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人魚は泡になった

1 :ナツメ :2013/05/19(日) 04:17
初めてお目にかかります、ナツメと申します。
マイペースにれなえりを書かせていただきます。
時間設定は高校生くらいな感じです。
がーっと勢いで書いて詰まってまたがーっとの繰り返しになりそうなんですが、ペース配分に気を使って書いて行こうかと思います。笑
47 :ナツメ :2013/06/02(日) 16:54

窓から見える世界は、灰色だった。

分厚い雲が立ち込め、太陽をすっぽり隠してしまっている。
青い空に青い海、ほのかな磯の香りと、微かに聞こえる波が打ちつける音なんてものは、
今日のこの四角く区切られた世界の向こうには存在しない。
雲が覆った真っ暗な空、暴れまわる海に荒れ狂う波の音には、少し不安になった。


しかも、今日の絵里はいつも以上に、心ここにあらず、だった。

48 :ナツメ :2013/06/02(日) 16:55

「れーな、今日海行きたい」

授業中にこっそり話しかけてきた絵里の顔は、焦ったような表情だった。
それに、れななんて見ずに膿だけを見つめている。
大好きな海が荒れていると、やっぱり不安になるのだろうか。

「いや、今日この天気やけん無理とよ」
とれなが言うと、絵里は唇を尖らせ、海の無い一日なんて、と呟いて頬づえをついた。
シャーペンを握った絵里は、ノートの隅に怪物を描き始めた。
拗ねてしまった絵里の機嫌をどうにかとろうと、なんのアニメの怪物なのかと聞いてみた。
れなの言葉に絵里は眉間にしわをよせて、「ネコなんですけど」と言ったきり、顔をそらしてれなのほうを見なかった。

いや、こればっかりは、れなが悪いです。

49 :ナツメ :2013/06/02(日) 16:57



          ◇


50 :ナツメ :2013/06/02(日) 16:59

絵里はお弁当を食べる時も、ちっともれなの方は向かず、れなの肩の向こうの海だけを見つめていた。
そしてときどき卵焼きを口に放り込んでいる。
れながじっと絵里を見るからはたと目が合って、れなが何か言おうとする前に、
絵里はれなのお弁当の卵焼きを横取りして頬張ってしまった。

「ちょ、それれなの!」
れながきゃいきゃい反抗しても、絵里はふいとよそを向いたままでお弁当をしまい、
時々酷く咳込んだ。体調でも崩したのか、どこか顔も赤い気がした。

51 :ナツメ :2013/06/02(日) 16:59



          ◇


52 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:01

絵里は午後の授業が始まる少し前に、倒れてしまった。

移動教室だからと絵里を誘おうとしたけど、絵里がふいと顔をそらしたから、
れなも少しふて腐れてすたすた教室を出ようとした。
そのとき、金属がぶつかる派手な音がして、引っ張られるようにれなは振り向いた。

ざわつく教室のたくさんの人たちが作る輪の真ん中で、
絵里は倒れて苦しそうに呼吸をしていた。

生徒の誰かが先生を呼んで、保健室に絵里が運ばれていくのをれなは呆然と見ていた。
53 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:02

授業が終わってすぐ、れなは保健室へと走っていた。
乱暴に扉を開けると、藤本先生、絵里、保険医の先生で楽しそうに談笑していて、
れなは少し腹が立った。心配させやがって、このやろう。
絵里までぱたぱた歩いた。

「あ、れーな」
絵里は口角の上がった口でふにゃりと笑って、
「れーなコワイ顔になってる、笑え笑え」とれなの頬をゆるく引っ張った。
「もう大丈夫と?」
話しにくい口できくと、
「もう大丈夫と」
とれなの真似をしてそう答え、うへへ、と笑った絵里。

「亀ちゃん貧血持ちなんだって、田中がちゃんと管理してあげないと」
藤本先生がにやにや笑った。
「なんで私が?」と反抗しようとしたけど、絵里がふてくされかねないので言わない。
藤本先生が絵里の手とれなの手をとって握手させ、「なかなおり」と笑った。
絵里はぴいぴい怒っているけど、そんなのはスルー。

