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別れましょう、と彼女が言った。

1 :フカイ :2008/03/07(金) 03:46
初めまして。
中澤さんと保田さんで2000年〜2001年頃のお話を。
更新のスピードは遅めになるかと思いますが、気長に何方かお付き合い頂ければ幸いです。
どうぞよろしくお願い致します。
132 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/03/07(土) 23:57

「圭ちゃん。」

後藤の隣で雑誌を読んでいた人が立ち上がった。
手招くのに、私は未だ人の髪で遊ぶちび達を振り払う。

「あ〜!何処行くんですかぁ、保田さん!」

何処から出したか、ぽんぽん付きのゴムで髪を結わこうとした加護が抗議の声をあげる。

「まだダメですよ〜」

それに続いた辻が腰にまとわり付くので、私はそれに笑ってみせた。

「裕ちゃんに呼ばれてんのよ。あんたも行く?『中澤さん』のとこ。」

瞬間、ビクン!と身を震わせた辻が、そろそろと後退りする。
加護も何か微妙な笑顔を浮かべ、

「のんちゃん、行こ!」

と、何処かへ走って行った。
133 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/03/07(土) 23:58

「…何話したの?」

寄っていった私に裕ちゃんが渋い顔をする。

「嫌われてんのかなぁ?」
「違うよ。怖がってるだけ。」
「…嫌われてるよりはマシなんかな。」

溜息を付く裕ちゃんの肩を元気出してと叩く。

「で、なに?」
「うん。私もマネージャーに呼ばれてんのよ。悪いけどここ、座っといてくれん?」

ここ、と指差したのは今まで彼女が座っていたパイプ椅子。
その隣では後藤がじっと足元を見つめている。

「いいよ。」
「すまんな。」

笑う彼女に笑い返す。
今、私の顔に浮かぶ笑みは多分、彼女と同じ少し困ったようなそれだろう。
134 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/03/07(土) 23:58




135 :フカイ :2009/03/08(日) 00:16

更新させて頂きました。
本文は何とか3月7日に間に合いました…やはり3月7日は特別な日ですので。
あれからもう8年。今も変わらず活躍し続けて下さっている中澤さんに感謝です。
136 :名無飼育さん :2009/03/20(金) 14:36
3月7日当時のことは全然知らないヲタなので、
なんだかここでそれを体験させてもらっているような気分です。
2人だけじゃなく周りのメンバーも気になってきました。
137 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/06/19(金) 15:02





138 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/06/19(金) 15:02


パイプ椅子に荷物を置いてレッスン着に着替え終わるまでの間、
後藤はちらりとこちらを見たり、床に視線を落としたりを繰り返していた。
何か言いたそうに――― 何をと私は知っているから、何も言わない。
椅子に腰掛け眺める楽屋は仲間達のお喋りに満たされ、けれどその活気が後藤の影を際立たせる。

「…ごめんね、圭ちゃん。」

隣に居て漸く聞き取れるくらい、微かな声で後藤が呟いた。
大きな身体が縮こまり、首をがっくり項垂れさせ。

「別に気にしてないわよ?」
「でもゴトウ、圭ちゃんに酷い事した…」

見上げた後藤の視線と私のそれがぶつかった。
愛敬のある大きな目が可哀想にしょぼくれていて、
その様子が何だかとても可愛らしく思えた私は、手を伸ばしその頭を撫でる。

「ごめんね、後藤。」
「何で?」
「…紗耶香のこと引き止められなくて。」

瞬間、後藤の顔がくしゃくしゃっと崩れ、ゴツと音がする勢いで膝へと伏せた。

「優しくしないでよぉ。」
「なんでさ?」
「圭ちゃんに怪我させたのに。」
「怪我のうちに入らないわよ。こんなの。」

今日は長袖のTシャツを着ている左腕に触れてみた。
痛みなんてないけれど――― そこにはくっきり、後藤の指の跡が残っている。
139 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/06/19(金) 15:03





140 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/06/19(金) 15:03

「なんで引き止めないのさぁ!!!」

それは一昨日の昼過ぎ。
どちらかと言えばのほほんとした後藤の目が、声が、見たこともない荒れ方をしていた。
今日と同じく何かの打ち合わせで紗耶香が席を外した後、突然の爆発。
違うのはプッチの楽屋だったことだろう。
二人きり向かい合い、私は後藤に腕を捕られて。

