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空気を読まずに、れなえり・まこあい・ごまこん2

1 :石川県民 :2010/05/12(水) 00:25

 なんかスレッドが大きすぎたみたいです。
新設しました。レス2から、1の続きになります。
 それではどーぞ。
411 :かけがえのない貴女へ〜第1話〜 :2016/03/26(土) 09:51
「だから将来海外に行くために英語は頑張っているんです」
「そうだね。中間テストでも英語の成績は良かったものね」
先生のことばに、あ……と思って首を縮める。
「……だからって数学を疎かにしていいとは思っていない、です、よ?」
うちの態度を見て、先生は肩をすくめて、
「別にそんなことで怒ったりしないから。ね?」
優しい声で言ってくれた。
安心して、ほ、と息を出す。と。
「でも……」
先生は暗い声を出す。
「正直な話、今度は期末テストが不安なのよね……」
あう。
「先生ぇー、中間テストが終わったばかりなのに、期末テストの話をするんですかぁ」
情けない声を出すと、先生は真剣な表情になって、
「でも期末テストも赤点だと、また放課後の強制補習だよ? 今回は追試はクリアできたけれど、次回もそうとも限らないじゃない。そうしたら最悪部活停止……」
「それはやだぁっ!」
椅子に座って、足をジタバタさせる。
「それに期末テストも赤点だと、私も職員会議で怒られるの。――――つまり鞘師さんにも私にも良いこと無し。……お互い困るよね」
「……困りますね」
…………。
しばらく二人、無言になって。
「鞘師さんは放課後の部活には参加したいのよね?」
「はい。なるべく……というより絶対に」
「――――それなら、お昼休みの勉強会を続行ね。異論はある?」
「無いです。よろしくお願いします」
ぺこり、頭を下げる。
「鞘師さんは本当に素直ね」
下げた頭を、フワリ優しく撫でられる。
撫でる手の平の感触が気持ち良くて、自然と目を細めてしまう。――――もっと撫でられたい、と思ってしまう。
それでも手の平は頭から離れてしまって。
少しだけ寂しい気持ちになって頭を上げると、先生は自分の腕時計を見て、
「追試のテストも返却したし、今後の数学対策も決まったし……ちょっと遅れたけれど、まだ部活に参加できるんじゃないの?」
その言葉にガタン、音を立てて椅子から立ち上がる。
「それなら部活やって来ます! 先生っ、本当に色々とありがとうございます!」
一礼してから慌てて数学準備室を出る。
ドアを閉める前に、先生が、
「また明日ね」
笑顔で手を振ってくれた。

なんだか。
それだけで。
今日の部活では軽やかなステップが踏めそうだった。
412 :かけがえのない貴女へ〜第1話〜 :2016/03/26(土) 09:52
と・いうわけで。
今日も変わらず、昼休みになると数学準備室に行って昼食兼勉強会を行っている。
「えっと……yが3乗で……うん、解けました!」
プリントを渡すと、先生は真剣な表情で見つめてから……にっこり笑った。
「途中の計算式も合ってるね、ばっちり正解」
そう言って笑顔のまま、うちの頭を撫でる。

他の教師にされたら「子ども扱いしないでください」って怒るんだろうけれど、先生にされると手の平の感触が気持ち良くて、素直に嬉しいって思える。

「いひひ」
目を細めて笑う。ちらり、先生の表情を盗み見ると、とても優しい笑顔をしていて。きっとこれが、先生の素の笑顔なんだろうなぁ、とぼんやり考えた。
先生は授業中も基本笑顔なんだけれど、なんか……少し作り笑顔っぽくて。上手く言えないけれど、生徒とは一線を引いているっていうか。
だから、先生の素の表情が見れる昼休みの勉強会は、けっこう楽しい。

たとえどんな理由であれ、勉強を楽しいって思えるのは良いことだよね、うん。
413 :かけがえのない貴女へ〜第1話〜 :2016/03/26(土) 09:53
昼休みは生徒の昼ご飯の時間だから、当然先生にとっても昼ご飯の時間なわけで。
うちが食べている間は、先生も昼ご飯を食べる。うちがお弁当の時もあればコンビニのおにぎり、購買のパンだったりするのに、先生は毎日家から持参しているらしきお弁当だった。
ある日、
「先生のお弁当は自分で作っているんですか?」
何気なく尋ねてみた。
「ええ。自炊が一番安上がりだしね」
呆気なく答えられる。
先生のお弁当の中をじーっと見る。その視線に気付いたのか、不思議そうに顔を上げる先生。
「なに?」
「いえ、先生の唐揚げが美味しそうだなー、と思って」
素直に答えると、クスリと笑われ、
「交換ならあげるわよ?」
悪戯っぽく言われる。
自分のお弁当を見て、唐揚げと同レベルのおかずってどれかな、と少しだけ考えて。
「じゃあ、これと交換してください」
綺麗に形が整えれられている、冷凍食品のミニハンバーグを指す。
「……じゃあ、遠慮なく」
ピンク色のお箸でヒョイ、とミニハンバーグが取られる。
先生はミニハンバーグを自分のお弁当箱のフタの上に置いて、
「はい。鞘師さんも取っていいよ」
お弁当箱を差し出される。
迷うことなく唐揚げを赤色の箸で取って、そのまま自分の口に放り入れた。
噛みしめるたびに溢れる肉汁とショウガとニンニクの味が、とてもマッチしていて。
「美味しいです!」
口の中にまだ残っているのに、思わず声を上げる。
先生は嬉しそうに、
「油で揚げずに電子レンジを使ったからヘルシーだよ? ニンニクの量も控えめにしたしね」
その答えに、ゴクン、と飲み込んでしまった。
「え、手作り!?」
驚きの声を出したうちに、
「そうだけど?」
先生は当然のように答える。むしろ、うちが何故驚いているのかが分からないみたいで。
手作り唐揚げと冷凍ハンバーグ……なんだか申し訳なくなる。
そう思っていると、先生は再び自分のお弁当箱を、うちに差し出した。
「唐揚げとハンバーグじゃあ、なんだかフェアじゃないしね。赤ウインナーも食べていいよ」
そんな……って遠慮しようかと思ったけれど、先生のお弁当の魅力には勝てなくて。
おずおずと箸で赤ウインナーを取る。
赤ウインナーは、ただ切れ目を入れたものじゃなくて、タコさんの形をしていた。
「……可愛い」
思わず呟く。
「そう言ってもらえるなら赤ウインナーも本望じゃないのかな」
笑顔の先生。

いえ、タコさんウインナーも可愛いんですけれど、ウインナーをタコさんにする先生が可愛いんです。

――――そんなこと、当然言えなくて。
ほんのり熱くなった顔で、タコさんウインナーを、今度は大切に噛み締めた。
414 :かけがえのない貴女へ〜第1話〜 :2016/03/26(土) 09:54
そんな穏やかな日が続き。

身に纏う制服も夏服に変わり、そろそろ期末テストが近づいてくる時期。
家に帰り、自室のベッドに制服のまま寝転がる。抱き枕を引き寄せ、力のいっぱい抱き締めた。
――――その頃には自分の中に咲いている気持ちを自覚していた。

先生が、好き。
先生のこと、すっごい好き。
尊敬とかの意味じゃなくて……それは確かな恋で。

昼休みの昼食兼勉強会は、昨日、
「そろそろ期末テストの問題を作らないといけないの。だから勉強会は今日でお終いね」
と言われて、すごく落胆した。
うちが未練がましく、ぐずぐず数学準備室に残っていると、先生はいつもと変わらない笑顔で、
「今度こそ、脱・赤点を目指してね」
そう応援してくれた。

