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ぞわぞわの日

1 :さるぶん :2009/03/25(水) 09:56
ハロプロ(OG・エッグ含む)のお話です。
228 :名無飼育さん :2009/07/14(火) 20:56
 頭では理解していたのだ。

 予知という能力があることは何度もZetimaで聞いていたし、信じても
いた。

 この少女は明らかにそれを持っていた。

 しかし、それは初めて目の当たりにするものだったから、いまは恐怖
の方が勝っていたのだ。

「どうして? なんで小春がともだちにならなくちゃいけないの!」

「見えるからですよ」

「なにが?」

「未来がです」

「証拠は?」

「ありませんよ。だって見えるんですもん」

 小春の息は上がっていたが、少女は平常だった。

 荷物とて、小春のほうが少ないぐらいで、少女は旅行鞄のようなもの
を脇へ下げていた。
229 :名無飼育さん :2009/07/14(火) 20:56
 右手にはケータイを持っている。

「これ、落としはりましたよ」

 よく見ると、小春のものだった。

「…あ、どうも」

 差し出されたそれを、小春は警戒しながら受け取った。

 それで少女は、また、あのニタニタした笑いを浮かべ始める。

「悪いひとじゃ、ないみたい…」

「やっと分かってくれはりました?」

「少しだけ…だよ」

 小春はケータイを握りしめ、胸に当てている。

「じゃあ、おともだちになってくれるんですね」
230 :名無飼育さん :2009/07/14(火) 20:58
「だからっ! なんでそうなるの」

「だって、そういう運命なんですもん。いまだって、うちのこと名前も知ら
ないのに、ちょっと受け入れてくれてはってるでしょう」

「それは…アイドルだもん、ファンの子みんなにそうするよ。名前なんて、
知らないのが当たり前じゃん」

「まぁ、確かにうちは小春ちゃんのファンですけど…。でも、どっちかっ
ていうと、Milky Way全体のファンっていうか、歌手として見たらサーヤ
とキッカのファンっていうか…」

 少女はモジモジする。

「じゃあ、どうして小春のところにくるの!?」

「分からへんひとやなぁ…。言ったでしょう、運命やって」

 少女はあきれたように言うが、でも、どこか弾んだような足取りで小春
の脇へ立った。

「ね、おともだち決定です!」

 そして、にへへ…と笑う。

 よく見ると、歯には矯正器具が嵌めてあって、それが少し気持ち悪い
なと小春は思った。
231 :名無飼育さん :2009/07/14(火) 20:58
「うち、光井愛佳っていいます。ミッツィーって呼んでください」

 小春はなにも言えなかった。
232 :名無飼育さん :2009/07/14(火) 20:59
 
233 :名無飼育さん :2009/07/14(火) 20:59



 数分後、2人はタクシーに揺られていた。

 空港へ向かうための利用だった。

「スペインへは何をしにいかはるんです?」

 背もたれに深く身を預けながら、愛佳は小春のほうを見ていた。

 相変わらず、ニタニタしている。

 一方の小春はというと、どこか落ち着かないようすでいた。

 背もたれを使うというより、身体を窓のほうへ乗り出して流れる景色
を見ている。

「あれ、小春ちゃん引いてはります?」

「…べつに」

「そうですか? ほんまに? まだ、突然おしかけてきたうちのこと、頭の
おかしい子やと思ってはるでしょ」

 愛佳は、先ほどから、もう10っぺんは同じ質問をくりかえしている。

 少しヤケ気味に小春は言った。
234 :名無飼育さん :2009/07/14(火) 20:59
「思ってないってば!しつこいな!」

「そうですか。なら、いいですけど」

 愛佳は満足そうな顔だった。

 そのようすを、運転手がバックミラー越しに見ている。

 夜の7時に人気のない路上で呼び止められたのが、まさか少女2人
組によってであり、おまけに空港まで行ってくれと告げられたのだ。

 訝しがるのも当然だった。

 そんな視線をよそに、愛佳は1人でしゃべり続ける。

 自分の好きなことや、気になっていること。

 その中でも、とくに小春やMilky Wayのこと。

 どの曲が好きで、どの番組が印象に残っているかなど、おしゃべりと
いうより緩慢な1人ごととして話していた。

 それでも、小春がなかなか食いついてこないので、

――アイカ・ミッツィーの当たらへん話〜っ!
235 :名無飼育さん :2009/07/14(火) 20:59
 といって、自分が予知能力を使って何かを言い当てようとしたものの、
見事に外してしまったという内容の、くだらない笑い話をいくつか披露し
た。

