■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 201- 301- 401- 501- 601- 701- 801- 901- 1001- 最新50

サディ・ストナッチ

1 :名無飼育さん :2009/03/26(木) 23:00

サディ・ストナッチがやってくるよ


サディ・ストナッチがやってくるよ


サディ・ストナッチがやってくるよ


サディ・ストナッチがやってくるよ
952 :名無飼育さん :2009/07/26(日) 23:07
953 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:02
中国は日本では考えられないほど貧富の差が激しい国だ。

だがその貧富にはあまり関係なく、中国人は極端に二つのタイプに分かれる。
文字通り寝食を忘れて信じられないくらい働く人間と、全く働かない人間。
日本人はその中間の人間が圧倒的に多いのだが、
中国には不思議とその中間層というのがあまり存在しない。

そしてLLは完全に前者のタイプだった。
上から命令されなくとも、朝から晩まで何かに取り憑かれたかのように働いた。
それでいて疲れたような表情は全く見せない。バイタリティの塊だった。

適度にさぼりながら要領良く仕事をこなし―――
それでいて「あー、疲れた」などと口癖のように言う、
典型的な自堕落日本人であるフジモトとは正反対のタイプだった。

「フジモトさん、今日はBとJとSの組織の人間が来てたネ」
「へー。ふーん。それで?」
「Jの人間がイシカワさんをナンパしてたヨ」
「で?」
「軽く無視されてたネ」
「いつものパターンだね。了解。ご苦労さん」
954 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:02
LLは既にフォースの全従業員の名前を把握していた。
さらにフォース出入りしている、様々なジャンルの非合法組織を調べ上げ、
それらの組織にアルファベットをつけてファイルに管理していた。

そして毎晩毎晩、フォースに出向いては各組織の動向を入念に調べている。
SSに関係ありそうとかなさそうとかを吟味することなく、
全ての情報を片っ端から収集していた。
本当によく働く女だった。働きすぎて、ミキのやる仕事がなかった。

最初は「こいつは楽でいいや」と思っていたミキだったが、
さすがに最近は暇をもてあますようになっていた。

カゴは特に怪しい動きは見せなかった。フォースの営業の方も順調なようだ。
フジモトはフォースの破綻は遠くないと思っていたが、
相変わらず東京一、人が集まる店であり、水面下では多くの取り引きが行なわれ、
ヨシザワがファイトに出るときは賭博券が飛ぶように売れた。

忙しいのも好きじゃないけど、暇なのはもっと好きじゃない―――
955 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:02
ミキは何かが起こるのをじっと待つタイプではなかった。
常に激しい流れの中に身を任すことを好んだ。
かといってアヤのような策士タイプでもない。
自分から積極的に流れを作り出すタイプではないのだ。
頭が切れるミキだったが、ちまちまと策を弄するのは好きではなかった。

作戦? そんなものは「秀才」が立てるものだ。
天才である自分にはそんな回りくどい方法は似合わない。
もっと楽して簡単に成功する方法があるはずだ―――ミキはそう思っていた。

ミキは待つことが嫌いだった。そして我慢することが嫌いだった。
彼女にとって楽をすることは罪悪ではなかった。
いつだって自分の欲望に忠実に動いた。

理性? なにそれ。

世間では理性的に行動することが、合理的に行動することが正しいと考えられている。
だがミキはそんな世間的な常識とはかけ離れた思想を持っていた。
ミキが持っている行動規範はたった一つ。
956 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:02
あたしはやりたいことをやる。あたしが一番やりたいことをやる。

それがたった一つのミキのルールだった。
何にも縛られることのない行動規範だった。

まず細かく計算して、作戦を立ててから行動する。
それが秀才なのかもしれない。
そしてその方法が最も合理的なのかもしれない。秀才にとっては。

だがミキは逆だった。まず自分のやりたいことをやる。
理屈はあとからこじつける。それがミキのやりかただった。
そしてそれは―――案外上手く行くことが多かった。

世の中の出来事に自分を合わせるのではない。
自分の好みに合うように世の中を作り上げていくのだ。
それが天才のやり方なんだ―――ミキはそう思っていた。
957 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:02
ミキはふわわと一つ大きなあくびをした。
LLのおかげでここ数日はゆっくりと体を休めることができた。
そろそろ―――あたしも動き出すとしよう。
さて。ところで今あたしが一番やりたいことってなんだ?

