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続飼育支部

1 :みおん :2011/12/04(日) 17:18
今回はゆるゆる更新です、たぶん。
またも小ネタ中心になると思います。
180 :現実体験 :2012/06/25(月) 00:59
今日も東京にいる保田さんから着信アリ。
台風の翌日は夏至だったから、暦の上では真夏をすぎたことになる。
昼の時間も早いけれど、夜の時間も早い。
一日が過ぎるのもあっという間だ。
保田さんから突然電話があった日、翌日の夏至にも着信があった。
それから途切れることなく着信だけは残されている。

夜、思い出すのは保田さんのこと。
東京にいる、保田さんのこと。
もう蒸し暑いのだろうか。それとも夜はまだ、涼しい風が吹いて寒く感じるのだろうか。
181 :現実体験 :2012/06/25(月) 01:00
とめどめとなく考えていたことがイメージとして頭に浮かぶと、それが呼び水となり、記憶が思い出される。
初めて保田さんが触れてくれたのはいつだっただろうか。
キャッキャッと遊びの中で肌が触れあったり肩をたたき合ったりしたのとは違う、ふれあい。
そこから、連続して初めてを体験していく。
少しだけいじわるで私を恥ずかしがらせる。
テレビで見てた芸能人が、輝いているタレントが、私を抱いている。
その事実もまた、私を興奮させる。
男に抱かれるのとは違う感覚。いや、同じ感覚なのかもしれない。

――絵梨香。快楽を受け入れたら、堕ちていくのは一瞬よ。

耳が、保田さんのいじわるな言葉を。
心が、保田さんがもたらす快楽を。
身体が、保田さんの攻撃的な指を。
夏の夜は明け易いから、秋の夜を恋しく思う。

 END.
182 :道重さゆみのお祭りなの :2012/06/26(火) 22:00
道重さゆみのお祭りなの

道重は『キスがしたくなる飴』と書いてある袋を楽屋のテーブルに置いた。
910期メンバーが学校から帰ってくる時間に合わせた。
昨日は指祭りというアイドル祭りが行われていた日。
アイドルDDの道重さゆみとしては行きたくてしょうがなかったのだが、仕事があるわけで仕方がない。
だからこそ、今日は道重さゆみのお祭りなのだと考えていた。
舞台はスケジュールの都合と一人はぶられ、話についていけないツライ日々を送っていた。
だがしかし! そんなことを忘れるぐらい盛り上がろうではないか!
そのための指祭り! その翌日はリーダー権限で! いや、先輩権限で!
中澤さんがリーダーだった頃に、メンバーにキスしまくってたという話を小耳に挟んだことだし!
さゆみも頑張るの、と心に誓う。

最初に佐藤工藤の中一コンビがやってくる。続いて、鈴木。この三人は思った通りに飴に目もくれない。
高校生の石田譜久村飯窪が入ってくる。
飯窪が「何ですか? コレ」と袋を手に取った。石田と譜久村が袋をのぞきこむ。
「道重さん、したいなら言ってくださいよ! みずき、待ってるのに……」
あー、また始まったよ、勝手にやってれば、という感じで大きなため息をつく鈴木。
183 :道重さゆみのお祭りなの :2012/06/26(火) 22:00
道重は心の中でくすりと笑う。ここまでは思い通りだった。
石田の反応が違う。顔が青白い。
「ちょ、ちょっと! 道重さん! これ早くしまってください!」
あれ? この間までなら道重さん道重さんと何でも言うことを聞いてくれたのに。
あまりにもりほりほに入れ込みすぎて、りほりほ周りの他メンバーの情報が頭から抜け落ちてたのだ。
「鞘師さんが帰ってくる前に早く! しまってください! こんなの見たら……」
そうこうしてるうちに生田が来た。
「もー、何をそんなに騒いでるんですかぁ? 廊下まで聞こえましたよぉー」
「生田さん、石田さんが鞘師さんと早くしたいそうです」
「ちょ、ちょっとまーちゃん!」
「ふーん」
生田は対して興味もなさそうに、会話を終わらせる。
そして、石田も道重も気づかなかった。生田が開けっ放しにしたドアから鞘師が遅れて入ってきたのを。
「あゆみちゃんの唇、今日もプルプルだねっ! おはよー!」
「変です、変ですってば、鞘師さんの挨拶っ!」
生田が飯窪から「なにこれぇ」と袋を奪う。
「みずぽん、これ、ガキさんに渡したらキスしてくれると?」
184 :道重さゆみのお祭りなの :2012/06/26(火) 22:01
「みずきはえりとしたいな。うふふ」

道重一人、今日もはぶられ祭りだった。はぶられといったられいなだったのになぜ。
れいなの周りには、佐藤と工藤がまとわりついている。道重がリーダーに就任してからはいつものことだ。
飯窪は飴をなめはじめた。
「キスしたいなら、なめればいいじゃないですか」
道重にそっと個包装の飴を渡す。
「あ、ありがとう」
甘い匂いが近づいたかと思うと、道重の頬にやわらかいものが触れた。
ふふっ、とにっこり笑う飯窪さんを純粋だなぁと思う。

お祭りは夏が本番なの。毎日お祭りなの。また計画を練り直すなの。
序ノ口にすぎないの。はるなんには悪いけど、やつはさゆチルのなかでも最弱……。
狙うはりほりほの唇なのっ! 来月はさゆみの誕生日もあるの、また頑張るの、と強く誓い直した。

 END.
185 :おやゆびひめ :2012/07/03(火) 22:47
――足の指を舐めたい。
親指だ。口を開けて、赤い舌を出して、無心になってペロペロと舐めたい。
そうそう、右足の親指を口に含みたい。
べたべたになったら絵梨香は怒るかもしれない。
その顔が見たい。表情が見たい。
無心に舐めくさってる間、絵梨香は私を見つめてくれるかもしれない。
視線の先には、自分の指を舐めてくれる芸能界の先輩がいる。
私は知らないふりしてとにかく舐め続ける。
親指を口に含ませて、唾液をたくさん出しながら、ちゅぱちゅぱと吸いたい。
口から出し入れしたい。いくらなんでも恍惚の表情にはならないだろう。
「保田さん、もうやめてください」と言いながら右手の人差し指を唇に持っていくかも。
そうやって私を誘うのだ。視線や目つきではない。声で誘う子なのだ。

東京と札幌の物理的距離はあるが、精神的距離は近い。
ブログを読めば、どんな状況か理解できる。
フットサルの練習で足を痛め、親指の爪が浮き流血したそうだ。
ぼーっとしながら読んだが、ふと、舐めたい、足の指を舐めたいと強く願った。
186 :おやゆびひめ :2012/07/03(火) 22:48
短冊にでも書けば願いは叶うかもしれない。
白くて長い紙に、足の指を舐めたい、とだけ書くのは気が引ける。
いっそのことメールで伝えてみてはどうか。
書くだけ書いてみようか、短冊に。そして撮ってメールに添付すればいい。
開いてくれるだろうか。

そこまで考え悩んだところで気づく。
私の右手は自分の胸をさすり揉みくだしている。
左手人差し指はだらだらと口の端から流れる唾液を受け止めつづけている。

   さ び し い

会えない日々を埋める手段は一つしか私は知らない。
きっと絵梨香も同じことしてると信じる。
電話では私にひどいことを言うけれど、直に会えば爪が浮くぐらいの甘いセリフを吐いてくれるのだ。
また楽しいコトしようね、絵梨香。

 END.
187 :Color Bird :2012/07/10(火) 01:05
連絡方法がどんなに変わったとしても、変わらない人間関係がある。

携帯電話を手に取る。メール一つ送信すればすぐ逢えるけれど、見慣れた九ケタの数字を表示する。
耳にあてると、無機質な冷たさを感じる。プルルルルという機械音が心地よい。
「あ、さゆ? れーなやけど予定キャンセルばい。すぐ出て来れるっちゃろ?
 さっき安倍さんに会ったとよ。話したらなんとかなりそうやし。……りほ? 一緒に行くっちゃよ」
電話を切る頃には、携帯電話自身が熱を帯びている。買い替え時か。
ゆっくりと決めたばかりの待ち合わせ場所に歩いていく。

保田宅には迷わず着くことができた。
よくあるマンションと思いきや、ワンフロアワンルームの高級マンションのようだ。
緊張した面持ちでれいなは保田宅のチャイムを押す。
すぐにハーイという声が奥から聞こえた。
三好ちゃんっちゃ。田中が言うと、道重は誰と聞く。
188 :Color Bird :2012/07/10(火) 01:07
答えを促す前に扉が開く。
「早かったね。ってゆーか田中ちゃん久しぶりじゃなーい! んもー!」
田中は嬉しそうに玄関の中に入っていく。
りほと顔を見合わせた後、道重も中に入る。
広い。自宅アパートより何倍も広い。
まっすぐ伸びる廊下の先に、明るくて広いリビングがある。
わぁと三人の声が部屋に響いた。
「いらっしゃい。はじめまして、道重さん」
隣のキッチンから保田が姿を見せる。奥にはエプロンをつけた安倍が忙しく動いている。
保田は三人に近づくとゆっくりと手を伸ばす。誘われるように、田中、りほ、道重の順に握手した。
そのまま手をキッチンから遠いほうのソファを指し示す。
三好と保田は顔を見、小さく頷き合う。
「りほちゃん、ちょっとお姉さんと一緒に遊ぼうね」
優しく三好が声をかける。りほは道重の表情を窺う。彼女は穏やかに頷いた。
「ありがとうございます」
丁寧にお辞儀をする。こういう時、田中は特に何もしない。焦るように頭をかく。
それもかわいらしいと道重は思っている。
りほが早足で三好のあとをついていく。気づいた三好が振り返り、小さな手を握るところを見届けた。
「じゃあ聞かせて?」

保田との話は手早く終わらせた。
やっぱり鍵は裕ちゃんかー、溜息とともに保田が愚痴を吐き出す。
189 :Color Bird :2012/07/10(火) 01:08
なっちも核心部分は話してくれないしなぁ。どうにかするから、そんな心配しなさんな。
……なんて、ね。田中ちゃんって言ったっけ、時々絵梨香を連れ出してほしいの。
そうすれば時間稼げるしさ。なっちとも裕ちゃんとも話し合いの時間を持てると思うから。
「けーちゃーん、シゲさーん! できたよー!」
安倍の弾んだ声がリビングの奥まで届く。鍛え抜かれた声が空気を震わせる。
「はーい!!」
保田が返事をする。ごめんね、絵梨香とりほちゃん呼んできて、と二人に声をかけた。
キッチンに急ぐ保田を見て、二人は立ち上がる。
「絵梨香って三好ちゃんの下の名前だっちゃ」
田中の言葉に道重は頷く。
「どうしよう。さゆみが家出の原因だったら、どうしよう」
道重の声は震えている。
「どうもできないっちゃ。どうにかなるしかないっちゃよ」
落ち着いた声で田中が諭す。
「……うん、なるようにしかならないんだよね」

キッチン寄りのテーブルに六人が座る。
席順は保田の隣に三好、三好の対面に田中、保田の対面に道重。
保田と道重の間の誕生日席に安倍、三好と田中の間の誕生日席にりほ。
焦げ茶のテーブルに、白いテーブルクロス。
綺麗なお皿に盛りつけられたのは、大きめのハンバーグとサラダ。
190 :Color Bird :2012/07/10(火) 01:10
「じゃあ、なっちに感謝して……」
保田が手を合わせようとしたとき、道重が小さな呟きを吐き出す。
「……シゲさん?」
道重の脳裏に、あの夜のシチューが思い返される。
あの時、安倍さんが何を言ったのか知っている。
いや、記憶が混ざっている。
そうだ、りほを迎えに公園に行った時。
それも違う。
あの日、会ってすぐだ。
会話をし始めてすぐにこう言った。

「いるようでいないから」
さっきよりもはっきりと道重は声に出す。
「どういうことっちゃ」
田中が怪訝な表情で道重を見る。
「安倍さん、いるようでいないから、とはどういう意味ですか」

 END.
191 :みおん :2012/07/10(火) 01:13
Color Bird>>187-190はこれの続き物になります
坂で逢いましょう>>17-19 見えない影>>29-32 道のしっぽ>>57-61 深淵>>64-65 うえ に ある>>66-67
一杯のコーヒー>>118-121 一直線に>>147-159 坂の途中にて>>167-168
192 :先輩の美しい名を呼ぶ私。線から面へとつなぐ優しさ :2012/09/09(日) 18:27
広大な住宅地から、坂の下にある川沿いを眺める。
全ての欲望を包み込む光が歓楽街を照らし続けている。
光の根源は奈落の底まで引っ張り込む、小さな、だけど真っ黒な闇。
正体も知らずに誘われて、後悔して岸辺を目指してあがく。生き伸びるために。
キラキラと輝き続ける光が眩しくて眩しくてつらかった。
安倍も田中も追われるように『マチ』から逃げた。

あの日、救ってくれたのは中澤だった。
「もう見てられへん! おいでや」
差しのべられた片手は、力強くて凛々しかった。
いつまでこの手を握っていられるのかわからない。でも、今は少しだけ休憩したい。

ステージに上がっている時は何も考えない。考えられない。
時間が過ぎていくのも楽しくて、ずっとずっと立っていられるように努力を怠らなかった。
誰よりも、いや、過去の自分を乗り越えるために努力し続けられた。
最高の自分を超えられるのは、今の自分しかいないから。
それでも勢いだけで生きていくパワーはとうに失っていた。
隣を走る田中れいなという存在が、何かを持たなくても勢いだけで生きている。
それを見続けることは安倍には不可能だった。並走もできずに失速していく。
当時は、田中に追い出されたのだと感じた。
――今は違う。
距離を置いて生活することで、たくさん取り戻したものがある。
暴れすぎない感情、穏やかに過ごせる時間、誰かがいるだけで安らぐ空間。
「無理しなくてええんやで。なっちのしたいことやりぃ」
「うん、裕ちゃんありがと」
193 :先輩の美しい名を呼ぶ私。線から面へとつなぐ優しさ :2012/09/09(日) 18:28
 
194 :先輩の美しい名を呼ぶ私。線から面へとつなぐ優しさ :2012/09/09(日) 18:28
いつからか中澤の仕事が忙しくなる。保田から仕事を回されてる、と話していた。
道重さゆみという存在を知ったのも、その頃だった。
中澤はちょくちょく彼女から電話を取り、出かけた。
「ちょっと出かける」とだけ言って、外出する。何をしているのか知りたくもなかった。
失う、取り戻す。バランスだけをとろうとするから、まともに走れない。
何を失ったのか。元から持っていなかったんじゃないか。
みんなは最初から持っていて、私だけ持っていないものがあるんじゃないのか。



「安倍さん」
道重の声が聞こえる。意識を現在へと戻す。
「中澤さんは、安倍さんの隣にずっといましたよ」
……違ったんですか。
ゆるやかな問いに安倍の息がつまる。
――ステージ上で歌詞を忘れた時、よくこうなったことを思い出した。
仕事をはじめたころ。歌えなくなった現実をどこかで認めてないのかもしれない。
「れーなは安倍さんの歌声、好きでしたよ」
ぽつんと田中が呟く。田中だって、今は歌の仕事は続けられてない。
好き嫌いで仕事が選べればいい。それで食っていければいい。
そうはならないことを安倍も田中も保田も知っている。きっと、中澤も。
だから、手を差し伸べてくれた。悩んで悩んで悩みぬいて、安倍のために決意してくれた。
たった一人の人間のために。

「なっち、おうちにかえろっかな」
195 :みおん :2012/09/09(日) 18:29
先輩の美しい名を呼ぶ私。線から面へとつなぐ優しさ>>192-194は下記の続き物になります
坂で逢いましょう>>17-19 見えない影>>29-32 道のしっぽ>>57-61 深淵>>64-65 うえ に ある>>66-67
一杯のコーヒー>>118-121 一直線に>>147-159 坂の途中にて>>167-168 Color Bird>>187-190
196 :道重さゆみの流れ星全部イチャイチャで :2012/10/25(木) 23:25
飯窪さんがブログにオリオン座流星群のことを書いていたなの。
さゆみは一人きりイヤホンで音楽を聴いているというのに。
さみしいなのさみしいなの。なぜかさみしいなの。
そんなことはいいの! だーわーことあやちょとメール中継しながら見てたのが悔しいの!!
さゆみもあやちょとキャッキャウフフみたいなメールがしたいの!
あやちょじゃなくてりほりほでもいいの。
……さびしいとウサギになっちゃうからね。
あ、さゆみのウサギはふくちゃんとは違ってライオンに襲われたいからじゃないから。
勘違いしないで欲しいの。
さゆみ別にウサギになったからってノーブラノーパンになるわけじゃないの。
ちゃんとティアラとドレスを着用するの。
勘違いしないで欲しいの。
誰でもいいの! イチャイチャしたいけど、どうすればいいの!!

