■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 201- 301- 401- 501- 601- 最新50

Blue Flame2  −the white key−

1 :ぴけ :2003年08月24日(日)00時36分44秒
空板から引っ越してきました。
空板でやっていたやつの続編です。
幻想的能力系バトルもの(?)だと思います、多分。
主人公は辻ですが、他メンもバリバリ活躍します。
それでは、どうぞ。

前スレ:http://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/read.cgi/water/1038084353/
597 :第十二話「5と6 five and six」 :2008/02/05(火) 00:53



その頃、愛によって何処かへ連れ去られた亜依は。
…ここは、どこや?
辺りを見回す、亜依。しかし光も差さぬこの場所がどこなのか、まったくわか
らない。どうやら先ほどまでいた秩父の山中でないことは間違いないだろう。
建物の中、それも黴臭い空気からして相当古い建物の中にいることだけは理解
できた。
亜依の疑問に答えるかのように、暗闇に小さな灯りが灯される。揺らめく炎の
前には、愛の顔が。
「おっお前、ここはどこや! うちをどこへ連れてった?!」
愛は肩を竦め、それから何事もなかったように部屋を見渡す。重厚なインテリ
アや装飾が施された内装は、まるでフランスの古い屋敷を髣髴させた。
598 :第十二話「5と6 five and six」 :2008/02/05(火) 00:54
「ここ、『仮面のロマネスク』に出てくるお屋敷みたいやろ? あみ様に無理
言って貸してもらったんやよ」
「はぁ?」
「何や、『仮面のロマネスク』も知らんの? 宝塚やよ、宝塚」
呆れたような顔をする愛。
「宝塚やろうが帝塚山やろうがどうでもええねん。うちはお前の茶番に付き合
うてる暇、ないねん!」
「まあそう言わんであーしの話、聞いてよ」
愛は低い声でそう言うと、胸元のペンダントを握りしめる。刹那、亜依の体に
空恐ろしいほどの重圧が襲い掛かる。堪らず亜依は、毛足の長い絨毯に体ごと
顔を押し付けられるような形となった。
「ぐあっ!!」
「まあしばらくはあーしの昔話を聞いて。ほやの、あーしがこの力に目覚めて、
凶祓師の学校に入りたての話や」
忌々しげに愛を睨み上げる亜依を他所に、愛は一人語りをはじめる。
599 :第十二話「5と6 five and six」 :2008/02/05(火) 00:55
「凶祓師の卵たちが通う精霊術師訓練学校。邪霊師にとっては目障りな存在。
いつもならそういう輩から守ってくれる専属の精霊術師がおるんやけど、その
日はたまたま非番やった。その隙を突いて、あいつらは襲ってきた」
「あいつら?」
「そいつらはあーしらの最初の野外実習で討伐された、邪霊師の一派の残党や
った。そいつらがどういう方法かは知らんけど、持て余すほどの力を身につけ
て学校に乗り込んだ。でもな、そいつらは学校の敷地に踏み入ることなく一人
の凶祓師によって倒されたんや」
そう言いつつ、愛は下にひれ伏している亜依を見下ろす。
「加護さん。あんた、凶祓師の仕事で新潟の精霊学校に行ったこと、あるやろ」
「…確かに行ったことあるけど、ってまさか」
「そう、その凶祓師は加護亜依。あんたのことやよ」
愛は顔をくしゃくしゃにして、微笑みながらそう言うのだった。
600 :ぴけ :2008/02/05(火) 00:59
更新
>>585-599

この話もいつの間にか5年目を迎えてしまいました。
ちなみに今回出てくるどこぞのプロデューサーさんの職業は某ファイナルクエスト
のアレを思い切りリスペクトしてますね。申し訳。
601 :第十二話「5と6 five and six」 :2008/03/01(土) 00:45



「で、『第六期計画』で生み出されたあなたたちが、私に何の用?」
美貴の前に現れた、三人の少女たち。先ほどまで美貴と交戦していたれいなは
殺されかけたこともあってか今にも襲い掛かりそうな顔をしていたが、後から
現れた二人の表情はあくまでもにこやかだった。
「簡単に言えば、社会科見学ですよ」
浅黒い、前髪をぱっつんにした少女がそんなことを言う。
「…意味がわからないんだけど」
「要するに、さゆみたちは今回の戦いで色々勉強したいんです」
色白の、おとなしそうな少女が補足した。
「私に、あなたたちの引率をしろってこと?」
「けっ、いきなり生徒を殺そうとする先生なんていないっちゃけど」
あさっての方向を向いて、れいなが毒づいた。
美貴はしばらく難しい顔をしていたが、やがて諦めるように、
「仕方ないわね。勝手になさい。私は何も言わないから、あなたたちの目と耳
で学ぶことね」
と首を振った。
602 :第十二話「5と6 five and six」 :2008/03/01(土) 00:46
その言葉を聞いた二人は、手を取り合って喜ぶ。
「ありがとうございますー。じゃあ早速自己紹介。絵里の名前は亀井絵里。趣
味は隙間に挟まることですよ?」
と、色黒の少女。
「私は道重さゆみ。精霊術師の中で一番かわいいの。よろしくなの」
と、色白の少女。
「えーっ、絵里のほうがかわいいもん」
「さゆみのほうがかわいい」
「絵里だもん」
「さゆみ」
「絵里」
何故か言い合いをはじめる二人を無視し、美貴は不満げなれいなの前に立つ。
「あなたの名前は?」
「さっきも言ったやろ。れいな。田中、れいな」
「人の邪魔をしといて不貞腐れるのは勝手だけど、変な正義心で行動してると、
死ぬわよ?」
れいなは何も答えなかった。
603 :第十二話「5と6 five and six」 :2008/03/01(土) 00:49


