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その名前を呼べるなら

1 :ろっく :2012/05/05(土) 09:31
吉澤さんが主役のお話
12 :ろっく :2012/05/05(土) 09:43

髪の毛のセットが終わり、控え室を出て行くときも彼女は何度も何度も「ありがとうございました」と頭を下げた。

かなり梨華ちゃんのファンだったんだろうなぁー。
吉澤は笑顔で手を振りながら退室するメイクを見送った。

次に吉澤は自分のメイクを始める。
髪の毛はメイクさんにお願いすることが多いが、メイクは基本自分で行っている。

でももしあの子が本当にモーニング娘。に入っていたら…。
何かが色々と違う現在があったのだろうか?

梨華ちゃんは自分と同い年の後輩をどう思うのかな?
まあ私とごっちんみたいなもんか。
梨華ちゃんとあの子が仲良くなってたら、私と梨華ちゃんの関係性も今とは違うものだったのだろうか?
でも私たちは同期だしなぁ…
うん、あの子がいようと私と梨華ちゃんの関係性は変わらないはずだ。
いや、変わらせない。うん、そうしよう。
で、えっとー。

想像力豊かな吉澤は自分にとって都合よい答えを出すことで話題を次に変えようと頭を切り替える。

だけどもし…
「私がモーニング娘。じゃなかったらどうなっていたんだろ?」
話題の切り替えに失敗したのか、鏡に映る自分を見ながら吉澤はそう呟いた。

過去に何度となくそれを考えたことはあるし、石川とだってそれについて話したこともある。
その度に「まあ、もしもってことはありえないんだけどね」と笑いながら結論つけていたが、今日は少し先まで考えを巡らせた。
13 :ろっく :2012/05/05(土) 09:44

モーニング娘。じゃなかったら普通に高校に通って。
まあ面はいい方だ。
どっかの男子校の生徒(すんげぇイケメン)に告白でもされて付き合って。
まてよ、娘。じゃなかったらあの白熊時代はあったのかな?
うーん、なかったというテイで話を進めよう。
大学に進学して…何の仕事に就くのかな?
OLってガラじゃないだろうしなぁー。
というか家族は東京に引越ししていたのかな?

控え室の扉がガチャリと開く。
「お疲れー。どうした?珍しくそんな真剣な顔をして」
打ち合わせを終えたらしいマネージャーが戻ってきた。
「いやぁ、もし私がモーニング娘。に入ってなかったらってことを考えてて…」
「珍しく真剣」という部分にはあえて触れず、吉澤は返事をした。

「お前が娘じゃなかったら今ごろ結婚して子ども4,5人産んでるんじゃない?」
「えー結婚してんのかなー?結婚してる自分とか想像がつかない」
「確かに無理だな。ははは」
「おい失礼だな!」


笑うマネージャーにパンチするフリをしながら吉澤はまた考える。
もしもモーニング娘。に入っていなかったら…

果たして今の私は幸せな日々を送っているのだろうか?
14 :ろっく :2012/05/05(土) 09:46
続く
15 :名無飼育さん :2012/05/06(日) 01:12
面白かったどんな展開になるの?
16 :名無飼育さん :2012/05/07(月) 09:44
吉澤さんは心の奥の方が深いように思えることがたまにあります。
ふとした瞬間にこういうことを考えていそうです。
この話がどういう方向に進んでいくのか期待してます。
17 :ろっく :2012/05/09(水) 03:47


収録を終えた吉澤は、マネージャーと共に事務所へと向かった。
すでに石川も到着しているようだが、インタビュー取材を受けているとのこと。



「梨華ちゃんの取材ってまだかかります?」

近くにいた事務所のスタッフに尋ねてみる。
「うーんさっき始まったばかりだけど雑誌の取材だからそんなに時間掛からないと思いますよ」
「ちなみに何の雑誌?」

「月刊タイガース」

むむむ…と、吉澤は考えてからもう一つだけ質問をする。

「ちなみに阪神って今3位でしたっけ?」
「さあ…そこまでは把握してないので」

吉澤は時計を見た。
少なくともあと1時間はかかるかな。
仕方ない。仮眠でもして時間を潰すか。
まあ、最下位じゃなかっただけマシと思うことにしよう。
そんなんだったら一体何時間待たされることになっていただろうか…

比較的、石川との仕事が多い吉澤は、いつの頃からか阪神の順位だけはチェックをするようになっていた。
色々と気を使ってあげないと面倒臭いからね、あの人。

吉澤の頭の中にある『石川を扱うマニュアル』には阪神の順位と石川のご機嫌度を比例するグラフも掲載されているのだ。

18 :ろっく :2012/05/09(水) 03:49


待ち時間を仮眠にあてるため、吉澤はスタッフに断りを入れてから使用されていない応接室に移動した。
事務所の中でこの部屋のソファの寝心地が一番良いことを吉澤は知っている。

かつて娘時代、ここで居眠りしていて新曲のダンスレッスンに遅れたこともある。
それ以来、事務所で吉澤の行方が分からなくなると真っ先にこの応接室を探索されるようになったほどだ。


部屋に入って吉澤はすぐに違和感を覚えた。
あの最高に寝心地良いばすのソファがそこにはなかったからだ。
かわりに何やら怪しげなカプセルが置いてある。
吉澤は軽く舌打ちをしてから、他の部屋のソファを拝借しようかと考えたが、その怪しげなカプセルに少し興味を持った。

日焼けマシーン?いや、違うか。
スポーツ選手がよく使う酸素カプセルかな?

