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Youth

1 :名無飼育さん :2011/04/19(火) 20:27
1 クラスメイト
199 :名無飼育さん :2012/05/06(日) 20:06
愛理が帰り、早貴と二人きりになった途端、千聖はテーブルに突っ伏した。
ずっと抑えていたものが込み上げてくるのを感じた。

「応援するって言ったんでしょ」
頷く。
「自分で言ったことなんだから責任もちなさいね」
頷く。
「わかってるならいい加減泣くのやめな」
頷く。
頷く。
頷く。
全部わかっている。
自分で言わせたくせに、自分で勝手にショックを受けて、泣いている。
口調とは裏腹に頭を撫でる早貴の手は優しかった。
手の温かみを感じながら、声を出さずに泣いた。
200 :名無飼育さん :2012/05/06(日) 20:07
4月からクラスにやってきた転校生鈴木愛理は、激しい人見知りをしていたが、千聖が毎日必死に話しかけたかいがあってか、仲良しになることができた。
特に決めたわけではないが、昼休みは一緒にご飯を食べたり、移動教室では隣に座ったり、お互い用事がない限り一緒に下校したり、というのが自然と当たり前になっていった。
くだらないことを教室で少しだべってから一緒に帰る、といういつも通りの流れに、それは突然割り込んできた。

下校のピークは去っているはずの時間帯だが、なぜか人が多い。
校門付近には、人だかりができていた。
背が低いため何が起こっているのかはよくわからなかった。
立ち止まる人間がいるためにできている渋滞に愛理と滑り込みながら少々強引に進んでいった。
この渋滞の原因となっている中心に近づいていくと、知っている顔が見えた。
クラスメイトの菅谷梨沙子の姿が目に入ってきた。
他には名前を知っている高等部の人達もいて、更に―思いがけない人がいた。
「あ」
気付いたら声が出ていたようだ。
その声に反応したのか、隣の愛理は立ち止まっていた。
行こうと促そうとして愛理の方を見ると、視線は、先ほど自分が見ていた部分と同じところに固定されていた。
高等部の夏焼雅。
そして―
「千聖…あの人誰か知ってる?」
ぼそっと呟いた愛理の声は、震えていた。
201 :名無飼育さん :2012/05/06(日) 20:08
転校生の愛理が高等部の人を知っている可能性は殆どない。
視線の先には高等部の人が何人かいたのだから、愛理が指す「あの人」というのが誰であるのかはわからないはずである。
しかし。
「夏焼先輩の、恋人だよ」
単調な説明がさらっと口から出てきた。
改めて声に出すと思い知らされる。
愛理のこの問いには現実を突きつけられる気がして正直答えたくなかった。
今まで目を逸らしていた思いを告げられない自分と、思い人に相手がいるということ、そして、友人も同じ人を思っていた、という現実を、同時に突きつけられた。
じっと「夏焼先輩とあの人」を見つめる愛理は、千聖が知らない表情をしていた。
「愛理?」
どう言葉をかけていいかわからなかったが、躊躇いつつも名前を呼んでみた。
「だいじょ、うぶだ。よ」
我に返ったように愛理は口を開いた。
視線の先は、校門を出ていく二人に向けられていた。
愛理は俯き、考え事をしているようだった。
沈黙するその姿を見て、気付かれないようにため息を吐く。
それを大きく吸い込んでから、今度は俯いた愛理をこちらに向かせられる言葉を吐き出した。
「千聖は学年かぶってないしよく知らないから、なっきぃに聞いたほうがわかると思う」
それは嘘だ。
よく知っているくせに、保身のために、早貴を巻き込んだ。
ごめん、と心の中で謝った。
202 :名無飼育さん :2012/05/06(日) 20:09
急な呼び出しに戸惑いつつも、事情をすぐに察してくれたみたいで、早貴は肝心な部分に触れずに一連のことを説明してくれた。
一通り聞き終わった愛理の表情を見る。
自分自身のことをよくわかっていないような愛理に苛立った。
「愛理は気になるんだね。夏焼先輩のこと」
棘のある言い方をした。
考え込んでいる愛理にはそれは通じてなかった。
返ってきた言葉は、
「わかんない」
「でも。本気なんでしょう?」
今度は悔しさが沸き起こった。
早貴が隣から目でたしなめるのを感じながらも、止まれなかった。
「夏焼先輩のこと、好きなんでしょ?」
自分が直面できないことを突きつけると、愛理は目を逸らした。
「そのことはいいと思う。うちも、そこまで口出すようなことはしない。人を好きになるってのは自由だもん。
愛理のこと応援したいと思う。けど。本気だっていうなら、夏焼先輩を狙うんだったらそれは―」
そこまで一息に言って、大きく息を吸い込む。
言おうとしたその言葉は、かろうじて追いついた理性が止めた。
そして冷や汗が吹き出てきた。
今自分は何を言おうとしていた。
自分自身に向けた言葉を愛理にぶつけていた。
弱い自分への不満だった。
愚かなことをしたことに気づき震える自分を必死にこらえる。
沈黙がおこった。
明らかに理不尽なこと言った千聖を、責めるかもしれない。
203 :名無飼育さん :2012/05/06(日) 20:10
恐る恐る愛理の方を盗み見ると、何かを考え込んでいるようだった。
「ありがとう。でも気づいた」
沈黙が苦しくて、耐えられなくて、とにかく謝ろうと口を開くと、それより先に愛理が話し始めた。
顔をあげてこちらを見てくる。
「私、夏焼先輩が、好き」
その言葉と意志のある目は、千聖がずっと隠し続けていたものを打ち砕いた。
からっぽになってしまった頭で、とにかく愛理をお祝いしなくては、という考えがぼんやりとうかんだ。
その後は早貴のフォローに助けられながら、愛理に特に怪しまれることなくなんとかやり過ごせたようだ。
笑顔で帰っていく愛理の後ろ姿は、細い体なのに力強く見えた。
それが眩しくて、羨ましくて、そして自分が虚しくて、視界がぼやけた。
テーブルに伏せて声を出さずに泣いた。
「ヘタレ!いつまで泣いてんの。いい加減行くよ」
撫でていた手の心地良さに身を委ねてたら、頭をぺしっと叩かれた。
顔をあげるとティッシュを差し出される。
思い切り鼻をかんでから、袖で涙を拭った。
「誰がヘタレだっ!なっきいには言われたくない」
「や、あたしこそキングオブヘタレの千聖にだけは言われたくないから!」
言葉は乱暴だけど、傍にいてくれた早貴の存在が、本当にありがたかった。
204 :名無飼育さん :2012/05/06(日) 20:11