自分自身のためにも、先生の応援のためにも、先生が職員会議で怒られないためにも、今度のテストは頑張らないといけない。

抱き枕を抱き締めながら目を閉じる。
それから、ゆっくり目を開ける。
――――決めた。
期末テストで赤点じゃなかったら……先生に告白しよう。全身全霊で、想いをぶつけるんだ。

そうと決まったら、早速勉強!
がばり、体を起こして、散らかっている勉強机の前で、教科書とノートを広げる。

庭の木に止まっているセミが、うちを鼓舞するかのように、激しく鳴いていた。
415 :かけがえのない貴女へ〜第1話〜 :2016/03/26(土) 09:55
そしてテスト期間。
中間テストのときとは違う勢いで、どの教科の答案用紙にもシャーペンを滑らせていく。
最後の試験日、最後の教科の終了を知らせるチャイムが鳴った途端に、うちは脱力して机に突っ伏した。
取り敢えず、やれることはやったんだ。
あとは結果を待つだけ。
祈るような思いで、はあ、と大きく息を吐いた。

後日、授業の始めに返される答案用紙。受け取ったクラスメイトたちが、「よしっ!」とガッツポーズをしたり「ぎゃー!」と悲鳴を上げたりして、とても騒がしい。
運命の、数学。
名前を呼ばれて答案用紙を受け取る。渡す瞬間の先生は……微笑んでいた。
席に戻る途中、恐る恐る答案用紙を見る。
うちは。
「……ひゃほーい!」
大きく飛び上がった。
416 :かけがえのない貴女へ〜第1話〜 :2016/03/26(土) 09:56
放課後。
自分にとって大切な部活を休んで、廊下をばたばたと走る。向かう先は、もちろん数学準備室。
ドアの前で足を止め、ゴンゴンとノックする。
中で「はい」と声が聞こえたのを確認してから勢いよくドアを開けた。
「先生っ!」
叫んで転がるように中に入る。
数学準備室には先生が一人、席にいて。
うちは意気揚々と握り締めてクシャクシャになった答案用紙を、先生に見えるように広げた。
「数学の点数! ろくじゅーさん点っ! 自分でも驚いてます!」
先生はクスクス笑って、
「知ってるわよ、私が採点したんだから。平均点より少し下だけれど……。それでも、よく頑張ったわね」
大股で歩いて、先生に近付くと、ご褒美のように優しく頭を撫でられる。
それが気持ち良くて、嬉しくて。ずっとされていたいな、とか思ってしまう。
それでも、自分がここに来た目的は忘れていない。
先生の手が頭から離れ、うちは大きく唾を飲み込む。
「……先生。うち、伝えたいことがあって来たんです」
真剣な表情で先生と目線を合わせると、先生の表情も真剣になる。
「伝えたいことって……なに?」
室内はクーラーが効いているのに、全身が暑い。それはきっと、身体の中から発せられる熱のせいなんだろう。
すう、と息を吸って。

「先生のことが、好きです」

真剣な表情、視線を合わせたまま、想いを伝えた。
「好きです……大好きなんです」
言葉を続けると、――――先生は顔を曇らせ、視線を外した。
「そう……ありがとう」

――――え?
それだけ……ですか……?
417 :かけがえのない貴女へ〜第1話〜 :2016/03/26(土) 09:57
軽く狼狽えながらも、先生を見る。先生はこっちを見ない。
「先生……? うち、冗談じゃなくて本気ですよ?」
「……そう」
「うちの言う、好き、の意味、分かってます?」
「……分かるわよ。だから……困っているのよ」
弱々しいその声を聞いた瞬間。心の中でなにかが弾けた。
「それなら! ちゃんとうちを見てください! 『ありがとう』って言ってくれたのに『困っている』って……! 言葉を濁さないでくださいっ、しっかりした答えをください!!」

両腕で肩を掴んで、こっちを向かせる。それでも先生は床を見ている。
「先生っ!」

無理矢理顔を近付ける。
唇同士が触れる瞬間、――――。
「やめてっ!」
強い力で引き離された。

呆然としたうちを押し返した先生は、肩で息をしながら視線を合わせないまま、
「…………これだから子どもは……」
と呟いた。

うちは混乱した頭でアホのように突っ立っている。
先生の呟いた言葉の意味が分からない、――――。

「お願い……私の立場も考えて……」
弱々しい先生の声。あくまでも視線を合わせてくれない。
先生の、立場……?
動かない脳を無理矢理回転させる。

うちが先生を好きになった。
そして告白した。
もし先生が受け入れてくれてたら……?

その先を想像して……一番最悪な、考えたくない考えに辿り着いた。
先生と恋人になって、――――それがバレたとき。
たとえ告白してきたのが生徒であっても、周りは受け入れてしまった、大人である先生を悪人に仕立て上げるだろう。
生徒に手を出した、わいせつ教師。
未成年淫行。
そして……懲戒免職。

ゆっくり視線を動かし、うちの顔を見てくれた先生は、うちの表情で察したのだろう。
「……そういうことなの。だから……貴女の気持ちは受け入れられない……」
それだけ言って。先生は立ち上がり、足早に数学準備室から出て行った。
ピシャリと閉じられるドアの音が、遠く感じる。

うちは……好きになってはいけない人に恋をしてしまったんだ……。

絶望が全身を包み、ガクンと足の力が抜ける。糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。
うちだけが残された数学準備室に。
ヒグラシの鳴く声が虚しく響いていた……。
418 :石川県民 :2016/03/26(土) 09:58
本日はここまで。
第2話は明日うpします。
419 :石川県民 :2016/03/27(日) 11:13
第2話うpします。
420 :かけがえのない貴女へ〜第2話〜 :2016/03/27(日) 11:14

先生に告白して、フラれて。そしてすぐに夏休みになった、――――。

夏休みでも毎日のようにある部活。
ステップ・ターン・ジャンプ。
踊っている間は楽しかった。――――束の間でも、先生のことを忘れることができたから。
先生への想いを振り払うかのように、手を振り、足を動かす。
「鬼気迫るものがあるね、鞘師」
休憩中に汗を拭いていると、部長が声をかけてきた。
「一人だけのダンスだとそれはプラスだけれど、今はグループダンスの練習だから。調和を考えて」
「すみません……」
素直に頭を下げると、ポンポンと軽く叩かれた。

――――不意に。先生が優しく頭を撫でてくれていたことを思い出す。

「別に怒っているわけじゃないから。次からはそのことも考えてくれればいいだけ」
「……はい」
部長が去っていくことを気配で感じながら、頭にタオルを被せる。そのまま乱暴に顔を拭く。

……こうすれば、先生を想って溢れた涙を、周囲は汗だと思ってくれるから、――――。
421 :かけがえのない貴女へ〜第2話〜 :2016/03/27(日) 11:15

9月になり二学期が始まった。

夏休みに出ていた課題のプリントを授業の度に提出していく。
数学の時間、提出のために先生のいる教壇に近付く。
先生は、うちを見ると、その大きな瞳をわずかに揺らした。――――けれど、それだけだった。
うちも無表情を装って、プリントを提出して踵を返す。
――――先生はすぐに気付いただろう。プリントにクリップで留めた一枚のメモ帳に。

『今日の放課後、この教室で待っています』

内容はたったそれだけ。
勝算なんて無かった。
うちは。
うちは、ストレートにぶつかることしか、できないのだから、――――。
422 :かけがえのない貴女へ〜第2話〜 :2016/03/27(日) 11:16