「後藤…」
「圭ちゃん、止めないじゃん!何で止めないの!?」
「………。」
「市井ちゃんいなくなったらいやじゃん!困るじゃん!!なんで!?」

掴まれた腕が骨が、痛みを覚えたけれどそれを振り払わない。
ずっと教育係として傍にいた紗耶香を失う後藤の気持ちは良くわかる。
わかるけれども…。

「…紗耶香にはね、ちょっと前に相談されてたの。娘。を辞めたいって。
 私はね、その時、もうちょっとやって考えてみてって言ったの。
 それで紗耶香はもうちょっとやって、考えてみて、それで決めたんだ。
 だから私はもう、紗耶香のこと止めない。」
「なんでさ!?もう一度止めようよ!!!」


圭ちゃんは市井ちゃんのこと嫌いなの!?
141 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/06/19(金) 15:03

叫んだ後藤のその言葉は、腕なんかよりずっと痛いと思った。
顔を歪ませ、ただ頭を振る。
泣きたい気持ちで、笑いながら。

「嫌いなわけないじゃない。」

同期として入ってきて、同じ楽しいこと・辛いこと・悲しいこととか共有してきた。
仲間なんて以上に…紗耶香のこと、大切な友達だと思っている。

友達が自分の夢に悩む時、私に相談してきてくれた。
それを私は一度引き止めて、友達はその私の願いを聞いてくれた。
そして今、それでも先に行こうとする紗耶香を私は引き止められない。引き止めない。
大事な友達だから。同期だから。仲間だから。

「わかんないよ!!イヤだよそんなの!!!」
「 …何をやってるの!?」

割り込む声に振り向くと、ドアを乱暴に開け放ちマネージャーが駆けてくるところだった。
後藤を私から引き剥がし、掴まれていた私の左腕を確認する。

「! …大丈夫?保田…」
「平気です。」

後藤の手の形が食い込む私の腕。
痛みより――― 後藤の悲しみがどれほど深いのかを示すようで叫びたくなった。
激情を堪え歯を食いしばり、後藤を見ると紗耶香に被さる様にして泣いていた。
わんわん声を上げ号泣する後藤を抱え、紗耶香は私に『ごめんね。』と唇だけで言った。
142 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/06/19(金) 15:03





143 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/06/19(金) 15:03

きゃー!と歓声を上げて、目の前では辻加護が鬼ごっこを開始している。
なっちと矢口も参加しているようだ――― 向こうで圭織も加わりたそうにうずうずしている。

「圭ちゃんは優しいねぇ。」

後藤の呟きにそうかな。と答える。

「それに強いよね。」
「強い?」
「ゴトウに当たられても優しくしてくれるもん。」

後藤の言葉に頬を掻いたのは照れたからではなく…
もしひとりきりで一昨日の事を飲み込み今この態度を示しているのなら、
私は強い人間と言われてよいのかもしれないけれど。




深夜、私は上がり込んだ裕ちゃんの部屋でその肩に凭れていた。
どうでもいい話を繰り返しながら…痣となった左腕を預けて。
裕ちゃんは私が笑えるようになるまで、ずっと肩を貸してくれていた。
大きな後藤の手のかたちに、小さなその手を重ねてくれていた。
144 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/06/19(金) 15:04

参戦を表明した瞬間に鬼とされた圭織が必死の形相で辻を追い回している。
辻の甲高い笑い声が益々大きくなる。

「…圭ちゃんもさ、何時か娘。を辞めたりする?」

走り回るみんなを眺め、後藤が尋ねる。

「そうだね。何時までもずっとはいられないよね。…行きたい所があったら、私も行くよ。」
「ゴトウはずっとここにいたいよ。」
「そうかい?…そうだね。今は、ね。」

私の膝にコツンと後藤の頭が凭れた。
その柔らかな髪を指先で優しく梳いてやる。

「お。え〜なぁ!圭坊。ごっちんに懐かれて。」

その席変わってぇな、と戻ってきた裕ちゃんが笑う。

「やだよぉ!裕ちゃんにしたら何されるかわかんないもん!」

それにニカッと何時もの顔で後藤が言った。
ささっと立ち上がり、そして私に、

「ゴトウも鬼ごっこしてくる!」
「ほいよ。頑張っておいで!」
「いやいや、頑張りすぎんなや?これからレッスンあるんやで?」

元気でええなぁ、若いのは。
妙に年寄り臭い台詞を吐きながら、譲ったパイプ椅子に裕ちゃんが腰掛ける。
145 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/06/19(金) 15:04

