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JUNK!(B℃)

1 :esk :2009/04/13(月) 22:30

・どうでもいい小ネタ集
・ベリキュー中心

言い訳は、計算が合えば >>18 合わなければその前後
 
401 :春の怪談(後編) :2010/04/22(木) 02:25

「すーちゃんのオーラが見えたんでしょ。
 本気になったときのすーちゃんのオーラはホント綺麗だよ」
「そうなんだ」

少しだけ霊視能力のある千奈美と違い、雅にはそのオーラは見えていない。
力の強い悪霊の姿なら見ることは出来るが、オーラまではわからないのだ。
雅の確認するような視線に桃子は大きくうなずいて見せた。

「まあ、桃の方がかわいいけどね」

うふふ、と声に出して笑う桃子。

あまりまともに相手しない方がいいらしい。
二人は一瞬の会話でそれを悟った。
 
402 :春の怪談(後編) :2010/04/22(木) 02:27

そんな風に桃子と二人が少し通じ合ったころ。

(って届かないじゃん!)

茉麻はかなり焦っていた。

雅と千奈美の結界に費やしていた霊力を攻撃に回せるから、
たしかに一撃ごとのダメージは大きくなっているようだ。
とはいえ桃子の守護がない分全ての霊破を自分で切り返さないといけない。
しかも、悪霊もさっきの茉麻の攻撃を警戒して、
茉麻の間合いに弱点である核をなかなか近づけない。

なんというか……。
少し間の抜けた状態になっていた。

しかし間が抜けているとはいえ、
このままこの戦況が続くようであれば非常にまずいことになる。
消耗戦になると不利なのはあきらかに茉麻の方だからだ。
 
403 :春の怪談(後編) :2010/04/22(木) 02:29

「だあーっ。この卑怯者っ」

一声叫んで茉麻は渾身の跳躍を見せる。
そのまま切りかかろうとするが
空中でモロに悪霊の霊破を受けて地面に叩きつけられた。

「すーちゃん!?」
「だ、だいじょぶっ」

茉麻は体を強く打ち付けて一瞬気が遠くなったが、
桃子の甲高い声にぶるぶると頭を振って立ち上がる。
霊破自体はとっさに刀に受け止めたから直接的なダメージはない。
しかし……。
茉麻は唇をかみ締めた。
桃子の守護がないことを忘れていた。
いや、忘れていたというよりも、
守護がないまま悪霊と戦ったこと経験がないから調子がつかめないのだ。
 
404 :春の怪談(後編) :2010/04/22(木) 02:31

茉麻の様子を見守る桃子の視線は鋭い。
使役霊である自分は使役者である茉麻の身を守るために存在する。
たとえ茉麻の命令であっても、その命に危機が迫るのであれば
こんな二人はほおっておいて駆けつけるつもりである。

そんな桃子の考えが手に取るように感じられるから、
茉麻はさらに焦りを覚える。
早くやってしまわないと、
さらにめんどうになった桃子が二人を始末するようなことだって。

(桃ならやりかねないっ)

追い込まれた思考で茉麻は最悪の事態まで考え及んでしまう。
いくら桃子でもそこまではするはずはないと思っても
一瞬青ざめた茉麻の隙を突いて、悪霊が霊破を打ち込む。

霊破を避けるために横っ飛びに地面を蹴った、
その足がずるりと滑った。
 
405 :春の怪談(後編) :2010/04/22(木) 02:32

「――っ!?」

すぐに体勢を立て直すことは出来たが、
茉麻は自分が足を滑らせたものをにらみつける。

「何今のっ」

そこにあったのは踏みにじられたお札。
おそらくポケットに突っ込んでいた物が
さっき地面に叩きつけられたときにこぼれ落ちたのだろう。
それ蹴り飛ばそうとした茉麻の目がはっと見開かれる。

茉麻は慌ててポケットに手を突っ込むと、
残っていたお札を取り出して悪霊に向かって構えた。

「破っ、破、破あっ……」

いくつもの霊破を連打して悪霊の体を徐々に削り取る。
……核の部分を残して。
すると悪霊も再生しながら茉麻を攻撃するために、体をうつむかせた。
 
406 :春の怪談(後編) :2010/04/22(木) 02:33

「や……ああああっ!!」

その瞬間を見逃さず、
茉麻は全ての霊力を込めて核に刀を切りつけた。

まっぷたつに切り裂かれた影がゆっくりと霧散する。

「はあっ、はあっ……」

しばらくの空白。
茉麻は刀を構えたまま肩で大きく息をする。

(これでダメだったら……やばい)

しかし、影が再生する気配はなかった。

「やった……」

茉麻はがっくりとひざをついた。
ありったけの霊力を叩き込んだので、
もうまともに立っていることも出来なかった。
それでもやった。
その充足感に、茉麻は放心したように大きく息を吐き出した。
 
407 :春の怪談(後編) :2010/04/22(木) 02:34

しかし。

「すーちゃんっ!!」

桃子の切羽詰った声。
はっと振り返った茉麻は呆然と目を見開いた。

(……っ。しまった!)

自分たちの周りいっぱいに漂う雑霊。
強い悪霊が力を発揮する時、その力に惹かれて弱い雑霊が集まる。
それは悪霊退治にかかわる者には基本中の基本の知識だ。


『だから大物ほど短時間で効率よく始末せなあかん。
 大物に当たるときのスタンドプレーは厳禁な』


所長に言われた言葉を思い出す。
他人と共同戦線になることをあまりしない須藤家の伝統のせいか、
茉麻はその言葉を納得はしたものの素直に受け入れる気にはならなかった。
 
408 :春の怪談(後編) :2010/04/22(木) 02:34

「すーちゃ――」
「桃っ。ダメ!!」

茉麻の方に駆け出そうとした桃子を茉麻は手で制する。
雅と千奈美は今桃子の守護を受けているため、
辺りを漂う雑霊から守られている。
でもここで桃子が茉麻のためにその守護を解いてしまえば。
……その結果は明らかだ。

茉麻はひざを突いたままで刀を振るった。
国内でも有数といわれる霊刀である。
振るう茉麻の霊力がなくてもいくらかの雑霊を切り裂くことは出来た。
しかし少しでも力のあるものにはあきらかにダメージを与えられていない。


自分はバカだ。
目の前の悪霊を退治することに必死で。
基本の知識を忘れていた。

(もうダメ……なのかな)
 
409 :春の怪談(後編) :2010/04/22(木) 02:35

『ま、あたしらは仲間やから。
 あかんと思ったときは助けを呼べばいいって意味や』


意地を張ろうとする茉麻に所長は優しく笑みを浮かべてくれた。


だけど所長。
もう、間に合わないときはどうしたら。


ごめん。
みや、ちぃ。

助けられなかった。

ごめん。


迫りくる悪霊。

茉麻の視界が暗くなった。

 
410 :春の怪談(後編) :2010/04/22(木) 02:36


「破!!」


その闇を破るように突然背後から聞こえてきた声に、
茉麻ははっと振り返る。
立て続けに起こる爆発に、雑霊が次々消し去られていく。

「って多過ぎね〜か、コレ」

聞き覚えのある間延びした声。
闇を払われた茉麻の視界に、
雅よりもさらに明るい髪色をした女性が立っていてた。
かぶっていたキャップのふちに手をやると、唇の端だけで茉麻に笑いかける。

「あーも、めんどくせえな。茉麻、伏せろっ」

女性は一声叫び新しいお札を取り出すと、
ぱんっと両手のひらの間に挟んで胸の前に構えた。
その構えに茉麻はぎょっとして慌てて体を伏せる。
 
411 :春の怪談(後編) :2010/04/22(木) 02:37

「炎!!」

次の瞬間。
女性の鋭い声に、辺り一面が火の海に包まれる。
ごうごうと燃え上がる炎に、雑霊たちはひとつ残らず飲み込まれていく。
相変わらず……豪快な。
体を伏せたままその光景をぼんやりと眺めていた茉麻の傍らに
いつの間にか女性がひざをついていた。
呆然としていた茉麻の顔をを覗き込む。

「茉麻、だいじょぶ?」
「……吉澤さん」

大きな目がにいっと笑みを浮かべた。
事務所の先輩、吉澤ひとみ。
所長直伝の炎の札を使いこなすことが出来る、唯一の所員だ。
 
412 :春の怪談(後編) :2010/04/22(木) 02:39

「大丈夫、です。あ、っていうか、ありがとうございました!」

ぼんやりと答えた茉麻は、はっと姿勢を正す。
馴れ合っても礼儀を忘れないのは事務所所長の教えである。

「構わん構わん。つーか、やっべえよもう。無茶すんなあ。
 マジ間に合わないかと思ったじゃん」
「すいません……」
「いいけどさ。でもスタンドプレーは厳禁、だろ?」
「あたし、ダメですね……」
「茉麻はダメじゃないけど、無茶はダメってことだよ。
 でもがんばったじゃん。
 こんなに雑霊集まるってことは相当大物だったんじゃないの?」

茉麻は泣きそうになりながら小さくうなずいた。
実際、よくやれたと思う。
二人を守りたいって、自分がやらなきゃ、ってただただ必死で。
だけど、それだけじゃダメだ。
守りたいものがあるからこそ、冷静にならなきゃいけなかった。
助けを求めなきゃいけなかった。
 
413 :春の怪談(後編) :2010/04/22(木) 02:39

うつむく茉麻に、
ひとみはにこにこと笑みを浮かべたままで茉麻の髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
しかし、次の瞬間、真顔に戻って声を低めた。

