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モベキマス戦記

1 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:00




闇。
闇。
闇。
2 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:00
息も詰まりそうな、濃度の濃い、闇。
蝋燭の炎とともに、一人の女性の顔が浮かび上がる。

「この国は腐ってしまった」

さらに、別の蝋燭に火が点され、浮かび上がる顔。

「このまま、周辺国の餌食になるのを待つだけなのか」

一際大きな炎が、燃え盛る。

「否!!」

「我が国は変わらなければならない」

「そのためには、まずなすべき事がある」

「我らが、この国を変えるのだ」

蝋燭の炎が、ひとつ、またひとつと消えてゆく。

そして、最後の蝋燭が消えた時。
そこにはコールタールのような粘り気のある闇が、へばりついているのみだった。
3 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:02
闇。
闇。
闇。



4 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:03
5 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:04



時はハロプロ暦1492年。
ここアップフロント大陸では5つの国が群雄割拠していた。
大陸南西部のベリーズ共和国・キュート王国。
東部のスマイレージ国。北部のマノソロ法王国。
そして、かつて大陸全土を支配していた、モーニング王国。

一時は4つの属国と1つの自治州を抱えていた超大国も、今では数ある国のひとつとして
数えられるだけの存在となっていた。特に、モーニング騎士団先代団長であるアイ・トレ
ジャーグレイヴが現役を退いてからはその傾向が顕著となっていた。1400年の歴史を
誇るモーニング帝国もついに落日か、と周辺諸国がささやき始めていたそんな時であった。

モーニング王国騎士団に、4人の新兵が入団したのは。
6 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:04
第一話「導かれ、集う4人の少女」
7 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:06



モーニング王国の王都・リゾナント。王国の文字通り中心である城下町のはずれに、とあ
る施設が存在していた。

「えーと、ここでいいんだよね?」

切り揃えた前髪と肩にかかる長い髪が特徴的な少女が、煉瓦造りの大きな建物の前に立ち
一人呟く。
入り口の前には、「モーニング騎士団訓練所」と書かれた大きな看板が。恐る恐る建物の
中に入ると、

「ようこそ、モーニング騎士団へ!!」
「ひゃあ!?」

と誰かに大きな声で声をかけられた。あまりに咄嗟のことなので、声のするほうへ身構え
る少女。
8 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:07
「はっはっは、いい反応だ。さすがは期待のルーキーといったとこだね」
「あの…」
「あたしはモーニング騎士団に所属しているズッキ・インセクト。これから君たちの教育
係を担当することになったから、よろしく!」

君たち?
少女がその言葉に反応するように周囲を見る。
自分と同じくらいの年頃の少女が、3人。彼女たちもまた新兵であった。

「まあ、ここで立ち話もなんだから、中に入って話すぞー」

ズッキに促され、四人の少女が彼女の背中を追った。
9 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:07
小柄ながら、がっちりした体格。
新兵の教育係を任されていることだけはある。おそらく、パワー型の戦士。獲物は…ハン
マーまたはアックスといったところか。ズッキの手のひらを見ながら、少女はそんなこと
を考えていた。

「ねえねえ」
「え?」

隣を歩いていた少女に声をかけられる。

「あたし、アユミン・ダーイシ・ノースウエスト。あなたは?」
「私は、ハルナ・メッシ」
「ハルナちゃんか。よろしくね」

アユミンと名乗った少女が、屈託のない笑顔を浮かべる。
おそらく年齢が近そうな人間を見つけて声をかけたのだろう。ハルナはそう推測した。
10 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:09
ミーティングルームという名の個室に入る5人。
ズッキがテーブルの真正面に座り、新兵の4人が両サイドの席についた。

「改めて諸君、モーニング騎士団入団、おめでとう。我が騎士団は君たちの入団を歓迎する。
それではさっそく、自己紹介からはじめようか」

ズッキの言葉を受け、少女たちが順々に立ち上がり自己紹介をはじめる。

「エッグ出身のハルカ・クドゥです。前からモーニング騎士団に入団したかったのでがん
ばろうと思います」

小柄だが、勝気な顔の少女。おそらく4人の中では最年少だろう。確かエッグと言えば、
スマイレージ国の4巨頭や法王国の現法王を輩出したエリート養成学校ではなかったか。
はきはきした物言いは実力に裏打ちされたものか。ハルカは彼女が自分たちのリーダー
シップを取っていくことを予想した。
11 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:11
「アユミン・ダーイシ・ノースウエストです。ゆくゆくはサユさんの部隊に入りたいです。
よろしくおねがいします」

先ほどハルナに話しかけてきた少女だ。
ハルカには及ばないものの、彼女もなかなかの使い手であることは容易に推測できる。も
しかしたら以前、どこかの傭兵団にでも所属していたのかもしれない。

「マサキ・パルプンテスです。えっと、前の騎士団長のアイさんに憧れて騎士団に入団し
ました」

何となくほんわかとした感じの子だ。
一見すると普通の少女にしか見えないが。騎士団に入団できるくらいだから、何か秀でた
ところがあるのかもしれない。

そして自己紹介の順番がハルナに回る。
12 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:12
「ハルナ・メッシです。1日も早く騎士団に馴染めるようにしたいです。よろしくおねが
いします」

ハルカは言い終えると、ほっとしたように席に着いた。何の問題もない。まるで自らに言
い聞かせるようにも見えた。

「じゃあ3時から訓練所を案内するから、それまで楽にしていいよ。3時になったら訓練
所の前庭に集合するように」

ズッキはそう言い残し、ミーティングルームを後にした。
13 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:13
「あの人がうちらの教育係になるんだね。なんか強そう」

開口一番、マサキがそんな感想を述べた。

「がっちりしてるし、いかにもパワーファイターって感じだよね」
「あー、いかにもだよねえ」
「でもさ、ハルだったら半年であの人、抜けると思うよ」

自信たっぷりに、ハルカが宣言。
ハルカちゃんすごーい、とマサキとアユミンが口々にそんなことを言う。

「じゃあとりあえず、自己紹介がてらうちらの得物を見せ合おうよ。同期で入った4人だ
し、知ってたほうが何かと便利じゃん」

ハルカの声かけで、4人は互いの武器を見せ合うことになる。
まずは、言いだしっぺのハルカから。
14 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:15
「これは、剣?」
「うん。でもただの剣じゃないんだよ」

ハルカは机の上に出した剣を手に取り、二、三度素振りする。ぶぉん・・・という
低音が部屋に鳴り響いた。

「これは、音剣?」
「へー。メッシ詳しいじゃん。そう、これは音剣『ハスキーヴォイス』って言っ
て、振ると低周波を発生させる珍しい剣なんだ」
「なにそれー、肩こりに効きそう!」
「効かないっての」
「じゃあ次はあたしの番ね」
15 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:15
マサキとハルカのボケツッコミをよそに、アユミンが自らの武器を差し出す。
金属で出来た、ねじり模様の入った長い棍棒。

「アユミン棒術やるんだ」
「うん。あたしの得物は六尺棍『ネジリパン』だよ」

そう言いながら、ネジリパンを蹴り上げるアユミン。回転しながら宙を舞う六尺棍を手に
取ると、流水のような動きで右へ左へ回転させる。その動きはさながらダンスのようだ。
最後に決めの型を披露すると、歓声と拍手が巻き起こる。
16 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:17
「じゃあ次はまぁちゃんね!」

ことりと机に置かれたのは、魔導杖。杖の先端には真紅の宝石がはめ込まれている。

「マサキちゃん、魔導士なんだ」
「うん、そうだよー」

あっさりと答えるマサキ。確かにモーニング騎士団にも魔導部隊はあった。ミッツィー・
ボーンブレイク率いる五番隊がそれに当たる。しかし、五番隊の正規部隊ともなると魔法
学校を卒業したエリート集団であり、とても目の前のポクポクした娘。が食い込む余地が
あるとは思えなかった。
17 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:17
「じゃあいくよー。炎の精霊たちよー、マサキ・パルプンテスの名において命じる。焼き
尽く…もがもがもが!!」

咄嗟にハルナが動き、マサキの口を塞ぐ。

「ナイス、ハルナ!」
「お前こんなとこで詠唱なんてすんな! ったく何考えてんだよ!!」

ハルカが鬼の形相でマサキを叱り付ける。途端にしおらしくなるマサキ。
しかしそれもつかの間。すぐに、

「ねーねーハルナさんの得物は? 見せて見せて!」

とはしゃぎ出すのだった。
18 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:18
「あたしは、これかな」

ハルナが差し出したのは、二振りの小剣。よく見ると、それぞれの形状がわずかに違う。

「こっちが攻撃用で、こっちが防御用?」
「うん。こっちが『シルキー』で、こっちが『雷(らい)』」
「これは、双剣ってやつだね」

ハルカが目を細めながら言う。

「初めてお目にかかるよ。エッグの師範からそういう武器が存在するって話に聞いてただ
けだから。でもこれ、使いこなせるの?」
「うんまあ、そこそこは」
「ふうん…」

ハルカの知的好奇心が頭をもたげる。彼女は、どうやってこの骨董品を扱うのだろう。

19 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:19
「っと。もうそろそろ3時じゃない?」
「マジ? 集合場所に急がなきゃ!」

アユミンのあげた声で、思考中断。
机に広げた得物をそれぞれ懐に仕舞い込み、慌てて外に飛び出すのだった。
20 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:20
21 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:20
22 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:20
23 :名無飼育さん :2011/11/12(土) 22:31
名作の予感ー!!!
期待してます
24 :名無飼育さん :2011/11/13(日) 13:29
某所で紹介されて来ました
10期主演は珍しいんで楽しみです
25 :名無飼育さん :2011/11/13(日) 16:07
ボーンブレイクワロタ(ヲイ
ミドルネームまで面白いっすね
壮大な物語になりそう

とりあえず落とします
26 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 17:50

27 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 17:53



上官ズッキの指定した時間には何とか間に合わせることができた。
しかしそれはかなり急ぎ目、マサキに至っては息も絶え絶えだったが。

「よーし、まずは訓練所内から回るぞー」

ズッキの後を、とことこついて歩く四人。
騎士団訓練所の構造は2階建てで、1階部分が戦闘理論や兵法を学習する教室、実地訓
練を実施する中庭、2階部分が新兵たちが生活する居住空間となっていた。

中庭を取り囲むようにして作られた回廊を歩いていると、壁面にいくつもの額縁が掛か
っているエリアに差し掛かる。

「これは?」
「よく聞いてくれました。これは、我がモーニング騎士団の歴史で大きな活躍
をした騎士たちの肖像画なんだよ」
28 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 17:56
ユウコ・アラフォー・ナカザール。
ナッチ・オールウェイズ。
カオリ・ネ・エワラッテ。
アスカ・シルバーアプリコット。
アヤッペ・オットドラム。

王国に生まれたものならば、誰もが知っている黎明の五騎士だ。
辺境の村ラブシードにおいて、国王ツンクボーイ・テラニャに見出され立ち上がった5
人の村娘は、当時大陸を席捲していた悪帝コムロ・デ・ギャルソン率いる五万の軍勢を
打ち破ったという。

さらに肖像の列は続く。

ヤグチェマリ・ヒモノッポ。
ケメコ・ダーヤス。
サヤカ・キュービック・ウレーズ。
そしてマキ・ハーツエッジ。
29 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 17:58
まだ13歳のマキが中心となって、北方の騎馬民族ゾネや美少女21カ国連合を圧倒的
な力で粉砕した「ラブマの戦い」は、モーニング騎士団最大の功績として今でも語り継
がれている。そしてそこにさらに加わった、

ヨッスィ・ベーグルリング。
リカ・ハーフヒップ。

の若き二人の騎士を含めての「黄金騎士時代」が幕を開けるのだった。後の騎士団長で
あるアイ・トレジャーグレイブが新兵として入団したのは、モーニング王国が文字通り
大陸の覇者となった時のことだった。

「あれ・・・?」

ハルカが何かに気づく。

「何だクドゥ」
「ここ、不自然に空いてません? このリカさんとアイさんの肖像画の間。ちょうど二
枚分」
30 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 18:00
そういえば・・・といった表情をする他の三人。
渋い顔をするのはズッキだ。

「あたしも伝聞でしか聞いた事はないんだけど、どうやらそこには二人の黄金
騎士の肖像画が飾ってあったらしいんだ」
「えっ、黄金騎士って7人しかいなかったはずじゃ」
「それが、かつては9人いたという話があってね。ただ、黄金騎士が本当は7
人だったのか9人だったのか、現団長のガキさんですら知らないらしいよ」

ズッキの言葉は歯切れが悪かったが、おそらく彼女もそれ以上は何も知らない
のだろう。誰もその先を追及することはなかった。
31 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 18:11


続いては、2Fの居住スペース。
ズッキの説明によると、新兵のうちは相部屋となるが、試験の成績や武功をあげることに
より個室を与えられることもあるという。

「あたしはメッシと一緒か」
「よろしくね」
「わーい、まぁちゃんはハルちゃんと一緒だねー」
「うるさくなりそうだな…」

「もちろん、騎士団の主力部隊に配属ともなれば訓練所ではなく王城内の敷地で暮らすこ
ともできるぞ」
「マジすか!じゃあハルがお城住まい第一号ね」
「えーまぁちゃんもお城に住むー!」

新しい生活に対する実感もわいたのだろう。
4人の表情に緊張と期待が入り混じった色が浮かぶのだった。
32 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 18:12
33 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 18:14
訓練所の施設を一通り見終わった後、ズッキによって自由解散が告げられた。全員がここ
王都リゾナントの外から来た人間だ、門限までは街の様子を見学するといいとのことだった。

「ねーねーまぁちゃん青空市場に行きたい!」
「私もー!!」

マサキとアユミンがはしゃぎながらそんなことを言う。
リゾナントの中心街にある青空市場は、大陸中の特産品が集まることで知られていた。休
日になると、多くの観光客でにぎわう。

「ったく。二人とも子供っぽいな。でもまあハルもエッグ時代は寮に缶詰でろくに買い物
なんて行けなかったし。メッシはどうする?」
「私も…行こうかな」

ハルナはどちらかと言えば人ごみが苦手だった。しかし、そういう場所に身をおいて徐々
に慣らしていくというのは今の自分にとって必要なこととも思えた。

「そうと決まればレッツゴー!」
「みんな、走るよー!」

背中に翼でも生えたかのように、目にも止まらない勢いで走り出す二人。ハルカはそんな
様子に肩を竦めながらもついてゆく。ハルナがやや遅れて、歩き出した。
34 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 18:16



城下町のはずれに位置する訓練所から青空市場は、やや離れた場所にあった。
互いに牽制しあっている状況とは言え、まだまだ五大国の人の交流は続いている。いんち
き臭い骨董品を売っているベリーズ人、おいしそうな焼肉を焼いているスマイレージ人、
国教であるソロ教の布教をしているマノソロ法王国の宣教師。そこには、多国籍な空間が
形成されていた。

「いらっしゃぁ〜い、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。大陸各国の名品珍品が揃ってま
すよぉ」

頭の先から出てきそうな甲高い声で、露店の売り子がハルカとハルナに呼びかける。何と
なく声が不快だったのだろう。無視して通り過ぎようとすると、慌てて売り子が飛び出て
くる。

「ちょちょちょっと待ってよ! 見てかないの!?」
「ええ、まあ」
「何か胡散臭そうだし」

ハルカが明らかに冷たい目で売り子を一瞥する。その表情を見て売り子の商売魂に火がつ
いたのか、露店からがらくたっぽい商品を持ち出して二人に突撃してきた。
35 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 18:18
「まあまあそう言わずに!これはですねー、かの王国貴族のベーヤン・ヒゲアリスが愛用し
てた高級マント!ほらほらつけてみて、うわぁ超お似合い!!あとあとー、これはあのベリ
ーズ八戦士のリシャコが愛用してたラーメンのドンブリ!おうちでこれでラーメン作ったら
おいしいですよぉうふふふふ。それと今なら!ベリーズ共和国で一番かわいいって噂のあの
有名なモモコ・ジミーフェイスのブロマイドもついて…あっ!!」

ツインテールを揺らしながら矢継ぎ早に強引にしつこく押し売りを始めた少女の手を、ハル
カが手厳しく払いのける。ひらひらと宙に舞った写真に写っていたのは売り子本人だった。
36 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 18:20
「そんなうそ臭い出自のがらくた誰が買うか! 特に最後のはあんた自身の写真じゃないか! 
まったくこんなんで騙される馬鹿の顔が見たいよ」
「えーっ。さっきここを通ったポクポクした感じの子は喜んでうちの商品買っていったのに…」

ポクポク?
首を傾げる二人の目に映ったのは、露店の奥にある魔導杖。はて、どこかで見た事があるような。
先端についている宝石の色までそっくり…って、え?

「ちょっとあんた、それどこで!?」
「さっきうちの商品買ってくれた女の子たちがいたんですよぉ。お金ないからって代わりにその
杖置いてって」
「それってもしかして」
「あんの野郎!!」

血相を変えて大通りを駆け出すハルカ。押し付けられた小汚いマントを丁寧に折りたたんで売り
子に手渡したハルナがそれを追うのだった。
37 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 18:22
38 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 18:25



青空市場を駆け抜けてゆくハルカとハルナの二人。
魔導士にとって魔導杖は魔法を使う上での大事な触媒だ。これが無ければ魔法を使えないと言っ
ても過言ではない。

「あいつ頭おかしいんじゃねーの!!」

そう文句を言いながら、必死の形相で走り続けるハルカ。彼女の中では、既に四人の中のリーダ
ー的な意識が芽生えているのかもしれない。

「あっ、ハルカちゃん。あれ」

ハルナが人ごみの一点を指差す。あの特徴的なポクポクした感じの頭。間違いなくマサキだ。
隣にいるのはアユミンだろう。しかし何か二人の様子がおかしい。

「ひーん。ごめんなさーい。悪気はなかったんですー」
「ほんとこの子が粗相を…すみません!」
「謝ればそれでいいと思うなよ!!」
39 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 18:27
何やら柄の悪そうな二人組に絡まれているようだった。
二人組のうちの、眉毛に特徴のあるほうが歯をむき出しにして怒り猛っている。

「この服さあ、高かったんだよね。こんな破れた服着ていったんじゃ、エッグのみんなに恥かく
じゃん。どうしてくれんの?」

もう一人の全体的に押し広がったような顔のほうが、意地悪そうな笑みを浮かべ、言う。彼女が
指を指してる服には破れた部分は見当たらなかった。せいぜい、糸が軽くほつれているだけである。

「弁償だろ、弁償」
「んなもんじゃ気がすまない。腕の一本や二本、折らないことにはなあ!!」
「あんたたち、さっきから黙って聞いてれば…」
「ダメ、アユミン。こんなとこで喧嘩したら騎士団クビになっちゃう」
40 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 18:30
二人のあまりに横柄な態度に表情を変えるアユミンを、マサキがなだめる。しかし、本当に表情
を変えたのは絡んできたならず者のほうだった。

「へー、いいこと聞いちゃった。あんたらモーニング騎士団なんだ。じゃあ一つお手合わせして
もらおうか。騎士様とお手合わせなんて滅多にできないだろうしねえ」
「エリート養成学校『エッグ』筆頭としても、一度騎士団の方とは戦ってみたかったんだよね」

歯をむき出しにしたほうが、自らの身の丈の倍はあろうかという巨大な戦斧を取り出す。同時に、
のべっとした顔のほうが背中のロングスピアを抜いて構えた。

「あたしの名前はカカウジーニョ・モギー」
「あたしはオーク・ボ・アイナ」
「騎士団員の力、見せてもらおうか!!」

二人は名乗りをあげると、マサキをかばうように前に立ち塞がるアユミンに近づくのだった。
41 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 18:31
42 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 18:31
43 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 18:31
44 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 18:40
>>23
期待に応えられるようになんとかまあ

>>24
10期は情報がまだ多くないので手探りです

>>25
ネーミングはたぶんずっとこんな調子です
45 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 18:41
ネーミングがツボります面白いです
46 :名無飼育さん :2011/11/14(月) 20:43
もしかして狼でマーサー王書いてた人?
47 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 15:36
48 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 15:38
ならず者たちが凶暴な眼光を湛えつつ、二人ににじり寄ったその時だった。

「どこかで見た間抜け面かと思ったら、カカとオークボじゃん」

騒ぎによって蜘蛛の子を散らすように逃げ出してゆく人ごみの中、ハルカがにやけた表情を浮かべ
て現れた。

「ハルカちゃん!」
「お前は…ハルカ・クドゥ!」
「確か国王のお墨付きで推薦状貰って騎士団に入団したんだよな。気にいらないね」

ぱあっと顔を明るくするマサキたちとは裏腹に、言葉は強気だが、先ほどまでとは違いやや及び腰に
なるカカとオークボ。

「さっきから聞いてればお前らがエッグの筆頭? かーっ、やめてくれよ。確かにあんたたちと机を
並べた時期は短いけど、落ちこぼれだったお前らがたった1ヶ月の間に筆頭になれるわけないじゃん」
「ぐぐぐ…」

歯軋りする二人を他所に、何かを思いつくハルカ。
49 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 15:40
「そうだ。ハルいいこと思いついちゃった。こんなとこで喧嘩なんかしたら後が面倒だし、向こうの
公園でやんない? ま、落ちこぼれのあんたらはここで大っぴらに騎士団のペーペーをいたぶったほ
うが箔がついたんだろうけど」
「落ちこぼれって言うな! 確かにあたしたちはカリンさんには遠く及ばないけど、でも…!!」
「そんなことはどうでもいいから。まあハルが入ったらうちらの勝ちは見えてるし…そうだ、あんた
らとアユミンとメッシ。2対2でいいじゃん」

それまで黙って聞いていたハルナが、裏返った声を上げる。

「え? なんで私が!?」
「だってハルの顔みただけでビビっちゃうようなチキンと戦いたくないし。それにあのポクポク娘は
魔導杖もってないじゃん」

しれっとした顔で、ハルカが言ってのける。

「それに。あんな雑魚に負けちゃうようなやつらを、ハルは仲間として認めたくないから」
50 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 15:42
51 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 15:42


こいつは妙な事になってきたぞ。
オーク・ボ・アイナは手合わせの場所である中央公園の広場でロングスピアを構えながら、思案して
いた。最初は出会い頭にぶつかってきたクソガキを痛い目に合わせるつもりだった。次にそのクソガ
キが騎士団の一員と知り、かつて自らが騎士団に入団できなかった憂さ晴らしをしようと思っていた。
しかし、目の前にいる二人はただの新兵ではない。それくらいは彼女にも理解はできていた。
特に、自分たちにぶつかってきた少女の片割れ。最初はどこの棒切れかと思ったほど華奢に見えた少
女が、自らの得物である六尺棍を手にするや否や、まるで見違えたような動きを見せる。

こいつの相手は、あたしか…。

もうひとりは、相棒に潰させればいい。力勝負で勝てる人間は、そうそういないだろう。
オークボは、目の前の少女に神経を集中させた。それを見たカカも、ハルナに向け斧を構える。

「オークボはアユミン。カカはハルナか。意外と考えてるじゃん」

高みの見物といった感じで、ハルカはベンチに座り様子を眺める。
52 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 15:44
「ねーなんでなんでー?」
「おまえなあ…」

今回の騒動の原因なのにも関わらず、相変わらずポクポク感満載のマサキに呆れつつも、ハルカが説
明を始めた。

「オークボが相手にアユミンを選んだ理由。それはあいつの得物であるロングスピアにあるんだ」
「ほうほう」
「互いに似ている武器でありながら、ロングスピアのほうがわずかにリーチがある。それを利とした
オークボはアユミンを対戦相手に選んだってわけ」
「へーすごいねハルカちゃん!」
「あとは消去法でカカがハルナを選んだ…けどこれも割合理にかなってる。スピードタイプの武器っ
ぽい双剣に、あのバカでかい戦斧は有利に働くだろうからな」
53 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 15:46
アユミンとハルナが、相手との距離を取るようにじりじりと動き始める。
真っ先に攻勢に転じたのがアユミンだ。ミーティングルームで見せた、ダンスでも踊っているかの
ような体捌きから繰り出す、突き、薙ぎ払い。不意を突かれたオークボは防戦一方だ。

「くそっ、なかなかやるじゃん!だけどこの程度かい!?」
「まだまだ!!」

激流のようなアユミンの攻めは止まらない。受け手に回ってるオークボはいかにも形勢不利に見え
るが、その表情には笑みさえ浮かんでいる。

今のうちに暴れときなよ、素人が。
こんな激しい動きじゃ、そのうちバテる。あたしは動きの鈍くなったあんたを、ゆっくり切り刻め
ばいい。道場内の稽古と実戦は違うってこと、教えてあげるよ!

容赦なく繰り出される、突き、そして薙ぎ払いの連携。
しかし、異変は少しずつ、だが確実に起こっていた。
54 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 15:48
しぶといわね…そろそろスタミナが切れてもおかしくない頃だけど…痛ッ! やってくれるじゃな
い、でもこんな攻撃…ぐっ…いつまでも…!!

アユミンの攻撃はとどまる事を知らず、逆にオークボの防御の隙をついて、六尺棍の突きがヒット
する。その回数は、時間が経つごとに加速度的に増加してゆく。オークボの笑みはいつの間にか消
えていた。

攻撃を受けるたびに、動きの精彩さを欠いてゆくオークボ。そして、腕を弾かれ取り落としたロン
グスピアを拾おうとしたその時に、アユミンの強烈な一撃が振り下ろされた。なすすべもなく、地
に這うオークボ。

「すごーい!アユミンさん、勝っちゃったよ!」
「まあ、当然の結果だわな」

飛び跳ねて喜ぶマサキと、頷くハルカ。
アユミンとオークボでは技の熟練度、動き、そして身体能力。全てが違っていた。多少のリーチの
差くらいでは、最初からどうにもならなかったのだ。
55 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 15:50


一方、カカとハルナは。
巨大な戦斧を振り回すカカと、それを素早い身のこなしで避けているハルナ。
アユミンの時とは逆に、相手のスタミナを奪っていく戦法か。

「あのサル顔の人が疲れたら、ハルナさんが反撃するんだよね!」
「…いや、そう簡単には奴っこさんもいかせてくれないみたいだぜ?」

一見でたらめに振り回されているように見える、カカの斧。
地面を抉り、周囲の木々をなぎ倒すありさま。請求は全部エッグの学院長にいくであろうからそれ
はそれとして。
しかし抉り取られた土くれや、倒木は確実にハルナの逃げ道を奪っていった。

「あのバカ、意外にやるな」
「ふえ?」
「メッシはいつの間にか追い詰められてたってことだよ」

顔を向け、ハルカが言う。
言葉通りに、ハルナの退路はほぼ断たれていた。
56 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 15:51
「けっ!やっとあたしのチャンスが来たようだなあ!!」
「……」

眉毛を吊り上げ、歯をむき出しにして一歩一歩近づいてくるカカ。その姿はさながら狂戦士のよう
であった。しかしハルナの表情は、まったくと言っていいほど変わらない。
突然、ハルナが双剣を鞘に仕舞う。

「ゲヘヘヘ、とうとう観念したか?」
「……」
「でもあたしのこの昂ぶった気持ちは抑えられないんだよ…安心しな、腕の1本だけで勘弁してや
らあ!!!」

振り上げられる戦斧。
凶暴な刃がハルナの体に打ち据えられた。かに見えた。
しかし、ハルカたちが見たのは、剣一振りで戦斧を受け止めているハルナの姿だった。
57 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 15:53
「ば、馬鹿な!」

カカが驚くのも無理はない。戦斧の勢いを一本の剣で止めてしまうことなど、普通には考えられな
い。相手が余程の怪力なら話は別だが、圧倒的な質量差で剣は破壊されてしまうだろう。しかしハ
ルナの握る剣にはひび一つ入っていなかった。

あいつ、衝撃の瞬間にバックスウェイして力を殺しやがった・・・

これにはさすがのハルカも関心せざるを得ない。
ま、騎士団に入ったからにはこれくらいのことはできてもらわないとな。と付け加えることは忘れ
なかったが。

あっけに取られているカカの隙を突き、ハルナが戦斧をかち上げる。
斧の重量に両手を持っていかれたカカはまったくの無防備状態。そこを、ハルナの閃光のような一
撃が襲った。もう一方の剣の腹で、カカの体を思い切り打ち抜く。
カカはあまりの痛みに、涙と鼻水をだだ流しながら、歯をむき出しにして倒れた。
58 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 15:54
防御用の「雷」で相手の攻撃を捌き、攻撃用の「シルキー」で叩く。
二刀流、例えばカタールは攻撃・防御どちらにも転化できるようになっている。しかし、ハルナの
扱う双剣はそれぞれが攻撃と防御に特化していた。流れるような連携攻撃は不可能に近いが、特化さ
れているが故に、自らの型に嵌めた時には圧倒的な力を発揮する。

なるほどね、こういう使い方するんだ。でもちょっと動きがぎこちないから、まだ使い慣れてないの
か。ハルカはハルナの戦いを見て、そんな感想を抱くのだった。
59 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 15:56
「すごい!すごいよハルナさーん!アユミンさんもすごかったよー!!」

マサキはよほど興奮したのか、全力で二人に向かって喜びのタックルした。そこへすかさず、ハルカ
の鉄拳がマサキの頭上に。

「あ痛っ!」
「元はといえばお前が原因だろうが。しかも、お前…魔導杖はどうした」
「えーと、これが欲しかったから、売っちゃった!」

これ見よがしに見せ付けられる、古びたブレスレット。
再びハルカの拳骨。

「いたっ!まぁちゃんの頭、おかしくなっちゃうよー」
「これ以上おかしくなるほうが不思議だっての! 大体杖売ったらお前魔法使えなくなるんじゃない
のかよ!!」
「あー、そうだった。ウヘヘ」

何がおかしいのか、笑いながら涎を垂らすマサキ。
だめだ、こいつと話してると頭がおかしくなりそうだ。眩暈さえしたくなるような状況に、さらに追
い討ちをかけるものがいた。
60 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 15:57
「いやー、いいもの見せてもらいましたよぉ。うふふふふ」
「さっきの雑貨屋のお姉さんだ」

アユミンの言うとおり、現れたのは胡散臭い露天商の売り子だった。

「おねーさん、さっきはこのブレスレッドありがとねー」
「いいのよいいのよ、そのブレスレッドはねー、かの二代法王アヤヤが使ってたという由緒ある魔導
具なんだよ。交換でいい杖もらっちゃったし、使って使って」
「何が由緒ある魔導具だよ、適当なこといいやがって!!」

蹴り飛ばしそうな勢いで間に割って入るハルカ。

「とにかくあの杖返せ!このガラクタは返すから」
「ガラクタとかひどいですぅ〜」
61 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 15:59
オーバーアクションをしてくねくねと寄って来る売り子。そこへ、ハルナがやって来た。

「お願いです。あの杖は、この子の大事なものなんです。どうか、返してください」
「んー、いいですよぉ?」
「おいおいやけにあっさりだな。ガラクタって言っても値段くらいあんだろ」
「いいもの見せてもらったし、それがブレスレッドの御代ってことで」

いいもの、とは先ほどの戦いのことだろう。確かに少し寒いが、悪い人間ではなさそうだ。
最初から返すつもりだったのか、売り子は懐の道具入れから魔導杖を取り出した。

「はい。もう手放さないでね」
「はーい」

売り子から杖を受け取り、上機嫌のマサキ。
62 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 16:07
「ったく。おこちゃまだなー」
「ハルカだって見た目お子ちゃまでしょ」
「な…ハルはお子ちゃまじゃないっての!」

アユミンにからかわれ、小さい背を極限まで伸ばして対抗するハルカ。
そんなところへ、騒ぎを聞きつけた騎士団の兵士たちがかけつけてくる。

「おい、喧嘩騒ぎがあったのはここか!」
「何だこれは!公園がめちゃくちゃになってるじゃないか!!」

市民の誰かが通報したのだろう、兵士たちは辺りの様子を見回している。倒れているカカとオークボ
は放置しても問題はない。エッグのプライドが、騎士団の新兵に惨敗したなんてことは口にはできな
いだろう。しかし、同じ場所にハルカたち4人がいたらそれは別の話。

「やっべ!お前ら、全速力でずらかるぞ!!」
「捕まったら、騎士団クビになっちゃう!」
「走るの?まぁちゃん走るの大好き!」
「早く逃げよう!」

兵士が気づく前に、ダッシュで走り去る4人。
その表情は、必死ながらもどこか楽しそうであった。
63 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 16:08
第一話「導かれ、集う4人の少女」  了
64 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 16:08
65 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 16:08
66 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 16:09
67 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 16:11
>>45
ありがとうございます。いずれネーミングの由来でも解説しようとは思ってますが

>>46
もちろん本編は別の方ですけど、ほとんど注目されなかった外伝なら書いた事があります
68 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 20:48
おもしろいっ
69 :名無飼育さん :2011/11/16(水) 23:56
マーサー王の人じゃなかったのか
外伝って誰だろ・・?
70 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 20:55
71 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 20:57


演習と称して連日のように行われる、モーニング王国への威嚇行為。
その日もまた、大砲を空に向け、空砲を数発、発射する。
こんなことをして一体何の意味があるのか。
スマイレージ四巨頭の一人であり、演習の総司令官を務めるサキチィ・ハーゲンダッツは毎日同じ事
の繰り返しで気が滅入り始めていた。

「ほらサキチィ、そんな暗い顔しないの。兵士たちの士気に影響しちゃうでしょ」

サキチィの陣中見舞いに現れたユウカ・リンホワイト・パブロンが、浮かない顔のサキチィに声をかけ
る。とは言え、ユウカ自身も今回の件に関しては疑問を持っていたのだが。

「もうさ、やるならやっちゃおうよ!今のうちらだったらモーニング王国なんて」
「そういうこと言ってアヤチョを困らせないの。いずれ王国とは決着をつけなきゃいけないけど、それ
は今じゃない」

四巨頭の実質的リーダーであるアヤチョ・ダーワーリョークが、黒マントの怪しい女と接触しているこ
とはユウカも知っていた。今回の演習も、元はと言えばその女の入れ知恵との話だった。だが、このよ
うなことを繰り返せば、挑発行為が挑発行為で済まなくなってくるのは明らかだった。

「あー、王国軍ぶっ殺したい!!んでもって焼肉食べたーい!!」

サキチィの叫びが、空しく国境の壁に吸い込まれていった。
72 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 20:59
73 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 20:59



ハロプロ暦1492年牡牛の月。モーニング王国王都・リゾナント。

王城のすぐそばにある議事堂には、錚々たる面々が集まっていた。
王国元老院議長のマラトン・ゴク・ファイブウッド。
名家ヒゲアリスの当主であるベーヤン・ヒゲアリス。
かつてのモーニング騎士団筆頭であったノン・ダークレー領主ユウコ・アラフォー・ナカザール。同
じくガッタス領主ヨッスィ・ベーグルリング。
旧カントリー領の大地主ヨシタケ・キャラメ・ボロモーケ。
ソロ教会モーニング支部大司教カン・オンリーヒッター。
各界の代表者に加え、モーニング国王ツンクボーイ・テラニャと王国騎士団団長ガキサン・テンミニ
ッツ。
国王テラニャが提唱した王国首脳会議、通称「御前会議」。国の運営に関わる重要な情報の伝達と、
国内各勢力の諸意見を取りまとめるという目的のもと、定期的に催されていた。
74 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 21:01
「では、これより王国首脳会議の開会を宣言します」

ガキサンの言葉に、各々の席についた重鎮たちが国王に目を向ける。

「みんなはるばる遠いところから、おつかれさん。で、今回の議題なんやけど」
「それよりもまず、話し合うことがあるのでは?」

マラトン・ゴク・ファイブウッドが糸目をさらに細めて言う。

「何や。ファイブウッド卿」
「近隣諸国への対応についてです。昨今は我々王国が手を出さないのをいいことに、スマイレージが
国境付近で挑発行為を繰り返しているのは国王のお耳にも入っていることでしょう。また、長らく続
いているベリーズとキュートの争いも、勝ち残ったほうが我が領地に攻め込むのは明白。そろそろ、
行動してもよろしいのでは」
「…行動?」
「あの忌々しい連中を叩き潰すということですよ」

ファイブウッドの横から、ベーヤン・ヒゲアリスが口ひげを弄りながら発言した。

「確かにうちの領地の目と鼻の先にはベリーズの連中がいる。国境の門を突破されたらと思うと、恐
ろしいっぺよ」
「国境周辺には我々の教会が点在してます。法王国としても見過ごせる問題ではないですね」

ヨシタケ・キャラメ・ボロモーケとカン・オンリーヒッターもベーヤンの意見に追随する。
そこへ、明らかに意を唱えるものがいた。
75 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 21:10
「卿らは王の和平政策をお忘れか? 最早力で他国を支配する時代は終わった。他国との対話、その
ために王国情報局を設立したのでは」

ユウコ・アラフォー・ナカザールが静かに言う。しかしその眼光はかつての鋭さを失ってはいない。

「ふん。和平政策など騎士団が衰えているがための方便に過ぎまい」
「なっ…」
「貴様、王の御前だぞ!!」

ベーヤンの物言いに、思わず立ち上がるヨッスィ・ベーグルリング。

「おやおや、元騎士団の皆様は中立を標榜していたはずでは?まさかこんなところで徒党を組まれると
は。怖ろしいですなあ」
「くっ、我らを愚弄する気か!!」

ガキサン・テンミニッツの顔から血の気がひく。
元老院と元騎士団員である諸領地の領主の仲が決して良くないのは彼女も承知していた。
しかし立場上、どちらかに肩入れするわけにもいかない。
76 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 21:45
場に緊張が走る。それを収めたのは、他ならぬツンクボーイ王だった。

「お前らちょっとは落ち着きや。何も野放しにせえ言うわけやない。かと言って、武力でどうにかする
つもりもない。各国首脳には真意を問う書面を送るつもりや。念のため、相手方を刺激しない程度の国
境門の兵の増強も行う。これでええか?」
「さすがはツンクボーイ王。よき考えでございますな」
「まあ、王のご意向とあらば」

大げさに相好を崩すファイブウッドと渋い顔をするベーヤン。内心、ガキサン・テンミニッツは肩を撫
で下ろしていた。

ガキサンの隣に座っていたユウコが、耳打ちする。

「さっきのヨッスィの役割、ホンマはあんたがせなあかんで」
「はい…」
「団長になったばっかで慣れてないのもわかるけど、もうちょいしっかりしいや」

耳の痛い言葉であった。
先代団長アイ・トレジャーグレイブが退いた時点で、副団長の自分が団長になるのは当然のことだ。
ただ、モーニング騎士団団長。その名前以上に、その肩書きには歴史が、重みがある。
もっとしっかりしないと。

「それではみなさま、よろしいでしょうか。まずは最初の議題である武装集団シーナの残党討伐につい
てですが…」
77 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 21:45
78 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 21:47


モーニング王国騎士団は、現在5つの部隊によって編成されている。

まずは騎士団長ガキサン・テンミニッツ率いる壱番隊。
副団長サユ・ナルシスペ・ドフィーリア率いる弐番隊。同じく副団長レイニャ・ヤケン率いる参番隊。
ミッツィー・ボーンブレイク率いる伍番隊。そして団長不在の肆番隊。
全盛期には拾番隊まであった王国騎士団も、現在はその半分にまで部隊を減らしていた。王国の国力
は、確実に衰えていた。
しかも王国の隙を窺うベリーズ・キュート・スマイレージの各国が国境付近での活動を活発化させる
中、決して多いとは言えない軍勢を各国境門付近に割かなければならない。

新兵4人の教育係であるズッキ・インセクトの国境警備への異動が決まったのも、そんな事情から
であった。
79 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 21:49
「ズッキさんやめちゃうんですか!?」

訓練後の、食事の時間。
マサキが目をうるうるさせながら、ズッキに駆け寄る。
新兵訓練がスタートしてから、早一ヶ月が経とうとしていた。訓練は噂に違わぬ名門だけあって厳
しいものであったが、教官ズッキの人柄の良さからか、四人とも根を上げずについてきていた。

「辞めないって。職場が変わるだけだから」
「ほんとですかあ!よかったあああああ」

うびーん、と泣き始めるマサキ。

「短い間でしたけど、ズッキ先輩との訓練、楽しかったです!」
「そうかそうか。アユミンは特に体捌きなんかは教えることもなかったけどね。一瞬の切れなら、
うちのリホリホにも劣らないんじゃないかな」
80 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 21:50
そう言って、ズッキが自らの自慢の同僚の名前を出す。

リホ・デリ・サヤスィ。
騎士団に鳴り物入りのルーキーとして入団した彼女はめきめきと頭角を現し、今では団長不在の
肆番隊を任されるのでは、と噂になるほどの人物であった。もちろん、4人は本人には会ったこ
とはないが、そこまでの噂が流れる人とは一体、というような好奇心はあった。

「ハルとしては一度ズッキさんと手合わせしたかったんすけどね」
「お、いいねえ。今度やろっか。って言っても戻ってきたらの話だけどさ」
「えー、じゃあまぁちゃんもー!」
「お前はいちいち入ってくんなっての!」

その後4人を含む訓練生たちで軽い送別会のようなものを催し、楽しい夜は更けていった。
81 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 21:50
82 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 21:53


翌朝。
出立の荷物をまとめた終わったズッキを見送ろうと、4人が訓練所の玄関までやって来た時のこ
とであった。ズッキの両脇には、見慣れない顔が二人。

「ズッキ先輩、そちらの二人は」
「ああ、紹介するよ。こっちが噂のリホリホ。んでこっちがミズキ。二人ともうちと同期なんだ」

ズッキに紹介された二人が、前に出る。

「王国騎士団弐番隊所属、リホ・デリ・サヤスィです。よろしく」
「同じく伍番隊所属のミズキ・フクムエル・アパルトワイフと申します」

表情に乏しいほうと少女らしからぬ色気を漂わせているほうが、交互に会釈をする。

「あれ、ミズキちゃん!」

真っ先に声を上げたのは、ハルカ。
83 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 21:55
「ハルカちゃん久しぶり」
「エッグを卒業したと思ったら騎士団に入団してたんすね」
「そうなの。学院長が紹介してくれて」

ミズキはエッグの卒業生、つまりハルカの先輩であった。魔術科と武術科と、違う科目を学んで
はいたが、互いに顔見知りであったようだ。

「これから二人があたしに代わってみんなの訓練教官になるからね。リホリホが武術担当で、ミ
ズキが魔術担当。わかりやすいでしょ」
「じゃああたしたちをリホさんが担当して」
「まぁちゃんの担当がミズキさんだねっ」
「そういうこと」

ハルカ以外の三人が、リホとミズキを交互に見る。
リホはズッキよりやや大きいくらいの小柄な体だが、しなやかな筋肉のつき具合が身のこなしの
素早さを連想させる。何せ、次期肆番隊隊長を噂されてるくらいだ。その実力は相当なものに違
いない。
そしてミズキ。おっとりとした物腰からは、あまり実力者のようには見えない。しかし魔術師範
が出来るくらいなら、こちらもかなりの使い手ということになる。
84 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 21:56
「とりあえず、午後の訓練から実際に二人が教える事になるから。じゃああたしは行くよ。またね!」

手を大きく振りながら、王城のあるほうへと歩いてゆくズッキ。
ズッキの姿が小さくなるまで見送っている四人に、リホが声をかける。

「じゃあ早速だけど、ハルカ。ハルナ。アユミン。君たち三人には午後から特別訓練を受けてもらう」
「え、何で?」

いきなり名指しで三人を特別訓練するというのだ。ハルカが思わず口にするのも無理はない。
するとリホが口だけ笑みを浮かべながら、こう言った。

「君たちは入団初日にエッグの学院生を相手に圧倒的な力を見せたと聞いている。その実力をこ
の目で見てみたくてね」
「はは、知ってたんすか・・・」

ハルカは気まずい表情で頭をぽりぽり掻く。
くそ、エッグの連中の誰かがチクったか。後で絞めてやる。と不穏当なことを考えつつ。

「それで、特別訓練って何をするんですか?」
「リゾナントの郊外にペッパーの森という場所がある。そこで特別訓練を実施する。訓練内容は
現地で説明するよ」

アユミンの問いに、本題をはぐらかせて答えるリホ。
結局訓練内容については分からず仕舞だ。
85 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 21:58
「じゃあ私は訓練の準備があるから先にペッパーの森に向かってる。みんなも、午後には現地に
ついてるように」

簡潔にそれだけ述べると、リホはすたすたとリゾナントの外へ続く街道へと歩き出してしまった。

「リホさん、行っちゃったね」
「訓練って、何をするのかな」

互いに顔を見合わせるハルナとアユミン。

「何でもいいじゃん。何だったら、訓練にかこつけてぶっ倒しちゃえばいい」

強気なハルカの発言に、おおーっ、と大げさな歓声を上げるマサキ。しかし、あることに
気づくと途端に落ち着きをなくすのだった。

「ねえねえ、そう言えばまぁちゃんは?もしかして3人のうちに入ってない??」
「当たり前だろ。お前その杖振り回して戦うつもりか?」
「えー、みんなと離れるのやだー。まぁちゃんも戦うのー」
「はいはい、まぁちゃんはみずポンと一緒にお勉強しましょうねー」

駄々をこね始めるマサキの頭を撫でながら、宥めにかかったのはミズキだった。グッジ
ョブっす、先輩。ハルカは思わず親指を立てミズキに見せた。
86 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 21:58
87 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 22:00


そして午後。

ハルカたち3人は、訓練所から転移魔法によってペッパーの森の入口まで移動していた。
徒歩で向かえばゆうに半日はかかるであろうこの場所。かつて騎士団の野外訓練所があ
った由縁で転移魔方陣が敷かれているのだが、数年前に訓練所が廃止になったというこ
とで、今では誰も利用していない場所でもあった。

青い空に、白い雲。本日は晴天なり、といった天候に加え、森の周囲には草原が広がる。
ピクニックに来ました、と言わんばかりの状況に対し不釣合いなものがそこにはあった。

「王国騎士団野外訓練所」と書かれた木製の看板の前に、リホ・デリ・サヤスィは立っ
ていた。
88 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 22:01
「待ってたよ。早速説明する。これから野外訓練を実施する。ルールはシンプル、今か
らこの森に入り1時間後に倒れずに立っていれば合格。もちろん、それなりの仕掛けは
あるから心してかかるように」

淡々と説明するリホ。そこへハルカが、

「その仕掛けってのを、ハルがヤッシーを倒すことで妨害してもいいんすよね?」

と挑発する。
そこではじめて、リホが笑みらしい笑みを見せた。

「やれるものならね」
「マジすか?本当に倒しちゃったら申し訳ない」

おどけてみせるものの、ハルカは本気だった。ついていけないよ、といった感じで
肩を竦めるアユミンに、ハルナも目で同意する。

そしてリホの合図で、3人がそれぞれ、森の中に入ってゆく。
この野外訓練が意外な展開を迎える事など、つゆ知らず。
89 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 22:01
90 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 22:02
91 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 22:02
92 :名無飼育さん :2011/11/19(土) 22:03
>>68
いえいえまだまだでございます

>>69
あまりの知名度のなさに自分でもびっくりです
93 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 08:34
94 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 08:34


3人で共闘してリホを倒す、そんなやり方もあったかもしれない。
しかしアユミンはあえてハルカの手には乗らなかった。
確かにズッキの言ってたように、体捌きが似ているというリホと手合わせしてみたいと
いう気持ちもなくはない。しかし、彼女は自分の手の内を明かしていない。どんな武器
を使うのか。互いに情報を開示してからじゃないと、何となくフェアじゃないようにア
ユミンには思われた。

そんなことを考えながら鬱蒼とした森の中を歩いていると、足に妙な感触。
嫌な予感がして、咄嗟に頭を屈める。何かが飛んできて、アユミンの頭上を通過した。
ぱこん、という鈍い音。

音のしたほうを見ると、赤ちゃんの拳くらいの大きさの石が木の根元に転がっていた。
おそらく誰かが装置を踏むと、石が飛んでくる仕掛けになっているのだろう。こんな
ものが頭に直撃したら、いきなりゲームオーバーだ。

「手加減はなしってやつですか」

アユミンが六尺棍「ネジリパン」を取り出す。
もう罠にはかからない。慎重にいこう。
辺りを警戒しつつ、再び暗い森の中を歩き出すのだった。
95 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 08:35


一方、真っ先に森の中に飛び込んだハルカはリホをひたすら追い続けていた。
飛んでくる投擲物は全て剣で弾き返し、捕獲網は悉く切り裂いた。
追撃をかわしながら罠を設置しているとは言え、並大抵の量ではない。しかし、二人の
距離は確実に縮められていた。そして。

「どうしても私と直接対決したいみたいだね」

森の中にぽっかりと空いた、木の生えてない場所。
そこでハルカの目の前に立つ、リホ・デリ・サヤスィ。
両手には、ナックルのような武具が嵌められていた。

「へえ。それがあんたの得物ってわけだ」
「エリート養成学校『エッグ』を優秀な成績で卒業し、国王お墨付きでモーニング騎士
団に入団。経歴はご立派だけど・・・騎士団はそんなに甘いところじゃない」
「じゃあ見せてもらおうかね。その騎士団の厳しさってやつをさ!」

ハルカが剣を抜く。刀身はただの剣にしか見えないが、柄には大小様々の穴が開いてい
た。

「音剣、か。妙な剣を使うね」
「余計なお世話。ハルが物心付いたときから苦楽を共にしてきた『ハスキーヴォイス』。
重低音の斬撃を喰らってやられちゃいな!」

リホとハルカ。モーニング騎士団の次世代を担うであろう二人が今、激突する。
96 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 08:36


その頃、最後に森に入ったハルナは。
行く先々に仕掛けられた罠を、丁寧に解除してゆく。
足元に仕掛けられた巧妙なトラップを取り除きながら、ハルナは追憶する。
あの時は、もっと酷かった。それに比べたら。
双剣で、張られているロープを断ち切った。刹那。前方から飛んでくる、鋭い何か。
頭を下げてそれを交わし、後方を見る。
木の幹には、投げナイフのような鋭利な刃物が3本、突き刺さっていた。

まさか、訓練でここまでするなんて。

ハルナはそう思いかけて、否定する。
いや、ここは先ほどまでの罠と今の罠は別物だと考えたほうがしっくり来る。まず、罠
を仕掛けているであろうリホは、この近辺にはいない。次に、それまで石つぶてのよう
な致命傷にならない程度だった投擲物が、急に殺傷力のあるものに変えられるだろうか。
第一、罠のスイッチに使われているロープの材質が、明らかに違う。
となると、この罠を仕掛けた人物は、リホとは別人。
ハルナはゆっくりと、周囲を見渡すのだった。
97 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 08:37
98 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 08:39


時を前後して。
マサキたち魔術専攻新兵たちに魔術理論の基礎を教えていたミズキ・フクムエル・アパ
ルトワイフは、教務室に入り一息つく。そんなところへ、見慣れた顔がやってきた。

「おはー。みずポン調子はどう〜?」
「あ、エリポン」

肩までかかる程度の髪に茶色のメッシュが入った、ゆるい感じの少女。
彼女の名前はエリポン・ナマタ・ケーワイ。ズッキやリホ、そしてミズキと同期でモーニ
ング騎士団に入団した同僚であった。
普段はマノソロ法王国との国境門に常駐している騎士団壱番隊だが、定例の御前会議のた
めガキサン・テンミニッツとエリポンを含む数人の団員が王都に帰還していた。

「何だかお疲れみたい」
「うん。人に教えるのって疲れるんだよね。エリポンもどう?」
「あーエリポンそういうの無理無理。ってかアパルトワイフの実家から代わりの人とか寄
こしてもらえばいいのに」
「お父様お母様にそこまでご迷惑をかけるわけにはいかないもの」

ミズキの実家であるアパルトワイフ家はモーニング王国随一の資産家として名を馳せていた。
特に家長であるミズキの父・フクムエル卿は元老院にも名を連ねる名士だった。
99 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 08:40
「そんなことより、みずポンは今日王都に来たばっかりだよね。ガキさんからこれ預かっ
てるから、読んで読んで」

そう言って、エリポンはミズキに1枚の書類を手渡す。

「これって…例のカンサイ地方で反乱軍を率いて一斉蜂起したものの、サユさんの弐番隊の
活躍で反乱は失敗。首謀者は投降して主力だった親衛隊…確かシーナだっけ。彼女たちも行
方知れずって一件じゃなかった?」
「それが今回、その人たちが潜伏してる場所の候補が王国情報局によってリストアップされ
たんだって。近い内に各地に小隊を送り込んで調査するみたいだよ」

エリポンの話を聞きながら、書類に目を通すミズキ。親衛隊シーナ。4人で構成される、カン
サイ最強の戦闘部隊。潜伏候補地。王国西部イロジーレ高原、北方のナ・ミトマ山地、そして。

王国郊外・ペッパーの森。
100 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 08:41
「あれ、ペッパーの森って言えば」
「なになに?」

ミズキはリホがペッパーの森で新兵3人相手に特別訓練を行っている事を話した。

「えー、それってやばくない?」
「候補地とは言え、もしものことがあったら・・・」

二人、顔を見合わせ、そして絶叫する。

「大変!エリポンはガキさんに連絡してくるけん!!」
「じゃああたしはとりあえずフリーの兵士集めて森に行く!」

慌てて教務室を飛び出すミズキとエリポンであった。
101 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 08:42
102 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 08:43


森の中を一人で歩くアユミン。そろそろ30分を過ぎた頃合だ。もうひとふん張りか、と気を
緩めたその瞬間だった。目の前を、鋭い何かが横切る。
紙一重で交わしたアユミンが、その何かに向かって話しかける。

「あなた、誰? モーニング騎士団の人間じゃないよね?」

すると、薄汚れた布切れを纏っていたそれは、高らかな笑い声を上げる。

「あはははは、あんた、騎士団なんや。こんなに早く潜伏場所が見つかるなんてなあ」
「いったい、何を言ってるの」
「まあええか、やることはひとつやし」

布切れが、宙を舞う。
姿を現したのは、くの一風のいでたちの女だった。

「あんた殺す前に名乗ったる。あたしの名前はマナーミ・サーディン。カンサイ最強の戦闘集
団『シーナ』が一角や!!」

すさまじい殺気とともに、マナーミと名乗った女が忍者刀を片手に襲い掛かる。
103 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 08:44


脅威は、一戦を交えているハルカとリホの前にも迫っていた。

「なあ、何だかうちらで戦ってる場合じゃないみたいだぜ?」
「そうだね。激しい敵意が、ひとつ。ふたつ」

「さすがは王国騎士団期待のホープといったところやな。リホ・デリ・サヤスィ。あんたの名
前は、カンサイでも有名だよ」

声とともに森の茂みからゆらりと現れる、1つの影。

「うちはスマイ・フォピアス、カンサイ最強の戦闘集団『シーナ』の一角。カンサイじゃあん
たのお仲間にせこい手でしてやられたからなあ。その恨み、倍にして返したるわ」

名乗りを上げ、スマイがリホたちに向かってくる。

「どうする?どっちが戦う?」
「私はどっちでも」
「じゃあハルがもらう!」

嬉々としてハルカが刃を相手に向け、走る。
104 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 08:46


そしてハルナの前にも、一人の少女が姿を現していた。

「はじめまして。うちは『シーナ』の筆頭やらせてもらってるナナ・トゥナイト・エヌワイスィ。
あんんた、騎士団の団員やろ?」
「そういうあなたは・・・『シーナ』と言えば、旧シスコムーン領カンサイで後ろ暗い仕事を一手
に引き受けていたっていう」
「よう知ってるな。あんた・・・ただの騎士団員、ちゃうよね。まあええ。あんた自身には恨みは
ないけど、死んでくれへんか」

そう言いながら、ナナが両脇の短刀を抜き、構える。
偶然の悪戯か、ハルナと同じ、二刀。
ハルナもまた、愛刀「シルキー」と「雷(らい)」を抜く。

「うちがこっち来て正解やったわ」
「それはどういう意味?」

ハルナの問いには答えず、ナナが急接近する。
振り翳される銀の刃。それを防御用の「雷」で受け止めるハルナ。

「なかなか素早い。せやけど、これは?」
「!!」

刃を合わせている状況から、ナナがそのまま中段蹴りを繰り出した。靴の先にもまた、刃。
受けている刃を受け流し、ハルナがぎりぎりでスウェイで交わす。

「気ぃつけや。かすった程度でも死ぬで?」

刃に、毒が仕込んであることは明白だった。
これは、ハルナの側が余分に相手との間合いを広げなければならないことを意味していた。
105 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 08:48


アユミンにとっては、これがはじめての実戦とも言うべきものだった。
確かにオーク・ボ・アイナとの一戦はあった。しかし、あの時は相手は格下だった。今回は、
明らかに敵は殺意を持って向かってきている。そんなことは、彼女が志願兵として地方の自
警団「ドロシー」に所属していた時ですら経験がなかった。

マナーミが忍者刀を振るう。
懐に入られたら、終わり。アユミンの六尺棍「ネジリパン」は敵方を近くへ寄せ付けない。
だが、遠くへ牽制したかと思いきや、今度は苦無を続けざまに投げてくる。これには六尺
棍を回転させて弾き飛ばすしか対処法はない。

「隙だらけやで!」
「ちっ!」

防御に回ったところで、マナーミの急襲。アユミンは素早く棍を構えざるを得ない。
これを繰り返し、自分の集中力を疲弊させるつもりか。

アユミンの実家は、代々六尺棍の製作を生業としている武器職人の集落にあった。
中でもノースイースト家の作り出す六尺棍には定評があり、その一つ一つには範(パン)
という呼称をつけられていた。また、ノースイースト家の棟梁は大士(ダーイシ)の称号
とともに高い誉れを受けていた。だが、アユミンはパン職人の道を、そしてダーイシの称
号を嫌った。彼女には、大きな夢があったからだ。

夢を叶えるためにも、こんなとこで負けられない。

アユミンは棍を、強く握り直す。
106 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 08:49


一方、スマイと対峙しているハルカは。
ハルカが自らの得物である音剣「ハスキーヴォイス」を構えると、相手もまた腰の鞘から
剣を抜き出す。

「あんたも剣使いか。ちょうどええ。このスマイ・フォピアスの妖刀『板東刃(バンドー
エッジ)』の力、見せてやるから、目ぇひん剥いて見とき!」

バンドーエッジ。ハルカも名前だけは聞いた事がある。とある刀鍛冶が剣を作っている最
中に、食べていたゆで卵を喉に詰まらせ命を落としたという、伝説の妖刀。しかし剣士な
らば誰もがただの御伽噺として歯牙にもかけない与太話の類だった。

「ははは、どっかのバカに偽物でも掴まされたか!」
「アホ!これは正真正銘の板東刃や!!」

何度か切り結んだ後、間合いを取ったスマイが斜めに剣を構える。

「今から証明したるわ。剣法『楡帝多魔業(ゆでたまご)』でな」

一瞬、ハルカの視界が揺らいだ。
その隙を突いて、急接近したスマイが痛撃の袈裟懸け。
手ごたえを確信したスマイだったが、寸前のところでハルカが後ろに交わしていた。

「代わろうか?」
「うるさい!こんなやつ、余裕だっつうの!!」
107 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 08:51
リホの申し出をぴしゃりと断るハルカだが、先ほどの視界の揺らぎの理由はわからないま
まだった。
まさか、本当にあれは妖刀?
そんな馬鹿な。迷いを振り切るように、考えを打ち消す。

― 目先のことに考えを囚われるな。真実だけを、掴み取れ ―

ハルカがエッグを卒業した際に、学院長から言われた言葉だった。
エッグでの修行期間は決して楽なものとは言えなかった。王国最高峰のエリート養成学校、
と言われるだけあって、国内外から武術魔術に長ける逸材が集まってきていた。ハルカが
エッグの門を叩いた時には、既に多くの人材が他国の重要なポストを占めるほどの実績が
あった。

元からの素質に加え、ハルカの扱う音剣「ハスキーヴォイス」はかなりの特性を持つ奇剣
で、模擬戦闘において彼女に勝るものはいなかった。ただ、一人の少女を除いて。

「あいつに勝つまでは・・・ハルは負けられないんだ」
「は?何言うてんの?」
「お前は負けるってことを言ってるんだよ!!」
108 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 08:52
ハルカが空に向かって、剣を振るう。
腹の底まで響き渡る、重低音。

「何や、音出したいんならラッパでも吹いてろや!」

音がただの威嚇だと判断したスマイが、そのままハルナの元に突っ込んでゆく。
しかし、突如自らの視界が揺らいだことで、突如動きを止めて後方へ下がる。

今のは・・・いや、そんなはずあらへん。うちには、毒ガスは効かんはずや。

そう。剣法「楡帝多魔業(ゆでたまご)」の正体は、戦闘中に発生させた毒ガスを相手に
嗅がせることで体の感覚を狂わせるというものだった。もちろん、妖刀というのもただの
ハッタリである。
そして使用者自身は自らの仕掛けたガスの中毒にならないよう、予め抗毒剤を服用してお
く。ゆえに、使用者であるスマイが毒ガスの影響を受ける事は万にひとつもないはずだった。

しかし、スマイの視界が揺らぎ続けているのは事実だった。
それどころか、足元さえ覚束なくなり始めている。
ふと、相手の様子を見る。スマイの目に映ったのは、楽しそうに剣を振るハルカの姿だった。
109 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 08:59
「くそ・・・もしかして、自分・・・その剣・・・」
「はは、気づいちゃった? でももう遅いね」

防御の姿勢を取る事もできずに、スマイはハルカの強烈な一撃を腹に喰らい、昏倒した。

音剣「ハスキーヴォイス」の真骨頂、それは重低音の後に発する低周波であった。
強力な低周波は人体の感覚を狂わせる。スマイは「ハスキーヴォイス」の発する低周波によ
って五感を狂わされ、なすすべもなく敗れ去ったのだった。

「で、どうする?ハルはこのままヤッシーとの2回戦やってもいいけど」

余裕の表情で、ハルカが傍観していたリホを挑発する。

「そんなことをしてる場合じゃないでしょ。そこで倒れてるやつはお尋ね者の「シーナ」の一
員と名乗った。身柄を確保して、連行しないと」
「ちぇ。頭固いなあ。じゃあこいつをふん縛るロープを作らないとね」

そう言いつつ、森の中に張り巡らされていた罠用のロープを切り落とした。
当然、罠が作動し石つぶてがリホ目掛けて飛んでくる。
眉一つ動かさず、リホが首だけ動かして回避した。

「ねえ、わざとでしょ?」
「まっさかー」

意地悪そうに、ハルカは笑ってみせるのだった。
110 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 09:00
111 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 09:00
112 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 09:00
113 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 14:14
面白いっす
期待してます
114 :名無飼育さん :2011/11/20(日) 14:31
ネーミングで難癖くける人もいますが自分は好きです
更新待ってます
115 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 18:55
116 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 18:57


その頃、「シーナ」のメンバーであるマナーミ・サーディンを相手に、アユミンは防戦一方。
近接攻撃と、遠距離攻撃。二つの攻撃を絡めながら、アユミンの防御が緩むのを狙う戦法。
わかってはいても、こちらから手を出すわけにいかない。

寄せ付けなければ、苦無が飛び、苦無を弾けば、急襲してくる。
この連鎖を崩すには、まず自らがパターンを破らなければならない。

「どないした?攻めて来えへんのか?」
「ほっといてよ!」
「さよか。じゃあうちから行くで!」

そう叫ぶと、マナーミは苦無を投げつけるのと同時に、アユミンの懐に飛び込んできた。

連鎖を崩すには、自らがパターンを破る必要がある。それは、マナーミとて同じ事であった。
近接攻撃は、六尺棍のリーチに阻まれ、遠距離攻撃もまた棍の回転によって弾かれる。
ならば、遠距離攻撃と近距離攻撃を同時にすればいい。

「どや、これは避けられんやろ! うちらシーナが受けた数々の屈辱、あんたを殺ることで晴
らさせてもらうわ!!」

マナーミを退けようとすれば苦無に晒され、苦無を弾こうとすればマナーミの忍者刀の餌食に
なる。二者択一、待っているのは塗られた毒による死のみ。覆されることはない確信があった。
しかし、アユミンがとった次の行動でマナーミの顔色が変わる。
117 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 18:58
アユミンはあろうことか、自らの得物である六尺棍を投げつけたのである。しかも、高速回転
させながら。

自らの投げる苦無を追い越す勢いで飛び出したマナーミに、棍を避ける余裕はない。回転の隙
を狙って追加の苦無を打ち込むか。いや、狙いを定める間もないし、弾かれた場合に自らが苦
無を被弾してしまう。

マナーミが咄嗟にとった行動は、忍者刀によって飛来した六尺棍を打ち落とすことだった。
それさえできれば逆に相手は丸腰状態、形勢逆転となる。振り下ろされる忍者刀の一撃。刃に
強い衝撃が走り、両腕に伝わった。

なにこの棍、めっちゃ重いやん!こないなもん、あいつ振り回してたんかい!!

