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ローズクオーツの掟2

1 :名無飼育さん :2015/04/19(日) 09:16
前スレ 草板の「ローズクオーツの掟」の続きです。
宮本さん中心のお話です。
当面は小田かりん中心になると思います。
188 :名無飼育さん :2016/05/03(火) 10:48
教室へ入ると中は南の国の雰囲気に似ていた。
女生徒の来ている服が洋装なだけで教室の中は黒板があって
机が並んでいる。

すでにたくさんのクラスメイトが談笑していた。
さくらは佳林を紹介するのも忘れて瑞希と一緒に引っ張られていってしまった。

「佳林ちゃん」

振り返ると彩乃がいた。まるでこのタイミングを待っていたかのようだ。

「先生が呼んでるから一緒についてきて」

彩乃はひらひらと手招きする。
189 :名無飼育さん :2016/05/03(火) 10:48
「でも」
佳林はクラスメイトと話しているさくらを一瞬振り返る。
さくらは久しぶりにみんなに会ったせいかおしゃべりに夢中になってしまっている。

「私、クラス委員なんだ」

彩乃はそう言って佳林の手をとって歩き出す。

「クラス委員?」

「このクラスのまとめ役ってところかな」

廊下を歩きながら彩乃は言った。
190 :名無飼育さん :2016/05/03(火) 10:49
「後で学校のことも案内してあげる」

「ありがとう」

佳林がお礼を言うと彩乃は急に声を潜めた。

「それから、私がさくらから佳林ちゃんを救い出してあげる」

「え?」

驚いて佳林は彩乃の手を放した。

「何だったら南の国に帰してあげてもいいよ」

「でもそんなの無理だよ」

「さくらがいるから?さくらなんて怖がる必要なんてないよ」

彩乃は断言するように言った。
191 :名無飼育さん :2016/05/03(火) 10:50
彩乃はさくらの獰猛な性質を知らないだろうか。
獲物をこれと決めたときのさくらは、どんな堅牢な建物に隠れていても
それを打ち破って欲しいものをかっさらう。

「大丈夫。さくらが正しいことをしてたら応援するのが親友の役目だけど、
間違ったことをしてたらきちんと言うのもあたしの務めだからさ」

「間違ってる?さくらが?」

佳林は単純に疑問に思った。

「宮本佳林はさくらにひどいことした悪い奴だってさくらから聞かされた。
だから復讐のために無理やり誘拐してくるんだってさくらは言ってた」
彩乃は佳林を見つめて言う。

佳林は自分の過去の悪事が見透かされているようで急に動揺した。
192 :名無飼育さん :2016/05/03(火) 10:51
「でも実際の佳林ちゃんにはそんな悪い子には見えない。
それに足の怪我だってさくらを助けたせいなんでしょ。
そんな子を奴隷にして好き放題に弄ぶなんてさくらはどうかしてる」

一瞬、この国でも自分の味方ができたかもしれないと思った。
でもよくよく考えてみると彩乃はさくらに頼まれて言っているだけで、
これはさくらの罠だという可能性もある。

佳林は彩乃の言葉には強く反応せずに軽く笑っただけだった。

職員室で彩乃と一緒に先生に挨拶したあと、
3人で教室に戻った。簡単な自己紹介をしたあとで佳林は、
一番後ろにある彩乃の隣の席に座るように言われた。

さくらが座っている席は前方で少し距離が離れている。
193 :名無飼育さん :2016/05/03(火) 10:52
「佳林ちゃん、分からないことがあったら何でも聞いて」

彩乃がささやくような声で言った。
佳林は笑顔でうなずく。

すると聞こえるはずはないのにさくらが後ろを振り返って
佳林をじろりと見た。

紹介もされてないのに彩乃と佳林がすでに親しくなっていることに驚いているのだろうか。

それにあまり彩乃と仲良くするなということだろうか。

さくらが何を思っているかは別にして同じ教室にさくらと一緒に
授業を受けている感覚は何だか新鮮だった。
まるで自分が生まれ変わって別の人生を歩んでいるかのように感じる。

