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bluff

1 :名無飼育さん :2005/12/06(火) 23:36

恋なんて信じない。
自分以外の人を、自分よりも大切に思うことなんて絶対にありえない。

大人なんて信じない。
都合の良い言葉ばかりを口にして、子供のことを考えてるようなふりをしてるだけ。

この世の中で一番大切なのは自分。
一番信じられるのも自分。


890 :名無飼育さん :2013/10/08(火) 20:55
もどかしさにきゅんきゅん来ます
891 :名無飼育さん :2013/10/14(月) 21:35
レスありがとうございます。

>>889
そうですね。
飯窪さんは二人にとってお姉さんみたいな存在なので、
これからもきっといろいろと助けてくれると思います。

>>890
早く先に進めたいと思いつつ、このもどかしさが好きだったりします。
照れ屋な二人を温かく見守って頂ければ嬉しいです。
892 :名無飼育さん :2013/10/14(月) 21:35

「ていうかさあ、もう付き合っちゃえばいいじゃん」

放課後のファーストフード店。
春菜の言葉に、遥は思わず飲んでいたジュースを吹き出しそうになった。

「つ、つ、つ、付き合うって、そんな…」

数日前、モーニング女学院に押しかけたとき、助ける交換条件として一部始終を
春菜に報告することを約束させられたのだ。
早速、春菜から呼び出しがあり、根掘り葉掘り事情聴取された。

「だってさ、毎日メールしてるんでしょ?」
「うん、まあ」
「時々、電話もしてるんでしょ?」
「うん」
「で、自宅に来たり、寮に忍び込んだりもしてると」
「忍び込むっていうか…」
「それってもう、付き合ってるようなもんじゃん」

確かに言われてみればそうなのかもしれない。
でも、付き合うことがどういうことなのか、遥にはまだよくわからなかった。
クラスメイトにも彼女がいる子は何人かいるが、遥の周りの友達からはそういう
話は聞いたことがない。

「それにしても、そんな状況で手も繋がないってどうなのよ?」

春菜の追求は続く。

「どうなのよって言われてもさ」
「男なら、抱きしめてキスくらいしないと!」
「はるなん、それ変な漫画の読み過ぎだから」
「じゃあ、くどぅーはさ、このままでいいわけ?」
「このままって?」
「このまま、友達以上恋人未満的な関係で満足なの?」

満足かと聞かれたら、満足なのかもしれない。
毎日メールしたり、たまに電話したり、それだけでも十分嬉しい。
それ以上のことを望んでいないと言えば嘘になるけれど、今の遥にとっては
まだ想像が出来なかった。


893 :名無飼育さん :2013/10/14(月) 21:35

「んー、とりあえずは今のままでいいかも」
「じゃあ、あゆみんにくどぅー以上に特別な人が現れても?」
「え?」
「言うか言わないか迷ったんだけど…」

春菜の話によると、亜佑美は数ヶ月前に教育実習に来た大学生に憧れていた
らしい。
その実習生は大学に通いながら演技の勉強をしているとのことで、演劇部にも
よく顔を出していた。
そして、実習が終わってからも演劇部顧問からの強い要望で、時々演技指導に
来ていたそうだ。

「最近は学校が忙しいみたいだから来てないけど」
「…憧れって、好きってこと?」
「うーん、好きまではいかない感じかな。女子校にありがちな、みんなの憧れ
 みたいな」
「あー…」
「でもね、それが恋に変わる可能性だってゼロじゃないわけで」

春菜の言葉に遥の表情が変わる。
亜佑美のあの笑顔が自分以外の男に向けられることを想像するだけで、胸が
張り裂けそうなくらい苦しくなる。
しかし、今の立場ではそうなったとしても文句は言えない。
自分は彼女の特別ではないのだから。


894 :名無飼育さん :2013/10/14(月) 21:36

「その先生と最後に会ったのは、あゆみんが事故にあったあの日なんだ」
「てことは、あいつはその先生のこと、忘れてるってこと?」
「たぶんね。でも、会ったら思い出すかもしれない」