かわいくかわいく深呼吸なの。さゆみは深呼吸だってかわいいの。

はっ! 秋の大三角形はないって飯窪さんに教わったの!
ネットで道重さゆみ△って今年の秋だけ書かれるようにりほりほとの隙間をつめるの!
さゆみとりほりほと隙間の3shot撮影って言われないようにするの。
リーダー頑張る。
流れ星見つけてりほりほとイチャイチャしたいってお願いするよりはるかに現実的なの。

 END.
197 :みおん :2012/10/25(木) 23:34
久しぶりに書いたらひどい話になりました。元からひどい話しか書いてないだろと言うツッコミが聞こえます。
最近はさゆれなとさゆはうとはうちょとよしごまとあゆみずきとふくどぅーが読みたいです。
あ、あとだーどぅーも読みたいです。あやみきでもいいです。この際、何でもいいです。
ここで独り言を垂れ流すよりも自分で書いたほうが早いと思うの。
道重さんのネットパトロール力でここも読まれてしまうのかしら。などというキモい妄想をしながら眠りにつきます。
ついでに目次を置いておきます。

2012年〜続き物は省いてあります。
プロポーズ大作戦(やすみよ)>>48-49 賽は投げられた>>50 ゆるい放物線を描く(℃)>>51-52 須藤茉麻が痩せた理由>>53
大雪の話>>62 ドジでノロマなヒヨコです>>63 春はまだ先に>>68-76 愛されパターン>>77-81 さゆみは乙女なの>>82 僕は彼女の幸福を知りたい>>83
僕は道重さんを知りたい>>84 僕はこの場の平和を願わずにはいられない>>86-87 聖・少女領域>>90-92 真夜中の電話>>93-108
なごり雪も降る時を知り>>110-116 可愛いは必要なの>>123-125 卵殻>>126 人という生き物>>127
さよならを知らないままで(やすみよ)>>130-136 はるなの(さゆはう)>>137-140
かわいい話>>141 (恋人のような顔をして)(やぐちゅー)>>142-146 NO LIFE , NO BOOK.>>163-166  百合の日々は>>169
――夏日でも、私たちには味方だよ。(あゆみずき)>>170-173 姉と猫>>174-175 本当は違うんだ入門(やすみよ)>>177-178 現実体験(やすみよ)>>180-181
道重さゆみのお祭りなの>>182-184 おやゆびひめ(やすみよ)>>185-186 道重さゆみの流れ星全部イチャイチャで>>196
198 :道重さゆみの One Two Three :2012/10/26(金) 23:39
三秒も視線をあわせられたらりほりほもさゆみにノックアウトされるはずなの。
昨夜に引き続き一人きりイヤホンなの。前シングルを聞いているの。
ネットパトロールで狼とYouTubeを見るの。必ずなの。
ファンの皆さんは若い子に流れちゃいけないけど、さゆみは若い子に流れてもいいの。
若ければ若いほどいいの。かわいいの。
でも一番かわいいのはさゆみなの。さゆみよりかわいい子はいらないの。
加護さんの若い頃の映像とかとても素敵なの。過去は良かったの。
まださゆみの胸がなかった頃に、胸が大きかったの。
さゆみもこれだけあればふくちゃんみたいにセクシーになれたの。
かわいいとセクシーが両立できたの。一兎を追うものは二兎を得ずなの。
りほりほとりさこちゃんを一緒に追えないのと一緒なの。
だから、りさこちゃんには殿堂入りしてもらったの。
岡女期末テストに流れ着いてしまったの。ガキさんが幼いの。
ロリガキさんなの。生田がこの映像見たらどうなるのかなぁ……。
ま、いっか。
モーニング娘。で肩身が狭いとか……この流れ。
一の舞、二の舞。三の舞。
さすが辻加護なの! らってのんわかんなかったんらもん! って言えばいいのに。
計算なの。辻さんは数学だけ得意なの。さゆみと同じではないの。
さゆみは勉強全部苦手なの。偏差値低いの。
かわいいりほりほと恋に落ちたくても、三秒も視線が合わせられないヘタレなの。
さゆみがかわいすぎるから、視線を合わせられないのかな?
そろそろ寝ようっと。さゆみ、三秒経たないうちに眠れるのが特技なの。
おやs

 END.
199 :Pop Cooooorn !! :2012/11/02(金) 02:08
秋も深まる文化祭の季節。私たちのクラス企画は喫茶店に決定。
喫茶店を選ぶクラスが多いから生徒会での抽選になったけど、なんとかクリアできた。
みずきちゃんの提案でなぜかうさ耳をつけたまま接客することに。
恥ずかしいけど、みずきちゃんはノリノリで友達とはしゃいでる。
あの日から、二人の距離と、私とクラスメイトの距離もぐんと縮まったのだけど。
……それでも輪の中に入ってみずきちゃんに甘えるのはためらってしまう。
弾けられればいいのになぁ。輪に入ってさ、一緒に。
まじめなのかな。自分では負けず嫌いだと思ってるけど。
だって、クラスメイトの中で一番にみずきちゃんのこと思ってるからね!
みずきちゃんにだって絶対それ伝わってるもん!!

――文化祭当日。
「ちょっとぉ、みずきちゃん何コレ! なんで私のだけこんな、こんな服装なの!?」
「ふふふ、飯窪先輩のお友達に頼んでつくってもらったの」
みずきちゃんが持ってきたのはメイド服。しかも他の人が穿いたら超ミニになっちゃいそうな……。
石田亜佑美サイズ。身長150センチクラスの私にしか似合わない、ように見える。
低身長の子はクラスにもいるけど、役割はバラバラに振り分けられたから。
「だってみずきも一緒にやるんだから、あゆみちゃんにも可愛い格好してもらいたかったの」
「いや、あの……はい」
ちょっと私、なんで返事しちゃってるの!? そりゃ嬉しいけど、嬉しいけどぉ。
「けど! どうせ他の子には見えないんじゃ?」
私たち二人は接客係ではなく、後ろでスイーツをお皿に盛りつける係。
だから、エプロンと三角巾とマスクだけは必須で服装は特にこだわらないってことになってる。
みずきちゃん、私が接客しないって言ってたら残念そうな顔してたからなぁ。
だからって、だからって!
「……うん、いけない?」
「いけなくないです!」
「でしょ?」
みずきちゃんの顔が妖しくにんまりと笑ったように見えた。
「二人きりの時だけだからね!」
強く主張すると、いいよ、と簡単にOKされてしまう。
なぜか、それをさびしく感じる。なんでだろう。みずきちゃんには抵抗してほしかったのに。
200 :Pop Cooooorn !! :2012/11/02(金) 02:08
 
201 :Pop Cooooorn !! :2012/11/02(金) 02:08
みずきちゃんも先輩のお友達特製らしい服装だけど、ロングスカートのメイド服だ。
ご丁寧に三角巾にはうさ耳らしきピンクの布がついている。
私のにもついてるけれど。
はぁ……。溜息がこぼれ落ちる。
マスクもご丁寧にデコってあるものだった。いくらかかったんだろう、これ。
そんなことを考えたいぐらい地味な作業が延々と続く。
何かの拍子にみずきちゃんを見ると、真剣な表情で黙々と作業していた。
さっきまでの可愛い格好がどうの、と熱弁してたみずきちゃんはどこにいっちゃったんだろう。
さみしいな。
かまってよ、みずきちゃん。
二人きりだったら甘えられるかなって思ったから、この係に二人で立候補したのに。
わざわざ同じ組にしてもらったのに。みずきちゃん人気高いから。
「譜久村さん、石田さん。上がっていいよ」
次の組の子たちが来て、時間より早く作業から解放できた。

他のクラスとの共同控室で、着替え直す。
マスクをとって、ぷはーっと大きく深呼吸。
「みずき、作業に集中してて全然話せなくて全然あゆみちゃんの格好見れなかった」
ごめんね、あゆみちゃん。
真剣に謝る姿が、いつもと違う服装だからかよけいにドキドキする。
あの時と同じみたい。あの日と同じみたい。
なんでだろう。クラスメイトでちょっと仲良くなって、それで隣に居てほしくて甘えたくて。
でも、ただの友情だもん。恋愛とか意味わかんないし。
喧嘩してもないのに、謝られるからかな。
ううん、違う。だってみずきちゃんが思ってることって私とあんまり変わらない。
だからドキドキするんだ。
「あゆみちゃんは、嫌だったでしょ? みずきがああいう恰好させちゃって……」
202 :Pop Cooooorn !! :2012/11/02(金) 02:09
みずきちゃんは途中で口を閉ざし背を向けて、着替えはじめる。
やだ……もっとドキドキする。私も着替えればいいのに、早く早く、手を動かさなきゃ。
みずきちゃんの背中のホックが外れる。
白いインナーと、とろけそうなぐらいやわらかそうな白い肌が露出する。
やだ。思わず視線をそらしてしまう。
いつものみずきちゃんじゃないみたいで。私の知らないみずきちゃんが居そうで。
怖い。
「やだ、みずきちゃん、あゆみにかまってよ」
声が震える。ううん、私の唇が震えてる。
コツコツと歩く音が聞こえ「いいの?」とみずきちゃんの声が耳元でした。
囁くように息を吹きかけられる感じで、私の身体はビクッと跳ねた。
「みずき、嫌われたかなって勘違いしてた」
違うんだよね?
確認するようなみずきちゃんの小さな声が、私の身体に大きく響く。
「そんな、そんなわけないじゃん。私の一番はみずきちゃんだよ!!」
声に出すと、案外勇気が湧いてくるようで、みずきちゃんの顔をしっかりと見つめながら言えた。
「……よかったぁ」
それからのみずきちゃんはすごかった。
ずっと私のことを考えすぎてたらしい。
ウサ耳嫌だったかなと悩んでいたこと。
クラスメイトにたくさん話しかけられて、私のことを構えなくなって悶々としてたことを教えてくれた。
「なーんだ。お互い、小さなことで悩んでたんだね」
二人してうんうんと頷く。
みずきのほうがあゆみちゃん不足で! なーんて言われたら本当に嬉しい。
ふふふ。私だってみずきちゃん不足だったもん! て返したら、ぱぁっと子どもみたいに顔を輝かせる。

「一つだけいい? なんでさっき目をそらしてたの?」
「え……だ、だって。それは……みずきちゃんの身体が、ていうか!」
恥ずかしいぞこれは……言いたくないかも。
ドキドキしてたなんて、伝えられないよ。
「え? なぁに?」
かまわれて幸せなんだけど、いつか、本気のみずきちゃんに食べられちゃうのは私のほうかもしれない。
……それでも友情って言えるのかなぁ?

 END.
203 :みおん :2012/11/02(金) 02:11
11月といえば待ちに待った学園祭シーズンですね。
飼育wikiにさゆはうとあゆみずきの項目ができたのでおねいさん頑張っちゃうよ記念
うそですふくちゃん誕生日を無事に迎えて帰国したよ記念ですたぶん
204 :名無飼育さん :2012/11/03(土) 03:29
あゆみずき来てるー!
ステーシーズ以来、波がキテる様にも感じますが書き手さんは少ないですよね
そんな中みおんさんが書いてくれて嬉しいです!
これからも期待しちゃってもいいですかー?ゆっくりでも待ってます。
205 :みおん :2012/11/10(土) 14:38
>>204 名無飼育さん
どうも、感想が少ないスレへようこそ。
ステーシーズは未見ですが、この二人が並んでるだけでハァハァします。
書き手が増えるといいですね。私も他の方が書いたあゆみずきを読みたいです。
206 :名無飼育さん :2012/11/13(火) 02:05
あゆみずき嬉しいです!
なかなか見つからないので、嬉しさで感動しました…!w

悶々としちゃうだーと、分かってないようで実は分かってそうなフクちゃんがたまらないですw
これからもお待ちしてます!
207 :しあわせですか? :2013/01/11(金) 23:51
「あー、思い出した思い出した」
悪友、藤本美貴は電話口でアハハとかるーく笑う。
一息ついてから、そんなこともあったねぇ、と懐かしむように呟いた。
「よっちゃんが昔を語るなんて珍しいんじゃないの?」
そうかもしれない。なんでこんな話になったんだっけ。ま、いっか。
……いや、よくないか。亜弥ちゃんから結婚の報告があったんだ。
私から美貴に電話をかけたわけではなくて、かかってきたからそのまま昔話に花を咲かせている。
このままではごっちんや梨華ちゃんからも電話が来るかもしれないなぁと美貴の声を聞きながら、ぼんやりと思っ

た。

亜弥ちゃんから電話があったのは、昨日の昼間。
――ひーちゃんへ最初に伝えたくて。
あ、うん。……あ、うん、ってなんだよ、と思った時には遅かった。
みんなにも伝えなきゃいけないから。あいさつも返事もそこそこに切れていた。
驚きながらもちゃんとケータイを元の場所に戻したし、直前までやってた作業にも戻れたし。
なのに。今日、午前中からひっきりなしに後輩から電話がかかってくる。
聞いてると思うけど。
なんて文句が最初に聞こえてさ、じゃあかけてくるなよ、とは思うけど、無下にはできない。
「おにごっことかさぁ。子どもが大きくなったらさぁ、みんなの子どもと一緒に遊びたいねぇ」
美貴は言うだけ言って、世話があるからと電話を切った。
たぶん、子どもが寝て暇になった時間を私にあてたんだろうと思う。
そういうとこ嫌いじゃない。変に心配もされてない、ただの暇つぶし。
違うかもしれない。けれど、笑い声で終わる電話はこの二日間で久しぶりだ。
私の声を聞く前から泣いてた後輩、私と話してるうちに落ち着いた後輩。
先輩からはお祝いどうする? と大人の相談。
208 :しあわせですか? :2013/01/11(金) 23:51
どこかで集まりたいなぁ。子供みたく走り回ってさぁ。また明日ね、と言わなくなったのっていつなんだろう。
亜弥ちゃんに最後、また明日ね、と言ったのいつだろう。会わなくなったのいつだろう。
この十年間、付き合い続けてるのは知ってたし、途中別れてたときがあったのも知ってたし。
いきなり会わなくなるなんてないんだと思う。でも、亜弥ちゃんが私に言った。
――あたしが幸せになんのに、ひーちゃんも幸せになれよ。

高校卒業後もよく会ってた。弟が亡くなってからも、会ってた。
一時的に距離を置く友人が多かった中で、亜弥ちゃんだけはそんなことなくひっついてきてた。
……なんだなんだ、こんなに思い出に浸っちゃって。私じゃないみたい。
昔、亜弥ちゃんと付き合ってた男でもないっちゅーの。
んなことわかってる。みんなだってわかってる。亜弥ちゃんだってわかってる。
そんでも美貴が結婚すると知った時なんて普通に爆笑しちゃって、美貴も笑ってた。
いや、今回だって明るいよ。明るかったんだよ。正月過ぎてからだけど、おめでたい話題なんだよ。
後輩が心配してくれるのが今、わかるぐらい動転してんだ、私。
どっかで亜弥ちゃん結婚諦めたのかな、って安心しきってた。
そこそこ仲良かったクラスメイトも、部活で仲良かった先輩も、最近出会う同い年の人も、だいたい結婚している。
そんなの気にしないよ、とは思ってる。実際、家族や友達とワイワイやってたほうが楽しいし。
身近な人の幸せそうな笑顔見るの好きだし。
けど、そんなんばっかりやってて私の幸せって本当にこれでいいのかな、とふと考える時がある。
友達が私以外の誰かと隣同士になって、幸せそうな笑顔を向けてくると嬉しいけどむなしい。
私の心がどこか軽くなったように、体もどこか遠くへ飛んでいってしまいそうになる。
209 :しあわせですか? :2013/01/11(金) 23:51
――あたしが幸せになんのに、ひーちゃんも幸せになれよ。

昔っから、ほんとグッサリくる一言を突きつけてくる。
現実から目をそらしていたのかもしれない。私の幸せだと思うものから逃げていた。
他人を喜ばすなんて簡単だ。笑ってればいい。つらくても笑顔でいればいい。
私の幸せより、人の幸せが先。
家族や友達の幸せが先。
一緒に考えていこう、なんて一人空回ってたんだ。
それでも亜弥ちゃんは近くにいようとしてくれた。
だからこその言葉だと信じたい。

ねぇ、亜弥ちゃん。今度、会う時いつだろうね。結婚式かな。
聞いていい?
「私が幸せにならなきゃ、亜弥ちゃんは幸せになれないの?」
ってさ。
きっと、ぷくっとほっぺをふくらませてから笑ってくれると思う。
それが言える私になりたい。
私だけの幸せを探してから。

   END.
210 :みおん :2013/01/11(金) 23:54
マイナーカプばかりのスレにようこそ
あゆみずきのエロとか需要あるのかな

>>206 名無飼育さん
あゆみん誕生日合わせを書きたかったのに時間足りなくて書けませんでした……。
あゆみずき熱は冷めてないので、時間あるときにまた頑張ります!
211 :名無飼育さん :2013/02/02(土) 15:29
あゆみずきのエロとか読みたいです。
と言うか、あゆみずき小説が全然見当たらない(´・ω・`)ショホ゛ーン
212 :三寒四温 :2013/03/08(金) 21:18
久しぶりのお誘いは、やっぱりあゆみちゃんからだった。

紅梅も咲き誇る三月。昔の人は、花見と言ったら梅だったらしい。
この東京で江戸時代に桜の花見が楽しまれるようになったとか。
今年はいつだろう。雪が積もるぐらい寒かったから。
それでも、入学式前には咲くんじゃないかな、とみんなは噂している。