「まじショックなんだけど、あー信じらんない」
そう言いながらポテトを口に放り込む。
「何で言ってくんないんだよって感じ。ちさとはその程度の存在だったってこと?へこむわー」
「うぜー」
そう言う早貴は目の前で呆れ顔をしていた。
気を使わない関係だが、年々早貴の口は悪くなって言っている気がする。
わかってはいても、落ち込んでいるときには結構響いたりする。
とりあえずポテトをどんどん口に放り込んでいく。
味がいつもよりしょっぱく感じ、ケチャップのつけ過ぎかと思っていたら、早貴がティッシュを差し出してきた。
「鼻水、垂れてる」
「え、うそぉ」
慌てて鼻をかむ。
涙は我慢できていたが無意識に出ていた鼻水は止められなかったようだ。
「ありがと」
そう言うと早貴はしょうがないんだから、という顔をしていた。
「なんか前にもこういうことあった気がする。デジャブってやつ?」
まだ中学生だった頃、この店で同じように泣いたことを思い出した。
「もう2年くらい前?になるのかな。早いなー」
つい最近のようにも、ずっと前のことのようにも感じられる。
「散々付き合わされるこっちの身にもなってほしいんですけど」
「ごめんごめん」
そう言ってあの時もティッシュもらったな、と思いながら早貴にティッシュを返そうとして、あることに気がつく。
「そういやこのティッシュ入れさ、これも前と一緒だね。すっごい偶然」
「え、え?そうだったっけ」
そのことに感動して早貴に教えると予想外の反応が返ってきた。
ひったくるようにゾウのデザインのティッシュケースを取られ、様子がおかしいことに気がつく。
「ねぇなっきぃ、そのティッシュ入れ、どうしたの?なっきぃにしては珍しく長く使ってるみたいだけど」
「こ、これは、クラスの子とお揃いで、そんでっ」
面白いくらいに動揺している早貴の様子を見て、これは突っ込まずにはいられないと思った。
「詳しく聞かせてくれるよね?中島早貴さん」
どん底まで落ちた自分を引っ張り起こしてくれた早貴。
今度は自分が早貴の背中を押してあげる番であると感じた。
あの時よりは少しは成長できたかな、と頭の片隅で考えた。
からかいたいという気持ちもあったが、それを頭の中から追い出して、腕まくりをして身を乗り出した。
困りながらも嬉しそうに話す早貴を見て、千聖は無意識に微笑んでいた。
205 :名無飼育さん :2012/05/06(日) 20:11
side story@ end
206 :名無飼育さん :2012/05/06(日) 20:11
207 :名無飼育さん :2012/05/06(日) 20:12
208 :名無飼育さん :2012/05/07(月) 09:28
控えめながらも存在感のある風景描写がいい。
岡井ちゃんイイヤツですねー
209 :名無し飼育さん :2012/05/24(木) 01:54
新しいお話しがきてたんですね
茉麻の話しが爽やかでよかったです!
210 :名無し飼育さん :2012/07/31(火) 23:56
そろそろ新しいお話しが読みたいです
211 :名無飼育さん :2012/10/17(水) 22:17
side storyA
212 :名無飼育さん :2012/10/17(水) 22:18
「高校外部受験したから。よろしく」
そう告げると相手は固まった。
言われたことを理解できていないのだろう。
理解してからの様子は容易に想像できたので騒がしくなる前に立ち去った。
後ろから絶叫が追いかけてきたが無視して立ち去った。
涙は流れなかった。流したくなかった。


「―というわけなのよ」
近所に住む年上の友人、須藤茉麻が家に来ていた。
舞は中等部に通っているが3つ離れている茉麻とは学年が被らず学校ではほとんど会うことはなかった。
それでも二人は気が合い、よくお互いの部屋を行き来していた。
「ふーん。茉麻ちゃんも恋というものをする時がきたんだね」
そう言うと茉麻は頬を赤らめた。今まで見たことのない表情だった。
「まあ、恋を知った瞬間の失恋だったけどね」
今度は沈んだ表情を見せた。これも今まで見たことのない表情だった。
「そういうこと…なのかな」
なんと声をかけようか考えていると、1人で納得したように呟き出した。
「独り言?これは重傷かな?」
いつも茉麻が舞にやってくれるように頭を撫でてみた。
年下にそうされるのには抵抗があるかな、と一瞬考えたが、茉麻は特に抵抗せずしばらく撫でられていた。
「舞ちゃん勉強してるの?」
茉麻は勉強机を見ていた。
「うん。舞、家庭教師始めたんだ」
「え、なんで?」
茉麻に話そうと思っていたがなかなか言えずにいたことがあった。
気づかれないように息を深く吸い込んだ。
「外部受験することにしたの」
声が少し震えた気がした。
213 :名無飼育さん :2012/10/17(水) 22:19
きっとああいう表情をされるというのが予想できていたからなかなか言えなかったのだ。
茉麻は明らかにショックを受けた様子だったが何も気にしていないという風にぎこちなく笑顔を作って帰って行った。
内部進学したって今年度いっぱいで卒業してしまうくせに。
そして、もっと面倒になりそうな人物のことを思い出してため息がでた。
きっと喚かれるんだろうな。
知ったら全力で止めようとしてくることが予想されたので、そちらには受験に受かってから報告しようと決めていた。
3年に進級して最初の実力テストがあまりに酷い成績で、今まで舞を甘やかしているだけだった親が豹変した。
家庭教師をつけられることになりそれを拒絶しようとした舞だったが、親のあまりの激昂ぶりにそんな言葉は呑み込むしかなかった。
どういう伝手で見つけてきたのか知らないが現れたのは今年有名大学に受かったばかりの現役女子大生だった。
最初はやる気はほとんどなかったが、大嫌いだった勉強も教え方が上手いせいか要領がわかると好きになっていったし、成績も面白いように伸びた。
本当に4歳離れているのかわからなくなるくらい、同じ目線で話せて気の合う彼女との時間は楽しかった。
進路の話がより具体的になってきたあたりに、彼女が舞と同じ学校に通っていていたことを知った。
そして彼女が内部進学せずに外部受験をしたことも同時に知った。
いつの間にか自身を彼女に重ねるようになっていて、舞は自分も同じ学校を受験することを決めたのだった。
そのことに関して彼女はあまりいい表情をしなかったが、舞がやりたいならやってみればいいと言ってくれた。
親は成績がぐんと上がってから勉強のことには口を出さなくなっていて、以前の甘やかしが復活していたので反対することはなかった。

宿題のプリントの束を机の上にそのまま放置していたのを思い出した。
明日来ることになっている綺麗好きの彼女に見られたら非難されるだろう。
片付けつつ、その時の反応思い浮かべると、散らかしたままも悪くはないような気がしてきた。
214 :名無飼育さん :2012/10/17(水) 22:20
人を待つのは嫌いだ。
だけど待ち合わせに遅れるのは嫌だからどうしても早めにきてしまう。
今も待ち合わせ時間の10分前に来てしまっている。
待っている相手はよく知っている仲だから、ちょっと遅れたくらいでも特に気にすることはない。
むしろ相手は絶対に遅刻してくる。
待っている時間は本当に嫌いだ。
余計なことを考えてしまう。
待ち合わせ場所を校門にしたのは失敗だったかもしれない。
下校する他の生徒の楽しそうな声が絶えない空間は、今の舞には居心地が悪かった。
これから伝えるのは気が重くなる内容だった。
相手がどんな顔をするのかが想像つくからだ。
それでも、伝えなければならない。
打ち明けるのには勇気がいった。
言おう言おうと思っても踏ん切りがつかなかった。
そんな舞の背中を押してくれたのは家庭教師の彼女だった。
自分にとって大切な人にこそ伝えるのは難しいけど、逃げるのは良くない、相手が大切だからこそ、自分から伝えないといけない、と。
踏ん切りがつかないで迷っている間に、他の人から伝わってしまって、相手を傷つけてしまった。
だから舞にはそうなって欲しくない、その時のことを思い出しているのか彼女は寂しそうに話してくれた。
あまり他人の意見に耳を貸さない舞だが、彼女の言葉はそのまま受け入れることができた。
そして行動に移すことにした。
コートのポケットの中に突っ込んでいた手を出して擦り合わせる。
まだ日が出ていても、寒さを感じるような季節になっていた。
「おーい舞ちゃーん」
待ち合わせ時刻から10分程経ったあたりに、ようやく現れた幼馴染は、寒さをも吹き飛ばす太陽のような笑顔で走ってきた。
自然と口元が緩む。
そしてそっと手をポケットの中に戻し、遅い、と文句を言った。
今からこの笑顔を奪うのだと思うと、苦しいような、嬉しいような気持ちになった。
自分がなかなか病んでいることに気づいたが、それを受け止め、意を決して告げた。
「高校外部受験したから。よろしく」
215 :名無飼育さん :2012/10/17(水) 22:20
end
216 :名無飼育さん :2012/10/17(水) 22:20
 