寮に戻ってから、亜佑美は徐々に失われた記憶を取り戻していった。
今ではもう殆ど元通りに生活をしているが、事故前後のことは覚えていない
らしい。

「今度の文化祭に来るよ、その先生」

いろいろな感情が遥の頭を巡る。
思い出したからってどうってことはないかもしれない。
憧れの存在なんてよくある話だ。
それによって、自分との関係が変わるとは限らない。
限らないけれど。

「文化祭っていつあんの?」
「来週の土日。演劇部が出るのは日曜だよ」
「…俺も行く」

遥の言葉に春菜はにやっと笑った。

「言うと思った。はい、これプログラム」

受け取ったプログラムを見ながら、遥はふと疑問に思った。

「はるなんさ、何でそんなこと教えてくれんの?」

春菜からしてみれば、遥はまだ出会って間もないただの中学生だ。
そこまで肩入れする理由はない。

「うーん、何でだろう?自分でもよくわからないけど」
「けど?」
「くどぅーといるあゆみんが好きだからかも」
「どういう意味?」
「あゆみんってさ、すごく明るいしポジティブなんだけど、意外と自分のこと
 話さなかったり、甘えるの下手だったり、あんまり本当の自分を見せない
 んだよね」
「そっか」
「うん。でも、くどぅーといるときは自然というか素直というか、そのままの
 石田亜佑美って感じがする。そういう相手ってなかなか出会えないじゃん」

くだらない言い争いの多い二人だけど、それは互いの感情を素直にぶつけること
が出来る証拠なんだと春菜は言う。

「くどぅーなら、大事な親友を任せられるって、そう思ったんだ」
「…はるなん」
「だから、頑張ってね、少年!」

遥はパンフレットを強く握り締めた。


895 :名無飼育さん :2013/10/14(月) 21:36

その日から文化祭の日まで、時間はあっという間に過ぎていった。
毎日のメールは続いていたが、亜佑美は演技の練習に忙しいらしく、簡単な
やりとりで終わっていた。

遥は遥でシミュレーションに余念がなかった。
亜佑美にどうやって思いを伝えるか。
頭の中では格好よくスマートな自分がいるが、実際はどうなるかわからない。
だけど、ちゃんと彼女の顔を見て伝えたい。
彼女の特別は自分でありたい。
他の誰にも渡したくない。

一度心に灯った強い思いは、消えることなくどんどん加速していった。


896 :名無飼育さん :2013/10/14(月) 21:36

文化祭当日。
モーニング女学院の門を潜る遥の隣にはなぜか優樹がいた。

「なんで、まーちゃんがついてくるんだよ」
「だって、どぅ一人じゃ心細いでしょ?」
「別に」

とは言うものの、女子校の文化祭に男子一人で行くのはかなり勇気がいるので、
ありがたいと思っているのは確かだった。

演劇部は体育館で行われるようだ。
開演の時間までまだ時間があるので、通りすがりにいろいろと見学することに
なった。
中学の文化祭とは違い、模擬店やお化け屋敷など興味深い出し物がたくさんある。


897 :名無飼育さん :2013/10/14(月) 21:36

「あ!工藤君!まーちゃん!」

突然、大声で名前を呼ばれた。
いつか亜佑美を訪ねてここに来たときに話しかけてきた子だった。

「あ、どうも!」
「また会えた!嬉しいなあ」

すっと腕を掴まれて少しだけドキッとする。

「良かったらうちのクラス見てってよ」
「あ、いや、その…」
「マサたち、あゆみんを見に来たから」

口ごもる遥の代わりに優樹がビシッと言い放つ。

「あゆみんって演劇部の石田さん?付き合ってるの?」
「あ、いや、まだ…」
「その予定!でしょ?どぅ」
「えー、でも、石田さん、鈴木先生と付き合ってるんじゃないの?」
「え?」

一瞬、何を言われたのか理解が出来なかった。
鈴木先生?付き合ってる?そんなの初耳だ。

「す、鈴木先生って?」
「教育実習に来てた先生。この前、演劇部で事故があったとき、真っ先に
 石田さんのこと助けてたし、噂になってたよ」

春菜が言っていた実習生のことらしい。
しかし、そんなに噂になっているとは聞いていなかった。

「ほら、これ。そのときの写真」

彼女が見せてくれた携帯の画面には、亜佑美をお姫様抱っこしている男の姿が
写っていた。


898 :名無飼育さん :2013/10/14(月) 21:36

開演のブザーが鳴り、ステージ上では迫真の演技が繰り広げられている。
遥は舞台をただ呆然と眺めていた。
内容なんて頭に入らない。
脳裏に浮かぶのはさっき見せられたあの写真だけだ。

