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続飼育支部

1 :みおん :2011/12/04(日) 17:18
今回はゆるゆる更新です、たぶん。
またも小ネタ中心になると思います。
2 :お米の話 :2011/12/04(日) 17:19
「なかざーさぁんってぇ、ご飯好きですか?」
「まぁ、そりゃぁ。食べるよ」
「ほんとですか! あのー親が新米持ってきたんですけどぉ」
「新米! 新潟の!」
「はい。ちょっと量が多いんですけど、いりますぅ?」
「いるいる! 欲しい! いやーん、まこっちゃんありがとー」
「あ、でも玄米なんですよ」
「玄米って……?」
「自分で精米しないといけないんですよぅ」
「……はぁ」
「でもおいしいですから! 絶対!」
「わかるよそりゃ! ……マジでさ、ほんとにもらっていいの?」
「はいっ! もらってください!」
「まこっちゃんも欲しいなぁ」
「ほんとですかっ! もらってくださいっ!」
「かわいいねぇ」
「うそなんですか?」

 END.
3 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 21:18
期待しています
4 :名無飼育さん :2011/12/05(月) 00:05
続がきたーやったー
5 :おなじきもち :2011/12/05(月) 21:14
「なかざーさぁん」
「なに」
「今夜ヒマですか」
「いっつも唐突やねぇ」
「えへへ」
「……えへへ、じゃないわ!」
「ダメですか?」
「まぁ、ええけど」
「やったぁ! 小春、今夜は一人なんでさびしくってぇ」
「ああ……そう」

その日から。二人の関係は変化した。

とはいっても。
お互い仕事忙しいし、ドリムス。の仕事でおうてもそうそう話する仲でもないし。
むしろなっちやかおりんに懐いてる。
けど。二人っきりの時はそんなん忘れるぐらい、くっついてる。

……指も腕も足も体も絡ませあって。好きな時にはじめて好きな時におわって。
相手を楽しますより、まず自分が一番楽しんでたい。
だから言葉より先に行動する。

互いに男がおっても、関係は変化しない。
一度はじまった関係におわりはない。

「なかざーさぁん」
「なんや」
「男とするのとぉ女とするの! どっちが好きですかぁ。小春はぁ、どっちもなんですけどぉ」
「わざわざ聞くことでもないやろ」
「えー、どっちなんですかぁ」
「どっちでもええやん、気持ちよければ」
「ですよねー」

 END.
6 :みおん :2011/12/05(月) 21:15
>>3
応えられるようになりたいです

>>4
続きってほどでもないとは思いますが
楽しんでもらえてなによりです
7 :スイートルーム :2011/12/06(火) 18:58
仕事終わりにみーよのマンションへ向かう。誕生日だから色々用意してくれてるらしい。
けど、食事会のあとだからお腹はいっぱいかも。チャイムを鳴らして部屋に入る。
「こんばんはー」
「待ってましたよ」
「ごめんね、少し遅くなった。……裕ちゃんの件でさ」
「いいですよね、結婚できて」
心がちくっと痛む。現行法では同性婚は認められてない。
「あ、すみません。コートかけますね」
九月下旬にツアーが始まったときは、まだまだ夜も暑かったのに。もう風は冷たい。
「圭さま、誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「つまみぐらいしか用意しなかったんですけど……」
「いやっ、全然! 全然大丈夫だから!」
小さなテーブルの上には色とりどりのつまみ、一口大のスイーツ、それにワインがのっている。
「カンパイしましょうか」
「うんっ」
たのしいたのしい時間の始まり。けど……。
「今日、報道しなくてもいいじゃんねー」
「そのかわり、こうやって二人で過ごしてもマスコミは知らないんじゃないんですか」
「まぁねぇ……みーよとの仲、知られたら大変よね」
「どうなるかわかりませんもんね。って、誕生日なのに暗い話になっちゃってすみません」
「いいよいいよ。裕ちゃんへの愚痴、吐き出せたし」
「やっぱり怖いんですか」
「ううん、すっごい凹んでて言えなかった」
話は続く。ワインをのむと、お腹いっぱいのはずなのに、つい手に取って食べてしまう。
一口大だから食べやすい。気持ちが緩むと体型に出ちゃうよー。
8 :スイートルーム :2011/12/06(火) 18:59
「……ねぇ、保田さん。知ってます? 美勇伝の『愛〜スイートルーム〜』って歌」
みーよが言った曲名は聞いたことあるようなないような。
「ごめん、わかんないや」
「アルバムにしか入ってないので。でもめちゃくちゃいい歌詞なんですよ!」
「つんくさん、いい歌詞書くよね〜」
「はい! 本当にそう思いますっ!」
「で、その詞がどうかしたの?」
「ちょっと歌います」

♪愛がある 確かに愛だ 表現にルールはない

「って歌詞なんですけど、恋愛だって異性としかしちゃいけないってルールなんて」
「みーよ、いいこと言った!」
恋愛だってルールはない。そのとおりだ。
いや、人として守らなきゃいけないルールはもちろん守ったうえで。
「つんくさんがすごいんですよ」
明るく笑ってるけど、そういうことをちゃんと伝えられるみーよが好き。
「今度、歌ってよ。カラオケでもいいけど。聴きたい」
「えー、恥ずかしいなぁ」
「持ち歌じゃない。みーよの歌が聴きたい」
「……もしかして、さびしい思いさせてますか?」
「ちがっ、ちがうの。ほら、年末近くなってきたからさ……ドリムスでの仕事も多いし、さ」
「私、たぶんドリムスのメンバーに嫉妬してますよ」
「裕ちゃんにも?」
「はい」
「かおりにも?」
「はい」
「矢口にも?」
「はい……って全員言うつもりですか」
「えー、うれしい」
「今、すっごくかわいい顔してます」

みーよがいるこの部屋は私にとってスイートルーム。

 END.
9 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 20:04
なんとタイムリーな!!!!
10 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 22:55
素晴らしい萌えをありがとう
11 :radar :2011/12/07(水) 19:07
朝から車で移動中。緊張した空気が二種類。
910期に漂う、生放送での歌唱、ダンス。失敗したらどうしようって。
わかるわかる。そんな時代あったなぁ。もう十年も前になるんだ。
もう一つは、先輩の結婚報道でゴロッキがそわそわしてる。
熱愛の時はー、大人だしグループ違うし、ってなんとなく納得したけど。
結婚はちょっと違うじゃない? 男と女ってだけじゃなくて家族とかさぁ。うんうん。
そんな先輩と後輩たちに挟まれて、よけい緊張するかも。
うわー! 緊張したってなんにも始まんないよっ!

「鈴木ー、変顔しよっか」
後ろからさゆの声が聞こえる。
「え、どうしたんですか。え、え、だって」
「いーからいーから」
たまたまだけど、さゆの隣の席は鈴木。
「ブログ見てたんじゃ……」
「いいのいいの。変顔教えてよ」
わりと静かな車内に響く明るい二人の声。
さゆは空き時間さえあれば、先輩や他グループのブログを読んでいる。
写真見るのも好きみたいだし。
誰のブログを読んだかはわかんないけど、だいたい想像つくしこれからやることも想像できる。
「えっ、えっと……」
「ダメかな?」
たぶんダンスのこととかで精一杯で突然言われたことに対応できてない。
おねえさんが助け船を出してあげよう。
「鈴木ー、教えてあげな?」
「あ、はいっ!」
元気な返事が聞こえて、なにやらごにょごにょと相談し始めた。
さゆが好きな先輩のことだもんね。
12 :radar :2011/12/07(水) 19:08
「ガキさん、撮ってもらってもいいですか?」
「いいよー」
ガラケー渡してもらって、赤信号で止まったのを見て動く。
「ほいっ、撮るよー! 三、二、一……ハイしゅうりょー。こんなんでどうかな?」
すぐ見せると、二人の顔が華やいだ。
「すごい、すごいです、新垣さん! 撮るの上手ですね」
「いやー、そんな褒めることじゃないよ。……送るんでしょ?」
「うん。へへっ、いいの撮れたよねー」
「はいっ」

鈴木だけじゃない、他のメンバーたちも顔つきが戻ってる。どうしよう、ってなってない。
落ち着いてきてる。二人ともありがとう。座り直し、一つ大きく息を吐いた。
あー、リーダーなのに助けられちゃってる。でもすごく嬉しい。同期がいなくても仲間がいる。
ふと視線を感じて、隣の席の生田を見る。じーっと見られてた。不思議そうな顔で見つめれてた。
「どうした?」
「久しぶりにいい笑顔見れたなぁって思ったけん、見とれちゃいました」
「そーかなー。けど、うれしいよ。そういう風に思ってくれて嬉しい」
「えへへ、だーいすき」
仕事終わってからすぐなのに、嬉しそうだなぁ。
後輩もたくさん成長してる。がんばろっと。
13 :radar :2011/12/07(水) 19:08
◇◇◇

休憩中に、ブログ更新用の写真撮ろうよ、ってみんなが言い出した。
一名だけぶーぶー文句垂れてたけど、ファンも心配してるし、うちらもちょろっと書くし。
はい、カメラマンやって。私もうつりたいのにー! そう言いながらも撮ってくれた。
我慢しなきゃいけない時もあるんだよ、人生。
誰が言い出したのか、顔わかんなきゃいいんじゃない? って話に。
とりあえずマネージャーにチェックも込めてメールしたら、とおった。
良かった、良かったじゃん! みんなのテンションも上がる。
携帯が光る。メールかな。ま、電話の場合は不用意に出るな、って言われてる。
「もー、バカやん!」
口を大きく開けて笑い出したからびっくりした。
「どうした?」
「もしかして、くだらなくて笑えるメール?」
「圭ちゃん、それ梨華ちゃんがやったべさ」
かおりは交信してる。別の電波を受信してるかも。
差し出された携帯の画面には、後輩の顔が二つ。……ちょっと待てよ! 道重、どーしちゃったの!
オイラも耐え切れなくて笑っちゃった。
「くっだらねー!」
圭ちゃんにも見せる。
「ぶはっ」
「あ、なっちにもメールだ。あら、ガキさんから」
笑いすぎて息切れしそう。笑い声が一つ減ってる。
彼女の顔をよく見ると、目がうるんでる。
「バカ裕子ぉ。なに泣こうとしてんだよぉ」
「ちゃうねん、笑いすぎただけやねん」
「嬉しかったべ? ガキさんにそう返信するよ」
「ん? 道重の提案じゃなくてガキさん提案なの?」
「んーとね」
14 :radar :2011/12/07(水) 19:09
なっちの話をまとめるとこうだ。
不穏な空気の中で道重が後輩を誘って変顔を撮影してたら、いつの間にか空気が変わってた。
ガキさん自身も隣に座ってる後輩に、いい笑顔が久しぶりに見れたと言われる始末。
同期がいなくても素晴らしい仲間がいる。後輩の成長を見るとがんばろうって思える。
そんな感じ。

「うちらもさぁ、頑張りたいって思うよね。そういう話聞くと。だってガキさんなんてさー」
「お豆ちゃんだったもんね」
「なつかしー! そのガキさんが十年目でリーダーなんて誰が想像した?」
「かおり思うの」
「はぁ?」
ぼーっとしてたはずの人が突然発言するとびっくりする。いつものことだけど、やっぱりおかしい。
「つんくさんの歌のとおりだなって」
「はいはい、かおりわかってるよ『I WISH』でしょ」
「矢口、ちゃんと聞いてよ。話終わってない」
「いーじゃん、かおりの話みんなわかってるよ」
「もぉ! すぐそういうこというんだからっ」
「ふふっ」
「裕ちゃん笑わなくてもいいじゃん」
「笑ってへんよ、嬉しいだけ。笑顔は大切にしたいよな、かおり」
「そう、それ! 言おうと思ってた、うん」
「ありがとな……よっしゃ! がんばっていきまっしょい!」
「しょい!」

 END.
15 :みおん :2011/12/07(水) 19:11
なんでZOKU飼育支部にしなかったのか超後悔

>>9
またタイムリーかな

>>10
こちらこそありがとうございます
励みになります
16 :みおん :2011/12/08(木) 23:24
作品投下する前に前回の言い訳を。
ガキさん別の舞台の仕事だったけど途中までの移動は一緒ってことで!
姐さんは長らく東京にいたため若干関西弁を忘れてきてるって設定で!
そんな脳内補完をよろしくお願いします。自分が一番アホ

17 :坂で逢いましょう :2011/12/08(木) 23:27
メール一つ送信すれば、すぐ逢える。
いつでもすぐに逢えるわけではない、そんな二人の平行物語。

ドアをそっと閉じる黒髪の女性。灰色のコートに身をつつみ、アパートの階段を下りていく。
先ほどのドアを見上げて誰も出てこないのを確認する。
大きな溜息を吐き早足で目的地に向かって行った。

静かな住宅地の端に急な坂がある。なのに、途中に小洒落た喫茶店。
赤いレンガに暗緑の蔦が這って、昭和の面影を残したかのような外観である。
坂を下ると土手に出る。川が流れているのだ。反対側の岸は繁華街を含む商業、工業地帯。
その坂に先ほどの女性が上から歩いてくる。誰かを探しているようだ。
「重ちゃん」
「すみません。わざわざ……」
「いつものことやん」
落ち着いた暗い茶色のショートカット。先ほどの女性より少し小柄な女性。
「土手、歩かへん? 時間あるやろ」
「はい、あのでも、安倍さんは」
「なっちは今日でかけてんねん」
「そうですか」
「だから、心配せんでええよ」
冷たい風が二人のあいだを抜けていく。
「寒いですね」
「歩いてればあったかくなるやん……たぶん」
「……そうですね」
18 :坂で逢いましょう :2011/12/08(木) 23:27
土手の上は、風を遮るものがない。
「やっぱり寒くないですか?」
「こういう景色見るのもたまにはええやろ」
「……はい」
「また喧嘩したん?」
答えはない。
「喧嘩の原因なんなん? りほちゃんのこと?」
「それはないです」
「じゃあれいなか」
無言の時間が続く。
「……なぁ、なっちが突然居なくなったら重ちゃんどうする?」
「わかりません」
「りほちゃんってれいなの養子になっとるんよなぁ」
「はい」
「言うてええのかわからんけど、もしかして」
言い終わらないうちに頷く黒髪の女性。
「否定せぇよ」
「すみません」
「なんのためにれいなと一緒におるん? なんのためにりほちゃん引き取ったん?」
「……中澤さんを忘れるため、です」
「あほ。りほちゃん幸せにしぃや。なっちもそれ願っとるし」
二人して一つ溜息をつく。
「わかっとるんやろ? なぁ。返事しぃや、頼むで」
「……はい」
「ん、よろしい」
19 :坂で逢いましょう :2011/12/08(木) 23:28
そういうと手を彼女の手のひらへ滑り込ませた。ハッと目を見開く。
「時間は元に戻らへん、ってあのとき言うたやんか」
「年齢差は変わらないんです、悔しいですけど」
「……すまん。なぁ、れいなのこと甘えさせてやり」
「わかってはいるんですけど」
「小さい子が二人おるようなもんやな。けど、りほちゃんしっかりしてるやん」
「ほんとに大人びた子です」
「ん」
とんとん、ひとさし指で柔らかく手のひらを押す。優しいリズム。
「……愚痴聞くだけならいつでも呼び出してええから」
「はい、ありがとうございます」
「顔色ようなってるわ」
「体もあたたまりました」
「ん。ええ顔しとる」
「りほのことも心配だし、帰ります」
「またな」
手はするりと元の位置に戻る。
お互い手は振らずに、小さく頭を下げるとすぐに別方向に歩き出した。
まったく振り返ることもなく。

「重ちゃん、また坂で逢おうな」

 END.
20 :「いっしょに月をみよう」 :2011/12/11(日) 02:04
みーよからメールが来た。
『月が暗くなるのは23時過ぎみたいですけど、どうしますか?』
明日は大阪でドリムスのコンサートだけど……見たい!
なかなか見れるものじゃないしね。
少しだけ起きてあたたかい格好でベランダで見ればいい話だし。
22時前には月が欠けはじめてきたのは確認済み。
そこからちょいちょいみーよと月蝕についてメールしてた。
『23時過ぎに見始めれば隠れる瞬間見れると思う』
『ベランダで見るんですか? あたたかくしてくださいね』
そんなメールのやりとりをしてると、もう時間だ。
あたたかく着こんで、ベランダに立つ。
と、部屋の中で携帯が鳴っている。あれー? 電話だ。
「はいはい」
「あ、保田さん。あの……電話越しでもいっしょに月を見たいな、と」
「わー、それいいね。あ、ちょっと待って」
急いでベランダに出る。
21 :「いっしょに月をみよう」 :2011/12/11(日) 02:04
「なんだか月の指輪みたいですよね」
「……うん。こんなきれいな指輪もらいたいねぇ」
「え、保田さんもしかしておねだりですか?」
「べっ、別にそういうわけじゃないけどぉ」
「欲しいんですね」
「……みーよの好きな人にあげればいいじゃない」
「じゃあ保田さんにあげます」
「もうっ」
「わー神秘的、きっと日本中で何万人もの人が一緒に見上げてるんでしょうね」
「それもすごい話だよね。あっ! かなり真っ暗にすごーい」
いいこと思いついた。
「ねぇ、暗くなった瞬間、お互いのことだけ考えない?」
「いいですね」
みーよ、いつも私のこときづかってくれてありがとう。
甘えさせてくれるし、それにそれに……あー、月が隠れちゃった。
「隠れちゃいましたね」
「うん、でも月がまた出てくるまで、さ」
「……ずっと起きてるつもりなんですか!?」
「えっ?」
「あのー、何時間もかけてこうなったんですから、そう簡単には明るくなりませんよ」
「うそぉ」
「ほんとです、だから早く寝てください」

 END.
22 :おひとりさま :2011/12/11(日) 18:23
せっかく東京に出てきたんやし、なかなか見られへん月蝕、ええとこでみたいやんか。
で。区内やし、暗いところってそう思いつかんかったんやけど。
電車で行けて一人で迷わず戻ってこれて……ってどこやねん。
あ、緑が多いところはまわりに明かり少ないよなぁ。
ええとこ思いついた。

改札抜けて駅舎から出ると、もう月蝕は始まっててん。
人々らが夜空を見上げてた。あたしも見上げてしまう。
「月が食べられちゃいそう」
通り過ぎるカップルの楽しそうな声。
たしかこの道でええはずや。カップルが歩いてきた道をいく。
車も少なく、明かりも少なくなっていく。都内やのに。
坂がきつい。上りきると、高い木々がビルの谷間から見える。
着いた! 夜空のお月さんは、だいぶ太陽さんに隠されとる。
でも間に合うた。公園内の真ん中に大きな銅像が立ってる。
見上げると、ちょうど銅像のかげに入って都会の光は見えへん。
23 :おひとりさま :2011/12/11(日) 18:23
寒いせいもあって、見上げ続けていると首が痛くなる。
まわりを見渡すと、暗いからようわからんが、おっさんが多い。子連れもおるが。
……一人でみてる女の子おるやん。角度気にしてる感じを装いつつ、近づいてみる。
「なぁ、一人で来たんか?」
「あ、あたしですか!? びっくりさせないでくださいよぉ。おねーさんも一人なんですか」
「そうや。で、一人なんか?」
「まぁ、さびしいですけど」
「この季節になぁ」
「あぁ、これからクリスマスとかお正月とかありますもんねぇ」
「ふーん、それどこのなまり?」
「えー、なまってますぅ? ていうかおねーさんだって関西弁じゃないですかぁ」
「そりゃあ、大阪から出てきたばっかりやもん」
「あたしも出てきたばっかりですよ」
「そうなんや、似た者同士やな」
「てゆーか、おねーさんナンパですか?」
「いや、こんなとこに一人で月見に来てる女の子って興味あるやんか」
「まぁ、あたしもおねーさんのこと気づいてたら声かけてたかもしんない」
「やろ?」
「だいいち、月蝕ってゆっくりですよねぇ」
「寒いよなぁ」
「完全に隠れたらどこか行きますぅ?」
「そっちこそナンパやん。まぁええけど」
「やったぁ、じゃあ静かにしててください」
「えー、なんやのそれ」
「あたし、静かに月を見たいんで」
24 :おひとりさま :2011/12/11(日) 18:23
さっきから月なんか見てへんかった。一度も。
見上げると、都会の喧騒なんか忘れるぐらいに小さな星が輝きを繰り返してた。
月はもう小さな欠片しか残ってへんくて。あたしらにはただそれを眺めるしかできひん。
携帯で時間確認すると、そろそろ全部隠れるっちゅー時間やった。
もう一度夜空に視線をうつす。晴れててよかった、雲が多い夜やなくて。
「完全に隠れちゃいましたねぇ。おねーさん、どーします?」
「ん?」
「いや、明けはじめるまで時間かかるじゃないですかぁ」
「あぁ」
「でもこんなゆっくりなのずっと見るのもあれなんでぇ、ある程度時間置いてから来たいな、って」
「んー、体あっためたいよなぁ。あ、いくつ?」
「成人してますよ、だから居酒屋でも」
「じゃあ運動せぇへん?」
「はぁ?」
「や、ホテル」
「えーーー。運動しなくてもいいなら行きますけどぉ」
「まぁ、それでもええか。名前なんちゅーの?」
「松浦です、松浦亜弥」
「かわえぇなぁ」
「てゆーか、おねーさんあたしに惚れたんですね」
「ちゃうわ」
「おねーさん、おねーさんの名前教えてくださいよぅ」
「ホテルに入ったら教えるわ」
「えー、ずるぅい!」

 END.
25 :恋愛革命2011 :2011/12/12(月) 12:26
「シゲさん、やっほー!」
「あれ、これさゆみの夢ですよね」
「うん、なっちの夢だよ」
「へ? いや、あの寝させてください、疲れてるんで」
「ねぇ、なっちがさぁ一度だけシゲさんの時間を戻してあげるよ、って言ったらいつに戻りたい?」
「九月です」
「去年? 今年?」
「今年です」
「そっかぁ。まだ間に合うんじゃないの? 待つ、つもり?」
「はい、待ちます」
「六年間走ってきてさ」
「きっと今から十年走ってもなんとも思いませんよ」
「ランナーズ・ハイってやつ?」
「違いますけど」
「きっかけは矢口だったわけじゃない? ま、今回も矢口だけどさ」
「なんで安倍さん知ってるんですか」
「だってなっちは天使だもーん」
「はぁ」
「あのとき、二十一人いて二人だけで時が止まってたよね、一瞬」
「……安倍さんの位置からは見えないはずじゃ」
「恋愛革命ってなんだろう、わかんないな、ってなっちはずっと思ってた」
「中澤さんの卒業曲ですよね」
「うん、そう。シゲさんにもきっかけが矢口であったようにさ……って思うと恋愛革命の意味」
「あ……え!? そういうことなんですか?」
「なっちの個人的意見ね。全部をあきらめるのまだ早いんじゃないの」
「たぶん、ためされてるんですよね。だからこそ待っていようかと思うんです」
「そんなこと言ってるうちに、本気で会えなくなっちゃうよー。いいのー」
「すみません、考えたくないんです。寝させてください」
「ワガママ言う相手間違ってるんじゃないのぉ。ね、まだ間に合うよ」

先生も走るという師走の朝。目を開けると、ぼんやりと布団が見える。寒い。
ドラマの撮影やクリスマス、年末の特別番組、正月番組の収録がたくさんあるのに。
なんでこんな夢みたんだろう。……ハチャメチャな恋愛してみたいよ。
ワガママ言っても受け止めてもらえるんですか。

 END.
26 :論考『娘。小説とはなにか』――自分へのいましめ :2011/12/12(月) 20:12
   飼育に投稿しはじめてから数か月しか経ってない暇人が書いてみる。

 娘。小説を読むとき、読者は作品中に出てきた人名を脳内イメージに――例えば中澤(中澤さんもしくは裕ちゃん)だとしたら読者のイメージの中澤裕子に――置換する。そのとき、作者がその人物をどう思っているかどのように認識しているか、ということと関係しない。あくまで読者の脳内イメージに沿って物語が展開されることになる。そこからどう作者のイメージに近づけさせるかは、エピソードや言動、ブログの記述等に頼ることでそこからどう感じたかどのように考えているか表現することになる。

 Mseekwikiを彷徨っていると、「必要性」「交換不可能性」論という言葉に出会った。
――「そのメンバーである必要がある」ことと「そのメンバー以外では成立しない」ことの二つの要素が娘。小説には必須であるという考えをもつ人。
 よくわからない部分もあるが、自作を読み直すとそういう傾向にある。
 草板の脱乙女宣言飼育支部スレでは『打ち上げ花火、どこで見る?』や『おさんぽ』『さゆ得なの』などがそれにあたる。花火の話では新潟県中越地方を話題に据えている。小川と久住ではなく、矢口と石川で新潟の狭い範囲・話題とは考えづらい。『おさんぽ』『さゆ得なの』に至ってはブログ写真とユーストリームの映像(YoutubeにUP済)という誰でも閲覧可能な資料を基に作成したお話である。おさんぽが中澤矢口では成立しない。幻板に立てた続飼育支部スレでは、今のところ『お米の話』『坂で逢いましょう』『恋愛革命2011』しかない。お米はどっちかのブログと水曜夕方生放送のラジオから。坂と恋愛革命はFNS歌謡祭からである。
27 :論考『娘。小説とはなにか』――自分へのいましめ :2011/12/12(月) 20:13
 話を戻す。二〇〇三年ごろまでは作者と読者のあいだに、娘。側から提供される閲覧可能な作品に接する機会や回数にほとんど差はなかった。しかし、二〇一一年現在、娘。を卒業すると同時にハロープロジェクトからも卒業し、ブログもアメーバやグリーなど違いがあり、これら全てを読みこむのは時間がかかる。アメーバブログはUFA系ならアーティストblog一覧にリンクされているのだが、なぜか小川と藤本はそこから外されている。小川は今(十二月現在)もドリーム モーニング娘。として一緒に活動しているのに、である。またハロコンも、〇九年春までのエルダークラブという皿が無くなってしまったために卒業生と現役が関わることもない。かといって、現役とエッグもほぼ関わらないようである。卒業生と現役と言えば、『ハロー!モーニング』(TV東京系)があった。しかし番組が終了してから何年も経っている。その他にも現役がテレビ番組にほとんど出演しなくなったことも挙げられる。ラジオ番組のレギュラーでも、一部地域でしか正式には配信されてない。
 このように作者がどれだけのテクストを読み込んだり映像や音源を繰り返して見たり聴いたりしてその関係性に気づいても、一部の読者にとっては無意味である。その作品をカップリングで読もう、という選択肢がなくなってしまう。作者に残されている道は、もっともらしいアンリアルなお話を書くかリアルに基づいて背景を提示し関係を知らしめるために書くか、しかない。そこがうまく読者に受けいられてはじめて、疎遠を楽しむだのいちゃいちゃを楽しむだの、となる。最近の好例は、やはり『特別なんていらない』。……え? 『天然キャンディッド』? 力量足らずです。
28 :論考『娘。小説とはなにか』――自分へのいましめ :2011/12/12(月) 20:13
 なぜ『天然キャンディッド』はうまくいかなかったか。まず題名に意味はありません。近づける努力はしてたのですが、途中から放棄しました。短編(もしくは極短)の飼育支部スレとフリースレに投下済の作品は意味があります。ナマモノ二次創作なんて作者と読者による共同オ○ニーの掃き溜めであってそもそも意味がない、という皮肉を込めてありそうで全くないつけかたをしています。飼育支部は閲覧数も多く、この考え方は捨てざるを得ない。娘。だからこそ娘。小説であるという意味を見出している読者が多いということでしょうか。
 ところが、萌えCP作品では「必要性」「交換不可能性」論とは別の次元で基本的に描かれている。プロフィールは同じだが全く別の人間、立場のような作品も多々存在する。作者が娘。に与えた設定を一部の読者に非常に合致するが、多数が合わない作品だ。そのとき、置換はうまく行われるのだろうか。何度もこの世界を読ませるための、メンバーに与えてしまった設定が気持ち悪く、自分は流し読みするしかなくなってしまう。技術的に読ませるのは非常にうまいのだが、表現のおかしさが目につき読みにくい。最近の邦楽でもメロディーは良いけど、カラオケで歌うとなると歌いにくい。その状態に近い。余談でしかないが。作者がしたいのは世界観を読み込ませることで、娘。である必要がない、と感じてしまう。これはアンリアルを批判しているのではなく、その人であるがためのエピソードや言動の少なさを指摘している。

 結論、娘。小説とは娘。である必要がありその他のメンバーではこの関係性にならないお話と、作者の世界観を読ませるために娘。の名前を使用する萌えの二種類がある。どちらもCPという概念が存在する。前者には、CPに留まらない関係性も含まれる。
29 :見えない影 :2011/12/12(月) 22:55
何でも入手できて消費する社会になった。
消費される側が入手できないもの、そんな二つのカップルが模索する物語。

静かな住宅地の端に急な坂がある。なのに、途中に小洒落た喫茶店。
赤いレンガに暗緑の蔦が這って、昭和の面影を残したかのような外観である。
その喫茶店は若い女店主が切り盛りしている。笑顔が素敵な二十三歳。
少しおバカなところもあるが、誰の話でも聴いてくれると口コミが広がっている。
店名は『ハニホヘト』。ただ名前のせいで噂だけが独り歩きしているような状態である。
30 :見えない影 :2011/12/12(月) 22:55
十二月、夜になると空気が冷たくなる。
十一年ぶりに皆既月食が見られる日。次に条件が揃うのは七年後。
本日は雲一つない空で天体観測にちょうどいい。

「うー、寒いっ!」
白いダウンジャケットを羽織った店主が出てきて、夜空を眺める。
「おー、ガキさーん」
「あー、どもども。安倍さんも月蝕を見に」
「うん、そう裕ちゃんと」
店主はガキさんと呼ばれ、もう一人は安倍さん。どこかふっくらとした感じがする女性だ。
「ひさしぶりやな」
この間、重ちゃんと呼ぶ女性と土手を歩いていた関西弁の女性。姓は中澤。
「お二人でデートですか」
「散歩」
「は?」
「散歩は散歩やん」
「あのね、照れ屋だから。月蝕見るだけなのにさ」
「ええやん、なっちも外出したいってゆうたやん」
「はいはい」
「いつも仲良しですねぇ、うらやましいですよ」
「それほどでも〜。ね、ガキさんにはいないの?」
「今は話を聞くのが仕事ですから」
にっこりとほほ笑むガキさん。
彼女のすばらしさは、店外でこうやって会話してもついうっかり……という発言がないところだ。
31 :見えない影 :2011/12/12(月) 22:56
「あ」
三人して夜空を眺めてたのだが、一人だけ先に視線を坂の上に向けている。
「裕ちゃん、どうしたの」
安倍がゆっくりと中澤から坂の上へと視線を動かす。
「あら、あらあら。月見にきたのかな」
「あー、そうですねぇ。小さいお子さんの名前なんでしたっけ」
二人は視線を交わす、その間訪れる少しの沈黙。
「りほちゃん、だよ。けど眠たいんじゃないかな、今の時間」
「夜遅いですしね。でも見たいですよねぇ」
「……そうやな」
髪を赤く染めている女性と黒髪で小さな子どもを抱いている女性が仲良く坂をくだってくる。
途中で、黒髪の女性にあたってるのが見える。
「こどもいるのに、あーいうことする人いるんですねぇ」
しみじみとガキさんが呟く。
「噂の喫茶店店主がそういうこと言っていーの」
「今は仕事中じゃないですし。それに安倍さんたちはわざわざ言わないでしょ」
「ふふっ、そうだねぇ。ガキさんのいうとおり」
なぜか安倍は威張っている。ガキさんはそんな安倍を見て、にこにこしている。
「なぁ」
「ん?」
「寒いし、そろそろ帰らへん?」
「あ、私も店の片づけしなきゃいけないんで。またお店来てくださいよ」
二人に手を振ると、店の中へ戻る。
「もー、シゲさんには甘いんだからぁ」
「ちゃうもん」
ぶーっ、と唇をとがらせる中澤。
「あとで、あったかくするなら許すぞ」
「……うん、帰ったらな」
「行こっか」
32 :見えない影 :2011/12/12(月) 22:56
太陽と月のあいだに地球が入る。地球にいるのに、自身のかげで月が見えなくなる。
大切なものもそうだ。自分に原因があって見えなくなる。
小さな子は目をさましていたけれど、慣れているのか泣き出す気配はない。
黒髪の女性は、ただただ隣に居る女性の愚痴を聴いていた。
「わかったから。れーな、帰ろう」
「でも、月ッ……!」
れーなと呼ばれたのは赤髪の女性。
「うん、さゆも見たいよ」
自分自身をさゆと言ったのは黒髪の女性。この間、中澤に重ちゃんと呼ばれ土手を歩いていた。
真面目な表情で、優しい口調でれーなを諭す。
「しーげさんっ」
安倍と中澤が、坂をのぼってきたのだ。
「あ、こんばんは」
「月蝕見にきたんか」
「はい、そうです……えっと」
「ね、りほちゃん、なっちが抱いてもいい?」
「え、あの……」
さゆが悩んだ表情で言葉を濁す。隣にいるれーなは、憮然とした表情で安倍をにらんだ。
だが、そんなことにおかまいなく、りほは差し出された安倍の腕に手を伸ばす。
「あらー、りほちゃん。なっちがいいんだー」
「えへへ」
明確な返事をしたわけではないが、大の大人四人が揃ってホッとした表情になる。

こどもの笑い声とはそういうもの。大切なものは見えない。二人は心からそう思った。
自分のどこに影を持ってしまったのか。光あれば影もある。
影があるから輝き続けられる。
たった一夜の不思議な夜。今夜は楽しい楽しい夜。気にせずに突き進むしかない。
たとえ忘れられない恋の記憶があったとしても。
いま、隣にいる人を信じるしかない。

 END.
33 :定期目次 :2011/12/12(月) 23:00
お米の話(ゆゆマコ)>>2 おなじきもち(ゆゆこは)>>5 スイートルーム(やすみよ)>>7-8 radar>>11-14 
坂で逢いましょう>>17-19 「いっしょに月をみよう」(やすみよ)>>20-21 おひとりさま(ゆゆあや)>>22-24 
恋愛革命2011>>25 論考『娘。小説とはなにか』――自分へのいましめ>>26-28 見えない影>>29-32
34 :月のさびしさ :2011/12/15(木) 22:24
都内で見上げたときは、まだ光り輝いてた月。
群馬の実家に着いた時には、暗い赤銅色になっていた。
それだけのことなのに、少しさびしかった。なんでなのかわかんないけど。

憂佳ちゃんに電話したくなった。でも夜遅いからやめて、メールにしようと思った。
けど最近の憂佳ちゃんは冷たいから送っても返事こないかも。
さびしいなぁ。やっぱりさびしいんだなぁ。

キレイで美しい月だけど、夜に光ってるのも昼間に暗くて見えづらいのも、同じ月。
四人のスマイレージも今のスマイレージも同じスマイレージ。
モーニング娘。さんだって卒業も加入もあるけど、やっぱりモーニング娘。さんだもん。

大好きな憂佳ちゃんがいなくなるのは、やっぱりさびしい。
月を見てたら自分の気持ちを認めてしまった。
さびしい、とあやが言ったところで憂佳ちゃんはやめるわけないんだけど。
やめて欲しくない。でも大好きなスマイレージをやめないためにも、あやが頑張るしかないんだね。
一人じゃないから、まだ一人じゃないから。
冬の夜空にある月はさびしそうだけど、あやも今はさびしいけど、そうならないように頑張らなきゃ。

 END.
35 :Cat and Chocolate :2011/12/19(月) 18:40
久しぶりに二人きりの時間。
「どしたん? 元気ないやん」
「はい。仕事で失敗しちゃって……」
道重の肌荒れがひどい。化粧してても荒れてるのがわかる。
「よしよし」
中澤が手を伸ばして頭を撫でると、ほんのすこし顔が明るくなる。
「よう頑張ったな」
「……ほんとにそう思います?」
「うん」
36 :Cat and Chocolate :2011/12/19(月) 18:41
「さゆみが前に出ることで貢献できればいいんですけど、すぐに結果が出る問題ではないので」
「迷ってたってよう進めへん。仕事したってことは進めてる、ってことやで」
「例えばですけど、猫とチョコでこの難題を解決してください」
「できへんかったら?」
「さゆみを慰めてください」
……なんで猫とチョコなん? 疑問を発する。
役に立ちそうもないアイテムなら何でもいいですよ、と道重の答え。
そんなん浮かばへん。納得させなあかんもん。思いつくわけがないやん。
最初から中澤の敗北は決まっていた。
37 :Cat and Chocolate :2011/12/19(月) 18:41
 
38 :Cat and Chocolate :2011/12/19(月) 18:41
女性の体にそぐわない物をベルトのように腰につけて立っている後輩。
挿れられる側は先輩だとはっきりと自覚させる。嫌が応にも。
今までは甘ったるい行為しかしてない二人。お互い入れたり入れられたりの関係だった。
物体を前にしても、口を開かないから道重は中澤の鼻を優しくつまむ。
徐々に力を入れると、息が出来なくなって口を開くしかなくなる。そこへ物体をゆっくりと挿れる。
味がない、匂いもない、温かさもない、ただの物。液体は出てこない。反応もない。
鼻から手を離すと、戸惑った表情のまま口を大きく開け酸素を取り込もうとする。
物体を涎で汚しながら、顔を汚しながら。その顔を見ながらまた愛おしく感じるのだった。
左手で頭を優しく撫でながら、右手で爪を噛む。先輩が舐めている、その事実だけでも感じる。
満足すると、口からゆっくりと引き抜く。お互いの小さな声が聞こえた。
膝をつき、右手で先輩の髪を撫で、そのまま掌と指はうなじ、右肩、右腕、右手とおりていく。
指先まで丁寧に。愛おしいから触れる、と言いたげな視線。
お互いの唇を軽く重ねる。後輩の指先は先輩の指先から離れてお尻を撫でる。
「こちらから」こくんと頷く。足の裏が冷たい床を踏む音しかしない。
39 :Cat and Chocolate :2011/12/19(月) 18:41
先輩は両手を床につき頭をたらしお尻を上げる。
後輩はそんな先輩の後ろに立ち、膝をついて準備。
指先が茂みを分けて、つぼみに到達する。
小さいけれど確かに甘い吐息が部屋を満たす。
「ものすごく熱いです、なに考えてたんですか」
「ちゃう……ちゃうねん」
触れただけでわかる。触れられただけでわかる。不意に水音をたてて、指が泉にひたる。
「ぅ、あ……あぁっ」
抵抗の言葉もなく、体が異物をすんなりと受けいれる。
「……はよ入れて」
「中澤さんってほんとにみだらなんですね」
「いやや、ちゃう……」
「いれなくていいんですね」
会話を続けながら、指も出たり入ったりを繰り返す。
40 :Cat and Chocolate :2011/12/19(月) 18:41
「……いやや」「どっちですか」
優しい声、穏やかな抑揚。問いかけには答えぬまま、指に合わせて体が応える。ため息が一つ。
「いれて」一旦指を抜くと、それだけで大きく喘ぐ。
大事な部分を両手の指がさわさわと這う。何度も体が呼応する。
そして、泉にゆっくりと物が落とされる。「きもちいっ……」
「こんな物いれられて気持ちいいんだ、中澤さんって獣みたいですね」
ゆっくりと何度も何度も出し入れする。ほんの少しずつ侵入を繰り返し行う。
「だめっ……やぁ」
言葉にならない喘ぎ。中澤は、快楽に耐え切れず目を閉じる。
「こんなに自分から腰振って」
もう否定の声はない。代わりに、イかせて、と消えいるような声でこたえた。
急に動きが早くなる。ガンガンと奥まで突かれる。
「あっ、あっ、イく、イっちゃ……ぅ」
途中でトーンダウン。道重はニヤリと瞳を歪ませて、腰の動きを止めていた。
41 :Cat and Chocolate :2011/12/19(月) 18:42
「いじわるせぇへんで」「お願いですか」「う、うぅん」
冷静な問いかけと熱く悩ましい喘ぎ。道重はゆっくりと腰を動かし始めている。
「どっちですか」「お願い……イかせて」「こんなお願いしないといけないなんて、堕ちましたね」
先輩の叫び声を聞きながら、激しく前後に動かし道重も雄叫びをあげた。
でも二人とも何も聞こえなかったことにした。頭の中が真っ白になったから。
泉から聖なる物体が抜け落ちる。ぬらぬらと光っているようにも見える物体。
荒い呼吸が雰囲気を支配する。中澤の背を優しく何度も何度も撫でた。頬には涙が流れたあと。
なにごともなかったかのように落ち着いて、提案する。
「もう一度しましょうか。前の方から挿入すれば、どれだけいやらしいかわかりますよ」
目を開き手に力が入り、体がこわばっていくのがわかった。
こんなの恋愛やない、と体中に怒りが駆け巡ったかのような唸り声。
「中澤さんが素直になるレッスンです。だから恋じゃありませんよ」
喉が鳴る。「でも愛はあるでしょう」
自信に満ちた声が中澤を猫にする。