 それを密かに聞いていた運転手が思わず何度か吹き出してしまった
のだが、小春は意地でも笑ってやるものかと思っていた。

「そんでね、大変やったんですよ、もう。なかなか当たらへんもんやから、
みんなに、『オオカミ少女や、オオカミ少女や』言われて、よくいじめられ
てました」

 愛佳がそれを言うようすは、およそさり気ないものだったが、聞いてい
た小春は声をあげた。

「…オオカミ少女!?」

「はい。そうですけど、どないしはりました?」

 小春は先ほどまで、窓の外をつまらなさそうに見ていたのだが、打っ
て変わって愛佳の目を覗きこむようにしている。

「…ううん。なんでもない」

 曖昧に笑うと、背もたれに戻った。

 もう窓の外は見ていなかった。

 30分後、タクシーは空港へ到着した。
236 :名無飼育さん :2009/07/14(火) 21:00
 
237 :名無飼育さん :2009/07/14(火) 21:00



 カウンターで尋ねると、深夜便でスペインへ行くには、乗換えが必要
だった。

 21時発のエールフランスでパリのド・ゴール空港へいき、翌朝、9時
の便でマドリードへ。

 これが最短だった。

「うちね、小春ちゃんの曲で、めっちゃ好きなやつがあるんですよ」

 愛佳はまだ喋っている。

 2人はラウンジのソファに腰掛けていたが、小春はろくに話を聞いてい
なかった。

 ケータイをいじろうかとすら思っていて、しかし、相手がしゃべっている
以上、マナー違反なのではないか――そうも思っていた。

 飛行機の到着まで、あと一時間半。

 i‐podも出してみて、結局は聴かずにおいた。

「それはね、Milky Wayの『アナタボシ』なんです。どんなとこが好きかっ
ていうと、歌詞なんです」
238 :名無飼育さん :2009/07/14(火) 21:01
 愛佳は諳んじてみせた。

――1、2の3で(イチニのサンで) ワープするから
               私の この思い かなえてね
          今すぐそこに 辿りつくのよ 何千億光年の
                       まだ遥か 彼方☆(カタナボシ)♪

「このね、もう詞が、めっちゃ好きなんですよ」

 髪をいじっていた小春が、手を止めて訊いた。

「どうして?」

「気になります?」

 小春がやっと食いついてきたので、愛佳はニタニタ笑いを浮かべた。

「べつに…」

 小春は拗ねたように言って、また髪をいじりはじめたが、愛佳はしゃ
べり続ける。

「この詞ってね、冷静に考えると矛盾してるんですよ。だって『ワープ
する』って言うてる――つまり、『アナタボシ』まで飛んでいくよって
自分から言うてるのに、『まだ遥か 彼方☆(カナタボシ)』って言うてる
んですよ?
239 :名無飼育さん :2009/07/14(火) 21:01
 ワープしたんやったら、ふつうはすぐ隣におらなおかしいのに。これ
ってありえへんくないですか?」

 愛佳はそういって、両手を上げてみせた。

「もちろん、ふつうの子は超能力なんか持ってへんし、もちろんワープ
なんて出来ません。せやから、そういう意味でなんかなとも思ったん
です。”もし自分がワープできたら…”って、そういう意味なんかなって」

 その場合、この表現は納得できるのだという。

「でも、その場合かて、もっと別の言い方があると思いませんか?
例えば、『1、2の3でワープするから♪』の『するから』を『できたら』に
するとか」

 だから愛佳は、この子は、実際にワープができるのだという。

「けど、同時に、それだけではあかんとも思ってるんです。足りひんと
思ってるんですよ、勇気が。急に超能力でパッて飛んでいって、気持
ち悪がられたらどうしようって、そんなマイナスなことばっか考えては、
会いに行かれへんくなってるんです」

 言いながら、愛佳は自分の胸に手を当てた。

「この子はね、分かってもらいたがってるんですよ。せっかく『アナタボ
シ』まで飛んでいくんやから、受け入れてもらわれな、優しく話かけて
もらわれな悲しすぎるって」
240 :名無飼育さん :2009/07/14(火) 21:01
 だから、『私の この思い かなえてね』というのは、そういう意味なの
だと。

 つまり――『ワープする』勇気が持てたら、そのときは『アナタ』の
もとへ飛んでいくから、そのときは私を受け入れて欲しいと、そのよう
に願っているのだと。

「実際には、この子は勇気を持たれへんから、『今すぐそこに辿りつく
のよ』っていって気合も入れなあかんことになってるし、だから『アナタ
ボシ』がまだ『何千億光年』も『彼方』にあるように感じてしまうんです」

 愛佳は小春のほうを向き直って、

「そんな気持ちで、これは書かはったんですか?」

 と言った。

 小春は首をかしげながら、

「よくおぼえてないよ」

「でも、これって、Milky Wayのみなさんで作詞しはったんですよね」

 小春はうなづく。

 Milky Wayの歌詞は、その全てを、3人が共同で書いている。
241 :名無飼育さん :2009/07/14(火) 21:02
 例外的に1人で1曲ずつ担当したこともあるが、あくまで基本は守ら
れてきた。

 「アナタボシ」はチームがまとまり始めた頃のもので、アイドルとして
の人気が加速度的に高まっていたころの作品でもあった。

 小春たちがこれを書いたのは、タイトなスケジュールの中、ホテルの
一室に缶詰にされていたとき。

 当時、3人はアイドルをすること自体に不満を覚えていたのだが、
研究室で紺野が言ったように、能力の行使には術者の精神の安定が
不可欠であるからして、アイドルとして以上に、狩人としての鍛錬にも
なるといわれた。