『DREM MACHINE』とボディに書かれてあるそのカプセルは確かに人が一人横たわれる大きさであった。
上に開くのであろう扉は閉まってはいたが、ガラス窓を覗いてみると枕ようなクッションも置いてある。

吉澤の選択肢に他の部屋のソファで寝るということはもうすでに消えていた。

うおーなんかかっけぇーかも!
これで寝てみたい!
好奇心旺盛な吉澤はこのカプセルで仮眠を取ることを決めていた。
19 :ろっく :2012/05/09(水) 03:51

さて、どのように使えばいいのだろうか?

カプセル全体のチェック始める吉澤。
機械系は得意と豪語するゆえ、例えそこに説明書が置いあったとしても読むようなことはしない。
説明書なんて女子供が読むものだ、というのが吉澤の考えである。
念の為に説明すると吉澤は女であるが…。

しかし
カプセルを一通りチェックしてみても、電源を入れる為のボタンどころか、差し込みプラグさえ見当たらない。

まさかの電池式?
寝そべってカプセルの下面までもチェックしてみたが、電池が入っていそうな箇所も見つからない。
どうやって電源を入れれば良いのやら…

仕方がない。
恥を偲んでスタッフに使い方を聞きに行くかなと諦めつつも、いや待てよ…と思いとどまる。

ダメ元でやってみようじゃないか。
幸いにもこの部屋には私しかいない。

例え間違っていようが、誰かに笑われることはないのだから。


誰もいないことを分かっているのにキョロキョロと室内を見渡してから、吉澤は静かにカプセルに顔を近づけた。


「開け…ゴマ…」


なんのリアクションも起こさないカプセルを前に吉澤の頬は赤みを増す一方だった。
20 :ろっく :2012/05/09(水) 03:52
「なんつって…」

1人頭をかきながら半笑いを浮かべる吉澤。
もしかしたら隠しカメラがあるのかもしれない、と考えての行動だ。

「ま、そんなんで開いてもこっちがビックリするけどね…」
一応の言い訳の弁を述べ、吉澤は改めてカプセルを眺めてみる。

ドリームマシーン
再結成時にラブマシーンを振付を一から覚えなおした時のことを思い出した。
ネーミングだけで会長辺りが購入したのだろうか?
どちらにしても扉が開かないのでは吉澤とっては興味の対象外の代物だ。

他の部屋のソファを借りるとするかな。
カプセルでの仮眠を諦めて吉澤は部屋を出る。
ドアが閉まる瞬間、何か機械音のような音がしたような気がするも、特に気にも留めずに他に空いてる部屋がないか探すことにした。
21 :ろっく :2012/05/09(水) 03:55


石川がインタビューを受けているらしい部屋の前を通った時に、ちょうどそのドアが開き石川と自分を担当するチーフのマネージャーが出てきた。

「あっ吉澤さん、お疲れ様です。お早いですね?」
「…は?」
「いやぁ、時間。19時ぐらいにお越しになると思ってたので」
「ってか収録終わってすぐにこっちに来たから…」
「今日も収録だったんですか、お疲れです。石川まだインタビューを受けておりまして。もう少し掛かってしまいそうなので…この隣の部屋でお待ち頂けますか?さ、どうぞどうぞ」

この後に石川と食事に行くことを知らされているのだろうか?
勧められるがまま、隣の会議室に通された吉澤はテーブルに荷物を置く。

「あと15分も掛からないと思いますので。もう少々お待ちください、でわ」
チーフマネージャーは吉澤に頭を下げると部屋を後にした。

ん?
もう少々お待ちください?
ってか吉澤さん?

最初に自分の名前を呼ばれたと聞から感じていた違和感。
そう、あのチーフマネージャーは自分に敬語を使っていた。
仕事の現場では場合によっては敬語を使ったり使われたりすることもあるが、基本フレンドリーに話している間柄なのに…ふざけていたのかな?
なんだか気持ち悪い。

22 :ろっく :2012/05/09(水) 03:56

いくつか並ぶ椅子の一つに腰を掛けてから時計を見る。
あのカプセルのせいで大事な仮眠時間を取られてしまった。
15分か。
ってか、この部屋ソファないじゃん!
んがぁー。

寝ることを諦め、携帯のメールをチェックしようとお尻のポケットを探る。
あれ?ない…
座った時に落としたかと思い立ち上がって下を探してみるも見当たらない。
テーブルの上のカバンを引き寄せて中を探ってみる。
ん?
手を突っ込んだところで当たった代物。
「何だ?台本?」
カバンを覗くとA4サイズの冊子が3冊。
普段は持ち帰ることはしないのに今日に限っては3冊も持って帰ってきたというのだろうか?
更にカバンの中を探るとiphoneは見つかった。
しかしメインに使っている携帯はカバンの中を探っても探っても見つからない。

やべ、収録の控室に置いてきたんだろうか?
いやまてよ。さっきの応接室か?

