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続飼育支部

274 :恋はパラレルライン :2017/04/03(月) 00:07
春の日射しはあたたかく、学習会が行われる日曜日がやってきた。
今日はお昼過ぎから夕方まで『ハニホヘト』は貸し切りとなる。
橋のたもとにある小さな公園で待ち合わせだよ、と付箋には書いてあった。
白いふりふりのレースにセピアチェックのリボンが可愛い長袖ブラウスワンピースに白のボレロ、ふりふりの白レースと白い小さなリボンがちゃんとついたセピア色の靴下にお揃いの色の靴にした。
白いヘッドドレスとショルダーバッグを提げて公園の入り口に立つ。
いつもの制服じゃなけど、先生気づいてくれるかな?

「お待たせー!」
そう言って手を大きく振りながら近づいてきた嗣永先生は白いうさぎの耳つきフードパーカーに落ち着いた桃色に金の留め金がついている小さめリュックサック、フロントレースの白いブラウスに膝上丈の桃色フレアスカート、ヒールの高い桃色パンプスにレースのついた透け感のある白い靴下という十代みたいな装いだ。
ついじろじろ見てしまったのか先生に優しく「今日は若い子と一緒に歩くんだから」と返されると何も言えなかった。
だから、ピンクですね! と話題をそらしたらドスの効いた低い声で「これはピンクじゃなくて桃色なんですけど?」とピンクから桃色に訂正させられた。
先生と生徒の関係じゃ今日はまずいから私のことは桃子ちゃんと呼んで。
と言われ、うんと頷く前にじゃあ練習してみようかと、言わされる流れに。
突然すぎて恥ずかしくて言えそうにないけどニコニコと笑顔で見つめられ、口をもごもご動かしていたら、言えないうちはここから動けないよと言われたら頑張るしかない。
「......っも、桃子、ちゃん」
「かったーい。ま、一度言えたわけだし、そのうち慣れるよ」
言えてホッとした。少しでも親密になれた気がして胸が高鳴る。
今だけじゃなくって、今後もこういう関係がずっと続いていけばいいのに。
「山木さんは友達からなんて呼ばれてるの?」
「りさぴょん、です」
「じゃあ、ぴょんで」
それって原形ないのでは。
「ちょ、先生! 聞きなれないのは私が困ります!」
......反応がない。
「今は先生じゃありませぇん」
ぷっ。言い方が可愛くてつい吹き出してしまった。
「桃子ちゃん、聞きなれないのは私が困ります」
「はぁい。慣れたじゃん、ぴょん。私たち昔から親友だったみたぁい」
プライベートの嗣永先生ってこんな感じなんだ。
学校とは全然違う。
「じゃ、行こっか」
差し出された手に「はい」と返事して、私は先生と手を繋ぐ。
小さくて柔らかい手と。そう、昔から親友だったように。
いや! 親友じゃダメなんだけど!
......ダメなんだけど、今はこれでもいいかな。
275 :恋はパラレルライン :2017/04/03(月) 00:08
橋を渡り、坂の途中の喫茶店『ハニホヘト』の扉を開ける。
作戦会議じゃなくて、やっぱり好きな人と来るといつもの場所もきらめいて、いつもと違う光景に見える。
「ぴょんは学習会は初めてだよね?」
「あ、はい! そうです! 桃子、ちゃん」
まず資料代として参加費を支払ってから、好きなテーブルへ着き学習会が始まるまでにワンドリンクorワンフード頼んでね、という形式らしい。
資料代を係の人に渡そうとして長い黒髪が目に入る。
「ありがとう、山木さん来てくれたんだ」
道重さんが目の前で微笑みながら、資料を渡してくれた。
あ、ああ、こんな幸せあってもいいのかな。
それに、制服じゃないのに気づいてくれた!
「ちょっと、ぴょん、行くよ」
ぐるぐる混乱してしまったら桃子ちゃんが強引に腕を引っ張って、奥の席へ連れられて座る。
普段グランドピアノがある入り口近くの一角に会議室にあるようなホワイトボードが置かれ、短髪の中澤さんとセミロングの女性と男性と三人で談笑していた。
「ちょっとちょっと、よく聞いてぴょん。みっしげさんはファンが多いんだから」
みっしげさん? 資料を求めて並ぶ女性の何人かは、道重さんに声をかけられると黄色い歓声をあげていた。
何分か前の私のように。
いつものことなのか中澤さんや店主は平然として話を続けている。
「いらっしゃいませ」
奥のテーブルまでコップに入った水を二つ持ってきたのは店主ではなかった。
名札には高橋という苗字と、名字の上には小さくバリスタと書いてある。
「ごめんなさい、まだ決まってないの」
と桃子ちゃんが言うと「失礼しました」と深々と頭を下げ、カウンターの奥へと戻っていった。