ミキの頭に浮かんだのは、リングの上に立つ天才的美少女の姿だった。

会いたい。もう一度あの子に会ってみたい。
会ってどうする? 抱きしめてキスでもするか?
ギャハハハハハハハハハ。バカかあたしは。

ここ数日、フォースの中にはヨシザワの臭いはなかった。
LLが調べたところによると、来週までずっと外の仕事が入っているのだという。
イシカワとかいうもっさりとした女と車に乗り込んでいくのを何度か見た。
ヨシザワはリングの外ではどんな顔をするのだろう?
どんな話をしているのだろう? どんな服を着て、どんなメイクをして―――

ギャハハハハハハ。バカかあたしは。何を考えてんだ。

だが一度ミキの脳裏に登場した天才的美少女は、なかなか消えてはくれなかった。
あいつは――― あいつは一体―――
958 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:03




あいつは一体、何者なんだ?



  
959 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:03
なぜあんなに強い? なぜ自分の強さを隠す? なのになぜリングに上がる?
なぜツジを殺した? 何を思いながら殺した? 殺すのが好きなのか?
殺したあとで泣いた? 笑った? なんのために戦う? 誰のために戦う?
何を支えにして戦っている? なぜ―――なぜあんなにも強い?

知りたい。
衝動は突然やってきて、突然去っていく。
だが欲望はじわりじわりと湧いてきて、それが叶うまでいつまでたっても去らない。
知りたい。あいつの中身が知りたい。あいつの強さが知りたい。
それは衝動のように突然やってきて、欲望のようになかなか去らなかった。

ミキはすくっと立ち上がった。
一度心を決めたらもう揺るがない。あとは行動あるのみだった。
友達になるわけじゃない。ぺちゃくちゃお喋りするわけじゃない。
そんなことよりもっと簡単に分かり合える方法がある。

命のやり取りをすること―――ミキはそれしか方法を知らなかった。

「おい、LL! ちょっと来い!」
960 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:03
ミキは自分とヨシザワがリングで向き合ってる様を想像した。
それだけでゾクゾクとするような快感があった。
こいつは最高の―――退屈しのぎだ。

あたしはやりたいことをやる。あたしが一番やりたいことをやる。

もう誰もミキの欲望を押し止めることはできなかった。ミキ本人にも。
「はーい。なんですカ、フジモトさん」
「おいLL、次のヨシザワのファイトの相手は決まってんのか?」
「はいー。ヨシザワさん、すごい人気ネ。来年まで相手が埋まってるヨ」

ミキは派手に舌打ちした。どうしてもやりたい。どうしてもやり合いたい。
来年までなんて待てるわけがなかった。ミキは待つことが嫌いだった。

「どしたのフジモトさん?」
「やるんだよ。あたしがヨシザワとやる」
「おー、それアヤさんの指示か?」

ミキは聞こえるか聞こえないかくらいの舌打ちをした。
LLがいる以上、遊びでできることではない。
961 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:03
「いや、カゴは動かねーしよー、待っててもしょうがねーじゃん」
事態が動かないのであれば、こちらから動かせばいいのだ。
どうせ相手は叩けば埃の出る体だ。突けば必ず何らかの反応を示すはずだろう。

アヤからはあまり派手なことはするなと言われているが、
どこまでが「派手」なのか、判断するのは現場の責任者であるミキ本人だ。
そう、これはあたしの仕事。あたしが判断して何が悪い。
ミキは機械的に一つの決断を下した。

「だからあたしがヨシザワと戦うんだよ」
「え? なんでですかー?」
ヨシザワとファイトをして、それで何かがわかるわけではない。
だが不敗のヨシザワを倒せば、フォースに大きな動揺が走るのではないか?
ミキは必死で考える。考えながら喋る。これまでもずっとそうやってきた。

「フォースに揺さぶりをかける。ヨシザワが敗れれば、必ず組織は揺らぐ。
 カゴにはその動揺を押さえ込めるだけの器量はない。となれば―――」
「裏にいるSSから誰かサポートに来る――――ということカ?」

ミキはにっこりと笑った。上出来だ。これでいい。たまらない一つの快感があった。
自分の欲望に合わせて世界が回る。あたしが回す。これがあたしのやり方だ。
これからもずっとこのやり方であたしは上手くやっていく―――
ミキはそう信じていた。
962 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:03
「フジモトさん、頭いいねー」
「当たり前だっつーの」

このアイデアは使える。ミキの直感がそう告げていた。
自分がヨシザワに敗れる可能性については一切考慮しなかった。
明日地球が爆発したらどうしようと心配する人間なんていないように。

「次のファイトの相手は誰かわかるか?」
「もちろんネー。次は最強の挑戦者とか呼ばれてる人よ。普段は挑戦者が逃げた場合の
 リザーバーを置くらしいけどねー。今回は置いてないらしいヨ。こいつは絶対逃げない。
 フォースの人間もそう考えているネ。だから無駄金になる補欠はおかないってヨ」