ふと、目の前が暗くなる。マナーミが気づいた時には、アユミンは前方に高く跳躍していた。

「これで、終わりだよっ!!」

忍者刀を握りなおそうと腕に力を込めるも、力が入らない。棍を叩き落した衝撃で、腕が痺れ
ているのだ。そう思う間もなく、アユミンの姿が眼前に迫る。
アユミンは六尺棍を袈裟懸けに振り下ろす要領で、両の拳を一つにしてマナーミの頭上にお見
舞いする。マナーミは、ぐうと言う間もなく膝をつき倒れ、そのまま動かなくなった。

マナーミがうつ伏せで倒れているのを確認し、自らが投げつけた六尺棍を取り、持ち直す。
再び立ち上がる気配がないのを知ると、ようやく彼女は肩をおろし大きく深呼吸するのだった。
118 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:00
119 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:00


ハルカとアユミンが勝利を勝ち取った頃。
ハルナは、ナナ・トゥナイト・エヌワイスィの息もつかせぬほどの連撃に苦戦を強いられてい
た。二刀流の剣術に加え、両足の靴に仕込まれた刃による足技。双剣と実質四刀流では、ハル
ナに分が悪いのは明らかであった。

「あなた・・・さっき「あんた自身には」恨みはないって言ったけど。どういう意味?」
「時間稼ぎのつもりやろうけど、乗ったるわ」

ナナは一度ハルナとの距離を取り、語り出す。

「うちら『シーナ』は元はと言えば王国直轄の下部組織やった。カンサイで人材は募集しとっ
たけど、みんないずれは王都で仕事ができるもんやと、思ってた」
「けど、実情は違った?」
「せや。回ってくる仕事は、とても公言できひんような後ろ暗い仕事ばかり。誘拐、闇討ち、
暗殺・・・何でもやったな。けど、王国はそんなうちらに対してなんもせえへんかった。それどこ
ろか、前の領主がカンサイの不満を訴えただけで領主解任て有様。我慢の、限界やった」
「それで反乱を起こしたのね」

ハルナの問いに、ナナが微笑んでみせる。しかしそれは自虐に近い色を帯びていた。
120 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:02
「ところが王国が部隊を寄越した途端に言いだしっぺがイモ引いて投降。残ったうちらの仲間
もあんたらの卑怯な策に嵌って・・・『シーナ』はうちらを除いてほぼ壊滅や」
「それで騎士団に恨みを」
「まあそれだけと違うけどな。もうすぐあの人から迎えが来るねん。こないなちっぽけな反乱
とちゃう、もっと大きな・・・しゃべり過ぎたわ。そろそろ、後半戦といこか」

再び向けられる、二つの刀。
ハルナもまた、双剣を構えなおした。

「忘れてたわ。あんた、いつまでそんな戦い方してるつもり?」
「・・・どういう、こと?」
「あんた、うちと同じ匂い、するねん」

ハルナの表情が、険しくなる。
121 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:02
122 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:04


ミズキ・フクムエル・アパルトワイフと数人の騎士団員が、転移魔方陣を通ってペッパーの森
に到着した時には既に騎馬隊が入り口に対峙していた。エリポンがガキサンに援軍を呼んだに
しては、到着が早すぎる。と訝っていると向こうから隊長と思しき人物が馬を下りて近づいて
来た。

「あんたも、ここに潜伏してる可能性のある「シーナ」の連中を追って?」
「ええ。そうですけど」
「失礼。うちは、ビユーデン領主リカ・ハーフヒップの副官やらせてもらってるユイヤン・オ
カパインや。うちらにも「これ」が回ってきてな」

そう言いながら、1枚の書類を見せる。ミズキがエリポンに渡されたシーナメンバーの手配書
と一緒のものだった。

「そう言えばここから一番近い自治領はビユーデンでしたね」
「そうや。だからうちらが真っ先に駆けつけることができたわけやけど…ところで、一応聞い
ておくわ。あいつは、騎士団の人間?」

ユイヤンが指差す方向を向く。
ミズキが目にしたのは、軽装姿の少女。手には忍者刀が握られている。

「いえ、見覚えはありませんが」
「そうか。当たりやったか」
123 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:05
それだけ言うと、目を疑うような疾さで少女に向かって走り、通り抜けた。
一瞬何が起こったのか理解できなかった少女、アベアーサ・ドセ・ドメは自らの両腕がすでに
千切れ飛んでいることでようやく何をされたのかに気づく。もっとも、その時にはアベアーサ
の首は胴体と永遠の別れを告げていたのだが。

「なにを!!」
「こいつはシーナの一員や。どうせ裁判にかけられ絞首刑の運命の連中。今殺したところで、
何の問題もないやろ」

まるで買い物を済ませた後のように、ユイヤンは言ってのけた。

「別にあんたん所の団長に言ってもええよ。まあうちのリカちゃんはあんたの団長のかつての
上司やったし、無駄やと思うけど。それに、今は反乱分子の殲滅が先決や。行くで」

自らが屠った相手を見ることなく、森の中へと進んでゆくユイヤン。同じく馬を降りたユイヤ
ンの部下たちが、あとに続く。

「あれがリカ様の右腕という噂のユイヤンか」
「何をしかけたのかさっぱりわからなかったな。ミズキさん、我々も行きましょう。リホさん
の安否が気になります」
「そうですね…」

ミズキは血だまりの中に転がる、アベアーサの首に黙祷し、それからユイヤンたちの後を追う。
アベアーサの顔は、心なしか笑っているように見えた。
124 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:06
125 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:07


かすり傷さえ、致命傷。
『シーナ』筆頭ナナ・トゥナイト・エヌワイスィの波状攻撃に、ハルナは隙をつく間もなく追
い詰められていた。

「さっきも言うたやろ。いつまでその戦い方をしてるつもりや!」

右の短刀をフェイントにした、左からのハイキック。辛うじて避けたハルナの長い髪の先が、
切り落とされた。ハルナが、強い目で相手を睨み付ける。

「これが、私の戦い方だから」
「強情やな。あんたみたいな子、嫌いやない。でも」

屈み込んでから、弾け飛ぶように繰り出される、両手の短剣と両足の蹴りによる連撃。右の回
し蹴りからの、さらに左、右の刃が襲う。それら全てに双剣を合わせ捌くハルナだが、最後の
左足の蹴り上げで、攻撃用の「シルキー」が弾き飛ばされてしまった。

「戦場での意固地は、命縮めるで」

ハルナの前に立ちはだかる、ナナ。まるでほぼ同時に襲い掛かってくるような、刃の七連撃。
次に同じことをされたら、手にした1つの剣で凌ぎ切るのは不可能だろう。

「それでも、私は私の戦い方をするだけだから」
「見上げた根性やな。でも…残念や」

来る!
ナナが構え、初太刀を翳した時にハルナが仕掛ける。
しかしハルナが剣を振り下ろしたのは、足元だった。張り詰めた何かが、一斉に切れる音。
126 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:09
「いつのまに!!」

ハルナは戦いの間に森に仕掛けられていた罠を再構成し、ナナに向けて発射するようにして
いたのだ。七方向から飛び出してくる鋭利な投げナイフを、ナナは攻撃用のモーションで弾
き落とすしか術はない。そして最後のナイフを落とし終わった時に、ハルナが八つ目のナイ
フのように飛んでくる。

「もらった!」
「連撃は七連撃までって、誰が言うた?」

ナナがハイキックの勢いのまま、体を逸らしバック転の姿勢を取る。襲い掛かるは、左足の
刃。

「言ってないと、思う!」
「何やて!?」

ハルナが飛んできた最終目的地、そこには。
先ほど弾き飛ばされた双剣が落ちていた。ハルナはそれを渾身の力を込めて、蹴り飛ばす。
最後の一撃にと取っておいた左足の蹴りを、飛来した剣を迎撃するために使わざるを得なか
ったナナの無防備な姿が、晒される。

「これが、私の、戦い方だ!!」

防御用の「雷」の柄の部分を、ナナの腹に叩き込む。肋骨の折れる鈍い音とともに、ナナは
向こうの木の幹へと吹っ飛んでいった。
127 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:10


「…自分、やるやん」

木の幹に体を凭れ掛け、口元の血を拭いながらナナが言う。

「賭けだった。あなたが9連撃目を放つ事ができたら、負けてた」
「うちが、9連撃目を仕掛けたら、どないするつもりやったん?」
「7連撃を受けた時に、おそらく8連撃が限界、そう思ったから」
「はぁ・・・かなわんな」

ナナは大きく、息をついた。
それまで、自らがカンサイ最強の戦闘集団「シーナ」の筆頭であるという自負があった。も
し騎士団に入る事ができたら、自らの実力を存分に発揮できる、そう思っていた。
うちも、まだまだやな・・・
相手の実力に、ナナはそう思わざるを得なかった。

「おいお前ら、そこで何をしている!!」

遠くから、誰かの声が聞こえてくる。
木々の隙間から顔を現したのは、ユイヤン・オカパインの部下であるビユーデン兵士だった。

「いたぞ!全員、ただちに集合だ、シーナの残党らしき輩を発見した!!」
「すぐにユイヤン様に知らせろ!!」

男の怒号とともに、わらわらと集まってくる兵士たち。
128 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:11
「おしゃべりはここまでや。いつかまたどこかで、会おか」

肋骨を負傷したとは思えない動きで天高く跳躍し、頭上の枝に飛び乗るナナ。そして、瞬く間
に深緑の向こうへと消えていった。

「あんた、シーナの人間と戦ったんか」

ハルナが声のするほうに向き直ると、そこには薄紫のマントを纏った甲冑の女性が立っていた。

「あなたは?」
「うちはビユーデン領の副官オカパインや。で、そいつはどこへ行った?」
「向こうのほうへ」
「わかった。おおきに」

それだけ言うと、複数の部下を引き連れてユイヤンは森の奥へと向かっていった。
129 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:12
130 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:13


その後、ユイヤンの後を追ってやって来たミズキたちと4人は合流。マナーミとスマイの二人は
捕縛され、王城内の騎士団詰所へと連行されることになった。

「まったく、とんだ特別訓練だったぜ」

王都への帰り道。
ハルカが不満そうに言う。ただの訓練で命を狙われる羽目になったのだ。そんな感想を抱いても
致し方あるまい。

「でもさ、あの人たちってカンサイ地方じゃ有名な強い人たちだったんでしょ?そういう人たち
と戦えたのは貴重な経験かも」

六尺棍を戯れに回しながら、アユミン。
131 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:15
「でもさ、あの人たちってカンサイ地方じゃ有名な強い人たちだったんでしょ?そういう人たち
と戦えたのは貴重な経験かも」

六尺棍を戯れに回しながら、アユミン。

「だな。もしかしてこれって、ハルたち大活躍!?」
「もしかして個室ゲット!?」
「『シーナ』はどちらかと言えば暗殺や闇討ちなどの仕事をメインにしてたらしい。純粋な戦闘
力で言えば、たいしたことない」

あっさりとしたリホの一言に、二人は肩を落とす。

「とは言え、今回国で追っていた反逆者たちを捕まえられたのはお手柄だった。私からもガキさ
んには口ぞえしておくよ」
「お!じゃあ個室!ハル個室欲しい!」
「それは無理」

帰りはリホの行きつけであるというドリンクバーに寄る事になった。先輩酒っすか!と喜んでい
たハルカの前に出されたのはサイダー、ふて腐れるハルカをよそにリホはしゅわしゅわぽん、と
謎の言葉を発するのだった。
132 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:16
133 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:17


「えーっ、なにそれ!まぁちゃんも戦いたかった!!」

3人が訓練所に帰るなり、予想通りのマサキの反応。

「あいつら相手じゃ魔法は不利だったよ」
「そんなことないもん!今日はミズキさんに授業で色々教えてもらったし!」

諭すように話すアユミンに向かって、マサキがえへんと胸を張る。

「へえ、新しい魔法でも教えてもらったのか?」
「えっとねー」

マサキの口から語られたのは、ミズキの趣味としか思えないような授業内容。
どこで手に入れたか知らないが歴代モーニング騎士団の騎士たちの写真を黒板に貼り、いかに彼
女たちがかわいいか、を熱く語っていたという。本人は騎士団の歴史の勉強だと最後まで言い張
っていたらしい。

「何となく、危ない趣味のような気がするけど」
「あの人も変わってねーな・・・」

苦笑いのハルナに、呆れたような表情をするハルカ。
134 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:20
「にしても、結局『シーナ』のリーダーって人は捕まらなかったんだっけ」
「うん」

訓練所から帰ってすぐに、ユイヤンの部隊がナナを完全に見失った、という一報が入ってきた。手
負いとは言え、隠密行動を得意とする人間にとって追撃部隊を撒く事はそう難しくなかったのかも
しれない。引き続き彼女の行方は国を挙げて追うつもりだが、たった1人では何もできまい、とい
うのが伝達を送ってきた兵士の話だった。

「ごめん。私が相手を倒しきっていれば」
「何言ってんだよメッシ、相手は『シーナ』の筆頭だって話じゃん。ハルならともかく、新兵の敵
う相手じゃないって」

慰めだか自慢だかわからないようなハルカの励ましを受けつつ、ハルナは思う。

あんた、うちと同じにおいがするねん。

そう語ったナナに、無意識のうちに自らの姿を重ねてしまった。それが、彼女
を追う足が止まってしまった理由なのではないか、と。
135 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:20
136 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:20
137 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:20
138 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 19:22
>>113
作者がんばります!

>>114
ネーミングの是非についてはまああれですが、悪意はないのは確かです
139 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 21:16
色々な人が出てきますね
アユミンカッケー
140 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 21:30
色々な人が出てきますね
アユミンカッケー
141 :名無飼育さん :2011/11/22(火) 23:52
ここの飯窪さんは影がある感じでいいですね
本人は三の線もいけるみたいなこと言ってますがw
142 :名無飼育さん :2011/11/23(水) 17:47
>>134の次にこれを入れるのを忘れてました

「第二話 闇に生きるもの」了

>>77>>78の間にもタイトル入れるのを忘れてました。申し訳ない(くどぅ風)
143 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:09
>>139
>>140
石田さんはとりあえず生真面目キャラだけで走らせてます

>>141
ヨイショキャラは封印の方向で・・・

144 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:09
145 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:11



ベリーズ共和国と、キュート王国。
元はと言えばモーニング王国の領土であった旧ココナッツ国領土に、エッグの前身である養成学校
「キッズ」の卒業生15人を送り込んだのがはじまりだった。
ところが、そのうち8人が周囲の反王国勢力を取り込み「ベリーズ共和国」として独立。ついで、
当時のモーニング王国の有力貴族であった、トール・ボンバー・サムスベリーを王とした「キュー
ト王国」を建立した。トールの娘でもあるアイリ・ダジャレー・サムスベリーを含めたキッズの残
り7人は、新王国の守りを固めるのだった。
ともに反モーニング王国を掲げてはいたが、もともとはベリーズ共和国のやり方を嫌いキュート王
国を建てた経緯もあり、両国の仲は決していいとは言えなかった。

そして、ついに二つの国が激突したのはハロプロ暦1491年水瓶の月。今から5ヶ月前のことで
あった。
146 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:11
147 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:12


「雲の流れが、速いな・・・」

ベリーズ八戦士の一人で、共和国軍師を務めるマイハ・クゥーンは戦場最前線のデレシン砦の城壁
に立ち、鈍色の空を眺めていた。

「何やってんのマイハ、そんなとこに立ってたら弓兵のいい的だよ!」
「大丈夫。クマイちゃんの力のおかげで、ここまでは弓矢は届かないよ」

やかましい声で話しかける色黒の少女の心配を他所に、マイハは涼しい顔をしてみせる。

「それより何かこの状況を打破できるいい案とかないの? 長引く戦いに兵士もうちらも我慢の限
界、今はキャップがうまく取り繕ってるからいいんだけどさあ」
「戦いは、もうすぐ終わるよ。チナミ」
「何その自信」

チナミと呼ばれた少女が訝しげにマイハを見る。しかしマイハは答えない。
チナミ・クーロン・ボウガリィ。腕は立つが口は少々軽い。描いた絵図を見せるには、まだ時期尚
早だとマイハは判断した。

戦いは終わる。そして、今度はモーニング王国との戦いが、始まる。

「その時を、私は見届ける事ができるのか」
「はぁ? 何言ってんの?」
「いや、何でもない。そろそろ寒くなってきた。私は中に入るよ」
「ちょっと待ってよマイハー!」

マイハたちが去ったあとには、一粒、二粒と雫が天から落ち、やがてどしゃ降りの雨になっていった。
148 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:13


「第三話 軍師」

149 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:14
150 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:15


モーニング王国南部・ビユーデン領マイプリン。
首都であるアングリーに程近いこの地もまた、一日中激しい雨に晒されていた。
マイプリンの郊外に、ビユーデン領主リカ・ハーフヒップの別邸がある。建物の全てをピンク色に
彩られた悪趣味極まりない館だったが、夜の闇と降りしきる雨で、暗い景色に溶け込んでしまっていた。
そんな中、水溜りを弾き飛ばし、馬を走らせるものがいた。
女は、目的地である館の前に着くと、馬を下り館の正門へと歩いていった。

「おい、こんな夜中に何用だ」
「ここはビユーデン領主リカ・ハーフヒップ様の別邸なるぞ。速やかに立ち去るがいい」

立ちはだかる門番を前に、女が静かに言う。

「私がミュン・シバ・プリペアップと知っての物言いか」
「これは失礼」
「リカ様のご友人であれば、阻む理由などございますまい」

名乗った途端に態度を変える門番たち。
しかし。

「けっ。落ちぶれた元メロンの人間がどのツラ下げて来れるもんかね」

通り過ぎたあとの吐き捨てるような台詞を聞き逃しはしなかった。
拳に入る力。それを寸でのところで止めた。
今日は、そんなことがしたくてここに来たんじゃない。

ミュンは言い聞かせるように外套を纏い、館の中へ入っていった。
151 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:17
「こんな雨の中、はるばるよく来られました。リカちゃんはユイヤンと一緒にこっちに向かってますから」

少々目の大きい女が、ミュンを出迎える。
ミーヨ・ポットホーネット。確かリカの副官だったはず。前はここまで目が大きくなかった記憶が、い
や、記憶が曖昧になっているのかもしれない。そもそもこの屋敷を訪れること自体、何年ぶりだろう。
あの時はまだ、メロン領はメロン領として存在していた。そして本来ならば、今でも自分はメロン領の
領主として彼女と対等の立場で会うことができたはず。そう、あの事件さえなければ…

「どうしました、ミュンさん」
「いえ、何でもないわ」

ミーヨの言葉で、追憶から引き戻される。
館と同じく、ピンクに染められた、応接間。ぱちぱちと音を立てる暖炉の火は暖かいが、心は寒いまま、
凍えている。

「だいぶ、お疲れのようですね」
「うん。メロン領が取り潰されキラリン領になって、それでもなお多くの兵隊たちが、私を慕ってくれる。
けど、それに応えることは…あなたにそんな愚痴を言っても仕方ないんだけど」
「マッサージでもしましょうか?」
「…遠慮しとく」

うねうねと両指を動かすミーヨを無視し、暖炉の火を見つめる。
これしかあたしの生きる道は…ないんだ。
彼女は燃え盛る火に、悲壮な決意を重ねていた。
152 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:17
153 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:18


牡牛の月にしては異例の量の雨が、数日間、続く。
当然モーニング騎士団の新兵4人も、暇を持て余していた。
今日もハルカとマサキの部屋に集まり、垂れ込める雲に文句を重ねている。

「ったく。いつまで続くんだよこの雨は」

ハルカがいつもの顔に似合わない低音でぼやくと、

「ねー。全身カビだらけになりそう」

とあまり深刻ではなさそうにマサキが答えた。

「今の国の状況もそうなんだけど、天気まで悪いと気が滅入っちゃうね」

窓の外を眺めながらアユミンも、ため息をついて俯く。

王国の求心力が弱まっている。
それは彼女たちのような政に詳しくないものですら理解していることだった。
154 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:20
先日のカンサイ地方での反乱などは氷山の一角。王国の各地で国に対する反感が高まっていた。もともと
が王国の属国だったシスコムーン・メロン・カントリーを無理やり吸収合併した上に、当時の国のトップ
たちを悉く駆逐していった過去が背景にあった。大地主のヨシタケ・キャラメ・ボロモーケが地盤を引き
継いだカントリー領は存続したものの、シスコムーンとメロンは取り潰しの憂き目に遭っていた。特にメ
ロン領は当時国内でも有数の実力を持っていたにも関わらず、騎士団部隊長が国の運営に関わる不祥事を
起こしたがための結末であった。

「外憂内患、だね」

そう、事態はまさにハルナが呟いた一言に集約されていた。
国内ではいつどこの反乱分子が行動を起こしてもおかしくない。加えて、周辺各国の状況。躍進目覚しい
スマイレージ国、今は互いに争ってはいるものの、ベリーズ共和国とキュート王国のどちらかが戦いにケ
リをつけいつモーニングに矛先を向けてくるかは予測さえつかない。モーニングの後ろ盾となっているソ
ロ法王国にしても、磐石の信頼を寄せるには足りない。これらの勢力が一度に王国に攻め入ろうものなら、
という最悪のシナリオを、想定した事のない国民はいないと言ってもよかった。

「まあ、がんばるしかないわな」

ハルカの言うとおりだった。
がんばるしかない。この国難を乗り切るたった一つの方法だった。彼女たちには彼女たちなりの、騎士団に
入団した理由があった。入ったからには、がんばるしかない。それが例え、見通せぬ闇での免罪符にすらな
らないとしても。
155 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:20
156 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:21


そしてようやく雨が上がったのは、降り始めてから1週間後の朝のことだった。
止まない雨はない、とはよく言ったものだ。
だが、雲の切れ間に似つかわしくない、不穏な動きが見え始めていた。

いつもの教室。
今日は普段魔法にあまり馴染みのないハルカたち武術班も魔法学を、ということで珍しく新兵4人全員が教
室に顔を揃えていた。

「みんな今日はまぁちゃんに何でも聞いていいよー」
「おいおい、ポクポクの分際で先生気取りかよ」

教壇ではしゃぐマサキと、ハルカのいつもの漫才。
しかし、教壇に現れるはずのミズキがいつまで経ってもやって来ない。
しびれを切らして教務室に向かった4人が見たものは、自らの荷物を纏めて今にも部屋を飛び出さんばかり
のミズキの姿だった。

「ちょ、先輩何してんすか!」
「ごめん、帰ってきたら説明するから!!」

いつもののんびりとした雰囲気からは想像もつかない切羽詰った声で、ミズキが叫ぶ。そしてあっと言う間
に教務室を飛び出してしまった。
157 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:23
「何だありゃ。家出でもすんのかよ」
「さっき王都に戻った伍番隊から召集があったんだ。王国情報局の館内で魔導士が今後の対策について話し
合うらしいぞ」

呆れた顔をしてミズキの後姿を見送るハルカたちに、別の師範が話しかけた。

「ショウシュウ?」
「ああ。今朝方、王国情報局から情報が入ったんだ。旧メロン国の騎士団幹部が私兵を大挙させてナーサン
湖のほとりに陣を作ってるってな」

ナーサン湖は、旧メロン領、つまり今で言うキラリン領にある王国最大の人造湖であった。
しかし観光客が時折訪れる以外は、水門管理棟のほかは軍事的拠点もなく、何の変哲もないただの湖だ。

「おそらく、この日の為に兵を各地に潜ませて準備してたんだろうが、一体何の意図があって…まあとにか
くこの一件が片付くまでは授業はできないだろうな」
「えーっ、そうなんですか…」

アユミンは明らかに残念な表情を見せる。
自らの武術に魔法を取り入れられれば、と今回の件で一番の乗り気だったのは彼女だったのだ。
158 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:25
師範の言葉を受け、すごすごと立ち去る4人。
しかし先ほどから何かを思いついたのか、終始にやにやしっ放しのハルカを見て、ハルナは嫌
な予感を感じずにはいられない。

「ねえハルカちゃん。何か良からぬこと考えてない?」
「お、さすがはメッシ最年長。ハルのことよくわかってるじゃん」

この宣言を聞いて喜んでいるのはマサキだけだ。

「ねーねーハルちゃん何するの?」
「あのさあ、王国情報局に行ってみないか?」
「は?」

アユミンとハルナが呆気に取られるのも無理はない。
先ごろ新設された王国情報局。諸外国との外交や国内外の諜報活動など、国の命とも言うべき
業務を司っている部署である。そんなところに新兵の身分である4人が行く理由などどこにも
ないのだ。

「…何でまたそんな」
「あのなあ、今回の件は明らかにキナ臭いだろ。下手すりゃ反乱に発展する。そしたら『シー
ナ』の反乱どころじゃ済まないぜ?そういう状況を知っておくってのはハルたちにとって悪い
話じゃないってことさ」
「知っておくって、盗み聞きでもするつもり?」
「ビンゴ!今日のメッシは冴えてるねえ!!」

びんごー、とマサキもハルカと同じポーズを取る。

「それに、お前らも本音は知っておきたいんじゃないの?王国情報局がどんなもんかをさ」

ハルカがちらつかせる好奇心、にアユミンとハルナが勝てないのもまた、事実であった。
159 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:25
160 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:27


何か特別なことをするわけでもなく、王国情報局のある建物まで歩く4人。
驚いた事に、ハルカはまったくのノープランだった。

「ハルカちゃんの勢いに誤魔化されてここまで来ちゃったけど」
「んなもん問題ねーって。前進あるのみ!」
「はぁ…」

仮にも国の情報を司る部署である。そうそう簡単に忍び込めるような場所ではないのは明白だ。
しかしハルカのそこら辺をぶらついてればそのうち糸口が見つかる、という根拠のない自信
に2人は閉口せざるを得ない。マサキに至ってはハルカちゃんすごーい、と何も考えずに喜
んでいる。

「よし、じゃあチームまっちゃ、発進!!」

勝手にハルカがつけたチーム名、最早誰も意を唱えるものはいなかった。
161 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:28
ところがこのチームまっちゃの大作戦、冒頭から躓く事になる。
とりあえずは正面入口近くの街路樹に身を隠し、様子を窺っていた時の事だった。

「あんたたちさー、そこで何してんの?」

4人が振り返ると、そこには眠たそうな顔をした金髪の女性が立っている。剣士なのか、立
派そうな刀を帯刀していた。

「えーとねー、今からおーこく情報局にせんにゅ…もごもご」
「バカー!!」

マサキのスマッシュヒットにより、いきなりの作戦失敗。
誰もがそう思った時のことだ。

「ああ、中に入りたいんだね。いいよー、ごとーが案内したげる」

女性から出た言葉は意外なものだった。

「案内って、あんた何者だよ」
「いちおーこう見えてもごとー、情報局の人間だから」

ぽかんとしている3人を尻目に、マサキとごとーと名乗った女性が館内へと足を進める。

「どうしたの?来ないの?」
「だからあんた誰だっての!」
「だから、ごとーはごとーだってー」

そう言いながら、楽しそうにごとーは館内に入ってゆくのだった。
162 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:28
163 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:29
164 :名無飼育さん :2011/11/24(木) 21:29
165 :名無飼育さん :2011/11/25(金) 06:09
この作品好きです
166 :名無飼育さん :2011/11/25(金) 21:44
更新楽しみにしてます
167 :名無飼育さん :2011/11/25(金) 22:34
大先輩出てきたー
まじ面白いです
168 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 21:51
169 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 21:52


大理石で出来た床と、シックな内装。まるで宮殿のよう、4人が館内に抱いた感想であった。
事実、王国情報局が開設されるまではこの場所は王国迎賓館の別館として使用されていた経
緯があったのだが。

「で、どうする?館内見学?それともごとーの部屋でピスタチオでも食べる?」
「何回も聞いたと思うけど、あんた何者なんだよ…」

立ち止まり、そんなことを言うごとーにハルカが話を蒸し返すのも無理はない。
ごとーと一緒に館内に入るや否や館内の全ての人間が、ごとーに向かって最敬礼。まるで国
王並みの扱いである。

「もしかして、偉い人なんですか?」
「んあ、そんなに偉くないって」

アユミンの質問もどこ吹く風だ。

「じゃあまぁちゃんピスタチオ食べたーい!!」
「そっかそっか。じゃあごとーの仕事場にいっぱいあるから食べよっか」

二人ですたすたと先に歩いて行ってしまう中、ハルカはハルナに耳打ちする。

「なあ、これってもしかしてチャンスじゃないか?」
「あの人から情報を得るってこと?」
「ああ。あいつ、ぬぼーっとした感じだけどいい感じの職位にいそうだし。ここはうまく気に
入られて、おいしい情報ゲットだぜ!みたいな」
「うん、それなら」

確かに情報局に忍び込んで盗み聞き、なんてのよりは余程健全な考えである。
しかし、これも逆の意味で当てがはずれることとなる。
170 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 21:54
ごとーの仕事場。
鼻歌を歌いながらドアを開けた先には、とんでもない光景が広がっていた。

まるで戦場の司令官が使うような、馬鹿でかいテーブル。
魔導士らしき人間が、大勢座っている。もちろん、その中にはミズキの姿も。
そして、テーブルの先頭には車椅子に乗った、肩までの髪をカールにさせた少女がいた。

「遅いじゃないですか。って何ですのこのチビッコたちは」

明らかに、こちらのほうを訝しげに睨んでいる。

「あーごめんごめん。と言うわけで、この子たちも作戦会議に参加させていい?」
「は?いきなり何言うてるんですか。いくら『五刀』さんの知り合いかて、どこの馬の骨とも
わからん子供に作戦内容を聞かせるわけにいきませんよ!」

もしかしてそこにいる車椅子の少女は。
ハルナは少女の顔を知っていた。彼女は。
ミッツィー・ボーンブレイク。モーニング騎士団伍番隊隊長にして、王国軍の軍師を務める騎
士団の重鎮。そして、そのミッツィーを慌てさせる「五刀」。飄々としていながらも、相当の
実力の持ち主であろうことは、ハルナも、ハルカも、アユミンも感じてはいた。しかしながら。

マキ・ハーツエッジ。かつてのモーニング騎士団「黄金騎士」の筆頭であり、幾多の困難から
国を救った英雄とも言うべき存在。どんな相手を目の前にしても、たった五太刀で切り伏せて
しまうことから付けられた二つ名が、「五刀」。
間違いない。自分たちはとんでもない人に、とんでもない場所へと案内されたのだ。3人はそ
のことを確信した。
171 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 21:56
「あっあの、すみません!その子たち、私の後輩なんです!きっと私のことを追ってここまで
来ちゃったんだと思います!どうか許してあげてください!もう会議中に居眠りとかしません
から!!」

遠くで、ミズキがあたふたしながら説明をはじめる。
先輩、フォローはありがたいけどうちらが騎士団に所属してるの、バレちゃったじゃん…

頭を抱えるハルカを、さらに苦難が襲う。

「何や、自分ら騎士団やったんか。見た顔いないてことは、新兵やろ。ここがどういう場所かは、
知ってるよな?しかもマキさんにまで迷惑かけて。どないな罰が待ってるか、覚悟しいや! そ
れとフクムエル、あんたこの子らの先輩って言ったなあ。後輩の教育、できてないんとちゃう。
て言うか、出来なさ過ぎだよねえ?」

ミッツィーの口撃に、お嬢様育ちのミズキは早くも涙目になる。
そしてあまりの容赦なさに、気の長いほうではないハルカの何かが切れた。

「おい、あんたさっきから黙って聞いてれば…」
「いーじゃんいーじゃん。これも新人教育の一環だよー」

が、マキが前に出てきてしまったのでハルカの怒りはあっという間に燻ってしまう。

「ごとーだって昔秘密の会議にこっそり参加していちーちゃんに超怒られたけど、勉強になったし」
「せやけど…」
「いいじゃないですか、ミッツィー。ごとーさんが言い出したらそれはもう「既成事実」となって
しまうのはご存知でしょう」

納得のいかなそうなミッツィーを窘めたのは、黒いマントを羽織った、ふくよかな頬をした女性だった
172 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 21:58
「コンコンさん…」
「私の調べだと、その子たちは例の『シーナ』の一派を捕縛するのに一役買ったとのこと。今回の
作戦を聞いてもらうのは、彼女たちの後学のためになるというのは私も同意見ですね」
「仕方、ないですな。でも、あくまでも作戦会議の見学として認めるだけですから。自分らも、そ
こら辺をわきまえて黙って見とき」

コンコン。その名を聞いて3人は驚く。
コンコン・テレトアナ。黄金騎士の大半が退役し、そこから白金の時代へと移行する過渡期におい
て、モーニング王国が大陸の覇者たり得たのは、彼女の英知があったからだという。ミッツィーも
相当な実績を持つ軍師だったが、コンコンのそれと比べては霞んでしまう。騎士団を退団してから
は、行方不明になったというのが専らの噂だったのだが。

「じゃあ改めて自己紹介するよー。王国情報局局長マキ・ハーツエッジだよ。よろしくー」
「同じく副局長コンコン・テレトアナです」

て言うかお前めっちゃ偉い人じゃん。
ハルカは心の中でマキに突っ込みを入れるのだった。
173 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 22:00
174 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 22:00


作戦会議用テーブルの末席に特別に座らせてもらうハルカたち4人。
マキが立ち上がり、話しはじめる。

「んあー。それじゃ作戦会議をはじめるよー。コンコンお願い」
「はい。今朝方みなさんにお伝えした通り、昨晩未明よりキラリン領ナーサン湖畔にて元メロン騎
士団幹部ミュン・シバ・プリペアップとその私兵たちが集結しています。先ほど入った斥候の情報
によると、湖上に中型の船のようなものを浮かべているという話もあります」

マキから引き継いだコンコンが、現在の状況を説明する。

「どう思われますか、ミッツィー」
「あいつら…水門を解放しようとしてるのと違いますか」
「なるほど」
「ナーサン湖から流れるアナタボシ川の下流には、キラリン領の首都・キラレボがあります。昨日
までの雨量を溜め込んだ湖水をそのまま流せば、低地にある町は水没でしょうな。ミュンと元メロ
ン騎士団だった私兵には、かつてメロン領を追放され取り潰された恨みがある。動機は十分でしょう」

ミッツィーの言葉に耳を傾けながら、コンコンが閉じていた瞳を開く。
そして、ゆっくり話しはじめた。

「さすがはミッツィーですね。シバタさん…いや、ミュンの目的は間違いなくそれでしょう。用意した
船で水没した首都に乗り込み、占拠するということもあり得ます」
「でしょうなあ」
「ミッツィー、策はあるのですか」
「一報が入ってすぐにキラリンのバカ領主に部隊の派遣を要請しましたけど、管理棟に着く頃には水門
は開放されてるでしょうな。管理棟に詰めてる兵隊程度の人数でミュン率いる軍勢に太刀打ちできるは
ずない。というわけで、水門は奴らの好きにさせましょ。ただし」
175 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 22:02
ミッツィーが、部下に目配せをする。二人の部下が、ミッツィーの背後にある黒板に、大きな地図を
広げて貼り付けた。

「水の流路はこちらで変えさせてもらいます。流路のちょうど中間地点、パパン・ケーキ水門のすぐ
近くに、もう使われてない地下水道跡がありますねん。水門を閉めて、こちらの旧水道へ水を誘導す
るんです。そこに誘い込めたら、こっちのもんです」

地図にはナーサン湖とアナタボシ川、中間地点であるパパン・ケーキ水門が描かれており、その場所
に大きく×印が描かれている。そして、×印の横にある旧地下水道へ矢印が示されていた。

「ただ、水門を閉じる事で行き場の失った水が周辺に溢れ出す恐れもある。そこで自分ら魔導士部隊
の出番や。即席の堤防を氷で作ってもらって、全ての水を地下水道へ誘導するっちゅうわけ」

車椅子に座りながら差し棒で×印を指し、ミッツィーが言う。その表情から、かなりの自信のある策
だということが窺える。

「驚きました。まさか短時間でここまでの策を練って来るとは」
「いやあ、コンコンさんに比べればうちの策なんて子供だましですわ」
「いえ、私のような古い考えを持つ人間の時代は終わりました。ミッツィー、あなたがいればこの国
を覆い尽くしている暗い影を振り払うことができるかもしれませんね」
「そんなん言うても、何も出ませんよ」

と言いつつも、先輩軍師に褒められて心なしかミッツィーも嬉しそうではある。
176 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 22:03
「というわけで、魔導士部隊は騎士団伍番隊と合流して水門まで転移魔方陣で移動ね。敵が水門開く
までにはまだ余裕があるかもしれないけど、それでも時間との戦いだからね。みんながんばるんだよー」

最後はマキの締めの言葉で会議は閉会となり、各員それぞれの持ち場へと急ぐ事になった。

「なあなあ、マサキに聞きたいことあるんだけどさ」
「なに?まぁちゃん何でも答えるよー」

作戦内容を一通り聞いていたハルカが珍しく質問。

「転移魔方陣なんて便利なもんがあるんだったらさ、その湖の水門管理棟に兵隊送り込んで、湖畔に陣取
ってる連中とやり合えばいんじゃね?」
「それはねー、わかんない!」
「お前魔導士のくせにそんな事も知らないのかよ!!」

聞いた相手が悪かったのかそれとも聞いた自分が間違っていたのか。
悩めるハルカに、ハルナが、

「確か、転移魔方陣を開設する場所の条件があって、条件が揃わないと例え陣が形成されても人が通る事
は難しいって聞いたけど」

と答えてくれた。

「難しいって、通れることは通れるのか」
「でも、体が耐え切れなくて命を落とす危険性が高いんだよ」
「さすがメッシ、無駄に年食ってないな」
「私ハルカちゃんと5つしか違わないんだけど・・・」

そんな4人のもとに、近づいてくる車椅子の音。
177 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 22:04
「自分ら、何をしたんか・・・わかってるんやろな」
「げっ、車椅子ばばあ!!」

ハルカの言葉に、思わず眉を吊り上げるミッツィー。

「だ、誰が車椅子ばばあやねん!口の利き方に気ぃつけや!!」
「はっはっは。申し訳ない」
「まあとにかくや。マキさんがおらんかったら、自分ら今頃、これやで」

そう言いつつ、首をかき切るポーズを取る。

「ところでモーニング王国期待の軍師様は現場には急行しないんですか?」
「いちいち勘にさわるやっちゃな・・・うちには別の仕事があんねん。お前らもとっとと訓練所に戻り」

しっしっと追い払う仕草を見せてから、ミッツィーは車椅子を返して部屋を出て行く。
きこきこという金属音が聞こえなくなるまで、ハルカはずっと舌を出しっぱなしだった。
178 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 22:04
179 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 22:06


ナーサン湖湖畔。水辺に中型の船舶を浮かべ、大軍を抱えた陣の中心で、ミュン・シバ・プリペアップが佇む。

ムラッチ、マサオ、ヒットミン。もうすぐ、叶うよ。

かつて、メロンにその人ありと謳われた、四騎士。
剣だけではなく、魔法の扱いにも長けていたムラッチ・シュールメガネ。
身の丈ほどの長剣を得物としていたマサオ・フリーター。
そして、メロンの盾と称されるほどの守備力を誇ったヒットミン・スリーエイト。
斬姫の二つ名を持つミュンを含めた四人によって、メロンの平和は守られていたと言っても過言ではなかった。
しかし。

最初の瓦解は、ヒットミンの起こした不祥事だった。恋人であった蜂蜜商人に騙され、ジロハニーという蜂蜜
によく似た麻薬をメロン領全土にばら撒いてしまう。国土を混乱に陥れた罪でヒットミンは死刑。メロン領は
取り潰しとなってしまった。
さらにマサオ、ムラッチが不幸な事故によって命を落とす。一人残されたミュンの心に、王国への復讐心が芽
生えるのは必然と言ってもよかった。

旧友リカ・ハーフヒップの取り計らいにより、ミュンは国外追放は免れた。
代わりに彼女に与えられたのは、ナーサン湖の水門警備という、かつての栄光からは程遠いものだった。しか
し、それが逆に今回の計画を実行する大きなきっかけになるとは、誰も読めなかったに違いない。

「ミュン様、水門管理棟、完全に我が軍の手中に落ちました!!」

陣の向こうから駆け出してきた伝令が、息も切れ切れに伝える。
今回の作戦はミュン陣営にとっても、時間との戦いであったのだ。

「予定通り、水門を開放する。各員、魔導船に乗り込み待機せよ!!」

ミュンの号令に、旧メロン騎士団の私兵たちが一斉に動き出した。
180 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 22:07
181 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 22:08


一方、ビユーデン領アングリー。
王国騎士団団長ガキサン・テンミニッツの召還に応じたリカは、居城の応接室でガキサンと会見していた。

「そうですか・・・シバタさんがそんなことを」
「うん。『わかった』、それだけ言うとすぐに別邸を出ちゃって」

第二代騎士団団長カオリン・ネ・エワラッテがその座に就いていた時代。
モーニング騎士団肆番隊にはリカが隊長として在籍していた。折りしも騎士団内で大きな人事異動があり、ま
た新兵が各部隊に所属することになっていた。新兵が育つまでの間という約束で、ミュンは肆番隊の副隊長を
任されていたのだった。
それ以前の親交もあり、リカとミュンも堅い信頼関係で結ばれていった。

あの嵐の夜、ミュンが馬を走らせリカの別邸に向かったのも、別れを告げるためであったという。

「シバちゃんが『リカちゃん。さよならを言いに来た』って。それと、何があっても、私を忘れないでほしい
と。でも、まさかこんなことを計画してたなんて・・・」

思いつめた表情を見せるリカに、ガキサンが声をかける。

「私も肆番隊に在籍していた時はシバタさんにお世話になってました。でも、今回のことは騎士団として見過
ごすわけにいかないんです。もし何かあったら、その時は」
「わかってる。私だって騎士団に在籍してたんだもの。覚悟はできてる」

正面を見据えてガキサンを見据えるリカの顔は、間違いなくかつての黄金騎士のものであった。
182 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 22:10
183 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 22:10



その頃、ナーサン湖では。
突如、轟音がしたかと思うと、それまで静かに佇む湖の水が、ゆっくりと動き始める。
水門の口が、徐々に開いてゆく。押し出されるように、膨大な量の湖水が川へ向かって流れ始めた。

そして、それまで湖畔に停泊していた船が、動き出す。
荒れ狂う奔流を掻き分け、川に向かって進路を取る事ができるのはこの船がただの船ではなく魔導の力を応用
した魔導船であったからだ。
船体内部に設置されている、水の力を司る水晶球がある程度の流れを制御し、暴れ川のような水の流れの中で
も進路を狂わせずに推進できるのだった。

かくして魔導船は、湖を飛び出して川を下り始める。
184 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 22:10
185 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 22:10
186 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 22:11
187 :名無飼育さん :2011/11/26(土) 22:13
>>165
告白キター
愛想つかされないよう頑張ります

>>166
ありがとうございます
偶数日は更新日です(今のところ)

>>167
さすがの大先輩、出ると話が締まりますね
188 :名無飼育さん :2011/11/27(日) 00:11
情報局の頭脳派の面々が俺得メンバーすぎる
人物関係も色々あって面白いです
>>177工藤さんのセリフに笑いました
リアルネタや時事ネタが豊富なところも良いと思います〜
189 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:01
190 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:03


川の水かさが、明らかに変化している。
転移魔方陣によってパパン・ケーキ門に移動し、氷の堤防を作成していたミズキにも、すぐに理解で
きた。湖の水門が、開放されたのだ。流域は浸水し、うかつに近づけない状況と化しているのは容易
に想像できた。つまり、道中で船を止める手段は存在しない。

「2番エリアAブロック、作成完了!」
「同じく5番エリアのDブロックも完了!!」

川の分岐点各エリアの堤防が完成したことが、次々に知らされる。
最初に持ち場についてから2、3時間はたっただろうか。そこから魔力をフル回転させて氷を作って
いるのだ。その消耗は予想以上に激しく、ミズキは作業中に何度か寝そうになっていた。

レイニャさんに見られたら、怒られるだろうな・・・

ミズキは自らが新兵だった時の訓練所の訓練を思い出す。訓練中のミーティングで何度か寝てしまい、
その度に先輩であるレイニャ・ヤケンに怒られていたのだ。

周りを見ると、皆必死の形相で氷を作り出している。残された時間は、多くない。
ミズキもまた、魔力を搾り出すようにして目の前に氷の壁を作り出すのだった。
191 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:03
192 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:04


ハルカたち4人の、王国情報局からの帰り道。
騎士団訓練所は王城を挟んで反対側にある。
つまり、帰り道には嫌でも立派な王城を目にすることが出来る。

「はぁ、ハルたちいつになったらあの中に入れてもらえるのかね」

わざとらしく、ハルカがため息をつく。

「まずはあたしたちはリホさんに、マサキちゃんはミズキさんに認めてもらわないとね」
「認めてもらう・・・か。何をすればいいんだろう」

真っ当な意見を述べるアユミンと、考え込むハルナ。
マサキは、と見てみると、姿が見えない。辺りを見回す三人の目に入ったのは、往来で座り込んでい
る物乞いに話しかけているマサキの姿だった。

「はい、おじいちゃん。パンあげるー」
「おお、ありがたいのう・・・」
「他にもあるよ・・・いたっ!!」

容赦なくマサキのポクポク頭に落ちる拳骨。

「お前何やってんだ、ホームレスのじじいになんて構うんじゃねえよ!」
「えーっ、でもおじいちゃんお腹がすいたって」
「バカか、そいつは自業自得で今そこに座ってんだよ! ほら、行くぞ!!」

確かに、今のモーニング王国では物乞いなど珍しい光景ではなくなりつつあった。
王国の中央集権体制を強化するために実行した、属国の解体・一領地化。しかし、王都は栄えても、
その他の領地は必然的に痩せてゆく。国がなくなることで職を失った人間が、物乞いとして王都に
流れ込んでいるのだった。
193 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:05
194 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:06


周囲の田畑を荒らし蹂躙する濁流を他所に、魔導船は走り続ける。
このままキラリンの城下町まで突き進み、水の流れと共に現領主の居城へと攻め込む。
現領主であるコハ・ル・アグリカルチュアはかつての白金時代を築いた元王国騎士団員だが、いか
に彼女と言えど、取り巻きの従者と共に戦ったとしてもこの軍勢相手に無事でいられるはずがない。
敵将の首さえ取れば、城を取り戻す事も十分可能だと誰もが考えていた。

「隊長!前方の水門が閉じられています!!」

突然入る、操舵手からの報告。

「ぐっ・・・計画を気取られていたか」
「どうします、強行突破しますか!?」
「船体が耐えられん、こうなったらこの先にある地下水路に進路を変えるぞ。この流水量だ、水路に
入る事は容易いだろう。まっすぐ突っ切れば海にたどり着ける」

水門への衝突を避けるため、急旋回し地下水路へと舵を取る船。その様子は、水門前にて堤防を作り
終えたミズキたちにも見る事ができた。

「船が分岐点を曲がって行くぞ!」
「作戦は成功だ!!」

あちこちで歓声が上がる。
ミズキは緊張の糸がぷつりと切れたのか、その場にへたり込んでしまった。
常に前線に駆り出されるズッキやリホ、エリポンとは違い、どちらかと言えばミズキのような魔法兵
は戦場の後衛や裏方を任されることが多い。今回の仕事も決して作戦の核ではなかったが、それでも
重要なパートであったのは確かだ。

帰ったら、騎士団の皆さんのあれで癒されよう。そうしよう。
どこから入手したのかは謎に包まれている、ミズキの宝物である『歴代騎士団員名鑑』。これからも
彼女の心の支えになる事だけは間違いなかった。
195 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:07
196 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:08


ベリーズ共和国・デレシン砦。
ベリーズとキュートの軍勢が鎬を削りあっている最前線。毎日のように繰り広げられる小競り合いの
中で、一際目立つものがいた。

「どけ、立ち塞がるやつはおしおきだからね!!」

群がるベリーズ兵を次々になぎ倒してゆく、一人の少女。
手に持っている武器は身の丈より長い槍であったが、槍の穂先の根元からは、何本もの骨組が伸び、
骨組と骨組の間に貼り付けられた鉄板によって槍を握る手元から腕までをすっぽりと覆っていた。

「弓矢隊、集中砲火だ!!」

現場の司令官によって、指示が出される。
後方待機していた弓兵たちが、いっせいに鋭い矢を番え、放つ。

「ばっかじゃないの。このメグ様にそんなもの通用しませんよ」

メグと名乗った少女が手元に力を入れると、槍がまるで傘のように開く。盾となった槍が、メグ目
掛けて飛んできた矢を全て防いでしまった。

「ええい、取り囲め!あの武器では周りからの急襲には対応できまい!!」

次の指示で、あっという間にメグを取り囲むベリーズ兵。その数、20を超えていた。
197 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:09
「1対多数か。大人気ないね」
「ほざいてろ!!」

次々と襲い掛かる兵たち。
メグは開いたままの槍を、傘でも回すかのように回転させた。骨組の先から、乾いた音と共に発射
される、銃弾。近接戦を想定していた兵士たちは、なすすべもなく凶弾の餌食となってしまった。

「このメグ・ネコムスの銃槍『愛鉄(アイアイ)傘』の前に敵はいない! さて、そろそろ時間だ。
みんな、ずらかるよ!!」

メグの号令とともに、撤退をはじめるキュート兵たち。
そんな様子を、砦の城壁から見ているものがいた。ベリーズ軍軍師マイハ・クゥーンだ。

「メグ・ネコムス。キュート軍の中でも大将マイミ・モサ・シュガーライスとともに王の絶大な信
頼を寄せている人物、か」

マイハはもちろん、そんな他人行儀の経歴など何の意味もないことを知っている。
モーニング王国が設立した最初のエリート養成学校「キッズ」。その卒業生15人の中に、マイハ
とメグはいたのだから。

旧知の仲だからこそ、確信する。
自らの策が成る時、彼女は必ず障害として立ち塞がるであろうことを。
198 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:10


そしてデレシン砦から、至近の自陣へと引き返してゆくメグ。
深入りはするな。ある程度暴れて、頃合を見て引き返せ。
キュート王国軍師マイマイ・ジャウプ・リアルセントからの指示に従い、部隊を動かすメグではあっ
たが、マイマイの策に決して納得がいっているわけではなかった。

私がその気になれば、ベリーズ八戦士の一人くらいは討ち取ることができるのに。

デレシン砦はベリーズ軍の戦略上の要所だ。落とすことができれば、勝利に一歩近づくのは間違いな
いだろう。だが、今はまだその時ではないとマイマイは言う。では、いつが「その時」だと言うのか。
メグの忍耐は、限界に近づいていた。

もともとメグは駆け引きの類は得意ではない。
かと言ってチッサーのように何も考えずに突っ込むことは避ける程度の慎重さはあった。
何か、砦に攻め入るような理由さえあれば・・・

焦燥の念を抱きながら、メグは草原を駆け抜ける。
199 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:11
200 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:11



騎士団訓練所へと帰るハルカ一行が、マサキがいないことに気づいたのは、王城を通過してすぐのこ
とだった。

「あれ、マサキのやつは?」
「はくれちゃったのかな・・・」
「もう、ハルカちゃんがいつも拳骨で頭叩いたりするから」
「あー、わかったよ!探せばいいんだろ、ったく」

二人の批判の目に耐え切れなかったのか、渋々マサキの捜索を提案するハルカ。

「あれー、騎士団のみなさんじゃないですかぁ」

と、妙なタイミングで聞こえてくる、聞き覚えのある甲高い声。
声の主は、4人がエッグの学院生と揉めた時に間接的な原因となった、露店商の売り子だった。何故
か、どこかのメイドのような格好をしている。

「何だよ、今あんたに構ってるヒマなんてないんだけど」
「そう言えばお姉さん、この前と格好が違いますね」
「よくぞ気づいてくれました。実は、今あそこの喫茶店でバイトしてるんですよーうふふふふ」

くるくると回転しながら、自らの可愛さを極限までアピールする売り子。
その様子は、滑稽を通り越してある種の薄ら寒い空気をかもし出していた。

「それよりお姉さん、うちのマサキを見ませんでした?」
「マサキちゃん?あー、あのポクポクした子ね」

ハルナの問いかけに、売り子が思い出したように目を見開く。

「あの子なら、王城そばの商店街の路地裏で見たかも。さっき喫茶店の買出しに行ってた時に、どっ
かで見たような子だと思ってたんだよねー」

「ありがとうございます!」
「そうと分かればさっさと探しに行くぞ!」

3人は、もと来た道を急いで引き返すのだった。
201 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:12
202 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:13


分岐点を旋回し地下水路へと舵を取った魔導船だったが、それは完全にミッツィーの仕掛けた罠にか
かってしまったことを意味していた。
異変に気づいたのは、舵を取る操舵手。妙に手ごたえが軽い。水門からフルで水を流している状態な
のだから、湖からだいぶ離れたこの場所であっても水流は御しがたいはず。なのに、舵の手ごたえが
あまりにも軽すぎるのだ。

船内で河川の様子を監視していた兵士からも報告があがる。

「隊長!水かさが、減少してきています!!」
「何だと?この地下水路は海までまっすぐ走っているはず。支流もないのに、水が減るはずがない!」
「いや、しかし」
「問題ない。ならば船の推進力で先に進むまで」

突如、船底に衝撃が走る。
座礁、その可能性を考え付くのに時間はかからなかった。
身動きが取れないまま、周りの水が引いてゆくのを黙って見ているしかなかった。
そしてついに、船は水のない川底に、沈む。

「ふう、間に合ったようやな」

水路の側路から、ミッツィー率いる伍番隊の軍勢が姿を現した。
船から、わらわらとそれぞれの武器を持った兵士たちが飛び出てくる。
203 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:14
「この旧水路は大洪水に備えて、王国各所へ水を逃がせるような仕組みになっとんねん。ま、改修した
のは最近やから、領土を追い出されたあんたらが知らんのも無理ないやろうけどな」

そう言いながら、ミッツィーが右手を上げる。
兵士たちが、一斉に詠唱をはじめた。
青白い光とともに、打ち出される雷の魔法。数は勝るものの水路の側路と川底の高低差はいかんともし
難く、抵抗らしい抵抗もできないまま次々とミュンの私兵たちは倒れていった。

全ての兵隊が地に伏したのを確認してから、水のない川底へと降りてゆくミッツィーたち。しかし、付
近の捜索をしていた兵士の一人から、意外な報告が上がる。

「ミッツィー様、首謀者であるミュン・シバ・プリペアップの姿が見当たりません!」
「船内にもいないようです!!」
「ほう…?」

ミッツィーが訝しがっていると、嘲りのような笑い声が聞こえる。
部隊長らしき男が、してやったりの表情をしていた。

「我々はおとりだったのだよ!船内に設置した魔方陣からミュン様は王城へ向かった。ツンクボーイ王
の首を獲るためにな!!」
「さよか」

車椅子から、放たれる閃光。
卑しい笑みを浮かべたまま、男は絶命した。

「時間が惜しい。王城に戻るで」

部下に指示を出しながら、ミッツィーは思う。
まともな人間なら無理やり設置した転移魔方陣を使用するだけで命を落としかねない。そんな状態で、
一人で一体何ができるのか、と。
204 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:14
205 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:17


マサキは、帰りの道中で見かけた黒猫を追いかけていた。
まぁちゃんこっちおいでよー、と猫が語りかけている気がしたのだ。もちろん、彼女には動物と意思を
疎通させる能力など、まったくない。

黒猫を追いかけているうちに、路地裏に入り込んでしまった。
気がつくと、右も左も建物に阻まれ、辺りを見渡すことすらできない。

道に迷っちゃった…

ようやく自らが置かれた状況を理解するマサキ。
そこへ、にゃあ、という泣き声。即座に先ほどまで追いかけていた黒猫のものと判断したマサキは、路
地裏のさらに置くまで入り込む。人が通れるかどうかくらいの壁の隙間を潜りぬけ、彼女が目にしたも
のは。
206 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:18
子猫たちにえさをあげている黒猫の姿だった。

「なんだ、あなたお母さんだったんだねー」

マサキが側にしゃがみ込み、様子を見守る。
黒猫は一瞬警戒したものの、マサキが害を与えないのを気取ると子猫の餌やりを続けた。
どうせ迷子になるなら連れが多いほうが心細くない。あとはハルカちゃんたちが何とかしてくれる。そ
んな他力本願な事を考えていると、ふと、目の前が暗くなった。

マサキが影のほうを見上げる。
甲冑姿の、息も絶え絶えな、女性。身に着けていたマントはぼろぼろになっていた。

「あなた、誰?」

問いには答えず、女性がゆっくりと前に向かって歩み出す。
酷い怪我、この人の手当てしなきゃ。そう思ったマサキが、前に立ちはだかった。

「私の名前はミュン・シバ・プリペアップ。邪魔をするなら、斬る」

それだけ言うとマサキに向かって、持っていた剣を振り下ろした。
207 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:18
「第三話 軍師」 了
208 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:18
209 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:18
210 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:18
211 :名無飼育さん :2011/11/28(月) 19:19
>>188
ありがとうございます
私も局長副局長コンビ好きですよ
212 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 02:42
>>192のネタでワロタw
マサキぃぃぃぃ
213 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:26
214 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:29



キュート王国王都サクラ・ティラリ。
ベリーズ軍との交戦地からほど遠いこの場所では、戦時下にも関わらず暗い空気は流れていなかった。
勝っては負け、負けては勝つという膠着状態に、王都の住民はすっかり慣れきってしまっていた。
しかし、王城の中はそうはいかない。

「アイリ、アイリはいるか!」

キュート王国国王トール・ボンバー・サムスベリーが王城を駆け回る。そんな中、ちょうど城内の巡回
中であったキュート軍将軍マイミ・モサ・シュガーライスと出くわす。

「おおマイミちゃん!」
「どうしたんですか、そんなに急いで」
「うちのアイリを探してるんだが・・・こんなものが届いてなあ」

トールが手にしていたのは、先日モーニング王国国王ツンクボーイ・テラニャがベリーズ・キュート・
スマイレージ各国に送った質問状であった。マイミはトールから質問状を受け取り、一通り文書に目を
通すと、

「何の問題もないですよ、国王」

とだけ答えた。トールは眩暈がしそうになるのを、何とか抑える。

「問題だよ、これは返答次第じゃ軍を派遣するってことじゃないか! そうなったらうちはベリーズと
モーニングに挟まれて終わりだよ!! ああ、一体どうすれば」
「ははは、そんなことにはなりませんって」
「何でそんなことが言えるんだ!!」
215 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:31
「お父様、少しは落ち着いてくださいな」

通路の向こうから現れたのは、トールの娘であるアイリ・ダジャレー・サムスベリーだった。

「おお、アイリか!」
「モーニングとベリーズが反目することはあっても、徒党を組んでわが国に攻め込むことなんてあり
えませんから。モーニングからの手紙なんてスルーするーんです。それに、キュート王国が誇る策士
マイマイ・ジャウプ・リアルセントがいる限り、わが国は安泰です。お父様も国王らしく、もっとで
ーんと構えてないと、ご先祖様に申し訳ありま先祖」

何気なく挟まれた寒いだじゃれに微妙な顔をしつつも、トールはほっと胸を撫で下ろしたようだった。

「そうだな。我が軍にはマイミちゃんやメグちゃんもいるしな」
「もちろん、私もいますよ」
「うむ。何も心配することはなかったか。では私は先に休むとしよう」

最後ははっはっはと笑いながらトールは自らの部屋へと戻っていった。
そんな様子を見ながら、マイミがアイリに耳打ちする。

「アイリ、お父さんに言わなくていいの?あのこと」
「うん。だってお父様はただのお飾りだもの。マイマイにも口止めされてるしね」
「そっか」

マイミが口にした「あのこと」。明らかになるのは、まだしばらく先のことである。
216 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:32
第四話「守るという意味」
217 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:32
218 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:34


「キャアアア!!!!!」

路地裏から聞こえるマサキの悲鳴を最初に聞いたのは、ハルナだった。血相を変えて走り出すハル
ナの姿を見て、ハルカとアユミンも後を追う。

そこで3人が見たものは、倒れているマサキと、傍らに立つ剣士風の女だった。

「おいお前、マサキに何をした!」
「・・・・・・」

ハルカを無視し、先に進もうとする女。
その鼻先に、アユミンの六尺棍が伸びる。

「返答によっては、あなたを許さない」
「あなたたちも、私の邪魔をするのね」

言葉より先に、女の剣戟が飛ぶ。それを止めたのは、真っ先に動いたハルナだった。

「これ以上、無関係の人を斬りたくはないんだけど」
「斬った・・・あなたが、マサキちゃんを・・・」

ハルナの目に、怒りの炎が灯る。
ハルナが女の剣を弾いたのと、アユミンとハルカが女に襲い掛かったのは、ほぼ同時だった。

ハルカが構えた剣を、横に薙ぐ。
後ろに交わした女を、アユミンの六尺棍での袈裟懸けが襲った。しかし女はハルナに弾かれた剣を、
勢いのままに棍に叩きつける。振り向いた姿勢のまま、後方のハルナに向け回し蹴り。三人の連携
攻撃は、難なく女にかわされた。
219 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:36
「喰らうがいい。剣技『乱羅魔天狼(みだらまてんろう)』」

