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I wrap You

1 :玄米ちゃ :2009/10/30(金) 01:41

夢板の『あの樹の下で』スレ内で書いておりました
「I wrap You」の続きです。

CPはいしよし。
882 :玄米ちゃ :2010/04/14(水) 16:30

>880:名無し留学生様
 喜んで頂けたようで何よりです。
 お察しの通り『やさしい悪魔』は甘くなりません(喜)

>881:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 小ネタが大好きなもんで(笑)
 


では、本日の更新にまいります。

883 :やさしい悪魔 :2010/04/14(水) 16:31


884 :やさしい悪魔 :2010/04/14(水) 16:32


  大好きなキミの笑顔

   大好きなキミの香り

    大好きなキミの温もり


  キミを構成する全てを愛してるんだ


  それはずっと変わらない

    永遠に変わらない想い



  だけど、二人の運命は――


    今ここで


      この手で終わらせる・・・


885 :やさしい悪魔 :2010/04/14(水) 16:32


886 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:33

お家の玄関を開けた途端、
ひーちゃんは倒れ込んだ。

「ひーちゃんっ!」

「――大丈夫。
 まだ…、大丈夫だから…」

そう言って立ち上がろうとして
フラついた。

そのまま転がるように、お部屋に上がって
床に座ったまま、ベッドにもたれかかった。

大きく肩で息をしながら
ベッドに背を預け、天井を仰ぐ――

 
「…梨華。そばに、来て…」

887 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:34


――ひーちゃん…

ねぇ、一体何が起きてるの?
あなたの体に、何が――


言われた通りに、そばに行って
あなたの体を、包み込むように抱きしめた。

「…ごめんね。梨華――」

少しでも楽にしてあげたくて
グッタリしている体を引き寄せた。

「――泣か、ないで…」

ひーちゃんがわたしの手を握る。

「…頼むから、泣かないで…
 梨華には、ずっと、笑ってて、欲しい、から…」

「――ヤダ、よ…
 どうして、ひーちゃん、そんな言い方するの?」

握られた手にグッと力が入った。

888 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:35

「アタシの、最後の、願いを
 聞いて欲しい…」

「イヤよっ!最後って何?!
 最後って…、最後なんて、言わないで…」

「梨華…」

「最後なんて…
 言わないでよ…」

ひーちゃんを強く抱きしめた。


「…梨華、聞いて?」

諭すような優しい声。


「アタシ、に、たとえ、何が起きても…
 最後の瞬間まで、キミの、腕の中にいたいんだ…
 だから…このまま…
 このまま、抱きしめてて、欲しい…」

「ヤダ!ヤダよ…
 何で…、どうして…」

嗚咽に変わる――

889 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:36


「――もうすぐ、アタシは…消えるから…」

腕の中のひーちゃんが、
わたしを見上げた。


「ずっと黙っててごめん。
 アタシ、梨華に嘘ついてた…」

ひーちゃんがわたしの頬に手を伸ばす。
溢れ続ける涙を、白くて長い指が優しく拭ってくれる。

「…アタシ、ほんとは悪魔なんかじゃないんだ。
 梨華と同じ、ただの人間だ」

――ただし、ずっと先の未来のだけど…


890 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:36

ずっと先の、未来・・・?