「あ、でも。これだけは言っとく」
「はい」

とっさに顔を上げた茉麻に顔を寄せて、ひとみはささやくように言った。

「所長、すっげー怒ってる」

それは……ヤバイ。
頬をひきつらせる茉麻に、ひとみは、にひひと笑って見せる。

「おっと。んじゃあたしはこれでー」

桃子に連れられるように雅と千奈美がこちらに向かってくるのを見ると、
吉澤はキャップを深くかぶりなおし早足に去っていった。

(そっか。一般人に知られてはいけないって方針も破っちゃったんだ)

茉麻は真面目に明日の自分に生命を按じた。

 
414 :春の怪談(後編) :2010/04/22(木) 02:40

 
415 :春の怪談(後編) :2010/04/22(木) 02:41


ダダンッ

ビュッ

ヒュンッ


そして今日も。

放課後、学校の剣道場に残るのは、一人の少女。
防具はつけているが面ははずしている。
真剣な表情で竹刀を振る。
ひとつに結んだ長い黒髪がその背でゆれていた。

「はー……かっこいいわー」
「惚れるよねえ……」

道場の隅から聞こえてきた声に、茉麻はかくりと肩を落とした。
振り返ると、案の定そこに顔を出しているのは雅と千奈美の二人。
それと。
 
416 :春の怪談(後編) :2010/04/22(木) 02:42

「すーちゃんがかっこいいのは当然だよ!」
「――ってなんで桃が出てきてんのよっ」
「だって〜。桃もみやと千奈美とおしゃべりしたんだもん〜」

甘えたような声でそう言う桃子に、茉麻は大きくため息をついた。

なんだかよくわからないが、かなり珍しいことに、
桃子は雅と千奈美と仲良くなっていた。
……あれだけあっさりと二人を見捨てようとしたくせに。
茉麻は桃子の本性を二人にバラしてやりたい気もしたが、
意気投合した理由が自分を誉めることなのだから
このままにしておいてもいいかなと思う。

それに。

(桃が楽しそうだしね)

桃子とは長い付き合いだが、
自分以外といるときにあれほど楽しそうに笑う姿を見るのは初めてだった。
 
417 :春の怪談(後編) :2010/04/22(木) 02:43

「で? またカラオケ?」
「うん」

「からおけ?」
「桃は連れてかないよ」
「えーっ。みやひどいっ」
「ひどいって、桃なんのことかもわかってないじゃん」
「やだーっ。桃もからあげーっ」
「カラオケだし」

きゃんきゃんと言い合う雅と桃子をよそに、
千奈美が伺うような表情でに茉麻の方に視線で問う。

「カラオケかあ」
「うん。でもまぁは練習……だよね」

千奈美が残念そうに、でもキラキラした目でそう言うと、
桃子と言い合っていた雅もひょいっと茉麻の方を伺う。

「んー……。いや。今日はもういいや」
「え。いいの?」
「うん。昨日がんばったし。一の実戦は百の鍛錬に勝るってね」
 
418 :春の怪談(後編) :2010/04/22(木) 02:47

嬉しそうに、でも遠慮がちに目を輝かせる二人に、
茉麻は、にっと笑って見せた。

実際、昨日の実戦は茉麻にとって大きな収穫となった。
あれだけの相手に一人で向かっていったという技術面としての経験値もだが、
何よりも、気持ちの変化が大きかった。
自分の力は誇りでも利権でもなく、誰かを守るためにある。
そのために自分がすべきことをしっかりと考えて貫けばいい。
その思いが茉麻の中にあった迷いに道を示してくれるような気がする。

昨日の帰りも今朝学校であってからも二人からは何度も何度もお礼を言われたが、
逆に茉麻から二人には感謝したいくらいだった。

だからその思いも込めて笑いかけたのだが、
二人の顔はなんだかぽかんとしていた。

「ん?」

「たんれん……」
「って、ナニ?」



「……カラオケよりも勉強会しようか」

 
419 : :2010/04/22(木) 02:48

『 春の怪談(後編) 』   終わり
 
420 :esk :2010/04/27(火) 19:56
読んでくださった方がいたとしたら、ありがとうございます。

りしゃみや、なんだけど……疑男化注意ですw
ガンバレ菅谷少年。
421 : :2010/04/27(火) 19:56

『 きみのともだち 』
 
422 :きみのともだち :2010/04/27(火) 19:57


「ちっさー!」

昼休み。
廊下側の席でまったりとしていた俺たちの耳の側で妙に甲高い声が響いた。
ぎょっとして振り返ると、
廊下側の窓枠に腕をついてにこにこと教室の中を覗き込んでいる一人の女子生徒。
うちのクラスの子じゃなさそう。

「うえっ、桃ちゃん!?」

さっきから俺の正面でバカ話をしてバカ笑いをしていた岡井が、
がたん、と音を立てて慌てて立ち上がる。
そういえばさっきこの女子生徒は『ちっさー』と言った。
それはこの岡井千聖のことなのだろう。
高校に入って一番初めに出来た友達。
高1男子というよりは中1男子といった風貌のいかにも少年じみたヤツ。
騒がしいけど嫌味がなくて面白い岡井とはよく話が合って、
まだ数週間しかたっていないけど、
俺の高校生活の滑り出しはなかなかいい感じだと思っていた。
 
423 :きみのともだち :2010/04/27(火) 19:58

それにしても。
『桃ちゃん』か。……カノジョかな?
少年・岡井に彼女がいるなんてちょと意外。
俺は中学が男子校だったせいか、
いかにもオンナノコな声と仕草が慣れなくてちょっと苦手だと思ったけど、
白い肌とにこにこと愛想のいい笑顔はまあいいんじゃないだろうか。
ミニミニの岡井よりも背が低いみたいだし結構お似合いなんじゃないの。

「っていうか、何。どしたの」
「千聖が入学早々友達も出来なくてべそべそしてるんじゃないかって思って
 見に来てあげたんですー」
「いや、すっごいいらないんですけど、そういうの」
「なんですと?」
「いてててっ。って菅谷、助けろー」

けっ、と悪態をついた岡井の耳を引っ張る『桃ちゃん』。
その二人のやりとりをぼんやりと眺めていたら、いきなり岡井が俺に助けを求める。

「へ? あ、い、いや……」
「ん?」
 
424 :きみのともだち :2010/04/27(火) 19:59

いきなりな展開にしどろもどろになっている俺の存在にやっと気づいたのか、
きょとん、とした目で『桃ちゃん』が俺を見つめる。
うわ。つーか、すっごいじーって顔見る子だね。
なんか落ち着かないんですけど。

「……オンナノコ?」
「いや、制服見たらわかるじゃんっ」

すかさず入った岡井の突っ込みに、『桃ちゃん』は俺に「ごめんごめん」と謝ってから、
岡井に向かって「座ってるからわかんないよ」と唇を尖らせた。

まあこんなナリですから。
慣れてるけどね。
子供のころの写真とかめっちゃドレス着せられてるしね。
でもなんとなく居心地が悪くなって、俺は二人から視線をはずした。

「えっと、菅谷君、だっけ?」
「はい」
「あ、桃は嗣永桃子ね。菅谷君って、もしかしてハーフ?」
「違います」
「あ、ごめん。髪、天然?」
 
425 :きみのともだち :2010/04/27(火) 19:59

ああ。
嗣永さんの小さな手が指差した髪を、自分でついとひっぱる。
(っていうか嗣永さん小指立ってる……)

「色は入れてるけど、天パです」
「へえ。かっこいいね」

ずけずけと物を言う感じがなんか落ち着かない。
嫌味がないと言う点では岡井に似てていいんだけどさ。

(……あれ?)

なんて思いながら視線をさまよわせていると、ふと、嗣永さんの胸元に目が留まった。
結構大きい。じゃなくて。
ブレザーの胸元に縫い付けられている校章の学年色が、
彼女が三年生であることをあらわしていた。
三年?
一年にしても子供っぽい顔だなと思ってたのに、年上!?
うわー、岡井に年上彼女か。
年上彼女ってなんかエロい。
まあこの二人でそんなの想像もつかないけどさ。
ってか想像するなよ、俺。
 
426 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:00

「岡井、そっち行けば」

なんかイロイロ消耗しそうになって慌てて廊下の方を指差すと、
岡井は「なんで?」と不思議そうに首をかしげた。

「や、だって……彼女なんじゃないの?」
「げえっ。菅谷っ。それだけはカンベンっ」
「桃だって千聖なんか願い下げっ」

小さく付け足した俺の言葉に、両側から鋭いツッコミが入る。
あれ? 違ったの?

