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青春心理

1 :とりあえず名無し :2008/06/18(水) 14:56
ペリキューで基本短編

・CPは殆どマイナー
・多分キャプ受けが多いかもしれない
・王道ぽっいものは基本的にあまり書かない

それでもOKという心の広い方は見ても楽しめるはず

670 :パッション E-CHA E-CHA(千奈美×キャプ) :2010/03/12(金) 17:06



初めて先輩に会ったとき、先輩は泣いていた




でも別に見たくて見たわけじゃなくて、たまたま校舎裏にある焼却炉にごみを捨てに
行ったら偶然見てしまった。
最初は背が小さいから同学年の子かと思ったけど、ネクタイの色が違うからすぐに二年生
だということが分かった。
理由は分からない、というか大して興味がなかった。



だけどとりあえず気まずいので、私はごみを捨ててすぐにでもその場を立ち去ろうと
思った。
でもゴミ箱を持って先輩の前を通り過ぎようとした瞬間、私は足を止めた。
正確には制服の袖を掴まれたので止まらないわけにはいかなかった。



「あの・・・・・何か用ですか?」
「無視しないで」
「いや、だって先輩のこと知りませんから。それに声掛けれる雰囲気じゃなかったんで」
「清水佐紀」
「はぁ?」
「それが私の名前。ちなみにクラスは2−C、そっちは?」
「・・・・・・徳永千奈美。クラスは1−Aです」





いきなり呼び止められて、よく分からないけど自己紹介する羽目になった。
それから清水先輩の愚痴を聞いてあげた。
でも正直言うと半分くらいは適当に聞き流していた。
なんでも泣いていたのは同級生の矢島舞美に振られたからだったらしい、でもその矢島舞美と
私は幼馴染みでその事を言ったらすごく驚いていた。
そして私達は随分と変な出会い方をしたのになぜか友達になった。








それから一年後、私は二年生になった



お昼休みになり騒がしい教室内、鞄の中からお弁当を取り出そうとすると誰かが
私の名前を呼んだ。
声のした方を見るとドアのところに佐紀ちゃんが立っている。
私はお弁当を取り出すと少し慌ててドアのところまで走っていく、そして今日は中庭に
でも行こうとなったときクラスメートのみやに話しかけられた。



「千奈美、今日もデート?」
「そう!羨ましい?」
「べ、別にそんなことないし」
「はいはい。みやも早く梨沙子とお昼休みデートができるといいね!」
「大きい声で言うな!」



みやが怒ったので私達は逃げるように教室を後にした。
それからたわいもない話しながら並んで廊下を歩きながら中庭に向かう。




初めて会ったときはまさか佐紀ちゃんと恋人同士なるとは思わなかった。
変な人だと思っていたら友達になって、友達だと思っていたらいつの間にか好きに
なっていた。
そしてダメ元で告白したらOKで私達は付き合いした。




「何笑ってんの、千奈美」
「ん?なんか初めて会ったときのこと思い出したら笑えてきた」
「・・・・・・あれは忘れて」
「嫌だ。だってめちゃくちゃな出会いだったけどさ、今は良かったって思うもん」
「変な出会いに感謝?」
「うん、そんな感じ」


私達は互いに顔を見合わせると笑い合う。
それからふと窓の外に目をやると雲一つない快晴、絶好の昼食日和。
今日も良い日になりそうだなぁと思って、私は眩しい太陽に目を細めながら微笑んだ。



671 :我ら!Berryz仮面(茉麻×キャプ) :2010/03/12(金) 17:07



ドカァァァァァァァァン!!




爆音と共に白い土煙が立ち上る、そしてあちらこちらの場所に吹き飛ばされた私達
Berryz仮面。
それからいつものように小馬鹿にしたような敵の高笑いが採石場に響き渡る。
「相変わらず弱いなぁ、Berryz仮面」と、嫌味ったらしく鳥の怪人は言うと
もう一度高笑いして去って行った。



悔しい、いつだってそう思う。
いや思わなかったことなど一度もない。
でも私達はいつも勝てない、とりあえず今のところ35連敗中だった。





みんな「また負けちゃったね」とか、「痛くて死にそう」と口々にぼやきながら基地に
向かって歩き出す。
私もひどく体力を消耗していたけれど気力を振り絞って歩き出す。



「・・・・・今日も勝てなかったね」
傷ついた体を引きずりながら、たまたま横を歩いていたイエローがぽつりと呟く。


「うん」
「本当に弱いよね」
「うん」
「カッコ悪いね」
「うん」
「でもさ・・・・・Berryz仮面好きだなぁ」
「・・・・・うん」


私もBerryz仮面が好きだ。
どんなに負けても、どんなに怪人たちに笑われても、それでも戦うことを決して
止めない。
そんなBerryz仮面が大好きだし、心の底から誇りに思っている。




私は痛みに悲鳴を上げる体に鞭打って走り出す、そしてみんなの目の前に躍り出ると
光輝く夕日を指差して言った。
「みんな、あの夕日に向かって走ろう!あの先に私達の目指す勝利があるんだよ!」
と折角熱く語ったのに返ってきた答えは散々だった。



「無理でーす!」
「同じく。今日は疲れたから無理!」
「あはは、レッドはそういう青春ノリ好きだよね」
「僕はそういうの今時ナンセンスだと思うな」
「えっ?えっ?夕日の先に勝利があるの?本当に?」
「本当にあったらいいんだけどねぇ・・・・・・」



私は深い溜め息を吐き出して項垂れると、近くにあった公衆電話に向かって歩き出した。
そして中に入るとある会社のフリーダイヤルに電話をかける。
「・・・・・もしもし。あっ、すいません。メンバーを変えたいんですけど」
と真剣に悩んで電話したのに、受付のお姉さんに「いたずらはやめて下さい」と言われて
電話を切られた。


672 :約束は特にしないわ(熊×キャプ) ※若干エロ :2010/03/12(金) 17:10
君はいつだって強引で私の都合なんて考えてくれない。
少しでも余裕があれば私の手を引いて空いている部屋に連れ込む、そして有無を言わせず
強引にキスをして、乱暴に服を脱がせる。



そして私を下着姿にすると、まるでライオンかトラが草食動物の首筋に噛み付くように
顔を寄せて歯を立てる。
すると体が小さく震えて思わず艶めいた声が自然と私の口から漏れる。


「んっ・・・・・熊井・・ちゃん」
「何?」
「強引すぎ」
「いつもと同じだけど?」
「だから・・・・あっ、んっ・・・・いつも、強引すぎなの」



熊井ちゃんは私と話しながらブラを片手で器用に外すと、既に固くなっている先端を
口に含む。
そして舌で転がりしたり甘噛みしたりして弄ぶ。
私は熊井ちゃんの愛撫にただ甲高い声を上げることしかできない、時折抵抗で身を捩って
みるけれど無意味な行為だった。



熊井ちゃんは一旦胸から顔を離すと私を真っ直ぐ見つめる。
その珍しく真剣な瞳に胸の鼓動が早くなる。
相変わらず綺麗な顔をしているなと思いながら、熊井ちゃんから目が離せなかった。



「佐紀ちゃんはさ、ウチとこういうことするの嫌い?」
「・・・・・嫌い、じゃないよ」
「ならいいじゃん」
「でもなんて言うかさ、もう少しくらい優しくしてほしいなぁって・・・・・」
「もう黙って。うるさい」
「んっ・・・・くま・・・・・あっ、やっ、ふあっ!」



熊井ちゃんは私を壁に押し付けると強引に唇を塞ぐ。
そして下着越しに足の付け根にある敏感な部分を指で挟むと擦るように動かす。
思わず私の体は跳ねて一段と甲高い声が出る。
それから熊井ちゃんの手が下着を脱がさないまま中に入ってくる、でもその瞬間携帯の
着メロらしき音楽が部屋に響き渡る。



熊井ちゃんはすぐに私から離れてポケットの中から携帯を取り出す。
どうやらメールだったらしく携帯を開いて内容を確認すると小さく溜め息を吐き出す。
その仕草だけで私は事情が飲み込めた。