 END.
42 :のりあう :2011/12/24(土) 00:35
「つーか、あの道重? とかいうの最悪だよねー」
「おまえなんかうちらのJの足元にも及ばないっつーの」

電車の中で、バッチリ化粧した若い女の子たちの会話。
たぶん、こないだのテレビ番組のこと。

「自称かわいいとか」
「ふざけんなってカンジ」

興奮してても人目を気にしてるのか、小声にしようとは努めてるようだ。
まわりのオジサンたちは眉間をひそめているが。
黒髪ロングで白い肌の女の子も怪訝そうにその子たちを見つめていた。
いや、視線を合わそうとはしてないから、道重のファンなのかも。
私も大人になったなぁ。
こんな会話される女性タレント……大変だ。そのファンも、ね。

「ね、気にしないほうがいいよ」
さりげなく近づいて、黒髪の子に話しかける。
えっ、と驚いた声。でもすごく小さな声。
ん? あらら、もしかしてこの子、道重さん本人かな。
気づいてないほうがいいよね。この子のためにもまわりのためにも。
「あ、いや……あんまり気分のいい話題じゃないし、さ」
「そうですね」
あれ? この声どこかで聞いたことある。そういえば……。
「うん、私はそういうの耐え切れなかったからさ」
彼女の大きな瞳が アナタハダレ? と訴えかけている。

……線乗り換えのお客様は、1番線ホームから××行きが……
車掌の声が電車内に響く。

乗換駅か。ドアが開いたから、もう一声かけることにした。
「あ、私、降りるから、頑張ってね」
「……ありがとうございます」
かわいいなぁ。
「焼き銀杏は元気だよ、って先輩に伝えてね」
そう伝えて電車から降りると、ちょうどよくドアが閉まる。

 END.
43 :生き長らえる橋 :2011/12/26(月) 01:04
小春ブログの写真を見た。
ある意味、故郷だと麻琴は思う。
中学生の頃までしか居なかったからよく覚えてないけど、この橋が象徴だと聞いたことがあった。
この橋を境に駅がある川東と柏崎に近い川西に別れる。
もちろん現代では、この橋のほかに二つの大きな橋がかかっている。
日本一長い川に。
川東の人は川西を川向こうと言い、川西の人は川東を川向こうと言い。
昔は行き来が難しかっただろうから、そう言うのはわかる。
しかし、行き来が簡単になった現代でも同じことを言っているらしい。

この橋はナイアガラと正三尺玉同時打ち上げの会場でもある。
あっちの花火は小さいぞ、こっちの花火は大きいぞ。
そんなことをやっている場所だ。
大スターマイン不死鳥の打ち上げ場所でもあるし。
海は川には負けないといい、川は山には負けないといい。
あれ? 山は海となんか張り合ってたっけ?
寒さには負けないってことにしとこう。

珍しいタイプの橋だから、最近はどう存続させるかが問題になってるらしい。
かなり長い間かかっていて、二度の地震にも耐えたし。
花火の歴史にもロケーションにも関わる問題だけど、安全も問題。
修復し続けても使えるならそれでいいけれど。

橋一つにもドラマがある。
現代に生きているわたしたちにも、この橋にもハッピーエンドが訪れますように。

 END.
44 :カンジんなしごと :2011/12/27(火) 20:45
会社の入口で、ちょうど出会った。
「よっちゃーん、Eテレの仕事って長引く可能性あるんだっけー?」
「忘年会っスか。あー、別にその日でも構わないっスよ」
「ええの? 前も出られへんかったやん」
「姐さんとはいつも飲んでるし……それに矢口さんと飲みたいでしょ」
こんなん言われたらなぁ、肯定するしかないやんかぁ。
「……うん」
ナチュラルに男前やもんなぁ。
「間に合ったら顔出しますよ。来年もときどき二人で飲みましょうか」
「うん、そうやな」
さみしいって言う暇もあらへん。ずるいよなぁ。
あたしだけにこんな優しくしてるわけないんやろうけど。
……仕事の時はあんま話せへん、って言いたかった、けど。
「ありがと、今度飲もうな」
「はい! そのときは誘ってくださいね」
そう言いながら、軽く手を挙げて会社から出て行く。よっちゃん、忙しそやなぁ。
優しすぎる。
よっちゃんのこと心配なんやけど、よっちゃんはあたしのこと心配なんやろな。

と、ケータイが震える。よっちゃんからメール。
……惚れたら危険なんやろな。
肝心なよっちゃんの気持ちは、いつも教えてくれへん。

 END.
45 :憧憬 :2011/12/29(木) 20:08
インターネットをさまよってたら、見つけた。元・あたしの友人。
高校の同窓生で、同じクラスになったことはないけど部室が同じだった。
小さい部活同士、小さな部室に押し込められてた。
ただ辺鄙な場所にあったから、教師でも知らない。
もちろんクラスメイトだって知らない。

あたしの友人、いや、だった人。過去形なの。
その友人は教室にいない時、たいがい部室にいた。
何してたかはよくわかんないけど『しめきりが』ってよく愚痴ってた。
全然関係ない部活なのに、同じ部室だったんだよ。
文化系だからって……ねぇ。
授業ちゃんと出なきゃダメだよ、って顔合わせるたびに言ってた。
あたし、小姑なんだよね。ついつい注意しちゃうの。とめらんないの。
そっけない返事されちゃうと、もっと言いたくなっちゃうの。
全然聞いてくれないんだけど。他の友人に対してもおんなじ調子だったからね。
保健室にもそこそこ行ってたみたい。
だけど運動は好き。体を動かす時はイキイキしてた。
そんな彼女が好きだった。……友人としてだよ。

帰り道、他の友人とよく一緒に歩いた。あたしと二人っきりだと帰ってくんないから。
色々話したな。あたし料理苦手だったのに、そういう話ばっかりだったけど。
一度だけ「そんな可愛いのにもったいないよ」ってアクセサリー屋とか連れて行かれたな。
彼女のセンスとあたしのセンスはだいぶ違ってた。
46 :憧憬 :2011/12/29(木) 20:08
三年生になる前、部室であみだくじを持ってる彼女がいた。
同輩をつかまえては、どれか選んで名前書いといてって話してた。

  なんのあみだくじよ。
  部長決めるための。これ伝統でさー。
  えー! そういうのよくないんじゃない?
  いや、これ仕組まれてんの。
  は?
  もう美貴がなるって決められてんの。
  え? じゃあ、する必要なくない?
  だーかーらー、形式上。
  ええ?
  決められてたわけじゃなく、くじで決まりましたって納得させるため。
  えー、それでいいの?
  ウザい。そういうこと言うために話しかけてんの?

時々、彼女が何考えてるかわからなくて怖かった。
その理由がわかったのは、卒業間近の頃。
授業には出なくてもテストの点数はそこそこ取れてると聞いたから。

  数学だけはダメ、起きてないと絶対無理。でも他の教科はなんとかなるし。
  つーか、教科書読めばそれなりにわかるでしょ。

こういう人も世間にはいるんだなー、って。
あたしは何ごとも一生懸命やれば結果がついてくるって思うから。
結果が出ないときは努力が足りなかったんだ、って思うから。
そーかそーか藤本美貴ってこういう子なんだ。
三年間知らないままだったけど、知れてよかった、ってそのときは思ったの。
47 :憧憬 :2011/12/29(木) 20:09
卒業式の日、このまま友人関係続くと思ってた。だから。
「ねぇ卒業しても時々集まろうよ! 他の子も誘ってさ」
「美貴さぁ、梨華ちゃんみたいな子、大っ嫌いなの。明日から他人だかんね。見かけても声かけんなよ」
目の前が真っ暗になってった。そこで記憶は途切れてる。
あたし、あのあと彼女のこと街で見かけたことがあったのかすら覚えてない。

あ、なんだったっけ。そうそう友人の話。昔話すると話題がどんどんずれてくんだよね。てへへ。
元・あたしの友人、て言ったってあたしが一方的に思ってただけなんだけどね。
友達の間でもたまに話してた。だって美人だし。何やってるかよくわからないミステリアスな人だし。
やる気なさそうに過ごしてるのに、やたらと大人っぽいし。
卒業後は街で見かけなかったと聞いてたし、都会にいるらしいとも聞いてたし。
地元で就職したって聞いてたのに。

いや、なんか活躍してるみたい。素直に嬉しいよ。
あの時、一緒に話したり遊んだりした子がさぁ。あたしが悔しがるぐらい有名になって欲しいなぁ。
よっすぃ〜に言ったら、また呆れられちゃうかも。でも、これが石川梨華なんだよ!
彼女のおかげで今のあたしがあるんだから。

 END.
48 :プロポーズ大作戦 :2012/01/03(火) 14:55
「この間おもしろい話を聞いたんですよ」
「んー?」
「いや、なんか恋愛と胸の話なんですけど」
「はぁ」
「あ、いや……興味ないですか?」
「わかんないから、話してみてよ。つまんなかったら言うしさ」
「はい。あの、友人から聞いた話で」

   理想の恋愛ができてると、女性ホルモンが活性化して、胸が大きくなるらしいです。
   セクシャリティや生き方の問題も含めて、ということで恋愛だけに限らないらしいですけど。

「もしかして……岡田唯ちゃんだっけ?」
「えぇ?」
「ほら、美勇伝で石川に胸の大きさで対抗してた子」
「なんていう覚え方なんですか、それじゃあ私の胸が小さいみたいじゃないですか」
「みたいじゃなくて小さいし。胸なんて小さい子ばっかりだもん」
「アイドルって……踊ったり歌ったり激しいからすごい筋肉じゃないですか」
「だからかと思ってた。けど、ミキティはそれなりにしかないよ」
「そこで矢口さんや加護さんを出さないところはさすがですね」
「二人ともそこそこあるもん。辻だってそうだし」
49 :プロポーズ大作戦 :2012/01/03(火) 14:55
 そんなこと言ったら裕ちゃんとよっちゃんと小春ちゃんはどうなんのよ。
 裕ちゃんは熱愛報道が出たでしょ。矢口のこと好きなのは知ってるけど。
 よっちゃんは恋愛どころかプライベートが謎だし、小春ちゃんもよくわからない子だし。

「中澤さんってまだ矢口さんに片想いしてるんですか」
「いや……本人に直接聞いたわけじゃないけど、たぶん」
「それって熱愛報道後もですか」
「まぁ、そうね」

 なるほどね。実らない片想いじゃ胸はふくらまないね。ストレスで体はふくらむかもだけど。
 どうするんだろう。契約切れた直後に結婚しても印象悪いし。
 
「結婚するんですか。本当に?」
「ドリムスあるからね。ガキさんは卒業しちゃうし」
「あー、それ。それなんですよ」

   娘。の枠ってあるんですね。優遇とか。卒業のせいで仕事激減なんですよ、私。
   私のほうこそ結婚したいですよ。できないんですけどね。保田さんを困らせちゃうだけですし。

「なによー。てか恋愛と胸の話じゃなくない?」

 END.
50 :賽は投げられた :2012/01/13(金) 18:28
「この間、さゆとサイコロ勝負したら負けちゃってぇ」
「どんな勝負したのさ」
「保田さぁん、聞いてくださいよぉ」

2から12で好きな数って言われたから、迷ったんですけど4って言ったんです。そしたら、さゆは7って言いました。
どうするのかと思ったら、順番に2個のサイコロを同時に振って自分が言った数字が先に出たら勝ち。

「負けちゃって、使いっぱしりしてきましたぁ」
「……石川、それ騙されてる」
「えっ!」
「いい? 2個サイコロを振って4が出る確率は12回に1回。7が出る確率は6回に1回。だから、重さんは勝ちやすい状況にあるの」
「えー、もっとわかりやすくお願いしますぅ」
「AのサイコロとBのサイコロがあるとします」

Aのサイコロが1の目、Bのサイコロが3の目を出したときなら4になる。他に2と2、3と1で全部で3通り。
7を出すためには、1と6、2と5、3と4、4と3、5と2、6と1の全部で6通り。

「だから、7が出る確率は高いのよ」
「まー、よくわかりませんけど勝負には負けたってことですよねぇ」
「それがわかれば、いつでも誰とでも生きていけるよ」

 END.
51 :ゆるい放物線を描く :2012/01/14(土) 00:47
――終末がやってくる。金曜夜、三人はいつものように獲物を探しに行く。
この星が終わるなんて誰も知らない昼間と違い、あぶれた少女が街をさまよう。

制服を着たままだと学校が特定されるから、一度誰もいない家へと帰る。
そして、どこの学校のものでもないベストとブラウスを着、スカートと靴下を穿く。靴も変える。
二十一時までに補導されたくなかったら、生きたいなら、そうする必要があった。
愛理は、水飲み場を見つけると皿にたまった水へと舌を伸ばす。
熱くなった体を冷やす。犬がそうしていたと聞く。渇きが癒せるわけではない。
二十二時。高校生はとっくに家に居る時間。補導される時間。
でも、警察は来ない。えんこーしたって、何も言われない。
夜だから。あと一時間も経つと、無法地帯になる東京。

誰もいないと思っていた公園。「寂しいよね」「切ないよね」「遊んでててもね」
幼い少女の声。三人いる。くすくすと笑われているように思う。こわい。
初めて恐怖を感じた。逃げなきゃ。でも足は動かない。夜の寒さが体を凍りつかせていく。
「すごい可愛い子じゃん」「まいは唇舐め回したい!」「ねぇ、喰っちゃおうよ」
いやだ。自分より幼い女の子に襲われるかもしれない。
男の人ならお金をくれる。年上のお姉さんだって美味しいものぐらいは食べさせてくれる。
自覚があるからここにいる。今は、逃げ出したくても体が動かない。
近づいてくる足音が、ただただこわい。
52 :ゆるい放物線を描く :2012/01/14(土) 00:48
「ねー」「おねーさん」「まいとあそぼー」
低い声、可愛い声、幼いのに妖艶な声。
「ひっ」
口から息が吐き出された瞬間、涙が頬を伝う。
「ねぇ! 聞いてんの!?」
低い声の女の子が、一歩近づいた。
「あっ、あっ」
声が出ない、言葉も出ない。ただ涙が目からこぼれていく。
「なに泣いてんの? おもしろーい」
「怯えなくていいのにね、うちら楽しいことしかしないよ?」
「まいもちさともそういうこと言わないの。おねーさん泣くとキレイだね」
プリーツスカートから伸びる膝が尋常じゃないぐらい震えている。

「忘れるぐらいに騒いじゃお」
幼い声の子が言った途端、三人が愛理を取り囲む。
六本の腕が、自分の体を服の上から触っていく。拒めない。怖くて声も発せない。
関係を持った人が頭に浮かんだ。気持ちよくて忘れられなかった人もいる。今夜はどうなるんだろう。
……あ。意外と気持ちいい、と思う。手つきが慣れている。ゆっくり、優しく触ってくれてるのがわかる。
ただ、三人の目的がよくわからなかった。それが反対に怖いとも思う。
体の緊張が解けていくと、快感を吸収して発散したくなる。
小さく吐息が漏れると、それが合図なのか愛理よりも少し背の高い声の女の子が、顔を近づけてきた。
と、唇を舐め回される。温かい熱を帯びた舌が、自身の唇を割り侵入してくる。
いつのまにか自分から応えていた。こんなことは初めてだ。何もケーヤクしてないのに。
冷たいと思い込んでいたのに、肌は汗ばんできている。
「やっぱりおねーさんの唇おいしいね」
舐め回した子は幼い声の子だった。
「なんかケーヤクしないの」
やっと声が出せたから、冷静に問う。
「おねーさんは、そうやって生きてるの? 一緒のグループで活動しない?」
同じ境遇の子たちなのかもしれない。
「いいよ、それがケーヤクなら」

幼い頃、一人で生きるんだとやっていくんだと、強く強く思った。
ここであきらめたわけじゃない。ただ回り道も時には必要だ。
一人じゃ対処しきれないこともある。何があるかわからない世界だからこそ。

 END.
53 :須藤茉麻が痩せた理由 :2012/01/16(月) 02:56
「Berryz工房さんってアレ」後輩グループのリーダーがそんなことを言ってた。
前にも先輩グループの売れっ子さんが「梨沙子ちゃんは殿堂入りしたので」なんてことも言ってた。

このままじゃマズイ! ベリによくないことが起こりそうだ。
誰かが痩せ始めたらまた自分が太ることになる!
ハッ! 自分が痩せればいいじゃない。
でもみんなに気づかれずに少しずつやるにはどうしたら……。

「まぁ、最近痩せてきてない?」
「そんなことないよ。みんなと食べる量変わんないじゃん」
「そーだけど」
「梨沙子と同じ量食べて痩せるわけないでしょ」
「……うん」

夜食やめただけでこんなに効果があるなんて。
夜中のポテチうまいじゃんとかしめのとんこつきてるじゃんとか。
つんくさんが先輩グループに歌わせるのが悪いと思う。
まぁは悪くない!

おわり
54 :みおん :2012/01/16(月) 02:56
須藤茉麻が痩せた理由>>53は狼に書いたのを改変しました。
55 :定期目次 :2012/01/16(月) 03:01
お米の話(ゆゆマコ)>>2 おなじきもち(ゆゆこは)>>5 スイートルーム(やすみよ)>>7-8 radar>>11-14 
坂で逢いましょう>>17-19 「いっしょに月をみよう」(やすみよ)>>20-21 おひとりさま(ゆゆあや)>>22-24 
恋愛革命2011>>25 論考『娘。小説とはなにか』――自分へのいましめ>>26-28 
見えない影(坂で逢いましょうの続き)>>29-32 月のさびしさ(ゆうちょ)>>34 
Cat and Chocolate(ゆゆさゆエロ)>>35-41 のりあう>>42 生き長らえる橋>>43 
カンジんなしごと(なかよし)>>44 憧憬(りかみき)>>45-47 プロポーズ大作戦(やすみよ)>>48-49 
賽は投げられた>>50 ゆるい放物線を描く(℃)>>51-52 須藤茉麻が痩せた理由>>53
56 :夢みるあたし :2012/01/20(金) 19:19
あたしの友人だった藤本美貴。会わないうちに歌手としてデビューしてた。
小さな仕事をコツコツとこなしながら、インディーズで出してると聞いた。
よっすぃ〜から教えてもらって、地元のCD屋にも置いてあるっていうから買いに行った。
けど、聞いてない。というか、……だよ。袋から出してさぁ聞くぞ、と思ったんだけど。
だけどね。なぜか封を切るのすらためらう気持ちがあったの。
あれ、なんで素直に応援できないの。うんうん、不思議。

昨日は無理だけど今日なら、とよっすぃ〜がおうちに来てくれる。
ちゃんと0時ちょうどに『お誕生日おめでとう』ってメールはもらった。
嬉しいな、よっすぃ〜のこういうところ。
時間通りに玄関チャイムが鳴る。ドア開けるとやっぱりよっすぃ〜。
「お誕生日おめでとう」「ありがとう」
声で聞けると嬉しさ倍増だね。
「プレゼントさー、迷ったんだけど」
そう言いながら差し出してくれたのは、見覚えのあるCDジャケット。
「……これ」
「ん。一枚だけ買ってたの見たんだ。でもこっちのほうが評価すごいからさ」
「ありがとう」
この間、買ったその一枚、まだ聞いてないのに。……評価高いんだ。
はぁ……ため息が漏れる。
「えっ、ごめん。やっぱりダメだっかな……嬉しそうに買ってたからいいかな、って」
思ったんだけど。だんだんと彼女の声が小さくなっていく。
「あの、ね。まだ聞いてないんだ」
なんだか可哀想になって、理由を教えた。
と、パッと笑顔になる。かわいいなぁ。
「そういうこと! なーんだ、気にしなくていいよ。いつでも聞けるんだし」
「うん。ね、よっすぃ〜は聞いたことあるんでしょ。どんな感じなの」
「んー、言っていいのかなぁ。なんだろー、顔がちょっとキツイ感じでしょ。でも、声はすごくやわらかいの」
「へぇ。今度、聞いてみよっかな」
「今、聞いちゃえば。イベントの応募券もついてるし」
「は!? イベントぉぉぉぉ!?」
よっすぃ〜がしかめっつらで耳をふさぐ。
「梨華ちゃん、声大きすぎ。びっくりしたぁ」
「あー、ごめん! ごめんねぇ、よっすぃ〜のこと大好きだから」
「うん。てか知らなかったの。ネットで先に有名になって、意外と人気あるんだよ」
イベントで間近に見られるとか、ちょっとあたし夢見てたみたい。

 END.
57 :道のしっぽ :2012/01/24(火) 19:03
格差社会と呼ばれて何年経つだろう。ほんの少し前までは総中流社会と言っていたのに。
どんな社会になろうと少数派と呼ばれる人たちは存在する、そんな二人の交錯物語。

静かな住宅地の端に急な坂がある。坂を下ると土手に出る。川が流れているのだ。
反対側の岸は繁華街を含む商業、工業地帯。キラキラと輝き続ける眠らない街。
こちら岸の坂上は高台になっていて、大きな住宅地がある。
小さな山を切り拓いて造成された。それでも広い土地になる。

今日は雲一つない青空。昨夜は降雪があり、真っ白な屋根との対比が真冬だと告げる。
一ヶ月以上続いた乾燥注意報は解除され、外の空気はしっとりとしている。
歩きづらそうに雪道を歩いている女性二人。
たまたま会ったのだろうか。二人ともエコバッグを片手にさげている。
58 :道のしっぽ :2012/01/24(火) 19:03
「あれ? こっち通るっけ?」
「いえ、りほが友だちとよく遊ぶ公園がこの先にあるので」
「これからお迎え? ね。なっちもついってっていい?」
「あのう、中澤さんが家で待ってるんじゃ」
「いるようでいないから」
「よく出かけるんですか」
「ううん、ずっと在宅の仕事してるよ」
「……さびしいですね」
「知ってた? ガキさん、お店たたんじゃうんだって」
「坂の途中の」
「美味しいコーヒー飲めなくなっちゃうね」
道重は、隣を歩く安倍を見つめた。買い物帰りなのに、下を向きテンションは低くなっていく。
二人とも誰かといる幸せを手に入れた。なのに、不安は解消しない。
「……あべさ」
「ね、どこの公園?」
安倍は眩しい笑顔を道重に向ける。新垣が褒めている天使の笑顔。
しかし、悪魔の笑顔と中澤がぼやくのを聞いたことがあった。これか。たしかに断れない。
「こっちです」
方向を指さしながら、いつのまにか案内している自分にしっかりしてと言い聞かせた。
59 :道のしっぽ :2012/01/24(火) 19:04
落ち着きのない安倍が一方的に話し続け、道重は相槌を打つだけで精一杯。
公園には土混じりの小さな雪だるまがいくつか放置されている。
砂場と思われるところで遊んでいる女の子二人。
「りほー!」
思い切りよく大きな声で呼びかけながら、近づいていく。
「かのんちゃんまたねー」
「うん、またねっ」
「いつも遊んでくれてありがとう。気をつけて帰ってね」
「はいっ、またあした〜」
ポニーテールの女の子が駆けていく。家は公園のすぐそばにある。
裏玄関と思われる扉を開け入っていくのを確認すると、りほと向き合った。
「りほちゃーん。寒いでしょ? 早くおうち帰ろうね」
先に声をかけたのは安倍。なんでいるの? りほは不思議そうな顔を道重に向ける。
かがんで目線を合わせてから、偶然会って一緒に来たことを優しく説明した。
「なっちも戻りたいなぁ……無理なのかな。重さんはどう思う?」
道重は、中澤も安倍も選んだ道を後悔しているのだと気づく。自分もそうだ。
どうにかならないか、いやどうにもならない。進んでしまったから。
少なくとも戻れないように道重は田中と相談してりほを引き取り、中澤は中古の小さな一軒家を買った。
それでも同じ街から動かないのは、何かに期待し続けている証拠でもある。
「重さんち寄ってっていい?」
先ほどよりもさびしそうな笑顔。誰かが安倍を必要とし続けてくれればいいのに。
中澤といながら安倍はさびしかったのだと、道重はようやく気づいた。

 続
60 :道のしっぽ :2012/01/27(金) 02:26
陽は落ち、月と星が紺色の夜空にきらめいている。
安倍が夕飯を作ると言い、買ってきた食材で調理しはじめた。
好意に甘え、りほとお風呂に入ってしまう。
「おねーさんのお料理おいしそうな音がするね」
「なんでそう思うの?」
「だってねー、トントンって音がキレイなの」
れいなも道重も決してうまくはない。だが、ささいなこと一つとっても子どもにもわかるものだ。
道重は味付けが独創的だし、れいなは見た目ばかり気にしていて味は二の次。
一理ある。二人ともリズミカルな音を出したことはない。それでも楽しいから続けられる。

できあがったのはホワイトシチュー。寒い日にはあたたかい料理が一番。
たくさんの野菜とお肉が鍋に浮かんでいる。
口数は少ない。話題も核心に触れることはなかった。子どもが居る手前、出しにくい話題でもある。
れいなが帰ってくる前に、安倍は家に戻ると言い出した。
「寒いからお風呂であたたまってから寝てくださいね」
「うん、ありがと。ごめんね、今日は。突然お邪魔しちゃって」
「いえ……中澤さんにちゃんと伝えたほうがいいですよ」
「ん? 何をかな。どうせ重さんの方が先に裕ちゃんに会うんじゃない? またねっ」
アパートのドアを急に閉めると、大きな音がする。隣から苦情を言われてしまうのではないかと怯える。
いや、一番怯えてるのは安倍だ。道重はそう思う。
61 :道のしっぽ :2012/01/27(金) 02:27
――翌朝。冷え込むとの予報通り、残雪が凍りついている。
アパートから出て行くりほを見届けると、皿洗い、洗濯、掃除とこなしていく。
三人暮らしをはじめてから毎日やっていれば、それなりにできるようになった。
お昼前にはれいなを起こす。そしてお昼ご飯を食べて、ほのぼのと二人だけの時間を過ごす。
「あっ! 昨夜さー、安倍さんが三好ちゃんと一緒に歩いてるの見たんよ」
「……えっ?」
「安倍さんも三好ちゃんもれーなには気づいてなかったっけん、忘れてたっちゃ」
「それ何時ごろのはなし」
「えー、昨日は何時に家に着いたっけー。でもぉ、二十一時は過ぎてたとよ」
二十一時。アパートを出ていた時間。とっくに中澤宅へと、二人の家へとたどりついていい時間。
『どうせ重さんの方が先に裕ちゃんに会うんじゃない?』
安倍の不思議な言葉が、ここにきてしっくりとハマる。家出するつもりでここに来たのか。
いや、あの時はそれでも迷っていたのか。迷いが晴れたからこそ決意したのか。
「あの人、家出でもしたん? なんかぁ、銭湯に三人で入ってくとこだったっちゃ」
「三人?」
「うん、れーなの知らない人」
どれだけ長い間、仕事してるのだろう。先月の月蝕では仲良さそうにしてたのを思い出す。
『いるようでいないから』
ずっとずっと一緒にいても、寂しかったのだ。家出するだけの条件は揃っている。
しかし、中澤から連絡はないままだ。安倍にとっているようでいないもの、中澤にとっても同じなのか。
違うと信じたいが、状況がそうではないことを教えている。
道重の頭には、何度となく安倍の言葉が反復された。

 END.
62 :大雪の話 :2012/02/03(金) 18:32
「大雪のニュース毎日すごいよねぇ新潟大丈夫なのぉ?」
「あー、そうっすねぇ。柏崎もまだ1m近くあるみたいです」
「すっごぉい! 和島は30cmですよぉ」
「新潟県内でそんなに差があるんだねぇ」
「いやいやいや。柏崎は普段、こんなに積もりませんから。むしろ小春のところも積もらないだなって」
「へー。案外積もらないもんなんだね」
「安倍さんってちゃんとニュース見てるんですか?」
「えっ? 見てるよぉ、見てるからこの話題なんでしょ!」

 END.
63 :ドジでノロマなヒヨコです :2012/02/04(土) 15:24
ツアーリハの休憩中。ちょっとした意見の行き違いからか、衣梨奈と里保が喧嘩をはじめた。
かなりうるさいので、十期と上三人、そして香音は少し離れたところで見守っている。
聖は嬉しそうに二人を見つめていた。
「里保もおはガールにしてやろうか? あぁん?」
「ふんだ! そんなのやらなくてもねぇ、仕事があるの」
「まー、里保はー、起きたくても起きられないでしょうからー」
「はぁ? 何言ってんの!?」
「おはガールの仕事なんて無理でしょうけどー」
「かのんちゃーん!」

「……あゆみちゃん、行ってくるわ」
香音が重い腰を上げる。
「いってらっしゃーい」
それでも笑顔で手を振る亜佑美。
「毎日毎日よくやるよねぇ」
ため息混じりの遥。
「九期のみなさんは仲良いいよね」
何を考えているのかわからない優樹。
「今日も平和ですね」
のんびりおっとりの春菜。
「まさに頭の中表現するとこういう感じ? まー、さゆみん頑張りなさいよー」
卒業が決まったニワトリはのんきにしてる。

里保は香音へ一方的に愚痴っているし、衣梨奈は聖に慰められている。
それを眺めてる道重は友情って美しいよね、かわいい、ケータイケータイと呟きながらぼーっとしている。
全てを聞いていた光井は、あかんこれはあかんでぇと決意を新たにした。

 END.
64 :深淵 :2012/02/11(土) 20:12
暗い室内の片隅にあやしい明かり。パソコンのディスプレーが光を放ち続けている。
中澤は、裏で立ち上げてたままの宇宙と海の二つのソフトを見つめた。
小さな画面が横に並ぶ。あれ、と小さな声が漏れた。
カーテンがしまってないことに気づく。真っ暗な部屋に一人。
外も同様に暗い。なぜなら空に太陽はなく月と星がきらめいてるだけだから。
「なっちぃー?」
誰かいるとの前提で、声を出す。どこかにいるなら足音ぐらい聞こえるはずだが、まったくない。
耳の奥が痛くなる、と思うほど無音だった。
腔内につばがたまり、のどを流れていく。ごくん、という音を耳がとらえる。
ここにいるのは自分一人だ。認めたくない感情が心を支配する。
けれど、この状況を告げるようにこめかみのあたりで鈍い痛みが皮膚をつらぬく。
刻一刻と状況が変化する宇宙と海の二つのソフトが中澤を見つめていた。

小さな家の中を探し回ったけれど、やっぱり安倍はいなかった。
どうしたんだろうか。今までにこういう事態はなかった。
携帯には着信も受信メールもない。電話をかけてみたけれど、留守番になってしまう。
坂の途中の喫茶店でおしゃべりでもしているのだろうか。
そんなわけはない。携帯で時間を確認すると二十一時をまわっていたからだ。でも安倍はいない。
もう一つ。メッセージボードには、今夜はシチューにするよ、と書き残されていた。
台所はきれいに片付けられていて、調理をした気配はない。
冷蔵庫の中もきれいに整頓されている。買い物に出かけてから、どこかで遊んでいるのだろうか。
家出? そんな考えも頭に浮かぶ。頭をかけめぐる鈍い痛みで、思考がまとまらない。
なぜか寒気もしてきた。コップに水を入れ、口に流し込む。のどの渇きが少しだけ癒された。
誰か知り合いの家にお邪魔してないだろうか。圭ちゃんの顔が頭に浮かぶ。
独身で面倒見のいい彼女なら、もしかしたら相談の一つや二つ受けてるかもしれない。

65 :深淵 :2012/02/11(土) 20:12
圭ちゃんともつながらない。忙しいだけなのかもしれない。
この時期は確定申告があるからなにかと外出する用事が重なる。
それに真冬でもある。そういえば、テレビのニュースではしきりと全国的な豪雪を報じていた。
関東地方は寒くて乾燥も厳しいと、何度もアナウンサーが危険を呼びかけていた。
そうだ、寒い。暖房がついてない。はっくしゅん。小さなくしゃみが一つ。
鼻の奥がくすぐられている。大きなくしゃみが三つも続いた。
風邪でもひいたんかな。つぶやきが一つ。どこかの誰かが咳をしても一人、と詠ったことを思い出す。
突然、道重の声が聞きたくなった。用件は安倍の行方。情報なんかなくても話ができれば安心できる。
今度はつながるといいな。その願いは叶えられた。道重はワンコールもしないうちに出てくれた。
「もしもし、重ちゃん?」
「……安倍さんのことですよね」
「ああ、うん。なっち、そっちにおるんか?」
「いえ……夕飯は一緒に食べたんですけど」
「おらんのか?」
「でも、れいなが帰り道に安倍さんが三好さんともう一人と一緒に歩いてたのを見たんです」
「……三好?」
聞いたことがある苗字だ。圭ちゃんの恋人。
「れいなに聞いたら三好絵梨香という方だそうです」
なんや、圭ちゃんのところにおったんやないか。心の中で圭ちゃんに文句を言う。
不思議と頭痛がひいてきて、穏やかな気持ちで会話をしていた。
「銭湯に行く途中だったようで」
ひどい眠気が中澤を襲う。
「ありがと、なっち家出したんやな」
「中澤さん」
「なんや」
返事をしたつもりだった。道重が何度も自分を呼びかける声が聞こえるが、口を動かすのもめんどくさい。
体が、ゆっくりと床に沈んでいくように感じる。力が入らないまま、夢の世界へと旅立つ。

 END.
66 :うえ に ある :2012/02/16(木) 02:17
体が鉛のように重い。
中澤がまぶたを上げ体も起こそうとすると、思うように力が入らないことに気づく。
筋肉や関節が悲鳴をあげている。
「……っち?」
喉が腫れているのか声も出しにくい。
右の人差し指を動かすと、硬くて冷たい物を握っているようだとわかる。携帯電話だ。
こん、こんこん。咳が出る。そして、うすぼんやりと思い出す。
道重の声、風邪なのか体がだるいこと、なっちが家にいないこと。
こめかみがズキンズキンと痛み出し、背筋にゾクゾクと悪寒が走る。
中澤は畳の上に横たわり、布団もかぶっていなかった。
「さむっ」
まだカーディガンをはおっていたから、よかった。体をゆっくりと起こし、携帯電話で時間を確認する。
午前三時。そりゃあ寒いに決まってる。この時期、寒さで目覚めたといっても過言ではない。
携帯電話を開いて確認する。安倍からの着信やメールがあるのではというかすかな期待。
けれど、安倍どころか保田からも道重からも何もなかった。
ためいきをつこうとすると、咳が出る。こんこんこん。止まってから動き始める。

コップに水道水を入れてから、薬箱を探す。
「たしか、この辺にあったはずや」
リビングにある低めのチェストにそれはあった。体温計も風邪薬も入っている。
「これやこれ!」
風邪薬を胃に流し込むと、体温計を脇にはさむ。鳴るまでの時間を長く感じる。
ぐぅーっとお腹が鳴った。中澤はお昼から何も食べてないことを思い出した。
ちょうどよく体温計もピピピと報せてくれる。三十八度ちょうど。
熱が下がらなかったら病院行き。今までだったら安倍が看病してくれた。
カップラーメンの一つや二つあるだろうと推測し、台所の棚を探る。
ない。お菓子もない。冷凍食品もない。なんでや、と愚痴った。
67 :うえ に ある :2012/02/16(木) 02:17
道重が感じていたこと。それは安倍の味付けだった。薄いわけではない。
現にりほもおいしいとおかわりして食べていた。安倍自身は味が薄いかもしれないと気にしていたが。
「明日になれば、もっとおいしくなるよ〜」
そう言って微笑んだ表情はとても悪魔の笑顔とはかけ離れていた。
朝、りほを起こしシチューの鍋に火をかける。こんなに作ったのに、手際がよかったなと道重は思い出す。
炊きたてのご飯をよそい、少し深めの皿にシチューを盛る。
着替えの終わったりほが箸やコップをとりにきた。道重はお盆に二つずつご飯茶碗と皿を乗せた。
「おいしくなってるかなぁ」
「きっとおいしくなってるよ」
「うんっ!」
いただきますと二人で手を合わせてから、食べ始める。
「すっごく甘い!」
シチューから食べたりほはスプーンを何度も口に運ぶ。
「ほんと?」
道重も食べてみると、野菜がシチューに溶け甘さが増しているのがわかる。
「おいしー!」
こんなにおいしいものを中澤は食べていたのか。でも普通だと思って何も言わなかったんだろう。
そういうことが想像できた。確かに中澤にとって安倍は必要な存在なのかもしれない。
でも、その関係になんという名前をつけていいものか道重はわからなかった。

 END.
68 :春はまだ先に :2012/02/20(月) 17:56
冬という季節は太陽の出ている時間が短い。一般的には昼よりも夜が長い。
それでも冬至はとっくに過ぎているから、日が落ちる時間は遅い。
ついこの間までおやつタイムのあとは、暮れる夕焼けが窓の外に見えていた。
が、最近は午後五時を過ぎてもまだ明るい。
69 :春はまだ先に :2012/02/20(月) 17:56
 
70 :春はまだ先に :2012/02/20(月) 17:56
白く薄いカーテンだけ閉めると、やはり部屋は暗く感じる。
ぼんやりとした明るさに、少しずつ目が慣れてくる。
彼女の体にそっと手を伸ばした。桃色の肌が妙に艶かしく見える。
肩に自分の顎を乗せると、ぬくもりが伝わってくるような気がした。
「んふふ」
鼻歌のような彼女の笑い方が好き。
「どうしたんですか?」
「……なんでもない」
そう答えるのが精一杯だった。
そのまま後ろからゆっくりと両腕をまわし、静かに抱きしめた。
「今日のゆうこりんはどうしちゃったんですか」
71 :春はまだ先に :2012/02/20(月) 17:56
 
72 :春はまだ先に :2012/02/20(月) 17:56
   (あったかい)
73 :春はまだ先に :2012/02/20(月) 17:57
 
74 :春はまだ先に :2012/02/20(月) 17:57
もし、彼女との関係が世間にバレたら、二人とも芸能界を追放されることはわかりきっていた。
仕事ができることの幸せ、好きな仕事をできることの幸せ、収入を得る幸せ。
彼女と無理なく一緒にいられる幸せ。
それ以上のことは望んではいけない。望みを叶えようとしたら、破滅が待っているから。
75 :春はまだ先に :2012/02/20(月) 17:57
 
76 :春はまだ先に :2012/02/20(月) 17:57
仲の良さを隠すため、人間関係の質問には「誰とも仲良くない、誰とも話したくない」と答える。
彼女に対しても誰に対しても同じ答え。
見せたくない、弱いあたしをテレビでは見せたくない。
違う。
見せたい相手は決まってるから、それ以外の人にはバラしたくない。
本当の自分はこうなのだと、知られたくない。
あたしは、モーニング娘。初代リーダー中澤裕子でいたい。

 END.
77 :愛されパターン :2012/02/22(水) 22:03
「お人形さんみたい」
幼いころからよくそう言われた。どんな人も優しく接してくれる。
そんなことないよ、私、みんなと同じ人間だよ。文句を言ったけど、やっぱりみんなとは距離がある。
ハロー!プロジェクト・キッズオーディションに合格したあとは特にひどくなった。
「そんなことないよ人間だよ、とか言ってたのにね〜」
友達だと思ってた子の笑い声が学校の廊下に響く。
何もしてないのに、いつも周りが変わっていくの。……私は私のままなのに。