217 :名無飼育さん :2012/10/17(水) 22:28
久々に更新したら失敗して上にきてしまった…

>>168 名無飼育さん
この話では岡井さんが何かと苦労しているような気がしますが、イイヤツと言ってもらえて良かったです。
感想ありがとうございました。

>>169 名無し飼育さん
須藤さんはこのシリーズでは主人公のつもりなので、そう言っていただいて嬉しいです。
感想ありがとうございました。

>>170 名無し飼育さん
長い間お待たせしてすみませんでした。よろしかったら今回の話も読んでください。
218 :名無飼育さん :2012/12/10(月) 02:00
じーん…こんな小説が読めるなんて本当に幸せです。
続きを楽しみにしています!
219 :名無飼育さん :2013/03/13(水) 00:44
一番乗りした体育館は朝の日差しのおかげか空気が爽やかに感じられる。シューズを履いて軽くストレッチをしてからボールを弾ませる。響く音が大きくて、思わずにやける。
そのままゆっくりとゴールに近づき、膝を軽く曲げてからボールを放つ。思い描いた通りの軌道でゴールへと向かっていった。



クラッチタイム



週の始め、月曜日。
重く感じる足を引きずりながら廊下を歩く。 今日は気分が優れない。
教室に入ると挨拶もそこそこに自分の席に座って机に伏した。
眠いわけではなく、周りからの声をシャットアウトしたかった。そういう気分だった。
始業までは時間があるし、スポーツクラスなのでもともと人が少ない。教室はがらんとしていた。
目を瞑って昨日の出来を思い出す。納得できないシーンが浮かび、結局いらいらして身体を起こす。
あー、と低い声を無意識に出してしまい、机を軽く叩いた。
「荒れてるねー」
すぐ後ろから声をかけられる。
振り返らなくてもわかる。
からかうような笑みを浮かべて立っているのは徳永千奈美だった。
おそらく不機嫌な顔を向けているだろうがそんなのは全く気にしていないようだ。
「おはよー」
千奈美の余裕のある感じが、自分の余裕のなさをさらに実感させられる。
「おはよう」
目を逸らして挨拶を返した。
「まだ昨日のこと気にしてんの?」
わかっているくせに全く気にしないで触れてくる千奈美とは、こういう少し傷ついている状態で接するのはつらい。
「わかってんなら言わないでよ」
「もう終わったことだし前向きにいこうじゃん」
そう言われて肩を叩かれる。そんなこと表面上はわかっているつもりである。しかし気持ちというのはそう簡単に切り替わるものでないこともわかっている。
何があっても10秒後には切り替えられる千奈美がうらやましく思う時がある。
「あ、みやおはよー」
「おはよ」
みやこと夏焼雅が教室に入ってきたようだ。
隣の席に雅が座り、さすがに無視はできないので挨拶をし、すぐに前を向いた。
「まあ、今日は朝練行かなかったんだね」
思わず視線を雅に向ける。
「え、みや行ってきたの?」
疑問に思ったことを千奈美が代わりに聞いてくれた。
「や。ちょっと覗いてきただけ。軽く打とうかなって思ったけど結構人いたし着替えるの面倒だったからやめた」
「遠征の次の日なのにみんながんばるねー」
千奈美はほう、と顎に手を当てて感心した様子だ。
「控えの子ばっかだったけどねー」
雅は荷物を鞄から出し始めた。しかし一瞬こちらを横目で見た。
「でも熊井ちゃんは来てたよ」
なに、と問おうと口を開いた瞬間そう言われ、そのまま固まる。
千奈美はさすが熊井ちゃんだね、とのん気に言っているが、雅は含みのある視線を向けてきた。
チャイムが鳴ったので千奈美は自分の席に戻って行った。
「熊井ちゃん、まあのこと待ってたんじゃない?」
雅の視線は教室に入ってきた担任教師に向かっていたが、確実にこちら―須藤茉麻に対してその言葉は投げかけられていた。
茉麻は答えることができず下を向いたのだった。
220 :名無飼育さん :2013/03/13(水) 00:44
2階のギャラリーから体育館を覗くと、シューティングをしていた1年生たちが一斉に挨拶をしてくる。軽く手を挙げてそれに答えて、メインコートのリングを独占している背中に視線をやる。予想はしていたが、今日は相方が不在のようだった。一人で黙々とフリースローを打つ姿は頼もしく見えた。
渡り廊下を通って校舎の方へ行く。
「おはよーみや」
教室へ向かうのに階段を上っていたら後ろから声をかけられた。
「お、りーさん」
菅谷梨沙子は階段を一段飛ばしでかけてきて雅の隣に並んだ。
「朝練行かなかったんだ?」
「うん」
「寝坊?」
今度は、ううんと首を横に振った。
「目覚めはスッキリだったんだけど、のんびりしてたら遅くなったの」
たしかに今日の梨沙子は朝の割には意識がはっきりしているような感じだった。
「昨日帰りのバスで爆睡してたもんね」
よだれもたらしてたし。そう言うと、やめてよーと梨沙子は雅の肩を軽く叩いた。
「だって昨日はさ、ほとんど休みなかったし、しかも4番やるのとか中学以来だったし、まじ疲れたー」
たしかに昨日の梨沙子のプレイタイムはかなり長かった。
「疲れ、残ってない?」
「全然」
うーん、と伸びをした梨沙子の言葉に嘘はないらしく、話し方もしっかりしていた。
「じゃ、授業寝るなよー」
「みやこそ。あとでね」
教室は階が違うので途中で別れた。教室に入ると千奈美が茉麻に絡んでいた。
いつもの光景だが今日は茉麻の反応が鈍い。予想通りだったので、雅は内心溜息をつきながら自分の席へ向かった。
「あ、みやおはよー」
「おはよ」
千奈美の明るさと茉麻の暗さの見事なコントラストに内心溜息をつく。
茉麻は形だけこちらを見るとすぐに前を向いた。
「まあ、今日は朝練行かなかったんだね」
仕方ないので自分から切り出すと、茉麻が反応した。
「え、みや行ってきたの?」
返事をしたのは千奈美だった。
「や。ちょっと覗いてきただけ。軽く打とうかなって思ったけど結構人いたし着替えるの面倒だったからやめた」
「遠征の次の日なのにみんながんばるねー」
千奈美はほう、と目を見開いている。
「控えの子ばっかだったけどねー」
ほとんど入っていない鞄の中身を取り出す。
「でも熊井ちゃんは来てたよ」
横目で見てから、茉麻が欲しがっていただろう情報を教えてやる。