「家が近所だから小さいころからよく遊んでただけだって」
「幼馴染?」
「まあそんなもんかな」
「だよね」

憮然とする岡井の横顔をくすくすと笑いながら眺める嗣永先輩。
結構いい感じに見えるんだけどな。
ホントに違うのかな。
そのとき、納得がいかずに首をかしげた俺の視界に、長い茶髪が入り込んだ。
 
427 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:00

「ちょっと、桃っ」
「みや」
「もー、いきなりどっか行かないでよ」
「ごめんごめん。千聖の教室近いなーと思ってさ」

いきなり現れたド派手なギャル系美人に俺と岡井は揃ってぎょっとする。
嗣永先輩がのばした手を自然に握るからお友達サンなのだろうとはわかるけど、
この人はこの人で高校三年生に見えない……。
嗣永先輩がつないだ手をぐっと引っ張るとその人も窓に近づいてきて、
遅れてふわっといい匂いがして、なんか俺は、急にすごく、……どきどきした。
香水って、なんか、慣れてない。

「千聖?」

嗣永先輩の言葉に、俺たちの存在にやっと気づいたのか、
嗣永先輩の方を向いたままでちらりと視線だけで岡井の方を見るお友達サン。

「幼馴染の子なんだ」
「へえ」
「あ、岡井っす」
 
428 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:00

ぺこりと小さく頭を下げる岡井の隣で俺はぼんやりとその横顔を眺めていた。
すると、ふいにその視線だけが俺の方に流れる。
一瞬目が合って、俺は慌てて立ち上がった。
それほど背が高くない俺だけど、お友達サンの視線が俺を追って少し上目遣いになった。

「俺はっ。あの、岡井の友達で、菅谷、ですっ」
「ふーん」

いかにも興味なさそうな平坦な声とホントに興味なさそうな無表情。
一瞬合った視線さえもすぐに嗣永先輩に戻った。
なのに、俺、すっごいどきどきして。
なんかまともに立ってらんないくらいどきどきした。
っていうかなんか気ぃ悪くするようなこと言ったのかな、俺……。

「あ、みやってこう見えて人見知りだから。気にしないでね」
「別にそんなんじゃない」

思わずうつむいた俺に気づいたのか、嗣永先輩が夏焼先輩を小突く。
夏焼先輩はうつむき加減のまま、不機嫌そうに顔を逸らした。
 
429 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:01

「みやの名前は夏焼雅ね。源氏名みたいだけどこれでも本名だから」
「だから、余計なこと……っ」

矢継ぎ早に言う嗣永先輩に、今度は拗ねた見たいな声。
そんな一つ一つに、俺は必要以上に反応してしまって。
年上の人に言うのもなんだけど。
……かわいい。かもしれない。
すごく。

「桃。次、化学室」
「あ、そっか。じゃあね、千聖、菅谷君。またね」

居心地悪そうに夏焼先輩がそうつぶやいて、
嗣永先輩はばいばーいと小さな手を振って窓から離れていった。


二人の背中をただぼんやりと見送る俺の隣で、
岡井は「俺ら次なんだっけ」と机をがさがさとあさっていた。
 
430 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:01

 
431 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:01

あれから数日が経って、嗣永先輩とは一度だけ話したけど夏焼先輩に会うことはなかった。

会いたいな……と、思う。
今度はもう少し声が聞きたいと、思う。
少しだけでも話ができたらいいのにと思う。

廊下から中庭をぼんやりと眺めながらそんなことばかり考えている俺の隣で、
岡井はさっきから携帯を触っている。
メールかな。
ちらりと視線を向けると、それに気づいたのか岡井が視線だけを持ち上げた。

「菅谷ってさ、カノジョいんの?」
「い、いないしっ」
「へえ。なんで」
「なんでって……別に」
「ふーん」

なんだよ急に。
そう言おうとしたけど岡井の視線はすでに携帯に戻ってたし、
なんとんなくこの話題を続ける勇気もなくて俺は口をつぐんだ。
 
432 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:02

「……あ」
「んぁ?」
「い、いや。なんでもない」

ため息混じりに中庭に戻した俺の視線の中。
移動教室なのだろう。教科書だの何だのを抱えた女子数人が
中庭の通路を横切ろうとしてた。

その集団の後ろの方で、夏焼先輩が前を歩く背中をどかっと叩く。
振り返ったのは嗣永先輩で、夏焼先輩をぽかぽかと叩くフリをしている。
逃げ回る夏焼先輩がすごく楽しそうに笑う。(っていうかこないだと全然違うじゃんか)
高い笑い声がここまで聞こえてきそうで、胸が高鳴った。

とたんにあの香りがリアルによみがえって、体がかっと熱くなった。

「あれ、桃ちゃんと夏焼先輩じゃん」
「……っ」
 
433 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:02

『夏焼先輩』

俺の隣に体を乗り出してきた岡井の口にした名前にさえ動揺して、
俺はとっさに窓枠につっぷした。

っていうか俺、これ決定的だよね。
俺だって高校はせっかく共学なんだし彼女ほしいなとか思ってたけど、
なにもこんな高嶺の花じゃなくてもいいじゃんか。
夏焼先輩って絶対競争率高いよ。
つーか絶対彼氏いるし。
絶対無理だよ。俺のバカ。

「ああ……」
「どしたん?」

頭の上から降ってくる岡井のいぶかしげな声に、俺はもうひとつ大きなため息をついた。

 
434 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:03


放課後、さあ帰ろうとかばんをつかんだ俺の腕を岡井ががしっとつかむ。

「菅谷ー。カラオケ行こうぜー」
「……いきなりだね」
「デート以外の言い訳は認めません」
「はいはい」

デートの予定なんかあるわけないじゃんか。
少し自虐的になったけど、自分の気持ちを認めて以来なんか落ち着かなかったから
カラオケでも行って騒ぐのもいいかもしれない。


……そう思って素直に岡井についてきたんだけど。

「……岡井」
「ままま、とにかく座って座ってっ」

これは、まずい。
すごくまずい。
 
435 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:03

着いた先にいたのは、なぜか嗣永先輩と。
……夏焼先輩。
にこにこと手を振る嗣永先輩は俺らが来ることを知ってたみたいだけど、
俺と同じように顔をしかめる夏焼先輩は知らなかったみたいだ。

「ちょっと、桃っ。聞いてないんだけど」
「まあいいじゃんいいじゃん」
「よくないよっ」

ぐいぐいと嗣永先輩の袖を引っ張りながら低い声で問い詰める夏焼先輩の視線が、
ちらちらと俺に向けられる。
俺、嫌がられてる……。
そうだよな。
岡井は嗣永先輩の身内みたいなもんだし、親しみやすいし。
でも俺ってば面白いこともいえないし、結構暗いし。
 
436 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:03

「みや」
「え……あ、と」

ずっしりと沈んだ俺に気づいたのか、嗣永先輩が夏焼先輩の腕を引っ張る。
それで俺の様子を悟った夏焼先輩はまだ少しむっとしながらも、
「いいけどさ」とはき捨てるように言ってソファにもたれかかる。
その不機嫌そうな仕草に俺の気持ちはさらに沈んだ。
そんな俺たちを少し心配そうに見ながら、嗣永先輩がぽんと手をたたいた。

「よーし、じゃあ歌おーっ」
「おーっ!」

こぶしを振り上げた嗣永先輩に続いて岡井が嬉しそうに腕を上げた。


気ぃまで遣わして、俺って最悪。
ああ、俺。終わった……。
 
437 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:04

と。
ものすごく微妙な空気で始まったカラオケだったが、
岡井と嗣永先輩の絶妙のコンビネーションで少しずつ空気もほぐれてきて、
「絶対歌わない」と言っていた夏焼先輩も最後の方は少しだけ歌ってくれた。

つーか。
夏焼先輩、歌、うまっ。
声もかわいいし。ヤバイ。

そして嗣永先輩も上手いんだよ、これが。
しかも盛り上げ上手だし何気になんでも知ってて話し上手だし、
はじめはキャピッた感じが疲れると思ったけど結構いい人なのかもしれない。


「ねね。菅谷君なに歌う?」
「え。あ、えーと」
「あっ、これ歌ってよ」
「でもあんまり……知らなくて」
「じゃあ桃一緒に歌ってあげるよ」
「ええっ?」
「なにさー。やなの?」
「じゃない、ですけど……男の曲だし……」
「大丈夫大丈夫」
 
438 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:04

……こういうのがなければ。
妙に距離も近くて、これってさあ、そういうことなのかなあ。
でもそれって、すごく困るんだよ。
俺はさ。だって俺は……。

いや、俺だってこれでもがんばってるんだよ。
夏焼先輩もだんだんと目も合わせてくれるようになって、
でもそれでもめっちゃ勇気出して話しかけてもさ、
なんでか夏焼先輩は「桃はどうなの?」ってすぐに嗣永先輩にふるし。
嗣永先輩も張り切って答えてくれるから結局夏焼先輩の話は聞けなかったりして。

いや、嗣永先輩が悪いんじゃないんだよ。
それはわかってるんだよ。
っていうかこの二人仲良さすぎっ。
うちのクラスの女子もそうだけどさ、
女の子ってなんで友達同士でこんなべたべたすんの?
見てるだけでどぎまぎするし、話しかける隙を探すのも一苦労なんですけど。


こんなときって、どうすればいいの。
誰か教えてくれーっ。
 
439 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:04


「じゃあねー。また一緒に遊ぼうねっ」

帰り道、俺一人方向が違ったみたいで、三人と一人に別れて向かい合う。
ぶんぶんと手を振る嗣永先輩の逆の手はやっぱり夏焼先輩としっかりつながれていた。
でも夏焼先輩もにこにこと俺に手を振ってくれた。
この二時間でやっとそこまで詰めたけど。

ものすごい疲れた……。
 
440 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:05

 
441 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:05

「菅谷ー。昨日の……怒ってる?」
「いや、別に」

朝一の教室でぐったりしていた俺に、珍しくためらいがちに岡井が声を掛けてきた。
怒ってはいない。
そりゃはじめはびっくりしたけど。
夏焼先輩の歌聞けたし。
会話らしい会話はなかったけど、嗣永先輩と楽しそうにしてる様子は見れたし。

「あのさー。菅谷って、桃ちゃん苦手?」
「へ? いや、そんなことはないけど」

いい人だなーとは思うし。
強引なんだけど意外とイロイロ気づいてくれるし。
たぶん普通にしてたら一緒にいて楽しい感じの人なんだと思うんだけど。
だけど……そうじゃないから。
困って。
なんか色々消耗するんだよ。
 
442 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:05

「ふーん。それより夏焼先輩の方が気になる感じ?」
「え? ……うえええっ!? な、なんでっ」
「いやいやいや。結構わかりやすかったよ、キミ」
「そ、そうなんだ」

ま、まあ結構話しかけようと必死だったしね。
っていうかそれって夏焼先輩にも気づかれたって事!?