お姫様抱っこなんてドラマや漫画の中の話だと思っていた。
もちろんしたこともないし、現実に見たこともない。
身長こそだいぶ伸びたが、まだ成長期で十分な筋力もついていない遥には到底
出来っこない真似だった。
写真の中の男は軽々と亜佑美を抱き抱えていた。
焦燥感と敗北感に打ちのめされる。

今ほど早く大人になりたいと思ったことはなかった。

「どぅ、クリア出てきたよ」

隣の優樹がそっと教えてくれた。
舞台の上には初めて会ったときと同じ格好の彼女がいる。


899 :名無飼育さん :2013/10/14(月) 21:37

いくつもの偶然がもたらした、奇妙な出会いだった。
学校も学年も住んでいる町も違う何の共通点もない二人だから、本来なら知り
合うことはなかっただろう。

今更彼女との出会いをなかったことには出来ない。
出会う前の自分には戻れない。
戻りたくない。

もう一度、舞台上の亜佑美を見る。

『このまま、友達以上恋人未満的な関係で満足なの?』

春菜の言葉に今ならはっきりと言い切れる。

―――――満足なわけねーだろ。


900 :名無飼育さん :2013/10/14(月) 21:37

演劇部の公演は大成功に終わった。
体育館中に拍手が鳴り響くなか、突然優樹が遥の手をとり席を立つ。

「行くよ、どぅ!」
「え?行くって、どこへ?」
「あゆみんのとこ!」

優樹に引っ張られ体育館の裏に行くと、公演を終えた演劇部員たちが続々と
裏口から出てくるところだった。
公演直後でみんな興奮している。

亜佑美の姿を見つけた優樹が声をかけようとした瞬間、

「みんな、お疲れさん。すごく良かったよ!」

遥の頭の上からよく通る声が聞こえた。

「鈴木先生!」

その男は遥を追い越して部員たちの輪の中に入っていく。
間違いなく、あの写真の中に写っている男だった。
遥はぐっと右手を握り締める。

鈴木先生は一人ひとりにアドバイスをしていく。
そして、ゆっくりと亜佑美の前に立つ。

「石田も、すごい成長したね。あの事故で大きな怪我がなくて良かった」

亜佑美は少し顔を赤らめながら、嬉しそうに鈴木先生を見ている。
遥の中のモヤモヤがどんどんどんどん大きくなる。


901 :名無飼育さん :2013/10/14(月) 21:38

アドバイスを聞き終えた亜佑美が一歩後ろに下がった瞬間、そこにあった小道具
に躓き、尻餅をついた。

「あゆみん、大丈夫!?」

そばにいる友達が声をかける。

「うん、平気…っ」

立ち上がろうとするが上手くいかない。
どうやら、転んだときに足を捻ってしまったようだ。

「大丈夫!?」

鈴木先生が駆け寄る。

「念のため、保健室で見てもらおう。ほら」

それが当たり前のようにスマートに亜佑美を抱きかかえようとする鈴木先生に、
周りから黄色い声が上がる。
亜佑美の顔は遠目からでもわかるくらい、真っ赤だった。

「や、あの、平気です!歩けるし!」
「無理しない方がいい」

鈴木先生が亜佑美に触れようとした瞬間、遥の体は無意識に動いていた。
自分でも驚くくらい素早く力強く、鈴木先生の手を掴む。

「く、くどぅー!」

遥は無言で亜佑美の前にしゃがみ、背中を向けた。


902 :名無飼育さん :2013/10/14(月) 21:38

「ん」
「え?」
「乗れよ」

格好よくお姫様抱っこは出来ないけど、おんぶして連れていくことくらいなら
遥にだって出来る。

「だ、大丈夫だよ。私、歩けるから…」
「いいから、乗れって」

周囲の注目がしゃがんでいる遥に集まる。
恥ずかしくて亜佑美の顔は見れないが、背後で戸惑っていることだけは何となく
伝わってくる。

「乗せてもらいなよ、あゆみん」
「でも…」

春菜が助け舟を出す。

「どーん!」
「わ…!」

優樹が軽く亜佑美の背中を押す。
その勢いで、亜佑美は自然と遥の背中におぶさる形となった。
背中のぬくもりを受け、遥はすっと立ち上がった。

「くどぅー、この裏道通れば保健室だから」
「え、でも、こっちは遠回り…」
「あゆみんは黙ってて!くどぅー、よろしくね」
「わかった」
「頑張ってね!」
「どぅ!ファイト!!」