「圭ちゃんはいかへんの?」
「私も年寄りだから。」
「二十歳前の娘の言う台詞やないな。」

苦笑う裕ちゃんにありがとう、と告げた。

「ん?」
「後藤のこと。」
「私はなんもしとらんよ。」
「それでも。ありがとう。」

こちらを見上げ笑った裕ちゃんがふいと俯いた。
微笑んだままの横顔が少し疲れていることにその時気が付く。

「裕ちゃん?」

何かあった?と私が訊ねる前に、

「…お礼なら今晩。」
「ん…プッチの仕事の後になるけど。」
「部屋で待ってる。」
「了解。」

エキサイトしすぎて転んだ辻をあ〜あ。なんて、眺める目が揺れていた。
理由なんてここでは聞かないけれど、
細い肩先の様子にまた彼女のストレスの種が増えたのだと私は勘付いた。
146 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/06/19(金) 15:04





147 :フカイ :2009/06/19(金) 15:05
せめてお誕生日はと更新させて頂きました。
36歳、今年はどんな中澤さんを見せて頂けるのか本当に楽しみです。
最近は書き進めては削除しての繰り返しをしています。
長めのお話はやっぱり難しいです…他の書き手の皆さんを本当、尊敬します。

>>136
あの時の何とも表現しがたい大混乱が私の駄文で表し切れるか…
実際の時系列と矛盾が無いよう頑張っておりますが、間違いあったらご容赦くださいませ。
というか、書き進めた後で実際の事件と違うことに気がつき書き直しとかしております。
流石に9年前ともなると記憶が曖昧になりますね。
他のメンバーも大好きなので気にして頂ければ嬉しいです!
148 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/12/06(日) 22:46





149 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/12/06(日) 22:46

タクシーから飛び降りマンションのセキュリティロックを解除する。
すっかり遅くなってしまった…途中、渋滞に巻き込まれたのも痛かった。
車内からメールを入れたけれど、裕ちゃんからの返信はまだこない。
仕事の為であれば怒りはしないけれど、拗ねたふりをされるとちょっと厄介だ。

通い慣れたドアの前でチャイムを鳴らす…無反応。
そうだろうと思ってはいたからポケットに手をつっこみ、鍵の束からまだ新しいスペアキーを選りだす。

「裕ちゃん?」

灯りのない玄関――― 面倒くさがりの家主が切れた電球を変えないだけだ―――
廊下の向こう、リビングから光が漏れている。

「…?」

何時も通り。私の掛けた声に返事をしたり、しなかったり…。
ただ、何か妙に静かな…
彼女の気配が感じられない。そんな違和感。

暗がりの中靴を脱ぎ、細く漏れる光を辿る。
リビングへ続くドアに手を掛けた。瞬間、

「―― !?」

流れだして来たのはあまりにも濃い香気。
呼吸だけで酔いが回りそうなアルコールのそれに思わず口元を手で覆う。
150 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/12/06(日) 22:46

「 …裕、」

ソファーの影から覗く小さな手に思わず駆け寄った。
力なく投げ出されたそれが、まるで血の通わぬ人形の指に見えたから。

お気に入りのソファーに身を埋め、真っ青に血の気の失せた頬。
そっと触れた指を濡らす泣き寝入りの涙。
掌に当たる息が温かくなかったら半狂乱で揺さぶり起こしていたかもしれない。
そんな、あまりに憔悴した姿。

傍らのテーブルで洋酒の瓶が横倒しになっていた。
その口元から琥珀色の雫が滴り、フローリングの床に広がっている。
床に転げたグラスには罅がいっていた。
砕かぬよう、そっとそれを拾い上げ、テーブルの上へと載せる。

何があってこんな飲み方をしたのだろう?
私にだってこの部屋に充満するアルコールの匂いにそれがどれだけ強いものなのか理解できるし、
何の食べ物もなく只呷ったのだろう飲み方が、どれだけ彼女を傷付けるのか…彼女を傷付けたのか。

掛けっぱなしの眼鏡を外してあげた時、すぅっと目蓋が持ち上がった。
素の、彼女の瞳の色。
視線は私の顔の上を滑り、擦れた声が耳に届く。

「 …、来てくれた…?」

首筋に伸ばされる指、甘えた声。
引き寄せられるままに私は彼女と唇を重ねた。
私ではない、誰かの名前を呼んだと気付きながら。
151 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/12/06(日) 22:46

噛み付く歯を、滑り込む舌を好きなようにさせる。
くちづけは明らかに身体を重ねる者同士のそれで、だから私は酷く悲しい気持ちになる。

彼女が待っていたのは私ではないこと。
彼女の待ち人がここにいないこと。

見つめる私の目の前で、伏した瞳が涙を溢していた。
その瞳が開く時、私を認めて絶望するのだろうか?
それが恐ろしくて、私は左の手の平で彼女の目を塞いだ。
そして呟く。低く、溜息のように。

