■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 201- 最新50

続飼育支部

118 :一杯のコーヒー :2012/03/16(金) 02:15
二十一世紀が来ても、同性愛を取り巻く環境は変わらない。
いつの時代にも雨があがれば、虹は青空に見えるのに。まだ雨はあがらない。

保田は安倍を連れて買い物に来ていた。マンションの一室に転がり込んでから一週間。
まだ寒さは厳しい。外出するたびに春を待ち遠しく思うのは誰でも一緒だろうか。
なかなか家に帰らず、三好がイライラしている。二人とも声には出さない。
いや、出せない。それでも、いつかいなくなるものと思うから接することができる。
中澤にも電話する暇がないことを保田は情けなく思っていた。
三好には田中れいなという子からちょくちょく連絡が入っているようだった。
保田はその子をよく知らず、三好は中澤のことも安倍のこともよく知らずにいる。
「なっち、今夜はハンバーグ食べたいなぁ」
隣を歩く安倍が、にこやかにそして無邪気に呟く。
「ね、圭ちゃんも食べたいでしょ」
「ちょっとさ、喫茶店寄らない?」
「いいよ。ガキさんのコーヒー飲みたかったんだ」
119 :一杯のコーヒー :2012/03/16(金) 02:15
 
120 :一杯のコーヒー :2012/03/16(金) 02:16
二人で坂を下る。赤いレンガに暗緑の蔦が這った喫茶店が見えてくる。
笑顔の素敵な女店主は六月までに『ハニホへト』をたたんでしまう。
まだ時間はある、あと少ししか時間がない。
時間の捉え方は様々で、来店はいつもと変化がないとも聞く。
店内は改装してあり、クリーム色の壁と落ち着いた焦げ茶色の木で支えられてるかのように見える。
木の床や小さく明るすぎない照明が心地よい。
けして回転率がいいわけではない。だが、その心地よさに惹かれて喫茶店に訪れる客は多い。
二人もそうだ。保田は本日のおすすめコーヒーを二つ頼むと、やっと落ち着けると思った。
壁にポスターが貼ってある。五月中旬にピアノの演奏会。
「なっち、ピアノの演奏会だって」
保田は指でポスターを示した。
「え、どこで!?」
手で遊んでいた安倍は驚いた顔になり、保田が示すポスターを見る。
「ここでやるんですよ。はい、本日のおすすめコーヒー二つ」
「ありがとぉ。ね、ガキさん本当にやめちゃうの?」
「はい」
女店主はにっこり微笑むと力強く話し始めた。
「いやー、友達から久しぶりに連絡があって、一緒にやりたいことだったんで」
「えー、ここじゃダメなの? なっちさびしいよ」
121 :一杯のコーヒー :2012/03/16(金) 02:16
「そんなことないですよ、安倍さんにはこんな素敵なお友達がいるじゃないですか」
「うーん」
短く唸る安倍に保田は慌てて対応する。
「ちょっとちょっと、なっち!」
「それに、安倍さんには中澤さんがいるじゃないですか」
ガキさんはいつもと同じ優しい声。なんとなく耳に入っているかもしれない、と保田は思った。
裕ちゃんここに来たかもしれないなさびしくなったのかな、と安倍は思った。
「なっち、新垣さんはこう言ってるよ。うちに帰ったらどう?」
保田は落ち着いたトーンで安倍を諭す。新垣のおかげだ。
「え、安倍さんどうしたんですか? おうち帰ってないんですか。心配してますよ中澤さん」
「そうかな……」
不安そうな声で下を向いた。
「おいしい料理つくってあげられるの、安倍さんしかいないじゃないですかぁ」
すみません、とカウンターの客が新垣を呼んだ。
「はーい、いま行きまーす! じゃ、ゆっくりしていってくださいね」
来た時と同じようににっこりと微笑む。
「なっち、おうち帰ろうかな……でも怖いの、なっち怖い」
安倍の言葉と真剣な表情に、保田はまだまだ問題は山積みだと理解した。
とても一杯のコーヒーでどうにかなるようなことではないと。

 END.

続きを読む


掲示板に戻る 全部 次100 最新50

現在のスレッドサイズ:305484 byte

名前:

read.cgi ver5.27 + 0.02 (04/08/03)