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キュウリとメルセデス

1 :510-16 :2008/07/01(火) 09:26
ベリキュー中心ですが、いしよしがいたりと、なにやらごった煮アンリアル。

マイペースに進めさせていただくつもりです。
よろしければ、お付き合いください。
376 :ヲタメCOCORO :2009/09/07(月) 19:35
ひかるちゃんは、無事、マネージャーさんに連絡もついたようで、あとは迎えを待つだけ。
慣れというものは恐ろしいもので、時間がたつにつれて、あたしはひかるちゃんと一緒にいるという現実にあまり疑問を抱かなくなっていた。

客観的に見たらおいしいのかもしれないけど、ファン丸出しで、且つ貧乏臭さ満点のこの部屋に、憧れのアイドルといるのは、めちゃくちゃ恥ずかしいシチュエーション。
だけど、もうすぐマネージャーさんが彼女を連れ戻しに来る。
そしたら、あたしは普通の中島千聖に戻って、彼女もスーパーアイドルとして忙しい日々を送るのだろう。

イベントに行って、実感した、彼女の人気。
そりゃああれだけ魅力的なひかるちゃんだもん、ファンがたくさんいることは知っていたけど、そうじゃなくて、実際彼らの中に入ってみて初めて、「たくさん」という言葉がもつ本当の意味を実感したんだ。
377 :ヲタメCOCORO :2009/09/07(月) 19:35
「あたし、アイドルやめようかな」
「はい!?」

今なんと?

「だから、この仕事、やめようかな、って。」

「人の話ちゃんと聞きなさいよ」みたいな顔はやめてほしい。
だって、唐突すぎじゃんか。
第一、あたしは今さっき彼女の力を認識して、「よし!これからもファンでいるぞ!」と誓ったばかり。
そんなあたしの目の前で、それを否定されたら、聞き返したくなるのも当然ってもんでしょう。

ていうか、もう一度言われてもまったく理解できない。
だって、だってあんなに魅力的で、人気があって・・・・

31、
「なんで!?なんで!?もしかして、ヲタがキモすぎるから?」
「―あたり」

そ、そ、そんなああああああああ!!!

ゴーン!
とあたしの頭を除夜の鐘がクリティカルヒット。

冗談半分で聞いたのに、真顔で肯定された・・・・・。
もうこれからどうやって生きていけばいいのか・・・・・・
378 :ヲタメCOCORO :2009/09/07(月) 19:36
「ちょっと、そんなわけないでしょ!冗談だってば、じょ・う・だ・ん!」

口から魂が抜けた状態のあたしを見てひかるちゃんは焦ったのか、それともあきれたのか、大声で訂正した。

冗談きついよ・・・・・。

「冗談通じないなあ」なんて悪びれた様子もなくいう彼女。
通じるわけないんです、マジヲタですから。

「だけど、アイドルやめようかなって思ってるのは本当。」

地獄のそこから這い上がってきたあたしに、ひかるちゃんはまた除夜の鐘をプレゼントしてくれた。

そんな・・・・・・・

信じられないといわんばかりのあたしの顔をみて、ひかるちゃんは「あのねー」と口を開いた。
379 :ヲタメCOCORO :2009/09/07(月) 19:37
「知ってた?あたし上がり症なの。」
「上がり症?」

上がり症。
クラスで発言とかするときに、顔真っ赤になっちゃう子とかいるけど、あんな感じを想像すればいいのだろうか。

「だからさ、本当はアイドルとか全然向いてないんだよね、あたし。ほら、今日だって、固まっちゃってたの、みたでしょ?」

イベント終了時の、ゴタゴタのことを指しているらしい。
そりゃあ固まってたけど、それって、普通じゃないの?