メインコートでシュート打っていた熊井友理奈の名前を出すと、茉麻はわかりやすく反応を示した。
さすが熊井ちゃんだね、とのん気に言っている千奈美とは対称的に、茉麻は固まっていた。
雅がシューティングをしないにも関わらずわざわざ体育館に寄ったのは茉麻がいるかどうかを確認しに行ったからだった。毎日欠かさず一緒に朝練をしているパートナーを今日は放っておいている。
きっとそうだろうなと思った。茉麻は昨日の遠征であからさまに「干された」。その分さっき会った梨沙子だったり他のメンバーに負担がかかった。
もちろん雅にも影響は出ていた。
しかしチームスポーツなので誰かの分はカバーするのが当たり前だし、そんなこと一々気にしていたらきりがない。
あそこまで出番がなかったというのはおそらく茉麻にとって初めてのことだったので、予想通り落ち込んでいた。
監督の意図というのもなんとなくわかっていたから雅はそこまで深刻に感じることはないと思っていた。と言っても雅も当事者だったらきっと同じような状態になるだろうから気持ちもわかるのだけれども。
責めるような言い方になってしまったのは少し反省すべきかもしれないが、他にどう声をかけていいかもわからなかった。全く気にしていないように見える千奈美の能天気さがうらやましかった。
チャイムが鳴り、千奈美は自分の席に戻って行った。
教室には担任教師が入ってきたので茉麻の方を見ることはできないが、聞こえるように話しかけた。
「熊井ちゃん、まあのこと待ってたんじゃない?」
それでも茉麻は答えずに、ずっと下を向いていたのだった。
これは相当重傷で、何かきっかけがないと立ち直れないような気がする。
どうしようと思い、千奈美の方を見るがあくびをしながら携帯をいじっていた。
雅の視線に気づきピースをして、すかさず担任に注意された千奈美から視線を前に戻し、一瞬でも頼ろうとしたことを反省した。
221 :名無飼育さん :2013/03/13(水) 00:45
「すーちゃん落ち込んでるかな。昨日もバスの中で全然しゃべんなかったし。どうしてるかな。心配だなー」
「落ち込んではいると思うけど、別に出来が悪かったわけじゃないんだし、監督も考えがあったからああしたわけだし、気にしてなきゃいいんだけど、無理だろね」
新チームになってから茉麻がいなくなったオプションというのは実は一度もやったことがなかった。そのためあえて外してそのシチュエーションを作る。ずっと出ずっぱりだった茉麻のリフレッシュも兼ねていたのだけれど、それは本人に伝わってないと思われる。
「焦ってるんじゃない。くまいちょーとか梨沙子の前で恥かいたって思ってるのかも」
「それはあるね」
「今週試合だから、へこんでる場合じゃないんだけどなー」
「まあの課題を挙げるとしたらメンタル面だからね。克服してくれればいいんだけどね」
そこで会話は途切れ、嗣永桃子は何も言わずに隣に座る相手を見つめた。
「なによ」
桃子の視線に気づいたのか、少し尖ったような声を出された。
「調子はどうなのさ」
「あたし?」
どうしてそんなこと聞くんだよ、というような表情をされるが、それにひるんでいてはいけない。
「ももが、見てる通りだと思うけど」
「ちゃんと佐紀ちゃんの口から聞きたいの」
それは桃子から見た見解であって本人の状態がわかるわけではない。
長い付き合いで、清水佐紀の性格はわかりきっている。はっきり言わないとはぐらかされるのだ。
「異常は感じないかな」
遠回しな言い方ではあるが、問題ないということを言っているようだ。
「ももこそどうなのよ」
「佐紀ちゃんが見てる通りだと思うけど―ちょっと、そんな顔しないでよ」
真似をしたら冷やかな目で見られた。佐紀は意外と冗談が通じない。
どうしよう、と考えていると始業のチャイムがなった。自然な流れで桃子は自分の席に戻った。
桃子としては首脳会談(のようなもの)だと思っているのだが佐紀がどう思っているかはわからない。昨日のことやこれからのことを気軽に話す、いつもの朝のやり取りだった。この流れももう3年目になる。一日が始まる。
222 :名無飼育さん :2013/03/13(水) 00:45
昼休み。いつもだったら梨沙子と一緒に食堂へ行くのだが、今日は体育館へ来ていた。今週は試合なので、わずかな時間でも無駄にしたくないと思いシューティングをしに来た。
休む時は休まないと駄目だよ、と梨沙子は言っていたが、熊井友理奈はじっとしていられなかった。
そんな友理奈の性格をわかっている梨沙子だから、それ以上は引き止めるようなことは言わずに、頑張ってと笑顔で送り出してくれた。
買ってきた昼食を食べ終えると、すぐに着替えて部室からボールを一個持ち出す。
朝と同じく誰もいない体育館に音が響くが、朝と違うのは校舎から人の気配がすることだ。友理奈はどちらの雰囲気も好きだった。
一番乗りの特権であるメインコートのリングに向かってシュートを放った。
高校に入ってポジションが一つ上になったため、以前よりも長い距離のシュート力を要求されるようになった。
距離が長くなるとより力が必要なのでフォームがブレやすくなる。
そう簡単にシュートが入るようになるわけがないのだから、シューティングを繰り返して少しずつ精度を上げていくしかない。性格上できないままにはしておきたくない。
しばらくして、自分以外のボールをつく音が響き、それで初めて人が来たことに気づいた友理奈はシュートを打つのを止めた。汗をかいていることにこの時初めて気づいた。
「まあさん」
制服姿の茉麻が立っていた。
「朝練行かなくてごめんね」
申し訳なさそうな顔で茉麻は言ってきた。
「ううん。気にしないで。それよりさ、せっかくだからいつものやろうよ」
友理奈はフリースローラインに立った。
「フリースローならスカートでも大丈夫でしょ」
茉麻は戸惑っているようだったが、友理奈の提案に笑って頷き、後ろに並んだ。
毎朝二人で行っているフリースロー対決。
一本ごとに二人して一喜一憂し、時にふざけながらやっていくのだが、一人で淡々と集中して打っていた時よりもシュートタッチが良くなっていることに友理奈は気づかなかった。
223 :名無飼育さん :2013/03/13(水) 00:46
224 :名無飼育さん :2013/03/13(水) 00:46
 