903 :名無飼育さん :2013/10/14(月) 21:38

裏道というだけあって、生徒は殆どいなかった。
体育館からは大きな音が響き渡る。
どうやら、次のステージが始まったようだ。

「ごめん、重いよね?歩くよ、私」
「平気」
「でも…」
「平気だって!」

思わず怒鳴ってしまい、すぐに後悔する。
どうして、格好よくスマートに出来ないのだろう。

「俺だって、あんた一人くらい運べるし」
「…うん。ありがと」

亜佑美はそれ以上は何も言わなかった。
ちゃんと認めてくれたように思えてすごく嬉しくて、そのことが遥に勇気を
与えた。

「あいつのこと、好きなの?」
「え?あいつって?」
「さっきの、あいつ…」
「…鈴木先生のこと?」
「うん」
「ち、違うよ!鈴木先生は好きとかじゃなくて。そりゃあ、演技は上手いし、
 尊敬してるけど…。そういうんじゃないよ」

はっきりと否定されて、遥はホッとする。
少しずつ胸のモヤモヤが晴れていくのを感じた。


904 :名無飼育さん :2013/10/14(月) 21:39

「…気になる?」

亜佑美が遠慮がちに問いかける。
いつもの遥ならムキになって否定したかもしれない。
だけど、今は面と向かってないからか、すごく素直に認めることが出来た。

「…うん、気になる」

その瞬間、背中の亜佑美がピクっと動くのを感じた。
密着している彼女の動きに、遥も思わず反応してしまう。
沈黙が続き、徐々に恥ずかしさが増していく。

よくよく考えたらものすごく大胆なことをしてしまった。
数日前まで手を握ることさえ出来なかった相手を背負っているのだ。
しかも、あんなに大勢の前で連れ去るような真似をして。

亜佑美はどう思っているのだろうか。
黙って背中に乗っているのは、呆れているからなのか、それとも―――――。


905 :名無飼育さん :2013/10/14(月) 21:39

「…くどぅー」
「え?な、なんだよ?」

急に名前を呼ばれてドキッとする。
亜佑美からは遥の顔は見えないはずだが、異常なほど熱を持っている自分に
気付かれたのではないかと不安になる。

すーっという深い深呼吸のあと、それまで遠慮がちに遥の肩に置かれていた
亜佑美の腕が首に回された。
つまり、後ろから抱きつかれているような状態だ。
二人の距離は更に近くなり、首元に亜佑美の吐息が触れる。
息が止まりそうなくらい、鼓動が早くなる。

亜佑美は何も言わないが、遥は首に回されている腕が震えていることに気付く。
自分の体内と同じくらいの熱が背中から伝わってくる。


906 :名無飼育さん :2013/10/14(月) 21:39

「くどぅー」

もう一度、名前を呼ばれる。
ただ名前を呼ばれただけなのに、なぜだか泣きそうになる。


907 :名無飼育さん :2013/10/14(月) 21:40

「好きだよ、くどぅー。大好き」

耳元で囁かれた言葉に何も言えず、遥は返事の代わりに彼女を支える自分の
腕にぐっと力を込めた。

触れている部分からこの思いが伝わればいい。
心からそう思った。


908 :名無飼育さん :2013/10/14(月) 21:40
本日は以上です。
909 :名無飼育さん :2013/10/19(土) 02:50
愛告キタ━━━━━━川c*’∀´)o´ 。`ル━━━━━━ !!!!
910 :名無飼育さん :2013/10/19(土) 02:51
あ、すいません上げちゃいました(´・ω・`)
911 :名無飼育さん :2013/10/25(金) 16:42
どぅーいしの魅力、工藤少年の魅力にこのスレで気付かせて頂きました。
ありがとう!
912 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:25
レスありがとうございます!

