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初めての挑戦

1 :みや :2006/10/17(火) 23:44
辻希美一人称アンリアル
高校生になって村を出た辻。
親元を離れ、新しい世界で生活を始める。
中学までとは違う世界。
その挑戦は簡単にいくわけでもなく。
そんな、彼女の暮らしをしばらく追ってみようと思います。
119 :第二話 :2007/05/08(火) 23:57
 答案を見直して、やっぱりどうしてもわからない字もある。
 わかんないものはわかんないよ。
 しょうがないじゃんか。
 十二点・・・、大丈夫かなあ、どうかなあ・・・。
 不安に思いながら顔を上げると、廊下にいる美貴先輩と目が合った。
 早くしろって、目が言ってる・・・。
 ていうか、先輩、待っててくれるんだ・・・。

 しょうがない、わかんないものはわかんないだから。
 あきらめて提出することにした。
 国語の先生が総動員みたいな感じで、六人も前に並んでる。
 あいてる一人の先生の所に答案を持って行った。
120 :第二話 :2007/05/08(火) 23:57
 目の前で採点されるのってすごいどきどきする。
 丸、丸、ばつ、丸、×、丸、・・・。
 どうだろう? って思ったのはやっぱり全部ばつなんだ・・・。
 でも、それでも、なんとか十四点で、追試をクリアした。

 「早くしろよ」

 カバンを持って廊下に出ると、美貴先輩が首で早く行くぞって示した。
 のんは慌てて美貴先輩の後についていく。
 先輩は歩くのが早い。

 「合格したのか?」
 「はい」
 「そうか」

 美貴先輩はこっちを向かないままで聞く。
 偉そうに聞いてるけど、先輩も追試だったんだよね、なんて言えるわけが無い。
 部室で急いで着替えて、先輩の後について体育館に入る。
 練習は、もう始まっていた。
121 :第二話 :2007/05/08(火) 23:57
 「遅い!」

 入り口のところで怒鳴られて固まる。
 怒鳴ったのは先生じゃない。
 これみき先輩だった。

 「いや、だって、試験なんだからしょうがないでしょ」

 美貴先輩が言い訳してるところにこれみき先輩が歩いてくる。

 「試験? そんなのあった人いる?」
 「いません!」

 これみき先輩は、コートにいるみんなの方を見て言う。
 返ってきたのは声のそろった答え。
 多分、サーブ練習の途中だったと思うのだけど、練習の手が止まって、みんなこっちを見てた。
122 :第二話 :2007/05/08(火) 23:57
 「遅刻ね」

 腕を組んできつい目で美貴先輩の方を見るこれみき先輩。
 ちょっと、怖い。
 いつもはあんなにやさしいのに。

 「いや、だって、追試なんだからしょうがないでしょ!」
 「追試を受ける方が悪い!」

 これみき先輩の言うとおりだと思います・・・。
 美貴先輩も返す言葉が無いみたいで先生の方を見た。

 「是永に任せる」

 先生は、そう言って美貴先輩から目をそらす。
 ボールを持った明日香先輩がこれみき先輩の隣に歩いてくる。
 美貴先輩に向かってボールを投げた。
123 :第二話 :2007/05/08(火) 23:58
 「あ、あすか!」

 美貴先輩は、反射的にレシーブしてボールを返す。
 そのボールはこれみき先輩がキャッチした。

 「二人はアップしたらワンマン」
 「追試はしょうがないじゃんか!」
 「遅刻は遅刻です。みんなは練習続けて」

 そう言って、これみき先輩はのんたちに背中を向けてコートに戻ってしまう。

 「もうー! なんでー!」
 「みんな受かってるのに追試受けるのが悪い。辻も、こういう悪い先輩は見習わないように」
 「あすか!」

 明日香先輩も、冷たくそう言って練習に戻って行った・・・。
124 :第二話 :2007/05/08(火) 23:58
 のんと美貴先輩は取り残される。
 美貴先輩はぶつぶつ言いながらタオルを端に掛けてアップを始めた。
 のんも後についていく。
 コートではもう練習が始まっているから、そこを外れてランニング。
 それからストレッチして、フットワーク。
 不機嫌そうな美貴先輩は怖いけど、なんだか分からないのも怖いから、のんは聞いてみた。

 「あの、ワンマンってなんですか?」

 練習に遅刻したらワンマン。
 だから遅刻するなよ、って聞いてたけど、ホントはその、ワンマン、がなんなのかのんは知らない。
125 :第二話 :2007/05/08(火) 23:58
 「お前、バレーやっててワンマン知らないのか?」
 「はい」
 「とにかくボール追いかけて拾え。それだけだから。どうせ美貴が先にやるから後は見てれば分かる」

