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1 : :2012/10/16(火) 14:16
ひたすら千奈美絡みの話を書いていきます。
2 :りんご飴 :2012/10/16(火) 14:17
座面に乗っていた一枚の枯れ葉を払い、並んでベンチに座ると、千奈美と友理奈はリンゴ飴に齧り付いた。
ジャンケンをして勝てばもう一本をタダでくれるという店主の説明を聞いて「じゃああたしがするね」と意気込んだ友理奈を抑えて千奈美がジャンケンをすることにした。「熊井ちゃんジャンケン弱いじゃん。ここは千奈美に任せなさいな」
そうして現在一人一つずつりんご飴を食べている。
「コメンテーターの熊井さんどうですか味のほうは」
千奈美は歯形のついたりんご飴をマイクに見立てて友理奈に突き出す。
「いやー、この飴の甘さとねリンゴの、なに酸味?っていうのが絶妙にマッチしててー、あの、グーですね。はい」
「グーですかー。それは私もジャンケンで勝った甲斐がありました」
そういえばさっき出した手はグーだった。
「うんほんとにね」
友理奈は美味しそうにリンゴ飴を食べている。千奈美はそれを見て、似合うなあと思った。クマとリンゴは相性がばっちりだ。
3 :りんご飴 :2012/10/16(火) 14:19
りんご飴を食べたいと言い出したのは友理奈だった。人込みの中をしばらく進んでお目当ての屋台を見つけた。短く出来た列に二人は並ぶ。千奈美は横に立つ友理奈の横顔を見上げる。いや横顔というよりも顎から頬骨にかけてを見ている感じだ。友理奈は店主と客のジャンケン合戦を興味深そうに見ており、その口はうっすらと開いて笑みを浮かべている。子供だなーと千奈美は目を細めた。そして祭りに来られて良かったと思った。

夏祭りに行こうと誘って、友理奈も快諾して、さあ明日がその日となったときに震えた携帯電話。千奈美の耳に届くのはマネージャーが告げる明日の予定だった。千奈美個人の仕事が入ったそうだ。長い通話が終わるとすぐに友理奈へメールを送って明日のことを詫びる。返ってきたメールには「気にしないで(笑)」と書いてあり「お仕事頑張ってねー!!」と結んであった。
その二日後。Berryz工房での仕事があって二人は顔を合わせた。祭りに行けなかったことを改めて謝る千奈美に友理奈はいいよ全然と言って笑った。
その日はダンスレッスンにリハーサルと一日踊りどおしだった。コンサートが近かった。この先一週間はこうだ。もう何年もこんなスケジュールの生活をしている。
そうしてコンサートの本番がきたり、テレビ出演、雑誌の取材といった仕事をこなしていくと季節は嘘みたいにはやく過ぎて、半袖じゃ寒いよね、と誰かが口にしたのもすでに少し懐かしいことだった。
4 :りんご飴 :2012/10/16(火) 14:21
ラジオの収録は午後からだった。収録前にプロデューサーから、この日近所で秋祭りがあることを教えられ、「行きたい!」と声を上げたのは以外にも友理奈だった。いや、千奈美も言おうとしたのだが友理奈のほうが言うのが早かったのだ。
千奈美は驚いたあとに小さく息をついた。普段ゆったりとしている友理奈のその素早い返事に意表を突かれ、そして、ああやっぱり、という気持ちが小さな溜め息をつかせた。
「ね、ちぃも行きたいよね?」と首を傾げながら聞いてくる声が弾んでいる。
2本録りだから終わるのは6時ごろだろうかと千奈美はブースに入りながら考えた。椅子に座り準備を整える。向かいの席の友理奈も今は真面目な顔をして台本に目を通している。
さっきマネージャーに話をつけて収録終わりに二人で秋祭りへ行くことになっていた。

「ああーおいしかったーっ」
「ちぃ食べるの早いね」
友理奈のりんご飴はまだ半分以上残っている。「熊井ちゃんが遅いんだって」「そうかなあ」
そうだよ、と千奈美は返事をする。
日が落ちてすっかり夜となっていた。目の前を行き交う人々の姿はおぼろげにしか映らない。横に座る友理奈の顔も提灯の灯りにぼんやりと照らされているばかりだ。
「じゃあ」と友理奈はにこりとして「今度は徳永キャスター、りんご飴の感想をお願いします」
ぐいっと、いびつな形をしたりんご飴マイクを向けられる。えーと、と前置いて千奈美は口を開いた。
5 :りんご飴 :2012/10/16(火) 14:23
「はい、そうですねー、飴の甘さとリンゴのシャリシャリ感というのがたまらないですね。私徳永千奈美が自らの手で勝ち取っただけにその味は格別でした。おいしかったです」
「おお。徳永キャスターいいこと言いますねえー」
眉を上げて感心したような表情を見せる友理奈の口元はやはり笑っている。座っているから顔が近い。友理奈はマイクを引っ込めて、千奈美を見やりながら言葉を続ける。
「そうだね、一本タダでもらえてラッキーだったよね」
いつもと変わらぬのんびりとした口調だった。
「祭りに来られて良かったよ」
と言ってやっぱり笑った。
千奈美もそう思った。友理奈が満足そうにしているのが嬉しかった。
「ちぃとこうして一緒に来たかったからさー」
おや、と千奈美は思った。なんだか疎通が出来ていない気がする。
「熊井ちゃんお祭りに行きたかったんだよね?」
「そうだよー。お祭りにちぃと行きたいなーって思ってたの」
それを聞いて、笑って許してくれたあの時や今日の態度が頭に浮かんだ。
勘違いをしていたのだ。
そして言われた内容に含まれたものが理解できて恥ずかしくなった。
「あー、そっち?」
なんと言ったらいいのか判らない。なにが?と首を傾げる友理奈に何でもないと手を振る。
友理奈が再び食べはじめた横で千奈美はそっと自分の顔を撫でた。なんとなく顔が熱い。
薄暗いから、顔色はわかりづらい。
しかし、確かにその頬はりんご飴のように赤く染まっていた。
6 :りんご飴 :2012/10/16(火) 14:23




7 :りんご飴 :2012/10/16(火) 14:24
◇りんご飴



8 : :2012/10/16(火) 14:26
とっくま秋のりんご飴祭りでしたー。
9 :天使と悪魔 :2012/11/03(土) 11:56
雅が桃子のことを好きなのは傍目から見ていて丸わかりで、片や桃子のほうも雅に気があるのだろうとはその態度から察することができた。早くくっつけばいいのにと千奈美は思っていた。
ただ二人が二人とも素直じゃない。どちらかが一歩を踏み出せばすむ話だがなかなか事は進まなかった。
千奈美はやきもきするばかりであった。


昨日はハロウィンだった。オフだったり、仕事だったりと各々予定はバラバラだったが、申し合わせて僅かな時間だがパーティーを催した。
夜も更けた時間。店の個室でメンバーは顔を合わせた。料理をつまみながら、成人メンバーは酒を飲んだ。千奈美もグラスを傾けたがどうにも口に合わない。

「みや、水取って」
「はい」

と渡されたものを飲んで千奈美は噴き出した。

「わっ、千奈美きたなーい」
「ちょっとみや! これお酒じゃん!」

グラスを雅に突き返す。はははと笑ってそれを受け取る雅。

「怒んないでよー。ハロウィンじゃん?」

ハロウィンはイタズラをする日だと思っているのか。改めて水を含むと、千奈美は恨めしげに雅を見つめた。
10 :天使と悪魔 :2012/11/03(土) 11:58
やがて撮影大会が始まった。軽くではあるが仮装をしたお互いを「可愛い」やら「ちょーウケる」やらと携帯を向け合っては写真を撮りまくった。
一番最後にやってきた桃子は髪を下ろした普段のままの姿だったが、そのおかげで雅は「いつものアレしてきたら良かったのに。仮装みたいなもんじゃん」とちゃかしつつ桃子とツーショットの写真をゲットしていた。
写真を嫌がる桃子に強気な態度で迫るのを観察していた千奈美は「おお、あの雅が押している」と感激の眼差しを向けたものだが、その勢いは場に並んでいたアルコール類の力添えであったことを一夜明けた今日、しみじみと感じるのであった。


「昨日は楽しかったねー」
「ほんと、楽しかった。みやの猫耳ちょー可愛かったし」
「マジで? 梨沙子も魔女の帽子似合ってたよ」

今日の予定はイベントのリハーサルだ。朝から全員が揃った。桃子もいる。耳にイヤホンをして、マスクを付けて目をつぶっている。寝ているのだった。
千奈美は桃子から視線を転じて、さっきから梨沙子と話し込んでいる雅を見やる。昨晩は桃子にちょっかいをかけまくりだったくせに、今はその存在に気を向けようともしない。全くこの照れ屋め。千奈美は机に頬杖をついて向かいに座る彼女に視線を送った。すると

「なに千奈美、なんか用あるわけ」

不機嫌そうに千奈美へ向き直る雅。その口は尖っている。そうなる理由が判るから「なんでもなーい」と風を送るように手をひらひらと振る。雅が不機嫌な理由。千奈美は自身の左に座る人物に顔を向けた。

そこにいるのは静かに寝息を立てている嗣永桃子。仕事の疲れが溜まっているのだろう。昨日も遅くまで打ち合わせをしてきたらしいし。
横に座りたいならそうすればいいじゃん。千奈美には雅の心理が判らなかった。千奈美が楽屋に着いた時、そこにいたのは雅と桃子だった。二人は斜向かいに席を取り、なにを話すでもなく時間を過ごしていたようだ。
そんな行動に千奈美はもどかしさを覚え、あえて桃子の隣に着席したのだった。
11 :天使と悪魔 :2012/11/03(土) 12:00
「駅の裏通りに新しくイタリアンの店が出来たんだって」
「へえー」
「今度食べに行こうよ」
「うん。行く行く」

梨沙子の誘いに乗った雅はニコニとしながら鞄を探る。なにをするのかと思えばキラキラと装飾の付いた手帳を取り出して、梨沙子と額を突き合わせ空き時間の確認を始めた。
ご飯。ご飯か。ハッと千奈美はひらめいた。これだ。
桃子と雅のつかず離れずな関係は当人たちと仕事をしている身としては、はっきりとさせてほしいものだ。
桃子の好きなことは、食べること。昔から変わらない。だから雅が桃子を食事に誘っていいムードになったりして、そしてそして―――――。
これで上手く行ったら千奈美ってばキューピッドじゃん。内心誇らしくなって頬が緩む。なにも事は運んでいないのに。早すぎる自賛である。

「千奈美なにニヤニヤしてんの」

雅のために絶好のシチュエーションを考えていたというのに当の本人はすげない。だが千奈美はキューピッドとして任務の遂行に乗り出した。
12 :天使と悪魔 :2012/11/03(土) 12:04
「そのイタリアンさ、いつ行くの」
「うーん、まだ判んない。確実にオフが決まってからにしよっかって」
「ふーん」
「千奈美も一緒に行こうよ」
「嬉しいお誘いなんだけどさ。…ねえ、みや。千奈美じゃなくてももを誘ってみたら?」

まさか桃子の名前が出るとは思いもよらなかったのか雅はあからさまに動揺を見せた。目を泳がせ、眉を吊り上げる。焦っているくせに強がってみせる。

「何言ってんの? なんでももなんて誘わないといけないの」

面白いことに雅は自身の思慕の念が周りにバレバレであることに全く気づいていないのだ。当然桃子も感じ取っているというのに。

桃子と二人での仕事があった折、千奈美はそれとなく雅とのことを聞いてみた。するとはっきりとは言わなかったものの雅のことが気になっていること、雅も自分のことを好意的に思ってくれてるんじゃないかということをハニカミながら話していた。
二人かなり良い感じだと思うよ、といつも思ってることを言っても、桃子はそうかなあと自信が持てないようだった。じれったい。

