■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 201- 最新50

続飼育支部

284 :恋患いループ :2017/05/31(水) 00:34
金曜の昼休み、ちょっとした二つの噂が学校中を駆け巡っていた。
一つは月曜から三年女子を中心に囁かれている、才女で有名な山木さんが坂で見知らぬ女子と抱き合って泣いていたというもの。
もう一つは、昨日から一年生を中心に騒がれている嗣永先生が結婚したんじゃないかという噂だ。
指輪について特に説明もせず、女生徒からの結婚したの? という問いに否定せずごまかしたというのも騒ぎになった一因かもしれない。

一つ目の噂が山木さん自身の耳に届いたのは水曜、そして二つ目の噂が聞けたのは金曜になってからだった。
「先生、結婚したんだね」
同級生たちは教室でも廊下でも、先生結婚か、という話題で盛り上がっていた。
先生、可愛いからほっとく男はいないよ。
学校では泣き言を言ったことないから頼れる彼氏にいってたのかもね。
と、憶測と想像がわんわんと耳に入ってくるのだった。
きっと部室長屋でも、この話題で持ちきりだろう。
人にとってはおめでたい話題でも、たった一人には大きな失恋の痛みとなって襲いかかる。
泣きはらした目の山木梨沙は放課後、級友たちに放っておかれ、部室にも寄らず、繁華街の一角にあるゲームセンターへと一人で向かったのだった。
普段なら決して近よりもしないであろうその場所は低音と雑音に紛れ、泣いていようが誰にも気づかれない。
自販機の横にあるベンチに隠れるよう座り、涙が枯れるまで泣いた。
そうしてどのくらい時間が経ったであろうか。

「ぎさちゃん?」

舌ったらずだけど聞き覚えのある声に顔を上げると、いつもより眉を八の字にした梁川奈々美と見たことのないきれいなお姉さんが不思議そうな顔をして覗き込んでいた。

「山木さん! 大丈夫ですか? 怪我ですか? 病気ですか?」
「やなみん、それじゃあ救急だよ」
「救急が必要かもしれないじゃないですか!」

……だって大事な作戦会議の仲間ですから。
梁川ちゃんの発したその言葉は何よりも強く私の胸に残った。

「ただ一人で泣きたか……っひっく……」

梁川ちゃんに答えようとしたものの、喋ろうとしただけで先生の結婚を思い出し、また涙が溢れてきてしまった。
285 :恋患いループ :2017/05/31(水) 00:35
「ねぇ、やなみん。ここで女の子が一人で泣いてるより、うちに来るのはどうでしょうか」

こくこくと首を縦に振って大きくリアクションした梁川ちゃんから差しのべられた手はあたたかくて安心を覚えた。
きれいな顔をしたお姉さんは何か楽器をやっているらしく、防音のアパートだからいくらでも泣けるよ、と言ってくれた。
背負っていた楽器を下ろし黒いパーカーを脱ぐと私の頭にかぶせて泣き顔を隠してくれる。
なんだ梁川ちゃんにはちゃんとお付き合いができる相手がいるんじゃないか。
と思うぐらいに冷静さを取り戻していた。

繁華街から住宅地につづく橋を渡り、あの坂の上まで行ってたどり着いた場所は聖地巡礼となっているアパートだった。
以前は社員寮だったが、田中れいなという歌手がヒットを飛ばしてからここに住んでいたのではと噂を呼んでいる。
へへっ、と恥ずかしそうに微笑むお姉さんの名前は宮澤真凜さんという。

「おじゃましまーす!」

二人で開けた扉の向こうは、埃一つなくきれいに掃除されていた。
1LDKというのだろうか。
小さめの玄関から入ってすぐの台所には驚いてしまった。
二人とも実はお嬢様なの? という呟きがボソッと聞こえてしまう。
確かに私は世間知らずかもしれない。
台所から続いたところにあるドアはトイレとお風呂だそうで、残念ながら中は見せてくれなかった。
奥から光が透けるのれんの向こうが部屋になっているそう。
楽器を修理へ出していたので風通しを良くしていたそうだ。
この時期特有のさわやかな風が通り抜けていく。

「ちょっと待っててね」

と台所に私たちを残すとのれんの奥のドアを閉めてしまった。
掃除でもしているんだろうか、こんなきれいなのに。
暗くなった台所で、梁川ちゃんがすっと顔を寄せる。

「まぶたが真っ赤です」

冷やさないと。その声はやはり緊迫感に包まれている。
梁川ちゃんがこんなに熱い、いや、冷静な子だとは気づけなかった。
たぶん、私には道重さんと先生しか見えてなかったのだ。

「さぁ、おいで」

開いたドアの向こうで宮澤さんはにっこりと微笑んでいた。

続きを読む


掲示板に戻る 全部 次100 最新50

現在のスレッドサイズ:311982 byte

名前:

read.cgi ver5.27 + 0.02 (04/08/03)