「どう?上がり症のアイドルなんて、聞いたことある?笑っちゃうでしょ?人に見ても%
380 :ヲタメCOCORO :2009/09/07(月) 19:39
もらうのが仕事なのに。」
「でも、イベント、すっごく楽しかったよ?歌だって完璧だった。ダンスも、全部全部よかったよ」

だって、あたしあんなに感動したんだもん。

だけど、あたしみたいな素人の発言に、ひかるちゃんはすんなり意見をかえることもなく、続ける。

「今回は小さいイベントだったし、あれくらいできて当然でしょ?それでもあたし本番前にすっごく緊張して、逃げたくなったんだよ。トーク中も、手ずっと震えっぱなしだったし。それにさ、それなりのパフォーマンスができたところで、あたしはどうせきらりちゃんの二番煎じ。嫌な思いしてまで成功したって、いつまでもきらりちゃんの妹分ってゆう立場はかわらない。これがどんだけつらいか・・・ってわかんないよね。」

自虐を含んだひかるちゃんの笑みがあたしの胸に突き刺さる。
381 :ヲタメCOCORO :2009/09/07(月) 19:40
だけど、反論せずにはいられない。
だって、ひかるちゃん、君はあたしの、みんなの憧れの観月ひかるなんだよ!?

「ひかるちゃんのお仕事のこととか、あたしにはよくわかんない。正直、上がり症と戦いながらアイドルやるのがどれだけつらいかってことも、考えたことなかったよ。」

あたしの頭には、数時間前のイベントの光景が蘇っていた。

「でも、今日初めてのイベントだったんだけどね、すっごく楽しかった!あれだけの人を惹きつけることができるひかるちゃんを見て、感動したよ?何よりファン続けててよかった!って思った。握手してるときも、疲れてるだろうにずっとずっと笑顔で、あたしどうしようもなくひかるちゃんのこと好きだって、そう思った。あたしはひかるちゃんが誰の妹分であろうが、どんな風にデビューしたかとか、そういうことには興味ないもん。あたしにとっては観月ひかるがただ一人のアイドルで、だれも代わりなんてできない。他のみんなもそう思ってるはずだよ。」

熱く語ったあたしを見て、ひかるちゃんは少し驚いたような顔をしていた。

「ありがと。でも―みんなあたしのこと過大評価しすぎだと思う。スーパーアイドル観月ひかる、だって?あたしは作られた理想のあたしを演じなきゃいけないんだよ。みんな、テレビのなかのあたしが好きなの。でも、それって、何?あたしが上がり症だって知ったら、ステージの裏で小さくなってるの知ったら・・・。アイドルしてるときのあたしって、自分じゃないみたいな感じがする。ホントのあたしはどこにいっちゃうのかな?」
382 :ヲタメCOCORO :2009/09/07(月) 19:41
そのとき、あたしはひかるちゃんの本音のもっともっと奥にある何かを、を見たような気がした。
目の前のひかるちゃんが、急に小さく見えたのは気のせいだろうか。

「全部、じゃないかな?」
「え?」
「大勢のお客さんの前で歌ってるひかるちゃんも、ステージの裏で震えてるひかるちゃんも、こうやって悩んでるひかるちゃんも、全部ホントのひかるちゃんなんじゃないのかな?でもって、全部あたしが好きなひかるちゃんなんだと思う。」

すう、と深呼吸。
あたしは、心臓に熱い何かが流れ出ていくのを感じていた。

「だからさ、やめないで。もっとホントのひかるちゃんのこと知りたい。それにさ、せっかくデビューしたのに、やめるなんていったら『観月ひかる命!』とかって言ってるあたしみたいなバカなファンが暴動起こすよ?」

なんかカッコつけたみたいで、照れくさくて、「あははは」と笑ってみたのに、なぜかそっぽを向くスーパーアイドル観月ひかる。

しまった、失敗だったかな・・・。
383 :ヲタメCOCORO :2009/09/07(月) 19:41
「あの・・・、ひかる―」
「舞。」

思わず声をかけたあたしの言葉を、ひかるちゃんは正体不明の言葉で遮った。

「ふぇ?」
「だから、舞。あたし、萩原舞ってゆうの。『観月ひかる』は、芸名ね。これがホントのあたし。」

芸名?
全然知らなかった。

「えっと・・・ひかるちゃ―」
「もう、何度も言わせないでよ!『舞』ってゆってるでしょ?あんたが知りたいっていうから教えてあげただけ。」
「あ、ありがとう。ひか―いや、舞ちゃん。」