23 :ろっく :2012/05/09(水) 03:57

iphoneを手にとり、部屋を出ようとした吉澤の足が止まる。

ヘンだ…

手にしたiphoneは、吉澤が先日取り替えたはずのカバーではなかった。
誰かの間違えて持ってきてしまったのだろうか?
ホームボタンを押すと液晶に映し出された画像は、武道館で撮影したドリ娘。の集合写真ではなく、見たこともないキャラクターモノであった。

誰のiphoneだろ?と思いながらも、吉澤はロックを解除して、自分のパスードを入力した。
最後の数字を押す時に「パスワードが違います」という画面が出ることを想定しながら。

だが結果は違った。

なんなくとパスワードは認証された。
偶然にも同じパスワードなのか?
iphoneに入っているアプリも自分のとは違うものだ。

なんだ?なんなんだ?
写真フォルダにそっと触れる。
自分が撮った記憶のない写真。
でもその中に、映る見覚えのある顔。
自分の家族が移っている写真があった。

24 :ろっく :2012/05/09(水) 03:59

振るえる手で写真をスクロールする。
ほとんどが見覚えのない写真。

そんな中、一つの画像が映し出されて吉澤の手が止まった。
さきほどまで自分が収録していたスタジオで撮った写真。
みーよがラストの時に出演者とスタッフで撮影したものだった。

花束を手に笑顔の三好。
その隣には、同じく笑顔を浮かべていたはずの自分…

の姿ではなく、石川の姿があった。

吉澤はテーブルの上のカバンをひっくり返す。
ポーチやら小物やらと一緒にテーブルに落とされた3冊の台本。
その1冊を手に取る。

「そんなまさか…」
何度となく見たはずの番組ロゴではなく
『石川梨華の「トレンド+チャーミーナビ」』と書かれていた。

25 :ろっく :2012/05/09(水) 04:00


「ま、まさかのチャミナビ…」

とつぶやくのと同時に、部屋のドアが開く。

「すみません、お待たせしちゃいまして…」

そこにはチャミナビの司会者、石川梨華が立っていた。
石川を見つめたまま何の言葉も発せない吉澤に対して、さらに言葉を続ける。

「打ち合わせの前に、飲み物買ってきてもいいですか?そこの自販機なんですぐ戻ってきますから」
と走り去ろうとして「あっ!」と何かを思い出した石川。

「ってか何がいいですか?」
「へ?」
「吉澤さん、何が飲みたいですか?」
「吉澤さんって私?」
「他に誰がいます?」
と言ってフフフと笑う石川。

あー、こういう風に笑うよね梨華ちゃんって。
スタッフさんとか、どっかのお店の店員さんとかに対して。
つまりはいまいち打ち解けていない人に対して…。

現実を呑み込めていないながらも、吉澤はそんなことを考えていた。


26 :ろっく :2012/05/09(水) 04:02
続く
27 :名無飼育さん :2012/05/09(水) 11:59
うっかり声を出して笑ってしまいました。おもしろい。話の続きがとても気になります。
28 :名無飼育さん :2012/05/11(金) 06:05
これは期待
29 :ろっく :2012/05/19(土) 03:55
おそらく自分で飲むのであろうミルクティーと
おそらく吉澤のために買ってきてくれたのであろうブラックの缶コーヒーを手に、石川は会議室に戻ってきた。

「コーヒーでいいですか?」
と黒い缶を差し出された吉澤は
「いやミルクティーがいいです」
とは言えなかった。
内心は
「私がブラックの缶コーヒー好きじゃないの知ってるよね…」と思いながらも。

この短い時間の間でではあったが、吉澤は自身に不思議なことが起こっていることを理解していた。
チーフマネージャーと石川が自分に使う敬語。
カバンの中に入っていた『石川梨華の「トレンド+チャーミーナビ」』の台本。

もしかしたら「ドッキリ」なのかもしれないとも考えた。
だとしたら、このiphoneは何なのだろう?
ケースを代えることくらいはしたとしても、使用しているアプリや写真の中身まで変えられるのだろうか?

それでもまだドッキリの可能性がないとは言い切れない。
吉澤はカメラが隠されてるのではと室内をキョロキョロと見渡す。
部屋の奥の棚に、不自然に置かれている段ボールがあった。

さては、あの中にカメラがあるんだな。
仕方がない、騙されてやるかな。
吉澤は、ドッキリの茶番劇に付き合うことを腹に決めた。
30 :ろっく :2012/05/19(土) 03:57

「マネージャーがまだ雑誌の記者さんと打ち合わせしてて…先に始めちゃってって言われたんですけど…」
吉澤の対面の席に腰を掛けながら石川は言う。

「先に…始める?」
石川の様子を伺うように吉澤は声を出した。

「あ、打ち合わせ…。これ…台本ですよね?」
机の上に置いてある「チャミナビ」の台本を指さしながら石川も少し怪訝そうな顔をした。

「台本…だね…」
「見てもいいですか?」
「う、うん…」

台本を読み始める石川に続いて吉澤も台本を開く。
開いて最初のページには「MC 石川梨華」と書かれてある。

なるほど。
このドッキリは「もしもよっすぃーナビがチャーミーナビになったら?」という設定か。
このあたりで一発驚きの表情をしておかないといけないかもしれない。
段ボールのカメラに分かりやすいように吉澤は台本を二度見する演技をした。

出演者の欄には、上々軍団と村上の名前。
ここは変更なしか。
更にページをめくると、今度は演技なしで吉澤は台本を二度見してしまう。
31 :ろっく :2012/05/19(土) 03:59