さくらとの関係はどう変わっていくだろうか。
あまり期待はしていなかったが楽しみだとさえ思えるようになっていた。
194 :名無飼育さん :2016/05/03(火) 10:53
「古典」の授業が始まると他の生徒達はすごい勢いで
黒板の文字を書き写していく。
佳林にはそれが何の意味があるのか分からなかった。

佳林は自分の筆記用具を感心して見つめる。
さくらから可愛い柄が入った筆箱をプレゼントされていた。

筆箱の中は細い炭の出るシャープペンシルと何色もの
蛍光ペンという光る筆も入っている。

確かに黒板を写すためにこれは必要だったのだと佳林は思う。
195 :名無飼育さん :2016/05/03(火) 10:54
目の前ではひたすら黒板に「雨月物語」の一節が書かれている。
佳林は少し疑問に思う。
長い小説の中でこんな短い文章を抜粋して何か意味があるのだろうか。
しかも教科書にさえ、長い物語のほんの部分的にしか書かれていない。

これでは物語のあらすじさえつかめない。

佳林は思い切って質問した。

「先生、この教科書欠陥品だと思います。
こんな一部分だけじゃ雨月物語の面白さが分からない」

「ちょっと佳林ちゃん」
そのときに言われた言葉は隣の彩乃だったかさくらだったかはよく分からなかった。
196 :名無飼育さん :2016/05/03(火) 10:55
佳林の質問は曖昧にされたが、
クラス全員で同じ授業を受けるのは面白かった。

だからクラスメイトというのは特別なんだと佳林も理解できる。

午前中の授業が終わり、お昼の時間になった。

さくらが席を立つと案の定佳林のところに駆け寄ってきた。

「さくら、学校って面白いね」

佳林は笑顔でさくらに言う。

「面白いじゃないよ。あんな質問したらうちら南の国出身の田舎者だと思われちゃうでしょ」

困り顔のさくらが珍しかった。
197 :名無飼育さん :2016/05/03(火) 10:56
「そうなの?」

「そうだよ。先生だって困ってたし」

「でも疑問に思ったんだから仕方ないじゃん」

そう言って佳林は席を立った。
クラスメイトの大半がお昼を食べに学食に向かっている。

「ちょっと佳林ちゃん聞いてる?」

「聞いてるよ。まあそんな固いこと言わなくてもいいでしょ?」

佳林はさくらに手をひらひらさせて応えた。
佳林に何も言い返せなくて困ってるさくらは何だか可愛いくていいなと思う
198 :名無飼育さん :2016/05/03(火) 10:57
「さくら、佳林ちゃん、お昼一緒に行こう」

後から瑞希と彩乃が追いついてきた。
彩乃とさくらが出会うのを初めて見た。
二人は一瞬だけ目を合わせるとすぐにそらした。

「佳林ちゃんとはさっきホームルームの前に二人で十分話したから。
紹介はいいよ。さくら」

彩乃がさくらを見て言う。

「あっそ」

さくらはぶっきらぼうに返した。
何だか刺々しい二人のやり取りに佳林はぎくりとする。
199 :名無飼育さん :2016/05/03(火) 10:58
「佳林ちゃん、気にしなくていいよ。
この二人会えばいつもこんな感じだから」

瑞希があきれたようにそう言う。

「全く久しぶりの再会だっていうのにさ」

瑞希が言うのもどこ吹く風で彩乃もさくらもそっぽをむいたままだった。
学食は校舎をまたいで隣にある。

途中までの並木道きれいに清掃されていてきれいだった。
空気が乾燥しているせいか木々の緑も煉瓦の色をした校舎の
三角屋根も澄んだようにはっきり見える。

南の国にも美しいところはたくさんあったが
北の国の洗練されたような見晴らしが佳林は好きだった。
200 :名無飼育さん :2016/05/03(火) 10:59

今回の更新を終わります。
201 :名無飼育さん :2016/05/19(木) 22:07
学食に入ってみるとすでに人がいっぱいだった。
佳林が空いてるテーブルを探してうろうろしていると、
「佳林ちゃん」と瑞希に大声で呼び止められる。

