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魔女ッ娘。ミキティ

1 :パム :2006/11/09(木) 03:01
森と草で短いのばっか書いてるパムです。
長編は初ですがなんとかやっていくつもりですので、どうぞよろしく。
612 :剣術大会 :2010/03/06(土) 03:04
闘技場の客席には早くも大勢の人々が詰み寄せていた。
その中をサユミは飲み物と食べ物を両手いっぱいに抱えて人ゴミをかき分けていた。

「もー、なんで私がこんなことしなくちゃいけないの」

結局、泊まる場所を見つけることができなかったユウコ達は、サユミが住む礼拝堂に泊めてもらった。
そして、一緒に剣術大会を見に行くことになったが、ヒトミもリサも姿はなく、わがままなユウコとコハルの面倒を見る羽目になってしまった。

「おまたせしました」

サユミはちょっと不貞腐れて、ユウコに手渡してからサユミはユウコとコハルの間に座った。

「えらい遅かったな」
「カキ氷溶けてるぅー」

せっかく苦労して持ってきたのにお礼の一つも言わず、文句ばかり言う二人に頭にきたサユミは二人を無視して、闘技場を見下ろした。
すでに第一試合はカンの勝利で終わっていたらしく、今は、次の試合までの繋ぎとして、闘技場では踊り子たちが踊っていた。
コハルはその踊りが気に入ったらしく、一緒に踊ってはしゃいでいる。

「コハルちゃん。後ろの人が見えないから座ろうね」
「イエーイ!フゥー」
「フーじゃないでしょ。座りなさい」
サユミは、コハルの後ろに座る険しい顔した人に平謝りしながら、コハルを押さえつけて無理矢理座らせた。

「まったく、ヒトミ様はどこに行っちゃったんですかね?」
「知らん」

「はあ」


「あー!!リスさんだぁー!」

ついさっき叱りつけて座らせたというのに、コハルは立ちあがって大声をあげた。
サユミは、コハルの服をひっぱり座らせた。

「リスさんですよ。サユミさん」
コハルは、リスのお面を被ったニイガキ仮面ことリサをえらく気に入った様子で、リサの登場に大喜びしていた。

「リスさんじゃないでしょ。リサ様でしょ」
「ちゃうわ。ニイガキ仮面や」
「はいはい、そうでしたね」
「はいは一回で十分や」
サユミはユウコの言葉に言い返しはしなかったが、黙って頬を膨らませて、闘技場を見下ろした。

サユミの視線がリサを捕えると、丁度リサは、闘技場の選手登場口を見て手を振っていた。
サユミはリサが手を振る方向に視線を移すと、そこには女性が一人立って、リサと同じように手を振っていた。
もう一度、リサに視線を戻すと、リサは小さくガッツポーズを取り、その女性に背を向けて、闘技場の中央に歩いて行った。
あの女性は誰だろうかと気にはなったが、ユウコに聞くと怒られそうなので、サユミは黙っていることにした。
613 :剣術大会 :2010/03/06(土) 03:04
リサは、この大会が始まる前までは、適当にやってわざと負けてすぐに終わらせてしまうつもりでいた。
しかし、いざ、会場に入ると、昨日会った亜麻色の髪の乙女に出く合わした。
その彼女はリサを見つけると、突然、大声をあげてリサの前に駆け寄ってくると、リサの両手を取り、昨日の御礼とともに今日の試合の激励を受けた。
そんなことをされてしまったら、みっともない姿を見せるわけにはいかない。
リサは、その瞬間に今日の大会は絶対に優勝すると心に誓い、闘技場に向かって行った。
今まで、戦いに出るときに女性に見送って貰うことなんて一度もなかったリサは、この初めての経験の心地良さを感じた。
誰かのために戦うというもの悪くはないなと。
そして、対戦相手は、昨日アイを襲った奴だった。尚更、負けるわけにはいかない。

「よし」
闘技場の中央に立つと、リサは小さく気合いを入れた。
リサの対戦相手も昨日のリスだと知って昨日のお返しとばかりに俄然、やる気になっていて、気合い十分だった。
鼻息荒く、試合開始の合図を今か今かと待っている。

「一秒やな」
「はい?」
ユウコがぼそりと言った言葉をサユミは聞き返した。
「ニイガキ仮面ならあんな奴一秒で十分やろ」
「そうですね。何せ、あの命知らずのリサ様ですもんね」
「ちゃう、ニイガキ仮面や」
「んもー」

サユミは何故ユウコがそこにこだわるのか理解できなかった。
あの変なお面を被った人はリサだとみんな知れば、みんなはもっと興奮してこの試合の見るに違いないのに、現実には変なお面の所為で、失笑とヤジが飛び交うだけだった。
しかし、それも試合の開始後、すぐに歓声と拍手に変わった。
客席のヤジに気を取られていたサユミはその決定的瞬間を見逃してしまった。
サユミがリサの姿を見たときには、すでにリサは剣を納めているときだった。
相手の方はというと、片膝をつき、兜が割れ、頭から流れる血を押さえていた。

「もう終わっちゃったんですか?」
「なんや、見てなかったんか。まあ、見るほどのもんでもないけどな」

サユミはがっかりして、ため息を漏らした。
闘技場から選手登場口に戻るリサは、登場口で待ち構えていたアイに向かって拳をあげて見せていた。
アイも両手をあげて大喜びしていた。

「あの二人、いい感じになってきたな。今日は、面白いことになりそうや」
ユウコは、あ互い素性を知らないリサとアイの関係が深まりつつあることを笑って見ていた。

「さて、次はちゃんと見ますよ。ビン様の登場ですからね」
サユミは、今度こそは見逃さないと闘技場だけを一心に見つめていた。

「次は退屈そうやな。お人形さん、ビール買ってきて」
「お断りします。それに次は、ビン様ですよ。パールランドきっての騎士です。絶対、凄い試合になります」
「イケメンか?」
「イケメンです」
「なら、じっくり見るか」
「ずっとそうしてて下さい」
614 :剣術大会 :2010/03/06(土) 03:04
「うわぁ〜、あの変な人、物凄く強いですよ。やっぱり出たくないなぁ」
選手登場口付近にある選手控室から先ほどの試合を見ていたエリは、自分とのレベルの違いに愕然としていた。
「何言ってるのカメちゃん。カメちゃんはこの大会で優勝するんだよ」
「なっ、何言ってるんですか。そんなことできるわけないじゃなないですか。姫様も見ましたよね?あのリスの強さを」
「別にあんなの相手が弱すぎただけだよ」
「そんなことないですよ。見えました?あのリスの動き?私には見えませんでしたよ」
「それはカメちゃんが私ばっかり見てるからだよ」
「いえ、姫様は見てませんよ」
「見なさいよ」

エリは、何でだ?と首を傾げていると、そこに次の試合に出るビンが寄ってきた。

「姫様、行って参ります」
「うん。しっかりやるんだよ。今日の大会は私の運命がかかってるんだから」
ビンはアヤに軽く頭を下げると、エリに向かってニッコリと笑った。
エリは、ビンの笑みに釣られて笑い返して、「頑張ってください」と声をかけた。

二人を後にしたビンは、心の中でエリに対して「本当に頑張っていいんですかね?」と訪ねた。
今日のこの大会は、すべてアヤに仕組まれていた。
エリにはできるだけ弱そうな相手があたるように組ませ、強そうな相手は全てビンとカンが一手に引き受ける。
そして、準決勝でビンかカンがエリと対戦する手はずになっている。そして、そこではわざとエリに負ける。
そして、決勝戦では、アヤとエリが戦い、アヤが負ける。そして、アヤよりも強くて優勝したエリをアヤの婚約者として国王陛下に認めさせるという筋書きをアヤは、昨夜、練り上げていた。
ビンは、アヤの相手がエリであることに賛成だったので、アヤの提案をすんなりと受けた。
ずっと男勝りで、結婚に興味を示さなかったアヤがエリと出会ったことによって、一晩にして変貌したことは運命の何者でもない。
これでようやく肩の荷が降りて、さらに平和な国が訪れることを期待していた。
615 :剣術大会 :2010/03/06(土) 03:05
「あっ、あのぉ〜。あなたも次の試合ですよね?」
エリは、隣に座る顔中に包帯をグルグル巻きにした人物に恐る恐る声をかけた。