瞬速の動きで、上段・下段・中段突きを繰り出すミュン。ハルナたちは剣の餌食にならないよう、
かわすのが精一杯だ。

「おい、こいつ強いぞ!」
「わかってる」

ほんの僅かの間に、相手の力量を判断するハルカとアユミン。もしかしたら敵わないかもしれない、
そんな不安が頭を過ぎる。
刹那。二人の間を、黒い影がすり抜けた。双剣を交互に構えた、ハルナだった。

「なにっ!!」

女の反応が一瞬、遅れた。
しかし、ハルナは女を通り過ぎ、倒れているマサキの前にしゃがみ込んだ。マサキの体を丁寧に調べ
ると、ようやくハルナの表情から硬さが消える。

「大丈夫。マサキちゃん、斬られてない!」
「マジか!?」

その隙を、女は見過ごさなかった。構えていた剣を鞘に収めると、目にも止まらない速さでアユミン
の横を通り抜け、走り去っていった。
220 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:38
「しまった!」
「ハルカちゃん、マサキちゃんのほうが先!」

追いかけようとするハルカをアユミンが制す。我に返ったハルカが、倒れているマサキに駆け寄った。

「おいメッシ、マサキは」
「うん。気を失ってるだけ。でも、これが」

ハルナが指し示したのは、マサキの側に落ちているブレスレッドだった。いつぞやの青空市場で、マサ
キが例の売り子に掴まされたものだ。

「おいおい、一体どうなって・・・」
「・・・あれ、みんな?」

それまで眠ったように静かだったマサキが、目を覚ました。

「マサキ!!」
「あはは、みんなおはよー」
「ちくしょう、お前、心配させやがって!」
「大丈夫、怪我はない?」
「うん。あのお姉さん・・・ミュンとか名乗ってた人に斬られた、と思ったらブレスレットがぴかーっっ
て光って。そしたら意識が遠くなってったんだけど、まぁちゃん大丈夫だったよー」

ブレスレットのことは今はどうでもいい。それよりも、マサキの言葉には気になる点があった。
顔を見合わせる三人。

「ミュンってもしかして」
「でも、その人ってナーサン湖にいたはずじゃ」
「あんな凄腕のミュンが何人もいてたまるかよ!とにかくこっからは王城が一番近い、詰所の
連中に知らせに行くぞ!!」

ハルナが、マサキを背負う。
三人は、王城のある方向へ駆け出すのだった。
221 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:41
222 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:41


モーニング王国騎士団・王城内詰所。
騎士団の本拠地であるこの場所には本来であれば各部隊長が王城警備のため駐留しているはずであった。
しかし昨今の国境付近での緊張状態のせいで、今は交代でそれぞれの部隊長が少数の兵士を連れて勤務
しているのみであった。

「りほりほー!!」

詰所内で、甘い声が響き渡る。他の兵士たちはまたかという表情をしつつ、それに対しては見向きもし
ない。

「久しぶりなのー!りほりほのさゆみんが帰ってきたの!!」
「どうでもいいんですが、人の頭をこねくり回すのはやめてくれませんか」
「あー、りほりほの匂い!子供特有の匂いがするのー!!」

リホ・デリ・サヤスィが心底迷惑そうな表情で訴えるのを無視し、一人の女性がひたすらリホを愛でて
いる。その様子は最早病気に近いものがあった。

突然、詰所の扉が開かれた。
全速力でここまで走ってきたハルカ・アユミン・ハルナと、ハルナに背負われてやってきたマサキだった。

「あ!ちょうどよかったヤッシー、って何やってるんすか・・・」

目の前の光景を見て、思わず目が点になるハルカたち。
223 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:44
「・・・見たままですよ。セクハラされているんです」
「セクハラとかひどいの!これはただのスキンシップなの!」
「そんなスキンシップいりませんから」

一方的な愛玩行為に抗議する、リホ。

「そんなことよりリホさん、その人は」
「この人はサユ・ナルシスペ・ドフィーリア。王国騎士団弐番隊の隊長だ」

アユミンの問いに、抱きつかれたままのリホが無表情で答える。

「まあいいや。隊長さんも聞いてくれ。実はさっき・・・」

ハルカがミュン・シバ・プリペアップを名乗る女性と遭遇したことを、リホとサユに説明する。

「それは大変なの!でもどうして王都なんかに」
「おそらく、王の首を狙っているんでしょう。反乱を起こした人間の目的なんて、そんなものです」
「王城の警備を固めるの!王様には転移魔方陣を使って逃げるように伝えるの!!」
224 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:45
225 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:47


その頃、王城に侵入する隙を窺っていたミュン・シバ・プリペアップは。
わらわらと正門に集まり始める兵士たちを見て、自らの計画が気づかれていることを知る。しかし彼女
の気持ちは1ミリも揺るがない。

あの子からもらっていた、これが役立つ時が来たみたい・・・

懐から取り出された、短剣のような何か。表面には複雑な紋様が入り、一目見て魔力の込められたもの
であることが理解できた。

ミュンは一呼吸置くと、勢いよく、その道具を地面に突き立てた。
次の瞬間、王城が光に包まれる。光がうっすらと和らいできた頃、ミュンが動き出した。
ミュンが使ったのは、いわゆる魔道具と呼ばれる代物。広範囲の領域において魔法を無効にする効力が
あるものであった。

魔法さえ封じれば、あとは力だけの勝負。

ミュンが雄たけびをあげながら、王城正門に向かって走り出す。
存在に気づいた兵士たちは剣を構える間もなく、怒涛の剣戟によって肉片へと変えられていった。
226 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:47
227 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:49


「シバタ君。話があるんです」

盟友ヒットミン・スリーエイトの処刑が執行されてから1月が経った日のことだった。
当時デインジャーと名付けられていた首都の居城にて、いつになく真面目な顔をしたムラッチ・シュー
ルメガネが、ミュンを呼び出した。

「何ムラッチ、そんな深刻な顔をして」

軽口を叩きつつも、ミュンには分かっていた。
遅かれ早かれ、このメロン領は取り潰しになることを。

「シバタ君。何も言わずに、これを受け取ってくれないか」

ムラッチが、ミュンに二本の短剣を手渡す。ミュンの顔色が、変わった。

「どういう・・・つもり?」

フォーチュンソード。運命の剣と名づけられたそれは、かつてメロンが国であった頃にミュン、ムラッチ、
マサオ、そしてヒットミンが永遠の誓いとともに掲げたお守りと言っても過言ではない曰くつきのものだ
った。処刑の前日にヒットミンから同じように短剣を受け取った記憶が蘇る。

「こんなの、こんなのってひどいよ」
「ツンクボーイ王の命令だから。北の騎馬民族の討伐に行けって言われてね」

マサオは既に北方へ向けデインジャーを発っていた。ムラッチもまた、彼女のあとを追うと言う。たった二
人での討伐命令は、ある意味死刑宣告に近いものがあった。

「私も、私も行く!」

しかしムラッチは首を振る。

「シバタ君までいなくなったら、メロンという存在は永遠になくなってしまうじゃないか」
「・・・・・・!!」
「いつか、その日が来たら・・・シバタ君があの金髪出っ歯にひと泡吹かせてやって。頼んだよ、わたしたちの
かわいい妹よ」
228 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:49
229 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:51


そして機は熟した。
協力者たちのおかげで、こうして王城に乗り込むこともできた。
あとは、本懐を遂げるだけ。

「ぐああああ!!!」

悶絶し、倒れる兵士。
目にも止まらぬ速さで、相手を切り刻み血飛沫を上げさせる。返り血を浴びた美しくも儚い佇まいから、
いつしかミュンには「赤いフリージア」の二つ名がつけられていた。

一人、二人、三人。
襲い掛かる兵士を、次々に斬り伏せてゆく。
王城の廊下が、鮮血に染まっていった。
そこへ、一人の少女が立ち塞がる。

「これ以上、先には通さない」

リホ・デリ・サヤスィが両拳にナックルを嵌め、ミュンに向かって構えを取る。

「あなたは相当消耗してるはずだ。無益な戦いはやめて、おとなしく降参するといい」
「無益?『私たち』の戦いは、無益でもなんでもない」

それだけ言うと、ミュンが構えを取る。
230 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:53
先手必勝。
リホがミュンに向かって、駆け出す。

「まずは、その邪魔な甲冑を壊させてもらう」

ミュンが剣を正面に構える。繰り出される、剣技。
袈裟懸けに走る刃の軌跡を潜り抜け、リホがミュンの懐に滑り込んだ。

ナックル「粉粉(こなぷん)」による攻撃は、一撃で岩をも粉砕する。それが、続けざまにミュンの甲冑
にヒットする。甲冑は金属の表面にひびが入り、そして跡形もなく破壊されてしまった。衝撃で、向こう
側へ吹っ飛ぶミュン。

しかし、鎧を失ってなお立ち上がる、ミュン。
その表情には笑顔すら浮かぶ。

「よしたほうがいい。次はあなたの内臓がばらばらになる」

リホが話し終わらないうちに、剣を構えミュンが向かってくる。
息を整え、次なる攻撃に備えるリホ。忠告はした。あとは、実行するだけ。狙いを定めて、リホがミュン
の懐に飛び込もうとした時だった。

ミュンは攻撃をするどころか、逆に手足を広げて腹を曝け出す。
愚かな、自殺行為だ。
思いつつも、リホは手に込めた力を決して緩めない。相手が何を企んでいるかは分からない。分かってい
るのは、次のラッシュを決めたときに、相手が絶命している事だけだ。
231 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:54
振るった右拳が、ミュンの腹にめり込む。
間髪入れずに左。肋骨を折る確実な手ごたえ。
さらに右。ゴム風船を叩き割るような、嫌な感触がした。それでもリホは拳を叩き込むことをやめない。
相手が、まったく倒れる素振りすら見せないからだった。

普通の人間なら、最初の一撃で悶絶をしている。
いくら頑丈な体でも、三撃目には胃の奥からどす黒い血を流す。
なのに、なぜ倒れない。
リホが、焦りを感じ始めたその時だった。首を掴まれたかと思うと、そのまま持ち上げられ、そして勢い
のままに腰から床に叩きつけられた。リホの視界が白く霞む。

「さよなら」

倒れたリホに向け、剣を振り下ろすミュン。
しかし、それは寸前のところで止められた。

「りほりほを傷つけるやつは、許さないの」

リホを救ったのは、サユ・ナルシスペ・ドフィーリア。モーニング騎士団弐番隊隊長だった。
232 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:54
233 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:54
234 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:54
235 :名無飼育さん :2011/11/30(水) 22:56
>>212
いわゆるじっちゃんってやつですね
236 :名無飼育さん :2011/12/01(木) 11:15
オールキャストとは珍しい
期待してます
237 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:35
238 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:37
「りほりほ、怪我はない?」
「ええ、大丈夫ですが、腰を打ってしまいました。暫くは歩けないかもしれません・・・」

サユに抱きかかえられ、そう答えるリホ。

「それは大変なの!でも大丈夫、サユが下の世話までお世話してあげるの!!」
「全力でお断りします」

至極残念そうな顔をしながら、リホをなるべくミュンから離れた場所へと運ぶサユ。
そして、再びミュンと対峙する。

「意外なの。シバタさんに背後から斬りかかられるかと思った」
「そんなことをする必要はないわ。あなたで『最後』でしょう?」

弐番隊が王城警備についている、とは言っても無論全ての隊員がいるわけではない。むしろ、本隊は国境
警備を任され、必要最小限の人間を王城へ回していた。リホが倒れ、サユが倒れればあとは一般兵なども
のの数ではない。

「・・・そう、最後なの。あなたのね」
「!?」

サユが、二人になった。
ミュンには、そうとしか見えなかった。
城内に侵入する前に施した魔法封じにより、魔法と名のついたもの全ては使えなくなるはずだった。とな
れば幻覚か。
239 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:38
「サユが騎士団に入りたての頃、シバタさんの剣術はみんなのお手本だった。サユも、オカマみたいな師
範にシバタさんの剣術を勉強させられたの」

ミュンが王国騎士団に臨時的に入団していた時期は短かった。しかし彼女が入団中に見せた模範的な剣さ
ばきは入りたての新兵にとって、教科書的存在となった。そしてサユも、ミュンの剣術を学んだ一人であ
った。

「こんな変な幻覚を使った覚えはないけど」
「幻覚なのかどうか、その身で確かめればいいの」

二人のサユが、右と左に分かれる。手にはそれぞれ、小ぶりの剣が握られている。しかし小さな金属片を
重ねて作られた刀身は撓り、まるで鞭のような動きを見せる。
鞭剣「ポイズン・タン(毒舌)」。その扱いは難しく、騎士団でも扱う事ができるのはサユ一人だった。
左右から襲い掛かる、ポイズン・タン。右を剣で弾き、左をかわす。
しかし次にミュンが見たのは、2人から4人に分かれるサユの姿だった。

時計回りにミュンを囲みながら、距離を詰めてゆくサユ。
ミュンに向かって四方向から飛んでくる鞭剣を、順番に弾いてゆく。確かな手ごたえは剣撃が幻覚のもの
ではないことを意味していた。
240 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:40
ミュンが意を決する。

まずはサユの一人に向かって、急接近と下段からの斬り上げ。後ろから襲ってくる鞭剣をジャンプで交わし
、跳躍の勢いでもう一人のサユを一刀両断。背後に迫る気配にすかさず水平斬りで相手の胴を断つ。そして
一人残った最後のサユを、防御する隙も与えずに心臓を一突き。

しかし、胸を貫かれたはずのサユは、笑っている。

「無駄なの。サユはいっぱい増える。かわいいサユに囲まれて、シバタさんは死ぬの」

4人が、8人になっていた。
その一瞬の隙をつき、ミュンを8本の鞭剣が切り刻む。全身から血飛沫を上げ、ミュンは倒れた。

「終わり。これからはサユが『サユージア』を名乗るの」
「終わってなんか・・・いない」

よろよろと立ち上がる、ミュン。その瞳は緑色に変化していた。

「その目はまさか・・・『牙遮単(ガチャピン)』を使ったの?」
「私にはもう、後がないから」

人間は普段、脳の10パーセント程度しか使っていないという。
その残りの眠っている領域を無理やり呼び起こすのが、王国の暗部に古くから伝わる秘儀「牙遮単」だ。自
らの体に特殊な呪符を打ち込むことによって、驚異的な能力を得るという。しかし、効果の切れた後は副作
用によって体全体が緑色に蝕まれて死に至る。
常人には不可能な、不安定な場所での転移魔方陣の使用。リホの攻撃をノーガードで受けきった体力。すべ
て「牙遮単」の効力によるものだった。

ミュンは、命と引き換えに目的を達そうとしていた。
241 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:42
「ここから先は通さない。モーニング騎士団弐番隊の名前と、サユのかわいさにかけて」

8人が16人に、16人が32人。
最早一小隊が目の前にいるような状況だった。だが、ミュンは動じない。

「いくら「牙遮単」を使ったとしても、この人数相手に戦えるはずないから。サユのかわいさを目に焼き付
けて、あの世にいけばいいの」

32本の鞭剣が、ミュンの体を刺し貫く。
「牙遮単」のもたらした驚異的な生命力のおかげでミュンは倒れない。そればかりか自らの剣を、あさって
の方向に向かって投げつけた。
何もないはずの空間。しかし剣がある地点に近づくや否や、空間が歪み「何か」が剣を弾き飛ばした。
そこに姿を現したのは、自らの背よりはるかに大きい鏡のような盾を構えたサユであった。

「その鏡の仕業でしょ、32人のサユは」

サユの持つ鏡盾「善鏡・模化歪(よしきょう・もかわい)」は、実際には存在しない虚像を空間に発生させ
る奇盾だった。光本来の力が由来のため、魔法封じが施された城内でも使用することができたというわけだ。
本人は盾に身を隠し、遠くから鞭剣を操っていた、というからくりであった。

「ご名答なの。でも、勝負はもうつきそうなの」
「なに?」

サユが鏡の盾をミュンに見せる。
鏡面に映った体が、緑色に変色しつつあった。

ミュンはにやりと笑うと、サユではなく倒れているリホに向かって走る。

「この期に及んで何を!!」

咄嗟にリホを守るために飛び出すサユ。しかしそれはミュンのフェイントだった。
サユの注意がリホに向くや否や、驚異的な反射神経で逆方向に転換。謁見の間へと走り去っていった。
242 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:42
243 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:44



スマイレージ国の中心となる街・ドリームフィフティーン。
希少価値の高い鉱石「カルビ鉱」の大鉱脈を領地内に発見した事により、スマイレージ国は大陸の他の
国よりも裕福であった。カルビ鉱と引き換えに、海を隔てた西の帝国から最新の軍事技術を供与されて
いる現在、もっとも勢いのある国として、周辺諸国から恐れられる状態になっていた。

首都からほど近いところに、旧市街は存在する。
カルビ鉱の熱狂から取り残され、貧しさと背徳のみを享受する場所だ。
色黒の、目元がくっきりした少女が、一人でこの闇が満ちた場所を歩いていた。普通なら少女が一人歩
きをして無事で済むような場所ではない。現に、路地裏から、物陰から、疚しい輝きを湛えた瞳が彼女
を見ている。だが、彼らは知っているのだ。目の前の少女の強さを、恐ろしさを。

人の住んでいる気配のない、朽ちた廃屋。
それが、彼女の待ち人との待ち合わせ場所であった。

「待ってましたよ、アヤチョ・ダーワーリョーク」

声に気づき、廃屋の中を進むアヤチョ。奥には、黒マントを羽織った女がいた。
顔は暗闇で、よく見えない。

「あんたの言うとおりに事は運んでいるさ」
「それは結構。引き続き、お願いします」
「カニョンのルートで武器も揃いつつある。あとは号令がかかるのを待つだけ、でも」

それだけ言うと、アヤチョが背中に隠した二本の棒を抜き、闇に向かって突きつける。

「あんたの目的は、何さ」
244 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:45
闇は答えない。

「モーニングを潰して、あんたに何の得がある」

アヤチョの持つカリスティック「レンブラント」が、炎に包まれる。相手の被った、不気味な紋様の仮
面が浮かび上がった。

「自らの利を求めるのは、俗物のすることです。ただ、私には私の、目的がある。あなたに、あなたの
目的があるようにね」
「人それぞれ、か。あんたの生き方なのかもしれないけど。きっと長生きできないね」
「あなたは時折哲学的な物言いをしますね。そういうの、嫌いじゃありませんよ」

黒マントが、闇に溶けてゆく。

「どこへ?」
「こう見えても忙しいんですよ。またお会いしましょう。その時が号令の時かどうかは、わかりかねま
すけどね」

そしてアヤチョの前には、混じりけのない闇だけが残された。
245 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:45
246 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:47



怖ろしく静けさに包まれた、リゾナント城内。
ハルカたち四人も、ミュンを追って王城内を突き進んでいた。
弐番隊が駐留しているとは言え、決して数が多いというわけではない。新兵の身とはいえ、手をこまね
いて見てる訳にはいかなかった。

「急げ!まだ間に合うかもしれねえ!!」

ハルカが走りながら、叫ぶ。
謁見の間へと続く廊下に倒れている、死体。奥に進むにつれ増えてゆく状況は、さながら戦場だった。
アユミンとマサキが、顔を背けながら走る。まともな生活をしていれば、死体など見る機会はほとんど
ないのだ。彼女たちの反応は、新兵としてはごく当たり前のものだった。

「人が、人がいる!」

何かを見つけたハルナ。
床に横たわっているリホと、傍らに座るサユの姿だった。

「先輩!!」

走って駆けつける、ハルカたち四人。
リホの無事を知ると、安堵のため息を漏らした。

「私なら大丈夫だよ」
「そうなの。りほりほのことはさゆに全部任せるの」

気丈な姿を見せるリホと、何故か鼻息の荒いサユ。

「まあ。色んな意味でお任せしますよ。じゃあうちらはこれで」

そう言って奥へと進もうとしたハルカが、サユを振り返る。

「あのー」
「なに?」
「こういう時って、止めたりとかしないんすか?仮にも相手はあのミュン・シバ・プリペアップなわけ
だし」

するとサユはにっこり笑って言うのだった。

「大丈夫なの。シバタさんはもう『逃げられない』から。あなたたちも見ておくといいの。事の顛末を」

意味深なサユの言葉に訝しがりながらも、四人は謁見の間へと向かったのだった。
247 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:48
248 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:49


ついに。
ついにあの憎むべき愚王の首を獲ることができる。
緑色に硬化してゆく肌も、全身を襲う痛みも、願いを叶えることに比べたら苦でもなんでもない。

「あなたの望みは、叶えますよ」

あの子はそう言った。
そしてどういう根回しをしたのかはわからないが、全てのお膳立ては揃っていた。
囮となる魔導船は海の向こうの帝国から輸入したものだという。王城の警備も、比較的手薄になっていた。
あとは、やることをやるだけ。

「あたしの無念は、あんたに預ける」

処刑の前日に、ミュンの同僚であったヒットミン・スリーエイトはそう言った。
ヒットミンが危険な橋を渡ったそもそもの理由は、メロン国が国としての権威を奪われ、その富をもモーニ
ング本国に持ち去られてしまったことにある。多くの元騎士団員を養っていくためには、その手段が必要不
可欠だったのだ。

「もしあたしたちがいなくなったら、ミュン。あんたがメロンの名前を背負うんだ」

マサオ・フリーターは騎馬民族討伐へ行く前に、そんな意味深な言葉を残していた。思えばあの時に、死を
覚悟していたのかもしれない。

みんなの意志は、私が引き継ぐから。

迷いなど、一欠けらもなかった。
目の前に立ちはだかる扉を一刀両断しこじ開けると、ずい、とミュンは前に一歩躍り出た。
249 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:50


赤い絨毯のはるか先に、玉座に座っている人影が見える。
しかし、ゆっくり、ゆっくり近づくにつれ、ミュンの表情に陰りが表れる。

「どう・・・して?」

ミュンの目の前にいるのは、モーニング王国国王ツンクボーイ・テラニャではなかった。

「ごくろうさん、『赤いフリージア』。ここがゴールや。ただし、あんたの命のな」

王国騎士団伍番隊隊長ミッツィー・ボーンブレイク。
彼女の顔を見た瞬間に、ミュンは自らが彼女の手のひらで踊っていただけに過ぎなかったことを知る。

「全て、お見通しだったわけか・・・」
「ツンクボーイ王はあんたが魔法封じの道具使う前に、安全な場所に逃がしたったわ。残念やったな、あん
たの目的が国王の首なのは、初めから知ってたんやわ」

失望に襲われたミュンの体が、急速に緑に蝕まれてゆく。
彼女の命の終わりが、近づいていた。

ミッツィーの合図と共に、王座の背後から、そして謁見の間の入口から、弓を抱えた兵士たちが現れる。城
内を守護していた弐番隊ですら、囮に過ぎなかったのだ。

「まさかそれを使うとはな。その「牙遮単」、一度使えば全ての能力が10倍に。まともにやり合えば10
0人の兵をも屠るっていうやん。城内で犠牲になったんは、20人程度か。まあ、しゃあないな」
「王国は・・・王国は私を騎士として死ぬことすら許してくれないのか」

次々と、弓を番える音がする。
その音を掻き分けるように、ハルカたち4人が謁見の間にやってきた。
ミュンと真っ先に目が合ったのは、ハルナだった。
250 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:52
ミュンが、大きく息を吐く。
そしてミッツィーをまっすぐに見ると、

「ミッツィー。一つだけ、一つだけ私の望みを聞いてくれないか」

と言った。

「命ごいなら無理やで。あんたは王城に侵入し、王の命を狙った。それだけでも、裁判なしで死刑執行する
十分な理由になる」
「どの道もうもたない。私の命なんて、どうでもいい。ただ、心残りがある」

ミュンが、振り返る。視線の先には、ハルナ。

「そこの少女と、戦わせて欲しい」

目を丸くするミッツィー。彼女にとって、ミュンの言葉は予想外以外の何ものでもなかった。

「そんなことに、何の意味がある」
「私が騎士として生きた証を、証明したいんだ」

国王の首を獲るという、メロン騎士団四人の願いはもう叶わない。
だが、このまま死んでしまっては、他の三人に申し訳が立たない。それでも。
路地裏で、ハルナに隙を付かれ後ろを取られた時。
目が、追えなかった。
「牙遮単」を使用していたが故の驕りがあったのかもしれない。それを考慮に入れても、なお、ハルナの身
に潜む何かをミュンは感じずにはいられなかった。

崩れゆく命だけど、燃え尽きるまでは。

自らの命を燃やす相手として、ハルナは最高の相手のように、ミュンには思えたのだった。
251 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:54
強い視線を投げかけてくるミュンに、ハルナは戸惑う。

「そんな、何でわたしなんかを」
「どの道私は死ぬ。なら、せめて最後は華々しく散りたいんだ」
「でも・・・」
「頼む!守りたかった、メロンという国のためにも!私が背負った、仲間たちの意志のためにも!!」

確かにモーニング王国からすれば、彼女はただの逆賊に過ぎない。
しかし、彼女は純粋にただメロンというもう無くなってしまった国の名を守りたかっただけなのかもしれな
い。ハルナが騎士団の門を叩いたのも、国を守りたいという大きな望みがあったからだった。ハルナの中の、
何かが深く、繋がる。

「わかりました。私でよければ・・・お相手します」
「ハルナ!!」

覚悟を決めたハルナが、一歩前に出る。
ハルカは。アユミンは。マサキは。
ハルナを止める言葉を持っていなかった。背中から感じる強い決意を押さえ込むには、彼女たちはまだ幼す
ぎた。だからハルナの後姿を、見守る事しかできなかった。

「ありがとう。あなたの名前は?」
「ハルナ。ハルナ・メッシです」

ミュンが剣を構える。その動きに呼応するように、ハルナもまた、双剣を交互に構える。
張り詰める空気。しかしそれを破ったのはミュンでも、ハルナでもなかった。
252 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:55


いつの間にかミュンの胸には、一本の矢が生えていた。
深々と身を穿つ矢に、ミュンは吐血した。こぼれ落ちる、真っ赤な鮮血。
それを合図に、ミッツィーが部下たちに指示を与える。

ハルナは兵士二人に両脇を抱えられ、ミュンから引き離された。
そして。

「総員、矢を放て!!」

極限まで矯められた、弦の力が一斉に解放された。
まるで暴風雨のような矢の雨を、ミュンは抵抗もせずに浴び続ける。
腕を、肩を、足を、腹を。容赦なく鋭い矢が穿つ。

ムラッチ、マサオ、ヒットミン。みんな、ごめん・・・

懐に忍ばせた、四本の短剣に手を当て、瞳を閉じる。
そしてそのまま、ミュンに深い闇が訪れた。

「どうして!!!!!」

体を押さえ込んでいた兵士たちを振り切り、ハルナがミッツィーに近づく。
そして玉座に座るミッツィーの、両肩を思い切り掴んだ。

「あの人は!あの人の最後の望みは!!私と戦うことだけだったのに!!!」

叫びながら、ミッツィーを揺さぶるハルナ。ミッツィーは暫くされるがままにしていたが、突如、強い力で
ハルナの胸倉を掴み、引き寄せる。

「アホか!!!死なんでええ人間を、むざむざ死なせる軍師がどこにおんねん!!!」
「私は、私は死んだりしない!!!」
「自分の軍隊の犠牲を必要最小限に抑えるのが軍師の仕事や!たとえその犠牲が自分みたいなペーペーの新
兵でもな!!!!」

放った言葉とともに、ハルナを突き飛ばすミッツィー。
床に倒れそうになるハルナを、ハルカたち三人が支える。

「自分ら、そいつ連れて早よ王城出てけや。うちは忙しいねん」

そう言ってミッツィーは、部下の持ってきた車椅子に座りかえると、二度とハルナたちに振り向かなかった。

253 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:55
254 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:57



「ミュン・シバ・プリペアップが、王城内にて命を落としたようです」

ビユーデン領アングリー、リカ・ハーフヒップの居城。
副官ユイヤン・オカパインのもたらした一報を聞き、リカは大きく肩を落とした。
その顔も心なしか、青ざめているようだった。

「覚悟はしていたんだけど」
「無理もありません。ミュンさんはリカさんの」
「知った風な口を利かないで!」

肩を竦め、同じく副官のミーヨ・ポットホーネットを見るユイヤン。ミーヨは静かに首を振る。

「今日はもう休む」
「今夜はアングリー市長との会食の予定が」
「そんなのあんたたちでやりなさいよ!!」

最後はヒステリックに叫ぶと、リカは扉を叩きつけるようにして自室へと戻っていってしまった。
255 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 18:59
「うちのリーダーも困ったもんやな。ミュンが死んだからって、うちらに当たらんでほしいわ」

リカがいないと見るや、それまでリカの座っていた椅子に座るユイヤン。
ミーヨもまた、

「君主は選べないから。たとえ癇癪持ちの理不尽姫だとしてもね」

と暗にリカを批判するような物言いをする。

「ほんで、あのブタ市長との会食は?」
「私は今夜はダーヤスさんのところに行かなければ」
「あの元黄金騎士の?ミーヨもいつの間にそんなコネ作ったん?まあええわ。会食はうちが行く」
「あれ。ユイヤン、あの市長のこと嫌ってなかった?」

意外そうな顔をするミーヨに、

「また新しい呪符仕入れんとな。ブタ市長が指定したレストランの近くにいい店、あんねんて。用
事のついでに、うまいもん食うたろかな思って」

と嬉しそうに語るユイヤン。
いい店、とは彼女が常用している魔道具の闇市のことを指していた。

「それにあの市長、ヒゲアリス卿と仲ええからなあ。今後のためにも、媚売っとかんと」

ミーヨに向かって悪い顔をしてみせるユイヤンであった。
256 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 19:00
257 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 19:24



ミュンの死という情報は、瞬く間に王国全土を駆け巡る。
当然、王国情報局副官コンコン・テレトアナの耳にもその話は入っていた。

「ミュン・シバ・プリペアップ。惜しい人を亡くしました」

王国情報局の、コンコンの私室。
至極残念そうに、コンコンが呟く。
傍らには彼女の部下が、一人。コンコンの語る一言一句を聞き漏らさずにいる。
かつて王国の叡智とまで言わしめたコンコンから学ぼうと、彼女を慕うものは未だに多かった。

「コンコンさんは、ミュンが王国騎士団に居た頃に下についていらしたんですよね」
「ええ。私とガキさんが新兵だった頃に大変お世話になったものです。彼女は、まさしく騎士の鑑
だった。今でも、そう思っています」

しかし彼女が次に口にした言葉は。

「ただし。戦場においてはただの優秀な駒だったに過ぎません」
「駒…ですか」
「彼女だけじゃない。私も、そしてあなたも戦場という大きな碁盤の上に置かれている駒に過ぎませ
ん。軍師として、その事実は把握しておかないといけない」
「はい」
「あなたはまだ若い。しかし、だからこそ、無限の可能性がある。私などよりも、ずっとね」

コンコンはそれだけ言うと、視線を部屋の奥へと投げる。
まるで、遠くの未来を見据えるがごとく。

「いつかベリーズ、キュート、スマイレージ、ソロ法王国。そしてモーニング王国。五大国が手を組み、
外敵と戦わなければならない時が必ずやって来る。今はそのための布石を敷いている段階と言えましょう」
「すばらしいことだと思います。ただ、その理想を叶えるには大きな犠牲が伴うように思います」

部下の言うことは正しかった。
考えも、目的も違う五つの国が、同じ夢を見る。
そのためにはどれだけの血を流さないといけないのだろうか。

「軍師たるもの、自軍の犠牲を必要最小限に抑えなければならない。ただし・・・」

コンコンがほんの僅かの間、瞳を閉じ、それから部下を見た。

「何が『必要』な駒なのかを、見極めなければなりませんがね」
258 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 19:25
第四話「守るという意味」 了
259 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 19:25
260 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 19:25
261 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 19:25
262 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 19:28
>>236
一応中澤さんからまぁちゃんまでという意味ではオールキャストなんですかねw
263 :名無飼育さん :2011/12/02(金) 20:04
コンコンのセリフが格好良すぎるw
264 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 19:59
265 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 20:03



ハロプロ暦1492年双子の月。
元メロン騎士団幹部ミュン・シバ・プリペアップの反乱は、モーニング王国内外に大きな波紋を広げた。策
とは言えミュンを王城内に侵入させたことは元老院内で問題となり、周辺国の状況もある意味安定している
事から、モーニング王国騎士団部隊長全員が王都リゾナントに集結することとなった。

王城内謁見の間には、王国騎士団団長ガキサン・テンミニッツを含む4人の部隊長。すなわち。
騎士団弐番隊隊長サユ・ナルシスペ・ドフィーリア。
参番隊隊長レイニャ・ヤケン。
伍番隊隊長ミッツィー・ボーンブレイク。
の四人。
そして王国情報局局長であるマキ・ハーツエッジが揃い踏みしていた。

「みんな、遠くから呼び寄せてもうて済まんな。こうでもせんと、元老院の連中がうるさいから」

ツンクボーイ王の前口上に、苦笑いをする部隊長たち。元老院の面々が小うるさいのは、今に始まったことで
はないのは誰もが知るところであった。

「ファイブウッドのおっさんなんて『我が国の象徴である王城に敵を招き入れるとは何と言う国辱』とか言う
てなあ。ミッツィーの策がなかったら国辱どころか国葬になってたっちゅうねん」
「お金がかかって大変なの」

ツンクボーイの顔が険しくなり、慌てて口をつぐむサユ。

「まあ冗談はここまでにしておいて。自分らには、しばらく王城の警備をしてもらう。まあ、ちょっとの間の
辛抱や。スマイレージ国は相変わらず威嚇しかせえへんし、ベリキューも膠着状態。国境のほうは大丈夫やろ」
「というわけなのだ。王城内を区画に分け、各部隊が警備を担当する。これから担当地区を発表するので、各
自所定の場所に兵を配置するように」

ガキサンが手に持ったメモを読み上げる。
その瞬間に王城の警備は、強固なものとなるのだった。
266 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 20:04


「第五話 追憶」


267 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 20:05
268 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 20:06


ハルナ、ハルカ、アユミン、マサキは王国騎士団に入団してから初めての休日をもらっていた。
浮かない顔をして訓練所を発つアユミン。ミュンの死を目の当たりにして以来、何かを引きずるような表情を
見せていたハルナ、いかにも楽しそうなマサキ。それぞれが帰る場所に帰る中、ハルカだけは訓練所に残って
いた。

とは言え別段することもなく、訓練所の中をぶらぶらする毎日。
そんな中、ハルカは廊下の中で珍しい光景を見る。

何やら廊下の真ん中で小さい子供が二人、じゃれあっている。
一人は国境警備についているはずのズッキ・インセクトだった。何だズッキ帰ってたのかよ、と思いもう片方
を見てみるとそれはリホ・デリ・サヤスィだった。

「え、ヤッシー!?」

ハルカが驚くのも無理はない。普段は仏頂面で自分たちを指導している先輩が、まるでお子様のようにきゃっきゃ
と嬌声を上げてはしゃいでいるのだから。

白い視線に気づいたリホが、ささっとズッキから離れる。

「仲良きことは良き事かな、すか」
「い、いや。これはこの前の戦いで打った腰のリハビリを・・・」

しどろもどろで弁明を始めるリホだが、

「何言ってんのりほりほー、いつも仲良しじゃーん」

とズッキが絡み付いてくる。
もしかしたら感情に欠陥があるのでは、と密かに心配していたハルカだが、鉄仮面のリホにも年相応の一面がある
と知り安心するのだった。

「それよりズッキ、いつの間に帰ってたのさ」
「ああ、国境警備がひと段落ついたからね。久しぶりに同期全員が揃うんだ」

騎士団団長ガキサンに帯同していたエリポン・ナマタ・ケーワイも、ガキサンと共にリゾナントへ戻ってきたとのこと。

同期か。ハルにとっての同期はあいつらだけど・・・
そういやあいつらのこと、意外と知らないよなあ。
ハルカはそれとはなしに、三人の顔を思い浮かべた。

「そう言えば、クドゥたちは休みだったでしょ。家には帰らないの?」
「帰る家なんて、ないっすよ」

それだけ言うと、ハルカはまた当てのない散歩に出かける。
知らないのは、きっとお互い様だ。そんなことを思いながら。
269 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 20:06
270 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 20:08


モーニング王国の北のはずれにある、片田舎。
アユミンの実家であるノースイースト家は、集落の中で一際大きい建物にあった。
だが、せっかくの里帰りだというのに、アユミンは自室に篭りきりの毎日。
それもそのはず、家に帰るなり父親が跡継ぎの話を蒸し返してきたからだった。

「結局、お前は『大士(ダーイシ)』にしかなれないんだぞ」

そんなことない、と大声で反論したかったが、そこは優等生的な弱み。言葉を返すことすらできなかった。そして、も
う一つの懸念事項もあった。

リホ・デリ・サヤスィがあのミュン・シバ・プリペアップ相手に食い下がったという話を、アユミンは気にしていた。
ハルカとハルナ、そして自分の3人がかりでも太刀打ちできなかったのに。アユミンの心に、焦燥が広がる。
確かにリホは先輩だ。現在空位である肆番隊の隊長に抜擢されるのでは、と噂されるほどの逸材でもある。しかし、彼
女はアユミンよりも年下だった。棍術と拳術と使う得物は違えど、体捌きに関しては相通ずるところもある。

リホさんに、負けたくない・・・!

ライバル心は日ごとに強くなっていくのに、実力が追いつかない。
様々な気持ちを抱えたまま、悶々とした日々を過ごしていた。そんな時、ふとある人物の言葉が頭に浮かぶ。

― 悩んだ時は、前進あるのみ!! ―

やはり自らより年下の、ハルカの言葉だった。
そうだ、悩んでたって、仕方がないんだ。
思い立ったら何とやらで、部屋の隅に立てかけておいた六尺棍「ネジリパン」を手に取ると、そのまま部屋を飛び出し
てしまう。

ハルカの根拠はないけれど力強い言葉に勇気付けられながら、アユミンは日頃慣れ親しんでいた森の稽古場に向かうの
だった。
271 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 20:08
272 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 20:09


自分の体の倍以上の荷物を抱え、マサキは村の入口に立つ。
古びた看板に書かれた、色あせた村の名前。村を発った日から、何も変わっていないことにマサキは安堵する
のだった。

「お、まぁちゃんじゃないか。久しぶりだなあ」
「王都はせわしいだろう。久しぶりなんだからゆっくり体を休めるんだよ」

村の人々は、マサキの顔を見るなり優しい言葉をかける。
この小さな村では、みんな顔見知り。マサキは村のみんなの子と言っても過言ではなかった。

そうやって次々と声をかけられるものだから、自分の家に到着するのがすっかり遅くなってしまう。全てのフ
ォルムを曲線だけで描かれた、まるで絵本に出てくるような家の前で、マサキが大きな声を出す。

「ちちー、ははー、帰ったよー」

このポクポク度100パーセントの声は。
慌てて玄関に迎えに出る、マサキの両親。彼らもまた、何となくポクポクしていた。

「まぁちゃんお帰りー」
「騎士団はどうだ、みんなと仲良くやってるかー?」

父親に頭をわしゃわしゃとされ、うれしそうなマサキ。

「うん。みんな優しいよ! アユミンさんは真面目だしハルナさんもまぁちゃんのわからないこと教えて
くれるし。クドゥも口は悪いけどいい子だよ。まさにばら色の騎士団生活でしょー」
「そうかそうか、よかったなあ」
「まぁちゃんの好きなお蕎麦があるわよ。お昼ご飯にみんなで食べましょう」

いつ戦争が起こるかわからない状況の中、この場所だけはまるで時が止まったかのように平和に満ちていた。
273 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 20:10
274 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 20:11


モーニング王国北西部ノン・ダークレー領。
王国騎士団初代団長ユウコ・アラフォー・ナカジェールが治めるこの地は、王国唯一の西海に面しており、
諸外国との交流が盛んな場所でもある。ただ、諸外国との繋がりがあることは、他国の犯罪組織を招き入
れる玄関口にもなりかねない。ユウコがノン・ダークレーの領主として任命されたのは、騎士団初代団長
というネームバリューに加え、その政治的手腕を買われての事だった。

そのノン・ダークレー領の奥地に、ひっそりと一軒家が立っている。
ハルナは、剣の第二の師匠とも言うべき人物に再会しようとしていた。

「彼女」が人気のない、山をいくつも隔てたこの地に住まうようになったのは、人付き合いが苦手という
こともあったろうが、第一の理由は「生まれ育った地に気候が似ているから」というものだった。確かに
もう双子の月だというのに、この場所は肌寒くハルナには感じられた。

扉を、二、三回ノックしてから、呼びかけた。

「師匠。ハルナです」
「あー、ちょっと待ってて」

しばらくすると、声の主である女性が現れる。漆黒の長い髪が特徴的な、長身の女性。その風貌はどこと
なくハルナに似ていた。

「おーハルナじゃーん。久しぶりー」
「ご無沙汰してます」
「こんなとこで立ち話も何だから、入って入って」

その女性は絵を描いていたのか、片手にパレットを持って現れた。
まるで画家、といったいでたちではあるが、彼女はかつて黄金騎士と呼ばれた元モーニング騎士団二代
目団長であった。
275 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 20:13
カオリン・ネ・エワラッテ。

かつて、「朝飛ばずの梟」という二つ名で恐れられた元暗殺者。闇に生き闇に死ぬ筈だった彼女がなぜ
王国騎士団に入団したのかはわからない。しかし、彼女は現に騎士団団長まで務め上げ、団長時代には
愛と平和をスローガンに掲げ活躍したという。そして騎士団を引退した有力者の大半が行き着く王国領
地の領主という道を選ばず、こうして人里離れた山奥で隠居生活をしている。変わり者、と言ってしま
えばそれまでだが、それだけでは片付けられない何かがあるようにハルナには感じられた。

カオリンに招かれ、部屋に通される。
油特有の刺激臭が鼻をつく。彼女が描いているのは、油絵だった。それはハルナが最初に彼女の家を訪
ねた時から、ずっと続いていた。

「どうせ下手の横好きが続いてるな、とか思ってるっしょ」
「いえ、そんなことは・・・」

確かに独特な作風ではあったが、ハルナはカオリンの描く絵が嫌いではなかった。ただ、一つだけ気に
なっていたことが、あった。

風景画。静物画。抽象画。そして人物画。
カオリンの描く絵は様々だったが、一点だけ共通したことがあった。
彼女の絵には、必ずと言っていいほど、少女が描かれていた。ポニーテールの髪型の時もあれば、お団
子頭の時もあった。笑った顔もあれば、どこか一つの場所を見つめているような真摯な表情のものもあ
った。ハルナにはそのどれもが、ある特定の人物を描いているような気がしたのだ。

「師匠。前々から聞きたかったんです。この子は師匠の・・・」
276 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 20:15
ハルナが言いかけたことを、カオリンが継ぐ。まるで、そのことを聞かれるのがわかっていたかのように。

「大切な人だったよ。カオの、はじめての弟子だった」
「えっ・・・」

カオリンの言葉が、ハルナの頭で反復される。
ハルナがカオリンとはじめて会った時に、彼女は「カオは弟子とか、取らないから」と言い放った。
それでも食い下がって、彼女の描く絵の手伝いをして、そうして半年後にようやく双剣の別の使い方
を少しずつ、教えてくれるようになったのだ。

そんな彼女に、かつて弟子がいたなんて。
そしてその弟子は、もうこの世にいないなんて。まったく知らなかった。
王城での事件をきっかけに抱えてしまった悩みを解決する糸口を見つけるために、ここに来たのに。
ハルナの気持ちは、今にも苦悩の水面に落ちそうになっていた。

「それよりも。カオに話したいことがあるから、ここに来たんでしょ」
「あ・・・はい。実は・・・」

そしてハルナは自らの思いを滔々と話しはじめた。
自らが、モーニング王国を守るために騎士団に入団したこと。別のものを守るために戦う人と出会っ
たこと。その人の最期の思いを、遂げさせてあげられなかったこと。そして、それを阻止した人もま
た、何かを守るために戦っていたこと。

「正直、わからなくなったんです。何かを守るためには、別の誰かが守っている何かを奪わなければ
ならない。それじゃ、奪う事だけしか知らなかった『過去』と何も変わらないんじゃないかって」
277 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 20:16
ハルナの話を黙って聞いていたカオリンが、口を開いた。

「それは、違うんじゃないかな」
「え?」
「あんたは変わったよ。少なくとも、ここに来たばっかりの昏い目をしてた時よりはずっとね。
確かに守りたいものが相手と違ったら、どちらかの守りたいものが守れなくなることもあるか
もしれない。でもさ、そういうこともあって当たり前だって思うんだ、カオは」

そんなことを言いながら、窓の外を見やるカオリン。

「誰もが自分の守りたいものを守ることができる世界。それはきっと素晴らしいと思う。けど、
現実はそうじゃない。誰かに奪われる事もあれば、結果的に奪っちゃう時もある。辛いだろう
し、悩むだろうけど、それが人間っしょ。それが分かっただけでも、あんたは一つ成長できた
んじゃないかって、カオは思うよ?」

この人も、過去に何かを守れなかったことがある。それも、取り返しのつかないものを。
ハルナには、そう思えて仕方が無かった。
そしてその悲しみを乗り越えて、彼女の今があるんだ。
ハルナの闇は晴れない。けれど、闇を祓う道しるべを、教えてもらったような気がした。
278 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 20:17
279 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 20:17
280 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 20:17
281 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 20:19
>>263
やはり彼女は作中ではこういうキャラになってしまいますね。
282 :名無飼育さん :2011/12/04(日) 22:49
はじめてレスします。
メイン?4人の過去とかもありそうでいい感じです。
期待してます。
283 :名無飼育さん :2011/12/05(月) 01:27
途中のりほかのに萌えてしまった
284 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:28
285 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:30



ベリーズ共和国首都・マダヤデにある、ベリーズ軍本部。
八戦士の一人で、調整役としてのキャプテンの職に就くシミサキ・ゴルドウォーターは悩んで
いた。軍師であるマイハ・クゥーンの出した、ある提案についてである。

キュート王国との、和解。

すでに準備は整えている。あとは盟約を結び、モーニング王国に攻め込むだけ。スマイレージ
国とも連携を取る形になる。マイハはそう言い切った。

しかし。いくら戦力が拮抗し一進一退の状況を続けているとは言え、国民は納得するだろうか。
すでに双方が決して少なくない犠牲を払っている。

「何悩んでんのサキ」

端正な顔立ちと、少々長い顎。
ベリーズ一の魔法剣士として名高いミヤ・アントン・パーキンロードが、シミサキのいる執務室
に入ってきた。

「いや、なんでもない。それより・・・」
「さっきマイハから連絡があったよ。デレシン砦は今日も異常なしだって」
「そっか」
286 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:33
砦はマイハに任せておけば大丈夫だ。それに、ユリナやチナミもいる。
それよりも、どうやってキュートとの和解を国民に納得させればいいのか。マイハに、全てを任
せてしまってもいいのだろうか。

「ところでさ、モモコは何してんの?」

モモコ・ジミーフェイス。
八戦士の中でも隠密・諜報活動を得意とする彼女の姿がしばらく見えないことに気づいたミヤが、
彼女の近況について尋ねる。

「モーニング王国の中を色々探らせてる。王国情報局に面が割れてないのはあの子だけだしね」
「なるほどね。キュートを打ち破った勢いでモーニングに攻め込むんだ」

ミヤの考えは別段変わったことではない。キュート王国と手を組むなんて発想は、国内の誰もが
持ち合わせていないのだ。軍のトップの一人である彼女ですらそうなのだ、一般市民の考えなど
言うまでもないだろう。

どうするつもり?マイハ・・・。

シミサキは遥か遠くの砦にいる盟友に向かって、問いかけるのだった。
287 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:33
288 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:37


一方、こちらはノン・ダークレー領奥地。

カオリンとハルナが、小屋の外で対峙する。
それぞれ、手に互いの獲物を模した棒切れを持っていた。

「久しぶりに稽古つけたげるよ。騎士団に入って、どう変わったか見てみたいしね」
「…お願いします」

ハルナが、短めの両手の棒を逆手に構える。
対して、カオリンは長い棒を地に向け垂らしたままだ。

ハルナが、カオリンに向かって飛び出した。
肘を回転させた勢いで、上段への一撃。身を屈めたところを、逆の棒での中段薙ぎ払い。それも
また、バックステップによりかわされる。ハルナ以上の身のこなしは、「朝飛ばずの梟」の二つ
名に相応しいものだ。

一度間合いを取り、再びカオリンの懐に入ろうとするハルナ。
カオリンがついに、棒を構えた。
上からの袈裟斬りを右で受け、返す斬撃を左で流す。体勢を崩したカオリンの顔面目掛け、ハル
ナがハイキックを繰り出す。棒の両端を持ち、蹴りを受け止めたカオリンが足払い。ハルナはそ
れを寸でのところで、ジャンプして回避する。

「足技か。どこで覚えた?」
「いい使い手に出会いました」

ハルナは、ペッパーの森で戦ったナナ・トゥナイト・エヌワイスィのことを思い出す。
彼女が使っていた二刀の剣術に足技を絡ませる戦法は、似た得物を使う自分にもプラスになると、
密かに訓練を積んでいたのだった。
289 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:41
「はあああああ!!!!!」

自らに気合を入れるように、カオリンに向かって全速力で駆け込んでゆく。
カオリンが棒を構えなおす。彼女の精神は、かつての黄金騎士の時代のものに戻っていた。

右からの攻撃を切り上げで弾き、左を棒を正面に構え受け止める。
これで終わりじゃないよね。
カオリンの予想通り、中段へのミドルキックが襲い掛かってくる。しかしカオリンはそれを避けず、
棒を持っている腕の肘と膝で挟み込む。
バランスを欠いたハルナを、カオリンが突き出す。後方へよろけたところを、上段から振りかぶっ
た斬撃が。

「なかなか、やるね」

頭に打ち下ろされたかと思われた棒は、ハルナが交差して構えていた二つの棒に遮られていた。

「私なんか、まだまだです。師匠に、本気すら出させられない」
「ナマいってんじゃないよ。カオ、これでも昔は黄金騎士だったんだから」
「知ってます」

肩で息を切らしながら、ハルナが言う。

「あと、追い詰められても昔の戦い方が出なくなったね。あれ出されるとカオもちょっと本気だ
さないといけないんだけど」
「あの戦い方はもう、しませんから」

そう、ハルナは棄てたのだ。過去とともに。
それが彼女にとって、最良の方法だと思えたから。
290 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:43
291 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:46


モーニング王城内の、騎士団詰所。
ここに、久しぶりに四人の騎士が揃う。

「みんな、おーはー」

エリポン・ナマタ・ケーワイ。
騎士団団長ガキサンの補佐として常に帯同していた彼女が、久しぶりにリゾナントに戻ってきた
のだった。リホやズッキ、ミズキが、声のしたほうに振り向く。

「エリポーン、久しぶりぃ!」
「四六時中ガキさんと一緒で疲れたんじゃない?」

嬉しさのあまりにエリポンの肩を叩くズッキと、あまり人には聞かせられないようなことを聞い
てくるミズキ。

「何かねえ、ガキさんのほうが疲れてたみたいだよ。だってしょちゅうコラー、ナマター!とか
叫んでたみたいだし」

エリポンはまるで他人事のように言ってのけた。
ガキサンの苦労はおそらく計り知れないだろう。

「それよりも。みんな、話は聞いてる?」
「ああ、今回のミュンの一件で『あいつ』が動いてたって話でしょ」

リホが切り出した話に、ズッキたち三人が頷く。

「魔導船を提供したのもあいつなんだって。まったくとんでもない話っちゃねえ」
「近い内に調査の手を入れるみたいだよ」

調査の手ねえ、と一人ごちるズッキ。

「じゃあ王国情報局が?」
「ううん。情報局は今回の一件をリークするだけ。実際に動くのは騎士団の仕事。でないと棲み
分けができなくなるから」

元老院に所属する父親を持つミズキが、首を振ってそう答える。

「ということは壱番隊か弐番隊か参番隊か、はたまた伍番隊か」
「でも相手は謀反の意思を示してないし、そんな大所帯を差し向けるわけにいかない。第一、王
城の警備もあるし」
「それでね、ガキさんに聞いたんだけど・・・」

三人に耳打ちするエリポン。
その内容は、意外や意外、としか言えないものだった。
292 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:47
293 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:48


ベリーズ共和国デレシン砦からほど近い場所にある、キュート王国との国境門。
メグ・ネコムスが国境門のベリーズ軍を撃破してからは、ここを拠点に進軍・撤退を繰り返して
いた。
国境門付近に張られた野戦キャンプの指令テントの中に、メグはいた。

「・・・というわけ。やってくれるよね?」

自らのプランを話すメグに、明らかに不安げな表情をする二人の少女。

「でもそれって、味方を倒すってことだよね?」

恐る恐る聞いてくるのは、カンナ・クンカスメル。キュート王国軍幹部の中では新顔に属する。

「もちろん。本気でやれとは言わない。適度に負傷させるだけでいい。それができるのは、カン
ナ。あんたの能力だけだから」
「なんかさー、納得いかないんだよねー」

二人の間に割って入る、色黒で小柄な少女。短い髪とボーイッシュな顔立ちは少年を思わせる。

「何だよチッサー、あたしのプランに文句あんの?」
「だってさあ、こんなのメグちゃんらしくないじゃん!」

チッサー・オカドッグ。
年少ながらもキュート軍の切り込み隊長として名を売る彼女には、今回のような騙し手は納得が
いかない。彼女は正々堂々と暴れたいのだ。
294 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:50
「そんなこと言ってもしょうがないじゃん。砦を落とすなんてマイマイに許可されてないわけだ
し。でも、口実があればあの子も認めざるを得ない」

代々名うての軍師を輩出しているリアルセント家の若き天才、マイマイ。
キュート独立に際し数々の武功を上げたメグではあるが、彼女の策なくして独立はなし得なかっ
ただろう。そう言い切れるほどの才覚が、あった。

ただ、今回の件に関してはまったく腑に落ちなかった。
国境と砦を境にして、一進一退の攻防を「わざと」繰り返す。こんなことをしていては、悪戯に
兵力を消耗させるだけだ。ベリーズをねじ伏せたとしても、弱ったところをモーニングにやられ
るのが落ちである。そんなことを、なぜわざわざしないといけないのか。

それに、メグにはもう一つ懸念があった。
マイマイが頻繁に会っているという、黒マントの女。
常に仮面を被っているため素性は分からないが、素性を隠すぐらいだから後ろ暗いことをしてい
るに違いない。その女が、マイマイに入れ知恵をしているのだとしたら。

「とにかく、準備が整い次第、決行するから。それと、このことは他言に無用。マイマイやアイ
リに言ったら・・・あとでおしおきだからね!」

今にも牙を生やさんばかりの顔で、二人を睨み付けるメグ。
チッサーとカンナは顔を見合わせ、そして諦めたように肩を落とすのだった。
295 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:50
296 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:53


ハルカたち四人の、短い休みは終わりを告げる。
そして、訓練所に帰るや否や、何故か王国情報局に呼び出されることになったのだった。

「だーっ、あれだろ? またマサキが何かやらかしたんだろ」
「まぁちゃんそんなことしてないよ、クドゥがみんなの休みの間に何かしたんでしょー」
「それはありうるかも」
「とにかく、言ってみて話を聞かないと」

そんなことを言い合いながら、情報局への道のりを歩く四人。

「しっかしみんな、リフレッシュ効果が出てるんじゃない?特にメッシは訓練所を出た時と別人
みたいだぞ。あの時は呪いの人形みたいなツラしてたもんなあ」
「の、呪いの人形・・・」

相変わらずのハルカらしい発言に、ハルナも閉口してしまう。

「私もリフレッシュできたよ。おかげで体も軽い!」

そんなことを言いながら、六尺棍を構えるが如く体を動かすアユミン。

「まぁちゃんもリフレッシュできたよー」
「お前は年がら年中リフレッシュしてるようなもんだろ」
「えー、ひどいよー」

などと言っている間に情報局に到着。
相変わらずの豪華な外装だが、前回来た時とは訳が違う。
297 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:55
「失礼。王国情報局に何の用かな」

4人の姿を見て、正門前に立っていた屈強そうなガードマンが声をかけてきた。

「ハルたち、情報局に呼ばれて来たんだけど」
「君たちのような子供がか?」
「おいおっさ…むぐむぐー!!」

掴みかかりそうになるハルカを押さえつけ、

「本当です。私たち王国騎士団に所属してるんですが、情報局から呼び出しがあったって」

とハルナが説明した。
訝しがりながらも、男は懐から板チョコ大の水晶の板を取り出す。

「なんだありゃ」
「あれはですねー、あの水晶を使って離れた人ともお話できる魔道具なんだよー。『テレパスクォ
ーツ』って言うの」

自信満々に説明をするマサキ。
それを裏付けるように、男が水晶に向かって何やら話しかけている。事前情報がなければ独り言を
呟いてる危ない人物にしか見えない。

スマイレージ国特産の貴重な鉱石「カルビ鉱」を精製することで取り出すことができる特殊な水晶。
魔法力を蓄積・放出するという特質があり、その特質を利用して「テレパスクォーツ」をはじめ様
々な情報伝達機器が開発されている。というのは海を隔てた帝国のお話で、アップフロント大陸に
は型落ちした製品が、しかも正規の輸入ルートではない方法でごく僅か入ってくるのみだった。
298 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:56
「でもまぁちゃんがそんなこと知ってるなんて、意外」
「だよなー。専門のはずの魔法知識はほとんどないのに」
「これがいわゆる生活の知恵ってやつでしょー」

そんなやり取りをしていると、男が四人に近づいてくる。

「先ほどは失礼しました。中でみなさんがお待ちかねです」

先ほどとは打って変わって丁寧な男の物言いに辟易しながら、促されて情報局内に入ってゆくハル
カ一行であった。
299 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:57
300 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:57
301 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:57
302 :名無飼育さん :2011/12/06(火) 23:59
>>282
ありがとうございます。
4人の過去話はまたそのうちに…

>>283
りほかのは、りほりほの年相応な一面が見れるので私も好きです。
303 :名無飼育さん :2011/12/08(木) 21:42
304 :名無飼育さん :2011/12/08(木) 21:44
通された部屋に入るや否や、三人とも開いた口が塞がらない。
なぜならそこには、モーニング騎士団団長ガキサン・テンミニッツを初めとした部隊長の面々と、
情報局局長マキ・ハーツエッジが揃い踏みしていたのだから。しかも、リホやズッキ、ミズキや
エリポンまでいる。

「な、何すか。これから戦争でもおっぱじめるんですか」

騎士団の幹部が勢ぞろいだなんて、尋常なことではない。
ハルカがそう聞くのも、無理の無い話だ。

「はは、噂に聞く通りの跳ねっかえりっちゃ」
「でしょ?口は悪いけど、かわいいの」

サユミン・ナルシスペ・ドフィーリアに話しかけられている、いかにも不良ですといった佇まい
の女性を見て、ハルカが彼女の正体に気づく。

レイニャ・ヤケン。
モーニング騎士団参番隊隊長。
少数精鋭の部隊を率いる彼女は「騎士団の特攻隊長」としても名高く、戦においては必ず先陣を
切り武功を上げていた。鎧の前面に刻まれた髑髏の刻印や背中に刻まれた鬼の刻印は悪趣味極ま
りなかったが、何となく共感できるものがハルカにはあった。

さらに、車椅子。
先日の件で何かと因縁のある、伍番隊隊長のミッツィー・ボーンブレイクだった。

「またお前らか。と言いたいとこやけど、今回はガキさんの意見が大きいからな。まあ、しっか
り気張りや」

相変わらずの憎まれ口だが、この前のハルナとの険悪なやり取りがあっただけに、この一言で済
んだことに逆に拍子抜けしてしまう三人。
305 :名無飼育さん :2011/12/08(木) 21:45
「みんな、よく集まってくれた。私はモーニング騎士団団長のガキサン・テンミニッツだ。遠慮
なくガキさんと呼んでくれ」

そしてレイニャとサユを脇に従える、ガキサンが四人に語りかけた。

「はーい。ガキサンさーん」
「コラーッ!さんは一回でいいの!!」

明らかにアホの子を見るような眼差しではあるが、マサキを見る隊長たちの表情もいささか緩ん
でいるように見える。

「君がアユミンか。棍術の腕はなかなかだとか」
「い、いえ、そんなことないです!」
「ははは、謙遜しなくていいのだ。若いうちはもっと自信持たないと」

騎士団長に褒められ、顔を赤くするアユミン。次にガキさんは、ハルナに視線を向けた。

「そして君がハルナか」
「はい!」
「アイちゃ…いや、先代から『話は聞いてる』よ」

ハルナの表情が、硬くなる。慌てたのはガキサンのほうだ。

「いやいや、そんなに硬くなることはないから。ただ話を聞いてるだけだから、ほんとに」

何だか変な空気になっていくのを、絶妙なタイミングで方向転換させるものがいた。

「自己紹介はともかく、今回みんなを集めた件について話すよー」

マキ・ハーツエッジ。
とても王国の最高機密を担う機関の長には見えない、緊張感の無さ。
しかし何と言っても、「五刀」の腕で王国を救った英雄だ。侮ってはいけない。
306 :名無飼育さん :2011/12/08(木) 21:47
「この前シバちゃんが起こした反乱があったでしょ? あれ、協力者がいたみたいなんだよね」
「協力者?」
「うん。正確には反乱の時に使用した魔導船の提供、なんだけどまあ協力には違いないよね。で、
情報局の調査でその提供したという疑惑がかかった人物が浮上したわけ」
「で、誰なんすか」

ハルカがマキに話の続きを促す。すると、マキが頭をぽりぽり掻きながら、

「実はさー、元老院のお偉いさんなんだよね。ベーヤン・ヒゲアリスっておじさん。知ってる?」

と答えた。
ハルカとハルナ、アユミンは顔を見合わせてそれから大いに驚いた。

「おいおいおい、嘘だろ」
「ねークドゥ、なんでそんなに驚いてるの?」

驚いていないのはマサキだけ。
ハルカは呆れつつも、ポクポク人間に解説をする。

「あのなあ。ベーヤン・ヒゲアリスってのは元老院で議長であるファイブウッド卿に次ぐ実力者な
んだよ。そいつが反乱に手を貸したってのは、とんでもないことなんだぞ」
「ほー、なるほどー」
「はぁ…もういいや」

協力者がベーヤンであったことは、リホたち4人の先輩も初耳だったようで、それぞれが驚いたり、
ため息をついたりしている。
307 :名無飼育さん :2011/12/08(木) 21:48
「でも、ヒゲアリス卿は他国侵略推進派だったと聞きます。それがどうして…」

自らも元老院に所属する父を持つミズキが疑問を投げかける。

「簡単だよ。ヒゲアリス家は代々武器売買によって富を得てきたから、ツンクボーイの周辺国家と
の和平を重んじる政策の煽りを受けてる。要するに、商売あがったりなわけだね。そこで西の帝国
から密輸した魔導船で一儲け、って感じじゃないのかなあ」

わかりやすく説明するマキ。確かにアホみたいな喋り方はするが、内容は理路整然としている。
ミズキは、今度実家からマキのブロマイドを取り寄せようと本気で考えていた。

「相手は元老院議員だ。情報局が表立って取り調べしようものなら、国の運営に差し支える問題に
発生する可能性が高い。それでなくても、警戒される事は間違いない。というわけで、今回あんた
たち8人に白羽の矢が立ったわけ」