54 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:02

「教室帰らんと、授業始まるけん」
繋いだままの手を引き、絵里を立ち上がらせる。
よろけながらも絵里は立ち上がり、にっと笑った。

55 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:04

保健室を出て手を離そうとすると、絵里がきゅっと手を握ったので離せなかった。
「こうしてちゃ、だめ?」
答えなんてわかってるけど、みたいな笑顔を向けてくる絵里に、少しぶっきらぼうに「好きにすればよかと」と顔をそらす。
絵里は嬉しそうに笑って「田中さん顔赤いですけど」とれなの頬をつんつんつついた。

廊下がいつまでも終わらなかったらいいのに、と階段を一段ずつ登った。
教室の前まで来て、絵里の手がするりと離れる。

教室に入ってもしばらくは、その手の行き場を探していた。

56 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:04



          ◇


57 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:06

あれだけ不機嫌だった絵里も、帰りにはすっかり機嫌は戻っていた。
藤本先生がおだてたおかげなのだろう。ありがたや暇人。

ざあざあと降り続く雨に肩を落とし、靴を履き替えて傘をとる。
絵里が隣に居ないので振り返ると、絵里は傘立てを見たまま固まっていた。
「絵里?どうしたと?」
絵里は頼りなく眉をふにゃふにゃ下げている。そして目には星がきらりと光る。
「ちょ、絵里、なんで泣いとう」
何度も顔を覗きこみ、また機嫌をとろうとするれなに、絵里はとうとう泣きだした。

58 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:06
「傘が無いの」

涙を止めた絵里が言った。
お気に入りのオレンジの傘が取られたかなにかで無くなったらしい。
絵里はつんと唇を尖らせた。

59 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:09

れなの水色の猫の傘に雨が降る。

そこでれなは、ようやく鞄の中の折り畳み傘を思い出す。
オレンジ色の傘は、まだ鞄の中で眠っている。
オレンジ色の傘を差し出すべきか、この傘に絵里を入れるべきか。
れなは、この傘でふたりで帰りたかった。

けれど、頭の中でオレンジ色の傘がくるくる回る。

しょんぼり俯いたままの絵里に、れなは動けなかった。
このどろりとした沈黙に、ミサイルでも落ちてくればいいのにと馬鹿らしいことを考え、
わがままな考えを振りはらって鞄からオレンジ色の傘を出した。

「絵里、これでいいなら」

絵里は、ゆっくり顔を上げた。
60 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:11

絵里に伸ばした手に、雨が降ってきて冷たい。
はっと顔を上げた絵里は、動揺したようにれなの顔と傘を交互に見ている。

「気に入らんなら、捨てて」
無理矢理絵里に傘を押し付けた。
絵里が傘を握ったから、れなはようやく傘から手を離す。
ブラウスから腕に雨がしみて冷たかったけど、
ありがとう、なんて笑う絵里にそんな冷たさは忘れていた。

海沿いを歩きながら、傘のせいでいつもより少し遠い距離がもどかしい。
手を伸ばせば届く距離なのに、海を見つめる絵里の横顔はどこか遠かった。

一緒に入ろう、なんて、言えなかった。

絵里をぼんやり見つめるれなに気付いた絵里は、れなを見つめてやわらかく微笑んだ。

61 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:12

次の日の朝、絵里は嬉しそうに駆け寄ってきた。

絵里の笑顔に比例するみたいに、今日は太陽が照りつける晴天だ。
昨日は、れなが見たリアルな夢だったのかと思わせるくらいの青空。

駆け寄ってきた絵里は、鞄からオレンジ色の傘を引っ張り出した。
「昨日は、ありがとう」
片八重歯を覗かせて笑う絵里に、きのうは夢じゃなかったんだと頭のどこかで思った。

62 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:13

傘を受け取らないれなに、絵里は首を傾げる。
「それ、あげるけん。絵里オレンジ好いとうやろ」
れなの言葉に、はじめは固まっていた絵里も、意味を理解すると
「ほんと?」とか「いいの?」とか繰り返し、れなはそのたびに頷いた。

