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続飼育支部

1 :みおん :2011/12/04(日) 17:18
今回はゆるゆる更新です、たぶん。
またも小ネタ中心になると思います。
81 :愛されパターン :2012/02/22(水) 22:03
道重さんがコンサートのステージで発した言葉。
「私の中では菅谷梨沙子ちゃんは殿堂入り。だからどんなメイクしてても注意しないであげて欲しいの」
願ってたことなのに、なぜかさびしい。冷たいって思う。

桃が道重さんに続いてテレビに呼ばれるようになった。
会社もチラシなんか用意して配ったみたい。これはあとで桃から聞かされた話。
「かわいいのにどうしてそんな濃い化粧をするの」モーニング娘。の先輩たちの声を思い出す。
私は人間だよ、人間だから化粧するんだよ。言いたいことを我慢して、孤独になるのを怖がってた。
周りの人の声はずっと変わってない。変わったのは私。
歌い方、立ち振る舞い、表情の作り方、声、身長、体重、そしてお化粧。

このままじゃダメ、このままでいい。0か1しか考えられなくなっていた。
0から1になるために、大変な努力をしてきたじゃない。
化粧をほんのすこし薄くしてみる。鏡の中の自分がいつもと違うように感じる。
すこしだけ、ありのままの私を愛してみようと思えた。
そうすれば、きっとさびしさも乗り越えられる。

 END.
82 :さゆみは乙女なの :2012/02/24(金) 19:53
 さゆみはいつものように真性野放しスレを眺めている。たまに書き込むこともあった。最近は釣ったり仕事したりで忙しく、時間がない。これだけ他人に面白いと思ってもらえる文章を書けるのだから、気分がいい。性格は悪い、とは自覚していた。カメラのレンズを通して人間観察する。心地よい時間。盗撮じゃないの、あとで表情を見るためなの。確認するためなの。カメラ目線なんていらないの。視線があるってことは作ってる表情なの、そんなのいらないの。そんなの見たいと思わないの。心の中で一人愚痴る。自分では面白いことを言ってる自覚はない。こう言われたら嫌というような相手の情報を調べるだけだ。思ってることと反対のことを言うだけ。簡単なこと。言い訳するぐらいなら努力するさゆみは性格いい、そのまま言ったら面白くない。面白い文章を発表しようと思うなんてある意味変態なの。みんなそれに気づいただけなのに認めたくないんだろう。さゆみを変態扱いして楽しんでるんだろう。スレ住人と一緒に楽しみたいが、写真を撮ったりブログ更新したり仕事したりで忙しい。今回の春ツアー中に二回も武道館がある。リハーサルは入念に行う。まだ体力筋力が整ってないメンバーもいる。さゆみも大変だったと思い出した。大好きな先輩がいる。けれど踏み込みたくないと思うのは、さゆみが邪な好意を持っているから。プライベートも忙しいんだろうと勝手に決めつけて行動を起こさせないようにしている。オーディションに受かってよかったのだろうか。もしかしたらテレビの前で応援し続けたほうがよかったのかもしれない。こんな思いをするぐらいなら、絶対に手の届かない存在として見つめ続けていたほうがよかったのかもしれない。そんなさゆみんの隣で私は本音を聞いてみたい。
83 :僕は彼女の幸福を知りたい :2012/02/24(金) 23:52
 僕が公園に着いたとき、中澤さんは隅のベンチにぼんやりと座っていた。冷たく暗い夜空に、小さくて白い月が浮かんでいる。「裕子さん」「待ったで」「すみません」視線が下に動く、座れといわれているようだ。密着しない程度に近づいて腰を下ろす。木が冷たかった。こんな場所でずっと待っていてくれたのだと思うと、目から汗が流れそうになる。中澤さんはピタッとした白いシャツにかっちりとした黒いジャケットを着ている。白いシャツが肌の色に似合うと思った。そそられる。「話ってなんや」呼び出したのは僕だった。すっかり忘れていた。「質問があるんです」「ふーん」僕のことはもう見ていない。「裕子さんは胸板のしっかりした男性と巨乳の女性、どちらが好きですか」「その質問なんやの」「いいから答えてください」「どうせわかっとんのやろ」やっぱり、と思った。それでも僕は一縷の望みにかけたかった。「重ちゃんはそうでもないで」「そんなことは聞いていません」明らかにムッとした、その横顔がかわいいと思った。でも言わない、教えてあげない。「あんなぁ、あの子の気持ちそっとしてあげて欲しいねん」「裕子さんはどうするんですか」「何かすることあるんか」ない、と思った。してあげられることは何もない。それでも僕は中澤さんの幸福を知りたい。
84 :僕は道重さんを知りたい :2012/02/25(土) 01:54
 公園から自転車に乗って帰ってきた。自宅に戻ったのは、中澤さんを途中まで送った零時過ぎ。誰もいない、と思った自転車置き場に黒髪の少女がいる。少女だと思ったが、よく見ると童顔の成人女性だ。化粧をしている。薄暗い電灯の下、薄紅色のグロスがキラキラと光を発しているように見えて、思わず目をそらしたくなった。「あなたですか」「は?」「中澤さんの男って」「違いますよ」男なんているはずないじゃないか。イライラする。幼い思考のまま成人した女性と話すのはつらいものだ。しかし夜も更けて帰りが遅くなったら、誰かにこの子が襲われてしまうかもしれない。ここは冷静に送り届けよう。それが紳士というものだ。「君、家どこなの。時間遅いし近くまで送るよ」「大丈夫です」「そう言われても心配だよ」「大丈夫ですったら!」「名前も教えてくれない人にそんなふうに拒否られるのは心外だ」ハッと目を開くと「ごめんなさい」と素直に謝ってくれた。案外いい人なのかもしれない。「すみません、突然話しかけたのはこちらなのに」うん、ちょっと勢いでここまできただけなのかもしれない。「私、道重といいます」「えっ」「えっ?」「ああ、いや」そうか、この子か。「今日は遅いから帰ったほうがいい。今度はちゃんど太陽が空にある時間に」「そうですね、何やってんだろ私」「恋してる女性は何をしでかすかわからないと昔から言われてるし」「そうなんですか?」「そうだね、結婚した男はよくそういうことを言うね」笑った、二人して笑った。僕は道重さんの気持ちを知りたいと思った。
85 :定期目次 :2012/02/25(土) 01:59
お米の話(ゆゆマコ)>>2 おなじきもち(ゆゆこは)>>5 スイートルーム(やすみよ)>>7-8 radar>>11-14 
坂で逢いましょう>>17-19 「いっしょに月をみよう」(やすみよ)>>20-21 おひとりさま(ゆゆあや)>>22-24 
恋愛革命2011>>25 論考『娘。小説とはなにか』――自分へのいましめ>>26-28 
見えない影(坂で逢いましょうの続き)>>29-32 月のさびしさ(ゆうちょ)>>34 
Cat and Chocolate(ゆゆさゆエロ)>>35-41 のりあう>>42 生き長らえる橋>>43 
カンジんなしごと(なかよし)>>44 憧憬(りかみき)>>45-47 プロポーズ大作戦(やすみよ)>>48-49 
賽は投げられた>>50 ゆるい放物線を描く(℃)>>51-52 須藤茉麻が痩せた理由>>53
夢みるあたし(憧憬の続き)>>54 道のしっぽ(見えない影の続き)>>57-61 大雪の話>>62
ドジでノロマなヒヨコです>>63 深淵(道のしっぽの続き)>>64-65 うえ に ある(深淵の続き)>>66-67
春はまだ先に>>68-76 愛されパターン>>77-81 さゆみは乙女なの>>82 僕は彼女の幸福を知りたい>>83
僕は道重さんを知りたい>>84
86 :僕はこの場の平和を願わずにはいられない :2012/02/27(月) 19:00
 目が覚めてからすぐに携帯電話を手に取り時間を確認する。午後一時か、寝すぎた。昨夜は色々あったから疲れたのだろう。中澤さんから聞く彼女の呼び方は何通りかあって、重ちゃん、さゆ、さゆみちゃん、道重さん、これらが同じ人物を指していると気づくのにだいぶ時間がかかった。炊飯器には昨日の残りご飯が二人前あった。いや、外にラーメンでも食べに行きたい。カップラーメンも買いにいかなきゃいけない。
 どんよりとした雲が空を覆っている。昼間とは思えない暗さだ。自転車に乗り、駅近くまで出る。ご飯を食べたら久しぶりに古本屋に行ってみよう。予備校の裏にとめ、近くのラーメン屋に入ろうとする。おや、あれは昨日ぶりな道重さんじゃないか。隣に同い年ぐらいの茶髪の女の子もいる。どうせ彼氏がいるんだろうな、やれやれと思いながらラーメン屋の暖簾に手をかけた。「あ! 昨日のお兄さん!」僕は女だ。まあよい、よく男と間違われる風貌だし服装もそうだし、声も低い。ここは男のフリをしてナンパするのもいいかもしれないと近づいていく。「さゆー、この人女性じゃないの?」「いやいや、えり何言ってんの」「いやいや、さゆこそ何言ってんの」「僕は女です」「ほらぁ、さゆが間違ってんじゃん、むふっ」変な笑い方をする女の子だと思った。中澤さんの周りにいる女の子は変な子ばかりだ、保田と三好とか石川と吉澤とか。「君たち、ケーキ食べたくないか?」「はい!」「食べるー」彼女たちのキラキラした瞳と笑顔に騙されてつい「おごるよ?」と言ってしまったので、近くのファミレスへ向かうことにする。
87 :僕はこの場の平和を願わずにはいられない :2012/02/27(月) 19:00
 席に案内されて座ると二人ともぶつぶつ文句を言っていたようだが注文時には「さゆみはレアチーズケーキ」「えりはショートケーキ」「あ、二つともセットでお願いします」元気になっていた。「二人ともミルクティーで」「それときのこのクリームスパゲッティー」店員は注文を繰り返すと、少々お待ちくださいと言って店の奥に消えた。「お兄さん、じゃなくてお姉さんだったんですね」「そうだね」「すみません」「君の人生にそんなに重要なことだったかな」「どっちでもかっこいいです」「あの、この子は親友で」「あはー、亀井っていいますぅー」「さゆとえり?」「はい。中澤さんのことも知ってます」「えー、なんか進展あったの」注文したケーキセットとスパゲティーがきた。皿と皿がぶつかり、ショートケーキの一部がテーブルの上に倒れた。あっ、と言う暇もなく手で支えようとしたが、倒れる方が早くケーキの上に僕の手がむにゅっとのめりこむ。最低だ、僕。僕って最低だ。白いクリームがなんともいえない。指にべっとりとついた白い生クリーム。これを二人が見ている前で拭き取らなきゃいけないなんて、恥ずかしくて死んでしまいそうだ。「あーあ、いけないんだぁ」絵里は笑いながら僕を責める。僕はこの場の平和を願わずにはいられない。
88 :春空を待つダ・カーポ :2012/02/27(月) 20:27
ふと思い出して、よっすぃ〜から貰ったCDのビニールテープを外した。
あたしが買ったCDのも同じように。それで、一枚をノートパソコンにセットする。
この間、先輩の保田さんが教えてくれたパソコンで音楽を聴く方法その一。
歌詞カードを手にとって、ベッドにごろんと横になった。
小さな音楽が聞こえてくる。もう少し音量あげようかな。
怖いんだ。彼女の声が聴こえることへの恐怖。
小さなメロディにのせて、小さな彼女の声が聞こえてくる。
ハッとするような、優しい声。
耳の奥に蘇る、彼女との会話、記憶していた彼女の顔、表情、行動。
高音が優しく頭に響く。
だれかが紡ぐあいのうた、だれかが描くあいのうた、だれかが抱きしめるあいのうた。
そして、今あたしが聴くあいのうた。彼女が歌うあいのうた。
イキイキと動き出す記憶の中の彼女。
それだけじゃなかった、あたしの感情がゆるやかに動き出していくのも感じられる。