振るわれる巨剣が、周りの木々をなぎ倒す。
戦う魔人と称された「ピン・チャポー」が容赦なく真里を追い詰める。
「あはははは!さっきは威勢のいいこと言ってたけど、小バエみたいに逃げ回
ってばっかじゃん!」
その魔人の後ろで高笑いをする、里沙。
「誰が小バエだよ、バカにすんなよ凶祓師学校のひよっ子!!」
大きく精霊刀を振りかぶり、そのまま振りぬく。まるで台風でも来たかのよう
な凄まじい風が、周囲に巻き起こった。さすがのピン・チャポーもこれには動
きを止めざるを得ない。
「あたしはあんたたちを倒して、あみ様を助ける! 行け、ピン・チャポー!!」
里沙の勇ましい掛け声に、風をなぎ払い真里のもとへ突進し始めるピン・チャ
ポー。しかし真里はピン・チャポーのほうではなく里沙の首元で怪しく光るペ
ンダントを凝視していた。
「勝負は一瞬、外したら殺す!」
「そっ、そんなあ〜」
情けない精霊刀の声には耳を傾けず、ターゲットに集中する真里。
あのペンダントを相手に気づかれないうちに破壊する。それしか、おいらに残
された道はない。
「細く、力が一点に集中するように風を出しな。あの子に傷つけたら、へし折
る!」
「いやあ俺のキャラからいって太く重くがモットーなんですけどね」
「ごちゃごちゃ言ってるとまたあの庭に埋めるぞ!!」
「ひぃぃぃ!!!!」
604 :第十二話「5と6 five and six」 :2008/03/01(土) 00:50
狙いを定め、ピン・チャポーに刀を翳すフェイントを経てから里沙へとかまい
たちを放つ。本来、召喚術士は自らの身を守るために攻撃用の召喚獣とは別に
防御用の召喚獣を側に置かなければならないのだが、経験の浅い里沙にはそれ
ができていなかった。よしんば知っていたとしても、ピン・チャポークラスの
召喚獣を呼び出しながらもう一体を喚び出すことなど、不可能に等しいのだが。
驚いたのは里沙だ。ピン・チャポーに向けて放たれると思った攻撃が自分のと
ころへ来るなど、まさに想定外の事態。
避けなきゃ、やられる!
反射神経の全てを駆使し、何とか風の軌道から自らの体を逸らそうとする。し
かし。
パキッ。
体一つ分ちょうど避けた場所、首元から流れるように揺れているペンダントの
核を、風の刃が捉えた。破壊されたペンダントからはまばゆい光が溢れ出し、
いずこかへと消えていった。
光がすっかり消えてしまうと、そこにはうつ伏せになって倒れてる里沙がいた。
「ふう。この子が凶祓師の卵の割にできるほうだったから、助かったわ。ま、
この子が避けること想定してかまいたちを打ったんだけどさ」
「さすがご主人様! …って、あれ?」
「何だよおブタ様」
「ご主人、まだ終わってねえよ……」
向こうには、大剣を構えた黒い外套の魔人が。
そう。里沙のペンダントを壊したまでは良かったが、ピン・チャポーは一緒に
消えてはくれなかったのだ。
「ちっくしょう、楽しようと思ったのに」
恨み言を吐きながら、真里は巨人へと向かっていった。
605 :第十二話「5と6 five and six」 :2008/03/01(土) 00:52


それより少し前のこと。
すっかり小室率いるゾンビの軍団に取り囲まれた裕子となつみは。
「どうだい、僕のtrf(tetsuya reproduction factory)は。最高の人材プロデ
ュースだろう?」
倒されても、倒されても、這い上がる死人の軍団。小室はそんな様子を遠巻き
に眺めながら、気味の悪い笑みを湛えている。
「はっ、こんなんプロデュースと違う。ただの隷属や」
「言うねえ。さすがつんくの教えを忠実に守る犬、と言ったところか。余りに
も違いすぎる、彼のプロデュース方法と僕のプロデュース方法…僕たちが決別
したのも、また必然だったというわけだね。けどまあ、今から僕が正しかった
ことを身を持って証明してあげるよ。うふふふ」
「それより、さっきの言葉はどういう意味? ヤンジャンの中に鈴木あみが存
在してるって」
なつみの問いかけに、小室は馬鹿にしたような笑みを見せる。
「意味?そのままさ。どういう仕組みでそういうことになったのかは知らない
けど。でも非常に興味深いね。一つの体に二つの人格を入れ込む、か。恐らく高次の精霊術師の仕業なんだろうけど、僕にもできるかもしれないな、ウフフ」
一人悦に入る小室を他所に、裕子がなつみに耳打ちをした。
「なっち、今からうちが隙作るから、その間に脇の林道から迂回して神社に向
かって」
「えっ、ちょっと裕ちゃん」
突然の作戦変更。戸惑うなつみに、裕子は一歩前に出ることで答えを示した。
606 :第十二話「5と6 five and six」 :2008/03/01(土) 00:54
「何だい?君から僕の下僕たちの餌食になりたいのかい?いいけど、本当は後
ろの童顔の子がよかったな。死人使いも、できるだけ若い術士のエキスが欲し
いからね」
「寝言は、寝てから言いや。この皺くちゃ小男が」
「なっ」
裕子が懐から、一枚の護符を取り出す。圭織が作った、対魔用護符。
「うちのこと年増扱いしたこと、後悔しな!」
大きく叫ぶと同時に、護符を大空へと投げ放つ。護符から、清らかな光が死者
たちに降り注いだ。
「くそっ、こんな隠し玉を持ってるなんて!」
小室が眩しさに耐えて目を開けると、彼自慢のゾンビたちは跡形もなく浄化さ
れ消えていた。そして、気づいた変化がもう一つ。
「どさくさ紛れに一人いなくなってるじゃないか。まあいいさ。僕のtrfはい
つでも」
表情を戻す小室。地割れから、三度、骨と腐肉のついた亡骸の群れが現れる。
「復活できるからね。うふふふ…仲間の代わりに犠牲になるって言う君の気持
ちに免じて、君もこのtrfの仲間にしてあげるよ」
「誰が犠牲になるなんて言うた?」
裕子の言葉が意外に聞こえたのか、小室は耳を傾けた。
「うちの精霊術の本領はな、人がいるとこやと使えへんの。だから、なっちを
遠ざけた」
607 :第十二話「5と6 five and six」 :2008/03/01(土) 00:55
小室を無視し両目に手をやり、眼球の表面を軽く摘む。カラコンの柔らかい感
触。それを、地面に投げ捨てた。裕子の両目から、禍々しい色の光が溢れる。
しんと静まり返る、参道。
「うちの精霊術は、土の精霊の眷属の石化術。もともと命の通わんものには効
果が高いけど、あんたの下僕とはさらに相性がええはずやで?」
取り囲んでいたゾンビたちは一体残らず、全てもの言わぬ石と化していた。
「そして、カラコンを外して最大出力で照射した石化光は…まあ言わんでも、
己の体で味わってるか」
「う、く…動けない」
小室の体はすっかり硬化していた。
「一晩は身動きできんはずや。先、行かせてもらうから」
「く、このつんくと互角以上に渡り合ったこの僕が…たかが三十路のおばさんに」
小室の恨み言を無視し、裕子は先を歩く。かに見えたが。
「だーれーがー、みそじのおばさん、やて!?」
振り向きざまに炸裂する、後ろ回し蹴り。
哀れ小室は、そのまま参道脇の崖を転がり落ちていった。
608 :第十二話「5と6 five and six」 :2008/03/01(土) 00:59


