコンを閉じるとんーっと伸びをした。

「レポート終わった?」
「うん」

今日は愛理は試験勉強、桃子はレポートの勉強お泊り会。
忙しい二人はこんな日にしか会うことが出来ない。
小さくあくびをした桃子は愛理と目が合うと優しい笑顔になった。
そのとろりと眠たげな視線から逃げるように愛理は目を伏せる。

「愛理?」

笑みを返してもらえると思っていた桃子は少し不安げに眉をひそめる。
座っていたいすをくるりと返すと体ごと愛理に向き直った。
どうしたの、と問われなくても、
じっと見つめられる視線に観念したように愛理はもじもじと口を開いた。

「もも……明日は朝ゆっくりなんだよね?」
「うんそうだよ。愛理は?」
「お昼から」

明日は学校のない休日。
お互い仕事はあるけれど朝は余裕がある。
だからこそ今日のお泊り会だったのだが。
そこまで確認されて、桃子は愛理の頬にかすかに赤みが差していることに気づいた。
なるほど。
うんうんとうなずくと桃子はにんまりと口元を緩める。

「あいりんのえっちぃ」
「だ、だって会えたの久しぶりだしっ」

からかうように言う桃子の言葉に愛理はぺたりと座ってうつむいたまま真っ赤になる。
いけないことを言ってしまったと思っているのか、泣きそうに唇をかみ締めている。
つい最近18になったけれどこういうところはまだ純情で子供らしさを残している愛理を、
桃子は本当に愛しいと思う。
だからこんな自分でも、本音で向き合えるんだと思う。

机に向かっていたいすを降り、桃子はひざ立ちで愛理ににじり寄った。
そっと頬に手を当てると涙目になった愛理が見上げてくる。
不安げに瞳を揺らす愛理に、桃子はやわらかい笑みを浮かべた。

「もも、愛理に欲しいって思ってもらえるの嬉しいよ」

桃子の言葉に愛理はびくりと震えるといやいやをするように首を振った。
求めている、と言われたのが恥ずかしかったらしい。
桃子は長い髪を揺らす愛理の小さな頭を捕まえると、
こぼれてしまった涙を舌先でなぞり、そのまままぶたにキスをした。
それからさらに小刻みに揺れている唇をふさぐ。

突然、息が詰まるほど激しいキスをされて愛理は桃子の肩をぐっと押しやった。
素直に唇を離すと桃子はおでこをくっつけてその目を覗き込む。

「違うなんか言わないでよ。ももだって愛理のこと、欲しい」

ひゅっと息を呑んだ愛理を桃子はぎゅっと抱きしめた。
どくどくと力強い鼓動のまま、力任せに抱きしめる。
愛しいと思う気持ちは欲しいと思う気持ちになり、
そうすればもう止め処もなく体の奥底から湧き上がる衝動。
この衝動を愛理も感じているのなら。それならば今夜は。


朝まで ねえ 愛し合おうよ



『 今夜は朝まで 』   終わり
 
770 :名無飼育さん :2012/05/17(木) 09:31
MHLS好きです。
誘い受けあいりんえっちぃ
771 :名無飼育さん :2012/05/17(木) 23:50
愛理がかわいくて照れてしまう。
良かったです、とっても。気持ちが沸き起こっていく過程の描写
が上手いと思いました。
思えばなかなか大胆な歌を歌ってますね。
772 :esk :2012/06/11(月) 00:14
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>770さま
私も好きです。
誘い受けあいりんも好きです。

>>771さま
ありがとうございます><
あの大胆な歌詞を爽やかに歌いきる桃子の歌が好きです。


みやもも

『 個人レッスン 』
773 :esk :2012/06/11(月) 00:16

「あれ?」
「おはよ」

雅がレッスン室に入ると床に足を投げ出した桃子が一人でストレッチをしていた。
顔を上げた桃子が意外そうに目を丸くしたので雅は目線をそらしながら軽く応える。
桃子が一番乗りなんてそっちの方が珍しいだろ。
そう思いながら雅は少し離れて腰を下ろす。

「みやも来ちゃったの?」
「え? うん」

確かに早く来すぎたかもしれない。
レッスン室にかけてある時計を見上げると集合時間までまだ1時間もある。
ストレッチをして体を慣らすのに早めに来るようにはしているがそれにしても早すぎる。
まだ何か言いたそうに桃子が雅を見つめている。
その視線を振り払うように雅は黙々とストレッチを続ける。

二人きりなんて不意打ちだ。

ぞくりと上ずり始める心臓が指先を揺るわせる。
ドキドキする必要なんかない。
雅は自分に言い聞かせながらストレッチを続けていた、
そのせいかどうかはわからないけれど。
ぐっと背中をひねった体の動きがぴたりと止まる。

「あ」
「どうしたの?」
「あ、いや……」
「筋でも痛めた?」

思わず小さく出た声に、まだ雅のことを見つめていた桃子が不思議そうに首をかしげる。
自分の今の状況は口にしたくない。
桃子に、しかも二人きりのこんな状況ではなおさら絶対に言いたくない。
けれど突きつけられるそんな心配そうな顔は、それは卑怯だ。

「……ブラのホックはずれた、かも」
「なんだ」

ごまかすにも言葉が見つからずに、雅はできるだけ平静を装って小さな声で言う。
一瞬ほっとした桃子は、次の瞬間、にやりと口元を緩めた。

「つけたげる」
「え、いいって!」
「いいからいいから」

逃げようとする雅を押し倒しかねない位置までにじり寄ってきた桃子の手が、
素早くTシャツの中に入ってくる。
やめてよ。
言おうとした言葉は肌に触れた手の感触に飲み込まれる。
上ずった声で抵抗するなんて逆効果にしかならない。
それがわかるくらいにこんなことは今までにも何度もあって、
雅はわざとその手の意味を察していないようにじっとする。
しかし背中をなでていた桃子の手がするりと前側に回ってきて、
さすがにTシャツの上からその手を押さえた。

「ちょっ」
「んー。なあにぃ?」
「何して――っ」

あご先で髪を掻き分けてた桃子の唇がうなじに吸い付いて雅はぐっと息を呑んだ。

「ばか……っ、みんなくる、って」
「誰も来ないよ」
「来ない、わけな――っ」

苦しそうな雅の呼吸に桃子はくすくすと笑いながらTシャツの中の手をもぞもぞと動かす。
その手を押さえながらぴくりぴくりと体を震わせる雅はうつむいてぐっと目を瞑る。
真っ赤に染まったその耳をぺろりと舐めてから、桃子はさらりと言った。

「来ない来ない。今日のレッスン中止になったもん」
「ん……って、はあっ!?」

さすがに驚いた雅ががばっと体をひねって桃子の顔を覗き込む。
それだけ動けるってことはやっぱり本気で抵抗してなかったよね。

「メール来てたの見なかったんだ? 桃もここに着いてから気づいたからさー。
 どうせならちょっと自主練してこうかなと思ったんだけど」

良い行いをしたらすぐにご褒美をくれるなんて、
神様もやっぱりかわいいももちにメロメロなんだね。
にこにこと笑う桃子がぐっと雅の肩に小さな手を押しつける。
たいして力の入っていないその手に押されるまま、雅は硬いフロアに体を横たえる。