どうやら席につく前に長方形の大きな箱のところに並ばなければならないらしい。

「あれ、佳林ちゃん学食初めてだっけ?」

どうしてよいか分からずにいる佳林を見て瑞希が言った。

「まず食券を買って注文してから席につくんだ」

さくらが佳林の隣にきて言ってくれた。
202 :名無飼育さん :2016/05/19(木) 22:08
「大丈夫。一緒にやってあげるから」

彩乃を意識してかさくらが普段にもまして優しく感じる。
大きな箱は券売機というらしい。
それで自分の好きなものを注文できるみたいだ。

「佳林ちゃんは何か食べたいものはある?」

「そうだなあ」

考えてみたものの北の国の食べ物は西洋風らしいがよく分からないものばかりだ。

「さくらと同じでいい」

佳林がそう言うと何故かさくらは嬉しそうにうなずいた。
203 :名無飼育さん :2016/05/19(木) 22:12
さくらがボタンを押すと紙切れが落ちてきた。
それが注文表のようなものらしい。
厨房に差し出した後は席についてよいみたいだ。

「何か面白いね」

佳林はさくらに言う。

学食を改めて見てみるとイスラム式のモスクのような巨大で
円形の建物に白いテーブルと椅子が所狭しと並べられている。

窓は足元からガラス張りで周囲の森林や校舎がが一気に眺望できるようになっている。

西洋ではオープンテラスと言って外で食事したり
お茶を飲んだりするのは聞いたことがあるが
建物の中にいて外にいるほどの開放感が味わえるなんて
経験したこともなかった。
204 :名無飼育さん :2016/05/19(木) 22:13
「すごいところだ」

佳林は改めて感動して言った。

「まあ北の国には南の国にはないようなところがいっぱいあるから。
あとでいろんなところへ連れて行ってあげるよ」

さくらがにっこりと笑って言う。

「本当?やったあ」

佳林は嬉しくて子供のようにはしゃいだ。

「佳林ちゃんて何か不思議な子だね。
すっごく大人っぽいところもあるのにうちらより年下みたいに思うときもある。
南の国の子ってみんなそうなの?」

瑞希が佳林を見て言う。
205 :名無飼育さん :2016/05/19(木) 22:15
「そうでもないよ。佳林ちゃんが特別なんだよ」

さくらがそう応えた。
四人で席に着くとさくらがお茶をとってくると席を離れた。

「ねえ、瑞希この子誘拐されてきたんだよ。何とか助けてあげないと」

彩乃がさくらがいなくなったのを見計らったように言った。

「確かにね。さくらは佳林ちゃんを北の国に連れてくると言って南の国へ旅立ったんだったね」

瑞希が感慨深げにそう言った。
206 :名無飼育さん :2016/05/19(木) 22:16
「まさか本当に誘拐してくるとは思ってなかったけど」

瑞希が改めて佳林を見て言った。

「瑞希、そんな悠長なことを言ってる場合?佳林ちゃんは悪い子じゃない。早く助けてあげないと」

彩乃がバンとテーブルを叩いた。

「はい。お茶お待たせ」

ちょうどさくらが四人分のお茶をとって戻ってきた。

「じゃあいただきます」

さくらが先頭切って言ったので佳林も手を合わせて食べ始めた。
207 :名無飼育さん :2016/05/19(木) 22:17
味はなかなか美味しい。
魚のフライやサラダに味噌汁とご飯がついているという洋食と和食が
合体したような変な料理だったがこれはこれでいけてると想った。