会社に行けば仲間に会えた。ホッとする時間。
でもレッスンは想像以上に大変。きついしつらいし。でも、やめたくない。
モーニング娘。になれるかも! って思えばなんでも頑張れた。
私が合格して半年。モーニング娘。6期オーディションの開催。
どんな人が応募してどんな人が受かるんだろう、って興味津々で見てたの覚えてる。
嬉しかったのに、どこか冷めていた。この仲間以外に誰が必要なの。

化粧を覚えた。駆け足で大人の階段をのぼる。
誰も止めてはくれない。立ち止まったり休憩したりすれば別だけど。
どんなにニキビができても、化粧なら隠せるのが面白かった。
Berryz工房ができて、仲間の半分とは一緒に居られなくなった。すこしだけ、さびしい。
会社で会えば、いつもと同じようにしゃべって笑いあう。
でも、やっぱりさびしい、と思った。どうしてだろう。
78 :愛されパターン :2012/02/22(水) 22:03
 
79 :愛されパターン :2012/02/22(水) 22:03
夏と冬の年2回あるハロープロジェクトのコンサートでいつも話しかけてくれる道重さん。
モーニング娘。6期メンバー。
いつも「かわいい」って言ってくれる。優しく接してくれる。
だから、怖かったの。いつか私を捨ててしまうんじゃないかって。
少しずつ化粧が濃くなっていく。肌荒れがひどくなれば、よけいに化粧も濃くなってしまう。
私、こんなに子供だったっけ? 高校生にもなって?
今まで全力疾走してきた。けして振り返らなかったし立ち止まらなかったし休憩してこなかった
そんな時間はなかったから。走ってればいつか夢をつかめるって信じてきたから。
道重さんはバラエティ番組に出演し始めて、忙しくなった。
それでもたまにメールくれて、コンサートで会えば声をかけてくれる。
道重さんは変わらなかった。でも、気づいてたの。私と接するときも他の誰かと接するときも同じだって。
私だけが特別じゃない。どこか感じてた距離。きっとこれなんだ。また、化粧が濃くなった。
80 :愛されパターン :2012/02/22(水) 22:03
 
81 :愛されパターン :2012/02/22(水) 22:03
道重さんがコンサートのステージで発した言葉。
「私の中では菅谷梨沙子ちゃんは殿堂入り。だからどんなメイクしてても注意しないであげて欲しいの」
願ってたことなのに、なぜかさびしい。冷たいって思う。

桃が道重さんに続いてテレビに呼ばれるようになった。
会社もチラシなんか用意して配ったみたい。これはあとで桃から聞かされた話。
「かわいいのにどうしてそんな濃い化粧をするの」モーニング娘。の先輩たちの声を思い出す。
私は人間だよ、人間だから化粧するんだよ。言いたいことを我慢して、孤独になるのを怖がってた。
周りの人の声はずっと変わってない。変わったのは私。
歌い方、立ち振る舞い、表情の作り方、声、身長、体重、そしてお化粧。

このままじゃダメ、このままでいい。0か1しか考えられなくなっていた。
0から1になるために、大変な努力をしてきたじゃない。
化粧をほんのすこし薄くしてみる。鏡の中の自分がいつもと違うように感じる。
すこしだけ、ありのままの私を愛してみようと思えた。
そうすれば、きっとさびしさも乗り越えられる。

 END.
82 :さゆみは乙女なの :2012/02/24(金) 19:53
 さゆみはいつものように真性野放しスレを眺めている。たまに書き込むこともあった。最近は釣ったり仕事したりで忙しく、時間がない。これだけ他人に面白いと思ってもらえる文章を書けるのだから、気分がいい。性格は悪い、とは自覚していた。カメラのレンズを通して人間観察する。心地よい時間。盗撮じゃないの、あとで表情を見るためなの。確認するためなの。カメラ目線なんていらないの。視線があるってことは作ってる表情なの、そんなのいらないの。そんなの見たいと思わないの。心の中で一人愚痴る。自分では面白いことを言ってる自覚はない。こう言われたら嫌というような相手の情報を調べるだけだ。思ってることと反対のことを言うだけ。簡単なこと。言い訳するぐらいなら努力するさゆみは性格いい、そのまま言ったら面白くない。面白い文章を発表しようと思うなんてある意味変態なの。みんなそれに気づいただけなのに認めたくないんだろう。さゆみを変態扱いして楽しんでるんだろう。スレ住人と一緒に楽しみたいが、写真を撮ったりブログ更新したり仕事したりで忙しい。今回の春ツアー中に二回も武道館がある。リハーサルは入念に行う。まだ体力筋力が整ってないメンバーもいる。さゆみも大変だったと思い出した。大好きな先輩がいる。けれど踏み込みたくないと思うのは、さゆみが邪な好意を持っているから。プライベートも忙しいんだろうと勝手に決めつけて行動を起こさせないようにしている。オーディションに受かってよかったのだろうか。もしかしたらテレビの前で応援し続けたほうがよかったのかもしれない。こんな思いをするぐらいなら、絶対に手の届かない存在として見つめ続けていたほうがよかったのかもしれない。そんなさゆみんの隣で私は本音を聞いてみたい。
83 :僕は彼女の幸福を知りたい :2012/02/24(金) 23:52
 僕が公園に着いたとき、中澤さんは隅のベンチにぼんやりと座っていた。冷たく暗い夜空に、小さくて白い月が浮かんでいる。「裕子さん」「待ったで」「すみません」視線が下に動く、座れといわれているようだ。密着しない程度に近づいて腰を下ろす。木が冷たかった。こんな場所でずっと待っていてくれたのだと思うと、目から汗が流れそうになる。中澤さんはピタッとした白いシャツにかっちりとした黒いジャケットを着ている。白いシャツが肌の色に似合うと思った。そそられる。「話ってなんや」呼び出したのは僕だった。すっかり忘れていた。「質問があるんです」「ふーん」僕のことはもう見ていない。「裕子さんは胸板のしっかりした男性と巨乳の女性、どちらが好きですか」「その質問なんやの」「いいから答えてください」「どうせわかっとんのやろ」やっぱり、と思った。それでも僕は一縷の望みにかけたかった。「重ちゃんはそうでもないで」「そんなことは聞いていません」明らかにムッとした、その横顔がかわいいと思った。でも言わない、教えてあげない。「あんなぁ、あの子の気持ちそっとしてあげて欲しいねん」「裕子さんはどうするんですか」「何かすることあるんか」ない、と思った。してあげられることは何もない。それでも僕は中澤さんの幸福を知りたい。
84 :僕は道重さんを知りたい :2012/02/25(土) 01:54
 公園から自転車に乗って帰ってきた。自宅に戻ったのは、中澤さんを途中まで送った零時過ぎ。誰もいない、と思った自転車置き場に黒髪の少女がいる。少女だと思ったが、よく見ると童顔の成人女性だ。化粧をしている。薄暗い電灯の下、薄紅色のグロスがキラキラと光を発しているように見えて、思わず目をそらしたくなった。「あなたですか」「は?」「中澤さんの男って」「違いますよ」男なんているはずないじゃないか。イライラする。幼い思考のまま成人した女性と話すのはつらいものだ。しかし夜も更けて帰りが遅くなったら、誰かにこの子が襲われてしまうかもしれない。ここは冷静に送り届けよう。それが紳士というものだ。「君、家どこなの。時間遅いし近くまで送るよ」「大丈夫です」「そう言われても心配だよ」「大丈夫ですったら!」「名前も教えてくれない人にそんなふうに拒否られるのは心外だ」ハッと目を開くと「ごめんなさい」と素直に謝ってくれた。案外いい人なのかもしれない。「すみません、突然話しかけたのはこちらなのに」うん、ちょっと勢いでここまできただけなのかもしれない。「私、道重といいます」「えっ」「えっ?」「ああ、いや」そうか、この子か。「今日は遅いから帰ったほうがいい。今度はちゃんど太陽が空にある時間に」「そうですね、何やってんだろ私」「恋してる女性は何をしでかすかわからないと昔から言われてるし」「そうなんですか?」「そうだね、結婚した男はよくそういうことを言うね」笑った、二人して笑った。僕は道重さんの気持ちを知りたいと思った。
85 :定期目次 :2012/02/25(土) 01:59
お米の話(ゆゆマコ)>>2 おなじきもち(ゆゆこは)>>5 スイートルーム(やすみよ)>>7-8 radar>>11-14 
坂で逢いましょう>>17-19 「いっしょに月をみよう」(やすみよ)>>20-21 おひとりさま(ゆゆあや)>>22-24 
恋愛革命2011>>25 論考『娘。小説とはなにか』――自分へのいましめ>>26-28 
見えない影(坂で逢いましょうの続き)>>29-32 月のさびしさ(ゆうちょ)>>34 
Cat and Chocolate(ゆゆさゆエロ)>>35-41 のりあう>>42 生き長らえる橋>>43 
カンジんなしごと(なかよし)>>44 憧憬(りかみき)>>45-47 プロポーズ大作戦(やすみよ)>>48-49 
賽は投げられた>>50 ゆるい放物線を描く(℃)>>51-52 須藤茉麻が痩せた理由>>53
夢みるあたし(憧憬の続き)>>54 道のしっぽ(見えない影の続き)>>57-61 大雪の話>>62
ドジでノロマなヒヨコです>>63 深淵(道のしっぽの続き)>>64-65 うえ に ある(深淵の続き)>>66-67
春はまだ先に>>68-76 愛されパターン>>77-81 さゆみは乙女なの>>82 僕は彼女の幸福を知りたい>>83
僕は道重さんを知りたい>>84
86 :僕はこの場の平和を願わずにはいられない :2012/02/27(月) 19:00
 目が覚めてからすぐに携帯電話を手に取り時間を確認する。午後一時か、寝すぎた。昨夜は色々あったから疲れたのだろう。中澤さんから聞く彼女の呼び方は何通りかあって、重ちゃん、さゆ、さゆみちゃん、道重さん、これらが同じ人物を指していると気づくのにだいぶ時間がかかった。炊飯器には昨日の残りご飯が二人前あった。いや、外にラーメンでも食べに行きたい。カップラーメンも買いにいかなきゃいけない。
 どんよりとした雲が空を覆っている。昼間とは思えない暗さだ。自転車に乗り、駅近くまで出る。ご飯を食べたら久しぶりに古本屋に行ってみよう。予備校の裏にとめ、近くのラーメン屋に入ろうとする。おや、あれは昨日ぶりな道重さんじゃないか。隣に同い年ぐらいの茶髪の女の子もいる。どうせ彼氏がいるんだろうな、やれやれと思いながらラーメン屋の暖簾に手をかけた。「あ! 昨日のお兄さん!」僕は女だ。まあよい、よく男と間違われる風貌だし服装もそうだし、声も低い。ここは男のフリをしてナンパするのもいいかもしれないと近づいていく。「さゆー、この人女性じゃないの?」「いやいや、えり何言ってんの」「いやいや、さゆこそ何言ってんの」「僕は女です」「ほらぁ、さゆが間違ってんじゃん、むふっ」変な笑い方をする女の子だと思った。中澤さんの周りにいる女の子は変な子ばかりだ、保田と三好とか石川と吉澤とか。「君たち、ケーキ食べたくないか?」「はい!」「食べるー」彼女たちのキラキラした瞳と笑顔に騙されてつい「おごるよ?」と言ってしまったので、近くのファミレスへ向かうことにする。
87 :僕はこの場の平和を願わずにはいられない :2012/02/27(月) 19:00
 席に案内されて座ると二人ともぶつぶつ文句を言っていたようだが注文時には「さゆみはレアチーズケーキ」「えりはショートケーキ」「あ、二つともセットでお願いします」元気になっていた。「二人ともミルクティーで」「それときのこのクリームスパゲッティー」店員は注文を繰り返すと、少々お待ちくださいと言って店の奥に消えた。「お兄さん、じゃなくてお姉さんだったんですね」「そうだね」「すみません」「君の人生にそんなに重要なことだったかな」「どっちでもかっこいいです」「あの、この子は親友で」「あはー、亀井っていいますぅー」「さゆとえり?」「はい。中澤さんのことも知ってます」「えー、なんか進展あったの」注文したケーキセットとスパゲティーがきた。皿と皿がぶつかり、ショートケーキの一部がテーブルの上に倒れた。あっ、と言う暇もなく手で支えようとしたが、倒れる方が早くケーキの上に僕の手がむにゅっとのめりこむ。最低だ、僕。僕って最低だ。白いクリームがなんともいえない。指にべっとりとついた白い生クリーム。これを二人が見ている前で拭き取らなきゃいけないなんて、恥ずかしくて死んでしまいそうだ。「あーあ、いけないんだぁ」絵里は笑いながら僕を責める。僕はこの場の平和を願わずにはいられない。
88 :春空を待つダ・カーポ :2012/02/27(月) 20:27
ふと思い出して、よっすぃ〜から貰ったCDのビニールテープを外した。
あたしが買ったCDのも同じように。それで、一枚をノートパソコンにセットする。
この間、先輩の保田さんが教えてくれたパソコンで音楽を聴く方法その一。
歌詞カードを手にとって、ベッドにごろんと横になった。
小さな音楽が聞こえてくる。もう少し音量あげようかな。
怖いんだ。彼女の声が聴こえることへの恐怖。
小さなメロディにのせて、小さな彼女の声が聞こえてくる。
ハッとするような、優しい声。
耳の奥に蘇る、彼女との会話、記憶していた彼女の顔、表情、行動。
高音が優しく頭に響く。
だれかが紡ぐあいのうた、だれかが描くあいのうた、だれかが抱きしめるあいのうた。
そして、今あたしが聴くあいのうた。彼女が歌うあいのうた。
イキイキと動き出す記憶の中の彼女。
それだけじゃなかった、あたしの感情がゆるやかに動き出していくのも感じられる。

――重なり合わなくても孤独じゃない、と知った。

東京で見る星も、ふるさとで見る星も同じだと教えてくれた。
そんな歌詞が、心をじんわりとあたためていくように感じる。
いつのまにか胸の奥底まで音もことばもあたしに沁みていた。

 END.
89 :みおん :2012/02/27(月) 20:30
りかみき(たぶん) 憧憬>>45-47 夢みるあたし>>54 春空を待つダ・カーポ>>88
90 :聖・少女領域 :2012/03/03(土) 17:47
二限目の講義が終わると、二号館の脇をすっと入って図書館脇も通って七号館へ行く。
たまに少人数講義が行われる程度で、小さなサークルのたまり場にもなっている。
でも、ほとんどの学生はこの場所に来ることはない。
さゆみは、階段で三階まであがるとトイレに入り、奥から二番目の個室をノックする。
トントントン。
三回ノックしてまた二回、トントン。
ゆっくりと扉が内側から開く。
「待ってました、道重先輩」
ふたのしまった洋式トイレに座る後輩、譜久村聖ちゃん。
未成年なのに、白い肌とほどよい太さの体が悩ましい。
「お昼ご飯、食べましょう?」
さゆみはこくりと頷くと、彼女に抱きついた。
「フクちゃんの肌、気持ちいい」
「先輩のお肌もおいしいです」
そういうと、いつものようにさゆみの首筋を舐める。
あ、と小さく声が出て身体中に電気が走ったようにビリビリする。
後輩の顔を見ると、真っ赤な舌がふっくらした下唇の端から端へゆっくりと動く。
舌が這うと、濡れて桃色が際立った。
あまりにもおいしそうだから、さゆみの唇を柔らかくおしつける。
隙間から少しだけ舌を出すと、ちろちろと後輩のを舐める。
91 :聖・少女領域 :2012/03/03(土) 17:47
「……あまい」
「みずき、先輩が来るまでアメを舐めてたので」
ふふっ、と笑う。
「欲しいですか」
ジーンズのポケットから飴玉をひとつ取り出すと、自分の口に入れた。
と、さゆみの首をなでおろしてから手を置くとキスをするように唇を押しつける。
器用に口から口へと飴玉を押し込まれた。
「こうするとみずきの味もわかりますよね」
「……うん」
92 :聖・少女領域 :2012/03/03(土) 17:47
「あまり長居すると本当のお昼ご飯、食べ損ねますよ」
「ううん、たぶん食堂空くからちょうどいいと思う」
「じゃ、先輩また」
「またね」
後輩は優しく微笑む。さゆみも微笑んでドアを閉めると、中からガチャっと鍵をかける音がした。

食べたのはどっち? 
……食べられたのはどっち?

空しい疑問は頭痛の種になるだけ。
トイレから出ようとすると、長い黒髪の女子学生とすれ違った。
次の客がいるのね。
ほどなくトントントンと三回ノックし、またトントンと二回ノックする音が小さく聞こえた。
さゆみは振り返らない。

 END.
93 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:40
1997年11月30日。
インディーズ『愛の種』を手売りで5万枚達成した日。


中学生1人に高校生2人。
大人になろうとする私。裕ちゃんの隣りなら心地よい、と気づいた。

同じホテルで暮らしてるから、プライベートのことも話しやすい。
年頃の女性2人が話すことといったら、やっぱり恋愛っしょ。
ふとした仕草や会話の内容から、彼女が同性に恋したことあるかもと思った。
私が同性と付き合ったことあるからなのかもしれないけど。
異性に対しては妙に世間知らずなのに、同性に対してはやけに詳しい。
でも、間違ってたら嫌だから言い出しにくい。私が追求されるのも怖いし。
慣れない関西弁で怒られたら、怖くて話せなくなるかも。
94 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:40

95 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:40

「なぁ、知っとるか?」
「何を?」
96 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:40

97 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:41

いつの間にか私たちはプライベートではタメ語になっていた。

「ちゃんと仕事できるんやから、こういうときぐらい普通に話そうや」

裕ちゃんがこう言ってくれたとき、すごく嬉しかったのを覚えてる。
さびしいんやもん、なんて甘えてくれて可愛かった。
男性スタッフには絶対甘える仕草とか声とか出さないのに。
楽屋ではなっちに甘えたり、仕事以外の場でも私に甘えたり、不思議な人。
だから、もしかしたら、って考えが頭の中ぐるぐるしてた。
98 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:41

99 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:41

「あんな、うちら2人で一緒にいると付きおうてるみたいに見えるらしいんよ」
「えっ」
「あ、こういう話、気持ち悪かったらごめんな、先に言うとけばよかった」
「いや、全然大丈夫。私、女の子と付き合ったことあるし……」
「え、そうなん? ウチも、まぁ、な……で、なんや事務所が変な噂、立てられんうちに」
100 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:42

恥ずかしがってなかなか視線を合わせないまま、喋り続ける裕ちゃんを見る。
可愛いなぁ。ほんと可愛いなぁ。

「話、聞いとるん?」
「あー、裕ちゃんって可愛いなぁ」
「……アホッ!」

顔真っ赤にして、裕ちゃんはその場を立ち去った。
悪いことしちゃったなぁ。
3日後、私たちはホテルを後にし、事務所が用意した別々のマンションへと移り住んだ。
101 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:42
 
102 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:42

プライベートで話すことは、ない。
だって、裕ちゃん、電話苦手なんだもん。携帯でかけてもなかなか出てくれない。
楽屋で会ったら話すこともあるけど、やっぱりしづらいじゃない。恋愛の話とかさ。
というか、和田さんの前では絶対に無理だと思う。
103 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:42
 
104 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:43

3人の追加メンバー、明日香卒業、そして3期メンバー追加オーディション。
刻々とモーニング娘。も、そのまわりも状況が変化していく。
忙しいながら、男性と恋愛をしていた。気づかれなかった。
……裕ちゃんにも。
3期オーディション中に、和田さんに卒業の意を伝えた。
結婚を前提としたお付き合いをしていて。
切り出すと、そうか、とだけ言われた。それじゃあ卒業の理由にはさせられない、とも言われた。
今はアイドルなんだ。いいか石黒、おまえはアイドルなんだぞ。
迷った末、服飾デザイナーになる、という話で落ち着いた。
105 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:43
 
106 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:44

3期メンバーと会う前に、裕ちゃんには話しておきたい。
彼と打ち合わせもあり、時間は夜中。まだ起きてるかな、電話に出てくれるといいな。

「もしもし」

すごくイラついた声で焦る。

「もしもし、彩です」
「ん、結婚のことやろ」
「ごめん、先に話さなくて」
「ええよ、和田さんからリーダーやから先に話とくな、言われて知っただけやし……」

107 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:44

彼女の声がどんどん小さくなっていく。寂しいんだろうな。
追加メンバーは若い子ばっかりだし。やっとカオリとなっちが18になった。
あ、でも追加メンバーの保田さんとは仲いいんだっけ。
私も保田さんも、裕ちゃんをめぐって遠慮し合ってたからなぁ。

「ありがとう。あのね、父に言われたことがあるの」
「んー?」

幼い頃、父を亡くした裕ちゃんに伝えたいことがある。

「おまえが女の子と付き合ったことも無駄じゃなかったんだな、って」
「ほーか、よかったな」
「お父さん、孫の顔、見れないと思ってたから、って」
「うん、うん」
108 :真夜中の電話 :2012/03/08(木) 16:44

いつの間にか私の目からは涙が落ちていた。笑って話せることだと思ってたのに。
彼女の声は電話越しに、落ち着いたトーンでとても優しくなっている。

「……裕ちゃん、裕ちゃんが矢口を好きなことも無駄じゃないんだからね」
「ん、ありがとな。明日も早いし寝るわ」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみ、また明日な」

彼女が仕事以外で電話に出たことは、その一回だけになった。
卒業してから、テレビで裕ちゃんが矢口にキスしたりふざけあったりしてるところを何度か見た。
ねぇ、矢口と付き合えなくても、その気持ちは無駄じゃないんだよ。

また彼女と夜中に電話したいと思った。

 END.
109 :あおてん :2012/03/09(金) 19:12
石黒&姐さんきてたー
110 :なごり雪も降る時を知り :2012/03/14(水) 01:25

「おねーちゃんっ!」
さゆみには妹がいる。正確にいうと、本当の妹じゃない。。
公園で写真を撮ってたら、フレームの中に勝手に入ってきた女の子。
いつのまにか仲良くなっていた。とても甘えてくる子なの。
彼女の名前は、譜久村聖。さゆみはフクちゃんと呼んでいる。
やたら無邪気な高校生かと思っていたら、まだ中学生だそう。
現代っ子はとても発育がいいなと、自分の胸を見て思う。
111 :なごり雪も降る時を知り :2012/03/14(水) 01:26

外出先でカメラを持っているさゆみを見かけると、彼女は声をかけてくるようになった。
進路のこと、恋のこと、色々相談された。フクちゃんが言うには、さゆみに話しかけやすいんだって。
中学を卒業したら、遠くの高校に進学しなきゃいけないとは聞いていた。
どれぐらい遠いの? って聞いたら、電車に三十分、新幹線に乗り換えて終点まで。
たぶんフクちゃんはどのぐらい遠いのかわかってない、と思う。

近いですよね、すぐ会えますよね、って何度も確認してきたから。なんで聞いてきたかもわかった。

好きな子ができたから。ショックだったな。そうだよね、そういう年齢だよね。
112 :なごり雪も降る時を知り :2012/03/14(水) 01:26

「どんな子なの?」
「後輩の子なんです、笑顔がちょっとかたいんですけど」

彼女の頬が真っ赤になっていくのが可愛らしい。

「へー、いいじゃん、いいじゃん。告白したの?」

弱々しく首を振ったフクちゃん。

「女の子が女の子と付き合うって変、ですよね?」
113 :なごり雪も降る時を知り :2012/03/14(水) 01:27

びっくりしたけど

「……でも卒業したら」

会えなくなるかもしれないのに。

「いいんです、わかってます。みずきの気持ちなんか押し付けちゃダメだって」
「自信なくしたら可愛くないよ? もう撮ってあげないよ」

驚いた顔になったフクちゃんは、ちょっとした沈黙のあと声を出して笑い出す。
さゆみも大声を出して笑った。
114 :なごり雪も降る時を知り :2012/03/14(水) 01:27
 
115 :なごり雪も降る時を知り :2012/03/14(水) 01:28

受験には合格したけど、告白は結局しなかったフクちゃんを送り出す日。
小さな無人駅のホームに一人電車を待っていた。

「フクちゃん」
「あ、おねーちゃん来てくれたんだ」
「そりゃあ来るよ、心配だもん」

うん、と二人して頷き合う。

もうすぐ電車が来るね。うん、おねーちゃん。なぁに。もう会えないかもしれないの。

唇だけが小さく動く。

声は聞こえなかった。電車がホームにちょうど到着したから。
フクちゃんは大きな荷物を持って電車に乗り込む。背筋がピンとして、大人びた女性になっていた。
116 :なごり雪も降る時を知り :2012/03/14(水) 01:28

目の前を小くて白いものが落ちてくる。雨じゃない……もしかして、雪?
雲一つない青空なのにひらひらと舞い落ちる。白く、白く、さゆみの視界を奪っていく。
ううん、これは桜の花びら。駅舎近くに植えてある、桜並木の花びらたち。
電車がホームを発車すると、フクちゃんが窓から顔を出した。

「おねえちゃん、またね」
「うん、また会おうね」

微笑んだフクちゃんは、とてもきれいになっていた。
ファインダーを覗こうとした時には、遠くに小さくなっていた。

 おわり
117 :みおん :2012/03/14(水) 01:33
>>110-116は狼で書いたもの
ttp://hayabusa3.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1331163693/

>>109 あおてんさん
武道館前に、と思いまして
118 :一杯のコーヒー :2012/03/16(金) 02:15
二十一世紀が来ても、同性愛を取り巻く環境は変わらない。
いつの時代にも雨があがれば、虹は青空に見えるのに。まだ雨はあがらない。

保田は安倍を連れて買い物に来ていた。マンションの一室に転がり込んでから一週間。
まだ寒さは厳しい。外出するたびに春を待ち遠しく思うのは誰でも一緒だろうか。
なかなか家に帰らず、三好がイライラしている。二人とも声には出さない。
いや、出せない。それでも、いつかいなくなるものと思うから接することができる。
中澤にも電話する暇がないことを保田は情けなく思っていた。
三好には田中れいなという子からちょくちょく連絡が入っているようだった。
保田はその子をよく知らず、三好は中澤のことも安倍のこともよく知らずにいる。
「なっち、今夜はハンバーグ食べたいなぁ」
隣を歩く安倍が、にこやかにそして無邪気に呟く。
「ね、圭ちゃんも食べたいでしょ」
「ちょっとさ、喫茶店寄らない?」
「いいよ。ガキさんのコーヒー飲みたかったんだ」
119 :一杯のコーヒー :2012/03/16(金) 02:15
 
120 :一杯のコーヒー :2012/03/16(金) 02:16
二人で坂を下る。赤いレンガに暗緑の蔦が這った喫茶店が見えてくる。
笑顔の素敵な女店主は六月までに『ハニホへト』をたたんでしまう。
まだ時間はある、あと少ししか時間がない。
時間の捉え方は様々で、来店はいつもと変化がないとも聞く。
店内は改装してあり、クリーム色の壁と落ち着いた焦げ茶色の木で支えられてるかのように見える。
木の床や小さく明るすぎない照明が心地よい。
けして回転率がいいわけではない。だが、その心地よさに惹かれて喫茶店に訪れる客は多い。
二人もそうだ。保田は本日のおすすめコーヒーを二つ頼むと、やっと落ち着けると思った。
壁にポスターが貼ってある。五月中旬にピアノの演奏会。
「なっち、ピアノの演奏会だって」
保田は指でポスターを示した。
「え、どこで!?」
手で遊んでいた安倍は驚いた顔になり、保田が示すポスターを見る。
「ここでやるんですよ。はい、本日のおすすめコーヒー二つ」
「ありがとぉ。ね、ガキさん本当にやめちゃうの?」
「はい」
女店主はにっこり微笑むと力強く話し始めた。
「いやー、友達から久しぶりに連絡があって、一緒にやりたいことだったんで」
「えー、ここじゃダメなの? なっちさびしいよ」
121 :一杯のコーヒー :2012/03/16(金) 02:16
「そんなことないですよ、安倍さんにはこんな素敵なお友達がいるじゃないですか」
「うーん」
短く唸る安倍に保田は慌てて対応する。
「ちょっとちょっと、なっち!」
「それに、安倍さんには中澤さんがいるじゃないですか」
ガキさんはいつもと同じ優しい声。なんとなく耳に入っているかもしれない、と保田は思った。
裕ちゃんここに来たかもしれないなさびしくなったのかな、と安倍は思った。
「なっち、新垣さんはこう言ってるよ。うちに帰ったらどう?」
保田は落ち着いたトーンで安倍を諭す。新垣のおかげだ。
「え、安倍さんどうしたんですか? おうち帰ってないんですか。心配してますよ中澤さん」
「そうかな……」
不安そうな声で下を向いた。
「おいしい料理つくってあげられるの、安倍さんしかいないじゃないですかぁ」
すみません、とカウンターの客が新垣を呼んだ。
「はーい、いま行きまーす! じゃ、ゆっくりしていってくださいね」
来た時と同じようににっこりと微笑む。
「なっち、おうち帰ろうかな……でも怖いの、なっち怖い」
安倍の言葉と真剣な表情に、保田はまだまだ問題は山積みだと理解した。
とても一杯のコーヒーでどうにかなるようなことではないと。

 END.
122 :みおん :2012/03/17(土) 00:27
シリーズもの
坂で逢いましょう>>17-19 見えない影>>29-32 道のしっぽ>>57-61 深淵>>64-65 うえ に ある>>66-67
一杯のコーヒー>>118-121
123 :可愛いは必要なの :2012/03/21(水) 21:42

さゆみはいつものように楽屋で大きな鏡を眺めてたの。鏡にうつるさゆみを眺めてたの。
世界一可愛いアイドルだから、どの角度が可愛いか前髪をどう下ろしたら可愛くなるのか研究してるの。
可愛いにも勉強は必要なの。鏡の前でうんうん頷いてたら、ガキさんが楽屋に帰ってきたの。

「ねぇねぇ、鏡は何からできてるか知ってる?」

わかってるなの! ガキさんバカにするななの! えーと、えーと金属なの!

「ガラスだよ。なんかね、歪みのない可愛い心が必要なんだって」

やっぱり鏡なの、さゆみを裏切らないの。素晴らしい。

「さゆも鏡になっちゃえば? 素直に可愛いと思うさゆなら、きっと素敵な鏡になれると思う」

それもいい話なの! わかった、鏡になる!

「いいねぇ、それでこそさゆみんだよ」
124 :可愛いは必要なの :2012/03/21(水) 21:42

ガキさんはニコニコして、さゆみの洋服を脱がしたの。全裸なんてさゆみでも恥ずかしいの。
スマイレージのめいめいぐらいしか許されてないの。溶けちゃう!
体も全部とろっとろっになっちゃいそう。いつものことでしょとか言わないの。
あれは萌えとけてるだけなの。今は萌えてないの。自分に萌えてる? そうとも言うの。
さゆみの体……熱くなっちゃう。こんな体じゃ癒せないの。

冷やされてる。ううん、どこか冷たくてツルツルしたものの上にさゆみ乗せられてるの。
いやーん、冷たぁい。ガキさん、どうにかしてよう。
文句を言おうとしたら、よくわからないうちにつかまれてたの。
誰かの手の中にさゆみがいる! 見えない、見えないよ、ガキさん。
125 :可愛いは必要なの :2012/03/21(水) 21:42

「でーきたっ。カメー!」

えっ、えりがいるとか聞いてないよ。ガキさんひどいの。
可愛いさゆみをさっそくえりに見せるなの。

「うへへぇ、会いに来ちゃったぁ」
「これ、この前言ってた可愛いメガネ。カメにプレゼント」
「えー、なんかこれ歪んでなぁい?」
「素材が悪かったのかもしれないね、さゆみんに文句いっといて」
「わかったぁ」

さゆみの気持ちには不必要なものが多すぎた。

おわり
126 :卵殻 :2012/03/24(土) 23:39

料理を作るときに必要なもの、食材、調味料、時間、おしみなくかける手間、愛情。
そして、調理道具。
今日は何を作ろうか。時間あるし、お菓子もつくっちゃおっかな。
台所に立つ前にエプロンをつける。そうや、これも必要やん。
うーん。冷蔵庫の扉を開けて悩んでまう。卵、牛乳はある。カルシウム摂らなあかんかったんやっけ。
若いのに骨で初めての症例やし。魚を積極的に摂るよう事務所から指示されている。
愛佳は何もせーへんのに。いや、何もせーへんかったからあかんのか。一人愚痴る。
卵、牛乳、そして砂糖は控えめに。簡単に作れる甘味、プリン。うん、これでええわ。
牛乳を計量カップに入れて、卵はボウルに割り入れて牛乳と混ぜ合わせる。
よく混ざったらこしきで材料をこしながら、小さなカップへ適量を注ぐ。
材料は混ぜあわしかたが大切やん。おかし作りには欠かせない、粉ふるい。
プリンにはないけどな。だまになったまま、ずっといってもうたら失敗してまうもんな。
オーディションだって、ラジオだって、リーダー選出だって。仕事に関わることはそうや。
人間をふるいにかけとんのや。9、10期がその意味わかるようになるまで時間かかるんかな。
愛佳は時間かかったほうやない、と思う。自分で自分のことはようわからんもんなぁ。
考えても無駄かもしれへん。……ようできたら、明日差し入れしよかな。
今はわからんくても、ただただプリンを美味しいと思うだけでもええ。ひよこはいつか成長するんや。
さぁて夕飯はどないしようかな。
127 :人という生き物 :2012/03/25(日) 23:40

スマートフォンという便利な携帯端末がある。
あたしも使ってるし、梨華ちゃんだって使ってる。
今まで流通していた端末をガラパゴスケータイと呼び出したことは記憶に新しい。
時は流れ、スマートフォンも進化した。折り畳めるようになった。
しかも液晶への強度も増した。また回線状況も整備された。
車だって進化している。太陽電池や次世代のエネルギーが出てきたのだ。
環境に優しいエコカーが増え、今までの車はガラパゴスカーと呼ばれている。

機械は進化したが、人間の動作は昔と何一つ変わらない。
あたしが道路沿いで右手を軽く挙げるとタクシーが停ってくれる。
運転手に行き先を告げて、ポケットからスマートフォンを取り出し操作する。
ガラケー時代と変わらないのはバッテリー問題だ。
調べたいことがあってもバッテリーの有無で躊躇することもある。

人の行動もそう変えることはできない。
姐さんが結局結婚できないことや重さんによる後輩へのセクハラ。
それに圭ちゃんがレズバーに行って色白巨乳フェムにフラれること。
あたしはメンバーのこれらの問題を聞くことにいつもためらいがある。
相談は受けるし、答えは返すけど。
晴れの日があるからそのうち雨も降る、と歌ってきたように。今までもこれからも。

あたしは思う。
人というのは情けないことになかなか変わることができない生き物である。
128 :みおん :2012/03/25(日) 23:49
tp://hayabusa3.2ch.net/morningcoffee/kako/1331/13316/1331655738.html
狼のこのスレに載せたものそのままとか改稿とか
可愛いは必要なの>>123-125 卵殻>>126 人という生き物>>127
129 :定期目次 :2012/03/25(日) 23:58

お米の話(ゆゆマコ)>>2 おなじきもち(ゆゆこは)>>5 スイートルーム(やすみよ)>>7-8 radar>>11-14 
坂で逢いましょう>>17-19 「いっしょに月をみよう」(やすみよ)>>20-21 おひとりさま(ゆゆあや)>>22-24 
恋愛革命2011>>25 論考『娘。小説とはなにか』――自分へのいましめ>>26-28 
見えない影(坂で逢いましょうの続き)>>29-32 月のさびしさ(ゆうちょ)>>34 
Cat and Chocolate(ゆゆさゆエロ)>>35-41 のりあう>>42 生き長らえる橋>>43 
カンジんなしごと(なかよし)>>44 憧憬(りかみき)>>45-47 プロポーズ大作戦(やすみよ)>>48-49 
賽は投げられた>>50 ゆるい放物線を描く(℃)>>51-52 須藤茉麻が痩せた理由>>53
夢みるあたし(憧憬の続き)>>54 道のしっぽ(見えない影の続き)>>57-61 大雪の話>>62
ドジでノロマなヒヨコです>>63 深淵(道のしっぽの続き)>>64-65 うえ に ある(深淵の続き)>>66-67
春はまだ先に>>68-76 愛されパターン>>77-81 さゆみは乙女なの>>82 僕は彼女の幸福を知りたい>>83
僕は道重さんを知りたい>>84 僕はこの場の平和を願わずにはいられない>>86-87
春空を待つダ・カーポ>>88 聖・少女領域>>90-92 真夜中の電話>>93‐108
なごり雪も降る時を知り>>110-116 一杯のコーヒー>>118-121 可愛いは必要なの>>123-125
卵殻>>126 人という生き物>>127
130 :さよならを知らないままで :2012/04/01(日) 16:20
男性と女性が出会い、恋に落ち、結婚して子どもを産み育てる。
人間としてごく普通の生き方だ。

それができない人もいる。同性しか愛せない私たち。
いや、同性しか愛せなくたって結婚したいし家族になりたいし、子どもだって持ちたい人もいる。
恋愛の相手が同性だからっておかしい、と言われるのはなんでだろう……。
131 :さよならを知らないままで :2012/04/01(日) 16:20
 
132 :さよならを知らないままで :2012/04/01(日) 16:21

メンバーの一人が自分だけの家族を持つ。
武道館ライブの開始から鐘の音とメンデルスゾーンの結婚行進曲、それにウェディングドレスを模した衣装。
一曲目はハッピーサマーウェディングを歌う。
打ち合わせを聞いた時に、やっぱり結婚するんだと思いながら聞いていた。
本人からもその時に報告があった。既報のとおり結婚すると。もう準備も進めている。
裕ちゃんはずっとドリームは続くんやでずっと活動してく、と言ってた。
だから、安心してついてこられた。熱愛報道が出ても結婚報道が出ても。
あの時と同じように心がちくっと痛む。あの時はみーよがそばにいた。
133 :さよならを知らないままで :2012/04/01(日) 16:21
 
134 :さよならを知らないままで :2012/04/01(日) 16:21

今は北海道に行ってしまって、会えない寂しさもある。
裕ちゃんならわかってくれるって思い込んでたのかな。結婚しない道を理解してくれてる、って。
梨華ちゃんもよっすぃ〜も触発されたみたいだから、相手がいるなら結婚は近いのかもしれない。
あーあ。本当に独りになるなぁ。なっちもよくわかんないし。
まだそばにいればなぁ。すぐに電話かかってきて一緒に食事しましょうか? 
なーんて、あったかもしれないのに。
あんまり仲良すぎて離れさせられた一面もあるから、愚痴メールぐらいだったかも。
今ごろはみーよに諭されて泣いてたのかもしれない。そんな空想もするだけむなしい。
信じて一緒に活動してたから、武道館ライブ最後のMCで泣いたんだもん。
裕ちゃんのことは好きだよ。ハグしてくれたことないけど。LIKEであってLOVEじゃないのになぁ。
135 :さよならを知らないままで :2012/04/01(日) 16:21
 
136 :さよならを知らないままで :2012/04/01(日) 16:21

……あれ? もしかしてドリムス。で相手がいないの私だけ?
ううん、私にはまだみーよがいる。距離は遠いけど、裕ちゃんだって福岡の人と結婚したんだし。
ただ札幌と東京にいるだけ。そう思えばいい。
だって、出会ったのは偶然でさよならも偶然かもしれないけど、今度会う時は必然だもん。

春は卒業の時期、そして新しい出会いの時期。新しいことを始めるとき。
好きな人と一緒にいられるために、い続けるための努力を今までしたことがなかった。
同性愛はどうせ結ばれることはないからって。何もしないで結ばれることなんてない。
それは異性愛だって同じだ。
仲間を引き留める努力ができるんだって知らなかった少女時代。
そして恋愛でも引き止める努力ができなかった二十代。
一緒にいたいと願い、努力をし続けなかったから、離れ離れになったんだ。
引退なんて選ばせない。みーよの努力を無駄にしない。
今度こそ、永遠のさよならは知らないままでいたい。

 END.
137 :はるなの :2012/04/04(水) 21:38

今日は、道重さんとは別々のお仕事だったから、何していらっしゃるのか気になります。。
もしかしたらブログ記事を更新しているかもしれません。どんなブログを書いてらっしゃるのか。
携帯から道重さんの公式ブログにアクセスします。すると、一番上の記事タイトルが「はる」。
まぁ、私!? 道重さんったら私のことを書いてくださったのね、うれしい!
クリックして続きを読むと、ただ単に春ってことでした……。まぎらわしい季節です。
しょんぼりしながら、道重さんにメールです。私、春に負けない!