 なんて返事していいかわかんなくて答えられない。
 レシーブ、らしい。
 美貴先輩は不機嫌そうだった。

 フットワークを終えて練習に加わる。
 サーブとサーブカットが終わってて、アタッカーのスパイク練習。
 のんも美貴先輩もセッターだからトスを上げるところに入る。
 美貴先輩がレギュラーサイド、のんがサブサイドに入るのは哀しいけど仕方のないこと。
 レギュラーサイドみたいにAクイックっぽくとか、ふざけてバックトスにしてCクイックぽくとか、そういうのは出来ない。
 とりあえず、ちゃんとジャンプトスが合うようにしないと。
 サブのメンバーとだけでもきっちり合うようにしないと、ゲーム練に入れてもらえない。
 ワンマンのことは忘れて、トスを上げ続けた。
126 :第二話 :2007/05/08(火) 23:58
 「はい、終わり! 次! の前に」

 美貴先輩じゃなくて、これみき先輩が号令をかける。
 それから、先輩は美貴先輩の方を見て続けた。

 「分かってるよね」
 「分かってるよ! しつこいな。ほら、さっさとやれよ。ったく、練習止めてまでやることでもないだろ」
 「それじゃ示しがつかないの」

 美貴先輩は文句言いながらコートの中央に入る。
 ボールケースの横にこれみき先輩が立って、他にも明日香先輩とかいろいろいて。
 のんは、とりあえずコートの外から見ていた。

 「ほら、足動かしなさいよ」

 これみき先輩が右に左にボールを散らす。
 それを追いかけて、美貴先輩は飛び込む。
 レシーブになってたりなってなかったり。
 それが、何本も何本も続く。
127 :第二話 :2007/05/08(火) 23:58
 「レシーブはセッターに返ってレシーブだっていつも言ってるのは誰だっけ!」

 これみき先輩はそう言って、今度は速球を投げつける。
 無言で、美貴先輩は必死にボールを返している。
 ていうか、これって、いつ終わるの?

 「一年! 時間もったいないから辻の分はそっちでやれ」
 「はい!」

 のんは呼ばれてコートの反対側へ。
 のん以外の一年生がネット際でボールケースの周りに集まってる。
 明日香先輩がそこに入って来て言った。
128 :第二話 :2007/05/08(火) 23:59
 「二三人で適当にボール散らせよ。他は声出し。終わりって言われるまで続けてろ」
 「はい!」

 なんか、すごい、あの、なんか、怖いんだけど・・・。

 「辻、ちゃんとボール追いかけろよ」
 「はい!」

 明日香先輩はそう言って、美貴先輩のサイドに戻って行った。

 のんのワンマンが始まった。
 とにかくボールを追いかけるしかない。
 最初の三本は、きれいに投げてきたところへ返す。
 そしたら次は、速球が飛んできた。
 これに反応できなくて、レシーブって言うより、手で払いのけるみたいな感じになっちゃう。
 それからが大変だった。
129 :第二話 :2007/05/08(火) 23:59
 みんな、容赦ない。
 コートの隅から隅まで走らされて。
 それでも拾えなくて。
 拾えそうだけど拾えなくて。
 なんでこんな、ちょうど拾えそうなところにボール投げるんだよ・・・。
 終わらない。
 足動かして、とか、追いつける追いつけるとか、声は聞こえてくるんだけど、どんどん足が動かなくなってくる。
 これ、無茶無茶きつい・・・。
 横には必死に動こうって、頑張って頑張るんだけど、そうすると今度は前後に散らされて。
 心で思ってるのと違う方向にボールが来ると、目の前でも拾えなくて。
 気がつくと、ボールの投げ手が三年生に代ってた。
130 :第二話 :2007/05/08(火) 23:59
 「ほら! 目の前を落とすな! 拾え!」

 返事する元気なんかもう無い。
 同じところに落とされたのを今度は拾う。
 そしたら今度は頭の上を越して後ろへ。
 何とか飛びついて触ったけど、返すところまではいかない。

 「ラスト三本! 立て!」

 ボールに飛び込むと、そのまま眠ってしまいたいくらいにきつい。
 それでも立ち上がって、先輩の方を見て構える。
 右に、そして左に。
 最後は先輩が手元に小さく落とすところに飛びついて触った。
131 :第二話 :2007/05/08(火) 23:59
 「終わり!」