それがしばらく続いて、絵里は傘をぎゅっと抱きしめた。
「ありがと、絵里ね、オレンジ、大好きなの、ほんとありがとう」
嬉しそうに傘をしまって、絵里はにこにこしていた。

傘にすら嫉妬してしまう自分が、逆に笑えた。

63 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:13



          ◇



64 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:13

帰る時、今日はれなから海に行こうと誘った。
絵里は首がとれそうなほど頷いて、青く澄んだ空と海をじっと見つめた。
今日の海は、昨日の雨もあっていつもよりは波が高いけれど、気にするほどじゃない。
靴を脱いで波打ち際に走る絵里に続いてれなも絵里の方に走った。

水を踏んだり石を投げてみたりして、満足するまで楽しんで、
またいつものテトラポットに腰かけて水平線の向こう側をふたりで見つめた。

65 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:15

「ねえ、れーな」
「なん?」
「れーなはさ、前、絵里に友達作んないのかって言ったじゃん?」

れなは、あの暑い汗ばんだ日に引っ張り戻される。
べたつく足を海につける絵里にれなが聞いた言葉だ。

「言った、けどそれがどうしたと?」
「絶対れーな、絵里はれーな以外と話してないって思ってるでしょ」

水平線の向こう側を突き刺していた絵里の視線は、れなに向けられる。
口角がゆるりと上がって、黒目の大きい瞳がやわからく細まる。
れなが曖昧に頷くと、やっぱり、と絵里が言う。

66 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:16

「でもさあ」

風になびく髪を耳に掛けながら、絵里が続ける。

「れーなも、絵里以外と話してないよね」
小悪魔みたいに甘い声で、絵里は薄く笑っている。
得意げにじっとれなを見つめて。
でも、思い返してみればそんな気もする。
絵里以外と話していないのは、れなの方だったのだ。

「ま、でも、絵里にはれーながいてれーなには絵里が居るからねえ」

67 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:17

またあの夕方みたいに笑った絵里が、足元のなにかに気付いてそれを拾い上げた。

「なんだろう、これ」

太陽にかざすと、それはオレンジ色にきらりと光った。
薄くて、丸と四角のあいだみたいな形をした、一センチ四方くらいのそれ。
絵里もれなも首をひねる。

「……わかんないね」
と言って、絵里はそれを海に流した。
海に流れて行くそれを、絵里はじっと見つめていた。

68 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:17



          ◇


69 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:17

足が乾いてから海から上がり、家が近くなったころ、絵里がぽつりと話した。

「貧血なんて嘘だよ、絵里」

れながぽかんと絵里を見つめていると、絵里は子供みたいにあはは、と笑った。
「あんなタイミングで倒れて貧血です以外言える?言えないでしょ!貧血じゃないなら病気じゃないかってなるじゃん、絵里丈夫なのに」
けらけらと笑う絵里は、道端の小さな石ころをつま先で蹴った。
溝に落ちて、小さな水の音がした。

70 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:18

「知りたい?」

いたずらっぽく笑った絵里の言葉の続きは聞けなかった。家に着いたからだ。
ドアを開く前に「なんてね」と笑った絵里の瞳は、一晩中頭から離れなかった。

絵里の些細な言葉に、仕草に、不安になって、嬉しくなって、焦って、ほんとうに自分らしくない。
解り切っているこの感情にふたをするみたいにふとんを被ってきつく目を瞑った。
けれど、頭に浮かぶのはあの笑顔だけ。



こんなに朝が遠い夜は初めてだった。


71 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:18



          ◇


72 :ナツメ :2013/06/02(日) 17:24
いやあ長くなりました、今回の更新はここまでです。
では、1つですかお返事を。

>>39
いい雰囲気と言っていただけるとありがたいです!
わりと雰囲気重視で書いているので!w

さて今回もなんとお返事しようか迷いましたw
えりりんが倒れたわけはまだまだ判明しません…!w
ちなみにミキティ先生がよく出てくるのは、昔、私が藤亀ヲタだったためですw
余談ですが、ガキカメも書こうかなあと思っている作者です。
では、失礼します。
73 :ナツメ :2013/06/14(金) 23:09
すみません、前回の更新から二週間くらい空いてしまいました。
少しばたばたしていたため、更新出来ず申し訳ないです。
書いているのは書いているので、この土日どちらかで更新しようと思います。