>>909
ついに…って感じですかね。
お待たせいたしましたw

>>911
こちらこそ、嬉しいお言葉ありがとうございます!
現実の彼女たちはもっともっと魅力的で、常に妄想を刺激されています。

本当は27日中に更新したかったのですが、間に合わず…。
一応、最終回です。
913 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:25

遥は激しく後悔していた。

あの日、亜佑美から思いを告げられたあと、無言のまま彼女を保健室に送り
届けた。
亜佑美の足は大したことはなく、保健の先生によると冷やしておけば数日で
腫れはひくとのことだった。

「しばらく冷やしてから帰るね。ありがと、くどぅー。もう一人で大丈夫」
「あ、うん…」

亜佑美にそう言われ、結局そのまま何も言えずに優樹たちの元へと戻った。
当然のごとく優樹と春菜に問い詰められ、「情けない」「ヘタレ」と散々
責められた。

その間もずっと、遥の頭の中には亜佑美の言葉が繰り返し響いていた。


914 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:26

そして、あれからは毎日のようにあの場面が夢に出てくる。

背中の温もり、震えている腕、首にかかる熱い息、耳元で囁かれた言葉。

―――――好きだよ、くどぅー。大好き。

「う、うわあ!」

いつもその場面で目が覚め、後悔に襲われる。

あの日以来、亜佑美からメールは来ていない。
今までお互いにやり取りをしていたつもりでいたけど、実際はいつも彼女から
連絡をくれていたことに今更気付く。
なんだかんだでいつも、年上の彼女に甘えていたのかもしれない。

ここから先へ進むには自分が勇気を出すしかないのだ。


915 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:26

遥は意を決して、亜佑美に電話をかけた。

「もしもし?」
「あ、あー、俺、工藤だけど」
「…ツ、わかるよ、フフ」

いつもと変わらない亜佑美の様子にホッとする。

「あ、あのさ、今度の日曜なんだけど…」
「今度の日曜って、…27日?」
「うん。夜なんだけど、ちょっと行きたいとこがあって」
「うん」
「一緒に、行かない?」
「…私で、いいの?」
「…うん」
「そっか。大丈夫だよ、日曜日」
「じゃあ、うちの近くのバス停で待ってっから」
「うん、わかった」

電話を切ったあと、ふと気付く。
そういえば、彼女と会うのはいつも日曜日だった。
お店に来たのも、遥の試合も、亜佑美の文化祭も。
それはただの偶然だけれど、今度の日曜日が27日ということに少しだけ運命的
なものを感じた。

きっと上手く伝えられそうな、そんな気がした。


916 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:26

そして、次の日曜日―――――10月27日。
遥は自宅近くのバス停で亜佑美のことを待っていた。

バスから降りてくる亜佑美の姿を確認した瞬間、あの日の感触が甦ってきた。
また彼女に触れたいと思う。
だけど、その前にきちんと伝えなければならないことがある。

「お待たせ」
「おう、行くよ」
「え?」

まともに亜佑美の顔を見れない遥は、ぶっきらぼうに彼女を促す。
目的地はすぐそこだ。
辺りはすっかり暗くなっていた。

遥はある公園の前で止まり、亜佑美を見た。

「ここ?」
「うん。あの中」

遥が指差した先には大きなオブジェがあった。
オブジェの中は滑り台になっているのだが、外からは全く見えない。

「ここから上がるんだけど、足平気?」
「うん、もう全然痛くない」


917 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:27

中高生には狭い階段を昇ると、少し開けた場所に着いた。
ちょうど二人が座れるような広さだ。
遥はすっと座り、亜佑美もその隣に腰を下ろす。
回りは壁に囲まれており、外の様子はわからない。
まるでこの世界に二人しかいないような、そんな錯覚に陥りそうになる。

「上、見てみ」
「え?…うわぁ、すご…」

二人の頭上には円い穴が開いており、その外には星空が広がっていた。
小さい頃、友達と別れたあとにこっそりとここに登り、こうして空を眺めるのが
好きだった。
まるで望遠鏡で覗いているかのように目の前に広がる星空は、遥だけの秘密の
場所だった。

