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続飼育支部

170 :――夏日でも、私たちには味方だよ。 :2012/05/29(火) 22:24
初めてのお誘いは、あゆみちゃんからだった。
中間考査は五月第三週の後半にあり、第四週の前半にはすべての教科が返ってきた。
気も緩む六月前、お昼前にはぐっと気温が上昇。
女子高なのに、制服のスカートをだらしなく広げてぱたぱたとあおる同級生がたくさんいる。
そんなことをしている友人たちが急にいやらしく感じて、仙台から越してきたあゆみちゃんに声をかけた。
お昼、一緒に食べよう。中庭の大きな木陰の下に二人で座る。涼しい風が気持ちよい。
このまま、ここにいたいね。つい、みずきが漏らした一言がきっかけ。
午後の授業、サボっちゃおうよ。爽やかな誘惑。葉っぱが揺れると、きらきらと影も動く。
この暑さ気持ち悪いし、授業受けるなんて無理だと思う。あゆみちゃんの声はどこも媚びていないのに。
サボれるのは学校に通ってる今だけだよ! 畳みかけるように次の言葉が紡がれる。
みずきは、小さな声でダメだよって言うしかできなくて、天気のことが心配だったけど口にはしなかった。
自転車で遠いところに行っちゃえばわかんないもんだよ! と力説するあゆみちゃんが可愛いから。
東京から離れたことないみずきにはわからないこともあるんだろうな。

みずきよりだいぶ背の低いあゆみちゃんが自転車を漕いで、みずきはちゃっかり後ろに座る。
何度も大丈夫と聞いたのに、それでも大丈夫だからとしか返さなかった。
だから「イエーイ! 出発進行っ」なんて盛りあげてみたのに。
足を離した瞬間、あゆみちゃんは「重いっ!」と叫んで、ぐぐぅと腹の底から息を漏らす。
立ち乗りにして、って言われたけどわからない。結局、みずきが漕いであゆみちゃんが後ろに乗ることに。
171 :――夏日でも、私たちには味方だよ。 :2012/05/29(火) 22:25
昼休み終わる直前に裏門から走り出す。
どこまでも早くどこまでも遠く、みんなが知らない場所にたどりつきたい。
暑い、熱いっ! あつい! あつーい!
有名なコンビニマークに100の数字がついてるお店が見えてきて、自転車を止める。
「どうしたの?」
「アイス食べたくない?」
「食べたい!」
いたずらっ子のような幼い笑顔を見て、みずきも嬉しくなる。
これ、全部百円なのっ!? コンビニなのに!? すごーい、色んな種類があるぅ。

あゆみちゃんは最初から決めてたというアイスを持ち、うふふと笑いながらパッケージを開ける。
みずきは木のさじを持ち、カップアイスのふたをあける。とてもおいしそう。いただきまーす。
口に放りこむと、じんわりと冷たさが広がって、あとから甘いチョコの味が喉にくる。
しゃりしゃりとかき氷を食べる音がして、あゆみちゃんを見ると真っ赤な三角形のアイスバーを持っている。
あ、これ、スイカじゃない。
「それって、スイカの味するの?」
「えっ。食べたことないの。種はチョコなんだよ、おいしいよー! おっと」
気温の上昇とともに溶けるのも早くなる。指にたれたアイスを舌でなめるあゆみちゃんが子どものようだ。
背が低いから、体の全部がみずきより小さいんだ。簡単にわかることも、なぜか新鮮に感じる。
液体と化す前に、アイスを食べ終わらせる。時間との勝負。
「ちょっと歩こうよ。ほら、カロリー消費しないと」
高校生ともなれば彼氏できたなんて噂も、同級生からちらほら聞く。
メイクにダイエットにおしゃれに、友だちの話も多種多様になったと気づく。
あゆみちゃんが自転車を押して、みずきはその隣を歩く。
172 :――夏日でも、私たちには味方だよ。 :2012/05/29(火) 22:25
「私、みずきちゃんに声かけて良かったと思ってる。友だち多いし、田舎者の私でも気にしないし」
そんなことを言いだす理由を深く考えたことがなかった。
「普通に友だちの輪に入れてくれるし、すごく嬉しくて。でも……その優しさに甘えていいのかなって」
高校生になったんだし、と続けた彼女の声はかすれていた。
冷たくて強い風がスカートをめくりあげようとする。空も黒くて厚い雲が早く動いているのが見える。
遠くに見える小さな空は明るいのもわかる。きっと天気予報で言ってたゲリラ豪雨みたいなものだ。
どこかアーケードのような、雨をしのげる場所を見つけないと。
「どうしよう。ごめんね、強引に誘ったの私だし……」
泣きそうな声でつぶやくあゆみちゃんを無視するように、こっち! と大きく声で指示を出す。
大きくうなずいて、走り出す。二人とも自分の足で迷わずに走り出す。