こんなところでなんて。
メンバーは来ないとしてもそれは絶対に誰も来ないという保証ではない。
ありえない。
絶対無理。

そう思いながら雅は覆いかぶさってくる桃子の背中に腕を回して抱き寄せた。


『 個人レッスン 』   終わり
 
774 :名無飼育さん :2012/06/12(火) 01:11
素直じゃないけど正直な夏焼さんっていいですよね。
最近桃子に甘い感じもしますし。
ちょっと面白かったのは、アレがそんな簡単にはずれちゃうのはどういうことなのかというね。普通はずれませんよ。どうなってんの夏焼さん。
775 :名無飼育さん :2012/06/14(木) 08:56
無意識下に行っていた計算の功でしょう。 >アレがそんな簡単にはずれちゃった件
夏焼さん可愛い。
作者さんの描く嗣永さんは少し強引でえっちいですね。好きです。
776 :esk :2012/07/03(火) 23:57
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>774さま
え……はずれたことあるんですけど……何度か←

>>775さま
嗣永さんはどうしても強引になっちゃいますねw


須藤茉麻さん、二十歳のお誕生日おめでとうございます。
この一年があなたにとって実り大き年でありますように。

みやまぁ

『 テーブルの下 』
777 :テーブルの下 :2012/07/03(火) 23:57

カタ

楽屋のテーブルで書きものをしていた茉麻。
小さな物音に顔を上げると、正面の椅子を引いた雅がにっと唇の端を上げた。

すとんと椅子に腰を下ろした雅はその口を開くことはなく、
頬杖をついたままにやにやと茉麻の顔を見つめる。
その絡みつくような視線に、
茉麻は問いかけるようなことも出来ずに慌てて手元に視線を戻した。
少し落ち着かなく思ったが、別に楽屋には二人きりな訳ではない。
ベリーズにおいて雅のそばに誰もいないだなんてそんなことがあるわけもなく
案の定数分もしないうちに佐紀がやってきて雅の隣の椅子をひいた。

すぐに二人は楽しそうに話し始めて、茉麻はほっと息をついた。
時々相槌を打ったりしながら手元の書き物を進める、
仕事合間の楽屋ではごくありふれた光景。

どれくらいかそうしていて、
茉麻が別の色のペンに手を伸ばしたとき、足先に何かが触れた。
反射的に茉麻は足を引いた。
今日の楽屋のテーブルは狭い。
浅く座れば膝が触れ合うくらいで、だから佐紀か雅の足が触れたのだろう。
二人のどちらからも反応がなくどちらの足なのかはわからなかったけれど、
茉麻は特に気にすることでもないかと再びペンを動かしはじめた。

しかしそれを急かすようにすぐにまた足が触れて、流石に顔をあげる。
佐紀は雅と話すのに一生懸命で
茉麻が顔を上げたことにも気づかなかったようだが、
その雅とはかっちりと目が合った。
雅は目を合わせたままにっと笑い、
今度は足首を撫でるように足が絡みついてきた。
間違いなく触れているのは雅の足だ。

とっさに逃げた茉麻を捕まえるようにつま先を軽く踏まれ、
さらに生足が茉麻の肌を撫でるように絡みついてくる。
触れた肌から体温さえも感じられて、
それは、今この部屋ではない何かを思い出させて。

「――っ」

茉麻は慌てて顔を伏せた。
しかし顔の温度はどんどん上昇して、
その色を雅が見つめていると思うとさらにかっと熱くなる。

「しみずー」

唐突に響いた声に茉麻はびくりと肩を震わせた。
楽屋に顔を覗かせたスタッフが佐紀を呼ぶ。
はーい!と大きく返事をした佐紀が素早く立ち上がると、
スタッフと一緒に楽屋を出て行った。

このタイミングで。
茉麻は恨みがましい目で佐紀の出て行った楽屋の扉を見つめる。
楽屋にはほかにもメンバーがいるが、
それぞれに好きに動いていてこちらを気にしているメンバーはいない。
茉麻と雅が二人でいることが別に珍しくもないのだから仕方がない。

「まぁ」
「な、なにっ」

肌をなでる足がぴたりと止まり、
しかし今度はテーブルの上に投げ出されていた茉麻の手がしっかり握られる。

「今日、うちおいでよ」

卑怯だ。
と、思う。

ただでさえ魅力的な顔をしているのに。
さっきまでにやにやと笑っていた口元が少しだけゆがんで。
少しだけすがるような目。

そんな目で見られたら。


「……うん」


うなずくしか、できない。


   終わり
778 :名無飼育さん :2012/07/07(土) 21:04
ベリーズステーションのポスターを思い出した。
机のしたが見えないから、余計に神経がそっちに
集中しそうだなー
779 :名無飼育さん :2013/05/03(金) 20:45
海賊℃-uteでeskさんの小説を連想しました。
続きとかあるんでしたら、また書いてください。
780 :esk :2013/06/26(水) 22:23
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>778さま
あれを見て思いついた話です。
ほかのメンバーにばれないようにこっそりってのもいいですよね〜。

>>779さま
書きたいのですが、なかなか^^;


生ガキです。

『 ドラゴンハンター 』
781 :esk :2013/06/26(水) 22:24

「新垣さん!」

昼下がりのカフェの店先にひょっこりと顔を出した里沙を見つけると、
エプロンをかけた愛佳は目を丸くした。
大通りに面した愛佳の店はいつでもよく繁盛していて、
今も食事時ではないけれど店内は程よくにぎわっていた。

「1年ぶりくらいですよ。どこ行ってたんですか」
「そりゃまあフリーだからね。仕事があれば西へ東へよ」

愛佳が近寄ってきたのを確認すると、
里沙は機嫌よく笑顔を見せてまだ肌寒いせいか比較的すいているテラスに出た。
手前のテーブルわきにバックパックを下ろすと椅子をひとつ引く。

「もっとにぎわってるかと思ったらそうでもないねえ」
「新垣さんが早いんですって。まだ情報回ってませんもん」

ぐるりと通りを見渡した里沙がぽつりとつぶやく。
そんな里沙に小さく笑みを浮かべると、
愛佳はことりと水の入ったグラスをテーブルに置いた。

この地域ではそこそこ大きな町のメインストリート。
人出は多く雑然としていたが、
里沙が想像していた賑わいは少し意味の違うものだった。

「でさ――」
「ご注文はいかがなさいますか」

一周回った里沙の視線が戻り口を開きかけると、
愛佳は満面の営業スマイルでメニューを差し出した。
笑みを崩さない愛佳に里沙は苦笑しながら一番高いメニューを指差した。
ローストビーフをメインとした里沙のお気に入りメニューだ。

「で、どこにいるの?」

里沙はさらにその倍額の紙幣を差し出すと低い声でそう言った。
そ知らぬ顔でエプロンのポケットに紙幣をしまいながら
愛佳も低い声で答える。

「今――」


「離して!!」


愛佳の声をさえぎるように、甲高い声が響いた。
面食らった里沙が振り返ると、いかにも柄の悪そうな連中が数人固まっている。
甲高い声はその中心から聞こえてきたようだった。
ガタイのいい男どもの向こうに華奢な少女の姿が見える。
つるし上げられるように片腕を掴まれ、
空いた手にはなぜか串焼きをひとつ握っている。

「ただ食いはいけねーなあ。お嬢ちゃん」
「パパにお金貰って来なかったのかい」
「やけん、お財布落としたって何回もゆーとーと!
 これ返すから手離して!」
「嬢ちゃんの食いかけなあ、それも魅力的だけどなあ」