「――どういう、こと…?」

ひーちゃんが、わたしの腕を抜け出して
再びベッドに背を預ける。

「・・・アタシはね・・・、梨華・・・
 キミを殺すために、未来から来たんだ」

――冷静に考えれば、そんなこと出来るはずないのに・・・


そう呟きながら、自嘲気味に笑うひーちゃん。


「・・・悪魔には――、なりきれなかったよ・・・」

そう言って、天井を仰いで
一筋の涙を零した。

891 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:37


「アタシと梨華はね。遥か昔から・・・
 そう。人間として生を受けた時から
 いつの時代も、同じときに生まれ合わせ、
 そして、必ず恋に落ちたんだ――」

それはまるで、定められた出来事のように。

性別なんて関係なく、いつ、どんな時も
ひと目合った瞬間に、アタシ達の魂は魅かれあって
激しい恋をしたんだ――

この時代でも、キミはもうすぐ
この時代のアタシと出会う。

アタシもまた、未来の世界で
キミと出会って、一瞬で恋に落ちたんだよ・・・


好きだ。愛してる。

言葉だけでは足りないくらい
アタシはキミを愛していた。

いつの時代も、それは変わらない
アタシの想いだった。

自らの命なんかよりずっと
アタシはキミを愛していたのに――


892 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:37


ひーちゃんが両手で顔を覆った。

「・・・アタシは、いつだって・・・
 いつの時代も、アタシは、愛するキミを――」

――この手で、殺してしまうんだ・・・


長い指の間から零れ落ちる
大粒の涙。


「ある時は銃で、ある時は刀で切りつけて・・・」

全部わざとじゃない。
キミを守ろうとしてなんだ。

キミを守るつもりが、
アタシはいつだって、キミを殺めてしまう――

893 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:38


「グホッ!」
「ひーちゃんっ?!」

突然、咳こんだひーちゃんの背中を
慌ててさする。

「ゲホ、ゲホッ・・・」

口元を拭ったひーちゃんの白い手に
真っ赤な血がついていて――


ひーちゃん…

ボロボロと涙が溢れ出す。

「大丈夫。
 大丈夫だから…泣か、ないで…」
 
「だって…」

894 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:38

「ごめんね」

ひーちゃんがわたしを抱き寄せた。

「結局アタシは、キミを苦しめてばかりだ…」

「そんなことないっ!
 そんなことないよっ!!」

「もう、終わりにするから…」

――終わりにするって・・・?
――どういうこと、なの…?


「もう二度と、キミを苦しめることも
 殺めることもなくなる・・・」


――ひーちゃん・・・?


895 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:39


「――アタシさえ、いなくなれば・・・」

「何言ってるの?!
 いなくなるって、どういうことよ!」

勝手なこと言わないで!!