「みずきちゃん、聞いてる?」
あゆみちゃんとおしゃべりしていたのも忘れ、いつの間にか寝ていたようだ。
「……うーん」
試験も終わり、もうすぐ終業式。最終学年の卒業式は終わってしまった。
文化祭でお世話になった飯窪先輩が卒業してしまい、ちょっとさびしく感じる。
「ね、今日、暑いからさ、これからアイス食べに行こ?」
アイスかぁ、冷たくて美味しいけど糖分が多いから、太る。
特に、女の子なら大きさが気になる胸にお肉がついちゃう!
みずきの場合は、だけど。
「あゆみちゃんは太らないからいいけど、みずきは太っちゃう」
いじけて言ったのに、ちらっと顔を見たらキラキラした笑顔で
「こっから自転車で三十分ぐらいのとこに美味しいソフトクリーム屋さん、できたんだって」
なんて言われたら、みずきは黙って頷くしかない。
213 :三寒四温 :2013/03/08(金) 21:19
初めてのお誘いは五月。
こんな風に自転車こいで、途中でアイス買って食べた。
あの日も、春にしては夏のような暑さだったっけ。今日も今日で春の初めにしては暑い。
秋以降、みずきはダイエットと称して自転車で通っている。
あのときみたいに、二人乗りであゆみちゃんを困らせることはできない。
けれど、隣を走っておしゃべりはできる。
並走は危険と校則に書いてあるけど。だって、かわいいあゆみちゃんの横顔を眺めていたいじゃない。
「どんなソフトクリームがあるかなぁ。ねぇ、みずきちゃん。紫いも味とかあったらどうする!?」
「ふつうにチョコレートでいいよぅ」
上り坂があるなんて聞いてない。いつもと違う道。いつもと違う風景。
目に映る景色の先にあゆみちゃんがいつでも目に入って、新鮮な感じがする。
どの季節も、あゆみちゃんが隣にいてくれたなぁ。
暖かい風が強く、みずきとあゆみちゃんの間を抜けていく。
先を行く、あゆみちゃんの制服がふわりと風に浮く。
スカートの中は見えるようで見えない。
あゆみちゃんからの好きは、言ってくれるようで言ってくれない。

来年になったらクラス替えが行われる。
文系理系、選択科目の違いによって明確に分けられるクラス。
同じのにしようね、と約束したけれど、それでも同じになれるとは限らない。

「みずきちゃん、早くぅー! もうすぐだよぉ!!」
坂の上で自転車から降り、あゆみちゃんはみずきに向かって手を振ってくれている。
うん。今はソフトクリームを食べることだけに専念しよう。
そして、あゆみちゃんを可愛がろう。
あゆみちゃんがさびしがらないように。
みずきがさびしくならないように。

 END.
214 :みおん :2013/03/08(金) 21:22
最近はさゆ生とあゆみずきがお気に入りです。
わかっていますが、自分が好んで書いてる中でやすみよが一番メジャーなカップリングです。
あゆみずきのエロは背徳的な感じがいいと思います。
みんな書けばいいのに。

>>211
飼育だとなぜかあゆみずきは少数派ですよね
215 :名無飼育さん :2013/03/09(土) 03:27
おおお!来てたー!フクちゃん切ないっすね…(´・ω・`)
あゆみずき増えるといいんですけどねー
216 :名無飼育さん :2013/03/09(土) 10:05
あゆみずき中々見れないので
いつも楽しみにしてます
217 :また『坂で逢いましょう』 :2013/03/13(水) 23:46
メール一つ送信すればすぐ逢える。二人の物語は続いていく。

『ハニホヘト』が閉店する五月十八日。小さな女の子がピアノを弾く演奏会。
ランダムに配置された、いつもと違うパイプ椅子が並ぶ。
中澤と安倍、保田と三好、そしてれいなとりほと道重。
ピアノはクラシックともジャズとも言い難い。それに女の子は気分で歌うこともある。
一風変わった演奏会。今年中学生になったという。
この時代に、人と変わってるところを出さないように生きる若者に演奏を聞かせたい。
と、ガキさんは挨拶代わりに話してくれた。

演奏終了後にふるまわれた、紙コップ一杯のホットコーヒーと手作りの小さな焼き菓子。
 いつかどこかでほっとするようなコーヒーを提供したい。
 その場と時間を、コンセプトを友人と二人で模索するために一旦店を閉めます。
 ありがとうございました。また会いましょう。
マイクを使わなかったガキさんの挨拶は、喫茶店の隅々までよく聞こえた。
一度、深々と礼をした後、笑顔でこう聞いた。
「今日、楽しかった方ー?」
安倍が笑顔で小さく手を挙げたのを皮切りに、その場にいた客全員と演奏していた少女も手を挙げ、笑いに包まれた。
『ハニホヘト』の女店主――ガキさんはとびっきりの笑顔で一人一人と笑顔で話をし、握手をして、客を送り出す。
中澤と安倍、保田と三好、そしてれいなとりほと道重。
三組は交わることなく、それぞれの家路につく。

誰にでも朝はやってくる。
いっときの闇は消え、太陽はまた昇る。
幸せを運んできそうなほど鳴く鳥と、爽やかな空気が初夏のおとずれを知らせる。
何があったわけでもないが、道重は中澤に会いたいと思い、メールを送信した。
坂で。とだけ書いてある返信にほっとしながら出かける支度を進める。
まだ布団で寝ているりほとれいな。んんん、というれいなの寝言にびくっとするが、じっと見つめていても頭は動かない。
れいなは前よりも優しくなった。
前も優しかったのかもしれない。けれど、気づく余裕は道重になかった。
218 :また『坂で逢いましょう』 :2013/03/13(水) 23:47
安倍にも中澤にもなかった。道重の優しさにれいなが気づく余裕もなかった。
だから、嬉しいと素直に思える。帰ってきたら、れいなに抱きついてあげようと心から思い、部屋をそっと出る。

『ハニホヘト』があった坂の上で中澤が待っていた。
道重が浅く頭を下げると、おはようと笑顔ではにかむ中澤がいる。
いつからこの<マチ>には優しさがあふれていたのだろうか。
私だけが優しいのだと勘違いしていただけなのかもしれない。
私だけが特別さびしいのだと、そばにいる人を信用しきれなかったのかもしれない。
自分自身を信じてきれなかったからかもしれない。
二人は同じ坂を下り、同じ風景を眺める。
一つのコミュニケーションとして選んだ沈黙を破ったのは道重だった。
「安倍さん、どうですか」
中澤は道重の理想の姉として見られることを意識していた。
道重は姉と慕う存在になら甘えられる自分を認識していた。
「うーん……」
言葉を探しながらも、幸せそうな笑顔は安倍に向けられている。この場にはいない安倍に。
道重は抱きしめられるのは私じゃないんだと思う。それでも距離は変わらない。
変わらないまま、この関係はずっと続いていく。空をすべる朝陽に、関係は永遠に続くのだ、と願う。
「圭ちゃんからまわしてもろとる仕事を一生懸命やってるわ」
「そうですか」
「なんかあったら呼び出して。……メール、楽しみに待っとるから」
なにかが始まる前と同じテンポの会話。切れ味鋭い関西弁を使う頻度は少なくなっていた。
意地を張り続けなくとも二人の関係は変わらない。
「はい、れいなとりほが待ってるから今日は帰ります」
中澤は大きく肩をあげるように空気を吸い込み、空を見上げると息をゆっくりと吐き出す。
「うん、また坂で逢おうな」
晴れやかな笑顔で道重を見つめた。

坂で逢いましょうEND.
219 :鞘師里保の練習 :2013/06/07(金) 23:16
私、中学三年生になって、今年受験生になりました。
絶対合格したい高校があるんですよ。
だから、道重さゆみさん、私の家庭教師になってください。
お願いします!

鞘師は友達の前で頭を下げた。
そして、頭を上げると不安そうな表情で友達を見つめる。

「ね、ね。どうだった? ダメかなー? ね、かのんちゃんどう思う?」

友達の名前はかのんちゃんと言うようだ。

「えー。大丈夫だよ。そんな気にすることないよ」

かのんはめんどくさそうに笑い、右手を顔の前でひらひらと振った。

「えー、ってなに、えー、って。ダメなとこあったら教えてよ」

友達の言葉に鞘師は納得せず、ぶーっとふてくされる。

「里保ちゃんかわいいんだから道重さんだって引き受けてくれるよ」

かのんが鞘師の肩をぽんぽんと叩きながら言うと、鞘師は目を輝かせた。

「ほんとに? ひゃっほーい!」

廊下を走り出す鞘師をかのんは止めない。小声でめんどくさいなぁと呟く。
高校に合格したいから道重さんとかいう人に家庭教師になって欲しい。
なんてかのんには意味がわからなかったからだ。
何がどう、だからなのか。
それは自分と勉強するんじゃダメなのか。
道重という人ではないとダメなのか。
……ま、いっか。お腹空いてきたから、購買寄って焼きそばパン食べよーっと。
鞘師が走り出した方向とは別に近くの階段を下りていく。
かのんは難しいことは考えない主義だった。

鞘師が道重と出会ったのは、もうだいぶ前のことだ。
まだ小学生だったころ。ランドセルを背負っていたころ。
大きなため息をつきながら公園のブランコに乗っていたのが道重だった。
道重は大学で教育学を専攻していたが、卒業論文に関わるゼミの第一志望に落ちた直後だった。
最初は何を言っても反応しなかったが、ありがとうというと目を細めて笑った。
その表情がとても美しく、鞘師はお姉さんのことをもっと知りたくなった。
近くに一学年上の幼馴染、えりぽんへ頼んでお姉さんのことを調べてもらった。
毎日毎日、えりぽんがピンポーンと家のベルを鳴らして情報を持ってくるのを待っていた。
けれど、そんな日はいっこうに来なく、鞘師は中学生になる。
ボランティア部に入った鞘師は、活動で訪れた施設で道重と再会した。

 私、中学生になったんです。

胸を張って誇らしげに言うと、前よりも体つきが大人っぽくなったね、と返事してくれた。
たったそれだけのことが妙に嬉しかった。
口うるさい親とも先生とも違う、純粋に構ってくれることが嬉しかった。
でも本人を目の前にして伝えるのは、照れくさくて手紙にして渡した。
思いのほか喜んでくれて、連絡が取りあえるようになった。
それが去年、鞘師が中学二年生の話。

道重とより深く会話するようになり、もっともっと知りたいと思った。
そして自分のことも知ってほしいと願った。
家庭教師なら、近くにいられるし、きっと会話の時間も増える。
成績は悪くないけど、道重さんと一緒に居られるなら、こういう手段もアリかな。
軽く考えてたけれど、お願いをするなら一所懸命じゃないとダメだ。
気づいてから、前から相談していたかのんを前に練習することにした。

走っていたら通りがかった先生に注意され、振り向いたときにはかのんはいなかった。
かのんちゃんには、パンやお菓子を用意して見てもらおう。
また練習しよう。道重さんに振り向いてもらうために。

 END.
220 :みおん :2013/06/07(金) 23:19
久しぶりの更新になりました。
真面目なさゆりほです。
ちゃゆ見てるー?

>>215さん>>216さん
あゆみずき好きなんですけどねー。
考えているネタはあるので、ちょいとお待ちを。
221 :恋の翼 :2013/06/25(火) 23:14

  恋の仕方をどこかに置き忘れてしまいました。
  誰か一緒に探してくれませんか。

222 :恋の翼 :2013/06/25(火) 23:16
図書室で借りた小説に栞が挟まっていた。小花模様で全体的にピンクがかっている幅が広くて短めの栞。
手書きでたった二行だけど一種のラブレターみたいな文章。誰のものだろうか。誰かへと伝わったのだろうか。
吉澤ひとみは考える。読み終えた章の後ろに、その栞を挟んだ。

「吉澤せぇんせー」

プリントを持ってきた久住がそばに立っている。いけない、ボーっとしてた、と吉澤は頭を振る。

「ありがと、持ってきてくれたんだ」

差し出されたプリントを手に取り、にっこり微笑んだ。すると久住はこう答えた。

「せんせー、変なの。持ってきてって言ったのせんせーじゃん」

甘ったれた口調で久住に言われて、吉澤はカチンときた。一つ冷静に抑えようじゃないか。
プリントを決められたファイルへと冷静に差し込む。

「ごめんね。先生、読書に熱中してた」
「なに読んでたんですかぁ? マンガ?」
「マンガじゃないよ。図書室で借りたの」

吉澤の腕に手をかけ、久住はべったりと甘えてきた。
ふーん、と興味なさそうなふりをしながら、久住の手は吉澤の腕を離さない。

「そうだ、小春さ、この字に心当たりない?」

先ほど読んでいた文庫本を開き、栞を動かさないように彼女へ見せる。

「えー、小春ぅ、小説なんか読まないもぉん」
「よく見て、こっちの栞!」

するりと腕からすり抜けた久住の手を吉澤は逃さなかった。
本を開いてる手と反対の左手で、彼女の手首を捕まえ、栞へとお互いの指を導く。
223 :恋の翼 :2013/06/25(火) 23:17
もうっ強引なんだから、と文句を言いながらもその声は弾んでいる。
何年も女子高生を見てきていて、久住小春のような同性を異性の代わりにし、
欲望をまき散らすタイプは多いと感じていた。
周りもそうだから、特に嫌われることもない。罪悪感も持たない。
でも、少しでもホンモノだと知ると彼女らは掌を返す。
――わたしたち、何も知りません。レズなんて気持ち悪い。
この栞を書いた子がホンモノなのかどうか知る気はない。

「小春、もう行っていいですかぁ」

そっか、ありがとう。行っていいよ。体の力を抜き、久住の手を放す。
文庫本を閉じ、バイバイと手を振ろうとする。
と、久住は真顔で唇を開いた。

「その字、道重先輩の字に似てます」

道重さゆみ。隣のクラスの子じゃないか。体育で担当クラスの子だ。
珍しい苗字のうえ、整った顔立ちにストレートの黒髪。
ピンクがかった白い肌に、いじらなくても赤い唇。
大きな黒い瞳と、何をするわけでもないが目立つ。
……ホンモノ、なんて噂も同学年の間では飛び交っている。
男がいれば、道重さゆみに声をかけたがるだろうし、結局は僻みである。
ホンモノかどうかなんて彼女たちには関係ないし、道重さゆみにも関係ないのだろう。

この小説の世界に熱中しよう。
誰かが描いた景色、私が想像の中で描く景色。
違うものなのかもしれない。
私の知らない世界、誰かが救われる世界。私の知らない知識、誰かに教えてもらう知識。
読み終わって、司書室に行けば石川先生に会えるんだから。
また新しい小説を紹介してもらえるんだから。
吉澤の恋心を石川が気づきませんように。

自分の気持ちはこの栞に書いてあることと反対なんだ、と吉澤は気づけなかった。
そして季節は秋に向かう。

 END.
224 :道重さゆみと憂鬱 :2013/07/02(火) 23:05
私の通っている書道教室の隣にはエアロビクスの教室があって、スタイルがきれいなお姉さんがたくさん通っている。
道重姉妹の妹が、私たちの書道教室へよく寄ってきた。
カワイイ「妹」が欲しいと言っては、私たちの世話を焼きにわざわざ早く来ているらしい。
何度か会ったことはあるのだけど、話しかけたことはなかった。
ちょっとお姉さんのふくちゃんやえりぽんには話しかけているのを見ると、正直うらやましい。

「え、りほなに言っとう? 道重さんの話題はりほのことが一番多いとよ」

えりぽんは福岡から転校してきて三年目なのだけど、方言は直さないみたい。
山口とは、近いからか向うの友達とも会いやすいみたい。

「そうだよ、みずきやえりに話しかけて、内容はりほちゃんだもん」

ふくちゃんは東京から転校してきて三年、方言にはあこがれるけどなかなか使いこなせないらしい。

「りほちゃんのこと、すごいお気に入りみたい「」だけどほら、りほちゃん人見知りでしょ」

私だって話しかけたいのに、と反論しようとしたら、先制攻撃をくらった。
うぐぅ。
人見知りだからか、笑顔で大人と接するのに緊張するし、恐怖が先に立つ。
なんでか大人は怖いんだよねぇ。

「あ、なんだ簡単じゃん。えりぽん、今度道重さんに話しかけられたら私のこと呼んでよ」
「あーんた、そう簡単に言うけどさぁ、大人の人を目の前にして会話できると?」

……できない。たぶん固まる。
今、もう顔の筋肉がこわばっていくのを感じる。
225 :道重さゆみと憂鬱 :2013/07/02(火) 23:06
「あーらら、りほちゃん、今はダイジョブ! ファイトだよ!」

ふくちゃんが私の腰に腕をまわしてぎゅーって体を密着してくれた。

「結局無理なんじゃん。こっちの身にもなってよー。えりだって道重さんのこと好きなのに」

それなのに話はりほのことばっかりだもん。
りほばっかり気にされててズルい! りほはズルい。
と続けられても私も困ってしまう。

「じゃ、こうしよ!」

ふくちゃんが連絡先を聞いて、カラオケなんかに誘ってみて四人で楽しもう! というアイデアを披露してくれた。

「えり、カラオケ好き!」
「音痴なのに、えりぽんカラオケ好きだよね」
「はいはい、二人とも落ち着いて」

道重さん来てからワクワクしてた三人の気持ちが通じたらしく、道重さんもキラキラした笑顔を向けてくれた。

「え、なぁに? 四人でカラオケ? ごめん、すっごく気持ちはありがたいんだけどほんっと嬉しいんだけど
……さゆみカラオケ行かないんだよね」

私は、道重さんの一人称が「さゆみ」なのだとこのとき初めて知った。
しょんぼりした三人を見て、他の案を次々と挙げてくれた道重さんをカッコイイと思った。
今度は私から話しかけよう。
そして、食事に誘うんだ。
道重さん、明太子スパゲッティが好きだって言うから、おいしいパスタのお店を探そう。

   END.
226 :きんじられたあそび :2013/09/02(月) 23:04
さっきすれ違ったお姉さん。可愛い感じの人だったなぁ。
黒髪がくるんと内側にゆるく巻いてあって、さすが大学生! って感じがする。
背が高くて大人っぽい。大学生だから大人なんだろうけど。
トントントン、一度深呼吸してからトントン。
奥から二番目の個室トイレ。