「おYO?マジで?」
「はい。えっと、確か、覆面戦士さんですよね?」
「違うYO。正義の覆面戦士ですYO」
「はい、出番ですよ」
「お晩ですYO?」
「出番です!早く行かないと棄権になっちゃいますよ」
「それはイカンですYO!行って参るですYO!」
「はい。頑張ってください」

包帯をグルグル巻きにした人物は、目も包帯で覆い隠していて、何も見えていない様子で、辺りを探るようにしておぼつかない足取りで歩いていた。
それを見かねたエリは、覆面戦士の手を取って登場口まで案内して行った。

「ここから先が闘技場です。まっすぐ歩けば大丈夫です」
「カメちゃん、ありがとうですYO」
「えっ?ああ、どうも。本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫ですYO。行ってくるYO〜」
「行ってらっしゃ〜い」

覆面戦士はエリの言われた通りまっすぐ歩いて行った。
エリは、どうして自分の名を知っているのだろうかと不思議に思いながら手を振って見送った。
そして、控室に戻ろうかと振り返ると、ニイガキ仮面が腕を組んで仁王立ちしていた。
エリは怖くて、目を合わせないように静かに横を通り過ぎて行った。
ニイガキ仮面もエリには目もくれず、覆面戦士をじっと睨みつけていた。

「いやぁ〜、怖かったぁ〜」
慌てて控室に戻ったエリは、開口一番に言うと疲れ切った感じで椅子に座った。
「どうしたのカメちゃん」
「そこであのリスにばったりとあっちゃったんですよ。腕を組んで鋭い目つきで立ってて、怖かったぁ〜。絶対にあんな化け物、相手できないですよ」
「本当?カメちゃんになんてことするの!私がとっちめてやる!」
「姫様でも無理ですよ。あの目つきと異様なオーラは何人のも人を食い殺してる目ですよ」
「やだぁ〜、カメちゃんたら私のこと心配してるのね」
「いえ、別にそういう意味じゃないですけど」
「どういう意味よ?」
「いえ、何も・・・」
616 :剣術大会 :2010/03/06(土) 03:05
「ユウコ様、どうです?ビン様は、なかなかのイケメンですよね?」
「チッ」
ユウコは、まあまずまずかなとビンのことを見ていたが、そこに覆面戦士が登場してくると舌打ちをした。
それをサユミは、ビンのことが気に入らなかったと勘違いした。
「お気に召さないですか?格好いいと思うんですけどね」
「あー、台無しや。あのバカのおかげで台無しや」
「何がですか?」
「なんでもあらへん。お人形さん、ビール買ってきて」
「お断りします。次の試合は絶対に見るんですから」
「こんなアホな試合、見ても無駄や」

ユウコの言葉通り、ビンと覆面戦士の試合はなんとも間抜けな結末で覆面戦士の勝利で終わった。
目が見えない覆面戦士はやたらめったら剣を振り回していた。
ビンは変な相手に当たってしまったなと、ため息をつき、すぐに終わらせようとした。
しかし、適当に振り回される剣をビンは思うように交わすことが出来ず、防戦するばかりだった。
しばらく間抜けな攻防の末、決着は覆面戦士が躓いて、ビンに頭突きをしてビンが気を失ったことで決着がついた。
ビンはそのまま担架で運ばれ、覆面戦士は頭をさすりながらその場でうずくまっていた。
そこへ駈け出してきたのは、ニイガキ仮面だった。
ニイガキ仮面の登場に、客席からはどよめきの声があがった。
しかし、ニイガキ仮面は、覆面戦士の首根っこを掴むと引きずって連れ帰って行った。

「リサ様とあの変な人はお知り合いなんですかね?」
「知るかボケ」
ユウコの苛立ちにサユミは怯えて肩をすくめた。
隣に座るコハルはというと、ぐっすりと眠っていて、サユミは誰とも会話せずじっとうつむいたまま今日の日が早く終わることを願った。
617 :剣術大会 :2010/03/06(土) 03:05
ニイガキ仮面は、アヤとは違う別の誰もいない控室に覆面戦士を連れ込んで、放り投げた。
「あんた、一体何してるんですか!」

そして、ニイガキ仮面ことリサは、覆面戦士に向かって怒鳴った。

「痛いYO。頭痛いYO〜」
「ふざけないで下さい!みんな真剣にやってるんですよ!しかも、あのビンさんに対してあんな戦いするなんて失礼じゃないですか!」
「ビンは格好つけ過ぎるんだYO」
「そんなことないですよ!何言ってるんですか」
「ビンは女の子からキャーキャー言われて調子に乗ってるんですYO」
「調子に乗ってるのはあんたの方だ!」

「ガキさんだって、可愛い子ちゃんに『頑張って〜』なんて言われてちゃってさズルイYO」
「なっ、何言ってるんですか!と、とにかく、あなたは大人しく帰ってください」
「ヤダヤダヤダYO〜」

「あのぉ〜」
地団駄を踏む覆面戦士にリサはため息をついていると背後の扉が開いて、そこから女装をしたアイが顔の覗かせた。

「あっ!ど、どどど、どうしたんですか?」
「ニイガキ仮面落ち着けYO」
「うるさいな」

「あのっ!」
アイはリサに駆け寄るとリサの両手を取った。
「おYO?チューすんの?チュー」

「次、私の試合なんです。応援して下さいね」
「はい!もちろん!危なくなったら、この私が助けに行きます」
「反則ですYO」

「そ、それじゃあ。行ってきます!」
「頑張って下さい!」

アイは笑顔で返すと走って控室から飛び出していった。
リサはアイに握られた手をじっと見つめていると、嫌な視線を感じた。

「何ですか?」
「このムッツリドスケベ変態仮面が」
「何言ってんだー!!もう、あなたとはこれ以上付き合ってられないです!ここで失礼します。大人しく帰ってくださいよ」

リサは、怒って覆面戦士を置いて控室を出て瞬間、アヤのけたたましい怒鳴り声に驚き身をすくめた。
リサは、そっとアヤのいる控え室を覗いてみると、腕を組んで立っているアヤと正座をして、申し訳なさそうにしているビンの姿があった。

618 :剣術大会 :2010/03/06(土) 03:05
「ビーーーン!!!何やってるの!」
「面目ありません」
「もう、信じらんない。私の計画潰す気?」
「面目ありません」

ビンはただひたすら謝ることしかできずにいた。
そこで、いたたまれなくなったエリが間に入ってアヤをなだめようとした。

「姫様。ビンさんは頑張りましたよ。ちょっと運が悪かっただけですよ」
「頑張ればいいってもんじゃないの!運が悪ければいいってもんじゃないの!勝たなくっちゃダメなの!」
「そんなに怒らなくても」
「カメちゃん、何言ってるの!これがどういうことかわかってるの!」
「まっ、まあ、その。あれですよね?パールランドきっての騎士のビンさんが一回戦で負けてしまうというのは、軍の指揮が落ちるというか、そんな感じですよね?」
「ちがーう!!!カメちゃんは黙ってて!ビン!作戦Bに変更よ」
「はい。かしこまりました」

ビンは、頭を深く下げると肩を落として、控室を出て行った。
その後ろ姿に、エリはどう声をかけてよいのかもわからず、ただ見つめることしかできなかった。
ビンは、控室を出るとリサに出くわした。もちろん、リスのお面を被っているのでリサであることにビンはわからず、軽く会釈をするだけで、リサの横を通り過ぎて行った。
リサはビンの落ち込みようが気になり、ビンに向かって声をかけた。
ビンは、まさか声をかけられるものとは思ってもいなかったので、驚いてリサの方を振り向いた。