抱き寄せられたままの
ひーちゃんの胸を何度も叩く。

「こんなに好きにさせといて
 急にいなくならないでよっ!!」

――いなく、ならないでよ・・・


このまま、そばにいてよ・・・

約束したじゃない。
ずっとそばにいるって、約束したじゃない――

896 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:39

「梨華。もうすぐキミと出会うはずの、この時代のアタシは、
 どうやって、キミを殺すんだと思う?」

ひーちゃんがわたしから体を離した。
真っすぐ見つめられる…


「――医療ミスだよ」

大して難しくない手術だった。
ミスなんか犯すはずもない、キミが命を落とす可能性なんて
これっぽっちもないほど、簡単な手術のはずだったのに――

運命に導かれるように、
医者だったアタシは、この手でキミを殺した…


そしてまた、生まれ変わって、
アタシ達は出会うんだ――

それが、今ここにいるアタシだよ…


そして、このアタシもまた、この手で――


897 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:40

「だからね、梨華。アタシが存在する限り
 キミは長くは生きられないんだよ」

「構わないよ!それで構わない!!」

「梨華・・・」

「何度殺されたって
 ひーちゃんと恋が出来るなら、わたし――」


「――もう・・・、たくさんなんだ・・・」

ひーちゃん・・・

「もう、アタシが無理なんだよ・・・」


898 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:40

「この手が・・・、アタシのこの手が・・・」

グッと拳を握ったと思ったら、
そのまま床に叩きつけた。

「こんな・・・手の、ために――」

「やめてっ!!」

何度も叩きつける拳を、両手で捕まえて
自分の胸に抱え込んだ。

「――お願い、やめて・・・」

キレイな手が・・・
やさしい温もりの、あなたの手が・・・


「・・・どうして・・・、こんな――
 こんな、手の、ために・・・」

899 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:40

「――命まで、投げ出すなんて・・・」

ひーちゃんの手を胸に抱いたまま
顔をあげると、彼女はきつく唇を噛んで
涙を流していた。


「――こんな手を守るために、未来のキミは・・・」

キミは――


もう・・・

イヤなんだ。


キミのあんな姿を見続けて
生きていくのは――


「あの日もキミは、アタシの手を
 そうやって、その胸にかばってくれたんだ・・・」


900 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:41


あの日、アタシと未来のキミは、
婚姻届を出しに行く途中だった。

その日は、朝から激しい雨が降ってたよ。

アタシ達が初めて会った日のように
雨風が激しくて、一歩外に出ようものなら
たちまち濡れてしまいそうなほど、ひどい雨だった――


  やだなぁ雨。
  せっかくの記念日なのに…

  髪だってまとまらないし。
  あー、もうヤダ!

  ひーちゃんはいいよ。
  ストレートだし、サラサラだし…

キミはそんな風に言っていた。

901 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:41


  ねぇ、ひーちゃん。
  子供は何人がいい?
  女の子がいい?それとも男の子?

  そうだ!
  産むのはどっちにする?
  あーでもやっぱ、わたしが産む!

矢継ぎ早にそんな風にまくし立てて――


  わたしね、3人姉妹がいいな!
  5人家族になるよ?どう?
  楽しいよ、きっと!
  全員女で、友達みたいでさ。


  えっと。名前はね…
  ヒカ、トカ、ミカでどう?