ファイトの細かいシステムについては初めて知った。
リザーバー(補欠)なんていうシステムがあったのか。それは好都合だ。

「わかった。じゃあ二つ仕事をやってくれ」
「はいはいオーケーわかりました。なんでしょ?」
「一つ。あたしをそのリザーバー枠に押し込んでちょうだい。できるだろ?」
「もちろんそんなの簡単ネ。店の人みんなトモダチ。係のイシカワさんもトモダチね」
「はー、トモダチねえ・・・・・・・」
963 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:04
いつの間に。ミキはあきれ返った。
LLは働き者なのは良いのだが、人当たりが良すぎるのが欠点だ。
この仕事は顔を覚えられて良い思いをすることは何もない。
隠密に動くのがセオリーなのだが、LLはそういったことができないタイプだった。

「まあいいや。もう一つ。その最強の挑戦者ってのが当日会場に来れないようにしてほしい」
「来れないように・・・・・・ってどういう意味ですカー?」
「あたしはヨシザワとファイトしたいわけ。だからそいつが邪魔なわけ」
「おー、なーるほど」
LLは右手で作った拳を、左の掌の上でポンと叩いた。
昔の漫画でよく見るような仕草だ。実際にやる人間をミキは初めて見た。

「あの・・・だからさ、手段はなんでもいいからさ、来れないようにしてほしいわけよ」
「だったら簡単ね。当日殺せばいいヨ」
「えっ」
「殺せばその男、会場に来れない。でしょ? 殺しちゃいけない理由があるカ?」
「いや、ないけど。でも最強の挑戦者なんだろ? どうせバリバリのキャリアだろ?」
「アハハハハハハハハ」

LLは陽気に笑った。
劇団員が「喜怒哀楽の、喜!」とか言って演技の練習をしているような笑いだった。
964 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:04
「もちろんキャリアね。それがなに?」
「それがなにって・・・・・・強いんだろ? 只者じゃないんだろ?」
「めっちゃ強いよー。これまでの挑戦者がカマキリならそいつはカブトムシね」
LLはよくわからない喩え方をした。
どっちがどれだけ強いんだ? 中国ではカブトムシが最強なのか? 基準は何だ、基準は。

「ふーん。カブトムシねえ。じゃあ、あたしは何?」
「フジモトさん? よくわからないけどスズメバチかなー?」
ますますもってよくわからない。
スズメバチってカマキリより強いのかよ。カブトムシより強いのかよ。
誉められているのか、貶されているのか、ミキにはよくわからなかかった。

この仕事をLLに任せて本当に大丈夫だろうか?
LLは暗殺現場では単独で行動することが多かった。
セットで動くときのパートナーはいつもJJだ。
ミキはLLの戦闘能力がどれほどのものか、実際にはあまりよく知らない。

「じゃ、LLは何なんだよ。カブトムシに勝てんのかよ」
LLはカラっと晴れた青空のような笑顔で、ミキの心配を吹き飛ばした。

「アハハハハハ。大丈夫。LLは虎ね。カブトムシじゃ、虎には勝てナイ」
965 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:04
966 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:04
確かに男は強かった。
カブトムシという喩えが適当かどうかはわからないが、間違いなく強かった。
少なくとも北関東においては王者として君臨しているキャリアだった。
もちろん彼は―――ヨシザワなどという女に負けるとは思ってはいなかった。
彼が所属する組織の東京進出において、まずはこのフォースという
東京一という噂の店を制圧するつもりだった。

不幸だったと言わざるを得ない。

もし彼がヨシザワと戦い、たとえ敗れたとしても、
それは決して不幸だったとは言えないだろう。
男として戦い、キャリアとして戦い、ファイターとして戦い、
勝利も敗北も、彼自身への正当な評価として受け取ることができただろう。

だから男は不幸だったと言わざるを得ない。

彼はただ、たまたまフジモトが思いついたときに、
たまたまヨシザワに挑戦する人間に決まっていた、というだけにすぎない。
何の関係もない男だった。ミキとも。GAMとも。SSとも。
そして『虎』と呼ばれる中国から来た暗殺者とも。
何の関係もない男だった。

不幸だったと言わざるを得ない。
967 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:04
LLは真正面から男に向かっていった。
真っ赤なチャイナドレスを着た可憐な少女。
くっきりと浮かび上がったボディラインは、銃器を隠しているようにも見えなかった。
男も、その周りにいた人間も、誰もLLに注意は払わなかった。

LLはキャリアではない。超能力者でもない。軍事訓練を受けたわけでもない。
ただ、拳法の修行だけは一通り積んでいた。十年と少しばかり。

十年と少しばかり―――文字通り寝食を忘れて、一日24時間。
信じられないくらい修行に打ち込んでいた。
彼女の細胞と血管には想像を絶する修行の成果が濃密に詰まっていた。
流した汗は裏切らない。
絶え間ない単純作業の繰り返しは、時として科学をも超えて超常的な力を発揮する。
そういう意味では―――LLは超能力者だったのかもしれない。