「そんなに落ち込むことはないですよ。相手が悪かった。あいつに勝てる奴はいない」

ビンはリサの言葉に頭を下げるだけで、何も言わずにその場を去って行った。
その姿を見て、リサはますますあの覆面戦士の行動に腹を立て、眉をしかめた。
しかし、次のアイの試合開始の号令を聞くと、リサはすぐに切り替えて、登場口まで駈け出して行った。

「サファイアって言うんだ」
選手紹介で、ようやく名前を知ったリサは心に刻み込むように何度も名前を繰り返し、両手を握って無事に試合が終わることを祈った。

サファイアことアイは、一度、選手登場口を見て、リサが見ていることを確認した。
笑顔で手を振ったが、リサは必死に祈っていてこちらに気付くことはなかった。そんなリサの姿をアイは愛おしく思った。
アイの相手は、アイよりも格下ではあったが、女装に慣れないアイは苦戦を強いられた。
危うい場面になるたびに、リサは助け出したい思いになりながらも必死に堪えて、祈り続けた。
そして、その二人の姿を上から面白そうにユウコは眺めていた。
619 :剣術大会 :2010/03/06(土) 03:06
「愛ってええなぁー」
「恥ずかしいからやめてください」
突然のユウコの叫びをサユミは冷たくあしらった。
「お人形さんは冷たいな。この二人は大注目やで。復讐と愛が混ざり合い、互いに求め合ったときに訪れる真実!いやーん、もー、想像するだけで、笑いが止まらん」
口を大きく空けて大声で笑うユウコの姿にサユミはため息をつくだけだった。
しかし、サユミも必死に祈るリサの姿を微笑ましく思った。
サユミもそっと手を合わせて、正体の知れないアイの無事を祈った。

「あかん、ここであの子が負けるわけにはいかん」
祈りも届かず、アイの身に危険が及んだ瞬間、隣のユウコがぼそりと呟き、アイの相手に向けて指をはじいた。
すると、相手の動きが鈍り、アイは間一髪のところで避けるとすかさず切り返して、辛くも勝利することができた。
勝利の瞬間、サユミは目を大きく見開いてユウコを見た。

「ズルしましたよね?」
「知らん」
「絶対、今、魔法使いましたよね?」
「知らんって言うてるやろーボケー」
「もー、こんな人がユウコ様だったなんて信じらんない」

サユミは、頬を膨らませてぷいっとそっぽ向いた。
隣のコハルは寝てるし、ヒトミはいない。今日は来なければ良かったとつくづく後悔した。



アイは勝利に喜んで、リサの所に飛び込んだ。
突然、アイに抱きつかれたリサは、どうすることもできず、体が硬直したまま、突っ立っているだけだった。
そんな二人の姿を見ていたアヤは、自分も同じことをしようと心に決めて、剣を取った。

「カメちゃん、私行ってくるから、そこで応援してるんだよ」
アヤは、リサ達がいる登場口を指さして言った。

「え?ここの方がよく見えますよ」
アヤの思惑など知らないエリは、素直に答えた。

「あっちで応援するの!」
アヤは、大声で怒鳴りつけて控室を出ると、未だに抱き合ったままのリサ達にわざと体をぶつけて、闘技場に出て行った。
この国の姫の登場に会場は一気に盛り上がりを見せた。
620 :剣術大会 :2010/03/06(土) 03:06
「んちゃ?」

特別観覧室で気持ちよく寝ていたれいにゃは、会場の大きな歓声に目を覚ました。
辺りを見渡して、ミキを探すと、ミキは椅子からくずれ落ちて、気持ち良さそうに眠っていた。

「ミキ様、起きてっちゃ。姫様が出てきたっちゃ」

れいにゃがミキに近付いて、起そうとしてもミキは一向に起きる気配はなく、すやすやと眠っている。
そこへ、扉をノックする音が聞こえてきて、れいにゃはビクリと体を震わせると、素早くミキの背後に回って隠れた。

「ミキ様、失礼します。ビンです。入ってもよろしいでしょうか」

部屋の外からビンの声が聞こえた。
れいにゃは、ビンの声に安心して、扉に近付いた。

「入ってもいいちゃよ」
「失礼します」

ビンは、扉を開けると、すぐに床に眠るミキの姿を捕えた。
そして、そのあと、自分の足元にいるれいにゃに気付いた。

「ミキ様は、お休みのようですね」
「そうちゃ、寝てるっちゃ」
「起しても大丈夫でしょうか?」
「起きないっちゃよ」
「起きて頂かないと困るのですが」
「れいにゃも困るっちゃ。もうじきエリ様の試合が始まるっちゃ」
「はい、そうです。それまでには起きて頂かないと」


腕を組み悩むビンとれいにゃ。
そうこうしているうちに会場からはどっと歓声が湧き起った。
アヤが見事に勝利を決めたようだった。
次の試合はエリが登場する。
急がなくては。
そう思ったビンとれいにゃは、ミキの体を揺さぶって起そうとした。
621 :剣術大会 :2010/03/06(土) 03:06
「ぐがー!何だよ。うるせぇな!」
「ミキ様、おはようっちゃ」
「おはようございます。ミキ様」

「おはよう。そして、おやすみ」

「あっ!ミキ様、ねちゃダメっちゃ!」
「もー、なんだよ。ミキちゃん眠い〜」

「ミキ様の力を是非貸して頂きたく参りました」
「やなこった」

ビンが丁寧に言うも、ミキは寝がえりをして目を閉じた。

「ミキ様、起きるっちゃ!」
れいにゃは最後の手段とばかりにミキの足に噛みついた。

「いてぇーな!この野郎!」
ミキはすぐにれいにゃを掴み取って投げ飛ばした。
れいにゃは、慣れたもので、空中で身をひるがえして無事に着地した。

「やっと起きたっちゃ」
「ったく、なんだってんだよ」

「ミキ様、今日の大会は何としてもエリ殿に優勝して頂きたいのです」
「あいつじゃ無理だよ」
「そこを魔女のミキ様のお力添えで何とか」

ビンは片膝をついてミキに頭を下げた。

「えー、それってズルじゃん。いいの?そんなことしちゃって」
「本当はよくありませんが、姫様のためです。もちろん、タダとはいいません。ミキ様が満足のいくお礼をさせて頂きます」
「えっ?本当?」
「はい」
「御馳走とかたくさんくれるんの?」
「はい。ミキ様のお望みとあれば」
「お金もいっぱいくれるの?」
「はい。もちろんです」
「えー、どうしようっかなぁ〜」
「ミキ様、やるっちゃ。お金ないっちゃ」

「だが断る!」
622 :剣術大会 :2010/03/06(土) 03:06
「えっ?」
ビンを驚きのあまり目を見開いてミキを見た。
ミキは立ちあがって大きく伸びをするとカバンを持って部屋から出ようとしていた。

「え?あっ、ちょっとお待ちくださいミキ様。どちらへ?」
「出発する。行くぞれいにゃ」
「ミキ様、なんでっちゃ?エリ様を優勝させてお金貰うっちゃ」
「いらねぇよ」

「どうしてですか?やはりズルをするのは嫌ですか」
「そうじゃねぇよ。あいつのためってのが気に食わん」
「これは姫様のためだけではありません。国民のためでもあるのです。どうかご協力を」

ビンはもう一度深く頭を下げた。
ミキはビンがどうしてそこまでするのか意味がわからなかった。
もとよりエリを優勝させるという意味がまったくわからなかった。

「こういうお考えでは如何ですか?」
名案を思いたビンは、頭をあげて立ち上がった。

「姫様に貸しを作ったという風に思って頂けてはどうすか?姫様に貸しを作るなんて、そうそう出来ることではないですよ。姫様が何か申しても、この貸しは大きな貸しです。姫様は何も言えません」