 飛びついて、うつ伏せになった格好のまま、息を整える。
 苦しい・・・。
 ワンマンって、こんなにきついのか・・・。

 「次! 二人一組! 対面!」
 「はい!」

 これみき先輩の号令が聞こえる。
 そうだ、これで練習終わりじゃない。
 ていうか、これから始まるんだ・・・。
132 :第二話 :2007/05/08(火) 23:59
 「おい、辻、立てるか?」

 立ちたくない・・・。
 立ちたくないけど、立たないといけない。
 のんは、ゆっくりと体を起こして立ち上がる。
 そこにいたのは美貴先輩だった。

 「対面、やるぞ」
 「はい・・・」

 美貴先輩も辛そうだ。
 先輩は、いつもレギュラーメンバーの誰かと組むのに、今日は、ワンマンやったからのんとなのかな。
 体がすごいきついけど、だけど、のんは美貴先輩と五メートルの距離をとって構えた。
133 :第二話 :2007/05/09(水) 00:00
 「呼吸整えて、体力戻せよ少しでも。練習もたねーぞ」
 「はい」

 とりあえず、返事が出来るくらいには回復してきた。
 レシーブ、トス、アタック、それをレシーブで拾って、トスが返ってきてアタックで返す。
 その繰り返し。
 のんは、体がまだあまりゆうこと効かない。
 なのに、美貴先輩は、なんか大分回復してきたみたいで、トスもジャンプトスを入れてみたりしてくる。
 この人やっぱりすごいんだ、なんて、こんなところでも思う。
 いつもよりちょっと長めだった対面は、美貴先輩が号令掛けて終わる。
134 :第二話 ワンマン 終わり :2007/05/09(水) 00:00
 ここからは、いつもみたいに美貴先輩がキャプテンとして仕切って練習が進んだ。
 のんは、動けはしたけど、やっぱりワンマンのダメージが大きくて、練習の中身自体はぼろぼろだった。
 今度からは、ちゃんとテスト範囲確認して勉強しようと思った・・・。
135 :第三話 お出かけまでのどたばた :2007/05/15(火) 22:51
 「え゙ー!!! 男の子に水族館に誘われたー!?」
 「そ、そんな、大きな声で言わんといてよ」
 「で、でも、だって、えー!?」

 お昼休み。
 南棟の三階の廊下の隅っこ。
 美術室前の誰も居ないところまで唯ちゃんに連れ出された。
 なんか、人に言えない話なんだろうって思ってはいたけど、水族館て、男の子って、えー!

 「それで、それで、どんな子? 誰? うちのクラスの子?」

 唯ちゃんは、笑うだけで答えてくれない。
 じっと顔を見ると、目をそむけて、のんの方も見てくれない。

 「ねーぇー。どんな子!」

 腕を取って揺さぶる。
 唯ちゃんは、恥ずかしそうに隣のクラスのこの名前を口にした。
136 :第三話 お出かけまでのどたばた :2007/05/15(火) 22:52
 「誰?」

 言われても、分からなかった・・・。
 恥ずかしそうな唯ちゃんは、顔を背けて答えてくれない。

 「ねえ、誰! どんな子! わかんないよ」
 「だってー」
 「今から探しに行こう」
 「だめ!」
 「行くの」
 「いややー!」

 のんが階段のほうに歩き出そうとしたら、腕を引っ張って止められた。
137 :第三話 :2007/05/15(火) 22:52
 「もうー。どんな子かわかんなきゃつまんないよー」
 「あとで、ね。あとで、どの子か話すから」
 「それで、なんて答えたの?」

 また、唯ちゃんは、目を泳がせて、のんの方を見て、顔をそむけて・・・。
 はっきりしろ。

 「ねぇー!」
 「友達と一緒ならいいって」
 「友達って、もしかして?」

 のんが、自分のことを指差したら、唯ちゃんはこくんってうなづいた。
138 :第三話 :2007/05/15(火) 22:53
 「えー! 無理! 無理! 絶対無理! のんが付いていったら、唯ちゃん嫌われちゃうよ! 無理! 絶対無理!」
 「だってー! 一人でとか怖いし」
 「なんで、なんで、のんなの!」
 「だって、なんか、盛り上げてくれそうやし、のんちゃんなら一緒にいて安心できるし」
 「無理だよー。のんは遠くから見てる。二人で頑張って」
 「そんなんいややー! 友達と行くって答えたんやもん!」
 「だったら、他にもいるでしょー!」
 「のんちゃんがいーのー!」