――――9月になっても、まだヒグラシは鳴いていた。
気温も湿気も真夏と変わらない、うちだって夏服だ。
教室でたむろっていたクラスメイトも全員帰り、今、教室には頬杖をついて自分の席に座っているうち一人だけ。
全身が汗ばんでいるのは、気候のせいか緊張のせいか。――――多分両方なのだろう。
先生が律儀に来てくれるのかも分からない。
なんて勝ちの薄い賭け。
けれど。もう運命のルーレットは廻っているのだ。そして自分は全てのチップを置いてしまっている。
だから、ルーレットが止まるのを待つしかない。
待つしか……。

廊下から控えめな足音が聞こえてきた。
条件反射で向くと、先生が静かに入ってきた。……少しだけ困った表情で。
「……遅くなってごめんね」
「いえ、本当に来てくださっただけでも嬉しいですから」
先生は所在無さげに教壇の近くに立っている。授業でもないから教壇に立つのもどうか、とか考えているのだと思う。
うちはゆっくり席を立って、教室のドアに近付く。
「鞘師さん……?」
不思議そうに尋ねる先生を意に介さず、ドアを閉め、――――カシャン、内鍵をかけた。
「…………」
無言になる先生。うちは後方のドアも同じように、閉めて内鍵をかける。
それから少しだけ距離を取って先生と対峙する。
「これで教室は密室になりました。――――ですが内鍵をかけただけですので、先生は簡単に逃げることもできます」
「…………」
先生は無言のままだ。
「嫌になったらすぐに逃げてください。……追いかけたりはしませんから」
静かに首肯する先生。
423 :かけがえのない貴女へ〜第2話〜 :2016/03/27(日) 11:17
――――うちは、ゆっくりと本題に入る。
「……夏休みの間、踊っているとき以外、ずっと先生のことを……先生の言葉を考えていました」
「……そう」
「先生は仰いました。……教師という立場で一生徒の好意は受け入れられない、と」
「そうね……そう言ったわ。――――そしてその考えは今も変わらないわ」
「……今だけ、今だけで良いんです」
「なにが?」
「――――今だけ『教師と生徒』という関係を忘れてください。そのうえで、その、あの……一人の女性として答えてほしいんです……うちのことをどう思っているのかを」
「……っ」
「『生徒の一人としか思えない』という答えでも構いません。真意が知りたいんです。つまり……道重さゆみ、さんは鞘師里保のことをどう思っているのかを……」
「……貴女に相応しい人は他にいるんじゃないのかな? ……部活の先輩とか同級生とか」
「話を逸らさないでください。うちは、貴女の気持ちが知りたいんです」
きっぱり言うと、――――先生は泣くのを堪えるような表情をする。
「なんで……私なの……」
「人が人を好きになるのがおかしなことでしょうか。……先生のことは教師としても尊敬していますし好きです。でもそれ以上に……っ」
一度言葉を切る。
「……鞘師里保は貴女個人のことが、好きなんです」

切なくて、切なくて、恋しくて。涙が出そうになる。
424 :かけがえのない貴女へ〜第2話〜 :2016/03/27(日) 11:18
ぎこちなく一歩近付く。――――先生は逃げない。
一歩、また一歩と近付く。
とうとう目の前まで来てしまった。黒曜石のような大きな瞳は揺れながらも、それでもうちを写している。
震える腕を伸ばして、先生の細い腰に回す。
顔をゆっくりと近付ける。――――今度は先生は逃げなかった。

「うちのファーストキス、先生に捧げます」

先生が黒曜石の瞳を閉じる。
唇が重なる直前、うちも目を閉じた。
――――触れ合うだけの拙いキス。
それでも、うちは、人生で一番の幸せを感じた。
唇を離し、目を開けると。
先生は既に目を開けていて、――――涙を流していた。
「せ、先生っ!? ……やっぱり嫌だっだんですね……」
意気消沈して呟くと、先生は微笑んで目元を拭った。
「違うの。……嬉しくて。嬉しすぎて……」
その言葉に嘘は感じられず、安堵する。
「……ねえ、」
そっと頬に手を添えられる
「セカンドキスも……もらっていい?」
控えめな言葉に、どうしようもない多幸感を覚える。
「はい。先生となら、何度でも喜んで」
頬に添えられた手の平の感触を味わいながら答えた。
今度は先生の顔が近付いてくる。うちはゆっくり目を閉じる。
「んっ」
声が漏れ出てしまう。
それくらいに……先生からのキスは情熱的だった。
ただ唇同士が重なっているだけなのに……全身が熱を帯びる。
唇が離れ……ぽやん、と目を開ける。
先生はそんなうちを見てクスリと笑った。
「大丈夫? 顔が真っ赤だよ?」
425 :かけがえのない貴女へ〜第2話〜 :2016/03/27(日) 11:19

二人で教壇の隅に、指を絡める手繋ぎをしながら腰を下ろす。お互い、スカートが汚れる、とかどうでも良かった。

先生は、ぽつりぽつり、と話してくれた……。

「初めての数学の授業の日、覚えてる?」
「へ? ええ、まあ……」
こんな美人が教師で、すごく驚いたっけ。
「クラスの子たちが自己紹介したでしょ?」
「はい」
「貴女が席を立ったとき、内心驚いたの。うわ綺麗な子だな、って」
「は?」
あの……先生のほうが何十倍も綺麗だと思うんですけど。
「実を言うとね、軽く一目惚れに近かったの」
「そんな……」
笑顔で言われ、嬉しさと恥ずかしさで顔が熱くなる。
「それなのに中間テストで驚異の点数。悪い意味での、ね」
それを言われると、首を縮めるしかない……。
「正直、呆れちゃったよ」
「ですよね……」
「それで仕方なく始まった、お昼休みでの昼食兼勉強会だったけれど……」

嬉しそうに唐揚げを頬張る顔、プリントの問題をウンウン唸りながら解く姿、正解だったときの嬉しそうな顔、頭を撫でると無邪気な笑顔、将来の夢をキラキラと話す姿……全てが可愛くて可愛くて……。

「愛しい、と思うのに時間はかからなかったよ……」
どこか懐かしそうに語る、先生の横顔。
それから、少し顔を伏せ、寂しそうに、
「でも。自分は教師で、貴女は生徒……。自分の感情を必死で押し殺してた」

授業でも貴女ばかり見ないように、家でも貴女を思い出したりしないように、貴女を一生徒として扱うように努めていたのに。
それなのに、期末テストが終わった後の、貴女からの告白……。――――本当にすごく嬉しくて、本当にすごく困った……。
結果、私は自分の立場を突きつけて貴女を傷つけた……。
パソコンのキーボードのように、私の心に……そして貴女の心にもデリートキーがあれば良いのに、ってすごくすごく思った……。

「人の心は数学の問題のように、一つしか答えがないものじゃないこと、知っていたつもりだったんだけれど……」
それから先生はうちを見て、
「けれど、こんな強硬手段に出るなんて思わなかったなあ」
クスクスと笑った。
426 :かけがえのない貴女へ〜第2話〜 :2016/03/27(日) 11:20

先生の手が頬に添えられる。
「好き……大好きだよ」
ゆっくり顔が近付いてくるから、うちは素直に目を閉じる。
二人きりの教室で、三度目のキス。
静かに唇が離れ、目を開けると、優しく笑う先生の顔が近くにあった。
「じゃあ私たちもそろそろ帰らないとね」
指を絡ませ繋ぎ合ったまま、二人で立ち上がる。空いている手で軽くスカートをはたく。
「これからは恋人としてよろしくね。あ・でも、えこひいきはしないから」
「分かってます。そんなことを期待して、先生に告白したんじゃないんですー」
ぷくっと頬を膨らませると、先生は面白そうに、うちの頬をつついて空気を抜く。
「二人だけの秘密、だからね?」
「はい。秘密の恋人同士……ですね」