ビンは、後でアヤに何を言われてもいい覚悟でミキを説得させようとした。

「うーん。貸しね。うーん、いいねぇ〜」
ミキはニヤリと笑うと、カバンを放り投げて、席まで移動すると試合場を見下ろした。
すでにアヤの勝利で終了した試合場では、アヤが片手をあげて観客に向かってアピールしていた。

「このミキ様がいればどんな相手だろうが負けはしない!」
ミキはアヤに向けて拳を突き出して、声高らかに笑った。
そして、ビンは、アヤに何て説明をしようか悩んでいた。
623 :パム :2010/03/06(土) 03:07
つづく
624 :名無飼育さん :2010/03/06(土) 10:25
おおー更新が!ずっと待っておりました

苦労人ニイガキ仮面に幸あれw
625 :624 :2010/03/06(土) 10:29
すみませんsage忘れてしまいましたorz
626 :名無飼育さん :2010/03/08(月) 19:12
更新ありがとうございます!いや〜イイ展開!続きが楽しみです
しかし、久しぶりに最初から読み返したんですけど、謎の人物多すぎw
まだまだ先は長そうですね。ゆっくりまったり待ってます
627 :剣術大会 :2010/03/29(月) 02:31
一方、見事勝利を収めたアヤはというと、先ほどのアイのようにエリのもとへと飛び込もうとしたのだったが、選手出入り口にはエリの姿はなく、リサとアイしかいなかった。
笑顔で走りよってくるアヤの姿にリサとアイは身の危険を感じて後づ去った。
アヤもリサとアイしかいないことに気付くと、直前で止まり不機嫌な表情でリサを睨んだ。

「何であなた達しかいないのよ」

リサは、そんなことを言われる筋合いもないので、アヤを無視した。
アイは、アヤにばれたくない一心で口をつぐんでリサの背後に隠れた。
リサはアイが自分の後ろに隠れたことを、アイがアヤのことを怖がっていると勘違いして、リサはアイを庇おうと一歩前に乗り出しアヤを威圧した。
しかし、アヤはそれくらいで怯えたりはしない。それどころではないのだ。そして、さらに言えば、リサとアイがまるで恋人のようにいちゃいちゃしているように見えて余計に腹が立っている。

「カメちゃんは?」

リサは、アヤから何を言われるのかと内心ビクビクしていたのだが、思いもよらない人物の名前が出てきて、一瞬、何のことか理解できずにいた。
アヤはそれを無視されたと思って、さらに腹立たしくなる一方だった。
すると、アヤは、リサのお面のリスの耳を引っ張り、耳元で大声で叫んだ。

「カメちゃんはって聞いてんの!!」

「うわっ!」
リサは、二重に驚いた。
一つは、アヤの行動。そして、もう一つは単なるお面のはずの耳が本物の耳になっていることに。
リサの頭に嫌な予感がよぎる。まさか、本当にリスになってしまったのではないかと。
もう、リサはアヤの質問に答える気もなく、その予感で頭がいっぱいになった。
リサのあまりの落ち込みように心配したアイは「大丈夫?」と肩に手をかけた。
628 :剣術大会 :2010/03/29(月) 02:32
「早く答えなさいよ!」

アイはアヤの問いには答えずに睨み返した。

「何よ。田舎の小娘が私に歯向かう気なの?」

アイは、何も言わず、視線をリサに戻すと、優しくリサの背中を撫でた。
その光景がアヤをさらに苛立たせた。
アヤはアイの手を掴んで立たせると、アイを睨みつけた。
アイも負けじとアヤを睨み返す。

「何よ」
先に口を開いたのはアヤだった。
「何やよ」
負けじとアイは言い返す。
「あんたが何なのよ」
「あんたこそ何やの」
「田舎の小娘の分際で、この私に向かってなんて口利いてるの!」

ブチっと音が聞こえる程にぶち切れたのがわかるくらい、アヤの表情が激変した。
そこでようやく怒り任せに動いていたアイも、目の前にいるのがアヤであることを再認識して、我に帰った。
が、しかし、すでに遅い。

「あっ、いや、まあまあ。とりあえず落ち着こうアヤちゃん」
「はあ!?」
我に帰ったけど、帰りすぎたアイは、自分が変装していることを忘れて、普段と変わらないアヤと接するような口調で話してしまった。
それに気付いたのはアヤの方で、本来ならアヤちゃんなど馴れ馴れしく言われて怒るところだったが、すぐに察知したアヤは冷静さを取り戻して、アイに向かって笑みを見せた。
アイはその笑みにぞっとして、ようやく自分が今、変装していたことを思い出した。
が、しかし、すでに遅い。

「まっ、そうね。せっかくのお祭りでケンカなんかしちゃダメだよね。サファイアちゃん」
アヤはアイの肩に手をまわし、ウィンクをすると、そのままアイを自分の控室へと連れて行った。
629 :剣術大会 :2010/03/29(月) 02:32
「カン、ちょっと出て行って貰えないかしら」
控室に入るなり、アヤはカンを部屋から追い出した。
そして、二人きりになった途端、アヤは大声で笑い出した。

「あーはっはっはっ!アイちゃん可愛い」
「うわっ!ちょ、ちょっと、アヤちゃん!そんな大きい声で言わないでよ」

アイは恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、アヤの口を押さえようとした。

「いやぁ〜。やっぱアイちゃんも女の子だったんだね」
アヤは、嬉しそうにアイの顔をマジマジと見つめた。
そして、アイが照れれば照れるほど、アヤは可笑しくて仕方がなかった。

「にひひひ、な〜んで、アイちゃんはそんな格好をしているのかなぁ〜」
アヤは、ゆっくりとアイの周りを回りながら言った。

「だ、だって、変装でもしないと出れないじゃないか」
「な〜んで、女の子の格好をする必要があるのかなぁ〜」
「こっ、これは、たまたまだ。たまたま入った店がそういう店だっただけだ」

「たまたまねぇ〜。ふ〜ん」
「私のことは放っておいてくれ」
「ガキさんが出ないの知ってるはずなのに、なんで出てるんだろうねぇ〜」
「出ると思ったんだ。あいつも変装してくると思ったんだ」
「ガキさんはそういうアホなことはしないよぉ〜」
「そんなこと知らない」
「本当にガキさんが出ると思ったのぉ〜」
「当然だ。何を言ってるんだ」
「本当は、あのリスが出るからじゃないのぉ〜」
「ち、違う!」
「もー、照れちゃって可愛い」

アヤは初めて見るアイの乙女心がとても嬉しかった。
そして、自分と同じように恋心を抱いていることに、幼馴染の縁をしみじみと感じて、ちょっと涙が潤んだ。

「ど、どうしたんだ。アヤちゃん?」
しかし、アイはアヤのようには感じていない。むしろ、アヤの涙目に嫌な予感を感じずにはいられなかった。
630 :剣術大会 :2010/03/29(月) 02:32
「アイちゃん!ここは恋する乙女同士協力しようじゃない」
アヤはアイの肩を抱き寄せて、顔近づけると、小さな声で言った。

「なっ!わ、私は別に、こ、こ、こ、こここここ」
「ううん、もう何も言わなくても大丈夫。別にリスだってアイちゃんが好きだって言うなら応援するよ」
「だから、違うって!」