「ごめん、うそ。桃ちゃんが言ってただけ」
「へ?」
「んー。やっぱさ、そういうの気づくんじゃない? 気にしてる相手だと」

岡井がぶっきらぼうに付け足すみたいに言った言葉の声色に、俺ははっと顔を上げた。
目が合った岡井は今までに見たことがないような微妙な表情をしていた。
怒っているような悲しそうな、一言ではいえないような。
こいつでもそんな顔するんだってびっくりして、すごく罪悪感を感じた。
 
443 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:06

「岡井。俺さ……」
「あー、気にしない気にしない。桃ちゃん昨日の時点であきらめてたみたいだし。
 それに結構うたれ強いから。大丈夫だって」

自分の顔を隠すように、岡井はひらりと顔の前で手をふった。
その手が下ろされると、岡井はいつもの緩んだ笑顔だった。
だけど、だからこそ、俺の胸は痛んだ。
こいつはいつもこうやって、嗣永先輩の前で笑って見せるんだろう。
きっと、昨日もそうやって。

「桃ちゃんから伝言ね」
「な、何」
「『みやはチョー鈍感だから気づかれるの待つのは時間の無駄だよ』だってさ」
「う……」
「あと、『現在フリー』」
「ううう……」
「で……『がんばってね』」
「………」
 
444 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:06

嗣永先輩も、岡井も、なんでそんなに強くて優しくなれるんだろう。
俺なんか自分のことしか考えらんなくて、
それどころか自分のことさえもうまく出来ないのに。

そんなんじゃ俺、男じゃないよな。
自分のことだけでも、ちゃんとしなきゃ。

「わかった。俺、がんばってみるわ」
「……うん」
「だから嗣永先輩は……岡井ががんばれ」
「がっ、がんばれって何だよ。俺は別に関係ないしっ」

もごもごと言う岡井の日に焼けた浅黒い顔が赤く染まる。
そういう顔を、嗣永先輩の前ですればいいのに。
あれだけ気のつく人だから、そしたらすぐに気づいてもらえるだろう。
 
445 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:06


「夏焼先輩!」


「……ああ。菅谷君」

帰りの昇降口、突然見かけた後姿に俺は考える前にその名前を呼んでいた。
びっくりしたみたいに振り返った夏焼先輩は、一瞬不審げな顔つきだったけど、
俺のことがわかったのか、ゆっくりとはにかんだような笑みに変わった。
その表情に、俺はいきなり言葉を失う。

「あ、……あの」

どうしよう、どうしよう、どうしよう。
うわ、やっぱりダメ。俺ってダメだよ。
俺のなけなしの勇気はさっきの一言で使い果たされたらしくって頭の中は真っ白。
何も言えなくなった俺に、夏焼先輩は一瞬視線を泳がせて、困ったみたいに首をかしげた。
それからなぜか一歩俺に近づいて。

「どうした、菅谷っ」

年下でヘタレた俺をフォローしようとしてくれたんだろう、
夏焼先輩の無理にテンションを上げた笑い声。
でも。なのに。すっごく恥ずかしそうで。
そういうの、すごいかわいい。めっちゃかわいい。倒れそうになるくらいかわいい。
 
446 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:07

すごく。


好きだ。


と、思った。


なのに動けない。何も言えない。
場を繕うような言葉さえ思いつかない。
こんなとき嗣永先輩だったら、上手く話をつなげるのに。
嗣永先輩みたいに、大胆に話しかけれる勇気がほしい。
岡井みたいに笑える優しさがほしい。

「菅谷ー、起きてるかー?」

固まってしまった俺の目の前で手を振って、夏焼先輩はまた少し笑った。
そのとたんふわりと香った匂いに、鼓動が上ずる。
全身を駆け上がる衝動を振り払うように、俺はぶるぶると首を振った。
俺の意味不明な行動に、夏焼先輩はきょとんとして俺を見つめる。
 
447 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:07

「て、ます」

なんとか搾り出すようにそれだけを言った俺に、夏焼先輩はほっとしたようにうなずいた。

「良かった。んじゃうちもう行くね」

夏焼先輩がひらひらと手を振る。
これ以上会話を続けるつもりはないらしい。
俺の方を向いていた体は、もう半分以上向きを変えていた。


――行ってしまう。


別に夏焼先輩は家に帰るだけで、上手くすれば明日にでもまた会える。
冷静になればわかるようなことが今の俺にはわからなくて、
今を逃せば一生会えなくなるような気がして。

嗣永先輩と岡井の顔が思い浮かんで。

底をついていた俺の勇気が一瞬にしてフルゲージに満たされた。
 
448 :きみのともだち :2010/04/27(火) 20:08


「待って下さいっ」


振り返った夏焼先輩の髪が揺れて。


俺は、その髪に触れたいと思った。




「夏焼先輩、俺――」


 
449 : :2010/04/27(火) 20:09

『 きみのともだち 』   終わり
 
450 :名無飼育さん :2010/04/30(金) 00:30
菅谷少年、かわいい(w
451 :名無飼育さん :2010/04/30(金) 21:19
この二人が少年って新鮮です

あと、夏の怪談もお待ちしてまつッ><
452 :esk :2010/05/07(金) 23:41
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>450さま
ヘタレでかわいい少年をイメージしましたw

>>451さま
夏の怪談……書きたいネタはあるんですけどねー。
うまくまとまる自信がないですww

あと言い忘れていましたが、
上の話は同タイトルのベリーズのアルバム曲を元に書いています。


くまぁずってみました
453 : :2010/05/07(金) 23:42

『 しろくまくん 』
 
454 :しろくまくん :2010/05/07(金) 23:43

かちゃ

「……あれ?」

空き時間、ふらりとコンビニに行った茉麻が帰ってきたら
楽屋には誰もいなくなっていた。
出かけたときには自分以外の6人がそろっていたのに。

集合時間が過ぎていただろうか。
ひやりとして時計を見上げるがそういうわけでもない。
何か急ぎの集合がかかった?
それなら携帯に連絡くらいくれるだろう。
念のため携帯を取り出すがメールも着信もない。

ぱちんと携帯を閉じてテーブルを眺める。
お菓子だの雑誌だのアンケートだのポラロイドだのと無造作に散らかっている様子からは、
『すぐ戻るからいいよね』という意図が窺えた。
自分を置いてけぼりで何か話がまとまってどこかに行ったというところだろう。
少しむなしいがそれならほおっておけばいいことだ。
買ってきたペットボトルのキャップをひねりながらソファに回り込む。
 
455 :しろくまくん :2010/05/07(金) 23:45

「うわっ!?」

そのまま腰掛けようとした茉麻はびくりと飛び上がった。

どきどきとうるさい心臓を押さえて二度見すると、
ソファに沈む物体はどうやら友理奈で間違いないらしい。
肘掛にくったりと頭をもたれかけた上に
長い手足を持てあまらせぎみに体に巻きつけているから、
その姿はまるで適当に積み上げられたバラバラ死体のよう……。
頭に思い浮かんだ不吉な言葉を振り払うように慌てて頭を振ると、
茉麻の長い髪が頬を掠めたのか友理奈が小さく身じろぎした。

「……ん」
「あ、と」

起こしちゃったかな?
茉麻は少し冷静になって友理奈の顔をそっと覗き込んだ。
数秒後、友理奈から規則正しい寝息が聞こえてきてほっと息をつく。

なんとなく目が離せなくなって、そのまま至近距離で友理奈の顔をじっと見つめる。
あいかわらずの大人びた顔立ちだけど、寝顔はいつもより少し幼い。
ふふ、と茉麻の口元から笑みを含んだ吐息が漏れた。
次の瞬間。
 
456 :しろくまくん :2010/05/07(金) 23:46

「ひゃ」

にゅっと伸びてきた腕が自分の体を絡めとる。
そのまま強く抱き寄せられて茉麻は友理奈に崩れこんだ。

「ちょ、熊井ちゃ……」

体重をかけないように腕をついて、でもそれ以上の力で抱き寄せられる。

「ぃ……におい……」

「へ?」
「まーさ……」
「熊井ちゃん?」

茉麻の問いかけに返事はなく、首筋にうずめられた鼻先が、くんと音を立てる。
そのまま擦り寄るように顔をこすり付けられる。

これは……。
 
457 :しろくまくん :2010/05/07(金) 23:49

寝ぼけている。

実際茉麻としては友理奈のこういう仕草はよく見かけていた。
……一緒に起きた朝とか、まあ、あの、そういうときに。
茉麻は甘えられるのは嫌いじゃない。
ベリーズの母という呼び名は伊達ではないのだ。
でも友理奈は子供っぽいところもあるけれど性格的にはしっかりしていてクールな方で、
甘えるということはあまりしない。
友理奈自身が背が高く中性的な自分の見た目を意識しているところもあるのだろう、
茉麻の方がひとつ年上ではあるけれど、
なんとなく二人でいるときに甘えるのは茉麻の役割になっていた。

だからこういうとき、すごく嬉しくて、結構……どきどきしたりする。

茉麻の腕が自然と友理奈に伸びる。
細い腰にゆったりと腕をまわした。

「ゆり――」

そのとき。
 
458 :しろくまくん :2010/05/07(金) 23:50

「だから絶対違うとこだって言ったじゃん!」
「一番最初にあのコンビニだって言ったのちぃでしょ」
「違うもんっ。みやだもんっ」
「はー? 違うし。ねえキャプテン、ちぃだよね?」
「あたし知らない」
「えーっっ。みやだよっ」
「ちぃ。絶対ちぃ」
「あーもー、みやもちぃもうるさい」
「どっちでもいいじゃん。アイスは買ったんだし」
「結局すーちゃんどこ行ったんだろね」