 それで渋々、納得することにした3人だったが、結果として、これを
完成させることは、Milky Wayに大きな変化をもたらすこととなった。

 それまでチームとして1度も狩りに成功したことがなかったという、
悲惨で目も当てられなかった状態から、Zetimaのエースとしての地位
を確立するにまでなっていたのだ。

「あのころは、ほんと必死だったんだ。仕事が忙しくて、とりあえず出て
きたことばを、そのまんま書き出して、あとはプロのひとにまとめてもら
うって感じだったから…」

「それで、むちゃくちゃな感じになったんですね」
242 :名無飼育さん :2009/07/14(火) 21:02
 愛佳は深くうなづいている。

「…ていうか、むちゃくちゃなのに、どこがいいの」

 小春は心外だという表情で言った。

 それは自分の作品をそのように評されたとき、誰もがそうするはずの
反応だった。

 しかし、愛佳は、意外なことを言った。

「いいえ、むちゃくちゃなんは、むしろ好きなとこなんですよ。うち、能力
があるって分かってからは、小春ちゃんとおともだちになるんや〜!って
いって、教室の隅っことかで、もう四六時中にやけてたんですね。

 けど、いきなり会いに行って、信じてもらわれへんかったらどうしよう?
とか、おまけに警察に逮捕されたらどうしよう、とか思って。そんで、ず
っと二の足を踏んでたんです」

 愛佳は、そのときの心境が、この歌詞に重なったのだという。

「うちと小春ちゃんが、おともだちになることは分かってる。なら、行った
らええのに、行かれへんくってウジウジしてる。そういう自分の矛盾した
とこを『アナタボシ』の歌詞が代弁してくれてるって、そう思ったんです」

 だから、いっつもこの曲を口ずさんで、寂しいのを紛らわしてたんです
よ――と。
243 :名無飼育さん :2009/07/14(火) 21:03
 小春は、愛佳の顔をまじまじと見た。

「いつから…?」

「なにがです?」

「小春と、その、ともだちになる…っていうか、こうなることが、いつから
分かってたの」

「忘れちゃいました。でも、ずーっと昔です。小春ちゃんをテレビで見た
ときには、もう知ってました」

 小春が芸能界デビューしたのは5年前。

 それからずっと、自分は小春のことを思っていたのだと愛佳は言って
いる。

 その顔をみて、小春は相変わらず矯正器具が気持ち悪いなと思った
が、ただヘラヘラしているだけの子じゃないんだと、そうも思った。

「あ…、そこに入ってるんじゃないですか」

 愛佳は小春からi‐podを取り上げると、カリカリ音をさせて、お目当
ての曲を見つけた。

 そして再生ボタンを押すと、イヤフォンの耳を1つずつ自分と小春に
突っ込んで目を閉じた。
244 :名無飼育さん :2009/07/14(火) 21:03
 小春は一瞬、不愉快そうな顔をしたが、自分も目を瞑ると、愛佳と
並んでソファの背もたれに落ち着いた。

 それから2人は、リピートをかけて、3度おなじ曲を聴いた。
 
 
 
245 :さるぶん :2009/07/14(火) 21:06
更新です

光井の滋賀弁は大丈夫だったでしょうか
なんとなく一般の関西弁との違いはなさそうだと思い
気にせず書いてしまいました

もしおかしな点があったら、ご指摘ねがいます
246 :名無飼育さん :2009/07/20(月) 22:14
興味深い解釈ですね…
しかもあの人もいるので意味深でもありますね
247 :名無飼育さん :2010/05/24(月) 19:36




 李 純(リー・チュン)が生まれたのは、中国の湖南省だった。

 古くから農業が盛んな場所で、60年代の文化大革命以来、経済的
に賑わうようになったが、そればかりか、省都である長沙(ちょうさ)
は、いまや中国国内では理想的な都市の1つとして数えられるように
なっていた。

 但し、環境のことなど問題も多く、工業都市である長沙は、経済圏
として、そこへ出稼ぎにやってくる農民や、ときには子供たちでさえも
労働力として供給する地級市(ちきゅうし/行政区画の名前)を周囲
にいくつも抱えていた。

 李 純の住んでいた街は、その長沙から少し離れたところにある岳
陽(がくよう)で、決して裕福ではなかったが、とりたてて貧しくも無い
家庭に育った。

 その李(リー)家は、中国の発展にあわせて、少しずつだが確実に
暮らしをよくしてきた。

 我慢をすればしただけ裕福になれるという確信があったから、両親
や祖父母がともに倹約家だった。

 純(チュン)が小学校6年生のころ、少しずつだがインターネットが
普及しはじめて、学校のクラスの何人かは自分の家に回線を引いて
いた。
248 :名無飼育さん :2010/05/24(月) 19:36
 中学生になると、それがぐっと増えて、高校生になるまでケータイ
すら買ってもらえずにいた純は、それがうらやましくて仕方なかった。

