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JUNK!(B℃)

1 :esk :2009/04/13(月) 22:30

・どうでもいい小ネタ集
・ベリキュー中心

言い訳は、計算が合えば >>18 合わなければその前後
 
201 :繋いだ手 2 :2009/08/02(日) 00:44

眠そうにうちの肩の辺りに顔を押し付けてくる舞美。
さらさらの髪の向こうに、真っ白な首筋が見える。

思わずのどを鳴らした自分に、恥ずかしくなる。

舞美はたぶん――。
うちがそういうことをしたら受け入れると思う。
付き合ってるってわけじゃないけど、お互いの気持ちはたぶん、わかってて。

……っていうかそれでこれって、誘ってるってやつなんだろうか。

「えりぃ」

「ふえ!?」
「え、なに?」
「あ、いやなんでもない! 舞美こそ、何?」
「んー……あたしもなんでもない」

「そ、そっかあ」
 
202 :繋いだ手 2 :2009/08/02(日) 00:44

上げた顔をまたうちの肩に戻す。
だから、この体勢やばいんだってば!

「あ、あの、もう寝よっか」
「寝る?」
「うん」
「する?」
「うん?」
「……」

ぐいっと引き剥がすと、うちをじっと見つめる真っ黒な瞳。

「……寝る」

舞美はぷいっと顔を背けて、ベッドに擦り寄ってしまった。
あれ、機嫌悪い?
舞美さっきなんて言ったんだろ。
うちの返事おかしかったのかな。
 
203 :繋いだ手 2 :2009/08/02(日) 00:46


ベッドに入って、二人並んで、きゅっと手を握られて。
お泊りは初めてじゃないし、泊まったらいつも一緒のベッドに寝る。
だからいつものことなのに。
……なんか、寝れない。
とか思っていたら、隣からはすぐに規則正しい寝息が。
はあ。

吉澤さんと藤本さん。
思っていたよりもずっと綺麗な人だった。

舞美が――。
今までどうして来たかってことは、自分でも不思議なくらい気にならない。
それはたぶん、今舞美の気持ちがどこにあるのかを知っているからで……。
ああ、なんだ。うちってば結構強気。
だけど、すごく弱気。
だから舞美。


「もうちょっと、待っててね」


繋いだ手に力がこもったのは、気のせいだっただろうか。

 
204 : :2009/08/02(日) 00:46

『 繋いだ手 2 』   終わり
 
205 :esk :2009/08/02(日) 01:45
だからその手を離さないでいて
206 :梅ヲタの191 :2009/08/02(日) 01:53
眠れなくてあちこち見ていて更新を見つけた。
192に泣けてきた。
ありがとう。
207 :三拍子 :2009/08/02(日) 06:14
ここのやじうめをいつも楽しみにしています。こういうもどかしい感じ良いですね〜。
更新頑張って下さい!
208 :esk :2009/08/18(火) 20:34
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>206さま
不純な目的で見始めたよろセンで梅さんを見つけて、一人興味を持てば周りのメンバーも
すぐに覚えられたんです……。
まあでも今は、がんばってこい!! って言ってあげたいと思っています。

>>207さま
ありがとうございますっ。
私よりも三拍子さんの方がずっと大変なのではと心配していましたが(苦笑)、
お話進んでいるようで安心しました。お互いがんばりましょう!


もいっちょやじうめ
209 : :2009/08/18(火) 20:40

『 5センチ 』
 
210 :5センチ :2009/08/18(火) 20:45

月曜日の4時間目。
微妙な時間に体育の授業を入れてくれたもんだ。
おなかがすいて倒れちゃったらどうしてくれるんだよー。
なんて言いながら、前を歩いていた桃が佐紀ちゃんに愚痴っている。

「いや、桃、あなたさっき着替えながらイチゴポッキーかじってましたから」

佐紀ちゃんの冷静な突っ込みに、見てたのー!? と桃の不必要に甲高い声。
更衣室の出入り口、運動靴の靴紐を結び直していたうちの口元が自然に笑みの形を作る。

「あはははっ」

そしたら頭の上からも舞美のさわやかな笑い声が降ってきた。
さわやかな声を振りまきながら、すぐそばにある長い足がとんとんとつま先を鳴らす。

「そういえば桃ってさっきもさー」
「うん?」

ちょうど紐も結べたからそのままでくいっと顔をあげると、舞美とばっちり目が合った。
 
211 :5センチ :2009/08/18(火) 20:46

「さっき?」

うちを見下ろしたまま黙ってしまった舞美に先を促すけど、なぜかフリーズしたまま。
まあ舞美だし。
また飛んだか、とあまり気にしないで体を起こそうと――した肩をぐっと押し下げられて。

「え、なに、――」


―――。

ゆっくりと離れていく舞美の唇。
うちがぽかんとそこだけを眺めているうちに、その白い頬は真っ赤に染まっていた。
いや、自分でそういうことしといて赤くならないでくれる?
どっちかといえばうちの方がびっくりして赤くなるっていうか、多分もうすごく赤いと思う。
うわー、やだな。外に桃と佐紀ちゃんいるのに。

――って、オイ!

「舞美!! ここ学校!!」
 
212 :5センチ :2009/08/18(火) 20:47

思わず叫んだ声が裏返って、自分の顔がさらに赤くなるのがわかった。
その時、廊下の曲がった向こうの更衣室から誰かが出てきた声がして、
まだぽわんとした表情で自分の唇を指で撫でている舞美の手をぐいっとひっぱる。
クラスメイトの声から逃げるように外に飛び出すと、桃と佐紀ちゃんが待ち構えるように
そこにいて、どきんとした。
まさか見られてたわけはないんだけど。

「ん? お二人さん顔赤いよ?」

こぼれ落ちそうなくらいに首を傾げる桃の横を無言ですり抜ける。
舞美は、あ、ちょっと、ごめん、とかよくわからないことを言っているけど、
うちは、待ってたのにひどーい! とか言う桃の声を背中で聞きながら全力で走った。


集合場所から少し離れた木陰に駆け込むと、すっきりとした木の幹に手をついて
大きく息を吐き出しす。
走って乾いた唇をかるく舐めた。
そしたら急にさっきの感触を思い出して、心拍数はもっと上がった。
 