「ごめん。呼び出しが来たから行くね」
「うん」
「まぁ今度暇があったらやろうよ」
「・・・・・・そうだね」
「じゃまた後で」



熊井ちゃんは携帯をポケットにしまうとあっさりと部屋から出て行った。
多分大事な恋人からの呼び出しだったんだと思う。
いつものことなので私は苦笑しながら辺りに散らばった服を拾う、でもいつものことなのに
涙が頬を伝って床に落ちた。
それから私はその場にしゃがみ込むと少しだけ泣いた。




君はいつだって身勝手で私の都合なんて考えてくれない



673 :JUMP(キャプ×愛理) :2010/03/12(金) 17:11
愛理は足がついていかずとうとうコートの中に倒れこんだ。
滝のような汗が頬を伝いコートに染みを作る、こんなにも大量の汗を掻いたことは今まで
生きてきた中で一度もない。
荒い息を吐き出すも体中が酸素を欲しがっているので、酸欠状態の金魚のように口の
開閉を何度も繰り返す。
愛理はもう立てないくらい体力を消耗していた。




「鈴木!そんなことじゃインターハイはおろか、全国制覇なんて夢のまた夢だ!」
自分を叱責する声に何とか顔を上げると、コーチである佐紀の姿が視界に入る。
黒いサングラスに水色の作業着はコート場に何ともミスマッチだったが、佐紀は若いながらも
名コーチとしてその名を馳せていた。



「コ・・・コーチ、私・・・・もう・・・・立て、ません」
「甘ったれるな!馬鹿者!」
懇願するように愛理が言うと佐紀からテニスボールが顔目掛けて飛んできた。
それから大声で怒鳴られる。
怒声に身を震わすと愛理は鉛のように重い体を無理矢理起き上がらせる。



するといつの間にか目の前までやってきていた佐紀が愛理に手を差し伸べる。
意外な行動に驚きながらも愛理は手を掴んで何とか立ち上がる。
だがやはり体力は限界を迎えていて立っているのがやっとという状態だった。



愛理が立ち上がったのを確認して佐紀は愛理の手を離す、そして背を向けると
しばらく夕空を眺めていた。
それから不意に振り向くと真剣な目で愛理を見つめる、本当はサングラスをしているので
表情は分からないのだが愛理には分かった。
「・・・・・・お前は全国、いや世界をも目指せる人材だ」
小さく息を吐き出してから佐紀はいつになくはっきりとそう断言した。


「えっ?」
予想もしていなかった言葉に愛理は動揺してラケットを落としてしまう。


「お前の全てを預けてほしい。そうすれば絶対に世界まで連れて行く」
「コーチ!」
「鈴木、信じてくれるか?」
「はい。信じます。私、コーチの為なら操だって捧げられます!」
「・・・・・・いや、それは重いから」




次の日、愛理は清水テニススクールを辞めた



674 :友達は友達なんだ(キャプ×舞波) :2010/03/12(金) 17:14
友達の大切を歌った曲だからか、ふとあの子のことが頭に浮かんだ。
だからダンスシーンが始まる僅かな合間に私は楽屋に戻ると、久しぶりにあの子に
電話を掛けてみた。
でも勢いで掛けたものの、本当に久しぶりだから急に緊張してきてちゃんと話せるか
不安になってきた。
結構長いコール音が続いて出てくれないかなという思いがふと過ぎる、でも次の瞬間
懐かしい声が携帯から聞こえてきた。



「・・・・・・もしもし」
声を聞いたとき懐かしすぎて少し泣きそうになった。
しばらく聞いてなかったけれど全然あの頃と変わっていない、しいて言うなら少し
落ち着いた感じがするけど間違いなく舞波の声だった。




「ま、舞波?久しぶり。元気してた?」
「まぁ何とかやってる。キャプテンは・・・・・・元気そうだね」
「うん。元気だよ。あのさ、いきなり電話しちゃったんだけど迷惑だったかな?」
「まぁ若干迷惑かな。もうすぐ部活に行かないといけないから」
「そうなんだ、ごめんね」
「別にいいよ。何か久しぶりにキャプテンの声が聞けて嬉しいから」



もっと上手く話せないと思っていた。
一番最初に喋るときは確かに少し緊張したけど、舞波の声を聞いた瞬間そんなものは
どこかに吹っ飛んでしまった。
そして5年前に戻ったようにあの頃と変わらずに普通に話すことができて、そのことが
すごく嬉しかった。




「それでなんで急に電話かけてきたの?」
「いやぁ、新曲が友達の大切さがテーマの曲でさ。ちなみに今PVの撮影中なんだけど、
何か曲を聴いてたら舞波のこと思い出しちゃって」
「何?CDの宣伝?」
「違うって。まぁ両A面だからお勧めなんだけど」
「やっぱり宣伝だし。何?買えってこと?」
「できれば買ってほしいけど・・・・・・今度送るよ。住所変わってないでしょ?」
「うん。変わってないよ」



舞波の冷静な突っ込みは相変わらずだなぁなんて思いながら話していると、携帯越しに
「舞波」と呼ぶ女の子の声が聞こえてきた。
どうやら友達に呼ばれているらしい。
上手くやっているみたいで嬉しいけど何だか少し寂しい気もする。




「何か舞波も呼ばれてるみたいだし、今日はこの辺で切るね」
「うん。また時間があるときにかけてきてよ」
「分かった。今日はごめんね、今度はみんながいるときにかけるよ」
「えー、いいよ。何かうるさそうだし」
「あはは、多分うるさいと思うよ、特に・・・・・」
『千奈美とか』



舞波と私の声が見事に重なり合って2人して笑った。
やっぱり5年なんて月日は全然関係ないんだなと思ったし、新曲の歌詞じゃないけど
友達は友達のままなんだなと改めて感じた。
その後少しだけ舞波と喋って電話を切り終えると、やっぱり今度電話をかけるときは
メンバー全員がいるときにしようと思った。


675 :残暑お見舞い申し上げます(めぐ×キャプ) :2010/03/12(金) 17:15
夏休みも終盤に近づいてきた頃、家に帰ると自分の部屋に行く前に母親に呼び止められた。
「愛、手紙が来てるわよ」
そう言って渡された手紙、どうせ着物か塾とかの宣伝かと思いきや予想外のところから
きていた。



「・・・・・清水佐紀」
あまりにも意外すぎて差出人の名を無意識のうちに口に出して読んでいた。





ハロープロジェクトを辞めてから、極力メンバーとは連絡を取らないようにしようと
心に決めていた。
自分の未練を断ち切るためでもあるし、キュートに関しては早く私のことを忘れて
前に進んでほしかった。
だからコンサートにも一度も行ったことがない。
最初のころはチケットが送られてきたり、舞美やえりかからメールが来たけれど
「行かない」と返事していた。
今はもうチケットも送られてこないしお誘いのメールもない、煩わしくなくて良かったと
思う反面寂しさを感じるのも事実だった。




でもこうしてベリーズ工房のキャプテンこと、清水佐紀からは毎年残暑見舞いが届く。
私が在籍しているときから今も変わらず送られてくる。
文面は至って普通で、別にハローのことや私の悪口とかが書いてあるわけじゃない。
毎年暑くて大変だけど頑張ってね、みたいな内容だった。
でも私は毎年送り返さなかった。



「この子、毎年送ってきてくれるわよね」
「うん」
「お返事送らないの?」
「うん・・・・・・いや、今年は送ろうな。ハガキある?」
「普通のはあるけど、せっかくなんだから専用のハガキでも買ってきなさいよ」
「うーん、じゃそうするよ。明日コンビニでも行って買ってくる」
「そうしなさい」


本当は少し面倒だと思ったけど口には出さなかった。
でも書くことにしたはいいけど残暑見舞いなんて初めて書くから、一体なんて
書いていいか分からなかった。
まぁその辺はお母さんに教えてもらうとして、私のハガキが届いたら佐紀ちゃんは
どんな顔をするのかなと思ったら少し楽しくなった。