ゆっくりと扉が内側から開かれ「りほちゃん、好きよ」と彼女は招き入れる。
丸みを帯びた大人の体の女性になった譜久村先輩は学校を抜け出して、近くの大学へもぐりこんでいた。
「さぁ、みずきの膝の上に乗ってちょうだい」
鍵をかけると譜久村先輩は甘えた声でわたしを呼び、腕を伸ばした。
ぎゅっと優しく捕まえられ、弱い力だけどもしっかりとわたしを膝の上へと座らせる。
「ふふー、りほちゃんも学校さぼっちゃったんだ」
「そんなんじゃありません、譜久村先輩がいないと聞いて呼びに来たんです」
「うふふ、いいのいいの。そんな嘘つかなくてもみずきはちゃーんとわかってるから」
譜久村先輩のほおが私の首筋をなでる。肌触りが気持ちいいから、ずっとこうしてもらいたい気分。
嘘だと言われたのがちょっとイヤだけど、そんなの気にならなくなるぐらいに。
「りほちゃんはさ、孤独が怖いんだもんね。みずきが学校からいなくなったら一人になっちゃうもんね」
……そんな、そんなことない、そんなことないです。
うまく言えなくて、ちゃんと言えたのは三回目だった。
「じゃあこんなとこ来る必要ないんじゃない?」
先輩は体をずらして、下からわたしを覗き込むようにして見つめた。
ごくり。つばがのどを通っていく。
「先輩こそ、こんなところで何やってるんですか。合図まで決めて」
思っていたことが自然と疑問となって口から出た。
227 :きんじられたあそび :2013/09/02(月) 23:04
「勉強、かな。りほちゃんには必要のない勉強」
「そんなことないです。先輩、教えてください……色気の秘密を」

りほちゃん、そんなこと思ってたの?
みずき、まだ十代だよ。成人もしてないのに色気なんて知れるわけないでしょ。
大学生だってりほちゃんから見たら大人かもしれないけど、みずきとそんなに年齢変わらないんだよ?
みずきが色気を今から身につけて何の武器になるの。

武器になるでしょう、先輩。
わたしにはない、豊満な胸、大人の体として強調づけるくびれ、背中から腰、腰からお尻へのゆるやかな曲線。
筋肉と贅肉の比率がちょうどよさそうな二の腕と太もも。それからそれからそれから……。
先輩が私の両目を後ろから両手で隠してしまう。
何も考えさせなくなるように。暗いのは怖い。
一人でいるようで怖い。
そんなとき、先輩は誰より優しく名前を呼んでくれる。
「りほちゃん」
「先輩、好きって言って」
「好きよ」
「嘘じゃダメだよ?」
「嘘じゃないよ、好き。りほちゃんが好き」
「ほんとに?」
先輩の手をつかむと驚いた表情を見せる。
わたしも体を大きくずらして先輩の唇へとくちづけた。
「うれしい、りほちゃんのくちづけはけがれてないから。みずきもキレイに戻れそう」

 END.
228 :みおん :2013/09/02(月) 23:05
聖(みずき)・少女領域>>90-92 の続きになります。 
229 :きつねのいたずら :2014/03/24(月) 01:45
風邪で寝込んでいる妹のさゆみを置いて、買い物に出た。
ちょっとした気分転換も兼ねて、スーパーマーケットへ寄る前に散歩する。
雲の動きを眺めたり風を感じたり鳥の鳴き声を聞きながらゆっくり歩く。
すると、近くに住んでいる梨華ちゃんと会った。
「これから駅まで出て亜弥ちゃんとごっちんと遊ぶから、よっしーも一緒にどう?」
嬉しいお誘いだが。妹が風邪で寝込んでるから、と断る。
「じゃあ三人で妹さんのお見舞いに行く!」

そんなわけで二人で駅へと向かう。
梨華ちゃんは歩きながら、メールを打っている。
テレビでCMも流れている新型の携帯電話に変わっていた。
「いいでしょ、これ」
満面の笑みで私に自慢してくる。
あれもこれもできるようになったよと教えてくれる。
最大の変化は、伸ばすアンテナがなくなったこと。
私の携帯にはついている。電波をキャッチするためのアンテナだそうだ。
梨華ちゃんが持ってる新型はアンテナが内臓されているので、なくなったように見えるとのこと。
へー、ほー、ふーん。
機能の話は興味ない。私のはまだまだ使えるし、買い替える必要にも迫られてない。
話の腰を折るとめんどくさいから、相槌を打ってるだけ。

アーケードのある商店街前に着いて気づく。
あ! 妹に遅くなるって電話しなきゃ!
瞬間、商店街に隣接する小さなお稲荷さんの狛犬が私に視線を合わせたように感じた。
銀杏の大木もそばにある有名な待ち合わせスポットでもある。
梨華ちゃんもごっちんに電話かけるからと足を止めた。
230 :きつねのいたずら :2014/03/24(月) 01:45
プル、プルルルルル、プルルルル。

「あ、もしもしお姉ちゃん?」
「もしもし、さゆ? 私さー、買い物途中で梨華ちゃんと会ってさー」
「別にいいよ。遅くなっても。気にしないで、ちゃんと寝てるから」
「そか、帰りはー」

突然、ザザ、ザザザザザザ、と妹であるさゆみの声が聞こえなくなり、テレビの砂嵐のような音がする。

「もしっ! もっしもーし!」
つかえねぇな、これ、と耳から離し、旧式の携帯電話を眺める。
眉間にしわを寄せた私を訝しく思ったのか。
連絡を終えた梨華ちゃんが心配そうに私を見つめている。
「よっしー、どうしたの? 電話切れちゃった?」
いや、ちょっと……ね、ともう一度耳に当てると女性の声が聞こえた気がして
「もしもし、さゆ、ごめんね、なんかこの辺さ、」
早口で言い訳をまくしたてた。
しかし、言い終わらないうちに知らない女性の声が割り込んでくる。
『誰やねん、あんた。別の人と電話してたんや中澤いうもんやけど、あんた誰?』
「えっと、私も妹と電話してたんですけどもぉ」
どーしたどーしたと梨華ちゃんは私の顔を見る。
『ほうか。ま、しゃーないな。もしかしてあんたも砂嵐みたいな音聞こえた?』
「ハイ! 聞こえましたっ!」
聞き慣れない関西弁に身が縮こまる。なぜか大声で丁寧に接したくなる威圧感があった。
『そか。今、電話してるとこな、よう混線するみたいなんや。人が多くてな。そんで』
相手が説明してる途中で、またザザ、ザザザザザザ、と砂嵐のような音が聞こえはじめた。
「おねーちゃん! おねーちゃん、もしもし?」
「さゆ、ごめんね、この辺、混線してるみたいでさ」
「ふーん、誰と話してたの?」
えっ、と驚いた。だって混線してたから、聞こえないと思ってた。
こっちはさゆの声は全然聞こえなくて、関西弁の女性の声だけはっきりクリアに聞こえたんだけど。
不思議なこともあるもんだな。
231 :きつねのいたずら :2014/03/24(月) 01:45
友達数人がさゆのお見舞いへ向かうよと伝えると、そんなのいいのに、と照れた。
照れた声がまたかわいかった。
妹が元気で遊ぶところを早く見たい。
元気にしてあげなきゃ。

最寄り駅の改札口で梨華ちゃんとともに友達を待つ。
ごっちんと亜弥ちゃんが駆けてくるのが見えた。
私はどうやら狐につままれた顔をしていたらしく心配で走ってきたらしい。
妹の具合がそんなに悪いのかと。

さきほどの混線の話を振ると、どうやらあの場所ではよく混線が起きるスポットらしい。
携帯で話してる時によく砂嵐みたいな音がしたり知らない人の話し声だけが聞こえたりするそうだ。
ただ、さっきみたいな相手と話すというのは聞いたことないという。
黙って神妙な表情をして聞いていたごっちんだけは違った。そんなことはありえないと。

いい? 電話線はかけた相手としかつながらないの。
糸電話で相手が見えてるのに、知らない人の声がしたら怖いでしょ?
それと同じことなんだよ、よっしーわかってる?

わかるようなわからんような。
「お稲荷さんのきまぐれなのかな」
再び、通り過ぎたお稲荷さんの狛犬がさっきよりも優しく笑っていた。
「よっしー、何してんの。早く早くー!」
私は狛犬に軽く会釈すると、コーンと動物の鳴き声が聞こえた。
今度、立ち寄る時は油揚げをお供えしよう。
またお姉さんとおしゃべりしたいから。

   END.
232 :道重さゆみの「青春」 :2014/11/26(水) 22:06
甘味とドリンクを乗せたトレイを机に置き、ホッと一息つく。
今日は気温が下がり一日中雨模様だ。ニュースでは真冬並の気温になると言っていた。

周りのテーブルは制服に身をつつんだ高校生でいっぱいだ。隣のテーブルで勉強を教えあう二人組の女子高生が目に入る。

キャッキャッとどこか楽しそうに勉強する様子を見るだけで和む。頼んだドリンクを口へ運ぶと甘酸っぱい香りが鼻を抜ける。

「譜久村さん、もう一度説明してください」
「はぁ……あかねちゃん、説明もう三度目だよ」
「でも、わかんなかったんでお願いします」
「しょうがないなあ、いい? ここはかけ算するのわかるよね」
「はい」
「なんでだろ、これわかるなら説明いらないんだけど」
233 :道重さゆみの「青春」 :2014/11/26(水) 22:17
「わからないんですぅ。説明してくださーい」

何度か繰り返されたであろうやりとりはさゆみの「青春」を思い起こさせた。
好きな先輩と少しでも長く一緒にいたいから説明をねだった。
いつもと違う表情を見たくて困らせた。
さゆみだけが先輩の秘密を知る優越感に浸りたかった。

先輩と、同期と、後輩と、一緒にいる時間すべてが「青春」だった。



「青春」に幕を下ろした今、さゆみは一人だ。こうして一人の時間を満喫している。

檸檬と炭酸の効いたドリンクの後味はスッキリしていた。
外でピューピューと冷たそうな風が吹き続けている。あたたかいおーちへ帰ろう。
今日という一日の終わり、いいものが聞けた。
充電しにおーちへ帰ろう。
明日から、新しい道重さゆみ――Fantasyが始まる。
END.
234 :みおん :2014/11/26(水) 22:25
さゆみん卒業おめでとうございます。

勝手に応援していいそうなので、私も応援し(書き)続けます!(σ*´∀`)

あかねちんとふくちゃんが同時期に高校生になれないことは知ってます。
みお○んこと呼ばれただけに、はーちん×あかねちんの○ん○んカプに期待します。
さゆが卒業したのでよっちゃんヲタに出戻りします。若い子には流れません。
ビタスイの萌美ちゃんは推し増し。

うさちゃんピースで平和になりますように(^∧^)
235 :幼さと初恋は夏空に、似る :2015/01/31(土) 02:22
夏の空は突き抜けるほど青く、手を伸ばしても太陽には届かない。
空の青さと自分の幼さとが同化していくような感覚を覚える。
出かける前に塗りたくった日焼け止めも、どこからともなく溢れる大量の汗で意味がないようだ。

終業式までの委員会活動日は塾や習い事の予定で埋まり、名簿で機械的に割り当てられた書架整理が夏休みへとずれ込んだ。
一人で作業かと落ち込んでいたら、同じ一年生の亀井さんとペアを組んで半日で終わらせることになった。
午後一時集合、外気温は三十二度を超え、真夏日となった。
最高気温はもっと上がることだろう。
図書館内の気温は二十八度に設定されているが、ずっと座っているなら暑くならないだろう。

先に着いた紺野は、ぐるっと図書館内を見渡し、すうっと大きく息を吸ってはぁとゆっくり吐き出す。
古くなった紙が独特に持つカビ臭い匂いが紺野は好きだ。
インクの匂いだという人もいる。
出版社ごとに匂いが違うと主張する人もいる。
この匂いが好きで古本屋や図書館に、ついこもってしまう。
リアルな痛みをともなう日常を忘れさせてくれる、非日常へといざなう匂いが本当に好きだ。
すぅはぁ、と大きな深呼吸をしていると

「こんにちはー」

どデカイ能天気な挨拶が聞こえた。
声の主を確認するように振り返ると、女の子が立っていた。
亀井さん。
挨拶に反応してか、隣の教務室からパタパタと急ぐ音がする。

「来たね」

司書の石川先生が教務室からひょこっと顔を出す。
236 :幼さと初恋は夏空に、似る :2015/01/31(土) 02:23
「亀井を待ってたんだよね」
「え、絵里、遅刻してないですよ?」
「ふふ、ねー、紺野」

真面目な顔で否定する亀井となぜだかニヤニヤと紺野に視線を向ける先生が面白く見えて、紺野はプッと吹き出した。

「一年の亀井さんと紺野さんね。よろしく」

先生から説明を受け、分類番号で示されている書架の前に立つ。
紺野にとって馴染み深い900〈きゅうぜろぜろ〉は小説が並んでいる書架だ。

「一年二組の紺野です。よろしくね」
「四組の亀井絵里っていいます。早く終わらせようね」

どうやら仕方なく図書委員になってしまった子に当たってしまったようだ。
実のある話はできそうにない。
紺野が目録カードを取り出して著者名題名を読み上げ、亀井が一冊ずつ書架から取り出し著者名題名を復唱する、という分担になった。
先生は一度始めたら分担変えない方がいいよとアドバイスしてくれたが、亀井は話半分にしか聞いてなく疲れたら変わろうよと提案してくる。
肩をすくめ、いいよと紺野は提案を受け入れる。
わからないことがあったら呼んでねと言い、先生は教務室へと戻っていく。
頃合いを見計らって休憩時間をちゃんと取るとも言っていた。
二人だけでやってみると意外と目の前の仕事に追われ、分担を変える余裕すらない。
バタンと大きな音を立てて扉が開く。
びくぅっとして顔を見合わせる。
誰だろう?
石川先生はこんな音は立てたことがない。
237 :幼さと初恋は夏空に、似る :2015/01/31(土) 02:30
背の高い書架の後ろに隠れたのは、保健教諭の後藤先生だった。
せんせ、なにしてるんですか。
ビックリしすぎて声が出ないまま、口だけがパクパクと動く。
後藤先生は唇に人差し指を当て、しーと小さな声を出した。
何かあったんだろうか。
もう一度、紺野と亀井は顔を見合わせる。
バタン。
また扉を開ける大きな音がした。
入ってきたのは、レズ疑惑が流れている音楽の中澤先生だ。

「後藤先生見ぃひんかった?」
「私たち、ここで作業してたけど誰も来ませんでしたよ。ねぇ、紺野さん」

亀井は何食わぬ表情で中澤の質問に答える。
紺野にも視線を送り、同意を促してきた。
図書館内にエアコンの送風音が空気を読まずに響き渡らせる。
喉を通る唾音がごく、り、と紺野の耳に大きく鳴った。

「う、うん」

間を置いて頷きながら返事すると、中澤先生は驚いた顔をした。

「ほんまか」

どこ行ったんやろ。こっち入ったと思ったんや。
ぶつくさと呟きながら、中澤先生は去っていった。
ドタドタとえらい足音だったが、徐々に消えていき図書館に静寂が戻る。
ほーっと二人分のため息。
いや、三人分だ。
亀井も紺野も中澤の気迫に圧倒されて、後藤の存在を忘れていた。
そのぐらい気配を消していたのだろう。
突然、亀井は書架の前から窓際へと駆け出した。
ガラスにべったりと両手をつけ、下を見ているようだ。
夏の暑さを忘れる図書館内の涼しさと青空がやたら近くに感じる。
238 :幼さと初恋は夏空に、似る :2015/01/31(土) 02:36
「だーいじょうぶ! 中澤せんせー、隣の校舎へ戻ってるよ」

ほらほら、と窓の外を指さし、満面の笑顔を見せる。
その表情が紺野には思いつかなかった青春とやらを高校で亀井が楽しんでるのだと思わせた。
あさ美ちゃんは大人っぽいから。
よく投げかけられる言葉とは対照的な屈託のない無邪気な亀井の笑顔に、紺野は羨望を覚えた。
紺野はゆっくりと窓に近づき、中澤先生の後ろ姿を確認する。

「ほーらね」
「亀ちゃん、サンキュー。いやー、マジグッジョブ。先生見とれちゃったなぁ」
「そーっすよねぇ。さすが亀井絵里って感じー、ですよねぇ」

途中までタメ口だったが、気づいたのか慌てたように丁寧口調に直す。
亀井は後ろを振り返り、後藤へ近づいていく。
と、狙ってたかのように石川が奥の教務室から出てきた。

「そろそろ休憩するぅ?」

紺野は窓の外の青空を眺めていた。
図書活動に疲れた、というより他人にペースを乱されたかっこうだ。
青春か、と知らないうちに呟く。

「はい、アイス。みんなには内緒だよ」

明るい声に釣られ振り向くと、石川は水色の箱を持ち出してきた。
爽、ソーダの文字が見える箱だ。

「いただきまーす」

亀井は石川から奪うように箱から棒付きのアイスクリームを小分けにした袋を二つ取り出し、片方を紺野へと差し出した。
あ、ありがと。
紺野の感謝を言い終わらないうちに、亀井は袋をあけ食べ始める。