213 :5センチ :2009/08/18(火) 20:47

「もうっ……なんであんなこと……っ」

それがまた恥ずかしくて慌てて言葉を搾り出すと、まるで責めているみたいな声になって
ちょっと後悔した。
ちらりと舞美の方を伺うけど、舞美はまだぽわっとしたまま。

「だってさあ……」
「うん?」
「えりの上目遣い、ヤバイ……」
「あの……ねえ」

ため息混じりにかがめていた背をまっすぐに立ち上げると、すぐ側で舞美がうちを見上げる。

潤んだ目。
上気した頬。
少しだけ乱れた呼吸。

うちと舞美には5センチほどの身長差があるわけで。


……上目遣いなら、そんなのうちはいつだって。



堪らなくなって目を逸らすと、遠く、桃と佐紀ちゃんが手を振るのが見えた。

 
214 : :2009/08/18(火) 20:48

『 5センチ 』   終わり
215 :esk :2009/08/18(火) 20:51
ゲロ甘い話を書こうと思ったのにイマイチ。
まあ私にしては珍しく、高校生らしさが出せたかなあとw
216 :名無飼育さん :2009/08/19(水) 07:44
( *´Д`)
217 :名無飼育さん :2009/08/20(木) 16:31
よかったです。
次回も楽しみに待っています!
218 :名無し :2009/08/21(金) 22:16
いや、甘いよ十分。満足満足
219 :名無し飼育 :2009/09/06(日) 03:15
甘い。。
良かったですよ。
ごちそうさまでした☆
220 :esk :2009/09/22(火) 22:28
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>216さま
リl|*´∀`l|

>>217-219さま
甘かったですか!? ありがとうございます!
自分で書くと読んだときの甘さが半減するのが困ったところですw


少し未来のお話を。激短です。
やじうめ
221 : :2009/09/22(火) 22:28

『 愛育 』
 
222 :愛育 :2009/09/22(火) 22:29




♪♪


「……舞美ちゃん」


「舞美ちゃん、携帯鳴ってるよ」


「……舞美ちゃん?」


「……」

私の声が全く聞こえていないかのように、舞美ちゃんはぴくりとも動かないで
ひざに乗っけた雑誌を食い入るように見つめている。
その視線の先が何なのかなんて、私は知っているからもうため息もつかない。

メールだったらしくて、もう静かになってる舞美ちゃんの携帯をテーブルから拾い上げて、
その角でこつんと頭を小突いてみた。
かるーくね。

「……」

え、それでも反応なし?
 
223 :愛育 :2009/09/22(火) 22:30

「……あ、愛理」
「おそっ」

何秒かたって、ようやく返ってきた返事。
思わず突っ込んじゃったよ。

「携帯鳴ってたよ。えりかちゃんから」
「えっ、全然気づかなかった! っていうかなんでえりからだってわかったの?」

そりゃー……。
この着信音が鳴るたびにはしゃぎまくるリーダーをしょっちゅう見てますから。
苦笑いで携帯を手渡すと、舞美ちゃんは開いたままの雑誌を胸に抱いて携帯を開く。
その胸に抱かれてる人からのメッセージを読むために。
うつむいたその顔はすごく満足そうで、幸せそうで。
それはきっと、今までよりもむしろ。


会えない時間が〜
ってやつですねえ。


その気持ち、よーくわかるからさ。
私もさっき来たメールをもう一度読み返すことにした。
 
224 : :2009/09/22(火) 22:30

『 愛育 』   終わり
 
225 :esk :2009/09/22(火) 22:32
切なくもなく、ただほんわかとした未来があればいいと。
226 :名無飼育さん :2009/09/23(水) 00:08
ほわほわをありがとう( *´Д`)
227 :名無飼育さん :2009/09/24(木) 00:15
そっか、そうだよなと思ってしまいました
悲観的になる必要なんてないですよね

とても良かったです、ありがとうございました
228 :名無飼育さん :2009/09/24(木) 23:18
愛理と舞美の2人のコトを前向きに考えることができました。
ありがとうございます。
229 :みら :2009/09/27(日) 00:20
かわいいお話をありがとうございました。
更新おつかれさまです。
230 :esk :2009/10/19(月) 23:12
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>226-229さま ありがとうございます。
外野が思うよりも、本人たちは平気なんじゃないかなーとか、そんな願望でした。
離れるんじゃなくて変化するんだと思って、次の状況も楽しんでて欲しい。とか。
まあ実際には本人たちの本心はわからないわけですが、
これは私と同じように(w)がっくりきてる方たちに、元気出して! と言いたくて
書いた話なので、元気出していただけた方がいて、作者冥利に尽きる思いです。


とか偉そうなことを言って次はゆるゆるw
やじうめー
231 : :2009/10/19(月) 23:12

『 眠り姫 』
 
232 :眠り姫 :2009/10/19(月) 23:14

今日は仕事がないからって、学校帰りに舞美がうちに遊びに来た。
そんなにあることじゃないし、決まってから結構楽しみにしてたのに。


『ごめん。なんか、眠い』


うちについてそんなにたたない間に、舞美は一言言い残すとうちのベッドにねそべり、
すぐに寝息を立て始めた。

ええー。
つまんないよおぅ。

うちのベッドに散ったさらさらの黒髪をちょっと引っ張ってみたけど、反応なし。
恐ろしく寝つきのいい舞美は、もう熟睡モードに入ってしまったらしい。
よく動きよく食べてよく眠る。
舞美はホント健康的だよね。

目の前で寝られてしまうと無理やり起こせないのは、職業病かもしれない。
小さくため息をついて、その辺にあった雑誌を引き寄せる。
 
233 :眠り姫 :2009/10/19(月) 23:15

ベッドにもたれてから首だけでもう一度振り返ると、幸せそうな顔をこっちにむけて
すかーっと寝こけている舞美がいて。
んで、それってうちのベッドなわけで。

……。
まあ、うん。
これはこれで。
悪くはない。
かも。
……へへへ。


傾きかけた機嫌も少し持ち直して、視線を戻した雑誌をぱらぱらとめくる。
色とりどりの写真を眺めていると自然にわくわくしてきて、こういう時はやっぱり
うちも女の子だなーって思うんだよね。
 
234 :眠り姫 :2009/10/19(月) 23:15

ぱらり

ぱらり


あ、これ欲しいな〜。
こないだ買ったやつにも合いそうだし。

こっちはうちじゃないな。舞美に似合いそう。

ん? これ梨沙子がみやに貰ったって言ってたやつだ。
結構するんじゃん。みやってば……。


ぱらり

ぱらり
 
235 :眠り姫 :2009/10/19(月) 23:15

「……ぃ」

「ん?」

舞美?
起きた?