 親に何度もねだったが、買ってもらえず、それはネットも同じこと。

 そんなある日、ともだちの一人から遊ぼうと誘われた。

「あんたんち、ネットがないんでしょ。うちに来てやってもいいわよ」

 正直、ほとんど口を利いたこともないような子だったが、ネットがで
きるというのは大変な魅力だった。

 いつも遊んでいる子たちが学習塾の日で、一人寂しく下校するつも
りだった純は、素直についていくことにした。

 といっても、迎えの車が来ていたから、校門を出てすぐのところで、
それに乗るだけだったのだが。

「あんたってジュンジュンって呼ばれてるじゃない?」

 道すがら、彼女はそう切り出した。

「それより、ジャネットって名前のほうが似合うと思うのよね。だってほ
ら、あたしもティファニーって言うし」

 そういって髪をひとつかき上げた。

 純は確かに友だちからジュンジュン(純 純)と呼ばれていたが、それ
はあくまであだ名に過ぎない。
249 :名無飼育さん :2010/05/24(月) 19:36
 もちろん彼女がティファニーというのもあだ名だったが、そのころ
純の地元では、香港のスターたちがそうであるように、英語の名前を
持つというのが密かなブームになっていた。

 ジャッキー・チェンとか、ビビアン・スーとか。

 ただし、それはふざけて付けるだけで、長沙など大都市の学校では
ようすがちがったが、岳陽のような地域では、「純 純」のように名前を
2つ重ねるとか、小(シャオ)をつけてかわいらしくするという、昔ながら
の方法が好まれていた。

 ティファニーは――いまとなっては、純はもう彼女の本当の名前を
覚えていない――それを本当に普段から使って、みんなにそう呼ばせ
ていたのだ。

 別にいじめっ子とか、金持ちであることを鼻に掛けるタイプではない。

 ケータイも昔から持っていて、一番高い機種を使っていたが、なぜか
ほとんど開いているところを見たことがなかった。

「あんたってテレビとかに詳しいんだから、ネットがあればもっといいと
思うのよね」

 ティファニーは言う。

 確かに、その通りだった。

 純――ジュンジュンは、テレビっ子だった。
250 :名無飼育さん :2010/05/24(月) 19:37
 テレビは無料だったし、ケータイもネットもなしで友だちとの会話につ
いていくには、そうするしかなかったのだ。

 誰よりも芸能人の話に詳しかったし、香港のスターのマネをして英名
を持つのが都会で流行っていること、しかも、それが昔、いちど流行っ
たもののリバイバルであることまで知っていて、みんなに真っ先に話し
て聞かせたのはジュンジュンだった。

 彼女自身、人見知りする性格だったが、そのせいで交友関係に不自
由したことはなかった。

 ティファニーの家に着くと、ジュンジュンは何も言えなくなってしまう。

 豪華な家具や電化製品が並んでいて、それがいまならばイタリア製、
そして日本製だと分かる。

 ティファニーは台湾製のパソコンの前に歩いて行って、備え付けの
イスにジュンジュンを座らせた。

「やり方ぐらい、わかるでしょ」

 ジュンジュンは相変わらず何も言えずにいたが、それは豪華な暮ら
しに圧倒されていたからじゃない。

 確かに、それこそ香港の大スターの家のような暮らしに驚いてはいた
が、ジュンジュンが何も言えなかったのは、ここにくるまで、誰ひとりとし
て家にいなかったからだ。
251 :名無飼育さん :2010/05/24(月) 19:37
 ジュンジュンはパソコンのやり方などまったくわからなかったが、それ
で聞くことを躊躇ってしまった。

 適当にあちこち操作してフリーズさせてしまったり、ティファニーから
そんなことも分からないのかと嫌味を言われたりした。

 それでも生まれてはじめてのインターネットは楽しく、ティファニーが
ブックマークしていたセレブたちの情報サイトや、音楽を違法だがダウ
ンロードできるサイトを見て楽しんだ。

 その日は結局、ティファニーの家族と会うこともなく、せっかくだから
夕飯を食べていけという誘いも受けたが、断ってしまった。

 中国では食事を断るのがとても失礼なことに当たるが、ジュンジュ
ンには初めての経験だったし、それがティファニーと家政婦の3人で
のものだったということのもある。

 ただ、それからちょくちょく遊びにくるようにはなった。

 決して、二人は仲良くなったわけじゃないし、学校でのジュンジュン
は相変わらず元からの連れといっしょに過ごしていた。

 ウェブサイトを覗くのは楽しかったが、借りばかり作っているような
気がして、返すもののない自分が惨めに思えてしまったというのもあ
る。

 適当に理由をつけてみたり、お持たせを使ったり、あれこれ理由を
つけて、家にいく目的がネットをしたいだけだと悟られないように工夫
した。
252 :名無飼育さん :2010/05/24(月) 19:37
 もっとも、たまに「ジャネット」と呼んでくるのを止めさせることもそれ
なりに大変だったが。
253 :名無飼育さん :2010/05/24(月) 19:38
 
254 :名無飼育さん :2010/05/24(月) 19:38
 
 
 