676 :夏わかめ(栞菜×キャプ) :2010/03/12(金) 17:17



私の妹は私の事が好きすぎる






無駄に私に引っ付いてくるし、隙あらば匂い嗅んでくるし、極めつけは洗濯物もの中から
私のパンツを探し出して頭にかぶっていた。
普通に無理だ、ともう何十回も飽きるくらい思ってきた。





そして今、私はとうとう妹に押し倒されていた




「お姉ちゃん、好きだよ」
「ちょ、ちょっと待った!栞菜、私達姉妹だから!血が繋がってるから!」
「そんなの関係ないよ」
「関係あるよ!っていうか普通に大アリだから!」
「いや、むしろ姉妹とか萌える要素の一つだと思うんだよね」
「・・・・・・お願いだから真顔で言うのやめてくれる?」



それから栞菜はいきなり姉妹萌えについ語り始めた。
姉妹萌えとかそんなこと語られても引くことはできるけど、理解ではできない。
というか早く私の上から降りてほしかった。



「・・・・・・ということなんだけど、萌えてきた?」
「えっ?いや普通にドン引きなんですけど」
「もうっ!相変わらずお姉ちゃんはツンデレなんだから」
「ツンデレとかそういうことじゃないから!」
「まぁとりあえず一回やろ?難しい話はそれからにしようよ」
「何そのエロオヤジみたいな理論。っていうか普通は順序逆じゃない?」
「照れない、照れない。それじゃいただきます!」
「ちょ!栞菜!・・・・あんっ!ちょっと・・・・ん・・・・・あっ」




結局私は栞菜に襲われてしまった。
でも襲われてからというものどうにも栞菜のことが気になっている。
だけど私達は姉妹なわけで、『好きになっちゃいけない、でも好き』という負の
スパイラルに私は巻きこまれようとしていた。



でもそれから少しして結局私と栞菜は血が繋がっていないことが分かるんだけど、
それはまた別のお話。



677 :ライバル(真野×キャプ) :2010/03/12(金) 17:18
卒業式が無事に終わり殆ど子達が正門に向かう中、私は一人剣道場に向かっていた。
予想はしていたけれど道場の戸には鍵がかかっていなかった。
戸を開けて中に入ると、白線の外に正座している女の子の姿が見えた。
面をしているので顔は見えないけれど私には誰だか分かる。




私はすぐにその女の子のところへは行かずに更衣室へ向かった。
そして自分のロッカーを開けて防具を身に着ける。
本当なら自分の防具は家に持って帰る約束になっているのだけれど、多分こうなると
分かっていたので持って帰らなかった。
私は面はせずに手ぬぐいだけ巻いた状態で道場の中に足を踏み入れる。



「清水さん・・・・・・やっぱり居てくれたんですね」
「そういう約束だったでしょ?」
「律儀なんですね」
「そういう真野ちゃんだってこうしてわざわざ来たんだから、律儀なんじゃないの?」
「うふふ、それじゃお互いに律義者ってことで」



私と清水さんはこの茂部木馬州学園で剣道部に所属していた。
清水さんは体は小さいながらも安定した実力を持つ剣道部の部長、一方の私はというと
一応レギュラーで中堅を任されていたけれど大して強くもない平部員。
クラスは違うけれど三年生は二人だけなので、部活終わりの帰り道などで話したりすることが
結構多かった。
そして私の一方的な思いなのだけれど、清水さんは私のライバルだった。
でも張り合っても腕が違いすぎて勝てたことなんて一度もない、というかきっと清水さんは
真剣に私の相手なんかしてくれてないと思う。
それでも入部したときからずっとライバル視していた。



そこで私達の最後の大会である夏のインターハイで試合が始まる前、清水さんに「この戦い
絶対勝ちます。だから卒業式の日、私と真剣勝負してください」と言った。
すると清水さんは軽く笑ってから「うん、勝てたらいいよ。勝てたらね」と言ってくれた。
だから私は思い切り気合を入れてその試合に臨んだ。
結果はどうにか勝った、後から聞いた話では胴打ち落とし面という技を使ったらしい。
何でも相手の右胴打ちに対して後ろに一歩下がりながら相手の竹刀を打ち落とし、すかさず
相手の面を正面から打つというもの。
でもあまりにも無我夢中だったので全く記憶になかった。




とにかくその試合は何とか勝って私達の部は初めて全国大会に進んだ。
でも進んだはいいけれど結局後が続かなくて一回戦で敗退、私達の夏はそれで終わって
しまった。
夏が終わると私と清水さんは部を引退、防具はそのインターハイ以来つけてないので少し
懐かしい感じがした。
私は正座すると手早く面をつける、それが終わるのを見計らって清水さんが白線の中に入る。
それを見て軽く深呼吸をしてから私も立ち上がって白線の中に入った。
本当の試合のように九歩離れた場所で互いに立ったまま礼、それから三歩進んで竹刀を構える。
緊張からか少しだけ手が震える、私は震えを抑える為に竹刀を握り直した。
そしてしゃがみ込むと清水さんを真っ直ぐ見つめる。



「真野ちゃん、一本勝負でいいでしょ?」
「はい。三本勝負なんてやったら贅沢過ぎます」
「いや三本もやると普通に疲れるからさ」
「うふふ、それもそうですね」
「それじゃ・・・・・・手加減抜きでいくよ」
「はい」


この一本に自分の三年間の全てを賭けようと思った。
道場は嘘のように静まり返り、少し離れている清水さんの吐息さえ聞こえてきそうだった。
私は浅く息を吐き出すとそれと同時ぐらいに「始め!」という清水さんの声がした。
声が聞こえた瞬間にもう立ち上がっていて私はすぐさま右足で一歩踏み込むと、面目掛けて
竹刀を振り下ろした。


678 :嗚呼 恋(梨沙子×キャプ) :2010/03/12(金) 17:20



私はみやが好きだった。
だから告白した、でもみやには別に好きな人がいるらしくてOKをもらうことは
できなかった。
私はあっさりと振られてしまった。
その日は当然泣いた、ご飯も食べずにベッドの上でひたすら泣いた。




それからみやとの関係が少しぎこちなくなった。
お互いにどこか避けていたし、たまに喋っても上手く会話が噛み合わなくて何だか
変な感じだった。
多分メンバーも私とみやの間に何かあったことはすぐに分かったと思う。
でもしばらくの間は何も言わず黙って見守っていてくれた。
ただ時間が過ぎても解決しないのを見て、ある日キャプテンが私に声を掛けてきた。




「あのさ、梨沙子。もしかしてみやと何かあったの?」
「うん。ちょっと色々あった」
「聞いてもいい?」
「うん・・・・・・あのね、告白したけどフラれちゃった」
「そっか。フラれちゃったか」



本当のことを話すとキャプテンは少し驚いた顔をしたけれど、すぐに優しい顔をして
私の頭を撫でてくれた。
それから顔を包み込むように両手が頬に置かれて、「いっぱい泣いたでしょ?」って
言われたから素直に頷いた。



するとキャプテンは顔から手を離し、少し背伸びして私のことを抱きしめる。
あまりにも温かいから少しだけ私は泣きそうになった。
でも泣くのはカッコ悪いから頑張って堪えていると、もう一度キャプテンが頭を撫でるから
泣いてしまった。
キャプテンは私が泣き止むまでずっと抱きしめていてくれた。




「梨沙子は偉いよ、ちゃんと言ったんだもん」
「偉い?」
「うん。だって好きな人に自分の気持ちを伝えるのって、すごく勇気のいることでしょ?」
「そうだね。すっごく緊張したし声とか震えてた気がする」
「まぁ普通はそうだよ」
「でもね、言えて良かったって思う。言えないままウジウジしてるよりずっと良かった」
「そっか。なら・・・・・・私も言おっかな」



キャプテンの言葉に私は小首を傾げる。
どう聞いても好きな人がいるから告白する、そういう風にしか思えない言い方だった。
だから「好きな人居るの?」って聞こうと思ったら、キャプテンの方が先に口を開いて
言われてしまった。