「ごめん。」

「ごめんね、裕…」

彼女の待ち人は彼女をなんと呼んでいたのだろう?
名前を呼び違える、そんな小さな過ちからその人でないと知られるのが怖くて、それ以上その名を呼べなかった。
だから、繰り返す。
遅くなってごめん、と私として。
そして彼女を待たせる誰かの代わりとして。
誰の声にでも聴こえるように囁く。

「ごめん。許して。」

悲鳴を押し殺す、引きつれた泣き声。
背中を弄る彼女の手に、逆らわず私はそのまま答えた。
152 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/12/06(日) 22:47





153 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/12/06(日) 22:47

彼女が再び眠ってしまった後、私はその身体を毛布に包み、テーブルを片付けて部屋を出た。
目覚めた時、待っていた人が来てくれたのだと思う。
そんな奇跡はないだろうけれど、そう思い込める余地があればいいと胸の内に呟く。

嘘ではなかった。強がってはいたけれど。
私たちが凭れ合う理由は悲しみとか遣る瀬なさとか、
一人じゃ飲み込みきれない感情を預け合い、慰め合う為で。
凝り固まる感情を誰かに語ることで楽になることを前から知っていたけれど、
彼女に教えられたことはもっと深いところから心を解かす。

後ろめたさがない訳じゃない。
矢口や紗耶香の誘いを偽の用事で断る時とか、
楽屋での私と彼女はあまり親しくはないメンバーである事とか。

今、私の根底を支える大切な時間を誰かに知られてはならないこと。
それは胸に掻き傷を作るけれど、だけど私はもうこの関係を捨てることなんてできそうになかった。
以前の私は、辛いとか悲しいをどうやってやり過ごしてきたんだろう?
彼女の甘いにおいなしに、
夜目覚めた時、私の手にある細い指先なしに、どうやって苦しみを薄めていたのだろう?
154 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/12/06(日) 22:47

「………。」

車窓を流れる街並に、彼女の待ち人は過去に彼女が凭れた誰かなのだろうと思った。
私との関係が始まる、その前にそうしていた誰か ―――
違いは、多分彼女はその人を愛していたのだろうということ。

誰なのだろう?その人は。
彼女を置き去りに、一体何処へ行ったというのだろう?
こんな苦しい、悲しいの中に彼女を残していくなんて。
あんなに会いたいと泣いているのに。

苛立つ感情に目を閉じた。
こんな酷い事、とても許されることじゃない。
そう思うことがおかしいと気付いていながら、私は顔も知らない彼女の想い人に怒りを覚えていた。
155 :別れましょう、と彼女が言った。 :2009/12/06(日) 22:47





156 :フカイ :2009/12/06(日) 22:48
お誕生日くらいしかどうにかならない自分のヘタレ具合が辛い今日この頃です。
貴重なスペースをお借りしているというのに本当、申し訳ございません。
保田さんは着々とした活動を続けて下さっているので応援している側としてありがたいですね。
公私共に充実されているようですし、とてもよい歳のとり方をしているなぁと羨ましくも思います。

久住さん卒業ですね。
常に同じところに留まらないことが娘。の魅力ですが…やっぱり寂しいです。
157 :名無飼育さん :2009/12/07(月) 00:24
こちらに書き込みさせて頂くのは初めてです。
何か、ずっと前からチェックしてたんですけど、
流れを壊したら申し訳ないなぁ…って思って書き込みを控えていました。

圭ちゃん切ないですね。
作者さんの書き方がすごく丁寧で、話に引き込まれます。
とりあえず、作者さんの話すごく好きです!ってことを伝えたかったんです。
158 :名無飼育さん :2010/01/24(日) 01:02
文章が凄く丁寧で引き込まれます。
二人とも切ないな・・・続き楽しみに待ってます。
159 :フカイ :2010/02/23(火) 03:16
>>157
いつもありがとうございます!
このような駄文を好きと言って頂けて本当に嬉しいです。
そして、毎度毎度お待たせしてしまって申し訳ありません。
投げ出すことだけはしませんので、待ってくだされば幸いです。

>>158
感想ありがとうございます!
丁寧に書くことしかとりえのない駄文書きとして、最高のお褒めの言葉です。
頑張らせて頂きます。


相変わらずの放置で申し訳ございません。
来月辺り更新させていただこうと頑張っていたのですが、
仕事の方で少々トラブルに巻き込まれ文章を書ける状況でなくなってしまいました。
丁寧に書くことを褒めて頂けること、嬉しく思っています。ありがとうございます。
辛い時には頂いた感想を読み返し、自暴自棄にならないよう自制する毎日です。
全てすっきり終わらせて、大好きな中澤さんと保田さんの話を書きたいと思います。
重ね重ね、お待たせしていること申し訳ございません。
160 :別れましょう、と彼女が言った。 :2010/12/06(月) 22:53





