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続飼育支部

57 :道のしっぽ :2012/01/24(火) 19:03
格差社会と呼ばれて何年経つだろう。ほんの少し前までは総中流社会と言っていたのに。
どんな社会になろうと少数派と呼ばれる人たちは存在する、そんな二人の交錯物語。

静かな住宅地の端に急な坂がある。坂を下ると土手に出る。川が流れているのだ。
反対側の岸は繁華街を含む商業、工業地帯。キラキラと輝き続ける眠らない街。
こちら岸の坂上は高台になっていて、大きな住宅地がある。
小さな山を切り拓いて造成された。それでも広い土地になる。

今日は雲一つない青空。昨夜は降雪があり、真っ白な屋根との対比が真冬だと告げる。
一ヶ月以上続いた乾燥注意報は解除され、外の空気はしっとりとしている。
歩きづらそうに雪道を歩いている女性二人。
たまたま会ったのだろうか。二人ともエコバッグを片手にさげている。
58 :道のしっぽ :2012/01/24(火) 19:03
「あれ? こっち通るっけ?」
「いえ、りほが友だちとよく遊ぶ公園がこの先にあるので」
「これからお迎え? ね。なっちもついってっていい?」
「あのう、中澤さんが家で待ってるんじゃ」
「いるようでいないから」
「よく出かけるんですか」
「ううん、ずっと在宅の仕事してるよ」
「……さびしいですね」
「知ってた? ガキさん、お店たたんじゃうんだって」
「坂の途中の」
「美味しいコーヒー飲めなくなっちゃうね」
道重は、隣を歩く安倍を見つめた。買い物帰りなのに、下を向きテンションは低くなっていく。
二人とも誰かといる幸せを手に入れた。なのに、不安は解消しない。
「……あべさ」
「ね、どこの公園?」
安倍は眩しい笑顔を道重に向ける。新垣が褒めている天使の笑顔。
しかし、悪魔の笑顔と中澤がぼやくのを聞いたことがあった。これか。たしかに断れない。
「こっちです」
方向を指さしながら、いつのまにか案内している自分にしっかりしてと言い聞かせた。
59 :道のしっぽ :2012/01/24(火) 19:04
落ち着きのない安倍が一方的に話し続け、道重は相槌を打つだけで精一杯。
公園には土混じりの小さな雪だるまがいくつか放置されている。
砂場と思われるところで遊んでいる女の子二人。
「りほー!」
思い切りよく大きな声で呼びかけながら、近づいていく。
「かのんちゃんまたねー」
「うん、またねっ」
「いつも遊んでくれてありがとう。気をつけて帰ってね」
「はいっ、またあした〜」
ポニーテールの女の子が駆けていく。家は公園のすぐそばにある。
裏玄関と思われる扉を開け入っていくのを確認すると、りほと向き合った。
「りほちゃーん。寒いでしょ? 早くおうち帰ろうね」
先に声をかけたのは安倍。なんでいるの? りほは不思議そうな顔を道重に向ける。
かがんで目線を合わせてから、偶然会って一緒に来たことを優しく説明した。
「なっちも戻りたいなぁ……無理なのかな。重さんはどう思う?」
道重は、中澤も安倍も選んだ道を後悔しているのだと気づく。自分もそうだ。
どうにかならないか、いやどうにもならない。進んでしまったから。
少なくとも戻れないように道重は田中と相談してりほを引き取り、中澤は中古の小さな一軒家を買った。
それでも同じ街から動かないのは、何かに期待し続けている証拠でもある。
「重さんち寄ってっていい?」
先ほどよりもさびしそうな笑顔。誰かが安倍を必要とし続けてくれればいいのに。
中澤といながら安倍はさびしかったのだと、道重はようやく気づいた。

 続
60 :道のしっぽ :2012/01/27(金) 02:26
陽は落ち、月と星が紺色の夜空にきらめいている。
安倍が夕飯を作ると言い、買ってきた食材で調理しはじめた。
好意に甘え、りほとお風呂に入ってしまう。
「おねーさんのお料理おいしそうな音がするね」
「なんでそう思うの?」
「だってねー、トントンって音がキレイなの」
れいなも道重も決してうまくはない。だが、ささいなこと一つとっても子どもにもわかるものだ。
道重は味付けが独創的だし、れいなは見た目ばかり気にしていて味は二の次。
一理ある。二人ともリズミカルな音を出したことはない。それでも楽しいから続けられる。

できあがったのはホワイトシチュー。寒い日にはあたたかい料理が一番。
たくさんの野菜とお肉が鍋に浮かんでいる。
口数は少ない。話題も核心に触れることはなかった。子どもが居る手前、出しにくい話題でもある。
れいなが帰ってくる前に、安倍は家に戻ると言い出した。
「寒いからお風呂であたたまってから寝てくださいね」
「うん、ありがと。ごめんね、今日は。突然お邪魔しちゃって」
「いえ……中澤さんにちゃんと伝えたほうがいいですよ」
「ん? 何をかな。どうせ重さんの方が先に裕ちゃんに会うんじゃない? またねっ」
アパートのドアを急に閉めると、大きな音がする。隣から苦情を言われてしまうのではないかと怯える。
いや、一番怯えてるのは安倍だ。道重はそう思う。
61 :道のしっぽ :2012/01/27(金) 02:27
――翌朝。冷え込むとの予報通り、残雪が凍りついている。
アパートから出て行くりほを見届けると、皿洗い、洗濯、掃除とこなしていく。
三人暮らしをはじめてから毎日やっていれば、それなりにできるようになった。
お昼前にはれいなを起こす。そしてお昼ご飯を食べて、ほのぼのと二人だけの時間を過ごす。
「あっ! 昨夜さー、安倍さんが三好ちゃんと一緒に歩いてるの見たんよ」
「……えっ?」
「安倍さんも三好ちゃんもれーなには気づいてなかったっけん、忘れてたっちゃ」
「それ何時ごろのはなし」
「えー、昨日は何時に家に着いたっけー。でもぉ、二十一時は過ぎてたとよ」
二十一時。アパートを出ていた時間。とっくに中澤宅へと、二人の家へとたどりついていい時間。
『どうせ重さんの方が先に裕ちゃんに会うんじゃない?』
安倍の不思議な言葉が、ここにきてしっくりとハマる。家出するつもりでここに来たのか。
いや、あの時はそれでも迷っていたのか。迷いが晴れたからこそ決意したのか。
「あの人、家出でもしたん? なんかぁ、銭湯に三人で入ってくとこだったっちゃ」
「三人?」
「うん、れーなの知らない人」
どれだけ長い間、仕事してるのだろう。先月の月蝕では仲良さそうにしてたのを思い出す。
『いるようでいないから』
ずっとずっと一緒にいても、寂しかったのだ。家出するだけの条件は揃っている。
しかし、中澤から連絡はないままだ。安倍にとっているようでいないもの、中澤にとっても同じなのか。
違うと信じたいが、状況がそうではないことを教えている。
道重の頭には、何度となく安倍の言葉が反復された。

 END.

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