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JUNK!(B℃)

1 :esk :2009/04/13(月) 22:30

・どうでもいい小ネタ集
・ベリキュー中心

言い訳は、計算が合えば >>18 合わなければその前後
 
2 : :2009/04/13(月) 22:31

『 やじうめ道中記 』
 
3 :やじうめ道中記 :2009/04/13(月) 22:31


カチャカチャカチャ


  ……タン

  タタタタタ

  ガキが……やがって


カチャカチャ
カチャ
 
4 :やじうめ道中記 :2009/04/13(月) 22:32

カチャンッ

ま、こんなもんかな。
愛用端末(豹柄ペイント)のスクリーンに『データ受信中』が表示されたのを確認して、
古臭い端末が据えてある机を離れた。
んーと背伸びをして見回した部屋は、いかにも荒くれた男たちの住処らしく、
むさくるしく散らかっている。
しかもなんか臭いし。あーやだやだ。
いただくものいただいて、こんな部屋さっさと出て行こう。
まず向かうのは部屋の隅の重厚なロッカー。
弾とエネルギーパックと、ライフルのかっこいいヤツもあったら欲しんだよね。
あとは水と保存食とー、チョコないかな、チョコ。


  ふざけ……ぐぁっ

  てめぇっ

  タタタ
 
5 :やじうめ道中記 :2009/04/13(月) 22:32

部屋を横切りながら窓の外に目を向けると、舞美と二人の男まではずいぶん遠い。
うちがここにいるから舞美が遠くまで誘導してくれたんだろうけど。
その距離からでも長い髪が風に舞い上がるのが見えた。

どうも舞美には『風になびく黒髪』というシチュエーションにこだわりがあるみたいで、
砂漠地帯の銃撃戦でも髪をまとめるようなことはしない。
その姿はそりゃあもう、ため息が出るくらいに綺麗だけど、やっぱ邪魔だよね。
それでも譲らないあたりが意外とナルシスト――。


  タタタ

  タ――


ガシャン!!

「っ!?」
 
6 :やじうめ道中記 :2009/04/13(月) 22:34

ぼんやりと立っていた位置からそれほど遠くない窓ガラスが、前触れもなく飛び散った。
反射的に銃を抜いて壁際のテーブルの下に滑り込む。
息を詰めて部屋の中、外と順に様子を伺う。
流れ弾……だよね?
まさか舞美に聞こえた? なわけない。大体口に出してない。
そっとテーブルの下から這い出して恐る恐る窓の外を覗き見ると、
すごい形相でこっちに向かって疾走してくる舞美が見えた。


  タタタタ


足はこちらに向きながらも、振り返りざまに放った正確な弾道に、最後の一人が倒れた。
オールクリア。
お疲れ様。
肩の力を抜いて銃を腰のホルスター(豹柄)にしまい、
ギザギザと痛そうにガラスの残った窓枠に注意深く手をかけて、横に引いた。
割れたガラスがサッシに挟まって、少し開けにくい。
 
7 :やじうめ道中記 :2009/04/13(月) 22:34

「えり!!」

苦労しながら窓を開けていると聞こえてきた声に、顔を上げる。
あっという間に近づいてきていた舞美に、
文句の一つでも言ってやろうと窓から体を乗り出――さないっ。

「ごめん! 大丈夫!?」

直感でとっさに体をひくと、舞美がひらりと窓枠を超えて部屋に飛び込んできた。
ブーツの底で、ガラスの破片がばきばきと音をたてる。
愛用のサブマシンガンを投げ捨て、がつんと抱きついてべたべたとうちの顔を触る。
怪我がないことを確認すると、そのまま良かったあ〜としなだれかかってきた。
っていうか気になるのは顔だけですか。
苦笑混じりに少し乱れた髪を手ぐしですいてやりながら、ちらりと外を見下ろすと、
地面から窓枠までの距離はうちの肩くらいはありそう。
その高さを片手を軽くかけただけで飛び込んでくるんだから、どんな運動神経してんだか。
 
8 :やじうめ道中記 :2009/04/13(月) 22:35


新しい土地に入って、うちらは少し困っていた。
事前に入手していた土地データが古いものだったらしくて(売りつけたオヤジ
次会ったら蜂の巣決定)、目的地の町までのルートはことごとく役に立たなかった。
まばらに草木が生えるだけの砂漠地帯は、ただでさえルートを定めるのが難しいのに。
最新の土地データ、迷って消費したジープの燃料、もっと言えば水・食料。
緊急、とは言わないけど、出来れば早めに入手したい。

そんなとき、少し大きな道沿いに見つけた汚い燃料屋。
ガソリンを売るのが元の目的だけど、こういう店では、飲食物・武器弾薬・生活用品から、
周囲の地理的・人的データまである程度は手に入る。
程度は交渉人の腕次第。

今のうちらには救いの神のようで、だけど、手放しには喜べなかった。
町から遠いこんなところで燃料屋やってるのって、大抵ヤバイ組織がらみ。
普段ならかかわらないようにしてきたけど、今回ばかりは仕方なかった。
 
9 :やじうめ道中記 :2009/04/13(月) 22:35

気乗りしないまま扉を開くと、出てきた三人の男は案の定、
というかそれ以上にロクでもないやつらだった。

卑下た笑いで品のない言葉を繰り返すだけで、こっちの要求を聞きもしない。
女二人で旅をしていると、こういうことは慣れっこだったんだけど、
一人が無視し続ける舞美の髪を引っ張った瞬間、舞美がキレた。

そうなった舞美はもう誰にも止められない。
うちはため息をつきつつ、とりあえず店内から欲しいものをピックアップすることにした。
もしも誰か一人でも生き残ったらちゃんとお金払う気もあるし。

でも少しだけあった、ちょっと気の毒かなという気持ちは、
改めて眺めた店内の『商品』や端末に残っていた情報であっという間に失せた。
ジゴウジトク。
インガオウホウ。
サヨウナラ。
 
10 :やじうめ道中記 :2009/04/13(月) 22:36

 
11 :やじうめ道中記 :2009/04/13(月) 22:36

「お。舞美、今この先にキャラバン張ってるよ」
「ホント!? 行きたい行きたいっ」

舞美の運転するジープに揺られながら、
さっきいただいてきたこの周辺のデータを確認していたら、キャラバンの設営情報が出てきた。
隊商コードは『Yosizawa』。
このあたりの土地に入ってから時々聞こえてきた名前だ。
隊商自体の人数は少ないけど、その信頼性の高さのおかげか、
キャラバンを張ると集まってくる行商人の質も量も良く、なかなかの賑わい見せるという話。
チャンスがあれば行ってみたいと思ってたんだよね。

カチャカチャカチャ

「あー、でもまずいかも」
「どうしたの?」

これもいただいてきた地形の詳細データを重ねると、
キャラバンまでの道のりに広範囲のブッシュ地帯が広がっている。
迂回路の距離を割り出すと、やっぱりかなりの遠回りになるみたい。
これなら素直に元の目的地だった町を目指した方がいいかな。
 