「ディ、ディレクター…吉澤ひとみ?」
思わず声を出してしまい、不思議そうに吉澤を見る石川と目が合う。
分かった。そういうドッキリか。
それならそれで、そういう風に騙されてあげましょう。

「どうかされました?」
「私ディレクターなの?」
「ほかに誰がいます?」
「いつから?」
「さあ、そこまでは知らないですけど…。ところで明日は2本撮りなんですよね?」
「2本撮り?何の?」
「えっ、チャミナビですけど…」
「明日?」
「はい…」
「収録なの?ていうか、チャミナビって何?さっきから何なの?」
普段声を荒げるようなことをしない吉澤だが、ドッキリの落としどころを自分がキレるところだと想定し、眉間にしわを寄せながら石川を睨みつける。
突然声を荒げた吉澤に体がビクッとするも、石川は負けじと吉澤を睨み返す。

「な、何がですか!」
おー、梨華ちゃんの演技も力入ってるねー。
ここで私が机を叩きでもしたら、そろそろネタばらしの時間かな?

「だからさー、さっきから何なの?その話し方とかさぁ」
吉澤は台本を丸めて机を叩く。
32 :ろっく :2012/05/19(土) 04:01

「し、失礼な。生まれつきこういう声なんです!」
いやいや、それは知ってるし…。
ってか、話し方のことを言ってるわけであって。

「飲み物とかもさー私が缶コーヒーのブラックは飲まないことくらいあんた知ってるよね?」
「だったら、私が何を飲みたいか聞いた時に言ってくれればいいじゃないですか!」
「そもそも何で敬語なわけ?キショイよ」
「え?」
「敬語とか…キャラに合ってない…ってあれ?」
石川は吉澤を睨みつけながら目に涙を浮かべていた。

な、何なの?
ドッキリごときでその演技力。
えっと…ど、どうすりゃいいんだっけ?

「確かにメンバーからもキショイキショイって言われます。自分でもわかってますキショイキャラだってことぐらい。でも何で吉澤さんにそんなこといきなり言われなきゃならないんですか!」

石川の涙にあわてた吉澤は、自身の頭の中にある『石川を扱うマニュアル』のページをめくる。
泣いた時は…えっと、、、えっと…後ろから抱きしめときゃいいんだっけか?

いや違う。これはドッキリだ。
やべ、一瞬設定を忘れるとこだった。
「いや、ごめんごめん。言い過ぎた…」

石川の「涙」という武器に素直に騙されそうになりながらも、吉澤は平静さを取り戻す。
33 :ろっく :2012/05/19(土) 04:02

次にどう攻めていくかと考えていたところに突然、着信音が響き渡る。
石川から視線を外し、自分の(ものと思われる)iphoneの液晶を見る。
そこには、吉澤の知らない名前が表示されていた。
iphoneの番号はごくわずかの親しいの友人にしか知らせてはいないのに…。
もしかして石川がドッキリに協力するにあたって教えたのだろうか?

「電話…出ないんですか?」
なおも吉澤を睨みつけるような視線のまま石川はiphoneを指さす。
吉澤は恐る恐るiphoneを手に取った。

「もしもし…」
「おい吉澤…ちゃんと台本通りに進めろよ…」
「ど、どちら様ですか?」
「は?何言ってるのお前?」
「何で…この番号知ってるんですか?」
「知ってるもなにも…」
「ふざけんの、いい加減にして下さい!」
相手の返事を待たずして吉澤は電話を切り、再び正面に座る石川を睨みつける。

もうネタばらしの時間だ。
面白く撮れていなくてもいい。

「よ、吉澤さん?大丈夫ですか?」
心配そうに吉澤を見る石川。
そんな姿にも吉澤はイラついていた。
34 :ろっく :2012/05/19(土) 04:05

「大丈夫じゃねーよ。もういいよネタばらしで」
「ネ、ネタばらし?」
「だぁーかーらぁー、はい、出てきていいよ」
「な、何が…」
「はぁー、赤ヘルでもかぶった人がスタんばってんでしょ?ドッキリのプレート持って」
「ド、ドッキリ?」
今度は石川が驚く。
その姿に吉澤はニヤリとする。

「とっくにバレてたよ。やり方が下手なんだよ」
「ド、ドッキリなんですか?」
「うん、でしょ?そこの段ボールにカメラ隠してあるんでしょ?」
「え?そうなんですか?」
吉澤が指さした段ボールに近寄り、箱の中を開ける石川。

「あっ!本当だ!カメラがあるー!」
段ボールから隠しカメラを見つけた石川は照れる顔を両手で覆いながら「すっかりダマされちゃったな」と呟く。

あらら?
何かが違うぞ?

「吉澤さんが急に大きな声出したりするから…私ビックリしましたよ。あっ、これもしかしてチャミナビで放送されちゃうんですか?」
「は?」
「でもね、ちょっと変だなとは思ったんですよ。マネージャーさんが先に打ち合わせしててって言うし…そもそも何でチャミナビの打ち合わせをうちの事務所で行うのかな?って…」

そこで会議室のドアが開く。
そこには赤いヘルメットを被り、ドッキリのプレートを持ったさわやか五郎の姿が…。
「チャミナビどっきり大作戦」
と叫びながら相方の鈴木とカメラクルーを引き連れて会議室に入ってきた。
35 :ろっく :2012/05/19(土) 04:06

吉澤は訳が分からなかった。
私をドッキリに嵌めたなら、私を映しやがれ。
ってか何でみんな梨華ちゃんに駆け寄る?