 ある日、最近、ティファニーが買ったという、おしゃれな服やアクセ
サリーについて会話していたときのことだった。

「日本製なの。雑誌を見て、通販サイトを知ったの」

 海外からでも買えるところをさがすのは大変だったんだからと言い
ながら、ティファニーは雑誌を取り出し、開いて見せた。

 それはファッション誌で、漢字に混じってよく分からない文字で書か
れた文章に囲まれて、かわいい服を着たかわいい女の子たちが写っ
ていた。

 ティファニーが着ているものも、それらよく似たデザインやコーディ
ネートだったのだ。

「いいなぁ。私も欲しいな」

 そう言ったのはジュンジュンの連れ。

 一人で来るのが気重だったので、頼み込んで付いて来てもらった
のだ。

 彼女が目を輝かせている横で、ジュンジュンも羨ましく思っていた。

 だが口には出さない。
255 :名無飼育さん :2010/05/24(月) 19:39
 幼いころから、なんでも欲しいものを我慢するクセが付いてしまって
いたからだ。

「あんたには似合わないかもね。それとあんたも」

 ティファニーはこともなく二人に宣告する。

 ジュンジュンはこの時点で、身長が166センチほどあった。

 決して華奢なタイプではないし、連れは太っていた。

 一方のティファニーはというと平均的な身長で、そんな名前を使って
いるだけのことはあって確かにスタイルもよく、それらの服を完璧に
着こなしていた。

「日本のモデルって、中国や台湾ともちがうよね」

 そう連れが言って、ティファニーが、「アメリカやフランスともちがう」
と同意する。

 それから二人はおしゃれのこと、それからセレブたちの話に花を
咲かせていたが、そのあいだ、ジュンジュンはその雑誌に釘付けに
なっていた。

 この日をきっかけに、ティファニーは変わった。

 ジュンジュンが連れを呼ぶものだから、どんどん交友関係が広が
っていき、彼女の家が溜まり場のようになっていった。
256 :名無飼育さん :2010/05/24(月) 19:40
 当然、学校でも明るく振舞うようになり、逆にジュンジュンは喋らな
くなっていった。

 1つは雑誌で見た日本のモデルのような格好が似合わないと突き
つけられたせいだ。

 このころのジュンジュンはアメリカの雑誌など読んだことはなかった
が、少なくとも同年代の少女が読むような中国の雑誌のモデルは、
みんな背が高かった。

 もちろん華奢だったが、自分も痩せたらあんなふうになれるのかな
と思っていた。

 ところが日本の雑誌では、背の低い子がモデルをしていて、ジュン
ジュンにとっては、そちらのほうが魅力的に映った。

 ジュンジュンは価値観を大きく変えられた上に、そこで見つけた理想
が、以前から抱いていた理想とはちがい、手に入れることができない
ものだという現実を突きつけられたのだ。

 ジュンジュンは塞ぎ込み、日本のモデルのようなティファニーが羨ま
しく思えた。

 しかし、それは口にすることができなかった。

 だから、余計に思いが募り、ティファニーを遠くに感じるようになった。

 おまけに、ジュンジュンの連れに対して、ティファニーは、ジェニファー
やティモシーといった英名をつけていき、友人たちがそれを受け入れた
のだ。
257 :名無飼育さん :2010/05/24(月) 19:41
 ジュンジュンにもジャネットという名があったが、これまで頑なに拒否
していたせいで、誰も使ってくれなかった。

 学校のクラスで浮いていたティファニーを、クラスに溶け込ませたの
は自分だったと、ジュンジュンは思う。

 それなのに今度はティファニーのほうから離れていくような気がする。

 もともとティファニーが声をかけてきたのは、ネットやケータイについ
て羨ましがるようすを、いつもジュンジュンが見せていたからで、それを
知ってアクションを起こしたのはティファニーのほうだったのだ。

 もともとが、そういう子だった。

 だからティファニーの笑顔は素敵だった。

 一方、教室の窓に映るジュンジュンの顔は、いつも覇気が無かった。

 得意の芸能人の話題を話すときだって、淡々と話して、感心される
だけ。

 ティファニーはその笑顔でみんなを楽しませていた。

 ジュンジュンは、自分が持っていないものすべてをティファニーが持っ
ているように思えた。

 それからと言うもの、このグループは行動を共にし続けていたが、
ジュンジュンの持っていた知識など、インターネットを知ってしまえば、
そこにすべて書いてあるものに過ぎない。
258 :名無飼育さん :2010/05/24(月) 19:41
 テレビにかじり付いて、懸命に覚える必要なんてないのだ。