楽しそうに話し続けるキミを眺めながら
アタシは幸せいっぱいだった。

902 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:42

アタシがいた時代はね。とってもいい時代だよ?
この時代よりも遥かに便利になって、
女同士でも結婚できるし、科学の力で子供だってできるんだ…

この時代みたいに、後ろ指さされることもないし、
ちゃんと籍を入れて、夫婦として世の中に認めてもらえるんだ。

アタシ達には、家族がなかったから。

アタシもキミも、親に捨てられた孤児だったから
自分に家族が出来ると思うと
嬉しくて仕方なかったんだ――


  ほら、いい加減
  一人でくっちゃべってないで、行くぞ。

笑いながら、そんな風に言って
思いっきり頬を膨らませた
キミの頬を指でつぶして、からかった。

903 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:43

未来の世界はね、車はもう地面を走っちゃいない。
空を走っているんだ。その代わり今道路がある場所には
緑が広がっていて、この時代より随分空気もキレイなんだ・・・

――いい時代だって思ってた・・・

だって、キミと出会えたんだ。
そして、恋に落ちたんだ。

これからずっと、生涯二人で
手を取り合って生きて行く――

そんな期待に溢れて。
これ以上ない幸せに包まれて。

アタシ達は車に乗り込んだ。

904 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:43


  『一緒に百歳まで生きようね』

車に乗り込むと、キミはそんな風に言った。


アタシ達の時代では、成人すると
自分で自分の寿命を決めるんだ。

なぜなら、死ぬことが生きることより
難しくなったから。

医学がめざましく発展して
どんな病気になっても、どんなに老いても
機械にさえ繋がっていれば、生きていける。

それも、高橋さんがつけられていた
あんなデッカイのじゃなくて、携帯出来る便利なもの。

よほどの重症じゃない限りは
いくつになっても、それなりに普通の生活を送れるんだよ・・・

905 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:44

だからね、梨華。

アタシはキミとずっと百まで
手を繋いで生きて行けるって信じて疑わなかった。

何があっても、二人で手を取り合って
乗り越えて行けるって信じてた。


それなのに――



――視界が悪かったからだよ。

――相手の貨物車が居眠り運転してたせいだ。


周りの皆は、そう言ってアタシを慰めた。

けど、そんなの
アタシには無意味だった。

なぜなら、キミは
アタシのこの手をかばったせいで
2度と目を開けることが出来なくなったんだから・・・

906 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:45


 『しっかし、すげぇ雨だな
  何も見えねえ』

 『他の日に行ければいいんだけど
  仕事休めないから、ごめんな』

そんな風に言いながら
アタシは注意深く運転してた。

いつもより、より丁寧に。
いつもより、より慎重に。


だけど、それは突然アタシの視界に現れた。
大型の貨物車が、気が付いた時には、もう目前に迫ってた。

ダメだ、ぶつかる・・・

そう思って、アタシはキミに手を伸ばした。
キミをこの胸に抱きしめようと思ったから。

けど、キミはね。

そのアタシの手を掴んで、さっきしてくれたように
アタシの手をその胸に抱え込んだんだ。

『ダメッ!』って叫んでね――


907 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:45


「おかげで、ほら無傷だよ・・・」

ひーちゃんが、わたしにその手を差し出す。

「未来のキミが守ってくれたから」

さっき床にぶつけた箇所が、赤くなっている。
いたわる様に、そっと撫でた。

「バカだよ、キミは・・・
 こんな手を守るために――」

グッと手を引かれて
抱きしめられた。

「こうしてれば、あんな目に
 合わなかったのに・・・」


908 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:46


激しい衝撃の後、ゆっくり目を開けると
アタシの手をかばったキミの体を
貨物車が運んでいた、大きな鉄の棒が貫いていたんだ――

さっきまで、幸せそうな顔をして
隣に座って笑っていたキミは、もうそこにはいなかった。

苦しそうに顔を歪めて、
体に大きな穴を開けられて・・・

地面へ向かって落ちていく車内で
アタシは必死に、キミに呼びかけた。

けれど、もう
2度と目を覚ますことはなかった。

それなのに、キミは――

アタシの手だけは、離そうとしなかったんだ。

909 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:46

病院に運ばれたキミは
大きな機械に繋がれたよ。

2度と目を開けないって
もう2度と話すことも出来ないって
分かっているのに・・・


さっき、寿命を自分で決めるって言ったよね?

  『一緒に百歳まで生きようね』

そう約束して、アタシ達は
自分の寿命を申告していた――


910 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:47


「自分で、話せるなら・・・
 寿命を変えることだって、出来るんだ・・・」

喉の奥から
声を絞り出すように、話し続けるひーちゃん・・・


「・・・それが、無理なら・・・
 親族が、すれば――」

ひーちゃんが拳を強く握った。


「――アタシ達は・・・、婚姻届を出しに行く途中だった・・・
 だから・・・」

体を震わせながら、ひーちゃんが続ける。


「家族のいないキミは、あの姿のまま
 百まで生き続けなければいけないんだ・・・」

機械に繋がれて
ただ息だけをしているキミを・・・

「誰も・・・、変わり果てた姿のままのキミを――」

大粒の涙を零したまま
わたしを見つめた。

911 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:47


「アタシの、せいだ・・・」

崩れ落ちるように、ひーちゃんが体を伏せた。


「アタシの仕事は、手品師だったんだよ。
 だから、キミはこの手をかばって・・・」

わたしの膝にすがりつくようにして
何度も何度も、謝る・・・


「――ごめん、なさい・・・
 アタシが・・・、アタシの、せいで・・・」

――ほんとに、ごめん・・・


しゃくりあげて泣く
ひーちゃんの両手を握った。

912 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:48


「――良かった、無事で・・・」

ひーちゃんがゆっくり顔をあげた。


「ほんとに、良かった・・・」

ひーちゃんの目が、驚いたように
見開かれた。


「今、同じことが起こっても
 わたしは、ひーちゃんのこの手を守るよ?」

「――梨華・・・」

キレイな手を口元まで持ち上げて
そっとキスした。

913 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:48


「あなたを守るためなら
 わたし、命なんて惜しくないもの・・・」

目の前の大きな瞳から
ポロポロと涙が零れ落ちる――


ほんとだよ?ひーちゃん。
未来のわたしね。きっと幸せだったと思う。

あなたを守れたんだもの。


「――アタシは・・・、いつだって、キミを・・・
 それなのに――」

握っていたひーちゃんの手が、
逆にわたしの手を包み込んで、ギュッと握られる。


914 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:49


「アタシは、キミを殺しに来たんだ・・・」

――運命を変えたかった。

キミを殺せば、きっと全てがうまく行く。
そう言われたから。

キミを殺せば、歴史が変わる。
そう言われたんだ。


呼吸だけを続けるキミを目の前に
ただ、ただ、自分を責め続けるアタシの元に
あいつはやって来た・・・


  『このままだと、あんた
   また彼女を殺すで?』


それからテラダは・・・
初めて梨華とデートした日に現れたあの男のことだけど
彼は、アタシとキミが人間として生を受けて以来
ずっと同じことを繰り返してきたことを教えてくれた。