――重なり合わなくても孤独じゃない、と知った。

東京で見る星も、ふるさとで見る星も同じだと教えてくれた。
そんな歌詞が、心をじんわりとあたためていくように感じる。
いつのまにか胸の奥底まで音もことばもあたしに沁みていた。

 END.
89 :みおん :2012/02/27(月) 20:30
りかみき(たぶん) 憧憬>>45-47 夢みるあたし>>54 春空を待つダ・カーポ>>88
90 :聖・少女領域 :2012/03/03(土) 17:47
二限目の講義が終わると、二号館の脇をすっと入って図書館脇も通って七号館へ行く。
たまに少人数講義が行われる程度で、小さなサークルのたまり場にもなっている。
でも、ほとんどの学生はこの場所に来ることはない。
さゆみは、階段で三階まであがるとトイレに入り、奥から二番目の個室をノックする。
トントントン。
三回ノックしてまた二回、トントン。
ゆっくりと扉が内側から開く。
「待ってました、道重先輩」
ふたのしまった洋式トイレに座る後輩、譜久村聖ちゃん。
未成年なのに、白い肌とほどよい太さの体が悩ましい。
「お昼ご飯、食べましょう?」
さゆみはこくりと頷くと、彼女に抱きついた。
「フクちゃんの肌、気持ちいい」
「先輩のお肌もおいしいです」
そういうと、いつものようにさゆみの首筋を舐める。
あ、と小さく声が出て身体中に電気が走ったようにビリビリする。
後輩の顔を見ると、真っ赤な舌がふっくらした下唇の端から端へゆっくりと動く。
舌が這うと、濡れて桃色が際立った。
あまりにもおいしそうだから、さゆみの唇を柔らかくおしつける。
隙間から少しだけ舌を出すと、ちろちろと後輩のを舐める。
91 :聖・少女領域 :2012/03/03(土) 17:47
「……あまい」
「みずき、先輩が来るまでアメを舐めてたので」
ふふっ、と笑う。
「欲しいですか」
ジーンズのポケットから飴玉をひとつ取り出すと、自分の口に入れた。
と、さゆみの首をなでおろしてから手を置くとキスをするように唇を押しつける。
器用に口から口へと飴玉を押し込まれた。
「こうするとみずきの味もわかりますよね」
「……うん」
92 :聖・少女領域 :2012/03/03(土) 17:47
「あまり長居すると本当のお昼ご飯、食べ損ねますよ」
「ううん、たぶん食堂空くからちょうどいいと思う」
「じゃ、先輩また」
「またね」
後輩は優しく微笑む。さゆみも微笑んでドアを閉めると、中からガチャっと鍵をかける音がした。

食べたのはどっち? 
……食べられたのはどっち?

空しい疑問は頭痛の種になるだけ。
トイレから出ようとすると、長い黒髪の女子学生とすれ違った。
次の客がいるのね。
ほどなくトントントンと三回ノックし、またトントンと二回ノックする音が小さく聞こえた。
さゆみは振り返らない。

 END.
93 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:40
1997年11月30日。
インディーズ『愛の種』を手売りで5万枚達成した日。


中学生1人に高校生2人。
大人になろうとする私。裕ちゃんの隣りなら心地よい、と気づいた。

同じホテルで暮らしてるから、プライベートのことも話しやすい。
年頃の女性2人が話すことといったら、やっぱり恋愛っしょ。
ふとした仕草や会話の内容から、彼女が同性に恋したことあるかもと思った。
私が同性と付き合ったことあるからなのかもしれないけど。
異性に対しては妙に世間知らずなのに、同性に対してはやけに詳しい。
でも、間違ってたら嫌だから言い出しにくい。私が追求されるのも怖いし。
慣れない関西弁で怒られたら、怖くて話せなくなるかも。
94 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:40

95 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:40

「なぁ、知っとるか?」
「何を?」
96 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:40

97 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:41

いつの間にか私たちはプライベートではタメ語になっていた。

「ちゃんと仕事できるんやから、こういうときぐらい普通に話そうや」

裕ちゃんがこう言ってくれたとき、すごく嬉しかったのを覚えてる。
さびしいんやもん、なんて甘えてくれて可愛かった。
男性スタッフには絶対甘える仕草とか声とか出さないのに。
楽屋ではなっちに甘えたり、仕事以外の場でも私に甘えたり、不思議な人。
だから、もしかしたら、って考えが頭の中ぐるぐるしてた。
98 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:41

99 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:41

「あんな、うちら2人で一緒にいると付きおうてるみたいに見えるらしいんよ」
「えっ」
「あ、こういう話、気持ち悪かったらごめんな、先に言うとけばよかった」
「いや、全然大丈夫。私、女の子と付き合ったことあるし……」
「え、そうなん? ウチも、まぁ、な……で、なんや事務所が変な噂、立てられんうちに」
100 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:42

恥ずかしがってなかなか視線を合わせないまま、喋り続ける裕ちゃんを見る。
可愛いなぁ。ほんと可愛いなぁ。

「話、聞いとるん?」
「あー、裕ちゃんって可愛いなぁ」
「……アホッ!」

顔真っ赤にして、裕ちゃんはその場を立ち去った。
悪いことしちゃったなぁ。
3日後、私たちはホテルを後にし、事務所が用意した別々のマンションへと移り住んだ。
101 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:42
 
102 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:42

プライベートで話すことは、ない。
だって、裕ちゃん、電話苦手なんだもん。携帯でかけてもなかなか出てくれない。
楽屋で会ったら話すこともあるけど、やっぱりしづらいじゃない。恋愛の話とかさ。
というか、和田さんの前では絶対に無理だと思う。
103 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:42
 
104 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:43

3人の追加メンバー、明日香卒業、そして3期メンバー追加オーディション。
刻々とモーニング娘。も、そのまわりも状況が変化していく。
忙しいながら、男性と恋愛をしていた。気づかれなかった。
……裕ちゃんにも。
3期オーディション中に、和田さんに卒業の意を伝えた。
結婚を前提としたお付き合いをしていて。
切り出すと、そうか、とだけ言われた。それじゃあ卒業の理由にはさせられない、とも言われた。
今はアイドルなんだ。いいか石黒、おまえはアイドルなんだぞ。
迷った末、服飾デザイナーになる、という話で落ち着いた。
105 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:43
 
106 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:44

3期メンバーと会う前に、裕ちゃんには話しておきたい。
彼と打ち合わせもあり、時間は夜中。まだ起きてるかな、電話に出てくれるといいな。

「もしもし」

すごくイラついた声で焦る。

「もしもし、彩です」
「ん、結婚のことやろ」
「ごめん、先に話さなくて」
「ええよ、和田さんからリーダーやから先に話とくな、言われて知っただけやし……」

107 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:44

彼女の声がどんどん小さくなっていく。寂しいんだろうな。
追加メンバーは若い子ばっかりだし。やっとカオリとなっちが18になった。
あ、でも追加メンバーの保田さんとは仲いいんだっけ。
私も保田さんも、裕ちゃんをめぐって遠慮し合ってたからなぁ。

「ありがとう。あのね、父に言われたことがあるの」
「んー?」

幼い頃、父を亡くした裕ちゃんに伝えたいことがある。

「おまえが女の子と付き合ったことも無駄じゃなかったんだな、って」
「ほーか、よかったな」
「お父さん、孫の顔、見れないと思ってたから、って」
「うん、うん」
108 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:44

いつの間にか私の目からは涙が落ちていた。笑って話せることだと思ってたのに。
彼女の声は電話越しに、落ち着いたトーンでとても優しくなっている。

「……裕ちゃん、裕ちゃんが矢口を好きなことも無駄じゃないんだからね」
「ん、ありがとな。明日も早いし寝るわ」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみ、また明日な」

彼女が仕事以外で電話に出たことは、その一回だけになった。
卒業してから、テレビで裕ちゃんが矢口にキスしたりふざけあったりしてるところを何度か見た。
ねぇ、矢口と付き合えなくても、その気持ちは無駄じゃないんだよ。

また彼女と夜中に電話したいと思った。

 END.
109 :あおてん :2012/03/09(金) 19:12
石黒&姐さんきてたー
110 :なごり雪も降る時を知り :2012/03/14(水) 01:25

「おねーちゃんっ!」
さゆみには妹がいる。正確にいうと、本当の妹じゃない。。
公園で写真を撮ってたら、フレームの中に勝手に入ってきた女の子。
いつのまにか仲良くなっていた。とても甘えてくる子なの。
彼女の名前は、譜久村聖。さゆみはフクちゃんと呼んでいる。
やたら無邪気な高校生かと思っていたら、まだ中学生だそう。
現代っ子はとても発育がいいなと、自分の胸を見て思う。
111 :なごり雪も降る時を知り :2012/03/14(水) 01:26

外出先でカメラを持っているさゆみを見かけると、彼女は声をかけてくるようになった。
進路のこと、恋のこと、色々相談された。フクちゃんが言うには、さゆみに話しかけやすいんだって。
中学を卒業したら、遠くの高校に進学しなきゃいけないとは聞いていた。
どれぐらい遠いの? って聞いたら、電車に三十分、新幹線に乗り換えて終点まで。
たぶんフクちゃんはどのぐらい遠いのかわかってない、と思う。

近いですよね、すぐ会えますよね、って何度も確認してきたから。なんで聞いてきたかもわかった。

好きな子ができたから。ショックだったな。そうだよね、そういう年齢だよね。
112 :なごり雪も降る時を知り :2012/03/14(水) 01:26

「どんな子なの?」
「後輩の子なんです、笑顔がちょっとかたいんですけど」

彼女の頬が真っ赤になっていくのが可愛らしい。

「へー、いいじゃん、いいじゃん。告白したの?」

弱々しく首を振ったフクちゃん。

「女の子が女の子と付き合うって変、ですよね?」
113 :なごり雪も降る時を知り :2012/03/14(水) 01:27

びっくりしたけど

「……でも卒業したら」

会えなくなるかもしれないのに。

「いいんです、わかってます。みずきの気持ちなんか押し付けちゃダメだって」
「自信なくしたら可愛くないよ? もう撮ってあげないよ」

驚いた顔になったフクちゃんは、ちょっとした沈黙のあと声を出して笑い出す。
さゆみも大声を出して笑った。
114 :なごり雪も降る時を知り :2012/03/14(水) 01:27
 