ニヤニヤと笑う男に棒のように細い腕をひねり上げられると
少女は短い髪を振って痛そうな悲鳴をあげた。
男どもはいっそう嬉しそうに下品な笑い声を上げてはやし立てる。

その声を聞くと、里沙はため息交じりに席を立った。

「新垣さん」

引き止めるように声をかけた愛佳にひらりと手を振ると、
里沙はその一団に近づいていった。
 
782 :ドラゴンハンター :2013/06/26(水) 22:24

騒ぎ立てる少女の甲高い声にすでにあたりには小さな垣根ができている。
しかし取り巻く男たちのガタイを見たせいか、ただの野次馬なのか、
少女を助けようとする者はいないようだった。

「いやあっ」

男に引き寄せられて、逃げるようにそらした少女の目が里沙を見つけた。
綺麗な顔をしている。
美少女というよりは美少年風に整えられた相貌だが、
気の強そうなことを言っていたわりにぼろぼろと涙を流していて
その頬は情けなく引きつっていた。
すがるような目に里沙はふっと小さく笑うと、うん、とうなづいた。
助けを求めていたくせにきょとんとする少女を前に、
里沙は人垣をひょいと掻き分けるとさっと輪の中に出た。

「ガキ相手にサカってんじゃない、よっ」

ひゅん
小柄な里沙の足が綺麗に大柄な男のわき腹に食い込む。
前のめりに体を折った男の脇を抜けて少女の手を掴んだ。
少女の見開いた目が食い入るように里沙を見つめる。

「逃げるよ」
「あ……ハイッ!」

低い声でつぶやくと里沙はすでに走り出していた。
なぜか機嫌よく返事をした少女も里沙を追って駆け出した。


人ごみを掻き分け大通りを抜け路地をジグザグに走る。
それでも男たちはしつこく追いかけてきた。
チ、と小さく舌打ちすると、里沙はひょいと塀に飛び上がった。
さっと振り返り手を差し出したが、
それよりも早く少女も自力でひょいと飛び乗ってきた。
(へーえ)
バカなガキだとしか思っていなかった里沙の目が少しだけ色を変える。
そういえばこれだけ走らせているのに息も切れていない。

なぜかキラキラとした目で里沙を見つめ返す少女を不思議に思いながら、
里沙は塀を飛び降りた。

そのままいくつか角を曲がり少し走ると、そこは愛佳の店の裏手に出る。
無造作に停められた大きなバイクのそばには愛佳がいて
里沙のバックパックはすでに積み込まれていた。
手回しのよさに里沙の口元ににやりと笑みが浮かぶ。

「新垣さん」
「みっつぃ、またあとで!」
「いえ、その子なんです」
「はあ?」

「龍のウロコを売ったの、その子です!」

「ええええ!?」

驚いて振り返った里沙の視界の隅にさっきの男たちの姿が見えた。
ち、と舌打ちをすると少女をバイクに引っ張りあげる。

「ついといでっ」

ぶおんと派手なエンジン音に手をかざした愛佳は
里沙の後ろに座った少女に紙袋を押し付ける。
きょとんとした少女を軽くにらみつけて小突くと、里沙に声をかける。

「ローストビーフ、サンドにしたんであとで食べてください」
「ラッキ。みっつぃのローストビーフ食べ損ねたら
 ここに来た意味がないもんね」

「カフェオレは詰められなかったんで帰りにまた寄ってくださいね!」

走り出したバイクを追うように愛佳が叫ぶ。
前を向いたまま片手を挙げて応えると、里沙はバイクのスピードを上げた。
 
783 :ドラゴンハンター :2013/06/26(水) 22:25

里沙はすばやく崖下に回りこんでバイクを押し込んだ。
男たちが通り過ぎるのを伺って大きく息をつく。

「しっつこい連中だったなあ」
「あ、あの!」
「ん?」
「ありがとうございました!!」
「ああ。いいよそういうの。こっちもアンタに用があったし」

体育会系に90度に頭を下げる少女に、里沙ひらりと手を振った。
ぱっと顔を上げた少女は顔を寄せてキラキラした目で里沙を見つめる。

年は15、名は生田衣梨奈と名乗った。
小柄な里沙と並ぶと見下ろすような視線になるが、
特に上背があるというわけでもない平凡な少女だ。
あの街にずっと住んでいたわけではなく、
最近やってきたところ――簡単な会話で里沙が仕入れた情報はその程度だった。
代わりに里沙自身がドラゴンハンターであるという情報を与えてやったが、
衣梨奈の反応は鈍かった。

「新垣さんは――」
「は? なんであたしの名前知ってんの?」
「みっつぃさんがそういってました」
「みっつぃさん……」

面食らって眉をしかめた里沙に、
なぜか少女は照れたように口元をゆがめてみせる。
こいつ……なんかヘン。
里沙がこの少女をはっきりそう認識したのはこれが最初だった。

妙に近い距離に里沙は少しずつ後ずさりする。
なのにえへへ、なんて照れ笑いをされて居心地の悪さを感じた。

「で、なに?」
「え? あ、えっと……龍に、興味があるんですか?」
「そりゃ誰だってあるでしょ」

あっさりと答えた里沙に衣梨奈は目を見開く。
が。

「一体捕らえりゃ一生遊んで暮らせるんだから」

続けた里沙の言葉に衣梨奈は口元をゆがめた。

「いやいや、お金は大事よ。アンタだってウロコ売ってお金にしたじゃない」
「そう、ですけど」

妙にしょんぼりしている衣梨奈を見つめて里沙は気まずそうに頬をかく。
子供相手に夢のないことを言い過ぎたか。
里沙だって別に金のためなら汚いことでも進んでする、なんて性質ではない。
だがそれを言い募るのもまたカッコ悪いような気がして。
衣梨奈がそれ以上追求してこないのをいいことに、
とりあえずこの話はここまでにしようと思った。

「つーかあんたさーぼやぼやしてるからあんなのに絡まれるんだよ」
「だ、だって。お財布落としたなんて気づかなかったんです」
「こんなじゃらじゃらした財布落としたことに気づかないわけないでしょ」
「えっ」
「スられたんだよ」

里沙はジャケットのポケットから膨れ上がった財布を取り出して掲げてみせる。
ぽかんとしている衣梨奈をよそに高額紙幣を一枚抜き取って投げ渡した。

「さっきの報酬に貰っとくよ」
「あ、はい!」
「で、あれどこで手に入れたの」
「あれ?」
「龍のウロコに決まってんでしょ!」

龍はとにかく売れる。
ウロコ一枚ヒゲ一本、神秘の力が宿ったそれらにはさまざまな効果があり、
とんでもない高値で売買されている。
しかし、ここ数十年でその数は激減している。
ドラゴンハンターと名の通っている里沙であっても、
その目で生きた龍を見たことはない。

そんな里沙の耳に真新しい龍のウロコが売買されたという情報が届いた。
その情報が本当ならば、
生きた龍が近くに生息している可能性も見えてくる。
しかし、とるものもとりあえず駆けつけた里沙が目にした売主は
のんきに串焼きをかじり、のんきに品のない男どもに絡まれていた。

「えっと、拾いました」
「どこで」

目を泳がせる衣梨奈に里沙はイラついたように重ねて尋ねた。
しかし衣梨奈はさらにもぞもぞしながら答える。

「えっと、あの、東の山裾の…池のそばです」
「山裾の池って龍ヶ池?なんかでき過ぎてて怪しいなあ」

里沙の疑わしそうな目に衣梨奈は慌てて手を振る。

「うそじゃないです!」
「まあどっちにしても龍ヶ池は見に行こうと思ってたからいいけど。
 ウロコは一枚だけ?他に龍がいた形跡は?」
「けいせき……」
「木がなぎ倒されてたとか大型獣の死骸があったとか」
「ななないですそんなのぜんっぜん!」