915 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:50


  『そんなバカな・・・』

アタシには受け入れられなかった。
こんなに愛しているのに、このアタシが
何度もキミを殺してしまうなんて。

到底受け入れられなかったんだ。


  『なら、見に行くか?』

言われるままに、遥か昔から続く
アタシ達の運命を、この目で見てきたよ。

彼の言う通りだった。
アタシはいつだって、この手でキミを殺めてきたんだ。

この時代まで来て、もううんざりしたよ。


  『未来も見に行ってみるか?』

アタシは首を横に振った。
その先の未来まで、見に行く気にはなれなかった。
だって、同じなんだ。

いつだって、アタシはキミを――

916 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:50


  『一つだけ、方法があるんや。
   あんた達の運命を変えられる方法が』


藁にもすがる思いだった。

アタシ達の運命を変えられるなら。
キミを幸せに出来るのなら――


  『一つ前の時代の彼女を、あんたが殺してしまえばいい』

  時空を越えて、一つ前の時代の彼女を、その時代の君に殺される前に
  次の時代を生きる君が殺してしまうんや。

  そうすれば、今病院で眠り続けたままの
  君の彼女の歴史が変わる。

  君自身の歴史も変わる――

  それにな、いつもは言わば
  不可抗力で君は彼女を殺してしまうんや。

  それを、別の時代の君自身が
  故意を持って、彼女を殺したとしたら・・・?