161 :別れましょう、と彼女が言った。 :2010/12/06(月) 22:53

睡眠不足に痛む頭を押さえながら開いたドアの先。
耳に響くほど騒々しいはずの楽屋がシンと静まりかえる、
そのありえなさに思わず足が止まる。

楽屋にいるのはなっちに圭織に紗耶香に…石川に吉澤。
部屋の隅に放り投げられている鞄は辻加護の物だから、
あの二人も何処かにはいるのだろう――― いや、きっと逃げたんだな。
テーブルに着き隣り合い、押し黙るなっちと圭織の様子は息が詰まりそうで。
162 :別れましょう、と彼女が言った。 :2010/12/06(月) 22:54

「おはようございます、保田さん。」

私の姿を認め、明らかにほっとした顔の石川がやってきた。
普段なら私に寄り付かない吉澤まで。

「おはよう。…何かあったの?」
「あの―――…石黒さんが結婚するっていうんです。」
「イシグロさん?」

石川の口にした名前が一瞬頭の中を空回り、その音を口にしてみてすぐ、

「…彩っぺ。」

脳裏に浮かぶのは、笑顔華やかな女性の姿。
大人びた雰囲気。
けれど人懐こい顔をするその人は、私の記憶の中で何時も彼女の隣に立っていた。
彼女の――― 裕ちゃんの。

「あの…妊娠されてるそうで…その。」
「誰と?…彼氏さん、でしょ?」

彩っぺの彼氏は知らない人などいない有名バンドのドラマーだった。
昔から彩っぺは彼の大ファンで、
彼がどれほど格好の良い人なのかを目をキラキラさせながら話していた。
そんな人と恋をし、結婚で、子供が出来て。

「…すごいねぇ。」
「すごいじゃないべさ!!!」
163 :別れましょう、と彼女が言った。 :2010/12/06(月) 22:54

頭痛に上手く回らない頭が吐き出す言葉に噛み付かれた。
椅子を鳴らして立ち上がったなっちの顔には、隠す気もないのだろう怒りがある。

「デザイナーになるって言ったのに…
 だから娘。を辞めるって言ったからなっちたち、頑張ってって送り出したのに!!!」
「…、結婚したからってデザイナーになれないってことは」
「旦那さんいて子供いて、それで叶うような夢なの!?」

叩きつけられる怒りの感情に思わず口を噤んだ。
白い頬を高潮させ、端正な顔を怒りに歪ませ。

「娘。を捨てなきゃ叶わない夢なのにそんなことしていられるの!?
 そんなことで手に入るものじゃないのに!!!
 彩っぺは私たちに  ッ――…」

ぎゅっと、なっちの腕を圭織が掴んでいた。
余程の力なのだろう…なっちの顔が怒りから痛みに歪む。

「痛いよ、圭織。」
「………。」
「離してよ。」

大きな瞳からぽろぽろ涙を零しながら、けれど圭織はその手を離さなかった。
多分、なっちにそれ以上言って欲しくなかったんだろう。
それがどんな言葉でも、なっちのこんな声で聞いたとしたら胸を引き掻かれると思うから。
164 :別れましょう、と彼女が言った。 :2010/12/06(月) 22:54

私の腕に触れた石川の手に手を重ね、口下手な私はこんな時何を言ったら良いのかと考える。
どうしたら漆黒の瞳に満ち満ちるなっちの怒りを、
唇をへの字に歪ませて泣く圭織の悲しみを薄めてあげられるのだろう?
どうしたら…彼女なら、今 何を―――

「裕ちゃんならマネージャーに呼ばれて行ったよ。」

と、そこで紗耶香が言った。
まるで私の思考を読んだみたいに、私の目を真っ直ぐに見て。

裕ちゃん、もう来てたんだ。
調子はどうなんだろう?