なぜか驚いたような顔でぶんぶんと首を振る衣梨奈に
里沙は一瞬眉をしかめたが、深くは追求せずに問いを続けた。

「ふうん。池の水位は?」
「普通にいっぱいでした」
「いっぱい?」

里沙のトーンが上がった声に衣梨奈はびくりと肩を竦める。

「綺麗な水が、いっぱいでした、けど?」
 
784 :ドラゴンハンター :2013/06/26(水) 22:25

ここから東に進んだ山すそにある龍ヶ池。
その底には龍が住んでいるという伝説がある。
池は龍の生気を映して美しく澄み渡り、
どんなに日照りが続いても干上がることはないが、
龍が長い眠りにつくと生気が抜けて水はよどみ減っていく。

これがまんざらただの伝説でもなく、
数十年前を最後に龍を見たという報告がなくなってから
池は徐々に干上がっていっていた。

里沙が数ヶ月前に調査に寄った時は、池というよりも淀んだ沼のようだった。


なぜそこを通ったのかはあいまいなことしか言わないが、
池周辺の様子やそこから街に至るまでの経路を言わせてみると確かなようで、
うそを言っているようではないと判断した。

「わかった」

一つうなづくと里沙は手にしたままだった高額紙幣を衣梨奈にさしだした。

「え? それは」
「さっきのは私があんたをかばった報酬。これは私からあんたに情報料」

納得いかないような顔で受け取る衣梨奈を他所に
里沙はバイクを引っ張り出してまたがる。

「こっから街まで一人で歩けるでしょ」
「え」

衣梨奈が街に戻りやすいようにわざと街に戻るようにまいた。
歩いてもたいした距離ではない。

「でもでもさっきの人にまた会ったら」
「自業自得。まあ酒も入ってたしカッときただけだろうから
 探し出してまでなんかされるようなことはないだろうから
 あんたが注意してれば大丈夫でしょ」

すがるように腕を掴まれて少し迷ったが里沙が衣梨奈を連れて行く理由はないし
連れていけない理由はある。

「あの街が危ないと思うんだったら住んでたとこにかえんな」

また泣きそうになっている衣梨奈の肩を里沙はトンと叩いた。
どこから来たかは知らないが、15で一人住んでいた街を出てきたのは
それなりの理由があるのだろうと里沙は思っていた。
能天気に見えてそれなりに思い悩むこともあるのかもしれない。
面倒見のいい性質をしている里沙は、そう思うと強くは突き放せずに優しく言った。

「あたしはもう行かなきゃならないんだよ」
「一緒に行ったらダメですか?」
「どうして」
「行きたいんです。新垣さんと一緒に」

キラキラした目で見つめられて里沙はため息をつく。

「バカなことわないの。連れてっても何の役にも立たないでしょ。だいたい――」

連れて行きたくないのではなく連れていけない理由がある。
それを説明しようとした里沙が突然鋭い目をあたりに向けた。
ただならぬ気配に衣梨奈も身構える。

「さっきの――」
「あんな可愛いもんじゃないよ!」

ガガガガッ

いきなり足元に打ち込まれた銃弾に衣梨奈は顔色を青くして飛びのく。
すがりつくように腕につかまった衣梨奈をかばうように里沙はすばやく引き寄せた。
明らかにさっきの連中とは違う連中だ。


莫大な富をもたらす龍を狙っているのはもちろん里沙だけではない。
存在が耐えて久しい龍。
手荒いマネをしてでも手に入れたい。
そんな連中も含んだ色々な連中が狙っているのだ。

里沙は衣梨奈を崖にぐいと押し付けると、小さく舌うちをした。
衣梨奈の姿を見られただろうか。
里沙がはなれれば追ってくるだろうが衣梨奈も仲間と見て捉えるかもしてない。
衣梨奈がしっかり黙っていればいいが、
情報をもっているとわかればまずいことになる。
情報を引き出したあとこれ以上しゃべれなくするようなことが……、
ないとは言い切れない連中だ。

「乗って!」

そうなると面倒見のいい里沙に選択肢はない。
里沙は衣梨奈をバイクに乗せると急発進した。
 
785 :ドラゴンハンター :2013/06/26(水) 22:26

◇◇◇

池の淵に立った里沙は数ヶ月前とは全く違う様子に息を呑んだ。
澱んだ沼は美しい泉に姿を変えていた。
あまりの変わりようにGPSで位置を確認してしまったくらいだ。
衣梨奈が言ったように派手な形跡はみつられなかったが、
ウロコが落ちていたというあたりを慎重に調べると
何か大きなものを引きずったような跡は見ることができた。
ここに、龍がいたんだ。
内心どきどきと心臓を高鳴らせながら里沙は注意深く池の周囲を探索する。


追っ手をまいた里沙と衣梨奈は龍が池にやってきていた。
池のふちに腰を下ろして愛佳のローストビーフサンドを分け合い一息つくと、
里沙はさっそく調査を開始した。

里沙が満足するまで調査を終えて池を離れると、
今度は二人は山あいの村あとに入った。
もう村は放棄されて数十年が経っている。
ここも里沙は何度も訪れた場所だったのだが。

干上がっていたはずの井戸のそばで水辺を好む低木が花をつけていた。
井戸を覗き込むと思うよりも近く水面が青空を映している。
その水面に、綱のきれた朽ちかけた桶が静かに浮いていた。
しかし井戸の側面、雑草が水面下にも茂っていて、
長くこの水位を保っていたようには見えない。
水質をチェックしてもミネラルを多く含んだ水は溜まった雨水などではなく、
地下から湧き出たものだと思われた。

ここは最後に龍の姿を目撃されてから急激に井戸や川が干上がり、
ついに放棄しなければならなくなった村だった。
里沙が生まれるよりも、ずっと昔の話だ。

「いくた? いーくた」

つかの間ノスタルジックに浸っていた里沙が井戸から顔を上げると、
そばにいいたはずの衣梨奈の姿が見えない。
落ち着きのないやつだな。
眉をひそめながら里沙は村の中を一人歩き始めた。

「なんかあったの?」

狭い村の中、衣梨奈はすぐに見つけられた。
村の中心部には石造りの教会が建てられている。
衣梨奈はその壁に描かれた色褪せた絵をぼんやりと見上げていた。

勇猛な龍が空に舞い大粒の雨を降らせている。
山からは大水が下り家や田畑を飲み込んでいた。

この村は龍を恐れながらも信仰していた。
信仰していた龍に滅ぼされた村だとも言える。

「いれば洪水いなくなりゃ渇水か」
「違います」
「え?」

ぽつりとつぶやいた里沙の言葉に衣梨奈がすばやく言葉を返す。

「何年も繰り返し作物を作った土地はやせ細って精気を失います。
 そんな土を削り取りって肥沃な土を川下まで運ぶんです。
 大水はそうやって新しい田畑を生み出すんです」

どこかおどおどとしゃべっていた衣梨奈が、急に熱心に語り始めた。
見下ろされる強い瞳を里沙はじっと見つめ返す。
思いつめたような顔もやっぱり綺麗だなとか思うと、
ふとよく似た目をしていた人のことを思い出した。

「龍は大地を育てる、か」
「え?」
「昔世話んなってた人があんたと同じこと言ってたなと思って」
「どうして新垣さんはそれを信じてくれないんですか」
「信じてないわけじゃないよ」

ただ。里沙にとって龍の価値はそこになかった。
短い付き合いの衣梨奈にそれを理解してもらえるとは思えない。
まっすぐに自分を見つめる衣梨奈に里沙は少し困ったように首をすくめて見せた。