マキの言葉の後を受け、ガキサン。
あんたたち。白羽の矢。そして8人。騎士団の幹部を除くと、ハルカ、アユミン、マサキ、ハルナ。
そしてリホ、ズッキ、ミズキ、エリポン。ちょうど、8人。

「8人って、もしかして」

ハルナの言葉に、新兵を除く全員が頷く。

「今回情報局はベーヤンが3日後に自分の屋敷で誕生パーティーをすることを掴んだんだ。政界財界
から多くの招待客が押し寄せる。今回ミュンとの橋渡しをした人物が来る可能性もある。みんなには
そのパーティーに潜入してもらって、怪しい交友関係を徹底的に調べて欲しいんだよねー」
308 :名無飼育さん :2011/12/08(木) 21:51
あっけらかんとしたマキの言葉に、場が静まり返る。喜びはしゃいでいるのはマサキ一人だけだった。
そこへ、恐る恐る質問するアユミン。

「あの、わ、私たちまだ騎士団に入ったばかりだと思うんですけど、どうして・・・」
「逆に、それだからいいの。騎士団からは社会勉強と言う名目であんたたちをパーティーに出席させる。
あとはどんな些細な事でもいい。ベーヤンの怪しい点を報告に上げて欲しいんだ」
「は、はあ」
「はーい、しつもーん」

そう言いながら手を挙げたのは、ハルカだ。

「てか8人も多くないすか?半分くらいの数でちょうどいいと思うんすけど」
「その通り。実働部隊は4人。ただ、あとの4人には、実働部隊のフォローに回ってもらう」
「実働部隊ねえ。それってハルたちのことっすよね」

ガキサンが大きく頷く。

「何でうちらがー、とか思うとっと?でもれいなたちは知ってるんだよね、にひひ」
「エッグ2人に圧勝。シーナの一件。それとシバタさんのことも、あなたたちの一報がなかったら犠牲者
が増えてたかもしれないの」
「今回の作戦は逆に自分らみたいなペーペーのほうが都合がええねん。さっきも言うたけど、期待はせえ
へんけど、有用な情報のひとつくらいは持って帰り」

三人の部隊長も、団長に続いてコメント。

「とにかく、そういうことだ。3日後の昼、この場所に集合。ヒゲアリス邸までは私が引率する。細かい
段取りはそこで話すから。じゃあ、一旦解散!」
309 :名無飼育さん :2011/12/08(木) 21:51
310 :名無飼育さん :2011/12/08(木) 21:52


ルーキーたちの出ていった部屋は、急に静かになる。
最初に口を開いたのはレイニャだ。

「ミッツィーも素直じゃなかと。あの4人の起用を進言したのはミッツィー自身なのに、『期待はせえへん
けど』って」
「いわゆる『ツンデレ』ってやつだと思う。りほりほと一緒なの」

サユも一緒になり、ミッツィーをからかう。

「そ、そんなん違います! うちはただ、あいつらの気が緩まんように発破かけてるだけで」
「うーん。わかる、わかるよ。先輩たちを悪役にはさせられないから、うちが厳しくせんとって言うミッツ
ィーの熱い心がさ」
「ちょ、ガキさ・・・団長まで!!」

顔を真っ赤にしているミッツィーに、三人が生温い視線を注ぐ。

「それはともかく、これは周辺諸国の情勢が落ち着いてる今やからこそ、やらなあかんことです。もしもの
時に備えて国内の地盤固め、ですわ。元老院へのいい見せしめになりますし。ねえマキさん」
「そうだねえ。ベーヤンには昔から良くない噂もあるし。ミュンの一件以降はベーヤンも警戒してるみたい
だけど・・・あの子たちなら大丈夫だよ」

そこへ、黒スーツの男がやってきた。
王国情報局の、諜報員である。

「ん、何?」
「副局長がお呼びです」
「わかった。じゃあみんな、あとはよろしく。期待してるよー、ごとーの自慢の後輩たち」

手を振りながら、部屋を出るマキ。

「期待の後輩たちかー。マキさんから見ればれいなたちも後輩っちゃんねえ」
「きっとマキさんから見れば、サユたちもかわいいひよこなの」
「そうでしょうなあ。何せかつての乱世を生き抜いてきたお人やから」
「まあ、期待には応えてやらないとね」

四人たちは改めて、自らが背負ったモーニング騎士団の名前の重さを、感じるのだった。
311 :名無飼育さん :2011/12/08(木) 21:52
312 :名無飼育さん :2011/12/08(木) 21:54



リゾナントの空に、夜が落ちてくる。
ハルナは訓練所のベランダに一人、佇んでいた。
夜の闇が、過去の記憶を呼び起こそうとしている。けれども、その闇から決して目を離すことができなかった。

― あんたの生き様、見せてもらおうか ―

崖から飛び降りる直前に、言われた言葉。
それは額面通りの意味だったのかもしれないし、自分がこれから生きていこうとするやり方を否定するような意
味だったのかもしれない。

「なーに黄昏てんだよ、メッシのくせに」

後ろから、ハスキーな声が聞こえてくる。
ハルカだった。

「アユミンとまぁちゃんは?」
「とっくに寝ちまったよ」

そう言いつつ、ハルナの隣に並ぶ。

「あいつら、エリポンとバカみたいに稽古してたからな。まあマサキは単純にバカみたいにじゃれついてただけだ
けど」

団長であるガキサンについて歩いていただけのことはあって、エリポンはかなりの腕の持ち主だった。特に彼女の
得物である「大刃杖(オハスタッフ)」は長めの棒に刃のついた薙刀状の武器、かなり癖があるようで、手合わせ
を申し出たアユミンを苦戦させていた。
313 :名無飼育さん :2011/12/08(木) 21:55
それとは別に、エリポンは少し特殊な性質でもあった。天然というか、空気が読めないというか、とにかく変わっ
た人物なのは、話をしてすぐに三人も理解したようだった。
ただし、マサキだけはどこかの波長が合ったようで、二人で意味不明なことを話していて、あははーと笑いあって
いた。

「私たちも4人で、あっちも4人か。なんかいいライバルになれそう」

ハルナの口から、自然について出た言葉だった。
少しは、あの闇から自分を遠ざける事ができたのだろうか。希望にも似た観測。

「けっ、あんな奴ら、半年で追い抜いてやるよ。絶対負けない。もちろんメッシ、お前にもな」
「ふふ、受けて立つよ」

目の前にいる小さな少女は、いつもその姿には似つかわしくない大きい発言をする。
しかしその頼もしさが、ハルナやアユミン、マサキの支えになっていることもまた事実だった。

リゾナントの夜は、ゆっくり、ゆっくりと更けてゆく。
314 :名無飼育さん :2011/12/08(木) 21:55
315 :名無飼育さん :2011/12/08(木) 21:56



真夜中。
誰しもが眠りにつく時間の中、リゾナントの郊外に立つ屋敷の一室が煌々と灯りをつけていた。
館の主であるベーヤン・ヒゲアリスが、自室で書類に目を通している。

「・・・自分の利になる仕事にはずいぶんご執心のようで」
「掟神か」

部屋の隅に目を向ける、ベーヤン。

「招待客のリストだ。中にはビッグ・ビジネスを運んでくる方もいる。我がベーヤン商会の利益になってくださる
大事な顧客リストだよ」
「あんたがどれだけ儲けようと関係ないけど、情報漏れだけはカンベンして。仕事が増える」

掟神と呼ばれた声の主が、不平の篭った言葉を吐く。

「王国情報局の連中か。小ざかしい。この前屋敷に侵入した連中は始末したのか?」
「もちろん。ただ、あんたがミュンに魔導船を売ったことはばれちゃったみたい」
「なんだと!!」
「諜報員の始末は頼まれたけど、その後のことは関係ないから」

忌々しげに何もない空間を睨みつけるベーヤンだったが、やがて落ち着きを取り戻すと、

「まあよいわ。いずれ王国とは袂を分かつつもりだったからな。手引きしてくれる伝手もある。わがヒゲアリス家
の財力と武器があれば、このご時勢だ、拒む国などあるまい」

と下卑た笑みを浮かべ言った。
316 :名無飼育さん :2011/12/08(木) 21:58
「三日後には大事な取引の場がある。私の亡命が成功するためにも、何としても成功させねばならん。情報局だろ
うが何だろうが、絶対に邪魔をさせるな。期待してるぞ、掟神」
「・・・・・・」

掟神の気配が消える。
どうやらベーヤンの部屋にはもう、いないようだった。

「掟神。数年前に突如闇の世界に現れた、凄腕の殺し屋か。大枚を叩いて雇った甲斐はあった。だが、その額に見
合うだけの仕事をしてもらうのは、これからだ。はははははは」

高らかに笑う、ベーヤン。
その厭らしい笑い声は、屋敷の隅々にまで響き渡っていた。
317 :名無飼育さん :2011/12/08(木) 21:58
第五話「追憶」 了
318 :名無飼育さん :2011/12/08(木) 21:58
319 :名無飼育さん :2011/12/08(木) 21:58
320 :名無飼育さん :2011/12/08(木) 21:58
321 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 02:14
掟神ですか。
これってオキテガミって読むんですよね。
ということは…
322 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 20:44
323 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 20:47



スマイレージ国最大の貿易港として知られる、港湾都市タチアガール。
その港湾ターミナルに、多数の船舶が停泊、ひっきりなしに荷卸をしている。

「すごい・・・これだけあれば、モーニングなんかすぐに制圧できる」

船舶から運ばれてくる武器火薬の山を見て、スマイレージ四巨頭の一人であるカニョン・ビッグ・O(オー)・イー
スターは思わずため息をつく。軍事大国として知られる西の帝国、噂には聞いていたがまさかここまでの軍事力を有
しているとは。驚きと共に、警戒心が芽生える。

多数の船舶の中で、一際目立つ軍用艦。その大きさはまるで海上に浮かぶ要塞のようだ。
その壮大さに目を奪われているカニョンに、話しかけるものがあった。

「どうです?わが軍の誇る軍用艦『トイボックス』は」
「あなたは」

白い軍服を身に纏った、丸顔の女性。
胸には、いくつもの勲章がつけられていた。

「失礼。私は今回の軍事物資輸送の護衛任務の責任者、帝国海軍「BLUE MARINE」所属スーメロウ・サン
ショクと申します」
「はじめまして。スマイレージ国のシンデレラの生まれ変わり、いや外交担当カニョン・ビッグ・O・イースターで
す。この度は遠路はるばるご苦労さまです」
324 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 20:48
サンショクと名乗った女性は、まるでカニョンを値踏みするような目で見てから、

「まあ、今後も引き続きカルビ鉱をお譲りいただけるのなら、長いお付き合いになるかとは思いますよ。スマイレー
ジのカルビ鉱は純度が高いですから」

と言った。

「そうありたいですね。今後とも友好な関係が築けるのなら」
「ほう。言葉に棘を感じますが」
「いえいえ、滅相も無い。ただ、帝国は「AIR FORCE」「KNIGHTS OF LAND」そしてあなた
方「BLUE MARINE」の三大軍を抱えていらっしゃる。いつその矛先が我々に向くのではないか、そう恐れ
ている人間も国内にはいますので」

にやにやと笑いながらそんなことを話すカニョンに、サンショクは明らかに不快な表情になる。

「ふん。我が帝国は忙しい。そのような戯れをしている暇はない」
「それを聞いて安心しました」
「・・・我々は艦内に戻って引き続き警備に当たるので、何か御用があれば艦内へどうぞ」

踵を返し、軍用艦へと戻っていくサンショク。
しかし、途中で振り返り、こう付け加えるのだった。

「ただし、帝国に何らかの見返りがあれば・・・アップフロント大陸に攻め込むのもやぶさかではありませんけどね」
「はは、手厳しい」

サンショクの遠ざかってゆく背中を見つめながら、カニョンが吐き捨てる。
あれはとんだ狸だね。と。
325 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 20:49
第六話「伏魔殿」
326 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 20:49
327 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 20:50


薄暗くなり始めた一本道を、二台の馬車が進んでゆく。
王国貴族ベーヤン・ヒゲアリスの誕生パーティーに出席する、という表向きの理由で、王国騎士団ご一行はベーヤン
邸までの道のりを馬車に揺られながら進んでいた。

後方の馬車に乗り込んでいる、新兵の四人。そして引率役のガキサン・テンミニッツ。
ガキサン以外は全員が煌びやかなドレスを身に着けていた。

「にしてもこの乗り心地は最悪だな。転移魔方陣で移動すりゃいいのに」

窓の外を見ながら、ハルカ・クドゥが辟易する。

「ベーヤンのこだわりらしいよ。招待者は全員、馬車の移動をするよう指示が出ているから」

不満そうな顔をする部下を、ガキサンが窘めた。

「んでもって、このひらひらのオレンジ色のドレス!落ち着きゃしない。しかも頭にリボンだぞ」
「いいじゃんクドゥ、いいとこのお嬢様みたいで可愛らしいよ」
「けっ、そういうのハルの趣味じゃないんだよね」

今回4人が着用しているドレスは、ミズキ・フクムエル・アパルトワイフが提供したものだった。もちろん、コーデ
ィネートも彼女の趣味によるものである。
328 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 20:52
「わーい、まぁちゃんこういう格好するのはじめてー」
「まぁちゃんのも似合ってるよね」

マサキ・パルプンテスが身に着けているドレスは、フリルを多用したかわいらしいエメラルドグリーン。何となく存
在自体がファンタジーな彼女にはぴったりなように思われた。

「アユミンも青の色合いがいいね」
「ほんと?ありがとー」
「ハルナちゃんも、女の子女の子してていつもと雰囲気違っていいかも。何かガーリーな感じ」

アユミン・ノースイーストが手放しにハルナを褒める。
四人の中で、ハルナは特にドレスを着こなしていた。ライトブラウンの色調と重ね縫いされた裾のデザインがシック
な印象を与える。

「何がガーリーだよ。茶色とか汚いじゃん」
「こ、これはチョコレート色だよ!」

さすがのハルナも、汚いと言われては反論せざるを得ない。

「はぁ・・・女4人集まるとかしましいね。まあとにかく今回の作戦を説明するよ。まずは何食わぬ顔をしてパーティ
ーに出席。ベーヤンの様子をさりげなくチェックしながら、どんな連中と接触したかを報告。あくまでもさりげな
くだからね」
「はーい!」

返事はいいが、さりげなく調査するという面で一抹の不安を覚えるガキサンだった。
329 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 20:52
330 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 20:54



モーニング王国と同じく、スマイレージ・ベリーズ・キュートの三国と国境を接する、ソロ法王国。
現在はマノ・エリ・コールレインが法王を務めるため、マノソロ法王国という名称になっている。
法王国の中心となるのは、ソロ教会の本部となる大聖堂がある聖地ソロコンサート。天高く聳える大聖堂は、ソロ教の
象徴であるとともに、一大観光名所となっていた。

その大聖堂の、法王の間。
第三代ソロ法王国法王であるマノ・エリ・コールレインは、法王の間に設置されたパイプオルガンを弾いていた。でー
もーあーいたーいよー、あーいたーいよー。何の歌かは分からなかったが、お世辞にもあまり上手なものとは言えなか
った。

そんなところへ、どんどんと外から扉を叩くものがいた。

「はい、どうぞ。開いてますよ。鍵はかかってないです。いつでもマノフレの訪問をうけられるようにね。要するに、
この法王の間はいつだってオープンになっているってわけです。オープンマインドよ」

マノの言葉を聞き、声の主ががばっと扉を開く。

「ちょ、法王様! 近所迷惑になるんで控えていただけますか!!」

血相を変え、扉の向こうから飛び出してきた女。
せっかく気分が乗ってきたところなのに、マノは演奏を止めざるを得ない。

「なにマネティ、あたしの歌と演奏が近所迷惑だって言うの?」
「いやそこまでは言ってませんが」
「大体、やることないから、しょうがないから歌を歌って気を紛らわしてるんじゃない。それを頭ごなしに近所迷惑と
かひどくない?ひどくないですか?それにしても大陸全土に数多くのマノフレを抱える教会の法王が、することもなく
て一日中暇にしてるってどういうことでしょうね。ちょっとマネティ聞いてるの?大体各国首脳があたしの訪問を次々
にキャンセルってどういうこと?そりゃあっちこっちで紛争が起こってるって事情は知ってますよ、ええ知ってますと
も。でもそれってあたしのせい?要するにマネティあなたの交渉がうまくいってないからこういうことに・・・」
331 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 20:55
またはじまったか。
マネティと呼ばれた女性はマノの説教が始まると明らかに嫌そうな顔をするのだった。

彼女は法王補佐マネティ・リトルゲート。
法王補佐と言っても名ばかりの職位であり、実情は法王のお守りのような役割を果たしているのみだ。
暇さえあれば説教され、機嫌を損ねると鬱になってしまう現法王にはほとほと手を焼いてはいるのだ
が、先代法王に比べればまだかわいいほうである。そう心から思っていた。先代は法王の職を辞して
からは、行方さえ知れない。もっとも、法王国とモーニング王国が一触即発状態になってしまうほど
の事件を起こした人間だ。逆に所在がわからないほうが国としてありがたいのだが。

「大体マネティはいっつも間食ばかりしてぶくぶく太って、少しは法王補佐って立場を考えないとい
けないんじゃないですか。法王に近いものが節制できずにぶくぶく太って、マノフレになんて言った
らいいか・・・」
「法王、来週のキュート王国の謁見ですが」

マネティの言葉に、マノの機関銃がぴたりと止む。

「王国将軍マイミ・モサ・シュガーライス様が12時より法王に謁見いたしますので」
「ちょっと!何でそれを先に言わないの!!」

あまりの効果覿面に、マネティは眩暈すら覚える。
半年前の御前試合に出場したマイミと知り合って以来、マノがマイミちゃんマイミちゃんとうるさいの
は知っていたが、まさかここまでとは。それこそマノフレが知ったらどう思うか。マネティはさすがに
それを言うとまた説教が始まることを知っていたので、黙っていた。
332 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 20:56
333 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 20:58


王国騎士団一行がベーヤン・ヒゲアリスの邸宅に到着するころには、すっかり夜になっていた。
屋敷のあちこちに設置された魔導力を使ったライトアップが、館をきらびやかに彩る。

「いやー、やっと着いた着いた!」

馬車から飛び出してきたズッキ・インセクトが大げさに深呼吸する。馬車の狭さは彼女にとっては苦
痛だったようだ。後から出てきたほかのメンバーたちも、乗り心地の悪さと馬車の狭さにうんざり顔。

「でも、馬車での移動もたまにはいいものでしょう?」

続いて出てきたミズキ・フクムエル・アパルトワイフの格好に、全員の視線が集まった。
胸元ががばっと空いた大胆なカットのドレス。そこに鎮座まします谷間を、リホ・デリ・サヤスィが
複雑な表情で眺めている。

「おっ、さすがフクちゃんおっぱい番長!」
「ちょっと、なにそれ・・・」

ハルカの野次に、ミズキが思わず顔を赤くする。

「こらーっ、ナマタ!遊んでないでさっさと中に入るよ!!」

何故かエリポン・ナマタ・ケーワイのみが名指しで怒られる。おそらく、呼びやすいのだろう。
ガキサンの呼びかけで、全員が館の受付前に集合する。

「おやこれは王国騎士団団長ガキサン・テンミニッツ様。このような場所にいらっしゃるとは珍しい」

執事と思しき、黒スーツを来た老人が出迎える。
334 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 20:59
「私は今回は引率だけなのだ。パーティーには、この子たちが参加する」
「ほう。可愛らしい子たちですが、彼女たちも騎士団の?」
「見た目だけで判断しないほうがいい。これでも我が騎士団の期待のルーキーたちなんで」
「これは失礼。一応、ボディーチェックはさせていただきますぞ」

老人が合図すると、メイド服を着た女性がわらわらと登場する。
かなり際どい商売をしているベーヤンは、それだけ外部に恨みを抱かれやすくもあった。招待客を装
い暗殺者を送り込まれることを防ぐため、それこそ入念なボディーチェックを実施しているのであった。

「おい、武器とか何も持ってこなかったけど」
「クドゥらしくもない。君なら、徒手空拳でもいけるだろう」

ボディーチェックを受けながら、周りに聞こえないような小声で話すリホとハルカ。
楽しそうに腕を上げているエリポン、くすぐったいのかチェック中にブフォとかいう奇妙な声をあげる
マサキ。そんなこんなで、8人のボディーチェックはつつがなく終わる。

「じゃあ私はこれで帰るから。みんな、気をつけるんだよ」

全員を集めて、最後にガキサンが激励。
そしてそのまま、馬車に乗り込んでいった。
彼女を乗せて遠ざかってゆく馬車。もう、後戻りはできない。

「気合入れていくよ!!」

ズッキが、自らに喝を入れるが如く叫ぶ。
ドレスを翻し、8人の淑女たちがベーヤン邸に乗り込んでいくのだった。
335 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 20:59
336 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 21:00


一方、ベーヤン邸内。
白のタキシードに身を包んだベーヤン・ヒゲアリスは、自らの部屋に警備部隊を招き入れていた。
中でも一際目立つのが、四人の男女。いずれも、かなりの使い手であることが見て取れる。

「お前ら、わかってるだろうな。今回のパーティーは、絶対に失敗できない。そのために、大金を積
んでお前らを雇ったんだ」
「堅い事言うなよ。俺とお前の仲じゃないか」
「それとこれとは話が別だ」

ベーヤンにぴしゃりと言われ、肩を竦める覆面の男。
そこへ、もう一人の覆面が割って入ってきた。

「おいおい、僕はこんな小娘と仕事するなんて聞いてないぜ?」
「小娘?」

自らの事を言われたとわかったのだろう。黒装束に身を固めた少女が殺気を放つ。

「そいつはこう見えても元暗殺組織の一員だ。下手な口を利くと、首をかかれるぞ」
「おー、怖いねえ」

大げさに驚いてみせる覆面。
そんな中、一人だけ雰囲気が浮いている少女が口を開いた。
337 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 21:02
「ベーヤン卿。私の仕事は館に侵入する賊を捕まえることだと聞いている。このような素性も分から
ないものたちと組むとは聞いてないぞ」
「もちろんエッグ筆頭の君の力は信じてるさ。ただ、万全を期して他のものたちににも手伝ってもら
うということは、学院長にも話しているとは思うが?」
「・・・・・・」
「ところで」

先ほどの黒装束の少女。
覆面に放った殺気はそのままに、ベーヤンに鋭い言葉をぶつける。

「我々のほかにもう一人、雇っているな。あの『掟神』を」

周りがざわつき始めた。
ある程度裏の世界に通じているものであれば、「掟神」の名前を知らないものはいない。ある日突然
闇の界隈に姿を現した「掟神」は、暗殺を主とする依頼を次々とこなしてゆき、瞬く間にその道の第
一人者となった。その「掟神」が、雇われている。

「何だ、それじゃ我々は必要ないじゃないか」
「いや、あくまでも保険さ。年を取ると、用心深くなってしまってね」

不平を漏らす覆面をベーヤンが宥める。
そう。今回は万全を期して事に望まなければ。何せ、私のこれからがかかっているのだから。
用心に用心を重ねても、何一つ損なことはない。窓ガラスに映るベーヤンの顔は、あくまでも自信に満
ちていた。
338 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 21:02
339 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 21:03
340 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 21:03
341 :名無飼育さん :2011/12/10(土) 21:05
一部、どこかで見たようなフレーズがあるとは思いますがもちろん、パロディとかオマージュとか
そんな感じです。

>>321
いい歌ですよね。好評発売中だそうです。
342 :名無飼育さん :2011/12/12(月) 02:30
帝国って、そういうことか。やっとわかった。鈍いな俺w
スーメロウ・サンショク。あの人ですね。
343 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:05
344 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:08


そこはまるで、光の洪水のようだった。
訓練所の中庭はあろうかという大きな広間に通されたメンバーたちは、そのゴージャスさに圧倒され
てしまう。
天井にいくつも飾り付けられている、豪華なシャンデリア。テーブルには、見たことも無いようなお
いしそうな料理が置かれている。広間にはすでに多くの招待客が通されていたようで、色とりどりの
カクテルドレスが高級感溢れる空間に花を添えていた。

「ね、ねえ、あれ全部食べていいの!?」

ズッキが、鼻息を荒くしながらミズキに訊ねる。
食べ物に目が無いズッキにとって、この光景は極楽浄土ものに違いない。

「ええ。あそこにあるのは前菜だから、メインディッシュが来るまで…あっ」

ミズキが言い終わる前に、ズッキは料理を取りに来た招待客の列に並んでいた。

「ズッキが先陣を切った事だし、ハルたちも並ぼうぜ!」
「まぁちゃんもー!」
「料理もいいが任務のことは忘れないように」

リホの言葉などどこ吹く風、最年少コンビは楽しげに列のほうへと歩いていった。

「それにしても、あまりのゴージャスさに眩暈がしますね・・・」
「何かブタさんが金銀財宝を身に着けて歩いてるみたいー」

招待客を見ながら、アユミンとエリポン。
ベーヤンのパーティーに招待されたのは、貴族階級の人間や豪商ばかり。ガキサンが8人をこのパーテ
ィーにねじ込めたのも、王国の懐刀である王国騎士団の一員であるからという理由だった。

「とにかく私たちも席につこう。眺めてばかりだと変に怪しまれかねない」
「もしかして、王国騎士団のご一行かな?」

リホが皆に着席を促そうとしていたところに、一人の男が声をかける。
白いタキシードを着た、口ひげを生やした男。ベーヤン・ヒゲアリスだった。
345 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:09
「ヒゲアリス卿。この度はこのような素晴らしいパーティーにお招きいただき、ありがとうございます」
「おお、君のことは良く知っているよ。リホ・デリ・サヤスィ。王国騎士団期待の星だとか」
「・・・そんな、恐縮です」

そこへ、ミズキが割って入る。

「ヒゲアリス卿、お久しぶりです」
「君は確か・・・アパルトワイフ卿のお嬢さん。君も騎士団に入っていたのか」
「ええ。不束な身ながら、色々と勉強させていただいてます」

ベーヤンとミズキのまさに貴族同士のご挨拶、といった感じのやりとりを尻目に、エリポンがハルナに耳
打ちする。

「エリポンああいうおぢさん嫌い。だって色黒いし口髭が汚そう」
「あはは・・・」

あまりに身も蓋もないコメントに、ハルナも愛想笑いをするしかない。

「今日はみんなは騎士団長ガキサンの名代として出席していると聞いている。本来ならガキサンにも来て
いただきたいんだが、多忙とあらば仕方ない。今宵は騎士団の代表として晩餐を楽しんでくれたまえ」

それだけ言うと、別の招待客のもとへと去っていった。

「あれが、ベーヤン・ヒゲアリス」
「お父様のお供で何回かお会いしたことはありますが、武器商人としての一面が強くてお父様も敬遠され
てました。現に今回のパーティーにも参加してませんし」

楽しそうに、貴族風の男と話をするベーヤン。
その笑顔の裏に黒いものが潜んでいる事を、メンバーの誰もが感じ取っていた。
346 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:11


こうして、ベーヤンの誕生パーティーは幕を開けた。
型どおりのベーヤン本人の挨拶から始まり、余興として生え際と額の境目が分からない中年と、手の甲ま
で毛に覆われた濃い顔の中年が歌を披露していた。桜吹雪のサラなんとかの空へ、みたいな妙な歌詞を情感た
っぷりに歌っていたが、聴いているものは皆無だった。

「みなさーん、楽しんでますかぁ?」

皿に料理を大盛りに盛ったハルカとマサキの前に、見たことのある地味な顔をしたメイドが。

「あっ、青空市場のおねーさん!」
「・・・なんであんたがこんなことにいるんだよ」

元青空市場の露店商、そして元喫茶店のウェイトレスであった少女だった。

「実は喫茶店をクビになっちゃって。ちょっと面白いジュースを作ってお客様にお出ししただけなのにねえ。
うふふふふ」

人を寒くさせる能力は相変わらずのようだ。

「そうだ!あんた、この前マサキに渡したヘンテコなブレスレッド」
「あーっ!お姉さん、この前まぁちゃんね、あのブレスレッドのおかげで助かったんだよ!!」

ハルカとマサキは、商店街の路地裏でミュン・シバ・プリペアップに襲われた時のことを話した。ミュンに
マサキが斬りつけられた時、ブレスレッドがまるでマサキを守るように光り、壊れたことも。

「だから言ったじゃん?おねーさんの扱う商品はどれも曰くつきの逸品ばかりだって」
「・・・じゃあ何で露店商やめたんだよ」
「え?それはまぁ、おねーさんこんなにかわいいでしょ?人前に出る仕事のほうが向いてるかなって」
「あーはいはい」

ハルカに冷たくあしらわれた後、他の招待客に呼ばれて少女はその場を離れていった。
そこへ、ミズキがやって来る。
347 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:14
「あの人誰?」
「ああフクちゃん。あれは、妙な縁でちょくちょく会うんだよ」
「へえー。何か腹黒そうで料理できなそうでダサい感じが好みなんだけど・・・どっかで見たような」
「どこにでもいるような顔じゃね?」
「うーん、そうかも」

そんなことを言われているとは露知らず、少女は招待客にぶりぶりの媚を売っている。まるで自分がパーテ
ィーの主催者であるかのようだ。

別の席では、アユミンとハルナが食事をしていた。
しかしハルナは盛り付けられた皿にほとんど手をつけていない。

「ハルナちゃん、食べないの?」
「うん、こういうのはちょっと」
「緊張してるとか?こういう時は無理にでも食べたほうがいいよ。それでなくてもハルナちゃん細いんだから」

どちらかと言えば自らも細いほうに分類されるアユミンが、笑いながらそんなことを言う。
ただ、食習慣というものはそうそう変えられるものではない。柳のように細く、しなやかな体を作る。それが
当たり前のように思っていたハルナは、なかなかその常識を捨てきれずにいたのだった。

「なんだよー、全然食べてないじゃーん」

向こう側から食欲の塊がやってきた。
両手に乗せきれないくらいの料理を持った皿を抱え、ズッキがハルナたちの席に座る。
348 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:16
「ズッキさんちょっと食べすぎじゃ・・・」
「そんなことより・・・もぐもぐ・・・大体の情報が・・・むしゃむしゃ・・・出揃ったから・・・ごっくん。適当な場所で情
報交換するよ。げっぷ」

食べながら、とんでもないことを言い出すズッキ。
彼女は料理を盛りながら、周囲の立ち話やら何やらに聞き耳をそば立てていたのだ。

「わかりました。みんなに声かけてきます」
「あ、ちょっと待って。このシーコ豚のローストがまたおいしいんだって。これ食べてからでも・・・もぐもぐ・・・
いい?」

尋常ではないズッキの食欲に、呆れを通り越して尊敬の念さえ抱いてしまうハルナとアユミンだった。
349 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:16
350 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:17


アユミンがドレスにジュースをこぼしてしまった、という体で館内の衣装室を借りる事に成功した一行は、部屋
の中で輪になる。

「外は大丈夫?」
「マサキとエリポンに立たせてる。あの子たちなら不審に思う人もいないでしょ」

部屋の外の扉の前に、立つ二人。
へらへらと笑いつつ、今はしゅくじょが着替え中でしょーと言っているマサキ。覗いちゃだめですよエッチなお
ぢさん、と失礼なことを言うエリポン。確かに適任なのかもしれない。

「私が調べた情報によると、ベーヤンはこれから立て続けに招待客との会談を設けるみたい。特に、その中の一
人でスマイレージ国を商圏にしてる豪商バンバン・ストロベリは怪しいね。スマイレージはアップフロント随一
の貿易大国だし、コネを使えば魔導船を入手するくらいのことは簡単にできそうだから」

まずはズッキが仕入れた情報を報告。

「すごいじゃんズッキ。食べてばっかりだと思った」
「あれはあくまでも相手の目を誤魔化すためのカムフラージュだから」
「嘘でしょ・・・まあいいや。ハルは、この屋敷の中にベーヤンだけが知る秘密の部屋がある、って話を聞いたよ。
何でもパーティーがある日はそこでVIP客をもてなすらしい」

ハルカの報告に、一同が感心する。8人が計画を遂行するのに大きな一歩となり得るからだ。

「じゃああたしからも。実はね・・・」
「ミズキさん、ストップ」

ハルナが、静かに、それでいて力強く制止する。
351 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:19
「話を変えて。さりげなく」
「う、うん。わかった」

全員が、何気ない世間話を始める。リホがミズキのような大きいおっぱいになりたいとか、マサキは自分の妹を
ジジョと呼んでいるとか、そういった類の他愛もない話だ。しばらく話をしていると、ハルナからもういいとの
合図が出た。

「急にどうしたの、ハルナちゃん」
「誰かが、聞いてた」

辺りを見回すメンバーたち。もちろん、何の変化も見られない。

「これだけの豪華な招待客がいるから、そいつらがボディーガードみたいのを雇ってるのかも」
「うん。あるいは・・・ベーヤン自身がね」

もしベーヤンが後ろ暗い商談をするつもりならば、その可能性は決して低くはない。

「とにかく、情報は揃った。ベーヤンの秘密の応接間を突き止めれば、尻尾が掴めるかもしれない。みんな、気
を抜かずに行こう!」

ズッキが話を纏めると、何食わぬ顔をして全員が衣装室を出てゆく。
そんな中、ハルナの脳裏を一つの疑念が過ぎる。

あの気配、どこかで・・・

だが、今はそんなことを考えてる場合ではない。
心に靄のようなものを抱えたまま、ハルナもまたパーティー会場へと戻ってゆくのだった。
352 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:22
353 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:22


とは言え、周囲に怪しまれないように隠された部屋を探すのは至難の業だ。
会場内では何人もの黒服が監視の目を光らせている。
そこで、ズッキがある奇策を考え付いた。全員の賛同を得て、早速実行に移すこととなる。

「本日はベーヤン・ヒゲアリス卿の誕生パーティーにお越しいただき、まことにありがとうございます。ご来賓
の皆様に、余興のご案内をいたします」

先ほどまで妙な二人組が歌っていた舞台に立ち、ズッキが大声で叫ぶ。
そして舞台の袖に向かって、手招き。
やって来たリホがキャスター付きテーブルで運んできたのは、各テーブルからかき集めてきた大量のサイダーの
瓶だった。

「さてさて皆様お立会い。このリホ・デリ・サヤスィ、サイダー飲みの達人であります。今回は目の前のサイダ
ーを、すべて飲みきるかを、皆様に当てていただきます!」

来賓者たちが一斉にどよめく。
テーブルの上には、数十本のサイダーがある。これを目の前の小さな子供が一気に飲み干すのは、至難の業なの
ではないだろうか。しかしながら、貴族という生き物はこの手の見世物に非常に弱くもあった。

「よし、じゃあ私はこのお嬢ちゃんがサイダーを飲み切るのに10000モニ賭けるぞ」
「何を。それなら俺は飲み切らないに20000モニだ!」
「ははは、そんな大金を賭けて良いのかねイナヴァキラ・アンダスタン卿。ハッタリはそのエセマジシャンみた
いな格好だけにしたまえ」
「盛り上がっているようだな。このハイマウンテン、この少女がサイダーを飲み切るのに50000モニを賭け
ようじゃないか」
354 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:24
それはまるで、雪だるまのようだった。
元々有り余る金を持て余している連中、しかも、プライドが高く自分が一番偉いと思っているような人間ばかり
だ。さらに、社交辞令と腹の探りあいの連続。降って湧いたような余興に、飛びつかないはずがなかったのだ。

気が気でないのは、室内外の貴族の護衛たちや館内に配備されたベーヤン子飼いの黒服たちだ。
この混乱にまぎれて招待客の一人でも怪我するようなことがあれば、たちまち大問題になる。
パーティー会場に警戒色が色濃くなっていくのは、護衛や警備の人間の動きからも見て取れた。

「まさかここまで上手くいくとは」
「へへへ。ミッツィーさんが教えてくれたんだよ」
「・・・だろうね。にしてもズッキあっての策だ。私じゃこうはいかない」

まるで自分の手柄のように語るズッキだが、彼女の巧みな話術がなければここまでの食いつきはなかっただろう。
リホは素直に相方の技量を褒め称えるのだった。

「さあ、それでは、さっそくサヤスィにサイダーを飲んでもらいましょう!その前にまず抱負をどうぞ!!」

と、その一言で思い出す。

サイダーは好きだけど・・・この量は・・・

その後に抱負代わりに発したしゅわしゅわぽんの言葉は、弱弱しかった。
355 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:24
356 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:27



館内の警備が手薄になっている頃、ハルナは地下の酒蔵にいた。
酒蔵に、頻繁に人の出入りがある。確かにパーティーなのだから、酒の出入りがあって当たり前だ。しかし、そ
の当たり前を逆手に取っているとしたら。
気づかれないように、酒蔵に侵入する。案の定、誰もいなかった。

やっぱり・・・ここのどこかに、隠し部屋に繋がる入口があるはず。

丁寧に、辺りを見回す。
大きなワインセラーに収納されている、高そうなワインの数々。棚にびっしりと置かれている、これもやはり高
給そうなブランデーやウィスキーの瓶。そんな中、並んでいる酒瓶の列に1本分、隙間が空いているのをハルナ
は発見した。

誰かが会場に持っていった、と思うのが普通。けど。

周りの棚を見る。これまた1本だけ窮屈そうに棚に仕舞われている、空の瓶を見つけた。
瓶を手に取り、棚の底板を見る。跡がついていない。つまり、「ごく最近」この瓶を動
かしたということを意味
していた。

ハルナは手にした瓶を、先ほどの隙間の空いた棚に置く。
刹那、歯車のような何かが回る音が聞こえ、そして床が二つに割れていった。現れたのは、
更に地下へと続く、階段。どうやら瓶の重みに反応する仕組みになっていたようだ。
357 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:29
「そこで何をしている」

突然、酒蔵から声が響く。
そんな、さっきまでまったく気配が無かったのに。
戸惑うハルナを他所に、声の主はゆっくりと近づいてくる。

「・・・お前。ダン・ハウか」

黒装束に、目元まですっぽり覆うマフラーを巻いていた少女が言った。

「もしかして、ユイコマン?やっぱり、さっきの気配も」
「生きてたのか、ハウ」

少女は目の前のハルナに心底驚いていたようだった。
確かに二人は、知らないもの同士ではなかった。しかし再会を喜び合うような間柄でも、なかった。

「なぜ生きていたのかは聞かない。その代わり、一つだけ聞く。ここで何をしていた?」

ハルナは確信を持っていた。自らの素性を知るこの少女に、誤魔化しは一切通用しないことを。
後ろ手にそれぞれ酒瓶を持ち、床に叩きつける。即席の双剣。心もとないが、無いよりましだ。

「答える義理はない」
「・・・そんなものでこのユイコマン・ザカリヤに抗おうとは。鈍ったなダン・ハウ」
「その名前で・・・私を呼ぶな!!!!」
358 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:31
ハルナが飛び出すと同時に、ユイコマンが両の腕を前に突き出す。一見、拳の先に刀身がついている
ように見える。握りが刀身とは垂直に、鍔とは平行。ジャマダハルと呼ばれる、暗殺者御用達の武器
だった。

ジャマダハルの刃と、割れた瓶の切っ先がぶつかる。
しかし所詮はガラス、硬い金属の前にもろくも砕け散ってしまった。破片が、四方に飛び散る。

「!!」

破片が顔に当たらないよう、一瞬左の手を防御に回したユイコマンが気づく。
ハルナはユイコマンが怯んだ隙に、地下への階段を駆け下りようとしていることに。
だが、ハルナの足は階段の前で止まってしまう。

「なんだなんだ、侵入者か」
「ははっ、こいつはかわいい侵入者だな。捕まえるか?」

ハルナの前に立ち塞がる男が二人。
奇しくも、前と後ろの挟み撃ちになってしまった。
359 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:31
360 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:32
361 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 01:32
362 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 02:02
>>342
そうです。光井さんのオーデで最終まで残ってたあの人です。
363 :名無飼育さん :2011/12/13(火) 21:02
小ネタが面白いw
364 :aoi :2011/12/14(水) 14:21
 同じ書き手として興味深い作品です。
9.10期の活躍がサイコーw
365 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:23
366 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:24


まさに、絶対絶命。
ハルナは冷静に、今自分が置かれている状況を分析する。
目の前にいる覆面の二人組。少し無理をすれば、十分相手になるとハルナは踏んだ。しかし、彼女の
背後を取る少女はそうはいかない。少女の実力は、ハルナが一番良く知っていた。

ユイコマン・ザカリヤ。
かつて彼女とともに過ごしたあの時期を、ハルナは思い出す。
冷気と狂気が入り混じった空気、長年その環境に置かれた末に、その冷たさは骨身にまでしみ込んで
いた。最後に彼女に会ったのはいつだろう。記憶さえ確かではなかったが、記憶の中にある冷たい目
そのままに、こちらを見ている。
かつての同僚、という理由で情けをかけてくれるような相手ではなかった。

幸いこの酒蔵には即席の武器となり得るもので溢れている。それを手にし、二人を打ちのめすことは
可能だ。ただ、その隙にユイコマンに後ろから襲われたら。となれば、方法は一つ。

すかさず両手にそれぞれ酒瓶を握り締め、先ほどのように叩き割って即席の武器を作る。そして、二
人の男に向かって素早く宙返り。
ユイコマンが前に、男たちが後ろの立ち位置となる。ただ、ハルナの狙いはそれだけではなかった。

「なっ・・・何だ」
「僕たちの覆面を・・・やるじゃないか」

ハルナは宙返りをする時に、素早く瓶の切っ先で二人組の覆面に一閃を加えていた。
黒い覆面が切り裂かれ、素顔が露になる。
367 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:26
「あなたたち、パーティー会場で余興をやっていた」

二人の男は、会場で歌を披露していた禿げ上がった中年と、体毛の濃そうな中年だった。

「なるほど・・・歌を披露すると見せかけておいて、会場内の不審な人間をチェックしてたのね」
「ばれちゃ仕方ない。そういう君は王国騎士団の。女子供と思ってノーマークにしていたが、こりゃ
どうしたものか」

参ったなあ、と言いたげにユイコマンを見る毛むくじゃら。

「ヒゲアリス卿の命令は、邪魔者をすべて排除せよとのこと。生き死にはさして問題じゃない」
「だよなあ。上からどんな指令を出されたか知らないが、生きてここから帰れると思うなよ」

嬉しそうに禿げが口角を上げる中、ハルナはここを脱する算段をつけていた。
時間稼ぎは十分、あとはタイミングを見計らうだけ。

ところが、酒蔵の入口から予想もしない声がした。

「メッシ、大丈夫か!!」
「ハルナちゃーん、エリポンが今助けるからねー!!」
「まぁちゃんもー!!」

勢いよく棚の向こうからやって来たのは、ハルカ、エリポン、マサキの三人。

「みんな、どうして!?」
「話は後だ、そのばかっと開いてる階段に突っ込むぞ!」
368 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:27
ハルカがどこかから持ち出した装飾剣を一振り。
斬撃で、棚にあった酒瓶に次々に割れていった。

「炎の精霊たちよー、焼き尽くせー」

直後にマサキが魔法詠唱。
生み出された炎がこぼれて床に広がった酒に引火し、勢いよく燃え上がる。それがバリケードと
してユイコマンの追撃を遮った。

「みんな、早く階段に入って!!」

ハルナが酒が収納された棚を蹴り飛ばし、叫んだ。
すると棚の支えとなっていた板が外れ、崩れ始めた。崩れ落ちた棚は隣の棚を倒し、ドミノ式に
次々と崩壊してゆく。ハルナが二人の男を襲撃した際に、棚の一つに切れ目を入れていたのだった。

ハルナが先陣を切って階段へと駆け出すと、続いてハルカとマサキも崩れ落ちる棚と男たちの手
を振り切り階段を降りてゆく。最後にエリポンが棒を振り回しながら滑り込んだ直後に、崩
れた棚が階段への入口を塞ぐ。

「くそっ!階段への道が塞がれた!」
「・・・追うぞ」

男たちが悔しがる中、ユイコマンが崩れた棚の隙間、ちょうど体の細い少女が入る事ができるぎり
ぎりの幅、から階段へと入っていった。
369 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:28
370 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:29


リホが20本目のサイダーを飲み干そうとした時、床下から騒がしい音が響く。何かが勢いに任
せ崩れ落ちるような、そんな音だった。

「おい、何だ今の音は」
「も、もしかして私の命を狙って輩が!!」

それまでの熱狂は嘘のように、おろおろし始める貴族たち。特に身の覚えがあるような輩にとっ
ては、気が気ではない。

「ご安心ください!この屋敷は我々が万全を期して警備に当たっております!賊の侵入などあり
えません!!」
「落ち着いてください!!」

黒服が数人、壇上に立ち混乱を収めようと呼びかけるが、火に油。
別の黒服たちが音のしたほうへと走ってゆくのを見て、ズッキとリホが目配せをする。

「あたしたちも行こう!」
「わかった、その前に」

リホが何か言いにくそうにしている。

「トイレに行かせてくれないか。じ、実はさっきから我慢できなくて」

思わず噴き出しそうになるズッキだが、本人からしたら笑い事ではない。
トイレに立ち寄る事を約束し、二人は混乱に乗じて会場を抜け出すのだった。
371 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:29
372 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:30


酒蔵の轟音は、物置を捜索していたアユミンとミズキの耳にも入っていた。

「ミズキさん、今の音・・・」
「下のほうから聞こえたよね。確かハルナちゃんが調べるって言ってた」
「何かあったのかも、急がないと!」

廊下へ飛び出し、酒蔵に向かって走る二人。
そんな中、曲がり角から現れたズッキとリホ。出会いがしらに衝突しそうになる。

「あぶなっ!あれ、ズッキたち。この先ってトイレじゃ・・・何、してたの?」

いかがわしいことを想像したのだろう、訊ねたミズキの顔が赤くなる。

「ちょ、違う違う!リホがトイ・・・もごー!!」
「トイレに隠し部屋があるかと思って、調べてたんだ」

慌てて弁明しようとするズッキの口を塞ぎ、リホが言う。サイダー飲みすぎておしっこ行きたく
なった、とは言いたくなかったのだ。

「ん、その格好」
「さっき衣装部屋に入った時にくすねてきたんだ。ドレスじゃ動き辛いからね」
「なーんだ。私もだよ」

全員が、ドレスを動き易い格好に着替えていた。

「それよりも、さっきのすごい音!」
「ああ、地下からだね。急ぐよ」

いつもは見られない積極さで、リホは先頭を切って走っていった。
373 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:31
374 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:33


一方、地下の隠し階段へと逃げ込んだハルカたちは。

「うまく撒いたようだな。ってかベーヤンの悪事の確たる証拠でも掴まない限り、絶対絶命だぜ
これ」
「問答無用って感じだったもんね。いきなり襲いかかってくるなんてさ」

ハルカが頭を掻き、ぼやく。エリポンも元から困ったような表情をさらに困らせる。
酒蔵を半壊させ、不法侵入した挙句何もありませんでした。最早かくれんぼがしたかったんです、
ごめんなさいで済む話ではない。

「でも、さっき酒蔵にいた二人の男。この場所がベーヤンにとって侵入されたくない場所なのは
間違いないよ。それに、あの子が。相当知られたくない秘密があるんだと・・・思う」
「何だよメッシ、お前、あの黒装束の女のこと知ってるのか?」

ハルナは答えない。
ハルカも、それ以上は聞かなかった。

「とにかく、ここから先は一本道になってるみたいだよ。ベーヤンの奴がビップルームを用意し
てるとしたら、この先なんじゃないかなあ」

エリポンが通路の奥を覗き込む。
確かに薄暗いが、所々に灯りが設置されているせいか、視界は悪くない。
先に進もうとハルカが一歩踏み出したその時だった。

「前から誰かが来るよー」

マサキの緊張感の無い声で知らせる。
こちらに近づいてくる、人影。
375 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:34
「ちっくしょう、早速出迎えかよ!!」

戦闘態勢を取る四人。しかし、相手は襲い掛かることもなく、ゆっくりと歩いてくる。
ハルカとハルナは、彼女の顔に見覚えがあった。

「久しぶりやな」
「あなたは確か・・・ユイヤンさん?」

ユイヤン・オカパイン。
ビユーデン領主リカ・ハーフヒップの副官であり、先日のシーナの反乱において真っ先に現場に
駆けつけた調査部隊の指揮官でもあった。

「この人、知り合いなの?」

二人が体勢を解いているのを見て、エリポンが話しかける。

「うん、ペッパーの森でお世話になったビユーデンのユイヤンさん」
「どうも。それより、あんたらここで何してるん?」
「え?」
「わかってる。ベーヤンの身辺調査やろ?実はな、ビユーデン領でもあいつ悪さしててな、うち
も単独で調査しててん」

ユイヤンの話によると、ベーヤンがビユーデン在住の商人と違法な、それこそ国に損害を与えか
ねない取引を行ったとの情報が入ったのだという。
376 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:35
「へー。副官直々に調査っすか。大変っすね」
「これも仕事のうちやから」

突然、ユイヤンの表情が引き締まる。
ただならぬ気配に、全員が後ろを振り返った。

「追っ手が来たみたいやね」

暗闇の向こうから現れる、黒装束の少女。

「ユイコマン・・・」
「安心しいや。あいつはうちが止めたる」

ユイヤンが一歩、前に出た。

「私たちも戦います!あの子は・・・私が」
「そんなん関係ないわ!!」

ハルナの申し出を、ユイヤンが一喝する。

「あんたらは先に進んどいて。そんなに心配せんでもええよ。こう見えてもうちは、かつての黄
金騎士の副官やで?」
「ユイヤンさん・・・」

それだけ言うと、ユイコマンのもとへ駆け出してゆく。
四人は、決してユイヤンを振り向かなかった。
377 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:36
378 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:37


一方、こちらは棚が倒れめちゃくちゃになってしまった、酒蔵。

「これはベーヤンに怒られるぞ」
「それよりもあいつらを先に行かせちまったことのほうだ」

地下へと続く階段を塞いでいる、かつて棚だった木の板やら鉄板やらをはがしている、二人の男
。そこに、声をかけるものがいた。

「お前ら、そこで何をしている!」

酒蔵に駆けつけた、ズッキ、リホ、アユミン、ミズキの四人だった。
手には、武器代わりの棒切れやら何やらを持っている。

「何だ君たちは、やぶからぼうに」
「私たちは王国騎士団のものだ。ここで大きな物音がしたから来てみたら、何だこれは。酒蔵が、
めちゃくちゃじゃないか!」

芝居がかった台詞をすらすらと喋るズッキ。
どうやら酒蔵で暴れた二人組を確保するシナリオのようだ。

「何を白々しいことを。お前ら、ここに侵入した連中の仲間だろう。不法侵入者なら、逆に俺たち
がお前らを捕まえて、色々聞きださないとなあ」
「わけのわからないことを。ヒゲアリス卿の警備ならいざ知らず、お前らはただの余興のために呼
ばれた芸人じゃないか」

リホも、ズッキの芝居に乗りかかる。

「あっははははは。面白い。じゃあこうしようじゃないか」

心底おかしそうに笑う体毛が濃そうな男の、提案。

「ここで打ち倒された奴が、侵入者だ。簡単だろう?」
「確かに」

二人の男が、懐に手を入れる。
四人が武器を構え、一斉に飛び出した。
379 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:38
380 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:39


「ほい。お前の武器。これでも一応双剣っぽく使えるだろ」

ハルカが二本の短剣をハルナに手渡す。
受け取った短剣を、何度か、握りなおす。

「うん。これなら、大丈夫そう」
「それよりあれだ。メッシ、そのドレスじゃ動き辛いんじゃね?」

そこではじめて、ハルナは他の三人が動き易い服に着替えている事に気づく。

「うん、ちょっとね」
「じゃあいい方法あるから」

ハルカが、マサキとエリポンに耳打ち。
三人とも、満面の笑み。
そして、一斉に襲い掛かった。

「ちょ、何!?」
「動きやすくしてあげるでしょー」
「ヒャッハー!むいちまえ!!」

訳もわからず、ドレスを引き裂かれるハルナ。裾は太ももの辺りまで切り取られ、袖も完全に肩が
露出する形になった。無残にも引き裂かれてしまった布切れはもったいないと思ったのか、ハルナ
が懐に仕舞い込む。
381 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:40
「確かに動きやすいけど・・・」
「うるせーなー、嫌なら下着姿で戦うか?」
「さっきみたいなおぢさんだったら興奮してこっちが有利かも」

無責任なことを言う、ハルカとエリポン。
とにかく、形振り構ってはいられない。あの二人組の中年やユイコマンのような、ベーヤンが雇っ
た連中が他にもいるかもしれないからだ。

「まぁちゃんは大丈夫?魔導杖がないみたいだけど」
「これがあるから大丈夫だよー」

マサキの胸元に輝く、大きな宝石をあしらったネックレス。
その赤い宝石は、どこかで見覚えがあった。

「もしかして」
「うん。魔導杖から外して持ってきたんだよー」

マサキが杖もなしに魔法を詠唱・発動させたのはこれが理由だった。
魔導杖の杖部分には、術者の魔法力を増幅させる宝石の安定器的な役割がある。ゆえに宝石だけを
持ち出し魔法を使えば暴発する危険性があった。ただ、魔法を使いこなせない素人でもないかぎり、
その可能性はあまり大きなものではないが。

「へえ。こんなものがねえ」

マサキから宝石を受け取ったハルカが、まじまじと見ている。
元来魔法使いでもなければ、宝石にお目にかかることなどほとんどないのだから、仕方ない。
しかし、ハルカが宝石を通して通路の向こうを見た時に、表情が変わった。
382 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:41
「・・・悪い。お前ら、先に行ってくれないか」

何事かと思い通路の先を見ると、そこには剣士風の少女が立っていた。
眼力の強そうな瞳が、ハルカを射抜く。

「どうしたの、ハルカちゃん」
「うおおおおお!!!!」

ハルカが少女目掛けて突進する。小さな体からは信じられないような、大きな靴音が通路に反響する。
少女もハルカの存在に気づいたようで、同じように走ってきた。
二人の距離の中心で、剣と剣が、ぶつかり合う。飛び散る火花。
いくつもの剣戟を重ねたあと、もつれるように通路の途中にあった部屋へとなだれ込んでいった。

「ハルカちゃん!」
「待って!!」

加勢に行こうとするハルナを、エリポンが止めた。

「どうして!」
「ユイヤンさんも、そしてクドゥも道を作るために戦っとう。エリポンたちは、その道の先を行か
なきゃいけないの!!」

普段はへらへらしているエリポンの、意外な一面だった。
我に返ったハルナが、走り出す。ハルカたちが戦ってる部屋を通り過ぎ、まっすぐに。
383 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:43
第六話「伏魔殿」 了
384 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:43
385 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:43
386 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:43
387 :名無飼育さん :2011/12/14(水) 21:45
>>363
これからも小ネタがんばりますw

>>364
ありがとうございます。
9、10期活躍の長編ってまだないですよね。隙間産業ってやつですね。
388 :名無飼育さん :2011/12/15(木) 19:15
面白い
可愛いのに格好いい
9期、10期サイコー!
389 :名無飼育さん :2011/12/16(金) 21:41
390 :名無飼育さん :2011/12/16(金) 21:43



ベリーズ共和国デレシン砦付近。
日が落ちるのを待って、メグ・ネコムス率いるキュート軍小隊は砦に向け前進を始める。
兵士たちの顔は真剣だが、緊張感はない。それもそのはず、この前進は軍師マイマイ・ジャウプ・リア
ルセントの仕組んだ予定調和の行動なのだから。

しかしその平穏は突如、崩れ去る。
兵士の一人が、気を失ったように倒れる。それをきっかけに、周囲の兵士たちもまた連鎖するが如くば
たばたと倒れだしたのだ。

「て、敵襲!ベリーズ軍の敵襲!!」

どこからともなく、大声で叫ぶものがいた。
一小隊は完全に冷静さを失ってしまった。

「メグ様!ベリーズ軍の襲撃です!被害は兵士十数人、銃撃によるものと思われます!!」

メグはそれをベリーズ軍の仕業ではないことは知っていた。
カンナ・クンカ・クンカの秘術「テンション下降(さげこう)」は、自らのテンションを極限にまで下
げる事によって、自らの存在をいかなる魔法や技術を駆使しても感知できなくしてしまう。これを使い、
カンナは本来味方であるはずの兵士たちを次々に撃っていったのだった。

「応戦といきたいところですが、マイマイ様の指示が」

部下の言葉を聞き、にやりと笑うメグ。

「構わん。緊急事態だ。デレシン砦を、襲撃する」

これだ。この状況を、自分は待ち望んでいた。
喜び叫びたいのを、堪えるメグであった。
391 :名無飼育さん :2011/12/16(金) 21:43


第七話「因縁」


392 :名無飼育さん :2011/12/16(金) 21:44
393 :名無飼育さん :2011/12/16(金) 21:45


モーニング王国王都リゾナント郊外。
王国貴族ベーヤン・ヒゲアリス邸内にある、半壊の酒蔵。
二人の男と対峙する四人、先に仕掛けたのは額の広い禿げだった。

「ア”〜!!」

懐からマイクのようなものを取り出し、濁ったため息のような声を出す。
ズッキとリホの頭上から落ちてくる、電撃。相手は雷を操る魔導士だった。

「あのマイクみたいのが魔導杖か」
「まずはあいつを無力化したほうがよさそうだね。アユミン、ミズキちゃんは後続の連中を頼む」

酒蔵の物音を聞きつけやって来た、黒服連中だった。
周囲の状況と、二人の男に対して武器を構えている四人組。黒服たちも一斉に自らの得物を懐から取り
出す。警棒、ナイフ、メリケンサック。ありふれてはいるが、いずれも殺傷力のある、武器。
アユミンが棒を回しながら黒服の集団の中に躍り出る。ミズキは彼女の後方援護のために氷の呪文を詠
唱し始めた。

一方でズッキは薪割り斧を構え、リホは拳を固める。
しかしそこへもう一人の毛むくじゃらが躍り出た。

「ぼくはこう見えても結構銃の扱いは得意なんだよ。意外だろう?」

そんなことを言いながら、小脇に抱えたマシンガンを打ち出す。
二手に別れ、銃撃をやり過ごす。

「二人とも飛び道具系か。どうする?」
「ズッキが禿げ、私は毛むくじゃらで」
「おっけ」

標的が決まれば話は早い。
ズッキは雷使いの禿げに、リホは銃持ちの毛むくじゃらに向かってゆく。
394 :名無飼育さん :2011/12/16(金) 21:46
「じゃあいくよー、まずは『蟷螂』!」

ズッキが片手で、斧を振り回す。
弧を描く斬撃はまるでカマキリの鎌のようだ。

しかし相手は魔法に長けているだけのことはあり、間合いを取ってズッキの攻撃をかわす。

一方こちらはリホと毛むくじゃらの対決。
マシンガンでリホを狙撃する毛むくじゃらだが、素早い動きに照準が定まらない。
だが、本当に毛むくじゃらが狙っていたのはリホではなかった。

「うわっと!」

禿げとの間合いを詰めようとしていたズッキに向かって、銃弾が迫る。慌てて後方に回避するズッキだ
が、その僅かな時間が、禿げに魔法を詠唱させる時間を与えてしまう。

「you are rolling thunder、ア”〜!」

空間で光る、電気の塊。
それらが、一度にズッキに降り注いだ。立ち込める煙、自らの勝利を確信する禿げ。しかし、煙が晴れ
た後に現れた無傷のズッキに、目を疑う。

「あんたの雷は全部この『蝸牛』で防いだ!」

ズッキは斧の扱いに虫の形態模写を取り込むことで、攻撃から防御においていくつものバリエーション
を有していた。今の「蝸牛」は、斧を四方八方に振り回すことで相手の投擲物を遮断する、防御技。そ
して。

ズッキが体を丸めながら、助走をつけて跳躍する。手には斧が握られたまま。そして回転数を上げなが
ら禿げ目掛け突っ込んでいった。これが、ズッキが得意とする決め技「団子虫」だった。
斧の刃とは逆の頭の部分が、禿げの広い額にめり込む。禿げは白目を剥いたまま、泡を吹いて倒れた。
395 :名無飼育さん :2011/12/16(金) 21:48
ズッキは斧の扱いに虫の形態模写を取り込むことで、攻撃から防御においていくつものバリエーション
「おい、何やられてるんだよ!」

相方があっという間にやられてしまったので、毛むくじゃらはうろたえる。その隙をリホは見逃さなか
った。小さな体を利用しての死角からの、強烈なボディーブローをお見舞いする。
前のめりに倒れる毛むくじゃら、ところが倒れる際にリホの体を両腕でがっちりホールドしてしまう。

「しまった」
「幸せだなぁ。ぼくは死ぬまで君を放さないぞ、いいだろう?」
「よくない。う、腕毛が頬に、気持ち悪い」

無表情ながらも、はっきりと否定の意思を露にするリホ。
それは行動となって現れた。ボディーに一発、二発、三発。リホの小さな拳は確実に毛むくじゃらの臓腑
を抉り、男は幸せだなぁの顔のまま、頭から床に突っ込み完全に沈んだ。

「これで終わりっ!ミズキちゃんたちはどう?」

ズッキがミズキとアユミンに声をかける。
重なりあうようにして倒れている男たちを前に、アユミンのブイサイン。有象無象の黒服たちなど、まる
で相手にならなかったようだった。

男たちが完全に気絶したのを確認してから、酒蔵の周辺を確認する四人。
ハルナの姿は、見えなかった。

「どこにいったのか・・・」
「もしかしてこの隙間を抜けてったのかも。うちらも行く?」

ズッキが木材やら瓦礫やらで埋もれかけた階段を発見する。
瓦礫の隙間は、女子供なら通り抜けられる充分なほどの程スペースがあった。

「あれ、体がきついんだけど」
「む、胸がひっかかる」
「ズッキ、食べすぎ。ミズキちゃんはなんかむかつく」

リホの容赦ない突っ込みの中、何とか隙間を抜ける一行であった。
396 :名無飼育さん :2011/12/16(金) 21:48
397 :名無飼育さん :2011/12/16(金) 21:49
細長い、一本道の通路を進んでゆく、エリポン、マサキ、そしてハルナ。
突き当たりに、灯りに挟まれた扉が見える。屋敷の広さからして、そこが終点なのはほぼ間違いなかった。
しかし、追っ手はすぐ近くまで迫っていた。

「お前らを、そこから先へは行かせない」

薄闇によく馴染む、黒装束。

「ユイコマン!」

彼女の登場で、ユイヤンが倒されてしまったを悟る三人。

「みんな、ここであいつを迎撃するよ」
「待ってください」

前に出ようとするエリポンを、ハルナが制する。

「あの子は・・・ユイコマンは私が」
「もう!さっきユイヤンさんも言ったと!そんなことは・・・」
「エリポンさんが言った事。みんなが私たちのために道を作ってくれたって言葉。次は、私に実践させてく
ださい」

二本の短剣を構え、前に出るハルナ。
エリポンに映る、か細い背中。だが、その背には一言では言い表せないほどの業が圧し掛かっていることを、
彼女は感じ取ってしまった。