12 :やじうめ道中記 :2009/04/13(月) 22:36

「ブッシュなんかガーッと突っ切っちゃえばいいじゃん」
「故障でもしたらしゃれになんないでしょ」

ただでさえ舞美の運転は荒っぽい、というか雑。
少々のブッシュは本気で乗り上げて突っ切りそうだから、正直行かせたくない。
長い旅を共にしているジープちゃん。
運転手の性質を別にしても、少々くたびれてきているのも事実。

迂回路を通ってキャラバンへ。今からなら着くのは深夜になりそう。
一晩泊まって、明日の朝そこから町へ。
今ここからまっすぐ町へ向かい、どこかで夜を明かしてまた町を目指す。
その時間差をトータルフロートから差し引き……。
う〜ん。

「えー、別に一泊したら良くない?」
「それはちょっとねー」

先日捕らえた獣肉の鮮度を考えると、あまり時間の猶予はない。
獣肉はキャラバンより町で売った方が感謝される。
イコール、そのあとのイロイロがやりやすい。
 
13 :やじうめ道中記 :2009/04/13(月) 22:37

「お風呂入りたい〜、ベッドで寝たい〜」

ハンドルを握ったままがたがたと体をゆする舞美。
それにあわせてジープもがたがたと揺れる。
まあ、舞美の気持ちもわかるけどさ。
ここのところ移動ばっかりで、一応なんとか水を確保して体や髪は拭いてるけど、
やっぱりちゃんと湯船につかりたい。せめてガーッとシャワー!
水辺がある辺りはよかったなあ……。
でも宿代だってキャラバンではずいぶん高くついちゃうし。
食事だって同じ。

かちゃかちゃと頭の中で進む演算はすでに一方の答えに傾いていた。
ま、しょうがない。
お風呂は町に着くまで我慢、我慢。
うん、と一つうなづいたとき。

「まい――?」

うちのむき出しの腕を、舞美のしなやかな指先がつうっとなぞりあがる。
肩先までなぞった後、流れるような軌跡をたどって、うちのあごをくっと押し上げた。
戸惑いながら少し下を見下ろすと、三日月のように細められた目がうちを見上げてくる。
 
14 :やじうめ道中記 :2009/04/13(月) 22:37


「えりだってぇ……ベッドでする方がイイでしょ? とか言ってー」


思わずごくりとつばを飲み込んでしまって、まずい反応を返したと思ったけどもう遅い。
そんなうちを見て、舞美はえへって照れたような上目遣いをしてみせる。
でもそんなの絶対計算だし。そういう女だし。騙されないし。

「……前見て運転しなよ」
「はーい♪」

すぐに思いっきり顔をしかめて見せたのに、舞美は返事の声を跳ね上げた。
上機嫌に鼻歌まで歌いだす。
全く。何考えてんだか。
ここまで答え出てるんだから、行くわけないじゃん。
 
15 :やじうめ道中記 :2009/04/13(月) 22:38

………。
……あー。でも、そうそう。
さっき手に入れた銃のカスタマイズ、したいんだよね。
売り払いたいものもあるしさー。
有名な隊商だから、顔をつないでおくのも大事だし。
それにそう、情報。キャラバンの情報網はバカにできないんだよ!

…………。

「まあ……舞美がどうしてもって言うんなら行ってもいい、かな?」
「どうしても!」
満面の笑みは真夏の太陽のようにやたらめったらまぶしくて、ちょっと恥ずかしくなった。
こっちの心の中まで見透かされているような……ってでも、
その笑顔自体が、無邪気なようで100%邪気で出来ているわけで。
得だよね、こういう顔の人はさ。
うちなんかなんも考えてないのに目がエロいとか言われるのにさ。
 
16 :やじうめ道中記 :2009/04/13(月) 22:38

「……じゃあ、3ポイント西に向けて」
「お〜ぅらいっ」
ぐうっと切られたハンドルにしたがって、ジープが車体を傾ける。
固定テーブルに載せていた端末が滑り落ちそうになって、慌てて腕で受け止めた。

「3ポイントでいいっつってじゃん!」
「えー、加減難しい〜」
「何年この車乗ってんのよ!」
「えりってば、おこっちゃやだ〜」
「……っ、も、いいから進路戻して……」

 
17 : :2009/04/13(月) 22:39

『 やじうめ道中記 』   終わり
 
18 :esk :2009/04/13(月) 22:40
まずは言い訳を。
この板内に良く似たタイトルのスレがありますが、同じ作者です。
『キッズは出ません』と明言してしまったのに、やじうめ妄想がむくむくと……。
今後それを全部あちらに出すのもどうかと、別スレにさせていただくことにしました。
B℃はこちら、それ以外はあちら、同時登場はメインの方へ出したいと思います。
スレ乱立で申し訳ないとは思うのですが、地味に細々やって行きますので、
見逃していただけると嬉しいです。

今のところ手元にはやじうめしかありません。
今後はわからない……と幅をもたせておきますが、どうかなー。
19 :名無飼育さん :2009/04/16(木) 23:31
初っ端から続きを読みたい作品が。
こちらも楽しみにしています。
20 :名無飼育さん :2009/04/19(日) 19:39
やじうめ♪やじうめ♪
続きまってます♪
21 :名無飼育さん :2009/04/21(火) 00:13
久しぶりに心から読みたいやじうめに出会えた
梅さんかわいいよ梅さん
次回の更新も楽しみにしてます
22 :esk :2009/04/27(月) 21:51
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>19さま
あちらも読んで下さっているのですね! ありがとうございます。
いつものごとくこの続きはないのですが、設定は気に入っているのでネタがあれば
また書きたいなと思います。

>>20さま
ヤジヤジウメウメ
上のヤツの続きではないですが、またよろしくお願いします!