その耳に遠く風の唸りのような音が聞こえて、里沙は空を見上げた。

「まずいな」

微妙に顔をしかめる里沙の肩越しに空を見上げた衣梨奈が目を見張る。

「ツェッペリン……」

衣梨奈の視界かすかに飛行船の姿が見えた。
距離を考えるとおそらくずいぶん大きなものだろう。
呆然と空を見上げる衣梨奈の腕を里沙がひいた。

「もう行こう」
 
786 :ドラゴンハンター :2013/06/26(水) 22:27

「あれもハンターですか?」

追われていないと見たのか里沙は幾分ゆっくりとバイクを走らせる。
途中進路の確認と休憩に落ち着いた木陰で衣梨奈は聞いた。
今この世界に数隻しかないといわれている飛行船。
その飛行船を飛ばせるなんてさすがドラゴンハンターは豪勢だ。
うんうんとうなづく衣梨奈に里沙は笑って手を振ってみせる。

「違う違う。あれは龍の保護団体なの」
「龍を保護、ですか…」

ぽかんとする衣梨奈に里沙は苦笑いを浮かべた。
地上最強と呼ばれる龍をたかが人間が保護とはなんともちぐはぐな話だ。

「保護って言うかまあ大富豪の酔狂だね」

歴史は百年も前にさかのぼる。
一国の王様よりも財産を抱えた大富豪。
秘めたる力のために乱獲され、数を減らしていく龍を哀れに思ったのか、
彼は龍を保護する団体を作った。
その団体は彼の死後も一族の援助により活動を継続しているが、
龍が見られなくなっていしまった今では、
龍の生態を研究するのが主な活動となっている。

「これからどこへ行くんですか?」
「龍が池の上流に行く」

訪れた龍が池は確かに姿を変えていたが、
里沙の感じたところではどうもその底に龍が息づいているようには思えなかった。
龍が池より小さいが、上流には源流を同じくする泉がいくつかある。
そこを順に探ってみようと思っていた。
の、だが。

チュン

「また来たか!」

バイクのそばに弾丸を撃ち込まれて、里沙はバイクの速度を上げる。
飛行船ではない。
手荒な連中の方だ。
どこから狙われているのか撃ちこまれる弾丸を里沙はたくみに避ける。
必死になってしがみつく衣梨奈を気にしながらあちこちに視線を向ける。

「そこかっ」

里沙もすばやく銃を取り出すと遠くに見える岩陰に狙いを定める。
いくつか弾丸を撃ち込むと、見方の危機を案じたのか乗じたのか、
黒いバイクが二台現れて里沙を追ってきた。
里沙は銃を構えると黒いバイクを近づけないように威嚇射撃を繰り出す。
しかし二台のバイクもそれも交わしてつかず離れず追ってくる。

里沙は内心舌打ちをする。
フリーで危険な仕事をしている。
狙撃の腕前はそれなりである自負もあったが、
相手もそれなり以上の腕前を持っているようだ。
しかも自分はお荷物も抱えている。
ぎゅっと抱きついてくる衣梨奈の細い腕を見下ろして、里沙はひとつ息をついた。
これは、相手に怪我をさせても仕方ないか。
 
787 :ドラゴンハンター :2013/06/26(水) 22:27

里沙が覚悟を決めて銃を構えなおしたそのとき、黒いバイクがふっと影に覆われた。
いぶかしく思ったのか、
晴れたはずの空を見上げたバイクがぎょっとしたのがわかった。
見上げたその上には、覆いかぶさるように近づいた飛行船の姿。
操舵艇の下方に積まれた大型の機関銃が、
狙いを定めようとゆっくりと動き出している。

厄介なことになったと言えばなったが、助かったと言えばやはり助かった。
飛行船を見上げたままでほっと息をつく。
その里沙の耳に衣梨奈の甲高い叫び声が飛び込んできた。

「新垣さん!前!」

はっと里沙が正面を向く。
数mはある裂け目が目の前に広がっていた。
深い谷の底は見えなかった。
止まる、迂回する。
その選択肢はもう遅い。
それならば。

「生田! しっかりつかまってな!!」

里沙は最後の数m、バイクの速度を一気に上げた。

ダン!!

崖っぷちで飛び上がったバイクが宙を舞う。

「きゃあああああああ!!??」
「うっさい!! 黙ってな!!」

しがみつく衣梨奈を叱り付け里沙は細い腕と足で車体の平衡を保つ。
届かない、か……っ。
ぎりっと歯を食いしばる。

「おいで!」

里沙は衣梨奈を強引に抱えるとバイクを一蹴りして飛び上がる。
そのまま宙に腕を差し出して、
放り投げるようにして衣梨奈を地面に転がした。

ざざざっ

「いったあ……っ」

地面にこすられて血のにじむ頬を撫でていた衣梨奈だったが、
はっとして慌てて体を起こした。

「新垣さん?」

きょろきょろと見回す視界に細い手が一本見えた。

「新垣さん!!」

衣梨奈が駆け寄るとガラガラと崩れる。
これ以上近寄ると崩れ落ちてしまうかもしれない。

「新垣さん! 新垣さん! 新垣さん!! どうしよう!?
 衣梨奈どうしたらいいですか!!?」

半狂乱になった衣梨奈が甲高い声で叫ぶ。

「どうも、しなくていい」

苦しげな声。
せっかく助かったのに。
せっかく龍に近づけたのに。
とんだ失態を犯したものだ。
自分のバカは仕方ない。
だから。

「みっつぃのカフェオレ、あたしの分おごってやるよ」

だから、せめてあの子には伝えてほしい。

ガラッ

里沙の指先にかかっていた荷重が開放された。
ふっと体が重力から開放される。
里沙の体が宙を舞った。
龍って、こんな感じなのかな。
龍に、会ってみたかった。
本当は、売るとかそんなんじゃなくて。

ただ、ずっと憧れていたんだ。
一目だけでも、見てみたいと。


閉じたまぶたの裏に、記録媒体でしか見たことのない龍の姿が映った。
 
788 :ドラゴンハンター :2013/06/26(水) 22:28



里沙は背中に感じた衝撃に目を開く。
谷底にたたきつけられたにしてはやわらかい。
それとも天上界とやらの地面にたどり着いたのか。

ぼんやりと体を起こそうとすると、ぐらりと体が傾いだ。
あまり安定のいい足場ではないようだ。
注意深く顔を上げた里沙の視界に飛び込んできたのは。

「りゅう……」

頭の先から尾の先まで十数mはあろう。
まぶたの裏に描いた同じ姿がそこにあった。
呆然とする里沙を受け止めると、龍はぐっと首をもたげて高度を上げた。

谷を出ると、
振り仰ぐ飛行船の操舵艇からこぼれそうなほど目を見開いている人が見えた。

手に触れるウロコは今まで里沙が目にしてきたものとはまったく違い、
美しく明るいグリーンに輝いている。
それは、生きた輝き。
うごめくウロコにはかすかに温かみを感じて。

「うわっと」

少しの間飛行船と併走していた龍がゆっくりと旋回する。
その動きにぐらりと傾ぐ体を慌てて立て直した里沙を、龍が首をもたげて振り返る。
じっと見つめあう真っ黒な瞳。
その目が心配そうに、泣きそうに見えて。里沙は思わずつぶやいた。

「いくた」

里沙は自分の呼んだ名に驚いた。
どうしてそう思ったのかわからない。
わからないけれどなぜか自分の言葉にすとんと納得がいった気がした。
里沙のかすかな声を聞いたのか、龍はゆっくりと谷底に向かって降りていった。