「好きだよ・・・・・・梨沙子のこと。ずっと前から好きだった」



679 :とりあえず名無し :2010/03/12(金) 17:20

680 :とりあえず名無し :2010/03/12(金) 17:20

681 :とりあえず名無し :2010/03/12(金) 17:21
以上です
ちょこちょこキャプが登場しない話もありますが、その辺は広い心で
受け止めてくれると助かります
682 :名無し飼育さん。。。 :2010/03/13(土) 09:41
キャプ受け最高!
ベリーズ仮面の設定が特に好きだなー
イエロー総受けとかw
683 :名無飼育さん :2010/03/13(土) 11:51
りしゃキャプ泣きました
684 :名無飼育さん :2010/03/14(日) 17:25
愛理w辞めるの早ッ
685 :とりあえず名無し :2010/04/19(月) 16:34
かなり今更ですが、ゲキハロのしりゃキャプが出来上がってきたので
少しずつ載せていこうと思います




まずはレス返し


>>名無し飼育さん。。。
キャプ受けが好きの人に楽しんでもらえれば本望です
その為だけに書いたようなものですから
ベリーズ仮面は機会があればまた書きたいなぁって思ってます
イエロー総受けでw


>>683さん
りしゃキャプは本当は甘い系が書きたかったんですが、あみだで失恋と
出てしまったのであんな感じになりました
勢いだけで書いただけなので内容が薄くて、泣いたなんて言われると何だか
申し訳ない気持ちになります


>>684さん
本当はもう少し真面目にしたかったんですが、良いオチが思い浮かばなくて
あぁなりましたw
あみだの指示がスポ根だったのに書き終わったらギャグでした

 
686 :とりあえず名無し :2010/04/19(月) 16:38
というわけでゲキハロの設定でりしゃキャプです


・CPは学子×果菜
・あくまで友情で恋愛物ではないよ
・ちょっと長くなりそうな予定
・ちょいちょい勝手に設定を作ってる
・カオリンも出るよ


そんな感じですが、全然構わないよって方はどうぞ

687 :青春大通り :2010/04/19(月) 16:39



初めてあの子に会ったときの衝撃を私は未だに忘れられない






桜も散り始めた四月半ば、千駄木先生に音楽室の鍵を返すために職員室に寄ってから
私はぼんやりと廊下を歩いていた。
するとどこかからか歌声のようなものが聞こえてきた。
私はまるで歌声に引き寄せられるかのように半分くらい開いている窓へと向かう。


そして窓から顔を出すと目を閉じて耳を澄ます。
第一印象は真っ直ぐな綺麗な声。
でも聞いているうちにその中に力強さがあることに気づく、そして少し荒削りなところが
あるけれどしなやかで伸びがある。
この声が欲しいと思った。
そうしたら居ても立ってもいられなくて私は当てもなく走り出した。



この歌を歌っている子が何処にいるかは分からない。
とりあえず自分がいる階より上から聞こえてきたので、最上階から全部の教室を調べる
ことにした。
疲れるとか面倒だなとか全く思わなかった。
あの声が手に入るなら私はどんな労力も惜しまない、どんなことをしても手に入れたい。
それほど魅力的な声だった。


688 :青春大通り :2010/04/19(月) 16:40
階段を急いで駆け上がったからか最上階に着く頃には肩で息をしていた。
私は一旦足を止めて小休憩する、でもまたあの歌声が聞こえてくると息が整う間もなく
再び走り出した。
走れば走るほど歌がどんどんはっきりと聞こえてくる。
そのことが嬉しくて自然と顔が笑顔になる、そして私は歌っている女の子がいるだろう教室に
ようやく辿り着いた。





教室のドアは開いていたのではっきりと一人の女の子の姿が見えた。
オレンジ色に染まった教室で窓辺に立って歌っている女の子、長い黒髪をポニーテルにして、
背筋良く立っている。
その整った横顔はまるで外人のようで、あまりに綺麗だったので少しの間見惚れてしまった。
女の子は私の存在に気づかず高らかに歌い続けている、その表情と歌声からこの子はなんて
歌に愛された子なのだろうと思った。


そしてあまりにも女の子が楽しそうに歌っているから私は抑えきれなくなり、突然すぎるとは
思ったけど女の子の歌に参加した。
それは合唱曲ではかなり定番となっているもので、谷川俊太郎先生の作詞で有名な曲だった。
中学の時に歌っただけなので歌詞を思い出すのに少し時間がかかったのが、女の子がサビに
入る直前でどうにか思い出した。

689 :青春大通り :2010/04/19(月) 16:41


「この気持ちは何だろう・・・・・・この気持ちは何だろう」


女の子がアルトパートを歌っていたので、私はソプラノパートを歌い女の子の声に対して
上手く重ねる。
当然いきなり知らない人が歌に参加してきたので女の子はかなり驚いていた。
だから少し音程が狂ったけれどそれでも歌うことを止めなかった。
私は女の子に微笑みかけながら歌い続ける、すると女の子は歯を見せて嬉しそうに笑って
より高らかに歌う。
二つの声は綺麗に重なり合って教室中に響き渡る。
私は歌いながらやっぱりこの子が欲しいと強く思った。



『声にならない叫びとなってこみ上げる・・・・・・この気持ちは何だろう』


歌い終わると重なり合った二人の声が静かに消えていく。
でもその余韻は消えることなく私の中に吸い込まれていき、清々しいほどの達成感で
胸が満たされる。



女の子も気持ち良さそうな顔をしていた。
自分の力を精一杯出し切ったときか心の底から楽しんで歌うと、いつもこんな感じで
心の中が満たされる。
この感覚を私は最近味わっていなかった、多分去年の初出場したアノコウタ以来だと思う。
でもこの子といればいつだってそれが味わえる。
根拠はないけどそう思った、そしてその考えに間違いはないと確信していた。


690 :青春大通り :2010/04/19(月) 16:42
「ねぇ、合唱部に入って!あなたと一緒に歌いたいの!」
私は女の子に駆け寄るとその両手をしっかりと握ってから少し早口で言った。



「えぇっ?!」
「あっ、えっと・・・・ごめんね?いきなりこんなこと言っちゃって・・・・・」
「いいよ、入る」
「えっ?」
「だから入るよ、合唱部」


女の子は私の誘いに二つ返事でOKしてくれた。
それがあまりにも即答だったから逆に私のほうが戸惑ってしまった。
教室で一人歌っているくらいだから歌が好きなのは分かるけど、まさかこんなに簡単に
良い返事を聞かせてくれるとは思っていなかった。




「ねぇ名前は?」
「えっ?名前って・・・・・私の名前ってことだよね?」


いきなり目の前で声がしたかと思って顔を上げると、女の子が目を輝かしながら聞いてくる。
その目は好奇心旺盛な子どもみたいだった。
蛙でも泥だんごでも興味があったら何にでも手を伸ばす、そんな幼くて純粋な子どもの目に
私には見えた。

691 :青春大通り :2010/04/19(月) 16:43
「うん。そう」
「そういえば自己紹介がまだだったね、私は三年の水島果菜。合唱部の部長は私だから」
「へぇー、部長さんなの?すごいね!」
「別にそんな凄いもんじゃないよ。それよりあなたは?」
「あたし?私は一年の長雲学子」



女の子は少し自慢げに胸を張って名前を教えてくれた。
珍しい苗字だなと思ったけど、でもどこかで聞いたことのあるような気がする苗字だった。
でもそのときは特に何も言わずただ彼女の名前と学年を頭の中に入れた。
そして忘れないように三回くらい頭の中で繰り返し唱えた。