「もおーやだぁー!私泣きそうになってたのにー」
「いやぁー当初とは違う内容になっちゃってこっちが焦っちゃいましたよ〜ディレクターさんが逆ギレするパターンになっちゃうとは」
と言いながらチラッと吉澤を見る五郎。

「でもまあとにかく、石川さんを騙せたということで、はい!じゃあみんなで一緒に」
「「「大成功〜!」」」
の掛け声で収録は終わった。

番組プロデューサーやチーフマネージャーも笑いながら会議に入ってくる。
二人とも石川に近寄って「いいリアクションだったよ」などの声を掛けている。

そんな様子を吉澤は呆然と眺めることしか出来ずにいた。
ドッキリだと思い込もうとしていただけなのかもしれない。
どこかで分かっていたはずだ。
うん、このiphoneの中の写真を見たときにはすでに。

これは夢なのだろうか?
夢としか考えられない。
自分の頬を抓ってみる。

痛い。

もう少し強く抓ってみる。

もっと痛い。

どうしていいのかわからなくなった吉澤はとりあえずこの部屋を出ようと自分の荷物をまとめた。
36 :ろっく :2012/05/19(土) 04:07

「あっ吉澤」
気づかれぬようそっと部屋を抜け出したかったが、プロデューサーに呼び止められた。

「お前なんで台本通りにやらないんだよー」
口調は厳しいものの、笑っている表情を見る限り、叱られるというわけではなさそうだ。
そうすぐに怒る人ではないことも吉澤は知っている。
なんせ1年以上一緒に番組をやっているのだから。

「す、すみません…」
この不思議な現状を呑み込めていないながらも、本来とは違う流れになってしまったのであろうことを吉澤は詫びた。

「まあいいや。で、どうする?お前このまま会社戻る?ってか顔色悪くないか?」
「あ、いえ…大丈夫っす…」
ちっとも大丈夫ではなかったが、そう答えることしか出来なかった。

「まあずっと編集やらロケで家に帰れてなかっただろ?もういいよ、今日はこのまま帰れよ」
「はい、じゃすみません。お先に…」
一刻も早くこの場から立ち去りたくて、吉澤は挨拶もそこそこに部屋を出た。

37 :ろっく :2012/05/19(土) 04:09


エレベーターホールにつき、ボタンを押す。

「吉澤さん!」
よく聴きなれたその声は、ちっとも聴きなれない呼び方で吉澤の名を呼んだ。

「すみませんでした。ドッキリだったとはいえ…なんか…きつい言い方しちゃって」
部屋を出ていった吉澤を慌てて追いかけたのだろうか。
息を切らしながらも石川は丁寧に頭を下げた。
その姿を見て吉澤は涙が出そうになる。

自分に対して他人行儀な石川の姿に。
それでも普段と変わらない生真面目な石川の姿に。

「あとこれ、吉澤さんの携帯じゃないですか?」
机の上にiphoneを置きっぱなしにしてしまったようだ。
石川の手には、先ほど自分のカバンから出てきたiphoneが握られている。

「はい」

石川の手に触れないよう気を付けながら吉澤が携帯を受け取るのと同時にエレベーターの到着を知らせるランプが点灯した。

「じゃ、お疲れ様でした」

梨華ちゃん…
これ夢なのかな?
それともまだドッキリが続いているのかな?
みんなふざけてるだけだよね?

石川に呼び止められてから吉澤は色々な疑問を石川に投げかけたかった。
38 :ろっく :2012/05/19(土) 04:10

「吉澤さん?エレベーター来てますよ?」
先ほどから自分を見つめたまま微動だにしない吉澤の姿に石川も不思議な顔をする。

梨華ちゃん…
梨華ちゃん…
梨華ちゃん…



「りっ!…」

石川の名を呼ぼうとして言葉に詰まった。
自分のことを吉澤さんと呼ぶ石川を、私は何と呼べばいいのだろうか?

「吉澤さん?大丈夫…ですか?」
心配そうに吉澤の顔を覗き込む石川に背を向けて、吉澤はエレベーターに乗り込んだ。

「大丈夫です…お疲れ様でした」


今の私は「梨華ちゃん」と呼ぶことは出来ないんだ。
その現実を寂しく思った。
その現実が悲しかった…。

39 :ろっく :2012/05/19(土) 04:16

1階のボタンを押して扉が閉まるその直前…
それでも吉澤はこれだけは言わなくてはと「開」ボタンを押した。

「え?どうしました?他に忘れ物でも?」

閉じかけた扉が再び開いたことに驚く石川に、吉澤はゆっくりと頭を下げた。


「こちらこそすみませんでした。ドッキリとはいえ…いし…石川さんに失礼なことを…。せっかく買ってきてもらったのに…缶コーヒー置いてきちゃったし…」

顔を上げて吉澤は力なく、それでも精いっぱいに笑顔を作った。


世界がどうであれ、石川に対しては誠実な態度でいたかった。
呼び方が違えど、石川に対しては素直でありたかった。


「いや、吉澤さんが缶コーヒー飲めないこと知らなくて…ごめんなさい」
吉澤の笑顔に石川も笑顔で答える。

「じゃ、お疲れ様でした」
「お疲れ様です」

エレベーターの扉が閉まって、吉澤の笑顔は崩れる。
頭を下に向けると、ずっと耐えていたはずの涙がこぼれた。

その閉ざされた空間の中で、吉澤は今までに感じたことのない孤独と戦えずにいた…。

40 :ろっく :2012/05/19(土) 04:17
続く

>>15 >>16 >>26 >>27
コメントありがとうございます。
大変励みになります。
41 :ろっく :2012/05/19(土) 04:22
失礼しました。

