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続飼育支部

177 :本当は違うんだ入門 :2012/06/20(水) 20:56
「もしもし?」
久しぶりに聞こえる絵梨香の声がぼんやりと耳の奥にひろがる。
『……保田さん?』
緊張気味に震えた音声が脳に到達するまでゆっくりと時間を楽しむ。
「札幌、どう?」
問いには答えずに質問を返した。
『あの……頑張ってますよ。今までみたいな大きな会場での舞台はないですけど。
でも、試合にはたくさんの観客が来てくれますし。東京では味わえない違う緊張感です。
家に帰れば祖母がいるので、そこが違うところですけど。気候も全然違うし』
濁そうと思って口を開いたら、言いたいことが出てしまったというところか。
「試合、出てないでしょ。爪が長かったとかで」
――ブログ、読んでるんですか。
諦めにも似た呟きが電話越しから聞こえてきた。
――どうして、どうして。
「絵梨香のそういうところ、変わってないね。彼氏できたんでしょ?」
『いませんよ、それどころじゃないんですから』
鼻から勢いよく息が飛んだような、ムッとしたのがわかる。
178 :本当は違うんだ入門 :2012/06/20(水) 20:56
……おやおや、それはいけませんね。
いつも見てる刑事ドラマの主人公の口癖が、頭をよぎる。
私と同じブログ会社に移ったから、更新を確認するのは簡単だ。
それに、冬の舞台が決まった。絵梨香とはその前に会えるようになるだろう。
この夏を越したら、きっと。
胸を焦がすのは、夏の太陽じゃなくて絵梨香への熱い想い。
『中澤さんに妊娠おめでとうございますとお伝えください。おやすみなさい』
「ありがとう、逃がさないからね、いとしの絵梨香」
『そういうのやめてください! 何度も言ったじゃないですか!』
「……でも優しいから、電話、切れないんでしょ」
ブツッと音声が途切れ、ツーツーと冷たく無機質な音が耳の奥から脳に伝わっていく。
台風のように、荒れたままの心が絵梨香を欲している。
耳が、絵梨香の声を。
目が、絵梨香の姿を。
手が、絵梨香の身体を。
本当は触りたくてたまらない。遠いからこそ、愛おしい。
私の指で絵梨香をとろけさせたい。
今夜の台風をやり過ごせば、夏がくるかもしれない。

 END.

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