ついクセで芸名のほうを呼びそうになるあたしに、ひかるちゃん、もとい舞ちゃんは顔をしかめたけれど、今度は「舞ちゃん舞ちゃん」と楽しそうに呼ぶあたしに「うるさい!」とまたご立腹。
アイドルの扱いもなかなか難しいもんだ。
384 :ヲタメCOCORO :2009/09/07(月) 19:46
「千聖ー、ひかるちゃーん!お迎えの方いらっしゃったわよー!」

そっか、お迎えがきたんだ。
気づかなかったけど、観月ひかる拉致事件から、かなりの時間がたっていた。

舞ちゃんと一緒に玄関へと向かう。(狭い家なので、3秒で玄関につくんだけどね。)
店じまいがすんだ中島ベーカリーの前では、スーツをきた若いお姉さんがお母さんと話をしていた。

「私、マネージャーの清水佐紀と申します。この度はうちのひかるがご迷惑かけてすみませんでした。」
「いえいえ、そんなこちらこそこんなことになってしまって・・・・。あ、よかったらこれうちのアンパンなんですけど、事務所のみなさんでどうぞ」
「まあ、そんなお気を遣っていただかなくても・・・・」

なるほど、この人がマネージャーさんらしい。
襟足がきれいに切り揃った黒髪ショート。
いかにも仕事できそうって感じ。
385 :ヲタメCOCORO :2009/09/07(月) 19:47
「あのぅ〜、マネージャーさんでいらっしゃいますでしょうかぁ?」

げ、この声は・・・・・

マネージャーさんの手からぱっと名刺を奪う影、それは・・・・

「あたし、桃子っていいますぅ〜。この商店街ではちょっとしたアイドルなんですよぉ?」

声の主はやはり桃子。
いつもよりも1オクターブ高く、媚っぽさも半端ない。
これは獲物を狙う、いわば完全なる本気モードだ。

名前だけでなく、生年月日、趣味、身長体重スリーサイズ(ちなみに詐称されていた)からアピールポイントまで、聞かれてもいないのにご丁寧に自己紹介を始めた桃子を見て、あたしとお母さんが慌てて止めにはいる。
だから、マネージャーさん、メモとらなくていいから!
386 :ヲタメCOCORO :2009/09/07(月) 19:47
最後にちょっとしたゴタゴタはあったものの、これで無事に舞ちゃんもお仕事完了ってわけだ。
別れるのはちょっと寂しいけど、でも仕方ない。
あたしにはあたしの日常が、舞ちゃんには舞ちゃんの日常があるわけで。
今日のことは、100億年に1回の偶然によって、別世界のふたりが、たまたまめぐり合ったっていう、ただそれだけのこと。

「じゃ、またいつかどこかで」
「うん、あたしいつでも応援してるから。」
「1年後事務所でね!あ、清水さん、デビューはどーんと武道館なんてどうですか?」
「武道館はちょっと・・・・そうね、ここはさいたまスーパーアリーナなんかいいんじゃないの?」

・・・・・・・誰かつっこもうよ。


バカな姉はほうっておいて。
あたしは彼女にどうしても言っておきたいことがあった。
387 :ヲタメCOCORO :2009/09/07(月) 19:49
「ソロデビューおめでとう。」

君は、もっともっと大きくなって、今よりももっとたくさんの人に幸せを与える、そんなアイドルになる。
だけど、何年後かに、こんなファンもいたな、って思い出してほしいなんて、そんな願いもこめて。
388 :ヲタメCOCORO :2009/09/07(月) 19:49

「ありがと」




振り返った舞ちゃんの、眩しすぎる笑顔は、きっとホンモノ。
389 :ヲタメCOCORO :2009/09/07(月) 19:50

 