長雲学子、この名前を生涯私は忘れることはないと思う


692 :とりあえず名無し :2010/04/19(月) 16:43

693 :とりあえず名無し :2010/04/19(月) 16:44

694 :とりあえず名無し :2010/04/19(月) 16:45
短いですがキリがいいのでこの辺で
695 :とりあえず名無し :2010/06/08(火) 16:37
りしゃキャプというか、ゲキハロの学子×果菜の続きです
696 :青春大通り :2010/06/08(火) 16:39
学子が合唱部に入ることが決まり一時は喜んだものの、それはぬか喜びに過ぎず私は
後日少し重い足取りで職員室へと向かっていた。
なぜ気まずいかというとまず合唱部の入部締め切り日が過ぎているということ、でもそれに
ついては強引に押し通せば何とかなると思う。
それ以上に不安なのが入部審査だった。
他の部活動はともかく、合唱部はこの私立弁天女学園の中で一番の歴史と伝統を誇る部活
なので入るのには審査というかテストみたいなものがある。
それに学子が合格しなければいくら部長の私が推しても部には入れない。
学子なら間違いなく合格するとは思うけれど、全ては顧問の千駄木先生次第なので絶対とは
言い難い。



千駄木先生は悪い先生じゃないけど、合唱の事になると熱が入りすぎるというか色々と
こだわりがある人だった。
それに少しスパルタなところがあるので辞めていく生徒も少なくない。
でも毎年アノコウタで上位にいけるのは先生の指導の賜物だと思うし、尊敬している
部分もある。
とりあえず私は全力で学子を推そうと心に決めて私は職員室のドアをノックした。




「失礼します」
そう言ってからドアを静かに開けて軽く頭を下げてから中に入る、それから千駄木先生の姿を
探し出すと近づいて声を掛けた。



「あの千駄木先生、今お時間よろしいですか?」
「あぁ、水島か。どうかしたのか?」
「部活のことでちょっとお話がありまして・・・・・・」
「合唱部のことか?」
「はい」



千駄木先生は私の方に椅子を向けて話を聞いてくれる体勢になってくれた。
でも話が合唱部のことだと言うと右の眉毛がピクッと動いた。
それを見てやっぱりこの人は合唱部命だなぁなんて思うのと同時に、学子について話を
切り出しても大丈夫だろうかと不安になる。
でも学子は絶対に合唱部に欲しい、千駄木先生だって学子の歌を聞いたらそう思うはずだと
自分に言い聞かせて私は口を開いた。


697 :青春大通り :2010/06/08(火) 16:39
「合唱部に入れたい一年生がいます」
私は小さく深呼吸すると、先生の目を真っ直ぐ見つめてからはっきりと言い切った。



「もう入部締め切り日を過ぎているのは知っているな」
「はい、分かっています。それでもその子を入れたいんです。入れて絶対に損はないと
思います」
「・・・・・・そうか。水島がそれ程までに推すということはできる奴なんだな」
「はい。まだ荒削りですがその子の可能性に賭けたいと思っています」
「分かった。明日の放課後にそいつを音楽室まで連れて来い」
「ありがとうございます!千駄木先生!」
「いや俺はお前の頼みだからというわけではなく、その、いや、一人の合唱部顧問としてだな・・・・・」


意外にも簡単に入部審査を受けさせてくれることが嬉しくて、私は気分が舞い上がって
しまい先生の話を最後まで聞かずに職員室を出た。
そしてすぐにでもこの良い知らせを学子に聞かせてあげたいと思った。


698 :青春大通り :2010/06/08(火) 16:40
翌日の放課後、私と学子は音楽室で千駄木先生が来るのを待っていた。
学子は特に緊張している様子はなくさっきからピアノを弄って遊んでいる。
逆に私の試験じゃないなぜか緊張してきて、さっきから鼓動がどんどん早まっていくのを
感じていた。


「ねぇ、学子は緊張とかしないの?」
「えっ?うん。しないよ」


私はすぐに質問したのが間違いだったことに気づくと軽く溜め息を吐き出す。
良く言えば大物ってことなんだろうけど、緊張感が足りないのはあまり良いことでは
ないと思う。


そんなことを考えていると、ピアノに飽きたのか学子が小走りで私のところまで
やってくる。
そして私の顔を覗き込むとなぜだか不思議そうな顔をする。
もしかして自分が何か変なことしたかなと思って考えていると学子が口を開いた。



「果菜は歌うとき緊張するの?」
「うん、本番のときはやっぱりするかな。だってアノコウタとかだとさ、すごい大勢の人が
自分達を見ているわけだし」
「ふーん、そうなんだ・・・・・・でもなんかそれってもったいないね」



あっけらかんとした学子の言葉に私は思わず面食らう、そんなこと言われたのは
初めてだった。
誰だって大舞台立てば緊張するし、誰に言っても「仕方ないね」みたいな感じだった。
でも学子は違った。
勿体無いなんて今まで誰にも言われたことがなかったし、そういう考え方をしたことすら
なかった。


699 :青春大通り :2010/06/08(火) 16:40
「勿体無いってどういうこと?」
「だって歌ってるときってすっごい楽しいから!緊張なんかしたらもったいないよ」


その言葉は真っ直ぐ私の心を貫いた、それだけ革命的な言葉だった。
でも言われてみれば納得できる。
学子からすれば好きなことをしているのに緊張する必要なんてない、逆になんで緊張
するのか分からないんだと思う。
だからさっき学子は不思議そうな顔していたんだなと思った。




「そうだね・・・・・・歌は楽しいものだから、緊張する必要なんてないんだよね」
「うん。歌は楽しめばいいんだよ。だからあたしは合唱部に入ったんだもん」
「えっ?」
「あたしは果菜と歌ってすっごく楽しかったよ。この人ともっと歌いたいと思った。
だから合唱部に入りたいと思ったんだよ?」


学子は無邪気に笑いながら私の手を取って握る。
歌を歌う身としてこれほど嬉しい言葉はない、というか最高の口説き文句だと思った。
私は手を掴まれたまま学子の胸に突っ込むように飛びついた。

700 :青春大通り :2010/06/08(火) 16:42
「か、果菜?!」
「学子、大好き!!」


突然抱きついたので当然学子はひどく驚いていた。
でも好きだと告げると歯を見せて嬉しそうに笑う、あまりに嬉しそうに笑うから釣られて
私も笑顔になった。



「んっ、んんっうん!」
そうして2人で笑い合っていると、不意に男の人の咳払いが聞こえて私と学子は同時に
顔を向ける。
するとしかめっ面の千駄木先生がドアの前に立っていた。
私達は慌てて体を離すと横に並びになり両手を腿の横に置く。



「・・・・・・この子が水島推薦の子か?」
「そうです。ほら学子!」
「な、長雲学子です!よろしくお願いします!」



千駄木先生は値踏みするような視線で学子を上から下まで見る。
私は少しでも印象が良くなるように後ろから学子の背中を軽く叩く、すると焦りながらも
自己紹介してから頭を下げた。



「長雲?・・・・・・まぁいい、それじゃ早速だが歌ってもらう。曲は何でもいい、
好きなやつを歌ってくれ」
「はい。それじゃあれを歌います」
「あれって何だ。題というか曲名は」
「忘れました」
「忘れたぁ?歌を歌う者が大事な曲名を忘れるなんてなぁ・・・・・・」
「せ、千駄木先生!学子はちょっと緊張してるんです。多少は大目に見て頂けませんか?」
「ま、まぁ、仕方ない。ここは水島の顔を立てて良しとする」




一見険悪な雰囲気になったけれど何とか私が宥めて大事にはならなかった。
初めて会ったときから何となくそんな気はしていたけど、学子は年上に対しての礼儀とか
遠慮をしない。
だから千駄木先生に紹介するときもそこの部分が不安だった。
でも学子の歌を聞けばそんなことはどうでも良くなると思う、礼儀は確かに大事だけど
絶対学子のことが欲しくなると思う。




そして私のその予感は見事に的中した



701 :青春大通り :2010/06/08(火) 16:45
学子は私と初めて会ったときと変わらず楽しそうに歌う。
その伸びやかで真っ直ぐな声は何度聞いても心が震える、この子が欲しいと思わせる。
そして一緒に歌いたいと思わせる声だと思った。
始めは渋い顔をしていた千駄木先生だったけど、学子の歌を聞いた瞬間目を見開いた。
それからすぐにまた気難しい顔になったけれど私は見逃さなかった、先生の口端が密かに
上がっていたことを。
それを見て私は学子が試験に合格したことを悟った。