件名:道重さぁーん(*^^*)
本文:はるってタイトルに書いてあったから私のことかと思ってみたら、違いましたぁ
138 :はるなの :2012/04/04(水) 21:38

返事がくるまで他の記事も読んでしまおう。
と、思ったらすぐに携帯が道重さん専用のメロディを奏でています。
道重さん専用のイルミネーションで私を呼んでいます。
胸の高鳴りを抑えながら、送信者を確認してメールを開こうとボタンに親指を置きました。
なかなか押せません。なぜでしょう。心臓が体の外に飛び出して行っちゃいそうなぐらいドキドキしてるから。
口腔にたまった大量のつばをごくりと飲みこむと、落ち着いた感じがしてやっと押せました。

件名:Re:道重さぁーん(*^^*)
本文:はるなんを、ぬか喜びさせようというたくらみだよー
139 :はるなの :2012/04/04(水) 21:38

画面の文字を何度も読み直してしまいます。
だってだって、こんな私を喜ばせるようなことが書いてあっていいのでしょうか。
そんなメールをステキな先輩からもらってしまってよいのでしょうか。
体温がぎゅっと高くなっていくような、頭がぽーっとしていくような気がいたします。
私、モーニング娘。に入れてよかったです。こういうお返事をもらえるとテンションあがっちゃうんです!
ありがとうございます、明日からも頑張れます。
感謝をちゃんと伝えないと、後輩としてもマゾっ子としてもダメな子になっちゃいます。
無礼にならないように丁寧に文字を打ち込みます。
気持ちを込めてボタンを押すと、感謝も伝わるような気がいたします。

件名:道重さん、ありがとうございます
本文:いえ、名前の一部がかいてあるだけで充分です
140 :はるなの :2012/04/04(水) 21:39

……きゃあ、送っちゃった!
半年も同じグループにいさせてもらって一緒にお仕事してるのに、メール送信すら慣れない。
少女漫画の主人公みたいな気分です。
憧れの先輩に優しくしてもらってうれしくってテンションあがっちゃうなんて、初めての経験です。
春の嵐です。あ、これは違う先輩の曲のタイトルでした、間違い間違い。
顔が似てると言われてるからって間違えたらいけませんね。
道重さんはずっとずっと私の憧れです。
私だけの道重さんなんだから、ってみんなに言えるように頑張ります。
譜久村さんにだってだーいしにだって負けないんだから!
またマンガを貸して読んでもらって感想話し合って、一緒の時間増やすんだから!

 END.
141 :かわいい話 :2012/04/11(水) 21:37
「なー、ドリームでいっちばんピュアなメンバーって誰やと思う?」
「とりあえずー、うちらは入ってないでしょ?」
「うちらって誰や」
「まーまー、わかってるでしょ。裕ちゃん、かおり、なっち、圭ちゃん、私は入ってないでしょ」
「そーやなー」
「入ってないっていうか、入れないでしょ、もう」
「梨華ちゃんとかよっちゃんとかは?」
「うーん、あの二人はねー、意外と……」
「意外かぁ。あ! 小春は?」
「小春はまだ10代だからぁ、すれてなくても、あぁ……っていうね」
「早くハタチにならへんかなぁ」
「裕ちゃん、お酒飲みたいだけでしょ。ミキティも今更って感じはあるしね」
「そうやなぁ」
「……あのー、お二人とも私のこと忘れてないっスかぁ?」
「かわええなぁ」
「え、なんスかなんスか」
「ほんっと、まこっちゃんはかわいいよねー」
「なー」
「へへへ、ほめたって何も出ませんよ!」

 END.
142 :(恋人のような顔をして) :2012/04/22(日) 22:01
熱い夏も終わりに近づいた頃、藤本の妊娠が発覚。二度目の脱走。素直にいいなー、と思ってしまう。
妊娠出産で一時離脱というけど、子育てするわけだからそう簡単には戻れない。
ましてやツアーなんて絶対無理。藤本がいなくなってから、裕ちゃんが春よりも寄ってくるようになった。
彼氏できたらしい。でも、十年前と同じように抱きついてきたりキスしようとしたりしてくる。
はじめの頃は、距離感忘れてノリでやってたけど、結婚したのもあるしグループで活動してるし。
今は距離を置きたい。裕ちゃんは周りが見えなくなっちゃうタイプだから、危なっかしい。

二〇一〇年十二月。ドリーム モーニング娘。って名前で卒業生で結成されるアイドルグループ。
そこに私もメンバーとして加わることになった。
半分は浮かれてた。もう半分は現役がいるのにいいのかな、という戸惑い。
気持ちがどちらもある人もいたし、どちらかだけの人もいた。単純に嬉しいと思ってる人も。
開始前から裕ちゃんに何度も説得された。お願いに近かった。
143 :(恋人のような顔をして) :2012/04/22(日) 22:01
  ――矢口おらんかったらはじまらへんやん。
  お互い大人になって落ち着いたやろ。もう矢口が嫌がるようなことせーへん。
  同じグループで活動するためにきっちりせなあかんこともある。
  嫌なんか。……あたしどないしたらええの。

何度も何度も会ってるうちに、裕ちゃんの顔が少女になっていく。
妹になりたいんだっけ、って言おうとして、やめた。違う。やっぱり怖さが先行する。
近くにいなきゃ特に何もないんだろうけど。結局、私は裕ちゃんに甘い。
裕ちゃんは私のことが大切じゃないのに。自分の心を守るための私<矢口>という存在でしかないのに。

五月、結婚を発表した。また先に嫁くんだね、か細い声で裕ちゃんに言われた。覚えてないだろうな。
真顔でまくしたてるように言われたこと。うんうん、としかうなずけなかった自分。体も心も硬くなる。
『矢口が結婚したらあたしも結婚する!』
それまでしないのかよ! いくつ年下だと思ってんだよ。冗談に聞こえなくて怖かった。
やっと結婚できた自分。どうなるんだろう。裕ちゃん、する気あるのかな。
144 :(恋人のような顔をして) :2012/04/22(日) 22:02
 
145 :(恋人のような顔をして) :2012/04/22(日) 22:02
異変に気づいたのは圭ちゃんだった。おしゃれなカフェのおいしいランチをおごってくれるらしい。
薄暗い照明のせいか雰囲気も落ち着いていて話せそうな場所だ。
「たまってること吐き出しちゃいな」
仲間であり同期であり、頼もしい人。目頭と頬が熱を帯びてきて、目から涙がテーブルに落ちる。
「旦那に相談できないでしょ」
穏やかな口調で頼んだスパゲティをほおばる。
フォークをうまく使い、パスタをくるくると適量まきつけて口に運び、ぱくっと食べる。
人間関係もこんな風に簡単に処理できたらなぁ。心の動きは難しい。誰も計算できないものだから。
「裕ちゃんのこと、どう思ってる? 怖いまま?」
最初から核心をつく質問。早いうちに聞かないと私が話さなくなるって圭ちゃん知ってるから。
「……うん。怖い、怖いよ。好きって言葉が怖い」
「構えちゃうんだ」
「そうなんだよー。よっしーたちはさ、まーたやってるよー、なんて見てるけどさ」
怖い、って言い切った後は堰き止められてたダムの水が放出するように言葉が愚痴が感情が止まらない。
「まー、誰かいれば私だけに集中するわけじゃないし。それにさ。こんなこというのもなんだけど」
「ん?」
「裕ちゃん意外と人の目を気にするでしょ。……だから、さ」
「あー、下がいれば矢口に変なことしない?」
「うんうんうなずくのってもう条件反射なんだよね、ただの。怖いのもあるし。へへっ」
自分のことをしゃべるのはとても恥ずかしいから、笑ってごまかす。
けっこう涙も抑えきれずに流れてるままだし。ピザがしょっぱく感じる。
「夜、収録あるのにこんなに泣いたらメイクどうしよう」
自分の気持ちを全部吐き出せたわけじゃない。けれど、適度なあいづちや返事が心地よかった。
いつもあいづちを打ってるのが自分だからかもしれない。
146 :(恋人のような顔をして) :2012/04/22(日) 22:02
コーヒー飲みながら、後輩に話しても大丈夫そうだな、と落ち着けた。
モーニング娘。として活動してきたのに、私が私を一番信用してない。
たくさんのことを乗り越えてきた仲間がいるってのに。
活動時期が被ってないメンバーもいるけれど、大切な仲間だ。
まだ秋ツアーだってある。彼氏ができたなら落ち着いてくれるかもしれないし。
もし、裕ちゃんが恋愛に夢中になりすぎたら私たちがサポートすればいいんじゃん。
プライベートで隣に誰かいるってことは、心強い。私だけじゃなく裕ちゃんもきっと同じ気持ちだと思う。
過去は変えられないけど、願えば未来は変わるかもしれない。いくつになっても成長しあえる仲間だから。
裕ちゃんだって、矢口離れできる日が来るかもしれない。その日を待ってみよう。
そのときは、またみんなで歌って踊ってるのもいいな。

ま、期待しないのが一番だろうけど。

 END.
147 :一直線に :2012/04/28(土) 01:25
れいながこの『マチ』に来たのは中学卒業直後の十五歳だった。
今住んでいる<さいわいタウン>と反対岸の歓楽街、中卒でも就職できるっちゃ、と軽い考えでの行動。
まだ住宅地は開発が進んでいなくて、住み込み可能な就職口もたくさんあると聞いてやってきた。
れいなのことを誰も知らない『マチ』なら、生きていけると思った。

歌えるところならどこでも良かった。ただただ歌いたい。欲望に忠実に生きる、生きていく。
そのためには年齢詐称もやむを得ないと思っていた。
十七だと履歴書にも書いたけれど、いくつかは無理だと言われた。
もう満杯だと。同じこと思ってる人は多いのだと知る。
諦めかけてたけど、少し外れたところに募集中の張り紙を出しているバーがあって駆け込んだ。
そこのオーナーは年がいってるおじいさんだった。
けれど、ちゃんと歌わせてくれて悩んでOKを出してくれた。素直でいい声だと褒められたのを覚えている。
一つだけ条件があって、ここで働きながら定時制高校を卒業しなさいという。
学歴が必要な社会がくるよ。今はいいけれど、いつかはここを巣立っていくだろう。
そのときに学歴がないからという理由で門前払いされるのは私は嫌だ。
力強い説明に感動した。
そこに、安倍さんという女性が通りかかって、私も歌うし定時制高校を卒業できてよかったのよ、と。
親切な人がいるっちゃけん大丈夫ばい。迷うことはない、ここにしよう。
選ぶことも戻ることもできないのだから。
148 :一直線に :2012/04/28(土) 01:26
安倍さんは歌がうまくて、れいなよりも八歳年上だけど童顔でお客さんの人気者。
れいなは幼すぎると言われ、最初はまったくお客がつかなかった。
ひどい罵声を浴びたこともある。
ただ、個性的ではないから聞きやすいという声も一部にはあったみたい。
オーナーも挫けずにれいなを歌わせてくれたし、励ましてくれた。
途中から安倍さんは住み込んでた寮というかアパートを出ていった。
恋人ができたのだと、他の従業員たちは噂した。れいなは根気強く歌を練習して、歌い続ける。
高校もなんとか二年生に進級し、給料もほんの少しだけ上がり、そして歌の番を増やせると告げられた。
――頑張ってるから。安倍の歌はね、のびやかでいいんだけど個性も強いんだよ。
気分がのりすぎると、伸びたり跳ねたり変えたり。もちろんそれは田中にはない部分だ。
ただ、やりすぎると嫌う人も多いしね。それと年齢ね。加齢によって声の出や響きも変わる。
お客さんが聞きたいのは、童顔なら童顔なりの声なんだ。田中の出番が多くなるかもしれない。
練習は今まで以上にしっかりやるんだよ。高校卒業するころには、ここから卒業できるなら私も嬉しい。
後半部分はれいなに諭すように言ったのか、そのときはわからなかった。
そしてれいなに対する未来の展望を明るく話してくれた。期待されてるのがわかるから、返事も上ずっていた。
それを聞かれたのか、はたまた別の理由なのか、安倍さんはれいなにきつく接するようになっていく。
149 :一直線に :2012/04/28(土) 01:26
 
150 :一直線に :2012/04/28(土) 01:26
それでも高校に行かなければ卒業できない。オーナーの声にも応えられない。
二年生になると、入学した時よりもクラスの人数が少なくなっている。
今まで誰にも話しかけたこともなかったのに、その日は気分がよかったのか。
その時のことを振り返ると、本当に不思議なこともある。
黒のストレートロングの女の子。見た目はれいなと同じぐらいの年。けど、誰とも話してない。
かわいいのに。男子にもてそうなのに。まぁ、れいなだって誰とも話してないけど。
一番前の席にいるけれど、男性教師に話しかけられても絶対に答えなかった。
定時制高校は過去に色々あった人たちが通ってるらしいと知ってはいた。
れいなは勉強できないし、オーナーとの条件でもあったから、それについて深く考えることもなかった。
誰とも話さずに卒業しようと思っていたのに。その子がなんだか気になって気になってしかたない。
放課後まで我慢しようと思った。我慢できるぐらい、興味があるのかないのか、れいな自身を試すことにした。
結論は無理。だって、ヤンキーな男の子に絡まれて泣きそうになったから、れいなの出番だ! って思った。

「あんたらやめとき、先生呼ぶとよ」

きつく言ったつもりはないんだけど、反対にれいなだけが絡まれる。
周りのおばさんたちが気をつかって先生を呼んでくれた。ヤンキーたちはちりぢりに走り去る。
何人かの先生は、追いかけようとするのが見える。
れいなは、この授業終わったら職員室に来なさいと担任に言われ、そのまま始まった授業を受けた。
151 :一直線に :2012/04/28(土) 01:26
「君はねぇ方言で話すとキツく聞こえるんだよねぇ、ヤンキーと相性いいのかと思ってたよ」

担任の男性教師にはああだこうだと注意され、うるさいと返そうとしたとき、あの子の話になった。
なんでも男性恐怖症というか、人間不信で他人と関わりを持とうとしない。
でも慕ってるお姉さんに高校ぐらいは卒業しろと言われて来てるらしい。
ものわかりが早いから勉強はできる。けれど、人間として成長できるのかは教師の間でも疑問だよ。
とまで愚痴ってくれる。
ここに来る前のことは書類としてしか知ることはできないからね。田中もそうだけど、道重もね。
みちしげ? れいなはあの子の苗字を初めて知った。
知らなかったのか。まぁ、気にかけられるんならそうして欲しいよ。他のことも学んでほしいしね。
田中は働いてるんだろ。最初のうちは田中が興味あることだけでもいいよ。
ぼくらにできない話を聞かせてほしい。
152 :一直線に :2012/04/28(土) 01:27
話の途中から、めんどくさいものを拾ってしまったなぁと思う。
教師ですらさじを投げているのに、れいなができるわけない。
でも、その日の夜、あの子の表情が頭に浮かんでよく眠れなかった。こんなこと初めて。
誰かのことが気になって仕方なくなるなんて。中学卒業するまで悪い意味で、そういうことはあったけれど。
いいのか悪いのかわからなかったけれど、悪いことだとはどうしても思えなかった。
ここに住みはじめて一年経って、ようやく悪夢から解放されたのかもしれない。
安倍さんのことは、先輩というか同僚という気分のほうが強くなっていたし。
中学時代の同級生は、れいなにとっては敵だった。家族も親戚も、知ってる人全部が敵だと思うぐらいに。
悔しくてみじめで、どうしようもない日々を送っていたから。
寝るのもつらい。敵が夢に出てくる。起きた時、疲れを感じる。起きてから、学校にいるだけで疲れる。
クラスにいるだけで笑われているような錯覚に陥ったこともあった。
れいなが倒れても、誰も手なんかさしのべなかった。本当に笑われたけれど、どうすることもできなかった。
あの時のことは忘れたくても忘れられない、嫌な記憶だ。
みちしげさんという子もそういう記憶があるのかもしれない。そう思えた。
れいなが気になって仕方がないという事実は、ちょっとだけ学校が楽しいと感じるきっかけにもなった。
153 :一直線に :2012/04/28(土) 01:27
担任に言われたからじゃなく、無視されてもれいなはあいさつをし続けた。
何も返してくれなくても、表情が変わらなくても。無表情なのに、同性から見てもとてもキレイだと思ったから。
それは顔の造形だけではなくて、人間的な何かもあったかもしれない。
言葉にするのはれいなには難しい。
もったいない。その時、感じたことを素直に言葉にするならこれかも。
一か月ほど経った日、あいさつをしたら「しつこい」って返ってきた。
マジでうれしいんやけど。って言ったら、また無視に戻ったけれど。声を聞けたことがとてもうれしかった。
それに思ってる以上にかわいい声だった。男にモテるやろな、って。でもみちしげさん本人は男が怖い。
世の中、うまくまわらない。
テンション上がって、休み時間も話しかけ続けていたら、みちしげさんが立ち上がって廊下に出ていった。
走っていく音が聞こえた。ほんとは嫌だったんだ。すごく落ち込んだ。けど。
心配で心配で、れいなも教室を抜けて廊下を走ってた。だって、またあいつらに絡まれてたら、って。
たくさんの先生に、廊下は走るなと怒鳴られたけど、そんなのどうでもよくなるぐらいに走り回った。
保健室にもいなくて、とにかく空き教室も全部見て回った。

どこ行ったん? どこにおると?

心の中で叫んでも、みちしげさんは応えてくれるわけもなく。
晴れているとは言っても、夕方から夜にむかう時間。無駄に時間だけが過ぎていく。
校舎も飛び出して、さすがにれいなも思いつかなくなってきて、どうしようもなく体育館裏を通りかかる。
154 :一直線に :2012/04/28(土) 01:27
……いた!

「よかったぁ。心配したとよ。教室、もどろ?」

優しく声かけたつもりだったけれど、みちしげさんは泣きだしてしまった。
超イラっときた。

こんなに心配して探したのに何が気にいらんと!
そんなにれいなから話しかけられるのが嫌だったんね。
親切にして損したわ。

最初は思ったことを言ったけど、だんだんと思ってもないことがどんどん口から飛び出していく。
れいなも顔を涙でぐちゃぐちゃに汚しながら、ずっとひどいことを言ってた。
……と思う。そのときは途中から何言ってるかわかんなくなって、結局、教室戻るばいと彼女の手を取った。

「私のこと、心配してほしいなんて言ってない。ただ教室で話しかけないで欲しい」
「なんで? 声、かわいいやん」
「知られたくないの。男の人にそういう情報知られたくないの」
「……わかった。ごめん、れいなが悪かった」
 
155 :一直線に :2012/04/28(土) 01:28
短い会話だったけれど、れいなが謝った途端、笑顔になったのも超かわいくてキュンとした。
なにそれ超かわいいやん! テンションが上がったままになってたのを思い出す。
くすっと笑う、その表情もまた可愛かったけど何も言わずにみちしげさんの言葉を待っていた。
私の下の名前に興味なさそうだし、自分のことはれいなって言うだけだし。
苗字も調べたけど、どこか怖くて返事しづらかったの。
私のこと、先生に頼まれたかとも思ったし。……でも、一か月も話しかけ続けた人はじめて。
あ、道重さんじゃなくてさゆかさゆみんって呼んで。田中さんのことなんて呼べばいい?
すごい、この子めちゃくちゃしゃべる子だ。田中さんなんて呼ばれたのも、どこか久しぶりな気がした。
学校で、きちんと制服着て、隣に同じ制服着てるかわいい女の子に。
大きい声で笑ったら、運の悪いことに担任に見つかってしまって教室に戻された。
けど、二人ともいい表情をしてた、と思う。実際、担任には、君らそんなに仲良くなるとはな、って苦笑されたし。
クラスで会話をかわすことはなくなったけれど、それ以外は超うざいってくらいにうるさくて嬉しい悲鳴をあげた。
156 :一直線に :2012/04/28(土) 01:28
 
157 :一直線に :2012/04/28(土) 01:28
仕事も楽しくなってきた。たくさん出番が増えたから。安倍さんと二人で歌うこともあった。
きついこともいっぱい言われたけれど、何度もオーナーに安倍さんがたしなめられてかわいそうになった。
れいなは、足りないところがあるから注意されちゃうんだって思ってた。
オーナーも何も言わなかったし。
だけど、ロッカールームで一緒になった従業員に話しかけられて真相が見えた。
安倍さん、クビかどうかの瀬戸際らしいのに田中さんにあたってるんでしょ? 大丈夫?
他の従業員にも、年を知れって感じよね、と声をかけられる。
この業界は、思ったよりサイクルが早いのだとれいなも感じていた。
オーナーがわざわざ高校に通わせてくれたのもわかる。
給料が高くなったら切ればいいのだから。何が優しさなのかれいなにはわからない。
それでもオーナーのことも安倍さんのことも優しいのだと信じるしかできない。
158 :一直線に :2012/04/28(土) 01:28
さゆとは、恋愛のこと、卒業後のこと、色々話した。話題はつきない。
れいなの仕事のことにも興味を持っていた。だから安倍さんのことも話した。もちろん名前は伏せたけれど。
そしたら、なんか知り合いだったみたいで、たくさん反論されてへこんだ。
れいなはアルミ缶みたいに、ちょっと圧迫されるとへこむ人間だから。
さゆは、すぐ気づいて翌日、使ってないからと言って新品のカチューシャをプレゼントしてくれた。
人づきあいは相変わらず不器用なままだったけど、一緒にいて心地よい相手になっていた。
れいなもどこか不器用だったからちょうどよかったのかもしれない。
三年生に進級したら、もっとクラスの人数は少なくなった。
あのヤンキーな男の子たちはいつのまにか退学したり、または留年したりしていた。
実直なおじさんおばさんの他には、まじめそうな少年少女、それにさゆとれいな。
担任の男性教師とも少しずつ会話ができるようになり、教室で発声することに怯えなくなっていた。
六月、登校したらさゆが泣いていた。授業始まっても泣いてるもんだから、保健室につれていく。
じっくり話を聞くのは、休み時間と思ったのに無理だった。
慕ってるお姉さんのこと、お姉さんと安倍さんの関係。さゆとお姉さんの関係。
初めて聞く話だった。いや、今までも話をしてるのはれいなだけだった。
うれしかったけれど、とても悲しい話。
159 :一直線に :2012/04/28(土) 01:29
翌日、仕事場に安倍さんが現れることはなかった。さゆの話を聞いてたから、なんとなく想像ついてた。
その前から情緒不安定そうで、れいなの衣装が汚されたり切られたりしていたから。
れいなの出番だけではなく、ヘルプに入ることもあった。
安倍さんの歌の愚痴を、お客さんから聞くこともあった。
想像できてたはずなのに、心にぽっかりと穴が開いた気がした。
アドバイスをくれる先輩だけではなく、ライバルだと思っていたからかもしれない。
お互い切磋琢磨できるライバルだとれいなが信じていたからかもしれない。
登校したとき、さゆに真っ先に相談した。
驚いていたけど、ちゃんと真剣に話を聞いてくれて答えを出そうとしてくれた。
うれしくて泣いた。初めて学校で泣いた時と、違う涙。
卒業しても一緒にいたい、って話した。さゆも泣いた。

れいなが生きていくには、ほんのすこし優しさが足りない『マチ』。
だけど、優しくしあえる人間に出会えたこと、感謝してる。
『マチ』の仕事場も追われるのはもっとあとになってから。
さゆと住み始めてから、オンナノコを引き取るようになったのはまた別の話。

END.
160 :みおん :2012/04/28(土) 01:34
一直線>>には
161 :みおん :2012/04/28(土) 01:35
一直線に>>147-159は、
坂で逢いましょう>>17-19 見えない影>>29-32 道のしっぽ>>57-61 深淵>>64-65 うえ に ある>>66-67 一杯のコーヒー>>118-121
の続き物です。
162 :みおん :2012/05/08(火) 19:50
基本的には続きものじゃない短編か極短か小話です
続かない話を投下します
163 :NO LIFE , NO BOOK. :2012/05/08(火) 19:51
学年が一つ上がった。掲示板でクラス分けを確認すると1組。
里沙ちゃん、麻琴、あさ美ちゃんも同じで嬉しい。中一のときに同じクラスだったんだから、四年ぶりか。
ううん? 五年ぶりかも。あれ? 三年かな? 計算は苦手だからなぁ。
図書館が好きだ。司書室には石川先生がいて、ほんの少し世間話をしてくれる。
先生は読書をしないのに司書になった不思議な先生。
私は誰にも邪魔されずに本を読める、この図書館が好きだ。
クラスメイトもほとんど来ない。来るのはいつも決まった顔ぶれ。
熱心な図書委員と、読書好きな生徒と教師、それだけ。
誰も知らない本を見つけては、真っ白な貸出カードに私の名前を書く。
貸出カードは書籍の最後のページに半分に切った小さな封筒に入れられている。
ここは裏表紙というのよ、と中学生の時に先生に教えてもらった。なんだか、かっこいい。
去年まで何度か図書委員になれたけれど、それでも読んでない本は多い。
CDやDVDも図書だと知れた。借りればいいんやよ安上がりやよ。
教えても、遠いからと言われる。でも、静かな図書館が好きだからこれでいいのかも。

去年より多く階段を上がる、この瞬間が好きだ。慣れてないから緊張する。
廊下に出ると見慣れた顔と制服がたくさん見えて安心するのだけど。
「おはよ」
教室に入り、とりあえず周りにいる新しいクラスメイトに挨拶する。
ほとんど中学からの持ち上がりだから、名前は知らなくても顔は知ってる。
挨拶すれば返ってくる。のに。
ワンテンポ遅れた「おはようございます」、私よりちょっと背が高い子だ。
髪をツインテールにして、かわいらしい。
164 :NO LIFE , NO BOOK. :2012/05/08(火) 19:51
ふふっ、と笑うと私のことを不思議なものを見ているようにじーっと見つめてきた。
「道、重、さゆみ、です……」
ゆっくりとした発音なのに、もごもごとどこか聞こえにくい。
「あっ、はじめましてぇ。たかはしゃあいです」
うっわー! 緊張してるからか早口になっちゃってまた噛んじゃった。
そのときはそれだけで終わった。ちょうど担任の先生が入ってきちゃったから。

帰宅前のあさ美ちゃんと話が弾む。進学のことを考えてなきゃいけないし。
けど、それでも読書はやめられない! 始業式だろうと図書館へ向かう。
図書館の扉を開けようとドアノブ手をかけると、中から開いて生徒が出てくる。
あ、れ……?
「道重さん、どーしたん。本好きなんか」
っと、びっくりさせちゃったみたい。
「え、あ。ごめん、今まで図書館に来る同級生なんかいなかったから……」
ただの言い訳やん! と思いながらも唇の動きは止まらなかった。こういうときはなめらかなのに。
あんまり親しくないのに、しゃべりかけたのが悪いのかな。
「あ、明日もよろしくなぁ」
ドアノブにかけた手を離して、一人中に入ろうとする。
「……さよなら」
歩き出してからワンテンポ遅れた挨拶が聞こえて、後ろを振り返るように彼女の顔を見る。
ピンク色の肌に黒くて大きな瞳と真っ赤な唇が鮮やかでキレイだと感じた。
少女、ではない、女、だ。きっと本人は気づいてないのだろう。
なぜか直感的にそう思った。クラスにいる異質な存在ほど危険なものはない。
そのまま歩いていたようで、扉が閉まる音がして彼女がいなくなったことに気づいた。
165 :NO LIFE , NO BOOK. :2012/05/08(火) 19:51
 
166 :NO LIFE , NO BOOK. :2012/05/08(火) 19:52
薄暗さと人がいない空気に触れる。
今日は早く帰れるのだから、家で読書しよう。本の世界に没頭しよう。
私の知らない世界、誰かが救われる世界。私の知らない知識、誰かに教えてもらう知識。
「お。今日も高橋、来たね。熱心ねぇ」
司書室から石川先生が顔を出す。
「あ、先生、新刊入ってますよね?」
ニヤリと先生が笑いながら手招きされる。
「ね、新しく来た先生が持ってきたおまんじゅう食べない?」
「やったぁ! 食べますー」
司書室に入ったときには、道重さんのことは忘れてしまった。
新しく来た先生の話(ちょっと目つきが怖いみたい)、
おまじゅうのおいしさ(緑茶と一緒に飲むと本当においしい)、
新しく入れた本の話(いつもと違うジャンルを読むといいかもって)。
知ってる人との会話はやっぱり楽しい。
四月はただでさえ緊張しやすいんだから、本を読んでやりすごそうっと。
うん、今年も穏やかに過ごせるといいな。

 END.
167 :坂の途中にて :2012/05/15(火) 23:52
保田が会計を済ませて『ハニホヘト』を出たとき、すでに二人はにらみあっていた。
「なっち! 何してんの!」
いい大人になったのにまだ自覚がないのか、と保田は呆れた。
安倍の目の前にいる少女は、髪の毛を染めているし化粧もしているのだが、高校生ぐらいにみえる。
小学校にあがったばかりの女の子と手をつないでいる少女。姉妹だろうか、と保田は考える。
「なんで家に帰らないと!?」
「そんなの田中ちゃんには関係ない。圭ちゃん行こ」
安倍は保田の右腕を強引に引っ張り、坂をくだろうと足を動かす。
「ちょ、ちょっと待ってよ、話が見えない」
安倍に抵抗するように足を止め、腕を離そうと力を入れるが安倍は引っ張り続けている。
けーちゃん、何やってんの。話は終わってんだから。早くしないとタイムセール終わっちゃうよ。
いつにもまして説得力のある言葉が安倍から飛び出すことに保田は驚いていた。
田中ちゃんと呼ばれた少女は眉間にしわを寄せ、肩も上がっている。安倍の背中に向けて田中は声を飛ばす。
「さゆは、さゆは……安倍さんの代わりに中澤さんの看病してるんですよ!」
怒ってもいるが悲しい叫びとして、保田の耳には聞こえた。
「どーせなっちがいなかったらみんな幸せなんでしょ! 田中ちゃんも圭ちゃんも!」
その叫びに応じるように、安倍が叫ぶ。そして、やっと腕を離す。
と、同時に田中の隣にいる女の子が左手で左耳をふさぐ。
保田は田中と女の子のほうを向いた。
「ここじゃなんだ、うちにおいでよ。いいでしょ、なっち」
頭を垂れ、下唇をかみしめているように保田には見えた。
田中には見えないかもしれないとも保田は思った。ぶんぶんと左右に首を振る安倍。
168 :坂の途中にて :2012/05/15(火) 23:53
「すみません、言いすぎました」
安倍の態度を見て、田中は謝罪を述べ深々と安倍と保田に頭を下げた。
「ママ、おねーさん泣いてるよー」
女の子が安倍を指さす。いじめちゃだめー、と田中の手を引っ張る。
「りほごめん。ママ、イライラしてた。……安倍さん、ごめんなさい」
もう一度、田中は深々と頭を下げた。安倍の頭が深く上下に揺れる。右腕の袖口で涙をぬぐったようにみえる。
しかし、うん、という安倍の返事は保田の耳にすら届かなかった。
「あの、さゆもりほも……安倍さんがつくったシチューおいしかったって言ってたっけん、また」
つくってほしいっちゃ。お願いする田中の声が震えている。れーなもおいしって思ったっけん!
強い想いが届いたのか、安倍は、うん、と大きな声で返事する。
「圭ちゃんの家でおいしいもの作ったげる。しげさんも呼んで、ね」
はいっ! 田中の嬉しそうな返事が寒空に響く。りほという女の子も、いつのまにかはしゃいでいる。

保田はまったく話が見えなかった。同居している三好からちょくちょく聞いている話も思い出していた。
田中という子の話だ。同じ子なのかはまだわからない。少なくとも安倍のことも中澤のことも知っている。
それはわかる。中澤の看病、という今の情報を知れるのはいいことだ。
手持ちの情報が少なすぎると感じていた。優しくして損はないだろうと判断する。
名刺の裏に簡単な地図を書いて渡しながら、自己紹介する。
「やすだけい、と申します。名刺だから、表に住所も書いてあるし、迷ったら電話してもオーケー」
やすださん……? 三好ちゃんと住んでる人っちゃね。
田中に言われ、苦笑する。やはりこの子だったのか。なら話は早い。
やっと安倍から解放される! 早く中澤に返したい!
それもあと少しの辛抱だと保田は気を強く持ち直した。

 END.
169 :百合の日々は :2012/05/23(水) 21:42
お風呂あがりの聖の身体からたつ白い湯気。もくもく、もくもく。
えりは芳香だと思った。ただのボディーソープの匂いでも、聖の色気の香りだ。
「みずき」
声をかけて、裸のまま両手で彼女の両肩をうしろからつかむ。
「新垣先輩いなくなって、もうさびしくなった?」
ひたいを聖の首のつけ根にあてると、あたたかさが伝線してくるよう。
えりの気持ちもきっと伝わる。
「ねぇ、早く着替えないと風邪ひいちゃう」
その言い方が妙に幼くて焦っていて、ふっと笑いそうになる。
「……みずき」
両手は肩から腕にかけてなぞるようにすべっていく。
たまに彼女の凹凸に止まって、今度は身体のラインをなぞる。
頬を背中にひっつけて、湯気と彼女からのぼるあたたかさを堪能する。
「えり?」
不安そうな聖の声がいたたまれない。
だから、そっと背中にくちづける。
「大丈夫っちゃ、えりは新垣さんおらんくても大丈夫っちゃけん」
「うん」
うん、とえりも返事をした。聖の声も、えりの声も涙がまじっていた。

 END.
170 :――夏日でも、私たちには味方だよ。 :2012/05/29(火) 22:24
初めてのお誘いは、あゆみちゃんからだった。
中間考査は五月第三週の後半にあり、第四週の前半にはすべての教科が返ってきた。
気も緩む六月前、お昼前にはぐっと気温が上昇。
女子高なのに、制服のスカートをだらしなく広げてぱたぱたとあおる同級生がたくさんいる。
そんなことをしている友人たちが急にいやらしく感じて、仙台から越してきたあゆみちゃんに声をかけた。
お昼、一緒に食べよう。中庭の大きな木陰の下に二人で座る。涼しい風が気持ちよい。
このまま、ここにいたいね。つい、みずきが漏らした一言がきっかけ。
午後の授業、サボっちゃおうよ。爽やかな誘惑。葉っぱが揺れると、きらきらと影も動く。
この暑さ気持ち悪いし、授業受けるなんて無理だと思う。あゆみちゃんの声はどこも媚びていないのに。
サボれるのは学校に通ってる今だけだよ! 畳みかけるように次の言葉が紡がれる。
みずきは、小さな声でダメだよって言うしかできなくて、天気のことが心配だったけど口にはしなかった。
自転車で遠いところに行っちゃえばわかんないもんだよ! と力説するあゆみちゃんが可愛いから。
東京から離れたことないみずきにはわからないこともあるんだろうな。

みずきよりだいぶ背の低いあゆみちゃんが自転車を漕いで、みずきはちゃっかり後ろに座る。
何度も大丈夫と聞いたのに、それでも大丈夫だからとしか返さなかった。
だから「イエーイ! 出発進行っ」なんて盛りあげてみたのに。
足を離した瞬間、あゆみちゃんは「重いっ!」と叫んで、ぐぐぅと腹の底から息を漏らす。
立ち乗りにして、って言われたけどわからない。結局、みずきが漕いであゆみちゃんが後ろに乗ることに。
171 :――夏日でも、私たちには味方だよ。 :2012/05/29(火) 22:25
昼休み終わる直前に裏門から走り出す。
どこまでも早くどこまでも遠く、みんなが知らない場所にたどりつきたい。
暑い、熱いっ! あつい! あつーい!
有名なコンビニマークに100の数字がついてるお店が見えてきて、自転車を止める。
「どうしたの?」
「アイス食べたくない?」
「食べたい!」
いたずらっ子のような幼い笑顔を見て、みずきも嬉しくなる。
これ、全部百円なのっ!? コンビニなのに!? すごーい、色んな種類があるぅ。

あゆみちゃんは最初から決めてたというアイスを持ち、うふふと笑いながらパッケージを開ける。
みずきは木のさじを持ち、カップアイスのふたをあける。とてもおいしそう。いただきまーす。
口に放りこむと、じんわりと冷たさが広がって、あとから甘いチョコの味が喉にくる。
しゃりしゃりとかき氷を食べる音がして、あゆみちゃんを見ると真っ赤な三角形のアイスバーを持っている。
あ、これ、スイカじゃない。
「それって、スイカの味するの?」
「えっ。食べたことないの。種はチョコなんだよ、おいしいよー! おっと」
気温の上昇とともに溶けるのも早くなる。指にたれたアイスを舌でなめるあゆみちゃんが子どものようだ。
背が低いから、体の全部がみずきより小さいんだ。簡単にわかることも、なぜか新鮮に感じる。
液体と化す前に、アイスを食べ終わらせる。時間との勝負。
「ちょっと歩こうよ。ほら、カロリー消費しないと」
高校生ともなれば彼氏できたなんて噂も、同級生からちらほら聞く。
メイクにダイエットにおしゃれに、友だちの話も多種多様になったと気づく。
あゆみちゃんが自転車を押して、みずきはその隣を歩く。
172 :――夏日でも、私たちには味方だよ。 :2012/05/29(火) 22:25
「私、みずきちゃんに声かけて良かったと思ってる。友だち多いし、田舎者の私でも気にしないし」
そんなことを言いだす理由を深く考えたことがなかった。
「普通に友だちの輪に入れてくれるし、すごく嬉しくて。でも……その優しさに甘えていいのかなって」
高校生になったんだし、と続けた彼女の声はかすれていた。
冷たくて強い風がスカートをめくりあげようとする。空も黒くて厚い雲が早く動いているのが見える。
遠くに見える小さな空は明るいのもわかる。きっと天気予報で言ってたゲリラ豪雨みたいなものだ。
どこかアーケードのような、雨をしのげる場所を見つけないと。
「どうしよう。ごめんね、強引に誘ったの私だし……」
泣きそうな声でつぶやくあゆみちゃんを無視するように、こっち! と大きく声で指示を出す。
大きくうなずいて、走り出す。二人とも自分の足で迷わずに走り出す。

私鉄沿線の小さなアーケードに入る。ごろごろと雷の音が右からも左からも聞こえる。
すぐに雨粒が激しく叩きつける音も加わる。雨が降り出すと、風は弱まったようだ。
なんとか濡れずに済んだ。自宅近くの駅前アーケード。ここからなら、自宅にも濡れずに行ける。
近所のおばさんたちに挨拶を返しながら目指す。
そういえば、入学式直後のあゆみちゃんは空回りしてたな、と思い出す。
とても元気が良いあいさつで、みずきは好感を持っていたのだけど。
周りはそうでもなかった。子供っぽいとかいって。それこそ、田舎丸出しって言ってた子もいた。
中学生までのノリで注意してたらみずきが避けられてて、だからあゆみちゃんも声をかけやすくなっていた。
玄関をあけ、あゆみちゃんに自転車入れてと声をかけると、小さくうなずく。
「アイス食べなきゃよかったね、体冷えちゃったよね」
「ごめんなさい」
「謝らないで」
173 :――夏日でも、私たちには味方だよ。 :2012/05/29(火) 22:25
二階の自室に招き入れる。カバンを定位置に置くと、おもむろに押入れのふすまを開け毛布を引っ張り出した。
「寒かったでしょ」
「大丈夫、だから」
きっと強がりなだけなんだと思う。色んな家庭の事情があると知らなかったから。
東京だったらちょっとした距離でも電車通学だし、学生割引で定期買っちゃえばいいし。
なんて、簡単に思ってしまうけれど。
知られたくないことがたくさんあって、どんなことでも大丈夫って言い聞かせてればなんとかなる場所じゃない。
努力しても伝わらないことや報われないことがって、それでも人は誰かと関係を作る。
毛布を広げて、身体ごとまるごと包む。みずきの両腕はあゆみちゃんの身体をそっと抱きしめる。
「……聞いて。みずきはあゆみちゃんに嫉妬してたの」
つらつらと自分の思いを打ち明ける。
小さくてかわいいから、みずきより人気者になるのが怖かったこと。
勉強ができないみずきをバカにするんじゃないか。
みずきと仲良くしてたことなんか忘れてしまうんじゃないか。
他のグループの子と仲良くなんかしないで。
だから、このままここにいたいって言っちゃったの。
けど、さっきだってみずきのこと心配してくれるし、優しくお話聞いてくれるし。
知らないこともいっぱいいっぱい教えてくれる。
みずき以外の子と仲良くなんかならないで。ごめんね、こんなこと思ってて。
「大丈夫だよ。みずきちゃん以外の子とも仲良くなりたいから、無理なお願いではあるけど」
うん、大丈夫。さわやかな笑顔をみずきに見せてこう言った。
「ずっと友だちでしょ? みずきちゃんは私と友だちだと思ってなかったの」
いたずらっ子の表情でにひひと笑った。