从 ’w’)<おしまいは
390 :名無し飼育 :2009/09/07(月) 19:55

更新されてる〜☆
待ってましたw
ちさといいですね☆
続編とか期待してますw
391 :510-16 :2009/09/07(月) 20:10
本日の更新はここまでです。
かなり日をあけてしまって、待ってくださった方には感謝しています。

とりあえず、作者は生きております。
リアルでの生活が多忙でありまして・・・と言い訳をさせていただきますw


>>365 :名無飼育さん
読んでいただいてありがとうございます&お待たせして非常に申し訳ないです!

個人的に、同じヲタとしてちっさーは応援したくなりますねw


>>366 名無飼育さん
ありがとうございます!
はい、いろんなことがありましたが、ちゃんと続いています。

有原さんの卒業で、かなり投げやりになっていたのが正直なところです。
しかし、だからこそ、書く意味があるのだ、と思いなおしました。
そろそろ栞菜も出たがっているみたいなので、次回は本編の更新になります。


>>367 :名無飼育さん
お待たせしました!

千聖、拉致したまま姿をくらましていましたが、ちゃんと帰ってきましたよ!
当初、千聖はもっとヘタレな設定だったんですけど、書いてるうちにちょっと変わってしまいましたw
リ ・一・リ<これからもよろしく!


>>368 :名無飼育さん
ありがとうございます。
定期更新はお約束できるかわからないのですが、気長に待っていただけると非常にありがたいです。
そして別の作品も読んでいただいてるようで。
お待たせしてしまい、申し訳ありませんが、素直に嬉しく思います!
392 :名無飼育さん :2009/09/12(土) 12:00
ほおお、そうだったのですか、ひかるちゃん。
更新再開嬉しいですっ
ゆっくりまったり待ってます
393 :キュウリとメルセデス :2010/01/17(日) 22:32
日曜日。
言われたとおり、愛理はいしよし商店前に現れた。
約束の時間よりも、5分ほど早く着いたのはいかにも彼女らしい。

「それじゃ、18時にまたここで。」
「うん、ありがとうね、安倍さん。」

おなじみのメルセデスの運転席には、おなじみの名運転手の安部さん。
わざわざ車から降りてきてあたしたちに挨拶をする。
394 :キュウリとメルセデス :2010/01/17(日) 22:32
「お嬢様のこと、よろしくお願いします。」
「はいっ!」

そりゃあね、鈴木さんちの大事な一人娘を一日預かるんだからさ。

「ははは。その気合いを見る限り、心配はありませんね。」

安倍さんは笑って、その小柄な体を運転席に収めると、「では後程」と去って行った。
395 :キュウリとメルセデス :2010/01/17(日) 22:34
「ねえ、今日はどこ行くの?」

瞳を輝かせた愛理が、あたしの肩をゆさゆさ揺する。
「いずれわかるよ」と、なかなか答えをいわないあたしに、愛理はぷーっと頬を膨らませた。

「服選ぶの苦労したんだよ?」

そういって、愛理は淡いクリーム色のワンピースの袖を摘んだ。
すらっとした足に、水色のミュールがなんとも夏らしい。
下ろした黒いストレートヘアも、つばの広い大きな帽子も、とっても似合っている。
396 :キュウリとメルセデス :2010/01/17(日) 22:34
「ごめん、ってば。あ、格好は問題ないからね?」

庶民の俗物根性からか、「高そうだな・・・・汚しちゃマズイよな・・・」と心配になったが、よくよく考えてみれば、他の服も同じようにいいものであるに違いない。
それよりも、こんなところでお喋りをしていては、時間がもったいない。
だって、愛理と初めてのお出かけなんだもん。