静寂をぶち破るいきなりの喧騒に、茉麻の動きがぴたりと止まる。

「っていうか熊井ちゃんまだ寝て――」

そしてソファの前にくるりと回りこんできた千奈美と目が合った。

「……」
「………」
「……」

さらにその後ろにぞろぞろとついてきたメンバーが一人ずつ立ち止まる。
茉麻の顔から血の気が引いた。
 
459 :しろくまくん :2010/05/07(金) 23:55

「楽屋でいちゃつくの禁止っ」
「ちが、これは熊井ちゃんがっ」

いきなり突きつけられた千奈美の指を振り払おうとするが、
友理奈に抱きしめられたままの茉麻は身動きが出来ない。

「梨沙子の教育に悪いのでそういうことは控えてもらえますかあ」
「だから――っ、っていうかみやがそれ言う!?」

あんたいっつも梨沙子に何してると……っ、と言いかけたが、
ニヤニヤと笑う雅の袖をつまんでいる真っ赤な顔をした梨沙子に慌てて言葉を飲み込んだ。

「キャプテン、どうよ。こういうのはベリーズの風紀にかかわるんだからびしっと」
「いや……あたしは別に……」

見なかったフリをして逃げようとする佐紀の腕を、
桃子が無理やりひっぱって茉麻の前に突き出す。
 
460 :しろくまくん :2010/05/07(金) 23:56

ことさら宣言をしたわけではないが、
茉麻と友理奈の関係はメンバー全員が知っている。
けれど人目につくところでべたべたするような二人ではないため、
今までメンバーから特にからかわれるようなことはなかった。
だから茉麻としては二人のことは冷静に受け止められているんだと思っていたのだけれど。
現場見たらこうなるよね……。
こんな面白いネタをスルーするような連中じゃないよね。
 
茉麻ががっくりと肩を落としたとき、
まだぎゃあぎゃあと騒いでいるメンバーの声に、やっと友理奈が目を覚ました。

「……あれ?」

至近距離で目が合い、茉麻は慌てて友理奈の腕を振り解く。
 
461 :しろくまくん :2010/05/07(金) 23:57

「おはよー。みんなどしたの?」

遠ざかる茉麻をぼんやりと眺めたあと、
まわりを囲むメンバーにやっと気づいて眠そうな声で片手を挙げた友理奈。
そのふにゃりとした笑顔に、騒いでいたメンバーがぴたりと黙る。

「……アイス買ってきたんだ。くまいちょーどれにする?」

一瞬にして変わったその空気にいち早く便乗した桃子が、
梨沙子の下げていたコンビニ袋を友理奈の前に広げて見せた。

「わあ、やったあ。今日暑いもんね。みんなどれにするの?」

友理奈の弾んだ声に、はっとしたように千奈美が顔を突っ込む。
それが合図だったかのように全員がアイスに群がった。
 
462 :しろくまくん :2010/05/08(土) 00:00

「あっ、待って待って。千奈美はねー」
「あたしはどれでもいいからみんな先選びなよ」
「わお。キャプテンってば大人あ」
「千奈美とは違うよねえ」
「じゃあ、うちはー」

コンビニ袋を囲んでがさがさと盛り上がるメンバーの輪を、茉麻はぼおっと眺める。
後をひかずさっぱりしている言えばいいのか、熱しやすくさめやすいと言えばいいのか。
メンバーの興味はすでに茉麻と友理奈からアイスに移っている。

正直、助かった、と思った。
うまく話をそらしてくれた桃子には感謝をしたい。
自分がからかわれる分には普通に切り返せるが、
友理奈がからかわれたらマジギレしてしまっていたかもしれない。

おいしそうにアイスにかじりつく友理奈の横顔を眺めながらほっと息をついた。
 
463 :しろくまくん :2010/05/08(土) 00:01

「すーちゃん、はい」
「あ、ありがとう。桃」

いつのまにか目の前に立っていた桃子の手からぽとりとアイスが落とされる。
慌てて受け取ると袋には微妙な白熊のイラストが描かれていた。
くま……。
熊のイラストに過剰反応してしまうのは友理奈だけではない。

「今のところはそれで我慢しなよね」

イラストをちょんと指差した桃子にくすくすと笑われて、茉麻は耳まで真っ赤に染まった。

 
464 : :2010/05/08(土) 00:02

『 しろくまくん 』   終わり
 
465 :esk :2010/05/08(土) 00:04
須藤さんって誰と合わせたらいいんですかね……。
466 :名無飼育さん :2010/05/09(日) 01:17
いい組み合わせだなと思いました。
個人的に、桃子とあわせるのも好きです。
467 :名無飼育さん :2010/05/09(日) 08:03
これは良いくまぁず!!!!!1
468 :esk :2010/05/24(月) 23:22
読んでくださった方、ありがとうございます。
新スレか移転か迷ったのですが、あまりに続き物が多いので移転していただくことにしました。
今後ともよろしくお願いします。

>>466さま
おお、すももラブですね。一つふたつネタは出来たのでそのうち出しまーす。

>>467さま
ありがとうございます!!


お誕生日なので次はやじうめー。

>>60-73 『 繋いだ手 』
>>193-204 『 繋いだ手2 』

これのシリーズです。完結編かな?
469 : :2010/05/24(月) 23:23

『 繋いだ手3 』
 
470 :繋いだ手3 :2010/05/24(月) 23:23

暗闇の中、隣で眠るえりの頬に伸ばしかけた手が宙に漂う。

触れたい。と思う。
その熱を知りたい。
その熱に溺れたい。

こうやって真夜中に目が覚めたようなとき、激しい渇きを覚えるくらいにえりが欲しくなることがある。
だけどどうしても。その手は着地点を定めることが出来ない。

『いつか後悔しても知らないよ』

ひとつベッドの中で、そう言った人の顔ももう思い出せない。
自分の過去を否定するつもりはないし、優しい人たちを恥じるような気には絶対なれない。
だけどこの手がえりに触れるにふさわしいとも思えなくて。
後悔というのならば、もっと早くえりに出会っていなかったこと。
そうすればきっとこんなに苦しい思いをすることはなかった。

あたしから求めることはできない。
だからお願い。
えりから。あたしに触れて。
 
471 :繋いだ手3 :2010/05/24(月) 23:24

「それはわがままってもんだよ、舞美」
「やっぱそうかな〜」
「そりゃそうでしょ。
 つーか、あの梅さんから行動起こすの待つってかなり無謀じゃね?」
「だよねえ〜」

吉澤さんの言葉に、あたしはカウンターにつっぷす。
なんとなくいつもの店に足を運ぶと、
運のいいことに比較的早い時間なのに吉澤さんがいてさんざん愚痴ってしまった。


4月から無事大学生になり、あたしは実家を出て一人暮らしをはじめた。
早く実家から離れたかったっていうのもあるけど、
もちろんえりと一緒にいられる時間が増えたらいいなという期待もかなりあった。
でもえりは家族を大事にする人だし、なかなか泊まったりはしてくれない。

大学でも学校は一緒だけど学部が違うだけでこんなに会えなくなるとは思ってなかった。
たまに一緒の授業があっても、えりは新しく出来た友達と一緒にいるからあまりしゃべれないし。
それに加えて、大学に入ってからえりはモデル事務所のオーディションを受けて合格して。
ずっとモデルってお仕事にあこがれてたのは知ってるし、
めちゃくちゃかっこいいしすごく似合ってるし、あたしも嬉しかったけど。
でもなんか。えりが遠くなった気がして。
 
472 :繋いだ手3 :2010/05/24(月) 23:25

「高校のころに戻りたい……」
「ばーか。時間ってのは常に前に進んでるんだぜぃ」

カウンターに向かってつぶやいたあたしの背中を、吉澤さんがばしばしとたたいた。
結構痛かったけど抵抗する気になれずそのままにしていたら、
頭の上の方から柔らかい声が聞こえてきた。

「ちょっとよっすぃ。舞美ちゃんつぶれちゃうでしょ」
「へーきっすよ。コイツ顔に似合わず結構頑丈だから」
「よっすぃは顔に似合っておっさんだよね」
「ちょ、安倍さんそれってひでぇ」

マスターと吉澤さんのじゃれ合いをぼんやりと聞き流しながらも、
頭に浮かぶのはえりに会いたいなあとかそんなことばかり。
そのままの姿勢でため息をついたら、聞きなれた声がもうひとつ聞こえてきた。

「おいっすー」
「美貴、おっせー。なんだよ。どこ行ってたんだよー」
「いいじゃんどこでも。つーか美貴別によっちゃんと約束とかしてないんですけど」

いきなり絡む吉澤さんを軽くあしらいながら藤本さんの声が近づいて来る。

「む」
「なんだよ」
「オンナの匂いがする」
「美貴も女だっての」
「あ、そっかあ」
「なんかむかつく……って、ナニコレ」
「舞美」
 
473 :繋いだ手3 :2010/05/24(月) 23:25

絡む吉澤さんをあしらって、藤本さんがあたしの背中をつつく。
なんとなく体を起こす気にもなれないでそのままにしていたら、
あたしの隣に座ったらしい藤本さんに、吉澤さんはあたしの話を一部始終聞かせてしまった。
藤本さんだったら別にいいやと思ってあたしも黙っていた。

聞き終わった藤本さんが、なるほどね、と小さくつぶやく。
その声色が結構真面目で、あたしはそうっと体を起こした。
あたしをじっと見つめる藤本さんは少し目を細めて、
それからすぐにぷいと顔をそらされてしまったけど、横顔はやっぱり真面目な顔のままだった。

「あのさー。美貴が言うのもどうかと思うけどさ」
「……うん」
「舞美さ、ちゃんとえりかちゃんに言ってる?」
「何を?」
「自分の気持ち。……好き、とかさ。そういうの」