 だからジュンジュンはグループの中で発言することが少なくなってい
った。

 高校生になり、ティファニーは私立の学校へ入り、ジュンジュンは元
の連れとおなじ公立の学校へ進学したが、そこではもうお互い友だち
ではなかった。

 高校二年生の春。

 ジュンジュンの家にインターネットが来た。

 市の役所で働いている従兄弟の紹介で、格安で工事してくれる業者
が見つかったのだと、父が自慢していた。

 当時、岳陽の回線はまだ定額制ではなかったので、親からきびしく
使う時間を制限されていたが、ジュンジュンは暇さえあればパソコン
の前に座っていた。

 ウィンドウをいくつも出して、見たいページを同時に立ち上げてから
回線を切れば、ほとんどお金をかけずに沢山のページを見ることがで
きたからだ。

 このころ、ジュンジュンは日本のカルチャーの虜になっていた。

 もともと好きだったマンガやアニメの中から日本語を学び、ティファ
ニーの家で知ったファッション誌の最新号を電車で長沙まで買いに
行った。
259 :名無飼育さん :2010/05/24(月) 19:42
 通販で買った日本製のかわいい服を、着れもしないのに持ってい
た。

 このころ日本で花開いたネットアイドルもそうで、いくつもブックマー
クをつけては、毎日欠かさず日記をチェックしていた。

 その中に、ジュンジュンがもっとも気に入っているものがあった。

 最初に知ったのは中国語のサイトで、日本のネットアイドルを紹介
する中の1つだった。

 次にそこへ飛び、日本語もろくに分からないまま、漢字の部分だけ
を辿って読んだ。

 例のファッション誌の格好とは少しちがっていたが、似たようなファッ
ションをしているアイドルたちとはちがって、日記には漢字を多く使っ
ていた。

 もっと漢字が多い子もいたが、大抵はかわいくなかった。

 ひらがなだけの子もいたが、大抵は個性がなかった。

 もっと派手な子もいたが、大抵は興味がなかった。

 そのネットアイドルは空ろな表情をしていた。

 教室の窓に映った自分のように、覇気を帯びていなかった。

 後で知った「ゴスロリ少女」というのに、とても近い雰囲気を持ってい
た。
260 :名無飼育さん :2010/05/24(月) 19:43
 その日記では、「私がいちばんカワイイ」と、何度も語られていた。

 その日記の名は、「サユの小部屋」といった。
 
 
 
 
261 :さるぶん :2010/05/24(月) 19:46
更新です

こちらも1年ぶりになってしまいました
絶対に放置はしませんよ

>>246
>しかもあの人もいるので意味深でもありますね
あの人って誰でしたっけ(汗
素で分からないんですけど…
262 :さるぶん :2010/06/15(火) 10:57
ごめんなさい
投稿する順番をまちがえてました

>>244 こはみつ@空港のシーン(i‐Podを聴いている)

>>247 JJ@中国のシーン(さゆのブログを発見するまで)
のあいだに、次のシーンが入ります
263 :名無飼育さん :2010/06/15(火) 10:57



「じゃあね」

 小春が立ち上がった。

 肩にかばんをかけ、残りの手でバイバイしている。

「なんでですか?」

「お別れだよ。小春はスペインへ行かなきゃ。サーヤとキッカが待ってる」

「ええ、そうですよ」

「なにが?」

「…はい?」

 お見合いをすると、2人はしばらく考え込んでしまった。

「えっと…。小春は仕事にいかなきゃならない。海外だよ。スペインで
仲間が待ってる。そっちは…その…」

 小春は言いにくそうにしてから、顔を赤らめた。

「ミッツィーは、この後どうするの」
264 :名無飼育さん :2010/06/15(火) 10:57
「あっ! はじめてそう呼んでくれはりましたね、めっちゃうれしいです!
もちろん、うちもいっしょに行きますよ」

「なんで?」

「だって、そのために来たんですもん」

 愛佳は嫌な予感がしたのだという。

 海外で小春が大きな事件や事故のようなものに巻き込まれる、そん
な予感がしたのだと言う。

「能力なの?」

「いえ、ただの勘です」

「勘と能力って、どうちがうの?」

「さぁ」

「さぁ…って」

 小春は眉をひそめた。

「本当に能力者なの?」
265 :名無飼育さん :2010/06/15(火) 10:58
「本当ですよ……ていうか、えー! いまさらですか?」

 愛佳は立ち上がった。

「ほんまですって。信じてくださいよ」

 小春は若干、引き気味になっていて、先ほど”ミッツィー”と親しげに
呼んだことを、はやくも後悔していた。

「そもそも、チケットとパスポートは持ってるの?」

 小春が鞄からそれらを取り出すと、愛佳は、あっ!と声を上げた。

「チケット代は貯めて来たんですけど、うちパスポート持ってへんのでし
た…あはは」

 それを見て小春が言う。

「あははっ、じゃない!」

 体側に置いた拳を、2つとも小刻みに震わせていた。

「もうね、あのね、さっきからずーっと我慢してたんだけど、言っちゃう。
小春、言っちゃうもん。あんたバカじゃない?」

 そう言って、盛大に地団太を踏んでいる。
266 :名無飼育さん :2010/06/15(火) 10:58
 このようすをサーヤやキッカ、あるいはZetimaのメンバーのうち、紺野
をはじめとする小春の担当者たちが見たのなら、さぞかし喜んだはず
だ。