「なんで? 大丈夫だって。みやももものこと良いなって思ってるよ」

だから、そろそろ吉報を聞かせてほしい。千奈美の心の叫びとは裏腹に、桃子は顔を上げると、迷子のような瞳で「だって」と言ってこう続けた。

「みやからご飯行こうとか遊びに行こうとか言われたことないし」


あんなにも不安げな桃子を見たのは初めてだった。二人に必要なのは、強すぎるくらいに背中を押す手。
ならば買って出ようではないか。キューピッド役を。


「千奈美ね、いいご飯屋さん知ってるんだ。絶対ももも気に入ると思う。二人で行ってきなよ」

以前友人と立ち寄ったその店は暖色系の照明が店内を包み、おいしい料理の数々に加え、お手頃な価格でそれを楽しめるというのも満足につながった。
13 :天使と悪魔 :2012/11/03(土) 12:08
「なんで二人で…。まー、ちなみにさ、どこにあんの、そのお店」

桃子が気に入るとなるとやはり興味があるらしい。素っ気ない口振りであるも、その目は真剣である。

「ちょっと待って、地図描いてあげるから」
「マジ? 千奈美優しいね。ありがとう」

道がちょっとややこしいからさ、と千奈美は紙に道筋を描きだした。すると今まで黙っていた梨沙子が面白くなさそうにぼそっと呟いた。

「みや、ももと出かけるほうが楽しみみたい」
「は? そんなことないよ。梨沙子といるほうが100倍楽しいから」
「ほんと?」

頷きを繰り返す雅。千奈美のペンを持つ手が止まる。なんとこの人は、千奈美がわざわざご丁寧に地図まで描いて桃子念願の食事会へといざなってあげようとしてるというのに。雅は梨沙子に甘すぎる。改めてそう思った。
ともあれ雅のこの言動は千奈美の心境にある変化を起こすことになった。良いこと考えた。千奈美はいつぞや聞いた場所を思い描く。
閃いたのは良いものの雅に責められるかもしれない。でも実行したい。
昨日の恨みもあるし。そう思ってふとお遊びを考えついた。一種の賭けだ。雅次第で運命は変わる。ニヒヒと口の端から笑いがこぼれる。さてどうなるか。
14 :天使と悪魔 :2012/11/03(土) 12:13
「みや」

梨沙子をなだめている雅がこちらを向く。千奈美は息を吸って言葉を発する。

「トリック・オア・トリート!」
「……は?」

目が点になる雅。それと梨沙子。

「いやいやハロウィンは昨日でしょ」
「トリック・オア・トリート!」
「え。いや終わったじゃん」

構わず繰り返すと、意味が判らないといった風に雅は頭をかく。

「トリック・オア・トリート〜〜!」
「あ。お菓子? あー、今日持ってきてないわ。ごめんね千奈美」
「あっ、そう。オッケーわかった」

全く気にする素振りもなく千奈美は地図製作に再び取り掛かった。はてなマークを顔浮かべている雅をよそに迷いなくペンを進めていく。お菓子は別に欲しくなかった。貰えたのなら、それでも良かった。

「よし! 出来たよー」
「ありがとう」
「あのねえ、奢ってあげたりすと好感度高いと思うよ」
「好感度ってなに。そこまですることなくない?」
「いやいや、今日は好きなもの食べてねとか言われたいもんだよ」
「うそー。……でも。ふーん、そういうもんかなあ」

雅は折りたたまれた地図を受け取るとジッとそれを見つめた。そして鞄へ丁寧にしまった。千奈美は密かにニヤリとしたが、しっかりと梨沙子に見られていて「ちぃ、キモいよ」と辛辣なコメントを頂戴した。
15 :天使と悪魔 :2012/11/03(土) 12:14
それから幾日か過ぎて、また桃子と二人だけで仕事をする機会があった際、雅からご飯に誘われた、と報告を受けた。千奈美は良かったねー!と相槌を打ちながら、心の中では悪魔の笑みを浮かべていた。

「みや、ご馳走してくれるらしいんだけど、別にそんなこといいのにね」
「いや、せっかくだからいっぱい食べちゃいなよ」

満面の笑みで言うと、桃子も同意したようだった。


実は、あの地図の行き先は、千奈美が行った店ではない。
以前、桃子が言っていたのだ。もし好きな人とデートをするならどこに行きたいか。
かなりリアルな設定で語られたそのデートプランには桃子の理想が詰まっているようだった。

「お店の前を通ったことがあってね、すごい素敵なんだよねー」

いつか行ってみたいな、と瞳を輝かせて教えられた店は千奈美も知っている場所にあった。
さらに桃子によって店の説明がなされた。
腕が立つ料理人が振るまうディナーは格別らしいだとか。そして、それに見合うほどの価格設定がされているんだとか。


雅に仕掛けた一日遅れのトリック。
果たしてそれは悪魔のイタズラとなるのか、はたまた天使のイタズラとなるのか。

千奈美はウキウキと心を踊らせたのだった。
16 :天使と悪魔 :2012/11/03(土) 12:15

17 :天使と悪魔 :2012/11/03(土) 12:15

18 : :2012/11/03(土) 12:17
更新しました。
19 :名無飼育さん :2012/11/05(月) 19:40
これはいいみやももですね!!
そして何より千奈美がいい!!
つ、続くのかな…?続くのであれば超期待です!
20 :名無飼育さん :2012/11/16(金) 22:25
この話を読んで千奈美が好きになりました
続きがあるのでしょうか?とっても気になります。
21 :前から :2013/10/27(日) 19:30
「かわゆく わたしにチューしてー」
男は冷静だった。これが男の通常モード。ブツクサと、と言うよりも、はっきりとメロディーに乗せて謎の言葉をつむぎながら歩く。
こんな変態行為を白昼堂々としていても誰も彼を避けて通ったりはしない。そればかりか顔を合わす者は皆、男に挨拶をするのだった。
「おはようございます」
「おっす」
深々と礼をする相手に対し、フランクな挨拶を返す。これが許されるのは、ここが芸能事務所であり、男がそこでプロデューサーとして働いているからに他ならない。
男の名前は、つんく♂と言った。
廊下を歩けば誰かしら芸能人と出くわすそんな場所。
今しも前から若い女が歩いてくる。
「おはようございます」
「おっす、宮崎」
いつものように応対したのだが、相手の反応は予期したものとは異なっていた。
「やだなあ、つんく♂さん。私、田崎です」
「おお? 田崎か。すまんすまん」
つんく♂がプロデュースするアイドルは数多い。正直なところ名前と顔が一致しない、なんてことも。
「もうつんく♂さんったら」
「ほんま悪かったわ。気いつけるわ」
平謝りで田崎と別れた。
待てよ。
つんく♂は頭をかいた。
田崎て俺のプロデュースちゃうやんけ。
そう。そもそも田崎はプロデュースド バイ つんく♂ のハロプロに所属していない。
「俺疲れてんのかな……」
プロデューサーの仕事は案外ハードなのだ。つんく♂は体力の回復増進を期待して睡眠時間を少し早くしようと思った。

今日も事務所に出社。つんく♂の仕事は多岐に渡る。テレビ、ラジオ、歌手、作詞、作曲……。
全てを一日でこなすわけではもちろんないが、それでもスケジュールはなかなかタイト。一息つこうと喫煙室まで廊下を歩く。
すると前から若い女が歩いてくる。
「おはようございます」
「おっす、田崎」
同じ石でけつまずかんで、とばかりに自信満々で挨拶を返すと、相手は困ったような顔をした。
「あの、つんく♂さん。私、宮崎です」
「宮崎……。おお、ジュージュのな。わかってるよー、冗談やんかー」
そう言うと宮崎は納得したように去った。
田崎かと思ったのだが、とっさにジュースジュースのことを思い出せて良かった。つんく♂ほっと一安心。
再び歩みを進めようとしたとき、ふと思う。
さっき、困ったような顔を、て思ったけど……。
宮崎の顔を思い浮かべる。
あいつもとから困ったような顔してるわ。
「やっぱ疲れてるわ……」
帰りに栄養ドリンクを買って帰った。
22 :前から :2013/10/27(日) 19:32
雑誌取材のために出社。会議室に向かう途中。
前から髪の長い若い女が歩いてくる。
「おはようございます」
「おっす、宮崎」
言ってから違うと気づいた。
「ごめんお前田崎やったな」
「そうですよ。覚えててくださいよー」
すまん、と手を合わせる。
打ち合わせがすみ、ちょっと一服をしに。
前から髪の長い若い女が歩いてくる。
「おはようございます」
「おっす、田崎さっきもおうたな」
言ってから、困り顔だと気づいた。
「ちゃう宮崎や。ごめん」
「つんく♂さん、私だって怒りますよ」
ひゃーコワい、とおどけてその場を切り抜ける。
煙を随分長く吐き出した。喫煙室に煙がこもる。一瞬視界がなくなった。そしてすぐに煙が晴れてもとの風景が姿を見せた。

その夜。つんく♂は早く寝た。
翌朝。また二人を間違えた。
「おっす、田崎」
「宮崎由加です」
注意してても
「おっす、宮崎」
「田崎あさひです」

夜の声を聞いてすぐにつんく♂は床に入った。入る前に栄養ドリンクを飲んでから。
目覚めの良い朝を迎えて機嫌よく出社。
スタッフと爽やかに挨拶を交わす。
そして名前を間違えた。

まだ太陽が地平線からお尻をのぞかせている時間。つんく♂は栄養ドリンクを10本飲んで家族の声を無視して布団に潜り込んだ。

朝が来て、事務所で挨拶。
「おはようございます」
「おはようございます」
「こっちが宮崎」
「こっちが田崎」
二分の一をはずす。
23 :前から :2013/10/27(日) 19:34
帰宅して。
栄養ドリンクをビールかけの要領で飲んで布団を頭まですっぽりかぶった。
もう寝な。
つんく♂は切実だった。
思いと裏腹に瞳は冴えきっている。
目をつぶると、廊下を前から髪の長いすらっとした若い女が歩いてくるイメージが浮かぶ。
田崎あさひだと思い、声をかけると宮崎由加。
間違いなく宮崎由加のはずなのに気づくと顔が田崎あさひに変わっている。
田崎だ。ほら近づいても。おっす、田崎。私宮崎です。どうして。おまえどう見ても田崎やないか。
宮崎に見える女が前から歩いてくる。宮崎だよな、と思うが田崎かも。田崎、と呼ぼうとして、だけどやっぱり宮崎と口にしようとすると、ぐにゃりと顔が田崎に変わる。おっす、田崎と言ったらぐにゃりとしちゃって宮崎がおはようございます……。
24 :前から :2013/10/27(日) 19:35
どうしても出社しなくてはならなかった。
どうにか事務所に行かなくていいように調整していたのに。
重い足取り。
丸くなる背中。
とぼとぼと進める足。
「おはようございます」
「……おっす」
スタッフたちの心配そうな声。それがなんだか遠くから聞こえる。
ふたりとすれ違うことはなかった。出社してないのかもしれない。
元気が出る。少しだけ。
仕事をなんとかやり通した。帰るだけだ。なんだか力が湧いてきたような気がする。
25 :前から :2013/10/27(日) 19:36
廊下に出た途端、前から髪の長いすらっとした若い女が歩いてくるのが見えた。
つんく♂は方向転換をした。
回れ右。
すると。
前から髪の長いすらっとした若い女が歩いてくる。
つんく♂は素早く角を曲がり廊下を突き進む。
しかし前から女が。
「おはようございます」
「違います田崎です」
「つんく♂さん、また会いましたね」
「だから宮崎さんはあっち」
「覚える気あるんですか。宮崎です」
出口を目指してずんずん廊下を歩く。
けれど前から女が。
「どっちだー」
「どうやったら見覚えつくのかしら」
「私が田崎由加です」
「あさひって呼びますか」
「やっと田崎って。そうです私宮崎です」
「宮崎なの」
「思ったとおり田崎でしょ」
「宮崎と田崎と宮崎」
「ピアノ弾きながら踊りませんよ」
「ソロなんだからグループ活動しません」
「みやざききききき」
「田崎あさひって言ってご覧」
廊下を行く。
「あさかざみやひたさき」
前から女が歩いてくる。
まだか。出口はまだか。
つんく♂は突き進む。
「田崎」「宮崎」「田崎」「宮崎」
「宮崎」「田崎」「宮崎」「田崎」
「田崎」「宮崎」「田崎」「宮崎」
「宮崎」「田崎」「宮崎」「田崎」
宮崎田崎宮崎田崎宮崎田崎宮崎田崎宮崎田崎宮崎田崎宮崎……………………