……そういえば。
言葉にして言ったことはない、かも。

「言葉でなんかなんとでも言えるとか言うけどさ、
 でも意外とそういうのって気持ちとか態度よりも大事だったりするんだよ」
「藤本さん……?」

こんな真面目な話を平気にできるような人ではない。
すぐに照れてごまかすと思ったのに、藤本さんは何も言わずに黙ったままだった。
 
474 :繋いだ手3 :2010/05/24(月) 23:26

「おーっと。経験者は語るってかあっ?」
「え?」
「うるさいよ」

口を挟んだ吉澤さんに藤本さんは不機嫌にそうに言い捨てる。

「あーっ。思い出したっ」
「何を」
「さっきの匂い。まつーらの香水じゃん。会ってきたんだ?」
「……うるさいってば」

指を突きつける吉澤さんの顔をぐいっと押しやって、藤本さんはグラスをあおる。
松浦……誰だったかな?
どこかで聞いたことのある名前だと思ったけど、はっきりと思い出せなかった。

「あんま時間たつとそのままの関係で固まっちゃうよって話」

不思議に思いながら横顔を見つめていると、
藤本さんは困ったみたいにそう言って、それからやっと少しだけ笑った。
だけどその笑みは微妙にゆがんでいて、藤本さんは固まっちゃったってことなのかなと思った。
これ以上聞けない雰囲気に吉澤さんの方を窺ったけど、吉澤さんはにやにやと笑っているだけだった。
 
475 :繋いだ手3 :2010/05/24(月) 23:26

その後なんだか妙な空気になったからしばらくあんまり関係ない話をしたりしていたら、
携帯をいじっていた吉澤さんが人と会う約束があるって言い出して、あたしは早い時間にお店を出た。

でもなんとなくそのまま家には帰りたくなくてあたしは適当に別のお店に入った。
初めて入るそのお店は騒がしいのが気に障ったけど、
今日のあたしにはこれくらいがいいのかもしれないと思った。


そして気がつけば。
適当に話をしていた子とベッドの中にいた。


「……はぁ」
「ため息なんかついちゃってどうしたの」

シャワーから出てきた女の子がにこにこと笑う。
『ちぃ』という呼び名以外は何も知らない彼女は、
無邪気な笑顔でまっすぐに笑う、こういう街で出会うには少し珍しいタイプの子だった。
同じ年頃。長い手足とスレンダーな体。細長い指先も。よく似ていると思った。
……えりと。
だから触れてみたいと、触れてほしいと思った。

だけど違った。

ちぃがかちりとタバコに火をつけて煙を吐き出す。
あたしはその煙の行く先をぼんやりと眺める。

えりはタバコを吸わない。

おいしそうにタバコをふかす横顔をじっと見つめていると、
あたしの視線を感じたのか、ちぃがくいっと首をかしげた。

「ん? もっかいする?」
「……いい」
「んじゃシャワーしてきなよ」
「うん」

ゆるく首を振ってふらふらと立ち上がる。
久しぶりにした行為のせいか、なんだかひどく疲れたような気がする。

「まーいみー」

ちぃの間延びした声に振り返ると、ぼふりと布の塊を投げつけられた。
彼女が着ているものと同じ真っ白なガウンだった。
そういえばあたしは何も身に着けていなかった。

「ありがと」
「いえいえ」

にかっと目を細めると、ちぃはまた煙を吐き出した。
 
476 :繋いだ手3 :2010/05/24(月) 23:27

「舞美って恋人いるの?」
「……。うん」

ホテルを出て、じゃあって手を振ると、ちぃに思いついたようにそう聞かれて、
あたしは一瞬返事に詰まったけど小さくうなずいた。

「そっか。残念。じゃあどっかであったらまたえっちだけでもしようねー」

ぶんぶんと手を振るちぃに、小さく手を振り返す。
残念?
いないって言ったらなんていうつもりだったんだろう。
恋人になろうって?
まさかね。
っていうか友達にだったらなりたかったのにな。
携帯くらい聞けばよかった。

ふふ、と笑いながら振り返ろうとした肩をいきなり強くつかまれた。
驚いて振り返ると、至近距離に迫っていたのは数時間前に突き合わせていた顔だった。

「なんだ。よしざ――」
「バカっ!!」
「え?」
「おま……何してんだよっ!?」

いきなり怒鳴りつけられて思わず首をすくめる。
何って、ちぃのこと?
そりゃいいことじゃないのはわかってるけど、今さらそんなこと言われても。
言い返そうとした言葉は、吉澤さんの真剣な目に言えなくなる。
吉澤さんのこんな真剣に……怒ってる顔ってはじめて見たかもしれない。

「よっちゃん、いいからえりかちゃんっ」

なんでそんなに怒ってるんだろう。
考えようとした思考が突然聞こえた藤本さんの焦った声にぶちぎられる。
『えりかちゃん』? ――まさか。
藤本さんの指差した方向に目を凝らすと、長い茶髪が人ごみに消えた。
ち、と舌打ちした吉澤さんはあたしを突き飛ばすみたいにして藤本さんに預けると、すでに走り出していた。

「あたしが……っ」
「それはやめた方がいい」

吉澤さんの後を追おうとしたあたしの腕を、藤本さんがつかんで引き止める。

「でもっ」
「舞美、今えりかちゃんに会ってなんて言うの」
「それは……」
「今の子のこと、なんて言うの」
「……」

何も言えず頬をゆがめたあたしの肩を、藤本さんは優しく叩いた。
 
477 :繋いだ手3 :2010/05/24(月) 23:29

NAに戻って来たあたしは、藤本さんから、
さっきあたしの愚痴を聞いた吉澤さんがえりを呼び出していたんだと聞かされた。

「吉澤さん、えりになんて……?」
「うーん。それはえりかちゃんに聞いたほうがいいと思うから」

話の内容はすごく気になったけど、
確かに今それを聞くのは卑怯な気がしてあたしは黙ってうなずいた。
えりから聞くことなんか出来るんだろうかとか、少し怖いことを考えながら。

「んで、もう帰ろうかって駅まで歩いてたらアレなんだもん。びっくりしたよ」
「あれは……」

きゅっと唇をかみ締める。

「気持ちはわからないでもないけどさ。バカなことしたね」
「でも……あたしたち付き合ってるわけじゃないよ。あんなの別に……」
「本気で言ってる?」
「………だって」

はあ。
藤本さんが大きくため息をついて、あたしの髪をがしがしとかき回した。

「よっちゃんの前でそういうこと言わないでよ? 舞美に関してはさ、よっちゃん責任感じてるから」
「責任?」
「あんたみたいな子をこういう場所に引き止めるべきじゃなかったって」
「そんなの、あたしが勝手に」
「うん。美貴もそう言った。ここにいなかったらもっとヘンなとこ流れていく可能性もあったしね。
 あのころの舞美はそういう目をしてた」
「……」

それは自分でも感じていた。
NAの人たちに拾われていなかったら、どうなっていたかわからない。
もしかしたらえりに出会うこともできなかったかもしれないって、怖くなるときがある。
ぎゅっと握り締めたあたしの手を、藤本さんがぽんとたたいた。

「だからよっちゃんはえりかちゃんに期待してんの」
「期待?」
「そ。ちょっと過剰だと思うけど。今えりかちゃんキツイ感じだと思うなー。
 よっちゃんにあそこまで言われた上に舞美のあんなとこ見せられてさ。正直かわいそう」
「ど、どういうこと?」

いったい吉澤さんとえりの間でどんな会話があったんだろう。
驚いて藤本さんの肩をつかんだとき、誰かが入ってきた気配がした。

「あ、よっすぃ」

マスターの声に、あたしはがばっと体ごと振り返る。
吉澤さんに押し出されて、えりがよろけるように一歩前に進んだ。
あたしが立ち上がると、隣にいた藤本さんは席を立って奥のソファに移動した。
吉澤さんもえりの横をすり抜けるようにして藤本さんの隣に腰を下ろした。
それだけ確認して向き直ると、えりは難しい顔をしていて表情は読めなかった。
 
478 :繋いだ手3 :2010/05/24(月) 23:30


「……あの、ね」


違うんだ。
さっきのは。
気にしないで?
なんでもないから。
しただけだよ。
気持ちはないんだ。
ちぃだって気持ちはない。
あたしの気持ちはさ。
あたしはさ。




「えりが、好き」



えりが唇を噛んで、一瞬目を逸らす。
そのまま数歩の距離をさっと縮めて。


パンッ


頭に響く重い音。
えりの顔を見ていたはずの視界に、なぜか藤本さんの驚いた顔が見えて。
頭がくらくらして、それから頬にじわりと痛みを感じて。

えりに頬を叩かれたんだって気づいた。

 
479 :繋いだ手3 :2010/05/24(月) 23:32

 
480 :繋いだ手3 :2010/05/24(月) 23:32


ベッドにうつ伏せた細い肩が不規則に上下する。


えりの呼吸はなかなか整わないみたいで、心配になって手を伸ばした。
さっきまで触れていたその肌に触れることに、やっぱり少しためらう。
震えるままに手を伸ばし滑らかな肌に触れると、えりの肩はびくりと震えた。

「えり」
「……ん」
「大丈夫?」
「………」
「え、大丈夫じゃない?」
「……、………」
「なに?」

細い声が何か言ってるけど、うつ伏せたベッドに吸い込まれて判別できない。
顔を近づけると、けだるげにあげられたえりの手が、さぐるようにあたしの頬に触れた。
……さっき、えりに叩かれた頬に。