>>21さま
うわっ、ありがとうございます! なんか申し訳ないですw
買いかぶりすぎるとあとで悲しい目にあいますよ?
梅さんのかわいさはガチです。


いつの話だよ。 という突っ込みはスルーします。

やじうめ
23 : :2009/04/27(月) 21:51

『 バンザイ・バレンタイン 』
 
24 :バンザイ・バレンタイン :2009/04/27(月) 21:52

「あっ」
「ふぇ?」

疲れた手足でひょろひょろと楽屋に踏み込むと、多分かなりがっつり待ち構えていただろう
舞美に腕をとられて廊下に押し戻された。

「ど、どうしたの?」
「ちょっと……」

舞美はせわしなく辺りを見回すと、ちょっと緊張気味に息をついた。
なんかあったのかな?
ぐっと寄せてきた顔の表情も、結構深刻げ。

「えり、もう帰るよね?」
「そりゃあ、帰るけど」
「あたしまだなの」
「知ってるよ」
「……待っててくれない?」
「ええ?」
 
25 :バンザイ・バレンタイン :2009/04/27(月) 21:52

ヤダ。
って言いかけた言葉をどうにか飲み込む。
今日最後の仕事は一人ずつの撮影で、うちのあとは舞美。それで全員終了。
終わった人から帰っていいってことになっていた。
今日は結構ハードで、だからうちもすぐにでも帰るつもりだったんだけど……。
なんか相談とかかな? 舞美がそういうのって結構珍しいけど。

「お願い! 渡したいものがあって」
「渡す? って、今じゃだめなの?」
「う〜、今はちょっと」

渡すってことは相談じゃないのか。
眉を寄せた舞美は、ちらりと背後の扉に視線を送っている。
楽屋にあと何人残ってるかはわかんないけど、他のメンバーには見られたくないってことかな。

「わかったわかった。待ってるよ」
「ホント!? ありがとう」

ぽんぽんって頭をなでてやると、ぱあっと表情を変えた。
そのまま両手でうちの右手をぎゅうって一度握り締めた舞美は、やばーい、とか言いながら
派手な足音を残して走り去って行った。
 
26 :バンザイ・バレンタイン :2009/04/27(月) 21:53

渡したいもの……。しかも、今じゃだめ。か……。

「「えりかちゃん!」」
「うわ」

痛む右手をぷらぷら振りながら楽屋に戻ると、今度は愛理と千聖に両腕を抱えられて、
部屋の隅に追い込まれる。
ねえ、うち結構疲れてるんだけど。
一回座りたいんだけど。
ねえ、だめなの?
二人の肩越しに楽屋を見渡すと、他の三人はもう帰っちゃったみたいで誰もいなかった。
……だったらどこに座っても良くない?

「えと、何?」
「単刀直入に聞きます」
「お、ちさってば難しい言葉知ってんね」
「勉強してるもーん」

頭をなでてやると、嬉しそうに目を細める。
千聖はこういうとこいつまでたっても変わんなくて、ホントいいわあ。
調子にのってぐりぐりと頭をなで続けていると、その隣で愛理が不満そうに唇を尖らせる。
 
27 :バンザイ・バレンタイン :2009/04/27(月) 21:53

「もう、ちさっ」
「あっ、そうそう。忘れるとこだった!」
「何を?」
「えりかちゃん、舞美ちゃんにもらった?」
「は? 何を?」
「「 チョコ! 」」
「……。って、さっきもらったじゃん」

綺麗にそろった二人の声に、一瞬頭の中に微妙な霞がかかる。
っていやいやいや。そうじゃなくて。
……チョコか。チョコなら朝一でみんなで交換会したじゃん。
なんたって今日は2月14日。
年に一度のバレンタインデー。
舞美〜、ブラウニー超おいしかったよ〜。

「そういうのじゃなくって〜」
「どういうの?」
「『舞美ちゃんがえりかちゃんに渡す』チョコ!」
「いや……何それ」
 
28 :バンザイ・バレンタイン :2009/04/27(月) 21:53

じれったそうにする愛理に渋い顔を返してみる。
言ってる意味がわからない、というフリはしてみたけど、体というのは正直なもので。
うちの心臓はすぐにばくばくと激しく音を立て始めた。

「さっきは? 違ったの?」
「さっきは……なんか楽屋残っといてって」
「「おおお!!」」
「……渡すものがあるって」
「絶対じゃん!」
「や、でも……」

だ、だってほら。
普通にみんなと一緒の貰ったし。
あの瞬間がっくしとひざをつきたかったのも事実だけど!

「千聖がね、偶然見ちゃったんだって」
「舞美ちゃん、チョコの箱見ながらため息ついてたの!
 しかもそのあとえりかちゃんになんか言いたそうにしてたし!」
「そ、そう?」
 
29 :バンザイ・バレンタイン :2009/04/27(月) 21:54

そそそ、そうかな?
うちは全然気づかなかったけど。
いや、でも今日舞美あんまし見ないようにしてたもんな。
更に落ち込むから……。

「二人ならいいと思うよ」
「え、何が」
「みんなのリーダーがえりかちゃん一人ものになっちゃうのはちょっと寂しいけどね!」
「ちさ、何言って」
「私はどっちかといえばえりかちゃん取られるみたいで寂しいな〜」
「あーっ、千聖も! っていうかどっちも寂しい!」
「そ、そう」
「でもやっぱりえりかちゃんと舞美ちゃんは二人でいてこそ、えりかちゃんと舞美ちゃんだから、
 私たちはちゃんと我慢するよー」
「や、愛理、うちらは別に」
「じゃ、明日話聞かせてね!」
「「ばいばーい」」

「あ……うん」
 
30 :バンザイ・バレンタイン :2009/04/27(月) 21:54

ばたばたと二人分の足音が遠ざかる。
一人残された楽屋には北風が音を立てて吹き抜けた。
……えーと。なんだったのかな、今のは。

舞美が……チョコ、バレンタイン……で、うちに、だから……。

どさっとソファに体を沈める。
で、気持ちも鎮め……られるわけないじゃん!!

座ったばっかのソファからガツッと立ち上がる。

「いたっ!」

テーブル近っ。
ひざ打ったじゃん!

「ってそんなのはどーでもよくて!!」
 
31 :バンザイ・バレンタイン :2009/04/27(月) 21:55

舞美が。舞美が、舞美が! チョコ! うちに!!
そういえばさっき、ちょっとほっぺた赤かったような。
あんまり目合わさないようにしてたし。
照れてたのかな……?

「やばっ。そういうのむちゃくちゃかわいいんだけどーっ」

そ、そりゃーまあ、うちだってさ、いつかはちゃんと……って思ってたけど、
舞美は超のつく鈍感だし、うちらは下の子の面倒見なきゃいけない立場だったし、
だからそういうのはまだまだ先かなって思ってて。
今日だってそう自分に言い聞かせてたんだけど。
でもそうだよね、もうみんなしっかりしてきたし、舞美だって17になったもんね。

「……うわっ」

えー、なんかもう、くらくらしてきた。
だってほら、恋が甘酸っぱいのは16歳までって安倍さんも言ってたし!
ってことはほら、ねえ?
 
32 :バンザイ・バレンタイン :2009/04/27(月) 21:55

『えり。これ、貰ってくれる?』
『舞美……うちでいいの?』
『えりじゃなきゃだめだよー』
『……うちも』
『え?』
『うちも、舞美じゃなくちゃだめだよ』
『えり……』
『舞美………』


「とか言って!! ってそれ舞美!」

裏手で空中突込みを入れるけど、誰も反応してくれない!
無視かよ! って誰もいないから当然じゃん!!
……ああ。もうわけわかんない。


はあはあと乱れた呼吸がどうにかおさまった頃。
 
33 :バンザイ・バレンタイン :2009/04/27(月) 21:56

がちゃん!