繋いだ手を離し、先生は内鍵を解錠し、うちは自分の席にあるカバンを手に取る。
427 :かけがえのない貴女へ〜第2話〜 :2016/03/27(日) 11:21

廊下に出れば、また『教師と生徒』の関係に戻る。だれが見ているかも分からないから、手を繋ぐこともできない。
先生は、生徒玄関まで見送りに来てくれた。
「先生は帰らないんですか?」
「うん。まだ少し仕事が残ってるし。寄り道しないで真っ直ぐ帰るのよ?」
その口調は既に『教師』のものだった。
「……はい」
それを少し寂しく思いながら、自分の下足箱からローファーを取り出す。
名残惜しく先生を見ると、
「鞘師さん」
名前を呼ばれた。
「はい?」
「明日からも昼休みの勉強会は続けるから、しっかり予習しておくのよ?」
そう言って悪戯っ子のように微笑しながらウインクする先生。
それが嬉しくて。
「はいっ!」
勇んで返事して、飛び跳ねるように生徒玄関を出る。
「先生ぇー、さよーならー!」
大きく手を振ると、先生も小さく振り返してくれた。

まだヒグラシは鳴き続けている。
一学期のあのときは、あんなに虚しく響いていたヒグラシの鳴き声は。
今は祝福しているかのように聞こえた。
428 :石川県民 :2016/03/27(日) 11:22
第2話終了、第3話は明日うpします。
429 :石川県民 :2016/03/28(月) 18:16
第3話うpします。
430 :かけがえのない貴女へ〜第3話〜 :2016/03/28(月) 18:19

再開された、数学準備室でお昼休みの勉強会。
「……。先生、解けました!」
意気揚々とプリントを渡す。先生は赤ペンを手にプリントをシュッ・シュッと採点していく。
先生は優しい微笑でプリントを返してくれる。それを見ると……マルだらけでペケは一個も無い。
「一学期に教えた箇所ばかりだけれど、初めての全問正解だね」
「やったー!」
プリントを掴んで万歳して喜びを表現する。先生も嬉しそうだった。
「やった♪ やった♪ すっごい嬉しいです! ――――というわけで先生、」
「なに?」
「ご褒美、――――くれませんか?」
言いながら顔を近付ける。先生も理解したらしく、微笑んで、――――。
――――自分の唇の前に指でバッテンを作った。
「ダメ。ここは学校なんだから」
「……ええー」
これ見よがしに肩を落とす。
負のオーラを纏って、うな垂れていると。
「別のご褒美ならあるよ」
そんな声が降ってきたので、顔を上げる。
はい、と、ある物を差し出されたので素直に受け取る。
それは、――――住所の書かれたメモ用紙と鍵だった。
「これって……」
学校から二駅のマンションの住所・鍵・先生の顔、の三つを順番に見る。

先生の家の……?
431 :かけがえのない貴女へ〜第3話〜 :2016/03/28(月) 18:20

うちがポカンとしていると、先生は肩をすくめて、
「それだとご褒美にならない?」
寂しそうに言うので、慌てて首を激しく横に振る。
大切にメモ用紙と鍵を両手で包み、
「あ、あのっ! 今日の部活が終わったら、早速使っていいですか!?」
興奮気味に尋ねる。
先生は微笑みながら、
「うん。いいよ」
あっさり快諾してくれた。


部活が終わり、同級生のクレープ屋への寄り道の誘いを断って、慌ただしく校舎を飛び出す。
電車を使って、スマホのマップ機能を駆使して目当ての場所に辿り着く。
そこは思ったより大きなマンションで、エレベーターで6階まで上がる。
緊張しながら一室の前に立って、鍵を差し込む。
さも当然のように、カチャリと開く。
恐る恐る中に入ると、中は暗く、先生はまだ帰ってきていなかった。

ホワイトと淡いピンクを基調とした可愛らしい室内。うちの散らかった部屋とは違い、きちんと整理されている。
呼吸をすると、先生の香りがする。どうしよう、――――すごく落ち着く。
ローテーブルがあったので、そこに突っ伏して先生を待つ。

…………。
432 :かけがえのない貴女へ〜第3話〜 :2016/03/28(月) 18:21

どうやら、うちは眠っていたらしい。気がつくと部屋の電気は点いていて、体には薄いブランケットが掛けられていた。
「……んー?」
いまいち今の状況が理解できなくて。目を擦りながら辺りをキョロキョロ見回す。
「あ、起きた?」
キッチンから聞こえた優しい声に、瞬時に覚醒する。
「もー、いくら残暑だからって、なにも掛けずに寝ると風邪引いちゃうよ?」
顔だけこっちを向けている先生は、呆れた口調だったけれど、その声音・その表情は、とても穏やかで。
うちは、なにか言おうとして、――――。
グ〜……。
……お腹の虫が先に返事した。
虫の音は先生にも聞こえたらしく、
「お腹空いてるんだね、あと少し待っててね」
愉快そうに言いながらナベの中をゆっくりと掻き回している。

うう……恥ずかしい……。
穴があったら入りたい、ってこういうときに使うんだろうな、なんて思いながら、小さく、
「……はい」
と返事した。
433 :かけがえのない貴女へ〜第3話〜 :2016/03/28(月) 18:21
先生が言った「あと少し」という言葉は本当で、5分くらいで、
「おまたせ」
という言葉と共に皿が運ばれてきた。
ランチョマットが敷かれたテーブルに、ハヤシライスとミネストローネが静かに置かれる。
どちらも良い匂いで鼻腔をくすぐる。口の中に自然と唾が溜まる。
「簡単なものでゴメンね」
本当に申し訳なさそうに先生は言うので、
「立派なご馳走ですよ! それに今日突然押しかけたこっちが悪いんですしっ」
うちは慌てて否定する。
「……そう? じゃあ冷めないうちに食べようか」
二人、テーブルに向き合って、いただきます、と手を合わせる。

お弁当のおかずで知っていたけれど、先生の手料理は絶品だった。
空腹もあったので、先生より半分の時間で食べ終えた。
先生が微笑みながら、
「美味しそうに食べてくれたから嬉しいよ」
と言うので、
「だって本当に美味しかったですから! 先生って料理も上手なんですね」
うちは素直な感想を告げる。
先生は自分のスプーンを動かしながら、
「なにか食べたい物、ある? 今度はそれを作るよ」
笑顔で尋ねてくれた。
うちは、少しだけ迷って。でも遠慮するほうが悪い気がしたので、
「じゃあ……先生のオムライスが食べたいです」
お子様のようなリクエストをする。
「オムライスだね、分かったよ」
快諾してくれた先生。
微笑んだままの先生に、おずおずと、
「あの……今度、って言ってくれましたけど……それって明日でも大丈夫ですか?」
ちょっぴり、ワガママを言ってみる。
先生は。少しだけ考える素振りをして、
「明日スーパーで材料を買ってくるから、ちょっと遅くなってもいい?」
逆に聞き返してくる。
「はい! 全然問題ないです!」
受け入れてもらったことが嬉しくて、元気に返事した。

――――その日以来。
平日は部活が終わると先生の家に直行、土日は朝からお邪魔して、おうちデートを楽しむ、というのがうちのスケジュールになった。
434 :かけがえのない貴女へ〜第3話〜 :2016/03/28(月) 18:22

うちは、おうちデートも充分に楽しいのだけれど、一度だけ言われた、
「……ごめんね、どこにも連れて行ってあげられなくて」
先生の謝罪。
うちは首を横に振って、笑顔で答える。
「いいんです。先生と一緒にいれれば。それにうち、もともと出不精だから」
「そっか。さゆみと同じだね」
先生はプライベートだと、自分のことを『さゆみ』と呼ぶ。
こういう面も見れて、すごく嬉しい。