「さっ、冗談はさておいて、本題はここからよ」
アヤはアイの肩を軽く叩いて、アイの前に向きなおした。

「今日の大会はカメちゃんを優勝させるの」
「カメちゃんを?それは無理だ」
「無理とか言わないの!絶対に優勝させるの!」
「そんなこと私に言われても、どうにもできない」
「できるわよ。アイちゃんは、次の試合はあのリスと戦うの」
「なんでだ!これはトーナメント戦だろ。次の試合は違う相手だ!」
「そんなのどうにでもなるよ。あのリスもアイちゃんなら手加減するから、余裕で勝てるわよ」
「冗談じゃない」
「ふ〜ん。そっか」
「な、なんだ」
「アイちゃんがシルバーランドの王子だなんてリスが知ったら、尻尾を巻いて山に帰るだろうねぇ〜」
「なっ!卑怯だぞ!」
「別にぃ〜。変装してる方が悪いんじゃん」
「ったく、でも、仮にリスさんと当たっても勝たして貰えるかなんてわからないぞ」
「大丈夫よ。わかってないなぁ〜。アイちゃんは」
「しかし、私がリスさんに勝ったところで、他にも強い奴はいるぞ」
「そこは私とカンが頑張るよ。ビンはまったく使えなかったけどね」
「そういうことか」
「ビンとカンだけでなんとかなると思ったんだけどね。まったく、ビンの奴ときたらだらしない」
「まあ、運が悪かったんだろう」
「まっ、でも、念のためもう一つ作戦があるから大丈夫よ」
「何だ?」
「あの魔女にも手伝って貰うの」
「あいつか?」
「うん。タダでご飯あげたんだからそれくらいはして貰わなくっちゃ」
「あいつに期待しても無駄だと思うけどな」
「まっ、私もあんまり期待してないけどね。ビンが負けた以上、打てる手はすべて打つの」
631 :剣術大会 :2010/03/29(月) 02:32
「ところで、どうしてカメちゃんを優勝させたいんだ?」
「は?」
「カメちゃんが優勝して、アヤちゃんに何の得があるんだ?アヤちゃんが優勝すればいいじゃないか」
「本気で言ってるの?」
「何だ?」
「カメちゃんが優勝したら、カメちゃんが一番強いってことでしょ」
「でも、それは嘘なんだろ」
「この際、嘘でもいいの。強くて、家柄も良い、申し分ないじゃない」
「何がだ」
「はあ、ダメだこりゃ」
「意味がわからない。ちゃんと説明してくれ。協力するにもできやしない」
「ねえ、今までの話の流れでわからないの?」
「ん?」
「やっぱ、男を演じ過ぎた所為で、乙女心が錆びちゃったのね」
「くだらないことを言ってないで、ちゃんと説明してくれ」
「もう!カメちゃんは私と結婚するの!」
「ダメだ」
「何でよ!!!私もアイちゃんに協力するよ。幼馴染じゃない、協力してよ」
「そんな嘘では騙されない。何を企んでいるんだ?幼馴染と言うなら、包み隠さず教えてくれ」
「ああ、本格的にダメだ」
「いい加減にしろよ」
「それはこっちのセリフよ!」
632 :パム :2010/03/29(月) 02:33
つづく
633 :名無飼育さん :2010/03/29(月) 13:24
アイちゃんにぶいw
634 :名無飼育さん :2010/03/31(水) 20:24
待ってましたあああああおかえりなさい
エリ様かわいいよエリ様
635 :名無飼育さん :2010/04/06(火) 02:08
アイとアヤがそんなやりとりをしている間に、エリの試合が始まろうとしていた。
大観衆の中に出たエリは緊張のあまり足が震えて思うようにまっすぐ歩けないほどであった。
そんなエリの姿にミキは笑いが止まらなかった。

「腹イテぇー。なんだよあのカメの動きは」
「ミキ様、失礼っちゃ」
「あー、こりゃダメだな」

「そう言わずになんとかエリ殿を勝たせ下さい」
エリの実力を知らないビンではあったが、一部隊の隊長を務めているエリのことだからと、ビンはさほど心配はしていなかったのだが、まさかこんなにも緊張するような人だとは思ってもいなく、ビンはまたアヤに怒られると不安になった。

「よし、れいにゃ。例の物を出せ」
「はいっちゃ」

ミキの命令にれいにゃはミキのカバンの中に入って昨日作った人形を咥えてミキに渡した。

「これは一体?」
「まあ、見てろよ」

ミキはテーブルの上に人形を置くと、目を閉じて集中した。
両手を人形の上にがざすと、指から金色の糸が伸び、その糸が人形の手足に結びついた。
ミキは目を開けて人形に息を吹きかけると、人形はすくっと立ち上がって、エリと同じようにぎこちない動きをその場で始めた。
ビンは初めてみる異様な光景に固唾を飲んで見つめていた。

エリの対戦相手は、素性のわからない老戦士だった。
その老戦士は、ひげを蓄えた痩せこけた老人で、左足は昔受けた古傷なのか足を引きずっていた。
この相手なら勝てそうだとエリは少し緊張がほぐれた。
そして、この組み合わせは当然、エリに弱そうな相手が当たるようにアヤが仕組んでいたことだった。
しかし、エリやアヤの思いとは裏腹に選手登場口でエリの試合を見守っていたリサはこの老戦士に見覚えのあるような気がしてならなかった。
636 :剣術大会 :2010/04/06(火) 02:08
「あの顔どこかで見たことがあるな」
「あいつは傭兵のボトルだYO」
いつの間にかリサの隣に立っていた覆面戦士が返した。
あっ、と声を出してリサは思い出した。
伸びきった髭とやせ過ぎた体で以前の面影が薄れていたが、あの眼光は確かに、その昔、各国を戦い回り金のためなら何でもやることで有名な傭兵のボトルだった。

「厄介な相手にあたってしまったな」
「変態仮面はあのじいさんと戦ったことあるの?」
「変態仮面が誰のことだかわかりませんが、私は一度だけあります」
「どうだったYO?」
「一言で言えば、やはり厄介という言葉に尽きますね。まるで、あなたみたいです」
「意味がわかりませんYO」
「本気で戦おうとしない。かといって抜け目がなく、ズル賢い。純粋なカメは簡単に騙されてしまう」
「で、変態仮面は勝ったの?」
「変態仮面が誰のことだかわかりませんが、勝ちましたよ。してやられましたけどね」
「どういうこと?」
「まあ、いいじゃないですか。とにかく邪魔ですからあっち行ってて下さい」
「何だYO!正義の覆面戦士だって見たいんですYO!」
「もう、うるさいな」

637 :剣術大会 :2010/04/06(火) 02:09
リサが言うようにボトルは試合が始まったというのに戦う気配を見せなかった。
左足を引きづりながら、エリに近付いてくると、懇願するような目してエリに訴えかけてきた。

「孫が病気になってしまって、手術をしないといけないのだ。どうしても金が必要なんだよ」
ボトルの言葉にエリは困惑して、剣を抜くにも抜けずにいた。

「若いの、何もこんなことで金を稼がなくても十分働けるだろう。ここはどうかひとつ、このおいぼれに情けを、」
しかし、エリは、ボトルが話している途中で、突然、エリがボトルを殴った。

「あっ!ごめんなさい」

後ろに倒れたボトルは、予想外の出来事に目を丸くしてエリを見つめていた。
しかし、それでも尚、エリの攻撃は続いた。

「小僧!なんと卑怯な!」
「ごめんなさい。体が勝手に!」

容赦のないエリの攻撃はもちろんエリ自身が行っているのではなく、ボトルの言葉など聞こえないミキは無防備に近付いてきたボトルに対して、ここぞとばかりにボトルに対して殴りかかっていた。

「エリ様、強いちゃ!」
「ミキがやってんだよ!」

ミキは器用に両手の指を動かすと、人形が生きているかのように動き、そして、人形の動きに合わせてエリも動いていた。
ビンはようやくミキが何をしているのか、理解した。

「剣は使わないのですか?」
「あぶねぇじゃん」
「しかし、剣を使わないと失格になりますよ」
「えっ、そうなの?」
「はい。一応、剣術大会ですので」
「先に言えよ!」
638 :剣術大会 :2010/04/06(火) 02:09
ミキは人形を操り、エリの剣を引き抜いて構えてみせた。
ボトルも立ち上がると、先ほどまでのような弱弱しい老人ではなく、鋭い傭兵の目を見せた。
そして、ボトルは、エリが手にしている剣に目をやると、驚きとともに笑みを見せた。