ぐるっと首をめぐらせると、寝息は規則正しいまま。
だけど、ちょっと眉間にしわがよっている。

「舞美?」

小さく声をかける。
怖い夢でも見ているんだろうか。
だったら起こした方がいいのかもしれない。

「……え…りぃ?」
「うん。どうしたの?」
 
236 :眠り姫 :2009/10/19(月) 23:16

答えることはないとわかっていて聞いてみたら、顔の側に置かれていた手が
何かを探すみたいにむにむにする。
ぎこちなく動く指にそっと触れると、舞美の長い指はうちの手を探るようにして絡まった。

「舞美?」

起きたのかなって思ったけど、続く答えはなかった。
薄く開いた唇からは規則正しい寝息。
ただ、その表情が。
にまあって嬉しそうに、幸せそうに緩んで。
眉間のしわも消えてて。

「……たんじゅーん」

繋いだままの手で、人差し指を伸ばして鼻先をつついてやる。
むうって唇がとがったけど、緩んだ表情は変わらなかった。
 
237 :眠り姫 :2009/10/19(月) 23:17

しばらくそのにやけた顔を眺めてたけど、そろそろ首が痛くなってきたから、
くるりと体を返して雑誌に視線を戻した。


ぱらり

ぱらり


ん。これも欲しい。
げ。たっかいなあ。


めくりにくくなった雑誌を、指先でゆっくりとめくる。


片手は、にやけた姫に預けたままで。

 
238 : :2009/10/19(月) 23:17

『 眠り姫 』   終わり
 
239 :esk :2009/10/19(月) 23:18
よし! 甘い!!
240 :名無飼育さん :2009/10/20(火) 19:50
砂糖的な甘さというより果実的な甘さ、なのかもしれない
つまり、いくらでもいけそうですw
241 :名無飼育さん :2009/10/20(火) 23:03
( *´Д`)
242 :esk :2009/10/25(日) 23:02
>>240さま
秋ですからw
さわやかな甘さを目指したので、そう言ってもらえると嬉しいです。

>>241さま
从*・ゥ・从


貴女の未来が、華やかに輝かしいものでありますように。


※ ちょっとエロいのでご注意を。
243 :esk :2009/10/25(日) 23:08
>>2-17 『 やじうめ道中記 』
>>78-90 『 やじうめ道中記2(森と泉に囲まれて) 』

これのシリーズです。
244 : :2009/10/25(日) 23:09

『 やじうめ道中記3(吹雪の夜に) 』
 
245 :やじうめ道中記3(吹雪の夜に) :2009/10/25(日) 23:10


「ん、んんっ」


「えり……えりぃ」


耳元、熱い声で名前を呼ばれる。
ぎゅっと閉じていたまぶたを薄く開くと、かすむ視界を覆うような真っ黒な髪。
視界がはっきりしてくると、その向こうの首筋にびっしりと浮かび上がる汗が見えた。

(なんで舞美が)

熱くさせられてるのはこっちの方だってのにさ。
笑いたいような気分がこみ上げてきて、繋いだままの手に力を込めた。

「……えり?」

びくり、と肩をゆらした舞美がうちの首筋からのっそりと顔を上げる。
熱っぽい目、乱れた呼吸。
だけどもうろうとしているようにも見えて、でもうちを翻弄する指先は容赦がない。

「んっ、はあっ」

少しだけ不思議そうに尖った舞美の唇が近づいてきて、うちの呼吸を吸い取る。
苦しい。
そう思ったけれど、顔を背けるなんてことは思いもしなかった。

 
246 :やじうめ道中記3(吹雪の夜に) :2009/10/25(日) 23:10


外は軽く吹雪の様相で、だけどうちのとなりでまどろむ舞美の体の湿った熱で、
むしろベッドの中はむっとするほど暑い。

この時期に放浪するのは危険だから、冬になると適当な町に留まるのがうちらの定番。
うちは何気にこの時期が好きだったりする。
安いアパートとはいえ、自分の家、っていうのはやっぱり落ち着けるし。
外は危険で、でも家の中はまったりと安全で。
そんな家の中で舞美と二人お布団にくるまるギャップが好き。

なんて思いながら、くすくすとこみ上げる笑いを堪えて、腕の中の舞美をきゅっと抱きしめる。
だって子供のころは外が嵐の夜は怖くて、怖くて。とても寝れたもんじゃなかった。
それを好きなんて言えるようになったのは、間違いなくこの人のおかげだから。
 
247 :やじうめ道中記3(吹雪の夜に) :2009/10/25(日) 23:11

うちがいた施設の訓練所に、舞美がやってきたのも、たしかこんな寒い日だった。
もう10年くらい昔の冬。


しゃっきりと背筋を伸ばしてまっすぐ立つ少女。
同じ年には思えないほどしっかりとしていた。
だけどその夜、うちは人目につかない廊下の隅で、ひざを抱えて震える彼女を見つけた。

『今日、あたし誕生日なのに』

そう言って震え泣く彼女にどうしていいかわからなくて、うちはただぎゅっと手を握り締めて
一緒に泣いた。
冷たい手が、自分の手の中で温まるまで、ずっと。
その間だけは、がたがたと鳴る窓もびゅうびゅうと唸る風も、怖いと思わなかった。


あのとき、寒い廊下の隅で舞美を見つけたのがうちだったのは、あれはきっと、
二人が今こうしている未来がそうさせたんだろうなと思う。
10年が経った今では、冷たく冷えた体を温めあう方法まで知ってしまったけれど、
慰めあうのではなくただ一緒に泣くような、そんな閉じ込められた暖かさが、
忘れられなくて、体に染み付いて。
 
248 :やじうめ道中記3(吹雪の夜に) :2009/10/25(日) 23:13

「……えり?」

自分でも気づかないうちに、抱きしめる腕に力を込めすぎていたみたいで。
舞美の大きな目が薄く開いて、眠たそうにうちを捕らえていた。

「なんでもない、なんでもない」

うちはちょっと慌てて、手が触れる背中をぽんぽんと軽く叩いた。
起こすつもりなんてなかったから。
でも、ごめんねって言おうとして覗き込んだ舞美は、くすぐったそうに、えへへ、と笑うと、
またまどろみに戻っていった。


その笑んだままの唇の端に小さくキスを落として。

がたがたと鳴り続ける窓の音を聞いて。



幸せだなあ、なんて、思ったりする。

 
249 : :2009/10/25(日) 23:13

『やじうめ道中記3(吹雪の夜に)』
 
250 :esk :2009/10/25(日) 23:16
無駄に設定を作ってしまいましたが、さてこれを今後活かせるかどうかw
251 :名無飼育さん :2009/10/29(木) 02:30
ヤジウメヤジウメ!

どんどん広がってますね。
続編がますます楽しみです><
252 :名無飼育さん :2009/10/29(木) 22:27
この話に救われました
ありがとう
253 :esk :2009/11/13(金) 23:42
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>251さま
色々考えてることはあるんですけどね……。
形にならなーいっ。

>>252さま
こちらこそありがとうございます。
254 : :2009/11/13(金) 23:43

『 秋の怪談 』
 
255 :秋の怪談 :2009/11/13(金) 23:49

「もう無理、ホンット無理!」
「もー、千聖ってばいまさら何言ってんの」
「だって無理だよ、あれ見てよっ」

千聖が指差した先には、いかにもそれらしき幽霊屋敷。
薄い森を挟んで裏側は新しい住宅街だというのに、なんだかここだけ妙に薄暗く
陰気な感じがする。
その崩れかけた屋敷の迫力に、舞もつかの間黙り込んでしまった。

「ほらっ、舞ちゃんだって怖いんじゃん。もう帰ろうよお」
「ち、違うって。これは、ほら、あれだよ、武者震いっ」

舞には霊力があり、いずれは悪霊ハンターになりたいと思っているが、今はまだどこの
師匠にもついていないので、自己鍛錬の日々である。
ということで、今日もこの屋敷に個人修行にやって来たのだ。
嫌がる千聖を無理やり引きずって。
 