「まぁちゃん、行くよ」
「え、でも」
「大丈夫。ハルナちゃんは・・・勝つ」
「・・・うん。わかった」

それだけ言うと、エリポンとマサキは先へと進んでいった。
398 :名無飼育さん :2011/12/16(金) 21:51
残された、二人の少女。

「・・・こんなボディーガードみたいな仕事、よく親方様が許したね」
「何も知らないんだな、ダン・ハウ」
「えっ」
「ラブベリーは、終わったんだよ」

ユイコマンの言葉には、一片の悲しみすらなかった。

ラブベリー。
アップフロント大陸の闇から闇を渡り歩く、暗殺者の一団。
何人もの優秀な暗殺者を抱えるその集団の中に、ユイコマン、そしてハルナは身を置いていた。

「そんな。どうして」
「お前も知ってるだろう。親方様自ら招きいれた二人の暗殺者を。あいつらが・・・たった二人の裏切りで、組織
は壊滅した」

ハルナの記憶が鮮やかに蘇る。
組織を脱走したあの夜、追っ手として自らを追撃した少女のことを。

「だが、組織のことなんてどうでもいい。お前は王国騎士団の一員で屋敷の侵入者。私はこのベーヤン邸のボデ
ィーガード。それが、全てだ」

言葉はいらない。
ただ、刃を交えるのみ。
ハルナに向けられた、ジャマダハルの切っ先がそう物語っていた。
399 :名無飼育さん :2011/12/16(金) 21:52
400 :名無飼育さん :2011/12/16(金) 21:54


転がり込んだ先の部屋で、ハルカともう一人の少女の攻防が続く。
倒れたハルカを、少女の剣が追う。辛うじてかわしたハルカの反撃。横に薙いだ剣が、本棚の本を切り裂いてゆ
く。どうやらここは書庫のようだった。

「何であんたがこんなとこにいるんだよ、チャンサン!」
「私の仕事は、ヒゲアリス卿の応接室に近づく賊を退けること。学院長から斡旋された、真っ当な仕事だよ、ハ
ルカ・クドゥ」

飛び起きて体勢を整えるハルカから間合いを取り、剣を向ける少女。
少女、カリン・ミヤモ・チャンサンはハルカとはエッグで同じ机を並べたもの同士だった。カリンはハルカの先
輩であり、そしてハルカがエッグ在籍時にただ一人だけ勝つことのできなかった相手でもあった。

「後ろ暗いことをしてるクソ貴族の護衛なんて、とてもじゃないけどまともな仕事とは言えないだろ」
「何とでも言えばいい。それに、お前だって私と戦いたかったからこの場所に誘い込んだんでしょ?」

言いながら、鋭い一突き。
カリンの剣「ハシニモボウニモ」は剣、というよりむしろ警棒に近い形状をしていた。しかし、斬る事はできな
くとも突くには非常に適した剣である。さらに、触れたものに対し電流を流す魔法剣の側面をも持っていた。

カリンが繰り出す突きを、ある時はかわし、ある時は受け流す。
しかし、鍔迫り合いだけは絶対にできない。その瞬間に電撃の餌食になるからだ。

「どうした、そんなに私の電撃が怖い?」
「んなわけないでしょ」
「エッグ時代はいつも音剣に頼ってたものね。だからいつも私に負けてた」
「うっさいバカ野郎!」

ハルカがその場にあった本を投げ上げ、さらにそれを剣でばらばらにする。
舞い散る頁が、目くらましとなった瞬間、ハルカがカリンに襲い掛かった。
下段からの斬り上げ、しかしそれはカリンの剣によって阻まれる。
401 :名無飼育さん :2011/12/16(金) 21:55
そして剣同士が衝突したタイミングを見計らって、カリンが電撃を流す。

「があああっ!!!」

ハルカの体が、痙攣した。
落としそうになる意識と剣を辛うじて繋いだものの、片膝をついてしまう。

「どう?思い出した?私の電撃」
「思い出すも何も、一度たりとも忘れるもんかよ」

憎まれ口を叩くハルカだが、電撃のダメージは決して小さくなかった。

「音剣があっても私に一度も勝てなかったのに、音剣なしで私に勝てるわけないじゃない」
「うるせえ!やってみなきゃ、わかんないだろ!!」

そうだ。
この立ち位置だ。
いつもこの子は、ハルを下に見ていた。
エッグでの稽古の度に、模範試合の度に。
だが、ハルカ自身は騎士団に入り、成長した。最早あの頃の自分ではない。

「・・・なんで、お前が騎士団に」
「何だよ、急に」
「なんでお前が騎士団に入れて、私が入れないんだよ!!」

カリンが大声で、叫ぶ。
カリンはモーニング騎士団の入隊希望を出していた。その前にスマイレージ国軍の入隊試験に失敗していただけ
に、彼女の願いは強かった。
しかし、運命は彼女を選ばなかった。国王の推薦つきで騎士団に入隊したのは、ハルカだった。
その鬱屈した思いが、今爆発する。
402 :名無飼育さん :2011/12/16(金) 21:57
「お前さえ!お前さえいなければ私が騎士団に入れてたんだ!」

カリンが振り上げた「ハシニモボウニモ」がハルカの右肩にヒットした。直後に強烈な電撃が走る。
ハルカはたまらず地面に伏せてしまう。そこへ容赦ないカリンの追撃。最早一方的に相手を打ち据えている状態
だった。

「確かに・・・ハルはエッグ時代、一度もあんたに勝てなかった。そしてそんなハルが、騎士団に選ばれた」

地面に伏せたままのハルカが普段よりも更に低い声で、言った。

「そうだ!お前は私より弱い!なのに、どうして!!」
「これからそれを証明してやろうと思ったけど、生憎得物がないんでね。これでカンベンしてくれないかな・・・?」
「何を言って・・・」

そこでカリンが気づく。
ハルカの手に、真っ赤な宝石が握られていることに。

「ハルの目的はあんたの足止めだ。勝負はまた今度にしようや」
「何をする気だ!魔法使いでもないお前がそんなものを使ったら・・・!!」

カリンが言い終わる前に、ハルカの手の中の宝石がまばゆい光を放つ。
部屋中が、紅蓮の炎で満たされた。
403 :名無飼育さん :2011/12/16(金) 21:57
404 :名無飼育さん :2011/12/16(金) 21:57
405 :名無飼育さん :2011/12/16(金) 21:57
406 :名無飼育さん :2011/12/16(金) 22:00
>>388
クジュッキーズはバラエティ豊かな人材が揃ってて助かります。
407 :名無飼育さん :2011/12/17(土) 12:59
ハキュッキーズも面白いよ
408 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 21:46
409 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 21:49


ユイコマンとハルナの目にも止まらぬ争いが、続く。
実力では年長のハルナのほうが上回る。しかし、ユイコマンが使い慣れたジャマダハルを駆使しているのに対し、
ハルナは屋敷で拾ってきた短剣2本。これは彼女を圧倒的に不利な立場にしていた。

どうにかしてユイコマンの武器を封じないと・・・

ユイコマンの左の一撃を、交差した短剣で受け止めるハルナ。そこへ右から迫る、ジャマダハル。左を弾き、右を
身を屈めてかわす。

「いつまでもその手が通用するとは思っていないだろう。お前には防御を捨ててかかってくるしか、勝つ方法は
無い」

彼女の言うとおりだった。
ハルナが愛用している防御用双剣ならいざ知らず、ジャマダハルの質量を、そう何度も受け止められるような短剣
ではない。ユイコマンの一撃を受けるたびに刃は欠け、腕に鈍い衝撃が走る。一歩間違えればジャマダハルの刃が
防御を突き抜けて、ハルナの体を貫きかねない。

ハルナが構えを、防御主体から攻撃主体のそれへと移す。
そうだ、それでいい。ユイコマンは言葉に出す代わりに、自らの拳を振り上げる。
ジャマダハルの刃がハルナを一刀両断、と思いきやその姿が空に掻き消えた。

「使ったな。『宵翔』を」
410 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 21:50
右へ。左へ。
空中高く飛び上がり、壁を蹴って反対側の壁に、そこからまた壁を蹴って天井、そこから急降下。
超高速で何度もその行為を繰り返すことで、残像を作り出す技。それが「宵翔」、ハルナがラブベリー在籍時に得意
としていたものだった。

できれば使いたくなかった。ただ、これは人を殺める技ではないから・・・

自ら言い訳をしながら、「宵翔」をし続けるハルナ。
ユイコマンは構えるでもなく、平然とその姿を見ている。

「相変わらずの『宵翔』だな。けど、それはお前の双剣の剣捌きがあってはじめて功を奏する。こんなものは、ただ
の目くらましだ」

そして狙いを定め、本物のハルナに向かって刃を突き出す。
硬く、鈍い手ごたえ。
ユイコマンが貫いたのは、チョコレート色の布切れと、壁。
ハルナが懐に隠し持っていたものだった。

拳を引き抜こうとするユイコマンを、ハルナの蹴りが襲う。
ジャマダハルは壁に突き刺さったまま、ユイコマンの腕は蹴り上げられた。

「ちっ!!」

咄嗟に後ろに下がるユイコマン。
右腕はもうジャマダハルを握れない。それ以前に、取りに行く暇もない。
しかもジャマダハルは両方の手に収まる事で初めて威力を発揮する武器。必然的にもう片方のジャマダハルも捨てざ
るを得なかった。

「これで、五分と五分の勝負だね」
「ふん…『宵翔』で消耗しきったお前など、片手一本で十分だ」

互いに、拳を構える。
彼女たちは武器が使用不能になった場合に、徒手空拳での戦闘にも対応できるよう。それこそ地獄のような特訓を受
けてきた。暗殺者にとっては、相手が死ぬか、自分が死ぬか、どちらかしか道は無いのだ。
411 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 21:52
「せやあっ!!」

ユイコマンが仕掛ける。
頭部へのハイキック。ハルナがそれを右手で捌きつつ、左足でのミドル。ユイコマンの肘に阻まれる。ハルナが
空いた手での貫手、ユイコマンが手首から掴み止める。それを支えに蹴りを加えながらの宙返り。入り乱れるよ
うな攻防が連続する。

「しぶといな。ただ、体力勝負では私が勝ちそうだ」

ハルナは肩で大きく息をしていた。
スタミナをひどく消耗しているのは、明らかだった。

「今楽にしてやる」

ユイコマンが左手を貫手の形にする。
身構えようとするハルナ。それよりも早く、ユイコマンの指先がハルナの喉元にめり込んだ。
しかしそれは、残像。

気づいた時には、ユイコマンは鳩尾にハルナの強烈な蹴りを喰らっていた。
その勢いのまま、壁に衝突し、倒れこむ。

「まさか・・・もう一度『宵翔』を使ってくるとはな」
「あなたが喉元を狙ってくるのはわかってた。だから一瞬だけの『宵翔』で済んだ」

暗殺者なら、一撃で相手を仕留めなければならない。
得物が素手だけになった場合、最も狙いやすい急所が薄い皮膚に覆われた、喉。ラブベリーの中で嫌と言うほど叩
き込まれた、基礎だった。

「やはりお前は・・・根っからの暗殺者だな、ダン・ハウ」
「違う。私はもう、捨てたんだよ。暗殺者としての過去も、そしてダン・ハウという名前も」
「いや・・・お前は捨てられないよ・・・闇に塗りつぶされた過去は、そう簡単には消えやしないさ・・・この・・・私の・・・よ
う、に・・・」

それだけ言うと、完全にユイコマンは気絶してしまった。
緊張の糸が緩んでしまったかのように、ハルナもまた壁に倒れかける。それを渾身の力で、踏みとどまった。

ユイコマンは倒した。屋敷の中に彼女以上の使い手がいるとは思えない。けど。

何か、胸騒ぎがする。
ほとんど、勘に近いものだった。
ハルナは前を目指し歩き続ける。けれど、それがユイコマンの残した言葉から逃げることへの代替行為だということ
を、彼女自身、気づかずにいた。
412 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 21:52
413 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 21:53


その頃、エリポンとマサキは通路の奥、扉の前に来ていた。

「この中にベーヤンと商人がいるはず。こうなったら家宅捜索だよ。せーの、で中に飛び込むとよ」
「りょーかい!」

覚悟を決めて、扉を開けようとする二人。
そこに、どこからともなく声がする。

「ベーヤンが雇った連中も、だらしないな」

一瞬だった。
エリポンの首に、銀色の刃が当てられる。

「一歩でも動いたら、喉をかき切る」

エリポンの背後に、黒い皮コートを着た女がいた。
肩までかかる髪に、冷たい目。子供が見たら震え上がるような顔ではあったが、マサキは彼女を見たことがあ
った。

「・・・この人、どこかで」
「それ以上言うと、このお姉さんの首と胴体はサヨナラだから。今ミキは『掟神』って名前で通ってるんだよ
ね」
「え?置き去りにされた髪?」
「どこをどうとったらそんな名前になるんだよ!掟神だよ、お・き・て・が・み!!」
414 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 21:55
その隙をついて、エリポンが棒を首と刃の間に滑らせ、跳ね除ける。
素早く後ろに下がり、体勢を整えた。
そこで初めて相手の顔を見たエリポンが、思わず声を上げる。

「あ、あなたは」
「もうさあ、どいつもこいつもミキの顔見てそんな反応しないで欲しいんだけど。でも、そういう人たちはみん
な死んじゃってるから、問題ないんだけどね」

見間違えようが無かった。
王国騎士団訓練所の歴代騎士たちの肖像画に、目の前の絵があった。それは、彼女がかつてモーニング騎士団に
在籍していたということ。

ミキ・スカルプ・ティボーテ。
王国北方の真ん中らへんで生まれ育った彼女は17の時にソロ王国の法王となるも、ある事件がきっかけでその
地位を失い、ツンクボーイ王の伝手によってモーニング騎士団に入団。在籍時は「狂犬」の二つ名で恐れられ、
また当時の騎士団長ヨッスィ・ベーグルリングを支える副団長として活躍した。

ところが、ヨッスィが団長を退位しミキが騎士団団長に就任して1ヶ月足らずで、団長の座を退き、再びソロ王
国の法王に復帰。ツンクボーイ王の怒りを買い、ソロ法王国とモーニング王国は一触即発の危機状態となった。
この状態はミキが法王の職を辞して行方をくらますことで解消されるが、ミキの起こした一連の流れは、二つの
国の間に未だに暗い影を落としていた。
415 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 21:56
「元王国騎士団長のあなたが、どうしてこんなところに?」

棒を前に構えたまま、エリポンが問う。

「ミキさあ、束縛されるのって嫌いなんだよね。法王だとか、騎士団長だとか、そういうものに興味がなかった
だけ。誰もミキを縛る事なんかできない」
「それはご立派。で、エリポンたちのこともできれば縛らんで欲しかねえ」
「それは無理だから。だってミキ、サディストだもん」

ミキの姿が消える。
疾風の如く、右、左から斬撃が飛ぶ。
エリポンはそれを防ぐのがやっとだった。見ると、防いだ棒の部分が、ざっくりと切り取られている。

「どうする?その短さじゃもうミキの攻撃、受けられないと思うけど?」

強い。
エリポンは相手の底知れない実力を肌で感じる。
ガキサンと同等、いや、それ以上かもしれない。棒を握る手が、強張る。
しかしそれ以上に、相手に自分が遊ばれていることに気づく。あの目にも止まらぬ疾さがあれば、エリポンを倒
す事など造作もないだろう。むしろ、刃をわざと棒に当ててくれているようにさえ思える。

「元騎士団長に稽古をつけてもらうつもりはないんですけど」
「そう見える?ミキはただ、いたぶって遊んでるだけだから」
「・・・あんたと遊んでる暇なんて、ない!」
416 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 21:57
普段はぽけっとしているエリポンだが、意外や意外、負けず嫌いで激情の持ち主でもあった。
両端を切られた棒を手に、ミキに立ち向かう。こいつが、こんなやつがガキサンより強いわけがない。一瞬でも
目の前の女をガキサンより上に置いてしまったことを、彼女は後悔した。

エリポンの怒涛の攻めのラッシュ。
ミキは攻撃に出てこない。もしかしたら秀でているのはその素早さだけで、受けに回ると意外と脆いのかもしれな
い。勝機はおそらくそこにある。エリポンが確信に近いものを感じたその時。

「あんた騎士団の一員だよね。ミキがいなくなってから、すっかりレベルが落ちたもんだなと。退屈過ぎて欠伸が
でるんですけど」
「なにっ?!」
「早いけど、遊びはおしまい」

本当に、あっという間だった。
何回斬られたのかすら、わからないままエリポンは切り刻まれ、そして倒れた。
417 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 21:59
「じゃあ、次はあんたね」

ミキの目が、マサキに向けられる。
蛇のように冷たい視線に、マサキの全身から冷や汗が流れた。

「こ、来ないで!来たら、魔法撃っちゃうんだから!!」
「へえ。丸腰で撃てるの?」

言われてはじめて気づく。自分が宝石を持っていないことに。
ハルカに手渡したきりだということに。

「う、撃てるもん!まぁちゃん、大魔法使いなんだから!!」
「ミキさあ、そういう子供のつまんない嘘、大っきらいなんだよね。て言うかミキが子供を斬らないとか思ってる?
はずれー、ミキは子供が泣き叫ぶ顔が大好きなのでした」

一歩ずつ、マサキを追い詰めるミキ。
その顔はまるで獲物を狙い済ました肉食獣のようだった。

マサキの背中に、ひんやりとした感触が伝わる。後ろは壁、もう逃げ場は無い。

「大丈夫。一思いにやってあげるから」

口の端を歪めて笑うミキが、マサキの体を壁に押し付け、そして手に持ったナイフを突き立てた。
しかしナイフが抉ったのは、マサキの顔の横の壁。
418 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 22:00
「おかしいな。もう一回」

がりっ。
硬いものを削る音が、マサキの耳に響く。
右に、左に。何度も、何度も。
そのうちマサキは、ミキが「わざと」ナイフを外している事に気づく。

「そろそろばれちゃうかな?ミキがやってること。だって子供の泣き叫ぶ、青ざめた顔が見たいんだもん」

だが、ミキの思惑とは違いマサキは怯えたり、泣いたりしなかった。
毅然と、ミキに強い視線を返す。

「まぁちゃんは負けない!あんたみたいな性格のひねたやつなんかに、負けない!!」
「言うねえ。じゃあリアルにミキちゃん、とっとと終わらせちゃおっかなー。終わらせていい?」

ミキから、表情が消える。命を奪う事を何とも思わない、暗殺者の顔。
音もなく振り下ろされるナイフ。だが、通路の向こうから飛んできた何かに、軌道修正せざるを得ない。

「誰だよ」

投げつけられた装飾剣を弾き、ミキが相手を睨みつける。

「誰って言われてもな。ハルは、ハルだし」
「クドゥ!!」
「マサキ、黙って借りてて悪かったな!」

二人の前に現れたハルカが、マサキに向かって何かを投げる。
何とかキャッチしたマサキ、手の感触でそれが何を意味しているかを理解した。

「炎よ!目の前の敵を、焼き尽くせ!!」

ハルカから受け取ったのは、マサキの赤い宝石だった。
瞬く間に炎に包まれる、ミキ。
419 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 22:01
「っしゃあ!大逆転だな!!」
「ありがとークドゥ!でも何でクドゥも黒こげなの?」

マサキのもとに駆けつけたハルカを見て、マサキが笑う。
顔は煤け、来ていた服も所々が炎で焦げていた。

「うっせえなあ。それより、ハルいいもの見つけたんだよね。実はさあ」

マサキの目の前のハルカが、消えた。
いや、正確にはありえない速さで、蹴り飛ばされたのだ。

「ミキに火傷を負わせたのは褒めてあげるよ。ほら、指先がちょっと腫れてるでしょ。お礼に、ミキの力、
少しだけ見せてあげる」

あまりに突然のことに、呆然とするマサキ。
そして蹴り飛ばされた、ハルカ。

「ちっくしょう。なんて蹴りだよ・・・肋骨いっちまったかも・・・」
「肋骨で済んでるうちがまだ幸せだった、と思うけど?」

ミキが一歩、前に出る。
ナイフの代わりに、一本の筆が握られていた。

「もう一度、炎よ!!」

ハルカに意識が向いている隙に、マサキが呪文を詠唱しはじめる。

「・・・うざいんだよ」

マサキの眼前で、ミキが筆で文字を描く。空間に刻まれる、「封」の字。
次の瞬間、マサキの声が奪われた。

「・・・!・・・?・・・!!」

何が起こったのかわからず、口をぱくぱくさせるマサキ。
ミキはそんな彼女の顔を、力任せに殴りつけた。壁に打ち据えされ、マサキは意識を失った。
420 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 22:03
「マサキっ!!」
「あんたは人の心配してる暇あんの?これから死ぬってのに」

再び、ミキはハルカに近づく。
あの筆は、危ない。ハルカの本能が訴えかけるが、思うように体が動かない。カリンとの激戦で体を酷使し
た上に、ミキに強烈な一撃を貰ってしまった。そのダメージが全て、ハルカの体に圧し掛かっていた。

「この櫨魔毛(ろまもう)が描き出す『瘴字』からは、逃れることはできない」

ミキがハルカの目の前に、何かの字を描き出した。そこへ。
二つの影が、ミキに迫ってくる。一人は手斧、もう一人は素手。力任せに振られた斧を体を反らして回避し
たところに、もう一人が拳を叩き込もうと近づいてくる。ナイフを構えることで接近を阻止することはでき
たが、ハルカへの攻撃は中断させられた。

「お仲間が多いことで」

ズッキがハルカに肩を貸し、リホがマサキのもとに駆け寄る。そんな姿を見て、ミキは忌々しげに皮肉を吐
いた。

「あとはエリポンか・・・って、エリポン!?」

ズッキが、倒れているエリポンの状況にはじめて気がつく。
体中のあちこちに切り傷が刻まれ、息も絶え絶え。傷は意外と深く、早々に手当てをしなければいけないこ
とは素人のズッキにも理解できた。

「あんたか?エリポンをこんな目にあわせたのは」
「そうだけど。生きてるのが残念なくらい」
「このっ・・・!」
「ダメだズッキ、こいつやばいくらい強いぞ!!」
421 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 22:04
ハルカの制止で、ようやく自らを踏みとどめるズッキ。

「別にいきり立って向かってこようが、冷静になって向かってこようが、一緒なのに。あんたたちに待って
るのは、死。それだけなのにね」
「それはどうでしょうね」

現れたのは、棒を構えたアユミンと、詠唱の準備を始めているミズキ。
棒を宙で振り回したアユミンが、ミキ目掛け棒の先を叩きつける。さらにミズキが放つ氷の魔法。避けられ
はしたが、相手を牽制するには十分だった。

「ぞろぞろ出てきやがって。どこかの新喜劇かっての」
「あれ、この人もしかしてミキ・スカルプ・ティボーテじゃ・・・」
「誰だっていい、こいつは私たちの敵です!!」

王国騎士団の歴代団員に妙に詳しいミズキが、一目見てミキの正体に気づく。
ただ、今はアユミンの言葉が何よりも大きい。正体など何だっていい。自分たちの敵であることには、何の
変わりもないのだから。

ミキの表情に、明らかな怒りの色が映る。
楽しみを邪魔された上に、次々に現れる増援に苛立ちを覚えていたのだ。

「何なんだよお前ら。そういうコミュニケーションならいりませんから」
「あんたには必要なくても、こっちには必要なんだ」

そう言いながらリホが再び、勢いよく飛び出す。
ミキが手にしている禍々しい模様の筆が、いかにも危ない代物であることは、リホの勘が訴えかけていた。
相手にこの筆を使わせてはならないという危機感が、筆を持つ右手への集中攻撃に形を変える。
422 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 22:05
「ミキ、ナイフも得意なんだけど。あんたの額に「鬱」の字を刻めるくらいには」

そこへ襲ってくる銀の刃。
左で払うも、一瞬、筆を持つ右手が開放されてしまう。それをミキが見逃すはずはなかった。
描かれた字は、「痺」。突然リホの体が弾かれたように、痙攣しはじめる。

「はい二人目」
「リホ!!」

崩れ落ちるリホを見て駆け寄るズッキ、そこへさらにミキの凶暴な刃が降る。
背中に深々と刺さったナイフ、溢れる鮮血。心地よい悲鳴。
そんな光景を想像したミキだったから、自らの目に映る光景は不可思議そのものだっただろう。

「・・・これ以上、私の仲間を傷つけさせない」

ミキの反射神経ですら追うことが出来なかった黒い影。ハルナだった。
前方に差し出した短剣の鍔をナイフにひっかけ、阻んでいた。咄嗟のことに前蹴りを喰らわせようとする
も、ナイフが弾かれた上にバックスウェイをされ、黒い編上靴は空を切る。

「上等だよ。まとめて、皆殺しにしてやる」

真冬の月のように、冷たい表情。
ミキの瞳には、相手の死の色しか見えていなかった。
423 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 22:06
424 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 22:06
425 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 22:06
426 :名無飼育さん :2011/12/18(日) 22:11
>>407
私もいつも楽しみにしてますw
427 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:17
428 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:19
ベーヤン・ヒゲアリスが元メロン国騎士ミュン・シバ・プリペアップに魔導船を横流しした証拠があれば、
それを押さえる。そのための情報収集が、当初の目的だった。
しかし、ハルナがユイコマンに見つかってしまったことで、任務の危険性は飛躍的に上昇した。ハルナは
自らの招いた結果に責任を感じていた。

ただ、今は悩んでいる時間はない。
元王国騎士団団長ミキ・スカルプ・ティボーテ。
彼女を出し抜き、この場を離れないと確実に死が待っている。
一瞬の隙さえ作れれば。
ハルナは残る力を振り絞り、持ち前の俊足で撹乱行動に出る。

「何をすると思ったら、追いかけっことはね」

軽口を叩きつつも、ミキはハルナの速さを最大限に警戒していた。
この速さではナイフで的にかけることも、筆を使う事もできない。
仮にも騎士団団長まで上り詰めたことのある自分の目に捉えられない動き。その事実だけで、神経をハル
ナに集中させるだけの価値はあると踏んでいた。

その一方で、仮にどれだけ動きが素早くとも、攻撃面に関しては恐るるに足りず、とも考えていた。
ハルナの得物は、先ほど手にしていた刃の欠けた短剣。あの矮小な武器でどんな攻撃を仕掛けようが、防
げないものではない。

「でも・・・知ってる?サバンナのシマウマはいかに足が速くても、最期には力尽きてライオンの餌食になっ
ちゃう。あんたはミキにとっての、シマウマだ」
429 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:20
そう。
ミキはハルナのスタミナ切れを待って反撃に移るつもりだった。
牽制で飛んでくる攻撃に力が無い。これは、動きに全力を傾けている、つまり攻撃に回す力は残っていない
という結論を出す。

ハルナが繰り出す短剣の一撃に、ミキも自らのナイフを合わせる。攻撃が軽い。ミキは自らの考えが正しか
ったことを確信した。その時視界の外から、ズッキが斧を掲げ飛びかかってくる。

「ちっ、邪魔なんだよ!」

近づくズッキを、蹴りで牽制。
しかし仕留めるにはほど遠い。ハルナに意識が集中しているからだ。

そして今度は背後から、アユミンが袈裟懸けに棒を振り下ろす。
紙一重でかわしたつもりのミキだったが、僅かに棒の先がミキの肩を掠める。

どうしても目の前で動き回るハルナから、目が離せない。
常軌を逸したスピードで移動する物体に、意識が集中してしまうのは避けられない。

くそ、これが狙いか!!

次は正面から現れたハルカによる、剣の刺突。軌道から体を外したはずだったのに、剣の切っ先がミキの皮
コートを斬る。後ずさるミキを更にアユミンとズッキが追い詰める。

「ああ、うざったい!!」

辛抱たまらなくなったミキが、ハルナから視線を外し、ようやく三人に対する迎撃体勢を取る。しかしそれ
こそがハルナの本当の狙いだった。

超高速の動きで、ミキの背後を取る。
気づいたミキがナイフで応戦しようとした。が、ハルナの手には短剣は握られていない。刃を狙ったナイフ
は空を切り、ハルナの手刀がミキの頸部を直撃した。

確かな手ごたえだった。
ミキの体は床に向かって吹っ飛んでゆく。
430 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:22
「おっしゃあ!!」
「やったねハルナちゃん!」

ハルナのフィニッシュを自分のことのように喜ぶ同期二人。
ズッキも最後のハルナの鮮やかさに、思わずため息を漏らす。

「まったく、なんて後輩だよ」
「でも、私が攻撃できたのもズッキさんやアユミン、ハルカちゃんのおかげだから」
「ははっ、何言ってやがんだよ・・・」

ハルナの変なヨイショが始まったので、頭を小突こうとしたハルカだったが、その動きが止まる。
今度こそ仕留めたはずの相手が、平然とした顔をして立っていた。

「お前ら、楽に死ねると思うなよ」

そして櫨魔毛を構え瘴字を描く。
様子が、違っていた。
通常であれば相手に向け呪いの字を書き出すはずが、自分自身に向かって、筆を進めていた。
書かれた文字は、「装」。これが何を意味するか、その場にいた全員がすぐに知る事となる。

ミキの全身が、まばゆい光に包まれる。
そして消えてゆく光とともに現れたのは、黄金の甲冑と猛獣のような仮面を身に着けた、魔人。
手には、同じく黄金の剣が握られていた。

あっという間の出来事のはずなのに、全員の目には全てがスローに映っていた。
剣を斜めに構えた魔人。流れるようにハルカたちの真ん中に入り、そして。

切り刻んだ。

全員の体から斬られた傷が、そして血が噴き出る。
自らが剣戟に切り刻まれるまでの光景を目にしながら、誰一人としてその状況を理解していなかった。
ハルナだけが、咄嗟に前方に出した短剣によって斬られるのは防いだが、衝撃の強さで刃身が折り取られて
いた。

「『暴走列車(ブギートレイン)』を受けて立ってる人間、はじめて見た」

ハルナと魔人の目が、合う。
それは最早、目ではなかった。暗闇に満たされた、ただの虚。

「でも、逆に言えば苦しみながら死んでいくだけの話だろうけど」

魔人となったミキが、剣の切っ先をハルナに向ける。
431 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:23
ハルナの視線は、ミキのほうではなく、ミキに切り刻まれた仲間たちのほうへと向けられていた。
ハルカが、ズッキが、アユミンが血の海に倒れている。早急な手当てをしなければ、助からないだろう。エ
リポンも身動き一つしていない。リホはミキの放った瘴字に未だに苦しんでいる。マサキとミズキは地に伏
したまま、動かない。気絶しているだけなのか、それとも。

なんで、なんでこんなことに。

自分でもよくわからないうちに、ハルナはアユミンの使っていた棒を拾い上げていた。
二つにへし折り、折れた先を短剣で削ぐ。

「命乞いでもすると思ったら、まだやる気?別にミキはいいけど」

そこへ、奥の部屋のドアが開かれた。
この館の主、ベーヤン・ヒゲアリスだった。

「騒がしいな・・・な、なんだこれは!!」

さすがのベーヤンも目の前の惨事に慌てふためく。

「見ればわかるでしょ。王国騎士団が、あんたのこと探りに来たんだよ」
「その声は…掟神か!」

通路に倒れている少女たち。
何が騎士団団長の名代だ、忌々しい。
自分のことを調査するために騎士団員をパーティーに送り込んだガキサンを恨みはしたものの、思い直し、
下卑た笑みを浮かべる。
432 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:25
「さすがは掟神だ、残るはそのガキだけか。手早くやってくれたまえ、事が発覚する前に、本格的に国外
脱出を考えなければならないからな」
「…『暴走列車』は立っている人間全てを標的にする。死にたくなきゃ扉を閉めて引っ込んでな。ヒゲお
っさん」

ミキの物言いに憮然とするベーヤン。
しかし相手が纏っている、禍々しい造形の黄金の鎧は彼を黙らせるには十分だった。

「わ、わかった。なるべく早く済ませ…」

ベーヤンが後ずさり扉を閉めようとした時だった。
まるで一陣の風のようにベーヤンの横を通り過ぎる影。ミキが気づき追撃しようとするが、移動と同時に
投げられた鋭い木の棒に阻まれる。

言うならば木の棒手裏剣、それを黄金の剣で叩き落し、扉の前に立ち尽くしているベーヤンを蹴り倒し部
屋の中に入るミキ。ハルナの姿を見て、舌打ちをする。

ハルナの手には、二振りの剣が握られていた。
貴族、特にベーヤンのような金回りのいい人間は、コレクションとして自分では使えそうもない高価な剣
を飾っておいたりするものだ。
名剣「ガーリールーム」と「クーボ・ヴォン」。かつて名工が素早さを身上とする戦士のために打ったと
される剣だが、ベーヤンがオークションで競り落としてからはただのインテリアに成り下がっていた。そ
の剣たちが、ようやく日の目を見る。
433 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:26
「許さない。ミキ・スカルプ・ティボーテ!!」

二つの剣を手で回し、感触を確かめる。
悪くはない。少なくともさっきの短剣よりは余程使えそうだ。

「許せないのはこっちのほうなんだよ!!」

ミキが剣を手に、ハルナに襲い掛かる。
大きく跳躍し、天井に釣り下がっていたシャンデリアを切り落とす。
計り知れない重量を持つそれが、ハルナ目がけて落ちてくる。
大きく右に避けるハルナを、待ち構えていたようなミキの太刀筋が降り注いだ。。

袈裟懸けに斬りつけようとした剣、ハルナはそれを右の剣で受け止める。
代わりに左の剣を横に振るう。ハルナの受け手を弾き、返す刀で逆に防御する。

「ちょこまかとうるせえ足だ!」

攻撃を防いだ剣を、そのまま押し返す。ハルナの体が後ろずさるその隙に、下段へのなぎ払い。しかしこれ
はハルナの反射神経の速さでジャンプでかわされてしまった。大きく空振る剣の太刀筋に発生する背後の死
角。そこにハルナは飛び込んでいた。

静かに、それでいてまっすぐに剣先をミキの首のうなじの部分につき立てる。
だが、ミキの黄金の鎧によって切っ先は一ミリも中を穿たないまま弾かれてしまった。

「てめえ…ただの騎士団員じゃないな」
「道楽で暗殺者を名乗ってる人には、何も語る必要ない」
「言うじゃねえか!!」
434 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:27
ミキが4人がけの大きなソファーを、片足で蹴り飛ばす。
吹っ飛んできたソファーを一瞬でバラバラにするハルナ。その影からミキが飛び出してくると思っていたハ
ルナだったが、ミキは逆に間合いを取り離れた場所にいた。

剣を、斜に構える。
先ほど繰り出した「暴走列車」の構えだった。

「さっきは立っていられたみたいだけど、奇跡は二度起こらない」

溜められた力が、一気に開放された。
高速の間合い詰め、眼前に迫ったハルナの体を袈裟斬り、そこから刀を返して逆の袈裟斬り。×の字に切り
捨てられたかに見えたハルナの姿が、掻き消える。

「!!」

再びハルナがミキの背後に。
つき立てられた剣は、またしてもミキの鎧に阻まれる。

「さっきから同じとこばっか。馬鹿の一つ覚えかよ」

ハルナは答えない。
彼女の心は最早、暗殺者時代のそれに戻っていた。
ミキを殺す。ただその意志だけが、頭に渦巻いていた。
435 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:29
「その悪あがき、うざったいから終わらしてあげる」

三度、ミキが剣を構える。
「暴走列車」か。ハルナは自らの限界を超えて「宵翔」を使う。たとえこの身が崩れようとも、刺し違えて
でも、ミキを殺す。彼女の心には、一片の後悔すらなかった。
残像のハルナに向かって、間合いを詰めツバメ返しのモーションに入る。それを確認してから、ミキの背後
を取ろうと大きく跳躍した。

ところが。
残像が掻き消えた後も、ミキは剣を振り続ける。
高速の太刀筋が幾度も幾度も重ねられる。空気を切り裂き、真空状態となったかまいたちが、跳躍して無防
備のハルナに襲い掛かった。

「ああああっ!!!!」

空中で何度も切り裂かれたハルナは勢いを失い、床に落ちてしまう。
「暴走列車」の派生技である「列車乱蜘(トレインランチ)」。ミキの切り札の一つだった。
地に這い蹲る相手を前に、黄金獣の甲冑がゆっくりと近づいていった。

「『甦狼(ソロ)』のミキを追い詰めたのは褒めてあげる。ご褒美は…黄金の剣」

ハルナの背中を踏みつけ、自分がされたように首筋目がけて刀身を振るう。
ミキの両手に、硬い手ごたえが走った。
背中越しに、二つの剣がミキの黄金剣を挟みつけていた。

ひねりを入れて剣を弾く勢いで、仰向けに返る。そこから、足だけの力で高く跳躍し、そしてミキの首を足
で絡めとった。

「何だよ、また首筋を…?」

ミキの首筋を防護している、黄金の鎧。
ただその淵が、わずかに欠けていた。

「あなたの敗因は、最後まで私を侮っていたこと。暗殺にかけては、私のほうが上だ」

表情のない顔で、まっすぐに鎧の隙間に剣を突き入れる。
終わった。暗闇の中でその言葉だけが浮かび上がる。
それが間違いであったことは、拳のような強い力で殴り飛ばされた時にはじめて気づくのだった。
436 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:30


「ミキたん、何遊んでんのさ」

吹っ飛ばされ、木っ端微塵になった応接机に埋もれたハルナが、そんな声を聞く。
ミキが黄金の鎧を解除し、元の黒い皮のコート姿に戻った。

「遊んでたわけじゃないけど。てか何しに来たの、アヤちゃん」

アヤと呼ばれた女はあからさまに頬を膨らませた。

「あの子からの招集だよ」
「はぁ?あの計画にはうちら関与してないじゃん」
「国内での仕事だって。風通しを良くするための、ってあの子は言ってたけど」

ミキが眉をしかめる。
アヤの言う「あの子」のことがあまり得意ではないようだった。

「で、どうすんのこの子」
「殺す。それがミキの、けじめだから」

黄金の剣もまた、ナイフに戻っていた。
それでもハルナの命を奪うには十分すぎる代物ではあったが。

「じゃあね。いろいろあったけど、楽しかったかな」

無慈悲に振り下ろされる、死神の刃。
それを止めたのは、他ならぬアヤであった。

「ちょっとストップ、たん」
「え?何よ」

アヤが身構える方向を、ミキが向く。
一人の少女が、立っていた。マサキだった。
437 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:31
「何だよお前。生きてたのか…殺すのはこっちが先かな」

ゆっくり、ゆっくりとマサキに近づくミキ。
突然、背筋に冷や汗が流れる。様子がおかしい。
マサキの瞳が、緑色に変わっていた。いや、そんな変化は些細なことだった。

指先に、集まる光。
その指先を、前方に差し出す。放たれる、閃光。
ミキの頬をかすめ、その後ろに飛ぶ。振り向くと、壁に大きな穴があいていた。

「アヤちゃん」
「わかってる」

瞬時に、目の前の相手を危険な人物と判断する二人。
どんな魔法を使ったのか知らないが、相手は魔法使いだ。詠唱する前に、叩けばいい。
二人が経験してきたことから導き出された、最良の選択肢。
しかしそれでも、彼女たちは甘かったと言わざるを得ない。

「みんなを、みんなをいじめるな!!!!!!!」

マサキが、大きな声で叫んだ。
周囲の空気が、急激に熱せられ、爆発する。

壁が、床が、そして天井が燃え上がる。
上から、そして下から逆巻く炎の渦はまるで地獄絵図のようだった。

馬鹿な。
この魔法力は、大魔導士クラス?いや、それ以上。
あの魔法を受けたら、例えミキが「甦狼」を纏ったとしてもひとたまりもないだろう。
ミキは突然発生した回避不能な状況に、焦燥していた。

焦りを感じているのはアヤも同じだった。この状況を切り抜けることが、できるのだろうか。
試しに、ハルナが使っていた剣「ガーリールーム」を拾い上げ、投げる。
まっすぐにマサキに向かって飛んでいった剣は、マサキの目の前で溶けるようにして消えていった。
438 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:32
「高度の魔法障壁だね。やばい、あたしらここで死んじゃう」
「はぁ?マジありえないんだけど」

そこへ、ぱたぱたとその場に相応しくない足音が。

「みんなーお待たせー!もぉが来たからには、大丈夫!!」

突然現れた、ツインテールのメイドにしばらく目が点になるアヤとミキ。

「あれ、何か結構やばい状況?」
「お前、誰だよ」
「みんなのアイドル、ももちでーす」
「ふざけるな!!」

部屋の外の少女に斬りかかるミキだが、見えない壁に阻まれてしまう。

「うふふふ。それではみなさんごきげんよう」

いつの間に、ハルナとマサキも含めた全員が部屋の外に。
そして少女がなにやら詠唱を始めると、次の瞬間にはその場から消えていた。

「ちっ、逃げられたか。何だよあの地味な顔の女」
「さあ?」

あまりに突然の出来事に、狐に摘まれたような顔をする二人。しかし周囲を爆ぜる炎に包まれていることに
気づいて、我に返る。

「て言うかどうすんのこれ」
「まったく。たんがこんなとこで遊んでるから。屋敷にいた貴族のお偉いさんたちはとっくにお逃げになっ
てるみたいよ?」
「ベーヤンもとんずらこいてるみたいだし、任務完了。さっさと戻ろっか」

ナイフを腰に仕舞い、歩き出すミキ。
アヤがその後ろをひょこひょことついて行く。

「ミキたん格好つけてるけど、これ仕事失敗なんじゃない?」
「は?雇い主が逃げたから、ノーカウント」
「そういうことか」
「そういうこと」

燃え盛る炎の向こうに、二人の姿は消えていった。
439 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:32
440 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:34



ベーヤンの誕生パーティーから、二日後。
ベーヤンの邸宅が炎上・消失するという事態を招いた今回の事件は、ベーヤンの経営する武器商会が他国を
も商圏としていたため国内外に大きな影響をもたらした。
当初、王国騎士団による潜入調査と称した不法侵入と放火を主張していたベーヤンだったが、あるものがそ
の証言を覆す。

ミュン・シバ・プリペアップとの、魔導船の取引に関わる書類。これが騎士団側の証拠品として提示された
のだ。屋敷から持ち帰ったのは、騎士団員ハルカ・クドゥ。地下室の書庫にて宝石を使用し爆発を起こした
際に、床が抜け隠し部屋へと落下。そこはベーヤンがこれまで秘密裏に行ってきた闇取引の証拠となる書類
の保管庫だった。そこから件の書類を持ち出し、騎士団長ガキサンの手に渡ったのだった。

ベーヤンは即時投獄、書庫には王国情報局の調査が入る事となる。
これだけならば、ハルカたちの潜入調査は大成功と言えるだろう。
ただ、払った犠牲は決して大きいものではなかった。地下室での死闘、特に元王国騎士団団長のミキ・スカ
ルプ・ティボーテとの戦いによって全員が酷い怪我を負うことになった。
怪我の状況が比較的軽かったハルナ、絶対安静の条件付ながら歩く事も話す事もできるハルカ。彼女たち以
外はいずれも命に関わる重傷だった。

そしてマサキは。
あまりに急激に魔法力を使い果たしたせいか、あの日からずっと眠ったままだった。
何故駆け出しの魔導士のはずのマサキが、あのような大魔法を使う事ができたのか。全員が気絶している中
の出来事の上、当の本人は地上に脱出した直後に気を失い、語る言葉すらない。
441 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:35
442 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:36


「くそ!あの人が・・・ミキティが関わっているんやったら、絶対あいつらをベーヤンの屋敷になんか、寄越さ
えんかったのに!!」

机を激しく叩き、叫ぶミッツィー・ボーンブレイク。
今回の出来事は彼女にとってもまったくの予想外であることは間違いなかった。

王国情報局内の一室。
王都厳戒体制中に起こったこの事件。国王を補佐する元老院の一員が、国に仇成す所業の片棒を担いでいたと
いう事実に対する今後の対策を検討するため、騎士団幹部全員が集められていた。

「元王国騎士団副団長で、1ヶ月足らずだったけど騎士団長もやってた人が闇の世界の住人になってるなんて、
前代未聞なの」
「まあ、あの人ならやりかねないけんね。れいなちっとも驚かん」

サユ・ナルシスペ・ドフィリアとレイニャ・ヤケンが顔を見合わせてそんなことを言う。

「とにかく、ミキティが生きていた。これは我々王国騎士団としては絶対に見過ごせないことだよ。あの二人と
違って公式に何かをやったわけじゃないけど・・・騎士団を存続の危機に陥れた張本人なのは間違いないから」

沈痛な面持ちで、ガキサンが語る。

「今朝方、国王より追討の勅令が出たよ。近い内に、私たちのうちの誰かが、追討部隊の指揮官に任命されるかも
しれない」
「かつての仲間をこの手で、か。ツンクボーイ王も相変わらず慈悲がないなあ」
「いや、これは最大の慈悲だよ」
443 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:37
ふて腐れたように言うミッツィーを、ガキサンが窘めた。
かつての仲間をこの手で討つ。他の誰かにさせるくらいならいっそのこと自分が。ともに時間を過ごしてきたから
こそ、至れる境地でもあった。

「そう言えばツンクボーイ王は」
「昨日の晩に急いでマノソロ法王国に発ったの」
「ミキティが今も自由に動いていられるのは、法王国にも責任の一端はある。王自らマノ法王に抗議しに行ったそ
うだ」

そう、法王国が最後にミキを追放した時に厳正なる罰を与えていればこんなことにはならなかった。かつての法王
だったということで、ミキの代わりに即位したマノ・エリ・コールレインが温情処分を下し、何の咎めも無いまま
ミキは行方をくらませたのだった。

「でも厳戒体制中に一人でほっつき歩いて、大丈夫っちゃろか」
「王国近衛隊のユキドンさんとイナヴィアさんが一緒らしいから、大丈夫なんじゃないかな」

王国近衛隊。
国内はもちろん、対近隣国への有事に当たる騎士団とは違い、王城に配備され王の命を守ることを最上の任務とす
る部隊。その性質ゆえ、全容は騎士団の幹部である彼女たちすら知らなかったが、ユキドンとイナヴィアという女
性とは面識があった。

「それはともかく、今回のこと・・・全部うちの責任ですわ。ほんま、すんません」
「もうミッツィーはいつまでもくよくよしない。命が助かっただけでもよしとしないと。それを言うなら団長の私に
も責任はあるけど、彼女たちもこれを機に一回り成長したと信じてるよ。だからさ、元気出しなよ」

浮かない顔のミッツィーを励ます、ガキサン。

「そうそう、ぶすっとしてると可愛くない顔がもっと可愛くなくなるけん」
「れいなの言うことはたまに洒落にならないの」

くそ、お前ら寝てる間にその顔、車椅子の車輪でひいたる。
穏やかではないことを考えるミッツィーだった。
444 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:37
445 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:39


一方、王国騎士団訓練所。
リハビリがてらに訓練所内を散歩するハルカに、団員たちが次々に声をかける。

おいおい、ハルはスターかよ。

確かにあのミキ・スカルプ・ティボーテと剣を交えたのだ。彼女のことを伝説的存在としている新人たちからすれ
ば、ハルカは間違いなく英雄だろう。
しかしその内容と言えば、ほぼ一方的に叩きのめされただけだ。負け戦なのによくやった、と言われるのはハルカ
の性格からして到底受け入れられる話ではなかった。

かと言って、部屋に戻ればハルナがいるしな・・・

事件後、ハルカとハルナは一時的に同室になることになった。
あれだけの死闘を繰り広げた後だ。二人でいることで、少しでも精神的な傷の緩和になれば、という騎士団上層部
の計らいであった。

しかしハルナは、ずっと思いつめた顔して空を見ていた。
最初は色々声をかけてみたが、やがて諦めてハルカはハルナを放っておくことにした。地下室で会ったユイコマン
のこと、ハルナの超人的な素早さ、色々聞きたかったけれど、全て呑み込んだ。時が経てばいずれ話してくれる。
そう信じていたからだ。
446 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:40
「ただいまー。ったく嫌んなるぜ。あっちでもキャー、こっちでもギャーだよ。せっかくの散歩なのに気が散る
っての」

自室のドアをあけ、必要以上に明るく、そんなことを言うハルカ。
その言葉が、どこに向かうこともなく空中で消えてしまうことにハルカは気づいた。

ハルナの姿が、見当たらない。
荷物はそのままだが、彼女が愛用している双剣が、姿を消している。

ふとテーブルの上を見ると、置き手紙が。
ハルカはそれを乱暴に手に取り、広げた。


ハルカちゃんへ。

私はやはり、騎士団の一員には相応しくなかったみたいです。
けじめを、つけてきます。さようなら。

                                       ハルナ・メッシ

「なんだよ・・・これ」

ハルカの中に、憤りがこみ上げる。

ハルたち、仲間じゃなかったのかよ。何だよさようならって。こんな紙切れ一枚で、何だってんだよ、ちくしょう!!

怒りに任せ、手紙を丸め、投げ捨てる。
丸まった紙は、弾むことなくぽそりと床に落ちていった。
447 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:40


第七話「因縁」 了


448 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:41
449 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:41
450 :名無飼育さん :2011/12/22(木) 09:41
451 :名無飼育さん :2011/12/24(土) 21:57


ベリーズ領デレシン砦。
敵襲の一報が砦を管理するマイハ・クゥーンの耳に入ったのは夜も深まるころだった。

「・・・やはり動いたか」

マイハはそのことをまるで予測していたかのように、ひとりごちる。
メグの性格からして、この膠着状態を良しとするはずがないと思っていたからだ。

「どうします。我々も応戦しますか」
「そうですね。ユリナとマーサを呼んでください」
「はっ!」

伝令がマイハの執務室を後にする。
程なくして、背の高い二人の少女が部屋に入ってくる。

「はーい、来たよー」
「こんな夜更けに何?」

ベリーズ軍の矛と盾と呼ばれている二人が、口々にそんなことを言う。無理も無い。普段なら夜警に当たる兵士以外は
とっくに眠りについている時間だ。

「メグが小隊を率いて攻めてきた。どうやらたった数十人でこの砦を落とす気らしい」

マイハが真顔でそう話す。
彼女が冗談の類を得意としないことは目の前の二人は十分承知していた。

「まあメグらしいよね」

縦に長いほうの長身が、他人事のようにため息をつく。
ユリナ・クマ・エレポール、その異能から「ベリーズの盾」と称される戦士だ。

「メグならやりかねないと思ってたよ」

まるで今回のことを予見してたかのように語る、横に長いほうの長身。
マーサスド・リバウンド。圧倒的な攻撃力を誇る彼女は「ベリーズの矛」の異名を取っていた。

「とにかく、ここを落とされるわけにはいかない。迅速に、相手を撤退させてほしい」
「何、撤退だけでいいの?」
「マァとしては二度と立ち向かえないように粉砕したいんだけど」
「ここでメグを潰してしまっては、本格的な戦争になる。それだけは、避けたいんだ」

ユリナとマーサには、マイハの意図は読めない。
ただ、彼女の考えに従っていけば、ほぼ間違いない。そこには確かな信頼があった。
ゆっくりと頷き、そして戦場へと向かっていく二人。その背中を見送るマイハは、冷静に戦力比較を分析する。大丈夫、
勝てる。結論は、出ていた。
452 :名無飼育さん :2011/12/24(土) 21:57


第八話「歯車」


453 :名無飼育さん :2011/12/24(土) 21:57
454 :名無飼育さん :2011/12/24(土) 21:59


マノソロ法王国の聖地・ソロコンサートの大聖堂は、物々しい雰囲気に包まれていた。
隣国モーニング王国のツンクボーイ・テラニャ王自ら赴いてまでの会談。先代法王ミキ・スカルプ・ティボーテが再び
姿を現したという話は法王国にも伝わっており、その件に関して何らかの圧力をかけるのでは、と教徒たちは口々に噂
をしていた。

「・・・というわけや。こう言ったら何やけど、うちと法王国の二大国があいつを野放しにしたツケが、今になって回って
きたってやつや」

謁見の間において、マノ・エリ・コールレイン相手に、ツンクボーイが状況説明する。被害を蒙ったのは新兵四人と、
その先輩にあたる四人の、計八人。しかし人数は関係ない。あのミキが生きていた、ということ自体がツンクボーイ、
いやモーニング王国の問題だったのだ。

「今回文書やのうて直接こっちに来た理由は、もうわかってるやろ」
「ミキティさんの、追討に協力しろってことですか?」

恐る恐る、マノが聞いてくる。

「せや。あいつはわが王国にとって生きてる事自体、害をなす存在や。しかもうちの情報局が掴んだ情報によると、今
はアヤヤ・スケポリ・ヤメレンゲとつるんでるらしい。それが何を意味するか」
「確かにアヤヤ・スケポリ・ヤメレンゲはわが法王国の第二代法王でした。ただ、この二人に関してマノソロ法王国は
何ら関わっていません」
「ドアホ、お前には聞いとらんわ!」

横から入ってきたマネティ・ミニゲートを恫喝するツンクボーイ。
周囲が、ぴりぴりとした空気に包まれる。

「仮にもかつて法王を務めた二人が、王国で反社会的行動を行っている。現法王として、何らかの協力、せなあかんの
と違うか?」
「・・・・・・」

マノは答えない。下を向き、口を堅く結んだままだ。

「まあええわ。ゆっくり考えや。ただし、ゆっくり考えてる間に取り返しのつかないことになってまうかもしれへんけどな」
「取り返しのつかない?」
「義憤に駆られた王国の市民たちが、ソロ教徒を迫害。とかな」

ツンクボーイの言葉に、マノが目を剥く。

「たとえば、の話や。そうならへんように、よく考えるんやな」

それだけ言うと、ツンクボーイは謁見の間を去っていく。
静かに、それでいて深く。マノはツンクボーイの後姿を睨み続けていた。
455 :名無飼育さん :2011/12/24(土) 21:59
456 :名無飼育さん :2011/12/24(土) 22:00


ハルナがいなくなった部屋は、怖ろしくがらんどうだった。
ただ塞ぎこんで黙っていただけなのに、いざその存在がなくなってしまうと、いかに自らが彼女を頼りにしていたのかを実
感できる。

あいつ、戻る場所なんかないだろうに。

ハルナがかつて暗殺者組織に身を置いていたということは、事件の翌日にガキサンから聞かされていた。恐るべき身のこな
しも、それならば納得できる。どういう経緯で王国騎士団に入団したのかは、先代騎士団長のアイ・トレジャーグレイヴの
強い希望で、ということしか聞けなかったが。

ともかく、昔は昔。今は今だ。
ハルカには、ハルナを受け入れる準備はできていた。何小さいこと気にしてるんだよ、メッシのくせに生意気なんだよ。そ
う言って頭にげんこつ一発入れたら、それで終わり。そうするつもりだった。
それに、言えない過去があるなんて、お互い様じゃんかよ。

それも全部、いなくなっちまったら言葉をかけることすらできないじゃねーか。

ハルナがどこに行ったのか、手がかりさえ見当たらない。
けれど、ハルカには一縷の望みがあった。
どの道まだ王都内にいるに違いない。
篭った空気を脱ぎ捨てるように、ハルカは部屋を飛び出してゆくのだった。
457 :名無飼育さん :2011/12/24(土) 22:01


「そこのあなた、そうそう、その軍用チワワみたいな愛くるしい顔をしているあなたですよ。1回100モニで、特別に占
いますよぉ?」

妙な文句とともに、街中で呼び止められるハルカ。
この甲高い声、忘れたくても忘れられるはずが無い。まさかこんな早く会えるとは。
ハルカはつかつかと、自らを呼び止めた易者風の女に向かって近づいていった。

「誰が軍用チワワだ。って言うかそもそも軍用チワワって何」
「えー、かわいいネーミングだと思うんだけどなぁ。ももちカリスマニックネームとしてこれからどんどん使って使って。
大丈夫、使用料金はほんのちょびっとだよ」

何だカリスマニックネームって。しかも金取るのかよ・・・
ハルカは相変わらずの女のノリに、頭がおかしくなりそうだった。
しかし、この女が今のところ、ハルカの最後の望みなのだった。

「この前は、サンキューな」
「ええっ、何のことですかぁ?」
「とぼけんなよ。ベーヤンの屋敷からハルたちを助け出してくれたのは、あんたなんだろ?」

女が、急にまじめぶった顔になる。

「よく気づいたね。誰かから教えてもらったの?」
「ハルたちを王都まで運んでくれた兵士が教えてくれたよ。妙に声の高い、ぶりぶりした怪しい女の人が助けを呼んでたっ
て。前にもまぁちゃんに不思議な魔道具くれたろ?ああ、あんたしかいないなって思ったよ」
「ぶりぶりした怪しい女、ってのはちょっとひっかかるけど。まあいいや、おめでとう、正解。もぉがあなたたちを助けた
命の恩人です」
458 :名無飼育さん :2011/12/24(土) 22:02
自分のことをもぉと呼んだ女は、そう言いながら胸を張る。

「ある時は露店の売り子。ある時は喫茶店のウェイトレス。ある時は豪邸のメイド。んで今は易者。あんた本当は、何者なん
だ?」
「みんなのアイドルももちですっ」
「次言ったらげんこつな」
「わー、暴力反対。何者かは言えないけど、あなたの知りたいことなら教えられてあげるかも」

振り上げたハルカの拳にオーバーに驚きながら、もぉはそんなことを言い出した。
おいおい、まさかハルナの居場所とか知ってるんじゃないだろうな。
訝しがりつつも、ついつい耳を傾けてしまうハルカ。

「でもこんな往来で話せるような内容でもないし、あっち行って話そうか」

そう言って、もぉは背後の路地裏を指差した。

もしかして、罠か。
大体こいつは自分の正体すら明かしてない。そんな人間を、信用していいのだろうか。
ハルカの頭に、疑念が渦巻く。

「わかった。頼むよ」

が、結局は承諾する。
目の前の女を信用するには、情報が足らなさ過ぎる。かと言って、その女こそがハルナに繋がる唯一の道だということもまた
確かだった。

嬉しそうにぴょこぴょこ跳ねながら消えてゆくもぉの後を、ハルカは付いていった。
459 :名無飼育さん :2011/12/24(土) 22:03
460 :名無飼育さん :2011/12/24(土) 22:04


スマイレージ国とモーニング王国を隔てる国境門付近。
門の手前で毎日のように演習を続けるサキチィ・ハーゲンダッツは、身も心も限界に達しつつあった。早く敵と一戦交えたい。
焼肉食べたい。そしてまた戦いたい。
もともと好戦的なサキチィにとって、この数ヶ月間はまるで蛇の生殺しのようだった。

そんなところへ、スマイレージ四巨頭のリーダーであるアヤチョ・ダーワーリョークが突然のニュースを伝えにきたのだから、
部隊が駐留しているテントが吹っ飛ぶような大声をサキチィが上げても仕方の無い話だった。

「えーっ!?サキそんなの聞いてない!認めないから!!」

アヤチョが持ち込んだ話は、スマイレージ軍に新たに四人の幹部候補生を招くというものだった。
中にはエッグ時代に知っていた名前もあったが、それでもサキチィは不安と苛立ちを隠せない。

「サキは今の四人がいい!他の子なんていらない!!」
「アヤだって、これ以上年下が増えるのは嫌さ!」

感情的に突っかかってくるサキチィに、つい自らの感情をぶつけてしまうアヤチョ。
来るモーニング王国との決戦に備え、軍を強化するために幹部の増員をしようと言い出したのは国の軍備を一手に任されている
カニョン・ビッグ・O・イースターだった。そしてその話を持ちかけられた時、真っ先に反対したのは他ならぬアヤチョ自身だ
ったのだ。

「そうだよね。サキみたいに手のかかる年下なんて・・・いらないよね」
「べ、別にそういう意味じゃなくて」
「サキがみんなに迷惑かけてるのはわかる。でも、不安なんだよ。サキがここでこうして無駄なことをしてる間に、新しい幹部
候補生の子たちが代わりの役割を果たしちゃうんじゃないかって」

そしてサキは自ら抱えていた不安を吐露しはじめた。
四人でスマイレージ国を立ち上げた時、自分だけが年下だったこと。それを感じさせない扱いを他の三人はしてくれたし、自ら
も考えないようにしていたこと。けれど、時々自分がこの場所にいてもいいのだろうか、という思いが過ぎっていたこと。

「大丈夫。サキチィだからこそ、信頼してるからこそ。この任務を任せたさ。ここで示威行為を繰り返すたび、モーニング王国
は焦燥に駆られるはず。現に、ツンクボーイがしびれを切らして質問状を送りつけてる。この精神攻撃が後々、戦が始まった時
に響いてくる。だから」
「うん。わかってる・・・」

サキチィは理解していた。
理解してなお、苦悩していた。
けれど、これ以上アヤチョに負担をかけさせたくない。その思いが彼女に「わかってる」を言わせた。そしてアヤチョはその言
葉を、額面どおりに受け取った。いや、受け取らざるを得なかった。仮にサキチィが納得していないとしても、アヤチョにはど
うすることもできなかったからだ。

そしてアヤチョは、この時のことを永遠に後悔することになる。
461 :名無飼育さん :2011/12/24(土) 22:05
462 :名無飼育さん :2011/12/24(土) 22:06


もぉと名乗る女によって路地裏に呼び出されたハルカ。
リゾナントの大通りから旧市街までを網羅する路地裏はまるで迷路のようで、一度土地勘のないものが迷い込むと、ぐるぐると
同じところを長時間回らされる羽目になる。その路地裏に入った途端、もぉは奥へ向かって走り始めた。

えっ、何だよこれ!