225 :名無飼育さん :2013/03/13(水) 00:57
>>219 名無飼育さん
幸せだなんて言っていただいてとても嬉しいです。
しかし学園もののシリーズはしばらくおやすみするので申し訳ないです。
感想ありがとうございました。


ということで新しい話始めました。
専門的な用語も出てきたりするのでわからなかったりしたら言ってください。
この前の学園ものとは舞台が違います。よろしくお願いします。
226 :名無し飼育さん :2013/07/31(水) 04:07
更新楽しみに待ってます。。。
227 :名無飼育さん :2013/08/19(月) 23:01
味噌ラーメン(大盛り)をトレイに載せ、窓際の特等席に座る。
いつの間にか指定席になったその一角には、既に千奈美と雅がいて定食(大盛り)を食べていた。
「お、梨沙子。またラーメンなの」
千奈美がフライを口に入れたまま言った。
「ラーメンじゃなくて味噌ラーメンだもん」
梨沙子は顔をしかめる。一緒にしないでほしい。味噌ラーメンは50円も高いのだ。
「熊井ちゃんは?」
れんげを使いながら麺を口に近付けていると、雅に聞かれた。
「シューティングだって」
答えると同時に一気に麺をすすった。口の中に広がる味に舌鼓を打つ。
「おいしー」
ラーメンは味噌に限る、と改めて思っていると、雅の苦笑いした顔が見えた。
少しだけ恥ずかしくなって、勢いよく食べるのはやめた。
半分くらい食べ進んでから友理奈の他にもう一人いない人がいることに気がついた。
「あれ、そう言えばママは?」
「教室で食べるって言ってたけど」
千奈美がパンをつまみながら答えた。(定食は既に食べ終えていた)
茉麻がいないことに気づかないなんて。お腹が空いて味噌ラーメンのことしか考えていなかった自分を反省した。
「元気なかったよね昨日」
「疲れてたんじゃない。きっとそうだよ」
疑問に思ったことを言ったら雅にあっさり流されてしまった。茉麻のことには触れるなと言いたいのだろうか。
そんな雰囲気があったのでこれ以上聞けないと思った。
「昨日あんまり出てなかったじゃん。外されたのがショックだったんじゃないの」
そう言ったのは千奈美だった。
「朝しゃべった時もあからさまに落ち込んでたからさあ、ポジティブにいこうよって言ったんだけど、まだ引きずってるし、困っちゃうよもう」
千奈美がそういうふうにはっきり言ったことに驚いた。
「それ言っちゃうかなー」
雅が呟いた。困ったような、呆れたような表情をしていた。
そんな雅を気にせずに千奈美は続ける。
「気つかって触れなかったら茉麻もっと落ち込むでしょ。だから普通にしたの」
意外と考えてるんだなと思いながら千奈美を見ていたら、それが伝わったらしく睨まれた。すぐに目を逸らす。
「ラーメン伸びるよ」
指摘されて梨沙子はあわてて残りを食べた。
228 :名無飼育さん :2013/08/19(月) 23:02
昼休みが終わる5分前、予鈴がなった。友理奈は着替えなければいけないので茉麻がボールを片付けた。
タオルで汗をふきながら大慌てで走って行った友理奈と別れて、茉麻も駆け足で教室へ向かった。
教室へ入ると同時に本鈴がなったが、まだ教師は来ていなかったようで、軽く息をついた。
「茉麻どこ行っていたの?」
席につくと同時に千奈美が近づいてきた。からかうような笑みを浮かべている。
「そうだよどこ行っていたの?」
隣にいる雅も同じような笑みを浮かべている。二人ともわかっていて聞いている。何ともたちが悪い。
こういう時は沈黙するに限る。下手なことを言うと更に突っ込んでこられるからだ。
そうしているうちに教師がやってきて、千奈美は風のように席へ戻って行った。
午前中とは全く違ってやる気がみなぎってきている自分の単純さに呆れながらも、気にしてくれていたであろう二人の悪友に、心の中でありがとうと呟いた。
いつまでも落ち込んでいられない。今週はもう試合なのだから。そう思うとじっとしていられなくなってきた。
ホームルームが終わった瞬間立ち上がり鞄を掴んだ。
廊下に飛び出すと誰かが追って来た気配がする。
「茉麻早いねー。待ってよー」
千奈美だ。振り向かずにスピードを上げた。
「体育館まで競争ね」
隣で声がしたと思ったら雅だった。
一瞬で茉麻の横をすり抜けていってしまう。
雅に気を取られた間に千奈美に追いつかれ、体を前に入れられた。
広いとは言えない廊下で抜き返すことは難しく、結局体育館に着いたのは最後になってしまった。
「ビリはジュースおごりだからねー」
そんな話聞いてないと抗議したがうまく言いくるめられ、茉麻は仕方なく練習後に二人分のジュースをおごったのだった。
229 :名無飼育さん :2013/08/19(月) 23:03
女子校の私立ベリーズ高校にスポーツクラスが新設されて、今年で3年目となる。
スポーツクラスは個人競技の生徒が多く、今のところ団体競技で唯一力を入れているのがバスケットボール部である。
日本代表で活躍し人気選手だったが、ケガのため若くして引退した保田圭を監督として招き、創部2年目でウィンターカップに出場し、新人戦で関東でベスト4進出とあっという間に強豪チームの仲間入りをした。
部員数は3年生2人、2年生3人、と昨年までは少人数だったが、大物ルーキーを含め15人の1年生が入り、かなりの注目を集めている。
週末の県大会に向け、ゲーム形式の練習に入っていた。
チーム分けはレギュラーメンバーを分散させたものだったので、いつになく白熱していた。
今度の大会は新年度になってから最初の大会となる。各チーム新戦力の1年生が加わっているので、大きな変化があることが予想される。
女子はボールのサイズが中学から一般まで同じなのでそれが関係してか、中学時代活躍していたルーキーが華々しくデビューを飾ることの多い大会となっていた。
新人戦の県チャンピオンであるベリーズ高校にとっても、油断のできない大会となる。
遠征の翌日の練習であっても、気合いの入り方はいつも以上であった。
しかし大会まで1週間を切ったというのに、スターティングメンバーは未だに固定されていない。
監督の保田にとって大きな悩みだった。贅沢な悩みでのあるのだが。
「調子、どう?」
練習後キャプテンの佐紀を教官室に呼んだ。佐紀とはチームのことをよく話し合ったりする。
話のとっかかりにそう聞いたら、佐紀は苦笑いを浮かべたので、疑問に思い尋ねた。
「朝、ももにも同じこと聞かれたんで」
あいつと同じ思考かと落ち込んだが、保田も佐紀の状態は気になっていた。
佐紀は冬の新人戦で試合中に膝を痛めていた。
その時は5人しかいなかったため無理をしてでも出るしかなかったのだが、その回復具合はいったいどうなっているのか。
外から見ている分には問題なさそうに見えるのだが、実際のところがどうなのか判断できないでいた。
一緒にプレーしている桃子もわからないでいるのだろうから、はぐらかされる可能性もあるが本人に直接聞くしかないと思っている。
「アップやケアに気をつけてるおかげか、痛みもないし、問題はないと思います」
「そう」
淡々とありのままだけ伝えるような言い方だった。
保田は頷き、言葉をそのまま受け止めることにした。
「それで、話ってなんですか?」
ここから本題にどう繋げようか考えていると、佐紀の方から聞いてきてくれた。
230 :名無飼育さん :2013/08/19(月) 23:04
今レギュラーメンバーとして考えられているのは7人。2、3年生5人と、友理奈、梨沙子の1年生2人だ。
この7人はミニバスからずっと同じチームでプレーをしてきた。そのため先輩後輩の学年の壁のような遠慮はないし、連携も取れている。
どの5人でいってもレベルが落ちることはないだろう。しかしそれぞれの持ち味というものが違い過ぎるので、メンバーが一人変わるだけでチームの色が全く別のものに変わってしまうという短所もあったりする。それぞれが代えの利かないピースであるのだ。
そこが保田を悩ませている根源といっても良い。

「失礼しました」
「はい。お疲れー」
佐紀が出て行ってから大きく伸びをした。気づかないうちに体に力が入っていたようだ。
佐紀の意見は意外なものだった。
それによって、選択肢は増えたのだが、より一層保田を悩ませた。
自分のチームをもつというのは初めてだったが、プレーをしていた方が気楽だとは思ってもみなかった。
他の指導者がうらやむような戦力が保田の手元にある。しかし同時に重かった。
嬉しい悲鳴をあげるというのは、こういうことなのかと感じる。
よし、と声を出してから立ち上がり、練習後にも関わらずボールの音が響く体育館へと向かった。
231 :名無飼育さん :2013/08/19(月) 23:05
4月の終わりから始まる連休の初日。神奈川県の県春季大会が始まった。
第一シードのベリーズ高校は、2回戦からの登場となっている。
シード校は地区予選を戦わずに県大会からの出場なので、自然と注目は集まる。
新チームはどうなっているのか、ライバル校以外からの視線も熱い。
昨年彗星のごとく現れ、県チャンピオンの座をかっさらっていったベリーズ高校に、全中チャンピオンである熊井友理奈と菅谷梨沙子が加わっているからだ。
特に友理奈は、全国の強豪校全てからスカウトを受けたと言ってもいいほど注目されていた。
本日は大会二日目。回戦が低いと高校の体育館で試合をすることが多く、シード校も例外ではない。
ウォームアップをするようなコートはないので廊下やロビー、外でおこなう必要がある。
アップをする場所を探すのに歩いていると、すれ違う人の視線が友理奈を追いかけているのは隣にいる茉麻にもわかった。
当の友理奈は不機嫌そうな表情を浮かべていた。
「緊張してるの?」
大舞台を経験してきた友理奈にとって県大会あたりのレベルは問題ないとは思うのだが、デビュー戦だから固くなっているのかもしれない。そう思って茉麻は友理奈に声をかける。
「…って聞こえる」
「え?」
ぼそりと呟かれたため聞き取れなかった。聞き返すと友理奈は一層不機嫌そうな顔を茉麻に見せ、ずんずんと進んで行ってしまった。
「『でかいって聞こえる』だってさ」
苦笑いしながら桃子が教えてくれた。茉麻はすぐにああ、と納得してしまった。
バスケにとって最大の長所とも言える身長は、友理奈にとっては最大のコンプレックスでもあった。だからか普段は猫背気味である。
しかし自分と同じくらいの身長の相手を見ると途端に姿勢が良くなることも、周知の事実だった。
身長に触れられて不機嫌になった友理奈に若干八つ当たりされたが、緊張されるよりはいいかと思い、スペースに腰を下ろしストレッチを始める。
しっかりと準備はしてきた。県大会ではなく全国を勝ち抜くための準備を。格下ばかりの今大会は、眼中になかった。
息を吐き出しながら体の状態を確かめ、気持ちを昂らせていく。
全員のストレッチが終わったあたりに、佐紀がメンバー全員を集め円陣を組んだ。
「一戦一戦目の前の相手に集中していきましょう」
佐紀は全員を見渡してから、それだけ言って、ウォームアップの指示を出した。
茉麻はドキリとしながら、自分の安易さを反省して、気持ちを引き締めた。
隣に並んだ千奈美が固まった笑みを浮かべているのを見て、同じことを考えていたのだろうと悟った。
千奈美は茉麻の視線に気づくといたずらっぽく笑って、掛け声を出した。
つられるように茉麻も口元を一瞬緩め、その声に続いた。
(大声を出してはいけなかったので二人とも仲良く怒られた)
232 :名無飼育さん :2013/08/19(月) 23:05
233 :名無飼育さん :2013/08/19(月) 23:05
234 :名無飼育さん :2013/08/19(月) 23:08