115 :なごり雪も降る時を知り :2012/03/14(水) 01:28

受験には合格したけど、告白は結局しなかったフクちゃんを送り出す日。
小さな無人駅のホームに一人電車を待っていた。

「フクちゃん」
「あ、おねーちゃん来てくれたんだ」
「そりゃあ来るよ、心配だもん」

うん、と二人して頷き合う。

もうすぐ電車が来るね。うん、おねーちゃん。なぁに。もう会えないかもしれないの。

唇だけが小さく動く。

声は聞こえなかった。電車がホームにちょうど到着したから。
フクちゃんは大きな荷物を持って電車に乗り込む。背筋がピンとして、大人びた女性になっていた。
116 :なごり雪も降る時を知り :2012/03/14(水) 01:28

目の前を小くて白いものが落ちてくる。雨じゃない……もしかして、雪?
雲一つない青空なのにひらひらと舞い落ちる。白く、白く、さゆみの視界を奪っていく。
ううん、これは桜の花びら。駅舎近くに植えてある、桜並木の花びらたち。
電車がホームを発車すると、フクちゃんが窓から顔を出した。

「おねえちゃん、またね」
「うん、また会おうね」

微笑んだフクちゃんは、とてもきれいになっていた。
ファインダーを覗こうとした時には、遠くに小さくなっていた。

 おわり
117 :みおん :2012/03/14(水) 01:33
>>110-116は狼で書いたもの
ttp://hayabusa3.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1331163693/

>>109 あおてんさん
武道館前に、と思いまして
118 :一杯のコーヒー :2012/03/16(金) 02:15
二十一世紀が来ても、同性愛を取り巻く環境は変わらない。
いつの時代にも雨があがれば、虹は青空に見えるのに。まだ雨はあがらない。

保田は安倍を連れて買い物に来ていた。マンションの一室に転がり込んでから一週間。
まだ寒さは厳しい。外出するたびに春を待ち遠しく思うのは誰でも一緒だろうか。
なかなか家に帰らず、三好がイライラしている。二人とも声には出さない。
いや、出せない。それでも、いつかいなくなるものと思うから接することができる。
中澤にも電話する暇がないことを保田は情けなく思っていた。
三好には田中れいなという子からちょくちょく連絡が入っているようだった。
保田はその子をよく知らず、三好は中澤のことも安倍のこともよく知らずにいる。
「なっち、今夜はハンバーグ食べたいなぁ」
隣を歩く安倍が、にこやかにそして無邪気に呟く。
「ね、圭ちゃんも食べたいでしょ」
「ちょっとさ、喫茶店寄らない?」
「いいよ。ガキさんのコーヒー飲みたかったんだ」
119 :一杯のコーヒー :2012/03/16(金) 02:15
 
120 :一杯のコーヒー :2012/03/16(金) 02:16
二人で坂を下る。赤いレンガに暗緑の蔦が這った喫茶店が見えてくる。
笑顔の素敵な女店主は六月までに『ハニホへト』をたたんでしまう。
まだ時間はある、あと少ししか時間がない。
時間の捉え方は様々で、来店はいつもと変化がないとも聞く。
店内は改装してあり、クリーム色の壁と落ち着いた焦げ茶色の木で支えられてるかのように見える。
木の床や小さく明るすぎない照明が心地よい。
けして回転率がいいわけではない。だが、その心地よさに惹かれて喫茶店に訪れる客は多い。
二人もそうだ。保田は本日のおすすめコーヒーを二つ頼むと、やっと落ち着けると思った。
壁にポスターが貼ってある。五月中旬にピアノの演奏会。
「なっち、ピアノの演奏会だって」
保田は指でポスターを示した。
「え、どこで!?」
手で遊んでいた安倍は驚いた顔になり、保田が示すポスターを見る。
「ここでやるんですよ。はい、本日のおすすめコーヒー二つ」
「ありがとぉ。ね、ガキさん本当にやめちゃうの?」
「はい」
女店主はにっこり微笑むと力強く話し始めた。
「いやー、友達から久しぶりに連絡があって、一緒にやりたいことだったんで」
「えー、ここじゃダメなの? なっちさびしいよ」
121 :一杯のコーヒー :2012/03/16(金) 02:16
「そんなことないですよ、安倍さんにはこんな素敵なお友達がいるじゃないですか」
「うーん」
短く唸る安倍に保田は慌てて対応する。
「ちょっとちょっと、なっち!」
「それに、安倍さんには中澤さんがいるじゃないですか」
ガキさんはいつもと同じ優しい声。なんとなく耳に入っているかもしれない、と保田は思った。
裕ちゃんここに来たかもしれないなさびしくなったのかな、と安倍は思った。
「なっち、新垣さんはこう言ってるよ。うちに帰ったらどう?」
保田は落ち着いたトーンで安倍を諭す。新垣のおかげだ。
「え、安倍さんどうしたんですか? おうち帰ってないんですか。心配してますよ中澤さん」
「そうかな……」
不安そうな声で下を向いた。
「おいしい料理つくってあげられるの、安倍さんしかいないじゃないですかぁ」
すみません、とカウンターの客が新垣を呼んだ。
「はーい、いま行きまーす! じゃ、ゆっくりしていってくださいね」
来た時と同じようににっこりと微笑む。
「なっち、おうち帰ろうかな……でも怖いの、なっち怖い」
安倍の言葉と真剣な表情に、保田はまだまだ問題は山積みだと理解した。
とても一杯のコーヒーでどうにかなるようなことではないと。

 END.
122 :みおん :2012/03/17(土) 00:27
シリーズもの
坂で逢いましょう>>17-19 見えない影>>29-32 道のしっぽ>>57-61 深淵>>64-65 うえ に ある>>66-67
一杯のコーヒー>>118-121
123 :可愛いは必要なの :2012/03/21(水) 21:42

さゆみはいつものように楽屋で大きな鏡を眺めてたの。鏡にうつるさゆみを眺めてたの。
世界一可愛いアイドルだから、どの角度が可愛いか前髪をどう下ろしたら可愛くなるのか研究してるの。
可愛いにも勉強は必要なの。鏡の前でうんうん頷いてたら、ガキさんが楽屋に帰ってきたの。

「ねぇねぇ、鏡は何からできてるか知ってる?」

わかってるなの! ガキさんバカにするななの! えーと、えーと金属なの!

「ガラスだよ。なんかね、歪みのない可愛い心が必要なんだって」

やっぱり鏡なの、さゆみを裏切らないの。素晴らしい。

「さゆも鏡になっちゃえば? 素直に可愛いと思うさゆなら、きっと素敵な鏡になれると思う」

それもいい話なの! わかった、鏡になる!

「いいねぇ、それでこそさゆみんだよ」
124 :可愛いは必要なの :2012/03/21(水) 21:42

ガキさんはニコニコして、さゆみの洋服を脱がしたの。全裸なんてさゆみでも恥ずかしいの。
スマイレージのめいめいぐらいしか許されてないの。溶けちゃう!
体も全部とろっとろっになっちゃいそう。いつものことでしょとか言わないの。
あれは萌えとけてるだけなの。今は萌えてないの。自分に萌えてる? そうとも言うの。
さゆみの体……熱くなっちゃう。こんな体じゃ癒せないの。

冷やされてる。ううん、どこか冷たくてツルツルしたものの上にさゆみ乗せられてるの。
いやーん、冷たぁい。ガキさん、どうにかしてよう。
文句を言おうとしたら、よくわからないうちにつかまれてたの。
誰かの手の中にさゆみがいる! 見えない、見えないよ、ガキさん。
125 :可愛いは必要なの :2012/03/21(水) 21:42

「でーきたっ。カメー!」

えっ、えりがいるとか聞いてないよ。ガキさんひどいの。
可愛いさゆみをさっそくえりに見せるなの。

「うへへぇ、会いに来ちゃったぁ」
「これ、この前言ってた可愛いメガネ。カメにプレゼント」
「えー、なんかこれ歪んでなぁい?」
「素材が悪かったのかもしれないね、さゆみんに文句いっといて」
「わかったぁ」

さゆみの気持ちには不必要なものが多すぎた。

おわり
126 :卵殻 :2012/03/24(土) 23:39

料理を作るときに必要なもの、食材、調味料、時間、おしみなくかける手間、愛情。
そして、調理道具。
今日は何を作ろうか。時間あるし、お菓子もつくっちゃおっかな。
台所に立つ前にエプロンをつける。そうや、これも必要やん。
うーん。冷蔵庫の扉を開けて悩んでまう。卵、牛乳はある。カルシウム摂らなあかんかったんやっけ。
若いのに骨で初めての症例やし。魚を積極的に摂るよう事務所から指示されている。
愛佳は何もせーへんのに。いや、何もせーへんかったからあかんのか。一人愚痴る。
卵、牛乳、そして砂糖は控えめに。簡単に作れる甘味、プリン。うん、これでええわ。
牛乳を計量カップに入れて、卵はボウルに割り入れて牛乳と混ぜ合わせる。
よく混ざったらこしきで材料をこしながら、小さなカップへ適量を注ぐ。
材料は混ぜあわしかたが大切やん。おかし作りには欠かせない、粉ふるい。
プリンにはないけどな。だまになったまま、ずっといってもうたら失敗してまうもんな。
オーディションだって、ラジオだって、リーダー選出だって。仕事に関わることはそうや。
人間をふるいにかけとんのや。9、10期がその意味わかるようになるまで時間かかるんかな。
愛佳は時間かかったほうやない、と思う。自分で自分のことはようわからんもんなぁ。
考えても無駄かもしれへん。……ようできたら、明日差し入れしよかな。
今はわからんくても、ただただプリンを美味しいと思うだけでもええ。ひよこはいつか成長するんや。
さぁて夕飯はどないしようかな。
127 :人という生き物 :2012/03/25(日) 23:40

スマートフォンという便利な携帯端末がある。
あたしも使ってるし、梨華ちゃんだって使ってる。
今まで流通していた端末をガラパゴスケータイと呼び出したことは記憶に新しい。
時は流れ、スマートフォンも進化した。折り畳めるようになった。
しかも液晶への強度も増した。また回線状況も整備された。
車だって進化している。太陽電池や次世代のエネルギーが出てきたのだ。
環境に優しいエコカーが増え、今までの車はガラパゴスカーと呼ばれている。

機械は進化したが、人間の動作は昔と何一つ変わらない。
あたしが道路沿いで右手を軽く挙げるとタクシーが停ってくれる。
運転手に行き先を告げて、ポケットからスマートフォンを取り出し操作する。
ガラケー時代と変わらないのはバッテリー問題だ。
調べたいことがあってもバッテリーの有無で躊躇することもある。

人の行動もそう変えることはできない。
姐さんが結局結婚できないことや重さんによる後輩へのセクハラ。
それに圭ちゃんがレズバーに行って色白巨乳フェムにフラれること。
あたしはメンバーのこれらの問題を聞くことにいつもためらいがある。
相談は受けるし、答えは返すけど。
晴れの日があるからそのうち雨も降る、と歌ってきたように。今までもこれからも。

あたしは思う。
人というのは情けないことになかなか変わることができない生き物である。
128 :みおん :2012/03/25(日) 23:49
tp://hayabusa3.2ch.net/morningcoffee/kako/1331/13316/1331655738.html
狼のこのスレに載せたものそのままとか改稿とか
可愛いは必要なの>>123-125 卵殻>>126 人という生き物>>127
129 :定期目次 :2012/03/25(日) 23:58