私鉄沿線の小さなアーケードに入る。ごろごろと雷の音が右からも左からも聞こえる。
すぐに雨粒が激しく叩きつける音も加わる。雨が降り出すと、風は弱まったようだ。
なんとか濡れずに済んだ。自宅近くの駅前アーケード。ここからなら、自宅にも濡れずに行ける。
近所のおばさんたちに挨拶を返しながら目指す。
そういえば、入学式直後のあゆみちゃんは空回りしてたな、と思い出す。
とても元気が良いあいさつで、みずきは好感を持っていたのだけど。
周りはそうでもなかった。子供っぽいとかいって。それこそ、田舎丸出しって言ってた子もいた。
中学生までのノリで注意してたらみずきが避けられてて、だからあゆみちゃんも声をかけやすくなっていた。
玄関をあけ、あゆみちゃんに自転車入れてと声をかけると、小さくうなずく。
「アイス食べなきゃよかったね、体冷えちゃったよね」
「ごめんなさい」
「謝らないで」
173 :――夏日でも、私たちには味方だよ。 :2012/05/29(火) 22:25
二階の自室に招き入れる。カバンを定位置に置くと、おもむろに押入れのふすまを開け毛布を引っ張り出した。
「寒かったでしょ」
「大丈夫、だから」
きっと強がりなだけなんだと思う。色んな家庭の事情があると知らなかったから。
東京だったらちょっとした距離でも電車通学だし、学生割引で定期買っちゃえばいいし。
なんて、簡単に思ってしまうけれど。
知られたくないことがたくさんあって、どんなことでも大丈夫って言い聞かせてればなんとかなる場所じゃない。
努力しても伝わらないことや報われないことがって、それでも人は誰かと関係を作る。
毛布を広げて、身体ごとまるごと包む。みずきの両腕はあゆみちゃんの身体をそっと抱きしめる。
「……聞いて。みずきはあゆみちゃんに嫉妬してたの」
つらつらと自分の思いを打ち明ける。
小さくてかわいいから、みずきより人気者になるのが怖かったこと。
勉強ができないみずきをバカにするんじゃないか。
みずきと仲良くしてたことなんか忘れてしまうんじゃないか。
他のグループの子と仲良くなんかしないで。
だから、このままここにいたいって言っちゃったの。
けど、さっきだってみずきのこと心配してくれるし、優しくお話聞いてくれるし。
知らないこともいっぱいいっぱい教えてくれる。
みずき以外の子と仲良くなんかならないで。ごめんね、こんなこと思ってて。
「大丈夫だよ。みずきちゃん以外の子とも仲良くなりたいから、無理なお願いではあるけど」
うん、大丈夫。さわやかな笑顔をみずきに見せてこう言った。
「ずっと友だちでしょ? みずきちゃんは私と友だちだと思ってなかったの」
いたずらっ子の表情でにひひと笑った。

 END.

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