「・・・・・入部を許可する。お前はこの弁天女子学院合唱部に絶対必要な人材だ」
「やったぁ!!やったよ、果菜!」
「うん。おめでとう、学子」


合格を告げられて学子は私に抱きつくと本当に嬉しそうに笑う。
私もまるで自分のことのように嬉しくて、私達は互いに手を取り合って喜んだ。
それから千駄木先生は明日の練習から学子に参加するように言った。
私もそうだけど学子も早く歌いたいらしくて、その言葉を聞いた途端小さくガッズポーズを
していた。
それから先生は私に「長雲のことは頼んだぞ」と言って音楽室から出ようとする。
でもドアに手をかけたとき、ふと思い出したかのように後ろに振り返って口を開いた。




「なぁ長雲、一つだけ聞いていいか」
「はい。何ですか?」
「お前はあのピアニストの長雲兜太と何か関係があるのか?」
「えっ?長雲兜太はあたしのお兄ちゃんですけど」
「珍しい名前だから親戚くらいに思っていたが・・・・・・まさか兄とはな」



長雲兜太、たまにワイドショーとかで取り上げられる天才イケメンピアニスト。
あんまり詳しくは知らないけれど、イケメンの前につく天才の名の通りに幼い頃から
数々の賞を取ってきたくらいは知っている。
どこかで聞いたことがある苗字だと思っていたけど、まさか学子のお兄さんがあの
長雲兜太の妹とは思わなかった。

702 :青春大通り :2010/06/08(火) 16:46
「期待しているぞ、長雲」
千駄木先生は音楽室のドアを閉めるとき、私達に背中を向けながら呟くようにそう言った。
先生が個人に対してそういう風な言葉を言うのはとても珍しいことだった。
それだけ学子の実力を認めているということだし、言った通り本当に期待していると思う。




それに対して学子は至ってマイペースで、鼻唄のメロディーに乗せて「早く歌いたいなぁ」
なんて言っている。
あまりにも先生と学子が対照的なので私は軽く吹き出してしまった。
すると学子は鼻唄を歌うのを止めて私の顔を覗き込んでくる。




「ん?何か面白いことでもあった?」
「ふふっ・・・・・うん、あった。っていうかこれからたくさんある気がする」
「えー?何それ?」



これからもっと歌うのが楽しくなると思うと私は嬉しくてたまらなかった。
だからさっきの学子のように今度は私が鼻唄で歌いだす。
すると学子は小首を傾げていたけど、少ししてから一緒になって鼻唄で歌いだした。





私は学子と歌えば楽しくなると思っていた、でもそれはあまりに単純すぎる考えだった




703 :とりあえず名無し :2010/06/08(火) 16:46

704 :とりあえず名無し :2010/06/08(火) 16:46

705 :とりあえず名無し :2010/06/08(火) 16:47
秋にやるベリのゲキハロが始まるまでには終わらせたいです


706 :名無し飼育さん :2010/07/29(木) 22:21
期待しております
707 :とりあえず名無し :2010/09/22(水) 15:33
気がついたら最後の更新から三ヶ月過ぎてました・・・・・


なかなか更新できなくてすみません
ゲキハロ始まるまでにと思っていたら、あっさり始まってしまったので
急いで書いて終わらせました




>>706さん

お待たせして申し訳ないです
期待に応えられている作品になっていれば嬉しいです



708 :青春大通り :2010/09/22(水) 15:35
「さっ、学子。自己紹介して」
「えっと・・・・・長雲学子です。よろしくお願いします」

千駄木先生の許可を得て学子を合唱部に入部した。
一応初顔合わせのときに自己紹介をさせたけれど、拍手は若干まばらだったような気がする。
部員募集の締め切りを過ぎたのに入ってきた子として、注目されていることは私の耳にも
入ってきていた。
多少はギクシャクするかなとは思っていたけれど、私の予想より学子が合唱部に馴染むには
時間がかかりそうだった。



「ねぇ、歌おうよ。果菜」
「ちょっと学子!まず千駄木呼吸法をしないとダメだよ」
「何それ?」
「うちはそれをやってから発声練習して、その後ようやく歌に入る決まりだから」
「えー!そんなことやらないといけないの?」



学子は本当に自由奔放だった。
私は学子が歌が上手いことを知っているし期待もしている、でもあまりに自由すぎるのは
団体行動をするとき困る。
学子の歌を聞いて部員達は実力を認めたのか皆驚いていた。
でもいくら実力がだからといって何でも好き勝手やっていいわけじゃないし、私も部長として
当然学子をルールに従わせないといけない。
だからあまり馴れ合ったらいけないと思い、部活内では少し厳しく接しようと心に決めた。
そして私は皆の前では「学子」とは呼ばず「長雲」と呼ぶことにした。



709 :青春大通り :2010/09/22(水) 15:37
私が音楽室に入ると部員達が固まって喋っているのがまず視界に入ってきた。
でも当然のようにその一団の中に学子はいなくて、軽く辺りを見回して探すと窓辺に立って
外を眺めているのを見つけた。
唇を突き出し少しふて腐れたようなその顔は、まるでつまらないと書いてあるかのように
見ただけでその心情が分かる。
入部してからもうすぐ二週間が経つけれど学子と部員達の間には未だに壁がある。
学子は本当に天真爛漫で自由なところがあるから、受け入れにくいという気持ちは
分からない
わけでもない。
でも決して悪い子ではないのになぁと思って私は小さく溜め息を吐き出した。



「おはようございます、部長」
部員達は私が来たことに気がつくと、一斉にこちらを向いて声を揃えて挨拶する。


その声に学子は私が来たことを知って勢い良く顔を向ける。
「果菜!」
まるでさっきまで蕾だった花が咲いたように笑って、学子は私のところへ小走りに走って
やってくる。
本当ならそのまま抱きしめたかった。
でも部長の私が一人の部員を贔屓するわけにはいかないし、そうすることで学子は
さらに孤立してしまうと思った。



だから私は両手を前に出して学子を止めるとさり気なく体を後ろに引く。
「お、おはよう、長雲」
「えっ・・・・・」
そのとき初めて「学子」ではなく「長雲」と呼ぶと、学子は最初意味が分からなかった
のか小首を傾げていた。
でも何を思ったのかは知らないがすぐに今にも泣きそうな顔をする。




「あ、あの、学子・・・・・」
「部長、今日は何をするんですか?」
「えっ?あ、あぁ、今日はまず千駄木呼吸法をやって、その後は、えっと、前回と同じ
曲をやろうかな」


私は学子の態度が予想外でかなり動揺してしまった。
ただ呼び方を変えただけなのに泣きそうな顔をされるとは思わなかった。
だから何かフォローしようとしたら、部員の一人が話しかけてきたのでそちらに答えていて
学子の相手を全くしてあげられなかった。
話がようやく終わってウォーミングアップに入る頃には、学子は私から一番離れたところの
アルトパートの列に加わっていた。

710 :青春大通り :2010/09/22(水) 15:38
結局学子はその後一回も私と目線を合わせてはくれなかった
やりすぎたかなぁとかちゃんと説明してからするべきだったかな、などと考えていたら
全然集中できなくてミスを連発してしまった。
「部長らしくありませんね」なんて皆は笑って許してくれたけど、我ながら不甲斐なくて
先代の部長に申し訳ないなと思った。
それでも何とかその日の部活は終わり、一年は簡単な掃除があるので私は学子が出てくるまで
音楽室の外で待っていた。



そしてようやく出てくると思うと学子は一瞬だけ私を見たものの、すぐに顔を正面に向けて
足早に行ってしまう。
どうやら相当怒っているらしい。


私はどんどん遠ざかっていく学子を慌てて追いかけた。
「ちょっと!ちょっと待ってよ、学子!」
少し本気で走ってどうにかその隣に並ぶと、腕を掴んで強引に足を止めさせる。