256 :秋の怪談 :2009/11/13(金) 23:49

「そんなのどっかの事務所に飛び込んで無理やり弟子入りしちゃえばいいじゃんかあ」
「それがそうも行かなくなったんだってば」

少し前まではそれが当たり前だった。
しかし、数年前から悪徳ハンター事務所が幼い子供を安い給料でこき使う事件が
多発したため、最近になって法が定められた。
ということで、15歳以下は事務所に所属することができないのだ。

「う〜。やだあ、やだよお」
「もうっ、じゃあ千聖はここで待ってなよっ。舞ひとりで行って来るから!」
「ちょ、えええっ」

千聖の首は、ずんずんと屋敷に向かって歩いていく舞の背中と帰り道を何度も往復する。
そして。

「……ま、待ってよ〜っ」

ここで一人で待つなんてありえない。
かといって先に帰ってしまうほど……千聖は舞をほおっては置けないのだ。
しっかりしているようでまだどこか幼い、ひとつ年下の親友を。
 
257 :秋の怪談 :2009/11/13(金) 23:55



「っ……ぎゃああっ」
「その悲鳴はかわいくないなあ」

千聖の声に耳を押さえながら、舞はふらりと現れた霊を払う。
資料などを基に作った、舞お手製のお札だ。

「もうやだもうやだもうやだ」

ぶつぶつと耳元でつぶやく千聖にため息をつき、舞はちょっと不満げに
唇を尖らせながら屋敷の中を進んでいく。
思ったより霊の数は多いが、動きの鈍る昼間ということもあってか、
あまり手ごたえのあるものがいない。
これでは修行にならないではないか。

「ね、ねえ。舞ちゃん」
「うん?」
「あれは除霊しなくていいの?」
「え……ああ、あれはいい。人を襲うようなことないから」
「ふーん……」

千聖に腕を引っ張られ、通り過ぎかけた部屋を覗き込むと、窓辺に一体の霊が
たたずんでいた。
若い女の霊だと思われたが、それほど強い怨念は感じない。
たぶんしばらくしたら自然に成仏するだろう。
それを見送りながら舞は千聖の横顔をちらりとみやる。
 
258 :秋の怪談 :2009/11/13(金) 23:55

「千聖さー、やっぱり霊力あるんじゃないの?」

これは舞がいつも疑問に思っていたことだ。
千聖には確かに除霊能力はない。
何度かお札を使わせてみたことがあるから、それは確かだ。
しかし、霊視能力はかなり強いのではないかと舞はにらんでいる。
千聖は幽霊を必要以上に怖がる傾向があるが、それは常人よりもはっきりと
その姿を見ることができるからではないか、と。
今の霊だって、実は舞は弱すぎて気づかずに素通りしてしまったくらいなのだ。

「なななないよ。って言うかなくていいしっ」
「でもさー……あれ?」

あせる千聖になんと説得しようかと考え込んだ舞の視線がぴたりと止まる。

「な、何なになに?」
「あ、いや……この部屋、封印されてる……けど破られてる」

ドアノブに張られたお札はかなり古めかしく、黄ばんでいる。
しかしその破られた切り口は真新しく見えた。
 
259 :秋の怪談 :2009/11/13(金) 23:56

「なんだろ」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと! やめようよ! 封印されてたってことは
 すっごいのがいるってことでしょっ」
「破られてるってことはもういないってことかもじゃん」
「いたらどうすんの!」

千聖の尋常でない怖がり方に、舞もノブにかけた手を止めた。
そんな大物がいるのだろうか、この中に。
舞は扉越しに気配をうかがってみようとしたが、屋敷に満ち満ちている霊気で
よくわからなかった。

「ほら、行こう。ね、お願い!」

すがりつく千聖を舞はじっと見つめる。
物心ついたころから霊力を持っており、それゆえに周りからは将来有望と
ちやほやされてきた舞。
その自分が霊視能力で千聖に負けるというのは、少しばかり悔しくて。
ここには何もいないということを証明してやりたくなったのだ。
 
260 :秋の怪談 :2009/11/13(金) 23:56

「じゃあちょっとのぞくだけにする。千聖は入んなくていいよ」
「舞ちゃん!」

悲壮な声を上げる千聖の腕を振り払って、そっと扉を開いた。


その瞬間


「え……っ!?」


ふっと一瞬体が軽くなったような気がして、そのままいきなり部屋の中に吸い込まれた。
どしんとしもちをつくと同時に、ドアが派手な音を立てて閉まった。
慌てて立ち上がりドアノブに手を掛けたが、ぴくりともしない。

「な、なんで!?」

千聖が閉めた?
そんなはずはない。
どうして。
しかも、こんな事態におそらくドアの外で騒いでいるであろう千聖の声も聞こえない。
 
261 :秋の怪談 :2009/11/13(金) 23:56

「ごめん、そのドアはもう開かない」


「……え」

青くなる舞の傍らに、いつの間にかすらりとした人影が立っていた。

「封印甘かったね。ごめんね」
「どういう……って、舞美ちゃん!?」
「うん。舞ちゃん、これ持って」
「え、うん」

舞美に手渡されたのは、クリスタルのトップがついたネックレスだった。
舞美はそのまましゃがみこむと、すばやく床に簡易魔方陣を描く。

「この中にいたら大丈夫だから」
「あの、え、でも」
「いい? ここから絶対に出たらだめだからね!」

それは舞の見慣れたいつものふんわりとした優しげな笑顔ではなかった。
真剣に、そして少し青ざめた顔で、舞美は舞に念をおす。
気おされたように舞がうなずくと――舞美が壁際まで吹っ飛んだ。
 
262 :秋の怪談 :2009/11/13(金) 23:57

「――っ」

「いったあ……いきなり来たかあ」

舞美は肩をさすりながらのんびりと言うが、その手はすばやくお札を取り出し、
宙に向かって掲げる。

「破っ」

お札で増幅された霊力が襲い掛かってきた悪霊を打ち砕く。
その霊力は舞が目を見張るほど強力なものだった。
しかし、あとからあとから悪霊はわいて来る。
しかもその一体一体が舞が相手にしていたものと比べ物にならないくらい強い。
舞美は部屋の中を飛び回りながら、一人でその悪霊たちを退治していた。

矢島舞美は舞と千聖が通う学園の高等部生徒会長である。
才色兼備と何かと学園内でも有名人な舞美、しかも舞と千聖も中等部の
生徒会に入っているため、仲はいい。
なのに、これほどの霊力があるとはちらりとも聞いたことがなかった。

「破……ってもうこれじゃだめか!」

だんだん集まってくる悪霊が強力になってきて、舞美は手に持っていたお札を
腰に下げたバッグにしまうと、代わりに数枚の紙切れを取り出した。
 
263 :秋の怪談 :2009/11/13(金) 23:57

「行け!」

その一枚を宙に投げると、紙は流線型に姿を変え、悪霊に向かって鋭く飛んでいく。

(……式神!)