突然の状況に戸惑いながらも、ハルカが後を追う。
しかし相手は追い立てられた猫のように、上に下に跳びながら逃げてゆく。ハルナほどではないが、相当素早い。ついてゆくの
がやっとのハルカだったが、ようやくもぉを袋小路に追い詰める事ができた。

「はぁ・・・はぁ・・・いったい・・・何なんだよ!」
「うん。もう追ってこないみたい」
「は?何のことだよ」
「ハルカちゃん気づかなかったの?王国情報局の人間が二人ほど、後をつけてたよ」

言われて、ぎょっとする。
自分が何かやましいことをしているんじゃないかと、ハルカは急に不安になった。

「大丈夫。追われて困るのはもぉのほうだから。とにかく、これで秘密の話を思い存分話せるね。また追っ手が来るかもしれな
いから、手短にしか話せないけど」
「わかったよ」
「じゃあ問題ね。シーナの蜂起。ミュンの反乱。そして今回のベーヤンの件。一見別々の事件のように見えるけど一つだけ共通
項があります。それは何でしょう?」
「・・・ハルたち王国騎士団の新兵が絡んでるってことだろ」

何が手短にだよ。めちゃめちゃまどろっこしいじゃんか。
心の中で毒づきつつも、思いついたことをハルカは答える。
しかしもぉは大げさに手でバツを作り、ブブー、はずれだよぉ?といつもの気味の悪い声色を作って言うのだった。
463 :名無飼育さん :2011/12/24(土) 22:07
「確かにそれもあったね。じゃあもうひとつ」
「ええ?そんなのあるのかよ・・・」

ハルカは頭全体を振り絞って考えようとするが、答えは出てこない。
と言うより、横で「あと30秒」「あと15秒だよ」と横槍を入れてくる地味な顔がうざい。

「はいしゅうりょー、ぴぴぴぴー」
「うっせえな!さっさと答えを教えろよ!!」

慌てない慌てない、といった表情でもぉが宥める。
そして、ゆっくりと話し始めた。

「じゃあさ、シーナの本拠地だったカンサイ領の前領主って誰だか知ってる?」
「ああ。カンサイの現状を訴えようとしたら領主を解任されて王都に軟禁されたってやつのことだよな。あれ、誰だっけ・・・」
「魔導船を帝国からスマイレージ国を経由してミュンの元へ輸送したとして、厳重な警備の国境門を抜けれたのはどうしてで
しょう?」
「そりゃあ、ベーヤンが便宜を図って・・・いや、元老院所属とは言ってもそんな権限があるはずない。第一国境門のある領地
の領主が認めない」
「つい最近、ベーヤン・ヒゲアリスに近しいアングリー市の市長がとある人物と会食をしてます。それは一体誰でしょう?」
「おい、アングリーって言ったらビユーデンの・・・」

ビユーデン領は、国境門を隔ててスマイレージ国と接している。
ハルカの中で、何かが次々に繋がってゆく。
いや、逆に疑いようがない。その人物を黒幕とすると、全ての理由が説明できるのだ。

「最後に。ベーヤン邸での事件を苦に思っていた人物が、このことを知った時、どういう行動をとるでしょう?」

もぉの言葉で、はっとなるハルカ。

「それってもしかして・・・!」
「急げば、まだ間に合うかもよ?」
「わかった!サンキュー、今度会ったらメシの一つでも奢ってやるよ!!」

袋小路にたどり着いた時とは比べ物にならない勢いで、走り去ってゆくハルカ。
それを見送りながら、もぉが呟く。

今度会う時は、敵同士だけどね。

頭上から降り注ぐ太陽の光が、もぉの影を色濃く伸ばしていた。
464 :名無飼育さん :2011/12/24(土) 22:08
465 :名無飼育さん :2011/12/24(土) 22:08
466 :名無飼育さん :2011/12/24(土) 22:08
467 :名無飼育さん :2011/12/26(月) 01:21
小ネタというか漢字の当て字が好きです。
個人的なツボは「大刃杖(オハスタッフ)」ですね。
468 :名無飼育さん :2011/12/28(水) 08:20
469 :名無飼育さん :2011/12/28(水) 08:22


キュート軍将軍マイミ・モサ・シュガーライスが副将であるウメリカ・ユーズドタオルを引き連れてマノ法王国の大聖堂に入
ったのは、ツンクボーイ王が出て行ってすぐのことだった。

「はぁー、相変わらずの立派な建物だねー」

大聖堂の複雑かつ大胆な建築様式を前にして、思わずため息を漏らすウメリカ。
キュート王国は新興国であるがゆえに、この大聖堂のような歴史ある建築物は皆無に等しい。

「もうえりったら。観光で来たんじゃないんだよ」
「はいはい」
「えりあれみて!あれが法王のアヤヤの時代に建築されたって言うメチャホリの塔だよ!!」

自分で言った側からマイミは天然だなあ、と呆れつつ一緒に見てあげるウメリカ。
この一見頼りなさそうに見える二人が、キュート王国の軍事最高責任者であるとは誰もが思うまい。しかしそれは紛れも無い
事実なのだった。
470 :名無飼育さん :2011/12/28(水) 08:23
謁見の間に入るや否や、マイミは法王マノに熱いハグの洗礼を受ける。

「マイミちゃん!!」
「マノちゃんひさしぶりー」

互いに手を取り、喜び会う二人。
補佐官のマネティが柱の影で仲睦まじい光景を見守る中、一人だけ白い目線を送るものがいた。

うちだってマイミといちゃいちゃしたいのに、何この女!!

明らかに私怨ではあったが、ウメリカはそんなことは気にしない。
すかさず先制口撃を加える。

「仮にも法王様と一国の将軍が、こんなとこでいかがわしく抱き合ってるのはどうかと思いますけどねえ」

慌ててマノの手を離すマイミ。
今度はマノがウメリカを睨みつける番だ。

「それよりマイミちゃん、大事な用があって来たんじゃないの?さあ、奥の部屋で話しましょう。警備はマネティとそこの人
がやってくれるから」
「そ、そこの人って・・・!!」

憮然とするウメリカを他所に、マイミを追い立てるように自室へと連れてゆくマノ。

「ちょっとあんた、あの子にどういう教育してんのよ!」

二人の姿が消えるや否や、ウメリカがマネティに噛み付いた。
仮にもキュート王国の副将をそこの人扱いだ。私情はさておき、怒るのは当たり前だ。

「ウメリカ様、申し訳ありません」
「まったく。うちじゃなかったら国交断絶だよ」
「しかしマノ様は幼少時から法王候補という立場から、ずっとお一人だったんです。いつぞやの模範試合でマイミ様にお声を
かけていただき、はじめての同世代のご友人ということで、本人もいささか舞いあがってるのだと思います。なにとぞ、ご容
赦を」

と、慇懃な言葉で謝罪するマネティだったが、内心は「なにこれ、もしかして三角関係?」とよからぬ事を考えているのだった。
471 :名無飼育さん :2011/12/28(水) 08:25

ウメリカとマネティがそんなことを話している間。
マイミはなぜか、マノに詰め寄られていた。

「だから、わたしのことエリって呼んで欲しいの!」
「うーん。でもマノちゃんのことをエリって呼んだらえりとかぶっちゃうし、ややこしくない?」
「あの異国人みたいな顔の女のことだったら、えだまめとかあげぱんとか呼んだらいいじゃない」

どこから枝豆とかあげパンとか出てきたんだろうと思いながら、マイミは話を変える。

「ツンクボーイ王が来たんだってね」
「うん・・・ミキティの追討に手を貸すよう言われたんだけど、納得できなくて」

モーニング王国の事情を知る者の間では史上稀に見る大悪人とされているミキだったが、ソロ法王国においては不肖の法王と
されながらもその咎は王国の体質にこそあるのでは、という考え方が一般的だった。もちろん公にはできない見解ではあったが。

「そんなの断ればいいよ。元々法王国はモーニング王国の属国じゃないんだし」
「だよね。でも、王国内のマノフレたちが心配で」

帰り際にツンクボーイは、従わなければ教徒への国家ぐるみの迫害もあり得ることを匂わせた。ある意味人質を取られているよ
うなものだ。

「大丈夫だよ、マノちゃん」

マイミがマノの肩に手を置く。

「もうすぐ、大きな戦争がはじまるから。モーニング王国が、大混乱に陥る。マノちゃんには、教徒たちの王国からの引き上げ
命令を出して欲しいんだ」
「えっ・・・」
「私たちキュート・ベリーズ・スマイレージの三国は、モーニング王国に宣戦布告する」

マイミが発した言葉を、マノはうまく呑み込めずにいた。
確かキュートとベリーズは交戦中のはず。しかもスマイレージとも決して仲がいいとは言えない。それが、三国連合でモーニン
グ王国と戦争をする。いまいち、結びつかなかった。

「でも、国民たちがついていかないんじゃ・・・国民の支持がないと、難しいよ」
「それも大丈夫。って言ってもそこら辺のことはマイにまかせっきりなんだけどね」

はっはっは、と笑うマイミ。
どうやって国民の支持を取り付けるのかはわからない。けれど、彼女はきっと本気だ。それだけは、マノにも理解する事はできた。
472 :名無飼育さん :2011/12/28(水) 08:25
473 :名無飼育さん :2011/12/28(水) 08:26



ビユーデン領の中心都市アングリー。
ユイヤン・オカパインは上官リカ・ハーフヒップの邸宅において、本を読んでいた。待ち時間というのは非常に退屈なもので、
文字に目を通して時間を潰さないととてもではないがやってられない。ゆえに、自室のドアが開かれると待ってましたとばか
りに、席を立つ。

ドアを開けて入ってきた少女は、黒装束を身にまとい、口元にマフラーを巻いている。
暗殺組織ラブベリーの、スタンダードなスタイルだった。

「あんたはこの前ベーヤンの屋敷で会うた子やったな。色々大変やったみたいやけど」

少女は、何も言わない。
ただまっすぐに、ユイヤンを見ている

「うちもあれからあの子・・・って何で自分あの子と同じ格好してるん?とにかく、その子から命からがら逃げてきてなあ」
「いくつか、質問をさせてください」

黒装束の少女。
ハルナ・メッシは静かに問いただす。

「ペッパーの森で騎士団が捕らえたシーナの残党。彼女たちをビユーデン軍が強引に引取り、そしてユイヤンあなたの名の下
において処刑した。なぜですか?」
「よう知ってるな。せやけど、当たり前やろ。うちの部隊は最後の残党を追討した時に、何人も殺されてるんやで?あんたの
とこのガキサンもその事情は知ってるはずや」

どことなく、ハルナをからかっているようにも見える。
ユイヤンの道化の表情はまったく崩れない。
474 :名無飼育さん :2011/12/28(水) 08:28
「ユイヤン。あなたはかつてカンサイ領の領主を務めていたにも関わらず、国王に窮状を直訴するという理由でそのままカン
サイを出て、戻ることなくビユーデンの副官に収まった。その事実を、私たちに伏せた上に残党の四人とはあたかも初対面で
あったかのように振舞った。なぜですか?」
「・・・もしかして、現場に真っ先に駆けつけたことも疑ってるん?」
「はい」
「うちが元カンサイの領主なのを隠したんは、その過去を恥に思ってたからや。それ以上でも、それ以下でもない」

わざとらしく、肩を竦めてみせるユイヤン。

「もういいです。あなたの三文芝居に付き合うのも疲れました。マイプリンでミュン・シバ・プリペアップと接触していたの
もベーヤンの亡命の約束を取り付けに彼の屋敷を訪れたのも、知ってますから」
「言ってることがむちゃくちゃや・・・どこにそんな証拠あるねんな」

ハルナがユイヤンに向け、まっすぐに指を指す。

「あなたはユイコマンを追撃すると言っておきながら、無傷であの場所を通り抜けた。ユイコマンも、傷一つ負ってなかった。
考えられることは一つ、ユイコマン、ひいてはベーヤンとあなたが、内通していた」
「なんで、そう言い切れる?」
「私は知ってる。ユイコマンに、いや、ラブベリーの暗殺者にとっては標的が死ぬか、自分が死ぬかの選択肢しかないことを。
増してやお互いが無傷なんて、ありえない」

ユイヤンが、ため息をつく。
そして、まるで何かが破れたように、笑い始めた。

「ははははは!!!!暗殺者言うのは厄介やなあ。そんなんでうちのしたことが全部ばれるなんてな。せやけど、うちもアホ
みたいな芝居するの、疲れたねん。あとは、こいつで全部教えたる」

立ち上がり、そして徐に両手を広げる。
ユイヤンの目の前にあった事務机が、一瞬でバラバラになった。

「うちの『糸禍恕手(しかじょしゅ)』で、苦しむ間も与えんと細切れにしたる」

ユイヤンの先ほどまでの人を食ったような表情は既に、消えうせていた。
475 :名無飼育さん :2011/12/28(水) 08:29


ハルナの手には、既に双剣「シルキー」と「雷(らい)」が握られている。
あっと言う間に机を木片に変えた技を警戒しつつ、構えの姿勢を取る。

「そう言えば館の人間はどないしたん?まさか全員殺してきたんと違うやろな」
「全員気絶させた。殺すのは・・・あなただけだから」
「うちそんな殺されるようなことしてへんよ。あんたのお仲間やったんはミキティさんやろ」
「あなたの実力から察するに、『殺さないように手加減』できない」

おお怖、とおどけつつも、ユイヤンの視線は揺るがない。
ハルナの一瞬の動きを警戒しているのだ。

「それにしてもほんまに一人で来たんやな。リカちゃんやミーヨが駆けつけたら、終わりやで?」
「今日はガッタス領主ヨッスィ・ベーグルリングとの会合で邸宅には帰らないことを確認してる」
「下調べも十分、か。自分、騎士団なんてやめて暗殺稼業に戻ったほうがええんとちゃうか」
「騎士団はもう、やめてきた。私には過ぎた場所だった」
「さよか」

話している間も、部屋のカーテンやら絨毯やらが引き裂かれてゆく。
まずはこのからくりを見極めなければならない。ハルナが、流水のようにゆらりと動いた。

「来るか!!」

ユイヤンが空を掻く様に、手指を動かした。
前方にあった観葉植物が千切れ飛ぶ。ハルナは主のいない鉢植えを蹴り飛ばした。今度はユイヤンのかざされた左手の動きに
よって、跡形もなく砕かれる。
476 :名無飼育さん :2011/12/28(水) 08:30
魔法の類か。
しかし魔導杖を持っている風には見えない。それに、手を振ってから物体が破壊されるまでのわずかな間が、気になる。
とすると結論は、何かの見えない飛び道具を使っている。それしかなかった。問題はその何かをどうやって暴くかだ。

「やあっ!」

一か八か。ハルナは怖ろしいスピードでユイヤンの懐に飛び込む。
「シルキー」と「雷」を交差させ、開放するタイミングで「何か」が襲い掛かってきた。
手がかりは音だった。ひゅん、と空気を切る音にあわせて刀身を振るう。そして回転させるように回すと、見えない何かが、
ぐるぐると絡みつく手ごたえを感じた。
ハルナの直感は、間違ってはいなかった。

「あなたの得物は、目には見えない糸」
「その通り。うちの『糸禍恕手』はこうやって光に透かさんと見えへん透明の糸なんや」

ユイヤンが、わざと手の甲の角度を変える。光の加減で現れた幾筋もの糸が、ユイヤンの手の甲に嵌められた手甲から伸びて
いた。

「ともかく、自分ピンチと違うか?うちが糸に力を込めたら、あんたの大事な武器が一本だけになってまうけど」
「欲しければ、どうぞ」
「へえ」

嬉しそうに、右腕を手前に手繰り寄せる。
あっけなくハルナの手元から離れた「雷」、しかし宙を舞っている間にハルナが前方に飛ぶ。
左手の甲からも「糸禍恕手」を繰り出すユイヤンだが、その隙に逆に「雷」を奪還されてしまった。
477 :名無飼育さん :2011/12/28(水) 08:31
「欲しければどうぞ言うたやん!!」

理不尽なことを言いながら、ユイヤンが両手を振り回す。その様はまるで指揮者のようだ。
糸が風を切る音を頼りに、ハルナは素早く見えない斬撃をかわしてゆく。

「素早いなあ。さすがミキティやミュンの目を眩ませられるだけのことはある」
「・・・全部、見てたのね」
「まあな。あんたがシーナのナナと互角以上に渡り合った時から、うちの要注意人物リスト入りしてたわ!!」

両手を合わせ、剣でも扱うかのように正面に振り下ろすユイヤン。
束ねられた糸が、ハルナを頭から真っ二つにした。しかしその姿はほど無くして掻き消える。

「ユイコマンと戦った時に見せたあれか!」

狭い通路ほどではないが、個室もまたハルナが「宵翔」を使うには条件のいい場所だ。
壁を走り、天井を蹴り、縦横無尽に高速で移動する「宵翔」が、ハルナの残像を作り出す。

ユイヤンが背後に気配を感じる。
その時には既に、ハルナがユイヤンの背中に向け襲いかかっていた。
が、あと一歩というところで攻撃をやめて後方に下がってしまう。

「さすがに気づかれたか。でもな、気づいたからってどうもならんよ」

そう言いながら、ユイヤンが部屋の照明を糸で破壊する。
辺りが、闇に包まれた。

闇雲に攻撃していたわけではなかった。
ユイヤンはハルナに気づかれないよう、部屋中に糸を張り巡らせたのだ。
もう一度ハルナが「宵翔」を使おうものなら、あっと言う間に細切れ肉と化してしまうだろう。

「飛んでくる糸は音で避けられても、最初から張られてる見えない糸は避けられへんやろ?」

暗闇でユイヤンの顔は見えなかった。
ただ、その表情が醜く歪み笑っていることは、容易に想像できた。
478 :名無飼育さん :2011/12/28(水) 08:32
479 :名無飼育さん :2011/12/28(水) 08:33



王都リゾナントに位置する、王国情報局。
かつて迎賓館として使用された歴史がある立派な建物の最上階に、局長室はあった。

「局長、いらっしゃいますか」

部屋をノックする音とともに、部屋の主を呼ぶ声。
返事は無い。コンコン・テレトアナはそれが当然であるかのように、そのままドアを開け中に入る。

案の定、マキ・ハーツエッジは机に突っ伏して居眠りをしていた。
ご丁寧によだれのオプションつきだ。

「・・・んあ、おはよーコンコン」
「おはようじゃありません。もう「遅よう」ですよ、局長」
「寝る子は育つって言うじゃん」
「もうそれ以上育つとも思えませんが」

言葉の端々に毒を混ぜるコンコンをよそに、マキは大きく欠伸をしながら、背伸びをはじめる。

「で、動いたんでしょ?ハルナ・メッシとハルカ・クドゥが」
「はい。ハルナ・メッシは今朝方ビユーデン領に向かったそうです。ハルカ・クドゥもその情報を得て、後を追っているとの
ことですよ」
「ユイヤンが裏で糸を引いてたことに真っ先に気づくとはねえ。コンコン、あの子情報局にスカウトできないかなー」

冗談とも本気ともつかないことを言うマキに、

「情報局と言えば聞こえはいいですが、やってることは彼女が昔在籍していた『ラブベリー』とそう変わりありませんから。
『ダン・ハウ』の名を棄てた彼女が我々の誘いに乗ることはないでしょう」

とコンコン。
480 :名無飼育さん :2011/12/28(水) 08:34
「そっかー、残念」

可動式の椅子の背に全体重を乗せ、マキはもうひと伸びしてみせた。

「ところで、彼女たちに援軍は出さないんですか?二人が単独行動をしているのを把握しているのは、情報局だけだと思います
けど。一応、どんな指示を出されてもいいように、偵察のものをそれぞれつけてはいますが」
「あー。別にいいよー。あの子たちだけで何とかなるんじゃない?」
「ずいぶん二人を買ってるんですね」

するとマキはコンコンにふわりとした笑顔を見せた。

「ごとーはあの子たちの強さを見極めたいんだよねえ。これからのことを考えると、あの子たちは王国を変える起爆剤になりうる
かもしれない。あの二人もそうだけど、ベーヤンの屋敷で力を暴走させちゃったマサキって子も、あとダーイシの後継者の子もね」
「ダーイシの後継者は他の三人と比べてバックボーンがいささか弱いかと」
「でも、ああいう子はきっかけ一つで化けるからねえ」

いちーちゃんのように。
マキはかつて自らが師事した王国騎士団の先輩を思い出していた。

「まあとにかくさ、行く末を見守ってようよ」
「局長がそう言うのなら」
「と言うわけで、ごとーはまた一眠りするのだった。おやすみ。グゥ」

そう言って、机に顔を伏せるマキ。
すると、たった3秒でいびきをかきはじめた。

まったく。あなたは青くて丸い生き物にすがりつくダメな小学生ですか。
コンコンは懐からねこじゃらしを取り出し、マキの睡眠の邪魔をしはじめるのだった。
481 :名無飼育さん :2011/12/28(水) 08:34
482 :名無飼育さん :2011/12/28(水) 08:34
483 :名無飼育さん :2011/12/28(水) 08:35
484 :名無飼育さん :2011/12/28(水) 08:36
>>467
ありがとうございます。
当て字に関しては民明書房の書物を参考にしてつけてます。
嘘ですごめんなさい。
485 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:05
486 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:07


一方。
ハルナは、ユイヤン・オカパインの敷いた「糸禍恕手」の陣に苦戦を強いられる。
試しに双剣を振ってみるが、すぐに刀身が抵抗を受ける。どうやら攻撃すらままならないらしい。

「無駄や。うちの『糸禍恕手』を剣で断ち切ることは出来ひんよ」

ユイヤンはまるで蜘蛛の巣にかかった獲物を見るような目つきで、言い放つ。
最早自分の勝利は揺るがないとでも言いたげな顔だ。

「さてこれからどないしよか。うちの命を狙う侵入者やからな。殺されても文句は言えんやろ。それに、死人に口なし。うちも、
枕高くして寝たいねん」

無言でユイヤンを睨みつける、ハルナ。

「かかって来てもええよ。運がよければ、腕や足の一本落とすくらいでで済むかも知れへんしな」

その挑発に、敢えてハルナが乗る。
「シルキー」と「雷」を、それぞれ逆の手に持ち替える。
そして、常人の目には止まらない速さで振り回しながら、ユイヤンに向かってきた。

振った刃は当然の事ながら、ユイヤンの張った糸に遮られる。
しかし、それが逆に次々と糸の位置を教えてくれる。そして刃によって強引にこじ開けられた糸の結界の隙間を縫うようにして移
動することが可能になる。圧倒的な手数と神速の身のこなしを兼ね備えていないと、不可能な芸当だ。
487 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:10
「今までは、攻撃用と防御用の双剣を逆に使ってたんやな。動きが違うわ」

そう言いながらも、ユイヤンの顔は険しくなる。
普通ならあの状況では動く事もままならず、膾切りになれるのを待つだけなのに。
これだけの本数の糸を張っている現状、これ以上数を増やせば自らの退路を断つことになってしまう。

「けどな。うち、あの人に言われてんねん。あんたの存在は計画に必ず仇なす、早いとこ潰せって!」

両手を合わせ、ユイヤンが大量の糸を放つ。
ハルナは双剣を前方に構え、迫り来る糸を打ち落とす。1、2、3、4…それこそ、数え切れないくらいの糸の襲来を防ぎながら、
なおかつ自らの攻撃経路を確保。一直線にユイヤンのもとへ走った。

喉元に迫る刃。
刃が、ユイヤンの皮膚に毛ほどの深さで食い込む。もちろん、まったく致命傷にはならない。
ハルナを嘲笑うかのように、赤い雫が一筋だけ流れた。

「何で攻撃、止めたん?」
「・・・・・・」
「騎士にも暗殺者にもなれへん。あんたは中途半端な存在や!!」

言い放つとともに、ユイヤンが鋭いハイキック。
蹴りをまともに受けたハルナが後方によろけ、そしてその際に糸で足を傷つけてしまう。

「あんたが本気でうちを殺しにかかったら、さっきの一撃でうちはあの世逝きやったろうな。せやけど、あんたに心の迷いがあって
助かったわ」

一瞬の隙を突かれ、ユイヤンの放った糸に両手を絡め取られるハルナ。
まさしく、蜘蛛の糸にかかった蝶さながらに、身動きが取れなくなってしまった。

「安心しいや。両手を落とすなんてまどろっこしいマネはせえへん。一思いに、首だけ切り落としたるわ。うちの仏さんみたいな御
心に感謝するんやな」

再び優位に立ち、楽しそうにハルナの首に糸を巻きつけるユイヤン。
死刑執行人が受刑者の首に鋸を引くように、ゆっくりと左手を手前に引いていった。
488 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:11
「安心しいや。両手を落とすなんてまどろっこしいマネはせえへん。一思いに、首だけ切り落としたるわ。うちの仏さんみたいな御

突然、唸るような大音響。
壁に括り付けてられていた糸が、はらり、はらりと落ちてゆく。
強靭な力には強くても、細かい振動にはひとたまりも無い。
さらに、部屋に光が戻る。誰かがランプを点したのだ。

「誰や!!」
「これでも喰らえ!」

声のしたほうから、大量の液体がぶち撒けられる。
部屋中が、液体まみれになってしまった。
愛剣「ハスキーヴォイス」を片手に現れたのは、ハルカ・クドゥだった。

「これは・・・油!?」

手に伝わる糸の鈍さで、ユイヤンが液体の正体に気づく。

「あんたの武器についてはミズキちゃんから聞いてたからな。この屋敷の倉庫から持ってきてやったよ。喜びな!!」

ペッパーの森で、援軍が来たと勘違いしたシーナ残党アベアサ・ドセドメを瞬く間に切り刻んだユイヤン。ミズキは彼女の残虐性を
知るとともに、魔法も使わずに一体どういう手段を使ってアベアサをバラバラにしたのかが気になって仕方なかった。
古今東西の書物を漁った結果、「妖斬糸」という強靭な糸を使い相手を切断するという武術が存在することを知ったミズキは、それ
とはなくハルカには話していたのだった。

「油でぬるぬるになっちゃ、あんたの糸も切れ味半減だな」
「しょうもないことを・・・」

吐き捨てるユイヤンを他所にハルナが、素早く束縛された両手を引っ込める。
油で滑りやすくなっていた状態、いとも容易く自由を得た。

そこへ、つかつかとハルカが歩み寄る。
冷たい視線を送る、ハルナ。何しに来た、ここはあなたの来るところじゃない。
そう言いたげな、無機質な瞳。
ハルカも負けていない。ハルナとちょうど目と鼻の先のところで立ち止まる。
いきなりのジャンプ&先制パンチ。ハルナの頭に、拳骨が落ちた。
489 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:12
「な・・・!」
「鳩が豆鉄砲喰らったような顔してんじゃねーよ!勝手な行動しやがって!!」

ほんの僅かな間呆気に取られていたハルナだったが、すぐに、

「私はもう騎士団を辞めたんだ!ハルカちゃんには関係ない!!」

と反論。しかしその反論にまたしても脳天パンチ。

「痛った・・・!!」
「メッシのくせにハルの許可なしに騎士団辞めるとか言うな!お前らのリーダーはハルだ!お前が年上だろうと、暗殺者だったって
ことも、関係ない!!」
「・・・知ってたなら話が早い。私はもう騎士団にはいられない。ミキ・スカルプ・ティボーテを、殺さなきゃって思ってしまった。
戦いの中とは言え、私はかつての暗殺者としての血が自分に今も流れてることに気づいたんだよ。そして今だって。もうあの場所に
は・・・帰れない」
「格好つけてんなよ馬鹿野郎!!」

今度は思い切り足を踏みつける。
たまらずしゃがみ込んだハルナのがら空きの頭に、三度目の拳骨。

「ハルたちは仲間だろ?!一人で何もかも抱え込んでんじゃねーよ!元暗殺者だからって何だよ、ハルだってお前らに言えない過去
ぐらいあるっての!殺したいって思ったからって何だよ、ハルなんてしょっちゅうあの車椅子ババア殺す!!ってくらい思ってるよ
!!!」
「そんな」
「お前なんか、特別でもなんでもないんだからな!みんなと一緒だ、変なこといつまでも気にしてんじゃねえぞ!!」

とても目の前の小さな少女が発したとは思えない、大声。
軍用チワワどころじゃない、地獄の番犬ケルベロスだ。
ハルナは双頭のハルカを思い浮かべ、噴き出してしまう。
490 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:14
「あとこれ、聞いてみろ。今繋がってるから」

ハルカが、ハルナの手に何かを握らせる。
王国情報局員が遠く離れた相手と連絡する時に使っていた、長方形の水晶魔道具だ。

「もしもーし!!」

いきなり元気な声が聞こえる。

「ハルナちゃん一人だけ旅行なんてずるいよー!まぁちゃんも元気になったら、一緒に行こう?あっ、おみやげはびわがいいなー」

相変わらずのポクポク調。
そして待ちきれなくなったのか、もう一人がマサキを跳ね除け声を出す。

「ハルナちゃん、あたしも怪我してるけどハルナちゃんだって無傷ってわけじゃないんだから。こういう時はしっかり休んで、怪我
を治すの!早く戻ってきてね!!」

アユミンらしい優等生な発言。
二人とも意識が戻ったんだ。
自分の心の壁が崩れてゆくのを感じているハルナに、蚊帳の外だった人間の声が。
491 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:15
「茶番はそれくらいでええ?油撒いた程度でうちの『糸禍恕手』が無力化したなんて、思うてくれると困るんやけど」

言いながら、飛ばした糸の束を辛うじて糸の斬撃を免れていたポールハンガーに巻きつける。糸の締め付けで、木製のポールは真ん中
からへし折られてしまった。
ユイヤンに向き直り、ハルカが双剣を構える。

「・・・大丈夫。あなたの糸には二度と、捕まらない」
「何や。正義超人になったら双剣の持ち方も元に戻るんと違うのか」
「今の私なら・・・迷わない」

まっすぐに、前方に飛び出すハルナ。
ユイヤンが繰り出す糸を右に左に避け、向かってきた糸を刃で弾き返す。

くそ、迷いが吹っ切れた分、ええ動きするやないか。
舌打ちするユイヤン。それでも彼女は自らの優位を信じて疑わない。
仕掛けが一つだけとは、限らない。第一の仕掛けは部屋中に張り巡らせた糸の結界。これは思わぬ邪魔によって潰されてしまった。し
かし、ユイヤンはもうひとつの仕掛けを用意していた。

「ちょこまかとうっさい奴や。おとなしく捕まっとき」
「言ったはず。あなたの糸にはもう捕まらないと」

相手に、気取られてはならない。
気づいた時には、既にどうにもならない状態。それがユイヤン・オカパインの最も得意とする戦法だった。
492 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:16
「こうなったらうちも奥の手、出さなあかんなあ」

機は熟した。
向かってくるハルナを前にユイヤンが両手を下げ、手甲の糸を全て前方の床に垂らす。
だが、ハルナはそれに気づかず、床の糸を踏んでしまった。まるで罠にかかったかのように、糸がハルナの全身に絡みつく。

「これが『糸禍恕手』究極の技、一人締めや!!」

一気に、両手の糸を引くユイヤン。
複数の骨が折れる、鈍い嫌な音が部屋に響いた。
だが、倒れたのは、当の本人だった。

「がはっ・・・な、何で」
「糸を弾いた時に、あなたの体に絡みつくように細工をした」

普通なら自らの体に糸が巻きついた時点で気づく。
しかし、ハルカに浴びせられた油が、ユイヤンの皮膚感覚を狂わせていた。
ハルナを縛ったと思ったその手ごたえは、自分自身を縛る手ごたえだったのだ。

「・・・勝ち誇るには、まだ早いんと違う?」

よろよろと、ユイヤンが立ち上がった。
自らの体を糸で縛り補強し、動けるようにしたのだ。

「自分言うたやろ、うちを生かすような手加減はでけへんって」
「・・・・・・」
「よう見とけ、これがビユーデン副官ユイヤン・オカパインの死に様や!!」

鬼気迫る形相でハルナに襲い掛かったユイヤン。
その凶暴な糸が、途中で勢いを失い、地に垂れる。
どう、と倒れたその背後には、ハルカがいた。

「バーカ、それをさせないためにハルがいるんだろ」

やれやれ、と言った感じで剣を鞘に収めるハルカ。

「これで王国を混乱に陥れた黒幕も終わりだ。あとは上の連中に任せようぜ」
「うん、そうだね」

本当に、これで終わりなんだろうか。

― うち、あの人に言われてんねん。あんたの存在は計画に必ず仇なす、早いとこ潰せって ―

ユイヤンは確かに、そう言った。
彼女の仕掛けた、数々の陰謀。それがより大きな陰謀のただの布石に過ぎないとしたら。
ハルナは、生まれてくる疑問に今はただ首を横に振ることしかできなかった。
493 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:16
494 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:17


王国の黄金騎士に名を連ね、「荒ぶる狛犬」「大明神」の異名で敵勢力から恐れられていた、ケメコ・ダーヤス。彼女は騎士
団を辞めたのち、領地を封ずるのを固辞し、ビユーデン領クレナイにて剣術道場を開いていた。

クレナイはかつて異国の戦士が落ち延び開墾したという伝説がある町で、伝説の真偽はともかく、建物や町並みまで至る所に
周囲とは違う文化だった。建物は瓦屋根の木造平屋建てがほとんどで、ケメコのダーヤス道場もまた質素なつくりとなっていた。

ダーヤス道場に、一人の女が訪れていた。
ミーヨ・ポットホーネット。ビユーデン領主リカ・ハーフヒップの副官を務めるこの女性は、度々道場に日参していた。あま
りの行き来ぶりに、口さがないものは「あの二人はできてるんじゃないか」などと怪しい噂を流す始末だ。

板張りの道場の中で、ケメコとミーヨが、向かい合い座禅を組んでいる。
精神を集中させ瞑想し、感覚を研ぎ済ます古来からの鍛錬法だった。カタナ、と呼ばれる片刃の細身の剣を得物とするミーヨ
は、同じくカタナを使用していたケメコの存在を知り、そして師事していた。

「・・・!!」
「何よ、どうしたのミーヨ」

薄闇を照らす蝋燭の炎が、ゆらりと揺れた。
ミーヨが目を見開く。額には珠のような汗が流れていた。
そんな只ならぬ様子のミーヨに気づき、ケメコも自らの瞑想を解く。

「ユイヤンが・・・」
「わかるの?」
「ええ、リカちゃんに仕えてから長年共にいびられ・・・いや頑張ってきた仲でしたから」

ケメコが立ち上がる。
薄暗い道場の奥の、闇を見つめる。

「いよいよ、動き出すのね」
「おそらく」
「この国を変えるためには最早こうするしか、手はないのかもしれない」

炎に照らされるケメコの顔。
見据えるのは、希望かはたまた絶望か。
495 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:17
496 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:19


王都リゾナントからやや北に位置する、学園都市「エッグ」。
元は学園名を指していたその名も、今や町全体を表す名前となって久しい。
エッグ学院長であるヤグチェマリ・ヒモノッポがエッグの学院生を使い、様々な仕事の依頼を受け、利益を生み出すシステム
を構築してからは、学院の周辺に人が集まり一つの街として機能するようになったという経緯があった。

院長室の奥から、紙のようなものをめくる音がする。
ヤグチェマリが、学院生派遣報酬で得た札束を指で数える音だ。

「ひい、ふう、みい。何だよシンスケのやつ、たった30万モニかよ。しけてやがんなあ。あいつも王国情報局にマークされ
てるらしいし、付き合いも今回限りだな」

カシウス・シン・スケルツィオという豪商のボディーガードの仕事を請け負った報酬。30万モニと言えば大金に値する金額
なのだが、欲の皮が突っ張ったヤグチェマリには吹けば飛ぶような金額にしか見えない。

「そう言えば、ベーヤンのやつはやたら金払いがよかったな。後ろ暗いことしてるから当然か。カリンのやつはしくじったみ
たいだけど、前金制にしといてマジ助かったわ。ベーヤンは牢屋にぶち込まれるし、一石二鳥だな」

ベーヤンと言えば。
ヤグチェマリは自らの子飼いであったカリン・ミヤモ・チャンサンがエッグ出身のハルカ・クドゥに倒されたことを思い出す。

ちっくしょう。ツンクの野郎が強引な手で引き抜かなきゃあいつもおいらの手駒だったのに。まったく余計な事しやがって。

そもそもこのヤグチェマリ、ツンクボーイ王には少なからぬ恨みがあった。
黄金騎士時代、些細な事から団長の任を解かれ、さらに領地の統治を所望したにも関わらず与えられたのはエッグの前身であ
るキッズの代表者の地位だった。キッズ在籍の学生たちが相次いで反乱を起こし国家樹立まで持っていったことに対してはお
咎めなしとされ、また、何はともあれそこまでの人材を育てたヤグチェマリの手腕は大いに評価された。

エッグの学院長になってからもスマイレージ国の中枢を担う人物を排出するなど、モーニング王国にとっては獅子身中の虫
といった存在ではあったものの、逆に言えば逸材をこちらに引き入れてしまえば大きな利となる。王国領内にありながら学
院の存在を許されているのは、そういった理由からだった。

この国は腐ってる。だからおいらがどんな方法で金儲けしようが、文句は言わせない。

誰に向かって言うわけでもなく、自らの正当性を誇示するかのようにヤグチェマリは一人ごちるのだった。
497 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:19
498 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:21


ベリーズ領デレシン砦の門前。
日は既に高く上っている。砦に向けて進軍したのは夜更け過ぎにもかかわらず、メグ・ネコムスは砦に突入することすらこ
とすらままならない。
ベリーズの矛と盾の前に、手も足も出なかったのだ。

「何なの、何なのあんたたち!!」

全身汗まみれになりながら、メグが二人を思い切り睨み付ける。

事の始まりは、メグ率いるキュート軍小隊が砦の目と鼻の先までたどり着いた時のことだった。
門が大きく開かれ、出てきたのはたった二人の兵士。ユリナ・クマ・エレポールとマーサスド・リバウンドだった。
そんな中マーサが突然、地面に棒きれで線をひく。ユリナがとぼけた声で「はーいみなさーん、この線を越えちゃったら、
おしおきですよー」と宣言した。馬鹿にされたと感じたキュート兵士たちは次々に二人に向かって特攻、成すすべもなく
ボロ雑巾にされてしまったのだ。

そしてメグ自身も、その不可解な現象に翻弄され続けていた。
自慢の武器である銃槍「愛鉄傘」が、まったく二人に通じない。届いてはいるはずなのだ。なのに、メグと二人の間には数
千キロ以上離れているのではないかと思うくらいに、届かない。

「メグー、もうそろそろ諦めたら?そんなもの闇雲に振り回してたら、疲れちゃうよ?」

欠伸をしながら、ユリナ。
かれこれこの状況が半日以上続いているのだ。

「あんたクマイちゃんの能力知らないんだっけ。教えてあげないけど、とにかく無駄だから。諦めて帰んな」

「うるさいっ!!」

無駄だと言われれば言われるほど、抗いたくなる。
メグの性分は根性の塊だった。自らの納得のいかないことは、どんな手を使ってでも否定してみせる。今回のデレシン砦へ
の侵攻も、彼女の性格ゆえのものだった。
499 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:22
「『愛鉄傘』フルバースト!!」

全弾発射。
それがメグの最後の切り札だった。
ただの全弾発射ではない。この『愛鉄傘』、特殊な性質を持つ魔導具でもある。使い手の精神とシンクロし、驚異的な火力
を叩き出す。その性質がゆえに、メグにしか使いこなす事ができないものだった。
『愛鉄傘』が全開になり、全ての銃口がユリナたちに向けられる。そして、傘とメグ自身が、白い光に包まれた。

「クマイちゃん、あれやばくないの?」
「大丈夫。『やきそばランド』を信じて」

ユリナが、ぬいぐるみのくまの顔がついた三叉の矛を取り出し、地面に向かって石突を突き立てる。

「出でよ、やきそばランド!!」

ユリナの持つ「鋼衝(こうしょう)一七六」は、空間を歪ませる力を持つ魔法の矛だった。
この力により、目の前に全長数千キロの巨大な空間(彼女はそれをやきそばランドと呼んでいる)を作り出すことも、また1
80以上ある身長を176cmにすることも可能となる。

メグを包む白い光が、周囲に飛び散る。
それこそ無数の銃弾が、大きな炎を纏いユリナとマーサのもとへ襲い掛かった。
しかし、それらは彼女たちにたどり着く前に姿を消してしまう。正確には、別のどこかに存在する「やきそばランド」の領域
に突入し、その上空を飛び続けることになる。

「くそ!届け!!届けぇ!!!」
「しつこい」

マーサが、さらに気力を振り絞ろうとするメグに向かって、拳を一振り。
その腕の何倍もの大きなの大きな拳が突然、メグの前に現れる。力を使い切ったメグは何もできないまま、吹き飛ばされた。

「あ、やっちゃった」
「メグなら死なないでしょ、あの程度じゃ」
「それもそっか」

踵を返し、二人が砦に戻る。
砦の門扉が閉まると同時に、メグの執念のような銃弾が、空間を飛び越え扉を穿った。
500 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:22
501 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:24


その頃、デレシン砦のマイハの執務室には一人の来客があった。
黒マントの、仮面の女。
スマイレージ、キュート、ベリーズ三国の上層部と接触している人物だった。

「準備は整いました。あとは人選をするだけですが」
「スマイレージとキュートは既に選ばせていただきました」

そう言って、机の上に二枚の写真を置くマイハ。

「ほう。サキチィ・ハーゲンダッツにメグ・ネコムス。彼女たちなら、あなたの考えた段取りを動かす『歯車』に相応しい」
「いえ。私はあなたの計画に沿って段取りを考えただけですから」

マイハが静かに、ため息をついた。
仮面の女の表情は窺えないが、満足そうにしているのはマイハにも伝わった。

「で、ベリーズのほうはどうするつもりなんです?メグもそうですが、やはりかつての『キッズの15人』から選ぶのは気が
引けますか」

マイハは、ゆっくりと首を横に振る。

「私は、あなたの計画が成就するためなら何だってしますよ」
「それは頼もしい」
「最後の一人は・・・最後に分かりますよ」

仮面の女は何も言わなかった。代わりに、思い出したように、

「そう言えば、ユイヤンが王国騎士団に尻尾を掴まれましたよ」

と言った。
502 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:25
「あの人ですか。あなたに依頼されてモーニング王国の一連のごたごたを起こしたという」
「ええ。出来の悪い『歯車』で大して期待はしてませんでしたが、ベーヤン・ヒゲアリスの持つ資産と副産物のあれが手に入
ったのは大きいです。あれについては後ほどそちらにお送りしますよ」
「あれは、最後の仕上げに必要ですから」

こつこつと、靴の足音が聞こえる。
マーサとユリナが、戻ってきたのだ。

「もう戻ってきたのか。あのメグ・ネコムスを相手に」
「有能ですから。特に直情型のメグにはあの二人の能力は有効です」
「そうか。それでは私は失礼する。あまり軍師が『怪しげな黒マントの女と接触していた』と噂されるのもいけない。それでは」

二人が部屋に入ってきたのと、仮面の女が消えたのは、ほぼ同時だった。

「あれ、誰か来てたの?」
「いや。それより、報告を」

マーサが簡単な報告をする。
メグ・ネコムス率いる小隊は全滅。メグは敗走。

「ありがとう。これでしばらくメグも砦を落とそうなんて考えないはずだよ」
「いや、あれは何度でも来るよ。だってメグ執念深いもん」

ユリナが嫌そうに言う。
何度も向かってくる相手をただ見てるだけというのも、暇で退屈なことなのだ。

「大丈夫だよ。彼女はもう、ここには来れない」
「何で?また来るって。だってメグ、怒ったネコみたいにシャアーッって言ってたし」
「いいからいいから」

話が長くなりそうなので、マーサがユリナを無理やり引っ張り外に出る。
扉の外では、ユリナが何で何でという言葉を連呼していたが、やがてその声は遠ざかっていった。

そろそろ、進めなければいけないな。

マイハが、写真を見つめながら、言う。
急に、マイハが咳き込みだした。激しい咳を手で押さえ込むが、発作は収まらない。
しばらくして、ようやく咳が静まる。
口を押さえていた掌には、ひと溜まりの血が。

私の命、間に合えばいいが。

血の色に映る瞳の奥には、未来が見えているのかどうか。
マイハ自身にも、わからなかった。
503 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:25


第八話「歯車」 了


504 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:25
505 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:26
506 :名無飼育さん :2011/12/30(金) 21:26
507 :名無飼育さん :2011/12/31(土) 00:00
地獄の番犬ケルベロスは双頭ではなく三つ頭です。
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%AB%E3%83%99%E3%83%AD%E3%82%B9
508 :名無飼育さん :2012/01/06(金) 01:07
そろそろお願いします。
509 :名無飼育さん :2012/01/10(火) 21:15
510 :名無飼育さん :2012/01/10(火) 21:17


空が、赤く染まりつつあった。
キュート国国境門に向けて、メグ・ネコムスは傷ついた体を引きずるように歩いていた。
赤い空同様、メグの心を憤怒と悔恨の炎が染め上げる。

この私が・・・メグ・ネコムスが、砦一つも落とせずに破れるとは!!

しかも相手はたった二人。養成学校「キッズ」時代に共に同じ教室で学んだマーサスド・リバウンドとユリナ・クマ・エレポ
ール。ベリーズの矛と盾を相手とは言え、手も足も出ぬまま敗退してしまった。キッズ初期にキッズ生精鋭部隊「ジックス」
として選ばれたこともあるメグにとって、屈辱以外の何ものでもなかった。

幸い、今回の作戦は軍師マイマイ・ジャウプ・リアルセントには伝えていない独断での行動。失態となることはない。もちろ
ん、作戦の協力者である同僚たちにはきつく口止めしてある。普段からメグのことを恐れている連中だ、万が一にも口を滑ら
す事は無いだろう。

夕闇に、人影が躍り出る。
まさか、追撃か。身構えるメグ、しかしそれは杞憂に終わる。

「おかえり、メグ」
「カンナ・・・」

現れたのは、カンナ・クンカ・クンカ。
キュート軍幹部の中では新顔に属する人間だ。彼女はキッズではなく、キッズと入れ替えのようにして設立されたエッグの出
身だ。

「負けたよ。あんたたちに無理言ってまで押し通した作戦だったのにね・・・そう言えば、もう一人が見当たらないけど」
「チッサーなら先に帰ったよ。マイマイから緊急の招集があったみたい」
「そうか・・・」
511 :名無飼育さん :2012/01/10(火) 21:18
確かに今回の進軍は独断に基づき実行したものだが、それでもカンナが出迎えてくれたのは本当にありがたいことだった。メ
グは素直にカンナに感謝した。

「この進路は危ないよ。ベリーズ軍の追撃の心配がないモーニング王国の国境沿いに移動しよう」
「任せるよ」

前を歩くカンナの後姿が、夕陽に照らされ、燃えるような色になる。
メグにはいつもより、その姿が頼もしく映った。


日がすっかり落ちてしまったことから、カンナは途中の森でキャンプすることをメグに提案した。
キュート王国とは決して仲が良好とは言えないモーニングの領土は目と鼻の先だ、下手に動いてはトラブルになりかねない。

カンナが持ち合わせていた簡易テントを張り、集めてきた薪に火を点す。
野獣の類など、メグとカンナなら簡単に追い払えるだろうが、暗闇に灯りがあるに越した事は無い。

「メグはさ、何でそんなにしゃかりきなの?」

携帯食で食事を済ませ、ちろちろと燃えるオレンジ色を見つめながら、カンナが問いかける。

「しゃかりき?」
「うん。今回の件だって、マイマイの言う事聞いてればよかったのに」
「・・・焦ってる、のかもね」
「もしかして、マイミちゃんのこと」

聞いてはいけないことを聞いてしまった、そんな表情をするカンナ。しかしメグは彼女の拙さをかき消すように首を振った。

「確かにマイミが将軍になってからあげている実績に、焦ってるのかもしれない。ライバルだと思ってたのが、どんどん離さ
れていくようで。今回のことだって、砦を落としてマイミを見返してやりたいって気持ちが無いと言ったら、嘘になるかもね」
「メグ・・・」
512 :名無飼育さん :2012/01/10(火) 21:19
まるで、自分の気持ちをなぞっているようにメグには思えた。
キュートのリーダーとしてマイミを認めていると同時に、彼女には負けたくない。それが今回の暴走とも言える行動に現れて
しまったのではないかと。

不意に聞こえる、木々をかき分ける音。
獣か。しかし、その音は規則的に、そして連続して聞こえてくる。まさかベリーズの追撃がここにまで。メグは「愛鉄傘」を
手に取り音のするほうに身構えた。

「メグ、わたしが様子を見てくるよ」
「えっ」
「大丈夫、わたしには『テンション下降』があるから」

カンナが持つ、自らの気持ちを下降させることで気配を断ち、周囲から自らの姿を不可視にする「テンション下降」の能力。
彼女の気持ちが乱されない限り、安全に偵察を実行することができる。とは言え、一人で規模もわからない敵軍に近づける
のはメグには気が引けた。

「私も行くよ」
「ううん、必ず戻ってくるから。メグはそこで待ってて」

それだけ言うと、カンナは周囲の闇に溶けていった。
513 :名無飼育さん :2012/01/10(火) 21:20
514 :名無飼育さん :2012/01/10(火) 21:21



モーニング王国軍の敵襲、という哨兵の一報を聞いた時、スマイレージ四巨頭の一人であるサキチィ・ハーゲンダッツは耳
を疑う。確かに相手方に対して挑発行為を繰り返していたのはスマイレージだ。しかしまさか本当に軍を差し向けてくるとは。
アヤチョやユウカの言っていた話とは違うことになってしまったが、サキチィにとってはむしろ好都合だった。向こうが仕
掛けてくるのなら、こちらが迎え撃たない道理は無い。

「状況は」
「さっき入ってきた情報によりますと相手の戦力は100人程度、剣や槍を持った歩兵のみで編成されているようです。現在、
配備された兵力で食い止めている状況です」
「後ろに魔法兵団が控えてるかもね。念のため魔導部隊も動かすか」

「はっ!!」

サキチィが自らの武器であるチャクラム「序序円」を取り出す。
ようやく戦える。思い存分、やってやる。
そう思いつつ外に飛び出した時、信じられない光景が飛び込んできた。

全滅。
演習作戦のために国境門付近に配備されていた兵力300、そのほとんどが血を流し、地に伏せていた。積み重ねられた屍の向
こうに、一人の女が立っているのが見える。

「まさかあいつ一人でやったって、言うの?」

黒マントを身に纏った、仮面の女。
右手には、物干し竿くらいの長さはありそうな刀が握られている。
背後に並ぶ甲冑姿の兵士たち。甲冑の胸には、間違いなくモーニング王国の刻印が刻まれていた。
仮面の女がモーニング王国の手のものであることは間違いない。
515 :名無飼育さん :2012/01/10(火) 21:22
「お前がこの部隊の大将か。すぐに後を追わせてやる。かかってこい」

仮面の女はくぐもった声で言うと、刃先をサキチィに向けた。
わかりやすい挑発行為。しかしサキチィはあえてそれに乗る。

「どこの誰だか知らないけど、スマイレージ四巨頭のサキチィに喧嘩売ったこと、後悔させてあげる」

手に持った「序序円」を、仮面の女に向け投げつける。
射出、としかいいようのない勢いでサキティの手を離れ、飛んでくるチャクラム。仮面の女はそれを刀で弾き返そうとした。し
かし切っ先は空を切る。チャクラムが急に軌道を変えてサキティ自身のもとへ戻っていったのだ。

「・・・曲芸か」
「御代はあの世に行ってから払ってね」
「断る」

刀を振り翳し、駆け足で近づく仮面の女。
サキチィは先ほどの「序序円」を5枚、掌で躍らせ、投げつける。
今度は最初から不規則な軌道を描く。並みの人間なら目が惑わされ瞬時に全身を切り刻まれてしまう事だろう。ただ、仮面の女
は並みの人間ではなかった。不規則の更に先を読み、次々にチャクラムを打ち落とす。打ち落とされたチャクラムはまるで生き
物のように、再びサキチィの掌へと戻っていった。

「あんたには、最初からこっちのほうがよかったかな」

掌で五つのチャクラムが分解され、一つに組み上げられる。
サキチィ自身をすっぽりと覆ってしまうくらいの大きさの、円。それはまるでチャクラムをそのまま大きくしたかのように見えた。
516 :名無飼育さん :2012/01/10(火) 21:23
「『真・序序円』の剣技、見せてあげる」
「・・・面白い」

円の中心に持ち手があり、それ以外の部分は全てが、刃。
それをまるで剣でも振るうように、動かす。刃の軌跡、そしてサキチィの動き。全てが円で構成される。迂闊に踏み込めば、あっと
いう間に丸太のように切断されてしまう。

仮面の女は刀を正面に構えたまま、微動だにしない。
静観か、それともただ攻めあぐねているのか。

「何?びびっちゃってんの?」
「いつも・・・言ってるのに」
「は?」
「確かに円の動きは『攻撃は最大の防御』を理想化した動き。けど」

一瞬を見据え、そして仮面の女が動く。
閃光のように、剣戟が走った。

「真・序序円」の軌跡を潜り抜け、刀はまっすぐにサキチィの心臓に突き刺さっていた。
何が起こったのか。サキチィは理解できずにいた。
ただ目の前の相手のことについては、薄れゆく意識

違和感が、最初からあった。
刀が相手の得物のはずなのに、どことなく馴染んでいない。
いや、サキティは「彼女」の得物が本当は何なのか、知っていた。

― 単調な円の動きは、直線の動きに対して脆い。サキチィも複雑な円の動きをしてみてごらん ―

円の動きを熟知した「彼女」らしい教え方。
そう、サキチィは彼女の事を、よく知っていた。
何で。どうして。それよりも先に、別の言葉が出る。

「ねえ・・・嘘でしょ・・・嘘だって・・・言って・・・よ・・・」

仮面の女に向かって、崩れ落ちるように倒れるサキチィ。
その体を両手で受け止める女が、ささやくように言う。

「大丈夫。私も、後で行くから」

その言葉は、サキチィには届かなかった。
517 :名無飼育さん :2012/01/10(火) 21:24
518 :名無飼育さん :2012/01/10(火) 21:24



第九話「動乱」


519 :名無飼育さん :2012/01/10(火) 21:24
520 :名無飼育さん :2012/01/10(火) 21:25


ビユーデン領副官ユイヤン・オカパインがシーナの反乱やミュン・シバ・プリペアップの蜂起に関わっていた事で、真っ先に関わり
が疑われたのが、彼女の上官である領主リカ・ハーフヒップであった。
しかし王国情報局がユイヤンの自室を捜索した結果、今回の件にリカが関与していると示すものはなく、拘束されていたリカは程な
くして解放された。

ハロプロ暦1492年、蟹の月。
モーニング王国王都リゾナント。
城内にある王国騎士団詰所には、ハルカたち4人の新兵の姿があった。
入団してからまだ3ヶ月ではあるが、先の功績が認められ、晴れて詰所付きとなったのだ。
まだまだリハビリ中のメンバーがほとんどだが、気持ちは元気いっぱいだ。

「しかし自室があるってのはいいもんだな。まぁちゃんの面倒も見なくて済むしな」

ハルカが隣のポクポク娘を見ながら、言う。その表情はまるでお守りから解放されたかのようだ。

「えー、まぁちゃんもっとハルちゃんと一緒にいたかったのにー」
「冗談よせやい。あんたといると早く寝なきゃなんないじゃん」
「遅くまで起きてると体わるくなるよー」

そんな二人の夫婦漫才のようなやりとりを、ほほえましく見ているアユミンと、ハルナ。

「アユミン、体の調子はどう?」
「さすがにあれだけやられたからね。本調子とまではいかないけど。でもリホさんもがんばってるし、あたしも負けてらんないよ」
「そっか。アユミンはリホさんがライバルたもんね」

棍と拳闘。得物は違えど、体捌きという点では共通点がある二人。
リホは先の戦いにおいて、腰に大きなダメージを負ってしまった。復帰には時間がかかるがその時間を1日でも短くしようと、目下
リハビリ中なのだった。
521 :名無飼育さん :2012/01/10(火) 21:27
「ところで、ユイヤンはあれから・・・」
「うん。背後関係について情報局も色々調べたらしいんだけど。本人がまったく口を割らないらしくて・・・近い内にヤメカトラズの監
獄に収監されるみたい」

確かに、ユイヤンは自らの黒幕の存在を仄めかすような発言をしていた。
ただ、ハルナがユイヤンの身辺を調査した際にはその影すらも踏む事ができなかった。王国情報局さえ手がかりをつかめないことから
も、彼女の狂言だったという可能性は否定できない。

「ユイヤンで思い出したけどさ。キュートやスマイレージでも大きな事件があったらしいぜ」

二人の間に、ハルカが割り込んできた。
大きな事件、とはスマイレージ四巨頭が一角のサキチィ・ハーゲンダッツ、キュート軍の幹部の一人であるメグ・ネコムスが相次いで
命を落としたことだ。詳細は伝えられず、ただ戦場にて命を落とした、と王国内には伝わるのみだった。

「メグはまだわかるよ。ベリーズの連中は戦争のまっ只中だしな。けど、サキチィってやつは何で死んだんだ?」
「わからない。けど、何か嫌な予感がする」

ハルナが、深刻そうに話す。
一連の事件は、黒幕であるユイヤンが捕まったことで終結したはず。なのに、心のどこかでその事実を認めることが出来ない。

そんなところに、きつい拳骨がハルナの頭に落ちた。

「いたっ?!」
「うちら正式な騎士になったんだぞ!なのにそんなしけたツラしてんな!!」

ハルカたち四人が訓練所から王城内詰所に移動したということは、彼女たちが騎士団長に正式な騎士として認められたということだった。

「そうそう。まぁちゃんたちはもう『騎士さま』なんだよー。これからもがんばろー!」

大きくガッツポーズをしてみせるマサキ。
場の空気を和ます才能でもあるのではないか、というくらいに彼女の発言は三人の心をやさしくさせた。と同時に彼女の言葉通り、
これからは一人前の騎士である。騎士としての自覚、を考えずにはいられなかった。
522 :名無飼育さん :2012/01/10(火) 21:27
523 :名無飼育さん :2012/01/10(火) 21:27
524 :名無飼育さん :2012/01/10(火) 21:27
525 :名無飼育さん :2012/01/10(火) 21:29
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。

>>507
双頭はオルトロスでしたね。お手数おかけました。

>>508
長すぎる正月休みでしたが、今日から通常営業でよろしくお願いします。
526 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 04:32
>>525
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
鞘師ちゃんもよろしくお願いします。
527 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 21:42
528 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 21:43


キュート王国の中心である、サクラティラリ。
王城では、メグの突然の訃報に、誰もが悲しみに明け暮れていた。

「そんな、あのメグが・・・信じられないよ」

メグと同じように、別方面のベリーズ軍と一進一退の攻防を繰り広げていた軍幹部の一人ナカサキ・ギョルーイは、一報が入るや
否や王城に帰還した。
出迎えたマイマイ・ジャウプ・リアルセントが改めてメグの死を伝えると、茫然自失の表情になって泣き崩れる。

「なっきぃ、悲しいのは分かるけど。作戦会議室でみんなが待ってるから」
「・・・うん。わかった」

辛いのはマイマイも同じだ。
ただ、彼女はキュートの軍師として軍の首魁であるマイミかそれ以上に冷静でなくてはならない。的確な一手を講じる事こそが、
メグに対する最後の餞。そう、言い聞かせていた。

会議室には、キュート軍幹部が勢ぞろいしていた。
将軍マイミ・モサ・シュガーライス。
副将ウメリカ・ユーズドタオル。
さらに、メグと行動をともにし、帰還したチッサー・オカドッグ。カンナ・クンカ・クンカ。
マイマイに、ナカサキ。
そして、アイリ・ダジャレー・サムスベリー。
会議室には9つの椅子に、二つの空席。一つは、アイリの父である国王トール・ボンバー・サムスベリーのものだが、もう一つは。

「誰が・・・誰がメグをやったんだ!!」

机を叩き、チッサーが大声を上げる。
ここで怒りを露にしても、メグは帰ってこない。それでも、大声を上げずにはいられなかった。
529 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 21:45
「モーニング王国の奴らが・・・あたしがベリーズ軍の追撃を避けるためにそんなとこを通るから・・・」

カンナの顔は青白く、下を向いて搾り出すように言った。

「カンナ、それは確かなの?」
「うん・・・あいつら、モーニング王国の甲冑を着てた」

マイミが、カンナを問い質す。
カンナは震えながらも、はっきりと答えた。

「モーニング王国国境付近の森で、カンナが言ったとおりの特徴の小規模集団を近隣住民が目撃してる。メグを殺したのは間違い
なく、モーニングの兵隊・・・」

マイマイがそう言いかけた時、隣のチッサーが彼女の胸倉を掴んだ。

「メグを殺したのはお前だ!!」
「な、何をいきなり?!」
「お前があんな変な作戦を立てなきゃメグも!あんな意味の無い作戦さえしなきゃ!!」

チッサーは泣いていた。
メグはキュート王国建国から今まで、チッサーをはじめマイマイやナカサキ、さらにアイリの姉的存在だった。口うるさいところ
もありそれを恐れている面もあったが、戦闘になれば年少のものを真っ先に庇う義理堅さもあり、多くの年少者から慕われていた。

「意味のない?チッサーに何がわかるの?戦略のせの字も知らない単細胞の癖に」
「は?お前もう一遍言ってみろ!!」

幹部の中でも最年少のチッサーとマイマイ。基本的に自らの知を駆使して戦うマイマイに対して、力押しでの戦闘を好むチッサー、
ぶつかり合うこともしょっちゅうだった。ただ、いつものいざこざと今回の口論は明らかに違う。
530 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 21:46
「言っても仕方ないことは、言っても仕方のないことだよ」

二人を鎮めたのは、そんなウメリカの言葉だった。
見ると、彼女は両の掌をきつく握り締めている。拳の隙間からは、赤い雫がこぼれ落ちていた。
黎明期のキュート王国は、マイミ、メグ、そしてウメリカの三人が牽引してきたと言っても過言ではない。その苦楽を共にしてきた
仲間が、死んだ。悲しいわけがない。それでも、俯いているわけにはいかないのだ。

「そうだね。えりの言うとおりだよ。メグを討ったモーニング王国に借りを返すのが、メグへの何よりの弔いになると思う」

マイミの言葉は静かで、それでいて力強い。
何としてもメグの仇を取る、そんな強い意志に裏打ちされているようだった。

「そのためにも、今キュートが抱えてるいざこざは解消しないと。アイリ、お願い」
「うん。わかった」

アイリが立ち上がり、懐から勅書を取り出して読み上げる。

「キュート国王トール・ボンバー・サムスベリーの名において、ベリーズ共和国と停戦・和約し、モーニング王国に宣戦布告する」

チッサー、ナカサキ、カンナが驚きの声を上げた。

「そ、そんな急に停戦だなんて!第一、国民が許さないよ!!」

ナカサキが普段から高い声をさらに上ずらせる。
今日まで戦争相手だった国と、明日停戦し和約する。最前線に立つ人間が納得できるはずが無い。しかし。
531 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 21:47
「実は前々からベリーズの上層部とは講和条約について協議をしてたんだよ。最前線のメグやなっきぃに下手にベリーズに攻め込ま
せなかったのも、そこにあるんだ。ベリーズからはゴーサインが出てる。あとは、うちらが承諾するだけ」
「でっでもさあ、なっきぃが言ったみたいに国民が・・・」
「マイもそこには不安があった。けど、今はメグの死が・・・国民の気持ちをひとつにできると思う」

マイマイが、チッサーの目を見据えて言う。
英雄の死。キュート独立戦争で活躍した彼女の死は、国民の怒りをモーニング王国へと駆り立てるには十分すぎるだろう。

「1週間後。私とウメリカはベリーズの首都マダヤデにて講和条約を結んだ後、正式にモーニング王国に宣戦布告する。みんなはそ
の日に備えて動いて欲しい」

最後にマイミが締めくくる。
戦いが始まる。メグの弔い合戦と言うには、あまりにも大きすぎる戦いが。
532 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 21:47
533 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 21:48


モーニング王国リゾナントにある、王立病院。
ミキ・スカルプ・ティボーテとの戦いで大怪我を負った騎士団員たちはこの場所に収容された。他のメンバーは日常生活に程なくし
て戻れたものの、リホ・デリ・サヤスィだけが未だにリハビリをしていた。

病院の、一室。
リホはこのところ日課になっている、筋肉トレーニングに励んでいた。
腰のせいで満足に歩けない状態ではあるが、筋肉だけは衰えさせてはならない。そんな気持ちから、トレーニングはつい激しさを増
すのだった。