男にはLLの放った単純な正拳突きが見えなかった。

もしかしたら男は幸運だったのかもしれない。
少なくとも痛みを感じることはなかった。
LLの拳は男に痛みを感じさせる間もなく、光の速さで突き抜けていき―――
男の頭部を水風船のように弾き飛ばした。
968 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:04
969 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:04
ミキがリングに上がった瞬間、凄まじい罵声が飛び交った。

フォースではファイトに関する賭博券は、ファイトが中止にならない限り、
払い戻しが一切利かない。
つまり賭けはリザーバーも含めての賭けということになる。
実際これまでも、何らかのトラブルでリザーバーがファイトに出るという事態は何度かあった。
ごく希ではあるが、初めての事態ではなかった。

だが酔っ払った客にはそんな理屈など関係ない。
見たこともない華奢な少女が、不敗のファイターのヨシザワと戦えるとは思えなかった。
男に賭けていた客は、早くも賭け券を破り捨てているようだった。

バカだねー

ミキはそんな客を見下していた。客の表情をじっくりと眺める余裕があった。
だがお互いリング中央に歩み寄り、目と目が合った瞬間、
ミキの心の中から楽観的な気分が吹き飛んだ。
頭の中で真っ赤な警報ランプが鳴り響く。最上級の危険信号だった。

こいつは―――やっぱりこいつは並じゃねえ。
970 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:04
こいつは並じゃねえ。

ミキがそう思っていたとき、ヨシザワも全く同じ事を考えていた。

今回のファイトが始まる前に、周りが最強の挑戦者と騒ぎ立てていたときも、
ヨシザワの心はいたって平静だった。
フォースでのファイトはスポーツじゃない。殺し合いだ。同じ相手と再戦することはない。
だからファイトに最強もクソもありはしない。

ファイトは10進法ではなく2進法なのだ。
10進法のように、9つの数字が積み重なっていくことはない。

ファイトは勝利という1と敗北という0の二択でしかないのだ。
たとえ勝利しても、積み重なって桁数が増えていっても、
2進法はどこまでいっても1と0の二つの数字しかない。

ゼロかイチか。勝者か敗者か。死者か生者か。
どこまで行っても単調な二択の繰り返しでしかない。それが永遠に続くのだ。
だから比較対象は過去でも未来でもなく、今この瞬間にしかない。
だからヨシザワはいつだって、リングの上に立っている二人が最強だと思っていた。
971 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:05
だが今、目の前にいるこのリザーバーは、過去に対戦したどの相手とも違っていた。
どうしても過去の対戦者と比較してしまう。
比較して、共通点を探そうとしてしまう。
共通点が一つでもあれば、そこからこの女の一部が類推できるだろう。
だがこのフジモトミキという女は、過去のどの対戦者とも共通点らしきものがなかった。

それでもヨシザワは一つだけ理解できた。
なぜ共通点が見えないのか。
それはこの女が強いからだ。それも飛び抜けて強いからだ。
ただ強いというそれだけで、他の全ての印象を吹き飛ばしてしまうくらい、強いからだ。

それでも不思議とヨシザワは自分が負けるとは思わなかった。
この女は、強いと同時にとんでもなく弱い。
そんな矛盾した思いがヨシザワの中にあった。

その弱さがなんであるのか。それは今はわからない。
だが戦えばわかる。このリングの上で、一緒に濃密な時間を過ごせばわかる。
命のやり取りだ。見知らぬ二人が理解しあうには、これ以上濃密な空間はない。
972 :【発症】 :2009/07/30(木) 23:05
なぜだろう。
ヨシザワは相手に対して、倒してやる。殺してやる。とは思わなかった。
ただこの女に対して「あんたの弱さを教えてやるよ」という気持ちになった。
勿論そんなことは100回近いここでのファイトにおいて初めて思ったことだった。

ヨシザワは自分の強さに自信を持っている。
だがそれと同じくらい、自分が弱い人間であることも知っている。
自分も。カゴも。イシカワも。ナカザワも―――そしてツジも。
みんな弱い人間だ。人間はみんな弱いんだ。
その弱さがたまらなく悲しかった。

きっとこのフジモトという女は―――それを知らない。自分の弱さを知らない。
だから教えたい。だから伝えたい。お前がどれほど弱い人間かということを。
そのためにはまずこのフジモトという女の弱さを知らなければならない。

相手のことを知りたい―――もっと深く、もっと深く。
皮肉にも、ヨシザワとミキは、全く同じことを思っていた。

ゴングが鳴った。
973 :名無飼育さん :2009/07/30(木) 23:05
974 :名無飼育さん :2009/07/30(木) 23:05
975 :名無飼育さん :2009/07/30(木) 23:05
976 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:02
ゴングが鳴った。
その瞬間、ミキの脳内から警報ランプが消えた。
ここから先は命のやり取りだ。今更警報でもあるまい。