>>226 名無し飼育さん

長らくお待たせいたしました。
久々に更新しましたので良かったら読んでください。
235 :名無飼育さん :2013/09/19(木) 23:56
試合開始1分半前のブザーが鳴り、シューティングをやめてベンチ入りしている全員が保田の前に集合する。
スターティングメンバーは上に着ていたTシャツを脱ぎユニフォーム姿になる。
初戦のスターティングメンバーは1番から順に、桃子、雅、梨沙子、友理奈、茉麻の5人だ。これは前日の練習で発表されていた。
「ディフェンスもオフェンスも積極的に。最初から全力でいくよ」
保田の言葉に全員が返事をする。
その後は選手だけで円陣を組み、キャプテンの佐紀が一言話す。
いつもの気合い入れをしてから、スターティングメンバーの5人がハイタッチをかわしてベンチから出ていく。
5人はコート上に並び、対戦相手と向かい合う。
審判の笛が鳴り挨拶を交わす。
最初のジャンプボールのジャンパーである友理奈以外はセンターサークルに入らないでポジションをとる。
自分のマークを確認して相手のナンバーをそれぞれコールする。
全員の動きが止まったのを見て主審がサークル内に入り、ボールをトスアップする。
ティップオフ。
高さで勝る友理奈は後方にポジションをとっていた桃子をめがけてボールを弾く。
桃子は跳んで左手でボールを素早く引き寄せると、既に走り出していた梨沙子へパスを飛ばす。
45度、左のウイングの位置でボールを受けた梨沙子はゴールに視線をやり、すぐに中へパスを出す。
走りこんでいた雅がボールを受けるとそのままステップを切って左手でレイアップを放った。ボードを使わずリングを直接狙ったシュートは軽く音を立ててネットを揺らした。
開始5秒でベリーズ高校が先制した。
236 :名無飼育さん :2013/09/19(木) 23:57
相手チームは立ち上がりに不意をつかれていきなりの失点となった。
ベリーズ高校のディフェンスはハーフコートマンツー。
センターライン付近で待ちかまえ、マークマンを捕まえていく。
試合開始直後にも関わらず強くプレッシャーをかけていく。
マークがきつく、ショットクロックが少なくなっていき、相手選手は焦って強引にシュートを打つ。
ショートして手前のリングに当たり、シュートは落ちる。
茉麻がボックスアウトして相手を押さえ、リバウンドをとる。
ボールをもらいに来た桃子へすぐにさばく。桃子は前へドリブルを2回ついてディフェンスをかわすと前を走る雅へボールを出す。
右のウイングで受けた雅がシュートを構えると、セーフティで戻っていたディフェンスが慌てて出てくる。
それはフェイクで雅はバウンズパスを出す。
トップの位置からディフェンスを振り切った梨沙子がボールを受け右手でレイアップを打つ。
ボードを使い、シュートが決まる。
あっという間の先制攻撃二発。
どちらもディフェンスが戻りきる前に攻めていった。
立ち上がりから全力でいく。
シードチームにありがちな様子を見るようなことはしなかった。
格下の相手の調子に合わせているようでは最後まで勝てるようなチームにはならない。
新人戦で優勝したことにより、自分たちの実力を過信してしまうことを、保田は一番気にしていた。
メンバーには試合の入り方のことだけをポイントとして言っていたが、見事にそれに答えた。
相手選手は混乱した状態に陥っているのがわかる。
1年生二人をスタートから使うのは大胆な采配とも言えるが、保田も悩みに悩んで、スタートはこのメンバーでいくのがベストだと考えた。
二人は臆することなく積極的にゲームを楽しんでいるように見える。
友理奈がハイポストでボールをもらいゴールの方を向く。ディフェンスがわずかに反応したのを見てすぐドライブをする。
遅れて追いかけるディフェンスを置き去りにし、ランニングショットをねじ込んだ。
237 :名無飼育さん :2013/09/19(木) 23:58
試合はシードチームにありがちな初戦の立ち上がりの悪さはなかった。
立ち上がりを叩かれた相手チームは試合終了までペースを一度もつかむことはなかった。
大差がついたので途中から控えメンバーに交代するという余裕の試合展開だった。注目されていた友理奈と梨沙子も普段通りのプレーをし、高校の公式戦デビューを無事に終えた。
「それにしても圧勝だったね」
梨沙子がスコアを見ながら言った。
「言えてる。お父さんも…」
「え?何の話?」
茉麻と一緒にスコアを見ながら話していると千奈美がものすごい勢いで入ってきた。
アイスの量がどうのこうのと言ってきたので、二人で「違う」と否定しておいた。
確かに楽な試合だったが、千奈美は試合後とは思えないくらい元気だった。
その後は簡単にミーティングをして、一旦解散となった。
特に誰が言うわけでもなく、レギュラーメンバーの7人は学校に戻って自主練習をしていた。
それ以外の控えメンバーは会場に残ってテーブルオフィシャルをやっていてくれている。暗黙の了解でレギュラーメンバーたちは次戦に備えていた。
茉麻はフリースローを打っていた。いつものように友理奈も一緒だ。
今日の試合では茉麻はフリースローが4本中2本成功、友理奈は2本中1本成功と、二人とも半分しか入らなかった。
フリースローを打つ機会もあまりなかったのだが、それでもインサイド陣はフリースローが多くなることを予想されるので確実に決めておきたい。
確率を上げるためには練習しかない。
休憩しながらだが、開始から2時間近く経ったあたりに、反対側のリングでスリーポイントシュートを打っていた千奈美と雅と梨沙子の三人が上がるよと声をかけてきた。
どうやら控えメンバーたちが帰ってきたようだ。茉麻と友理奈も上がることにした。
おそらく彼女たちはこれから自主練を始める。
いつまでもコートを占領していてはいけない。労いの言葉をかけてから体育館を後にした。
部室に続く廊下の途中に、トレーニングルームがある。笑い声がしているので覗いてみる。
238 :名無飼育さん :2013/09/19(木) 23:58
「ほらもっとしっかり伸ばして!」
「まだキープしないと」
「あと10秒だよー」
マットの上でスタビリティトレーニングをしている佐紀と桃子がいた。
動けないのをいいことに先に出て行った三人が茶々を入れていた。
バランスをとっている桃子の腕や脚をわざと突っついたりしたせいで、桃子はものすごい形相になっていた。
タイマーが終了を告げる音を鳴らすと、三人はすぐに逃げ出した。
「こらー待てー!」
終了直後は一瞬マットに崩れ落ちた桃子だったが、すぐに起き上って追いかけた。
「もも遊ぶんだったら片付けてからにしてよー」
やれやれとした顔で佐紀も立ち上がった。
「手伝うよ佐紀ちゃん」
「わーありがとう。助かる」
周りに置いてあったバランスボールやチューブを茉麻と友理奈が一緒に片付ける。
「ずっとトレーニングしてたの?」
全てをしまい終わり、他に使っている部活もなかったので電気を消す。
「うん。やっぱり試合期でも続けていかないとねー」
佐紀は笑いながらそう言ったが、もっと高いレベルを意識していることはすぐにわかった。
まだまだ始まったばかりである。
もっと気を引き締めなければいけないと思いながら、笑い声の絶えない部室へと向かった。
239 :名無飼育さん :2013/09/19(木) 23:58
240 :名無飼育さん :2013/09/20(金) 00:01
○用語解説

