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続飼育支部

187 :Color Bird :2012/07/10(火) 01:05
連絡方法がどんなに変わったとしても、変わらない人間関係がある。

携帯電話を手に取る。メール一つ送信すればすぐ逢えるけれど、見慣れた九ケタの数字を表示する。
耳にあてると、無機質な冷たさを感じる。プルルルルという機械音が心地よい。
「あ、さゆ? れーなやけど予定キャンセルばい。すぐ出て来れるっちゃろ?
 さっき安倍さんに会ったとよ。話したらなんとかなりそうやし。……りほ? 一緒に行くっちゃよ」
電話を切る頃には、携帯電話自身が熱を帯びている。買い替え時か。
ゆっくりと決めたばかりの待ち合わせ場所に歩いていく。

保田宅には迷わず着くことができた。
よくあるマンションと思いきや、ワンフロアワンルームの高級マンションのようだ。
緊張した面持ちでれいなは保田宅のチャイムを押す。
すぐにハーイという声が奥から聞こえた。
三好ちゃんっちゃ。田中が言うと、道重は誰と聞く。
188 :Color Bird :2012/07/10(火) 01:07
答えを促す前に扉が開く。
「早かったね。ってゆーか田中ちゃん久しぶりじゃなーい! んもー!」
田中は嬉しそうに玄関の中に入っていく。
りほと顔を見合わせた後、道重も中に入る。
広い。自宅アパートより何倍も広い。
まっすぐ伸びる廊下の先に、明るくて広いリビングがある。
わぁと三人の声が部屋に響いた。
「いらっしゃい。はじめまして、道重さん」
隣のキッチンから保田が姿を見せる。奥にはエプロンをつけた安倍が忙しく動いている。
保田は三人に近づくとゆっくりと手を伸ばす。誘われるように、田中、りほ、道重の順に握手した。
そのまま手をキッチンから遠いほうのソファを指し示す。
三好と保田は顔を見、小さく頷き合う。
「りほちゃん、ちょっとお姉さんと一緒に遊ぼうね」
優しく三好が声をかける。りほは道重の表情を窺う。彼女は穏やかに頷いた。
「ありがとうございます」
丁寧にお辞儀をする。こういう時、田中は特に何もしない。焦るように頭をかく。
それもかわいらしいと道重は思っている。
りほが早足で三好のあとをついていく。気づいた三好が振り返り、小さな手を握るところを見届けた。
「じゃあ聞かせて?」

保田との話は手早く終わらせた。
やっぱり鍵は裕ちゃんかー、溜息とともに保田が愚痴を吐き出す。
189 :Color Bird :2012/07/10(火) 01:08
なっちも核心部分は話してくれないしなぁ。どうにかするから、そんな心配しなさんな。
……なんて、ね。田中ちゃんって言ったっけ、時々絵梨香を連れ出してほしいの。
そうすれば時間稼げるしさ。なっちとも裕ちゃんとも話し合いの時間を持てると思うから。
「けーちゃーん、シゲさーん! できたよー!」
安倍の弾んだ声がリビングの奥まで届く。鍛え抜かれた声が空気を震わせる。
「はーい!!」
保田が返事をする。ごめんね、絵梨香とりほちゃん呼んできて、と二人に声をかけた。
キッチンに急ぐ保田を見て、二人は立ち上がる。
「絵梨香って三好ちゃんの下の名前だっちゃ」
田中の言葉に道重は頷く。
「どうしよう。さゆみが家出の原因だったら、どうしよう」
道重の声は震えている。
「どうもできないっちゃ。どうにかなるしかないっちゃよ」
落ち着いた声で田中が諭す。
「……うん、なるようにしかならないんだよね」

キッチン寄りのテーブルに六人が座る。
席順は保田の隣に三好、三好の対面に田中、保田の対面に道重。
保田と道重の間の誕生日席に安倍、三好と田中の間の誕生日席にりほ。
焦げ茶のテーブルに、白いテーブルクロス。
綺麗なお皿に盛りつけられたのは、大きめのハンバーグとサラダ。
190 :Color Bird :2012/07/10(火) 01:10
「じゃあ、なっちに感謝して……」
保田が手を合わせようとしたとき、道重が小さな呟きを吐き出す。
「……シゲさん?」
道重の脳裏に、あの夜のシチューが思い返される。
あの時、安倍さんが何を言ったのか知っている。
いや、記憶が混ざっている。
そうだ、りほを迎えに公園に行った時。
それも違う。
あの日、会ってすぐだ。
会話をし始めてすぐにこう言った。

「いるようでいないから」
さっきよりもはっきりと道重は声に出す。
「どういうことっちゃ」
田中が怪訝な表情で道重を見る。
「安倍さん、いるようでいないから、とはどういう意味ですか」

 END.

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