お米の話(ゆゆマコ)>>2 おなじきもち(ゆゆこは)>>5 スイートルーム(やすみよ)>>7-8 radar>>11-14 
坂で逢いましょう>>17-19 「いっしょに月をみよう」(やすみよ)>>20-21 おひとりさま(ゆゆあや)>>22-24 
恋愛革命2011>>25 論考『娘。小説とはなにか』――自分へのいましめ>>26-28 
見えない影(坂で逢いましょうの続き)>>29-32 月のさびしさ(ゆうちょ)>>34 
Cat and Chocolate(ゆゆさゆエロ)>>35-41 のりあう>>42 生き長らえる橋>>43 
カンジんなしごと(なかよし)>>44 憧憬(りかみき)>>45-47 プロポーズ大作戦(やすみよ)>>48-49 
賽は投げられた>>50 ゆるい放物線を描く(℃)>>51-52 須藤茉麻が痩せた理由>>53
夢みるあたし(憧憬の続き)>>54 道のしっぽ(見えない影の続き)>>57-61 大雪の話>>62
ドジでノロマなヒヨコです>>63 深淵(道のしっぽの続き)>>64-65 うえ に ある(深淵の続き)>>66-67
春はまだ先に>>68-76 愛されパターン>>77-81 さゆみは乙女なの>>82 僕は彼女の幸福を知りたい>>83
僕は道重さんを知りたい>>84 僕はこの場の平和を願わずにはいられない>>86-87
春空を待つダ・カーポ>>88 聖・少女領域>>90-92 真夜中の電話>>93‐108
なごり雪も降る時を知り>>110-116 一杯のコーヒー>>118-121 可愛いは必要なの>>123-125
卵殻>>126 人という生き物>>127
130 :さよならを知らないままで :2012/04/01(日) 16:20
男性と女性が出会い、恋に落ち、結婚して子どもを産み育てる。
人間としてごく普通の生き方だ。

それができない人もいる。同性しか愛せない私たち。
いや、同性しか愛せなくたって結婚したいし家族になりたいし、子どもだって持ちたい人もいる。
恋愛の相手が同性だからっておかしい、と言われるのはなんでだろう……。
131 :さよならを知らないままで :2012/04/01(日) 16:20
 
132 :さよならを知らないままで :2012/04/01(日) 16:21

メンバーの一人が自分だけの家族を持つ。
武道館ライブの開始から鐘の音とメンデルスゾーンの結婚行進曲、それにウェディングドレスを模した衣装。
一曲目はハッピーサマーウェディングを歌う。
打ち合わせを聞いた時に、やっぱり結婚するんだと思いながら聞いていた。
本人からもその時に報告があった。既報のとおり結婚すると。もう準備も進めている。
裕ちゃんはずっとドリームは続くんやでずっと活動してく、と言ってた。
だから、安心してついてこられた。熱愛報道が出ても結婚報道が出ても。
あの時と同じように心がちくっと痛む。あの時はみーよがそばにいた。
133 :さよならを知らないままで :2012/04/01(日) 16:21
 
134 :さよならを知らないままで :2012/04/01(日) 16:21

今は北海道に行ってしまって、会えない寂しさもある。
裕ちゃんならわかってくれるって思い込んでたのかな。結婚しない道を理解してくれてる、って。
梨華ちゃんもよっすぃ〜も触発されたみたいだから、相手がいるなら結婚は近いのかもしれない。
あーあ。本当に独りになるなぁ。なっちもよくわかんないし。
まだそばにいればなぁ。すぐに電話かかってきて一緒に食事しましょうか? 
なーんて、あったかもしれないのに。
あんまり仲良すぎて離れさせられた一面もあるから、愚痴メールぐらいだったかも。
今ごろはみーよに諭されて泣いてたのかもしれない。そんな空想もするだけむなしい。
信じて一緒に活動してたから、武道館ライブ最後のMCで泣いたんだもん。
裕ちゃんのことは好きだよ。ハグしてくれたことないけど。LIKEであってLOVEじゃないのになぁ。
135 :さよならを知らないままで :2012/04/01(日) 16:21
 
136 :さよならを知らないままで :2012/04/01(日) 16:21

……あれ? もしかしてドリムス。で相手がいないの私だけ?
ううん、私にはまだみーよがいる。距離は遠いけど、裕ちゃんだって福岡の人と結婚したんだし。
ただ札幌と東京にいるだけ。そう思えばいい。
だって、出会ったのは偶然でさよならも偶然かもしれないけど、今度会う時は必然だもん。

春は卒業の時期、そして新しい出会いの時期。新しいことを始めるとき。
好きな人と一緒にいられるために、い続けるための努力を今までしたことがなかった。
同性愛はどうせ結ばれることはないからって。何もしないで結ばれることなんてない。
それは異性愛だって同じだ。
仲間を引き留める努力ができるんだって知らなかった少女時代。
そして恋愛でも引き止める努力ができなかった二十代。
一緒にいたいと願い、努力をし続けなかったから、離れ離れになったんだ。
引退なんて選ばせない。みーよの努力を無駄にしない。
今度こそ、永遠のさよならは知らないままでいたい。

 END.
137 :はるなの :2012/04/04(水) 21:38

今日は、道重さんとは別々のお仕事だったから、何していらっしゃるのか気になります。。
もしかしたらブログ記事を更新しているかもしれません。どんなブログを書いてらっしゃるのか。
携帯から道重さんの公式ブログにアクセスします。すると、一番上の記事タイトルが「はる」。
まぁ、私!? 道重さんったら私のことを書いてくださったのね、うれしい!
クリックして続きを読むと、ただ単に春ってことでした……。まぎらわしい季節です。
しょんぼりしながら、道重さんにメールです。私、春に負けない!

件名:道重さぁーん(*^^*)
本文:はるってタイトルに書いてあったから私のことかと思ってみたら、違いましたぁ
138 :はるなの :2012/04/04(水) 21:38

返事がくるまで他の記事も読んでしまおう。
と、思ったらすぐに携帯が道重さん専用のメロディを奏でています。
道重さん専用のイルミネーションで私を呼んでいます。
胸の高鳴りを抑えながら、送信者を確認してメールを開こうとボタンに親指を置きました。
なかなか押せません。なぜでしょう。心臓が体の外に飛び出して行っちゃいそうなぐらいドキドキしてるから。
口腔にたまった大量のつばをごくりと飲みこむと、落ち着いた感じがしてやっと押せました。

件名:Re:道重さぁーん(*^^*)
本文:はるなんを、ぬか喜びさせようというたくらみだよー
139 :はるなの :2012/04/04(水) 21:38

画面の文字を何度も読み直してしまいます。
だってだって、こんな私を喜ばせるようなことが書いてあっていいのでしょうか。
そんなメールをステキな先輩からもらってしまってよいのでしょうか。
体温がぎゅっと高くなっていくような、頭がぽーっとしていくような気がいたします。
私、モーニング娘。に入れてよかったです。こういうお返事をもらえるとテンションあがっちゃうんです!
ありがとうございます、明日からも頑張れます。
感謝をちゃんと伝えないと、後輩としてもマゾっ子としてもダメな子になっちゃいます。
無礼にならないように丁寧に文字を打ち込みます。
気持ちを込めてボタンを押すと、感謝も伝わるような気がいたします。

件名:道重さん、ありがとうございます
本文:いえ、名前の一部がかいてあるだけで充分です
140 :はるなの :2012/04/04(水) 21:39

……きゃあ、送っちゃった!
半年も同じグループにいさせてもらって一緒にお仕事してるのに、メール送信すら慣れない。
少女漫画の主人公みたいな気分です。
憧れの先輩に優しくしてもらってうれしくってテンションあがっちゃうなんて、初めての経験です。
春の嵐です。あ、これは違う先輩の曲のタイトルでした、間違い間違い。
顔が似てると言われてるからって間違えたらいけませんね。
道重さんはずっとずっと私の憧れです。
私だけの道重さんなんだから、ってみんなに言えるように頑張ります。
譜久村さんにだってだーいしにだって負けないんだから!
またマンガを貸して読んでもらって感想話し合って、一緒の時間増やすんだから!

 END.
141 :かわいい話 :2012/04/11(水) 21:37
「なー、ドリームでいっちばんピュアなメンバーって誰やと思う?」
「とりあえずー、うちらは入ってないでしょ?」
「うちらって誰や」
「まーまー、わかってるでしょ。裕ちゃん、かおり、なっち、圭ちゃん、私は入ってないでしょ」
「そーやなー」
「入ってないっていうか、入れないでしょ、もう」
「梨華ちゃんとかよっちゃんとかは?」
「うーん、あの二人はねー、意外と……」
「意外かぁ。あ! 小春は?」
「小春はまだ10代だからぁ、すれてなくても、あぁ……っていうね」
「早くハタチにならへんかなぁ」
「裕ちゃん、お酒飲みたいだけでしょ。ミキティも今更って感じはあるしね」
「そうやなぁ」
「……あのー、お二人とも私のこと忘れてないっスかぁ?」
「かわええなぁ」
「え、なんスかなんスか」
「ほんっと、まこっちゃんはかわいいよねー」
「なー」
「へへへ、ほめたって何も出ませんよ!」

 END.
142 :(恋人のような顔をして) :2012/04/22(日) 22:01
熱い夏も終わりに近づいた頃、藤本の妊娠が発覚。二度目の脱走。素直にいいなー、と思ってしまう。
妊娠出産で一時離脱というけど、子育てするわけだからそう簡単には戻れない。
ましてやツアーなんて絶対無理。藤本がいなくなってから、裕ちゃんが春よりも寄ってくるようになった。
彼氏できたらしい。でも、十年前と同じように抱きついてきたりキスしようとしたりしてくる。
はじめの頃は、距離感忘れてノリでやってたけど、結婚したのもあるしグループで活動してるし。
今は距離を置きたい。裕ちゃんは周りが見えなくなっちゃうタイプだから、危なっかしい。

二〇一〇年十二月。ドリーム モーニング娘。って名前で卒業生で結成されるアイドルグループ。
そこに私もメンバーとして加わることになった。
半分は浮かれてた。もう半分は現役がいるのにいいのかな、という戸惑い。
気持ちがどちらもある人もいたし、どちらかだけの人もいた。単純に嬉しいと思ってる人も。
開始前から裕ちゃんに何度も説得された。お願いに近かった。
143 :(恋人のような顔をして) :2012/04/22(日) 22:01
  ――矢口おらんかったらはじまらへんやん。
  お互い大人になって落ち着いたやろ。もう矢口が嫌がるようなことせーへん。
  同じグループで活動するためにきっちりせなあかんこともある。
  嫌なんか。……あたしどないしたらええの。

何度も何度も会ってるうちに、裕ちゃんの顔が少女になっていく。
妹になりたいんだっけ、って言おうとして、やめた。違う。やっぱり怖さが先行する。
近くにいなきゃ特に何もないんだろうけど。結局、私は裕ちゃんに甘い。
裕ちゃんは私のことが大切じゃないのに。自分の心を守るための私<矢口>という存在でしかないのに。

