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続飼育支部

167 :坂の途中にて :2012/05/15(火) 23:52
保田が会計を済ませて『ハニホヘト』を出たとき、すでに二人はにらみあっていた。
「なっち! 何してんの!」
いい大人になったのにまだ自覚がないのか、と保田は呆れた。
安倍の目の前にいる少女は、髪の毛を染めているし化粧もしているのだが、高校生ぐらいにみえる。
小学校にあがったばかりの女の子と手をつないでいる少女。姉妹だろうか、と保田は考える。
「なんで家に帰らないと!?」
「そんなの田中ちゃんには関係ない。圭ちゃん行こ」
安倍は保田の右腕を強引に引っ張り、坂をくだろうと足を動かす。
「ちょ、ちょっと待ってよ、話が見えない」
安倍に抵抗するように足を止め、腕を離そうと力を入れるが安倍は引っ張り続けている。
けーちゃん、何やってんの。話は終わってんだから。早くしないとタイムセール終わっちゃうよ。
いつにもまして説得力のある言葉が安倍から飛び出すことに保田は驚いていた。
田中ちゃんと呼ばれた少女は眉間にしわを寄せ、肩も上がっている。安倍の背中に向けて田中は声を飛ばす。
「さゆは、さゆは……安倍さんの代わりに中澤さんの看病してるんですよ!」
怒ってもいるが悲しい叫びとして、保田の耳には聞こえた。
「どーせなっちがいなかったらみんな幸せなんでしょ! 田中ちゃんも圭ちゃんも!」
その叫びに応じるように、安倍が叫ぶ。そして、やっと腕を離す。
と、同時に田中の隣にいる女の子が左手で左耳をふさぐ。
保田は田中と女の子のほうを向いた。
「ここじゃなんだ、うちにおいでよ。いいでしょ、なっち」
頭を垂れ、下唇をかみしめているように保田には見えた。
田中には見えないかもしれないとも保田は思った。ぶんぶんと左右に首を振る安倍。
168 :坂の途中にて :2012/05/15(火) 23:53
「すみません、言いすぎました」
安倍の態度を見て、田中は謝罪を述べ深々と安倍と保田に頭を下げた。
「ママ、おねーさん泣いてるよー」
女の子が安倍を指さす。いじめちゃだめー、と田中の手を引っ張る。
「りほごめん。ママ、イライラしてた。……安倍さん、ごめんなさい」
もう一度、田中は深々と頭を下げた。安倍の頭が深く上下に揺れる。右腕の袖口で涙をぬぐったようにみえる。
しかし、うん、という安倍の返事は保田の耳にすら届かなかった。
「あの、さゆもりほも……安倍さんがつくったシチューおいしかったって言ってたっけん、また」
つくってほしいっちゃ。お願いする田中の声が震えている。れーなもおいしって思ったっけん!
強い想いが届いたのか、安倍は、うん、と大きな声で返事する。
「圭ちゃんの家でおいしいもの作ったげる。しげさんも呼んで、ね」
はいっ! 田中の嬉しそうな返事が寒空に響く。りほという女の子も、いつのまにかはしゃいでいる。

保田はまったく話が見えなかった。同居している三好からちょくちょく聞いている話も思い出していた。
田中という子の話だ。同じ子なのかはまだわからない。少なくとも安倍のことも中澤のことも知っている。
それはわかる。中澤の看病、という今の情報を知れるのはいいことだ。
手持ちの情報が少なすぎると感じていた。優しくして損はないだろうと判断する。
名刺の裏に簡単な地図を書いて渡しながら、自己紹介する。
「やすだけい、と申します。名刺だから、表に住所も書いてあるし、迷ったら電話してもオーケー」
やすださん……? 三好ちゃんと住んでる人っちゃね。
田中に言われ、苦笑する。やはりこの子だったのか。なら話は早い。
やっと安倍から解放される! 早く中澤に返したい!
それもあと少しの辛抱だと保田は気を強く持ち直した。

 END.

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