「えり、遅くなっちゃった! ごめんねっ」
「ま、舞美!? あ、いやいやいや。全然全然。あははは」

出て行ったときと同じように突然舞美が飛び込んできた。
っていうか早くない!?
うちは慌てて飛び上がって、楽屋の時計を見上げる。
……げ。
愛理たちが帰ってから一時間近く経ってるし。


「あのー、あのね、なんかなかなか渡せなくって、みんないるとこはやっぱちょっと
 だめかなって思ったし、だからあの、ごめんね」

意味のない言葉を早口に繰り返しながら、舞美はバッグに手を突っ込んだ。
勢いよく差し出された手に握られていたのは、いかにもな薄っぺらい四角い箱。
え、っていうか結構気合入ってる系じゃん。
本命だよね。これは絶対本命だよねっ?
 
34 :バンザイ・バレンタイン :2009/04/27(月) 21:57

「これ、貰ってくれないかなー?」

うちが何も言えずに固まっていると、舞美は困ったように眉を下げた。
ああああ、だめじゃん。そんな悲しい顔はさせたくないのです!

「あ、じゃあ、うん。あの、うちでいいんなら、貰うけど」
「えりじゃなきゃだめだよー」

キターーー!
なんて答えるんだっけ、なんて答えるんだっけ!!

「え、えーと、う、うちも――」
「だって、えり、好きじゃん」
「え!?」

うちの言いかけた決め台詞をさえぎって、舞美がにこっと笑いかける。
って、ちょっと待って。何それ、うちの気持ちばれてるって事?
なんでなんでなんで……ってでも愛理と千聖も知ってるっぽかったもんな。
うちってそんなにわかりやす――。
 
35 :バンザイ・バレンタイン :2009/04/27(月) 21:57


「 チョコレート 」


「…………チョコ?」
「うん。今日結構貰ってるじゃん? 他の子だったらもういいって言われそうだけど、
 えりだったらチョコ好きだからいくらあってもいいかなって。
 あたしはさー、これ以上持って帰っても家族も食べきれないし、困ったなーって思ってたんだ」

……舞美はチョコが食べられない。
メンバーなんかはちゃんとチョコじゃないヤツを持ってくるけど、知らない人からは結構
貰っちゃうみたいで。
ってことは。

「あのー、これは……」
「エッグの子に貰ったんだけど、みんなが見てる前でえりに渡して、もしそれを千聖あたりが
 誰かにしゃべったら、かわいそうじゃん」
「そう、だね」
「モテる女は困るよ〜、とか言って」
「………あははは」
 
36 :バンザイ・バレンタイン :2009/04/27(月) 21:58

さわやかな笑い声を立てる舞美の隣で、うちの笑い声はあきらかに引きつっていたと思う。
そうだね。かわいそうだね。
千聖は何でもしゃべるからね。さっきもね。見たこと全部しゃべってたしね。
だからたしかにかわいそうだけど。
……でも今一番かわいそうなのはうちだよね。

「あ、もうこんな時間。ごめんね。遅くなっちゃって」
「ううん、いいよ……」
「じゃあ、明日!」
「うん……」
「なんだよー、元気ないなあっ。それ食べて明日からもがんばろうね!」
「……おー」

ぱたぱたと舞美の足音が遠ざかっていく。
一人取り残されたうちの左手にはチョコレート。

右手の握りこぶしがふるふると震えて。


「………あいりぃっ、ちさとぉぉぉ!!!」


誰もいない楽屋にうちの叫び声がこだました。 + 涙

 
37 : :2009/04/27(月) 21:58

『 バンザイ・バレンタイン 』   終わり
 
38 :esk :2009/04/27(月) 21:59
アフォっぽい梅さんが書きたかっただけなので、内容はベタに。
39 :名無飼育 :2009/04/28(火) 18:20
ぴゅわ梅に鈍舞美最高すぎます
作者様GJです
40 :名無飼育 :2009/04/29(水) 01:23
サイコー!w
41 :名無飼育さん :2009/05/04(月) 03:16
梅さんwやっぱりかわいすぐるw
次回も楽しみにしています
42 :esk :2009/05/07(木) 21:38
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>39さま
黄金パターンですよね〜。
オチがつけやすくて楽しいですw

>>40さま
アリガトー!

>>41さま
梅さん、かわいいよ、梅さん。
あんな人がもうすぐ18でいいんでしょうかw


次もやじうめ。
タイトルで期待すると裏切られますよ?
43 : :2009/05/07(木) 21:39

『 早朝ランニングと早朝××× 』
 
44 :早朝ランニングと早朝××× :2009/05/07(木) 21:39

「ん……まい、み……?」


朝目がさめると、ベッドの中にあるはずのぬくもりがなかった。
そう広くもないベッドのすみっこに、押しこめられるみたいにちっちゃくなっている自分が
ばかみたいで、主のいない枕をぽふっと殴ってみた。
手ごたえのなさが空しくて、ぼんやりと重い体を起こす。
すぐに目に付いたのは、テーブルの上のメモ。


  えり、おはよう
  ちょっと走ってくるね
  おなかすいたら
  先に朝ごはん食べてて
  お母さんには言ってあるから

  舞美
 
45 :早朝ランニングと早朝××× :2009/05/07(木) 21:41

「……きれいな字」

言ってみた声が思ったよりも平坦で苦笑いが浮かぶ。
これだったら素直な感想を言えばよかった。

目が覚めたときにそばにいてほしいとか、朝の挨拶は目を見てしたいとか。
そういうことを。
自分でも言ってて恥ずかしくなるけど、でもいいじゃんか。
うちら17の乙女だよ?
そういうの大切にしたいって思っても良くない!?
……ってあいつは運動バカかあ。
だいたいさあ、昨日は学校もあって仕事も忙しくて、夜も……なのにさ、ホント元気だよねえ。


 がちゃん


「ぁ」
 
46 :早朝ランニングと早朝××× :2009/05/07(木) 21:42

 『ただいまー。えりは?』
 『……』
 『そうなんだ』
 『…………』
 『はーい』

 とっとっとっとっ


かちゃん


「――あ、起きてたんだ。おなかすかない? あたしもうぺこぺこ」
後から後から浮いてくる汗を首にかけたタオルでぬぐいながら、ベッドにどさっと腰掛ける。
とたんに強く香る、舞美の匂い。
上気した肌が、ピンク色に染まっていて。
うちの心臓はぞくぞくと上ずって、なのに、首をかしげてうちを見下ろした
舞美の笑みはあまりにもさわやかで。
 