何度か来ているのに初めて見る顔だなぁ。
最近、雇ったのかな?
「ね、ぴょん。おごるよ。ここのフード、美味しいんだよ」
「え。あ、ありがとうございます」
ついつい丁寧語になってしまうけど、語尾も直したほうがいいのかな。
とはいえ、カロリーを考えると注文できそうなものは少ない。
メニューを見ながら考え込む。
「頭を使うとお腹が空くのよね」
桃子ちゃんはがっつり頼むようだ。
アールグレイのムースなるものをメニューから見つけ、ミルクティーと一緒に頼むことにした。
276 :恋はパラレルライン :2017/04/03(月) 00:09
店内は満杯とは言えないが、七割ほど席は埋まっているようだ。
ふと、渡してくれた資料に目を通すと、今日の講師は弁護士で憲法と同性婚についてとタイトルがついている。
憲法二十四条から始まり、幸福追究の権利、憲法における平等の素晴らしさと続く。
高校生にわかるだろうか。
授業で憲法を習ってはきたけれど、試験のための暗記で自分の身に付いてる気はしない。
資料を先に読みながら、自分への反省を込めて、はぁと大きな溜め息をつく。
「大丈夫よ、ここにいるほとんどの人はぴょんと同じ。試験のために習っただけ。だから、大人になってから学習するのよ。そのために開いてくれた学習会なんだもん。楽しまなきゃ、ね」
「はい」
桃子ちゃんの言葉にふっと肩の緊張が抜ける。
「お待たせしましたぁ」
いつもの店主がお盆いっぱいにドリンクとフードを持ってきた。
アールグレイのムースにミルクティー。
BLTサンドに本日のおすすめコーヒーとふわふわホイップの乗ったコーヒーゼリー。
先生、こんなに食べる人だっけ?
「変な時間に起きたからちょうど今がランチタイムなの」
「いつもご贔屓にありがとうございます」
「いえいえ! 繁盛してもらわないと困るしね!」
どうやら学習会の場所が無くなると困るという話らしい。
ここが再開するまでの間、学習会の開催場所は転々と移り、不定期ながらやっと同じ場所で開けるようになったという。
「再開して愛ちゃんと一緒にやるようになってからはイベントの数も増えたので」
「高橋さんの淹れてくれるコーヒー、いつも美味しいですよ」
「まぁ、ありがとうございます。伝えておきますね」
店主は去り際、こっちの作戦とはやるねぇとニッコリ笑ってきたので、なんだか恥ずかしかった。
それを聞いた桃子ちゃんが「作戦ってなぁに?」とぐっと近づいて顔を覗きこんだからか、余計に恥ずかしくなって顔が熱くなるのがわかった。
「ぴょんの顔、真っ赤だよ」
言わなくてもわかります。コップの冷たい水を飲むと少しだけ冷静さが戻る気がした。
277 :恋はパラレルライン :2017/04/03(月) 00:09
桃子ちゃんのBLTサンドを食べ終わるぐらいに、中澤さんから挨拶と弁護士さんの紹介があり、そのまま弁護士の自己紹介と挨拶にうつり、進行はスムーズに動いていく。
憲法二十四条の婚姻からだ。結婚でできること、市政における同性婚で認められていること。
認められてないために今まではできなかった財産贈与やパートナーの入院・手術の同意、面会謝絶になっても親類と同じ扱いでの面会、葬式への列席など。
またローンの組立や保険といった、一緒に長く住むからこその問題も市政においては少しずつ前進しているということだった。
同性婚制度が県や国レベルまで認めれられるよう、みなさん一緒に頑張りましょうと締めくくられた。
「十五分の休憩ののちに、質疑応答を行います」
中澤さんが声をかけると、喫茶店としてのいつもの賑わいが戻ってくる。
桃子ちゃんはコーヒーゼリーを食べながら、どう? と聞いてきた。
「思ったより難しかったです」
「まぁ、そりゃそうよ。ぴょんも婚姻可能な年齢ではあるけれど、まだまだ先の話だもんねぇ」
「講演を頼むって言ってましたけど」
あの日、講演会してもらおうと言ってたけれど、こんな内容じゃ誰もついてこれないと不安になって聞いてみる。
「あー、あれね。弁護士先生に頼むわけじゃなくて、性的少数の当事者を呼んで話をしてもらおうと思ってさ。憲法なんてよくわからないものより、人を好きなだけなのに何に困ったのか、そういう話を聞きたいでしょ?」
「はい! とっても!」
「うん、いい返事。人を好きになっただけなのに、ってのは、さっきも出てきたけど幸福追究の権利、何で同性を好きになっただけなのに社会で生活する上で困りごとがあるのか、ってのを平等の権利に置き換えてみたら、今日の学びもぴょんにはわかりやすくなるんじゃないかなぁ」
桃子ちゃんは、すいませーん、と手を挙げ、本日のおすすめコーヒー二杯目とミルクティーを頼んでくれた。