五月、結婚を発表した。また先に嫁くんだね、か細い声で裕ちゃんに言われた。覚えてないだろうな。
真顔でまくしたてるように言われたこと。うんうん、としかうなずけなかった自分。体も心も硬くなる。
『矢口が結婚したらあたしも結婚する!』
それまでしないのかよ! いくつ年下だと思ってんだよ。冗談に聞こえなくて怖かった。
やっと結婚できた自分。どうなるんだろう。裕ちゃん、する気あるのかな。
144 :(恋人のような顔をして) :2012/04/22(日) 22:02
 
145 :(恋人のような顔をして) :2012/04/22(日) 22:02
異変に気づいたのは圭ちゃんだった。おしゃれなカフェのおいしいランチをおごってくれるらしい。
薄暗い照明のせいか雰囲気も落ち着いていて話せそうな場所だ。
「たまってること吐き出しちゃいな」
仲間であり同期であり、頼もしい人。目頭と頬が熱を帯びてきて、目から涙がテーブルに落ちる。
「旦那に相談できないでしょ」
穏やかな口調で頼んだスパゲティをほおばる。
フォークをうまく使い、パスタをくるくると適量まきつけて口に運び、ぱくっと食べる。
人間関係もこんな風に簡単に処理できたらなぁ。心の動きは難しい。誰も計算できないものだから。
「裕ちゃんのこと、どう思ってる? 怖いまま?」
最初から核心をつく質問。早いうちに聞かないと私が話さなくなるって圭ちゃん知ってるから。
「……うん。怖い、怖いよ。好きって言葉が怖い」
「構えちゃうんだ」
「そうなんだよー。よっしーたちはさ、まーたやってるよー、なんて見てるけどさ」
怖い、って言い切った後は堰き止められてたダムの水が放出するように言葉が愚痴が感情が止まらない。
「まー、誰かいれば私だけに集中するわけじゃないし。それにさ。こんなこというのもなんだけど」
「ん?」
「裕ちゃん意外と人の目を気にするでしょ。……だから、さ」
「あー、下がいれば矢口に変なことしない?」
「うんうんうなずくのってもう条件反射なんだよね、ただの。怖いのもあるし。へへっ」
自分のことをしゃべるのはとても恥ずかしいから、笑ってごまかす。
けっこう涙も抑えきれずに流れてるままだし。ピザがしょっぱく感じる。
「夜、収録あるのにこんなに泣いたらメイクどうしよう」
自分の気持ちを全部吐き出せたわけじゃない。けれど、適度なあいづちや返事が心地よかった。
いつもあいづちを打ってるのが自分だからかもしれない。
146 :(恋人のような顔をして) :2012/04/22(日) 22:02
コーヒー飲みながら、後輩に話しても大丈夫そうだな、と落ち着けた。
モーニング娘。として活動してきたのに、私が私を一番信用してない。
たくさんのことを乗り越えてきた仲間がいるってのに。
活動時期が被ってないメンバーもいるけれど、大切な仲間だ。
まだ秋ツアーだってある。彼氏ができたなら落ち着いてくれるかもしれないし。
もし、裕ちゃんが恋愛に夢中になりすぎたら私たちがサポートすればいいんじゃん。
プライベートで隣に誰かいるってことは、心強い。私だけじゃなく裕ちゃんもきっと同じ気持ちだと思う。
過去は変えられないけど、願えば未来は変わるかもしれない。いくつになっても成長しあえる仲間だから。
裕ちゃんだって、矢口離れできる日が来るかもしれない。その日を待ってみよう。
そのときは、またみんなで歌って踊ってるのもいいな。

ま、期待しないのが一番だろうけど。

 END.
147 :一直線に :2012/04/28(土) 01:25
れいながこの『マチ』に来たのは中学卒業直後の十五歳だった。
今住んでいる<さいわいタウン>と反対岸の歓楽街、中卒でも就職できるっちゃ、と軽い考えでの行動。
まだ住宅地は開発が進んでいなくて、住み込み可能な就職口もたくさんあると聞いてやってきた。
れいなのことを誰も知らない『マチ』なら、生きていけると思った。

歌えるところならどこでも良かった。ただただ歌いたい。欲望に忠実に生きる、生きていく。
そのためには年齢詐称もやむを得ないと思っていた。
十七だと履歴書にも書いたけれど、いくつかは無理だと言われた。
もう満杯だと。同じこと思ってる人は多いのだと知る。
諦めかけてたけど、少し外れたところに募集中の張り紙を出しているバーがあって駆け込んだ。
そこのオーナーは年がいってるおじいさんだった。
けれど、ちゃんと歌わせてくれて悩んでOKを出してくれた。素直でいい声だと褒められたのを覚えている。
一つだけ条件があって、ここで働きながら定時制高校を卒業しなさいという。
学歴が必要な社会がくるよ。今はいいけれど、いつかはここを巣立っていくだろう。
そのときに学歴がないからという理由で門前払いされるのは私は嫌だ。
力強い説明に感動した。
そこに、安倍さんという女性が通りかかって、私も歌うし定時制高校を卒業できてよかったのよ、と。
親切な人がいるっちゃけん大丈夫ばい。迷うことはない、ここにしよう。
選ぶことも戻ることもできないのだから。
148 :一直線に :2012/04/28(土) 01:26
安倍さんは歌がうまくて、れいなよりも八歳年上だけど童顔でお客さんの人気者。
れいなは幼すぎると言われ、最初はまったくお客がつかなかった。
ひどい罵声を浴びたこともある。
ただ、個性的ではないから聞きやすいという声も一部にはあったみたい。
オーナーも挫けずにれいなを歌わせてくれたし、励ましてくれた。
途中から安倍さんは住み込んでた寮というかアパートを出ていった。
恋人ができたのだと、他の従業員たちは噂した。れいなは根気強く歌を練習して、歌い続ける。
高校もなんとか二年生に進級し、給料もほんの少しだけ上がり、そして歌の番を増やせると告げられた。
――頑張ってるから。安倍の歌はね、のびやかでいいんだけど個性も強いんだよ。
気分がのりすぎると、伸びたり跳ねたり変えたり。もちろんそれは田中にはない部分だ。
ただ、やりすぎると嫌う人も多いしね。それと年齢ね。加齢によって声の出や響きも変わる。
お客さんが聞きたいのは、童顔なら童顔なりの声なんだ。田中の出番が多くなるかもしれない。
練習は今まで以上にしっかりやるんだよ。高校卒業するころには、ここから卒業できるなら私も嬉しい。
後半部分はれいなに諭すように言ったのか、そのときはわからなかった。
そしてれいなに対する未来の展望を明るく話してくれた。期待されてるのがわかるから、返事も上ずっていた。
それを聞かれたのか、はたまた別の理由なのか、安倍さんはれいなにきつく接するようになっていく。
149 :一直線に :2012/04/28(土) 01:26
 
150 :一直線に :2012/04/28(土) 01:26
それでも高校に行かなければ卒業できない。オーナーの声にも応えられない。
二年生になると、入学した時よりもクラスの人数が少なくなっている。
今まで誰にも話しかけたこともなかったのに、その日は気分がよかったのか。
その時のことを振り返ると、本当に不思議なこともある。
黒のストレートロングの女の子。見た目はれいなと同じぐらいの年。けど、誰とも話してない。
かわいいのに。男子にもてそうなのに。まぁ、れいなだって誰とも話してないけど。
一番前の席にいるけれど、男性教師に話しかけられても絶対に答えなかった。
定時制高校は過去に色々あった人たちが通ってるらしいと知ってはいた。
れいなは勉強できないし、オーナーとの条件でもあったから、それについて深く考えることもなかった。
誰とも話さずに卒業しようと思っていたのに。その子がなんだか気になって気になってしかたない。
放課後まで我慢しようと思った。我慢できるぐらい、興味があるのかないのか、れいな自身を試すことにした。
結論は無理。だって、ヤンキーな男の子に絡まれて泣きそうになったから、れいなの出番だ! って思った。

「あんたらやめとき、先生呼ぶとよ」

きつく言ったつもりはないんだけど、反対にれいなだけが絡まれる。
周りのおばさんたちが気をつかって先生を呼んでくれた。ヤンキーたちはちりぢりに走り去る。
何人かの先生は、追いかけようとするのが見える。
れいなは、この授業終わったら職員室に来なさいと担任に言われ、そのまま始まった授業を受けた。
151 :一直線に :2012/04/28(土) 01:26
「君はねぇ方言で話すとキツく聞こえるんだよねぇ、ヤンキーと相性いいのかと思ってたよ」

担任の男性教師にはああだこうだと注意され、うるさいと返そうとしたとき、あの子の話になった。
なんでも男性恐怖症というか、人間不信で他人と関わりを持とうとしない。
でも慕ってるお姉さんに高校ぐらいは卒業しろと言われて来てるらしい。
ものわかりが早いから勉強はできる。けれど、人間として成長できるのかは教師の間でも疑問だよ。
とまで愚痴ってくれる。
ここに来る前のことは書類としてしか知ることはできないからね。田中もそうだけど、道重もね。
みちしげ? れいなはあの子の苗字を初めて知った。
知らなかったのか。まぁ、気にかけられるんならそうして欲しいよ。他のことも学んでほしいしね。
田中は働いてるんだろ。最初のうちは田中が興味あることだけでもいいよ。
ぼくらにできない話を聞かせてほしい。
152 :一直線に :2012/04/28(土) 01:27
話の途中から、めんどくさいものを拾ってしまったなぁと思う。
教師ですらさじを投げているのに、れいなができるわけない。
でも、その日の夜、あの子の表情が頭に浮かんでよく眠れなかった。こんなこと初めて。
誰かのことが気になって仕方なくなるなんて。中学卒業するまで悪い意味で、そういうことはあったけれど。
いいのか悪いのかわからなかったけれど、悪いことだとはどうしても思えなかった。
ここに住みはじめて一年経って、ようやく悪夢から解放されたのかもしれない。
安倍さんのことは、先輩というか同僚という気分のほうが強くなっていたし。
中学時代の同級生は、れいなにとっては敵だった。家族も親戚も、知ってる人全部が敵だと思うぐらいに。
悔しくてみじめで、どうしようもない日々を送っていたから。
寝るのもつらい。敵が夢に出てくる。起きた時、疲れを感じる。起きてから、学校にいるだけで疲れる。
クラスにいるだけで笑われているような錯覚に陥ったこともあった。
れいなが倒れても、誰も手なんかさしのべなかった。本当に笑われたけれど、どうすることもできなかった。
あの時のことは忘れたくても忘れられない、嫌な記憶だ。
みちしげさんという子もそういう記憶があるのかもしれない。そう思えた。
れいなが気になって仕方がないという事実は、ちょっとだけ学校が楽しいと感じるきっかけにもなった。
153 :一直線に :2012/04/28(土) 01:27
担任に言われたからじゃなく、無視されてもれいなはあいさつをし続けた。
何も返してくれなくても、表情が変わらなくても。無表情なのに、同性から見てもとてもキレイだと思ったから。
それは顔の造形だけではなくて、人間的な何かもあったかもしれない。
言葉にするのはれいなには難しい。
もったいない。その時、感じたことを素直に言葉にするならこれかも。
一か月ほど経った日、あいさつをしたら「しつこい」って返ってきた。
マジでうれしいんやけど。って言ったら、また無視に戻ったけれど。声を聞けたことがとてもうれしかった。
それに思ってる以上にかわいい声だった。男にモテるやろな、って。でもみちしげさん本人は男が怖い。
世の中、うまくまわらない。
テンション上がって、休み時間も話しかけ続けていたら、みちしげさんが立ち上がって廊下に出ていった。
走っていく音が聞こえた。ほんとは嫌だったんだ。すごく落ち込んだ。けど。
心配で心配で、れいなも教室を抜けて廊下を走ってた。だって、またあいつらに絡まれてたら、って。
たくさんの先生に、廊下は走るなと怒鳴られたけど、そんなのどうでもよくなるぐらいに走り回った。
保健室にもいなくて、とにかく空き教室も全部見て回った。

どこ行ったん? どこにおると?