「いちまんさんぜんじゅういち、いちまんさんぜんじゅうに、いちまんさんぜんじゅうさん・・・」

逆立ち腕立て伏せ。
リホの繰り出す拳技の命とも言うべき両腕の筋肉を鍛える、トレーニング。
蟹の月特有の蒸し暑さが、逆さに立つリホの額から汗を垂らさせる。

「はは、こらまたえらいごっついトレーニングやな」

逆さに映る、車椅子。
リホはその姿を見るまで先輩が病室に入って来たことに気づかなかった。
534 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 21:50
「はは、こらまたえらいごっついトレーニングやな」

逆さに映る、車椅子。
リホはその姿を見るまで先輩が病室に入って来たことに気づかなかった。

「えっあっすいません!」

慌てて逆立ち体勢を解き、ミッツィー・ボーンブレイクに向き直るリホ。

「ええねん。お見舞いなんて大層なもんと違うから。うちもリハビリ中やしな。それに今までユイヤンの件の後処理とかで、忙しく
て顔出せんかったし」
「いえそんな、わざわざすみません」
「病人は寝てるもんやで。さっさと布団に入り」

車椅子の生活を余儀なくされているミッツィー。何故そうなったのかはリホは詳しくは知らなかった。彼女が入隊した時には既にミ
ッツィーは車椅子に座っていたからだ。ただ、王国騎士団肆番隊隊長が空位となった経緯に関係しているということだけはミズキか
ら聞いた事があった。

「ミキティにえらいやられたらしいな」
「・・・正直、歯が立ちませんでした」
「当たり前やろ。あの人は・・・化け物や」
「国を守らなきゃいけない立場なのに、正直不甲斐ないです」

ベッドに横たわりながら、俯くリホ。ミッツィーは諭すように、その頭をぽんぽんと撫でた。
535 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 21:51
「うちが新兵で入ってきたんは、あの人が副団長やってた時やった。うちの声がオカマみたいやとか、さんざんボロクソに言うくら
い、ひどい人やったけど・・・鬼のような強さやってん。それが、みんなを引きつけるカリスマみたいになってたんやね、きっと」
「そんな人がどうして」
「昔からあの人は、束縛を嫌うとこがあってな。法王降ろされて騎士団に入団した経緯もそうなんやけど、色々耐え切れなかったん
やろうなあ」

ミッツィーは病室の窓から外を眺めながら、しみじみ言う。そこにはリホが理解する事のできない、彼女とミキの歴史があるのだろう。

「王様が追討令を出したみたいやけど、この国にあの人とタイマンでやり合える人間なんておらん。全盛期の黄金騎士の人たちならいけ
るんやろうけど。唯一渡り合えるとしたら・・・先代の騎士団長くらいか」
「ですね。アイさんなら、勝てるような気がします」
「ま、アイさんも自分の剣技を見つめなおす言うて王国出たっきり行方不明やけど。せやけど、うちかてミキティに勝つやり方ならいく
らでもある。うちには『ここ』があるからな」

そう言って、ミッツィーは自らの頭を指差す。

「頼もしいです、先輩」
「今は頼もしい先輩に騎士団のことは任せとき。あんたにはゆっくり休んで、元気になって帰ってくるのが最上の任務やで」

リホにはミッツィーの言葉が、その先のことを指しているような気がした。
536 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 21:51
537 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 21:53


スマイレージ国首都・ドリームフィフティーン、軍本部の司令室。
サキチィ・ハーゲンダッツが任務中に命を落としたことで、軍本部では彼女に代わる人材ををと、新たに四人の幹部候補を集
めていた。
四巨頭の一人であるサキチィを失ったショックは大きく、四人の少女たちを前にしたスマイレージ首脳の集まりもどことなく
精彩を欠いているように思えた。

「というわけでサキチィの抜けた穴は、ここにいるみんなで埋めたいと思ってるんだけど」

四巨頭のリーダーであるアヤチョ・ダーワーリョークが、真新しい軍服に身を包んだ四人の少女に問いかける。少女たちはいず
れも緊張した面持ちを見せていた。

「わっ私たちもサキチィさんの代わりになれるようがんばりますっ!」

元気のいいショートカットの少女、名をアカリ・タケ・オディンと言う。オディン家はキュート王国の名家シュガーライス家と
親類関係にあたるため、彼女はマイミとは近縁であった。

「はい、わたしも・・・」

リナプゥ・シオレナスもアカリに続いて発言する。脱力系の顔からは窺えないが、彼女もまた四巨頭の代わりを務めるという重
責に身を固くしていた。

「あの、サキチィさんは四巨頭さんの中で最年少だったけどすごい人だったと思うんです。そんな人の穴埋めになれるかどうか
わからならいけど、一生懸命がんばります!!」

何だかせわしい感じの少女が早口でまくし立てる。メイ・ユーキャン、新幹部四人の中で、もっとも期待されていると評判だ。

「とにかくまあ、うちらの気持ちはひとつですから。よろしゅうたのんます」

他のメンバーの言葉を纏める様に、カナナン・ヌレオーティバが頭を下げた。
538 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 21:54
「そっか。正式な辞令は明日には出ると思うから、こちらこそよろしくね」
「はいっ!!」

最後は元気よく返事をして、四人は司令室を出ていった。

司令室には、アヤチョにユウカ・リンホワイト・パブロン、カニョン・ビッグ・O・イースターの三人が取り残される。重い空
気の中、最初に発言したのはカニョンだ。

「サキチィが死んだなんて、まだ実感湧かないよね」

四人の中でもムードメーカー的な役割を担っていたサキチィ。
エッグ時代から苦楽を共にしてきた仲間の死を、三人の誰もが重く受け止めていた。

「けど、落ち込んではいられない。来週締結されるベリーズとキュートの講和条約、そしてその後のモーニング王国への宣戦
布告。そこにスマイレージも加わろうと思ってる」

アヤチョの突然の発言に、カニョンとユウカは明らかに驚きの表情を見せる。

「ベリーズとキュートが和解?」
「確かにモーニングとの戦争に備えて準備はしてきたけど、連合して宣戦布告って」
「みんなが驚くのも無理ないさ。けど、これは水面下でずっと進めてきた話だから。ベリーズとキュートのトップにも話は通
してある」

まるでサキチィの死を予見していたかのような段取りの早さ。
カニョンの心に疑念が渦巻く。
539 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 21:56
「アヤチョ。無いとは思うけど、まさかサキチィを殺した犯人は・・・」
「え?どういうこと!?」

ユウカがうろたえながら、カニョンとアヤチョの顔を交互に見る。

「ベリーズやキュートとは決してうちらの国は仲がいいとは言えない。けど、四巨頭の一人がモーニング王国の手にかかった
なら。国民も諸手を挙げて連合に賛成する」
「カニョン!アヤチョがそんなことするわけ・・・」
「確かに」

カニョンに食って掛かりそうなユウカを、アヤチョが制止する。
そしてはっきりした口調で、こう言った。

「結果的には彼女の死は三国を打倒モーニングで結びつけるのに契機になったかもしれない。けど・・・アヤは大切な仲間をこの
手にかけるほど腐っちゃいないさ」
「そう・・・だよね。ごめん、アヤチョ。ちょっと頭冷やしてくる」

少しでも仲間を疑ったことを、カニョンは後悔した。
そして自らの気持ちを静めるように、部屋の外へと出て行く。

三人が、二人に。
人が少なくなるぶんだけ、部屋の空気が重くなるようにアヤチョには感じられた。
そう感じさせる、別の理由があった。

「カニョンも・・・とまどってるんだよ。サキチィの死を、誰かのせいにしないと受け止められない。私だって、まだ実感できないもん」

カニョンの一連の発言をフォローするように、ユウカ。
540 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 21:57
「ユウカ」
「なに?」
「サキチィが死んだ日の晩、ユウカは何をしてた?」

的を得ない質問だった。
しかし、たまに意味不明な発言をするアヤチョなのに、今日は真剣そのものだった。

「何って・・・その日は家にいたけど」
「ごめん。変な事聞いた」

自らの心の暗雲を振り払うように、アヤチョが頭を振る。
サキチィの死因は、刀のような何かで心臓を一突きにされたことによるもの。もちろん、ユウカの得意とする武器は刀ではないことは、
アヤチョ自身がよく知っている。
けれども。
サキチィが一瞬でやられてしまうほどの、隙を作れる人物。
彼女が躊躇し、戸惑ったその間隙を縫い一撃で止めを刺すことが出来る人物は限られていた。

だめだ。アヤも、カニョンと同じなのかもしれない。
サキチィの死を、何かに関連付けずにはいられない。アヤチョが頻繁に連絡を取っていた仮面の女からは、こんな計画は聞いた事も無い。
そもそも、自分がサキチィの話を聞いて演習指揮の任を解いてやれば。

「ねえ、アヤチョ」

ユウカが、アヤチョの肩に手を置いた。

「サキチィの死が悲しいのはわかる。私だって悲しい。でも、立ち上がらなきゃ。きっとサキチィだってそう望んでる」

優しい言葉。
その言葉に甘えてしまったら、死んでしまったサキチィを見捨ててしまうような気がした。
アヤチョはただ、瞳を閉じた。まるで黙祷するかのように。
541 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 21:57
542 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 21:57
543 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 21:57
544 :名無飼育さん :2012/01/12(木) 21:58
>>526
偶然ですが鞘師さん登場の更新でした。
こちらこそよろしくお願いします。
545 :名無飼育さん :2012/01/18(水) 14:19
546 :名無飼育さん :2012/01/18(水) 14:20


リゾナント王城内の稽古場。
王国騎士団員エリポン・ナマタ・ケーワイとズッキ・インセクトはリハビリ代わりに本番さながらの稽古をしていた。

「ほらほらズッキ、もたもたしてると体が真ッ二つになっちゃうよ!」

相棒である薙刀「大刃杖」をまるでバトンのように振り回すエリポン。それを、体つきからは想像もできない俊敏さでかわしてゆく
ズッキ。

「じゃあお言葉に甘えて反撃しちゃいますか」

ズッキは自らの武器であるハチェット「ドーナンダ・ローネ」を前方に構えた。
そして一旦エリポンとの距離を取り、体を丸めての突撃「団子虫」を仕掛ける。まともに喰らったら稽古レベルでは済まない怪我を
負ってしまう。しかしエリポンは回避動作もせずに、「大刃杖」を両手に持ちながら刃先を地面につけた。

後ろにゆっくりとスイングさせ、そして振りかぶった薙刀を勢いに任せて地面に叩きつけた。
衝撃で地面が抉り取られ、こぶし大の瓦礫がズッキに襲い掛かる。
体を丸めながら突っ込んでくるズッキは当然避けられずに被弾、「団子虫」の態勢を解かざるを得なかった。

「いてて・・・エリポンなにそれ!」
「これはね、『呉竜府(ゴルフ)』って武術。寝込んでた時に古い武芸書読んで勉強したとよー」

勉強、という言葉を聞き、ズッキは顔を渋くする。
本を開いて学習する、という行為が苦手なズッキは訓練所時代も魔法についてはほとんど手をつけていなかった。
547 :名無飼育さん :2012/01/18(水) 14:21
「二人とも頑張ってる?」

そこへ、ミズキ・アパルトワイフが差し入れを持ってやってくる。
食べ物に目が無いズッキは稽古で見せた動きよりも鋭く、ミズキに飛びついた。

「うわぁ!シュークリーム!!これミズキちゃんが作ったの?」
「家で作ったお菓子が余ってたから・・・それより、エリポンは今日はガキさんと一緒じゃないんだ」

エリポンのただでさえ困ったように見える顔が、さらに困った感じになる。

「だってさあ、ここんとこ立て続けに事件が起こってるじゃん。城の警備はサユさんとレイニャさんに任せて、王国貴族への聞き取
りとかやってるみたい。半人前なんて見とう暇ないんっちゃろ」
「お父様のところにも来たよ、ガキさん。何か疲れてるみたいだった」

ミズキの父も、名家フクムエル家を代表する大貴族だ。
ガキサンが訪問する王国貴族の中にいても、何ら不思議ではない。

「さ、腹ごしらえも済んだしもうひと稽古いきますか」

ズッキの言葉に、エリポンとミズキが箱の中を見る。
差し入れのシュークリームは半分以上、なくなっていた。
548 :名無飼育さん :2012/01/18(水) 14:22
549 :名無飼育さん :2012/01/18(水) 14:23


モーニング騎士団団長ガキサン・テンミニッツが各王国貴族の邸宅への巡回を終えて城内の詰所団長室に戻る頃には、日はすっかり
暮れてしまっていた。

何せ有力貴族の全てがリゾナントに邸宅を構えているわけではない。
転移魔方陣が通じている地はいいが、魔方陣が敷けない場所へは馬車などを使わなければならない。一日中動き回り、ぐったりした
体を預けるように団長室に入る。

「ガキさんおかえりー」
「ガキさんを待ってたんですよ」

部屋で待っていたのは、王国情報局局長マキ・ハーツエッジ。副局長コンコン・テレトアナ。
瞬時に何かがあったのだと、ガキサンは判断した。

「ガキさん、疲れてるところを申し訳ない。けれど、どうしても伝えなければならないことがあるんです」

いつも以上に畏まった表情で、コンコン。

「なにコンコン、ユイヤンのことで何かわかったの?」
「いえ。そちらのほうはさっぱり。けど」
「けど・・・?」
「マノソロ法王国が、モーニング王国内の全信者に国外退去勧告を出しました」

ガキサンのまったく予想していなかった出来事。
確かに、ソロ教会モーニング支部大司教カン・オンリーヒッターの邸宅を訪ねた時には彼は不在だった。しかし、執事にはカン様は
大司教以上の人間が集まる勉強会に参加するため外出中という説明を受けていた。
550 :名無飼育さん :2012/01/18(水) 14:24
「いや・・・でも、何のために」
「わかりません。法王国がモーニングに何かを仕掛けるメリットはありません。ただ・・・」
「今、モーニング王国内部はがたついてる。うちへの侵略を目論む勢力には、好都合かもねえ」

マキの発言。
ガキサンは瞬時に、ある国のことを思い浮かべる。

「スマイレージ、ですか」
「スマイレージだけじゃないよ。ベリーズとキュートだって、可能性が無いわけじゃない」
「いや、あの二国は今はそれどころじゃないはず」

ベリーズ共和国とキュート王国の間の戦争は、最早泥沼化している。
それがモーニング王国の誰もが持っている見解だった。ガキサンとて、例外ではない。しかし。

「うちの情報局に入ってきた情報なんだけど、ベリーズ・キュート両国間で繰り広げられてた小競り合いが、急に収まってきてるんだ
ってさ」
「そんな」
「ベリーズ・キュートの両軍幹部が互いの本拠地を密かに行き来しているって噂もある。もし二国間に何らかの密約があるとしたら」

マキの言う事は根拠の無い妄想ではなかった。
もともとモーニング王国から離反したという共通項がある二国、手を組んで攻めてくる可能性はゼロではない。

「ガキさん、用心を重ねることに越した事はありませんよ」
「わかった。三国間の国境門に部隊を配備することを国王に掛け合おう」

コンコンの最後の一押し。
ガキサンの取らなければならない選択肢は、限られていた。
551 :名無飼育さん :2012/01/18(水) 14:26
552 :名無飼育さん :2012/01/18(水) 14:26


翌日、ガキサンは昨日の約束どおり、ツンクボーイ王に戦力配備について進言した。
はじめは自らの命が脅かされたミュンの一件もあり渋ったツンクボーイだったが、王国情報局からの提案だと伝えると、首を縦に振る。
もともと彼の発案で発足した情報局、その意見を無視するわけにはいかなかったらしい。

スマイレージ、ベリーズ、キュートに接する各国境門には、数百人単位の部隊が配備される。トップクラスの人間はリゾナントに留ま
ったものの、それでも急な侵攻には十分対応できる戦力と言えた。
三国からは特に抗議などはなかったが、それが逆に何かを企んでいるのではないかと推測される。現地に駐屯している兵士たちにとっ
て、三国いずれかの国がモーニングに侵攻してくるのは最早確定事項となっていた。

ベリーズ共和国クマイ頂。
アップフロント大陸随一の高地であるこの場所に、建造されたばかりの天高く聳える巨大な塔があった。細長い三角錐の形に切りそろ
えられた建物の概観は、まるで巨大な水晶の針が地面に刺さっているかのようだ。

共和国軍の魔導士たちが塔の周囲で詠唱を始めている。
それを、静かに見守る少女が一人。軍幹部の一人であるリサコ・ホンマール・ヒムロイブだ。
詠唱が終わると、近くにいた魔導士に声をかける。

「最終調整は」
「はっ!魔導力伝達能力、拡散能力、耐久力、ともに問題ありません」
「そう・・・」

キュートとの戦争が始まってすぐに、リサコはマイハの依頼でこの地に赴いていた。
この途方もなく巨大な塔の、建設。共和国一とも言われるリサコの魔導力からすれば、わけもない話ではあったが。戦争とは一見まっ
たく関係なさそうに見える任務。普通なら文句の一つも出るだろうこの任務を、彼女は二つ返事で了承した。
なぜなら彼女には、「見えていた」からだった。

リサコの持っていた、通信用水晶板が光る。
懐から取り出すと、聞きなれた声が聞こえてきた
553 :名無飼育さん :2012/01/18(水) 14:27
「リサコ。マイハだけど。明日の演説の準備について聞きたいんだけど」
「こっちは最終調整済み。何なら、テストしてみよっか」
「はは、遠慮しておくよ。向こうの情報局に察知されて計画を邪魔されても困る」

相変わらずの友の声。
それがリサコの不安を、大きくさせた。

「ねえマイハ・・・やっぱり、するの?演説」
「もちろん。明日の演説は、同盟三国だけでなく、モーニング王国の国民の心をも揺さぶる」
「・・・すごく、嫌な予感がするんだ」

リサコは得意分野である魔術のほかにもうひとつ、不思議な力を持っていた。
きっかけはキッズ在籍時代に友人たちと遊んでいた神経衰弱だった。
リサコがめくってもいないトランプを次々に言い当てた。不思議に思った友人が訊ねると、幼き日の彼女は、こう言った。
見えるんだよね、と。

これに興味を持ったのが当時のキッズ学院長ヤグティマリ・ヒモノッポだった。
ヤグティマリは彼女の異能の源を探るべく数々の実験を行ったが、結局は結論らしい結論は出なかった。そして突然の実験の中止。学
内ではヤグティマリが何か見てはいけないものを見てしまったのだと実しやかに囁かれていたが、真相は未だに藪の中だ。

「大丈夫。必ず、いい結果は出る。私は、そう信じてる」
「でも」
「リサコ。私たちは今、何を優先すべきなのか。この国を、この世界を正しい方向に導くためなら、私はどんなことでもやってのける
つもりだよ」

結局、マイハの強い意志に押されてしまう。
恐らく、他の幹部に掛け合ったところで無駄だろう。リサコの嫌な予感はあくまでもリサコにとっての嫌な予感だからだ。

「わかったよ。でも・・・無理しないで」
「そうだね。留意しとく」

その声を最後に、水晶板は光を失う。
リサコの心は、最後まで晴れないままだった。
554 :名無飼育さん :2012/01/18(水) 14:28
555 :名無飼育さん :2012/01/18(水) 14:28
556 :名無飼育さん :2012/01/18(水) 14:28
557 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 09:55


そして、一週間が過ぎる。
モーニング王国王都リゾナントはいつもと変わらぬ朝を迎えていた。

王城内騎士団詰所。
今日は集団戦、というコンセプトで2チームに分かれて訓練を実施していた。
ハルカのチームはハルナ、マサキ。ズッキのチームはエリポン、ミズキという組み合わせである。

先手を打ったのはハルカ。
自慢の音剣「ハスキーヴォイス」を構え、振り回そうとする。

「それやられるとまずいんで、封じます!」

後方に控えたミズキが高速詠唱、ハスキーヴォイスの穴という穴が凍りつく。
これで相手をかく乱させる重低音は使えなくなってしまった。

「やるじゃんか!マサキ、頼む」
「はいよー」

マサキがハルカの剣を炎で炙っている間、ハルナが前面に躍り出る。

「はるなんが時間稼ぎ?言っとくけどエリポンたち相手の時間稼ぎは、きついとよ?」
「ま、先輩たちの実力、思い知らせてやりますか」

エリポンとズッキが互いに目配せをし、左右に散る。
挟み撃ちでハルナを迎え撃つ算段だ。

しかしハルナも不利な状況に甘んじてはいない。
高速移動で複数の残像を発生させる技「宵翔」を使い、二人の攻撃を集中させない。

「なるほどね。どのはるなんを攻撃すればいいかわかんないー、なんちゃって」
「エリポンふざけてる場合じゃないって。一気に行くよ」
「了解っ」

ズッキがハチェットを大きく振りかぶり、ハルナに向かって投げつけた。
大きく弧を描く軌跡に、「宵翔」を止めざるを得ない。

そこへ、エリポンの「大刃杖」による一撃。
辛うじて双剣で受け止めるも、後ろからズッキが飛び出してきた。

「もらったぁ!!」
558 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 09:57
エリポンの薙刀を弾き返し、ズッキを迎え撃つか。
それとも、薙刀を流してそのまま回避態勢を取るか。
結果から言えば、ハルナはそのどちらも選ばなかった。

体を傾け、二つの刃を薙刀の身に伝わせながら、エリポンの股下を潜り抜ける。
標的を見失ったズッキのハチェットは空振りしてしまった。

ところが。
二人の攻撃を凌ぎ背後を取ったかに見えたハルナを、ミズキが待ち構える。

「はるなーん、私のこと忘れてたでしょう?」
「くっ!!」

今まさに詠唱を終えようとしていたミズキの手から、冷たい光が迸る。
魔法は攻撃レンジが広く、ハルナの回避は間に合わないかに見えた。

「ハルナ、時間稼ぎサンキュー!!」

そこへハルカの声が響き渡る。
直後に、「ハスキーヴォイス」の一振り。重低音が稽古場に響き渡る。これにはミズキも詠唱を中断するしかない。その隙にハルナが
大きく宙返り、再びハルカとマサキの元に戻る。

「残念でした。振り出しに戻ったぜ?」
「そりゃお互い様でしょ」

挑発するハルカに、対抗するエリポン。
どちらが勝つか分からない状況、それを破ったのは意外な人物だった。

「リホさん!!もう体の方はいいんですか!?」

戦力バランス的にギャラリーと化していたアユミンが、大きな声を上げた。
稽古場の入口を振り返る、ハルカたち。
そこには、久しぶりの顔があった。

「みんな。元気そうだね」

長らく、とは言っても一ヶ月足らずの間だが、仲間に会ってなかったリホが、珍しく笑顔を見せる。
559 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 09:59
「リホちゃんおかえりーっ!!」

真っ先にリホに向かって駆け寄り、抱きつくズッキ。
しかし何故かリホは不満顔だ。

「いやーそっちこそ元気そうで何よりだよぉ〜。私てっきりまた任務が入ってこっち戻れなくなったんじゃないかってさあ。『私の名
前はリホ・デリ・サヤスィ。今後この記録をもって、任務の経過報告とする』みたいな」
「なにそれ。と言うかズッキ、一度も病院に来てくれなかったじゃないか」

若干恨めしそうに、リホが呟く。
ズッキは慌てながらも、反論。

「だ、だってリホちゃん病院行ってもいつも寝てるし!」
「ズッキが朝早すぎ」
「え?朝早いのはいいことじゃん!」
「私は起きられない」

そんな様子を、冷ややかに見ているその他の人たち。

「ったく。何やってんすか先輩たち。夫婦喧嘩は犬も食わないから」

ハルカの一言がツボに入ったのか、後ろでミズキとエリポンが笑っている。
気づいたリホが、顔を赤くさせながら、

「それより。三人ともずいぶんやれるようになったみたいじゃないか。チームワークもいいみたいだし」

と話題を変えた。

「ばっちりっすよ!アユミンも含めてうちらの絆は半端ないから!」

ハルカがハルナとマサキの肩に手をかける。
それを見たズッキが、真似をするかのようにリホの肩に手を回した。

「うちらだって鉄板だぞ!なぁサヤスィ?」
「そういうことしないの」
「まだ怒ってんの?顔はお子様なのに素直じゃないんだから」
「顔は関係ない」

いつもと変わらない、平和な光景。
だが、それは突如終わりを告げる。
560 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:00
「たっ大変だ!!お前ら、外に出てみろ!!」

稽古場の外で、叫ぶ兵士。
その様子が尋常ではなかったので、一同は稽古を切り上げ外の様子を見に行く事にした。

城の外は、既に多くの人だかりによって埋め尽くされていた。
群集はざわつき、ある「異変」を一心不乱に見続けている。本来はこのような騒動を治めなくてはならない城の兵士たちですら、仕事
を忘れて群衆と同じように「異変」を見続けている。

城の外に出て、最初に異変に気づいたのはハルカだった。

「おい・・・なんだよ、あれ」

ハルカが見ている方向に、他のメンバーも目を向ける。
青い空、白い雲。いつもと変わりない空。
ただ一つだけ違うのは、空の真ん中に大きく穴のようなものが開いていることだけだった。

まるで地面に広がる水溜りのように、緩やかな曲線を描く穴。
中は真っ暗で、何も見えない。

「空に穴が開くなんて、信じられない」
「今日の天気予報ー、リゾナントー、晴れー。時々空に穴が開くから気をつけてー」

まだ自分の目が信じられないリホと、たどたどしい天気予報の真似をするエリポン。エリポンなりに緊張した場をほぐすつもりだった
が、目の前の超常現象の前ではまるで無意味だった。

「・・・穴の中の闇が、薄くなってきてない?」

アユミンは恐る恐る、穴の変化について口にした。
確かに彼女の言うとおり、穴の暗さは徐々に晴れていった。
代わりに、何かが、見えてきた。

穴、いや、何かを映し出す媒体なのかもしれない。
とにかくそれは、どこかの場所を映し出していた。
空の下の群集と同じように、映し出された群集がある方向を見つめている。
その先の壇上に、数人の少女が立っていた。

「アップフロント大陸に生きる人々よ、この声が届いているだろうか」

どことなく子鼠を思わせる顔立ちをした少女が、空に広がるような声で、そう言った。
561 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:01
562 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:02


ベリーズ共和国首都・マダヤデ。
軍本部前の広場には、既に多くのベリーズ軍兵士が集結していた。
それを、さらに群集たちが取り囲む。

壇上に立つ、マイハ・クゥーン。
その脇にシミハム・ゴルドウォーター。
後方には敵国であるはずのキュート将軍マイミ・モサ・シュガーライス。そして副将ウメリカ・ユーズドタオル。さらに、スマイレー
ジ国の四巨頭の代表であるアヤチョ・ダーワーリョーク。

「見ての通り、我々ベリーズ共和国はキュート王国との戦争をやめ、そして講和条約を結んだ。そして、スマイレージ国とも同盟を結
んだ。全ては、ある目的のために」

マイハが、群集に囲まれた大きな水晶板に目線を向けながら、力強く話す。
いつものやわらかい物腰は、すっかり消えていた。

「かつて、この大陸はモーニング王国という強大な力によって支配されていた。圧倒的な国力による支配は、大陸に安定をもたらして
いた」

マイハは一旦、目を伏せる。
自らの言葉が、既に過去のものであるかのごとく。
そして現在を、未来を語るために再び正面を見据えた。

「ところがどうだろう。今のモーニング王国は、アップフロント大陸の盟主としての資格すらない。国王は失策を繰り返し、貴族たち
は自らの既得権益にしがみつく。国力は疲弊し、西の帝国に大きく遅れを取っている現状だ。腐った国は、その腐食を周辺諸国にまで
広げてゆく。言わばアップフロント大陸自体が、死病に罹っているようなものだ」

兵士たちが、群集たちが固唾を呑んで、マイハの次の言葉を待つ。
563 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:03
「加えて、モーニングの連中は我々のことを目障りだと思っているのだろう。先日、キュート国のメグ・ネコムス、そしてスマイレー
ジ国のサキチィ・ハーゲンダッツが相次いで命を落とした。モーニングが近頃新設したという、王国情報局によって彼女たちは亡き者
にされたのだ。このような蛮行は、決して許されるはずのないことだ」

人だかりが、俄かにざわつき始めた。
メグやサキチィの死はニュースとしてベリーズ共和国の国民も知っていたが、モーニング王国が関わっていたという情報は今日の今日
まで伏せられていたのだ。
喧騒がピークになった時、マイハが高らかに宣言する。

「だから、我々は立ち上がった!モーニング王国を斃し、新たな大陸の盟主を作らなければならない!!よって我々ベリーズ、キュー
ト、スマイレージ三国連合は、モーニング王国に対し宣戦布告する!!」

一瞬の静寂ののち、地の底まで伝わるような大歓声が巻き起こる。
この瞬間から、モーニング王国とベリーズ・キュート・スマイレージの三国連合、さらにマノソロ法王国をも巻き込んだ大きな戦争が
始まる。

後の世で言うところの、「モベキマス戦争」である。
564 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:03
565 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:05
「はじまったみたいね・・・」

その頃、ベリーズ領クマイ頂に建造された水晶の塔の前で、リサコ・ホンマール・ヒムロイブもまた、空に映し出されているマイハの
演説を見ていた。

マダヤデにて行われているマイハの演説は、広場に設置されている水晶板を通してこの巨大な水晶の塔へと伝達。塔に施された複雑な
術式によって魔法力は増幅され、強大な魔法力を空に向かって投射。結果的に、演説の様子が空という巨大なビジョンに映し出される。

「いやはや、素晴らしいですね。魔法力を媒体に遠くで起こっている出来事を映像として見る技術は西の帝国が開発したものとのこと
ですが、いかに帝国と言えどここまでの巨大な映像を空に投射する魔法力はありますまい」

リサコの側にいた側近が、まるで自分の功績であるかのように誇らしげに言う。

「ものを巨大化させることなら、誰だってできる。本当に脅威なのはその元になる技術を生み出し、今も尚新しい技術を次々に生み出
している、帝国という存在」
「そうですね・・・」
「この戦争に勝てば、いずれは帝国と覇を争うことになるかもしれない。そのために、一刻も早くこの戦いを終わらせる」

演説が無事終了するのを確認して、すぐに挙兵しモーニング王国に侵攻する。
クマイ頂からモーニングの国境まではずいぶん離れているが、そんなことを言っている猶予はない。

リサコがずっと感じていた不安は、今もなお続いていた。
小さな頃から、時折感じるこの種の不安について、当たらなければいいと思っていた。
もちろん、今だってそう思っている。
大抵願いは叶わない、それでも彼女は願わずにいられなかった。
566 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:05
567 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:06


その頃、城のテラスから演説の様子を見ていたモーニング国王ツンクボーイ・テラニャは。

「なあ。向こうの国のメグってのとサキチィっての。うちが殺ったんやて。知ってたか?」

部屋の中に向き直り、道化じみた口調で言う。
ただ、その目は笑ってはいなかった。

「情報局にそのような命令は、下していません」

断言する、コンコン。
その言葉を半笑いで聞きながら、ツンクボーイが再び部屋に戻る。

空に突如としてマダヤデの広場の演説が映し出される、そんな奇妙な現象。
ツンクボーイはすぐさま、王国情報局と王国騎士団のトップクラスを呼び出した。コンコン、ガキサン、サユ、レイニャは駆けつけた
が、一人足りない。

「ゴトーは」
「寝てます。猫じゃらしでも、胡椒でも、洗濯ばさみでも起きなかったもので」
「・・・まあええわ。お前ら、あれ、どう思う?」

不機嫌そうに、顎で空をしゃくるツンクボーイ。

「メグ・ネコムスとサキチィ・ハーゲンダッツの殺害。間違いなく、戦争を仕掛ける口実のために、自ら弄した策でしょう」

コンコンは表情ひとつ変えずに、衝撃的な見解を示す。
サユとレイニャは一瞬何を言っているのかわからない表情をしていたが、すぐに、

「ぽんちゃん、まじめにそんなこと言うとっと!?」
「それって口実の為に味方を手にかけたってこと!?ありえないんだけど!!」

と騒ぎ始めた。

「戦争のきっかけとして自国領の村を焼き払い相手国に罪を着せる、なんちゅう話はよう聞くけど。まあ、どちらにしてもえげつない
わ。そんなに俺の和平政策が気に入らんか」
「・・・各国境門に迎撃部隊を展開しております。コンコンの情報によると、国境付近には今現在も目立った動きはないとか。奇襲をかけ
るつもりでしょうが、国境を突破される恐れはありません。前線で兵士たちが健闘している間に、次の策を練ります」

ふて腐れるツンクボーイを宥めるかのように、騎士団長ガキサンが目下の展開について語る。
頼もしい言葉にツンクボーイが表情を緩めたその時。
空から何かを切り裂くような、鋭い音が聞こえた。
音のするほうへ振り返る一同。
そこには、予想もしない展開があった。
568 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:06
569 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:08


時を前後して、ベリーズ共和国マダヤデ。
マイハが演説を繰り広げている軍本部前の広場は通常「告白の噴水広場」と呼ばれ、日頃は市民の憩いの場として親しまれてきた。た
だ、その一面は今はまったく見られない。
広場は、煮えたぎるような狂熱の渦の中にあった。

「今、モーニング王国は腐敗の一歩を辿っている。各地で地方領主が反逆を企て、闇の勢力を形成する。また金を持て余した貴族たち
が私腹を肥やすために、その類の勢力と結託し、わがベリーズや他の国々に悪影響を与えている。腐った禍根は、元から断たなければ
ならない!!」

群集から、そうだそうだ!という合いの手が入る。
マイハは今、彼らの心を完全に掌握していた。

そんな様子を、軍本部の屋上から見ている二人の少女がいた。
チナミ・クーロン・ボーガリ。
そして、ミヤ・アントン・パーキンロード。

「マイハ、すごいじゃん。いつもと違って、何か頼もしいし!!」
「だね。完全に民衆の心を掴んでる」

チナミが感心したように言うと、ミヤも大きく頷いた。

エリート養成学校「キッズ」において、マイハはどちらかと言えば劣等生に分類されていた。特に戦闘においては大きく劣り、型の稽
古の時ですら「リズムとってる・・・」と弱弱しく呟くほどだった。
570 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:09
だが、彼女には戦闘能力の低さを補って余りあるほどの才能があった。
それは、軍師の才能。
キッズ在籍時から歴史書を嗜み、過去の戦略家の采配について深く学んでいた彼女は、ついにその能力をベリーズ独立紛争の時
に発揮する。当時のモーニング王国の軍師を務めていた人間を完全に出し抜いたその才覚については、後の王国軍師コンコンで
すら手放しで褒め称えたという。

しかし、その溢れる才能と比べると、彼女はいささか謙虚に過ぎるところがあった。
キャプテンであるシミハムを筆頭に、ベリーズの他の七人の幹部はいい意味でも悪い意味でも個性的で、彼女たちを納得させる
策を生み出すのにマイハはいつも苦労しているように彼女たちには見えていた。これで心の強ささえ備われば、コンコンを凌ぐ
名軍師になれる。チナミなどは前半部分を強調し常日頃口にするくらいだった。

だが、今のマイハは、自信に満ち溢れているようにチナミとミヤには見えた。
それこそ、何かが乗り移っているかのように。

「今回の三国連合、一番乗り気じゃないのはベリーズの国民だった。うちら軍上層部はともかく、敵国だったキュートと和解し
てモーニング王国に仲良く侵攻、なんて納得いかないよね。でも、マイハの演説で流れは変わった」

そう言いながら、ミヤの目は別の何かに向けられた。
群集の中に、怪しげな動きをしているものが一人。
本能的な何かが、彼女の心に警鐘を鳴らす。

「まさか!!」
「え?ちょっと何ミヤ!」

叫びながら、体はもう動いていた。
キュート、スマイレージの重鎮が謀殺されて、ベリーズだけが無傷のはずがない。
マイハが危ない。
ミヤは、無我夢中で下り階段を駆け下りていた。

だが、何もかもが、遅すぎた。
571 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:10
572 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:10


晴れた青空に、似つかわしくない銃声。
しかしそれは現実のものであり、確実にマイハの心臓を貫いていた。

穿たれた胸から、軍服が赤く染まる。
マイハは自らの胸に手をやり、そして掌が赤く染まるのを見ると、そのままゆっくりと後方に倒れていった。

何が起こったのか、わからない群集たち。
後方に立っていた武人のマイミ、ウメリカ、アヤチョが身構える。
反射的に音のした方を見ると、そこには体を小刻みに震わせながら銃を前方に構えていた男がいた。

「はは、ははは、モーニング王国・・・万歳!!!!!」

それが、男の最後の言葉だった。
男の胴体はミヤの持つ曲刀「尺麗」によって真っ二つにされていた。

転がる男の遺体には目もくれず、曲刀についた血を拭う事もせず、壇上に倒れているマイハのもとへミヤは駆けつけた。

「マイハ!!」

マイハは、すでに死んでいた。
まるで眠っているかのような顔は、先ほどまで激しい演説を繰り広げていたとはとても思えない。
しかし彼女の温かみはゆっくりと、確実に失われていた。

「ミヤ、マイハは!?」

遅れてやってきたチナミに、ミヤはゆっくりと首を振る。
チナミの中で、大きくこみ上げる感情。
気がつくと、壇上に駆け上がっていた。

「・・・モーニング王国のお偉いさん、聞いてるんでしょ?ちぃは、あんたたちを・・・絶対に許さない」

口調こそ静かだが、滾る怒りがそこには込められていた。
そして、自らの姿を大陸中の大空に映している水晶板目がけて何かを飛ばす。水晶板は中心から、木っ端微塵に破壊された。
573 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:11
574 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:12


マイハが何者かに襲撃・暗殺されるまでの様子は、それこそ大陸中の人間が目撃する事となった。
モーニング王国王都リゾナントで食い入るように演説を見ていた、ハルカたち若き騎士団員たちもまた例外ではない。

「なんだよ・・・何なんだよ一体」

突然の宣戦布告から、急転直下の暗殺。
まるでテレビショーのような内容に、ハルカは苛立ちを隠せない。

「あの人、モーニング王国万歳、って言ってた」

マイハを狙撃した男、彼もまた大空のビジョンに映し出されていた。
マサキを含め、空の下の多くの人間がそれを見ていた。それはつまり。

「王国があのマイハって人に、刺客を送り込んだってことかな・・・」

そうアユミンが考えるのも無理はない。
一連の動きを見ていた全ての人間が、モーニング王国の手のものにマイハが暗殺されたと確信しても何ら不思議ではない。

「まさか、あの人が言ってたみたいにキュートやスマイレージの幹部が死んだのも」

となると、ハルナが口走る内容の事を想像する人間が出てきてもおかしくない。
モーニング王国の一連の不祥事に加えて、三国の重要なポストに就く人間を亡き者にしたという「事実」に対する「報復」。
三国がモーニング王国に戦争を仕掛ける大義名分とするには、十分だった。

「まあ、あれを見たら普通はそう考えるだろうねー」

ハルカたちの隣に、いつの間にかマキがいた。
マキは大画像が消えてゆくさまを呆然と見ている群集たちを、面白そうに眺めている。
575 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:13
「マキさん、いつのまに・・・」
「何か大変なことになっちゃったみたいだねえ」

まるで他人事のように、そんなことを言うマキ。
それを聞いたハルカのもやもやが、限界に達した。

「マキさん、あんたに聞きたいことがある」
「んぁ、何?」
「あのマイハってやつを狙撃したのは、王国情報局の人間なのか?」

周囲の人間が、目を剥いた。
ハルカの言葉を聞いて真っ先に駆け寄ったのはズッキだ。

「クドゥ、少し口が過ぎるんじゃないか?」
「悪りぃ。けど、はっきりさせなきゃだめだろ。こういうのは」

マキをじっと見る、ハルカ。
その強い視線を、跳ね返すでもなく、かといっていなすわけでもなく。
いつものようのふわりとした柔らかな表情と口調でマキは、

「少なくとも、ごとーは・・・あの男の顔は知らない」

とだけ言った。

「そっか」
「王国情報局は、王様がこの世界の平和を本気で願って発足させた組織だからね。わざわざ戦火を起こすようなことは、しない」
576 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:14
となると、あの狙撃犯も三国の誰かの差し金か。
つまり、マイハを亡き者にしたのは味方であるはずの誰かと言うことになる。

「ではあの方たちは味方を手にかけてまで、戦争がしたいのでしょうか」

ミズキが発した疑問。
リホも、ハルカも、ハルナも。その疑問に答えることができなかった。

「目的のためなら、どんな手段も厭わない人間がいる。たとえ命に代えても、計画を遂行する。そういうことだと思うよ、たぶ
ん」

ハルナは、ベーヤン邸であの禍々しい強敵ミキ・スカルプ・ティボーテと切り結んだ時のことを思い出した。あの時のハルナは、
たとえ刺し違えてでもミキを倒すという激情に突き動かされていた。全ては、あの場所にいたみんなを守るため。
命をもって目的を成す、その意味では何も変わらない。

「大きな戦争が始まる。みんなも、心の準備だけはしとくんだよ」

戦争。
マキの言葉は、字面以上に、重かった。
577 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:14
578 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:15


天高く聳え立つ、水晶の尖塔。
マイハの演説が終わった今、その役目はもう終わったと言っても過言ではない。

「リサコ様、そろそろマダヤデに戻らないと。出兵の準備もありますし」
「先に行ってて。後で、合流します」

声をかけた側近だったが、リサコの言葉を受けて下がっていった。

もう既に演説を映していた空は元の青に戻っていたが、リサコはその青さから目が離せずにいた。目を離した瞬間に、涙がこぼ
れそうで嫌だったのだ。

マイハが狙撃された時に、リサコは思った。
ああ、これが嫌な予感の正体だったのだと。
悪い予感だけは、いつもよく当たる。
けれども、熱を帯び演説するマイハの顔を見て、どうして彼女を止められようか。リサコには、全てを理解していた。

「マイハ・・・死んじゃったね」

知っている声が、背後から聞こえる。
リサコが振り向くと、それはやはり知った顔だった。

「もも・・・帰ってたんだ」
「あっちで得られる情報が多くてさ。ついつい長居しちゃったけどね」

モモコ・ジミーフェイス。
ある時は青空市場の露店の売り子。ある時は喫茶店のウェイトレス。ある時は豪邸のメイド。
そして、ベリーズ共和国の八人の幹部の一人。

「マイハは・・・マイハは、自ら死を選んだんだね」

リサコは、マイハを狙撃した人間がマイハ自身の差し金であることを、本能的に感じていた。

「マイハらしいよ」
「でも・・・本当は止めたかった」

今にも振り出しそうな雨雲みたいな表情をする、リサコ。
モモコは、極限まで背伸びをして彼女の頭を撫でた。

「キッズの時にさ。マイハにお菓子もらったんだ。よっぽどもぉがおなかすいてるように見えたのかな。あの子、自分の分のお
菓子までもぉに渡して。でも、絶対に自分の分がないって言わなかった。その時からもぉは思ったんだ。この子には、優しくし
てあげなきゃって」

昔を懐かしむように、モモコが言う。
懐かしい過去。そして、もう戻らない、過去。

「マイハはもう死んじゃったけど、あの子がやろうとしてたこと、やりたかったこと。もぉたちが最後までやり遂げようよ」
「もも」

いつもとは違う、モモコの表情。
道化ていない彼女を見るのは、久しぶりだとリサコは思った。
579 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:15
580 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:16


息も詰まりそうな、濃度の濃い、闇。
蝋燭の炎とともに、一人の女性の顔が浮かび上がる。

「マイハが、死んだようだ」

さらに、別の蝋燭に火が点され、浮かび上がる顔。
火が点されるたびに、新しい顔が晒される。

「惜しい人材を亡くした。いずれは大軍師と称されるほどの器だったろうにな」

「聞くところによるとあの狙撃者は彼女自身が手配したとの話」

「酔狂な」

そこへ闇が揺らぎ、黒マントを身に纏った仮面の女が姿を現す。

「いずれにせよ、策は成りました。マイハの思惑通り、ベリーズ・キュート・スマイレージの三国は打倒モーニング王国の名の
下により強い結びつきを得たのです」

「命を掛けた最後の策か。いいだろう。計画の第一段階は終了した」

「これより、計画の第二段階に入ることを宣言します。皆様は、今まで通りに」

仮面の女の言葉をきっかけに、ひとつ、またひとつ消えてゆく。
そして仮面の女が一人、残された。

へばりついた闇に溶け込むように、そして抗うように。
女は誰にでもなく、問いかける。

「マイハ。あなたの命を賭した最後の策。見事でした。あなたの悲願は・・・私が。必ず」

ひとりごちた言葉とともに、女は闇に消えていた。
581 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:17



闇。
闇。
闇。

582 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:18
第九話「動乱」 了
583 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:18
584 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:18
585 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:18
586 :名無飼育さん :2012/01/25(水) 10:22
「モベキマス戦記」とりあえずはこれにておしまいです。
モベキマスを全員登場させることができてよかったと思います。
それでは、また会う日まで。
587 :名無飼育さん :2012/01/26(木) 15:29
気になるところで終了とは!
とても面白かったです。続編お待ちしております。
588 :名無飼育さん :2012/01/26(木) 20:42
続きが気になる!
589 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 19:52
完結乙です。
次回作楽しみにしてます。
590 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 20:54
せっかくなので最後にキャラクター紹介など。
外部スレでも名前の由来とか知りたい人が若干名いたみたいですしね。



ハルナ・メッシ
王国騎士団所属。控えめな性格。かつては「ダン・ハウ」の通り名で暗殺組織「ラブベリーナ」に籍を置いていた。ラブベリー
ナで培った素早い動きを身上とした戦闘スタイル。武器は双剣の「シルキー」と「雷(らい」。名前の由来は本名と工藤さんが
飯窪さんを呼んだ「おい、メシ!」より。

ハルカ・クドゥ
王国騎士団所属。やや粗野で目上の人間もものともしない心臓の強さを持ち、そのためか新人四人のリーダー的存在となってい
る。エリート養成学校「エッグ」出身。陰のある過去を持つがまだ誰にもそのことは言っていない。音剣「ハスキーヴォイス」
で相手を霍乱する戦法を得意とする。名前はそのまま。

アユミン・ノースイースト
王国騎士団所属。真面目な優等生タイプ。似た体捌きをする先輩のリホ・デリ・サヤスィにライバル心を持つ。武器は六尺棍
「ネジリパン」。実は戦闘棍職人である名門ノースイースト家の出身で、「大志(ダーイシ)」の後継者として親に期待される
も本人は頑なに拒んでいる。名前は愛称に「東北」の英語。パン屋の娘説があったのでイースト菌もかけて。

マサキ・パルプンテス
王国騎士団所属。いわゆる不思議さんだが、魔法はそこそこ使える。炎の魔法を得意とする。ミキ・スカルプ・ティボーテ戦に
おいて尋常ならざる威力の魔法を使用したが、仲間内で知る者はいない。名前は本名と発言のパルプンテな感じから。
591 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 20:56
リホ・デリ・サヤスィ
王国騎士団弐番隊所属。滅多に感情を表に出す事のないクールな性格だが、同僚のズッキにはやや心を開いている。空位の肆番
隊隊長の最有力候補。ナックル「コナプン」により、見た目では想像できない破壊力のパンチを繰り出す。名前は本名にラジオ
番組を。

ズッキ・インセクト
王国騎士団所属。訓練所においてハルナたちの教官を務めた。明るく責任感のあるタイプで、後輩たちから慕われている。ハチ
ェット「胴納ダローネ」を得意武器とし、虫を模した闘法を攻守使い分ける。名前は愛称と虫のモノマネから。

エリポン・ナマタ・ケーワイ
王国騎士団壱番隊所属。騎士団長ガキサンに見込まれ?直属につけられている。基本的にポンコツだが、負けず嫌いな一面もあ
る。薙刀「大刃杖(オハスタッフ)」を使いこなし、ミキ戦後は新たに薙刀で礫を相手に飛ばす「呉竜府(ゴルフ)」という戦
い方を会得した。
名前は愛称+狼での愛称+KY。

ミズキ・フクムエル・アパルトワイフ
王国騎士団伍番隊所属。エリポン級の空気の読めなさは名家アパルトワイフ家出身のお嬢様だからなのか。王国騎士団に昔から
憧れていて、家の力を使い「歴代騎士団員名鑑」を入手するほどのマニア。氷の魔法を得意とする。名前は本名と団地妻の無理
やり英語。
592 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 20:58
ミッツィー・ボーンブレイク
王国騎士団伍番隊隊長。騎士団魔法部隊のトップであるとともに、軍師の役割も務める。後輩には厳しく当たるが、それは心配
するあまりの照れ隠し。現在車椅子での生活を余儀なくされているが、どうやら肆番隊隊長が空位になった件と関係しているよ
うだ。名前は愛称+骨折。

レイニャ・ヤケン
王国騎士団副団長の一人で、参番隊隊長を兼務する。作中ではまだ彼女の活躍はないが、どうやら単独行動を生かした闘い方を
するらしい。名前の由来は愛称+方言の「やけん」。



サユ・ナルシスペ・ドフィーリア
王国騎士団副団長の一人で、弐番隊隊長を兼務する。後輩のリホを偏愛し、当人からはやや鬱陶しがられている。伸縮自在の鞭
剣「毒舌(ポイズン・タン)」と鏡盾「善鏡・模化歪(よしきょう・もかわい)」で相手を翻弄する。名前は自分大好きとちょ
っとアレな小さい子好き趣味から。

ガキサン・テンミニッツ
王国騎士団団長で、壱番隊隊長を兼務。団長の座に就いてから日が浅く、元老院から侮られている節があるが、責任感は強く重
責をこなしている。かつてリカ・ハーフヒップが騎士団に所属していた頃の部下であり、ミュン・シバ・プリペアップやコンコ
ン・テレトアナと同僚だった関係からか、ミュンが討たれた時には複雑な思いを抱いていた。名前はガキさん主役の短編「10
分」より。
593 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 20:59


シミハム・ゴルドウォーター
ベリーズ共和国を実質的に統治しているベリーズ共和国軍のキャプテン。
他の個性的過ぎる7人の幹部を取りまとめるほど統率能力は高く、軍師のマイハとともに軍幹部のキーマンとなっている。名前
は佐紀尿=黄金水から。

モモコ・ジミーフェイス
ベリーズ軍の諜報を担当する、8人の幹部の一人。モーニング王国にて秘密裏に諜報活動を行っており、ハルナたちとも何度も
遭遇する。普段はその過剰な自己演出により捉えどころの無い印象を与えるが、実は真面目な一面もある。ジミーフェイスはま
んま「地味顔」。

ミヤ・アントン・パーキンロード
ベリーズ軍において、リサコとともに主力になっている魔法剣士。曲刀「尺麗(しゃくれ)」は魔法を込めずとも相手の胴を薙
ぎ切るほどの威力を持つ。名前はアントンはアントニオ猪木の愛称で、パーキンロードは路上駐車の無理くり英語。路上駐車を
略すと・・・

チナミ・クーロン・ボーガリ
ベリーズ軍8人の幹部の一人。口から先に生まれたのではないかと疑われるほど、よく喋る。喜怒哀楽が激しく、戦闘スタイル
にもそれが良く現れている。名前の由来は狼のザードルスレの「ガリガリ黒んぼいやぁ!」より。
594 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:01
マーサスド・リバウンド
ベリーズの「矛」と謳われる、アタッカーに特化した能力を持つ。どっしりと構えたような性格で、尖ったところの多い幹部の
面々の中では宥め役になることが多い。名前は体重の増減を繰り返すリバウンド女王に敬意を表して。

ユリナ・クマ・エレポール
ベリーズの「盾」として絶大な信頼を寄せられる能力を持つ。いかなる攻撃も、自らの「やきそばランド」に巻き込み、無力化
してしまう。くまくまトークが得意だが多分作中では出ない。名前はエレ(電)ポール(柱)。

リサコ・ホンマール・ヒムロイブ
ベリーズ軍屈指の魔導士。魔法のほかに第六感ともいうべき不思議な能力を持っている。見た目は大人っぽいが幹部の中での末
っ子ポジション同様、甘えたがりな面がある。キッズの本丸と氷室衣舞を名前に。

マイハ・クゥーン
ベリーズ軍の軍師。正体不明の仮面の女とともに、今回のベリーズ・キュート・スマイレージ三国の連合とモーニング王国への
侵攻を画策した。宣戦布告の演説中に自らが暗殺されるという最後の策をもって、三国の結びつきを強めると共にモーニングへ
の強烈な敵意を作り出した。名前はこのAAから。从 'w')彡<クゥーン
595 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:02


マイミ・モサ・シュガーライス
キュート軍の将軍。その武勇はソロ法王国にまで響き渡る。少々天然なところがあるが、ウメリカをはじめとした周囲のメンバ
ーの支えもあり、軍最高司令の重責を務め上げている。名前はモサ姫と砂糖まぶしのご飯を気づかずに食べたエピソードより。

ウメリカ・ユーズドタオル
キュート軍副将。マイミを陰で支える縁の下の力持ち。そのポジションからの発言力は大きく、軍師マイマイですら閉口するほ
ど。名前は本名を縮めた形と懐かしの「使ったタオル」。

メグ・ネコムス
キュート独立戦争においてマイミとともに連戦連勝を重ねた立役者。使い手の精神力に依存する銃槍「愛鉄傘(あいあいがさ)」
により、大軍をも圧倒する。デレシン砦でのまさかの敗戦からの帰りに、何者かによって暗殺された。名前はかつてキュート年
少メンに猫娘に似てると言われたことから。

ナカサキ・ギョルーイ
キュート軍の幹部の一人。ベリーズとの戦争の際にはメグ同様最前線に立っていた。名前はまんま「魚類」から。
596 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:03
アイリ・ダジャレー・サムスベリー
キュート国国王トール・ボンバー・サムスベリーの娘。トールが娘に政を全て任せているため、実質的な国家元首は彼女である。
名前はだじゃれ+寒滑り。

チッサー・オカドッグ
キュート軍幹部の切り込み隊長的存在。知略より感覚で動くため、マイマイとは仲たがいを繰り返している。メグに脅され、デレ
シン砦侵攻の工作を手伝わされる。名前は初期の頃の犬のかぶりもの「岡井犬」より。

マイマイ・ジャウプ・リアルセント
キュート軍の若き軍師。ベリーズのマイハ同様、仮面の女と何らかの接触をしている。ベリーズとの戦争において攻めず引かずの
こう着状態を演出し、後の和睦同盟に繋げた。名前はまいまいの名言「ジャウプ」とせんとくんから。

カンナ・クンカ・クンカ
エリート養成学校「エッグ」出身で、キュート幹部の中では新顔。周囲から存在を完全に消す「テンション下降(さげこう)」の
能力を有し、メグによってデレシン砦侵攻の工作に利用された。栞菜と言えば匂いをくんかくんか。そのまま名前に。
597 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:04


マノ・エリ・コールレイン
現ソロ法王国法王。面倒くさい言動が補佐役のマネティをしばしば困らせている。三国侵攻を事前にマイミから聞かされ、モーニ
ング王国内のソロ教信者を引き上げさせる。名前はまのえり+雨女で雨を呼ぶ。

マネティ・リトルゲート
マノの補佐役。先代が先代なだけに昔よりはだいぶましになったと思っている。名前は苗字を無理くり英語に。
598 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:05


アヤチョ・ダーワーリョーク
スマイレージ国を治める四巨頭のリーダー。三国連合のため、仮面の女と度々ドリームフィフティーン旧市街にて接触していた。
名前は愛称+愛称+焼肉ネタ。

ユウカ・リンホワイト・パブロン
スマイレージ四巨頭の一人。作中では紹介していないが、細剣を得意武器としている。名前はゆうかりんは白+焼肉ネタから。

カニョン・ビッグ・O・イースター
スマイレージ四巨頭の一人で、外交担当。西の帝国と接触し、モーニング王国に侵攻する際の武器を輸入していた。名前はかに
ょん+大きい牡蠣の英語読み。

サキチィ・ハーゲンダッツ
スマイレージ四巨頭の最年少だが武闘派。チャクラム「序序円」を得意武器とし、分解再構築し大きな輪として振り回すことも
できる。策略の為、仮面の女によって暗殺される。名前はまんま焼肉ネタ。
599 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:06
アカリ・タケ・オディン
サキチィ亡き後に後釜として幹部昇格した四人のうちの一人。キュート王国将軍のマイミとは親戚関係である。名前は本名+お
でんくん。

リナプゥ・シオレナス
サキチィ亡き後に後釜として幹部昇格した四人のうちの一人。名前の由来はゆうかりんに言われた「萎れた茄子に似ている」
より。ひどい言われようだ。

カナナン・ヌレオティバ
サキチィ亡き後に後釜として幹部昇格した四人のうちの一人。名前は掃いても掃いても纏わりついてくる濡れ落ち葉のような
人懐っこさより。

メイ・ユーキャン
サキチィ亡き後に後釜として幹部昇格した四人のうちの一人。名前はかつて演じた「結木やや」をもじったもの。
600 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:08
美勇伝

リカ・ハーフヒップ
元王国騎士団の黄金騎士であり、現在は王国領ビユーデンの領主。騎士団在籍時はガキサンやミュン、コンコンを率いて部隊
を編成していた事も。名前は生放送中に図らずも半分尻を出してしまったエピソードより。

ミーヨ・ポットホーネット
リカの副官の一人。得意技はマッサージと解体。作中では明らかにされていないが「3カイのミーヨ」の二つ名を持つ。自ら
の剣技を磨くため、元黄金騎士のヤススが営む道場に足しげく通っている。名前は「つぼはち」の無理やり英語。

ユイヤン・オカパイン
リカの副官の一人で、シーナの反乱やミュンの蜂起の黒幕的存在だった。強靭な鋭い糸「糸禍恕手(しかじょしゅ)」を巧み
に操り、相手をバラバラに切断する。実はエリート養成学校「エッグ」出身で、その縁でスマイレージと通じていた。名前は
「岡π」より。
601 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:09
メロン

ミュン・シバ・プリペアップ
旧メロン領領主で、かつてはメロン王国四騎士の一人だった。ツンクボーイ王の政策に振り回され、ユイヤンに唆され一斉蜂
起を起こす。メロン時代は「赤いフリージア」の二つ名で恐れられ、華麗な剣技を得意とした。また一時期ではあるが、剣術
指南役としてリカの下についていたこともあった。名前は柴ちゃんがアップをはじめました、より。

ムラッチ・シュールメガネ
かつてのメロン王国四騎士の一人。メロン時代は知将として活躍したが、ヒットミンの処刑をきっかけにメロン王国自体が取
り潰され、自身も鉄砲玉のように扱われ戦死した。名前はシュールな眼鏡より。

マサオ・フリーター
かつてのメロン王国四騎士の一人。作中では明らかにされていないが、メロン時代は素早い身のこなしで相手を翻弄する戦法
を得意としていた。ムラッチ同様、北の蛮族討伐にたった二人で行かされ、非業の死を遂げる。名前は大谷さんが現在フリー
ターをしてるとの説より。

ヒットミン・スリーエイト
かつてのメロン王国四騎士の一人。彼女の恋人であったハニージローが不正に手を染めた事により処刑されてしまい、王国崩
壊の原因を作った。パワーファイターで、戦場ではしばしば「ボス」と呼ばれていた。名前ははちみつ=8がみっつ=スリー
エイト。
602 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:10
シーナ

ナナ・トゥナイト・エヌワイスィ
カンサイ最強の戦闘集団「シーナ」筆頭。ハルナが作中で最初に遭遇した強敵だった。暗殺と得意としていたらしく、ハルナ
と戦闘スタイルが似ていた。敗北後、いずこかへと姿を消す。名前は今夜が(山田)と弟さんの所属ユニットから。

アベアサ・ドセ・ドメ
カンサイ最強の戦闘集団「シーナ」最後の生き残りの一人。ペッパーの森に立てこもった際にユイヤンを見て援軍が来たかと
勘違いしたものの、あっさり殺されてしまう。名前は本名+なっちの妹と同姓同名(正確には阿部)なので。

マナミ・サーディン
カンサイ最強の戦闘集団「シーナ」最後の生き残りの一人。アユミンと対決し、破れる。名前の由来は本名の岩嶋=いわしの
英語。

スマイ・フォピアス
カンサイ最強の戦闘集団「シーナ」最後の生き残りの一人。作中には出ていないが王国騎士団候補生としてコハ・ル・アグリ
カルチュアとともに残ったものの、カンサイに転属したというエピソードがある。名前の由来は本名をもじったもの+ピアス
の穴を4つ開けていたことから。ちなみに板東英二は彼女の得意なものまねらしい。
603 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:11
エッグ

カカウジーニョ・モギー
エリート養成学校「エッグ」の学院生。リゾナント内青空広場にてマサキとアユミンに難癖をつけたことから公園での決闘に
発展する。名前の由来はカカ+ロナウジーニョ。

オーク・ボ・アイナ
エリート養成学校「エッグ」の学院生。カカとともに公園の決闘に参加し、敗れ去る。名前の由来はオーディション時のあだ
名「大久保さん」。

カリン・ミヤモ・チャンサン
エッグの筆頭。実力を認められながらも、スマイレージ軍や王国騎士団に入れなかった不遇の人。ハルカがエッグにいた頃は
一度として勝ちを譲らなかったが、ベーヤン邸の戦いにおいてハルカの起死回生の切り札によって屈辱的敗北を喫する。名前
は宮本佳林ちゃんさんより。
604 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:13
OG

ユウコ・アラフォー・ナカザール
現在のモーニング王国の礎を築いた、かつての黎明の五騎士の一人。強力な統率力を持っていた彼女は後に王国騎士団初代団
長に就任する。現在は王国領ノン・ダークレーの領主を務める。名前は本名+アラフォー。

ナッチ・オールウェイズ
現在のモーニング王国の礎を築いた、かつての黎明の五騎士の一人。黄金騎士においてマキと双璧をなす実力の持ち主だった。
名前はなっちとお塩さんが好きだった曲「オールウェイズ」より。

カオリ・ネ・エワラッテ
現在のモーニング王国の礎を築いた、かつての黎明の五騎士の一人。王国騎士団の黄金騎士にも名前を連ねる。現在はノン・ダ
ークレー領の奥地にて絵を描きながら隠居生活を送っている。ラブベリーナを抜けたハルナにとって第二の剣の師匠であり、彼
女もまたかつて暗殺組織に身を置いていた。名前は名言「ねえ笑って!!」より。

アスカ・シルバーアプリコット
現在のモーニング王国の礎を築いた、かつての黎明の五騎士の一人。また、天才軍師としても名を馳せた。名前はかつてのあだ
名「焼き銀杏」から。
605 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:14
アヤッペ・オットドラム
現在のモーニング王国の礎を築いた、かつての黎明の五騎士の一人。王国騎士団結成後に新兵として入ってきたヤグチェマリた
ちを震撼させるほどの鬼教官だったらしい。名前の由来は夫がドラマー。

ヤグチェマリ・ヒモノッポ
王国騎士団結成時に新兵として入団し、のちに黄金騎士となった。さらに第三代騎士団団長にも任命されるが、とある事情で職
を辞してエッグの前身である「キッズ」学院長となる。現在はエッグの学院長となり、優秀な学院生をエージェントとして派遣
する仕組みを作り私腹を肥やしている。名前は決して仕事が多いとは言えない背の高い旦那から。