 彼らこそ、日ごろマイペースな小春に地団太を踏まされ続けてきたの
だから。

「ふんだっ!」

 小春は腕組みをすると、そっぽを向いてしまう。

「えへへ…。確かにアホとかキモイとかノロマとかブスとか、そういうの
はよく学校で言われてました。なんで死なへんの? とか、はぁ? 生ま
れてきた意味がわからんし…とも、よく言われてましたけど」

 小春は、あわてて向き直る。

「そ、そこまでは言ってないよ!」

「分かってます。分かってますって。小春ちゃんは、愛佳のおともだち
ですから、そんなこと絶対に言わへんって、うちがいちばん分かってま
す」

 愛佳は真顔だった。

「ならいいけど…」

 小春は生まれてはじめて”自分のペースを乱される”という経験をし
ていた。
267 :名無飼育さん :2010/06/15(火) 10:58
 Zetimaのエースとして、社内や研究所で特別扱いを受け続けてきた。

 その小春が、目の前の素性のよく分からない少女に、どう対応してい
いか分からずにいたのだ。

「それより、どうするの。パスポートがないと外国へはいけないよ。いくら
小春の能力でも、それはムリ」

「能力って? 小春ちゃんも、なんかできるんですか?」

「うん。例えば…」

 小春はそう言って愛佳の足元にある鞄を、手を使わずに持ち上げて
みせる。

「ほんまや、すごいっ!」

 しかし3秒と持たず落ちてしまう。

「なんかしょぼいですね」

「しょぼいって言うな! 疲れてるだけだもん!」

 小春は以前にも似たような経験をしていて、それも空港でのできごと
だった。
268 :名無飼育さん :2010/06/15(火) 10:59
 コンサートがキャンセルになったことを怪しんで駆けつけたマスコミ
をかわそうとして彼らの時間を止めたのだったが、結果として、予想し
た時間の半分ももたなかった。

 いまだって鞄を腰の辺りまで上げるつもりだったのだが、膝までしか
いかなかった。

 小春は慌ててポケットから錠剤を取り出すと、それを飲み込もうとす
る。

 紺野のラボから盗んできた”ミルフィHP-05”だった。

「まぁ、いいです。まさか小春ちゃんが、うちと同類やったなんて。あぁ
…おともだちになるって言うのは、やっぱ運命やったんですね」

 感激して胸に手を当てている愛佳をよそに、小春は錠剤をなかなか
飲みこめずにいた。

「風邪ですか」

「ひがうよ」

 小春は何とか飲み込もうとするが、すぐに、おえーっと反発があって
吐き出してしまう。
269 :名無飼育さん :2010/06/15(火) 10:59
 それで今度は、財布から小銭を取り出すと、すぐそばの自販機で
お茶を買った。

「小春ちゃんって、クスリそのまま飲まれへんのですか?」

 馬鹿にしたような言い方をする愛佳。

「さっきから、何かちょいちょい幻滅するんですけど…」

「うるさいなぁ」

 口をとがらせて、ボタンを連打する小春。

「これで疲れが取れたら、またすぐにすごい力が使えるんだから」

 そして、そうすれば早く効果が出るとでもいうように、必要以上の量を
飲んだ。

「いいですよ。小春ちゃんが魔法使いなんは、よーく分かりましたから」

 愛佳は、小春が出ていた魔女っ子ものの連続ドラマ「きらりん☆うぃっ
ちーず!」のあらすじを、いくつか諳んじてみせた。

「あのゲームになった回の話が、めっちゃ好きなんですよ。囚われのお
姫さまを、小春ちゃんがナイトに変身して助けにいくところ」
270 :名無飼育さん :2010/06/15(火) 10:59
 それにはサーヤとキッカも、それぞれ戦士と魔法使いで出ていた。

「さしずめ、うちが使い魔のなーさんですね。…まぁ、その回は、なー
さん、お休みでしたけど。っていうか魔女なのにナイトとか訳わからん
くねー? って感じですよねー」

 ひとり上機嫌の愛佳を尻目に、小春は、ようやく胃袋に入ったばか
りのミルフィを過信して、なんども念動力に挑戦していた。

「あれ…? あれっ? 動かない!」

 いくらやっても鞄は微動だにしない。

 いま飲み干したペットボトルなど軽いもので試してみたが、結果は
おなじだった。

 小春は信じられない様子で、自分の手を見ている。

「それよりどうしましょう…。うちパスポートがなかったら飛行機に乗ら
れへん。そしたら小春ちゃんと、いっしょに行かれへんくなる…」

 愛佳が振り返ったほうには、手続きをする人たちの列が見えた。

 搭乗時間が迫っていたのだ。

「小春ちゃん。魔法で係りの人とか、消したりでけへんのですか?」
271 :名無飼育さん :2010/06/15(火) 11:00
 愛佳が指さしたほうを見ると、男性職員が立っていた。