谷底に体を横たえた龍から地面に降りようとして里沙は崩れ落ちた。
左腕の骨が外れていたことには気づいていたが、崖を滑り落ちたときに傷めたのか、
右足が完全に立たないことには気づいていなかった。
手足の痛みに這い蹲るように地面に転がった里沙の目先で、
美しくゆれる龍の体がふわりと消えた。

「にいがきさん」

どこか悲しげな声が里沙の耳に聞こえた。
その声には答えず、里沙は痛みに耐えながら体を起こす。

「う……ああっ!!」

右手で左肩を抑えるとそのままぐっと力任せにはめ込んだ。
吐き気がするような痛みが走った。

「だだだ大丈夫ですか!?」
「あのままよりはマシ」

驚いて手を差し出した衣梨奈を見上げることもせずに、
里沙はぐったりした顔で腕を押さえる。
骨のはまった腕はまだしびれているが時機にそれなりに動かせるようになるだろう。
そんなことよりも。

「アンタ」
「あ、あの、えっと」

気まずそうにうつむく衣梨奈に里沙ははあっとため息をつく。

「なんで黙ってたの」

責めるようなことが言えるわけはない。
龍を狩るんだと意気込んでいる相手に
自分が狩られる者であることなど言うわけがない。
わかっている。それでも里沙は衣梨奈をにらみつけた。

「だって、あの」
「あたしのこと、馬鹿にしてんの」

狩るものと狩られるもの。
その関係性をわかっていてなぜついてきた。
なぜ、慕うようなそぶりを見せた。

「嫌いに、なりませんか」
「どうして」

おずおずと言うと衣梨奈は首をうつむける。
だって……つぶやくともう、衣梨奈は足元にぽたぽたと涙を落とす。

「ずっと一人でいたんです。暗い泉の底でずっと。
 人の姿が取れるようになって、誰かと話がしてみたくて町に降りました。
 だけど人になりきることはできなくて、空気読めない変なやつだって。
 それって私が龍だから。人間じゃないからで。
 だから言いたくなかったんです。
 新垣さんに……嫌われたくなかった」

泣きじゃくりながら話す衣梨奈に里沙は深くため息をつく。

「ばっかだねえ」
「だって……」
「龍であったってそうじゃなくたって、アンタは変わらないよ」
「え?」
「空気も読めないしバカだし泣き虫だし。そんなの変わるわけないじゃん」

呆れたように言い放つ里沙に、衣梨奈は不安げに眉を寄せる。
そんな衣梨奈の顔を見て小さく笑うと、里沙はその肩をぽんとたたく。

「でもまあ、アンタは私が嫌いになるほど自分勝手でもバカでもないとは思うよ」

苦笑混じりに言った里沙の言葉に、衣梨奈は一瞬きょとんとする。
それからやっと意味がわかったのか、ぱあっと顔を輝かせた。
 
789 :ドラゴンハンター :2013/06/26(水) 22:28

◇◇◇

「新垣さん!」

号泣して抱きついてくる愛佳に里沙は困ったように笑った。
両手は松葉杖でふさがり、荷物は傍らの衣梨奈が持っていた。

「連中がドラゴンハンターの新垣は龍に食われたって言いふらしてて、
 だからあたし……」

愛佳は里沙の顔を何度も確認してその体をべたべたと触る。

「ちゃんと生きてるよ」

ちょっと座らせてよ。
里沙の言葉に衣梨奈が一番近くの椅子をさっと引く。
松葉杖を受け取ると、肩を支えて里沙を座らせる。
そのかいがいしい付き人っぷりに愛佳は不満げに唇を尖らせた。
自分にだって、それくらいできたのに。

「龍は背中にのっかったあたしに気づかなかったみたいで
 そのままどっかに行っちゃったよ」
「そうなんですか」
「惜しいことしたけどあたしも怪我してたからさー」

龍が池のこと、山裾の村のこと、追っ手に追われたこと、谷に落ちたこと、
そして龍に出会ったこと。
それらの話の概要は、途中の街に怪我の治療に立ち寄っていた里沙が
この街に戻るよりも先に伝播してきていたが、
やはり本人の口から聞くと臨場感もあり、
愛佳は身を乗り出すようにしてその話に聞き入っていた。
そんな愛佳に気をよくしたのか、
里沙は衣梨奈の持っていたバックパックに手を突っ込む。

「じゃーん」

差し出された里沙の手には、数枚のキラキラと輝くウロコが掴まれていた。
遠巻きに里沙を見ていた人垣からもおおおっと歓声があがる。



谷底には数枚のうろこが落ちていた。
衣梨奈の手足にいくらかかすり傷があった。
里沙を掬い上げるためにがけに体をぶつけたと言っていたので、
そのときにはがれて落ちたのだろう。
手のひらに余るほど大きなウロコを持ったまま、衣梨奈は谷を見上げた。

「これ、どうやって戻りましょう」
「うーん。もう一度龍になるのはヤバイしねえ」

地上で続いていた銃声が次第に遠ざかっていく。
どうやらバイクの連中と飛行船の戦いは収拾がついたようだ。

「どっちが勝ったんでしょう……」
「ツェッペリンが負けるってことはないよ」

里沙は小さく苦笑した。
優雅に空を飛ぶ飛行船だが、あれでも重火器を備えている。
たて突いてろくなことにならない組織であることもわかっているだろうから、
バイクの連中も適当なところで引くだろう。

里沙の予想通り、しばらくして飛行船から籠が下ろされてきた。
その中に乗っていたのはなんだか派手に目を引く女性が二人。
衣梨奈は気圧されるように一歩引き下がる。
そんな衣梨奈には気づきもしないかのように、
一人目の女性は転げるように籠から降りると、
うずくまったままの里沙を抱きかかえるように走り寄った。

「マメ! アンタ生きてたの!?」
「石川さん、そりゃないでしょ」
「だってあれじゃ龍に食べられたんじゃないかって……っ」
「新垣の運のよさは無敵だねえ」

苦笑を浮かべる里沙に、もう一人の女性も呆れたように言う。
最初に降りてきた人物の名は石川梨華、あとに続いたのが保田圭という。
小声でそう紹介すると衣梨奈は驚いていくつか瞬きをした。

「お知り合いなんですか?」
「まあ、ね」

不思議そうに聞く梨奈に里沙はばつ悪そうに目をそらした。

里沙ももともとはこのドラゴン保護団体に所属していたのだ。
しかし里沙は龍の魅力に『とりつかれた』。
特にその強さに。
それに挑みたいと思うほどに。
そして里沙は団体を飛び出しフリーのドラゴンハンターとなったのだ。

「保田さん」
「なによ」

新垣の足の具合を見ていた圭に衣梨奈の手にあるウロコを一枚差し出す。
ぎょっとした圭が手を出す前にそれを引いた。

「ツェッペリンで町まで送ってもらえませんか」

飛行船の運賃にしては破格だ。
何よりも欲していた本物の龍のウロコ。しかもはがれてすぐ。
併走する龍の姿も飛行船から撮影している。
情報も集まったし反論する余地はなかった。
 
790 :ドラゴンハンター :2013/06/26(水) 22:29

「危ないこと、もうやめてください」

里沙の話がすべて終わり、人垣も徐々にほぐれていく。
その中で愛佳が不安そうに言ったが、里沙はその肩をぽんとたたいただけだった。

「ま、結構今回は痛い目にあったからこれからは気をつけるよ」

懲りたようには思えない口調。
自分が何か言ったところで信念を曲げるような人ではない。
それくらいわかっていた。
だからこそこの人を敬愛しているのだし。
愛佳は観念したように心配げな顔をやっと緩めた。