47 :早朝ランニングと早朝××× :2009/05/07(木) 21:44

「どした? まだ寝てんのー」

目の前でばさばさと振られたきれいな指先を、ぎゅっと握り締めた。

「うん?」

曇りのない瞳。
透き通るような肌。
朝の光を受けて輝く黒髪。

天使みたいだと、思った。


「ちょ」
ぐっと引き寄せると、うまくバランスを取れなかったのか、舞美の体が腕の中に倒れこんだ。
そのまま一度きつく抱き寄せて、ベッドに押しつける。

「え、えり。どうし――」

戸惑う舞美の声を吸い取るように、唇をふさぐ。
 
48 :早朝ランニングと早朝××× :2009/05/07(木) 21:45

 あさごはん

 おかあさんが

 あせ、かいてる


困ったみたいに繰り返す舞美の言葉を、何度も何度も唇をふさいでさえぎる。
……その声が、甘く啼くまで。


天使なんていらない。
この腕の中に、堕ちていけばいい。


 
49 :早朝ランニングと早朝××× :2009/05/07(木) 21:52


――更に汗かかせちゃったな。

軽く目を伏せたままで、まだ熱い呼吸を繰り返している舞美を見ていると、
ちょっと悪いことをしたかなと思った。
朝からこんなに体力使ったら、さすがの舞美でも今日一日つらいだろうし。
そんなことをぼんやりと考えながら、汗で重たく湿った髪をなでてやると、
舞美はくすぐったそうにくすくすと笑いだした。

「どした?」
「えりは朝っぱらから元気だなあと思って」
「そ、それはこっちのセリフだよ。朝っぱらから走りにいくとかさっ」
「えー? だってなんか走りたくなっちゃたんだもん」

いきなり何言うんだよ、もー。
恥ずかしくなって、むにってほっぺたをつねってやったのに、舞美はお構いなしに唇を尖らせる。

っていうか走りたくなるとか意味わかんないし。
うちにはそんなこと絶対ない。
しかもよりにもよって、恋人との朝に走りたくなるってどうなのさ!?
……とかね。
心の中で叫んでみて、小さくため息をついた。
こんな叫びじゃ、こいつには絶対届かない。
 
50 :早朝ランニングと早朝××× :2009/05/07(木) 21:54

「あのさー」
「うん?」
「うちが目が覚めたとき、舞美もういなかったじゃん」
「そーだね」
「それってさ、朝起きて隣にいないってさ、結構……寂しいんだよ」

言っちゃってから自分の声に後悔する。
そんなシリアスに言うつもりはなかったのに。
急に恥ずかしくなってきた。

「えー、そうなんだ。ごめんね」

……って、軽っ。
ま、いっか。
シリアス返しされてもまた恥ずかしいし。

「うん。そう」
「そっか。あ、でも……あー、そっか。そうだよね」
「はい?」

ちゃんと日本語で言ってもらえるかな。
 
51 :早朝ランニングと早朝××× :2009/05/07(木) 21:55

「あたしはね、朝起きたらえりが隣にいたじゃん?」
「うん」
「で、手とか繋いじゃってて、寝顔とか幸せそーで、すっごい嬉しかったのさ」
「う……うん」
「でね、ずーっとえりのこと見てたら、なんかガーッてなっちゃって、
 ガーッて走りに行っちゃった。ごめんね」

本当にごめんねって、それ以外の感情の読めない表情。
っていうかその行動に裏なんかない。
むしろ気づいてない。
自分を突き動かしたものの正体に気づいてない。
昨日はあんなに……まあ、アレ……だったのに、さっきだって結構……なのに。
なんで気づかないんだろう。
まったく。こいつはどこまで運動バカなんだ。

「……舞美さん」
「うん?」



「そういうときはね、素直に襲ったらいいんだよ」

 
52 : :2009/05/07(木) 21:56

『 早朝ランニングと早朝××× 』 終わり
 
53 :esk :2009/05/07(木) 21:58
エロウメエロウメw
54 :名無飼育さん :2009/05/08(金) 01:52
舞美はまだまだ子供なんですねw
かわいいなぁー
55 :名無し飼育さん :2009/05/08(金) 11:40
いつも、あなたの、横腹を蹴られるような感じにドキドキします。


そして舞美がらぶいw
56 :名無飼育 :2009/05/08(金) 17:42
もうー!!やじうめと作者さんのばかやろー最高じゃないか
57 :名無飼育さん :2009/05/09(土) 01:12
さりげなくママイミ公認?w
こういう甘さが大好物です
今後もまた楽しみです!
58 :名無飼育 :2009/05/10(日) 19:58
鈍感バカな舞美がすげぇ愛しいw
この雰囲気のやじうめ、好きだ。
59 :esk :2009/05/15(金) 22:36
読んでくださった方、ありがとうございます。
レスいっぱいありがとうございます! いいんですか、こんなゆるい話でw

>>54さま
いやいやいや、いつまでも子供とは限りませんよ〜?
……特にここではw

>>55さま
どういう意味ですかw
とりあえず喜んでおきます

>>56さま
サイコーなのは梅田さんと矢島さんですよ〜。

>>57さま
実はその点、自分でも書いててフォローを入れるべきか悩んだんですけど、
矢島さんのお母さんですから、気づいてないってのもアリかなとw

>>58さま
バカな子ほどかわいいっていいますよね〜。


思わぬ矢島さん人気に嫉妬w
ってことで、矢島さんの人気を落としてみよう計画ww
純情な感じでないのでご注意を。

やじうめー
60 : :2009/05/15(金) 22:38

『 繋いだ手 』
 
61 :繋いだ手 :2009/05/15(金) 22:38

『矢島さんが一番かわいいよ!』


突然あたしの肩をつかんでそう言ったクラスメイト。
かろうじて思い出した、梅田さん、という名前以外にあたしの中に彼女の情報はなかった。
彼女の唐突な行動に、一緒に話していたらしき友人たちも、ぽかんと口を開けていた。
その友人たちが慌てて説明してくれたところによると、この学年で一番かわいいのは誰か、
みたいな話になったらしい。
……なんだかなあ。
つかまれた手からやんわりと体を離しながら、とりあえずありがとうと言ってみた。
上手く笑えたかはわからない。
梅田さんはどういたしましてーと、ふにゃっと笑ったが、他の友人たちはあたしの予想通り、
この事態を扱いづらそうな顔をしていた。

自分がクラスで浮いた存在であることは自覚していた。
クラスメイトの会話は何を言っているのかもわかないし、それに合わせるのも面倒。
友達なんてもう何年もいないけど、別にそれで困ることなどなかった。
 
62 :繋いだ手 :2009/05/15(金) 22:39

――ここに来れば、相手してくれる人はたくさんいるしね。
照明を落とした店内で、低い声で交わされる会話。
探るように触れる手や、目が合うようで合わない距離感は心地良くて安心できた。

……梅田さんは正反対の人だったな。
いきなりつかまれた長い指の感触と、がっつりと覗き込まれたきらきらした目。
でもそれが心地悪かったかといえばそうでもなくて。
変な子だったな。
思い出すと、少し笑った。