 なんか、こう、唯ちゃんは、甘えるような目でのんの方を見てる。
 どーしよー・・・。
139 :第三話 :2007/05/15(火) 22:53
 「それで、なんて言われたの?」
 「なんてって?」
 「友達となら行くって言ったら」
 「ああ、うん。向こうももう一人友達連れてくるって」
 「それって?」
 「うん。ダブルデート」
 「えー!」

 なんてことを。
 えー! ダブルデート!?
 ちょっと、行ってみたいかも・・・。
 でも、でも、でもー!
 えー!?
140 :第三話 :2007/05/15(火) 22:53
 「決まりなの?」
 「うん」
 「いつ?」
 「来週の、テスト終わった次の日曜日。練習あと」
 「えー! そんな、急に! えー! 服とかどうすんの! そんな、男の子と歩けるような服、のん、持ってないよ!」
 「のんちゃんは、唯のそばにいてくれればそれでいいから」
 「むりー! 絶対ありえないよー!」
 「おねがいー!」

 のんの右腕を唯ちゃんが両手でつかんで・・・。
 なんか、うんっていうまで放しませんって勢いで・・・。
141 :第三話 :2007/05/15(火) 22:53
 「唯ちゃん、一人で行ったほうが絶対いいって」
 「一人じゃ怖いんやもん。ねぇー。おねがぃー!」

 うるうるした目で見つめられて、のんは、どうしようかと思ったんだけど、どうしようかと思ったんだけど、なんていうか、その、うなづいてしまった。

 「ありがとなー。助かるはー」

 なまりがかわいいのって、ずるいとのんは思うの・・・。
 いやとか言ってたけど、確かにちょっといやだけど、水族館に誘われちゃう唯ちゃんは、うらやましいな、とか思った。
142 :名無飼育さん :2007/10/08(月) 01:19
続き読みたいです
143 :作者 :2007/12/12(水) 23:17
>>142
ごめんなさい、放っときっぱなしで。
別に連載してるスレッドがあって、そちらにかかりきりでした。
そちらが一段落したので、その間にこちらを進めようと思います。

ここの登場人物、いろいろありすぎなんだよ今年・・・。

なるべく頑張ります・・・。
144 :第三話 :2007/12/12(水) 23:18
 「何? 何? 何? 何に使うのさ! デート? デートだべ? 隠してもむだっしょ」

 うちに帰って、なちゅみに可愛い服貸してって頼んだら、いいとかダメとかの前に、そう言われた・・・。
 なにさ、このテンションの高さ。
 ちょっと予想通りだけど。

 「そんなんじゃないよー! ちょっと友達と遊びに行くの!」
 「どこに? 誰と? どんな目的で? いつ?」

 笑顔で、でも、こう、上から見るような、にじり寄ってくるような、あの視線・・・。
 なちゅみのイジワルがお。
 頼むんじゃなかった。
145 :第三話 :2007/12/12(水) 23:19
 「いーからー。貸してくれるの?」
 「いつ、だれと、どこに、何人で、何の目的で。それを言ったら、貸してあげるべ」
 「もうー! けちー」

 学校には制服で行く。
 うちに帰ってきたらジャージとか短パンとか、そんなので。
 あんまり遊びに行ける様な服をのんは持ってない。
 唯ちゃんとか、女の子だけならまだあれだけど、のんが変な服着ていって、唯ちゃんが嫌われたら困るし。
 絶対、なちゅみに服借りないと困るんだけど・・・。

 「のの! 白状なさい。写真見せてくれるだけでもいいよ。ほら。どんな子なの」
 「だーかーらー! のんはただの付き添いなの!」
 「あー、二人じゃなくて、ダブルデートかー。そっかー」
 「そうじゃなくてー!」
 「そんな、照れなくてもいいべさ。いつ? 土曜日? 日曜日?」

 なちゅみは一人で納得しちゃって。
 そうじゃないのに。
 そうだけど・・・。
146 :第三話 :2007/12/12(水) 23:20
 「なっちー、ごはんまだー?」
 「やぐちー。いいとこに来た。聞いて! 聞いてよ!」

 言うんじゃなかった・・・。
 なちゅみが矢口さんにこと細かく説明してる・・・。
 ずいぶん話が膨らんでるような気がするけど・・・。

 「はぁー? 辻のくせに生意気だなあ。色気づきやがって。制服で行け制服で」
 「やだよー! のんだけ制服とか浮いちゃうもん」
 「やぐち、なんか服貸してやってよ。なっちより可愛い服持ってるでしょ」
 「いいけどさー、着れるのか? 辻に」