では失礼します。
74 :名無飼育さん :2013/06/16(日) 00:33
素敵な小説を見つけてしまった!
亀井さんのつかめない感じ、いいですねえw
更新楽しみにしてます!
75 :名無飼育さん :2013/06/16(日) 14:32
田中さんのピュアさが良いですね
亀井さんに思いが伝わるといいなぁ…
76 :ナツメ :2013/06/16(日) 22:10
すっかり遅くなりました。ギリギリ日曜日です、こんばんは。
ふたつもレスがついてまたまた浮かれ野郎です。

今回の更新でガキさん登場です。盛大なネタバレです。
若干重要人物になる、かも?

では今回の更新です。
77 :ナツメ :2013/06/16(日) 22:11



          ◇



78 :ナツメ :2013/06/16(日) 22:11
からから晴れた日が続いた6月は、あっという間に折り返しに近くなっていた。
6月が終わってしまえば、7月になって夏休みを迎え、
夏休みが走り去ると、もう9月になり、あっという間に木々は丸裸になっていく。
うねる髪を面倒だからとゴムで結んだれいなは、
ベッドに沈みこんで、さああ、と鳴り止まない雨の音を遠く聞きながら、365日間の足の早さを感じていた。
79 :ナツメ :2013/06/16(日) 22:12



          ◇



80 :ナツメ :2013/06/16(日) 22:13
目が覚めて、時計を見ると、デジタル時計が無表情で表示していたのは7:59という数字。
すぐには理解できなかったその数字かられいなを引っ張り戻したのは、リビングから聞こえてくるテレビの
「8時になりました!」というアナウンサーの声だ。

すぐに飛び起きて顔と歯を洗い、整える暇なんてなかった髪の毛は仕方なくポニーテールにした。
そして家を飛び出すと、雨はあがっていたものの雨の気配は残っていて、
もわっ、と蒸し暑い空気がまわりをうろついていた。
81 :ナツメ :2013/06/16(日) 22:14
自転車に飛び乗って学校に向かうと、案外早く着くもので、遅刻する時刻にはあと10分もあった。
のんびり教室に入ると、絵里が真っ先にれいなに気付く。

ひらひらと手を振る絵里に手を振り返す。
鞄を机の横にかけて椅子に座ると、髪型の変化に気付いた絵里がじっとれいなを見つめた。

「れーなが髪結ぶって珍しいね」
さらさらの黒髪が絵里の肩から一束はらりと落ちる。
「髪うねっとったけん、仕方なく結んできたとよ」
はあ、と溜め息をついたれいなの髪に、絵里が手を伸ばして細くて長い指でそっと触れた。
耳に少しだけ触れた指先はひんやりしていた。

まとめた髪に指を通した絵里が、にっと笑う。

「かわいいね」

それだけ言って一限目の授業の用意をし始めた絵里に対して、れいなは動けずに固まっていた。
顔が熱くなっていくのがわかって、心臓も大きく動く。絵里に聞こえたらどうしよう。
どぎまぎしながられいなもノートやらを引っ張り出して、ぐだりと机にうなだれた。
82 :ナツメ :2013/06/16(日) 22:15
二時限目は、この暑い日に太陽に笑われながらの体育だった。

汗だくになったクラスメイト。
もう誰のかわからないくらい制汗剤やらのにおいが混じって気分が悪くなりそうだ。
絵里はべたつく前髪を何度も何度も直していた。

けれど、どんなに暑くても、グラウンドに出たらいっそう海の香りがして爽やかな気分になる。
海のすぐそばにある学校だから、波の音もしっかりと聞こえる。

「グラウンドだとやっぱ違うっちゃねー」
「浜辺にいるみたいだもんねえ」

べたつく髪の毛も、海のなかに居るみたいだから、少し平気に思えた。

「でも、髪ぱりぱりになるよね」
クラスメイトの一人が言った。彼女の長い髪は軋んでいるみたいだった。
絵里は前髪を直しながら、
「前髪とかね。もう頑張ってるのに」と答えた。
それが、れいな以外の人と話すはじめての人だったかもしれない。