「まいみぃ? どした?」
「んー。なんでもない」
「なんでもないことないっしょ。学校で何かいいことあった?」

隣でグラスをあおる吉澤さんは、もう結構飲んでいるのか、んーって顔を近づけてきて
やたら絡んできた。
 
63 :繋いだ手 :2009/05/15(金) 22:41

うちの両親は個人を尊重する人で、お互いに干渉せず、自分の友人や仕事とはそれぞれの
ペースで付き合う。もちろん、彼らの一人娘とも。
楽といえば楽だけど、あたしにだってそれを寂しいと思う時期はあった。
両親のいない夜にはふらふらと街を出歩くようになったのは、その頃からだろう。
何人かと時間を過ごし、いくつかの店に出入りして、この店に居つくようになってからは
ずいぶん経つ。

ここは、遊びなれた人が出入りするわりに雰囲気がよく、マスターも人当たりがいい。
だけどあからさまに未成年な自分が出入りしても、うるさく言われるようなこともない。
出入りする人も楽しいけど落ち着いた感じの人が多くて(しかも綺麗な人ばっかり!)、
だから誘われるままに色んな人と寝ることに抵抗はなかった。
 
64 :繋いだ手 :2009/05/15(金) 22:42

「なんだよ〜。教えろよ〜」

べたべたと絡み付いてくる白い腕が面倒で、苦笑いが浮かんだ。
梅田さんのテンションって、ちょっと吉澤さんに似てるのかもしれない。
初めてこの店に来たとき、第一声で言われたのが『よっすぃに似てるね』だった。
そのよっすぃが今となりにいる吉澤さんで、あたしは似てるのは背格好と肌の色くらい
だと思うけど、今でもたまにそう言われる。
まあ、基本は綺麗だし、その話題があったおかげですぐに吉澤さんと打ち解けられたから
不満はないんだけど、性格は絶対梅田さんの方が似ていると思う。
 
65 :繋いだ手 :2009/05/15(金) 22:42

「ほらほら。教えたらちゅーしちゃるぞ」

『ちゅーっ』て自分で言いながら唇を突き出す吉澤さんに、思わず噴出す。
黙って微笑でも浮かべていればどこのお嬢様かってくらい綺麗な顔なのに、どうして
こんなにぶさいくになれるのだろう。
これ以上無視するとさらに顔が崩れそうなので、この辺でとめてあげることにした。

「いいことかわかんないけど、ちょっとね」
「お。何々?」
「クラスの子に、かわいいって言われたの」
「……そりゃいいことだよ」

変顔も興味津々のにやついた顔もひっこめて、急に真面目な顔で言うから、びっくりした。
思いっきり笑われることを期待していたのに。
 
66 :繋いだ手 :2009/05/15(金) 22:42

「で、その子の名前は?」
「たぶん、梅田さん」
「ファーストネームは?」
「え? わかんないよ、そんなの」
「部活は? 何かやってる?」
「だから知らないって。吉澤さん、なんでそんなのことに興味あるの?」

畳み掛けるように聞かれても、あたしが梅田さんについて知っていることは何もない。
名前を覚えていただけでも奇跡なくらいなのだから。

「あるよ〜。あたしのかわいいかわいいまいみぃがやっとクラスになじめたかと思うと、
 ひーちゃんもう泣いちゃうくらい嬉しいからさあ」
「なじめたわけじゃ……」

ない、と思う。
あのあと梅田さんは目が合うたびにこにこと話しかけてきて(無意味で理解しにくいこと
ばっかりだったけど)、帰りぎわには一緒にいた友達にまでばいばいとか言われたけど。
あれ? ……これって結構なじんでる?
今までのあたしから言えばかなりなじんでない?
 
67 :繋いだ手 :2009/05/15(金) 22:43

「じゃ、ご褒美にちゅーね」
「……ん」

ぼんやりしていたら唇をふさがれて、そういえば今何時だろう。
家帰るのも面倒かな。
すぐに離れた唇を追って、自分からもう一度重ねる。

「ね。吉澤さん、今日――」
「ああ……んー。いや、今日はやめとくわ」
「えー、なんでえ?」
「なんでもっ。まいみぃはちゃんと家帰んなよ」
「……はーい」

くしゃっと髪を撫でてくれた手と、覗き込まれた目の優しさにどきっとして。
なんとなく、他の人を探す気もそがれてしまった。
しょうがない。
今日は一人で寝るかあ。
 
68 :繋いだ手 :2009/05/15(金) 22:44


そんなことがあってから、どれくらいか経って。
梅田さんとは、舞美、えり、と呼び合うようになって、アドレスを交換して、一日に何度も
くだらないメールを繰り返す。
いわゆるこれが友達というヤツなんだろう。
最近ではえりと仲のいい友達とも少し話すようになって、そうすることがそれほど苦痛
ではないことも知った。

だから……なのか、あたしはあんまり店に行かなくなった。
行っても少し飲んで話したら家に帰るようになった。
誰かと夜を過ごすようなことは次第に減って、今ではほとんどない。
まだあたしのことを誘ってくれる人もいる。
今まで理由もなく断るようなことがなかったから、ちょっと悪いかなって思ったけど、
断るとなぜかみんな嬉しそうな顔で頭を撫でていってくれた。
その意味はわからなかったけど。
――悪い気はしなかった。
 
69 :繋いだ手 :2009/05/15(金) 22:44

「えり、今日一緒に帰らない?」
「うん!」

差し出した手は、なんのためらいもなく握り取られ、逆にぐいぐいと引っ張られる。

えりは知っている。
あたしがどういうことをしていたのか。
二言目には『舞美はかわいい』と言う彼女に、現実のあたしを教えておいた方がいいと
思って言ってみた。
どんな反応をするだろう。
軽蔑するだろうか。離れて行くだろうか。
反応を待つ時間は、少し緊張した。

そんなのダメだよ。やめなよ。

えりは真っ向からそう言って顔をしかめた。
それでも、あたしから離れることはしなかった。
 
70 :繋いだ手 :2009/05/15(金) 22:45

「舞美さー」
「うん?」

並んで歩く帰り道。
今日はとても天気が良くて、ぼんやり歩いているだけでも気持ち良かった。

「あのー、うん」
「何さー」
「うーん。最近さ、電話よくつながるなって思って」
「へ? そうかな?」

えりにしては珍しく、なんだかもごもごとそう言った。
電話?
確かに最近えりと電話することが増えた気がする。
くだらないことしかしゃべっていないから、言われないと思い出せなかったけど。

「つながるんだよ。……前よりもさ」
「ふーん」
「あのー、だからあ」
「うん」
「そのー……家にいるんだなって……夜に」
 
71 :繋いだ手 :2009/05/15(金) 22:45

小さく付け足すみたいに言われた言葉の意味を噛み砕いて、はっと横顔を見上げた。
そうだ。
あたしは、店に行かない時間をえりと電話することですごしていたんだ。
いや、むしろ。
えりと電話をするために、店に行かないようになったのかもしれない。