 END.
174 :姉と猫 :2012/06/19(火) 21:32
別々に住んでいた姉とまた同居するようになった。
何年ぶりだろう。私が成人してからだと初めてになるのか。
猫と一緒にやってきた姉は、きれいになっていた。
いや、この間会ったばかりだけど。
それでも、そう思った。
姉は決まった仕事をしてるわけではない。だから、猫の世話を一日中してられる。
私には仕事がある。いってきますと出かけると、いってらっしゃいと返ってくる。
家に帰ってただいまと声をかけると、おかえりと姉が言ってくれる。
安心する。見知った人の存在。
会社はたくさんの新人が右往左往していて、その人間関係に巻き込まれるとこちらも疲弊する。
だからかもしれない。
中堅と言われるようになった自分の地位がほんの少し重い。
部署のリーダーを任されて責任感が芽生えるとともに、不自由が増える。

――夜になると姉がネコになる。
私は自由にネコになった姉を撫でまわす。
はしゃがせ、かわいい声で鳴かせ、ゆっくりと眠りにつかせる。
175 :姉と猫 :2012/06/19(火) 21:32
六月にしては珍しく台風が日本列島に上陸するという予報が出た。
「明日、お姉ちゃんの誕生日だね」
「そやな、ケーキ買うてきて」
「うん、わかった。早く帰れるかもしれないし」
姉は、大阪で仕事していたころに覚えた関西弁を今でも使っている。
元々生まれが西日本の私たちにはちょうどいいのかもしれない。
「さゆ、だいすきやで」
「わたしもおねーちゃんのこと、だぁーいすきだよ」

台風が思ったよりも早いスピードで移動しているとのことで、早めに帰宅する。
閉まりかけているケーキ屋にかけこみ、なんとか買って帰ることができた。
夕飯の支度を二人でして、おかずがいつもより一品増えただけで楽しく思える。
強い風にあおられて小さな雨粒が窓にぶつかる音も聞こえる。
「おねーちゃん、晴れ女なのにね」
「……いつもと違う誕生日も記憶に残るやん」
姉は私に優しくて、気遣ってくれる。
今夜もきっと、姉はネコになる。

夏が来たらいなくなる、そんな予感を胸にネコの姉を抱いた。
新しい相手をいつの間にか捕まえていつの間にか私の前からいなくなってるんだ。
野良猫のようにお腹をふくらませて。

 END.
176 :姉と猫 :2012/06/19(火) 21:33
誕生日&ご懐妊おめでとうございます
177 :本当は違うんだ入門 :2012/06/20(水) 20:56
「もしもし?」
久しぶりに聞こえる絵梨香の声がぼんやりと耳の奥にひろがる。
『……保田さん?』
緊張気味に震えた音声が脳に到達するまでゆっくりと時間を楽しむ。
「札幌、どう?」
問いには答えずに質問を返した。
『あの……頑張ってますよ。今までみたいな大きな会場での舞台はないですけど。
でも、試合にはたくさんの観客が来てくれますし。東京では味わえない違う緊張感です。
家に帰れば祖母がいるので、そこが違うところですけど。気候も全然違うし』
濁そうと思って口を開いたら、言いたいことが出てしまったというところか。
「試合、出てないでしょ。爪が長かったとかで」
――ブログ、読んでるんですか。
諦めにも似た呟きが電話越しから聞こえてきた。
――どうして、どうして。
「絵梨香のそういうところ、変わってないね。彼氏できたんでしょ?」
『いませんよ、それどころじゃないんですから』
鼻から勢いよく息が飛んだような、ムッとしたのがわかる。
178 :本当は違うんだ入門 :2012/06/20(水) 20:56
……おやおや、それはいけませんね。
いつも見てる刑事ドラマの主人公の口癖が、頭をよぎる。
私と同じブログ会社に移ったから、更新を確認するのは簡単だ。
それに、冬の舞台が決まった。絵梨香とはその前に会えるようになるだろう。
この夏を越したら、きっと。
胸を焦がすのは、夏の太陽じゃなくて絵梨香への熱い想い。
『中澤さんに妊娠おめでとうございますとお伝えください。おやすみなさい』
「ありがとう、逃がさないからね、いとしの絵梨香」
『そういうのやめてください! 何度も言ったじゃないですか!』
「……でも優しいから、電話、切れないんでしょ」
ブツッと音声が途切れ、ツーツーと冷たく無機質な音が耳の奥から脳に伝わっていく。
台風のように、荒れたままの心が絵梨香を欲している。
耳が、絵梨香の声を。
目が、絵梨香の姿を。
手が、絵梨香の身体を。
本当は触りたくてたまらない。遠いからこそ、愛おしい。
私の指で絵梨香をとろけさせたい。
今夜の台風をやり過ごせば、夏がくるかもしれない。

 END.
179 :定期目次 :2012/06/20(水) 20:59
お米の話(ゆゆマコ)>>2 おなじきもち(ゆゆこは)>>5 スイートルーム(やすみよ)>>7-8 radar>>11-14 
坂で逢いましょう>>17-19 「いっしょに月をみよう」(やすみよ)>>20-21 おひとりさま(ゆゆあや)>>22-24 
恋愛革命2011>>25 論考『娘。小説とはなにか』――自分へのいましめ>>26-28 
見えない影(坂で逢いましょうの続き)>>29-32 月のさびしさ(ゆうちょ)>>34 
Cat and Chocolate(ゆゆさゆエロ)>>35-41 のりあう>>42 生き長らえる橋>>43 
カンジんなしごと(なかよし)>>44 憧憬(りかみき)>>45-47 プロポーズ大作戦(やすみよ)>>48-49 
賽は投げられた>>50 ゆるい放物線を描く(℃)>>51-52 須藤茉麻が痩せた理由>>53
夢みるあたし(憧憬の続き)>>56 道のしっぽ(見えない影の続き)>>57-61 大雪の話>>62
ドジでノロマなヒヨコです>>63 深淵(道のしっぽの続き)>>64-65 うえ に ある(深淵の続き)>>66-67
春はまだ先に>>68-76 愛されパターン>>77-81 さゆみは乙女なの>>82 僕は彼女の幸福を知りたい>>83
僕は道重さんを知りたい>>84 僕はこの場の平和を願わずにはいられない>>86-87
春空を待つダ・カーポ>>88 聖・少女領域>>90-92 真夜中の電話>>93‐108
なごり雪も降る時を知り>>110-116 一杯のコーヒー(うえ に あるの続き)>>118-121
可愛いは必要なの>>123-125 卵殻>>126 人という生き物>>127
さよならを知らないままで(やすみよ)>>130-136 はるなの(さゆはう)>>137-140
かわいい話>>141 (恋人のような顔をして)(やぐちゅー)>>142-146 一直線に>>147-159
NO LIFE , NO BOOK.>>163-166 坂の途中にて(一杯のコーヒーの続き)>>167-168 百合の日々は>>169
――夏日でも、私たちには味方だよ。(あゆみずき)>>170-173 姉と猫>>174-175
本当は違うんだ入門(やすみよ)>>177-178
180 :現実体験 :2012/06/25(月) 00:59
今日も東京にいる保田さんから着信アリ。
台風の翌日は夏至だったから、暦の上では真夏をすぎたことになる。
昼の時間も早いけれど、夜の時間も早い。
一日が過ぎるのもあっという間だ。
保田さんから突然電話があった日、翌日の夏至にも着信があった。
それから途切れることなく着信だけは残されている。

夜、思い出すのは保田さんのこと。
東京にいる、保田さんのこと。
もう蒸し暑いのだろうか。それとも夜はまだ、涼しい風が吹いて寒く感じるのだろうか。
181 :現実体験 :2012/06/25(月) 01:00
とめどめとなく考えていたことがイメージとして頭に浮かぶと、それが呼び水となり、記憶が思い出される。
初めて保田さんが触れてくれたのはいつだっただろうか。
キャッキャッと遊びの中で肌が触れあったり肩をたたき合ったりしたのとは違う、ふれあい。
そこから、連続して初めてを体験していく。
少しだけいじわるで私を恥ずかしがらせる。
テレビで見てた芸能人が、輝いているタレントが、私を抱いている。
その事実もまた、私を興奮させる。
男に抱かれるのとは違う感覚。いや、同じ感覚なのかもしれない。

――絵梨香。快楽を受け入れたら、堕ちていくのは一瞬よ。

耳が、保田さんのいじわるな言葉を。
心が、保田さんがもたらす快楽を。
身体が、保田さんの攻撃的な指を。
夏の夜は明け易いから、秋の夜を恋しく思う。

 END.
182 :道重さゆみのお祭りなの :2012/06/26(火) 22:00
道重さゆみのお祭りなの

道重は『キスがしたくなる飴』と書いてある袋を楽屋のテーブルに置いた。
910期メンバーが学校から帰ってくる時間に合わせた。
昨日は指祭りというアイドル祭りが行われていた日。
アイドルDDの道重さゆみとしては行きたくてしょうがなかったのだが、仕事があるわけで仕方がない。
だからこそ、今日は道重さゆみのお祭りなのだと考えていた。
舞台はスケジュールの都合と一人はぶられ、話についていけないツライ日々を送っていた。
だがしかし! そんなことを忘れるぐらい盛り上がろうではないか!
そのための指祭り! その翌日はリーダー権限で! いや、先輩権限で!
中澤さんがリーダーだった頃に、メンバーにキスしまくってたという話を小耳に挟んだことだし!
さゆみも頑張るの、と心に誓う。

最初に佐藤工藤の中一コンビがやってくる。続いて、鈴木。この三人は思った通りに飴に目もくれない。
高校生の石田譜久村飯窪が入ってくる。
飯窪が「何ですか? コレ」と袋を手に取った。石田と譜久村が袋をのぞきこむ。
「道重さん、したいなら言ってくださいよ! みずき、待ってるのに……」
あー、また始まったよ、勝手にやってれば、という感じで大きなため息をつく鈴木。
183 :道重さゆみのお祭りなの :2012/06/26(火) 22:00
道重は心の中でくすりと笑う。ここまでは思い通りだった。
石田の反応が違う。顔が青白い。
「ちょ、ちょっと! 道重さん! これ早くしまってください!」
あれ? この間までなら道重さん道重さんと何でも言うことを聞いてくれたのに。
あまりにもりほりほに入れ込みすぎて、りほりほ周りの他メンバーの情報が頭から抜け落ちてたのだ。
「鞘師さんが帰ってくる前に早く! しまってください! こんなの見たら……」
そうこうしてるうちに生田が来た。
「もー、何をそんなに騒いでるんですかぁ? 廊下まで聞こえましたよぉー」
「生田さん、石田さんが鞘師さんと早くしたいそうです」
「ちょ、ちょっとまーちゃん!」
「ふーん」
生田は対して興味もなさそうに、会話を終わらせる。
そして、石田も道重も気づかなかった。生田が開けっ放しにしたドアから鞘師が遅れて入ってきたのを。
「あゆみちゃんの唇、今日もプルプルだねっ! おはよー!」
「変です、変ですってば、鞘師さんの挨拶っ!」
生田が飯窪から「なにこれぇ」と袋を奪う。
「みずぽん、これ、ガキさんに渡したらキスしてくれると?」
184 :道重さゆみのお祭りなの :2012/06/26(火) 22:01
「みずきはえりとしたいな。うふふ」

道重一人、今日もはぶられ祭りだった。はぶられといったられいなだったのになぜ。
れいなの周りには、佐藤と工藤がまとわりついている。道重がリーダーに就任してからはいつものことだ。
飯窪は飴をなめはじめた。
「キスしたいなら、なめればいいじゃないですか」
道重にそっと個包装の飴を渡す。
「あ、ありがとう」
甘い匂いが近づいたかと思うと、道重の頬にやわらかいものが触れた。
ふふっ、とにっこり笑う飯窪さんを純粋だなぁと思う。

お祭りは夏が本番なの。毎日お祭りなの。また計画を練り直すなの。
序ノ口にすぎないの。はるなんには悪いけど、やつはさゆチルのなかでも最弱……。
狙うはりほりほの唇なのっ! 来月はさゆみの誕生日もあるの、また頑張るの、と強く誓い直した。

 END.
185 :おやゆびひめ :2012/07/03(火) 22:47
――足の指を舐めたい。
親指だ。口を開けて、赤い舌を出して、無心になってペロペロと舐めたい。
そうそう、右足の親指を口に含みたい。
べたべたになったら絵梨香は怒るかもしれない。
その顔が見たい。表情が見たい。
無心に舐めくさってる間、絵梨香は私を見つめてくれるかもしれない。
視線の先には、自分の指を舐めてくれる芸能界の先輩がいる。
私は知らないふりしてとにかく舐め続ける。
親指を口に含ませて、唾液をたくさん出しながら、ちゅぱちゅぱと吸いたい。
口から出し入れしたい。いくらなんでも恍惚の表情にはならないだろう。
「保田さん、もうやめてください」と言いながら右手の人差し指を唇に持っていくかも。
そうやって私を誘うのだ。視線や目つきではない。声で誘う子なのだ。

東京と札幌の物理的距離はあるが、精神的距離は近い。
ブログを読めば、どんな状況か理解できる。
フットサルの練習で足を痛め、親指の爪が浮き流血したそうだ。
ぼーっとしながら読んだが、ふと、舐めたい、足の指を舐めたいと強く願った。
186 :おやゆびひめ :2012/07/03(火) 22:48
短冊にでも書けば願いは叶うかもしれない。
白くて長い紙に、足の指を舐めたい、とだけ書くのは気が引ける。
いっそのことメールで伝えてみてはどうか。
書くだけ書いてみようか、短冊に。そして撮ってメールに添付すればいい。
開いてくれるだろうか。

そこまで考え悩んだところで気づく。
私の右手は自分の胸をさすり揉みくだしている。
左手人差し指はだらだらと口の端から流れる唾液を受け止めつづけている。

   さ び し い

会えない日々を埋める手段は一つしか私は知らない。
きっと絵梨香も同じことしてると信じる。
電話では私にひどいことを言うけれど、直に会えば爪が浮くぐらいの甘いセリフを吐いてくれるのだ。
また楽しいコトしようね、絵梨香。

 END.
187 :Color Bird :2012/07/10(火) 01:05
連絡方法がどんなに変わったとしても、変わらない人間関係がある。

携帯電話を手に取る。メール一つ送信すればすぐ逢えるけれど、見慣れた九ケタの数字を表示する。
耳にあてると、無機質な冷たさを感じる。プルルルルという機械音が心地よい。
「あ、さゆ? れーなやけど予定キャンセルばい。すぐ出て来れるっちゃろ?
 さっき安倍さんに会ったとよ。話したらなんとかなりそうやし。……りほ? 一緒に行くっちゃよ」
電話を切る頃には、携帯電話自身が熱を帯びている。買い替え時か。
ゆっくりと決めたばかりの待ち合わせ場所に歩いていく。

保田宅には迷わず着くことができた。
よくあるマンションと思いきや、ワンフロアワンルームの高級マンションのようだ。
緊張した面持ちでれいなは保田宅のチャイムを押す。
すぐにハーイという声が奥から聞こえた。
三好ちゃんっちゃ。田中が言うと、道重は誰と聞く。
188 :Color Bird :2012/07/10(火) 01:07
答えを促す前に扉が開く。
「早かったね。ってゆーか田中ちゃん久しぶりじゃなーい! んもー!」
田中は嬉しそうに玄関の中に入っていく。
りほと顔を見合わせた後、道重も中に入る。
広い。自宅アパートより何倍も広い。
まっすぐ伸びる廊下の先に、明るくて広いリビングがある。
わぁと三人の声が部屋に響いた。
「いらっしゃい。はじめまして、道重さん」
隣のキッチンから保田が姿を見せる。奥にはエプロンをつけた安倍が忙しく動いている。
保田は三人に近づくとゆっくりと手を伸ばす。誘われるように、田中、りほ、道重の順に握手した。
そのまま手をキッチンから遠いほうのソファを指し示す。
三好と保田は顔を見、小さく頷き合う。
「りほちゃん、ちょっとお姉さんと一緒に遊ぼうね」
優しく三好が声をかける。りほは道重の表情を窺う。彼女は穏やかに頷いた。
「ありがとうございます」
丁寧にお辞儀をする。こういう時、田中は特に何もしない。焦るように頭をかく。
それもかわいらしいと道重は思っている。
りほが早足で三好のあとをついていく。気づいた三好が振り返り、小さな手を握るところを見届けた。
「じゃあ聞かせて?」

保田との話は手早く終わらせた。
やっぱり鍵は裕ちゃんかー、溜息とともに保田が愚痴を吐き出す。
189 :Color Bird :2012/07/10(火) 01:08
なっちも核心部分は話してくれないしなぁ。どうにかするから、そんな心配しなさんな。
……なんて、ね。田中ちゃんって言ったっけ、時々絵梨香を連れ出してほしいの。
そうすれば時間稼げるしさ。なっちとも裕ちゃんとも話し合いの時間を持てると思うから。
「けーちゃーん、シゲさーん! できたよー!」
安倍の弾んだ声がリビングの奥まで届く。鍛え抜かれた声が空気を震わせる。
「はーい!!」
保田が返事をする。ごめんね、絵梨香とりほちゃん呼んできて、と二人に声をかけた。
キッチンに急ぐ保田を見て、二人は立ち上がる。
「絵梨香って三好ちゃんの下の名前だっちゃ」
田中の言葉に道重は頷く。
「どうしよう。さゆみが家出の原因だったら、どうしよう」
道重の声は震えている。
「どうもできないっちゃ。どうにかなるしかないっちゃよ」
落ち着いた声で田中が諭す。
「……うん、なるようにしかならないんだよね」

キッチン寄りのテーブルに六人が座る。
席順は保田の隣に三好、三好の対面に田中、保田の対面に道重。
保田と道重の間の誕生日席に安倍、三好と田中の間の誕生日席にりほ。
焦げ茶のテーブルに、白いテーブルクロス。
綺麗なお皿に盛りつけられたのは、大きめのハンバーグとサラダ。
190 :Color Bird :2012/07/10(火) 01:10
「じゃあ、なっちに感謝して……」
保田が手を合わせようとしたとき、道重が小さな呟きを吐き出す。
「……シゲさん?」
道重の脳裏に、あの夜のシチューが思い返される。
あの時、安倍さんが何を言ったのか知っている。
いや、記憶が混ざっている。
そうだ、りほを迎えに公園に行った時。
それも違う。
あの日、会ってすぐだ。
会話をし始めてすぐにこう言った。

「いるようでいないから」
さっきよりもはっきりと道重は声に出す。
「どういうことっちゃ」
田中が怪訝な表情で道重を見る。
「安倍さん、いるようでいないから、とはどういう意味ですか」

 END.
191 :みおん :2012/07/10(火) 01:13
Color Bird>>187-190はこれの続き物になります
坂で逢いましょう>>17-19 見えない影>>29-32 道のしっぽ>>57-61 深淵>>64-65 うえ に ある>>66-67
一杯のコーヒー>>118-121 一直線に>>147-159 坂の途中にて>>167-168
192 :先輩の美しい名を呼ぶ私。線から面へとつなぐ優しさ :2012/09/09(日) 18:27
広大な住宅地から、坂の下にある川沿いを眺める。
全ての欲望を包み込む光が歓楽街を照らし続けている。
光の根源は奈落の底まで引っ張り込む、小さな、だけど真っ黒な闇。
正体も知らずに誘われて、後悔して岸辺を目指してあがく。生き伸びるために。
キラキラと輝き続ける光が眩しくて眩しくてつらかった。
安倍も田中も追われるように『マチ』から逃げた。

あの日、救ってくれたのは中澤だった。
「もう見てられへん! おいでや」
差しのべられた片手は、力強くて凛々しかった。
いつまでこの手を握っていられるのかわからない。でも、今は少しだけ休憩したい。

ステージに上がっている時は何も考えない。考えられない。
時間が過ぎていくのも楽しくて、ずっとずっと立っていられるように努力を怠らなかった。
誰よりも、いや、過去の自分を乗り越えるために努力し続けられた。
最高の自分を超えられるのは、今の自分しかいないから。
それでも勢いだけで生きていくパワーはとうに失っていた。
隣を走る田中れいなという存在が、何かを持たなくても勢いだけで生きている。
それを見続けることは安倍には不可能だった。並走もできずに失速していく。
当時は、田中に追い出されたのだと感じた。
――今は違う。
距離を置いて生活することで、たくさん取り戻したものがある。
暴れすぎない感情、穏やかに過ごせる時間、誰かがいるだけで安らぐ空間。
「無理しなくてええんやで。なっちのしたいことやりぃ」
「うん、裕ちゃんありがと」
193 :先輩の美しい名を呼ぶ私。線から面へとつなぐ優しさ :2012/09/09(日) 18:28
 
194 :先輩の美しい名を呼ぶ私。線から面へとつなぐ優しさ :2012/09/09(日) 18:28
いつからか中澤の仕事が忙しくなる。保田から仕事を回されてる、と話していた。
道重さゆみという存在を知ったのも、その頃だった。
中澤はちょくちょく彼女から電話を取り、出かけた。
「ちょっと出かける」とだけ言って、外出する。何をしているのか知りたくもなかった。
失う、取り戻す。バランスだけをとろうとするから、まともに走れない。
何を失ったのか。元から持っていなかったんじゃないか。
みんなは最初から持っていて、私だけ持っていないものがあるんじゃないのか。



「安倍さん」
道重の声が聞こえる。意識を現在へと戻す。
「中澤さんは、安倍さんの隣にずっといましたよ」
……違ったんですか。
ゆるやかな問いに安倍の息がつまる。
――ステージ上で歌詞を忘れた時、よくこうなったことを思い出した。
仕事をはじめたころ。歌えなくなった現実をどこかで認めてないのかもしれない。
「れーなは安倍さんの歌声、好きでしたよ」
ぽつんと田中が呟く。田中だって、今は歌の仕事は続けられてない。
好き嫌いで仕事が選べればいい。それで食っていければいい。
そうはならないことを安倍も田中も保田も知っている。きっと、中澤も。
だから、手を差し伸べてくれた。悩んで悩んで悩みぬいて、安倍のために決意してくれた。
たった一人の人間のために。

「なっち、おうちにかえろっかな」
195 :みおん :2012/09/09(日) 18:29
先輩の美しい名を呼ぶ私。線から面へとつなぐ優しさ>>192-194は下記の続き物になります
坂で逢いましょう>>17-19 見えない影>>29-32 道のしっぽ>>57-61 深淵>>64-65 うえ に ある>>66-67
一杯のコーヒー>>118-121 一直線に>>147-159 坂の途中にて>>167-168 Color Bird>>187-190
196 :道重さゆみの流れ星全部イチャイチャで :2012/10/25(木) 23:25
飯窪さんがブログにオリオン座流星群のことを書いていたなの。
さゆみは一人きりイヤホンで音楽を聴いているというのに。
さみしいなのさみしいなの。なぜかさみしいなの。
そんなことはいいの! だーわーことあやちょとメール中継しながら見てたのが悔しいの!!
さゆみもあやちょとキャッキャウフフみたいなメールがしたいの!
あやちょじゃなくてりほりほでもいいの。
……さびしいとウサギになっちゃうからね。
あ、さゆみのウサギはふくちゃんとは違ってライオンに襲われたいからじゃないから。
勘違いしないで欲しいの。
さゆみ別にウサギになったからってノーブラノーパンになるわけじゃないの。
ちゃんとティアラとドレスを着用するの。
勘違いしないで欲しいの。
誰でもいいの! イチャイチャしたいけど、どうすればいいの!!

かわいくかわいく深呼吸なの。さゆみは深呼吸だってかわいいの。

はっ! 秋の大三角形はないって飯窪さんに教わったの!
ネットで道重さゆみ△って今年の秋だけ書かれるようにりほりほとの隙間をつめるの!
さゆみとりほりほと隙間の3shot撮影って言われないようにするの。
リーダー頑張る。
流れ星見つけてりほりほとイチャイチャしたいってお願いするよりはるかに現実的なの。

 END.
197 :みおん :2012/10/25(木) 23:34
久しぶりに書いたらひどい話になりました。元からひどい話しか書いてないだろと言うツッコミが聞こえます。
最近はさゆれなとさゆはうとはうちょとよしごまとあゆみずきとふくどぅーが読みたいです。
あ、あとだーどぅーも読みたいです。あやみきでもいいです。この際、何でもいいです。
ここで独り言を垂れ流すよりも自分で書いたほうが早いと思うの。
道重さんのネットパトロール力でここも読まれてしまうのかしら。などというキモい妄想をしながら眠りにつきます。
ついでに目次を置いておきます。

2012年〜続き物は省いてあります。
プロポーズ大作戦(やすみよ)>>48-49 賽は投げられた>>50 ゆるい放物線を描く(℃)>>51-52 須藤茉麻が痩せた理由>>53
大雪の話>>62 ドジでノロマなヒヨコです>>63 春はまだ先に>>68-76 愛されパターン>>77-81 さゆみは乙女なの>>82 僕は彼女の幸福を知りたい>>83
僕は道重さんを知りたい>>84 僕はこの場の平和を願わずにはいられない>>86-87 聖・少女領域>>90-92 真夜中の電話>>93-108
なごり雪も降る時を知り>>110-116 可愛いは必要なの>>123-125 卵殻>>126 人という生き物>>127
さよならを知らないままで(やすみよ)>>130-136 はるなの(さゆはう)>>137-140
かわいい話>>141 (恋人のような顔をして)(やぐちゅー)>>142-146 NO LIFE , NO BOOK.>>163-166  百合の日々は>>169
――夏日でも、私たちには味方だよ。(あゆみずき)>>170-173 姉と猫>>174-175 本当は違うんだ入門(やすみよ)>>177-178 現実体験(やすみよ)>>180-181
道重さゆみのお祭りなの>>182-184 おやゆびひめ(やすみよ)>>185-186 道重さゆみの流れ星全部イチャイチャで>>196
198 :道重さゆみの One Two Three :2012/10/26(金) 23:39
三秒も視線をあわせられたらりほりほもさゆみにノックアウトされるはずなの。
昨夜に引き続き一人きりイヤホンなの。前シングルを聞いているの。
ネットパトロールで狼とYouTubeを見るの。必ずなの。
ファンの皆さんは若い子に流れちゃいけないけど、さゆみは若い子に流れてもいいの。
若ければ若いほどいいの。かわいいの。
でも一番かわいいのはさゆみなの。さゆみよりかわいい子はいらないの。
加護さんの若い頃の映像とかとても素敵なの。過去は良かったの。
まださゆみの胸がなかった頃に、胸が大きかったの。
さゆみもこれだけあればふくちゃんみたいにセクシーになれたの。
かわいいとセクシーが両立できたの。一兎を追うものは二兎を得ずなの。
りほりほとりさこちゃんを一緒に追えないのと一緒なの。
だから、りさこちゃんには殿堂入りしてもらったの。
岡女期末テストに流れ着いてしまったの。ガキさんが幼いの。
ロリガキさんなの。生田がこの映像見たらどうなるのかなぁ……。
ま、いっか。
モーニング娘。で肩身が狭いとか……この流れ。
一の舞、二の舞。三の舞。
さすが辻加護なの! らってのんわかんなかったんらもん! って言えばいいのに。
計算なの。辻さんは数学だけ得意なの。さゆみと同じではないの。
さゆみは勉強全部苦手なの。偏差値低いの。
かわいいりほりほと恋に落ちたくても、三秒も視線が合わせられないヘタレなの。
さゆみがかわいすぎるから、視線を合わせられないのかな?
そろそろ寝ようっと。さゆみ、三秒経たないうちに眠れるのが特技なの。
おやs

 END.
199 :Pop Cooooorn !! :2012/11/02(金) 02:08
秋も深まる文化祭の季節。私たちのクラス企画は喫茶店に決定。
喫茶店を選ぶクラスが多いから生徒会での抽選になったけど、なんとかクリアできた。
みずきちゃんの提案でなぜかうさ耳をつけたまま接客することに。
恥ずかしいけど、みずきちゃんはノリノリで友達とはしゃいでる。
あの日から、二人の距離と、私とクラスメイトの距離もぐんと縮まったのだけど。
……それでも輪の中に入ってみずきちゃんに甘えるのはためらってしまう。
弾けられればいいのになぁ。輪に入ってさ、一緒に。
まじめなのかな。自分では負けず嫌いだと思ってるけど。
だって、クラスメイトの中で一番にみずきちゃんのこと思ってるからね!
みずきちゃんにだって絶対それ伝わってるもん!!

――文化祭当日。
「ちょっとぉ、みずきちゃん何コレ! なんで私のだけこんな、こんな服装なの!?」
「ふふふ、飯窪先輩のお友達に頼んでつくってもらったの」
みずきちゃんが持ってきたのはメイド服。しかも他の人が穿いたら超ミニになっちゃいそうな……。
石田亜佑美サイズ。身長150センチクラスの私にしか似合わない、ように見える。
低身長の子はクラスにもいるけど、役割はバラバラに振り分けられたから。
「だってみずきも一緒にやるんだから、あゆみちゃんにも可愛い格好してもらいたかったの」
「いや、あの……はい」
ちょっと私、なんで返事しちゃってるの!? そりゃ嬉しいけど、嬉しいけどぉ。
「けど! どうせ他の子には見えないんじゃ?」
私たち二人は接客係ではなく、後ろでスイーツをお皿に盛りつける係。
だから、エプロンと三角巾とマスクだけは必須で服装は特にこだわらないってことになってる。
みずきちゃん、私が接客しないって言ってたら残念そうな顔してたからなぁ。
だからって、だからって!
「……うん、いけない?」
「いけなくないです!」
「でしょ?」
みずきちゃんの顔が妖しくにんまりと笑ったように見えた。
「二人きりの時だけだからね!」
強く主張すると、いいよ、と簡単にOKされてしまう。
なぜか、それをさびしく感じる。なんでだろう。みずきちゃんには抵抗してほしかったのに。
200 :Pop Cooooorn !! :2012/11/02(金) 02:08
 
201 :Pop Cooooorn !! :2012/11/02(金) 02:08
みずきちゃんも先輩のお友達特製らしい服装だけど、ロングスカートのメイド服だ。
ご丁寧に三角巾にはうさ耳らしきピンクの布がついている。
私のにもついてるけれど。
はぁ……。溜息がこぼれ落ちる。
マスクもご丁寧にデコってあるものだった。いくらかかったんだろう、これ。
そんなことを考えたいぐらい地味な作業が延々と続く。
何かの拍子にみずきちゃんを見ると、真剣な表情で黙々と作業していた。
さっきまでの可愛い格好がどうの、と熱弁してたみずきちゃんはどこにいっちゃったんだろう。
さみしいな。
かまってよ、みずきちゃん。
二人きりだったら甘えられるかなって思ったから、この係に二人で立候補したのに。
わざわざ同じ組にしてもらったのに。みずきちゃん人気高いから。
「譜久村さん、石田さん。上がっていいよ」
次の組の子たちが来て、時間より早く作業から解放できた。

他のクラスとの共同控室で、着替え直す。
マスクをとって、ぷはーっと大きく深呼吸。
「みずき、作業に集中してて全然話せなくて全然あゆみちゃんの格好見れなかった」
ごめんね、あゆみちゃん。
真剣に謝る姿が、いつもと違う服装だからかよけいにドキドキする。
あの時と同じみたい。あの日と同じみたい。
なんでだろう。クラスメイトでちょっと仲良くなって、それで隣に居てほしくて甘えたくて。
でも、ただの友情だもん。恋愛とか意味わかんないし。
喧嘩してもないのに、謝られるからかな。
ううん、違う。だってみずきちゃんが思ってることって私とあんまり変わらない。
だからドキドキするんだ。
「あゆみちゃんは、嫌だったでしょ? みずきがああいう恰好させちゃって……」
202 :Pop Cooooorn !! :2012/11/02(金) 02:09
みずきちゃんは途中で口を閉ざし背を向けて、着替えはじめる。
やだ……もっとドキドキする。私も着替えればいいのに、早く早く、手を動かさなきゃ。
みずきちゃんの背中のホックが外れる。
白いインナーと、とろけそうなぐらいやわらかそうな白い肌が露出する。
やだ。思わず視線をそらしてしまう。
いつものみずきちゃんじゃないみたいで。私の知らないみずきちゃんが居そうで。
怖い。
「やだ、みずきちゃん、あゆみにかまってよ」
声が震える。ううん、私の唇が震えてる。
コツコツと歩く音が聞こえ「いいの?」とみずきちゃんの声が耳元でした。
囁くように息を吹きかけられる感じで、私の身体はビクッと跳ねた。
「みずき、嫌われたかなって勘違いしてた」
違うんだよね?
確認するようなみずきちゃんの小さな声が、私の身体に大きく響く。
「そんな、そんなわけないじゃん。私の一番はみずきちゃんだよ!!」
声に出すと、案外勇気が湧いてくるようで、みずきちゃんの顔をしっかりと見つめながら言えた。
「……よかったぁ」
それからのみずきちゃんはすごかった。
ずっと私のことを考えすぎてたらしい。
ウサ耳嫌だったかなと悩んでいたこと。
クラスメイトにたくさん話しかけられて、私のことを構えなくなって悶々としてたことを教えてくれた。
「なーんだ。お互い、小さなことで悩んでたんだね」
二人してうんうんと頷く。
みずきのほうがあゆみちゃん不足で! なーんて言われたら本当に嬉しい。
ふふふ。私だってみずきちゃん不足だったもん! て返したら、ぱぁっと子どもみたいに顔を輝かせる。

「一つだけいい? なんでさっき目をそらしてたの?」
「え……だ、だって。それは……みずきちゃんの身体が、ていうか!」
恥ずかしいぞこれは……言いたくないかも。
ドキドキしてたなんて、伝えられないよ。
「え? なぁに?」
かまわれて幸せなんだけど、いつか、本気のみずきちゃんに食べられちゃうのは私のほうかもしれない。
……それでも友情って言えるのかなぁ?