同時にミキの耳からは観客の罵声も消えた。
折れた肋骨の痛みすら消えた。
ただひたすらヨシザワの動きだけに視線を集中する。
こちらから動くつもりはなかった。
こういう戦いでは、最初に動く方が絶対的に不利だ。

こう着状態が続けば、必ず客からブーイングが飛ぶに違いない。
自分はそんなブーイングなど全く気にする必要はない。
だがここの看板ファイターであるヨシザワは、動く必要に迫られるだろう。

その瞬間が最大のチャンスだ。
そして案外それが―――最後のチャンスかもしれないと思った。
二度も三度もチャンスを与えてくれるような甘い相手ではないだろう。

ミキは冷静だった。そして集中していた。
LLの横に、嗅ぎ慣れた臭いが漂っていることにも気付かないくらいに―――
977 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:02
1分が経った。
客からブーイングが沸き起こる。

2分が経った。
客のブーイングが地鳴りのように響き始める。

だがヨシザワは動かなかった。自分から動くつもりはなかった。
相手は明らかにその瞬間を待っている。
ヨシザワは冷静に相手の動きを観察していた。

たかが客のブーイングに乗せられて動くほどヨシザワは甘くなかった。
3分が経った。相手のフジモトがちょっと意外な表情を見せた。
それを見てヨシザワはニヤリと笑った。

焦るなよ。じっくり楽しもうぜ。この濃密な時間をさ。
ヨシザワはガードを上下させながら、目でフジモトに話しかけた。
お前だってこの瞬間のために生きているんだろう?
飯食ったり。息吸ったり。金稼いだり。男とセックスしたり。そんなの全部おまけだろ?

自分より、ほんの少し強い相手をぶちのめすために。相手の全てを否定するために。
そのために生きているんだろう? 他のことなんておまけみたいなもんだろう?

ガードの向こうでフジモトがフッと笑ったような気がした。
次の瞬間、嵐のようなラッシュが襲い掛かってきた。
978 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:02
3分経ってもヨシザワは動かなかった。
ミキにはそれが意外なことに思われた。

客のブーイングは頂点に達しようとしている。
このまま時間が過ぎれば、フォースにとって美味しいオッズも成立しなくなるだろう。
ヨシザワは一体、何を考えているんだ?

次の瞬間、ヨシザワのガードがすっと下がった。
ニヤリと笑った目が告げていた。焦るなよと。楽しもうぜと。
ヨシザワのガードがまた上がる。そして下がる。そして上がる。遊んでいた。一人で。

ヨシザワの目は雄弁だった。
お前だってこの瞬間のために生きているんだろう?
自分より、ほんの少し強い相手をぶちのめすために。相手の全てを否定するために。
そのために生きているんだろう? 他のことなんておまけみたいなもんだろう?
そうやってしきりにミキに訴えかけてきた。

あー。うるせえ。

ミキはお喋りなヤツが嫌いだった。
何より嫌いなのは、わかった風な顔をしてズバリと図星を指すヤツだった。
そんなやつは残らず全て叩きのめしていた。例外はない。

ミキはふっと一つ息を吐くと、猛然とヨシザワに襲い掛かった。
979 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:02
こういう戦いでは先に動いた方が絶対的に不利だ。
ヨシザワは落ち着いてフジモトの攻撃を迎撃した。

フジモトのパンチの軌道がはっきりと見えた。
全力を出す必要はない。キャリアとしての能力を出す必要はない。
80%くらいの力で十分かな―――と思って出したヨシザワのパンチは、
ものの見事にフジモトの顎を捕らえた。

あれ?

びっくりするくらい手応えがなかった。
ヨシザワのパンチに逆らうことなく、フジモトはくるりと体を回転させていた。
勢いをつけて回った体の向こうから、鋭いバックハンドブローが飛んでくる。

しくった

フジモトの手の甲が見事にヨシザワの額を捕らえた。
捕らえたというよりも―――ヨシザワが自分からしゃがみ、
フジモトのバックハンドブローを額で受け止めたと言った方が正確だろう。

額は顔の中でも一番固く、ダメージが残りにくい部分だ。
あわよくば頭突きでフジモトの拳を砕こうと思った。
だが痛がる素振りも見せずに、フジモトは次の攻撃を仕掛けてきた。
980 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:02
バックハンドブローを額でブロックされた瞬間、ミキの体に激痛が流れた。
だが痛みは顔に出さない。それは戦いの基本中の基本だ。

今度は左手でヨシザワの目を狙った。
本来なら貫手で打つべきところだったが―――額でブロックされたことが頭に残っていた。
同じように体の固い部分でブロックされたら指が折れる。