「お店、あんまり行ってないのかなって」
「……行ってない」
「前も言ったけど、うちはそういうのあんまりよくないと思うし。だから、行ってないん
 だったら、良かったなって、その……よくがんばったねって、言いたかったの!」

照れ隠しなのか、ぐしゃぐしゃって頭をなでられて、こけそうになった。
あたしががんばったわけじゃない。
そうじゃないんだよ、えり。
 
72 :繋いだ手 :2009/05/15(金) 22:46

「えり」
「んー?」

繋いだ手をぐいっと引っ張る。

この手、なんだろう。
何人もの手のくれる快楽のすべてが。
繋いだだけのこの手にかなわなかった。

きっとそういうこと。




……ま、いつかはもっと触れられたいと思うけどね。


「待ってるよ、えり」

「――は?」
 
73 : :2009/05/15(金) 22:46

『 繋いだ手 』   終わり
 
74 :esk :2009/05/15(金) 22:48
矢島さんのイメージ無視しすぎ?
75 :名無飼育さん :2009/05/16(土) 18:17
撫でたくなる気持ちすっごいわかる!とか言ってw

確かにいつもと違う感じだけど根本は同じ気がしていやらしさを感じさせませんね
道中記もそうだったけどこれも異なる方向で新鮮!
76 :名無飼育さん :2009/05/17(日) 01:33
こういうやじうめも全然ありですよ!
面白かったです。
77 :esk :2009/05/25(月) 21:39
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>75さま
こういう、設定のわりにエロくない話が好きなんですw
できるだけ色んな方向性の話を書いていけたらいいなと思っています。

>>76さま
ありですか!
受け入れ範囲かどうか、ちょっと心配してたので良かったです。


さて。梅さん、18歳のお誕生日おめでとうございました。
ごめん。昨日寝過ごしたw

ということで、ってわけでもなく。いつも通り、やじうめ。
>>2-17 と同じ設定ですが、どっちに前後するのかは不明。
78 : :2009/05/25(月) 21:40

『 やじうめ道中記2(森と泉に囲まれて) 』
 
79 :やじうめ道中記2(森と泉に囲まれて) :2009/05/25(月) 21:41

「えりも一緒に入ろうよ〜」
「だーめ。なんかあったらどうすんの」
「ないないない」
「わかんないでしょ。うちはあっちいるから」
「見ててもいいよ?」
「っ。結構ですっ」

森を横切る細い道にジープを走らせていたら、突然大きな泉を見つけた。
久しぶりの綺麗な水場だし、ゆっくり水浴びをしようってことに。
簡易浄化装置を通せば飲み水にもオッケーだったし、超ラッキー!

じゃあ先にどうぞって言ったら、舞美はお約束な返答をしてくれた。
もうっ、そういうのはいい加減にして欲しいよ。
 
80 :やじうめ道中記2(森と泉に囲まれて) :2009/05/25(月) 21:41

バイバイって手を振ってジープに戻る。
一応見張りだから居眠りも出来ないし、そうだな、今のうちに銃の手入れでも
しとこうかな。
油で汚れてもすぐに水浴びするんだし。
いやん。うちってばあったまいい!

ジープから簡易テーブルと椅子のセットを出して組み立てる。
舞美に背中を向ける向きに座ると、ぱちゃぱちゃと水の音だけが聞こえてきた。
腕時計に目をやると、そろそろ日も暮れる時間。
せっかくテーブル出したから今日はここでごはん食べよっと。
それからもう少し進むか、このままここで泊まるかは舞美と相談かな。

そんな考え事をしているうちに、愛用の銃は綺麗に分解されてテーブルに並んでいる。
手入れ用の汚れた布に手を伸ばした。
あ、そうだ。
舞美のやつもついでに手入れしてやろっかな。
 
81 :やじうめ道中記2(森と泉に囲まれて) :2009/05/25(月) 21:41

ふっと。
本当に何気なく。
顔を上げた。

その視界に。

「………」


姿勢はあくまで低く。
四本足は地面に吸い付くよう。
もりあがった肩甲骨がするどく天を突く。
地面に向かって垂れた尻尾は、だらりとしているようでただならない緊張を漂わせていて。
ぎらりと光る目が、射るようにうちを、うちだけを見ている。

大型獣に襲われた経験がないわけではない。
でも、そんなときはいつでも舞美が一緒で。
だからいつでも、どんなに危険な目にあっても、大丈夫だって思えた。
 
82 :やじうめ道中記2(森と泉に囲まれて) :2009/05/25(月) 21:42

(舞美……)
口の中でその名前をつぶやいて、震える指先を手元の銃に伸ばし――。

「って、うそっ」

いやうそじゃない。
解体したの自分だし。
さすがに一分前のことくらい覚えてる。

他のヤツ。
は、ジープの中っ。
取りにもど――。

うちが椅子から立ち上がるよりも早く、獣の四肢が地面を蹴る。

ぱちゃん

背後で、舞美の立てる水音が妙にゆっくりと聞こえた。
 
83 :やじうめ道中記2(森と泉に囲まれて) :2009/05/25(月) 21:43


舞美

逃げて

 
84 :やじうめ道中記2(森と泉に囲まれて) :2009/05/25(月) 21:43

 
85 :やじうめ道中記2(森と泉に囲まれて) :2009/05/25(月) 21:44



「……、………っ」


「……り、……ってば」


「ぅ……」

まい、み……?

薄く目を開くと、白くかすんだ視界いっぱいに舞美の真剣な顔。
あれ? ここって天国?
なんだ。結局舞美もやられちゃったのか。
天国でも一緒って、うちらってば運命的じゃーん。

「何言ってんの!」
「……っ、いったあっ」

結構マジにほっぺたをはたかれて、一瞬めまいがした。
ぶるぶると首を振って、ごしごしと目をこすったら、やっと意識がはっきりしてきた。
あたりに立ち込める火薬の匂いと血の匂い。
そして一番近くに、舞美の匂い。
ぐっしょりと濡れた髪からは、まだぽたぽたとしずくが垂れている。
ちょっと! 服ぬれてるじゃん。

それが冷たいって意識して初めて、ああ、死ななかったんだって思った。
 
86 :やじうめ道中記2(森と泉に囲まれて) :2009/05/25(月) 21:45

「ど、して?」
「水浴びにもちゃんと銃くらい持って行ってますー」

にかって掲げたのは、愛用のサブマシンガン。


『うそっ』

小さくつぶやいただけのうちの声を聞きつけたあと、舞美の反応速度は人間並では
なかっただろう。


「もー、ホントびっくりしたんだからね。えり死んじゃったかと思って」
「勝手に死なすなー」

ぽくって肩の辺りを叩いて、そのまま顔をうずめる。
 
87 :やじうめ道中記2(森と泉に囲まれて) :2009/05/25(月) 21:45

「……アリガト」
「どういたしましてー」

えへへって耳元で満足そうに笑う声。
命助けてもらって、こんな軽い会話でいいはずがない。
しかも舞美に命助けてもらうのって、これが初めてじゃない。
だけど、いっつもちゃんと感謝ってしたことない気がして。
今日こそもっとちゃんと言わなきゃ。
ぱっと顔を上げて体を離した。