「そーいえば先生ぇー」
「なに? 鞘師さん?」
「それ」
ぴっ、と指さすと、
「はい?」
と不思議そうな声を出される。
「プライベートのときでも、うちのこと『鞘師さん』 呼びしなくてもいいじゃないですかぁ。どうせうちらしかいないんですから『里保』って呼んでくださいよ」
そう言うと先生は難しい顔をした。
「でもさゆみの中では、鞘師さんは鞘師さん、で認識しているんだよね」
「だからぁ、それを改めてくださいってば。……恋人同士なんだし」
拗ねた口調で言うと、先生は指をアゴに添えて、
「……でも『里保』や『里保ちゃん』だと、クラスの子たちにも呼ばれているんじゃないの?」
「まあ、そうですけど」
「できれば、さゆみだけが呼ぶ言い方が良いなぁ。うーん……」
先生はしばらく考えて。
ぽんっ、と手を打った。
「りほりほ、ってのはどう?」
「りほりほ……」
それ本名より長くなっていませんか? とか思ったけれど。
「うん、りほりほ! 可愛いし決定ね」
嬉しそうな先生を見ていると、ま・いっか、という気分になった。
435 :かけがえのない貴女へ〜第3話〜 :2016/03/28(月) 18:23

ある日の平日。

「先生、暇な時間があるときでいいですから、うちが踊ってるところを見に来てくれませんか?」
先生とテーブルを隔てて晩ご飯を食べているときに、そんな提案をしてみる。
ちなみに今日の晩ご飯はチキンのトマトパスタとシーザーサラダ。
先生はパスタを絡めるフォークを動かすのを止め、
「ヒップホップ部の練習場所って、確か第一体育館のステージだよね?」
と聞いてくる。
「はい、そうですけど」
すると先生は、言いにくそうに、
「第一体育館はバレー部も使っているじゃない。そのバレー部顧問の、――――」
先生は一人の男性体育教師の名前を口にする。
「……あの先生のさゆみを見る視線が、ちょっと、っていうか、かなり苦手なんだよね」
バツが悪そうに言う先生に、バレー部顧問を思い出してみる。
……あー。ヘビのようにねちっこく、女子生徒を舐め回すように見るわ、えらくボディタッチが多くて全校生徒に嫌われている、あの教師か。
「でも、りほりほのダンスは見てみたいし、りほりほがそう言うなら、――――」
「いえ! やっぱりいいです、来なくていいです!」
うちはフォークを持ったまま、両腕で大きくバッテンを作る。
「え……」
意外そうな声を出す先生。
「あんなヤツに先生を無駄に見られるのは、――――うちが嫌です」
はっきり言うと、先生は目を丸くして、
「……それってヤキモチ?」
面白そうに聞いてくる。
「っていうよりは、もっと……子どもじみた嫉妬です。……先生を好奇の目で見る人間をなるべくシャットダウンしたい、っていうか……」
素直な感情を吐露すると、先生は手を伸ばして頭を撫でてくれた。
「ありがとう……りほりほ」
436 :かけがえのない貴女へ〜第3話〜 :2016/03/28(月) 18:24

土曜日。
うちは朝から先生の家に来ていて、今は先生のベッドに寝転がっている。
「先生。先生はなんで数学の教師になったんですか?」
何気なく思ったことを口にしてみる。
先生は数学指導書から目を離し、
「昔から数学は好きだったし、人に教えるのも得意だったからだけれど。……突然どうしたの?」
「先生ぐらい綺麗な人なら、モデルとかでもできたんじゃないのかな、と思って」
そう答えると、先生は困った顔をした。
「十代の頃は街を歩いてたら、そんなスカウトは沢山あったけど。……正直、そういうお仕事は性格的に苦手なんだよね」
「……ふーん」
そういうものかぁ、とも思ったし、もったいないなぁ、とも思った。
……ま・いっか。
先生が先生になってくれたおかげで、こうして出逢えたんだし。
「でも先生ぇ」
「なに?」
「……本なんて読んでないで、うちに構ってくれませんか?」
拗ねた口調で言うと。先生は苦笑して。
それから本に栞を挟んでベッドに近付いて来てくれた、――――。
437 :かけがえのない貴女へ〜第3話〜 :2016/03/28(月) 18:25

次の日曜日。
先生は傍に紅茶の入ったティーカップを置いて、デスクトップパソコンを操作して仕事中。
うちは先生のベッドに寝転がりながら、それを見ている。
時折窓の外を見て、あー季節はもう秋だなぁ、とか意味の無いことを考える。
先生は仕事がひと段落したのか、ほう、と息を吐いて椅子の背もたれに寄りかかって紅茶を口にした。
「ね、先生」
呼びかけると、ん? と言いたげにこっちを向いてくれる。
「先生はうちのカラダに興味無いんですか?」
んぐっ!? と先生は紅茶を吹き出しそうになるのを必死に堪えて、なんとか飲み込む。
それでもケホケホと軽く咳をしながら、
「と、突然なにを言い出すのかなぁ? キミは」
「突然じゃないですよ、ずっと思ってたんですー」
今日だって朝から来てるのに、もう夕方、据え膳食わぬは女の恥ー、と続ける。
先生は困った顔をしている。
うちはベッドから上目遣いで先生を見た。
「キスは何回もしてるけれど、それ以上のことをしてくれないのは……やっぱり不安になっちゃう、っていうか」
先生は椅子から立ち上がり、ベッドに腰掛けて、うちの髪を優しく梳いてくれる。
「不安にさせてたことは……謝るよ」
でも……、と口ごもりながら続ける。
「さゆみの中では最初から決めてたんだよね。――――そういうことは、りほりほが無事に卒業できてから、って」
「えー。じゃあ、あと二年以上もオアズケ、ってこと?」
「うん。……ごめんね」
ゆっくり手を伸ばし、先生の頬に添える。
「……うちは先生のカラダに、すっごく興味あるんですけど」
「じゃあ……今、さゆみを抱く?」
互いの視線が絡まる。
二人とも、なにも言わない。
――――先に唇を尖らせ視線を外したのは、うちのほうだった。
「……抱かない。先生のカラダは欲しいけれど、ココロも一緒じゃないと、嫌だから」
それだけ言って目を閉じる。
すると、額に柔らかくて温かくて優しい感触。――――先生の顔がすぐ近くにあることが気配で分かる。
「分かってくれて、ありがと」
耳元で囁かれて、うちは「いひひ」と小さく笑った。
438 :かけがえのない貴女へ〜第3話〜 :2016/03/28(月) 18:26