「さくら、美味しい」

佳林が言うと

「でしょ?あたしのオススメなんだ」

さくらも笑顔で応えた。

「あたしはこれからモーニング娘。のレッスンがあるから、
二人には佳林ちゃん見てて欲しいの」

さくらが彩乃と瑞希を見て言った。

「それって逃げないように見張ってろってこと?」

瑞希が少し怪訝そうに言った。
208 :名無飼育さん :2016/05/19(木) 22:19
「まあそういうこと」

さくらが涼しげな顔で言う。
佳林はなるほどと思った。
佳林がもし北の国で友達が出来たら自分に同情する人たちもきっと現れるだろう。

その協力者によっては佳林が南の国への脱出するのも可能になるかもしれない。
さくらがそのリスクを負っても瑞希と彩乃の二人を佳林に紹介したのは
佳林を監視させる目的があったからだ。

佳林はさくらが言うことを気にも止めない様子で食事を続けた。
そんなことより佳林は学校の友達と集まってお昼ご飯を食べていることが
嬉しかった。

女学生に戻ってそんなことができたらいいなとずっと夢にまで思ってきたのだ。
209 :名無飼育さん :2016/05/19(木) 22:20
「さくら、佳林ちゃんはいい子だよ。一体どういうつもり?」

何か沸々と怒りを蓄えているような彩乃の言い方だった。

「だから佳林ちゃんを見張ってて。それだけだよ」

さくらのほうもつっけんどんに返す。

「さくら、頭おかしいんじゃないの?
私、知ってるんだよ。
佳林ちゃんはさくらをかばって足に大怪我したんでしょ。
どんな極悪人捕まえてくるかと思ったらこんなに優しい子、
ひどい目に合わせてどういうつもりなのって聞いてんの」
210 :名無飼育さん :2016/05/19(木) 22:21
「どうもこうもこの子はあたしのものなんだから好きにしたって勝手でしょ」

さくらはひるまずにばっさりとそう言いきった。

「そんな理不尽なことして許されると思ってるの?
佳林ちゃんにもお父さんとかお母さんとか佳林ちゃんを大事に思ってる人は
たくさんいるんだよ。それを物みたいに好き勝手にしていいはずがない」

彩乃が興奮してテーブルを叩く。

黙って食べていた佳林だったがどうも彩乃の勢いでは食事と続けられる
雰囲気ではない。
それにさくらだって現状、佳林との生活をきちんとやっていこうと思ってくれているみたいだし、
今更南の国へ帰せと言われても困るだろう。
211 :名無飼育さん :2016/05/19(木) 22:23
「あのね。彩乃。勘違いしてるみたいだけど。
私は親の借金のかたに買い取られたの。
だから突然連れてこられたわけじゃないし」

佳林が言っても二人の勢いは止まらない。

「佳林ちゃんは黙ってて」

二人はコーラスのように同時に言った。
二人のあまりの剣幕に佳林は叱られた子供のように縮こまった。

「別に好き勝手にしてるわけじゃないし。
それに彩乃だって何かにつけ佳林ちゃんにつきまとってあたしに言いがかりつけるのやめてくれるかな?」

「私が佳林ちゃんにつきまとってる?」

彩乃が表情険しく言い返そうとしたときだった。
212 :名無飼育さん :2016/05/19(木) 22:24
「二人ともいい加減にして」

瑞希がばんとテーブルを叩いた。

「今日が佳林ちゃんと一緒に食べる初めてのお昼ご飯なんだよ。
少しでも楽しいって思ってもうおうと思わないの?」

瑞希がしゅんとうつむいている佳林を見て言った。
二人が佳林を見ると言い争っていた熱が急激に冷えていくのを
佳林は感じた。

「ごめん。ついむきになって」

彩乃は乗り出していた顔を引っ込ませてため息をついた。
213 :名無飼育さん :2016/05/19(木) 22:25
「佳林ちゃん、あたしは午後から抜けるけど自由にしてていいから」