 のんはちっちゃいけれど、矢口さんはもっとちっちゃい。
 着れるだろ、と思うけど、突っ込むと貸してもらえなくなるかもしれないから何も言わなかった。
147 :第三話 :2007/12/12(水) 23:20
 「なっち、めしはやくー」
 「分かったから。ののの服選んでやってよ」
 「生意気な。だいたい、中間テストだろもうすぐ」
 「それ終わってからだもーん」
 「しょーがねなー。辻、来い」

 のんは、矢口さんの部屋につれられて行った。
 ここに来て二ヶ月近くなるけど、そういえば矢口さんの部屋に入ったのは初めてだった。
 意外に、女の子女の子してるものが多い。
 もっとかたい感じの部屋かなって印象だったけど、ぬいぐるみが山積みになってる。
 ぷーさんとか。
 ベッドには抱き枕。
 結構さびしがりやなのかなー?
 でも、そんな部屋の真ん中にはゲームが置いてある。
148 :第三話 :2007/12/12(水) 23:20
 「なっちがいつも片せ片せちゃんと片せってうるさいんだけどな。めんどくせーじゃん。帰って来てすぐやりたいし」

 じっと見てたら、矢口さんが言い訳するみたいにそう言った。
 のんはゲームはやらないからよくわかんないけど。
 プレステ片せってなちゅみと、ゲームは私の命だって言い張る矢口さんの会話は良く見かける。
 部屋の掃除もなちゅみがやってくれてるのに、プレステだけ放置して言い合いなのはなんでだろう・・・。

 「で、辻のイメージとかなんかあるの?」
 「なにが?」
 「なにがって、おまえなー。デートに着る服選んでるんだろ」
 「あ、そうだった」

 矢口さんの部屋に見とれてて忘れてた。
 あ、いや、デートじゃない。
 デートじゃないんだ。
 付き添い。付き添い。
 のんは、ただの付き添い。
149 :第三話 :2007/12/12(水) 23:21
 「スカートってガラじゃないよなー」

 矢口さんがのんの方を見ながらタンスをあさる。
 確かに、のんは村にいた頃から普段着でスカートははかない。
 制服はスカートだけど。

 「あんまり着ないかも」
 「走り回って、初デートでパンツ丸見えってのもまずいもんなあ」
 「そんなことしないよー」
 「じゃ、ジーンズだな。無難なとこで。丈合わせてみろ」

 矢口さんが投げたジーンズをのんはキャッチする。
 普通のジーンズ。

 「ジーンズならのんだって持ってるよー」
 「はぁ? 生意気言ってんじゃねーよ。ジーンズにも色々あるんだよ」

 いろいろ?
 よくわかんないけど・・・。
 ジーンズはジーンズな気が・・・。
150 :第三話 :2007/12/12(水) 23:21
 「いいからあわせてみろよ」

 矢口さんは、タンスから離れてこっちに来た。
 ジーンズをのんの腰に当てて持たせる。
 それから丈を見る。
 ちょっと、すそ短いかも。

 「むかつくやつだなー、ちびのくせに足長いのかよ」
 「別に、のんが長いわけじゃないと思うけど」
 「うるさいよ! 分かってるよそんなことはいちいち」

 矢口さんって、ホントは自分がちっちゃいの気にしてるのかなあ。
 バレーやってるのんは、身長足りないのはハンデになっちゃうけど、矢口さんなんかは、ちっちゃいのは可愛いと思うのに。

 「おまえ、足出す自信あるか?」
 「足? ミニスカートはなんかやだー」
 「ミニスカートじゃねーよ、ちょっと待ってろ」

 また矢口さんはタンスをあさる。
 なんか、ちっちゃいジーンズが出てきた。
151 :第三話 :2007/12/12(水) 23:21
 「何それ?」
 「デニムホットパンツ」
 「短いジーンズ?」
 「まあ、そんなもんだな。足が全部出るから、ちょっとあれだけど、まあ、大丈夫だろ」
 「でも、のん、足太いからなー」
 「とりあえず履いてみろよ。それから考えよう」

 制服のスカートの下から、この、デニムホットパンツとかいうのを履いてみる。
 上も制服だと変だから、脱いでTシャツに。
 下は、腰のところまで上げて、スカートを脱いだ。

 「ああ、いい感じじゃんか」

 いい感じ、なのかなあ・・・。
 よくわかんないけど。
 ちょっと足が太いのが気になる。
 気になるし、それに何より、これ、だめだ・・・。
152 :第三話 :2007/12/12(水) 23:22
 「歩いてみろよ。上はまた何あわせるか決めるから」
 「え、いや、ちょっと無理かも」
 「なんだよ。腰抑えてないでさあ」
 「ウエスト入らないんだよ!」