「小僧、その剣は本物か?」
「はい。本物の剣ですよ」
「そうじゃない。英雄の剣だろう。それは」
「はい。あの、頂いた・・・あっ!ごめんなんさい!」

今度はエリが言い終える前にボトルに切りかかった。
ボトルは老人とは思えぬ身のこなしで剣を交わすと怒りをあらわにした。

「貴様!それでも騎士かっ!」
「ごめんなさい。勝手に動いちゃうんですよ!」
「フン。剣に操られているのか。流石は英雄の剣だけはあるな」

ボトルは、両手で剣を持ち構えを整えた。
ボトルの立ち姿は、先ほどのまでの弱弱しい老人ではなく、戦場に立つ一人の兵士のように気迫に満ちていた。
エリは、ボトルの気迫に押されるようにして一歩後ずさった。

エリは、自分が今、ミキに操られていることをわかっていた。
本気を出したボトルに対してこのまま操られながら戦って、本当に大丈夫なのだろうかと不安だった。
かと言って、自分の力でボトルを倒すにしても、かなり厳しい戦いになるだろうと予感していた。


「ところでさ、どうやったら勝ちなの?」
「相手が降参するか、一太刀入れることができれば勝ちです」
「殺したら?」
「負けです」
「負けなの?なんだよ、面倒くせぇな」
「これは試合ですので」
「じゃあ、剣持たせるなよなぁ」

ミキは面倒臭そうに指を動かして、人形を動かした。
互いの間合いや空気をまったく無視したエリの動きをボトルは見逃さなかった。
エリの不自然な動きで出来た隙にボトルは素早く剣を突き出した。

「うわっ!あぶねぇ!」
ミキは咄嗟に人形を引っ張りあげると、それに同調してエリも一緒に空中に舞い上がった。
ジャンプしたわけでもなく、突然、エリの体が浮き上がったことに観衆は一斉にして驚きの声をあげた。
空中に舞いがったエリは、そのまま落ちて、地面に叩きつけられた。
観客よりも一番驚いたのエリ自身であり、強烈な背中のダメージに痛みを堪えながらエリは立ち上がった。
639 :剣術大会 :2010/04/06(火) 02:09
ボトルは、地面に落ちたエリに対して追い打ちをかけることができたが、ボトルは慎重だった。
一度、剣を構え直し、エリが立ち上がってもその場から動こうとはしなかった。

「あのさ、これってさ、剣投げて当たっても勝ち?」
「ええ、まあ。でも、それは返って不利になるだけですよ」
「もう面倒くせぇんだよ」

そう言うと、ミキは指を動かして、エリの剣をボトルめがけて投げ飛ばした。

一直線に、ずれることなくボトルの眉間に目がけて飛んできた剣をボトルはあっさりと弾いた。

「あれ?」
「ミキ様!何てことをするんですか!これでどうやってエリ殿は戦えというのをですか!」
「何だよ。そうカッカすんなって」
「何か策でもあるんですか」
「ん?何もないよ」
「ちょっと!」
640 :剣術大会 :2010/04/06(火) 02:10
エリの訳の分らぬ行動にボトルは、尚更、慎重に成らざるを得なかった。
のどから手が出るほど欲しい英雄の剣がすぐ目の前に落ちているが、ボトルは何かの罠かと思い、グッと堪えて、その剣から距離を取った。

「ごめんなさ〜い」
まさか剣を投げるなんて思いもしなかったエリは、ボトルに当たらなかったことに安堵して、落ちた剣を拾いに走った。
何事もなくエリは剣を拾い上げ、そして、ボトルの前に立ち、構えた。
エリの行動をボトルはまったく読めずにいた。
今まで会ったことのない奇妙な相手にボトルは気味の悪さを感じた。
ミキが操っているためエリの戦い方は誰が見てもど素人であるが、ボトルを迷わせたのはエリが手にしている英雄の剣だった。
こんなど素人が英雄の剣を持てるはずがない。こいつは本気を出していないとボトルは思わざるを得なかった。
こういう厄介な相手は、相手のペースにさせてしまっては勝ち目がない。さっさとケリをつけてしまおうとボトルは思った。

ボトルは剣を地面に当て、地面を削るようにして振り上げた。
ボトルの剣によって巻きあがった砂がエリの目に入り、エリは咄嗟に目をつぶり、手で覆い隠した。
その瞬間を狙ってボトルはエリに切りかかった。
しかし、エリは目を手で擦りながらも持っている剣でボトルの剣を受け止めた。
それはもちろんミキが操っているから出来たことだったが、ボトルはやはりエリが只物ではないと思った。
剣を止められてもボトルはすぐに剣を振り、攻撃をやめなかった。
しかし、それをエリはおかしな動きで剣で受け止めていった。

「うわっ、じいさん。本気出しやがった」
ミキも負けじと人形を操り、必死にボトルを剣を受けとめていた。

「めっちゃ鬱陶しいなこのじいさん」
しつこい攻撃にミキは苛立ち、左足でボトルの腹を蹴り飛ばして距離を開けた。
そして、すかさず剣を振りおろした。
しかし、ボトルとの距離が離れすぎていたので、振り降ろした剣は空を切り、地面を叩いただけであった。
そのように誰もが見えた。
しかし、一陣の風がボトルの体を突き抜け、ボトルの剣は真っ二つに折れ、鎧も切り裂かれて、ボトルは血を噴き出しながら、さらに後方に飛ばされた。
641 :剣術大会 :2010/04/06(火) 02:10
「倒したっちゃぁあああ!!エリ様強いっちゃ!!」
エリの勝利に大はしゃぎで喜ぶれいにゃの傍らには何が起きたのかよくわかっていない二人が茫然としてエリを見下ろしていた。


「ミキ様。まさか魔法を?」
「ん?あっ、うんうん。そうそう魔法。これが魔法。どうだ凄いだろ」
「それはいけませんよ。剣で勝って頂かないと」
「いいじゃん別に、誰も気付きはしないよ」

あははと笑いながら、ミキはビンから離れた。
魔法じゃないからいいじゃんというのは言わずに、大はしゃぎするれいにゃの頭を殴り黙らせた。
642 :剣術大会 :2010/04/06(火) 02:10
「あの、大丈夫ですか?」
エリは、すぐにボトルのところに駆け寄り、ボトルを抱き起した。
「やはり、英雄の剣の力は偉大だな。貴様には惜しいくらいだ」
そう言い残してボトルは、エリの手から離れて一人で去っていった。

選手登場口で見ていた覆面戦士とニイガキ仮面の前でボトルは立ち止まった。

「あの剣は手強いぞ」

それだけを言ってボトルは二人の間を通り会場を出て行った。

「カメちゃん凄いYO」
「あなたの剣が凄いだけでしょうが。それよりも何だあの戦い方は!」
リサは、滅茶苦茶なエリの戦い方に憤りを感じていた。
疲れ切った様子でのんびりと歩くエリを睨みつけて、リサはエリを待ち受けていた。
エリは、ニイガキ仮面に睨まれていることに気付くと、怖くなって、目を合わせないようにそうっと端を歩いて通り過ぎようとした。

「ちょっと待て」
リサは、通り過ぎるエリを呼びとめた。
エリは肩をビクリと震わせて、恐る恐るニイガキ仮面の方を見た。
リスのお面で表情は至って無表情ではあるが、その雰囲気からして怒っていることは十分に感じ取れた。

「なんだ今の戦い方は!それでもゴールドランドの騎士か!恥を知れ!」
リサは厳しくエリに向かって怒鳴り声をあげた。
エリは、ミキに操られていたなんてことは言えず、ただ下を向いて申し訳なさそうにしていた。

「おい、聞いているのか?あの戦い方はなんだと言ってるんだ。あんな無様な戦いで勝利したと、、、うぉっと」
「カメちゃ〜ん」
リサの説教にアヤが間を割って入り、リサを突き飛ばして、エリを抱きしめた。
643 :剣術大会 :2010/04/06(火) 02:10
「カメちゃん強い!凄いじゃん!」
「運が良かっただけですよ」
「運も実力のうちよ」
「あ、あの、ちょっと離して貰えませんか」
「やだカメちゃんたら、照れちゃって可愛い」
そう言ってアヤはさらにエリを強く抱きしめた。