「なんか、望遠鏡で見てるみたい…」

亜佑美がふっと呟く。
同じように感じてくれることが嬉しかったし、彼女を連れてきて良かったと思った。


918 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:27

「あのね、くどぅー」
「ん?」
「はい、これ」

亜佑美は手にしていた紙袋を遥に差し出した。

「え?これ…」
「誕生日おめでとう」
「知ってたの?」
「前にマサから聞いてて。男の子のプレゼントなんて何がいいかわかんなくて
 迷ったんだけど、くどぅーに似合うかなって思って…」
「開けていい?」
「うん」

思わぬプレゼントにワクワクしながら袋を開ける。
中からはシンプルだが格好いいキャップが登場した。

「おー!かっけー!」

亜佑美からのプレゼントなら何でも嬉しいのだが、自分の好みと一致していた
ことが更に嬉しかった。
遥は早速キャップを身に付けて、亜佑美に見せた。

「気に入った?」
「うん!すっげー気に入った!サンキュー!」

素直に喜びをぶつけると、亜佑美はホッとしたように「良かった」と笑って
くれた。
その笑顔が遥の心にストレートに響いてくる。


919 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:27

「…誕生日、いつ?」
「え?私?」
「うん」
「1月7日だけど」
「そっか。それまでは、16歳だよな?」
「ん?そうだよ?」

亜佑美はキョトンとした顔で遥を見ている。
その瞳に吸い込まれそうになって、遥は思わず星空を見上げた。

「俺、今日で14歳だから、たった2歳しか違わない」
「…2歳も、だよ。数ヶ月後にはまた3歳差になるし」
「でも、少しは縮まったじゃん?」
「うん、まあ…」
「それに、俺の方が背高いし、たぶん力も強いし」
「そりゃそうだけどさ」
「2歳も3歳もすぐに追い越すよ」

もちろん年の差は永遠に縮まらないけれど、遥はあえて自信満々にそう言い切る。
自分の強い思いが彼女に伝わるように。


920 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:27

「だからさ」

好きな人に気持ちを伝えることがこんなに苦しいなんて、思ってもいなかった。
深く息を吸い込む。

「俺たち、付き合おう?」


921 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:27

それまで微動だにしなかった亜佑美がピクッと動くのを感じた。

喉の奥が急激に渇いていく。
遥は情けないくらいに震える小さな声で、一番伝えたい言葉を絞り出した。

「…好きだよ」


922 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:28

無言の彼女が心配になり、亜佑美の方を見る。
彼女は顔の前で手をパタパタさせて、目には涙を浮かべていた。

「な、なんで泣いて…」

彼女の反応に急に不安になる。

「え、もしかして、イヤだったり?」
「ち、違う違う、違うよ!」

亜佑美はブンブン首を振った。

「じゃあ、なんで?」
「だって!…だって、くどぅー、この前、何も言ってくれなかったから…。
 もうダメなんだって、諦めなきゃって。メールも電話も我慢しなきゃって…」

そう言った瞬間、彼女の目から涙が溢れた。

「どうしよう、止まんない。どうしよう…」


923 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:28

その仕草がどうしようもなくかわいくて、好きだという感情だけでは言い表せ
ないような気がした。
好きだけじゃ足りない。
全然足りない。
だけど、それ以外に伝える術を知らない。

だから遥は、泣きじゃくる亜佑美の手にそっと触れた。
触れた途端に互いの感情が伝染するような感覚に陥る。

―――――ああ、やばい、泣きそうだ。

涙を亜佑美に見られたくなくて、貰ったキャップのつばを下げて顔を隠す。

そんな遥に気付いたのか気付いていないのかわからないが、亜佑美はぎゅっと
手を握り返してくれた。
ただそれだけのことがとてつもなく幸せで、このまま時間が止まればいいと
本気で思った。


924 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:28

バス停までの道を並んで歩く。
なんとなく無言になる。
気まずくはないけど、気恥ずかしい。

しばらく歩くと、前から自転車の少年が近付いてきた。

「あ!工藤!」

いつかと同じクラスメイトの少年だった。

「この前の子じゃん。今日こそアドレス教えてよ」
「ちょ、まだ諦めてなかったのかよ?」
「そりゃ、モー女の子と知り合えるチャンスなんてないし。それとも、やっぱ
 二人付き合ってんの?」

