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続飼育支部

142 :(恋人のような顔をして) :2012/04/22(日) 22:01
熱い夏も終わりに近づいた頃、藤本の妊娠が発覚。二度目の脱走。素直にいいなー、と思ってしまう。
妊娠出産で一時離脱というけど、子育てするわけだからそう簡単には戻れない。
ましてやツアーなんて絶対無理。藤本がいなくなってから、裕ちゃんが春よりも寄ってくるようになった。
彼氏できたらしい。でも、十年前と同じように抱きついてきたりキスしようとしたりしてくる。
はじめの頃は、距離感忘れてノリでやってたけど、結婚したのもあるしグループで活動してるし。
今は距離を置きたい。裕ちゃんは周りが見えなくなっちゃうタイプだから、危なっかしい。

二〇一〇年十二月。ドリーム モーニング娘。って名前で卒業生で結成されるアイドルグループ。
そこに私もメンバーとして加わることになった。
半分は浮かれてた。もう半分は現役がいるのにいいのかな、という戸惑い。
気持ちがどちらもある人もいたし、どちらかだけの人もいた。単純に嬉しいと思ってる人も。
開始前から裕ちゃんに何度も説得された。お願いに近かった。
143 :(恋人のような顔をして) :2012/04/22(日) 22:01
  ――矢口おらんかったらはじまらへんやん。
  お互い大人になって落ち着いたやろ。もう矢口が嫌がるようなことせーへん。
  同じグループで活動するためにきっちりせなあかんこともある。
  嫌なんか。……あたしどないしたらええの。

何度も何度も会ってるうちに、裕ちゃんの顔が少女になっていく。
妹になりたいんだっけ、って言おうとして、やめた。違う。やっぱり怖さが先行する。
近くにいなきゃ特に何もないんだろうけど。結局、私は裕ちゃんに甘い。
裕ちゃんは私のことが大切じゃないのに。自分の心を守るための私<矢口>という存在でしかないのに。

五月、結婚を発表した。また先に嫁くんだね、か細い声で裕ちゃんに言われた。覚えてないだろうな。
真顔でまくしたてるように言われたこと。うんうん、としかうなずけなかった自分。体も心も硬くなる。
『矢口が結婚したらあたしも結婚する!』
それまでしないのかよ! いくつ年下だと思ってんだよ。冗談に聞こえなくて怖かった。
やっと結婚できた自分。どうなるんだろう。裕ちゃん、する気あるのかな。
144 :(恋人のような顔をして) :2012/04/22(日) 22:02
 
145 :(恋人のような顔をして) :2012/04/22(日) 22:02
異変に気づいたのは圭ちゃんだった。おしゃれなカフェのおいしいランチをおごってくれるらしい。
薄暗い照明のせいか雰囲気も落ち着いていて話せそうな場所だ。
「たまってること吐き出しちゃいな」
仲間であり同期であり、頼もしい人。目頭と頬が熱を帯びてきて、目から涙がテーブルに落ちる。
「旦那に相談できないでしょ」
穏やかな口調で頼んだスパゲティをほおばる。
フォークをうまく使い、パスタをくるくると適量まきつけて口に運び、ぱくっと食べる。
人間関係もこんな風に簡単に処理できたらなぁ。心の動きは難しい。誰も計算できないものだから。
「裕ちゃんのこと、どう思ってる? 怖いまま?」
最初から核心をつく質問。早いうちに聞かないと私が話さなくなるって圭ちゃん知ってるから。
「……うん。怖い、怖いよ。好きって言葉が怖い」
「構えちゃうんだ」
「そうなんだよー。よっしーたちはさ、まーたやってるよー、なんて見てるけどさ」
怖い、って言い切った後は堰き止められてたダムの水が放出するように言葉が愚痴が感情が止まらない。
「まー、誰かいれば私だけに集中するわけじゃないし。それにさ。こんなこというのもなんだけど」
「ん?」
「裕ちゃん意外と人の目を気にするでしょ。……だから、さ」
「あー、下がいれば矢口に変なことしない?」
「うんうんうなずくのってもう条件反射なんだよね、ただの。怖いのもあるし。へへっ」
自分のことをしゃべるのはとても恥ずかしいから、笑ってごまかす。
けっこう涙も抑えきれずに流れてるままだし。ピザがしょっぱく感じる。
「夜、収録あるのにこんなに泣いたらメイクどうしよう」
自分の気持ちを全部吐き出せたわけじゃない。けれど、適度なあいづちや返事が心地よかった。
いつもあいづちを打ってるのが自分だからかもしれない。
146 :(恋人のような顔をして) :2012/04/22(日) 22:02
コーヒー飲みながら、後輩に話しても大丈夫そうだな、と落ち着けた。
モーニング娘。として活動してきたのに、私が私を一番信用してない。
たくさんのことを乗り越えてきた仲間がいるってのに。
活動時期が被ってないメンバーもいるけれど、大切な仲間だ。
まだ秋ツアーだってある。彼氏ができたなら落ち着いてくれるかもしれないし。
もし、裕ちゃんが恋愛に夢中になりすぎたら私たちがサポートすればいいんじゃん。
プライベートで隣に誰かいるってことは、心強い。私だけじゃなく裕ちゃんもきっと同じ気持ちだと思う。
過去は変えられないけど、願えば未来は変わるかもしれない。いくつになっても成長しあえる仲間だから。
裕ちゃんだって、矢口離れできる日が来るかもしれない。その日を待ってみよう。
そのときは、またみんなで歌って踊ってるのもいいな。

ま、期待しないのが一番だろうけど。

 END.

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