その頃、山中の洋館にて。
カーテンによって光を遮断された古びた建物の中は、蝋燭の光を持ってしても
なお、薄暗い。
「あん時にうちのファンとか言うてたんは、そないな理由があったからか…」
相変わらず地に伏せられたままの亜依。
「ええ。そやで。あーし、加護さんにずっと憧れてた。そして」
「ぐうっ?!」
愛の顔から笑みが消える。と同時に亜依を押さえつけている力が加速度的に強
まった。
「超えたい、そう思うとった」
「くっそ…あいぼんさんをそう簡単に超えられると思ったら大間違いやで!お
らぁ!!」
渾身の力で亜依が立ち上がる。
「へえ。大の大人なら身動きすらできんくらいの重力をかけたつもりなんやけ
ど。さすがやね」
「今度はこっちの番やで、訛り重力使い!」
亜依が強く念じると、巨大な岩柱が絨毯ごと床を突き破って生えてくる。
「あーあ、その絨毯高かったんやよ」
「うっさいわ!」
岩柱が一瞬のうちに分解され、そして亜依の手元に集まってくる。
609 :第十二話「5と6 five and six」 :2008/03/01(土) 01:01
「これでも食らいや、そらっ!!」
まるで雹のように、大量のこぶし大の岩が愛目がけて降り注ぐ。しかし愛は避
けようとすらしない。
最初の一撃が愛の額を直撃する。だが、愛の額には傷一つついていない。
さらに岩が愛の肩を、足を打ち据える。それでも、まったく影響がないかのよ
うに立っている。
「な、なんやねん自分…」
「こんなもん。何発食らおうが、痛くも痒くもないやよ」
「はっ! ハッタリもそこまでにしとき!!」
亜依が、愛の頭上に巨大な岩を発生させる。天井ギリギリにまで育った大岩は、
今まさに彼女を押しつぶそうとしていた。
「わからん人やね」
「これでも、強がれるか!!」
大岩が、愛の華奢な体を押しつぶす。かに見えたが、何と愛は自らの体の何倍
もあるような岩を片手で支えていた。
「・・・無駄やよ」
「なっ、何でやねん」
大げさに驚く振りをしながら、亜依は目の前の不思議な光景について考える。
あの細い体からして、とてもこないな芸当ができるタイプとちゃう。なら、
何でや。こいつの使役する精霊は、重力の精霊。もしかして…
亜依は咄嗟に背後の書棚にあった本を掴み、愛に向けて投げつける。すると愛
から数メートル離れた場所で、本がふわふわと浮かび始めた。
610 :第十二話「5と6 five and six」 :2008/03/01(土) 01:03
「そういうことかい。お前、重力の精霊で岩を軽くしたやろ」
「ほやの。そういうことになるかの」
「タネさえ分かればお前なんぞ倒すのは簡単や」
「理由がわかったところであーしに勝てるとは限らないやよ」
愛が瞳を閉じる。胸元のペンダントが輝き、彼女の周りに張られた重力場が一
層力を増す。
「この重力場はあーしの思うままに、重力を変化させることができる。どんな
手を使おうが、無駄やよ」
「無駄かどうかは、やってみいへんと分からんやろ!」
再び床面が隆起する。突き出た二本の岩柱。亜依は数個の拳大の岩を作り出し
て、愛目がけ投げつけた。当然のことながら、愛によって容易く払われてしまう。
「まだまだいくで!!」
激しさを増す亜依の攻撃。しかし全ては、愛の重力操作によって無力化されて
しまう。
611 :第十二話「5と6 five and six」 :2008/03/01(土) 01:05
「無駄やって」
「くそっ、けったいな攻撃しくさってから」
忌々しげに吐き捨てる亜依を見た愛が、にたりと笑う。
「加護さん。あーし、加護さんのファンなんやよ」
「…それがどないした。ファンやから、重力場を解いてうちの攻撃をまともに
食らってくれるんか?」
愛はゆっくりと、首を横に振る。次の瞬間、ロケット砲さながらの勢いで亜依
に向かって来た。岩の障壁を立てる間もなく、亜依は敵の接近を許してしまう。
「道頓堀での、邪霊師横山ノックの討伐」
亜依の体に圧し掛かろうとする、凄まじい重力。亜依は寸でのところで重力場
の範囲を抜け出す。が、愛の身のこなしは重力操作で自らの身を極限まで軽く
しているために恐ろしく速い。
「アメリカ村での異臭騒動。引き起こした邪霊師・タージンの討伐」
今度は、亜依の体が宙に浮き上がる。バランスを崩した亜依は、重力を元に戻
されたことにより床に激突してしまう。
「ぐあっ!!」
「他にもあんたが解決した、有名な事件。そのどれもが、あんたの奇策で解決
しとる。今やって、あーしを倒す方法、考えてるんやろ?」
心底うれしそうな顔をする、愛。
「はっ、もう思いついてるかも知れへんな…ぐっ!」
亜依の体を、重力が押え付ける。
「だから。そんな暇、与えんわ。あーしは今日、あんたを超えるがし」
612 :ぴけ :2008/03/01(土) 01:07
更新
>>601-611

ちょっと更新量少な目かなと思いつつ。
次回はもう少し多く更新したかったり。
613 :名無飼育さん :2008/03/02(日) 00:59
更新お疲れ様です。
裕子さんVS某プロデューサー対決、当人さんたちには
申し訳ないですが笑ってしまいました。
次回も楽しみに待たせてもらいますね。
614 :名無飼育さん :2008/03/14(金) 06:16
レスするのは初めてですが、連載開始当初から更新楽しみにしてました。
続きが気になります。
615 :名無飼育さん :2009/02/15(日) 02:23
「哀れ小室は、そのまま参道脇の崖を転がり落ちていった。」
作者様の予言てばスゴイ!

