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続飼育支部

219 :鞘師里保の練習 :2013/06/07(金) 23:16
私、中学三年生になって、今年受験生になりました。
絶対合格したい高校があるんですよ。
だから、道重さゆみさん、私の家庭教師になってください。
お願いします!

鞘師は友達の前で頭を下げた。
そして、頭を上げると不安そうな表情で友達を見つめる。

「ね、ね。どうだった? ダメかなー? ね、かのんちゃんどう思う?」

友達の名前はかのんちゃんと言うようだ。

「えー。大丈夫だよ。そんな気にすることないよ」

かのんはめんどくさそうに笑い、右手を顔の前でひらひらと振った。

「えー、ってなに、えー、って。ダメなとこあったら教えてよ」

友達の言葉に鞘師は納得せず、ぶーっとふてくされる。

「里保ちゃんかわいいんだから道重さんだって引き受けてくれるよ」

かのんが鞘師の肩をぽんぽんと叩きながら言うと、鞘師は目を輝かせた。

「ほんとに? ひゃっほーい!」

廊下を走り出す鞘師をかのんは止めない。小声でめんどくさいなぁと呟く。
高校に合格したいから道重さんとかいう人に家庭教師になって欲しい。
なんてかのんには意味がわからなかったからだ。
何がどう、だからなのか。
それは自分と勉強するんじゃダメなのか。
道重という人ではないとダメなのか。
……ま、いっか。お腹空いてきたから、購買寄って焼きそばパン食べよーっと。
鞘師が走り出した方向とは別に近くの階段を下りていく。
かのんは難しいことは考えない主義だった。

鞘師が道重と出会ったのは、もうだいぶ前のことだ。
まだ小学生だったころ。ランドセルを背負っていたころ。
大きなため息をつきながら公園のブランコに乗っていたのが道重だった。
道重は大学で教育学を専攻していたが、卒業論文に関わるゼミの第一志望に落ちた直後だった。
最初は何を言っても反応しなかったが、ありがとうというと目を細めて笑った。
その表情がとても美しく、鞘師はお姉さんのことをもっと知りたくなった。
近くに一学年上の幼馴染、えりぽんへ頼んでお姉さんのことを調べてもらった。
毎日毎日、えりぽんがピンポーンと家のベルを鳴らして情報を持ってくるのを待っていた。
けれど、そんな日はいっこうに来なく、鞘師は中学生になる。
ボランティア部に入った鞘師は、活動で訪れた施設で道重と再会した。

 私、中学生になったんです。

胸を張って誇らしげに言うと、前よりも体つきが大人っぽくなったね、と返事してくれた。
たったそれだけのことが妙に嬉しかった。
口うるさい親とも先生とも違う、純粋に構ってくれることが嬉しかった。
でも本人を目の前にして伝えるのは、照れくさくて手紙にして渡した。
思いのほか喜んでくれて、連絡が取りあえるようになった。
それが去年、鞘師が中学二年生の話。

道重とより深く会話するようになり、もっともっと知りたいと思った。
そして自分のことも知ってほしいと願った。
家庭教師なら、近くにいられるし、きっと会話の時間も増える。
成績は悪くないけど、道重さんと一緒に居られるなら、こういう手段もアリかな。
軽く考えてたけれど、お願いをするなら一所懸命じゃないとダメだ。
気づいてから、前から相談していたかのんを前に練習することにした。

走っていたら通りがかった先生に注意され、振り向いたときにはかのんはいなかった。
かのんちゃんには、パンやお菓子を用意して見てもらおう。
また練習しよう。道重さんに振り向いてもらうために。

 END.

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