聞いてみたかったのだけど、私はそれを口に出せず、
そして紗耶香の視線から目を逸らすことができない。
紗耶香の光る目がじっと、じっと私を見つめている。
探るように―――?見透かすように。

「…紗耶香、」

一体、何?
尋ねる前に、楽屋のドアが開いた。
165 :別れましょう、と彼女が言った。 :2010/12/06(月) 22:54





166 :フカイ :2010/12/06(月) 22:55
長らく放置致しまして、本当に申し訳ございません。
何とか纏められた部分だけですがあげさせていただきます。

保田さんお誕生日、本当におめでとうございます。
また昨日、保田さんのバースデーライブに参加された保田ファンの皆様、おめでとうございます。
歌を歌う為に切れ目なく活動し続ける保田さんの姿勢が大好きです。
保田さんならばきっと素晴らしい30代を過ごされるでしょう。
ファンとして本当に嬉しいことです。
167 :名無飼育さん :2011/12/27(火) 13:01
安倍さんの鋭さやメンバーのやり取りに懐かしい気持ちになってしまいました
…と言いながら当時のことは詳しく知らないんですが、
まるで当時にタイムスリップしたみたいに感じます
すごく好きです。
168 :別れましょう、と彼女が言った。 :2012/03/07(水) 01:34





169 :別れましょう、と彼女が言った。 :2012/03/07(水) 01:34

おはようございまーす、と矢口の声。
そして、小さな矢口の肩にぐたぐたと寄り掛かる彼女の姿。

「裕ちゃん!!」
「ぅ、あ゙〜…あんま大声出さんといてぇ、なっち…」

二日酔いやの。
こめかみを指で押さえながらの台詞に、そりゃあそうだろうと一人で納得する。
矢口に近くの椅子に座らせてもらいながら裕ちゃんはぐるりと楽屋を見回し、

「辻加護ごっちんはどした?」
「は〜い、いるよ〜」

再びドアが開き後藤が現われる。
その影に小さな二人を引き連れて。
加護はきょときょと瞳を動かしながら後藤の背中でおはようございますと言い、
辻はタタタと駆けて、泣いている圭織の隣にちょこんと座り込む。

「…ま、もうみんな知ってるとは思うけど―――」

ふぅ。と息を吐き、私たちを見回し、そしてなっちに笑いかけ。

「めでたいことやから。」
「裕ちゃん、でも…!」
「なんも、怒ることも泣くこともないよ。」

おいで、と裕ちゃんがなっちを手招く。
ギッ、と睨み付けるなっちにまったく怯まず、まぁまぁと手をひらひらさせて。
未だなっちの腕を掴む圭織の手を、辻の小さな手が外させた。
恐る恐る、伺うように見上げた辻と目が合って、しぶしぶとなっちが裕ちゃんの前へと歩みだす。
170 :別れましょう、と彼女が言った。 :2012/03/07(水) 01:35

「悲しかったん?」

目の前に立たされ、両手を捕られたなっちが悲しくなんかないと呟く。

「そうなの?」
「そうだよ。」

と、答え終える前にその瞳から涙がぽろぽろ零れ落ちた。
涙を拭おうと裕ちゃんの手を振り払おうとして、
だけど裕ちゃんはその手を離さなかったから、なっちは息を詰まらせヒィとしゃくり上げて泣く。

「ごめんな。」

ゆっくりと立ち上がった裕ちゃんは、捕まえていたなっちを抱き締めて、

「圭織も。みんなもや、ゴメン。」
「なんでっ ゆうちゃんが謝るの!?」
「裕ちゃんな、知っとったから。全部。
 彼氏が出来た時も知ってたし、彩っぺがその人とずっと一緒に居たいって思ってんのも知ってた。」
「知ってた!?なんで!?」
「相談されてたの。好きな人がいる。付き合ってる。
 一緒にいようと思ってる。どうしよう?って。」
「ダメじゃん!そんなのダメって言った!?」
「言わんかった。だからな、ゴメン。」

細い腕にくぐもるなっちの叫び。
答える穏やかな声。

「寂しかったな。辛かったなぁ…ゴメン。
 私ら、夢叶えよってずっと一緒にきたからな。
 でもな…裕ちゃん、彩っぺから歌よりもっと大事な事ができたって聴いた時、羨ましいな、て思ってしもてん。
 凄くない?歌よりしたいこと見つかるなんて…
 ――― 好きな人、見つかるなんて。」

裕ちゃんの腕の中でむずがるみたいに呻いたなっちが、

「デザイナーは?デザイナーは嘘じゃない?」
「嘘やない。嘘やないよ。
 なっち、知っとるやろ?
 彩っぺがどんだけ頑張り屋で、今までどれくらいのこと遣り遂げてきたのか。ん?」
「………。」
「信じてんのよ。
 好きな人のことも、自分の夢も全部叶えるって、彩は自分を信じてるの。
 全部信じて行ったのだから、例え叶わなくてもそれは嘘ではないんだよ。」