 END.
203 :みおん :2012/11/02(金) 02:11
11月といえば待ちに待った学園祭シーズンですね。
飼育wikiにさゆはうとあゆみずきの項目ができたのでおねいさん頑張っちゃうよ記念
うそですふくちゃん誕生日を無事に迎えて帰国したよ記念ですたぶん
204 :名無飼育さん :2012/11/03(土) 03:29
あゆみずき来てるー!
ステーシーズ以来、波がキテる様にも感じますが書き手さんは少ないですよね
そんな中みおんさんが書いてくれて嬉しいです!
これからも期待しちゃってもいいですかー?ゆっくりでも待ってます。
205 :みおん :2012/11/10(土) 14:38
>>204 名無飼育さん
どうも、感想が少ないスレへようこそ。
ステーシーズは未見ですが、この二人が並んでるだけでハァハァします。
書き手が増えるといいですね。私も他の方が書いたあゆみずきを読みたいです。
206 :名無飼育さん :2012/11/13(火) 02:05
あゆみずき嬉しいです!
なかなか見つからないので、嬉しさで感動しました…!w

悶々としちゃうだーと、分かってないようで実は分かってそうなフクちゃんがたまらないですw
これからもお待ちしてます!
207 :しあわせですか? :2013/01/11(金) 23:51
「あー、思い出した思い出した」
悪友、藤本美貴は電話口でアハハとかるーく笑う。
一息ついてから、そんなこともあったねぇ、と懐かしむように呟いた。
「よっちゃんが昔を語るなんて珍しいんじゃないの?」
そうかもしれない。なんでこんな話になったんだっけ。ま、いっか。
……いや、よくないか。亜弥ちゃんから結婚の報告があったんだ。
私から美貴に電話をかけたわけではなくて、かかってきたからそのまま昔話に花を咲かせている。
このままではごっちんや梨華ちゃんからも電話が来るかもしれないなぁと美貴の声を聞きながら、ぼんやりと思っ

た。

亜弥ちゃんから電話があったのは、昨日の昼間。
――ひーちゃんへ最初に伝えたくて。
あ、うん。……あ、うん、ってなんだよ、と思った時には遅かった。
みんなにも伝えなきゃいけないから。あいさつも返事もそこそこに切れていた。
驚きながらもちゃんとケータイを元の場所に戻したし、直前までやってた作業にも戻れたし。
なのに。今日、午前中からひっきりなしに後輩から電話がかかってくる。
聞いてると思うけど。
なんて文句が最初に聞こえてさ、じゃあかけてくるなよ、とは思うけど、無下にはできない。
「おにごっことかさぁ。子どもが大きくなったらさぁ、みんなの子どもと一緒に遊びたいねぇ」
美貴は言うだけ言って、世話があるからと電話を切った。
たぶん、子どもが寝て暇になった時間を私にあてたんだろうと思う。
そういうとこ嫌いじゃない。変に心配もされてない、ただの暇つぶし。
違うかもしれない。けれど、笑い声で終わる電話はこの二日間で久しぶりだ。
私の声を聞く前から泣いてた後輩、私と話してるうちに落ち着いた後輩。
先輩からはお祝いどうする? と大人の相談。
208 :しあわせですか? :2013/01/11(金) 23:51
どこかで集まりたいなぁ。子供みたく走り回ってさぁ。また明日ね、と言わなくなったのっていつなんだろう。
亜弥ちゃんに最後、また明日ね、と言ったのいつだろう。会わなくなったのいつだろう。
この十年間、付き合い続けてるのは知ってたし、途中別れてたときがあったのも知ってたし。
いきなり会わなくなるなんてないんだと思う。でも、亜弥ちゃんが私に言った。
――あたしが幸せになんのに、ひーちゃんも幸せになれよ。

高校卒業後もよく会ってた。弟が亡くなってからも、会ってた。
一時的に距離を置く友人が多かった中で、亜弥ちゃんだけはそんなことなくひっついてきてた。
……なんだなんだ、こんなに思い出に浸っちゃって。私じゃないみたい。
昔、亜弥ちゃんと付き合ってた男でもないっちゅーの。
んなことわかってる。みんなだってわかってる。亜弥ちゃんだってわかってる。
そんでも美貴が結婚すると知った時なんて普通に爆笑しちゃって、美貴も笑ってた。
いや、今回だって明るいよ。明るかったんだよ。正月過ぎてからだけど、おめでたい話題なんだよ。
後輩が心配してくれるのが今、わかるぐらい動転してんだ、私。
どっかで亜弥ちゃん結婚諦めたのかな、って安心しきってた。
そこそこ仲良かったクラスメイトも、部活で仲良かった先輩も、最近出会う同い年の人も、だいたい結婚している。
そんなの気にしないよ、とは思ってる。実際、家族や友達とワイワイやってたほうが楽しいし。
身近な人の幸せそうな笑顔見るの好きだし。
けど、そんなんばっかりやってて私の幸せって本当にこれでいいのかな、とふと考える時がある。
友達が私以外の誰かと隣同士になって、幸せそうな笑顔を向けてくると嬉しいけどむなしい。
私の心がどこか軽くなったように、体もどこか遠くへ飛んでいってしまいそうになる。
209 :しあわせですか? :2013/01/11(金) 23:51
――あたしが幸せになんのに、ひーちゃんも幸せになれよ。

昔っから、ほんとグッサリくる一言を突きつけてくる。
現実から目をそらしていたのかもしれない。私の幸せだと思うものから逃げていた。
他人を喜ばすなんて簡単だ。笑ってればいい。つらくても笑顔でいればいい。
私の幸せより、人の幸せが先。
家族や友達の幸せが先。
一緒に考えていこう、なんて一人空回ってたんだ。
それでも亜弥ちゃんは近くにいようとしてくれた。
だからこその言葉だと信じたい。

ねぇ、亜弥ちゃん。今度、会う時いつだろうね。結婚式かな。
聞いていい?
「私が幸せにならなきゃ、亜弥ちゃんは幸せになれないの?」
ってさ。
きっと、ぷくっとほっぺをふくらませてから笑ってくれると思う。
それが言える私になりたい。
私だけの幸せを探してから。

   END.
210 :みおん :2013/01/11(金) 23:54
マイナーカプばかりのスレにようこそ
あゆみずきのエロとか需要あるのかな

>>206 名無飼育さん
あゆみん誕生日合わせを書きたかったのに時間足りなくて書けませんでした……。
あゆみずき熱は冷めてないので、時間あるときにまた頑張ります!
211 :名無飼育さん :2013/02/02(土) 15:29
あゆみずきのエロとか読みたいです。
と言うか、あゆみずき小説が全然見当たらない(´・ω・`)ショホ゛ーン
212 :三寒四温 :2013/03/08(金) 21:18
久しぶりのお誘いは、やっぱりあゆみちゃんからだった。

紅梅も咲き誇る三月。昔の人は、花見と言ったら梅だったらしい。
この東京で江戸時代に桜の花見が楽しまれるようになったとか。
今年はいつだろう。雪が積もるぐらい寒かったから。
それでも、入学式前には咲くんじゃないかな、とみんなは噂している。

「みずきちゃん、聞いてる?」
あゆみちゃんとおしゃべりしていたのも忘れ、いつの間にか寝ていたようだ。
「……うーん」
試験も終わり、もうすぐ終業式。最終学年の卒業式は終わってしまった。
文化祭でお世話になった飯窪先輩が卒業してしまい、ちょっとさびしく感じる。
「ね、今日、暑いからさ、これからアイス食べに行こ?」
アイスかぁ、冷たくて美味しいけど糖分が多いから、太る。
特に、女の子なら大きさが気になる胸にお肉がついちゃう!
みずきの場合は、だけど。
「あゆみちゃんは太らないからいいけど、みずきは太っちゃう」
いじけて言ったのに、ちらっと顔を見たらキラキラした笑顔で
「こっから自転車で三十分ぐらいのとこに美味しいソフトクリーム屋さん、できたんだって」
なんて言われたら、みずきは黙って頷くしかない。
213 :三寒四温 :2013/03/08(金) 21:19
初めてのお誘いは五月。
こんな風に自転車こいで、途中でアイス買って食べた。
あの日も、春にしては夏のような暑さだったっけ。今日も今日で春の初めにしては暑い。
秋以降、みずきはダイエットと称して自転車で通っている。
あのときみたいに、二人乗りであゆみちゃんを困らせることはできない。
けれど、隣を走っておしゃべりはできる。
並走は危険と校則に書いてあるけど。だって、かわいいあゆみちゃんの横顔を眺めていたいじゃない。
「どんなソフトクリームがあるかなぁ。ねぇ、みずきちゃん。紫いも味とかあったらどうする!?」
「ふつうにチョコレートでいいよぅ」
上り坂があるなんて聞いてない。いつもと違う道。いつもと違う風景。
目に映る景色の先にあゆみちゃんがいつでも目に入って、新鮮な感じがする。
どの季節も、あゆみちゃんが隣にいてくれたなぁ。
暖かい風が強く、みずきとあゆみちゃんの間を抜けていく。
先を行く、あゆみちゃんの制服がふわりと風に浮く。
スカートの中は見えるようで見えない。
あゆみちゃんからの好きは、言ってくれるようで言ってくれない。

来年になったらクラス替えが行われる。
文系理系、選択科目の違いによって明確に分けられるクラス。
同じのにしようね、と約束したけれど、それでも同じになれるとは限らない。

「みずきちゃん、早くぅー! もうすぐだよぉ!!」
坂の上で自転車から降り、あゆみちゃんはみずきに向かって手を振ってくれている。
うん。今はソフトクリームを食べることだけに専念しよう。
そして、あゆみちゃんを可愛がろう。
あゆみちゃんがさびしがらないように。
みずきがさびしくならないように。

 END.
214 :みおん :2013/03/08(金) 21:22
最近はさゆ生とあゆみずきがお気に入りです。
わかっていますが、自分が好んで書いてる中でやすみよが一番メジャーなカップリングです。
あゆみずきのエロは背徳的な感じがいいと思います。
みんな書けばいいのに。

>>211
飼育だとなぜかあゆみずきは少数派ですよね
215 :名無飼育さん :2013/03/09(土) 03:27
おおお!来てたー!フクちゃん切ないっすね…(´・ω・`)
あゆみずき増えるといいんですけどねー
216 :名無飼育さん :2013/03/09(土) 10:05
あゆみずき中々見れないので
いつも楽しみにしてます
217 :また『坂で逢いましょう』 :2013/03/13(水) 23:46
メール一つ送信すればすぐ逢える。二人の物語は続いていく。

『ハニホヘト』が閉店する五月十八日。小さな女の子がピアノを弾く演奏会。
ランダムに配置された、いつもと違うパイプ椅子が並ぶ。
中澤と安倍、保田と三好、そしてれいなとりほと道重。
ピアノはクラシックともジャズとも言い難い。それに女の子は気分で歌うこともある。
一風変わった演奏会。今年中学生になったという。
この時代に、人と変わってるところを出さないように生きる若者に演奏を聞かせたい。
と、ガキさんは挨拶代わりに話してくれた。

演奏終了後にふるまわれた、紙コップ一杯のホットコーヒーと手作りの小さな焼き菓子。
 いつかどこかでほっとするようなコーヒーを提供したい。
 その場と時間を、コンセプトを友人と二人で模索するために一旦店を閉めます。
 ありがとうございました。また会いましょう。
マイクを使わなかったガキさんの挨拶は、喫茶店の隅々までよく聞こえた。
一度、深々と礼をした後、笑顔でこう聞いた。
「今日、楽しかった方ー?」
安倍が笑顔で小さく手を挙げたのを皮切りに、その場にいた客全員と演奏していた少女も手を挙げ、笑いに包まれた。
『ハニホヘト』の女店主――ガキさんはとびっきりの笑顔で一人一人と笑顔で話をし、握手をして、客を送り出す。
中澤と安倍、保田と三好、そしてれいなとりほと道重。
三組は交わることなく、それぞれの家路につく。

誰にでも朝はやってくる。
いっときの闇は消え、太陽はまた昇る。
幸せを運んできそうなほど鳴く鳥と、爽やかな空気が初夏のおとずれを知らせる。
何があったわけでもないが、道重は中澤に会いたいと思い、メールを送信した。
坂で。とだけ書いてある返信にほっとしながら出かける支度を進める。
まだ布団で寝ているりほとれいな。んんん、というれいなの寝言にびくっとするが、じっと見つめていても頭は動かない。
れいなは前よりも優しくなった。
前も優しかったのかもしれない。けれど、気づく余裕は道重になかった。
218 :また『坂で逢いましょう』 :2013/03/13(水) 23:47
安倍にも中澤にもなかった。道重の優しさにれいなが気づく余裕もなかった。
だから、嬉しいと素直に思える。帰ってきたら、れいなに抱きついてあげようと心から思い、部屋をそっと出る。

『ハニホヘト』があった坂の上で中澤が待っていた。
道重が浅く頭を下げると、おはようと笑顔ではにかむ中澤がいる。
いつからこの<マチ>には優しさがあふれていたのだろうか。
私だけが優しいのだと勘違いしていただけなのかもしれない。
私だけが特別さびしいのだと、そばにいる人を信用しきれなかったのかもしれない。
自分自身を信じてきれなかったからかもしれない。
二人は同じ坂を下り、同じ風景を眺める。
一つのコミュニケーションとして選んだ沈黙を破ったのは道重だった。
「安倍さん、どうですか」
中澤は道重の理想の姉として見られることを意識していた。
道重は姉と慕う存在になら甘えられる自分を認識していた。
「うーん……」
言葉を探しながらも、幸せそうな笑顔は安倍に向けられている。この場にはいない安倍に。
道重は抱きしめられるのは私じゃないんだと思う。それでも距離は変わらない。
変わらないまま、この関係はずっと続いていく。空をすべる朝陽に、関係は永遠に続くのだ、と願う。
「圭ちゃんからまわしてもろとる仕事を一生懸命やってるわ」
「そうですか」
「なんかあったら呼び出して。……メール、楽しみに待っとるから」
なにかが始まる前と同じテンポの会話。切れ味鋭い関西弁を使う頻度は少なくなっていた。
意地を張り続けなくとも二人の関係は変わらない。
「はい、れいなとりほが待ってるから今日は帰ります」
中澤は大きく肩をあげるように空気を吸い込み、空を見上げると息をゆっくりと吐き出す。
「うん、また坂で逢おうな」
晴れやかな笑顔で道重を見つめた。

坂で逢いましょうEND.
219 :鞘師里保の練習 :2013/06/07(金) 23:16
私、中学三年生になって、今年受験生になりました。
絶対合格したい高校があるんですよ。
だから、道重さゆみさん、私の家庭教師になってください。
お願いします!

鞘師は友達の前で頭を下げた。
そして、頭を上げると不安そうな表情で友達を見つめる。

「ね、ね。どうだった? ダメかなー? ね、かのんちゃんどう思う?」

友達の名前はかのんちゃんと言うようだ。

「えー。大丈夫だよ。そんな気にすることないよ」

かのんはめんどくさそうに笑い、右手を顔の前でひらひらと振った。

「えー、ってなに、えー、って。ダメなとこあったら教えてよ」

友達の言葉に鞘師は納得せず、ぶーっとふてくされる。

「里保ちゃんかわいいんだから道重さんだって引き受けてくれるよ」

かのんが鞘師の肩をぽんぽんと叩きながら言うと、鞘師は目を輝かせた。

「ほんとに? ひゃっほーい!」

廊下を走り出す鞘師をかのんは止めない。小声でめんどくさいなぁと呟く。
高校に合格したいから道重さんとかいう人に家庭教師になって欲しい。
なんてかのんには意味がわからなかったからだ。
何がどう、だからなのか。
それは自分と勉強するんじゃダメなのか。
道重という人ではないとダメなのか。
……ま、いっか。お腹空いてきたから、購買寄って焼きそばパン食べよーっと。
鞘師が走り出した方向とは別に近くの階段を下りていく。
かのんは難しいことは考えない主義だった。

鞘師が道重と出会ったのは、もうだいぶ前のことだ。
まだ小学生だったころ。ランドセルを背負っていたころ。
大きなため息をつきながら公園のブランコに乗っていたのが道重だった。
道重は大学で教育学を専攻していたが、卒業論文に関わるゼミの第一志望に落ちた直後だった。
最初は何を言っても反応しなかったが、ありがとうというと目を細めて笑った。
その表情がとても美しく、鞘師はお姉さんのことをもっと知りたくなった。
近くに一学年上の幼馴染、えりぽんへ頼んでお姉さんのことを調べてもらった。
毎日毎日、えりぽんがピンポーンと家のベルを鳴らして情報を持ってくるのを待っていた。
けれど、そんな日はいっこうに来なく、鞘師は中学生になる。
ボランティア部に入った鞘師は、活動で訪れた施設で道重と再会した。

 私、中学生になったんです。

胸を張って誇らしげに言うと、前よりも体つきが大人っぽくなったね、と返事してくれた。
たったそれだけのことが妙に嬉しかった。
口うるさい親とも先生とも違う、純粋に構ってくれることが嬉しかった。
でも本人を目の前にして伝えるのは、照れくさくて手紙にして渡した。
思いのほか喜んでくれて、連絡が取りあえるようになった。
それが去年、鞘師が中学二年生の話。

道重とより深く会話するようになり、もっともっと知りたいと思った。
そして自分のことも知ってほしいと願った。
家庭教師なら、近くにいられるし、きっと会話の時間も増える。
成績は悪くないけど、道重さんと一緒に居られるなら、こういう手段もアリかな。
軽く考えてたけれど、お願いをするなら一所懸命じゃないとダメだ。
気づいてから、前から相談していたかのんを前に練習することにした。

走っていたら通りがかった先生に注意され、振り向いたときにはかのんはいなかった。
かのんちゃんには、パンやお菓子を用意して見てもらおう。
また練習しよう。道重さんに振り向いてもらうために。

 END.
220 :みおん :2013/06/07(金) 23:19
久しぶりの更新になりました。
真面目なさゆりほです。
ちゃゆ見てるー?

>>215さん>>216さん
あゆみずき好きなんですけどねー。
考えているネタはあるので、ちょいとお待ちを。
221 :恋の翼 :2013/06/25(火) 23:14

  恋の仕方をどこかに置き忘れてしまいました。
  誰か一緒に探してくれませんか。

222 :恋の翼 :2013/06/25(火) 23:16
図書室で借りた小説に栞が挟まっていた。小花模様で全体的にピンクがかっている幅が広くて短めの栞。
手書きでたった二行だけど一種のラブレターみたいな文章。誰のものだろうか。誰かへと伝わったのだろうか。
吉澤ひとみは考える。読み終えた章の後ろに、その栞を挟んだ。

「吉澤せぇんせー」

プリントを持ってきた久住がそばに立っている。いけない、ボーっとしてた、と吉澤は頭を振る。

「ありがと、持ってきてくれたんだ」

差し出されたプリントを手に取り、にっこり微笑んだ。すると久住はこう答えた。

「せんせー、変なの。持ってきてって言ったのせんせーじゃん」

甘ったれた口調で久住に言われて、吉澤はカチンときた。一つ冷静に抑えようじゃないか。
プリントを決められたファイルへと冷静に差し込む。

「ごめんね。先生、読書に熱中してた」
「なに読んでたんですかぁ? マンガ?」
「マンガじゃないよ。図書室で借りたの」

吉澤の腕に手をかけ、久住はべったりと甘えてきた。
ふーん、と興味なさそうなふりをしながら、久住の手は吉澤の腕を離さない。

「そうだ、小春さ、この字に心当たりない?」

先ほど読んでいた文庫本を開き、栞を動かさないように彼女へ見せる。

「えー、小春ぅ、小説なんか読まないもぉん」
「よく見て、こっちの栞!」

するりと腕からすり抜けた久住の手を吉澤は逃さなかった。
本を開いてる手と反対の左手で、彼女の手首を捕まえ、栞へとお互いの指を導く。
223 :恋の翼 :2013/06/25(火) 23:17
もうっ強引なんだから、と文句を言いながらもその声は弾んでいる。
何年も女子高生を見てきていて、久住小春のような同性を異性の代わりにし、
欲望をまき散らすタイプは多いと感じていた。
周りもそうだから、特に嫌われることもない。罪悪感も持たない。
でも、少しでもホンモノだと知ると彼女らは掌を返す。
――わたしたち、何も知りません。レズなんて気持ち悪い。
この栞を書いた子がホンモノなのかどうか知る気はない。

「小春、もう行っていいですかぁ」

そっか、ありがとう。行っていいよ。体の力を抜き、久住の手を放す。
文庫本を閉じ、バイバイと手を振ろうとする。
と、久住は真顔で唇を開いた。

「その字、道重先輩の字に似てます」

道重さゆみ。隣のクラスの子じゃないか。体育で担当クラスの子だ。
珍しい苗字のうえ、整った顔立ちにストレートの黒髪。
ピンクがかった白い肌に、いじらなくても赤い唇。
大きな黒い瞳と、何をするわけでもないが目立つ。
……ホンモノ、なんて噂も同学年の間では飛び交っている。
男がいれば、道重さゆみに声をかけたがるだろうし、結局は僻みである。
ホンモノかどうかなんて彼女たちには関係ないし、道重さゆみにも関係ないのだろう。

この小説の世界に熱中しよう。
誰かが描いた景色、私が想像の中で描く景色。
違うものなのかもしれない。
私の知らない世界、誰かが救われる世界。私の知らない知識、誰かに教えてもらう知識。
読み終わって、司書室に行けば石川先生に会えるんだから。
また新しい小説を紹介してもらえるんだから。
吉澤の恋心を石川が気づきませんように。

自分の気持ちはこの栞に書いてあることと反対なんだ、と吉澤は気づけなかった。
そして季節は秋に向かう。

 END.
224 :道重さゆみと憂鬱 :2013/07/02(火) 23:05
私の通っている書道教室の隣にはエアロビクスの教室があって、スタイルがきれいなお姉さんがたくさん通っている。
道重姉妹の妹が、私たちの書道教室へよく寄ってきた。
カワイイ「妹」が欲しいと言っては、私たちの世話を焼きにわざわざ早く来ているらしい。
何度か会ったことはあるのだけど、話しかけたことはなかった。
ちょっとお姉さんのふくちゃんやえりぽんには話しかけているのを見ると、正直うらやましい。

「え、りほなに言っとう? 道重さんの話題はりほのことが一番多いとよ」

えりぽんは福岡から転校してきて三年目なのだけど、方言は直さないみたい。
山口とは、近いからか向うの友達とも会いやすいみたい。

「そうだよ、みずきやえりに話しかけて、内容はりほちゃんだもん」

ふくちゃんは東京から転校してきて三年、方言にはあこがれるけどなかなか使いこなせないらしい。

「りほちゃんのこと、すごいお気に入りみたい「」だけどほら、りほちゃん人見知りでしょ」

私だって話しかけたいのに、と反論しようとしたら、先制攻撃をくらった。
うぐぅ。
人見知りだからか、笑顔で大人と接するのに緊張するし、恐怖が先に立つ。
なんでか大人は怖いんだよねぇ。

「あ、なんだ簡単じゃん。えりぽん、今度道重さんに話しかけられたら私のこと呼んでよ」
「あーんた、そう簡単に言うけどさぁ、大人の人を目の前にして会話できると?」

……できない。たぶん固まる。
今、もう顔の筋肉がこわばっていくのを感じる。
225 :道重さゆみと憂鬱 :2013/07/02(火) 23:06
「あーらら、りほちゃん、今はダイジョブ! ファイトだよ!」

ふくちゃんが私の腰に腕をまわしてぎゅーって体を密着してくれた。

「結局無理なんじゃん。こっちの身にもなってよー。えりだって道重さんのこと好きなのに」

それなのに話はりほのことばっかりだもん。
りほばっかり気にされててズルい! りほはズルい。
と続けられても私も困ってしまう。

「じゃ、こうしよ!」

ふくちゃんが連絡先を聞いて、カラオケなんかに誘ってみて四人で楽しもう! というアイデアを披露してくれた。

「えり、カラオケ好き!」
「音痴なのに、えりぽんカラオケ好きだよね」
「はいはい、二人とも落ち着いて」

道重さん来てからワクワクしてた三人の気持ちが通じたらしく、道重さんもキラキラした笑顔を向けてくれた。

「え、なぁに? 四人でカラオケ? ごめん、すっごく気持ちはありがたいんだけどほんっと嬉しいんだけど
……さゆみカラオケ行かないんだよね」

私は、道重さんの一人称が「さゆみ」なのだとこのとき初めて知った。
しょんぼりした三人を見て、他の案を次々と挙げてくれた道重さんをカッコイイと思った。
今度は私から話しかけよう。
そして、食事に誘うんだ。
道重さん、明太子スパゲッティが好きだって言うから、おいしいパスタのお店を探そう。

   END.
226 :きんじられたあそび :2013/09/02(月) 23:04
さっきすれ違ったお姉さん。可愛い感じの人だったなぁ。
黒髪がくるんと内側にゆるく巻いてあって、さすが大学生! って感じがする。
背が高くて大人っぽい。大学生だから大人なんだろうけど。
トントントン、一度深呼吸してからトントン。
奥から二番目の個室トイレ。

ゆっくりと扉が内側から開かれ「りほちゃん、好きよ」と彼女は招き入れる。
丸みを帯びた大人の体の女性になった譜久村先輩は学校を抜け出して、近くの大学へもぐりこんでいた。
「さぁ、みずきの膝の上に乗ってちょうだい」
鍵をかけると譜久村先輩は甘えた声でわたしを呼び、腕を伸ばした。
ぎゅっと優しく捕まえられ、弱い力だけどもしっかりとわたしを膝の上へと座らせる。
「ふふー、りほちゃんも学校さぼっちゃったんだ」
「そんなんじゃありません、譜久村先輩がいないと聞いて呼びに来たんです」
「うふふ、いいのいいの。そんな嘘つかなくてもみずきはちゃーんとわかってるから」
譜久村先輩のほおが私の首筋をなでる。肌触りが気持ちいいから、ずっとこうしてもらいたい気分。
嘘だと言われたのがちょっとイヤだけど、そんなの気にならなくなるぐらいに。
「りほちゃんはさ、孤独が怖いんだもんね。みずきが学校からいなくなったら一人になっちゃうもんね」
……そんな、そんなことない、そんなことないです。
うまく言えなくて、ちゃんと言えたのは三回目だった。
「じゃあこんなとこ来る必要ないんじゃない?」
先輩は体をずらして、下からわたしを覗き込むようにして見つめた。
ごくり。つばがのどを通っていく。
「先輩こそ、こんなところで何やってるんですか。合図まで決めて」
思っていたことが自然と疑問となって口から出た。
227 :きんじられたあそび :2013/09/02(月) 23:04
「勉強、かな。りほちゃんには必要のない勉強」
「そんなことないです。先輩、教えてください……色気の秘密を」

りほちゃん、そんなこと思ってたの?
みずき、まだ十代だよ。成人もしてないのに色気なんて知れるわけないでしょ。
大学生だってりほちゃんから見たら大人かもしれないけど、みずきとそんなに年齢変わらないんだよ?
みずきが色気を今から身につけて何の武器になるの。

武器になるでしょう、先輩。
わたしにはない、豊満な胸、大人の体として強調づけるくびれ、背中から腰、腰からお尻へのゆるやかな曲線。
筋肉と贅肉の比率がちょうどよさそうな二の腕と太もも。それからそれからそれから……。
先輩が私の両目を後ろから両手で隠してしまう。
何も考えさせなくなるように。暗いのは怖い。
一人でいるようで怖い。
そんなとき、先輩は誰より優しく名前を呼んでくれる。
「りほちゃん」
「先輩、好きって言って」
「好きよ」
「嘘じゃダメだよ?」
「嘘じゃないよ、好き。りほちゃんが好き」
「ほんとに?」
先輩の手をつかむと驚いた表情を見せる。
わたしも体を大きくずらして先輩の唇へとくちづけた。
「うれしい、りほちゃんのくちづけはけがれてないから。みずきもキレイに戻れそう」

 END.
228 :みおん :2013/09/02(月) 23:05
聖(みずき)・少女領域>>90-92 の続きになります。 
229 :きつねのいたずら :2014/03/24(月) 01:45
風邪で寝込んでいる妹のさゆみを置いて、買い物に出た。
ちょっとした気分転換も兼ねて、スーパーマーケットへ寄る前に散歩する。
雲の動きを眺めたり風を感じたり鳥の鳴き声を聞きながらゆっくり歩く。
すると、近くに住んでいる梨華ちゃんと会った。
「これから駅まで出て亜弥ちゃんとごっちんと遊ぶから、よっしーも一緒にどう?」
嬉しいお誘いだが。妹が風邪で寝込んでるから、と断る。
「じゃあ三人で妹さんのお見舞いに行く!」

そんなわけで二人で駅へと向かう。
梨華ちゃんは歩きながら、メールを打っている。
テレビでCMも流れている新型の携帯電話に変わっていた。
「いいでしょ、これ」
満面の笑みで私に自慢してくる。
あれもこれもできるようになったよと教えてくれる。
最大の変化は、伸ばすアンテナがなくなったこと。
私の携帯にはついている。電波をキャッチするためのアンテナだそうだ。
梨華ちゃんが持ってる新型はアンテナが内臓されているので、なくなったように見えるとのこと。
へー、ほー、ふーん。
機能の話は興味ない。私のはまだまだ使えるし、買い替える必要にも迫られてない。
話の腰を折るとめんどくさいから、相槌を打ってるだけ。

アーケードのある商店街前に着いて気づく。
あ! 妹に遅くなるって電話しなきゃ!
瞬間、商店街に隣接する小さなお稲荷さんの狛犬が私に視線を合わせたように感じた。
銀杏の大木もそばにある有名な待ち合わせスポットでもある。
梨華ちゃんもごっちんに電話かけるからと足を止めた。
230 :きつねのいたずら :2014/03/24(月) 01:45
プル、プルルルルル、プルルルル。

「あ、もしもしお姉ちゃん?」
「もしもし、さゆ? 私さー、買い物途中で梨華ちゃんと会ってさー」
「別にいいよ。遅くなっても。気にしないで、ちゃんと寝てるから」
「そか、帰りはー」

突然、ザザ、ザザザザザザ、と妹であるさゆみの声が聞こえなくなり、テレビの砂嵐のような音がする。

「もしっ! もっしもーし!」
つかえねぇな、これ、と耳から離し、旧式の携帯電話を眺める。
眉間にしわを寄せた私を訝しく思ったのか。
連絡を終えた梨華ちゃんが心配そうに私を見つめている。
「よっしー、どうしたの? 電話切れちゃった?」
いや、ちょっと……ね、ともう一度耳に当てると女性の声が聞こえた気がして
「もしもし、さゆ、ごめんね、なんかこの辺さ、」
早口で言い訳をまくしたてた。
しかし、言い終わらないうちに知らない女性の声が割り込んでくる。
『誰やねん、あんた。別の人と電話してたんや中澤いうもんやけど、あんた誰?』
「えっと、私も妹と電話してたんですけどもぉ」
どーしたどーしたと梨華ちゃんは私の顔を見る。
『ほうか。ま、しゃーないな。もしかしてあんたも砂嵐みたいな音聞こえた?』
「ハイ! 聞こえましたっ!」
聞き慣れない関西弁に身が縮こまる。なぜか大声で丁寧に接したくなる威圧感があった。
『そか。今、電話してるとこな、よう混線するみたいなんや。人が多くてな。そんで』
相手が説明してる途中で、またザザ、ザザザザザザ、と砂嵐のような音が聞こえはじめた。
「おねーちゃん! おねーちゃん、もしもし?」
「さゆ、ごめんね、この辺、混線してるみたいでさ」
「ふーん、誰と話してたの?」
えっ、と驚いた。だって混線してたから、聞こえないと思ってた。
こっちはさゆの声は全然聞こえなくて、関西弁の女性の声だけはっきりクリアに聞こえたんだけど。
不思議なこともあるもんだな。
231 :きつねのいたずら :2014/03/24(月) 01:45
友達数人がさゆのお見舞いへ向かうよと伝えると、そんなのいいのに、と照れた。
照れた声がまたかわいかった。
妹が元気で遊ぶところを早く見たい。
元気にしてあげなきゃ。

最寄り駅の改札口で梨華ちゃんとともに友達を待つ。
ごっちんと亜弥ちゃんが駆けてくるのが見えた。
私はどうやら狐につままれた顔をしていたらしく心配で走ってきたらしい。
妹の具合がそんなに悪いのかと。

さきほどの混線の話を振ると、どうやらあの場所ではよく混線が起きるスポットらしい。
携帯で話してる時によく砂嵐みたいな音がしたり知らない人の話し声だけが聞こえたりするそうだ。
ただ、さっきみたいな相手と話すというのは聞いたことないという。
黙って神妙な表情をして聞いていたごっちんだけは違った。そんなことはありえないと。

いい? 電話線はかけた相手としかつながらないの。
糸電話で相手が見えてるのに、知らない人の声がしたら怖いでしょ?
それと同じことなんだよ、よっしーわかってる?

わかるようなわからんような。
「お稲荷さんのきまぐれなのかな」
再び、通り過ぎたお稲荷さんの狛犬がさっきよりも優しく笑っていた。
「よっしー、何してんの。早く早くー!」
私は狛犬に軽く会釈すると、コーンと動物の鳴き声が聞こえた。
今度、立ち寄る時は油揚げをお供えしよう。
またお姉さんとおしゃべりしたいから。

   END.
232 :道重さゆみの「青春」 :2014/11/26(水) 22:06
甘味とドリンクを乗せたトレイを机に置き、ホッと一息つく。
今日は気温が下がり一日中雨模様だ。ニュースでは真冬並の気温になると言っていた。

周りのテーブルは制服に身をつつんだ高校生でいっぱいだ。隣のテーブルで勉強を教えあう二人組の女子高生が目に入る。

キャッキャッとどこか楽しそうに勉強する様子を見るだけで和む。頼んだドリンクを口へ運ぶと甘酸っぱい香りが鼻を抜ける。

「譜久村さん、もう一度説明してください」
「はぁ……あかねちゃん、説明もう三度目だよ」
「でも、わかんなかったんでお願いします」
「しょうがないなあ、いい? ここはかけ算するのわかるよね」
「はい」
「なんでだろ、これわかるなら説明いらないんだけど」
233 :道重さゆみの「青春」 :2014/11/26(水) 22:17
「わからないんですぅ。説明してくださーい」

何度か繰り返されたであろうやりとりはさゆみの「青春」を思い起こさせた。
好きな先輩と少しでも長く一緒にいたいから説明をねだった。
いつもと違う表情を見たくて困らせた。
さゆみだけが先輩の秘密を知る優越感に浸りたかった。

先輩と、同期と、後輩と、一緒にいる時間すべてが「青春」だった。



「青春」に幕を下ろした今、さゆみは一人だ。こうして一人の時間を満喫している。

檸檬と炭酸の効いたドリンクの後味はスッキリしていた。
外でピューピューと冷たそうな風が吹き続けている。あたたかいおーちへ帰ろう。
今日という一日の終わり、いいものが聞けた。
充電しにおーちへ帰ろう。
明日から、新しい道重さゆみ――Fantasyが始まる。
END.
234 :みおん :2014/11/26(水) 22:25
さゆみん卒業おめでとうございます。

勝手に応援していいそうなので、私も応援し(書き)続けます!(σ*´∀`)

あかねちんとふくちゃんが同時期に高校生になれないことは知ってます。
みお○んこと呼ばれただけに、はーちん×あかねちんの○ん○んカプに期待します。
さゆが卒業したのでよっちゃんヲタに出戻りします。若い子には流れません。
ビタスイの萌美ちゃんは推し増し。

うさちゃんピースで平和になりますように(^∧^)
235 :幼さと初恋は夏空に、似る :2015/01/31(土) 02:22
夏の空は突き抜けるほど青く、手を伸ばしても太陽には届かない。
空の青さと自分の幼さとが同化していくような感覚を覚える。
出かける前に塗りたくった日焼け止めも、どこからともなく溢れる大量の汗で意味がないようだ。

終業式までの委員会活動日は塾や習い事の予定で埋まり、名簿で機械的に割り当てられた書架整理が夏休みへとずれ込んだ。
一人で作業かと落ち込んでいたら、同じ一年生の亀井さんとペアを組んで半日で終わらせることになった。
午後一時集合、外気温は三十二度を超え、真夏日となった。
最高気温はもっと上がることだろう。
図書館内の気温は二十八度に設定されているが、ずっと座っているなら暑くならないだろう。

先に着いた紺野は、ぐるっと図書館内を見渡し、すうっと大きく息を吸ってはぁとゆっくり吐き出す。
古くなった紙が独特に持つカビ臭い匂いが紺野は好きだ。
インクの匂いだという人もいる。
出版社ごとに匂いが違うと主張する人もいる。
この匂いが好きで古本屋や図書館に、ついこもってしまう。
リアルな痛みをともなう日常を忘れさせてくれる、非日常へといざなう匂いが本当に好きだ。
すぅはぁ、と大きな深呼吸をしていると

「こんにちはー」

どデカイ能天気な挨拶が聞こえた。
声の主を確認するように振り返ると、女の子が立っていた。
亀井さん。
挨拶に反応してか、隣の教務室からパタパタと急ぐ音がする。

「来たね」

司書の石川先生が教務室からひょこっと顔を出す。
236 :幼さと初恋は夏空に、似る :2015/01/31(土) 02:23
「亀井を待ってたんだよね」
「え、絵里、遅刻してないですよ?」
「ふふ、ねー、紺野」

真面目な顔で否定する亀井となぜだかニヤニヤと紺野に視線を向ける先生が面白く見えて、紺野はプッと吹き出した。

「一年の亀井さんと紺野さんね。よろしく」

先生から説明を受け、分類番号で示されている書架の前に立つ。
紺野にとって馴染み深い900〈きゅうぜろぜろ〉は小説が並んでいる書架だ。

「一年二組の紺野です。よろしくね」
「四組の亀井絵里っていいます。早く終わらせようね」

どうやら仕方なく図書委員になってしまった子に当たってしまったようだ。
実のある話はできそうにない。
紺野が目録カードを取り出して著者名題名を読み上げ、亀井が一冊ずつ書架から取り出し著者名題名を復唱する、という分担になった。
先生は一度始めたら分担変えない方がいいよとアドバイスしてくれたが、亀井は話半分にしか聞いてなく疲れたら変わろうよと提案してくる。
肩をすくめ、いいよと紺野は提案を受け入れる。
わからないことがあったら呼んでねと言い、先生は教務室へと戻っていく。
頃合いを見計らって休憩時間をちゃんと取るとも言っていた。
二人だけでやってみると意外と目の前の仕事に追われ、分担を変える余裕すらない。
バタンと大きな音を立てて扉が開く。
びくぅっとして顔を見合わせる。
誰だろう?
石川先生はこんな音は立てたことがない。
237 :幼さと初恋は夏空に、似る :2015/01/31(土) 02:30
背の高い書架の後ろに隠れたのは、保健教諭の後藤先生だった。
せんせ、なにしてるんですか。
ビックリしすぎて声が出ないまま、口だけがパクパクと動く。
後藤先生は唇に人差し指を当て、しーと小さな声を出した。
何かあったんだろうか。
もう一度、紺野と亀井は顔を見合わせる。
バタン。
また扉を開ける大きな音がした。
入ってきたのは、レズ疑惑が流れている音楽の中澤先生だ。

「後藤先生見ぃひんかった?」
「私たち、ここで作業してたけど誰も来ませんでしたよ。ねぇ、紺野さん」

亀井は何食わぬ表情で中澤の質問に答える。
紺野にも視線を送り、同意を促してきた。
図書館内にエアコンの送風音が空気を読まずに響き渡らせる。
喉を通る唾音がごく、り、と紺野の耳に大きく鳴った。

「う、うん」

間を置いて頷きながら返事すると、中澤先生は驚いた顔をした。

「ほんまか」

どこ行ったんやろ。こっち入ったと思ったんや。
ぶつくさと呟きながら、中澤先生は去っていった。
ドタドタとえらい足音だったが、徐々に消えていき図書館に静寂が戻る。
ほーっと二人分のため息。
いや、三人分だ。
亀井も紺野も中澤の気迫に圧倒されて、後藤の存在を忘れていた。
そのぐらい気配を消していたのだろう。
突然、亀井は書架の前から窓際へと駆け出した。
ガラスにべったりと両手をつけ、下を見ているようだ。
夏の暑さを忘れる図書館内の涼しさと青空がやたら近くに感じる。
238 :幼さと初恋は夏空に、似る :2015/01/31(土) 02:36
「だーいじょうぶ! 中澤せんせー、隣の校舎へ戻ってるよ」

ほらほら、と窓の外を指さし、満面の笑顔を見せる。
その表情が紺野には思いつかなかった青春とやらを高校で亀井が楽しんでるのだと思わせた。
あさ美ちゃんは大人っぽいから。
よく投げかけられる言葉とは対照的な屈託のない無邪気な亀井の笑顔に、紺野は羨望を覚えた。
紺野はゆっくりと窓に近づき、中澤先生の後ろ姿を確認する。

「ほーらね」
「亀ちゃん、サンキュー。いやー、マジグッジョブ。先生見とれちゃったなぁ」
「そーっすよねぇ。さすが亀井絵里って感じー、ですよねぇ」

途中までタメ口だったが、気づいたのか慌てたように丁寧口調に直す。
亀井は後ろを振り返り、後藤へ近づいていく。
と、狙ってたかのように石川が奥の教務室から出てきた。

「そろそろ休憩するぅ?」

紺野は窓の外の青空を眺めていた。
図書活動に疲れた、というより他人にペースを乱されたかっこうだ。
青春か、と知らないうちに呟く。

「はい、アイス。みんなには内緒だよ」

明るい声に釣られ振り向くと、石川は水色の箱を持ち出してきた。
爽、ソーダの文字が見える箱だ。

「いただきまーす」

亀井は石川から奪うように箱から棒付きのアイスクリームを小分けにした袋を二つ取り出し、片方を紺野へと差し出した。
あ、ありがと。
紺野の感謝を言い終わらないうちに、亀井は袋をあけ食べ始める。

あら、後藤先生いつの間に?
ちょっと追いかけられてさ。
また?
喉乾いた。
アイス食べる?
うん、ちょーだい。

先生二人の会話が耳に入ってはくるけれど、さっきまでの集中力から解放されて冷たさと甘さが口に広がる。
どうせならソフトクリームが良かったなぁ。
239 :幼さと初恋は夏空に、似る :2015/01/31(土) 02:37
「おいしいね」

はっ、と顔をあげると亀井の顔が近くにある。
ちょっと視線を反らすと、紺野はうんと頷いた。

「食べ終わったら再開ね。後藤先生もそろそろ保健室戻ったら?」
「そーする。亀井ちゃんもありがとね。あと、そこのキミも」

ありがと。
はにかむように笑い、バイバイと手を振る。
こちらも振り返すと後藤は背を向け図書館から出ていく。
亀井は紺野の耳へ口を近づけ、惚れちゃうよね、と上ずった声を出した。
同性なんかを好きなの?
耽美な小説にはちょいちょい出てくるエスの世界、あれは想像だから物語のエッセンスとして機能していると紺野は思っていた。
本当にいるなんて。

「さて五時までには終わらせようね。今、三時前だからあと一時間!」

お願いねと声をかけて、ゴミを片付けながら石川は教務室へと戻っていった。
よし、あとちょっとだから頑張ろうね。
うん。
二人は声をかけあい、作業を再開する。
紺野の大好きなシリーズ小説までやってきた。

「えー、なにこれぇ、似たようなタイトルばっかじゃーん」

覚えられないよー。再開してすぐに亀井の泣き言が図書館内へ響く。

「うるさい。図書館は静かにって習わなかったの」

先程まではペースを乱されていたが、休憩のアイスクリームでずいぶんと持ち直せた。

「私の好きな小説を侮辱しないで」

ぶじょく?
よくわかんないこと言うなら、紺野さんが一人でやればいいんじゃない。
亀井が睨みつける。
紺野は視線を目録カードへとうつし、分類番号作者名題名を言う。
復唱は返ってこない。
240 :幼さと初恋は夏空に、似る :2015/01/31(土) 02:40
「復唱は?」

しぶしぶと該当の本を取り出し復唱する。
この子、



嫌い。



大嫌い。



もう図書委員で顔を合わせることもないだろう。
次に会っても無視すればいいだけ。
紺野はそう考え、目の前の仕事を淡々とこなしていく。
亀井の動きはのろい。



青春なんて謳歌しようとするからよ。
許せない。

作業が早く終わったと石川先生から誉められたが、二人は顔を見合わせることも挨拶を交わすことなく別れた。
紺野は図書館に留まり、先ほど整理が終わったばかりの書架から一冊の本を借りようとする。

「紺野、ごめんねぇ。今日は借りないで」

がっくりと肩を落とし、本を元の場所へと戻す。
ちょうど借りたいと思っていた本が目の前にあったら今すぐ読みたい。
その気持ちを抑えて作業してたのに、亀井がすべてをぶち壊していった。



だから、嫌い。
私から私なりの青春を奪おうとする人間すべて嫌い。
図書館から一歩外へ出ると、まだ熱を帯びた空気が重く紺野にまとわりついた。
太陽すら憎く、見上げた空は昼間と同じように青かった。
紺野の人間的な青さを知らしめているようだった。

END.
241 :みおん :2015/01/31(土) 02:42
心を亡くして殺される

と書いて忙殺と読みます!