「さあ、お嬢さん。参りましょうか。」

あたしが差し伸べた手に、愛理の手が重なった。
397 :キュウリとメルセデス :2010/01/17(日) 22:34
格好をつけてエスコートしたはいいが、今回あたしたちが乗って行くのは、黒塗りのメルセデスでもなく、長―いリムジンでもなく、「高橋農場」と書かれた軽トラだ。しかも、荷台。
つんであった御座を広げて、そこに着席すると、運転手の高橋さんが「ほな、いくよー」と出発の合図をした。
荷台に人が乗ることは法律で禁じられているため、商店街を出るまで、あたしたちは「外から見えないよう、できるだけかがむ」という滑稽な任務を遂行しなければならなかった。
398 :キュウリとメルセデス :2010/01/17(日) 22:36
「もう隠れんでも大丈夫やよー!」

どれくらい腰をかがめていたのだろうか、運転席の窓から、高橋さんの声がして、あたしたちは「うーん」と伸びをした。

「「あっ!」」

目を開けた瞬間、ぱっと視界に入ってきた景色を見て、思わず二人の声が重なった。
399 :キュウリとメルセデス :2010/01/17(日) 22:37
あの賑やかな商店街のムードはどこへやら、あたしたちの目の前には、ただただ牧歌的な田園風景が広がっていた。
ただ一直線に伸びている道路を、軽トラが疾走する。
不安定な荷台はガタガタと揺れ、あたしの眼には愛理の顔がブレて映った。

「ここって、本当に東京なの?信じられない!」

興奮気味に、愛理が言う。
左右には、緑の田んぼ。前にも後ろにも車はない。おそらく、こんなところへ来たのは初めてなのだろう。
昔ながらの瓦屋根の家がぽつんぽつんと確認できるが、家が密集している住宅団地とは明らかに違っていた。
400 :キュウリとメルセデス :2010/01/17(日) 22:37
ガタン

「うわぁっ!」

大きな揺れに、バランスを崩した愛理があたしにもたれかかってきた。
風のように軽い彼女は、容易に受け止めることができた。

「大丈夫?」

心配して愛理の顔を覗き込むと

「うん!」

と元気の良い返事が返ってきた。

軽トラは見慣れた公民館の前を、軽やかに通過する。
もうすぐだ。
401 :510-16 :2010/01/17(日) 22:38
本日の更新はここまでです。
長らく放置いたしましたが、作者は生きています。
402 :510-16 :2010/01/17(日) 22:44
>>392 名無飼育さん

レス遅くなってしまい、申し訳ございません。
原作知らないくせに、ひかるちゃんを使ってしまいましたw
さて、今回はやっと本編に戻りました。
執筆を始めてから、リアルの世界ではいろいろありましたが、今後ともよろしくおねがいいたします。

ノk|‘−‘)<作者もあたしも生きてるんだかんな!
403 :名無飼育さん :2010/01/18(月) 12:58
待ってました!
404 :名無飼育さん :2010/01/19(火) 19:35
待ってました!
リアルではいろいろありましたが、あいかんもやじうめも大好きなので楽しみにしています
405 :名無飼育さん :2010/01/24(日) 00:20
栞菜ぁ(T−T)
少なくともここで彼女の元気な姿を確認できたのでうれしいです。w
作者さんもご無事そうでなにより!
406 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 09:55
「高橋さん、ありがと!」
「ありがとうございました。」
「えーよえーよ。どうせ配達ついでやから。」

着いた先は、高橋さんのおうち。
おうち、といっても、門もなく、ただ田んぼのど真ん中の土地に、平屋が一軒あるだけだ。
玄関先の鉢には、緑色から赤色に変わる途中のプチトマトがあった。

「へー、トマトって、こんな風に生るんだね。」

ツタを指で撫でながら、愛理が言う。

「そだよ。何?木にでもぶら下がってると思ってたの?」
「うっ・・・」

笑って言うあたしとは対照的に、愛理は言葉につまっていた。

ありゃ、図星だったのかな?冗談で言ったつもりなのに。
407 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 09:56
いつのまにかピーマンの前に移動していた愛理の背中に向かって、言った。
今回の目的地は、実はここじゃないのだ。