私にゃ、無理やけど。

171 :別れましょう、と彼女が言った。 :2012/03/07(水) 01:35

静かな楽屋にぽつん、と。
その言葉だけ不思議に響いた。

「私は歌しか、歌うことにしか力全部賭けられないから。
 歌うために娘。であるんでいっぱいやから…。」
「なっちだってそうだよ。」
「せやな。歌に精一杯。
 いいと思う。その為にここに来たんやから。」
「彩っぺは歌が要らなくなっちゃったの?」

辻をぎゅっと抱き締めて、尋ねた圭織に裕ちゃんは笑う。

「彩っぺが歌、好きなんは圭織よぉ知っとるやろ?
 歌は何処でも歌えるもん。
 彩はただ、叶えたいものを見つけただけやよ。
 歌以上に行きたいとこ見つけただけ。
 ここに来た時となんも変わらんの。」

だから大丈夫。
なんも、怒ることも泣くこともないよ。

「なぁ?泣き止んで、なっち。
 泣くのやめて、笑っとる可愛ぇ顔、裕ちゃんに見せて…」
「「うあーーーー!?」」
172 :別れましょう、と彼女が言った。 :2012/03/07(水) 01:35

突如、辻加護の悲鳴に静寂が破られる。

「ちゅーした!??」
「ちゅーした!!!」
「なな、なぁにすんのさぁ!?」

わたわたと、裕ちゃんの腕を振り払ったなっちが後ずさる。
それをニタァ、と笑った裕ちゃんが追って、

「裕ちゃん、泣いとる可愛い娘にはちゅ〜したるのよ?」
「泣いてない!なっち泣いてないべさ!!!」

慌てたなっちが矢口の後ろに逃げたのを見て裕ちゃんは、

「カ」
「カオリは元気だよ!!!」
「まぁそう言わんと、ちゅ〜♪♪♪」
「ギャーーー!」
「やめて!やめてください!」

喚く圭織に、しかし全く怯まない。
しかも、大好きな飯田さんのピンチに腕を広げた健気な辻に向かって、

「なんや〜?辻が裕ちゃんとちゅ〜してくれるんか?ちゅ〜♪」
「やめて!やめてください!」
「こらぁ!裕ちゃん!!辻から離れなさぁい!!!」
「――…。」
「…裕ちゃん?」
「…きもちわるい。」
「!?」
「二日酔いで暴れるからだろ!ばかゆうこ!」

ぱしーん!と、小気味良い音が鳴り響く。
裕ちゃんの頭を叩いた矢口がむんずとその腕を掴み、

「ほら!マネージャーに薬もらいに行くよ!!」
「うぅ…すまん…すまんなぁヤグチ…ちゅ〜♪」

ぱしーん。ぱたん。
173 :別れましょう、と彼女が言った。 :2012/03/07(水) 01:36

再び鳴り響いたその音と、ドアの閉まる音。
その瞬間、ふはっ。と奇妙な声をあげて後藤が笑い出した。

「あはは、おもしろいねぇ。裕ちゃん。」
「ホンマ、コントみたいでしたねぇ。」

後藤に返した加護の声で、楽屋の空気が完全に緩んだ。
自分をかばってくれた辻を圭織が誉め、辻が照れ、
壁際まで歩いたなっちが椅子へと座り込む。

ほぅと息を付き、今まで私の腕にしがみついていた石川が力を抜いた。

「よかった…」
「………。」
「すごいですね…中澤さん。」
「ん。」

私は、楽屋の隅にあるクーラーボックスから保冷剤を取り出して石川へ渡す。

「? なんですか?」
「圭織に持っていってあげて。
 瞼、冷やさないといけないから。」
「…はい!」

石川は何か、すごく可愛い顔で笑って保冷剤を手に走っていく。
そんな石川に取り残された吉澤が、妙にキリッとした顔をして、

「保田さん!うちにもなんかくださいよ!」

…整いすぎた顔ってこう、ちょっとなんか気圧されるものだ。
迫る吉澤に思わずたじろぎながら、

「なんかって。」
「私にもなんか仕事ください!」
「…―― あんたはあっちで後藤たちと遊んでらっしゃい。」
「保田さぁん!」

不満気に頬を膨らませる仕草が意外に幼く、思わず笑ってしまった。
そんな私に更に膨れてみせた吉澤へ、

「そのほうがいいのよ。」

背の高い吉澤が私をじっと見下ろす。
大きな目で私の目を見つめ、ほんの少し黙ってから、

「…わかりました。」

ニッと白い歯を出し笑って、

「ごっちーん!」

次の瞬間には身を翻し、後藤の背中に飛び込んでいる。
キャーッと後藤と加護の甲声が響くと、楽屋は何時もの騒々しさを取り戻した。
窓際のなっちをひとり残して。
174 :別れましょう、と彼女が言った。 :2012/03/07(水) 01:36