26 :前から :2013/10/27(日) 19:37














27 :前から :2013/10/27(日) 19:38
家に辿りついたのは、夜なんて概念が人々の間に生まれていない時間だった。
布団に倒れこみ、そして家族のだれよりも早く目覚めた。新聞がちょうど配達されたところだった。

時間はたっぷりあるので会社までのんびりと出かけた。
薄暗い街中。なんとなく空気がきれい。
始発電車は人がまばらだった。環状線を何度か回って頃合いを見て下車。
ゆっくりと歩き、自分のペースで目的地に向かう。
小さい子どもを見ると目に入れても痛くないような愛しさがこみ上げた。
日差しの温かさになんだか気持ちをほぐされる。

気づくと事務所に着いていた。
予定時刻より一時間早く着いた。
イスに座って気長に待っとくか……。
つんく♂は廊下に設置されたラウンジのイスに腰を落ち着けた。
疲れがイスに放出されていく。
よう歩いたなあ。足が棒になるってこういうことやな。
口元に笑みが浮かぶ。
28 :前から :2013/10/27(日) 19:39
ふと視線を廊下の先に向けると。
前から髪の長いすらっとした若い女が歩いてくる。
誰や?
つんく♂は目を細めてよく見ようとする。
女の姿はまだぼやけていてよくわからない。
あー、誰やったっけ。
女が数歩手前まで来たところで向こうから声をかけてきた。
「あ、つんく♂さん、おはようございます」
「おお、道重かいな、おはようさん」
「……つんく♂さんなんか疲れてませんか」
「せやろ。俺もそう思うわ。前までは仕事仕事でピリピリしとったけど、今はなんかそこを超えた感じするね」
「そうですね。なんかおじいちゃんみたいですもんね」
つんく♂はそれを聞いてピコーンときた。
認めたくはないが…。
「そうか。俺もついに老化現象が始まったんか…」
がっくしと肩を落とすプロデューサーの肩をポンと叩くと、道重はにっこり笑って励ました。
「大丈夫ですよ、つんく♂さん。それ、前からなんで」
29 :前から :2013/10/27(日) 19:42

30 :前から :2013/10/27(日) 19:43
流し
31 : :2013/10/27(日) 19:46
更新しました。つんく♂さんが主役です。

コメントありがとう。
>>19
みやもも続きません。

>>20
みやもも続きません。

心境の変化があり、千奈美にこだわらずに好きなものを書いていくことにしました。
32 :チームカラー :2013/10/28(月) 20:32
モーニング娘。9期メンバーの譜久村、生田、鞘師、鈴木が連れ立って廊下を進む。四人は食事をとって、楽屋に戻るところだった。
「あ、和田さんと福田さんだ」
鈴木の言うとおり、スマイレージ初期メンバーの和田と福田が楽屋から出てきて、こちらに足を進めてくる。
「おはようございます」
「おはよう」
二人はこれから食事なのだろうか。
四人は二人が出てきた部屋を通り過ぎ、その隣の部屋に入った。
今日はモーニング娘。9期・10期・11期メンバーの楽屋とスマイレージの楽屋が隣同士になっていた。
モーニング娘。のリーダーである道重は別室だ。どういう理由からそのような部屋割りになるのかは知る由もなかったが、歳が離れているから、他の娘。メンバーとテンションが合わなくて疲れるのでは、という配慮があることは窺えた。
33 :チームカラー :2013/10/28(月) 20:33
「道重さん大人だもんね」
ころんと畳に横になる鈴木。食べ過ぎたのか。
「そうだよね。落ち着きがやっぱうちらと違うっていうかさ」
同じくぺたりと横になる鞘師。眠たいのか。
「衣梨奈たちみたいにはしゃぐこともあんまりないしね」
生田ものべーっと寝そべって伸びをする。
三人が川の字になっているところをパシャリパシャリパシャリパシャリと譜久村が角度を変え、構図を変えて携帯におさめていく。
「きゃーへんたーい」
「やめてー撮らないでえ」
「すごいリーダー感あるー」
キャッキャ、キャッキャはしゃいでいるとコンコンとノックの音が。
慌てて体勢を整える。騒いでいたもんだから誰かが注意しにきたのかもしれない。
四人に緊張が走る。お互いに目配せをして、年長の譜久村が応対することに。
どきどきしながら声をかける。
「どうぞー」
「失礼します」
と入ってきたのは
「朱莉ちゃん!」
がばしっとスマイレージ2期メンバーの竹内朱莉を譜久村が抱きしめた。ぎゅうぎゅうとフクムラハグを体全体に感じて顔を真っ赤にする竹内。
落ち着いて、どうどう、と3人がかりで引き剥がして竹内の話を聞く。
「なにをしにモーニング娘。の楽屋へ?」
「朱莉ね避難しにきたの」
「避難?」
「そう!スマイレージの楽屋ってほんっとにうるさいの」
「めいめいとかかななんでしょ」
「そう!さっきもめいめいがイスの上を跳ね回ってたり、かななんがハンガーを両手に持って追いかけ回してきたり、突然ターザンの雄叫びしだしたり、りなぷ〜は平然と電話してたりで大変なの」
ちなみに、と鞘師が口を開く。
「ウチらがはしゃいでたのは外に漏れてた?」
「ううん」
「そっか、良かった」
34 :チームカラー :2013/10/28(月) 20:34
ここで、ぽんと鈴木が手を打った。
「なるほど。それで和田さんと福田さんも楽屋を出ていったんだ」
「タケちゃんも迷惑してるんだね」
「大変だねスマイレージ」
噂はかねがね聞いていたが同じ部屋に居たくないほどとは。いやはや。
竹内に同情の視線が集まるのもむべなるかな。
ぐっと拳を握って
「朱莉いい加減我慢できなくなってこっちに避難してきたの」
と訴えた。
うっすら涙を浮かべているようにも。
「大変だね、朱莉ちゃん。聖が慰めてあげる」
「聖ちゃん……」
おやおや。部屋の中には五人の人間がいるのに、どうやら二人だけの世界が存在するらしい。
口をひん曲げている三人は眼中にないのか、濃密な会話は二人の間で続く。
「そういえば朱莉ちゃん、髪の毛伸びてきたね」
「そうだね、切りにいかなきゃ」
「ダメぇっ。伸ばしてよ。長いほうが女の子らしくて可愛いし、スカートも似合うよ」
「けど短いのに慣れちゃったからなあ」
とか言ってデレデレしてますぞ竹内さん、と鞘師は呆れる。
「聖ちゃんのほうこそさ…」
「なーに?」
「えっと。…なんでもないっ」
「なにー。気になるじゃん、言ってよ朱莉ちゃん。お願いー」
そんなにカワイコぶらなくても、と生田ですら思うほどの甘い声。
35 :チームカラー :2013/10/28(月) 20:36
「いやー、聖ちゃんのほうこそセクシーさが増したなあって…」
「え、ちょっと。やだあーやめてよー、意味わかんないしっ」
ばしっと竹内の肩をはたいて、そのままぐいぐいと密着。
これ、あれだ。お昼のテレビじゃ流せない感じだ。
と、以心伝心。
三人は楽屋を出た。その顔には、やってらんねえの文字が。
はあー、と深いため息が三人分。
「避難してきた人のせいで衣梨奈らが避難することになるなんて」
「皮肉ですな」
「里保ちゃん、おっさんだね」
出てきた扉のひとつ隣。
『スマイレージ様』
の貼り紙をしてある部屋。
「中、すごいことになってんだろうね」
「えりぽん入りなよ」
「やだよ」
それぞれの頭に、ゴジラやショッカーみたいにスマイレージメンバーが暴虐の限りを尽くして楽屋を荒らしまくる、の図が浮かぶ。
震える三人。
しかし、やがて
「ま、いいじゃん。タケちゃんもスマイレージの楽屋で苦労してんだからさ」
鈴木が器のでかいところを見せると、二人もしょうがないかと諦めた。
36 :チームカラー :2013/10/28(月) 20:37
しっかしあのふたりあつあつだよねー。ねー。こっちが照れてくるよね。わかるー。
雑談に花を咲かせていたら。
ぎゃーぎゃーと怪獣の吠え声のようなものが場に轟いた。
なんだなんだ。
三人は身構えた。
そこへ、ゾロゾロ、ガヤガヤ、ピョンピョンとのし歩いてくる団体が。
「10期にさくらちゃんにスマの2期メン」
「みんなどうしたの」
「みんなで裏の公園で遊んでたんです」
「鬼ごっことか探偵とかしたんですー」
見えない縄をくぐるかのように田村がぴょんぴょん飛び跳ねながら言った。
「え?スマのみんなは楽屋にいなかったの?」
「ずっと外ですよ」
「タケちゃんは?」
「ずっといませんでしたよ」
37 :チームカラー :2013/10/28(月) 20:38
バターンッ。
「ど、どうしました!?」
「なになに!?」
「え、大丈夫!?」
ぎゃーぎゃーと床に転がる三人の周りで騒ぎたてるスマメンたち。
竹内あのやろう。
静かに巡らす鈴木の思考も中西の「事件やああああっ」という奇声によって阻まれる。
ちっ、こいつらまじ迷惑。
しかし、これではっきりした。
「タケちゃんもさすがスマイレージってことだね……」
鈴木の言葉に鞘師と生田に異論はなかった。
38 :チームカラー :2013/10/28(月) 20:39

39 :チームカラー :2013/10/28(月) 20:40
流し
40 : :2013/10/28(月) 20:44
更新しました。娘。とスマイレージが出てきます。


41 :ランチ :2013/10/31(木) 11:43
「亜佑美ちゃんお昼食べた?」
生田が声をかけてきた。石田はカバンを開いた手を止める。
「まだです」
「じゃ、食べに行こうよ」
「外に?」
「うん。おいしい所に連れてってあげる」
おごってくれるのだろうか。
そんなことを密かに期待して
「はい。行きましょう」
と外に出た。