あたしの言葉に「うん!」と頷く愛理。
邪魔になりそうだから、と高橋さんのおうちに愛理のバッグを置かせてもらった。
「これも、持ってって。」と高橋さんが渡してくれたビニール袋には、ペットボトルのお茶と手作りのおむすびが2つずつ入っていた。

「あーしは家で作業しとるね。きぃつけていってらっしゃい。」
「うん、ありがとう!それじゃ行ってきます」

あたしは、今度は倉庫へ向かい、使い古されたママチャリを出した。
カゴにさっきもらったビニール袋と、タオルを2枚突っ込むと、サドルにまたがった。
408 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 09:57
「よし、じゃあ行こう!」

「乗って」といわんばかりに、後ろの荷台に目配せをしたけど、愛理は動かない。
ん?そっか、もしかして・・・・

「二人乗りって、したことない?」

予想通り、愛理はこくん、と頷いた。
あたしは特に驚かなかった。第一、愛理が自転車に乗ること自体、想像できないのだから。

「だよね。どうしよう。やめとく?」

違法行為、っていうのもあるけどあたしの頭には安倍さんの顔が浮かんでいた。「お嬢さまをよろしくお願いします。」って、言われてたから、危険なことはなるべくしないほうがいい。
409 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 09:57
あたしは既にサドルから降りていたけれど、愛理は、「うーん・・・・・・」と腕組をしながら迷っているようだった。そして―

「乗ってみる」

と一言。

ええっ!?マジで?
「二人乗りをしたことがない」ということよりも「二人乗りに挑戦しようとしている愛理」のほうが十分驚きだった。

「怖くないの?」

あたしが初めて二人乗りをしたときは、舞美ちゃんの後ろだったから、あまり不安はなかった。お姉ちゃんがえりかちゃんと二人乗りしていたのを何度もみていたし、運動神経は昔から女子レベルじゃなかったから。案の定、舞美ちゃんの運転はとても安定していたのだけれど。

「なんでだろう?栞菜が漕いでくれるって思ったら、大丈夫な気がして。それに、おもしろそうじゃない?あたし乗ってみたいな、栞菜の後ろ。」

ヘンなところで期待をしている愛理。これは、転倒なんて言語道断だな・・・・。
逆にプレッシャーをかけられて、あたしのほうが緊張してしまう。
再びサドルをまたぎ、愛理を後ろの荷台に腰掛けさせた。

「メルセデス2号、着席完了。栞菜、いきまーす!」

地面から足を離してから、最初の一漕ぎまでのコンマ1秒は、ぐらりと揺れる。
毎回この瞬間にはヒヤリとするけれど、メルセデス2号(さっき名づけた)は無事出発した。
410 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 09:58
外は暑いけれど、風はとっても心地よい。
誰もいない一本道を、山の方角へ自転車で走る。

「こわくない?」と後ろの愛理に聞こえるように、大きな声で尋ねたら、「うん!すごく気持ちいいよ!」と、あたしよりも大きな返事が返ってきた。

腰に回された愛理の腕に、ぎゅっと力が篭る。
「信じてるよ」って言っているような、そんな気がした。
411 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 09:58




 



412 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 09:58
「ちょっと寄り道しまーす」

あぜ道の途中で、あたしは自転車をゆっくりと止めた。
バランスを崩さないように細心の注意を払ったつもりだったけど、「おっとっとっと・・・」と愛理は危なっかしく着地した。
人の気配を感じ、鳥小屋にいた鶏たちがバタバタ・・・と忙しなく羽を動かした。
愛理がそーっと覗くと、鳥たちは地面を右往左往し、それにまた愛理がビクっと肩を震わせた。

なーにお互い驚いてるんだか

すっかり鶏にビビってしまった愛理に、あたしは頬を緩ませる。
413 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 09:59

「この鳥小屋と、奥の畑、それから道を挟んだとこにある田んぼ。全部高橋さんとこのなんだよ。」

軽トラのタイヤの跡を踏みながら、畑へと進む。
足元には、ごろりとスイカが転がっている。
メイン収穫時期はすぎているのだろうか、寂しげに取り残されているように見えなくもない。