 矢口さんに合わせてる服だから、のんのウエストに入らない・・・。
 ちょっと間があってから、矢口さんは笑い出した。

 「だー、デブ! きゃはは。おまえ、履いといて、ウエスト入らないって。腹いてー」
 「うるさいよ! ちびのくせに」

 気にしてるのに・・・。
 腰までなんとか上がったんだけど、チャックが上げられなくて、その、のんにはちょっと無理だった・・・。
153 :第三話 :2007/12/12(水) 23:23
 結局、矢口さんの服はのんには合わなくて、晩御飯の後、なちゅみに服を選んでもらった。
 矢口さんの意見で、やっぱりホットデニムになったんだけど、矢口さんのよりは丈が長くて、太ももまで隠れるやつ。
 これなら大丈夫だし、なちゅみのならウエストもちゃんと入った。
 上は赤いパーカー。
 上と下のバランスが微妙な気もするけど、のんにはそういう感覚はよくわかんないから、なちゅみや矢口さんに従っておく。

 これで、準備は整ったかな。
 いや、別に、楽しみにしてるとか、そんなんじゃないけど。
 のんは唯ちゃんの付き添いってだけだし。
 唯ちゃんのイメージを悪くしなければいいだけなんだから。
 そんなことより、中間テストのが大事だ。
 多分。
 でも、漢字テストと違って、追試とかないらしいしなあ。
 別に、いいかな?
 良くないかな?
 テスト前でも関係ないしにバレー部だけは練習あるし。
 なんだか、高校に入って、考えることややることがいっぱい増えた。
154 :第三話 :2007/12/25(火) 23:41
 練習は当たり前に毎日あるし、テスト中でも関係無しにある。
 それを理由に勉強全然しなかったら、おばちゃんに怒られた。
 でも、怒られるだけで追試とか別に無いし、気にしない気にしない。
 追試は無いんだけど、結果自体は・・・。
 クラス四十人中、三十九番・・・。
 びりじゃないから、まあ、いいや。
155 :第三話 :2007/12/25(火) 23:41
 水族館の約束。
 唯ちゃんは誘われた男の子のことは教えてくれた。
 悪くは無い・・・と思う。
 お昼休みに校庭でサッカーしてるのを、四階の廊下から見てみた。
 サッカーはあまりうまく無いけど、なんか元気そうで明るそうなのはわかる。
 タイプとしては、爽やかな感じ。
 顔は、まあ、うん、普通かな。
 悪くは無いと思う。
 唯ちゃん次第だけど、のんはちゃんとフォローしてあげようと思った。

 「それで、もう一人は誰が来るの?」

 別に、別に、どうでもいいけど、どうでもいいんだけど、やっぱり確認はしておきたい。
 場を盛り上げてくれるタイプなのか、おとなしめなのか。
 唯ちゃんのために、のんは確認しておきたいんだ。

 「ひみつ」

 なのに、唯ちゃんは教えてくれない。
 当日までひみつ、とか言って。
 のんのことも、相手の子には言ってないらしい。
 まったく、もったいぶって・・・。
 しょうがないからおとなしく練習に打ち込む。
 唯ちゃんの水族館も大事だけど、バレーはもっと大事だ。
156 :第三話 :2007/12/25(火) 23:42
 インターハイ予選まで一ヶ月ちょっと。
 その前には練習試合も組むし、学校に泊まりでの合宿もある。
 のんの今の立場は、セッターの三番手か四番手か。
 十八人の登録メンバーには入っても、ベンチ入りの十二人には入れてない。
 美貴先輩にはまだ全然かなわないけれど、なんとか、二番手になって、ゲーム練習にちゃんと参加できるようにならないと、ベンチには入れない。

 「やっぱ、絵梨香先輩、すごいわぁ」

 ゲーム練の途中。
 外で見てるだけののんの隣には唯ちゃんがいる。

 「ああやって二段トス決められるとねえ、すごいよね」

 多分、唯ちゃんはあんまりわかってないと思うけれど、絵梨香先輩のすごさは、難しそうなボールをきちっと打ってくれるところだと思う。
 ホントはセッターとしてはいけないことだけど、多少トスのタイミングが合わなくても打ってくれるから、安心して上げられる、と思う。
 思うだけなのは、絵梨香先輩にトスを上げたことが無いからだ・・・。