心の中で叫んでも、みちしげさんは応えてくれるわけもなく。
晴れているとは言っても、夕方から夜にむかう時間。無駄に時間だけが過ぎていく。
校舎も飛び出して、さすがにれいなも思いつかなくなってきて、どうしようもなく体育館裏を通りかかる。
154 :一直線に :2012/04/28(土) 01:27
……いた!

「よかったぁ。心配したとよ。教室、もどろ?」

優しく声かけたつもりだったけれど、みちしげさんは泣きだしてしまった。
超イラっときた。

こんなに心配して探したのに何が気にいらんと!
そんなにれいなから話しかけられるのが嫌だったんね。
親切にして損したわ。

最初は思ったことを言ったけど、だんだんと思ってもないことがどんどん口から飛び出していく。
れいなも顔を涙でぐちゃぐちゃに汚しながら、ずっとひどいことを言ってた。
……と思う。そのときは途中から何言ってるかわかんなくなって、結局、教室戻るばいと彼女の手を取った。

「私のこと、心配してほしいなんて言ってない。ただ教室で話しかけないで欲しい」
「なんで? 声、かわいいやん」
「知られたくないの。男の人にそういう情報知られたくないの」
「……わかった。ごめん、れいなが悪かった」
 
155 :一直線に :2012/04/28(土) 01:28
短い会話だったけれど、れいなが謝った途端、笑顔になったのも超かわいくてキュンとした。
なにそれ超かわいいやん! テンションが上がったままになってたのを思い出す。
くすっと笑う、その表情もまた可愛かったけど何も言わずにみちしげさんの言葉を待っていた。
私の下の名前に興味なさそうだし、自分のことはれいなって言うだけだし。
苗字も調べたけど、どこか怖くて返事しづらかったの。
私のこと、先生に頼まれたかとも思ったし。……でも、一か月も話しかけ続けた人はじめて。
あ、道重さんじゃなくてさゆかさゆみんって呼んで。田中さんのことなんて呼べばいい?
すごい、この子めちゃくちゃしゃべる子だ。田中さんなんて呼ばれたのも、どこか久しぶりな気がした。
学校で、きちんと制服着て、隣に同じ制服着てるかわいい女の子に。
大きい声で笑ったら、運の悪いことに担任に見つかってしまって教室に戻された。
けど、二人ともいい表情をしてた、と思う。実際、担任には、君らそんなに仲良くなるとはな、って苦笑されたし。
クラスで会話をかわすことはなくなったけれど、それ以外は超うざいってくらいにうるさくて嬉しい悲鳴をあげた。
156 :一直線に :2012/04/28(土) 01:28
 
157 :一直線に :2012/04/28(土) 01:28
仕事も楽しくなってきた。たくさん出番が増えたから。安倍さんと二人で歌うこともあった。
きついこともいっぱい言われたけれど、何度もオーナーに安倍さんがたしなめられてかわいそうになった。
れいなは、足りないところがあるから注意されちゃうんだって思ってた。
オーナーも何も言わなかったし。
だけど、ロッカールームで一緒になった従業員に話しかけられて真相が見えた。
安倍さん、クビかどうかの瀬戸際らしいのに田中さんにあたってるんでしょ? 大丈夫?
他の従業員にも、年を知れって感じよね、と声をかけられる。
この業界は、思ったよりサイクルが早いのだとれいなも感じていた。
オーナーがわざわざ高校に通わせてくれたのもわかる。
給料が高くなったら切ればいいのだから。何が優しさなのかれいなにはわからない。
それでもオーナーのことも安倍さんのことも優しいのだと信じるしかできない。
158 :一直線に :2012/04/28(土) 01:28
さゆとは、恋愛のこと、卒業後のこと、色々話した。話題はつきない。
れいなの仕事のことにも興味を持っていた。だから安倍さんのことも話した。もちろん名前は伏せたけれど。
そしたら、なんか知り合いだったみたいで、たくさん反論されてへこんだ。
れいなはアルミ缶みたいに、ちょっと圧迫されるとへこむ人間だから。
さゆは、すぐ気づいて翌日、使ってないからと言って新品のカチューシャをプレゼントしてくれた。
人づきあいは相変わらず不器用なままだったけど、一緒にいて心地よい相手になっていた。
れいなもどこか不器用だったからちょうどよかったのかもしれない。
三年生に進級したら、もっとクラスの人数は少なくなった。
あのヤンキーな男の子たちはいつのまにか退学したり、または留年したりしていた。
実直なおじさんおばさんの他には、まじめそうな少年少女、それにさゆとれいな。
担任の男性教師とも少しずつ会話ができるようになり、教室で発声することに怯えなくなっていた。
六月、登校したらさゆが泣いていた。授業始まっても泣いてるもんだから、保健室につれていく。
じっくり話を聞くのは、休み時間と思ったのに無理だった。
慕ってるお姉さんのこと、お姉さんと安倍さんの関係。さゆとお姉さんの関係。
初めて聞く話だった。いや、今までも話をしてるのはれいなだけだった。
うれしかったけれど、とても悲しい話。
159 :一直線に :2012/04/28(土) 01:29
翌日、仕事場に安倍さんが現れることはなかった。さゆの話を聞いてたから、なんとなく想像ついてた。
その前から情緒不安定そうで、れいなの衣装が汚されたり切られたりしていたから。
れいなの出番だけではなく、ヘルプに入ることもあった。
安倍さんの歌の愚痴を、お客さんから聞くこともあった。
想像できてたはずなのに、心にぽっかりと穴が開いた気がした。
アドバイスをくれる先輩だけではなく、ライバルだと思っていたからかもしれない。
お互い切磋琢磨できるライバルだとれいなが信じていたからかもしれない。
登校したとき、さゆに真っ先に相談した。
驚いていたけど、ちゃんと真剣に話を聞いてくれて答えを出そうとしてくれた。
うれしくて泣いた。初めて学校で泣いた時と、違う涙。
卒業しても一緒にいたい、って話した。さゆも泣いた。

れいなが生きていくには、ほんのすこし優しさが足りない『マチ』。
だけど、優しくしあえる人間に出会えたこと、感謝してる。
『マチ』の仕事場も追われるのはもっとあとになってから。
さゆと住み始めてから、オンナノコを引き取るようになったのはまた別の話。

END.
160 :みおん :2012/04/28(土) 01:34
一直線>>には
161 :みおん :2012/04/28(土) 01:35
一直線に>>147-159は、
坂で逢いましょう>>17-19 見えない影>>29-32 道のしっぽ>>57-61 深淵>>64-65 うえ に ある>>66-67 一杯のコーヒー>>118-121
の続き物です。
162 :みおん :2012/05/08(火) 19:50
基本的には続きものじゃない短編か極短か小話です
続かない話を投下します
163 :NO LIFE , NO BOOK. :2012/05/08(火) 19:51
学年が一つ上がった。掲示板でクラス分けを確認すると1組。
里沙ちゃん、麻琴、あさ美ちゃんも同じで嬉しい。中一のときに同じクラスだったんだから、四年ぶりか。
ううん? 五年ぶりかも。あれ? 三年かな? 計算は苦手だからなぁ。
図書館が好きだ。司書室には石川先生がいて、ほんの少し世間話をしてくれる。
先生は読書をしないのに司書になった不思議な先生。
私は誰にも邪魔されずに本を読める、この図書館が好きだ。
クラスメイトもほとんど来ない。来るのはいつも決まった顔ぶれ。
熱心な図書委員と、読書好きな生徒と教師、それだけ。
誰も知らない本を見つけては、真っ白な貸出カードに私の名前を書く。
貸出カードは書籍の最後のページに半分に切った小さな封筒に入れられている。
ここは裏表紙というのよ、と中学生の時に先生に教えてもらった。なんだか、かっこいい。
去年まで何度か図書委員になれたけれど、それでも読んでない本は多い。
CDやDVDも図書だと知れた。借りればいいんやよ安上がりやよ。
教えても、遠いからと言われる。でも、静かな図書館が好きだからこれでいいのかも。

去年より多く階段を上がる、この瞬間が好きだ。慣れてないから緊張する。
廊下に出ると見慣れた顔と制服がたくさん見えて安心するのだけど。
「おはよ」
教室に入り、とりあえず周りにいる新しいクラスメイトに挨拶する。
ほとんど中学からの持ち上がりだから、名前は知らなくても顔は知ってる。
挨拶すれば返ってくる。のに。
ワンテンポ遅れた「おはようございます」、私よりちょっと背が高い子だ。
髪をツインテールにして、かわいらしい。
164 :NO LIFE , NO BOOK. :2012/05/08(火) 19:51
ふふっ、と笑うと私のことを不思議なものを見ているようにじーっと見つめてきた。
「道、重、さゆみ、です……」
ゆっくりとした発音なのに、もごもごとどこか聞こえにくい。
「あっ、はじめましてぇ。たかはしゃあいです」
うっわー! 緊張してるからか早口になっちゃってまた噛んじゃった。
そのときはそれだけで終わった。ちょうど担任の先生が入ってきちゃったから。

帰宅前のあさ美ちゃんと話が弾む。進学のことを考えてなきゃいけないし。
けど、それでも読書はやめられない! 始業式だろうと図書館へ向かう。
図書館の扉を開けようとドアノブ手をかけると、中から開いて生徒が出てくる。
あ、れ……?
「道重さん、どーしたん。本好きなんか」
っと、びっくりさせちゃったみたい。
「え、あ。ごめん、今まで図書館に来る同級生なんかいなかったから……」
ただの言い訳やん! と思いながらも唇の動きは止まらなかった。こういうときはなめらかなのに。
あんまり親しくないのに、しゃべりかけたのが悪いのかな。
「あ、明日もよろしくなぁ」
ドアノブにかけた手を離して、一人中に入ろうとする。
「……さよなら」
歩き出してからワンテンポ遅れた挨拶が聞こえて、後ろを振り返るように彼女の顔を見る。
ピンク色の肌に黒くて大きな瞳と真っ赤な唇が鮮やかでキレイだと感じた。
少女、ではない、女、だ。きっと本人は気づいてないのだろう。
なぜか直感的にそう思った。クラスにいる異質な存在ほど危険なものはない。
そのまま歩いていたようで、扉が閉まる音がして彼女がいなくなったことに気づいた。
165 :NO LIFE , NO BOOK. :2012/05/08(火) 19:51
 