あら、後藤先生いつの間に?
ちょっと追いかけられてさ。
また?
喉乾いた。
アイス食べる?
うん、ちょーだい。

先生二人の会話が耳に入ってはくるけれど、さっきまでの集中力から解放されて冷たさと甘さが口に広がる。
どうせならソフトクリームが良かったなぁ。
239 :幼さと初恋は夏空に、似る :2015/01/31(土) 02:37
「おいしいね」

はっ、と顔をあげると亀井の顔が近くにある。
ちょっと視線を反らすと、紺野はうんと頷いた。

「食べ終わったら再開ね。後藤先生もそろそろ保健室戻ったら?」
「そーする。亀井ちゃんもありがとね。あと、そこのキミも」

ありがと。
はにかむように笑い、バイバイと手を振る。
こちらも振り返すと後藤は背を向け図書館から出ていく。
亀井は紺野の耳へ口を近づけ、惚れちゃうよね、と上ずった声を出した。
同性なんかを好きなの?
耽美な小説にはちょいちょい出てくるエスの世界、あれは想像だから物語のエッセンスとして機能していると紺野は思っていた。
本当にいるなんて。

「さて五時までには終わらせようね。今、三時前だからあと一時間!」

お願いねと声をかけて、ゴミを片付けながら石川は教務室へと戻っていった。
よし、あとちょっとだから頑張ろうね。
うん。
二人は声をかけあい、作業を再開する。
紺野の大好きなシリーズ小説までやってきた。

「えー、なにこれぇ、似たようなタイトルばっかじゃーん」

覚えられないよー。再開してすぐに亀井の泣き言が図書館内へ響く。

「うるさい。図書館は静かにって習わなかったの」

先程まではペースを乱されていたが、休憩のアイスクリームでずいぶんと持ち直せた。

「私の好きな小説を侮辱しないで」

ぶじょく?
よくわかんないこと言うなら、紺野さんが一人でやればいいんじゃない。
亀井が睨みつける。
紺野は視線を目録カードへとうつし、分類番号作者名題名を言う。
復唱は返ってこない。
240 :幼さと初恋は夏空に、似る :2015/01/31(土) 02:40
「復唱は?」

しぶしぶと該当の本を取り出し復唱する。
この子、



嫌い。



大嫌い。



もう図書委員で顔を合わせることもないだろう。
次に会っても無視すればいいだけ。
紺野はそう考え、目の前の仕事を淡々とこなしていく。
亀井の動きはのろい。



青春なんて謳歌しようとするからよ。
許せない。

作業が早く終わったと石川先生から誉められたが、二人は顔を見合わせることも挨拶を交わすことなく別れた。
紺野は図書館に留まり、先ほど整理が終わったばかりの書架から一冊の本を借りようとする。

「紺野、ごめんねぇ。今日は借りないで」

がっくりと肩を落とし、本を元の場所へと戻す。
ちょうど借りたいと思っていた本が目の前にあったら今すぐ読みたい。
その気持ちを抑えて作業してたのに、亀井がすべてをぶち壊していった。



だから、嫌い。
私から私なりの青春を奪おうとする人間すべて嫌い。
図書館から一歩外へ出ると、まだ熱を帯びた空気が重く紺野にまとわりついた。
太陽すら憎く、見上げた空は昼間と同じように青かった。
紺野の人間的な青さを知らしめているようだった。

END.
241 :みおん :2015/01/31(土) 02:42
心を亡くして殺される

と書いて忙殺と読みます!

異常に指先が冷えて、コピぺしにくいタブレット。
しねじゃなくてコピペできなくてしぬ。
242 :誰にもナイショ :2015/05/21(木) 02:17
おじいちゃんがやってたお店の社員寮を改装したアパートへ住んで丸三年、四月から高校三年生がスタートします。
従業員だった田中れいなさんがこの土地で歌手としてそこそこのヒットを飛ばし、おじいちゃんは見届けるようにひっそりとお店を閉めました。
新興勢力である大型店舗の急速な出店に押され、夢を叶えることを優先したようです。お店から歌手を出す夢。はっきり言わないけど勝手にそう思ってます。ところが田中さんが有名になったおかげで元社員寮のアパートにも人が訪れるようになりました。
流行りの言葉で聖地巡礼というそうです。
お金の匂いを嗅ぎつけたおじいちゃんは一階二階ともに四部屋ずつ、全室防音にリフォームしました。
私は二階の角部屋に住んでます。
両親は健在だけど、実家は防音じゃないし、一人暮らしに憧れて遠くの高校に進学するからと説得しました。
音楽科に進学でき、歌手になる夢を叶える一歩を踏み出しました。

同じ階に同じ高校に通う田崎あさひちゃんが住んでいます。
あさひちゃんは二学年下の後輩です。たまに彼女の部屋へ行ってお茶をごちそうしてもらいます。
そして将来の夢をよく語り合います。
あさひちゃんのつくる焼き菓子がおいしいから、っていうのは理由の一つではあるけれど、似たような夢を語れる仲間がいて嬉しいんです。
おじいちゃんがお店だけでなく寮も作ったのにはちゃんと理由があって、
『この街に流れ着いた理由なんかに興味はないが、歌が好きで志があるなら仲間は多い方がいい。
切磋琢磨して繁盛に繋がるならもっといい。
自分の夢と従業員と客が見る夢が同じ向きならもっといい』。
『お前のお父さんは全く理解しなかったが、萌美がわかってくれるならじいちゃんは幸せだよ』と必ず続けます。
正直に言うと、おじいちゃんが父を煙たがるのは娘としていい気分ではありません。
243 :誰にもナイショ :2015/05/21(木) 02:17
お父さんが音楽に興味があったのは高校生までで、洋楽をかじって友達とバンドを組んでたそうです。
なかなかうまくいかず、父が就職してから一層険悪になったみたい。
お父さん曰く『親父の夢は現実的じゃない』。
おじいちゃん曰く『一度の音楽性の不一致ぐらいで、夢だとか現実だとか言われたくないね』。
音楽について話すことはないみたい。
だからこそ、おじいちゃんは私みたいな音楽を志す身内が嬉しいんだ。

高校へ合格してからそういう事情を知った。
背伸びして大人になるための一人暮らしを勝ち取り、代わりにおじいちゃんの前では前みたいに何も知らないこどものままではいられなくなった。
おじいちゃんは「萌美が甘えてくれて嬉しい」と言ってくれる。

昔話はさておき、明日は待ちにまった新人発掘オーディションの日。
一次書類審査が通り、初めてオーディションで歌える。
カラオケで何度も何度も歌って練習した曲。
審査員のみなさんに私の声が響きますように。
どうか思いが歌に乗って届きますように。

そんな願いが本当に通じたのか、最終オーディションまで残った。
デビューできる実力がついているのかどうか、進学と一人暮らしの真価や練習の成果が試されるときが来た。
「失礼します」
ゆっくり扉を開け、一歩前に出て深く一礼し、前を向くと審査員席には見覚えのある女性が座っている。
あさひちゃんだ。なんでそっち側に? 歌手を目指してるはずなのに。
244 :誰にもナイショ :2015/05/21(木) 02:18
いけない、呼吸が浅くなってきてる。
肩を大きく使うように深呼吸を一つして、「113番、長谷川萌美です。よろしくお願いします」自分の番号を確かめるようにハキハキと伝える。
「ふるさと、歌います」
背筋が凛と伸びる。
歌い始めると緊張がよい心地へと変化していく。
笑顔のように頬を高く上げると声色も明るく弾む。
怖い顔で並んでいる審査員のオジサマ達にも一人一人にゆっくりと笑顔を向ける。
今日は怖いくらい落ち着いている。
いつもは音程とかリズムとか気にして、歌うのが長く感じてたのに。

歌が終わると簡単な質疑応答。
何をやるかはオーディションによって違う。
今回は歌い終えた感想からのようだ。
真ん中に座っている眼鏡をかけたオジサマが質問してくる。
「気持ちよく歌ってたみたいだけど、どう?」
「はい、歌い始めたら緊張が心地よくなってきました。楽しく歌えました」
「自分が苦手なことへの挑戦をどう思いますか」
「自分の夢を叶えるためなら、苦手なことも得意にします!」
「はい、ありがとうございました。選考結果は後日連絡します」
「ありがとうございました」
深くお辞儀して、扉へと歩き出す。
うん、なんかわからないけどここの雰囲気、合ってるぞ。
不思議な感覚だけど、またこの人達に会えたらいいな。
扉の前で一礼し「失礼しました」、ゆっくりと扉を閉めると廊下の窓から眩しいぐらいの日光が降り注いできた。
またもう一度、ここへ来れますように。
今度は所属歌手として来れますように。
質問されたように苦手も得意に変えよう。
245 :誰にもナイショ :2015/05/21(木) 02:19
「萌美ちゃん、この間オーディション受けたって聞いたけど、結果きた?」
この頃のあさひちゃんは幾分かくだけて接するようになっていた。
あのオーディション以降だ。
終わってから本当にホッとした。
あの日からなんだか練習でもスッと肩の力が抜ける。
心地よい緊張感を保ったまま歌えるようになった。
「ねぇ。結果、まだ来てないの?」
もう一度、彼女の声が聞こえて、我に返る。
「ごめんね、気ぃつかわせちゃって。まだなんだ」
そういや、あの場にあさひちゃんいたんだよねぇ。
最初、びっくりしたけど歌い終わったら全然気にならなかった。
質問の受け答えで精一杯だったからというのもあるけど。
「そっかぁ。まだかぁ」
私よりもあさひちゃんが結果を気にしてるみたいで嬉しくなる。
ふふふ。
あれ、あさひちゃんは私の選考結果知らないのかなぁ。
謎だ。
「な、なによ」
「ごめんごめん、あさひちゃんが私のこと心配してくれるのが嬉しいから」
「心配はしてるよ。けど、違うの。最近の萌美ちゃんの声安定してるし、なんか焦る」
あさひちゃんは私から視線を反らすようにぷいと下を向く。
オーディションの時からだから、余計にそう感じるのかな。
よしよし、自信にもつながる言葉だ。
「じゃ、練習あるのみだね」
下を向いたあさひちゃんの頭をぽんぽんすると
「萌美ちゃんも!」
急に前のめりで彼女の顔が近づいたからびっくりして体を離す。
「今日のあさひちゃん、なんか変だよー」
近づいた拍子に真っ赤になった顔のまま、彼女は呟いた。
なんて言ったか聞こえなくてちょっと耳を近づけようとしたら、彼女の両手が私の体を押していた。
「ど、どうしたの、本当に」
「遊びの時間はここまで! 練習するから萌美ちゃんも練習して!」
あっ、ハイ。
正論過ぎて反論できない。
それにしても本当に今日の彼女はおかしい。
時計を見ると部屋に来てから三十分も経ってなかった。
246 :誰にもナイショ :2015/05/21(木) 02:20
あの日から三日後の夕方だった。
ついに電話がかかってきた。
結果は合格。急だが明日事務所へ来てくれという話だ。
何を着ていこう。
待てよ、高校合格祝いにおじいちゃんが買ってくれたスーツ一式があるじゃないか。
一応、労働契約に当たるから。
おじいちゃんが、前に教えてくれた。
歌を歌うのと気持ちよく仕事することは同じ価値がある。
尊いものだと。
期待に胸が高鳴る。
その夜は目が冴えてよく眠れなかった。

「おはようございます!」
事務所の受付で教えてもらった小さな会議室で待ってると審査員の男性が入ってきた。
「合格おめでとう」
立って小さくお辞儀する。
「ありがとうございます」
座って、と促されると男性の後ろから女性が顔を覗かせる。
あさひちゃんだ。
あっ、というまに顔がほころぶのがわかった。
対称的にあさひちゃんの表情はかたい。
嬉しい。あさひちゃんと一緒に歌えるなんて。
先のオーディションであさひちゃんが合格。
歌やルックスは申し分ないもののトークがうまくいかないので、ソロで売り出すにはと思い悩んでいたそうだ。
次のオーディションにはあさひちゃんも審査員に立ってもらい気が合いそうな子を選んでいたとの話。
つまり、これから二人組で売り出す。
明日からボイスレッスンやダンスレッスンを受けるように言われた。
まだ私の歌はあさひちゃんまで届いてないらしい。
それを聞いた途端、あさひちゃんがどや顔になったから、二人組として売り出されることに納得しきってないんだろう。

お給料の話、インディーズデビューまでの日程、マネージャーと連絡先交換。
お仕事は楽しいけど、初めてのことばかりで疲れる。
いつもの友達とのノリとも違う。
当たり前なんだけど、いつもと違うだけで疲れる。
年下のあさひちゃんが普段より大人に見えた。
247 :誰にもナイショ :2015/05/21(木) 02:20

帰りは二人ともマネージャーの車で送ってもらった。
明日からずっとこうなるらしい。
「ねぇ、誰にもナイショなんだからね。デビューするまで、アパートのみんなにバレないようにしないと」
そうですよね、マネージャー。
と、あさひちゃんが確認する。
「...ヒミツかぁ」
「そうだよ、二人だけのヒミツなんだから」
「あさひちゃんと仲良くやっていく秘訣、あったら教えてよ」
冗談で言ったつもりだったのに教えてもらえなかった。
近くで降ろされると、あさひちゃんは駆けてさっと部屋に帰っていく。
なんか、気にさわること言ったかなぁ。
知ってる人だからこそ、さわられたくない部分もあるかもしれない。
気をつけないと。
デビューするのは夢みたいな甘さがあるのに、デビュー前からこんなにも苦い気持ちを抱くなんてビックリだ。
もっと近くに寄って仲良くいられる秘訣を見つけよう。
二人だけのヒミツをもっと集められれば、あさひちゃんにも違う未来が見えてくるはず。
歌もうまくなって、トークでもあさひちゃんを助けられるように。
まずは足を引っ張らないとこから!
オーディションには受かったんだから。
これからは二人で歩いていける。

END.
248 :みおん :2015/05/21(木) 02:24
あさもえです。
また珍しいカップリングに手を出してしまった。。。
私一人にしか需要がないかと思われます。
読者のみなさん。
私のかわいいもえみちゃんがいるビタスイをよろしくお願いします。
249 :百合はクロスロード :2016/04/21(木) 22:54
まっすぐ長い青光する黒髪が美しい女性を街でよく見かける。
長身だからか猫背で歩くのが気になる。
一度だけ女性が「さゆ!」と呼ばれ振り返るのを見てからは、心のなかでさゆさまと呼んでいる。
その女性ーーさゆさまが歩道橋を歩いて渡っていくのが見える。
この街でどのような生活を過ごしているのだろう。

「......山木さん、山木さん! 聞いてます?」
後輩の声でハッと現実に戻る。
いや、さゆさまがいたのも現実なのだが。
今は、後輩の梁川ちゃんと共同戦線を張って作戦会議中だ。
遠くの憧れより近くの目標を大切にしたい。
私の目標である漫研顧問の嗣永桃子先生は梁川ちゃんの担任。
そして、梁川ちゃんが好意を寄せる森戸ちさきちゃんは私と同じ漫研で後輩にあたる。
梁川ちゃんとは部室長屋で仲良くなった。
私の漫研と梁川ちゃんの文芸部で部屋を分けて使うことになっている。
おしゃべりするようになり、お互いに利益を受け取れそうだと気づいた。

作戦会議は主に下校中。
それと、去年の春から再開した喫茶店『ハニホヘト』でゆっくり話し合う。
高校から離れていること、店主によって秘密が守られること。
それを受けて、喫茶店に入る同級生を見てもチクらないという不文律がある。
学校から川向こうの住宅地<さいわいタウン>へ行く急な坂の途中に喫茶店はある。
森戸ちゃんも私も<さいわいタウン>には住んでいない。
私は商業区の一画に古くからの大きな家があるし、森戸ちゃんは駅向こうの新興住宅地に住んでいる。
まだ学校に慣れてない梁川ちゃんに連れられて喫茶店へ足を運んでいる。
先生にも見つからず森戸ちゃんにも気づかれず、気兼ねなく話せる場所だ。
とっても良いのだが、梁川ちゃんが一方的に喋り続けている。
どれだけ話題があるのか。
彼女が疲れるまで待つ。
たまに「聞いてます?」と確認されるぐらいで相槌がなくても気にしない、不思議な子である。

『ハニホヘト』へ入店し、一番奥の席へと座る。
奥様方が買い物や洗濯物の取り込みと日常へ戻っていくなかで、放課後を楽しむ学生たちと入れ替わる時間帯らしい。
店主がレジ作業を終えると、お水を二つ持ってくる。
「私はミルクティーで」
梁川ちゃんはメニューとにらめっこしていたが、すっと背筋を伸ばし
「カフェオレでお願いします」
と注文した。
「かしこまりました」
店主はカウンターの奥にいる店員に声をかけると、他のテーブルへ注文を聞きに行ったり声かけしたりと忙しく動いている。

「梁川ちゃん、この間ココアしか頼めないって言ってたよね」
うっ。しかめ面になるものの「違います」と冷静に返された。
「苦いコーヒーが飲めなくたって切ない味はわかるものですよ、先輩」
こういうときだけ先輩と呼ぶんだよなぁ。
それにしてもコーヒーを切ない味と表現するのは大人だなぁ。
「何それ、詩人気取り?」
「ええ、文芸部ですから。いつでも言葉で表現できるように感性を磨いているのです。......それから。気取りではなく、詩人です」
会話が続いたと思ったらこれだ。
幼い見た目とは裏腹な丁寧な言葉遣いと子供のような空気の読めなさ。