「まいみ――服着て」
「へ? あー」

言おうとした言葉は目に入った肌の色に摩り替わる。
まあそうだよね。
話の流れ的に服着てる暇はなかったよね。
それはわかるけどさ。
気づいたんなら隠すとか恥ずかしがるとかしなよっ。
 
88 :やじうめ道中記2(森と泉に囲まれて) :2009/05/25(月) 21:46

「あー、えり今えっちなこと考えたでしょ? そうでしょー?」
「ち、違うしっ。っていうか風邪引くでしょ」
「大丈夫だよ。えりがあっためてくれるからー」
「っ、だからっ、しないしっ」
「まあそうだよね。あたしする方が好きだし、えりはされる方が――」
「ちがっ……あああーっ」

思わず頭をかきむしって地面に大の字にねそべった。
うちの大声にびっくりしたのか、木の枝から大きな鳥がばさばさと飛び立っていく。
それよりもずーっとずーっとずーっと上の方、真っ黒な木の葉っぱの隙間から、
黒と青の間みたいな不思議な色の空が小さく見えた。
 
89 :やじうめ道中記2(森と泉に囲まれて) :2009/05/25(月) 21:47

「ねー、えりぃ。どしたの?」

そのきれいな空をバックに、ひょいっと舞美の顔が割り込んできた。
きょとんとした顔がうちを見下ろす。

……舞美が悪い。
うちがいっつもちゃんとお礼とか言えないのは舞美のせい。

じっとその目を見上げると、舞美は心配そうに眉を寄せた。

「もしかして……今日なっちゃってる?」


ぜ・っ・た・い、舞美が悪い!!
 
90 : :2009/05/25(月) 21:47

『 やじうめ道中記2(森と泉に囲まれて) 』   終わり
 
91 :esk :2009/05/25(月) 21:50
矢島さんが壊れてきましたw
92 :名無飼育さん :2009/05/27(水) 23:06
そうなった原因に矢島矢島な読者レスが関係ありそうですねw
……でも、59の最後は完全にネタフリですよね?w

梅さんは83の相手を思いやる気持ちとかステキ
93 :esk :2009/05/28(木) 22:01
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>92さま
いえいえ、単に壊れてたり黒かったりエロかったりする人が好きなんですヨww
梅さんは壊れててもいい人が保てるからずるいと思います。

初のやじうめ以外。りしゃみや。
とりあえず王道を押さえる主義です。
タイトルと内容は全く関係ないです。
94 : :2009/05/28(木) 22:02

『 ライバル 』
 
95 :ライバル :2009/05/28(木) 22:03


「いってきまーす」


庭で飼い犬と遊んでいた梨沙子は、隣家から聞こえてきた声に、門扉からひょこっと
顔をのぞかせた。
案の定、急ぎ足で目の前を通り過ぎようとする幼馴染。

「みや! どこ行くの」
「エーガだよ」

一瞥をくれたのに無視して行ってしまおうとする雅に、梨沙子は慌てて声を掛ける。
機嫌良さげな声に嫌な予感がして、じゃあね、とすでに数歩先を進む雅を追って、
梨沙子も道路へ飛び出した。

「何よ」

うっとおしそうな顔をしながら足を緩めない雅だったが、梨沙子が隣に追いつくと
ごく自然に手を繋いだ。
 
96 :ライバル :2009/05/28(木) 22:06

「デート?」
「そうだよ」
「……桃ちゃん?」
「はあ? 桃とは別れたって言ったじゃん。もう忘れたの?」

忘れたわけではない。
ただ、そう聞いてからまだ一ヶ月ほどしか経っていない。
なんかそれってさあ、それって。

それって、軽くない!?

鼻先に指を突きつけて言ってやりたかったけど、ぐっと言葉を飲み込んで、
梨沙子はむっと唇を引き結ぶ。
それでも気持ちは伝わったようで、雅はうざったそうに梨沙子から顔を背けた。

「梨沙子には関係ないじゃん」

関係ない、ことない。
絶対に関係ないことない。
だけどそれさえも言えなくて、ますます梨沙子の機嫌は悪くなる。
 
97 :ライバル :2009/05/28(木) 22:06

「いーんだよ。今は運命の人待ち中だから」

方や、こちらはきらきらとした目を遠くに向ける雅。

「そのわりにさー……」
「だって言い寄ってくるんだもーん」

鼻歌でも歌いそうな機嫌の雅の隣で、梨沙子は小さく息をついた。
へらへらした顔の下で、本当はそういう自分に傷ついてる繊細なことろも知っているし、
でもそういうところに漬け込まれたらふらっと行っちゃう弱いところも知ってるし、
単純にモテて嬉しいとか誇らしいとか思ってる軽いところもよーく知っている。
絶対に誰よりも、きっと本人よりも知っているという自信があるのに。

「ねえ、みや。運命ってさ、意外と近くにあるんだよ……」
「近くねえ」

雅は横目でちらりと梨沙子を見やる。
しかし、ふてくされて足元を見つめる梨沙子は気づいていなかった。
 
98 :ライバル :2009/05/28(木) 22:07


「じゃね」

結局駅までついてきた梨沙子を、雅は振り返る。
手を伸ばして頭を撫でると、梨沙子はむうと唇を尖らせて黙り込んだ。

「ま、こうやって遊んでられるのもあと一年だしさ」

雅の何気なくつぶやいた言葉に、梨沙子はふっと顔を上げる。

一年。
そうだ。高校二年の雅は来年は受験生。
そうそう遊んでいられなくなる。
ざまーみろ。
へへんだ。
梨沙子は少しだけ胸のすく思いで、ぱっと雅の手を離した。

(かく言う自分が今年受験生であることには気づいていない)
 
99 :ライバル :2009/05/28(木) 22:08

ゆっくりと動き出した電車の窓の中、梨沙子が流れ始める。
改札の向こうで、怒ったような泣きそうな顔。
雅はくくっとのどを鳴らして、手のひらサイズの梨沙子を指先ではじいた。
ころころと転がっていく梨沙子を連想したけど、もちろんそんな事態にはならない。
なんだつまんない。
世の中思い通りにならないことばっかりだ。
長く付き合えるような相手は現れないし、運命の人はなかなか追いついてきてくれないし。

でも、それもあと一年。
一年たてば。

梨沙子は中学を卒業する。


「さすがに中坊には手ぇ出せないじゃん?」

早く、追いついてこーい。



ま、とりあえず、今日のデートも楽しむけどね♪
 
100 : :2009/05/28(木) 22:09

『 ライバル 』   終わり
 

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