・ウイング
スリーポイントライン付近の左右45度のあたり。(リングとリングを繋いで、スリーポイントラインと交わる90度のあたりをトップといい、コーナーは左右0度のあたり)

・ショットクロック
ボールを保持しているチームは24秒以内にボールをリングに当てなければならない「24秒ルール」があり、その残り時間を示している時計。0になるとブザーがなるが、時間内にシュートを放ち、ボールが空中にある間にブザーがなってシュートが成功した場合は得点として認められ、リングに当たった場合はそのまま試合続行となる。

・ポジション
梨沙子が「4番やるのとか中学以来だった」や、初戦のスターティングメンバーは1番から順に〜というのが本文に出てきますが、これはポジションの番号です。
ポジションは大まかに言うと、G(ガード)、F(フォワード)、C(センター)に分かれます。GはPG(ポイントガード)とSG(セカンドガード)、FはSF(スモールフォワード)とPF(パワーフォワード)と分類します。
ポジションを番号で呼ぶこともあり、
1番…PG
2番…SG
3番…SF
4番…PF
5番…C
となっております。
数字が小さいほどオフェンス時にゴールから離れた場所にいる時間が長く、体のサイズも小さめの選手が多いです。
チームや選手によって、呼び方が異なることもありますので、大体で考えてもらえればと思います。

他にもわからない単語がありましたら気軽にきいてください。

また、ブログの方で新しい話を始めたので、よろしかったらそちらもご覧になってください。
241 :名無飼育さん :2013/09/20(金) 00:01
242 :名無飼育さん :2014/03/02(日) 23:20
平日が間に入る連休だったため、試合日程は2日間空いた。
5月の連休初日、大会3日目。ベスト4をかけた戦いが始まった。
会場も市の大きな体育館にうつった。
ベリーズ高校は第一試合に登場する。
他会場だったために試合を生で見ることができなかったライバル校も朝一番から会場入りをして注目している。
「今日は点取りにいくよ。どんどんシュート狙ってって」
試合開始直前に保田が出した指示は今まであまりなかったものだった。
それぞれの解釈をして頷く。
全員で気合い入れしてからスターティングメンバーはコートへ出て行く。前回と一緒の5人。
ジャンプボールで友理奈は後ろにいる桃子にタップする。
相手は引いてポジションをとっていたので速攻をするのは難しかった。味方が全員フロントコートに入ったのを確認してからドリブルで入っていく。
相手のディフェンスはマンツーマンのようだ。
桃子はハイポストに入った友理奈に向かってパスフェイクを入れてから右のウイングにいる梨沙子にパスを送る。
梨沙子はアウェイミートをして一瞬で自分のマークマンを抜き去りベースライン側にドライブをし、ヘルプが来る前にシュートを決めて先制した。
ディフェンス。
ハーフコートマンツーで守る。
4番をつけた相手フォワードがウイングでボールを持つと先程梨沙子がやったのと全く同じようにドライブをしかけてきた。
梨沙子は反応が半歩遅れて追いかけていく。
しかし友理奈がヘルプに来たためそのままシュートに持ち込むことはできなかった。
4番は二人に囲まれてから、友理奈がマークしていた味方にパスを渡そうとするが、予測して寄っていた茉麻にカットされる。
茉麻は素早く開いた雅にさばいた。
雅はそのままドリブルで加速していき、自分のマークマンを振り切った。
桃子が逆側の右サイドを走っていて、2対1のアウトナンバーになっている。
ディフェンスはぎりぎりまでこちらの様子を見るつもりのようだ。
ならばと、ステップを切ってシュートへもっていこうとする。
するとディフェンスがコースに入ってきたので桃子の方へ手渡すようにボールを軽く浮かせて横へパスをする。
飛び込んできた桃子がワンステップでランニングショットを決める。
再びディフェンス。
また4番がウイングでボールを持つ。
今度は味方にスクリーンをかけさせて攻めてきた。
梨沙子はかかってしまったので茉麻とスイッチする。
相手センターについたためミスマッチができ、うまく合わせをされてシュートを決められる。
243 :名無飼育さん :2014/03/02(日) 23:21
友理奈がすぐにスローインをして桃子はフロントコートまでボールを運ぶ。
雅がコーナーでボールを受け、ハイポストからローポストに下りてきた茉麻にパスを出す。
ゴールを背負ってボールをもらった茉麻は肩でフェイクを入れてから素早くターンをし、ワンドリブルをしてゴール下へ入ってシュートを決めた。
相手チームはまたまた4番がボールを持つ。
最初にシュートを決められたのが気に障ったのか、それとも元々4番が中心のチームなのか、とにかくボールを持ちたがった。
ディフェンスは気を抜くことが多い梨沙子だがさすがにこれだけあからさまに攻めてくる相手に対しては集中力を高めていく。
また、メンバーもすぐにヘルプにいけるようにポジションをとった。
「ワンマンチームだね」
ベンチにいる千奈美は自慢の脚を投げ出していた。
「ねー。あそこまであからさまだとすがすがしいわ」
佐紀は呆れたように淡々と言った。
4番がボールをもらおうと動き出した。
「もっとディフェンスしめろー。またやってくるぞ!りさこしっかり守れーい!」
千奈美がそう叫んだので梨沙子は気を取られてマークを空けてしまったが、パスコースを読んだ桃子がスティールして速攻になり雅がシュートを決めた。
梨沙子は千奈美を睨むように見て唇を尖らせている。
「梨沙子ー集中しないと交代だよ」
千奈美が挑発するように言って、保田に頭を軽くはたかれた。
「きっと今のうちの声援で梨沙子も燃えたからやってくれるよ」
「声援だったのかよ」
佐紀は苦笑いしながら突っ込む。
「もっと膝曲げろー梨沙子ならできる!」
千奈美の言葉に梨沙子は素直に従った。
相手チームはまた4番にパスを入れようとしている。
「ディナイ!ディナイ!」
マークを厳しくしてボールをもらいにくくする。
4番はなんとかボールをもらったが、いい体勢とは言えない。
「今度はドライブ来るぞー」
右へフェイントをかけてから左にドライブをしたが、梨沙子はそれに反応する。
「いいよー守れてるよー」
ショットクロックも残り少なくなり、強引にシュートを放つが、リングに弾かれる。
それを友理奈がしっかりとリバウンドをとり、雅へ渡す。
雅はスピードを上げ、左サイドをかけていく。
逆サイドを桃子が走っている。
一人下がって待ちかまえているディフェンスを、雅の方へ引きつけてから桃子へパスをする。
ようにフェイクし、ディフェンスが桃子の方へ寄ったのを見て真ん中を走ってきた梨沙子へパスを出す。
梨沙子はそのままステップを切ってレイアップをねじ込む。
「梨沙子ナイッシュー!」
千奈美は立ち上がり手を叩いて喜ぶ。
半分は千奈美がディフェンスしたようなもんだな、と佐紀は笑う。
244 :名無飼育さん :2014/03/02(日) 23:21
4番は千奈美の「声援」を意識していた。
ゲーム中でもよく通る千奈美の武器の一つだ。
「さて、梨沙子は4番を抑えきれるかな」
保田が佐紀と千奈美に問いかける。
「余裕でしょー。梨沙子はもうやられないと思いますよ」
千奈美が自信をもって答えた。しかし。
「集中力が続けば、の話だけど」とすぐに続けるのだから保田と佐紀は笑うしかなかった。
4番はスクリーンをつかってからボールをもらった。
梨沙子は少し遅れてつくがすぐに間合いを詰める。
またしてもフェイントをかけてくるが、それには引っかからずに対応してみせた。
もう4番のリズムには慣れた。
リズムを掴んでしまえば、1対1ではほとんどの相手を守れると梨沙子は考えていた。
なぜなら普段の練習でマッチアップしている相手の方が高いレベルにあるからだ。
ドライブの鋭さやシュート力、当たりの強さに視野の広さ。
対応できる。
確信した瞬間、4番は梨沙子の相手ではなくなってしまった。
梨沙子のディフェンスがプレッシャーを増す。
ドライブをしようとしてもリングに近づけない。
ブザーが鳴る。
24秒オーバータイム。
「オッケー!」
千奈美は立ち上がって親指を上げた。
それを見て梨沙子も親指を上げた。
攻守が切り替わったところで千奈美は座って、佐紀とタッチを交わした。
チームの「起点」が機能しなくなり、相手はもう戦意を失っているように見えた。
「さて、そろそろ準備しなさい」
保田がベンチのメンバーに声をかける。
その言葉に千奈美がすぐに立ち上がるが保田は制した。
「あんたたちは後半まで出さないから、座ってなさい」
千奈美は唇を尖らせてドカッと座ると脚を伸ばした。
佐紀はそんな千奈美の肩を軽く叩いたのだった。
結局試合はベリーズが主導権を渡すことなく、100点ゲームで終了した。
「キャプテン、帰ってシューティングしよー」
試合が終わってコートを後にした瞬間、不完全燃焼を隠さない千奈美が佐紀に声をかけた。
「ミーティング終わったらね」
「保田センセー、早く終わりましょう」
大声で発言する千奈美にチームメイトたちは苦笑いするしかなかった。
佐紀と千奈美の出場時間はたったの5分だった。
それも相手の集中力が完全に切れた第4ピリオドのラスト5分。
もちろん二人の実力が足りていないわけではない。
一発勝負のトーナメント。温存できる時は温存する。
それはわかっていても、有り余っている体を持て余すのは仕方ない。
いや、千奈美の場合わかっていないかもしれないが。
いつものように、簡単にミーティングをして解散となった。
千奈美は佐紀を連れ立ってすぐに会場を後にした。
他のメンバーも、誰が言うことなく学校へ戻り、自主練習をするのだった。
245 :名無飼育さん :2014/03/02(日) 23:23
用語解説