一度だけ指摘してみたら
『そこは後輩の一面として理解していただければ。お互いの成長のためにも』
と返され、とっても疲れたのを覚えている。
250 :百合はクロスロード :2016/04/21(木) 22:59
「それで、森戸さんのことなんですけれど」
おっと、話題が核心へと戻ったようだ。
「お待たせしました、ミルクティーとカフェオレですね」
『ハニホヘト』の女店主が飲み物を持ってきた。
タイミングがいいのか悪いのか。
「今日も作戦会議ですか?」
「はい、そうなんです。何かいいアイデアはお持ちですか」
梁川ちゃんにずっと喋らせるよりも、と無理なお願いを振ってみたのだが、そこは歴戦の店主。
ハッとして、ポンと手を合わせると
「少々、お待ちくださいね。すぐ、すぐに」
テーブルとテーブルの間を縫うように走っていく。
梁川ちゃんは、出鼻をくじかれたからかムスッとしている。
言いたいことも言えないようじゃ告白はまだまだ先だね。
「こちら、どうぞ」
ハァハァと小さく息を切らして店主が持ってきたのはチラシニ枚。
来週の土曜日、ピアノコンサートを行うらしい。
「まーちゃんのピアノコンサート、ですか」
「ええ、前に閉店コンサートを開いたときに弾いてくださった子なんです。今もピアノを続けているというのでお願いしてみたらトントン拍子に話が進んで......ね、このチラシを渡して誘うのはどうかしら?」
確かに。いいアイデアかも。
嗣永先生、誘ったら来てくれるかな。
カランコロン。
『ハニホヘト』の扉につけられたベルが鳴って来客を知らせると、
「いらっしゃいませ」と店主の仕事へ戻っていった。
251 :百合はクロスロード :2016/04/21(木) 22:59
「......それで誘うんですか」
梁川ちゃんはチラシを手に取ったもののムスッとした表情のままだ。
「あ、うん。そうしよっかな、って」
「目がキラキラしてますよ」
「梁川ちゃんは?」
ーーいいですか? 森戸さんの趣味を知らないんですよ、まだ。うんぬん。
聞いた私がバカだった。
話が止まらなくなってしまった。
梁川ちゃんが疲れるまで黙っていよう。
ミルクティーを一口含み、ふと、先ほどの客へと視線をうつす。
そこには黒髪の女性の横顔。
さゆさまだ!
あっ、と思ったときには遅く、持っていたカップからミルクティーがこぼれていた。
あっつぃ。
その熱さも現実ではないような気がするほど、さゆさまに見とれていた。
「山木先輩、何してるんですか!」
梁川ちゃんの声も耳には入っている。
カップをテーブルに置いても、視線の先にいるのはさゆさま。
こんな近くに、同じ街に住んで、私と同じような暮らしを過ごされているのか。
「先輩! 山木先輩! 聞いてます?」
「うん、聞いてるよ」
いつものくせで返事だけはしておく。
梁川ちゃんの心配した声のせいか、さゆさまがこちらを振り向いた。
同じテーブルについてる女性がもう一人いるのが見えた。
茶色に染めたショートカットが似合う、柔らかな表情を浮かべた女性がそこにいた。
ボイ&フェム、なんて概念は古くないかのように存在していた。
私には、その時、そう見えたのだ。
252 :百合はクロスロード :2016/04/21(木) 23:00
「お客さま、どうされました?」
飛んできた店主によって視界は遮られ、現実に引き戻される。
「......あの方は?」
遮られた先の女性を指すと、丁寧に答えてくれた。
それから、テーブルを拭いて、おかわりお持ちしますねと一旦離れていく。
さゆさまではなく、道重さゆみさん。
隣の女性は中澤さん。
二人ともパプリカの会のメンバーだという。
女性の性的少数者と協力者のアライで構成されているサークルだ。
全国で何例目かの同性婚を認める条例がこの街で施行されている。
マイノリティは市民活動と行政の支援、二つがなければ成り立たない。
遠い昔から商いをやっている山木家にもパプリカの会の噂は耳に入ってくる。
道重さんと中澤さんが当事者なのかアライなのかはわからない。
ただ、よくお似合いのカップルに見えた。
そう思うぐらい距離が近く、二人とも柔らかで穏やかな表情で寄り添っているように見えたからだ。
「興味がおありでしたら、ご紹介しましょうか?」
パプリカの会は、この喫茶店『ハニホヘト』での学習会が予定されており、今日はその打ち合わせだそうだ。
一度は断ったのだが、店主と、なぜか梁川ちゃんに押しきられる。
曰く、次いつ会えるかわからないんですよ。
私だったら、今回会えたのだから近いうちにまた会える確率もあると思うんだけどなぁ。
ご多忙な二人だからここへ来てもいつ会えるかわからないですよ、と店主まで。
店主の紹介という体で、案内してもらう。
ところが、やはり憧れの人の目の前に立つと何も話せなくなる。
「お、ガキさん、なんや。また重ちゃんのファン連れてきたんか」
「ま、そう言わずに」
いつものことなのか、二人は慣れた会話だ。
「ほら、挨拶、挨拶」
店主に背中を押されると、憧れの人まで数センチ。
きょとんとした顔で見上げられると余計に恥ずかしくなる。
「あああ、あの! 憧れです!!」
「......ありがと。お名前は?」
道重さんの声は思ってたよりずっと大人っぽくて、本当に憧れの女性という感じだ。
「や、山木、梨沙、です」
「山木さんね、よろしく。道重です」
「は、ひゃい」
「かわええなぁ。耳まで真っ赤になっとる。この子、パートナーいないんでいつでもえーよ」
「違いますよ、中澤さん。中澤さんだってパートナーいないじゃないですか」
裏返った声で返事してしまい、話題がパートナーにうつって雑談を始めそうになったあたりで、店主に促され頭を下げ、席へと戻る。

「どうでした?」
梁川ちゃんは妙に目をキラキラと輝かせワクワクしてるようだった。
「どうもこうもないよ」
憧れの人の前でかっこよく話せるわけないじゃない。
話せてたら、こんな作戦会議をやってない。
「あーん、私、恋に落ちる瞬間って初めて見ましたよ」
「へー、そうなんだ」
やたら、甘ったるい声色でこの子は何の話をしてるんだ。
「山木さんが道重さんへ恋に落ちる瞬間! もう時が止まるんじゃないかなって思うぐらいでした。永遠の時ってこういうのをいうんですねぇ」
いやいやいやいや。
一体、何、何を言ってるんだ梁川ちゃんは。
「ちが、違うから。道重さんは憧れの人であって」
「逆に聞きますけど、今、嗣永先生のこと、一ミリでも考えてました?」
......考えてない。
だけど、逆ってなんだ、逆って!
「明日からは道重さんとどう付き合えるかの作戦会議ですね」
「だから、本当に違うって!」
私が好きなのは......あれ?
道重さん? それとも嗣永先生?
「いいですよ、今日だけはゆっくりと恋に落ちた幸せを味わってくださいね」
梁川ちゃんの手にはしっかりとピアノコンサートのチラシが握られていた。
253 :みおん :2016/04/21(木) 23:03
続く?

とりあえず書いてはみたもののなんにもかんがえちゃいないこれからはじまるのさまーうぃんど
ってやつですね!
別の話を書いてたはずなのに先に書きあがっちゃった。
254 :名無飼育さん :2016/04/24(日) 12:08
最新のネタを織り交ぜつつ、登場人物のラインナップが凄い!
始めのほうで道重さんに「さゆ!」と呼びかけた人が誰なのか気になります
......
255 :私が愛した人 :2016/08/24(水) 00:05
ーー私は母が大好きです。

好きなのに問題行動ばかり起こしているようで、学校に呼ばれると母は

「申し訳ありません」

と何度も何度も頭を下げる。
そんな日の夜は、決まって私を甘えさせてくれる。

「お母さんはさくらの味方やからな」

頭を撫でてくれるのが嬉しくて抱きつくと、それは始まる。
母が私の胸を下からすくいあげて揉む。

「さくら、ずいぶん大きくなったんやね」

まるで背が伸びていく幼年期と同じように呟く。
母がもたらす快楽に身を委ねながら、私は母の胸を触る。
小さな胸は少女のようで可愛らしくある。
256 :私が愛した人 :2016/08/24(水) 00:05
最近、起きてからすぐに頭痛が始まる。
痛みをこらえながら、赤いスカーフを襟元で結んで家を出る。
母は仕事に疲れて寝ている。静かに鍵をしめた。
隣に住む後輩、野中ちゃんことチェルと待ち合わせ。

「おはよう」
「先輩、おはようございますっ」

短く挨拶を交わすなかで、チェルの明るく元気な声が頭痛をより刺激する。
朝から元気な声なのは当たり前だ。

興味ない男子の話なんてふーんと聞き流す。
好きな男子の話なら興味なくてもなんとなく聞けてしまう。
そういうものですよね? さくら先輩。

「何の話だっけ?」
「もぉ、さくら先輩! 真面目に聞いてくださいよぉ」
「ごめん、なんか頭痛くて......」
「えーっ、今日もですかぁ? 先輩、ちゃんと早く寝てます?」
「う、うーん」

昨夜は母に抱いてもらった、なんてさすがに言えない。
昨夜の少女のような胸を触った感覚が思い出される。

「もぉ、大丈夫ですか?」

チェルが密着してくる。
ご丁寧に片手を私の額に乗せて、チェルの胸は触ってくれと言わんばかりに空いている。
母とチェルの胸は違うのだろうか。
思ったときには手が伸びていたようで、拒否するようにチェルの鞄が私に向かっていた。
バシッ! と大きな音がし、胸から手を引っ込めた。

「先輩、セクハラ! 今のセクハラですよ!
もー、熱ないかと思って心配したのに。
その手、赤くなってますから!
ちゃんと保健室行ってくださいね。朝イチですよ!」

言うだけ言うと、チェルは私から離れて駆けていく。
あーあ、きっとまた学校に母が呼ばれるだろうな。
心配かけてばかりで憂鬱になる。
母が好きだから、余計に憂鬱だ。
......やっぱり頭痛い。
チェルに言われたこともあり、教室には行かず保健室へと向かった。

「道重先生、おはようございます」
「おはよ、また頭痛? あ、手が赤くなってる」

どれどれ、と道重先生は手を優しく持ってじろじろと眺める。

「うーん、どうしたのこれ。転んだ訳じゃなさそうだし」
「後輩に鞄で叩かれて」

どうやら思っていたより強く叩かれたようだ。
道重先生の顔が歪む。
そして、悲しそうな顔をして赤くなってるところに指先をつーと沿わせた。
257 :私が愛した人 :2016/08/24(水) 00:06
「せんせ......痛い」
「包帯巻くから、そこ座って」

近くの丸椅子にちょこんと座り、持っていた鞄は横へ置く。
右手はぐるぐると白い包帯に巻かれた。

「これ書いてね」

先生が持ってきた保健室使用書に名前と来室理由を書く。
右手のケガ、それに頭痛。
書き終えるのを待っていたかのように、シャーペンを置くと紙はするりと先生のもとへ戻ってしまう。

「二年一組、中澤さくらさん、右手のケガ、頭痛、ね」
「はい」
「頭痛はここ一ヶ月ほぼ毎日よね。医者には行ったの?」
「いえ、母の仕事が忙しくて」
「行ってないのね。頭痛薬は保健室にあるけど、飲みすぎも良くないからね」
「すみません」
「後輩に鞄で叩かれたってどうして?」
「いじめとかじゃなくてふざけてたんです。たまたま、チェル、じゃなくて野中ちゃんの鞄が手に当たっただけなんです」
「そう、それはどういう話をしていて叩かれたの?」

納得してくれないか。
頻発する問題行動は、道重先生にかなりお世話をかけている。
問題を起こす度に保健室へと隔離され、道重先生に話を聞いてもらっている状態だ。
素直に話したことはない。
佐藤先輩とキスしたり、じゃれ合ってるつもりが大きな騒ぎになったり。
母とはどう違うのか。
好きな人との行為をなんで女性同士だからと騒がれるのか。
意味がわからない。
だからか、理由を話すのはためらわれた。

「えっと、私が頭痛だって話して、またですかって野中ちゃんが額に手を当てました」
「うん、それで?」
「それで、熱があるかどうか心配してくれて」
「なんで野中ちゃんは叩いたの?」

野中ちゃんは胸を触ったら、セクハラって言った。
胸を触るのってセクハラなんだ。
母はあんなに喜んでくれるのに。
人ってよくわからない。
先生の胸は母より大きかった。
少女のふくらみとは違う。
先生はどっちだろうか。
胸を触ったらセクハラ! と私を拒否するだろうか。

「先生の胸って大きいですよね」
「......野中さんに話を聞いた方が早そうね」

私はまた拒否されたんだ、と悲しくなる。

「お母さん、忙しいのにまた学校に呼ばれちゃうよ。いいの?」

ふるふると頭を左右に振る。

「ダメです。心配かけたくないです」

その時、ぽろりと目から涙が落ちた。

「先生、ごめんなさい」
「中澤は先生に謝らなきゃいけないようなことをしたの?」
「しました。問題があるって話を聞いてもらったりとか先生の大切な時間使ってもらってます」
「それが仕事だからね。中学生の仕事は勉強することだけどね」
「ごめんなさい、勉強してなくて」
「先生の仕事は中澤が勉強できるようにすることだからね。保健室でゆっくり休んでいきなさい」
「はい、ありがとうございます」
258 :私が愛した人 :2016/08/24(水) 00:07
保健室のベッドへ横になると、ほっとしたのか朝なのにぐっすり眠ってしまった。
起きると三時限目の途中だ。
頭が心なしかすっきりしている。
痛みは今のところない。
保健室に先生が書き物をしている音だけが響く。

「せんせ、ゆっくり眠れました。ありがとうございました」
「そ、良かったわね。とりあえず三時限目終わるまでここにいな」
「はい、そうします。あっ」

寝起きだからか口内炎を噛んでしまったようだ。
口がうまく動いてない。
先生は立ち上がり、私のそばに立つ。

「口、開けてごらん」

私が口を開けると先生はびっくりしたようだった。

「ビタミン剤、飲みな。口内炎に効くからさ。」

水が入ったコップと橙色の丸い粒を私に手渡す。

「朝ごはんは何食べてるの?」
「いつも食べないです。母が寝てるので」
「お水、全部飲んでね。ジュースとかも飲んでない?」
「はい。野菜ジュースとかオレンジジュースを飲むことはあります」
「いつから朝ごはん食べてない?」

いつからだろう。
両親が離婚したころ、私は中学校へ進学した。
ずっと家にいた母が仕事へ出るようになった。
夜遅くに仕事へ出て朝はよく寝てる。学校終わる頃には起きていて、話を聞いてくれる。
身体が成長してきたねと褒めてくれる。
身長だけじゃなくて、胸とかお尻とか身体つきが女性らしくなったねと見てくれる。
夕ごはんを食べた後は、母が私の頭を撫でてお互い好きって言い合う時間がくる。
離婚前の母と私はあんなことをしなかった。
快楽なんて知らなかった。
ぎゅっと抱きしめられる時間を長く感じるようになった。
唇と唇が軽く触れあうキスから、舌を絡ませあうようになった。
母の腕がより強く私の身体を締めつける。
毛が生えてきた恥ずかしい場所を指で探り、快感に身を委ねてしまう。
きっと忘れさせてくれるから。
頭痛も口内炎の痛みも、学校へ行けば問題を起こしてしまうことも。
快楽はすべてを忘れさせてくれるから。
汗ばんだ私の身体をなでて、母は言う。

『風邪引かんうちにお風呂であたたまり』

お風呂から上がる前に、母は家を出て仕事へ行く。
寂しい夜に宿題する気は起きない。
寒い夜はあたたかい腕の温もりを思い出す。
暑い夜は汗ばんだ肌を思い出す。
後輩を見れば、母の胸とどう違うのか気になってしまう。
温もりに包まれた夜を思い出してしまう。
母が好き。
こんなにいとおしい人がそばにいる。
悲しませたくない。
私がほんの少し我慢すれば、母は抱いてくれるのだと思う。
259 :私が愛した人 :2016/08/24(水) 00:07

◇◇◇

260 :私が愛した人 :2016/08/24(水) 00:08
初めての生理を迎えた。
腹痛を訴え保健室へ行くと、道重先生に生理じゃない? と訊かれた。
授業で仕組みは習ったけれど、こんなに痛いとは思ってない。
トイレで下着の汚れを確認し、道重先生から習ったとおりにナプキンをあてがう。

ーー気持ち悪い。

三時限目を休んでから帰宅した。
母は驚いたが、事情を話すといつものように抱きしめて頭を撫でてくれた。
いつものような気持ちよさはなく、不思議な感じがした。
ふわふわと宙に浮かんでるような気持ち悪さだ。
安心感は覚えなかった。
すっと母から離れると、赤いスカーフをほどきながら自室へ向かう。
母の顔を見るのすらイヤな気分である。
特に声をかけられることもなく、部屋でまったりと過ごした。
久しぶりの一人だけの時間かもしれない。
しばらく経つと、コンコンと控えめなノックが聞こえる。
母が心配そうな顔をして覗いてきた。

「......何?」

イライラしてるせいか、思ってるよりもキツく咎めた口調になる。

「ちょっとええか」

母は、ドアの向こうに見えるリビングのテーブルを指さす。
不釣り合いなラベンダー色の缶が置いてあった。

「これな」

ドアを開けたまま離れ、蓋を開けた中にナプキンがキレイに並べてある。
道重先生が持ってきたものより、ちょっと大きいものも一緒だ。

「トイレに置いとくから。そろそろナプキン変えたほうがええで」
「いい、必要ない」

母のアドバイスを一蹴し、ベッドに戻る。
横になって目をつむる。
こうすれば、母が邪魔してくることはないだろう。
ああ、それにしてもイライラする!