>>26ではなく>>28の方へでした…。
42 :名無飼育さん :2012/05/19(土) 06:50
おお?意外な展開
43 :名無飼育さん :2012/05/19(土) 11:55
そうゆう意味だったのか!続きを楽しみに待ってます。
44 :ろっく :2012/06/16(土) 05:05
事務所を出てすぐに、手にしたiphoneの連絡先から母親の携帯を探す。
これから先何をどうすればいいのかまったく見当がつかなかった。
とりあえず家に帰ろうかと思ったが、果たして今この世界における自宅はどこなのだろうか?

見つけ出した番号は確かに母親のモノだった。
でもこの母親はあの母親なのだろうか?
このわずかな時間で吉澤は全てのことに疑いを抱くようになっていた。
当たり前のことが当たり前ではないこの世界に。

「もしもし?」
普段と変わらない母親の声が聞こえた途端、一度おさまったはずの涙が再びこぼれる。

「…っく」
「どうしたの?ひとみ?」
「お母さん…」
「やだ泣いてるの?何かあったの?」
自分を心配してくれる母の愛情が嬉しいのに切ない。
芸能界に入る前に、父と約束したことを思い出す。
お前がやりたいならやればいい。
だけどこれだけは守れ。
家族に迷惑をかけさせたとしても心配だけはさせないでくれと。

今の自分の状況は間違いなく家族を心配させる。
どこまでどう話せばいいのか。
私なぜか芸能人ではなくてディレクターになってるんだけど…
間違いなく病院へ連れて行かれるだろう。
45 :ろっく :2012/06/16(土) 05:06

「お母さん私…」
「何?どうした?」
「何か疲れてるみたいで…色んなことが分からない…」
「ちょっと…いまどこなの?」
「事務所…じゃなくていやその…」
「とりあえず帰ってらっしゃいよ」
「どこに?」
「どこって…家に」
「…家ってどこ?」
「…ひとみ?大丈夫なの?」

結局、母親には記憶が混乱していると伝えた。
分かることと分からないことがあると。
母親から自宅の住所を聞いたが、それは今まで住んでいた家とは変わらないようだ。
タクシーで帰る旨を伝えて電話を切った。
カバンの中から財布を取り出す。
今自分が使っていたはずとは違うデザインの財布。
中身を確認してから吉澤はタクシーを止めた。


タクシーの中で携帯のメールを確認する。
差出人はほとんどが知らない人からのものだった。
ロケやら編集やらの文字が並ぶ。
今の仕事関係の人なのだろう。
中には、すでに連絡が途絶えていた中学時代の友人からのメールもあり混乱していた吉澤を少しだけ嬉しくさせた。
46 :ろっく :2012/06/16(土) 05:08

一通りメールを確認し、窓から外の景色を眺めながら吉澤は今日の出来事を振り返っていた。
よっすぃーナビの収録を終え、事務所に向かった。
そこまでは変わらない世界だった。
仮眠しようと応接室に入った。
そこで変なカプセルを見つけた。
でも使い方が分からなくて部屋を出て…マネージャーに会った。
あの時から世界が変わっていたんだ。
とすると、原因はやはりあの怪しげなカプセルだろうか?

ふと、収録の時に担当してくれたメイクさんのことを思い出す。
モーニング娘。のオーディションを受けたというあのメイクさん。
彼女がモーニング娘。に入っていたら…とあの時色々と考えていたはずだ。
で、もしも私がモーニング娘。じゃなかったらと考えて…

吉澤は携帯を再び操作する。
webブラウザを立ち上げて「モーニング娘」で検索をかける。
オフィシャルサイトは今はどうでもいい。困ったときのwikipedia。
吉澤はで震える指を目的のサイトをタッチした。


表示される画面をゆっくりとスクロールさせる。
現在のメンバーはどうやら変わっていないようだ。
問題の旧メンバー。
3人ずつ横並びで表示される名前。
福田明日香・石黒彩・市井紗耶香・
卒業した順番に表示されているようだ。
47 :ろっく :2012/06/16(土) 05:09

安倍なつみ・辻希美・加護亜依・
飯田圭織・矢口真里・石川梨華・
と表示され指が止まる。

紺野あさ美・小川麻琴・藤本美貴・


分かってはいたが自分の名前はそこにはなかった。
グループ編成の項目を見ても
2000年4月16日【4期】石川梨華、辻希美、加護亜依 加入
と書かれている。

この世界は私がモーニング娘。に加入しなかった世界なのだと吉澤は確信した。
なぜそうなったのかはわからない。
でも私はその世界に来てしまったのだ。

もう一度年表を見てみる。
他のメンバー加入や卒業には一切変わりはない。
脱退メンバーも同じであった。
そのことは吉澤のこわばった顔に少しだけ笑顔を取り戻してくれた。
48 :ろっく :2012/06/16(土) 05:10