「あたしは、大丈夫だよ」

この返事でいいのかわからなかったけど、そう言って手を握り返すと、
えりの体は安心したようにまた脱力したから間違いではなかったのだろう。

このまま寝ちゃうかな。
そんなに激しくしたつもりはなかったんだけど。
少し声が聞きたいと思ったけど、えりが眠りたいのならそれでもいいかなと思った。
 
481 :繋いだ手3 :2010/05/24(月) 23:33

**********


数時間前。
あたしの頬を叩いたえりはぼろぼろと泣き出して、
とにかく家に帰れって、あたしたちは吉澤さんの呼んだタクシーに押し込められた。

あたしの部屋に着くころには泣き止んでいたえりだったけど、しばらく黙ったままだった。
えりに黙られるとあたしも何も言えなくて、沈黙だけが続いた。
どれくらいそうしていたか、えりが細く息を吐いて。
はっとして顔を上げると、えりは小さくつぶやいた。

「怒られた……」
「え?」
「吉澤さんに、怒られた」
「えええっ?」
「ごめん」
「な、なんでえりがっ、あれはあたしが……」

ちぃのことが思い浮かんで謝ろうとして、でも言えなかった。
だって……。
あたしたちの間にお互いを縛るようなものはない。
それが苦しくて、あたしは言いたいのに言えない言葉を飲み込む。

「ううん。そうじゃなくてさ。舞美、あのね」
「うん」
「好き……、だから」
「……っ」
「ちゃんと言わなくてごめん」
「え、り……」
「泣かないでよ。ずっと側にいてよ。ちゃんといて。他の子と……あんなことしないでよ」
「……っ、ごめんっ。ごめんね、えりっ。ごめんなさい」

言えなかった言葉が、涙と一緒に堰を切ったようにあふれ出した。
涙でにじむ視界にえりが顔をしかめる。

「ホント、今回だけだからね。許すの。はっきり言わなくて不安にさせたうちが悪いのも
 わかったから今回は許すけど、次は絶対にないからね」

ああ。あたしってば最悪だ。
怒ってる。えりが怒ってる。
なのにすごく。嬉しいと思っている。

こくこくとうなずくと、えりは少し苦しそうな顔をした。

「うち、心狭いよね。束縛してるね。こんなの、舞美はやだよね……」

ぶんぶんと首を横に振る。
束縛じゃない。――むしろ束縛でいい。

うつむいたままのえりの手を探るようにして握り締める。
ただこの手を離したくないって、あたしが思うのと同じくらいにそう思ってくれるのなら。
あたしは、なんだっていいんだ。


**********
 
482 :繋いだ手3 :2010/05/24(月) 23:34


力の抜けた手をきゅっと握るとかすかに握り返されたけど、じきにその力も抜け落ちた。
苦しそうだった呼吸もいつしか整い、ゆるやかな寝息に代わっていく。
えりが深く寝入ったころを見計らって、あたしはそっと腕を伸ばしてその細い体を抱きしめた。
素肌に感じる温度がとても幸せだと思った。

行為の後の眠りはとても心地よくて、寝るなと言われてもいつもすぐに眠ってしまっていたのに。
今は眠りたくないと思う。
このままえりが目覚める朝まで抱きしめていたい。


そして目がさめたら一番にキスをしよう。

 
483 : :2010/05/24(月) 23:34

『 繋いだ手3 』   終わり
 
484 :名無飼育さん :2010/05/25(火) 04:49
移転乙オメです。

ステキなやじうめありがとうございます。
このシリーズ好きなので、続きが読めてうれしいです><
485 :名無飼育さん :2010/05/26(水) 21:47
このシリーズすごい好きです
梅さん視点が気になります
486 :esk :2010/05/27(木) 22:38
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>484さま
ありがとうございます><
私も久しぶりに書いた二人でしたがなかなか楽しかったです

>>485さま
ありがとうございます。
梅さん視点いいですねー。ちょっと書いてみようかな(書けない可能性大ですがw)

次はすももー
487 : :2010/05/27(木) 22:50

『 すももLOVE 』
 
488 :すももLOVE :2010/05/27(木) 22:52


すーちゃんまた目開けて寝てる〜

 うるさいな。ほっといてよ

何で開けてるんだろ

 わざじゃないっての

わかった! 寝てても桃のかわいい顔が見たいから開いちゃうんだあ

 それはない

やっぱりそうかー。すーちゃんはそんなに桃のことが好きかー

 ………

んじゃ口が開いてるのはなんでだろ

 知らないってば

あ、わかった。……がしたいからでしょ

 え? なんて? 今なんて言ったの、桃

 
489 :すももLOVE :2010/05/27(木) 22:53

何かの感触に意識がいきなり覚醒して、
ばちっと目を開けると目の前数センチの距離に誰かの顔があった。
思わずその顔を押しのけて何度か瞬きをして焦点を合わせると、顔の中身は桃だった。
桃もぱちぱちと瞬きをしている。

「すーちゃん、おはよ。よく寝てたね」
「桃」
「また目開いてたよ。口も」
「今何したの」

少し驚いたような桃の顔がぎこちなく遠ざかっていこうとする。
しかしその口元が気まずそうにゆがんだような気がしてとっさに桃の腕をつかんだ。

「えー? 別に何も」
「うそ。絶対何かしたでしょ」
「してないって」

桃は必要以上にコミカルな動きでぶるぶると首を振るけれど、
じっと目を覗き込むとあきらかにきょろきょろと視線をそらせていて結構わかりやすい。

「してなかったらなんで目逸らすの」
「違うって。すーちゃん目力強いから怖いんだもん。誰でも目逸らすよ」
「うるさいな」

話を逸らすように眉間に突きつけられた桃の小指を振り払う。
絶対に桃に何かをされたはずだ。
目が覚める寸前、桃が言った言葉が気になるけど。
桃の腕をつかんだままで楽屋を見回すと、部屋の中にはまぁと桃以外はちぃとみやだけだった。
まぁたちが騒いでるから何事かと思ったのか、二人とも不思議そうな顔でこっちを見ている。

「桃今なんかしたよね?」
「ごめん。見てなかった」
「うちも。なんかまぁの顔見ながらぶつぶつ言ってたとこまでしか見てない」

とりあえず顔に落書きはされてないよー、とのんきな声で言う二人は
すでにこっちに興味を失っていて頼りにならない。
それじゃあ本人に白状させるしかない。
まぁが二人と話している間に逃げようとしていた桃を引っ張り寄せて顔を突きつけると、
やっぱり桃はきょろきょろと視線が泳ぐ。

「何したの」
「してない」
「した」
「ないってば」
「うそだ」
「もー。すーちゃんしつこい」
「だって桃が」
「わかったわかった。じゃあ桃が飲み物おごったげるからそれでいいじゃん」

つかんでいた腕を逆に握り返されて、ね? と笑みを浮かべる桃に楽屋から連れ出される。
廊下には機材や人が溢れていてやたら狭く、桃はするするとその隙間をすり抜けていく。
手を引かれていると少し歩きにくくてまぁはただ黙ってついていくしかできなかった。
その姿はどうやらまぁが桃に連行されている風に見えるみたいで、
途中ですれ違った佐紀ちゃんに珍しいものを見るような目で見られて少し恥ずかしかった。
 
490 :すももLOVE :2010/05/27(木) 22:54

そのままうつむき加減で桃につれられていたから、
行きかう人波が途切れた目的地の自販機で手渡されたペットボトルを受け取ってから
やっとそのことに気づいた。

「っていうかおごるってことはやっぱりなんかしたんじゃん」
「違う違う」
「何でよ」

桃がきょろきょろとあたりを見回す。
階段下に据えられた自販機の周りに人はいなかった。
それを確認すると、桃はするりと体を摺り寄せてくる。

「――桃」
「それはね、前払い」
「は? ……ちょ」

小さな手が伸びてきて頬に触れた。
背伸びをした桃。
仕方なく軽く目を閉じると、唇に触れたのは慣れ親しんだ感触。


離れていく影に目を開くと、桃がいたずらっぽく笑っていた。





「っていうかやっぱりさっきもしたよね」
「ばれなきゃしてないのと同じなの」
「何その浮気のいいわけみたいなの」
「浮気じゃないし。本命だし」
「当たり前でしょ」
「当たり前だよね」
 
491 :esk :2010/05/27(木) 22:55

『 すももLOVE 』   終わり
 
492 :esk :2010/05/27(木) 22:55
須藤さん総当り計画第2弾。
6人全員いけるかなー。
493 :esk :2010/05/28(金) 21:58
須藤さん総当り計画第3弾。キャプまぁ。
※参考資料:ベリのDVDマガジン16(見てなくてもわかりますが)

『 彗星ガール 』
494 :彗星ガール :2010/05/28(金) 21:59

佐紀の暮らしていた星では、先年大きな天変地異が起こり植物が死に絶えた。
そのため星の環境は著しく悪化し、まもなく人口も激減した。
このままでは星自体が死滅してしまうと判断した統一政府より命を受け、
周辺の星へ植物を奪い取りに行く斥候隊が結成された。
佐紀はその中の一人として地球にやって来たのだが、
植物を奪う前に夜の公園でランニングをしていた茉麻に見つかってつかまってしまったのだった。



それから数週間が経った同じ時間の同じ公園を佐紀と茉麻は訪れていた。

「それで足りそう?」
「うん。これだけあれば大丈夫。色々ありがとうね」

茉麻が指差した佐紀の足元には大きなトランクが3つ並べてあった。
その中にはさまざまな植物の種がぎっしりと詰められている。
佐紀の話を聞いた茉麻がかわいそうに思って協力し、あらゆる手段を駆使してかき集めたものだ。
中にはかなり貴重で高価なものも含まれており、
それらを手に入れるには二人でかなり危ない橋も渡ってきたがここではそのあたりは語らないでおこう。