「ごめんな」

小さな謝罪の声が聞こえ、静かにドアを閉める音が聞こえた。
それから、汗をかきながら眠りについた。

起きたときには夜だった。
お祝いだからと、少量の赤飯と好物多めのおかず数品を食べた。
母が一緒にお風呂へ入ろうと誘ってきた。
いつものように抱くことはない。
お風呂で汗を流したかったのは確かだ。
一瞬、断ろうと思ったが、寂しさを感じる夜も嫌だと思い直し、母を受け入れた。
下着を用意して脱衣場へ向かうと母が新しい下着を用意していた。
生理のときは別の下着にしな。
トイレに入るとナプキンがだいぶ汚れていた。
母があのとき声をかけてくれたのは優しさからだった。
いつものように母を受け入れられない自分に、より一層イライラしてしまう。

湯気が揺れる中で見る母の裸はいつもより色っぽく見えた。
何事もなくお風呂から上がる。

「仕事、休みにしたんや」

温かいココアを入れてくれる。
ゆったりとしたおしゃべりの時間を過ごす。
こんな夜は本当に久しぶりだ。
安心してぐっすりと眠りについた。
261 :私が愛した人 :2016/08/24(水) 00:08
先生、今日はよろしくお願いします、では。
母が電話に向かって何度も頭を下げる。
受話器を置くと、バタバタと冷蔵庫をあけた。

「これ、昨日のおかずだけど。それから主食」

好物のおかずが目の前に一品。
それと、いつの間に作ったのか冷蔵庫から玉子サンドが出てきた。

「いただきます」

両手を合わせ、食べ始める。
おいしい。
オレンジジュースもいつものような味気なさは感じず、おいしかった。

「さくら、朝はいつもジュースだけなん?」

母をまっすぐ見つめながら、こく、と縦に首を振る。
ーーこんな朝の会話久しぶりやね。
その一言から母はこれからのことを喋り始めた。
今、好きな男性がいること。
その人と結婚したいこと。
さっき、さくらが朝食用にジュースだけ持っていったのを見て危機感を持ったこと。
そして、結婚したらさくらを抱くのをやめること。
こんなん変やてずっと思うてきた。
けど、やめれへんかった。
さくらに初潮がきたら、やめようと思ってたんよ。
母は優しい表情をしてた。
私を抱いてるときよりずっとずっと優しい。
声も態度も。
私の知らない人のことを思っているからだろうか。
でも、今は母が私を抱かなくて済む時間が増えるのはいいことなんだ。

夕方、初めて顔を合わせた。
母がキラキラと輝いて見えた。
正社員で部長補佐とかいう偉そうな肩書きを持ってた。
三人暮らしには狭いからとその場でたくさんのことが決まっていく。
翌日には婚姻届が提出されると同時に、私は小田さくらになった。
母は苗字が変わったと浮かれていた。

経血の量が減り、気分が落ち着いたので登校することにした。
チェルが「おはようございます、さくら先輩」といつもとおんなじように声をかけてきてくれたから安心した。
チェルは今日も好きな人の話をしていた。
好きな人にだけ触られたかったから怒ったんだね、チェル。

私は母が大好きだ。
ううん、愛してる。
快楽を貪ることや肌を触ること、内蔵まで抱きしめあうこと。
恋人じゃない、愛し合ってる家族だからできるんだ。
大人になったらまた母を抱きたい。
きっと今とはすべての感覚が違うんだろう。
今度は私から母に快楽を教えてあげよう。

END.
262 :みおん :2016/08/24(水) 00:10
なかなか書きあがらなかった別の話ってやつです。
割と重めの話かもです、注意。
いまさら。
263 :溺愛パラシュート :2017/03/11(土) 02:07
遅くなりましたが、百合はクロスロード >>249-252 の続きです。
264 : 溺愛パラシュート :2017/03/11(土) 02:08
帰る頃には、夕陽に照らされた大きな雲がオレンジ色に染まっている。
お会計の際、めざとく見つけたパプリカの会主催学習会のチラシを綺麗にたたんで制服のポケットへ忍ばせた。

どうやって誘おうか、考え事をしているとあっという間に授業は終わり、クラスメイトは放課後のおしゃべりを楽しんでいる。
考え事をするには部室だな。
校舎横にある部室長屋は大小いくつかの部室がある。
そのうちの一室が、漫研と文芸部の部室だ。
ドアを開けると、森戸ちゃんと梁川ちゃんがいた。
梁川ちゃんは壁際の机に向かって何か作業をしているようだ。
「山木先輩、こんにちは」
「こんにちは、森戸ちゃん」
梁川ちゃんは? と聞くとどうやら部誌の締め切りが近いことを忘れていたらしい。
編集長をやる部員に執筆の進み具合を聞かれ、慌てて書き始めたという。
今日は作戦会議もできなさそうだ。
森戸ちゃんが梁川ちゃんの背後からそっと原稿を盗み見る。
「おとぎの国からこんにちは? ふふ、梁川ちゃんって文章は意外とロマンチックなんだね」
「モギトさん!?」
「え? なに? コギトエルゴスム?」
「ち、違いますぅ」
梁川ちゃんが有名な哲学者の一節を暗唱したと思ったら違ったようだ。
難しい言葉はたくさん知っているのに、滑舌はあまりよくないようだ。
先程まで熱中していた原稿は一文字も進まなくなり、耳まで真っ赤にしてうつむいている。
締め切りが近いという原稿はまだまだ真っ白だ。
邪魔者は去るのみ。
いっそ勢いだけで嗣永先生を学習会へ誘ってしまおうか。
どんな顔するかな、喜ぶのかな、怒られるかも。
うーん。
「先輩、今日は梁川ちゃんの邪魔したくないんでカギ置いて帰りますね」
考え事をしていたようで、帰り支度を終え鞄を持ち、カギを机に置いた森戸ちゃんに声をかけられる。
失礼します、と丁寧にお辞儀をする森戸ちゃんに続いて私も帰ろうとさりげなく鞄に手をかける。
「待ってください! 森戸さんがいると原稿が進むんです!」
耳を真っ赤にしたままの梁川ちゃんが立ち上がり、焦った声で引き留める。
いつもの大人っぽい落ち着いた雰囲気はない。
恋はここまで人を変えるのか、恐るべし。
そして、わかってはいたけども本人に言われるとちょっと落ち込むなぁ。
要するに、私は邪魔者だったのだ。
そんな私の横で森戸ちゃんもまた耳まで真っ赤にして「ひゃあ」と驚きながらピョンピョンとうさぎみたいに跳ねた。
「えー、そんなこと言われたの初めて! 嬉しーい!」
うわ、純粋な子供みたいな可愛さ。
これは梁川ちゃんじゃなくったって恋に落ちる。
しかし、全然脈なしだと思っていたけれど、意外と気の合う二人なのかもしれない。
制服のポケットの上を撫でると「また明日」とだけ声をかけ、無邪気に笑い合ってる彼女たちと別れた。
265 : 溺愛パラシュート :2017/03/11(土) 02:10
嗣永先生がいるはずの社会科教務室を目指す。
一度、校舎から出たのにまた戻ることになるなんて、物事はいつだってうまく進まない。
先生は、元々名前だけの顧問で部室には年に一回しか来ない。
用があるときはこちらから足を運ぶしかないのだ。
「失礼します」
開いてる扉をコンコンと二度叩くと、物書きに熱中していた先生がこちらを向いてにっこりと微笑んだ。
「あら、山木さん。丁寧ね」
先生に褒められるとやっぱり嬉しい。
こちらまであたたかい気持ちの笑顔になれる。
他の先生の邪魔にはならないよう静かに嗣永先生の机へと歩いていく。
「あのー、相談があってきたんですけど」
語尾が急激に弱くなる。
今日の梁川ちゃんみたいに大胆にはなれない。
「なんでしょう?」
先生は仕事の一部というような口調で先を促してくれる。
「あのぉ、この学習会へ行ってみたいなと思ってるんですけど」
制服のポケットに入れたチラシを開いて渡すと、ああこれね、とずいぶんと落ち着いている。
「山木さんは社会活動に興味があるのかしら。やっぱりおうちの商売が関係してるのかしらね」
「いえ、個人的な興味なんですけども」
「先生ね、教育の一環としてこういう人と出会ったり話を聞いたりするのはいいことだと思ってるの。今度、学校で講演してもらおうと頼んでるところなんだけど、もし、山木さんが良ければ現役学生の声を届けてくれないかしら」
そういう声があるなら講演の内容も詰めて考えられるだろうし、と先生は続けた。
「はい、もちろんです」
先生に頼りにされるなら何でもします! と言いたかったけどさすがに周りの先生たちにもドン引きされそうなのでやめた。
「そっか、良かった。山木さん、悩みごとがあるなら先生に相談しなね」
私の返事を聞いた先生は、大きめのブロック付箋に何か書き込むと学習会のチラシに貼り付けて、元の折り目に沿って畳み直してしまった。
付箋は中に折り込まれてなんと書いてあるか見えない状態だ。
チラシは私の手に戻され、嗣永先生は立つとゆっくり私の背中に手をかけ回れ右をさせる。
そうしてゆっくりだが確実に背中を押して廊下まで出されてしまった。
「悩みごとがあったら、先生はいつでも相談に乗るからね」
いつでも、のところに強いアクセントがのった。
「ひとまず今日はここまで、また明日ね」
いつでもと言いながら時間制限があるようで可笑しいなと思ったが、文句は言わない。
私は困った顔だけして、さよならというように手を振ってくる先生に頭を下げ、その場をあとにする。
校門を出てから、チラシを広げ直すと付箋には学習会の日と集合場所と時間、それに諸注意まで書いてあって、一人で笑ってしまった。
本当に先生は可愛いんだから。
諸注意にある、仕事ではなくプライベートの格好で来るように、という一文がなんだかキラリと光っていた。
266 :みおん :2017/03/11(土) 02:11
続く?

ももちがいなくなるまでには!
267 :「えいえんの娘。R」 :2017/03/16(木) 20:55

「えいえんの娘。R」
268 :「えいえんの娘。R」 :2017/03/16(木) 20:56
サン「RA」is 初恋

♪さゆみがなぜかなかなか出てこなぁい

四人でカラオケに来て歌っていると、絵里が「なにこの歌詞、違うじゃぁん、字幕通りに歌いなよー」と茶化してきた。れいなは表情を変えることなく♪推し変しちゃおうかな、も少し待とうかな、不安で泣きそうな顔してる私、と歌いきる。絵里は隣に座ったさゆに「ねー、この歌知ってる?」と聞いた。休業から目覚めても変わらない桃色肌に青光する黒髪を三つ編みにしたさゆは、束ねた毛先を人差し指で器用にくるくると弄んだまま「知らない」と言い放つ。私はれいなと二人で最後まで平和に「有難う」と感謝しながら歌った。さゆを太陽神の生まれ変わりと信じている私は、サビの振りを一生懸命やった。つまり、腰を振っていた。天岩戸からなかなか出てこない神に気づいてもらえるように。きっとりほりほが腰を振っていたなら喜んで神は外に出ていくのだと、私は目に涙をためながら気づく。れいなは一人、次の歌を選んで端末で入力し、同じ歌をもう一度最初から歌った。歌終わりのれいなに口づけしようとしたら避けられてしまった。酔って頭がフラフラになっていたからかもしれない。太陽は今日もまた美しくのぼり、地獄みたいなオールナイトのカラオケが終了した。急な黄泉比良坂がある渋谷のカラオケボックスを出た。さゆは坂を上るときに決して底を振り返らなかった。だから太陽神は甦ったのだ。私はまたさゆを見初めた。
269 :「えいえんの娘。R」 :2017/03/16(木) 20:57
時空を超え過去を超え

カラオケを終えてそのまま四人で近くのファミレスBerryzへと入った。さゆは適当にパフェとドリンクバーを頼むと無機質で冷たいスマホをいじり続けていた。絵里が席を立ち、ドリンクバーへと向かおうとするとれいなもおもむろに立ち上がり絵里のあとへ続く。ははぁ、これは二人とも気を遣ってくれたのだなと勝手に解釈し、スマホをいじり続けているさゆに「今のモーニング娘。が超えなきゃいけない過去ってなんだと思う?」と聞いた。スマホから目を離さずに、さゆはまた「知らない」と答えた。キャッキャしながられなえりが戻ってくる。「ねーねー、何の話?」カルピスソーダを作ってきたのか、真っ白な液体にシュワシュワと音をたてる小さな泡が見えた。「しゅわしゅわぽん」と私がいうと「それ、りほりほのだから取らないで」とムスっとした表情で私を睨んでくる。鞘師はモーニング娘。をもう卒業している。たった十七歳でアイドルをやめた。「お水持ってきたとよ」れいなが私の前にコップを置いてくれた。隣のれいなからは味噌の匂いがした。「れーなはお味噌汁にしたっちゃ」黒いお椀には肉みその具が入った茶色の味噌汁が入っている。れいなでも憎みそうなぐらい新人にジェラジェラジェラってるのかと思ったら、そういうことではなかった。「モーニングでもないのに?」「どういうことっちゃ」「そうじゃない」れいなは悪の娘だからモーニングにもラベンダーにも興味がない。コップに入った水を一口飲んでカラオケで疲れた喉を癒す。さゆに視線を戻した。「今のモーニング娘。が超える過去としての実像になったんだよ、さゆは」さゆは無機質なスマホを見ながらニヤついている。おおかた、新人研修生の顔でも確認しているのだろう。「きゃはー、この人なにイッちゃってんの。マジでおかしいよねぇ、さゆ」テンション高くバカにしてきた絵里に、私のなかの秘めているクララがたった。
270 :「えいえんの娘。R」 :2017/03/16(木) 20:58
ぶらんにゅーさゆみん

砂浜に稲場さんと稲葉さんが裸になって並んで寝そべっていました。寄せては返す波が彼女たちの下半身に飛沫をあげてかかり続ける。そこへ中澤さんがやってきて、稲葉さんの隣に寝そべりました。通りかかった保田さんが「裕ちゃんは関係ないのに」と悲しそうに呟く。「いいの、ゆうこりんは踏まれたいだけだから」私たちの側に来た道重さんは白い服を来てなぜか白い大きな荷物を背負っている。「そうや、踏まれたい抱かれたい踊りたい、や」「そんな。泡沫サタデーナイトみたいに言わないでくださいよ」「そうやん、さゆみんの仕事始めはサタデーナイトからやで」「また無茶苦茶な」と答えたが、仕事自体はフライデーだが、放送されるのは確かに泡沫サタデーナイトだった。それよりも、中澤ゆうこりんと道重さゆみんが休業前より親密な関係になっているのが気になる。さゆみんは何も言わずにマシュマロのように真っ白でふわふわボディの稲場さんの背中を踏みつけた。隣の稲葉さんも踏みつけた。二人とも痛そうな声を出しヒィヒィと泣いている。ゆうこりんをさゆみんが踏みつけると「あっ」という声が漏れた。「もっと踏んでぇ」そのお願いに応えるようにさゆみんは一度、二度三度と何度も踏みつけると、その度にゆうこりんは「あっ、あっ、あっ」と声をあげる。ゆうこりんは太陽神の復活の喜びを噛みしめているのだろう、そのように私は聞こえた。様子を見てたら、たまらず興奮してしまった。じっとりと眺めながら口内から涎が止まらなかった。二人の行為も止まらない! 「もっとして、気持ちいいんや」さゆみんはめんどくさくなったのか、ついにざらざらした砂のついた踵でゆうこりんの頬をぐりぐりと痛めつけた。「あんた、ちょっとやめさせなさいよ」と保田さんが言い、私がやめたらどうだとアドバイスするまで二人は楽しみを止めなかった。保田さんが「治療してあげてよ」と労る。「どうしたらいい?」と私はさゆみんに聞くと「赤貝と蛤が必要なの」と桃色の肌をより一層桃色に上気させハニカミながら答える。「治療開始なの」と呟きながら右手を高くあげると奥から鞘師と加賀と藤本が出てくる。三人は無言で稲場さんと稲葉さんの肩を抱き寄せ、奥へと連れていった。あの二人は私の目の前で素肌を晒してアイドルをすることは、残念ながらもうないのだろう。赤いメンバーカラーの人物が赤貝かと気づく。じゃあ、蛤はどこにいるんだ? 「ゆうこりんには蛤が必要なの」「そうや、私が言う前に抱きしめてくれるんや」二人はいつのまにか貝合わせを楽しんでいた。波で濡れたゆうこりんの下半身が貝合わせをすんなりと受け入れていた。上半身だけで踊り続ける。ゆうこりんが「歌いたい。歌を練習するだけの自由時間が欲しい」と小さく呟いたのが聞こえ、さゆみんが「私が復帰したから大丈夫ですよ」と笑顔で答えさっきよりも強くぎゅっと抱きしめ、二人は一つになった。「こんな解釈もあるのね」と磐永姫のような保田さんは白い壁に溶けて消えた。ここは砂浜ではなく白い部屋だった。ああ、プロジェクションマッピングで全てができている世界なんだ。ここには誰もいない、幻の世界。私の背中はさゆみんから痛みを譲り受けた。
271 :「えいえんの娘。R」 :2017/03/16(木) 20:59
私はさゆみんを抱きしめていたい