 「そこ! しゃべってないでちゃんと見てろ! 声出せ!」
 「はい! すいません!」

 先生に怒鳴られた・・・。
 当たり前だ、練習中にしゃべってたら。
 ここはそういうことしていいチームじゃない。
157 :第三話 :2007/12/25(火) 23:42
 Bチームのサーブから。
 Aチームのサーブキャッチとそこからのコンビの練習。
 美貴先輩のトスは、実際に上がるまでどっちに出るかわからない。
 のんがやると、どうしても上げる方に目線が行っちゃうし、そうしないと上げられない。
 あれはどうやったら出来るんだろう・・・。
 練習、なのかなあ。

 なんて見てると、不意にツーアタックを決めたりもする。
 あれも、のんはできない。
 出来なくはないけど、見え見えになっちゃう。
 あれがさりげなく出来ると、ブロックが一枚セッターについてきたりするから、アタッカーが楽になるんだけどな。

 「岡田!」
 「はい!」
 「サーブ入れ」
 「は、はい!」

 え?
 隣で唯ちゃんが驚いた顔してる。
 慌ててコートに入って行ってボールを受け取った。
 ボールを何度か弾ませてサーブを打つ。
 左手で。
 明日香先輩がキャッチして、美貴先輩が上げて、スパイクがきっちり決まる。
 普通のサーブで普通にキャッチされてるけど。
 でも、唯ちゃんがのんより先にゲーム練入るのか・・・。
158 :第三話 :2007/12/25(火) 23:42
 唯ちゃんのサーブは、三本打って三本ともきっちりキャッチされて、それで次のローテに替わった。
 ローテが替わっても、唯ちゃんはそのままバックコートに残った。

 のんは、唯ちゃんに負けてるってこと?
 ポジションが全然違うから、比べる意味はあんまり無いけど・・・。
 でも、初心者の唯ちゃんが先にゲーム練に入った。
 サーブ打つとこなんだから、のんでもいいかもしれないのに、そこに。

 ゲーム練は、次にAチームがサーブを打って始まる練習になった。
 唯ちゃんは外れて戻ってくる。
 なにか言いたそうに、笑顔を浮かべてるけど、のんは唯ちゃんに何も言わなかった。
 コートの方を見て、ただ声を出していた。
159 :第三話 :2007/12/25(火) 23:42
 練習は続く。
 AとBだと、やっぱり力の差がある。
 Bのセッターは、美貴先輩と比べるとトスの正確さがないし、それにアタッカーもちょっと落ちるから、決定力が無い。
 Aの方は、美貴先輩が中心になって、コンビも合うし、唯ちゃんじゃないけど、確かにかっこいいなって思う。
 あれは、ホント、のんの目標だ。

 「藤本、アウト」
 「はい!」

 途中で、メンバーを入れ替えるのはよくある。
 だけど、美貴先輩が抜けるのは珍しかった。
 その抜けたところに、Bのセッターの先輩が入る。
 控えのセッターも、スタメンと合わせておかないと何かあったときに困るから。

 「辻!」
 「は、はい!」

 突然呼ばれて、顔を上げた。
 思わず背筋が伸びる。
160 :第三話 :2007/12/25(火) 23:42
 「Bのセッター入れ」
 「は、はい! はい!」

 ・・・
 ゲーム練、混ざるの初めてかもしれない。
 いや、初めてだ。
 慌ててコートに走って入る。
 アピールしなきゃ。
 アピールしなきゃ。
 チャンスだ。

 「簡単にレフトに上げとけばいいから」
 「はい」

 Bにいる先輩達が声をかけてくれる。
 レギュラーじゃないけど、でも、のんにとっては先輩だし、のんと比べればやっぱりうまい。
 トスアップ。
 トスアップ。
 絶対ミスしたくない。
161 :第三話 :2007/12/25(火) 23:43
 笛が鳴って、Aからサーブが打たれた。
 のんは、セットアップのポジションに入る。
 サーブレシーブがしっかり上がって、のんがトスアップ。
 言われたとおり、簡単にレフトに上げる。
 そのスパイクはAのブロックに完璧にシャットアウトされた。

 「そうそうそう。ヒットの瞬間力入れとけば下に落ちるから」

 先生がAのブロッカーを褒める。
 のんのトスが素直すぎたから、レフトが読まれてタイミングが合っちゃったんだ。
 次は、工夫しないと。

 笛が鳴る。
 ローテは同じままもう一本。
 キャッチはいいボールが上がってきて、のんは余裕のあるトスが上げられる。

 「レフト!」
 「ライト!」

 どっちも呼んでる。
 のんは、ライトを向いて、バックトスを、レフトのほうに上げた。
 つもりだった・・・。

 ボールは、レフトアタッカーのところまで行かずに、のんのすぐ後ろに落ちていた・・・。
162 :第三話 :2007/12/25(火) 23:43
 「辻! 気負うな。ただの練習だ!」
 「はい!」