さくらが申し訳なさそうに佳林に言う。
今度は急に四人とも話さなくなりしんとした空気が流れる。

「あ、あのう」

静かな空気に耐え切れなくなった佳林が恐る恐る口を開く。

「今度、みんなでゴンドラに乗ってみない?私、あの乗り物大好き。
まるで空を飛んでるみたい」

佳林が話し出すなんて思っていなかったのか他の三人は
ぽかんと口を開けたままだった。
214 :名無飼育さん :2016/05/19(木) 22:26
「あ、そうか。ここにいるみんなはもう飽きちゃってるよね。
ごめんな・・」

「行こう。乗りに行こうよ」

佳林が謝ろうとするのを瑞希が大急ぎで遮った。

「みんな乗るでしょ」

半ば強引な瑞希の提案にさくらも彩乃もこくこくとうなずく。

「勿論私は佳林ちゃんが乗りたいんだったら一緒に乗るよ」

彩乃は笑顔で言った。
たださくらだけがまだ納得できない顔をしている。

「あたしは・・・彩乃が一緒なら行かない」

でもさくらはまだほおを膨らませてそう言った。
215 :名無飼育さん :2016/05/19(木) 22:28
さくらの除いて全員同じタイミングでため息をついた。

さくらにもこんなに激しく人と言い争うことがあるんだと
佳林はまたさくらの新たな一面を見たような気がした。
さくらは佳林を追い詰める時だって常に冷静で感情的になったりはしなかった。

でもさくらと一緒に旅を初めて以来、さくらからひどい言葉を使われたこともないし、
基本的には穏やかな人間なんだと思っていた。

そして気になったのが彩乃の存在だ。
この言い方からするとどうもさくらに頼まれて演技でやっているとは考えにくい。
さくらの親友だけあって怖がりもせずによくあんなに何でも言えるなと
逆に感心してしまうぐらいだった。
216 :名無飼育さん :2016/05/19(木) 22:28

今回の更新を終わります。
217 :名無飼育さん :2016/06/06(月) 02:11
久し振りに来たら続きが…
楽しみにしてました!
218 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:26
>>217
レスありがとうございます。しばらくまた止まってましたが、
続き更新させていただきます!
219 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:28
昼食が終わるとさくらは夕方には戻るとだけ言ってレッスンに行ってしまった。
彩乃はさくらにまだ話が終わっていないと追いかけていき、
さくらは歩きながらめんどくさそうに彩乃の応酬を受けていた。

「あの二人いつまで喧嘩するんだろ」

まだ議論の収まらない二人を遠目に見て瑞希があきれたように言った。

「彩乃、さくらのことになるといつもこうなんだ。
もう南の国から戻ってこないんじゃないかってずっとさくらのことずっと心配してたから」

瑞希の言葉にも納得がいった。
220 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:28
彩乃は自分というよりさくらがしていることにものすごくこだわっているように思えた。
それはもはや何かの裏返しではないかと思える程だ。

「彩乃はさくらのことが好きなんだね」

佳林がそう言うと瑞希は首をかしげている。

「彩乃はさくらのこと好きは好きだと思う。
けどそういう意味での好きじゃない。
彩乃はきっと佳林ちゃんが好きなんだよ」

瑞希が言った。

「そんな、違うと思うけど」
221 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:29
「だって彩乃はずっと佳林ちゃんのこと見てるよ。
でも佳林ちゃんはすでに誰かさんのもの。
納得いかなくてイライラしてるんじゃない?」

「それは瑞希の思い込みだよ。きっと」

佳林はそう言い繕ったが実際問題どうなのか佳林にはまだ分からなかった。
彩乃が佳林のことを好きだとして、それをさくらは許すだろうか。

ひょっとして大金をかけて手に入れた佳林を簡単に彩乃に譲ったりすることもあるのだろうか。
でもそれはさくらの佳林への執着から言って考えられないことだった。
222 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:30
学食を出ると校舎同士が赤レンガの小道でつながっている。
両脇に立ち並ぶ薄緑色の木々から心地よい風が流れてくる。