 それは搭乗ゲートの前で、さらに手前には手荷物検査のエリアも
あった。

「うん。まぁ、どこかに瞬間移動させるくらいなら、できるけど」

「それや!」

 愛佳は声を上げる。

「それがええですよ」

 職員がいなくなっている隙にゲートを突破しようという、これはそう
いう作戦なのだが、小春は能力を中止すると、乗り気でない様子にな
った。

「そんなことをしたら空港がパニックになっちゃう。飛行機だって飛ばな
くなるよ」

 これは正しかった。

 飛行機は内部の密閉された空間に、長時間、不特定多数の人間を
閉じ込めて運ぶ乗り物だ。

 そのため空港は、安全に対して細心の注意を払っており、少しでも
手続きに不備があろうものなら、原因を突き止め、取り除いてしまうま
では飛ばさないというのがルールだった。
272 :名無飼育さん :2010/06/15(火) 11:02
「なら、飛行機の中まで、うちを飛ばしてください。そうすれば検査を
受けなくて済みます」

「ダメだよ。それじゃ危ない。小春、コントロールには自信があるけど、
イメージがわかないもん」

 この場合、小春には正確な座標が必要だった。

 例えるなら、郵便だ。

 送り先と受け手、2つの住所が揃っていなければそれは届かない
ように、小春の瞬間移動にも、正確な座標が把握されている必要が
あった。

 飛行機はそろそろ所定の位置に移動してくるはずだから、それ自体
の位置ならば把握できる。

 しかし、機内のようすまでは把握できなかった。

 愛佳を正確に飛ばすためには、飛行機を窓ガラスごしに狙って、そ
れで十分というわけにはいかないのだ。

 結果として、飛ばしてみたはいいが、無機物のある座標に飛ばして
しまい愛佳がエンジンかなにかと合成。死んでしまいましたとさ――な
んてオチになりかねない。
273 :名無飼育さん :2010/06/15(火) 11:02
「じゃあ、どうするんです?」

「わかんないよ」

 急かすようにアナウンスが流れて、2人は立ち上がる。

 とりあえずチケットだけ買って、パスポートについては場面で決めるし
かないということになった。

 まずは愛佳の当日券を買う。

「20万!?」

 発券機の前で愛佳が固まった。

「なんで!? 10万円あればいけるって聞いたのに…」

 財布には10万しか入っておらず、ディスプレイはその倍の額を示し
ていた。

「たぶん、それって割引チケットのことだね。よくは分からないけど、
マネージャーが話してるの聞いたことがある。当日券は高いんだって」

 小春はMilky Wayの仕事のとき、自分が起こした問題から飛行機に
乗り遅れることが多かったため、当日券を買うことが多かった。
274 :名無飼育さん :2010/06/15(火) 11:02
「いいよ、小春が出すから」

 財布を開くと、カードを出してくる。

 アイドルとして、狩人として、小春はマネージャーから不自由のない
だけの額を持たされていたから、チケットは無事、購入することができた。

 チケットを受け取り、手荷物検査へと向かう。

「どうします?」

「わかんないよ」

 1人、また1人と検査をパスしては、ゲートへ向かう。

 列の前が、少しずつ減っていく。

「そうや、うちだけ飛ばせばいいんですよ」

 愛佳が言う。

 密やかだが、高い調子の声だった。

「それはダメだって言ったじゃん。ヘタすりゃ死んじゃうかもしれないん
だよ」

「そうじゃなくって、ゲートの先に飛ばしてくれればいいんですよ」

 愛佳は職員が立っている場所の奥のほう、機体へとつながる通路の
あたりを指さした。
275 :名無飼育さん :2010/06/15(火) 11:02
「なにも飛行機の中を狙わんでもいいんですよ。ゲートさえ抜けたら、
それでいいんですから」

「でも、バレちゃうよ」 

「大丈夫ですって」

「もうっ、いつもなら時間が止められるのにっ!」

 問答をくりかえすうちに、人の密集度が上がっていく。

 ついぞ、あと3人というところまで来た。

「ええいっ、知らないからっ!」

 係員がよそを見ている隙に、小春は”押した”。

 愛佳はバランスを失って、一瞬、わっと悲鳴を上げたが、その声は
すぐに掻き消えた。

 残りの声が、水あめの尾を引いたやつのようにして聞こえてきたの
は、ずいぶんと遠くからだった。

――あ、大丈夫です! すいません! ちょっと転んだだけやったんで、
気にせんといてください!

 ゲートの向こうからしているのは、まちがいなく愛佳の声だった。

「やった!」

 小春は大きくガッツポーズをするが、斜め後ろにいた男性と目が合
ってしまう。
276 :名無飼育さん :2010/06/15(火) 11:03
 男性はこちらをガン見していたので、小春は何事もなかったかの
ようにサングラスをはめると、自分の手を見た。

「なんで出来たんだろ…」

 チェックをスルーして、愛佳に合流する。

「やったじゃないですか。小春ちゃんってば、調子悪いとか言ってた
くせに完璧じゃないですか」

「まあね…」

「この調子で、向こうに着いてからもお願いしますよ」

「うん。まかせといて」

 小春は釈然としないようすで席へ着いた。
 
 
  
277 :さるぶん :2010/06/15(火) 11:04
更新です

うっかりしてました
以後、気をつけます

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