少しだけ、その人に嫉妬した。

83 :ナツメ :2013/06/16(日) 22:16


「田中さんも亀井さんも毎日一緒にいるよね」
その人は、絵里とれいなを交互に見ながら、不思議そうに首をかしげた。

「絵里、れいな以外と話したことなかったの」
あはは、と照れ臭そうに笑った絵里に、その人はオーバーアクションで返した。まるで昭和だ。

「あら、ごめんなさいねお邪魔だった?」
悪戯っぽく笑われた。絵里はぶんぶん首を振った。
「そんなことない!あ、えっと、ごめん絵里名前…」
仔犬みたいに申し訳なさそうにその人を見つめた絵里に、その人は首を横に振る。
「全然大丈夫だよ?あたし新垣里沙。亀井絵里ちゃんと田中れいなちゃんだったよね」

そう言って少し考えたニイガキさんは、考えがまとまったのか、うん、と頷いて
「田中っちとカメでいっかあ」とわらった。
苗字とるのかよ、とつっこみそうになったのを押さえて、
苗字とられたから苗字とりかえす、ということで「ガキさん」とあだ名をつけた。しかしガキさんはすっかり気に入ってしまい、結局れいなの敗けです。

ガキさんは、受験するときに神奈川からここに来たらしい。
神奈川の話をしてくれたけど、いろんな物が抜け落ちすぎてまったくわからなかった。
多分この人も、さほど頭がよくない部類なのだと思う。類は友を呼んだ。
84 :ナツメ :2013/06/16(日) 22:16
ガキさんがパンを、れいながおにぎりを口に詰め込み終わると、
絵里はまだお弁当を食べていた。おにぎりの中身がなかったからと落ち込んでいたけど、デザートがあったことで機嫌はすっかりなおっていた。

「れーな、今日海行こうよ」

じりりと照る太陽に目をやる。絶好の海日和ってやつだろう。
「昨日雨やったけん波が大きいかも知れんちゃけ制服濡れんとよかとやね」
こくんと絵里が頷いた。

「海?」
ガキさんがまた不思議そうに尋ねる。
「海。学校ある日はほぼ毎日行ってるの絵里たち。ない日は絵里ひとりで行ってる」
「絵里ばり海好いとうけん付き合わされとうよ、れなは」
「うそつけ、行きたいくせに」

れいなたちの会話を聞きながら、ガキさんは爆笑していた。漫才を見ているみたいらしい。

「ガキさんも行こうよ」
ガキさんが頷いて、絵里は海をじっと見た。あの憂いのある瞳だ。
85 :ナツメ :2013/06/16(日) 22:17
海の音が聞こえる。耳にするりと入ってくる。
思いがけず近くで磯の香りがする。鼻をつんと抜けて舞う。

好いとうよ、と言えば楽になるのかなぁ、と、溜め息が出る。
どうしたの?と聞いてくる絵里になんでもないと言った。
なんでもなくない事をなんでもないと言ってしまうのはどうしてなのだろう。
あなたのことで悩んでいるのよなんて言えたらどれだけ楽か自分でも解っているのに、
喉のすぐそこになにかがつかえて言えない。人間おもしろく出来ているものだ。

はやく海に行きたい。

足の裏で夏の暑さを感じながら、始業チャイムが学校中で響いた。
86 :ナツメ :2013/06/16(日) 22:17



          ◇



87 :ナツメ :2013/06/16(日) 22:18
夕日がきれいな日だ。

いつかみたいな夕陽に照らされて、絵里はスポットライトの下に立っているみたいだった。

「絵里」

何気なく名前を呼ぶ。振り返った絵里は、やっぱりきれいな顔をしていた。
「またいつか遊びに行こう」
れいながなにかを言う前に、絵里がそう言った。
頷くと、絵里は、どこに行こうか、とか早速目的地を考えているらしい。

「絵里たちどこでも行けそうだね」
「行けるっちゃん」
「大親友って感じじゃん」
「もう一個大つけといた方がよかよ」
「大大親友だ」

もう少し近づけたら、親友から、もっと複雑で繊細な関係になれるのかな、と、海に足をつけた絵里を見つめた。
しんゆう、だいしんゆう、だいだいしんゆう。
絵里の声を頭のなかで何度も反復させる。
嬉しいのに悲しいなんて言う気持ちは、生まれて初めてだった。