目をみはる舞の前で、式神はひときわ大きな悪霊を切り裂いた。
舞の足元に張った結界、何枚ものお札、それを使いこなす術、しかも式神まで。
間違いない。
舞美はプロの悪霊ハンターなのだ。

……が。
なかなか苦戦している。
とにかく数が多すぎる。
状況は非常に危険だった。

「う……っ」

何度目か悪霊に吹き飛ばされ、舞美がとうとうがくっとひざをついた。
すぐにまた立ち上がったが、限界が近いことは明らかだった。

「舞美ちゃんっ」
「舞ちゃん、だめ! こっちに来ちゃだめだよっ」
「でも……でもっ、舞のせいで舞美ちゃんが……っ」
 
264 :秋の怪談 :2009/11/13(金) 23:58

悪霊の瘴気が渦巻き、その中心に立つ舞美の長い髪を巻き上げる。
部屋の隅に立ちすくむ舞は、手の中のネックレスを握り締めた。
そして部屋の外に置いてきた千聖のことを思った。
千聖の言うことを聞いて、部屋に入らなければ良かったのだ。

あのとき、ちょうど舞美はこの封印された部屋に封印を破って入り、
新たな封印で部屋を封じ、仕事に当たろうとしていた。
しかし、まさにその封印の最中に舞によって扉をあけられてしまった。
不十分な封印が変に作用し、どうやら強い悪霊を呼び寄せる結果となってしまって
いるらしい。

舞美がそうと言ったわけではないが、舞にはなんとなくわかっていた。
しかも、一番初めに持たされたクリスタルのネックレス。
ぎゅっと握り締める舞の手の中で温かくなり始めていた。
クリスタルが霊力を増幅させることは知っている。
つまり、舞美は今これがないから悪霊に苦戦しているのだ。

これを手渡せば舞美は。
しかし、これを手放せば自分は……。
 
265 :秋の怪談 :2009/11/13(金) 23:58

「うあっ」

どかっ

派手な物音に、はっと顔を上げると、舞の視界に舞美がいなかった。
驚いて見回すと、舞美は壁際に崩れるようにうずくまっている。
また悪霊に弾き飛ばされたのだ。
そしてその舞美の頭上を、ひときわ大きくまがまがしい悪霊が
覆いかぶさろうとしていた。

「ま、舞美ちゃん!!」
「だい……じょぶ」
「全然大丈夫じゃないよ!」

舞美をしかりつけるように怒鳴ったが、舞の心臓もばくばくと鳴り、
体はがたがたと震えた。
クリスタルのおかげで近寄れずにいるが、舞のまわりにも悪霊は満ち満ちている。
それはたとえ一体であっても、舞が相手にできるような代物ではなかった。

しかし、ためらっている暇はなかった。
意を決した舞は、クリスタルを舞美に向かって投げようと手を振りかぶる。
 
266 :秋の怪談 :2009/11/13(金) 23:59

ばんっ


「え――」
「舞美!!」
「……っ?」

その舞の腕が意思とは逆方向に引っ張られる。
驚いて振り返った舞の視界を、ひょろ長い人影がふっ飛んで行った。

(……誰?)

その人影が気になって、一瞬気を抜いたのがいけなかった。
舞の体は引っ張られた方向に向かってどんどん傾いていく。

(やばっ)


バシィッ
 
267 :秋の怪談 :2009/11/13(金) 23:59

「――っ」

転んだ瞬間に聞こえた派手な音に、舞は襲い来る激痛を覚悟したが、
襲ってきたのはおしりのあたりのじわじわとした痛みのみ。

(音のわりにたいしたことなかった……?)


「 えりっ 」


おしりをさすりつつ体を起こした、舞の耳に聞こえてきたのは舞美の悲痛な叫び声。
そうだ、早く舞美にクリスタルを。
そう思って顔を上げた、その先に見た光景に舞は息を呑んだ。

ぺたんと座り込み、呆然としている舞美。
舞美の膝元に倒れている、細長い人影。
そして、部屋の中にあれだけ渦巻いていた悪霊はかけらもいなくなっていた。
 
268 :秋の怪談 :2009/11/14(土) 00:00

「ま、舞ちゃん……」

さらに、舞の傍らには青い顔をした千聖が立っている。
なぜ。
ぼんやりと振り返ると、開かないはずのドアが開いていた。
今、舞の傍らを走り抜けた人物が、無理やりこじ開けたのだろうか。

千聖に促されるように手を握られ、舞はさっきまでよりもガランとした
気がする部屋を、ゆっくりと横切る。

触れるほどそばまで近づいたが、舞美は二人の気配に気がつかないようだった。
声を掛けるのもためらわれ、舞は黙って舞美の前に横たわる血にまみれた
人物を覗き込み、大きく目を見開いた。
それは、高等部の副会長、梅田えりかだった。

どうして、えりかが。

部屋の中に満ち満ちていた悪霊が全て払われていたということは、
えりかも悪霊ハンターだったということなのだろう。
そしてその身と引き換えに、全ての悪霊を払ったのだということも予想できた。
 
269 :秋の怪談 :2009/11/14(土) 00:01

分からないのは、なぜえりかが身を挺してまでして舞美を助けたか、だ。


舞が見てきた舞美とえりかは、特に険悪だというわけでもないがいつも
なんとなくよそよそしくてあまり目もあわさないでいた。
生徒会の仕事上必要な話はするが、その会話も徹底して事務的で、
えりかも舞美もお互い以外には人懐っこく親しみやすい性格をしているだけに、
またそのよそよそしさが際立っていた。

舞も千聖も、二人のどちらも大好きだったので、なんとか二人を仲良く
させようと努力していたのだが、その努力はいつも空回りだった。
……はず、なのだが。
それならこの光景は何だ。

『舞美』?
『えり』?

呼び合う声が耳に繰り返される。
しかし、その呼び名の意味を思い巡らせるには、今は目の間の光景が
舞にとって残酷すぎた。

大好きなえりかが、映画なんかでしか見たこともないような大怪我を
負っていて、しかもその原因が少なからず自分にある。
耐え難い後悔に心臓が震えた。
 
270 :秋の怪談 :2009/11/14(土) 00:01

「えりかちゃん……」

千聖の呆然としたつぶやきに、舞はぴくりとも動かないえりかの傍らに
ゆっくりとひざをついた。

「……かはっ」

すると、千聖の声にこたえるように、えりかが小さくむせた。
しかしその口の端からも血がにじみ出ている。
舞はその口元を拭おうと思わず手を差し出した。
しかし、その手が届く前に、舞美がえりかの体をさっと抱き上げた。

「えり、えりっ、……えりっ」

やっと我に返ったのか、呆然としていた舞美は今度は火がついたように
えりかの名前を呼び続ける。
その声に、固く閉じられていたえりかのまぶたがかすかに開き、
弱弱しい視線が舞美を捕らえる。
千聖が舞の手をぎゅっと握り締めた。