166 :NO LIFE , NO BOOK. :2012/05/08(火) 19:52
薄暗さと人がいない空気に触れる。
今日は早く帰れるのだから、家で読書しよう。本の世界に没頭しよう。
私の知らない世界、誰かが救われる世界。私の知らない知識、誰かに教えてもらう知識。
「お。今日も高橋、来たね。熱心ねぇ」
司書室から石川先生が顔を出す。
「あ、先生、新刊入ってますよね?」
ニヤリと先生が笑いながら手招きされる。
「ね、新しく来た先生が持ってきたおまんじゅう食べない?」
「やったぁ! 食べますー」
司書室に入ったときには、道重さんのことは忘れてしまった。
新しく来た先生の話(ちょっと目つきが怖いみたい)、
おまじゅうのおいしさ(緑茶と一緒に飲むと本当においしい)、
新しく入れた本の話(いつもと違うジャンルを読むといいかもって)。
知ってる人との会話はやっぱり楽しい。
四月はただでさえ緊張しやすいんだから、本を読んでやりすごそうっと。
うん、今年も穏やかに過ごせるといいな。

 END.
167 :坂の途中にて :2012/05/15(火) 23:52
保田が会計を済ませて『ハニホヘト』を出たとき、すでに二人はにらみあっていた。
「なっち! 何してんの!」
いい大人になったのにまだ自覚がないのか、と保田は呆れた。
安倍の目の前にいる少女は、髪の毛を染めているし化粧もしているのだが、高校生ぐらいにみえる。
小学校にあがったばかりの女の子と手をつないでいる少女。姉妹だろうか、と保田は考える。
「なんで家に帰らないと!?」
「そんなの田中ちゃんには関係ない。圭ちゃん行こ」
安倍は保田の右腕を強引に引っ張り、坂をくだろうと足を動かす。
「ちょ、ちょっと待ってよ、話が見えない」
安倍に抵抗するように足を止め、腕を離そうと力を入れるが安倍は引っ張り続けている。
けーちゃん、何やってんの。話は終わってんだから。早くしないとタイムセール終わっちゃうよ。
いつにもまして説得力のある言葉が安倍から飛び出すことに保田は驚いていた。
田中ちゃんと呼ばれた少女は眉間にしわを寄せ、肩も上がっている。安倍の背中に向けて田中は声を飛ばす。
「さゆは、さゆは……安倍さんの代わりに中澤さんの看病してるんですよ!」
怒ってもいるが悲しい叫びとして、保田の耳には聞こえた。
「どーせなっちがいなかったらみんな幸せなんでしょ! 田中ちゃんも圭ちゃんも!」
その叫びに応じるように、安倍が叫ぶ。そして、やっと腕を離す。
と、同時に田中の隣にいる女の子が左手で左耳をふさぐ。
保田は田中と女の子のほうを向いた。
「ここじゃなんだ、うちにおいでよ。いいでしょ、なっち」
頭を垂れ、下唇をかみしめているように保田には見えた。
田中には見えないかもしれないとも保田は思った。ぶんぶんと左右に首を振る安倍。
168 :坂の途中にて :2012/05/15(火) 23:53
「すみません、言いすぎました」
安倍の態度を見て、田中は謝罪を述べ深々と安倍と保田に頭を下げた。
「ママ、おねーさん泣いてるよー」
女の子が安倍を指さす。いじめちゃだめー、と田中の手を引っ張る。
「りほごめん。ママ、イライラしてた。……安倍さん、ごめんなさい」
もう一度、田中は深々と頭を下げた。安倍の頭が深く上下に揺れる。右腕の袖口で涙をぬぐったようにみえる。
しかし、うん、という安倍の返事は保田の耳にすら届かなかった。
「あの、さゆもりほも……安倍さんがつくったシチューおいしかったって言ってたっけん、また」
つくってほしいっちゃ。お願いする田中の声が震えている。れーなもおいしって思ったっけん!
強い想いが届いたのか、安倍は、うん、と大きな声で返事する。
「圭ちゃんの家でおいしいもの作ったげる。しげさんも呼んで、ね」
はいっ! 田中の嬉しそうな返事が寒空に響く。りほという女の子も、いつのまにかはしゃいでいる。

保田はまったく話が見えなかった。同居している三好からちょくちょく聞いている話も思い出していた。
田中という子の話だ。同じ子なのかはまだわからない。少なくとも安倍のことも中澤のことも知っている。
それはわかる。中澤の看病、という今の情報を知れるのはいいことだ。
手持ちの情報が少なすぎると感じていた。優しくして損はないだろうと判断する。
名刺の裏に簡単な地図を書いて渡しながら、自己紹介する。
「やすだけい、と申します。名刺だから、表に住所も書いてあるし、迷ったら電話してもオーケー」
やすださん……? 三好ちゃんと住んでる人っちゃね。
田中に言われ、苦笑する。やはりこの子だったのか。なら話は早い。
やっと安倍から解放される! 早く中澤に返したい!
それもあと少しの辛抱だと保田は気を強く持ち直した。

 END.
169 :百合の日々は :2012/05/23(水) 21:42
お風呂あがりの聖の身体からたつ白い湯気。もくもく、もくもく。
えりは芳香だと思った。ただのボディーソープの匂いでも、聖の色気の香りだ。
「みずき」
声をかけて、裸のまま両手で彼女の両肩をうしろからつかむ。
「新垣先輩いなくなって、もうさびしくなった?」
ひたいを聖の首のつけ根にあてると、あたたかさが伝線してくるよう。
えりの気持ちもきっと伝わる。
「ねぇ、早く着替えないと風邪ひいちゃう」
その言い方が妙に幼くて焦っていて、ふっと笑いそうになる。
「……みずき」
両手は肩から腕にかけてなぞるようにすべっていく。
たまに彼女の凹凸に止まって、今度は身体のラインをなぞる。
頬を背中にひっつけて、湯気と彼女からのぼるあたたかさを堪能する。
「えり?」
不安そうな聖の声がいたたまれない。
だから、そっと背中にくちづける。
「大丈夫っちゃ、えりは新垣さんおらんくても大丈夫っちゃけん」
「うん」
うん、とえりも返事をした。聖の声も、えりの声も涙がまじっていた。

 END.
170 :――夏日でも、私たちには味方だよ。 :2012/05/29(火) 22:24
初めてのお誘いは、あゆみちゃんからだった。
中間考査は五月第三週の後半にあり、第四週の前半にはすべての教科が返ってきた。
気も緩む六月前、お昼前にはぐっと気温が上昇。
女子高なのに、制服のスカートをだらしなく広げてぱたぱたとあおる同級生がたくさんいる。
そんなことをしている友人たちが急にいやらしく感じて、仙台から越してきたあゆみちゃんに声をかけた。
お昼、一緒に食べよう。中庭の大きな木陰の下に二人で座る。涼しい風が気持ちよい。
このまま、ここにいたいね。つい、みずきが漏らした一言がきっかけ。
午後の授業、サボっちゃおうよ。爽やかな誘惑。葉っぱが揺れると、きらきらと影も動く。
この暑さ気持ち悪いし、授業受けるなんて無理だと思う。あゆみちゃんの声はどこも媚びていないのに。
サボれるのは学校に通ってる今だけだよ! 畳みかけるように次の言葉が紡がれる。
みずきは、小さな声でダメだよって言うしかできなくて、天気のことが心配だったけど口にはしなかった。
自転車で遠いところに行っちゃえばわかんないもんだよ! と力説するあゆみちゃんが可愛いから。
東京から離れたことないみずきにはわからないこともあるんだろうな。

みずきよりだいぶ背の低いあゆみちゃんが自転車を漕いで、みずきはちゃっかり後ろに座る。
何度も大丈夫と聞いたのに、それでも大丈夫だからとしか返さなかった。
だから「イエーイ! 出発進行っ」なんて盛りあげてみたのに。
足を離した瞬間、あゆみちゃんは「重いっ!」と叫んで、ぐぐぅと腹の底から息を漏らす。
立ち乗りにして、って言われたけどわからない。結局、みずきが漕いであゆみちゃんが後ろに乗ることに。
171 :――夏日でも、私たちには味方だよ。 :2012/05/29(火) 22:25
昼休み終わる直前に裏門から走り出す。
どこまでも早くどこまでも遠く、みんなが知らない場所にたどりつきたい。
暑い、熱いっ! あつい! あつーい!
有名なコンビニマークに100の数字がついてるお店が見えてきて、自転車を止める。
「どうしたの?」
「アイス食べたくない?」
「食べたい!」
いたずらっ子のような幼い笑顔を見て、みずきも嬉しくなる。
これ、全部百円なのっ!? コンビニなのに!? すごーい、色んな種類があるぅ。

あゆみちゃんは最初から決めてたというアイスを持ち、うふふと笑いながらパッケージを開ける。
みずきは木のさじを持ち、カップアイスのふたをあける。とてもおいしそう。いただきまーす。
口に放りこむと、じんわりと冷たさが広がって、あとから甘いチョコの味が喉にくる。
しゃりしゃりとかき氷を食べる音がして、あゆみちゃんを見ると真っ赤な三角形のアイスバーを持っている。
あ、これ、スイカじゃない。
「それって、スイカの味するの?」
「えっ。食べたことないの。種はチョコなんだよ、おいしいよー! おっと」
気温の上昇とともに溶けるのも早くなる。指にたれたアイスを舌でなめるあゆみちゃんが子どものようだ。
背が低いから、体の全部がみずきより小さいんだ。簡単にわかることも、なぜか新鮮に感じる。
液体と化す前に、アイスを食べ終わらせる。時間との勝負。
「ちょっと歩こうよ。ほら、カロリー消費しないと」
高校生ともなれば彼氏できたなんて噂も、同級生からちらほら聞く。
メイクにダイエットにおしゃれに、友だちの話も多種多様になったと気づく。
あゆみちゃんが自転車を押して、みずきはその隣を歩く。
172 :――夏日でも、私たちには味方だよ。 :2012/05/29(火) 22:25
「私、みずきちゃんに声かけて良かったと思ってる。友だち多いし、田舎者の私でも気にしないし」
そんなことを言いだす理由を深く考えたことがなかった。
「普通に友だちの輪に入れてくれるし、すごく嬉しくて。でも……その優しさに甘えていいのかなって」
高校生になったんだし、と続けた彼女の声はかすれていた。
冷たくて強い風がスカートをめくりあげようとする。空も黒くて厚い雲が早く動いているのが見える。
遠くに見える小さな空は明るいのもわかる。きっと天気予報で言ってたゲリラ豪雨みたいなものだ。
どこかアーケードのような、雨をしのげる場所を見つけないと。
「どうしよう。ごめんね、強引に誘ったの私だし……」
泣きそうな声でつぶやくあゆみちゃんを無視するように、こっち! と大きく声で指示を出す。
大きくうなずいて、走り出す。二人とも自分の足で迷わずに走り出す。