クーラーボックスからもう一つ保冷剤を取り出し、それをタオルで包んで歩き出す。
近付く私になっちは足元を睨み付けたまま、唇を引き結んで反応しない。
けれど、差し出した保冷剤は黙って受け取ってくれた。
受け取り、そしてそれをギュッと目元に押し付ける。

「………。」
「………。」

なっちの傍に佇み、私は何とはなしに楽屋を見回す。
あちらの隅に何事か話し込んでいる圭織に石川。
こちらに目一杯遊び始めた辻加護に後藤吉澤。
賑やかな楽屋、ポツンと対面の壁に立つ紗耶香。
真っ直ぐな目をして、見透かすようにして。

「…泣いたのは裕ちゃんだから。」

と、その時なっちが呟くように言った。
深い呼吸を一度、二度。
タオルを外したなっちの目は、何時もより少し深い色で落ち着いている。

「彩っぺが辞める時、一番泣いたのはさ、裕ちゃんなんだ。
 一番仲が良かったから…何時も一緒にいて。」
「うん。」
「全部知っててあんな泣いたんだ。
 自分で彩っぺの背中、押しといて。」
「………。」
175 :別れましょう、と彼女が言った。 :2012/03/07(水) 01:36

支えを無くした姿。
思い出したのはそんな彼女の背中――― 彩っぺがいなくなったあの頃の風景。

嵐のような毎日、娘。の中心で背筋を伸ばしていたはずの彼女は、
何時も隣にいた人を無くして時折寂しそうな、不安そうな目をしていた。
今にも崩折れてしまいそう。ひとりぼっちの尖る肩…――。

思い出した情景に、私は眉間へ皺を寄せた。
今ならば迷わずその背に触れるだろう。
けれど、それは届くはずのない記憶の中。

救えない過去に昨夜の記憶がふと被さる。
真っ白な指先、フツリと糸が切れ投げ出された肢体。
酔いに侵され、誰かに縋る覚束無い腕。
誰かを呼んで、誰かを見つめようと―――



「ゴメン。」
「え?」

沈み掛けていた思考をなっちの声が呼び戻す。

「…何。」
「怒鳴ったりして。」

チラとこちらを見て、バツ悪そうにする顔は思春期の少女のもの。
ちょっと笑って気にしていないと伝えると、なっちは冷たいタオルへ顔を隠した。
176 :別れましょう、と彼女が言った。 :2012/03/07(水) 01:37

なっちをそっと置いて2歩3歩離れ、楽屋の中央へ立つ。
おおはしゃぎの辻加護が両脇を全速力で駆け抜けるけれど、
私はそれより楽屋を抜けていく紗耶香の背中を目で追っている。

『裕ちゃんならマネージャーに呼ばれて行ったよ。』

彼女の名を口にした時の紗耶香。
さっき私を見つめていた紗耶香。

口元をキリと引き結び、何かを決めている表情。
娘。を辞めると、私に打ち明けた時と同じ。



「石川!」
「はい!」
「私、ちょっと出るから。集合かかったら携帯鳴らして。」

わかりました!と良い返事の石川を背に、私は楽屋のドアを開けて紗耶香の後を追う。
紗耶香が何を為そうとしているのか、私は多分もう何処かで理解していると思った。
177 :別れましょう、と彼女が言った。 :2012/03/07(水) 01:37





178 :フカイ :2012/03/07(水) 01:38
申し訳ございません以外の何を言っていいのかわかりませんが、申し訳ございません。
ドリームモーニング娘。のお陰で書き進められたといって間違いございません。
ソロ活動はもちろんいいですが、やっぱり十人十色のステージは心から沸き立つものがありますね。

>>167
1年以上放置したスレにご感想、本当にありがとうございます。
安倍さん、こんな雰囲気であっていましたでしょうか…
最近の裏も垣間見せるようになってきた安倍さんに当時のことが私も良くわからなくなってきています。
皆、大人になりましたね。大人になっても魅力的な娘。たちが大好きです。
179 :名無飼育さん :2012/03/07(水) 22:21
更新ありがとうございます。
この雰囲気、いいですね。
180 :名無飼育さん :2012/03/08(木) 00:32
おお、待ってました
最近保田さんは飼育で大人気ですね
181 :名無飼育さん :2012/06/21(木) 23:25
更新待ってます。

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