「は……まいみ、大丈夫?」
「あたしは……っ」
 
271 :秋の怪談 :2009/11/14(土) 00:02

舞美の体も傷だらけだった。
軽傷とは言えないものも多数ある。
だがそれは、えりかほど命にかかわるものではない。

舞美のひざの上に抱き寄せられたまま、えりかが舞美を見上げる。
その視線は弱弱しいが、存分に幸せそうだった。

「舞美が……だいじょぶ、なら……それでいい」

えりかの瞳は、にい、と笑み見せ、そのままゆっくりと閉じられる。

「……えり? えり……えりっ」


舞美が呼ぶ声に、えりかが答えることはなかった。



「えりっ!!」

 
272 :秋の怪談 :2009/11/14(土) 00:03



「ま、舞美ちゃん……」

どれくらいの時間がたっただろう。
舞の呼びかけに、舞美はやっとぴくりと肩を揺らした。

「あの、舞、あのね……」
「舞ちゃん」
「う、うん」
「ごめん。クリスタル、いいかな。もう悪霊は払われたから」
「あ、うん。もちろん!」

握り締めたままだったクリスタルのネックレスを、差し出された手の上に落とす。
細いチェーンがしゃらりと音を立てて舞美の手のひらでとぐろを巻く。
それをじっと見つめ、舞美はふっと顔をあげた。
舞に話しかけようとして、その傍らに立つ千聖に気づく。

「あれ、ちさもいたんだ」
「う、うん」
「そっか。じゃあ二人にお願いがあるんだけどいいかな」
「うん。何?」

えりかを抱き上げたまま、舞美は片手でポケットを探ると携帯を取り出した。
それを差し出された舞の手に乗せる。
 
273 :秋の怪談 :2009/11/14(土) 00:03

「メモリーに『中澤さん』って名前があるから、電話してほしいの」
「ナカザワさん、ね。わかった。なんて?」
「矢島がヘマしたからすぐに来て欲しいって。場所は知ってるはずだから」
「う……うん」

慌てて携帯を開く舞を、舞美は手で制した。

「ここ、圏外だから。表の道路くらいまで行ったら通じると思う」
「そ、そうなんだ」

淡々と話す舞美は、なんだか知らない人みたいで、舞は少し怖いと思った。
だけどそれは、舞美が怖かったのではなく、舞美の真剣さが怖かったのだろう。

「できるだけ早く来てって、言ってくれる?」
「……わかった」
 
274 :秋の怪談 :2009/11/14(土) 00:03

こくりとうなずいた舞と千聖が廊下を走る、その足音を舞美はうつろな
気持ちで聞いていた。

「えり……」

答える声はない。
腕の中のえりかは、呼吸さえ、浅く、弱い。
日が暮れ始めた薄暗い部屋では、舞美にはえりかの顔色も怪我の具合もわからなかった。
だが、霊力のダメージは手に取るように分かる。

舞に呼んでもらった中澤は強力な癒しの霊力を持っているが、
おそらくえりかは中澤がここにたどり着くまでもたないだろう。

だから、自分でやらなければならない。
禁じ手ともされている癒しの術。
黄泉路に迷いかけた命を呼び戻す、それは癒しというよりも悪霊の業に近い。
術者自身も霊力をごっそり失うため、時にはその命にもかかわると言われている。
しかも舞美はその術を会得しているわけではない。
知識として知っているに過ぎないのだ。
 
275 :秋の怪談 :2009/11/14(土) 00:04

だが、舞美にためらいはなかった。
えりかの体をそっと床に横たえると、腰に差していた清めのナイフを
すらりと抜く。
そして当たり前のようにその腕の柔らかいあたりにナイフの刃を走らせた。
すぐに滴りはじめる鮮血を、ナイフの刃に両面たっぷりと塗りつける。
次に舞美は、自分の長い髪をぐっとつかんで引き寄せた。
そして、真っ赤に染めたナイフを当てる。


『舞美の髪って、綺麗』
『えー、そう?』

うっとりとそう言って、髪をすく、その指先が心地よくて。

『あたしも髪切ろうかなー』
『だめだよっ。舞美の髪は長くないと!』

必死に止める姿がうれしくて、冗談めかして何度も繰り返した。
 
276 :秋の怪談 :2009/11/14(土) 00:04

「勝手に切っちゃったってわかったら、怒られるかな」


くすっと、小さく笑い、ナイフを持つ手にぐっと力を込める。
良く研がれたナイフは抵抗もなく髪束を切り裂いていく。

自分の体から切り取った、手に余るほどのたっぷりとした長い髪。
気を抜くとさらさらと手の中からこぼれだしてしまう。
舞に返してもらったクリスタルのネックレスで、切った髪を素早く束ね、
えりかの胸元にそっと乗せた。


「えり」



舞美は大きく息を吸い込んだ。

 
277 :秋の怪談 :2009/11/14(土) 00:05

 
278 :秋の怪談 :2009/11/14(土) 00:05


「あああ……舞美の髪が……」
「えー、でも短くてもかわいいでしょ? とか言ってー」
「そりゃ舞美は何しててもかわいいけど……ああ、髪……」

後ろから抱きついたまま、短くなった舞美の髪に頬ずりをするえりか。
その隣で舞と千聖は大きくため息をついた。


あの日、えりかを癒すために霊力を使い果たした舞美と、
舞美によりなんとか一命は取り留めたもののまだ危険な状態だったえりかは、
駆けつけた『中澤さん』によって応急手当を受け、すぐに霊力専門の病院に
運ばれ、そのまま二人仲良く二週間の入院となった。

舞美とえりかは数ヶ月前に悪霊ハンターとしての資格試験には受かったものの、
今はまだまだ修行中の身で、中澤はその所属事務所の所長ということだった。
一週間の入院中、仕事中に一般人を巻き込んだということで、
二人は中澤にこってりとしかられた。
 
279 :秋の怪談 :2009/11/14(土) 00:06

中澤事務所では『仕事は一般人に気取られずにすますこと』を美学としており、
そのために所員たちは霊力があることを普段からひた隠しにしている。
舞美とえりかが学校では他人のフリをしているのも中澤の命だった。
舞などは、学校でしゃべるくらいいいのでは、と思ったが、つい気を抜いて
仕事のことを話してしまうかもしれないから、ということらしい。

というよりも、どうも中澤は『凡人のように見せかけて実はプロハンター』とか
『仲が悪いように見せかけて実は恋人同士』とかの設定が好きらしい。
まあ、そんなことはどうでもいいのだが。
問題は、ここだ。


『実は恋人同士』


学校では徹底していた他人のフリも、
秘密を知られてしまった舞と千聖の前ではもうしなくてよくなった。
それは舞美とえりかにとってとても幸せなことだった。
そして、舞と千聖にしてもても、ずっと二人に仲良くしてほしいと思って
いたのだから、良いことである……はずなのだが。
 