冗談はさておき、続きを楽しみにしてます。
616 :第十二話「5と6 five and six」 :2009/11/27(金) 18:54


その頃、山中の洋館にて。
カーテンによって光を遮断された古びた建物の中は、蝋燭の光を持ってしてもなお、薄暗い。
「あん時にうちのファンとか言うてたんは、そないな理由があったからか…」
相変わらず地に伏せられたままの亜依。
「ええ。そやで。あーし、加護さんにずっと憧れてた。そして」
「ぐうっ?!」
愛の顔から笑みが消える。と同時に亜依を押さえつけている力が加速度的に強まった。
「超えたい、そう思うとった」
「くっそ…あいぼんさんをそう簡単に超えられると思ったら大間違いやで!おらぁ!!」
渾身の力で亜依が立ち上がる。
「へえ。大の大人なら身動きすらできんくらいの重力をかけたつもりなんやけど。さすがやね」
「今度はこっちの番やで、訛り重力使い!」
亜依が強く念じると、巨大な岩柱が絨毯ごと床を突き破って生えてくる。
「あーあ、その絨毯高かったんやよ」
「うっさいわ!」
岩柱が一瞬のうちに分解され、そして亜依の手元に集まってくる。
「これでも食らいや、そらっ!!」
まるで雹のように、大量のこぶし大の岩が愛目がけて降り注ぐ。しかし愛は避けようとすらしない。
最初の一撃が愛の額を直撃する。だが、愛の額には傷一つついていない。
さらに岩が愛の肩を、足を打ち据える。それでも、まったく影響がないかのように立っている。
「な、なんやねん自分…」
「こんなもん。何発食らおうが、痛くも痒くもないやよ」
617 :ぴけ :2009/11/27(金) 18:56
>>616
投稿ミス。
申し訳ありません・・・
618 :第十二話「5と6 five and six」 :2009/11/27(金) 18:57


途中から梨華とは別行動を取ったひとみは、一足先に神社の裏口へとたどり着いていた。
「この先に、あいつが…」
ひとみの脳裏に鮮やかに蘇る、新宿の地下基地での出来事。
圧倒的な、恐怖。
あの時は興奮して我を忘れていたが、日が経つに連れヤンジャンの恐ろしさが身に染みてくる。
確実に殺される、本能がそう訴えかけている。
だが、ひとみには退けない理由があった。
希美を救うため。あさ美を元に戻すため。そして、自分自身のため。
生前は名凶祓師として名を馳せた、ひとみの父親。いつか彼の仇を取るため、そして彼を超えるため。
あたしはこんなとこで躊躇してる暇なんて、ない。
鋼の意志で神社の敷地内に足を踏み入れた、その時だった。
光のような勢いで、ひとみの足元に刺さる剣。
619 :第十二話「5と6 five and six」 :2009/11/27(金) 18:58
「誰だ!」
叫び声をきっかけに、はるか向こうから銀色の何かが迫ってくる。
本能的にその場を飛び避けるひとみ。数秒後、その場所には無数の剣が刺さっていた。
「姿を現さないつもりなら、こっちからいくぞ!!」
剣が飛んできた方向に、雷撃を放つ。しかし別の方向から飛んできた剣によって遮られてしまう。
「避雷針、知ってますよね? 私の能力がある限り、あなたの雷は私には届かない」
敷地内に立つ木の影から、声がした。現れたのは、ややつり目の、髪にウエーブのかかった少女。
ひとみは少女の顔に、見覚えがあった。
「お前…あの時の」
「小川麻琴です。あみ様から、ここを誰も通さないように言われてます。もちろん、あなたもね」
挑戦的な視線を送る、麻琴。
「へえ。精霊学校生がでかい口叩くじゃん」
「…私はもうただの精霊学校生じゃない!!」
ひとみの挑発に麻琴が乗る。胸のペンダントが輝くと同時に麻琴の頭上から、無数の剣が降りてきた。
「あんたなんか、あみ様から貰った力でズタズタに引き裂いてやる!」
「やってみなよ」
さらに挑発を続けるひとみ。麻琴の頭上を舞っていた剣が、一斉にひとみの方向へと刃を向けた。
620 :第十二話「5と6 five and six」 :2009/11/27(金) 19:01


主を失い暴走を続ける魔人に、真里は少々手を焼いていた。
「ちっくしょう、早く自分の世界に戻れったらこのデカブツ!」
握り締めた小刀で、風を巻き起こしピン・チャポーにぶつける。しかし当の魔人は涼しい顔。
「こうなったら気絶してるあいつ起こして力ずくでも戻してもらうしか…」
「ご主人様、怖っ」
「うっさいこのデブ刀!!」
毒づきながら、真里は茂みの向こうで倒れている里沙を見る。当分は起きなさそうだ。
やっぱ直接対決しか、ないか。
相手は伝説の巨人と謳われたピン・チャポー、地に沈めるのは相当の労力を要する。一線を退いていたとは言え名古屋の妖怪の異名を持つ悟琉童・汁婆姉妹ですら倒せなかった巨人を、真里が倒せるかどうかはまったくの未知数であった。
覚悟を決め、真里が自らの出しうる最大の精霊力を練っていたその時だ。
ピン・チャポーの周りを水の壁が取り囲み、やがてその巨体を包み込んだ。息のできなくなった巨人は哀れ、もがきながら自分のいた世界へと消えていった。
「まさか…」
「ヤグチー、間に合ったみたいだね」
林の間から姿を現したのは童顔の、中澤事務所きっての水使い。
「なっち!!」
「不意打ちだったし、たまたまなっちが水術使えたから倒せたけどさ。あんなすごいの呼び出した子は?」
「召喚師のお子様はおねんね中だよ」
真里が里沙の寝ているほうを指差す。
「ありゃー…派手にやったねえ矢口も。しかも精霊術師の卵相手に」
621 :第十二話「5と6 five and six」 :2009/11/27(金) 19:02
「うっさいなあ、これでも手加減したんだぞ」
渋い顔をする真里。そんな様子に微笑みながら、なつみは里沙の元へ向かう。
その足元で、ぴくりとも動かない里沙。その顔はまだ子供のものだった。
「気絶してるだけで大した外傷もなし、か。これくらいで十分かね」
なつみが指先から、一滴の水を迸らせた。里沙の顔に当たって弾けたそれは、光を放ちながら彼女の肌に吸収されていく。
「ん…私、一体……」
「お目覚めだべか?」
声の主がすぐそばにいることに気づき、火の出る勢いでその場を飛びのく里沙。
「くそっ、さっきは不覚をとったみたいだけど次は!出でよ、ピン・チャポー!!」
しかし里沙の意図に反し、それらしきものが出る気配すらない。
「あれ?もう一度…」
「わかんねえヤツだなあ。お前にはもうピン・チャポーは喚び出せないっての」
呆れたような真里の一言。
「お前は!さっきはよくもやってくれたな…って、あっ!!」
そこではじめて里沙は首にかけていたペンダントがなくなっていることに気づいたのだった。
「ない!あみ様から貰ったペンダントがない!!」
慌てふためき、しゃがみ込んで失くし物を探す里沙。しかし草むらを掻き分ける手が触れるのは、小石や土くればかり。苛立つ真里は思わず言葉が出てしまう。
「あのヤバいペンダントは壊した。あんたと『鈴木あみ』を繋ぐ鎖も、壊れたってわけ」
「そんな、せっかく精霊術師の最強レベルのあみ様に目をかけてもらったと思ったのに」
「お前、この期に及んでまだそんなことを…!」
感情を露にしようとする真里を制止し、なつみが里沙に語りかける。
622 :第十二話「5と6 five and six」 :2009/11/27(金) 19:03
「あなた、名前は?」
「新垣…里沙」
「里沙ちゃん。あなたは『鈴木あみ』によって精霊学校から拉致された。それはとても不幸な事件だった。けどね」
なつみの表情が、引き締まる。
「あなたは、多くの人の命を奪った」
人の命を奪った。人を殺した。その言葉は、予想以上に里沙の心を揺さぶる。
「そんな、私」
「操られてたのかもしれない。意識が残っていたのかもしれない。どちらにしても、あなたが奪った命はもう、戻ってこないわ」
「わたし、どうしたら…わたし」
思いがけない暖かい感触。なつみが里沙を、抱きしめた。
「でもね、大丈夫。悪い夢は、終わったの」
「うっ…う、う、うわぁぁぁぁん!!!」
里沙はその時、確かになつみに天使を見た。その優しさに、暖かさに、涙が止まらなかった。
623 :第十二話「5と6 five and six」 :2009/11/27(金) 19:04