家に到着しお金を精算しているとマンションから母親が出てきた。
車を降りた娘に「大丈夫?」と一言だけ声をかける。
吉澤も精一杯の笑顔を作って「なんとか…大丈夫」とだけ答えた。
お互いそれ以上の会話はしないままエレベーターに乗り込んだ。


家では食事が用意されていたが、吉澤はそれを丁重に断りお風呂に入った。
湯船につかりながら考える。
今までいたあの世界には戻れないのだろうかと。
事務所の応接室にあったあの不気味なカプセル。
『DREM MACHINE』と書かれたあれが、もしかしたら自分がこの世界に来てしまうきっかけを作った装置だったのではないだろうか?
だとしたらもう一度あの装置を見に行く必要がある。
でも自分は今はあの事務所に行く理由がない。
いや待てよ。
私が今、梨華ちゃんの番組を担当しているスタッフだとするならば何らかの機会で事務所に行くチャンスはあるかもしれない。
そのチャンスを逃してはならない。
記憶を失っているという状況では両親は仕事を辞めさせてしまうかもしれないが、それだけは阻止しなくては。
吉澤は決意新たに湯船を出た。
49 :ろっく :2012/06/16(土) 05:12

自分の部屋に戻る前に隣の部屋のドアを開ける。
一つだけ確かめておきたいことがあった。
もしも私がモーニング娘。じゃなかったら…。
あの時何度もそう思った。

真っ暗部屋。
手探りで部屋の電気を付ける。
数年前から変わらぬその部屋は、同じ年数だけそこの主がいないことを告げていた。
正直、「もしかしたら…」という思いがあった。
この世界に来て唯一の希望でもあった。
あの時何度も思った「モーニング娘。ではなかたとしたら」という人生。
それであの子が戻ってくるならその世界だって構わないと。

背後に誰かが立つ気配と同時に「ひとみ」と父親の声がした。
「大丈夫か?」
母からすでに自分の状況を聞いているのであろう。
心配そうに吉澤の肩をさすった。
「うん、大丈夫」
吉澤は振り返ることなくそう答えた。
「明日…病院へ行こう。父さん仕事休んだから。一緒に行こう」
「うん」
「今日はもう寝なさい」
「お父さん」
「ん?」
「私、お父さんのことも、お母さんのことも…覚えてるよ。ちゃんと…こいつのことも…忘れてなかったよ」
「そうか…」
「うん…それだけは忘れてはいない…」

モーニング娘。にならなかった自分も同じ分だけ悲しんだのだ。
この世界でも自分の悲しみは計り知れないものだったのだろうと、吉澤はこの世界の自分に少しだけ同情をした。
50 :ろっく :2012/06/16(土) 05:12

翌朝、朝から両親に付き添われて病院に向かった。
職場には母親が体調不良のため休ませると電話を入れてくれた。

最初に脳神経外科で問診を受ける。
医師からの質問には「異常だ」と思われない程度に受け答えをする。
自分の名前や家族のことは分かる。
生活に必要なことはだいたい覚えている。
今の仕事や知人などが分からないと。
51 :ろっく :2012/06/16(土) 05:13

「昔のことはどの辺りまで覚えていますか?」
「昔っていいますと?」
「小学校とか中学の頃とか」
「あー、中学生の頃のことは覚えています」
「高校は進学されたんですか?」
うまく答えられず吉澤は隣に座る母親を見る。
「はい、中学からそのまま同じ高校に」
私そのまま進学したんだ、と吉澤も驚く。
「では、高校時代の記憶は?」
「中学までのは覚えているんですけど高校は…ちょっと」
「その頃のお友達のことは?」
「うーん、何となくは」
「そうですか…ご両親にお伺いしたいのですが、この頃なにかひとみさん事故とかにはあっていないですか?または大きな環境の変化とか」
「いや…特には」
心配そうな顔をしたまま母親が答える。
52 :ろっく :2012/06/16(土) 05:14

「しいて言えば、アイドルのオーディションを受けたいって言い出して…」
驚いた吉澤は母親を見る。

「私受けたの?オーディション」
「ひとみそれは覚えてるの?」
「モーニング娘。でしょ?」
「うん。で、ほら書類審査が通って…でもお父さんが事務所に勝手に断りの電話入れて…ひとみ怒って1カ月お父さんと口聞かなかったじゃない」
父親の顔を見ると申し訳なさそうに頭を下げられた。

そんなことがあったとは。
あの時確かに父はオーディションを受けることを反対していた。
でも確か自分で毎日説得をして…そのうちに父が折れてくれたはずなのに。

「私、受けたいってお父さんに何度も言わなかったっけ?」
「最初のうちはね。でもそのうち、もういいやってひとみも諦めて」
何ということだ。
自分が諦めた途端に私はモーニング娘。になる道を絶たれたのか。
53 :ろっく :2012/06/16(土) 05:15