・アウェイミート
パスが来た方向から離れるようなボールの受け方。ミートというのはボールの受け方の種類のこと。
ボールミート(ボールを迎えにいく受け方)など様々な種類があります。ミートによって次の展開を有利に進めやすくなります。

・ヘルプ
マンツーマンディフェンス(人が人をマークする守り方)をしていて自分のマークマンがボールをもっていない選手が、ボールマンについている味方が抜かれるなどした場合にボールマンを止めにいくこと。
F1ボタンのことではありません。

・アウトナンバー
オフェンスの人数がディフェンスを上回っている状況のこと。

・スクリーン
オフェンスで味方についているディフェンスを「引っかける」ようなプレーです。壁になって邪魔をすることによって味方がボールをもらいやすくなります。
ただし動いたり押したりするとファールをとられます。
246 :名無飼育さん :2015/01/15(木) 20:43
準決勝の前に男女の順位決定戦が行われるため、千奈美はそれをぼんやりと眺めていた。
「ちい」
声をかけられたのでそちらを振り返る。
見知った顔があった。

「まいみー」
「おはよ」
自然と笑顔になり、声も高くなった。

「元気してた?」
「うん。ちいは?」
「いい感じ」

そういえばさ、と会話を続けようとしたが、申し訳なさそうに手を合わせられた。
「ごめん。もう行かないといけないんだ。試合頑張って」
「あ、うん。こっちも集合あるし。またあとでね」
突風のように去っていった。

話し足りないのはお互い様だが遊びに来ているのではない。試合がある。
「千奈美、そろそろ行くよ」
桃子が呼びに来た。
「はいはーい」

「宣戦布告でもされた?」
桃子が少しからかうように聞いてくる。
「せんせん、なに?」
「…なんでもない」
桃子は諦めたような笑みを浮かべたのであった。
247 :名無飼育さん :2015/01/15(木) 20:45
集合場所へ行くとテーピングを巻いたりストレッチしたりと、それぞれ準備を始めていた。
その向こう側の集団の中に、先ほどまで話していた相手の姿が見えた。
アップ会場が一緒なので当然なのだが。

千奈美に気が付くと、相手は小さく手を振ってきたので振り返す。
「デレデレしちゃってー」
それを見た梨沙子がにやにやと笑っていた。
「決勝で当たるんだからさ、気持ち引き締めてくださいねー」
隣でシューズの紐を締めながら、雅が悪戯っぽく言った。

「え、そうなの?」
千奈美はうんうんと頷いていたが、雅の言葉の意味を改めて考えて目を開く。
「知らなかったんかい」
思わず桃子が突っ込みを入れた。
やれやれ、と雅と梨沙子が呆れる。

「さすがちいだね」
「だね」
茉麻は手を叩いて笑っている。
佐紀は口元に微笑みを浮かべながらストレッチを入念におこなっていた。

「なんかやる気が出てきたー!」
意気込む千奈美をよそにメンバーは各々準備をしていく。
「早く紐結んで。アップ始めるよ」
佐紀に急かされ千奈美は慌てて紐を締めた。
そんな姿を見て、友理奈が笑う。

「ちい、舞美と決勝で当たるの気づかなかったんだ」
「え、今?」
目を点にするメンバーと対照的に、ちいは相変わらずだなあと微笑む友理奈であった。
248 :名無飼育さん :2015/01/15(木) 20:47
試合開始1分半前のブザーが鳴り、ベンチ前に集合する。
「今日もガンガンいくよ!」
いつものように保田が一言声をかけ、その後はメンバーだけで気合い入れをする。

「全員で声かけあって、気持ちでは負けないように、集中していきましょう」
キャプテンの言葉に頷くメンバー。
それぞれの気持ちを込めて声を出した。

スターティングメンバーがコートへ出ていく。
隣のコートも同時に試合を始まるようである。
嫌でも意識する。
しかし今その気持ちを向けるべきは目の前の相手である。

「お願いします!」
試合開始の笛が鳴った瞬間、隣のコートのことは完全に消える。
勝負の時間が始まった。



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