山の麓の洋館で続いている、亜依と愛の死闘。
しかし愛は既に詰みの段階に入っていた。
「あーしがあと少し、この重力を強めればあんたはぺしゃんこやよ。思えば、意外と大したことねえ憧れやったわ」
「何を…」
「憧れはいつの日も儚い。あんたって言う存在もあーしからしたら儚い存在やったんやろな」
亜依の背中を踏みつけながら、そんなことを言う愛。
「はは。自分、うちのファン失格やな…」
「これから死んでくやつのファンになんかもう、なれんがし」
「ほざけ!!」
突然、愛の足元で爆発が起こる。思わず足を引っ込める愛。同時に、亜依にかけていた重力をも緩めてしまう。その隙に、亜依は愛の重力フィールドの範囲から抜け出していた。
「これで振り出しに戻ったかの。でも、近づいたらまた同じ目に遭うから」
「振り出し、やて?」
そこではじめて、亜依の表情に笑みが浮かぶ。
624 :第十二話「5と6 five and six」 :2009/11/27(金) 19:04
「何がおかしい」
「いやいや、自分があんまりにもおめでたい田舎者やって思うたら、な」
憤る愛。しかし自らの体が急に傾き始めると、俄かに狼狽しだした。
「なっ何やこれ!!」
愛の足元の床が、どろどろに溶け、その細い足を飲み込もうとしていた。
「あんま使いとうない術やったんけどなあ。何せ術の主があの性悪猿やからな。まあ自分も猿っぽい顔しとるし、ええかなと思って」
亜依は先日戦った松浦亜弥の能力を、基本の部分だけ習得していた。愛によって床に這いつくばされている時に、酸によって愛が立っている場所を少しずつ、溶かしていたのだった。
「ああ鬱っとおしいわ!こんなの、足を抜きさえすれば…」
しかし、愛の意に反して足はなかなか抜けない。それどころか、何か別の力で下のほうへと引っ張られているような感覚すらある。そう、それはまるで。
「それとな。自分と戦うてる時に、重力操作の能力、コピーさせてもろたわ。まあうちはモノを重くすることしかできひんし、そもそも重力フィールドどころか体の一部くらいしか重くでけへんけどな」
亜依の言葉に、愛の顔が青ざめる。まさか、たったこれだけの戦いで基礎とは言え重力術を使うとは。それが愛に、極度の焦りを生むことになる。
625 :第十二話「5と6 five :2009/11/27(金) 19:06
「こんな俄か仕込み、あーしの重力軽減で破ってやる!!」
足に掛かる重力を軽くし、何とか体勢を立て直そうとする愛。
「かかったわ!」
「何やて、ってうわあっ!」
愛は焦るあまり、自らの足を軽くさせ過ぎてしまったのだ。必然的に体のバランスは崩れ、よろけるような形になってしまう。
「だから言うたろ、うちのファン失格やってな!」
亜依が風の術を使い、目にも止まらぬ速さで愛の懐に飛び込む。
咄嗟に亜依に重力をかけて動きを止めようとする愛。しかし、亜依のほうが速かった。
両拳を岩で固めたナックルを、愛の鳩尾に叩き込む。すると愛の細い体はくの字のように折れ曲がりながら、足だけ軽くしていたことも手伝ってか遠く離れた書棚のほうまで勢いよく飛んでいった。彼女のしていたペンダントの石が、弾けるように砕け散る。
「うちのファン名乗りたいんやったら、もっとうちのこと研究しいや。自分が言うてたように、うちに考える暇なんて与えたらあかんのや。たとえ、それがたったの1秒やったとしてもな」
崩れ落ちた本の山に埋もれた愛の返事は、なかった。
626 :ぴけ :2009/11/27(金) 19:07
更新
>>618-625

久しぶりすぎて声も出ません。
というわけでレスは後ほど。
627 :名無飼育さん :2009/11/28(土) 12:08
うおおおおおおおおおお待ってたぜええええええ!!!!!
628 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/18(土) 07:20