「ひとみさんはなりたかったんですか?アイドルに?」
医師からの質問に吉澤は何も答えずにいると母が変わりに答えていた。

「実は今この子が担当している番組がそのモーニング娘。だった子が司会をやっていて」
「ほほう」
「で、先日こんなことを言ってたんです。あの時お父さんが勝手に断ってくれて良かったかもって。だって石川さん、あっその番組の司会が石川梨華さんって方なんですけど、彼女見てたらつまらなそうな人生だからって。もしモーニング娘。になってたとしたらあの人と上手くやっていけてる自信ないし、元モー娘。っていう肩書きは今結構きついかもって」
「お母さんそれは違う!そんなことはない。私、梨華ちゃんとは上手くやれたしむしろ仲良かったし、それに梨華ちゃんは今の人生を楽しんでる」
「ひ、ひとみ?」
「私だって娘。にもし入ってたら今の人生を楽しんでたし、元モーニング娘。という肩書は誇りに思うし。だからそれは違う。私が言った発言だとしてもそれは違うよ」
興奮する吉澤をなだめるように医師が二人の間に割って入る。
「まあ、まあとにかく。もしかするとひとみさんはこのことを後悔していたのかもしれないですね。とにかく一度CTスキャンを取ってみましょう」
54 :ろっく :2012/06/16(土) 05:16

吉澤は悲しかった。
この世界の自分はそんな風に石川を見ていたということが。

梨華ちゃんがつまんなそうな人生を歩んでるだと?
ふざけるな。
梨華ちゃんのことをよく知りもしないくせに。
吉澤め、てめぇー許さんぞ。
いくら私とはいえ、モーニング娘。をバカにしやがって。

よし決めた。

モーニング娘。がいかに素晴らしいのか。
石川梨華という人物がどういう人なのか、この世界の人たちに教えてやろうじゃないか。
スキャンの空洞の中、吉澤は天井を睨みながら決意した。
55 :ろっく :2012/06/16(土) 05:17

結局CTスキャンでは異常は見つからず、「ストレスによる一過性健忘」との診断を受けた。
一時的に記憶を失っている状態。
たいていの人は一日二日で元に戻るとのことだが、吉澤はそれを信じたわけではない。
何としてももう一度あの応接室に行かなくては。

「あのぉ、仕事は出来るんでしょうか?」
薬の説明が終わった医師に吉澤は声を掛ける。
「ストレスからきている可能性が大きいですからね、記憶が戻っても少しお休みをされることを勧めます」
「そうよひとみ。今の状態で仕事しても皆さんに迷惑かけるだけよ?」
「記憶が戻らなかったらどうなるんでしょうか?」
「スキャンを見る限り脳の異常ではないと思われます。しかし原因が分からないことには治療のしようもないので…。断言はできませんが多くの方は2日もしないで記憶を取り戻されます。それを待ってから判断しましょうか」
「はい」
「では明後日またお越しください。記憶が戻っても…万が一戻らなかったとしても」
元の世界に戻らなかったとしたらまた来ます。
吉澤は心の中でそうつぶやいた。
56 :ろっく :2012/06/16(土) 05:18

病院から父は職場に向かい、母親と二人家に戻った吉澤は、中学を卒業してからの自分の人生の話を聞いた。

高校に進学し、大学進学は成績的に無理だと言われたとのこと。
あー娘にならなくても私バカだったのだなと自覚する。
コンビニやら喫茶店やら色々なところのバイトを転々としていたようだ。

「何で私テレビの仕事をするようになったの?」
「バイト先が取材されたとでひとみが色々とロケの準備を手伝ってたら『君、要領いいからADやらないか?』って誘われて」
「そうなんだ…」
「お母さんすぐ辞めるかと思ったけど長く続いてるわね」
「みたいだね…仕事どうすればいいんだろ?」
「先生がおっしゃる通りならすぐに記憶戻るみたいだから…ひとみもあまり心配しないで今は仕事のことは忘れてゆっくり休みなさい」
「もし戻らなかったら…」
「その時はその時で考えましょう。今はね、疲れてるのよあなた」
57 :ろっく :2012/06/16(土) 05:19

「お母さん、今更ながら変なこと聞くけど」
「ん?」
「私、そのぉ…結婚してないんだね?」
「っぷ…そうね。結婚はしてないわね」
母はクスクスと笑った。

「彼とも別れちゃったみたいだし?」
「えー?」
「何よ急に大きな声出して」
「あたし彼氏いんの?」
大きい目をさらに見開いて吉澤は母に尋ねる。
「ひとみあまりそういうことお母さんに話してくれないから詳しくは分からないけど…」
「そ、そうなんだ…彼氏と別れたんだ」
「それが原因なのかなってお母さん思ってたんだけどね、ストレスの」

見たことない彼氏を想像してみる。
どんな人だったんだろうか。
まあ、顔はいい人だろうな。絶対に。間違いない。
そういや写真とかないのかな?あとで探してみよう。

この世界でも自分が面食いであろう自信だけは持っている吉澤であった。
58 :ろっく :2012/06/16(土) 05:20
続く
59 :ろっく :2012/06/16(土) 05:22
>>42 >>43 コメントありがとうございます。

言い忘れておりましたが、
たぶんこの作品しいていえばいしよしです。
60 :名無飼育さん :2012/06/16(土) 20:51
そうでしたか!楽しみにしてます。
61 :名無飼育さん :2012/07/03(火) 11:12
この作品好きです。更新楽しみにしています。

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