生田について東京を歩く。こちとらまだまだ都会に慣れない。自称渋谷のプロのこの先輩について行けばきっと穴場のいい店にたどり着くのだろう。
しかし。
「あの生田さん、ここらへんあんまりごはん屋さんないですけど……」
「なに言ってんの、いっぱいあるじゃん」
はて。周囲には人が大勢いるだけで、レストランなどは見る影もない。若い男女、サラリーマン、OL、子供連れ……。
42 :ランチ :2013/10/31(木) 11:44
「ほら、ハンバーグでしょ、ラーメン、パスタ、インドカレー…」
「え、どこどこ」
「あそこにも。あーでも、あれは居酒屋っぽいからダメだな」
生田の指差す先を追っても、のれんを下げたラーメン屋や、くるくる回る看板を掲げたパスタ屋なんてない。
指差した先にいるのは男だけ。
「生田さん、ちがう場所行きましょ。あっちの通りにファミレスあったんでそこにしませんか」
「大丈夫。衣梨奈がもっといいところに連れてってあげるから」
すると生田は石田をそこに残して歩き出した。
そしてひとりの男に話しかける。
「こんにちはー」
「はい、なんですか」
「あのー私のことどう思いますう」
「は?」
「世界一可愛くないですか」
「可愛らしいお嬢さんだとは思いますが」
「そうでしょ。良かったらお昼ご一緒しませんか」
「え?」
「ステーキとか食べたい気分なんですぅ」
男は逃げた。
「ごめん、亜佑美ちゃん、ステーキは諦めて」
「はあ」
石田が事を理解しているうちに、生田は「あ」と駆け出した。
43 :ランチ :2013/10/31(木) 11:45
「すみませーん、今お時間ありますかー」
「なんだ。あっち行けよ」
「ちょっとだけー」
「うっせーよ」
腕を払われる始末。
「ごめん、亜佑美ちゃん、お寿司も諦めて」
「……」
以後も、焼き肉、しゃぶしゃぶ、てっちり、北京ダック、フォアグラに、割烹、創作料理、蕎麦、ラーメン、フレンチ、イタリアン、中華に、ドリアだのピザだのカレーだの……

ある男に話しかけているときには、遅れてやってきた女にビンタを喰らっていた。
ほっぺたを赤くして
「ごめん、亜佑美ちゃん、ハンバーガー売切れだった」

ぐうう〜

お腹が空いた。
あの調子では昼食にありつけそうもないだろう。
時計を確認すると、のんびりできる時間もなくなってきている。
しかし、石田に焦りはなかった。
なぜならば―――。
「ねえ、君。誰かと待ち合わせしてるの? 良かったら俺とご飯食べない?」
石田の前に現れた一人の男。髪形も服装も決まっているかなりの男前。
石田は顔に笑顔を作った。
カバンを持って立ち上がる。生田はもう放っておこう。
男が手を差し出すと、石田はそれを無視して言った。
「すみません、わたしお弁当持ってるんで」
歩き出すと、カバンの中で、箸箱と弁当箱がぶつかる音がした。
44 :ランチ :2013/10/31(木) 11:45

45 : :2013/10/31(木) 11:46
流し
46 : :2013/10/31(木) 11:47
更新しました。生田と石田のランチタイムです。
47 :名無飼育さん :2013/11/01(金) 05:11
スベリーズコンビのキャラが立ってますね!
楽しかったです(´ω`*)
48 :夢見る15歳 :2013/11/02(土) 23:08
 女の子には 秘密の
 恋のボタンがあるのよ
49 :夢見る15歳 :2013/11/02(土) 23:09

50 : :2013/11/02(土) 23:20
すみません。記号のてすとをします。
48、49は無視してください。

♪?☆★????????

■□▲△▼▽◆◇○◎●
51 : :2013/11/02(土) 23:32
仕切り直して。

52 :夢見る15歳 :2013/11/02(土) 23:33
 女の子には 秘密の
 恋のボタンがあるのよ
53 :夢見る15歳 :2013/11/02(土) 23:34
54 :夢見る15歳 :2013/11/02(土) 23:35
ハロプロメンバーが一堂に会してのリハーサル。
その休憩時間。
55 :夢見る15歳 :2013/11/02(土) 23:36

鞘師が危険な状態だ。
モーニング娘。のエースがとんでもないことを言い出した。
「彼氏ほしいな〜」
佳林は仰天した。
「さ、鞘師さん、私たちアイドルなんだから恋愛禁止ですよっ」
「うん。わかってるけどさ、人恋しい季節じゃないですか」
「人なら、いっぱいいるじゃないですか」
まわりにはお喋りに花が咲く女の子たちが。
「…佳林ちゃん、本読みすぎて現実見えてないんじゃないの」
「見えてますよぅ。アイドルに恋はご法度だっていう、アイドル界の不文律が」
「あの、なんだっけ。『海辺のふかふか』とかいうの読むんでしょ」
「『海辺のカフカ』ですっ。そんな寝心地の良さそうなタイトルじゃありませんー。まあ、子供には難しい本なんで、鞘師さんなら枕にして寝ちゃうかもしれませんけどー」
「ふーん。じゃあさ、その難解な本について語り合える彼氏とかほしいと思わない?」
「……」
「思う?」
「…私にはもう、たっくさんの彼氏がいますから、いまさらいらないですっ」
「その彼氏って、ファンのみなさん、とか言っちゃう?」
「まさしくその通りですよ。アイドルは、誰か一人のものじゃないんです。歌とダンスと、そして笑顔で、大勢の方を元気づけるものなんです!」
「…そっかー」
「わかってもらえました?」
「うん。ウチら、よく次世代エース争い、とかってあおられるじゃん。それはわかるんだ。ウチと佳林ちゃんがライバルだってのは。
けど、好きな人がかぶったとしたら、そのときは争うまでもないね」
「え?」
「だって」
鞘師は続けた。
「負ける気しないもーん」
「なにを根拠にそんなこと…」
さっきからの鞘師の態度に、佳林の顔が紅潮する。自分はおろか村上春樹まで馬鹿にされて。
「…っ、やってみなきゃわかりませんよっ」
鞘師に詰め寄って、強気の瞳で宣戦布告。
どうだ、と言わんばかりの気迫だったのだけれど。
「…恋するんだ?」
「え」
「アイドルなのに恋しちゃうんだ?」
「………………」
唇を噛んで、鞘師を睨む佳林。
鞘師は眉を上げて、やれやれ、と思った。
56 :夢見る15歳 :2013/11/02(土) 23:39

珍しい人が話しかけてきた。
「鈴木さん、お話しましょう」
「どうぞー」
空いている隣を指し示すと、植村はスペースを無視して香音にひっついてきた。密着されて、軽く身を引く香音。
なんだこの子は。
香音は少しびっくりする。だけれども、先輩の自分が会話を引っ張らないと。そう思って口を開いた。
「学校どんな感じ?」
手近な話題で会話の糸口をつかむことにする。
「すっごい楽しいです。この前、席替えしたら教卓の前の席になっちゃって」
「あー、それヤダよね」
「はい。すごいイヤだなって思ったんですけど、すごい良いことでもあったんです」
「どういうこと?」
「隣の席になった男子が、全然話したことなかったんですけど、すっごい良い人だったんです」
あ、やばい。糸の先にどえらいものがくっついてそうだ。
直感が働いて、香音は話題を変えようとする。
「良い人って言ったらね…」
「あのっ。鈴木さんは気になる人には自分から話しかけるタイプですかっ」
会話のペースはいつの間にか後輩の手に。
抱きつかれて、綺麗な顔を近づけられて、そんなことを訊ねられて。
「…んー、どうだろう」
香音は目線を合わせずに返事をした。
「こないだ、その男子にハサミを貸してもらったとき、嬉しくて、手元に集中できなくて、ちょっと指切っちゃったんです」
「ええっ」
「そしたら、すごい心配してくれて。切ってよかったなーって思いました」
「いやいや。ケガしちゃダメでしょ」
「はい。だから、それからはハサミ忘れないようにしてますっ」
どこか噛み合わない会話。けれど植村が楽しそうに話すから、香音もつられて笑顔になるのだった。が。
「はぁ…。告白しようかなー」
油断大敵だった。
「はあっ!?ダメダメっ。す、好きって、言わせねえよ!」
「あっ。それ言う芸人いますよね。さすがお笑い好きですね」
「…まあね。一番好きなのはドリフなんだ」
「ドリフ……。ドリフってなんですか」
「昭和の大スターだよ」
「へえー。ドリフ。みんなも知ってるか聞いてきますね」
「え。植村ちゃん…?」
植村は、香音から離れて他の人のところへ行ってしまった。
ぬくもりがほんのり背中に残っている。
香音はなんとなく手持ち無沙汰になった。
しかしながら、ほんの少し話しただけで、随分とヒヤヒヤさせられたものだ。首のあたりを撫でながら、香音はつぶやいた。
「………自由だわ」
まあ、恋愛系から話を逸らせて良かった。
そう安心する一方で。
あんなふうに振る舞えたら、モテるのかなあ、なんて思う香音なのであった。
57 :夢見る15歳 :2013/11/02(土) 23:40

田村は自主練習に励んでいた。
けれど内心は遊びに行きたくてしょうがない。
できれば気になるアイツと。
そこまで考えて、田村は一旦ブレイクをとった。いけない、いけない。今はアイツはほっといて振り付けを完璧にしないと。よし。
1、2、3、4。1、2、3、4。鏡の中で自分が踊っている。動くたびに髪の毛が右に左に揺れた。『ショートカット』発売時にスマイレージにいなくて良かった。アイツ、髪長い子が好きって言ってたもん。
田村は動きを止めた。大きく深呼吸。すう、はあ。集中しなくちゃ。そう言い聞かせながら、タオルで汗をぬぐう。
気合いを入れ直してステップを刻む。夏にできてなかったことを克服するんだ。暑かった夏。お祭り行けなかったな。コンサートがあったから仕方ないけど。花火大会だって時間がなくて…。友達から浴衣の写メ送られてきたけど…。なぜかアイツも写ってたけど…。
ダメだ、ダメだ、ダメだ!
腕の振りが激しくなる。汗が飛び散る。髪を振り乱し、床を蹴り、腰をひねる。踊るのよ。リズムを刻む声が大きくなる。雑念を吹き飛ばさなきゃ。ワンッ、トゥッ、スリーッ、フォウッ!踊れ、芽実!踊れ、踊れ、踊れ!
「ねえ、めい。ちょっと聞いてー。うん。踊ってるとこ悪いんだけどー。
あのね、明日クラスで文化祭の打ち上げがあるんだー。マジ楽しみで。それでね、友達が、クラスの男子で里奈が来れるか心配してるやつがいるって言ってきたのー。
里奈ね、あーアイツだなーってすぐにわかったよ。だってね、アイツ、一緒に夏祭り行ったときから、あからさまに態度おかしいんだもん。里奈が髪切ったら、そっちのほうがいいじゃん、とか言ってさ。何様って感じじゃない?ウケるでしょー。
だけどね、アイツのことを別の友達が好きなの里奈知ってるんだー。だから、今ね、ちょっとめんどくさい状況なの。その友達がなんか里奈に冷たいような気がするし。
でもね、そんなことする意味ないんだよね。だって里奈、アイツのことなんとも思ってないもん。里奈が好きなのはー、アイツじゃなくてー…………
58 :夢見る15歳 :2013/11/02(土) 23:41
59 :夢見る15歳 :2013/11/02(土) 23:43
 すごい恋
 夢見てる 15歳
60 :夢見る15歳 :2013/11/02(土) 23:44

61 : :2013/11/02(土) 23:44
流し
62 : :2013/11/02(土) 23:52
更新しました。1998年生まれの中3世代の話。冒頭てんやわんやしてごめんね。

>>47
その人のキャラがあってこその話を書きたいと思っているので、その言葉をもらえてハッピーです。
コメントありがとう。励みになるよ!