大空を舞う剣、その数、300以上。
雷の力を操る吉澤ひとみにとって、あまり喜ばしいことではなかった。
現状としては目の前の敵である小川麻琴に、近づくことができない。
「さっきの大口は偽物だったわけ? じゃあこっちから行くよ!」
麻琴が動く。
一直線に向かってくる麻琴を、雷の放電で迎え撃とうとするが、前方の剣に阻
まれてしまう。
遠距離攻撃は無理か。しょうがない、肉弾戦で…
目の前に迫った麻琴に、ひとみは拳を固めて応戦しようとした。しかし。
嫌な気配がして攻撃をやめ、身を屈める。麻琴が口に含んだ含み針は、標的を
捉えることなく彼方に飛んでいった。
「なにすんだよ!!」
「何するんだって、あたしは暗器使いだから!」
「なんだと、卑怯者!!」
「暗器使いに卑怯も糞もあるか!!」
麻琴は懐から、数個のボールを取り出し、ひとみに投げつける。反射的に、拳
で打ち落とすひとみ。だがそれは罠だった。割れたボールから、網のようなも
のが飛び出す。
「なっ!」
あっと言う間に、ひとみの体は網に掛けられ身動きが取れなくなってしまった。
「せこいマネしやがって、こんなもの! あれ?」
網を跳ね除けようとするが、びくともしない。
「あはははは、無駄だよ! それは召喚獣ですら捕獲できる精霊具の暗器さ。
あんたごときがどうこうできる代物じゃないよ!!」
勝利を確信しつつ、高笑いする麻琴。
629 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/18(土) 07:21
「くっそ・・・」
「そして上を見てみなよ」
ひとみが空を見上げると、それまで不規則な動きで空を飛んでいた剣が、一箇
所に集中しはじめた。
「身動きできない状態で、あの剣が雨のように降り注いだら?」
その言葉とともに、切っ先を下に向けた剣が次々と落ちてくる。
「ははは、バカなやつ! お前みたいな単純キャラは暗器使いにとっちゃ楽勝
の相手なんだよ!!」
「・・・単純キャラで悪かったな」
「え?!」
麻琴が見たものは、網を両手に抱えて頭上に広げているひとみの姿。傷一つす
らついておらず、一滴の血すら流れていない。
「そんな、どうして…」
「この網は、磁力を使った精霊具だろ。電気流して、剣は全部弾かせてもらっ
たよ」
磁力を逆手に取り、ひとみは網を剣を弾く盾に変えたのだった。
「そんな!バカのくせに!!」
うろたえる麻琴に向かって、ひとみが網を投げつける。とっさにその場を飛び
のく麻琴、しかしひとみの動きは疾かった。
麻琴の胸部にひとみの拳がヒット。麻琴はそのまま倒れ、ちょうど拳が当たっ
た場所にあったペンダントの石は砕け散った。
「…ったく。バカバカ言いすぎだっつうの」
さて、先を急がなければ。
ひとみは意を決し、走り出す。
目指すは鈴木あみ、ただ一人。
630 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/18(土) 07:22



その頃、藤本美貴は3人の少女たちを連れ、山を回りこむようにして神社に向
かっていた。
「藤本さん、神社に行けば鈴木あみさんに会えるんですか?」
亀井絵里が、緊張感のない声を出して言う。
「ええ。あの子には、使命があるから」
「使命? 使命って何? それってかわいい?」
「人によっては、そう思うのかもしれないわね」
淡々と答える美貴。鈴木あみ、いやヤンジャンの抱えている使命など、彼女に
とって毛頭興味のあるものではなかった。
「で、あんたはれいなたちに、どういう社会見学を見せてくれると?」
半ば挑発気味に、田中れいなが問う。彼女の真っ直ぐさは、美貴の勘に触った。
しかしそれも、彼女の心をそよ風のように揺らすくらいの動きしかもたらさな
かった。
「そうね。こんなのはどうかしら?」
言うや否や、美貴は側の茂みに銃弾を打ち込む。現れたのは、ニット帽を被っ
た中年の男だった。
631 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/18(土) 07:24
「ひどいじゃないですかぁ、藤本さん」
「あなた、誰?」
「私はですねえ、戦場カメラマンをしているー、渡部とー申します」
独特の口調で、男はそう名乗った。
「一介の戦場カメラマンが、どうして私の名前を?」
「実はですねえ。私、凶祓師協会から頼まれましてぇ。藤本さんの密着取材を
ですねえ」
一瞬の出来事だった。渡部が瞬きをする間に、美貴は彼の背後に回りこみその
頬にナイフを突きつけていた。
「あなたの言葉には嘘がある。凶祓師協会は私がここにいることを知らない。
あなたは一体何者? 返答次第では頬に憂鬱の鬱の文字を刻むわよ」
しかし男は顔色一つ変えなかった。
「私はぁ、嘘などついておりません。ああ、そう言えば彼らは凶祓師協会には
所属していませんでした。申し訳ありません」
「そう。残念ね」
手に持ったナイフに力を込める美貴だが、銀の刃は渡部の頬に刺さることなく
空を切る。渡部は、いつの間にかれいなたち三人の前に立っていた。
632 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/18(土) 07:24
「藤本さん。あなたこそぉ、一体何者なんです? そしてこの子たちはぁ、た
だの子供じゃあ、ありませんよね?」
「そうね。ただ、あなたに答える義務はないわ。五大老の手先さん」
そこで初めて男の顔に戸惑いの色が浮かんだ。
「な・・・」
「私が何も知らないとでも? あなたが最初から私たちの周辺を嗅ぎまわって
いることは知ってた。もちろん、その背後の存在にも。そして、あなたを始末
しやすいように、わざわざこの場所を選んだ・・・」
表情ひとつ動かさずに、美貴は男に言い放つ。
「すごい、藤本さん」
「さすがだね」
顔を見合わせ、絵里とさゆみは感心する。
「確かに、でも」
れいなが言いかけたことを、
「私を始末できたらの、話ですけどねえ」
男が繋いだ。首にぶら下げていたカメラを、美貴に構える。が、それより早く
美貴がコインの銃弾でファインダーを打ち抜いた。
633 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/18(土) 07:25
「ちっ、手ごたえなしか」
渡部の姿がかき消える。代わりに頭上から声が響き渡る。
「さすがはつんくの…いや他の誰かの右腕と言ったところでしょうか。驚きま
したか? 私の雇い主は、すでにそこまで突き止めてぇ、いるんですよ。もち
ろん、後ろにいる子たちのこともですよ?」
名指しされ、身構える三人。そこへ、美貴が義手のほうの手で制す。
「言ったでしょう? 社会科見学だって。生徒は引率する先生の言うことを聞
くものよ」
「余裕を見せていられるのも、今のうちです。すぐに、五大老に睨まれたこと
のぉ、意味を知ることになると、思いますから」
美貴が、空に向かってありったけのコインをばら撒いた。
634 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/19(日) 05:15
「あなたたち、死にたくなければ防ぐことね」
美貴がれいなたちに、静かに告げる。間もなく、頭上から暴風雨のような銃弾
が注がれる。
1秒、2秒、3秒。
その間、木々は蜂の巣になり、地面には無数の弾痕が穿たれた。
「れ、れいなたちを殺す気?!」
慌てながら、見えない炎で防御を図るれいな。他の二人もそれぞれの方法で銃
弾の雨を凌いだようだった。
れいなの抗議を無視し、美貴はため息をつく。
「さすがはぁ、つんくの懐刀と言ったところでしょうかぁ。ただ、私はいくつ
もの死を、見てきた戦場カメラマンなんです。あなたの敵う相手では、ありま
せんねえ」
またも頭上から響き渡る声。
「そうかしら? あなたの目的は、私を捕獲し情報を得ること。でも、私の目
的は…あなたの抹殺。これだけでもあなたは相当不利な立場のはずよ」
「何とでも、言ってください。あなたたちはぁ、篭に囚われた、小鳥なんです
から」
それまで、何の表情も浮かべていなかった美貴が、はじめて笑みを浮かべた。
「…三流が」
両手を合わせ、まっすぐに、太陽に向かって、伸ばす。どこからともなく集ま
ってきた銃弾が一点に集中し、そして、開放された。
635 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/19(日) 05:15
銃弾、というよりも砲弾と化したそれは、力強く太陽のような何かを打ち抜く。
ぎゃっ、という悲鳴と共に、周りの景色が一変した。
「えっ、ここは…」
戸惑うれいな。美貴の焼夷弾によって悉く破壊されたはずの森は、傷一つなく
青々と茂っていた。
「なるほど、そういうわけか」
絵里がある方向を指差し、うなずく。そこには、腹から大量の血を流している
渡部の姿があった。
「さゆみたちは気づかない間に、あいつの精霊具に封じ込められていたの」
さゆみの言う通り、四人は森を行く道の途中で渡部の持つカメラ型の精霊具に
封印されていた。美貴が渡部を見つけたのは、その後の出来事だったというわ
けだ。
「私に気配を悟られずに罠を仕掛けたのは褒めてあげるわ。でも…その後の対
応がお粗末だったようね」
美貴は男のいる方向に人差し指を向け、そして銃弾で打ち抜く。言葉を発する
こともなく、男は絶命した。
636 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/19(日) 05:16
「これで私が山崎様から戴いた指令は完了したわ。周辺を嗅ぎ回る煩い犬を始
末しろ、という指令はね」
美貴が、空中から現れた黒いコートを羽織ながら、言う。その言葉に大きな含
みがあると、れいなたちは感じていた。
「…亜弥は?」
やっぱり。それを今まで聞かないほうが逆に不思議だったのだ。
「何やったっけ。確か取引がどうのこうのって」
「れいな!!」
慌てて口をつぐむれいな。だが時既に遅し。
三人を連れ出し、自分は何の目的かは知らないけど雲隠れ。何のために。しか
し、美貴にはたった一つだけ、思い当たるふしがあった。
仮面の少女。亜弥が例の地下施設で「取引」をしたという少女だ。取引の内容
までは聞かなかったが、どうせ亜弥のことだ、誰か強い相手を紹介しろとか、
その手の類のことだろう。だが、仮面の少女、いや、石川梨華の妹は。
637 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/19(日) 05:17
今やこの秩父の山は精霊反応の塊と言ってもいいくらいに、精霊が飽和してい
る。だからこそ先ほどの追手はここを犯行現場に選び、美貴もまたここを追手
の始末場所に選んだ。そう言った考えを、仮面の少女が考えるのなら。
冗談じゃない。あの子は、梨華は、私の獲物だ。
となるとこの三人は足止め要因か。亜弥、やってくれるじゃない。
れいな、絵里、さゆみ。三人の視界から美貴が消えるのは、ほぼ同時だった。
「あーあ、行っちゃった」
「引率の先生が急にいなくなって、どうすると」
れいなが呆れたように言う。
「じゃあ、社会科見学は終了ってことで」
絵里が楽しそうに言う。もともとこの外出にはあまり乗り気ではなかったらしい。
「帰ろ、帰ろ」
「社会科見学、何か勉強になったことあった?」
「わからん。れいな首絞められ損っちゃけど」
それぞれ言いたいことを言いながら、山を後にするのだった。
638 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/20(月) 05:49