ミキは掌底でヨシザワの顔面を捉えにいった。
貫手ほど殺傷力はないが、掌底の方が打撃面積が広い分、攻撃が当たりやすい。
かすっただけでも攻撃が当たればこちらのリズムになってくる。
ミキは右から左から掌底を乱れ打ち、ヨシザワに後退を強いた。

当たらない。全く当たらない。だがこれは撒餌だった。
上からの攻撃に目を慣らしておいて、ミキは突然回し蹴りを放った。
蹴る瞬間、以前ここでカマキリ女と戦ったときのヨシザワの映像が浮かんだ。
あのとき、カマキリ女の攻撃がヨシザワをとらえたと思った瞬間、
吹っ飛んでいたのはカマキリ女の腕の方だった。

一瞬、ミキの足が伸びなかった。
それが命取りになったのか、あるいは命を取り留めたのか。
それはミキには分からない。
だが次の瞬間、マットにはいつくばっていたのはミキの方だった。
981 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:03
フジモトの蹴りは予想していない角度から飛んできた。

パンチで目を上からの攻撃に慣れさせて、蹴りを飛ばす。
そんなのは基本中の基本のパターンだった。ミエミエだった。
だからヨシザワは余裕を持って受け止めることができると思っていた。

だがフジモトの蹴りは突然、ヨシザワの視界から消えた。
かわしきれない。そう感じた瞬間、ヨシザワの筋肉が反応した。
全ての筋肉が一つの方向に向かって収斂した。
一点に集中したパワーがヨシザワの膝に宿る。
まるで体当たりのような捨て身の飛び膝蹴りがフジモトの胸元を掠めた。
フジモトは瞬間的に胸を反らしていた。手応えはまるでなかった。

外した―――。

そう思い、体勢を立て直したヨシザワだったが、振り向くとフジモトはマットに沈んでいた。
バカな。ほんの少しかすっただけだ。ダメージがあるわけがない。
死んだ振り―――?
おいおい、つまんないことしてこっちをがっかりさせるなよ。

ヨシザワはフジモトが立ち上がってくると確信していた。
実際、フジモトはよろよろと立ち上がろうとしていた。
だが次の瞬間、挑戦者側のコーナーから白いタオルが投げ入れられ―――

ヨシザワの勝利を告げるゴングが打ち鳴らされた。
982 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:03
ヨシザワの飛び膝蹴りはかわしたと思った。だがかすかに胸をかすめていた。
折れた肋骨はまだ完全に治っていない。
普段なら感じない痛みに戸惑いながら、ミキはマットに膝をついた。

違う。スリップダウンだ。こんなもの効いちゃいない―――

だが立ち上がったミキの足元に、バサッと白いタオルが投げ入れられた。
そしてヨシザワの勝利を告げるゴング―――

バカな! 降参なんてするかよ! だれが勝手なマネを? LLか?

振り向いたミキの視線の先には、氷のような冷たい眼差しをしたアヤが立っていた。
その横ではLLが申し訳なさそうな顔をしている。
全部アヤに報告していたのか―――

力が抜けたミキは、がっくりとマットに膝をついた。
LLとアヤが近づいてくる。アヤは氷のような冷たい声で言った。

「帰るよ。話はその後でね」
983 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:03
984 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:03
アヤはGAMの構成員が運転する車の後部座席に陣取った。
隣の席にはミキが座る。
LLはフォースの監視のために残してきた。

帰途につく間、アヤはミキに何も言わなかった。
ミキはずっとふてくされたままだ。自暴自棄になっているらしい。
言い訳をしないところも、そして申し訳なさそうな顔を全くしないところも、
ミキらしいといえばミキらしかった。

アヤはLLから逐一報告を受けていた。
だからこの件については、LLが男を殺す前から知っていたし、
止めようと思えばいつでも止めることができた。

派手なことはしたくない。それは何度も言ってきかせたはずだ。
不敗のヨシザワに勝ってしまうようなことになれば、
ミキはこの世界で一躍脚光を浴びてしまうだろう。
それがわからないミキではないだろう。判断を誤ったのはなぜ?