○露骨にアピールします。
コメントください。あなたの「いいね」「つまんね」が作者を救う!
63 :いいニオイ :2013/11/04(月) 15:59
Berryz工房はいいニオイがする。
そういう噂はかねがね聞いていた。
きっと香水が香ってるんだろうと石田は思っていたのだが、どうやらちがうらしい。
「最近は、自然みたいないいニオイがするらしいよ」
と飯窪が言ってきたからだ。
「自然みたいって、森林とかそういう感じのニオイなの?」
「詳しくは知らないんだけど、フローラルな感じとかかも」
なんにしても気になる。いいニオイってどんなんだろうか。
くんくん。
石田は自分の腕を嗅いでみた。
無臭。
くんくん。
「ちょっと亜佑美ちゃん、なにしてるの」
「わあ。譜久村さんすごいいいニオイする」
肩先を嗅がれて怪訝な顔をしていた譜久村は、すぐに納得したようだった。
「洗剤のニオイだよ、それ」
なるほど、洗剤か。
するとBerryz工房は自然の香り付き洗剤とかいうものを使用しているのだろうか。
いや、しかし。
石田は事務所の一角で首をかしげる。
「自然」のニオイってそういうことなのだろうか。人工的につくったニオイではなく、天然由来の自然な香りということではないのか。
64 :いいニオイ :2013/11/04(月) 16:02
自然。石田の頭の中で、その二文字がくるくると回る。
ちょうどそのとき。
Berryz工房が全員そろって廊下を歩いてくるではないか。
石田はトイレに行くふりをして、その横をすれちがった。
大きく鼻の穴を膨らませながら。

「確かにいいニオイはしたけど、自然さはなかったよ。やっぱ香水とかそういうニオイだったな」
次の日。石田が報告すると、飯窪は
「あら。じゃあ、私の聞いた話がまちがっていたのかも。お騒がせしてごめんね」
と手を合わせた。
「ううん。全然いいんだ」
そう言ったものの、内心ちょっぴり残念だった。「自然」なニオイについて考えた甲斐がなかった。
Berryz工房にも飯窪にも罪はないが、なんだか胸がすっきりしない。
そんなことを湯船で考えた。
暑さが厳しいこの頃。だからと言って体を温めないと体調に障る。
ダンスレッスンも今日は長丁場だった。
石田はゆっくり汗を流し、疲れをほぐした。

それから数日後。
「おはよう、あゆみん」
「おはよう、はるなん」
レッスン室には、モーニング娘。の他に、Berryz工房も集まっていた。今日は合同で練習だ。
65 :いいニオイ :2013/11/04(月) 16:04
譜久村がその集団に加わっている。嗣永と話しているのかと思ったら、彼女はまだ来ていなかった。談笑の相手は熊井であった。
「意外だなあ。譜久村さん、熊井さんと仲良いんですね」
「うん。最近ね、話すようになったの」
レッスンが午前いっぱい行われて、食事休憩となった。
「めっちゃ汗かいたー」
「汗かいてる譜久村さんは、いつも以上にセクシーだなあ」
「やだあ、亜佑美ちゃん」
食堂は人が多く、席をとってからご飯を買いに行くことにした。
テーブル席に空きを見つけたので、座っている人たちの後ろを通り、そこを目指す。
そのときだった。
―――あっ!
石田の鼻が、いいニオイを捉えた。
食べ物からのぼるいいニオイのことではない。カレーやうどんやハンバーグのニオイに混ざって。
―――自然のニオイがする。
石田はニオイのもとをたどり、驚愕した。

「はるなん、いいニオイの正体がわかったよ」
ラーメンをすすっていた飯窪の腕を引っ張って、ニオイのもとへ連れて行く。
「あっ。すごいいいニオイ」
「でしょ」
だけれども。飯窪には疑問があった。
「なんで譜久村さんからはこのニオイがしないんだろう」
「ウチらがからかうから使わなくなったんだよ、きっと」
「なに、ふたりとも。さっきから後ろで何を話してんの」
ニオイの主が、タオルで汗を拭きながら、振り向いた。石田は訊ねた。
「あのっ。それ、譜久村さんから貰いましたか?」
「そうだよ。最近、暑いし、めちゃくちゃ汗かくから塩分摂るようにしてるって言ったら、くれるようになってね」
と、熊井は、自然のいいニオイを汗から立ちのぼらせながら、ライスに持参の調味料をふりかけた。
――香り豊かなハーブ塩を。
66 :いいニオイ :2013/11/04(月) 16:05

67 :いいニオイ :2013/11/04(月) 16:06
流し
68 : :2013/11/04(月) 16:08
更新しました。いいニオイの話。
69 : :2013/11/09(土) 12:58
ああっ。小田ちゃんも中3だった……!調べ不足……
70 :花見 :2015/04/14(火) 09:51
とっておきの所だから、と映画三昧のつもりだったオフの日に連れ出されたのは、商店街を抜けてから大小様々な家並みを横目に進み、次第にすれ違う人が少なくなっていって、ずっと向こうに対岸とつながる橋が見えるだけの川沿いで、今の季節でなければきっと来る機会がない場所だった。
「はあー、満開だね」
土手道に一本の桜の大樹が昼下がりの日向の中で薄桃色の花を輝かせていた。
平日だからか、あるいは地元の住民くらいしか目をとめる者がいないような立地だからか花見をしている人影は朋子たち以外には見つからなかった。

鼻先に揺れる桜を見上げて、見たまんまの感想を漏らすと、由加も隣に並んで梢をあおいだ。
綺麗だねー、と笑う横顔は子供みたいに無邪気で、つい先日ひとつ歳を重ねたとは思えなかった。
「由加ちゃん、こんなところどうやって調べたの? 超穴場じゃん」
この辺りに住んでいる由加ではあるが、ここは彼女の生活圏からは離れていた。
「いやー、朋とお花見したくてあっちこっちを歩き回りまして、ようやく見つけたんですよ」
「ウソだー」
由加は川べりに下りて、木のベンチに腰かけた。川を背にして、桜を見上げる形である。朋子がそれにならうと、由加は兄がここで花見をしたのだと話した。なるほど、それでこんな場所を知っていたわけである。そんなことだろうな、と朋子が思っていると「でも」と見つめられる。
「朋とお花見したいっていうのは本当だからね」
「……はいはい」
71 :花見 :2015/04/14(火) 09:54
小首を傾げなくったっていいのに。由加の仕草はザ・女の子で、それを見るたび体の内側が痒くなった。

口調が荒くならないように気をつけて「おはぎ食べようよ」と提案すると、手を叩いて賛成された。
来る途中、商店街の和菓子屋で買ったそれは由加の大好物である。
「朋、どっちにする?」
「どっちでも」
「じゃあ、きなこ貰ってもいい?」
「うん」
朋子はあんこのおはぎを手に取りながら、二個ずつ買えばよかったなあ、と思った。そうしたらあんこもきなこも由加は食べられたのに。自分はそんなに要らないけれど、ほっぺたを膨らませて幸せそうな顔をしている彼女は好物に目がないから。
春と言えども、四月はうららかなイメージと異なり、現実はぽかぽか陽気とはいかない。陽射しは確かに温かいけれど、薄着で外を出歩けば風の冷たさに冬の名残を感じた。
けれど今日は風も優しかった。肌を撫でるそよ風には草や花の香りが含まれていて、新しい季節が来たことを体で感じることができた。
耳に入るのは、水音や葉のこすれる音、ときどき通り過ぎる自転車が砂利を踏む音、朋子が話す声に由加の笑い声。
朋子は半分に減ったおはぎを片手にしみじみ言った。

「……幸せだなあ」
「どうしたの、突然。加山雄三さん?」
「ちがうし」
「幸せだなあ」
「マネすんな」
朋子は渋い顔をした。相手は委細気にしていない。両手でおはぎを持って、ちょっとずつ口に運んでは一口ごとに小さく頷いてその味を堪能している。
「おいしそうに食べるね」
「だって美味しいんだもん」
由加の顔を見ればそれは一目瞭然だった。朋子はラーメンが好きであるが、麺を噛み締めているときに自分もこんな顔をしているのだろうか。
「由加ちゃん、あれだね。今ね、春風満面って顔してるよ」
「なにそれ」
「覚えたての四字熟語」
「そうじゃなくて。意味教えてよ」
「えー。ちょっとは考えてみなよ」
「けち」
72 :花見 :2015/04/14(火) 09:55
そう言いつつも由加は思案を巡らせた。間を置かずに、朋子は袖を引かれて、回答者からヒントを懇願された。
「ヒントぉ〜? ヒントは無し」
「だって全然わかんないもん。聞いたことないし、そんな言葉」
「うーん。あ……」
由加の眉根が寄る。相手がニヤけだしたので当然かもしれない。
「なに」
「えっとねえ、きなこのおはぎくれたらヒントあげる」

朋子は由加の手に握られたそれを指差した。由加の視線はおはぎと朋子とを何往復もした。そうなるだろうと予想していたから、朋子は黙って顔を寄せた。
「うん。きなこ美味しい」
舌先に感じる甘さはあんことはまた違った美味しさだ。バシッと腕を叩かれても、朋子の頬は緩んだままで、口の端を押さえて眉間にシワを寄せている由加とは対照的だった。
「なにしてんの!」
「いやー、だってさあ、もう大人なのにきなこ付けてんのがかわいくって」
「理由になってないから」
再び腕に衝撃。さっきよりは力が弱くて、馬鹿じゃないのという呆れ声が耳に届いた。
朋子はまた体の内側が痒くなった。
鳥の鳴き声がどこかの枝から聞こえてくる。
唇を尖らせて由加は言った。
「で、ヒントは」
「あー。なんだろね」
頭が浮かれているのだろうか上手い言い回しが出てこない。
視界には桜の花が揺れていた。せっつくように肩をぶつけられて、「ヒントは今のウチ」などと我ながらふざけたことを言ってしまう。
由加は困った表情を見せつつも朋子を見つめた。朋子はますます相好を崩すことになって、大ヒントだなあ、と自己満足をする。まあ、少し意味が外れている気がしないでもないのだが。
「わかった?」
「なんとなくだけど多分、合ってると思う」
「おお。では答えをどうぞ」
「金澤朋子は宮崎由加とお花見をして春風満面である」
「……おー」
「使い方合ってるでしょ?」
異論はなかった。意味を答えるのかと思いきや例文の形で返されたのが憎らしかった。
由加はこの四字熟語が気に入ったらしかった。「宮崎由加はおはぎを食べて春風満面の表情をした」と自身を表現し、笑った。
73 :花見 :2015/04/14(火) 09:56
鳥の鳴き声が上空から聞こえた。陽射しが背中を温めて気持ちよかった。
ねえ、と由加に問いかけると、目が合った。
「来年も来ようね」
「うん。そうしようね」
その表情はまさに喜びで満たされていて、それを写し取るように、朋子の顔もまた春風満面であった。
由加が間を詰めたので、腕同士が触れ合った。服越しに体温が伝わってくる。夏だったら暑苦しい。秋ならば枯れ木を見に来たりしない。冬は厚着だからお互いの温かさに触れられない。
きなこのおはぎを食べ終えて、由加が朋子の手元に目をやるから、食べていいよと差し出すと、首を横に振る。そのわりにこちらが食べているのを物欲しげに見てくるのだから可笑しかった。
「食べていいってば」
「いいよ。それは朋のだから」
「気にしなくていいから」
「でも、食べ差しは……」
「しっつれいだなあ。もうあげない」
「えぇっ。今のは冗談だから!」
結局おはぎは由加の手に渡り、朋子は食べているところを眺めることになった。
朋子は顔を上げた。もう一人の見物人がそこには居て、心の中で挨拶をする。
次に来るときもこんな調子だろうけどよろしくね。
風が通り過ぎて、朋子の髪を撫でた。
綿毛のような桜の花がゆらゆらと揺れていた。
74 :名無飼育さん :2015/05/02(土) 10:55