「カメちゃん。アヤヤのおっぱいが当たってるYO」

そんな様子で、もうこれ以上はエリと話せないと思ったリサは、収まらない怒りをニヤニヤする覆面戦士にぶつけるように覆面戦士の耳を引っ張りあげ、近くにいたアイにも気付かずにその場から去って行った。
そして、リサとすれ違い様に、次の試合の選手が通り過ぎて行った。
全身を白い鎧で覆い、異様な気配を漂わせていた。
覆面戦士は足を止めて、振り返った。
リサも振り返りはしたが、その異様な雰囲気よりもその選手が纏っている鎧に目が行った。

「あれはダイア帝国の鎧だ。何故、ダイア帝国の騎士がいるんだ?」
「知らないですYO」
「別に、あなたに聞いてませんよ」
644 :剣術大会 :2010/04/06(火) 02:11
ダイア帝国は、その昔、世界の三分の一を占めるほどの強大な国でだった。
しかし、一千年ほど前に起きた世界中を巻き込んだ戦争により、北の彼方に追いやられてしまうことになった。
それでも、国の規模は世界一のままには変わりなく、幾多にも及ぶ侵略戦争を長きにわたって繰り広げていた。
しかし、その戦争も氷の女王によるコールドブレスで終結を余儀なくされてしまった。
国の80%が未だに雪と氷で覆い尽くされたままとなり、ダイア帝国の力は一挙に衰えてしまった。
そして、この時を境に、ダイア帝国は、徹底した鎖国を行い他国への侵略も交流を一切行わなくなった。
ここぞとばかりにダイア帝国に攻め込む国もあったが、今まで生きて帰ってこれたのはたった一人だけで、いつしか人々は呪われた国と呼ぶようになった。

そんな国の騎士が堂々と自国の鎧を纏って現れたことに、誰もが驚きと恐怖を感じずにはいられなかった。
客席からはどよめきの声が上がり、ダイア帝国の騎士を罵倒する声も少なくはなかった。
それは次第にエスカレートしていき、暴動が起こりそうな雰囲気であった。
しかし、ダイア帝国の騎士は、闘技場の中央に立ったまま微動だにせず、対戦相手が現れるのを待っていた。

「アヤちゃん、いいのか?ダイア帝国の人間を出場させて」
ダイア帝国の噂を耳にしたことのあるアイは心配して、アヤに訊ねた。

「別に大丈夫よ。なんたってこっちにはカメちゃんがいるんだもん。ね?カメちゃん」
「え?何で私が?」

「ふざけている場合ではないぞ。ダイア帝国は陰湿で残虐で何を考えているのかわからない国だ」
「それは誤解ですよ。サファイアさん」
覆面戦士を控室に閉じ込めて戻ってきたリサは、アイとアヤの会話に割って入ってきた。
ダイア帝国のことを忌み嫌う人が多い中、リサだけは違っていた。
仮面を被っているので、リサの表情を見ることはできないが、リサは懐かしむようにダイア帝国の鎧を見つめていた。
645 :剣術大会 :2010/04/06(火) 02:11
「そうやよ。アヤちゃん誤解やよ」
「私、何も言ってないよ」

「ダイア帝国の皇帝はとてもお優しいお方です。皆さんが思っているほどダイア帝国の人は悪い人ではありませんよ」
「えっ?リスさんは皇帝に会ったことがあるんですか?」
「ええ、一度だけ」
「凄いやよ!カメちゃんなんかより、リスさんの方が凄いやよ!」

「ちょっと何よそれ。カメちゃんだって、会ったことあるよね?」
「私はないですよ。会ったことがあるのはガキさんですよ」

エリは迂闊にもリサの名を出してしまい、その場の空気が張りつめた。
アイは今は素性を隠しているので、何も言わずに押し黙った。
リサは自分の正体がバレたのかと一瞬ヒヤリとして、目を反らした。
そして、アイの正体を知っているアヤは、エリの口を手でふさぎ、エリの耳元で囁いた。

「カメちゃん。ガキさんの話はタブーだよ」
「えっ?何でですか?ガキさんは、唯一、ダイア帝国との戦争から生きて帰ってきたんですよ」

事情を何も知らないエリは、自慢げに話したが、余計に重い空気が漂った。
アイやアヤは、もしかしてと思いリサの方を見つめ、視線を感じたリサは取りつくろうようにして嘘を言った。

「私は、色んな国を旅しているんです。そのときにたまたま皇帝をお目にかかることができたんです」
しかし、アヤの疑心は深まる一方だった。
疑うような目をして、リサを下から覗き込んだ。

「本当?ダイア帝国の皇帝は国民にすら姿を見せないって噂よ」
「それは噂ですからね」
「そうやよ。噂やよ」
「こんなリスに皇帝が会うと思う?」
「珍しいから皇帝も出てきたんやよ」
「サファイアちゃん、それは違うと思う」
「いや、そうかも知れませんね」
リサは、ははっと笑って、何とか誤魔化すことが出来たと胸をなでおろした。
しかし、勘のいいアヤだけは疑念の目をリサに向けたままだった。
646 :剣術大会 :2010/04/06(火) 02:11
「い、いやだ!オレはあんな奴と戦いたくない!」
突如、背後から叫び声が聞こえてきて、アヤ達が振り返ると、次の試合に出場する騎士がパールランドの騎士ともめていた。
どうやら、相手がダイア帝国の騎士と知ったその騎士は恐れて出場を辞退しようとしているようだった。
すでに足は震え、怯えているようだった。
それに気付いたアヤは、騎士のところへと歩み寄って行った。
そして、リサも念のためとアヤの後をついて行った。

「どうしたの?」
アヤはパールランドの騎士に訊ねた。
姫が現れたことにより、パールランドの騎士はまず敬礼をして、事情をアヤに説明した。
やはり、その騎士はダイア帝国の騎士に怯えて、出たくないと言いだしたようだった。

「戦いで真っ先に死ぬ奴は怯えている奴だ。弱い奴から死ぬ。今、ここでそれを克服しなければ、戦場で真っ先に命を落とすぞ」
リサは、騎士に覇気を取り戻させようと、厳しく言った。
「何を言ってるんだ。あの国は全員が命知らずのリサと言わるほど、残虐な奴らなんだぞ。恐怖を感じない方がバカだ」
当然ではあるが、この騎士は、まさか目の前にその命知らずのリサがいることなど知らずに言った。
その言葉に少なからずショックを受けたリサは、自分の名誉のためにもなんとかして、この騎士に落ち着きを取り戻そうとした。

「あのリサとて人間だ。私たちと同じ人間だ。それにこれは試合だ」
「お前は人間じゃないじゃないかぁー!」
「あっ…」
もうリサは何も言えないと思い、アヤに託すように一歩後ろに下がった。

「まっ、仕方ないね。失格」
と、きっぱりと切り捨てたアヤは、さっさとエリのところに戻ろうと騎士に背中を向けた。
しかし、恐怖に怯え、出てたくないと喚いていた騎士は混乱していて、きっぱりと自分のこと切り捨てたアヤに対して突如怒り出した。

「オレはお前の遊び道具じゃねぇんだよ!」

その騎士は、取り押さえていたパールランドの騎士の腕を振り切り、アヤに掴みかかろうとした。
アヤは突然の出来事に、剣を抜こうと手にかけたが動作がわずかに遅れた。しかし、その瞬間、アヤの肩を掠めるようにして、騎士ののど元へとリサの剣先が突き出された。
リサのその素早い動きと気迫に圧倒された騎士は腰が砕けて倒れた。

「言っただろう。お前みたいな奴が真っ先に死ぬと」
647 :剣術大会 :2010/04/06(火) 02:11
リサは剣をしまうと、その場から立ち去った。
アヤはリサを追いかけると横について、小声で話しかけてきた。