「なんでさっきそう言ってくれなかったの?」
「えっ?」
「果菜、部活のとき長雲って呼んだ・・・・・なんで?どうして?果菜もあたしのこと
嫌いになったの?」
「嫌いになんてなってないよ!」
「本当に?」
「うん。私は学子のこと好きだよ」
「果菜ぁー!」


学子は私に抱きついてくると、大事なぬいぐるみを抱きしめるようにギュっと腕の中に
閉じ込める。
そして肩に顔を埋めてくるので私は優しくその頭を撫でてあげた。
学子はそれから少しだけ泣いた。


711 :青春大通り :2010/09/22(水) 15:39
「落ち着いた?」
「・・・・・・うん。いきなり泣いちゃってごめんね?」
「うんん、私の方こそ何にも説明してなくてごめん」
しばらくして泣き止むと少し落ち着いたのか学子はゆっくりと私から離れる。
それからゆっくりと顔を上げるとはその目は真っ赤で、不謹慎だとは思ったけどウサギ
みたいでちょっと可愛いなと思った。
でもそれはさすがに本人には言えないから微笑みながら学子を見つめていた。


そして心身ともに落ち着いたようなので、私は「学子」から「長雲」に変えた理由を
ちゃんと説明する。
すると学子は泣き腫らした目を擦りながら何度も頷いてちゃんと聞いていた。




「分かった。あたしの為にしてくれたことだったんだね」
「まぁ大きく言えばそうなるのかな」
「そっか。良かった。果菜まで離れていっちゃうと思ったらすっごく怖くて、すっごく
嫌だって思ったから」
「・・・・・・学子」


学子は私の話を理解すると安心したように笑った。
その顔を見て「長雲」という言葉は学子を拒絶する言葉で、あまりにも安易に使って
しまったことを後悔した。
学子は確かに自由奔放で我が強い性格に一見見える、でもその実とても繊細で孤独を
嫌っている子だった。




「うちね、両親が音楽関係の仕事してるから小さい時からいないことが多かったんだ。
兜太お兄ちゃんも遠征とかでいないこと多くて。まぁそういうときは大体葉子のところに
行くんだけど、葉子とおじいちゃんが迎えに来てくれるまでずっと家で一人ぼっちで、
それがすっごく怖いからずっと歌ってた。歌ってると全然怖くないんだよね。なんでかな?」



学子は普通の会話のように平然と自分の家の話をする。
私はすぐに言葉が出なくて、ただ学子は私が思っていたよりもずっと孤独で強い子だった。
学子は間違いなく歌に愛されていると思う。
でもそれは幼い頃からきっと今も歌に愛を求めていて、そうしてずっと歌ってきたから
歌は学子を愛してくれるのだと思った。



712 :青春大通り :2010/09/22(水) 15:40
私は学子について何も知らなかった。
まだ知り合って一ヶ月しか経ってないのに知った気になって、勝手に壁を作って傷つけて
しまった。
そのことに気づいたらすごく悔しくて悲しくなって、それから突然胸の中が意味も分からず
とても熱くなった。
私はさっきとは反対に自分から学子に抱きついた。



「学子!ごめん!」
「えっ?えぇぇぇぇ!!か、果菜?!どうしたの?急に」
「なんか・・・・・・なんか色々とごめんね、学子」
「ん?うんん、全然大丈夫だよ。よく分からないけど、あたしは大丈夫だから」
「・・・・・・うん」


学子は私を抱きしめながら目を細めて柔らかく笑う。
その笑顔を見たら不思議なくらい安心できて、なぜだか少し泣きそうになった。
でもここで泣いたら本当にさっきと逆になっちゃうなと思ったら少し笑えてきて、私は軽く
吹き出すと学子の背中を軽く叩いてから体を離した。




「そういえばさ、さっき言ってた葉子って学子の友達?」
「葉子は葉子だよ」
「いや、私はその子と知り合いじゃないから」
「あっ、そっか。なら紹介するね」
「うん、ありがとう」
「じゃ行こう。多分まだ校内にいると思うから」


学子は私の手を引っ張ってそのまま歩き出す。
私は後日その葉子さんって人を紹介してくれるものだと思っていたので、まさか今日
会うなんて考えてもいなかった。
学子は右手で私の引っ張りながら左手でポケットから携帯電話を取り出す。
それを見て意外に器用だなと思っていると学子が話し出した。



「葉子、まだ学校の中にいる?・・・・うん・・・・うん。えっ?玄関前?ちょっと
そこで待ってて!今果菜を連れて行くから・・・・・えっ?果菜って誰かって?果菜は
果菜だよ・・・・・うん、とにかく今から葉子のところまで行くから待ってて」
学子の電話をしている相手はどうやらその葉子さんらしい。
でも電話越しから微かに聞こえる相手の声は私と同じ反応で、きっと良い友達になれそうな
予感がした。



713 :青春大通り :2010/09/22(水) 15:42
「学子がいつもお世話になってます。2年の服部葉子です」
「えっと・・・・・・3年の水島果菜です」
玄関前では立ち話も何なので、近くの談話ルームに移動してから簡単な自己紹介をした。



学子に紹介されて会ってみると何度か校内で見かけたことがある子だった。
背も高くて長い黒髪に綺麗な顔立ちをしている子で、その凛とした佇まいから近寄り
がたい感じがして話をしたことは一度もなかった。
でも話をしてみると普通に真面目で感じの良い女の子だった。





「それじゃ果菜さんはあの合唱部の部長なんですか?」
「うん、そうだよ。それより果菜でいいよ、学子も私のことそう呼んでるから」
「いや先輩ですから呼び捨てなんてできません」
「えー、果菜は果菜じゃん。葉子もそう呼べばいいのに」
「学子はもっと年上を敬いな。水島先輩は3年生でおまけに部長なんでしょ?」
「でも果菜は果菜だもん!」



葉子ちゃんに怒られて学子は少し不貞腐れたような顔をする。
すると葉子ちゃんは小さく息を吐き出しから少し困ったように笑う、すると学子は歯を
見せて嬉しそうに笑う。
そんな2人を見て、言ってはいたけど幼馴染みなんだとなぁと改めて思った。
2人には2人だけの時間があって、きっと葉子ちゃんは私が知らない学子をいっぱい
知っている。
それは当然のことなのに私はそのとき少しだけ悔しいなと思った。


714 :青春大通り :2010/09/22(水) 15:43
「果菜?どうかした?」
「えっ?」
「今、なんか悲しそうな顔してた」
「そう?全然大丈夫だよ、ちょっと考えことしただけだから」
「ならいいんだけどさ」


ふと我に返ると学子が私の顔を覗き込んでいた。
そんな悲しそうな顔をしていたのかは自分では分からないけれど、学子が心配そうに私を
見つめるから笑って適当に誤魔化した。
それでもまだ学子が不安そうな顔をしているから軽く頭を撫でてあげる。
するとようやく学子が笑ってくれて、笑顔を見れたことが嬉しくて私も笑顔になった。






「それじゃ交流を深めるのも兼ねてどこか食べに行かない?」
「いいね、それ!賛成!」
「えっ、いいんですか?買い食いなんて見つかったら色々と言われそうですけど・・・・・・」
「まぁ見つかったらね。それとも葉子ちゃんはこういうの嫌い?」
「いや、好きです。好きというか、誘われたこととかあんまりないんでそれだけで
嬉しいです」
「よし!それじゃ皆で買い食いしよう!」
『学子、声が大きい!』


はしゃぐ学子を私と葉子ちゃんが注意するとその声が綺麗に重なって、私と葉子ちゃんは
顔を見合わせると声を出して笑った。
それから私達は普通の女の子と変わりなく騒ぎながら玄関に向かって歩き出す。
学子といるときも楽しいけれど、こうして3人でいるのも悪くないかなと思った。