75 :コブシ・ファミリーの明日 :2015/05/02(土) 10:58
葉巻の先から煙がのぼり、レイの表情を読み取りづらくさせる。煙が部屋に漂いだしてからどれほど時間が経っただろうか。敵が集会をひらくというバーに潜入したタグチが出ていくのを見届けてからであるから、かなりの時間が過ぎている。ミナミナは煙の向こうのボスの顔を見やる。タグチの帰還はいくらなんでも遅すぎる。敵地に赴いて爆弾を仕掛けてくるという任務は確かに一筋縄でいくものではなく、潜入工作員であるタグチでしかボスの命令を全うすることはできない。いままでもこういう類の仕事が生じた場合は一番にタグチに指令が及んだ。そしていつもタグチは敵に見つかり、身柄を拘束された。ファミリーで最も背が低いからという理由だけでタグチを潜入工作員に任命したのは早計ではなかったかという疑念がレイを除く全員の胸のうちに生じるのもむべなるかな。
ミナミナは時間を確認する。
「ボス……」
「ふむ。またか……」
レイの口数は少ない。しかし可憐な容姿と裏腹にその口から生まれる言葉はドスがきいていて、聞くものに否応なしに屈服の感情を与えた。
「仕方がない。ミナミナ、留守を頼んだぞ」
「はい」
葉巻を受け取ったミナミナが頭を下げて、頭を上げたときにはレイの姿はなかった。ミナミナは葉巻を灰皿の縁にそっと立てかける。半分以上燃え尽きているそれを立てけるのは集中力を要した。ボスがいない間は自分がこのアジトの取締役だ。耳には出発の際にレイが置いていった言葉が残っていた。
「行ってくるぜ、ベイビー」


「トモ、そいつどうすんの?」
バナナシェークをずるずるとストローで吸い上げて喉を潤したサユキが顎で"そいつ"を示す。
ジュース・ジュース・ファミリーの集会に現れた小さな工作員。名を名乗らず、ボスの名前も明かさない。その姿勢は暗躍者たるものかくあるべしといった感じで立派ではあったが肝心の工作がお粗末だった。
「背がちっちゃいからって見つからないとでも思ったのかね」
ガチャガチャとドライバーを操りながら、ミヤモッティンが言った。彼女が分解しているのはついさっきタグチが仕掛けた時限爆弾で、今はただの鉄の塊である。
子猫を捕まえるようにタグチの首根っこを掴んだトモが仲間に教える。
76 :コブシ・ファミリーの明日 :2015/05/02(土) 11:01
「てか、タグチでしょ、この子。コブシ・ファミリーの」
「ちがうよっ」
タグチは否定する。しかしタグチは知らなかった。自分が犯した数々の失態のおかけでコブシ・ファミリーの名は闇の住人たちの間で有名であることを。潜入工作員が下手くそな忍び込みの末、捕まり、毎度毎度任務が失敗に終わることで話題をかっさらっていることを。次はウチかなと各ファミリーがドキドキワクワクしながら待っていることを。
そして。タグチが現れたということは。
バーの扉が音を立てた。扉が開いた先に現れた人物にトモは目を見張る。噂には聞いていたが実物は想像よりも麗しく華奢で愛らしい。
「そこのレディー。その手を離しな」
レイはタグチの首根っこをつかむ手を指差して言った。「ボスうううっ」両足を不格好なバタ足のように動かしながらタグチが情けない声を出して懇願する。トモを始め、ジュース・ジュース・ファミリーの面々はこの二人の動向をのんびりと見守っても良かったのだが、あいにく日程は差し迫っており、付き合っている暇はないのだった。
「えっとー、レイさんだよね?」トモが言う。
「なっ。どうして名前を……。タグチ……」
「言ってません。なにも言ってません」
ぶるぶると水をかぶった犬のように高速で首を振るタグチにレイは睨みをきかせる。一悶着ありそうなところを遮って、トモはタグチを放り投げて言った。
「あの、その子、本当になんにも喋ってないから。潜入工作員としては良かったんじゃないかな。だから、さっさと連れて帰って」
床に投げ出されたタグチは起き上がりこぼしがごとく立ち上がるとレイに駆け寄り抱きつく。
「ボスうううう」
「泣くな。……敵に情けをかけられるとはな。この借りは必ずリターンするからよ」
「はい。お待ちしておりますね」
と言ったものの、内心では反対のことを考えていた。自分たちはこれからすぐに別の街へ出発する。コブシ・ファミリーがその行方を探る術に長けているとは思えず、これが最後の出会いで、見納めになるだろう。
「邪魔したな。いつか相まみえるときまで、ネックを洗って待っててくれよ」
ジュース・ジュース・ファミリーのみなさん、と捨て台詞を吐いてコブシ・ファミリーはバーをあとにした。
77 :コブシ・ファミリーの明日 :2015/05/02(土) 11:04

ミナミナは頭のなかで簡単な暗算をする。タグチの帰還を待つ時間とレイが連れて戻ってくる時間のどちらが長いかを。答えは簡単。前者のほうが圧倒的に長く、そして後者のほうは……、と思っている間に声がする。
「アイムホー厶、おまえら」
「ボス、タグチ!」
「ミナミナああああ」
涙を流して抱きついてくるタグチを受け止め、大きなカバンを下ろすのを手伝う。ミナミナは口を出さないけれど、潜入工作員がこんな目立つカバンを持ち歩くものなのだろうか。しかしレイがなにも言わないのだから、一介の構成員である自分が意見する道理もない。本当はかなり口を出したいけれど、内紛ほど無駄なものはない。ミナミナは自制のできる女だった。
鼻をかんでいるタグチを横目にカバンの中身を整理してやる。と、タグチが出しなに入れていた爆弾がでてきた。仕掛けることすらできなかったのだな。そう納得しかけたが、なにか嫌な予感がよぎった。四角いその装置に耳をあててみると内蔵タイマーが脈を打っているのがミナミナの鼓膜にひびいてきた。
「ボ…ボス……」
「ああ、どうした。タグチのバッグが気になるのか」
ちっ、阿呆め、そんなことを言いたいのではない。思わず口をついて出そうになった言葉を喉元でおさえてミナミナは爆弾の存在を教えようとする。
78 :コブシ・ファミリーの明日 :2015/05/02(土) 11:07

「なんかほのぼのしたね」
とトモが言うとあとの二人も同意する。
「トモもジュース飲む?」サユキがグラスを持ち上げる。中身は空だ。出かけるタイミングにちょうど良い。
「ううん。大丈夫、サユキは車の準備に行って。うちは片付けやっとくから」
はいよー、と手を振ったサユキだが、外に向かうはずの足がいったん止まる。
「あれ。カリン、爆弾どうしたの」
カウンターに載っていた物騒な機器の姿がどこにもない。トモも不思議がって行方を訊ねるとカリンが言う。
「ちょこっと改造してタグチのカバンに忍ばせといた。何分かしたら作動するようにセットしてね」
パチンとウインクをひとつ。愛らしい仕草とセリフとのギャップにサユキとトモは身震いをし、そして頼もしく思う。トモが言う。
「いつの間に……。さっすがうちの潜入工作員はちがうね」



ミナミナは頭のなかで簡単な暗算をする。タグチの帰還を待つ時間とレイが連れて戻ってくる時間のどちらが長いかを。答えは簡単。前者のほうが圧倒的に長く、そして後者のほうは……、と思っている間に声がする。
「アイムホー厶、おまえら」
「ボス、タグチ!」
「ミナミナああああ」
涙を流して抱きついてくるタグチを受け止め、大きなカバンを下ろすのを手伝う。ミナミナは口を出さないけれど、潜入工作員がこんな目立つカバンを持ち歩くものなのだろうか。しかしレイがなにも言わないのだから、一介の構成員である自分が意見する道理もない。本当はかなり口を出したいけれど、内紛ほど無駄なものはない。ミナミナは自制のできる女だった。
鼻をかんでいるタグチを横目にカバンの中身を整理してやる。と、タグチが出しなに入れていた爆弾がでてきた。仕掛けることすらできなかったのだな。そう納得しかけたが、なにか嫌な予感がよぎった。四角いその装置に耳をあててみると内蔵タイマーが脈を打っているのがミナミナの鼓膜にひびいてきた。
「ボ…ボス……」
「ああ、どうした。タグチのバッグが気になるのか」
ちっ、阿呆め、そんなことを言いたいのではない。思わず口をついて出そうになった言葉を喉元でおさえてミナミナは爆弾の存在を教えようとする。
79 :コブシ・ファミリーの明日 :2015/05/02(土) 11:10
「これを見てください」
「ん? なんだその機械。携帯電話にしては大きくて持ち運びに不便だな」
おいおい、そのでかい目は節穴か。歯の隙間から漏れ出そうになった本音をどうにか吸い込んで、改めて進言しようと爆弾に目をやって瞠目する。爆発間際を知らせるランプが点灯しているではないか。タグチに見せると止め方がわからないと言い出す。改造されたらしい。
ミナミナは手を震わせ、どうにか事態をボスに知らせたいが口も震えて言葉が出てこない。アジトには葉巻の匂いが漂っているが、ちびた葉巻の残りはわずかだ。それはまるでコブシ・ファミリーの運命を暗示しているようだ、とミナミナの頭によぎったのとレイが爆弾を勢い良く外にぶん投げたのは同時だった。
「不便なものはグッバイだよ」
言い終わるのと爆発音が響いたのは同時だった。風塵が壁にぶつかり、建物全体が大きく揺れた。
葉巻は燃え尽き、煙となっている。
呆心状態からいち早く我に返ったミナミナは立ち尽くすレイに駆け寄る。レイは体を揺さぶられたことで意識を取り戻し、ミナミナに向き直る。
「まさか、こんなことが起こるなんてな。アンビリーバブル」
「ボス……」
ファミリーの危機だったにもかかわらず、平素と変わらぬ口ぶりだ。
外の様子を見に行くレイの背中にファミリーたちがつづく。
強心臓というのかのんきというのか。ミナミナはレイの態度に脱力する。あの爆弾は敵が仕掛けたもので、それに気付かないなんてどうしようもないボスだと呆れていた気持ちは爆発の風圧で飛んでいっていた。
マフィア業に身を置いているからと言ってこんなスリルを味わえることはあまりないだろう。日常の退屈さに嫌気が差して踏み込んだ道。ファミリーと馬が合わないからといってあっさり鞍替えできるほど甘い世界ではない。数多あるファミリーのなかからコブシ・ファミリーを選んでよかった。
命が危険にさらされるのは怖いけれど、それにも増して日々は楽しかった。ファミリーのボスがレイでなかったら、きっとそうではない。野心はあるようだが抜けている部分もある。完璧ではないところがミナミナを引きつけていた。
80 :コブシ・ファミリーの明日 :2015/05/02(土) 11:13
レイは振り返り、ミナミナやタグチを始めとする構成員たちが見つめるなか語りだす。
「このあたりでアジトを構えているのも潮時みたいだ。こう色々とうまくいかないことがあるとそうシンクするのが自然だろう」
ボスが口にした言葉に反応してタグチが震える。うまくいかないことに絡んでいるのは大体自分だったからだ。そんな部下を抱き寄せてレイは頭を撫でる。タグチはその手つきからボスはなにも怒っていないことを悟った。毎度毎度、性懲りもなく任務失敗を繰り返す自分をボスはいつだって助けに来てくれた。貧民街でひとりきりで生きていたところに手を差しのべてくれて以来、その優しさは変わらない。必ずボスをマフィアのトップに上がらせてみせる。タグチの腕はレイの細い腰を強く抱きしめた。
晴れた日だった。心地良い風が頬をすべり、レイの長い髪の毛をなびかせる。風か。レイは天を仰ぐ。雲の動きを観察してみると、西のほうからゆるやかに灰色がかった雲が流れてきている。これは近いうちに雨が降るな。いやどうだろ、降らないかな。どうなのかな。レイには気象学の心得はない。しかし向学心はある。この地で過ごした日々は暗黒稼業で生きていくのに大いに役立つものだった。
次の地では今日までの経験が生きてくる。
レイは考える。タグチのカバンをあっちで点検してくれば良かったな、と。
今回の出会いはレイの胸にひとつの言葉を産み落とした。
「おまえら、よーくリッスンしな」
全構成員に緊張が走る。
「今日、ひとつの教訓をゲットした」
タグチがレイから体を離して次の言葉を待つ。
「全員ハートに刻み込んどけ」
「ボス、その教訓とは」
ミナミナが言う。レイは一同に会した部下共を見渡し、すべての目が自分を見ていることを確認すると、右手を固く握り、低くて通る声で言った。
「念には念をインすべし」
おおっ、とざわめきが起こる。ミナミナやタグチの顔にも感嘆の表情が浮かぶ。まさしく我々の心に刻むべき言葉だと思った。念には念を、念には念を、とあちらこちらからリピートの嵐。次第に熱気を帯びてきて、終いにはファミリー一同で教訓を叫ぶ。レイが右手を突き上げて音頭をとる。
「念には念をインすべし」
何十もの拳が天に向かって打ち込まれた。何度も何度も繰り返されるそれに気圧されたのか、空を覆うはずだった雲が進路を変える。
昼の時刻を迎えて辺りは明るい。強い光がコブシ・ファミリーを照らしていた。
81 :作者 :2015/05/02(土) 11:14
77はコピペミスです。ごめんちゃい作者。
82 :名無飼育さん :2015/05/03(日) 00:59
更新お疲れ様です