私鉄沿線の小さなアーケードに入る。ごろごろと雷の音が右からも左からも聞こえる。
すぐに雨粒が激しく叩きつける音も加わる。雨が降り出すと、風は弱まったようだ。
なんとか濡れずに済んだ。自宅近くの駅前アーケード。ここからなら、自宅にも濡れずに行ける。
近所のおばさんたちに挨拶を返しながら目指す。
そういえば、入学式直後のあゆみちゃんは空回りしてたな、と思い出す。
とても元気が良いあいさつで、みずきは好感を持っていたのだけど。
周りはそうでもなかった。子供っぽいとかいって。それこそ、田舎丸出しって言ってた子もいた。
中学生までのノリで注意してたらみずきが避けられてて、だからあゆみちゃんも声をかけやすくなっていた。
玄関をあけ、あゆみちゃんに自転車入れてと声をかけると、小さくうなずく。
「アイス食べなきゃよかったね、体冷えちゃったよね」
「ごめんなさい」
「謝らないで」
173 :――夏日でも、私たちには味方だよ。 :2012/05/29(火) 22:25
二階の自室に招き入れる。カバンを定位置に置くと、おもむろに押入れのふすまを開け毛布を引っ張り出した。
「寒かったでしょ」
「大丈夫、だから」
きっと強がりなだけなんだと思う。色んな家庭の事情があると知らなかったから。
東京だったらちょっとした距離でも電車通学だし、学生割引で定期買っちゃえばいいし。
なんて、簡単に思ってしまうけれど。
知られたくないことがたくさんあって、どんなことでも大丈夫って言い聞かせてればなんとかなる場所じゃない。
努力しても伝わらないことや報われないことがって、それでも人は誰かと関係を作る。
毛布を広げて、身体ごとまるごと包む。みずきの両腕はあゆみちゃんの身体をそっと抱きしめる。
「……聞いて。みずきはあゆみちゃんに嫉妬してたの」
つらつらと自分の思いを打ち明ける。
小さくてかわいいから、みずきより人気者になるのが怖かったこと。
勉強ができないみずきをバカにするんじゃないか。
みずきと仲良くしてたことなんか忘れてしまうんじゃないか。
他のグループの子と仲良くなんかしないで。
だから、このままここにいたいって言っちゃったの。
けど、さっきだってみずきのこと心配してくれるし、優しくお話聞いてくれるし。
知らないこともいっぱいいっぱい教えてくれる。
みずき以外の子と仲良くなんかならないで。ごめんね、こんなこと思ってて。
「大丈夫だよ。みずきちゃん以外の子とも仲良くなりたいから、無理なお願いではあるけど」
うん、大丈夫。さわやかな笑顔をみずきに見せてこう言った。
「ずっと友だちでしょ? みずきちゃんは私と友だちだと思ってなかったの」
いたずらっ子の表情でにひひと笑った。

 END.
174 :姉と猫 :2012/06/19(火) 21:32
別々に住んでいた姉とまた同居するようになった。
何年ぶりだろう。私が成人してからだと初めてになるのか。
猫と一緒にやってきた姉は、きれいになっていた。
いや、この間会ったばかりだけど。
それでも、そう思った。
姉は決まった仕事をしてるわけではない。だから、猫の世話を一日中してられる。
私には仕事がある。いってきますと出かけると、いってらっしゃいと返ってくる。
家に帰ってただいまと声をかけると、おかえりと姉が言ってくれる。
安心する。見知った人の存在。
会社はたくさんの新人が右往左往していて、その人間関係に巻き込まれるとこちらも疲弊する。
だからかもしれない。
中堅と言われるようになった自分の地位がほんの少し重い。
部署のリーダーを任されて責任感が芽生えるとともに、不自由が増える。

――夜になると姉がネコになる。
私は自由にネコになった姉を撫でまわす。
はしゃがせ、かわいい声で鳴かせ、ゆっくりと眠りにつかせる。
175 :姉と猫 :2012/06/19(火) 21:32
六月にしては珍しく台風が日本列島に上陸するという予報が出た。
「明日、お姉ちゃんの誕生日だね」
「そやな、ケーキ買うてきて」
「うん、わかった。早く帰れるかもしれないし」
姉は、大阪で仕事していたころに覚えた関西弁を今でも使っている。
元々生まれが西日本の私たちにはちょうどいいのかもしれない。
「さゆ、だいすきやで」
「わたしもおねーちゃんのこと、だぁーいすきだよ」

台風が思ったよりも早いスピードで移動しているとのことで、早めに帰宅する。
閉まりかけているケーキ屋にかけこみ、なんとか買って帰ることができた。
夕飯の支度を二人でして、おかずがいつもより一品増えただけで楽しく思える。
強い風にあおられて小さな雨粒が窓にぶつかる音も聞こえる。
「おねーちゃん、晴れ女なのにね」
「……いつもと違う誕生日も記憶に残るやん」
姉は私に優しくて、気遣ってくれる。
今夜もきっと、姉はネコになる。

夏が来たらいなくなる、そんな予感を胸にネコの姉を抱いた。
新しい相手をいつの間にか捕まえていつの間にか私の前からいなくなってるんだ。
野良猫のようにお腹をふくらませて。

 END.
176 :姉と猫 :2012/06/19(火) 21:33
誕生日&ご懐妊おめでとうございます
177 :本当は違うんだ入門 :2012/06/20(水) 20:56
「もしもし?」
久しぶりに聞こえる絵梨香の声がぼんやりと耳の奥にひろがる。
『……保田さん?』
緊張気味に震えた音声が脳に到達するまでゆっくりと時間を楽しむ。
「札幌、どう?」
問いには答えずに質問を返した。
『あの……頑張ってますよ。今までみたいな大きな会場での舞台はないですけど。
でも、試合にはたくさんの観客が来てくれますし。東京では味わえない違う緊張感です。
家に帰れば祖母がいるので、そこが違うところですけど。気候も全然違うし』
濁そうと思って口を開いたら、言いたいことが出てしまったというところか。
「試合、出てないでしょ。爪が長かったとかで」
――ブログ、読んでるんですか。
諦めにも似た呟きが電話越しから聞こえてきた。
――どうして、どうして。
「絵梨香のそういうところ、変わってないね。彼氏できたんでしょ?」
『いませんよ、それどころじゃないんですから』
鼻から勢いよく息が飛んだような、ムッとしたのがわかる。
178 :本当は違うんだ入門 :2012/06/20(水) 20:56
……おやおや、それはいけませんね。
いつも見てる刑事ドラマの主人公の口癖が、頭をよぎる。
私と同じブログ会社に移ったから、更新を確認するのは簡単だ。
それに、冬の舞台が決まった。絵梨香とはその前に会えるようになるだろう。
この夏を越したら、きっと。
胸を焦がすのは、夏の太陽じゃなくて絵梨香への熱い想い。
『中澤さんに妊娠おめでとうございますとお伝えください。おやすみなさい』
「ありがとう、逃がさないからね、いとしの絵梨香」
『そういうのやめてください! 何度も言ったじゃないですか!』
「……でも優しいから、電話、切れないんでしょ」
ブツッと音声が途切れ、ツーツーと冷たく無機質な音が耳の奥から脳に伝わっていく。
台風のように、荒れたままの心が絵梨香を欲している。
耳が、絵梨香の声を。
目が、絵梨香の姿を。
手が、絵梨香の身体を。
本当は触りたくてたまらない。遠いからこそ、愛おしい。
私の指で絵梨香をとろけさせたい。
今夜の台風をやり過ごせば、夏がくるかもしれない。

 END.
179 :定期目次 :2012/06/20(水) 20:59
お米の話(ゆゆマコ)>>2 おなじきもち(ゆゆこは)>>5 スイートルーム(やすみよ)>>7-8 radar>>11-14 
坂で逢いましょう>>17-19 「いっしょに月をみよう」(やすみよ)>>20-21 おひとりさま(ゆゆあや)>>22-24 
恋愛革命2011>>25 論考『娘。小説とはなにか』――自分へのいましめ>>26-28 
見えない影(坂で逢いましょうの続き)>>29-32 月のさびしさ(ゆうちょ)>>34 
Cat and Chocolate(ゆゆさゆエロ)>>35-41 のりあう>>42 生き長らえる橋>>43 
カンジんなしごと(なかよし)>>44 憧憬(りかみき)>>45-47 プロポーズ大作戦(やすみよ)>>48-49 
賽は投げられた>>50 ゆるい放物線を描く(℃)>>51-52 須藤茉麻が痩せた理由>>53
夢みるあたし(憧憬の続き)>>56 道のしっぽ(見えない影の続き)>>57-61 大雪の話>>62
ドジでノロマなヒヨコです>>63 深淵(道のしっぽの続き)>>64-65 うえ に ある(深淵の続き)>>66-67
春はまだ先に>>68-76 愛されパターン>>77-81 さゆみは乙女なの>>82 僕は彼女の幸福を知りたい>>83
僕は道重さんを知りたい>>84 僕はこの場の平和を願わずにはいられない>>86-87
春空を待つダ・カーポ>>88 聖・少女領域>>90-92 真夜中の電話>>93‐108
なごり雪も降る時を知り>>110-116 一杯のコーヒー(うえ に あるの続き)>>118-121
可愛いは必要なの>>123-125 卵殻>>126 人という生き物>>127
さよならを知らないままで(やすみよ)>>130-136 はるなの(さゆはう)>>137-140
かわいい話>>141 (恋人のような顔をして)(やぐちゅー)>>142-146 一直線に>>147-159
NO LIFE , NO BOOK.>>163-166 坂の途中にて(一杯のコーヒーの続き)>>167-168 百合の日々は>>169
――夏日でも、私たちには味方だよ。(あゆみずき)>>170-173 姉と猫>>174-175
本当は違うんだ入門(やすみよ)>>177-178
180 :現実体験 :2012/06/25(月) 00:59
今日も東京にいる保田さんから着信アリ。
台風の翌日は夏至だったから、暦の上では真夏をすぎたことになる。
昼の時間も早いけれど、夜の時間も早い。
一日が過ぎるのもあっという間だ。
保田さんから突然電話があった日、翌日の夏至にも着信があった。
それから途切れることなく着信だけは残されている。

夜、思い出すのは保田さんのこと。
東京にいる、保田さんのこと。
もう蒸し暑いのだろうか。それとも夜はまだ、涼しい風が吹いて寒く感じるのだろうか。
181 :現実体験 :2012/06/25(月) 01:00
とめどめとなく考えていたことがイメージとして頭に浮かぶと、それが呼び水となり、記憶が思い出される。
初めて保田さんが触れてくれたのはいつだっただろうか。
キャッキャッと遊びの中で肌が触れあったり肩をたたき合ったりしたのとは違う、ふれあい。
そこから、連続して初めてを体験していく。
少しだけいじわるで私を恥ずかしがらせる。
テレビで見てた芸能人が、輝いているタレントが、私を抱いている。
その事実もまた、私を興奮させる。
男に抱かれるのとは違う感覚。いや、同じ感覚なのかもしれない。

――絵梨香。快楽を受け入れたら、堕ちていくのは一瞬よ。

耳が、保田さんのいじわるな言葉を。
心が、保田さんがもたらす快楽を。
身体が、保田さんの攻撃的な指を。
夏の夜は明け易いから、秋の夜を恋しく思う。

 END.

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