「カフェオレ、いれますね」



「アンタはしばらくそのナリで姿を隠してた方がいいね」

やっと愛佳が仕事に戻ったところで、里沙は衣梨奈に視線を向ける。
これから実際に龍を見たという話が広まっていけば、
衣梨奈が龍の姿のままここにとどまることはあきらかに危険すぎる。

「新垣さんはこれからどうするんですか?」
「んー。まあドラゴンハンターのお仕事をしますよ」
「……それって」
「武具や薬に使える獣を捕らえるの」

ドラゴンハンターなどといっても今の仕事はそんなもの。
それでも一流の里沙ではずいぶんな稼ぎになる。
危険な仕事ではあるが、里沙はそれなりにやりがいも感じていた。
ほっとしたように表情を緩める衣梨奈に、里沙はにっと笑って応える。

「一緒に行ってもいいですか?」

不安そうに眉を下げる衣梨奈に里沙は、宙を見上げて小さくうなった。

自分を助けるために龍の姿をさらしてしまったのだから、
責任を感じるといえば感じるし、なによりも恩義を感じる。
そしてそれよりも。

愛佳は愛佳として、
ここまで妄信的に慕われたようなことはなくて。
面倒で気持ち悪いなんて思いながらも内心は結構。

うれしかったりも、して。

「しょーがないなあ。あたしの邪魔すんじゃないよ」
「はい!」


相変わらすのいい子のお返事に里沙は苦笑を浮かべた。



『 ドラゴンハンター 』   終わり
 
791 :名無飼育さん :2013/07/10(水) 03:33
久しぶりに覗いてみたら、こんな素敵なお話が!
ありがとうございます。
792 :名無飼育さん :2013/07/12(金) 16:01
うわー嬉しい!更新ありがとうございます。
いつも夢中になって読んでます。
793 :名無し飼育さん :2013/07/15(月) 22:35
素敵なお話!
なんですけど、B℃じゃないですよねw
794 :esk :2013/09/21(土) 23:35
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>791さま
素敵だなんて恐縮です><
なかなか更新ないですがよろしくお願いします。

>>792さま
ありがとうございます。
夢中だなんて言い過ぎですよぅ><

>>793さま
バレましたかw
今度はちゃんとB℃ですw


『 右目とバディ 』
795 :右目とバディ :2013/09/21(土) 23:37

ハロルド:徳永千奈美
ルーパート:清水佐紀
※我らジャンヌのパロディ風ですが、筆者未観劇です



「明日からの行軍演習やだなー」
「珍しいね。ハル行軍演習好きじゃん」

張り出された予定表の前、ひょろ長い手足を持てあまらせた少年がぼやく。
その後ろを通りかかった背の低い少年が、脇からひょいと顔をのぞかせた。

ひょろ長い少年ハロルドと小柄な少年ルーパートは幼馴染同士であり、
今は二人とも騎士予備隊に在籍しいる。
予備隊は12〜15歳の少年を集めて、
将来優秀な騎士になるための訓練を施している騎士学校のようなものだ。
騎士隊の中で上級職に就くような者は大抵この予備隊の出身者であり、
いわゆるエリートコースとも言えるが、その訓練は甘いものではない。

重い装備を背負い特に何をするでもなくひたすら歩き続ける行軍演習も、
隊員たちには嫌われることの多い訓練のひとつだが、
ハロルドはこれを遠足みたいだといつも楽しみにしていた。

「だって今回ルーパートと違う組だからさー」
「なんだそんなこと」

唇を尖らせるハロルドにルーパートは小さく噴出す。
ルーパートの幼馴染はひとつ年下であるが、
それを差し引いたとしても子供っぽい言動が多い。
教官などからは騎士らしくないと渋い顔をされているが、
この天真爛漫さがハロルドの魅力であるとルーパートは思っている。

「そんなことったってさー。
 ばらばらになんかされたらバディになれんのかなーって思うじゃん」
「いろいろ可能性を試してみたいんでしょ。大丈夫だよ。
 ハロルドはルーパートじゃないと手に負えないってすぐにわかるから」

騎士隊において危険な任務に就くときは、二人一組になり行動を共にする。
これをバディと呼ぶ。
バディはその時々で組み替えられるのが普通だが、
名を残すような騎士には大抵決まったバディがいた。
予備隊員や若い騎士がバディと言う場合、こちらの関係に憧れている場合が多い。

「なるほど! 手に負えないようなことすればいいのか」
「バカ。それじゃ騎士隊さえ落ちるよ」
「えー。じゃあどうすんの」
「普通にしてなって。ハルはそれで充分厄介だから」 

納得行かないように唇を尖らせるハロルドに、ルーパートは苦笑いを浮かべた
 
796 :右目とバディ :2013/09/21(土) 23:38

◇◇◇


「あー! つっかれたー」

ハロルドが宿舎に帰ってきたのは夜遅くなってからだった。
夕方には戻るはずだったのに、その予定が遅れたのは自分のせいではない。
と、思う。
たぶん。

「ハロルド」

疲れた身体を伸ばしながら歩いていると、背後から声をかけられた。
首だけで振り返ると教官の姿が見えて、
ハロルドは慌てて身体ごと振り返って敬礼の形を取った。

「あ、教官!」
「いい。ちょっと来い」

だらしないと怒られるのかと身構えたハロルドは、
何も言わずに歩き出した教官に拍子抜けしながらも慌ててその後に続いた。

今度は自分は何をやらかしたのだろう。
教官室につれられたハロルドが不安そうな顔をしていると、
教官はひとつため息をついて話し始めた。


ルーパートの参加した演習隊が実際の戦に巻き込まれた。

先導していた教官が退避口を作って逃がしたので最悪の事態には陥らなかったが、
数人のけが人が出た。
重傷者もいる。

ルーパートは。

ほかの怪我はたいした事はないのだが。


「みぎ、め?」
「失明するかもしれないらしい」

手榴弾の爆風を食らって右目を負傷した。
うつむいたまま淡々と話す教官の額の辺りを、ハロルドはじっと見つめる。

ほかの重傷者二人からはすでに除隊願いが出ている。
教官としては受け入れるつもりだ。

「ルーパートからは」
「本人の意思では、出ていない」
「どういうことですか」
「このまま本当に視力を失うのであれば、除隊にするしかないかもしれない」
「なんでだよ!!」

突然声を荒げたハロルドを教官は見上げる。
罰則ものの発言には何も言及せず、その目をじっと見つめる。
直情型のハロルドにこの話をすれば、激高するであろうことは予測していた。

「もしこのまま騎士隊に入ってもいずれ早いうちに命を落とすことになるだろう。
 それなら今のうちに違う道を――」
「俺たちは!!」

教官の言葉をさえぎり、ハロルドはぐっとこぶしを握り締めた。
そのこぶしで自分の胸を強くたたいて教官に迫る。

「俺とルーパートは陛下に絶対の忠誠を誓ってる!
 命を落とすことを恐れてなんかいない!!」

「お前はルーパートのバディになりたいんだろう?」
「なるんだよ!」
「いずれ戦場でルーパートが、ルーパートの右目がお前の足を引っ張った時、
 それでもお前は同じことを言えるのか?」

「言える!!」

吐き出すように叫んだハロルドに、教官はふっと疲れたようなため息をついた。
この返事も、予想の範囲内だった。
あとはハロルドとルーパートが現実に向かうことでしか解決しない。

