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続飼育支部

64 :深淵 :2012/02/11(土) 20:12
暗い室内の片隅にあやしい明かり。パソコンのディスプレーが光を放ち続けている。
中澤は、裏で立ち上げてたままの宇宙と海の二つのソフトを見つめた。
小さな画面が横に並ぶ。あれ、と小さな声が漏れた。
カーテンがしまってないことに気づく。真っ暗な部屋に一人。
外も同様に暗い。なぜなら空に太陽はなく月と星がきらめいてるだけだから。
「なっちぃー?」
誰かいるとの前提で、声を出す。どこかにいるなら足音ぐらい聞こえるはずだが、まったくない。
耳の奥が痛くなる、と思うほど無音だった。
腔内につばがたまり、のどを流れていく。ごくん、という音を耳がとらえる。
ここにいるのは自分一人だ。認めたくない感情が心を支配する。
けれど、この状況を告げるようにこめかみのあたりで鈍い痛みが皮膚をつらぬく。
刻一刻と状況が変化する宇宙と海の二つのソフトが中澤を見つめていた。

小さな家の中を探し回ったけれど、やっぱり安倍はいなかった。
どうしたんだろうか。今までにこういう事態はなかった。
携帯には着信も受信メールもない。電話をかけてみたけれど、留守番になってしまう。
坂の途中の喫茶店でおしゃべりでもしているのだろうか。
そんなわけはない。携帯で時間を確認すると二十一時をまわっていたからだ。でも安倍はいない。
もう一つ。メッセージボードには、今夜はシチューにするよ、と書き残されていた。
台所はきれいに片付けられていて、調理をした気配はない。
冷蔵庫の中もきれいに整頓されている。買い物に出かけてから、どこかで遊んでいるのだろうか。
家出? そんな考えも頭に浮かぶ。頭をかけめぐる鈍い痛みで、思考がまとまらない。
なぜか寒気もしてきた。コップに水を入れ、口に流し込む。のどの渇きが少しだけ癒された。
誰か知り合いの家にお邪魔してないだろうか。圭ちゃんの顔が頭に浮かぶ。
独身で面倒見のいい彼女なら、もしかしたら相談の一つや二つ受けてるかもしれない。

65 :深淵 :2012/02/11(土) 20:12
圭ちゃんともつながらない。忙しいだけなのかもしれない。
この時期は確定申告があるからなにかと外出する用事が重なる。
それに真冬でもある。そういえば、テレビのニュースではしきりと全国的な豪雪を報じていた。
関東地方は寒くて乾燥も厳しいと、何度もアナウンサーが危険を呼びかけていた。
そうだ、寒い。暖房がついてない。はっくしゅん。小さなくしゃみが一つ。
鼻の奥がくすぐられている。大きなくしゃみが三つも続いた。
風邪でもひいたんかな。つぶやきが一つ。どこかの誰かが咳をしても一人、と詠ったことを思い出す。
突然、道重の声が聞きたくなった。用件は安倍の行方。情報なんかなくても話ができれば安心できる。
今度はつながるといいな。その願いは叶えられた。道重はワンコールもしないうちに出てくれた。
「もしもし、重ちゃん?」
「……安倍さんのことですよね」
「ああ、うん。なっち、そっちにおるんか?」
「いえ……夕飯は一緒に食べたんですけど」
「おらんのか?」
「でも、れいなが帰り道に安倍さんが三好さんともう一人と一緒に歩いてたのを見たんです」
「……三好?」
聞いたことがある苗字だ。圭ちゃんの恋人。
「れいなに聞いたら三好絵梨香という方だそうです」
なんや、圭ちゃんのところにおったんやないか。心の中で圭ちゃんに文句を言う。
不思議と頭痛がひいてきて、穏やかな気持ちで会話をしていた。
「銭湯に行く途中だったようで」
ひどい眠気が中澤を襲う。
「ありがと、なっち家出したんやな」
「中澤さん」
「なんや」
返事をしたつもりだった。道重が何度も自分を呼びかける声が聞こえるが、口を動かすのもめんどくさい。
体が、ゆっくりと床に沈んでいくように感じる。力が入らないまま、夢の世界へと旅立つ。

 END.

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