「でも良かった。あたし以外に二人の喧嘩仲裁してくれる人ができて。
一人で止めるの今まで大変だったんだから」
瑞希が苦笑いしながら言う。
「さくらも彩乃も佳林ちゃんには弱いみたいだしね。あたしには遠慮なしなんだからあの二人は」
瑞希は感心したように言う。
「なんでだろ。私みたいな奴隷。どうにでもできるのに」
確かに二人は佳林に遠慮している。
223 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:31
「惚れた弱みってやつじゃないの?」
「まさか」
そもそもさくらは自分への復讐が目的のはずだし、彩乃はそのさくらの親友だ。
佳林の過酷な状況が北の国に来たことで何も変わるわけではない。
「ね、そんなことより瑞希午後から授業ないし校舎の周り案内してよ」
佳林は過去を忘れるように明るく言った。
224 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:32
瑞希は学校内のいろいろなところを案内してくれた。
学校の中には大きな図書館や大講堂や体育館もあった。

それぞれの建物の周囲をきれいに剪定された木々が覆うように植えられている。
南の国は木を切り倒して整備したり、逆に自然任せのような町並みが多かったのに
ここでは自然と人工物が調和したような風景が多い。

それを佳林は何か妥協のように感じた。
ただしそれは妥協して美しくないわけでは全くない。

佳林が感じたのはそれを作ろうとした人の気持ちだ。
調和と妥協。それは全く正反対のようなことにも思える。

でも北の国の建物や人工物から佳林はある意味自然と妥協した
あきらめのような気持ちを感じる。

自然という大きな力に対する恐れの気持ちだ。
225 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:33
北の国の人間のようにあきらめて生きていけば自分も楽になれるのかもしれない。
でも佳林が考えているのはプライドを持った上でのあきらめだ。

さくらが佳林を必要としているのなら喜んで傍にいてあげようと思う。
強引にさくらのものにされた。

そんな奴隷みたいな存在でもあっても絶対に卑屈にはなりたくない。

「小田さくら」という圧倒的な力をもった者に佳林は支配されて生きている。

でもまだまだ自分はさくらを倒して這い上がることができる人間だ。
そんなふうに思っている時期もあった。

でも今の佳林にはさくらのことも受け入れて生きていくしかない。
そう思うようになってから少しずつ佳林の気持ちは楽になっていった。
226 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:33
--------------
227 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:33
「食べ物も着るものも大抵のものはこの夏の町でそろうけど。
デートするとかになると国境の町までいったほうがいいけどね」
学校を案内し終わって瑞希が言った。
「デート?デートって何?」
「恋人と遊んだり同じ時間を共有するってことかな」
瑞希は少し顔を赤らめて言う。
「このへんだとそんなロマンチックなところはないし」
「なるほど」
確かにこの町は情というより爽やかすぎる。
228 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:34
「ねえ、南の国のデートってどんななの?佳林ちゃんは知ってる?」
貴族時代の華やかな思い出が蘇る。
朋子と馬車から雪を見て帝国劇場へ行った。

もう二度と戻らない栄光の日々。ただし朋子とのことも裕福だった
過去の思い出も執着しても二度と戻っては来ない。

「さくらとならあるよ。馬車に乗って着物を見に行ったり、お茶屋さんで餡蜜食べたりしたよ」
佳林はそう言った。

果たしてさくらを恋人と呼んでいいのだろうか。
そうは思ったが、そもそも由加のお店自体がそういうことをする場所だったはずだ。
229 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:36
「へえ。そういういのも何だかいいな」
瑞希は憧れのような目で佳林を見る。
「でも変な関係。佳林ちゃんとさくらって。
さくらは南の国で佳林ちゃんをずいぶんいじめたって聞いてたけど普通にデートしたりもしてたんだ」
「さくらは私のお客だったから。
それにさくらは私が逃げようとしなければ優しいんだ。
でも逃げたら地の果てまで追いかけるって言ってた」