秋と冬の境目のような時期。
先生は、
「こういう季節の変わり目が風邪を引きやすいんだよ」
と言ってマグカップに入れたホットココアを渡してくれた。
うちは立ったままココアを数口啜って、
「先生。今日はパソコンを使いますか?」
ソファに座っている先生に尋ねてみる。
「使わないけれど……ネットでもしたいの?」
質問に「そうです」と頷く。
先生はソファから立ち上がり、パソコンの電源を入れる。パソコンチェアに座るように促されたので、素直に座った。
「ネットでなにか調べ物?」
「調べ物じゃなくて、買い物をしたいんです」
「へえ。なにか欲しいものがあるんだ」
「はい。――――先生とお揃いのものが欲しいんです」
うちの科白に、先生は軽く言葉を失う。
「先生と繋がっていることを、やっぱりカタチにしたいっていうか」
「……そっか。そうだよね」
話している間にパソコンは立ち上がり、早速インターネットのアイコンをクリックする。
「でも、なににするかは決めてないんですよね」
「そういうところ、りほりほらしいね」
先生が耳元でクスクス笑うので、くすぐったいやら恥ずかしいやら嬉しいやら、色んな感情がごちゃ混ぜになる。
ショッピングサイトを開いて、色々と見ていく。
お揃い、とか、ペア、とか一口で言っても、多種多様で。まるで無限のようにディスプレイに表示される。
途中で先生が、
「このマグカップは? 可愛いじゃない」
そう言ってくれるけれど。
自分が希望しているものを、もう少しちゃんと考えてみる。
「んー。できれば身につけられるものがいいです」
そう口にした途端。自分の目がキラン、と光ったことが分かった。
「恋人同士が身につけるお揃いのものと言ったら、やっぱり指輪ですね!」
うちの発言に、先生は隣でちょっと呆れた表情をしているけれど気にしない。
「うちが先生にプレゼントします! 指輪といったらやっぱりプラチナかな」
検索キーワード欄に『プラチナリング』と打ち込んで、エンターキーを押す。
ゾロゾロと色んなデザインの指輪が表示される。……が。
「げげっ!?」
うちは変な声を出して目を剥く。
「プラチナって……こんなに高いんだ……」
肩を落とすうちに、先生は苦笑する。
「高校生のお小遣いじゃ手が出せないよね」
439 :かけがえのない貴女へ〜第3話〜 :2016/03/28(月) 18:27
うー、と未練がましく唸っているうちの横から、先生の手が伸びる。
「別にプラチナじゃなくてもいいじゃない。ほら、これだったら大丈夫じゃないかな」
先生の指がキーボードの上を滑らかに動き、検索キーワード欄に『ピンキーリング』と打ち込む。
ぽかん、としているうちを意に介さず、エンターキーを押す先生の指。
表示された指輪の数々の値段を見る。……さっきのプラチナリングよりも、一つ、または二つもゼロが少ない。
「どうかな?」
うちの顔を覗き込む先生。
「はあ、まあ……でも、」
「さゆみはりほりほがプレゼントしてくれるなら、どんなものでも嬉しいよ?」
偽りなんかない微笑に、少し救われた思いがする。
表示されている数々のピンキーリングは、いかにも十代の子がつけるカジュアルなデザインばっかりで。
大人の先生にも似合うやつはないかと、ディスプレイと睨めっこする。
…………。
ようやく、「これだ」と思うものを見つけ、先生にも確認してもらう。
「うん素敵だね。でも……」
「でも?」
「学校で職員が身につけられる指輪は結婚指輪だけなの。ピアスも禁止。……まあシンプルなネックレスくらいなら大丈夫だと思うけれど」
「じゃ、じゃあネックレスチェーンも探します! チェーンに指輪を通してください!」
必死なお願いに、先生はうちの頭を撫でながら、
「分かった、そうするね」
笑顔で答えてくれた。
チェーンも選び、嬉々として注文ボタンを押そうとすると。
「言っておくけれど、生徒はどんなアクセサリーでも学校内ではダメだからね」
と、太い釘を刺された。
「えー!」
「えー、じゃないの。生徒指導の先生に没収されたらどうするの」
「……はーい」
渋々返事する。先生は慰めるように、
「さゆみの家でなら、いくらでも身につけていいから。ね?」
と囁いてくれた。
勢いよく先生を見て、
「先生! うち、将来プロのダンサーになったら、ちょー豪華な指輪をプレゼントしますから!」
息巻いて宣言すると、先生は目を細めて愛おしそうに、
「期待してるね」
そう言ってくれた。

それから数日後。
うちの家に届いた、二つのピンキーリングと一つのネックレスチェーン。
急いで先生のマンションに行って、ピンキーリングとネックレスチェーンを渡す。
二人で互いの小指にピンキーリングを嵌める。
その日は、先生と自分の指にあるピンキーリングを交互に見てはニヤついて。
先生は約束通り、学校では控えめなネックレスチェーンに指輪を通して身につけてくれていた。
細いチェーンだから、先生の首元を注視しないと気付かないけれど。
数学の授業のときに、チェーンに通してある指輪が微かに見える度、うちは頬が緩んで気持ち悪くなった顔を教科書で隠した、――――。
440 :かけがえのない貴女へ〜第3話〜 :2016/03/28(月) 18:28

季節はすっかり冬になって。
家を出るときに手袋を忘れたうちは、凍える手に、ほう、と息を吐いて、微かな暖を取りながら、スーパーの袋を片手に下げて、先生のマンションへと足を急がせていた。

先生は今日、職員会議があるから帰宅が遅くなると言っていた。
だから。いつも先生に食事を作ってもらっているんだから、恩返しの意味も込めて、今日の晩ご飯は自分が作ろうと思い立って、スーパーに食材を買いに行ったのだ。
なにを作るかは、学校にいる間に考えて決めていた。
ずばり、カレー!
小学生でも作れる料理、と言われるけれど、自他共に認めるポンコツ料理下手のうちには、立派に料理!
美味しいのを作って、先生を喜ばせるんだから!

――――マンションのキッチンに立って二時間後。
うちはしゃがみこんで頭を抱えていた。
出来上がったカレーは最悪だった。玉ネギは飴色を通り越して、あちこち黒コゲになるし、人参は皮がちゃんと剥けていないし、ジャガイモに至っては生煮え。
最悪カレーは生ゴミにして、もう一度スーパーに行って惣菜を買ってこようかな。
そんなことを考えていると。
カチャリ、閉めていたドアの鍵が解錠される音が聞こえた。
反射的に振り向くと、
「ただいまー。職員会議って毎回疲れるんだよねー」
先生が……帰ってきてしまった……。
「りほりほもお疲れ様。……って、この部屋中に漂う匂いは……カレー?」
先生がキッチンに行って、ナベを覗き込むので、慌てて追いかける。
「りほりほ。……晩ご飯を作ってくれたの?」
「わわわわわ! これは全部捨てますから見ないでください!」
先生に縋りつくと、不思議そうな表情を向けられる。
「なんで? 美味しそうなんだし、一緒に食べようよ」
先生の目はいつフシ穴になったんですか!?
そう心で叫んでも届くはずがなく、先生は早速カレー皿を二枚用意する。

……食べるしかないんだ……最悪カレーを……自業自得だけれど……先生と一緒で、ここまで食欲がないのは初めて……。

テーブルを隔てて向かい合って。一緒に手を合わせる。
「いただきます」
嬉しそうな先生の声と、
「……いただきます」
沈んだうちの声。
カレーをしばらく睨んで。意を決して、パクリ、スプーンで口に入れる。
あ。このカレー、料理じゃないや。錬金術だ。それくらいのレベルで、――――不味い。
ミネラルウォーターをぐびぐび飲んで、なんとか胃に収めることができる味のカレー。
申し訳ない気持ちいっぱいで先生を見ると、――――先生は味わうようにゆっくりと、美味しそうに食べている。
「……先生ぇ」
「うん? どうしたの、りほりほ」
「なんでこんなカレーじゃないカレーを食べられるんですかぁ?」
「――――さゆみには美味しいカレーだよ」
……先生って味覚音痴?
思っていることが表情に出ていたのだろう。先生は優しく笑いながら、
「だって、さゆみの帰りが遅くなるから、りほりほが作ってくれたんでしょ? ――――りほりほの想いが詰まった、このカレーがさゆみにとって、美味しくないわけがないじゃない」
不意に涙が滲んだ。……カレーが不味すぎるから出た涙じゃない。――――先生が優しすぎて。

この優しい人を。
ずっと大切にしたい、と思った。
一生泣かせたくない、と思った。

うちは目尻に溜まった涙を、強く擦って、自業自得の最悪カレーを掻き込んだ。
441 :石川県民 :2016/03/28(月) 18:28
第3話終了。第4話は明日うpします。
442 :石川県民 :2016/03/29(火) 12:07
第4話をうpします。
443 :かけがえのない貴女へ〜第4話〜 :2016/03/29(火) 12:08