「知ってた?冬瓜って、夏野菜なんだよ?」
「『とうがん』って?」
「こいつのこと」

スイカの横にあった、同じくぽつんと転がっている物体を指差して、答えた。
皮が、日焼けしたみたいに白っぽくなっている。

君たち、また今度高橋さんに収穫してもらっておくれ。
あたしは今日愛理を自転車にのせなきゃならないのさ。
414 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 10:00
「今から、愛理にはお馴染みの―」
「キュウリ?」
「当たり!キュウリ、取っていこう。」

畑の一角には、あたしの胸元まであるアーチがいくつも並んでおり、細かい毛がびっしり生えたツタが、うねうねと絡んでいた。
黄色い花は暑さで干からびかけていたけど、それでいいのだ。

「ほら、こうやって、はさみで・・・」

ぱちん、とツタからキュウリを切り離して、愛理に渡した。

「うわーっ!ね、ね、これって栞菜のお店に並んでるのと同じだよね?すごい!」

愛理は興奮気味に、私の肩をゆさゆさと揺すった。
重たいはさみを上手に使いこなし、愛理は次々にキュウリを収穫していく。
ぱちん、ぱちんという音が、心地よく響く。
不ぞろいな、でも色の濃いキュウリは、用意したザルをすぐにいっぱいにした。
415 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 10:00

「愛理・・・・愛理?鈴木愛理さーん。」
「え、なあに?」
「そろそろ、行くよ。」

夢中でキュウリを取っている愛理には申し訳ないけど、持てる量には限度がある。
私は愛理からキュウリが入ったザルを受け取り、それを自転車のカゴに積んだ。

「では、目的地まで直行します!」
「はーい!」

再びペダルを漕ぐ。前にキュウリ、後ろに愛理。メルセデス2号は、定員オーバー寸前だ。
416 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 10:01
山の麓、すなわち行き止まりまでたどり着くと、私はメルセデス2号を止めた。
ここからは、歩きだ。
私はキュウリを3本ザルからとり、おにぎりが入っている袋に一緒に入れた。

「こっちだよ。」

躊躇いもなく山へ入った私に、愛理は「大丈夫?」と不安そうに尋ねる。
言われてみれば、この山は、ハイキングコースが整備されているわけでもない、ただの「山」。彼女が不安がるのも納得がいく。

「うん、大丈夫だよ。でも足元には気をつけてね。」

そう言って私は、愛理の左手を握った。
417 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 10:01
木々が茂る山の中は、それまでとは打って変わって涼しかった。
ここにある木はすべて、私たちよりもずっと背が高くて、幹も太い。
もう何十年、何百年と生きているのだろう。

「疲れてない?大丈夫?」

目的地までは傾斜が続く。距離は短いけれど、山道に不慣れな人にとっては少ししんどいかもしれない。

「ううん、全然!」

その元気な声に、むしろ私が元気づけられたりして。

水がちょろちょろ流れる音がしたら、それはゴールが近いことの合図だ。
ほどなくして、私たちは河の上流に抜け出た。
418 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 10:02
「すごい!こんなところに河があるなんて!」

私が「着いたよ」と言うより先に、愛理は駈け出した。
昔は、よくここにお姉ちゃんと遊びにきた。はだしで水の中に入ったり、イワナを追いかけたり、日が暮れるまで夢中で遊んだ。
岩場にしゃがみ、水に手をつけながら「つめたーい」と楽しそうな愛理を見ていると、昔の思い出が蘇ってくる。
いてもたってもいられなくなった私は、荷物を岩場に置くと、サンダルを脱ぎ棄て、河に足を浸した。
足が透けて見えるほどに、水は澄んでいた。ここはずっと変わっていない。
ひやっとした水の温度、ざらざらした石の感触。すごく久しぶりだ。