もしかして?
985 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:03
アヤは一度LLに聞いてみた。この子はなかなか頭が切れる。
「え? フジモトさんがヨシザワを好き? ないない。そんなことないネー。
 フジモトさん、ただ退屈してるだけよ。ヨシザワさんと遊ぶ。
 これフジモトさんにとっての最高の暇潰しネ。マツウラさんもわかるでしょ?」

なるほど。その通りかもしれない。
ミキは黙って鎖につながれているような子ではない。
それなら一度だけ。一度だけ好きなように遊ばせてやろう。

一度痛い目に遭えば少しは大人しくなるだろう。
きっとミキにとってきついお灸になるに違いない―――
アヤは、怪我が癒えていないミキがあのヨシザワに勝てるとは思っていなかった。

案の定、ミキは敗れた。だが収穫がなかったわけではない。
あの飛び膝蹴りを出した瞬間、あの一瞬だけヨシザワはキャリアとしての能力を使った。
一度見れば十分だった。
アヤにはもうヨシザワの能力がなんであるのか、おおよその見当がついていた―――

もし次にGAMがヨシザワとやり合うような事態になれば、相手をするのは自分だ。
アヤにはヨシザワを完膚なきまでにたたきのめす自信があった。
986 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:03
「とりあえず、フォースの線は一旦中断ね」

ミキはそこで初めてひどく傷ついた顔をした。
自分がヨシザワに敗れたのだということを再認識させられたのだろう。
確かにミキは怪我をしていた。だが負けは負けだ。
そんな言い訳をすることはミキ自身も許さないだろう。

「いやでもアヤちゃん」
「ミキたんが悪いんじゃないよ。収穫もないわけじゃなかったし」
「同情はいらねーんだよ。変なフォローしないでよアヤちゃん」
「コンコンがアクセスに成功した」

アヤは話をガラリと一変させた。
そしてそこで一旦沈黙した。重い空気が車中に満ちる。

どこにアクセスしたのか。なにが起こったのか。
そこまで言う必要はないよね? ちょっと考えればわかるよね?
アヤは無言でそう言った。そうすればミキの頭が冷めるとわかっていた。
987 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:03
ミキの頭が冷えたのを見計らって、アヤが言った。

「本部に集められるだけ人を集めた。コンコンもカオリもいる。支部にはJJを回した。
 マコのところにはNothingを回した。それ以外のメンバーは皆本部で待っているんだ。
 もう一回、人員の再編が必要なわけよ。わかるでしょ?」
「わかった。もう勝手なことはしない」

未練はまだたっぷり残っていたが、とりあえずミキはそう答えた。
本来の目的を忘れるほど、ミキは愚かではない。
確かにファイトでは負けた。だがあれは本来の仕事ではない。
仕事は仕事。遊びは遊び。そう割り切ることができた。

勿論、遊びであっても借りは借りだ。
いつかヨシザワにはきっちり利子をつけて返さなければならないだろう。
なによりも―――ミキは何一つ理解できていなかった。

なぜヨシザワが戦うのか。なぜヨシザワはあんなにも強いのか。
そしてなぜ、自分がこんなにもヨシザワに興味をひかれるのか―――
988 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:03
989 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:04
GAMの本部には言い様のない緊張感が流れていた。
会議室には40人ほどの人間がいるだろうか。
LLやマコとJJ以外の主要メンバーが全て揃っていた。
アヤとミキがそこに顔を出すことで、緊張感はさらに高まる。

しばらくの間、本部を空けていたミキは驚いた。
武器弾薬の類が部屋中に溢れている。
まるでこれから戦争に行くかのようだ。

いや、実際これから戦争に行くのだろう。

アヤがこれだけの準備をしているということは、
これだけの準備が必要な相手と戦うことが決定したということだ。

これってあのヨシザワと戦うのとどっちがシビアな戦いなんだろう―――
ミキはこの期に及んでもまだそんなことを考えていた。
990 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:04
「コンコン。説明して」

アヤに促され、コンノが立ち上がった。
「はい。なんとか政府のサイトへのアクセスに成功しました・・・・・・。
 詳細を話すだけでたっぷり2時間は・・・・ですが今はそれは省略します」

コンノの目の下にははっきりとした隈ができていた。
一日や二日の徹夜では音を上げないコンノにしては極めて珍しいことだった。

まあ、ちょっとくらいなら苦労談とかも聞いてあげてもいいかな、
とミキに思わせるほど、コンノはぐったりとやつれていた。
生真面目なコンノのことだ。きっと不眠不休でやったのだろう。ご苦労なことだ。

「結論から言います。あの施設は当時のままの状態で封鎖されてます。
 信じがたいことですが、どうやらウイルスに汚染されて持ち出せなかったようです。
 パソコンも、書類も、実験施設も。そして―――あの事故で死んだ使者もそのまま」

会議室にざわざわと動揺した声が広がる。
三年もの間、死体が放置されているなんて常識では考えられなかった。
991 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:04
「あそこに放射能が出たも事実でした。今でも防護服なしで近づくことはできません。
 ですが―――逆に言えば、防護服があれば近づけるということです。
 今もあの地域一帯は封鎖されていて厳しい検問態勢が引かれていますが、
 そこさえくぐりぬければ、施設そのものの警備はほとんどなされていません。
 何と言っても―――そこは人間が住むことのできない死の世界ですから」