さゆみんの復帰後、初めてのメディア仕事はラジオだとわかった。約束を守るというのは、今後バラエティ仕事をこなしていくことだ。きっとモーニング娘。を先輩として応援していく、宣伝していく使命がさゆみんを突き動かしたのだろう。さゆみんはモーニング娘。が誰より好きなのだ。音痴を治すのに思ってた以上に時間がかかったのだと思った。自分が好きなモーニング娘。がモーニング娘。であり続けるために、お客さんを「ああ、これが求めていたモーニング娘。だ」と喜ばせるために。だから、献身的な態度で戻ってきてくれたのだ。かえでぃーが青い光を放つスマホを見ながら「石川さんだけじゃなかったんですね」と言った。きっと狼を見ていたのだろう。「石川って誰っちゃ」れいなは悪の娘だから先輩にも後輩にも興味がない、自分を守ることにしか興味がない事務所の犬になった。こんなれいなには興味が湧かない。抱く気はそもそもない。かえでぃーは「ひどい」と言ってテーブルにつっぷし、そのまま「こんなはずじゃなかったのに!」と叫んだ。かえでぃーの言うとおりだ。かえでぃーにはモーニング娘。のこれからのためによこよことらぶらぶしてもらうミッションが待ち構えている。さゆみんに手解きを受ける予定で集まっていた。ついでだからとれいなにまりんとのミッションを紹介したのだが「れーな、悪の娘やけん、受けれないっちゃ」と断られた。その時、事務所の一階にある喫茶店の前を磐永姫のような顔をした保田さんが通りかかった。私たちを見つけると入り口で「何してんの」と呼びかけ、わざわざテーブルまで来て勝手に椅子へ座った。保田さんなんてみーよとイチャイチャしてれば良かったんだ。「何してんの、会議?」「誰っちゃ」「ひどいですよ、保田先輩ですよ。やすみよで輝いたんですよ」かえでぃーは良い子だから、顔をあげて律儀にれいなに教えてあげる。しょうがないので保田さんにウソの話題を提供し、帰ってもらおうと考えた。「えいえんの娘。Rという言葉を調べているんですよ」「RってRealじゃない?」「ここにはアンリアルしかないっちゃ」「アンリアルならAですよ」「うるさいっちゃ!」れいなは大声を出して珍しく歯を見せてきた。怒られてしまい、私はシュンと肩を落とす。さゆみんはれいなの横でふんっと鼻を鳴らして私をバカにしてきた。バカにされた途端、舞い上がった私は胸の高まりを感じた。此花咲夜姫のようなさゆみんを一瞬でも抱きしめていたい。プロジェクションマッピングで海や山を産み出すさゆみんを私は抱きしめたい。
272 :「えいえんの娘。R」 :2017/03/16(木) 21:00

「夢を見たい」
273 :みおん :2017/03/16(木) 21:07
道重さゆみさん、復帰おめでとうございます。
奇しくもりほりほも復帰するとかしないとか聞いたので、さゆに本気で片想いしているりほりほの話が読んでみたいものです。
さゆが名前が出てると嬉しいと書いてたと思うのですが、さゆが出てこない話ばかりだったので書いてみました。
変な人なので変な話です。
ついでに今日見た夢はさゆにプロポーズされる夢でした。
恋人がいてもさゆを選んでしまうものなのだなぁと夢の中でも道重一筋でしたよ。
姐さんがさゆ卒業のときに一緒に歌いたいと書いてたので、叶うことを願います。

というわけで、溺愛パラシュートの続きを書きに戻ります。
274 :恋はパラレルライン :2017/04/03(月) 00:07
春の日射しはあたたかく、学習会が行われる日曜日がやってきた。
今日はお昼過ぎから夕方まで『ハニホヘト』は貸し切りとなる。
橋のたもとにある小さな公園で待ち合わせだよ、と付箋には書いてあった。
白いふりふりのレースにセピアチェックのリボンが可愛い長袖ブラウスワンピースに白のボレロ、ふりふりの白レースと白い小さなリボンがちゃんとついたセピア色の靴下にお揃いの色の靴にした。
白いヘッドドレスとショルダーバッグを提げて公園の入り口に立つ。
いつもの制服じゃなけど、先生気づいてくれるかな?

「お待たせー!」
そう言って手を大きく振りながら近づいてきた嗣永先生は白いうさぎの耳つきフードパーカーに落ち着いた桃色に金の留め金がついている小さめリュックサック、フロントレースの白いブラウスに膝上丈の桃色フレアスカート、ヒールの高い桃色パンプスにレースのついた透け感のある白い靴下という十代みたいな装いだ。
ついじろじろ見てしまったのか先生に優しく「今日は若い子と一緒に歩くんだから」と返されると何も言えなかった。
だから、ピンクですね! と話題をそらしたらドスの効いた低い声で「これはピンクじゃなくて桃色なんですけど?」とピンクから桃色に訂正させられた。
先生と生徒の関係じゃ今日はまずいから私のことは桃子ちゃんと呼んで。
と言われ、うんと頷く前にじゃあ練習してみようかと、言わされる流れに。
突然すぎて恥ずかしくて言えそうにないけどニコニコと笑顔で見つめられ、口をもごもご動かしていたら、言えないうちはここから動けないよと言われたら頑張るしかない。
「......っも、桃子、ちゃん」
「かったーい。ま、一度言えたわけだし、そのうち慣れるよ」
言えてホッとした。少しでも親密になれた気がして胸が高鳴る。
今だけじゃなくって、今後もこういう関係がずっと続いていけばいいのに。
「山木さんは友達からなんて呼ばれてるの?」
「りさぴょん、です」
「じゃあ、ぴょんで」
それって原形ないのでは。
「ちょ、先生! 聞きなれないのは私が困ります!」
......反応がない。
「今は先生じゃありませぇん」
ぷっ。言い方が可愛くてつい吹き出してしまった。
「桃子ちゃん、聞きなれないのは私が困ります」
「はぁい。慣れたじゃん、ぴょん。私たち昔から親友だったみたぁい」
プライベートの嗣永先生ってこんな感じなんだ。
学校とは全然違う。
「じゃ、行こっか」
差し出された手に「はい」と返事して、私は先生と手を繋ぐ。
小さくて柔らかい手と。そう、昔から親友だったように。
いや! 親友じゃダメなんだけど!
......ダメなんだけど、今はこれでもいいかな。
275 :恋はパラレルライン :2017/04/03(月) 00:08
橋を渡り、坂の途中の喫茶店『ハニホヘト』の扉を開ける。
作戦会議じゃなくて、やっぱり好きな人と来るといつもの場所もきらめいて、いつもと違う光景に見える。
「ぴょんは学習会は初めてだよね?」
「あ、はい! そうです! 桃子、ちゃん」
まず資料代として参加費を支払ってから、好きなテーブルへ着き学習会が始まるまでにワンドリンクorワンフード頼んでね、という形式らしい。
資料代を係の人に渡そうとして長い黒髪が目に入る。
「ありがとう、山木さん来てくれたんだ」
道重さんが目の前で微笑みながら、資料を渡してくれた。
あ、ああ、こんな幸せあってもいいのかな。
それに、制服じゃないのに気づいてくれた!
「ちょっと、ぴょん、行くよ」
ぐるぐる混乱してしまったら桃子ちゃんが強引に腕を引っ張って、奥の席へ連れられて座る。
普段グランドピアノがある入り口近くの一角に会議室にあるようなホワイトボードが置かれ、短髪の中澤さんとセミロングの女性と男性と三人で談笑していた。
「ちょっとちょっと、よく聞いてぴょん。みっしげさんはファンが多いんだから」
みっしげさん? 資料を求めて並ぶ女性の何人かは、道重さんに声をかけられると黄色い歓声をあげていた。
何分か前の私のように。
いつものことなのか中澤さんや店主は平然として話を続けている。
「いらっしゃいませ」
奥のテーブルまでコップに入った水を二つ持ってきたのは店主ではなかった。
名札には高橋という苗字と、名字の上には小さくバリスタと書いてある。
「ごめんなさい、まだ決まってないの」
と桃子ちゃんが言うと「失礼しました」と深々と頭を下げ、カウンターの奥へと戻っていった。
何度か来ているのに初めて見る顔だなぁ。
最近、雇ったのかな?
「ね、ぴょん。おごるよ。ここのフード、美味しいんだよ」
「え。あ、ありがとうございます」
ついつい丁寧語になってしまうけど、語尾も直したほうがいいのかな。
とはいえ、カロリーを考えると注文できそうなものは少ない。
メニューを見ながら考え込む。
「頭を使うとお腹が空くのよね」
桃子ちゃんはがっつり頼むようだ。
アールグレイのムースなるものをメニューから見つけ、ミルクティーと一緒に頼むことにした。
276 :恋はパラレルライン :2017/04/03(月) 00:09
店内は満杯とは言えないが、七割ほど席は埋まっているようだ。
ふと、渡してくれた資料に目を通すと、今日の講師は弁護士で憲法と同性婚についてとタイトルがついている。
憲法二十四条から始まり、幸福追究の権利、憲法における平等の素晴らしさと続く。
高校生にわかるだろうか。
授業で憲法を習ってはきたけれど、試験のための暗記で自分の身に付いてる気はしない。
資料を先に読みながら、自分への反省を込めて、はぁと大きな溜め息をつく。
「大丈夫よ、ここにいるほとんどの人はぴょんと同じ。試験のために習っただけ。だから、大人になってから学習するのよ。そのために開いてくれた学習会なんだもん。楽しまなきゃ、ね」
「はい」
桃子ちゃんの言葉にふっと肩の緊張が抜ける。
「お待たせしましたぁ」
いつもの店主がお盆いっぱいにドリンクとフードを持ってきた。
アールグレイのムースにミルクティー。
BLTサンドに本日のおすすめコーヒーとふわふわホイップの乗ったコーヒーゼリー。
先生、こんなに食べる人だっけ?
「変な時間に起きたからちょうど今がランチタイムなの」
「いつもご贔屓にありがとうございます」
「いえいえ! 繁盛してもらわないと困るしね!」
どうやら学習会の場所が無くなると困るという話らしい。
ここが再開するまでの間、学習会の開催場所は転々と移り、不定期ながらやっと同じ場所で開けるようになったという。
「再開して愛ちゃんと一緒にやるようになってからはイベントの数も増えたので」
「高橋さんの淹れてくれるコーヒー、いつも美味しいですよ」
「まぁ、ありがとうございます。伝えておきますね」
店主は去り際、こっちの作戦とはやるねぇとニッコリ笑ってきたので、なんだか恥ずかしかった。
それを聞いた桃子ちゃんが「作戦ってなぁに?」とぐっと近づいて顔を覗きこんだからか、余計に恥ずかしくなって顔が熱くなるのがわかった。
「ぴょんの顔、真っ赤だよ」
言わなくてもわかります。コップの冷たい水を飲むと少しだけ冷静さが戻る気がした。
277 :恋はパラレルライン :2017/04/03(月) 00:09
桃子ちゃんのBLTサンドを食べ終わるぐらいに、中澤さんから挨拶と弁護士さんの紹介があり、そのまま弁護士の自己紹介と挨拶にうつり、進行はスムーズに動いていく。
憲法二十四条の婚姻からだ。結婚でできること、市政における同性婚で認められていること。
認められてないために今まではできなかった財産贈与やパートナーの入院・手術の同意、面会謝絶になっても親類と同じ扱いでの面会、葬式への列席など。
またローンの組立や保険といった、一緒に長く住むからこその問題も市政においては少しずつ前進しているということだった。
同性婚制度が県や国レベルまで認めれられるよう、みなさん一緒に頑張りましょうと締めくくられた。
「十五分の休憩ののちに、質疑応答を行います」
中澤さんが声をかけると、喫茶店としてのいつもの賑わいが戻ってくる。
桃子ちゃんはコーヒーゼリーを食べながら、どう? と聞いてきた。
「思ったより難しかったです」
「まぁ、そりゃそうよ。ぴょんも婚姻可能な年齢ではあるけれど、まだまだ先の話だもんねぇ」
「講演を頼むって言ってましたけど」
あの日、講演会してもらおうと言ってたけれど、こんな内容じゃ誰もついてこれないと不安になって聞いてみる。
「あー、あれね。弁護士先生に頼むわけじゃなくて、性的少数の当事者を呼んで話をしてもらおうと思ってさ。憲法なんてよくわからないものより、人を好きなだけなのに何に困ったのか、そういう話を聞きたいでしょ?」
「はい! とっても!」
「うん、いい返事。人を好きになっただけなのに、ってのは、さっきも出てきたけど幸福追究の権利、何で同性を好きになっただけなのに社会で生活する上で困りごとがあるのか、ってのを平等の権利に置き換えてみたら、今日の学びもぴょんにはわかりやすくなるんじゃないかなぁ」
桃子ちゃんは、すいませーん、と手を挙げ、本日のおすすめコーヒー二杯目とミルクティーを頼んでくれた。

質疑応答は、どうやって周囲にこういった活動やアライという当事者以外の支援者を増やせばいいのかといった質問から、当事者の勤め先での差別だとか、はたまた恋人からのDVの対処法を教えてください、という悩みだ。
バイトをしたことも恋人がいたこともない私には縁遠い話のように思える。
告白がイベントの一種で、付き合うってのがゴールになってしまってるのかなと作戦会議を含め振り返ってみた。
ここにいる人たちみたいに大切にしたい人とつきあった経験がないからなのかもしれないけれど。
そういえば、道重さんが当事者なのかアライなのか知らないままだ。
最後にもう一度弁護士さんと中澤さんの挨拶があり、大きな拍手で会は終了した。
会計には長蛇の列だが、そこに道重さんと中澤さんが一人ひとりと話したり握手したり、時には手を振って見送ったりしている。
「ぴょん、もうちょっと時間ある?」
「はっ、はい!」
ま、まさかの桃子ちゃんからのお誘いなんて、嬉しい!
278 :恋はパラレルライン :2017/04/03(月) 00:10
「桃子、来てたんだ」
中澤さんと仲良く談笑していた、セミロングの女性が私たちのテーブルまで来てくれる。
パッチリとした睫毛が素敵だけども、目力がすごくて圧をかけられているようにも感じる。
「そりゃ来ますよ、保田さん。例の件、お願いしますよ」
桃子ちゃんは、親しげにその女性と話す。例の件って何だろう。
「道重を説得できればいいよ」
「マジですか! やったぁ、今日は最終兵器連れてきましたから」
道重さん? 最終兵器? いよいよ、話が見えないぞ。
「最終兵器ってその子が?」
「そ、親友のぴょん」
「親友? 恋人じゃなくて?」
嬉しいな、恋人に見られてたらいいな。
話が見えないけれど、嬉しい言葉がポンポンと聞こえてくる。
もー、違いますよー、と桃子ちゃんが否定したときに空気が変わった。
黒髪を触りながらこちらへ歩いてくる道重さんが見えたからだ。
「みっしげさん! 待ってましたよー」
桃子ちゃんは立ち上がって、こちらのテーブルにと姿勢よく手招きする。
その姿が凛としていて見惚れるようだった。
「桃子ちゃん、なぁに?」
道重さんの発する「桃子ちゃん」という単語がほわほわもこもこしていてかわいい。
「あ、山木さん。難しくなかった? 大丈夫?」
ふわーと天国まで上昇していくような幸せを感じる。
今日の目と耳の忙しさは尋常じゃない。
「あ、はい。だ、大丈夫です」
と返事するのが精一杯なくらい緊張した。
「みっしげさん、そーゆーことするからファンが増えるんですよ」
「そういうことって?」
「もー、絶対わかってるでしょ!」
桃子ちゃんはスネているようで、可愛い。
学校じゃ見れない光景にクスリと笑ってしまう。
それにしてもおしゃべりだ。
部活でしか会えない、仕事してる先生にしか会えてなかったんだなぁ。
「それに、山木さんは桃子ちゃんの生徒でしょ?」
道重さんの純粋な質問に、保田さんはなるほど親友ねと短く答え、桃子ちゃんは舌打ちしていた。
「ま、いいんですけどね。ぴょんがこういう学びを道重さんから聞きたいなーって言ってたから。ね。若い子の意見は大切じゃないですかぁ」
桃子ちゃんの意見にこくこくと頷くと、道重さんは深く考え込んでるようだった。
「うーん、その件はまたあとで返事してもいいかな」
「もちろんですよ! みっしげさん、いい返事期待してますから」

三人と店主に見送られ、喫茶店を出ると薄暗く太陽は西へ落ちつつあった。
並んで坂を下る。
日曜の夕方は、人や車の往来が平日より少ないように感じた。
「遅くまでごめんね。家まで送ろうか?」
「大丈夫です。高校生ですから。それに遅くなるかもって言ってあります」
今日、起きたときから先生の様子を見て告白してみようと決心してたのだ。
住宅地と歓楽街をつなぐ橋が見えてきた。
「先生。私、先生が好きです! だから」
言葉を続けようとしたら、先生がぎゅっと体を包むように抱きしめてくる。
良かった、付き合えるんだと思った時、耳に入ってきた先生の言葉はとても衝撃的で両目から涙が溢れてしまった。
高校生にもなって人目を憚らず泣くことになるなんて、思いもしなかった。

ーー山木さん、ありがとう。気持ちは嬉しいよ。でも、先生ね、もうすぐ結婚するの。だから、山木さんの気持ちには応えられない。
279 :みおん :2017/04/03(月) 00:11
続く 次のタイトルは「憂鬱ハーモニー」の予定です。
280 :名無し飼育さん :2017/04/20(木) 19:27
今さら発見してしまった
山木さんとももちの関係が好きなので嬉しい…と思ったらフラれてしまってたw
それでも続き楽しみにしてます
誰と結婚するんだろ?

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