愛理も私に倣って、サンダルを脱ぎ(きちんと揃え)、帽子を脱いで(きちんと重石をのせて)、こちらへやってきた。
419 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 10:04
「栞菜ー」
「何?」

呼ばれて振り返ると、

「えいっ!」

バシャ

うわっ、やられた!と思った時にはもう遅い。お約束通り、Tシャツが濡れていた。

「あははっ!ひっかかったー!一回これやってみたかったんだよねー」

お腹を抱えて笑われていては、私も黙ってはいられない。

「やったなぁ!」

仕返しとばかりに、私は両手で水をすくい、遠慮なく愛理にぶっかけた。
今度は愛理のワンピースが濡れた。
420 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 10:04
「ちょっと栞菜!本気でやるなんて反則だよ!」
「3倍返しが基本でしょ?」
「じゃあ私も3倍返し!」

それからは、ひたすら水の掛け合いだった。お返しのお返し、お返しのお返しのお返し・・・・と言っているうちにわけがわからなくなって、以降は一心不乱で愛理に水をかけることしか頭になかった。
考えてみれば、単純でひねりも何もない遊びにどうしてこんなに熱中したのか分からなかったが、最後は二人で息をぜいぜい切らしながら水を掛け合っていた。
421 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 10:06
「疲れたぁー」

お約束の水遊びを、嫌というほど堪能した私たち。
体力を消耗した二人はフラフラと大きな岩へ向かい、その上に腰かけた。服はすでに言い訳ができないほど濡れている。

「お腹すいたね」
「そだね、お昼にしよう」

おにぎりが入ったビニール袋を手に取る。そこであるものを見つけ、私はここに来た目的を思い出した。
422 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 10:06
「ね、愛理。カッパ、見たいと思わない?」
「カッパ!?」

その単語が出たとたん、愛理の瞳は輝く。
さっきまで「疲れました動けません」って顔をしていたのに。

「うん。カッパってさ、田舎の河に住んでそうじゃない?」
「そう言われてみれば、こういう所っていかにもいそうだね!」
「でしょ?そこで、これの登場だ。」

私は袋からキュウリをとりだした。
423 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 10:07
「栞菜、天才!」

愛理は私の手をぎゅっと握った。
その顔があまりにかわいらしくて、一瞬、心臓が跳ね上がった。

さっそく河の浅瀬にキュウリを置いた。さっきいた岩場からちょうど見える位置だ。流されないように岩で固定することも忘れずにした。
正直、ここにカッパが住んでいるかどうかわからなかったし、私たちの視線に気が付いて逃げられてしまうかもしれなかった。
わくわくしている愛理には申し訳ないけど、私はそんな愛理を見ているだけで、満足だった。

岩場へ戻ると、今度こそランチタイムだ。ランチといっても、高橋さんの差し入れのおむすびとお茶。それからキュウリが1つずつだ。
キュウリを河で洗い、ひとつを愛理に渡す。
424 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 10:07
「栞菜、天才!」

愛理は私の手をぎゅっと握った。
その顔があまりにかわいらしくて、一瞬、心臓が跳ね上がった。

さっそく河の浅瀬にキュウリを置いた。さっきいた岩場からちょうど見える位置だ。流されないように岩で固定することも忘れずにした。
正直、ここにカッパが住んでいるかどうかわからなかったし、私たちの視線に気が付いて逃げられてしまうかもしれなかった。
わくわくしている愛理には申し訳ないけど、私はそんな愛理を見ているだけで、満足だった。

岩場へ戻ると、今度こそランチタイムだ。ランチといっても、高橋さんの差し入れのおむすびとお茶。それからキュウリが1つずつだ。
キュウリを河で洗い、ひとつを愛理に渡す。
425 :キュウリとメルセデス :2010/05/19(水) 10:07
「上手じゃん。」

愛理は目を細めて、おいしそうに口を動かす。
彼女は口の中にあるキュウリを全部飲み込んでから、「そお?」とまんざらでもない様子で答えた。

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