■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 201- 最新50

続飼育支部

17 :坂で逢いましょう :2011/12/08(木) 23:27
メール一つ送信すれば、すぐ逢える。
いつでもすぐに逢えるわけではない、そんな二人の平行物語。

ドアをそっと閉じる黒髪の女性。灰色のコートに身をつつみ、アパートの階段を下りていく。
先ほどのドアを見上げて誰も出てこないのを確認する。
大きな溜息を吐き早足で目的地に向かって行った。

静かな住宅地の端に急な坂がある。なのに、途中に小洒落た喫茶店。
赤いレンガに暗緑の蔦が這って、昭和の面影を残したかのような外観である。
坂を下ると土手に出る。川が流れているのだ。反対側の岸は繁華街を含む商業、工業地帯。
その坂に先ほどの女性が上から歩いてくる。誰かを探しているようだ。
「重ちゃん」
「すみません。わざわざ……」
「いつものことやん」
落ち着いた暗い茶色のショートカット。先ほどの女性より少し小柄な女性。
「土手、歩かへん? 時間あるやろ」
「はい、あのでも、安倍さんは」
「なっちは今日でかけてんねん」
「そうですか」
「だから、心配せんでええよ」
冷たい風が二人のあいだを抜けていく。
「寒いですね」
「歩いてればあったかくなるやん……たぶん」
「……そうですね」
18 :坂で逢いましょう :2011/12/08(木) 23:27
土手の上は、風を遮るものがない。
「やっぱり寒くないですか?」
「こういう景色見るのもたまにはええやろ」
「……はい」
「また喧嘩したん?」
答えはない。
「喧嘩の原因なんなん? りほちゃんのこと?」
「それはないです」
「じゃあれいなか」
無言の時間が続く。
「……なぁ、なっちが突然居なくなったら重ちゃんどうする?」
「わかりません」
「りほちゃんってれいなの養子になっとるんよなぁ」
「はい」
「言うてええのかわからんけど、もしかして」
言い終わらないうちに頷く黒髪の女性。
「否定せぇよ」
「すみません」
「なんのためにれいなと一緒におるん? なんのためにりほちゃん引き取ったん?」
「……中澤さんを忘れるため、です」
「あほ。りほちゃん幸せにしぃや。なっちもそれ願っとるし」
二人して一つ溜息をつく。
「わかっとるんやろ? なぁ。返事しぃや、頼むで」
「……はい」
「ん、よろしい」
19 :坂で逢いましょう :2011/12/08(木) 23:28
そういうと手を彼女の手のひらへ滑り込ませた。ハッと目を見開く。
「時間は元に戻らへん、ってあのとき言うたやんか」
「年齢差は変わらないんです、悔しいですけど」
「……すまん。なぁ、れいなのこと甘えさせてやり」
「わかってはいるんですけど」
「小さい子が二人おるようなもんやな。けど、りほちゃんしっかりしてるやん」
「ほんとに大人びた子です」
「ん」
とんとん、ひとさし指で柔らかく手のひらを押す。優しいリズム。
「……愚痴聞くだけならいつでも呼び出してええから」
「はい、ありがとうございます」
「顔色ようなってるわ」
「体もあたたまりました」
「ん。ええ顔しとる」
「りほのことも心配だし、帰ります」
「またな」
手はするりと元の位置に戻る。
お互い手は振らずに、小さく頭を下げるとすぐに別方向に歩き出した。
まったく振り返ることもなく。

「重ちゃん、また坂で逢おうな」

 END.

続きを読む


掲示板に戻る 全部 次100 最新50

現在のスレッドサイズ:311982 byte

名前:

read.cgi ver5.27 + 0.02 (04/08/03)