その頃、石川梨華は柴田あゆみたちと別れ、川の上流から神社へと抜ける小道
を走っていた。
「私のことは気にしないで。それより、あの人が不穏な動きをしてる。気をつ
けて」
あゆみの残した一言。あの人とは、おそらく。深くは聞きはしなかったが、見当はついてはいた。いつか
は話し合わなければならない、そう思ってはいた。けれど、まだ。
そんな思案にふけっていた梨華の前に、小さな影が躍り出る。敵? そう思い
身構えたが、すぐに警戒は解かれた。相手も同じ事を思っていたようで、一瞬
だけ緊迫した空気はあっという間に穏やかなものに変わっていった。
639 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/20(月) 05:50
「なんや、梨華ちゃんか」
「あいぼん」
よくよく見ればお互いに傷だらけ。すぐに敵の手によるものと理解した。
「梨華ちゃん、ヤンジャンの手の者とやりあったんか?」
「ううん、でも、何とかなった。あいぼんは?」
「例の凶祓師の卵の1人とな。まあ、ぶちのめしたったわ」
言いながら亜依は余裕の笑みを見せた。
「そっか。紺野ちゃんも、誰かと戦ってるのかな…」
「わからん。せやけど、うちらがもし紺ちゃんに会うたら」
正気を失ったあさ美の顔を思い出す。
「解放してあげなきゃ、駄目だよね?」
「せや、な」
辛い選択肢だった。亜依も梨華も、あさ美とは面識があった。けれど、その時
は覚悟を決めなければならなかった。希美のためにも。
640 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/20(月) 05:50



神社の参堂。
小室哲哉を退け、先に進む中澤裕子が出会ったのは、双剣の剣士。
「紗耶香。矢口はどないしたん?」
裕子は共に行動してると思っていた小さな風使いがいないことに気づく。
「例のひよっこの一人がいてさ。おいらにまかせろ、って先急かされたよ」
市井紗耶香は頭をぽりぽり掻きながら、そんなことを言った。
まあ、矢口なら大丈夫やろ。
ひとりごちる裕子に、紗耶香が声をかける。
「裕ちゃん。目」
「は?」
「さっきから肌が痛いんだけど」
そこではじめて裕子は、石化能力を開放しっぱなしだったことに気づいた。
「あ、ごめん」
そそくさと替えのコンタクトレンズを探す。が、紗耶香がそれを遮った。
「ごめん裕ちゃん、やっぱいい」
「・・・せやな」
二人とも、目の前の違和感に気づいていた。誰かが、いる。
641 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/20(月) 05:51
「せっかく暇になったと思うたのに。いきなり君らの相手せなあかんとか」
裕子と紗耶香が、同時に身構えた。
だぼだぼのシャツに、無精髭を蓄えた、金髪坊主。
「自分は」
「はじめまして、やったかな。僕、今回の鈴木さんのサポートやらせてもろう
た平井言います。ま、もう終わったんやけど」
とぼけた口調。彫りの深い顔ではあるが、緊張感はない。
なのに、裕子と紗耶香が警戒を解くことはない。目の前の敵が、非常に危険で
あることを、本能的に察知していた。
「何が終わったのか知らないけどさ、ここ、通してくんないかな」
紗耶香が、双剣の片割れを平井に向ける。
「ああ、終わった言うても、まだ『運搬』があるんで。せやからちょっとだけ、
僕と遊んでくれへんかな」
「遊びで済めば、ええな」
裕子の言葉をきっかけに、二人はほぼ同時に左右に動いた。
642 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/20(月) 05:52