数学の時間になったのに、先生はなかなか現れなかった。
時間にキッチリした人なのに、どうしたんだろう、そう不安に思っていると。
ガラリ、とドアが開かれる。入ってきたのは……男の先生。
クラス中が戸惑い、学級委員長が意を決して挙手する。
「あの、……道重先生はどうされたんですか? 風邪とかですか?」
途端に、言いにくそうに難しい顔をする男性教師。
「突然のことだが……道重先生は転任された」
ざわめくクラス。うちは、――――頭が真っ白になる。

「なんでですか!?」
クラスメイトの叫び声のような質問に、
「どうしてっ!」
「転任てどこに!?」
教室中が蜂の巣を突ついたように騒ぎ出す。
「静かにしろ!!」
男性教師の怒号が飛ぶ。
「道重先生の転任理由は先生たちも知らされていない! 転任先もだっ!」
吐き捨てるような大声に、教室が水を打ったように静かになる。
「……きょうは自習だ。授業時間内までに、このプリントを解いておくように」
のろのろと配られるプリント。クラスメイト全員が意気消沈していることが分かる。

男性教師と目が合う。たった一瞬だったけれど……その目はうちを睨んでいた。
その一瞬で悟る。
この教師は先生が転任した理由を知っている。
そして、その原因は……うち、だということに。
瞬間。
444 :かけがえのない貴女へ〜第4話〜 :2016/03/29(火) 12:09

「おい! 鞘師!?」
教師の声もそっちのけで、うちは廊下に飛び出していた。
他クラスの迷惑も考えず、大きな足音を立てて廊下をひた走る。
生徒玄関で、もどかしくローファーに履き替えて校舎を出た。
鈍い足を必死に動かして駅へと向かう。
コートもマフラーも身につけていないうちに、凍てつく風がグサグサ刺さるが、寒さなんか感じなかった。
駅の自動改札機に交通電子マネーを素早くタッチする。
階段を二段飛ばしで駆け上がり、今まさに発車しようとする電車に滑るように乗り込む。
電車が動き、目的の駅に着く間に息を整える。
駅に着いて、ドアが全開する前に電車を下りる。
改札口を通り、駅から出て、目的地まで、ひた走る。
目当てのマンションに到着して、エレベーターを待つ時間も惜しくて、階段で6階まで駆け上がる。
目的の部屋の前に着いたときは、真冬だというのに全身汗ばんでいた。
荒い呼吸、震える手でポケットから鍵を取り出す。
鍵穴に鍵を差し込んで回す。当然のように解錠されて。
「先生っ!」
叫んで勢いよくドアを開ける。
部屋の中は、――――。
だれ一人いないどころか、荷物も家具も、一切が無かった。
「……先生?」
呟き、中に入る。
なにも無い部屋は、まさに『空き部屋』で。――――先生の香りすら感じられない。
445 :かけがえのない貴女へ〜第4話〜 :2016/03/29(火) 12:09

部屋の真ん中で呆然と佇んでいると。
「アンタ、この部屋の住人さんの知り合いかい?」
玄関からそんな声が聞こえて、ゆっくり振り返ると、見知らぬ初老の男性が訝しげに、うちが開け放したままのドアから見ていた。
うちが答えることを躊躇していると、
「ワシはこのマンションの管理人。住人さんは突然引っ越されたよ」
素っ気ない言葉。
管理人、とやらに詰め寄る。
「あのっ! どこに引っ越したかご存知ありませんか!?」
管理人は大仰に手を振って、
「そんなこと聞かされていないよ。鍵は交換する予定だけど、合鍵を持っているんなら返してくれないかね」
「あ、はい……」
力無く鍵を渡す。
「それじゃあ部屋から出てくれないかね」
冷たい言葉に反発する気も起こらず、大人しく部屋から出る。
管理人が部屋に鍵を掛けて、そのまま去って行く。

うちは……すごすごとマンションから出て行くしかなかった……。
446 :かけがえのない貴女へ〜第4話〜 :2016/03/29(火) 12:10

それから数日後。
家にうち宛ての手紙が届いた。
差出人の名前も住所も書かれていない封筒。
だけど。
教室の黒板で、数学準備室で幾度も目にした、見慣れた文字。
自分の部屋に飛び込み、震える指で封を切った。
447 :かけがえのない貴女へ〜第4話〜 :2016/03/29(火) 12:11

鞘師里保様。
前略、突然姿を消してごめんなさい。
学校に他生徒の親御さんからクレームがあったらしいの。
一人の生徒をえこひいきしている、って。
今はそれだけでも辞令になる時代なの。
幸い、校長も教頭も主任も昔気質の方々だから、私たちが恋人だったことは欠片も思わなかったみたいだけれど。
それでも私は転任を受け入れた。
正直、貴女から逃げるためです。
貴女と過ごす時間は本当に幸せでした。
一緒にいて、どんどんどんどん貴女のことが好きになっていった。
好きで、好きで、大好きで。
頭の中が貴女でいっぱいで、仕事も疎かになりかけていた。
このままだと自分がどうなってしまうのか分からなくて。怖くなったの。
だから、貴女から逃げることにしました。
自分が卑怯なことは重々に承知しています。
貴女を傷つける行為であることも分かっているから……だからその罰も一生背負っていくつもりです。
許してほしい、なんて思いません。
それでも。
かけがえのない貴女へ。
私にキラキラの笑顔で語った将来の夢を叶えてください。
そして、
私のことは忘れて、幸せになってください。
草々
448 :かけがえのない貴女へ〜第4話〜 :2016/03/29(火) 12:12

手紙を掴む手に力が入って、グシャ、と握ってしまった。
封筒の中には、手紙以外の物も入っていた。
……ネックレスチェーンに通された、安物のピンキーリング。

「うっ……ふぅ、ふっ」
とめどめなく大粒の涙が溢れて頬を伝い、手紙にも落ちる。
全身が震える。
「……か」
掠れた声がノドから出る。
「馬鹿、馬鹿っ……馬鹿ぁ!」
手紙の差出人に対してなのか、自分自身に対してなのか。それすらも分からない罵倒の言葉を、ひたすら言い続けた……。
449 :石川県民 :2016/03/29(火) 12:12
第4話終了です。
短いにも程があるっ!
最終話は明日更新します。
450 :石川県民 :2016/03/30(水) 18:11
それでは最終話をうpします。
451 :かけがえのない貴女へ〜最終話〜 :2016/03/30(水) 18:12

私が高校を卒業して、数年経った。――――。
日本の少子化問題が騒がれてどれくらいだろう?
それでも地方にも子どもはいるわけで。
子どもがいるなら、当然学校もある。

「……それでは今年我が校に配属された先生です。お一人ずつ軽く自己紹介をお願いします」
私は一歩前に出て、職員室の一隅に集められた先生方を見回す。
「新卒採用された鞘師里保です。担当科目は数学。若輩者ですが一生懸命頑張りますので、ご指導ご鞭撻お願い致します」
頭を下げると控えめな拍手が送られる。