ケメコ・ダーヤス
王国騎士団結成時に新兵として入団し、のちに黄金騎士となった。また、副団長としてカオリを支えた人物でもある。現在は騎
士団を離れビユーデン領内で剣術道場を開いている。名前はもうそのまんま。

サヤカ・キュービック・ウレーズ
王国騎士団結成時に新兵として入団し、その後マキの教育係に。ラブマの戦いにおいてマキ、ケメコと組んだ部隊は破竹の快進
撃を遂げる。名前はキュービッククロスが売れなかったことから。
606 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:15
マキ・ハーツエッジ
新人ながら圧倒的な実力で「ラブマの戦い」を勝利に導いた立役者。黄金騎士の中でもナッチとともにツートップとして活躍し
た。騎士団を退団したあとは暫く行方知れずとなっていたが、新設された王国情報局の局長に就任する。現在においても救国の
英雄として慕われているが、本人はそんなことはどうでもいいと思っている。名前はセミヌード撮影の時の発言「初エッチより
緊張した」より。

ヨッスィ・ベーグルリング
「ラブマの戦い」後に王国騎士団に入団し、黄金騎士に。後に第四代騎士団団長となる。現在は王国領ガッタスの領主。王国の
御前会議では元老院の急進派と衝突することが少なくない。名前の由来はよっすぃーがかつて好きだったベーグルより。

アイ・トレジャーグレイブ
王国騎士団の先代騎士団長。黄金騎士なき後、長く騎士団を支えてきた。団長の座をガキサンに譲ってから、自らの剣技を見つ
めなおすとして武者修行の旅に出た。名前の由来はトレジャー(宝)グレイブ(塚)。
607 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:16
コンコン・テレトアナ
アスカの再来と呼ばれ、天才軍師として称された元王国騎士団員。現在は新設された王国情報局の副局長としてマキを支える。
名前はテレ東アナより。

ミキ・スカルプ・ティボーテ
元ソロ法王国法王にして、第五代王国騎士団長。数々の暴虐を繰り返し、最終的に闇の世界に堕ちてしまった。ベーヤン邸に
てハルナたちと接触、完膚なきまでに叩きのめす。愛用している銀のナイフによるナイフ捌き、魔法筆「櫨魔毛(ろまもう)」
で相手に様々な制約をかける「瘴字」、さらに鎧を纏い凄まじい威力の剣技を使用する「蘇狼(ソロ)」など、最強クラスの
戦士と言っても過言ではない。
名前の由来は彼女の出演CM「スカルプDボーテ」より。略称をミキティにしたかったので「ティ」ボーテとした。また暴帝に
もかけている。

コハ・ル・アグリカルチュア
元王国騎士団員で、現在は王国領キラリンの領主。作中には登場していないがキッカとサァヤという二人の副官がいる。名前の
由来は農業の英語。
608 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:17
偉いおっさん

テラニャ・ツンクボーイ
モーニング王国国王。現在は和平政策によって周辺国との争いのない世界を目指しているが、かつては国内勢力の集権化のた
めに属国を取り潰す暴挙を行った事も。名前はそのまま。

ベーヤン・ヒゲアリス
王国元老院の中でも他国との戦争を望む急進派の先鋒。自らが経営している武器商会の利益のための主張だったが、しびれを
切らしユイヤンの謀略に手を貸すことに。しかしハルナたちの手により全ての悪事が露見、王国騎士団によって拘束された。
名前の由来は髭+アリス。

マラトン・ゴク・ファイブウッド
表向きは王国元老院の中立派だが、かつてはアイ・トレジャーグレイブの後見人という地位を利用し、ベーヤンと組んで暴利
を貪っていた。名前は五木マラソン+五ク+五木の英語。

ヨシタケ・キャラメ・ボロモーケ
王国領カントリーの大地主で、元老院に所属している。カントリーは現在領主がいないため、実質彼がカントリーの領主であ
る。名前はそのまま義剛キャラメルぼろ儲け。
609 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:18
カン・オンリーヒッター
ソロ教モーニング王国支部の大司教。また、法王マノの名代として元老院にも名を連ねる。マノの命を受け、モーニング王国
内のマノフレを法王国に引き上げさせた。名前は一発屋の無理やり英語。

イナヴァキラ・アンダスタン
ベーヤンの誕生パーティーに出席していた貴族。名前は本名をもじったものと代表曲「わかってください」の英語。FNS歌
謡祭に出てきた時にマリックそっくりだった。

ハイマウンテン・ディフィ・カルト
同じくベーヤンの誕生パーティーに出席していた貴族。作中ではハイマウンテンとしか表記せず。名前の由来は高山の英語読
み。

トール・ボンバー・サムスベリー
キュート王国の国王で、元モーニング王国の貴族。アイリ・ダジャレー・サムスベリーの父親でもある。ベリーズ独立もキッ
ズに残っていた七人は、彼を担ぎ上げる事でキュート王国を建国した。ボンバーはたまにゴルフの調子がいいことから名づけ
られたらしい。
610 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:20
その他

ユイコマン・ザカリヤ
ハルナと同じく、暗殺組織「ラブベリーナ」に在籍していた。ラブベリーナ壊滅後はフリーの暗殺者をしていたがベーヤンに
よって拾われ、ハルナと皮肉な再会を果たす。名前の由来は飯窪さんと一緒にプリクラに映ってたモデルさんの本名らしいで
す。

ユキドン・アタリマ・エイダ
ツンクボーイ王の抱える王国親衛隊の一人。作中では名前しか出てこない。

アッチュ・イナヴィア
ツンクボーイ王の抱える王国親衛隊の一人。作中では名前しか出てこない。

バレー・ヴィレッジ
ベーヤンに雇われた用心棒の一人。作中では名前は出ず、禿げかかった男として紹介。ベーヤンとは旧知の仲だったようだ。

ヤン・グ・タイショウ
ベーヤンに雇われた用心棒の一人。作中では名前は出ず、体毛の濃い男として紹介。ホワイト・ベルウッドという人物ととも
に火器を愛する同好会に入っている。

スーメロウ・サンショク
スマイレージ国へ大量の武器を輸送するために、護送船「トイボックス」に乗ってやってきた西の帝国の海軍将校。裸足は健
康にいいという信念のもと集まった他の三人の同僚とともに、ある帝国高官に仕えている。名前の由来は愛称+某学園ドラマ
の役名から。
611 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:20
612 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:20
613 :名無飼育さん :2012/01/29(日) 21:20
614 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:37


真っ白に彩られた、雪原。
見渡す限りの白銀を切り裂くように、馬を駆る一団があった。
胸に「M」のエンブレムを着けた騎兵たち、モーニング王国騎士団。

「ガキさん」
「何」

騎兵の集団の真ん中を走る髪の長い少女と、髪の短い少女。
併走しながら、長いほうが話しかけた。

「だりい」
「はぁ?あんた・・・いや団長がご自分で出兵したいって言ったんでしょうが。嫌ならリゾナントでじっとしてたらよろしかった
のに」

短い方、王国騎士団副団長ガキサン・テンミニッツが呆れながら、そう言った。
北方の蛮族との関係は、王国の中でも重要事項として扱われていた。王国領の一つであるフックイの更に北は、王国領でありな
がら、王国の支配の届かない未開の地である。その地域を根城にしながら、時折フックイ領内に侵入し略奪行為を行う蛮族を、
王国騎士団が迎撃するのは最早日常茶飯事の出来事だった。

「て言うか敬語気持ち悪い。やめようよそういうの」
「あのねえ・・・アイちゃんは団長で、あたしは副団長なの。いい加減に慣れてよもー」

長い方、王国騎士団団長アイ・トレジャーグレイブと、ガキサン。
二人は訓練所時代からの同期で、同期の最後の二人だった。かれこれ9年の付き合いになりガキサンもアイの扱いには慣れてい
るほうではあったが。
615 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:38
雪飛沫を上げながら、一団が雪原を疾走する。
目指すは蛮族が根城にしている山のふもとの洞窟だ。

「それにしてもどうして団長自ら討伐に?」
「ファイブウッドのおっさんがうるさいんやよ。フックイ領はおっさんの領地だから」

マラトン・ゴク・ファイブウッド。
王国貴族ファイブウッド家の当主であり、元老院議長も務める有力な貴族である。平民のアイを見出し騎士団入団を強く推薦し
た関係から、王国内で強力な発言権を有していた。

「まあ、その因縁ももうすぐ終わる」
「どういうこと?」
「こっちの話やよ。さ、着いたで」

山のふもとにぽっかりと空いた、洞穴。
入口では原始的な格好をした門番が二人立っていた。
アイたち騎士団を見つけるや否や、奥へ援軍を呼びに行こうとする。が、後ろを振り向いた瞬間に弓兵の番えた矢によって後頭
部を打ち抜かれていた。

「一気に進む。総員、あーしについて来い!」
「はっ!!」

アイの号令で馬を下りた騎士団員たちが、次々に洞窟の中に入っていった。
616 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:39
617 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:40


洞窟の中は暗く、闇に目が慣れた蛮族にとっては有利かと思われた。
しかし、騎士団もその点については抜かりはない。
光の魔法を得意とする魔導士を帯同させることで、暗闇は一気に晴らされる。闇に乗じて騎士たちを惨殺しようとしていた蛮族
たちが、無様な姿でさらけ出された。

こうなると、あとは一方的だ。
騎士たちの剣で斬られるまま、成すすべもなく倒れてゆく。
そして一団はついにこの洞窟を支配する男の玉座にたどり着く。
アイが先頭に立ち、座ったままの男に話しかけた。

「貴様の軍勢が王国領に侵入し略奪行為を繰り返していたのは知っている。おとなしく投降しろ。さもなくば・・・」

アイは腰の鞘から細身の剣を抜き、切っ先を男に向ける。

「斬る!」

男は、隣にいた部下と顔を見合わせ、それからにやりと唇を歪ませた。
白い肌のせいでとりわけ目立つ赤い唇が、気色悪さを演出している。

「ボクチンにそんな口を利いていいのかな〜? ボクチンはアカチン国王ウザ。投降なんてするわけがないっちよ」
「何がボクチンだ、このブドウ姉さんが!!」

団員の数人が、ウザに向かって斬りかかる。
だが、倒れていたのは団員たちのほうだった。
618 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:42
「貴様!いったい何を!!」
「ふはははは、ボクチンの言う事は絶対だっち!!」

今のやりとりで相手の力量を判断したのか、なおも立ち向かおうとする団員たちを、アイが制した。

「あんたたちには荷が重い。こいつは・・・あーしがやる」
「おいキャベツ、加勢しろ!」

ウザにキャベツと呼ばれた男が、一歩前に出る。
そこに躍り出る、影。

「あんたの相手はあたしがするよ」

立ちはだかったガキサンが、自らの方天戟「チャンポンチャン」を構える。
キャベツはしばらくガキサンのことを舐めるような視線で見ていたが、不意に岩壁に手をやり、そのまま自らの口に持っていく。
口からはみ出た触覚と、固いものを噛み砕く音。

「ちょ、何!もしかして、虫食べたの?!」

ガキサンの問いには答えず、キャベツは不気味に微笑む。
背筋に寒いものを感じながら、ガキサンは気を緩める事無くキャベツと対峙するのだった。
619 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:42
一方。

「うおおおお、ボクチンの破天荒な攻撃を見せてやるううう!!!」

しばらくにらみ合っていたアイとウザ。
しかしウザはそう叫んだかと思うと、自らが着ていた服をびりびりに引き裂いた。パンツ一丁の情けない姿が晒される。その姿の
まま、パコパコと脇を鳴らしながら踊り始めた。

「うおっ、何だこの気味の悪い音は!」
「頭が割れそうだ!!」

次々に倒れてゆく団員たち。
ウザが脇を鳴らすことで発生するノイズが、団員たちの脳に直接悪影響を与えているのだった。

「どうだ!みんなボクチンの前にひれ伏すのだあ!!」

楽しそうに踊りながら脇を鳴らすウザ。
だがその動きが突然、止まる。

「え?」
「おめえ、のろいんやよ」

ウザの体を通り過ぎたアイが、そう言った。
ウザは自らが気づかない間に、アイのレイピア「サファイヤ」によって全身を斬られていたのだ。

「そんな・・・ボクチンの言う事は・・・ぜった・・・い・・・」

血しぶきを上げ、倒れるウザ。

「ったく。口ほどにもない。ガキさん、そっちは?」
「こっちも終わったよ。サイコなのは顔だけで、てんで弱かったし」

ガキサンの足元には、キャベツが穴に埋められて顔だけ出して気絶していた。
620 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:44
621 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:44


モベキマス戦記番外編「光明」


622 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:44
623 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:45


アイ・トレジャーグレイブ率いる王国騎士団壱番隊が王都リゾナントに帰還したと聞き、真っ先に出迎えたのはマラトン・ゴク・
ファイブウッド卿だった。

「アイ殿、よくぞご無事で」
「大した仕事ではなかった。そなたもわざわざ出迎える必要などなかったのに」
「いえいえ、わが領地フックイを救っていただいた、それだけで出迎える価値がありましょう」

満面の笑みを見せて恭しく接するファイブウッド。
しかしそれを後ろで見ているガキサンの目は、あくまでも冷たい。

「ところで、先日お話したリゾナント郊外の土地売買の件ですが・・・」
「ファイブウッド卿。我々はこれから城内の騎士団詰所に戻り、報告をしなければならないので」

ついに二人の間に割って入るガキサン。
これは失礼、と言いながらもファイブウッドの糸目の奥は笑っていなかった。

「今の話は後ほど」
「ああ。ファイブウッド卿、あーしからも話がある」
「さようですか。では、その時に」

一礼するファイブウッドに背を向け、ガキサンとともに城に向かって歩いてゆくアイ。
その姿が完全に見えなくなった所で、ファイブウッドは舌打ちをした。

騎士団・・・少々邪魔になってきたか。

元々モーニングの名家だったファイブウッド家だったが、アイを見出し王国騎士団に推薦したことにより、王国とのパイプを更に
強化した。だが、その騎士団が自らの栄光の邪魔になるというのなら、話は別。より操り易い形に、変えなければならない。そう
彼は考えていた。
624 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:47
625 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:48


リゾナント城内、騎士団詰所。
団長室には既に幹部全員が終結していた。

弐番隊隊長サユ・ナルシスペ・ドフィーリア。
参番隊隊長レイニャ・ヤケン。
騎士団を抜けたコハ・ル・アグリカルチュアに代わり、伍番隊隊長に就任したばかりのミッツィー・ボーンブレイク。
そして陸番隊隊長リンリン・バッチリ・デースと副隊長ジュンジュン・ソッカー。

「全員、揃ってるな」
「・・・あれ、カメは?」

ガキさんが集合した顔ぶれを見渡し、言う。
彼女の言うとおり、一人、足りないのだ。
その答えを出すかのように、団長室の扉が開かれた。

「あれ?みんな揃ってたんだ」

遅刻した分際で、この物言い。
またか、そんな感じの諦めの表情を見せる面々だが、一人だけその慣習に立ち向かうものがいた。

「こらーっ!カメ、遅刻だよ遅刻!!」
「あれガキさん帰ってたんですか?お疲れ様ー」

手をあげ、挨拶のポーズをするこの人物。
エリィ・カメ・ポーケフ、王国騎士団の肆番隊隊長である。
626 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:49
「エリにしては早いほうっちゃ」
「いつも集合の時間より30分早い時間を教えてるんだけど、効果なしなの」

エリィの同期であるレイニャ、サユは彼女の性質には慣れたもの。慰めとも呆れとも取れるような言葉をかける。しかしガキサン
はそうはいかない。

「・・・ったくカメはほんとにもーぽけぽけぷぅなんだから。部隊長なんだし、もう少ししっかりしないとだめでしょ」
「えーと、実は馬車に乗ってたら渋滞になっちゃって」
「相変わらず適当だねえ。馬車で渋滞ってどういう状態よ。ちょっと団長も言ってやってくださいよ」

のらりくらりとした受け答えに辟易し、ガキサンも最後の頼みの綱にすがりつく。が、

「まあ、エリはどこまで行ってもエリだし」

の一言であっさり片付けられてしまった。先々代の騎士団長であるヨッスィ・ベーグルリングが上下関係を重視する統率方式を取
っていたため、現団長であるアイが掲げたのが「アットホーム」。結果、よく言えば仲間意識の高い、悪く言えばなあなあな組織
になってしまったのは否めない。ただ、ずぼらなエリィが部隊長を務めていられるのも、アイのアットホーム体制のおかげとも言
えた。

その後、アイは全員に北の蛮族の一員であるアカチン・ウザ率いる部族を壊滅させたことを報告した。北の蛮族は無数のグループ
に分かれ、いくら討伐を繰り返してもきりがないほどだった。が、それでも王国へ侵入する蛮族を討伐するということは王国騎士
団の存在理由の一つでもあった。
627 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:51
628 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:53
ファイブウッド卿と約束があるとして、今後の騎士団活動の方針報告等を副団長のガキサンに任せ、団長室を後にしたアイ。

「・・・ファイブウッド卿。あんまりいい話、聞きませんな」

顔を顰めて、ミッツィーが呟く。

「アイちゃんのお世話になった人だからしょうがないの」
「でも、最近はベーヤンと裏で色々しよる噂を聞くけん」

レイニャの言った噂とは、ファイブウッドが同じく元老院所属の貴族ベーヤン・ヒゲアリスと手を組み闇の商売に手を出している
というものだった。

「そういう噂の立つ人物とは、正直関わりたくない。けど・・・アイちゃんが言ったんだ。因縁はもうすぐ終わるって」

ガキサンの言葉に、一同が首を傾げた。特に遠い異国から王国にやって来た経緯を持つジュンジュンとリンリンにはさっぱりだ。

「インネン?インゲンの仲間デスか?」
「インゲンおいシいネーバナナもおいシいネー」
「バナナは関係ナイでショーが」
「うるさいネリンリン、バナナは関係あるヨ!バナナないと人間、死ヌ!!」
「バッカジャネーノ、この中国人」
「お前も中国人ダロ!!」

口論から中国拳法の応酬に発展していく二人を他所に、ガキサンの表情は冴えない。
629 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:54
「・・・もしかしてアイさん、ファイブウッドとの決別のために?」

いつの間にか、ミッツィーがガキサンの隣に来ていた。周りには聞こえないように、ガキサンにだけ聞こえる声で、そんなこと
を言う。

「うん。蛮族討伐の道中で言ってた。ファイブウッドとの因縁はもうすぐ終わるって」
「そうですか。せやけど、そないにうまくいくんでしょうか」
「どういうこと?」
「アイさんは断ち切る気満々でも、ファイブウッドはそれを望まんでしょう。そういった輩が最後に取る方法は・・・ひとつですわ」

暗殺。
背筋が冷えるような二文字が、ガキサンの脳裏を過ぎる。

「あたし、ちょっとアイちゃん迎えに行ってくる」

団長室の隅に立てかけてあった方天戟「チャンポンチャン」を手に取り、ガキサンは部屋を出てゆく。

まさか王都で騎士団長に手をかけようとする程、ファイブウッドも愚か者ではないだろう。
そう思いつつも、一抹の不安は拭い去れずにいた。
630 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:54
631 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:54
632 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:54
633 :名無飼育さん :2012/02/09(木) 21:57
そう言えば語ってないエピソードとかいくつかあったなと思ったので、番外編という形で書いてみました。
もう少しだけお付き合いいただければ幸いです。

>>587
続編ではないですが、番外編です。

>>588
続きではないんですが・・・よろしくお願いします。

>>589
次回作・・・いつになるんでしょうかw
634 :名無飼育さん :2012/02/10(金) 04:36
いきなりキター! まってました!
635 :名無飼育さん :2012/02/12(日) 21:07
おぉ。いくつかの伏線が回収されそうですね。
636 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:39
637 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:40


その頃、王都内にあるファイブウッドの屋敷では。
応接間に通され、ファイブウッドが来るのを待つ、アイ。
いかにも気品溢れる、といった感じの調度品や照明に居心地の悪さを覚えつつもアイには覚悟はできていた。

アイはファイブウッドに対し決別宣言をするために、この場に来ていた。
王国騎士団に入団するには、有力者の推薦状が必要だった。そういう意味では、ただの寒村の子供だった自分が今の地位にある
のは、ファイブウッドの助力があったから、そうとも取れた。

だからこそ、この負の関係は次の世代に引き継いではいけない。

アイの決意は、固かった。
それは扉を開けて姿を現したファイブウッドを見ても、変わらない。

「こちらからお呼びしたのに、お待たせしてすみません」
「いや、構わんよ」

応接テーブルを挟み、ファイブウッドが腰を下ろす。
慇懃無礼なまでの態度は、暗にかつての力関係を誇示しているのではないかとすら思わせる。ただ、アイは心の中で首を振る。
過去はともかく、今は未来を守らなければならないと。

「それで、土地の件は・・・」
「いや、それよりあーしの話が先やよ」
「そうでしたな。この私にお話とは・・・」
「あーしは、そう遠くないうちに騎士団長の座をガキサンに譲って、騎士団をやめる」
638 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:41
ファイブウッドは一瞬、自らの耳を疑う。
それもそのはず、騎士団長が自らの地位を明け渡す時は、自らの衰えを悟った時か騎士団にいられない何らかの事情が発生した
場合だけだからだ。

「そんな、どうして!アイ殿が衰えを口にするのはまだ早すぎます!!」
「どうしてか・・・理由はひとつ。あんたとの因縁を断ち切るためやよ」

そこで初めて、ファイブウッドの偽りの笑みに綻びができる。

「私との・・・縁を?」
「ああ。あーしが辞める以上、騎士団はあんたとは何の関わりもない。それを今から宣言しとこうかと思っての」
「なるほど、そう来たか」
「だから、リゾナント郊外の土地の件も騎士団は一切関知しない。それだけだ」

引きつった笑みを見せるファイブウッドを尻目にアイが立ち上がり、そして踵を返した。
背後から、獣の咆哮と聞き間違わんばかりの怒声が発せられた。

「貴様!!私に育ててもらった恩を忘れたのか!!」

振り返る事なく、アイは微笑む。
懐かしい。ファイブウッドの屋敷にいた頃は、常にこの罵声を浴びせられていた。
だかそれはもう、過去の事。

「あんたへの恩はもう十分返したやろ」

その言葉はアイのファイブウッドへの決別宣言だった。
扉が閉まる音と同時に、ファイブウッドは自らの喉が裂けそうな勢いで笑い始める。

「育て方を間違えたか!いいだろう、望みどおりにならないのなら望みどおりにするまでだ!!」

そして徐に応接テーブルにあった灰皿を扉に向かって投げつけた。
砕け散った灰皿が不吉な輝きを、静かに放っていた。

639 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:41
640 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:43


モーニング王国は広大な領土を抱える大国家である。
ベリーズ、キュート、スマイレージが独立してなお、その領土の広さは周辺小国とは比較にならなかった。そしてそれが故に、
どの地方領にも属さない地域が少なからず存在する。

その中に、死の湿地帯と呼ばれる地域があった。

かつては緑豊かな湿地として多くの観光客が訪れていたが、気候の変化や地脈の変化により、沼底から毒ガスを排出するよう
な危険な土地と化した。今では訪れるものもなく、かつての隆盛を偲ばせるような色あせた別荘がぽつぽつと立ち並ぶのみだ
った。

朽ち欠けた、とある別荘の地下。
部屋の中央の大きな松明以外は、光の存在しない部屋。
松明の元には数名の少女が、何かを待っているかのようにその場に座り込んでいた。

「先ほど、仕事の依頼があった」

松明の向こうから、重厚な声がする。

「頭領、それはどのような・・・」
「元老院のファイブウッド卿からの依頼だ。王国騎士団団長アイ・トレジャーグレイブを可及的速やかに抹殺して欲しいそうだ」

少女たちがざわつきはじめる。
アイの剣の腕は王国の隅々まで響き渡っていた。数々の肩書きを持つ人物を闇に葬ってきた彼女たちを動揺させるに十分な実力
が、アイにはあった。

「その依頼・・・私が」
「お前か」
641 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:44
頭領が、声の主を松明越しに見る。
その少女は他のうろたえている面々と違い、揺らぎがまったくなかった。

「ジュリナに頼もうかとも思ったのだが」
「私一人で・・・充分です」

それだけ言うと、声の主は完全に気配を消す。
既に彼女は、暗殺組織「ラブベリーナ」のアジトを立ち去っていた。

「頭領」

一人の少女が、松明に向かって声をかける。
ユイコマン・ザカリヤ。
ラブベリーナの中でも評価の高い暗殺者の一人だった。

「ユイコマン」
「確かに彼女は我がラブベリーでも屈指の実力の持ち主です。ただ、相手はあのアイ・トレジャーグレイブ。誰か、サポート
をつけたほうが」

頭領が、ユイコマンを睨みつける。
まるで、口出しは無用とでも言いたげな瞳を、ユイコマンは改めて怖ろしいと思った。

「これだけは言っておこう。暗殺は、数では決まらん。張り詰めた糸がいつ切れるかのような、一瞬のタイミングだ。これが
計れなければ、どんなに手馴れた暗殺者でも・・・失敗する」
「・・・・・・」
「『ダン・ハウ』が失敗すれば、ジュリナに頼むまで。何の問題も、ない」

松明を囲む光が、じわじわと闇を侵食していく。
まるでこの後の『ダン・ハウ』の命運を暗示するかのように。
642 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:44
643 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:46


夜。
騎士団長室の扉の前で、ガキサンはやきもきしながら時を過ごしていた。
アイがファイブウッド邸に赴いた日。彼女は心配して迎えに出たガキサンに、何もなかったような顔をしてこう言った。全て
終わった、と。
あっけない終わり方に、ガキサンは逆に不信感を抱く。あれだけアイに付きまとい執着してきたファイブウッドが、あっさり
手を引くはずがない。ミッツィーの言うように暗殺という手段をもとり得る人物だということをガキサンはよく理解していた。

「にしてもアイちゃん、こんな時に事務仕事なんてしなくてもいいのに…」

ガキサンがそうひとりごちるのも無理はない。
王国騎士団には月に1度、必ずツンクボーイ王に騎士団の1ヶ月の活動内容を報告する義務がある。ただ国王も多忙の身、報
告は報告書の形をとって王のもとへ送られる。
その報告書を今、アイは書いているわけだ。

「ガーキさんっ!」
「わわっ?!」

突然背後から声をかけられ、うろたえるガキサン。
振り向くと、そこにはいつものぽけぽけぷぅが。

「ってカメじゃん!もー驚かせないでよ」
「だってガキさんが難しい顔してぶつぶつ言ってるから驚かせたくなっちゃって」
「うそ、そんなにあたし難しい顔してた?」
「うん。もうこーんな感じ」

エリィはわざと顔を渋くさせたような表情をする。
そんな顔のままで、

「もしかしてミッツィーの言った事、気にしてる?」

と尋ねた。ミッツィーの言葉はエリィにも聞こえていたのだ。
644 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:47


「まあね。ファイブウッドなら、やりかねないと思ってさ」
「大丈夫、エリたちで守ればいいじゃん」
「はーなるほどねえ・・・って急に何言ってんの!あんたにはあんたの仕事があるでしょうが」
「団長様を守るのも、エリたちの仕事だよ」

先ほどまでのふざけた顔はどこへやら、エリはキリッと音が出るくらいに真面目な表情で言い切った。
いつもはぽけぽけのくせに・・・と思いつつもガキサンは改めて同い年の後輩に感心する。

「でも、うちの団員使って守りを固めるわけにもいかないし。いくら悪名高いって言っても、元老院の議長が王国騎士団長を
謀殺しようとしてるなんて団員にどう説明すればいいのよ。そんなことがファイブウッドの耳にでも入った日には何をされる
か」

ガキサンがそう考えるのは至極当然だった。
副団長の自分が団員を動かすのは、つまりそれが騎士団の総意と取られても仕方がない。危険性があるとは言えまだ実行もし
ていないのに警戒を行う結果が、ファイブウッドにとって新たな付け入る隙になってもおかしくはない。

「だーかーらー、エリとガキサン2人で十分ですって。何も大軍が攻めてくるわけじゃないんだし」
「ったくカメはもう・・・」

ほんとにぽけぽけぷぅなんだから、という言葉を呑み込むガキサン。
確かにエリィの言う通りなのだ。副団長の自分と部隊長のエリィが二人がかりで止められない相手など、いるわけがない。た
とえ手練の暗殺者だとしても、アイのもとにたどり着くことすら困難だろう。
だが、結果は彼女の予想を裏切る事になる。
645 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:48
646 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:49


夜は更けてゆく。
アイが一向に部屋から出てこないことから、中で寝てしまったのだろうとガキサンは推測した。
団長室には窓をはじめとして、侵入できる箇所は一つもない。すなわち正面さえ固めれば、室内は最も安全な場所だった。日
頃から激務に晒されているのだ、起こすのはやめよう。自然と労いの気持ちが働いた。

「ふあぁぁぁ、ガキさーん。暗殺者さんは今日はもう来ないんじゃないですか?」
「かもね。最初に警戒させるだけさせて、中だるみした所を襲わせるのは暗殺のセオリーらしいから。カオリン隊長が昔くど
いほど言ってたよ」
「例のふくろうは朝飛ばない話に織り交ぜて?」
「そうそう、あれはある意味拷問・・・っと。ただ今から思えばあれもカオリンさんなりの稽古だったんじゃないかなあ。精神
を鍛えるための」

かたかたっ。
微かな、物音。
二人は音のしたほうに身構える。
気配はまったくない。風の音か、はたまたネズミか。

だが。
ふわり、と空気が動いたと感じた次の瞬間には。
ガキサンとエリィ、二人の首に刃が付きつけられていた。
647 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:50
「いつのまに!!」

二人がそれぞれの武器を首と刃の隙間に滑り込ませ、弾く。
勢いで背後を振り返り、武器を構えた。

そこには、口元を黒いマフラーで隠した、黒装束の少女が立っていた。

「今ので仕留められないとは・・・さすがは王国騎士団といったところか」

後ろに下がり、間合いを取る暗殺者。
マフラーに覆われていない顔から、相手が自らよりもずいぶん年下だとガキサンは判断した。
しかし、暗殺者に年齢は関係ない。

―カオはあんたたちよりもちびっこの時から、暗殺の真髄を叩き込まれたよ。―

かつての鬼団長の口癖のようなものだった。
目の前の少女も、この場所まで誰にも気取られずにたどり着いたのなら、立派な暗殺者だ。

「カメ!一度だけしか言わないから!あいつの刃はかすり傷でも受けない!あいつが出すもの全てに気を配る事!大きく息
を吸わない!以上!わかった?!」
「はっはいっ!!」

ガキサンの剣幕に押され、エリィが慌てて返事をする。

手口は読まれているか。
少女はガキサンの言葉からそれを察する。しかし慌てることはない。
目の前の二人は任務に立ちふさがる障害。至ってシンプルだった。

心情は行動に直結する。
先に仕掛けたのは暗殺者の少女。風を切る勢いで二人に向かって迫ってきた。
振り翳される刃、それを止めたのはエリィだった。
648 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:52
エリィの武器であるトンファー「笛筒(てきとう)」によって弾かれた刃、少女は躊躇せずにもう片方の刃で二撃目を喰ら
わせようとする。
そこに合わせるかのようにエリィも逆の手に握られた笛筒を振り上げる。どちらかが身をかわさなければ膠着状態、しかし
エリィには次の手があった。

「それっ!」

火薬が破裂するような音、同時にトンファーから少女目がけて何かが飛んでくる。咄嗟の判断で上体を逸らした少女の眼前
には、小さな穴が穿たれた壁があった。

「・・・近接武器と見せかけて、飛び道具か」
「その通りっ」

握り手のトリガーを引き、少女に向かって次々と銃弾を打ち込むエリィ。
このままでは標的のいる部屋の扉にすらたどり着けない。少女は奥の手を使う事にした。

最後に銃弾を交わしたステップから、大きく跳躍して天井に、そこから天井を蹴り壁に、そこからさらに跳躍。何度も繰り
返すことで、彼女は複数の残像を作り出した。

「分身の術?!こうなったらエリもえりりん(本物)とえりりん(分身)になって・・・」
「あんた分身なんてできないでしょうが」

ガキサンがエリィの前に立ち、方天戟「チャンポンチャン」を残像たちに向け構える。

「一気に散らすよ!」

そして、残像目がけて無数の突きを繰り出した。
テンミニッツ家に伝わる槍術「刃丹穂縁灯(はにほへと)」。乱れ突きに加え、方天戟ならではの攻撃範囲の広さが素早い
動きをする標的の行動を遮る。
649 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:53
再び後方に下がる少女。
中距離の攻撃を得意とするガキサンに、近距離の攻撃を得意とし、また遠距離の標的も攻撃できるエリィ。この組み合わせ
は少女が部屋の扉にたどり着く事を困難にしていた。

「団長室のほうだ!」
「急げ!!」

そこへ、廊下の奥から騎士団員と思しき声が聞こえてきた。
先ほどのエリィの発砲で只ならぬことが起きていると察知し、駆けつけてきたのだ。

それでも少女は表情ひとつ変えない。
懐に手を入れると、隠し持っていた小瓶を騎士団員たちに投げつけた。
床に落ちた瓶が割れ、中の液体が各所に飛散する。
突然のことに戸惑っていた団員だが、やがて力が抜けたかのように次々と倒れていった。

「残念だったな。援軍はもうこちらには来れない」

団長室は廊下のどん詰まりに位置していた。
つまり、ここに来るには小瓶の液体が撒かれたあの場所を通らなければならない。

「援軍なんて最初から期待してませんよーだ!」

少女に向かってトンファーを構えるエリィ。だが異変は確実に起こっていた。

「あれ・・・どうしちゃったのかな・・・」

四肢に急に力が入らなくなった。
エリィには、そうとしか思えなかった。

「もしかして・・・さっきの・・・?」

ガキサンもまた、エリィと同じような状態に見舞われていた。
さっきの小瓶に毒か何かが・・・でもここからは離れているし・・・どうして・・・
彼女がそう思うのも無理はない。団員たちが小瓶を投げつけられた場所はここからゆうに3メートルは離れている。
650 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:54
しかし、理由を考えているような時間はない。
少女はこちらが弱っている隙を狙い、団長室の扉めがけて走り始めたからだ。

「おおおおおおっ!!!!!」

渾身の力を振り絞ったのだろう。
エリィが少女を追い越し、扉の前に立ちふさがったのだ。

「邪魔だ。どけ」
「王国騎士団の名にかけて、ここは絶対に通さない!」

エリィの叫びは少女の心に響かない。
無残にも、彼女の放ったひと蹴りによって壁際まで飛ばされてしまった。

再び扉に近づこうとする少女に、今度はガキサンが立ちはだかる。

「私の名前は王国騎士団副団長ガキサン・テンミニッツ!この部屋に入りたければ私を倒してからにしろ!!」

肩で大きく息をするほどに、ガキサンの体力は急激に消耗していた。
ただ、少女を見据える双眸だけがぎらぎらと光を放っている。

「しつこいんだな。王国騎士団というのは」

少女は低く体勢を取ると、足払いによってガキサンを薙ぎ、転倒させた。
その足をがっちりと掴む感触が少女を襲う。
651 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:55
「・・・捕まえた!!」

エリィの行為も空しく、少女は手ごと足を持ち上げ、そしてそのまま床に叩き付けた。
骨の折れる鈍い音が聞こえる。それでもエリィは掴んだ足を離さない。
少女は表情を変えずに、二度、三度と壁に蹴りを食らわす。その度に、エリィの手は壁に挟まれ強烈なダメージを負
う。

襲い掛かる激痛に悲鳴も上げず決して手を離さなかったエリィだが、ついに四回目の蹴りで掴んでいた足を離してし
まう。

が、今度はエリィが掴んでいた足とは逆の足をガキサンが掴む。
薬が効いてないのか。少女は一瞬訝るが、虫のように地を這う二人を見て考えを否定した。ただ、彼女の足を掴む力
は尋常ではない。まるで、残りの力を全て一点に集中しているかのように。

業を煮やした少女が、ガキサンの手首を掴み返す。

「何故、ここまでする必要がある」

地位。名誉。騎士団の誇り。
その類の下らないものだろう。少女は問いかけておきながら、ガキサンの答えを予測していた。
しかし、ガキサンからはまったく意外な言葉が返ってきた。

「団長を・・・アイちゃんを守りたいからに決まってるじゃん。騎士団は国を守るために存在する。けどアイちゃん一人
守りきれない騎士団が、国を守れるとは思わない」
「馬鹿らしい」
「あんたはさあ、何か守りたいものは・・・ないの?」

少女はありったけの力を込めて、ガキサンの手首を握りつぶした。骨の砕ける感触と共に、足を掴んでいた強い力は、
消えた。
652 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:55
653 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:56
654 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 21:56
655 :名無飼育さん :2012/02/21(火) 22:01
>>634
ありがとうございます。
更新頻度は高くないですが、気長に待っていただければと思います。

>>635
とりあえず茶色、いやチョコレート色の人関連の複線を回収する予定です。
656 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 18:37
657 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 18:38


団長室。
外の騒ぎを気にする事なく、アイは事務処理を黙々とこなしていた。
その手の動きが、止まる。
静かに、部屋の扉が開かれた。

入団してから数々の功績を残し、騎士団団長を務め上げるアイの目を持ってしても、その動きは捉える事ができなか
った。
喉元に突きつけられた刃が、その事実を証明し続ける。

「モーニング王国騎士団団長アイ・トレジャーグレイブだな。その命、貰うぞ」

簡単な任務だった。
この手に握られた刃を左に引けば、それで全てが終わる。
先ほどとは違い、アイが何らかの得物を携えているわけでもない。
少女には描く未来が最早現実に等しいとすら思えた。

「衛兵に気づかれることなく詰所に忍び込んだ身のこなし。援軍を断ち、かつ目の前の相手を弱らせる毒薬の使いど
ころ。さすがは暗殺者。あれは風向きを利用した、そうやろ?」
「見ていたのか。趣味が悪い。部下にその場を任せて逃げ出せばよかったのに」

逃がすつもりはないけど、と付け加えようとした少女の言葉を、アイが遮った。

「仲間があーしのために戦ってるのに、逃げ出すなんてできるはずがない」

少女は部屋の外で戦った、ガキサンの言葉を思い返す。
アイちゃん一人守りきれない騎士団が、国を守れるとは思わない。とんだ戯言だ。現に守りきれなかったじゃないか。
しかし次の瞬間、少女はその言葉の真の意味を思い知らされる。

658 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 18:40
部屋の扉の前に、ガキサンとエリィが立っていた。

「そこまでだ。アイちゃんを解放してもらおうか」
「こういう状況を四字熟語で表すと、『絶体絶命』ですか?」

やはり薬が効いてないのか。馬鹿な、大の大人ですら吸引すれば3日はまともに動けない毒薬だぞ。
少女には、目の前の二人が理解することのできない得体の知れない存在のように思えた。

「絶対絶命なのはこの女のほうだ。お前らが何をしようが次の瞬間には刃は首に食い込んでいる」

ただの襲撃ならこのままアイを人質にして急場を凌ぐ手もあるかもしれない。
だが、少女の仕事は暗殺。標的の命さえ奪えば、自らはどうなろうが構わない。標的が凶刃に斃れる未来は見えても、
その後の自分の未来は見る意味すらなかった。

強い視線が二対、少女を射る。
決して生かしては返さない、そういう決意を含んだ視線なのかと少女は思った。
しかしそれはまったくの間違いだということに気づく。

「まさか。この状況下でもまだ間に合うと?」

ガキサンとエリィ。
額に玉のような汗を流しながらも、力強く頷く。

不可解。理解不能。
根拠のない自信よりも、その自信を支える得体の知れない何か、に少女は苛立っていた。最早一刻の猶予も与えない。
アイの喉元に這わせた刃を、素早く引ききった。

659 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 18:42
だが、少女の仕事は暗殺。標的の命さえ奪えば、自らはどうなろうが構わない。標的が凶刃に斃れる未来は見えても、

しかし。

肉を断ち皮を引き裂く手ごたえはなく、少女の手に伝わったのは金属が互いを食みあう感触。
刃は、アイの持つレイピア「サファイヤ」によってその行く先を阻まれていた。

「貴様・・・いつの間に」

剣の使い手は達人クラスになると、自らが帯刀していることすら相手に悟らせないという。まさに、アイはその域に
達していた。

三対一。
有利な立場から一転して窮地に追い込まれた少女。
しかし少女とてむざむざ何もせずにこの場を逃げ去るわけにはいかなかった。
胸元から何かを引っ張り出す仕草を見せる。かちり、という金属音がしたその瞬間。

凄まじい爆発音。
自爆。不吉な二文字が頭に浮かんだガキサン、エリィの前に躍り出たのは、黒焦げになった暗殺者の少女だった。少女
が見据えるのは、二人の首。

まさかの攻撃方法に、ほんの僅かだが、二人の防御体制が遅れる。
喉元を掻き切ろうと懐に飛び込んだ少女。それを強烈な蹴りで蹴飛ばすものがいた。

「アイちゃん!」

先ほどの爆発から逃れたアイが、少女の不意打ちを完全に潰した。
かと思われたが、蹴りを喰らう寸前に少女はアイの足をがっしりと捕まえて共に部屋の外へと転がり出る。そのどさく
さに紛れて、団長室のドアを力強く蹴り閉める。爆発によって撓んだ扉は容易には開かない。ガキサン、エリィとアイ
を分断することこそ、少女の一番の目的だったのだ。

660 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 18:44
アイと少女。
絡み合いながら、廊下に倒れこむ。
間髪入れずに起き上がり、互いに間合いを取った。

「自爆するんやったら、あーしも死ぬくらいの火薬仕込んだらよかったのに」
「それは、私の戦い方ではない」

あくまでも、自らの刃で標的を仕留める。
それが、相手の命を奪うためならいかなる手段も問わない暗殺者である少女の、たった一つの矜持だった。

ともかく、アイと少女。
二人は互いに向き合い、そして刃を向け合った。

片や王国に轟く名声を持つ剣の達人。
それに対し、一瞬の隙を突き相手の命を奪うことが身上の暗殺者。先ほどの自爆で少なからず肉体にダメージが残って
いる身では、明らかに勝ち目はなかった。
しかし、少女の眼光は手に持つ刃同様、ぎらつきを失っていない。

「はぁっ!!」

叫び声を搾り出し飛び出したのは少女だった。
地を這うような姿勢で、アイに迫る。
足を刈ろうとする少女を、飛び上がりざまの蹴りで迎撃するアイ。少女は連撃用だったもう片方の刃を盾にして、蹴り
を防いだ。

一撃が軽すぎる。
自爆攻撃の影響か、それとも元々パワーではなくスピードで相手を翻弄するタイプなのか。
アイの思考は少女のさらなる追撃によって中断された。

右、左。右、左。
双剣ならではの、間髪を入れない連撃をアイは自らの剣捌きでかわしてゆく。
消耗戦ならば圧倒的に不利なのは相手方。一撃を入れるまでもなく、相手は自滅する。
そんなアイの意表を突くが如く、少女は自らの双剣を交差させてアイの「サファイヤ」を挟み込んだ。
ひねりを加えられながら上に向かって思い切り持ち上げられた剣は、アイの手を離れて宙を舞う。

互いに丸腰の状態。
ではなかった。少女がアイ目がけて撃ってきたのは、指先に鋭利な刃物をはめ込んだ手刀。
少女はこの一瞬を狙っていたのだ。

だが、少女が手に入れたのは心臓が波打つ熱い感触ではなかった。
喉元に突きつけられた「サファイヤ」の切っ先。またしても、少女はアイが帯刀していないという錯覚に惑わされた
のだった。

661 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 18:47
「・・・殺せ」

自らの完全なる敗北を悟った少女が、静かに言った。
闇の世界において「ダン・ハウ」と言えばラブベリーを代表する暗殺者というほどの功績をあげていた彼女ではあった
が、自らの功績に何も感じないように、自らの命にも何の未練もなかった。

だから、アイが発した次の言葉に、耳を疑った。

「あんた、おもしええなあ。うち、来ない?」

誑かされている。最初に少女はそう感じた。
安心させておいて殺すのかもしれない。どの道、アイの言葉に対して何の希望も持っていなかった。

「目にも止まらぬ瞬発力。ガキさんたちとあーしを分断した判断力。最後まであーしを討つ機会を伺うしたたかさ。あ
んたみたいのがうちに来たら、騎士団はもっと強くなるやろうなあ」

次に、目の前の女は頭がおかしい、と思った。
どこの世界に自らの命を狙ったものを仲間に引き入れる人間がいるだろうか。

「あーしのこと、アホな奴って思ってるやろ。でもな、ずっと昔にも暗殺者出身の騎士団員はいたんやよ。何の不思議
もないから」

けれど、アイはそう言って少女に向かって微笑みかけた。
嘘を言っているようにはとても思えなかった。

「何を・・・馬鹿なことを・・・」
「いつでもええよ。騎士団はいつでもあんたの入団を歓迎する。なんてな」

662 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 18:48
そこへ、ドン、という鈍い音。
団長室に閉じ込められていたガキサンとエリィが、扉をやっとのことでこじ開けたのだ。

少女は生まれてはじめて、敵に背を向け逃げ出した。
別にガキサンたちが援軍として加わるのが怖かったわけではない。むしろ怖かったのは、アイを含めた王国騎士団とい
う組織そのものだった。得体の知れないものに触れ、はじめて恐怖を感じたのだ。

「アイちゃん、大丈夫!?」

ガキサンたちが駆けつけた頃には、少女の姿は跡形もなく消えていた。

「大丈夫やよ。ほれ、かすり傷一つついてないし」
「ああそう・・・って暗殺者は?」
「あー、逃がした」
「へえ、逃がしたんだ・・・って、はぁ!?」

ガキサンが大声を上げる。
遅れてエリィもアイのもとにたどり着いた。

「あれー? 暗殺者さんは?」
「アイちゃんが逃がしたんだってさ」
「あはは、それは大変だ」
「ちょっとカメまでいい加減にしてよー・・・」

ガキサンががっくりと肩を落とす。
騎士団のトップが命を狙われたのだ。笑い事で済むはずがない。

「逃がしたって、アイちゃんそいつがもう一度来たらどうすんのよ」
「まあ、もう一度来るかもしれんの。もしかしたら」
「何悠長なこと言ってんの。まったくもう・・・」

その後しばらくは騎士団詰所の警備を強化したものの、暗殺者どころかねずみ一匹侵入することさえなかった。
アイの言葉が、時を経て現実になることをガキサンが知るのは、もう少し先の話。

663 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 18:49
664 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 18:50


ファイブウッド邸。
アイ暗殺の吉報を待ちわびていた彼の元に上がった報告は、暗殺が失敗に終わったというものだった。

「何ということだ!こちらはいくら金を払ったと思ってるんだ!!」

激高し周囲の物に当たるファイブウッド。
しかしいくら怒りを発散させたところで何も変わらないのは彼自身が良く知っていた。

別の組織に暗殺を頼むか。
それはあまりにも危険すぎる賭けだった。ラブベリーナほどの組織がしくじったほどの難業、我こそはと名乗
りを上げる連中もいるだろう。しかし失敗しもし自らの差し金だと露見した日には、取り返しのつかないこと
になってしまう。

「自ら危険な橋を渡ることはありませんよ、ファイブウッド卿」

ファイブウッドの応接室のソファーに腰かける、黒マント。
その顔は、奇妙な仮面によって覆われていた。

「2年。2年お待ち下さい。そうすれば、あなた自ら動かなくとも、必然的にあなたの発言力が大きくなる出
来事が起こります」

ファイブウッドは怪訝な顔をした。
たった2年で何が変わるというのか。アイが宣言どおりに騎士団を辞めてしまえば、必然的に自らと国の中枢
の繋がりは薄くなる。元老院議長という肩書きだけでは、己の欲を満たすには程遠い。
それが、2年で状況が変わる。

「どういう・・・意味だ?」
「どうもこうも、そのままの意味ですよ。『私たち』がこの国を変える。必然的にあなたも動き易くなるかと」
「国を変える、か」

ファイブウッドは言葉の真意を知り、口の端をにたりと歪める。
目の前にいる仮面の女はある日ふらりと屋敷にやって来て、ファイブウッドの事業のサポートをしたいと申し
出てきた。そして女の進言・助言は彼に巨額の資産をもたらした。女の才覚を、ファイブウッドは認めていた。

「お前ならば、この国をひっくり返す事も可能なのかもしれん。期待しているぞ」

その後仮面の女は、王国はもとより、周囲の国々を渡り歩き着実に自らの目的を達成させてゆく。

665 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 18:50
666 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 18:53


底知れぬ深き闇夜を、満月が照らし出す。
鬱蒼とした森の中を縫うようにして、一つの影が走りゆく。

もう、何日間逃げ続けているのやら。

ひとりごちる少女だったが、もちろん答えるものはいない。
日が昇り、日が沈み、そして日がまた昇る。そんなことを二度、三度繰り返した後は少女の中から日数という概
念は消え去っていた。

王国騎士団長アイ・トレジャーグレイブの暗殺に失敗した少女に下されたのは、処刑という名のごく当たり前の
処置だった。任務に失敗したばかりかおめおめと生き延びてくるなど、暗殺者としてあるまじき行為。組織の汚
名を雪ぐために、多くの暗殺者が少女のもとに放たれた。

初めのうちは、難なく追っ手を撒ききることができた。
暗殺組織ラブベリーの中で、少女は一握りほどしかいない手練の暗殺者だった。そんな彼女を仕留めることの
できる人間は、そうやすやすとは現れなかった。
だが、ここ数日から明らかに追撃者の質が変わった。それは逃げ続ける少女自身が、一番に肌で感じていた。ミスリードの罠、囮、追撃をかわすトラップ。全てが無力化された。

そして今、この名もなき森の中にまで追い込まれている。
確かこの先は断崖絶壁、そんなところに来てしまっては追っ手に斬り殺されるか、崖に飛び込み死ぬかの二択
しか選べなくなる。わかってはいても、追跡者は巧妙に少女を終着点に逃げざるを得ない状況を作り出していた。

― うち、来ない? ―

あの時アイにかけられた言葉が、何故か心の中で燻り続ける。
死さえも厭わなかった少女の心情に、変化が起きていた。以前の少女なら、任務の失敗を理由に平然と追っ手に自ら
の首を差し出していただろう。

もちろん、アイの甘言に乗るつもりなどまったくなかった。
今まで奪う事しか知らなかった自分が、何かを守るなんて。まったく馬鹿げた話だ。そんなことが、できるはずない。
幾度となく消した言葉なのに、消した側から少女の頭に浮き上がってくる。

アイを守るために何度も少女に喰らいついた、エリィ。
アイ一人を守れなくて、国が守れるかと言い切った、ガキサン。
そして血塗られた道を歩んできた少女に手を差し伸べた、アイ。

私も・・・彼女たちと一緒に何かを守ることが、できるのだろうか。
ひどく非現実的な空想だった。唾棄すべき、妄想。
けれども、その一方でその妄想に対して答えを出してみたい自分もいる。
少女の心は、揺れていた。

答えが出るまでは・・・死ねない。

彼女の心が決まったのと、目の前に途方もない谷底が飛び込んできたのは、ほぼ同時だった。

667 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 18:54


満月の光に、追跡者は照らし出されていた。
纏う外套は周囲の闇よりも色濃く。
その闇に溶け込みそうな長い髪を両肩に垂らし、風に揺らせている。
出された額に刻み込まれた意志の強そうな眉と、自身に満ちた表情。一見して少女より年上に見えたが、目元に残る
幼さがそれを否定する。
一目見て、少女は追跡者が頭領お気に入りの新参者であることを理解した。

「年貢の納め時、ってところじゃないか?『ダン・ハウ』」

自らの背丈ほどの長剣を携え、追跡者は笑みを見せる。

「背後は落ちたら命はない断崖絶壁。前方にはあたしがいる。どちらか選ばせてあげるよ。崖に飛び込んで自ら命を
絶つか。それとも・・・」

言い終わる前に、少女は駆け出していた。
矢継ぎ早に放たれる、双剣の剣戟。その軌跡を、追跡者は長剣の一振りで弾き返す。

「無駄な抵抗はよしな。あたしはあんたより、強い。増してや、その消耗しきった体じゃあね」

胴を薙がれまいと、後方に跳び避ける少女。
まともに遣り合っては、勝ち目などない。それに、今の一撃で少女は理解した。目の前の相手が、あのアイ・トレジ
ャーグレイブに匹敵するほどの実力の持ち主であるということを。

追跡者が、長剣を両手に番えて構えを取る。
片手で柄を握り、もう片方の手を柄の頭に添える。一突きで、相手を仕留める技なのは明白だった。

「安心しな。一撃で、楽にしてやるよ」
「私は・・・死なない!!」

少女が叫んだかと思うと、大きく後ろに跳んだ。

668 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 18:56
「逃がさないよ!!」

追跡者の突きが、勢いよく射出される。
少女の跳躍は、突きの射程距離から逃れる事はできない。
刃の切っ先が少女の心臓に届き貫くかと思われたその時だった。

少女は自らの双剣を交差させその交差点によって、切っ先を受け止めていた。そればかりか、突きの勢いに身を任せ
てさらに崖の先へと飛んでゆく。

花びらのように宙に舞った少女の体は、弧を描いてゆっくりと谷底へと消えていった。

「おい、『ダン・ハウ』は仕留めたのか!!」

追跡者の背後から、一人の男が息も絶え絶えに走ってくる。
男もまた、ラブベリーナによって放たれた追っ手の一人だった。

追跡者は長剣で、谷底を指す。
瞬時に全てを男は理解した。

「この絶壁の下は大岩をも丸呑みにする濁流だ。どの道生きてはいまい。さすがは帝国お墨付きの逸材だな。頭領様
が目をかけているだけのことはある」
「・・・川の下流は捜索しなくていいのかい?」
「土左衛門を探す趣味はないんでな。そんな仕事は下っ端にまかせればいい」

甘いな。
追跡者は男の底の浅さを鼻で笑う。
自分は死なないと言い切った少女の強い瞳。あれは、千死の中から一つの生を拾うことの出来る瞳。そういう人間を、
追跡者は何度も見てきた。

「ともかくだ。アジトに戻って祝杯をあげようじゃないか、ジュリナ」

男は高らかに笑うと、満足そうに切り立った崖を後にした。
ジュリナと呼ばれた少女は、その間抜けな背中を見て思う。

「ダン・ハウ」のその後を確かめる義理はあたしにはないしね。まあ、あの男みたいな人間が多い方が、あたしも色
々とやり易いんだけど。

そして、暗闇に沈んだ断崖絶壁を見やった。

「あんたの生き様、見せてもらおうか。『ダン・ハウ』」

その言葉は行き場のないまま、谷底の闇へと吸い込まれていった。

669 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 18:56
670 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 18:58


王都リゾナント。
王国騎士団長であるアイの暗殺は未然に防がれたが、騎士団の忙しい日常は何一つ変わることはない。

「アレ?リンリンが楽しみニ取っテおいタ小籠包がナイあるヨ!!」
「ジュンジュンが食べタよ。ごちそうさま」
「ハァ?おめー何厚かまシいことしてんだヨ!」
「厚かましイのはリンリンのアゴあるネ」
「次アゴのこと言っタラ殺ス!お前の団子鼻切り落トしテ肉団子にしテから殺ス!!」

相変わらずどうでもいいことが発端で、中国拳法の応酬を始めるリンリンとジュンジュン。
そんな様子をやや呆れつつ見ているガキサンに、ミッツィーがそっと近づく。

「昨日、刺客来たんですね。兵士たちが騒いでました」
「もう・・・口止めしたはずなのに」
「人の口に戸は立てられない言いますからな」

諦めたような表情をして、ミッツィー。
二人はそれとはなしに、詰所を離れた。

「アイさんは」
「団長なら蛮族討伐に出かけたよ。まったく自分の命が狙われてるってのに・・・でもあの人は一度言い出したら聞かな
いからねえ」

ガキサンが空を仰ぎながら、愚痴る。
しかしそれは最早容認の色を帯びたものだった。

当てのない、二人の散歩。
城の中庭に差し掛かったところで、ミッツィーが歩を止める。

671 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 18:59
当てのない、二人の散歩。
城の中庭に差し掛かったところで、ミッツィーが歩を止める。

「ファイブウッドはしばらく何も出来へんでしょう。下手に動けば自分の身が危ない。けど・・・」
「いつかは動く?」
「ええ。反省するようなタマと違いますやろ。まあそれはええとしても、問題は。迎え撃つうちらの体制ですわ」

ミッツィーの言葉は暗にアイが騎士団を去った後のことを指していた。

「次期団長はまちがいなくガキさんでしょうな。あとはガキさんを支えるサブ的ポジションやけど」
「サユにレイニャにカメ。どれも一長一短なんだよね」

サユは部下の面倒見はいいが時に厳しさを求められる場面には向いていないかもしれない。逆にレイニャは人に誤解さ
れやすいタイプなので部下との関係がうまくいかない可能性がある。

「で、カメはねえ。想像もつかない」

ガキサンはエリィが自分の右腕となって騎士団を切り盛りする姿を想像しようとしたが、無理だった。あはは、遅刻し
ちゃいましたー。なんでサユの肩を揉んでエリのは揉んでくれないんですかぁ。サポートされるどころが逆に悩みの種
が増えそうだった。

「逆にエリィさんみたいな人がうまいこと潤滑油になるかも知れへんな」
「カメが?確かにまあ、ふにゃふにゃしてるからねえ」

そういう意味で言ったんと違うんやけどなあ。
ミッツィーは口の先まで出掛かった言葉を呑み込んだ。

「ミッツィーにも期待してるよ。コンコン以来の軍師候補だもんね」
「そんな。うちなんてまだ全然」
「謙遜しないの。頼んだよぉ、天才軍師様!」

この後、ミッツィーは後に大軍師コンコン・テレトアナをも凌ぐ策を練ることのできる軍師へと成長する。ただ、それ
はミッツィー、いや騎士団自体に襲い掛かる不幸な出来事に端を発してのものだった。彼女は自らの足の自由と引き換
えに、策士としての才能を開花させることになる。


672 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 18:59
673 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 19:01



少女が固く綴じられた瞼を開くと、白い天井が見えた。
まずは腰の感触に違和感を感じる。彼女の得物である双剣がないのだ。
慌てふためき、飛び上がる。体を襲う激痛。そんなことすら些細なことに思えた。少女は暗殺者としての道を歩み始め
てからただの一度たりとも、得物をその身から離したことがなかったのだ。

「気がついたのね。ってまだ寝てなきゃ駄目っしょ」

奥の間から現れた、髪を腰まで伸ばした女性が少女を見て言った。
少女は自らがベッドで寝かされていたこと、ひいては濁流に呑み込まれた自分を目の前の女性が助けてくれたことを悟
った。

「川に水汲みに行ったらさあ、あんたが川上からぷかぷか流れてくんだもん。びっくりしたよ」
「それより私の・・・」
「ああ。これのこと?」

そう言うと女性は二振りの剣を少女に見せた。
咄嗟にそれを取り返そうとした少女の手が、空を切る。

「だーめ。これを今返したら、出てくつもりっしょ。怪我人は大人しく寝てなさい」

女性の言葉よりも先に、少女は自らの手を交わした女性の身のこなしが気になった。
いくら怪我をしているとは言え、一介の女性が自らの動きを見切れるはずがない。このやりとりだけで、少女は目の前
の女性にただならぬものを感じ取った。

とは言えこんなところでぐずぐずしている暇はない。
自らを追い詰めたあの追跡者が、この場所を嗅ぎ付けない保障はどこにもないからだ。

さてどうやってこの女の目を盗んで双剣を取り返し、この場を脱出するか。
そんなことを思案している少女の瞳に、見慣れないものが映る。

674 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 19:04
「ああ、これ?」

女性の問いかけに、思わず少女が頷く。血塗られた道を歩んでいた少女にとって、あまりにも縁のないものだったから
かもしれない。

「絵を描くのが、趣味なんだ。実は今もこうして横になってたあんたをモデルにして絵を描いてたんだよね。助けてあ
げたんだから、それくらい協力してくれてもいいっしょ?」

簡素なものだったが、そこにはイーゼルとカンバスがあった。どんなものが描かれているかは、少女からは見えないが。

「時間の、浪費ですよ」
「えっ?」
「絵など描いて、何になるんですか」

凡そ少女には理解できない趣味だった。
日がなじっとして、ただ絵を描いている。その意義が、少女にはわからなかった。
しばらく黙っていた女性が、不意に自らの手を見つめながら話しはじめる。

「自分の手がね」
「手?」
「うん。自分の手が、何ものかを生み出す実感を感じるんだよね。絵描きは自分の絵に命を吹き込むって言うけど、何
だか本当にそんな気がしてね。増してや、今まで奪う事しかできなかった手だから、余計にさ」

女性の背景に何があるのか、少女は知らない。ただ。
今まで奪う事しかできない手、という部分に少女は何かを感じた。恐らく、共通点を。暗殺者として人の命を奪い続け
た自分の手はまさに「奪う事しかできなかった」手だったからだ。

「まあとにかく。怪我が治るまで、ゆっくりしてきな。心配いらないよ、そんじょそこらの追っ手に負けるような腕の
鈍り方、してないから」
「え・・・」
「あんたの傷、特徴的なんだよね。背中にはいっぱい傷があるのに、正面にはほとんど傷がない。これは追っ手から逃
げてる人間の特徴だよね。それとこの双剣。これはそんじょそこらの剣士に扱えない」

もしかしたら。
目の前の女性は、過去に自らと似たようなことをしていたのかもしれない。
ただ、今は違うのだろう。この家には暗い影の匂いはしない。おそらく日がな絵を描きながら、のんびりと暮らしてい
るのだろう。少女はそう推測した。

やがて少女 ―ハルナ・メッシ― は、自らと似た境遇にいながら、その場から脱却できたであろうこの女性に興味を
持ち始める。
ただ、今はハルナは何も知らない。
目の前の女性が、かつて暗殺者でありながら王国騎士団に入団し騎士団長にまで上り詰めた人物であるということを。
そして、ハルナ自身が絵に興味を持ち、この女性が自らの絵の、そして剣の師匠となることを。
そして女性と同じく、ハルナもまた王国騎士団の門を叩くことを。

これがハルナと元王国騎士団長であるカオリン・ネ・エワラッテの、運命的な出会いである。
675 :名無飼育さん :2012/03/23(金) 19:05


モベキマス戦記番外編「光明」 了

676 :名無し募集中。。。 :2013/07/10(水) 15:17
続きってもう書かないのかなぁ?
677 :名無飼育さん :2017/09/04(月) 13:19
二年ぶりに読み返して見たけどやっぱり面白い!モベキマスから7年…今の新体制のハロプロだとどうなっているのか是非とも読んでみたいな
作者さんはもう小説書いていないのだろうか?
678 :名無飼育さん :2017/09/04(月) 13:19
二年ぶりに読み返して見たけどやっぱり面白い!モベキマスから7年…今の新体制のハロプロだとどうなっているのか是非とも読んでみたいな
作者さんはもう小説書いていないのだろうか?

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