その日、新しい友達が一人増えた




715 :青春大通り :2010/09/22(水) 15:44
ある日の放課後、私は校舎の階段を勢い良く駆け上っていた。
千駄木先生にアノコウタで歌う曲の候補を見せに行ったら、思っていたよりも時間が
かかってしまった。
どうせ大して時間がかからないと思っていたので私は音楽室で学子を待たせていた。
だから先生との話が終わると私は急いで職員室を後にした。
でも肩で息をしながら音楽室のドアを開けたけれど学子の姿はなくて、代わりに二年の
榎本かおりがピアノを弄って遊んでいた。



そんなに大きい部屋ではないのでいないのは分かっていたけれど、私は念のために
もう一度辺りを大きく見回す。
「はぁ・・・はぁ・・・・あ、あれ?・・・・・学、いや長雲は?」
走ってきたので息も絶え絶えになりながらも、どうにか声を絞り出してかおりに学子の
ことを聞く。




「長雲ならトイレ行ってきます、って言ってさっき出て行きましたけど?」
「あー、そうなんだ。行き違いになっちゃったのかな」
「・・・・・・部長って本当に長雲のこと好きっていうか、すごく大切にしてますよね」
「えっ?そ、そりゃまぁ我が部の期待の星だし」
「それにしても少し甘やかしすぎだと思うんですけど」
「うっ」


私は言葉に詰まってすぐ返答できなかった。
かおりのことは別に嫌いじゃない、ただ結構思ったことをストレートに言う子だから
少しだけ苦手だった。
それに意外と鋭いところをついてくるのも苦手に感じてる理由の一つだったりする。
でもピアノを弾けることもあって音程感は良いし、声は少し線が細いけれど綺麗で伸びがあり
音域もかなり広い。
実力は私よりもある子だし学子が入ってくるまでは彼女が一番だった。


716 :青春大通り :2010/09/22(水) 15:46
「えっと・・・・・・私って、そんなに甘やかしてるかなぁ?」
「甘やかしてますね」
さり気なく聞いた私の質問はかおりに即答でばっさりと斬られた。
別に自覚がないわけじゃなかったけど、さすがに即答されると少しだけ胸が痛む。





「で、でも皆の前では長雲って呼ぶようにしてるし」
「それぐらいですよね」
「いや、うーんと・・・・・・ま、まぁ今のところはそうかな」
「別にいいですよ、長雲を贔屓しても。彼女はこの部で一番の実力者だし、大切にしたい
っていう部長や千駄木先生の気持ちも分かります」
「えっ?」
「でも私はもう少し他の部員のことも考えるべきだと思います。正直言って長雲が入って
きてから皆の士気が下がってきてると思います」



私の言う事はかおりに大概正論で返される。
そして冷静に意見されるとたまにどちらが部長だか分からなくなる。
でもかおりの最後の言葉だけは間違っていると思ったから、私ははっきりとした口調で
反論した。



「確かに長雲が入ってきたことで部は乱れたと思う。でも私は士気が下がったとは思わない。
だって皆歌ってるときすごく楽しそうに歌うようになったよ、それって長雲のお陰なんじゃ
ないのかな」
自分の意見を告げるとかおりは静かに私から目線を逸らし、皆がいつも歌っている場所を
見つめる。


学子が入る前の部員達はどこか綺麗に歌おうとしていた気がする。
でも学子は自分がその曲から感じたままに感情を込めて歌う、少し音程がずれたり荒いと
思うときもある。
皆の輪からズレているといえばそうだけど、でも学子は単純にその曲を愛している。
それが少しずつでも伝わったのか、最近は歌っている最中も楽しそうな顔をする部員達が
増えたように思う。
そして私は横目で皆のその顔を見ることを密かに最近の日課にしている。



717 :青春大通り :2010/09/22(水) 15:47
「・・・・・・・前言撤回します」
「へっ?」
「さっきのは多分嫉妬です。本当は私も分かってました、長雲が入ってきてからみんなが
すごく楽しそうに歌ってるってこと」



私はかおりの自分の間違いをちゃんと認めて謝れるところが好きだった。
間違いを認めるにはとても勇気がいることだし、それを相手に向けて言えるのは本当に
凄いことだと思う。
かおりは良くも悪くもまっすぐで自分の意見をはっきり持っている、そしてもし違ければ
ちゃんと謝罪してくれる。
こういう子が部にいて本当に良かったと私はいつも思う。




「ありがとう、かおり」
「でも長雲に甘やかしすぎるのは直したほうがいいと思います」
「いや、その・・・・・分かってはいるんだけどねぇ」
「千駄木呼吸法だって100回くらいしかやらせないし、ストレッチも軽めだし、多少
音程がズレていても黙認してるし、後は・・・・・・」
「もうそれくらいにしてもらっていいかな?以後気をつけます」



ダメ出しを言うとキリがなさそうだったので私は自分から折れた。
そしてかおりは少しだけでいいから人に優しくした方がいいなと思った。
でも言われていることは全部事実だし、私はもうちょっと学子に対して厳しく接しないと
いけないなと思った。




718 :青春大通り :2010/09/22(水) 15:48
私は深い溜め息を吐き出してから軽く項垂れる、すると突然大きな音を立てて音楽室の
ドアが開かれる。
「カオリン!果菜をイジメちゃダメ!」
と入ってくるなり学子は私の前に立つとまるで庇うように大きく手を広げる。




「別にイジメてなんてない」
「えー?本当に!」
「本当に決まってるだろ、バカ1年!」
「バカじゃないよぉ!もうー、カオリンはすぐにバカって言うからヤダ」
「だからカオリンって呼ぶな、長雲」
「ほら二人ともケンカしないの。同じ合唱部同士仲良くやらなきゃ」



私が諭すように言うと長雲は「はーい」と手を上げて大きく頷き、かおりの方はまだ少し
不満そうだったけれど一応小さく頷いてくれた。
長雲とかおりはたまにこんな感じでケンカというか言い合いをする、だから仲が悪いと勘違い
している部員もいると思う。
でも私は意外に二人は良いコンビだと思っているし、声の相性も結構良いからアノコウタに出る
ならこの三人かな、なんて密かに考えていたりする。
それに何よりこの三人でいるのが個人的にちょっと好きだった。





こうやって卒業するまでの間ずっと騒いでいけると思っていた、そう信じて私は疑った
ことすらなかった。




719 :青春大通り :2010/09/22(水) 15:49
「・・シャン・・・ハイ?上海ってどういうことなの、お父さん!」
家に帰ってくるなり父から告げられた突然引越しするという話、それも国内ではなく
中国の上海という事だった。




「父さんも色々頑張ったんだがな、もう日本じゃ仕事じゃないんだ」
「そんな・・・・・・」
「それで上海にいる知り合いが仕事を紹介してくれるっていう話があって、父さんは
行こうと思ってる」
「それってもう決まったことなの?」
「別に無理には言わないさ。お前が日本を離れたくないというのなら、親戚のおばさんの
所に行っても構わない。それに多少退職金もあるからそれを使って一人暮らししてもいい」
「そんなことできるわけないでしょ!退職金使ったらお父さん達が困るし、私はそこまでして
日本に残りたいとは思わない」
「・・・・・・父さんも本音を言うなら一緒に上海に来てほしい。今まで家庭より仕事を
優先してきた奴の言えるセリフじゃないが、どうしても家族とは離れたくない」



父は今まで家庭を顧みない仕事一筋の人だった。
でも私も母もそれに対して養ってもらっている身だから何も言わなかったし、ただひたすら
仕事に打ち込むストイックな父を誇りに思っていた。
そんな父がリストラになったというだけでも衝撃的だったのに、新しい仕事先が上海と
聞いてさらに鈍器で殴られたような気分だった。




本当なら上海に行くべきだと思う。
それが家族の為にも良いことだというのは分かってる、でも頭に学子の顔がちらついて
私は素直に頷くことができなかった。
あの子を一人にしてしまう、一人でいること一番嫌がっている学子を独りにしてしまうことが
不安で心配でしょうがなかった。


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