隣にいた亜佑美がすっと遥の後ろに隠れる。
それを感じた遥は大きく息を吸ったあと、はっきりと言い切った。

「そうだよ、俺の…彼女」
「まじかー。じゃあ、誰か友達紹介して…」
「急いでっから、またな。行こ?」

少年の台詞を最後まで聞く前に、遥はすたすたと歩き出した。
きっと今、自分の顔は真っ赤になっているだろう。
恥ずかしさのあまり、亜佑美の方をまともに見れない。

925 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:29

「フフ…」
「…何笑ってんだよ?」
「だってさ、だってね、なんか、嬉しいじゃん?」
「何が?」
「良い響きだね、『俺の彼女』って」
「う、うっせー!」
「エヘヘ…」

亜佑美はとても楽しそうで、バス停に着いてからもずっと笑っていた。

「ねー、くどぅー」
「なんだよ?」
「もう一回言って?」
「は、はあ!?そんなん、言えるかよ!」
「えー、誰もいないし、いいじゃんいいじゃん」
「ぜってー言わねー!!」

そんなやりとりをしているうちに、最終のバスが角を曲がってくるのが見えた。

「バス、来ちゃった」
「…あー、うん」

名残惜しいが仕方がない。
別れがたい、寂しい気持ちを上手く表現出来ずに、遥は近付いてくるバスを
睨み付け、静かにため息をつく。


926 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:29

あと数秒で到着するというときに、突然亜佑美が遥の上着の裾をくいっと
引っ張った。

「ねえ、くどぅー背デカイ。…しゃがんで?」
「ん?しゃがむってこう…」

遥が腰を屈めた瞬間、頬に柔らかく温かい何かが触れた。


927 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:29

それが彼女の唇だと気付くと同時に、バスが目の前に止まりドアが開いた。
呆然としている遥の前で、亜佑美はバスに乗り込む。

「じゃ、じゃあねっ」

振り向いて手を振る彼女の顔は真っ赤だった。

亜佑美を乗せたバスは静かに角を曲がっていく。
まるでスローモーションのようにゆっくりと。

バスが見えなくなってからも、遥はしばらくその場から動けなかった。


928 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:29

数分後、ようやく我に返った遥は頭をかきながらしゃがみこむ。

「…つーか俺、今日も寝れねーじゃん」

こうして、遥の家に突然やってきた"奇妙なあいつ"は"俺の彼女"になった。


929 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:30

数日後。
遥は目の前で繰り広げられる光景に頭を抱えていた。

「あー、やっぱ、ここの揚げたてポテトは最高だわー」
「マサはこのケーキが好きー!」
「あのさ、いくらなんでも、食べ過ぎじゃ…」
「愛しのあゆみんと上手くいったんだから、これくらい安いもんでしょ?」
「そうそう。あ、どぅ、ジュースおかわり!」
「少しは遠慮しろよ!」