917 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:51


「大きな、時のひずみが起きる・・・」

ひーちゃんがそうつぶやいて、
わたしの手をギュッと握った。

「幾つもの時を越えても、これだけ強く
 結びつく二人は、なかなかいないんだよ」


だから――

もしアタシが、梨華。
キミを殺したとしたら・・・


凄まじいほどの時の混乱を招くんだ。
その隙に、アタシは未来に戻って、未来のキミを連れ去って・・・

918 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:51


「二人だけの世界で生きていければって
 そう思ったんだ・・・」

太陽の光も届かない
真っ暗な世界だとしても

二度と二人に未来が訪れなかったとしても

この運命を断ち切ることが出来るなら
一度くらい『悪魔』になって、キミを殺めるくらい
なんでもない。

そう思ってたよ・・・



「――けど・・・、出来なかった・・・」

ひーちゃんの手が、わたしの頬に触れて
そのまま優しく包み込む。

919 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:52

「あの日、階段で落ちそうになったキミを
 そのまま突き飛ばしてしまえば、それで終わりだったのに――」

反対の手で、わたしの手を手繰って
指と指を絡ませると、強く握った。


「この手に触れた途端、涙が出そうになった。
 ああ・・・、キミに、触れられる・・・
 キミを、抱きしめられる・・・って・・・」

大きな瞳から
ポロポロと零れ落ちる涙。

「気付いた時には・・・、キミを、抱きしめてたよ・・・
 ・・・狂おしいほどの想いを、隠したくって
 冷たくあたったりもして・・・」

初めて出会った日のように
握った手をグッと引かれて、抱きしめられた。


920 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:53

「――時を越えても、アタシはキミに魅かれたんだ・・・」

何度も自分に言い聞かせて
何度もキミをこの手にかけようと思った。

けど、やっぱり。

出来ないんだ、アタシには・・・


キミのことを意思を持って
殺めるなんて、到底出来っこないんだ――


「グホッ!」

「ひーちゃんっ?!」

わたしから離れて、体を折り曲げて
激しく咳き込むひーちゃん。

慌ててさすった背中が
薄っすらと透き通って、チラチラと床を映し出す・・・

921 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:53

「ヤダ、よ・・・。ひーちゃん・・・
 ・・・ヤダ。消えちゃ、ヤダ、よ・・・」

激しく咳き込む背中を抱きしめた。

「・・・いなく、ならないでよ・・・
 ずっと・・・、ずっと、そばにいるって・・・、約束したじゃない・・・」

――約束、したじゃない・・・


「梨華・・・、キミの腕の中にいたい・・・」

肩で息をするひーちゃんを
横から強く抱きしめた。

「――笑って?梨華・・・」

やさしく涙を拭ってくれるけど
次から次に溢れ出して止まってくれない。

922 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:54


「――高橋、さんは、大丈夫だから・・・
 梨華のせいじゃ、ないよ」

申し訳なさそうな顔をして
ひーちゃんがわたしを窺う。

「アタシが薬を飲ませたんだ・・・」

――少し、薬の量が多すぎたみたい。

はじめて使うから、分量がよく分かんなくて・・・
ちょっと眠っててもらおうと思ったら
かなり深いとこまで誘眠しちゃったみたい。

今の医学では脳死に見えるみたいだけど、
深い眠りについているだけだから・・・

「びっくりさせて、ごめんね?」
「・・・どうして、そんなことしたの?」

「――透き通ってるとこ、見られちゃったんだ・・・」

梨華には、まだ知られたくなかったから。
なるべく不安には、させたくなかった。

923 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:54

「遊園地、楽しみたかったから・・・」

ひーちゃんの声が震えた。

「最後だって、きっと最後になるって
 分かってたから・・・」

ひーちゃんの目から
熱い涙が零れた。


「――ありがとう・・・
 楽しかった・・・」


「――ヤダ、よ・・・
 お願い、ひーちゃん。消えない、で・・・」

――ひとりに、しないでよ・・・

「わたし、何でもする。
 ひーちゃんと一緒にいられるなら
 何でもするから」

それが出来ないなら、
わたしもひーちゃんと一緒に・・・


924 :第5章 1 :2010/04/14(水) 16:55


「さすが梨華ちゃん。
 いい覚悟」

突然、背後で声がして振り向いた。


「――美貴ちゃん・・・、どうして・・・?」

一体どこから、この部屋に・・・?


「――帰ってくれ。協力はしないと
 言ったはずだ」

ひーちゃん・・・?

「相変わらず、分からず屋。
 でも、いいの。」

そう言って、美貴ちゃんは
わたしに微笑みかけた。


「美貴が梨華ちゃんとよっちゃんを
 幸せにしてあげる」

925 :やさしい悪魔 :2010/04/14(水) 16:55


926 :やさしい悪魔 :2010/04/14(水) 16:55


927 :玄米ちゃ :2010/04/14(水) 16:56

本日は以上です。
次回最終回となります。

928 :名無飼育さん :2010/04/15(木) 07:23
なんか、なんか、すごい展開になってる
ちょいちょい小ネタ挟まれても
バスタオルでは間に合わないぐらい涙が止まりません
最終回ではみんな幸せになれることを祈ってます
929 :名無飼育さん :2010/04/16(金) 09:35
今回も泣きました…

次回が最終回ってだけでで淋しいのに、
さらに悲しい事になったらどうしていいものやら…

皆幸せになりますように。
930 :玄米ちゃ :2010/04/22(木) 12:11

>928:名無飼育さん様
 バスタオルで間に合いませんでしたか・・・
 では、本日はタオルケットをご用意下さい(汗)

>929:名無飼育さん様
 毎度すみません。
 え〜、作者も幸せになることを望んでいるんですよ?
 なぜか疑問系ですけど・・・

931 :玄米ちゃ :2010/04/22(木) 12:20

さて、まだスレ自体には残りがあるんですが・・・

最終回が異様に長くなり、ここに入りきらなくなってしまいました(汗)
なんと読みの甘い・・・

ということで、夢板に『やさしい悪魔』スレをたてました。
続きはそちらにて。


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