「お前の気持ちはわかった。だがルーパートの進退はお前が決めることじゃない。
 医務室にいるはずだ。行ってやれ」
 
797 :右目とバディ :2013/09/21(土) 23:39

「どうぞ」

ノックしたドアの向こうからの聞きなれた声に、ハロルドは一瞬躊躇する。
このドアを開けなければ、ハロルドの記憶の中でルーパートの目はまだ見えている。
結果を出す行動におびえながら医務室のドアを開くと、
奥のベッドでルーパートは身体を起こして座り込んでいた。

右目をやられたと聞いていたが、両目に包帯を巻かれたルーパートは、
いつもよりももっと小さく見えた。

「入るよ」
「ハル?」
「うん。調子どう?」
「体はぜんっぜん平気だよ」

いつも以上に明るい口調でおどけて言うルーパートに、
ハロルドは気づかれないように息をついた。
現実なんだ。
教官になにを言われてこみ上げるのは怒りばかりだった。
しかし現実を目の前にして、ハロルドの感情はからっぽだった。
どう話せばいいんだろう。
答えはすぐそばにある気がするのに、空っぽな感情が邪魔してそれが見えない。

「ハル、教官と話した?」
「あー、まあちょっと」
「僕、除隊かな」
「ル――」
「隻眼の騎士なんて聞いたことないもんね」

違う。
そう思っているのになんとそれさえ言葉にならず、ハロルドが黙ってしまうと、
ルーパートはわざとらしく大きくため息をついた。

「あーあ。こんな形で騎士隊離脱するとは思ってなかったなあ。
 ハルは誰かほかのバディを――」
「俺のバディはルーパートだよ」
「片目のバディ?」
「じゃあ俺がルーパートの右目になってやるよ」

自虐的に言ったルーパートの言葉を聞かないように、
ハロルドはすばやく答えた。
当然のように言ってにかっと笑うハロルドにルーパートは言葉を失う。
ハロルド自身、自分の口からすとんと出て行った言葉に驚いた。

『いずれ戦場でルーパートの右目がお前の足を引っ張った時』

ルーパートの右目は自分だ。
それなら、足を引っ張るのも自分。
ルーパートの命さえ預かるのも自分だ。
そうだ簡単なこと。
言ってしまえばそれはひどく簡単なことのように思えた。

あっけにとられていたルーパートは慌てたようにハロルドから顔を背けた。

「不安な右目だな」
「なんだよー」

二人とも、言ったルーパートの声が震えていることには気づいていた。
それでも何も言わずに笑いあう。

子供っぽくて直情的で楽天的。
それがハロルドの良さだとルーパートは知っていた。
けれどそれがこんなにも、大きく強いものだとは知らなかった。
ハロルドさえいれば、自分の右目を預けることもひどく簡単に思えた。

厚く巻いた包帯の下、
光を失った右目からもゆっくりと熱いしずくが垂れた。


僕の右目は、まだここに生きている。



『 右目とバディ 』   終わり
798 :TOY :2013/09/23(月) 00:28
更新きてる!!
ハロルパの関係は本当、こういう感じでした。
ハロルドいいなぁ。最強のバディですね。
799 :esk :2014/11/10(月) 00:51
読んでくださった方、ありがとうございます。
>>798TOYさん
一年以上前のレスありがとうございます^^;
ちなキャプもいまやすっかりいいコンビですね。

意図的に書き方を変えてみました。みやもも
800 :熱帯夜 :2014/11/10(月) 00:57

※夏の話です

ん……?
暗い。ちゃんと目は開いてるはずなのになんで何にも見えないんだろう。ぼんやりとした頭のままで何回も瞬きをすると少しずつ状況がわかってきた。そっか。まだ深夜なんだ。
そう気づくまで繰り返した瞬きを止めて、頭のそばに手を伸ばした。この辺に携帯があるはず。今何時か知りたい。指にあたった硬い塊を掴んで電源をONにすると浮かび上がった時間はまだ深夜って感じの時間。なんだまだまだ寝れんじゃん。こんな時間に目が覚めちゃうとかなんか損した気分。明日だって朝早いのに。
軽く寝返りをうつと、暗さに慣れてきた目に隣でぺったりとくっつく白い肌が浮かび上がった。……パジャマ、着ないで寝たんだ。そういえばあたしも同じ格好だってことを思い出して、ゆっくり上下するももの肩から視線を離した。
なんとなく吐き出した息が熱くて、身体もずいぶん汗ばんでいる。ただでさえ真夏で暑いのに、こいつのせいでたまんないよね。携帯を離した手で今度はクーラーのリモコンを探した。ももも汗をかいているのかかすかに甘い匂いがして、あたしののどがこくっと音を鳴らす。その張り付いた感覚に、これのども渇いてるのかも。まあさすがに水のみに行くのはめんどうだからしないけど。
やっと探し出したリモコンを引き寄せた。

ピ。

小さな音に傍らの塊が身じろぐ。やば。起きちゃった? 普段寝起き悪いくせにあんな小さい音で起きるとか。一応起こさないように気を使ってたのに意味ないし。っていうかホントに起きたのかな。じっとして様子を見てたらももは目を閉じたままで唇を開いた。

「クーラー……ありがと」

眠そうな掠れ声だけど内容的に寝言じゃなくて起きてるらしい。起こしてごめんとか言うべき? でも先にあたしの目が覚めたのはたぶん暑かったからで、その理由はももがここにいるからなわけで、だったら起こされたのはあたしの方。じゃあ謝る必要なんかないんじゃない?

「寒かったら消して」
「んーん……どうせ暑くなるからこのままで……」

結局謝るのはやめてそう言ったら返ってきた言葉は何言ってんのか意味わかんない。クーラーつけたんだからだんだん寒くなるんじゃん。こいつやっぱり寝てるな。冷たい風がそよそよと吹いてきて気持ちいい。でも汗もかいてるしこのままだとそのうちホントに寒くなってくるかも。風邪引くといけないしちゃんとお布団着よう。
肩の下までめくれたタオルケットを手探りで引っぱるとその手が掴まれた。寝起きのももの手はすごく熱い。びっくりして振り払おうとしたら寝起きとは思えないくらい強い力で引っ張られる。

「ちょ……っ」

何こいつ起きてるの寝ぼけてるのどっちなの? 慌てて押し返そうとしたあたしの手は逆にベッドに押し付けられて、身体を起こしたももの眠たげな目が暗闇の中であたしを見下ろす。たったそれだけのことでどきどきして。いろんなこと考えちゃった頭の中さえもが見抜かれそうで。とっさにももから目をそらした。くすってももの笑った声が聞こえたような気がした。次の瞬間首筋にぺたりと唇を押し当てられて息を呑む。一気に体温が上がってどきどきも考えちゃう頭の中ももう止まらない。止まれ止まれってぎゅっと目を瞑っても、ももに首筋を舐め上げられる感触にそんなことできるわけがなかった。

「暑く、なる」
「だからクーラーつけたんでしょ」

震える声でそれだけ言うとももが笑うように言った。そんなわけないでしょバカ! 言おうとした言葉は甘い声に変わって、それはきっともう諦めろって言う心と身体からのサイン。仕方なくももの身体に腕を回すとももが小さく耳に噛み付く。甘い痛みのご褒美に、あたしの身体が悦んで震えた。


『熱帯夜』   終わり
801 :名無飼育さん :2014/11/19(水) 10:49
新作きてた!
一人称系?も読みやすくて良いですね!

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