ポンコツ構成員や謎のれいれいルー大柴口調に笑いましたが続きを読みたくなります
ぜひ続編を…
83 :名無飼育さん :2015/05/03(日) 00:59
すいません
sage忘れました
84 :中島の改心劇 :2015/06/10(水) 22:29
通りに面した一軒のカフェ。テラス席でひとり、カップを傾けていると、まさにお洒落でセレブリティーな気分になるしかない、と中島早貴は紅茶に息を吹きかけながら思った。制服を格好良く身につけたお姉さんが持ってきてくれた紅茶は熱々だった。カップを持ち上げて、早速一口いただこうとした途端にヤケドした。下唇に水ぶくれができた。舌で突付いていたら皮が破れて、液が唇にしみた。早貴はそこをぺろりと舐めつつ、ダージリンの薫りを向こうへ押しやる。
早貴の仕事はアイドルだ。歌って踊り、握手をしたり、サインを頼まれたり。ファンの目に入らないところでは、ボイストレーニングやダンスレッスンに時間を費やすこともある。コンサートやイベントで週末は埋まり、家族よりもグループのメンバーと過ごすことのほうがおそらく長いだろう。つまり、忙しい。忙しいのは良いことだけれど、休みが欲しいのはやまやまだった。
あれもしたい、これもしたい。妄想もとい夢はいつも頭をめぐって、早貴はその世界を浮遊するのが好きだった。いつか海外に行ってバカンスしよう。そんなことも考えた。
大きなコンサートが近づいていた。リハーサルを昨日してきたところだ。終日リハーサルがつづいたこと、緊張と不安があることなどで、疲労が強かった。スタッフもそれを見越していたらしい。早貴たちメンバーに思わぬプレゼントがもたらされた。
熱気が冷めないカップは置いておくことにして、スマートフォンを操作する。iPhone6。画素数が購入の決め手だ。グループのブログにアクセスすると思ったとおり、めいめいテンションの高いブログをあげていた。タイトルは「オフ!!!」「買い物♪」「まったり(^o^)」「癒し〜」とある。内容はオフの一日をどのように過ごしているかを顔写真付きで報告したもので、大体想像のつくものばかり。早貴はフッと鼻から息をもらした。湯気を蹴散らすためではない。カップは今、眼中にない。
85 :中島の改心劇 :2015/06/10(水) 22:31
みんなはせっかくのオフを日常のなかに埋没させてしまっているのだなあ、と早貴は思った。自分は電車を乗り継ぎ埼玉県から東京に足を運んで、そこからさらに大人な街へと休日を過ごしに来たというのに。チェーン店とは違う雰囲気のなかで、早貴はスマートフォンを構えた。
シャッターを切ったとき「カシャアッ」と音がして、周囲の数人から視線をもらってしまった。テラスに腰を落ち着けてから、結構時間は経っていたのに、それは初めてのことだった。通りを歩く人も脇目をふらずにカフェの前を通り過ぎていって、早貴のことを気にかける様子はない。昨日、リハーサルを終えて、明くる日のオフをカフェで過ごすアイドルには興味がないらしい。
さすが大人な街だ、と早貴は感心する。
ブログの文章を書き上げて、アップする。おしゃれなカフェにいることは書かずに、ヤケドの件を言うだけに留めた。落ち着いたムードのなかの間抜けなケガ。そのアンバランスさに早貴は含み笑いをする。テーブルに木漏れ日が落ちている。首を仰け反らてみると、テラスの端に植えられた木が日差しから早貴を守っていた。緑が濃くて、季節の流れを感じる。この辺りはこういった趣向の店が多くて、ここに来るまでにもたくさんの植物が目に入った。通りの途中には広場もあったりして、都会的ななかに植物の彩りが映えていた。
早貴は深呼吸をする。一度、鼻づまりのせいで失敗した。改めて空気を吸い込んで、吐き出す。急かすものがない空間でするそんな行為はとても贅沢な感じがした。
姿勢を戻して、カップを手に取る。下唇に冷たい紅茶が染み渡った。
滅多にない一日オフを満喫したとあってか、次の日はメンバーの表情が明るかった。早貴はそれを鼻を噛みながら見ていた。もはや流行を過ぎた花粉症に今頃なってしまうとは。メンバーは早貴を心配したり、からかったりしたあと、ちょっと怒った。そう、大きなコンサートが控えているからだ。体調管理もアイドルの仕事のうち。健康を保ち、日々の積み重ねが次のステージを呼んでくるのだ。
86 :中島の改心劇 :2015/06/10(水) 22:33
わかっちゃいるけど、なってしまったものは仕方がないじゃないか、と早貴は言いたいが目が痒くてそれどころじゃない。鼻をかみすぎて、鼻の下が肌荒れしている。ヤケドも治っていない。泣きっ面に蜂だね、と言われても意味が理解できなくて首をかしげるしかない。弱り目に祟り目ってこと、と言い直される。わからない。見かねて他のメンバーたちも口を出してくる。もう、踏んだり蹴ったりって意味だよ。すっとこどっこいとか。類は友を呼ぶ、かっこアンラッキー版的な。ていうか要するにバカでしょ、わははは
。と盛り上がる面子を前に、早貴はティッシュペーパーを目にあてる。泣いているのは、花粉症のせいだ(中島談)。
そんななか、リーダーはやはり違っていた。姿が見えないと思っていたら、早貴に差し入れを買ってきてくれたのだ。早貴はますます涙があふれてきて、さっそく差し入れの品の封を開けさせてもらう。可愛いアザラシがパッケージデザインされたティッシュボックスからしっとりしたティッシュペーパーを取り出して、涙をふく。ついでに鼻をかみ、そして新しい一枚を取り出す。その様子を見て、リーダーは笑顔である。他のメンバーもなんだかんだ言って、花粉症の対策を教えてくれたり(もう遅いのだけれど)、よく効く薬をおすすめするなど気遣ってくれる。それらに感謝を述べながら、早貴は思いを新たにする。いつか海外にバカンスに行くときはみんなと一緒に行こう。一人でなんて格好つけようとするのは中島には合ってないんだ、と。
リーダーが今日の予定をみんなに周知して、最後に、来たるコンサートに向けて短く言葉をつないだ。ここまで毎日続けてきたことが大きな舞台へつながってきた。本番まで残りわずか。今日も目指す目標への一歩である。少しずつ進むことをこれからもみんなでしていこう、という朝から胸に迫ることを言ってくれるので、ティッシュの減りが加速する。
早貴は気合の鼻かみをひとつする。束の間だけれと、鼻のとおりがよくなる。早貴には目指す目標がたくさんある。自分の理想を叶えたい欲がある。そのなかのひとつが海外のお洒落なところに行くことだ。そのためにはまず早く快復すること。早貴は使ったティッシュペーパーを丸めてゴミ箱に投げ入れる。ゴミ箱には早貴の思いを反映したかのようにティッシュペーパーの山が着実に築き上げられていた。
87 :_ :2015/06/10(水) 22:35

88 :さくしゃ :2015/06/10(水) 22:48
>>82
コメントありがとうございます。
金澤・浜浦回のハロステにすべてが詰まっております。
続編は今のところ考えていないのです…。
89 :ぬん! :2015/06/26(金) 01:53
「ねえねえ、金澤ちゃん」
名前を呼ばれ、条件反射で体は動いたものの、耳に入った声は聞き慣れないもので、呼ばれた瞬間には相手の顔が思いつかなかった。
そこには小さい人がいた。モーニング娘。'15の石田亜佑美さんだった。

キラキラと光を反射している茶色い瞳が私を見上げている。ハロプロに加入して数年が経つが接点は無いに等しい。そんな年下の先輩が甘えたような声で、なんの用だと言うのだ。
「どうかしたんですか」
「うん。あのねえ」
ともじもじして、口ごもる。口の動きとか体の作りのトータルバランスが小動物めいていて、私は頬がゆるむ。
「なんです?」
「ウチね、実はぬんとぅんなんだ」
「なるほど。そうだったんですね」
私は、ちょっと失礼します、と断ってから石田さんの全身を子細に調べる。髪の毛をめくり、頭皮を叩いてみたり、ジャージを下ろして面積の小さいお尻を上から下まで視線を巡らせたり。ほっぺたを両手ではさんで上下に動かしてみても、おなかを拳で押し上げてみた。実感はない。
「石田さん、勘違いじゃないですか」
「本当だよ。ウチはぬんとぅんなの」
「そうかなあ」

家に帰り、この話を妹にしようとしたところ、自宅には誰もいなかった。夕食を過ぎた時間に帰宅したのだが、いつもならみんな揃っているはずの家族はいない。
私は部屋を駆けた。ケージを覗いた。灰色の毛をしたハムスターがいた。それからまた駆けた。
自室のドアを開けた。いない。バタンバタンと開け放たれたドアが壁にぶつかる音が夜の静寂に殴り込みをかけた。
結局、愛する我がペット、ぬんとぅんこと猫太郎は家のどこにもいないのだった。
90 :ぬん! :2015/06/26(金) 01:55
フッと力が抜けて、頭に送る酸素も無くなって、疲れてしまったので、私はベッドに倒れ込んだ。
スマホにメールが届いていた。
「明日はお世話になります。 愛理」
愛する我が先輩、尊敬する憧れの先輩に返信を済ますと、そのまま瞼をおろして、朝になった。

脳が目覚めを知覚し、それ私が意識したとき、おなかが押されていた。温かいそれによって。目を開けて、目玉だけを動かした。
胸の向こうに小さな山ができていて、それはニャアと鳴いた。
どんな目覚し時計も叶わない目覚めの音だった

私は両腕をぬんとぅんに伸ばして、ふわふわの毛並みに触れた。するとぬんとぅんはぽっちゃりした体の、ぽっちゃりしたほっぺたをもそもそと動かして、はっきりと言った。
「鈴木さんが泊まりにくるんだよね。ウチも一緒でいいでしょ」
私は両手をぬんとぅんの首までずらした。ぬんとぅんはまた鳴いたみたいだけれど、起き抜けの状態ではよくわからなかった。
91 :_ :2015/07/01(水) 23:59