「さすがガキさん。頼りになるね。カメちゃんにも少しは見習って欲しいよ」
「何の仰っているのですか。私はあんな残虐な奴ではありませんよ」
「ふふっ。まあ、そういうことにしといてあげよう」

アヤは立ち止まって、先に歩くをリサの背後を見つめながら、間違いなくこのリスはリサであること確信した。

「それにしても困ったことになったなぁ」
そして、確信したことによって、アヤは悩んだ。
リスに思いを寄せているサファイア。
リサに憎しみを抱いているアイ。
もし、アイがリサの正体を知ったら絶望するだろう。
愛と憎しみを同じ人間に対して抱いるアイをどうしたら救ってやれるのだろうかとアヤは悩んだ。

「うーん。あとで、ユウコ様に相談してみよう」

そして、アヤは一番重要なことを知らない。この愛憎劇を作った張本人がユウコであることを。
648 :パム :2010/04/06(火) 02:12
つづく
649 :名無飼育さん :2010/04/06(火) 14:36
姫様勘が良いというか頭の回転が良いというか才能ですな
650 :名無飼育さん :2010/04/07(水) 00:16
いやあ、盛り上がりますなあw
651 :名無飼育さん :2010/04/07(水) 20:49
wktk
652 :名無飼育さん :2010/04/08(木) 19:10
ここのガキさんかっこよすぎるだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!
653 :剣術大会 :2010/04/20(火) 01:29
第一回戦の試合がすべて終了した。
次の第二回戦の組み合わせは抽選で決め直すと、突然アヤが発表した。
そんなこと何も知らされていなかった観客からはどよめきの声が上がり、騒がしくなったが、アヤはそんなこと一切気にせず、すぐに控室に戻ると次の組み合わせを決めた紙をビンのところへと渡すように命じた。

アヤからの伝言を受け取ったビンはその内容を読むとすぐにミキの元へと駆け寄った。

「ミキ様、第二回戦の組み合わせが決まりました。これから行われる抽選では、この組み合わせになるようにしてください」
「は?何言ってんの?」
「抽選は箱の中にある番号のかかれたボールを取ります。それをミキ様の魔法で、この組み合わせになるようにして頂きたいのです」
「はあ?何でいちいちそんな面倒なことしなくちゃいけないんだよ。これに決まったって言えばいいじゃん」
「それでは、怪しまれてしまいます」
「ったく、あの姫は何考えてんだよ」

ミキは渋々、その紙を受け取り、その組み合わせの内容を見た。
アヤが決めた第二回戦の組み合わせは、以下のようになっていた。
@カン×正義の覆面戦士
Aニイガキ仮面×サファイア
Bアヤ×ダイア帝国騎士
Cカメちゃん

「あれ?カメの対戦相手いないじゃん」
「はい。姫様が仰るにはラッキーボーイだそうです」
「何がラッキーボーイだバカ!ただのズルじゃねぇかよ!」
「まあ、そうですね」
「何考えてんだよあの姫は」
「とにかくこれでよろしくお願いします。できますよね?」
「できるけど、なんつうか、本当にいいの?」
「是非」
「やっぱ、こういうズルはいけないんじゃない」
「姫様のためです」
「でもさ、」
「エリ殿が優勝すればわかります」
「何か、嫌な感じだなぁ」
「もうじき始まりますから、お願いしますよ」

そう言ってビンは、ミキをせかすように背中を押した。
ミキはやる気なさそうに歩いていって、闘技場を見下ろした。
もうすぐ始まろうとしている抽選の周りに選手たちが集まっていた。
654 :剣術大会 :2010/04/20(火) 01:29
「まずはカンが引きます。一番のボールをお願いします」
「はいはい」

ミキは、まったくやる気がないまま、ぼうっと見ているだけだった。
すでにカンが箱の中に手を入れてしまったので、ビンは慌てだした。

「ミキ様?やっておられますか?もう大丈夫ですか?」
「うっせぇな。とっくにやってるよ」

ビンにしてみれば、魔法を使うときは何かしらの動作や呪文があると思っているが、ミキにしてみたらこれくらいの魔法は造作もないことだった。
そして、カンはアヤの思惑通りにカンが一番のボールを引き当てた。

「おおっ素晴らしい。次は、ニイガキ仮面です。三番でお願いします」
「はいよ」

次も指示通りに五番を引き当てて、ビンは本当に魔法を使っているんだと実感し、また、ミキのことを見直した。

「それでは次は、正義の覆面戦士です。二番でお願いします」
「はいよ」

もうビンはすっかりミキのことを信じ切って覆面戦士が引き当てたボールが何番であるかを確認しようとはしなかった。
しかし、覆面戦士が番号を言った瞬間に、観客が騒ぎ出した。
それは、早々と対戦相手が決まったからであった。
覆面戦士は五番でなく、四番を引き当てた。つまり、第二回戦ではニイガキ仮面と当たることになった。

「ちょっと!ミキ様、これは一体どういうことですか!さっきまでのはまぐれだったんですか!」
「うっせな!邪魔が入ったんだよ!誰だよチクショー」
「邪魔ってどういうことですか?」
「知るかよ。ったく、なんでこんなことを邪魔する奴がいんだよ」
655 :剣術大会 :2010/04/20(火) 01:31
「あっ、とにかく次です。次は、サファイアですので、えっと、本当はニイガキ仮面だったのですが、とりあえず五番で」
「ぜってぇ、次はミキが勝ってやる!」

ミキは、身を乗り出して、抽選箱を睨みつけていた。
ビンも固唾を飲んで、サファイアが引くボールを見守っていた。

「よっしゃ!どうだこの野郎!」
ミキはガッツボースをして喜んだ。
サファイアの手には確かに、五番のボールがあった。

「その調子でがんばりましょう。次は姫様です。六番お願いします!」

しかし、アヤは二番のボールを引いた。
カンと対戦することになったアヤは闘技場からビンを鋭い目つきで睨みつけた。

「ちょっとミキ様!なんてことしてるんですか!身内でやりあったら台無しじゃないですか!」
「うるせぇ!ごちゃごちゃ言うな!」

ミキはちゃんと魔法を使ってアヤに六番のボールを持たせたはずだった。しかし、引き上げてみるとそのボールは二番に変わっていた。
こんな簡単な魔法をミキが失敗するはずもなく、かと言って邪魔が入ったからといって、ミキならそれを蹴散らすことくらいできるはずだった。
ミキ自身も何が起きているのかよくわからず、ただわかっているのは、他の誰かがミキの邪魔をしていることだった。

「次が最後ですよ。エリ殿にはラッキーボーイの七番を引き当て下さいよ」
「うっせぇ!うっせぇ!」

エリが箱の中に手を入れた。
ミキは集中して、エリに七番のボールを掴ませた。
エリが掴んでからもミキは集中を切らせず、ボールが箱の中から出るまで魔法をかけたままだった。

「ああ、なんということを…」
しかし、エリが引き当てたボールを見たビンはその場に崩れ落ちた。
エリは、六番のボールを引き、サファイアと対戦することになってしまった。

「邪魔奴した誰だ!出て来い!ぶん殴ってやる!!」
「ミキ様、落ち着くっちゃ」
「お前かッ!」

そして、誰が邪魔をしたのかわからないミキは周りに当たり散らしていた。
656 :剣術大会 :2010/04/20(火) 01:31
「これでちっとは面白くなるやろ」
「ズルしましたよね?」
「ズルちゃうわ!これはプロデュースやねん」

ユウコはミキの魔法をまったく気にすることなく、自分の思い通りの組み合わせにして満足していた。
657 :パム :2010/04/20(火) 01:32
つづく
658 :名無飼育さん :2010/04/20(火) 22:20
たしかにユウコ様
面白くなりそうですw
659 :名無飼育さん :2010/08/07(土) 12:32
続き楽しみにしてます!
660 :名無飼育さん :2010/12/29(水) 19:21
のんびりまったり待ってます
661 :名無飼育さん :2011/03/06(日) 22:37
待ちますYO

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