 先生が声をかけてくれる。
 練習。
 ただの練習。
 だけど、そう言われても、のんにとってはめったにないアピールのチャンスなんだ。

 「いつも出来ないことをゲーム練で出来るわけないだろ。出来ることだけやれ。お前一人の練習じゃない」
 「すいません」

 美貴先輩は厳しい。
 のんの出来ること。
 ちょっと位サーブキャッチがぶれても、関係なくトスを上げられる。
 ミスしても落ち込まずに声を出す。
 スパイクへのレシーブでの飛び込み。
 バックトスは・・・ 出来るはずなんだけど・・・、さすがに、それくらいは・・・。
163 :第三話 :2007/12/25(火) 23:43
 それから、何本もAのサーブからのワンポイント練習をローテーションを替えながら続けた。
 のんのトスは、さっきのバックトスみたいなひどい失敗は無かったけど、ブロックにはよくつかまった。
 やっぱり美貴先輩と違ってあげる前から分かりやすいのかな。
 中学のときは、そんなに読まれなかったし、レフトに上げれば何とかなるような相手としか試合してなかった。
 それで何とかならない相手は強いから仕方ない、みたいな感じで。
 このチームはそんなわけにはいかないし、レベルが高いから、ブロッカーがセッターやアタッカーの動きをよく見てて、反応が早い。
 だから、セッターが工夫しないとブロックに捕まっちゃう。
 その辺は、コンビが合えば、クイックを早く打てるようになってくぐりぬけたり出来るんだろうけど、のんとBの先輩達だと、まだ、そんなことは出来ない。
164 :第三話 :2007/12/25(火) 23:43
 一本で決まらなくてラリーになってからは、Aチームのスパイクへのレシーブは結構ちゃんと出来たと思う。
 絵梨香先輩がブロックの間を抜いてきたクロススパイクとか拾ったし。
 フライングレシーブで、先輩のスパイクを拾ったのは、なんかすごい、気分良かった。
 セッターのアピールポイントとしては、そこじゃおかしいんだけど。

 今まで参加してなかったゲーム練に始めて参加したから、体力的にすごいきつかった。
 のんは、最後までずっと参加してたかっていうと、そうでもなくて、途中で替えられたんだけど、でも、最後までまた呼ばれるかな? って結構どきどきしてた。
165 :第三話 :2007/12/25(火) 23:44
 練習が終わって、気づいたことがある。

 「今日疲れたよねー」

 唯ちゃんだけじゃない、他の一年生もそう言っている。
 のんもそう思った。
 それで気づいた。
 今まで参加してなかったゲーム練、今日始めて混ぜてもらったけど、それはのんだけじゃないってこと。
 他の、今まで参加できなかった一年生も、みんな一度はどこかでBチームに混ざってた。
 別に、のんが認められたとか、唯ちゃんが認められたとか、そういうことじゃないみたいだ。
166 :第三話 おでかけ前のどたばた  終わり :2007/12/25(火) 23:44
 「なんか、見てると出来そうなのに、中入ると難しいよね、サーブキャッチとか」
 「イメージだと、コース狙って打ててるはずなのに、実際打つと目の前ブロックだし」

 バックトス・・・、あれくらいできるはずなんだけどな・・・。
 あとは、ブロッカーに読まれないトス。
 読まれてもコースや高さで抜いていくのがアタッカーの役割だけど、それはセッターが言うことじゃないし。

 「は〜あ・・・。やっぱ、練習しかないのかなあ」
 「だよねー・・・。もうちょっと出来ると思ったんだけどなあ」

 のんも、もうちょっと出来ると思ったんだけどなあ・・・。
 帰り道、とほほ、な一年生たちだった・・・。
167 :名無飼育さん :2007/12/26(水) 02:15
更新ありがとうございます。
みやさんの書く学校生活は綺麗ごとばっかりじゃなくって、
気持ちの揺れ動き方までリアルで、
くだらないことやどうしようもないことでいちいち悩んだり傷ついてた
中高生だった頃の自分をを思い出して胸が痛くなります。
168 :名無飼育さん :2015/05/14(木) 15:58
本当に久しぶりに見に来た者です。
以前にみやさんの初めての夏休みや、林間学校が好きでした。
お元気ですか?

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