異常に指先が冷えて、コピぺしにくいタブレット。
しねじゃなくてコピペできなくてしぬ。
242 :誰にもナイショ :2015/05/21(木) 02:17
おじいちゃんがやってたお店の社員寮を改装したアパートへ住んで丸三年、四月から高校三年生がスタートします。
従業員だった田中れいなさんがこの土地で歌手としてそこそこのヒットを飛ばし、おじいちゃんは見届けるようにひっそりとお店を閉めました。
新興勢力である大型店舗の急速な出店に押され、夢を叶えることを優先したようです。お店から歌手を出す夢。はっきり言わないけど勝手にそう思ってます。ところが田中さんが有名になったおかげで元社員寮のアパートにも人が訪れるようになりました。
流行りの言葉で聖地巡礼というそうです。
お金の匂いを嗅ぎつけたおじいちゃんは一階二階ともに四部屋ずつ、全室防音にリフォームしました。
私は二階の角部屋に住んでます。
両親は健在だけど、実家は防音じゃないし、一人暮らしに憧れて遠くの高校に進学するからと説得しました。
音楽科に進学でき、歌手になる夢を叶える一歩を踏み出しました。

同じ階に同じ高校に通う田崎あさひちゃんが住んでいます。
あさひちゃんは二学年下の後輩です。たまに彼女の部屋へ行ってお茶をごちそうしてもらいます。
そして将来の夢をよく語り合います。
あさひちゃんのつくる焼き菓子がおいしいから、っていうのは理由の一つではあるけれど、似たような夢を語れる仲間がいて嬉しいんです。
おじいちゃんがお店だけでなく寮も作ったのにはちゃんと理由があって、
『この街に流れ着いた理由なんかに興味はないが、歌が好きで志があるなら仲間は多い方がいい。
切磋琢磨して繁盛に繋がるならもっといい。
自分の夢と従業員と客が見る夢が同じ向きならもっといい』。
『お前のお父さんは全く理解しなかったが、萌美がわかってくれるならじいちゃんは幸せだよ』と必ず続けます。
正直に言うと、おじいちゃんが父を煙たがるのは娘としていい気分ではありません。
243 :誰にもナイショ :2015/05/21(木) 02:17
お父さんが音楽に興味があったのは高校生までで、洋楽をかじって友達とバンドを組んでたそうです。
なかなかうまくいかず、父が就職してから一層険悪になったみたい。
お父さん曰く『親父の夢は現実的じゃない』。
おじいちゃん曰く『一度の音楽性の不一致ぐらいで、夢だとか現実だとか言われたくないね』。
音楽について話すことはないみたい。
だからこそ、おじいちゃんは私みたいな音楽を志す身内が嬉しいんだ。

高校へ合格してからそういう事情を知った。
背伸びして大人になるための一人暮らしを勝ち取り、代わりにおじいちゃんの前では前みたいに何も知らないこどものままではいられなくなった。
おじいちゃんは「萌美が甘えてくれて嬉しい」と言ってくれる。

昔話はさておき、明日は待ちにまった新人発掘オーディションの日。
一次書類審査が通り、初めてオーディションで歌える。
カラオケで何度も何度も歌って練習した曲。
審査員のみなさんに私の声が響きますように。
どうか思いが歌に乗って届きますように。

そんな願いが本当に通じたのか、最終オーディションまで残った。
デビューできる実力がついているのかどうか、進学と一人暮らしの真価や練習の成果が試されるときが来た。
「失礼します」
ゆっくり扉を開け、一歩前に出て深く一礼し、前を向くと審査員席には見覚えのある女性が座っている。
あさひちゃんだ。なんでそっち側に? 歌手を目指してるはずなのに。
244 :誰にもナイショ :2015/05/21(木) 02:18
いけない、呼吸が浅くなってきてる。
肩を大きく使うように深呼吸を一つして、「113番、長谷川萌美です。よろしくお願いします」自分の番号を確かめるようにハキハキと伝える。
「ふるさと、歌います」
背筋が凛と伸びる。
歌い始めると緊張がよい心地へと変化していく。
笑顔のように頬を高く上げると声色も明るく弾む。
怖い顔で並んでいる審査員のオジサマ達にも一人一人にゆっくりと笑顔を向ける。
今日は怖いくらい落ち着いている。
いつもは音程とかリズムとか気にして、歌うのが長く感じてたのに。

歌が終わると簡単な質疑応答。
何をやるかはオーディションによって違う。
今回は歌い終えた感想からのようだ。
真ん中に座っている眼鏡をかけたオジサマが質問してくる。
「気持ちよく歌ってたみたいだけど、どう?」
「はい、歌い始めたら緊張が心地よくなってきました。楽しく歌えました」
「自分が苦手なことへの挑戦をどう思いますか」
「自分の夢を叶えるためなら、苦手なことも得意にします!」
「はい、ありがとうございました。選考結果は後日連絡します」
「ありがとうございました」
深くお辞儀して、扉へと歩き出す。
うん、なんかわからないけどここの雰囲気、合ってるぞ。
不思議な感覚だけど、またこの人達に会えたらいいな。
扉の前で一礼し「失礼しました」、ゆっくりと扉を閉めると廊下の窓から眩しいぐらいの日光が降り注いできた。
またもう一度、ここへ来れますように。
今度は所属歌手として来れますように。
質問されたように苦手も得意に変えよう。
245 :誰にもナイショ :2015/05/21(木) 02:19
「萌美ちゃん、この間オーディション受けたって聞いたけど、結果きた?」
この頃のあさひちゃんは幾分かくだけて接するようになっていた。
あのオーディション以降だ。
終わってから本当にホッとした。
あの日からなんだか練習でもスッと肩の力が抜ける。
心地よい緊張感を保ったまま歌えるようになった。
「ねぇ。結果、まだ来てないの?」
もう一度、彼女の声が聞こえて、我に返る。
「ごめんね、気ぃつかわせちゃって。まだなんだ」
そういや、あの場にあさひちゃんいたんだよねぇ。
最初、びっくりしたけど歌い終わったら全然気にならなかった。
質問の受け答えで精一杯だったからというのもあるけど。
「そっかぁ。まだかぁ」
私よりもあさひちゃんが結果を気にしてるみたいで嬉しくなる。
ふふふ。
あれ、あさひちゃんは私の選考結果知らないのかなぁ。
謎だ。
「な、なによ」
「ごめんごめん、あさひちゃんが私のこと心配してくれるのが嬉しいから」
「心配はしてるよ。けど、違うの。最近の萌美ちゃんの声安定してるし、なんか焦る」
あさひちゃんは私から視線を反らすようにぷいと下を向く。
オーディションの時からだから、余計にそう感じるのかな。
よしよし、自信にもつながる言葉だ。
「じゃ、練習あるのみだね」
下を向いたあさひちゃんの頭をぽんぽんすると
「萌美ちゃんも!」
急に前のめりで彼女の顔が近づいたからびっくりして体を離す。
「今日のあさひちゃん、なんか変だよー」
近づいた拍子に真っ赤になった顔のまま、彼女は呟いた。
なんて言ったか聞こえなくてちょっと耳を近づけようとしたら、彼女の両手が私の体を押していた。
「ど、どうしたの、本当に」
「遊びの時間はここまで! 練習するから萌美ちゃんも練習して!」
あっ、ハイ。
正論過ぎて反論できない。
それにしても本当に今日の彼女はおかしい。
時計を見ると部屋に来てから三十分も経ってなかった。
246 :誰にもナイショ :2015/05/21(木) 02:20
あの日から三日後の夕方だった。
ついに電話がかかってきた。
結果は合格。急だが明日事務所へ来てくれという話だ。
何を着ていこう。
待てよ、高校合格祝いにおじいちゃんが買ってくれたスーツ一式があるじゃないか。
一応、労働契約に当たるから。
おじいちゃんが、前に教えてくれた。
歌を歌うのと気持ちよく仕事することは同じ価値がある。
尊いものだと。
期待に胸が高鳴る。
その夜は目が冴えてよく眠れなかった。

「おはようございます!」
事務所の受付で教えてもらった小さな会議室で待ってると審査員の男性が入ってきた。
「合格おめでとう」
立って小さくお辞儀する。
「ありがとうございます」
座って、と促されると男性の後ろから女性が顔を覗かせる。
あさひちゃんだ。
あっ、というまに顔がほころぶのがわかった。
対称的にあさひちゃんの表情はかたい。
嬉しい。あさひちゃんと一緒に歌えるなんて。
先のオーディションであさひちゃんが合格。
歌やルックスは申し分ないもののトークがうまくいかないので、ソロで売り出すにはと思い悩んでいたそうだ。
次のオーディションにはあさひちゃんも審査員に立ってもらい気が合いそうな子を選んでいたとの話。
つまり、これから二人組で売り出す。
明日からボイスレッスンやダンスレッスンを受けるように言われた。
まだ私の歌はあさひちゃんまで届いてないらしい。
それを聞いた途端、あさひちゃんがどや顔になったから、二人組として売り出されることに納得しきってないんだろう。

お給料の話、インディーズデビューまでの日程、マネージャーと連絡先交換。
お仕事は楽しいけど、初めてのことばかりで疲れる。
いつもの友達とのノリとも違う。
当たり前なんだけど、いつもと違うだけで疲れる。
年下のあさひちゃんが普段より大人に見えた。
247 :誰にもナイショ :2015/05/21(木) 02:20

帰りは二人ともマネージャーの車で送ってもらった。
明日からずっとこうなるらしい。
「ねぇ、誰にもナイショなんだからね。デビューするまで、アパートのみんなにバレないようにしないと」
そうですよね、マネージャー。
と、あさひちゃんが確認する。
「...ヒミツかぁ」
「そうだよ、二人だけのヒミツなんだから」
「あさひちゃんと仲良くやっていく秘訣、あったら教えてよ」
冗談で言ったつもりだったのに教えてもらえなかった。
近くで降ろされると、あさひちゃんは駆けてさっと部屋に帰っていく。
なんか、気にさわること言ったかなぁ。
知ってる人だからこそ、さわられたくない部分もあるかもしれない。
気をつけないと。
デビューするのは夢みたいな甘さがあるのに、デビュー前からこんなにも苦い気持ちを抱くなんてビックリだ。
もっと近くに寄って仲良くいられる秘訣を見つけよう。
二人だけのヒミツをもっと集められれば、あさひちゃんにも違う未来が見えてくるはず。
歌もうまくなって、トークでもあさひちゃんを助けられるように。
まずは足を引っ張らないとこから!
オーディションには受かったんだから。
これからは二人で歩いていける。

END.
248 :みおん :2015/05/21(木) 02:24
あさもえです。
また珍しいカップリングに手を出してしまった。。。
私一人にしか需要がないかと思われます。
読者のみなさん。
私のかわいいもえみちゃんがいるビタスイをよろしくお願いします。
249 :百合はクロスロード :2016/04/21(木) 22:54
まっすぐ長い青光する黒髪が美しい女性を街でよく見かける。
長身だからか猫背で歩くのが気になる。
一度だけ女性が「さゆ!」と呼ばれ振り返るのを見てからは、心のなかでさゆさまと呼んでいる。
その女性ーーさゆさまが歩道橋を歩いて渡っていくのが見える。
この街でどのような生活を過ごしているのだろう。

「......山木さん、山木さん! 聞いてます?」
後輩の声でハッと現実に戻る。
いや、さゆさまがいたのも現実なのだが。
今は、後輩の梁川ちゃんと共同戦線を張って作戦会議中だ。
遠くの憧れより近くの目標を大切にしたい。
私の目標である漫研顧問の嗣永桃子先生は梁川ちゃんの担任。
そして、梁川ちゃんが好意を寄せる森戸ちさきちゃんは私と同じ漫研で後輩にあたる。
梁川ちゃんとは部室長屋で仲良くなった。
私の漫研と梁川ちゃんの文芸部で部屋を分けて使うことになっている。
おしゃべりするようになり、お互いに利益を受け取れそうだと気づいた。

作戦会議は主に下校中。
それと、去年の春から再開した喫茶店『ハニホヘト』でゆっくり話し合う。
高校から離れていること、店主によって秘密が守られること。
それを受けて、喫茶店に入る同級生を見てもチクらないという不文律がある。
学校から川向こうの住宅地<さいわいタウン>へ行く急な坂の途中に喫茶店はある。
森戸ちゃんも私も<さいわいタウン>には住んでいない。
私は商業区の一画に古くからの大きな家があるし、森戸ちゃんは駅向こうの新興住宅地に住んでいる。
まだ学校に慣れてない梁川ちゃんに連れられて喫茶店へ足を運んでいる。
先生にも見つからず森戸ちゃんにも気づかれず、気兼ねなく話せる場所だ。
とっても良いのだが、梁川ちゃんが一方的に喋り続けている。
どれだけ話題があるのか。
彼女が疲れるまで待つ。
たまに「聞いてます?」と確認されるぐらいで相槌がなくても気にしない、不思議な子である。

『ハニホヘト』へ入店し、一番奥の席へと座る。
奥様方が買い物や洗濯物の取り込みと日常へ戻っていくなかで、放課後を楽しむ学生たちと入れ替わる時間帯らしい。
店主がレジ作業を終えると、お水を二つ持ってくる。
「私はミルクティーで」
梁川ちゃんはメニューとにらめっこしていたが、すっと背筋を伸ばし
「カフェオレでお願いします」
と注文した。
「かしこまりました」
店主はカウンターの奥にいる店員に声をかけると、他のテーブルへ注文を聞きに行ったり声かけしたりと忙しく動いている。

「梁川ちゃん、この間ココアしか頼めないって言ってたよね」
うっ。しかめ面になるものの「違います」と冷静に返された。
「苦いコーヒーが飲めなくたって切ない味はわかるものですよ、先輩」
こういうときだけ先輩と呼ぶんだよなぁ。
それにしてもコーヒーを切ない味と表現するのは大人だなぁ。
「何それ、詩人気取り?」
「ええ、文芸部ですから。いつでも言葉で表現できるように感性を磨いているのです。......それから。気取りではなく、詩人です」
会話が続いたと思ったらこれだ。
幼い見た目とは裏腹な丁寧な言葉遣いと子供のような空気の読めなさ。

一度だけ指摘してみたら
『そこは後輩の一面として理解していただければ。お互いの成長のためにも』
と返され、とっても疲れたのを覚えている。
250 :百合はクロスロード :2016/04/21(木) 22:59
「それで、森戸さんのことなんですけれど」
おっと、話題が核心へと戻ったようだ。
「お待たせしました、ミルクティーとカフェオレですね」
『ハニホヘト』の女店主が飲み物を持ってきた。
タイミングがいいのか悪いのか。
「今日も作戦会議ですか?」
「はい、そうなんです。何かいいアイデアはお持ちですか」
梁川ちゃんにずっと喋らせるよりも、と無理なお願いを振ってみたのだが、そこは歴戦の店主。
ハッとして、ポンと手を合わせると
「少々、お待ちくださいね。すぐ、すぐに」
テーブルとテーブルの間を縫うように走っていく。
梁川ちゃんは、出鼻をくじかれたからかムスッとしている。
言いたいことも言えないようじゃ告白はまだまだ先だね。
「こちら、どうぞ」
ハァハァと小さく息を切らして店主が持ってきたのはチラシニ枚。
来週の土曜日、ピアノコンサートを行うらしい。
「まーちゃんのピアノコンサート、ですか」
「ええ、前に閉店コンサートを開いたときに弾いてくださった子なんです。今もピアノを続けているというのでお願いしてみたらトントン拍子に話が進んで......ね、このチラシを渡して誘うのはどうかしら?」
確かに。いいアイデアかも。
嗣永先生、誘ったら来てくれるかな。
カランコロン。
『ハニホヘト』の扉につけられたベルが鳴って来客を知らせると、
「いらっしゃいませ」と店主の仕事へ戻っていった。
251 :百合はクロスロード :2016/04/21(木) 22:59
「......それで誘うんですか」
梁川ちゃんはチラシを手に取ったもののムスッとした表情のままだ。
「あ、うん。そうしよっかな、って」
「目がキラキラしてますよ」
「梁川ちゃんは?」
ーーいいですか? 森戸さんの趣味を知らないんですよ、まだ。うんぬん。
聞いた私がバカだった。
話が止まらなくなってしまった。
梁川ちゃんが疲れるまで黙っていよう。
ミルクティーを一口含み、ふと、先ほどの客へと視線をうつす。
そこには黒髪の女性の横顔。
さゆさまだ!
あっ、と思ったときには遅く、持っていたカップからミルクティーがこぼれていた。
あっつぃ。
その熱さも現実ではないような気がするほど、さゆさまに見とれていた。
「山木先輩、何してるんですか!」
梁川ちゃんの声も耳には入っている。
カップをテーブルに置いても、視線の先にいるのはさゆさま。
こんな近くに、同じ街に住んで、私と同じような暮らしを過ごされているのか。
「先輩! 山木先輩! 聞いてます?」
「うん、聞いてるよ」
いつものくせで返事だけはしておく。
梁川ちゃんの心配した声のせいか、さゆさまがこちらを振り向いた。
同じテーブルについてる女性がもう一人いるのが見えた。
茶色に染めたショートカットが似合う、柔らかな表情を浮かべた女性がそこにいた。
ボイ&フェム、なんて概念は古くないかのように存在していた。
私には、その時、そう見えたのだ。
252 :百合はクロスロード :2016/04/21(木) 23:00
「お客さま、どうされました?」
飛んできた店主によって視界は遮られ、現実に引き戻される。
「......あの方は?」
遮られた先の女性を指すと、丁寧に答えてくれた。
それから、テーブルを拭いて、おかわりお持ちしますねと一旦離れていく。
さゆさまではなく、道重さゆみさん。
隣の女性は中澤さん。
二人ともパプリカの会のメンバーだという。
女性の性的少数者と協力者のアライで構成されているサークルだ。
全国で何例目かの同性婚を認める条例がこの街で施行されている。
マイノリティは市民活動と行政の支援、二つがなければ成り立たない。
遠い昔から商いをやっている山木家にもパプリカの会の噂は耳に入ってくる。
道重さんと中澤さんが当事者なのかアライなのかはわからない。
ただ、よくお似合いのカップルに見えた。
そう思うぐらい距離が近く、二人とも柔らかで穏やかな表情で寄り添っているように見えたからだ。
「興味がおありでしたら、ご紹介しましょうか?」
パプリカの会は、この喫茶店『ハニホヘト』での学習会が予定されており、今日はその打ち合わせだそうだ。
一度は断ったのだが、店主と、なぜか梁川ちゃんに押しきられる。
曰く、次いつ会えるかわからないんですよ。
私だったら、今回会えたのだから近いうちにまた会える確率もあると思うんだけどなぁ。
ご多忙な二人だからここへ来てもいつ会えるかわからないですよ、と店主まで。
店主の紹介という体で、案内してもらう。
ところが、やはり憧れの人の目の前に立つと何も話せなくなる。
「お、ガキさん、なんや。また重ちゃんのファン連れてきたんか」
「ま、そう言わずに」
いつものことなのか、二人は慣れた会話だ。
「ほら、挨拶、挨拶」
店主に背中を押されると、憧れの人まで数センチ。
きょとんとした顔で見上げられると余計に恥ずかしくなる。
「あああ、あの! 憧れです!!」
「......ありがと。お名前は?」
道重さんの声は思ってたよりずっと大人っぽくて、本当に憧れの女性という感じだ。
「や、山木、梨沙、です」
「山木さんね、よろしく。道重です」
「は、ひゃい」
「かわええなぁ。耳まで真っ赤になっとる。この子、パートナーいないんでいつでもえーよ」
「違いますよ、中澤さん。中澤さんだってパートナーいないじゃないですか」
裏返った声で返事してしまい、話題がパートナーにうつって雑談を始めそうになったあたりで、店主に促され頭を下げ、席へと戻る。

「どうでした?」
梁川ちゃんは妙に目をキラキラと輝かせワクワクしてるようだった。
「どうもこうもないよ」
憧れの人の前でかっこよく話せるわけないじゃない。
話せてたら、こんな作戦会議をやってない。
「あーん、私、恋に落ちる瞬間って初めて見ましたよ」
「へー、そうなんだ」
やたら、甘ったるい声色でこの子は何の話をしてるんだ。
「山木さんが道重さんへ恋に落ちる瞬間! もう時が止まるんじゃないかなって思うぐらいでした。永遠の時ってこういうのをいうんですねぇ」
いやいやいやいや。
一体、何、何を言ってるんだ梁川ちゃんは。
「ちが、違うから。道重さんは憧れの人であって」
「逆に聞きますけど、今、嗣永先生のこと、一ミリでも考えてました?」
......考えてない。
だけど、逆ってなんだ、逆って!
「明日からは道重さんとどう付き合えるかの作戦会議ですね」
「だから、本当に違うって!」
私が好きなのは......あれ?
道重さん? それとも嗣永先生?
「いいですよ、今日だけはゆっくりと恋に落ちた幸せを味わってくださいね」
梁川ちゃんの手にはしっかりとピアノコンサートのチラシが握られていた。
253 :みおん :2016/04/21(木) 23:03
続く?

とりあえず書いてはみたもののなんにもかんがえちゃいないこれからはじまるのさまーうぃんど
ってやつですね!
別の話を書いてたはずなのに先に書きあがっちゃった。
254 :名無飼育さん :2016/04/24(日) 12:08
最新のネタを織り交ぜつつ、登場人物のラインナップが凄い!
始めのほうで道重さんに「さゆ!」と呼びかけた人が誰なのか気になります
......
255 :私が愛した人 :2016/08/24(水) 00:05
ーー私は母が大好きです。

好きなのに問題行動ばかり起こしているようで、学校に呼ばれると母は

「申し訳ありません」

と何度も何度も頭を下げる。
そんな日の夜は、決まって私を甘えさせてくれる。

「お母さんはさくらの味方やからな」

頭を撫でてくれるのが嬉しくて抱きつくと、それは始まる。
母が私の胸を下からすくいあげて揉む。

「さくら、ずいぶん大きくなったんやね」

まるで背が伸びていく幼年期と同じように呟く。
母がもたらす快楽に身を委ねながら、私は母の胸を触る。
小さな胸は少女のようで可愛らしくある。
256 :私が愛した人 :2016/08/24(水) 00:05
最近、起きてからすぐに頭痛が始まる。
痛みをこらえながら、赤いスカーフを襟元で結んで家を出る。
母は仕事に疲れて寝ている。静かに鍵をしめた。
隣に住む後輩、野中ちゃんことチェルと待ち合わせ。

「おはよう」
「先輩、おはようございますっ」

短く挨拶を交わすなかで、チェルの明るく元気な声が頭痛をより刺激する。
朝から元気な声なのは当たり前だ。

興味ない男子の話なんてふーんと聞き流す。
好きな男子の話なら興味なくてもなんとなく聞けてしまう。
そういうものですよね? さくら先輩。

「何の話だっけ?」
「もぉ、さくら先輩! 真面目に聞いてくださいよぉ」
「ごめん、なんか頭痛くて......」
「えーっ、今日もですかぁ? 先輩、ちゃんと早く寝てます?」
「う、うーん」

昨夜は母に抱いてもらった、なんてさすがに言えない。
昨夜の少女のような胸を触った感覚が思い出される。

「もぉ、大丈夫ですか?」

チェルが密着してくる。
ご丁寧に片手を私の額に乗せて、チェルの胸は触ってくれと言わんばかりに空いている。
母とチェルの胸は違うのだろうか。
思ったときには手が伸びていたようで、拒否するようにチェルの鞄が私に向かっていた。
バシッ! と大きな音がし、胸から手を引っ込めた。

「先輩、セクハラ! 今のセクハラですよ!
もー、熱ないかと思って心配したのに。
その手、赤くなってますから!
ちゃんと保健室行ってくださいね。朝イチですよ!」

言うだけ言うと、チェルは私から離れて駆けていく。
あーあ、きっとまた学校に母が呼ばれるだろうな。
心配かけてばかりで憂鬱になる。
母が好きだから、余計に憂鬱だ。
......やっぱり頭痛い。
チェルに言われたこともあり、教室には行かず保健室へと向かった。

「道重先生、おはようございます」
「おはよ、また頭痛? あ、手が赤くなってる」

どれどれ、と道重先生は手を優しく持ってじろじろと眺める。

「うーん、どうしたのこれ。転んだ訳じゃなさそうだし」
「後輩に鞄で叩かれて」

どうやら思っていたより強く叩かれたようだ。
道重先生の顔が歪む。
そして、悲しそうな顔をして赤くなってるところに指先をつーと沿わせた。
257 :私が愛した人 :2016/08/24(水) 00:06
「せんせ......痛い」
「包帯巻くから、そこ座って」

近くの丸椅子にちょこんと座り、持っていた鞄は横へ置く。
右手はぐるぐると白い包帯に巻かれた。

「これ書いてね」

先生が持ってきた保健室使用書に名前と来室理由を書く。
右手のケガ、それに頭痛。
書き終えるのを待っていたかのように、シャーペンを置くと紙はするりと先生のもとへ戻ってしまう。

「二年一組、中澤さくらさん、右手のケガ、頭痛、ね」
「はい」
「頭痛はここ一ヶ月ほぼ毎日よね。医者には行ったの?」
「いえ、母の仕事が忙しくて」
「行ってないのね。頭痛薬は保健室にあるけど、飲みすぎも良くないからね」
「すみません」
「後輩に鞄で叩かれたってどうして?」
「いじめとかじゃなくてふざけてたんです。たまたま、チェル、じゃなくて野中ちゃんの鞄が手に当たっただけなんです」
「そう、それはどういう話をしていて叩かれたの?」

納得してくれないか。
頻発する問題行動は、道重先生にかなりお世話をかけている。
問題を起こす度に保健室へと隔離され、道重先生に話を聞いてもらっている状態だ。
素直に話したことはない。
佐藤先輩とキスしたり、じゃれ合ってるつもりが大きな騒ぎになったり。
母とはどう違うのか。
好きな人との行為をなんで女性同士だからと騒がれるのか。
意味がわからない。
だからか、理由を話すのはためらわれた。

「えっと、私が頭痛だって話して、またですかって野中ちゃんが額に手を当てました」
「うん、それで?」
「それで、熱があるかどうか心配してくれて」
「なんで野中ちゃんは叩いたの?」

野中ちゃんは胸を触ったら、セクハラって言った。
胸を触るのってセクハラなんだ。
母はあんなに喜んでくれるのに。
人ってよくわからない。
先生の胸は母より大きかった。
少女のふくらみとは違う。
先生はどっちだろうか。
胸を触ったらセクハラ! と私を拒否するだろうか。

「先生の胸って大きいですよね」
「......野中さんに話を聞いた方が早そうね」

私はまた拒否されたんだ、と悲しくなる。

「お母さん、忙しいのにまた学校に呼ばれちゃうよ。いいの?」

ふるふると頭を左右に振る。

「ダメです。心配かけたくないです」

その時、ぽろりと目から涙が落ちた。

「先生、ごめんなさい」
「中澤は先生に謝らなきゃいけないようなことをしたの?」
「しました。問題があるって話を聞いてもらったりとか先生の大切な時間使ってもらってます」
「それが仕事だからね。中学生の仕事は勉強することだけどね」
「ごめんなさい、勉強してなくて」
「先生の仕事は中澤が勉強できるようにすることだからね。保健室でゆっくり休んでいきなさい」
「はい、ありがとうございます」
258 :私が愛した人 :2016/08/24(水) 00:07
保健室のベッドへ横になると、ほっとしたのか朝なのにぐっすり眠ってしまった。
起きると三時限目の途中だ。
頭が心なしかすっきりしている。
痛みは今のところない。
保健室に先生が書き物をしている音だけが響く。

「せんせ、ゆっくり眠れました。ありがとうございました」
「そ、良かったわね。とりあえず三時限目終わるまでここにいな」
「はい、そうします。あっ」

寝起きだからか口内炎を噛んでしまったようだ。
口がうまく動いてない。
先生は立ち上がり、私のそばに立つ。

「口、開けてごらん」

私が口を開けると先生はびっくりしたようだった。

「ビタミン剤、飲みな。口内炎に効くからさ。」

水が入ったコップと橙色の丸い粒を私に手渡す。

「朝ごはんは何食べてるの?」
「いつも食べないです。母が寝てるので」
「お水、全部飲んでね。ジュースとかも飲んでない?」
「はい。野菜ジュースとかオレンジジュースを飲むことはあります」
「いつから朝ごはん食べてない?」

いつからだろう。
両親が離婚したころ、私は中学校へ進学した。
ずっと家にいた母が仕事へ出るようになった。
夜遅くに仕事へ出て朝はよく寝てる。学校終わる頃には起きていて、話を聞いてくれる。
身体が成長してきたねと褒めてくれる。
身長だけじゃなくて、胸とかお尻とか身体つきが女性らしくなったねと見てくれる。
夕ごはんを食べた後は、母が私の頭を撫でてお互い好きって言い合う時間がくる。
離婚前の母と私はあんなことをしなかった。
快楽なんて知らなかった。
ぎゅっと抱きしめられる時間を長く感じるようになった。
唇と唇が軽く触れあうキスから、舌を絡ませあうようになった。
母の腕がより強く私の身体を締めつける。
毛が生えてきた恥ずかしい場所を指で探り、快感に身を委ねてしまう。
きっと忘れさせてくれるから。
頭痛も口内炎の痛みも、学校へ行けば問題を起こしてしまうことも。
快楽はすべてを忘れさせてくれるから。
汗ばんだ私の身体をなでて、母は言う。

『風邪引かんうちにお風呂であたたまり』

お風呂から上がる前に、母は家を出て仕事へ行く。
寂しい夜に宿題する気は起きない。
寒い夜はあたたかい腕の温もりを思い出す。
暑い夜は汗ばんだ肌を思い出す。
後輩を見れば、母の胸とどう違うのか気になってしまう。
温もりに包まれた夜を思い出してしまう。
母が好き。
こんなにいとおしい人がそばにいる。
悲しませたくない。
私がほんの少し我慢すれば、母は抱いてくれるのだと思う。
259 :私が愛した人 :2016/08/24(水) 00:07

◇◇◇

260 :私が愛した人 :2016/08/24(水) 00:08
初めての生理を迎えた。
腹痛を訴え保健室へ行くと、道重先生に生理じゃない? と訊かれた。
授業で仕組みは習ったけれど、こんなに痛いとは思ってない。
トイレで下着の汚れを確認し、道重先生から習ったとおりにナプキンをあてがう。

ーー気持ち悪い。

三時限目を休んでから帰宅した。
母は驚いたが、事情を話すといつものように抱きしめて頭を撫でてくれた。
いつものような気持ちよさはなく、不思議な感じがした。
ふわふわと宙に浮かんでるような気持ち悪さだ。
安心感は覚えなかった。
すっと母から離れると、赤いスカーフをほどきながら自室へ向かう。
母の顔を見るのすらイヤな気分である。
特に声をかけられることもなく、部屋でまったりと過ごした。
久しぶりの一人だけの時間かもしれない。
しばらく経つと、コンコンと控えめなノックが聞こえる。
母が心配そうな顔をして覗いてきた。

「......何?」

イライラしてるせいか、思ってるよりもキツく咎めた口調になる。

「ちょっとええか」

母は、ドアの向こうに見えるリビングのテーブルを指さす。
不釣り合いなラベンダー色の缶が置いてあった。

「これな」

ドアを開けたまま離れ、蓋を開けた中にナプキンがキレイに並べてある。
道重先生が持ってきたものより、ちょっと大きいものも一緒だ。

「トイレに置いとくから。そろそろナプキン変えたほうがええで」
「いい、必要ない」

母のアドバイスを一蹴し、ベッドに戻る。
横になって目をつむる。
こうすれば、母が邪魔してくることはないだろう。
ああ、それにしてもイライラする!

「ごめんな」

小さな謝罪の声が聞こえ、静かにドアを閉める音が聞こえた。
それから、汗をかきながら眠りについた。

起きたときには夜だった。
お祝いだからと、少量の赤飯と好物多めのおかず数品を食べた。
母が一緒にお風呂へ入ろうと誘ってきた。
いつものように抱くことはない。
お風呂で汗を流したかったのは確かだ。
一瞬、断ろうと思ったが、寂しさを感じる夜も嫌だと思い直し、母を受け入れた。
下着を用意して脱衣場へ向かうと母が新しい下着を用意していた。
生理のときは別の下着にしな。
トイレに入るとナプキンがだいぶ汚れていた。
母があのとき声をかけてくれたのは優しさからだった。
いつものように母を受け入れられない自分に、より一層イライラしてしまう。

湯気が揺れる中で見る母の裸はいつもより色っぽく見えた。
何事もなくお風呂から上がる。

「仕事、休みにしたんや」

温かいココアを入れてくれる。
ゆったりとしたおしゃべりの時間を過ごす。
こんな夜は本当に久しぶりだ。
安心してぐっすりと眠りについた。
261 :私が愛した人 :2016/08/24(水) 00:08
先生、今日はよろしくお願いします、では。
母が電話に向かって何度も頭を下げる。
受話器を置くと、バタバタと冷蔵庫をあけた。

「これ、昨日のおかずだけど。それから主食」

好物のおかずが目の前に一品。
それと、いつの間に作ったのか冷蔵庫から玉子サンドが出てきた。

「いただきます」

両手を合わせ、食べ始める。
おいしい。
オレンジジュースもいつものような味気なさは感じず、おいしかった。

「さくら、朝はいつもジュースだけなん?」

母をまっすぐ見つめながら、こく、と縦に首を振る。
ーーこんな朝の会話久しぶりやね。
その一言から母はこれからのことを喋り始めた。
今、好きな男性がいること。
その人と結婚したいこと。
さっき、さくらが朝食用にジュースだけ持っていったのを見て危機感を持ったこと。
そして、結婚したらさくらを抱くのをやめること。
こんなん変やてずっと思うてきた。
けど、やめれへんかった。
さくらに初潮がきたら、やめようと思ってたんよ。
母は優しい表情をしてた。
私を抱いてるときよりずっとずっと優しい。
声も態度も。
私の知らない人のことを思っているからだろうか。
でも、今は母が私を抱かなくて済む時間が増えるのはいいことなんだ。

夕方、初めて顔を合わせた。
母がキラキラと輝いて見えた。
正社員で部長補佐とかいう偉そうな肩書きを持ってた。
三人暮らしには狭いからとその場でたくさんのことが決まっていく。
翌日には婚姻届が提出されると同時に、私は小田さくらになった。
母は苗字が変わったと浮かれていた。

経血の量が減り、気分が落ち着いたので登校することにした。
チェルが「おはようございます、さくら先輩」といつもとおんなじように声をかけてきてくれたから安心した。
チェルは今日も好きな人の話をしていた。
好きな人にだけ触られたかったから怒ったんだね、チェル。

私は母が大好きだ。
ううん、愛してる。
快楽を貪ることや肌を触ること、内蔵まで抱きしめあうこと。
恋人じゃない、愛し合ってる家族だからできるんだ。
大人になったらまた母を抱きたい。
きっと今とはすべての感覚が違うんだろう。
今度は私から母に快楽を教えてあげよう。

END.
262 :みおん :2016/08/24(水) 00:10
なかなか書きあがらなかった別の話ってやつです。
割と重めの話かもです、注意。
いまさら。
263 :溺愛パラシュート :2017/03/11(土) 02:07
遅くなりましたが、百合はクロスロード >>249-252 の続きです。
264 : 溺愛パラシュート :2017/03/11(土) 02:08
帰る頃には、夕陽に照らされた大きな雲がオレンジ色に染まっている。
お会計の際、めざとく見つけたパプリカの会主催学習会のチラシを綺麗にたたんで制服のポケットへ忍ばせた。

どうやって誘おうか、考え事をしているとあっという間に授業は終わり、クラスメイトは放課後のおしゃべりを楽しんでいる。
考え事をするには部室だな。
校舎横にある部室長屋は大小いくつかの部室がある。
そのうちの一室が、漫研と文芸部の部室だ。
ドアを開けると、森戸ちゃんと梁川ちゃんがいた。
梁川ちゃんは壁際の机に向かって何か作業をしているようだ。
「山木先輩、こんにちは」
「こんにちは、森戸ちゃん」
梁川ちゃんは? と聞くとどうやら部誌の締め切りが近いことを忘れていたらしい。
編集長をやる部員に執筆の進み具合を聞かれ、慌てて書き始めたという。
今日は作戦会議もできなさそうだ。
森戸ちゃんが梁川ちゃんの背後からそっと原稿を盗み見る。
「おとぎの国からこんにちは? ふふ、梁川ちゃんって文章は意外とロマンチックなんだね」
「モギトさん!?」
「え? なに? コギトエルゴスム?」
「ち、違いますぅ」
梁川ちゃんが有名な哲学者の一節を暗唱したと思ったら違ったようだ。
難しい言葉はたくさん知っているのに、滑舌はあまりよくないようだ。
先程まで熱中していた原稿は一文字も進まなくなり、耳まで真っ赤にしてうつむいている。
締め切りが近いという原稿はまだまだ真っ白だ。
邪魔者は去るのみ。
いっそ勢いだけで嗣永先生を学習会へ誘ってしまおうか。
どんな顔するかな、喜ぶのかな、怒られるかも。
うーん。
「先輩、今日は梁川ちゃんの邪魔したくないんでカギ置いて帰りますね」
考え事をしていたようで、帰り支度を終え鞄を持ち、カギを机に置いた森戸ちゃんに声をかけられる。
失礼します、と丁寧にお辞儀をする森戸ちゃんに続いて私も帰ろうとさりげなく鞄に手をかける。
「待ってください! 森戸さんがいると原稿が進むんです!」
耳を真っ赤にしたままの梁川ちゃんが立ち上がり、焦った声で引き留める。
いつもの大人っぽい落ち着いた雰囲気はない。
恋はここまで人を変えるのか、恐るべし。
そして、わかってはいたけども本人に言われるとちょっと落ち込むなぁ。
要するに、私は邪魔者だったのだ。
そんな私の横で森戸ちゃんもまた耳まで真っ赤にして「ひゃあ」と驚きながらピョンピョンとうさぎみたいに跳ねた。
「えー、そんなこと言われたの初めて! 嬉しーい!」
うわ、純粋な子供みたいな可愛さ。
これは梁川ちゃんじゃなくったって恋に落ちる。
しかし、全然脈なしだと思っていたけれど、意外と気の合う二人なのかもしれない。
制服のポケットの上を撫でると「また明日」とだけ声をかけ、無邪気に笑い合ってる彼女たちと別れた。
265 : 溺愛パラシュート :2017/03/11(土) 02:10
嗣永先生がいるはずの社会科教務室を目指す。
一度、校舎から出たのにまた戻ることになるなんて、物事はいつだってうまく進まない。
先生は、元々名前だけの顧問で部室には年に一回しか来ない。
用があるときはこちらから足を運ぶしかないのだ。
「失礼します」
開いてる扉をコンコンと二度叩くと、物書きに熱中していた先生がこちらを向いてにっこりと微笑んだ。
「あら、山木さん。丁寧ね」
先生に褒められるとやっぱり嬉しい。
こちらまであたたかい気持ちの笑顔になれる。
他の先生の邪魔にはならないよう静かに嗣永先生の机へと歩いていく。
「あのー、相談があってきたんですけど」
語尾が急激に弱くなる。
今日の梁川ちゃんみたいに大胆にはなれない。
「なんでしょう?」
先生は仕事の一部というような口調で先を促してくれる。
「あのぉ、この学習会へ行ってみたいなと思ってるんですけど」
制服のポケットに入れたチラシを開いて渡すと、ああこれね、とずいぶんと落ち着いている。
「山木さんは社会活動に興味があるのかしら。やっぱりおうちの商売が関係してるのかしらね」
「いえ、個人的な興味なんですけども」
「先生ね、教育の一環としてこういう人と出会ったり話を聞いたりするのはいいことだと思ってるの。今度、学校で講演してもらおうと頼んでるところなんだけど、もし、山木さんが良ければ現役学生の声を届けてくれないかしら」
そういう声があるなら講演の内容も詰めて考えられるだろうし、と先生は続けた。
「はい、もちろんです」
先生に頼りにされるなら何でもします! と言いたかったけどさすがに周りの先生たちにもドン引きされそうなのでやめた。
「そっか、良かった。山木さん、悩みごとがあるなら先生に相談しなね」
私の返事を聞いた先生は、大きめのブロック付箋に何か書き込むと学習会のチラシに貼り付けて、元の折り目に沿って畳み直してしまった。
付箋は中に折り込まれてなんと書いてあるか見えない状態だ。
チラシは私の手に戻され、嗣永先生は立つとゆっくり私の背中に手をかけ回れ右をさせる。
そうしてゆっくりだが確実に背中を押して廊下まで出されてしまった。
「悩みごとがあったら、先生はいつでも相談に乗るからね」
いつでも、のところに強いアクセントがのった。
「ひとまず今日はここまで、また明日ね」
いつでもと言いながら時間制限があるようで可笑しいなと思ったが、文句は言わない。
私は困った顔だけして、さよならというように手を振ってくる先生に頭を下げ、その場をあとにする。
校門を出てから、チラシを広げ直すと付箋には学習会の日と集合場所と時間、それに諸注意まで書いてあって、一人で笑ってしまった。
本当に先生は可愛いんだから。
諸注意にある、仕事ではなくプライベートの格好で来るように、という一文がなんだかキラリと光っていた。
266 :みおん :2017/03/11(土) 02:11
続く?