配属された先生、次々と自己紹介をして、すぐに全員終わる。
452 :かけがえのない貴女へ〜最終話〜 :2016/03/30(水) 18:13

「学年主任も科目は数学ですので、お二人とも数学準備室に行ってください」
教頭の言葉に主任と私は、「はい」と返事する。
主任に案内されながら、私は数学準備室に辿り着く。
私の場所らしき机には、既に教材の詰まったダンボール箱が届いていて、机の上に置いてあった。
ガムテープを剥がして箱を開け、教材や専門書を机の本棚や引き出しに整理していく。
「鞘師先生」
主任に声をかけられ、整理する手を止めて振り向く。
主任は、ご自分の机にあるノートパソコンを起動させながら尋ねてきた。
「……貴女はなぜ、教師になったのですか?」
私は微笑み、問いに答える。
「私、高校生まで数学が大の苦手だったんですよ。ですが高一のときの数学の先生が、数学落ちこぼれの私に親切丁寧、そして熱心に教えてくれて。それで数学の面白さに目覚め、昔の私のような生徒に、一人でも数学は怖くないものだと教えたくて、教師になりました」
「……それは採用面接のときに聞きました」
私は頭を軽く掻いて、
「それ以外の理由もあります。私の恩師は突然転任されまして。――――同じ道を選んだら、また恩師と再会できるかもしれない、と思ったんです。
我ながら不埒な理由だと思いますけれど」
「本当に不埒な理由ですね」
主任はそっぽを向くように、ノートパソコンに目をやる。私はバツが悪そうに苦笑する。
453 :かけがえのない貴女へ〜最終話〜 :2016/03/30(水) 18:13

私は主任を見る。主任は私を見ようとしない。
しばしの無言。
「貴女は……」
絞り出すように掠れた、主任の声。

「…………プロのダンサーが夢だったんじゃないの?」

私は一歩、足を進める。主任は動かないし、視線も合わせないままだ。
それでも構わず、語りかける。
「主任、ご存知ですか? 人って一人だとシアワセになれないんですよ」
「…………」
「一度だけ、恩師から手紙がありました。文面の最後の言葉はこうでした。……『幸せになってください』と」
少しずつ主任に近付く。主任は小刻みに震えている。
主任の横にヒザ立ちになって、そっと片手を取り、自分の頬に添えた。主任はビクリ、大きく一度だけ震える。

「好きな人と一生を添い遂げる、――――。それ以上の『幸せ』ってあると思います? 主任……いえ、先生?」

先生は今にも泣きそうな表情をしていた。
454 :かけがえのない貴女へ〜最終話〜 :2016/03/30(水) 18:14

「それにしても地方の学校とはいえ、その若さで学年主任になってるなんて。本当に才能があるんですね、先生は」
先生の口がゆっくり開く。けれどなにも言わずに、また閉じられる。
「だけど私……いえ、うちもラッキーだなあ、何年かかっても貴女を探すつもりだったのに、新卒一年目でこうして再会できるなんて」
「貴女……馬鹿じゃないの?」
「はい、馬鹿かもしれません。でも貴女に会えるためなら、宇宙一の大馬鹿者でもいいんです」
「さや……」
「――――もう昔みたいには呼んでくれないんですか?」
「……っ。…………り、ほりほっ」
「はい。それが先生……貴女だけのうちの呼び方ですから」
頬に添えてさせていた手を、ゆっくり離す。
「――――先生にお返しするものがあります」
自分の首の後ろに手を回し、着けていたネックレスチェーンを外す。――――チェーンには、安物のピンキーリングが二つあって、そのうちの一つをチェーンから取り出す。
再び先生の手を取って、静かに小指にリングを嵌めた。

それが先生の限界だったらしい。

「りほりほ……っ」
椅子から下りて、真珠のような涙を流し、うちの首に手を回して抱きついてきた。
うちも数年振りの先生の温もりが嬉しくて、涙が流れる。
「りほりほ……りほりほっ」
「先生、先生!」
455 :かけがえのない貴女へ〜最終話〜 :2016/03/30(水) 18:15

形の良い先生の頭を撫でながら、幸せに浸る。
頭を撫で、髪を梳き、先生の片方の耳を出して囁く。
「今度の休みの日に、二人で買い物に行きませんか?」
「え……?」
先生が真近でうちの顔を見る。
「ちゃんと大学に行きながら、でもバイトもしてました。そのときのお給料には、ほとんど手をつけていません。だから……指輪をプレゼントします、プラチナの薬指サイズのを」
言葉が出ない先生に続けて言う。
「ちょー豪華なやつは無理かもしれませんが……学校でも着けられる、シンプルなデザインのものを、ペアで」
先生は涙を流しながら、それでも微笑んで頷いてくれた。

「……それなら不動産屋さんにも寄らない?」
「へ?」
先生の言う意味が分からないでいると、「相変わらず鈍いね、キミは」と呆れられた。
「だから……」
「はい」
先生は顔を真っ赤にして、蚊の鳴くような声で言う。

「……二人で住める広さの物件、探そうよ……」

先生が言った意味が瞬時には理解できなかった。
でも、徐々に理解して……。
言葉にできない喜びを、先生を強く抱き締めることで表現した。
「ちょっ、……苦しいよ、りほりほ」
その言葉に慌てて抱き締める力を緩める。
456 :かけがえのない貴女へ〜最終話〜 :2016/03/30(水) 18:15

「すみません、嬉しさのあまり……」
「表現がオーバーだよ」
「……じゃあソフトな表現ならいいんですか?」
「どんな?」
「こうです」
先生の頬に手を添えて、ゆっくりと顔を近付ける。
唇同士があと数センチで触れる、――――。
「んぐ?」
先生が人差し指一本で、うちの唇を制した。
「ここは職場だよ? だからダメ」
そう言われて、仕方なく顔を離す。
「……相変わらず堅いですね、先生は」
拗ねた口調で言うと、
「りほりほが軽すぎるの。もうキミは社会人なんだよ?」
「……はーい、すみません」
457 :かけがえのない貴女へ〜最終話〜 :2016/03/30(水) 18:16

うちは自分の机の整理もせずに、先生の隣に座って、ぷらぷら、指を絡めて繋いでいる手を軽く揺らす。
窓からは穏やかな春の日差しが入り、とても気持ちが良い。
しばらくの間、お互い無言で幸せを噛み締めていた。

先生のほうを見て、ゆっくり口を開く。
「あの、先生」
「なに?」
先生もこっちを見る。
「こんなに早く先生と再会できたので、うちには新しい夢ができました」
「……恩師のような立派な教師になる、とか?」
からかい口調で言う先生。
「むー。それはもうこの道を決めたときから、ちゃんと目指しています」
「ごめんごめん。りほりほは努力家だから、そうだろうとは思ってたよ」
それで、なに? と先生の目が問いかけてくる。
うちは口をモゴモゴさせながら、少し顔を熱くして答える。
「……まだ、東京の一部の区でしか制令されていないので、地方にまで浸透するのは遠い未来かもしれませんが、」
そこで一度言葉を切る。
弱気になりそうな心を奮い立たせて、静かに、ハッキリと言う。

「二人でウエディングドレスを着て、一緒にヴァージンロードを歩くこと、です。――――」

言った直後、顔どころか耳も首もカーッと熱を帯びる。
先生もその大きな瞳を、更に大きくして。
――――それから。
うちの耳元に顔を寄せ、静かに答える。
「……その夢は早く一緒に叶えたいね」

うちらは顔を近付け。そして二人、クスクス笑い合った、――――。
458 :かけがえのない貴女へ :2016/03/30(水) 18:17

かけがえのない貴女へ fin.

459 :解説という名のスレ隠し :2016/03/30(水) 18:18

この話は休日に2時間ほどウォーキングしてたときに、原型のほとんどが出来上がりました。
自分が書く話は大体自己満足ですが、ここまで自己満足の塊のような話を書いたのは久々な気がします。
なんかスッキリしました。
それでも読んでくださった方がいらっしゃいましたら、皆々様に多大なる感謝です。

460 :石川県民 :2016/03/30(水) 18:18

さて次回はなにを書こうかなぁ。
またお会いできることを願って。

それでは。


拝。

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