ガキさんは「ほんとに仲良いんだねぇ」と笑っていた。
私が一方的に好きなんです、と言いたくなった。
絵里とれいなには、大きく違いがある。絵里も、れいなを好きなのは好きなのだろう。
けれど、違う。絵里とれいなの気持ちは、少しだけ大きく、違う。

貝殻を集めている絵里の背中は、いつになく儚げだった。
88 :ナツメ :2013/06/16(日) 22:18
絵里はその日の帰り、ガキさんにいつもの質問をした。
「もしガキさんが人魚だったら、王子様殺せる?」
ガキさんはそんな質問をしてきた絵里をぽかんと見つめて、ゆるりと首を傾げた。
「殺せないなぁ、やっぱあたしも泡になると思うなぁ」
絵里はつまらなさそうに俯いた。
誰だってそう答えるからだ。「わからない」「殺せない」という単語を、絵里は何度聞いてきたのだろう。

「カメはなんでそんなに人魚の話するの?」
こんどはガキさんが尋ねた。絵里の深い海の色をした瞳は、長いまつげで隠れてしまう。絵里は遠い海をぼんやり見つめていた。

「わかんない」

絵里が消えそうな声で言ったその言葉は、波の音でかき消されてしまった。

89 :ナツメ :2013/06/16(日) 22:18
ガキさんとばいばいして、家に着くころ、絵里がぽつりと話した。

「絵里、れーながいてくれてよかったって思うの」

口元をゆるく上げて笑った絵里の瞳には、いつかみたいに海が見えた。
れいなが何も言えないでいると、絵里は少しだけ目を伏せた。

「れーな、もし絵里が居なくなったら探してね?王子様みたいに」

くすくす子供みたいに絵里が笑う。れいなはからかわれていると解って、「気が向いたら」と言ってくすくす笑った。
絵里がドアに手をかけて振り返り、空いている手をひらひら振った。れいなもそれに答える。
「もし、れなが居なくなったら探してね、王子様みたいに」
絵里が扉の向こうに消える前そう言うと、「気が向いたらね」と明るい声が帰ってきた。
90 :ナツメ :2013/06/16(日) 22:27



          ◇


91 :ナツメ :2013/06/16(日) 22:33
>>74
ありがとうございます。
亀井さんの不思議感好きなんです!w
今回の更新でさらにわけわかんなくなったと思うのですが、
後々解明されるのでお楽しみに!w

>>75
田中さんは純粋な感じで書いてます。ピュアかわいいですピュア。
亀井さんに思いを伝えるのか、伝えないのか、
これから楽しみにしていただけたら嬉しいです。


いやあ今回もなんとお返事しようか悩みました。
見てくださっている方がいることが励みです!w
では、失礼します。
92 :ナツメ :2013/06/16(日) 22:36
お返事の最初の部分にひとこと加えるのを忘れていました。
もうボケが始まったのでしょうかこの先不安です。
加えようと思っていた見苦しい言い訳です。

これで今回の更新は終わりです。
最後の◇を更新しようとしたらパソコンが固まって強制終了してしまいましたw
そのためお返事まで少し時間があいてしまった!

では、お返事を。

ではでは、本当に失礼します。
93 :名無飼育さん :2013/06/17(月) 21:29
作者さまは土日で更新が多いのでちらりと覗いてみたら更新されてた!
ガキさんがどんな風におはなしに絡んでくるのか楽しみですw
そしてえりりんはなんで人魚にそんなにこだわるんだろう…
94 :名無飼育さん :2013/06/19(水) 18:15
プラトニックですごくいいですね。
学生ならではの純粋さがたまりません
95 :名無飼育さん :2013/06/20(木) 17:15
亀井さんと田中さん、どうなるのかすごくわくわくします。
亀井さんの一言一言に、田中さんと一緒に私まで惑わされていますw
96 :名無飼育さん :2013/06/20(木) 17:16
すいません、あげてしまいました…汗

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