検問は厳しいが、封鎖地帯は広い。
検問が全ての地域をカバーしているとは言い難い。
場所を選べば突破することは難しくはない、というのが他のメンバーの調査結果だった。

「ウイルスそのものに関しては、国もほとんど情報を持っていませんでした。
 やはりテラダという男が―――ほとんどの情報をにぎっているようです。
 そのテラダという男を施設長に推薦したのはヤマザキという男でした。
 こちらの男の背景については現在調査中ですが、例の薬の投与試験に関与していた
 製薬会社は、このヤマサキという男の息のかかった会社と考えて間違いありません」

コンノは言い淀むことなく報告を終えた。
アヤのリクエストにほぼ完璧に応えた報告だった。
992 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:04
アヤが満足そうに言った。
「つまり試験結果なんかの情報は、全てあの施設に封じられているわけね」

コンノが力強く頷いた。
「はい。施設の外面は、事故直後に爆撃を受けて全壊したようですが、
 試験施設は全て地下にありました。おそらくは地下は無傷だと思われます」

会議室のディスプレイに施設の画像が映し出される。
その下にはテラダと思われる中年の男の写真と、
一人の少女の写真が添えられていた。

コンノが少女について説明を付け加える。
「このカメイという研究員はテラダの個人的な推薦で入所しています。
 そして例のウイルスというのは―――このカメイが入所した後から
 様々な試験が開始されていることがわかりました。つまり―――
 あのウイルスと、カメイという女は何らかの関係が強い可能性があります」
993 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:04
ミキがスパッと言った。
「コンちゃんは相変わらず回りくどい言い方するなあ。
 要するにそのカメイってのがウイルスを持ち込んだんだろ?」
「可能性はゼロではないです」
「はいはい」

アヤがニヤリと笑った。
「どう? ミキちゃん。もうフォースでヨシザワと遊んでる場合じゃないでしょ」
「はいはい。その通りでございますよ」

フォース。マリィ。SS。アベナツミ。施設。政府。
考えうる範囲で、ありとあらゆる範囲に網を張ったGAMだったが、
最終的なターゲットがここで一つに絞られた。
アヤがそれを明確な言葉で全メンバーに告げる。
それを合図にGAMの行動は次のステージへと移された。

「よし。ターゲットは施設だ。次は施設に殴り込みをかける」

アヤの言葉はその場を沸騰させるには十分なものだった。
メンバーは手に手に武器を持ち、待ちきれないといった表情でアヤの次の言葉を待つ。
いつ仕掛けるのか。何人で仕掛けるのか。どう仕掛けるのか。
全てはアヤの判断にかかっていた。
994 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:04
その場にいた全員が、次の展開をにらんで夢中になっていた。
アヤですら、恍惚とした感情とは無縁ではなかった。
だが気持ちの高ぶりが油断になっていたわけではない。
アヤはあくまでもいつものアヤだった。

だがアヤはそのとき、気付いていなかった。

カオリも、コンノも、その他のメンバーも全て。

気付いていなかった。

GAMの本部である建物を、一人の女が見つめていたことを。
揺れることも漂うこともなく、ただ壁の隙間の黒く張り付いた闇の中に、
GAMのメンバーを見つめる一人の女がいたことに。

誰も気づかなかった。
995 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:04
黒い影は、音も立てずに移動を始めた。

驚くべきことに、その女が移動することによって、何も動かなかった。
空気も塵も芥も。分子や原子でさえも。何一つ動かなかった。
彼女が発する熱も呼気も全て、流れ行く風の中に中和されてなだらかに消えた。
だから誰もその気配を察することができなかった。

そのとき、地球の大気が気まぐれに風の向きを変えなければ―――
きっとミキですら気付くことはできなかっただろう。

ほんの一つの粒子だった。
ほんの一つの臭い粒子を、ミキの敏感な鼻を捕らえた。
ミキの中で警報ランプが鳴り響く。ランプの色は、赤ではなく黒だった。

覚えのある臭いだった。忘れようと思っても忘れられない臭いだった。
ミキは銃を握り締めると、頭を下げて床にダイブした。

「伏せろ! 敵襲だ!!」
996 :【発症】 :2009/08/02(日) 23:07
第四章  発症  了
997 :名無飼育さん :2009/08/02(日) 23:07
998 :名無飼育さん :2009/08/02(日) 23:07
999 :名無飼育さん :2009/08/02(日) 23:07
1000 :誉ヲタ ◆buK1GCRkrc :2009/08/02(日) 23:07
サディ・ストナッチ・ザ・レッド
ttp://m-seek.net/test/read.cgi/water/1249221991/
1001 :Max :Over Max Thread
このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。

新着レスの表示


掲示板に戻る 全部 次100 最新50

read.cgi ver5.27 + 0.02 (04/08/03)