質疑応答は、どうやって周囲にこういった活動やアライという当事者以外の支援者を増やせばいいのかといった質問から、当事者の勤め先での差別だとか、はたまた恋人からのDVの対処法を教えてください、という悩みだ。
バイトをしたことも恋人がいたこともない私には縁遠い話のように思える。
告白がイベントの一種で、付き合うってのがゴールになってしまってるのかなと作戦会議を含め振り返ってみた。
ここにいる人たちみたいに大切にしたい人とつきあった経験がないからなのかもしれないけれど。
そういえば、道重さんが当事者なのかアライなのか知らないままだ。
最後にもう一度弁護士さんと中澤さんの挨拶があり、大きな拍手で会は終了した。
会計には長蛇の列だが、そこに道重さんと中澤さんが一人ひとりと話したり握手したり、時には手を振って見送ったりしている。
「ぴょん、もうちょっと時間ある?」
「はっ、はい!」
ま、まさかの桃子ちゃんからのお誘いなんて、嬉しい!
278 :恋はパラレルライン :2017/04/03(月) 00:10
「桃子、来てたんだ」
中澤さんと仲良く談笑していた、セミロングの女性が私たちのテーブルまで来てくれる。
パッチリとした睫毛が素敵だけども、目力がすごくて圧をかけられているようにも感じる。
「そりゃ来ますよ、保田さん。例の件、お願いしますよ」
桃子ちゃんは、親しげにその女性と話す。例の件って何だろう。
「道重を説得できればいいよ」
「マジですか! やったぁ、今日は最終兵器連れてきましたから」
道重さん? 最終兵器? いよいよ、話が見えないぞ。
「最終兵器ってその子が?」
「そ、親友のぴょん」
「親友? 恋人じゃなくて?」
嬉しいな、恋人に見られてたらいいな。
話が見えないけれど、嬉しい言葉がポンポンと聞こえてくる。
もー、違いますよー、と桃子ちゃんが否定したときに空気が変わった。
黒髪を触りながらこちらへ歩いてくる道重さんが見えたからだ。
「みっしげさん! 待ってましたよー」
桃子ちゃんは立ち上がって、こちらのテーブルにと姿勢よく手招きする。
その姿が凛としていて見惚れるようだった。
「桃子ちゃん、なぁに?」
道重さんの発する「桃子ちゃん」という単語がほわほわもこもこしていてかわいい。
「あ、山木さん。難しくなかった? 大丈夫?」
ふわーと天国まで上昇していくような幸せを感じる。
今日の目と耳の忙しさは尋常じゃない。
「あ、はい。だ、大丈夫です」
と返事するのが精一杯なくらい緊張した。
「みっしげさん、そーゆーことするからファンが増えるんですよ」
「そういうことって?」
「もー、絶対わかってるでしょ!」
桃子ちゃんはスネているようで、可愛い。
学校じゃ見れない光景にクスリと笑ってしまう。
それにしてもおしゃべりだ。
部活でしか会えない、仕事してる先生にしか会えてなかったんだなぁ。
「それに、山木さんは桃子ちゃんの生徒でしょ?」
道重さんの純粋な質問に、保田さんはなるほど親友ねと短く答え、桃子ちゃんは舌打ちしていた。
「ま、いいんですけどね。ぴょんがこういう学びを道重さんから聞きたいなーって言ってたから。ね。若い子の意見は大切じゃないですかぁ」
桃子ちゃんの意見にこくこくと頷くと、道重さんは深く考え込んでるようだった。
「うーん、その件はまたあとで返事してもいいかな」
「もちろんですよ! みっしげさん、いい返事期待してますから」

三人と店主に見送られ、喫茶店を出ると薄暗く太陽は西へ落ちつつあった。
並んで坂を下る。
日曜の夕方は、人や車の往来が平日より少ないように感じた。
「遅くまでごめんね。家まで送ろうか?」
「大丈夫です。高校生ですから。それに遅くなるかもって言ってあります」
今日、起きたときから先生の様子を見て告白してみようと決心してたのだ。
住宅地と歓楽街をつなぐ橋が見えてきた。
「先生。私、先生が好きです! だから」
言葉を続けようとしたら、先生がぎゅっと体を包むように抱きしめてくる。
良かった、付き合えるんだと思った時、耳に入ってきた先生の言葉はとても衝撃的で両目から涙が溢れてしまった。
高校生にもなって人目を憚らず泣くことになるなんて、思いもしなかった。

ーー山木さん、ありがとう。気持ちは嬉しいよ。でも、先生ね、もうすぐ結婚するの。だから、山木さんの気持ちには応えられない。

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