280 :秋の怪談 :2009/11/14(土) 00:07

「あ、ところでえり、今日さ……」
「なになに?」
「えっとー……えへへ」
「なに、舞美ってば急に笑っちゃって」
「えー、だってえり近いんだもんー」
「嫌なのお?」
「嫌じゃないけどお……」

ねえお二人さん。
ここってば生徒会室なんですよ。
今ってばお仕事中なんですよ。
千聖と舞はまじめにお仕事してるわけなんですよ。
(ちなみにこの学園の生徒会室は中高共用である)

舞がちらりと視線をやると、千聖もいい加減うんざりしたような顔で頭を抱えている。
 
281 :秋の怪談 :2009/11/14(土) 00:08

高等部は今日試験だったので、他の役員はいない。
中等部生徒会長は『今回こそパパの優勝する瞬間を見に行くんだ!』と、
ここのところ学校に出てこない。
ということで狭い部屋に四人だけになってしまった時点で、舞と千聖は嫌な予感がしていた。
それががっつり当たってしまってこの有様だ。

「千聖……もう帰ろうか」
「そ、そうだね……」

秋は学校行事も多いから、生徒会の仕事は結構忙しい。
本当なら今日中に片付けてしまいたい書類があったのだが。

「……舞美ちゃん、えりかちゃん。舞たちもう帰るね?」
「……戸締りちゃんとしてよ?」


「あ、やだもー、えりってばー」
「だって舞美がかわいすぎるからさあ」
「もーっ」


バカップルの相手をするくらいなら悪霊のほうがいくらかマシだ。

舞は真剣にそう思った。

 
282 :名無飼育さん :2009/11/14(土) 00:09

『 秋の怪談 』   終わり
 
283 :esk :2009/11/14(土) 00:10
ちょっと説明的すぎましたかね……
284 :名無飼育さん :2009/11/14(土) 06:38
中澤さんと気が合いそうwそんな設定大好きです!
だから知られる前のときのもちょっと読んでみたいと思いました
285 :名無飼育さん :2009/11/19(木) 16:16
ここまでバカップルな二人は初めて見た気がしますw
こういう設定が好きなのでもっと読みたいです
286 :名無し飼育 :2009/11/19(木) 21:49
全作品いっき読みさせてもらいました
ばかっぽーやじうめが素敵すぎます砂糖より甘いやじうめ達これからも待ってます
287 :名無飼育さん :2009/11/20(金) 11:10
更新乙です!

いやー色んな意味でドキドキでしたww
舞美が髪を切るシーンは現実とリンクしていて上手いなぁと思ったり、なんだかんだで仲が良いちさまいはニヤニヤしました(*´エ`*)
もちろんやじうめもですw

パパっ子な愛理可愛いv
続きがあるのなら読みたい作品です!
288 :esk :2010/03/16(火) 23:34
読んで下さった方、ありがとうございます。

>>284さま
私も知られる前から書いたほうが面白いだろうなと思っていたのですが……
難しくて私には無理でしたww

>>285さま
ツンケンした二人→バカップルな二人のギャップを楽しむ話のはずだったんですけど、
上記の理由でただのバカップルにw

>>286さま
ありがとうございますっ。
私もばかっぽくて甘い話が書いていて一番楽しいのです。

>>287さま
まさしく断髪ネタで思いついた話でした。
続きとかそれ以前とか書きたいんですけどなんか設定がしっかりしてなくって難しいww
そのうち書くかもですー。


そうそう。上の話の世界観(悪霊の世間認識とか霊能力者の社会的地位とか)は
某ボディコン霊能力者マンガのものを流用しています。
――と、話を始める前に書いていればもう少しわかりやすかったかもですねw


大して中身のない話。
>>113-172『風を使う』の続きです。
キャプテンがかっこよければそれでよいと思います。
289 : :2010/03/16(火) 23:35

『 風を使う2(砂漠のマーケット) 』
 
290 :風を使う2(砂漠のマーケット) :2010/03/16(火) 23:36

「おじさーん。それとそれと、あっちのも」

「おうよ、ぼうず。もってきな」
「……どうも」
「ぼうず、親父さんはいるのか」
「あー……あっちにいる」
「はぐれるなよ」

まだ声変わりもしていない小柄な少年に大きな紙袋を押し付け、
生鮮食品を商う店主は心配そうにその太い眉をひそめる。
少年はもう一度「どうも」とだけつぶやいて店を離れた。
愛想のないガキだなと思ったが、
なんとなく気になってその後姿を見送った。
目元しか見えなかったが、やわらかく垂れた目と張りのある肌。
こんなところにいるべきではない綺麗な少年だった。

「おやじー」
「あー、はいはい」

人買いに捕まらなければいい。
続々とやってくる客をさばきながら、店主はそう願った。

 
291 :風を使う2(砂漠のマーケット) :2010/03/16(火) 23:37

ごつごつと膨らんだ紙袋を抱え、
少年――ではなく、佐紀は憮然と頬を膨らませる。

砂漠地帯の闇市。
旧市街に面した大通りに定期的に開かれる大掛かりなものだが、
そこはやはり闇市。
砂埃の舞う通りには、傷だらけの丸太のような腕をむき出しにした男や、
抜け目ない目を走らせる商人風の男などが行きかう。

そん中を、佐紀はフードを目深にかぶり口元も軽く布で覆い、
早足に歩く。
それは防塵のためでもあったが、
このようなところで少女であることをさらすのは
得策ではないという理由もあった。
だから店主が佐紀を少年に見間違えたところで、それは狙い通り、
文句を言われる筋合いはない。
それにしてもなんの迷いもなくぼうずと言われるのは、
佐紀としては素直には納得しがたいものがあった。
 
292 :風を使う2(砂漠のマーケット) :2010/03/16(火) 23:39

「もーらい」
「ちょっと、みやっ」

憮然と歩く佐紀の肩越しに細い腕が伸びてきて、
紙袋から真っ赤なりんごをひとつ掻っ攫う。
船で待つみんなへの大事な食料だ。
とどめようとした佐紀にいたずらっぽく笑うと、
雅はすでにしゃりしゃりと小気味良い音を立ててりんごにかじりついていた。

「ったくぅ」
「役得役得」

佐紀と同じように口元を覆っていたはずの布も、当然用をなしていない。
すれ違った商人風の親父がじろじろとこちらを見ている。
佐紀はちいさくため息をついた。
自分なら少年ですむが、雅は目元だけでも少女であることがばれてしまう。
だから後ろに控えさせておいたのに、これでは意味がない。
もう一言くらい文句を言ってやろうと佐紀が顔を上げると、
雅はぼんやりと行く先にある路地を見ていた。
 
293 :風を使う2(砂漠のマーケット) :2010/03/16(火) 23:40

 ……だって……だろ

 なあ……


雅の視線を追って意識を向けると耳に飛び込んできた品のない笑い声に、
佐紀はピクリと片眉を吊り上げる。
その視線の先で、数人の男たちが輪になっている。
何がどうなっているか、瞬時に想像がつく。
しかし佐紀は興味なさ気にそのまま足を進めた。