亜佑美と無事に付き合い始めたことを二人に報告したところ、なぜか好きな
ものを奢るという話になってしまった。

ちなみに、亜佑美もあとで合流する予定だが、なぜか奢るのは遥だけらしい。
おかげで今月の小遣いはすっからかんになりそうだ。

「で、あゆみんとはもうチューしたの?」
「ブ…!ゴホッゴホッ…」
「どぅ、きたなーい!」
「チュチュチュ、チューって、まだ付き合い始めたばかりだし」

焦って水を噴き出す遥に対し、さして顔色も変えずに優樹が言う。

「もしかして、どぅ、チューしたことないの?」
「…なんだよ、悪いかよ。まーちゃんはあんのかよ?」
「あるよー」
「はあ!?」
「ええー!?」

これにはさすがの春菜も驚いたようだ。

「い、いつ?誰と?」
「んー?昨日。3年の小田ちゃん」
「ええー!?」
「な、なんで?どういう状況で?付き合ってんの?」
「んー、まあ、いろいろあってさ」

なんだか妙に優樹が大人に思えて、遥は言葉を失う。

「うーん、まーちゃんにも事情聴取が必要かもね」

春菜は何やら一人でぶつぶつ呟いている。


930 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:30

「みんな、お待たせー!…って、何この雰囲気。何の話してたの?」
「あ、あゆみーん!あのね、まだチュー…」
「ぬわあああああ!なんでもない、なんでもないから!」

遥は慌てて優樹の口を塞いだ。
亜佑美は首を傾げながらも深く追求はせず、空いている遥の隣に腰をかけた。

「変なのー?あ、くどぅー、裾にケチャップついてる」
「ん、サンキュー」

遥の裾をおしぼりで拭く亜佑美の姿を、春菜と優樹はニヤニヤしながら見ていた。

「ラブラブだねー」
「もー、目の前でイチャイチャしないでよー」
「ラ、ラブラブなんかじゃねーし!」
「イ、イチャイチャなんかしてないから!」

遥と亜佑美が同時に否定する。
それがなんだか面白くて、二人は顔を見合わせて笑った。

「やっぱりイチャイチャしてるしー」
「はあ、もう見てらんないわ。まーちゃん、行くよ」
「え?はるなんたち、どっか行くの?」
「お邪魔虫は消えまーす。あとは二人でごゆっくり!」
「バイバイキーン!」
「え、ちょ…」

戸惑う二人を残して、春菜と優樹は店を後にした。


931 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:30

「行っちゃったね」
「うん」
「私たちも出よっか?」
「あ、うん」

夕暮れの道を二人で並んで歩く。
ただそれだけのことなのに、なんとなく幸せを感じる。

彼女と手を繋ぎたい。
そう思った瞬間、亜佑美がすっと遥の手に触れた。
遠慮がちに小指を掴んでいる。

やっぱり亜佑美は少しだけ年上で、いつもさりげなくきっかけを与えてくれる。
これからも二人の年の差は永遠に縮まることはない。

だけど。


932 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:30

―――――2歳も3歳もすぐに追い越すよ。

その言葉を証明するかのように、遥はぎゅっと亜佑美の手を握った。

そのぬくもりだけで、少し大人になれたような、そんな気がした。


933 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:31

奇妙なあいつ




934 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 00:43
以上で終わりです。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

2005年に始まったこのスレですが、まさか8年近くも続くとは思っていませんでした。
自分でも驚くと同時に、読んで下さった方、レスを下さった方に感謝の気持ちでいっぱいです。

自分の中では永久に田中さんが一番で、6期が最強なのは変わりません。
しかし、こうしてまた娘。小説を書きたいと思わせてくれた10期の今後が楽しみで、しばらくはまだ娘。ヲタを辞められそうにありませんw
やっぱり、「モーニング娘。は永遠の愛の形」ですね!

また細々と書いていければ…と思っているので、どこかで見かけたら読んで頂けると嬉しいです。
それでは、長々とありがとうございました!
935 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 02:33
いやぁ、最高でした。
中高生ならではの甘酸っぱさや可愛さ、そして何より10期に対する愛を感じました。
またお見かけできる時を楽しみにしています!
936 :名無飼育さん :2013/10/28(月) 22:12
ここ数日前に発見したのに一気に読み進めちゃいました。
登場人物の会話や情景がすっと自然と浮かんでくる素敵な小説、ありがとうございました。
工藤少年が可愛すぎて…是非続編を!
937 :名無飼育さん :2013/10/30(水) 06:26
同じく最近発見してあまりの面白さに一気に読みきってしまいました。
懐かしい歌詞から、ライブのMC、ラジオ、最近のブログのネタまで、
見事に散りばめられているのも読んでいてとても楽しかったです。
938 :名無飼育さん :2013/11/16(土) 10:16
凄く楽しかったです!
また作者さんの910期小説が読みたいです(*´Д`)
新作を心待ちにしてます
939 :名無飼育さん :2014/01/04(土) 01:57
感想ありがとうございます!

>>935
10期ヲタとしてはまだまだ新参者なので、10期に対する愛を感じて頂けるなんて嬉しいです。

>>936
工藤少年、かわいいですよね(笑)あまりのかわいさにどんどん妄想が膨らんでいます。

>>937
リアルネタを取り入れるのは完全な自己満足ですが、細かい部分まで気付いて頂けたことがとても嬉しいです。

>>938
9期は上手く書けるかどうかわかりませんが、挑戦してみたいと思います。


最終回と書きながら、続編を書いてしまいました…。
自分で思っている以上に、どぅーいしにはまっているようです。
新スレでも宜しくお願い致します。

恋人一年生
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