東京には珍しく晴れた夜空を見上げる佐紀。
その横顔を見つめながら茉麻は一瞬目を伏せた。
ひょんなきっかけからとんでもない苦労を背負い込んでしまったこの数週間。
知らなくていい知識をたくさん知り、しなくていい経験をたくさんして。
――その中で初めて芽生えた気持ちを知った。
茉麻が再び目を開く。
先ほどと同じ仕草で空を見上げる佐紀がそこにはいた。

「どう?」
「天候もバッチリ。今夜ならいけるでしょ」
「そっか」
「ってことで。それ、返してくれる?」
「……返さないって言ったら?」
「困る」

ちっとも困らない声で言われると返す言葉もなく、茉麻は仕方なく手に持っていたものを差し出した。

「佐紀ちゃんさー、もう少しくらい感傷的な顔してくれたっていいんじゃないの」
「そりゃ無理だわ」

軽い口調に紛らわせたとはいえ、茉麻としては精一杯の主張だった。
普段なら絶対にこんなことは言えない。
なのにそれさえもあっさりとかわされて茉麻は深くため息をついた。
ため息混じりに茉麻が差し出したそれを、佐紀は頭にセットする。
公園の緑を根こそぎもって帰ろうとしていた佐紀を茉麻が捉えたときに奪ったカチューシャ状のもので、
佐紀の星からの特殊パワーを受信する装置である。
これがないと地球の衛星軌道内に待機させている宇宙船を呼んで星に帰ることが出来ない、
佐紀にとっては命の次に大事なものだ。

「おー。キタキタキタ。久しぶりだからくらくらするわ」
「どんな感じなの? まぁもつけてみたけどうもならなかったよ」
「そりゃうちの星の人間の脳波に反応するように作られてるからね。――ほよっと」

カチューシャのてっぺんから伸びた二本の触覚の先端に佐紀が左右の人差し指を当てる。
その間抜けな姿に茉麻は思わずぷっと吹き出した。

「なによー」
「やっぱそれおかしいよ」
「そんなこと言ってもさー」

佐紀もぷぅっと頬を膨らませて顔を赤らめる。
生まれ故郷ではなんの違和感もなかったこの仕草がそれほど笑われるものだとは思わなかった。
 
495 :彗星ガール :2010/05/28(金) 22:00

佐紀がその仕草のまま空を見上げて、3分も経った頃だろうか。
広場の真ん中に陽炎のように現れた球体。直径は5mほど。
初めて見る佐紀の宇宙船に、茉麻はぽかんと口をあけたまま立ち尽くす。

「……シンプルだね」
「そうかな」

茉麻の気の抜けた声に少し首をかしげながら、
佐紀は慣れた手つきで球体に取り付けられたパネルに指を走らせると、
何の前触れも微かな音もなく球体の一角があっさりと口を開いた。
しゅーしゅーと煙でも吐き出しながら物々しく開く扉を想像していた茉麻は
なんだか肩透かしを食らったような気になったが、
気を取り直して小柄な佐紀に手を添えて宇宙船にトランクを積み込んだ。


「じゃあね」

宇宙船を背にした佐紀と茉麻は正面に向き合う。
先ほどのことがある。
茉麻は努めて軽く笑いかけると小さく手を振った。

「うん。……あ、茉麻」
「うん?」
「あたしが感傷的にならない理由、教えとくね」
「なに?」

佐紀が体を乗り出すようにして茉麻の耳元に顔を寄せた。
反射的に茉麻も佐紀に体を寄せる。


「感傷的になったら帰れなくなるからだよ」


元々甘い声をさらに甘くして耳元でささやく。
そして、頬に触れた唇。


唖然とする茉麻にかまいもせず、佐紀は宇宙船に乗り込んでにこにこと手を振っていた。
開いたときと同じように音もなく閉じたドアが茉麻の視界から佐紀の姿をさえぎる。
そしてあっというまもなく宇宙船の姿は陽炎に消えた。
佐紀の残像さえも残らない。
残ったものは。
茉麻はぎこちなく自分の頬に触れる。
その温度が思うよりも熱くて、きゅっと唇をかみ締めた。
唐突にやってきて、茉麻の安穏としていた生活も心もかき乱すだけかき乱して、唐突に消えた。


あいつ。


あんなこと、最後まで言わなきゃいいのに。
だったら冷たいヤツだってすぐに忘れられるのに。

「卑怯者!!」

これじゃ当分忘れられない。
夜の公園で、茉麻はひとり足を踏み鳴らした。
 
496 :esk :2010/05/28(金) 22:02

『 彗星ガール 』   終わり

あと3人〜。
 
497 :esk :2010/05/29(土) 19:38

呼んでくださった方がいたとしたらありがとうございます。

須藤さん総当り計画第4弾。みやまぁ。
読みにくくてすいません。こういう書き方を一回やってみたかっただけです。

『 海に行こう 』
 
498 :海に行こう :2010/05/29(土) 19:39

もうすぐ夏だね。何の前触れもなく雅にそう切り出された茉麻は少々面食らいながらも平静を装ってそうだねとうなずいたがさすがに続く言葉には驚いて雅の顔をまじまじと見つめてしまった。夏女コンビで海にでも行こうよ。そう言った雅は人を遊びに誘うような表情ではなかったがそれも当然と言えば当然だろう。茉麻と雅は仕事上は長い付き合いでしかも学年も同じという共通点があるのでその関係はそれなりに良好ではあったがそれなりの域を出るものではなく雅の遊び仲間といえば佐紀や千奈美であったり仕事で二人になることの多い桃子であったりで茉麻とは今までに二人だけでどこかに出かけたような経験はなかった。買い物やちょっとした遊びにさえ出かけたこともないのにいきなり海に行こうだなんてと茉麻は混乱する頭でつい夏女だったら熊井ちゃんも一緒だよね。と言ったが意外と感情が顔に出やすい雅の表情にでもうちらは高3コンビだもんね。と慌てて付け足した。意外と感情が顔に出やすい雅の表情に高3組だったら千奈美が足らないと思ったが口にはしないでおいた。

電車とバスを乗り継いで数時間の二人旅は茉麻の思いのほか楽しいものであり海が見えるころには二人のテンションはすっかり上がりきっていた。海水浴にはまだ早い時期のせいかあまり人がいない海に気を良くした雅がまっすぐに波間に突っ込み茉麻も慌ててその後を追ったが波打ち際で止まった足が進まなくなった。茉麻は泳げないので海が少し怖かったのだが雅はそんなことに構いもせずにはじけるような笑顔で茉麻に向かって手を伸ばした。おいでよ。差し伸べた手を握ることさえためらう茉麻に焦れた雅は無理やりに茉麻の手をつかんで引き寄せた。ちょっと待ってよ濡れるじゃん。一応言ってはみたものの雅が自分の抗議を素直に聞くとは茉麻自身も思っていないので引かれるままに海に足をつけた。波が足元をすくう感触は少し嫌だなと思ったけれどしっかりと握られた雅の手をぎゅっと握り返すと不思議と怖いとは思わなかった。サンダルが水に濡れる感触が気持ち悪いと思ったのも最初のうちだけですぐにそれさえも楽しいに変わった。(さすがにサンダルはすぐに脱いだけれど)

しばらくは波に合わせて行ったり来たりするだけでも声を上げて楽しんでいたのだけれどつい思い立った茉麻が水をかけるフリをしたら雅に本気で水を浴びせられた。すぐに水の掛け合いになり手ですくうことさえ面倒になって波を蹴り上げる雅につられて茉麻も同じように遊んでいたら全身海水でぐっしょりと濡れてしまった。こんなんじゃ電車乗れないじゃん。夕暮れが訪れてやっと冷静になった茉麻が唇を尖らせると雅は一瞬前までの高い大きな笑い声から一転した低い小さな声でじゃあどっか泊まっていく?と言った。意外と感情が顔に出やすい雅の表情にでもこればかりはさすがに慌てて茉麻は高校生二人じゃ泊めてくれないでしょ。と言った。まぁは大人っぽいから大丈夫だよ。同じ声でさらに言いつのる雅の方が見かけは自分よりもよっぽど大人っぽいと思ったけれど続く会話に困るような気がしたので茉麻は何も言わなかった。無言のまま持っていたタオルで足を拭いて無言のままサンダルを履いた。歩くと砂が入って気持ち悪いと思ったが茉麻は無言のまま雅の手を取って歩いた。

手を繋いで砂浜を歩く二人の足取りはどうにもためらいがちで雅はやっぱり何も言わなかったので茉麻もやっぱり何も言わなかった。ぼんやりと歩く視界がやけに明るいような気がして茉麻はうつむき加減だった顔を少し上げてみると砂浜が赤く見えたので足を止めて肩越しに背を振り返った。夕日が赤く海を染める。綺麗だね。茉麻に倣って振り返り小さくつぶやいた雅の横顔も赤く照らされていて赤い砂浜に消え入りそうであまりに儚くて茉麻は思わず繋いだ手をぎゅっと握り締めた。また来ようね。茉麻が口にした言葉は保留にされていた雅の提案を拒絶するものなのに言いながら次は泊まりでもいいかもしれないと思った自分に焦ったが意外と感情が顔に出にくい茉麻は落ち着いて柔らかい笑みを浮かべることが出来たので内心胸をなでおろした。しかし至近距離で見下ろした意外と感情が顔に出やすい雅の表情に意外と感情が顔に出にくい自分の性格がひどく冷たい仕打ちをしているような気になったので茉麻は変えられない表情の代わりに雅の硬く引き結ばれた唇に小さく唇を落とした。
 
499 :esk :2010/05/29(土) 19:41

『 海に行こう 』   終わり

この組み合わせはさすがにないだろうw
さてあと2人が問題……。
 
500 :名無飼育さん :2010/05/29(土) 22:09
ちょっと前はほとんどなかった茉麻カップリング物が
こんなに読めて感激です
ほよ。

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