「ねえ、キャプテン。あれ……」
「自業自得。行くよ」
「うん……だけど、あの子……」

輪の真ん中にどんな人物がいるかはわからない。
それがか弱い少女であった場合、正義のヒーローでも現れない限り、
この後の運命は決まったようなものである。
しかし、それはその少女の責任である。
闇市なんかに来て無防備にしている方が悪い。
そんなものに首を突っ込んで面倒に巻き込まれるなんてごめんだ。
まだそちらを気にしている雅を促して、
佐紀は足早にその場を通り過ぎようとした。

――が。
 
294 :風を使う2(砂漠のマーケット) :2010/03/16(火) 23:41

「や……やめて下さい!」

輪の中心にいた人物のものであろう声が聞こえた瞬間、
佐紀の足取りがぴたりと止まる。

「かあわいい声しちゃって、なあ」
「一緒に来いよ」
「ヤですってばっ」

二度目。
聞こえた声に佐紀の反応は早かった。

「え、ちょ」

雅の手から食べかけのりんごを奪い取り、代わりに紙袋を押し付ける。
そのままの流れで力いっぱいりんごを輪の中に投げ込んだ。
 
295 :風を使う2(砂漠のマーケット) :2010/03/16(火) 23:43

「……っ!?」

髪の長い少女の細い腕をつかんでいた男の横顔に命中したりんごが派手に砕け散る。
りんごとは言え、その勢いで投げつけられれば結構痛い。
しかもぶつかった部分がぬれているのだからそりゃあ、焦る。
男は少女を突き飛ばすように離すと、
狂ったようにせわしなく顔を拭っている。

それを含め、男は三人。
どれもかなりいいガタイをしている。
ち、と佐紀は舌を鳴らした。
今の佐紀は闇市のエチケットとして、武器は何一つ持っていない。

「あ? 何だ?」

のったりと振り返った別の男の懐に、
すでに佐紀の小さな体は滑り込んでいた。
踏み出した軸足を強く踏みしめ両手を組むと、
膝の横っ面に力いっぱい叩き込む。

「い……っ」

男ががくりと体を折りたたむ。
そのひざをもう一度きつく蹴り上げると、
男は声も上げずに砂の上に転がった。
 
296 :風を使う2(砂漠のマーケット) :2010/03/16(火) 23:45

「ガキがっ」

それを見て、残った男が顔をしかめながら佐紀に手を伸ばす。
その下をかいくぐるように体を沈めると、佐紀は両手に砂をつかみ、
男ともう一人りんごを食らった男の目に向かって投げつける。

「なっ、てめえっ」

顔を手で拭いながらひるんだ男のつま先を強く踏みつけ、
逆足のすねを蹴り上げる。
すると男は簡単に体をかしげ、
その向こうにいたりんごの男を巻き込んで砂に倒れた。


突然の展開について行くことができず、
突き飛ばされてしりもちをついていた少女は呆然と佐紀を見上げた。

「キャプ、テン……?」
「あんたのキャプテンじゃないけどね」

苦笑交じりに突き出された小さな手。
少女は砂の上からおずおずとその手をつかんだ。
とたんにぐいっと強く引き上げられ、
佐紀を見上げていた少女の視線は佐紀を追い越して見下ろす。
 
297 :風を使う2(砂漠のマーケット) :2010/03/16(火) 23:45

「行くよっ」
「う、うん……」

信じられないといった風に小さくうなずく少女の手を佐紀は強く引く。
しかしその少女が、はっと佐紀の後ろに目をやったその仕草に、
佐紀は迷いなく体を低くして振り返りながらあとずさる。
その目前に男の腕が伸びていた。
りんごの男だ。
まずい。
そう思った佐紀の視線の上を、ふわりと砂色の布が舞った。

「ぐ……っ」

雅の蹴りが男のわき腹に入っていた。

「ナイス、みや!」


男が倒れこむよりも早く、佐紀は少女の手を引いて走り出した。

 
298 :風を使う2(砂漠のマーケット) :2010/03/16(火) 23:49


たまにぼんやりと虫干しされているご老公などを蹴散らしながら、
縦横に走る旧市街の裏路地を三人は速度を緩めずに走り抜ける。

「も、もう走れない……っ」
「はあっ? この軟弱者!!」

少女が限界を訴える。
雅を振り返ると、少女ほどではないがこちらもそろそろきつそうだ。
(トレーニングメニュー増やしてやる!)
佐紀にギロリとにらみつけられるが、
押し付けられた大きな紙袋を抱えたまま走っているのだから、
その辺は考慮してほしいと雅としては思う。

「だ、だって……もうっ」
「わかったっ。もうちょっとがんばれっ」

男たちが追ってくる気配はまだ感じる。
思った以上のしつこさに、佐紀は走るルートを変えた。
路地に入って巻いてしまおうと思っていたのだが、
土地勘のある奴らだったようでなかなか振り切れない。

(それならそれで好都合っ)
 
299 :風を使う2(砂漠のマーケット) :2010/03/17(水) 00:01

小さな商店が点在する路地に出ると、古めかしい雑貨屋が見えた。
明らかにもう営業していない風なその店のドアノブを、
佐紀は迷いなくひねる。

「みやっ」

絶え絶えに呼吸している少女を押し込み、
後からかけてきた雅の腕をとってを引っぱりこむ。
へたり込む二人を尻目に、佐紀は汚れた小さな窓から外をうかがう。
案の定、男たちも路地に駆け込んできた。

佐紀たちがどこかの店に駆け込んだと察し、いくつかのドアを手荒に開けている。
しかし、その視線が佐紀たちが駆け込んだ店に向けられたとき、
一番大柄な男が顔をゆがめ、仲間に耳打ちをした。
仲間たちも急に落ち着きをなくしてきょろきょろとあたりを見回している。
ここがどこかわかってくれたようだ。


 ……あんな上玉

 よせよ。命が惜しくないのか……


男たちの声が遠ざかると、佐紀もほっと息をつき、
もう用を成さないくらいにずれていたフードをそっとはずした。
 
300 :風を使う2(砂漠のマーケット) :2010/03/17(水) 00:02

「みや、大丈夫?」
「まあ、なんとかね」

雅は、まだ苦しそうではあるがのそりと立ち上がると、
まとっていたケープのほこりをばさりとはらった。
少し不機嫌そうなその横顔から、佐紀はゆっくりと視線を滑らせる。
髪の長い少女は、べったりと床に座り込んだまま
まだ立ち上がることもできないようだった。


「……愛理は」


佐紀は少しのためらいを残しつつ、その名を呼ぶ。
やや間を持って、少女――愛理はうつむけていた顔を上げると
返事の変わりに弱弱しく笑ってみせる。
その頼りない表情に佐紀は苦い思いを思い出す。
 

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