92 :夏が来た :2015/07/01(水) 23:59
◇◇◇
夢を見た。

私はどこかのステージでライブをしていた。歌いながら、目をきょろきょろさせると、上手のほうにみやがいて、いつもみたいに長い睫毛の先までライトを浴びて、客席を自分のものにしていた。私はフォーメーションの都合で、客席から離れた位置、つまりステージの奥に笑顔はそのままで移動する。そこは野球で言うところのキャッチャーみたいに全体が見通せた。

梨沙子が真ん中にいて、その歌声をステージにも響かせる。振り付けは、歌う人を中心に考えられるから、私などはハンバーグセットで言うところのパセリみたいなものだ。隣の茉麻はどう思ってるのかな。左手のマイクは未だ活躍の場面を待っている状態。PAさんも楽だろうな。と、思ってたら、ユニゾンが来たよ。やったー。キャプテンと目を合わせて、ワンフレーズに緊張する。あとを引き取ったももなんかはお尻を振りつつ前に出ていくんだから、同じ年数を過ごしてきた感じがしなくて、私は笑顔でいるしかできなくなる。

が、不意に私は目を丸くした。あれ。ももの髪形が変だぞ。年齢に合わないだとか、見た目がおかしいだとか、かつてクソ味噌に言われてきた例のなんとか結びがさっぱり無くなっていた。いつの間に断髪したんだ、嗣永。
軽くなったであろう頭を振るたび、染めたことのない黒髪がさらりさらりと視界を横切った。
それだけのことだけど、私は笑顔を保つのに苦労した。
93 :夏が来た :2015/07/02(木) 00:01
◇◇◇
夢を見た。
今年の夏こそは海に行こう。私は日焼けするリスクも構わずに、海水浴という素敵なイベントに出かけたい旨を家族に主張した。ところがだ。誰も私に賛同しない。それどころかみんな同じ表情を浮かべており、どこか呆れていて、諦めていて、気まずそうである。曰く「水着はダメってことになってるでしょ」父も母も姉も妹もバズ・ライトイヤーも苦笑している。さらに母に至っては「リハーサルもあるんだからどうしたって無理」などと業界人ぶった挙句に溜息までつく始末。

数日後、私を除く姉妹はそれぞれ日を別にして、友達と海へ遊びに行った。毎年欠かさず行っている。小さい頃は無邪気に出かけ、長じるにつれて、申し訳なさそうな態度を見せていた彼女らは、近年は原点に戻って、なにも気兼ねせずに日焼けした笑顔で帰ってくる。

私も出かけた。水着の代わりにジャージが詰まったカバンがお供だ。目的地にビッグウェーブはあるのだろうか。家のドアをくぐり抜けて、歩き出す。
家族はそこを泳げない。
94 :夏が来た :2015/07/02(木) 00:02
◇◇◇
夢を見た。

青い空、白い雲、果てなく広がる大海原。照りつける太陽に眉をしかめる一方で、私の胸は高鳴っていた。眼前に迫る天然のプールが腕を広げて私を待ち構えていた。私は舞美を見た。彼女は浮き輪に空気を入れていた。20歳になっても彼女は優しく、可愛くて、間抜けだった。

空気入れを持ってきてくれるはずが、それは家に置き去りにして、水着を服の下に着てくることは忘れずに、はりきって湘南までやって来た。
舞美は浮き輪の空気挿入口に直接口をつけて、ふーふーとやっている。見よ、これが人間空気入れだ!とばかりに浮き輪があれよあれよと太っていく。私のも膨らませてくれて、こっちによこした。笑顔つきで。

毎年恒例の海遊び。来年も一緒に来ようね、と言ったら、波のせいで聞こえなかったらしい。聞き返すのをそのままに、私は砂浜を走った。
私は振り返らない。舞美はすぐに追いつくだろう。彼女の足が速いことはずっと前から知っている。
95 :夏が来た :2015/07/02(木) 00:03
◇◇◇
夢を見た。

オセロの駒が白半分、黒半分でできているように、世間というものには二つが合わさって一個になっているものがある。
私がここで、クリームと生地という二つのもので構成されているシュークリームを例に持ち出さなかったのには訳がある。シュークリームを噛じります。生地の中からクリームが見えます。その状態はすなわち、二つが一遍に目に入っていることを示すわけで、私が述べたい事柄からは離れてしまうのです。

つまり、オセロの駒は白を見たいときは白い面を、黒が良いときはひっくり返して黒い面にする。しかるに、どっちも一度には見られないという訳だ。
これと同じことが日本全国で多発しており、私の近辺では、主に東京は中野サンプラザで発生する。ステージに立っているときはライブを見れない。客席にいるときは客を見れない。ライブを見たければ映像を頼るしかない。シュークリームだ。

私の望みはこのシュークリームである。ステージにいる私、それを客席で見る私。どちらも一時に味わいたい。なんとも甘い幻想である。
因みに、客は美少女しかいない世界を見れるのに対し、美少女は美少女の少ない世界を見ざるを得ない現象をビジネスの結果と呼ぶ。
96 :夏が来た :2015/07/02(木) 00:05
◇◇◇
夢を見た。

YouTubeを止めて、電話に出た。相槌を何回か打って、わかったわかったをバイバイの代わりにして電話を切った。ホーム画面にPM06:30と表示されていた。それを見て、私はニヤけた。母に妨害されたYouTubeをあらためて再生する。
大学入学を機に両親がプレゼントしてくれたノートパソコンは、レポートを書くよりも、パワーポイントを作るよりも、アイドルのMVを見ることに電子回路を機能させた。

Berryz工房の最新シングルはなんと舞波がセンターに抜擢されて、私は情報を知ったのが電車内であったにもかかわらず、立ち上がり、ガッツポーズを決めて、駅近くのタワーレコードで初回限定盤から通常盤から全6種類を各5枚ずつ予約した。
しがない苦学生の身分ではそれっぽっちしか彼女たちに貢献できなくて歯噛みするのだが、握手会で舞波にセンターのお祝いを30回言ってあげられる喜びの前ではそれも霧のようにぼやけてしまった。おめでとう舞波。やっぱり頑張ってれば神様やつんくやプロデューサーは見てるんだね。
その日、私が興奮してしまって、寝付くのに苦労したことは言うをまたない。
そして、この日がBerryz工房が解散を発表するちょうど一ヶ月前だった。
97 :夏が来た :2015/07/02(木) 00:07
◇◇◇
夢を見た。

私の頭の上に声が降ってくる。「ちぃ、また寝てるよ」茉麻だ。「寝かしときな」これはみやだ。シャッターの音がして、誰かが隣に腰を下ろした。ソファの弾み具合からして、茉麻じゃなくてみやだろう。

みんなは昼公演後の休憩時間だというのに、なんと、ぐうたらくっちゃべっている。睡眠という古来から伝わる体力回復法を実践するという発想がないらしい。夜公演は千秋楽だから、客の期待も大きい。私は私のペースを乱さずに眠っていた。

「いやー、もうすぐ11周年かー」「まだまだ先でしょうが」「あたし数えてみるね」「いい、いい、やめて。自覚したら泣くから」「あー、わかる」「発表すんのが夏ハローじゃん?」「うん」「やっぱもうすぐって感じするよね」「うーん。あっと言う間だろうね」なんの話か全容が掴めない。声の調子が揃っているのが気になった。明るい振りをした暗いトーン。「無期限の活動停止ってねー」え。なんだそれは。雑誌の休刊みたいなものだろうか。で、なんの話だ。「メロンさんが解散したとき、ついにって思ったけど、ウチらもそう思われんのかね」「予想はある程度されてるでしょ」「でも、話し合った結果だから、さ」待て、だからなんの話だ。解散ってどこのウチらだ。横からも前からも上からも知らない言葉が行き交っていた。

さっきからあの声だけがしない。どうせまた一人でほっつき歩いているんだあのぶりっ子は。あいつを捕まえて話を聞こうと思うのに、私は瞼を開けることができなかった。
98 :夏が来た :2015/07/02(木) 00:08
◇◇◇
夢を見た。
アニメと言ったらプリンセスと冒険の物語、そうディズニーアニメ、あるいは友情と冒険の物語、そう、ピクサーアニメの私であるが、さすがにドラえもんはカバーしている。もっとも大人になるにつれてドラえもんからは卒業してしまったのだが。
ドラえもんのひみつ道具にもしもボックスなるものがある。

もしも、私がハロープロジェクトキッズのオーディションに落ちていたら。私以外の14人が今ごろハロプロ入りして、訳もわからないまま大人の言うがままに生きていくのだろう。そして10年経つと、色々あったけど幸せだとかなんとか言って泣くのだ。20歳を過ぎても子供だと評される私であるが、子供のままでいられる人間がいるのならば、世界はもっと無秩序で無邪気で清らかだっただろう。

電話が鳴った。どうやら私が応対する雰囲気だ。出る。習ったとおりにアップフロントがどうのと名乗って、相手の出方を見た。幼い声、緊張しているのか、しどろもどろである。オーディションがなんとか言っている。私はなんと答えるべきか。
大人に惑わされてない?
あなたはあなたの意思でオーディションを受けるの?
何年するつもりなの?
家族のことは考えてるの?
ふいに私は喉がつまった。伝えたい言葉をなにかがぎゅうぎゅう押さえつけた。
この子に憧れをもたらしたアイドルも、ただの大人の一員になっていた。
99 :夏が来た :2015/07/02(木) 00:09
◇◇◇
夢を見た。

三者面談という名のぶっちゃけ大会が学生時代で一番嫌いだった。教師だけでもイヤなのに、親までセットで私の本音を聞こうとする。
将来のことどう考えてるんだと教師が聞いた。正直に、なにも考えてないと答えると、教師は成績のデータ表に目を落とし、親からは頭をはたかれた。
同級生ははっきりとしたことを言わなかったけれど、その後の彼らを見ると、あの頃から進路を決めていたに違いなかった。

目の前のことすら霞がかっているのに、手も目も届かない世界のことを予測するだなんて、どうしてみんなはできたのかな。私の同級生たちは実は天才だったのかもしれない。
高校生になって、記念すべき最後の三者面談があった。もうこんな嫌な時間ともおさらばだ。最後だから私は真面目にプリントの進路予定という欄を埋めてやった。枠からはみ出るくらいに大きい文字で、アイドルという目的地を刻んだ。
18歳の私を欲しがる事務所はなかったけれども、アイドルになる気がない私は別に困らなかった。
100 :夏が来た :2015/07/02(木) 00:10
◇◇◇
夏が来た。

ついに、ついに、この瞬間がやって来た。手帳を開く。何度も繰り返した動作のために、折り目がついて、そのページはすぐに私の前に姿を見せた。
7月。一枚めくって8月。
見事に真っ白だ。予定がない。嬉しい。
実際はアドバイザーの仕事があるから、ちょくちょく会社に行かなくてはいけないが、それらを書き込むのはあとにして、まっさらな夏休みをしばし満喫する。

子供のときからコンサートに次ぐコンサートで、普通の子みたいに遊びまくりたいといつも思っていたものだ。ついに念願叶ったり!さて、どこに遊びに行こうかしら。
るんるん気分で想像の羽を伸ばす。しかし、ちっとも案が浮かんでこない。
空き時間がたくさんできて嬉しいけれど、なにぶんそれに慣れていない。13年もののハードはバージョンアップに手間取っていた。
仕方がないので、ぽけーっとした。頭が動くように、頭を空っぽにする。

そうこうするうちに、少しずつイメージが湧いてきた。
誰を誘おうか。
またぽけーっとした。ハロー以外の友人は平日は忙しい。土日に出掛けるのか。週末を24時間好きに使っていいものだろうか。
友人はあとまわしだ。
そうなると、私と予定が合いそうなのはキャプテンしかいない。
さて、どこへ行こうか。
せっかくの夏休みだ。行ったことのないところがいい。となると、答えは簡単である。

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