ももちがいなくなるまでには!
267 :「えいえんの娘。R」 :2017/03/16(木) 20:55

「えいえんの娘。R」
268 :「えいえんの娘。R」 :2017/03/16(木) 20:56
サン「RA」is 初恋

♪さゆみがなぜかなかなか出てこなぁい

四人でカラオケに来て歌っていると、絵里が「なにこの歌詞、違うじゃぁん、字幕通りに歌いなよー」と茶化してきた。れいなは表情を変えることなく♪推し変しちゃおうかな、も少し待とうかな、不安で泣きそうな顔してる私、と歌いきる。絵里は隣に座ったさゆに「ねー、この歌知ってる?」と聞いた。休業から目覚めても変わらない桃色肌に青光する黒髪を三つ編みにしたさゆは、束ねた毛先を人差し指で器用にくるくると弄んだまま「知らない」と言い放つ。私はれいなと二人で最後まで平和に「有難う」と感謝しながら歌った。さゆを太陽神の生まれ変わりと信じている私は、サビの振りを一生懸命やった。つまり、腰を振っていた。天岩戸からなかなか出てこない神に気づいてもらえるように。きっとりほりほが腰を振っていたなら喜んで神は外に出ていくのだと、私は目に涙をためながら気づく。れいなは一人、次の歌を選んで端末で入力し、同じ歌をもう一度最初から歌った。歌終わりのれいなに口づけしようとしたら避けられてしまった。酔って頭がフラフラになっていたからかもしれない。太陽は今日もまた美しくのぼり、地獄みたいなオールナイトのカラオケが終了した。急な黄泉比良坂がある渋谷のカラオケボックスを出た。さゆは坂を上るときに決して底を振り返らなかった。だから太陽神は甦ったのだ。私はまたさゆを見初めた。
269 :「えいえんの娘。R」 :2017/03/16(木) 20:57
時空を超え過去を超え

カラオケを終えてそのまま四人で近くのファミレスBerryzへと入った。さゆは適当にパフェとドリンクバーを頼むと無機質で冷たいスマホをいじり続けていた。絵里が席を立ち、ドリンクバーへと向かおうとするとれいなもおもむろに立ち上がり絵里のあとへ続く。ははぁ、これは二人とも気を遣ってくれたのだなと勝手に解釈し、スマホをいじり続けているさゆに「今のモーニング娘。が超えなきゃいけない過去ってなんだと思う?」と聞いた。スマホから目を離さずに、さゆはまた「知らない」と答えた。キャッキャしながられなえりが戻ってくる。「ねーねー、何の話?」カルピスソーダを作ってきたのか、真っ白な液体にシュワシュワと音をたてる小さな泡が見えた。「しゅわしゅわぽん」と私がいうと「それ、りほりほのだから取らないで」とムスっとした表情で私を睨んでくる。鞘師はモーニング娘。をもう卒業している。たった十七歳でアイドルをやめた。「お水持ってきたとよ」れいなが私の前にコップを置いてくれた。隣のれいなからは味噌の匂いがした。「れーなはお味噌汁にしたっちゃ」黒いお椀には肉みその具が入った茶色の味噌汁が入っている。れいなでも憎みそうなぐらい新人にジェラジェラジェラってるのかと思ったら、そういうことではなかった。「モーニングでもないのに?」「どういうことっちゃ」「そうじゃない」れいなは悪の娘だからモーニングにもラベンダーにも興味がない。コップに入った水を一口飲んでカラオケで疲れた喉を癒す。さゆに視線を戻した。「今のモーニング娘。が超える過去としての実像になったんだよ、さゆは」さゆは無機質なスマホを見ながらニヤついている。おおかた、新人研修生の顔でも確認しているのだろう。「きゃはー、この人なにイッちゃってんの。マジでおかしいよねぇ、さゆ」テンション高くバカにしてきた絵里に、私のなかの秘めているクララがたった。
270 :「えいえんの娘。R」 :2017/03/16(木) 20:58
ぶらんにゅーさゆみん

砂浜に稲場さんと稲葉さんが裸になって並んで寝そべっていました。寄せては返す波が彼女たちの下半身に飛沫をあげてかかり続ける。そこへ中澤さんがやってきて、稲葉さんの隣に寝そべりました。通りかかった保田さんが「裕ちゃんは関係ないのに」と悲しそうに呟く。「いいの、ゆうこりんは踏まれたいだけだから」私たちの側に来た道重さんは白い服を来てなぜか白い大きな荷物を背負っている。「そうや、踏まれたい抱かれたい踊りたい、や」「そんな。泡沫サタデーナイトみたいに言わないでくださいよ」「そうやん、さゆみんの仕事始めはサタデーナイトからやで」「また無茶苦茶な」と答えたが、仕事自体はフライデーだが、放送されるのは確かに泡沫サタデーナイトだった。それよりも、中澤ゆうこりんと道重さゆみんが休業前より親密な関係になっているのが気になる。さゆみんは何も言わずにマシュマロのように真っ白でふわふわボディの稲場さんの背中を踏みつけた。隣の稲葉さんも踏みつけた。二人とも痛そうな声を出しヒィヒィと泣いている。ゆうこりんをさゆみんが踏みつけると「あっ」という声が漏れた。「もっと踏んでぇ」そのお願いに応えるようにさゆみんは一度、二度三度と何度も踏みつけると、その度にゆうこりんは「あっ、あっ、あっ」と声をあげる。ゆうこりんは太陽神の復活の喜びを噛みしめているのだろう、そのように私は聞こえた。様子を見てたら、たまらず興奮してしまった。じっとりと眺めながら口内から涎が止まらなかった。二人の行為も止まらない! 「もっとして、気持ちいいんや」さゆみんはめんどくさくなったのか、ついにざらざらした砂のついた踵でゆうこりんの頬をぐりぐりと痛めつけた。「あんた、ちょっとやめさせなさいよ」と保田さんが言い、私がやめたらどうだとアドバイスするまで二人は楽しみを止めなかった。保田さんが「治療してあげてよ」と労る。「どうしたらいい?」と私はさゆみんに聞くと「赤貝と蛤が必要なの」と桃色の肌をより一層桃色に上気させハニカミながら答える。「治療開始なの」と呟きながら右手を高くあげると奥から鞘師と加賀と藤本が出てくる。三人は無言で稲場さんと稲葉さんの肩を抱き寄せ、奥へと連れていった。あの二人は私の目の前で素肌を晒してアイドルをすることは、残念ながらもうないのだろう。赤いメンバーカラーの人物が赤貝かと気づく。じゃあ、蛤はどこにいるんだ? 「ゆうこりんには蛤が必要なの」「そうや、私が言う前に抱きしめてくれるんや」二人はいつのまにか貝合わせを楽しんでいた。波で濡れたゆうこりんの下半身が貝合わせをすんなりと受け入れていた。上半身だけで踊り続ける。ゆうこりんが「歌いたい。歌を練習するだけの自由時間が欲しい」と小さく呟いたのが聞こえ、さゆみんが「私が復帰したから大丈夫ですよ」と笑顔で答えさっきよりも強くぎゅっと抱きしめ、二人は一つになった。「こんな解釈もあるのね」と磐永姫のような保田さんは白い壁に溶けて消えた。ここは砂浜ではなく白い部屋だった。ああ、プロジェクションマッピングで全てができている世界なんだ。ここには誰もいない、幻の世界。私の背中はさゆみんから痛みを譲り受けた。
271 :「えいえんの娘。R」 :2017/03/16(木) 20:59
私はさゆみんを抱きしめていたい

さゆみんの復帰後、初めてのメディア仕事はラジオだとわかった。約束を守るというのは、今後バラエティ仕事をこなしていくことだ。きっとモーニング娘。を先輩として応援していく、宣伝していく使命がさゆみんを突き動かしたのだろう。さゆみんはモーニング娘。が誰より好きなのだ。音痴を治すのに思ってた以上に時間がかかったのだと思った。自分が好きなモーニング娘。がモーニング娘。であり続けるために、お客さんを「ああ、これが求めていたモーニング娘。だ」と喜ばせるために。だから、献身的な態度で戻ってきてくれたのだ。かえでぃーが青い光を放つスマホを見ながら「石川さんだけじゃなかったんですね」と言った。きっと狼を見ていたのだろう。「石川って誰っちゃ」れいなは悪の娘だから先輩にも後輩にも興味がない、自分を守ることにしか興味がない事務所の犬になった。こんなれいなには興味が湧かない。抱く気はそもそもない。かえでぃーは「ひどい」と言ってテーブルにつっぷし、そのまま「こんなはずじゃなかったのに!」と叫んだ。かえでぃーの言うとおりだ。かえでぃーにはモーニング娘。のこれからのためによこよことらぶらぶしてもらうミッションが待ち構えている。さゆみんに手解きを受ける予定で集まっていた。ついでだからとれいなにまりんとのミッションを紹介したのだが「れーな、悪の娘やけん、受けれないっちゃ」と断られた。その時、事務所の一階にある喫茶店の前を磐永姫のような顔をした保田さんが通りかかった。私たちを見つけると入り口で「何してんの」と呼びかけ、わざわざテーブルまで来て勝手に椅子へ座った。保田さんなんてみーよとイチャイチャしてれば良かったんだ。「何してんの、会議?」「誰っちゃ」「ひどいですよ、保田先輩ですよ。やすみよで輝いたんですよ」かえでぃーは良い子だから、顔をあげて律儀にれいなに教えてあげる。しょうがないので保田さんにウソの話題を提供し、帰ってもらおうと考えた。「えいえんの娘。Rという言葉を調べているんですよ」「RってRealじゃない?」「ここにはアンリアルしかないっちゃ」「アンリアルならAですよ」「うるさいっちゃ!」れいなは大声を出して珍しく歯を見せてきた。怒られてしまい、私はシュンと肩を落とす。さゆみんはれいなの横でふんっと鼻を鳴らして私をバカにしてきた。バカにされた途端、舞い上がった私は胸の高まりを感じた。此花咲夜姫のようなさゆみんを一瞬でも抱きしめていたい。プロジェクションマッピングで海や山を産み出すさゆみんを私は抱きしめたい。
272 :「えいえんの娘。R」 :2017/03/16(木) 21:00

「夢を見たい」
273 :みおん :2017/03/16(木) 21:07
道重さゆみさん、復帰おめでとうございます。
奇しくもりほりほも復帰するとかしないとか聞いたので、さゆに本気で片想いしているりほりほの話が読んでみたいものです。
さゆが名前が出てると嬉しいと書いてたと思うのですが、さゆが出てこない話ばかりだったので書いてみました。
変な人なので変な話です。
ついでに今日見た夢はさゆにプロポーズされる夢でした。
恋人がいてもさゆを選んでしまうものなのだなぁと夢の中でも道重一筋でしたよ。
姐さんがさゆ卒業のときに一緒に歌いたいと書いてたので、叶うことを願います。

というわけで、溺愛パラシュートの続きを書きに戻ります。
274 :恋はパラレルライン :2017/04/03(月) 00:07
春の日射しはあたたかく、学習会が行われる日曜日がやってきた。
今日はお昼過ぎから夕方まで『ハニホヘト』は貸し切りとなる。
橋のたもとにある小さな公園で待ち合わせだよ、と付箋には書いてあった。
白いふりふりのレースにセピアチェックのリボンが可愛い長袖ブラウスワンピースに白のボレロ、ふりふりの白レースと白い小さなリボンがちゃんとついたセピア色の靴下にお揃いの色の靴にした。
白いヘッドドレスとショルダーバッグを提げて公園の入り口に立つ。
いつもの制服じゃなけど、先生気づいてくれるかな?

「お待たせー!」
そう言って手を大きく振りながら近づいてきた嗣永先生は白いうさぎの耳つきフードパーカーに落ち着いた桃色に金の留め金がついている小さめリュックサック、フロントレースの白いブラウスに膝上丈の桃色フレアスカート、ヒールの高い桃色パンプスにレースのついた透け感のある白い靴下という十代みたいな装いだ。
ついじろじろ見てしまったのか先生に優しく「今日は若い子と一緒に歩くんだから」と返されると何も言えなかった。
だから、ピンクですね! と話題をそらしたらドスの効いた低い声で「これはピンクじゃなくて桃色なんですけど?」とピンクから桃色に訂正させられた。
先生と生徒の関係じゃ今日はまずいから私のことは桃子ちゃんと呼んで。
と言われ、うんと頷く前にじゃあ練習してみようかと、言わされる流れに。
突然すぎて恥ずかしくて言えそうにないけどニコニコと笑顔で見つめられ、口をもごもご動かしていたら、言えないうちはここから動けないよと言われたら頑張るしかない。
「......っも、桃子、ちゃん」
「かったーい。ま、一度言えたわけだし、そのうち慣れるよ」
言えてホッとした。少しでも親密になれた気がして胸が高鳴る。
今だけじゃなくって、今後もこういう関係がずっと続いていけばいいのに。
「山木さんは友達からなんて呼ばれてるの?」
「りさぴょん、です」
「じゃあ、ぴょんで」
それって原形ないのでは。
「ちょ、先生! 聞きなれないのは私が困ります!」
......反応がない。
「今は先生じゃありませぇん」
ぷっ。言い方が可愛くてつい吹き出してしまった。
「桃子ちゃん、聞きなれないのは私が困ります」
「はぁい。慣れたじゃん、ぴょん。私たち昔から親友だったみたぁい」
プライベートの嗣永先生ってこんな感じなんだ。
学校とは全然違う。
「じゃ、行こっか」
差し出された手に「はい」と返事して、私は先生と手を繋ぐ。
小さくて柔らかい手と。そう、昔から親友だったように。
いや! 親友じゃダメなんだけど!
......ダメなんだけど、今はこれでもいいかな。
275 :恋はパラレルライン :2017/04/03(月) 00:08
橋を渡り、坂の途中の喫茶店『ハニホヘト』の扉を開ける。
作戦会議じゃなくて、やっぱり好きな人と来るといつもの場所もきらめいて、いつもと違う光景に見える。
「ぴょんは学習会は初めてだよね?」
「あ、はい! そうです! 桃子、ちゃん」
まず資料代として参加費を支払ってから、好きなテーブルへ着き学習会が始まるまでにワンドリンクorワンフード頼んでね、という形式らしい。
資料代を係の人に渡そうとして長い黒髪が目に入る。
「ありがとう、山木さん来てくれたんだ」
道重さんが目の前で微笑みながら、資料を渡してくれた。
あ、ああ、こんな幸せあってもいいのかな。
それに、制服じゃないのに気づいてくれた!
「ちょっと、ぴょん、行くよ」
ぐるぐる混乱してしまったら桃子ちゃんが強引に腕を引っ張って、奥の席へ連れられて座る。
普段グランドピアノがある入り口近くの一角に会議室にあるようなホワイトボードが置かれ、短髪の中澤さんとセミロングの女性と男性と三人で談笑していた。
「ちょっとちょっと、よく聞いてぴょん。みっしげさんはファンが多いんだから」
みっしげさん? 資料を求めて並ぶ女性の何人かは、道重さんに声をかけられると黄色い歓声をあげていた。
何分か前の私のように。
いつものことなのか中澤さんや店主は平然として話を続けている。
「いらっしゃいませ」
奥のテーブルまでコップに入った水を二つ持ってきたのは店主ではなかった。
名札には高橋という苗字と、名字の上には小さくバリスタと書いてある。
「ごめんなさい、まだ決まってないの」
と桃子ちゃんが言うと「失礼しました」と深々と頭を下げ、カウンターの奥へと戻っていった。
何度か来ているのに初めて見る顔だなぁ。
最近、雇ったのかな?
「ね、ぴょん。おごるよ。ここのフード、美味しいんだよ」
「え。あ、ありがとうございます」
ついつい丁寧語になってしまうけど、語尾も直したほうがいいのかな。
とはいえ、カロリーを考えると注文できそうなものは少ない。
メニューを見ながら考え込む。
「頭を使うとお腹が空くのよね」
桃子ちゃんはがっつり頼むようだ。
アールグレイのムースなるものをメニューから見つけ、ミルクティーと一緒に頼むことにした。
276 :恋はパラレルライン :2017/04/03(月) 00:09
店内は満杯とは言えないが、七割ほど席は埋まっているようだ。
ふと、渡してくれた資料に目を通すと、今日の講師は弁護士で憲法と同性婚についてとタイトルがついている。
憲法二十四条から始まり、幸福追究の権利、憲法における平等の素晴らしさと続く。
高校生にわかるだろうか。
授業で憲法を習ってはきたけれど、試験のための暗記で自分の身に付いてる気はしない。
資料を先に読みながら、自分への反省を込めて、はぁと大きな溜め息をつく。
「大丈夫よ、ここにいるほとんどの人はぴょんと同じ。試験のために習っただけ。だから、大人になってから学習するのよ。そのために開いてくれた学習会なんだもん。楽しまなきゃ、ね」
「はい」
桃子ちゃんの言葉にふっと肩の緊張が抜ける。
「お待たせしましたぁ」
いつもの店主がお盆いっぱいにドリンクとフードを持ってきた。
アールグレイのムースにミルクティー。
BLTサンドに本日のおすすめコーヒーとふわふわホイップの乗ったコーヒーゼリー。
先生、こんなに食べる人だっけ?
「変な時間に起きたからちょうど今がランチタイムなの」
「いつもご贔屓にありがとうございます」
「いえいえ! 繁盛してもらわないと困るしね!」
どうやら学習会の場所が無くなると困るという話らしい。
ここが再開するまでの間、学習会の開催場所は転々と移り、不定期ながらやっと同じ場所で開けるようになったという。
「再開して愛ちゃんと一緒にやるようになってからはイベントの数も増えたので」
「高橋さんの淹れてくれるコーヒー、いつも美味しいですよ」
「まぁ、ありがとうございます。伝えておきますね」
店主は去り際、こっちの作戦とはやるねぇとニッコリ笑ってきたので、なんだか恥ずかしかった。
それを聞いた桃子ちゃんが「作戦ってなぁに?」とぐっと近づいて顔を覗きこんだからか、余計に恥ずかしくなって顔が熱くなるのがわかった。
「ぴょんの顔、真っ赤だよ」
言わなくてもわかります。コップの冷たい水を飲むと少しだけ冷静さが戻る気がした。
277 :恋はパラレルライン :2017/04/03(月) 00:09
桃子ちゃんのBLTサンドを食べ終わるぐらいに、中澤さんから挨拶と弁護士さんの紹介があり、そのまま弁護士の自己紹介と挨拶にうつり、進行はスムーズに動いていく。
憲法二十四条の婚姻からだ。結婚でできること、市政における同性婚で認められていること。
認められてないために今まではできなかった財産贈与やパートナーの入院・手術の同意、面会謝絶になっても親類と同じ扱いでの面会、葬式への列席など。
またローンの組立や保険といった、一緒に長く住むからこその問題も市政においては少しずつ前進しているということだった。
同性婚制度が県や国レベルまで認めれられるよう、みなさん一緒に頑張りましょうと締めくくられた。
「十五分の休憩ののちに、質疑応答を行います」
中澤さんが声をかけると、喫茶店としてのいつもの賑わいが戻ってくる。
桃子ちゃんはコーヒーゼリーを食べながら、どう? と聞いてきた。
「思ったより難しかったです」
「まぁ、そりゃそうよ。ぴょんも婚姻可能な年齢ではあるけれど、まだまだ先の話だもんねぇ」
「講演を頼むって言ってましたけど」
あの日、講演会してもらおうと言ってたけれど、こんな内容じゃ誰もついてこれないと不安になって聞いてみる。
「あー、あれね。弁護士先生に頼むわけじゃなくて、性的少数の当事者を呼んで話をしてもらおうと思ってさ。憲法なんてよくわからないものより、人を好きなだけなのに何に困ったのか、そういう話を聞きたいでしょ?」
「はい! とっても!」
「うん、いい返事。人を好きになっただけなのに、ってのは、さっきも出てきたけど幸福追究の権利、何で同性を好きになっただけなのに社会で生活する上で困りごとがあるのか、ってのを平等の権利に置き換えてみたら、今日の学びもぴょんにはわかりやすくなるんじゃないかなぁ」
桃子ちゃんは、すいませーん、と手を挙げ、本日のおすすめコーヒー二杯目とミルクティーを頼んでくれた。

質疑応答は、どうやって周囲にこういった活動やアライという当事者以外の支援者を増やせばいいのかといった質問から、当事者の勤め先での差別だとか、はたまた恋人からのDVの対処法を教えてください、という悩みだ。
バイトをしたことも恋人がいたこともない私には縁遠い話のように思える。
告白がイベントの一種で、付き合うってのがゴールになってしまってるのかなと作戦会議を含め振り返ってみた。
ここにいる人たちみたいに大切にしたい人とつきあった経験がないからなのかもしれないけれど。
そういえば、道重さんが当事者なのかアライなのか知らないままだ。
最後にもう一度弁護士さんと中澤さんの挨拶があり、大きな拍手で会は終了した。
会計には長蛇の列だが、そこに道重さんと中澤さんが一人ひとりと話したり握手したり、時には手を振って見送ったりしている。
「ぴょん、もうちょっと時間ある?」
「はっ、はい!」
ま、まさかの桃子ちゃんからのお誘いなんて、嬉しい!
278 :恋はパラレルライン :2017/04/03(月) 00:10
「桃子、来てたんだ」
中澤さんと仲良く談笑していた、セミロングの女性が私たちのテーブルまで来てくれる。
パッチリとした睫毛が素敵だけども、目力がすごくて圧をかけられているようにも感じる。
「そりゃ来ますよ、保田さん。例の件、お願いしますよ」
桃子ちゃんは、親しげにその女性と話す。例の件って何だろう。
「道重を説得できればいいよ」
「マジですか! やったぁ、今日は最終兵器連れてきましたから」
道重さん? 最終兵器? いよいよ、話が見えないぞ。
「最終兵器ってその子が?」
「そ、親友のぴょん」
「親友? 恋人じゃなくて?」
嬉しいな、恋人に見られてたらいいな。
話が見えないけれど、嬉しい言葉がポンポンと聞こえてくる。
もー、違いますよー、と桃子ちゃんが否定したときに空気が変わった。
黒髪を触りながらこちらへ歩いてくる道重さんが見えたからだ。
「みっしげさん! 待ってましたよー」
桃子ちゃんは立ち上がって、こちらのテーブルにと姿勢よく手招きする。
その姿が凛としていて見惚れるようだった。
「桃子ちゃん、なぁに?」
道重さんの発する「桃子ちゃん」という単語がほわほわもこもこしていてかわいい。
「あ、山木さん。難しくなかった? 大丈夫?」
ふわーと天国まで上昇していくような幸せを感じる。
今日の目と耳の忙しさは尋常じゃない。
「あ、はい。だ、大丈夫です」
と返事するのが精一杯なくらい緊張した。
「みっしげさん、そーゆーことするからファンが増えるんですよ」
「そういうことって?」
「もー、絶対わかってるでしょ!」
桃子ちゃんはスネているようで、可愛い。
学校じゃ見れない光景にクスリと笑ってしまう。
それにしてもおしゃべりだ。
部活でしか会えない、仕事してる先生にしか会えてなかったんだなぁ。
「それに、山木さんは桃子ちゃんの生徒でしょ?」
道重さんの純粋な質問に、保田さんはなるほど親友ねと短く答え、桃子ちゃんは舌打ちしていた。
「ま、いいんですけどね。ぴょんがこういう学びを道重さんから聞きたいなーって言ってたから。ね。若い子の意見は大切じゃないですかぁ」
桃子ちゃんの意見にこくこくと頷くと、道重さんは深く考え込んでるようだった。
「うーん、その件はまたあとで返事してもいいかな」
「もちろんですよ! みっしげさん、いい返事期待してますから」

三人と店主に見送られ、喫茶店を出ると薄暗く太陽は西へ落ちつつあった。
並んで坂を下る。
日曜の夕方は、人や車の往来が平日より少ないように感じた。
「遅くまでごめんね。家まで送ろうか?」
「大丈夫です。高校生ですから。それに遅くなるかもって言ってあります」
今日、起きたときから先生の様子を見て告白してみようと決心してたのだ。
住宅地と歓楽街をつなぐ橋が見えてきた。
「先生。私、先生が好きです! だから」
言葉を続けようとしたら、先生がぎゅっと体を包むように抱きしめてくる。
良かった、付き合えるんだと思った時、耳に入ってきた先生の言葉はとても衝撃的で両目から涙が溢れてしまった。
高校生にもなって人目を憚らず泣くことになるなんて、思いもしなかった。

ーー山木さん、ありがとう。気持ちは嬉しいよ。でも、先生ね、もうすぐ結婚するの。だから、山木さんの気持ちには応えられない。
279 :みおん :2017/04/03(月) 00:11
続く 次のタイトルは「憂鬱ハーモニー」の予定です。
280 :名無し飼育さん :2017/04/20(木) 19:27
今さら発見してしまった
山木さんとももちの関係が好きなので嬉しい…と思ったらフラれてしまってたw
それでも続き楽しみにしてます
誰と結婚するんだろ?
281 :憂鬱ハーモニー :2017/04/30(日) 22:32
「はぁーあ、失敗しちゃったなぁ」
桃子はハニホヘトの店内で盛大な溜め息をついた。
本日のコーヒーはまだ一杯目で、なかなか減らないコーヒーカップを眺めるように視線を下に落とす。
カップを触る左手の薬指には指輪がキラリと小さな輝きを見せている。
「どうしたん? さっきから溜め息ばっかりついて。
辛気くさくなるからやめて」
と対面に座る中澤が突っ込むと桃子の隣にいた道重も大きな溜め息をついた。
「恋ってうまくいかないもんですね」
「何やの、二人して」
はぁーっと胸の奥の気持ちまで残さず出しきったとしても、二人の表情は浮かないままだ。
「第一、学習会の反省会って何や? 桃子が呼んだんやで」
中澤はコーヒー二杯目を頼んだものの話が進まない状況に苛つきを隠さない。
今日は水曜日、桃子からの連絡が道重にあったのは月曜の夜で道重に誘われた中澤と日程と時間を合わせた夜七時からだ。
店内の客はまばらで、ほとんどが帰り支度を始めている。
カウンターの向こうにいるバリスタの高橋は新聞を読みながら激務から解放された女店主の世間話に付き合っているようだ。
コーヒーを一口すすった桃子が喋り始める。
「あのぅ、帰り道に告白されたんですよ」
「え、あの子は道重を好きやと思っとったわ」
「はい、だから不覚でした。何よりも教え子を泣かせてしまったことが」
また一つ大きな溜め息をついて、話が止まってしまう。
そんなん学習会の反省やない、と中澤が冷静なツッコミを入れる。
「これで桃子ちゃんも当事者だね」
ゆっくりとした仕草で隣に座る桃子の背中を優しくさすった。
ですよね、中澤さん? 手はそのままに、瞳を中澤に向ける。
先ほどまでの優しい視線から一転、同意を求める強さに変わった。
「そうやな。当事者として振り返る?」
二人からの反応はない。
道重の黒い瞳が横を向き、桃子の言葉を待っているようだ。

怖がりだったあの頃の道重はもういない。
私と中澤さんだけが幸せな世界であればいいんです、と言い放つ不安定さはない。
わざと距離を置いたり関係を絶つ真似をしたりする必要もない。
いつの間にか自立した女性へと成長してたのだ。
積極的に周りへ働きかけ、二人だけの世界から三人と少しずつ、そして着実に広げてきた。
お互いが穏やかに過ごせるような距離感を保つことができるようになった。
その成長が素直に嬉しい。
自分はどうだろうか、と中澤は今までを振り返る。
誰かを救いだそうとするあまり、ずぶずぶと独り身の沼にハマってないだろうか。
いや、距離を保つにはお互いの努力と成長が必要だ。
可愛い容姿や振るまいには信頼している。
それが必要なことも世間にはあるのだ。
282 :憂鬱ハーモニー :2017/04/30(日) 22:32
ゆっくり口を開いた桃子は
「大切な人とだけわかりあえれば良いと思ってましたけど、
私は生徒を信用してなかったんですね、たぶん」
と視線をコーヒーカップへ落としたまま次の言葉へ繋げる。
「大切な人を傷つけないよう婚約指輪をつけて見せびらかそう」
なんて、ね。と、また一つふぅと息を深く吐き出すように溜め息をついた。
大きく肩が下がり、話せたことで緊張が解けたようだ。
うっとりとした表情で左手を挙げると薬指にある指輪は誇らしげに光る。
メモに言葉を書き留める癖のついた中澤は書き終えたばかりの文章を黙読する。
「桃子ちゃん、いいなぁ。羨ましい」
単純に羨ましがる道重は右手をグーにして口元へ持っていくぶりっ子スタイルだ。
「性別問わず人を好きになるって素敵だし、
山木さんが大切な生徒だって変わりはないもんね」
じっくり考え抜いたアドバイスより、感情から発されたナラティブな言葉が人を動かす。

周囲を羨ましがってはイジイジと落ち込んでいたあの頃の道重もいない。
自分がいなくても、道重はこういった局面を乗り越えられるのではないか。
......自分がいなくても、か。
ふと思った言葉のむなしさが中澤の心を寂しくつつむ。
桃子における生徒のように、道重をきちんと信頼しているだろうか。
相談があれば乗るけれど、その先の未来を共に求めているだろうか。
このままの関係でいい、というのは独占欲でしかない。
道重はきっと好きなままなんだろう、話をしないで決めつけてる怖さ。

「みっしげさん、その言葉をぴょんに言ってあげたら一発で落ちるんじゃないですかぁ」
道重はぶりっ子ポーズのグーにしてた右手をパッと開き、顔の前で左右に振る。
いやいや、そんなことないよ、と言って笑う。
「でも、桃子ちゃんが元気になって良かった」
死にそうな顔してたよ、と道重が続ける。
「今さらですけど、みっしげさんってどんな人がタイプなんですかぁ?」
「ほんとに今さらだね」
「だって、大切な教え子がみっしげさんに食われるかもしれないわけじゃないですかぁ」
元気を取り戻したいつもの桃子なのにうるさく感じる。
「猛獣とちゃうで」
「ナンパしたんじゃないですか?」
「ナンパしたのはむしろここの店主やで」
えっ、うそぉ。中澤さんも一緒にいたんですか。
ここで、ナンパしたんですか。
中澤は桃子からの矢継ぎ早に飛んでくる質問より、大切な人とはどういう関係か、という最適解のないパズルを解いてみたくなっていた。
283 :みおん :2017/04/30(日) 22:33
>>280
ゆっくりしていってね!
284 :恋患いループ :2017/05/31(水) 00:34
金曜の昼休み、ちょっとした二つの噂が学校中を駆け巡っていた。
一つは月曜から三年女子を中心に囁かれている、才女で有名な山木さんが坂で見知らぬ女子と抱き合って泣いていたというもの。
もう一つは、昨日から一年生を中心に騒がれている嗣永先生が結婚したんじゃないかという噂だ。
指輪について特に説明もせず、女生徒からの結婚したの? という問いに否定せずごまかしたというのも騒ぎになった一因かもしれない。

一つ目の噂が山木さん自身の耳に届いたのは水曜、そして二つ目の噂が聞けたのは金曜になってからだった。
「先生、結婚したんだね」
同級生たちは教室でも廊下でも、先生結婚か、という話題で盛り上がっていた。
先生、可愛いからほっとく男はいないよ。
学校では泣き言を言ったことないから頼れる彼氏にいってたのかもね。
と、憶測と想像がわんわんと耳に入ってくるのだった。
きっと部室長屋でも、この話題で持ちきりだろう。
人にとってはおめでたい話題でも、たった一人には大きな失恋の痛みとなって襲いかかる。
泣きはらした目の山木梨沙は放課後、級友たちに放っておかれ、部室にも寄らず、繁華街の一角にあるゲームセンターへと一人で向かったのだった。
普段なら決して近よりもしないであろうその場所は低音と雑音に紛れ、泣いていようが誰にも気づかれない。
自販機の横にあるベンチに隠れるよう座り、涙が枯れるまで泣いた。
そうしてどのくらい時間が経ったであろうか。

「ぎさちゃん?」

舌ったらずだけど聞き覚えのある声に顔を上げると、いつもより眉を八の字にした梁川奈々美と見たことのないきれいなお姉さんが不思議そうな顔をして覗き込んでいた。

「山木さん! 大丈夫ですか? 怪我ですか? 病気ですか?」
「やなみん、それじゃあ救急だよ」
「救急が必要かもしれないじゃないですか!」

……だって大事な作戦会議の仲間ですから。
梁川ちゃんの発したその言葉は何よりも強く私の胸に残った。

「ただ一人で泣きたか……っひっく……」

梁川ちゃんに答えようとしたものの、喋ろうとしただけで先生の結婚を思い出し、また涙が溢れてきてしまった。
285 :恋患いループ :2017/05/31(水) 00:35
「ねぇ、やなみん。ここで女の子が一人で泣いてるより、うちに来るのはどうでしょうか」

こくこくと首を縦に振って大きくリアクションした梁川ちゃんから差しのべられた手はあたたかくて安心を覚えた。
きれいな顔をしたお姉さんは何か楽器をやっているらしく、防音のアパートだからいくらでも泣けるよ、と言ってくれた。
背負っていた楽器を下ろし黒いパーカーを脱ぐと私の頭にかぶせて泣き顔を隠してくれる。
なんだ梁川ちゃんにはちゃんとお付き合いができる相手がいるんじゃないか。
と思うぐらいに冷静さを取り戻していた。

繁華街から住宅地につづく橋を渡り、あの坂の上まで行ってたどり着いた場所は聖地巡礼となっているアパートだった。
以前は社員寮だったが、田中れいなという歌手がヒットを飛ばしてからここに住んでいたのではと噂を呼んでいる。
へへっ、と恥ずかしそうに微笑むお姉さんの名前は宮澤真凜さんという。

「おじゃましまーす!」

二人で開けた扉の向こうは、埃一つなくきれいに掃除されていた。
1LDKというのだろうか。
小さめの玄関から入ってすぐの台所には驚いてしまった。
二人とも実はお嬢様なの? という呟きがボソッと聞こえてしまう。
確かに私は世間知らずかもしれない。
台所から続いたところにあるドアはトイレとお風呂だそうで、残念ながら中は見せてくれなかった。
奥から光が透けるのれんの向こうが部屋になっているそう。
楽器を修理へ出していたので風通しを良くしていたそうだ。
この時期特有のさわやかな風が通り抜けていく。

「ちょっと待っててね」

と台所に私たちを残すとのれんの奥のドアを閉めてしまった。
掃除でもしているんだろうか、こんなきれいなのに。
暗くなった台所で、梁川ちゃんがすっと顔を寄せる。

「まぶたが真っ赤です」

冷やさないと。その声はやはり緊迫感に包まれている。
梁川ちゃんがこんなに熱い、いや、冷静な子だとは気づけなかった。
たぶん、私には道重さんと先生しか見えてなかったのだ。

「さぁ、おいで」

開いたドアの向こうで宮澤さんはにっこりと微笑んでいた。
286 :みおん :2017/05/31(水) 00:38
もふもふ
287 :矢印デカダンス :2017/09/15(金) 23:49
部屋の隅には、ちょこんと置かれた楽器と譜面台がある。
そこに乗っている楽譜が妙に聖地巡礼感を醸し出していた。
何が飲みたい? いろいろ揃ってるよ、と声をかけ台所へと向かった。
少し猫背になったお姉さんはゆるやかに振り返る。
「紅茶、コーヒー、ミルク、なんでもあるよ」
まりん's キッチンなんてね。
お茶目に言ったようだが、口元の表情筋がほぼ動いていない。
先程は緊急事態に動揺してたから良かったのかもしれない。
普段の宮澤さんはもっとクールな人なんだろう。
同級生にはいないタイプだ。
「カフェラテ希望です!」
梁川ちゃんの屈託のない注文に宮澤さんは「よっしゃ、待ってな」とどこか男前な雰囲気だ。
「えっと、山木さんはどうする? 同じのでいい?」
「できれば、ホットのミルクティーでお願いします」
「りょ」
インターネットの言葉遣いだろうか。
宮澤さんは、きっと情報や流行りに敏感なのだろう。

部屋の真ん中には独り暮らし用の小さなちゃぶ台に、小さなテレビと据え置きゲーム機が置かれ、背の低い棚が本棚代わりになっている。
ゲームが趣味なのだろう。
攻略本がいくつか並べられている。
知らないゲーム名ばかりだ。
梁川ちゃんは知っているのか、目についた攻略本を手に取っている。
「ちょ、ちょっと!」
初めて来たお宅のものを断りなく手に取るのは、失礼じゃないかな。
考えが顔に出てしまったのか、梁川ちゃんは眉を八の字に下げて、手に取った攻略本を棚に戻す。

「お待たせ」
ほい、ほいと三人分の色違いのマグカップがちゃぶ台に並ぶ。
ホットのカフェラテ二つにミルクティーが一つ。
「やなみんと同じのにしてみた」
一口飲んで、ホッと一息つく。
なんだか『ハニホヘト』の店内が懐かしく感じる。
あの学習会の後は、一度も足が向かなかったのに不思議だな。
「それで、なんで泣いてたの?」
宮澤さんからの素朴な疑問になんと答えればいいのか迷う。
「あの、失恋ですよね。嗣永先生、結婚したって噂が」
「え、好きな先生が結婚しちゃったの。そっかー、それはつらいよね」
つい、あの日の告白を思い出す。
坂を下りゆく二人の未来は別れてしまった。
「告白したらね、結婚するって言われたの」
ありがとうって抱きしめてくれた。
と、冷静に告げるつもりが、目の奥が熱くなってじわっと涙が溢れてきてしまう。
「泣けばいいよ。あ、ああああと! 私で良ければ抱き締めますし!」
宮澤さんのテンパり具合に涙を流しながら、ふふっと笑ってしまう。
「嬉しい」
「わ、わ、わたしでも、ぎさちゃん! 私でも良ければ!」
「……嬉しい」
二人のテンパり具合と言葉がグッときて、恥ずかしくて下を向くと涙が床にぽたぽたと落ちた。
いけない、人のお宅だとハンカチを取り出して拭こうとすると、宮澤さんが後ろからぎゅっと抱きしめてくださって、左手で肩を抱き右手は私の目の前を遮ってくれる。
「これで何も見えないでしょ。何も感じなくていいよ」
すっとおりる瞼が視界を暗闇へと引き寄せる。
ただ宮澤さんといつの間にか腕にからみついてきた梁川ちゃんの体温がさっき飲んだばかりのミルクティーのように温かかった。
まず『ハニホヘト』へ平日行ったところで仕事中の嗣永先生には会えない。
憧れの道重さんには会えるかもしれない。
梁川ちゃんの恋愛相談がなければ、顔を合わせても大丈夫。
今は気楽に「好き」と言い合える関係を見たくないだけなんだから。

よし、月曜がきた。
新しい空気とともに制服を身につける。
宮澤さんのおかげで、梁川ちゃんの新しい呼び方はやなみん、私の呼び方は「ぎさちゃん」。
どうもやなみんはラ行の発音が苦手らしい。
確かに今までも心当たりはある。
もりとさんがコギトエルゴスムに聞こえてた。
誰もいないのにふふっと笑いがこぼれる。
宮澤さんは基本クールな無表情なのに、時々熱くて「作戦会議するのに他人行儀なのはどうかと思います」だって。
ちょっとだけ新しい朝がくるのが楽しみだった。
嗣永先生と会っても大丈夫だ。

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