「こわ。何それ」

「ま、それも慣れちゃったけどね。それにさくらって結構可愛いところもあるし、
見た目も綺麗だから一緒にいてそんなに悪い気はしないかな」

佳林は、平然とそう言った。
230 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:37
「佳林ちゃんて不思議な子。お金で売られたり買い取られたり
南の国ですごく大変な目にあったって聞いてるけど。全然そんな感じがしない」
「これでも体売って生きてたからね」
佳林が体を大の字に開く。
「でも大丈夫。お客って言ってもほとんど相手はさくらだったから。
さくらは私がさくら以外誰にも指名されないようにしてた」
231 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:38
「じゃあさくらは佳林ちゃんを独占してたわけ」
「強引にね。道を普通に歩いてて突然さくらに連れ去られたことはあったな。
後ろから羽交い絞めにされて口を塞がれて助けを呼ぶことも出来なかった」
「何・・・それじゃ独占じゃなくて誘拐じゃん」
瑞希が目を丸くしたまま固まったので佳林は面白くなって続けた。
「そうだよ。私は馬車に押し込まれて誘拐された」
「そんなこと許されていいの?」
232 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:39
「許されるも何も、南の国じゃ借金抱えて売り飛ばされたら何されても文句は言えないんだ。
私は手足を縛られて地下室の牢屋に閉じ込められた。
でもその時は友達が助けに来てくれてさくらからは逃げ出すことはできたんだけど」

あのときの里保の凛々しい姿を思い出す。

「でも二回目は駄目だった。さくらが南の国を出るっていうから私、
それまでにどうしてもさくらとは仲直りしておきたくて送別会に出たの。
でもそれはさくらの罠だった。
私はオークションにかけられて物みたいに売り飛ばされた。
それをまんまと買い取ったのがさくらだよ」

「ひどい」
瑞希は絶句した。
233 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:39
「さくらがそんなことするなんて信じられないけど、
きっとそれが事実なんだよね」
「でも気にしないで。私はこのとおりぴんぴんしてるしね」
佳林は笑った。
「そんなことがあったのにどうやってさくらと仲直りしたの?」
「仲直り?」
「だってさくらと佳林ちゃん、まるで友達みたいに普通に話してるでしょ?」
「してないよ。仲直りなんて」
「え?」
「私がさくらと一緒にいるのはさくらに復讐するためだよ」
佳林がわざと声を潜めて言うと瑞希の顔が一瞬硬直した。
234 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:40
「だってそうでしょ。近くにいるのが一番やりやすいもん。
さくらが私にしたことは永久に消えないんだから」
佳林は怪しく笑って見せた。
「佳林ちゃん、さくらに何するつもりなの?」
不安そうな顔で瑞希は尋ねる。
「なんてね。冗談」
佳林は茶化すように先に走った。
235 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:41
瑞希は佳林を追いかけながらもまだ迷ったような顔をしていた。
「安心して。私はさくらに危害を加える気はないから」
「分かった。でもそのもし、佳林ちゃんがこれ以上さくらに嫌なこと
無理やりされそうだったら絶対うちらに相談して。何とかしてみせるから」

「ありがとう。瑞希は優しいんだね」

「怖い話はもう終わり。さくらが帰ってくるまで時間があるから学校案内してあげる」
瑞希の言葉に佳林は笑顔でうなずいた。
やっぱり北の国には自分の味方もいる。
そう思うと佳林は頼もしく力強く思えた。
北の国に売り飛ばされたといってもまだまだ絶望じゃないのだ。
236 :名無飼育さん :2016/06/26(日) 09:42

今回の更新を終わります。
237 :名無飼育さん :2016/08/10(水) 16:20
続きキテターーーー!!

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