その頃。
鈴木あみ、いやヤンジャンがいるであろう神社に最初に着いたのは、後藤真希
だった。
「・・・誰もいない、か」
それはそれでいいけど、心の中でそう付け加える。元々誰かと共同戦線を組ん
で戦うのは、得意ではない。
鳥居を潜り抜ける。目の前には小さな社。仕掛けがありそうな場所を、ゆっく
りと確かめる。社のすぐ下にある、石畳。真希は己の精霊力を、その一点に向
けた。石があった場所が、ぼんやりと薄れ、地下へと続く階段が現れた。
「さっさと来い、ってことかな」
どうやら相手は逃げも隠れもしないようだ。ヤンジャンの性格からして、下手
な小細工は仕掛けていないだろう。真希は、ゆっくりと階段を下りていった。
山の中を丸々くり抜いたとしか思えないくらいに、階段はどこまでも続いていた。
「…これじゃ下に着くまでに疲れちゃうよ。ある意味罠だったり」
文句を言いながらも、その歩みは止まらない。
643 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/20(月) 05:53
禁断の青い炎の力を手に入れたヤンジャン。かつて真希と刀を交えた、闇に魅
入られた福田明日香と同等か、あるいはそれ以上の力を持っていることは容易
に想像できた。ただ、自分も明日香に単独では歯が立たなかったあの時とは、
違う。
「待ってましたよ、後藤さん」
階段が終わるのと、その声が聞こえてくるのは、ほぼ同時だった。
天井の高い、広い空間。ただ、全面が鏡張りになっていた。
「あんたは、確か」
目の前に立ちふさがる少女に、目をやる。確か、SPEADの地下事務所で会
った、ヤンジャンに付き添っていた4人組の一人。
「紺野、あさ美です」
「…駄目だよ。あんた、精霊術師じゃないじゃん」
そう言って一歩歩み出た真希の足元に、光が走る。
「わたしは、あみ様に力をいただいたんです」
「あんた、ののの友達でしょ」
「そんなことは、いいんです。わたしと、戦ってください」
あさ美の言葉には、力が篭っていた。真希はふう、とため息をつくとやおら懐
の刀を抜いた。
「ごとーが教えてあげるよ。戦うことの意味を」
切っ先から迸る炎が、ゆらりと揺らめいた。
644 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/21(火) 06:05
あさ美が両手を広げる。手のひらから幾筋もの光が、溢れ出した。
「光の精霊、か」
先ほどの光線が抉ったと思しき床面を見る。鏡張りの床がひび割れ、大きな裂
け目を作っていた。
出力のコントロールがまだ出来ていないみたいだけど…
真希が考える間もなく、あさ美の光線が襲う。試しに、肩口のあたりをわざと
掠らせた。服に、焦げ目がつく。まともに喰らうと少し厄介そうだと判断した。
「余裕ですね、後藤さん」
「まあね。凶祓師としての教育も受けてない素人にごとーのことをどうこうで
きるとか、思ってないから」
「そうですか」
あさ美から放出されていた光線が、一気に増加する。各方位に照射された光線
は鏡面に反射し、一斉に真希のもとに襲い掛かる。
645 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/21(火) 06:06
1、2、3・・・ざっと20くらいかな。
瞬時に光線の数を数える真希。構えていた刀はそのままに、体の位置を微妙に
変えて光線を交わしてゆく。右に、左に、そして後ろに。高く跳躍し、宙返り
をしたところで予想外の一撃。さすがにこれは真希も刀を使い弾かざるを得な
かった。
「へえ、なかなかやるじゃん」
「愛ちゃんや麻琴と、毎日特訓してましたから」
「ふうん…」
あさ美が一歩、前に出る。
「私、後藤さんのこと、素直に凄いなって思います。あの地下事務所であみ様
との戦いを見た時から。確かに私は精霊使いでもなんでもなかったけど、いつ
かは後藤さんの域に辿り着きたい。そう思えたんです」
「……」
「だから、試させて下さい」
再び光線を発するあさ美。前よりも、明らかに条が多い。しかし、真希の表情
には少しの揺るぎもない。
「仮初の力でそんなこと言っても、意味がない。さっきも言ったよね、戦うこ
との意味を教えてあげるって。だから、ごとーはもう刀を抜かない」
646 :「第十三話 憧れ admiration」 :2010/09/21(火) 06:07
銀色の刃を鞘に収める真希。あさ美の目が、見開かれた。
「馬鹿にしないでくださいっ!!」
放たれた光が、真希に向かって収束する。だが、真希は避けなかった。正確に
言えば、あさ美には真希の動きがまったく見えなかった。そして彼女の視界か
ら真希が、完全に消えた。
次の瞬間、あさ美の腹部に、鈍い痛み。一瞬にしてあさ美の懐に潜り込んだ真
希が、拳による一撃を加えたのだ。
「痛いでしょ? 戦うってのは、相手に痛みを与えること。そしてその痛みを
背負っていくこと。あんたには向いてないよ、紺野」
「そ、んな…」
あさ美は襲い掛かる悔しさと裏腹に、自分の意識が急速に遠のくのを感じていた。
ごめんね、紺野。でも…すぐに開放してあげるから。
奥の部屋から、禍々しい気を感じる。吐き気すら覚えるくらいの、重圧感。お
そらくあいつは、そこで待っているのだろう。真希がかつて与えた雪辱を晴ら
す機会を。
上等だよ、ヤンジャン。
真希はしっかりと前を見据え、部屋の奥へと歩いていった。

新着レスの表示


掲示板に戻る 全部 次100 最新50

現在のスレッドサイズ:519122 byte

名前:

read.cgi ver5.27 + 0.02 (04/08/03)